気が付くと、僕は真っ白な世界にいた。
 どこを見ても、この世界は真っ白。上も下も、右も左も、前も後ろも真っ白。
 それでいて、この世界には何もなかった。

 まるで、真っ白で何もない世界に、僕一人だけが取り残された、あるいは、放り込まれたかのようだった。
 ここは……どこなんだろう?

 と、突然、目の前に一人の少年が現れた。
 やけに派手な髪形をした少年だった。
 年齢は僕と同じくらいに見える。

 少年の出現は、本当に突然の出来事だった。
 まるで瞬間移動でもしてきたかのように、その少年は突然、僕の前に現れたのだ。

「よっ! お前がパラコンボーイだな!」

 明るい口調で少年が言った。
 彼は僕のことを知っているらしい。
 けど、僕は彼のことを知らない。
 何者なんだろうか?

「き……君は?」

 僕が訊ねると、少年は明るい口調のまま言った。

「俺か? 俺は九十九(つくも) 遊馬(ゆうま)っていうんだ! よろしくな!」

 つくも……ゆうま……。
 どこかで聞いたような名前だった。どこで聞いたんだっけ?
 思い出そうとしてみたが、思い出せなかった。

 とりあえず、目の前の少年……遊馬くんは、僕に何の用があるのだろうか?
 何の用があって、僕の前に? しかも、こんな場所で……。
 そもそも、ここは一体どこなんだ? なんで僕はこんな場所に来ているんだ?
 分からないことだらけだ……。

「あっ……いきなりこんなトコ連れてこられてビックリしたよな? ゴメンよ。用が終わったらすぐに元の世界に戻すからさ、安心してくれよ」

 僕の気持ちを察してか、遊馬くんはそう言ってくれた。
 どうやら、彼は悪い人ではないらしい。信用しても大丈夫そうだ。

 遊馬くんは早速、本題に入った。

「じゃあ、チャッチャと用を済ましちまおう! え〜と……今日、俺がお前をここに呼んだのは、お前に“あること”を伝えるためなんだ!」

 “あること”を伝えるため?
 何だろう? 僕に伝えたいことって……。

「とっても重大なことだから、よく聞いてくれよ。実はな……」




















次回から、プロジェクトシリーズの主人公は、俺が務めることになったんだ!










 …………。

 …………。

 …………は?

 急・展・開
 (罠カード)
 読者は脈拍数が1上昇する。

 ちょっと待ったああああああああああああああああああ!!!!!
 お……お前……!? え!? ちょっと待てよ!? いきなり何!? 何が来るかと思えば主人公交代宣言!? 意味わかんなんだけど!! いきなりすぎてワケわかんないんですけど!?

「というわけでパラコン! お前のプロジェクト・スピリットは俺がしっかり引き継ぐから安心してくれよ! お疲れさん!」

 いや、お疲れさんじゃねーよ! プロジェクト・スピリットって何!? 意味わかんねーよ!! 納得いかねーよ!! もっと詳しく説明しろや!!

「用はこれだけだ! 貴重な時間を取らせてゴメンな! すぐに元の世界に戻してやるぜ!」

 ちょっと待てっての!? え!? マジで言ってんの!? マジで主人公交代するつもり!? ふざけんなよ!! そんなの絶対に認めねーぞ!!

「プロジェクトシリーズ! かっとビングだぜ〜!!」

 かっとビングじゃねーよ! 僕の話聞けよ! お前、僕に許可なくこんなことがまかり通ると思ったら大間違……ッ……――――――!!










 ……………………。









 ………………。










 …………。





 ★


「――――ッ!?」

 目を開くと、僕は暗い部屋にいた。
 そこは見慣れた部屋だった。

 僕は、自分の家の、自分の部屋にいた。
 そして、自分の部屋のベッドで横になっていた。

 ……要するに、寝てたってことだ。

 首を動かし、机の上の目覚まし時計に目をやる。
 まだ朝の4時過ぎだった。
 ずいぶんと早く目が覚めてしまったものだ。

 …………。

 夢……だったのか……。

 突然、見ず知らずの少年に主人公の座を奪われる、という悪夢を見てしまった。
 おかげで今、ものすごく気分が悪い。最悪の目覚めだ。
 夢の中のお話だったことが、不幸中の幸いだろうか。

 そういえば、今日は1月1日だっけ。
 ということは、いま見た悪夢が去年最後の夢ってことになるのか。
 悪夢を見ながら年を越すなんて……縁起悪すぎだろ……。

 はぁ……まったく、ツイてねぇなぁ〜……。
 そんな風に思いながら、僕はもう少し眠ることにした。












プロジェクトSP(SPIRIT)

製作者:あっぷるぱいさん




 本作品はプロジェクトシリーズの12作目です。
 ですが、プロジェクトシリーズの1作目(プロジェクトVD)から5作目(ぷろじぇくとSV)までが既読であれば、内容は把握できるようになっています。
 なお、プロジェクトシリーズは原作マンガの設定に準拠しており、GXや5D’sやZEXALとの繋がりは曖昧になっています。






 モニター前の皆さん、明けましておめでとうございます。
 僕のことを覚えているだろうか?
 そう、僕の名は……公式的にはない。とりあえず、このシリーズでは「パラコンボーイ」とか「パラコン」とか呼ばれているけどね。
 パラコンボーイ――これは、「パラサイドを混入した少年(ボーイ)」の略で、もはや僕の名前として定着しつつある。「パラサイドを混入したって何のこと?」と思ったそこのあなたは、原作コミックス19巻を見てみてください。
 パラコンボーイ……か……。果たして、僕はいつまでこの名で呼ばれ続けるんだろう? もうこのシリーズも12作目なんだけど、未だに本名不明って……。


 ……前置きはこのくらいにしておこう。
 さて、モニター前の皆さんの世界ではどうなっているか知らないが、僕の世界での今日の日付は1月1日ということになっている。上で「明けましておめでとう」なんて挨拶をしたのはそのためだ。
 1月1日。そう。新しい年がスタートしたのだ。

 ところで、モニター前の皆さんには、何か今年中に成し遂げたいこととかあるだろうか?
 僕にはあるよ。今年中に成し遂げたいこと!

 今年、僕は何としてでも成し遂げたいことがある。
 本当なら去年の内に成し遂げたかった、とある“ミッション”。それを今年こそ達成したいと考えている。
 今年こそ……今年こそ、この“ミッション”を達成してみせる!

 え? どんな“ミッション”なのかって?
 いい質問だね。さっそくお答えするとしよう。

 皆さんは、鷹野(たかの) 麗子(れいこ)という馬鹿女を覚えているだろうか?
 忘れている人もいるかもしれないので、念のために軽く説明しておこう。

 鷹野さんは僕と同じクラスの女子中学生。容姿端麗な上、頭も良くて運動神経も抜群という、まさしく才色兼備な女の子だが、本性は非常に傲慢で身勝手極まりないという最悪の女だ。僕はそれをよく知っている。たぶん、彼女の悪女っぷりを知っているのは、クラスの中では僕ぐらいのものだと思う。

 そんな鷹野さんと僕の関係は……ライバルのようなものだ。

 以前、僕は彼女にデュエルで負かされた上、極めて不快な思いをさせられたことがある。それ以来、僕は何としてでも彼女をデュエルで叩きのめしてやろうと奮闘しているのだが……彼女は異常にデュエルが強く、僕はまだ彼女に一度もデュエルで勝てていない。もう結構な回数、彼女とデュエルした気がするが、一度も勝ったことがないのだ。
 できることなら、去年の内に彼女に勝利しておきたかったが、それは叶わなかった。だからこそ……! 今年こそは彼女にデュエルで勝つ!
 今年の内に、鷹野さんをデュエルで叩きのめす! それが、僕の今年の“ミッション”。成し遂げなければならない“ミッション”なのだ!

 その“ミッション”を達成するために、僕がまずするべきこと。
 それは、デュエリストにとっての武器――デッキを調整することだろう。
 そう思った僕は、押し入れにしまってあったカードを全てひっくり返し、今朝からデッキ構築に励んでいる。
 見てろよ鷹野麗子! 必ずお前を完膚なきまでに叩きのめす最強デッキを組み上げてやるぜ!

 しかし、デッキ構築を始めてから、もう3時間くらい経つ。さすがにそろそろ疲れてきたな。
 3時間もデッキ構築をしていたこともあって、一応、デッキらしいデッキはできた。まだまだ改良の余地はあるけど、これでも充分に戦えるはずだ。
 キリもいいし、ちょっと休憩しよう。そう思い、僕は腰を上げた。
 何とはなしに窓の近くまで歩き、窓の外を見てみる。よく晴れている。
 窓を開けると、ひんやりとした空気が肌に触れた。う〜ん……さすがに寒いな。

 ……あれ?

 外を見てみると、何かがこっちに向かって飛んでくるのに気付いた。
 何だ……あれは……――――





「イヤッッホォォォオオォオウ!」





 ―――バキィィィィィッ!!


「あぐぶじゅるぁぁぁぁああああ!!!!!!」
 突然の出来事だった。
 “何か”がこっちに向かって飛んでくるのに気付いた直後。その“何か”が僕の顔面に蹴りを入れてきたのだ!
 つーか痛いよ! マジで痛い! 顔面蹴るとか反則だろ!? あ〜〜ほらほら! 血が出てきちゃったじゃないか! ふざけんなよ!!
 僕は床に血をダラダラと垂らしながら、いきなり外から顔面に向かって蹴りを入れてきた“何か”の方に目を向けた。
 そこには、見覚えのある少女の姿があった。

 察しのいい人はもう気付いただろう。
 その少女は、僕の永遠のライバルにして、踏み越えなくてはならない女デュエリスト。

「た……鷹野さん……」
 そう。僕の顔に蹴りを入れたのは、ついさっき紹介した女子中学生・鷹野さんだった。
 こ……この人、どうやってここまで飛んできたんだ? ていうか、なんで蹴りを入れてきたんだ?
「隙がありすぎよパラコン。そんなことじゃ、いつまで経っても一人前のデュエリストにはなれないわ」
 他人の顔にいきなり蹴りを入れておいて、鷹野さんはそんなことを言った。
 ……意味わかんねーよ。お前の言う一人前のデュエリストって、普段どんだけ危険な状態にあるんだよ? 相変わらず身勝手極まりない暴力女だな。
 くそっ……今すぐにこの女をぶん殴ってやりたい。だ……だが、女性に手を上げるような真似をしてはいけない。僕は紳士だ。主人公だ。紳士なら紳士らしく、主人公なら主人公らしく、きちんと落ち着いた対応を取らなければならない。
 僕は必死に、このクソ女をぶん殴りたい気持ちを抑え込んだ。深呼吸、深呼吸。スー……ハー……。
「……鷹野さん。今日は何の用?」
 あふれ出る鼻血をティッシュで押さえこみつつ、僕は鷹野さんに問いかけた。
 アホ女め……用があるなら早く言えってんだ。
「その前に。お正月なんだから、まずは挨拶が先なんじゃない?」
 鷹野さんはそんなことを言った。
 挨拶ねぇ……。新年早々、他人の顔にいきなり蹴りを入れておきながら、ずいぶんと身勝手なことが言えるもんだ。
 まあいい。僕はきちんと挨拶ができる優秀な少年なのだ。華麗に美しく、新年のあいさつをしてやろうじゃないか。
「そ……そうだったね。明けましておめで―――」
「隙あり! こいつを喰らいな!」

 ―――シュゥゥゥゥゥッ!!

「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!????」
 僕が挨拶をしかけた途端、鷹野さんはいきなり消火器をぶちまけてきやがった! ぐわぁぁああ!! 目がああああぁぁああっ!!??
 チキショオ!! 何だよこれ!! 挨拶してる人間に向かって消火器ぶちまけるとか、ワケわかんねーよ!! つーか、どっからその消火器持ってきたんだよ!?
「消火器は拾った」
 拾った!? 落ちてたのかよ!?
「さて、新年の消火器挨拶も終わったし、本題に入ろうかしらね」
 消火器挨拶って何だよ!? これ挨拶なの!?


 ★


「冗談はこのくらいにして、本題に入るわよ」
 鷹野さんはモチを手に取って本題に入った。ちなみに、このモチは僕の母が持ってきてくれたものだ。
「私が今日ここに来たのは……あつっ! 熱いっ!!」
「鷹野さん! 熱いんだから、あんまり急いで食べちゃダメだよ!」
「はぁ……はぁ……。えーと、私が今日ここに来たのは……他でもない」
 鷹野さんはモチにふぅふぅと息を吹きかけてから、ゆっくりと口に入れた。
「パラコン。あなたに“あること”を伝えるために来たのよ」
「あること……?」
 鷹野さんは、何か僕に伝えたいことがあるらしい。何だろうか?
「何なのさ? “あること”って。……もしかして、深刻な話?」
「深刻……ではないわね。けど、重要な話よ」
 別のモチを手に取りつつ、鷹野さんは答えた。
 重要……か。一体どんな話なんだろう?
 僕は鷹野さんの言葉に耳を傾けた。
「いい? とっても大事なことだから、よく聞きなさい。一度しか言わないからね。実は……」










プロジェクトシリーズの主人公を変更しよう、って話が持ち上がってるのよ










 …………。

 …………。

 …………は?

 急・展・開
 (罠カード)
 読者は脈拍数が1上昇する。

 うええええええええええええええええええええええええ!!!???
 ちょっと待てよ!? え? 主人公を変更する!? どういうことだよ!?
「鷹野さん! それってどういうことなの!?」
「どういうことって……そのままの意味よ。主人公を変更しようって話が出てるの」
 お……おぉぉぉぉおおお!!?? なんじゃそりゃああああああああ!!!!
 主人公を変更するってことは……つまり、僕がプロジェクトシリーズの主人公でなくなるってことじゃないか!!
「い……意味分かんないよ! いきなり主人公を変更するって……何でまたそんなことを!?」
「アレじゃない? マンネリ化を回避するために、レギュラーキャラクターの入れ替えを行うとか、そういう考えじゃないの?」
 モチを喰いながら、のんきに話す鷹野さん。チキショオ! 他人事だと思ってえええ!!
「冗談じゃないよ! いきなりそんなこと言われて納得できるか! 大体、僕が主人公でなくなったら、誰がこのシリーズの主人公を―――」
「ああ。新主人公については候補がいるのよ」
 !? 新主人公の候補だと!? そんな……既に候補キャラがいるのか!?
「え〜と……確かにここに写真が……あった」
 鷹野さんは懐から写真を取り出すと、僕に見せてきた。
 写真を見ると、そこには派手な髪形をした少年が1人写っていた。





「この写真に写ってる彼が、プロジェクトシリーズの新主人公候補――九十九 遊馬くんよ」





 …………。

 超・展・開
 (魔法カード)
 読者は3cmくらい動揺する。

 写真に写っている少年は、九十九遊馬という少年だった!
 ば……馬鹿な……っ!? 九十九遊馬が新主人公候補だとぉぉぉぉぉぉ!!!!
 ちょっと待ってくれよ!? これって……今朝見た夢と同じ展開じゃないか!? 九十九遊馬に主人公の座を奪われるって……あの夢と全く同じ!! あの夢、正夢だったのかよ!? なんてこった!!
 つーか、なんでこいつが……九十九遊馬が新主人公候補なの!? なんで僕が、こいつに主人公の座を渡さなきゃならないわけ!?
「ど……どうして! 僕の何が悪かったというんだ……!」
「何が悪かったって? ……そうねぇ」
 鷹野さんはモチを喰いつつ答えた。
「別にあなたが悪かったってわけじゃないけど……ただねえ……。あなたと遊馬くんを比べたら、遊馬くんの方がこう、主人公っぽい感じがするわよね。あなたと違って顔つきもいいし、デュエルも強そうだし、性格も良さそうだし。あと、決めゼリフが良いわよね。“かっとビング”よ、“かっとビング”! “チキショオ!”とはわけが違うわ。そして、何よりも良いのが髪型ね。あなたみたいに中途半端に派手な髪形とは違って、彼の髪型はこの上なくド派手。まさに遊戯王の二次創作の主人公として相応しいキャラクターだわ」
 ――グサッ! ――グサッ! ――グサッ!
 そんな音を立てながら、何かが僕の心に突き刺さった気がした。
 く……くっ……くそぉぉぉ……っ……! 反論できねえ……!
 いや、顔つき、デュエルの強さ、性格の良さに関しては、どうとでも反論できる! けど、髪型に関してだけは反論のしようがない! こればっかりは……遊馬の方が遥かに上だ! 僕では足元にも及ばない……っ!
 髪型の派手さは、遊戯王の主人公にとって欠かせない要素だ。この要素で劣っている時点で、僕の負けは確定したようなもの。なんてこった……! 
「というわけで、分かったらさっさと主人公の座を遊馬くんに渡してくれないかしら」
 鷹野さんは今すぐにでも、主人公を交代させるつもりでいるらしい。
 ふざけんなよ!! こんなところで引き下がってたまるか!!
「鷹野さん! 僕はこんなの納得がいかない! 僕は絶対に、主人公の座を他人に譲るつもりはないからね!」
 はっきりと僕は言い切ってやった。絶対に僕は主人公ポジションから動かないからな! 梃子でも動かないからな!
「……パラコン。そんなことを言わずに」
「ダメだね! 僕は絶対に動かないぞ!」
「あなたの気持ちは分かるわ。けど……よく聞いてパラコン」
 鷹野さんは、僕の肩にそっと手を置くと、僕をなだめるかのように言った。
「何事にも、始まりがあって終わりがある。そして、出会いがあれば、別れもあるの。分かるでしょ?」
 …………。
 いや、何いきなり正論言い出してんのこの人!? そこはボケるところだろうが!! そんなこと言われたら反論のしようがないじゃないか!! 卑怯な手を使いやがって!!
「安心してパラコン。あなたのプロジェクト・スピリットは、遊馬くんが引き継いでくれるわ」
 だからプロジェクト・スピリットって何だよ!?
「そんなに落ち込むことはないわよ。長く続けていれば、レギュラーキャラの入れ替えだって当然起こりうることだしね。うんうん」
 く……くそっ……! この女……好き勝手なこと言いやがって……!!
「というわけでパラコン。早速だけど、あなたには殉職してもらうわ」
 殉職!? 何!? 僕死んじゃうの!? 僕に死ねって言うの!? これ何の刑事ドラマ!?
「パラコン。あなたには、殉職という形でプロジェクトシリーズから卒業してもらうわ。覚悟を決めなさい」
 ふざけんなよ! そんな形でこのシリーズを去ってたまるか!
 ええい! こうなったらこのカードを発動だ!!

 ゲームをしようぜ!
 (魔法カード)
 あらゆるトラブルを、ゲーム1つで片付ける。

「鷹野さん! こうなったらデュエルだ! デュエルで僕が勝ったら、主人公交代の話はなかったことにしてもらう!」
 トラブルはゲームで解決する! それが遊戯王の鉄則だ! 僕は机の上にあったデッキを手に取り、鷹野さんにデュエルを挑んだ!
 未完成とは言え、このデッキでもいい戦いはできるはずだ! 強化された僕のスペシャルデッキの力を見せてやるぜ!
 さあ、カードを構えろ鷹野さん! この勝負、君が逃げることは許されない!
「……分かったわ。口で言って分からないのなら、デュエルで分からせてやるまで」
 そう言うと、鷹野さんはポケットからデッキを取り出した。
 さすが鷹野さん、ノリが良い。おかげでストーリーが円滑に進む。

 ご都合主義
 (魔法カード)
 都合のいい展開でストーリーを進行させる。

 このデュエル、負けるわけにはいかない。ここで負けたら、主人公の座を奪われてしまう! それは何としても避けなければ!
 それに、そもそも鷹野さんを倒すことは、僕の成し遂げなければならない“ミッション”だ。そう言った意味でも、こんなところでつまずくわけにはいかない! 何としてでも勝つ!
 互いにデッキをシャッフルし、床の上にデッキを置く。ライフ計算用の電卓も置いて、準備は完了。
「私の先―――」
「ジャンケンだ! 鷹野さん!」
 おっと! 先攻を勝手に取らせるわけにはいかない! 鷹野さんよ、大人しくジャンケンをしてもらおうか!
「ふん。まあ、たまにはジャンケンで先攻後攻を決めるのも悪くないわね」
「たまには、って……いつもジャンケンで決めなきゃダメだよ。じゃあ、ジャンケン行くよ」
「最初はグー、からスタートね」
「最初はグー、か。ようし!」
 運命のジャンケンフェイズ! 先攻は果たしてどちらの手に!?
「「最初はグー!!」」

 パラコン:パー
 鷹野麗子:チョキ

「オーッホッホッホ! 私の勝ちね! もちろん先攻をもらうわ。先攻ドロー!」
 だあああああ!! チキショオ!! 完全に僕の考え読まれてたよ!! おのれええええ!!
 くそっ! 先攻はくれてやる! だが、僕が勝つことに変わりはない! 今にそれを分からせてやる!

【パラコン】 LP:4000 手札:5枚
 モンスター:なし
  魔法・罠:なし

【鷹野麗子】 LP:4000 手札:6枚
 モンスター:なし
  魔法・罠:なし

 デュエルは鷹野さんの先攻で始まった。
 鷹野さんはカードをドローすると、すぐさまそのドローカードを場に出した。
「私はまず、フィールド魔法《うずまき》を発動!」
 ……っていきなりそれかよ!? うわぁ……出たよ、このシリーズ内最大のチートカード!

 うずまき
 (フィールド魔法カード)
 フィールドは「うずまき」となり、全ての常識は覆る。

「フィールドが《うずまき》になっている限り、全ての常識は覆る! その効果により、今からデュエルのルールは、原作ルールからOCGルールに切り替わるわ!」
 デュエルのルールを原作ルールからOCGルールに切り替える――それが《うずまき》の持つチート効果だ。
 新年最初のデュエルでいきなりそんなカードを使ってくるとは……やはり鷹野さんは油断ならない相手だ。

 パラコン LP:4000→8000
 鷹野麗子 LP:4000→8000

 デュエルのルールがOCGルールになったことで、互いのライフが4000ポイント上昇する。これは、OCGルールの初期ライフが、原作ルールの初期ライフよりも4000多いためだ。
 さて、OCGルールが適用されたこの状況で、鷹野さんはどんな戦術を繰り出してくるのか?
「OCGルールでは、原作ルールと違って、1ターン中に何枚でも魔法・トラップカードを手札から出すことができるわ。私は、魔法カード《天使の施し》を発動。デッキから3枚カードを引き、そのあと手札を2枚捨てる」
 《天使の施し》が発動され、鷹野さんの手札が入れ替わる。くそっ……強力なカード使いやがって……。
「今、私が《天使の施し》の効果で捨てたカードの1枚は《クロス・ポーター》のカード。このモンスターが墓地へ送られた時、デッキから『(ネオスペーシアン)』と名のついたモンスターを1枚手札に加えることができるわ。私はデッキから《(ネオスペーシアン)・エア・ハミングバード》を手札に加える」
 《クロス・ポーター》のモンスター効果により、鷹野さんの手札が1枚増える。これで鷹野さんの手札枚数は、ターン開始時と変わらなくなった……。
「そして、魔法カード《O−オーバーソウル》を発動。自分の墓地から『E・HERO(エレメンタルヒーロー)』と名のついた通常モンスター1体を特殊召喚するわ。私はこのカードの効果で《E・HERO(エレメンタルヒーロー) ネオス》を特殊召喚!」
 さらなる魔法カードの力により、鷹野さんの場に《E・HERO ネオス》が蘇生召喚された! くっ……《天使の施し》の効果で捨てたもう1枚のカードは、《E・HERO ネオス》だったのか!
 《E・HERO ネオス》は攻撃力2500の7ツ星モンスター。1ターン目からこんな強力なモンスターを出してくるとは……。
「さらに! さっき手札に加えた《N・エア・ハミングバード》を召喚! このカードのモンスター効果は、1ターンに一度、自分のライフを相手の手札の数×500ポイント回復する! あなたの手札は5枚だから、2500ライフを回復するわ!」

 鷹野麗子 LP:8000→10500

 《N・エア・ハミングバード》の効果により、鷹野さんのライフが10500まで回復した! くそっ! やりたい放題だなこの人!
「さらにさらに! 場の《E・HERO ネオス》と《N・エア・ハミングバード》をデッキに戻し、コンタクト融合! 出でよ、《E・HERO エアー・ネオス》!」
 鷹野さんは、場に出した《E・HERO ネオス》と《N・エア・ハミングバード》を早々にデッキに戻してしまった。代わりに現れたのは、《融合》魔法カードを使わずに召喚される特殊な融合モンスター、《E・HERO エアー・ネオス》だった!
 《E・HERO エアー・ネオス》の攻撃力は、《E・HERO ネオス》と同じく2500ポイント。しかし、このモンスターは特定の状況下でのみ、自身の能力によって攻撃力をアップさせることができる。
「《E・HERO エアー・ネオス》は、エンドフェイズ時に融合デッキ……じゃなくて、エクストラデッキに戻ってしまうという弱点があるわ。そこで私は、《E・HERO エアー・ネオス》に装備魔法《インスタント・ネオスペース》を装備! このカードを装備したことで、《E・HERO エアー・ネオス》はエクストラデッキに戻らず、フィールドに留まることができる!」
 《E・HERO エアー・ネオス》には、1ターンしか場に生き残れないという弱点がある。けど、《インスタント・ネオスペース》の効果によって、その弱点は克服された。
「最後にリバースカードを2枚セット。これでターンエンドよ」
 初っ端から色んなカードを使い、鷹野さんは先攻1ターン目を終えた。

【パラコン】 LP:8000 手札:5枚
 モンスター:なし
  魔法・罠:なし

【鷹野麗子】 LP:10500 手札:1枚
 モンスター:E・HERO エアー・ネオス(攻2500)
  魔法・罠:インスタント・ネオスペース(対象:E・HERO エアー・ネオス)、伏せ×2
 フィールド:うずまき

「僕のターン、ドロー!」
 さて、ついに僕のターンだ! 必ずこのデュエル、勝利してみせる!
 鷹野さんの場の《E・HERO エアー・ネオス》の攻撃力は2500。なかなか強力だが、僕の今の手札であれば簡単に攻略することが可能だ!
 見てろよ、鷹野麗子!
「僕は《メカ・ハンター》を召喚! そして、このモンスターに魔法カード《デーモンの斧》を装備する!」
「!」
 《デーモンの斧》は、装備したモンスターの攻撃力を1000ポイント上昇させるカード。そして、《メカ・ハンター》の攻撃力は1850! つまり!

 メカ・ハンター 攻:1850→2850

 《メカ・ハンター》の攻撃力は2850となり、鷹野さんの《E・HERO エアー・ネオス》の攻撃力を超えた! これなら難なく粉砕できるぜ! うひゃひゃひゃひゃ!
「バトル! 《メカ・ハンター》で《E・HERO エアー・ネオス》を攻撃!」
「甘いわね。永続トラップ《光の護封壁》を発動! 1000の倍数のライフを払うことで、払った数値以下の攻撃力を持つ相手モンスターは攻撃できない! 私は10000ポイントのライフを払うわ!」

 鷹野麗子 LP:10500→500

「これにより、《光の護封壁》のカードが場にある限り、あなたは攻撃力10000以下のモンスターで攻撃することは許されない。残念だったわね」
 くっ……! ライフと引き換えに、敵モンスターの動きを封じるトラップか! これで僕は、攻撃力10000を超えるモンスターでしか攻撃ができなくなってしまった!
 いや、それだけじゃない!
「《E・HERO エアー・ネオス》は、私のライフがあなたのライフよりも少ない場合、そのライフ差だけ攻撃力がアップするわ。今、私とあなたのライフ差は7500。よって《E・HERO エアー・ネオス》の攻撃力は7500ポイントアップ!」

 E・HERO エアー・ネオス
 融合・効果モンスター ★7 風属性 戦士族 攻2500 守2000
 「E・HERO ネオス」+「N・エア・ハミングバード」
 自分フィールド上に存在する上記のカードをデッキに戻した場合のみ、エクストラデッキから特殊召喚が可能(「融合」魔法カードは必要としない)。
 自分のライフポイントが相手のライフポイントよりも少ない場合、その数値だけこのカードの攻撃力がアップする。
 エンドフェイズ時にこのカードはエクストラデッキに戻る。

 E・HERO エアー・ネオス 攻:2500→10000

 そう。《E・HERO エアー・ネオス》は、持ち主のライフが敵のライフよりも少ない時に限り、そのライフ差だけ攻撃力が上がるのだ!
 一気に攻撃力を10000まで上昇させるとは……! 次のターンの攻撃は何としても防がなくては!
「僕は……カードを2枚伏せ、ターンエンドだ!」

【パラコン】 LP:8000 手札:2枚
 モンスター:メカ・ハンター(攻2850)
  魔法・罠:デーモンの斧(対象:メカ・ハンター)、伏せ×2

【鷹野麗子】 LP:500 手札:1枚
 モンスター:E・HERO エアー・ネオス(攻10000)
  魔法・罠:インスタント・ネオスペース(対象:E・HERO エアー・ネオス)、光の護封壁(10000)、伏せ×1
 フィールド:うずまき

「私のターン、ドロー!」
 鷹野さんのターン。彼女はカードを引くと、迷わずそのカードを場に出した。
「魔法カード《巨大化》を《E・HERO エアー・ネオス》に装備! 《巨大化》は、自分のライフが相手ライフよりも少ない時、装備モンスターの元々の攻撃力を倍にする!」
 なっ!? 今度は《巨大化》かよ!? え〜と、《E・HERO エアー・ネオス》の元々の攻撃力は2500だから、それが倍になって5000になるのか!
 つ……つまり、《E・HERO エアー・ネオス》の攻撃力は2500ポイントアップする!

 E・HERO エアー・ネオス 攻:10000→12500

「バトル! 《E・HERO エアー・ネオス》で《メカ・ハンター》を攻撃!」
 攻撃力12500の《E・HERO エアー・ネオス》が攻めてくる……ってさせるかああああ!!!
「させないよ! 永続トラップ《六芒星の呪縛》を発動! 指定したモンスター1体は攻撃できず、表示形式も変更できない! 《E・HERO エアー・ネオス》の攻撃は封じさせてもらう!」
「っ……!」
 伏せておいた《六芒星の呪縛》を発動することで、《E・HERO エアー・ネオス》の動きを封じることに成功した!
 ふぅ……危ない危ない。とりあえず、これで《E・HERO エアー・ネオス》に攻撃される心配はないな。
「《六芒星の呪縛》で《E・HERO エアー・ネオス》は攻撃できない、か。なら、これはどうかしら? リバースカードオープン!」
 と、鷹野さんが伏せカードを開いた。え? 何!?
「トラップカード《デストラクト・ポーション》を発動! このカードは、自分の場のモンスター1体を破壊し、そのモンスターの攻撃力分だけ自分のライフを回復するカード! 私はこのカードで《E・HERO エアー・ネオス》を破壊!」
 な……何だとおおおおおおおおお!?
 自分のトラップで自分のモンスターを破壊するだと!? 一体何を考えてるんだ!?
「《E・HERO エアー・ネオス》を破壊し、その攻撃力……12500ポイント分のライフを回復するわ」

 鷹野麗子 LP:500→13000

 《E・HERO エアー・ネオス》の攻撃力をライフに変換したことで、鷹野さんのライフが再び10000を超えた。ライフの変動が激しいなあ……。
 まあ、鷹野さんが勝手に自分のモンスターを破壊してくれたおかげで、彼女の場にモンスターは1体もいなくなった。僕の場の《メカ・ハンター》は生き残ってるし、あとは《光の護封壁》を何とかすれば、僕が断然有利にな―――





【パラコン】 LP:8000 手札:2枚
 モンスター:メカ・ハンター(攻2850)
  魔法・罠:デーモンの斧(対象:メカ・ハンター)、伏せ×1

【鷹野麗子】 LP:13000 手札:0枚
 モンスター:機皇帝グランエル∞(攻6500)E・HERO ネオス(攻2500)
  魔法・罠:光の護封壁(10000)
 フィールド:うずまき

 僕が……断然……有利……に……?? ……って何じゃこりゃあああああああああああああああああああ!!!???
 なんで!? なんで鷹野さんの場にモンスターが!? どうしてこんなことに!?
「ふふ……。カードの効果で私の場の表側表示モンスターが破壊された時、《機皇帝(きこうてい)グランエル(インフィニティ)》は手札から特殊召喚することができるわ。《デストラクト・ポーション》で《E・HERO エアー・ネオス》が破壊されたことで、その召喚条件を満たしたってわけね」

 機皇帝グランエル∞
 効果モンスター ★1 地属性 機械族 攻0 守0
 このカードは通常召喚できない。
 自分フィールド上に表側表示で存在するモンスターが効果によって破壊され墓地へ送られた時のみ手札から特殊召喚できる。
 このカードの攻撃力・守備力は自分のライフポイントの半分の数値分アップする。
 1ターンに1度、相手のシンクロモンスター1体を装備カード扱いとしてこのカードに装備できる。
 このカードの攻撃力は、この効果で装備したモンスターの攻撃力分アップする。
 また、自分のメインフェイズ時に、このカードの効果で装備したモンスター1体を自分フィールド上に表側守備表示で特殊召喚できる。

 馬鹿な!? 機皇帝だと!? そんなカードを手札に温存していたとは……!! つーか、機皇帝を使うとかアリなのかよ!?
「さらに、《E・HERO エアー・ネオス》が破壊されたことで、《E・HERO エアー・ネオス》に装備されていた《インスタント・ネオスペース》の効果も発動したわ。《インスタント・ネオスペース》を装備したモンスターが場から離れた時、デッキ・手札・墓地から《E・HERO ネオス》1体を特殊召喚できる。その効果で、私はデッキから《E・HERO ネオス》を特殊召喚させてもらったわ」

 インスタント・ネオスペース
 (装備魔法)
 「E・HERO ネオス」を融合素材とする融合モンスターにのみ装備可能。
 このカードを装備した融合モンスターは、エンドフェイズ時にデッキに戻る効果を発動しなくてもよい。
 装備モンスターがフィールド上から離れた場合、自分の手札・デッキ・墓地から「E・HERO ネオス」1体を特殊召喚する事ができる。

 くそっ! 鷹野さんは、《機皇帝グランエル∞》と《インスタント・ネオスペース》の効果を見越して、《E・HERO エアー・ネオス》を自ら破壊したのか! なんてこった!
 これで、鷹野さんの場のモンスターは2体に増えてしまった! その上、彼女のライフは13000ポイントに回復している! しかも、《機皇帝グランエル∞》の攻撃力・守備力は、彼女のライフの半分の数値分だけアップする! つまり、《機皇帝グランエル∞》の攻撃力・守備力は13000の半分……6500ポイント!

 機皇帝グランエル∞ 攻/守:0→6500

「バトルを続行させてもらうわよ。《機皇帝グランエル∞》で《メカ・ハンター》を攻撃!」
 攻撃力6500の機皇帝によって、《メカ・ハンター》はあっけなく粉砕されてしまった! くそおおおおお! 調子に乗るなあああああ!!!
「と……トラップ発動! 《ガード・ブロック》! 戦闘ダメージを0にして、カードを1枚ドロー!」
 とりあえず、大ダメージは回避した! けど、次の攻撃を防ぐ手段はない!
「《E・HERO ネオス》でダイレクトアタック!」
 《E・HERO ネオス》の攻撃により、僕のライフが大幅に削られた!

 パラコン LP:8000→5500

「ターンエンドよ」

【パラコン】 LP:5500 手札:3枚
 モンスター:なし
  魔法・罠:なし

【鷹野麗子】 LP:13000 手札:0枚
 モンスター:機皇帝グランエル∞(攻6500)、E・HERO ネオス(攻2500)
  魔法・罠:光の護封壁(10000)
 フィールド:うずまき

「ぼ……僕のターン……!」
 先のターンの攻防により、僕の場はがら空きになってしまった。対する鷹野さんの場には、攻撃力6500の機皇帝と《E・HERO ネオス》! さらに、攻撃力10000以下のモンスターの攻撃をシャットアウトする鉄壁のトラップ――《光の護封壁》!
 やばい! まさか、こんなに早くからピンチに陥るとは! 何とかしなければ! けれど僕の今の手札では、どう足掻いてもこの状況をひっくり返すことなどできない!

 〜僕の手札〜
 ゴキボール、ゴキボール、ゴキボール

 僕の手札は《ゴキボール》のカードが3枚。《ゴキボール》については……もはや説明するまでもないだろう。攻撃力1200、守備力1400の4ツ星通常モンスターだ。ふざけんなよ!? これでどうやって戦えばいいんだ!?
 いや! あきらめてはならない! まだドローフェイズのドローが残っている! このドローで、この絶望的な状況を覆してみせる!
「ドロー!!」

 ドローカード:手札抹殺

 !! て……《手札抹殺》か! まだチャンスはある!
「魔法カード《手札抹殺》を発動! 互いのプレイヤーは手札を全て捨て、捨てた枚数分のカードを引く!」
「私の手札は0枚……。あなただけが手札を入れ替えることになるわね」
 その通り! 見てろよ鷹野さん! 今、手札にいる3枚の《ゴキボール》を、キーカードに切り替えてみせるぜ!
「僕は3枚の手札を捨て、新たに3枚のカードをドロー!」
 覚悟を決め、3枚のカードをドロー! デュエルの女神よ、僕に勝利を!!

 ちらりと、3枚のドローカードを確認。
 その瞬間、僕は確信した。

 来た! このカードなら行ける!

「相手フィールドにのみモンスターが存在するこの時、《サイバー・ドラゴン》は手札から特殊召喚できる! 出でよ、《サイバー・ドラゴン》! さらに、《サイバー・ヴァリー》を通常召喚!」
「一気にモンスターを2体……」
 《サイバー・ドラゴン》は攻撃力2100。《サイバー・ヴァリー》は攻撃力0。この2体の攻撃力では、鷹野さんのモンスターを倒すことはできない。
 けど、これなら!
「行くよ、鷹野さん! 僕の場の《サイバー・ドラゴン》と《サイバー・ヴァリー》、そして、鷹野さんの場の《機皇帝グランエル∞》を墓地へ送り、エクストラデッキから《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》を特殊召喚!」
「なっ!? 私の場のモンスターを融合素材に!?」
 《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》。それは、場の《サイバー・ドラゴン》及び機械族モンスター1体以上を墓地へ送ることで特殊召喚されるモンスター。その際、墓地へ送るモンスターは、相手フィールド上のものでも構わない!

 キメラテック・フォートレス・ドラゴン
 融合・効果モンスター ★8 闇属性 機械族 攻0 守0
 「サイバー・ドラゴン」+機械族モンスター1体以上
 このカードは融合素材モンスターとして使用する事はできない。
 自分・相手フィールド上に存在する上記のカードを墓地に送った場合のみ、エクストラデッキから特殊召喚する事ができる(「融合」魔法カードは必要としない)。
 このカードの元々の攻撃力は、融合素材にしたモンスターの数×1000ポイントになる。

 《サイバー・ヴァリー》は機械族。そして、鷹野さんの場にいた《機皇帝グランエル∞》もまた機械族! よって、《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》の融合素材にできたわけだ!
「《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》の攻撃力は、融合素材にしたモンスターの攻撃力×1000ポイントになる! 素材にしたモンスターは《サイバー・ドラゴン》、《サイバー・ヴァリー》、《機皇帝グランエル∞》の3体だから3000ポイントだ!」

 キメラテック・フォートレス・ドラゴン 攻:0→3000

「くっ……! こんな形で機皇帝を攻略するなんてね……。けど、私の場には《光の護封壁》があるわ。このカードがある限り、攻撃力10000以下の相手モンスターは―――」
「魔法発動! 《罠はずし》! 場で表向きになっているトラップカード1枚を破壊する! これで《光の護封壁》を破壊だ!」
「!!」
 僕が発動した《罠はずし》によって、鷹野さんの場から《光の護封壁》のカードが取り除かれた!
 は〜っはっはっはっは!! 僕のディスティニードローを舐めるなぁ! 僕のディスティニードローの前に、そんなトラップは無意味だぜ!
「《光の護封壁》が消えたことで攻撃が可能になった! バトルだ! 《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》で《E・HERO ネオス》を攻撃!」
「くっ!」
 鷹野さんにこの攻撃を防ぐ手段はない。《E・HERO ネオス》は《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》の攻撃によって墓地へ送られ、鷹野さんのライフがわずかに減少した。

 鷹野麗子 LP:13000→12500

 よし! これで鷹野さんの場のカードは《うずまき》だけ! それ以外のカードはない! しかも、彼女の手札は0! このデュエル、僕が有利になった!
 うおおおおお!! 燃えてきたああああ!! まさかここまで上手いこと逆転できるとは思わなかったよ! この勝負……もしかしたら行けるんじゃないか!? 行けるよな!? うん! 行けるって!
 フフ……このまま突っ切ってやるぜ!
「僕はこれでターンエンドだ!」

【パラコン】 LP:5500 手札:0枚
 モンスター:キメラテック・フォートレス・ドラゴン(攻3000)
  魔法・罠:なし

【鷹野麗子】 LP:12500 手札:0枚
 モンスター:なし
  魔法・罠:なし
 フィールド:うずまき

「やってくれたわね……。私のターン、ドロー」
 ライフこそ鷹野さんの方が上だが、場の状況では僕が有利だ。そう簡単には逆転できないはず―――
「魔法カード《命削りの宝札》を発動! 手札が5枚になるようにカードを引き、5ターン後に手札を全て墓地へ送る!」
 ……って、そこで《命削りの宝札》うううううううう!!!!!???? このタイミングでそりゃないだろ!?
 ま……まずいな……。手札を一気に5枚も増やされたら、さすがに逆転されるかも……。
「私の手札は0。よってカードを5枚ドロー!」
 鷹野さんの手札が5枚まで膨れ上がった! くそくそくそ! 実に忌々しい!!
「……私は、モンスターを1体守備表示でセット。そして、カードを2枚セット。これでターンを終えるわ」
 5枚に増えた手札から3枚のカードを場に出し、鷹野さんはターンを終えた。
 裏守備モンスターが1体に、伏せカードが2枚か……。一気に攻めづらくなったな……。

【パラコン】 LP:5500 手札:0枚
 モンスター:キメラテック・フォートレス・ドラゴン(攻3000)
  魔法・罠:なし

【鷹野麗子】 LP:12500 手札:2枚
 モンスター:裏守備×1
  魔法・罠:伏せ×2
 フィールド:うずまき

「僕のターン、ドロー! よし! 魔法カード《貪欲な壺》を発動! 自分の墓地のモンスターを5枚デッキに戻し、2枚ドローする!」
 僕もドロー強化カードを引き当てた! これで手札を強化だ!
「僕は、墓地の《サイバー・ドラゴン》、《サイバー・ヴァリー》、《メカ・ハンター》、そして《ゴキボール》2枚をデッキに戻し、2枚ドロー!」
 これで手札は2枚。うん。なかなかいいカードを引き当てたぞ!
「ユニオンモンスター《オイルメン》を召喚! このモンスターは、自分の場の機械族モンスター1体に装備することができる!」

 オイルメン
 ユニオンモンスター ★2 地属性 機械族 攻400 守400
 1ターンに1度、自分のメインフェイズ時に装備カード扱いとして自分フィールド上の機械族モンスターに装備、または装備を解除して表側攻撃表示で特殊召喚する事ができる。
 この効果で装備カード扱いになっている場合のみ、装備モンスターが相手モンスターを戦闘によって破壊した場合、自分はデッキからカードを1枚ドローする。
 (1体のモンスターが装備できるユニオンは1枚まで。装備モンスターが破壊される場合、代わりにこのカードを破壊する。)

 《オイルメン》は、モンスターカードでありながら、装備魔法のようにモンスターに装備できる特殊なモンスターだ。
 もちろん、ただ単に装備されるだけではない。《オイルメン》が装備されたモンスターが相手モンスターを戦闘で破壊する度に、僕はデッキからカードを1枚引くことができる。
 それだけじゃない。《オイルメン》が装備されたモンスターが破壊される場合、装備された《オイルメン》が代わりに破壊される。つまり、装備モンスターを一度だけ破壊から守ってくれるのだ。
「僕は《オイルメン》を、機械族モンスターである《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》に装備する!」
 《オイルメン》を装備したことで、《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》は一度だけの破壊耐性を得た! これで鷹野さんは、《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》を攻略するのが難しくなったはず!
 さて、僕の手札はまだ1枚ある。それも使わせてもらうとしよう。
「魔法カード《死者蘇生》を発動! 自分または相手の墓地からモンスターを1体特殊召喚する!」
 《死者蘇生》で墓地のモンスターを1体復活させる! さて、何を復活させようか。
 僕の墓地にいるモンスターは《ゴキボール》が1体だけ。正直、こいつは頼りない。どうせなら、もっと強力なモンスターを蘇生させたいところだ。
 ならば、鷹野さんの墓地はどうだろうか? 鷹野さんの墓地にいるモンスターは、《クロス・ポーター》、《E・HERO エアー・ネオス》、《機皇帝グランエル∞》、《E・HERO ネオス》の4体。この中で《機皇帝グランエル∞》だけは蘇生召喚が不可能だから、《機皇帝グランエル∞》以外の3体から選ぶことになる。
 真っ先に目が行くのが《E・HERO エアー・ネオス》。けど、このカードはエンドフェイズになるとエクストラデッキに戻ってしまう。このターンの攻撃が通ればまだしも、仮にこのターンの攻撃が通らなかった場合、《死者蘇生》を無駄に消費することになってしまう。
 ……となれば、《クロス・ポーター》か《E・HERO ネオス》のどちらかということになる。《クロス・ポーター》の攻撃力はわずか400。それに対し、《E・HERO ネオス》の攻撃力は2500……。
 よし! 《死者蘇生》で復活させるのは、《E・HERO ネオス》で決まりだ!
「《死者蘇生》で復活させるのは、《E・HERO ネオス》だ!」
「くっ……! 私のネオスを奪うなんて! 生意気な真似を! パラコンは大人しく《ゴキボール》でも使ってなさいよ!」
 な!? なんだその言い方は!? そんな言い方ないだろうが!
 くそっ……ムカつく女だ! まあいい、とりあえずバトル! さあ、この攻撃通るか!?
「バトル! 《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》で裏守備モンスターに攻撃!」
「伏せていたモンスターは《素早いモモンガ》。守備力は100だから破壊されるわ」
 何かと思えば、守備力100の雑魚モンスターかよ。拍子抜けだな。
 さて、《オイルメン》を装備した《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》がモンスターを戦闘破壊したから、カードを1枚ドローさせてもらおう!
「《オイルメン》の効果発動! カードを1枚引かせてもらうよ!」
「なら、私は《素早いモモンガ》の効果を発動! このカードが戦闘で破壊され墓地へ送られた時、1000ライフを回復! さらに、デッキから《素早いモモンガ》を任意の数だけ裏守備表示で特殊召喚する!」
 なっ!? 《素早いモモンガ》ってそんな効果あったの!? くそっ! ライフ回復に同名モンスター召喚とは……面倒な真似を!!

 鷹野麗子 LP:12500→13500

「デッキより、《素早いモモンガ》2体を裏守備表示で特殊召喚!」
 せっかくモンスターを撃破したのに、鷹野さんのライフと場のモンスターを増やす結果になってしまった。
 ぬぅぅぅ!! だったら端から順に蹴散らしてやるまで!
「《E・HERO ネオス》で裏守備表示の《素早いモモンガ》を攻撃! 撃破!」
「《素早いモモンガ》が戦闘破壊されたことで1000ライフ回復!」

 鷹野麗子 LP:13500→14500

「バトル終了……。メインフェイズ2に入るよ」
 結局、鷹野さんの場にはモンスターが1体残る結果に終わってしまった。
 けど、これで残る《素早いモモンガ》は1体。次のターンこそ、ダイレクトアタックを決めてみせる!
 と、その前に。さっき《オイルメン》の効果でドローしたこのカードを使わせてもらおう。
「僕は、魔法カード《ハッピー・マリッジ》を《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》に装備するよ!」
「は……《ハッピー・マリッジ》……?」

 ハッピー・マリッジ
 (装備魔法)
 自分フィールド上に相手からコントロールを得たモンスターがいる時に発動可能。
 そのモンスターの攻撃力の数値分だけ装備モンスターの攻撃力をアップする。

 《ハッピー・マリッジ》は、自分の場に“相手からコントロールを得たモンスター”がいる時のみ発動できる装備魔法で、装備モンスターの攻撃力を、自分の場にいる“相手からコントロールを得たモンスターの攻撃力”の数値分だけアップさせる。
 いま僕の場には、鷹野さんの墓地から復活させた《E・HERO ネオス》がいる。これも立派な“相手からコントロールを得たモンスター”だ!
 つまり!
「くっ……! 《ハッピー・マリッジ》の効果で、《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》の攻撃力は、《E・HERO ネオス》の攻撃力分だけアップする……!」
「その通り! よって《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》の攻撃力は……」

 E・HERO ネオス 攻:2500

 キメラテック・フォートレス・ドラゴン 攻:3000→5500

「5500ポイントだ!」
 フッフッフ! 攻撃力5500! これでそう簡単に《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》を倒すことはできなくなったはず!
「ターンエンドだよ」

【パラコン】 LP:5500 手札:0枚
 モンスター:キメラテック・フォートレス・ドラゴン(攻5500)、E・HERO ネオス(攻2500)
  魔法・罠:オイルメン(対象:キメラテック・フォートレス・ドラゴン)、ハッピー・マリッジ(対象:キメラテック・フォートレス・ドラゴン)

【鷹野麗子】 LP:14500 手札:2枚
 モンスター:裏守備×1(素早いモモンガ)
  魔法・罠:伏せ×2
 フィールド:うずまき

「……私のターン、ドロー。……私は、モンスターを1体守備表示でセット。そして、カードを2枚伏せ、ターンエンドよ」
 鷹野さんは、新たに守備モンスターと伏せカードを増やしただけでターンを終えた。フッ……! 防戦一方ってところかな?
 よし。このまま押し切るぞ!
「僕のターン、ドロー!」
 ドローカードは……また装備魔法か。《オイルメン》といい《ハッピー・マリッジ》といい、装備関連のカードばっかし引いてるな。
「僕は、魔法カード《魔導師の力》を《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》に装備!」
 《魔導師の力》を装備したモンスターは、自分の場にある魔法・トラップカード1枚につき攻撃力・守備力が500ポイント上がる。
 今、僕の場にある魔法・トラップカードは、《魔導師の力》と《ハッピー・マリッジ》、そして、装備カード状態の《オイルメン》の計3枚。よって、1500ポイントアップだ!

 キメラテック・フォートレス・ドラゴン 攻:5500→7000/守:0→1500

 攻撃力7000! 我ながらビックリな攻撃力だ! 序盤の《E・HERO エアー・ネオス》ほどではないけど、充分に高い攻撃力なのは間違いない!
 フフ……ではバトルと行こうじゃないか。
「バトル! 《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》で攻―――」
「通さないわよ。速攻魔法《コマンドサイレンサー》を発動! 相手の攻撃宣言を取り消して、バトルフェイズを終了させるわ。さらに、私はデッキからカードを1枚ドローする!」
 ちっ……! バトル封じのカードを伏せていたか! これでこのターンのバトルはなくなり、鷹野さんの手札が1枚増える結果に……。
 まあいい。僕が有利なことに変わりはないんだ。焦らずにジワジワ攻めていけばいい。
「僕はこれでターン終了だ!」

【パラコン】 LP:5500 手札:0枚
 モンスター:キメラテック・フォートレス・ドラゴン(攻7000)、E・HERO ネオス(攻2500)
  魔法・罠:オイルメン(対象:キメラテック・フォートレス・ドラゴン)、ハッピー・マリッジ(対象:キメラテック・フォートレス・ドラゴン)、魔導師の力(対象:キメラテック・フォートレス・ドラゴン)

【鷹野麗子】 LP:14500 手札:1枚
 モンスター:裏守備×2
  魔法・罠:伏せ×3
 フィールド:うずまき

「私のターン、ドロー」
 鷹野さんのターンに移る。このターンも防戦一方で終わるか、それとも……。
「……ここは……賭けるしかなさそうね。私は裏守備表示の《素早いモモンガ》を反転召喚」
 鷹野さんの場の裏守備モンスターが1体、表側攻撃表示になった。《素早いモモンガ》を攻撃表示……何をするつもりだ?
「さらに、トラップカード《ギブ&テイク》を発動! このカードは、自分の墓地のモンスター1体を相手の場に守備表示で特殊召喚し、そのモンスターのレベル分、自分の場のモンスター1体のレベルを上げる!」
 !?
 じ……自分の墓地にいるモンスターを相手の場に特殊召喚するだと!? そこまでして自分のモンスターのレベルを上げるって……何のために!?
「私はこのカードで、墓地の《E・HERO エアー・ネオス》をあなたの場に召喚! そして、そのレベルだけ《素早いモモンガ》のレベルを上げる! 《E・HERO エアー・ネオス》のレベルは7! 《素早いモモンガ》は2! よって《素早いモモンガ》のレベルは9になるわ!」
 僕の場に《E・HERO エアー・ネオス》が守備表示で特殊召喚され、《素早いモモンガ》のレベルが9になった。こ……こんなことをして何を……?
「そして私は、魔法カード《アドバンスドロー》を発動! 自分の場にいるレベル8以上のモンスター1体を生け贄……もといリリースし、デッキからカードを2枚ドローする! 私はレベル9になった《素早いモモンガ》をリリース! 2枚ドローするわ!」
 ……なるほど。《アドバンスドロー》の発動条件を満たすために、《素早いモモンガ》のレベルを上げたわけか。
 しかし、相手の場のモンスターを増やし、自分の場のモンスターを失ってまで2枚ドロー……。こりゃ相当追いつめられてるな、鷹野さん。
 まあいいさ。存分に足掻くといいよ。けど、いくら足掻いたところで、僕の勝利は揺るぎないぞ!
 とりあえず、これで鷹野さんの手札は3枚になった。さて、必死こいて稼いだ手札でどんな足掻きを見せてくれるのか、じっくり拝見させてもらおうじゃないか。クックック!
 おっと、その前に! 重要なことを言っておこう!
「鷹野さん! 君が僕の場に召喚した《E・HERO エアー・ネオス》は、自分のライフが相手のライフよりも少ない時、そのライフ差だけ攻撃力がアップする! 今、僕のライフは5500。君のライフは14500。その差9000ポイントだけ、《E・HERO エアー・ネオス》の攻撃力はアップするよ!」

 E・HERO エアー・ネオス 攻:2500→11500

 《E・HERO エアー・ネオス》は、相手ライフが自分ライフを上回っている分だけ攻撃力を上げる効果がある。その効果が適用され、攻撃力が上がったというわけだ。
 しかし、本当に重要なのはここからだ!
「さらに! 《E・HERO エアー・ネオス》は元々鷹野さんのモンスター! つまりは、君からコントロールを得たモンスターだ! よって、《ハッピー・マリッジ》の効力が適用される! 《ハッピー・マリッジ》の効果によって、《E・HERO エアー・ネオス》の攻撃力分、《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》の攻撃力がアップする!」
 そう! 《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》に《ハッピー・マリッジ》が装備されているのを忘れてはならない! 《ハッピー・マリッジ》の効果で、《E・HERO エアー・ネオス》の攻撃力11500が《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》の攻撃力に加算されるのだ!

 キメラテック・フォートレス・ドラゴン 攻:7000→18500

 攻撃力18500! 今回のデュエルの中で最も高い攻撃力だ! まあ、《E・HERO エアー・ネオス》はエンドフェイズにエクストラデッキに戻るから、次のターンには7000ポイントに戻るんだろうけど。
 ともあれ、鷹野さんがより一層不利な状況になったことは確かだろう。何しろ、僕の場には攻撃力が18500もある上、一度だけ破壊に耐えられるモンスターがいるのだ! こいつを超えることなど、そう簡単にはできないはず!





「この勝負、もらったわね」





 …………。
 あれ? なんか今、不吉な言葉が聞こえたような?
「パラコン。このデュエル、このターンでケリがつくわ」
 鷹野さんが、はっきりとした口調で言った。
 そんな……馬鹿な……。このターンでケリがつくって……そんなこと……できるはずが……。
「このターンでデュエルは終わる。私の勝利によって、ね」
 嘘だ。そんなことできるはずがない。
 だって……場をよく見てよ。こんな状況で鷹野さんが勝つ方法なんてあるはずが……。

【パラコン】 LP:5500 手札:0枚
 モンスター:キメラテック・フォートレス・ドラゴン(攻18500)、E・HERO ネオス(攻2500)、E・HERO エアー・ネオス(守2000)
  魔法・罠:オイルメン(対象:キメラテック・フォートレス・ドラゴン)、ハッピー・マリッジ(対象:キメラテック・フォートレス・ドラゴン)、魔導師の力(対象:キメラテック・フォートレス・ドラゴン)

【鷹野麗子】 LP:14500 手札:3枚
 モンスター:裏守備×1
  魔法・罠:伏せ×2
 フィールド:うずまき

「パラコン。あなたに見せてあげるわ。とっておきの戦術を」
 そう言うと、鷹野さんは伏せカード2枚を開いた。
「私は手札を1枚捨て、トラップカード《レインボー・ライフ》を発動。さらに、永続トラップ《召喚制限−猛突するモンスター》も発動しておくわ」

 レインボー・ライフ
 (通常罠)
 手札を1枚捨てる。
 このターンのエンドフェイズ時まで、自分が受けるダメージは無効になり、その数値分ライフポイントを回復する。

 召喚制限−猛突するモンスター
 (永続罠)
 特殊召喚に成功したモンスターは表側攻撃表示になる。
 そのモンスターが攻撃可能なモンスターだった場合、そのターンに攻撃しなければならない。

 ダメージを全て回復に変えるトラップ――《レインボー・ライフ》に、特殊召喚されたモンスターに攻撃を強要するトラップ――《召喚制限−猛突するモンスター》?? これでどうやって僕に勝つつもりなんだ!?
「そして、場の裏守備モンスターを反転召喚するわ。そのカードとは……《ダークファミリア》!」

 ダークファミリア
 効果モンスター ★2 闇属性 悪魔族 攻500 守500
 リバース:このカードが墓地へ送られた時、お互いのプレイヤーはそれぞれの墓地に存在するモンスター1体を選択し、表側攻撃表示または裏側守備表示で特殊召喚する。

 鷹野さんの場の伏せモンスターが表向きになった。
 伏せモンスターの正体は《ダークファミリア》。攻撃力たった500のモンスターか……。
 鷹野さんは一体……何を企んでるんだ? これのどこがとっておきの戦術なんだ?

【パラコン】 LP:5500 手札:0枚
 モンスター:キメラテック・フォートレス・ドラゴン(攻18500)、E・HERO ネオス(攻2500)、E・HERO エアー・ネオス(守2000)
  魔法・罠:オイルメン(対象:キメラテック・フォートレス・ドラゴン)、ハッピー・マリッジ(対象:キメラテック・フォートレス・ドラゴン)、魔導師の力(対象:キメラテック・フォートレス・ドラゴン)

【鷹野麗子】 LP:14500 手札:2枚
 モンスター:ダークファミリア(攻500)
  魔法・罠:召喚制限−猛突するモンスター
 フィールド:うずまき
 ※《レインボー・ライフ》適用中

「じゃあ、バトルに入るわ。《ダークファミリア》で《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》に攻撃!」
 なんと!? 鷹野さんは、《ダークファミリア》で攻撃を仕掛けてきた! しかも、攻撃対象は《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》!
 し……正気か!? 攻撃力18500の《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》に、攻撃力たった500の《ダークファミリア》で勝負を挑むなんて! 何のつもりなんだ!?
「当然、《ダークファミリア》は戦闘破壊されるわ。よって私は18000ポイントの戦闘ダメージを受ける。だけど、このターンは《レインボー・ライフ》が適用されてるから、ダメージは回復に変換されるわ」
 あっ……そうか。このターン、鷹野さんが受けるダメージは全部回復に変換されるのか……。

 キメラテック・フォートレス・ドラゴン 攻:18500
 ダークファミリア 攻:500

 鷹野麗子 LP:14500→32500

「さて、《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》が私のモンスターを戦闘破壊したことで、あなたの場の《オイルメン》の効果が発動するんじゃないかしら?」
 あ、そうだ。《オイルメン》を装備した《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》が、敵モンスターを戦闘で破壊したから、僕はカードを1枚ドローできるんだ。
「そうだったね。じゃあ、1枚ドローだ!」
 《オイルメン》のドロー効果、しっかり使わせてもらわなくては。手札は多くあった方がいいしね。

 パラコン 手札:0→1

「今のバトルで、リバースした《ダークファミリア》が墓地へ送られた。それにより、《ダークファミリア》のモンスター効果が発動するわ。お互いに墓地からモンスターを1体選択し、表側攻撃表示か裏側守備表示で特殊召喚する」
 《ダークファミリア》の効果? ああ、そういやそんな効果があったっけな。
 《ダークファミリア》は、リバース(裏側表示から表側表示になること)した場合に限り、墓地へ送られた時、お互いの墓地からモンスターを1体特殊召喚する。鷹野さんはもちろんのこと、僕もモンスターを墓地から出せるのだ。
 僕の墓地には《ゴキボール》しかないから、必然的にそれを蘇生することになる。鷹野さんの方は何を出してくるだろうか?
 確かルール上、《ダークファミリア》の効果で《ダークファミリア》自身を復活させることはできないはずだ。なら、鷹野さんは《ダークファミリア》以外のモンスターを出してくることになるか……。
「私は《ダークファミリア》の効果で、墓地から“別の”《ダークファミリア》を、裏守備表示で特殊召喚するわ」
 …………。
 なるほど。《レインボー・ライフ》の発動コストとして手札から捨てたのは、2枚目の《ダークファミリア》だったのか。
 《ダークファミリア》の効果で《ダークファミリア》自身を復活させることはできないが、《ダークファミリア》の効果で“別の”《ダークファミリア》を復活させることは可能だ。つまり、場と墓地に《ダークファミリア》が1枚ずつ揃った時、《ダークファミリア》は原作の《リバイバルスライム》のごとく、何度倒されても復活するモンスターとなるわけだ。
 何度倒されても復活する、ねぇ……。面倒なことを……。
 とりあえず、僕も《ゴキボール》を裏守備で特殊召喚だ。
「この時、私の場の《召喚制限−猛突するモンスター》の効果が発揮される! 特殊召喚に成功したモンスターは表側攻撃表示となるわ!」
 あ、そうだった。《召喚制限−猛突するモンスター》の効果で、特殊召喚されたモンスターは攻撃表示になるんだ。じゃあ、《ゴキボール》は攻撃表示に……。でも、鷹野さんが復活させた《ダークファミリア》も裏守備表示から攻撃表示になるぞ。

 ダークファミリア:裏守備→表攻撃
 ゴキボール:裏守備→表攻撃

 鷹野さんは、僕の場の《E・HERO エアー・ネオス》を指さした。
「今のバトルで、私のライフは18000ポイント回復したわ。だから、あなたの場の《E・HERO エアー・ネオス》の攻撃力も上がるんじゃない?」
 ! そうだ! 僕と鷹野さんのライフ差が18000ポイント開いたから、その分《E・HERO エアー・ネオス》の攻撃力が上がるのか!

 E・HERO エアー・ネオス 攻:11500→29500

 そして、《E・HERO エアー・ネオス》の攻撃力が18000ポイント上がったから、《ハッピー・マリッジ》の効果によって、《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》の攻撃力も同じ分だけアップするな。うん。

 キメラテック・フォートレス・ドラゴン 攻:18500→36500

 さて、色々な処理が行われたな。少し、状況をまとめてみよう。

 まず、鷹野さんが《ダークファミリア》で攻撃してきた。
 で、僕の《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》が返り討ちにした。
 鷹野さんは18000の戦闘ダメージ。けれどダメージは《レインボー・ライフ》の効果で回復。
 《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》が《ダークファミリア》を戦闘破壊したから、《オイルメン》の効果で僕は1枚ドロー。
 《ダークファミリア》のモンスター効果が発動し、鷹野さんは別の《ダークファミリア》を、僕は《ゴキボール》を裏守備で特殊召喚。けれど、これらのモンスターは《召喚制限−猛突するモンスター》の効果で表攻撃表示になった。
 鷹野さんのライフが18000ポイント回復したことで、《E・HERO エアー・ネオス》の攻撃力が18000アップ。それにより、《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》の攻撃力も18000アップ。

 で、その結果、現在のデュエルの状況は↓のようになっているわけだ。

【パラコン】 LP:5500 手札:1枚
 モンスター:キメラテック・フォートレス・ドラゴン(攻36500)、E・HERO ネオス(攻2500)、E・HERO エアー・ネオス(守2000)、ゴキボール(攻1200)
  魔法・罠:オイルメン(対象:キメラテック・フォートレス・ドラゴン)、ハッピー・マリッジ(対象:キメラテック・フォートレス・ドラゴン)、魔導師の力(対象:キメラテック・フォートレス・ドラゴン)

【鷹野麗子】 LP:32500 手札:2枚
 モンスター:ダークファミリア(攻500)
  魔法・罠:召喚制限−猛突するモンスター
 フィールド:うずまき
 ※《レインボー・ライフ》適用中
 ※墓地に《ダークファミリア》

 ……あれ? この状況、バトルフェイズ開始時とあまり変わってないような? 鷹野さんは何がしたかったんだ?
「まだ私のバトルフェイズは終了してないわ! 蘇生された《ダークファミリア》で、《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》を攻撃!」
 !? しかも、また《ダークファミリア》で攻撃!? くそっ! 何度やっても同じだ! 返り討ちにしてやる!
「《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》で《ダークファミリア》を撃破! 攻撃力が違いすぎるよ、鷹野さん!」
 当然のごとく、《ダークファミリア》は返り討ちとなった。まったく……何がしたいんだこの人は?
「ふっ……。《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》が《ダークファミリア》を撃破したことで、36000ポイントの戦闘ダメージが発生する。けど、《レインボー・ライフ》が適用されているから、私はその数値分のライフを回復させてもらうわよ」

 キメラテック・フォートレス・ドラゴン 攻:36500
 ダークファミリア 攻:500

 鷹野麗子 LP:32500→68500

「そして、《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》がモンスターを戦闘破壊したこの瞬間、あなたには《オイルメン》の効果でカードを1枚引いてもらうわ」
 またドローか。わざわざ僕の手札を増やしてくれるとは……追いつめられたおかしくなったのか、鷹野さん……。

 パラコン 手札:1→2

「《ダークファミリア》のモンスター効果! 互いに墓地からモンスターを表側攻撃表示か裏側守備表示で特殊召喚する!」
 《召喚制限−猛突するモンスター》の効果でリバースした《ダークファミリア》が墓地へ送られたことで、そのモンスター効果が発動した。僕の墓地にはもうモンスターがいないから、鷹野さんだけモンスターを召喚することになる。
「私は、また“別の”《ダークファミリア》を裏守備で特殊召喚! 《召喚制限−猛突するモンスター》の効果で、裏守備から表攻撃表示になるわ!」
 鷹野さんは再び“別の”――1枚目の――《ダークファミリア》を出してきた。ま……またかよ!?

 ダークファミリア:裏守備→表攻撃

「今のバトルで、私は36000ライフ回復したわ。よってその分、あなたの場の《E・HERO エアー・ネオス》が攻撃力を上げる。それに伴い、《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》の攻撃力もアップするわ」
 あ、そうだ。ライフ差がさらに開いたから《E・HERO エアー・ネオス》の攻撃力が上がって、《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》の攻撃力も上がるんだ。

 E・HERO エアー・ネオス 攻:29500→65500

 キメラテック・フォートレス・ドラゴン 攻:36500→72500

【パラコン】 LP:5500 手札:2枚
 モンスター:キメラテック・フォートレス・ドラゴン(攻72500)、E・HERO ネオス(攻2500)、E・HERO エアー・ネオス(守2000)、ゴキボール(攻1200)
  魔法・罠:オイルメン(対象:キメラテック・フォートレス・ドラゴン)、ハッピー・マリッジ(対象:キメラテック・フォートレス・ドラゴン)、魔導師の力(対象:キメラテック・フォートレス・ドラゴン)

【鷹野麗子】 LP:68500 手札:2枚
 モンスター:ダークファミリア(攻500)
  魔法・罠:召喚制限−猛突するモンスター
 フィールド:うずまき
 ※《レインボー・ライフ》適用中
 ※墓地に《ダークファミリア》

 …………。
 ……あ……あれ? 場の状態が、さっきと同じ状態に戻った……?
「まだまだ私のターン! 《ダークファミリア》で《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》に攻撃! 当然のごとく戦闘破壊されるわ! そして、私が受ける戦闘ダメージは、《レインボー・ライフ》の効果で回復に変換される!」

 キメラテック・フォートレス・ドラゴン 攻:72500
 ダークファミリア 攻:500

 鷹野麗子 LP:68500→140500

「《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》がモンスターを戦闘破壊したこの瞬間、あなたには《オイルメン》の効果で1枚ドローしてもらう!」

 パラコン 手札:2→3

「《ダークファミリア》のモンスター効果発動! 墓地から別の《ダークファミリア》を裏守備表示で特殊召喚! 《召喚制限−猛突するモンスター》の効果で表攻撃表示に!」

 ダークファミリア:裏守備→表攻撃

「今のバトルで私のライフは72000回復した! よってその数値分、あなたの場の《E・HERO エアー・ネオス》の攻撃力が上がり、《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》の攻撃力も上がる!」

 E・HERO エアー・ネオス 攻:65500→137500

 キメラテック・フォートレス・ドラゴン 攻:72500→144500

【パラコン】 LP:5500 手札:3枚
 モンスター:キメラテック・フォートレス・ドラゴン(攻144500)、E・HERO ネオス(攻2500)、E・HERO エアー・ネオス(守2000)、ゴキボール(攻1200)
  魔法・罠:オイルメン(対象:キメラテック・フォートレス・ドラゴン)、ハッピー・マリッジ(対象:キメラテック・フォートレス・ドラゴン)、魔導師の力(対象:キメラテック・フォートレス・ドラゴン)

【鷹野麗子】 LP:140500 手札:2枚
 モンスター:ダークファミリア(攻500)
  魔法・罠:召喚制限−猛突するモンスター
 フィールド:うずまき
 ※《レインボー・ライフ》適用中
 ※墓地に《ダークファミリア》

 ……また……場の状態が戻った……。
 いや……ちょっと待ってくれ……。いま気付いたんだけど……。

(1)《ダークファミリア》が《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》に攻撃し、戦闘破壊される。
(2)《ダークファミリア》を戦闘破壊したことで《オイルメン》の効果が発動し、僕はカードを1枚引かされる。
(3)リバースした《ダークファミリア》が墓地へ送られたことで、鷹野さんは墓地から別の《ダークファミリア》を裏守備で特殊召喚する。
(4)特殊召喚された《ダークファミリア》は、《召喚制限−猛突するモンスター》の効果で表攻撃表示になる(リバースする)。
(5)(1)に戻る……。

 こ……これって……無限ループじゃないか! しかも、1サイクルにつき1枚、僕がデッキからカードを引かされるループ!
 ちょっと待てよ? ということは……このターンで……僕のデッキは……!!

「そう。デッキからカードを引けなくなった者は、デュエルを続けることはできない。このターンであなたのデッキは尽き、カードをドローすることができなくなる。そうなれば、あなたの敗北が決定するわ」

 ば……馬鹿な……馬鹿なっ!?
 鷹野さんの狙いは……デッキ破壊による勝利だったのか!!
 2体の《ダークファミリア》で何度も何度も攻撃して、《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》に戦闘破壊されることで、《オイルメン》の効果を発動させ、僕に何度もカードを引かせる! それを続ければ、いずれ僕はカードを引けなくなり、デュエルに負ける! それこそが鷹野さんの狙い……!!
 く……くそっ! まさか《オイルメン》のドロー効果が裏目に出るとは! このドロー効果は強制効果だから、僕は必ずカードをドローしなければならない! ドローする運命から逃れることはできないのだ!
 まさか……こんな手を使ってくるとは……!
「仮にあなたのデッキが40枚のデッキなら、デッキの残り枚数はあと26枚。最低26回このループを繰り返せば、あなたのデッキは0になるわね」
 くっ……! その通りだ。僕のデッキは40枚デッキ。残りデッキ枚数は26枚! あと26回ループを繰り返せば、僕のデッキは消滅する!!
「ふふ……。じゃあ、あなたがカードを引けなくなるまで、ずっと私のターンを続けさせてもらうわ。《ダークファミリア》で《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》に攻撃!」
 や……やばいよやばいよ! 何か……何かこのループを止める手段はないのか!? な……何か! 何か!!
 しかし、場にはこのループを止めることのできるカードは存在しない。じゃあ手札に何かないかと探してみるが、この状況で手札から効果を発動できるカードは存在しなかった。ち……チキショオ!!

 それからしばらくの間、ずっと鷹野さんのターンが続いた。
 同じ展開が何度も繰り返され、鷹野さんのライフは増え続けた。鷹野さんのライフが増えれば、その数値分だけ《E・HERO エアー・ネオス》の攻撃力が上がった。そして、《E・HERO エアー・ネオス》の攻撃力が上がれば、同じ数値分《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》の攻撃力も上がった。
 一方、僕は何度もデッキからカードを引かされ、手札枚数が増え続けた。反対にデッキ枚数は減り続け、僕の敗北の時が刻々と迫っているのだった。


 鷹野麗子 LP:140500→284500→572500→1148500→2300500→4604500→9212500→18428500→36860500→73724500→147452500→294908500→589820500→1179644500

 E・HERO エアー・ネオス 攻:137500→281500→569500→1145500→2297500→4601500→9209500→18425500→36857500→73721500→147449500→294905500→589817500→1179641500

 キメラテック・フォートレス・ドラゴン 攻:144500→288500→576500→1152500→2304500→4608500→9216500→18432500→36864500→73728500→147456500→294912500→589824500→1179648500

 パラコン 手札:3→4→5→6→7→8→9→10→11→12→13→14→15→16

 パラコン デッキ:26→25→24→23→22→21→20→19→18→17→16→15→14→13


 何度も何度も同じ処理が繰り返され、鷹野さんのライフは11億7964万4500ポイントにまで膨れ上がった。そして、《E・HERO エアー・ネオス》の攻撃力は11億7964万1500ポイント、《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》の攻撃力は11億7964万8500ポイントにまで膨れ上がった。
 ライフと攻撃力が11億って……何だこのインフレ現象。意味わかんねーよ。でも、この数値ってこれからまだまだ増え続けるんだよね……。無限ループって怖ぇぇ……。
 いや……もう今となっては、ライフや攻撃力がいくらになろうと大した意味を持たない。重要なのは、僕のデッキが着実に1枚ずつ削られていっているということ……。
 この超インフレデッキ破壊無限ループが終わりを告げる時……すなわち、僕がデッキからカードを引けなくなった時、僕の敗北が確定する。僕は今、その敗北の時を待ちながら、この悪魔のループを進んでいるのだ。
 進んだ先にあるのは、死。そんなことは分かっているのに、僕にはこの運命に抗う手段がない。進むことをやめることも許されない。ただただ、死へと向かって悪魔のループを進むことしかできない。
 実に屈辱的だった。これはもはや拷問以外の何物でもない。これならいっそのこと、一撃でとどめを刺してくれた方が何倍もマシだ。





 ……と、ついさっきまで僕は思っていた。
 何しろ、ループを止める手段がどこにもないのだから。

 しかし。
 16回目のループにおいて、《オイルメン》の効果でドローしたカードを見た時、僕の気持ちは変わることとなった。

 まだ……まだ勝負は終わってない!

「じゃあ、17回目ね。《ダークファミリア》で《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》に攻撃〜」
 若干疲れたような(というか飽きたような)口調で、鷹野さんが17回目のループ開始を宣言した。
 今だ! このカードの力で、悪魔のループを止める!
「この瞬間、僕は手札の《D.D.クロウ》を墓地に捨てる! それにより、相手の墓地に存在するカード1枚をゲームから除外する! 僕は鷹野さんの墓地から《ダークファミリア》を除外!」
「…………!?」
 くくく……はーーーっはっはっは!!! ざまあみろ鷹野麗子!!
 16回目のループで僕がドローしたカードは、《D.D.クロウ》のカード! このモンスターは、手札にいる状態で効果を発揮できる特殊なモンスター。手札にいるこのカードを墓地に捨てることで、相手墓地から好きなカードを1枚選んで除外することができるのだ!
 僕はその効果を利用し、鷹野さんの墓地から《ダークファミリア》を除外した! これが何を意味するか、鷹野さんならすぐに分かることだろう。
「っ……! 墓地の《ダークファミリア》が除外されたら……無限ループが停止してしまう……」
「そうさ! 《ダークファミリア》の効果では、《ダークファミリア》自身を復活させることはできない! つまり、君は墓地から《ダークファミリア》を復活させることができなくなり、無限ループは終了するのさ!」
 鷹野さんの無限ループは、鷹野さんの場と墓地に《ダークファミリア》が1体ずつ存在することによって初めて成り立つもの。それは言い換えれば、片方の《ダークファミリア》が取り除かれてしまえば、ループが簡単に停止するということだ!
 もう鷹野さんの墓地に《ダークファミリア》は存在しない。よって、鷹野さんの場に《ダークファミリア》が復活することはない! ループは終了だ!
「君の戦術は封じさせてもらったよ、鷹野さん!」
「く……っ!」
 いやあ、危ない危ない! 念のために入れておいた《D.D.クロウ》がこんな形で役に立つとは! やっぱアレだな。デュエルは最後まであきらめちゃいけないんだな。危うくサレンダーしちゃうところだったよ。
「《ダークファミリア》は《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》に戦闘破壊されるわ……」
「ああ、そうだね。《オイルメン》の効果でドローさせてもらうよ」

 キメラテック・フォートレス・ドラゴン 攻:1179648500
 ダークファミリア 攻:500

 鷹野麗子 LP:1179644500→2359292500

 パラコン 手札:15→16

 パラコン デッキ:13→12

 さて、《ダークファミリア》が墓地へ送られたことで、《ダークファミリア》の効果が発動する。けど、その効果で《ダークファミリア》が復活することはない!
 さあ鷹野さん。モンスターを復活させるがいい。《ダークファミリア》以外のモンスターをな……。ククク……。
「私は……《ダークファミリア》の効果で《素早いモモンガ》を攻撃表示で蘇生するわ」
 鷹野さんが復活させたのは《素早いモモンガ》。無論、このカードでは無限ループを起こすことなどできない。ループは終わりを告げたのだ!
 とりあえず、今のバトルで鷹野さんのライフが回復したから、また《E・HERO エアー・ネオス》の攻撃力が上がるな。あと、《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》の攻撃力も上がるね。計算めんどくさいなぁ!

 E・HERO エアー・ネオス 攻:1179641500→2359289500

 キメラテック・フォートレス・ドラゴン 攻:1179648500→2359296500

 こ……攻撃力が……23億オーバー……! しかも、そんなモンスターが2体も並ぶとは……! さっきまではどうでもいいと思ってたけど、今にして思えばとんでもない状況だよな、これ……。
 ま……まあいいや。とりあえず、バトルは続行だ! 《召喚制限−猛突するモンスター》の効果で、特殊召喚された《素早いモモンガ》は必ず攻撃しなければならない! 鷹野さん! バトルをしてもらうぞ!

 というわけで、《素早いモモンガ》が《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》に攻撃して戦闘破壊され、鷹野さんのライフがまたもや大量回復。その上で、《素早いモモンガ》の効果で鷹野さんのライフはさらに1000回復した。一方で、僕は《オイルメン》の効果でカードを1枚ドローした。
 そして、鷹野さんのライフが増えたことで、《E・HERO エアー・ネオス》の攻撃力が増え、それに伴い《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》の攻撃力も増えた。
 それらが全て終わった時には、鷹野さんの場のモンスターは姿を消していた。
 悪魔のループは……終わったんだ! やった! やったよ!


 鷹野麗子 LP:2359292500→4718588000→4718589000

 E・HERO エアー・ネオス 攻:2359289500→4718585000→4718586000

 キメラテック・フォートレス・ドラゴン 攻:2359296500→4718592000→4718593000

 パラコン 手札:16→17

 パラコン デッキ:12→11


【パラコン】 LP:5500 手札:17枚 デッキ:11枚
 モンスター:キメラテック・フォートレス・ドラゴン(攻4718593000)、E・HERO ネオス(攻2500)、E・HERO エアー・ネオス(守2000)、ゴキボール(攻1200)
  魔法・罠:オイルメン(対象:キメラテック・フォートレス・ドラゴン)、ハッピー・マリッジ(対象:キメラテック・フォートレス・ドラゴン)、魔導師の力(対象:キメラテック・フォートレス・ドラゴン)

【鷹野麗子】 LP:4718589000 手札:2枚
 モンスター:なし
  魔法・罠:召喚制限−猛突するモンスター
 フィールド:うずまき
 ※《レインボー・ライフ》適用中

 な……長かった……。一時はどうなるかと思ったが、何とか生き延びたぞ!
 フフ……次のターンから再び僕の快進撃を開始してやるぜ! 鷹野さん、覚悟しな!

 さて、快進撃の前に、デュエルの状況を確認しておこう。
 今、鷹野さんの場にモンスターはなく、魔法・トラップカードは《うずまき》と《召喚制限−猛突するモンスター》の2枚。そして、彼女の手札は2枚、ライフポイントは……47億1858万9000ポイント……。異常な数値だな……。とりあえず、現在の鷹野さんについては、ライフ以外に関してはそれほど恐れるような要素はない……と言えるだろう。
 僕の方は、ライフは5500とそこそこだが、鷹野さんが無限ループを仕掛けてくれたおかげで手札が17枚もある! これならもうやりたい放題できるだろう。そして、場には攻撃力2500の《E・HERO ネオス》。それと、攻撃力がなんと47億オーバーの《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》と《E・HERO エアー・ネオス》がいる……けど、このターンが終われば、《E・HERO エアー・ネオス》は鷹野さんのエクストラデッキに戻ってしまう。そうなれば、《E・HERO エアー・ネオス》の攻撃力分だけ《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》の攻撃力も下がり、7000ポイントまでダウンしてしまう。事実上、僕の場の《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》の攻撃力は7000ポイントであると言えるだろう。
 問題なのは、鷹野さんのライフポイント。あまりにも多すぎる。正直言って、残りデッキ11枚というこの状況で削りきれるような数値ではない気がする。
 けど……大丈夫だ! 僕の手札には必殺のトラップカードがある! このカードがあれば、たとえ膨大なライフ差があろうと関係なくなる!
 もうお気づきの方もいるかもしれないね。そう、僕の手札にはこのカード……《ライフチェンジャー》があるのだ!

 ライフチェンジャー
 (通常罠)
 お互いのライフポイントに8000ポイント以上の差があった場合に発動する事ができる。
 お互いのライフポイントは3000になる。

 《ライフチェンジャー》を使うと、互いのライフポイントは3000になる! どれだけライフに膨大な差があろうと、これを使った瞬間にライフ差は関係なくなるのだ!
 そうなれば、僕の方が有利になることは明白! 何しろ、僕の場には高攻撃力の《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》がいるんだからな!
 さあ、鷹野さん。大人しくエンド宣言をしろ! 僕が貴様を地獄へ送ってやるぜ!
「…………」
 鷹野さんは手札をじっと見て、何かを考え込んでいる。まだ何かするつもりなのだろうか? 鷹野さんもあきらめが悪いな。
「……もう1回、賭けてみるわ。バトルフェイズは終了せずに、速攻魔法《魔法の教科書》を手札から発動!」
 鷹野さんが何か発動した。《魔法の教科書》って……どんな効果だっけ?
「《魔法の教科書》は、手札を全て捨てて発動する魔法カード。その効果で私はデッキからカードを1枚ドローし、それが魔法カードだった場合、その場で発動することを許される……」
 鷹野さんは残された手札1枚を墓地へ送り、《魔法の教科書》の発動条件を満たした。
 なるほど。デッキの一番上のカードに運命を託すってわけか。こんなカードに頼るとは、さすがの鷹野さんも追いつめられてるってわけか。
 引いたカードが魔法カードならその場で発動。そうでなければ何も起きない。さて、鷹野さんの運命やいかに?
「このカードに……全てを賭ける! ドロー!」










「―――ドローしたカードは《死者蘇生》! 魔法カードよ! よってこの場で発動!」





 …………。

 …………。

 …………は?

 な……何だとぉぉぉぉぉぉ!!!??? このタイミングで……都合よく魔法カードを……それも《死者蘇生》なんて強力なカードを引き当てたっていうのか!? くそっ! なんて悪運の強い女だ!
 ……けど、よく考えてみたら、今《死者蘇生》を使ったところで何にもならないよな? だって、いま墓地にいるどのモンスターを蘇生召喚させたところで、この状況を打開することはできないし……。
 今、墓地から特殊召喚することが可能なのは、鷹野さんの墓地にいる《クロス・ポーター》、《ダークファミリア》、《素早いモモンガ》の内のどれか。どれを復活させても、壁モンスターにしかならないと思うんだが……。
 しかし、僕はすぐに、その考えが間違いだと思い知らされることになった。
「魔法カード《死者蘇生》によって私が特殊召喚するのはこのモンスターよ。出でよ、《クリアー・バイス・ドラゴン》!」
 く……《クリアー・バイス・ドラゴン》!? 何だそのモンスター!? ていうか、ちょっと待てよ!? 墓地にそんなモンスターいたっけ……?
 一瞬だけ僕は混乱したが、すぐに答えは分かった。《魔法の教科書》の発動コストとして墓地に捨てた1枚の手札……あれが《クリアー・バイス・ドラゴン》のカードだったんだ……。それを、《魔法の教科書》で引き当てた《死者蘇生》で復活させたと……。なんとまあ悪運の強い……。
 バトルフェイズはまだ終わっていないので、鷹野さんは《クリアー・バイス・ドラゴン》で攻撃を行うことができる。いや、攻撃しなければならない。《召喚制限−猛突するモンスター》の効果で、特殊召喚されたモンスターは必ず攻撃しなければならないのだ。
 ……ところで、《クリアー・バイス・ドラゴン》ってどんなモンスターだっけ?

 クリアー・バイス・ドラゴン 攻:?

 見たところ、《クリアー・バイス・ドラゴン》の攻撃力は決まっていないようだが……?
「《クリアー・バイス・ドラゴン》が相手モンスターに攻撃する場合、ダメージ計算時のみ《クリアー・バイス・ドラゴン》の攻撃力は、攻撃対象モンスターの攻撃力の倍となる! これが何を意味するか分かるかしら?」
 …………。
 …………え?

 クリアー・バイス・ドラゴン
 効果モンスター ★8 闇属性 ドラゴン族 攻? 守0
 このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、このカードのコントローラーに「クリアー・ワールド」の効果は適用されない。
 このカードが相手モンスターに攻撃する場合、ダメージ計算時のみこのカードの攻撃力は攻撃対象モンスターの攻撃力の倍になる。
 このカードが相手のカードの効果によって破壊される場合、代わりに自分の手札を1枚捨てる事ができる。

 ま……待ってくれ? つまり……《クリアー・バイス・ドラゴン》が相手モンスターに攻撃すると、《クリアー・バイス・ドラゴン》の攻撃力が相手モンスターの攻撃力の2倍になる……ってことだから……え〜と……。

 …………あ。

「《クリアー・バイス・ドラゴン》で《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》に攻撃! この時、《クリアー・バイス・ドラゴン》の攻撃力は、《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》の攻撃力――47億1859万3000ポイントの倍となる!」

 キメラテック・フォートレス・ドラゴン 攻:4718593000

 クリアー・バイス・ドラゴン 攻:?→9437186000

 ……ぶっ!?
 何……だと……!? 攻撃力94億3718万6000の……《クリアー・バイス・ドラゴン》だとおおおおお!!!!!?????
 や……やばい! やばいよこれ! これじゃあ……このバトルで僕のライフポイントは……!!
「2体のモンスターの攻撃力の差は47億1859万3000ポイント! その分の戦闘ダメージを受けてもらうわよ!」
 《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》は《オイルメン》の効果で一度だけ破壊に耐えることができるが、戦闘ダメージは普通に発生してしまう! 僕が47億1859万3000ポイントものダメージを受けることは避けられない! 僕のライフは5500! こんな馬鹿でかいダメージを受けたら、ライフが一瞬で消し飛んでしまう!
 何とかしなければ……! けど、場はもちろん、手札にも墓地にもこのダメージを防ぐ手段はない! ダメだ! どうにもならないぃぃぃぃ!!
 チキショオ!! また負けかよおおおおおおおおおおおおお!!!!!!
「この勝負もらった! 砕け散れ! パラコン!」
 くそくそくそおおおおおおお!!!!! 覚えてろよ鷹野麗子ぉぉぉおおおおぉぁぁぁああああ!!!

 パラコン LP:5500→0





 ★


 デュエルは、47億1859万3000ポイントものダメージを受けたことで、僕の敗北となった。
 ま……また……負けた……! 今年こそは……今年こそは鷹野さんに勝つと決めたのに、いきなり負けた! しかも新年早々に負けた! こんな……馬鹿な……!
「また私の勝ちね。それにしても、あなたは何回負ければ気が済むのよ?」
 勝者である鷹野さんが見下すような口調で言った。うるせーよ! 好きで負けてるわけじゃねーんだよ! 僕はいつでも本気で勝ちに行ってんだよ! 今のデュエルだって、テメーの運が良くなければ僕が勝ってたんだよ!
 そうさ! 今のデュエルはあくまでも鷹野さんの運が良かっただけ! この女が《魔法の教科書》の効果で都合よく《死者蘇生》を引いてなかったら、僕が勝利を収めてたんだ! つまりこのデュエル、本当の意味で勝利したのは僕だ! この女は単に運が良かっただけ! 実力では僕の方が上だったんだ!
「確かに、私とあなたの実力には、天と地ほどの差があるわ。けど、もうちょっと善戦してくれてもいいんじゃないかしら?」
 だ〜〜〜か〜〜〜ら〜〜〜!! 今のはテメーの運が良かっただけだよ! 実力は僕の方が断然上だ! 何が天と地ほどの差だよ!?
「オ〜ッホッホッホ! 運も実力の内! 私が勝ったことには何の変わりもないわ!」
 ……ッ!! この女……開き直りやがったよ!! く……くそっ……! 運の良さで勝ったことは本人も自覚してるのか!
「あなたが何を思おうと、勝者は私。敗者はあなた。敗者であるあなたには、勝者である私に吠える権限はないわ」
 この女……っ! 覚えてろよ……! いつか必ず……少なくとも今年中には、貴様のその鼻をへし折ってやるからな!
「さて、話を元に戻すけど、あなたにはプロジェクトシリーズを卒業してもらうわ。ゲームに負けたんだから、大人しく言うこと聞きなさいよね」

 …………。

 …………え? プロジェクトシリーズを卒業?

 …………。

 ……あ、そういや、プロジェクトシリーズの主人公を変えるとか何とか言ってたっけ? デュエルに夢中になっててすっかり忘れてたよ。
 って、ちょっと待ってくれ! いや、僕は主人公の座を手放すつもりなんてないぞ! 確かにデュエルでは負けたけど……けど! けど、僕は主人公をやめる気なんてない! やめたくない!
「た……鷹野さん! それだけは勘弁してよ! 僕にはまだやりたいことがたくさんあ――」
「言い訳無用! あなたはゲームに負けた! 敗者は大人しく勝者の言うことに従いなさい!」
 うおおおおおおおおおおおおおおお!!!! 自らデュエルを挑んだことが完全に裏目にぃぃぃ!!
 チキショオ!! こんなことならデュエルなんてしないで、必死に口で説得し続けるべきだったぁぁぁ!!!
「卒業の方法だけど……ホントに殉職させちゃマズイわよね。となるとやはり、この方法で行うのが一番相応しいかしら?」
 鷹野さんは懐から1枚のカードを取り出した。そ……そのカードは……まさか!?

 HERO RELIEF −主人公交代−
 (魔法カード)
 新しい主人公! かっとビングだぜ!!

 げぇっ!! 《HERO RELIEF −主人公交代−》ぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!
 ちょっと待ってくれ!? またそのカードかよ!? 鷹野さん、本気で主人公を交代させる気なのか!? ふざけんなよ!!
「鷹野さん! 落ち着こう! 冷静に話し合えば分かる!」
「見苦しいわね。あなたは負けたんだから、大人しくこのカードの効果を受けなさい! 発動せよ! 《HERO RELIEF −主人公交代−》!!」
 少しくらい聞けよコンチキショオ!! うわああああああああああああああああ!!!!
「主人公が変わることによって、プロジェクトシリーズは生まれ変わるわ! けれどパラコン……これだけは覚えておいて。あなたのプロジェクト・スピリットは、しっかりと受け継がれていくわ。たとえどれだけの月日が経とうとも……」
 だから、プロジェクト・スピリットって何だよ!?





 ★


 こうして、鷹野さんとのデュエルに敗北したパラコンボーイは、《HERO RELIEF −主人公交代−》の効果によって、プロジェクトシリーズの主人公ではなくなったということです。
 そんな彼が復活するのは、果たしていつになるのか。それはまだ、誰にも(作者にも)分からないのであります。

 お後が宜しくないようで。





〜Fin〜







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