混沌の堕天使
第二部

製作者:nagomiさん




第十章 あれは肉牛じゃなくて乳牛だっつーの

7月17日(金)午後5時30分
OCG部・部室




豪LP1200
須藤LP500




須藤「サファイアドラゴンでダイレクトアタック!!俺の勝ちだ!」
豪「うあっ!!」





豪LP0




須藤「ふーっと、あぶない展開だったな…。」

豪「はあ……。」


神谷「でも、大分勝率上がったじゃない!この前の柔渋高校(じゅうじゅうこうこう)との試合だって勝ったし。」





































――ダイィイチダァ!!

――ダイィニダァ!!

――ダイィサンダァ!!

――ダイィヨンダァ!!

――ダイグォダァァ!!!!

――ん?ってうわあぁっ!!視点は僕かよ!!!


豪「視点は作者か。」

須藤「………?」



………というわけでムハラとのデュエルから二週間後、すっかり回復した豪のデュエリストレベルは突発的に上がった。周りの人間が強いため本人に自覚はないが、デュエル中は普段の性格では考えられないほど自信にあふれていてまるで何かにとりつかれているかのごとく……。


剣護「って今回はギャグ話だからそんなに真面目に語っても意味ないぞ〜。」

あ、そうなんだ。


佐渡「――ったくせっかく第二部が始まったのに一回目からネタかよ。さっき、第二部のタイトル一覧を見たんだけど半分以上ギャグ内容の上にデュエルがあんまりないていたらくたぞ。」

神谷「ま、まあこの作品のデュエルシーンはかなりルールミスが多いし、ある意味苦肉の決断だったんですよ。」

剣御「まぁ、誤字も多いけどな。」

須藤「ちょ、ちょっと言い過ぎじゃないか……。」

豪「あれ?この自虐ネタって龍武さんの作品に出てきたネタを微妙にパクっている気が……。」

剣護「まぁ、作者はパクリしか能がないからな。」

佐渡「てゆーか私ってほとんどギャグにしか使われてないし、本当に腹立つわ!」


――え?ちょっ!!みんないきなりぶっちゃけないでよ。


神谷「あと、私なんかまともなキャラ構成すらできていないんだから!!」


剣護「おまけに情景描写も分かりづらいし、プロット構成もできていないし、ホントにライトノベルを小馬鹿にしているとしか思えないよなあ。」

佐渡「それに、都合が悪いときはほとんど辻褄あわせのオリジナルカードを乱用しているし。」


――ズブッ!!


僕の胸に言葉のナイフが突き刺さる…。

神谷「あと、プレイングにも意外性というものがないよね。」

剣護「てゆーか、おおざっぱすぎるんだよ。」



(";д℃`)-v(´^∀^`)〆
↑作者

豪「こういう大人の事実をネタにするのも作品の世界観を崩す要因になる事を知らないのかな。」

神谷「そうだよね、そういえば私たちのビジュアル面の説明もまだだよね。きっとみんなイメージするのに困っているよ。」

佐渡「あと、「-」と「ー」と「―」の使い分けや、「」や()や〔〕等も結構曖昧だし……。」

剣護「オリジナルカードを募集したくせにまだ一回しか使ってないぜ。しかも、かなり酷いルールミスしちゃっているし、せっかく感想スレ送ってくれた人がいてもその人の作品には感想を送っていないことが多いし礼儀というものを知らないよね。」


もうイヤだ………。


須藤「お、おい!!過度な自虐ネタは読者に不快感を与えるだけだぞ!!」


剣護「確かにただでさえ人気がないのにこのままじゃ読者離れに拍車がかかるな…。」

神谷「それに、そろそろお腹もすいたし。」



そんな中部室に1人の男が入ってきた。彼は尾眼牙先生でOCG部の顧問である。多忙な為大会等の時にしか現れないが。

尾眼牙「もう夕方6時だしきみたち、肉を焼きたくないか?」

須藤「………あの、………つまり…それは焼き肉ということですか?」

尾眼牙「ああ、そうだけど何か?」


須藤「いや、いきなりの誘いで戸惑ったんですが…。」

尾眼牙「まあそうだろうな、俺の思いつきだし。」



神谷「思いつき……ですか?」





尾眼牙「ほら、よく学園ドラマとかで少し話が進むと先生が生徒を食事に誘うシーンとかあるだろ。」

神谷「ええ、まぁ、それはありますね。」

尾眼牙「作者がいきなりそれをやりたいと言ってせがむんだよ。まぁ少ない私の出番を増やす為にはそれもありかなと思ってだな。」


剣護「ま、まぁそれは否定できませんね……。」


尾眼牙「……という訳で7時に焼肉店【焼肉亭】集合だ!」


こうして、この日のOCG部の活動は終了した。

ちなみに、今日OCG部を風邪で休んだ人がいるらしい。誰かは分からないけど。


同日午後8時00分
龍河町・婆老(ばーろー)通り

剣護「ふぅ、腹一杯だ。」


豪と剣護は2人で帰宅していた。



剣護「なあ、豪?」


剣護は急に憂鬱(ゆううつ)な顔で豪に話しかける。


豪「え、何?」

剣護「この前のムハラとかというやつと本当に何にも無かったのか?」

豪「…………知らないよ。」


豪はあの日の事を話すつもりは無かった。もし、あの日の事を言えば使命感の強い剣護ならまず自分も戦うと言い出すだろう。でも、剣護にまでこの戦いに巻き込みたくない。それにまず、闇のゲームなんてものを信じてもらえるはずがない。




突然向こう側の道から怪しい声がした。




?「へへっ嬢ちゃん。ちょっとおじさんと来てくれないか?そんなに怖がる事はないんだよ……。」













同日同時刻
龍河町・悟貴鰤(ごきぶり)通り








佐渡「ったく!!生意気な奴だな、久野剣護……。何故か憎めないけどな………ってやだ、わたし何いっているのよ!!ね、寝不足で疲れているだけよ。」


佐渡も、帰り道を歩いていた。




?「ギュフフフフフフ、ついに見つけたじょ、佐渡理奈!!」


向こう側の道から長髪の巨漢が現れた。


佐渡「貴様は誰だ……?」




佐渡は首を傾げながら聞き返す。彼女は対某々高校デュエルの日にいなかったから知らないのは当然である。



?「我の、我の、我の、名は死愚魔なり、ギュハハハハハハハハ〜!!」




佐渡はあからさまに怪しい男に対してさらに質問した。


佐渡「で、何の用なんだ?」



死愚魔「我は、我は、我は、貴様に、貴様に、貴様に、デュエルを申し込む、ギュハハハハハハハハ、ギューヒャッヒャッヒャッヒッャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒッャヒャ!!!!!」

佐渡は汚物を見るような目つきでしばらくの間行動が停止した。

「やっぱり、わたし疲れているからこんな幻を…………。」


死愚魔「ギュフフフフフフ――」


第十一章 嫌よ嫌よも好きの内って言うけど、好きじゃないから嫌なんだよ!!

7月17日(金)午後8時05分
龍河町・悟貴鰤(ごきぶり)通り







佐渡「…………。」

わたしはいま、夜の道で見知らぬ男にデュエルを申し込まれている。








死愚魔「ギュフフフフフフ……。」


怪しい男だ。






佐渡「はあーーーーーー。」




わたしは精神を集中させながら死愚魔に近づいた。


そして――







佐渡「うらぁああああああああああ!!」


わたしは足を上に上げ、死愚魔の顔面に叩きつけた。技名をつけるとしたら「ハイキック」というだろう。



――バキッィ!!



死愚魔「ギュエエエエエエエエェェェェェ!!」

死愚魔は大げさに1メートルも吹き飛んだ。







佐渡「うーん、57点!!」


わたしは後ろに振り向いた。


佐渡「逃げるか。」

わたしはそのまま逃げ出した。



――スタタタタタタタタタタ!!




死愚魔「我を、我を、我を、おいていかないでくれー!!」


死愚魔もわたしを追いかけてきた。


佐渡「うわ、しつこいやつだな…………。」



――スタタタタタタタタタタタ………。




わたしは全力で逃げ出すが……。



佐渡「って、あいつ結構足速っ!!」


死愚魔は100メートル10秒代を思わせるスピードでダッシュし、あっという間に追いつかれた。


死愚魔「はあ…はあ、我は、我は、我は、全然怪しくないぢょ。」

わたしと死愚魔は足を止めた。わたしは返事を返した。


佐渡「はぁ…はぁ、バ、バカみたいなサングラスとバカみたいなマスクをつけてたら誰だって不審者だと思うわ…はぁ…はぁ。」



今まで警察に補導されなかったのが奇跡的だ……。



死愚魔「サングラスは、サングラスは、サングラスは、視力を落とさないためにつけているんだぞ。マスクは、マスクは、マスクはちょっと風邪気味なんだ、ギュホギュホ……。」




佐渡「――おい、警察と殺し屋と死に神のどれを呼んで欲しいか答えろ。」




死愚魔「ギュウヒィィィィ!!我は、我は、我は、ただ佐渡嬢にデュエルを申し込みにきただけだぞぉ!!」


佐渡「――本当だな………。」


死愚魔「本当に、本当に、本当だじょ。」



このまま逃げ続けても諦めそうに無いので仕方無くデュエルを引き受けることにした。




佐渡「フフ、いいだろう………やるからには本気だ!!」







死愚魔「ギュホホホホホホホホ、わーい、わーい、わーい、だじょ!!」


わたし達は近くの広場に移動した。





お互いのデッキをシャッフルして、デュエルディスクを起動した。念のため言っておくが、普段からデュエルディスクを装着しているわけではない。無論、カバンに入れて持ち歩いているのだ。









佐渡、死愚魔「デュエル!!」



佐渡LP8000
死愚魔LP8000







死愚魔「我の、我の、我の、せぇんこぉぉう!!ヅォルォォォ!!!スゥナイプストォォォーカァァァーを召喚んっ!!リィバァースカァァードォォォを一枚伏せタァァァァンエンドォォォォ!!ギュヒハッハー!!」

死愚魔は約三頭身の悪魔を呼び出した。手に撃鉄の部分がルーレットの形をしたいびつな光線銃を持っている。


スナイプストーカー
闇 星4 攻1500 守600
悪魔族・効果
手札を1枚捨てる。フィールド上に存在するカード1枚を選択しサイコロを一回振る。1・6以外が出た場合、選択したカードを破壊する。





佐渡「わたしのターン、ドロー………、生け贄ゾンビを召喚!!」





生け贄ゾンビ
闇 星1 攻0 守0
アンデット族・効果
このモンスターを1体を生け贄に捧げることでレベル6以上のモンスターを1体特殊召喚する。このモンスターが生け贄に捧げられた時、墓地へ行かずに手札に戻る。


わたしのフィールド上に黒く腐敗した人間現れた。



わたしはさらに手札から1枚のカードを取り出した。



佐渡「生け贄ゾンビを生け贄に捧げ……グリード・クエーサー召喚!!」


グリード・クエーサー
闇 星7 攻? 守?
悪魔族・効果
このカードの元々の攻撃力と守備力は、このカードのレベル×300ポイントの数値になる。このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、このカードが戦闘によって破壊したモンスターのレベル分だけこのカードのレベルが上がる。



生け贄ゾンビはわたしの手札に戻り、新たに、エイリアンを連想させるスタイルの白い悪魔が現れた。



グリード・クエーサー攻/守2100


佐渡「さらにサイクロンを発動!!」




サイクロン 速攻魔法
全フィールド上の魔法、罠カード1枚を破壊。





死愚魔「何ぃぃぃ!?我の、我の、我の、炸裂装甲(リアクティブ・アーマー)がぁぁ!!」



巨大な竜巻により、死愚魔のリバースカードは吹き飛んだ。

炸裂装甲 罠
相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。その攻撃モンスター1体を破壊する。



佐渡「そして、グリード・クエーサーでスナイプ・ストーカーに攻撃!!」






グリード・クエーサーはスナイプ・ストーカーに噛みついた。本来なら粉々に噛み砕く設定なのだか、残虐な描写には規制がかけられている為、スナイプ・ストーカーを丸呑みにした。



死愚魔LP7400






佐渡「これは、これで結構グロテスクだな。」


グリード・クエーサーは自身の能力により攻、守がアップした。




グリード・クエーサー星11 攻/守3300



死愚魔「我の我の我の、スナイプ・ストーカーがぁぁぁぁぁああ!!!」






死愚魔のリアクションは相変わらずオーバーである。





佐渡(いろいろとすごい奴だな……。)





わたしは唖然(あぜん)としながら手札を確認した。



佐渡「よし、わたしはリバースカードを一枚伏せてターンエンドだわ!」





死愚魔は「来たっ!」と言わんばかりにカードをドローした。












死愚魔「我の、我の、我の、ツァーン、ヅォールォー!!!…………キタキタキタキタキターーー!!!!!!!手札から、手札から、手札から、テビルズ・サンクチュアリを三枚発動ォだぢょぉぉぉぉぉ!!!!」





佐渡「何っ!!三枚だとっ!!!」





テビルズ・サンクチュアリ 魔法
「メタルデビル・トークン」(悪魔族・闇・星1・攻/守0)を自分のフィールド上に1体特殊召喚する。このトークンは攻撃をする事ができない。「メタルデビル・トークン」の戦闘によるコントローラーへの超過ダメージは、かわりに相手プレーヤーが受ける。自分のスタンバイフェイズ事に1000ライフポイントを払う。払わなければ、「メタルデビル・トークン」を破壊する。




フィールド上に悪魔の形をした銅像が三体現れた。




佐渡「しかし、そのトークンは3体あっても攻撃できないうえに1000ポイントのライフコストを払わないと破壊される。なぜ3枚も発動したんだ?」



わたしは自分の知識から現在の状況を分析した。




佐渡「――ということは生け贄に使うんだな………。」



死愚魔「ギュハハハハハハ………。そぉのぉとぉりぃー!!我は、我は、我は、メタルデビル・トークンを3体生け贄にぃ、現れろぉ!!!幻魔皇ラビエルゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!」



3体のメタルデビル・トークンは消え去り――



青い甲殻を身に着けた巨大な悪魔が現れた。翼と尻尾は巨大で、頭には2本の角が生えている。





幻魔皇ラビエル
闇 星10 攻4000 守4000
悪魔族・効果
このカードは通常召喚できない。自分フィールド上に存在する悪魔族モンスター3体を生け贄に捧げた場合のみ特殊召喚する事ができる。相手がモンスターを召喚する度に、自分フィールド上に「幻魔トークン」(悪魔族・闇・星1攻/守1000)を1体特殊召喚する。このトークンは攻撃宣言行う事はできない。1ターンに1度だけ、自分フィールド上のモンスター1体を生け贄に捧げる事で、このターンのエンドフェイズ時までこのカードの攻撃力は生け贄な捧げたモンスターの元々の攻撃力アップする。





いきなりの巨大モンスターの登場にわたしは一歩退(しりぞ)いた。わたしの二つに別れた後ろ髪も軽く揺れている。




死愚魔「ギュヒャハハハハハ!!!!!ラビエルでグリィードォ・クエェェェサァァァァァーーーーにコォゲェキィー!!!!天・界・蹂・躙・拳(てんかいじゅうりんけん)っ!!!」




死愚魔の攻撃宣言と共にラビエルは拳を振りかざしてきた。




佐渡「くっ、させん!!リバースカード魔法の筒(マジックシリンダー)を発動!!」





死愚魔「ギュ!?何ぃぃぃ!!」





クリード・クエーサーの前方に直径5メートルぐらいの筒が現れた。ラビエルの攻撃のを吸収し、死愚魔の頭上にもう一つの筒が現れ先ほど吸収された攻撃が死愚魔を襲う。


――ズドッ





魔法の筒 罠
相手モンスター1体の攻撃を無効にし、そのモンスターの攻撃力分のダメージを相手プレイヤーに与える。





死愚魔LP3400






佐渡「どうした?高攻撃力モンスターで攻撃する時に罠(トラップ)カードへの警戒をするのは基本だぞ。」



死愚魔は愛想的な顔だ。



死愚魔「ギュヘヘ、遊実子ちゃまにもく言われるじょ、我は、我は、我は、リバースカードを一枚伏せターンエンドだぁ!!」








なんかすごく気が散るな……。





佐渡「――わたしのターンドロー、手札から儀式魔法、高等儀式術を発動!!デッキのデュミナス・ヴァルキリア2体を墓地に送り終焉(しゅうえん)の王デミスを特殊召喚!!」




高等儀式術 儀式魔法
手札の儀式モンスター1体を選択し、そのカードとレベルの合計が同じになるように自分のデッキから通常モンスターを選択して墓地に送る。選択した儀式モンスター1体を特殊召喚する。


デュミナス・ヴァルキリア
光 星4 攻1800 守1050
天使族
勇敢なる光の天使。その強い正義感ゆえ、負けるとわかっている悪との戦いでも決して逃げない。


終焉の王デミス
闇 星8 攻2400 守2000
悪魔族・儀式/効果
「エンド・オブ・ザ・ワールド」により光臨。フィールドか手札から、レベルの合計が8になるようにカードを生け贄に捧げなければならない。2000ライフポイントを払う事で、このカードを除くフィールド上のカードを全て破壊する。




フィールド上に漆黒の装甲に身を隠した1体の巨漢が現れた。手には木の1本や2本を軽く切り倒せそうなほど大きな斧を持っている。




死愚魔「ギュ……、ラビエルの効果で幻魔トークンを守備表示で特殊召喚だじょ。」







佐渡「まだよ!!メシア光臨を発動!!」




メシア光臨 魔法
自分のフィールド上に存在する「終焉の王デミス」をゲームから除外する事で自分の手札、デッキから「真・終焉の王デミス」を特殊召喚する。


佐渡「私はデッキから真・終焉の王デミスを特殊召喚!!」





真・終焉の王デミス
光 星10 攻2900 守2550
悪魔族・効果
このカードは通常召喚できず「メシア降臨」効果でのみ特殊召喚できる。このカードは魔法・罠の効果では破壊されない。2000ライフポイントを払う事で、このカードを除くフィールド上のカードを全て破壊する。この効果により破壊されたカード1枚につき自分は200ライフポイント回復する。



デミスは白い光のオーラに包まれた。威圧的で異様な風貌(ふうぼう)だ。


死愚魔「再び、幻魔トークンを守備表示で特殊召喚じょ…。」


幻魔トークン 攻/守1000


フィールド上に小型の悪魔が現れた。



佐渡「そして、デミスの効果を発動!!」






死愚魔「待った、待った、待ったぁーー!!我は、我は、我は、永続罠(トラップ)、スキルドレインを発動!!」




スキルドレイン 永続罠
1000ライフポイントを払う。このカードがフィールド上に存在する限りフィールド上の表側表示で存在する効果モンスターは全て効果が無効化される。





フィールド上のモンスター達から魔力が次々と消え去ってゆく――



死愚魔LP2400



死愚魔「これで、これで、これで、デミスの効果は無効だじょ。さらに、さらに、さらに、グリード・クエーサーは攻撃力がゼロォォォ!!!」





クリード・クエーサー 攻/守0




佐渡「……デミスで1体目の幻魔トークンに攻撃、戦禍終焉斬(せんかしゅうえんざん)!!」





デミスは斧を力まかせに振り回し幻魔トークンに叩きつけた。切れ味はすごく、幻魔トークンをまっぷたつにしたまま地面にまでめり込みそうな勢いだ。





佐渡「グリード・クエーサーを守備表示に変更し、ターンエンドだ。」





佐渡LP8000
手札1枚
モンスター
【真・終焉の王デミス】
【グリード・クエーサー】
魔法・罠
無し

死愚魔LP2400
手札0枚
モンスター
【幻魔皇ラビエル】
【幻魔トークン】
魔法・罠
【スキルドレイン】





現状では死愚魔のライフは2400に対しわたしのライフは無傷の8000。しかし、相手には攻撃力4000のラビエルが存在し、さらにわたしの手札は1枚のため、楽観視はできない。



死愚魔「ギュフフン、我の、我の、我の、タァァァン!!!ドロオォォ!……強欲な壺を発動ぉぉぉ!!!デッキからカアドを2枚ドロオォォォ!」




強欲な壺 魔法
自分は自分のデッキからカードを2枚ドローする。



死愚魔は当然のごとくカードを2枚ドローした。



死愚魔「さらに、さらに、さらに、天使の施しを発動ぉぉ!!」




天使の施し 魔法
自分は自分のデッキからカードを3枚ドローする。その後、自分の手札からカードを2枚選択し、墓地に送る。




死愚魔はカードを3枚ドローし手札からカードを2枚墓地に捨てた。




死愚魔「ギュオオオォォォォ!!陰気な壺を発動ぉ!!相手のデッキの一番下からカードをドロー!!」



佐渡「ま、またドローするのか!?」





陰気な壺 魔法
相手のデッキの一番下からカードを1枚を相手に見せてから自分の手札に加える(この効果で手札に加えたカードは墓地に送られた時は元々の持ち主の墓地へ置く)。





死愚魔「ギュハハ、我は、我は、我は、佐渡嬢のデッキの一番下のカードをいただくぜぃ!!」

佐渡「本当に陰気だよな………。」



わたしのデッキ最後のカードが電波化し死愚魔の手に渡った。
このデュエルディスクはカードの転送機能まで内臓している。科学の進化はスゴい。



死愚魔「ギュハハ、佐渡嬢の強欲な壺を頂いたじょ!!」




デッキの一番最後が強欲な壺ってのも、結構ヘコむわ……。




死愚魔「ギュハハ、我は、我は、我は、強欲な壺を発動!!ギュッホッホッホッホッホッホ――」




死愚魔はなんの躊躇(ちゅうちょ)もなく、むしろ楽しんでいるとも解釈(かいしゃく)できる程むさ苦しい笑みで強欲な壺をデュエルディスクの魔法・罠(マジック・トラップ)スロットに差し込んだ。




強欲な壺 魔法
どうせなら永続魔法にして欲しかった……なんちってブー!!







死愚魔「デッキからカードを2枚ドローするべ!!ギュハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ――」





さすがにもうドローは――



死愚魔「我は、我は、我は、デストロイドローを発動ォォォ!!!ギュゥッヒ、ヒィ、ヒャァァァーヒィィヤァァァァヤァァッコォォォータァァァァン………ッ!!!」



佐渡「えぇー、またぁ!?」


デストロイドロー 魔法
フィールド上のモンスターを1体除外し自分のデッキからカードを2枚ドローする。




死愚魔「我は、我は、我は、幻魔トークンを除外し、デッキからカードを2枚ドロー!!ギュハハハハハハハハハハハハハハァァァァァンンーバァァァァァァグゥゥゥラァァァァァァイィィスゥゥゥ!!!」


幻魔トークンが消え去り、死愚魔はカードを2枚ドローした。さすがにうんざりしてきた。




死愚魔「さらにわぢ……いや我は、我は、我は、太陽を発動ぉ!」






太陽 永続魔法
ライフを300ポイント払う。デッキからレベル8以上の炎属性または炎族のモンスターを1枚を相手に見せてから手札に加える(その後デッキをシャッフルする)。この効果は自分のターンに一回しか使えない。


死愚魔LP2100


死愚魔「わぎゃあ、わぎゃあ、わぎゃあ、手札にゃ神炎皇ウリアをぉぉ、デッキこに加えるべぇぇぇー!!!」


よく分からない訛(なまり)り口調(くちょう)でウリアを手札に加えた。



死愚魔「バトルフェイズ!!我は、我は、我は、ラビエルでデミスを攻撃、天・界・蹂・躙・拳!!ギュヒャッヘヘヘヘヘヘハハハハァァァァルゥゥゥゥゥマァァァァゲェェェェェェェドォォォォォンッ!!!!」


ラビエルの巨大な拳により、デミスは地面に叩きつけられた。



――ズドオォッ




佐渡「うぁっ!!」



佐渡LP6900






死愚魔「我は、我は、我は、永続罠カード身代わりの盾をぉぉぉセットォォだじょぉぉ!!」


身代わりの盾 永続罠
このカードを場にセットする場合、表側表示でセットする。フィールド上の魔法・罠カードが破壊される場合、このカードをかわりに破壊する。


佐渡「これで表側罠カードが3枚――神炎皇……ウリアか?」



死愚魔「せいかぁぁぁい!!」




死愚魔は手札のウリアをモンスターゾーンに置いた。



死愚魔「我は、我は、我は、フィィィルゥドォォの永続罠カードを3枚生け贄にぃぃぃぃぃぃ!!出てこぉい!!神炎皇ぅぅぅぅぅウリアァァァァァァ召喚!!!」


ラビエルと同等のサイズで、腕と羽が同化した赤く炎に包まれた竜が召喚された。




神炎皇ウリア
炎 星10 攻0 守0
炎族・効果
このカードは通常召喚できない。自分のフィールド上に表側表示で存在する罠カード3枚を墓地に送った場合のみ特殊召喚することができる。このカードの攻撃力は、自分の墓地の永続罠カード1枚につき1000ポイントアップする。1ターンに1度だけ、相手フィールド上にセットされている魔法・罠カード1枚を破壊する事ができる。この効果の発動に対して魔法・罠カードを発動する事はできない。



死愚魔「我の、我の、我の、墓地ぃの永続罠はぁぁ天使ぃの施しぃによぉって捨てたカード1枚とぉぉぉぉぉ、ウリアァァの生け贄にぃぃしたぁぁカぁードぉぉぉ3枚ぃぃぃ!!!よってぇぇウリアァの攻撃力はぁぁぁ4000んんんっ!!!」


神炎皇ウリア 攻4000






スキルドレインをウリア召喚の生け贄にしたため、モンスター効果が有効になった。


グリード・クエーサー 攻/守2100





死愚魔「我は、我は、我は、暗黒界の取引を発動ぉぉぉ!!」


暗黒界の取引 魔法
お互いのプレイヤーはデッキからカードを1枚ドローし、その後手札からカードを1枚捨てる。



死愚魔「この効果により、お互いぃぃはぁぁぁカードを1枚ドローォォォし、手札からカードを1枚捨てるぅぅぅぅ!!!」



わたしと死愚魔はカードの効果により、カードを1枚ドローして手札を1枚捨てた。




死愚魔「ギュヒャヒャ!!!我は、我は、我は、手札から暗黒界の狩人(かりうど)ブラウゥを捨てたぁ。ブラウゥはぁ手札からぁ墓地にぃ送られたぁときぃ、デッキからカードを1枚ドローォォォするぅぅぅ!!!」





佐渡「――フッ、偶然ね。わたしもブラウを捨てたわ!!しかも、相手のカードによって捨てたからさらにもう1枚ドローだったわね?」





死愚魔「なにぃぃぃぃぃい!」



くどいようだが死愚魔はオーバーリアクションだ。両腕を顔の左上に伸ばし、右足だけを膝蹴りのように上げた漫画やアニメでしか使わないポーズだ。





暗黒界のブラウ
闇 星3 攻1400 守800
悪魔族・効果
このカードが他のカードの効果によって手札から墓地に捨てた場合、デッキからカードを1枚ドローする。相手のカードの効果によって捨てられた場合、さらにもう1枚ドローする。





わたしは2枚、死愚魔は1枚カードをドローした。






死愚魔「ギュフフフ、タァァァァンエンドォォォォォォ!!!」








長く続いた死愚魔のターンがようやく終了した。












佐渡LP6900
手札3枚
モンスター
【グリード・クエーサー】
魔法・罠
無し

死愚魔LP2100
手札1枚
モンスター
【幻魔皇ラビエル】
【神炎皇ウリア】
魔法・罠
【太陽】

第十二章 同じ悲しみを知る者

佐渡LP6900
手札3枚
モンスター
【グリード・クエーサー】
魔法・罠
無し

死愚魔LP2100
手札1枚
モンスター
【幻魔皇ラビエル】
【神炎皇ウリア】
魔法・罠
【太陽】







――わずかなる沈黙、






そして――


佐渡「わたしは手札から、天使の施しを発動ぉ!!」



死愚魔「ギュハハハハ、だっせぇー!!そんなカードを使うなんてゴワス。」



しゃべり方に特徴がある死愚魔も、語尾につける言葉は特に決まってないようだ。



佐渡「おいおい!?貴様もさっき使ってただろ!!!……とにかくデッキからカードを3枚ドローし、2枚捨てる!!!」




手札の施し 魔法
じ・ぶーんのデッキからーyo、カードォォォを3まぁぁい引くノーネ!!でもッス、後からのぉ手札のカードちゃんを2枚捨てニャきゃいけねえでマス。




宣言どおりに3枚ドローし、数秒後に手札を2枚捨てた。












死愚魔「ギュウウ……。」



死愚魔は難しそうな顔でわたしを見つめる。









佐渡「モンスターを裏守備表示で召喚。」





ソリッドビジョンのカードが裏向きでフィールドに伏せられた。







佐渡「そして魔法カード、ハンマー・シュートを発動!!ウリアには早々に退場してもらう。」



死愚魔「ギュウウ、そ、それはゴーヤの入っていないゴーヤチャンプルー並みにヒドいじょ!!佐渡嬢のようなやさしい女帝様がやることではないじょ、ギュヒィィィッ!!!」








佐渡「残念ながらわたしはゴーヤが嫌いなのよ!!あとわたしはやさしい女帝ではない!!」



死愚魔はあたふたというか挙動不審(きょどうふしん)というか、鳥の真似をする子供のように手を振りながら、叫び続けた。








死愚魔「ギュヒィィィィィィィィィ、ウリアがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」



わたしは軽蔑(けいべつ)のまなざしで死愚魔を見つめた。





佐渡「どうせ、アーミタイルでも呼び出すつもりだったんでしょ!!」





死愚魔「ギュックー!!!!」



佐渡("ギュックー"!?)



死愚魔は漫画やアニメみたいに地面にずっこけた。



――バタッ!!





そして、起き上がり――




死愚魔「どうして、どうして、どうして、我の、我の、我の、戦略を見破ったんだじょー!!!!?」




佐渡「見るからに、"アーミタイル強いぞー、カッコいいぞ〜!!ギュハハハハ"とか言ってそうだからだ!!!」


――混沌幻魔アーミタイル


ウリア、ハモン、ラビエル、三体の幻魔モンスターを融合させる事で召喚できる融合モンスターの事である。
召喚されれば、攻撃力10000とケタ違いのをスペックを持つが、それゆえに召喚も困難とされている。


――ヅゥベシャッ!!





なんやかんやで、ウリアはハンマーに潰されていたと思うかもしれないよーな気がする。本当に見忘れていた。




ハンマー・シュート 魔法
フィールド上のに表側攻撃表示で存在する、攻撃力が一番高いモンスターを1体破壊する。






死愚魔はサングラスの奥の細い眼孔(がんこう)を広げ、動揺を隠せない様子でいる。



死愚魔「ギュアアアアア!!!」




わたしは上機嫌な口調でこう言った。



佐渡「フフフ、リバースカードを1枚伏せてターンエンド!!」



確かに、もう一度ウリアを召喚し、ハモンを召喚させれば、アーミタイルを召喚は可能だが、実質的にはないと言い切れる。



死愚魔「ギュオオ、ドロォォォォォォ」




死愚魔は焦りがでてきているのかやや乱暴な手つきでカードを引いた。





死愚魔「ギュフフフフ――」













死愚魔は不気味に笑い出した。





佐渡「動揺しておかしくなったみたいね。あ、前からか。」











死愚魔「ギュハハハハ、アミタがなくても"神の子"と呼ばれた我は、我は、我は、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、書けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、脱げん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん負けん、負けん負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、石けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、脱げん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けん、負けんぞ!!!!!!!!!」










わたしは思った。






――負けんと連呼するやつは大概負ける気がする。






佐渡「――第一、何でわたしなんかにデュエルを申し込んできたんだ?」




死愚魔は顔色を変えて言った。



死愚魔「ギュシャシャ、よくぞ聞いた。今日の朝の事だ――」




佐渡("ギュシャシャ"って……。)








同日午前7時30分
龍河町・狩主馬商店街(かりすましょうてんがい)



『なあ、昨日の歌番組見たか?』

『ああ、つばきちゃんって歌うまいしかわいいよな〜。あと、上木仁野(かみき じんや)さんの新曲《恋の銃弾ゴルェンダ》もカッコイイぜ。』

『だよな〜。ところで《ラーメンおめて》にいったことあるか?あそこのデスゴットラーメンがスゴくてさ――』

『あー、でもそこの主人って"ピケルたん萌え"とか言っていてちょっと危ない感じがするな。』


――通勤途中の社会人たち。








『ところで《日向慢精肉店(ひゅうまんせいにくてん)》のウィンナーがすごい不味いことで評判なの知っている?』

『ああ知ってる、知ってる。あそこのウィンナーってすごい硬くて口に入れられたものじゃないわよ。』



――買い物に行く主婦たち。




――様々な会話が飛び交う商店街の朝、それぞれの今日を迎える。
迷いやためらいを振り切り、そこにあるはずの道を行く――




そんな小規模ながらも活気がやまない商店街の中で、我は、我は、我は、《パンダ・ベーカリー》というパン屋に足を踏み入れたじょ。




死愚魔『ギュハハハハ、おばちゃーん、ジャイアント・グレートカレーパンΣ(シグマ)をくださいじょ!!!』



おばちゃん『あいよ、お代はここに置いといてね。』




グレート・ジャイアントカレーパンΣとはこのパン屋の名物で、通常の三倍のボリュームが魅力のカレーパンだじょ。厳選された食材を本番インドから取り寄せたスパイスでペースト状に煮込んだカレーと極限までグルテンを高めたモチモチのパン生地で包み、揚げるんだじょ。最高の材料と技術を費やしたこのパン。一日10個限定で、お値段はなんと衝撃の、1000円だじょ!!!!!
我の、我の、我の、月一の楽しみだじょ。



おばちゃん『いつもありがとうね、来月も買ってね。』


死愚魔『ギュハハハハ――』


我は、我は、我は、有頂天(うちょうてん)で店から出たじょ。






――その瞬間だじょ





佐渡『しまった!!寝過ごしてしまった。』



向こう側の道から佐渡譲が走っていたんだじょ。


――スタタタタタタタ――








我は、我は、我は、見とれていながら歩いていたじょ。





――ベチャリン!!



死愚魔『ギュオオッ!!?』



我は、我は、我は、バナナにつまづいて、地面に背中がスタンプのように、衝突したじょ。





――ビャッタンコ!!





――数秒の間、視界が消え失せ……






死愚魔『――ギュタタタタ……。』




我は、我は、我は、全身の感覚の状態を確認した。




――右足、無事だじょ。


――左足も無事だじょ。


――カレーパンを持っていた右手には何もないけど無事だじょ。


――左手も無事だじょ。






――全身無事だじょ。







死愚魔『――ギュッ、よかったじょ…………ってカレーパンがないじょ!!?』



我は、我は、我は、当たりを見回した。




我が見つけた場所は地下の下水道だったじょ。カレーパンは何の包みもなく下水に沈んでいる………。





死愚魔『ギュオオオオ、おのれぇ、おのれぇ、おのれぇ!!』
















死愚魔「んなワケで龍河高校(りゅうがこうこう)の制服で 、黒髪のツインテールだけの手がかりでずっと捜索してやっと見つけたじょ。あの時の恨み、敗北の屈辱でお返しするじょぉぉぉ!!!!!」






佐渡「――カ、カレーパンの恨み!?」



街灯(がいとう)とデュエルディスクのソリッド・ビジョンの輝きだけが頼りの暗い夜――わたしはいろいろな不満を感じた………が、あえて一つだけ選んでみた。







佐渡「それ、わたしのせいじゃないわよ!!!!!!」







それはもう人差し指を死愚魔に突きつけ、獲物(えもの)を狙うような目つきで、我を忘れて叫んだ。







死愚魔「ギュオオオオ、問答無用(もんどうむよう)だじょぉ……。」





佐渡「ほ、本気で殴るぞ!!!」



冗談抜きで殴りたくなってきた。




………ってデュエル中なのを忘れていた。






佐渡LP6900
手札0枚
モンスター
【グリード・クエーサー】
リバースカード1枚
魔法・罠
リバースカード1枚

死愚魔LP2100
手札2枚
モンスター
【幻魔皇ウリア】
魔法・罠
【太陽】








佐渡「……ってか、思考時間は5分だけど大丈夫なのか?」



死愚魔はデュエルディスクのタイマーを確認した。




死愚魔「ギュヒャッヒィッ!!!あと、1分しかないぜぇぇ!!!」






死愚魔はあわてて攻撃を始めた。



死愚魔「ラビエルで裏守備モンスターを攻撃ィィィィ、天界蹂躙拳(てんかいじゅうりんけん)!!!」



ラビエルは拳を振り回しリバースモンスターを攻撃した。



裏守備モンスター:メタモルポッド



カードが表向きになり、巨大なツボに身を隠す怪物が現れた。


しかし、圧倒的な戦闘力の差には勝てず、一瞬で撃破された。



メタモルポット
地 星2 攻700 守600
岩石族・効果
リバース:お互い手札を全て捨てる。その後、それぞれ自分のデッキからカードを5枚ドローする。



佐渡「メタモル・ホッドの効果発動!!!お互い手札をすべて捨てて、新たにカードを5枚ドローしないといけないわ!!!!」




死愚魔「ギュ……。」





わたしと死愚魔は効果に従(したが)い、手札をすべて捨てて、カードを5枚ドローした。




死愚魔「バァトルフェイズを終了し、地割れを発動ぉぉぉ!!」





地割れ 魔法
フィールド上に表側表示で存在するモンスターで攻撃力が一番低い相手モンスターを1体破壊する。




グリード・クエーサーは地割れにより地の底に眠った。





佐渡(てゆーか、グリード・クエーサーって浮遊しているのになんで地割れがきくのか謎だな……。)




死愚魔「ギュゥ……。使えるカードがないじょ、――ターンエンドン。」






佐渡「わたしのターン、ドロー!!!わたしはハネクリボーを召喚!!!」




「クリクリ〜」の鳴き声とともに毛玉に目と手足がついたようなかわいらしい物の怪(もののけ)が現れた。背中の白い羽でフワフワと浮いている。



ハネクリボー
光 星1 攻300 守200
天使族・効果
フィールド上のこのカードが破壊され墓地へ送られた時に発動する。発動後、このターンにこのカードのコントローラーが受ける戦闘ダメージは全て0になる。



佐渡「さらに、打ち出の小槌(こづち)を発動!!」





打ち出の小槌 魔法
自分の手札を任意の枚数選択し、デッキに加えてシャッフルする。その後、デッキに加えた枚数分のカードをドローする。



追うようにわたしは効果の説明をした。



佐渡「このカードは手札からカードをデッキに戻し、戻した分だけデッキからカードを引くことができる。わたしは2枚戻し、デッキからカードを2枚ドローするわ。」



わたしは雪のような色白い手でカードをデッキに喰らえ、10回ぐらいデッキをシャッフルしてから、カードを2枚ドローした。




佐渡「よし、再び打ち出の小槌を発動!!!手札を2枚デッキに戻し、デッキから2枚ドロー!!」


さっきと同じに手札のカード2枚をデッキに戻しシャッフル、そしてデッキのカードを2枚ドロー。



佐渡「リバースカードを2枚セットし、ターンエンドだわ!!」




わたしはターンを終了した。――次のターン、場合によっては今の死愚魔のターンで決着がつくかもしれない。





死愚魔「我の、我の、我の、タアンッ、ドロォォォォー!!手札から大嵐発動ぅぅぅ!!!」




死愚魔は太い指でカードを引く。そして手札の中からカードを選び、その内、1枚を魔法・罠(マジック・トラップ)ゾーンにセットする。あたかも太古からの営(いとな)みかのように。




大嵐 魔法
魔法・罠ゾーンに存在するカードを全て破壊する。



ソリッド・ビジョンの風が吹き荒れてきた……。



――ゴオォォォォー


だがわたしはひるまない。



佐渡「想定内よ!!マジック・ジャマー発動ぉっ!!」





マジック・ジャマー カウンター罠
自分の手札を1枚捨てる。その後、魔法カードの発動を無効にする。



わたしは手札からカードを1枚、デュエルディスクの墓地ゾーンに捨てた。



佐渡「マジック・ジャマーの効果で手札を1枚捨てた。よって大嵐は無効!!」


さっきまで、ものすごい音をたてていた風が一瞬にして消え去った。





死愚魔「ギュウウウウ、ハハハハハハハさらにサイクロンを発動ぉぉぉ!!」





サイクロン 速攻魔法
全フィールド上の魔法、罠カード1枚を破壊。


佐渡「………。」




わたしはただ沈黙している。






死愚魔「ギュハハハハハ。」




死愚魔は人差し指でおでこをおさえながら、推理をするような口調で言った。



死愚魔「ギュハハハハハ!!今、佐渡嬢のフィールドには、魔法・罠カードが3枚……。」



死愚魔のセリフに対してわたしは、挑発するかのように言った。



佐渡「フフ…そしてハネクリボーが攻撃表示で1体、これがどういう事か分かるかな?」



死愚魔「ギュへへ、分かっているじょ……!!!つまりハネクリボーLV10を発動するのが目的だじょ。」



ハネクリボーLV10とはハネクリボーの進化形態で相手バトルフェイズ時にその身を生け贄に捧げる事で相手モンスターを全て破壊する上に、その破壊したモンスターの攻撃力合計分のダメージを相手に与える効果を持つモンスターだ。



死愚魔「そして、そして、そして、それを出すには進化する翼が必要だじょ。つまりリバースカードの内、1枚は進化する翼だぁぁぁ!!そして、進化する翼のコストは手札2枚で、今は1枚足りないから2枚目は強欲な瓶か無謀な欲張りあたりのドローカードだじょ!!そして、残りの1枚はブラフ………。つまりブラフ以外のカードを破壊すればコンボは成立しない。確率にして3分の2だじょぉぉぉぉぉ!!!」




死愚魔は自信満々に宣言した。




佐渡「へぇ、意外と鋭いな……。」







死愚魔「ギュハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!某々高校(ぼうぼうこうこう)二年B組で15番目のギャンブラーと呼ばれるこの我が、我が、我が、3分の2の確率で外す訳ないじょギュフフハハハハハハ!!!一番左のカードを破壊ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!」






死愚魔の発言とともに竜巻がわたしのリバースカードを襲う。











破壊したカード:強欲な瓶










わたしはがっかりしたようにつぶやいた。



佐渡「あーあ、ハネクリボーLV10が発動できないなぁ……。」



それに対して死愚魔はハイテンションだ。





死愚魔「ギュハハハハハハハハハハハハ!!!!残念だったなぁー、まだ負けは決まった訳じゃないから落ち込むなじょー。」






佐渡「いや、負けるな………。」





死愚魔「ギュハハハハハ、何言っているじょ!!!まだ佐渡嬢のライフは6900もあるじょ。では、ラビエルでハネクリボーに攻撃だっつーのぉぉ!!てぇんかぁいじゅうぅりぃんけぇん!!!!!!」



死愚魔は攻撃宣言をした。そして、ラビエルはまた拳を振る。


佐渡「ふっ………。負けたのは貴様さ………。」



わたしは平然とした顔でささやいた。




死愚魔「ギュハハハハハ、何を言っているじょ、だからハネクリボーLV10は発動しないんだじょ。」




死愚魔は小馬鹿にしたように笑っている。




佐渡「たしかに、ハネクリボーLV10が見たい気分だったけど残念だ……。でもデュエルに勝つには別にハネクリボーLV10意外にも方法があるわ!!!!てゆーか元々わたしのデッキに進化する翼なんて入れてないし。」





死愚魔「ギュッ!?た、確かにそうだったじょー!!!よく考えて見れば、ハネクリボーを表側攻撃表示で召喚したのもフェイク……。」





佐渡「今頃気づいたか。ちなみに、残りのリバースカードはディメンション・ウォールと破壊輪だ。」



わたしは「ご名答!!」とも言いたげな顔で言った。





佐渡「リバースカードオーブン!!!ディメンション・ウォール発動」









死愚魔「ちょっ、待ってくれじょ!!それはあんまりだじょ。許してちょんまげだじょ!!!」


ディメンション・ウォール 罠
相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。この戦闘によって自分が受ける戦闘ダメージは、変わりに相手が受ける。








わたしの前に時空の歪みが現れ、ラビエルの攻撃は死愚魔に直撃した。









――ズガガァァ!!





死愚魔「ギュエエエエェェェェェェェェェェ!!!!!!!!」




死愚魔の断末魔が続き――










死愚魔LP0


第十三章 守るべきキミ

7月17日(金)午後8時05分
龍河町


辺りはすでに真っ暗で、街灯の光だけが頼りだ。気温は20度ぐらいだと思う。

僕は、銀色で後ろ髪が複雑にわかれているのと眉間(みけん)寄りに鋭い目つきが特徴の友人――剣護君と誰もいない路上を歩いている。

簡単に説明すると帰宅の途中なのである。

?「――おい岸磨(がんま)、この嬢ちゃんの手足を縛(しば)れっ!!」

僕達の歩く道の約20メートル先の左側には公園がある。そしてその公園の方向から、乱暴な人物を連想させる内容の低い声がかすかに聞こえた。


豪「な、なんだ!?」
剣護「気になるな。おい豪、ちょっと行ってみようぜ!!」

僕達は驚きを隠せずに、お互いの顔を見つめ合っていた。――数秒後、その約20メートル先の公園へ駆け出し、入り口の門の角で立ち止まった。



入り口の左右には龍河東公園と印された石のプレートが貼らさっている門がかまえている。

公園の中の様子はというと――中央に少女1人と20〜30代ぐらいの男2人が向き合っていた。少女は小柄で身長140センチ、赤色のサラサラしたミドルヘアーが特徴だ。
そして、水色の長袖に淡いピンク色のジャケット、下は藍色(あいいろ)のミニスカートを身につけており、茶色の革ブーツをはいている。

少女「――わ、私を……ど、どうするつもりなのよっ!?」

少女は青ざめた顔で眉間にしわをよせ、露骨(ろこつ)に嫌悪感を示している。――無論、温厚とは呼べないムードだ。

岸磨「キキッ、悪いな……俺はお宅のゼニにしか興味ないからよぉ、おとなしくしていれば痛い思いだけはせずに済むぞぉ。キキッ!!」

片方の身長190センチぐらいの黒いコートを着た2人の男が少女に近づいた。


岸磨「辺江太(べえた)、分け前は半分だぞ、キキッ。」

岸磨の問いかけに辺江太は「ああ」とうなずいた。その後、辺江太は脅える少女を無理矢理抱き抑え、岸磨はポケットから縄を取り出して両脚を縛り始めた。

少女「い、痛っ……や、やめなさい…よ……。」


岸磨は少女の両膝とふくらはぎに縄をグルグルと10回ぐらい回した後、絶対手ではほどけない程固く結びつけた。縄は抑えるというよりも痛めつける役割をはたしており、か細い少女の肌に食い込む様子はとても痛々(いたいた)しかった。


少女「やっ……!!そ、そんな――」

少女は縄をゆるめようと必死に脚を広げるが、余計に肌が締め付けられ、悲鳴があがる。

少女「うあぁっ!!」

辺江太「動けばよけい苦しくなるだけさ。おとなしくしていな!!」
少女「…………。」

辺江太の乱暴な言い回しに恐れているのか少女は急激におとなしくなった。

続けざまに岸磨は少女を仰向けの状態で抱き抑えながら地面に寝かせ――辺江太はで両側の手首を少女の頭の上で縛りつけた。

両脚と同様に充血する程固く結ばれた。仰向けの状態で立ち上がる事もできず、本人からしてみれば相当の屈辱(くつじょく)だろう。



少女「た、助け…て。」



入り口の門の角で覗いていた僕たちは、絶句していた。

豪「は、早く助けないと……。」
剣護「そうだな……、とりあえず警察を呼ぼう!!」

僕達は向こう側の人達に聞こえない音量で相談していた。


その瞬間――



岸磨「キキッ、そこのガキ共ぉ……隠れてないで出てきな!!」


豪、剣護「……!?」




――見つかってしまった!?

僕の頭の中は焦りの感情だけが無限に広がった。

2人の男は少女から離れ、僕たちに歩み寄って来た。


岸磨「キキッ、見てしまったようだなァ。」
辺江太「悪いが貴様等は始末してやらなければならない。」


威圧的な振る舞いで僕達に話しかける。

剣護「い、一体何が目的なんだ?」


剣護君はやや緊迫した口調で2人の男に問いかけた。

辺江太「おじさん達はこの嬢ちゃんを誘拐するつもりだ。――そして、少年とはいえ目撃されたのは不都合なことでな……。」
岸磨「キキッ、覚悟しなぁ!!キキィィィィィィィィィィィッ!!」



岸磨はセリフを吐きながら剣護君の顔面に拳を向けた。


それに対し、剣護君は身をかわした。


剣護「くっ、豪!!――お前は……うわっ、あの娘を連れて逃げろ!!」

岸磨と格闘をしながら僕に呼びかける。岸磨の長いリーチから打たれるパンチはかなり速く、剣護君はかろうじてよけている感じだ。


豪「で、でも……」



僕はどうしてよいのか分からずに立ち尽くしている。


――ここで逃げれば剣護君が危ない、


――しかし向こうの少女を見捨てるわけには行かない。




辺江太「おっと、逃がしはしない……。」


僕はパニックのあまり、辺江太の存在を忘れていた。――そして背後から押さえつけられ地面に押し倒された。

豪「なっ!?し、しまったぁ!!」

僕は辺江太に背後から両腕を押さえつけられでいる。

剣護「俺にかまわないで早く行けぇぇ!!!!」

剣護君の絶叫のような大きな声を聞き、僕は自分でも信じられない力で辺江太を振り払った。


辺江太「ぐおっ!?――ちっ、やられた!!」


僕は無我夢中で少女の方向にダッシュした。



岸磨「キキッ!喰らえェ!!」

岸磨の拳がミシッというきしむ音と共に剣護君の顔面にヒットした。


剣護君「ぐあぁっ!!」



豪「……剣護君!?」

僕は走りながら後ろを見回すと岸磨の攻撃により剣護君は地面に激突していた。


辺江太「忘れるな!貴様の相手はこの私だ!!」


隙あらば辺江太が僕を追いかけて来る。

豪「ごめんっ……。」

僕は全力で駆け抜けて、50メートル先の少女の下(もと)にたどり着いた。


少女「――わ、私を助けてくれるの……?」

少女は少し身構えた口調で僕に問いかける。
あの男達に拘束されていたのだから無理もない。

豪「――そ、そうだよ、早くここから逃げよう!!」


僕は息切れをも忘れて、目の前に倒れている少女に呼びかける。

少女「あの、その、……あ、ありがとう。」

少女は顔を赤くして照れくさそうに言う。


辺江太「はぁ…はぁ、さっきはしくじったがここまでだ!!」

数秒もしない内に辺江太に追いつかれてしまった。僕達と辺江太の距離は2メートル程あるが、僕にはもっと短い距離に感じた。

豪「うぅ……。」

僕は辺江太の圧力的な気迫に一歩退いた。

少女「――やめて!!この人は関係ないじゃない!!」

辺江太「ガキの分際ででしゃばるな!!嬢ちゃんだって人の心配はできないはずだぁ!!」

辺江太は怒りに狂った顔で罵声(ばせい)を上げる。僕達は体の震えが止まらない。

豪「くっ!」
辺江太「私を本気で怒らせた事を後悔させてやる。死ねえェェ!!!!」

辺江太は内ポケットから折りたたみ式の果物ナイフを取り出し、刃を展開した。――もちろん、そのナイフの切っ先は僕に向かっている。

辺江太「クルァエエェェェェ!!!!!!」


比較的物静かだった辺江太が、感情むき出しの形相になる。そしてナイフ突き刺し、僕の首を目掛け突進してくる。

少女「お願い、逃げてぇ!!!」

豪「う、う、うあああああああああああああ!!!!!」


――夢中だった。


少女の悲痛な叫びに耳も傾けずに、僕は辺江太の懐に入り込み鳩尾(みぞおち)を右手で殴った。打ち込むというよりは叩きつけるに近い。











辺江太「――ウグッアア……!!」


辺江太は前かがみに倒れこんできた。僕は無意識に二歩後退した。








豪「はぁ……はぁ……?」

僕は状況を把握するのに数秒かかった。前を見てみるとうずくまっている辺江太が腹を抱えている。


豪「――ウグッ。」

気がつくと右手の手首に激痛が走る。よっぽど下手に殴ったから、その時の反動がきたのだと思う。

少女「だいじょう……ぶ?」

少女は心配そうな僕を顔で見つめる。手足を縛られながら仰向けに倒れているのは変わらないが、特別目立った外傷は無い。

豪「僕は大丈夫だよ。」

僕は少しの間、緊張が和らいだ。





――剣護君は?



僕の脳裏にその事が浮かんだ。

豪「……待っていて、すぐにその縄をほどいてあげるから。」

僕は少女にそうつぶやくと、岸磨と格闘中の剣護君がいる公園入り口へ向かった。


――その瞬間


辺江太「まだだぁぁ!!!この程度の苦しみがなんだぁぁぁぁ!!!!!」

辺江太は狂ったような形相で立ち上がり、ナイフを突きつける。

豪「なっ!?」
少女「ひっ!?」

僕達は目の前の男に恐怖を感じた。


――憎悪

――憤怒

――嫉妬

それらの奴隷(どれい)なのかのようにも思える様態(ようたい)だった。


剣護「俺を忘れるなぁ!!」

突然、剣護君の声が聞こえた。その声はバリトンの音程で荒々しくも、温かみがあった。

少女「――!?」
辺江太「――グアアァァ!!」

剣護君は細長い金属の棒で辺江太の後頭部をしたたかに叩いた。






豪「――剣護君!?」

僕はあっけにとられている。

剣護「ふぅ、危なかったな。」
豪「ぼ、僕達生きているの!?」


――今度こそ本当に終わった。


僕の全身から力が抜けた。


剣護「――ぼ、僕"達"って勝手に俺まで殺すな!!」

剣護君は安堵の表情でいる僕を指差してつっこんだ。――それに対して僕は愛想(あいそ)笑いで謝る。


豪「ところでその手に持っているの何?」


少女「あの……。」

剣護「ああ、この引き延ばし式の金棒の事か。どこぞの副部長からの攻撃へのガード用に持ち歩いていたんだかまさかここで役に立つとはな。岸磨もこれ一撃で撃沈だったしな!!」
豪「は、はははは……;」

少女「あの〜……。」

豪「とにかくここから逃げたがいいんじゃない?」

いつ、辺江太が目を覚ますかわからないから僕はこの場を逃げた方が良いと思った。

僕の問いかけに対して剣護君は予知していたかのように僕に言う。

剣護「ああ、そうだな。ここから逃げた方がいいな。」

少女「だ、だから、あの〜……。」


豪「うん、行こう!!」


少女「え?いや、だから私は……?」


僕達が公園から立ち去ろうと歩き始めた。


少女「だから、私はー!?」

少女は焦った顔で僕達を呼び止める。

剣護「あ、ごめん忘れてたぜ!!」
豪「あ、僕も……。」


僕達は「テヘヘ」ともいいたげに右手を後頭部にあてながら、謝った。

少女「えぇ!?女の子が、こんな恥ずかしい姿をさらしているってのに忘れてたってどういう事なのよ!!?これギャグ?コント?そうなの?あまりにも、あまりじゃない!!」

少女は今でも手足を縛られた状態だ。――そして、鋭い眼孔で、勢いよくツッコミを入れた。


剣護「ははは、場を和ませるための冗談だ!!」
豪「うん、僕もつい乗っちゃっただけだよ、ごめん。」


僕達はまたしても「テヘヘ」といいたげに後頭部に右手をあてた。

少女「じ、冗談じゃないわよ!!……ま、まあ助けてくれたのは……あ、あり…がと…ね。」

少女は恥ずかしいのか、最後の"ありがとね"の部分はかろうじて僕の耳に届くぐらいの小ささだった。

豪「こちらこそキミを助けられて嬉しかったよ。」

それまで僕は少女を助ける事に夢中で気づかなかったが、なぜか彼女の言葉を聞くと心のどこかが癒されている気がした。

その後、僕は気絶している辺江太のナイフを借りた。そのナイフで少女の脚、手首を縛る縄を順に切った。少女は首輪から解放された犬のように勢いよく立ち上がった。

その間、剣護君は携帯電話で警察を呼んだ。ちなみにこの時代の携帯電話はクレジットカード並みに薄く、液晶画面の代わりにソリッドビジョンのモニターを展開して操作をする仕組みになっている。





剣護「ふぅ、これで一安心だな。」

剣護君がため息をついた。本当に全て終わった。


?「ウォォォォ!!!!くりえぇぇ!!心配したぞい!!」
少女「お、おじいちゃん!!!」

突然、裏側の入り口から70代ぐらいの黒いスーツを来た男性が現れた。ひ弱そうな見た目とは裏腹に声が異常にデカい。驚いている少女のセリフを聞く限りでは、彼は彼女の祖父である事がわかる。また、くりえとは彼女の名前の事だろう。

老人「嗚呼、聞いたぞくりえや、ケガはないかのぅ?くりえに何かがあったらおじいちゃんは、おじいちゃんは……。」
くりえ「あ、安心してよじいちゃん。私は大丈夫よ。」

老人は少女に近づき、すこぶる心配そうな表情でくりえちゃんを見つめる。それに対して、くりえちゃんは「テヘヘ」ともいいたげに後頭部に手を当てた。この瞬間に、彼女の笑顔をみた気がする。

豪「よかった……。本当によかった。」

僕にはくりえちゃんの笑顔がとても輝いて見えた。
豪(な、なんだ!?この気持ちは……。)

なぜか僕の心臓が高鳴っていた。

くりえ「もう〜、おじいちゃんは心配しすぎなんだよ、アハハハハ。」



僕はしばらくの間、目の前の少女を見つめていた。この時にはまだ、僕の彼女に対する想いに気づいていなかった……。


第十四章 守るべきキミU

7月17日(金)午後9時00分
瑞縞宅(みずしまたく)・くりえの部屋

豪「…………。」
くりえ「…………。」

………………。

くりえ「…………。」
豪「…………。」
くりえ「…………。」
豪「…………。」
くりえ「…………。」
豪(気まずい……。)
くりえ「…………?」
豪「…………。」
くりえ「…………。」

ここはくりえちゃんの部屋。10疊ぐらいの広さの洋室で、中央には木製の高さ40pぐらいのテーブルがある。テーブルの左右には白いソファーが2つずつ並んでいる。壁の随所には学習机、セミダブルのベッド、タンスが3つ、鏡の高さが約1メートルぐらいの化粧台(けしょうだい)が広々と並んでいる。床にはカーペットがしかれている。どれも高そうで、同じ空間にいるだけで少し緊張する。そして僕達はソファーに向かい合って座っているけど――

豪「…………。」
くりえ「…………。」
豪「…………。」
くりえ「…………。」
豪「…………。」
くりえ「…………。」
豪「…………。」
くりえ「…………。」
豪「…………。」
くりえ「…………。」
豪「………。」
くりえ「……。」
豪「…。」
くりえ「…………………………。」















ー続くー


第十五章 守るべきキミV

豪「……………………………………………………。」
くりえ「………………………………………………………………………………。」


――話題が見つからない、

――沈黙だけがただ続く。


僕は改(あらた)めて自分の口下手(くちべた)を実感した。とにかく僕達はただ見つめ合っている。唯一聞こえるのはソファーのきしむ音。僕達は沈黙の長さをひたすら競っている

――くりえちゃんの誘拐事件の後、僕と剣護君は彼女を助けたお礼に、くりえちゃんの家に招待された。もちろん辺江太と岸磨は警察に逮捕された。

おじいさんの名前は瑞縞庵田(みずしまいおた)で孫のくりえちゃんのフルネームは瑞縞くりえである。彼女は現在13歳で雀宮女学校(じゃんくじょがっこう)の一年生だ。7歳の頃に両親を亡くしたため、現在では庵田(いおた)さんの元で生活しているらしい。

庵田さんは日本でも有数の大手企業【PRO多電気(ぷろたでんき)】の社長である。【POR多電気】は主に電化製品の開発をしている。近年ではソリッド・ビジョンの開発に成功し、他社への技術提供により多額の利益を得ている。

そのためか今僕が入らせてもらっているこの家も以上に大きい。西洋風の白い外装の屋敷が果てしなく広がっている。例えるなら一般的なビジネスホテルぐらいの大きさだろうか。内部も所々に大理石が散りばめられている。床には深紅のカーペット、天井にはシャンデリア等むしろホテルと間違えそうな豪華さだ。

それから、庵太さんは僕と剣護君をくりえちゃんの部屋に呼んだ。庵太さんいわく、彼女は人見知りな性格だけど恩人の僕達なら友達になれるのかもしれないかららしい。「でも、ワシの孫に手を出したら容赦はせんぞい」と軽く釘を刺されながらも溺愛(できあい)孫の部屋に初対面(しょたいめん)の僕達を入らせてくれるあたり僕達の事を信用し、感謝しているのかも知れない。


部屋に入ろうとした瞬間、剣護君がお腹を抱えながら「くっ、やっぱりモウヤンのカレー5杯は食べ過ぎだったぜ。」と言いながらトイレに向かってしまった。


――そして、


僕と彼女、2人っきりの部屋で向き合いながらソファーに座っている。その状態が数分続く――

豪「…………。」
くりえ「…………。」


豪「あっ!」


僕のつぶやきが長い沈黙に終焉を迎えた――制服であるブレザーのポケットからデッキケースがジュータンにポロリと落ちたのである。デッキケースは座ったままだと手の届かない位置に落ちたので僕は立ち上がり、少し歩いて中腰で地面のデッキケースをつかんだ。


くりえ「あの、あなたもデュエルモンスターズをするの?」

彼女はやや緊張した口調でデッキケースをポケットに入れようとしている僕に話しかけた。

豪「う、うん、そうだけどキミも?」

彼女と同様に緊張した口調で返事を返す。



………………。



しばらくの間を開けて、再び彼女は口を開く――

くりえ「あの、け、剣護君が帰ってくるまで時間があるし、デュエルをしません……か?」

豪「ま、まぁ……う、うんいいよ。」

この気まずい雰囲気を回避するにはこうするしかなかった。恐らく彼女はこんな心境だったのだろう。

彼女は僕に微笑を見せてから、部屋にある学習机の引き出しの中からデッキと二人分の布製デュエルフィールド、ライフ計算専用の電卓を取り出し元の席に着く。そして、デュエルフィールドの片方を僕に向けた。


くりえ「これ、どうぞ。」
豪「ありがと……。」

僕達の緊張は少しずつほぐれてきた。


――今はうまくは話せない


――けど彼女となら仲良くなれそうな気がする


そんな考えを持ちながら、僕達は机にデュエルフィールドを広げ、デッキをよくシャッフルし、デュエルフィールドのデッキゾーンに裏向きで置き、融合デッキも同様に融合ゾーンに置いた。


――そしてデュエルが始まる



豪LP8000
くりえLP8000


くりえ「わたしの先行ドロー。――モンスターをセット、リバースカードを2枚セットしてターンエンド。」

くりえちゃんはカードを数秒見つめた後、モンスターゾーンに1枚、魔法・罠(トラップ)ゾーンに2枚カードを置いた。

僕はドローフェイズの前に軽く自分の手札を確認した。





ワイト
地 星1 攻300 守200
アンデット族
世にも恐ろしい骸骨のおばけ。守備状態の究極宝玉神を破壊する力を持つ。


愛の叙事詩 魔法
自分はライフを50ポイント回復する。


ふつうせんし
地 星1 攻400 守100
戦士族
ただの戦士


ロスト 罠
相手の墓地のカードを1枚ゲームから取り除く。


カジェット・ソルジャー
炎 星6 攻1800 守2000
機械族
戦うために造られた機械人間。絶対にさびない金属の装甲を持つ。



豪「……!!!!?」

僕は手札を持っていない右手で目をこすり手札を凝視した。


ワイト
地 星1 攻300 守200
アンデット族
世にも恐ろしい骸骨のおばけ。守備状態の究極宝玉神を破壊する力を持つ。


愛の叙事詩 魔法
自分はライフを50ポイント回復する。


ふつうせんし
地 星1 攻400 守100
戦士族
ただの戦士

ロスト 罠
相手の墓地のカードを1枚ゲームから取り除く。


カジェット・ソルジャー
炎 星6 攻1800 守2000
機械族
戦うために造られた機械人間。絶対にさびない金属の装甲を持つ。




今の心境をあえて例えるなら、ロールプレイングゲームで数時間かけてやっと敵を倒したのにセーブをしないまま電源を切ってしまった時のパニック状態に等しい。もっと簡単に言うならプールの中央で足をつった時のパニック状態だ。

僕はインターネット検索サイトのように、過去の記憶の中からこの状況に至る要因を脳内からサーチした。――そして検索結果は一つにしぼられた。


豪(そうか!学校から家に帰って焼き肉屋に出かけたときにデッキを間違えたんだ!)

僕は納得した。

くりえ「あの〜、あなたのターンですけど……。」

彼女はオロオロしながら僕を見つめる。

豪「あ、ごめんごめん。」

僕はあわてて返事をする。――そして考える。


豪(これ、寄せ集めで作ったお遊びのデッキじゃないか。この手札はヤバいよ……。)

僕は必死に考える。


――この状況を打破する方法を


そして、自分に念を入れる。

豪(うん。僕はこのドローにかける!!デッキから当たりカードを引く確率なんて、自分が考えたカードゲームのオリカと名前・ステータスが全く同じのカードが本当にできてしまう確率に比べたら断然(だんぜん)高いじゃないか!!)

決して強がりではない。決して。決して。もう1つおまけに決して強がりではない;

僕は手をデッキの上に置いた。

豪「ドロー!」

僕は細目で引いたカードを覗(のぞ)いた。



――確かに悪いカードではない


――ただ場違いなだけである


僕は引いたカードを見て顔をしかめた。――それに対してくりえちゃんは僕を動きをうかがっている。

僕はそのまま引いたカードをモンスターゾーンに置く。

豪「生け贄ゾンビを召喚!!」


生け贄ゾンビ
闇 星1 攻0 守0
アンデット族・効果
このモンスターを1体を生け贄に捧げることでレベル6以上のモンスターを1体特殊召喚する。このモンスターが生け贄に捧げられた時、墓地へ行かずに手札に戻る。


確かに生け贄ゾンビ自体は制限カードにも選ばれる優秀な生け贄要員カードだ。そして、手札にはその恩恵を受けるガジェット・ソルジャーが存在する。ただガジェット・ソルジャーのステータスはレベル6には不似合(ふにあ)いなほど低く、レベル4モンスターの方が強いことさえある。

豪「生け贄ゾンビを生け贄に捧げ、ガジェット・ソルジャーを特殊召喚。」


カジェット・ソルジャー
炎 星6 攻1800 守2000
機械族
戦うために造られた機械人間。絶対にさびない金属の装甲を持つ。


豪「そして、生け贄ゾンビの効果で生け贄ゾンビは僕の手札に戻る!」

レベル6で攻撃力1800は力不足だが、それでもくりえちゃんが召喚した裏守備モンスターの守備力を上回る可能性は大いにあるので一応ガジェット・ソルジャーは召喚しておく。

くりえ「が、がじぇっと・そるじゃー……?」

案の定(あんのじょう)、くりえちゃんは「なぜそんなカードを?」等と考えていそうに首を傾げた。

豪「ガジェット・ソルジャーで守備モンスターを攻撃。」


裏守備モンスター:クリッター


クリッター
闇 星3 攻1000 守600
悪魔族・効果
このカードがフィールド上から墓地に送られた時、自分のデッキから攻撃力1500以下のモンスター1体を選択し、お互いに確認して手札に加える。その後デッキをシャッフルする。

くりえ「クリッターの効果を発動するよ、私はデッキから黒竜の雛(ひな)を手札に加えるわ!」

くりえちゃんはクリッターを墓地ゾーンに置く。そしてカードテキストの指示に従いデッキから黒竜の雛を取り出してデッキをシャッフルした。

僕はバトルフェイズを終了する。

豪「手札から愛の叙事詩(ラブ・バラード)を発動。50ライフポイント回復……ハァ;」


僕はあまりの回復量の少なさに虚しさを感じた。




愛の叙事詩 魔法
自分はライフを50ポイント回復する。


豪LP8050


ちなみにデュエル・ディスクを使用するデュエルでは心がいやされる美麗な音楽が流れるが、そもそも音楽鑑賞で体力を回復する考えがあまいと思う。

くりえ「……?」

くりえちゃんはまるで、道端で出会った知らない人にいきなり「よお!」と声をかけられて不意(ふい)に「やあ!」と返事をしてしまい、相手が立ち去った後から「あいつ誰だっけ?」と考え始める人間のような顔つきで首を傾げた。

豪「リ、リバースカードを1枚伏せてターンエンド。」

くりえ「私のターンドロー。」

くりえちゃんはデュエルモンスターズにおいてテンプレート的なセリフを吐いた。そして、少し自信ありげにデッキからカードを引いて手札に加える。

くりえ「フフ、まずは黒竜の雛を召喚。そして、黒竜の雛の効果を発動よ!自身を墓地に送る事により手札から真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)を特殊召喚よ!!」


黒竜の雛
闇 星1 攻800 守500
ドラゴン族・効果
自分フィールド上に表側表示で存在するこのカードを墓地に送る事で、自分の手札から「真紅眼の黒竜」1体を特殊召喚する。


真紅眼の黒竜
闇 星7 攻2400 守2000
ドラゴン族
悲しみの紅に眼を染める黒き翼竜。闇の業火で全てを焼き尽くす。


フィールドに黒竜の雛のカードが置かれたかと思えば、次の瞬間にそれは墓地へ行き、彼女の手札から真紅眼の黒竜のカードが置かれる――そしてまた、彼女の手札から1枚のカードが魔法・罠(トラップ)ゾーンに置かれる。

くりえ「さらに魔法カード、黒炎弾(こくえんだん)を発動よ!!」


黒炎弾 魔法
自分フィールド上に表側表示で存在する「真紅眼の黒竜」1体を選択して発動する。選択した「真紅眼の黒竜」の元々の攻撃力分のダメージを相手に与える。このカードを使用したターン「真紅眼の黒竜」は攻撃できない。


豪LP5650


豪「うぐっ。」
くりえ「さらに、真紅眼の黒竜を生け贄に捧げて、真紅眼の闇竜(レッドアイズ・ダークネスドラゴン)を特殊召喚よ。」


真紅眼の闇竜
闇 星9 攻2400 守2000
ドラゴン族・効果
このカードは通常召喚できない。自分フィールド上に存在する「真紅眼の黒竜」1体を生け贄に捧げた場合のみ特殊召喚する事ができる。このカードの攻撃力は、自分の墓地のドラゴン族モンスター1体につき300ポイントアップする。


くりえ「真紅眼の黒竜は持ち主の墓地に存在するドラゴン族モンスター1体につき攻撃力が300ポイントアップする。私の墓地にドラゴン族モンスターは2体、よって真紅眼の闇竜の攻撃力は3000ポイントよ!!」

真紅眼の黒竜 攻撃力2400→3000


暇なく攻撃宣言を始める。

くりえ「真紅眼の闇竜でガジェット・ソルジャーを攻撃。」

この瞬間――僕の場に伏せているロストを発動して彼女の墓地に存在するドラゴン族モンスターを除外すれば攻撃力を下げる事ができる。しかし300ポイント下がるだけで大して変わらないうえに、このカードは相手の墓地モンスターの蘇生を妨害する等、もっと有効な使い方が存在するので今は温存(おんぞん)する。


豪LP4450


僕は電卓でライフの計算をした後、ガジェット・ソルジャーを墓地ゾーンに置く。

豪(うぅ、まいったな……。)

デュエルディスクのソリッド・ビジョンによる臨場感(りんじょうかん)はないものの、あまりに際(きわ)どい戦況のため、まるでカードに描かれている真紅眼の闇竜が僕を睨(にら)みつけられているような独特な緊迫感(きんぱくかん)を感じる。

くりえ「ターンエンドよ。」

僕は冷や汗を流しながらデッキに手を添(そ)える。

豪「僕のターン、ドロー。」

僕は恐る恐るカードを引き、内容を確認する。


………………。



豪(ガビーン;)


ドローカード:融合


融合 魔法
融合モンスターカードによって決められたモンスターをデッキ、手札から墓地に送り、融合モンスター1体を融合デッキから特殊召喚する。


豪「モ、モンスターをセット、ターンエンド。」

焦る気持ちを抑えてカードをモンスターゾーンに置いた。

もう、泣きたくなってきた;――心拍数が急上昇し、両手両足の震えが止まらない。これは決して怖いわけではないです。む、武者震いです、武者震い……。例えるならば、筆記試験で自分の隣の席の人が字を書くスピードがスゴく早くて、自分も急ごうとする対抗意識に燃える震えと同じです。





くりえちゃんはだんだんテンションが上がってきたのか、だいぶ機嫌のよさそうな顔で勢いよく手札を引く。



くりえ「クスッ、私のターンね、ドロ〜♪」
豪「い、今更言うのもなんだけど、遊びだし気楽にやろうよ、ハ……ハハハハハハ…ハ……ハ……;」
くりえ「え?でも豪君って確かOCG部やっているし、私なんかが本気を出さないと相手にすらならないんじゃないの?」

豪「ま、まぁそうだね。ハハハ、ドンと来ーい!!(い、言っちゃたぁ……)」




もう誰でもいいから助けて欲しいです。悪魔でも死神(しにがみ)でもかまいませんから。助けてくれた方には十円あげますから。やっぱり十円は少ないかな?いやでも、こんな所で全財産はたいてもわりに合わないし十円ぐらいが妥当(だとう)だと思うけど……。ってすごい変な考え事をしているな、僕。

気がついたらくりえちゃんは魔法カードを発動していた。

くりえ「スタンピング・クラッシュを発動!」
豪「きゃー……。」

スタンピング・クラッシュ 魔法
自分フィールド上に表側表示のドラゴン族モンスターが存在する時のみ発動する事ができる。フィールド上の魔法・罠カード1枚を破壊し、そのコントローラーに500ポイントダメージを与える。


豪「スタンピング・クラッシュにチェーンしてロストを発動!!」


ロスト 罠
相手の墓地のカードを1枚ゲームから取り除く。


豪「ロストの効果で墓地の真紅眼の黒竜をゲームから除外。」

くりえちゃんは墓地から真紅眼の黒竜のカードを取り出し、除外ゾーンに置く。墓地のドラゴン族モンスターが1体減ったため、真紅眼の闇竜の攻撃力もまた変動する。


真紅眼の闇竜 攻撃力3000→2700


くりえ「うぅ……。だ、だけどスタンピング・クラッシュの効果も発動するよ。豪君のロストを破壊し、500ポイントダメージを与えるわ。」


豪LP3950


「僕はこのカードだけは最後までとっておく」なんて気取っていたけど全く意味なかった。もしも発動していれば計800ライフポイント節約できていた。


――でも、失敗した過去はやり直せない


――過去の経験から学び


――それを現在の糧(かて)にし


――未来に紡(つむ)ぐ事しかできない


これはカードゲームのみならず、人生の全ての場面に当てはまると僕は信じている。


くりえ「真紅眼の闇竜で裏守備モンスターに攻撃するよ。」


くりえちゃんはバトルを始め、真紅眼の闇竜で裏守備モンスターを攻撃する。


裏守備モンスター:天才野球少年 ゴロー


天才野球少年 ゴロー
地 星1 攻400 守100
戦士族
世界一のベースボールプレイヤーを目指す少年。必殺技は球速1000qの「ソニック・ジャイロボール」。



くりえ「ゴローを破壊。」

僕はゴローを墓地に置いた。


くりえ「ターンエンドよ。」



豪LP3950
手札4枚
モンスター
無し
魔法・罠
無し

くりえLP8000
手札2枚
モンスター
【真紅眼の闇竜】
魔法・罠
リバースカード2枚


豪「(そうだ、ここから逆転が始まるんだ!!)よし、今からはデュエリストレベルMAX(マックス)で行くよ、僕のターンドロー!!」


僕はためらいもなくカードを引き、目に焼き付ける。


ドローカード:ギフトカード


ギフトカード 罠
相手3000ライフポイント回復する。


――僕は何がしたいのだろうか?


豪「(い、いや、あ、諦(あきら)めるのはまだ早い!)モンスターをセット、ターンエンド。」

(恐怖じゃなくて武者震いで)震えていた手足も完全に治まったところで僕は自分の手札からカードを1枚取り出し、モンスターゾーンに裏表示で置く。――そして彼女はデッキに手を触れる。


くりえ「よ〜し、私のターンドロー!」
くりえちゃんは引いたばかりのカードを丸い目で数秒見つめ、それを僕に突きつける。

くりえ「ごめんね☆魔法カード――陰気な壺を発動!!」

くりえちゃんは悪気はないとうったえるような笑みで僕のデッキの1番下からカードを引く。


陰気な壺 魔法
相手のデッキの一番下からカードを1枚を相手に見せてから自分の手札に加える(この効果で手札に加えたカードは墓地に送られた時は元々の持ち主の墓地へ置く)。


豪「本当に陰気なカードだな……。しかも、ここで強欲な壺を引かれるなんて事があったらヘコむな。でも、本当にありそうだな……。」
くりえ「さて今、豪のデッキから引いた強欲な壺を発動!!」


豪「おろ?まさか本当に強欲な壺を持ってかれるとは!!こりゃ一本とられたぜ、ウッヒョー!アヒャヒャヒャヒャヒャ。」

くりえ「いやー照れるぢょ!!にょほほ。ドロー最高〜!ウヒッ!!」

自分で言うのもあれだけど普段からあまり冗談とか言わないというより無口で人見知りな自分がここまではっちゃけるのは異様だった気がする。

豪「――ハッ……!!」
くりえ「――ハッ……!!」

ようやく自分達の異様なテンションに気がついた――


………………。


豪「…………;」
くりえ「…………;」


急に恥ずかしさがこみ上げて来た。僕達は思わず、誰かに立ち聞きされていないかと部屋のドアを確認した。ちなみにドアも結構豪華でドアノブの金属が異常に輝いている。


くりえ「い、今のはお互い聞かなかった事にしようよ。」
豪「そ、そうだね……。」


強欲な壺 魔法
自分のデッキからカードを2枚ドローする。


彼女はあたかも太古からの営(いとな)みのようにカードを2枚引く。その後、手を伸ばして強欲な壺を僕の墓地に置いた。わりと几帳面(きちょうめん)なのかカードの向きを揃えて少しずれている墓地のカードの束を整えた。

くりえ「手札からH(エイチ)ーヒートハートを発動!!真紅眼の闇竜に使うわ。」


Hーヒートハート
自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動する。選択したモンスターの攻撃力は500ポイントアップする。そのカードが守備表示モンスターを攻撃した時、その守備力を攻撃力が越えていれば、その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。この効果は発動ターンのエンドフェイズまで続く。


真紅眼の闇竜 攻撃力2700→3200


くりえちゃんは発動終了したHを墓地に置き、さらに手札から1枚のカードを出す。

くりえ「漆黒の闘龍(ドラゴン)を召喚!!」


漆黒の闘龍
闇 星3 攻900 守600
ドラゴン族・ユニオン
1ターンに1度だけ自分のメインフェイズに装備カード扱いとして自分の「闇魔界の戦士 ダークソード」に装備、または装備を解除して表側表示で特殊召喚する事ができる。この効果で装備カードになっている時のみ、装備モンスターの攻撃力・守備力は400ポイントアップする。守備表示モンスターを攻撃した時にその守備力を越えていれば、その数値だけ相手に戦闘ダメージを与える。(1体のモンスターが装備できるユニオンは1枚まで。装備モンスターが戦闘によって破壊される場合は、代わりにこのカードを破壊する。)


豪「あぅ……。」



くりえ「まずは真紅眼の闇竜でリバースモンスターを攻撃。」


裏表示モンスター:ワイト


ワイト
地 星1 攻300 守200
アンデット族
世にも恐ろしい骸骨のおばけ。守備状態の究極宝玉神を破壊する力を持つ。


守備力200のワイトじゃ到底太刀打ちできない。

くりえ「真紅眼の闇竜に使用したHで、貫通効果が発動するわ!」


豪LP950


豪「あいたた……。」


ライフが……;


僕は破壊されたワイトのカードを墓地に置く。

くりえ「そして、漆黒の闘龍で直接攻撃!!」
豪「うわわわ!!」

僕はソリッド・ビジョンによる攻撃もないのに危ない展開に思わずのけぞってしまった。――無論(むろん)、後ろに倒れる僕はソファーの背もたれに受け止めてもらう。


豪LP50


豪「愛の叙事詩に助けられた……。」

くりえ「ふぅ、詰めが甘かったわ……。ターンエンドね。」


真紅眼の闇竜 攻撃力3200→2700


――ヤバイっす


――ヤバイっす


――ヤバイっす


この敗色濃厚(はいしょくのうこう)な状況に再び(武者震いによる)手足の震えが始まった。

しかし、僕は【遊☆戯☆王】を読んだ時の事を思い出した。武藤遊戯(むとう ゆうぎ)、海馬瀬人(かいば せと)、城之内克也(じょうのうち かつや)――激闘を制してきた彼らデュエリストは皆、わずかなライフからの逆転勝利を生み出している。むしろライフが少なくなればなるほど逆転の確率は高い。


――そうだ、今がその時


――ライフ50は勝利への布石!


豪「僕のターン――」

くりえ「…………。」

少しの間を空けてからデッキに手を置き、カードを引く。


豪「ドロー!!」


僕は勇気を持ち、ドローカードを確認する。ラストチャンスでもある《そのカード》を――





ドローカード:手札抹殺


第十六章 守るべきキミW

豪(…………。)

僕は手札を見つめて考え込む――

豪(……うっ、関係ない事を思い出してしまった……。)

急激に僕の思考回路は脱線を始めた――





僕は幼い頃から人見知りが激しく、人との会話が苦手だった。その上、コンプレックスも強かった。


――物覚えが悪く


――不器用で


――運も悪く


――いつも失敗ばかり


世の中に存在する全ての批判(ひはん)が自分に対するものに聞こえた。


――夢?


――希望?


そんなもの、僕にはない――何に対しても消極的だった。そんな劣等に劣等を上塗(うわぬ)りしたような自分が恥ずかしくて、余計(よけい)に自己主張ができず、他人との関わりを極力(きょくりょく)避(さ)けた。確かに僕に話しかけてきたクラスメートもいた。しかしそんな好意でさえ、僕には冷やかしにみえてしまう。そして、そんな考えを持つこと自体が惨(みじ)めだと感じていた。そのため、幼稚園、小学校と孤独(こどく)な日々を過ごしてきた。


――もう、生きたくない


――自分は生きる価値も無い


物心がついてから何回この事を考えただろうか?でも、自殺する事もできなかった。


――ナイフで心臓(しんぞう)をえぐるのは痛い


――屋上から飛び降りるのは怖い


――首を吊(つ)るのは苦しい


――そして何より、自殺なんて無様(ぶざま)で格好悪(かっこうわる)い


神に命という名の見えない鎖(くさり)で、生という名の束縛(そくばく)を受けながら僕は存在していると思っていた。

だけど、中学校では1人の友達ができた。その友達の名は久野剣護。彼は中学二年生に進学してからも1人でいる僕に声をかけてくれた。


剣護『お前の友達になってやる。』


でも、最初は他の人と同様に彼との関わりも拒絶(きょぜつ)していた。いつもこんな僕は周りから罵(ののし)りられ、時にはイジメに値(あたい)する行為も受けた。


――でも、彼は違った


剣護君は決して僕に敵意を向ける事は無かった。どんなに無視をしても僕を責(せ)める事もなく、マヌケな失敗もからかう事なく「気にするな!!」などと励(はげ)ましてくれた。――そんな彼に心を開いたのか、僕は少しずつ彼とは話すようになった。


――勉強の教え合い

――ありふれた世間話


――将来の事


彼との会話が至福(しふく)の時間だった。――また、僕の根暗(ねくら)な性格も少しは緩和(かんわ)されたのか、少しながらも友達ができた。

しかし、その年の夏に悲劇は起きた……


――両親との死別


僕が帰宅した瞬間、家は警察と野次馬(やじうま)に占拠(せんきょ)されていた。僕は両親が何者かに殺されたと聞いて、かるいめまいが襲(おそ)った。目の前が真っ白になるとはこの事だとつくづく実感(じっかん)した。


その後、両親は孤児(こじ)だったため僕に親戚(しんせき)などいるわけもなく、出稼ぎの姉からの仕送りと自分自身の副業で生計をたてている。

親とは会話が少なかったが、実際にいなくなると心ぼそかった。学校のみんなや近所に住む人達があからさまに僕の顔色をうかがうようになったが、それが逆に苦痛だった。


――自分の存在自体がみんな負担みたいで


――弱い自分を晒(さら)されているみたいで


でも、剣護君や僕の友達だけは普通の仲間として僕に接してくれた。

――彼らが心のありどころだった


しかし、僕にもう一つの不幸が訪れた。――ある日、残忍(ざんにん)な性格の《もう1人の僕》が目覚めてしまった……。その時の事は今でも心的外傷(トラウマ)として残っていて思い出したくもない。

それからは完全に他人との関わりを拒絶した。今までの劣等感に加え、誰かを傷つけてしまうかもしれないという恐怖感(きょうふかん)が僕を襲(おそ)って人と目を合わせるだけで頭が混乱し、全身の震えが止まらなかった。意味もなく吐き気をもよおす事もある。――こんな軟弱(なんじゃく)自分が憎かった。心の中で自分自身を傷づけていた。


――僕は何がしたいんだ


――僕は変な奴だ


――僕の頭はおかしい


――僕は何もできないクズなんだ


――早く死にたい、何もためらう事はない


――僕が生きたって誰も喜ばない


自分の心の中の罵声(ばせい)に耐(た)えかねた僕は、ついに自殺までもを試(こころ)みた。


――迷いもためらいもなかった


――本気だった


幸い、その時は剣護君が僕を自殺から救ってくれた。

あの日、もし彼がいなければ僕はこの世界から消えていたと思う。僕は弱い人間だから。僕は弱いから、弱いから、弱いから――





豪(――僕は…これからもきっと、何もできないんだな……。あの日のムハラと戦った後もみんなを守るなんて考えていたけど……やっぱり僕には、それに弱さと戦うなんて事も僕には無理だよ――)

くりえ「あの……。」

僕はいきなり声をかけられた事にあわてて、ソファーから1ミリほど尻(しり)が跳ね上がった。

豪「――え?ぼ、僕のターンだっけ?ごめん、ちょっと考え事をしてた……。」

僕は1分くらい考えこんでいたらしい。

豪(ハァ……、またイヤな事を思い出してしまった……。)



脳内の思考をリセットし、改めて今の戦況を確認してみよう。


豪LP50
手札4枚
モンスター
無し
魔法・罠
無し


くりえLP8000
手札2枚
モンスター
【真紅眼の闇竜】
【漆黒の闘龍】
魔法・罠
リバースカード2枚


……人によって見方は違うかもしれないけど、僕に言わせてみればこれは《ピンチ》と言える。


豪「て、手札から手札抹殺を発動!!」


とりあえず何かこの状況を打破するカードを引かないと負けるので、手札抹殺で手札の入れ替えを目論(もくろ)む。

豪(どうでもいいけど【PRO多電気】って、【POR多電気】と間違いやすい気がするのは僕だけだろうか……。)

僕は意味不明な考え事をしながら、カードを魔法・罠(トラップ)ゾーンに置く。


手札抹殺 魔法
お互いの手札を全て捨て、それぞれのデッキから捨てた枚数分のカードをドローする。


相変わらずくりえちゃんは丁寧に手札を墓地に置き、捨てた手札の枚数分デッキからカードを引いた。それにつられて僕も同じく手札を捨てて、デッキからカードを引いた。



豪(ここで、キーカードが引けなかった負ける……。)


僕は細めでカードを確認した。

…………。





豪「僕は完全究極炎炎竜(かんぜんきゅうきょくかえんりゅう)を召喚!!」



完全究極火炎竜
炎 星1 攻350 守0
炎族・効果
相手の手札が10枚以上の時、このカードの攻撃力は4700ポイントアップする。



豪「リバースカードを1枚セットして、ターンエンド。」


僕がそれぞれのカードをモンスターゾーンと魔法・罠ゾーンに置き、ターンが終了した。

くりえ「私のターン、ドロー。」

そしてくりえちゃんのターンが始ま




くりえ「ねぇ、豪君……。」


豪「ウグァフッ!……ど、どどどどど、どうしたの?」


さっきまで明るい様子だったくりえちゃんが急に改まった表情で僕に話かける。あまりの超展開に僕の頭の思考能力がオーバーヒートを起こしている。

豪(え、いや、その、これは僕のせいじゃない!…よね……。)

くりえ「いきなり……こんなことを言うのも変だけど……私、あなたと出会えて嬉しかったから……。」

豪「え!?」

彼女のセリフがあまりにも唐突(とうとつ)で内容が理解できなかった。

くりえ「な、何回も言わせないでよ!!だから、その……あなたに会えて嬉しかったの……よ。」

彼女は恥ずかしそうに身を縮めながら話を続ける。

くりえ「私、学校でも友達が出来なくて寂しかったの……。お父さんやお母さんが死んでから人が怖くなったの。誰かに殺されたのよ。」


豪「……え!?」


僕も庵太さんから両親が殺された事は聞いていたが殺されたなんて事は聞いていなかった。


豪(僕と同じだ……。)


彼女の話はまだ続く。

くりえ「……人が怖くかったの、……“私も殺されるかもしれない”って――」


二年前――13歳だった僕でさえあんなに辛かったのに、彼女はもっと幼い時に……。


――自分の親が殺されたら


僕もそうだけど、人を信じられなくなるのも無理は無いと思う。



彼女は眉間(みけん)にシワを寄せて僕を見つめる。

くりえ「誰かにやさしくしてもらっても私には何かの罠にみえるの!!――こんなんだから友達なんてできなくて当然よね……。」

豪「…………。」


すでに僕の中では彼女の言葉を聞き逃せないものになってしまった。


――僕と似ているから


――共感できたから


くりえ「私、おじいちゃんやお姉ちゃんだけは信頼できたわ。だからいつも2人に甘えていたの……。でもこのままだといけないと思っていたけど、やっぱり変わる事なんてできなかった――そして今日、誘拐されそうになった時…もう絶望(ぜつぼう)したわ……“もうイヤだ!”“誰かに殺されるぐらいなら今、舌をかんで死ぬ”って――。」

豪(やっぱり僕と同じ……いや、僕より悲しい思いをしている……。)


くりえちゃんの表情が明るくなる。


くりえ「でも、……あなたが必死に私を守ってくれているのを見て思ったの……“あなたなら信じられる”って……。」
豪「…………。」

くりえ「だから…私の友達に……友達に……。」

目線をそらし言葉に詰まっている彼女に僕は冷めた口調でこう言う――

豪「きっと…僕なんかに関わったら後悔(こうかい)する……。僕と関わればいつかキミは…傷づく……。」


くりえ「……え!?」


くりえちゃんは僕のセリフの理解できずにうろたえている。
ひたすら。ソファーのきしむ音だけが続く――


………………。




豪「ごめん……。キミの役にたてなくて……。」


僕は今でも《もう1人の僕》を恐れている。そして《もう1人の僕》が目覚めたら彼女を傷つける事になる。よく分からないけど、目の前のいたいけな女の子を傷つけるのが恐くて僕には耐えられない。

彼女の場合、尚更(なおさら)だった。彼女の辛さは僕だって分かる。僕より辛いのかもしれない。

少なくとも僕はくりえちゃんに特別な想いを抱いている。


――そばにいてあげて


――分かり合いたくて


――守ってあげたいくて


こんな想いは初めてだった。でも、僕が彼女を傷つけると思ったら……



………………。



豪(きっと……関係が深まれば深まるほど……、その分裏切られた時の彼女の傷は深くなるんだ……。)


――だから


――だから


――だから


しばらくの間、僕はうつむいている……。軽い放心状態だった。




………………。




しばらく座ったままの体制だったのか太ももの辺りがしびれてきた。――そのしびれで気を取り戻した僕は彼女を確認する。


くりえ「………………。」


潤(うる)んだ瞳(ひとみ)で下唇(したくちびる)を噛(か)みしめ、うろたえている。











豪「……思考時間はあと30秒だよ。」

くりえ「うえええぇぇぇぇっ!?」


久しぶりにこの部屋に僕の声が響く。――そして、その内容にくりえちゃんの潤んだ瞳は乾き、口を大きく開いてあわてふためく。



豪「ハハハハ、早くしないと剣護君が戻って来ちゃうよ〜。ハハハハハハ!!」

僕は場を和ませる冗談を言いながら吹っ切れたように笑う。

豪「ハハハハハハ。」

僕がこんなに笑うなんて……

――楽しいからじゃない


――悲しい自分を慰(なぐさ)めるために


――笑っていないと涙が出てくるから


――僕はおかしくなっちゃうから


やせがまんをしながら笑う僕を見て悲しそうな目で彼女は自分のターンを続行する。


くりえ「……ドロー。」


豪LP50
手札1枚
モンスター
【完全究極火炎龍】
魔法・罠
リバースカード1枚


くりえLP8000
手札3枚
モンスター
【真紅眼の闇竜】
【漆黒の闘龍】
魔法・罠
リバースカード2枚





………………。


僕の笑いが終わり、せっかく盛り上がっていたムードを一転し、ふたたび沈黙が続く。


くりえちゃんはしばらく悩む――僕のライフは50しか無く、相手には攻撃力2700と900のモンスターが存在するのに、攻撃力350のモンスターを攻撃表示で場に出すのは不自然だからである。


――でも、これはブラフなのかも知れない


――もともと、こっちにはモンスターが2体いるから


――モンスター1体では守りきれないから


――だけど、あのリバースカードがあやしい


――でも、手札抹殺で引いたカードだし


――策(さく)が尽きただけかも知れない


彼女はこんな事を考えていると思う。


僕にとってもこれは賭(か)けだ。僕にとって重要なのは、攻撃してくるのは真紅眼の闇竜(レッドアイズ・ダークネス・ドラゴン)が先か漆黒の闘龍(ドラゴン)が先かである――


と考えているうちにバトルフェイズに突入した。


くりえ「真紅眼の闇竜で完全究極火炎龍に攻撃。」

彼女は、汗でベトベトの白い手で完全究極火炎龍を指差した。攻撃力2700の真紅眼の闇竜に対して僕の完全究極火炎龍の攻撃力は350なので僕は2350ポイントのダメージを受ける。ライフ50の僕がここで攻撃を通したら負け。――だから僕は……リバースカードを発動する。



豪「僕はリバースカード、ドレインシールドを発動。」


ドレインシールド 罠
相手モンスター1体の攻撃を無効にし、そのモンスターの攻撃力分の数値だけ自分のライフポイントを回復する。


僕は続けざまに効果の説明をする。

豪「このカードの効果により真紅眼の闇竜の攻撃は無効になり、さらに僕は真紅眼の攻撃力分のライフ――つまり2700ライフポイント回復するよ……。」


豪LP2750


くりえ「なら、漆黒の闘龍で完全究極火炎龍を攻撃。」

豪「…………。」


豪LP2200

完全究極火炎龍は墓地に置かれる。


くりえ「ターンエンド。」


――もしもこのターン、漆黒の闘龍の攻撃が先だったらドレインシールドを発動してもライフは950でそこに攻撃力2700真紅眼の闇竜の攻撃で僕は負けていた。

くりえ「…………。」


落ち込み気味(ぎみ)のくりえちゃんを尻目(しりめ)にいつもどおりにデッキからカードを引く。

豪「僕のターン、ドロー……、手札から伝播返還(でんぱへんかん)を発動!!」


伝播返還 魔法
フィールド上に存在するモンスターは全て裏守備表示になる。


彼女はカードの効果の指示に従い自分のモンスターカードを裏守備表示にする。

豪「そして、手札からE・HEROバブルマンを特殊召喚。」


E・HEROバブルマン
水 星4 攻800 守1200
戦士族・効果
手札がこのカード1枚だけの場合、このカードを手札から特殊召喚する事ができる。このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時にフィールド上と手札に他のカードが無い場合、デッキからカードを2枚ドローする事ができる。


豪「バブルマンの効果により、デッキからカードを2枚ドロー。」


僕はデッキから今引いたカードの内の1枚をフィールドに置く。

豪「バブルマンを生け贄に、手札からサイレント・ソードマンLV5を召喚――そして、真ん中の裏守備モンスターに攻撃。」


裏守備モンスター:真紅眼の闇竜


くりえ「…………。」

真紅眼の闇竜
闇 星9 攻2400 守2000
ドラゴン族・効果
このカードは通常召喚できない。自分フィールド上に存在する「真紅眼の黒竜」1体を生け贄に捧げた場合のみ特殊召喚する事ができる。このカードの攻撃力は、自分の墓地のドラゴン族モンスター1体につき300ポイントアッップする。


サイレント・ソードマンLV5
光 星5 攻2300 守1000
戦士族・効果
このカードは相手の魔法の効果を受けない。このカードが相手プレイヤーへの直接攻撃に成功した場合、次の自分のターンのスタンバイフェイズ時に表側表示のこのカードを墓地に送る事で「サイレント・ソードマンLV7」1体を手札またはデッキから特殊召喚する。


くりえちゃんは動揺(どうよう)を隠(かく)せずにいながら真紅眼の闇竜を墓地に置く。


豪「ターンエンド。」


僕は無表情にターン終了を宣言した。


くりえ「…………。」

彼女は無言でデッキからカードを引く。

くりえ「リバースカードを1枚セットしてターンエンド……。」


あまりにもターンエンドが淡白(たんぱく)で早すぎる事なんて気にも止めずに僕はカードを引く。

豪「ドロー。」


豪LP2200
手札2枚
モンスター
【サイレント・ソードマンLV5】
魔法・罠
無し


くりえLP8000
手札3枚
モンスター
リバースカード1枚
魔法・罠
リバースカード3枚


豪「手札からカードエクスクルーダーを召喚。」


カードエクスクルーダー
地 星3 攻400 守400
魔法使い族・効果
相手の墓地に存在するカードを1枚選択しゲームから除外する。この効果は1ターンに1度しか使用できない。


手札から幼い魔術師の少女が描かれているカードをモンスターゾーンに置いた。――そして僕は最後の1枚の手札を魔法・罠ゾーンに置く。

豪「手札からデーモンの斧(おの)をエクスクルーダーに装備。」


デーモンの斧 装備魔法
装備したモンスターの攻撃力は1000ポイントアップする。このカードがフィールドから墓地に送られた時、モンスター1体を生け贄に捧げればデッキの一番上に戻る。



カードエクスクルーダー 攻撃力400→1400


豪「エクスクルーダーで裏守備モンスターを攻撃。」

裏守備モンスター:漆黒の闘龍


漆黒の闘龍
闇 星3 攻900 守600
ドラゴン族・ユニオン
1ターンに1度だけ自分のメインフェイズに装備カード扱いとして自分の「闇魔界の戦士 ダークソード」に装備、または装備を解除して表側表示で特殊召喚する事ができる。この効果で装備カードになっている時のみ、装備モンスターの攻撃力・守備力は400ポイントアップする。守備表示モンスターを攻撃した時にその守備力を越えていれば、その数値だけ相手に戦闘ダメージを与える。(1体のモンスターが装備できるユニオンは1枚まで。装備モンスターが戦闘によって破壊される場合は、代わりにこのカードを破壊する。)


漆黒の闘龍は墓地に置かれる――僕はひまなく攻撃をたたみかける。


豪「そしてサイレント・ソードマンLV5でダイレクトアタック。」


くりえ「リバースカード――パワー・ウォールを発動。」

くりえちゃんは伏せていたカードをめくる。


パワー・ウォール 罠
相手フィールド上のモンスターの直接攻撃によって自分が戦闘ダメージを受ける場合、自分のデッキの上から任意の枚数墓地に送る事で、自分が受ける戦闘ダメージは墓地に送ったカードの枚数×100ポイント少なくなる。


くりえ「このカードはデッキの上から任意の枚数墓地に送る事で直接攻撃によって受けるダメージを墓地に送ったカード1枚につき、100ポイント少なくする事ができるわ。私はカードを23枚墓地に送り、サイレント・ソードマンLV5からのダメージは0よ。」


くりえLP8000


ダメージ0とはいえサイレント・ソードマンLV5の直接攻撃は成功したため次のターン、サイレント・ソードマンLV7にレベルアップできるようになった。


豪「カードエクスクルーダーの効果を発動。キミの墓地のカードを1枚除外させてもらうよ。」


僕は彼女の墓地のカードを確認した。モンスターカードが7枚、魔法カードが20枚、罠カードか10枚の計37枚――このカードの中から僕は1つ選択した。


豪「黒竜の雛(ひな)を除外。」


くりえちゃんは僕の選んだカードを残念そうに見てカードを除外ゾーンに置いた。

豪「ターンエンド。」

くりえ「私のターン、ドロー。」


彼女は手札を見つめる。


くりえ「モンスターをセット、ターンエンド。」

淡々(たんたん)とデュエルは進行する。

豪「僕のターンドロー……、サイレント・ソードマンLV5を墓地に送り、デッキからサイレント・ソードマンLV7を特殊召喚!サイレント・ソードマンLV7で裏守備モンスターを攻撃。」


サイレント・ソードマンLV7
光 星7 攻2800 守1000
戦士族・効果
このカードは通常召喚できない。「サイレント・ソードマンLV5」の効果でのみ特殊召喚できる。このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する限り、フィールド上の魔法カードの効果を無効にする。


僕が攻撃宣言をするとくりえちゃんが伏せていたモンスターカードを表側にめくる。


裏守備モンスター:ロード・オブ・ドラゴン-ドラゴンの支配者-


ロード・オブ・ドラゴン-ドラゴンの支配者-
闇 星4 攻1200 守1100
魔法使い族・効果
このカードがフィールド上に存在する限り、お互いにドラゴン族モンスターを魔法・罠・モンスターの効果の対象にする事はできない。


サイレント・ソードマンLV7とロード・オブ・ドラゴンのステータスは明白(めいはく)であっけなくロード・オブ・ドラゴンは破壊される。くりえちゃんは戸惑いのない目でロード・オブ・ドラゴンを墓地ゾーンに置いた。まるで狙っていたかのようにも思える。

豪「カードエクスクルーダーでダイレクトアタック。」

何の抵抗(ていこう)もなくエクスクルーダーの攻撃力である1400ポイントくりえちゃんのライフから引かれる。

くりえ「…………。」

彼女はライフ計算用の電卓を操作する。

くりえLP6600


豪「カードエクスクルーダーでクリッターをゲームから除外!リバースカードをセットしターンエンド。」

…………。


豪(……?)

僕の脳内に先ほどくりえちゃんの墓地を確認した時の記憶がよぎった――確か闇属性モンスターが3体存在し、黒竜の雛を除外し2体になったが、ついさっきロード・オブ・ドラゴンを破壊したため再び3体に。そして、その瞬間の表情の変化は――


豪(まさか!?)

僕がある1枚のカードを連想している間に彼女はカードを引いていた。

くりえ「私のターンドロー。私の墓地に闇属性モンスターは3体、よってダーク・アームド・ドラゴンの召喚条件が満たされるわ――手札からダーク・アームド・ドラゴンを特殊召喚。」

豪(やっぱり……。)


ダーク・アームド・ドラゴン
闇 星7 攻2800 守1000
ドラゴン族・効果
このカードは通常召喚できない。自分の墓地に存在する闇属性モンスターが3体の場合のみ、このカードを特殊召喚する事ができる。自分の墓地に存在する闇属性モンスター1体をゲームから除外する事で、フィールド上のカード1枚を破壊する事ができる。


フィールドにダーク・アームド・ドラゴンのカードが置かれた。


豪LP2200
手札0枚
モンスター
【サイレント・ソードマンLV7】
【カードエクスクルーダー】
魔法・罠
【デーモンの斧】
リバースカード1枚


くりえLP6600
手札1枚
モンスター
【ダーク・アームド・ドラゴン】
魔法・罠
リバースカード2枚


くりえ「ダーク・アームド・ドラゴンの効果発動。墓地のカードを除外し、サイレント・ソードマンLV7を破壊。」

彼女は墓地のロード・オブ・ドラゴンを除外し僕のサイレント・ソードマンLV7は墓地に置かれた。

くりえ「さらに、もう一度墓地の闇モンスターを除外し、ダーク・アームド・ドラゴンの効果を発動。」


再び墓地の漆黒の闘龍のカードが除外しダーク・アームド・ドラゴンの効果が破壊する――

くりえ「カードエクスクルーダを破壊。」

僕はカードエクスクルーダと装備されていたデーモンの斧を墓地に置く。



豪LP2200
手札0枚
モンスター
無し
魔法・罠
リバースカード1枚


くりえLP6600
手札1枚
モンスター
【ダーク・アームド・ドラゴン】
魔法・罠
リバースカード2枚


くりえ「そして、バトルフェイズ。ダーク・アームド・ドラゴンでダイレクト・アタック。」

豪「リバースカード、デビル・コメディアンを発動。」

デビル・コメディアン 罠
投げたコインの表裏を当てる。当たりは相手墓地のカードを全てゲームから取り除く。ハズレは相手の墓地の枚数分、自分のデッキの上からカードを墓地に送る。


くりえ「こ、このタイミングで!?」


豪「このカードはコイントスで表裏を当てて、当たりの場合は相手の墓地のカードを全て除外し、ハズレの場合は相手の墓地のカード枚数分のカードを自分のデッキの上から捨てる。」

僕はデッキケースに入っていたコインを取り出した。

豪「表。」

コイントスを始めた。コインは★の絵柄(えがら)がついている方が表である。コインは回転しながら宙を浮き、やがて机に着地する。








出た面:裏


僕はデッキからカードを34枚、墓地に置く――


豪「今の効果により、僕の墓地に置かれた3枚のギルファー・デーモンの効果を発動――このカードをダーク・アームド・ドラゴンに装備。」

僕は墓地からギルファー・デーモンのカードを3枚取り出し、自分の魔法・罠ゾーンに置きダーク・アームド・ドラゴンに装備する。

暗黒魔族ギルファー・デーモン
闇 星6 攻2200 守2500
悪魔族・効果
このカードが墓地に送られた時発動する事ができる。このカードは攻撃力500ポイントダウンの装備魔法カード扱いとなり、フィールド上のモンスター1体に装備させる事ができる。


ダーク・アームド・ドラゴン 攻撃力2800→2300→1800→1300



効果発動後ダーク・アームド・ドラゴンの攻撃のダイレクトアタックを受けた。

豪LP900


豪(――って、今回はうまくいったからいいけど、デビル・コメディアンの効果はダーク・アームド・ドラゴンの召喚時に発動するんだった……。)

僕は少し残念そうにライフを計算する。

くりえ「ターンエンド。」

豪「はぁ……、僕のターン、ドロー……。」

ドローとはカードを引くというカードゲームを営(いとなむ)む者がウンザリするほど行う行為だが、この時は特に憂鬱(ゆううつ)だった。

くりえ「……ねぇ、あなたが何で苦しんでいるかは分からないけど――」

カードを確認する僕に突然、彼女が優しく言葉をかける。

くりえ「今はデュエルを楽しもうよ……。」

豪「…………。」

僕は彼女の言葉に小さい声で応える。

豪「……無理だよ、僕はそんな前向きにはなれないよ。」

くりえ「で、でも……。」

豪「ゴメン、弱くて……。さっきキミと友達になるのを断(ことわ)ったのもこんな僕じゃキミを守れないからだよ。僕は守られてばかりなんだ!」

僕がこう言うと彼女は急に声の音量を上げて叫ぶ。


くりえ「ち が う わ ! !」

突然大声を出されたのでびっくりした僕は少し体制がくずれた。

くりえ「……はぁはぁ……、豪君は…あの時……私を守ってくれたじゃない……!!」

くりえちゃんは声を震(ふる)わせながら僕に訴(うった)える。

豪「……実はあの時――犯人を倒したのは僕じゃないんだ。」

くりえ「え……!?」

豪「あれは、あれは……僕の中の僕とはちがう《もう1人の僕》やったんだ。」

くりえ「もう1人の……僕?」

くりえちゃんは僕の言葉を理解できずにいる。

豪「実は僕、自分を見失うと僕とは違うもうひとつの人格が現れるんだ……あの時も《もう1人の僕》が出てきたんだ。――だから自分がやったって実感がわかないんだ……。」

あの時は気づいていなかったけど――今になって振り返れば、あれは僕の意志じゃなかった。ムハラを倒した時もそうだったけど、自分の意志とは違う何かが動き出した記憶がある。あれもやはり《もう1人の僕》だった――

くりえ「そ、そんなの関係ないわ!あなたは私を守ってくれた!それは事実じゃない!!ねえ、そうでしょ、ねえ……ねえ!!」

彼女は身を乗り出して僕を見つめる。

豪「だからこそだよ――《もう1人の僕》はキミが思っているのと違ってずっと残忍だよ。きっとあのまま出続けていたら怒りにおぼれてキミを傷つけていたと思う――」

くりえ「…………。」

豪「最近では《もう1人の僕》が誰かを傷つける事はなくなったけど……やっぱりこんな僕は何も守れないで大切な人を傷つけてしまうんだ。」



………………。


数秒沈黙したあと、彼女が口を開く。


くりえ「それなら、それなら…もう1人が暴(あば)れ出したのなら……私が…私が…止めてあげる、守ってあげるから……。私なんかにできるかどうか分からないけど……。私だってあなたを守りたいの!!だから、そんなに卑屈(ひくつ)にならないで!!」


豪(《あの時》と同じだ。)



剣護『そんなの……、そんなの関係ないないぜ!!もし、もう1人のお前が暴れ出したなら俺がボコボコにしてでも止めてやる。もう1人のお前から守ってやるさ!!』



言葉使いは違うけど、内容は《あの時》の剣護君の言葉と同じだ。

豪「ありがとう、ありが…とう……。」


必死な表情のくりえちゃんを見て、僕の瞳(ひとみ)からひとつぶの涙(なみだ)が落ちた。

――そして、あることに気づいた。


豪(僕、くりえちゃんに惚(ほ)れていたんだ……。)


――初めて見たときから


――愛(いと)おしかった


――こんな僕を変えてくれる気がした


くりえ「ごめんなさい、変な話をしちゃって……デュエルの続きをしよ。」

くりえちゃんは微笑(ほほえ)みながら言った。

豪「うん!」

僕も微笑みながら応える。

――僕の心は晴れた

くりえちゃんといると、心が癒(いや)される。



豪LP900
手札1枚
モンスター
無し
魔法・罠
【暗黒魔族ギルファー・デーモン】
【暗黒魔族ギルファー・デーモン】
【暗黒魔族ギルファー・デーモン】


くりえLP6600
手札1枚
モンスター
【ダーク・アームド・ドラゴン】
魔法・罠
リバースカード2枚



豪「僕はインフェルノクインデーモンを召喚!!」

僕は今までにない勢いでインフェルノクインデーモンをモンスターゾーンに置く。



インフェルノクインデーモン
炎 星4 攻900 守1500
悪魔族・効果
このカードのコントローラーは自分のスタンバイフェイズ毎に500ライフポイント払う。このカードが相手のコントロールするカードの効果の対象になり、その処理を行う時にサイコロを振る。2・5が出た場合、その効果を無効にし破壊する。このカードがフィールド上に存在する限り、スタンバイフェイズ毎に「デーモン」と名のついたモンスターカード1体の攻撃力をエンドフェイズまで1000ポイントアップする。


豪「インフェルノクインデーモンは自身効果により攻撃力が1000ポイントアップ。」


インフェルノクインデーモン 攻撃力900→1900


迷わずにバトルフェイズに突入する。


豪「インフェルノクインデーモンでダーク・アームド・ドラゴンを攻撃!」

僕はダーク・アームド・ドラゴンを指差した!!ダーク・アームド・ドラゴンは3体のギルファー・デーモンの効果により攻撃力が1300のため攻撃力1900のインフェルノクインデーモンでも破壊できる。


くりえ「ここでリバースカードオープン、破壊輪(はかいりん)を発動!インフェルノクインデーモンを破壊よ!」


破壊輪 罠
フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を破壊し、お互いにその攻撃力分のダメージを受ける。


豪「インフェルノクインデーモンはカードの効果の対象にされた時にサイコロを振って、2か5が出たらその効果は無効になる!」


僕は制服のポケットからサイコロを取り出した。


くりえ「なんかあやしい……。」

くりえちゃんは胡散臭(うさんくさ)そうな目でサイコロを見つめる。確かに、このサイコロは結構古そうで、ヒビも入りかけている。


豪「……気にしないでよ……これ、思い出の品なんだから……;」

そう言い、僕はサイコロを振った。








サイコロは宙を舞(ま)い、やがて机に着地する。これは万有引力(ばんゆういんよく)の法則がもたらす日常的な光景(こうけい)だ。





――バキッ!!



くりえ「“バキッ”!?」

豪「…………!?」

なんかイヤな音がしたので机から目をそらした。数秒後――僕は勇気をだし、机を直視(ちょくし)した――






豪「え え え ぇ ぇ ぇ ! ! ! ! ?」



僕の目の前には粉々(こなごな)に割れたサイコロのカケラが散乱(さんらん)していた。

豪「あちゃー……;」


第十七章 innocent

10年前……。


豪『ねぇ、このサイコロ……なんなの?』

僕が白いサイコロを見せて問いかけていのは黒い長髪(ちょうはつ)の男の名は進(すすむ)で、僕の父親だ。

進『ああ、落としてしまったか……父さんが孤児(こじ)だった時、何故かこのサイコロだけを持っていたらしいんだ……。』


豪『へぇ……。』

僕は感慨深(かんがいぶか)くサイコロを眺(なが)めていた。けっこう古めで、いちおう立方体(りっぽうたい)なのだが角がかけている。サイコロ目の部分は黒く削られていて、1の目は何故かウジャト目が刻まれている。材質(ざいしつ)はたぶん何かの石である。歴史はそれなりにありそうな品だけど端(はた)から見ればただの石ころだ。――なぜか解らないけど、これを持つと心が和(なご)んでやさしくなれる気がする。



豪『…………。』

僕がずっとサイコロに見とれていると、お父さんはこう呼びかける。


進『ハハハハ、気に入ったらしいな。これは豪にやるぞ!』
豪『いいの……?』

進『その代わり大事にするんだ。』

豪『うん!ありがとう……。』





このサイコロは僕にとって亡き父からもらった片身でもある。



――片身でもある


――片身でもある


――片身でもある


――か、片身でもある


――かかかか、片身でででで、でもある


――カタカタカタカタカタカタ片身片身片身ででででもでもでもでもでもでも……




豪「サイコロが……!?」



――サイコロが割れている
――僕は目をこすって再確認する
――サイコロが割れている?
――め、目をこすって再確認する
――サイコロが割れている!?
――おめめをこすって再確認する
――僕はサイコロが割れている!?!?――僕はサイコロがこすってみる?
――サイコロが僕を割っている!?
――僕はサイコロを割っている?
――サイコロが目をこすっている!?
――あれ?意味が分からなくなってきた;


くりえ「…………。」

豪「…………。」


――やってしまった

大切な物なのに……。


豪「さ、サイコロが消滅…めつ…めつめつめつめつ……ん?」

僕はハショリながらサイコロの破片(はへん)が散乱(さんらん)している机を見て、ある事に気がついた。

僕が気になっていたのは机の上に転がっている、直径2センチていどの白い玉だ。僕は机に身を乗り出して手に取ってみたものの、氷のように冷たくて鋼(はがの)のように固く、傷(きず)ひとつ付いていないで光沢(こうたく)を放(はな)っている。この世の者とは思えないほどキレイだった。


豪「――どこから出てきたんだろう?……これ。」

くりえ「たぶん、そのサイコロの中から……。」

もう一つ気になる事がある――確かにこのサイコロは無数のヒビが入っていておせじにも丈夫(じょうぶ)とは言えないが、それほど強く叩きつけたワケでも無いのに無数(むすう)の破片に砕けるのはあまりに不自然(ふしぜん)である。――しかし、考えたところで何も浮かばない。

くりえ「…………。」
豪「ま、まぁ…気にしないでデュエルの続きをしようよ。」

僕は手に持っている白い玉をブレザーのポケットにしまいながら話す。

くりえ「えっと……、この破片は?」

豪「あ、これは僕が持ち帰るからいいよ。」

砕けているとはいえこのサイコロは僕の大切な品でもあるので少し手間がかかるがポケットから縦10センチ横5センチ程度のビニール袋に破片を寄(よ)せ集めた。

豪(でも、本当に何が起きたんだろう?)

全ての破片が机から消えた後(のち)、僕はビニール袋の先を固く蝶結(ちょうむす)びをし再びブレザーのポケットに閉まった。――そしてデュエルを再開する。

くりえ「……、えっとダイスなら私も持っているよ。」
豪「!?」

くりえちゃんはスカートのポケットから白い正六面体(せいろくめんたい)の各面に1〜6までの目が掘(ほ)られている代物(しろもの)を僕に手渡した。なんかついさっき似たものを見た気がする。

豪(ダイス?なんだろ?)

僕は頭の中から“ダイス”を検索(けんさく)した。







だい
 ̄ ̄
だいs
 ̄ ̄ ̄
だいす
 ̄ ̄ ̄
ダイス


ダイス
テーブルゲーム等で確率判定(かくりつはんてい)に使われる多角柱(たかくちゅう)で各面に数が記された道具。サイコロとも呼ばれる。

豪「えぇっ!?サイコロあったの!?」
くりえ「いいえ、ダイスよ。」

僕は「サイコロもダイスも同じような物だよ!」とツッコミを入れる事すら忘れ、率先(そっせん)して父の片身であるサイコロを使った事を後悔した。

豪(トホホ……ん、“トホホ”って言葉あまり使わないな。)

今日の僕はなんか疲れている。

くりえ「それより早く早く!」
豪「あ、うん。」

せがまれながらも僕はサイコロを転がした。





出た目:5





くりえ「で、どうなるんだっけ?」

豪「えっと、インフェルノクインデーモンの効果で破壊輪は無効だよ。」


インフェルノクインデーモン
炎 星4 攻900 守1500
悪魔族・効果
このカードのコントローラーは自分のスタンバイフェイズ毎に500ライフポイント払う。このカードが相手のコントロールするカードの効果の対象になり、その処理を行う時にサイコロを振る。2・5が出た場合、その効果を無効にし破壊する。このカードがフィールド上に存在する限り、スタンバイフェイズ毎に「デーモン」と名のついたモンスターカード1体の攻撃力をエンドフェイズまで1000ポイントアップする。


破壊輪は墓地に置かれ、インフェルノクインデーモンでダーク・アームド・ドラゴンへの攻撃が成功した。――ダーク・アームド・ドラゴンはギルファー・デーモンを3枚装備しているため、攻撃力は1300にまで下がっている。それに対してインフェルノクインデーモンの攻撃力は1900。



くりえLP6000


ダーク・アームド・ドラゴンと、ダーク・アームド・ドラゴンに装備されていたギルファー・デーモンは破壊される。


豪LP900
手札0枚
モンスター
【インフェルノクインデーモン】
魔法・罠
無し

くりえLP6000
手札1枚
モンスター
無し
魔法・罠
リバースカード1枚


僕の場にはインフェルノクインデーモン以外何も無く手札も0枚――もちろん次に行うべき行動はターンを終了させる事だ。

豪「ターンエンド!」

くりえ「私のターン、ドロー!――……、ターンエンドよ。」


彼女は何もせずにターンを終了する。

豪「――ドロー。(あのリバースカードが気になるけど今はもう攻めるしかない!)」


僕はバトルフェイズに突入する。


豪「インフェルノクインデーモンでダイレクトアタック!」


くりえLP4100



豪「リバースカードを1枚セット、ターンエンド!」

くりえちゃんは僕のターン終了と同時に本日何回目かも忘れてしまうほど繰り返されている“カードを引く”という動作を開始する。

くりえ「ドロー……モンスターを裏守備表示で召喚、ターンエンド!」

そして僕は再びカードを引く。


豪「僕のターン、ドロー!魔法カードタイムカプセルを発動、デッキからカードを1枚選択し裏側表示でゲームから除外する――そして、発動2回目のスタンバイフェイズ時にタイムカプセルを破壊しゲームから除外したカードを手札に加える。」

僕はデッキから1枚のカードを取り出しデッキをシャッフルしそのデッキを元の場所に置き、取り出したカードは裏側表示で除外ゾーンに置いた。


タイムカプセル 魔法
デッキからカードを1枚選択し、裏側表示でゲームから除外する。発動後2回目の自分のスタンバイフェイズ時にこのカードを破壊し、除外されたカードを手札に加える。


豪(インフェルノクインデーモンは……。)


僕は彼女の裏守備モンスターを警戒(けいかい)する。確かにインフェルノクインデーモンの攻撃力は1900と多くの通常召喚できるレベル4以下のモンスターの守備力を上回ってはいるが、守備力1900を超えるレベル4以下のモンスターも少なくはない。特にD-HERO(デスティニーヒーロー)ディフェンドガイ等の高守備力モンスターの場合LPが600ポイントしかない僕は負けてしまう――


D-HEROディフェンドガイ
闇 星4 攻100 守2700
戦士族・効果
相手ターンのスタンバイフェイズ時にこのカードが表側守備表示で存在する場合、相手プレイヤーはカードを1枚ドローする。


豪「インフェルノクインデーモンを守備表示に変更してターンエンド。」

けっきょく、攻撃をせずにターンを終了させる。


くりえ「私のターンドロー!」

彼女の50枚を超える分厚(ぶあつ)いデッキも残り少なくなってきた。まぁ、僕もそれは同じだけど――

くりえ「異次元(いじげん)からの埋葬(まいそう)を発動!除外ゾーンから真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)、クリッター、黒竜(こくりゅう)の雛(ひな)を墓地に戻すわ――」

彼女は今引いたばかりのカードを僕に見せてから、除外ゾーンに置かれているカード3枚を墓地ゾーンに置く。


異次元からの埋葬 速攻魔法
ゲームから除外されているモンスターカードを3枚まで選択し、そのカードを手札に戻す。


豪(異次元からの埋葬――モンスターを蘇生(そせい)させるのかな?)


くりえ「リバースカード――黒竜超復活(こくりゅうちょうふっかつ)を発動!!」

豪「黒竜…超……復活?あのカードは確か……!」

くりえ「このカードで墓地から真紅眼の黒竜を特殊召喚するわ!」


黒竜超復活 速攻魔法
自分の墓地から「真紅眼の黒竜」1体を特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターの元々の攻撃力は倍になる。このターンのエンドフェイズ時に自分は2000ライフポイントのダメージを受ける。


彼女の墓地から真紅眼の黒竜がモンスターゾーンに置かれる。


真紅眼の黒竜 攻撃力2400→4800


豪「うわっ……。」

このタイミングで攻撃力4800のモンスターが来るのは正直苦しい。

くりえ「真紅眼の黒竜でインフェルノクインデーモンを攻撃!」


豪「くっ……。」


インフェルノクインデーモンが破壊される。


くりえ「黒竜超復活の効果で私は2000ライフポイントのダメージを受ける。ターン…エンド。」


くりえLP2100


豪「僕のターン――ドロー!スーパースターを召喚!」


スーパースター
光 星 攻500 守700
天使族・効果
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、全ての光属性モンスターの攻撃力は500ポイントアップする。闇属性モンスターの攻撃力は400ポイントダウンする。


スーパースター 攻撃力500→1000


真紅眼の黒竜 攻撃力4800→4400


豪(しかし、このデッキ――普通に闇モンスター入っているのになんでスーパースターなんて入れているんだろう……。)


くりえちゃんもリアクションに困っている。


豪「ターン…エンド!」


くりえ「私のターン、ドロー……うーん。」

くりえちゃんはデッキを見て顔をしかめる。通常より枚数の多いデッキだったが、パワーウォール等の使用によりデッキのカードは残り2枚となった……。


豪LP900
手札0枚
モンスター
無し
魔法・罠
【タイムカプセル】
リバースカード1枚


くりえLP2100
手札2枚
モンスター
【真紅眼の黒竜】
リバースカード1枚
魔法・罠
無し


くりえ「うーーーん……、豪君はさっきからずって手札0枚で引いたカードをただ出しているだけだから満足に罠をはれはしないと思うけど――あのリバースカードも役に立たないかもしれない……、でもそれならわざわざスーパースターを攻撃表示で出す訳ないわ――」

彼女はカードを持っていない左手の人差し指をおでこに当てながら悩む、そして――


くりえ「ターンエンド……。」

どうやら僕のリバースカードを警戒(けいかい)したようだ。

そして僕もまた、残り3枚となったデッキからカードを引く――

豪「僕のターンドロー――タイムカプセルの効果で除外していたカードを手札に加える!今手札に加えた魔法カード、サイレント・デジャヴを発動!」


サイレント・デジャヴ 魔法
ライフポイントを半分払い発動。墓地から「サイレント」と名のつくモンスター1体を召喚条件を無視して特殊召喚する。


豪LP450


豪「サイレント・ソードマンLV7を特殊召喚!」


僕は墓地からサイレント・ソードマンLV7を取り出しモンスターゾーンに置く。


サイレント・ソードマンLV7
光 星7 攻2800 守1000
戦士族・効果
このカードは通常召喚できない。「サイレント・ソードマンLV5」の効果でのみ特殊召喚できる。このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する限り、フィールド上の魔法カードの効果を無効にする。


スーパースターの効果により、サイレント・ソードマンLV7の攻撃力が500ポイントアップする。

サイレント・ソードマンLV7 攻撃力2800→3300


豪「サイレント・ソードマンLV7で裏守備モンスターを攻撃!」


裏守備モンスター:ビッグ・シールド・ガードナー


ビッグ・シールド・ガードナー
地 星4 攻100 守2600
戦士族・効果
裏側表示のこのモンスター1体を対象とする魔法カードの発動を無効にする。その時、このカードは表側守備表示になる。攻撃を受けた場合、ダメージステップ終了時に攻撃表示になる。


ビッグ・シールド・ガードナーは破壊された。


豪「スーパースターを守備表示に変更してターンエンド!」


豪LP450
手札1枚
モンスター
【サイレント・ソードマンLV7】
【スーパースター】
魔法・罠
無し


くりえLP2100
手札2枚
モンスター
【真紅眼の黒竜】
魔法・罠
無し



このデュエルも後少しで終わりそうだ――


くりえ「私のターン、ドロー!魔導戦士ブレイカーを召喚!」


魔導戦士ブレイカー
闇 星4 攻1600 守1000
魔法使い族・効果
このカードが召喚に成功した時、このカードに魔力カウンターを1個のせる(最大一個まで)。このカードに乗っている魔力カウンター1個につき、このカードの攻撃力は300ポイントアップする。また、魔力カウンターを1個取り除く事で、フィールド上の魔力・罠カード1枚を破壊する。


くりえちゃんはスカートのポケットから黒いコインを取り出し、ブレイカーの上に置く。しかしスーパースターの効果で攻撃力が下がる。


魔導戦士ブレイカー(魔力カウンター1個) 攻撃力1600→1200→1500


くりえ「そして魔力カウンターを取り除き、豪君のリバースカードを破壊!」

僕はすかさず、ブレイカーの効果にチェーンする。

豪「させないよ、リバースカード――和睦(わぼく)の使者を発動!」


和睦の使者 罠
このカードを発動したターン、相手モンスターから受ける全ての戦闘ダメージを0にする。このターン、自分モンスターは戦闘によっては破壊されない。


和睦の使者の発動後にブレイカーの効果が発動し、和睦の使者は破壊される。


魔導戦士ブレイカー(魔力カウンター0個) 攻撃力1500→1200


くりえ「和睦の使者……それならあの時攻撃しておけばよかったわ……。」


豪「ふぅ…危ない危ない……;」


くりえ「…………♪」


くりえちゃんが嬉しそうな目で僕を見る。



豪「ん、くりえちゃん?どうしたの?」
くりえ「え、いや、豪君、楽しそうだから……。」

豪「そ、そうかな……。」

自分ではあまり意識していなかったので気づかなかったが、今の僕はそんな風に見えているのだろうか?

くりえ「やっぱり、楽しんでデュエルしている方が私は“好き”だよ!」


豪「そ、そそそそ、そうかな……ハハハハ?」

突然、聞いた“好き”に僕は過敏(かびん)に反応(はんのう)し顔に手を被(かぶ)せる。


くりえ「……?リバースカードをセットしターンエンド!」


豪LP450
手札1枚
モンスター
【サイレント・ソードマンLV7】
【スーパースター】
魔法・罠
無し


くりえLP2100
手札1枚
モンスター
【真紅眼の黒竜】
【魔導戦士ブレイカー】
魔法・罠
1枚


豪「僕のターン、ドロー!」


今ここで攻撃して彼女の罠にかかったら完全に勝機はなくなる。だから――

豪「リバースカードを2枚セットしターンエンド!」

くりえ「私のターン……ドロー!」

とうとう彼女のデッキは無くなってしまった。おそらくこれが彼女のラストターン!!

くりえ「――もう、攻撃するしかないわ!真紅眼の黒竜で、サイレント・ソードマンLV7を攻撃!」


彼女が攻撃宣言に至(いた)るまで十秒もかかりはしなかった。もう、後は無いのだから――

ダメージステップ時に僕はリバースカードを発動する。

豪「リバースカード、オープン!援護射撃(えんごしゃげき)を発動!」


援護射撃 罠
相手モンスターが自分のフィールド上モンスターを攻撃する場合、ダメージステップ時に発動する事ができる。攻撃を受けた自分モンスターの攻撃力は自分フィールド上に存在する他のモンスター1体の攻撃力分アップする。

これで、サイレント・ソードマンLV7にスーパースターの攻撃力は4300ポイントとなり現在真紅眼の黒竜は攻撃力4400ポイント――

くりえ「例え、スーパースターの攻撃力を足したとしてもわずかに真紅眼の黒竜には及ばないわ!」


そう、だから僕はもう1枚のリバースカードを発動する――

豪「援護射撃にチェーンをし、リバースカード――六武衆推参(ろくぶしゅうすいさん)!を発動!墓地から六武衆(ろくぶしゅう)ーザンジを特殊召喚!」



墓地から僕のモンスターゾーンにザンジが特殊召喚された。


六武衆推参! 罠
自分の墓地に存在する「六武衆」と名のついたモンスター1体を自分フィールド上に特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたモンスターはこのターンのエンドフェイズ時に破壊される。


六武衆ーザンジ
光 星4 攻1800 守1300
戦士族・効果
自分フィールド上に存在する限り、このカードが攻撃を行ったモンスターをダメージステップ終了時に破壊する。このカードが破壊される場合、代わりにこのカード以外の「六武衆」と名のついたモンスターを破壊する事ができる。


スーパースターの効果でザンジの攻撃力が上がる。


六武衆ーザンジ 攻撃力1800→2300


豪「そして、援護射撃の効果でザンジの攻撃力をサイレント・ソードマンLV7に足す。」


サイレント・ソードマンLV7 攻撃力3300→5600


くりえ「あっ……!」


くりえちゃんはあっけにとられながら電卓(でんたく)でライフを計算する。真紅眼の黒竜は攻撃力4400でサイレント・ソードマンLV7の攻撃力は5600、そして彼女のライフは2100――


くりえLP900


くらえ「このリバースカードは速攻魔法――私の負けね。」
彼女はサレンダーする。

くりえLP0


――僕の勝ちだ





くりえ「やっぱり強いね。初めての私じゃ勝てるわけないか〜。」


…………。



豪「えぇっ、これが初デュエル!?」


くりえ「うん、いくら豪君が手抜きデッキを使っているからって初心者の私が勝てるわけないよね。」



豪(でも、とても初めてのデュエルとは思えないよ……きっとすごく強くなる――ん?なんで僕の本当のデッキを使っていないんだって知っているんだろう……。)

僕が疑問(ぎもん)に思っていると彼女が口を開く。


くりえ「あ、実は私……時々人の心を読めてしまうの……ってそんな事を言っても信じてもらえないよね……。」

豪(でも、僕のデッキの秘密は知っていたし……何なんだろう?)

僕が心のモヤを広げているところにくりえちゃんは話を続ける。

くりえ「もう一度言うけど……私の友達に……。」


彼女は恥ずかしそうにつぶやく――


豪「ぼ、僕でいいのなら――」



剣護「お前ら……本当に仲がよいな……。」


…………。


いつの間にか部屋に十代半(じゅうだいなか)ばぐらいの銀髪(ぎんばつ)の男が入ってきている。


豪、くりえ「うわわわっ!!」


僕達はソファーから立ち上がり、尻のしびれさえも忘れて身をのけぞる。





豪「――なんだ、剣護君か……。随分(ずいぶん)と時間がかかったけどどうしたの?」


剣護君は僕を部屋の外に引っ張る。


くりえ「……?」





豪「うわっ、ちょっ……。」

剣護「豪、お前……あの子にほれたんだろ!」


豪「……!?」


僕の頭の中でものすごい爆発(ばくはつ)が起きた。


豪「ええ、ま、まさかそんなわわわわわけな」

剣護がパニクる僕に口をはさむ。


剣護「お前とも長い付き合いだからそれぐらい仕草で分かるぞ!――てな訳で2人っきりにしてみたのだが……本当に初対面でここまで打ち解けるとは…な……。」

豪「うん、自分でも不思議(ふしぎ)だよ……。なんか彼女が本当の妹みたいだよ……。」


僕がそう言うと少し間を開けて、彼はこうささやく――


剣護「妹か…大切にしろよ……。」

豪「――うん!」


こうして、僕達は彼女の部屋へと戻っていった。これから僕と彼女の関係はどうなるのだろうかと思いつめながら――



第十八章 珍札2:50

7月19日(日)午後2時50分
龍河町・コンビニエンスストア《ウラン》前


 私はレアハンターである、本名(なまえ)はまだ無い。
第十九章 勝者と敗者の距離

7月20日(月)午後10時55分
龍河西公園


 俺は須藤尚輝――今朝、学校のげた箱を見たらこんな手紙が……。



【須藤尚輝へ】
7月20日午後11時にデッキとデュエルディスクを持って龍河西公園に来い。逃げたら許さん。



 どうやらコレは果たし状らしい。

(――にしても夜の11時ってメイワクな果たし状だな、まったく!)

 少しイラだちながらも俺はデュエルディスクを腕に着けて、手紙の主(ぬし)が来るのを待っている。俺もここに来るのは約10年ぶりなので懐かしみながら辺りを見回してみた。
 住宅街の外れにあるこの公園はワリと広く、200平方メートルぐらいの広さはあると思う。遊具も鉄棒や砂場、ジャングルジムやすべり台等の基本的なものが取りそろえられている。トイレや水飲み場もあるし、この公園のすぐ近くには自動販売機やスーパー、コンビニもある。街灯などで夜でもも明るいので一日中ここで遊び回っていても大丈夫そうだ。


「――っと、もうそろそろだな……」

 俺が公園の中央にそびえ立つ柱時計を見ると、あと数ミリ動けば短針が11をさしそうな位置にある――

「そこの黒短髪鳥頭ッ、ついに見つけたぞ!須藤尚輝!!」

 気がつくと、一人の若い男がすぶとい声で挑発的なセリフを吐きながら、俺の1メートル程先にデュエルディスクを着け構えて立っていた。

(いきなり鳥頭って……)

 その男の髪色は黒ずんだ渋(しぶ)い緑色で、前髪は目にかかる程度だが後ろ髪は結構長い。もみ上げは太く、クセ毛が多い。顔立ちは眉毛が太長く、目つきが鳥のように鋭い――コワモテ系とでも言っておこうか。青い学ランのような制服を見る限り、高校生なのだろう。

「――キミは…誰だ……?」

 俺が少し控えめな音量の声でたずねると目の前の男はこう応える。

「オレは――奈多岡興春(なたおか おきはる)だ!!」

(奈多岡……!?)

 俺は聞き覚えのある姓名(せいめい)に少し戸惑(とまど)う――

「あぁ、貴様が前にデュエルした奈多岡隆治の弟――興春だ!!」


――奈多岡隆治


 彼と俺は去年の8月――全国大会準決勝で出会った。あの時は力及ばず、俺が負けてしまった。
 ある《いきさつ》でその大会から俺たちの友好関係が生まれた。それから約9ヶ月後――俺達に再戦が訪れた。
 俺の学校で毎年の恒例(こうれい)となっている練習試合の相手校――某々高校の中に彼の姿はあった。去年まではそこにはいなかった事から察するに編入でもしたのだろうか?とにかくそのデュエルでは俺が勝利した。
 俺にとって彼はライバル的な存在である――そんな彼の弟が俺に何の用だろうか?

(やはり、果たし状の主はコイツか……?)

 どう見てもこの状況から察するに、目の前にいる男――奈多岡興春が果たし状の主としか考えられない。

「この果たし状は…キミが出したものか……?」

 俺は手に持っている文字だけがかかれた無地の紙を興春に見せる。

「――ああ…それはオレが出したやつだ!!今からオレとデュエルしろッ!」

 興春はデュエルディスクを着けている左手を構えて宣戦布告をする。

「…………」

 このまま断(ことわ)ったとしてもそう、やすやすと見逃してくれそうもない――何よりわざわざ隣町の人間がここまで来るほどだから何か事情があるとしか思えない。

「タダでとは言わない、もし貴様が勝てたのなら――兄さんのエースカードでもあるこのカードを賭ける」

興春はポケットからカードを1枚取り出し俺に見せる。


「し、しかし隆治のカードを勝手に……」


 あのカードは世界に1枚しか存在しないカードのため、間違いなくこれは隆治の物だろう。去年の大会で俺がやられたカードでもあるのでよく覚えている――とにかく、そんな貴重なカードを弟とはいえ興春が賭けに出すのはおかしい。


「――安心しな、これは本人から譲ってもらった物だ。隆治は…兄さんは……デュエリストから身を引いたんだ……!!」

 身長が俺より10センチメートルほど低い興春は、俺の顔を見上げて、悲しそうな目つきでにらみながら言葉を吐き捨てた。

「……!?な…、なぜだ?何があったんだっ!?」

 俺は興春のセリフに驚きを隠せずに、必死に問い詰める――それに対して、さっきまでとはうってかわり、冷めた目つきで俺に応える。

「そんな事どうでもいい――とにかくオレに勝ったらこのカードを貴様にやる…ただし、オレが勝ったら次の全国大会を辞退しろ!!」


「…………!?」

 興春のあまりにムチャクチャな条件に俺は理解できずにいる。

「――別にイヤならかまわない、バカげている事も分かっている。もしダメならオレが大会に出て貴様に挑むまで……、貴様のデュエルにかける覚悟がどの程度のモノか知りたい…だけだ!」

「…………」


――奈多岡隆治がデュエリストを辞めた

――デュエルで負けたら全国大会にでるな


 一体、何が起きたのかまったく理解できない。

「別にデュエルを引き受けなかったところでオレは貴様を軽蔑(けいべつ)するわけでもない、無理やりデュエルをやらせるほどオレは野蛮じゃない…カツアゲはするけど」

「…………」

 俺は興春の言葉を黙って耳に入れる――


「――だけど、貴様がオレの敵だと言うことは変わらない、いつか…貴様を倒してやる!!」

 再び夜の時間帯としては不似合いな大声で俺をどやす。思わず耳をふさぎたくなるほどのボリュームだ。

「――ああ、いいだろう……」

 俺は引き受けた。隆治の事を訊(き)きだしたいし、ここでデュエルを断るようならばこれから先も大した結果は出せない――興春は隆治のカードをポケットにしまう。お互いに自分のデッキをシャッフルし、デュエルディスクにセットする。

「さすが、兄さんを倒したデュエリスト。それほどの覚悟はあるってことか……」


 興春は小声でつぶやきデュエルディスクのソリッドビジョンが起動できるよう、俺から10メートルほどの距離に離れる――お互いのデュエルディスクの機動音が小さく響き、カードを置くテーブル部分が広がり、ライフカウンターに8000が表示される。


「「デュエル!!」」


須藤LP8000
興春LP8000


 お互いにデッキから初期手札の枚数である5枚のカードを上から引き、デュエルの開始を示すかけ声を叫んだ――


「オレの先行、ドロー!!――」


 興春は6枚の手札を数秒見つめ、1枚のカードを素早く取り出す。

「オレは……、E・HERO(エレメンタルヒーロー)オーシャンを召喚!」

――興春の手前に、水色で頭にヒレを持つ海の男戦士が現れ、手に持つロッドを俺に突きつける。


E・HEROオーシャン
水 星4 攻1500 守1200
戦士族・効果
1ターンに1度だけ自分スタンバイフェイズ時に発動する事ができる。自分フィールド上または墓地から「HERO」と名のついたモンスター1体を持ち主の手札に戻す。


「リバースカードを1枚セット、ターンエンドだ!」

 興春はセリフ通りに手札からカード1枚を魔法・罠(トラップ)スロットにセットしターンを終了させた――次は俺のターンだ。


「俺のターン、ドロー…俺は手札のスピリット・ドラゴンを1枚捨て、手札から紅の炎竜(クリムゾン・フレイム・ドラゴン)を召喚!」

 俺が手札からカード2枚を取り出し、1枚は墓地へ送り、もう1枚のカードをモンスターゾーンに置く。するとたちまち、俺の目の前に全身が炎に包まれた大蛇(おろち)のような紅いドラゴンが現れる。「グオオオオ!!」と吠え叫び、相手を威圧する――


紅の炎竜
炎 星5 攻2400 守0
ドラゴン族・効果
自分が相手より手札の枚数が多い場合、手札を1枚捨てる事でこのカードを手札から攻撃表示で特殊召喚する事ができる。


「くっ、生け贄無しで攻撃力2400……」

 興春はやや、後退しながらつぶやく――紅の炎竜が興春をにらんでいた。
 俺はすかさずバトルフェイズに突入する。

「バトルフェイズだ!紅の炎竜でオーシャンを攻撃――イグニッション・ブラスタァーッ!!」

 紅の炎竜は口に炎の弾を作り、オーシャンを狙い撃つ――

「待ったァ!オレはリバースカード、攻撃の無力化を発動ッ!!」

 紅の炎竜が放った火の弾は空間の歪みに吸収され、攻撃対象のオーシャンまでは届かなかった。


攻撃の無力化 カウンター罠
相手がモンスターで攻撃した時、その攻撃を無効にしバトルフェイズを終了する。


「くっ……」

 俺はやむなくメインフェイズ2に突入する。

「カードを2枚セットしターンエンド」

 俺はエンド宣言を行った。

須藤LP8000
手札2枚
モンスター
【紅の炎竜】
魔法・罠
リバースカード2枚


興春LP8000
手札4枚
モンスター
【E・HEROオーシャン】
魔法・罠
無し


「オレのターン、ドロー!!」

 興春は得意気な顔で魔法カードを発動する。「手札から魔法カード、融合を発動!!手札のE・HEROフォレストマンと場のオーシャンを融合、出てこい!!――E・HEROジ・アースを融合召喚ッ!!」

 興春が手札から融合の魔法カードをデュエルディスクの魔法・罠スロットに差し込み、場と手札のモンスターを1体ずつを墓地に送ると、興春の手前に木の装甲に包まれた右手足が特徴の男――E・HEROフォレストマンが現れ、オーシャンと肩を並べる。
 そして、フィールドに大きな渦が現れ、フォレストマンとオーシャンがその渦に飲み込まれて行き――しばらくして渦の中から全身を鋼鉄の鎧に身を包んだ戦士が現れた。胸に宝石のような赤いコア、肩と頭の水色の宝石みたいな装甲がよりメカ的な雰囲気を漂わせる。


融合 魔法
融合モンスターカードによって決められたモンスターをフィールド、手札から墓地に送り、融合モンスター1体を融合デッキから特殊召喚する。


E・HEROフォレストマン
地 星4 攻1000 守2000
戦士族・効果
1ターンに1度だけ自分のスタンバイフェイズ時に発動する事ができる。自分のデッキまたは墓地に存在する「融合」魔法カード1枚を手札に加える。


E・HEROジ・アース
地 星8 攻2500 守2000
戦士族・融合/効果
「E・HEROオーシャン」+「E・HEROフォレストマン」
このモンスターは融合召喚でしか特殊召喚できない。自分フィールド上に表側表示で存在する「E・HERO」と名のついたモンスター1体を生け贄に捧げる事で、このターンのエンドフェイズ時までこのカードの攻撃力は生け贄に捧げたモンスターの攻撃力分だけアップする。


「そしてバトルだ!ジ・アースで紅の炎竜を攻撃――アース・インパクトォーッ!!」

 ジ・アースは両腕の拳を頭上に向けて伸ばし、紅の炎竜に対して頭から突撃する。紅の炎竜は受け止めようと身を構えるが、ジ・アースとの衝突の威力の方が大きく、無残にも倒れ込み、消滅した。

「うぅ…紅の炎竜……」


須藤LP7900


「カードを1枚セット、ターンエンドだッ!!」


 興春がリバースカードをセットするとともにターンエンドし、俺のターンに移る。

「俺のターン、ドロー!!(とりあえず何かモンスターを出さないとやられる)」

 俺は手札を再確認して、メインフェイズをプレイする。

「手札から、スケープ・ゴートを発動」


スケープ・ゴート 速攻魔法
このカードを発動する場合、自分のターン内に召喚・反転召喚・特殊召喚できない。自分フィールド上に「羊トークン」(獣族・地・星1・攻/守0)を4体守備表示で特殊召喚する。(生け贄召喚のための生け贄にはできない)


 俺のフィールド上に4体の毛玉の様なディフォルメ調の羊が現れた。毛皮の色は右からブルー、オレンジ、ピンク、イエローの順である。

「さらに、リバースカードオープン、永続罠――DNA改造手術を発動!!このカードが発動している間、フィールド上のモンスターは全て俺が選択した種族に変更される!!俺が選ぶのは“ドラゴン族”!!」

 俺はデュエルディスクのライフカウンターとタイムカウンターの下あたりにあるタッチパネルに全種族のアイコンが表示される。その中からドラゴン族のアイコンをタッチするとともにDNA改造手術の効果が適用される――フィールド上のモンスターは皆、ドラゴンのような牙、爪、翼、尻尾が生え始めた。


DNA改造手術 永続罠
発動時に1種類の種類を選ぶ。このカードがフィールド上に存在する限り、フィールド上の表側表示モンスターは自分の選んだ種族になる。

「DNA改造手術?貴様…何をする気だ……」

「リバースカードを1枚セットし、ターンエンド!」


須藤LP7900
手札1枚
モンスター
【羊トークン】
【羊トークン】
【羊トークン】
【羊トークン】
魔法・罠
【DNA改造手術】
リバースカード2枚


興春LP8000
手札2枚
モンスター
【E・HEROジ・アース】
魔法・罠
リバースカード1枚


 今のところライフはわずかに俺が負けているが、微々たるものだ。だが、興春には攻撃力2500のモンスターが存在すため、デュエルの主導権は相手側に傾いているだろう――俺の反撃はこれからだ!

「よし、オレのターンだ!ドロー!!スタンバイフェイズ、メインフェイズを終了――そして、バトルフェイズに突入だ!」

 興春は青の羊トークンを指差す。

「その羊トークンをジ・アースで攻撃!」
(――今だ!!)

 ジ・アースが攻撃体制に切り替わる瞬間に、俺はリバースカードを発動する――


「攻撃は通さない!!手札を1枚捨て、リバースカード、超融合を発動!!」
「なッ!?」


 興春はあからさまに右足を一歩退き、体がピクリとのけぞっている。

「し、しかし、今この場で融合素材になるモンスターはいな……いや、フィールド上のモンスターはDNA改造手術でドラゴン族に改造されている……、つまり今、フィールド上にドラゴン族モンスターが5体――F・G・D(ファイブ・ゴッド・ドラゴン)……!!」
「ああ、その通りだ!!キミのジ・アースと俺の羊トークントークン4体を融合――F・G・Dを融合召喚!!」


 フィールドの中央あたりに光の渦ができ、ジ・アースと4体の羊トークンを吸い込んでいく――やがて光の渦から俺のフィールドに黄土色の骨太な翼と手足を持つ胴体に五つの首がついた巨大なドラゴンが現れた。それぞれの首が地、水、炎、風、闇の属性を象徴している。


超融合 速攻魔法
手札を1枚捨てる。自分または相手フィールド上から融合モンスターカードによって決められたモンスターを墓地に送り、その融合モンスター1体を融合デッキから特殊召喚する。このカードの発動に対して、魔法・罠・効果を発動する事はできない。(この特殊召喚は融合召喚扱いとする)


F・G・D
闇 星12 攻5000 守5000
ドラゴン族・融合/効果
このモンスターは融合召喚でしか特殊召喚できない。ドラゴン族モンスター5体を融合素材として融合召喚する。このカードは地・水・炎・風・闇属性モンスターとの戦闘によっては破壊されない。(ダメージ計算は適用する)


「うっ……」

 F・G・Dの地面が揺るがしそうな迫力に興春は圧(お)されている。


「油断してしまったな……――ターンエンドだ」

 興春のフィールドにモンスターはいない。

(チャンスだ!!)

 俺はあせらずに落ち着いてカードを引く――

「俺のターン、ドロー!――メインフェイズを終了しバトルフェイズを行う、F・G・Dで興春にダイレクトアタック!ファイブ・ゴッド・ブレイズッ!!」

 F・G・Dは五つの頭からそれぞれの属性の波動を興春目指して吐き出す。もしも、この攻撃が本物ならば公園が崩壊しそうな威圧感だ。

「――ククク、バカめっ!リバースカードオープン、炸裂装甲(リアクティブ・アーマー)発動ォォーッ!!これで、F・G・Dは返り討ちだ!!」


 興春は拳を広げ、腕を前に突き出しながらリバースカードを発動した。


炸裂装甲 罠
相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。その攻撃モンスター1体を破壊する。


「させんっ!俺は永続罠、王宮のお触れを発動!!」


王宮のお触れ 永続罠
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、このカード以外の罠カードの効果を無効にする。


「なっ…!?」
「これで、キミの炸裂装甲の発動は無効となる……!!」

 興春の炸裂装甲は不発のまま墓地に送られた。なお、俺のDNA改造手術の効果も無効となる――そして、F・G・Dの攻撃は何の抵抗もなく興春に直撃する!!

「ウワアアァァーーッ!!!!」

 興春は腕を交差し、F・G・Dの五つの属性の波動を必死に受け止める。攻撃が当たると同時に爆発が起こり白い煙が彼の姿を消してゆく。


興春LP3000


――次第に白い煙は消えて行き、興春の姿が見え始めた。どんなに迫力があるとはいえ、幻影(げんえい)であるソリッドビジョンでダメージを受けるわけも無く、何事もなかったのように立ち尽くしている。それでも攻撃されたと錯覚しているのか、やや息切れを起こしているかのようにも見える。


「――ハァハァ…さすがに…強いな……。だが、その程度じゃまだ認めねぇ!――自分フィールドにカードが無く、相手のカードによってダメージを受けた場合、手札から冥府(めいふ)の使者ゴーズを特殊召喚する事ができる……」

 興春が手札のカード1枚をモンスターゾーンに置くと、彼のフィールドに黒いメタリックな装甲で、腕と肩に護身用(ごしんよう)の刃(やいば)を取り付けているような鎧を装った、クールな風貌の青年が現れた。赤く跳ねた髪型とアイマスクのような鉄の仮面がトレードマークだ。重量感がありそうな太刀(たち)を片手で持ち上げているあたり、スマートな体格ながらも、かなりの腕力の持ち主である事がうかがえる。


冥府の使者ゴーズ
闇 星7 攻2700 守2500
悪魔族・効果
自分フィールド上にカードが存在しない場合、相手がコントロールするカードによってダメージを受けた時、このカードを手札から特殊召喚する事ができる。この方法で特殊召喚に成功した時、受けたダメージの種類により以下の効果を発動する。●戦闘ダメージの場合、自分フィールド上に「冥府の使者カイエントークン」(天使族・光・星7・攻/守?)を1体特殊召喚する。このトークンの攻撃力・守備力は、この時受けた戦闘ダメージと同じ数値になる。●カードの効果によるダメージの場合、受けたダメージと同じダメージを相手に与える。


「ゴーズはこの効果で特殊召喚した時、受けたダメージの種類で異なるモンスター効果が発動する。戦闘ダメージの場合、攻守が受けたダメージと同じ数値の冥府の使者カイエントークン1体を特殊召喚する――出てこい、冥府の使者カイエン!!」


冥府の使者カイエントークン 攻/守5000


 白銀の鎧をまとったグラマーな女性が鋭い長剣を構え、ゴーズと肩を並べている――

「炸裂装甲に加えてゴーズまで隠し持つとは…意外と用心深いな……。モンスターを裏守備表示で召喚し、ターンエンドだ(それにしてもやつの異様な敵意は一体……)」


須藤LP7900
手札0枚
モンスター
【F・G・D】
リバースモンスター1体
魔法・罠
【DNA改造手術】
【王宮のお触れ】


興春LP3000
手札2枚
モンスター
【冥府の使者ゴーズ】
【冥府の使者カイエントークン】
魔法・罠
無し


 ライフでは俺が圧倒しているが、次のターンに攻撃力5000同士のF・G・Dとカイエンが相打ちになり、俺のモンスターゾーンはがら空きになってしまう。そして、ゴーズのダイレクトアタックを受けてしまう。さらにこのターンに新たなモンスターが出されたらさすがに楽観視はできない――


「オレのターン、ドロー!!――E・HEROプリズマーを召喚!!」

 ガラス製の角張ったボディを持つ戦士が現れた。


E・HEROプリズマー
光 星4 攻1700 守1100
戦士族・効果
融合デッキから融合モンスター1体を相手に見せる。その融合モンスターの融合素材モンスターとしてカード名が記されているモンスター1体を自分のデッキから墓地に送る事で、このカードはエンドフェイズ時まで墓地へ送ったモンスターと同名カードとして扱う。この効果は1ターンに1度しか使用できない。

(これで、モンスター3体か……)

「バトルだ!斬り裂けェーッ、カイエンでF・G・Dを攻撃!!」


 カイエンは手に持つ長剣でF・G・Dに突進して斬りつけようとし、F・G・Dは五属性の波動でカイエンを突き離そうとする。カイエンはことごとくF・G・Dの攻撃をよけながら接近し、ついに剣舞がF・G・Dの巨体にヒットする。しかし、F・G・Dは最後の力を振り絞り、カイエンに向けて至近距離からの波動攻撃をヒットさせる。両者ともに、ゆっくりと体勢が崩れていき、やがてお互いに息絶えた。そして破壊されたモンスターのソリッドビジョンは虚(むな)しくも消えゆく運命にある――

「……チィッ……!」

 俺は軽く舌打ちをしながら残りの2体のモンスターの攻撃に身構える。

「オレのバトルフェイズはまだ終わっていない!!」

 興春は怒りと憎しみをぶつけるかのように俺の裏守備モンスターを指さす。

「プリズマーで裏守備モンスターを攻撃――」

 興春の攻撃宣言とともに、横向に伏せられていたカードのソリッドビジョンがひっくり返り、そのカードに描かれているモンスターの姿が明らかになった。そのモンスターが立体的な映像となって現れる。


裏表示モンスター:メタモルポット


 メタモルポットは壺のような甲殻(こうかく)の中から一つしかない目で相手を見つめる。

「メタモルポットのリバース効果を発動!お互いの手札を全て捨て、それぞれデッキからカードを5枚ドローする――」

 カードの効果を説明すると同時に興春は手札を全て墓地に捨て、デッキからカードを5枚引く。本来、俺も捨てるはずなのだが、俺には手札が1枚も無いためカードを5枚引く行為だけを行った。


メタモルポット
地 星2 攻700 守600
岩石族・効果
リバース:お互いの手札を全て捨てる。その後、それぞれ自分のデッキからカードを5枚ドローする。


 リバース効果が発動後、プリズマーのとがった拳のパンチを受けて、メタモルポットは破壊される。

「さらにゴーズでダイレクトアタック!!」

 ゴーズは颯爽(さっそう)と俺のもとまで駆け抜け、中段の構えから勢いよく太刀で俺の胸を叩き斬る――

「――グウアァッ!!」

 自分でもよく分からないような悲鳴を吐きながら、切り傷があるわけでもないのに胸を抑(おさ)え、軽くよろけてしまう。


須藤LP5200


「メインフェイズ2だ!まずはプリズマーの効果発動、プリズマーは融合デッキの融合カードを相手に見せることでその融合カードに記されたカードをデッキから墓地に捨て、プリズマーを捨てたカードと同名扱いにする事ができる――俺が貴様に見せるのはE・HEROダーク・ブライトマン!!」

 E・HEROダーク・ブライトマンのカードのソリッドビジョンを数秒現れて消えた――


E・HEROダーク・ブライトマン
闇 星6 攻2000 守1000
戦士族・融合/効果
「E・HEROスパークマン」+「ネクロダークマン」
このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。このカードは守備表示モンスターを攻撃した時、このカードの攻撃力が守備表示モンスターの守備力を越えていれば、その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。このカードが攻撃した場合、ダメージステップ終了時に守備表示になる。このカードが破壊された時、相手フィールド上のモンスター1体を破壊する。


「そして、デッキからE・HEROネクロダークマンを墓地に送り、プリズマーのカード名をネクロダークマンとして扱う――」


 興春はデュエルディスクからデッキを取り外し、その中からネクロダークマンのカードを1枚墓地に送る――その後、デッキをシャッフルしデュエルディスクのデッキスロットにセットした。

(なるほど…ネクロダークマンが墓地に存在する時、五つ星以上のE・HEROを1度だけ通常召喚が可能、プリズマーの効果を効率よく利用するという事か……)

「さらに、フィールド魔法――フュージョン・ゲートを発動!!」

 興春がデュエルディスクの中心部にあるフィールド魔法スロット展開ボタンを押すと、カードを置くテーブルの端が展開し、さらなるカードを置くスペースができる。そこにフィールド魔法カードを置くと、フィールド魔法スロットは閉じられ――そして、フィールド魔法のソリッドビジョンが起動される。
 フュージョン・ゲートが発動するとあたり一面が黒に染められる。地面には細長い緑の光線が網のように張り巡らされていて、なんとなく電脳空間をイメージする。そして何より空間や地面が不安定に揺れている。

「――なんか酔いそうなフィールドだな……」

 俺は普段、フュージョン・ゲートのカードを使わないし、それを使うデュエリストと対峙(たいじ)した経験も数えるほどしかなく、不慣れなためやや戸惑い気味だ。


フュージョン・ゲート フィールド魔法
このカードがフィールド上に存在する限り、「融合」魔法カードを使用せずに融合召喚をする事ができる。その際の融合素材モンスターは墓地へ行かず、ゲームから除外される。


「さっそく、フュージョン・ゲートの効果を使わせてもらうぜ、場のネクロダークマン扱いのプリズマーと手札のスパークマンを融合!!」

 金色(こんじき)の装甲と水色のヘルメット、雷のような黄色いライン、青い肉体の男――E・HEROスパークマンとE・HEROプリズマーは黒い渦に飲み込まれ一つの姿に重なってゆく。

「現れろっ、E・HEROダーク・ブライトマン!!」


――そして興春の場に、ダークブライトマンが現れる。スパークマンの金色の装甲が翼のような形に変形し、仮面と脇腹のラインの部分は赤くなり、肉体は黒く染められていく。そして挨拶ばかりと黒い雷を見せつけて俺を威嚇(いかく)する。


「リバースカードを1枚セットし、ターンエンド!」

 興春は休みなく手札から魔法・罠スロットにカードを1枚セットする。


須藤LP5200
手札5枚
モンスター
無し
魔法・罠
【DNA改造手術】
【王宮のお触れ】


興春LP3000
手札3枚
モンスター
【冥府の使者ゴーズ】
【E・HEROダーク・ブライトマン】
魔法・罠
【フュージョン・ゲート】
リバースカード1枚


「まさか――」

 突然、興春は今までとは対照的な小さな声でつぶやく――

「――ドロー、……何だ?」

 俺はドローフェイズを行いながら、興春のつぶやきに対して尋問(じんもん)を行う――

「――まさか、このターン、何もできずに負けるなんて事…ないよな?……貴様がその程度の奴だったのなら、その程度の奴に負けて兄さんがデュエリストとして死んだっていうのなら…オレは……!!」

 興春は今まで以上にドスのきいた声でセリフを吐き捨てる。目つきも人を殺(あや)めんばかりというような、眉を内側に傾け、瞳孔(どうこう)が開きかけている。

「俺は、手札から融合の魔法カードを墓地に送り、2体目の紅の炎竜を召喚――なあ…そろそろ教えてくれないか?何があったんだ?……このまま何も知らずにデュエルを続けても、俺はどうすればいいのか分からない…不毛なだけだ……」

 俺は手札を1枚墓地に送り、紅の炎竜のカードをモンスターゾーンに置いた。再び炎に包まれたドラゴンが現れ、吠えながら興春を威嚇する。――そしてデュエルをプレイするかたわら、静かな口調で興春に真相を問う――


――どうして隆治はデュエリストを辞めたのか?

――どうしてキミは俺にデュエルを挑んむのか?


「…………」

 興春は数秒の沈黙の後、静かに口を開く。

「――兄さんは……、《ある日》を境に…デュエルで勝てなくなったんだ……!!」


「……勝てなくな…った?」

 俺が興春の発言を理解する前に、彼は言葉を続ける。

「ああ、兄さんは《ある日》から1回も勝っていない、同格の相手にはもちろん、格下の相手にも……だ!!」

 興春は悔しく悲しそうな口調で事情を言い出す。

(しかし、仮にアイツの力が落ちたからって……1回も勝てないなんて事――)

 そう、隆治は去年の全国大会で準優勝の実績がある実力の持ち主だ――よほどの理由が無い限り、そう負けが続くわけがない。
 興春は話を続ける。

「理由はオレにも分からない。そして、今年の5月下旬――貴様は兄さんとデュエルし、貴様が勝った。よく覚えているよな?」

「ああ……」

「そのデュエルの日の夜――兄さんは…兄さんは……」

 興春の声が徐々にずぶとくなって行く――



「兄さんは…カードに……、カードに触れる事ができなくなった……。デュエルができなくなったんだ!!」

 セリフ後半部の発音はまるで何か爆発したような気迫だった。

「そうか……、そんな事が……」

 俺にとって興春の言葉は、衝撃的発言だったはずだが、妙に俺は冷製だった。どうリアクションをとればいいのかも考えられ無くなる程に動揺しているからだろうか?

「つまり、俺が隆治をデュエルできなくさせた、そういう事か……?」

「…………」


 興春はただ沈黙しているため、俺はデュエルを続行する。
「俺は手札から、光の護封剣(ごふうけん)を発動……、これでキミは3ターンの間、攻撃ができない――」

 剣の形をした光が興春のモンスター達を取り囲み、束縛する。


光の護封剣 魔法
相手フィールド上に存在する全てのモンスターを表側表示にする。このカードは発動後(相手ターンで数えて)3ターンの間フィールド上に残り続ける。このカードがフィールド上に存在する限り、相手フィールド上のモンスターは攻撃宣言を行う事が出来ない。


「さらに、手札から封印の黄金櫃(おうごんひつ)を発動、デッキからこのカードを除外し発動後2回目のスタンバイフェイズ時に手札に加える――」

 俺はデュエルディスクからデッキを外した――中から1枚のカードを取り出し、ゲームから除外する。ちなみにこのデュエルディスクは墓地スロットが除外ゾーンの役割も果たしていて、自動で墓地カードと除外カードを分別してくれる。
 その後、残ったデッキを丁寧にシャッフルし、デュエルディスクにセットし直した。


封印の黄金櫃 魔法
自分のデッキからカードを1枚選択し、ゲームから除外する。発動後2回目のスタンバイフェイズ時にそのカードを手札に加える。



「ターンエンドだ!」

「…………」

 俺は沈黙している興春に向かって、真顔になり、静かな口調で興春に話しかける。

「戦いは勝てれば最高の達成感を得られ、自分に自信が持てる。たが負ければ、今までの努力が報われず、劣等感を感じてしまう――たとえ、どんなに力の近い者同士が戦ったとしても、そこに勝者と敗者の距離は必ず存在する……」

「…………」

「確かに隆治が不安定の状態ながらも覚悟して俺に挑み、負けたのが相当のショックだったのかもしれない。あのデュエル、アイツが“勝って”いればカードに触れなくなるなんて事もなかったかもしれない……」

「…………」

 未だに沈黙を保ている興春に対して、慰(なぐさ)めるような口調で話しを続ける。

「確かに負けるのは悔しい……、だけどな――“勝たせられる”のは“負ける”よりも悔しいはずだ!!……仮にあの時俺が力を抜き、隆治を“勝たせた”としてもアイツは絶対に手加減された事に気づいてしまうだろう。そしてアイツは“相手にすらされなかった”と余計に屈辱(くつじょく)なハズだ。今よりも悪い方向に進んでいたかもしれない――」

「…………」

「だが……、俺がアイツの異変に気づいてやれなかったのは悪かった…すまない……」

 俺は謝罪の言葉と同時に数秒の間、軽く頭を下げた――


「――分かっているさ……」

 興春は長い沈黙を破り、口を開く――

「興春君……」


「兄さんが負けてああなったのに関して貴様は何も悪くない事も、貴様を倒したって何も変わらないことも!!」


 興春はさらに興奮し、言葉を続ける。

「――兄さんはオレの目標でもあった、でももうデュエルできない。だから……、目標を失った今のオレには…兄さんに勝った貴様を倒すことしか……、考えられないだ!!」

 興春の叫びに対して俺はこう応えた。

「――そうか……。なら俺も……、全力でキミの相手をする以外に方法はなさそう…だ!」

 興春は荒々しい声を保ちながらカードを引く――


「行くぞ……!!オレのターンッ!!ドローッ!!!!」


第二十章 Fallen Fantasy

須藤LP5200
手札2枚
モンスター
【紅の炎竜】
魔法・罠
【DNA改造手術】
【王宮のお触れ】
【光の護封剣】


興春LP3000
手札3枚
モンスター
【冥府の使者ゴーズ】
【E・HEROダーク・ブライトマン】
魔法・罠
【フュージョン・ゲート】
リバースカード1枚


「まずは、ネクロダークマンの効果を発動ォォォッ――このカードが墓地に存在する場合、1回だけ生け贄無しで“E・HERO(エレメンタルヒーロー)”と名の付くモンスターを召喚する事ができるゥッ!!オレは…E・HEROエッジマンを召喚ッ!!」


E・HEROネクロダークマン
闇 星5 攻1600 守1800
戦士族・効果
このカードが墓地に存在する限り、自分は「E・HERO」と名のついたモンスター1体を生け贄無しで召喚する事ができる。この効果はこのカードが墓地に存在する限り1度しか使用できない。


 興春がカードをモンスターゾーンに置くと、長身の戦士が現れる――その戦士は顔から足下まで、全身を黄金の鎧に身を包んでいる。そして小手の部分には短刀が組み込まれている。


E・HEROエッジマン
地 星7 攻2600 守1800
戦士族・効果
このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、その守備力を攻撃力が超えていれば、その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。


「これで攻撃力2000以上のモンスターが3体か。だが、光の護封剣(ごふうけん)が俺を守ってくれる――」


 そう、光の護封剣が興春のモンスターを束縛しているから攻撃を行う事ができない。


光の護封剣 魔法
相手フィールド上に存在する全てのモンスターを表側表示にする。このカードは発動後(相手ターンで数えて)3ターンの間フィールド上に残り続ける。このカードがフィールド上に存在する限り、相手フィールド上のモンスターは攻撃宣言を行う事が出来ない。


(そして封印の黄金櫃(おうごんひつ)でサーチしたあのカードが手札に来る2回目のスタンバイフェイズ。それまでだ……、それまでに持ちこたえられれば――)


 俺は長らくデュエルディスクを支え続けてきた左肩を軽く回し、こりをほぐす。
 そして手札を確認しながら今後の作戦を立てる。


「倒してやる!!須藤尚輝、絶対に貴様を倒してやるゥゥ!!――ターンエンドだァァ!!」

 興春が闘牙むき出しの態度でターンを終了させる。

「――俺のターン、ドロー」

 俺は静かにカードを引く――興春の威勢に比べると、なおさらおとなしく見えるだろう。


「手札からモンスターをセット――ターンエンド」

「オレのターンだァ、ドロー!!貴様を倒す、倒してやる…倒してやる、……倒してやる!!手札からサイクロン発動ォーッ!!」


サイクロン 速攻魔法
全フィールド上の魔法、罠カード1枚を破壊。


 興春が引いたばかりのカードをがさつに魔法・罠スロットに差し込む。

「うぉっ、ここでサイクロンを引いたか、ヤバいな……」


「オレが、オレが破壊するのは光の護封剣。目障りだ、消えろォォォーッ!!」


 光の護封剣のカードは竜巻により吹き飛ばされて消滅した。
 同時に興春のモンスター達を束縛していた剣のかたどった光もまた、刹那(せつな)に消え行く。


「そしてダーク・ブライトマンで裏守備モンスターを攻撃だッ!!」


 興春の言動を見る限り、彼は完全に冷静さを失っていると思う――


裏表示モンスター:ドル・ドラ


 淡い紫色の皮膚の翼を持った双頭龍が俺の前に現れ、俺を守る――


ドル・ドラ
風 星3 攻1500 守1200
ドラゴン族・効果
このカードがフィールド上で破壊され墓地に送られた場合、エンドフェイズにこのカードの攻撃力・守備力はそれぞれ1000ポイントになって特殊召喚される。この効果はデュエル中一度しか使用できない。


 ダーク・ブライトマンは右手の手のひらから黒い電流を放電しドル・ドラにそれをぶつける。衣服が破れたかと勘違いするほど大きい乾いた音がドル・ドラの感電が始まる合図となった。
 しだいに黒い電流はドラ・ドラの全身を蝕み紫色の皮膚を焼き焦がす――気づいた頃にはもう、ドル・ドラの姿は無かった……。

「くッ……(だが、エッジマンならドル・ドラを破壊するだけではなく、俺に貫通ダメージを与えられたはずだ。やはり今の興春は何か見失っている――)」


「まだだァ!!エッジマンで紅の炎竜(クリムゾン・フレイム・ドラゴン)を攻撃、パワー・エッジ・アタック!!」

 エッジマンは手首についている黄金の刃で紅の炎竜を切り裂いた。紅の炎竜は弱り果て、自らを包んでいた炎も消えてしまい息絶えた――紅の炎竜は攻撃力2400でエッジマンは2600、その差は200ポイント。


須藤LP5000


「俺にはもう、モンスターがいない……」

 興春は怒り狂った態度を変えずに次の攻撃に臨(のぞ)む――

「次は貴様が苦しむ番だァァァーッ!!冥府(めいふ)の使者ゴーズでダイレクトアタック!!死ねェーッ!!死んでしまえェェーーッ!!!!」


 ゴーズは目にも止まらぬスピードで駆け抜けて、どんな斬り方をしたのかも分からないまま、気づいた頃にはもう、俺は斬られていた。

「う……」

 斬るスピードが速すぎて視覚的な感覚が無く、前回みたいに悲鳴まではあがらなかったし、姿勢が崩れる事もなかった。


須藤LP1300


「フ、……ハハハ!!これでライフはオレが上。そして、モンスターの数は圧倒的にオレの方が多い!!次のターンには貴様の首に穴をこじ開けてやるゥ、ターンエンドだァーッ!!」

「エンドフェイズ時にドル・ドラは攻守を1000にして墓地から特殊召喚する事ができる――」



 再びドル・ドラは墓地から召喚された。


ドラ・ドラ 攻/守1000


「そして俺のターン、ドロー!!――まずは封印の黄金櫃で除外した紅の炎竜を手札に加える」

 墓地スロットから除外カードが出てきて俺はそれを手札に加える。

「強欲な壺を発動、カードを2枚ドロー」

 俺は自分のデッキからカードを2枚ドローする。


強欲な壺 魔法
自分のデッキからカードを2枚ドローする。


「そして、墓地のカードを5枚除外し、龍の如(ごと)くを発動!ドル・ドラに装備――」


龍の如く 装備魔法
墓地からからカードを5枚除外して発動する。このカードの装備モンスターの攻撃力は1500ポイントアップし、種族はドラゴン族になる。このカードの装備モンスターが戦闘で破壊された場合、自分のライフポイントは半分になる。


ドル・ドラ 攻撃力1000→2500


「そして俺のターン、ドロー!!――まずは封印の黄金櫃で除外した紅の炎竜を手札に加える」

 墓地スロットから除外カードが出てきて俺はそれを手札に加える。

「よし、手札を1枚捨て――3体目の紅の炎竜を召喚!!」

 さっきのターンまでの紅の炎竜と何ら変わり映えの無い、全身に炎をまとった手足の無い大蛇(おろち)のようなドラゴンが現れる。よく見ると本体の皮膚は黒く金色(こんじき)の甲殻に包まれている。


紅の炎竜
炎 星5 攻2400 守0
ドラゴン族・効果
自分が相手より手札の枚数が多い場合、手札を1枚捨てる事でこのカードを手札から攻撃表示で特殊召喚する事ができる。


「はぁ?……紅の炎竜の攻撃力は2400、ドル・ドラは攻撃力2500――攻撃力2000のダーク・ブライドマン1体を倒すのが関の山だよ……。それにダーク・プライドマンは破壊されたとき貴様のモンスター1体を道連れにする…そしてオレの場には攻撃力2500以上のモンスターが2体もいる、貴様の劣勢(れっせい)には変わりないハズだァァ……!!」

 興春は前半は見下すように、後半はただ怒りにまかせて俺を罵る。


(キミが俺を憎む気持ちも分からなくはない――だがキミが憎しみだけで挑むのなら、俺はなおさら負けるわけにはいかないんだ!)

 興春の言葉に耳を傾けながらも俺は手札から1枚のカードを取り出す――

「このままで終るつもりは無い、手札から龍の鏡(ドラゴンズ・ミラー)を発動!!紅の炎竜3体を融合――」


龍の鏡 魔法
自分のフィールド上または墓地から、融合モンスターカードによって決められたモンスターをゲームから除外し、ドラゴン族の融合モンスター1体を融合デッキから特殊召喚する。(この特殊召喚は融合召喚扱いとする)


――俺の目の前に直径10メートルほどのオーソドックスな楕円形(だえんけい)の鏡が現れ、墓地とフィールドから3体の紅の炎竜がその鏡に吸い込まれていく。



「来いッ……不死爆炎龍(イモタール・バーン・ドラゴン)!!!!」



 そして鏡の中から1体のドラゴンが飛び出してくる。
 紅の炎竜と同じ姿だ――しかし体格は3倍の大きさで、新たに手足と翼が生えている。

「クソォッ、そいつを出して来やがったかァァァ!!おのれ、おのれぇぇッ……!!」

不死爆炎龍
炎 星10 攻4500 守0
ドラゴン族・融合/効果
「炎の紅竜」+「炎の紅竜」+「炎の紅竜」
このモンスターの融合召喚は、上記のカードでしか行えない。このカードはフィールド上に攻撃表示で存在する限り破壊されない(戦闘によるダメージ計算は適用する)。このカードは破壊された時、墓地へは行かずに融合デッキに戻る。


 不死爆炎龍は攻撃表示で存在する限り破壊されず、仮に破壊されたとしても融合デッキに戻る――まさに、“不死”の名にふさわしきドラゴンだ!
 ただでさえフュージョン・ゲートの影響で歪(ゆが)んでいた空間に巨大な炎で包まれた翼龍(よくりゅう)が場を蹂躙(じゅうりん)した事により、さらに空間が歪んでいるように見えてきた。
 俺は数秒の間、不死爆炎龍の厳(おごそ)かな姿に見入る――

「バトルフェイズ、まずはドル・ドラでダーク・ブライドマンを攻撃!!」

 ドル・ドラは双頭の口からそれぞれ風圧を放ちダーク・ブライドマンを消滅させる。


興春LP2500


「……アア!?やりやがったな貴様ァァ!!ダーク・ブライドマンは破壊されたとき、モンスター1体を道連れにするゥゥゥゥゥ……」

「しかし、不死爆炎龍は破壊されない……」

「ならドル・ドラの方でも構わん、消え失せろォォッ!!」

 興春の言葉とともにドル・ドラは消滅した。


「そして、不死爆炎龍で冥府の使者ゴーズを攻撃――イグニッション・ヘヴィ・ブラスターァァァ!!」


 不死爆炎龍はゴーズを狙い口から炎の弾を吐き出す。


――まるで大地を削るかのように

――まるで風を焼き焦がすかのように

――炎の弾は直進する


 このフュージョン・ゲートをも壊しそうな破壊力――やがて、ゴーズとの距離は完全になくなる。
 ゴーズは自分の体格の五倍はある火の弾を必死によけようとするが圧倒的な速度にはかなわず、ロケット発射のような爆発音とともに直撃した。火の弾はゴーズを燃やし尽くす――しばらくして爆風が消え行き、そしてゴーズもまた消え行く。

「チィッ……!!」

興春LP700


 不死爆炎龍の攻撃力は4500、ゴーズの攻撃力は2700――その差1800が興春のライフから削られる。

「ターンエンドだ!!」


須藤LP1300
手札1枚
モンスター
【不死爆炎龍】
魔法・罠
【DNA改造手術】
【王宮のお触れ】


興春LP700
手札3枚
モンスター
【E・HEROエッジマン】
魔法・罠
【フュージョン・ゲート】
リバースカード1枚


「オレのターンッ、ドローォォッ!!――」

 興春は引いたばかりのカードをモンスターゾーン置く。

「出てこい!!E・HEROエアーマンを召喚ッ!!」

E・HEROエアーマン
風 星4 攻1800 守300
戦士族・効果
このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、次の効果から1つを選択して発動する事ができる。●自分フィールド上に存在するこのカードを除く「HERO」と名のついたモンスターの数まで、フィールド上の魔法または罠カードを破壊する事ができる。●自分のデッキから「HERO」と名のついたモンスター1体を選択して手札に加える。


 背中にプロペラ内蔵で機械式の翼を持つ仮面の男が現れる。

「エアーマンの効果でデッキからE・HEROキャプテン・ゴールド手札にィィィ!!」

 興春は大げさな勢いでデュエルディスクからデッキを抜き出し、目にも止まらぬスピードでキャプテン・ゴールドのカードを抜き出した。
 そして、おおざっぱな手つきでデッキをシャッフルし、デュエルディスクにデッキをセットする。

「フュージョン・ゲートの効果を発動し、エッジマンと手札のキャプテン・ゴールドを融合ォォッ――E・HEROシティ・ガーディアンを攻撃表示で融合召喚だァァァァッ!!」


 黄金の装甲と赤いマントを装った戦士――E・HEROキャプテン・ゴールドが現れる。そして、フュージョン・ゲートの空間の歪みにキャプテン・ゴールドとエッジマンが巻き込まれ、一つの姿に交わる。現れたのは白銀の装甲と青いマントに身を包み、自身の背丈ほどの長さの大剣を握り持った長身の男だ――


E・HEROシティ・ガーディアン
光 星8 攻2900 守1800
戦士族・融合/効果
「E・HEROエッジマン」+「E・HEROキャプテン・ゴールド」
このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。このカードが特殊召喚に成功した時、デッキから「摩天楼―スカイスクレーパー」1枚または「摩天楼2―ヒーローシティ」1枚を手札に加える事ができる(その後、デッキをシャッフルする)。この効果で手札に加えたカードの種類によって以下の効果を得る。●「摩天楼―スカイスクレーパー」:このカードは戦闘では破壊されない。(ダメージ計算は適用する)●「摩天楼2―ヒーローシティ」:除外ゾーンに存在する「E・HERO」と名のついたモンスター1体を墓地に送る。この効果は1ターンに一度だけ発動する事ができる。


「オレはシティ・ガーディアンの効果で摩天楼(まてんろう)―スカイスクレーパーを手札にィィ――」


 再び興春はデュエルディスクからデッキを取り出し、そのデッキから摩天楼―スカイスクレーパーのカードを抜き出す。そしてデッキをシャッフルしてデュエルディスクに戻す。


「そしてスカイスクレーパーを発動ォォ!!」


 興春のデュエルディスクのフィールド魔法ゾーンからフュージョン・ゲートのカードが消え、彼は新たにスカイスクレーパーのカードをフィールド魔法ゾーンに置く。
 周りを囲っていた歪んだ空間と地面に張りつめられた網状の緑の光が消え、今度は高層ビルの立ち並ぶ大都市が俺たちの戦場となる。


摩天楼―スカイスクレーパー フィールド魔法
「E・HERO」と名のつくモンスターが攻撃する時、攻撃モンスターの攻撃力が攻撃対象モンスターの攻撃力よりも低い場合、攻撃モンスターの攻撃力はダメージ計算時のみ1000ポイントアップする。


「さらにィィ……、手札から装備魔法ォ――無慈悲(むじひ)の羽衣(はごろも)をシティ・ガーディアンに装備だッ!!」


 シティ・ガーディアンの背後に白い大きな鳥の翼のような光がまとう。しかしそれは直にシティ・ガーディアンの背中にくっついているわけではなく、ひたすらシティ・ガーディアンの背後に浮遊してつきまとっているだけである。


無慈悲の羽衣 装備魔法
光属性モンスターにのみ装備可能。自分フィールド上に存在する装備モンスター以外のモンスター1体を生け贄に捧げる。この効果で生け贄に捧げたモンスターの攻撃力の半分−100の数値だけ装備モンスターの攻撃力がアップする。


「無慈悲の羽衣は、モンスター1体を生け贄に捧げ、捧げたモンスターの攻撃力の半分−100だけ装備モンスターの攻撃力をアップさせるッ――エアーマン、もう用済みだ!消えなァァ……ッ」


 興春は自(みずか)らの冷徹(れいてつ)さをアピールするような言葉を吐く。エアーマンは虚しくも消え去り、無慈悲の羽衣に吸収されて行く……――


シティ・ガーディアン 攻撃力2900→3700


「まだ不死爆炎龍の攻撃力には及ばないが、攻撃時だけはスカイスクレーパーの効果で1000ポイントアップし上回るッ!!――不死爆炎龍は破壊できないがァ、貴様のライフを削ることはできる……!!」

 やはり、興春の口調には怒りや憎しみが含まれたままだ。

「やはり……、ライフを削る作戦で来たか」

「バトルフェイズ!!シティ・ガーディアンで不死爆炎龍を攻撃ィィィィッ――斬りィ裂けェッ!スカイスクレーパー・スラッシュ!!」

 スカイスクレーパーの効果でシティ・ガーディアンの攻撃力が上がる。


シティ・ガーディアン 攻撃力3700→4700


 シティ・ガーディアンは前後左右に立ち並ぶビルの壁から壁へと飛び移りながら加速をつける。そして、不死爆炎龍の頭上に跳ね上がり、大剣で“/(スラッシュ)”を描くように胴体を切り刻む。
 それにより不死爆炎龍の胴体に大きな傷口が空いた。だが、自身の回復能力により簡単にその傷口がふさがり、それを守るように炎が包みこむ――

「だが、戦闘ダメージは受けてしまう……」


須藤LP1100


シティ・ガーディアン 攻撃力4700→3700


「貴様を倒してやる!絶対に、絶対にだァァ、ターンエンドッ!!」


須藤LP1100
手札1枚
モンスター
【不死爆炎龍】
魔法・罠
【DNA改造手術】
【王宮のお触れ】


興春LP700
手札2枚
モンスター
【E・HEROシティ・ガーディアン】
魔法・罠
【摩天楼―スカイスクレーパー】
【無慈悲の羽衣】


 激情している興春に対して俺は静かに語りかける――

「俺のターン、ドロー――今のキミがやろうとしている事はデュエルではないんじゃないのか?」

「はァ!?……何を言い出すんだ貴様ァ!?今、正にデュエルの真っ最中じゃないか!!」

 興春は怒りを保ったまま俺に応えた。そして俺もそれに対して応えようとする――


「確かに今キミはデュエルをしている……、だがキミのやっていることはデュエルを利用した俺への復讐(ふくしゅう)ではないか?」

「た、確かにそうかもしれねぇッ!!でも勝てばいいじゃないか!?勝って貴様を倒せばそれで――」

「それでも隆治はデュエルができないままだ!!」


「……ぐっ、だが、それでも貴様を倒せばオレは、オレは……、オレはァァァッ!!」


「そして、怒り憎しみの心にとらわれて冷静さを失った今のキミでは、俺に勝つ事もできない!!」

 俺は即座に手札からカードを1枚、デュエルディスクに差し込む――

「このターンで終わりだ、魔法カード――ハリケーンを発動!!」


ハリケーン 魔法
フィールド上の魔法・罠カードを全て持ち主の手札に戻す。

「このまま不死爆炎龍でシティ・ガーディアンを攻撃すれば戦闘ダメージでキミのライフは0なるのだが、キミにはまだリバースカードが1枚残っているから、念のために消させてもらう」

「まだ終わらせない、サイクロ発動にチェーンし、リバースカードオープン――蝕む茨(いばら)を発動ォォ!!これで不死爆炎龍の攻撃力はマイナス1000ポイントだァァァ」

 俺のサイクロンの効果が発動よりも先に蝕む茨の効果が適用される。


蝕む茨 速攻魔法
フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択する。エンドフェイズ時までそのモンスターの元々の攻撃力は1000ポイントダウンする。


不死爆炎龍 攻撃力4500→3500


 鋭いトゲのついた植物のツルが不死爆炎龍の体を縛りつける。
 その後でサイクロンの効果が発動し、お互いの魔法・罠カードは手札に戻った。
 スカイスクレーパーが消滅し、辺りは大都市からごくふつうの公園に戻る。また、シティ・ガーディアンの背後に取り憑(つ)いていた無慈悲の羽衣も消滅する。


シティ・ガーディアン 攻撃力3700→2900


「――貴様の不死爆炎龍の攻撃力3500に対してオレのシティ・ガーディアンは攻撃力2900!!オレへの戦闘ダメージは600でまだオレのライフは100残るハズだッ!!」

 興春の罵声に動じずに俺は手札のカードを1枚発動させる――



「残念ながらそのカードでは次のターンは来やしない、やはりこのターンで終わりだ!!装備魔法――巨大化を発動ッ!!」


巨大化 装備魔法
自分のライフポイントが相手より少ない場合、装備モンスター1体の元々の攻撃力を倍にする。自分のライフポイントが相手より多い場合、装備モンスター1体の元々の攻撃力を半分にする。


「なっ、巨大化だと……!?」

 興春は首をかしげる。

「これを装備したモンスターは俺のライフがキミよりも少ない場合を元々の攻撃力を倍にし、俺のライフがキミのライフより低い場合は元々の攻撃力が半分になる――」

「……?オレのライフは700で貴様のライフは1100、貴様の方が多い!!今、不死爆炎龍に装備しても攻撃力を半分にするだけだ!!」

「やはり…な。今のキミは怒りにとらわれていて何も見えていないようだ――巨大化を装備するのはシティ・ガーディアンだ!!」

 俺のセリフから数秒後にやっと興春の反応が現れる。


「なっ!?つまりシティ・ガーディアンの元々の攻撃力の方が半分に……!?」

 俺はシティ・ガーディアンに巨大化を装備させる――巨大化という名前に相反(あいはん)し、シティ・ガーディアンの体は半分の大きさに縮んで行く。


シティ・ガーディアン 攻撃力2900→1450


 これで攻撃力3500の不死爆炎龍で攻撃力1450のシティ・ガーディアンを攻撃すれば興春は2050ポイントの戦闘ダメージを受ける。そして、今の興春のライフは700ポイント――


「負けたんだな……、オレは――」

 突発的に興春の激情は静まり、ひざまずいた。

「トドメだッ、イグニッション・ヘヴィ・ブラスターァァァッ!!!!」


――これで俺の勝ち

――彼には気づいてほしい

――こんなデュエル

――全く無意味だと

――俺を倒す事なんかよりも

――もっとやるべき事があると……


 不死爆炎龍は再び火の弾を放つ。蝕む茨でやや力は失っているが、それでも俺の体格と同じくらいの火の弾を発射する。相手のシティ・ガーディアンが巨大化の効果で弱体化している事も手伝い、火の弾は見事にシティ・ガーディアンに命中する。
 そして、シティ・ガーディアンが受け止められなかった分のダメージは興春のライフから削られる。


「――オレは貴様を倒せれば良かったはずなのに……。貴様を倒せれば、倒せれば、倒せれ…ば……」

 興春の嘆きをあざ笑うかのようにライフポイントは無くなっていく――



興春LP0





 デュエルは終了し、全てのソリッドビジョンが空虚と化していく。
 興春は未だにひざまずいき、軽く二回ほど地面を殴る――

「くっそォッ……」
 俺は各ゾーンのカードを全てデッキに戻して、デュエルディスクの電源を切りながらひざまずく興春に近づく。

「……なぁ、本当に隆治はデュエルできるようにする事はできないのか?」

 俺は顔色をうかがいつつも興春に問いかける。

「ハハハ…バカだなオレ、兄さんが元に戻る方法も考えずにずっと貴様に対する憎しみばかり抱いていたんだな。今頃気づいたぜ……」

 興春は虚(うつ)ろな目を話を続ける。

「だけど、今考えてもどうすれば兄さんが救えるのか分からない。なぁ、貴様も分からないのか?分かっているのなら教えてくれよ……」

 興春の訴(うった)えに対して俺はうつむきながら応える。

「スマン、俺にも分かりそうにない。悪いな……」


――本当にどうすればいいのか分からない

――こんな時どうすればいいのか?

――どうすれば隆治がデュエルをできるようになるのか?

――考えても、考えても、答えは見つからない


 俺がもっと人生経験が豊富なら何か答えが見つかったかもしれない。俺は自分自身の未熟さを恨んでしまう――

「どうすれば……」

 興春の言葉を最後に長き沈黙が始まる――


 …………。



「――あのぉ〜?」
 気がついたら俺達の目の前に16、17くらいの少女1人が立っていた。その少女の身長は160センチ前後で、華奢(きゃしゃ)な体格だがそのわりに妙に色気づいた雰囲気がある。特徴と言えば赤いロングヘアーとパッチリと開いた瞳、色白ながらも血色の良さそう肌と豊満な胸だろう――その少女は純白でワンピースを着ている。

「き、キミは……?」

 俺は目の前の少女にやや緊張気味に問いかける。

「私は瑞縞つばき(みずしま つばき)、ごじゅうな……いえ16歳ですよ〜」

(“こじゅうな”!?)

 その少女、瑞縞つばきは年齢のわりに落ち着いた印象のある口調だと思う。多分俺は後輩の神谷と比べているから、よりおだやかに感じに見えているのかもしれない。そして、透き通った声質であり話が聞き取りやすい。

「ところで、そこでひざまずいている怖そ……いえ全く怖くなさそうな男の方がお困りのようですが……」

 俺とつばきは興春の方向に顔を向ける。


「――どうすれば兄さんは、兄さんは、分からない…フン、どうせオレは怖い顔だぜ……。昨日も近所のチビッコに目線が合っただけで逃げられたし。やはり、諦めるしかないのかよッ!!」

 途中でボヤキみたいなモノが含まれていたのはおいといて、未だに興春は考え込んでいる。

「あのぉ、もしかしてこの方のお兄様が、デュエルできなくなって困っているのでしょうか……?」

 つばきは首を傾げながらおっとりとした口調で俺に問いかける。

「いや今の状況そのままですよ…って何で知ってんだよ!?」

 俺は思わず初対面の相手に対してタメ口でツッコミを入れてしまう。

「よく分からないですけど私、突然人の心が見えてしまう事があるんです〜」

「そ、そうなんだ……;」

 ずいぶん変わった子だなと思いつつ俺は話を合わせる――

「――とにかくオレが負けたのは事実――このカードは貴様にやるぞッ!!」

 いきなり興春が俺に向けてカードを手裏剣のように俺に向けて飛ばす――



「おっと――」

 危なくも俺の反射神経は見事にカードをとらえ、シラハドリのように両手でつかむ事ができた。


「これは受け取れない、隆治な返してくれないか?」

「それはもう貴様の物だ、黙ってもらっとけよ!!」

「なら、なおさらだ。俺の物なら隆治に渡すのも俺の勝手だ……」


 俺は興春に隆治のカードを差し出す。

「チィッ……」

 興春はむしりとるようにカードを受け取る――

「でも兄さんはデュエルできないんだ!クソッどうすれば兄さんはデュエルできるようになるんだよ!!」
「あの……?」

 今度はつばきが興春に問いかける。

「なんだよ!?」

 興春はうざったそうに返事をする。

「私に提案があるんですがデュエルをする理由を思い出させればデュエルできるようになるかもしれませんよ……」

「……?どういう意味だそれは!?」

 興春は目を点にしてつばきに問いつめる。

「いえ、私の勝手な想定ですがあなたのお兄様がデュエルをできなくなったのはデュエルをする“理由”を見失って、無意識にデュエルを拒絶しているのではないでしょうか?」

「は?“理由”なんてなくたってデュエルはできるだろ……」

 興春の言葉につばきは静かになだめるように語る――

「いいえ、人は理由もなく行動をしたりはしませんよ。ましてや理由もなく頑張る事なんてただの苦痛でしかありませんよ――」

「確かにそうかもな……」

 俺は静かにうなずく。


「よく分からないけどオレはもう目覚めた!!兄さんはオレ自身の手で元に戻してやる――須藤尚輝!!」

 興春は吹っ切れたような態度で俺を呼びかける。

「どうした?」

 俺が返事をするとひざまずいた状態から立ち上がり不敵な笑みを見せ、口を開く――

「次は貴様を倒してやる!!それまでに兄さんを元に戻して、その時は“復讐”ではなく純粋な“デュエル”でだ――」

 そう吐き、興春は公園の入り口まで歩き出す。

「興春君!もしよかったら俺にも隆治を元に戻す手助けさせてくれ――」


 俺のセリフにも振り向かずに興春の姿は消えていった……。


「きっとうまくいきますよ、生きている限りは…どうにかなりますよ……。生きている限り……」

 つばきは俺の横でつぶやいていた。

「――それにしてもキミはなぜこんな時間この場所に……?」

 今は7月20日11時55分だ。16歳の女の子が出歩くような時間とはとても思えない。

「それから、どこかでキミを見たことがある気がするのだが……」

 そればかりか“瑞縞つばき”なんて名前も聞き覚えがある。だが、はっきりとは思い出せない。

「それはたぶんテレビでだと思います〜。実は私、歌手やっているんですよ〜。それで、やっと今、テレビに出始めた頃なんですよ〜」

「あ、そういえば確かに昨日もテレビで……!?」


――瑞縞つばき


 現在人気急上昇中の少女シンガーらしい。音楽にうとい俺でも知っているぐらいだからそれなりに人気はあるのだろう。


「実は私、夜散歩が好きなんです〜。なんかいい歌詞が浮かびそうなんで」

「ふーん……、そんなものなのか。しかし、こんな真夜中に一人歩きするのは危ないと思うが……」

「あ、大丈夫ですよ〜。私の家はあそこですし!」

 つばきが指差した方向に俺も顔を向ける。

「あれか……って、デカッ!!あれホテルじゃなかったのか!?」


 俺の視線の先には青屋根のお屋敷がそびえ建っていた。この子は何気にお嬢様だとでもいうのか?

「ところで実は私もデュエリストの端くれで須藤さんのファンなんです、いつかあなたとリアルファイ…デュエルをできる日を楽しみにしてますよ〜!!では、またどこかで会えるといいですね♪」

「そ、それは光栄だな……、俺もキミとのデュエルは楽しみにしている――」

 つばきもまた公園から姿を消して行った――


第二部 -終-




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