番外プロジェクト 〜斉場チユの最終試験〜

製作者:あっぷるぱいさん




 このお話は、プロジェクトシリーズの番外編です。
 このお話を読む前に、以下のお話を読んでおくことを推奨します。


「いちいち読むのめんどくさーい!」という方や「読んだけど内容忘れたぞオラァ!」という方は、なんかこう、良い感じに脳内補完しながら読んでいただければと思います。

 それでは、はじまりはじまり!





<目次>

1章 稽古!
2章 弟子入り!
3章 最終試験!
4章 リンクモンスター? エクストラモンスターゾーン? なんのことですかね?
5章 デュエル開始!
6章 この人強い!
7章 上手いこと進まない!
8章 ※新マスタールールでは再現できません
9章 追い詰められた!
10章 手札増強!
11章 ※新マスタールールでは再現できません2
12章 終結!





1章 稽古!


 3月2日、木曜日、午後7時36分。
 満点の星の下。あたし――斉場(さいば)チユは楕円形のデュエルレーンをフォークリフトで逆走していた。前方からは、作業服に身を包んだ人物が、同じようにフォークリフトで逆走してくる。その人物の表情は、暗くてよく分からない。
「用意はいいか、斉場チユ!」
 作業服の人物が問いかけてくる。声から察するに男だろう。あたしは左腕に装着されたデュエル・ディスクにちらりと目をやってから答えた。
「いつでもOK! どっからでもかかってこい!」
「ならばデュエル開始だ!」
 作業服の男がフォークリフトのスピードを上げた。あっという間に、彼のフォークリフトがあたしのそれを追い越し、前へと出た。……いや、フォークリフトは逆走してるわけだから、この場合は後ろへ出たというべきか。
 作業服のフォークリフトはコーナーを綺麗な動きで曲がった。あたしは舌打ちした。
「第1コーナーは俺が制した! よって先攻はいただく!」
「お好きにどうぞ!」
 先攻を取られてしまった。けどまあいい。このデュエルはあたしが制す! そのことに変わりはない!
 かくして、あたしと作業服の男によるデュエルが始まった。フォークリフトに乗ったままで。


【あたし】 LP:8000 手札:5枚
 モンスター:
  魔法&罠:

【作業服の男】 LP:8000 手札:5枚
 モンスター:
  魔法&罠:


「俺の先攻ドロー! 俺は《バードマン》を召喚! さらにカードを1枚伏せ、ターンエンド!(手札:5→6→5→4)」
 作業服の男による先攻1ターン目。彼はモンスターと伏せカードを1枚ずつ出してターンを終えた。その動きに反応し、ソリッドビジョンシステムが作動。彼のフィールドに、鳥人の姿をしたモンスターと伏せカードが出現した。


【あたし】 LP:8000 手札:5枚
 モンスター:
  魔法&罠:

【作業服の男】 LP:8000 手札:4枚
 モンスター:《バードマン》攻1800
  魔法&罠:伏せ×1


 さて、あたしのターンだ。
 あたしはフォークリフトを動かしつつ、カードを引いた。
「あたしの……ターン!(手札:5→6)」

 ドローカード:《サイバー・チュチュ》

 ……来た! あたしのフェイバリットカード!
 ドローカードを確認したあたしは、作業服の男のフィールドのモンスター《バードマン》に目を向けた。
 《バードマン》の攻撃力は1800。ならば!
「あたしは《サイバー・チュチュ》を召喚!(手札:6→5)」
 あたしのフィールドに、チュチュを身に着けた女の子が出現する。『サイバー・ガール』の1人であり、あたしのフェイバリットカードである《サイバー・チュチュ》だ!
「《サイバー・チュチュ》の攻撃力はたったの1000! そんな雑魚で何ができる!」
 作業服の男が挑発してきた。それに構わず、あたしは次の動きに移った。
「《サイバー・チュチュ》のモンスター効果! 相手フィールドの全てのモンスターの攻撃力がこのカードの攻撃力よりも高い場合、ダイレクトアタックができる!」
「何!? 俺のフィールドのモンスターは《バードマン》1体のみ……しかもその攻撃力は1800だから……」
「そう! 攻撃力1000の《サイバー・チュチュ》はダイレクトアタックの権利を得る! 行け、《サイバー・チュチュ》! 『ヌーベル・ポアント』!」
 攻撃命令を受けた《サイバー・チュチュ》は、《バードマン》を飛び越え、作業服の男に蹴りを入れた。それにより、彼のフォークリフトが微妙にバランスを崩した。
「ぬおおおおっ!?」

 《サイバー・チュチュ》 攻:1000

 作業服の男 LP:8000 → 7000

 《サイバー・チュチュ》の攻撃が成功し、作業服の男に先制ダメージを与えた! よし!
「くっ! いきなりダイレクトダメージとは! だが、ただではやられん! リバース・カード、オープン!」
 作業服の男の伏せカードが開いた。トラップカードか!
「トラップカード《運命の発掘》! バトルダメージを受けた時に発動でき、俺はデッキからカードを1枚ドローする!(手札:4→5)」
 カードを引かれちゃったか。でもまあ、ダメージは与えられたから良しとしよう。
「あたしはカードを2枚伏せ、ターンエンド!(手札:5→3)」
 2枚のトラップをフィールドに仕掛け、あたしはターンを終えた。


【あたし】 LP:8000 手札:3枚
 モンスター:《サイバー・チュチュ》攻1000
  魔法&罠:伏せ×2

【作業服の男】 LP:7000 手札:5枚
 モンスター:《バードマン》攻1800
  魔法&罠:


 今のところ、作業服の男のフォークリフトはあたしの前……というか後ろを逆走している。どうにも追いつくことができない。彼に追いつくには、もう少しダメージを与えないとダメだ。
 ともあれ、次は作業服の男のターンだ。
「俺のターン、ドロー! ふっ、いいカードを引いた!(手札:5→6)」
 カードを引いた作業服の男は、すぐに次の行動に移った。
「俺はスケール2の《フーコーの魔砲石》とスケール7の《閃光の騎士》でペンデュラムスケールをセッティング!(手札:6→4)」
「ペンデュラムスケール! 狙いはペンデュラム召喚か!」
「その通り! これでレベル3から6のモンスターが同時に召喚可能だ! さあ、行くぜ!」
 2枚のペンデュラムカードに導かれ、作業服の男の手札からモンスターが召喚される!
「ペンデュラム召喚! 来い、俺のモンスター達! レベル3、《チューン・ウォリアー》! 同じくレベル3、《岩石の巨兵》! そしてレベル4、《レインボー・フィッシュ》!(手札:4→1)」
 ペンデュラム召喚により、作業服の男のフィールドのモンスターが一気に増えた! ペンデュラム召喚……何度見ても豪快な召喚法だ!
「これだけじゃないぜ! 俺はさらに、レベル3の《岩石の巨兵》に、レベル3の《チューン・ウォリアー》をチューニング! シンクロ召喚! 来い! 《大地の騎士ガイアナイト》!」
「こ……今度はシンクロ召喚!?」
 先ほどペンデュラム召喚されたモンスターの内2体が1つとなり、レベル6のシンクロモンスター《大地の騎士ガイアナイト》へと姿を変えた! くっ! ペンデュラムからのシンクロか!
「まだまだぁ! 俺はレベル4の《レインボー・フィッシュ》と《バードマン》でオーバーレイ! エクシーズ召喚! 来い! 《ジェムナイト・パール》!」
「次はエクシーズ召喚かよっ!?」
 レベル4モンスター2体が重なり合い、ランク4のエクシーズモンスター《ジェムナイト・パール》へと姿を変えた! あの男、ペンデュラム、シンクロと来て、エクシーズまでやりやがった!
 ……待てよ? ペンデュラム、シンクロ、エクシーズと来たら……次は――。
「まさか次は……融合?」
「ほう、察しがいいな! その通りだぜ! 俺は魔法カード《龍の鏡(ドラゴンズ・ミラー)》を発動!(手札:1→0)」
 作業服の男の最後の手札がフィールドに出された。予想通り、融合召喚を行うためのカードだった。
「《龍の鏡》は、自分のフィールド・墓地から融合素材となるモンスターを除外し、ドラゴン族の融合モンスター1体を融合召喚する! 俺は、さっきシンクロ召喚に使用した《チューン・ウォリアー》と《岩石の巨兵》を墓地から除外! 融合召喚! 来い! 《始祖竜ワイアーム》!」
 作業服の男の墓地に置かれていた2体のモンスターが融合し、融合モンスター《始祖竜ワイアーム》へと姿を変えた!
 くそーっ! ペンデュラムからのシンクロ、エクシーズ、融合だなんて、召喚法のオンパレードじゃん! なんだこれ!
「バトルだ! フィールドに揃った融合・シンクロ・エクシーズモンスターで総攻撃! 死ねぇ!」
 作業服の男のモンスターが総攻撃してきた!
 冗談じゃない! こんな攻撃通してたまるか! 伏せカードを使わせてもらう!
「永続トラップ、《強制終了》を発動! このカードは、自身を除く自分フィールドのカード1枚を墓地へ送ることで、バトルフェイズを終了させる! あたしは……《サイバー・チュチュ》を墓地へ送る!」
 《サイバー・チュチュ》が《強制終了》の発動コストになり、姿を消した。これでこのターンのバトルは終了だ。《サイバー・チュチュ》……あんたの犠牲は無駄にはしない!
「ふん、かわしたか! だが、次のターンはこうは行かないぜ! エンドフェイズに入り、俺は《フーコーの魔砲石》のペンデュラム効果を発動! このカードがペンデュラムゾーンに置かれたターンのエンドフェイズ、フィールドの表側表示の魔法・トラップカード1枚を選択して破壊することができる! 俺が破壊するのは当然、貴様の《強制終了》だ!」
「くっ! 魔法・トラップ除去の効果か!」
 《フーコーの魔砲石》のペンデュラム効果により、《強制終了》が破壊された。
「これでターンエンドだ!」


【あたし】 LP:8000 手札:3枚
 モンスター:
  魔法&罠:伏せ×1

【作業服の男】 LP:7000 手札:0枚
 モンスター:《大地の騎士ガイアナイト》攻2600、《ジェムナイト・パール》攻2600、《始祖竜ワイアーム》攻2700
  魔法&罠:
ペンデュラム:《フーコーの魔砲石》スケール2、《閃光の騎士》スケール7


 逆走するフォークリフトを上手く制御しつつ、手札とフィールドを確認する。
 この状況で作業服の男を倒すには……あのカードを引き当てるしかない。あれさえ引けば――“師匠”から教わった“あの戦術”で奴を倒せる!
 あたしはデッキのカードに指を当てた。
「あたしの……ターン!(手札:3→4)」
 勢いよくカードを引き、それをしっかりと目に焼き付ける。引き当てたカードは――。

 ドローカード:《幻魔皇ラビエル》

 来たあああああ! このカードを待っていた!
 あたしはドローカードを手札に加えると、まずは伏せカードを開いた。
「永続トラップ、《リビングデッドの呼び声》を発動! このカードは、自分の墓地のモンスター1体を攻撃表示で特殊召喚する! 戻ってこい! 《サイバー・チュチュ》!」
 トラップの効果により、前のターンに墓地へ行った《サイバー・チュチュ》が復活した! おかえり、マイフェイバリットカード!
「《サイバー・チュチュ》……そいつでまたダイレクトアタックを決めようってハラか! だが、ダイレクトアタックを決めたところで、俺のライフを1000削るだけに過ぎない! 俺の有利には変わりないぜ!」
 作業服の男は余裕の口調だ。それに対し、あたしも余裕の口調で返す。
「あわてないあわてない。あたしはさらにこのカードを出す! 来い、《幻銃士》!(手札:4→3)」
 あたしのフィールドに新たなモンスター《幻銃士》が出現した。
 師匠……あなたから教わった技、使わせてもらいます!
「《幻銃士》のモンスター効果! このカードが召喚に成功した時、自分フィールドのモンスターの数まで《銃士トークン》を特殊召喚する! あたしのフィールドのモンスターの数は2体! よって、《銃士トークン》を2体特殊召喚!」
 《幻銃士》の効果により、あたしのフィールドのモンスターの数が増えた。これで準備は整った!
「あたしは、悪魔族モンスターである、《幻銃士》と2体の《銃士トークン》をリリースし、《幻魔皇ラビエル》を特殊召喚!(手札:3→2)」
「何! 幻魔だと!?」
 3体のモンスターの魂を糧として、強大なる悪魔がフィールドに降臨する! 三幻魔の1体、《幻魔皇ラビエル》が降臨したのだ!
 《幻魔皇ラビエル》は悪魔族モンスター3体をリリースすることでのみ特殊召喚できるモンスターで、その攻撃力はなんと4000! 作業服の男のフィールドにいるどのモンスターよりも高い攻撃力だ!
「くそっ! 俺のモンスターじゃ、ラビエルには勝てない!」
「その通り! さあ、バトルだ! 《幻魔皇ラビエル》で《大地の騎士ガイアナイト》を攻撃!」
 《幻魔皇ラビエル》が《大地の騎士ガイアナイト》に殴り掛かる! 作業服の男にこの攻撃を防ぐ手段はない! 大地の騎士は幻魔皇の拳により、戦場から消え去った!

 《幻魔皇ラビエル》 攻:4000
 《大地の騎士ガイアナイト》 攻:2600 :破壊

 作業服の男 LP:7000 → 5600

「ぐぅっ……!」
 ダメージを受けたことで、作業服の男のフォークリフトのスピードが落ちた。あたしのフォークリフトとの距離が狭まる。
 このまま押し切る!
「まだバトルは続く! 《サイバー・チュチュ》でプレイヤーにダイレクトアタック! 『ヌーベル・ポアント』!」
 作業服の男のフィールドには《ジェムナイト・パール》と《始祖竜ワイアーム》がいるけど、いずれも《サイバー・チュチュ》より攻撃力が高い。よって《サイバー・チュチュ》のモンスター効果が適用され、ダイレクトアタックが成立した!

 《サイバー・チュチュ》 攻:1000

 作業服の男 LP:5600 → 4600

 ダイレクトダメージにより、作業服の男のフォークリフトのスピードがさらに落ちた。もう少しで追いつけそうだ。
「くそっ! 大分食らっちまったか! だが、これで貴様のモンスターの攻撃は終わった! 次の俺のターンで逆転してやる!」
 作業服の男の声を聞きつつ、あたしは手札からカードを発動した。
 師匠から教わった技には、まだ続きがあるのだ!
「まだあたしのバトルフェイズは終了してない! 速攻魔法《時の飛躍(ターン・ジャンプ)》を発動! このカードの効果で、3ターン後のバトルフェイズにジャンプする!(手札:2→1)」
「何っ!? 《時の飛躍》だとぉ!?」
 《時の飛躍》により、互いに何もプレイしないままターンが経過。3ターン後のバトルフェイズに移行する。これが意味することは――。
「3ターン後のバトルフェイズになったことで、あたしのフィールドのモンスターの攻撃権が復活する! さあ、再びバトルと行こうぜぇ!」
「な……なんだそのインチキくさい戦術は! そんなのアリなのか!?」
 アリなのです!
「《幻魔皇ラビエル》の攻撃! 対象は《ジェムナイト・パール》! 行けえ! ラビエル!」
 ラビエルが《ジェムナイト・パール》を殴り飛ばし、粉砕爆破した! それにより、作業服の男のライフがさらに削られる!

 《幻魔皇ラビエル》 攻:4000
 《ジェムナイト・パール》 攻:2600 :破壊

 作業服の男 LP:4600 → 3200

「さらに、《サイバー・チュチュ》のダイレクトアタック! 『ヌーベル・ポアント』!」
 作業服の男のフィールドの《始祖竜ワイアーム》を飛び越え、《サイバー・チュチュ》の蹴りが炸裂! 1000ダメージ発生だ!

 作業服の男 LP:3200 → 2200

 更なるダメージによって、作業服の男のフォークリフトのスピードが減少。ついに、あたしのフォークリフトと並んだ。
「ぬぅ……っ……くっ……ここまでやるとは……! だが、さすがにもうこれ以上は攻撃できないだろう! ……できないよな? できないと言え! 頼むから言ってくれ!」
 作業服の男が叫んだ。あたしは小さく息を吐くと、手札に残された最後の1枚をデュエル・ディスクにセットした。
「2枚目の《時の飛躍》を発動! もう1回、3ターン後のバトルフェイズにジャンプする!(手札:1→0)」
「ふざけんなあああああああああああああああああっっっ! なんで《時の飛躍》が都合よく2枚も揃ってんだオイイイイイイイ!?」
 いやー、なんか知らんけど、揃ってたんだよねー。どうもスンマセン、へっへっへ。
 というわけで、2枚目の《時の飛躍》が適用され、またもや3ターンジャンプすることになった。
「3ターン経過したことにより、《幻魔皇ラビエル》と《サイバー・チュチュ》の攻撃権復活! すかさずバトル! ラビエルで《始祖竜ワイアーム》を攻撃!」
 ラビエルが、作業服の男のフィールドに残された最後のモンスター《始祖竜ワイアーム》をぶん殴った! しかし、《始祖竜ワイアーム》は破壊されない。
「くそぉぉぉっ! 《始祖竜ワイアーム》は、通常モンスター以外とのバトルでは破壊されない!」
「でも、ダメージは発生する!」

 《幻魔皇ラビエル》 攻:4000
 《始祖竜ワイアーム》 攻:2700

 作業服の男 LP:2200 → 900

 残りライフ1000以下となり、男のフォークリフトがさらに減速。とうとうあたしのフォークリフトが前へ出た。……いや、後ろへ出たのか。ややこしいな。
「あんたのフィールドには《始祖竜ワイアーム》が残ってるけど、あたしのフィールドの《サイバー・チュチュ》はダイレクトアタックができる! そして、《サイバー・チュチュ》の攻撃力は1000! 残りライフ900のあんたを倒すには充分!」
「くそっ! こんなバカなことが!」
「行け! 《サイバー・チュチュ》! 最後のダイレクトアタック! 『ファイナル・ヌーベル・ポアント』!」
 後ろ……じゃなくて前を走る作業服の男のフォークリフトを指さし、あたしは攻撃命令を下した! 《サイバー・チュチュ》が華麗に舞い、作業服の男に蹴りを食らわす! それにより、1000ダメージが発生! 男のライフが0となった!

 作業服の男 LP:900 → 0

 斉場チユ WIN!

「どわあああああっ!」
 ライフが0になると、作業服の男のフォークリフトが動きを止めた。
 それからすぐに、周囲の景色が変化を始めた。満天の星、楕円形のデュエルレーンが、ぐにゃりぐにゃりと歪み、消えていく。それに合わせるかのように、作業服の男と、彼の乗るフォークリフトも消えていく。そして、何もなくなった世界に、木製の天井と、畳が敷かれた床が広がっていく。

「今日の稽古はこれで終了。お疲れさま、斉場さん」

 変転していく世界に、凛とした声が響く。女性の声だ。それを聞き、体の力が抜けるのを感じた。
 今日はここまでか。
 あたしはフォークリフトから降りた。すると、フォークリフトがぐにゃりと歪んで姿を消した。
 やがて、周囲の景色は、学校の体育館くらいの広さの道場となった。天井は木製で、床には畳が敷かれている道場だ。これが、今あたしがいるこの場所の本来の姿だ。
 ついさっきまであたしがデュエルをしていた世界は、ソリッドビジョンシステムによって生み出された仮想世界だ。満天の星も、デュエルレーンも、フォークリフトも、対戦相手である作業服の男も、何もかもが仮想のもの。そんな仮想世界で、あたしはフォークリフトに乗り、デュエルしていたのだ。それが、本日最後のトレーニングの内容だった。
 しかし、仮想世界なのに何もかもが現実に思えた。本当に現在のソリッドビジョン技術はすごい。もう仮想世界でのデュエルは何度も経験してるけど、何度やっても驚かされる。

 ……え? 実体のないソリッドビジョンで作られたフォークリフトにどうやって乗ったのかって? ……細かいことを気にしてはいけないよ。


 ご都合主義
 (魔法カード)
 都合のいい展開でストーリーを進行させる。


「フォークリフトに乗ってデュエル、というのは、ちょっと簡単だったかしらね」
 先ほどの女性の声が耳に入った。声の方に目を向けると、黒い道着を身にまとった女性が空中であぐらを掻いていた。綺麗な顔立ちをしたポニーテールの女性だ。
 彼女があたしの師匠――鷹野(たかの)麗子(れいこ)さんだ。あたしは彼女に弟子入りし、この道場でデュエルを教わっている。
 鷹野師匠に向かってあたしは答えた。
「そうですね……。おとといのデュエルに比べたら、簡単だったと思います」
「おととい? どんなデュエルをしたっけ?」
「象に乗ってデュエルしたんですよ」
「ああ、そうだったわね」
 鷹野師匠は二度三度とうなずいた。
「まあ、とにかく、いいデュエルだったわ。《幻魔皇ラビエル》の使い方、《時の飛躍》の使用タイミング、どれも合格点。私の教えた技、完璧に物にしているわね。本当にあなたは強くなったわ」
「本当ですか!?」
 鷹野師匠の言葉を聞き、胸の中が嬉しい気持ちでいっぱいになった。
「ありがとうございます! 師匠のおかげです!」
 あたしは鷹野師匠に向かって頭を下げた。
 本当に、鷹野師匠には感謝している。この人のおかげで、あたしのデュエルの腕は大きく上昇した。まさか、たった半年で、こんなにまで成長できるとは思わなかった。





2章 弟子入り!


 時は半年ほど前にさかのぼる――。

「デュエルの腕が伸びない、だって?」
 向かいの席で、ツインテールの女の子――(とどろき)桃花(ももか)が言った。
 まだまだ暑さが終わらない、9月の日曜日。場所は童実野町にあるハンバーガー屋『バーガーワールド』。デート中のあたしと桃花は、そこで昼食をとっていた。
 ハンバーガーを食べながら色々な話をしていくうちに、何かの流れであたしのデュエルの話になった。そこであたしは、最近デュエルの腕が伸び悩んでいることを桃花に打ち明けた。
「いやさー、なんか全然、デュエル強くならないっていうか……むしろ弱くなってね? って感じでさー。ホント調子悪いんだよね。今までこんなことなかったのに……」
「強くなるどころか、弱くなってる、ねぇ」
 桃花はハンバーガーの最後のひとかけらを口に放り込むと、あたしの目を見て言った。
「スランプ、って奴か?」
「かもねー」
 あたしはコーラをちゅるちゅると飲んだ。
「あたし、強くなりたいんだよ。もっと強く……」
「強くなって、それでどうするんだ?」
「どうするかって?」
 桃花に問われたあたしは、迷うことなく答えた。
「そりゃあアレだよ。強くなって……とりあえず、世界を救う。悪い奴をデュエルでやっつけて、世界を救う。それと、大会とかで優勝して、賞金を稼ぎまくって、その金をどこかの慈善団体とかに寄付して……困ってる人とか苦しんでる人とかを救う」
 あたしが言うと、桃花はふっと柔らかく笑みを浮かべた。
「チユはスッゲー志が高いんだな。尊敬するぜ」
「はは、ありがと」
 桃花は本当にいい人だ。あたしの目標を聞いてもバカにしたりしない。
「そうだよな。世界とか人とかを救うんだったら、どうしても強さが必要になるよな」
「うんうん。でも、伸び悩んじゃってるわけ。どうにかできないかなぁ。桃花だったらこういう場合、どうする?」
「俺だったらどうするか……」
 桃花はポテトを口に入れると、腕を組んで考え込む表情をした。少しの間、その状態を維持してから彼女は答えた。
「俺だったら、めっちゃ強いデュエリストに弟子入りするかな」
「弟子入り?」
「ああ。弟子入りして、色々と教えてもらうんだよ。そうすりゃ、強くなるためのヒントも見つかるだろ」
 なるほど、その手があったか。
 誰か強い人に教えを受ければ、伸び悩んでる今の状況を脱することができるかもしれない。今まで1人でウンウン悩んでたけど、何も1人で頑張ることにこだわる必要はないんだ。
 そうと決まれば話は早い。あたしは桃花に向かって手を合わせた。
「桃花お願い! あたしの師匠になって! そして、あたしを最強のデュエリストにして!」
「悪いがそれはできないぜ」
 あたしの願いを、桃花は拒絶した。
 どうして、とあたしは言いかけたが、その前に桃花がこう言った。
「俺はチユを愛してる。できることなら、チユの師匠になってチユを最強のデュエリストにしたい思ってる。でも、できないんだ……」
 桃花は首をゆらゆらと振った。
「どうして?」
 あたしが訊ねると、桃花は答えた。
「だって俺、チユよりも弱いじゃん」
「…………」
 そういえばそうだった。桃花ってあたしよりも、デュエル弱かったんだっけ。これまで桃花とは何度かデュエルしたことがあるけど、あたしが勝った回数のほうが圧倒的に多い。
「やっぱり、教えを受けるんだったら、自分より強い人の方がいいだろ。そういうわけで、俺はチユの師匠にはなれない」
「うーん、それじゃ仕方ないか。じゃあ、誰に弟子入りすればいいかな? あたしの知り合いに、誰か弟子にしてくれそうな強いデュエリストっていたっけ……」
 あたしは頭の中に、知り合いのデュエリストの顔を思い浮かべてみた。けど、この人だ! と思えるような人はいなかった。
 弟子入り作戦は失敗か、と思ったその時、桃花が「そうだ!」と声を上げた。
「思い出した! チユ、いるぜ! 師匠として打ってつけの人が!」
「え!? ホント!?」
「ああ! その人はとんでもなく強いデュエリストで、しかも、弟子を募集中だったはずだ! 今頼めば、きっと弟子にしてくれるぜ!」
 なんと! そんな人がいたとは! こりゃ今すぐ会うしかないだろ!
「ね、ねえ! その人誰!? 桃花の知り合い!?」
「ああ、中学時代、同じ部活にいた先輩だよ。つーか、チユも顔と名前くらいは知ってんじゃないか?」
 あたしと桃花は同じ中学校に通っていた。桃花が中学校で会っていた先輩となると、あたしも知っている可能性は高い。
 桃花はその先輩の名前を口にした。
「鷹野麗子先輩。覚えてるか?」
「鷹野麗子……って、たしか生徒会の役員だった人?」
「そうそう! 覚えてんじゃん!」
 生徒会役員の鷹野先輩。直接会話したことはないけど、とても綺麗な人だったから印象に残っている。
 あの人もデュエルをするんだ。知らなかった。
「鷹野先輩って、デュエル強いの?」
「強いぜ、無茶苦茶な」
 桃花はニカッと笑った。
「鷹野先輩、一時期アメリカに行ってたみたいだが、今は日本に帰国してるらしい。で、自分の道場を開いて、弟子たちに稽古をつけてるって話だ。あの人に弟子入りすれば、きっと多くのことを学べるだろうぜ」


 その翌日。
 授業が終わり、学校を出たあたしは、鷹野先輩に会いに行くことにした。目指すは鷹野先輩が経営している道場『うずまき道場』だ。彼女はそこにいる。
 うずまき道場は、童実野町から少し離れた場所にある、広い荒野に建っていた。綺麗な和風の建物だ。たぶん、建てられてまだ間もないと思う。
 あたしは深呼吸を1つしてから、道場の扉に手をかけ、
「たのもー!」
 と言いながら扉を勢いよく開いた。
 しかし、道場には誰もいなかった。しんと静まり返っている。明かりも点いておらず、薄暗い。
 あたしは道場をざっと見渡してみた。思った以上に広い。学校の体育館くらいの広さはあるだろう。床には畳が敷かれている。
「あのー、誰かいませんかぁ!? ここで稽古をつけてほしいんですけどー!」
 あたしは大きな声でいった。すると、道場内がいきなり明るくなった。電気が点けられたらしい。
 そして、道場の中央あたりに、直径3メートルほどのうずまきが出現した。
 なんだあれは!? と思ったその時、凛とした声が道場内に響いた。
「ようこそ、うずまき道場へ。歓迎するわ」
 声はうずまきの方から聞こえた。
 まさか、うずまきが声を発してるのか!? と思ったが違った。うずまきの中から人が出てきたのだ。女性だった。黒い道着を身にまとった、綺麗な顔立ちをしたポニーテールの女性だ。
 うずまきの中から出てきた女性は空中に浮遊し、その状態のままあぐらを掻いた。それと同時に、うずまきが姿を消した。
「これは夢なの……?」
 目の前の光景が信じられなくて、あたしはそうつぶやいた。
 一体、何がどうなってるのか。うずまきの中から人が出てきて、しかもその人、空中に浮かんでるし。あたしは夢でも見てるのか。
 あたしは空中に浮かんでいる女性に向かって言った。
「あの……一体何がどうなって――」
「私がうずまき道場の最高責任者・鷹野麗子よ。どうぞよろしく」
 あたしの声を遮るように女性――鷹野麗子さんが言った。
 彼女の顔を見ているうちに、少しずつ中学時代の記憶が蘇ってきた。そうだ、間違いない。この人は鷹野先輩だ。たしか、こういう顔立ちの人だった。
 あたしはぎこちない口調で「斉場チユです。よろしくお願いします……」と言ってから、鷹野先輩に訊ねた。
「あの、なんか空中に浮かんでるように見えるんですけど、それって――」
「斉場さん、といったわね。ここに来たということは、私の弟子になりたいのかしら?」
 鷹野先輩はまたもあたしの声を遮り、こちらに問いかけてきた。どうやら、質問は受け付けないつもりらしいと感じたあたしは、空中浮遊の件はスルーして本題に入った。
「はい! あたし、どうしてもデュエルの腕を上げたくて、鷹野さんに弟子入りしに来ました! お願いします! あたしを弟子にしてください!」
「ふむ、よろしい。あなたを弟子として迎え入れるわ。今日から、私のことは師匠と呼びなさい」
「はい師匠!」
 思ったよりもあっさりと鷹野先輩、もとい鷹野師匠は、あたしを弟子として迎え入れてくれた。やった!
「じゃあ、早速稽古をつけてください、師匠!」
「いいわ。じゃあ、まずはそこに置いてある生卵を一気飲みしてちょうだい」
「えっ!?」


 こうして、その日からあたしの稽古生活が始まった。
 稽古の内容は色々なものがあり、どれも決して楽なものではなかった。
 たとえば、特定の種族のモンスターの名を1時間以内に100種類以上書き出す稽古。
 たとえば、特定のレベルのモンスターの名を1時間以内に100種類以上書き出す稽古。
 たとえば、特定のテキストを持つカードの名を1時間以内に100種類以上書き出す稽古。
 たとえば、生卵を一気飲みする稽古。
 たとえば、超高難度の詰めデュエル100問を1時間以内に全問解く稽古。
 たとえば、ソリッドビジョンで作られた仮想デュエリスト100人とデュエルする稽古。
 たとえば、拳銃の発射をカードで止める稽古。
 たとえば、生卵を一気飲みする稽古。
 たとえば、迫りくる戦闘ヘリをカードドローで発生する衝撃波で切り裂く稽古。
 たとえば、2人以上のプレイヤーを超融合する稽古。
 たとえば、生卵を一気飲みする稽古。
 たとえば、バイクと合体する稽古。
 たとえば、生卵を一気飲みする稽古。
 たとえば、デュエル中にカードを創造する稽古。
 たとえば、生卵を一気飲みする稽古。
 たとえば、デュエル中にカードを書き換える稽古。
 たとえば、生卵を一気飲みする稽古。
 たとえば、生卵を一気飲みする稽古。
 たとえば、生卵を一気飲みする稽古。
 たとえば、生卵生卵生卵生卵生卵生卵生卵…………。


 ……まあ、その他色々だ。とにかく、厳しい稽古が多かった。特に生卵一気飲みがキツかった。
 あたしが鷹野師匠の弟子になって間もない頃、あたしの他にも師匠の弟子として稽古に励む人を見かけることがあった。けど、3か月くらいが経つと、あたし以外に稽古をしている人は誰も見かけなくなった。みんな稽古が厳しくてやめてしまったのだ。
 でも、あたしはどんなに稽古が厳しくても、やめることはしなかった。どうしても強くなりたい――その一心だけで稽古に励んできた。やめようなんて1度も思わなかった。
 ごめん、今の嘘です。ホントはやめようと思ったこと何度もあります。ちょっと見栄を張りましたスミマセン。
 それでも、なんだかんだやめずに続けてきたのは事実だ。この稽古をやり遂げればもっと強くなれる――その思いが、くじけそうになる心を奮い立たせていた。
 実際、ここで稽古するようになってから、あたしのデュエルの腕は格段に上昇した。鷹野師匠に弟子入りする前とはもはや比べ物にならない。まさかここまで強くなるとは思わなかった。
 稽古の効果はきちんと出ている。だからこそ、あたしは稽古を最後までやり遂げようと思った。


 ★


 そして、弟子入りから半年が経過し、現在に至る――。
 フォークリフトに乗りながらデュエルするという稽古を終えたあたしは、道場の床に正座していた。視線の先には、空中であぐらを掻く鷹野師匠がいる。
 半年前、空中に浮遊する鷹野師匠を初めて見た時は驚いたけど、今では慣れてしまって普通の光景にしか見えない。
「今日の稽古を見て思ったけど」
 鷹野師匠が切り出した。
「斉場さんは本当に強くなったわ。完全に、私の教えたことをマスターしてるわね」
「いやあ、まだまだ未熟ですよ」
 あたしは頭を掻いた。鷹野師匠は小さく笑みを浮かべた。
「ふふっ。そんな謙遜しなくてもいいわ。あなた自身、分かってるでしょ? 自分が強くなってるってことを。もっと自信を持っていいのよ?」
「そ、そうですか! いやあ、なんか照れちゃうなぁ! 実は、自分で言うのもなんですけど、あたし結構強くなったなーって思うんです!」
「調子に乗るんじゃない!」
「す、すみません!」
 怒られた。
 鷹野師匠はあきれたようにため息をついた。
「そうやって、つい調子に乗ってしまうところはあなたの欠点ね。そういう気のゆるみはデュエリストの大敵よ。前にも言ったでしょう?」
「は、はい。すみません……」
「まあ、そうは言っても、あなたが強くなったことは確かな事実よ。それは間違いない。だから、自信は持っていいと思う」
「そうですか! やっぱ、あたし強くなりましたよね!? 自分でもそんな気がしてたんです!」
「調子に乗るなぁっ!」
「ひぃっ! ごめんなさい!」
 また怒られた。
 調子に乗ってはいけない。こういう気のゆるみは実戦に大きく影響する。忘れちゃいけない。あたし、まだまだ未熟だなぁ。
「あたし、まだまだ全然強くなってないと思います。もうホント全然ダメです。こんなあたしに、デュエリストを名乗る資格なんてない気がしてきました」
「斉場さん。そんなことを思ってたんじゃ強くなんてなれないわ。前にも言ったはずよ、強くなるためにはまず、強くなった自分をイメージしなければならない。そのためには何よりも自信を持つことが大事よ」
「そ、そうですよね! 自信を持たなきゃいけないですよね! 実はあたし、結構強くなってきた気がするんですよね!」
「だから、調子に乗るなって言ってんでしょうがぁっ!」
「すみません! ……いやあ、あたしってホント全然ダメですね。もう死んじゃった方がマシです」
「そんな気持ちじゃ強くなんてなれない! まずは自信を持ちなさい!」
「実はあたし、最近めっちゃ強くなった気がするんです!」
「調子に乗るな!」
「すみません! あたしマジで死んだ方がいいですね」
「自信を持て!」
「あたしってチョー強くないですか!? そう思いません!?」
「調子に乗るな!」
「もうやってく自信ないです」
「自信を持て!」
「あたしって最強!」
「調子に乗るな!」
「……ごめんなさい、そろそろこのやり取り勘弁してください」
 さすがに疲れてきたので、あたしは降参した。
 鷹野師匠は「こほん」と咳払いすると、真面目な表情であたしの目を見た。
「冗談はさておき、斉場さんが強くなったことは事実よ」
「……それ、本当ですか?」
「本当よ。そこで、斉場さんに大事な話があるのだけど」
 大事な話? なんだろう?
 鷹野師匠は少し間を空けてからこう言った。
「実はね、斉場さん。もうあなたに教えることはないのよ」
「えっ? それってどういう……」
「あなたには、私が教えられることは全て教えた。そして、あなたは私から教わったことを全て吸収し、強いデュエリストに成長した。だから、私があなたに教えることはもう何もない」
 あたしはごくりと唾を飲み込んだ。
「ということは……免許皆伝ってことですか?」
 あたしが問うと、鷹野さんは手の平をこちらに向けた。
「あわてないあわてない。免許皆伝はまだよ」
「でも、教えることはないんじゃ……?」
「そう、教えることはない。だから、あなたが免許皆伝に値するかどうか、最後の確認をさせてもらうわ」
 そう言うと、鷹野師匠はあたしの方を指さし、はっきりと告げた。

「あなたには、最終試験を受けてもらう。その試験に合格すれば免許皆伝とするわ」





3章 最終試験!


「最終試験に合格すれば免許皆伝、かぁ。じゃあ、何がなんでも合格しないとな!」
 桃花はそう言うと、1杯3000円もするコーヒー『ブルーアイズマウンテン』を啜った。
 鷹野師匠から最終試験をやることを宣告された翌日。学校帰りのあたしと桃花は、童実野町の時計塔広場にあるカフェ『Coffee Prant』に来ていた(あたしと桃花は同じ高校に通っている)。
「さすがはブルーアイズマウンテン! コクが違う!」
 ブルーアイズマウンテンを口にした桃花は、実に満足した様子で言った。しかし、コーヒー1杯で3000円か。金持ちの桃花ならともかく、あたしがそれを頼んだら、財布が大ダメージを負ってしまう。
 あたしは1杯300円のカフェラテを飲みながら言った。
「何がなんでも合格するよ。半年間頑張ってきた成果を見せてやる」
「ファイトだぜ! ……ところで、最終試験って一体どんな内容なんだ?」
 桃花が疑問を口にする。あたしは首を横に振った。
「それが、試験の内容については教えてくれなかった。試験内容は試験当日に発表するって」
「なんだそりゃ! それじゃあ、事前準備とかできないじゃないか!」
「そうなんだよねー」
 あたしはカフェラテをこくりと飲み、ため息をついた。
「どんな試験をやるのか全然分からないから、なんの対策もしようがないよ」
「ぶっつけ本番ってわけか。ちなみに、試験っていつやるんだ?」
「明日」
「早っ!? マジでなんの対策も打ちようがねえな……」
 その通り。試験は明日の午後2時スタートだ。マジでもう、どうにもしようがない。
 とはいえ、これまで鷹野師匠から教わってきたことをきちんと実践できれば、クリアはできるはずだ。
 大丈夫。今のあたしなら、特定の種族のモンスターの名を1時間以内に100種類以上書き出すことだってできるし、超高難度の詰めデュエル100問を1時間以内に全問解くことだってできる。拳銃の発射をカードで止めることだってできるし、バイクと合体することだってできる。もちろん、生卵を一気飲みすることだってできる。どんな試練が待ち構えていようと、クリアすることはできるはずだ。
「ここまで来たら、もうジタバタしてもしょうがない。この半年間で自分がやってきたことを信じて挑むしかないよ」
「まあ、そうだろうな。あとは自分を信じて進むしかないか……」
 桃花はそこで口を閉じ、ほんの少しの間、考え込むような表情をしてから再び口を開いた。
「あのさ、試験が始まる前にこういうこと訊くのもアレなんだが……」
「何?」
「万が一の話だが……万が一、最終試験に不合格になっちまった場合、どうなるんだ? 特にリスクとかはないのか?」
「ああ、不合格の時の話か。それなら――」
 あたしは鷹野師匠から言われたことを思い出しながら言った。
「もし不合格の場合は、鷹野師匠とあたしの師弟関係を解消した上で、あたしが師匠から教わったデュエル技術を全部消去するって」
「は? 消去だって?」
 桃花は目を見開いた。
「消去って、どういうことだよ?」
「記憶を消すんだってさ。あたしが道場で学んできたことに関する記憶をぜーんぶ消しちゃう。それでデュエル技術消去ってわけ」
「記憶を消すって、そんなこと一体どうやって……いや、こりゃ愚問だな。鷹野先輩のことだ。他人の記憶の一部を消すことくらい造作もないだろ」
 桃花はすぐに納得した表情をしてブルーアイズマウンテンを一口啜った。桃花は鷹野師匠のことをよく分かってるみたいだ。
「しかし、師弟関係解消に、習ったデュエル技術全消しとは、結構キツイ罰ゲームだな。要するに、半年間の努力がパーになるってことじゃんか」
「そうなんだよねぇ。それってめちゃくちゃキツイよ。だから、絶対にこの最終試験、合格しないとダメなんだ」
「だな。頑張れチユ! 健闘を祈ってるぜ!」
 桃花はニッと笑みを浮かべ、サムズアップしてみせた。あたしも同じポーズを返した。
「よし! 試験に合格して免許皆伝になったら、免許皆伝祝いってことで、なんか美味いモンおごってやるぜ!」
「ホント!? じゃあ、あたしあれ食べたい! 牛フィレ肉フォアグラソース! それからおでん!」
「ああ、もうなんでもおごってやるぜ! 牛フィレだろうが、おでんだろうが、なんでも来いってんだ!」
「いやあ、嬉しいこと言ってくれるじゃん! こうなったら、何がなんでも絶対に絶対に試験合格しなきゃ!」
「その意気だぜ、チユ!」
 あたしと桃花は笑い合った。


 ★


 翌日――3月4日、土曜日。
 最終試験当日。時刻は午後1時57分。あたしは桃花と一緒に、うずまき道場にやってきた。今日は大事な日なので、桃花も応援に来てくれたのだ。
 広い荒野に建っているこの道場。ここであたしは半年間、色々なことを学んできた。今日、その成果が問われる。
「いよいよだな。頑張れよ、チユ!」
「うん。桃花、約束忘れてないよね?」
「忘れてねえよ。免許皆伝したら、好きなモンいくらでも食わせてやる!」
「ははっ。それ聞いて安心した。さ、行こう!」
 あたしはリュックサックを背負い直すと、道場の扉を開いた。木製の天井と、畳が敷かれた床が目に入った。
「来たわね、斉場さん」
 学校の体育館ほどの広さを持つ道場では、黒い道着を身にまとった鷹野師匠が待っていた。もちろん、今日の鷹野師匠も空中であぐらを掻いている。
「あなたが免許皆伝に値するかどうか、今日の最終試験で確かめさせてもらうわ」
「よろしくお願いします!」
 あたしは鷹野師匠に向かって一礼した。鷹野師匠はこくりとうなずくと、桃花の方を見た。
「今日は恋人が応援に来てくれたのかしら?」
「はい、そうです」
「鷹野先輩、お久しぶりです!」
 桃花が鷹野師匠に向かって元気よく挨拶した。桃花は空中に浮かぶ鷹野師匠を見ても、特になんとも思わないようだ。
「久しぶりね、轟さん。あなたと会うのはたしか……ニューヨークでデュエルした時以来よね?」
「そうですね。もう1年半くらい経ちます」
 あたしは、桃花が以前言っていた、鷹野師匠とのラスト・デュエルの話を思い浮かべた。今から1年半ほど前、桃花は鷹野師匠と、ニューヨークにあるエンパイア・ステート・ビルをよじ登りながら最後のデュエルをしたという。
 当時、まだ中学3年生だった桃花は、鷹野師匠のことが好きで、彼女を追ってニューヨークまで行った。そんな桃花に、鷹野師匠は「あなたがデュエルで勝ったら恋人になる。しかし、私が勝ったらあきらめなさい」と告げ、デュエルを挑んだのだ。こうして2人の最後のデュエルが始まった。このデュエルで桃花は負けてしまい、鷹野師匠と恋人になるのをあきらめたのだった。
 鷹野師匠は桃花を見て微笑んだ。
「今は斉場さんと上手くやってるみたいね」
「えへへ……おかげ様で」
「付き合って、どのくらいになるの?」
「えーと……そろそろ1年経ちますね」
 桃花は照れくさそうに言った。
 あたしと桃花が恋人の関係になったのは、桃花が鷹野師匠のことをあきらめてから半年ほどたった頃のことだ。
 あの日……中学校の卒業式の日に、あたしは学校の校庭にある大きな桜の木――『勝利を導く桜の木、通称アルカトラズ。平たくいえば、この木の下で告白すれば必ず成功するとかなんとかいわれてる伝説の木』――の下に桃花を呼び出した。そこであたしは桃花に告白し、めでたく恋人関係になったのだった。
 そういえば、もうあれからそろそろ1年経つのか。時が経つのは速いなぁ。
「今日はチユにとって大事な日ですから、見学してもいいですか?」
「かまわないわよ。さ、2時になったし、そろそろ始めようかしらね」
 いよいよ試験スタートだ。
 あたしは唾を飲み込んだ。緊張で体がこわばる。深呼吸をして、リラックスするように心がけた。
 桃花は隅の方へ移動すると、あたしを見て小さく「ファイトだ!」と言った。あたしはサムズアップで返した。
「斉場さん。おととい言ったように、今日の試験に合格すれば、あなたは免許皆伝とする。けど、不合格だったら、あなたと私の師弟関係は解消し、これまであなたに教えたデュエル技術は全部消去させてもらう」
「はい、分かってます。ところで、試験内容はどんな物なんですか?」
 あたしはずっと気になっていたことを訊ねた。
 鷹野師匠は空中にぷかぷか浮かんだ状態で答えた。
「試験の内容は至ってシンプルよ。あなたにはこれから、あるデュエリストとデュエルしてもらう。デュエルは1回勝負。あなたが勝てば試験は合格、あなたが負けるか引き分けなら不合格よ」
「デュエルを1回やるだけ、ですか」
「そうよ。シンプルで分かりやすいでしょ?」
 たしかに、とてもシンプルな内容だ。
「デュエルに勝てば免許皆伝ってわけですか。分かりました! このデュエル、絶対に勝ってみせます! で、相手は誰ですか!」
「ふふっ。もう対戦相手はここに来てるわよ」
「えっ!?」
 あたしは道場内を見渡した。対戦相手はもう来てるって……ここにはあたしと鷹野師匠と桃花しかいない……けど。……はっ! まさか!?
 あたしは鷹野師匠を見た。
「まさか、対戦相手は鷹野師匠――」
「ちなみに、私は対戦相手じゃないわ」
 って、違うんかい!? てっきり、「師匠を超えることで真に成長を果たす!」とかそんな展開かと思ったのに……。
 鷹野師匠は首をゆらゆらと振った。
「斉場さん。たしかにあなたは、この半年間でとても強くなった……。だが! しかし! まるで全然! この私を倒すには程遠いのよね! たとえ今のあなたでも、この私を超えることなんてできない! なのに、『私に勝ったら免許皆伝』なんて言うと思う? そこまで私は鬼じゃないわ」
「いや、そんなにはっきり言われると傷つきます……。とりあえず、対戦相手は師匠じゃないんですね。じゃあ一体誰が対戦相手――」
 と、ここであたしの目に桃花の姿が映った。その瞬間、あたしの体に電流が走った!
 ま、まさか!?
「桃花……あなたが対戦相手なの……?」
 あたしが問いかけると、桃花は目を閉じ、ふっと陰のある笑みを浮かべた。
「だまってて悪かったな、チユ」
「そんな……まさか……! 本当に桃花が対戦相手なの!?」
「そうさ。今日の最終試験、チユの対戦相手を務めるのは――」
 ここでいったん区切ると、桃花はカッと目を見開き、自分の胸を親指で指し示した。
「この俺! 地球最強のデュエリスト、轟桃花だっ! ジャンジャジャーン! 今明かされる衝撃の真――」
「いや、あなたは関係ないわよ、轟さん。悪ノリするんじゃないの」
 って、これも違うんかい!? てっきり、「衝撃の真実! 最後の敵はなんと自らの恋人だった! 愛する人が敵となった時、果たして何ができるのか!?」とかそんな展開かと思ったのに……。
 鷹野師匠はため息をついた。
「斉場さん。私が思うに、轟さんはあなたよりも弱いデュエリストよ。厳しい稽古に励んできた今のあなたじゃ、むしろ、轟さんに負けることの方が難しいくらいだわ。なのに、『轟さんに勝ったら免許皆伝』なんて言うと思う? そこまで私は甘くないわ」
「たしかに、今の俺じゃチユには及ばないと思うけど、ここまではっきり言われると落ち込むなあ……」
 桃花がずーんとした雰囲気に包まれた。あたしは「いや、そこまで桃花は弱くないから! 大丈夫だから!」と慰めてから、鷹野師匠に向かって言った。
「結局、対戦相手は誰なんですか?」
「だから、もうここに来てるわよ。まだ気づかないの?」
 対戦相手はもうここに来ている――鷹野師匠はそう言う。でも、ここにいるのはあたしと師匠と桃花だけ……。
 ……まさか?
「まさか、己自身とデュエ――」
「そうじゃないそうじゃない」
 鷹野師匠はめんどくさそうに手をひらひらと振った。
 そして、視線を上の方へ向けると、こう言った。
「いつまで引っ張る気よ? そろそろ姿を現しなさい。時間がもったいないわ」
 その言葉が放たれた次の瞬間――。





「フッフッフ! 斉場チユ……よくぞここまで辿り着いたな! ほめて遣わす!」





 突然、上の方から、謎の声が降ってきた。男の声だった。
「だ、誰!?」
 あたしは反射的に天井を見た。すると、1人の男が天井に張り付いているのが目に入った。男はあたしを見て不敵な笑みを浮かべている。
 おそらく高校生くらいだと思われるその男は、これといった特徴のない容姿だった。強いていえば、カイゼル髭みたいな形の髪型がとても目立っている。
 男は言った。
「ようやく僕のことに気づいたようだね」
「あ……あなたは一体……? いつからそこに……?」
「君や轟さんが来るよりも前からいたよ。まったく、なかなか気づいてくれないから、じれったくてしょうがなかったよ」
 男はやれやれ、といった風にため息をついた。そんな男を見ているうちに、いや、正確には男の髪型を見ているうちに、あたしの頭にひらめくものがあった。
 あのカイゼル髭みたいな髪型……まさか!?
「あなたはまさか……パラコンボーイ先輩!?」
 あたしが問うと、男は「はっはっは!」と尊大に笑った。
「僕のことを知っているとは光栄だね! そう! 僕の名はパラコ……って違う! 僕の名はパラコンボーイなんかじゃない!」
 男が怒った。……え? 違うの? てっきりパラコンボーイ先輩だと思ったんだけど。
 あたしが戸惑っていると、鷹野師匠と桃花が言った。
「いや、あなたの名前はパラコンボーイでしょ。何言ってんのよ」
「そうだぜ! お前の名前はパラコンボーイだ! それ以上でもそれ以下でもねえ!」
「いや、何言ってんだお前ら!? 僕はそんな名前じゃないっての!」
 男は鷹野師匠と桃花の方を見て叫んだ。
「僕はパラコンボーイなんて名前じゃない! いいかよく聞け! 僕の真の名は――」
「そんなことより、とっとと降りてきなさいよ。いつまで天井に張り付いてる気?」
「聞けっての! いいか、僕の名は――」
「このクソパラコン、降りてきやがれ! 素手で勝負しろ!」
「だから聞けよお前! 大体素手で勝負って、何しに来たんだお前は!?」
 男がガミガミと怒鳴る。それを無視して鷹野師匠があたしに言った。
「あれが今日の最終試験であなたと対戦するデュエリスト――パラコンボーイ略してパラコンよ」
「パラコン先輩が……今日の対戦相手……!」
 やっぱり、あの男はパラコン先輩らしい。彼こそ、今日あたしが倒さねばならないデュエリスト!
 鷹野師匠は天井に張り付いているパラコン先輩を見た。
「パラコン、いい加減降りてきなさい。デュエルを始めるわよ」
「だから、パラコンじゃな――」
「降りてきなさい、早く」
「……はいはい分かったよ分かりましたよ。もうパラコンでいいよ、まったく」
 パラコン先輩はあきらめたような顔をすると、天井から体を離し、床に綺麗に着地した。そして、あたしの方に目を向けた。
「斉場さん。君の力を確かめさせてもらうよ。自分が免許皆伝にふさわしいと思うなら、それを僕とのデュエルで証明してみせろ!」
 そう言うと、彼はデュエル・ディスクを構えた。様になっていた。
 こうして、あたしは本日の対戦相手・パラコン先輩と対面したのだった。


 ★


「斉場さん。これからあなたはパラコンとデュエルしなければならない。彼とのデュエルで勝てば、最終試験は合格。免許皆伝とするわ。でも、引き分けたり負けたりしたら、不合格となる」
「分かりました。あたし、絶対にこのデュエルに勝ってみせます!」
 あたしは宣言すると、パラコン先輩の方を向いた。
「パラコン先輩! よろしくお願いします!」
「どうぞよろしく」
「あたしは必ず、パラコン先輩のこと、完膚なきまでに叩きのめしてやります! そりゃもう、ボロ雑巾みたいになるまでぶっ叩いて、跡形もなく消し去ってやりますよ! きっと先輩は敗北の痛みにもだえ苦しみながら、実に惨めな気持ちで帰路につくこと間違いなしです! 楽しみにしていてください!」
「……あの……斉場さん、僕に何か恨みでもあるの?」
「え? 恨みなんてないですよ」
 これまでパラコン先輩とは関わったことがない。こうして会話するのも初めてだ。なのに、恨みなんてあるはずない。
 パラコン先輩は咳払いを1つしてから訊ねてきた。
「斉場さんって僕と会うの初めてだよね? 僕のことってどれくらい知ってる?」
「パラコン先輩のことは鷹野師匠から色々と聞いてます。鷹野師匠と同じクラスメイトだったんですよね?」
「うん」
 鷹野師匠は、同じクラスメイトだったカイゼル髭ヘアーの男・パラコン先輩のことを時々口にしていた。そう、たとえばこんなことを――。
「パラコン先輩は、鷹野師匠を一方的にライバル視して、しつこくデュエルを挑み続けた」
「『一方的』とか『しつこく』とかは余計だけど、まあ合ってるよ」
「けどパラコン先輩は鷹野師匠には1度たりとも勝つことができなかった」
「悔しいけどその通りだよ」
「でもパラコン先輩はあきらめなかった。何度負けても何度倒されても、必ず立ち上がり、再戦を挑んだ。その生命力たるや、まさにゴキブリのごとし――」
「ゴキブリじゃなくて不死鳥と呼べ!」
「だがしかし、何度戦っても、パラコン先輩は鷹野師匠に勝つことはできなかった。シリーズ最終回になってもその運命から逃れることはできなかった」
「本当にその通りだから困る! あの最終回は駄作だな駄作!」
「そして、何度戦っても勝てない最強のライバル・鷹野師匠に対し、ついにパラコン先輩は完全敗北を認め、それ以後は鷹野師匠の奴隷となった。そう、パラコン先輩は、鷹野師匠の奴隷として、一生彼女に尽くすことを誓ったのだ」
「うん! まったく記憶にないなその展開! 訂正しといて!」
「え? 違うんですか?」
「違うに決まってんだろ! 僕は奴隷になった覚えなんてないぞ! 鷹野さん、いい加減なこと言うなよ!」
 パラコン先輩が叫ぶと、鷹野師匠はそっぽを向いて知らん顔をした。
 あたしはまとめるように言った。
「まあ要するに、微妙な髪型をした、しつこくて愚鈍かつ無能で雑魚すぎるデュエリスト(1)……それがパラコン先輩ってことです。こんな感じのことを鷹野師匠からは聞きました」
「チキショオオオオォォォォオオォォオオ! 鷹野麗子ォォォォォ! 今すぐ僕とデュエルしろオラァァァァァ! ここで決着をつけるぞゴルァァァァ!」
 激怒したパラコン先輩が鷹野師匠に向かって怒鳴る。しかし、鷹野師匠は落ち着いた口調で返す。
「前にも言ったはずよ。私とデュエルしたければ、斉場さんを倒しなさい、とね。彼女に勝てたら相手してやるわ。そういう約束でしょ?」
「ぐっ……! そうだった……!」
「え? そんな約束してたんですか?」
 あたしが訊くと、鷹野師匠はうなずいた。
「半月くらい前、どこからか私の居場所を嗅ぎ付けたパラコンが、私にデュエルを挑んできてね。でも、いまいち気乗りしなかった私は、パラコンに条件を出した。私とデュエルしたいなら、斉場さんを倒せ、とね」
 鷹野師匠は少し間を空けてから、あたしの目を見て言った。
「実は私、もうその頃には、斉場さんに最終試験を受けさせるつもりでいたのよ」
「そ……そうだったんですか?」
「ええ。で、最終試験で斉場さんを誰とデュエルさせるかで悩んでたんだけど、ちょうどパラコンという人材が現れたので、彼に対戦相手を任せることにしたってわけ」
「なるほどー。それでパラコン先輩があたしの相手を務めることになったってわけですねー。鷹野師匠とのデュエル、という餌をぶら下げて、パラコン先輩を操ったってわけかー」
 あたしが納得していると、パラコン先輩が「なんか引っ掛かる言い方だな……」と顔をしかめた。
「鷹野さんもひどいよな。アメリカに行く前、僕に『いつでもかかって来い、返り討ちにしてやる』みたいなことを言ったくせに、いざ再戦を挑んだら、『気乗りしないからヤダ。そうだ、弟子に勝ったら相手してやる』だよ。言ってることとやってることが違うじゃん」
「『いつでもかかって来い、返り討ちにしてやる』……? そんなこと言ったかしら? 記憶にないわね」
「なんで忘れるんだよ……」
 パラコン先輩は大きくため息をついた。
「まあいいや。鷹野さん、忘れないでくれよ。斉場さんを倒したら、僕とデュエルするってこと」
 パラコン先輩が言うと、鷹野師匠は不敵な笑みを浮かべた。
「約束は守るわ。斉場さんを倒せば、あなたとデュエルする。だから、全力で斉場さんと戦いなさい。手加減はいらないわ。あなたの持てる力全てを使って斉場さんを叩き潰しなさい」
「言われなくてもそうするつもりさ。僕が真に戦うべき相手は君だ。弟子の方はとっとと潰させてもらうよ。本当に容赦しないけど、かまわないよね?」
「かまわないわ。完膚なきまでにぶちのめしなさい」
「じゃあ、心置きなくぶちのめさせてもらうとしよう」
 う……うわあ……。鷹野師匠もパラコン先輩も、あたしを潰す気満々だよ……。
 あたしは緊張をほぐすため、手を握ったり開いたりした。手の平が汗だくだ。
「落ち着けチユ! 大丈夫だ! チユならやれる!」
 と、ここで桃花の声が耳に入った。桃花の方を見ると、彼女は力強い笑みを見せた。
「パラコンなんて所詮、負けっぱなしの雑魚キャラだ! そんな奴に、厳しい稽古を続けてきたチユが負けるわけないだろ! 大丈夫さ!」
「おい! なんだその言い方は!? 雑魚キャラとはなんだ雑魚キャラとは! 訂正しろコラ!」
「そ……そうだね! うん、パラコン先輩は雑魚キャラだし、大丈夫だよね! そんな気がしてきた!」
「君もなんで納得するんだ!? 僕のことバカにしてんのかこの野郎!」
 桃花のおかげで、失いかけてきた自信が戻ってきた。それを後押しするように鷹野師匠も声をかけてくる。
「そうよ斉場さん! 私の弟子であるあなたが、パラコンなんていう連戦連敗の雑魚キャラに負けるわけないじゃない! あなたなら絶対勝てるわ!」
「そ……そうですよね! 師匠の弟子であるあたしが、雑魚キャラであるパラコン先輩に負けるわけないですよね!」
「鷹野麗子テメエエエエエエエエエエ! 覚えてろ絶対貴様は叩き潰す!」
 よし! すっごく自信が湧いてきた! このデュエル勝てそうな気がする!
 緊張がほぐれたあたしは、鷹野師匠と桃花の顔を見て堂々と言った。
「このデュエル、絶対に勝ってみせます!」
「その意気だぜ、桃花!」
「信じてるわ、あなたの勝利を!」
 鷹野師匠と桃花がさわやかな笑顔でサムズアップした。あたしもサムズアップで返した。あたしも彼女たちと同様にさわやかな笑顔になっていることだろう。
「チキショオ! お前ら全員、闇の世界に放り込んでやるぅぅぅ!」
 パラコン先輩だけが、苦痛に顔を歪めていた。





4章 リンクモンスター? エクストラモンスターゾーン? なんのことですかね?


「で、デュエルのルールはどうするんですか?」
 パラコン先輩との顔合わせが済むと、あたしは鷹野師匠に訊ねた。
 デュエルのルールには、スーパーエキスパートルール(原作ルール)とかマスタールール3(OCGルール)とか次元領域デュエルとかアクションデュエルとか色々なものがある。どのルールでデュエルするかで戦い方は大きく変わる。ルールは重要だ。
「あなたたちには、『遊☆戯☆王 THE DARK SIDE OF DIMENSIONS』で行われたデュエルと同じルールでデュエルしてもらうわ。ちなみに、次元領域デュエルではなく、通常デュエルの方ね」
 鷹野師匠は言った。
『遊☆戯☆王 THE DARK SIDE OF DIMENSIONS』――以下、劇場版遊戯王と呼ぶ――では、通常のデュエルと、次元領域デュエルという特殊なデュエルが行われた。これらの内、通常のデュエルと同じルールで今日のデュエルを行うようだ。
 劇場版遊戯王の通常デュエルと同じ、ということは、基本的にはマスタールール3(OCGルール)と同じだ。初期ライフは8000で、カードテキストも基本的にはOCG準拠となる。手札融合もできるし、1ターン中に手札から何枚でも魔法・トラップカードを出せる。違うのは、先攻1ターン目で通常ドローができる点と表側守備表示での通常召喚が可能な点くらいだろう。要は、昔のアニメルールを初期ライフ8000にしたようなルールだ。
 まあ、このシリーズは原作『遊☆戯☆王』の世界観に(一応)準拠しているのだ。なら、デュエルのルールも、原作のアフターストーリーとなる劇場版遊戯王のルールに合わせるのが筋というものだろう。
 …………。
 あたしは鷹野師匠に向かって言った。
「あの、鷹野師匠。念のために訊いておきたいんですけど」
「何?」
「劇場版遊戯王の通常デュエルと同じルール……ということはつまり、基本的はマスタールール3と同じルール。違うのは、先攻1ターン目で通常ドローができる点と表側守備表示での通常召喚が可能な点のみ。そう考えていいんですよね?」
「その通りよ。とりあえず、今日のデュエルに関しては、そういう理解の仕方でいいわ」
「基本的にはマスタールール3と同じと考えてよい。そういうことですね?」
「ええ。今日のデュエルに関しては、そう考えてくれていいわ」
「マスタールール3と同じ、ですね? マスタールール2とか新エキスパートルールとかジュニアルールとかじゃなくて、マスタールール3と同じ、ですね?」
「ずいぶんと念入りに確認するのね」
 鷹野師匠はニヤリとした。
「とにかく、今日のデュエルは、基本的にはマスタールール3と同じだと考えてくれて構わないわ。違うのは、先攻1ターン目で通常ドローができる点と表側守備表示での通常召喚が可能な点のみ。それ以外は全てマスタールール3と同じ。マスタールール3よ、マスタールール3。モンスターゾーンが合計10個のマスタールール3。魔法&罠ゾーンとは別にペンデュラムゾーンが存在するマスタールール3。いいわね? マスタールール3。ちゃんと言ったわよ? 理解した?」
「はい、理解しました。大丈夫です」
 基本はマスタールール3と同じとなる劇場版遊戯王のルール。きちんと確認した。


 新ルール発表!
 (罠カード)
 この小説を書いている途中、公式が新ルールを発表。
 当然、作者は混乱した。


 さて、今回のルールだけど、このルールのデュエルなら稽古中に何度も経験したから、ルールが分からないとか慣れてないとかそういう問題はない(おとといフォークリフトに乗りながらやったデュエルもこのルールだ)。気になるのは――。
「シンクロモンスター、エクシーズモンスター、ペンデュラムモンスターは使ってもいいですか?」
 気になるのはこの点だ。劇場版遊戯王のルールでは、シンクロモンスター、エクシーズモンスター、ペンデュラムモンスターを使えるのかどうか。おとといのデュエルでは使えたけど、今日のデュエルではどうなのか。


 新システム・リンク召喚!
 (罠カード)
 リンクモンスターって、小説でどう表現すればいいの?


 鷹野師匠は腕組みし、少し考えてから答えた。
「とりあえず、今日のデュエルでは使ってもいいわよ。基本はマスタールール3と同じだからね。シンクロでもエクシーズでもペンデュラムでも、自由に使いなさい。もちろん、エクストラデッキから特殊召喚したモンスターを複数体モンスターゾーンに並べても構わないわ」
「えっ!? 使っていいのかよ!?」
 驚きの声を上げたのはパラコン先輩だった。
「てっきり、シンクロとかは使えないものとばかり思ってたから用意してこなかったよ……。ねえ鷹野さん、今から家に戻ってシンクロモンスターとか取ってきてもいい?」
「ダメよ」
「ええっ!? なんで!?」
「真のデュエリストたるもの、カードを取ってくるために家に戻ることなど許されないわ。戦いはデュエルする前からすでに始まっているのよ。デュエリストは、どんな状況になろうとも万全の状態でデュエルできるよう、常に考えて行動しなければならない」
 そう言って、鷹野師匠はあたしの方を見た。
「斉場さん。今日あなたはカードをどのくらい持ってきた?」
「え? えーと、とりあえず、使えそうなカードは持ってこられるだけ持ってきましたけど……」
 あたしは足元に置いてあるリュックサックを指さした。この中にはカードがたくさん入っている。枚数は軽く500枚は超えてると思う。
 あたしの答えを聞くと、鷹野師匠は満足そうにうなずいた。
「そう。使えそうな物は全部持ってきたのね。それは何故?」
「何故って……今日はどんな試験をやるか分からなかったから、とにかく何が来ても戦えるように準備しないとだなーと思って……それで持ってこられるだけ持ってきました。前に鷹野師匠から、『どんな状況でも戦えるように常に準備しておけ』って教わってたし」
「私が教えたことをきちんと実行に移しているようね。斉場さん、素晴らしいわ。あなたのような優秀な弟子を持てて私は幸せよ」
「えっ! そうですかぁ〜!? いやあ、そんな風に言われると照れますなぁ〜! うはははは! そうかぁ、あたし優秀ですかぁ! いや、実はあたしも、以前から自分自身が結構優秀な存在であると自覚――」
「調子に乗るんじゃない!」
 怒られた。ほめられるとつい調子に乗るのがあたしの欠点だ。
 鷹野師匠は吐息を1つつくと、パラコン先輩の方を見た。
「――というように、斉場さんは準備を怠ることなくこの場所へ来たわけよ。それに対してパラコン、あなたは何? 見たところ、デッキとエクストラデッキ以外には1枚もカードを持ってきてないように見えるんだけど?」
「いや……あの……まさにその通りです」
 それを聞くと、鷹野師匠は鼻をふんと鳴らした。
「準備不足のパラコンボーイ略してジボーイ。そんなことではいつまで経っても真のデュエリストにはなれないわ」
「何がジボーイだよ! その程度のことで真のデュエリストがどうとか言われてたまるか! 準備をちゃんとしてきたからといってデュエルに勝てるとは限らない! シンクロもエクシーズもペンデュラムもないけど、それでも今日の僕のデッキが最強レベルに構築されていることはたしかな事実――」
「さあ、ルール説明も終わったし、そろそろ最終試験を始めましょうかね」
「聞けや!」
 パラコン先輩をスルーして鷹野師匠は話を進める。
「斉場さんとパラコンのデュエルは1時間後の……3時15分に開始するわ。それまでに斉場さんは自分のデッキの最終調整をしなさい」
「分かりました!」
「チユ! 応援してるからな!」
「ありがとう、桃花!」
 あたしはリュックサックを背負うと、1人で地下室へと移動した。6畳くらいの広さがある地下室は、よくデッキ調整のために利用している。あそこなら落ち着いてデッキ調整ができるだろう。


 ★


 地下室へと入ったあたしは、リュックの中からデッキと大量のカードを取り出し、テーブルの上に置いた。
 時間はあまりない。急いでデッキを調整しなきゃ。
 椅子に座り、デッキを手に取って調整作業を始めた。今日のあたしの相手はパラコン先輩だ。そのことを念頭に置いてデッキを組む必要がある。さて、どうするか。
 カードを見ながら、あたしは鷹野師匠が以前、パラコン先輩について話していたことを思い出した。
 あれは、鷹野師匠に弟子入りして2か月ほどが過ぎた頃だったか。その日、鷹野師匠は初めて、中学時代に同じクラスメイトだった、カイゼル髭みたいな髪型の男・パラコン先輩のことをあたしに話してくれた。いかにしてパラコン先輩が鷹野師匠とのデュエルで連戦連敗してきたか――あたしはそれを知ることになった。
「私は強く思ったわ。パラコンとは、下等で愚劣で無様で矮小な低級雑魚デュエリストなのだと」
 話の中で鷹野師匠はそう言った。
 そんな鷹野師匠の話を聞いているうちに、あたしは「パラコン先輩なら、あたしでも勝てそうだな」という風に感じた。
 しかし、それを鷹野師匠に言うと、師匠は「それは無理よ」と否定した。あたしは驚いた。
「でも鷹野師匠、パラコン先輩は下等で愚劣で無様で矮小な低級雑魚デュエリストだって言ったじゃないですか。なのに、あたしじゃ勝てないって言うんですか?」
 あたしの問いに対し、鷹野師匠は「少し言葉が足りなかったわね」と言った後、こう続けた。
「たしかに、パラコンは下等で愚劣で無様で矮小な低級雑魚デュエリストよ。しかし、それはあくまで、超絶天才ハイスペックデュエリストである私から見たら、という話でしかないわ」
「鷹野師匠から見たらパラコン先輩は弱い。けれど、他の人から見たら違うってことですか?」
「その通り」
 鷹野師匠はうなずき、あたしの目を見てはっきりと言った。
「パラコンは強いわよ。少なくとも、その辺の凡庸なデュエリストでは彼には勝てないでしょうね。もちろん、今のあなたのレベルでは到底彼には勝てない」
 師匠は師匠なりに、パラコン先輩の力を認めているようだった。
「逆説的に言えば、そんなパラコン相手に連戦連勝を収める私はメチャンコ強いってことよ」
 ……と思いきや、単に「私強いアピール」がしたかっただけらしい。
 ともあれ、鷹野師匠には及ばないものの、パラコン先輩が強いことは事実のようだ。実際パラコン先輩は、デュエルで鷹野師匠をあと一歩のところまで追い詰めたことがそれなりの回数あるらしい。
 これからあたしが戦うデュエリストは、そういう人物なのだ。気を引き締めてかからないといけない。
 鷹野師匠の話では、パラコン先輩は《ゴキボール》使いのデュエリストだという。《ゴキボール》の3体融合体である《マスター・オブ・ゴキボール》がパラコン先輩の切り札だとか。


 マスター・オブ・ゴキボール
 融合・効果モンスター
 星12/地属性/昆虫族/攻5000/守5000
 「ゴキボール」+「ゴキボール」+「ゴキボール」
 このカードは上記カードを融合素材にした融合召喚でのみ特殊召喚できる。
 (1):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、自分が受ける戦闘・効果ダメージは0になる。
 (2):表側表示のこのカードがフィールドから離れた場合に発動する。相手フィールドのカードを全て除外し、「ゴキボールトークン」(昆虫族・地・星4・攻1200・守1400)を可能な限り自分フィールドに特殊召喚する。この効果で特殊召喚した「ゴキボールトークン」はカード名を「ゴキボール」としても扱う。


 《マスター・オブ・ゴキボール》といえば、攻撃力が5000もあり、凶悪なモンスター効果を持つモンスターだ。おそらく、パラコン先輩はそのモンスターの召喚を狙ってくるはずだ。そうなることを見越してデッキを組む必要がある。
 デッキのカードを1枚1枚確認し、別のカードと入れ替えたり、新たなカードを付け加えたりして調整を進めていく。その最中、1枚のモンスターカードが目に入った。チュチュを身に着けた女の子が描かれたカード、《サイバー・チュチュ》だ。
 《サイバー・チュチュ》――このカードはあたしのフェイバリットカード。生まれて初めてお店で買ったカードパックから引き当てて以来、ずっとデッキに入れ続けているカードだ。このカードはデッキから外すわけにはいかない。このカードだけは何があってもデッキに投入し続ける。今までずっとそうだったし、ここに来て変えるつもりはない。
 さて、そんなこんなでどうにかデッキ調整が終わった。時刻は3時8分。試験開始まであと7分だ。地上へ戻ろう。
 カードを片づけ、デッキをデュエル・ディスクにセットし、リュックを背負ったあたしは、地上へと移動した。


 ★


 地上に戻ると、鷹野師匠、桃花、パラコン先輩が待っていた。鷹野師匠は相変わらず空中に浮かんでいる。
「やっと来たか。やることなくて、指と爪の間のゴミ取りとかやっちゃったよ……」
 あたしを見て、パラコン先輩がぼやいた。
「斉場さん。デッキ調整は完璧?」
 鷹野師匠が訊ねてきた。あたしはうなずいた。
「やれるだけのことはやりました。絶対に今日は勝ってみせます!」
「そう。期待してるわよ、斉場さん」
 師匠はにっこりとした。その目にはたしかに、期待の気持ちが表れていた。
「チユ!」
 桃花が声をかけてきた。そちらの方を見ると、彼女はニッと笑った。
「チユ! 絶対勝てよ! 勝ったら約束通り、キャビアだろうがフォアグラだろうが、なんでも食わせてやるからな!」
「その言葉、忘れないでよ桃花!」
 リュックを隅に置いたあたしは、パラコン先輩と向かい合うように立った。デュエル・ディスクを構える。
 今日のデュエル、何があっても負けられない。もしも負けたら、免許皆伝できないどころか、鷹野師匠との師弟関係は解消され、この半年間で得たデュエル技術を全て失うことになる。記憶を消されるという形で――。
 鷹野師匠との師弟関係も、鷹野師匠から受け取ったデュエル技術も、あたしは失いたくない。そんなことになったら、鷹野師匠に対しても申し訳ないし、鷹野師匠のことを教えてくれた桃花に対しても申し訳ない。この道場で過ごした日々には、免許皆伝という最高の形でピリオドを打ちたい。
 あたしはパラコン先輩の目を見て言った。
「パラコン先輩、よろしくお願いします! このデュエル、絶対に負けません!」
「僕だって負けるわけにはいかない! 何がなんでも勝たせてもらう!」
「準備は整ったわね。じゃあ、最終試験を開始するわ! 両者、デュエルポジションについて!」
 あたしとパラコン先輩は適度な距離を取って向き合い、デュエル・ディスクを構えた。いよいよデュエルスタートだ!
「それでは、デュエル開始ィィィ!」

「「デュエル!」」


【あたし】 LP:8000 手札:5枚
 モンスター:
  魔法&罠:

【パラコン先輩】 LP:8000 手札:5枚
 モンスター:
  魔法&罠:


 ついに、デュエルが始まった――!





5章 デュエル開始!


 腕立て伏せ対決の結果、あたしが先攻を取ることになった。
 このデュエル、絶対に負けられない! 必ず勝ってみせる!
「あたしの先攻ドロー!(手札:5→6)」
 今回のルールでは先攻1ターン目でもドローできるので、あたしは勢いよくカードを引いた。
 6枚になった手札に目を通す。……まずは……このカードだな。
「あたしは速攻魔法《手札断殺》を発動! 互いのプレイヤーは手札2枚を墓地へ送り、その後デッキから2枚ドローする!(手札:5→6→5)」
「手札入れ替えの魔法カードか」
 まずは手札の入れ替えから。あたしとパラコン先輩はそれぞれ手札を2枚墓地へ送り、新たに2枚をドローした。あたしの手札からは《シャドール・ビースト》と《暗黒の召喚神》が墓地へ送られた。
 さて次は……。
「あたしは今《手札断殺》で墓地へ送った《シャドール・ビースト》の効果発動! このカードが効果で墓地送りとなった場合、デッキからカードを1枚ドローする!(手札:5→6)」
「これで手札枚数が6枚に戻ったわけか」
 その通りだ。けど、それだけじゃ終わらない!
「さらに、《手札断殺》で墓地へ送ったもう1枚のカード、《暗黒の召喚神》の効果発動! 墓地のこのカードを除外することで、デッキから三幻魔1体を手札に加える!」
「はっ!? 三幻魔だと!?」
 三幻魔とは、《神炎皇ウリア》、《降雷皇ハモン》、《幻魔皇ラビエル》の3体のことだ。《暗黒の召喚神》の効果により、あたしはその3体の内のいずれか1体を手札に呼び込むことができる!
「あたしはこのカード……《神炎皇ウリア》を手札に加える!(手札:6→7)」
「くっ! 《神炎皇ウリア》……! そうだよな……鷹野さんの弟子なら、三幻魔を持っていてもおかしくないよな……」
 パラコン先輩は納得しつつ警戒する表情を浮かべた。
 一方、あたしは手札を見て、次の動きを考える。この手札なら……。
「あたしは《魔界発現世行きデスガイド》を守備表示で召喚!(手札:7→6)」
 あたしのフィールドにデスガイド……という名のバスガイドが出現し、守備態勢を取った(今回のルールでは、表側守備表示での通常召喚が可能だ)。そして、バスガイドの体が光り出す。
「《魔界発現世行きデスガイド》の効果発動! このカードの召喚成功時、デッキから悪魔族・レベル3のモンスター1体を特殊召喚する! この効果で《クリッター》を呼び出す!」
 デスガイドの効果に導かれ、三つ目の悪魔《クリッター》が出現した。《クリッター》はデスガイドの隣で守備態勢を取った。この光景を見て、パラコン先輩が警戒感を強める。
「デスガイドも《クリッター》もレベルは3! レベル3のモンスターが2体! 来るぞ遊馬!」
「あたしはリバース・カードを4枚セットしてターンエンド!(手札:6→2)」
「来なかったぞ遊馬! ……って、リバース4枚だと!? なんだそれ!? ガン伏せじゃねーか!」
「その通り、ガン伏せです! さあ、攻められるもんなら攻めてみてください!」
 あたしのフィールドには守備モンスター2体と伏せカード4枚。なかなか攻め込みづらいはずだ。


【あたし】 LP:8000 手札:2枚
 モンスター:《魔界発現世行きデスガイド》守600、《クリッター》守600
  魔法&罠:伏せ×4

【パラコン先輩】 LP:8000 手札:5枚
 モンスター:
  魔法&罠:


「僕のターン、ドロー!(手札:5→6)」
 いよいよパラコン先輩のターンだ。パラコン先輩の最初の動きはどのようなものか。
「……よし。僕はまず、2枚の永続魔法を発動する! 《補給部隊》と《魂吸収》だ!(手札:6→5→4)」
 パラコン先輩は手札を見て少し考えた後、2枚の永続魔法を発動した。
「《補給部隊》がある限り、僕は1ターンに1度、自分フィールドのモンスターが破壊された時にカードを1枚ドローする! そして、《魂吸収》がある限り、僕はカードが除外される度に、除外されたカードの数×500ライフ回復する!」
 ドロー強化とライフ回復の永続魔法! 残しておくと面倒なカード達だ!
「次に、魔法カード《予想GUY(ガイ)》を発動! 自分フィールドにモンスターがいない時、デッキからレベル4以下の通常モンスター1体を特殊召喚する!(手札:4→3)」
「レベル4以下の通常モンスター……」
 まさか……あのモンスターを?
「僕がデッキから呼び出すのはこのモンスターだ! 来い! 《ゴキボール》!」
 魔法カードの効果により、パラコン先輩のフィールドに、黒くて丸っこい形のモンスターが呼び出された!
 あれが《ゴキボール》! パラコン先輩のデッキのキーカード! 早くも呼び出されたか!
「パラコン……あなた、まだ《ゴキボール》をデッキに入れてたの?」
 鷹野師匠があきれたように言った。パラコン先輩はふんと鼻を鳴らす。
「《ゴキボール》は僕のデッキのキーカードだ! 抜けるなんてあり得ないね! 斉場さんを蹴散らしたら、次は君をこのカードで倒す!」
「……懲りない男ね」
 鷹野師匠はゆらゆらと首を振った。
 とりあえず、パラコン先輩の《ゴキボール》に対する思い入れはかなり深いようだ。
「さて続きだ。僕は《レスキューラビット》を通常召喚! そして《レスキューラビット》のモンスター効果を発動! このカードを除外することで、デッキからレベル4以下の同名の通常モンスター2体を特殊召喚する! ただし、この効果で呼び出したモンスターはエンドフェイズに破壊される!(手札:3→2)」
 パラコン先輩のフィールドにウサギのモンスターが出現し、すぐに消滅する。そして入れ替わるように呼び出されたのは2体の黒い球体――。
「僕が呼び出すのはこいつだ! 2体の《ゴキボール》!」
 なんと、パラコン先輩は新たに2体の《ゴキボール》をフィールドに呼び出した! これでパラコン先輩のフィールドには《ゴキボール》が3体揃ったことになる!
「《ゴキボール》が3体! 来るぞ遊馬!」
「そうあわてるなよ。僕は永続魔法《魂吸収》の効果発動! 《レスキューラビット》が除外されたので、ライフを500回復させてもらう!」

 パラコン先輩 LP:8000 → 8500

 早くも《魂吸収》の効果が発動し、パラコン先輩のライフが500ポイント増えた。
 けど、これだけでは終わらなかった。
「デッキ圧縮はこれくらいでいいだろ! ここで僕は魔法カード《強欲で貪欲な壺》を発動する!(手札:2→1)」
「なっ!? ゴードンな壺!?」
 あたしは顔を歪めた。これは……マズい!
「《強欲で貪欲な壺》の効果で僕はデッキから2枚ドローする! ただし、僕はその発動コストとして、デッキの上から10枚のカードを裏側表示で除外しなければならない!」
 そう言うと、パラコン先輩は自身のデッキの上から10枚を手に取り、裏側表示で除外した。
「デッキから10枚除外! 発動コストを払ったので僕は2枚ドローする!(手札:1→3)」
 パラコン先輩の手札が増えた。しかし、それだけじゃない。
「新たにカードが除外されたことで《魂吸収》の効果発動! 除外されたカード1枚につき500ライフ回復する! 今除外されたのは10枚だから、僕は5000ライフ回復する!」

 パラコン先輩 LP:8500 → 13500

 ライフが13500! まだ2ターン目なのにライフが1万越えするなんて!
「さてと次はどうするかな。この手札なら……うん、まずはバトルと行こう! 僕は《ゴキボール》で《魔界発現世行きデスガイド》を攻撃する! この攻撃、伏せカードで防げるなら防いでみろ!」
 《ゴキボール》がデスガイドに向かってゴロゴロ転がってきた! パラコン先輩には伏せカードを恐れる様子はない!
 あたしは伏せカードをちらりと見た。今はまだ発動できない!
「攻撃は通す!」
 攻撃は何事もなく通り、デスガイドは《ゴキボール》の体当たりで吹き飛ばされて消滅した。

 《ゴキボール》 攻:1200
 《魔界発現世行きデスガイド》 守:600 :破壊

「その伏せカードはブラフか? 僕は2体目の《ゴキボール》で《クリッター》を攻撃!」
「それも通す!」
 まだ伏せカードは使えない! ここは耐えるしかない!
 2体目の《ゴキボール》の体当たり攻撃で《クリッター》が吹き飛ばされ、消滅した。

 《ゴキボール》 攻:1200
 《クリッター》 守:600 :破壊

 でも、これで……!
「《クリッター》のモンスター効果! このカードがフィールドから墓地送りとなった時、デッキから攻撃力1500以下のモンスター1体を手札に加える! あたしは《幻銃士》を手札に!(手札:2→3)」
 《クリッター》の効果で新たなモンスターを呼び込む。けど、これであたしのフィールドに壁モンスターはいなくなってしまった。
「これで壁モンスターは消えた! 3体目の《ゴキボール》でダイレクトアタックだ!」
 最後の《ゴキボール》があたしに向かってゴロゴロ転がってくる!
 さすがにこれは通せない!
「なら、ここでトラップカード発動! 《ガード・ブロック》! 戦闘ダメージを0にして、デッキからカードを1枚ドローする!(手札:3→4)」
 見えないバリアによって《ゴキボール》の攻撃が妨害された。どうにかダイレクトアタックによるダメージは防いだ。
「ダイレクトアタックへの対処法は用意してたみたいだね。まあいいや。僕はメインフェイズ2に移行し、魔法カード《融合》を発動する!(手札:3→2)」
 安心したのも束の間、パラコン先輩が魔法カードを発動した! ここで《融合》!?
「フィールドには3体の《ゴキボール》……その状況で《融合》を発動したということは……まさか《マスター・オブ・ゴキボール》を!?」
「よく知ってるね。そうさ! 僕はここで切り札を呼ばせてもらう! 《ゴキボール》の3体融合だ!」
 くっ! こんなに早く《マスター・オブ・ゴキボール》を召喚するなんて! 早すぎる!
 でも、あたしにだって秘策がある! 《マスター・オブ・ゴキボール》は召喚させない!
「ちょっと待ったぁ! あたしは《融合》の発動に対し、手札からモンスター効果発動!」
「何っ!? このタイミングで手札からモンスター効果だと!?」
 あたしは手札からモンスター1体を墓地へ送った。
「あたしが発動するのは《浮幽(ふゆ)さくら》の効果! 相手フィールドのモンスターの数が自分よりも多い場合、手札のこのカードを墓地へ送って発動! あたしのエクストラデッキからカードを1枚選んで公開する! そして、相手のエクストラデッキを確認し、公開したカードと同名のカードがあれば、その相手の同名カードを全て除外する!(手札:4→3)」
「相手のエクストラデッキのカードを除外するモンスターだと!? ま……まさか!?」
「そのまさか、ですよ、パラコン先輩! あたしが選ぶのはこのカード――!」
 あたしは、自分のエクストラデッキからカードを1枚取り出し、それをパラコン先輩に公開した。その瞬間、パラコン先輩は目を見開いた。
「ま……《マスター・オブ・ゴキボール》のカードだと!? 君も《マスター・オブ・ゴキボール》を持っていたのか!」
「その通りです!」
 あたしが公開したのは、《マスター・オブ・ゴキボール》のカード! パラコン先輩の切り札であるモンスターが、あたしのエクストラデッキにも入っていたのだ!
「さあ、パラコン先輩のエクストラデッキを確認させてください! そして、もしその中に《マスター・オブ・ゴキボール》があった場合は、それら全てを除外してもらいます!」
「バカな!?」
 自分のエクストラデッキから選んだカードと同じカードが相手のエクストラデッキにあれば、その相手のカードを全て除外する。それが《浮幽さくら》の効果。この効果なら、パラコン先輩の《マスター・オブ・ゴキボール》を一気に無力化できる。そう考えたあたしは、デッキ調整の際、《浮幽さくら》をデッキに入れるとともに、《マスター・オブ・ゴキボール》を1枚だけエクストラデッキに入れておいたのだ。ちなみに、この《マスター・オブ・ゴキボール》は公園で拾った。
「エクストラデッキをお見せなさい! パラコン先輩!」
「ぬぬぬぬぅぅ! この屈辱は忘れんぞ!」
 パラコン先輩は苦痛に顔を歪めながら、自身のエクストラデッキを公開した。その中身は次の7枚だった。

<パラコン先輩のエクストラデッキ>
 《マスター・オブ・ゴキボール》
 《マスター・オブ・ゴキボール》
 《マスター・オブ・ゴキボール》
 《始祖竜ワイアーム》
 《始祖竜ワイアーム》
 《始祖竜ワイアーム》
 《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》

 見事に《マスター・オブ・ゴキボール》が3体揃っていた。
「じゃあ、《マスター・オブ・ゴキボール》3体を全部除外してください!」
「チキショオ! エクストラデッキのカードを除外するって、なんだそのチート効果!? こんなのアリかよ!? 反則だろ!?」
 パラコン先輩は文句を言いながら《マスター・オブ・ゴキボール》3体を除外した。よし! これで《マスター・オブ・ゴキボール》は封じた!
「スゲーぜチユ! パラコンの切り札をいきなり封じやがった!」
「パラコンの切り札を見越してデッキ構築したというわけね。上出来だわ」
 今のあたしのアクションを見て、表情を輝かせる桃花と、満足そうにうなずく鷹野師匠。
 それを見て気分が高揚してきたあたしは、パラコン先輩の方をビシッと指さした。
「パラコン先輩! あなたに《マスター・オブ・ゴキボール》は召喚させない!」
 きっぱりと言い放つ! フッ……決まった!
「くそくそくそ! この程度で勝ったと思うな! 僕は《融合》の効果を処理させてもらう! 《レスキューラビット》の効果で呼び出した2体の《ゴキボール》を墓地へ送り、融合召喚! 来い! 《始祖竜ワイアーム》!」
 逆順処理により《融合》の効果が解決。2体の《ゴキボール》が融合し、巨大なドラゴンが出現した。通常モンスター2体を融合素材として召喚される融合モンスター、《始祖竜ワイアーム》だ。……なんで丸っこいゴキブリ2匹が融合してドラゴンになるんだろう?
「さらに、《浮幽さくら》の効果で3体の《マスター・オブ・ゴキボール》が除外されたことで《魂吸収》の効果発動! ライフを1500回復だ!」

 パラコン先輩 LP:13500 → 15000

 ライフを回復させちゃったか。でも、パラコン先輩の切り札を封じることはできた。これでデュエルを有利に進められるはずだ。
「僕は……カードを2枚セット! これでターンエンドだ!(手札:2→0)」
 伏せカードを2枚出し、パラコン先輩はターンを終えた。


【あたし】 LP:8000 手札:3枚
 モンスター:
  魔法&罠:伏せ×3

【パラコン先輩】 LP:15000 手札:0枚
 モンスター:《始祖竜ワイアーム》攻2700、《ゴキボール》攻1200
  魔法&罠:《補給部隊》永続魔法、《魂吸収》永続魔法、伏せ×2





6章 この人強い!


 お互いに最初のターンを終え、3ターン目に突入だ。
「あたしのターン、ドロー!(手札:3→4)」
 ドローしたあたしは、パラコン先輩のフィールドにいるドラゴン、《始祖竜ワイアーム》を見た。あのモンスターは、通常モンスター以外との戦闘では破壊されず、他のモンスターの効果を受けない厄介なモンスターだ。けど、今のあたしの持ち札なら、あのモンスターを破ることは可能だ。ただ、それをやると、永続魔法《補給部隊》の効果でパラコン先輩にカードドローを許してしまう。
 それと、《魂吸収》の効果も厄介だ。あれがあると、カードを除外する度にパラコン先輩のライフが増えてしまう。そのことも考慮しないといけない。
 どうする? このまま一気に突き進むか。それとも、慎重にゆっくりと進むか。
 少し考えた後、あたしは結論を出した。
 ここは一気に動く! 《マスター・オブ・ゴキボール》を封じたことで、パラコン先輩の計算はいくらか狂ってるはず! 今この時が攻め込むチャンスだ!
 あたしは手札の1枚をディスクにセットした。すると、フィールド全体が暗く不気味な世界へと変貌した。
「フィールド魔法《失楽園》を発動! このカードがある限り、あたしのフィールドの三幻魔は相手の効果の対象にならず、相手の効果では破壊されない! さらに、あたしのフィールドに三幻魔がいる時、1ターンに1度、あたしはデッキからカードを2枚ドローできる!(手札:4→3)」
「三幻魔に耐性効果を与えた上、ドロー強化までするインチキフィールド魔法! そいつを出すということは……このターンに三幻魔を呼ぶつもりか!?」
「その通り! このターン、パラコン先輩に三幻魔を拝ませてあげます!」
 あたしはリバース・カードに手をかけた。
「あたしは伏せておいたトラップを発動! 永続トラップ《闇次元の解放》! このカードは、除外されている自分の闇属性モンスター1体をフィールドに呼び戻す! この効果であたしは《暗黒の召喚神》を特殊召喚!」
 トラップの効果で、前のターンに墓地から除外した《暗黒の召喚神》を呼び戻す。そして、すぐさまそのモンスターを墓地へと送る。
「《暗黒の召喚神》の効果発動! このカードをリリースすることで、デッキから《神炎皇ウリア》、《降雷皇ハモン》、《幻魔皇ラビエル》のいずれか1体を無条件で特殊召喚する! この効果であたしは《降雷皇ハモン》を特殊召喚!」
「……!? はああああああああっ!? なんじゃその効果は!?」
 《暗黒の召喚神》が姿を消し、代わりに出現したのは金色の悪魔。三幻魔の1つ、《降雷皇ハモン》だ!
 攻撃力4000を誇る《降雷皇ハモン》を目の当たりにしたパラコン先輩は、納得行かない様子だ。
「ちょっと待った! いや、何それ!? なんなんだよそれ!?」
「何それって……《降雷皇ハモン》ですよ。すごいでしょ? カッコいいでしょ?」
「違う! そうじゃない! 僕が言いたいのは《暗黒の召喚神》の効果のことだ! デッキから三幻魔1体を無条件で特殊召喚するだと!? どう考えてもおかしいだろ!」
「おかしいも何も、テキストにそう書いてあるわけで……ルール違反でもなんでもないんですけど」
「くっ! これがインフレって奴か! 今や三幻魔も無条件で飛び出てくる時代ってわけかよ!」
 パラコン先輩が戦慄したような表情を浮かべた。そんな彼を落ち着かせるようにあたしは言った。
「まあ、デメリットもあるんですけどね。《暗黒の召喚神》の効果で三幻魔を呼び出したターン、あたしのモンスターは攻撃を行えません。せっかく呼び出したハモンも、このターンは攻撃できないってわけですね」
「あ、一応デメリットはあるんだ。それならまあ納得――すると思うか? しないね! ここはしない! 納得できるわけないだろ!」
 パラコン先輩が文句を言ってくるが、面倒になったので、あたしはとっとと次のアクションに移ることにした。
「あたしはもう1枚の伏せカードオープン! 永続トラップ《安全地帯》! このカードはフィールドの表側攻撃表示モンスター1体を対象に発動! 対象モンスターはこのカードがある限り、相手の効果対象にならず、戦闘及び相手の効果では破壊されない! あたしはこのカードを、パラコン先輩の《始祖竜ワイアーム》に対して発動!」
「何!? 僕のモンスターに《安全地帯》を!? なんのつもりだ!?」
 《始祖竜ワイアーム》が《安全地帯》の効果を受ける。
 ここでさらに、リバース発動だ!
「最後の伏せカードオープン! 永続トラップ《捕食惑星(プレデター・プラネット)》! このカードにも効果があるけど、今は使わないので説明は省略!」
 これであたしのフィールドには、今発動した《捕食惑星》、パラコン先輩の《始祖竜ワイアーム》を対象に発動した《安全地帯》、先ほど《暗黒の召喚神》がリリースされたことで無意味に残っている《闇次元の解放》――3枚の永続トラップが揃ったことになる。
 準備は整った! さあ、2体目の三幻魔の降臨だ!
「あたしは《捕食惑星》、《安全地帯》、《闇次元の解放》を墓地へ送り、《神炎皇ウリア》を特殊召喚!(手札:3→2)」
「げぇっ!? 今度はウリアだと!?」
 3枚の永続トラップが墓地へ送られ、紅の龍が舞い降りる。2体目の三幻魔、《神炎皇ウリア》だ!
「《神炎皇ウリア》は、自分フィールドの表側表示のトラップ3枚を墓地へ送ることで特殊召喚でき、その攻撃力は自分の墓地の永続トラップ1枚につき1000ポイントアップする! あたしの墓地の永続トラップは3枚! よってウリアの攻撃力は3000!」

 《神炎皇ウリア》 攻:0 → 3000

 パラコン先輩は忌々しげに顔を歪めた。
「ハモンに続き、ウリアも呼び出してきたか! 1ターンで2体の幻魔を揃えるとは!」
「それだけじゃないですよ、パラコン先輩! ご自分のフィールドを見てみてください!」
「えっ!?」
 パラコン先輩は自分のフィールドに目を向け、ハッとした。何故なら、パラコン先輩のフィールドの《始祖竜ワイアーム》が、突然破壊されてしまったからだ。
「《始祖竜ワイアーム》が破壊された!? 何故!?」
「永続トラップ《安全地帯》の効果です! 《安全地帯》がフィールドを離れると、《安全地帯》の効果の対象となっていたモンスターが道連れとなって破壊されます! 今、ウリア召喚のために《安全地帯》を墓地へ送ったので、その対象となっていたワイアームが破壊されたんです!」
「くっ! それで僕のモンスターに対して《安全地帯》を使ったわけか! 道連れ効果で破壊するために!」
 そういうことだ。これで厄介な《始祖竜ワイアーム》は除去できた。でも……。
「《安全地帯》の効果で《始祖竜ワイアーム》は破壊された! よって僕のフィールドの永続魔法《補給部隊》の効果が発動! 僕はデッキからカードを1枚ドローする!(手札:0→1)」
 効果破壊がトリガーとなり、《補給部隊》によるドローが発動してしまった。けどまあ、厄介なモンスターを除去できたからいいだろう。
 さあ、次のアクションに移ろう。
「あたしは《神炎皇ウリア》の効果を発動! 1ターンに1度、相手フィールドにセットされた魔法・トラップカード1枚を選択して破壊する! この効果の発動に対し、相手は魔法・トラップカードを発動できない!」
 あたしはパラコン先輩のフィールドにセットされた2枚の魔法・トラップカードに目を向ける。どちらを破壊するか?
「あたしは……パラコン先輩から見て右側の伏せカードを破壊する!」
 《神炎皇ウリア》のが対象の伏せカード目掛けて攻撃し、破壊した。よし、これで先輩の伏せカードは1枚に――。
「ただではやられないよ、斉場さん! 君が今、ウリアの効果で破壊したのは、トラップカード《ヒーロー・メダル》! セットされたこのカードが相手のカード効果で破壊され墓地へ行った時、このカードをデッキに戻してシャッフルし、僕はデッキから1枚ドローする!(手札:1→2)」
 パラコン先輩の伏せカードを減らしたと思ったのも束の間、先輩は破壊されたカードをデッキに加え、新たにカードをドローした。
 うわっ、ハズレを引いちゃったか。まあ、仕方ない。次に行こう。
「あたしはこのターン、まだ通常召喚してないので、《幻銃士》を召喚! そして《幻銃士》の効果発動! このカードが召喚に成功した時、自分フィールドのモンスターの数まで《銃士トークン》を特殊召喚する! あたしのフィールドのモンスターの数は3体なので、《銃士トークン》を2体特殊召喚!(手札:2→1)」
 あたしのフィールドに、《幻銃士》と2体の《銃士トークン》――計3体の悪魔が揃う。これで最後の幻魔を呼ぶための準備はできた。
「あたしはここで、さっきリリースした《暗黒の召喚神》の効果発動! 墓地のこのカードを除外し、三幻魔1体をデッキから手札に加える!」
「げぇっ!? そういや、そんな効果あったっけ!?」
 顔を歪めるパラコン先輩を横目に、あたしは《暗黒の召喚神》の効果を処理した。
「あたしはこの効果で最後の幻魔、《幻魔皇ラビエル》を手札に呼び込む!(手札:1→2)」
「くそくそくそ! 《暗黒の召喚神》……三幻魔を無条件で特殊召喚できる上、墓地から除外すれば三幻魔を手札に呼び込めるだと!? やることが汚ねえぜ!」
 パラコン先輩が糾弾してくる。まあ、気持ちは分かるけどね。
「ああっ、くそ! 《暗黒の召喚神》が除外されたから、僕は《魂吸収》の効果で500ライフ回復させてもらうぞ!」

 パラコン先輩 LP:15000 → 15500

 パラコン先輩のライフがさらに増えてしまった。でも構わない。ここはガンガン突き進む!
「《幻魔皇ラビエル》はフィールドの悪魔族モンスター3体をリリースすることで特殊召喚できる! あたしは《幻銃士》と2体の《銃士トークン》をリリース! 出でよ、《幻魔皇ラビエル》!(手札:2→1)」
「さ……3体目の幻魔……!」
 3体の銃士が幻魔降臨のための糧となり、蒼き悪魔が地上に降り立つ。最後の幻魔、《幻魔皇ラビエル》の登場だ! その攻撃力はハモンと同じく4000!
 これであたしのフィールドには《神炎皇ウリア》、《降雷皇ハモン》、《幻魔皇ラビエル》が揃った! イヤッホウ! 三幻魔をフィールドに揃えてやったぜー! すごいぞー! カッコいいぞー! 最高だ最高だ最高だ!
「さらに、フィールド魔法《失楽園》の効果発動! 自分フィールドに三幻魔がいることにより、あたしはデッキから2枚ドロー!(手札:1→3)」
「クソッタレ! 三幻魔を並べた上、手札を2枚増やすとは、インチキ極まりないな!」
 インチキとは失礼な。ルール違反は何もしていない!
 さて、現在のフィールドの状況を確認しよう。こんな感じだ。


【あたし】 LP:8000 手札:3枚
 モンスター:《神炎皇ウリア》攻3000、《降雷皇ハモン》攻4000、《幻魔皇ラビエル》攻4000
  魔法&罠:
 フィールド:《失楽園》

【パラコン先輩】 LP:15500 手札:2枚
 モンスター:《ゴキボール》攻1200
  魔法&罠:《補給部隊》永続魔法、《魂吸収》永続魔法、伏せ×1


 あたしのフィールドには三幻魔が見事に揃っているのに対し、パラコン先輩のフィールドには弱小モンスターが1体! ライフこそ負けてるけど、フィールドの状況だけ見れば、あたしの方が圧倒的に有利だ!
「スゲー……。召喚条件の厳しい三幻魔を、3体とも全部並べるなんて……」
 フィールドに並んだ三幻魔を見て、桃花が驚きの表情を浮かべている。
「あれこれカードをぶん回し、超高速で三幻魔を並べるとは……。まるで鷹野さんと戦ってる気分だよ。この戦い方も、鷹野さんから学んだのかい?」
 パラコン先輩が訊ねてきた。あたしはうなずいた。
「あたしはこの半年間、鷹野師匠から色々なことを学び、多くのデュエル技術を習得しました! この戦い方もその1つです!」
「そうか。でも、せっかく出した三幻魔も、《暗黒の召喚神》のデメリット効果により、このターンは攻撃できないぞ!」
 パラコン先輩が指摘してくる。たしかにその通りだ。普通ならば、このターンは攻撃できない。
 でも、あたしの戦術はその制約さえも乗り越える!
「あたしはこの瞬間、速攻魔法《時の飛躍(ターン・ジャンプ)》を発動! このカードで、3ターン後のバトルフェイズにジャンプする!(手札:3→2)」
「ッ!? げぇぇっ! 《時の飛躍》〜〜!」
 魔法カード《時の飛躍》の効果により、時が進み、3ターン後のバトルフェイズにジャンプ! 3ターン進んだことで、《暗黒の召喚神》のデメリット効果も消え、あたしのモンスターは攻撃ができる!
 この小説が書かれた時点では、まだ《時の飛躍》はOCG化していないため、《時の飛躍》は原作効果のままなのだ! OCG化したら、どんな効果になるんだろうね。
「さて、ターンが進んだので、攻撃させてもらいますよ! まずは《降雷皇ハモン》で《ゴキボール》を攻撃!」
 ハモンが攻撃を仕掛ける! まずはこの攻撃で《ゴキボール》を倒し、パラコン先輩の壁モンスターを消し去る! その後で、ウリアとラビエルでダイレクトアタックだ!
「くそっ! そう簡単に通してたまるか! 僕は墓地からトラップ発動!」
「墓地からトラップだって!?」
 パラコン先輩は自らの墓地からトラップカードを1枚取り出した。
「僕はトラップカード《仁王立ち》を墓地から除外し、その効果を発動する!」
「それは……もしかして、あたしの《手札断殺》の効果で墓地へ送ったカード?」
「その通り。あの時、墓地へ送ったカードだよ。《仁王立ち》の効果により、自分フィールドのモンスター1体を選択することで、このターン、相手はそのモンスターしか攻撃できなくなる! 僕は《ゴキボール》を選択!」
 《仁王立ち》の効果により、このターンのあたしの攻撃は全て《ゴキボール》へと向かってしまう。
「さらに! 墓地の《仁王立ち》が除外されたことで、永続魔法《魂吸収》の効果発動! ライフを500回復する!」

 パラコン先輩 LP:15500 → 16000

 くっ! また先輩のライフが増えた! 16000って、初期ライフのちょうど2倍じゃん! 面倒なことを!
「ハモンよ、《ゴキボール》を撃破しろ!」
 《仁王立ち》を使われたものの、ハモンの攻撃は止まらない。問題なく攻撃が決まり、《ゴキボール》は破壊された。

 《降雷皇ハモン》 攻:4000
 《ゴキボール》 攻:1200 :破壊

 パラコン先輩 LP:16000 → 13200

 《ゴキボール》を戦闘破壊したことで、ようやくパラコン先輩にダメージを与えることができた。
「さらに、《降雷皇ハモン》の効果発動! このカードが相手モンスターをバトルで破壊した時、相手に1000ポイントのダメージを与える!」
「なら僕も、永続魔法《補給部隊》の効果を発動! 1ターンに1度、自軍のモンスターが破壊された時に、僕はデッキからカードを1枚ドローする! 《時の飛躍》で3ターン進んだことで、このカードの効果は復活してる! そうだよね!?」
「チッ、気づいていたか……」
「そのくらい気づくよ」
 とりあえず、《降雷皇ハモン》と《補給部隊》の効果が適用され、パラコン先輩はカードを1枚ドローした上で1000ダメージを受けた。

 パラコン先輩 手札:2 → 3
 パラコン先輩 LP:13200 → 12200

 さて、これでパラコン先輩の壁モンスターはいなくなった。このままダイレクトアタック……と行きたいところだけど、《仁王立ち》の効果により、このターンあたしは《ゴキボール》にしか攻撃できない。その《ゴキボール》が破壊された今、あたしが攻撃できる相手はいない。よって、もうこのターンは攻撃できない。
 せっかく三幻魔をフィールドに並べたのに、どうにも上手く攻め込めなかったな。でも、次のターンこそは!
「あたしはバトルフェイズを終了し、メインフェイズ2に入る!」
「ちょっと待った! バトルフェイズ終了前に、僕は伏せカードを発動する! トラップカード《凡人の施し》!」
 ここでパラコン先輩の伏せカードが開く。このタイミングでトラップを……!
「《凡人の施し》の効果により、僕はデッキからカードを2枚ドローし、その後手札から通常モンスター1体を除外する! この時、手札に通常モンスターがない場合は手札を全て墓地へ送る!」
「ま……またドローを!」
「今このタイミングで《凡人の施し》を使わないと、《神炎皇ウリア》の効果で破壊されちゃうからね。今のうちに使わせてもらうよ。僕はデッキから2枚ドロー! そして、手札から通常モンスター《鉄鋼装甲虫(メタルアーマードバグ)》を除外する!(手札:3→5→4)」
 パラコン先輩の手札がさらに増強される。その上、《鉄鋼装甲虫》の除外により、《魂吸収》の効果も発動。先輩のライフが500増える。

 パラコン先輩 LP:12200 → 12700

 あぁ〜、またライフが増えちゃったよ。一応、ターン開始時より減ってはいるけど、まだまだ1万越え状態だ。どんどん削っていかないと。
「あたしは《失楽園》の効果発動! 《時の飛躍》で3ターン進んだことで、このカードの効果も復活してる!」
「チッ、気づいていたか……」
「気づきますよ、そりゃ。《時の飛躍》はこれまでに何度も使ってますから」
「《時の飛躍》を使ったタクティクスも、鷹野さん仕込みかい?」
「はい! これも師匠から受け継いだ技ですよ! 《失楽園》の効果! 三幻魔がフィールドにいるので、デッキからカードを2枚ドロー!(手札:2→4)」
 《失楽園》の効果を使い、手札を増強する。うーん、いまいち手札が良くない……。もう少し手札を調整しないと。
「あたしは《エア・サーキュレーター》を守備表示で召喚!(手札:4→3)」
「《時の飛躍》によるターンスキップで、通常召喚権も復活したか」
「その通りです。《エア・サーキュレーター》の効果発動! このカードの召喚成功時、あたしは手札2枚をデッキに戻し、その後新たにカードを2枚ドローする!(手札:3→1→3)」
 今必要なさそうなカード2枚をデッキに戻し、新たに2枚ドロー。……う〜む、微妙な手札だ。
「あたしはカードを1枚伏せ、ターンエンド!(手札:3→2)」
 とりあえず、トラップカードをフィールドに置き、あたしはターンを終えた。


【あたし】 LP:8000 手札:2枚
 モンスター:《神炎皇ウリア》攻3000、《降雷皇ハモン》攻4000、《幻魔皇ラビエル》攻4000、《エア・サーキュレーター》守600
  魔法&罠:伏せ×1
 フィールド:《失楽園》

【パラコン先輩】 LP:12700 手札:4枚
 モンスター:
  魔法&罠:《補給部隊》永続魔法、《魂吸収》永続魔法


 パラコン先輩のターンに回る。
 今の先輩は、切り札である《マスター・オブ・ゴキボール》を封じられた上、高攻撃力の三幻魔を相手にしているという状態だ。しかも、三幻魔は《失楽園》の効果により、効果の対象にならず、効果では破壊されない。そう簡単には攻略できないはず。このデュエル、あたしの方が圧倒的に有利だ。
「僕のターン、ドロー! ……おっ、これは!(手札:4→5)」
 ドローカードを確認したパラコン先輩が目の色を変えた。
 なんだ? 何を引いたんだ?
「斉場さん。どうやら、三幻魔にはこのターンで退場してもらうことになりそうだよ」
「退場って……! 一体、どうやって!?」
「すぐに分かるよ」
 ニヤリとすると、パラコン先輩は自身の墓地からカードを1枚取り出した。
「僕はまず、墓地から魔法カードを発動する!」
「墓地から魔法だって!?」
「僕が発動するのは、魔法カード《ギャラクシー・サイクロン》! 墓地のこのカードを除外することで、フィールドの表側表示の魔法・トラップカード1枚を選択して破壊する!」
 くっ! トラップに続き、今度は魔法カードを墓地から使うとは!
「それも《手札断殺》の効果で墓地へ送っておいたカードですか?」
「ご名答。《仁王立ち》のカードと一緒に墓地へ送っておいたんだ。《ギャラクシー・サイクロン》の効果により、君のフィールドの《失楽園》を破壊!」
 巨大な竜巻が起こり、あたしのフィールド魔法が消え去った。それにより、暗くて不気味だった戦場が、元の道場の姿に戻った。
「《失楽園》が消えたことで、三幻魔のカード耐性も消えた! よって、カード効果での破壊も可能となった! 僕はここで魔法カード《ブラック・ホール》を発動! このカードでフィールドの全モンスターを破壊する! 三幻魔よ、消え去れ!(手札:5→4)」
「バカな! モンスター及びプレイヤーへの直接攻撃系魔法は禁止されているはず!」
「そりゃ、スーパーエキスパートルールの話だ」
 《ブラック・ホール》の発動により、天空に闇が発生! その闇は、あたしのフィールドの三幻魔と、ついでに《エア・サーキュレーター》を飲み込んでしまった! キ……キ……キィィィィ! あたしの三幻魔がぜん……めつめつめつ……!
 まさか、こんな簡単に三幻魔が破られるなんて! なんなのこれ!? 最悪だ最悪だ最悪だ!
「うひゃひゃひゃひゃ! 三幻魔こっぱみじんー! さらにさらにぃ! 《ギャラクシー・サイクロン》を除外したことで、《魂吸収》の効果発動! ライフを500回復する!」

 パラコン先輩 LP:12700 → 13200

 モンスターが全滅した上、またもライフを回復されてしまった!
 く……くそっ! ついさっきまで、あたしの方が有利だと思ってたのに、あっさりとひっくり返された! まずい……! これは……まずい!
 
 ――パラコンは強いわよ。少なくとも、その辺の凡庸なデュエリストでは彼には勝てないでしょうね。

 鷹野師匠が言ったことが頭の中をよぎった。背中がヒヤリとした。
 師匠の言う通りだ。パラコン先輩は、強い。そのことを今、たしかに実感した。
 このデュエル、気を抜いたら負ける!
「あ……あたしは、《エア・サーキュレーター》の効果を発動! このカードが破壊された時、あたしはデッキからカードを1枚ドローする!(手札:2→3)」
 とりあえず、手札を増やす。
 油断しちゃダメだ。デュエルに勝利するまで、絶対に気を抜いちゃいけない。相手はパラコン先輩――鷹野師匠と何度も戦ったデュエリストなのだ。
「僕は《共鳴虫(ハウリング・インセクト)》を召喚! すかさずバトル! 《共鳴虫》で斉場さんにダイレクトアタックだ!(手札:4→3)」
 パラコン先輩がモンスターを召喚し、壁モンスターを失ったあたしにダイレクトアタックをしてきた! この攻撃を防ぐ手段はない! ここは甘んじて受けるしかない!

 《共鳴虫》 攻:1200
 あたし LP:8000 → 6800

「よし! 僕はリバース・カードを2枚セット! これでターンエンドだ!(手札:3→1)」
 ダイレクトアタックを決めたパラコン先輩は、新たに伏せカードを2枚出し、エンド宣言した。


【あたし】 LP:6800 手札:3枚
 モンスター:
  魔法&罠:伏せ×1

【パラコン先輩】 LP:13200 手札:1枚
 モンスター:《共鳴虫》攻1200
  魔法&罠:《補給部隊》永続魔法、《魂吸収》永続魔法、伏せ×2





7章 上手いこと進まない!


「頑張れ……! 頑張れ、チユ……!」
 桃花の応援を受けながら、あたしはデッキからカードを引き抜いた。
「あたしのターン、ドロー!(手札:3→4)」
 ドローカードを確認した後、視線をパラコン先輩のフィールドに向ける。
 今、パラコン先輩のフィールドにいる《共鳴虫》は、攻撃力は低いけど、破壊されるとデッキから攻撃力1500以下の昆虫族モンスターを呼び出す効果を持つ。たとえあのモンスターを戦闘破壊しても、新たなモンスターを呼ばれるだけ。しかも、モンスターが破壊されれば永続魔法《補給部隊》の効果が発動し、パラコン先輩はカードを1枚ドローすることになる。
 どうにかして、破壊以外の方法で《共鳴虫》を消し去ることができないものか――考えを巡らせながら、あたしはこのターンに引き当てたカードを発動した。
「魔法カード《闇の誘惑》を発動! デッキからカードを2枚ドローし、その後手札から闇属性モンスター1体を除外する! この時、手札に闇属性モンスターがない場合、手札を全て墓地へ送る! あたしはデッキから2枚ドロー!(手札:4→3→5)」
 まずは《闇の誘惑》の効果でデッキから2枚ドロー。その2枚を手札に加え、このターンの戦略を組み立てる。
 よし……この手札なら、なんとか行けそうだ!
「《闇の誘惑》の効果に従い、あたしは手札から闇属性の《ファントム・オブ・カオス》を除外する!(手札:5→4)」
「新たにカードが除外されたことで、《魂吸収》の効果発動! 僕は500ライフ回復!」

 パラコン先輩 LP:13200 → 13700

 また回復されちゃったけど、まあいい。これからどんどん削っていってやる!
「あたしは《捕食植物(プレデター・プランツ)オフリス・スコーピオ》を召喚!(手札:4→3)」
 あたしのフィールドに、食虫植物みたいな姿をしたモンスターが出現した。
「《捕食植物オフリス・スコーピオ》のモンスター効果! このカードの召喚成功時、手札からモンスター1体を墓地へ送ることで、デッキから別の『捕食植物』モンスター1体を特殊召喚できる! あたしは手札の《覇王眷竜ダークヴルム》を墓地へ送り、その効果を発動!(手札:3→2)」
「何!? デッキから仲間を呼び出す効果か!」
 これであたしのフィールドにはモンスターが2体となる。次はその2体を――などと考えていると、パラコン先輩が動きを見せた。
「なら、《捕食植物オフリス・スコーピオ》の効果に対し、僕は手札の《増殖するG》を墓地へ送り、効果発動! このターン、相手がモンスターの特殊召喚に成功する度に、僕はデッキからカードを1枚ドローする!(手札:1→0)」
「なっ!? 増G!?」
 ああっ、くそ! また面倒なカードを! これでこのターン、あたしがモンスターを特殊召喚すればするほど、パラコン先輩は手札を増やしてしまう! そのことも考えて動かないといけない!
「《捕食植物オフリス・スコーピオ》の効果を処理! デッキから《捕食植物ダーリング・コブラ》を特殊召喚!」
「モンスターが特殊召喚されたので、僕はデッキから1枚ドロー!(手札:0→1)」
 これでパラコン先輩の手札は1枚に戻った。さて、問題はここからだ。《増殖するG》の効果が適用された今、あたしはどう動くべきか。
 とにかく、まずは《捕食植物ダーリング・コブラ》の効果を発動しよう。
「《捕食植物ダーリング・コブラ》のモンスター効果! デュエル中に1度、このカードが『捕食植物』モンスターの効果で特殊召喚に成功した場合、デッキから『融合』魔法カードまたは『フュージョン』魔法カード1枚を手札に加えることができる! あたしはこの効果で……魔法カード《融合》を手札に加える!(手札:2→3)」
 少し考えてから、あたしは《融合》のカードを手札に加えた。
「《融合》を持ってきたか。ということは、狙いは融合召喚かい?」
 あたしはすぐに動かず、思考を働かせた。どう動くのがベストか。今、融合召喚を行うことはできるけど、そうするとパラコン先輩は《増殖するG》の効果で1枚ドローすることになる。これ以上ドローさせないためにも、このターンは融合召喚せずに流したほうがいいか?
 でも、このまま何もせずにターンを流すのは、それはそれで危険な気がする。ある程度はドローされること覚悟で動いた方がいいかもしれない。
 よし! ここは臆さず攻める!
「あたしはここで融合召喚を行う!」
「さっそく手札に加えた《融合》を使うのか!」
 いや、《融合》は温存しておく! あたしが使うのは――このカード!
「あたしは墓地からトラップカード《捕食惑星》を除外し、その効果を発動!」
「何!? 墓地からトラップだと!?」
 《神炎皇ウリア》を召喚するために墓地へ送られたトラップが除外され、効果が発動する。
「《捕食惑星》の効果により、自分の手札・フィールドの『捕食植物』モンスターを融合素材として墓地へ送り、融合モンスターを融合召喚する! あたしは、フィールドの《捕食植物オフリス・スコーピオ》と《捕食植物ダーリング・コブラ》を墓地へ送り、融合召喚! 出でよ、《捕食植物キメラフレシア》!」
 2体の捕食植物が1つとなり、禍々しい姿の巨大植物へと変貌した。このカードで攻め込む!
「くっ! 墓地発動からの融合召喚か! だが忘れるな! 新たにモンスターが特殊召喚されたことにより、《増殖するG》の効果で僕はカードを1枚ドローする! さらに、墓地から《捕食惑星》が除外されたことにより、《魂吸収》の効果で僕はライフを500回復する!(手札:1→2)」

 パラコン先輩 LP:13700 → 14200

 またも先輩のライフと手札が増える。もうこれは仕方ない。
「《捕食植物キメラフレシア》の効果発動! 1ターンに1度、自身のレベル以下のレベルを持つフィールドのモンスター1体を選択して除外する! 《捕食植物キメラフレシア》のレベルは7だから、レベル7以下のモンスターなら除外できる! あたしはレベル3の《共鳴虫》を選択! そのモンスターを除外させてもらう!」
「なっ! 除外だと!?」
「そう! 効果による除外なら、《共鳴虫》のモンスター効果は発動しない! そして、破壊ではなく除外だから、《補給部隊》のドロー効果も発動しない!」
 このカードの力で《共鳴虫》を消し去れば、パラコン先輩のフィールドはがら空き! ダイレクトアタックでダメージを与えられる!
 ところが、そう上手くは行かなかった。
「甘ーいっ! 僕はトラップカード《デストラクト・ポーション》を発動! 自軍モンスター1体を破壊し、その攻撃力分だけライフを回復する! 僕はこの効果で《共鳴虫》を破壊! その攻撃力1200を自らのライフに加算!」
「んなっ!?」

 《共鳴虫》:破壊

 パラコン先輩 LP:14200 → 15400

 《デストラクト・ポーション》の効果で《共鳴虫》が破壊され、《捕食植物キメラフレシア》の効果は対象を見失い、不発になってしまった! その上、ライフをまた回復された!
「そして、《共鳴虫》が効果破壊されたことにより、《補給部隊》の効果が発動! 僕はデッキから1枚ドロー!(手札:2→3)」
 しかも、《補給部隊》でドローまでされた! うわあ! 全然上手いこと進まねぇぇぇ! ライフは回復されるわ、ドローはされるわ、効果は空振りするわ、最悪だよこれ! 最悪だ最悪だ最悪だ! なんなんだよもう!
 パラコン先輩……この人、めちゃくちゃ強いじゃん! 鷹野師匠はこんな人を相手に連戦連勝してたの!? もうまるで意味が分からないよ!
「だぁぁっ! もうこうなったらダイレクトアタックだ! バトル! 壁モンスターを失ったパラコン先輩を殴り飛ばせ! キメラフレシア!」
「はっはっは! 無駄無駄ァ! トラップカード《炸裂装甲(リアクティブアーマー)》! 攻撃してきた敵モンスター1体を破壊するゥ! キメラフレシアは破壊だァ!」
「うわあああああああっ!」

 《捕食植物キメラフレシア》:破壊

 うぐぉぉぉぉぉ……っ! ダイレクトアタックも失敗……おまけにモンスターを失うとは……! もうダメダメだ! 何もかも上手く行かねえ! もうこれダメなんじゃね? あたし勝てないんじゃね? 敗北ロードまっしぐらって感じじゃね?
 い……いや、何を弱気になってるんだ、あたし! 気をしっかり保て! たしかにパラコン先輩は強いけど、でも弱気になっちゃダメだ! まだデュエルは終わってない! ライフだって手札だってある! まだチャンスはあるはずだ!
 あたしは呼吸を整えると、状況をよく確認した。今、あたしのフィールドにもパラコン先輩のフィールドにもモンスターはいない。フィールドの状況だけ見れば、さほど有利不利の差はないと思う。
 大丈夫、まだなんとかなる。落ち着いて、少しずつでもパラコン先輩のライフを削っていこう。
 気持ちを落ち着けたあたしは、自分の墓地に目を向けた。このターン、《捕食植物オフリス・スコーピオ》の効果発動のために墓地へ送られた《覇王眷竜ダークヴルム》は、自分フィールドにモンスターがいない時、墓地から特殊召喚できる効果を持っている。今ならその効果を使えるけど、どうするか?
 ……いや、このターンは使わないでおこう。このターンは《増殖するG》の効果が適用されている。ここで《覇王眷竜ダークヴルム》の自己再生効果を使えば、パラコン先輩にさらなるドローをさせてしまう。すでにこのターン、パラコン先輩は《増殖するG》と《補給部隊》の効果で合計3枚もドローしている。これ以上はドローさせない方がいい。
「あたしはカードを1枚伏せ、ターンエンド!(手札:3→2)」
 このターンはもうやることがないと結論づけたあたしは、伏せカードを出してターンエンドした。


【あたし】 LP:6800 手札:2枚
 モンスター:
  魔法&罠:伏せ×2

【パラコン先輩】 LP:15400 手札:3枚
 モンスター:
  魔法&罠:《補給部隊》永続魔法、《魂吸収》永続魔法


「だ……大丈夫だ、チユ! 希望を捨てるな! まだまだこれからだ!」
 桃花が励ましてくる。あたしは桃花を見てうなずいた。
 そうだ、まだこれからだ。希望はまだあるはずだ。
「僕のターン、ドロー!(手札:3→4)」
 パラコン先輩のターンが始まる。それを確認してからあたしは言った。
「このターンのスタンバイフェイズ、さっき破壊された《捕食植物キメラフレシア》の効果が発動する!」
「このタイミングで効果発動だと?」
「《捕食植物キメラフレシア》が墓地へ送られた場合、次のスタンバイフェイズにデッキから『フュージョン』または『融合』と名のついた魔法カード1枚を手札に加えることができる!」
 あたしはデッキを確認し、どのカードを手札に加えるか考えた。今この状況で、あたしはどのカードを手札に加えるべきか。
「……そうだな……よし、《融合回収(フュージョン・リカバリー)》を手札に加える!(手札:2→3)」
 考えた末に、《融合回収》のカードを手札に呼び込む。これであたしの手札は3枚になった。その内の2枚は《融合》と《融合回収》だ。
 さて、パラコン先輩はこのターンどう動くか。切り札である《マスター・オブ・ゴキボール》を封じられた今、パラコン先輩も思ったようには攻められないはずだけど……。
「フッフッフ……!」
 と、ここでパラコン先輩が不気味な笑みを浮かべた。な……何?
「斉場さん。君は序盤に、僕の《マスター・オブ・ゴキボール》を全て除外した。そのことで、僕の切り札は封じられたと考えている。違うかい?」
「……だったら、どうなんですか?」
 あたしが訊ねると、パラコン先輩は口の端を吊り上げた。
「切り札を封じたと考えてるなら、それは大きな間違いだ! 僕のデッキの切り札は、《マスター・オブ・ゴキボール》だけじゃないんだよ!」
「なっ!?」
 背筋がゾッとした。
「《マスター・オブ・ゴキボール》の他にも切り札があるって言うんですか!?」
「そうさ! それを今見せてやる!」
 パラコン先輩は手札から1枚を選び取り、デュエル・ディスクにセットした。
「僕は墓地の《ゴキボール》3体を除外し、このモンスターを特殊召喚する! 出でよ、《メガ・ゴキボール・ドラゴン》!(手札:4→3)」
「め……《メガ・ゴキボール・ドラゴン》!?」
 パラコン先輩の墓地から3体の《ゴキボール》が取り除かれると、大量の《ゴキボール》を数珠つなぎにしたような姿のドラゴンが現れた! な……なんだこいつは!?
「うひゃひゃひゃひゃ! これこそ、僕のデッキの隠された切り札、《メガ・ゴキボール・ドラゴン》! このカードは、自分の墓地の『ゴキボール』と名のついたモンスターを任意の数だけ除外して特殊召喚されるモンスターだ! その攻撃力・守備力は、このカードを特殊召喚するために除外したモンスターの数×1200ポイントとなる! 僕が除外したのは3体だから、《メガ・ゴキボール・ドラゴン》の攻撃力・守備力は3600ポイントだ!」


 メガ・ゴキボール・ドラゴン
 特殊召喚・効果モンスター
 星7/地属性/昆虫族/攻 ?/守 ?
 このカードは通常召喚できない。自分の墓地の「ゴキボール」モンスターを任意の数だけ除外した場合のみ特殊召喚できる。
 (1):このカードの元々の攻撃力・守備力は、このカードを特殊召喚するために除外したモンスターの数×1200になる。
 (2):???
 (3):???


 《メガ・ゴキボール・ドラゴン》 攻/守:? → 3600

 くっ! ここに来て攻撃力3600のモンスターを呼び出すなんて! 攻撃力5000の《マスター・オブ・ゴキボール》には及ばないものの、それでも充分に強力なモンスターだ! こんな切り札を隠していたとは!
「さ・ら・に! 《メガ・ゴキボール・ドラゴン》の召喚のために3体の《ゴキボール》を除外したことで《魂吸収》の効果発動! ライフを1500回復する!」
 げぇぇっ! そうだった! くそーっ! またライフを回復される〜!

 パラコン先輩 LP:15400 → 16900

「これだけじゃ終わらないぜ! 僕は《メガ・ゴキボール・ドラゴン》に装備魔法《一角(ジー)のホーン》を装備する!(手札:3→2)」
「一角……じー……のホーン……?」
 パラコン先輩が妙な名前の魔法カードを《メガ・ゴキボール・ドラゴン》に装備した。すると、《メガ・ゴキボール・ドラゴン》の額と思われる部分に巨大な角が1本生えた。
「《一角Gのホーン》は『ゴキボール』と名のついたモンスターにのみ装備できるカード! このカードの効力により、1ターンに1度、装備モンスターが戦闘を行う攻撃宣言時、相手フィールドのカード1枚を選択して破壊できる!」
「くっ! 《メガ・ゴキボール・ドラゴン》がバトルする度に、あたしのフィールドのカードは1枚除去されるってわけか!」
「それだけじゃない! 《一角Gのホーン》を装備したモンスターがいる限り、僕のフィールドのカードは、装備モンスターよりも元々の攻撃力が低い相手モンスターの効果を受けない! 《メガ・ゴキボール・ドラゴン》の攻撃力は3600! よって、僕のフィールドのカードは全て、元の攻撃力が3600より低い相手モンスターの効果を一切受け付けない!」
「除去能力に加えて、モンスター効果に対する耐性を!」
 元の攻撃力が3600未満のモンスターの効果は、パラコン先輩のフィールドのカードには一切効かなくなってしまった。これは厄介だ!


 一角Gのホーン
 (装備魔法)
 「ゴキボール」モンスターにのみ装備可能。
 (1):1ターンに1度、装備モンスターが戦闘を行う攻撃宣言時、相手フィールドのカード1枚を対象として発動できる。そのカードを破壊する。
 (2):装備モンスターが自分モンスターゾーンに存在する限り、自分フィールドのカードは装備モンスターよりも元々の攻撃力が低い相手モンスターの効果を受けない。


「まだまだ行くぞ! 僕は《メガ・ゴキボール・ドラゴン》を対象に魔法カード《一騎加勢》を発動! 対象モンスターの攻撃力をこのターンの間だけ1500ポイントアップする!(手札:2→1)」

 《メガ・ゴキボール・ドラゴン》 攻:3600 → 5100

「こ……攻撃力5100!?」
「さあ、バトルだ! 《メガ・ゴキボール・ドラゴン》でダイレクトアタック! この攻撃宣言時、装備魔法《一角Gのホーン》の効果発動! 相手フィールドのカード1枚を選択して破壊する! 僕が破壊するのは……君から見て左側の伏せカードだ!」
 パラコン先輩の攻撃宣言に反応し、《一角Gのホーン》の効果が発動、あたしのフィールドの伏せカード目掛けて雷が降ってきた。
 このまま通せば、あたしの伏せカードは破壊される! どうせ破壊されるなら、その前に発動させてもらおう!
「あたしは《一角Gのホーン》の破壊効果に対し、対象となった伏せカードを発動する! 永続トラップ、《リビングデッドの呼び声》! この効果で自分の墓地のモンスター1体を攻撃表示で特殊召喚する! あたしは……《捕食植物キメラフレシア》を特殊召喚!」
「モンスター復活のトラップか!」
 《リビングデッドの呼び声》の効果により、《捕食植物キメラフレシア》が蘇る。しかし――。
「《リビングデッドの呼び声》は《一角Gのホーン》の効果により破壊される! そして、《リビングデッドの呼び声》がフィールドを離れたことにより、《捕食植物キメラフレシア》も道連れとなって破壊される!」

 《リビングデッドの呼び声》:破壊
 《捕食植物キメラフレシア》:破壊

 《リビングデッドの呼び声》の破壊により、せっかく復活させたキメラフレシアは墓地に逆戻りとなってしまった。けど、これでいい。キメラフレシアを墓地へ送ったことで、次のあたしのスタンバイフェイズにキメラフレシアの効果を発動できる。無駄にはならない。
「攻撃続行! 《メガ・ゴキボール・ドラゴン》でダイレクトアタックだ!」
 《メガ・ゴキボール・ドラゴン》が、口と思われる部分からビームを撃ち放つ! このまま攻撃されれば5100ポイントもの大ダメージだ! だったらその前にこのカードを発動する!
「リバース・カード、オープン! トラップカード《体力増強剤スーパーZ》! 2000以上のバトルダメージを受ける際、ダメージ計算前に自分のライフを4000回復する!」

 あたし LP:6800 → 10800

 《体力増強剤スーパーZ》の効果でライフが回復。その後で《メガ・ゴキボール・ドラゴン》の攻撃が決まり、あたしは5100ダメージを受けた。

 《メガ・ゴキボール・ドラゴン》 攻:5100

 あたし LP:10800 → 5700

「ふん! ライフを回復してダメージを最小限に抑えたか! 僕はこれでターンエンドだ! この時、《一騎加勢》の効果が終了し、《メガ・ゴキボール・ドラゴン》の攻撃力は3600に戻る!」

 《メガ・ゴキボール・ドラゴン》 攻:5100 → 3600


【あたし】 LP:5700 手札:3枚
 モンスター:
  魔法&罠:

【パラコン先輩】 LP:16900 手札:1枚
 モンスター:《メガ・ゴキボール・ドラゴン》攻3600・《一角Gのホーン》装備
  魔法&罠:《補給部隊》永続魔法、《魂吸収》永続魔法、《一角Gのホーン》装備魔法


「あたしの……ターン……!」
 切り札を封じたと思いきや、パラコン先輩は更なる切り札《メガ・ゴキボール・ドラゴン》を隠し持っていた。攻撃力は3600。そう簡単には倒せない。しかも、装備魔法《一角Gのホーン》の効果で、《メガ・ゴキボール・ドラゴン》は1ターンに1度、バトルする際にあたしのフィールドのカードを破壊する。その上、《一角Gのホーン》の第2の効果により、パラコン先輩のフィールドのカードは攻撃力3600未満のモンスターの効果を受け付けない。かなり厄介な布陣だ。
 ああっ、くそっ! 三幻魔をあっさり全滅させられるわ、ライフを大量に回復されるわ、ドロー強化はされるわ、攻撃はろくに通らないわ、挙句の果てに隠された切り札を出されるわ……デュエルの流れが完全にパラコン先輩に傾いちゃってるじゃん! 最悪だ最悪だ最悪だ!
 もうそろそろどうにかしないと、ホントにヤバい! このまま押し切られちゃう!
「ああ〜っ、チユ! 大丈夫だチユならやれる! 燃えろ! 熱血だ! 熱く燃え滾って行け〜! チユなら勝てる! チユなら勝てる! ファイトだチユ! 愛してるぞチユ!」
 桃花が明らかに焦ったような口調で叫ぶ。なんか桃花、あたしより焦ってるような……?
 けど、そんな桃花の姿を見ていたら、なんだか気持ちが落ち着いてきた。そうだ、とにかく、心を落ち着けよう。心が乱れてると、勝てる勝負も勝てなくなる。大丈夫、まだなんとかなる。大丈夫、大丈夫……。あたしなら大丈夫、あたしならやれる……。
 自分に暗示をかけながら、あたしはデッキのカードに指を当てた。
「ドロー!(手札:3→4)」

 ドローカード:《V・HERO(ヴィジョンヒーロー) ヴァイオン》

 ……このカードは!?
 ドローカードを見た瞬間、あたしの頭の中に何枚ものカードが浮かび上がった。そして、それらのカードが線でつながっていく。
 そうだ。この状況を覆す手はある! 鷹野師匠から教わった、あの戦術を使えば――!
 あたしはパラコン先輩のフィールドを見た。そこには、攻撃力3600の《メガ・ゴキボール・ドラゴン》がいる。それを指さし、あたしは言った。
「パラコン先輩! このターン、そのドラゴンを倒し、先輩に大ダメージを与えてみせます!」
「何っ!? そんなことができるって言うのか!?」
「はい! 今からそれを証明してみせます!」
 さあ、反撃開始だ! このターンで、デュエルの流れを変えてやる!





8章 ※新マスタールールでは再現できません


 このターンにやることを決めたあたしは、すぐに動き始めた。
「まずはスタンバイフェイズに、前のターンに墓地へ送られた《捕食植物キメラフレシア》の効果を発動! このカードが墓地へ送られた場合、次のスタンバイフェイズにデッキから『フュージョン』または『融合』と名のついた魔法カード1枚を手札に加えることができる!」
「ちっ! その効果を使うために、前のターン、破壊されることを承知の上でキメラフレシアを蘇生させたのか!」
「その通り! あたしはこの効果で、装備魔法《再融合》を手札に加える!(手札:4→5)」
 迷うことなくデッキからカードを選び取り、手札に加える。そしてすぐさま墓地のカードを1枚抜き取った。
「墓地の《覇王眷竜ダークヴルム》の効果発動! 自分フィールドにモンスターがいない時、墓地のこのカードを特殊召喚できる!」
「自己再生効果か!」
 がら空きだったあたしのフィールドにダークヴルムが復活する。同時に、ダークヴルムの体が光り輝く。
「《覇王眷竜ダークヴルム》の更なる効果! このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合、デッキから『覇王門』と名のつくペンデュラムモンスター1体を手札に加える! あたしはこの効果で、《覇王門(ゼロ)》を手札に加える!(手札:5→6)」
「……は!? 自己再生効果だけじゃなく、ペンデュラムモンスターを手札に持ってくる効果まで持ってんのソイツ!? なんだそのチートカードは!?」
 パラコン先輩がクレームをつけてきた。まあ、気持ちは分からなくもない。
「……とりあえず、続けますよ。あたしはスケール0の《覇王門零》とスケール13の《覇王門無限(インフィニティ)》でペンデュラムスケールをセッティング!(手札:6→4)」
「スケール0から13だと!? ペンデュラムスケール広いなオイ!」
 あたしのフィールドの両脇に光の柱が1本ずつ出現し、それぞれの柱に、セッティングした覇王門が浮かび上がった。
「これでレベル1から12のモンスターが同時に召喚可能……と言いたいところですが、《覇王門無限》のデメリット効果により、自分フィールドにモンスターがいる場合はペンデュラム召喚できません。あたしのフィールドにはすでに《覇王眷竜ダークヴルム》がいるから、ペンデュラム召喚はできない。なので、普通に通常召喚します」
 あたしは手札のモンスターをデュエル・ディスクにセットした
「あたしは《V・HERO ヴァイオン》を召喚! そして《V・HERO ヴァイオン》の効果発動! このカードの召喚成功時、デッキから『HERO(ヒーロー)』モンスター1体を墓地へ送ることができる! あたしは《E・HERO(エレメンタルヒーロー) シャドー・ミスト》を墓地へ送る!(手札:4→3)」
 《V・HERO ヴァイオン》の効果に従い、《E・HERO シャドー・ミスト》をデッキから墓地へ。そして、《E・HERO シャドー・ミスト》の効果が発動する。
「《E・HERO シャドー・ミスト》のモンスター効果! このカードが墓地へ送られた場合、デッキから『HERO』モンスター1体を手札に加えることができる! あたしは《D−HERO(デステニーヒーロー) ディアボリックガイ》を手札に加える!(手札:3→4)」
「モンスターを召喚しておきながら、手札が減ってねえ!」
「まだまだぁ! 《V・HERO ヴァイオン》のもう1つの効果! 1ターンに1度、墓地の『HERO』1体を除外することで、デッキから《融合》を手札に加えることができる! あたしはさっき墓地へ送ったばかりの《E・HERO シャドー・ミスト》を除外し、《融合》をゲット!(手札:4→5)」
「手札が増えやがったよ! なんだそのヴァイオンとかいうインチキヒーローは! なんで強い効果2つも持ってんだよ!? おかしいだろそれ!」
 なんでですかねぇ〜? 時代の流れって奴ですかねぇ〜?
「クソッタレが! でも忘れるなよ! 今《E・HERO シャドー・ミスト》が除外されたから、《魂吸収》の効果が発動し、僕のライフは500上昇する!」

 パラコン先輩 LP:16900 → 17400

 また《魂吸収》の効果でライフを回復された。でも、もう関係ない!
「あたしは今手札に加えた《融合》を発動! フィールドの《V・HERO ヴァイオン》と手札の《D−HERO ディアボリックガイ》をセメタリーへ送り、融合召喚! カモン! 《D−HERO デッドリーガイ》!(手札:5→3)」
 2人の英雄が1つとなり、新たな英雄《D−HERO デッドリーガイ》が誕生した。このモンスターも効果を持ってるけど、今は使わない。大事なのはモンスター効果ではなく、このカードがレベル6である点だ。
 あたしは墓地へ送った《D−HERO ディアボリックガイ》を取り出した。
「《D−HERO ディアボリックガイ》のエフェクト発動! セメタリーのこのカードをゲームから除外することで、デッキからもう1体のディアボリックガイを特殊召喚できる! カモン! ディアボリックガイ!」
 デッキのディアボリックガイがフィールドに降り立つ。その瞬間、またもパラコン先輩の《魂吸収》の効果が発動する。
「ディアボリックガイが除外されたことで、《魂吸収》の効果発動! 僕は500ライフ回復!」

 パラコン先輩 LP:17400 → 17900

 パラコン先輩がライフをどんどん回復していってるけど、大丈夫、問題ない。あたしはあたしのできることをやるだけ。
「パラコン先輩! あたしのフィールドのモンスターのレベルをよく見てください!」
「レベルだって? えーと、君のモンスターは……《覇王眷竜ダークヴルム》がレベル4、《D−HERO デッドリーガイ》がレベル6、《D−HERO ディアボリックガイ》がレベル6……レベル6が2体!? まさか!?」
「そのまさかです! あたしはレベル6の《D−HERO デッドリーガイ》と《D−HERO ディアボリックガイ》でオーバーレイ! エクシーズ召喚! 現れよ! ランク6! 《永遠の淑女 ベアトリーチェ》!」
「来たか、エクシーズ召喚!」
 フィールドに光の渦が出現し、2人のD−HEROがその渦の中へと消えていく。そして現れたのは、女性の姿をしたエクシーズモンスター《永遠の淑女 ベアトリーチェ》だ。
「《永遠の淑女 ベアトリーチェ》のモンスター効果! 1ターンに1度、このカードのオーバーレイ・ユニットを1つ使い、デッキからカード1枚を選んで墓地へ送る! あたしはオーバーレイ・ユニットとなっているディアボリックガイを墓地へ送り、デッキから《カーボネドン》を墓地へ送る!」
「デッキから好きなカードを墓地へ送るだと!? なんたるチート効果だ!」
 パラコン先輩は顔を歪めた。先輩の言う通り、デッキからカードを墓地に落とす効果は強い。
 さて、《永遠の淑女 ベアトリーチェ》の役目は終わったので、エクシーズ素材になってもらおう。
「あたしはランク6の《永遠の淑女 ベアトリーチェ》でオーバーレイ! エクシーズ召喚! 出でよ! ランク7! 《迅雷の騎士ガイアドラグーン》!」
「1体のモンスターでオーバーレイだと!?」
 永遠の淑女が光の渦の中へと消え、今度は竜騎士が出現した。ランク7の《迅雷の騎士ガイアドラグーン》だ。
「《迅雷の騎士ガイアドラグーン》は、自分フィールドのランク5または6のエクシーズモンスター1体の上に重ねることでエクシーズ召喚できる!」
「実質カード消費なしでエクシーズかよ!? なんだその召喚条件は! ランクアップマジックとか使ってやれよ!」
 パラコン先輩は納得行かない様子だが、それを無視して先に進む。
「あたしは、ベアトリーチェの効果で墓地へ送った《カーボネドン》の効果発動! 墓地のこのカードを除外することで、デッキからレベル7以下のドラゴン族通常モンスター1体を守備表示で特殊召喚できる! あたしはレベル6の《ラブラドライドラゴン》をデッキから特殊召喚!」
「えっ? まだモンスター展開すんの!?」
「もちろん!」
 《カーボネドン》の効果に導かれ、あたしのフィールドに新たなドラゴンが出現した。
「くっ……! 《カーボネドン》が除外されたことで《魂吸収》の効果発動! ライフ500回復だ!」

 パラコン先輩 LP:17900 → 18400

 パラコン先輩のライフが回復したのを見ると、あたしは墓地のカードを手に取った。
「セメタリーの《D−HERO ディアボリックガイ》を除外してエフェクト発動! デッキから3体目の《D−HERO ディアボリックガイ》を特殊召喚する! カモン! ディアボリックガイ!」
「チキショオ! やっぱり3体目がデッキにいたか! ディアボリックガイの除外により、《魂吸収》で500回復だ!」
 あたしのフィールドに3体目のディアボリックガイが出現し、パラコン先輩は500ライフを回復した。

 パラコン先輩 LP:18400 → 18900

 パラコン先輩はあたしのフィールドを見ると、苦々しい顔を浮かべた。
「君のフィールドには、レベル6の《ラブラドライドラゴン》と、同じくレベル6のディアボリックガイがいる。またランク6エクシーズをやる気か……」
 それを聞くと、あたしは「ちっちっち」と顔の前で指を振った。
「パラコン先輩、それは違います。あたしのフィールドの《ラブラドライドラゴン》をよく見てください。このモンスターは……チューナーです!」
「チューナーだと!? ということは……次はシンクロか!」
「その通り! そして、レベル5以上で同じレベルの、チューナーとチューナー以外のモンスターを1体ずつ墓地へ送ることで、特殊召喚できるシンクロモンスターがいます! あたしはレベル6のチューナーモンスター《ラブラドライドラゴン》と、レベル6の《D−HERO ディアボリックガイ》を墓地へ送り、このモンスターを特殊召喚!」
 《ラブラドライドラゴン》の姿が6つの光輪へと変わり、ディアボリックガイの姿が6つの光点へと変わる。そして、光輪と光点が1つに交わり、新たなモンスターが呼び出された。
「厳密に言えばシンクロ召喚ではないシンクロ召喚! 降臨せよ! レベル0と見せかけてレベル12! 《アルティマヤ・ツィオルキン》!」
 あたしのフィールドに、カード表記上はレベル0のくせに、ルール上はレベル12として扱う赤き竜、《アルティマヤ・ツィオルキン》が出現した。
「融合、エクシーズに続き、シンクロまでやりやがった! どんだけモンスター展開すりゃ気が済むんだよ、もう!」
 パラコン先輩がうんざりしたような顔を浮かべた。スンマセン。まだまだたくさんのモンスターを展開するつもりです。どうかお付き合いください。
「あたしはリバース・カードを1枚セット! そしてこの瞬間、《アルティマヤ・ツィオルキン》の効果発動! 1ターンに1度、自分フィールドに魔法・トラップカードがセットされた時、エクストラデッキからレベル7・8のドラゴン族シンクロモンスター1体を特殊召喚できる! あたしはレベル8のドラゴン族シンクロモンスター《爆竜剣士イグニスター(プロミネンス)》を特殊召喚!(手札:3→2)」
 あたしが手札の《融合回収》をセットすると、それに反応して《アルティマヤ・ツィオルキン》の効果が発動。エクストラデッキから《爆竜剣士イグニスターP》が飛び出してきた。それを見て、パラコン先輩が目を剥いた。
「はあああああっ!? なんかカードを1枚セットしただけでシンクロモンスターが出てきたぞオイっ!? いくらなんでも卑怯じゃないかそれ!? どうなってんだよ!?」
「へっへっへ……どうなってんでしょーかねー? まあ、そういう効果なんで、納得してください」
「納得できねえええええ! こんなの納得できるかよおおおお!」
 悲痛な声を上げるパラコン先輩を無視して、あたしは《爆竜剣士イグニスターP》を見た。
 《爆竜剣士イグニスターP》には、フィールドのカード1枚をデッキに戻す効果がある。それを使ってパラコン先輩のカードを除去! と行きたいとこだけど、パラコン先輩のフィールドのカードは《一角Gのホーン》の効果によって、攻撃力3600未満のモンスターの効果を受け付けない。《爆竜剣士イグニスターP》の攻撃力は2850だから、その効果でパラコン先輩のカードを除去することはできない。
 だからあたしは、《爆竜剣士イグニスターP》のもう1つの効果を使う!
「《爆竜剣士イグニスターP》の効果発動! 1ターンに1度、デッキから『竜剣士』と名のつくモンスター1体を守備表示で特殊召喚できる! あたしは《竜剣士マスター(ペンデュラム)》を特殊召喚!」
 イグニスターPの効果により、デッキから《竜剣士マスターP》飛び出し、守備態勢を取った。それを見て、パラコン先輩の顔が歪みを増す。
「またモンスターが増えたし! いつまで展開し続けるつもりだよ!?」
 まだまだ展開し続けますよ!
「あたしはレベル4の《覇王眷竜ダークヴルム》と《竜剣士マスターP》でオーバーレイ! エクシーズ召喚! 出でよ! ランク4! 《昇竜剣士マジェスター(パラディン)》!」
「またエクシーズかよ!?」
 ダークヴルムとマスターPが光の渦の中に消え、《昇竜剣士マジェスターP》が舞い降りた。同時に、《昇竜剣士マジェスターP》の体が光り出す。
「《昇竜剣士マジェスターP》がエクシーズ召喚に成功したことで、モンスター効果が発動! このターンのエンドフェイズに、あたしはデッキからペンデュラムモンスター1体を手札に加えることができる!」
 これでこのターンの終わりに、あたしの手札にペンデュラムモンスターが加わることが確定した。
 続いて、あたしはさっき出したばかりのリバース・カードに手をかけた。
「リバース・カード、オープン! 魔法カード《融合回収》! このカードは、融合召喚に使用したモンスター1体と《融合》1枚を墓地から手札に加えることができる! あたしは、さっき《D−HERO デッドリーガイ》の融合召喚に使った《V・HERO ヴァイオン》と、《融合》を手札に戻す!(手札:2→4)」
「《融合》を手札に戻した!? ってことは、まさかまた融合召喚を!?」
「当たりです! あたしは魔法カード《融合》を発動! フィールドの《爆竜剣士イグニスターP》と手札の《V・HERO ヴァイオン》を墓地へ送り、融合召喚! 出でよ! 《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》!(手札:4→2)」
 ドラゴン族シンクロモンスターの《爆竜剣士イグニスターP》と、戦士族モンスターの《V・HERO ヴァイオン》が融合し、《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》へと姿を変えた。それを見て、パラコン先輩はため息をついた。
「……融合か。あのさ、君あと何回特殊召喚するつもりでいるの? まだ続きそう?」
「そうですねぇ、まだ続きそうです」
「え〜? まだ続くのかよ……」
 パラコン先輩は首をゆらゆらと振った。
「とりあえず、続けますよ。あたしは《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》のモンスター効果発動! 1ターンに1度、墓地のドラゴン族シンクロモンスター1体を除外し、そのモンスターのカード名とモンスター効果を得る! あたしは《爆竜剣士イグニスターP》を除外!」
「除外……ということは、《魂吸収》の効果で僕は500ライフ回復だな」

 パラコン先輩 LP:18900 → 19400

 パラコン先輩のライフはついに19400ポイント。あともう少しで20000に到達する。けど、あたしの計算が正しければ、もうこれ以上パラコン先輩はライフを回復しない。回復戦術もここまでだ。
 さて、《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》は《爆竜剣士イグニスターP》の効果を得たので、当然、《爆竜剣士イグニスターP》が持つ、フィールドのカード1枚をデッキに戻す効果を使うことができる。だけど、パラコン先輩のフィールドのカードは《一角Gのホーン》の効果によって、攻撃力3600未満のモンスターの効果を受けない。《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》の攻撃力は3200なので、除去効果を使ったとしてもパラコン先輩のフィールドのカードを除去することはできない。
 けれど、《爆竜剣士イグニスターP》のもう1つの効果――デッキから「竜剣士」モンスターを呼び出す効果――を使う分にはなんの問題もないから、それを使わせてもらおう。
「《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》が得た《爆竜剣士イグニスターP》の効果! 1ターンに1度、デッキから『竜剣士』モンスター1体を守備表示で特殊召喚する! この効果で2体目の《竜剣士マスターP》を特殊召喚!」
「また特殊召喚かよ……」
 《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》の効果により、あたしのデッキから《竜剣士マスターP》が飛び出し、守備態勢を取った。
 ふぅー。いやいや、このターンに入ってから、めちゃくちゃ特殊召喚しまくったね。ここらでフィールドの状況を確認しておこうか。今、フィールドはこんな感じになっている。


【あたし】 LP:5700 手札:2枚(《融合》、《再融合》)
 モンスター:《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》攻3200、《迅雷の騎士ガイアドラグーン》攻2600、《アルティマヤ・ツィオルキン》守0、《昇竜剣士マジェスターP》攻1850、《竜剣士マスターP》守0
  魔法&罠:
ペンデュラム:《覇王門零》スケール0、《覇王門無限》スケール13

【パラコン先輩】 LP:19400 手札:1枚
 モンスター:《メガ・ゴキボール・ドラゴン》攻3600・《一角Gのホーン》装備
  魔法&罠:《補給部隊》永続魔法、《魂吸収》永続魔法、《一角Gのホーン》装備魔法


 あたしのフィールドは5体のモンスターで埋め尽くされて、なかなか賑やかなことになっている。それを見て、パラコン先輩は鼻を鳴らした。
「好き勝手に色々と特殊召喚したわけだけど、君のフィールドにいるどのモンスターも、僕の《メガ・ゴキボール・ドラゴン》を倒すことはできない! ずいぶんと無駄なことしてくれたじゃないか!」
 パラコン先輩がバカにするような口調で言う。
 たしかに、今あたしのフィールドにいるモンスターでは、パラコン先輩の切り札《メガ・ゴキボール・ドラゴン》は倒せない。攻撃力が足りない。
 そう。今のあたしのモンスターでは《メガ・ゴキボール・ドラゴン》には勝てない。今のまま、ならば、ね。
 あたしはニヤリとして、パラコン先輩に言った。
「パラコン先輩。あたしのフィールドのモンスターの種族と種類に注目してみてください」
「え? 種族と種類って……」
 パラコン先輩はあたしのフィールドのモンスターを1体ずつ見ていく。
「君のモンスターは……種族はいずれもドラゴン族。種類は……《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》が融合モンスター、《アルティマヤ・ツィオルキン》がシンクロモンスター、《迅雷の騎士ガイアドラグーン》と《昇竜剣士マジェスターP》がエクシーズモンスター、《竜剣士マスターP》がペンデュラムモンスター……」
 そこまで言ったところで、パラコン先輩は何かに気づいたように顔色を変えた。
「……融合・シンクロ・エクシーズ・ペンデュラム……4種類のドラゴンが揃っている!」
「その通りです! そして、それら4種類のドラゴンを1つに統合することで、召喚できるモンスターがいる――」
 あたしは手札から1枚のカードを抜き取った。
「今こそ1つに! 魔法カード《融合》を発動! フィールドの《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》、《アルティマヤ・ツィオルキン》、《迅雷の騎士ガイアドラグーン》、《竜剣士マスターP》――融合・シンクロ・エクシーズ・ペンデュラムモンスターのドラゴン族1体ずつを素材として融合召喚を行う!(手札:2→1)」
「う……嘘だろ!?」
 融合・シンクロ・エクシーズ・ペンデュラム――4種類のドラゴン族モンスターが1つとなり、最強のドラゴンが降臨する!
「四天の龍を統べ、第5の次元に君臨する究極龍よ! 今こそこの我と1つとなるのだ!融合召喚! 出でよ、《覇王龍ズァーク》!」
「げええええっ!? 《覇王龍ズァーク》!?」
 4体のドラゴンが融合し、巨大なドラゴンへと姿を変えた! これこそ、融合・シンクロ・エクシーズ・ペンデュラムモンスターのドラゴンを結集させた最強のドラゴン!
 イヤッハァァァァッ! なんか上手いことカードをぶん回して《覇王龍ズァーク》を出してやったぜえええええ! うひょひょー! テンション上がってきたー!
「バカな!? フィールドのモンスターのみを融合素材に《覇王龍ズァーク》を呼び出しただと!? 普通、墓地のモンスターとかを素材にして出すだろそれ! どうなってんだよ!?」
 パラコン先輩は、《覇王龍ズァーク》をフィールド融合したことにツッコミを入れてきた。まあ、基本は墓地融合だよね。気持ちは分かる。けどほら、なんか色々やってたら、フィールドに素材が揃っちゃったし、使わないのもアレじゃん?
 とりあえず、《覇王龍ズァーク》の力を使わせてもらおう!
「《覇王龍ズァーク》のモンスター効果! このモンスターの特殊召喚成功時、相手フィールドのカードを全て破壊する!」
「くっ! だが、僕のフィールドのカードは《一角Gのホーン》の効果で、攻撃力3600未満のモンスターの効果は受けない!」
「残念! 《覇王龍ズァーク》の攻撃力は4000! 《メガ・ゴキボール・ドラゴン》の攻撃力3600よりも上だから、《一角Gのホーン》では防げない!」
「だああああっ!? そうだったああああ!」
「うははははー! 《覇王龍ズァーク》! 敵フィールドを焼け野原にしろぉ!」
 覇王龍が口からビームを放ち、パラコン先輩のフィールドのカードを全て焼き払った! んー! 気持ちいいー! サティスファクション!

 《メガ・ゴキボール・ドラゴン》:破壊
 《一角Gのホーン》:破壊
 《補給部隊》:破壊
 《魂吸収》:破壊

「チキショオ! 全滅じゃねーか! だが、転んでもただでは起きない! 《メガ・ゴキボール・ドラゴン》の効果発動! このカードが破壊された場合、除外されている自分の『ゴキボール』と名のついたモンスターを可能な限り特殊召喚できる! 今除外されている『ゴキボール』モンスターは、《ゴキボール》3体と《マスター・オブ・ゴキボール》3体! 《マスター・オブ・ゴキボール》は融合召喚でしか出せないから、《ゴキボール》3体を守備表示で特殊召喚する!」


 メガ・ゴキボール・ドラゴン
 特殊召喚・効果モンスター
 星7/地属性/昆虫族/攻 ?/守 ?
 このカードは通常召喚できない。自分の墓地の「ゴキボール」モンスターを任意の数だけ除外した場合のみ特殊召喚できる。
 (1):このカードの元々の攻撃力・守備力は、 このカードを特殊召喚するために除外したモンスターの数×1200になる。
 (2):フィールドのこのカードが戦闘・効果で破壊された場合に発動できる。除外されている自分の「ゴキボール」モンスターを可能な限り特殊召喚する。
 (3):???


 覇王龍の力でパラコン先輩のフィールドはがら空き、かと思いきや、《メガ・ゴキボール・ドラゴン》の効果で、除外されていた3体の《ゴキボール》が守備表示で戻ってきてしまった。むぅ、しぶとい!
「じゃあ、あたしは《覇王門無限》のペンデュラム効果を発動! 1ターンに1度、自分フィールドに《覇王龍ズァーク》がいる時、相手フィールドのモンスター1体を選択し、その攻撃力分だけライフを回復する! あたしはパラコン先輩の《ゴキボール》を選択し、その攻撃力1200をライフに加算!」

 あたし LP:5700 → 6900

 ひとまずライフを回復させると、あたしはフィールドと手札を交互に確認した。そして、次の一手を考えた。
 パラコン先輩のフィールドには3体の《ゴキボール》。いずれも守備表示だから、戦闘破壊しても先輩にダメージは与えられない。実に邪魔だ。
 正直、ここで《ゴキボール》を呼び出されるとは思ってなかった。予想外の展開だ。さて、この先はどうする? どういう風に動く? このままバトルに入るか? それとも、もっとモンスターを展開するか? 展開するとしたら、どんな方法でどんなモンスターを展開するか?
 あたしは、今自分ができる動きを全て頭の中に思い浮かべ、その中のどれを実行するのが最善かを考えた。考えること、約30秒。
 よし、この動きで行こう――。
 考えをまとめたあたしは、次の行動に移った。
「あたしは《昇竜剣士マジェスターP》の効果を発動!」
「え? バトルに入るんじゃないの?」
「いや、まだですよ。まだあたしのメインフェイズは終わってません。《昇竜剣士マジェスターP》の効果! 1ターンに1度、オーバーレイ・ユニットを1つ使うことで、エクストラデッキから表側表示の『竜剣士』ペンデュラムモンスター1体を特殊召喚できる!」
 あたしの言葉を聞いたパラコン先輩は、ものすごーく嫌そうな顔をした。
「また特殊召喚〜〜!? まだ展開するのぉ!?」
「どうもスンマセンねぇ、へっへっへ! あたしのエクストラデッキには、さっき《覇王龍ズァーク》の融合素材としてエクストラデッキへ送られたペンデュラムモンスター、《竜剣士マスターP》がいるので、こいつを特殊召喚する! 舞い戻れ! 《竜剣士マスターP》!」
 あたしは《昇竜剣士マジェスターP》のオーバーレイ・ユニットとなっている《竜剣士マスターP》を墓地へ送り、効果を発動。エクストラデッキに送られていたもう1体の《竜剣士マスターP》を特殊召喚した。これであたしのフィールドには、覇王龍を除くと、エクシーズとペンデュラムのドラゴンが1体ずつ。
「さらに、800ライフを払い、装備魔法《再融合》を発動! 自分の墓地の融合モンスター1体を特殊召喚し、このカードを装備する! あたしは《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》を特殊召喚!(手札:1→0)」

 あたし LP:6900 → 6100

 《再融合》の効果によって《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》が復活した。それを見て、パラコン先輩の顔色が悪くなる。
「な……なんで、《覇王龍ズァーク》をフィールド融合したばっかりなのに、新たなモンスターがポコポコ湧いてくるんだ……?」
「いや、まあ、そういうデッキなんですよ」
 あたしは自分のフィールドを見た。覇王龍を除くと、融合・エクシーズ・ペンデュラムのドラゴンが1体ずつ。残るは……シンクロだ。
「あたしは《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》の効果を発動! 1ターンに1度、墓地のドラゴン族シンクロモンスター1体を除外し、そのカード名とモンスター効果を得る!」
 もう《魂吸収》のカードはないので、カードを除外してもパラコン先輩のライフを回復させることはない。安心してカードを除外できる。
「あたしは《アルティマヤ・ツィオルキン》を除外! そのカード名と効果をコピー!」
 蘇った《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》が赤き竜の力を得た。これでシンクロモンスターを呼べる!
「《アルティマヤ・ツィオルキン》って、魔法・トラップを1枚伏せただけで、レベル7・8のドラゴン族シンクロを呼び出せるという、チート極まりない効果を持ってるんだよね? あ、でも、斉場さんの手札は0だから、その効果は使えないか……」
 たしかにパラコン先輩の言う通り、手札0のこの状態で、《アルティマヤ・ツィオルキン》の効果は使えない。
 けどね、あたしのフィールドには、手札を増やす秘策がある!
「あたしは《覇王門零》のペンデュラム効果発動! もう片方のペンデュラムゾーンに《覇王門無限》がある場合、このカード自身と《覇王門無限》を破壊することで、デッキから『融合』魔法カードまたは『フュージョン』魔法カード1枚を手札に加えることができる!」
「……!? ちょ……なんだそれ!? そんな効果アリかよ!?」
「あたしは《覇王門零》と《覇王門無限》を破壊! デッキから《ミラクルシンクロフュージョン》を手札に加える!(手札:0→1)」

 《覇王門零》:破壊 → エクストラデッキ
 《覇王門無限》:破壊 → エクストラデッキ

 2枚の覇王門は破壊され、あたしの手札に新たなカードが加わった。そして、覇王門はペンデュラムモンスターのため、墓地へは行かずエクストラデッキに加わった。
「さて、これであたしの手札には魔法カードが1枚! すかさずこのカードをフィールドにセット! これにより、《アルティマヤ・ツィオルキン》の効果を得た《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》の効果発動! 自分フィールドに魔法・トラップカードがセットされた瞬間、エクストラデッキからレベル7・8のドラゴン族シンクロモンスター1体を特殊召喚する! あたしはレベル8の《ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン》を特殊召喚!(手札:1→0)」
「チキショオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ! なんだこのインチキコンボはああああああああああああああああああああああああああ!」
 こうして、あたしのフィールドに再び、融合・シンクロ・エクシーズ・ペンデュラムのドラゴンが全て揃った! あとは《融合》があれば全ての準備が整う!
 そう! あたしの狙いはズバリ! 2体目の《覇王龍ズァーク》の召喚だ!
「あたしは《ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン》のモンスター効果を使う! 1ターンに1度、自分の墓地のレベル6以下の闇属性モンスター1体を除外し、そのカード名とモンスター効果を得る! あたしは墓地のレベル4闇属性モンスター《V・HERO ヴァイオン》を除外!」
「そ……そいつも墓地のモンスターをコピーするのかよ……! しかも、ヴァイオンってたしか……!」
「気づきましたね、パラコン先輩! 《ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン》が得た《V・HERO ヴァイオン》の効果! 1ターンに1度、墓地の『HERO』1体を除外することで、デッキから《融合》を手札に加えることができる! あたしは墓地の《D−HERO ディアボリックガイ》を除外し、《融合》を手札に!(手札:0→1)」
「また《融合》かよ!? つーか、ちょっと待って! 今、君のフィールドには……」
 パラコン先輩がフィールドの状況を確認する。ついでにあたしも確認しておこう。こんな感じだ。


【あたし】 LP:6100 手札:1枚(《融合》)
 モンスター:《覇王龍ズァーク》攻4000、《昇竜剣士マジェスターP》攻1850、《竜剣士マスターP》攻1950、《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》攻3200・《再融合》装備、《ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン》攻3000
  魔法&罠:《再融合》装備魔法、伏せ×1(《ミラクルシンクロフュージョン》)

【パラコン先輩】 LP:19400 手札:1枚
 モンスター:《ゴキボール》守1400、《ゴキボール》守1400、《ゴキボール》守1400
  魔法&罠:


 パラコン先輩の顔色がどんどん悪くなっていく。
「君のフィールドには……融合・シンクロ・エクシーズ・ペンデュラムのドラゴンが全部揃ってて……しかも手札には《融合》が加わったから……まさか……まさかなのか!?」
「そのまさかですよ!」
 これで準備は整った! 2体目の覇王龍の降臨だ!
「今こそ1つに! あたしは魔法カード《融合》を発動! フィールドの《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》、《ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン》、《昇竜剣士マジェスターP》、《竜剣士マスターP》――融合・シンクロ・エクシーズ・ペンデュラムモンスターのドラゴン族1体ずつを素材として融合召喚!(手札:1→0)」
「嘘だろオイ!」
 再び融合・シンクロ・エクシーズ・ペンデュラム――4種類のドラゴン族モンスターが1つとなり、2体目の覇王龍が降臨する!
「破壊と創生! 原初と終焉! 総てを束ねし至高の龍! 《覇王龍ズァーク》!」
 2体目の《覇王龍ズァーク》が召喚され、1体目の《覇王龍ズァーク》の隣に降り立った。
 エクセレント! ファンタスティック! 超連続ぶん回しで2体目の覇王龍を呼び出してやったぜフハッハー!
「お……おかしい! まさか2度も《覇王龍ズァーク》をフィールド融合で呼び出すなんて! どう考えてもおかしい! 墓地融合とかしてやれよ!」
 パラコン先輩が《覇王龍ズァーク》をフィールド融合したことにツッコミを入れてくる。まあ、気持ちは分かるよ。
「《覇王龍ズァーク》のモンスター効果! このモンスターの特殊召喚成功時、相手フィールドのカードを全て破壊する! この効果で3体の《ゴキボール》を焼き払ってやるぜぇ! うははははー! 虫けらどもよ! 覇王の力の前にひれ伏せぇ!」
 新たに召喚された覇王龍がビームを撃ち、パラコン先輩のフィールドを焼き払う! イヤッハァァァァ! 何もかもブチ殺せェェェェ!
「チキショオ! そんな手が通用すると思うなあああああ! 僕は墓地の《メガ・ゴキボール・ドラゴン》の隠された効果を発動! 墓地のこのカードを除外することで、自分フィールドの『ゴキボール』モンスターの破壊を無効にする!」
「なっ!?」


 メガ・ゴキボール・ドラゴン
 特殊召喚・効果モンスター
 星7/地属性/昆虫族/攻 ?/守 ?
 このカードは通常召喚できない。自分の墓地の「ゴキボール」モンスターを任意の数だけ除外した場合のみ特殊召喚できる。
 (1):このカードの元々の攻撃力・守備力は、 このカードを特殊召喚するために除外したモンスターの数×1200になる。
 (2):フィールドのこのカードが戦闘・効果で破壊された場合に発動できる。除外されている自分の「ゴキボール」モンスターを可能な限り特殊召喚する。
 (3):自分フィールドの「ゴキボール」モンスターが戦闘・効果で破壊される場合、代わりに墓地のこのカードを除外できる。


 パラコン先輩が墓地の《メガ・ゴキボール・ドラゴン》を除外したことで、3体の《ゴキボール》は破壊からまぬがれ、フィールドに留まった。
 し……しつこい! ここで《ゴキボール》が生き残るなんて! でも、《メガ・ゴキボール・ドラゴン》の破壊無効効果は1度きり! 2度は防げない!
 ならば! あたしが取るべき行動は1つ!
「今こそ1つに! あたしはさっきセットした魔法カード《ミラクルシンクロフュージョン》を発動! このカードは、自分のフィールド・墓地から決められた融合素材モンスターを除外し、シンクロモンスターを融合素材とする融合モンスターを融合召喚する! この効果で、あたしは墓地の、《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》、《ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン》、《昇竜剣士マジェスターP》、《竜剣士マスターP》を除外融合!」
「くそくそくそ! ここに来てついに墓地融合か!」
 あたしの墓地から、融合・シンクロ・エクシーズ・ペンデュラムのドラゴンが1体ずつ除外され、1つとなる! そして、3体目の覇王龍が降臨する!
「集いし星が1つになる時、新たな絆が未来を照らす! 光差す道となれ! 融合召喚! 進化の光、《覇王龍ズァーク》!」
「さ……3体目……! ていうか、召喚口上がなんか違う! 全然合ってない!」
 おっと間違えた。うっかりうっかり。
 ともあれ、3体目の《覇王龍ズァーク》が召喚され、2体目の《覇王龍ズァーク》の隣に降り立った!
 スプレンディード! ゴルゴンゾーラチーズ! ペペロンチーノ! ついに3体目の覇王龍を呼び出した! これであたしのフィールドには《覇王龍ズァーク》が3体だぜ3体! ふひょひょ〜! 最高だ最高だ最高だ!
「は……《覇王龍ズァーク》が……3体並んでやがる!」
 パラコン先輩の顔が驚愕で歪みまくっている。無理もない! 《覇王龍ズァーク》がフィールドに3体並んじゃってるんだからなぁ!
 さて、3体目の覇王龍の効果を使わせてもらおう!
「《覇王龍ズァーク》のモンスター効果! 特殊召喚成功時、相手フィールドのカードを全て破壊する! 今度こそ消え失せろ! 虫けらどもめぇ!」
「くそっ! 今度はさすがに防げない!」
 覇王龍がビームを放ち、パラコン先輩の《ゴキボール》3体を消し去った! うははははー! 消えろ消えろー!

 《ゴキボール》:破壊
 《ゴキボール》:破壊
 《ゴキボール》:破壊

 粉砕! 玉砕! 大喝采! 《ゴキボール》が消えたことで、ついにパラコン先輩のフィールドががら空きになった! 今こそダイレクトアタックのチャンスだ!
「バトルだ! 3体の《覇王龍ズァーク》でプレイヤーにダイレクトアタック! 超必殺覇王ビーム3連打ァァァァ!」
 3体の《覇王龍ズァーク》が飛翔し、パラコン先輩にビーム攻撃を仕掛けた!
「チキショオオオオオ! 何もできねええええええ!」
 パラコン先輩は何もできずに覇王龍の攻撃を受け、体が5メートルほど後方に吹き飛んだ。

 《覇王龍ズァーク》 攻:4000
 《覇王龍ズァーク》 攻:4000
 《覇王龍ズァーク》 攻:4000

 パラコン先輩 LP:19400 → 15400 → 11400 → 7400

 3体の覇王龍のダイレクトアタックにより、パラコン先輩のライフが大きく削られ、7400まで減少した! このデュエルが始まってから、なかなか思うようにパラコン先輩にダメージを与えられなかったけど、ここに来てようやく大ダメージを与えることができた!
「あの状況から覇王龍を3体の並べてのダイレクトアタック! ヤベー! こいつぁ、超シビレるぜー! シビレるぞチユー!」
 テンションを上げた桃花が、道場の壁と壁の間を超高速で往復している。目にも留まらぬ速さだ。
「く……っ……バカな……っ……! まさか……《覇王龍ズァーク》を……1ターンで3体並べるとは……!」
 ゆっくりと起き上がるパラコン先輩。呼吸が乱れている。あれほどの大ダメージを受けて吹き飛ばされたんだから無理もない。
「このターンの攻撃はなかなか効いたでしょう? パラコン先輩」
「ああ……さすがに効いたよ。このターンの戦術……覇王龍を3体並べる戦術も、鷹野さんから仕込まれたものかい?」
「はい! 鷹野師匠は覇王龍を並べる方法をいくつも教えてくれました。そのうちの1つが、このターンに披露したものです」
「やっぱりね……。まったく、さすがは鷹野さんの弟子だ。ホントに鷹野さんと戦ってる気分になってきたよ」
 パラコン先輩はため息をつくと、元のデュエルポジションへと戻った。あたしはそれを確認すると、自分フィールドの覇王龍を見た。
 《覇王龍ズァーク》は攻撃力4000を誇るモンスター。そう簡単には戦闘破壊されないだろう。しかも、このモンスターは相手の効果の対象にならず、相手の効果では破壊されない。よって、カード効果で除去することも困難だ。そんな強力モンスターが3体もいる。それに対して、パラコン先輩のフィールドはがら空き。手札はわずか1枚。切り札の1つである《マスター・オブ・ゴキボール》は封じられている。状況は圧倒的にあたしが有利だ。
 とはいえ、相手はパラコン先輩だ。さっき三幻魔を全滅させられたように、この状況もあっさり覆されるかもしれない。油断は禁物だ。
 あたしは気を引き締めると、このターン最後の行動に移った。
「エンドフェイズ、《昇竜剣士マジェスターP》の効果により、あたしはデッキからペンデュラムモンスター1体を手札に加える! あたしは……」
 デッキを取り外し、中身を確認する。どのペンデュラムモンスターを手札に加えるか。どのペンデュラムモンスターでも加えることができるとなると、なかなか迷う。
 迷った末に、あたしは1枚のカードをデッキから抜き出した。
「あたしは《白翼の魔術師》を手札に加える!(手札:0→1)」
 とりあえず、ペンデュラムモンスターかつチューナーである《白翼の魔術師》を手札に加えた。何故このカードを選んだか、というと、特にこれといった理由はない。強いていえば直感だ。なんとなくこのカードを手札に持っておくといいような気がしたのだ。
 こういった直感は意外とバカにできないから軽んじない方がいい――以前、鷹野師匠がそう言っていたことがある。それ以来、あたしはデュエル中に直感が働いたら、それに従うようにしている。
「あたしはこれでターンエンド!」
 長い長いあたしのターンが終了した。


【あたし】 LP:6100 手札:1枚(《白翼の魔術師》)
 モンスター:《覇王龍ズァーク》攻4000、《覇王龍ズァーク》攻4000、《覇王龍ズァーク》攻4000
  魔法&罠:

【パラコン先輩】 LP:7400 手札:1枚
 モンスター:
  魔法&罠:





9章 追い詰められた!


 ようやくあたしのターンが終わり、パラコン先輩のターンとなる。
「はぁ〜……やっと僕のターンか……」
 待ちくたびれたかのようにパラコン先輩は言った。
「いやあ、長々とスイマセンねぇ」
「ホントだよ、まったく……。僕のターン、ドロー!(手札:1→2)」
 パラコン先輩がカードをドローした。そのカードを見た瞬間、先輩の目が光った。
「フッフッフ……!」
 パラコン先輩が笑い出した……。なんだ? 何のカードを引いたんだ?
「斉場さん。君は序盤に、《浮幽さくら》の効果で僕の《マスター・オブ・ゴキボール》を全部除外した。そのことで、もうこのデュエル中は《マスター・オブ・ゴキボール》を使えないと考えている。そうだよね?」
「そ……それがなんですか?」
 パラコン先輩はニヤニヤしながら、1枚のカードをディスクにセットした。
「それは大きな間違いだよ斉場さん! 僕は魔法カード《大欲な壺》を発動! このカードは、除外されているモンスターを3体選択し、持ち主のデッキに戻してシャッフル! その後、デッキからカードを1枚ドローできる!(手札:2→1)」
「除外されているモンスターをデッキに戻すカード!?」
 まずい! これじゃあ、《マスター・オブ・ゴキボール》が復活しちゃう!
「はっはっは! 僕はこのカードで、除外されている《マスター・オブ・ゴキボール》3体をエクストラデッキに戻す! そしてデッキからカードを1枚ドロー!(手札:1→2)」

 《マスター・オブ・ゴキボール》:除外 → エクストラデッキ
 《マスター・オブ・ゴキボール》:除外 → エクストラデッキ
 《マスター・オブ・ゴキボール》:除外 → エクストラデッキ

 なんてこった! 《マスター・オブ・ゴキボール》が全員エクストラデッキに帰還してしまった! 《浮幽さくら》の効果が無駄になっちゃったよ……。
 で、でも! 単にエクストラデッキに戻っただけだ! 《マスター・オブ・ゴキボール》を召喚するには、《ゴキボール》3体を融合させる必要がある! そう簡単に出せるはずがない!
「斉場さん! 君の考えは読めるぞ! 《マスター・オブ・ゴキボール》をエクストラデッキに戻したところで、それを召喚するのは難しいはずだ、と考えている! 違うかい!?」
「ぐっ! お見通しですか! でも事実、そうでしょう!? 3体の《ゴキボール》がいずれも墓地に置かれた今の状況じゃ、《マスター・オブ・ゴキボール》を出すのは難しいはず!」
 あたしの言葉を聞くと、パラコン先輩は嘲笑を浮かべた。
「果たしてそうかな? 僕はここで、魔法カードを出させてもらうよ」
 パラコン先輩は、前のターンから持っていた手札をフィールドに出した。
「魔法カード《豪気暴流融合(ゴキボール・フュージョン)》を発動!(手札:2→1)」
「はっ!? ゴキボール・フュージョン!? な、なんですか、それ!」
 なんですか、それ――と言いはしたけど、なんとなく想像はついた。パラコン先輩が発動した魔法カード……カード名からして、《マスター・オブ・ゴキボール》をすぐさま融合召喚できるカードだ。きっとそうだ!
「《豪気暴流融合》――このカードは、『ゴキボール』と名のついた融合モンスター専用の融合魔法! 自分のフィールド・墓地から、決められた融合素材モンスターを除外し、『ゴキボール』と名のついた融合モンスターを融合召喚する!」


 豪気暴流融合
 (通常魔法)
 (1):自分のフィールド・墓地から、「ゴキボール」融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを除外し、その融合モンスター1体をエクストラデッキから融合召喚する。
 (2):???


 想像していた通り、速攻融合のカードだった!
「墓地融合のカード……そのカードで、墓地の《ゴキボール》3体を……!」
「そういうことだ! 僕は《豪気暴流融合》で墓地に眠る《ゴキボール》3体を除外し、融合召喚! 出でよ! 3体の《ゴキボール》を束ねた究極至高のモンスター、《マスター・オブ・ゴキボール》!」
 パラコン先輩の墓地から3体の《ゴキボール》が除外され、1つになる。そして現れたのは、《ゴキボール》を何倍にも巨大化させたようなモンスターだった! で……デカい!


 マスター・オブ・ゴキボール
 融合・効果モンスター
 星12/地属性/昆虫族/攻5000/守5000
 「ゴキボール」+「ゴキボール」+「ゴキボール」
 このカードは上記カードを融合素材にした融合召喚でのみ特殊召喚できる。
 (1):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、自分が受ける戦闘・効果ダメージは0になる。
 (2):表側表示のこのカードがフィールドから離れた場合に発動する。相手フィールドのカードを全て除外し、「ゴキボールトークン」(昆虫族・地・星4・攻1200・守1400)を可能な限り自分フィールドに特殊召喚する。この効果で特殊召喚した「ゴキボールトークン」はカード名を「ゴキボール」としても扱う。


「これが僕の切り札、《マスター・オブ・ゴキボール》だ! うひゃひゃひゃひゃ!」
「くっ! ついに《マスター・オブ・ゴキボール》を召喚されてしまった……!」
 《マスター・オブ・ゴキボール》の攻撃力はなんと5000! あたしのフィールドの《覇王龍ズァーク》の攻撃力4000を上回る! 何故かは知らないけど、《ゴキボール》の3体融合体である《マスター・オブ・ゴキボール》は、融合・シンクロ・エクシーズ・ペンデュラムのドラゴンの融合体である《覇王龍ズァーク》よりも攻撃力が高い! その事実に納得が行かない! なんかパワーバランスがおかしい! なんで《ゴキボール》なんていう弱小モンスターの3体融合体が覇王龍の上を行くんだよ!?
「このターン、あたしの覇王龍の1体は、確実に葬られる……!」
 あたしが苦々しく言うと、パラコン先輩は首を横に振った。
「1体は葬られる、だって? 斉場さん、それは違うよ」
 そこでいったん区切ってから、パラコン先輩は衝撃的な言葉を放った。
「君のフィールド覇王龍は、このターンで全滅する!」
「えっ!? でも、《マスター・オブ・ゴキボール》には複数回攻撃する能力はないはず!」
「別に複数回攻撃をする必要はない! こうすればいいんだよ!」
 パラコン先輩が、残された手札をフィールドに出した。
「魔法カード《アドバンスドロー》を発動! このカードは、自分フィールドのレベル8以上のモンスター1体をリリースし、デッキからカードを2枚ドローする! 僕は、レベル12の《マスター・オブ・ゴキボール》をリリースし、カードを2枚ドロー!(手札:1→0→2)」
「なっ!? せっかく出した《マスター・オブ・ゴキボール》をリリースした!?」
 《アドバンスドロー》の発動コストとして、呼び出されたばかりの《マスター・オブ・ゴキボール》が消滅した。切り札となるモンスターを自らフィールドから消し去るなんて一体どうして――。
 ――いや、これは……! そうだ! パラコン先輩の狙いは、《マスター・オブ・ゴキボール》のモンスター効果を発動させることだ!
「《マスター・オブ・ゴキボール》のモンスター効果発動! このカードがフィールドから離れた場合、相手フィールドのカードを全て除外する! そう、除外だ! 破壊ではなく除外! そして、この効果は対象を取らない!」
「ぐぅ……ぅぅ……っ! 対象を取らない除外効果じゃ、《覇王龍ズァーク》の効果でも防ぐことができない!」
「そういうことだ! さあ、覇王龍どもには消えてもらおうか! 《ゴキボール》の裁きを受け、浄化されるがいい!」
 《マスター・オブ・ゴキボール》が消滅した次の瞬間、フィールドに闇が発生! その闇に、あたしのフィールドにいた《覇王龍ズァーク》3体が飲み込まれてしまった! い……行かないでくれぇぇぇ!

 《覇王龍ズァーク》:除外
 《覇王龍ズァーク》:除外
 《覇王龍ズァーク》:除外

 3体の《覇王龍ズァーク》は、見事に消し去られてしまった! これであたしのフィールドはがら空き! キ……キ……キィィィィ! あたしの覇王龍がぜん……めつめつめつ……!
 ああっ、もうクソッタレ! なんなんだこれ!? 意味分かんねえ! パラコン先輩は強いから、逆転されることをある程度は覚悟してたけど、まさかここまであっさりとひっくり返されるなんて!
「うひゃひゃひゃひゃ! 覇王龍こっぱみじんー!」
「ぬぅぅぅっ! くそぉぉぉ! 最悪だ! こんなの最悪だ! ゴキブリごときに覇王龍が倒されるなんて、もう最悪だ最悪だ最悪だ!」
「はっはっは! 実に気分爽快だねぇ! さて、《マスター・オブ・ゴキボール》の効果には続きがある! 僕のフィールドに《ゴキボールトークン》5体を特殊召喚させてもらうよ!」
 あたしのフィールドを焼け野原にした上、パラコン先輩は自らのフィールドに5体の《ゴキボールトークン》を出現させた。もう何もかもめちゃくちゃだ。


【あたし】 LP:6100 手札:1枚(《白翼の魔術師》)
 モンスター:
  魔法&罠:

【パラコン先輩】 LP:7400 手札:2枚
 モンスター:《ゴキボールトークン》攻1200、《ゴキボールトークン》攻1200、《ゴキボールトークン》攻1200、《ゴキボールトークン》攻1200、《ゴキボールトークン》攻1200
  魔法&罠:


「バトル! 5体の《ゴキボールトークン》でプレイヤーにダイレクトアタックだ! スペシャル・ローリング・アタック5連打ァァァ!」
 5体の《ゴキボールトークン》があたしに向かってゴロゴロ転がってくる! けど、この攻撃を止める手段はない! ちくしょー!
 あたしの体に丸っこいゴキブリがドカドカとぶつかる! それに伴い、あたしのライフが減少した!

 《ゴキボールトークン》 攻:1200
 《ゴキボールトークン》 攻:1200
 《ゴキボールトークン》 攻:1200
 《ゴキボールトークン》 攻:1200
 《ゴキボールトークン》 攻:1200

 あたし LP:6100 → 4900 → 3700 → 2500 → 1300 → 100

 ……ッ!
 5体の《ゴキボールトークン》の総攻撃を食らい、6100ポイントあったあたしのライフは、あっという間にわずか100ポイントになってしまった!
 あ……あぶねえ〜! なんとか100ポイントだけ残ったよ! 首の皮1枚でつながったか……。
「くそくそくそ! 100ポイントだけ残ったか!」
「惜しかったですね。ダメージがあと100ポイント大きければ、あたしは負けてました」
「しぶとい! そういうところも鷹野さんそっくりだ! もしかして、ライフを100ポイントだけ残して生き延びる、というのも鷹野さんに教わったのかい?」
「いえ、さすがに教わってません。これは単に運が良かっただけです」
「運が良かった、ね……」
 そう、運が良かったのだ。是非ともこの幸運は有効活用したいところだ。
 あたしは状況を確認した。今、あたしのフィールドはがら空き。ライフは残りわずか100。対してパラコン先輩のフィールドには攻撃力1200の《ゴキボールトークン》が5体。ライフは残り7400。あたしの方が圧倒的に不利だ。
 でも、パラコン先輩の《ゴキボールトークン》は、攻撃力が低い。倒すこと自体は容易だ。数が多いのが厄介だけど、1体ずつ確実に撃破していけば問題はないはずだ。
 あたしの手札には攻撃力1600のチューナー、《白翼の魔術師》がいる。このモンスターを出せば、《ゴキボールトークン》は難なく蹴散らせる。それから、あたしの墓地には《覇王眷竜ダークヴルム》がいる。このモンスターは、自分フィールドにモンスターがいなければ墓地から特殊召喚できる。攻撃力は1800あるから、《ゴキボールトークン》を倒すことは簡単だ。
 つまり、今の持ち札なら、《ゴキボールトークン》を2体まで撃破可能だ。それから《白翼の魔術師》はチューナーだから、シンクロ召喚を使って状況を打開することも――。
 ――と、あれこれ考えていると、それを打ち消すようにパラコン先輩が言った。
「ライフをわずかに100残したのが幸運だと言うのなら、その幸運、ここで断ち切らせてもらおう! 僕は墓地の《豪気暴流融合》を除外して効果を発動!」
「えっ!? 墓地から魔法カードを!?」
「そう! 《豪気暴流融合》には、『ゴキボール』モンスターを融合召喚する効果とは別に、墓地から発動できる第2の効果がある! それを使わせてもらう!」
 なんと、パラコン先輩の使った《豪気暴流融合》には、もう1つの効果があるらしい。一体、どんな効果が?
「《豪気暴流融合》の第2の効果! 自分の墓地のこのカード及び『ゴキボール』と名のつく融合モンスター1体を除外することで、自分フィールドの『ゴキボール』と名のつくモンスター全てにゴキボールカウンターを1つずつ置くことができる! 僕は《マスター・オブ・ゴキボール》を除外! そして、《ゴキボールトークン》全てにゴキボールカウンターを置く!」

 《豪気暴流融合》:除外
 《マスター・オブ・ゴキボール》:除外

 《ゴキボールトークン》 ゴキボールカウンター:0 → 1
 《ゴキボールトークン》 ゴキボールカウンター:0 → 1
 《ゴキボールトークン》 ゴキボールカウンター:0 → 1
 《ゴキボールトークン》 ゴキボールカウンター:0 → 1
 《ゴキボールトークン》 ゴキボールカウンター:0 → 1

 《ゴキボールトークン》にカウンターが置かれた! それで何が起きるって言うの!?
「ゴキボールカウンターが置かれたモンスターが僕のフィールドを離れる度に、1体につき相手は1200ライフを失う! 迂闊に《ゴキボールトークン》を除去したりすれば、残りライフ100の君は即死する! 気をつけるんだな!」
「はああああっ!? ゴキブリを倒したらライフを失うって……何それ!?」
 次のターン、いかにして《ゴキボールトークン》を倒そうかと考えていたら、まさかの除去封じに出てきやがった! なんだその効果!


 豪気暴流融合
 (通常魔法)
 (1):自分のフィールド・墓地から、「ゴキボール」融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを除外し、その融合モンスター1体をエクストラデッキから融合召喚する。
 (2):自分の墓地の、このカードと「ゴキボール」融合モンスター1体を除外して発動できる。自分フィールドの「ゴキボール」モンスター全てにゴキボールカウンターを1つずつ置く。ゴキボールカウンターが置かれたモンスターが自分フィールドから離れる度に、1体につき相手は1200LP失う。


 《ゴキボールトークン》をパラコン先輩のフィールドから引き離せば、その時点であたしは1200ライフを失う。戦闘破壊、効果による除去、コントロール奪取、モンスター召喚のためのリリース――どんな手段だろうと、パラコン先輩のフィールドから《ゴキボールトークン》を引き離せば、あたしは1200ライフを失ってしまうのだ。ゴキボールカウンターが置かれた《ゴキボールトークン》は5体だから、全部のトークンを除去すれば、あたしは合計6000ライフを失うことになる。それ以前に、残りライフ100の今の状態じゃ、1体除去して1200ライフを失うだけでも敗北確定だ。
 さらに、1200ライフを失う、というのが曲者だ。1200ダメージを受けるのではなく、1200ライフを失う。ダメージを受ける効果ではなく、ライフを失う効果なのだ。この両者は似て非なるものだ。ダメージを受ける効果はそれなりに妨害手段があるけど、ライフを失う効果を妨害する手段は少ない。ていうか、そんな手段はあたしのデッキに存在しない。
 なんてことだ……。《ゴキボールトークン》を倒せば、その時点であたしの負けが確定するなんて。これじゃあ、迂闊に《ゴキボールトークン》に触れることができない。それどころか、パラコン先輩が《ゴキボールトークン》を、アドバンス召喚のためのリリースにしたり、融合素材にしたりしてフィールドから引き離した時点でアウトだ。
 そこまで考えたところで、あたしは恐ろしいことに気づいた。
 そうだ。まだパラコン先輩はこのターン、通常召喚をしていない。そして、先輩の手札は今2枚。もし、その2枚の中に上級モンスターがいたとしたら? 《ゴキボールトークン》をリリースし、その上級モンスターを召喚。それであたしはライフを失い、敗北が決まってしまう! たとえ、上級モンスターがなかったとしても、融合召喚を行えるカードがあれば、《ゴキボールトークン》を素材に融合召喚するだけで、あたしは負ける!
 あたしはパラコン先輩の表情を見た。彼はニヤニヤと不気味な笑みを浮かべている。
「フッフッフ……! 斉場さん。君の考えていることは手に取るように分かるよ。君は今こう考えている。僕の手札に上級モンスターか融合召喚を行えるカードがあれば、一巻の終わりだと。違うかい?」
「く……っ!」
「ははは! 図星のようだね! けどまあ、安心しなよ。今、僕の手札には、上級モンスターも《融合》のカードもない。だから、今すぐに君が死ぬことはない」
 え? そうなの?
 それなら、まだチャンスはある。今思いつくだけでも、この状況に対処する方法が2つある。
 方法の1つは、めちゃくちゃに攻撃力が高いモンスターを出して、そいつで《ゴキボールトークン》を攻撃し、パラコン先輩のライフを「一撃で」0にするという方法。これなら、《ゴキボールトークン》が戦闘破壊されてフィールドを離れる前に、ダメージ計算の段階でパラコン先輩のライフが0になるため、あたしは負けず、パラコン先輩に勝つことができる。
 もう1つは、《ゴキボールトークン》を何らかの形で戦闘破壊されないようにして、そいつをひたすら殴りまくってダメージを与えるという方法。《ゴキボールトークン》がフィールドから離れると困るのなら、離れないようにしてしまえばいい、というわけだ。それなら、あたしはライフを失うことなく、パラコン先輩にダメージを与えることができる。
 これら2つの方法を使えば、今の状況にも対処は可能だ。大丈夫、まだ希望は――。
「クックック……! 見える! 見えるぞ! 君の考えていることが見えるぞ、斉場さん!」
 パラコン先輩が勝ち誇ったような口調で言ってきた。
「君は今こう考えている! 高攻撃力のモンスターで《ゴキボールトークン》を殴って一撃必殺するとか、《ゴキボールトークン》に戦闘破壊耐性を与えてサンドバッグにするとか、そんな感じの方法を使えば、この状況に対処できる! ……とね。違うかい!?」
「なっ……!」
 考えを完全に読まれてる!
「フッ! またまた図星のようだな!」
「な……なんであたしの考えが分かるんですか!?」
「自分の戦略の弱点くらい分かってるからね。となれば、相手の考えも自動的に読めてくるよ。簡単なことさ」
 さらりとパラコン先輩は言ってのけた。そこには強者の余裕が漂っていた。
 この人は、強い――そのことを、あたしは改めて痛感した。
「自分の戦略の弱点が分かってるなら、それを補うことも可能だ! 僕は永続魔法《電(ジー)シールド》を発動!(手札:2→1)」
「で……電、じー、シールド……?」
 パラコン先輩が魔法カードを発動すると、《ゴキボールトークン》の体が電気のようなもので覆われた。
「永続魔法《電Gシールド》がある限り、『ゴキボール』モンスターの戦闘によって僕が受ける戦闘ダメージは0になる!」
「『ゴキボール』モンスターによる戦闘ダメージを打ち消すカード!? そ……それじゃあ……!」
「そうさ! 《ゴキボールトークン》を殴っても僕にダメージを与えることはできない! つまり、君の考える2つの戦法はいずれも封じられたってことさ!」
 なんてこった! せっかくの対処法が潰された! ちくしょー!
「こうなったら、《電Gシールド》のカードを破壊するしかない! それからゴキブリをぶん殴って――」
「それは無理だねぇ! 僕のフィールドに『ゴキボール』モンスターがいる限り、《電Gシールド》は相手のカード効果を受け付けない! 破壊は不可能だ!」
「えええええっ!? 何それぇぇぇぇ!?」


 電Gシールド
 (永続魔法)
 (1):自分の「ゴキボール」モンスターの戦闘で発生する自分への戦闘ダメージは0になる。
 (2):自分フィールドに「ゴキボール」モンスターが存在する限り、このカードは相手のカードの効果を受けない。


 くそっ! 《電Gシールド》がある限り、《ゴキボールトークン》を高攻撃力で殴ろうが、破壊耐性を与えてサンドバッグにしようが、パラコン先輩にダメージは与えられない! なんとしてでも《電Gシールド》を除去したいところだけど、《ゴキボールトークン》がいる限り、《電Gシールド》を除去することはできない! かといって、《ゴキボールトークン》を除去したりしたら、《豪気暴流融合》の効果によってあたしのライフが消し飛ぶ! どうにもならねぇぇぇ!
「これじゃあ、あたしは満足に攻撃もできない! もし、次のパラコン先輩のターンに、上級モンスターとか《融合》とか引かれたら、その時点であたしの負けが確定する……!」
 あたしのこの言葉を聞くと、パラコン先輩は「はっはっは!」と高笑いした。
「次の僕のターン、だって? 果たしてそれまでデュエルが続いているかなぁ?」
「え……? それ、どういう意味ですか……?」
「どういう意味かって? こういう意味だよ」
 パラコン先輩は、手札に残された1枚をフィールドに出した。
「僕は最後の魔法カードを発動する! 魔法カード《改造(ジー)限爆弾》!(手札:1→0)」
「改造……じー……限爆弾!?」
 またも妙なネーミングのカードが発動した。今度は何……?
「《改造G限爆弾》の効果により、僕のフィールドの『ゴキボール』モンスター全てに爆弾を仕掛ける!」
 パラコン先輩のフィールドの《ゴキボールトークン》全てに丸い形の爆弾が取り付けられた。
「自分のモンスターに爆弾を!?」
「この爆弾は次の相手ターンのエンドフェイズに爆発する! 爆発すれば当然、《ゴキボールトークン》は破壊される! そして、この効果で破壊したモンスターの数×500ダメージを相手に与える! つまり、次の君のターンのエンドフェイズ、僕のフィールドの《ゴキボールトークン》5体が破壊され、500×5=2500ダメージが君を襲う!」


 改造G限爆弾
 (通常魔法)
 (1):自分フィールドに「ゴキボール」モンスターが存在する場合のみ発動できる。次の相手ターンのエンドフェイズに、自分フィールドの「ゴキボール」モンスターを全て破壊し、破壊したモンスターの数×500ダメージを相手に与える。


 あたしは目の前が真っ暗になった。
「2500ダメージ!? そんなダメージを食らったら……!」
「残りライフ100の君じゃあ、2500ダメージなんて耐えられないだろうね!」
 パラコン先輩は意地の悪い笑みを浮かべた。
「次の君のターンのエンドフェイズに、君は2500ダメージを受けて敗北する! 言っておくけど、ダメージを無効にするカードを使ったとしても無駄なことだよ! 《ゴキボールトークン》が破壊され、フィールドから離れれば、《豪気暴流融合》の効果が適用され、君は1200×5=6000ライフを失うことになるからね! どの道、君がライフを失う運命に変わりはないってことだ!」
 そうだ。ダメージ効果を回避しても、ライフを失う効果は回避できない。何をどうやっても、次のあたしのエンドフェイズに、あたしのライフは尽きてしまう!
「君の命はあと1ターン! その1ターンで何ができるか見せてもらおう! 僕はこれでターンエンドだ!」


【あたし】 LP:100 手札:1枚(《白翼の魔術師》)
 モンスター:
  魔法&罠:

【パラコン先輩】 LP:7400 手札:0枚
 モンスター:《ゴキボールトークン》攻1200・GC×1、《ゴキボールトークン》攻1200・GC×1、《ゴキボールトークン》攻1200・GC×1、《ゴキボールトークン》攻1200・GC×1、《ゴキボールトークン》攻1200・GC×1
  魔法&罠:《電Gシールド》永続魔法
  ※GC=ゴキボールカウンター
  ※《豪気暴流融合》と《改造G限爆弾》が適用済み


 ターンがあたしに移る。
 あたしのフィールドはがら空き。手札は《白翼の魔術師》1枚だけ。残りライフはわずか100ポイント。それに対し、パラコン先輩のフィールドには《ゴキボールトークン》が5体と永続魔法《電Gシールド》が1枚。手札は0。残りライフは7400ポイント。圧倒的にあたしが不利だ。
 しかも、このターンのエンドフェイズ、《改造G限爆弾》の効果で5体の《ゴキボールトークン》が全て破壊され、あたしは2500ダメージを受ける。たとえダメージを回避する効果を使ったとしても、ゴキボールカウンターが置かれた《ゴキボールトークン》が破壊されフィールドを離れたことにより、《豪気暴流融合》の効果であたしは6000ライフを失ってしまう。これらの効果はすでに適用済みの効果なので、もう無効化することはできない。
 要するに、このターンのエンドフェイズが来るまでに勝利しなければ、ほぼ100パーセントあたしの負けが決まるということだ。ならば、なんとしてでも、エンドフェイズが来るまでにパラコン先輩のライフを0にして勝利したい。
 けど、パラコン先輩のフィールドには5体の《ゴキボールトークン》がいる。そして、そいつらに高攻撃力のモンスターで攻撃したとしても、永続魔法《電Gシールド》の効果により、パラコン先輩には戦闘ダメージを与えられない。ダメージを与えたければ《電Gシールド》を除去する必要があるけど、《電Gシールド》は《ゴキボールトークン》がいる限り、あたしのカードの効果を受けない。これじゃ除去するのはまず無理だ。《電Gシールド》を除去するためには、まず《ゴキボールトークン》を除去する必要がある。しかし、《ゴキボールトークン》を除去してフィールドから離せば、《豪気暴流融合》の効果により、あたしはフィールドから離れた《ゴキボールトークン》1体につき1200ライフを失ってしまう。《ゴキボールトークン》は除去しちゃいけない。けど、それじゃ《電Gシールド》を除去できないわけで……除去できなれば戦闘ダメージは与えられないわけで……ダメージを与えられなければエンドフェイズに敗北するわけで……。
 あああああ〜! ダメだ! いろんな要素がネチネチ絡み合って、身動きが全然取れない! 最悪だ最悪だ最悪だ! どうすりゃいいのこれ!?
 あたしは頭を掻きむしりながら考えた。どうする? どうすればこのターンのエンドフェイズが来るまでに勝つことができる? 考えろ……考えろ……。
 今、あたしの置かれた状況とはつまり、《ゴキボールトークン》の除去が不可能で、戦闘ダメージを与えるのが困難、というものだ。なら、ここは考え方を変えて、効果ダメージを与えて勝つことを考えてみたらどうか? 効果ダメージなら、問題なく与えることができる。それならなんとかなるんじゃないか?
 考えてみて、すぐにそれは無理だとあたしは結論付けた。パラコン先輩の残りライフは7400もある。これだけのライフを1ターンで、効果ダメージのみで削り切るのは、あたしのデッキでは不可能だ。あたしのデッキは基本的には、戦闘ダメージでライフを削っていくデッキなのだ。効果ダメージだけでライフを削り切るのは無理がある。
 じ……じゃあ、ライフ0にするのはあきらめて、デッキ破壊戦術に切り替えるか! ……いや、そんなことできるはずない。あたしのデッキにそんな戦術は組み込まれてない。デッキ破壊で勝つなんて不可能だ。
 同じ理由で、エクゾディアなどによる特殊勝利で勝つことも不可能だ。あたしのデッキに特殊勝利できるようなカードはない。
 勝つためには、戦闘ダメージを与える必要がある。けど、状況からして、戦闘ダメージを与えるのは困難……。ど、どうすればいい!?
「さあ、どうするのかな、斉場さん。君の命はあと1ターンだよ。1ターンで僕を倒せるものなら倒してみな!」
 くっそ〜! それが簡単にできたら苦労しないっつうの!
 あたしは手の平に滲んできた汗を服で拭いながら、思考を巡らせた。しかし、この状況をどうにかする方法は思い浮かばなかった。
 ここまで……なの? これであたしの負け?
 負けてしまったら、免許皆伝にはならない。その上、鷹野師匠との師弟関係は解消され、師匠から受け継いだデュエル技術も、全て失われてしまう。この半年間で積み上げてきたものが全て消え去ってしまうのだ。そんなのは嫌だ!
 そうなるのを防ぐためには、デュエルに勝つしかない。けど、どうやって? どうやってこの状況から勝利をつかむ? どうすればいい?
「どうしたんだい? 君のターンなんだから、早くカードをドローしなよ。もしかして、もうデュエルを続ける気がないのかな? それならさっさとサレンダーしてくれると助かるんだけどな」
 パラコン先輩が急かしてくる。
 あたしはデッキのカードに指を当てた。今、あたしの持ち札では状況を打開できない。このドローで、何か逆転のキーカードを引き当てなければならない。
 あたしはカードを引こうとした。ところが、カードを引こうとしても、腕が動かない。カードを引くことができない。
 あたし……カードを引くことを恐れている……。
 ここで引き当てたカード次第では、あたしの敗北が確定する。敗北すれば、この半年間で得た多くの物を失う。それを思うと、怖くてカードを引くことができない……!
「く……くそ……っ……!」
 何やってるんだ、あたしは……。ドローしないことには何も始まらないのに、こんなところでつまづいてどうするんだ! 早くカードを引くんだ!
 心の中で言ってはみたが、腕は動かない。カードを引こうとしない。敗北の恐怖が体を縛り付け、身動きを取らせまいとしてくる。
 そんなあたしを嘲るようにパラコン先輩が言った。
「フッ! 所詮、弟子はこの程度か! まあ、色々と楽しませてはくれたけど、鷹野さんの力には遠く及ばないね! やはり、僕ほどのデュエリストともなると、鷹野さんくらいのデュエリストでないと相手は務まらないということだな! はっはっは!」
 ち……ちくしょー! バカにしやがってー! けど、パラコン先輩が強いのは事実だ。実際にあたしは追い詰められ、敗北の一歩手前まで来ている。
 やっぱり、あたし程度の力ではパラコン先輩には勝てないのか? 大人しくサレンダーして負けを認めるしかないのか? 負けた罰としてこの半年間で得たものを全部失って、惨めな気持ちで帰宅して、思いっきりインスタント食品とかお菓子とかをヤケ食いして、そのせいで体調を思いっきり崩しちゃって、病院に運ばれて入院しちゃうとか、そんな結末を迎えるしかないのか……?
 目の前が真っ暗になっていく。そして、暗闇の中をゆっくりゆっくりと落ちていく――そんな感覚に陥った。
 ここまで……か……。





「チユ! あきらめんじゃねえ!」





 暗闇の中を落ちていくあたしの中に、最愛の人の声が響いた。
 桃花……桃花が叫んでいる。
 ふっと浮き上がるような感覚がして、あたしは現実世界に引き戻された。
 あたしは桃花の方を見た。桃花は太陽のような笑みを浮かべていた。
「チユ! まだデュエルは終わってないぜ! とにかくカードをドローしようや!」
「桃花……」
「とりあえず、まずはドローだ! あれこれ考えるのは、カードをドローしてからにしようぜ! なっ! あきらめるのはまだ早いってもんだ!」
 それによ、と桃花は続けた。
「『追い詰められたら、あきらめてサレンダーしろ』って鷹野先輩は教えてくれたか?」
「……!」
 あたしは首を横に振った。
「鷹野師匠は言ってた。『最後の瞬間まで、勝つために最善を尽くせ』って」
 半年間の稽古の中で、鷹野師匠は何度かそう言っていた。最後の瞬間まで、勝つために最善を尽くせ――。
 そうだ。最後の瞬間まで、勝つために最善を尽くさなきゃ。サレンダーなんてしちゃダメだ。ドローする前に投げ出しちゃダメだ。
 まずはカードをドローしよう。その上で、勝つために何ができるか考えよう。勝つために最善を尽くそう。それでダメならもう仕方ない。けれど、その結論が出る前に投げ出したりはしない!
 闘志を取り戻したあたしは、桃花の目をしっかりと見た。
「ありがとう、桃花! 愛してる!」
「俺も愛してる! 頑張れチユ!」
「うん、頑張るよ!」
 助けてくれてありがとう、桃花。今日、桃花がここに来てくれて良かった。
 それから鷹野師匠――。
 あたしは鷹野師匠を見た。相変わらず、師匠は空中にあぐらを掻いた姿勢で浮かんでいる。
「鷹野師匠! あたしはこのデュエル、最後まであきらめません! 最後の瞬間まで、勝つために最善を尽くします! 見ていてください!」
 あたしは鷹野師匠の顔を見て、感謝の気持ちを込めてはっきりと言った。
 鷹野師匠は――。





 鷹野師匠は、気持ち良さそうな寝顔を浮かべていた――。





 …………は?
 あたしは目をこすり、もう1度鷹野師匠の顔を見た。
 鷹野師匠は気持ち良さそうな寝顔を浮かべていた。間違いなく眠っていた。すやすやと眠っていた。
 師匠……寝てる……?
「鷹野師匠ォォォォォォォォォォ〜〜〜〜〜!」
 あたしは思い切り叫んだ。すると、鷹野師匠がゆっくりと目を開けた。
「ふわー……あ……」
 大きくあくびをして目をこすり、鷹野師匠は言った。
「……ん? え? 何?」
「何じゃねええええええ! この状況で何呑気に寝てるんですか!」
 し……信じられん! 弟子の最終試験デュエルの最中に寝るとは! なんなんだこの人は!
「ひどいじゃないですか! 弟子の最終デュエルなのに寝るなんて! 今思えば鷹野師匠、デュエルの途中から何も言わなくなってましたけど、あれって寝てたせいですか!?」
「ま……待って……。最終デュエル? ……ちょっと頭の中を整理させて」
 鷹野師匠は少しの間、考え込む姿勢を見せた。やがて彼女は何かに納得したようにうなずいた。
「思い出したわ。今日は斉場さんの最終試験デュエルだったわね」
「そうですよ! そんな大事な時になんで寝てるんですか!?」
「なんで寝たかって? 愚問ね。そんなの決まってるでしょ。眠かったからよ」
「何、堂々と言ってるんですか! 弟子の最終デュエルの真っ最中なのに寝るなんて、ひどいですよそんなの!」
「ひどいも何も、眠かったんだからしょうがないでしょ。あなたたちのデュエル見てたら眠くなっちゃったのよ」
 鷹野師匠に反省する気はないようだ。前から薄々感じてたけど、この人って結構、自分勝手だなぁ……。
「で、今どんな状況なの? どっちが勝ってるの?」
「今はパラコンがチユを追い詰めてる状況ですよ。チユは何かしら手を撃たないとこのターンで負けちゃいます」
 桃花が今の状況を簡単に説明する。それを聞いた鷹野師匠は、フィールドをざっと見て、「なるほど」と言った。
「ゴキブリまみれの戦場……実にパラコンらしいわね」
「なんかムカつく言い方だな……」
 パラコン先輩が顔をしかめた。
「鷹野さん。悪いけど、君の弟子の力はそれほどでもなかったよ。このデュエルはもうそろそろ終わりだ。僕の勝利でね」
「あら、そう」
「斉場さんを倒したら、約束通り、僕とデュエルしてもらうよ。分かってるよね?」
「分かってるわ。その時は相手してあげる」
 鷹野師匠はそう言うと、あたしの顔を見た。
「どうやら、あなたに与えられた猶予はあと1ターンらしいわね」
「まあ、そんな感じです」
 あたしが答えると、鷹野師匠はさらっとした口調で言った。
「じゃあ、その1ターンでパラコンを倒しなさい。あなたならできるでしょ?」
「か……簡単に言ってくれますね……」
「簡単でしょ。ほら、さっさとカードを引いて、さっさとカードを出して、さっさとパラコンを倒しちゃいなさい」
 鷹野師匠のその言葉に、パラコン先輩が反応する。
「おいおい、いくらなんでも、この状況を覆すのは簡単じゃないだろ。鷹野さんならともかく、斉場さんじゃ――」
「うっさいパラコン。ちょっとくたばってなさい」
「なっ!? なんだその言い方――」
「とにかく斉場さん。さっさとパラコンを倒しなさい。あなたはこの道場で、半年間に渡る厳しい稽古を見事にやり遂げた。そんなあなたがパラコンなどという、下等で愚劣で無様で矮小な低級雑魚デュエリストに負けるわけないわ」
「貴様ァァァァアァアアアァァアア! 誰が下等で愚劣で無様で矮小な低級雑魚デュエリストだゴルァァァァアアア!」
「斉場さん。あなたは私の自慢の弟子よ。絶対に勝てるわ。大丈夫、自分を信じて」
 叫ぶパラコン先輩をスルーして、鷹野師匠はあたしに言った。師匠のその言葉が、あたしの心の中にスーッと染み渡っていく。
 不思議と、自信が湧いてきた。大丈夫、あたしなら勝てる、あたしならやれる――そんな気持ちが心の中に満ち溢れた。
 あたしは鷹野師匠の目を見た。
「鷹野師匠! あたし、このデュエル、絶対に勝ちます!」
 堂々と宣言する。鷹野師匠はにっこりと微笑んだ。
「その意気よ。さあ、下等で愚劣で無様で矮小な低級雑魚デュエリストであるパラコンボーイを倒しなさい!」
「鷹野麗子! テメーは絶対に地獄に送ってやる!」
「はい師匠! 見ててください! 下等で愚劣で無様で矮小な低級雑魚デュエリストであるパラコン先輩を倒してみせます!」
「斉場チユ! テメーも地獄行き決定だ! 覚えてやがれ!」
 あたしは呼吸を整え、デッキのカードに指を当てた。
 もう大丈夫。恐れることなく、カードを引こう。あたしはこのデュエル――絶対に勝つ!
「あたしのターン、ドロー!(手札:1→2)」


 ガッチャ・フォース
 (罠カード)
 自分のライフが100ポイント以下の時に発動可能。
 ほぼ確実に、自分はそのデュエルに勝利する。
 ガッチャ! 楽しいデュエルだったぜ!


 逆・転・劇
 (罠カード)
 敵が反則レベルに強くて、主人公が追い詰められた時に発動!
 主人公は意外な方法で逆転する。





10章 手札増強!


 運命のラストターン。
 あたしはドキドキしながらドローカードを確認した。

 ドローカード:《終わりの始まり》

 引き当てたのは、魔法カード《終わりの始まり》。このカードは、自分の墓地に闇属性モンスターが7体以上いる時、その内の5体を除外することで発動し、デッキからカードを3枚ドローすることができる。


 終わりの始まり
 (通常魔法)
 (1):自分の墓地に闇属性モンスターが7体以上存在する場合、その内の5体を除外して発動できる。自分はデッキから3枚ドローする。


 ここに来て手札増強のカード! 手札が少ない今のあたしにとっては最高のカードだ! あたしの墓地にいる闇属性モンスターは……えーと……12体! 12体いるから、《終わりの始まり》は問題なく発動できる!
 このカードはもちろん発動するとして……まずは現在の状況を、もう1度よく確認しておこう。


【あたし】 LP:100 手札:2枚(《白翼の魔術師》、《終わりの始まり》)
 モンスター:
  魔法&罠:

【パラコン先輩】 LP:7400 手札:0枚
 モンスター:《ゴキボールトークン》攻1200・GC×1、《ゴキボールトークン》攻1200・GC×1、《ゴキボールトークン》攻1200・GC×1、《ゴキボールトークン》攻1200・GC×1、《ゴキボールトークン》攻1200・GC×1
  魔法&罠:《電Gシールド》永続魔法


 あたしのフィールドはがら空き。それに対し、パラコン先輩のフィールドには、攻撃力1200の《ゴキボールトークン》5体と永続魔法《電Gシールド》がある。
 《電Gシールド》がある限り、《ゴキボールトークン》に攻撃しても、パラコン先輩に戦闘ダメージは与えられない。さらに、《電Gシールド》はパラコン先輩のフィールドに《ゴキボールトークン》がいる限り、カード効果を受け付けない。


 電Gシールド
 (永続魔法)
 (1):自分の「ゴキボール」モンスターの戦闘で発生する自分への戦闘ダメージは0になる。
 (2):自分フィールドに「ゴキボール」モンスターが存在する限り、このカードは相手のカードの効果を受けない。



 《電Gシールド》を除去したければ、まずは《ゴキボールトークン》を除去する必要がある。けど、それはできない。何故なら、《ゴキボールトークン》にはゴキボールカウンターが置かれているから。ゴキボールカウンターが置かれた《ゴキボールトークン》をパラコン先輩のフィールドから離すと、《豪気暴流融合》の効果により、あたしは1体につき1200ライフを失ってしまう。残りライフ100のあたしにとって、それは死を意味する。《ゴキボールトークン》は絶対に除去しちゃいけない。


 豪気暴流融合
 (通常魔法)
 (1):自分のフィールド・墓地から、「ゴキボール」融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを除外し、その融合モンスター1体をエクストラデッキから融合召喚する。
 (2):自分の墓地の、このカードと「ゴキボール」融合モンスター1体を除外して発動できる。自分フィールドの「ゴキボール」モンスター全てにゴキボールカウンターを1つずつ置く。ゴキボールカウンターが置かれたモンスターが自分フィールドから離れる度に、1体につき相手は1200LP失う。



 そして、このターンのエンドフェイズには、《改造G限爆弾》の効果により、パラコン先輩の《ゴキボールトークン》5体が全て破壊され、1体につき500ダメージ、すなわち2500ダメージがあたしのライフを直撃する。


 改造G限爆弾
 (通常魔法)
 (1):自分フィールドに「ゴキボール」モンスターが存在する場合のみ発動できる。次の相手ターンのエンドフェイズに、自分フィールドの「ゴキボール」モンスターを全て破壊し、破壊したモンスターの数×500ダメージを相手に与える。



 もし、何らかの形で効果ダメージを防いだとしても、《ゴキボールトークン》の破壊によって《豪気暴流融合》の「ライフを失う」効果が適用され、あたしのライフは尽きる。どうやってもライフが0になる運命から逃れることはできないってわけだ。
 このターンのエンドフェイズが来るまでにパラコン先輩のライフを0にする――あたしがこのデュエルでパラコン先輩に勝つ方法はそれしかない。どうにかして、それを実現する方法を見つけ出さなきゃ。
 フィールドを確認したあたしは、今度は手札を確認する。パラコン先輩の手札は0。よって、手札誘発系のカードで邪魔される心配はない。対して、あたしの手札は2枚。このターン引き当てた魔法カード《終わりの始まり》と、前のターンにデッキから持ってきておいたペンデュラムモンスター《白翼の魔術師》だ。


 白翼の魔術師
 ペンデュラム・チューナー・効果モンスター
 星4/風属性/魔法使い族/攻1600/守1400
 【Pスケール:青1/赤1】
 (1):1ターンに1度、自分フィールドの魔法使い族・闇属性モンスター1体を対象として発動した効果を無効にできる。その後、このカードを破壊する。
 【モンスター効果】
 このカードはルール上「シンクロ・ドラゴン」カードとしても扱う。
 P召喚したこのカードはS召喚に使用された場合に除外される。


 《白翼の魔術師》は、スケール1のペンデュラムモンスターであり、レベル4のチューナーでもある。このカードだけでは、現状を打開することはできない。他のカードとどう組み合わせるかがカギとなる。
 手札の確認を終え、次は墓地に注目する。あたしの墓地には、自分フィールドにモンスターがいなければ墓地から復活できる《覇王眷竜ダークヴルム》がいる。フィールドががら空きの今なら、このモンスターの自己再生効果を使うことが可能だ。さらに、《覇王眷竜ダークヴルム》を召喚・特殊召喚すると、デッキから「覇王門」と名のつくペンデュラムモンスターを持ってこられる。そのことも考慮する必要があるだろう。


 覇王眷竜ダークヴルム
 ペンデュラム・効果モンスター
 星4/闇属性/ドラゴン族/攻1800/守1200
 【Pスケール:青5/赤5】
 (1):1ターンに1度、自分フィールドにモンスターが存在しない場合に発動できる。デッキから「覇王門」Pモンスター1体を選び、自分のPゾーンに置く。この効果の発動後、ターン終了時まで自分は闇属性モンスターしかP召喚できない。
 【モンスター効果】
 「覇王眷竜ダークヴルム」の(1)(2)のモンスター効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 (1):このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「覇王門」Pモンスター1体を手札に加える。
 (2):このカードが墓地に存在し、自分フィールドにモンスターが存在しない場合に発動できる。このカードを墓地から特殊召喚する。


 最後に、エクストラデッキに注目する。今、あたしのエクストラデッキは6枚。そのうち3枚は、前のあたしのターンにエクストラデッキに加わったペンデュラムモンスター、《覇王門零》、《覇王門無限》、《竜剣士マスターP》。それ以外の3枚は、内2枚がシンクロモンスター、残る1枚が《マスター・オブ・ゴキボール》のカードだ。《マスター・オブ・ゴキボール》は《浮幽さくら》の効果を使うために入れておいたもので、あたしの今のデッキで融合召喚することはできない。よって、あたしが今使えるエクストラデッキのカードは実質5枚ということになる。エクストラデッキのカードをいかにして使うか、ということもきちんと考えないといけない。そこに勝利につながるヒントが隠れているかもしれない。
 状況を一通り確認し終えたあたしは、最初の一手をどうするかを考えた。どうするか? 《白翼の魔術師》をフィールドに出すか? 墓地の《覇王眷竜ダークヴルム》を復活させるか? 《終わりの始まり》を使うか?
 少し考えた後、あたしは結論を出した。まずは手札を増やす!
「あたしは魔法カード《終わりの始まり》を発動! 自分の墓地に闇属性モンスターが7体以上いる時、その内の5体を除外することで、デッキからカードを3枚ドローする!(手札:2→1)」
「このタイミングで手札増強カード! しかも3枚ドローだと!?」
「あたしは、墓地から《シャドール・ビースト》、《浮幽さくら》、《魔界発現世行きデスガイド》、《幻銃士》、《幻魔皇ラビエル》を除外! そしてデッキから3枚ドローする!」

 《シャドール・ビースト》:除外
 《浮幽さくら》:除外
 《魔界発現世行きデスガイド》:除外
 《幻銃士》:除外
 《幻魔皇ラビエル》:除外

 墓地から5体の闇属性モンスターが除外され、あたしに3枚ドローの権利が与えられた! さあ、カードをドローしよう!
「まず1枚目! ドロー!(手札:1→2)」
 恐れることなく、自らのデッキを信じてカードを引き抜く。そして、そのカードを確認する。

 ドローカード:《サイバー・チュチュ》

 ドローしたカードは……チュチュを身に着けた女の子が描かれているカード、《サイバー・チュチュ》! あたしのフェイバリットカードだ! ラストターンのこの状況で、ようやく来てくれたか!


 サイバー・チュチュ
 効果モンスター
 星3/地属性/戦士族/攻1000/守 800
 (1):相手フィールドの全てのモンスターの攻撃力がこのカードの攻撃力よりも高い場合、このカードは直接攻撃できる。


 
 あたしのフェイバリットカード、《サイバー・チュチュ》。このカードは、攻撃力は1000ポイントと低いけど、相手フィールドの全モンスターの攻撃力が自身の攻撃力より高い場合、モンスターを飛び越えてダイレクトアタックできるという特殊能力を持つ。
 ……その能力を見て、あたしはハタと気づいた。
 そうだ。《サイバー・チュチュ》なら、パラコン先輩にダメージを与えられるじゃん。
 パラコン先輩のフィールドには《ゴキボールトークン》が5体いるけど、それらは全て攻撃力1200。《サイバー・チュチュ》の攻撃力よりも上だ。よって、《サイバー・チュチュ》は《ゴキボールトークン》を飛び越え、パラコン先輩にダイレクトアタックすることができる。パラコン先輩のフィールドにある永続魔法《電Gシールド》は、「『ゴキボール』モンスターの戦闘で発生する自分への戦闘ダメージ」を0にするけど、ダイレクトアタックによるダメージは防げない。だから、《サイバー・チュチュ》は問題なくパラコン先輩に戦闘ダメージを与えることができる。もちろん、ダイレクトアタックだから、《ゴキボールトークン》がフィールドを離れることはない。なので、《豪気暴流融合》によってライフを失う心配もない。
 そうだよ、ダイレクトアタックならダメージを与えられるじゃん! 《サイバー・チュチュ》使いであるあたしなら、このことにもっと早く気付くべきだった! どんだけ冷静さを欠いてたんだあたしは!
 《サイバー・チュチュ》……今はこのカードの力に賭けるしかない! 頼むぞ、《サイバー・チュチュ》!
 さて、ダイレクトアタックでダメージを与えればいい、というのは分かったけど、問題がある。《サイバー・チュチュ》の攻撃力のことだ。
 《サイバー・チュチュ》の攻撃力は1000ポイントと低い。今この状況でダイレクトアタックしても、与えられるダメージは1000ポイント。残りライフ7400のパラコン先輩のライフを削り切るには不充分だ。
 なら、《サイバー・チュチュ》の攻撃力を上げればいい、と考えたくなるけど、そう簡単には行かない。《サイバー・チュチュ》の攻撃力を上げた結果、《ゴキボールトークン》の攻撃力1200を上回ってしまうと、《サイバー・チュチュ》は直接攻撃の権利を失ってしまう。《サイバー・チュチュ》が自身の効果で直接攻撃できるのは、敵の全モンスターの攻撃力が《サイバー・チュチュ》よりも高い場合のみなのだ。
 《サイバー・チュチュ》の攻撃力を上げるなら、《ゴキボールトークン》の攻撃力1200を上回らない範囲でとどめる必要がある。つまり、《サイバー・チュチュ》の攻撃力は最大でも1199ポイントまでしか上げられない。
 1199ポイント……。1000ポイントとは199しか違わない。これじゃあ、パラコン先輩のライフを0にするのは無理だ。ダイレクトアタックによる勝利は不可能か……?
 いや、あきらめるのは早い。《終わりの始まり》のドローがあと2枚残ってる。まずは残る2枚のカードを引こう。その中に、何かダメージ数値を上げられるカードがあるかもしれない。
 あたしはデッキからカードを1枚引き抜いた。
「2枚目ドロー!(手札:2→3)」

 ドローカード:《ダブルアタック》

 次に引き当てたのは、魔法カード《ダブルアタック》。このカードは、手札のモンスター1体を墓地へ捨てることで、そのモンスターよりレベルの低いモンスター1体に、2回攻撃の権利を与えるカードだ。


 ダブルアタック
 (通常魔法)
 (1):手札からモンスター1体を墓地へ捨て、そのモンスターよりもレベルが低い自分フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。このターンそのモンスターは2回攻撃できる。


 このカードを使えば、《サイバー・チュチュ》に2回攻撃の権利を与えることができる。そうすれば、《サイバー・チュチュ》で2回ダイレクトアタックできるようになり、1000×2=2000ポイントの戦闘ダメージを与えることができる。
 けれど、それでも2000ダメージだ。7400のライフを削るには足りない。ダメだ。勝つためにはまだカードがいる。
 とにかく、最後の1枚を引こう。この1枚に賭ける――!
「3枚目、ドロー!(手札:3→4)」

 ドローカード:《終わりの始まり》

 ……!?
 な、なんと、最後に引き当てたのは2枚目の《終わりの始まり》! こいつを使って、もっと手札増強しろってことか!
 あたしの墓地の闇属性モンスターは、1枚目の《終わりの始まり》の発動コストとして5体が除外され、現在は7体となっている。《終わりの始まり》の発動条件は満たしている。
 ここは……《終わりの始まり》を使う以外ないだろう。今のあたしの持ち札じゃ、パラコン先輩のライフを削り切れない。もっとカードが必要だ。
「あたしは2枚目の《終わりの始まり》を発動!(手札:4→3)」
「え!? また!?」
「またです! あたしは墓地の闇属性モンスター、《捕食植物オフリス・スコーピオ》、《捕食植物ダーリング・コブラ》、《捕食植物キメラフレシア》、《ラブラドライドラゴン》、《D−HERO デッドリーガイ》を除外し、デッキから3枚ドローする!」

 《捕食植物オフリス・スコーピオ》:除外
 《捕食植物ダーリング・コブラ》:除外
 《捕食植物キメラフレシア》:除外
 《ラブラドライドラゴン》:除外
 《D−HERO デッドリーガイ》:除外

 新たに5体の闇属性モンスターが除外され、再び3枚ドローの権利を得る。この3枚ドローで、勝利を引き寄せてみせる!
「まず1枚目! ドロー!(手札:3→4)」

 ドローカード:《竜剣士ラスター(ペンデュラム)

 引き当てたのは、レベル4・スケール5のペンデュラム・チューナー《竜剣士ラスターP》。このカードは、ペンデュラムゾーンにいる時、もう片方の自分ペンデュラムゾーンのカードを破壊し、その同名カードをデッキから手札に加えるというペンデュラム効果を持つ。その一方、モンスター効果の方は、「竜剣士」モンスター以外の融合・シンクロ・エクシーズ素材に使用できないというデメリット効果しかない。


 竜剣士ラスターP
 ペンデュラム・チューナー・効果モンスター
 星4/光属性/ドラゴン族/攻1850/守 0
 【Pスケール:青5/赤5】
 (1):1ターンに1度、もう片方の自分のPゾーンにカードが存在する場合に発動できる。そのカードを破壊し、そのカードの同名カード1枚をデッキから手札に加える。
 【モンスター効果】
 このカードを素材として、「竜剣士」モンスター以外の融合・S・Xモンスターを特殊召喚する事はできない。


 このカードをペンデュラムゾーンに置き、もう片方のペンデュラムゾーンに《白翼の魔術師》を置く。そして、このカードのペンデュラム効果で《白翼の魔術師》を破壊すれば、デッキの中にある2枚目の《白翼の魔術師》を手札に加えることができる。ここで、手札に加えた《白翼の魔術師》をペンデュラムゾーンに置けば、スケール1の《白翼の魔術師》とスケール5の《竜剣士ラスターP》により、レベル2から4のモンスターをペンデュラム召喚できる。当然、《竜剣士ラスターP》の効果で破壊された1体目の《白翼の魔術師》もペンデュラム召喚可能だ。それから、エクストラデッキにいる《竜剣士マスターP》も出せる。こうして、ペンデュラム召喚によって大量展開したモンスターでシンクロ召喚を決めれば、あるいは――。
 ……と、考えてはみたものの、これではどうやってもパラコン先輩のライフを削り切るのは不可能だ。あたしのエクストラデッキにいるシンクロモンスターでは、この状況を打開することはできない。まだカードが足りない……。
 だんだんと不安がこみ上げてくる。それを振り切るように、あたしは2枚目のカードを引いた。
「2枚目ドロー!(手札:4→5)」

 ドローカード:《EM(エンタメイト)トランプ・ガール》

 次に引き当てたのは、レベル2・スケール4のペンデュラムモンスター《EMトランプ・ガール》。ペンデュラム効果は持たないが、自身を含む自分フィールドのモンスターを融合素材とすることで、《融合》なしで融合召喚できるモンスター効果を持つ。その他、ペンデュラムゾーンで破壊された場合に自分の墓地のドラゴン族融合モンスター1体を特殊召喚するモンスター効果も持っている。


 EMトランプ・ガール
 ペンデュラム・効果モンスター
 星2/闇属性/魔法使い族/攻 200/守 200
 【Pスケール:青4/赤4】
 【モンスター効果】
 (1):1ターンに1度、自分メインフェイズに発動できる。融合モンスターカードによって決められた、このカードを含む融合素材モンスターを自分フィールドから墓地へ送り、その融合モンスター1体をエクストラデッキから融合召喚する。
 (2):このカードがPゾーンで破壊された場合、自分の墓地のドラゴン族の融合モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターはエンドフェイズに破壊される。


 残念ながら、今のあたしのエクストラデッキに残る融合モンスターは《マスター・オブ・ゴキボール》1体のみ。《EMトランプ・ガール》の効果では融合召喚できない。また、あたしの墓地には今、ドラゴン族融合モンスターがいないので、もう片方のモンスター効果も使えない。そして、このカード自身は攻撃力が低いため、攻撃要員としても使えない。
 このターンに入ってから、通常ドローを含めると6枚ものカードを引いた。にもかかわらず、今の状況をひっくり返すことはできそうにない。やっぱりダメなのか? もうこのデュエル、勝つことはできないのか?
 いや、あきらめるな。まだドローできるカードは1枚残っている。この1枚で、何かが変わるかもしれない。あきらめるのは早い。
 しかし……一体、何のカードを引けばいい? 何を引き当てれば、あたしは勝つことができるだろう?
 あたしは5枚まで増えた手札を見た。そして、今の自分に何が足りないかを考えた。何が足りない――?
 答えは明白だ。足りないのは攻撃力。パラコン先輩のライフを削り切るには、攻撃力が足りない。
 今、あたしがパラコン先輩のライフを削り切るには、《サイバー・チュチュ》の直接攻撃能力に頼るしかない。しかし、《サイバー・チュチュ》の攻撃力は1000と低い。《ダブルアタック》で攻撃回数を2回に増やしても、与えられるダメージは2000。7400あるパラコン先輩のライフを削り切ることはできない。
 勝ちたければ、《サイバー・チュチュ》の攻撃力を上げてやる必要がある。けれど、《サイバー・チュチュ》の攻撃力を上げ過ぎると、《ゴキボールトークン》の攻撃力1200を上回ってしまい、《サイバー・チュチュ》は直接攻撃できなくなる。直接攻撃できなければ、パラコン先輩にダメージは与えられない。
 ……どうする? 《サイバー・チュチュ》の攻撃力を上げようにも、最大で1199までしか上げられない。それよりも上げてしまうと、もう直接攻撃できない。でも、攻撃力1199で2回直接攻撃したとしても、与えられるダメージは2398ポイント。ライフ0にするにはまるで足りない。
 せめて、《ゴキボールトークン》の攻撃力がもっと高ければなぁ……。たとえば、《ゴキボールトークン》の攻撃力が10000とかあれば、《サイバー・チュチュ》の攻撃力をバンバン上げることができるんだけど、実際の《ゴキボールトークン》の攻撃力はわずか1200。そのせいで、《サイバー・チュチュ》の攻撃力を迂闊に上げられない。なんで《ゴキボールトークン》の攻撃力ってあんな低いの? まあ、そのおかげで、あたしはこうしてライフ100で生き延びてるわけなんだけどさ……――。

 ――……?

 ちょっと待って。今、あたし何を考えた?
 今、あたしは……《ゴキボールトークン》の攻撃力がもっと高ければ、って考えた。そう、《ゴキボールトークン》の攻撃力が高ければ、《サイバー・チュチュ》の攻撃力をバンバン上げられる。そうすれば、パラコン先輩に与えられるダメージも大きくなる。
 そのことを考えた時、心の中で、何かが引っかかった。何かが……。
 考える。心の中で何が引っかかったのかを考える。考えていくうちに、何かの答えが浮かび上がってくる。しかし、その答えはもやもやとしていて、正体がよくつかめない。けれど、あと一歩のところでつかめそうな気がする。あと一歩、本当にあと一歩――。
 気がつくと、あたしはデッキのカードに指を当てていた。このカードを引けば、答えが分かる――そんな気がする。根拠はないけど、そんな気がするのだ。
 これが3枚目のドロー。そして、おそらくはこのターン、いや、このデュエル最後のドロー。このドローに……全てを賭ける――!
「ドロー!(手札:5→6)」
 カードを引き抜いたあたしは、ゆっくりとそのカードの正体を確認した。





 その瞬間、もやもやとしていた答えが、はっきりと明確なものになった。





 ――そうか、これがあたしのデッキが導き出した答え。
「ははっ……!」
 あたしは思わず笑い声を漏らした。
 あたしが引き当てたカードは、《サイバー・チュチュ》とのコンボを狙って入れておいたカードだった。それを見た瞬間、手札・墓地・エクストラデッキのカードが線でつながり、あたしの頭の中に1つの戦術が浮かび上がった。
 まさか……まさか、あたしのデッキに、こんな戦術が隠されていたなんて。今の今まで全然気づかなかった。こんな土壇場で新たな戦術が生み出されるとは……デュエルというのは、最後まで何が起きるか分からない……。
「カードドローにどんだけ時間かけてるんだ君は! 早く進めてくれよ!」
 パラコン先輩が急かしてきた。もういい加減待ちくたびれているみたいだ。
 あたしは、頭の中に浮かんだ新たな戦術に間違いがないかを確認した。……うん、大丈夫、間違いはない。
 あたしはパラコン先輩の方を見た。
「パラコン先輩! お待たせしましたね! 考えがまとまりました!」
「ホント、どんだけ待たせるんだよ……。で、どうするわけ? 負けを認めてサレンダーするの?」
「サレンダー? まさか」
 あたしはニヤリとした。そして、はっきりと告げた。
「このデュエル、あたしの勝ちです!」
「何……!? そんなバカな!」
 パラコン先輩が驚愕に顔を染めた。
「君はこの状況をひっくり返すって言うのか!?」
「その通りです! この状況をひっくり返し、勝利してみせます!」
 あたしの宣言を聞き、桃花が叫んだ。
「よっしゃー! 信じてたぜチユ! 行っけぇ! チユの全力を見せてやれぇー!」
 また、鷹野師匠も感心したように言った。
「斉場さん。やはり、あなたは私の自慢の弟子ね。あなたの全力、見せてもらうわ」
 あたしは桃花と鷹野師匠の方を見て1つうなずくと、パラコン先輩の顔を見据えた。
「パラコン先輩! 見せてあげます! あたしの最高の戦術を!」
「くっ……!」
 さあ、逆転開始だ! このデュエル、あたしが勝つ!
 というわけで、11章へ続く!
「ここで『続く』!? つーか、カードドローだけで1章使い切りやがったぞオイ! どういうことだ!?」
「へっへっへ……スンマセン」





11章 ※新マスタールールでは再現できません2


【あたし】 LP:100 手札:6枚(《白翼の魔術師》、《サイバー・チュチュ》、《ダブルアタック》、《竜剣士ラスターP》、《EMトランプ・ガール》、???)
 モンスター:
  魔法&罠:

【パラコン先輩】 LP:7400 手札:0枚
 モンスター:《ゴキボールトークン》攻1200・GC×1、《ゴキボールトークン》攻1200・GC×1、《ゴキボールトークン》攻1200・GC×1、《ゴキボールトークン》攻1200・GC×1、《ゴキボールトークン》攻1200・GC×1
  魔法&罠:《電Gシールド》永続魔法


 いよいよ、あたしの逆転フェイズが始まる! このデュエル、あたしが勝つ!
「あたしはまず、墓地の《覇王眷竜ダークヴルム》の効果発動! このカードは、自分フィールドにモンスターがいない時、墓地より特殊召喚できる! 蘇れ、《覇王眷竜ダークヴルム》!」
 墓地に眠るダークヴルムがフィールドに舞い戻る。それと同時に、ダークヴルムの効果が発動する。
「《覇王眷竜ダークヴルム》のモンスター効果! このカードが召喚・特殊召喚に成功したことにより、あたしはデッキから『覇王門』ペンデュラムモンスター1体を手札に加えることができる! あたしは《覇王門零》を手札に加える!(手札:6→7)」
「自己再生した上、『覇王門』を持ってくるとは、マジでチート極まりない効果だな!」
 ダークヴルムの効果により、レベル7・スケール0のペンデュラムモンスター《覇王門零》が手札に加わった。


 覇王門零
 ペンデュラム・効果モンスター
 星7/闇属性/悪魔族/攻 0/守 0
 【Pスケール:青0/赤0】
 (1):自分フィールドに「覇王龍ズァーク」が存在する場合、自分が受ける全てのダメージは0になる。
 (2):1ターンに1度、もう片方の自分のPゾーンに「覇王門無限」が存在する場合に発動できる。自分のPゾーンのカード2枚を破壊し、デッキから「融合」魔法カードまたは「フュージョン」魔法カード1枚を手札に加える。
 【モンスター効果】
 (1):1ターンに1度、このカード以外の自分フィールドの表側表示のカード1枚を対象として発動できる。そのカードとこのカードを破壊し、ドラゴン族の融合モンスターまたはドラゴン族のSモンスター1体をエクストラデッキから特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターの攻撃力・守備力は0になり、効果は無効化され、S・X召喚の素材にできない。
 (2):モンスターゾーンのこのカードが戦闘・効果で破壊された場合に発動できる。このカードを自分のPゾーンに置く。


 あたしは手札から2枚のカードを選び取った。
「続いて、スケール1の《白翼の魔術師》と、スケール5の《竜剣士ラスターP》でペンデュラムスケールをセッティング!(手札:7→5)」
 あたしのフィールドの両脇に光の柱が1本ずつ出現し、それぞれの柱に、セッティングしたペンデュラムモンスターが浮かび上がった。
「スケール1とスケール5! レベル2から4のペンデュラム召喚か!?」
「あわてないあわてない。まずは《竜剣士ラスターP》のペンデュラム効果発動! 1ターンに1度、もう片方の自分のペンデュラムゾーンのカードを破壊し、その同名カード1枚をデッキから手札に加えることができる! この効果で、ペンデュラムゾーンの《白翼の魔術師》を破壊!」

 《白翼の魔術師》:破壊 → エクストラデッキ

「そして、2枚目の《白翼の魔術師》をデッキから手札に加える!(手札:5→6)」
「これで1枚目の《白翼の魔術師》はエクストラデッキに加わったってわけか」
「その通りです」
 さて、次はペンデュラム召喚だ。そのためには、ペンデュラムゾーンにカードを出さないといけない。どうするかな? スケール1の《白翼の魔術師》を出すか、スケール0の《覇王門零》を出すか。……まあ、どちらを出しても変わりないんだけどね。
 とりあえず、《白翼の魔術師》を出しておくか。
「あたしは、セッティング済みのスケール5《竜剣士ラスターP》と、手札のスケール1《白翼の魔術師》でペンデュラムスケールをセッティング!(手札:6→5)」
「くっ……! 再び《竜剣士ラスターP》と《白翼の魔術師》が揃った!」
「これでレベル2から4のモンスターが同時に召喚可能! 揺れろ! 魂のペンデュラム! 天空に描け光のアーク! ペンデュラム召喚! 来い! あたしのモンスター達!」
 ペンデュラム召喚により、あたしの手札・エクストラデッキからモンスターが呼び出される!
「エクストラデッキから蘇れ! レベル4、《竜剣士マスターP》! 同じくレベル4、《白翼の魔術師》! 続いて手札より、レベル2、《EMトランプ・ガール》! そして真打登場! マイフェイバリットモンスター! レベル3、《サイバー・チュチュ》!(手札:5→3)」
 ペンデュラム召喚により、あたしのフィールドのモンスターが一気に5体となった! その中には、フェイバリットカードである《サイバー・チュチュ》の姿もある!
「一気にモンスターを5体まで増やすとは! ペンデュラム召喚、なんて恐ろしい召喚法なんだ! 実に邪悪だ! けど、いくらモンスターを並べたところで、君に手出しはできないはずだ!」
 パラコン先輩は、驚きはしたものの、まだ余裕を保っている。
「君のフィールドのモンスターの内、《覇王眷竜ダークヴルム》、《竜剣士マスターP》、《白翼の魔術師》ならば《ゴキボールトークン》を倒せる! けど、《ゴキボールトークン》を倒しても、《電Gシールド》によって僕への戦闘ダメージは0となる! その上、《ゴキボールトークン》がフィールドを離れたことで、君は《豪気暴流融合》の効果で1200ライフを失う! さらに、《EMトランプ・ガール》と《サイバー・チュチュ》では《ゴキボールトークン》を戦闘破壊することすらできない! モンスターを並べたところで、君には何もできはしない!」
 パラコン先輩が指摘してきた。
 その指摘は大体合っている。けど、大事な部分が抜け落ちている。
「パラコン先輩。大事なことを忘れていますよ」
「えっ?」
「《サイバー・チュチュ》のモンスター効果のことを忘れています! このモンスターは、相手フィールドの全モンスターの攻撃力が自身の攻撃力より高い場合、モンスターを飛び越えてダイレクトアタックすることができます!」
「なっ!? ダイレクトアタックだと!?」
 パラコン先輩の顔が歪んだ。
「ダイレクトアタックによるダメージは、《電Gシールド》では防げない! そして、ダイレクトアタックならば、《ゴキボールトークン》を破壊することもないため、《豪気暴流融合》のライフを失う効果も適用されない!」
「くそっ! その手があったか! だが、《サイバー・チュチュ》の攻撃力はわずか1000ポイント! その程度の攻撃力でダイレクトアタックをしたところで、僕のライフ7400を削り切ることは不可能だ!」
「さあ、それはどうでしょう?」
 あたしは手札から魔法カードを発動した。
「魔法カード《ダブルアタック》を発動! 手札のモンスター1体を墓地へ捨てることで、そのモンスターよりもレベルが低いモンスター1体は、このターン2回攻撃できるようになる! あたしは手札のレベル7モンスター《覇王門零》をコストに、レベル3の《サイバー・チュチュ》に2回攻撃の権利を与える! これでこのターン、《サイバー・チュチュ》は2回攻撃ができる!(手札:3→1)」
「げっ! 攻撃回数を増やしてきたか! けど、攻撃力1000で2回攻撃したところで、僕のライフは2000しか削られない! 僕に勝つのは不可能だ!」
 パラコン先輩はあたしのフィールドの《サイバー・チュチュ》を指さした。
「僕のライフを0にしたければ、《サイバー・チュチュ》の攻撃力を上げてやる必要がある! けど、迂闊に攻撃力を上げれば、《サイバー・チュチュ》の直接攻撃能力を阻害することになる! そのことは君だって分かっているはずだ!」
 もちろん分かっている。《サイバー・チュチュ》の攻撃力が《ゴキボールトークン》の攻撃力である1200以上になってしまうと、もう《サイバー・チュチュ》で直接攻撃することはできない。《サイバー・チュチュ》の攻撃力を上げるなら、その点を考慮しなければならない。
「《サイバー・チュチュ》の攻撃力は最大1199までしか上げられない! それより上げると、《サイバー・チュチュ》は直接攻撃できない! けど、攻撃力1199で2回攻撃しても、僕のライフを削り切るのは無理だ! つまり、君が僕に勝つのは不可能ってことだ! さあ、悪あがきはやめて、いさぎよくサレンダーしたまえ!」
 パラコン先輩が勝ち誇ったように言った。先輩は、自分が負けるはずがないと信じているようだ。
 その様子を見て、あたしは小さく笑った。
「パラコン先輩! 言ったはずです! このデュエルはあたしが勝つと!」
「まだそんなことを……!」
「あたしの手札はまだ1枚残っています! 今こそ、このカードを使う時! 見せてあげます、パラコン先輩! あたしの最高の戦術を!」
 あたしは手札に残された最後の1枚を、デュエル・ディスクにセットした!





「魔法カード《スマイル・ワールド》を発動!(手札:1→0)」





 最後の1枚が発動した瞬間、フィールドが大きく変化した。
 あたしたちの周囲に、無数の笑顔が出現した。様々な色で表現された笑顔達は、フィールドをあちらこちらへと動き回っている。
「なんだ!? 何が起こっている!? この、フィールドに貼り付いた笑顔どもはなんだ!?」
 パラコン先輩が困惑する。あたしは言った。
「魔法カード《スマイル・ワールド》により、フィールドは笑顔によって支配された! このフィールドでは、笑顔にならない者は死ぬことになる!」
「はああああっ!? 笑顔にならないと死ぬだとぉっ!? 嘘だろ!?」
「嘘です。けど、このカードにより、あたしの勝利へと一歩近づきました! それは確かな事実です!」
 あたしはフィールドのモンスター達を指さした。
「《スマイル・ワールド》の効果! ターン終了時まで、フィールドの全モンスターの攻撃力は、フィールドのモンスターの数×100アップする!」
「全体強化のカードか!」


 スマイル・ワールド
 (通常魔法)
 (1):フィールドの表側表示モンスターの攻撃力はターン終了時まで、フィールドのモンスターの数×100アップする。


「今、フィールドにいるモンスターは全部で10体! よって、フィールドの全モンスターの攻撃力が1000アップする!」
 《スマイル・ワールド》の効果が適用され、あたしのフィールドの《覇王眷竜ダークヴルム》、《竜剣士マスターP》、《白翼の魔術師》、《EMトランプ・ガール》、《サイバー・チュチュ》、それから、パラコン先輩の《ゴキボールトークン》5体が笑顔になり、攻撃力が1000上昇した。

 《覇王眷竜ダークヴルム》 攻:1800 → 2800
 《竜剣士マスターP》 攻:1950 → 2950
 《白翼の魔術師》 攻:1600 → 2600
 《EMトランプ・ガール》 攻:200 → 1200
 《サイバー・チュチュ》 攻:1000 → 2000

 《ゴキボールトークン》 攻:1200 → 2200
 《ゴキボールトークン》 攻:1200 → 2200
 《ゴキボールトークン》 攻:1200 → 2200
 《ゴキボールトークン》 攻:1200 → 2200
 《ゴキボールトークン》 攻:1200 → 2200

 パラコン先輩は、攻撃力が上がった《ゴキボールトークン》を見て、目をぱちくりさせた。
「あれ? 《スマイル・ワールド》の効果は僕のモンスターにも適用されるのか! 敵モンスターの攻撃力まで上げてしまうとは、なんたる雑魚カードなんだ! そんなカードをデッキに入れてるとは、さては貴様、真のデュエリストではないな!?」
「いいや、パラコン先輩! あたしのデッキに雑魚なんていないですよ! 《スマイル・ワールド》の効果により、《サイバー・チュチュ》の攻撃力が上がったことで、先輩が受けるダメージは大きくなります!」
「くっ、そうだった……! あ、でも、《サイバー・チュチュ》の攻撃力が《ゴキボールトークン》の攻撃力を超えてしまったから、直接攻撃はできないはず――って、ああっ! そうか! そういうことか!」
 パラコン先輩はハッとした表情を浮かべ、次の瞬間には顔色が悪くなった。
「《スマイル・ワールド》によって、《ゴキボールトークン》の攻撃力は、《サイバー・チュチュ》と同じく1000上昇している! つまり、《サイバー・チュチュ》の攻撃力は、《ゴキボールトークン》よりも下のまま……!」
「そういうことです! 全モンスターの攻撃力が同じ数値だけ上昇したんですから、それぞれの攻撃力の大小関係は変化しません!」
「そのための《スマイル・ワールド》か! この方法なら、直接攻撃能力を阻害することなく、《サイバー・チュチュ》の攻撃力を上げられる……!」
 その通り! そのために、あたしは《スマイル・ワールド》のカードをデッキに入れておいたのだ! 《サイバー・チュチュ》とのコンボのために!
「だ……だが! 攻撃力を上げたものの、《サイバー・チュチュ》の攻撃力は2000! その状態で2回ダイレクトアタックしても、与えられるダメージは4000! 僕のライフ7400は削り切れない! 残念だったな!」
 一瞬、焦りを見せたパラコン先輩だったが、すぐに余裕を取り戻していく。
 けれど、その余裕はすぐに消え去ることになるだろう! 何故なら、あたしの戦術にはまだ続きがあるから!
「あわてないあわてない! お楽しみはこれからだ!」
 あたしはフィールドに向けて右手をかざした。
「あたしは、レベル4《覇王眷竜ダークヴルム》に、レベル4《白翼の魔術師》をチューニング!」
「なっ!? ここでシンクロ召喚だと!?」
 《覇王眷竜ダークヴルム》が4つの光点となり、《白翼の魔術師》が4つの光輪となる。そして、それらが1つに交わり、新たなモンスターへと姿を変える!
「剛毅の光を放つ勇者の剣! 今ここに閃光と共に目覚めよ! シンクロ召喚! レベル8! 《覚醒の魔導剣士(エンライトメント・パラディン)》!」
 シンクロ召喚により、あたしのフィールドに魔導剣士が降臨した! しかし、パラコン先輩の余裕は崩れない。
「攻撃力2500のシンクロモンスターか! しかし、今さらそんなモンスターを呼んだところで、僕のフィールドのモンスターには手出しできまい! 覚醒が聞いてあきれる!」
「それはどうかな!? あたしは《覚醒の魔導剣士》のモンスター効果を発動! 『魔術師』ペンデュラムモンスターを素材としてこのカードのシンクロ召喚に成功した場合、自分の墓地の魔法カード1枚を選択して手札に加えることができる!」


 覚醒の魔導剣士
 シンクロ・効果モンスター
 星8/闇属性/魔法使い族/攻2500/守2000
 チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上
 「覚醒の魔導剣士」の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
 (1):「魔術師」Pモンスターを素材としてこのカードがS召喚に成功した場合、自分の墓地の魔法カード1枚を対象として発動できる。そのカードを手札に加える。
 (2):このカードが戦闘で相手モンスターを破壊した時に発動できる。そのモンスターの元々の攻撃力分のダメージを相手に与える。


 あたしの言葉を聞き、パラコン先輩が青ざめた。
「ぼ……墓地の魔法カードを回収するだと!? なんだそのチート効果は! まさか、君はそれを使って……」
「そう! あたしはこの効果で、先ほど墓地へ行ったこの魔法カード――《スマイル・ワールド》を回収する!(手札:0→1)」
 あたしの手札に、《スマイル・ワールド》が帰還する。あたしは、それをすぐさまフィールドに出した!
「手札に戻した《スマイル・ワールド》を発動! これにより、ターン終了時まで、フィールドの全モンスターの攻撃力は、フィールドのモンスターの数×100アップする!(手札:1→0)」
 《スマイル・ワールド》の再発動により、フィールドを飛び交う笑顔の数が倍加した!
「今、フィールドのモンスターの数は9体! よって、全モンスターの攻撃力は900アップする!」

 《竜剣士マスターP》 攻:2950 → 3850
 《EMトランプ・ガール》 攻:1200 → 2100
 《覚醒の魔導剣士》 攻:2500 → 3400
 《サイバー・チュチュ》 攻:2000 → 2900

 《ゴキボールトークン》 攻:2200 → 3100
 《ゴキボールトークン》 攻:2200 → 3100
 《ゴキボールトークン》 攻:2200 → 3100
 《ゴキボールトークン》 攻:2200 → 3100
 《ゴキボールトークン》 攻:2200 → 3100

 《スマイル・ワールド》の効果が適用され、フィールドの全モンスターが笑顔になり、攻撃力が上昇した。
「これで《サイバー・チュチュ》の攻撃力は2900です! もちろん、《ゴキボールトークン》の攻撃力も上がっているため、《サイバー・チュチュ》の直接攻撃の権利は失われていません!」
「く……っ……! 攻撃力2900か……! だ……だが、攻撃力2900で2回攻撃しても、合計ダメージは5800! 僕のライフを削り切るにはまだ足りない!」
 たしかに、まだ攻撃力が足りない。デュエルに勝つためには、もっと《サイバー・チュチュ》の攻撃力を上げなければいけない。
 だから、こうするのだ!
「まだですよパラコン先輩! まだあたしのコンボは完成していません! あたしは、レベル8《覚醒の魔導剣士》に、レベル2《EMトランプ・ガール》をチューニング!」
「何!? 更なるシンクロだと!? というか、《EMトランプ・ガール》はチューナーではないはず! チューナー無しでシンクロなんてルール違反以外の何物でもない! 血迷ったか!?」
「いいや、そんなことはないですよ! フィールドを見てください!」
 あたしのフィールドでは、《EMトランプ・ガール》が2つの光輪となり、《覚醒の魔導剣士》が8つの光点となっている。それは、シンクロ召喚が正しく行われている証だ。
「な……なんでだ!? チューナーも無しにどうしてシンクロが!? デュエル・ディスクが故障したのか!?」
「違いますよ! デュエルモンスターズの世界には、ペンデュラム召喚したペンデュラムモンスターをチューナーとして扱い、シンクロ召喚できるモンスターがいます! 今それを見せてあげます!」
 2つの光輪と8つの光点が1つに交わる。そして、新たな魔導剣士が誕生する!
「平穏なる時の彼方から、あまねく世界に光を放ち、蘇れ! シンクロ召喚! 現れろ、レベル10! 《涅槃の超魔導剣士(ニルヴァーナ・ハイ・パラディン)》!」
 あたしのフィールドに、最上級の魔導剣士が降り立った! それを見て、パラコン先輩が顔をしかめる。
「くっ! まさか、チューナーも無しにシンクロしてくるとは! 《涅槃の超魔導剣士》……攻撃力は3300か! 今そいつで攻撃したところで、僕を倒すことはできない……けど、君だってそれは分かってるはず。なのに、無意味にシンクロ召喚するとは思えない……。となると、目的はモンスター効果か!」
「その通り! あたしは《涅槃の超魔導剣士》のモンスター効果を発動! ペンデュラム召喚したペンデュラムモンスターをチューナーとして、このカードがシンクロ召喚に成功した場合、自分の墓地のカード1枚を選択して手札に加えることができる!」


 涅槃の超魔導剣士
 シンクロ・ペンデュラム・効果モンスター
 星10/闇属性/魔法使い族/攻3300/守2500
 【Pスケール:青8/赤8】
 (1):自分のPモンスターが攻撃する場合、そのモンスターはその戦闘では破壊されず、その戦闘で発生する自分への戦闘ダメージは0になる。
 (2):自分のPモンスターが攻撃したダメージステップ終了時に発動する。相手フィールドの全てのモンスターの攻撃力はターン終了時まで、攻撃したそのモンスターの攻撃力分ダウンする。
 【モンスター効果】
 チューナー+チューナー以外のSモンスター1体以上
 このカードをS召喚する場合、自分フィールドのP召喚したPモンスター1体をチューナーとして扱う事ができる。
 (1):このカードがP召喚したPモンスターをチューナーとしてS召喚に成功した場合、自分の墓地のカード1枚を対象として発動できる。そのカードを手札に加える。
 (2):このカードが戦闘で相手モンスターを破壊した時に発動できる。相手のLPを半分にする。
 (3):モンスターゾーンのこのカードが戦闘・効果で破壊された場合に発動できる。このカードを自分のPゾーンに置く。


 あたしの言葉を聞き、パラコン先輩が地団太を踏んだ。
「チキショオ! そいつも墓地回収効果を持ってんのか! しかも、なんでも手札に戻せるのかよ!?」
「戻せるんですよねー、それが! まあ、あたしが手札に戻すカードは決まってますけどね! あたしが手札に戻すのは当然このカード! 《スマイル・ワールド》です!(手札:0→1)」
「また《スマイル・ワールド》が手札に入っただとぉぉぉぉぉ!?」
「そして、すかさず《スマイル・ワールド》を発動! ターン終了時まで、フィールドの全モンスターの攻撃力は、フィールドのモンスターの数×100アップする! 今、フィールドのモンスターは8体! よって、全モンスターの攻撃力は800アップ!(手札:1→0)」
 3回目となる《スマイル・ワールド》の発動により、フィールドを飛び交う笑顔の数がさらに倍加! フィールドのモンスターたちも笑顔になり、攻撃力が800アップした!

 《竜剣士マスターP》 攻:3850 → 4650
 《涅槃の超魔導剣士》 攻:3300 → 4100
 《サイバー・チュチュ》 攻:2900 → 3700

 《ゴキボールトークン》 攻:3100 → 3900
 《ゴキボールトークン》 攻:3100 → 3900
 《ゴキボールトークン》 攻:3100 → 3900
 《ゴキボールトークン》 攻:3100 → 3900
 《ゴキボールトークン》 攻:3100 → 3900

 パラコン先輩の表情が思い切り歪んだ。
「さ……《サイバー・チュチュ》の攻撃力が……3700だとぉぉぉぉ!? 攻撃力3700で2回ダイレクトアタックされたら……――!」
「そう! 攻撃力3700で2回ダイレクトアタックすれば、合計ダメージは7400! パラコン先輩の今のライフとちょうど同じ数値です! しかも、相変わらず《サイバー・チュチュ》の攻撃力は《ゴキボールトークン》の攻撃力より低いため、直接攻撃能力は問題なく発揮されます!」
「バカな……っ!? こんな……こんなバカなっ!?」
「パラコン先輩! あたしの勝ちです! バトル! 《サイバー・チュチュ》でプレイヤーにダイレクトアタック! 『スマイル・ヌーベル・ポアント』!」
 あたしの攻撃命令を受けた《サイバー・チュチュ》が、笑顔で満たされたフィールドを駆ける! 《サイバー・チュチュ》はパラコン先輩のフィールドまで行くと、跳躍して《ゴキボールトークン》を飛び越えた! そしてその勢いのまま、パラコン先輩に蹴りを入れた!
「ぐぉぉぉぁっ!?」

 《サイバー・チュチュ》 攻:3700

 パラコン先輩 LP:7400 → 3700

「そのままもう1度ダイレクトアタック! 『スマイル・ヌーベル・ポアント』! これで終わりだぁぁぁぁっ!」
「チキショオ! こんなのアリかぁぁぁ!」
 《サイバー・チュチュ》がパラコン先輩を背後から蹴りつけた! これにより、2回目の攻撃が成立した!

 パラコン先輩 LP:3700 → 0

「どわぁぁぁぁっ!? 弟子に負けたぁぁぁぁっ!?」
 ついに決着! 《サイバー・チュチュ》の攻撃でパラコン先輩のライフが0となった!
 あたしの勝利だー! やったー! 最高だ最高だ最高だ!

 斉場チユ WIN!





12章 終結!


「いよっしゃあああああ! よくやったぞチユ〜〜〜〜!」
 デュエルが終わり、ソリッドビジョンが消滅していく中、桃花が叫びながら、あたしに抱き付いてきた。
「見事な逆転勝利だったぜ、チユ!」
「ありがとう、桃花! 桃花には感謝しないとね。途中で桃花が励ましてくれなかったら、あたしはきっと勝てなかった」
「礼なんていいって! 今のデュエルで勝てたのは、チユの実力が高かったからだ! どーんと胸を張っていいと思うぜ!」
 あたしと桃花は互いの顔を見て、笑顔を浮かべた。
「おめでとう、斉場さん。いいデュエルを見させてもらったわ」
 鷹野師匠が空中に浮かんだ状態のまま近づいてきた。師匠の顔にも笑みが浮かんでいる。
「まさか、ペンデュラム・シンクロを絡めての《スマイル・ワールド》連続発動で《サイバー・チュチュ》を強化し、ダイレクトアタックで勝利をつかむなんてね。一体いつの間に、あんなコンボを思いついたの?」
「ついさっきです。《スマイル・ワールド》のカードを引き当てた瞬間、あのコンボを思いつきました」
 あたしが答えると、鷹野師匠は目を丸くした。
「デュエル中、それもラストターンに思いついたのね。私はてっきり、初めからあのコンボを狙ってデッキを組んだのかと思ってたんだけど」
「いやあ、さすがにあのコンボ狙いでデッキを組むって発想はなかったです。あたしが考えてたのは、《サイバー・チュチュ》を《スマイル・ワールド》で強化するってくらいのもので、ペンデュラム・シンクロとの組み合わせまでは考えてませんでした」
「奇跡的に、手持ちのカードが上手く組み合わさったというわけね」
「はい。まあ、運が良かったって感じですかね。まさに奇跡です」
 そう言うと、鷹野さんは「そうね。けど」と続けた。
「そういう奇跡が起きるということは、それだけあなたのデッキ構築力が優れているという証拠でもあるわ。あなたは自分自身の力で奇跡を引き起こしたのよ。お見事だわ、斉場さん」
「い、いやあ、そんな! あたし自身の力なんてそんな……大したものじゃないですよー!」
「謙遜することなんてないわ。あなたの実力は高い。これは事実。あなた自身、きちんと自覚しているはずよ。だから、自信を持って。胸を張りなさい」
「そ、そうですか! な……なんか照れちゃうなぁ! いやあ、自分で言うのもアレですけど、あたしって結構、デッキ構築力が高い気がするんですよねー! だからまあ、今回みたいな奇跡の逆転劇が起きたのも、ある意味必然というか――」
「調子に乗るんじゃない!」
 怒られた。ダメだ、ほめられるとつい調子に乗ってしまう。
 鷹野師匠は頭をゆらゆらと振った。
「ついつい調子に乗るところは変わらないわね。まあいいわ。とにかく、あなたはパラコンとのデュエルで勝利した。よって、最終試験は合格よ」
「と……いうことは?」
 鷹野師匠はにっこりとしてうなずいた。
「あなたはこれで免許皆伝よ。あなたはこの道場で学ぶべきことを全て完璧に学んだ。あなたはもう立派なデュエリストよ。おめでとう。よく頑張ったわね」
 め……免許皆伝! あたし、ついにやったんだ! ああ……なんだか感動で涙が出てきた!
「し……師匠〜〜!」
 感極まったあたしは、鷹野師匠に抱き付こうと、空中に浮かんでいる鷹野師匠に向かって飛び上がった。
「愚か者! こいつを喰らいな!」

 ――シュウウウウッ

「ギャアアアアア!? 目がぁぁぁ!?」
 飛び上がったあたしに向けて、鷹野師匠が消火器をぶちまけてきた! ぐええええっ!
「この私に抱き付こうなんて100億ターン早いわ。身の程をわきまえなさい」
「げふんげふんっ! スミマセン……」
「分かればよろしい。さて……と」
 鷹野師匠は顔をパラコン先輩の方へ向けた。パラコン先輩は床の上で大の字の格好になっている。
「さっさと起きなさい。弟子にすら勝てないパラコンボーイ略してデボーイ」
「デボーイってなんだよクソッタレが!」
 パラコン先輩がむくりと起き上がった。
「あなたは私の弟子である斉場さんに負けた。よって約束通り、あなたと私のデュエルは行わない。異議はないわね?」
 鷹野師匠の問いに対し、パラコン先輩はニヤリと口の端を吊り上げた。
「フッ、僕が負けたって? たしかに今のデュエル、僕は負けた! けど、今のデュエルはあくまでも1戦目に過ぎない! そう! 今回のデュエルは3回勝負のマッチ戦! よって僕はまだ完全に負けたわけじゃ――」
「このカードにユーの魂を封印しマース!」
「嘘です嘘です嘘嘘嘘! 今の嘘! 僕が負けました! 完膚なきまでに僕が負けました! 認めます!」
 誰も1回勝負だなんて言ってない! と主張しようとしたパラコン先輩だったが、鷹野師匠がカードに魂を封印する素振りを見せると、一気に負けを認めた。
 鷹野師匠はため息をついた。
「とりあえず、あなたは斉場さんに負けた。このことで、今のあなたの実力が斉場さん以下だということが証明されたわ」
「忌々しいけど、その通りだよ。……ていうか、ちょっと待って。鷹野さんに勝つのが僕の目的であり、このシリーズの最終目標のはずなのに、鷹野さんの弟子にすら負けちゃうってどういうことなの? なんか目標から遠ざかってない? おかしいでしょこの展開。どうなってんの?」
「ホントにどうなってるのかしらね? あなた、もう少し頑張りなさいよ」
「いや、頑張ってるから! さっきのデュエルだって、もうほとんど僕が勝ってたじゃん! 最後の最後で都合よく連続ドローされて都合よく逆転されちゃっただけで、もう9割くらいは僕が勝ってたから! そこのところ忘れちゃ困るよ!」
「愚かなパラコンボーイ略してオボーイ。たとえ相手を追い詰めたとしても、逆転負けしてしまっては意味がないわ。あなたが真のデュエリストなら、斉場さんに逆転の余地を与えることなく勝利できたはずよ。しかし、あなたは逆転された。所詮、あなたの力はその程度ということよ」
「うううううううるさい! こ……今回はたまたま逆転されちゃっただけだ! もう1回デュエルすれば絶対に僕が勝つ!」
 鷹野師匠はため息をついた。
「もういい加減、自分が無力な存在であることを認めて、私の奴隷になったら? そういう生き方も悪くはないと思うけど?」
「悪すぎだろその生き方! 誰が君なんかの奴隷になるか! 僕の本当の実力はこんなもんじゃない! 今日はちょっと調子が悪かったんだ!」
「なんにしても、負けは負けよ。今日のところは大人しく引き下がりなさい!」
 ピシャリと言い放つ鷹野師匠。パラコン先輩は何かを言い返そうとしたが、結局何も言わず、腹をくくったように二度三度とうなずいた。
「……分かったよ。今日のところは引き下がる。そういう約束だからね。だが覚えておけ鷹野さん! 次に会った時は必ず君を倒す!」
「斉場さんに負けるようなあなたが、私を倒せるとは思えな――」
「うるさい! とにかく僕は鷹野さんを倒す! そのついでに斉場さんも倒す!」
「えっ!? あたしも!? ていうか、あたしはついでかよ!?」
「当然だろ! 僕の狙いはあくまでも鷹野さんだ! 斉場さんはついでだよ!」
「順番がおかしいと思うんだけど。普通、弟子である斉場さんを倒してから、その師匠である私を倒す、というのが自然な流れ――」
「だまらっしゃい! とにもかくにも僕は鷹野さんを倒さなきゃいけないの!」
「おいおいちょっと待てよパラコン! 鷹野先輩と戦う前に、まず俺と戦うのが筋ってモンだろ! 素手で勝負しやがれ!」
「君は関係ないだろ轟さん! 入り込んでくるな! つーか、なんで素手による勝負なんだよ!?」
「じゃあ、まずは轟さんを素手で倒し、次に斉場さんをデュエルで倒し、最後に私と異能バトルで戦うって流れでいいわね?」
「よくねーよ! 僕の狙いは鷹野さんなの! 鷹野さんをデュエルで倒すの! 異能バトルじゃなくてデュエルで倒すの! そのついでに斉場さんをデュエルで倒すの! 轟さんは関係ないの! これが最終結論だ! そのつもりでいてくれ! それじゃあ、僕は失礼する!」
 大声でそう告げると、パラコン先輩は道場から出て行った。
 その姿を見ながら、鷹野師匠はふっと小さく笑みを浮かべた。
「哀れなパラコンボーイ略してアボーイ。あいつが私に勝つのは、いつのことになるかしらね?」
「そんなこと言ってますけど、まったくパラコン先輩に負けるつもりないですよね? 鷹野師匠」
 鷹野師匠の顔を見れば分かる。師匠は、パラコン先輩に負ける可能性についてこれっぽっちも考えていない。絶対に自分が勝ち続けるという強い確信を持っている。
 鷹野師匠の答えは、あたしの読み通りだった。
「よく分かってるじゃない、斉場さん。その通りよ。私はあいつに負けるつもりはないわ。この先何度デュエルしても、私が勝ち続ける。あいつが私に勝つ日なんて永久にやってこないわ」
 自信満々の口調で鷹野師匠は言った。
 パラコン先輩に勝ち続ける、か。あたしにはそんなことできないなぁ。今日のデュエルで、パラコン先輩の強さを思い知らされたもん。あの人を相手に連戦連勝するなんてあたしには無理。
 けど、鷹野師匠はこれまで、パラコン先輩相手に連戦連勝してきた。そして師匠は、これからもそれは変わらないと確信している。
 鷹野師匠は強い――彼女に弟子入りしてから何度となく感じたことを、ここに来て改めて感じた。
「さて、斉場さん」
 鷹野師匠があたしの目を見た。彼女は相変わらず空中であぐらを掻いている。
「今日あなたは、めでたく免許皆伝となったわ。今までよく頑張ってきたわね」
「は……はい! ありがとうございます!」
「これまでに100人ほどのデュエリストが私に弟子入りし、この道場で稽古に励んできた。けれど、最後まで稽古をやり切り、免許皆伝まで辿り着けたデュエリストは本当に少ない。実は、免許皆伝した弟子は、あなたを含めて3人しかいないわ」
「えっ!? そんなに少ないんですか!?」
 この道場での稽古は厳しかったけど、まさか、最後までやり遂げた人がそこまで少なかったなんて!
「へぇー、たった3人かよ! スゲーじゃねえかチユ! そんなレア弟子になれるなんてよ!」
「れ……レア弟子か! そうかぁー。あたしってレアなんだ!」
 あたしが感慨に浸っていると、鷹野師匠は懐からカードを1枚取り出した。
「受け取れぇぇい! 斉場チユ!」
 鷹野師匠は叫ぶと、そのカードをあたしに向かって投げてきた。あたしはそれをギリギリのところでキャッチした。
「こ……このカードは?」
「私の弟子になり、免許皆伝した人には、必ずそのカードを渡すことにしているの」
「免許皆伝の証……ってことですか?」
「そういうこと。受け取ってちょうだい」
 あたしは、鷹野師匠から受け取ったカードを見た。


 うずまき
 (フィールド魔法)
 フィールドは「うずまき」となり、全ての常識は覆る。


 こ……これって……《うずまき》のカードだ! これをあたしにくれるっていうの!?
 《うずまき》といえば、鷹野師匠が愛用するフィールド魔法だ。稽古中に、鷹野師匠がこのカードを使う場面を何度か見たことがある。たしか、このフィールド魔法を使うと、デュエルのルールそのものが激変してしまうのだ。まさに、全ての常識を覆すカード!
「た……鷹野師匠! この《うずまき》って本物ですか!?」
「正真正銘、本物の《うずまき》よ。免許皆伝した人には、必ず《うずまき》のカードを渡す。《うずまき》こそが免許皆伝の証ってわけ。受け取ってくれるわね?」
「それは……でも……」
 あたしは戸惑いながら言った。
「あたし、《うずまき》の使い方については教えてもらってないです。なのに、あたしなんかがもらっていいんですか……?」
 この道場での稽古では、《うずまき》の使い方は一切教わっていない。だから、《うずまき》を渡されたところで、どうやって使えばいいか分からない。それなのに、このカードをもらっていいんだろうか?
 あたしの問いを聞くと、鷹野師匠はにっこりと微笑んだ。
「《うずまき》をどう使うか――その答えは、あなた自身が見つけるしかないわ。そのカードの力を引き出せるかどうかは、これからのあなたの頑張り次第よ。健闘を祈るわ」
「使い方は自力で覚えろってことですか」
「そういうことね。けれど、厳しい稽古をやり遂げた今のあなたなら、きっとそのカードの力を引き出せるはずよ」
「あたしが……このカードの力を引き出す……」
 《うずまき》のカードを見た。不思議な渦が描かれたカード――このカードの力を引き出せるかどうかは、あたしの頑張り次第、か。
 あたしは目線を鷹野師匠へと向けた。
「あたし、必ずこのカード――《うずまき》の力を引き出して、使いこなしてみせます!」
「ふふっ、期待してるわよ」
 きっと《うずまき》を使いこなす! そうすれば、デュエリストとして更なる高みへと昇ることができるはずだ! 頑張るぞー!
「これにて、稽古は完全に終了ね。お疲れ様、斉場さん」
「お疲れ様です! それから、半年間ありがとうございました!」
「頑張ったなチユ! マジでおめでとう!」
「桃花もありがとう! 桃花が鷹野師匠のことを教えてくれたおかげで、あたしは強くなれたよ!」
 こうして、あたしの半年間の道場生活は幕を閉じた。長いような短いような半年間だったなぁ。
「さて……斉場さんが免許皆伝となったことで、私にはもう、教える弟子がいなくなったわ」
 鷹野師匠が言った。
「えっ? 他に教えてる弟子はいないんですか?」
「いないわ。もうここ最近は新しい弟子を募集してなかったし、私が教える弟子としては斉場さん、あなたが最後の1人よ」
「そうなんですか……」
 稽古している際、だんだんと他の弟子を見かけなくなったけど、それはやめる人が多かったから、という理由の他に、新しい弟子を募集してなかったから、という理由もあったようだ。
「そう。私にはもう教える相手がいない。だから――」
 鷹野師匠はそこで一呼吸置いた後、はっきりとした口調でこう言った。





「この道場は私にとって必要のないものとなった! よって今から約10分後、この道場を爆破する!」





 …………。
 …………。
 …………は?
 え……? えっ……えええええ!? 爆破ぁぁぁぁっ!?
「ちょ……ちょっと待ってください! 爆破って! この道場、爆発して粉々に吹き飛ぶってことですか!?」
「そうよ! すでに起爆装置は作動している! ここにいる者は今すぐ道場を出て、少しでも遠くへ避難することをオススメするわ! 以上!」
「き……聞いてねえぞ、そんなの!」
 なんてこった! 道場を爆破するなんて! いくら教える相手がいないからって、何もいきなり爆破することはないだろ!
「さ、早く逃げた方がいいわよ。爆破まであと9分半くらいしかないわ」
 鷹野師匠は言いながら床に向けて手をかざした。すると、床に直径3メートルほどのうずまきが出現した。
「それじゃあ、お2人とも。お先に失礼するわ」
「お先って……」
「私はこれから、そこのうずまきの中を通って、エジプトに行くわ」
 鷹野師匠は床のうずまきを指さした。このうずまきはエジプトにつながっているらしい。
「斉場さん、轟さん、無事に生き延びることを祈ってるわ。またいつか会いましょう。それじゃ、グッバーイ」
 そう言うと、鷹野師匠はうずまきに向かって飛び込んだ。師匠の姿がうずまきの中へと消えていく。そして、師匠の姿が完全に消えてしまうと、うずまきも姿を消した。道場には、あたしと桃花だけが残された。
「た……鷹野先輩、マイペースすぎるだろ……。起爆装置を勝手に作動させておいて、自分だけさっさとトンズラするとは……」
「ホント、マイペースな人だよね。マイペースというか自由気ままというか……いや、単に自分勝手な人、って言った方が正しい気が……」
「自分勝手な人か……まあ、たしかに。とりあえず、俺たちも逃げるか!」
「うん! 逃げよう!」
 爆破まで約9分。あたしはすぐに荷物をまとめると、桃花と一緒に道場の外に飛び出した。そして、その勢いのまま、とにかく走った。少しでも道場から遠く離れるために、ひたすら走った。パラコン先輩の姿は見られなかった。もうとっくにこの場所からは離れているのだろう。
 夕陽に染まる広い荒野を、あたしたちは走った。決して振り返らずに走った。走りまくった。
 やがて、背後から爆音が5回ほど響いた。あたしと桃花は足を止め、振り向いた。視線の先には、瓦礫の山があった。先ほどまであたしたちがいた道場が爆破され、バラバラになったのだろう。
「とりあえず、逃げ延びたみたいだな」
「みたいだね」
 あたしと桃花は顔を合わせ、安堵の表情を浮かべ、大きくため息をついた。
「さーて、と。チユはこの半年間でずいぶんとデュエリストとしての腕を上げ、強くなったわけだけど、これからどうするんだ?」
 桃花が訊ねてくる。あたしはニヤリとして答えた。
「決まってるよ。まずはね、世界を救う。悪い奴をデュエルでやっつけて、世界を救う。それでね、大会とかで優勝して、賞金を稼ぎまくって、その金をどこかの慈善団体とかに寄付して、困ってる人とか苦しんでる人とかを救うの」
「ははっ、そうだったな。それがチユの目標だった。その目標のために、チユは強くなったんだよな」
「そうそう。あたしの本当の戦いはね、これから始まるんだよ」
 そうだ。これまでの戦いは前哨戦に過ぎない。本当の戦いはこれから始まるんだ!
「んじゃあ、早速世界を救いに行くか?」
「もちろん! ……と言いたいところだけど、まずは腹ごしらえしなきゃ! 桃花、約束忘れてないよね?」
 あたしが訊ねると、桃花は太陽のように笑った。
「はっはっは! 約束通り、免許皆伝祝いとして、美味いモンおごってやるよ! キャビアだろうがフォアグラだろうが、牛フィレだろうがおでんだろうが、なんでも好きなモン食わせてやる! いくらでも来いってんだ!」
「やったー! 最高だ最高だ最高だ!」
 あたしは桃花に抱き付いた。
 よーし! 今日はたらふく食うぞー!





〜Fin〜








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