8章・ボーリング
(海馬瀬人 視点)
「そろそろ遊戯達がやってきます…!」
「分かった…」
磯野の報告を受けると、オレは座っていた椅子から立ち上がった。
フフフ…来たな…!
ジェットコースター・シューティング、ホラーハウス、ルーレットレストラン(これをアトラクションに数えるのは姑息かもしれないが…)、パーフェクトルールデュエル体験場――そして、このM&Wボーリング場…!
オレが企画から設計までこなしたこのボーリングゲームは、遊戯達にやらせなければならない。
フフフ…。
もしかしたらオレはこの瞬間のために海馬ランド計画を実行に移したのかもしれない。そんな気さえしてくる。
「お、ここが最後のアトラクションか…!」
「何やってんだ、これ?」
「――ボーリング…みたいだね…」
階段の上から、遊戯達の声が徐々に近づいてくる。
オレはジュラルミンケースから、デッキを取り出し、構える。
そして――
「わははははは! 来たな、遊戯!」
「げ、海馬…!」
「海馬くん!」
遊戯達7人は驚愕の表情を隠せない。
だがオレの登場如きで騒いでもらっても困る。オレは早速説明を始める。
「ここではボーリングをしてもらう。ただし…2人1組のペアでな…!」
「な、何、勝手に説明始めてんだよ…!」
城之内の言葉には耳を貸さず、オレは話を進める。
「ペアはランダムに決める。アルティメットビンゴ――スタート!」
オレの宣言と同時に、オレの背後に設置されたビンゴマシンが作動する。
「だから! 何でそんなモンがあンだよ!」
城之内は無視してペア分けを進める。
ビンゴマシンの動きが止まっていく。
最初のペアは――
――武藤遊戯&海馬瀬人。
「く…」
思わず顔を歪める。
よりによって遊戯とペアを組むとは…。
奴とは闘う立場の方が良かったのだが…。
「――つーより、海馬も参加かよ…」
またぼやき声が聞こえたが、オレは徹底的に無視することにした。
ペア分けが終了した。
結局ペアは、遊戯&オレ、城之内&孔雀舞、真崎&獏良、本田&御伽の組み合わせになった。
少々不満もあるが、まあ仕方ない。
オレは説明を進める。
「さてルールだが…、基本はボーリングと同じだが、球はない。球の代わりにモンスターを使う。モンスターの攻撃によってピンを倒すのだ。」
「まず、デッキからモンスターだけを選び、それを新たなデッキとする。自分の番になったらデッキからカードを1枚引き、そのモンスターの攻撃でピンを倒す…」
「この時、魔法・罠カードでサポートや妨害も可能だ。魔法・罠は、あらかじめデッキから選出しておいた5枚のカードのみを使うことができる。」
「…大体こんなところだ。」
「へぇ〜、面白そうじゃない!」
説明が終わると同時に、孔雀舞が目を輝かせる。
「ああ、確かに面白そうだな…」
「うん!」
他の者達もやる気が出てきたようだ。
オレはここぞとばかりにジュラルミンケースからあるモノを取り出す。
「いい忘れたケド…負けたペアにはこれを飲んでもらう。」
「は?」
「えっ?」
「な、何…それ?」
オレの声の口調は少し変わっていたのかもしれない。
何者かにとりつかれたように、そのモノを前に差し出す。
「これは…海馬コーポレーションが作った…レッド・ポーション試作型。…疲労回復に効く。」
「ちょ、ちょ、ちょっと待った〜! これを飲めって言うのかあ!?」
ビンの中に入ったレッド・ポーションは、当然赤い。
「ライフポイント500回復するぞ…」
「な、なんか…泡が出てるんだけど…?」
ビンからはブクブクと泡の立つ音が聞こえる。
「炭酸のようなものだ。」
「…ぜってぇ違う。ふ、普通、そんな音なんか出ねえ…!」
「でも面白そう…! じゃあボクが、ちょっとだけ味見してみようかな…? いい? 海馬くん?」
獏良が歩み寄ってくる。
「ああ、今、そこのお猪口(おちょこ)にとってやる。」
オレはお猪口にレッド・ポーションを注ぐ。
「ちょ、ちょっと、やめときなさいよ、獏良くん!」
「そ、そうだよ…! 危険だって!」
獏良は皆の制止にもかかわらず、お猪口を受け取り、そのまま口に……
「こ、こ、これは…ちょっと…」
……運ばなかった。
「す、す、凄い匂いがする…! 化学室の薬品にもこんな匂いは…!?」
「お、おい…!」
「やべえぞ…それ!」
「ちなみにガーターの人は、お猪口の方を飲んでもらうよ。」
………。
…かくして、ボーリング対決は始まった。
「オ、オレはやるなんて言ってねえって!」
当然のごとく、城之内は無視だ。
「まずは…オレからだ!」
最初のペアはオレと遊戯である。
最初のフレームでは、1投目はオレが投げ、2投目に遊戯が投げることになった。
「デッキからカードを引く! ――青眼の白龍…召喚!」
レーンの前に猛々しく勇ましい竜が現れる。
「ブルーアイズ! ピンに攻撃! バーストストリーム!」
――ズキュウウゥゥン!
相変わらず凄まじい迫力である。
ピン(これもソリッドビジョンだが)は跡形もなく消滅していた。
だが――跡形もなく消滅したピンは…8つ。
一番隅にある7番ピンと10番ピンだけ綺麗に残っている。スプリットだ。
「く…」
知っていたことにも関わらず、思わず声が出てしまった。
パワーだけではボーリングは制覇できないのだ。
…後ろで馬鹿にしているヤツがいるのが、気に障った。
「次は…ボクだね…!」
遊戯が立ち上がり、カードを引く。
遊戯なら、このスプリットを崩してくれるか? オレは少し期待していた。
「クィーンズ・ナイト! 右の番ピンに攻撃だ!」
クィーンズ・ナイトは、レーンの上を駆け、10番ピンに攻撃をする。
「クィーンズ・セイバー・クラッシュ!」
――ガコン…
普通にピンは倒れる。
あくまで普通にだ。
…遊戯は特に何もしてはくれなかった。
【遊戯&海馬 第1フレーム:9ポイント】
「よし、次はオレだな…」
城之内が椅子から立ち上がる。
「まずは…ドロー! ――げ、ランドスターの剣士…」
攻撃力500の剣士を引いた。城之内は少し顔色が悪くなる。
「フ、城之内…どんなモンスターでも、必ず攻撃しなければならないぞ…」
「てめえに言われなくったって、分かってるぜ! 攻撃だ!」
ランドスターの剣士は果敢にもピンに向かう。だがピンはランドスターの剣士如きでは倒せそうにない。
「――天使のサイコロ発動! これで攻撃力を倍加すれば…何とかなるぜ…!」
しかし――
「1…」
ランドスターの剣士は、健闘むなしくピンに弾かれた。
「こ、こ、これは…、も、もしかして…」
「ああ。ガーター…おめでとう。」
そう言って、オレは城之内の真後ろに立った。
そのまま左手に持ったお猪口を差し出す。
「じょ、冗談だろ…?」
オレは、何故か眼鏡を装着していた。
「駄目だ。拒否は許されない。」
「ちょ、ちょっと声が似てるからって、そこまでしなくても…!」
「磯野! 城之内を取り押さえろ!」
「はっ、瀬人サマ!」
「ぐわああぁぁ!」
「あたしは城之内の死を無駄にはしないよ!」
勢いよく孔雀舞が椅子から立ち上がる。
その拍子に倒れている城之内を踏んだが、気にする様子はなく前へ進んでいく。
「私のカードは…ハーピィ! さらに万華鏡を加え…ハーピィ3体で攻撃よ!」
――ガラガラガコン!
気持ちいい音を立ててピンが倒れていく。
「やった! スペアっ!」
思わず孔雀舞はガッツポーズをした。
「舞さん、やるね!」
「まあね…」
孔雀舞は、少し照れながらも席に戻る。
その時にも城之内は踏まれていた。
【城之内&舞 第1フレーム:スペア】
そして、次々とピンは倒されていく。
「ボクは…首なし騎士!」
――ガラガラガコン!
「私は、エンシェントエルフでいくわ!」
――ガラガラガコン!
「やった! スペアゲット!」
【杏子&獏良 第1フレーム:スペア】
「コマンダー、頼むぜ!」
――ダダダダダダダダ
――ガコン…
「げ…1つだけかよ」
「オレは…キ、キラー・スネーク…」
「しかし、これを使うぜ…重力解除!」
――フワリ…
「――お、すげえ…。ピンが全て浮きやがった!」
「すげえ…というより…ズルイかも…」
【本田&御伽 第1フレーム:スペア】
こうして、再びオレ達のペアの番…。
だが、ここでオレはあることに気付いた。
「く…最下位は…オレ達じゃないか!」
ぬううう! このままでは終わらせんぞ!
隣の遊戯の目つきも変わっていく。
「ああ! オレ達の実力を見せてやるぜ!」
■微妙な後書き■
この話は、あるマンガを多少参考にしています。
……。ごめんなさい。まんまパクリです。
それはさておき、ようやく海馬くんの登場です。
相変わらず、わはははは…な人ですね。
ちなみに、この日――7月21日は海の日です。
「海」…そう…「海馬」の「海」です。
…ぎゃああああ!
それはともかく、次回で終わりです。
一応…お楽しみに…。