2章・入場




(獏良了 視点)



 まだ午前10時前だけれど、直射日光がまぶしい。

 今日も晴天。

 ここ数日間、毎日のように晴れが続いている。近いうちに梅雨明け宣言もされそうだ。

 そしてもうしばらく経つと、辺りはセミの鳴き声に溢れてくるだろう。

 ――本格的に夏がやってきたのだ。



 7月21日――海馬ランドオープン日。

 ボクは海馬ランド入場口の前でみんなを待っていた。

 海馬ランドはドーム状の造りで、中にはいくつものアトラクションがあるらしい。

 今から40分前――つまり午前9時にオープンしたみたいだけれど、海馬ランドの周りはまだ多くの人で溢れている。

 周りの人は全体的に子供が多い。

 海馬ランドは、子供を対象としているので、当然のことなのだろう。ボクのような高校生以上の若者は、1、2割程度しか見られなかった。

 みんな幸せそうな顔を浮かべて入場していく。

 ああ、ボクも早く入りたいな…。



 午前9時57分。

 ……そろそろ10時になる。

 城之内くんと約束した時間だ。

「獏良くーん!」

 遠くから遊戯くんと杏子が手を振ってやってくる。

 ボクも手を振り返す。

 それに続いて、御伽くん、城之内くん、本田くんもやってくる。これで今日のメンバー全員だ。

 …どうやら、みんな同じバスに乗ってやってきたみたいだ。



「まずは、パスポート配るぞ!」

 城之内くんは肩から下げたカバンを下ろし、中からパスポートを取り出す。

「城之内のことだから、てっきりなくしたモンだと思ってたからな…。今朝電話があった時にはビビったぜ。」

「うるせーな、だったら、お前ントコだけ電話しなけりゃ良かったぜ。」

 本田くんと城之内くんはぶつぶつと言い合いをはじめる。

 しかしそれに構うことなく遊戯くんは――

「あ、そうだ。みんな、デッキ持って来たよね?」

 と、ベルトポーチからデッキを取り出しながら言った。

「まあ…一応な…」

「うん。」

「おう。」

 みんな自分のデッキを取り出して頷く。

 …今朝、城之内くんからボク達みんなのところに電話があった。

 パスポートが見つかったことだけでなく、そのパスポートに――

「アトラクションをより楽しむため、各自M&Wのデッキをお持ちよりください。」

 ――と書かれていたことを伝えられたのだ。

 もちろん、ボクもデッキを持ってきている。

「でもさ――何に使うんだろう、このデッキ?」

「は? 何言ってんの御伽? デッキ持参っつたら、デュエル以外にあるかよ!」

「いや、デュエルだけなら、わざわざここでやる必要なんかないだろ?」

「そうかぁ?」

 城之内くんは納得できていないようだ。

 しかしボクは薄々感づいていた。

 わざわざ遊園地でデュエルさせるのではなくて――

「多分、カードを使った新しいゲームがあるんじゃないかな…」

「うん。ボクもそんな気がする。」

「私も…」

「オレもだよ。」

 みんな次々に頷いてくれる。

「しかしなぁ…」

 だけど、城之内くんだけは最後まで納得していないようだった。





――ウィィィン

 大きな自動扉が開き、ボク達6人は中に入っていく。

 外のもやもやした熱気から解放され、ひんやり涼しい空気になる。

 中は思ったより広かった。天井が高い。

 さすがドーム状の建物なだけはある。

 周りには多くの人。ボクの目の前を風船を持った少年が走り抜けていく。

 そして、あちらこちらに設置されたアトラクションの数々。

 ドームの外周を沿うようにジェットコースターが走っている。ドームの高低差を利用しているようだ。

 向かって左側にはアーケードゲームコーナー、右側にはおばけ屋敷のようなものが見られる。

 ここからでは中の様子は分からないが、どちらもそこら辺の遊園地などで見られるレベルではないだろう。

 また、ドームの中央はどうやら吹き抜けになっているようで、その下――つまり地下にも何らかのアトラクションがあるようだ。

「すごい…」

 みんな思わず声を漏らしていた。ボクも気づかない間に声を漏らしていたかもしれない。

 しばらくみんな、呆然と周りを見渡していた。



――ブウゥゥン

 奇妙な音が聞こえ、視界が青色に包まれる。

「え? 何?」

 突然の出来事に思わず声をあげてしまう。

 気持ちを落ち着かせて、もう一度目を凝らす。

 どうやら中空に青色のウィンドウが現れたようだ。

 SFの世界でしか見たことのないウィンドウ――おそらく、ソリッドビジョンの技術を使ったのだろう。

 このウィンドウは案内板の役割をしているようだ。ボク達はそれに目を通す。

海馬ランドへようこそ!

海馬ランドは5つのアトラクションからなる屋内型アミューズメントパークです。

どのように楽しんでいただいても構いませんが、5つのアトラクション全てを体験された方には、記念品として『M&Wプロモーションカード』を贈呈しております。

ぜひ全てのアトラクションをお楽しみください。
海馬コーポレーション

 読んでいくうちに、遊戯くんと城之内くんの顔つきが変わっていく。

「すごい…すごいよ! みんな早く行こうよ!」

「おう! 早速1つ目行くぜ!」

「ちょっ、ちょっと!」

 遊戯くんと城之内くんは、一番近いアトラクションへ駆け出していく。

 他のみんなも慌てて追いかける。



 一番近いアトラクションは、入場口から50メートル程しか離れていなかった。

 そこはジェットコースター乗り場のようだった。

 乗り場にはかなりの数の行列ができていた。この分だと、1時間は待たなくてはいけないかもしれない。…それでもボク達は躊躇せずに列に並ぶ。

 列に並ぶなり、ボク達の左側に、さっき入口で見た青色のウィンドウが現れる。

 そこにはこう書かれていた。

「アトラクション1 『ジェットコースター・シューティング』 ただ今10分待ちです」

 10分待ちかぁ――この行列で10分とはかなり短く感じられた。

 きっと、上手い具合に循環できるように作られているのだと思う。ボクは素直に感心した。

 しかし――

 遊戯くん、城之内くん、本田くん、杏子――みんなの顔色が少し優れない。

「シューティング…」

「一番目はシューティング……」

「アトラクションは全部で5つ…」

 みんな口々にそう呟いている。

 もしかして、みんなジェットコースター苦手なのかな…?

 意外とみんな恐がりなんだな……ボクはそう思った。





微妙な後書き

ホントは花咲くんも出したかったんですけど、夏休みは家族でアメリカに滞在中――という謎の設定がありますので、登場しません。
それに、ゾンバイアファンなので、本場アメリカにいけるのは嬉しいでしょうし。

さて、海馬ランドですが、ドーム型の屋内型アミューズメントパークです。
DEATH−Tの時よりは微妙にスケールダウンしている気はしますが、まあ…気にしない気にしない。




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