プロジェクトHW 〜2日間のあがき〜

製作者:あっぷるぱいさん




 この作品は、プロジェクトシリーズ14作目です。
 この作品を読む前に、以下の作品を読んでおくと、より楽しむことができます。

 ○プロジェクトシリーズ1作目(プロジェクトVD)〜5作目(ぷろじぇくとSV) ※必須
 ○プロジェクトシリーズ6作目(プロジェクトBF)〜13作目(プロジェクトOD 〜1ヶ月遅れの決戦〜) ※推奨






<もくじ>

 プロジェクト1 前置き
 プロジェクト2 絶望
 プロジェクト3 お約束
 プロジェクト4 意味不明
 プロジェクト5 スリープ
 プロジェクト6 お約束2
 プロジェクト7 降臨! ブルーアイズ&レッドアイズ!(嘘)
 プロジェクト8 《同胞の絆》って強いよね
 プロジェクト9 やりたい放題
 プロジェクト10 カオスすぎる
 プロジェクト11 簡単お手軽オベリスク
 プロジェクト12 ひどすぎる決着
 プロジェクト13 プロジェクトHW





プロジェクト1 前置き

 さて皆さん、お久しぶりです。僕のことを覚えていますか?
 そう。僕の名は……公式的にはない。まあ、とりあえず、このシリーズでは「パラコンボーイ(パラサイド混入少年(ボーイ)の略)」と呼ばれているけどね。
 はぁ。毎回思うんだけど、一体いつになったら僕の本名は明かされるの――


かくかくしかじか
(魔法カード)
話を短縮し、ストーリーを高速回転させる。
毎回似たような前置きやってるし、もうカットしてもいいよね。
はい、かっとビング!


 かくかくしかじかで、あれから文庫本にして約2ページに相当する僕の華麗なる前置きが続いていたのだが、完膚なきまでにカットされた。チキショオ!




プロジェクト2 絶望

 暑い。暑い。暑すぎる。
 自宅にある自分の部屋。まだ午前中だというのに、僕は夏の暑さにノックダウンされていた。ジメジメとした暑さが僕を不快にする。着ているシャツが早くも汗で湿ってきていて、それがまた不快感を増長させる。
 窓を全開にし、扇風機を回してみたが、まるで涼しくならない。うちわを引っ張り出して扇いでみるが、疲れるだけで涼しくならない。そのくらい暑い。
 このままじゃさすがにつらい――そう思った僕はやむを得ず、窓を閉め、エアコンのスイッチを入れた。これで涼しくなるだろう。

 さて、部屋が涼しくなってきたところで、今直面している問題を解決しなければな。

 今、僕は重大な問題に直面している。
 今日は8月30日。8月と言えば夏休みだ。僕の学校も、今はまだ夏休み中となっている。
 しかし、長かった夏休みも今日を含めてあと2日しかない。あと2日経てば9月。夏休みが終わり、また学校生活が始まる。長い長い2学期が幕を開けるのだ。
 そんな、夏休み終了を間近に控えた僕は今、“三つの絶望”を抱いていた。

 一つ。今年も、夏休み中に彼女ができなかった絶望。
 一つ。夏休み中、家でゴロゴロしていた記憶しかない(これといった思い出がない)絶望。
 一つ。まだ夏休みの宿題に手を付けていない絶望。

 せっかくの夏休みだというのに、彼女はできない、思い出はない、宿題がまるで手付かず、という三つの絶望が僕にのしかかる。
 くそっ……なんでこんなことになってしまったんだ! 僕が何か悪いことでもしたっていうのか!

 嘆いていても仕方ない。ひとまず今は、やれるだけのことをやらなければならない。
 とりあえず、宿題くらいはやっておかないとまずいだろう――そう思った僕は今、宿題の一つである英語のワークブックに取り掛かっている。
 先ほどまでは、あまりの暑さのせいでまるで集中できなかった。しかし、エアコンで涼しくなって集中力が上がった今なら、この程度のワークブック、すぐに攻略できるはず!
 僕はワークブックの問題に目を通した。なになに……?


問1.次の単語を英訳しなさい。
1.鷹                 4.子供
 _______          _______

2.野球               5.消火器
 _______          _______

3.華麗               6.紅花
 _______          _______


 …………。
 ワークブックの問題を見ていたら、何故か突然、高笑いする一人の少女のビジョンが僕の脳裏を過ぎった。直後、僕は非常に憂鬱な気分になった。
 くっ……へこたれるな、僕! こんなところでつまずいていては、宿題を終わらすことなんてできない! 僕はあと2日で宿題を全部終わらせなきゃいけないんだ! ここで立ち止まることは許されない!
「うおおおおおおおっ!」
 僕は和英辞書を開くと、勢いよくワークブックに答えを書き込んでいった!


問1.次の単語を英訳しなさい。
1.鷹                 4.子供
 鷹野さんのバカ!         暴力女引っ込め!

2.野球               5.消火器
 鷹野さんのアホ!         消火器ぶちまけてんじゃねーよクソ女!

3.華麗               6.紅花
 調子に乗んな傲慢女!      ヒータは禁止カードになるべき!


 しまった! 答えを書くつもりが、つい本心を書いてしまった! 日頃の鬱憤恐るべし!
 まずい。こんなのを鷹野(たかの)さんに見られたら、何をされるか分からない。早いところ、消しゴムで消して証拠隠滅しないと。

 鷹野さんとは、僕のクラスメイトの一人――鷹野麗子(れいこ)のことだ。彼女は勉強もできてスポーツ万能、その上容姿が可愛くて、男女問わず人気があるという、まさに一見したところ完璧な女の子。しかし、実際のところ、彼女は自分勝手で傲慢、しかも暴力的という最悪な女なのだ。この事実を知るのは、学校内でも僕ぐらいしかいない。
 そんな鷹野さんは、僕の永遠のライバルでもある。彼女をマジック&ウィザーズのデュエルで倒すことが現在の僕の目標だ。

 それはそうと、早いとこ証拠隠滅しないと。えーと、消しゴムはどこだ? ……あ、あった!





 ぞくり。





「……ッ!」
 消しゴムを見つけたときだった。突然、僕はどこかから殺気を感じた。思わず身震いしてしまう。
 な……なんだ、この嫌な感覚は?

 …………。
 まさか……まさかだよな……?

 僕は左右を見渡した。
 だが、変わったものは見られない。

 ゴクリとツバを飲み込む。
 目をつむり、一つ深呼吸。

 目を開けた僕は、ゆっくりと首を上に向けた。
 するとそこには――





 ――まるで忍者のごとく。
 天井に張り付き、こちらを見て不気味に微笑む鷹野さんの姿があった。





「ぎょええええええええ!」
 天井に張り付いた鷹野さんを見て、まず僕は、驚きのあまり悲鳴を上げた。
 そして、乱れた呼吸を整えた後、彼女に向かって言った。
「鷹野さん、そんなところで何してんだよ!? ていうか、いつからそこにいたの!? どうやって忍び込んだんだよ!?」
 僕の問いに対し、鷹野さんは不気味な微笑みを崩さずに、
「8分22秒くらい前からいたわよ。超高速でこの部屋の窓から忍び込んで、超高速で天井に張り付いたわ」
 と答えると、天井から飛び降り、きれいに着地した。
「それよりパラコン。なかなか面白いこと書いてくれたみたいじゃないの。バカだのアホだの傲慢だの……」
 鷹野さんは、床に置かれた――鷹野さんとヒータへの悪口が書かれた――ワークブックを見て目を細めた。……って、しまったぁ! まだ証拠隠滅できてねぇ!
「ち……ちちちちちち違うんだ鷹野さん! ここここれは決してその……君への悪口とかそういうのじゃなくて……」
「言い訳無用! こいつを喰らいな!」

 ――バキッ!

 僕の言葉を最後まで聞かず、鷹野さんはどこからともなく取り出した消火器で、僕の顔面を思い切り殴打した。痛ええええ!




プロジェクト3 お約束

「すみませんでした……」
 消火器で顔面を殴打された僕は、あふれ出る鼻血を抑えつつ、素直に謝った。
 しかし、鷹野さんの怒りは収まりそうもない。
「言いたいことがあるなら、私の前で堂々と言えばいいのよ。それをこんな姑息な形で……。まったく情けない。あきれて物が言えないわ」
 姑息な形……ねぇ。
 どうやら鷹野さんは、自分の見えないところで悪口を吐かれるのが気に入らないらしい。言いたいことがあるなら堂々と言いに来い、というわけだ。
「じゃあ、鷹野さんの前で堂々と悪口を言うのは全然構わないの?」
「構わないわよ。陰でこそこそされるより、堂々と言われたほうがずっといいわ」
 なるほど。ならば!
「じゃあ、この際だからはっきり言わせてもらうよ。鷹野さんのバカ! 鷹野さんのアホ! 調子に乗んな傲慢女! 暴力女引っ込め! 消火器ぶちまけてんじゃねーよクソ女! ヒータは禁止カードになるべき!」

 ――バキッ!
 ――ドカッ!
 ――ゴスッ!

「ぐおおおおおおおおお!」
 鷹野さんの前ではっきり悪口言ったら、今度は消火器で3回顔面を殴打された! い……痛いよぉ〜! また鼻血が出てきたぁ〜!
「ひ……ひどいじゃないか鷹野さん! これじゃ話が違う!」
「違うって何が? 私は『堂々と悪口を言われるのは構わない』とは言ったけど、『堂々と悪口を言われた場合は何もしません』なんて言った覚えはないわよ?」
 …………。……たしかに。
 どうやら、僕はひどい思い違いをしてしまったようだ。おかげで痛い目にあった。
「すみませんでした……」
 僕はもう一度謝る羽目になってしまった。


 ★


「ところで鷹野さん。今日は何しに来たの?」
 鷹野さんは今日、いつの間にか僕の部屋の天井に張り付いていた。何の目的があってそんなことをしていたのだろう? まさか、目的も何もなしにあんなことをしていたわけではあるまい。……たぶん。
 僕が訊くと、鷹野さんは他人の部屋だということも気にせずに、ごろんと横になりながら答えた。
「故障しちゃったのよ」
 故障? 何が?
「家のエアコン。全部屋のエアコンが故障しちゃったのよ。そのせいで今、私の家は蒸し風呂状態よ。しかもこの暑さだから、エアコンなしじゃとても耐えられない。だからここに来たのよ」
 ……はい?
 いや、ちょっと待って。エアコン壊れたから僕の部屋に来たって……え? 何故に?
「鷹野さん。君の家のエアコンが壊れたことが、どうして君がここに来ることに繋がるの?」
「どうしてって……鈍いわね。要するに、私の家のエアコンが使えないから、ここに涼みに来たってことよ」
 ここに涼みに来たって……この女の目的は、僕の部屋のエアコンかよ!?
 まあ、気持ちは分かるけどさ。僕だって、もしも今自分の部屋のエアコンが壊れたら、どこか冷房の効いた涼しい場所に移動しようと考えるだろうし。
 とにかく、鷹野さんはエアコンを求めて僕の部屋に来たわけだ。まあ、その点は別にかまわないだろう。しかし、これだけは言っておく。
「鷹野さん、君の目的は分かった。けどね、だからって、開いている窓から勝手に侵入して、挙句の果てに天井に張り付くような真似をされちゃ困るよ。普通に玄関にあるインターホンを押して――」
「う〜ん、なんかアイスが食べたくなってきたわね。パラコン、お金渡すからアイス買ってきてちょうだい」
 僕が正論を言っているのに、鷹野さんは聞く耳を持たない。聞けよこの女! ていうか、他人の家に勝手に上り込んでおいて、その家の住人をパシリに使おうとするな!
「嫌だね。アイスがほしけりゃ自分で買ってきなよ」
「はぁ? なんでこんな暑い中、私が汗水流してアイス買ってこなきゃいけないのよ」
「その言葉、そっくりそのままお返しするよ。僕だって、こんな暑い中、外を歩くなんてごめんだね」
「あなた……こんなにか弱い女の子に炎天下を歩かせる気?」
「平然と人を消火器で殴るような女の子を、か弱い女の子とは言いません!」
 相も変わらず身勝手な鷹野さん。彼女のペースに乗せられないよう、僕はピシャリと返す。
 すると鷹野さんもムキになってきた。
「ふん。じゃあ、こうしましょう。報酬として、昨日手に入れたばかりのレアカードを――」
「その手には乗らない! レアカード渡されても炎天下を歩くのはごめんだ!」
「……っ!」
 鷹野さんはレアカードで僕を釣ろうと考えたようだがそうは行かない。たとえレアカードを出されようが、この暑い中、アイスを買いに行かされるなんて馬鹿馬鹿しくてやってられないよ。
 残念だったね、鷹野さん。僕はレアカードに釣られてパシリになるほど間抜けな男じゃないよ。はっはっは!
 さあて、そろそろあきらめたかな……と思いきや、鷹野さんはあきらめが悪く、さらなる手を打ってきた。
「面倒な男ね。だったらこの手で行くわ」
 そう言って、鷹野さんはスカートのポケットから1枚のカードを取り出した。


ゲームをしようぜ!
(魔法カード)
あらゆるトラブルを、ゲーム一つで片付ける。


「パラコン。あなたには今から、私とデュエルしてもらうわよ」
 なっ!? デュエルだと!?
「私が勝ったら、あなたにはアイスを買いに行ってもらう。その代わり、あなたが勝ったら、私がアイスを買いに行く。……これでどう?」
 これ以上話し合っても埒が明かないと感じたのか、鷹野さんはデュエルで片を付けようと提案してきた。持っていたショルダーバッグからデッキと電卓を取り出し、やる気満々の姿勢を見せている。
 たしかに、これ以上の話し合いは時間の無駄だ。それならば、とっととゲームでケリをつけてしまったほうがお互い納得が行くだろう。もちろん、鷹野さんからの挑戦を拒否するなんて発想は僕にはない。


原作キャラの誇り
(装備カード)
このカードを装備したプレイヤーは、
どんなゲームにも立ち向かわなければならない。


 彼女をデュエルで倒すことが僕の目標! 彼女との戦いから逃げるなんて真似、できるはずがないじゃないか!
「いいよ、鷹野さん。君の挑戦、受けて立つ! 今日こそ君の連勝記録に終止符を打ってやるよ!」
 こうして、どちらがアイスを買いに行くかを決めるデュエルが幕を開けることとなった。


ご都合主義
(魔法カード)
都合のいい展開でストーリーを進行させる。




プロジェクト4 意味不明

「「互いのデッキをカット&シャッフル!」」
 僕と鷹野さんは、向かい合うような形で床に座り、互いのデッキをカット&シャッフルした。それを終えると、床にデッキを置き、電卓のスイッチを入れた。
 あとは、ジャンケンで先攻後攻を決めるだけだ。
「よし。じゃあ、ジャンケンだ。ジャ〜ンケ〜ン……」
「私の先攻ドロー!」
「ダメだっての! ちゃんとジャンケンで決めるんだよ!」
「ちっ」
 勝手に先攻を取ろうとした鷹野さんを止め、運命のジャンケンフェイズ!
「じゃんけん」
「ぽん」

 僕:チョキ
 鷹野さん:パー

 ジャンケンは僕の勝利! よって、僕が先攻後攻の選択権を得る!
「僕は先攻をもらうよ!」
「ぬぬぬぬぅぅ!」
 先攻を取られたことで、鷹野さんが憤っている。そんなに先攻がほしいのかこの人は。
 ともあれ、これで準備完了。いよいよデュエル開始だ!
 今日こそ、鷹野さんの連勝記録に歯止めをかけてやる!


「「デュエル!」」


【僕】 LP:4000 手札:5枚
 モンスター:なし
  魔法・罠:なし

【鷹野さん】 LP:4000 手札:5枚
 モンスター:なし
  魔法・罠:なし


「僕の先攻、ドロー!」
 ドローカードは魔法カード《強欲な壺》。デッキからカードを2枚引ける強力なカードだ。これを使わない手はない!
「《強欲な壺》で2枚ドロー!」
 新たに2枚のカードをドローしたことで、僕の手札は以下の7枚となった。

〜僕の手札〜
 ゴキボール、ゴキボール、ゴキボール、クロスソード・ハンター、死者蘇生、聖なるバリア−ミラーフォース−、ライヤー・ワイヤー

 7枚の手札をざっと見て、僕はすぐさま2枚のカードに手をかけた。
「リバース・カードを1枚セット! さらに、《クロスソード・ハンター》を攻撃表示で召喚!」
 リバースしたカードは、トラップカード《聖なるバリア−ミラーフォース−》。相手が攻撃宣言した瞬間、敵モンスターを全滅させる必殺のトラップだ。そして《クロスソード・ハンター》は、攻撃力1800のモンスター。並のモンスターなら蹴散らすことができるだろう。
 隙のないアタッカーに、隙のないトラップ。我ながら隙のない完璧な布陣だなと思った。
「ターンエンドだよ」


【僕】 LP:4000 手札:5枚
 モンスター:クロスソード・ハンター(攻1800)
  魔法・罠:伏せ×1

【鷹野さん】 LP:4000 手札:5枚
 モンスター:なし
  魔法・罠:なし


「私のターン」
 鷹野さんのターン。彼女はドローカードを合わせた6枚の手札を見ると、すぐに1枚のカードを出してきた。
「魔法カード《名推理》を発動。パラコン、レベルを宣言しなさい」
 《名推理》か。あのカードは、相手プレイヤーにモンスターのレベルを宣言させ、自分のデッキから通常召喚可能なモンスターが出るまでカードをめくる。そして、出たモンスターのレベルが宣言されたレベルと異なる場合、そのモンスターを特殊召喚し、それ以外のカードを墓地へ送る。しかし、出たモンスターのレベルが宣言されたレベルと等しい場合は、めくったカードが全て墓地へ送られる。
 上手くいけば、上級モンスターを速攻召喚することができる魔法カード。ある種のギャンブルカードと言えなくもないか。
「じゃあ……レベル8だ!」
 僕はひとまず、レベル8と宣言しておいた。レベル8モンスターには強力なモンスターが多い。レベル8と宣言しておけば、とりあえず、レベル8モンスターが出てくることはなくなる。
「レベル8ね。じゃ、カードをめくるわよ」
 鷹野さんは《名推理》のテキストに従い、デッキから1枚ずつカードをめくっていった。

〜めくられたカード〜
 早すぎた埋葬(魔法カード)
 第六感(罠カード)
 裁きの龍(ジャッジメント・ドラグーン)(モンスターカード・通常召喚不可)
 ダーク・アームド・ドラゴン(モンスターカード・通常召喚不可)
 サイクロン(魔法カード)
 大嵐(魔法カード)
 聖鳥クレイン(モンスターカード・通常召喚可能)

 7枚のカードがめくられたところで、鷹野さんはカードをめくる動きを止めた。
「《聖鳥クレイン》は通常召喚可能なレベル4モンスター。パラコンの宣言したレベル8モンスターではないため、特殊召喚されるわ」
 ちっ、運の良い女だ。まあ、《聖鳥クレイン》の攻撃力は1600。単体では、僕の場の《クロスソード・ハンター》には敵わない。
 鷹野さんは《聖鳥クレイン》のカードを場に置き、それ以外のめくられたカードは墓地へ送った。
「《聖鳥クレイン》が特殊召喚されたとき、カードを1枚ドローできるわ。よって私は1枚ドロー」
 《聖鳥クレイン》にはドロー効果があったらしい。なかなかいい効果を持ってるじゃないか。
 《聖鳥クレイン》の効果に従い、カードを引いた鷹野さん。これで彼女の手札は6枚。ターン開始時と同じ枚数に戻った。
 そして、引いたカードを見ると、彼女は口の端を吊り上げた。





「いいカードを引いたわ。私は、墓地の光属性モンスター《裁きの龍》と、闇属性モンスター《ダーク・アームド・ドラゴン》をゲームから除外し、《混沌帝龍(カオス・エンペラー・ドラゴン) −終焉の使者−》を特殊召喚!」





 …………。

 …………。

 …………は?

 ちょ……え!? カオス・エンペラー・ドラゴンだって!?
 あれはたしか……攻撃力が3000もあるくせに、墓地から光属性モンスターと闇属性モンスターを1体ずつ除外するだけで出せるという、意味不明のモンスターじゃないか!
 しかも、カオス・エンペラー・ドラゴンにはたしか、意味不明の特殊能力があったような……?
「《混沌帝龍 −終焉の使者−》の効果発動! 1000ライフを払うことで、互いの場と手札のカードを全て墓地へ送る!」
 そ……そうだよ! カオス・エンペラー・ドラゴンには、1000ライフと引き換えに、互いの場と手札のカードを全て焼き払う能力があるんだ! い……意味不明だ!


混沌帝龍(カオス・エンペラー・ドラゴン) −終焉の使者−  闇
★★★★★★★★
【ドラゴン族】
このカードは通常召喚できない。
自分の墓地の光属性と闇属性モンスターを1体ずつゲームから除外して特殊召喚する。
1000ライフポイントを払う事で、
お互いの手札とフィールド上に存在する全てのカードを墓地に送る。
この効果で墓地に送ったカード1枚につき相手ライフに300ポイントダメージを与える。
インチキ効果も大概にしやがれ!
攻3000  守2500


 鷹野さん LP:4000 → 3000

「喰らえ! “セメタリー・オブ・ファイア”!」
 カオス・エンペラー・ドラゴンの効果が発動し、僕と鷹野さんの場のカードと手札が全て墓地へ送られた! 何もかも……全てのカードが葬られたしまったのだ! ひでえ!
 さらに、カオス・エンペラー・ドラゴンの意味不明の効果には続きがある!
「パラコン。カオス・エンペラー・ドラゴンの効果であなたにはダメージを受けてもらう。その数値は、カオス・エンペラー・ドラゴンの効果で墓地へ送られたカードの枚数の……300倍よ!」
 カオス・エンペラー・ドラゴンの意味不明の効果は、場と手札を壊滅させるだけではない。なんと、自身の効果で墓地へ送ったカードの枚数の300倍のダメージを相手に与える力まで持つのだ! 意味不明だ!
 カオス・エンペラー・ドラゴンの効果で墓地へ送られたのは、僕の場のカード2枚、僕の手札5枚、鷹野さんの場のカード2枚、鷹野さんの手札5枚で、計14枚。よって僕は……4200ダメージを受けることになる!

 僕 LP:4000 → 0

 ……って、一気にライフが0になっちゃったじゃないかあああああ! うわあ、意味不明だチキショオオオオオオオオ!
 いや、いくらなんでもこれは反則だろ! つーか、ひどすぎる!
「私の勝ちね。というわけで、今すぐアイス屋に全速前進してちょうだい、負け犬のパラコンボーイ。略して負け犬ボーイ。もっと略してマボーイ。もっともっと略してイ」
 とっととカードと電卓をバッグにしまい、またもやごろんと横になった鷹野さんは、僕を完全に負け犬扱いし、100円玉を押し付けてきた。今や、彼女のぱっちりしたキュートな瞳は、デュエルに負けた相手を完膚なきまでに見下す軽蔑兵器と化している。
 チキショオ! ムカつく! 何この女、すっげえ腹立つんですけど! というか、よく考えたら、カオス・エンペラー・ドラゴンって禁止カードだよね? なんでそんなカードデッキに入れてんだよこの女は! ルール違反じゃねえか!
「鷹野さん! カオス・エンペラー・ドラゴンは禁止カードのはず! そんなカードを使ってまでデュエルに勝って、君のデュエリストとしての心は少しも痛まないのか!」
 僕は鷹野さんに訴えた。僕の意見に間違ったところはないはずだ。
 だが鷹野さんは、チャーミングなおめめから敗者蔑み光線をビシバシ放ちつつ、こんな答えを返してきた。
「カオス・エンペラー・ドラゴンが禁止カード? それはOCGルールの話でしょ。今私たちがやったデュエルは原作ルール。OCGルールとごっちゃにされちゃ困るわ」
 …………ッ!
 な……なんつーメチャクチャな理屈だ! しかし、忌々しいことに、僕はそのメチャクチャな理屈に反論することができなかった!
 おのれ! それを言われたら、もうどうしようもないじゃないか!
「ゴチャゴチャ言ってないで、敗者は大人しく勝者の言うことに従えばいいのよ。ほら、さっさとアイス買ってくる! 15分以内に戻ってこなかったら、鼻の穴に消火器ブチ込むからね」
 勘弁してください。ていうか、消火器ってそういう風に使うものじゃねえから!
 とりあえず、これ以上彼女に何を言っても無駄だろう。それに、(激しく納得が行かないものの)僕がデュエルに負けたのは事実だ。敗北した以上、約束どおり、僕がアイスを買いに行かなければならない。はぁ〜、面倒だなあ。

 こうして、僕はこのクソ暑い中、クソ女のために汗水流してアイスを買いに行く羽目になったのだった。面倒くさい……。




プロジェクト5 スリープ

「あづぅ〜〜〜!」
 あれから約10分。我ながら情けない声を出しながら、僕は自分の部屋のドアを開いた。
 外はもう、それはそれは凄まじい暑さだった。たった10分外に出ただけなのに、全身は汗びっしょり。服の中は完全に湿地帯と化していた。もうダメだ。今日はもう絶対に、これ以上外に出たくない。尋常じゃないほどの暑さだよ。
 ああ、部屋がとっても涼しい。そりゃ、ずっと冷房効かせてるんだから涼しいよな。
 僕はドアを閉めると、部屋の中央で図々しくも横になっているアホ女に声をかけた。
「鷹野さん、アイス買ってきたよ」
 しかし、鷹野さんからは返事がない。彼女は、僕とは反対方向に顔を向けたまま、まるで動く様子がない。
「鷹野さ〜ん?」
 もう一度声をかけてみる。しかし、鷹野さんは返事をしない。体の姿勢を変える様子もない。
「ちょっと、鷹野さん!」
 少し声を大きくしてみる。だがやはり、鷹野さんからは返事がない。

 へんじがない。ただのしかばねのようだ。

 ……って、そんなわけがない。僕は、横になっている鷹野さんに近づき、彼女の表情をのぞきこんだ。
 鷹野さんは目を閉じ、すぅすぅと寝息を立てている。完全に眠っていた。可愛い寝顔を浮かべて、静かに眠りについている。
 どうやら、僕が帰ってくるのを待っている間に眠ってしまったらしい。他人の家に勝手に上り込み、その家の住人をパシリに使った上、自分は呑気にぐうぐう眠ってしまうとは。身勝手もここまで来ると清々しく……はならないな。
 何とはなしに、鷹野さんの顔を見る。可愛い寝顔だ。でも、この顔を見てると、おでこに「肉」の字とかウジャト眼とかを書いてやりたくなる。まあ、実際にやったりはしないけど。
 それにしても鷹野さん、まだ午前中だってのにぐっすり寝てるな。夜更かしでもしたんだろうか? ていうか、いくら何でも無防備すぎだろ。仮にも男子の部屋だっていうのにさ。それともアレか? 僕は異性として認識されてないってわけですかい?
「鷹野さん、起きてよ」
 とりあえず、このまま眠られたままでも困るので、僕は容赦なく鷹野さんを起こすことにした。大きめの声を彼女の耳の近くで出してみる。しかし、相変わらず彼女は返事をしない。彼女の夢の世界に僕の声は届かないらしい。
 声をかけても無駄と判断した僕は、軽く体を揺さぶってみるかと考えた。が、ふと手元の――ついさっき買ってきたアイスの入った――ビニール袋に目がつき、別の考えを思いついた。
「起きろ、鷹野さん!」
 そう言って僕は、アイスの入った冷たい冷たいビニール袋を、鷹野さんの首のあたりに思い切りくっつけた。これでどうだ!
「ひゃっ!」
 ビニール袋をくっつけた瞬間、鷹野さんは反射的に叫んだ。
 そして、

 ――ボゴッ!

 僕の顔面に思い切りパンチを喰らわせてきた。痛え!




プロジェクト6 お約束2

「このクソパラコン! いきなり首のあたりがヒンヤリしたもんだから、ビックリしちゃったじゃない!」
 首にビニール袋(アイス入り)を当てられた鷹野さんは激怒し、僕の背中を消火器で殴りつけてきた! 痛い痛い痛い! 消火器で人を殴るんじゃねえ!
「分かった! 分かったよ鷹野さん! 僕が悪かったから、消火器振り回すのはやめろ! ほら、ちゃんとアイス買ってきたから、これ食べて機嫌を直せ!」
 僕はアイスの入ったビニール袋を鷹野さんに差し出した。袋の中のアイスは、僕が適当に選んで買ってきたものだ。
 鷹野さんは袋を手に取り、中を見る。直後、彼女は袋の中のアイスを僕の顔面に向かって光の速さ(誇張表現)で投げつけてきた! 痛い!
「このアイス嫌い! なんでこんなの買ってきたのよ!?」
 どうやら、僕が買ってきたアイスがお気に召さなかったらしい。知るかよ! だったら最初からどのアイスを買ってきてほしいのかちゃんと言えよ! 言えばそのアイスを買ってきたのに! 何も言わないものだから、どのアイスでもいいのかと思って適当に選んできちゃったじゃないか!
「鷹野さん。嫌いなアイスがあるなら、あらかじめ言ってくれないと――」
「この役立たずのパラコンボーイ略してヤボーイ! あなたは私を怒らせたあああああ!」
 僕の言葉には耳も貸さず、アホな鷹野さんは激昂し、全身を回転させながら手に持った消火器を振り回してきた! えええ!? ちょっと待てよ! 僕何も間違ったこと言ってないよね!? なのになんでこんなことに……って、うわあああバカバカバカ! 危ないっての!
「くたばれパラコン! 鷹野流必殺奥義――“デス・ストリーム・パニッシュメント・カタストロフ”!」


かくかくしかじか
(魔法カード)
話をかっとビングし、ストーリーを高速回転させる。


 かくかくしかじかで、あれから10分ほど、激昂した鷹野さんの暴走が続いた。その内容は、それこそ、この小説の掲載が100%拒否られると言っても過言ではないほどに、あまりに暴力的で凄惨なものだった。とてもここに書けるような内容じゃない。よって、描写についてはカットさせていただく。
 ようやく落ち着きを取り戻した暴力女……もとい鷹野さんは、100円玉を僕に突き出した。
「というわけで、今度はちゃんとしたアイスを買ってきなさい。そうね……『ギリギリ君』がいいわ」
 鷹野さんは、また僕をパシリに使う気らしい。今度はちゃんと、買ってきてほしいアイスを指定してきている。『ギリギリ君』というアイスがほしいようだ。
 いや、ちょっと待てよ。またあの炎天下の中、この女のためにアイスを買いに行かなきゃならんの? 心の底から嫌なんだけど。つーか、嫌いなアイスがあるなら最初から言えよ。むしろ、買ってきてほしいアイスをちゃんと指定しろよ。なんでさっき僕に買いに行かせたときに言ってくれなかったのさ? まあ、勝手にアイスを選んじゃった僕も僕だけど。
「さあ、パラコン! レッツゴーよ! 『ギリギリ君』を買いに行ってこ〜い!」
 問答無用、とばかりに、僕をパシリに使う鷹野さん。冗談じゃない!
「嫌だね! さすがに、もう一度あの炎天下を歩くのはごめんだ! アイスがほしけりゃ自分で買ってきなよ!」
 また消火器で殴られること覚悟で、僕はきっぱりと断った。
 それに対し、鷹野さんは消火器で殴……ってはこなかった。代わりに、静かな口調で返してくる。
「パラコン。私には、どうしても、あなたにアイスを買いに行かせなきゃいけない理由があるのよ」
「えっ?」
 僕にアイスを買いに行かせなきゃいけない理由? 何だそれ?
 鷹野さんは、ふっと息をつくと、どこか寂しげな表情を浮かべながら、窓の外に目を向けた。
 この雰囲気……まさか!?
「そう……あれは私が小学1年生のときの話。ちょうど今日みたいに暑い夏の日のことだった――」
 鷹野さんは、なんと回想シーンに突入した! ……ってそうはさせるかあああああ!
「そうは行くか鷹野さん! 僕はこのカードを発動!」


過去など何の意味も持たない!
(社長カード)
回想シーンを無効にする。


「社長カードの効果によって、鷹野さん! 君の回想シーンは無効となった! ワハハハハ!」
 回想シーンで同情を誘い、僕にアイスを買わせる作戦だったようだが、そうは行かない! 君の思い通りに行くと思ったら大間違いだ! 大人しくあきらめろ、鷹野麗子よ!
「鷹野さん。アイスがほしければ自分で買いに行くんだね。僕は絶対にもう、今日は外に出ないぞ!」
「…………」
 僕が言うと、鷹野さんは極めて不満そうな顔をした。ククク……いい表情だ! もっとその顔を惨めに歪ませるがいい!
 だが、これだけで鷹野さんが引き下がるはずもない。彼女はさらなる手を打ってきた。
「パラコンの分際で生意気な。ならば、私はこのカードを発動するわ!」
 懐からカードを1枚取り出す鷹野さん。一体何のカードを?


ゲームをしようぜ!
(魔法カード)
あらゆるトラブルを、ゲーム一つで片付ける。


 ……って、またかよ!? さっきと同じ手じゃねえか!
「パラコン。今からあなたには、私とデュエルしてもらう。もしも私が買ったら、あなたには『ギリギリ君』を買いに出てもらうわ。で、あなたが買ったら、私が『ギリギリ君』を買いに行く。これでどう?」
 鷹野さんは本日2度目のデュエルを挑んできた。しかも、デュエルを挑む理由は1度目のデュエルのときと同様。「僕にアイスを買いに行かせるため」という、実にくだらないものだ。
 鷹野さんはどうやら、何が何でも僕にアイスを買いに行かせたいらしい。そして、何が何でも自分でアイスを買いに行く気はないようだ。まさか、他人にアイス買いに行かせるためだけに、ここまでムキになるとは。鷹野さん、妙なことにこだわるものだなあ。
 しかし、デュエルを挑まれた以上、拒否するわけにはいかない。デュエリストたるもの、たとえどんな状況であれ、売られたデュエルから逃げてはいけないのだ。しかも、相手は僕の永遠のライバル鷹野麗子! ならば、余計に逃げることは許されない!


原作キャラの誇り
(装備カード)
このカードを装備したプレイヤーは、
どんなゲームにも立ち向かわなければならない。


「いいよ、鷹野さん! これ以上、口で言ったところでどうにもならないだろうし、君の挑戦、受けて立つ!」
 僕は鷹野さんの挑戦を受けた。今度こそ、僕が勝利を掴んでみせる!
 しかし! 鷹野さんの挑戦は受けるが、これだけは言っておきたい!
「ただし鷹野さん。君の挑戦は受けるけど、一つだけ条件がある」
「何?」
「カオス・エンペラー・ドラゴンのカードはデッキから抜いてよ! いくら何でも強すぎる!」
 さっきの鷹野さんとのデュエルでは、カオス・エンペラー・ドラゴンによる極悪1ターンキルを喰らってしまった。さすがにあれはひどすぎる。OCGの世界では禁止指定されているようだし、ここでも禁止ということにしておいたほうが絶対いい……はずだ。
 僕が提示した条件を聞き、鷹野さんはさほど嫌そうな顔はしなかった。むしろ、予測していたとでも言いたげな顔だ。
「大丈夫、安心して。私も、さっきのデュエルはちょっとやりすぎだったかなと思ってたのよ。だから今度のデュエルは、さっきとは別のデッキ――カオス・エンペラー・ドラゴンの入ってないデッキ――で挑ませてもらうわ。これで文句はないでしょ?」
 どうやら、鷹野さん自身も、さっきのデュエルはやりすぎだったと反省したらしい。そのため、今度のデュエルではカオス・エンペラー・ドラゴンを使わないという。よし! 希望が見えてきた!
 かくして、僕と鷹野さんによる、本日2度目のデュエルが幕を開けることとなった。


ご都合主義
(魔法カード)
都合のいい展開でストーリーを進行させる。




プロジェクト7 降臨! ブルーアイズ&レッドアイズ!(嘘)

「『遊戯王カード 原作HP』に掲載されている創作ストーリーに登場するオリカの名前をひたすら挙げていくゲーム」の結果、鷹野さんが先攻を取ることになった。
 おのれ! 鷹野さんめ、恐ろしいまでに『遊戯王カード 原作HP』を知り尽くしているっ!
 そんなわけで、本日2度目のデュエルは、鷹野さんの先攻で始まった。

「「デュエル!」」


【僕】 LP:4000 手札:5枚
 モンスター:なし
  魔法・罠:なし

【鷹野さん】 LP:4000 手札:5枚
 モンスター:なし
  魔法・罠:なし


「私の先攻、ドロー!」
 先攻を取った鷹野さんは、意気揚々とデッキからカードを引く。あのデッキは、先ほどのデュエルで使ったデッキとは別のデッキだという。果たして、どんなデッキで挑んでくるのだろうか?
 まあ、どんなデッキで挑んで来ようと、僕が必ず勝ってみせるさ!
「私はまず、リバース・カードを1枚セット! そして、《レスキューラビット》を召喚!」
 鷹野さんは伏せカードを1枚出すと、モンスターを1体召喚してきた。見たところ、《レスキューラビット》の攻撃力は300しかない。《クリボー》や《ワイト》と同レベルだ! フッ! 雑魚モンスターだな!
「《レスキューラビット》の効果発動! このカードをゲームから除外することで、デッキからレベル4以下の同名通常モンスターを2体場に呼び出すことができる!」
 …………は?
 鷹野さんは、召喚した《レスキューラビット》をゲームから除外し、デッキから2枚のカードを取り出した。
「出でよ! 2体の《剣闘獣(グラディアルビースト)アンダル》!」
 《レスキューラビット》が消え、代わりに出てきたのは、攻撃力1900の《剣闘獣アンダル》が2体! なんと、《ワイト》と同レベルの雑魚モンスターが、一瞬にして《ブラッド・ヴォルス》レベルのモンスター2体に化けてしまったのだ!
 何だこのインチキ効果!? 反則だろそんなの!
「まあ、落ち着きなさいよパラコン。《レスキューラビット》で呼び出されたモンスターは、このターンのエンドフェイズ時に破壊されてしまう。こっちだって、ノーリスクというわけじゃないのよ?」
 なぬ?
 鷹野さん曰く、《レスキューラビット》のインチキ効果で呼び出されたモンスターは、ターン終了時に破壊されるらしい。な、何だよ、脅かすなよ。
 あれ? でも、だとしたら、なんで鷹野さんは、《剣闘獣アンダル》2体を呼び出したんだ? 鷹野さんは先攻だから、攻撃を行うことができないのに……。
 しかし、僕はすぐにその答えを知ることとなった。
「私が『剣闘獣』と名のついたモンスターを特殊召喚したことにより、さっき伏せたトラップカード《ハンディキャップマッチ!》が発動するわ!」
 鷹野さんは、このターンの初めに伏せたカードを表にした。くっ! 原作ルールでは、発動条件さえ満たせば、たとえ伏せたターンであってもトラップカードを発動できる! 鷹野さんめ、原作ルールを知り尽くしているな!
「《ハンディキャップマッチ!》の効果により、私は手札またはデッキから、レベル4以下の『剣闘獣』と名のついたモンスターを1体特殊召喚できる! 私はデッキから《剣闘獣ラクエル》を特殊召喚!」
 鷹野さんのデッキから、新たな剣闘獣が特殊召喚される。《剣闘獣ラクエル》は攻撃力1800のモンスター。また攻撃力の高いモンスターが出てきたな。
「そして! 《剣闘獣ラクエル》と《剣闘獣アンダル》2体をデッキに戻すことで、融合モンスター《剣闘獣ヘラクレイノス》を特殊召喚する!」
 ぬぁっ!? 融合剣闘獣だと!?
 3体の剣闘獣がデッキに戻されたことで、鷹野さんの場に融合モンスターが出現した! 《剣闘獣ヘラクレイノス》は、《剣闘獣ラクエル》を含む3体の剣闘獣をデッキに戻すことで召喚される特殊融合モンスター。その攻撃力はなんと! ブルーアイズと同等の3000ポイントにまで達する!
 ま……まさか、1ターン目から攻撃力3000の大型モンスターを出してくるとは! 鷹野さん、いきなり容赦ねえ!
「さらに、魔法カード《二重召喚(デュアルサモン)》を発動! このカードの効果で、私はこのターン、もう一度だけ通常召喚が行えるわ! 私は《E・HERO(エレメンタルヒーロー) プリズマー》を召喚!」
 攻撃力3000の《剣闘獣ヘラクレイノス》を出しただけでは満足できないのか、鷹野さんはさらなるモンスターを出してきた! 《E・HERO プリズマー》は攻撃力1700のE・HEROで、たしか特殊能力があったような……。
「《E・HERO プリズマー》は、融合モンスターの融合素材となるモンスターを、自分のデッキから墓地へ送ることで、1ターンの間、墓地へ送ったそのモンスターと同名カードとして扱えるようになるわ」
 融合モンスターの融合素材モンスターと同名カードに変身する――それが、《E・HERO プリズマー》の特殊能力だ。つまり、融合召喚を大きくサポートするカード、ということになるか。
「私は、デッキから《剣闘獣ベストロウリィ》を墓地へ送り、このターンの間だけ、《E・HERO プリズマー》の名前を《剣闘獣ベストロウリィ》に変更する!」
 鷹野さんのデッキから、1体の剣闘獣が墓地へ送られる。それにより、《E・HERO プリズマー》はこのターンのみ、《剣闘獣ベストロウリィ》に変身した。
「そしてそして! 《剣闘獣ベストロウリィ》となった《E・HERO プリズマー》が場にいるため、私は手札から《スレイブタイガー》を特殊召喚! このカードは、自分の場に『剣闘獣』と名のついたモンスターが存在するとき、手札から特殊召喚できる!」
 げぇっ!? 鷹野さんの狙いはこれか! 《スレイブタイガー》を特殊召喚するため、わざわざ《E・HERO プリズマー》の名前を《剣闘獣ベストロウリィ》に変更したわけだ!
 いや、それだけじゃない!
「さらにさらに! 《スレイブタイガー》の効果を発動! このカードを生け贄に捧げることで、自分の場の剣闘獣1体をデッキに戻し、デッキから剣闘獣1体を特殊召喚できる! 私は《剣闘獣ベストロウリィ》となった《E・HERO プリズマー》をデッキに戻す!」
 そう! 《スレイブタイガー》には、自身を生け贄とすることで、場の剣闘獣とデッキの剣闘獣を入れ替える能力を持つ! 鷹野さんの場の《E・HERO プリズマー》はこのターンのみ《剣闘獣ベストロウリィ》に変身しているから、《スレイブタイガー》の効果の対象にできるってわけだ!
 鷹野さんは、ここまで考えて《E・HERO プリズマー》の効果を使ったのか。
「私はデッキから、この剣闘獣を特殊召喚するわ。現れよ、《剣闘獣ダリウス》!」
 《スレイブタイガー》の効果によって、また新たな剣闘獣が出現した。
 ……正直なところ、今まで剣闘獣デッキと戦ったことがない僕は、だんだんとついて行くのがつらくなってきた。剣闘獣って何種類いるんだ?
「《スレイブタイガー》の効果で特殊召喚された剣闘獣――《剣闘獣ダリウス》――は、『剣闘獣』と名のついたモンスターで特殊召喚された扱いとなるわ。よって、《剣闘獣ダリウス》のモンスター効果が発動する!」
 …………。
 そういえば、剣闘獣の特徴の一つとして、「『剣闘獣』と名のついたモンスターの効果で特殊召喚された場合、特殊能力が発動する(あるいは特殊能力を得る)」というものがあった。鷹野さんが《スレイブタイガー》の効果で出してきた《剣闘獣ダリウス》もまた、剣闘獣の効果で呼び出された際に発動する特殊能力を持っているのだろう。
 そして、《スレイブタイガー》で特殊召喚された剣闘獣は、剣闘獣の効果で特殊召喚された扱いになる。だから、《剣闘獣ダリウス》の持つ特殊能力が発動するってわけだ。
 して、《剣闘獣ダリウス》の特殊能力とは一体?
「《剣闘獣ダリウス》が剣闘獣の効果で特殊召喚されたとき、自分の墓地に眠る剣闘獣1体を、モンスター効果を無効にして復活させることができるわ。私は、さっき《E・HERO プリズマー》の効果発動の際に墓地へ送っておいた《剣闘獣ベストロウリィ》を復活させる!」
 うええええええええええええい!
 ま〜た鷹野さんの場に剣闘獣が出てきたよ! よりにもよって、《剣闘獣ダリウス》の効果が剣闘獣を復活させるものだったとは!
 くそっ! 鷹野さんはこの布陣につなげるために、《E・HERO プリズマー》の効果を使ったのか! 面倒な真似を!
 これで、鷹野さんの場のモンスターは、《剣闘獣ヘラクレイノス》と《剣闘獣ダリウス》と《剣闘獣ベストロウリィ》の3体……。
「まだまだぁ! 私は場の《剣闘獣ベストロウリィ》と《剣闘獣ダリウス》をデッキに戻し、融合モンスター《剣闘獣ガイザレス》を特殊召喚!」
 どひゃあああああ! また融合剣闘獣を出してきたよこの人!
 《剣闘獣ガイザレス》は、《剣闘獣ベストロウリィ》を含む2体の剣闘獣をデッキに戻すことで召喚される特殊融合モンスター。その攻撃力はなんと! レッドアイズと同等の2400ポイントにまで達する!
 おのれ……っ! 攻撃力3000のモンスターだけでは飽き足らず、攻撃力2400のモンスターまで出してくるとは! えげつないことしてくれるよ!
「ふっ。これで私はターンエンドよ」
 いきなり長かった鷹野さんの1ターン目が終わった。
 一つため息をつき、僕は鷹野さんの場を眺めた。
 先攻1ターン目が終わったところだというのに、攻撃力3000の剣闘獣と、2400の剣闘獣が1体ずつ……か。
 う〜む。どうやら、今回の鷹野さんのデッキは「剣闘獣デッキ」らしい。


【僕】 LP:4000 手札:5枚
 モンスター:なし
  魔法・罠:なし

【鷹野さん】 LP:4000 手札:1枚
 モンスター:剣闘獣ヘラクレイノス(攻3000)、剣闘獣ガイザレス(攻2400)
  魔法・罠:なし


「ぼ……僕のターン……」
 たとえるなら、ブルーアイズとレッドアイズに睨まれている状態。
 たとえるなら、《カオス・ソルジャー》と《カオス・マジシャン》に睨まれている状態。
 たとえるなら、6の目が出た《天使のサイコロ》で強化された《ランドスターの剣士》と《コザッキー》に睨まれている状態。
 この状態で、僕はどう対抗すればいいのか。
 落ち着け……。手札には必ず可能性があるはずだ。この手札の中に、今の状況を覆す手段が隠れているはず!
 僕は呼吸を整え、自分の手札に目を通した。

〜僕の手札〜
 ネオバグ、ヴァリュアブル・アーマー、馬の骨の対価、埋葬の腕、力の集約

 僕の手札は以上の5枚だ。
 5枚のカードを見ていく中で、僕は《埋葬の腕》のカードに注目する。
 魔法カード《埋葬の腕》は、対象モンスター1体を墓地へ引きずり込む効果を持つ強力カード。つまり、このカードを使えば、鷹野さんの場のモンスターを1体除去できるのだ。
 しかし、事はそんな簡単には行かない。その理由は、鷹野さんの場の剣闘獣が持つ能力にある。
 鷹野さんの場にいるレッドアイズ……もとい、攻撃力2400の《剣闘獣ガイザレス》。こちらの能力に関しては、現在は問題ない。問題なのは、ブルーアイズ……もとい、攻撃力3000の《剣闘獣ヘラクレイノス》。このモンスターはなんと、手札を1枚捨てることで、魔法・トラップの発動を無効にして破壊するというチート効果を持っているのだ!
 鷹野さんの手札は現在1枚。彼女はこの僕のターン、最低でも1回は魔法・トラップを無効にできることになる。僕が《埋葬の腕》を使えば、彼女は確実にその発動を止めてくるだろう。
 今のままでは、《埋葬の腕》を安全に使うことができない。かといって、それ以外のカードでは、この状況を覆すことはできない。どうするか……。
 ええい! 考えていても仕方ない! このドローに賭ける!
「このカードの引きに……全てを賭ける! ドロー!」
 まだ後攻1ターン目だが、僕は早くもこのドローに全てを賭けた。
 デッキよ……応えてくれ!

 ドローカード:アーマード・ビー

 …………あ。すげー強いカード引いた。
「僕は《アーマード・ビー》を攻撃表示で召喚!」
 僕はドローしたモンスターをすぐさま場に出した。攻撃表示で。
「《アーマード・ビー》のモンスター効果! 1ターンに一度、相手モンスター1体の攻撃力を、エンドフェイズ時まで半分にする! 僕はこの効果を、《剣闘獣ヘラクレイノス》に対して発動!」
「なっ!?」
 鷹野さんの顔が歪んだ! ふははは! いい表情だ! もっとその可愛い顔を屈辱に歪めるがいい!
 僕の場の《アーマード・ビー》は、攻撃力1600のモンスター。このモンスターは、相手モンスターの攻撃力を1ターンの間だけ半減させるという、決してチートではない正々堂々とした能力を持つ。
 フフ……この能力があれば、《アーマード・ビー》1枚でレッドアイズはもちろん、ブルーアイズだって仕留めることができる! 強いぜ、《アーマード・ビー》!
「鷹野さん! 君の場の《剣闘獣ヘラクレイノス》は、魔法・トラップの発動は止められるけど、モンスター効果の発動は止められない! よって、《アーマード・ビー》の効果は何の問題もなく適用される!」
「くっ……」
 そう。《剣闘獣ヘラクレイノス》は、モンスター効果を止めることはできない。《アーマード・ビー》の効果を受けてもらおう!

 剣闘獣ヘラクレイノス 攻:3000 → 1500

 《剣闘獣ヘラクレイノス》の攻撃力が1500まで下がった! 今なら《アーマード・ビー》で仕留めることができる!
「バトル! 《アーマード・ビー》で《剣闘獣ヘラクレイノス》を攻撃!」
「私に……防ぐ手はない……っ!」
 鷹野さんの場に伏せカードはない。よって、バトルは何の問題もなく成立し、《アーマード・ビー》が《剣闘獣ヘラクレイノス》を撃破した。

 アーマード・ビー 攻:1600
 剣闘獣ヘラクレイノス 攻:1500

 鷹野さん LP:4000 → 3900

 よし! ブルーアイズ……じゃなくて、《剣闘獣ヘラクレイノス》を倒したぜ!
「《剣闘獣ヘラクレイノス》が撃破されるなんて……。けど、まだ私の場には《剣闘獣ガイザレス》がいるわ!」
 《剣闘獣ヘラクレイノス》は破壊したが、まだ鷹野さんの場にはレッドアイズ……じゃなくて、《剣闘獣ガイザレス》がいる。こっちもどうにかしないといけない。
 もちろん、そのことだってきっちり考えてある。《剣闘獣ヘラクレイノス》がいなくなった今、僕はこのカードを発動させてもらう!
「残念だったね鷹野さん! 僕は魔法カード《埋葬の腕》を使い、《剣闘獣ガイザレス》を墓地へ引きずり込む!」
「!」
 《埋葬の腕》の効果が適用され、《剣闘獣ガイザレス》が場から姿を消した! よし! これで鷹野さんの場のモンスターは全滅だ!
「剣闘獣が……ぜん……めつめつめつ……」
 鷹野さんが眉間にしわを寄せ、歯を食いしばっている。クク……いい表情だ!
 さて、あとはこのカードを伏せて、ターンを終えるとしよう。
「カードを1枚伏せ、ターンエンドだ!」


【僕】 LP:4000 手札:3枚
 モンスター:アーマード・ビー(攻1600)
  魔法・罠:伏せ×1

【鷹野さん】 LP:3900 手札:1枚
 モンスター:なし
  魔法・罠:なし




プロジェクト8 《同胞の絆》って強いよね

 見よ! 現在の戦況を! 場のカード、手札、ライフポイント! 全てにおいて僕が上だ!
 いやあ、きれいに逆転できたものだ! やっぱりアレだね。デュエルってのは、どんなに追い詰められても、最後の最後まであきらめちゃいけないんだね。うんうん。
 さあて、鷹野さん。この状況から君はどんなあがきを見せてくれるのかな。じっくり拝見させてもらうとするよ。ウシシシシ……!
「パラコンの分際で味な真似を……。私のターン、ドロー」
 鷹野さんのターン。ドローしたことで彼女の手札は2枚。たったの2枚! 果たしてその2枚でどんなあがきを――
「私はカードを1枚伏せ、魔法カード《命削りの宝札》を発動! その効果で、手札が5枚になるようにカードをドローし、5ターン後に手札を全て墓地に置く! 私の手札は0枚だから5枚ドロー!」
 ――って、あっさり手札増強しやがったよチキショオオオオオオ!
 くそっ! 相変わらず《命削りの宝札》は強いな! これで鷹野さんの手札は一気に5枚まで膨れ上がったか!
「じゃあ、このカードにしようかしら。《カードガンナー》を召喚! そのモンスター効果を使わせてもらうわ!」
 《カードガンナー》……あのモンスターは攻撃力わずか400だが、1ターンに一度、デッキの上からカードを3枚まで墓地へ送ることにより、エンドフェイズ時まで墓地へ送ったカードの枚数×500ポイント攻撃力が上昇する。
「デッキの上から3枚のカードを墓地へ送り、《カードガンナー》の攻撃力を1500ポイント上昇!」

 カードガンナー 攻:400 → 1900

「《カードガンナー》で《アーマード・ビー》を攻撃!」
 攻撃力を上昇させた《カードガンナー》が《アーマード・ビー》に攻撃を仕掛けてきた! このままでは《アーマード・ビー》がやられてしまうが、僕にそれを防ぐ手段はない! くそっ!

 カードガンナー 攻:1900
 アーマード・ビー 攻:1600

 僕 LP:4000 → 3700

「私はこれでターンエンド。このとき、《カードガンナー》の攻撃力は元に戻るわ」

 カードガンナー 攻:1900 → 400


【僕】 LP:3700 手札:3枚
 モンスター:なし
  魔法・罠:伏せ×1

【鷹野さん】 LP:3900 手札:4枚
 モンスター:カードガンナー(攻400)
  魔法・罠:伏せ×1
 ※命削りの宝札:0ターン目


 う〜ん。《アーマード・ビー》がやられたか。けど、まだまだこれからだ!
「僕のターン、ドロー!」
 とりあえず、《カードガンナー》をさっさと倒そう。そう思い、僕は手札からモンスターを召喚した。
「《ネオバグ》を召喚! 《カードガンナー》に攻撃だ!」
 《ネオバグ》の攻撃力は1800。攻撃力が400に戻った《カードガンナー》など余裕で倒せる!
 僕の攻撃宣言を聞くと、鷹野さんは自分の場の伏せカードを一瞥した。しかし、
「……通すわ」
 大人しく攻撃を通してしまった。今は伏せカードに頼らなくても問題ないということか?
 とりあえず、何事もなく、僕の《ネオバグ》は鷹野さんの《カードガンナー》を撃破した。

 ネオバグ 攻:1800
 カードガンナー 攻:400

 鷹野さん LP:3900 → 2500

「くっ……。だけど、《カードガンナー》が破壊されたとき、私はカードを1枚ドローできる。カードを引かせてもらうわよ」
 あっ、そういや、《カードガンナー》にはそんな効果があったっけ? 小賢しい真似を。これで鷹野さんの手札は5枚になったか。
 まあいい。たとえ手札を増やされようが、僕が勝つことに変わりはない!
「僕はカードを2枚伏せ、ターンエンドだ!」


【僕】 LP:3700 手札:1枚
 モンスター:ネオバグ(攻1800)
  魔法・罠:伏せ×3

【鷹野さん】 LP:2500 手札:5枚
 モンスター:なし
  魔法・罠:伏せ×1
 ※命削りの宝札:1ターン目


「私のターン、ドロー! 私は《E・HERO プリズマー》を召喚!」
 カードを引くや否や、彼女は《E・HERO プリズマー》のカードを出してきた……って、またそいつかよ!? もしかして、また剣闘獣でゴチャゴチャやらかすつもりなのか!? できれば勘弁してほしいんだが……。
「さらに、1000ライフを支払い、魔法カード《同胞の絆》を発動! このカードは、デッキから場のモンスターと同種族のレベル4モンスターを2体まで特殊召喚できる! 私は場の《E・HERO プリズマー》と同種族のレベル4モンスターを2体、デッキから召喚させてもらうわ!」

 鷹野さん LP:2500 → 1500

 ぐっ!? しかもここで《同胞の絆》かよ!? これで鷹野さんの場には、一気に3体のモンスターが揃うことになる!
 けど、《同胞の絆》で呼び出したモンスターは、攻撃することも生け贄にすることもできない。それがせめてもの救い……になるといいんだが。
 鷹野さんは、デッキから2枚のカードを取り出した。
「《同胞の絆》により、現れよ! 2体の《E・HERO プリズマー》!」
 彼女が呼び出した2体のモンスターは、どちらも《E・HERO プリズマー》! これで彼女の場には、3体の《E・HERO プリズマー》が揃った!
 《同胞の絆》で呼び出されたモンスターは、攻撃ができず、生け贄にもできない。けど、融合に使用することに関しては制約がない。そして、《E・HERO プリズマー》は、自身のカード名を融合モンスターの融合素材モンスターと同じにする能力を持つ。ということは……。
 彼女の狙いは……やはり、剣闘獣の融合! また《E・HERO プリズマー》を剣闘獣に変身させて、融合させるつもり――





「私は《E・HERO プリズマー》のカード名を《剣闘獣ベストロウリィ》に変更……すると思うか? しないね! ここはしない!
 私は、デッキから《神炎皇ウリア》を墓地へ送り、《E・HERO プリズマー》(1体目)のカード名を《神炎皇ウリア》に変更!
 さらに、デッキから《降雷皇ハモン》を墓地へ送り、《E・HERO プリズマー》(2体目)のカード名を《降雷皇ハモン》に変更!
 そして、デッキから《幻魔皇ラビエル》を墓地へ送り、《E・HERO プリズマー》(3体目)のカード名を《幻魔皇ラビエル》に変更!
 今ここに、三幻魔が全て揃った! 私は《神炎皇ウリア(に変身したプリズマー)》、《降雷皇ハモン(に変身したプリズマー)》、《幻魔皇ラビエル(に変身したプリズマー)》をゲームから除外! 混沌の闇より出でよ! 《混沌幻魔アーミタイル》ッ!」





 …………は?

 ちょ……っ!? ええええええええええええ!? まさかまさかの《混沌幻魔アーミタイル》ぅぅぅぅぅ!?
 鷹野さんの召喚した《混沌幻魔アーミタイル》は、自分の場の三幻魔――《神炎皇ウリア》、《降雷皇ハモン》、《幻魔皇ラビエル》――をゲームから除外することで特殊召喚される融合モンスターだ! なるほど、3体の《E・HERO プリズマー》をそれぞれ《神炎皇ウリア》、《降雷皇ハモン》、《幻魔皇ラビエル》に変身させることで、《混沌幻魔アーミタイル》の召喚に繋げたわけか!
 うーむ。僕は先ほどまで、今日の鷹野さんのデッキは「剣闘獣デッキ」だと思っていたが、どうやら本当は「アーミタイルデッキ」だったらしい。
 それはそうと、《混沌幻魔アーミタイル》にはたしか、えげつない能力があったような気が……?
「《混沌幻魔アーミタイル》は、私のターンの間のみ、攻撃力が10000ポイントアップする!」

 混沌幻魔アーミタイル 攻:0 → 10000

 げえええええっ! 攻撃力10000ポイントぉぉぉぉ!?
 まずい! こんなのに攻撃されたら、一撃で僕のライフは消し飛んでしまう! は……反則だろこんなの!
 だ……だが! 原作ルールでは、融合モンスターは融合したターンに攻撃することはできない! つまり、《混沌幻魔アーミタイル》はこのターン攻撃することはできない――
「《混沌幻魔アーミタイル》は、マグネットモンスターと同じく特殊融合モンスター! よって、融合したターンでも攻撃できるわ!」
 ――と思ったら、なんか不思議な理屈で攻撃可能にされたあああああ!
「くたばれパラコン! バトル! 《混沌幻魔アーミタイル》で《ネオバグ》に攻撃! “全土滅殺 転生波”!」
 なんやかんやで、《混沌幻魔アーミタイル》の攻撃が炸裂する! 《混沌幻魔アーミタイル》と《ネオバグ》の攻撃力差は8200! こんなダメージ受けたら即死だ! 絶対に通してたまるかあああああ!
「そうは行かない! リバース・マジック、《馬の骨の対価》! この魔法カードにより、効果モンスター以外の自軍モンスター1体を墓地へ送り、デッキからカードを2枚ドローする! 僕は《ネオバグ》を墓地へ送り、カードを2枚ドロー!」
「!」
 《混沌幻魔アーミタイル》の攻撃がヒットする前に、僕は伏せておいた《馬の骨の対価》を発動。通常モンスターである《ネオバグ》を墓地へ送り、カードを2枚ドローした。
「《ネオバグ》が墓地へ送られたことで、《混沌幻魔アーミタイル》は攻撃対象を見失った! よって、《混沌幻魔アーミタイル》の攻撃は不発に終わる!」
 まさにサクリファイス・エスケープ! 華麗なカード捌きで、《混沌幻魔アーミタイル》の攻撃をかわした上、手札を増やしてやったぜイヤッホウ!
「ちっ……紙一重でかわしたか。まあいいわ。カードを1枚伏せ、ターンエンドよ」
 どうにかバトルを回避し、鷹野さんのターンが終わる。同時に、《混沌幻魔アーミタイル》の攻撃力が変化した。

 混沌幻魔アーミタイル 攻:10000 → 0


【僕】 LP:3700 手札:3枚
 モンスター:なし
  魔法・罠:伏せ×2

【鷹野さん】 LP:1500 手札:3枚
 モンスター:混沌幻魔アーミタイル(攻0)
  魔法・罠:伏せ×2
 ※命削りの宝札:1ターン目


「僕のターン……!」
 さて、あの《混沌幻魔アーミタイル》をどうにかしないと。次の鷹野さんのターンになれば、また《混沌幻魔アーミタイル》の攻撃力は10000まで上昇してしまう。
 僕の手札は、《馬の骨の対価》を使ったことで3枚まで増えている。しかし、この中に《混沌幻魔アーミタイル》を倒せそうなカードはない。今、《混沌幻魔アーミタイル》は攻撃力0だが、《混沌幻魔アーミタイル》は戦闘で破壊されないモンスター。そのため、戦闘以外の方法で倒さなきゃいけないわけだが……その手段がこの手札には存在しない。
 ここは……ドローするカードに賭けるしかない!
「このカードの引きに……全てを賭ける! ドロー!」
 さっきも同じことを言った気がするが、気にしないことにして、僕はこのドローに全てを賭けた。
 デッキよ……応えてくれ!






 ドローカード:破壊輪






 …………。

 僕は手札からモンスターを1体召喚した。
「《スパイダー・スパイダー》を召喚! このカードで、攻撃表示の《混沌幻魔アーミタイル》に攻撃する!」
 《混沌幻魔アーミタイル》は戦闘で破壊されない能力を持つ。しかし、戦闘によって発生するダメージまで0にできるわけではない。僕の出した《スパイダー・スパイダー》の攻撃力は1500。こいつで攻撃力0の《混沌幻魔アーミタイル》に攻撃すれば、1500の超過ダメージが鷹野さんを襲い、僕の勝利に――
「永続トラップ《スピリットバリア》を発動。このカードの効力で、私の場にモンスターが存在する限り、私が受ける戦闘ダメージは0になるわ」
 ――ならなかった。鷹野さんが前のターンに伏せたトラップが発動し、物の見事に戦闘ダメージがかき消された。……思った通り、戦闘ダメージ回避のトラップを伏せていたか。
 まあいいさ。こうなることくらいは想定内。大丈夫。僕の手札には、必殺のトラップがある。
「僕は《破壊輪》……もとい、伏せカードを2枚セット。ターン終了だよ!」


【僕】 LP:3700 手札:1枚
 モンスター:スパイダー・スパイダー(攻1500)
  魔法・罠:伏せ×4

【鷹野さん】 LP:1500 手札:3枚
 モンスター:混沌幻魔アーミタイル(攻0)
  魔法・罠:スピリットバリア、伏せ×1
 ※命削りの宝札:2ターン目


「私のターン、ドロー!」
 鷹野さんのターンに移る。同時に、彼女の場の《混沌幻魔アーミタイル》の攻撃力が上昇した。

 混沌幻魔アーミタイル 攻:0 → 10000

「私はカードを1枚セットして、魔法カード《手札抹殺》を発動。互いに手札を全て捨て、同じ枚数だけカードをドローする。私は2枚の手札を捨て、2枚ドローするわ」
 鷹野さんは、互いの手札を総入れ替えする魔法カード《手札抹殺》を発動させた。僕の手札は1枚だから、1枚捨てて1枚ドローすることになる。僕は手札1枚を墓地へ捨てて、新たにカードを1枚引いた。
「今私が捨てたカードの中には、《暗黒界の狩人 ブラウ》のカードがあったわ。このカードが他のカードの効果で手札から墓地へ捨てられたとき、私はカードを1枚ドローする。よって1枚ドロー!」
 なんか、鷹野さんが捨てたカードの中に《暗黒界の狩人 ブラウ》が紛れ込んでいたらしい。その効果によって彼女は1枚ドロー。これで彼女の手札は3枚になった。
「いい感じになってきたわ。私は《デーモン・ソルジャー》を召喚! そして、すかさずバトル! 《混沌幻魔アーミタイル》で《スパイダー・スパイダー》に攻撃!」
 入れ替わった手札から《デーモン・ソルジャー》を召喚し、すぐさまバトルに突入する鷹野さん。《混沌幻魔アーミタイル》の攻撃が宣言される。
 攻撃宣言……! 《混沌幻魔アーミタイル》で攻撃を宣言したな!? しちゃったな!?
「ははっ! かかったね鷹野さん! トラップ発動ぉ! 《破壊輪》ッ!」
「!」
 うひゃひゃひゃひゃ! 《破壊輪》は、相手の攻撃モンスター1体を破壊し、そのモンスターの攻撃力分のダメージを相手「だけ」に与える極悪トラップ! これが何を意味するか分かるか!?
「《破壊輪》の効果で私の《混沌幻魔アーミタイル》は破壊され……その攻撃力10000ポイントが、私のライフを直撃する……!」
 その通り! つまり、鷹野さんのライフはこのターンで0になるってわけだ!
 さあ、《混沌幻魔アーミタイル》の強大な力を、自らの身で受け、砕け散るがいい!
「《破壊輪》の効果で、《混沌幻魔アーミタイル》を破壊! 10000ポイントのダメージだ!」
 この勝負もらった! ついに僕の時代が到来――
「そうは行かないわ! トラップ発動! 《デストラクト・ポーション》! 《混沌幻魔アーミタイル》を破壊して、《混沌幻魔アーミタイル》の攻撃力分のライフを回復する!」
 ――到来しなかった。チキショオ!
 トラップカード《デストラクト・ポーション》は、自分の場のモンスター1体を破壊し、破壊したモンスターの攻撃力分のライフを回復するカード。そのカードを使い、鷹野さんは自ら《混沌幻魔アーミタイル》を破壊したのだ! これにより、僕が発動した《破壊輪》は対象を見失い、不発に終わる!
 くそっ! こうなることを見越して、《デストラクト・ポーション》を伏せていたというのか!?
「《混沌幻魔アーミタイル》の攻撃力は10000。よって、私は10000ポイントのライフを得る!」

 鷹野さん LP:1500 → 11500

 う〜むむむ! 10000ダメージで叩き伏せるつもりが、10000ライフを回復させることになってしまうとは!
 けど、鷹野さんの場から《混沌幻魔アーミタイル》を退けることはできたから、まあ、よしとしよう。
「まだ私のバトルフェイズは終了してないわ。《デーモン・ソルジャー》で《スパイダー・スパイダー》を攻撃!」
 あ、そういや、《デーモン・ソルジャー》の攻撃が残ってたっけ。
 《デーモン・ソルジャー》の攻撃力は1900。《スパイダー・スパイダー》よりも上だ。けど、僕の場にはもう、バトル回避のカードはない。よって、《スパイダー・スパイダー》は破壊される。

 デーモン・ソルジャー 攻:1900
 スパイダー・スパイダー 攻:1500

 僕 LP:3700 → 3300

「カードを1枚セット。私はこれでターンエンド」


【僕】 LP:3300 手札:1枚
 モンスター:なし
  魔法・罠:伏せ×3

【鷹野さん】 LP:11500 手札:2枚
 モンスター:デーモン・ソルジャー(攻1900)
  魔法・罠:スピリットバリア、伏せ×1
 ※命削りの宝札:2ターン目




プロジェクト9 やりたい放題

 さて、僕のターン。とりあえず、《混沌幻魔アーミタイル》はいなくなったが、状況は鷹野さんが有利なままだ。なんとかしなくては。
「僕のターン、ドロー!」

 ドローカード:運命の宝札

 ドローしたのは……こりゃまた強いカードだった。これを使わない手はないだろう!
「僕は、魔法カード《運命の宝札》を発動! サイコロを振り、出た目の数だけカードをドローする! そして、ドローした枚数分、デッキの上からカードを除外する!」
「強っ……。何そのインチキカード」
 鷹野さんが顔をしかめた。
 《運命の宝札》がインチキって……そりゃ、たしかに強いカードだとは思うけど。でも、《命削りの宝札》を使うような人にチート呼ばわりされたくないな。
 それはさておき、《運命の宝札》の効果処理だ。サイコロを振らせてもらうぞ!
「運命のダイス・ロ―――――――――――――ル!」
 僕はデッキケースからサイコロを一つ取り出し、カッコいい動作で投げた。そしたら、投げたサイコロが鷹野さんの頭部にヒットしてしまい、激怒した彼女に脇腹を蹴られた。痛え。
「ダイス・ロールの結果、出た目は3! よって3枚のカードをドローし、3枚のカードをデッキの上から除外する!」
 蹴られた脇腹を押さえつつ、3枚のカードをドローする。よし、なかなかいいカードを引いたぞ。
 ドローした後、僕はデッキの上から3枚のカードを除外した。除外されたカードは、《天使の施し》、《聖なるバリア−ミラーフォース−》、《死者蘇生》の3枚。強力なカードばかりが上手い具合に除外されてしまい、僕は若干やる気を失った。
 へ……へこたれるな、僕。デュエルを続行するんだ。
「僕は、墓地の昆虫族モンスター2体――《スパイダー・スパイダー》と《ネオバグ》――をゲームから除外し、《デビルドーザー》を特殊召喚する!」
 墓地のカード2枚を取り除き、《デビルドーザー》のカードを特殊召喚した。《デビルドーザー》は攻撃力2800の8ツ星モンスターだが、墓地の昆虫族モンスター2体をゲームから除外することで速攻召喚することが可能だ。このカードで鷹野さんの《デーモン・ソルジャー》を葬ってやる!
「バトル! 《デビルドーザー》で《デーモン・ソルジャー》を攻撃!」
「攻撃力は《デビルドーザー》のほうが上……。けど私は、《スピリットバリア》の効果で戦闘ダメージは受けない」
 鷹野さんは特にトラップとかを発動せず、《デビルドーザー》が《デーモン・ソルジャー》を撃破する。しかし、《スピリットバリア》によって鷹野さんに戦闘ダメージは通らない。むぅ、面倒だな、あのバリア。
 まあいいや。え〜と、このターンに他に出せそうなカードは……これだけだな。
「カードを1枚セットして、ターンエンド!」


【僕】 LP:3300 手札:2枚
 モンスター:デビルドーザー(攻2800)
  魔法・罠:伏せ×4

【鷹野さん】 LP:11500 手札:3枚
 モンスター:なし
  魔法・罠:スピリットバリア、伏せ×1
 ※命削りの宝札:3ターン目


「私のターン、ドロー!」
 今現在、場の状況は僕のほうがやや有利……に見える。どうにかこの状態をしっかり維持したいものだ。
 さて。鷹野さん、次はどう出てくるか。
「私は、《宝玉獣 サファイア・ペガサス》を召喚。このカードの効果で、デッキから《宝玉獣 ルビー・カーバンクル》を永続魔法扱いでフィールドに出すわ」
 ……おいおい、今度は宝玉獣かよ。
 《宝玉獣 サファイア・ペガサス》は場に出たとき、デッキ・手札・墓地に存在する『宝玉獣』と名のついたモンスター1体を、永続魔法扱いとして魔法・トラップゾーンに置く能力を持つ。攻撃力は1800。《デビルドーザー》よりも低いが、《スピリットバリア》でダメージを防げるためか、鷹野さんは《宝玉獣 サファイア・ペガサス》を守備表示にする様子がない。
 うーむ。僕は先ほどまで、今日の鷹野さんのデッキは「アーミタイルデッキ」だと思っていたが、どうやら本当は「宝玉獣デッキ」だったらしい。
 鷹野さんは、デッキから《宝玉獣 ルビー・カーバンクル》のカードを取り出すと、永続魔法扱いとして魔法・トラップゾーンに置いた。そして、1枚のカードを手札から選び出す。
「さらにカードを1枚セット。これで私は終了よ」
 このターンはバトルせずに、鷹野さんはターンを終えた。


【僕】 LP:3300 手札:2枚
 モンスター:デビルドーザー(攻2800)
  魔法・罠:伏せ×4

【鷹野さん】 LP:11500 手札:1枚
 モンスター:宝玉獣 サファイア・ペガサス(攻1800)
  魔法・罠:宝玉獣 ルビー・カーバンクル、スピリットバリア、伏せ×2
 ※命削りの宝札:3ターン目


「僕のターン、ドロー!」
 僕はドローカードを手札に入れると、すぐさま、前のターンに《運命の宝札》で引き当てていた魔法カードを選び取った。
「《強欲な壺》を発動! 2枚ドローするよ!」
 決してチートな効果ではない、いやむしろ素晴らしく費用対効果のバランスが取れているドロー強化カード《強欲な壺》を使い、僕は2枚のカードをドローした。
 すると鷹野さんが、「またドロー強化カード? そんなカードばかりに頼って、あなたはよほど引きに恵まれていないと見えるわね。私が思うに、その理由は、あなたのカードを信じる心が足りないからよ。そんなドロー強化カードに頼る前に、もっとカードを信じる心を磨いたらどうなの?」みたいなことを言いたげな目つきで睨みつけてきたが、滑らかにスルーして次の動作に移った。
「《共鳴虫(ハウリング・インセクト)》を召喚! バトルに入るよ!」
 攻撃力1200の《共鳴虫》を召喚し、バトルフェイズ。まずは、壁となっている《宝玉獣 サファイア・ペガサス》を倒す!
「《デビルドーザー》で《宝玉獣 サファイア・ペガサス》を攻撃! 通す?」
「通すわ。けど、《スピリットバリア》の効果で戦闘ダメージは受けない」
 鷹野さんがトラップなどを発動する気配はなく、《デビルドーザー》は《宝玉獣 サファイア・ペガサス》を破壊する。しかし、《スピリットバリア》の効果で戦闘ダメージは0にされてしまった。
「《宝玉獣 サファイア・ペガサス》が破壊された場合、墓地へ送らず、永続魔法扱いとして魔法・トラップゾーンに置くことができるわ」
 言うと鷹野さんは、《宝玉獣 サファイア・ペガサス》のカードを魔法・トラップゾーンに移動させた。そういえば、『宝玉獣』と名のついたモンスターは、破壊されても永続魔法扱いとなって場に留まる能力を持ってるんだったな。
 ともあれ、これで鷹野さんの場に壁モンスターは存在しなくなった。今の状態なら、《スピリットバリア》も機能しない。ダメージを与えるチャンスだ!
「鷹野さん、君の場に壁モンスターはいない! 《共鳴虫》でダイレクトアタックだ!」
 《共鳴虫》の攻撃が炸裂! 鷹野さんの場でトラップが発動することはなく、彼女は大人しく1200ポイントのダメージを受けた。

 共鳴虫 攻:1200

 鷹野さん LP:11500 → 10300

「痛くも痒くも……ないね!」
 鷹野さんは余裕の表情で返してきた。うるせえよ。
 まあ、彼女のライフはまだ10300もある。余裕ぶっこきたくなる気持ちも分かるけどさ。
「カードを1枚伏せ、ターンエンドだ!」


【僕】 LP:3300 手札:2枚
 モンスター:デビルドーザー(攻2800)、共鳴虫(攻1200)
  魔法・罠:伏せ×5

【鷹野さん】 LP:10300 手札:1枚
 モンスター:なし
  魔法・罠:宝玉獣 ルビー・カーバンクル、宝玉獣 サファイア・ペガサス、スピリットバリア、伏せ×2
 ※命削りの宝札:4ターン目


 さて、鷹野さんのターンだが。
 僕の場には今、2体のモンスターに5枚の伏せカードがある。これだけがっちり固めてあるんだから、鷹野さんも簡単には攻略できないはず……だと思う。
 さあ、どう出てくる?
「私のターン、ドロー」
 鷹野さんはドローカードを見ると、その麗しきお顔に酷薄な笑みを浮かばせた。
「ふっ……私はまず、場の伏せカード2枚を発動するわ。永続トラップ《リミット・リバース》を2枚発動!」
 鷹野さんの場の2枚の伏せカードが表になった。その正体はどちらも、永続トラップ《リミット・リバース》。
 《リミット・リバース》は、自分の墓地から攻撃力1000以下のモンスター1体を攻撃表示で蘇生させるトラップだ。なかなか便利な蘇生系カードではあるけど、《リミット・リバース》のカードが場から離れると、蘇生したモンスターが道連れとなって破壊されるという弱点がある。
 その《リミット・リバース》が2枚。鷹野さん、一気にモンスターを並べるつもりか?
「私は、1枚目の《リミット・リバース》で、攻撃力400の《カードガンナー》を蘇生させる。そして、2枚目の《リミット・リバース》ではこのカード……攻撃力600の《宝玉獣 エメラルド・タートル》を蘇生させるわ!」
 鷹野さんの場に、《カードガンナー》と《宝玉獣 エメラルド・タートル》が復活する……って、ちょっと待てい!
「待った! 《宝玉獣 エメラルド・タートル》なんてカード、いつの間に墓地へ送られたんだ!? まだこのデュエル中には見てないぞ!」
 僕は疑問に思い、鷹野さんに尋ねた。すると彼女はすぐさま返してきた。
「さっき、《カードガンナー》の効果でデッキから墓地へ送られたカードの中に、《宝玉獣 エメラルド・タートル》があったのよ」
 ……なるほど、謎は解けた。
 とりあえず、これで鷹野さんの場には、攻撃力400と600の雑魚モンスターが1体ずつ。そいつらで何をしようというんだ?
「私は、復活させた《カードガンナー》の効果を発動。デッキの上からカードを3枚墓地へ送り、このカードの攻撃力を1ターンの間1500ポイントアップする」

 カードガンナー 攻:400 → 1900

 鷹野さんのデッキから3枚のカードが墓地へ送られ、《カードガンナー》の攻撃力が上がった。少しはまともな攻撃力になったか。けど、それでも僕の場の《デビルドーザー》の力には遠く及ばな――
「準備は整った! 私は場の3枚の永続トラップ――《スピリットバリア》と2枚の《リミット・リバース》――を墓地へ送り、《神炎皇ウリア》を特殊召喚!」
 ――って、ええええええええ!? ここで《神炎皇ウリア》〜〜〜〜!?
 三幻魔の一体である《神炎皇ウリア》は、自分の場に表側表示で存在するトラップカード3枚を墓地へ送ることで特殊召喚できるモンスターだ。何を出してくるかと思えばこいつかよ!?
 ち……ちょっと待ってよ。鷹野さん、さっき三幻魔の融合体である《混沌幻魔アーミタイル》を出してたよね? あれだけじゃ満足行かなかったのかよ?
「《神炎皇ウリア》の攻撃力は、私の墓地の永続トラップカードの枚数の1000倍となるわ。よって《神炎皇ウリア》の攻撃力は――」

 神炎皇ウリア 攻:0 → 4000

「――4000ポイント! あのオベリスクと同等の4000よ!」
 《神炎皇ウリア》の攻撃力が一気にオベリスクと同等の4000に上がった! ひえええええ恐るべし……って、あれ? それはちょっとおかしいんじゃないか?
 鷹野さんの墓地にある永続トラップは、《神炎皇ウリア》召喚時に墓地へ送った3枚だけのはずだ。つまり、《神炎皇ウリア》の攻撃力は3000ポイントになるはずじゃ……。
「はいはい。さっき《手札抹殺》で手札を捨てたときに、永続トラップである《拷問車輪》のカードを捨てといたのよ。これで納得?」
 僕の気持ちを読んだかのように、鷹野さんはさらりと答えてくれた。なるほど、あのときの《手札抹殺》は、永続トラップを墓地へ落とす意味も持っていたのか。
「さて。《神炎皇ウリア》召喚の際、2枚の《リミット・リバース》はどちらも場を離れることになった。よって、《リミット・リバース》で復活した《カードガンナー》と《宝玉獣 エメラルド・タートル》は破壊されることになるわ。……しかし!」
 鷹野さんはどこか楽しげに、《宝玉獣 エメラルド・タートル》のカードを自分の魔法・トラップゾーンに置いた。
「《宝玉獣 エメラルド・タートル》は《宝玉獣 サファイア・ペガサス》と同じく、破壊された際に墓地へ送らず、魔法・トラップゾーンに永続魔法扱いで置くことができる! 当然、この効果を使わせてもらうわよ!」
 あ、そうだ。《宝玉獣 エメラルド・タートル》も宝玉獣だっけ。これで、鷹野さんの場には、永続魔法扱いの宝玉獣が3体……。
「それだけじゃないわよパラコン。《リミット・リバース》が場を離れたことで《カードガンナー》が破壊された。そして、《カードガンナー》が破壊されたとき、私はカードを1枚ドローする!」
 《カードガンナー》のドロー効果を使い、鷹野さんはカードを1枚ドローした。なんかもう、やりたい放題だな、あの人。
「そして、《神炎皇ウリア》のモンスター効果! 1ターンに一度、相手の場にセットされた魔法・トラップを1枚破壊する! この効果の発動に対し、魔法・トラップは発動できないわ!」
 ……え? セットされたカードを破壊……って、うあああああ! そういや、《神炎皇ウリア》にはそんな効果があったよ!
 くっ! 僕の場に伏せられた魔法・トラップは5枚! この中の1枚が確実に破壊される!
「そうね。じゃあ、真ん中の伏せカードに消えてもらうわ」
 くそったれ! 伏せカード破壊なんてインチキにもほどがあるよ!
 僕は泣く泣く、真ん中の伏せカードを墓地へ送った。
 ……が、そこで僕は目を見開いた。
「鷹野さん、残念だったね! 君が今、《神炎皇ウリア》の効果で破壊したのは、トラップカード《ヒーロー・メダル》! セットされたこのカードが相手のカード効果で破壊されたとき、このカードをデッキに戻してシャッフルし、その後で僕はカードを1枚ドローできる!」
「んなっ!?」
 ははははは! 今日はついてる! まさか、たまたま偶然破壊されたカードが《ヒーロー・メダル》のカードだったとはね! いやあ、ラッキーラッキー!
 僕は、《ヒーロー・メダル》のカードをデッキに戻してシャッフルした。さて、カードを1枚ドローさせてもらおうじゃないか。
「ありがとう、鷹野さん。君のおかげで、僕はカードを1枚ドローすることができるよ」
「ぐ……っ……!」
 鷹野さんがものすご〜く忌々しげに僕を睨みつけてくる。クク……いい顔だ。もっとその顔を歪ませるがいい!
 さあ、カードを1枚ドローしよう!
「ドロー!」

 ドローカード:ヒーロー・メダル

「嘘ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」
 ドローしたカードを見て、僕は思わず叫んでしまった。
 ま……まさか、《ヒーロー・メダル》の効果で、デッキに戻した《ヒーロー・メダル》自身を引き当ててしまうとは! 僕のデッキには《ヒーロー・メダル》のカードは1枚しか入ってないのに、こんなことが起こるなんて!
 う〜ん……なんか微妙な気分だ……。
「その様子から察するに、微妙なカードを引き当てたみたいね」
 嘲るような口調で鷹野さんが言った。なっ! なんでこの女、僕が微妙なカードを引き当てたって分かったんだ!?
「さて、じゃあ続きと行こうかしらね。私はフィールド魔法《失楽園》を発動! このカードがある限り、場に《神炎皇ウリア》、《降雷皇ハモン》、《幻魔皇ラビエル》の内1体以上が存在している場合、そのカードのコントローラーは1ターンに一度だけ、デッキからカードを2枚ドローできる! よって私は2枚ドロー!」
 なんか鷹野さんは、三幻魔専用のドロー強化カードを出してきた。三幻魔がいれば毎ターン2枚ドローって……! なんて反則的な効果なんだ! こんなのインチキだ!
 くそっ! これで鷹野さんの手札は3枚にまで増えた! こんなのってアリかよ!?
「まだ私のターンは終了してないわ! 私は場の永続魔法扱いとなっている《宝玉獣 サファイア・ペガサス》、《宝玉獣 エメラルド・タートル》、《宝玉獣 ルビー・カーバンクル》を墓地へ送り、2体目の幻魔……《降雷皇ハモン》を特殊召喚!」
 しかも、なんか2体目の幻魔来たーーーーーーーーーー!?
 鷹野さんは場の宝玉獣3体を墓地へ送り、2体目の幻魔を特殊召喚しやがった。《降雷皇ハモン》は場の永続魔法3枚を墓地へ送ることで特殊召喚されるモンスター。このカード出すために、鷹野さんは宝玉獣を永続魔法扱いとして場に留まらせていたのか!
 《降雷皇ハモン》の攻撃力は、これまたオベリスクと同等の4000ポイント。ふざけてる……。
「まだまだぁ! 私は《幻銃士》を召喚! このカードが召喚に成功したとき、自分の場にいるモンスターの数まで《銃士トークン》を出現させる! 私の場のモンスターは、《神炎皇ウリア》、《降雷皇ハモン》、《幻銃士》の3体だから、2体出現させるわ!」
 鷹野さんの動きは止まらない。今度は、なんかよく分からんトークンを出してきた。次は何する気だよ……。
「これで最後! 場の悪魔族モンスター3体――《幻銃士》と2体の《銃士トークン》――を生け贄に捧げ、《幻魔皇ラビエル》を特殊召喚!」
 3体目の幻魔ぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああ! マジで出してきたよこの人ぉぉぉぉ!
 《幻魔皇ラビエル》は、場の悪魔族モンスター3体を生け贄に捧げることで特殊召喚されるモンスターだ。攻撃力はやはり、オベリスクと同等の4000ポイント。……もう嫌なんだけど。鷹野さんめ……まさか、三幻魔を全て場に揃えてしまうとは。
 う〜む。僕は先ほどまで、今日の鷹野さんのデッキは「宝玉獣デッキ」だと思っていたが、どうやら本当は「三幻魔を場に揃えちゃうよデッキ」だったらしい。
 と……とにかく、ひとまず落ち着こう。落ち着いて、現在の戦況をまとめてみよう。


【僕】 LP:3300 手札:3枚
 モンスター:デビルドーザー(攻2800)、共鳴虫(攻1200)
  魔法・罠:伏せ×4

【鷹野さん】 LP:10300 手札:0枚
 モンスター:神炎皇ウリア(攻4000)、降雷皇ハモン(攻4000)、幻魔皇ラビエル(攻4000)
  魔法・罠:失楽園
 ※命削りの宝札:4ターン目


 ……この状況をどうしろと?
「バトル! まずは《降雷皇ハモン》で《デビルドーザー》を攻撃!」
 三幻魔の猛攻が始まる。《デビルドーザー》の攻撃力では《降雷皇ハモン》には勝てない。僕の場には伏せカードが4枚あるが、どういうわけだか攻撃を妨害する類のカードは1枚もない。よって、大人しく攻撃を受けるしかない……。

 降雷皇ハモン 攻:4000
 デビルドーザー 攻:2800

 僕 LP:3300 → 2100

「《降雷皇ハモン》のモンスター効果! このカードが戦闘で相手モンスターを破壊し墓地へ送ったとき、相手ライフに1000ダメージを与える!」
 うっ! そういえば、《降雷皇ハモン》にはそんな効果があったっけ! くそっ! 僕のライフがさらに削られる!

 僕 LP:2100 → 1100

「次は《神炎皇ウリア》で《共鳴虫》を攻撃! これで終わりよパラコン!」
 《神炎皇ウリア》の攻撃力は4000。対する《共鳴虫》の攻撃力は1200。当然のごとく、僕の場の《共鳴虫》は破壊される。そして、僕は2800ポイントの戦闘ダメージを受けて……あれ? 僕負けちゃうじゃん。
 ……って、そうはさせるか! 攻撃を妨害するカードはないが、ダメージを回避するカードなら用意してある!
「トラップカード《ガード・ブロック》を発動! この戦闘によって発生するダメージを0にして、僕はカードを1枚ドローする!」
「……ちっ。しぶといわね」
 ふぅ、危ない危ない。《ガード・ブロック》がなかったら負けてたよ。《ガード・ブロック》のテキストに従い、カードを1枚ドローさせてもらおう。ドローカードは……《モンスターレリーフ》か。う〜む……。
 まあいい。とりあえず、《共鳴虫》の効果を処理しよう。
「《共鳴虫》が戦闘で破壊されたことにより、僕はデッキから攻撃力1500以下の昆虫族モンスターを1体特殊召喚できる! 僕は……2体目の《共鳴虫》を特殊召喚! 守備表示!」
 とにかく今は、壁モンスターを途切れさせるわけにはいかない。壁モンスターがなくなれば、幻魔のパンチが僕に直撃する。そうならないように、僕は2体目の《共鳴虫》を出しておいた。
「小賢しい真似を。なら、《幻魔皇ラビエル》の攻撃! 《共鳴虫》を粉砕!」
「くっ! 《共鳴虫》の効果発動! デッキから3体目の《共鳴虫》を守備表示で出すよ!」
「また? 面倒くさいわねえ」
 よし! このターンはどうにか、三幻魔の攻撃を防ぎ切った! まだ……まだチャンスはあるはずだ!
「ふん。次のターンこそ仕留めてやるわ。ターンエンドよ」


【僕】 LP:1100 手札:4枚
 モンスター:共鳴虫(守1300)
  魔法・罠:伏せ×3

【鷹野さん】 LP:10300 手札:0枚
 モンスター:神炎皇ウリア(攻4000)、降雷皇ハモン(攻4000)、幻魔皇ラビエル(攻4000)
  魔法・罠:失楽園
 ※命削りの宝札:4ターン目


「僕の……ターン……!」
 僕の手札は4枚。この中に、三幻魔を打ち破れるカードはない。
 僕の場のカードは4枚。この中にも、三幻魔を打ち破れるカードはない。
 まさしく、僕の運命はこのターンのドローにかかっている。そう言っても過言ではない。
 ここで逆転へのキーカードを引けなければ……正直なところ、かなり厳しい。
 ここはカードを……デッキを信じるしかない。
 頼む、僕のデッキ! 僕に力を!
「このカードの引きに……全てを賭ける! ドロー!」
 自分のデッキを信じ、勢いよくカードを引いた。
 デッキよ……応えてくれ!





 ドローカード:ゴキボール





 いらねええええええええええええええええええええええええええええええええええ!
 なんでこのタイミングで《ゴキボール》ぅぅぅ!? こんなカード引いてもどうにもならないから! こんな雑魚カードじゃどうしようもないから! これじゃあ三幻魔に太刀打ちすることなんてできないから! 壁にするくらいしかできないから! これで一体どうしろって言うんだよコンチキショオが! ふざけんなよ!
 くっ! 落ち着け僕! 冷静さを欠いたら終わりだ! こういうときこそ冷静に……冷静になるんだ。あきらめてはいけない。手札には必ず可能性がある……はずだ!

〜僕の手札〜
 ゴキボール、移り気な仕立屋、ヒーロー・メダル、アルケミー・サイクル、モンスターレリーフ

 冷静に考えた結果、僕は一つの結論を出した。
 ……やっぱりどうしようもない。
「僕は……カードを2枚セットして、《ゴキボール》を守備表示で召喚……」
 ひとまず、《移り気な仕立屋》と《ヒーロー・メダル》をセットし、《ゴキボール》を壁として出しておいた。
 やっべえ。本気でくじけそうだ。
「あなたが《ゴキボール》を召喚したことで、《幻魔皇ラビエル》の効果が発動! 攻撃力・守備力1000の《幻魔トークン》を1体特殊召喚するわ!」
 ……あ、そういえば、《幻魔皇ラビエル》は、相手がモンスターを召喚する度にトークンを1体生み出す効果を持ってたっけ。面倒だなぁ!
 けど、《幻魔トークン》は攻撃宣言することができない。それだけが救いだろうか。
「ターンエンド……」


【僕】 LP:1100 手札:2枚
 モンスター:共鳴虫(守1300)、ゴキボール(守1400)
  魔法・罠:伏せ×5

【鷹野さん】 LP:10300 手札:0枚
 モンスター:神炎皇ウリア(攻4000)、降雷皇ハモン(攻4000)、幻魔皇ラビエル(攻4000)、幻魔トークン(守1000)
  魔法・罠:失楽園
 ※命削りの宝札:5ターン目


 鷹野さんのターン。このターンで、鷹野さんが《命削りの宝札》を発動してから5ターン目となる。よって、彼女はこのターン、《命削りの宝札》の効果に従い、ドロー後に手札を全て捨て去らなければならない。
「私のターン、ドロー。私の手札はドローカード1枚のみ。よって、このカードを墓地に捨てるわ」
 鷹野さんがドローしたカードはすぐに墓地へ送られ、彼女の手札は0枚となった。
 手札0……とりあえず、このターンは新たなカードを出されずに済みそう――
「けど、私の場には《失楽園》のカードがあるわ。このカードの効果で私は2枚ドロー!」
 ――って、そうだったあああああ! 《失楽園》のインチキくさいドロー効果があったんだっけ!
 まずい! これで鷹野さんの手札は2枚になってしまった! くっそぉ……毎ターン2枚ドローって……反則効果にもほどがあるよ!
「さあて。バトルに入る前に、《神炎皇ウリア》の効果を使わせてもらうわ」
 鷹野さんはまず、《神炎皇ウリア》の効果を起動させた。《神炎皇ウリア》の効果で、僕の場にセットされた魔法・トラップカードが1枚粉砕されてしまう。
「そうねぇ。私から見て、一番右のカードを破壊するわ」
 おのれ! 《神炎皇ウリア》の効果の発動に対して魔法・トラップを発動することはできない! 僕は大人しく、鷹野さんから見て一番右の伏せカードを墓地へ送り……目を見開いた。
「鷹野さん、またハズレを引いたね! 君が今、《神炎皇ウリア》の効果で破壊したのは、トラップカード《ヒーロー・メダル》!」
「えっ!? また!?」
 不幸中の幸いと言うべきか。運のいいことに、《神炎皇ウリア》の効果で破壊されたのは、またもや《ヒーロー・メダル》のカードだった。いやあ、ついてるなあ。
「セットされた《ヒーロー・メダル》が破壊されたから、このカードをデッキに戻して1枚ドローするよ!」
「ぬぬぬ……っ……!」
 鷹野さんが凄まじい形相で僕を睨みつけてくる。あぁ……いい顔だ。もっとその表情で僕を楽しませてくれ!
 さて、カードを1枚ドローさせてもらうぞ!
「ドロー!」
 ドローしたのは《威嚇する咆哮》のカードだった。まあまあのカードだな。
「まったく、2回連続でハズレを引くなんてね。まあいいわ。じゃあ、《幻魔皇ラビエル》の効果発動! 1ターンに一度、自分の場のモンスター1体を生け贄に捧げることで、エンドフェイズ時までその攻撃値を吸収する! 私は《幻魔トークン》を生け贄に捧げ、《幻魔皇ラビエル》の攻撃力を1000ポイントアップ!」

 幻魔トークン 攻:1000

 幻魔皇ラビエル 攻:4000 → 5000

 鷹野さんは、攻撃に参加できない《幻魔トークン》を生け贄にして、その攻撃値を《幻魔皇ラビエル》の攻撃値に加算した。……別にそんなことしなくてもよさそうな気がするが。
「バトル! 《降雷皇ハモン》で《共鳴虫》を攻撃!」
 ともあれ、鷹野さんがバトルフェイズに突入する。なんとか妨害してやりたいところだが、あいにく僕の場にバトル妨害のカードはない。《共鳴虫》は《降雷皇ハモン》にあっさりと蹴散らされた。
 だが、《共鳴虫》は守備表示。よってダメージは発生しない――
「《降雷皇ハモン》が戦闘で敵モンスターを破壊し墓地へ送ったため、1000ダメージを受けてもらうわ」
 ――って、そうだった! 《降雷皇ハモン》にはダメージを与える反則効果があるんだよ! チキショオ! 面倒くせえええええ!

 僕 LP:1100 → 100

 …………っ!
 《降雷皇ハモン》の効果で1000ダメージを受けたことで、僕のライフは残りわずか100ポイントとなってしまった! あ……危ねえ! 首の皮一枚でつながったか!
 け……けど! 残りライフが100になったことで、僕に勝利フラグが立った! このデュエル、僕が勝利する可能性は十分にある!


ガッチャ・フォース
(罠カード)
自分のライフが100ポイント以下の時に発動可能。
ほぼ確実に、自分はそのデュエルに勝利する。
ガッチャ! 楽しいデュエルだったぜ!


 あきらめるな! このデュエル、まだ希望は残されている! 勝利の女神は僕に味方したのだ!
「《共鳴虫》が戦闘で破壊されたから、デッキから昆虫モンスターを出させてもらう!」
 ひとまず、《共鳴虫》の効果を処理する。僕のデッキにはもう《共鳴虫》のカードはない。ならば……このカードを出させてもらおう!
「《ゴキボール》を守備表示で召喚!」
 何となく目についた《ゴキボール》を守備表示で出しておく。頼むぞ《ゴキボール》! 僕を守る壁となってくれ!
「なら、《神炎皇ウリア》と《幻魔皇ラビエル》で、2体の《ゴキボール》を攻撃!」
 残る2体の幻魔の攻撃。圧倒的な攻撃の前に、2体の《ゴキボール》は成すすべなく葬られてしまった。これで僕の場にモンスターはいなくなった。大ピンチだ……!
「その調子で、いつまで持ちこたえられるかしらね? カードを1枚伏せ、ターンエンドよ」
 完全に見下しモードの鷹野さん。くそっ! 必ず吠え面かかせてやるからな! 今に見てろよ!
 とりあえず、エンドフェイズを迎えたことで、《幻魔皇ラビエル》の効果が切れ、攻撃力が元に戻った。

 幻魔皇ラビエル 攻:5000 → 4000


【僕】 LP:100 手札:3枚
 モンスター:なし
  魔法・罠:伏せ×4

【鷹野さん】 LP:10300 手札:1枚
 モンスター:神炎皇ウリア(攻4000)、降雷皇ハモン(攻4000)、幻魔皇ラビエル(攻4000)
 魔法・罠:失楽園、伏せ×1


 僕は深呼吸を一つして、現在の戦況を冷静に分析してみた。
 鷹野さんの場には、攻撃力4000の幻魔が3体と、ドロー強化カードである《失楽園》に、正体不明のリバース・カードが1枚。対する僕の場には、壁モンスターがなく、今は特に役に立たない伏せカードが4枚あるだけ。
 そして、鷹野さんのライフが10300もあるのに対し、僕のライフはわずか100。
 僕の手札は3枚あるが、この中に今の状況を覆せるだけの力を持ったカードはない。この手札でできることといったら、トラップカード《威嚇する咆哮》で攻撃宣言を封じて時間を稼ぐ、といったことくらいだろうか。
 しかし、そういった時間稼ぎが果たしていつまで続くものだろうか? 何しろ、《神炎皇ウリア》は毎ターン伏せカードを1枚破壊するというチート効果、《降雷皇ハモン》は戦闘でモンスターを破壊すれば1000ダメージを与えるというチート効果を持っている。こいつらを相手にしている以上、伏せカードや守備モンスターを増やして様子見、という戦術で耐え抜くことは至難の業だ。
 何とかせねば。何とかして、三幻魔をこの場から引きずりおろさなければ! それにはやはり、デッキに眠る逆転のキーカードを呼びこまなければならない!
 僕のカードたちよ、僕はお前たちを信じている! 僕に、三幻魔を打ち破る力をくれ!
 僕はデッキのカードに手をかけた。このドローに……全てがかかっている!
「このカードの引きに……全てを賭ける! ドロー!」
 自分のデッキを信じ、勢いよくカードを引いた。
 デッキよ……応えてくれ!





 ドローカード:???





 …………。
 ドローカードを確認後、僕は手札と場のカードを交互に見た。
 そして、考える。この状況を逆転する方法を。

 思考時間およそ1分。
 僕は一つの結論を出した。

 結論を出した僕は、はっきりと鷹野さんに告げた。
「鷹野さん! 君の場の三幻魔は……このターンで消滅する!」
「っ!?」
 見つけた! 僕は見つけたのだ! この状況を逆転する方法を! 三幻魔を倒す方法を! それを今、見せてやる!


逆・転・劇
(罠カード)
敵が反則レベルに強くて、主人公が追い詰められた時に発動!
主人公は意外な方法で逆転する。




プロジェクト10 カオスすぎる

 さあ、全国のファンの皆さんお待ちかね。僕の華麗なる逆転劇が始まるよ。とくとご覧あれ!
「まず、伏せておいた永続トラップ、《正統なる血統》を発動! このカードは、自分の墓地から通常モンスター1体を攻撃表示で特殊召喚する!」
 僕は、墓地に眠る通常モンスターカードを手に取った。さあ、出番だ!
「戻ってこい! 《ゴキボール》!」
 《正統なる血統》の効果で僕が呼び戻したのは、前のターンに破壊された《ゴキボール》のカード。これで僕の場に《ゴキボール》が1体出現した!
「何を呼び出すかと思えば……。そんな雑魚カードを呼び戻して何のつもり?」
 僕の狙いが分からず、鷹野さんは怪訝な顔をする。まあ、無理もないか。
 けどね鷹野さん。これだけは言っておくよ。
「雑魚カードなんかじゃないよ。《ゴキボール》は僕の切り札だ! 三幻魔を倒すためのね!」
「くっ……!?」
 フッ……決まった! 今のセリフで僕の人気が急上昇したことは間違いないな!
 じゃあ、続きと行こうか。
「《ゴキボール》が特殊召喚されたこの瞬間、場のリバース・カードが発動するよ! 魔法カード《地獄の暴走召喚》!」
 《地獄の暴走召喚》は、攻撃力1500以下のモンスターが特殊召喚されたとき、そのモンスターと同名モンスターをデッキ・手札・墓地から全て攻撃表示で呼び出すカードだ。
 今、僕の場には攻撃力1200の《ゴキボール》が特殊召喚された。よって僕は、残る2体の《ゴキボール》を特殊召喚できる!
「僕は、墓地とデッキから《ゴキボール》を1体ずつ特殊召喚する! 来い! 《ゴキボール》!」
 前のターンに倒されたもう1体の《ゴキボール》と、デッキに残る最後の《ゴキボール》が場に揃う。これで僕の場には攻撃表示の《ゴキボール》が3体!
 ところで、《地獄の暴走召喚》を使った場合、相手も相手自身の場のモンスターを1体選び、そのモンスターと同名モンスターを相手自身のデッキ・手札・墓地から全て特殊召喚しなければならない。つまり、相手の場のモンスターを増やしてしまうリスクがあるわけだ。
 けど、今鷹野さんの場にいるモンスター――《神炎皇ウリア》、《降雷皇ハモン》、《幻魔皇ラビエル》――は、いずれも他のカードの効果で特殊召喚できないモンスターだ。そのため、今回の場合は、《地獄の暴走召喚》で鷹野さんの場のモンスターを増やすことはない。よって、僕の場だけモンスターが増えることになる。
 そんなこんなで、《ゴキボール》が増えたわけだが、これで鷹野さんの余裕が崩れるはずもない。
「雑魚モンスターを増やしたところで、私の三幻魔には勝てないわよ。何のつもり?」
 《ゴキボール》の攻撃力は1200。対する三幻魔の攻撃力はいずれも4000。このままでは勝てない。
 このままなら、ね……。
「慌てるなよ、鷹野さん。僕はこのカードを場に出させてもらう!」
 いよいよ、キーカードを使うときが来た! このカードを見て、腰を抜かすがいい!
 僕は勢いよく、このターンに引き当てたカードを場に出した!





「《下克上の首飾り》を発動!」





「ぐ……っ!」
 僕がカードを出した瞬間、あからさまに鷹野さんの顔つきが歪んだ。ふはは! いい歪みっぷりだ! もっともっと無様に歪ませるがいい!
「《下克上の首飾り》は、通常モンスターにのみ装備できる魔法カード。僕はこのカードを、通常モンスターである《ゴキボール》に装備し、バトルに入る! 《下克上の首飾り》を装備した《ゴキボール》で《神炎皇ウリア》を攻撃するよ!」
 バトルフェイズに入り、《下克上の首飾り》を装備した《ゴキボール》で攻撃宣言。この攻撃で《神炎皇ウリア》を粉砕する!
「《下克上の首飾り》を装備したモンスターは、自身よりもレベルの高いモンスターと戦闘する場合、レベルの差×500ポイント攻撃力が上がる! 《ゴキボール》のレベルが4なのに対し、《神炎皇ウリア》のレベルは10! よって《ゴキボール》の攻撃力は……3000ポイントアップする!」

 ゴキボール 攻:1200 → 4200

 自身よりも高レベルのモンスターと戦う際、攻撃力を上昇させる――それが《下克上の首飾り》の持つ効果だ! これで、《ゴキボール》の攻撃力は、《神炎皇ウリア》の攻撃力4000をわずかに上回った!

 ゴキボール 攻:4200
 神炎皇ウリア 攻:4000

 鷹野さん LP:10300 → 10100

「くっ……! 《神炎皇ウリア》が倒されるなんて!」
 三幻魔の1体――《神炎皇ウリア》を倒した! うひょー! 僕の時代がついに到来したぁ!
「けど、私の場には、まだ2体の幻魔がいるわ!」
 《神炎皇ウリア》を倒された鷹野さんだが、必死に強がりを見せている。ははっ! その強がりもどこまで続くかな? というか君は、僕が何のために《地獄の暴走召喚》で《ゴキボール》を増やしたと思ってるんだい?
 さあて……。僕の場には2枚の伏せカードがある。こいつらを使わせてもらおう!
「まだ僕のバトルフェイズは終了してないよ、鷹野さん! 僕はトラップカード《力の集約》を発動! このカードは、指定したモンスター1体に、場の装備カードを全て装備させるトラップ! 僕はこのカードで、《ゴキボール》に装備された《下克上の首飾り》を、別の《ゴキボール》に移行する!」
「なっ!?」
 《力の集約》により、《下克上の首飾り》の装備対象が、《ゴキボール》(1体目)から《ゴキボール》(2体目)に切り替わる! これが何を意味するか分かるか!?
「バトル! 《下克上の首飾り》を装備した《ゴキボール》で《降雷皇ハモン》を攻撃!」
 そう! 再び《下克上の首飾り》を装備した《ゴキボール》の攻撃が炸裂するのだ! 《降雷皇ハモン》のレベルも10だから、またも《ゴキボール》の攻撃力は3000ポイント上昇することになる!

 ゴキボール 攻:1200 → 4200

 《ゴキボール》の攻撃力が上がり、《降雷皇ハモン》のそれを上回る! 幻魔を打ち砕け! 《ゴキボール》!

 ゴキボール 攻:4200
 降雷皇ハモン 攻:4000

 鷹野さん LP:10100 → 9900

 見事に《ゴキボール》が《降雷皇ハモン》を撃破し、鷹野さんの顔が屈辱に歪む歪む! うひゃあ! すっげえいい気分だ!
「ぐぬぬ……ゴキブリごときが私の幻魔を! けど、まだ私の場には《幻魔皇ラビエル》が残って――」
 はいはい、そう言うと思ったよ! 僕は鷹野さんの言葉を遮るように、最後の伏せカードを開いた!
「僕は、伏せておいた魔法カード《移り気な仕立屋》を発動! このカードは、モンスターに装備された装備カード1枚を、別の正しい対象となるモンスター1体に移し替える! このカードで、《下克上の首飾り》を別の《ゴキボール》に移行させるよ!」
「〜〜〜〜!」
 うひゃひゃひゃひゃひゃ! 装備カードを移行するカードはもう1枚仕掛けてあったのさ! これで、《下克上の首飾り》の装備対象は、《ゴキボール》(2体目)から《ゴキボール》(3体目)に切り替わる!
「幻魔の時代は終わった! 《下克上の首飾り》を装備した《ゴキボール》で《幻魔皇ラビエル》を攻撃!」

 ゴキボール 攻:1200 → 4200

 《幻魔皇ラビエル》のレベルもまた10。《下克上の首飾り》の効果により、《ゴキボール》の攻撃力は3000ポイント上昇する。これで終わりだ、三幻魔ぁぁぁぁ!

 ゴキボール 攻:4200
 幻魔皇ラビエル 攻:4000

 鷹野さん LP:9900 → 9700

 3体目の《ゴキボール》の攻撃が炸裂し、《幻魔皇ラビエル》が消え去った! ついに、この場から3体の幻魔が消滅したのだ!
「僕はカードを1枚伏せ、ターンエンドだ!」


【僕】 LP:100 手札:2枚
 モンスター:ゴキボール(攻1200・《下克上の首飾り》装備)、ゴキボール(攻1200)、ゴキボール(攻1200)
  魔法・罠:下克上の首飾り,正統なる血統、伏せ×1

【鷹野さん】 LP:9700 手札:1枚
 モンスター:なし
  魔法・罠:失楽園、伏せ×1


 うおおおおおおおお! なんかものすごく上手いこと状況を覆してやったよ! まさか、3体の《ゴキボール》が三幻魔をぶち破ってしまうとは、我ながらビックリだ!
 今や、鷹野さんの場に壁となるモンスターはいない! このまま3体の《ゴキボール》で押し潰してやるぜえ!
「私の三幻魔が……ぜん……めつめつめつ……」
 鷹野さんは、信じられないとでも言いたげな顔つきで、がら空きとなった自分の場を見つめていた。まあ、無理もない。あの圧倒的に有利な状況を、まさか《ゴキボール》に打ち破られることになるとは、夢にも思わなかっただろうし。
 ホントにマジック&ウィザーズって、何が起こるか分からないゲームだなあと僕は思った。
「まさか、三幻魔を破られるとはね……。パラコン。私は少し、あなたを見くびっていたようだわ」
 鷹野さんは言いながら、カードをドローした。
 そのときの彼女は、全身から「このくそったれゴキブリ野郎が調子に乗ってんじゃねえよ今すぐ本気でぶっ潰してやるから覚悟しろ&歯ぁ食い縛れや」的なオーラをこれでもかというほどに放っていて、僕は思わず身震いした。
「このくそったれゴキブリ野郎が調子に乗ってんじゃねえよ今すぐ本気でぶっ潰してやるから覚悟しろ&歯ぁ食い縛れや。というわけで私のターン。まずは墓地に存在する《ヘルウェイ・パトロール》の効果発動。このモンスターを除外することで、手札から攻撃力2000以下の悪魔族モンスター1体を特殊召喚するわ。私は《ファントム・オブ・カオス》を手札から特殊召喚!」
 鷹野さんは、墓地の《ヘルウェイ・パトロール》を除外すると、その効果に従い、このターンに引き当てたカードを場に出した。彼女が出したのは、攻撃力0の悪魔族モンスター《ファントム・オブ・カオス》。そいつを《ヘルウェイ・パトロール》の効果で呼び出したというわけだ。
 ……って、ちょい待ち! 《ヘルウェイ・パトロール》なんてモンスター、いつの間に墓地へ送られたんだ!?
「《カードガンナー》の効果」
 鷹野さんは一言、そう告げてきた。……あ、そうか。《カードガンナー》の効果でデッキから墓地送りにされたカードの中に、《ヘルウェイ・パトロール》のカードが含まれていたのか!
「さっそく《ファントム・オブ・カオス》の効果を使わせてもらうわ。このカードは、墓地の効果モンスターを除外することで、エンドフェイズ時までそのモンスターと同名カードとなり、そのモンスターの攻撃力とモンスター効果をコピーする。私は墓地の《神炎皇ウリア》を除外するわ」
 《ファントム・オブ・カオス》は、1ターンの間、墓地の効果モンスターをコピーするというチート級の能力を持つ。その代わりなのか、《ファントム・オブ・カオス》が戦闘で相手に与えるダメージは0となってしまう。
 その《ファントム・オブ・カオス》で《神炎皇ウリア》をコピーしたか。これでこのターンの間、《ファントム・オブ・カオス》のカード名は《神炎皇ウリア》となり、《神炎皇ウリア》の攻撃力とモンスター効果を得ることになる……。
 あれ、ちょっと待てよ? 《神炎皇ウリア》の効果をコピーしたということは……《神炎皇ウリア》の魔法・トラップ破壊能力を使えるってことだよな? もしそれを使われたら、僕の場の伏せカードは成すすべなく破壊されるわけだが……。
 僕の場に伏せられた魔法・トラップカードは1枚だけ。もしも《神炎皇ウリア》の効果を使われた場合、確実にこのカードが破壊される。
 ……どうせ破壊されるんだろうし……今の内に使っておくか。
「鷹野さん! 《ファントム・オブ・カオス》の効果発動に対して、僕はトラップカード《威嚇する咆哮》を発動しておくよ!」
「!」
 《神炎皇ウリア》の魔法・トラップ除去効果が発動する前に、僕は伏せておいた《威嚇する咆哮》を使っておいた。《威嚇する咆哮》が発動したターン、相手は攻撃宣言を行えない。これで鷹野さんはこのターン、攻撃することができなくなった。


威嚇する咆哮
(罠カード)
このターン相手は攻撃宣言をする事ができない。
たとえ相手モンスターが10000体いようが、
このカード1枚で簡単お手軽に攻撃を止められるぜヒャッハー!


 とりあえず、このターンの安全は確保されたはず!
「運がいいわね。これであなたの命は1ターン延長されたことになるわ」
 《威嚇する咆哮》のカードを見つつ、鷹野さんは不気味に微笑んだ。
 え? 何その言い方。ひょっとしてアレなの? 《威嚇する咆哮》がなければ、僕はこのターンでとどめを刺されてたの?
「ま、それでも私のやることは変わらないけどね。私の場に《神炎皇ウリア》となった《ファントム・オブ・カオス》がいるから、《失楽園》の効果でカードを2枚引かせてもらうわよ」
 ……何だと!? あ、そうか。《ファントム・オブ・カオス》のカード名は今《神炎皇ウリア》になってるから、《失楽園》の効果が適用されるのか! チキショオ! また2枚ドローかよ!? インチキじゃねえか!
 2枚ドローしたことで、鷹野さんの手札は3枚。彼女はドローした2枚の中から1枚を選び取った。
「1000ライフを払い、2枚目の《同胞の絆》を発動! 《ファントム・オブ・カオス》――と言っても、今は《神炎皇ウリア》になってるけど――と同種族のレベル4モンスターを2体までデッキから呼び出す! 出でよ、2体の《ファントム・オブ・カオス》!」
 ぬぉっ!? また《同胞の絆》かよ!? くそっ! これで鷹野さんの場には、《ファントム・オブ・カオス》が2体召喚されてしまう!

 鷹野さん LP:9700 → 8700

 《同胞の絆》により、鷹野さんの場に《ファントム・オブ・カオス》が2体出現した。《同胞の絆》……改めて考えてみると、恐ろしい効果だな。
「新たに召喚した《ファントム・オブ・カオス》の効果も使わせてもらうわよ。まず、片方の《ファントム・オブ・カオス》で墓地の《降雷皇ハモン》を除外してコピー! そして、もう片方の《ファントム・オブ・カオス》で墓地の《幻魔皇ラビエル》を除外してコピー!」
 鷹野さんはさっそく、2体の《ファントム・オブ・カオス》を使用。これで一方の《ファントム・オブ・カオス》は《降雷皇ハモン》となり、もう片方の《ファントム・オブ・カオス》は《幻魔皇ラビエル》となった。これにより、鷹野さんの場に三幻魔(の名前と攻撃力とモンスター効果をコピーした《ファントム・オブ・カオス》3体)が揃った。
 …………。
 ……あれ? 三幻魔が揃った……ってことは……。
「行くわよパラコン! 私は《神炎皇ウリア(をコピーしたファントム・オブ・カオス)》、《降雷皇ハモン(をコピーしたファントム・オブ・カオス)》、《幻魔皇ラビエル(をコピーしたファントム・オブ・カオス)》をゲームから除外! 混沌の闇より出でよ! 《混沌幻魔アーミタイル》ッ!」
 どええええええええええええええ! また《混沌幻魔アーミタイル》が出てきたああああ!
 デュエル序盤に破壊した強敵《混沌幻魔アーミタイル》が、再びこの場に出現した! か……勘弁してくれよ! もうデッキに《破壊輪》入ってないんだぞ! こんなのどうやって倒せばいいんだよ!?
「まだ私のターンは終了してないわ! 私はリバース・トラップ《異次元からの帰還》を発動! ライフを半分払い、ゲームから除外された自分のモンスターを可能な限り呼び戻す!」
 《混沌幻魔アーミタイル》の再登場に混乱していたら、なんか鷹野さんがトラップを発動した。え? 今度は何?

 鷹野さん LP:8700 → 4350

「異次元より帰還せよ! 3体の《ファントム・オブ・カオス》と《ヘルウェイ・パトロール》!」
 《異次元からの帰還》の効果によって、鷹野さんの場に、先ほど除外された《ファントム・オブ・カオス》3体と《ヘルウェイ・パトロール》が返ってきた。鷹野さん、なんかもうホントやりたい放題だ。
「私は《ファントム・オブ・カオス》(1体目)の効果発動! 墓地の《神炎皇ウリア》を除外して、カード名を《神炎皇ウリア》にする!
 さらに、《ファントム・オブ・カオス》(2体目)の効果発動! 墓地の《降雷皇ハモン》を除外して、カード名を《降雷皇ハモン》にする!
 そして、《ファントム・オブ・カオス》(3体目)の効果発動! 墓地の《幻魔皇ラビエル》を除外して、カード名を《幻魔皇ラビエル》にする!」
 はい! なんかもうよく分かんなくなってきました!
 え〜と、つまりアレか。また先ほどと同じように、3体の《ファントム・オブ・カオス》で墓地の三幻魔をコピーしたわけか。そういや、鷹野さんの墓地には、三幻魔のカードが2枚ずつあったんだっけか。
 ……あれ? ちょっと待てよ? これで鷹野さんの場には、またも三幻魔が揃ったことに……。
「これでまた、私の場に三幻魔が揃った! 私は《神炎皇ウリア(をコピーしたファントム・オブ・カオス)》、《降雷皇ハモン(をコピーしたファントム・オブ・カオス)》、《幻魔皇ラビエル(をコピーしたファントム・オブ・カオス)》をゲームから除外! 混沌の闇より出でよ! 《混沌幻魔アーミタイル》ッ!」
 ええええええええええええええええええええええ!? また《混沌幻魔アーミタイル》ぅぅぅぅぅぅぅ!?
 なんかよく分からんが、鷹野さんの場に2体目の《混沌幻魔アーミタイル》が降臨した。ちょっと待ってくれ……。こんなことってあるのかよ……!
「さらに! まだ私はこのターン通常召喚をしてないわ! 私は場の《ヘルウェイ・パトロール》を生け贄に捧げ、《ジャンク・コレクター》を召喚!」
 混乱する僕のことなどお構いなしに、鷹野さんは新たなモンスターを召喚した。《ジャンク・コレクター》……5ツ星のモンスターか。その割には攻撃力が1000ポイントと低めだが……。
「《ジャンク・コレクター》のモンスター効果! 場に存在するこのカードと、自分の墓地の通常トラップカード1枚をゲームからすることで、このカードの効果は除外した通常トラップカードと同じになる! 私は《異次元からの帰還》を除外!」
 どうやら、墓地の通常トラップの効果を得る……というのが、《ジャンク・コレクター》の能力らしい。鷹野さんは《異次元からの帰還》のカードを除外したから、《ジャンク・コレクター》の効果は《異次元からの帰還》と同じものとなる。
 ……ちょっと待て。つーことはアレか? もう一度《異次元からの帰還》が発動するってことか?
「《ジャンク・コレクター》の能力でトラップを使う際、発動コストは無視できるわ。よって私は、《異次元からの帰還》をノーコストで使用! ゲームから除外された自分のモンスターを可能な限り場に呼び戻す! 戻れ! 3体の《E・HERO プリズマー》!」
 《ジャンク・コレクター》と《異次元からの帰還》のカードがゲームから除外され、代わりに3体の《E・HERO プリズマー》が戻ってきた。本来ならライフ半分を失う《異次元からの帰還》をノーコストで使用するとは! 《ジャンク・コレクター》恐るべし!
 それにしても、今度は《E・HERO プリズマー》が3体か。一体何をするつもりだ?
「3体の《E・HERO プリズマー》の効果を使わせてもらうわ!
 デッキから《神炎皇ウリア》を墓地へ送り、《E・HERO プリズマー》(1体目)のカード名を《神炎皇ウリア》に変更!
 さらに、デッキから《降雷皇ハモン》を墓地へ送り、《E・HERO プリズマー》(2体目)のカード名を《降雷皇ハモン》に変更!
 そして、デッキから《幻魔皇ラビエル》を墓地へ送り、《E・HERO プリズマー》(3体目)のカード名を《幻魔皇ラビエル》に変更!」
 鷹野さんはすぐさま、異次元から帰還してきた《E・HERO プリズマー》の効果を使用した。それにより、このターンのみ、3体の《E・HERO プリズマー》のカード名はそれぞれ、《神炎皇ウリア》、《降雷皇ハモン》、《幻魔皇ラビエル》となった。
 ……え? これって……まさか……?
「さあて、また三幻魔が全て揃っちゃったわね。私は《神炎皇ウリア(に変身したプリズマー)》、《降雷皇ハモン(に変身したプリズマー)》、《幻魔皇ラビエル(に変身したプリズマー)》をゲームから除外! 混沌の闇より出でよ! 《混沌幻魔アーミタイル》ッ!」
 ああああああああああああああああ! また《混沌幻魔アーミタイル》が出てきたあああああああああああああああ! どうなってんだこれえええええええ!?
「攻撃……と行きたいとこだけど、このターンは《威嚇する咆哮》の効果で攻撃宣言できないわね。私はカードを1枚伏せ、ターンエンド。さ、パラコン。この状況を逆転できるかしら?」


【僕】 LP:100 手札:2枚
 モンスター:ゴキボール(攻1200・《下克上の首飾り》装備)、ゴキボール(攻1200)、ゴキボール(攻1200)
  魔法・罠:下克上の首飾り,正統なる血統

【鷹野さん】 LP:4350 手札:0枚
 モンスター:混沌幻魔アーミタイル(守0)、混沌幻魔アーミタイル(守0)、混沌幻魔アーミタイル(守0)
  魔法・罠:失楽園、伏せ×1


 なぁにこれぇ。
 三幻魔を全滅させたことで、しばらく僕が優勢になるかと思いきや、鷹野さんはあれこれカードをぶん回し、1ターンで《混沌幻魔アーミタイル》を3体場に揃えてしまった。実に恐ろしいことだった。
 う〜む。僕は先ほどまで、今日の鷹野さんのデッキは「三幻魔を場に揃えちゃうよデッキ」だと思っていたが、どうやら本当は「アーミタイルを場に3体揃えちゃうよデッキ」だったらしい。
 つーか、このターンで判明したけど、今回の鷹野さんのデッキって、三幻魔のカードがそれぞれ3枚ずつ入ってるんだな。どんだけ重量デッキなんだよ、それ。
 それはそうと、もしも《威嚇する咆哮》の効果が適用されなければ、本当にこのターン中に僕の息の根は止められていただろう。あ……危なかった……!
 いや、安心してもいられない。《混沌幻魔アーミタイル》は今でこそ、攻守ともに0のモンスターだが、鷹野さんのターンになれば、攻撃力を10000ポイントアップさせて襲ってくる。攻撃力10000……いくらなんでも高すぎる。これじゃ《下克上の首飾り》を装備した《ゴキボール》でも歯が立たない(《混沌幻魔アーミタイル》のレベルは12なので、《下克上の首飾り》を装備した《ゴキボール》の攻撃力は4000上がって5200になる。全然勝てねえ!)。
 どうにかして、《混沌幻魔アーミタイル》の攻撃力が上がる前に対処したいところ……なのだが、忌々しいことに《混沌幻魔アーミタイル》は戦闘では破壊できない。ならばせめて、戦闘ダメージだけでも与えたいところだが、ご丁寧にも3体の《混沌幻魔アーミタイル》はいずれも守備表示。モンスターで攻撃したところでダメージは通らない。
 ど……どうしよう。今の僕の手札ではどうにもできそうにないし……このドローに賭けるしか……。
「ぼ……僕のターン、ドロー!」
 何とかしなければ。僕は祈るような気持ちでカードを引いた。
 そして、カードを引いた僕が導き出した結論は――。
「3体の《ゴキボール》を守備表示に変更し、カードを2枚伏せて、ターンエンド……」
 ――どうにもできないから、とりあえず守備を固める、というものだった。チキショオ!


【僕】 LP:100 手札:1枚
 モンスター:ゴキボール(守1400・《下克上の首飾り》装備)、ゴキボール(守1400)、ゴキボール(守1400)
  魔法・罠:下克上の首飾り,正統なる血統、伏せ×2

【鷹野さん】 LP:4350 手札:1枚
 モンスター:混沌幻魔アーミタイル(守0)、混沌幻魔アーミタイル(守0)、混沌幻魔アーミタイル(守0)
  魔法・罠:失楽園、伏せ×1




プロジェクト11 簡単お手軽オベリスク

「オホホホホ! 手も足も出ないようね! なら私のターン、ドロー!」
 高笑いしつつ、鷹野さんはカードを引いた。同時に、《混沌幻魔アーミタイル》の攻撃力が10000ポイントアップする。

 混沌幻魔アーミタイル 攻:0 → 10000
 混沌幻魔アーミタイル 攻:0 → 10000
 混沌幻魔アーミタイル 攻:0 → 10000

「3体の《混沌幻魔アーミタイル》を攻撃表示に変更! そしてバトル! 《混沌幻魔アーミタイル》よ、雑魚3体を粉砕せよ! “全土滅殺 転生波”!」
 僕の場の《ゴキボール》を雑魚呼ばわりして、鷹野さんは攻撃を仕掛けてきた。
 くっ……僕の場にはバトル妨害のカードはない(またかよ)! けど、ただ黙ってやられるつもりもない!
「トラップカード《アルケミー・サイクル》を発動! このターンのみ、僕の場のモンスター全ての元々の攻撃力を0にする!」

 ゴキボール 攻:1200 → 0
 ゴキボール 攻:1200 → 0
 ゴキボール 攻:1200 → 0

「そして、この効果で元々の攻撃力が0となったモンスターが戦闘で破壊され墓地へ送られる度に、僕はデッキからカードを1枚ドローする!」
 《アルケミー・サイクル》の効果で、3体の《ゴキボール》を3枚のドローに変換する! 《ゴキボール》たちよ、お前たちの想い、断ち切らせはしない!
 《混沌幻魔アーミタイル》の理不尽極まりない攻撃により、3体の《ゴキボール》は見事に粉砕された。しかし、守備表示で倒されたため、僕にダメージは通らない。
 危ねえ! どうにかこのターンは防ぎ切ったよ!
「強靭! 無敵! 最強ォ! 粉砕! 玉砕! 大喝采ィィィ! オーホホホホ!」
 めちゃくちゃ鷹野さんは楽しそうだった。チキショオ! 調子に乗りやがってぇぇぇ!
 とりあえず、《アルケミー・サイクル》の効果を受けた3体の《ゴキボール》が全て破壊されたから、3枚のカードをドローしておく。これで僕の手札は4枚になった!
「その付け焼刃の戦法がいつまで続くかしらね。私はカードを1枚伏せ、ターンエンド」
 鷹野さんのターンが終わる。同時に、《混沌幻魔アーミタイル》の攻撃力がダウンした。

 混沌幻魔アーミタイル 攻:10000 → 0
 混沌幻魔アーミタイル 攻:10000 → 0
 混沌幻魔アーミタイル 攻:10000 → 0


【僕】 LP:100 手札:4枚
 モンスター:なし
  魔法・罠:伏せ×1

【鷹野さん】 LP:4350 手札:0枚
 モンスター:混沌幻魔アーミタイル(攻0)、混沌幻魔アーミタイル(攻0)、混沌幻魔アーミタイル(攻0)
  魔法・罠:失楽園、伏せ×2


「僕の……ターン! ドロー!」
 僕は5枚になった手札、そして、場に残された1枚の伏せカードを交互に見た。
 僕はこれらのカードで、3体の《混沌幻魔アーミタイル》を倒さなければならない。おそらく、このターンで何とかしなければ、もうどうにもならない。
 何とかしなければ……何とか……。
 僕は気持ちを落ち着かせ、この状況を打開する手段を考えた。あわてるな……必ず抜け道はあるはずだ!

 4枚の手札。
 場の伏せカード。
 そして……墓地のカード……!

 思考時間およそ1分28秒。僕は一つの結論に達した。
「おいおい、これじゃあ……Meの勝ちじゃないか!」
「!」
 僕は思わず、そんなことを叫んでいた。それこそ、僕が達した結論だった。
 勝った! この勝負、勝った! ただし、トラップカードとかで妨害されなかったらの話だけど。
 しかし、今はトラップを恐れていても仕方がない。もう、やれるだけのことをやるしかないんだ!
「僕は《炎妖蝶ウィルプス》を召喚! さらに、伏せておいた魔法カード《二重召喚》を発動! このカードの効果で、このターンもう一度通常召喚ができる! 僕は《炎妖蝶ウィルプス》を再度召喚!」
「再度召喚……! そうか、《炎妖蝶ウィルプス》はデュアルモンスターなのね」
 デュアルモンスターと呼ばれるモンスター群が存在する。これらのモンスターは、召喚された際は能力を持たない通常モンスターだが、再度召喚することで効果モンスターとなり、特殊能力を得ることができるのだ。
 僕が今召喚した《炎妖蝶ウィルプス》はデュアルモンスター。当然、再度召喚すれば特殊能力を得られる。その能力とは!
「《炎妖蝶ウィルプス》のモンスター効果! このカードを生け贄に捧げることで、墓地に存在するデュアルモンスター1体を特殊召喚する! そして、この効果で特殊召喚されたデュアルモンスターは、再度召喚された状態となる!」
 再度召喚された《炎妖蝶ウィルプス》は、自身を生け贄にすることで、墓地のデュアルモンスターを再度召喚された状態にして蘇生することができるのだ!
 そして、僕がこの効果で呼び出すのは……こいつだ!
「僕は《炎妖蝶ウィルプス》を生け贄に、デュアルモンスター《ヴァリュアブル・アーマー》を特殊召喚!」
「!? 《ヴァリュアブル・アーマー》……!」
 《炎妖蝶ウィルプス》が墓地へ送られ、代わりに現れたのは《ヴァリュアブル・アーマー》! 5ツ星のデュアルモンスターだ!
「……なるほど。私が《手札抹殺》を使ったとき、あなたが捨てたのはそのカード……《ヴァリュアブル・アーマー》だったのね」
 鋭いな、鷹野さん。
 そう。鷹野さんが使った《手札抹殺》の効果で、僕の手札から墓地へ送られたのは、《ヴァリュアブル・アーマー》のカードだった。あのとき捨てた《ヴァリュアブル・アーマー》のカードが、こんな形で登場することになるとはね。
 さて、《ヴァリュアブル・アーマー》は《炎妖蝶ウィルプス》の効果によって再度召喚された状態――特殊能力を得た状態――になっている。その能力を存分に発揮させてもらおう! フフ……こいつの特殊能力は強力だぜ!
「再度召喚された《ヴァリュアブル・アーマー》は、相手モンスター全てに1回ずつ攻撃することができる! つまり、《ヴァリュアブル・アーマー》の攻撃が、鷹野さんの場にいる3体の《混沌幻魔アーミタイル》を襲うのさ!」
「……っ!?」
 相手モンスター全てへの攻撃! それが《ヴァリュアブル・アーマー》の特殊能力だ!
 鷹野さんの場にいる3体の《混沌幻魔アーミタイル》の攻撃力は現在0。しかも、そいつらは全員攻撃表示となっている。対する《ヴァリュアブル・アーマー》の攻撃力は2350。この状態で《ヴァリュアブル・アーマー》の攻撃が3体の《混沌幻魔アーミタイル》を襲ったらどうなるか?
「《混沌幻魔アーミタイル》は戦闘では破壊されない。けど、プレイヤーへのダメージ計算は適用される。《ヴァリュアブル・アーマー》の攻撃が3体の《混沌幻魔アーミタイル》を襲えば、超過ダメージで鷹野さんの負けだ!」
 鷹野さんのライフは残り4350。余裕で削りきれる数値だ! このターンのバトルが成立すれば、僕の勝利が確定する!
 しかし、念には念を。何らかの方法で防がれることも考慮して、このカードを出しておこう。
「さらに、装備魔法《レインボー・ヴェール》を《ヴァリュアブル・アーマー》に装備! このカードを装備したモンスターが相手モンスターと戦闘を行うとき、バトルフェイズの間だけ、その相手モンスターの効果は無効化される!」
「なっ……!」
 フッ! 鷹野さんよ、これが何を意味するか、すぐに察したようだね!
 《ヴァリュアブル・アーマー》が《混沌幻魔アーミタイル》と戦闘する場合、《レインボー・ヴェール》の効果で《混沌幻魔アーミタイル》の効果が無効化される! つまり、《混沌幻魔アーミタイル》の戦闘破壊耐性効果が無効となり、《混沌幻魔アーミタイル》を戦闘で破壊できるようになるのだ! まあ、戦闘で破壊しようとしまいと、ダメージが通れば僕の勝ちなんだが、念のため。
 さて、バトルと行こうか!
「バトル! 《ヴァリュアブル・アーマー》の攻撃第1打! 《混沌幻魔アーミタイル》(その1)を攻撃! 消え去れぇ!」
 まずは1回目の攻撃! さあ、通るか!?
「ぐ……ぬぬ……っ! 通す!」
 鷹野さんはアクションを起こさず、攻撃を通した! これで《混沌幻魔アーミタイル》は破壊され、2350ポイントのダメージが鷹野さんを襲う!

 ヴァリュアブル・アーマー 攻:2350
 混沌幻魔アーミタイル 攻:0

 鷹野さん LP:4350 → 2000

 よし! 次の攻撃が通れば僕の勝ちだ! 覚悟しろ鷹野麗子!
「《ヴァリュアブル・アーマー》の攻撃第2打ァ! 《混沌幻魔アーミタイル》(その2)を攻撃! これで終わりだ!」
 攻撃2回目! 通れ! 通れ通れ通れ!
「調子に乗るんじゃないわよ! トラップ発動! 《体力増強剤スーパーZ》! 2000以上の戦闘ダメージを受ける際、その前に4000ライフを回復する!」
 何!? ライフ回復のカードか! 姑息な真似を!

 鷹野さん LP:2000 → 6000

 《体力増強剤スーパーZ》の効果で、鷹野さんのライフが4000増える。しかし、バトルは問題なく成立し、《混沌幻魔アーミタイル》は破壊。鷹野さんのライフは2350ポイント減少した。

 ヴァリュアブル・アーマー 攻:2350
 混沌幻魔アーミタイル 攻:0

 鷹野さん LP:6000 → 3650

 むぅ……。鷹野さんの残りライフは3650か。このターン中にとどめを刺すのは無理そうだ。でも、攻撃は行わせてもらうよ。
「《ヴァリュアブル・アーマー》の攻撃第3打ァッ! 《混沌幻魔アーミタイル》(その3)を攻撃! 行けえ!」
 3回目の攻撃が炸裂! 鷹野さんに動きはなく、バトル成立。《混沌幻魔アーミタイル》は破壊され、2350ダメージが発生する。

 ヴァリュアブル・アーマー 攻:2350
 混沌幻魔アーミタイル 攻:0

 鷹野さん LP:3650 → 1300

 バトルが終結した。
 1ターン前とは打って変わり、今、鷹野さんの場には1体もモンスターがいない。間違いなく、3体の《混沌幻魔アーミタイル》はこの場から姿を消したのだ!
 うぉぉぉぉ! やった! 3体の《混沌幻魔アーミタイル》を倒したぜ! 一時はどうなるかと思ったけど、意外と何とかなるものだな!
 それにしても、《レインボー・ヴェール》を《ヴァリュアブル・アーマー》に装備しておいてよかった。もしも、油断して《レインボー・ヴェール》を装備していなかったら、《混沌幻魔アーミタイル》を場に残してしまうところだった。
 ひとまず、これで3体の《混沌幻魔アーミタイル》は退けた! これは大きいぞ!
「カードを1枚伏せ、ターンエンドだ!」
 意気揚々とカードを伏せ、僕はエンド宣言をした。


【僕】 LP:100 手札:2枚
 モンスター:ヴァリュアブル・アーマー(攻2350・《レインボー・ヴェール》装備)
  魔法・罠:レインボー・ヴェール、伏せ×1

【鷹野さん】 LP:1300 手札:0枚
 モンスター:なし
  魔法・罠:失楽園、伏せ×1


「私のアーミタイルが……ぜん……めつめつめつ……」
 《混沌幻魔アーミタイル》を3体並べておきながら、無様にもそいつらを全滅させられた鷹野さんが無様に呟いた。ははははは! 実に無様だ!
「パラコンの分際で、ずいぶんと好き勝手な真似してくれたわね……。私のターン、ドロー!」
 険しい表情を浮かべると、鷹野さんは全身から「私を怒らせたことをあの世で後悔するがいい」的なオーラを全身からビシバシ放ちながらカードをドローした。あまりにも禍々しいその光景を前にして、僕は恐怖のあまり逃げ出したくなった。
 しかし、ここまで来て逃げるわけにはいかない! 戦況は今や僕が有利だ! ならば、恐れることは何もないはず!
 僕は恐怖心を振り払い、鷹野さんの眼を見据えた。鷹野さんめ、この状況を覆せるものなら覆してみろってんだ! ……できることなら、覆してほしくないけど。
 鷹野さんの表情をうかがう。ドローカードを見た彼女は、険しい表情を緩めていた。そして、実に楽しげな表情を浮かべていた。
 心の底から、嫌な予感がした。





「私は、デッキから《究極宝玉神 レインボー・ドラゴン》を除外し、《Sin(シン) レインボー・ドラゴン》を特殊召喚するわ!」





 …………。

 …………。

 …………は?

 鷹野さんが出してきたのは、僕がこれまで見たことのないカードだった。し……《Sin レインボー・ドラゴン》? 何それ? ぼくそんなかーどしらないよ。
「《Sin レインボー・ドラゴン》は、手札またはデッキから《究極宝玉神 レインボー・ドラゴン》を除外することで特殊召喚することができるカード。その攻撃力は実に!」

 Sin レインボー・ドラゴン 攻:4000

「4000ポイント! オベリスクと同等よ!」
 ええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!?
 デッキから特定のカードを除外するだけで出せるくせに攻撃力4000〜〜〜〜!? 何それズルくね!? ひどすぎだろいくらなんでも! 汚すぎるぜ!
「もちろん、簡単お手軽に出せる代わり、《Sin レインボー・ドラゴン》には色々と制約があるわ。まず、フィールド魔法が場に存在しないと破壊される点。それと、このカードがいる限り、他の自軍モンスターは攻撃できない点。あと、《Sin レインボー・ドラゴン》のように『Sin』と名のついたモンスターは場に1体しか存在できない点。こんな感じね」
 《Sin レインボー・ドラゴン》、ふざけたチートカードだ! ……と思ったが、実は色々と制約があるらしい。
 制約その1、フィールド魔法が場に存在しないと破壊される点。現在、場にはフィールド魔法である《失楽園》があるため、《Sin レインボー・ドラゴン》は破壊されずに場に留まっている。まさか、《失楽園》がこんな形で生かされるとは。
 制約その2、《Sin レインボー・ドラゴン》がいる限り、他の味方モンスターが攻撃できない点。まあそうだよな。そのくらいのデメリットはあってしかるべきだ。
 制約その3、Sinモンスターは場に1体しか存在できない点。こんなデカいモンスターが2体も3体も出てきたらいくらなんでも反則です。というわけで、この点も納得。
 一応、簡単に出せる代わりに、それなりに厳しい制約があるようだ。けど、それを踏まえて考えてみても、僕はやはり反則だと思う。こんなカードはチートだ! これなら《強欲な壺》のほうがまだバランスが取れている! Sinモンスター恐るべし!
 う〜む。僕は先ほどまで、今日の鷹野さんのデッキは「アーミタイルを場に3体揃えちゃうよデッキ」だと思っていたが、どうやら本当は「Sinデッキ」だったらしい。
 つーか、まずくないかこの状況。せっかく《混沌幻魔アーミタイル》を倒したと思いきや、すぐさまオベリスク級のモンスターを出されるなんて……。これを一体どうしろと!?
「さあ、お楽しみのバトルフェイズ! 《Sin レインボー・ドラゴン》で《ヴァリュアブル・アーマー》を攻撃! “オーバー・ザ・レインボー”!」
 ああああ! 《Sin レインボー・ドラゴン》が攻撃してきたあああ! このバトルを成立させたら僕の負け! 何としても防がなくては!
「僕はあきらめない! トラップカード《ソウル・シールド》! ライフを半分払い、相手モンスター1体の攻撃を無効化! バトルフェイズを終了させる!」


ソウル・シールド
(罠カード)
ライフポイントの半分を払う。
モンスターの攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了させる。
アニメで遊戯くんが使った由緒正しきトラップ!
「和睦の使者」や「威嚇する咆哮」でよくない? なんてツッコミは受け付けない!


 僕 LP:100 → 50

「見苦しい真似を。まあいいわ。私はこれでターン終了」
 《ソウル・シールド》の効果によって、このターンの攻撃は防いだ。危なかったぁ〜。
 だが、《ソウル・シールド》の発動のために、僕のライフは残り50になってしまった。まさに風前の灯だ! でも、これってもはや勝利フラグ以外の何物でもないですよね!


ガッチャ・フォース
(罠カード)
自分のライフが100ポイント以下の時に発動可能。
ほぼ確実に、自分はそのデュエルに勝利する。
ガッチャ! 楽しいデュエルだったぜ!


 まだだ! ライフが0になるまで僕はあきらめない! どこまでも食らいついていってやる! 何しろ、僕には勝利フラグが立ってるんだからな!


【僕】 LP:50 手札:2枚
 モンスター:ヴァリュアブル・アーマー(攻2350・《レインボー・ヴェール》装備)
  魔法・罠:レインボー・ヴェール

【鷹野さん】 LP:1300 手札:0枚
 モンスター:Sin レインボー・ドラゴン(攻4000)
  魔法・罠:失楽園、伏せ×1


 僕は鷹野さんの場にいる《Sin レインボー・ドラゴン》を見た。
 《Sin レインボー・ドラゴン》……攻撃力4000のモンスター。こいつは《混沌幻魔アーミタイル》と違い、僕のターンであっても攻撃力が下がることはない。僕は攻撃力4000のモンスターと戦わなければならないのだ。
 状況は極めて僕が不利。しかし、ここで冷静さを欠いてはいけない。こういうときこそ落ち着いて対応せねば!
「僕のターン、ドロー!」
 ドローしたカードは《貪欲な壺》。墓地のモンスター5枚をデッキに戻してシャッフルし、その後2枚のカードをドローできる魔法カードだ。
 今、僕の手札にこの状況を打開できるカードはない。ならば、僕が取るべき道は一つ!
「《貪欲な壺》を発動! 墓地の《共鳴虫》3枚と《デビルドーザー》、《ゴキボール》をデッキに戻してシャッフル! カードを2枚ドローする!」
 ここで引く2枚のカードにかかっている! 頼むぞ、僕のデッキ!
「ドロー!」
 ドローした2枚のカードに目を通す。
 1枚はモンスターカード。このカードだけではこの状況を打開できない。
 もう1枚はトラップカード。このカードは……――。

 ――強ッ! めっちゃ強いじゃんこのカード!

 運のいいことに、強力なカードを引き当てた。これならもう《Sin レインボー・ドラゴン》なんて怖くない!
「僕は《ヴァリュアブル・アーマー》を守備表示に変更!」
 ひとまず、《ヴァリュアブル・アーマー》を守備表示にしておく。
 さて、手札には召喚可能なモンスターが1枚あるが、こいつも出しておこうかな。どうするか。
 ……う〜ん、今はやめとくか。あんまり調子に乗ってモンスターを並べすぎて、変な魔法カードとかで一掃されちゃったりしても嫌だしね。今は《ヴァリュアブル・アーマー》だけいれば大丈夫だろう。必殺のトラップも引いたし。
「そして、《ライヤー・ワイヤー》……もとい、カードを1枚伏せてターンエンドだ!」


【僕】 LP:50 手札:3枚
 モンスター:ヴァリュアブル・アーマー(守1000・《レインボー・ヴェール》装備)
  魔法・罠:レインボー・ヴェール、伏せ×1

【鷹野さん】 LP:1300 手札:0枚
 モンスター:Sin レインボー・ドラゴン(攻4000)
  魔法・罠:失楽園、伏せ×1


 鷹野さんのターンに移る。
「私のターン、ドロー! バトル! 《Sin レインボー・ドラゴン》で《ヴァリュアブル・アーマー》を攻撃! “オーバー・ザ・レインボー”!」
 カードを引くなり、すぐにバトルに入った鷹野さん。今だ!
「悪いけど、《Sin レインボー・ドラゴン》には退場してもらうよ! トラップ発動! 《ライヤー・ワイヤー》! このカードは、自分の墓地から昆虫族モンスター1体を取り除くことで、相手モンスター1体を破壊することができる! 僕は墓地から《ゴキボール》を除外し、《Sin レインボー・ドラゴン》を破壊する!」
「…………」
 ははははは! ここで《ライヤー・ワイヤー》が発動するなどと、鷹野さんは夢にも思わなかったことだろう! さあ、鷹野さんよ、大人しく《Sin レインボー・ドラゴン》のカードを墓地へ送れ!
「ふん。まあいいわ」
 《ライヤー・ワイヤー》を回避する術はないのだろう、鷹野さんは大人しく《Sin レインボー・ドラゴン》のカードを墓地へ置いた。
 フッ……これで君の切り札は倒し――





「じゃあ、《Sin レインボー・ドラゴン》が破壊されたから、ライフを半分払って、墓地から《Sin トゥルース・ドラゴン》を特殊召喚するわ」





 鷹野さん LP:1300 → 650

 …………は?
 え? 何? 《Sin トゥルース・ドラゴン》? 何それ? ぼくそんなかーどしらないよ。
 何故かよく分からんが、鷹野さんの場に《Sin レインボー・ドラゴン》とは別のドラゴンが出てきた。これは一体?
「《Sin トゥルース・ドラゴン》は、自分の場の《Sin トゥルース・ドラゴン》以外の『Sin』と名のついたモンスターが破壊された場合、ライフを半分払うことで、手札または墓地から特殊召喚することができるわ。そして、その攻撃力はなんと!」

 Sin トゥルース・ドラゴン 攻:5000

「5000ポイント! あのオベリスクよりも1000ポイント上よ!」
 はああああああああああああああああああああ!? 何それええええええええ!?
 ちょっと待てよ!? 攻撃力5000って……《Sin レインボー・ドラゴン》よりも高いじゃないか! なんてこった! 《Sin レインボー・ドラゴン》を破壊したことが裏目に出るなんて! こ……こんなの反則だよ!
 ていうか、鷹野さん、《Sin トゥルース・ドラゴン》を墓地から特殊召喚したよな? 一体いつの間に《Sin トゥルース・ドラゴン》は墓地へ送られてたんだ?
「《命削りの宝札》」
 鷹野さんが呟いた。《命削りの宝札》? ……あ、そうか。《命削りの宝札》のデメリット効果で墓地へ送られたカードが《Sin トゥルース・ドラゴン》のカードだったのか!
 くそっ! まさか、あのタイミングで《Sin トゥルース・ドラゴン》のカードが墓地へ送られていたとは! まずいよ……これ一体どうすればいいの?
「さて、《Sin トゥルース・ドラゴン》で攻撃させてもらうわ! 《ヴァリュアブル・アーマー》を粉砕せよ!」
 《Sin トゥルース・ドラゴン》が攻撃してきた! しかし、もう僕に抵抗手段はない! 《ヴァリュアブル・アーマー》は倒され、僕の場はがら空きとなった。やばい……ピンチだ……。
「カードを1枚セットし、ターンエンド。さあ、醜くあがくがいいわパラコンボーイ! オーホホホホ!」
 うぁ〜〜〜〜〜! 調子に乗るんじゃねえよコンチキショオが!


【僕】 LP:50 手札:3枚
 モンスター:なし
  魔法・罠:なし

【鷹野さん】 LP:650 手札:1枚
 モンスター:Sin トゥルース・ドラゴン(攻5000)
  魔法・罠:失楽園、伏せ×2




プロジェクト12 ひどすぎる決着

「僕の……ターン……!」
 調子に乗る鷹野さんに、今すぐ「くぁwせdrftgyふじこlp;」とか言わせてやりたいが、あいにく僕の場にカードはなく、手札のカード3枚も《Sin トゥルース・ドラゴン》を倒せるようなカードじゃない。くそっ! どうすれば!?
「……ドロー!」
 とりあえず、何かモンスターを除去できるようなカードが引ければ、希望は見えてくる。頼む……モンスターを除去できるようなカード、来てくれ!

 ドローカード:ハリケーン

 …………。
 モンスターを除去できるようなカードを求めた結果、引き当てたのは、フィールドの魔法・トラップを全て手札に戻す魔法カード《ハリケーン》だった。
 ファッキィィィンッ! どうしてこうなんのぉ!? 僕がほしいのは魔法・トラップ解除のカードじゃありましぇぇぇん!
「うおおおお! 魔法カード《ハリケーン》発動!」
 なんかもうやけくそになった僕は、意味もなく《ハリケーン》を発動させた。くそぉ〜、もうどうにでもなっちまえ!
「くっ……! ここで《ハリケーン》とは……運がいいわねパラコン。私の《Sin トゥルース・ドラゴン》は、《Sin レインボー・ドラゴン》と同じく、フィールド魔法が場に存在しないと破壊される。よくこの弱点に気付いたわね」
 ああもう聞きたくないどうでもいい……って、え? そうなの!?
 僕は《Sin トゥルース・ドラゴン》のカードテキストを読んでみた。


Sin トゥルース・ドラゴン  闇
★★★★★★★★★★★★
【ドラゴン族】
このカードは通常召喚できない。
自分フィールド上に表側表示で存在する「Sin トゥルース・ドラゴン」以外の
「Sin」と名のついたモンスターが戦闘またはカードの効果によって破壊された場合、
ライフポイントを半分払う事でのみこのカードを手札または墓地から特殊召喚できる。
「Sin」と名のついたモンスターはフィールド上に1体しか表側表示で存在できない。
フィールド魔法カードが表側表示で存在しない場合このカードを破壊する。
このカードが戦闘によって相手モンスターを破壊した場合、
相手フィールド上に表側表示で存在するモンスターを全て破壊する。
攻5000  守5000


 なるほど、たしかに「フィールド魔法カードが表側表示で存在しない場合このカードを破壊する。」という一文が書かれている。よくよく考えてみれば、《Sin トゥルース・ドラゴン》もSinモンスターなんだから、《Sin レインボー・ドラゴン》と同じく、フィールド魔法がないと自壊するというのは当然だ。
 つまり、つまりだ! 《ハリケーン》の効果で鷹野さんの場のフィールド魔法《失楽園》が手札に戻り、《Sin トゥルース・ドラゴン》は自身の効果で破壊される!
「当然じゃないか鷹野さん。僕を誰だと思ってるんだい? 全ては僕の計算通りさ!」
 僕はカッコよくそう言い放ってやった。そう。僕は全てを計算した上で《ハリケーン》を撃ったのだ! 決して、やけくそになって魔法を暴発させたら、たまたま相手の弱点にヒットして棚ボタ勝利を得た、なんてことではない! 断じて!
 ともあれ、これで《Sin トゥルース・ドラゴン》は破壊される! やったー!
「まあ、せめてできるだけの抵抗はしておこうかしらね。私はあなたの《ハリケーン》の発動に対し、伏せておいた《闇霊術−「欲」》と《非常食》を発動するわ!」
 ……あれ? 鷹野さんが何か発動してきた。なんだ? 何をするつもりだ?
「《闇霊術−「欲」》は、自分の場の闇属性モンスター1体を生け贄に捧げることで発動するトラップカード。私は場の闇属性モンスター《Sin トゥルース・ドラゴン》を生け贄にして、このトラップを発動」
 鷹野さんは、《闇霊術−「欲」》の発動コストとして、《Sin トゥルース・ドラゴン》を生け贄に捧げてしまった。なるほど、どうせ破壊されるのなら、コストにしてしまえというわけか。
「そして、魔法カード《非常食》は、このカード以外の自分の場の魔法・トラップカードを任意の枚数墓地へ送ることで、その枚数×1000ポイントのライフを回復する。私はフィールド魔法《失楽園》と、トラップカード《闇霊術−「欲」》を墓地へ送り、2000ライフを回復するわ」
 続いて鷹野さんは、《非常食》の発動コストとして、《失楽園》のカードと、先ほど発動した《闇霊術−「欲」》のカードを墓地へ送った。それにより、鷹野さんのライフが2000回復する。

 鷹野さん LP:650 → 2650

「さて、《闇霊術−「欲」》の効果を処理するわ。このカードの効果で私はデッキからカードを2枚ドローする。けど、あなたは手札の魔法カードを1枚見せることで、この効果を無効にできるわ。さ、どうする?」
 《闇霊術−「欲」》はドロー強化トラップか! でも、僕が手札の魔法カードを1枚見せれば、この効果は止めることができるという。ならば僕が取るべき手は一つしかない!
「無効! ……にしません」
「なら2枚ドロー!」
 ホントは全力で無効にしてやりたかったが、あいにく僕の手札に魔法カードはなかった。チキショオ!
 最後に《ハリケーン》の効果が処理されたが、もう場に魔法・トラップカードがないため、不発に終わった。
 色々あったが、その結果、鷹野さんの場にはモンスターも伏せカードもなくなった。今こそ攻撃を通すチャンスだ!
 僕は手札から、前のターンに出すのを控えたモンスターを選び取り、場に召喚した。
「《クロスソード・ハンター》を召喚! ダイレクトアタックだ!」
 《クロスソード・ハンター》は攻撃力1800のモンスター。この攻撃が通れば、鷹野さんのライフを大きく削り取れる!
 鷹野さんに動く様子はなく、《クロスソード・ハンター》の攻撃が彼女のライフを削り取った。

 クロスソード・ハンター 攻:1800

 鷹野さん LP:2650 → 850

 鷹野さんの残りライフは850。結果的に、このターンの開始時よりもわずかに増えてしまっているが、それでも、あと一息で削りきれる数値だ。しかも、彼女の場にはもうモンスターはいない!
 もう少し……もう少しだ!
「カードを1枚伏せ、ターンエンド!」


【僕】 LP:50 手札:1枚
 モンスター:クロスソード・ハンター(攻1800)
  魔法・罠:伏せ×1

【鷹野さん】 LP:850 手札:2枚
 モンスター:なし
  魔法・罠:なし


「私のターン、ドロー!」
 鷹野さんのターン。
 さて、現在僕のライフは50ポイントしかないが、デュエルの世界においては、大抵ライフが100以下になったデュエリストが勝つという法則がある。すなわち、ライフ50ポイントは勝利へつながる50ポイント。勝利フラグなのだ。
 対する鷹野さんのライフは850ポイント。結構追いつめられた感はあるものの、何だか中途半端な数値で、とても勝利フラグと呼べるものじゃない。
 こういった点からもこのデュエル、僕が勝利することはもはや確定していると言っても過言ではない――
「私は魔法カード《救援光》を発動。800ライフを払い、ゲームから除外された自分の光属性モンスター1体を手札に加えるわ」

 鷹野さん LP:850 → 50

 ――って、鷹野さんのライフも50になっちゃったよ! なんてこった! これでこのデュエル、どちらが勝つか分からなくなってしまった!
 ま、まさか、こんな形で勝利フラグをへし折られるとは! まさに肉を切らせて骨を断つ!(?) 鷹野さんめ、なんて恐ろしい女だ!
「私は《救援光》の効果で、さっき《Sin レインボー・ドラゴン》召喚の際に除外した《究極宝玉神 レインボー・ドラゴン》のカードを手札に戻し、すぐに特殊召喚するわ! 出でよ、《究極宝玉神 レインボー・ドラゴン》!」
 鷹野さんは、光属性モンスターである《究極宝玉神 レインボー・ドラゴン》のカードを手札に戻すと、そのカードをすぐさま場に出した……って、うぉい!
「ちょちょちょちょっと待ってよ鷹野さん! おかしいよ! 君の墓地には3種類しか宝玉獣が存在してないじゃないか! なのになんで《究極宝玉神 レインボー・ドラゴン》を!?」
 鷹野さんの出した《究極宝玉神 レインボー・ドラゴン》は、場か墓地に7種類の宝玉獣が揃っているときのみ特殊召喚できるモンスターだ。しかし、彼女がこのデュエルで使用した宝玉獣は、《宝玉獣 サファイア・ペガサス》、《宝玉獣 ルビー・カーバンクル》、《宝玉獣 エメラルド・タートル》の3種類。《究極宝玉神 レインボー・ドラゴン》を出すには、あと4種類足りない。にもかかわらず……どうして?
 僕が問うと、鷹野さんは怪訝な顔をした。
「3種類しかない? 何言ってんの?」
 そう言って、彼女は墓地から7枚のカードを取り出した。
「ほら、ちゃんと7種類揃ってるじゃない」
 彼女が取り出した7枚のカード。
 それは、紛れもなく、7種類の宝玉獣だった。
 《宝玉獣 サファイア・ペガサス》、《宝玉獣 ルビー・カーバンクル》、《宝玉獣 エメラルド・タートル》。それに……《宝玉獣 アメジスト・キャット》、《宝玉獣 アンバー・マンモス》、《宝玉獣 トパーズ・タイガー》、《宝玉獣 コバルト・イーグル》。
 嘘ぉぉぉ!? なんで!? なんで7種類揃ってんの!? 《宝玉獣 アメジスト・キャット》、《宝玉獣 アンバー・マンモス》、《宝玉獣 トパーズ・タイガー》、《宝玉獣 コバルト・イーグル》なんてカード、いつの間に墓地へ!?
「はいはい、《カードガンナー》、《カードガンナー》」
 簡潔に答える鷹野さん。……なるほど、《カードガンナー》の効果でデッキから墓地へ送られたカードの中に、残る4種類の宝玉獣が含まれていたのか。《カードガンナー》の効果は2回使われてたからな。
 ていうか、ここで《究極宝玉神 レインボー・ドラゴン》かよ。まさか、この状況でそんな強力モンスターを呼び出してくるとは……。
 う〜む。僕は先ほどまで、今日の鷹野さんのデッキは「Sinデッキ」だと思っていたが、どうやら本当は「《究極宝玉神 レインボー・ドラゴン》デッキ」だったらしい。
 まずいな。《究極宝玉神 レインボー・ドラゴン》は《Sin レインボー・ドラゴン》と同じく攻撃力4000のモンスター。《Sin トゥルース・ドラゴン》よりは低いものの、それでも脅威であることに変わりはない。もう嫌なんだけど……。
 だが、鷹野さんの動きはまだ止まらなかった。
「まだよパラコン! 私の墓地には今、7種類の闇属性モンスター――《暗黒界の狩人 ブラウ》、《デーモン・ソルジャー》、《幻銃士》、《ヘルウェイ・パトロール》、《幻魔皇ラビエル》、《Sin レインボー・ドラゴン》、《Sin トゥルース・ドラゴン》――が存在しているわ。これら7種類の闇属性モンスターをゲームから除外し、《究極宝玉神 レインボー・ダーク・ドラゴン》を特殊召喚する!」
 鷹野さんは、墓地から7種類の闇属性モンスターを取り除き、《究極宝玉神 レインボー・ダーク・ドラゴン》を召喚した……って、うええええええええええええ!? そっちも出してくるのかよ!? ちょっと待ってよ! 勘弁してよ!
 《究極宝玉神 レインボー・ダーク・ドラゴン》は、墓地の闇属性モンスター7種類を除外して特殊召喚されるモンスター。その攻撃力は、《究極宝玉神 レインボー・ドラゴン》と同じく4000ポイントに達する!
 これで鷹野さんの場には、攻撃力4000の《究極宝玉神 レインボー・ドラゴン》と《究極宝玉神 レインボー・ダーク・ドラゴン》が1体ずつ! ひどい! 色々とひどい!
 う〜む。僕は先ほどまで、今日の鷹野さんのデッキは「《究極宝玉神 レインボー・ドラゴン》デッキ」だと思っていたが、どうやら本当は「《究極宝玉神 レインボー・ドラゴン》&《究極宝玉神 レインボー・ダーク・ドラゴン》まさかまさかの夢の共演デッキ」だったらしい。
「バトル! 《究極宝玉神 レインボー・ドラゴン》で《クロスソード・ハンター》を攻撃! “オーバー・ザ・レインボー”!」
 バトルフェイズに突入し、《究極宝玉神 レインボー・ドラゴン》が攻撃を仕掛けてきた! やばい! このバトルが成立すれば僕の負けが確定してしまう!
「ト、トラップ発動! 《モンスターレリーフ》! 相手が攻撃宣言したとき、自分の場のモンスター1体を手札に戻し、手札から4ツ星モンスター1体を場に特殊召喚する! 僕は《クロスソード・ハンター》を手札に戻し、手札から《代打バッター》を守備表示で召喚!」
 《モンスターレリーフ》の効果で、攻撃対象となった《クロスソード・ハンター》を手札に回収。そして、《代打バッター》を守備表示で出す。これでとりあえず、戦闘ダメージは防ぐことができる!
 《究極宝玉神 レインボー・ドラゴン》の攻撃は、新たに召喚された《代打バッター》にヒット。守備力1200の《代打バッター》は成すすべなく葬り去られる。
 けど、《代打バッター》には特殊能力がある! それを使わせてもらうぞ!
「《代打バッター》が墓地に置かれたことで、僕は手札から昆虫カードを場に出せる! 僕は、さっき手札に戻した昆虫カード……《クロスソード・ハンター》を守備表示で召喚!」
 《代打バッター》の効果で《クロスソード・ハンター》が場に舞い戻る。ただし、今回は守備表示だ。
「しぶとい。なら、《究極宝玉神 レインボー・ダーク・ドラゴン》で《クロスソード・ハンター》を攻撃! “レインボー・リフレクション”!」
 続いて、《究極宝玉神 レインボー・ダーク・ドラゴン》の攻撃! もう僕の場に伏せカードはない。よって何も抵抗することができず、守備力1200の《クロスソード・ハンター》は破壊された。
 な……何とか防いだ! けど、このターンのバトルで、僕は全てのカードを使い切ってしまった! モンスターもない! 魔法・トラップもない! そして手札もない! その上ライフは風前の灯! にもかかわらず、相手の場には攻撃力4000のモンスターが2体! あり得ないほどピンチだ!
「私はカードを1枚伏せ、ターンエンド。さて、どこまで持つかしら?」


【僕】 LP:50 手札:0枚
 モンスター:なし
  魔法・罠:なし

【鷹野さん】 LP:50 手札:0枚
 モンスター:究極宝玉神 レインボー・ドラゴン(攻4000)、究極宝玉神 レインボー・ダーク・ドラゴン(攻4000)
  魔法・罠:伏せ×1


 なぁにこれぇ。
 どうすりゃいいんだよ。どうすりゃこの状況を打開できるのか、まったくもって分かんねえよ。ふざけんなよ。
 今思えば、結構長い時間デュエルをしている。そのせいか、僕はそろそろ冷静な思考ができなくなってきていた。それでも頑張って考えを巡らせてみるが、やはり逆転方法は思いつかない。はは……もうダメなんじゃね、これ。
 ああもう! こうなったらやけくそだ!
「ドロー!」
 半ば投げやりな感じで、僕はカードをドローした。正直、もう何を引こうがどうでもよかった。もう逆転なんてできっこない。どうせまた僕が負けて、鷹野さんの連勝記録が更新されてしまうんだ! チキショオオオオオ!





 ドローカード:ナチュル・フライトフライ





 …………。

 ドローカードを見て、僕の脳ミソはすぐさま冷静さを取り戻した。
 前言撤回。逆転可能だわ、これ。
「僕は《ナチュル・フライトフライ》を召喚!」
「!」
 引き当てたモンスターカードをすぐさま場に出す。
 そう。このカードはまさに、今の状況を覆すことのできるカード!
 その力、とくと見るがいい!
「《ナチュル・フライトフライ》のモンスター効果を発動! 1ターンに一度、相手の場にいる守備力0のモンスター1体のコントロールを、エンドフェイズ時まで得ることができる!」
「!? 守備力0のモンスターって……そんな……っ!」
 1ターンの間だけ、守備力0の敵モンスターを奪い取る。それが《ナチュル・フライトフライ》の能力。そう。守備力0のモンスターを奪えるのだ。それはまさに、今のこの状況にマッチした能力と言えるだろう!

 何故なら!
 鷹野さんの場にいる《究極宝玉神 レインボー・ドラゴン》と《究極宝玉神 レインボー・ダーク・ドラゴン》は、どちらも守備力が0だからだ!


究極宝玉神 レインボー・ドラゴン  光
★★★★★★★★★★
【ドラゴン族】
このカードは通常召喚できない。
自分のフィールド上・墓地に「宝玉獣」と名のついたカードが
合計7種類存在する場合のみ特殊召喚できる。
このカードは特殊召喚したターンに以下の効果を発動できない。
●自分フィールド上の「宝玉獣」と名のついたモンスターを全て墓地へ送る事で、
このカードの攻撃力は墓地へ送った数×1000ポイントアップする。
この効果は相手ターンでも発動する事ができる。
●自分の墓地の「宝玉獣」と名のついたモンスターを全てゲームから
除外する事で、フィールド上のカードを全て持ち主のデッキに戻す。
攻4000  守0


究極宝玉神 レインボー・ダーク・ドラゴン  闇
★★★★★★★★★★
【ドラゴン族】
このカードは通常召喚できない。
自分の墓地に存在する闇属性モンスターを7種類
ゲームから除外した場合のみ特殊召喚する事ができる。
このカードを除く自分フィールド上と自分の墓地に存在する闇属性モンスターを
全てゲームから除外する事で、除外したカード1枚につき、
このカードの攻撃力は500ポイントアップする。
攻4000  守0


「鷹野さん。君の場にいる2体の究極宝玉神は、いずれも攻撃力は4000と高いが、守備力は0と絶望的に低い! それこそ、《クリボー》がぶつかっただけで砕け散るほどにね! それゆえに、《ナチュル・フライトフライ》の効果対象にできる! 僕はその効果で、君の場の《究極宝玉神 レインボー・ダーク・ドラゴン》のコントロールを得る!」
 《ナチュル・フライトフライ》の効果により、《究極宝玉神 レインボー・ダーク・ドラゴン》のコントロールが僕に移った!
「くっ……! まさか、そんな手を使ってくるなんて……!」
 鷹野さんは驚愕に顔を染めている。いや、僕もかなりビックリしている。こんな逆転法が、自分のデッキに眠っているとは思わなかった。う〜む。デュエルっていうのは、最後の最後まであきらめちゃいかんのだなぁ。
「さて、君から奪った《究極宝玉神 レインボー・ダーク・ドラゴン》の効果を発動させてもらうよ!」
 《究極宝玉神 レインボー・ダーク・ドラゴン》は、自分の場と墓地に存在する自分以外の闇属性モンスターを全て除外することで、除外した枚数×500ポイント攻撃力がアップする。僕はその効果で《究極宝玉神 レインボー・ダーク・ドラゴン》の攻撃力を上げようとして……実は、僕の場と墓地には、《究極宝玉神 レインボー・ダーク・ドラゴン》以外の闇属性モンスターが1体もいないことに気付いた。チキショオ! めっちゃ恥ずかしい!
 げふんごふん! 落ち着け僕。戦況は僕が有利なんだ。大丈夫、問題ない。
 そうそう、落ち着いたら思い出した。《ナチュル・フライトフライ》にはもう一つ効果があるんだよ。
「《ナチュル・フライトフライ》がいる限り、鷹野さんの場のモンスターの攻撃力・守備力は、僕の場にいる『ナチュル』と名のついたモンスターの数×300ポイントダウンする! 僕の場にいるナチュルモンスターは《ナチュル・フライトフライ》が1体! よって鷹野さんの場のモンスター――《究極宝玉神 レインボー・ドラゴン》の攻撃力・守備力は300ポイントダウン!」

 究極宝玉神 レインボー・ドラゴン 攻:4000 → 3700 / 守:0 → 0

「……! 《究極宝玉神 レインボー・ドラゴン》の攻撃力が下がった!」
 フフ……これで、僕の場の《究極宝玉神 レインボー・ダーク・ドラゴン》の攻撃力が、鷹野さんの場の《究極宝玉神 レインボー・ドラゴン》を上回った! 今こそ攻めるチャンス!
「バトル! 《究極宝玉神 レインボー・ダーク・ドラゴン》で《究極宝玉神 レインボー・ドラゴン》に攻撃!」
 闇の究極宝玉神が、光の究極宝玉神に攻撃を仕掛ける! この攻撃が通れば、鷹野さんに300ダメージ! 残りライフ50の鷹野さんのライフは0になり、僕の勝利が確定する! さあ、通るか!?
「させない! トラップ発動! 《地殻変動》!」
 ……っ!? 鷹野さんがトラップを発動してきた! やはり、簡単には通してくれないか。
 しかし、《地殻変動》? 何だっけ、そのカード。
「このトラップは、私が選んだ二つの属性の中からあなたが一つを選択し、あなたが選んだ属性を持つ場のモンスターを全て破壊するカードよ」
 くっ! モンスター抹殺のトラップか! 厄介なカードを!
「私が選ぶのは、闇属性と地属性。さあ、どちらを選ぶ?」
 …………。
 僕は考えた。
 今、僕の場にいる《究極宝玉神 レインボー・ダーク・ドラゴン》は闇属性。同じく僕の場にいる《ナチュル・フライトフライ》は地属性。対する鷹野さんの場にいる《究極宝玉神 レインボー・ドラゴン》は光属性だ。
 闇属性を選ぼうが地属性を選ぼうが、モンスターが破壊されるのは僕の場だけ。《究極宝玉神 レインボー・ダーク・ドラゴン》か《ナチュル・フライトフライ》のどちらかということになる。ならば、どちらを選ぶべきか。
 よし、決めた!
「僕は地属性を選択するよ!」
「地属性、ね。なら、《ナチュル・フライトフライ》を破壊する!」
 地属性を選んだことで、《ナチュル・フライトフライ》が破壊される。それにより、《ナチュル・フライトフライ》の攻守ダウン効果がなくなり、《究極宝玉神 レインボー・ドラゴン》の攻撃力が元に戻った。

 究極宝玉神 レインボー・ドラゴン 攻:3700 → 4000 / 守:0 → 0


【僕】 LP:50 手札:0枚
 モンスター:究極宝玉神 レインボー・ダーク・ドラゴン(攻4000)
  魔法・罠:なし

【鷹野さん】 LP:50 手札:0枚
 モンスター:究極宝玉神 レインボー・ドラゴン(攻4000)
  魔法・罠:なし


 互いの場には究極宝玉神が1体ずつ。それ以外のカードはない!
 そして、互いの究極宝玉神の攻撃力が並んだ!
「迎え撃て! 《究極宝玉神 レインボー・ドラゴン》!」
 鷹野さんは、本来の力を取り戻した《究極宝玉神 レインボー・ドラゴン》で迎撃する!
「押し潰せ! 《究極宝玉神 レインボー・ダーク・ドラゴン》!」
 僕も負けじと、《究極宝玉神 レインボー・ダーク・ドラゴン》の攻撃を続行する!

「――“オーバー・ザ・レインボー”!」
「――“レインボー・リフレクション”!」

 2人の叫びが同時に響いた!
 光の究極宝玉神と、闇の究極宝玉神――2体の究極宝玉神の激突だ!





 ……まあ、結果は相打ちなんだけどさ。
 もしも、これがデュエルディスクを使ったデュエルなら、きっとソリッドビジョンによる熱い演出を見られたに違いない、と僕は思った。
 ともあれ、2体の究極宝玉神の攻撃力は互角。当然のごとく相打ちとなり、どちらのカードも墓地へ送られた。
 これで互いの場はがら空き。モンスターも、魔法も、トラップも存在しない。そして互いに手札はない。さらに、互いのライフは50。まさしく、どちらかがあと一撃を与えれば勝敗が決する状況だ。
 う〜ん、できればこのターンで勝ちたかったんだがなぁ。とりあえず、2体の究極宝玉神を場から取り除くことはできたから、よしとするか。
 あぁ、でも、この状況で先にカードを引けるのは鷹野さんなんだよな。で、もしも次のターン、鷹野さんがモンスターを出してきたら、僕の負けが確定してしまう。もう僕には攻撃を防ぐ手立てはないし。
 戦況は互角……と思わせておいて、実は先にカードを引ける鷹野さんが有利なこの状況。果たして、勝負の行方は……。
 た……頼みますデュエルの神様。どうか、鷹野さんがモンスターを引き当てませんように。
「ターン、エンド!」
 これ以上できることのない僕は、エンド宣言をした。
 鷹野さんにターンが移る。


【僕】 LP:50 手札:0枚
 モンスター:なし
  魔法・罠:なし

【鷹野さん】 LP:50 手札:0枚
 モンスター:なし
  魔法・罠:なし


「……私のターン、ドロー」
 鷹野さんがカードを引いた。あれが攻撃力50以上のモンスターカードだったら僕の負けだ。そうでなくても、プレイヤーに50以上のダメージを与える効果を持つカードだったら、やっぱり負けてしまう。
 頼む! 攻撃力50以上のモンスターまたはプレイヤー直接攻撃系カードを引き当てないでくれ!
 僕はドキドキしながら、鷹野さんの次の一手を待った。
「ついに来たわ」
 ドローカードを見た彼女は、待ちかねたような口調で言った。
 嫌な予感がした。心臓が止まりそうになった。
「パラコン、私の切り札を見せるときが来たわ。覚悟しなさい」
 鷹野さんは、今まで以上に楽しそうな表情で言った。
 き……切り札って……。じゃあ今まで出してきたモンスターは何だったんだ? なんかもう、嫌な予感しかしてこない。
 ……あぁ、もうダメだ。
 僕は深呼吸した。
 腹をくくろう。このデュエル、僕の負けだ。せめて、何が出てきても驚かないようにしよう。最後まで堂々としていよう。それが僕の最後の抵抗だ。
 さあ、鷹野さん。好きなだけ出してくるがいい! 君の切り札とやらを!





「私はこのカードを召喚! 出でよ、《憑依装着−ヒータ》!」





 …………。


トラウマ
(罠カード)
自分は1850ポイントの精神的ダメージを受ける。


 いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!

「《憑依装着−ヒータ》の攻撃力は1850! このカードでダイレクトアタック! これで私の勝ちよ!」

 憑依装着−ヒータ 攻:1850

 僕 LP:50 → 0




プロジェクト13 プロジェクトHW

 デュエルは終わった。僕の負けで。
 ラストターンで鷹野さんに、《八汰烏》を超えるチートモンスター《憑依装着−ヒータ》を引き当てられ、ダイレクトアタックを喰らわされた。それにより、僕は1850ポイントの戦闘ダメージを受け、ライフが0になった。
 あまりにもあっさりとした、それでいてひどい幕切れだった。これなら、カオス・エンペラー・ドラゴンに倒されるほうがよっぽどマシだと思った。
 あのタイミングで《憑依装着−ヒータ》を出されるとは……。さすがにこれは読めなかった。何を出されても驚かないつもりだったが、あそこで《憑依装着−ヒータ》を出されて驚かないなんて無理だ。そのくらい、僕にとっては衝撃的だった。
 う〜む。僕は先ほどまで、今日の鷹野さんのデッキは「《究極宝玉神 レインボー・ドラゴン》&《究極宝玉神 レインボー・ダーク・ドラゴン》まさかまさかの夢の共演デッキ」だと思っていたが、どうやら本当は「ヒータで君のハートにダイレクトアタック! デッキ」だったらしい。
 くそっ! こんなことになるなら、カオス・エンペラー・ドラゴンじゃなくてヒータをデッキから抜かせるんだった!
「私の勝ちね。というわけで、あなたにはアイスを買ってきてもらうわよ」
 デュエルに勝利した鷹野さんは、カードと電卓をさっさと片すと、100円玉を突き出してきた。あぁ、そういえば、僕が負けたらアイスを買ってこなきゃいけないんだっけ。すっかり忘れてたよ。
 デュエルに負けた以上、もう僕に反論する権利はない。大人しくアイスを買いに行くしかない。うわぁ、すっげー気分悪い。
「分かったよ鷹野さん。たしか『ギリギリ君』がほしいんだったね」
 気分は悪いが、この世界においてデュエルは絶対だ。後回しにしても面倒なので、僕はさっさとアイスを買いに行くことにした。右手を出し、鷹野さんから100円玉を受け取ろうとする。
 しかし、鷹野さんは、突き出した100円玉を引っ込めてしまった。あれ?
「今すぐ買ってこい、と言いたいところだけど、もう夜になっちゃったから、今日のところは勘弁してあげるわ。ありがたく思いなさいよ」
 夜になってしまったということで、今日はもう勘弁してくれるらしい。
 はぁ〜、それはよかった。これで面倒が一つ省けたよ。





 ……え? もう夜になっちゃった?





 僕は壁にかけてある時計に目を向けた。
 現在時刻は……19時12分。
 外を見てみると、もう真っ暗になっている。
 物の見事に夜だった。

 ち……ちょっと待ってくれ。
 今の今まで僕と鷹野さんはデュエルしていたが、そのデュエルを始めたときはまだ午前中だったはずだぞ!? なのに、なんでもう夜になってるんだ!?
 まさか、それほどまでに長い時間……それこそ、昼飯も食わず、途中休憩もなしに、僕らはデュエルをしていたのか!? たしかに長いデュエルではあったけどさ!
 う〜む……デュエルしていたせいで、僕らは時の経つのも忘れていたってことか。カードゲーム恐るべし!
「デュエルに夢中になってたせいで、もうすっかり暗くなっちゃったわね。そろそろお暇させてもらうわ。この時間帯なら、エアコンなしでも我慢できるしね」
 鷹野さんは立ち上がると、窓をガラガラと開けた。それを見た僕は、まだエアコンがついたままだということを思い出し、すぐにスイッチを切った。
「それじゃあね、パラコン」
 そう言うと、鷹野さんは窓から飛び出し、夜の街へ消えていった……って、あの人、どっから飛び出てるんだよ!?
 目を凝らして、真っ暗になった外を見てみると、鷹野さんが屋根から屋根へと上手く飛び移っているのが見えた。おそらく、あの調子で自宅まで帰るつもりなんだろう。忍者かあの人は。


 ★


 鷹野さんを見送った(?)僕は、窓から離れ、扇風機の前にどっかと腰を下ろした。
 はぁ〜……。なんか今日はどっと疲れた。主に鷹野さんのせいで。
 腹が音を鳴らす。あぁ、すごく腹が減ってきた。昼飯も食わずにデュエルしてたんだから、そりゃ減るよな。うん。
 ふと、床に置いてある英語のワークブックが目に入った。ワークブックには、鷹野さんとヒータへの悪口以外は何も書き込まれていない。





 …………あ。





 しまったあああああああああああああああああああああああああああああ!
 夏休みの宿題進めるはずが全然進んでねえ! むしろ今まで完全に忘れてた! 鷹野さんが侵入してきたせいで忘れてたよ! うわああああああああ!
 やべえよ! 夏休みは今日を含めてあと2日……いや、もう今日はそろそろ終わるから、実質1日しか残ってないのに、全然宿題進んでない! まずい! これはまずいよ!
 チキショオ! 本当なら、今日と明日をフル活用して宿題を終わらすはずが、鷹野さんと戦うだけで今日1日のほとんどを消費しちゃったよ! うわぁ! こんな仕打ちってあるか!? ひどいよこんなの! あんまりだ!

 ……まさか、鷹野さんはこうなることを狙って僕にデュエルを挑んできたのか?
 いや、まさかな……。

 …………。
 とりあえず、嘆いていても仕方ない。
 まだ夏休みが終わったわけじゃないんだ。夏休みはあと1日と数時間残っている! ならば、僕が取るべき道は一つ! その残った時間をフル活用して宿題を終わらすのだ!
 そうと決めた僕は、英語のワークブックを開き、宿題攻略を再開した。

 宿題コンプリートへの道は長く険しい。
 たとえ英語の宿題が終わっても、まだ読書感想文、自由研究、風景画、その他もろもろが残っている。敵は大勢待ち構えているのだ。
 しかも、夏休みは残り1日と数時間しかない。

 状況は極めて僕が不利。
 でも、僕はあきらめない! 僕は必ずやりぬいてみせる!
 山のようにたまった宿題を、必ず完全制覇してみせる!
 本当の戦いは、これからだぜ!

 よし、この計画は、「プロジェクトHW(Homework)」と名付けることにしよう。





〜Fin〜










おまけ 鷹野さんデッキ(プロジェクトHW仕様)

 今作で鷹野さんが使用したデッキの内容を公開!
 これを真似すれば、君も今日から鷹野さんだ!


テーマ

 剣闘獣と三幻魔とアーミタイルとSinモンスターと宝玉獣と究極宝玉神とヒータを華麗かつ縦横無尽に操って勝利する。


デッキ内容

モンスター 41枚 魔法 9枚 罠 10枚
Sin トゥルース・ドラゴン
究極宝玉神 レインボー・ドラゴン
究極宝玉神 レインボー・ダーク・ドラゴン
Sin レインボー・ドラゴン
神炎皇ウリア
神炎皇ウリア
神炎皇ウリア
降雷皇ハモン
降雷皇ハモン
降雷皇ハモン
幻魔皇ラビエル
幻魔皇ラビエル
幻魔皇ラビエル
ジャンク・コレクター
剣闘獣アンダル
剣闘獣アンダル
デーモン・ソルジャー
憑依装着−ヒータ
剣闘獣ラクエル
E・HERO プリズマー
E・HERO プリズマー
E・HERO プリズマー
剣闘獣ダリウス
ヘルウェイ・パトロール
剣闘獣ベストロウリィ
幻銃士
レスキューラビット
ファントム・オブ・カオス
ファントム・オブ・カオス
ファントム・オブ・カオス
暗黒界の狩人 ブラウ
スレイブタイガー
火霊使いヒータ 
カードガンナー
宝玉獣 ルビー・カーバンクル
宝玉獣 アメジスト・キャット
宝玉獣 エメラルド・タートル
宝玉獣 トパーズ・タイガー
宝玉獣 アンバー・マンモス
宝玉獣 コバルト・イーグル
宝玉獣 サファイア・ペガサス
命削りの宝札
うずまき 
救援光
失楽園
手札抹殺
二重召喚
同胞の絆
同胞の絆
非常食
異次元からの帰還
拷問車輪
スピリットバリア
体力増強剤スーパーZ
地殻変動
デストラクト・ポーション
ハンディキャップマッチ!
闇霊術−「欲」
リミット・リバース
リミット・リバース
 ※作中未登場カード


エクストラデッキ
原作ルールにエクストラデッキなんてなかった



使い方

 作中の鷹野さんと同じように使えばOK!
 さあ、君も鷹野さんになりきってみよう!






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