レアハンターの後悔

製作者:プロたん




 この作品は、有害図書に指定されかかっていますので、目を細めて興味の無い振りをしながら読むと良いですよ。



1章 環境正常化運動

 私はレアハンター。
 有限会社レアハンターの社長であり、トップレベルのデュエリストでもある。
 決して自慢をするつもりではないが、私のデュエルの腕は超一級品。あの城之内克也を負かしたほどの実力を持っている。
 しかし、真のデュエリストに妥協は許されない。常に最強を目指して前進しなければならない。見果てぬ先まで続く闘いのロード、その先には世界を制した私が立っていることだろう。
「白魔導士ピケルください」
「……え?」
「白魔導士ピケルください」
「ピ、ピケル……ですか? 少々お待ちください」
 カードショップの店員は、戸惑いながらも店の奥へと消えていった。
 知っている者は少ないだろうが、白魔導士ピケルは、M&Wを変えてしまうほど恐ろしいカードである。その恐ろしさについて語らせていただこう。
 白魔導士ピケルは見た目は単なる魔法使いの少女であり、攻撃力もそれほど高くはない。恐ろしいのは、その特殊能力である。
 白魔導士ピケルの特殊能力は、2つ存在する。
 一つ目は、毎ターンライフを回復する能力。これはカードテキストに書かれている能力であり、これ単体ではそれほど厄介な能力ではない。
 そして二つ目は、ピケルに対する一切の攻撃ができなくなる能力。これはカードテキストには書かれていない隠れ能力(マンガではよくあること)であり、非常に厄介な能力である。
 元グールズ係長の奇術師パンドラ氏によれば、「はぁはぁ……ピケルに……攻撃は……はぁはぁ……許されない……」とのことである。すなわち、白魔導士ピケルのカードさえあれば、プレイヤーへの直接攻撃を全て防ぎきることができ、どんなに攻撃力の高いモンスターが敵にいてもライフポイントが0になることはないというのだ。
「お待たせいたしました。ピケルの在庫174枚ありました。何枚買いますか?」
「174枚」
「は……?」
「174枚」
「全て……ですか?」
「当然だ。私はこの世の混沌を正し、最強を目指すデュエリストであるからな」
「はぁ……」
 白魔導士ピケルはこのまま放置するわけにはいかない。
 このような凶悪な効果を持つカードが放置されれば、誰もが使うに決まっている。そうすればゲームバランスは崩れ、M&Wの人気も衰退、その結果、私の最強への道も閉ざされてしまうだろう。
 私は白魔導士ピケルを買い占めることで、M&Wの環境を正常なものに戻そうと努力しているのだ。
「1枚20円ですので、3480円になります……」
 私は代金を支払い、白魔導士ピケル174枚を手に入れカードショップを後にした。
 カードショップを出る前、子供の客に「うわーピケルたくさん買ってる。へんたいだー」「ダイ・グレファーとおなじくらいへんたいだー」などとささやかれたが、子供のたわ言を相手にするほど私の心は狭くない。狭くはない……狭くはないのだ……。

 カードショップを出ると、私は携帯電話からパンドラへと電話を掛けた。
「パンドラか? 白魔導士ピケルを手に入れておいたぞ。174枚だ」
 パンドラにとって、白魔導士ピケルは最強カードであると同時に、絶望の淵からパンドラを救い出してくれた女神のようなカード。私は、M&Wの環境正常化と同時に、パンドラの愛を深めるために白魔導士ピケルを買い占めているのだ。
「ありがとう、珍札……」
 パンドラはなぜか私のことを珍札と呼ぶ。そして、パンドラはいつものように愛を語りだした。
「珍札のおかげで私のピケルへの愛は深まっています。あの大会の時以来ピケルは私の元を離れたことはない。外出する時も風呂に入る時もずっと一緒に連れている。最近ではソリッドビジョンのピケルに触れることさえできる――そんな気さえするのです。映像に触れるなんておかしいと感じるかもしれませんが、これは自然な現象。そもそも、人間が『物に触れた』と感じるのは、神経から脳にその情報が伝わることによって発生する現象です。触れたと感じるのは脳。脳さえ制御できればいいのです。すなわち触れたいと思う強い想い――この想いさえあれば、ソリッドビジョンのピケルを抱きしめることも不可能ではないのです。私はいつかピケルを抱きしめてみせます! そして絶望の淵から私を救ってくれたピケルへの恩返しをしてあげるのです!」
 いつものような長話に対し、途中から聞く気がなくなっていると、
「キャアアアア!」
「……!?」
 私の背後から女性の悲鳴が聞こえた。
 すぐさま後ろを振り向く。その女性は、目を見開いたままビルの屋上に釘付けになっていた。女性の視線の先を追っていくと、ビルの屋上から身を乗り出す男の姿が見えた。
「まさか、自殺しようとしているのか……?」
 思わず声に出ていた。
 見慣れぬ光景に動揺しかけて、はっと我に返る。
 そうだ。誰が死のうが私には関係ないことだ。関係ないんだ。関係ない。
「人生に絶望した哀れな敗北者よ……自分の手で幕を下ろすのも悪くないだろう」
 私はそう呟いてその場から立ち去ろうとした。
 その時、はらりとカードが落ちた。それは、白魔導士ピケルのカードだった。
 当時パンドラは自殺を考えていたほど絶望していた。そんなパンドラを一枚のカードが救った。……自殺しようとしているあの男、救える可能性は十分にあるだろう。
 このままあの男を放置していいものだろうか? このままではあの男は死ぬ。飛び降りて死ぬ。だが、死んでも私には関係ない。私には関係ない。
「そうだ。関係ない……」
 関係ない。関係ない。関係ない。関係ない。関係ない。関係ない関係ない関係な関係ない関係い関係関係な関係関係関係関係関係関係かんきえいええええええエエエ!!
「ヒイイィィィィ!!」
 気付けば、私は階段を駆け上がり、ビルの屋上を目指していた。奴が死のうが私には関係ないのに、なぜか階段を駆け上がっていた。
 10階の表示があるフロアからさらに上を目指す。階段の先にある扉を開けると、そこはビルの屋上だった。
「はぁはぁ……貴様、飛び降りる気だな!?」
 屋上に出ると、私は男に向かってそう言った。
「ほっといてくれ! 僕は死ぬんだ!」
 男は振り向いて叫ぶ。
「死ぬだと……勝手に死ぬがいい」
 反射的に私はそう言ってしまった。
「じゃあ死ぬよ! ここから飛び降りて死ぬよ!」
 男はフェンスに足をかける。
「ま、ままま待った! やっぱり死ぬな。死んじゃ駄目だ。死んだらアレだ。困るだろう? 困るだろう!?」
 私は男に近づいた。
「どうせ僕は困らないよ……むしろ死にたいんだ」
「ならば仕方ない。やっぱり死ね」
 ……また言ってしまった。
「あ、さっきの無し。さっきのマリク様が言ったの。さっきの無し」
「さっきから君は一体何なんだよ! 死ぬなって言ったり死ねって言ったり! 何がしたいんだよ!」
「フッ……。私はレアハンター。世界最強を目指し、誇り高き真のデュエリスト……」
「デュエリスト? じゃあ、ほっといてよ! 僕は死にたいんだよ!」
 男はなおも自殺しようとする。
 このままでは本当に死ぬぞ!? どうしようどうしようどうしょうおっそづどすおどうっぢしょう!! ……ん? まてよ?
「ククク……デュエルだ」
 私はデュエルディスクを取り出した。私の中で一つの考えが浮かんだのだ。
「どうしたんだよ! いきなり!」
「貴様もデュエリストの端くれだろう?」
「確かにM&Wはやるけど、そんなことどうだっていいだろ?」
 私は鼻で笑った。
「良くはない。なぜなら、私は世界最強を目指しているからだ」
「意味が……分からない……。全く……分からない……」
「世界最強を目指すためには、その価値を高めなければ意味がない。M&Wで世界覇者になるのと、DDDで世界覇者になるのとでは、どちらに価値がある? 当然、プレイ人口が多いM&Wだろう。販売打ち切りのDDDなどで世界覇者になる意味などない!」
「つまり、デュエリストが一人消えるたびに、世界覇者の価値が低下する……?」
「そうだ。だから、ここでデュエルしてやると言うのだ。万が一、貴様がデュエルで勝ったなら貴様は打ち破る価値があることになる。しかし、貴様が負けたなら、貴様はデュエリストとして生きる価値無し! 勝手に死ぬがいい」
「…………」
 男は顔をしかめた。
「どうだ? このデュエル受けるか? もちろん受けてもらわないと困るわけだがな、私の世界最強への道が閉ざされるわけだからな!」
「……分かったよ。やるよ!」
 男はフェンスから身を離し、フェンス脇に落ちていたデュエルディスクを拾い上げ、こちらへ歩き出した。おそらく、そのデュエルディスクは彼のものだろう。
「デュエル!」
「デュエル……」
 こうして、私と自殺志願者のデュエルが始まった。



2章 世界で一番見苦しいデュエル

「私のターン……!」
 私はデッキからカードを1枚引く。初期手札6枚を確認する。

 封印されしエクゾディア  封印されし者の右腕  冥界の使者  異次元の女戦士  闇の量産工場  万能地雷グレイモヤ

 当然だが、私はエクゾディアデッキ。エクゾディアを高速で揃えるトップレベルのデッキ。並のデュエリストでは手も足も出ない。
 しかし、このデュエルで私が勝つことは、対戦相手の死を意味する。私の実力を出し切って勝利してもいいのだろうか?
「私は冥界の使者を召喚してターンを終了する……」
 私は様子を見ることにした。

「僕のターン……」
 男のターンになる。
「僕はワイトを攻撃表示で召喚……」
「ワイトだと……!」
 男が召喚したのはワイト。攻撃力300で一切の特殊能力を持たない雑魚中の雑魚であり、その雑魚っぷりにミノタウルスに「斧を使う価値すらない」と言わせるほどである。
「僕は、ワイトで冥界の使者を攻撃……」
 ワイトの攻撃力は300。対して冥界の使者の攻撃力は1600。すなわち――
「僕のワイトは破壊され、僕は1300ポイントのダメージを受ける」
 ワイトは勝手に自滅し、男のライフは2700になった。まさか――
「き、貴様ぁ! さてはわざと負ける気だな!?」
 男は答えず、
「カードを1枚伏せ、ターンエンド……」
 静かにターンを終了した。

「私のターン、ドロー!」
 相手はわざと負ける気だ。当たり前だ。自殺志願者なのだ。負ければ死ねると思っているのだ。おのれ、このまま死なせてたまるものか!
 だが、手札を見ても、場を見ても、この状況を打破する手段は見つからない。
「くっ……冥界の使者を守備表示に変更して、ターンエンド……」
 今できることは、自滅攻撃を防ぐことのみ……。

「僕のターン……」
 ターンが移る。
「僕は伏せておいた永続罠カードをオープン。グリードのカードを発動する」
 グリード……。
 このカードは、ドローフェイズ以外でドローしたカード1枚につき500ダメージを与える永続罠。まさか……!
「僕は強欲な壺を発動して、デッキからカードを2枚ドローする。したがって、1000ダメージを受ける……」
 自分にダメージを与えるために、ドローカードとの自滅コンボを狙ったというのか……!
「これで僕のライフは1700。ターンエンド……」

「私のターン……!」
 このままでは、相手の負けが決定してしまう! このまま負け逃げされると言うのか! 許さん! 許さんぞ!
「ドロー!」
 勢いよくカードをドローする。
 ドローしたカードは天使の施し。デッキから3枚のカードをドローした後、2枚の手札を捨てる効果を持つカードだ。
 このカードを使えば、グリードの効果で私にダメージが及ぶはず……!
「私は天使の施しを発動! カードを3枚ドローしたことにより、1500ダメージを受ける!」
 男は表情一つ変えずにこちらを見ていた。
「私のライフはあと2500。ターン終了だ!」
 ここから起死回生の手を……いや「起生回死」の手を見つけるしかない!

「僕のターン……ドロー……」
 だが、カードをドローした瞬間、男は小さく笑った気がした。
「僕は手札からリロードを発動するよ」
 リロード……このカードは……!
「そう……リロードは、手札を全てデッキに戻した後、戻した枚数だけカードをドローするカード」
「つまり……!」
「リロードによって僕は6枚のカードをドローした。すなわち、グリードの効果で3000ダメージを受ける……」
 3000ダメージ……! すなわち、男のライフは……ゼロ。ゼロになったのだ。
「僕の……負けだ……」



3章 世界で一番見苦しいマッチ

「約束どおり僕は負けた。だから、死なせてもらうよ……」
 男は負けた。このまま死なせたら負け逃げ。私は最大の屈辱を味わうことになる。おのれ……!
「……。……言ってない……」
「今さら何だよ?」
 男は振り返る。
「デュ、デュエルが1回勝負だなんて言ってない……! デュエルはマッチ戦! 死ぬならあと1回負けてから! あと1回負けてからだ!」
「往生際が悪いよ……」
「あと1回! 頼む!」
 私は手を合わせた。
「……仕方がないなぁ。ほら、準備してよ」
 男は再びデュエルディスクにデッキをセットする。

 10分後。
「今回も、僕の負けだね」
「ちょっと待て。正式なマッチ戦は5回勝負だ。先に3戦勝利した方の勝ちだ。知らなかったのか?」
「つまり、もう一回勝負しろと?」
「そういうことだ」

 さらに10分後。
「はい、グリードコンボ成立。僕の負け」
「言ってなかったか? この勝負はハイスペックマッチ戦。7回勝負して、先に4勝した方が勝ちなのだよ? あと1回私が勝たないと終わらないよ? 終わらないよ?」

 またまた10分後。
「あーあ、結構いいところまでライフ減らしたのに残念。僕の負け」
「くっ、だが、この勝負はバイタリティマッチ。9回勝負して、先に5勝しなければならない。真の耐久力が試されるのだ」

 またしても10分後。
「はい。僕の負けー」
「今いるビルは10階建てだろう? 10階建ての建物の屋上は実質11階。すなわち、このマッチ戦は11回勝負。もう1回勝負しないとなぁ?」

 しつこく10分後。
「負けでーす」
「……13回勝負が古来エジプトから伝わるマッチ戦の様式。この勝負は古代エジプトに由来する伝統的な勝負! あと1回デュエルする必要がある。それを分かっているのだろうな?」

 そして……。
 男は全敗し続け、私は全勝し続け、1時間2時間3時間と経過し、ついには日が暮れ始めた。ビルの屋上に橙色の夕日が差し込んでくる。
「また僕の負けだよ……。はぁはぁ……もうさすがに疲れてきたよ」
「な、なんだと? はぁはぁ……今から死のうと思う人間が……はぁはぁ……疲れたなどと寝言を抜かすな……はぁはぁ……」
「あなただって、疲れてるじゃないですか……」
 そう言って男は微笑んだ。
 その笑顔を見て、私は疑問を抱いた。
 こいつ……本当に死ぬ気あったのか? 私はいてもたってもいられず、
「貴様、死ぬつもりだったのか?」
 と聞いていた。すると、
「……嘘じゃないよ」
 男の声のトーンが急激に落ちた。
「僕は死ななければならない人間なんだ」
「なん……だと?」



4章 山田さん

「僕の名前は山田真一郎」
 男は語りだした。
「僕はね……グールズにいたらしいんだ」
「グールズだと!?」
 グールズ――私がそこに所属していた頃、山田の姿など見たことはない。
 しかも、山田はグールズにいた「らしい」と言った。「らしい」とはどういうことなのだ?
「僕は、操られていたらしいんだ。グールズに」
「操られていた?」
「操られている時の記憶がハッキリしないから確実じゃないけど、そうらしい。僕は『人形』として扱われていたらしいんだ」
「人形……」
 そういえば、顔じゅうにピアスをつけていた「マリクの人形」というキャラがいた気がする。そうだ。遊戯王のコミックスにいた!
 山田の顔をじっと見る。山田の顔にはピアスはないものの、ピアス痕らしき不自然なへこみが残っている。山田があの人形であることは事実に違いない。
「しかし、貴様が死にたい理由はグールズにいたからか? 偉大なる組織の一端になれたんだ。誇りに思うことはあっても、恥ずべきことではない」
 山田は顔をうつむけ、「いや、恥ずべきことだと思う」と冷静に突っ込み、そしてこう言った。
「僕が死にたいのは、操られる前に……父親を殺してしまったからなんだ」
「父親を……殺した!?」
 親殺しだと……! いくら二次創作とは言えそんな設定を勝手に付け加えては遊戯王ファンの反感を買ってしまう! しかもレアハンターの小説ごときでそんなシリアスな話を扱ったのでは、読者の反感も数倍にアップだ! 明日にはホームページのアクセス数もガクンと落ちてしまうに違いない。
 いや、待てよ? 私は遊戯王のコミックスの詳細を思い出す。セリフを一つ残らず正確に思い出そうと頭を絞る。『親殺しの自責の念で心の牢獄のスミでうずくまっている』――そんなことが書いてあった気がする。高橋先生もとんだ伏線を残してくれたものだ!
 そう。山田は親を殺してしまったのだ。
「思えば僕が操られてしまったのも、親殺しによる自責の念で心を閉ざしていたことが原因かもしれない……」
 そして、山田は自分が親を殺してしまった経緯を語りだした。
 しかし、長い話になりそうだったので、私は聞く気が起こらなかった。私は過去は振り返らない男なのだ。過去にはこだわらない男なのだ。
「……道路に飛び出した僕をかばって父さんは……! だから、僕が殺したも同然なんだ。僕が殺したんだ!」
 山田が過去を語っている。だが私はそれをさえぎった。
「ならば、貴様も見つけるがいい」
「え?」
 私はパンドラのことを思い出した。パンドラを絶望から救ったのは一枚のカード。死に場所を求めて歩いている時、白魔導士ピケルのカードを見つけ救われたのだ。
「見つけるのだ、自分の愛するカードを。愛するカードさえ見つけられれば、絶望の淵から這いあがれる」
「愛するカード……?」
「ああ。愛さえあれば、死ぬことなどすぐに忘れられる」



5章 感動の再会

 私は山田を連れて、先程のカードショップに向かうことになった。山田は私の唐突な提案に戸惑いながらも、私の提案に乗ることになったのだ。
「いらっしゃ……い……ませ……」
 店員が出迎える。この店にはシングルカードが豊富に揃っているため、山田の愛するカードを見つけることもできるはずだろう。
「さあ、山田よ選ぶのだ。自分の愛するカードを!」
「はは……さすがに『愛するカード』は言い過ぎだよ……」
 そう言いながらも山田は店内を回り出す。カード1枚1枚をじっくりと見ながら、愛するカードを探し出した。
「お、これなんかいいかも……」
 山田が最初に手に取ったのは、異次元の女戦士。制限カードに指定されるほど強いモンスターカードである。
「それを愛するカードとするのか?」
「いやいや、そういう意味じゃないけど……。あ! このカードもいいかも!」
 山田は魔法カード「強制転移」を手に取る。これも準制限カードに指定されるほど強いカードである。
「山田よ。強いカードを選んでるだけじゃないだろうな? 自分の愛するカードを選ばなくてはならないぞ」
 私は山田に注意した。強いカードだけ選んだのでは、何のために連れてきたのか分からないではないか。
「そういうつもりはないけど……」
 そう言いながら、山田が手を伸ばしたその先には「破邪の大剣−バオウ」のカードがあった。そこそこに役立つ装備魔法カードだ。
「あ、これもいいかも」
 さらに、山田は「荒野の女戦士」にも目をつけた。
「レアハンターさん、ちょっと聞いていい?」
 山田は2枚のカードを見せて、私に質問する。なぜだろうか。悪寒がした。
「あのさ、自分の場にある『荒野の女戦士』を『強制転移』の効力で相手の場に送った時、その女戦士を倒すと自分が効果を使えるんだよね?」
 言いながら、山田は笑みを浮かべた。
 私の背筋は凍った。
 理由は分からない。とにかく悪寒がしたのだ。しかも強烈な悪寒が。もしかしたら、私は取り返しのつかないことをしているのではないか――そんな危機意識に駆られるほどに……。
 そして、一人先を歩いていた山田は、『とあるカード』の前で立ち止まった。
「父さん……?」
 山田は呟いた。
「このカード、父さんにそっくりだ……」
 私に向かって山田は言った。
 山田が注目していたカード。それは、今や有名となったモンスターカード。特別に強い能力を持つわけではないが、その異質な性格のため有名になったモンスターカード。
 客の子供2人組が、山田の前に現れた。そして言った。
「うわー! お兄さん、ダイ・グレファーが好きなの!?」
「へんたいだー! へんたいだー!」
「へんたい! へんたい!」
「へんたい! へんたい!」
 山田を取り囲むように、子供達は変態コールを浴びせかける。
 しかし、山田の視線は父さんことダイ・グレファーに向けられたままだった。子供に馬鹿にされていることすら気付いていないのかもしれない。
「……そうだね父さん。僕が死んでしまっては、僕をかばって死んだ父さんに合わせる顔がないよね。それこそ、本当の意味で父さんを殺したことになっちゃうよね」
「へんたい! へんたい!」
「へんたい! へんたい!」
「分かったよ、父さん! 僕は生きる! 生きて楽しいことも嬉しいことも悲しいこともたくさんこなしてみせる! 父さんの分まで生きてみせる! だから天国から見守っていて欲しい!」
「へんたい! へんたい!」
「へんたい! へんたい!」
「ありがとう……父さん……」
「へんたい! へんたい!」
「へんたい! へんたい!」
 私は、山田の感動の再会を喜んでいいものか一瞬だけ迷ったが、とりあえず目頭を熱くしておくことにした。

 こうして、レアハンターの小説史上最高の感動シーンが生まれたのだった。



6章 やめときゃよかった

 カードショップを出ると、山田は急に真面目な顔になって私の目を見た。
「レアハンターさん、ありがとう。あなたのおかげで僕は命を捨てずに済んだ。いや、それだけじゃない! 父さんとの再会も果たせた。父さんとの再会のお陰で僕は生きることを選べたんだ!」
 改めてそう言われると、少々照れくさい。
「まあ、私は偉大だからな。ククク……」
 照れくさくて、ついつい本音が出てしまった。
「それで、レアハンターさん、お願いがあるんだ」
 山田は一呼吸おくと、カードの束を取り出した。
「父さんのカード……これを加えて新しいデッキを作ったんだ。もしよければ、戦って欲しい。生まれ変わった僕を見て欲しいんだ!」
 山田はデュエルを挑んできた。
 ゾクリと嫌な悪寒がした。かつてないほどに嫌な悪寒が全身を駆け巡った。
 デュエルの申し込みを断るべきだ――私はそう思った。
 だが、山田の目は真剣だった。
 先ほどの感動シーンが頭の中に蘇る。生きる希望を取り戻した感動シーンを……。
 そうだ、このデュエルを断ったのでは真のデュエリストとして――いや、人間として失格だ!
「あ、ああ……! 受けて立つ! だが、手加減はしない!」
 私は、体を包む悪寒を振り払い、デュエルの申し込みを受けたのだった。

 20分後。
「僕の……勝ち……! やったよ父さん!」
 運命の分かれ道とはまさにこのことをいうのだろう。
 山田とのデュエルは、文字媒体でも描写できないくらい凄まじい「猛攻」が続き、私は手も足も出なかった。その「猛攻」をあえて表現するなら、消え行く創造者13章に近い。これでさえ黒塗りの処理を食らっているのだから、ここで表現できないことは想像に難くない。
 山田は……覚醒した。
 覚醒した山田はデュエリストとして間違いなく強く、山田が大会に出たものならM&Wのレベルはさらに上がるだろう。私が当初目的としていた「M&Wの環境を改善すること」は果たされたのかもしれない。
 だが、あえて言わせていただく。

 やめときゃよかった、と。





 ハッピーエンド







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