レアハンター DEATH−Tに挑む
後編

製作者:プロたん




「あらすじ」
 借金を返せと『光と闇の仮面』に呼びつけられたけど、
 なんやかんやで光と闇の仮面はハワイに行ってしまいました。



珍札11 DEATH−T 3

 なぜか1週間が経過した。
 その間、私はお気軽ローンの事務所で、光と闇の仮面が戻ってくるのを待ち続けた。光と闇の仮面は私のウソに引っかかって事務所を出て行ったっきり、1週間も戻ってこなかったのだ。
 まったくふざけている。この偉大なる私を1週間も待たせるとは、一体どのような神経をしているのだ。デュエリスト以前に、人間としてなっていない。これもゆとり教育の負の遺産なのか。
 その時、ガチャリと音がして事務所の扉が開いた。
「戻ってきたぞーー!」
「最高だった……。オレはもう思い残すことはない……」
 光と闇の仮面だった。
「デミスとルイン最高!」
「だからルイン『様』だと言っているだろう、相棒よ」
「おおっ、デミスとルイン様! 最高!」
「ルイン様! ルイン様! ルイン様!」
 光と闇の仮面はデミス、ルインと叫び、やたらと興奮している。まるでスターに会ってきたかのような振る舞いだった。
 まさかこの私を置き去りにしてライブでも見に行っていたのか?
 な、なんということだ。この社長デュエリストの私を置き去りにして遊んでいたとは、とてつもない侮辱だ。
 だ……だが、真のデュエリストは常に冷静でなければならない。
「答えは『闇の仮面』だ」
 私は苛立ちを隠し、DEATH−T2のラスト問題の答えを言った。
「は? 何言ってるの? お前、頭大丈夫かよ?」
「相棒、そんなことを言ってはいけない。彼が可哀想だろう」
 本気で帰りたくなった。
 いつ光と闇の仮面が戻ってきてもいいように24時間事務所から出ず、買い置きのカップめんだけで1週間過ごしたこの私の苦労を何だと思っているのだ。途中でトイレットペーパーが切れそうになった時には戦慄すら覚えたのだぞ。
「そういや、オレ達ってDEATH−Tやってたんだっけ?」
「そ、そうだったな……」
 ようやく思い出した光と闇の仮面。気まずい表情が顔に表れる。
「DEATH−T 3だったかな?」
「ああ、そうだった。DEATH−T 3、3……3……あ、あああ! ああああああああああ!!」
 闇の仮面が何かに気づいたかのように大声を上げた。
「わ、わわわわわ忘れてたーーーーーーーーーーーーーっ!!!」
 光の仮面もそれに続いて大声を出す。
 二人は私の脇を通り過ぎ、慌てて部屋を出て行った。
 一体何だというのだ。私の他に『何か』を忘れていたようだったが……。
 その瞬間……!
 私はとてつもない悪寒に襲われた。本能が何かを拒絶している。体が震えだした。
「す、すまなかった。お前も借金を背負っている身とはいえ、1週間も倉庫に閉じ込めたまま放置しておくなんて」
「と、とりあえず、事務所に行くかんな。デュエルだけしてもらうかんな」
 廊下から光と闇の仮面の声が聞こえる。二人は、もう一人『誰か』を連れているようだった。
 来る……来る来る……私の悪寒はいっそう大きくなっていく。来る来る……助けて……。
 事務所の扉が開かれた。そこには光と闇の仮面の他に、もう一人の男がいた。
「あ……レアハンター……さん?」
 そこにいた男は、見覚えのある顔。
 それは、かつてマリク様に操られていたグールズの人形――山田だった。
「ヒ、ヒヒヒヒ……ヒィィィィィィィィィィィィィ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」
 私は一瞬で理性を失った。



珍札12 山田R

 山田はかつてグールズにいた男である。その時にはマリク様の洗脳術にかかり、オシリスの天空竜を使っていたらしい。
 とはいえ、元の人格は極めて平凡な男。少し気弱なくらいの青年だったのだ。
 だが、彼には一つだけ他人とは異なる点があった。その点が彼を決定的に特徴づけていた。
 それは、亡き父にそっくりな戦士ダイ・グレファーを尊敬……いや溺愛していることだ。
 世間では『変態』の代名詞として定着しているダイ・グレファー。彼はそれを知らずしてダイ・グレファーを愛するカードとしているのだ。
 かつての記憶が思い出される。ヒ、ヒィィィィィィィィィィ〜〜〜〜〜!
「さあ、DEATH−T 3は、この山田とデュエルしてもらうかんな!」
 ヒィィィィィィィィィィィィ!!
「絶対やだ。やだやだやだやだ! 絶対やだ絶対やだ絶対やだ!」
「レアハンターよ。どうやら借金地獄を味わいたいようだな」
「そ、それも嫌だ……」
「それじゃあ、DEATH−T 3やるかんな! そう! 名付けて『1週間の果てに闘う二人! そこに生まれるのは憎しみか友情かデュエル』! おもろ〜〜っ!」
 別に面白くない。
 むしろ勘弁してほしい。本当に勘弁してほしい。本当に本当に勘弁してほしい。
 だが、ここで逃げることは真のデュエリストのやることではない。でも、これは嫌だ。絶対嫌だ。
「ごめんね、レアハンターさん。でも、借金を帳消しにしてもらうには、このデュエルで勝つしかないんだ」
 山田がデュエルディスクを構える。その表情は酷くやつれているように見えた。
「1週間飲まず食わずはちょっと大変だったよ。でも、このDEATH−T3が始まるまで倉庫から出ることができなかったんだ」
 そこでふと気づく。山田もまた1週間置き去りにされていたのだ。
 しかも、食べ物のない倉庫。やつれて当然である。そもそも生きている時点で凄い。
「あ、飲まず食わずって言うのはちょっと違うかな? たまたま持っていたカードを何枚か食べたんだ。例えば、異次元の……」
 ヒィィィィィィィィィィィィ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!
「まあ、借金した僕が悪いんだけどね。でも、おかげで8192枚のダイ・グレファーが集まったんだ。僕の部屋の壁と天井はダイ・グレファーでびっしりさ!」
 もうやだ。絶対やだ。帰りたい。マリク様何とかして。こんなのやりたくない。帰りたい。絶対やだ。帰りたい。マリク様何とかして。絶対やだ。帰りたい。早く帰りたい。絶対やだ絶対やだ。マリク様助けて。絶対やだ絶対やだぜえたたいやだぜったちやひぃふぃdふぁhgkshがghkじょshんfghkじゃhg!!
「今日ももちろんダイ・グレファーデッキだよ!」
「ヒ、ヒィィィィィィィィィィィィイイイイイイイイアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!」(OVER KILL)

 レアハンター ライフポイント0



珍札13 『30』

 絶対やだ絶対やだ。こんなデュエル絶対やだ。
「早くデュエルディスクを構えろよ、ほら!」
 左腕のデュエルディスクをぐいと持ち上げられる。強引に構えさせられた。
「レアハンターさん、行きますよ!」
 そう言って山田がデッキからカードを5枚引いた。
「くっ……」
 やるしかないというのか。やるしかないというのか。やりたくないよ。帰りたいよ。
 ……そ、そうだ。速攻戦術だ。素早くエクゾディアを揃えれば、ダイ・グレファーなど召喚させずに勝利することができる。これに賭けるしかない。
「じゃあ、僕の先攻で行きますよ。僕は戦士ダイ・グレファーを召喚!」
 ヒィィィィィィィィィィィィ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!
 速攻でダイ・グレファーを召喚された。もう二度と見たくない男戦士が、リアルなソリッドビジョンとなって私の目の前に現れた。
 しかも……近い。近すぎる。
 それもそうだ。ここは屋外でもホールでもない狭い事務所。こんな場所では、私と山田は1.5メートル程度しか離れることができない。
 したがって、山田のダイ・グレファーは、私のすぐそばのところに召喚されてしまったのだ。
 私の視界の30%はダイ・グレファーになった。
 もうやだ。せめてダイ・グレファーから離れたい。でも私の後ろは壁しかない。例えるなら、変態に追い詰められたヒロインだった。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
 しかもこの距離のせいで、ダイ・グレファーの吐息までリアルに聞こえてくる。もう嫌だ。助けて。早く来て助けてマリク様。マリク様助けて。これはもう耐えられない。耐えられない。助けて。助けてよ!
「僕はカードを1枚伏せ、ターンを終えるよ」
 最初の1ターン目が終了しただけなのに、私の精神力は既に大幅に失われていた。

「わ、私のターン……ドロー……」
 私は気弱に宣言してカードを1枚引き、恐る恐る手札を確認する。
 封印されし者の左腕、封印されし者の右足、冥界の使者、アステカの石像、万能地雷グレイモヤ、補充要員――手札は以上の6枚だった。
 手札のエクゾディアパーツは2枚。だが、それ以上に注目すべきは万能地雷グレイモヤ。これがあれば、攻撃してきたダイ・グレファーを爆破粉砕できるのだ!
「冥界の使者を召喚し、カードを1枚伏せてターンエンド!」
 これでダイ・グレファーを場から消し去れる……! 私の精神力は少しだけ回復した。

「僕のターン、ドロー!」
 山田のターン。
 視界30%のダイ・グレファーが「はぁ……はぁ……はぁ……」と言いながら私を見ている。私は即座に目をそらした。
「僕はカードを1枚伏せ、ダイ・グレファーで攻撃だ!」
 そして、視界30%のダイ・グレファーが剣を持って動き出した。視界30%のダイ・グレファーが、私の右隣に召喚されている冥界の使者に向かって攻撃を仕掛ける。視界50%になった。
「ヒィィィィィィィィィィィィ〜〜〜〜! 万能地雷グレイモヤ発動! ダイ・グレファー破壊! 粉砕! 大爆破!」
 視界の100%が爆風で覆われる。
 そして爆風が消えた時、山田の場にいたダイ・グレファーは跡形もなく消えていた。視界……0%……。
「やった……やった……! やったああああ!!」
 ダイ・グレファーを倒した! もうこれでダイ・グレファーを見ずに済む。やった! やったよ!!
「レアハンターさん、僕のデッキテーマは『不死』」
「え?」
「そう……決して死ぬことのないダイ・グレファーの力を見せてあげるよ! 魔法カード『戦士の生還』を発動! 墓地に送られたダイ・グレファーを手札に戻し、再び召喚する!」
 視界の30%がダイ・グレファーになった。
「ヒィィィィィィィィィィィィ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」



珍札14 『40』

 再び私のターンになった。
「ド、ドロー……」
 またしても弱気な宣言でカードを引く。
 このデュエルは精神に大きなダメージを負う。早めに決着をつけなければ命にもかかわるかもしれない。これは、まさに『闇のゲーム』という他ない。
 私の引いた手札は、天使の施し。手札を入れ替える魔法カードだ。
「私は天使の施しを発動し、デッキから3枚ドローした後2枚を捨てる……」
「ちょっと待ったぁぁ!」
 その時、光の仮面が横槍を入れてきた。
「天使の施しは禁止カード。お前ルール違反だかんな!」
「禁止カードを入れるとは言語道断。最近のアニメキャラでさえしっかり守っていると言うのに」
 光と闇の仮面が得意気になって抗議してきた。
「何を言っている。このデュエルは原作ルール。原作ルールにおいて、天使の施しは禁止カードではない」
 そもそもこのホームページは『遊☆戯☆王原作HP』であろう。何も言わなければ原作ルールに決まっている。ここの読者もみんなそう思っているぞ。
「原作? そんなの関係ねえ! そんなの関係ねえ!」
「相棒よ、そのネタは1年後の読者には通じないぞ……」
 なんという非常識な奴らだ。
「ならば、光と闇の仮面には特別なクイズを出してやろう。デュエルが終わるまでにこのクイズに答えてみせよ」

【スペシャルクイズ】
 これは なんて よむのかな?
  ↓
『空気』

「ん? 『からけ』?」
「いやいや『そらげ』だと思うぞ?」
 私は、場外にいる光と闇の仮面を無視した。
 そうだ。あれは単なる雑音だ。天空デュエルコロシアムの観客だ。無視するのが一番だ。
 私は天使の施しの効果で、機動砦のギア・ゴーレム、クリッター、三ツ首のギドーを引き、補充要員、三ツ首のギドーを捨てた。
「そして、アステカの石像を守備表示で召喚し、ターンエンドだ」

「僕のターン、ドロー」
 山田のターンになる。
 私の場には、壁モンスターであるアステカの石像が召喚されている。そのおかげもあり、視界30%のダイ・グレファーが視界20%になっていた。視界にダイ・グレファーが映るのも防いでくれるとは、さすが『壁』モンスターである。
「僕は2体目のダイ・グレファーを召喚するよ!」
 視界40%になった。
 ヒィィィィィィ〜〜! いやだぁぁぁぁ!!
「僕の場には2体のダイ・グレファーがいる。でもダイ・グレファーの攻撃力は1700。アステカの石像の守備力2000には及ばない。だから、この魔法カードで強化するよ!」
 山田は一枚の魔法カードを場に出した。
「僕の発動するカードは『巨大化』! その効果により、ダイ・グレファー1体の攻撃力は20%アップし、2040となる!」
 原作版効果の巨大化により、ダイ・グレファーの攻撃力は私の壁モンスターの守備力を上回った。
 ……いや、違う! 攻撃力とか守備力とかそういう問題ではない!
「ダイ・グレファー、巨大化だ!!」
 2体いるうちの1体のダイ・グレファーがむくむくと巨大化していく。
 視界40%……視界45%……視界50%……ヒィィィィィィィィィ〜〜〜〜〜〜〜〜!
 なにこれ。次から次へと悪夢が襲ってくるんですけど。もう嫌なんですけど。帰りたいんですけど。マリク様助けてくださいお願いします。
 視界50%……視界55%……視界60%……ヒィィィィィィィィィィィィ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!
 巨大化したダイ・グレファーは、頭部だけ天井を突き破り私の視界をさらに覆っていく。ああ、マリク様早く来てよ。
 視界60%……視界65%……視界70%……ヒィィィィィィィィィィィィィアアア〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!
 その光景に耐えられず視線をそらす。ダイ・グレファーの巨大化が終わった時、私は疲労困ぱい状態だった。
 だが、このまま何もしなければ、もっと危険な目に遭ってしまう。
 私は乱れた呼吸を整え、顔を上げた。
「……!」
 私の顔の前に、巨大化したダイ・グレファーの(ご想像にお任せします)の部分が迫っていた。
 巨大化したことで、私の目の高さと、ダイ・グレファーの(ご想像にお任せします)の高さが等しくなったのだ。
「ドオオオォオォオウウゥウゥゥウゥウイイィイィイィィイイイググウウゥウゥウウレレエェエェェエェェェファアアァアアァアアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」
 世界の中心でダイ・グレファーを叫んでいた。



珍札15 『95』

 借金地獄の方がまだマシだ。
 このデュエルはいかなる闇のゲームにも勝る精神ダメージをもたらす。遊戯や海馬でさえ太刀打ちできないに違いない。
「さあ、ダイ・グレファー2体で攻撃だ!」
 ヒィィィィィィィィィィィィ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!
 ただでさえ巨大化したダイ・グレファーが迫ってくる。(ご想像にお任せします)の部分だけで私の視界80%が占められた。
「ヒィィィィィィィイィイイイイイイアァアァァアァアアアアアアアアアア〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
「これでアステカの石像は破壊! 続いてもう一体のダイ・グレファーで冥界の使者も攻撃だ!」
「ヒィィィィィィィィィィ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」
「よし! これでレアハンターさんのモンスターはすべて倒した!」
 い、生きている……。なんとか、生きている……。
 私は巨大な精神ダメージを負いながらも、意識を保つことに成功した。
 今日ほど神を信じたい日はなかった。今まで『召喚神エクゾディア』以外の神は信じていなかったのに……。
「レアハンターさん、冥界の使者の効果は使わないの?」
 山田に指摘され気づく。そうだった。巨大な精神ダメージに気をとられ、効果のことを忘れていた。
 冥界の使者が破壊されたことで、デッキからエクゾディアパーツを1枚手札に加えることができる。私は封印されし者の左足を手札に加えた。
「それじゃあ、僕はカードを1枚伏せてターンエンドだよ」

「わ、私のターン……ドロー……」
 またしても私は弱気に宣言してドローした。
 そして、ドローカードは、聖なるバリア−ミラーフォース−だった。
 え? ミラーフォース?
 やった! やったぞ! これでダイ・グレファーを全滅させることができる!
「私はクリッターを召喚し、聖なるバ……いや、伏せカードをセット!」
 おっと、あまりの嬉しさのために、思わず伏せカード名を口走りそうになってしまった。危ない危ない……。
「これで私のターンは終了する」

「僕のターンだ、ドロー!」
 山田のターン、山田はドローしたカードを場に出した。
「僕は3枚目のダイ・グレファーを引き当てた! よって召喚する!」
 ヒィィィィィィィィィィ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!
 2体のダイ・グレファー、1体の巨大化ダイ・グレファー。ダイ・グレファーフルコースの完成である。
 そう。攻撃でこちらに迫ってきているわけでもないのに、視界の95%はダイ・グレファー。山田の姿すらよく見えない。
 さらに、
「はぁ……はぁ……はぁ……」
「はぁ……はぁ……はぁ……」
「はぁ……はぁ……はぁ……」
 吐息の三重奏が私の耳を襲う。ステレオサウンドのリアル吐息が私を苦しめる。
 視覚も聴覚もダイ・グレファー尽くしだった。
 これは嫌とかそんなレベルじゃない。人間が体感できるあらゆる苦痛を束ねた地獄であった。すでに罰ゲームは始まっているのだ。
「さあ、3体のダイ・グレファーで攻撃だ!」
 だが、希望の光はある。私は場に伏せたカードに手をかけた。
「聖なるバリア−ミラーフォース−を発動! ダイ・グレファーは全て破壊される!」
 一瞬にして光に包まれる。攻撃を仕掛けたダイ・グレファーはその光に包まれて消滅した。
 さらに、原作版ミラーフォースの追加効果により、山田のライフを1500にまで減らすことに成功した。なお、ミラーフォースによるダメージ数値は、作者の都合によって決まるらしい。
「ダイ・グレファーが全滅……」
 山田がぼそりと呟く。
 そう、全滅……。
 やった……やった……! やったよ! ダイ・グレファーを全て消し去った……! これで平和が戻……
「レアハンターさん、最初に言ったよね? 僕のデッキテーマは『不死』」
「え?」
 山田の場には3枚の伏せカードがあった。
「そう、ダイ・グレファーの魂は不滅! 僕は永続罠カード『蘇りし魂』を3枚発動し、全てのダイ・グレファーを守備表示で復活させる! 蘇れ! ダイ・グレファー達!」
 場には3体のダイ・グレファー。消し去ったはずのダイ・グレファーが全て復活していた。
「ヒィィィィィィィィィィィィ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
 一流ホラー映画を凌駕する恐怖だった。



珍札16 無題ドキュメント

 もうこんなの嫌だ。嫌だよ。
 私が何をしたと言うのだ。何も悪いことなどしていないではないか。小さいころから今の今までとても良い子だったではないか。
 神は残酷だ。真っ当に生きているこの私に罰を与えるとは……。
「さあ、僕はカードを1枚伏せてターンエンドだよ」
 そう言って山田はターンを終えた。

「私のターン……ドロー……」
 このデュエルが始まってから、自分のターン開始は全て気弱だった。このターンも例外ではない。
 このターン引いたカードは、手札抹殺。手札のカードを全て入れ替える効果を持ち、主に手札が悪い時に役に立つカードだ。
 今の手札を見ると、エクゾディアパーツが3枚あった。ここまでエクゾディアが揃ったのだ。手札抹殺は使わない方がいいだろう。
 ん? エクゾディア? ……そうか!
 何度でも蘇り、精神的な苦痛を伴う攻撃を仕掛けるダイ・グレファー。それを完全に滅ぼすには、究極の力を持つエクゾディアを揃え、勝利を掴むしかない!
 自分の場を見るとクリッターがいる。このクリッターが破壊されれば、そのモンスター効果で4枚目のパーツを手札に加えることができる。もはや、リーチがかかった状態と言っても過言ではなかった。
「よし、私は機動砦のギア・ゴーレムを守備表示で召喚する」
 ギア・ゴーレムは守備力2200を誇る壁モンスター。今度は簡単には打ち破られ……
「トラップカード発動! 守備封じ! ギア・ゴーレムは攻撃表示になる!」
 3秒で打ち破られた。ヒィィィィィィィィィィィィィィ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!

「僕のターンだ! ドロー!」
 山田のターンになってしまった。
 非常にまずい。今、私の場には守備力1000のクリッターと、攻撃力800のギア・ゴーレムだけ。伏せカードはない。
 こんな状態で3体のダイ・グレファーに攻撃されたら、大ダメージを受けてしまうこと必至。
 いや、それ以前に精神的苦痛に耐えられるかどうか……。もう絶対無理だ。耐え切れない。助けて……。助けてマリク様助けて……!
「まずはダイ・グレファー2体で攻撃! クリッターとギア・ゴーレムを破壊するよ!」
 2体のダイ・グレファーが同時に迫ってくる。巨大化ダイ・グレファーにも劣らぬインパクトだった。
「ふんぬ」
「ふんぬ」
「ヒィィィィィィィィィィィィィ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」
 恐怖の声が部屋中にこだまする。私の場からモンスターがいなくなった。
 だが、ここで忘れてはいけない。私はクリッターの効果を使い、封印されし者の右腕を手札に加えた。これでエクゾディアパーツはあと1枚。
「さあ、残り1体のダイ・グレファーの攻撃だよ」
 来た。ダイ・グレファーのダイレクトアタックが来た。
 今までの攻撃は、あくまでモンスターに対するもの。プレイヤーへの直接攻撃はこれが初めてなのだ。
 私のライフポイントこそは3000残っているが、今までとは比にならない精神ダメージを負ってしまうことは必定であった。ああ、マリク様助けて。助けて。早く洗脳して。そして精神的苦痛を代わりに受けて! 助けてマリク様!
「僕は、このタイミングで装備カード『閃光の双剣−トライス』を発動!」
 原作ルールの曖昧な点を突き、山田はバトルフェイズ中に装備カードを発動した。
「閃光の双剣−トライスは、攻撃力が500ポイント下がってしまう代わりに2回攻撃できる剣……」
 攻撃力1700の1回攻撃が、攻撃力1200の2回攻撃になる。ダメージ量はおよそ1.5倍だ。
 ダイ・グレファーは二本の剣を装備した。これでダイ・グレファーも両刀使いという訳か。
 ん? 両刀使い?
 両刀使いダイ・グレファー?
 ――女好きのダイ・グレファーは、両刀になったことで男も好きになりました。
「ヒィィィィィィィイィイイイイイイイウゥウゥウウウウォオォオォォオオォオオオォオオオオァアァァアァァアアアアアアアアアアアア〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
 両刀使いとなったダイ・グレファーは、私を見て頬を赤らめていた気がした。
「さあ行くよ! 双剣を装備したダイ・グレファーで、レアハンターさんにダイレクトアタック!」
 頬の赤いダイ・グレファーがじりじりとこちらに迫ってくる。
 もう終わりだ。私にはどうすることもできない。
 この攻撃を受け入れるしかない……。
 もう、私の人生はここまでだ……。
 ……。
 …………。
 ……………………。
「あれ? こんなピンチな雰囲気になれば誰か助けに来てくれるんじゃないの? ピンチの時に他の誰かが助けに来てくれるのは、物語のお約束でしょ? お約束でしょ? ちょっと待って! お約束だって。だから助けて! 誰か! 誰か! ダイ・グレファーが来る! 助けて! 助けてよ! この際、城之内でも御伽でもいい! 誰でもいいから! ああっ! 誰でもいいから! ああああああっ!! 誰でも……アッーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」



珍札17 ラストターン

 私は2400ライフと『大切なもの』を失った。
 それこそ死を覚悟したが、どうやらまだ生きているらしい。
「わ……私の……ターン……」
 とはいえ、もはや私の精神力も風前の灯。あと1ターン持つかどうかという状態だった。
「ドロー……」
 今までの中でもっとも気弱なドロー、引いたカードはエクゾディ……ん? 待てよ?
 あれ? これでエクゾディア揃った……?
 深い夜の闇にも必ず終わりはある。そして、まばゆい朝日が昇る……!
「私の勝ちだ……」
 私は手札のエクゾディアパーツを山田に見せた。
「それ、エクゾディオスだよ」
「え?」
 封印されし者の右腕、封印されし者の左腕、封印されし者の右足、封印されし者の左足、究極封印神エクゾディオス、手札抹殺――『封印されしエクゾディア』じゃなくて『究極封印神エクゾディオス』……。
 まばゆい朝日はすぐに沈んだ。深い闇夜が戻る。
「おのれエクゾディオス! こうしてやる……! 手札抹殺発動!」
 私は手札を全て捨てた。邪道なるエクゾディオスは墓地に沈んだ。
 ククク……邪道なるエクゾディオスは墓地に落ちるのが一番だ。ハ、ハハハ……!
「あーあ、もったいない。エクゾディオスを場に出してから手札抹殺を使えば、エクゾディオスの攻撃力が4000以上になったのに……」
 山田はポツリと漏らした。
「さあ、来い! ダイ・グレファーでも何でも来い! 1回も2回も同じだ! ククク……ハハハハ……ヒィィィィィィ〜!!」
 私も何かが漏れた気がした。
 ちなみに、手札抹殺のカード効果で引いた手札は、サンダー・ドラゴン3枚と遺言状2枚。いつかどこかで見た最悪の手札の組み合わせだった。

「それじゃあラストターン、ドロー」
 双六父さんと、天国の母さんへ。
 迷惑な子供でごめん。たくさん手を焼かせてしまったね。
「僕は団結の力を発動……ダイ・グレファーの結束の力により攻撃力を2400ポイントアップするよ」
 こんな私なのに、今まで大切に育ててくれてありがとう。
 でも、私はもう逝くね?
 双六父さん、ごめんね。……天国の母さん、もうすぐ会えるね。
「そして……、ダイ・グレファーで、攻……」
 さようならみんな。
 これでレアハンターシリーズも最終回だよ……。
 そうして、ダイ・グレファーは消え去った。
「え?」
 消え去った? ダイ・グレファーが消え去った? ダイ・グレファーが消え去った? ダイ・グレファーが消え去った? ダイ・グレファーが消え去った? ダイ・グレファーが消え去った?
 よく見ると、山田が力尽き倒れている。かつての城之内を彷彿させるように倒れている。
「お腹……」
 倒れた山田が呟く。そうか、山田はろくに食べ物を食べていない空腹状態。いつ力尽きてもおかしく……
「お腹壊した。やっぱり、カードなんて食べるんじゃ……」
 ヒィィィィィィィィィィィィ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!
「スーパーレアだったからね……ビニールっぽい加工があるのが悪かった……」
 ヒィィィィィィィィィィィィ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!

 救急車のサイレンが遠ざかる。
 私が119番通報して、いち早く山田を引き取ってもらったのだ。もっとも、正直なところ110番のほうに通報したかったのだが……。
 ともあれ、史上最悪のDEATH−T 3は終わった。
 山田がデュエル続行不可能になったことにより、私は勝利することができた。
 まあ、この程度の相手、私の敵でもなんでもなかったのだがな。
 あ、ごめんなさい。今のはウソです。調子に乗りました。本当は死にそうになりました。二度と戦いたくないです。もうほんとに勘弁してください。



珍札18 DEATH−T 4

【DEATH−T 4 中止のお知らせ】

 このたびは、DEATH−Tにご参加いただき誠にありがとうございます。
 さて、予定されておりましたDEATH−T 4ですが、『4』が『死』を連想させて縁起が悪いため、中止とさせていただくことになりました。
 楽しみにしておられた皆様方には大変申し訳ありませんが、何卒ご了承いただきますようお願い申し上げます。

 みんな大好き『お気軽ローン』





珍札19 DEATH−T 5

 長く過酷な戦いを乗り越え、ついに最後のアトラクションにやってきた。
 さすがDEATH−Tと名乗るだけのことはある。社長デュエリストであるこの私さえも苦戦するほどだったのだ。
 特にDEATH−T 4は超難関だった。あれほどの難関を乗り越えたことが未だに信じられない。まさに一種の奇跡だったのかもしれない。
「これが最後のDEATH−T。ラストステージだ。まさか、ここまで勝ち残るとはな」
「だが、DEATH−T 5でお前も終わりだ! 最強のタッグを見せてやるぞ」
 光と闇の仮面は、最後のアトラクションの説明を始めた。
「このDEATH−T 5はオレ達、光と闇の仮面とのタッグデュエル。二対二でデュエルし、最後まで生き残ったほうの勝ちだ」
「名付けて、『これが最後の砦! 果たしてレアハンターは借金地獄から解放されるか否か!? その瀬戸際の勝負に挑むのは一人じゃないよ二人だよ!? 愛と勇気と遊城十代(なんちゃって)を持ってして闘いを制せよ! これこそ究極、永遠、最後のデュエル! 果たして光と闇の仮面の超仲良しパートナーの絆を打ち破れるかどうか? それはレアハンターのパートナーとの絆にかかっているのかもしれないスーパーウルトラシークレットパラレルアルティメットホログラフィックタッグデュエル』! おもろ〜〜っ!」
 別に面白くない。
 というか、いい加減ウザい。
「レアハンターよ、この勝負はタッグデュエルだが、あいにくお前は一人。そこで、お前と組むパートナーを1人電話で呼ぶがいい」
 闇の仮面がルールの補足をした。
 タッグパートナーか……。私は携帯電話を取り出し、アドレス帳を開いた。
「くっ……」
 アドレス帳には、親とパンドラしか登録されていなかった。
 選択肢は一つしかないではないか……。私は渋々パンドラへと電話を掛けた。

 それから1時間、パンドラがやってくるまで私達は待った。
 途中で暇になったので、大乱闘スマッシュブラザーズで遊んだ。
「このアホチビが! たまにはハンマーよこせよ!」
「うるさいデクの棒! あ、レアハンター! こっそりトマトで回復すんな!」
「ククク……」
 すると、ガシャアアアアアアンと突如窓ガラスが割れ――
「待たせたな、珍札よ」
 ――パンドラが現れた。パンドラはなぜか私のことを珍札と呼ぶのだ。
「ようやく来たか……」
 私はゲームのコントローラを机に置いた。
「お、レアハンターがゲームを放棄したぞ!」
「よし! ボコってやる!」
 とりあえず光と闇の仮面は無視し、パンドラに向き直る。
「遅れてしまってすみませんね。トリックを仕込むのに時間がかかってしまってね……」
「トリックだと……?」
「そう、奇術師たるもの、いかなる時でもトリックを仕込まなければならない……。本当は電話を受けてから5分でこの事務所に着いたのですが、何のギミックもなく登場しては奇術師として失格。だから、55分かけて窓から突入するトリックを仕込んだのですよ」
 ああ、どうして私の周りには、おかしな奴ばかり集まるのか。そんなことだから、この真面目で偉大な私だけが浮いて見えるではないか。
「そんなことより珍札、借金とは情けない。グールズが解散して大分経ちました。いい加減定職に就くべきだと思いますよ」
 諭すようにパンドラが言う。ふっ、分かっていないな……。
「私は有限会社レアハンターの社長。あの海馬瀬人をも超える社長デュエリストなのだよ」
「珍札……、いくら就職活動に失敗したからと言って、逃げに走ってはいけません。この私のように、新しい夢を追いかけるべきなのです!」
 新しい夢だと……?
「ご存知の通り、私の最愛のカードは白魔導士ピケル。私は今、65536枚のピケルを集めました」
「65536枚……!」
 日本中のピケルを集めきる勢いだった。
「だが、そんなにたくさんのカードを集めるためには、莫大な資金が必要。その金を一体どこで……!?」
「フフフ……そのために私は『ピケルサーカス』を開いたのです。サーカスは連日大満員。どうです? 珍札も来てみませんか? ピケルのカードを持ってくれば、1枚につき料金を500円サービス致しますよ?」
 ピケルサーカス。マジシャンのはずなのにサーカス。なんということだ。
「おっと! もうすぐピケルサーカス開幕の時間。そろそろ戻らないといけません。それではごきげんよう」
 そして、パンドラはそのまま帰ろうとした。



珍札20 タッグデュエル開始

「帰らないでくださいお願いします。本当にお願いします」
「仕方がありません。珍札には借りもありますしね……。それでは今日の公演に間に合わせるために速攻でケリをつけますよ」
 私は何とかパンドラを説得することに成功した。
 そして、未だにテレビゲームに夢中になっている光と闇の仮面にケリを入れて、DEATH−T 5を始めさせた。
「よくもケリを入れてくれたな! 絶対にデュエルで仕返ししてやるかんな!」
「せっかく勝負に勝てそうだったのに、それを妨害するとは許さんぞ……」
「ククク……そうこなくてはな。……さて、パンドラよ。我々のチームワークを見せようじゃないか」
「エクゾディアデッキとマジシャンデッキ……相性は微妙ですがね」
「…………」

「まずはオレのターンだ」
 最初は、闇の仮面のターン。
「オレはシャイン・アビスを召喚し、ターンエンドだ」

「私のターン」
 続いて、パンドラのターン。
「当然、私は白魔導士ピケルを召喚し、ターンを終了します」

「オレのターンだかんな」
 3番目は、光の仮面のターン。
「オレは、リバースカードを1枚セットしてターンエンドだぞ」

 ということは、4番目が私のターンか……。そういえば……
「そういえば、ターンの順番はどうなっているのだ? いつの間にか私が4番手になっているのだが……」
「そんなもの、宣言した順に決まっているだろう?」
「もちろんです」
「宣言が遅いのが悪いんだかんな」
 なんということだ。タッグデュエルにおいても先に宣言した者が先攻だとは……。
「くっ……」
 先攻有利なエクゾディアデッキにとってこれ以上の出遅れはない。
 だが、この程度のことでくじける私ではない。
 そもそもDEATH−T 5は、遊戯がエクゾディアの封印パーツを揃えて海馬に勝ったという実績がある。それと同じようにこの私もエクゾディアパーツを揃えて勝つだろう。これはもはや決定事項なのだ。
「ドロー!」
 私は勇んでカードを1枚引き、6枚となった初期手札を確認する。
 サンダー・ドラゴン、サンダー・ドラゴン、サンダー・ドラゴン、遺言状、遺言状、遺言状――手札は以上の6枚だった。
「……?」
 私は6枚の初期手札を確認した。
 サンダー・ドラゴン、サンダー・ドラゴン、サンダー・ドラゴン、遺言状、遺言状、遺言状――手札は以上の6枚だった。
 …………。
 前のデュエルが終わってから、デッキをシャッフルしていないことに気付いた。
 くじけそうになった。



珍札21 ピケルサーカス

「あの……手札変えちゃ駄目?」
「絶対許さんかんな!」
「当然だろう」
「そうです。イカサマは、魔術師としても許される行為ではありませんよ」
 デュエルは最悪な手札で始まった。タッグパートナーからも冷たい目で見られ、早くも絶体絶命の危機にあった。
「ターンエンド……」
 私は何のカードも出せないまま、ターンを終えざるを得なかった。

「オレのターン……」
 ターンは2巡目に入る。闇の仮面のターンだ。
「ドロー……」
 闇の仮面はカードを引いた後、私とパンドラを交互に見た。
「パンドラの場には攻撃力1200の白魔導士ピケル。レアハンターの場には何のモンスターもいない。今、レアハンターに攻撃をすれば大ダメージを与えられるが、回復効果を持つ白魔導士ピケルを潰しておくべきだろう」
 闇の仮面は、パンドラの場に出ている白魔導士ピケルを指差した。
「オレは攻撃力1600のシャイン・アビスで、攻撃力1200の白魔導士ピケルを攻撃する!」
 するとパンドラは、急に慌てた様子になった。
「そ、そんな! このピケルに攻撃を仕掛けるというのですか! そんなことが……そんなことが許されるはずがない!」
 そうなのだ。白魔導士ピケルに攻撃は許されないのだ。
 白魔導士ピケルには隠された能力がある。それは、敵の攻撃を受けないという能力。論より証拠。
「はぁ……はぁ……ピケルに攻撃は……許されない……」
 ほら、パンドラが主張する通り、白魔導士ピケルへの攻撃は決して許されるものではない。そういうことなのだ。白魔導士ピケルは戦闘では無敵なのだ。
 しかし、シャイン・アビスの攻撃は止まらなかった。
「やめてくれ! やめてくれ! 攻撃しないでくれ! ピケルを……ピケルを……殺さないでくれ!」
 パンドラは必至な形相で主張する。
 それにしてもパンドラは心配性だな。白魔導士ピケルは戦闘では無敵なのだから、恐れる必要など皆無だというのに。
「攻撃力1200の白魔導士ピケルなど、赤子の手をひねるようにもろい。せめてサポートカードを出しておくべきだった」
「こ、この私が盾となります! ピケルを守る盾となります! だから……」
 パンドラは三歩前に出て、ソリッドビジョンの白魔導士ピケルをかばおうとした。だが、かばえなかった。
 デュエルディスクを装着したまま三歩前に進めば、ソリッドビジョンの白魔導士ピケルもそれと同じだけ前に進んでしまう。当たり前であった。
「やめてくれ! 助けてくれ! 私のピケルを私のピケルを……」
 それにしても、先程からパンドラの慌てようは不自然だ。まるでわざとやっているような。……そうか! これは演技……!
 パンドラは奇術師なのだ。わざとピンチの演技をして、相手を騙して優位に立とうという戦術に違いない。
 哀れ、闇の仮面。私は闇の仮面に同情した。
「あきらめろパンドラ。シャイン・アビスの攻撃は止まらない」
「い、いえ! 絶対に、絶対に止めて見せます! そうだ、私とピケルについて話をしてあげましょう。この話を聞けば、ピケルを攻撃することなどできないはずです! ……そう。あれは私がピケルを5000枚集めた頃の話。資金が底をつき、私は悩みだしました。どうすればこれ以上のピケルを集めることができるだろうか。私はピケルを持っている人を見つけては、泣きそうな顔で頼み込みました。何枚かのピケルは集まりましたが、集まるペースは圧倒的に遅くなってしまいました。私は再び途方に暮れました。5000枚強集めた程度ではピケルへの愛は証明できない。これではピケルとの結婚式も遠ざかってしまうと。そんな時声が聞こえたのです。『ふたりいっしょなら、もっといっぱいのピケルがあつまるよ。わたしたち、けっこんするんだから、ふたりいっしょにがんばろうね……』間違いありません。あれはピケルの声でした。アニメで聞いた声と同じでした。そして私とピケルは、サーカスを開くことにしました。そうです。ピケルサーカスは、私たちの愛の証明なのですよ。さあ、こんな話を聞いてまであなたはピケルを破壊してしまう気ですか……?」
 ズガァアァァアアアン!!
 話が終わるころには、白魔導士ピケルは跡形もなく破壊されていた。



珍札22 真実

 パンドラが無駄に長い話をしているうちに、白魔導士ピケルは破壊された。
「ピ……ピ……ピピピピピケルゥゥゥウゥゥウウゥウゥゥウウウウウウ!!!!!!」
 悲痛な叫びが事務所に響く。
 なんだ。白魔導士ピケルって無敵ではなかったのか……。
 シャイン・アビスには弱い。他のモンスターには破壊されなくともシャイン・アビスには倒される――そういうことなのだ。
「私の……私のピケルが……」
「モンスター1体やられた程度で騒ぐな」
「闇の仮面! あなたは侮辱する気ですか……! この私の愛するピケルを侮辱するのですか……! 破壊しておいて侮辱なんて……酷すぎる……!」
「そもそも、そんなに大事なカードならば、命懸けの戦場に駆り出すなよ」
 闇の仮面がぼそりと言った。
「……え? 今なんて言いました?」
 パンドラの口調が変わった。
「白魔導士ピケルを愛しているのなら、命懸けの戦いに参加させるなと言ったのだ」
 容赦なく闇の仮面は言った。だが、それは疑う隙のない真実だった。
「あ……ああ……」
 パンドラはがっくりとうなだれ、膝をついた。
「なんと……なんということなのでしょう。私はピケルといつでも一緒にいたかった。だからこそデッキに入れてデュエルさせていた。でも、そのためにピケルは命懸けの戦いを強いられていたのですね。そんなことに気付かなかったなんて私は……私は……!!」
 パンドラは泣き崩れる。
 その姿を見て、パンドラの愛する白魔導士ピケルはもう返って来ない。そのことを痛感せざるを得なかった。
 母親や元恋人に続き、またしても愛する者を失ってしまうとは……。パンドラのことを思ったら、私の目頭は自然と熱くなっていた。涙がこぼれ落ちそうだった。
「ふわぁーあ」
 光の仮面も目に涙を浮かべていた。
 その時、床に1枚のカードが落ちていることに気づいた。目を凝らして確認する。
「これは……!」
 同じ悲劇は繰り返させない。床に落ちていたカード、そのカードこそ救世主となるカードだったのだ。
 私は床のカードを指差した。
「パンドラよ、あのカードを見るがいい……」
 私がそう言うと、パンドラは視線を床に落とした。
「このカードは……『蘇りし魂』……?」
「そう、蘇りし魂。墓地のモンスターの魂を復活させる効果を持つカード。このカードを使えば、白魔導士ピケルの魂を復活させることができる……」
 そう言ってから、蘇りし魂では白魔導士ピケルは復活できないことに気づいたが、それは黙っておくことにした。
 ついでに、その蘇りし魂のカードは、変態ダイ・グレファーを蘇らせた山田の落とし物であることにも気づいたが、それは絶対に口に出さないことにした。
「あ……ああ……これで私のピケルが戻ってくる……。ありがとう。ありがとう珍札。何度感謝しても感謝しきれません」
 パンドラは涙ながらに私に礼を言う。私ももらい泣きしそうになった。
「私はピケルを一生かけて守り通さなくてはいけない。だから、もう間違えない。この愛するピケルを闘わせることはないと。いや、もうデュエルすることすらない……」
 パンドラは、右手をデッキの上に置く。
「だからサレンダー(降参)させてもらいます……」

 ……あれ?



珍札23 邪神降臨

 パンドラはさわやかな笑顔で去っていった。
 ピケルとの結婚式にはこの私を呼んでくれると言い残して去っていった。
「…………」
 その結果、一対二になった。
 私一人で、光と闇の仮面の二人に勝たなくてはいけなくなった。しかも、手札は6枚全てが役立たずの大ハズレ。
 何だこの状況は。遊戯や海馬でさえ、ここまで酷い状況になったことなどないではないか。
 いや、遊戯と海馬でさえ、二人で協力してようやく光と闇の仮面に勝てた程度。こんな酷い状況で勝つことができたら、真のデュエリストどころの実力ではない。まさに、神(しん)のデュエリスト!
 ククク……そうだ。私は神(しん)のデュエリストになる!
 真のデュエリストや社長デュエリストでさえ、もはやただの踏み台。その先にある神(しん)のデュエリストこそ私にふさわしき称号。
「さあ、いつでもかかってくるがいい!」

「オレのターン!」
 光の仮面のターン。
 パンドラが抜けたことで、闇の仮面のターンの次が、光の仮面のターンになってしまったのだ。
「オレはカードを1枚伏せ、ターンエンドだぞ……」
 光の仮面はモンスターを出さず、ターンを終えた。

「私のターンだ」
 そして、私のターン。
 手札が腐りきっている今の状況。このドローカードに全てを賭けるしかない!
「ドロー!」
 ドローカードを見る。
 闇の量産工場だった。今の状況では全く役に立たないカードだった。
「もう一枚ドロー!」
 仕方がないので再びドローした。
「ちょっと待て!」
「ふざけるな」
 駄目だった。
「……ターンエンド」
 またしても場にカードのない状態でターンを終えるしかなかった。

「オレのターン……ドロー……!」
 闇の仮面のターン。
「女邪神ヌヴィアを攻撃表示で召喚!」
 闇の仮面は、レベル4攻撃力2000の仮面モンスターを召喚した。
 当然、このデュエルも原作ルールなので、この女邪神ヌヴィアにマイナス効果は付加されてない。テレビCMを見て、「レベル4攻撃力2000のヌヴィアが出るぞ。いやっほう!」と喜び、苦労してウルトラレアの女邪神ヌヴィアを当てたと思ったら、実は効果が最悪だったという絶望を味わうことはないのだ。
「フフフ……」
 闇の仮面から笑みが漏れる。
 闇の仮面の場には、攻撃力2000の女邪神ヌヴィアと攻撃力1600のシャイン・アビスがいる。
 対して、私の場にはモンスターも魔法も罠もない。
 そこで気付いた。
 もしかして、私、大ダメージ受けるんじゃない?
「女邪神ヌヴィアとシャイン・アビスでダイレクトアタックだ!」
 闇の仮面の攻撃宣言とともに、2体のモンスターが狭い事務所内で砲撃を放とうとする。このままでは私は3600ダメージを受けてしまう。
「あ、このデュエルはOCGルールだよ? 女邪神ヌヴィアにはマイナス効果あるよ? 攻撃表示で召喚したら破壊されちゃうよ?」
 言ってみた。
「…………」
 無視された。
「ぎゃあああああああああああああ」
 私のライフは残り400になった。



珍札24 勝機

 闇の仮面のターンが終わり、光の仮面のターン。
 私のライフは400。場にモンスターも魔法も罠もない。一度でも攻撃されたら即敗北の状況だった。
「オレはこのカードを使う」
 光の仮面は一枚の永続魔法カードを発動した。
「レベル制限B地区! このカードがある限り、レベル4以上のモンスターは全て守備表示になるかんな!」
 地区Bのカード……強制的に守備表示にすることで、攻撃を封じる防御専門の永続魔法だ。光の仮面は攻撃を仕掛ける気がないのだろうか。
「ターンエンドだ」
 光の仮面の場を見ると、攻撃を封じる地区Bのカードと2枚の伏せカードのみ。モンスターはいない。
 何かを狙っているのだろう。きな臭い予感がしてきた。例えるなら、三沢大地が「俺はこの次元に残る」と言った時のような……。

 ともあれ、
「私のターン……! ドロー!」
 ようやく私のターンが回ってきた。ドローカードを確認する。
「…………」
 例えるなら、ライフが400しか残っていないのに、800ライフ払わないと使えない『早すぎた埋葬』を引き当てた時の気持ちに似ている。
「ターンエンド……」

「……オレのターン……ドロー」
 闇の仮面のターン。闇の仮面はデッキからカードをドローするとニヤリと笑った。
「勝った……! オレの勝ちだ!」
「しょ、勝利宣言だと……!」
 私は一瞬焦ったが、こういう状況で勝利宣言すると大抵勝てない法則がある。これは物語の基本。私は安心した。安心して神に拝んだ。どうか妨害とか入りますように。マジでお願いします。
「魔法カード『大嵐』を発動し、フィールド上の魔法・罠カードを全て破壊する!」
 闇の仮面の発動したカードは大嵐。このカードで光の仮面の場に出ている地区Bを破壊すれば、闇の仮面のモンスターは私に攻撃できるようになる。
 私のライフは400。私の場にモンスターはいない。
 ……負け確定ではないか。
 私は、『実はこの勝負はマッチ戦で2回勝った方が勝者だよ』ということにしようと決めた。
 その時、
「相棒め……!」
 舌打ちをする光の仮面の声が聞こえた。どうやら怒っているようだった。
「相棒! オレのレベル制限B地区を破壊するな! オレのコンボが台無しじゃないか!」
「仕方ないだろう。相棒のレベル制限B地区のせいで、オレのモンスターが攻撃できないのだ。このターンで勝てるのだから、魔法カードを破壊されるくらいで文句を言うな」
「なんだと! このデクノ坊! オレのデッキを否定するつもりか!」
「『デッキを否定』……? まさか相棒、仮面デッキではないのか……?」
 闇の仮面が聞くと、光の仮面はわざと呆れ顔をした。
「違う。仮面なんてダサいものに頼る必要なんてない」
 ならば、貴様が今つけている仮面は何なのだと言いたくなった。
「聞いて驚くな! オレのデッキは、神をも超越するアーミタイルデッキ! 神クラスの三幻魔を3体場に揃え、攻撃力10000の『混沌幻魔アーミタイル』を召喚する究極のデッキなのだ!」
「…………」
「…………」
「相棒、アーミタイルよりエクゾディアを出す方が簡単だぞ」
「そして、攻撃力10000のアーミタイルより、攻撃力無限大のエクゾディアの方が強い」
 ……正直、勝機が見えてきた。



珍札25 純粋な勝負

「オレのカードを破壊することは許さん! 能なしデクノ坊! これを喰らえ!」
 光の仮面は、パートナーであるはずの闇の仮面に向けて罠カードを発動した。
「アヌビスの裁き! これでお前の大嵐は無効だ! ついでにモンスターも全滅だ! 1800ダメージもオマケだ! くたばれ! デクノ坊!」
「このアホチビ……! 本気でオレのジャマをするつもりか……!」
「オレのアーミタイルの召喚を妨害するのは許さんぞ! 絶対に許さないかんな!」
「アホチビめ! お前、借金帳消しが懸かっていること忘れてるだろう!?」
「オレがアーミタイルで勝つから問題なし!」
「出せるわけねえよ!」
「出せる!」
「出せない!」
「出せる!」
「出せない!」
「出せる!」
「出せない!」
 ……最高のチームワークだった。

 10分くらい経って、
「オレのターン! ドロー……!」
 ようやく光の仮面のターンになった。
「よし! オレは『選ばれし者』のカードを使う!」
 選ばれし者――その効果を思い出す。
 確か、3分の1の確率で手札のモンスターを無条件で場に出せる効果を持つ魔法カードだった。原作版効果なので、「召喚条件があるモンスターは出せません」などという苦情は受け付けない。
 ともかく、『選ばれし者』を使えば、3分の1の確率で三幻魔1体を場に出すことができる。そして三幻魔が3体場に揃えば、攻撃力10000のアーミタイルを召喚することができる。
 だが、現実は甘くはない。レベル10の三幻魔を3体も召喚できるわけがない。
 例えるなら、遊戯王カードを1パックだけ買って、レインボー・ドラゴンのホログラフィックレアを期待するようなもの。当たるわけがないのだ。現に、この小説の作者も当たらなかった。
 そのような芸当ができるのは、主役級の遊戯や私のようなデュエリストのみ。脇役程度の光の仮面では絶対に無理なのだ。
「あ……ハズれた……」
 案の定、光の仮面の選ばれし者の効果はハズレ。三邪神は選ばれなかった。『選ばれし者』のリスクにより、光の仮面の手札が大量に墓地に送られた。
 ……あ、三邪神じゃなくて三幻魔だったっけ? どっちでもいいや。

 3分の1すら当てられない光の仮面のターンは終わり、私のターンになる。
「ドロー」
「…………」
「ターンエンド」

 ……さて、次は闇の仮面のターン。
 闇の仮面がターン開始宣言をする前に、光の仮面が笑った。
「ククク……レアハンター! お前もエクゾディアが引き当てられないようだな!」
「な、なな何だと! わ、わわわ私の手札には、じゅじゅじゅ順調にエクゾディアの、ふふふ封印パーツが集まっているぞ……」
「ウソをついても無駄だかんな! フフフ……ここは『純粋な勝負』といこうじゃないか」
「じゅ、純粋な勝負……?」
「そう! これはシンプルな勝負だ! 先にアーミタイルが召喚されるかエクゾディアが召喚されるか――純粋なドロー勝負!」
 お互いの戦術上、キーカードを揃え、先に切り札を出した方が勝つ。だからドロー勝負。そういうことか。
「名付けて、『最終決戦ラストバトル勃発! まさにDEATH−Tラストにふさわしい……」
「おもろ〜〜っ!」
 いい加減うっとうしいので、『先制おもろ〜〜っ!』をぶちかましてやった。
「オ、オレの会心のネタを取るな〜! ……ま、まあいい。オレのターンだ! ドロー!」
 光の仮面は、デッキからカードを引いた。
「カードを1枚伏せてターンエンドだ」

 光の仮面のターンが終わったということは、次は私のターン。
「行くぞ、私のターン! ドロー!」
「…………」
 この状況をあえて例えるならば、パックをいくら買ってもサイバー・ドラゴンが全然当たらないのに、その融合体であるサイバー・ツイン・ドラゴンやサイバー・エンド・ドラゴンばかり先に揃っていった時の気持ちに似ている。
「ターンエンド……」

「次はオレの番だかんな! ドロー!」
 光の仮面がターン開始宣言をする。
「オレは再度選ばれし者発動!」
 だが、脇役の運試しでは結果が見えている。
「くっ……またしてもハズレ……! ターンエンドだ……」

 次は私のターン。
「私のターン、ドロー!」
「…………」
 この状況をあえて例えるならば、ようやくサイバー・ドラゴンを当てたと思ったらアルティメットレアで、まあ、嬉しいことには嬉しいのだけれども、その融合体であるサイバー・ツイン・ドラゴンはスーパーレア、サイバー・エンド・ドラゴンはウルトラレアで、融合前のサイバー・ドラゴンの方がレアリティが高くなってしまい、なんだか素直に喜べない時の気持ちに似ている。
「ターンエンド……」

「オレのターン!」
 再び光の仮面のターン。
「おい……」
 その時、闇の仮面が横槍を入れてきた。
「何だよ! デクノ坊! 人のターンにタンマ掛けるなんてデュエリスト失格だかんな!」
「……いや、さっきからオレのターン飛ばしてないか?」
 闇の仮面はふざけたことを言い放った。
「それは気のせいだぞ。な? レアハンター?」
「ああ、気の迷いだ」



珍札26 ドロー勝負

 純粋且つ究極のデュエルは続く。

「私のターン、ドロー! ……くっ。私は何もカードを出さずにターンを終了する」

「オレのター」
「デクノ坊うるせえ! オレのターン! オレはカードを1枚伏せてターンエンドだかんな!」

「やはり、オレのターンが飛ばされている気がするのだが」
「だから気のせいだ! 私のターン、ドロー! くっ! ターンエンド……」

「オレのター」
「デクノ坊! お前のターンはもう終わってる! オレのターンだ、ドロー! さて、このターンオレはどうするか…………っておい! レアハンター! 人が見てないと思って勝手にドローするな!」
「くっ、バレたか……」
「オレはこのままターンエンドだ!」

「やはり、オレのターンが飛ばされている気がするのだが」
「それは心の弱さが見せた幻影だ! よし、私のターン、ドロー……! タ、ターンエンド……」

 バトルシティ決勝トーナメントよりも白熱したデュエルが続いていく。
 お互いにドローを積み重ね、今や、デッキのカードは残り半分を下回っているだろう。
 しかし、それほどたくさんのカードをドローしているのにも関わらず、私の手札にはエクゾディアパーツが1枚もなかった。
 いくらなんでもおかしい。
 思い出してみる。そういえば、私のデッキは、山田とのデュエルの後から一切シャッフルされていない。
 ならば分かるはずだ。前のデュエルの最後、墓地にあったはずのエクゾディアパーツ4枚は、今はどこにあるのだ?
 分かった。デッキの一番底だ。
 …………。
 なんということだ。デッキのカードを全てドローしなければ、勝てないというのか!
「よっしゃ! オレは降雷皇ハモンを召喚するぞ!」
 そんな状況をよそに、光の仮面がついにキーカードの1枚目を場に出した。
 三幻魔の一体である『なんとかおうハモン』が召喚されたのだ。
「ハッハハハーーー! ついに1体目を召喚してやったぞ! あと2体! ……さて、残りの三幻魔の召喚を楽しみに待ってろよ! ターンエンドだ!」
 もっとも、ターンエンドなどせずに、そのまま『なんとかおうハモン』で攻撃すれば私のライフは間違いなく0になるのだが、それは言わないことにした。

 一度傾いた流れは簡単には変わってくれない。その後、
「これがオレの裏サイバー流ドロー術だ!」
 カード考察でマイナス点をつけたくなるほど使いづらい『幻魔の殉教者』のカード効果により、2体目の三幻魔『なんとかおうラビエル』を場に出されてしまったのだ。幻魔の殉教者――使いこなせねぇとOCG版ラーバモスより弱いただの紙クズみてぇなカードだってのに、何でそのガキは?



珍札27 決着

 光の仮面のターン。
「フフフ、オレは『選ばれし者』のカードを使う!」
 光の仮面は、このデュエル3度目となる運任せカードを発動した。3分の1のアタリを引き当てれば、どんなモンスターでも場に出せるカードだ。だが――
「だが、光の仮面よ。手札が足りていないぞ? 幻魔の殉教者で減った手札を補充しなければ、選ばれし者を使うことはできない」
「確かに、今のオレの手札では選ばれし者は使えない。……が、オレには仲間がいるのだ!」
「仲間……?」
 光の仮面は、部屋の隅で体育座りをしている闇の仮面の下へ歩み寄り――
「よこせ!」
 ――手札を補充した。
 なんということだ。一見、手札を奪ったように見えるこの行為、これは互いを支えあうチームワークだというのだ!
 こんな芸当、よほどお互いのことを信頼しているパートナーでなければ実現不可能。素晴らしい。これぞ、互いを支えあう最高のタッグパートナー。
 これほどの結束を見せられては、PSPソフトの遊戯王GXタッグフォースはバカ売れ間違いなしである。
 そして、改めて言うまでもないことだが、遊戯王は結束の物語である。
 お互いに信頼しあった光と闇の仮面の前では、確率3分の1は何の意味も持たない。
「よしよしよし! 当たった! 当たったぞ! 来い! 3体目の三幻魔! 神炎皇ウリア!」
 光と闇の仮面の結束の力によって、ついに選ばれし者の効果を当てられてしまったのだ。
「ハハハハーーー!」
 光の仮面の場には、『なんとかおうハモン』、『なんとかおうラビエル』、『なんとかおうウリア』の3体。
「レアハンター! このドロー勝負はオレの勝ちだかんな!」
 私のエクゾディアパーツが1枚も来ないうちに、光の仮面の三幻魔のカードが全て揃ってしまったのだ。
「くっ……」
 まさに圧倒的大差。私の完敗を認めざるを得ないというのか。
「そしてこの瞬間! 混沌幻魔アーミタイルの召喚条件が満たされた。さあ、幻雷皇ハモン、神魔皇ラビエル、降炎皇ウリアを融合し、現れよ! 混沌幻魔アーミタイル!」
 ただでさえ巨大な三幻魔が融合し、さらに巨大なアーミタイルが現れた。
「ハハハ! これがオレの真の切り札、混沌幻魔アーミタイル! よーく見ろよ! この美しさを!」
 正直、部屋が狭すぎて美しいかどうかよく分からないのだが、なんだか凄そうなことだけは分かる気がする。
「さあ、覚悟はいいな。レアハンター! これが最後の攻撃だ! 攻撃力10000のアーミタイルの攻撃を食らえ!」
 私の視界を占めているアーミタイルが動き出した。攻撃を仕掛けてきたのだ。
 攻撃力10000。神クラスのカードを3体も束ねたアーミタイル。光の創造神ホルアクティと同等クラスのモンスター。
 エクゾディアを揃えられなかった以上、私に勝ち目はないのだろうか?
 いや、私は神(しん)のデュエリストを目指した男。たとえ無駄だと分かっていても、抵抗をしないわけにはいかない!
「聖なるバリア−ミラーフォース−を発動……!」
 私はやけになっていたのかもしれない。
 神のカードですら罠カードはほとんど通用しないのに、それを束ねたような強さを持つ混沌幻魔アーミタイルにこんなチンケなバリアが通用するわけはない。こんな見苦しい抵抗をするより、いさぎよく負けを認めておくべきだったかもしれない……。
「グオオオオオオオオオオオオオオオオ」
 あ、ミラーフォース効いた。
「オ、オレのアーミタイルがあああああああああああああ!!」
 ついでに、ミラーフォースによるダメージが発生。光の仮面は4000ダメージを受けることになった。なお、このダメージ数値は作者の都合によって決定された。
「オ、オレのライフがああああああああああああああ!!」
 光の仮面は負けた。
「……弱え」



珍札28 そして伝説へ

 アニメGXを思い出して欲しい。所詮、混沌幻魔アーミタイルは中ボスに過ぎない。
 もうすぐ神(しん)のデュエリストになるこの私が、中ボスごときで苦戦するはずがないのだ。
 今までエクゾディアが1枚も手札に来なかったのは、ただのハンデ。哀れな光の仮面に少しの間だけ夢を見させてやったのだ。混沌幻魔アーミタイルを召喚するなどという夢は、寝ている時に見るべきものなのだ。
 ともあれ、この勝負に勝ったのは私。
 ついに、神(しん)のデュエリストとなる時が――
「やっとオレの出番か……」
 そこに一人の男が現れた。私と同じくらい背が高く、顔の半分を覆う仮面をしている。
「お前は一体……」
「フフフ……オレの名は……、って! ふざけるな! オレは闇の仮面だ! 散々人のターンを飛ばしておいて! 忘れたとは言わせないぞ!」
「?」
 誰だこいつ……? いつからいたのだ?
「しらを切りやがって……! まあいい、お前は今ここでオレが倒す! この闇の仮面がな!」
 男はデュエルディスクを構え、デッキからカードをドローしようとする。
「ちょっと待て。光の仮面のターンの次は、私のターンだったぞ」
「くっ、そういうところは都合よく覚えてるんだな。だが、その次のオレのターンでお前を必ず倒す。忘れるな!」
 闇の仮面と名乗った男は、何やら訳の分からないことを言っていた。

「それでは私のターン、ドロー」
 神(しん)のデュエリストの前に敵はない。だが、この敵は早急に片付けるべきだ。
 想像してみて欲しい。バトルシティ決勝でマリクを倒した後で、インセクター羽蛾が「オレが真のラスボスだ」などと言っても、興ざめするだけであろう。
 それと同じように、一応ボスである光の仮面を倒した後、どこからともなく現れた通行人A(自称:闇の仮面)が「オレが真のラスボスだ」などと言っても、同じく興ざめするだけなのだ。
 私のデッキは残り5枚。手札には手札抹殺の魔法カード。
 勝負は一瞬。
「私は手札抹殺のカードを発動! 手札5枚を全て捨て、残りのデッキ5枚を全てドローする!」
 今まで私の手札にはエクゾディアパーツが1枚も来なかった。それはすなわち、残りのデッキが全てエクゾディアパーツであることを意味する。
 したがって、手札抹殺のカードで手札を入れ替えれば、一瞬でエクゾディアパーツが揃う……!
「ふっ……私の勝ちだ……」
 私は手札のエクゾディアパーツを通行人A(自称:闇の仮面)に見せた。
「それ、エクゾディオスだぞ」
「え?」
 封印されし者の右腕、封印されし者の左腕、封印されし者の右足、封印されし者の左足、究極封印神エクゾディオス――『封印されしエクゾディア』じゃなくて『究極封印神エクゾディオス』……。
 というか、私の『封印されしエクゾディア』はどこにいったのだ。
「…………」
 床に落ちていた。
「…………」
 私が床に視線を向けたせいで、通行人A(自称:闇の仮面)も床の『封印されしエクゾディア』に気づいてしまった。
 くっ……。この状況で通行人A(自称:闇の仮面)にバレずに『封印されしエクゾディア』を手札に加える方法はないものか……。
 そうだ! この男はデミスとルインの超ファンだった。適当にウソをついてやれば、気を紛らわすことができるのではないか……!
 私は言った。
「デミスとルインの家が、北極にあるらしいぞ!」
「封印されし者の『両腕』のカードが、南極にあるらしいぞ!」
 ん?
 私が適当なウソをつくと同時に、闇の仮面が何か聞き捨てならないことを言ったぞ?
「な、な、何と言ったのだ? 闇の仮面よ!」
「お、お、お前こそ! もう一度言ってみせろ。レアハンター!」
「私は、『北極』にデミスとルインの家があると言っただけだ」
「オレだって、『南極』に封印されし者の両腕のカードがあると言っただけだ」
 封印されし者の両腕のカード。両腕1枚で、右腕と左腕の2枚分の役割を果たす最強のカード。エクゾディア使いなら誰もが一度は夢見る究極のカード。
 ククク……まさに神(しん)のデュエリストにふさわしい。
「おい、相棒! 聞いたか? ルイン様の家があるらしいぞ! 北極にあるらしいぞ!」
「そ、それは本当か……! よし行くぞ! 北極に行くぞ! 今すぐいくぞ!」
 私と光と闇の仮面は、お気軽ローン事務所を飛び出した。
 光と闇の仮面は北極へ。
 そして、私は南極へ。
 神(しん)のデュエリストにのみ与えられる伝説のカード『封印されし者の両腕』を求めて……!

 今、エクゾディアの新たなる伝説が始まったのだ!



 あらあら、どうやらレアハンターは南極に行っちゃった様子。
 それじゃあ、彼が戻ってくるまで皆さんはリアルタイムで待っててくださいね。






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