リアルタイムデュエル大会
大会2日目

製作者:プロたん




【リアルタイムデュエル大会・ルール】

[ルール01]
 デッキの持ち込み不可。

[ルール02]
 デッキは既存のOCGパックに収録されているカードからランダムで100枚選出したものを使用する。

[ルール03]
 禁止・制限・準制限カードは無視してよい。

[ルール04]
 デュエルはリアルタイムデュエルで行われる。ターンの概念がなくなり攻守が入り混じる。

[ルール05]
 モンスターのバトル中は、メインフェイズで行う処理(速攻魔法以外の魔法カードの使用、モンスターの通常召喚や表示形式の変更、カードのセットなど)が行えない。

[ルール06]
 攻撃を仕掛けたモンスターは、攻撃終了後1分間は攻撃を仕掛けられない。

[ルール07]
 通常召喚は1分に1度しか行えない。

[ルール08]
 罠は場に伏せてから30秒経過後に発動可能。

[ルール09]
 カード効果はOCGに準ずるが、カードによってはリアルタイムデュエルに対応する処理に変更される場合がある。

[ルール10]
 バトルフィールドは童実野町全域。この中で対戦相手合計8人を見つけてデュエルを行う。

[ルール11]
 他の大会参加者が半径20メートル以内にいる場合はデュエルディスクが反応する。ただし、その参加者の位置や正体は取得できない。

[ルール12]
 ライフが0になったデュエリストは敗北。最後まで残ったデュエリストが優勝する。

[ルール13]
 ライフポイントは4000。デュエルが中断・終了しても回復しない。

[ルール14]
 不利になったデュエリストは逃げることも可能。

[ルール15]
 デュエルで使用したモンスター、魔法・罠は、デュエル終了後も場に残る。

[ルール16]
 デュエル中以外でもカードを場に出すことができる。

[ルール17]
 デュエル中以外においては、モンスターはフィールドに1体のみ、魔法・罠も1枚だけしか出せない。これを超える分はデュエル終了3分以内に墓地に送らなければならない。

[ルール18]
 デッキからカードをドローできるのは、1時間毎のドロータイムのみ。

[ルール19]
 ドロータイム時、手札が7枚以上の場合にはドローできない。あらかじめ手札が6枚以下になるように捨てる必要がある。

[ルール20]
 5月18日(金)午前9時から大会開始。

[ルール21]
 敗北者は「心」を封印される。

【現在の参加者一覧】

参加者1:御伽 龍児(残りライフ1700/"混沌を制する者"パック選択)
参加者2:インセクター羽蛾(残りライフ0/"SHADOW OF INFINITY"パック選択)
参加者3:孔雀 舞(残りライフ1200/"FORCE OF THE BREAKER"パック選択)
参加者4:ダイナソー竜崎(残りライフ0/"SOUL OF THE DUELIST"パック選択)
参加者5:不明
参加者6:不明
参加者7:不明
参加者8:不明



第9章 2日目突入

 5月19日土曜日午前7時56分。
 昨日の夜から何度目になるか分からない。目覚まし時計の音が鳴った。
 僕はベッドから起き上がり、8時なるのを待つ。
 昨日、リアルタイムデュエル大会に参加した僕は、いくつかのバトルを行い、インセクター羽蛾とダイナソー竜崎のライフを0にすることに成功した。
 だが、羽蛾と竜崎は僕に敗れた瞬間、意識を失い、病院に運ばれた。病院側はデュエルディスクのソリッドビジョンによるショックが原因かもしれないと自信なく言ったが、僕にはその原因が分かっていた。

[ルール21]
 敗北者は「心」を封印される。

 このリアルタイムデュエル大会は、主催者不明の謎の大会。その正体は、心を賭けた命がけの大会だったのだ。
 あれから僕は遊戯に電話して連絡を取った。今まで起こったことの経緯を話し、翌朝会う約束をして、僕は朝まで眠ることにしたのだった。
 だが、僕にはまともな睡眠時間は与えられなかった。
 8時になった。僕はデッキからカードを1枚ドローした。

[ルール18]
 デッキからカードをドローできるのは、1時間毎のドロータイムのみ。

 毎時0分にやってくるドロータイム。このリアルタイムデュエル大会において、ドロータイムは朝でも昼でも夜でも等しくやってくる。
 そして、1時間毎のドロータイムでドローしなければそのドローは無効になってしまう。真夜中だろうが明け方だろうが、ドロータイムに眠っていてはドローできる機会を損失してしまうのだ。
 そのため、僕は、1時間毎に目覚ましをかけ、1時間毎に起きてカードをドローし、再び眠ると言うサイクルを繰り返さざるを得なかった。
 ただでさえ羽蛾と竜崎が心を封印されたことに動揺しているのに、小刻みの睡眠を取らざるを得なかったため、僕はほとんど眠っていない状況にあった。
 再び目覚まし時計を見る。8時6分だった。
 遊戯とは9時半頃に学校で落ち合うことになっている。そこでリアルタイムデュエル大会について、相談と協力をしてもらう予定なのだ。
 ちなみに、今日は土曜日で学校は休み。遊戯と待ち合わせするなら、遊戯か僕の家に呼ぶべきだろう。家はすぐ近くにあるのでなおさらだ。
 それでも学校で落ち合う理由は一つ。遊戯の試験の成績が悪かったため、土曜日でも学校に呼ばれて補習を受けさせられていたからだった。ついでに城之内と本田もその補習仲間だったりする。
 ともあれ、僕と遊戯は9時過ぎに学校で会い、このリアルタイムデュエル大会について相談することになっているのだ。

 着替えをし、朝食を取り、時間は経過していく。
 午前9時になり、僕はデッキからカードをドローし、家を出た。
 命懸けのリアルタイムデュエル大会。デュエルキングの名を持つ遊戯に相談すれば、この状況を打開する手立てを見つけてくれるに違いない。
 それまでは、他の対戦相手に狙われても対処できるように、戦力を補充しておく必要がある。
 昨日、混沌帝龍(カオスエンペラードラゴン)の効果を使用したことにより、僕の手札は一旦0枚になった。それから今日の9時まで、11回のドロータイムにより手札を補充した。
 11回のドロータイムでは、カオス・ソーサラー、カオス・グリード、魂虎、紅蓮魔獣ダ・イーザ、凡骨の意地、異次元の指名者、次元の歪み、鬼ゴブリン、速攻の黒い忍者、野性解放、おジャマ・イエローのカードを順にドローした。
 そのうち、魂虎を場に出し、カオス・グリード、凡骨の意地、次元の歪み、おジャマ・イエローを手札から捨てた。
 そうして、手札0だった僕は戦力を回復したのだった。

【現在の手札】
 速攻の黒い忍者
 鬼ゴブリン
 カオス・ソーサラー
 紅蓮魔獣ダ・イーザ
 野性解放
 異次元の指名者

【現在の自分の場】
 魂虎(守備力2100/守備表示)

【現在のライフポイント:1700】

 守備力2100の守備モンスターが場に出ており、守りは悪くない。
 また、混沌帝龍(カオスエンペラードラゴン)には及ばないものの、強力なパワーを持つカオス・ソーサラーがおり、その召喚条件も満たしていた。
 ライフポイントが半分を切ってはいるが、なかなかのカードが揃っている。そう簡単にはやられない自信はあった。

 午前9時27分。僕は童実野高校の正門をまたいだ。学校に到着したのだ。
 グラウンドでは野球部がストレッチを行っていた。僕はその様子を横目に、まっすぐに昇降口へと入っていく。
 下駄箱で上履きに履き替え、歩き出そうとしたその時、
「また……!」
 デュエルディスクのデッキ置き場の横に埋め込まれたガラス玉。それが光りだしたのだ。僕の半径20メートル以内に対戦相手がいる。
 一体誰が……! 僕は警戒しながら、遊戯のいる3階の教室の方へと歩いていった。
 階段に差し掛かる。一段ずつ階段を上がっていく。踊り場で折り返しさらに階段を上る。
 3階への階段の上りきると、そこには、一人のデュエリストがいた。
 奇妙な衣装で身を包んだ5人目のデュエリストが、僕の前に立ちはだかったのだ。
「なるほど。あなたが参加者だったのですね……」
 そのデュエリストの男は、静かに言い放ち、左腕の陶器製デュエルディスクをゆっくりと構えた。
「お前は……どこかで……」
 縦縞の蝶ネクタイ、仮面、シルクハット――これらを身に着けたまるで魔術師のような男。
 どこかで見た記憶がある。あれは自分の店で開いたデュエル大会だったか、それともバトルシティだったか。
「私の名は、パンドラ。奇術師パンドラと呼ばれています」
 男はそう言って一礼する。
「パンドラ……」
 そう言えば、遊戯が話していたことがあった。バトルシティで戦ったデュエリストの中に奇術師パンドラと名乗る相手がいたことを。
「あなたもリアルタイムデュエル大会の参加者……それならば、ここで勝負をつけましょう。デュエルです!」
「デュエルだって……!?」

[ルール21]
 敗北者は「心」を封印される。

「駄目だ! デュエルしては駄目だ!」
 敗北すれば、それは心を奪われることを意味する。
 僕が勝とうが負けようが、誰かの生命に危険が訪れることに変わりないのだ。
「フフフ……何を怖気づいているのですか? 敗北者が命を奪われるデスマッチでもあるまいし、そこまで動揺する必要なんてありませんよ」
「命を奪われるから困っているんだよ! 参加者の二人が心を奪われたんだよ!」
「心を奪われる? ハハハハハ! なるほど! 奇術師であるこの私を騙す気ですね? 面白い! 面白いですよ! ……しかし、その手には乗りません!」
 全然信じていない。当たり前だ。心を奪われるなんて話を信じる方がおかしいのだ。
 ……仕方ない。こうなったら、デュエルを行わずに逃げるしかない。
 僕は奇術師パンドラに背を向けた。階段を駆け下りる。
「おおっと! そうはいきませんよ!」
 パンドラは指を鳴らす。
 階段の踊り場、その天井からシャッターが降りてくる。
「魔術師たる者、マジックの準備は怠ってはいけない。防火シャッターに簡単な細工をさせていただきました」
 踊り場から下に下りる階段がシャッターで封じられた。階段の上では奇術師パンドラがデュエルディスクを構えている。
 僕の退路は断たれてしまったのだ。
「これで思う存分デュエルできます。あなたのライフが0になるまでね!」
 パンドラは不敵に笑う。そして、廊下の陰になっている部分からもう一体の魔術師が顔を出した。
「ブラック・マジシャン……」
 それは、立体映像のブラック・マジシャン。パンドラがあらかじめ召喚しておいたモンスターだった。
「くっ……」
 逃げ道はない。前には攻撃力2500のブラック・マジシャンが立ちはだかっている。このままで何もしないと、僕のライフが0になってしまうのは時間の問題だ。
 僕はデュエルディスクを構えざるを得なかった。



第10章 踊り場の闘い

「ブラック・マジシャン、攻撃です!」
 デュエル開始直後、奇術師パンドラがブラック・マジシャンで攻撃を仕掛けてくる。
 僕の場には守備力2100の魂虎がいるものの、攻撃力2500のブラック・マジシャンの前には無力だった。
「魂虎……破壊!」
「くっ……!」
 しかし、落胆している場合ではない。ともかく今の状況を素早く確認しなければ……。
 まず、場のカードを確認する。
 魂虎を撃破されたことにより、僕の場には何のカードも残っていない。がら空きの状態だった。
 奇術師パンドラの場には、攻撃力2500のブラック・マジシャンと1枚の伏せカード。上級モンスターのブラック・マジシャンの存在感が大きい。
 続いて、ライフポイントの確認だ。
 まず、僕のライフは残り1700。昨日のデュエルで受けたダメージは少なくなかった。
 それに対し、奇術師パンドラのライフは残り2000。パンドラもどこかでデュエルを行ったのだろう。ライフが半分失われていた。
 ともかく、攻撃力2500のブラック・マジシャンに何とか対処しなくてはいけない。僕は手札を確認した。

【現在の手札】
 速攻の黒い忍者
 鬼ゴブリン
 カオス・ソーサラー
 紅蓮魔獣ダ・イーザ
 野性解放
 異次元の指名者

 奇術師パンドラはブラック・マジシャンを扱う。ブラック・マジシャンのカードはブースターパック "Volume.1" で初登場し、その復刻版である "青眼の白龍伝説"、"DUELIST LEGACY Volume.2"、"BEGINNER'S EDITION 1" のいずれにも封入されている。
 パンドラの選択したパックはそのいずれかと言うことになる。これらは初期に登場したカードが中心となっているので、ごく一部のカードを除いては戦力不足であることが多い。パンドラのデッキは不安定で力不足なのだ。
 ならば、ブラック・マジシャンを蹴散らせれば、パンドラを一気に追い詰めることができる……!
「僕は、速攻の黒い忍者を通常召喚し、カオス・ソーサラーを特殊召喚! ともに攻撃表示だ!」
 僕は一気に2体のモンスターを場に出した。「通常召喚」は1分に1回しかできないが、カオス・ソーサラーは「特殊召喚」なのでその制限を受けないのだ。
「そして、カオス・ソーサラーのモンスター効果を使わせてもらう!」

カオス・ソーサラー 闇 ★★★★★★
【魔法使い族・効果】
このカードは通常召喚できない。自分の墓地の光属性と闇属性モンスターを1体ずつゲームから除外して特殊召喚する。フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体をゲームから除外する事ができる。この効果を発動する場合、1分間このカードは攻撃する事ができない。この効果は1分に1度しか発動できない。
攻撃力2300 守備力2000

 カオス・ソーサラーには攻撃の代わりに相手モンスター1体をゲームから除外する効果を使用することができる。この効果は相手モンスターが表側表示であれば、その攻撃力がいくら高かろうが適用される。
「ブラック・マジシャンを異次元空間に送り込む!」
「異次元空間ですって……!」
 闇とも光とも取れぬ空間が現れ、パンドラのブラック・マジシャンを飲み込んだ。
 カオス・ソーサラー――あの混沌帝龍(カオスエンペラードラゴン)には及ばないものの、その凶悪な効果は目を見張るものがある。あっけなくブラック・マジシャンを消し去ってしまったのだ。
 そして、今の僕の場には攻撃力1700の速攻の黒い忍者がいる。このモンスターでパンドラにダイレクトアタックを仕掛ければ、パンドラのライフポイントを300にまで減らすことができる。
「速攻の黒い忍者で攻撃だ!」
 速攻の黒い忍者は素早い動きでパンドラのもとへと駆ける。
 このリアルタイムデュエル大会ではライフが0になったデュエリストの心は封印されてしまう。しかし、逆に言えば0でなければ、そのデュエリストは無事ということになる。
 僕は、パンドラのモンスターを破壊しライフをギリギリまで削ることにした。こうすれば、追い詰められたパンドラは、トドメを刺されるのを防ぐため「逃げる」という選択肢を選ばざるを得ないだろう。それが僕の狙いなのだ。
 今僕がすべきことは、このパンドラという障害物を壊さないようにどかすことなのだ。
 速攻の黒い忍者は駆けながら、その手に持つ短剣をパンドラに投げつけた。
「かかりましたね! この私のトラップに!」
 パンドラはカッと目を見開いた。仮面越しでもそれがわかるほどだった。
 だが、パンドラの選択したパック……。候補となるパックはたくさんあれども、どのパックも初期の頃のカードが中心。初期のカードには強力なトラップカードが少ない傾向がある。
 僕は、せいぜい攻撃を封じる程度の罠だろうと高をくくっていた。
 しかし――
「この罠カードによって、あなたは『敗北』するのです!」

魔法の筒
(罠カード)
相手モンスター1体の攻撃を無効にし、相手のライフポイントにそのモンスターの攻撃力分ダメージを与える。

 魔法の筒……!
 これは制限カードに指定されている強力な罠カード!
 "Volume.1"、"青眼の白龍伝説"、"DUELIST LEGACY Volume.2"、"BEGINNER'S EDITION 1" のいずれにも魔法の筒なんて入っていない!
 この魔法の筒が封入されているパック――僕は自分の記憶に検索をかけた。
 その結果、魔法の筒が封入されたパックは、たった一つしか見つからなかった。それは期間限定で売り出された「プレミアムパック4」。
 プレミアムパック4には魔法の筒もブラック・マジシャンも収録されている。それはパンドラの選んだパックに間違いなかった。
 だが、パンドラの選んだパックの正体に気付いた僕は、驚かずにはいられなかった。信じられなかった。なぜなら――
 プレミアムパック4には「たった6種類のカード」しか収録されていないからだ!
 すなわち、「パンドラのデッキは6種類のカードしか存在しない」とてつもないデッキだったのだ!



第11章 6枚の恐怖

「魔法の筒の効果は発動した! 魔法の筒は速攻の黒い忍者の攻撃を吸収し、プレイヤーへとハネ返す!」
 パンドラに向かって投げられた短剣の先に一つの筒が現れる。
 攻撃力1700の速攻の黒い忍者の攻撃は、パンドラには届かず僕自身に返ってくる。つまり、僕は1700ポイントのダメージを受けてしまうことになる。
 現在の僕のライフポイントは運悪く1700ピッタリ。このままでは敗北が決定してしまう!
「しかし! 速攻の黒い忍者には特殊能力がある!」
 僕は力強く宣言した。

速攻の黒い忍者 闇 ★★★★
【戦士族・効果】
自分の墓地の闇属性モンスター2体をゲームから除外する事で、30秒間このカードをゲームから除外する事ができる。この効果は戦闘中でも使用する事ができる。この効果は1ターンに1度しか使用できない。
攻撃力1700 守備力1200

「墓地の闇属性モンスター2体を除外し、速攻の黒い忍者は30秒の間場から消える!」
「フフフ……やりますね。自ら姿を消すことで、速攻の黒い忍者の攻撃自体を無効にするとは……」
 パンドラに投げた短剣もろとも速攻の黒い忍者は姿を消していた。そのため、パンドラが発動した罠カード「魔法の筒」は、対象を失い不発。場から消滅した。
 僕はパンドラの罠カードから逃れることに成功したのだった。
「ここまでよくやったと誉めてあげましょう。しかし、私のデッキの真の戦術はここからですよ……!」
 パンドラのデッキは、プレミアムパック4のカードから構成される。プレミアムパック4のカード――それはたった6種類しか存在しない。
 ブラック・マジシャン、ブラック・マジシャン・ガール、千本ナイフ、黒魔術のカーテン、死のマジック・ボックス、魔法の筒――この6種類だけだ。
 プレミアムパック4にはモンスターカードは2種類しか存在せず、そのいずれもが生け贄となるモンスターがいないと召喚できない。
「私は、黒魔術のカーテンのカードを発動! デッキからブラック・マジシャンを特殊召喚しますよ!」

黒魔術のカーテン
(魔法カード)
このカードを使用する前後1分間、他のモンスターを召喚・反転召喚・特殊召喚する事ができない。 ライフポイント半分を払い自分のデッキから「ブラック・マジシャン」を1体特殊召喚する事ができる。

 奇術師パンドラのライフポイントは1000にまで減ったものの、場にはブラック・マジシャンが特殊召喚された。
 パンドラのモンスターは生け贄がないと召喚すらできない。だが、黒魔術のカーテンを使えば、その生け贄を確保せずとも召喚が可能。パンドラは通常召喚を使わないという大胆な戦術をとっているのだ!
「それだけで驚いてもらっては困ります。すかさずこのカードを発動!」

千年ナイフ
(魔法カード)
自分のフィールド上に表側表示の「ブラック・マジシャン」が存在する時のみ使用可能。相手モンスター1体を破壊する。

「千年ナイフ……!」
 現在、僕の場にはカオス・ソーサラーが1体だけ存在する。
「千年ナイフの効力により、カオス・ソーサラーは破壊される!」
 無数のナイフがカオス・ソーサラーを襲う! 僕のカオス・ソーサラーは無残にも崩れ去ってしまった。
「そして、すかさずブラック・マジシャンで攻撃!」
 僕の場からはモンスターはいなくなってしまった。罠カードもない。
 ブラック・マジシャンは僕のもとへと直接攻め込んでくる。この攻撃を受けてしまえば、僕は……負ける!
「これで終わりです! 私のプレミアム・ブラック・マジシャンデッキの前に散るのです! 行け! ブラック・マジック!」
 ブラック・マジシャンは僕に向け、その杖を向ける。
「早く、早く……戻ってきてくれ……」
 思わず僕は呟いた。
 戻ってきて欲しいのは、速攻の黒い忍者。
 そのモンスター効果で30秒だけ場から消えた速攻の黒い忍者が戻れば、このブラック・マジシャンの攻撃を防ぐことができるからだ。
「フフフ……勝った……」
 ブラック・マジシャンの魔法攻撃は僕に放たれた。攻撃のエフェクトが視界を覆う。僕は思わず目をつぶってしまった。
 一瞬とも永遠とも取れる時間が経過する。
 次に目を開けた時、そこには、奇術師パンドラとブラック・マジシャンの姿があった。
 僕の心は奪われていないようだった。僕の場に速攻の黒い忍者が帰還し、ブラック・マジシャンの攻撃を受けきってくれたのだ。
「助かった……」
「まさかあのニンジャが戻ってくるとは……。あなたのデュエルセンスもなかなかのモノですね。しかし、場に戻ってきた速攻の黒い忍者は攻撃表示。戦闘ダメージは受けてもらいますよ!」
 ブラック・マジシャンの攻撃力は2500、速攻の黒い忍者の攻撃力は1700。その差800ポイント。僕が受ける戦闘ダメージは800ダメージ。
 僕のライフは1700から900にダウンしてしまった。残り3ケタになってしまった。
「これで後がなくなりましたね……。さて! これからあなたがどうするか……? フフフ、奇術師の私ですら楽しみです。……ああ楽しい! 楽しい! 楽チィー!!」
 プレミアムパック4から作った奇術師パンドラのデッキ。たった6種類のカードに僕は踊らされていた。
 黒魔術のカーテンで場に出した攻撃力2500のブラック・マジシャンで場を圧倒し、千年ナイフでモンスターを直接破壊、相手モンスターの攻撃には魔法の筒で反撃まで行う。
 たった6種類のカードしかないのに、まるで無駄がないデッキを構築している。奇術師らしい大胆かつ効果的な戦術だった。
 だが、僕だって負けを認めたわけではない。

【現在の手札】
 鬼ゴブリン
 紅蓮魔獣ダ・イーザ
 野性解放
 異次元の指名者

【現在の自分の場】
 カードなし

【現在のライフポイント:900】

 ここまでの戦いで着実に成長してきたカードがある。
「パンドラ……お前の言うようにまだまだお楽しみはこれからだ! 僕は手札の紅蓮魔獣ダ・イーザを召喚する!」
「ダ・イーザですか……!」

紅蓮魔獣ダ・イーザ 炎 ★★★
【悪魔族・効果】
このカードの攻撃力と守備力は、ゲームから除外されている自分のカードの数×400ポイントになる。
攻撃力? 守備力?

「ダ・イーザはゲームから除外されているカードの数に比例して攻撃力を上げる! 僕の場から除外されているカードは――」
 ギガンテスの特殊召喚のために1枚除外、混沌帝龍 −終焉の使者−の特殊召喚のために2枚除外、カオス・ソーサラーの特殊召喚のために2枚除外、速攻の黒い忍者の効果のために2枚除外……。
「合計7枚! したがって、紅蓮魔獣ダ・イーザの攻撃力は2800!」
 ブラック・マジシャンの攻撃力は2500。僕の紅蓮魔獣ダ・イーザはその攻撃力を上回った。
「……あなたは知っていますか?」
 突然、奇術師は語りだした。
「ブラック・マジシャンにはたった一人だけ弟子がいるのです。最上級魔術師の魔力を引き継いだ弟子がね……!」
 先ほどまで場にいたブラック・マジシャンは光に包まれ姿を消そうとしていた。
「まさか……! ブラック・マジシャンを生け贄にして……!」
「そう、これがブラック・マジシャンの弟子! ブラック・マジシャン・ガール! これこそがブラック・マジシャンデッキの真髄。マジシャン・ガールを知らぬ者はブラック・マジシャン使いを名乗る資格はありません!」

ブラック・マジシャン・ガール 闇 ★★★★★★
【魔法使い族・効果】
自分と相手の墓地にある「ブラック・マジシャン」と「マジシャン・オブ・ブラックカオス」の数だけ、攻撃力が300ポイントアップする。
攻撃力2000 守備力1700

 奇術師パンドラはブラック・マジシャンを生け贄に捧げ、その弟子であるブラック・マジシャン・ガールを召喚した。
 それは、弟子のブラック・マジシャン・ガールの方が、師匠のブラック・マジシャンよりも強いことを示しているに違いなかった。
「私の選択したプレミアムパック4のパックには、6種類のカードしかありません。そのためにブラック・マジシャン1体が手札に来る確率はかなり高い。今、墓地にあるブラック・マジシャンの数。それは3体!」
「3体……すなわち、ブラック・マジシャン・ガールの攻撃力は2900!」
 紅蓮魔獣ダ・イーザの攻撃力がブラック・マジシャンを超えたと思ったら、すぐにブラック・マジシャン・ガールに追い抜かれてしまった。
 奇術師パンドラ……かなりの強敵!
 奇術師パンドラの奇抜で強力な戦術。僕はそれにギリギリのところでついていっていたのだった。
「覚悟はいいですか?」
「だが、まだ負けと決まったわけではない……!」

【現在の手札】
 鬼ゴブリン
 野性解放
 異次元の指名者

 僕は手札から1枚の魔法カードを選択した。
「異次元の指名者を発動! このカードでこの状況を逆転してみせる!」
 ここで敗北するわけにはいかない! 僕は「賭け」に出ることにしたのだ。



第12章 ナンバー6&7

「異次元の指名者……!」

異次元の指名者
(魔法カード)
カード名を1つ宣言する。相手の手札を確認し、宣言したカードが相手の手札に存在する場合、そのカード1枚をゲームから除外する。宣言したカードが相手の手札に存在しなかった場合、自分の手札をランダムに1枚ゲームから除外する。

「そうだ! 異次元の指名者のカードによってパンドラ、お前の手札1枚を除外する! ただし、僕は相手の手札を見ずに、除外したいカード名を言い当てなければならない」
 パンドラの様子をうかがいながら、僕は話を進める。
「普通ならば、相手の手札のカード名を言い当てるのは難しい。だが、お前の選んだプレミアムパック4のパックには、たった6種類のカードしか存在しない。それならば、言い当てるのは難しくない! 僕の宣言するカード名は『ブラック・マジシャン』だ! そのカードがパンドラ――お前の手札にあったらゲームから除外してもらう!」
「私の手札は4枚……」
 パンドラは4枚の手札を僕に見せた。
 手札は左から順に、ブラック・マジシャン・ガール、魔術師のカーテン、魔術師のカーテン、死のマジック・ボックス。手札の中にブラック・マジシャンはなかった。
「し……しまった!」
「ククク……どうやらここまでのようですね! 覚悟はよろしいかな? ブラック・マジシャン・ガールの攻撃です!」
 奇術師パンドラのブラック・マジシャン・ガールは、僕の紅蓮魔獣ダ・イーザに攻撃を仕掛けようと杖を構える。
「ブラック・マジシャン・ガールの攻撃! ブラック・バーニング!」
 攻撃力2900のブラック・マジシャン・ガールの魔法攻撃が紅蓮魔獣ダ・イーザに襲い掛かる。
「……勝った!」
 このセリフを言ったのはパンドラではない。
 僕だ。
 僕が勝利を確信したから言ったのだ。
「なんですと!」
 パンドラの顔に驚きの表情が浮かぶ。
「パンドラ! お前は僕の罠にかかったんだ!」
 ブラック・マジシャン・ガールの魔法攻撃は、紅蓮魔獣ダ・イーザを包み込む。紅蓮魔獣ダ・イーザを中心に爆発が起こる。だが、その爆発の中から紅蓮魔獣ダ・イーザが飛び出してきた。
「これは、一体……!」
「異次元の指名者の効力さ! 僕はわざと外したんだ! 『ブラック・マジシャン』がお前の手札にないことは分かっていた」
 パンドラの戦術はブラック・マジシャンを魔術師のカーテンの効力で特殊召喚することにある。それならば、手札に来てしまったブラック・マジシャンは意味のないカードと化す。ドロータイム前に墓地に捨てるしかなくなるのだ。
 爆発から抜け出した紅蓮魔獣ダ・イーザは、ブラック・マジシャン・ガールへと反撃の攻撃を仕掛ける。
「異次元の指名者で外した僕は手札1枚をゲームから除外しなければならない。だが、それこそが僕の狙いだった! 紅蓮魔獣ダ・イーザの攻撃力は除外された僕のカード枚数に比例する。だから、カードを除外することでさらに攻撃力はアップ! 攻撃力は3200! ブラック・マジシャン・ガールを上回った!」
 この戦術では相手を油断させることも隠れたポイントである。異次元の指名者で紅蓮魔獣ダ・イーザの攻撃力が上がったことをパンドラに悟られなければ、パンドラは勝手に攻め込んできて勝手に自滅してくれるからだ。
 僕はパンドラを騙すため、演技をいろいろ仕込んだ。本来騙す側の奇術師を騙すという「賭け」に挑戦したのだった。
「さあ、反撃だ……!」
 パンドラのブラック・マジシャン・ガールは、ダ・イーザの攻撃に飲み込まれる。
「ブ……ブラック・マジシャン・ガ・ガ・ガールゥゥゥ!!」
 ブラック・マジシャン・ガールは破壊された。
 これで奇術師パンドラのモンスターは全滅した。ブラック・マジシャン・ガールを召喚してから1分経過していない今の状況では、魔術師のカーテンを使うこともできない。
「お前の負けだ。奇術師パンドラ」
 僕はパンドラを完全に追い詰めたのだった。
「そんな……! 私が負けたですって……?」
 このまま紅蓮魔獣ダ・イーザで攻撃すれば、パンドラのライフを0にすることはできる。
 だが、それはやってはいけない。心が賭けられたこのデュエル大会では、これ以上パンドラのライフを奪うわけにはいかないからだ。
 僕にできるのは、パンドラを逃がすことだけ。何とか無事に逃げてもらわなくてはいけない。
 しかし。
「ぐああああああっ!!」
 無情にも、パンドラのライフポイントは……0になった。
 パンドラから生気が抜け、前のめりに倒れこむ。下り階段に頭から突っ込もうとしていた。僕は慌てて駆け寄り、パンドラの体を支えた。
「誰だ! 誰なんだ!」
 攻撃を仕掛けたのはもちろん僕ではない。僕は周囲を見渡しながら叫んだ。僕のデュエルディスクに埋め込まれたガラス玉は光り続けている。
「ボクだよ」
 階上を見上げると、陶器製デュエルディスクを装着した小柄の男子生徒が僕を見下していた。
 その男子生徒は、肩の近くまで髪を伸ばし、両目にくまを作っていた。僕の知らない生徒だった。
「知らなくて当然か。御伽は転校生だからね……」
 そう言いながら、その小柄な男子生徒はデュエルディスクを構える。
 そう、彼がパンドラの背後から攻撃を仕掛けたのだ。しかも、パンドラが意識を失って倒れても、そうなることを最初から知っていたかのように振る舞っている。
「お前は……一体……」
 僕が尋ねても、その男子生徒はニヤリと笑みを浮かべ、こう言った。
「そろそろ1分が経過するよ。このままでいいのかな?」

[ルール06]
 攻撃を仕掛けたモンスターは、攻撃終了後1分間は攻撃を仕掛けられない。

 男子生徒の場にはモンスターが1体召喚されていた。
 そのモンスターはサイバー・ドラゴン。"CYBERNETIC REVOLUTION" のパックに封入された扱いやすく強力なモンスターである。
 この男子生徒が奇術師パンドラを攻撃してからもうすぐ1分。サイバー・ドラゴンはきっと僕に攻撃を仕掛けてくる。
 とは言っても、サイバー・ドラゴンの攻撃力は2100であるのに対し、僕の紅蓮魔獣ダ・イーザの攻撃力は3200。圧倒的な差があった。このまま紅蓮魔獣ダ・イーザで攻撃を仕掛けても良いくらいだった。
 しかも、僕の記憶にある限り、"CYBERNETIC REVOLUTION" のパックに封入されたカードではこの状況をひっくり返すのは困難。あえて挙げれば機械族専用の融合魔法「パワー・ボンド」があるが、このカードを用いると使用者自身が大ダメージを受けるリスクを負ってしまう。しかも、この大会のデッキ構築ルールでは融合に必要なカードを手札に揃えるのも難しい。
 ――いや! そうとは限らない!
 さっきのパンドラは、どんなパックを使っていた? それは、カードが6種類しかないプレミアムパック4だ。
 そして、サイバー・ドラゴンが封入されているパックは、"CYBERNETIC REVOLUTION" だけではない。もう一つ、特別なパックがある。
 それは、"DUELIST PACK−ヘルカイザー編−"。有名デュエリストをフューチャリングした特別なパックであり、サイバー・ドラゴンを中心とした強力なカードが何枚も封入されている。
 このままでは負けるかもしれない!
「紅蓮魔獣ダ・イーザを守備表示に変更する!」
 "DUELIST PACK−ヘルカイザー編−" には、リミッター解除があることを思い出したのだ。
「……まさかボクのカードを読まれるとはね。まあいいさ、サイバー・ドラゴンにリミッター解除を使い攻撃!」
 リミッター解除は、1ターンに限り機械族モンスターの攻撃力を2倍にする魔法カード。攻撃力2100のサイバー・ドラゴンは攻撃力4200までハネ上がった。
 僕の紅蓮魔獣ダ・イーザは成す術もなく破壊される。
 間一髪だった。紅蓮魔獣ダ・イーザを攻撃表示のままにしていたら、超過戦闘ダメージ受けて、僕のライフポイントのは0になっていた。ギリギリのところで僕は生き残れたのだ。
 そして、リミッター解除は強力なチカラを与えるが、そのリスクも大きいカード。そのリスクにより、サイバー・ドラゴンは次の攻撃ができる間もなく破壊されてしまう。
「しかし、このままでいいのかな? 僕は次のモンスターを出すだけだよ」
 何事もなかったかのように、男子生徒は僕に言った。
 僕は今の自分の状況を見直してみた。

【現在の手札】
 鬼ゴブリン

【現在の自分の場】
 カードなし

【現在のライフポイント:900】

 鬼ゴブリンは攻撃力1200守備力1500のモンスター。
 僕に使えるカードはこの鬼ゴブリン1枚だけ。この1枚でこの男子生徒に勝てるはずがない!

[ルール14]
 不利になったデュエリストは逃げることも可能。

 逃げるしかない……!
 だが、パンドラが階段の防火シャッターに細工をしたことにより、僕の退路は断たれている。
 前にはあの男子生徒、後ろには防火シャッター。逃げ道はないのだ。
 もはや、このまま手をこまねいてライフが0になるのを待つしかないのか……!
「外を見ろ!」
「え……?」
 どこからともなく声が聞こえた。
 それは、誰かが拡声器を使って叫んでいる声だった。
 後ろを振り向く。
 そこには階段の踊り場の窓があり、その外にはハシゴのようなモノがぶら下がっていた。
「ハシゴ……? なぜこんなところに」
 耳をすませてみれば、高いところからゴゴゴゴと響くような音が鳴り続けている。
 僕は踊り場の窓を開け放って、外の様子を確認した。
 僕の耳に大きな音が入ってくる。それはヘリコプターの動作音に違いなかった。
「ハシゴにつかまれ! このまま死にたくなければな!」
 校舎の上、そこにはヘリコプターがホバリングしている。窓の外に見えるハシゴはそのヘリコプターから下ろされていたものだった。
 そして、上空のヘリコプターの中。見慣れた一人の男の姿があった。

「た、助かった……!」
 窓の外のハシゴを伝ってヘリコプターの機体の中に入った僕は言った。
「フン……」
 ヘリコプターで僕を助けた男。その男は、海馬瀬人。
 巨大企業・海馬コーポレーションの社長であり、遊戯のライバルでもある有名な人物だった。
 しかし、海馬が助けてくれたこと、それよりも驚くべきことがあった。
 海馬の左腕には、あのデュエルディスクがあったのだ。僕が身につけているのと同じ、陶器でできた奇妙なデュエルディスクが……!
「くだらん大会を開いていると思ったら、こんなふざけたことになっているとはな……」
 海馬瀬人――彼もまたこのリアルタイムデュエル大会の参加者だったのだ!

【現在の参加者一覧】

参加者1:御伽 龍児(残りライフ900/"混沌を制する者"パック選択)
参加者2:インセクター羽蛾(残りライフ0/"SHADOW OF INFINITY"パック選択)
参加者3:孔雀 舞(残りライフ1200/"FORCE OF THE BREAKER"パック選択)
参加者4:ダイナソー竜崎(残りライフ0/"SOUL OF THE DUELIST"パック選択)
参加者5:奇術師パンドラ(残りライフ0/"プレミアムパック4"パック選択)
参加者6:謎の男子生徒(残りライフ不明/"DUELIST PACK−ヘルカイザー編−"パック選択)
参加者7:海馬 瀬人(残りライフ不明/選択パック不明)
参加者8:不明

 6人目と7人目の参加者が僕の前に現れた。
 このリアルタイムデュエル大会の目的、6人目の謎の男子生徒の正体――それらは全く分からない。
 だが、キーパーソンとも言える二人のデュエリストの登場により、このリアルタイムデュエル大会は大きく動き出すことになる。そのことだけは確信が持てたのだった。



 気が向いた方は、この先を読む前に以下のQ3を考えてみてくださいね。

 Q3:「参加者6:謎の男子生徒」の正体は誰? ヒントは遊戯王の原作に登場した人物だよ。



第13章 次なる使命

「遊戯から聞いているぞ。非ィ科学的なことが起こっているとな」
 海馬は「非ィ」の部分にアクセントをつけ、はき捨てるように言った。
 どうやら、遊戯は海馬瀬人へと協力を依頼したらしい。「非公式に行われているデュエル大会により、参加者の心が奪われているから海馬くんの力を貸して欲しい」と。
 幸か不幸か海馬本人も参加者の一人に指名されたこともあり、海馬は遊戯の依頼を引き受け、この事態を収拾すべく行動を起こしたのだった。
 海馬は挑発するような笑みを浮かべ、話を続けた。
「さて、これからどうする。海馬コーポレーションで保護して欲しいか? それとも、この大会の参加者としての責務を果たすか?」
 これから僕はどうすればいいだろうか……?
 遊戯や海馬と連絡はついた。トップデュエリストである彼らに任せれば、このリアルタイムデュエル大会の事件を解決することはできるかもしれない。でも、当事者となった僕がこのまま逃げるわけにはいかない。僕は言った。
「僕にできることがあれば……力になりたい」
「……いいだろう。それでは貴様には再び戦場に戻ってもらおう」
「戻る……? 戻って何をすれば……?」
「貴様が装着しているデュエルディスクを用い、残りのデュエリストを探し出せ。そして、可能ならばそのデュエリストを保護するのだ」
 僕の持っているデュエルディスクは、参加者のデュエリストが半径20メートル以内に入るとガラス玉が光る機能がある。それを用いれば、他のデュエリストを探すことはできるはずだ。
「分かった。僕はヘリを降り、残りのデュエリストを探す」
「オレは海馬コーポレーションの力を持って、貴様や奇術師パンドラを襲った男子生徒について調べる。その男子生徒がこの大会に一枚噛んでいることにはほぼ間違いないからな」
 窓の外には海馬コーポレーションの巨大な本社ビルが見える。僕達が乗っているヘリコプターは、ビル屋上にあるヘリポートへ着陸しようとしていた。
 5月19日午前10時00分。僕はデッキから1枚のカードを引いた。
 リアルタイムデュエル大会。ほんの一息の休憩を挟み、心を賭けた闘いが再開されようとしていた。

 正午を過ぎた12時24分。
 僕は自転車を使い、時計塔広場を中心に童実野町を走り回っていた。
 僕の当面の目標――それは、リアルタイムデュエル大会に参加している他のデュエリストを探し出し、彼らを保護することだ。
 僕が見つけるべきデュエリストは3人。
 1人目は、敵としても味方としても闘った孔雀舞。
 2人目は、奇術師パンドラにトドメを刺し、この大会のカギを握ると思われる謎の男子生徒。
 3人目は、その正体すら分からない謎のデュエリスト。
 これら3人のデュエリストを探すことが当面の目標。彼らを効率よく探すため、僕は小回りが利きスピードを出せる自転車を持ってきていた。
 しかし、2時間以上走っても収穫ゼロ。一人のデュエリストも探し出せなかった。
 この広い童実野町から、たった3人のデュエリストを探し出すのは相当難しい。僕のデュエルディスクは半径20メートル以内に入った参加者を感知することができるが、それをもってしても誰一人として見つけられなかったのだった。
「はぁ……。これだけ走っても収穫無しとは……」
 いや、収穫と言えば、海馬コーポレーションからの報告があった。
 童実野高校で奇術師パンドラにトドメを刺し、僕を襲った謎の男子生徒。彼の調査について、その途中経過を教えてもらったのだ。
 僕は、自転車を走らせながら、その男子生徒のことについて考え出した。

 男子生徒の名は、「井守」という。
 井守は童実野高校の生徒で、昨年度の遊戯のクラスメイトだった。
 暗く目立たない性格だったが野心だけは一人前以上、そのせいもあって「ある事件」を引き起こしてしまった。
 その事件とは、遊戯との闇のゲーム。
 龍札(ドラゴンカード)という闇のゲームで遊戯と闘い、その後昏睡状態に陥ってしまったのだ。
 闇のゲームに敗北した井守は、3か月の間意識不明となった。復帰した時には長期欠席のせいで留年が確定。高校一年生を2回目繰り返すことになってしまったのだ。
 留年――それで納得がいった。
 リアルタイムデュエル大会の1日目、教室にいる時ずっと光っていたデュエルディスクのガラス玉。これは井守のデュエルディスクに反応したものだったのだ。
 昨日、学校にいるデュエリストを探すため、僕は隣の教室を一通り探した。だが、不可解にも大会の参加者は一人も見つからなかった。大会中はデュエルディスクを装着し続けることが義務となっているので、見つからないはずはないのだ。
 不可解な謎――だが、その答えはあった。
 僕や遊戯は高校2年だが、留年した井守は高校1年。そのために井守の教室は、僕や遊戯の教室の真下にあった。それが答えだ。

[ルール11]
 他の大会参加者が半径20メートル以内にいる場合はデュエルディスクが反応する。ただし、その参加者の位置や正体は取得できない。

 デュエルディスクが反応する「半径20メートル」は平面で考えてはいけない。立体で考えるのだ。僕の真下の教室にいた井守は、直線距離を見れば半径20メートル以内に入っていたのだ。
 これで最初の日に学校にいたデュエリストの正体が分かった。
 だが、これは些細な事実に過ぎない。
 海馬コーポレーションからの途中報告の中で、もっとも気になる報告――それは「心」についての報告。
 あの闇のゲームの時に、遊戯は井守から聞いていた。敗北した者はその「心」を「心鎮壺」と呼ばれる壺に封印され、その心は3か月をかけて壺に消化されてしまうということを。
 心を封印――まさに今の状況そのものではないか!
 まだ真相は分かりきっていない。
 ただ、井守という名の男子生徒と、龍札と呼ばれる闇のゲーム。それが今の状況を作り上げていることには違いない。
 井守には細心の注意を払わなければならない。もしかしたら、彼がこのリアルタイムデュエル大会の首謀者であるかもしれないのだから。



第14章 危険な予兆

 僕の乗る自転車は、時計塔広場へと近づいていた。時計塔の針がなんとか確認できる。目を凝らして時計塔に表示された時刻を読み取る。現在の時刻は12時52分だった。
 また、僕の視界には立体映像化されたモンスターも映っていた。リアルタイムデュエル大会とは別に、時計塔広場で誰かがデュエルをしているのだろう。
 しかし、そこに召喚されているモンスターに見覚えがあった。
「グラビ・クラッシュドラゴン……!」
 それは、孔雀舞がダイナソー竜崎を追い詰めたレベル6のモンスター。
 と言うことは、ここに孔雀舞がいるのだろうか……?
 自転車は時計塔広場の入り口へ差し掛かった。僕は歩道に自転車を停め、慎重に時計塔へと近づいていった。
 広場中央にある時計塔に近づくに連れ、そこにいるデュエリストがはっきり見えてくる。そこにいたのは間違いなく孔雀舞だった。
 彼女はデュエルをしているようだった。そして、その相手は――
「井守……!」
 そこにいたのは、童実野高校の学生服を着た小柄な少年。僕を襲った井守に違いなかったのだ!
「強制転移を発動した! お前のグラビ・クラッシュドラゴンはボクのものとなり、ボクのサイバー・ダーク・キールはお前の場に移る!」
「モンスター……入れ替え……!」
 孔雀舞のそばにいたはずのグラビ・クラッシュドラゴンが場から消え、井守の場へと移された。その代わり、サイバー・ダーク・キールが舞の場にやってきた。お互いのモンスター1体を入れ替えたのだ。
 二人の場の状況を確認する。
 孔雀舞の場にはサイバー・ダーク・キール1体、伏せトラップ1枚、永続魔法扱いの宝玉獣2体が存在する。
 井守の場にはグラビ・クラッシュドラゴン1体と、伏せトラップ1枚が存在。
 この状況で想定される最もあり得る展開がシミュレーションされる。
 舞は負けるかもしれない……!
 昨日見た限り、孔雀舞のライフポイントは1200まで減らされていた。今のライフは1200かそれ以下と考えるのが自然だ。
 そして、井守の場に移されたグラビ・クラッシュドラゴンの攻撃力は2400。それに対し舞のサイバー・ダーク・キールの攻撃力はわずか800。
 このまま井守のグラビ・クラッシュドラゴンでサイバー・ダーク・キールを攻撃されれば、舞は1600ダメージを受け、舞のライフは0になる。
 孔雀舞の場には1枚の伏せカードと、2体の永続魔法扱いとなった宝玉獣がいる。永続魔法扱いの宝玉獣は単体では何の役にも立たないただの飾り。だが、他の魔法・罠カードと組み合わせることでその力を発揮することができる。孔雀舞の場に伏せてある伏せカード――それは宝玉獣を用いて効力を発揮する罠カードの可能性が高い。これが発動すれば、グラビ・クラッシュドラゴンの攻撃を防げるかもしれない。
 しかし、気になるのは井守の場にも伏せカードがあること。
 井守のデッキは、"DUELIST PACK−ヘルカイザー編−" のカードから構築される。"DUELIST PACK−ヘルカイザー編−" には、相手の罠を封じるトラップ・ジャマーが存在する。孔雀舞が罠で身を守ろうとしても、それをカウンターして無効化してしまうのだ。
 僕の予想が当たっていたら、孔雀舞は負ける。
 僕は駆けた。
「あたしはトラップカードを発動! 宝玉の祈り! 永続魔法扱いとなった宝玉獣を1枚墓地に送ることで、グラビ・クラッシュドラゴンを破壊することができる!」
「甘いぞ! ボクはトラップ・ジャマーを発動だ! これによって宝玉の祈りは無効!」
 一瞬前にシミュレーションした光景が、目の前で現実のものとなる。僕は必死に走った。
「なんですって……! あたしの宝玉の祈りが無効……!」
「そうさ! グラビ・クラッシュドラゴンの攻撃は有効! この戦闘によって、お前のライフはゼロだ!」
 井守のグラビ・クラッシュドラゴンが攻撃動作に入る。
 僕は、走りながら自分のデュエルディスクにセットされた罠カードをひっくり返した。
「伏せトラップ、エナジー・ドレイン発動! 怒れる類人猿は30秒に限り攻撃力が3200までアップする!」
 僕の場に出ている怒れる類人猿は、エナジー・ドレインを用いてパワーアップし、井守と舞との間へ走りこんでいく。
 ……間に合ってくれ!
「まさか、あたし、これで負ける……!?」
「そうさ! 4人目の『心』を捧げるのだ……!」
 グラビ・クラッシュドラゴンが放った重力攻撃が、舞のサイバー・ダーク・キールを襲う。
 だが、その攻撃は、サイバー・ダーク・キールには届かなかった。
「何……!」
「お、御伽……!?」
 僕の場に召喚された巨大なゴリラこと怒れる類人猿。怒れる類人猿は、グラビ・クラッシュドラゴンの重力攻撃を受け止め、反撃のブレス攻撃を放ったのだ。
 エナジー・ドレインのカード効果により攻撃力3200までパワーアップされた怒れる類人猿。攻撃力2400のグラビ・クラッシュドラゴンでさえ、攻撃力3200の怒れる類人猿のブレスの前には太刀打ちできなかった。
 井守のグラビ・クラッシュドラゴンは破壊され、舞のライフは0にならずに済んだのだ。
 突然の展開に戸惑っていた舞は、僕に向かって言った。
「御伽……あんたどうして?」
「舞! このままじゃ危ないんだよ! この大会は敗者が『心』を奪われる闇のゲーム! 現に羽蛾や竜崎は心を奪われてしまった……」
「闇のゲーム……ですって!?」
「そうだ。そして、僕達の目の前にいる井守こそが、この闇のゲームの首謀者である可能性が高い!」
 僕は井守に指を突きつけた。
「フフフフ……」
 井守は小さく笑い、その後大声で笑い出した。
「ハハハハーー! ハハハハハッ! そうだよ。このボクがこの大会の主催者さ! デュエリスト達の『心』を集めるためにこの大会を開いたんだ!」
 井守は認めた。自分こそがこのリアルタイムデュエル大会の首謀者であることを。
「やはり……!」
 僕がすべきことは、残りのデュエリストを探し出し、可能ならば保護することだ。とは言え、保護するのは「可能である」場合に限る。
 僕は井守を睨みつけた。
 この井守をこのまま野放しにしておくわけにはいかない。他の参加者を保護するためにも、ここで手を打っておかなくてはならない。
 それに、井守を倒すことができれば、井守が奪った心を元に戻すことができる。その可能性は低くない。
「闇のゲーム……上等よ! 今、井守――あんたを倒せば、あんたが奪った心も元に戻るハズ!」
 孔雀舞も僕と同じことを考えていたようだった。舞は再びデュエルディスクを構える。
「僕も闘う! 2対1になるけど、恨まないでくれよ」
 僕も舞に続いてデュエルディスクを構えなおす。
「フフフ……。死にぞこないが手を組んできたな。ボクのサイバー・ドラゴンデッキの力でねじ伏せてやるぞ!」
 井守もまたデュエルディスクを構える。
 3人はにらみ合うようにデュエルを構えていた。
 こうして、リアルタイムデュエル大会首謀者との死闘が幕を開けたのだった。



第15章 時計塔広場の死闘

 僕と舞は再び手を組み、このリアルタイムデュエル大会の首謀者である井守と闘うこととなった。
 行動を起こす前に、今の状況を素早く把握しておかなければ……! 僕は場の状況を確認することにした。
 まずは、僕の状況からだ。

【御伽の手札】
 鬼ゴブリン(攻撃力1200)
 異次元の指名者

【御伽の場】
 怒れる類人猿(エナジードレイン使用により一時的に攻撃力3200)

【御伽のライフポイント:900】

 ハッキリ言って、満身創痍の状態だった。多くの闘いを重ねるうちに手札もライフも消耗していたのだ。
 奇術師パンドラとの戦いの後、僕の手札は「鬼ゴブリン」1枚だけになった。それから3回のドロータイムを迎え、怒れる類人猿、異次元の指名者、エナジードレインのカードをドローしたが、それでもカード補充完了とは言い切れなかった。
 また、僕の場には攻撃力3200の怒れる類人猿がいるものの、攻撃力3200はエナジードレインのカード効果によるもの。その効果も間もなく切れ、怒れる類人猿の攻撃力は2000まで下がってしまう。
 続いて、舞の状況を見る。

【舞の場】
 サイバー・ダーク・キール(攻撃力800)
 宝玉獣トパーズ・タイガー(永続魔法扱い)

【舞のライフポイント:1200】

 舞の状況もまた芳しくなかった。
 攻撃力800のサイバー・ダーク・キールと、単体では壁にもならない永続魔法扱いの宝玉獣トパーズ・タイガーがいるだけだった。
 何より、ライフポイントの消耗が激しい。僕のライフよりはマシだが、とてもじゃないが良い状況とはいえなかった。
 僕と孔雀舞は再びタッグを組んだとはいえ、二人の力をもってしても一人前の力を発揮できるかどうかすら怪しかった。
 それに対し、井守の状況は――

【井守の場】
 カードなし

【井守のライフポイント:3200】

 先ほど僕の怒れる類人猿の反撃によって800ダメージ受けたこと以外は、無傷の状態だった。
 場にカードこそは出ていないが、井守の表情からは余裕がうかがえる。"DUELIST PACK−ヘルカイザー編−" のカードによるデッキ構成を考慮すると、後続に強力なカードが控えていると考えるのが自然だろう。
 2対1で闘っているが、僕達は有利とは言えない。それには違いなかった。

「あたしは攻撃力800のサイバー・ダーク・キールを守備表示に変更!」
「ボクはモンスター1体を裏側守備表示で召喚! さらにカードを1枚伏せる!」
「"DUELIST PACK−ヘルカイザー編−" のパックには守備力の高いモンスターはいない! 即座に破壊だ! 怒れる類人猿で攻撃……破壊!」

[ルール04]
 デュエルはリアルタイムデュエルで行われる。ターンの概念がなくなり攻守が入り混じる。

 僕、孔雀舞、井守の3人は立て続けに行動を起こした。
 このリアルタイムデュエルで、ターンの概念がなくなり時間の要素が加わったことはもはや基本。
 不慣れな人から見れば、状況を追っていくだけで精一杯かもしれない。その中で素早く的確な行動を起こせる者が、リアルタイムデュエルを制することができるのだ。
 今、井守の場には1枚の伏せカードだけが存在する。罠カードと見て間違いないだろう。
 その罠カードが何のカードにせよ、今こそチャンス! なぜなら、そのカードは伏せてから10秒も経過してないからだ。

[ルール08]
 罠は場に伏せてから30秒経過後に発動可能。

 舞はその隙を見逃さなかった。
「あたしは宝玉獣サファイア・ペガサスを召喚する!」

宝玉獣 サファイア・ペガサス 風 ★★★★
【獣族・効果】
このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時、自分の手札・デッキ・墓地から「宝玉獣」と名のついたモンスター1体を永続魔法カード扱いとして自分の魔法&罠カードゾーンに表側表示で置く事ができる。このカードがモンスターカードゾーン上で破壊された場合、墓地へ送らずに永続魔法カード扱いとして自分の魔法&罠カードゾーンに表側表示で置く事ができる。
攻撃力1800 守備力1200

 孔雀舞はサファイア・ペガサスの効果を使って宝玉獣アンバー・マンモスを永続魔法扱いで場に出す。
「即座に攻撃よ、サファイア・ペガサス! 井守へダイレクトアタック!」
 攻撃力1800のサファイア・ペガサスは空を駆け、高速に移動して井守へ攻撃を仕掛けた。
「くっ……」
 井守のライフポイントは3200から1400ポイントになった。
 僕も舞に続いて攻撃を仕掛けるべきなのかもしれない。僕の場にいる怒れる類人猿は攻撃を仕掛けてから1分を経過していないため攻撃できないが、手札の鬼ゴブリンならば問題なく攻撃を仕掛けることができる。
 ただ、鬼ゴブリンの攻撃力は1200。1400ある井守のライフを0にはできない。井守が別のモンスターを出し反撃に出れば、僕のライフが危なくなってしまう。それに、"DUELIST PACK−ヘルカイザー編−" には制限カードに指定された「危険なカード」がある。このカードを使われた時点で僕達の敗北は決まってしまう。
 僕は2枚の手札を確認した。

【御伽の手札】
 鬼ゴブリン(攻撃力1200)
 異次元の指名者

 そこには、井守の「危険なカード」を除去できる魔法カード「異次元の指名者」があった。
 僕は、そのカードに手をかけた。



 気が向いた方は、この先を読む前に以下のQ4を考えてみてくださいね。

 Q4:井守が持つ「危険なカード」とは?



第16章 逆転に次ぐ逆転

 井守の手札には切り札となる「危険なカード」が存在する……! そう予想した僕は、先手を打つことにした。
「僕は、異次元の指名者を発動!」
「な、何だとォ……!」

異次元の指名者
(魔法カード)
カード名を1つ宣言する。相手の手札を確認し、宣言したカードが相手の手札に存在する場合、そのカード1枚をゲームから除外する。宣言したカードが相手の手札に存在しなかった場合、自分の手札をランダムに1枚ゲームから除外する。

 奇術師パンドラと戦った時にも使った魔法カード。相手の手札を言い当てれば、その手札をゲームから除外することができる。
 僕は「危険なカード」を指名した。
「僕が指名するカード名は『オーバーロード・フュージョン』! もし、そのカードが井守の手札にある場合、ゲームから除外してもらう!」
 井守の顔色が変わった。
 僕は、確信した。井守の手札にはオーバーロード・フュージョンがあると。

オーバーロード・フュージョン
(魔法カード)
自分フィールド上または墓地から、融合モンスターカードによって決められたモンスターをゲームから除外し、闇属性・機械族の融合モンスター1体を融合デッキから特殊召喚する。(この特殊召喚は融合召喚扱いとする)

 オーバーロード・フュージョンは墓地のモンスターを融合できる魔法カード。
 この魔法カードの恐ろしいところは、キメラテック・オーバー・ドラゴンを容易に融合召喚できることにある。

キメラテック・オーバー・ドラゴン 闇 ★★★★★★★★★
【機械族・融合/効果】
「サイバー・ドラゴン」+機械族モンスター1体以上
このモンスターは融合召喚でしか特殊召喚できない。このカードの融合召喚に成功した時、このカード以外の自分フィールド上のカードを全て墓地へ送る。このカードの元々の攻撃力と守備力は、融合素材にしたモンスターの数×800ポイントの数値になる。このカードは融合素材にしたモンスターの数だけ相手モンスターを攻撃する事ができる。
攻撃力? 守備力?

 つまり、オーバーロード・フュージョンでキメラテック・オーバー・ドラゴンを融合召喚すると、墓地に機械族モンスターがいればいるほどその融合素材モンスターが増え、その分だけ攻撃力が飛躍的に上昇することになる。
 そして、このリアルタイムデュエル大会は、開始してから既に丸一日以上が経過している。井守の墓地には多くの機械族モンスターが眠っているのだ。
 そのため、今の状態でオーバーロード・フュージョンからキメラテック・オーバー・ドラゴンを融合召喚すれば、キメラテック・オーバー・ドラゴンの攻撃力は5000をゆうに超える。僕達はひとたまりもないだろう。
 オーバーロード・フュージョンは、なんとしても防がなければならないカード。だから僕は、異次元の指名者のカードを使って、オーバーロード・フュージョンを手札から消しておこうと思ったのだ。
「そんなバカな! ボクの切り札が……!」
 井守の手札にはオーバーロード・フュージョンは1枚だけあった。僕はそのカードを井守の手札から除外することに成功したのだ。
「よくやった! 御伽!」
 井守は強力な切り札を1枚失った。流れはこちらに傾いていた。
「くっ! オーバーロード・フュージョンこそは封じられてしまったが、ボクにはこの融合カードがある!」

未来融合−フューチャー・フュージョン
(永続魔法カード)
自分のデッキから融合モンスターカードによって決められたモンスターを墓地へ送り、融合デッキから融合モンスター1体を選択する。発動してから2分後に選択した融合モンスターを自分フィールド上に特殊召喚する(この特殊召喚は融合召喚扱いとする)。このカードがフィールド上に存在しなくなった時、そのモンスターを破壊する。そのモンスターが破壊された時このカードを破壊する。

「フューチャー・フュージョン! デッキの中から融合を実現するカード……!」
「2分待たなければならないが、このカードを使えば攻撃力4000のサイバー・エンド・ドラゴンを融合召喚できる。お前らは確実に倒してやる……」
 傾きかけたデュエルの流れは、再び、井守の元へ戻っていく。
 フューチャー・フュージョンにより、デュエルにタイムリミットが設けられた。2分経過すれば、僕も孔雀舞も成す術なくやられてしまう。その前に決着をつけなければ負ける……!
 僕の場にいる怒れる類人猿が井守を威嚇し始めた。僕の怒れる類人猿が攻撃を行ってから1分が経過しようとしていたのだ。

[ルール06]
 攻撃を仕掛けたモンスターは、攻撃終了後1分間は攻撃を仕掛けられない。

 僕の怒れる類人猿は、攻撃力こそは3200から2000までダウンしてしまったものの、まだまだ高い攻撃力を持つモンスター。
 井守の場に伏せカードがあることが気になるが、このまま怒れる類人猿で攻撃を仕掛けるべきだろう。
 もっとも、それ以前に嫌でも攻撃を仕掛けなければならないのだが……。

怒れる類人猿 地 ★★★★
【獣族・効果】
このカードが表側守備表示でフィールド上に存在する場合、このカードを破壊する。このカードのコントローラーは、このカードが攻撃可能な状態であれば必ず攻撃しなければならない。
攻撃力2000 守備力1000

「1分が経過した! 僕は、怒れる類人猿で井守へ直接攻撃する!」
 僕の攻撃宣言を聞いてか聞かずしてか、怒れる類人猿はブレス攻撃で井守に襲い掛かる。
「リビングデッドの呼び声を発動! サイバー・ドラゴンを蘇生する!」
 井守は伏せカードをオープンにした。そこには、墓地モンスターを蘇生させる効果を持つリビングデッドの呼び声のカードがあった。
 そして、場に現れたのは攻撃力2100のサイバー・ドラゴン。僕の怒れる類人猿よりも攻撃力が100ポイント高い。
 怒れる類人猿は、相手のモンスターの方が強い場合でも、構わずに攻撃を仕掛けるモンスター。怒れる類人猿の攻撃は制止できず、サイバー・ドラゴンにブレスを浴びさせていく。
 だが、攻撃力の高いサイバー・ドラゴンは倒せず、サイバー・ドラゴンは反撃を開始。その口からレーザー状の攻撃が放たれる。怒れる類人猿はその攻撃に耐えられず、崩れ去った。
 怒れる類人猿は破壊されてしまった。僕のライフポイントは残り800。
「今のバトルは、怒れる類人猿が自分から攻撃を仕掛けた結果によるもの! サイバー・ドラゴンの攻撃宣言はこれから行う! サイバー・ドラゴン! 孔雀舞のサファイア・ペガサスを破壊しろ!」
 すかさず、サイバー・ドラゴンは動き出す。怒れる類人猿を打ち破ったのと同じレーザー攻撃を放つ。
 孔雀舞のサファイア・ペガサスもまたやられてしまった。
 しかし、舞は手札のカードに手をかけた。
「甘い! あたしにはまだ切り札がある! 龍脈に棲む者を召喚!」

龍脈に棲む者 地 ★★★
【ドラゴン族・効果】
自分の魔法&罠カードゾーンに存在する表側表示の永続魔法カード1枚につき、このカードの攻撃力は300ポイントアップする。
攻撃力1500 守備力700

「あたしの場には、永続魔法扱いとなった宝玉獣モンスターが3体いる! したがって、龍脈に棲む者の攻撃力は2400! 井守! あんたのサイバー・ドラゴンの攻撃力を上回った!」
 龍脈に棲む者は姿を隠し、陰からサイバー・ドラゴンに見えない攻撃を繰り出す。その攻撃により、サイバー・ドラゴンはその身を崩していき、最後には破壊された。
「今だ! 御伽! 今、井守の場にはモンスターも伏せカードも出ていない! ライフも残り1100! 残りの手札がモンスターカードなら、それを召喚して攻撃を仕掛けるんだ!」
「ああ! 分かっている!」
 僕の手札には攻撃力1200の鬼ゴブリンがいる。今なら、このモンスターで井守のライフを0にすることができる……!
「僕は――」
 鬼ゴブリンを召喚しようとしたその時――

キメラテック・オーバー・ドラゴン 闇 ★★★★★★★★★
【機械族・融合/効果】
「サイバー・ドラゴン」+機械族モンスター1体以上
このモンスターは融合召喚でしか特殊召喚できない。このカードの融合召喚に成功した時、このカード以外の自分フィールド上のカードを全て墓地へ送る。このカードの元々の攻撃力と守備力は、融合素材にしたモンスターの数×800ポイントの数値になる。このカードは融合素材にしたモンスターの数だけ相手モンスターを攻撃する事ができる。
攻撃力? 守備力?

「嘘っ! どうして……!」
「そんな!」
 井守の場にキメラテック・オーバー・ドラゴンが現れた! その攻撃力、実に攻撃力10400!
「あ、ありえない……! こんなことはありえない!」
 高攻撃力状態のキメラテック・オーバー・ドラゴンを融合召喚するためには、オーバーロード・フュージョンは必要不可欠。だが、そのオーバーロード・フュージョンは、僕の異次元の指名者によって除外されたはず。井守にオーバーロード・フュージョンを使えたはずはないのだ!
 考える間もなく、キメラテック・オーバー・ドラゴンの攻撃が孔雀舞の龍脈に棲む者を襲う。そのエフェクトは、サイバー・ドラゴンのそれとは桁外れに強烈なものであった。
「きゃああああああああああああっ!」
「舞っ!!」
 攻撃力10400のキメラテック・オーバー・ドラゴンの攻撃により、孔雀舞は敗れ去った。
 舞は事切れた人形のように地面に倒れていく。僕は慌ててその体を支えた。舞の体を支えた時、彼女は既に意識がなく「心」を奪われてしまったことを痛感した。
 そして、その時に、時計塔の文字盤が視界に入った。
 現在の時刻は、午後13時00分。

[ルール18]
 デッキからカードをドローできるのは、1時間毎のドロータイムのみ。

「……!」
 井守はたった今訪れたこのドロータイムで、2枚目のオーバーロード・フュージョンを引き当てたのだ!



第17章 敗北者たち

「天はボクの味方をした! フフフ……ボクに逆らうからこうなるんだ! ざまあみろ! ハハハ……ハハハハーー!!」
 井守は笑う。人目もはばからず大声で笑う。
 孔雀舞は敗れ、その心を封印された。
 そして、井守の場には攻撃力10400のキメラテック・オーバー・ドラゴン。それに対し、僕は――

【現在の手札】
 鬼ゴブリン(攻撃力1200)

【現在の場】
 カードなし

【現在のライフポイント:800】

 逆転しようがない状況だった。
 だが、今の時刻は午後13時00分。井守と同じように、僕にもデッキからカードをドローする機会が与えられている。このドローカードに賭ければ……!
 僕はデッキに手を当てた。結果を知るのが恐ろしくて、カードを引くのを一瞬ためらってしまう。
 しかし、躊躇(ちゅうちょ)すればするほど時間は経過し、井守にチャンスを与えてしまうことになる。僕は勢いよくカードを引いた。
 そして、そのドローカードは――

カオス・エンド
(魔法カード)
自分のカードが7枚以上ゲームから除外されている場合に発動する事ができる。フィールド上に存在する全てのモンスターカードを破壊する。

 今、僕の場から除外されているカードの枚数は7枚。カオス・エンドを発動することができる。
 そして、カオス・エンドの効力を持ってすれば、どんなに攻撃力の高いモンスターであろうと撃破できる!
「ハハハハハーー!」
 僕は笑い続けている井守を尻目にカオス・エンドの効果を発動した。
「ッハハ……え?」
 カオス・エンドの効力により、攻撃力10400を誇るキメラテック・オーバー・ドラゴンであっても葬られていく。終焉が訪れていく。
「そ、そそそそんなバカなーーーーー!」
 カオス・エンドにより、再び井守の場は空っぽになった。
 なお、井守は、発動後2分後に融合召喚を行う未来融合−フューチャー・フュージョンを使用していたが、キメラテック・オーバー・ドラゴンが融合召喚された時に破壊されてしまっていた。
 つまり、井守の場からは脅威となるカードは完全に消えたのだ。
 僕はすかさず鬼ゴブリンのカードを場に召喚する。
「鬼ゴブリン! 攻撃を仕掛けろ!」
 井守が他のカードを出す前に、僕はすかさず攻撃を仕掛けた。モンスターが攻撃を仕掛けている間には、井守はカードを出すことはできない。
 攻撃力1200の鬼ゴブリンの蹴り攻撃が井守の腹に食い込んだ。
「う……嘘だ……」
 井守は片膝を地面につけ、その後……倒れた。
 井守のライフポイントの表示を確認する。間違いなく0になっていいた。
「勝った……。勝った……」
 僕は繰り返し呟いた。
 周りを見渡すと、時計塔広場には多くのギャラリーがいた。デュエルの様子を見ていたようだった。
「これで、このリアルタイムデュエル大会も終わった……」
 僕は、隣で倒れている孔雀舞の両肩を揺さぶった。
「起きろ舞! 井守は倒したぞ」
 首謀者の井守を倒したことにより、奪われた心は戻ったはず。僕は眠っている舞を起こそうとした。
 しかし。
 孔雀舞は、目を覚まさなかった。
「『心』は戻ったんじゃなかったのか……」
 倒れた井守は、起き上がることなく僕を睨みつけて言い放った。
「フフフ……よくやったと褒めてあげるよ。でも、この井守という少年を倒しても、一旦封印された『心』は戻らない」
「なんだって!?」
「『心』を封印されたくなければ、この大会を最後まで勝ち残るしか方法はない。残り二人のデュエリストのうち、『心』を封印されずに済むのはどちらかな……?」
 井守はニヤリと笑い、目を見開いたまま動かなくなった。彼もまた心を奪われ、意識を失ったのだ。
「どういうことだ……! どういうことだよッ!!」
 僕は無意識に叫んでしまった。それこそ、人目もはばからず叫んでしまっていた。
 井守を倒せば、奪われた心が元の持ち主の元へ戻ると思ったのは、早計だったというのか。
 しかも、井守は「残り二人のデュエリスト」と言った。

【現在の参加者一覧】

参加者1:御伽 龍児(残りライフ800/"混沌を制する者"パック選択)
参加者2:インセクター羽蛾(残りライフ0/"SHADOW OF INFINITY"パック選択)
参加者3:孔雀 舞(残りライフ0/"FORCE OF THE BREAKER"パック選択)
参加者4:ダイナソー竜崎(残りライフ0/"SOUL OF THE DUELIST"パック選択)
参加者5:奇術師パンドラ(残りライフ0/"プレミアムパック4"パック選択)
参加者6:井守(残りライフ0/"DUELIST PACK−ヘルカイザー編−"パック選択)
参加者7:海馬 瀬人(残りライフ不明/選択パック不明)
参加者8:不明

 残りのデュエリストは3人ではなかったのか。
 8人目のデュエリストは、既にやられてしまったのだろうか。僕の知らぬところでデュエルを行い、負けてしまったのだろうか。
 時計塔広場のギャラリーからざわめきが収まらない。
 そのざわめきの中から、一人の少年の声が聞こえた。
「兄サマが! 兄サマが!」
 その少年は、海馬モクバ。海馬瀬人の弟であった。
 モクバは一直線に僕の元へ駆けてくる。
 そして、一つの事実を告げた。
「兄サマが……兄サマが負けてしまったんだ!!」



第18章 不可解な点

 ――デュエリスト達の『心』を集めるためにこの大会を開いたんだ!
 ――この井守という少年を倒しても、一旦封印された『心』は戻らない。
 ――残り二人のデュエリストのうち、『心』を封印されずに済むのはどちらかな……?
 ――兄サマが……兄サマが負けてしまったんだ!!

 僕の頭の中で、先ほどの時計塔広場での会話が反すうされる。
 負けた者が心を奪われるというこのリアルタイムデュエル大会。
 その首謀者は井守という男子生徒だった。僕は孔雀舞と協力し、間一髪のところで彼を倒すことができた。
 だが、首謀者の井守を倒しても、一度奪われた心は元には戻らなかった。井守もまた心を奪われ、倒れてしまったのだ。
 さらに、あの海馬瀬人の敗北の知らせ……。
 あまりにも不可解な点が多かった。今までの僕の知識と経験だけでは説明のつかないことが多すぎた。
 ただ、そんな僕でも分かっていることは、このリアルタイムデュエル大会は終わってはいないということ。何者かが僕達の様子をほくそ笑みながら見ているに違いないのだ。
 そう思ったら、無性に悔しくなった。
 そして、遊戯や城之内の闘いが思い出される。
「そうだよな。負けるわけにはいかないよな……!」
 僕は僕のやり方でこのリアルタイムデュエル大会に決着をつけてやる!
 5月19日午後13時27分。時計塔広場で一人で立ち尽くしていた僕は、ようやく動き出したのだった。

 時計塔広場にある喫茶店で軽食を取りながら、僕は「不可解な点」について考え出した。
 今まで、このリアルタイムデュエル大会では、不可解な点がいくつも見られた。
 もっとも、「心を奪われる闇のゲーム」という時点で不可解と言えるかもしれないが、ここでの「不可解な点」とは、今までの経験と比べると違和感が大きい事実、矛盾している事実などを指すものとする。
 違和感。矛盾。このリアルタイムデュエル大会に決着をつけるためには、これらの不可解な点を解き明かすことが必要不可欠。僕はそう考えたのだ。
 まずはこれらの不可解な点について挙げてみよう。

[不可解な点1]
 井守が意識を失う直前に「この井守という少年を倒しても」と言ったこと。

[不可解な点2]
 首謀者である井守を倒しても、大会は終わらず「心」も戻らないこと。

[不可解な点3]
 過去に心を奪われたはずの井守が、意識を取り戻したこと。

[不可解な点4]
 海馬瀬人が敗北したこと。

 項目だけをざっと挙げれば以上の4つになる。
 このリアルタイムデュエル大会の裏側。それを見破るためには、首謀者の井守に関わる点に注目すべきだろう。僕は不可解な点1〜3に注目した。

[不可解な点1]
 井守が意識を失う直前に「この井守という少年を倒しても」と言ったこと。

 井守は、僕に負けて意識を失う直前に「この井守という少年を倒しても」と言っている。
 井守本人の発言にしては極めて不自然だ。この発言をした人物は、井守ではないと考えたほうが自然であろう。
 そうなれば、このリアルタイムデュエル大会における井守は、井守であって井守ではない。すなわち、井守は何者かに操られていたという可能性が出てくる。

[不可解な点2]
 首謀者である井守を倒しても、大会は終わらず「心」も戻らないこと。

 リアルタイムデュエル大会における首謀者は井守である。彼はデュエリスト達の「心」を集めるために、このような闇のゲームを仕組んだと言う。
 それならば、井守が倒された時点で闇のゲームは終了し、奪われた心は解放されると考えるのが自然な流れ。
 しかし、事実は違う。井守も他の参加者と同様に心を奪われ、闇のゲームも引き続き行われているのだ。
 一見謎だらけに見えるこの不可解な点2ではあるが、不可解な点1を考慮するとその裏に隠された真相が見えてくる。
 不可解な点1で考えたように、井守が何者かに操られていたと仮定しよう。
 そうすると、井守はこのリアルタイムデュエル大会の「仮」の首謀者。「本物」の首謀者が他にいることになる。となれば、その本物の首謀者は「心」を集めるため、闇のゲームを取り計らったと考えれる。
 すなわち、本物の首謀者を倒さない限り、一度奪われた心を取り戻すことはできないと言うことだ。

[不可解な点3]
 過去に心を奪われたはずの井守が、意識を取り戻したこと。

 井守は、過去に「龍札」という闇のゲームで遊戯と闘い敗北している。
 その結果、井守の心は心鎮壺と呼ばれる壺に捧げられ、3か月かけて消化されることになった。
 だが、井守は闇のゲームを行った3か月後に意識を取り戻している。3か月後といえば、井守の心が完全に壺に消化される時期。その時期に意識を取り戻しているという時点でおかしいのだ。
 遊戯達は意識が戻ってよかったと言っていたが、これは本来疑うべき事実なのだ。
 僕は考える。
 もし、不可解な点1と2で考えたように、井守が何者かに操られていて、その者がデュエリストの心を集めるためにこの大会を開いたのだとしたら――
 答えは、自ずと一つに絞られる。
 ――「誰か」がいる。
 あの心鎮壺の中には「誰か」がいる。井守とは別の「誰か」がいる。
 井守よりも前に龍札のゲームを行い敗北した「誰か」。その「誰か」が、心鎮壺を逆に乗っ取った。
 その「誰か」は、心鎮壺に封じ込められた井守の心を3か月かけて操り、その心を元の井守の体に戻した。
 井守は、その「誰か」の意志のままにデュエリストを集め、リアルタイムデュエル大会の準備を行った。そして、このリアルタイムデュエル大会を装った闇のゲームで「心」を集めだしたのだ。
 となれば、「誰か」の目的もおおよそ見当がつく。
 心鎮壺に封じ込められた自分の心を完全に復活させるため、デュエリスト7人分の心を生け贄にしようとしているのだ。いや、もしかしたら、体はとっくに滅びていて、そちらを得るほうが目的なのかもしれない。
 いずれにせよ、自分のためだけに僕達を生け贄にしようとしていることには違いない。そんなことを許しておくわけにはいかなかった。

 僕の中で一応の結論は出た。
 ただ、証拠があるわけではないので100%正しいとは言い切れない。遊戯のじいさんである武藤双六に龍札の話を聞くなどして、その証拠を押さえておくべきだろう。
 僕は喫茶店を後にすべく、席を立ち精算を済ませた。
 喫茶店から外に出ようとした時、左腕のデュエルディスクから光が放たれていることに気付いた。それは、僕の半径20メートル以内に他の参加者がいることを示している事実に他ならなかった。

[不可解な点4]
 海馬瀬人が敗北したこと。

「8人目のデュエリストがいる……」
 あの海馬瀬人を打ち破った8人目のデュエリストがすぐ側にいるというのだ!
 喫茶店のドアをわずかに開けて外を覗き見る。
 そこには巨大な影があった。
「な……!」
 信じられない。僕は自分の見た光景が信じられなかった。
 いや、唯一、あの海馬でさえも敗北したことには納得がいった。これは海馬瀬人でも勝てない。勝てるわけがない。
 そこにいたのは、僕の記憶にはない無名のデュエリスト。
 しかし、彼が召喚していたモンスターは、あまりにも有名なモンスターだった。

召喚神エクゾディア 神 ★★★★★★★★★★
【魔法使い族・効果】
このカードは「封印されしエクゾディア」の効果により特別に出現するカードである。
このカードはモンスター・魔法・罠の効果を受けない。このカードが攻撃をした時、相手のライフポイントは0になる。
攻撃力:無限大 守備力:無限大



第19章 8人目のデュエリスト

 僕は即座にドアを閉めた。
「お忘れ物でもありましたか?」
 喫茶店の店員が尋ねてくる。店を後にしようとしたところで引き返したのだ。そう思われるもの当然かもしれない。
「いや、会いたくないヤツが外にいてね……。悪いんだけど、店の裏口とかから出れるかな?」
 僕はとっさに出まかせを言って、店の裏口から外に出してもらうことになった。
 裏口の扉を静かに閉める。そこはビルの間に挟まれた狭い路地だった。
「ふぅ……」
 ため息をつく。
 8人目のデュエリストはエクゾディア使いだった。
 エクゾディアとは、5枚の封印パーツカードを手札に揃えた時に初めて場に現れるモンスターである。
 場に出すまでが大変だが、エクゾディアの封印パーツカード5枚を揃えさえすれば、エクゾディアの封印が解け、その瞬間勝利が確定するという恐ろしいパワーを秘めている。
 ちなみに封印パーツカード5枚とは、封印されたエクゾディア、封印されし者の右腕、封印されし者の左腕、封印されし者の右足、封印されし者の左足である。おそらく、8人目のデュエリストの選んだパックは、"幻の召喚神"。このパックには、エクゾディアの封印パーツカード5種類全てが入っており、エクゾディア以外のカードの数も多すぎず封印パーツカード集めに集中できる。
 リアルタイムデュエル大会におけるエクゾディアデッキ。封印パーツカードを集めるまでは戦力に欠けるものの、戦闘から逃げ回ってでも封印パーツカード5枚を集めることができれば、最強のしもべをつけることができる。最強最悪の戦術と言えるかもしれない。
 ただ、このリアルタイムデュエル大会においては、エクゾディアの能力の一部が異なっている。

[ルール09]
 カード効果はOCGに準ずるが、カードによってはリアルタイムデュエルに対応する処理に変更される場合がある。

 リアルタイムデュエル大会では、基本的にOCGのフォーマットに合わせられたカード効果になっている。
 だが、リアルタイムデュエルをする上でルール上不都合が出る場合、その効果も変更されている。代表的な例はターンに関する効果。1ターン毎に効果が現れるような場合、ターンが実時間に置き換わっているのだ。
 そして、このエクゾディアも一部の効果が変更されている。

召喚神エクゾディア 神 ★★★★★★★★★★
【魔法使い族・効果】
このカードは「封印されしエクゾディア」の効果により特別に出現するカードである。
このカードはモンスター・魔法・罠の効果を受けない。このカードが攻撃をした時、相手のライフポイントは0になる。
攻撃力:無限大 守備力:無限大

 OCGでは5枚のカードを手札に揃えた瞬間に問答無用で相手に勝利するが、この大会では8人でのバトルロワイアル形式である。揃えた瞬間に他の7人を無視して優勝するのを防ぐため、効果が一部変更されている。
 封印パーツカード5枚を揃えた時に、「召喚神エクゾディア」というモンスターが特別に出現し(召喚神エクゾディア自体はデッキに存在する必要はない)、その召喚神エクゾディアが攻撃することで相手ライフを0にすることができる。もちろん、エクゾディアは出せば必ず勝てるという原則に乗っ取り、召喚神エクゾディア自体は無限の攻撃力と無敵の効果耐性を持っているのだ。
 とまあ、あれやこれや考えてみたが、今の僕には手の打ちようがないことには変わりない。
 となれば、次の行動は自然と決まる。逃げることだ。
 本来ならば、その8人目のデュエリストに、このリアルタイムデュエル大会が闇のゲームだと伝えるべきなのだろう。
 しかし、それを言う前にエクゾディアに攻撃されては終わりだし、何より8人目のデュエリストが信用できそうな人物に見えなかった。黒いフードとコートで身を包み、爬虫類のような目でぎょろぎょろと周りを見渡しており、「いかにも悪役です」といった風貌だったからだ。気のせいかもしれないが、僕の店で行ったデュエル大会で意味不明なことを言い散らし迷惑を掛けまくっていたヤツに似ている……。
「さあ出てこい! リアルタイムデュエル大会のデュエリストよ!」
 時計塔広場からなにやら叫ぶ声が聞こえる。あの8人目のデュエリストだ。
 彼のデュエルディスクが反応しているのだろう。僕が近くにいることには気付いているが、その正確な位置までは分からないのだ。
 僕はビルに囲まれた路地裏から、時計塔広場から離れる方向へと歩き出した。
「ククク……私のエクゾディアに怯えをなして出てこれないのか。いいだろう。たとえお前の場所など分からなくとも、手当たり次第に攻撃を仕掛ければいいだけのこと。このエクゾディアの巨体を持ってすれば、半径20メートル以内全てに攻撃を仕掛けることも難しくない!」
 な、何だって!
 狭い路地の中、僕は走り出した。早くここから離れなくては……!
「我がエクゾディアよ! 怒りの業火で時計塔広場を焼き尽くせ!」
 ビル1つに匹敵するほどのエクゾディアの巨体から、激しく燃えさかる炎が放たれたようだった。
 一瞬目の前が赤くなって、僕のすぐ左を炎が通ったのを確認できた。
「あ……危なかった……」
 あと少しで僕のライフは0になるところだった。
 路地から公道に出る。ここならば時計塔広場から30メートルは離れているだろう。
 だが、まだ安心はできない。僕は時計塔広場からさらに離れるべく、走り続けたのだった。

 5月19日午後19時48分。太陽は既に沈み、辺りはすっかり暗くなっていた。
 ここは童実野町の中心から大きく離れた童実野埠頭。僕はエクゾディアから逃げ続けていた。
 無敵のエクゾディアは脅威の存在である。
 しかし、その大きすぎる存在感が逆に僕をここまで生かしてくれた。エクゾディアはビルに匹敵するほど巨大であるため、遠くから見てもどこにいるか一目瞭然なのだ。
 それに対し、僕の鬼ゴブリンは人間一人分をわずかに下回る程度の大きさ。僕から8人目のデュエリストの位置は簡単に分かるが、8人目のデュエリストから僕の位置は簡単には分からないのだ。
 僕は、遠くに見えるエクゾディアとの距離を保つことで、8人目のデュエリストから確実に逃げ続けていたのだった。
 しかし、逃げ続けているだけでは、このリアルタイムデュエル大会を名乗った闇のゲームは終わらない。奪われた心を取り戻すためにも、リアルタイムデュエル大会の真の首謀者を見つけて倒すことは必要不可欠なのだ。
 エクゾディアから逃げている途中、僕は遊戯の家に電話し、彼の祖父である武藤双六に井守や龍札についていろいろと聞いてみた。
 その結果、僕の考えは当たっていたことが分かった。
 すなわち、あの心鎮壺の中には別の「誰か」がいて、その「誰か」は井守を操りこのリアルタイムデュエル大会を開き、デュエリストの心を集めているのだ。
 井守の家に残っていた資料により、さらに詳しい事実が分かった。
 過去に心鎮壺に心を封印された人物の中に、強大な魔力を持ちながらその心が悪に染まっていたという風水師がいたらしいのだ。その風水師こそが、心鎮壺の中にいる「誰か」に違いないだろう。
 僕がすべきことは、心鎮壺に居座っているその風水師を倒すことだ。

 さて、遊戯に電話をした際、僕は三つほど気になる事実を聞いた。
 僕はそれらの事実について考え始めた。

[遊戯の報告1]
 龍札と心鎮壺自身が何者かに持ち出されていた。

 これは当たり前といえば当たり前である。このリアルタイムデュエル大会が始まる前に、心を操った井守を使ってどこかへ隠したのだろう。
 井守本人に聞けばその隠し場所は分かるかもしれないが、その井守自身が今は心鎮壺の中。この点は気にはなるが後回しにせざるを得なかった。

[遊戯の報告2]
 心鎮壺には容量制限がある。

 龍札で負けた者が封じ込められる心鎮壺。その容量は大きくなく、遊戯が体験した話によると、2つの心が入ると先に入ったほうの心が外に飛び出してしまうという。
 それにも関わらず、心鎮壺に居座っている風水師は7人分の心を集めようとしている。風水師自身を含めれば、心鎮壺に8人の心を溜め込もうとしていることになる。
 心鎮壺の容量制限。そこに何かの「穴」があるに違いない。

[遊戯の報告3]
 龍札や心鎮壺に関する詳細は海馬コーポレーションも知っている。

 現時点で僕が知っている情報は、全て海馬コーポレーションも把握していることになる。
 井守、龍札、風水師、心鎮壺やその容量制限。それら全てを知っている。
 ということは、海馬瀬人は自分が次に取るべき行動も分かっていたのではないだろうか? 海馬は、非科学的なことに対し否定的な性格だが、このような事態を放置することのできる人物でもない。
 海馬には何か考えがあったのではないだろうか。
 僕の視界に、童実野町を歩き回っている巨体のエクゾディアの姿が入ってくる。
「全てはあのバカのせいか……」
 巨体のエクゾディアを引きつれ、童実野町のビル街を容赦なく徘徊する迷惑極まりない8人目のデュエリスト。ルールとマナーを守ってデュエルしたことすらなさそうな迷惑の塊みたいな存在。
 あのデュエリストがエクゾディアなどを揃えなければ、もう少しスムーズに事は運んだのではないか。
 午後20時になった。僕はデッキからカードを1枚ドローした。

残骸爆破
(罠カード)
自分の墓地のカードが30枚以上存在する場合に発動する事ができる。相手ライフに3000ポイントダメージを与える。

「これは……!」
 残骸爆破。今この状況でもっとも役に立つカードを引いた……!
 そして――

[遊戯の報告2]
 心鎮壺には容量制限がある。

[遊戯の報告3]
 龍札や心鎮壺に関する詳細は海馬コーポレーションも知っている。

 僕のとるべき行動も決まった。
 僕は遠くで歩き回るエクゾディアを目指し走り出したのだった。



 気が向いた方は、この先を読む前に以下のQ5を考えてみてくださいね。

 Q5:御伽が取るべき行動とは?



第20章 5月19日(土)20時17分

 途中でタクシーに乗り換えた僕はこう言った。
「あのエクゾディアへ向けて走ってください」
「は、はぁ……」
 僕を乗せたタクシーは童実野町の中心へと向かって走行する。
 タクシーに乗っている間、僕は作戦を立てていた。
 まず、僕が今からすべきことは、あの8人目のデュエリストに残骸爆破のカードをお見舞いすることだ。
 残骸爆破は相手ライフに3000ポイントダメージを与える罠カード。いくらエクゾディアが無敵だろうが、プレイヤーのライフを0にすればいいだけのこと。
 ただ、残骸爆破を発動するためには自分の墓地に30枚以上のカードがなければならない。このリアルタイムデュエル大会を通し、墓地には25枚のカードが溜まっていたが、発動条件を満たすにはあと少し足りない。
 しかし、このリアルタイムデュエル大会を生き残った僕には、その条件を満たす術は簡単に見つけられる。

[ルール19]
 ドロータイム時、手札が7枚以上の場合にはドローできない。あらかじめ手札が6枚以下になるように捨てる必要がある。

 このルールを逆手に取るのだ。
 このルール19をよく読めば、手札はいつでも捨てていいと解釈できる。これを利用し、僕の手札を5枚を墓地に送ってしまえば、発動条件を満たすことできるのだ。
 僕は手札のカード5枚を墓地に送った。
 そして、残骸爆破のカードを場にセットした。
 これで残骸爆破の使用準備は万端。
 後は、残骸爆破を使用する前に、エクゾディアの攻撃を喰らわないようにしなければ……。
 僕は、8人目のデュエリストに安全に近づく作戦を考え出したのだった。

「見つけたぞ! 出て来いこの臆病卑怯者デュエリスト! いくらこの私のエクゾディアが偉大であろうとも、そこから逃げ出すことなどデュエリストの恥と知れ!」
 タクシーを降りると、8人目のデュエリストの叫び声が聞こえた。
 僕と8人目のデュエリストとの距離が近くなった証拠だ。デュエルディスクに埋め込まれているガラス玉が光りだしたのだ。
「お望みどおり、姿を現そうじゃないか!」
 僕は大声でそう言って、8人目のデュエリストの視界に入るように歩き出した。
 僕と8人目のデュエリストは、互いに対峙する位置に立った。
 僕はすかさず8人目のデュエリストのライフポイントを確認する。3000だった。
 右手に小さくガッツポーズを作る。これならば、残骸爆破1枚で倒せる!
 8人目のデュエリストはエクゾディアを揃えるまでは極めて無防備だ。その間に他のデュエリストと闘いダメージを受けている可能性は低くない。
 それに、あの海馬瀬人が何もせずに敗北するわけがない。海馬はおそらくファイヤー・ボールのカードを使い、与えられるだけのダメージを与えていったのだ。もしかしたら、海馬は自分が負けると分かっていて「わざと」勝負を挑んだのかもしれない。
 8人目のデュエリストと巨体のエクゾディア。僕はそこから15メートル近く離れた位置にいた。この距離とこの暗さでは、相手の顔を見分けるのは困難。おそらく、相手は陶器製のデュエルディスクを装着しているかどうかで僕が対戦相手かどうかを判別しているのだろう。
「ほう……この私から逃げずに姿を現したか。褒めてやろう。しかし! ここで貴様もゲームオーバーだ!」
 僕は笑ってこう言った。
「いいことを教えてあげよう。エクゾディア使いのデュエリストさん」
「何……?」
「これから2か月後の7月下旬。『究極封印神エクゾディオス』のカードが発売されるぞ!」
「……! それ、嘘だろ? 私はそんな嘘などに騙されないぞ!」
 僕は8人目のデュエリストへの距離を詰めていく。
「いや、そもそもそんなカードなど真のエクゾディア使いにとって邪道。どうせエクゾディアに関係ないデッキに入れられるんだ。きっとそうだ。きっと……」
 8人目のデュエリストは勝手に動揺し始めた。8人目のデュエリストに安全に近づくための作戦とは言え、予想以上の効果だった。
 今や、僕と8人目のデュエリストとの距離はわずか3メートル。僕は行動を起こした。
「かかったな! エクゾディア使い! 僕はこの罠カードを発動する!」
 そう言って、僕は残骸爆破のカードに手をかけた。
「な……! 罠カードを発動させるために私に近づいていたというのか! くそっ! エクゾディア! 攻撃だ!」
 我に返った8人目のデュエリストは、エクゾディアで攻撃を仕掛けてくる。
 僕の残骸爆破と、エクゾディアの攻撃はほぼ同時……!
 僕の視界に巨体から放たれた炎が迫る。
 8人目のデュエリストの足元からは大きな爆発音があがる。
 爆発と巨大な炎の立体映像と効果音が混ざり合い、さらに大きな光と音を作り出す。
 そして――
「私のライフがライフがライフが……」
 8人目のデュエリストのライフポイントは0になった。
「ぐ……」
 僕のライフもまた0。
 僕と8人目のデュエリストのライフは同時に0になったのだ。
「い……意識が……」
 意識が少しずつ遠ざかっていくのが分かる。僕の心もまた心鎮壺に封印されていくのだろう。

【現在の参加者一覧】

参加者1:御伽 龍児(残りライフ0/"混沌を制する者"パック選択)
参加者2:インセクター羽蛾(残りライフ0/"SHADOW OF INFINITY"パック選択)
参加者3:孔雀 舞(残りライフ0/"FORCE OF THE BREAKER"パック選択)
参加者4:ダイナソー竜崎(残りライフ0/"SOUL OF THE DUELIST"パック選択)
参加者5:奇術師パンドラ(残りライフ0/"プレミアムパック4"パック選択)
参加者6:謎の男子生徒(残りライフ0/"DUELIST PACK−ヘルカイザー編−"パック選択)
参加者7:海馬 瀬人(残りライフ0/選択パック不明)
参加者8:レアハンター(残りライフ0/"幻の召喚神"パック選択)

 5月19日土曜日20時17分。リアルタイムデュエル大会は終了した。
 優勝者は、いなかった。
 しかし、この結末こそが、僕の「狙い」だったのだ。





 リアルタイムデュエル大会 エキストラステージへ続く...





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