翔VS?? 〜過去での死闘〜

製作者:ショウさん




 私ね、実は翔達が生まれてくる、大体5年前には生まれてたんだ。でも、顔が子供っぽくて(童顔って奴ね)、よく大人達からバカにされてたっけ。

 ・・・そんな感じで生まれた私は、「敵」との戦いに備えて、物心ついた時ぐらいから、デュエルとか、デッキ作りみたいなことしかしてなかった。周りはそれらを教えるために、っていう理由で、私くらいの子供を全員、私から遠ざけて、大人達ばかりの環境にしたの。それで、とても寂しいって感じてた。

 そんな時に、あなたが「こちらの世界」にやって来た。父親であるシン・シャインローズ様と一緒にね。
 理由は確か、あなたの持つ神の名を受け継ぎし者達の「力」が強すぎて、友達を大勢傷つけてしまったから、だったかな。力が強かったのは、シン様の直系だったから、だと思うけど。
 それであなたはここにやって来て、ゼオウ様からその力と、中に眠る「闇」を封じるために、ゼオウ様の力が込められたゴーグルをもらってた。
 そんな時、孤独を感じてた私に、あなたは声をかけてくれた。

 「初めまして――」って。

 とっても嬉しかったし、喋ってて分かったけど、あなたはとても優しくて、素敵だった。――恥ずかしい話、多分これが、私にとっての初恋だったと思う。すぐにあなたのことが好きになった。・・・これまでも、そしてこれからも、ね。
 だから、あなたの、その時の記憶を消してしまうのはとても苦しかったし、あなたとお別れをするのはもっと苦しかった・・・。
 心底思った。思い続けた。

 「会いたい――」って。

 でも、どうすることも出来なかった。あなたは「あちらの世界」で、私は「こちらの世界」。そんな境界線を越えられるのは、能力(アビリティ)を極めたシン様か、今はもう封印された邪神しかいなかったから。
 じゃあ、どうして私は「あちらの世界」に行けたか、って?
 シン様があなたと一緒に行ってしまった以上、もう1つの方に誘惑されてしまった。頼ってしまった――。

 「天使」という醜い力を入れられた上で――。

 あなたに会ったその日だけは大丈夫だったけど、その次の日くらいには、もう天使に体を乗っ取られてしまってた。

 「辛かった――」。

 私に残ってたあなたとの記憶と、失(な)くしたあなたの面影を求めて来たのに、結果的には、あなたの仲間達を傷つけてしまった。
 だから正直に言うと、天使の中で睡(ねむ)っていた時、出会わなければ良かった、っていう思いで一杯で、背に生えた羽がもがれるくらいに痛かった。――胸の奥深くが。
 だけど、もう戻れない。もう還れない。それで、天使の中でずっと祈ってた。
 あなたが持ってるその汚れのない強さで・・・、

「私を壊して――」って。

 でもさ、変だよね。あなたに会った時、そんな思いは吹き飛んじゃった。自己中だって思われてもいいくらい、一瞬でね。
 あなたの温もりに焦がれてたこの胸が、一瞬で満たされていった・・・。

 だから、「ありがとう」。――この気持ちは、永遠に変わらない。

 だけど、気持ちだけじゃダメなんだよね。だから、私は「忘却(ロスト)」をあなたに使った。あなたには、「敵」が来るまでの間だけは幸せでいて欲しい、って言ってたけど、あれは嘘。そんな気持ち以上に、恥ずかしかったの。「敵」からもらった力で、あなたに会い続けることが。あなたと喋り続けることが。

 だから、「またいつか」。――この気持ちも、永遠に変わらない。

 私がもう少しまともになったその時に、「こちらの世界」でまた会いましょう。あなたが会いたくなくても、いずれは会ってしまうから・・・。
 どうして私は今、「こちらの世界」にいるのか、って?
 邪神や「敵」を裏切って、邪神からの力を期待出来ない以上、どうすることも出来ない筈だったんだけど・・・、助けられちゃった。そう、もう一方に――。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「か・・・る・・・! ――ける・・・!!」
 少女の声が翔の耳に届いてくる。だが、翔は目を開けようとせず、その声を聞こうとせず、眠り続けようとしていた。そんな彼に痺れを切らしたのか、次の瞬間、少女は彼の腹部を思い切り踏みつけた。
「翔――ってばっ!!」
「グギャッ!!」
 少女――有里の叫びを受けて、攻撃を受けて、翔は飛び上がるように起き、辺りを見回した。
「・・・あれ・・・? オレ・・・、何してたんだ・・・?」
 翔は辺りを見回し続けるも、そこに広がる景色は見覚えの無いものばかりであった。更には、「今までの記憶」――要するに、何故ここにいるのか、といった記憶が皆無に等しかった。
「知らないわよ。 “みんな”も何でいるのか分からないんだから」
「“みんな”・・・?」
 有里の言葉の一部に疑問を持った翔は、そう言うと、首を傾げた。
「――そ。 “みんな”よ」
 そんな翔を見て小さく笑うと、有里は後ろを向いた。

「――結局、ここって何処なの・・・?」
「だからぁ、誰も知らないって言ってんだろ!」
「そんなに怒らなくても良いと思うけど・・・」
「いや、でも実際分かんないからね――」
 有里が見た方向にいたのは、辺りを探索してきた他の4人の仲間達の姿であった。
 まず始めに聞こえてきた声は、加奈のもの。それに怒りながら反発したのが神也。それを宥めようとする真利と、神童の姿もちゃんとある。

「おぉぉおお・・・! みんなもいたのか!!」
「お、やっと起きたか翔――」
 翔の喜んだ言葉に対して、神也は会話をする気が無いかのように、繋がりの無い言葉を言い切った。
「・・・お、おう・・・」
 神也の繋がりの無い言葉に一瞬驚くも、翔は苦笑いしながらそう答えた。
「――それで、どうだった?」
 そんな2人を余所に、有里は他の3人に声を掛けた。すると、3人のうち、加奈が口を開いた。
「う〜ん・・・、見たこと無いトコだけど、ちょっと行ったトコに、地図が書いてある看板みたいなの見つけたから、何とかなると思うわ」
「あ、そうなの。 ――じゃあ、何とかなるわね」
 加奈の言葉を受けて、有里はほっとしたような表情でそう言った。
「翔も起きたみたいだし・・・、そろそろ行こうよ」
 そう言ったのは、神童だ。神童のこの言葉を聞いて、率先して真利が前に出て口を開いた。
「うんうん、早く行こ!」
「――という訳だから、早く立ちなさい、翔」
 真利の言葉を受けた加奈が、翔の尻を力強く蹴った後にそう言った。
「ぐっ・・・、蹴るなよ加奈・・・! 言われたら、んなコトしなくても立つっての!!」
 ズボンについた砂をパンパンと払うと、翔はスッ――と立ち上がり、笑顔で「さぁ行くか」と言った。周りの者は、何でお前が仕切るんだよ、と言いたげな嫌味な視線を彼に向けるが、彼は気にすることなく、前に進み出した。

「ねぇ、私の携帯知らない? 見つからないんだけど・・・」
「お前の携帯? 何でか、オレが持ってたぞ。 ――ホラよ」
「精密機械を投げないでよ! 落としちゃったら危ないでしょ!!」
 といった些細ないざこざがありながらも、有里は、自分の携帯を神也から受け取ると、それをパカッ――と開けて、待ち受け画面に表示された時計を見た。
「2月25日木曜日の17時――だってさ」
 そして、有里は皮肉めいた口調で、そう言った。
「・・・あれ? 金曜日って確か・・・」
 有里のそんな言葉を聞いて、神童が何かを思い出そうとしていた。すると、神童に補足するかのように、神也が彼に向かって口を開いた。
「――トーナメントだろ? デュエル・アカデミアとの友好試合に出場する人を決めるための、な」
「そうそう、それそれ!!」
「・・・んで、日曜日に友好試合、だったわよね」
 神也の補足に反応している神童を余所に、加奈が更に神也に補足した。

 そんな会話が続く中、先陣を切って歩いていた翔が突然足を止め、仲間達の方に振り返った。そして、真剣な表情で口を開いた。
「――負けねぇからな・・・っ!」
 翔の言葉を聞いて、仲間達も同じように真剣な表情を取ると、力強くうなずいた。


 こうして、物語は「次のステージ」に繋がる・・・。


 VS(バーサス)の最初(スタート)へと・・・!!


●     ●     ●     ●     ●     ●


 漆黒の世界の中で、翔は3体の「闇」を見つめていた。1体は闇の龍、1体は厳つい悪魔、1体は漆黒の太陽――。
 その3体は、次々と翔の仲間達を喰らい、自身の力を増していった。翔はそれを止めるべく、必死で「止めろ」と叫んだ。だが、3体は攻撃の手を、喰らう口を止めることなく、翔以外の全ての者達を消し去った――。
「あっ・・・あぁああっ・・・!!」
 絶望――。
 翔はまさしく、「それ」に飲み込まれそうになっていた・・・。
 そんな中で、やがて3体の闇は標的を翔に変え、その手を、口を彼に向けた。

「ッ・・・! ァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 その瞬間、翔は目を覚まし、ベッドから飛び跳ねるように起き上がった。
「・・・夢・・・なのか・・・?」
 つぶやくようにそう言うと、翔は、袖で汗をかいた自分の額を拭った。
 外はまだ、暗闇が支配していた。だが、夢のせいで汗をかきすぎた翔は、「気持ち悪くて眠れねぇ」と再びつぶやくと、ベッドからゆっくりと降りた。そして、足音をあまり立てぬよう、抜き足差し足で風呂場へと向かった。

 ・・・ここは、アナザー・ワールド――。


 ――時間が「過去」から「今」へと戻っていく――。


chapter.00 過去――今


 風呂場は翔が寝ていた場所のすぐ近くにある。ほんの1,2分も歩けば着くほどの距離だ。
 翔の目の前には2つの巨大な扉があり、片方には「男」、もう片方には「女」と、これまた大きく書かれてあり、彼は迷うことなく、「男」と書かれた方の扉に手を掛けた。そして、その扉を開けた。

 翔の目の前――つまり、その扉の奥には、衣服を脱ぎ終え、着ているものが下着だけになっていた1人の女性が立っていた。
 思わず目を点にしてしまう2人――。
「キャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」
 その直後、その女性は大きく叫び、その叫びに反応して、翔はすぐに外に出て、扉をバタンッ――と力強く閉めた。
 少しの間を空けてから、翔は「何かがおかしい・・・」と思って、扉をもう一度見た。だが、やはりそこに書かれてあるのは、「男」という文字1つ。
「な、なぁ・・・。 入る場所、間違えてない?」
「えっ・・・?」
 扉越しの翔の言葉を聞き、女性は首を傾げた。
 その後、女性はすぐに服を着て、外に出た。そして翔の隣に立ち、大きく書かれている「男」という文字を、彼と2人でしばらくの間眺めた。
「あっ・・・、本当だ。 ゴメンね〜。 私、ドジが多くて」
「いやいや。 まぁ、驚いたけどさ」
 女性は手で口を押さえるようにして、そう言った。そんな彼女の言葉を聞いて、翔も頬を少し赤くしながら答えた。
「――そういえば・・・、君ってファイガが来た時の戦いに参加してた? 悪いけど、見た覚えが無くて」
「見た覚えが無いのは、私が後方支援だからかな。 アンナを除けば、女性は基本、後方支援だから」
「へぇ〜・・・」
 簡単な会話を済ませた後、翔とその女性との間に、長い沈黙が生まれてしまった。
 その時、何を思ったか、翔は改めて女性の方を見た。
 女性は腰辺りにまで伸びているであろう長い髪を、髪と同色の黒色の紐で束ねおり、その結び目は、胸くらいまでの長さにするために、高いところに位置していた。
「・・・どうした・・・の?」
 急に女性の声が、途切れ始める。
「いやさ、せっかく会ったんだから、名前ぐらいは聞こうかな、って思って。 オレの名前は神崎 翔――! よろしくな」
 途切れた女性の声に疑問を持つことなく、翔は自分の名を言うと、何の躊躇いも無く、右手をスッ――と前に出した。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「ヘヘッ・・・! よろしくな、〜〜!」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 ―――“あの時”も・・・、よろしくな、だったな・・・。


「私は・・・」
 女性は口を開こうとするが、一瞬だけ躊躇ってしまった。彼の「記憶」がこれをきっかけに、蘇るのではないか、と不安に思ったからだ。だが、覚悟を決めたのか、女性は右手を前に出し、翔の右手を握った。


 ―――もう一度・・・、今度は本当の友達――“仲間”から・・・。


「麻依(マイ)――。 マイ・ブリリアンスよ。 よろしくね、翔くんv」
 そしてマイは、心の底から大きく笑った。
 全てを輝かせる光のように・・・、全てを照らす太陽のように・・・。大きく、大きく・・・。
 そんなマイの笑みを見て、翔も思わず大きく笑った。そして、その笑顔のまま口を開いた。――その言葉も、その時のままだ。










“くん”はいらねぇよ――。 そうだろ?」










 外では闇の支配が終わり、光の世界が広がろうとしていた。

 マイの中の闇が、翔という光に包まれていくように・・・。

Fin.







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