宿命の対決! レアハンター vs 海馬瀬人!

製作者:プロたん




 この作品はレアハンターシリーズ第7作目です。
 前回までの作品を読んでいないと意味が通じない箇所がありますが、読んでいても意味が通じない箇所ばかりなのでご安心ください。




宿命1 光り輝く称号とエクゾディア

 私はレアハンター。
 エクゾディアを操る『神(しん)のデュエリスト』である。
 神(しん)のデュエリスト――それは、真のデュエリストすら超越する究極の称号。あの遊戯や海馬ですら真のデュエリスト止まりであると言えば、どれだけ偉大な称号であるかは火を見るより明らかであろう。
 この私は、バトルシティ3位の城之内克也に勝利し、遊戯と海馬が苦戦した光と闇の仮面にたった一人で勝利している。その上、あの遊戯の父親であり、有限会社レアハンターの社長でもある。当然、容姿も上々、人気も上々。
 もはや私は、真のデュエリストに収まる器ではない。私にふさわしいのは、神(しん)のデュエリストを置いて他にないのだ!

 そういうわけで、私は今、神をも超える力を身につけるべく、カードショップへとやってきていた。
 今日は、新しいブースターパックの発売日。デュエリストの間で話題になっていた『あのパック』が発売になるのだ。
 狭い店内に入った私は、ぎょろぎょろと周囲を見渡す。大会告知のポスター、シングルカードが並べられた棚、絶対にウルトラレアカードが当たらないデュエルターミナルの筐体、それらをさらりとやり過ごし、レジ前で光り輝くパッケージを見つけた。

 遊戯王OCG ゴールドシリーズ

 ゴールドシリーズとは、普通のブースターパックとは異なる特殊なブースターパックである。そこには20種類の人気カードが再録されており、初心者でも簡単に強いカードを手に入れることができる。
 さて、仮にも神(しん)のデュエリストを名乗る私にとっては、初心者向けのゴールドシリーズは本来不要な代物である。
 そんな私がゴールドシリーズを買い求める理由は、ただ一つしかない。ゴールドレア仕様の『封印されしエクゾディア』のためである。
 ゴールドシリーズにて初登場したゴールドレア仕様。そのエクゾディアが存在するとなれば、入手しなければ私の存在意義が失われてしまう。私は、神(しん)のデュエリストであると同時に、エクゾディア使いのレアハンターでもあるのだからな。

「おお、レアハンター。ずいぶん久しぶりだな」
 その時、バンダナを巻いた丸眼鏡の店長がレジの奥から姿を現した。
 私が久しく来ていなかったせいか、店長の声は弾んでいた。私はこのカードショップの常連であり、グールズ時代の頃から世話になっているのだ。
「ここ最近全然姿を見せないんで、いよいよ御用になったかってウワサしてたんだぞ。今までどこ行ってたんだよレアハンター」
「ちょっと南極までな。……まあ、その話は後回しだ。今日はカードを買いに来た」
 私は丸眼鏡の店長の世間話を受け流しながら、レジ前の黄金色のパックを一つ手に取った。
「はいよ、ゴールドシリーズだね。300円」
 私は代金を支払い、早速パックを開封する。
 そこには、5枚のノーマルカードと、2枚のゴールドレアカードが封入されていた。ゴールドシリーズには、1つのパックに必ず2枚のゴールドレアが封入されているのだ。
 封入されていたゴールドレアのカードは、『ダンディライオン』と『死者蘇生』。それらのカードは、イラストどころか枠にまで光沢が施され、蛍光灯の光を鈍く反射していた。
 しかし、残念ながら、封印されしエクゾディアは手に入らなかった。ゴールドレアが20種類存在することを考慮すると、ゴールドレアのエクゾディアは10パックに1枚程度しか封入されていない。1パック買った程度では引き当てられなくても仕方ない。
「もう1パック!」
「300円ね」
 私は再び代金を支払い、次のパックを開封することにした。
 パックを開封する。ゴールドレアは、『氷結界の龍ブリューナク』と『ワタポン』だった。
「もう1パック!」
「300円ね」
 私はさらに代金を支払い、さらにパックを開封することにした。
 ゴールドレアは、『ダンディライオン』と『大嵐』だった。
「もう1パック!」
「300円ね」
 ゴールドレアは、『氷結界の龍ブリューナク』と『激流葬』だった。
「もう1パック!」
「300円ね」
 ゴールドレアは、『ダンディライオン』と『氷結界の龍ブリューナク』だった。
「もう1パック!」
 ゴールドレアは、『氷結界の龍ブリューナク』と『クリッター』だった。
「もう1パック!」
 ゴールドレアは、『ダンディライオン』と『聖なるバリア−ミラーフォース−』だった。
「もう1パック!」
 ゴールドレアは、『ダンディライオン』と『氷結界の龍ブリューナク』だった。
「もう1パック!」
 ゴールドレアは、『ダンディライオン』と『氷結界の龍ブリューナク』だった。
「もう1パック!」
 ゴールドレアは、『ダンディライオン』と『氷結界の龍ブリューナク』だった。

 こうして、私はゴールドシリーズを100パック購入した。
 それにもかかわらず、ゴールドレアの封印されしエクゾディアは1枚も当たらなかった。
 ゴールドシリーズを買うと、20種類のゴールドレアのうち、2枚のゴールドレアが手に入る。30パックも買えば、エクゾディアが当たらない確率は5%を下回るはず。それなのに、100パックも買っても1枚も当たらないなんて。
 私の手元にあるのは、氷結界の龍ブリューナクとダンディライオンのゴールドレアばかり。氷結界の龍ブリューナク64枚。ダンディライオン64枚。ふざけているとしか思えない。
「封入率操作だ……封入率が操作されているに違いない!」
 これは許せない事態だ!
 いくらエクゾディアが偉大だからと言って、封入確率を操作し極端に当たり辛くするなんて! しかも、他のカードと同じ確率で封入されているように見せかけて、実は確率が操作されているだなんて卑劣にも程があるぞ!
 許せないコナミ……いや、海馬コーポレーション! 海馬瀬人ぉぉ!!
 私は購入したカードをレジに叩き付けた。
「これらのカードはくれてやろう」
「え? いいの?」
「私には倒さなければならない敵ができた」
 海馬コーポレーション社長、海馬瀬人をな!
 子供達に夢を与える仕事をしているように見せて、実は金を吸い上げ続けている海馬コーポレーション。
 今までは見逃してやったが、もう見てはおれない。今こそ、神(しん)のデュエリストの鉄槌を下す時がやって来たのだ!
 私は、燃え上がる怒りとともに、海馬コーポレーションへと歩を進めていった。



宿命2 いざ海馬コーポレーションへ

「帰れ帰れ! 海馬社長は忙しい。お前のような奴に付き合っている暇はない!」
 ここは、ブルーアイズの銅像が並ぶ海馬コーポレーションの敷地内である。目の前に巨大な本社ビルがそびえている。
 海馬瀬人を倒しに来た私は、この本社ビルの手前で、黒服の男達に進路を阻まれてしまった。
「この私は海馬瀬人を倒さねばならんのだ! レアカードを利用して子供達の夢を潰す卑劣な海馬瀬人を倒さねばならんのだ! ここを通していただきたい!」
「海馬社長を倒しにきただと? だったらなおさらここを通すわけには行かん! 貴様のような輩を通さないことが我々の役目でもあるのだからな!」
 黒服にぐっと襟首を掴まれて、胸をどんと叩かれる。どうしてもここを通す気はないようだった。
 しかし、こんなところで諦めるわけにはいかない。どうしても通さないと言うのであれば、実力を行使してでも通り抜けるしかあるまい。
「おい、デュエルしろよ」
 私は静かに言い放った。
「何だと?」
 黒服の男がその表情を歪める。
「デュエルをして、この私が勝ったらここを通して欲しいと言っている。さあデュエルディスクを構えるが良い」
 私は左腕に装着し続けていたデュエルディスクをぐっと構えた。
 黒服の男が一歩前に出る。
「そんなこと駄目に決まっているだろう」
「へ?」
「デュエルで勝ったら通せだと? 貴様、アニメの見すぎではないか? そんなことを許可するわけがないだろう」
 呆れ口調で、黒服の男は言った。
「な……! この私のデュエルが拒否されただと……!?」
 私はデュエルディスクの縁で頭を殴られるのと同じくらいの衝撃を受けた。
 なんと言うことだ! この世の中、デュエルをすれば万事も解決するのではなかったのか!? 内閣総理大臣の選出から、巨大会社の株取引まで、話し合いで決まらないことはデュエルで決める。それが常識であろうに!
「いい加減にしないと警察を呼ぶぞ。貴様もこんなところで捕まりたくないだろう?」
 挙句の果てに、警察という単語まで。
 一番警察の厄介になるべき海馬コーポレーションが、自分から警察と言い出すなんて異常事態としか思えない!
 かつての海馬コーポレーションでは考えられない言動の数々。きっと、これも全て海馬瀬人の仕業なのだろう。許すわけにはいかない。デュエルで解決できない世の中など、神(しん)のデュエリストを侮辱する行為に他ならない!
 こみ上げてくるのは怒りの感情。それは、ゴールドシリーズで封入率が操作されていたこと、インターネットの掲示板で馬鹿にされたこと、本屋に売っていたカードの購入に図書カードが使えなかったこと――の次ぐらいに大きな怒りとなっていた。
 その時、

「何事だ!?」

 威圧的な声が聞こえて、一人の男が現れた。
 ブルーアイズを模したダサい車から降り、刺々しい白コートを身に着けた若い男。
 あれは、海馬瀬人本人!
 偶然か必然か、いや、きっと、絶対、必然であろうが、海馬瀬人がこの『神(しん)のデュエリスト』の前に姿を現したのだ!
「それが、この男が海馬社長を倒すなどと世迷い言を……」
 黒服の男が海馬に告げ口をする。
「ほう……」
 海馬瀬人は、私の顔を嘗め回すように見下し、その後、携帯端末に目を向けた。
「かつてのグールズの末端か。今は無職のようだが」
「違う。私は社長だ。有限会社レアハンターの社長だ!」
「なるほど。世迷い言をほざくと言うのは本当のようだな」
 海馬瀬人が挑発的に笑う。それは、まるで馬の骨や負け犬を見ているかのようだった。
 ちくしょー、むかつく! だが、神(しん)のデュエリストである私は、決して挑発には乗ったりしない。くそーっ! 私は海馬とは違うのだ。くそーっ! たとえ屈辱感でいっぱいになったとしても、絶対に挑発には乗ったりはしないのだ。ちくしょぉー!
「おい、デュエルしろよ」
 私はデュエルディスクを構え、静かに言い放った。
「フン……」
 海馬瀬人は、ブルーアイズを模したダサい車へと視線を向けた。車の脇には、別の黒服の男が立っていた。
「磯野! デュエルディスクを持って来い!」
 車の脇にいた黒服の男こと、磯野は、戸惑ったような表情を見せる。
「しかし、瀬人様、これから会議があります。次のストラクチャーデッキの内容を決める重要な会議が……」
「そんなもの遅らせればよかろう! オレは今からこの男とデュエルをする!」
 磯野が戸惑った表情のままデュエルディスクを海馬に手渡す。
「貴様の望み通りデュエルをしてやろう。元グールズの挑戦から逃げたなどと言われては、我が社の評判が、地にまで落ちてしまうからな」
 海馬がデュエルディスクを左手に装着する。私は思わずニヤリと笑みを作った。
「それは、つまり、この勝負で私が勝てば、海馬コーポレーションの評判は風前の灯になる、と言い換えることもできるわけだな」
「そういうことだ。もし貴様がこのオレを下したのであれば、我が海馬コーポレーションはカード事業から手を引いてやるぞ。いや、海馬コーポレーションごと貴様に譲ってくれるわ!」
「ククク……今の言葉忘れるなよ」
 海馬コーポレーション本社ビル前にて、私と海馬が対峙する。
 これこそが私が望んだ宿命の決闘! やはり海馬瀬人はこうでなくてはならない!
 先ほどまでの怒りはどこへやら、私の体は高揚感で包まれていた。膝がガクガクと震えているが、これはもちろん武者震いである。
 その時、黒服の磯野が私を思いっきり睨み付けていることに気付いた。それはまるで、「このグールズの残党め。俺の仕事増やしてるんじゃねーよ。貴様のせいで今日も残業確定じゃねーか。毎日毎日、海馬瀬人のわがままに付き合っているこの俺の身にもなりやがれ」と訴えているように見えたが、気にしないことにした。



宿命3 世界で最もエクゾディアに愛された男

 私と海馬は、緊張感溢れるじゃんけんによって先攻後攻を決めた後、互いにデッキをカット&シャッフルしていた。
 残念ながら私が後攻になってしまったが、神(しん)のデュエリストである私の腕にかかれば、そんなことは些細な問題に過ぎない。……いや、まてよ? これは本当に些細な問題なのだろうか? 相手はあの海馬瀬人。いくらバトルシティの戦績が城之内と同じだからって、いくら光と闇の仮面に苦戦したからって、私が勝てると決まったわけではないのだぞ。本当にそれでいいのか? 私は直接勝ったことはないのだぞ? 本当にそれでいいのか? ドラゴンを呼ぶ笛でブルーアイズを3体出されていきなり負けてしまう、なんてオチになったりするんじゃないのか? それでいいのか? いいのか? いいのか? …………。
「あのぅ、やっぱりぃ、マッチ戦にぃ、してくれませんかぁ?」
 私はおそるおそる提案した。
「フン、いいだろう」
 海馬は私のデッキをカットしながら了解した。
 ほっ、よかった……あ、いや! これは、私が海馬瀬人にビビっている、ということじゃないよ? 海馬は素直じゃないから、2戦しないと言い訳とか飛び降りとかされちゃうでしょ? そ、その対策だよ。うん、そういうこと。ね?
 デッキをカットしていると、海馬の後ろに立っている黒服の磯野と目が合った。海馬の視界に入っていないのを良いことに、思いっきり中指を立てて私を睨んでいた。それはまるで、「このグールズの残党め。マッチ戦なんて提案してるんじゃねーよ。どうせビビってるだけなんだろ、このヘタレが! これで会議がさらに遅れて残業が増えてしまったじゃないか! 娘に『今日は早く帰ってくるって言ったのにパパの嘘つき』って言われなきゃならんじゃないか!」と訴えているように見えたが、気にしないことにした。
「それでは、勝負はマッチ戦。3戦して2勝した方が勝者。それでいいな?」
「異議はない」
 海馬コーポレーションの前で、海馬と私は互いにデュエルディスクを水平に構える。
 そして――
「デュエル!」
「ヂュ、デュエル!」
 宿命の対決が幕を切って降ろされたのだった!

 さて、先攻は海馬であるが、その前に、互いにデッキからカードを5枚手札に加える必要がある。私と海馬はデッキから5枚のカードを手札に加えた。
 私の手札は、封印されし者の右腕、封印されし者の左腕、封印されし者の右足、封印されし者の左足、封印されしエクゾディア――以上の5枚だった。
 あれ?
 私の手札は、封印されし者の右腕、封印されし者の左腕、封印されし者の右足、封印されし者の左足、封印されしエクゾディア――以上の5枚だった。
 あの、なんか、いきなりエクゾディアパーツが揃っているんですけど。
 いきなり揃ってるのは嬉しいんですけど、めちゃくちゃ嬉しいんですけど、めちゃくちゃディスティニーだと思うんですけど。
 私はとても複雑な気分になった。
 確かに嬉しい。こんなディスティニーを起こすことができるのは、神(しん)のデュエリストである私を置いて他にはいない。
 でも、どうしてあんなことを言っちゃったんだろう? あんなことを言わなければ、この時点で海馬瀬人を完全に打ち負かすことができたのに。
 ――ああっ、マッチ戦にしてください、なんて言わなければ!
 そうすれば、この時点で完全勝利していたのに! マッチ戦にしてくださいなんて言うんじゃなかった。そうすれば、海馬への勝利が確定していたのに!
 今からでも遅くない。マッチ戦はやめにしませんかと提案しようか。でも、きっと散々馬鹿にされて断られるだろう。そもそも、そんな情けない行為は、神(しん)のデュエリストにふさわしくもないし。ああ、でも、ここで言わなかったら、その後2連敗してマッチ戦に敗北してしまうしれない。きっとそうだ。私は海馬に勝ったことがないのだ。だから負けてしまうのだ。しかし、負けるだなんて神(しん)のデュエリストにあるまじき行為。それが嫌ならば、マッチ戦はやめにしようと言わなくてはいけない。でも、それもまた神(しん)のデュエリストにあるまじき行為。
 言うべきか言わざるべきか。神(しん)のデュエリストのみが抱える葛藤が、私の中でせめぎあっている。
 もう……もう嫌だ。どうしてこんなに悩まなくちゃいけないんだ? もう何も考えたくない。何も考えたくないよ。考えたくない。助けて。助けて。助けて。ヒィィィィィィィィ〜!
「ヒ…助けて…来る来る来る助けて…来るああああ! 来る…来る……来る…来る…マリク様が……」
 私はそう叫びながら、エクゾディアパーツのカードをデュエルディスクにセットし、召喚神エクゾディアを降臨させたのであった。
 斬新な召喚シーンだった。



宿命4 本来あるべき姿へ

「ほう、貴様が1戦目を制するとはな……」
 ほとんど動じた様子を見せることなく、海馬瀬人が敗北を認めた。
 結局、私は、「マッチ戦はやめにしませんか」と言い出すことはできず、普通に初手にエクゾディアパーツを揃えて、普通にエクゾディアを召喚して、普通に白星スタートで飾っただけだった。あまりに平凡すぎる幕開けだった。
 マッチ戦は残り2戦。私は、2戦のうち1度でも勝てばマッチ戦を制すことができる状態であった。そう、2戦のうち1戦だけ勝てば良いのだ。2戦のうち1戦だけ。
 そう頭の中で唱えたら、この勝負に負ける気がしなくなった。私のデッキにはエクゾディアパーツが3枚ずつ入っているし、海馬対策もキッチリ施されているし、何より私は神(しん)のデュエリスト。負けるはずがない。
 ククク……海馬瀬人よ。今日が海馬コーポレーション最期の日だ。残り数ターンの社長生活を満喫してくれたまえ!
 私は愉快な気分になった。

 さて、マッチ2戦目の先攻は私。
「私のターン! ドロー!」
 私はそう宣言してカードをドローした後、手札を確認する。そこには3枚のエクゾディアパーツがあったが、そのうち2枚はダブっていた。ならば、このカードを使うのみ!
「天使の施しを発動し、手札を入れ替える」
 手札を入れ替えたことにより、手札のエクゾディアパーツが1種類増える。いい調子だ。
「場にアステカの石像を守備表示で召喚して、ターンエンド」
 そして、壁モンスターを場に出し、ターン終了を宣言した。

「オレのターン、ドロー!」
 続いて、海馬のターンになる。
 海馬は右腕を必要以上に振り回してデッキからカードを引き、不適に笑った。
「元グールズよ。マッチ戦などという小細工に頼ろうとした報い、その身に受けてもらうぞ」
「何?」
 海馬が持つ6枚の手札。それらが次々と場に出されていく。
「ロード・オブ・ドラゴンを召喚し――」
 1枚目。
「手札からドラゴンを呼ぶ笛を発動!」
 2枚目。
「その効力により、手札のドラゴン族モンスターを全て特殊召喚する! まずはブルーアイズ!」
 3枚目。
「さらにブルーアイズ」
 4枚目。
「そしてさらにもう一枚ブルーアイズ」
 5枚目。
「付録のダイヤモンド・ドラゴン」
 6枚目。
 ブルーアイズの銅像と、ブルーアイズを模したダサい車がある海馬コーポレーションの敷地内で、本物のブルーアイズが召喚された。しかも3体。ついでにダイヤモンド・ドラゴンのオマケ付きで。
 海馬瀬人が両手を広げて高笑いをする。
「ワハハハハハ! これがオレの最高のしもべ、ブルーアイズ・ホワイトドラゴンだ! くらえ! 滅びのバーストストリーム三連弾!」
 サイバー流もビックリの初期手札!
 ソリッドビジョンの三連弾バーストストリームが迫ってきて、
「うわああああ!」
 私のライフは瞬く間に0になってしまった。
 もしかしたら、ここまでの展開全てが海馬の計算通りなのではないか。そんなことを考えてしまうほど、鮮やかに1ターンKILL返しをされてしまったのであった。



宿命5 宿命の対決!

 1勝1敗。マッチ戦の決着は3戦目のデュエルに委ねられることになった。
 海馬瀬人がデッキをシャッフルしている。私はふと、海馬瀬人について思いを巡らせてみた。
 コミックスによれば、海馬瀬人は、3000年前のエジプトに存在した神官セトの生まれ変わりであると言う。
 この私が、同じくエジプトに存在したアクナムカノン王の生まれ変わりであることを踏まえると、海馬瀬人は、私の『甥っ子』に当たると言って良い。
 3000年前の甥っ子。実家に帰省した時に、お年玉をせびってくるような存在。そう考えたら、そこに宿命を感じずにはいられなかった。
 マッチ戦は最後のデュエルを迎えた。そう――この最後のデュエルこそ、3000年前の甥っ子との決着をつける時なのだ! 何だかよく分からないけどきっと因縁とかが有って、決着をつけるべき宿命の対決がやってきたのだ!
「ククク……海馬よ、ここからが本番。さあ、この私を楽しませてくれ」
「御託はいい。早くデッキをシャッフルしろ」
「おおっと、すまない」
 私は自分のデッキをシャッフルすると、海馬へと手渡した。代わりに海馬のデッキが自分の手元へと渡される。自分のデッキをシャッフルした後には、互いのデッキを交換してカットをすることがカードゲームの常識なのだ。
 海馬が慣れた手つきでシャッシャッとデッキをカットする。私は海馬瀬人のデッキをバラバラバラと念入りにかき混ぜた。直前のデュエルでは、ブルーアイズなどのカードが固まって手札に来ていたのだ。しっかりと混ぜなければ、またしてもブルーアイズ三連弾を喰らってしまう。私は念入りにカットしまくった。
 デッキをカットしていると、磯野が親指を思いっきり下に向けて、私を睨みつけていた。それはまるで、「このグールズの残党め。いつまでカットしてるつもりだ。それはもはやカットじゃなくてシャッフルだ。そもそも、そういう細かいところにこだわる奴って大抵弱いんだよ。どうせ負ける勝負なんだからデッキのカットなんてどうでも良いだろ。さっさと終われ。また残業が伸びるだろ。下手すりゃ深夜残業突入じゃねーか」と訴えているように見えたが、気にしないことにした。
「3戦目行くぞ!」
「これが最後のデュエルだ!」
 海馬瀬人との宿命の対決が始まった!

 最初は海馬のターン。
「オレは手札からガジェット・ソルジャーを守備表示で召喚する」
 海馬はモンスターを1体場に出した。ソリッドビジョンシステムによって鋼鉄のボディを持つ戦士が立体映像化される。
 ガジェット・ソルジャーとは、攻撃力1800守備力2000の4ツ星モンスター。特殊能力は持たないが、高い攻守を備えているため、生け贄召喚が不要なレベル4モンスターとしては頼れる存在である。
 だが、私は何故か、ガジェット・ソルジャーのレベルが4ではなく6だという気がしてならなかった。
「ガジェット・ソルジャーってレベル6ですよねー? 生け贄要りますよねー?」
 一応聞いてみた。
「4だ。何を言っている」
 軽くあしらわれた。
「そ、そうですよねー」
 何故だろうか? 何故私はガジェット・ソルジャーのレベルが6だなんて思ったのだろうか? 私はそこに『仮面の呪縛』的な陰謀を感じたが、今のデュエルには全く関係無いことなので、忘れることにした。
「ターンエンド」
 海馬は、そのままターンを終えた。

「私のターン」
 ターンが切り替わる。次は私のターンである。
 私はデッキからカードをドローする前に、初期手札の5枚のカードを確認した。

 聖なるバリア−ミラーフォース−  封印されし者の右腕  封印されし者の左腕  封印されしエクゾディア  封印されし者の右足

 フフフ……素晴らしい。エクゾディアの封印パーツがいきなり4種類も揃っているではないか。これは準ディスティニーと呼べるくらいの奇跡が起きているといっても過言ではない。「ウノ」とか「ダブルリーチ」とか「ヘキサゴン」とか宣言したくなったが、ぐっとこらえた。
 さて、改めて私のターンだ。
「ドロー」
 デッキからカードを1枚引き、ドローカードを見る。
「ククク……」
 思わず笑みがこぼれた。ドローカードは、さすがにエクゾディアパーツではなかったものの、海馬に強烈なダメージを与えるカードであったからだ。
 そもそも、私は、何の準備もせずに海馬コーポレーションへやって来た訳ではない。私のデッキには、海馬瀬人への対策が組み込まれているのだ。
 あのカードショップを出た後のことを思い出す。
 ショップを後にした私は一度帰宅し、海馬瀬人対策を施したデッキを組み立て始めた。デッキ構築の途中で足りないカードがあったので、再びカードショップに赴きカードを購入し、再度家へと帰ってデッキを組み立てた。そうしたら、また足りないカードがあったので、再びカードショップを訪れてカードを購入。そろそろお腹が空いてきたので、いつもの喫茶店でペペロンチーノを食べ、食後のコーヒーを楽しんだ。その後、奇術師パンドラを私の家に呼び出して、マリオカートをプレイしながら緻密なデッキ調整を行なっていたのだ。
 そうして完成したのがこのデッキ。海馬瀬人への対策がみっちりと詰め込まれた究極のデッキなのだ。当然、負けることなどありえない。
 そして、これが、今ドローした海馬対策のカード……!
「手札より魔法カード発動! 墓穴の道連れ!」

墓穴の道連れ
(魔法カード)

プレイヤーは手札を見せ合いカードを2枚墓地に捨てさせる。
残りの手札はデッキに入れシャッフルした後、最初の数だけカードを引く。

 海馬瀬人は、手札を公開されたり捨てさせられたりするカードに、我を忘れてしまうと言う。
 そこで、この墓穴の道連れを使い、相手の手札を公開させた上に、捨てさせてしまおうと言うわけだ。
「このオレの手札を晒すと言うのか……! おのれぇぇ!!」
 案の定、海馬は怒りで我を忘れている。
 手札を持っている左手に力が込められ、鼻の穴が広がっているのが、離れていても容易に分かる。
 ああ愉快だ愉快。ざ・ま・あ・み・ろ。ああ、なんて気分爽快なんだー! ざ・ま・あ・み・ろ!
「ククク……。その2枚を墓地へ捨ててもらおう」
 私は海馬瀬人の手札から、ブルーアイズと破壊輪を墓地へ捨ててやった。海馬の悔しがる表情が私へ快感を与えていく。ああ、何かに目覚めそうになってしまいそうだ。
 すると、海馬が私を睨みつける。
「早く貴様も手札を見せろ」
「へ?」
「墓穴の道連れは、『互いに』カードを捨てあう効力を持ったカード。オレの手札を捨てるのと同時に、貴様の手札も捨てることになるのだ」
 私の手札も捨てる……だと!? そんなこと初めて聞いたぞ!!
 私は5枚の手札をちらりと見る。

 聖なるバリア−ミラーフォース−  封印されし者の右腕  封印されし者の左腕  封印されしエクゾディア  封印されし者の右足

 ああっ! ウノ・ダブリー・ヘキサゴンの手札がぁ! 準ディスティニーの手札がぁぁ!!
「さあ、ミラーフォースと封印されしエクゾディアを捨ててもらおうか」
 私の手札が墓地へと捨てさせられる。私の……私の準ディスティニーが崩れ去っていく……!
「そして、残りの手札はデッキに戻しシャッフル。その後、5枚のカードを引く」
 墓穴の道連れの効力で、私の手札は完全に入れ替えられてしまった。
 今の手札は5枚。その中にエクゾディアパーツはわずか1枚、封印されし者の左足だけだった。
 海馬瀬人の表情に余裕が戻っていた。くそーっ! この海馬対策は失敗だと言うのか!? くそーっ!
 海馬の後ろに立っている磯野が必死に笑いを堪えていた。それはまるで、「お前馬っ鹿じゃないの? そんな単純なミスをやらかすなんて、どこの素人デュエリストだよ。城之内ですらそんなミスはしないっつーの!」と言っているように見えたが、気にしないことにした。くそーっ!
 地団駄を踏んでから深呼吸する。
 確かに、墓穴の道連れによるこの海馬対策は失敗に終わってしまった。それは認めざるを得ない事実であろう。
 だが……! だが! 私のデッキにはまだ海馬対策が残されている! これで負けるわけには行かないのだ!
「私はクリッターを守備表示で召喚。さらにリバースカードを1枚伏せ、ターンエンド!」
 私は場に2枚のカードを出してターンを終了した。

「オレのターン、ドロー!」
 海馬のターンになる。
「オレはロード・オブ・ドラゴンを召喚!」
 直前のデュエルで登場したばかりのモンスターが再び召喚される。
 先ほどのデュエルの光景が、頭の中に再現される。ロード・オブ・ドラゴンがドラゴンを呼ぶ笛を吹き、ブルーアイズ3体とダイヤモンド・ドラゴンが場に現れたあの光景が!
 今、ドラゴンを呼ぶ笛を使われたら危険だ!
 私は慌てて1枚の罠カードを表側に向けた。
「リバースカードオープン! マインドクラッシュ!」

マインドクラッシュ
(罠カード)

カード名を1つ宣言する。
相手は手札に宣言したカードを持っていた場合、そのカードを全て墓地へ捨てる。
持っていなかった場合、自分はランダムに手札を1枚捨てる。

「マインドクラッシュだと……!」
 海馬が驚愕の表情を見せた。
 海馬にとって思い入れのあるカードのようだったが、そんなことはどうでもいい。
「私は『ドラゴンを呼ぶ笛』を宣言する。海馬瀬人よ! 手札にドラゴンを呼ぶ笛があったら、それを墓地に捨てるのだ!」
 この効力でドラゴンを呼ぶ笛を捨てさせれば、海馬はブルーアイズを場に出すことはできない! 私は同じ過ちは繰り返さないのだ!
 ああ、でも……。でも、もし、海馬の手札にドラゴンを呼ぶ笛が無かったらどうしよう。ペナルティとして、この私が手札を捨てなくちゃいけない。ああ、お願いします。どうかお願いします。海馬瀬人がドラゴンを呼ぶ笛のカードを持っていますように。神様、仏様、召喚神エクゾディア様、一生のお願いです。
「確かにオレの手札にはドラゴンを呼ぶ笛がある……」
 そう言って海馬は手札のカードを私へと見せた。そこには間違いなくドラゴンを呼ぶ笛のカードがあった。
 願いが通じた……! 私はほっとした。
「だが、今、オレの手札にはドラゴン族のモンスターはない。マインドクラッシュを使われなくとも、ドラゴンを呼ぶ笛を発動することはできなかったのだ」
 あれ? そうなの?
「いや、むしろ感謝すると言うべきか」
 え?
「ドラゴンを呼ぶ笛が墓地に置かれたのでカードをドローさせてもらうぞ」
 そう言って、海馬はデッキからカードを引こうとした。
 ちょっと! ちょっと待ってよ!?
 手札を捨てさせられると思ったら、カードを補充してしまうとは! まるでこの私が天使の施しをプレゼントしたようなものじゃないか!
 そんなことが! そんなことが許されるはずが無い!
「ダメだ……」
 私は呟いた。
「何だと……?」
 カードをドローしようとしていた海馬の手が止まる。
「ドラゴンを呼ぶ笛のテキストをちゃんと見ましたかー? カードをドローする効果なんてどこにも書いてありませんけどー! ほらぁ!」

ドラゴンを呼ぶ笛
(魔法カード)

ドラゴンの支配者(ロード・オブ・ドラゴン)がこの笛を吹く時、
手札の中のドラゴン族を全て場に出すことができる。

「いや、しかし……」
 海馬が言いよどんでいる。私の屁理屈に反論できないでいる。
 まさか、本当にドローできないのか? ドラゴンを呼ぶ笛ではドローできないのか?
 てっきり、ドラゴンを呼ぶ笛のドロー効果は、テキストに書かれていない『隠し効果』だと思ったのに。有効だと思ったのに。それが違うと言うことだったのか!?
「くっ……! テキストに書かれていない効果は認めないというつもりか! まあ良いだろう! ドローは放棄する!」
 海馬がしかめ面のまま、カードを引くことを諦めた。
 なんと! なんと言うことだ! まさかこんな屁理屈が通用してしまうとは!
 いや、これは屁理屈などではない。これこそが! これこそが、海馬対策なのだ! 海馬対策その2なのだ!
「ククク……」
 私は愉快になった。
「しかし笑っていて良いのか? そんな状況ではないだろう?」
 海馬がぴしゃりと指を突きつけてくる。
「ど、どういうことだ……!」
「オレがロード・オブ・ドラゴンを場に出したことにより、貴様はリバースカードを使ってしまった。今、貴様の場には1枚のリバースカードも無い。これでオレは、警戒せずにモンスターで総攻撃を仕掛けることができる!」
「……!」
 海馬に言われて場を確認する。
 私の場にあるカードは、守備力600のクリッターが1体だけ。伏せカードもない。それに対して、海馬の場には、攻撃力1800のガジェット・ソルジャーと、攻撃力1200のロード・オブ・ドラゴンがいる。ダメージを受けること必至の状況であった。
「ガジェット・ソルジャーを攻撃表示に変更して、バトルフェイズを開始する! まずはロード・オブ・ドラゴンの攻撃により、クリッターを破壊!」
 ソリッドビジョンのロード・オブ・ドラゴンが地を駆け、何故か回し蹴りを放つ。クリッターは抵抗することなく吹き飛ばされ、破壊されてしまった。
「だが、クリッターの効果を発動させてもらう」
 クリッターが墓地に送られた時、デッキから攻撃力1500以下のモンスターを手札に加えることができるのだ。この効力で手札に加えるカードは当然、エクゾディアパーツ!
 私はデッキに手をかけようとした。
「ダメだ」
 何故か海馬がそれを咎めた。
「ど、どういうことだ!? クリッターの特殊効果が発動しただけだぞ!」
「貴様、クリッターのカードテキストをしっかり見たのか? クリッターには特殊効果など存在しないぞ! カードに穴が開くほどよく見てみるんだな!」

クリッター

攻撃力1000
守備力600

「確かに原作版クリッターには、特殊能力が無いように見える。しかし、テキストに書かれていない部分に、OCGと同じ効果が隠されているのだ。そうでもしなけりゃ、DEATH−Tで遊戯がエクゾディアを揃えられるわけが無かろう」
 私がそう反論すると、海馬はニヤリと笑った。
「貴様、先ほど、『ドラゴンを呼ぶ笛のドローは許可しない』と屁理屈をこねたよなぁ。テキストに書かれていない効果は無効であると! ならば、クリッターの効果も無効にならなくては筋が通るまい!」
 挑発的な口調で海馬瀬人は言った。
「くっ……!」
 お、おのれ……! この私の理論を覆すとは……! おのれ! ちくしょう! ちくしょーーーーーーーっ!!
 私は、デッキに近づけた手を離さざるを得なかった。クリッターは、その効果を発動できずに墓地に送られてしまったのだった。
「さあ続いてガジェット・ソルジャーの攻撃! プレイヤーへ直接攻撃! 全弾発射!」
 ガジェット・ソルジャーがランチャーを構えた。
「ダメだ」
 とりあえず、言ってみた。
「ダメだと言うのがダメだ」
 当然拒否され、ガジェット・ソルジャーの攻撃は成立。私は1800ダメージを受けてしまったのだった。
「ターンエンド」

 続いて私のターンになる。
 私のライフは残り2200。相手の場には2体のモンスターが残っており、あまり芳しくない状況だった。
「ドロー」
 私はそう宣言して、カードを引いた。

 ドローカード:封印されし者の両腕

「このカードは……!」
 思わず声に出してしまった。
 これは、命懸けで南極を旅して手に入れた究極のカード『封印されし者の両腕』ではないか!
 1枚で、右腕と左腕の2枚分の役割を果たす夢のカード、それが今、私の手に舞い降りてきたのだ。
 よし、これで一気にエクゾディアパーツが2種類増えた。今、手札には、両腕のカードの他に、左足のカードがある。あとは、右足と本体の2枚のカードが揃えば勝てる!
「待て。貴様」
 何故か、海馬瀬人がタンマをかけてきた。
「どうした? 海馬瀬人よ。この私に恐れをなしたか……」
 人のターンにタンマをかけるとは、海馬も落ちぶれたものだな。私はフッと笑ってやった。
 海馬は私の嘲笑を無視して、ぎろりと私を睨んでくる。
「貴様、今、カードを2枚ドローしただろう?」
「え?」
 何を言っているのだ、この男は。
 念のため、手札を見直してみる。今の私の手札は4枚。ドローする前は3枚であったから、1枚だけ増えていることになる。問題ない。
「海馬よ。いくら私に負けそうだからって、嘘をついてはいけないぞ。嘘を」
 私がそう諭すと、海馬は一層眉間にしわを寄せた。
「重ねて2枚持っているだろう! ドローしたカードを重ねて!!」
「重ねて……?」
「その、封印されし者の『右腕』のことだ!」
 海馬が鼻息荒く早足で近づいてきて、私の手札のカードに直接触れた。
「これがどうしたのだ? これは、封印されし者の『両腕』のカード。おかしいところは何もない。不審だと思うなら調べてみるが良い」
 海馬が怒る理由が分からない。私は、封印されし者の両腕のカードを海馬に手渡してやった。
「表面は右腕、裏面は左腕……」
 海馬はそう呟いたかと思うと、突然笑い出した。
「フフフ……ハハハハ! 右腕と左腕のカードを貼り合わせただけではないか! まさか! まさか! これで両腕などとほざくとは! 小学生以下のことをやらかす大人が存在したとは! 怒りを通り越して笑いしか出てこんわ!」
 海馬はひとしきり笑うと、「くだらん!」と言って、両腕のカードを私めがけて投げつけてきた。私は、人差し指と中指を使って器用にキャッチしようとしたが、指の間を通り過ぎて、おでこに突き刺さってしまった。痛い。
「そんなカードなど認めはせんぞ! 今すぐ墓地に送れば良し。さもなくば、この場で破り捨ててくれるわ!」
 海馬はコートを翻して、私から離れていく。
「ククク……」
 おでこに封印されし者の両腕が刺さったまま、私は笑い返してやった。
「海馬瀬人よ。貴様にはがっかりだ。封印されし者の両腕の存在すら認めることができずに、笑い飛ばしているだけなのだからな」
「フン……減らず口と妄言だけは一級品だな……」
「貴様にも教えてやろう。この両腕のカードは、この偉大な私が南極を旅して手に入れたもの。神(しん)のデュエリストこそが持つことを許される究極のカードなのだ」
 こうして、私は語りだした。涙なしでは語れない、あの過酷な旅を……。
「旅のきっかけは、一つの噂だった。封印されし者の両腕のカードが南極にあるという噂。それはあまりにも信憑性が薄かったものの、私には単なるデマだとは思えなかった。絶対に両腕のカードがある。それは神(しん)のデュエリストだけが持つ『確信』だった。
 私は、単身で南極へと旅立った。むろん、小学生の時の言いつけを守り、おやつは300円以内に抑えてな。
 南極への旅は過酷だった。あちらの飛行機に忍び込んでは南国へと行ってしまい、こちらの飛行機に忍び込んでは中国へと行ってしまい……。
 もう諦めかけた頃、ようやく雪の国へと辿り着いた。そこは、あまりにも寒いところだった。ここが南極なのか……。辺りを見渡すと『さっぽろ雪まつり』などと言う看板を見つけた。なるほど。ここは、『南極県札幌市』と言うわけか。
 しかし、寒い。寒すぎる。手はガチガチと震え、耳は真っ赤になってしまっている。このままでは、いつ凍え死んでもおかしくない。危機感を覚えた私は、カードを燃やして暖をとることを思いつき、デッキを取り出した。だが、すぐに思い直った。こんなこと、神(しん)のデュエリストがやることではない。神(しん)のデュエリストであるなら、命よりカードを優先すべきなのだ。むしろカードで殺されて本望なのだと!
 その時だった。奇跡が起こったのは……!
 はっくしょん。
 寒すぎるが故のくしゃみ。そのくしゃみから放たれた一筋の光。それが、封印されし者の右腕のカードと、封印されし者の左腕のカードを融合させたのだ!
 こうして私は、封印されし者の両腕のカードを手に入れた。正真正銘、南極で手に入れた伝説のカードなのだ!」
 長い回想シーンが終わる。
 これだけの物的証拠があれば、海馬瀬人も、封印されし者の両腕の存在を認めざるを得ないだろう。それどころか、涙を流して拍手してくれるに違いない。
 私は、顔を上げて、海馬の表情をうかがった。
「勝手にしろ」
 海馬がフンと鼻をならした。
 ふっ……素直じゃない奴め。この私の回想シーンに感動したならば、素直に涙を見せればよいものを。
 私は愉快になった。
 海馬の後ろに立っている磯野が、海馬を指差しながら表情を思いっきり歪めていた。それはまるで、「下らん昔話しやがって。たいそうな話が始まると思ったら、北海道まで行ってカードに鼻水つけてきた話じゃねーか! 汚ねーよ! お前が下らんことで時間を使っている間にな、事態は進んでるんだよ。海馬の手札を良く見てみろよ!」と訴えているような気がしたので、ちょっと気にしてみた。
 海馬の手札を見てみる。
 1、2、3、4、5、6――6枚のカードがそこにはあった。
「あれ?」
 おかしい。どうして、海馬の手札が6枚になっているのだ?
 さっきまでは海馬の手札は4枚だったはず。それが、何故2枚増えているのだ!?
 まさか、まさか……! 回想シーンの隙を突き、こっそりとカードをドローしたと言うのか!!
「海馬ぁぁ! 貴様、手札を勝手に増やすとはルール違反も甚だしい! デュエリストの風上にも置けない奴め!」
 私は怒りのまま叫んだ。
「オレが手札を勝手に2枚増やしただと? 貴様が勝手に時間を費やしただけだろうに」
「何だと……?」
「貴様、下らん妄言を吐き続けていたよな? そんなことで時間を使っている間に、1ターンの思考時間である3分などとうに超過していたのだ。その結果、オレのターンが2度回ってきて、カードを2枚ドローした。何がおかしい? 本来ならそのまま貴様の敗北なのだがな、カードのドローだけで留めておいただけでもありがたいと思え!」
 なんということだ! 回想シーンはもろ刃の剣だったとは! 原作マンガで、時折コマとコマの間でドローしている秘密は、まさかここにあったのか? 私は、回想シーンを行ったことがあるデュエリストを頭に思い浮かべ、その秘密を検証しようと――
「早くしろ! 今は貴様のターンだ! そうしないと、またこのままオレのターンになるぞ。今度は容赦なく敗北させても良いんだな!?」
 海馬が冷たい口調で言い放つ。
「……すみませんでした」
 私は、おとなしくカードを1枚ドローした後、機動砦のギア・ゴーレムを守備表示で召喚して、ターンを終えた。

 海馬のターン。
「オレのターン、ドロー」
 海馬は、カードをドローした後、デュエルディスク上のカード2枚を墓地に送った。
「ロード・オブ・ドラゴンおよび1体のモンスターを生け贄に捧げ、現れよ! ブルーアイズ・ホワイトドラゴン!」
 海馬の場にまたしてもブルーアイズが召喚される。相変わらずの威圧感で、低い咆哮を上げている。
「そして、リバースカードを1枚セットし、貴様の壁モンスターを爆殺してからターンエンドだ」
 伏せカードのセットと同じ口調で、私のモンスターが破壊されてしまった。海馬のターンはわずか30秒で終了したのだった。

「私のターン、ドロー!」
 カードを引いて、場の状況を確認する。場に存在するモンスターは、海馬のブルーアイズただ1体だけであった。
「この時を待っていたぞ!」
 海馬の場にブルーアイズが出ている今の状況。私は今、ここで役立つカードを持っている! 私は手札から1枚のカードを場に出した。
「ドラゴン族・封印の壺を召喚する!」

ドラゴン族・封印の壺

攻撃力100
守備力200

効果:すべてのドラゴンを壺の中に封印する。

「ドラゴン族・封印の壺だと!」
 海馬の表情に驚きが走る。
 原作版では、モンスターカードである『ドラゴン族・封印の壺』。どんなに高い攻撃力を持っていようが、ドラゴン族であれば封印することができる特殊能力を持っているのだ。
 これぞ海馬対策その3――究極のブルーアイズ対策! 海馬がブルーアイズを出すことなどバレバレなのだ。ガラスケースのデッキで私に挑むなど、愚か者すぎたのだ。
「さあ、笛を吹け、ドラゴン族・封印の壺よ! ブルーアイズを閉じこめてしまうのだ!」
 ソリッドビジョンの封印の壺が笛を吹く。
 せっかくなので、私も小学校の時に使ったリコーダーを取り出して合奏してみた。海馬が苦悶の表情を見せた。
 海馬の後ろにいる磯野が、両手の親指を思いっきり下に向けて私を睨んでいた。それはまるで、「貴様いい加減にしろよ。仮にも一大企業の社長を捕まえてこんなくだらない茶番を繰り返しやがって! 会議は遅れに遅れ、俺達は残業確定。このデュエルが終わったらその差分の人件費を請求してくれようか! 俺の人件費は高いんだ。今日の残業代ですら、無職の貴様には払えまい!」と訴えているような気がしたので、笛を吹きながら磯野の頭をぽかりと殴っておいた。
 美しい二重奏によって、ブルーアイズ・ホワイトドラゴンが封印の壺に封じ込められていく。海馬の場からモンスターが消え去ったのだ。
「封印の壺は攻撃力100のため、攻撃は行わない。後は、念のため、炸裂装甲を伏せて――ターンエンドだ!」
 私は1枚の罠カードを場にセットして、ターン終了を宣言した。
 この罠カードは炸裂装甲。相手モンスターの攻撃宣言時に、そのモンスターを破壊するトラップカード。新たなモンスターで攻撃されたとしても、このカードで爆殺することができるのだ。

「オレのターン」
 海馬のターンになる。
 海馬は、カードを1枚ドローして、
「もう十分だな……」
 と良く分からないことを呟いた。何を言っているのだ、この男は?
「オレは場に伏せておいた『エネミーコントローラー』を発動する」

エネミーコントローラー
(魔法カード)

相手フィールド上のモンスターをエネミーコントローラーによってコマンド入力で操作できる。
●ライフ1000 + ↑←↓→A で爆破
●ライフ1000 + ←→AB で生贄

 エネミーコントローラー!
 そうか、海馬はこのカードを使って、ドラゴン族・封印の壺を奪い、生け贄に捧げてしまうつもりなのか……!
 海馬の眼前に、ソリッドビジョンのコントローラーが現れる。
 海馬瀬人は、コントローラーのボタンを、左、右、A、Bの順で押したようだった。もっとも、私の位置からはコントローラーの裏側しか見えないので、本当にそのコマンドを入力したのかは定かではないのだが。
「エネミーコントローラーの効力により、貴様のドラゴン族・封印の壺を奪い、生け贄に利用することが可能になった……」
 静かな声で海馬は説明する。やはり、生け贄に利用するつもりなのだ。封印の壺1体を生け贄に捧げ、レベル5か6のモンスターを召喚しようとしているのだ。
「しかし、ドラゴン族・封印の壺の中には、ブルーアイズが封じ込められている。『ドラゴン族・封印の壺』と『ブルーアイズ・ホワイトドラゴン』……今、オレは2体分の生け贄を得た!」
「え? 2体分?」
 海馬が、白昼堂々、寝言をほざきだした。
 封印の壺にブルーアイズが封じ込められているから2体分の生け贄だと? そんな都合の良いカウントが許されると言うのか!?
 まあ、いきなり月を破壊し出すような原作デュエルであれば、これは有り得る解釈なのかもしれない。本当は、絶対に、認めたくないのだが私は大人。百歩千歩万歩譲って認めてやってもいい。
 でも! だけど!
「おかしいです! 2体なんてずるいです! エネミーコントローラーの時には、ドラゴン族・封印の壺は1体分だったですよね? なのに、生け贄に捧げる時だけ2体分だなんて! 矛盾しています! ずるいです!」
 大声を荒げて抗議をする。
 しかし、海馬はまったく意に介さなかった。
「エネミーコントローラーの効力は『肉体』に作用するが、生け贄行為は『魂』に作用する。ブルーアイズが封印されたドラゴン族・封印の壺は、『肉体』としては封印の壺1つではあるが、そこに存在する『魂』は2体分。エネミーコントローラー1枚で2体分の生け贄を確保できて当然であろう」
 な、なんと言う都合の良い解釈!
「くっ……」
 だが、私は認めざるを得なかった。一応、話に筋が通っているのだ。否定することなど許されないのだ!
 私は思い知らされた。これこそが原作の闘いなのだと! OCGなどと言う生ぬるい環境とは異なるのだと!
 原作のデュエルで重要なのは、想像力!
 ブラック・マジシャンがマシュマロンを魔法攻撃で焼ききったり、ブルーアイズが自然と魔力を帯びた息によってミストボディを吹き飛ばしたり、全ては想像力の賜物なのだ!
 とっさにシナリオを紡ぎ出せる手腕――それがデュエリストには重要なものだったのだ!
 さすがだ。さすがだよ海馬。この私の戦術の先を行こうとするとは。
 けれども。
 けれども、惜しかったな海馬。この私のほうが一歩も二歩も上手だ。
 現在、海馬は2体のモンスターを生け贄にすることができる。十中八九、ブルーアイズ・ホワイトドラゴンを召喚するつもりであろう。
 しかし、海馬のブルーアイズが攻撃した瞬間、私の罠カード『炸裂装甲』が発動する。その瞬間、ブルーアイズと言えどもきっと破壊されてしまうのだ。
 海馬の悔しがる表情が脳裏に映る。「おのれぇぇ」と叫びながら、顔を真っ赤にして鼻の穴を広げた海馬瀬人の姿が! ざ・ま・あ・み・ろ!
 さあ、来い! さあ、来るんだ! ブルーアイズ・ホワイトドラゴン! 神(しん)のデュエリストである私の前では、全てが無力であることを痛感させてくれよう!
 海馬は、手札のカードを場に出した。
「オレは手札より黙する使者を発動。墓地からモンスター1体を復活させる」
 地面からせり上がるように、ガジェット・ソルジャーが現れた。
 あれ? 何かおかしいぞ?
「これで、オレの場には3体の生け贄が揃ったことになる……」
 そう言って、海馬は一枚のカードを天へと掲げる。
 3体の生け贄。まさか……!
「オレは、3体のモンスターを生け贄に捧げ、『オベリスクの巨神兵』を召喚する!」
「オベリスクだと!?」
 海馬のカードから、一陣の光が天へと伸びる。ソリッドビジョンの風が巻き起こり、青い巨体がこの私の前に現れた。
 それは、絶対にありえない光景だった。
「オベリスクの巨神兵は遊戯の手元に渡ったはず。それを一体どうやって……!?」
 バトルシティが終わり、全ての神のカードは遊戯の元へ集結した。そんな状況で海馬がオベリスクの巨神兵を使うなど、どう考えてもおかしいのだ。
 驚愕する私に対し、海馬瀬人は得意げに言った。
「昨年末のVジャンプの付録に、このオベリスクの巨神兵がついて来たのだ!」
「何!? 神が一般発売されただとぉぉ!!」
 遊戯が命懸けで掴み取ったはずのカード。世界に1枚ずつしか存在しない超レアなはずのカード。
 それが、雑誌のオマケでついて来ただと!? 530円になってしまっただと!? こんなにも神は安いものに成り下がってしまったと言うのか!?
 神が530円になってしまった。それは、神(しん)のデュエリストであるこの私ですら衝撃的な事実だった。
 ん? 待てよ? 神が530円であるならば、神(しん)のデュエリストは一体……?
 もう一つの真実が奔流となって私へと流れ込んでくる。あまりにも残酷な真実が私へと突きつけられる。

 神が530円であるならば、神(しん)のデュエリストであるこの私もまた530円の価値しかないのだ!

 なんと言うことだ! 所詮、この私は530円のデュエリストだったと言うのだ! コンビニ弁当と同じ程度のデュエリストだったと言うのだ!
「さあ、神の攻撃を喰らうがいい! オベリスク・ゴットハンド・クラッシャー!!」
 オベリスクの巨神兵が、巨大な腕を振りかぶって私へと攻撃を繰り出す。
 罠カードなどでは止められない攻撃が私へと襲い掛かる。
「ヒ…助けて…来る来る来る助けて…来るああああ! 来る…来る……来る…来る…マリク様が……」

 こうして、神(しん)のデュエリスト(530円)は、敗北を喫してしまったのだった。



宿命6 神のデュエリスト

 1勝2敗。
 神(しん)のデュエリストであるこの私が、海馬瀬人に敗れてしまった。
 しかし、これも仕方の無いことだったのだ。神(しん)のデュエリストは、530円のデュエリストのことだったのだから。530円デュエリストなどでは、牛丼ツユだく大盛りにかろうじて勝てる程度。海馬瀬人に敗北して当然だったのだ。
「く、くそっ……」
 膝をつく。
 この私が530円デュエリストだったなんて。最弱の530円デュエリストだったなんて!
 もしかしたら、かつて城之内に勝ったことすら、単なるまぐれなのかも知れない。もう一度闘ったら、今度は負けてしまうのではないだろうか。いや、城之内どころか、誰と闘っても負けてしまうのではないだろうか。
 絶望が私を包み込んでいく。私はグールズでは最弱の男だった。そんな私が栄光をつかめるはずがなかったのだ。グールズ無き今、私は細々と親の金を貪って生きていくしかないのだ。そういう運命なのだ。
「立つが良い」
 私の頭上から声が聞こえた。
 膝をついたまま見上げると、海馬が私を見下ろしていた。嘲笑もせず、呆れもせず、怒りもせず、真剣な表情で私を見ていた。
「貴様は、オレの期待以上のデュエルを見せてくれた」
 真剣な表情のまま、海馬は言っている。
 海馬が、海馬瀬人が、この私をほめている?
 思いもよらぬ言動に、私はまばたきをすることも忘れ、目を見開いてしまった。
 そんな私に、海馬は右手を差し伸べてきた。
「どうだ? 海馬コーポレーションに来ないか?」
 そう言った海馬は、真面目な表情のままだった。
 この私に……こんな私に……! 海馬コーポレーションに来いと言うのか。
 530円デュエリストなのだぞ? 城之内にすら負けてしまうのかもしれないのだぞ? おでこに封印されし者の両腕のカードが刺さりっぱなしなのだぞ? それでもこの私に来いというのか!?
 とても信じられない言動に、私は呼吸することも忘れ、危うく窒息死するところだった。
 絶望の暗闇の中に、光が差し込んだ。それは、ゾーク・ネクロファデスを消滅させたホルアクティのようであった。
 ありがとう海馬瀬人。ありがとう海馬コーポレーション。さすがは世界に誇る一流の会社。さすがは子供達に夢を与える会社。
「一生ついていきます、海馬社長!」
 私は、海馬の右手を掴んで、立ち上がった。
 私を苦しめた530円の絶望。涙なしには語れぬ長く苦しい絶望。その終焉がついに訪れたのだ。
 お父さん、お母さん。私は海馬コーポレーションに入社します。
「さあ行くぞ、元グールズ。今すぐに、海馬コーポレーションの研究室へと向かうのだ」
「はい。海馬社長!」
 私は海馬社長の少し後ろをついて、目の前にそびえている本社ビルへと入っていく。
 その途中で、黒服の磯野とすれ違った。磯野は、海馬社長から見えないように、私を思いっきり睨みつけていた。それはまるで、「貴様ふざけるなよ。この私がどれだけ苦労してこの地位まで登りつめたと思っているんだ! 貴様のような妄言野郎が、こんな大企業に勤める資格などあるわけがないだろ! 我が社も採用数を減らさざるを得ない不景気の中、貴様などを雇う価値など微塵も感じられない! 一体海馬の奴は何を考えているんだ! ふざけるな!」と訴えている気がしたので、私は嘲笑してやった。愉快だった。



エピローグ

 もう働きたくない。
 海馬コーポレーションで働き始めて3日。私は出社をためらっていた。
 あれから、私は海馬コーポレーションの技術開発研究室に配属され、試作品のテストを行うことになった。独自に複製・改良された『オシリスの天空竜』『ラーの翼神竜』。これらの安全性を確認するテストを。
 試作品とは言え、強大な力を持つ神のカードのパワーは絶大であった。召雷弾が私に降り注いできたり、ゴッドフェニックスが私を焼き尽くしたり。その度に私は、「ヒ…助けて…来る来る来る助けて…来るああああ! 来る…来る……来る…来る…マリク様が……」と叫んでいたのだった。
 皆は、「これほどの精神ダメージを受けても入院しないとは素晴らしい」と言っていたが、もう嫌だ。絶対に嫌だ。
 何が『神の一般流通計画』だ。何が『神(しん)のデュエリスト』だ。もう神なんてこりごりだ。私にふさわしい神は、召喚神エクゾディアだけなのだ!
 決めた。今日は会社に行かない。絶対に出社してやるものか。
 そう決意した時に、一通のメールが届く。

 今日出社したら、ゴールドレアの『封印されし者のエクゾディア』をくれてやるぞ。

「いやっほうぅぅっっ!!!」
 私は今日も元気よく出社することにした。



 めでたしめでたし。







 後書き&おまけ (全て読んでから見てください)





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