9章・転☆球☆王
(王様 視点)
「行くぜ…! クリボー! そして増殖!」
――ドドドドドドン!
増殖したクリボーが次々に機雷化し、ピンを倒していく。
――ガラガラガコン!
「よし! ストライク!」
…少し悪いがこのボーリングの間だけ、相棒には代わってもらうことにした。
既にオレの闘争本能には火をつけられてしまっていた。
この炎は誰にも止めることはできないだろう。
だが、この第2フレーム――
せっかく叩き出したオレのストライクも…
「アマゾネスの弩弓隊…! ストライク!」
「アスラの全体攻撃! …やった! ストライク!」
「激流葬! よし! ストライク!」
みんなの連続ストライクにより、オレ達の最下位は変わらなかった。
「このままでは…まずいな…!」
海馬は立ち上がる。
第3フレーム。次は海馬の投げる番である。
「オレは…ブレイドナイトを召喚する!」
――ガラガラガラ…
「6本か…」
倒れたピンは6本。
だが、こんなペースでは、みんなには追いつけない。
さぞかし海馬は不満そうにしているかと思ったが、その表情には不満の欠片も見られなかった。
「さあ、遊戯の番だぞ!」
むしろ、海馬はなにやら得意げな顔だ。これは…何らかの作戦があるに違いない。
とりあえずは、オレも今できることをしなければ…!
「オレは…幻獣王ガゼル!」
――ガラガラガコン!
「よし、スペアだ!」
何とかスペアはキープした。とりあえずは一安心だ。
だが、海馬の視線はオレの方には向けられていなかった。
城之内くんが倒れた今、舞は一人で投げる。
城之内くんの分まで、舞が投げなければならない。
――ガラガラ…
倒れたピンは合計7本…。
「うーん…。一人じゃあ魔法・罠が思い通りに使えないわ…」
やはり、城之内くんの消えた穴は大きいらしい。
魔法・罠カードは、一人合計5枚しか使えない。このため、一人欠けることは魔法・罠を半分失うことに等しい。
……!!
そこでオレはふと気付いた。
ペアのうち、一人でも…消せば……優位に立てる!
海馬がオレの方をちらりと見る。
その目は、「遊戯、気付いたな…」と言いたげだ。
オレは無意識のうちに頷いていた。
今こそ、オレ達の結束を見せる時だと、オレは強く感じたのだ。
次は獏良が投げる番だ。
海馬の目が光っている。獲物を狙っているような目つきである。
「ボクは…ゲルニアで攻撃!」
海馬はその瞬間を見逃さない。
「罠カード・破壊輪発動!」
「え?」
「最初に説明したはずだ。魔法・罠を使った妨害もできるとな!」
――ドガアァァン!
「ワハハハハ! 獏良、これで貴様はゲームオーバーだ!!」
獏良のゲルニアは攻撃できずにやられてしまった。
攻撃できないと言うことは、ピンは1本も倒せないと言うことであり、つまり…ガーターである。
「そ、そんな…!」
海馬は、どこからともなく眼鏡を取り出した。
左手に持ったお猪口をスッと前に差し出す。
「……」
獏良は後ろを振り返る。
「は…ははは…」
明らかに顔が引きつっていた。
奇妙な笑い声を出していた。
震えた手でお猪口を受け取る。
………。
その先の惨状については…説明するまでもなかった。
「次はオレだ!」
残った杏子が投げ終わり、次のペアに移る。最初に投げるのは本田くんである。
海馬はオレの方をちらりと見る。
間違いない。その目は…「遊戯分かっているな!」と言っていた。
そして今、オレの手札には…「聖なるバリア−ミラーフォース−」がある…。
…やるしかない!
「オレは、魔法剣士ネオで攻撃!」
本田くんの攻撃宣言をオレは聞き逃さなかった。
「今たしか『攻撃』と言ったよな…」
「…え?」
………。
その後の惨状についてはもはや説明の必要はないだろう…。
続いて第4フレーム…。
1番手はオレである。デッキからカードを引く。
「ブラック・マジシャン召喚!」
これならサポートなしでもピンを倒せる…!
「攻撃だ! ――ブラック・マジック!」
その時、後ろから殺気を感じた…。
いや、それは既に発せられたものだったに違いない。
「遊戯…このまま攻撃できると思ったら…大間違いだよ…!」
「ブラック・マジシャン相手と言えど、私達3人には…」
「敵わないわ!」
御伽、杏子、舞…それぞれ、オレに歩み寄って来る。
ブラック・マジシャンは既に攻撃態勢に入っていた。
「攻撃は止める! あたしは、罠カード・炸裂装甲を発動! 攻撃は無効よ!」
「――罠はずしで破壊!」
「まだよ! 私は光の護封剣を発動!」
「――魔法解除で消滅!」
「このまま攻撃を通してたまるかぁ! 悪夢の魔鏡で攻撃の対象を変える!」
「――魔法の筒で軌道修正!」
次々に襲い掛かる魔法と罠の応酬を何とか回避し、ブラック・マジシャンの攻撃を炸裂させる!
「今度こそ――ブラック・マジックだ!」
…ストライクは確実だ!
しかし――
「そいつはどうかな…」
突如、後ろから声がかかる。
「な、何!」
後ろを振り返る…。
そこに立っていたのは…城之内くん!
何とか肩で息をしている。目は少し虚ろだ。
そんな状態にありながらも、城之内くんはレーンを指差す。
「あれを見な…」
見ると、ブラック・マジシャンの攻撃先には…何も…なかった。
「ピンが…消えた!?」
「オレ達の…結束の力は…確実に…風穴を開けたぜ…。ピンは…全て…この亜空間物質転送装置で消した!」
「何!」
「オ…オレのカード!」
ブラック・マジックは何もない空間に空しく衝撃を与える。
「へへ…これで遊戯も…ガーターだぜ…!」
「く…!」
その直後、後ろに嫌な気配を感じた。
「例え仲間だろうが、これはルール…」
再び眼鏡をかけた海馬が後ろに立っている。
「あ…ああ。」
右手に持ったお猪口からは何とも形容し難い匂いがした。
オレは…それを受け取り……一気に…飲み干した。
………!
「ぐああああ!」
衝撃が、全身を包んだ。
胸の奥が熱い。例えるなら、体の中が燃えている。
もう、立っていられない。
視界がぼやけてくる。
痛みも…消えていく。感じなくなってきているのだ。
オレの意識は…闇に覆われて……
「ダメだよ!」
……!
「ここで負けるわけにはいかないよ!」
相…棒…?
「これくらいのことで…負けちゃあダメだ!」
そうだ…。オレはまだ…負けるわけには…いかない…!
閉じかけた目を開ける。
崩れかけた足に力を入れる。
「フ…。た、確かに…500ライフ…回復させてもらったぜ…!」
「…!」
「な、これを飲んで意識を失わないとは…!」
「つ、次は…海馬の番だぜ…!」
「オレは…ミノタウルスに巨大化を装備させ…攻撃!」
2投目に投げる海馬を妨害しても、ガーターにはならない…。
――ガラガラガコン!
誰にも妨害されることなく10本のピンを倒し、スペアを勝ち取った。
次は…城之内くんの投げる番である。
「…オレの…ターン…」
城之内くんの目はまだ虚ろだった。
オレだって立っているのが精一杯なんだ。当然だろう。
「ドロー… …へ…」
ふらつく体でも、その手はしっかりカードを掴む。
その様子は勝利を確信させるものがあった。
(遊戯……オレは………勝ったぜ…)
そうオレの心に語りかけてきた気がした。
場には鋼鉄の騎士が現れている。
「ギア・フリードの…攻……」
しかし、その瞬間…!
城之内くんは…そのまま…前に倒れこんだ…!
「じ…城之内くん!」
召喚されたギア・フリードは幻の如く消えていく。
城之内くんは志半ばで散ってしまったのだった…。
それから先は…よく…覚えていなかった。
あのレッド・ポーションで意識が朦朧としていたのもあるだろう。
「遊戯…貴様の番だ…!」
と、海馬の声がかかるまで、オレは何とか意識だけは繋ぎ止めていた。
気付けば、もう第6フレーム…。
第5フレームは海馬のストライクで、オレの出る幕はなかったようだった。
周りを見渡すと、立っていたのは海馬だけだった。
他のみんなは…既に…。……。
「オレのカードは……」
朦朧とする中、何とかデッキからカードをドローする。
しかし…
「ビ、ビッグ・シールド・ガードナー…」
攻撃力100。
サポートなしでは…まずピンは倒せない。
しかし、オレは既に魔法・罠カードを5枚全て使い果たしてしまっている。
海馬の手元を見る。
そこに…カードはなかった。
どうやら…海馬も使い果たしてしまったらしい。
………。
オレは…GAMEOVERだ。
もう逃れられない。
だが、大丈夫…。
オレにはまだ友が残っている。「オレ」は負けても、「オレ達」は負けない。
「任せたぜ…海馬…!」
「遊戯!?」
オレは…そのまま…自分から…闇に飛び込んで…いった…。
自分から…飛び込んだ…理由は…説明するまでも…ないだろう…。
「それにしても、オレ達ヤバかったよな!」
伸びをしながら城之内くんが言う。
「ああ。あんなふざけたモン作りやがって…! 何考えてンだ、アイツ…!」
………。
オレが倒れてから1時間…みんな意識を取り戻していた。
あんな液体を飲まされた割には、体が心地よかった。
500ライフ回復はあながち嘘ではないかもしれない。
だがもちろん、二度と飲みたくはないのだが…。
オレ達が目覚めた時には海馬はいなかった。
その代わり、そこには7枚のカードがあった。7枚とも同じカードのようだった。
「なになに…。勇者…アトリビュート…?」
「攻撃力2900…すごいじゃない!」
「あ…これがここで貰えるプロモカード…なのかな…?」
「多分…。ま、そうでなくても…オレはもらっちまうけどな!」
そう言って城之内くんはカードに手を伸ばした。
それに続いて、他のみんなもカードに手を伸ばす。
その時、みんなの手の甲に描かれたピースの輪が一瞬だけ重なった。
思わず、手を止める。
…他のみんなもそれに気付き、手を止める。
みんなの手は再び重なりあって、大きなピースの輪ができあがる。
少しの間、みんな口を閉ざしてしまう。
しかし、その沈黙は…決して悪いものではない。
そんなみんなの様子を見て、杏子は笑顔を浮かべ――
「…ピースの輪…忘れちゃあ…ダメだよ!」
そう言って、その手をカードに向ける。
「私がいっちばーん!」
そのまま杏子が最初にカードを取った。
それに続いて、他のみんなも次々にカードを取っていく。
オレは…カードより早く、自分の手の甲にもう一度目を向けた。
例えこのインクが消えても……みんなの心からは…このピースの輪は消えない。
改めてそう感じたのだった。
海馬ランドの入場口から少し離れたところにあるバス停前。
オレ達は夕焼けに染まった空と海馬ランドを見ていた。
「海馬くんは…自分の夢をかなえたんだね…!」
相棒が話しかけてくる。
「いや…海馬にとっては、まだまだこれから…だろうな!」
「うん、そうかもね!」
海馬ランドから出てくる子供達は非常に満足気であった。
ここに来た誰もが、満足して帰っていく…。
これが海馬の望んだものなのだろう。少し海馬をうらやましく思った。
………。
ふと目にした時計は、午後4時48分を指していた。
■微妙な後書き■
えっと、一番書きたかったのはこのボーリングです。あちこちにネタが張り巡らされています。
むしろそれ以外は、ノリだけで書いています。
…って、ダメじゃん。
とりあえず、最後はそれなりにマジメに締めて終わりです。
ご愛読ありがとうございました!
次回作にご期待ください!!
(打ち切り漫画風味)
――なんて言ってみたりして。