NEXUS
第31話〜

製作者:ネクサスさん






目次

第31話 第32話 第33話 第34話 第35話 第36話 第37話 第38話 第39話 第40話 第41話





第31話 −vs「死」の数字を名に持つ刺客(クアットロ)

「いるかぁぁぁぁぁ! ガーディアンズマスター・水原護ぅぅぅぅぅ!」

 そう叫びながら保健室のドアの前に立つのは、松葉杖に身体を支えられた男。

「ワハハハハ! オレを忘れたとは言わせないぞ、ガーディアンズマスター!」

 黄色い制服に身を包んだその男は、現れるやいなや右手に持った松葉杖を護に向けながら、周りの事も気にせずにさらに喚く。

「あ、あぁ。一度出会った人は決して忘れないよ。同い年の暮吾郎・・・だよね?」

 周りが唖然としている中、護は至って冷静に返答する。
 暮吾郎。護と同い年ではあるが、訳有ってまだ1年生である。
 言葉通り一度出会った人の事は決して忘れない護だが、その初対面の際のインパクトが大きすぎた為、暮の存在は取り分け脳内に焼きついている。
 ちなみに護があえて「1年生の」ではなく「同い年の」と遠回しに尋ね返したのは、暮に関する諸事情も承知の為だ。

「そうだぁ! ガーディアンズマスター、今こそキサマにリベンジを申し込む!」

 しかしこの暮という男。台詞が一々やかましい。

「本当ならフレッシュマン・チャンピオンシップで優勝して、それを踏み台にキサマに挑む予定だったがもうどうでもいい! さぁ立て! 立ってオレとデュエr・・・!」

 瞬間、暮は頭に強烈な痛みを覚える。
 暮の気付かぬ間に彼の目の前まで接近していた鮎川先生が、カルテを挟んだボードの角で彼の頭を思い切り殴打したのだ。

「くぁwせdrftgyふじこlp;@・・・・・・鮎川先生!!!??? 何するんですかぁぁぁ!?」

「何するんですかじゃありません! ここをどこだと思っているの! 保健室よ! 大きな声を上げていい所ではありません!」

 悶絶しながら抗議する暮を、鮎川先生は怒鳴り声と共に窘める。
 怒りが爆発しているせいか、自らも保健室で出してはいけない程の怒声を上げている事には気付いていない。

「それに・・・貴方の今の所在地は校舎から離れた治療所の筈よ? 何で校舎の保健室にいるの?」

「何でって、コイツを倒す為にです! それにあんな寂しい所、1人でいられませんよ!」

 アカデミアには、海岸からさらに足を進めた場所に、緊急治療等の為の設備が整えられた治療所が設置されている。昨夕足を痛めた暮は、本来ならそこで体を休めている筈なのだが・・・。
 暮がいなくてはならない場所にいない。鮎川先生の怒りの原因である。
 対して暮も、ある意味では理解できる理由を交えつつ反論するのだが・・・

「・・・ハァ。何で今のアカデミアには、こう無茶する子ばかりいるのかしら? いい、暮君? 貴方はもう同じ箇所を3回も痛めてるの。完全に癖になっちゃってるわ。今直したとしても、次に痛めたらもう一生歩けない可能性も否定出来ないのよ?」

「そ、それでもオレは、デュエルが出来るのなら骨が折れようが何しようが・・・」

「今回は幸い症状も軽いみたいだし、デュエルするのは足を直してからでも遅くないんじゃない? それとも、今ここでデュエルして症状を重くする? 次やったら間違いなく一生車椅子ね。車椅子の生活は大変よ〜」

「うぅ・・・!」

 溜息交じりに話す鮎川先生の脅しとも言える言葉、そして彼女の全体から湧き出ている怒りのオーラの前では、さすがに意気消沈する他無かった。

「寂しいのも分かるわ。だから大会が終わるまで、ここで護君と一緒に寝ていなさい。デュエル含む激しい運動はダメよ」

「は・・・はい・・・」

 落ちた。あの饒舌な事で有名な暮が、見事に言い包められたのだった。
 仕方ないといった感じで暮は、松葉杖を器用に動かしながら、ベッドに腰掛ける黒田先生の横にお邪魔する。
 元々保健室にいた3人も、鮎川先生の巧みな話術と鋭い怒りに唖然としている。
 数え切れない程の患者の世話をして来た歴戦の医師・鮎川恵美、恐るべしである。



『準決勝第2試合に出場する迫水新司と佐々木健吾の両名は、速やかにデュエルコートに集合するノーネ』

 テレビから、クロノス教諭の声が聞こえる。激戦が終わって間もないが、早くも第2試合の呼び出しがかかっているのだ。

「佐々木・・・コイツ、トーナメントに進んでいたのか」

 その呼び出しを聞いて、突如放たれた暮の言葉。それに護と宇宙、両名が反応する。

「・・・彼が、どうかしたのか?」

「何か、不味い事でもあったのか?」

 深刻な顔で2人に見つめられ、その威圧感にさすがの暮も面食らう。今日の暮はこんな役回りばかりだ。

「あ、あぁ。昨日、予選の終盤頃に・・・・・・・・・あんの野郎・・・・・・!」

 話している最中に1人で勝手に怒りに震える暮。その原因は、他の者には分からない。

「・・・まぁいい! 予選の終盤に海岸であんの憎き(・・・・・)明石栄一とデュエルした後だった。突如、森の方からアイツが現れたんだ」

 その時暮が感じた、威圧的な佐々木のオーラ。背筋が凍り付きそうだった。一瞬、目の前にいる男が人間だと感じ取れなかった程だ。

「あのデュエル馬鹿の明石栄一は何とも思わなかったみたいだが、横にいた友人らしき奴は、アイツの異変を感じ取っていたみたいだぜ?」

「・・・なるほど、貴重な情報をありがとう!」

 瞬間、護は暮に礼を言いつつ立ち上がり・・・

「すみません、ちょっと行って来ます!」

「っておい、護待て!」

 そのまま、ドアに向かって素早く足を進める。後ろから両肩を捕まれるのもお構いなしだ。

「護君、私の言った事忘れたの? 貴方の今一番の仕事は休むk・・・」

 机の上のカルテを整理し始めていたせいで護に背を向けていた鮎川先生は、反応が1テンポずれる。
 彼女が注意の言葉をかけつつ振り向いた時には、護の姿は既にその場にはなかった。

「もう、すっ飛んでいっちゃいましたけど・・・」

 暮の言葉が無情に響く。呆然とする鮎川先生。

「宇宙君、何で止めなかったの?」

「スミマセン、アイツの馬鹿力はオレでは到底敵わなくって・・・」

 そして怒りの矛先は、護の隣にいた宇宙に向けられるのだが・・・、正当な言い訳を並べられると二の句も出なくなってしまう。

「黒田先生は・・・!」

 今度は黒田先生の方へと振り向く鮎川先生。だが振り向いた先には、無残にも床にぶっ倒れている黒田先生の姿があった。右手の先が宙を彷徨うが如く痙攣している。
 大方、護を止めようとして右手で彼を掴んだものの、その護の圧倒的力に成す術無しに床に叩き付けられたのだろう。
 包帯を巻いている左手を庇えているのは、不幸中の幸いだろう。

「私・・・もうあの子を信用する事ができなくなっちゃったんだけど・・・」

「心配しないで下さい、鮎川先生。オレもです・・・」

 鮎川先生と宇宙の二重の監視も、全て水の泡である。
 大きな溜息のデュオが、保健室に響き渡った。















−デュエルコート、ゲート付近−

 辺りに響くその足音は、とても力強く聞こえた。勇ましく聞こえた。戸惑いの無い、綺麗なリズムを刻んでいた。
 友情の再確認。その握手を終え、コートを退場した栄一。その姿からは、もう迷いなど見て取れなかった。

「(・・・また、一緒に闘おう。『バスター』!)」

 全ては、まだ始まってもいなかった。
 恐怖を、そして葛藤を振り払い、今までの弱い自分を終わらせた。
 本当の自分を始める為に、前をしっかりと見据える。再び1歩を踏み出す。
 明石栄一と『バーニング・バスター』の新たな船出は、今、始まったばかり・・・。

「お疲れさん! まずは決勝進出おめでとう・・・ってところか?」

「・・・新司!」

 そしてそんな栄一を待ち構えていたのは、次の試合の出場者、新司であった。

「よく分かんないけど・・・吹っ切れたか?」

「・・・ああ!」

 新司も随分と心配していたのだ。光と明子のデュエルの最中にふらっと消えていったと思ったら、闘争心がまるで見られないまま宇宙に引き摺られてコートに参上したのが、次現れた時の姿であった栄一の事を。
 栄一の自信の篭った返事に新司は、安堵の溜息を1つつき、そしてまた口を開く。

「・・・決勝で、待っててくれよ。すぐ追いつくからな」

「ああ、待ってるぜ! ・・・相手は佐々木か。俺と同じレッドだから、本当は佐々木も応援したいんだけど・・・今回はお前を応援するよ」

「なんじゃそりゃ・・・?」

 栄一のどちらにも揺れるような言葉に、新司は苦笑いを浮かべるが・・・突如、真剣な表情になる栄一を見て、その顔は徐々に不安で染められていく。

「・・・栄一?」

 あまりに不安になった新司は、恐る恐る栄一へと声をかけた。

「・・・なんたって」

「・・・え?」

 口を開いた栄一。だが、聞き取り辛かったのか、新司は思わず耳を傾けてしまう。

「・・・なんたって、お前は、アカデミアで最初に出来た友達だからな!」

 放たれた言葉は、満面の笑みと共に。瞬間、新司はかつて感じた事が無い程に感極まる。目頭が熱くなる。友の待つ最後のステージに立ちたいと思う気が、より一層強くなる。

「・・・栄一、決勝で待ってろよ!」

「・・・おう!」

 ―――バシィ!

 ハイタッチを交わした後、栄一は彼方へと走り去って行った。友の勝ち上がる姿を、心から期待しながら。

「(・・・あの様子だと、さっきのデュエルで見せた佐々木の不気味さは知らない、か。準決勝前のあいつの姿を見たら、無理も無いがな)」

 新司の前に立ちはだかる男の恐ろしさは、何も知らないままに。















−ゲート、もう片側−

「はぁ〜、負けちゃった。取り合えず、これからどうしようかしら?」

 もう一方のゲートでは、光が佇んでいた。
 負けるなんて思っていなかった。この後の事など、全く考えていなかったのだ。

「栄一と一緒に次のデュエル見るのも癪だし・・・やっぱ女子連中の所に行くしかないかしらね〜」

 自らの晴れ姿を見届けていたであろう、寮の女仲間達。取り合えず行き先として思いつくのは、そんな彼女達が集まっている場所。
 だが女性というのは、男性話に敏感だ。光程の年齢の女性ともあれば、その傾向は特に増す。
 そんな女連中の固まっている場所に、たった今「度々一緒に行動している男」とのデュエルを終えた光が踏み込んだなら・・・それはステキな結末が待っているのは想像に難くない。

「絶対、五月蝿く言われ・・・!?」

 その時であった。突如、光をプレッシャーが襲った。脱力し切っていた体が、一瞬で強張った。
 先程、『ウルティメイト・バーニング・バスター』が降臨した際に感じた畏怖。例えていうならそれが近いか?
 ・・・いや、それともまた違う。

「(もっと、禍々しい感じ。不気味な感じ・・・!?)」

 瞬間、彼女の横を通り過ぎ、そのままコートの方へと向かって行く者・・・佐々木だ。
 光が感じた畏怖。それは、今も彼から放たれている威圧感が生み出しているものだった。

「(何・・・アイツ? あんなのが、アカデミアにいたっていうの?)」

 その場で立ち竦んでしまう。体の震えが止まらない。それは、佐々木の姿がゲートの向こうに消えるまで続いた。

「マズくない・・・? 何か、凄くマズい気がするんだけど・・・」

 と言いつつも、今の光に出来るのは「一刻も早く、この場から立ち去る。人気のある場所まで走る」という事だけであった。
 光の防衛本能が、無意識のうちに彼女の足を素早く動かしていた。




















「(ウーノよ・・・どういう事だ? このアカデミアの生徒の凄みの無さは。さっきやったブルーのデュエリストでもあの程度。我らの計画に支障をきたすレベルだぞ・・・?)」

 ゲートを潜り抜け、闘いの舞台に立つ佐々木・・・もといクアットロ。
 回想するは、今大会で行ってきた全てのデュエル。そのどれもが、クアットロを、そして彼らの野望を満足させるものではなかった。

「(このデュエルが、最後の判断となるな。幸い、このデュエルを終えれば、我らが『孤独な王(Lonely King)』とのデュエルとなる。チンクの言っていた弱みを克服した王が、どれほど強くなっているのか・・・それを、直に感じる事ができる)」

 彼の目の前でデッキのカットを行っている新司の姿など、殆ど眼中に無い。
 準決勝まで勝ち上がって来たという事に、若干の期待は残しているものの・・・これまでの対戦者の手ごたえの無さから、はっきり言って諦めの気持ちの方が遥かに強かった。
 既にクアットロ・佐々木の心構えは、決勝で待つ男、栄一の方へと向けられていた。



「(うーん。なんだコイツ、滅茶苦茶不気味なんですけど・・・。)」

 互いのデッキカットを終え、自らの位置につこうとする新司は、対峙する佐々木に対して恐怖を覚えていた。
 彼から放たれているのであろうプレッシャーが、背中越しでも良く分かる。

「(戦術もそうだが、このプレッシャーに負けていった連中も多いのかもな・・・。精神力の問われるデュエルになりそうだ)」

 5枚のカードを取る手が震えそうになる。
 厳しい闘いになる。そんな予感が、新司を襲っていた。

「ではこれヨーリ、準決勝第2試合、迫水新司vs佐々木健吾のデュエルを開始するノーネ!」

「「デュエル!」」

 観客席のクロノス教諭が右腕を高く挙げ、デュエルの開始を宣言する。
 同時に、決闘者2人の声がホールに響き渡った。

 ※なお、この先は特筆の無い限り、クアットロの表記は全て佐々木とする。

佐々木:LP4000
新司:LP4000






−観客席−

「お、いたいた! おーい!」

 デュエルが開始されたのとほぼ同時期、観客席に上がった栄一は、その目的の場所・・・レッド寮のルームメイト達が集まっている場所に辿り着いた。
 彼の呼び声に気付いた仲間達と順にハイタッチを繰り返しながら、栄一は空いていた一席に座した。

「で、佐々木のデュエルな訳なんだけど・・・どうなんだ、三橋?」

 ちょうど隣に座っているのは、佐々木と相部屋という事で彼との仲が特に良い三橋であった。
 軽い程度に考えてはいたものの、佐々木の変貌を昨日からあれだけ言われたら、さすがに気にならない訳にはいかない。

「あ、あぁ。さっきのデュエルと一緒だよ。なんか、凄く不気味なものを感じる」

 神妙に返答する三橋。しかし、その言葉の意味は栄一には伝わらなかったようだ。

「さっきのデュエル? 何の事?」

 栄一の間の抜けた言葉に、三橋は「え、見てないの?」と素っ頓狂な声を上げながら軽く崩れた。
 光と明子のデュエルの途中でホールから去った栄一にとっては当然の言葉なのであるが、そんな事情を三橋が知る訳も無いのもまた当然だ。

「・・・このデュエルを見とけば分かるよ」

 元気の無い言葉。だが、意味深げな言葉でもあった。
 三橋の言葉から何かを悟ったのか栄一は、彼の言葉に従い、大人しくデュエルを見る事とした。










「俺の先攻、ドロー。カードを2枚セットして、ターンエンド」

 先攻の佐々木のターンは、一瞬にして終わった。
 リバースカードが2枚、モンスターは召喚されず。
 決められていたかのようなカードが動き、それで終わり。
 あまりに単調な、先攻第1ターンであった。

佐々木LP4000
手札4枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンリバースカード2枚
新司LP4000
手札5枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンなし

「俺のターン、ドロー!」

 ドローしたカードを手札に加え、新司は一考する。
 真壁とのデュエルの際は、電光石火の如き速さで手札とデッキを回転させ、完全ソリティアで先攻1ターン目に決着を着けた佐々木。
 だが、同じく先攻を取ったこのデュエルの第1ターンは、やけに大人しい。
 その大人しさが、モンスターを召喚しない事と重なって佐々木をさらに不気味に仕立て上げているのだが。

「(攻撃をトリガーにして発動するカードか? ・・・何にしろ、邪魔なカードに間違いはない!)」

 結論を付けた新司は、手札から1枚のカードを抜き取り、そのままディスクに差し込んだ。
 瞬間、新司の目の前に、全てが巻き込まれるのかと思わせるような竜巻が発生する。

「『大嵐』発動! そのリバースカードを破壊させてもらう!」

 勇ましい新司の言葉。だが、それが叶う事はなかった。
 ・・・何かの束縛によって、次第に竜巻がその勢いを弱め、最後にはフィールドから消滅してしまったのである。

「手札1枚をコストに、カウンター(トラップ)『マジック・ジャマー』を発動」

マジック・ジャマー カウンター罠
手札を1枚捨てて発動する。魔法カードの発動を無効にし破壊する。

大嵐(おおあらし) 通常魔法
フィールド上に存在する魔法・罠カードを全て破壊する。

「いきなりそんなカードかよ・・・!」

 新司の問いかけにも、佐々木は答えない。無言を貫く。
 その佐々木の手札は、『マジック・ジャマー』によって1枚減した筈なのに、何故か増えている。
 そう。捨てられたカードの効果が、佐々木の手札が増えた原因である。

おジャマジック 通常魔法
このカードが手札またはフィールド上から墓地へ送られた時、
自分のデッキから「おジャマ・グリーン」「おジャマ・イエロー」
「おジャマ・ブラック」を1体ずつ手札に加える。

 しかし、『おジャマジック』の効果によって手札に加わるのは、全て攻撃力0の通常モンスター。手札の「補充」にはなるが、「補強」にはならない。

「(と言っても、1ターン目からの順調な手札増強には違いがないし、これはサッサと決めないとマズイかもだな・・・。モタモタしてたら真壁のように『全弾発射(フルバースト)』喰らうかもだし・・・)」

全弾発射(フルバースト) 通常罠
このカードの発動後、手札を全て墓地へ送る。
墓地に送ったカードの枚数×200ポイントダメージを相手ライフに与える。

 先ほどのデュエルと今の佐々木の行動を見て、新司は確信していた。
 佐々木は、多少「質」を落としてでも、その手札の「量」を有効利用して勝利する戦術を行っているのだと。

「『セイバーザウルス』を攻撃表示で召喚し、ダイレクトアタック!」

セイバーザウルス ☆4
地 恐竜族 通常 ATK1900 DEF500
おとなしい性格で有名な恐竜。大草原の小さな巣で
のんびりと過ごすのが好きという。怒ると怖い。

 全身に刃を備えた赤い恐竜『セイバーザウルス』が新司のフィールドに現れ、そのまま佐々木に向けて突進する。そして頭部の二本の角で、佐々木の腹部を一突き・・・。
 一瞬にして、佐々木のライフを半分近く削る事になった。

佐々木:LP4000→LP2100

「・・・オイオイ、手札にそんなモンスター隠してやがったのか」

 新司は驚きを隠せなかった。先手を取れたと喜んだ瞬間、佐々木のフィールドに突如、緑の体をした、2本足で立つ巨大なトカゲのようなモンスターが現れたから。
 そう、佐々木の手札に眠っていたモンスターの効果が発動したのである。

「1000ポイント以上のダメージを受けた時・・・手札の『精霊王ルクランバ』を特殊召喚する事ができる」

 落ち着いた口調で、現れたモンスターの効果を説明する佐々木。
 だがその言葉は、新司の問いかけと全く噛み合っていない。

精霊王(せいれいおう)ルクランバ ☆8(アニメDMオリジナル)
闇 爬虫類族 効果 ATK1000 DEF2000
自分が1000ポイント以上のダメージを受けた時に、
手札からこのカードを特殊召喚する事ができる。
表側表示のこのカードをリリースする事で、
攻撃力の合計が2000以下になるように、
自分の手札からモンスターを特殊召喚する事ができる。

「そのモンスターがいたからこそ、自分のターンでモンスターを召喚しなかったのか・・・? カードを1枚セットして、ターンエンドだ」

 新司のフィールドに、カードが伏せられる。この流れからして佐々木が使ってくるであろうカード。それを封じる為のカードである。

佐々木LP2100
手札5枚
モンスターゾーン精霊王ルクランバ(守備表示:DEF2000)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
新司LP4000
手札3枚
モンスターゾーンセイバーザウルス(攻撃表示:ATK1900)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚

「俺のターン。カードドロー」

 また静かに、カードをドローする佐々木。そしてその流れで、1枚のカードを墓地に送り、もう1枚をディスクに差し込む。

「手札1枚をコストに、『死者への手向け』を発動」

 佐々木の目の前に現れる、『死者への手向け』のカード。そしてそのカードから、何本もの細長く白い布が飛び出し、『セイバーザウルス』を襲おうとする。だが・・・

「やっぱり、その類のカードだったか! 速攻魔法発動、『クロス・シフト』! このカードの効果により、『セイバーザウルス』を手札に戻す!」

 そう。佐々木の行動を先読みした新司が伏せていたカード。それが、真価を発揮したのである。
 『死者への手向け』にチェーンされ発動された『クロス・シフト』。逆順処理によって先に『クロス・シフト』の効果で、『死者への手向け』の対象となった『セイバーザウルス』が新司の手札に舞い戻る。

「そして手札から、『暗黒ステゴ』を特殊召喚する!」

 新たに現れるは、背中に何枚もの骨板を生やした深緑色の恐竜『暗黒ステゴ』。そして『セイバーザウルス』がフィールド上から去った事によって、『死者への手向け』は対象不確定で不発。俗に言うリリーフ・エスケープである。

死者(ししゃ)への手向(たむ)け 通常魔法
手札を1枚捨て、フィールド上に存在するモンスター
1体を選択して発動する。選択したモンスターを破壊する。

クロス・シフト 速攻魔法(漫画Rオリジナル)
自分フィールド上に存在するモンスター1体を手札に戻し、
手札からレベル4のモンスター1体を特殊召喚する。

暗黒(ブラック)ステゴ ☆4
地 恐竜族 効果 ATK1200 DEF2000
このカードが相手モンスターの攻撃対象に選択された時、このカードは守備表示になる。

「・・・だが、今俺がコストで捨てたカードは・・・」

 そう言いつつ、佐々木は1枚のカードの正体を、新司へと見せつけた。

「また、そのカードかよ・・・」

 ・・・瞬間、佐々木の手札に、さらに3枚のカードが加わる。

おジャマジック 通常魔法
このカードが手札またはフィールド上から墓地へ送られた時、
自分のデッキから「おジャマ・グリーン」「おジャマ・イエロー」
「おジャマ・ブラック」を1体ずつ手札に加える。

「俺は、カードを1枚セットして、ターンエンドだ」

佐々木LP2100
手札6枚
モンスターゾーン精霊王ルクランバ(守備表示:DEF2000)
魔法・罠ゾーンリバースカード2枚
新司LP4000
手札3枚
モンスターゾーン暗黒ステゴ(守備表示:DEF2000)
魔法・罠ゾーンなし

 佐々木は、手札から1枚のカードをセット・・・事実上は取り除いた。すなわち・・・

「(これでアイツの手札に残っているのは『おジャマ・イエロー』『おジャマ・グリーン』『おジャマ・ブラック』の2セットのみ・・・。メリットは少ないが・・・)」

 しかし、今ドローしたカード・・・。それを有効活用し、後に繋げるのは早い方がいい。そう考えた新司は、2枚のカードを左手に持つ手札から抜き取り、ディスクへと差し込んだ。

「カードを1枚セット! そして魔法カード『ブラスティング・ヴェイン』を、今セットしたカードを破壊して発動! デッキから、カードを2枚ドローする!」

ブラスティング・ヴェイン 通常魔法(アニメGXオリジナル)
自分フィールド上にセットされた魔法・罠カード1枚を破壊する。
自分のデッキからカードを2枚ドローする。

「さらに、今コストとして破壊したのは、『呪われた棺』! この効果によってお前は、手札を1枚捨てるかフィールド上のモンスターを1体破壊するかを選ばなくてはならない!」

 そう。手札増強も勿論だが、これこそが新司の狙いだ。
 『ブラスティング・ヴェイン』の発動条件により、『呪われた棺』を暴発させる。それにより、相手の布陣を少しずつだが崩していくのだ。

 そして彼自身の手札の内容から、佐々木は「手札1枚をランダムに捨てる」効果を選ぶ。新司はそう思ったのだが・・・

「なら俺は・・・モンスター破壊効果を選ぶ」

「・・・何!?(そこまでして、手札に拘るのか!?)」

 意外な選択であった。新司の予想の斜め上を行く展開である。
 佐々木は、フィールドの『ルクランバ』を破壊する効果を選んだ。手札は全て攻撃力0の通常モンスターであるにも関わらず、である。

(のろ)われた(ひつぎ) 通常罠
セットされたこのカードが破壊され墓地へ送られた時、
相手は次の効果から1つを選択して行う。
●自分の手札を1枚ランダムに捨てる。
●自分のフィールド上モンスター1体を選択して破壊する。

 壁となるモンスターを消し去ってまで、手札を守った。という事は・・・

「(あの2枚のリバースカードが、よっぽど信頼できるカードって事か・・・。だが、状況的には俺が有利な筈なんだ。一気に行くぜ!)手札から『ジュラシックワールド』を発動!」

 火山が威風堂々に聳え立ち、草木の緑が輝かしい大地が、フィールドを支配する。新司のモンスター達のその力を120%発揮させる、まさしく恐竜の楽園である。
 新司のフィールドで構える『暗黒ステゴ』も、その恩恵を受け、力を上昇させる。

ジュラシックワールド フィールド魔法
フィールド上に表側表示で存在する恐竜族モンスターは
攻撃力と守備力が300ポイントアップする。

暗黒ステゴ:ATK1200→ATK1500 DEF2000→DEF2300

「さらに、俺はもう1度『セイバーザウルス』を攻撃表示で召喚! 『ジュラシックワールド』の効果で攻守共に300ポイントアップ! これで終わらせる!」

セイバーザウルス:ATK900→ATK2200 DEF500→DEF800

 新司のフィールドに再び現れた『セイバーザウルス』もまた楽園の恩恵を受けると、そのまま佐々木目掛けて突進を繰り出そうとする。
 だが、その瞬間、フィールドに突如1つのトーテムポールが現れ、強烈な音波を発生させる。
 新司も、観客席でデュエルを見届ける者達も皆手で両耳を防ぎ、その音波から逃れようとする。・・・1人を除いて。

「速攻魔法『コマンドサイレンサー』。攻撃を無効にし、俺はカードを1枚ドロー」

 佐々木だ。彼だけは、何事も起こらなかったかのような表情をしており、淡々とデュエルを進めて行く。

コマンドサイレンサー 速攻魔法(アニメDMオリジナル)
相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
相手モンスター1体の攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了する。
その後、自分はデッキからカードを1枚ドローする。

「攻撃を防ぎ、手札を増やす・・・。佐々木にとっちゃ最高のカードか・・・。ターンエンドだ」

佐々木LP2100
手札7枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
新司LP4000
手札2枚
モンスターゾーン暗黒ステゴ(守備表示:DEF2300)
セイバーザウルス(攻撃表示:ATK2200)
魔法・罠ゾーンなし
フィールド魔法ジュラシックワールド

「俺のターン。・・・やっと来たか」

 カードを引いた佐々木が、ゆっくりと言葉を放ち・・・引いたカードをそのままディスクへと差し込む。
 ・・・このターン、佐々木が何故壁を潰してまで手札を守ったのかを、新司は理解する事になる。

「魔法カード『手札抹殺』。これによりお互いに手札を全て捨て、捨てた枚数だけ新たにカードをドロー」

「捨てた枚数って・・・お前の手札は7枚!? 一気に14枚の手札交換かよ・・・」

手札抹殺(てふだまっさつ) 通常魔法
お互いの手札を全て捨て、それぞれ自分のデッキから捨てた枚数分のカードをドローする。

 新司は驚きながらも、発動されたカードの効果に従って、今持つ手札を墓地に送り、新たなカードを加える。佐々木もまた然り。
 ・・・瞬間、佐々木の墓地が光る。

「今捨てたカードの中には、『おジャマジック』があった。よって、新たな『おジャマ3兄弟』を手札に加える」

「な・・・いや、嘘だろ・・・。どこまで手札を増やすつもりなんだよ・・・」

 佐々木は三度、デッキから3枚のカードを探し出し、それらを手札に加えた。
 ここまでする佐々木の戦術に、戦慄する新司。・・・だが、まだこれで終わりではなかった。

「さらに俺は、トラップカード『堕天使の施し』を発動。お互いに、『手札抹殺』によって捨てたカードを再び手札に加える」

「・・・またかよ」

 お互いの墓地から、今し方捨てたばかりのカードが再び姿を見せる。
 新司は2枚。そして佐々木は、何と7枚・・・。

堕天使(だてんし)(ほどこ)し 通常罠(アニメDMオリジナル)
お互いのプレイヤーは、このターンに魔法カードの効果で
墓地に捨てたカードを手札に戻す事ができる。

「さらに、手札から『サンダー・ドラゴン』を捨てる事で、効果発動。デッキから2枚の『サンダー・ドラゴン』を手札に加える」

「いや・・・もういいだろ・・・」

 新司が嘆くように言葉を発する。しかしそれも他所に、佐々木はさらに新たな2枚のカードをデッキから手札に加える。
 言葉のキャッチボールが出来ていないこのデュエルを象徴しているような、現状況である。

サンダー・ドラゴン ☆5
光 雷族 効果 ATK1600 DEF1500
手札からこのカードを捨てる事で、デッキから別の「サンダー・ドラゴン」
を2枚まで手札に加える事ができる。その後デッキをシャッフルする。
この効果は自分のメインフェイズ中のみ使用する事ができる。

 扇状に広がる、佐々木の手札。それは、通常では考えられない程の多さ。その数何と・・・

「18枚・・・だと・・・!?」

 普通ではない数に、開いた口が塞がらない新司。うち11枚(『おジャマ・イエロー』『おジャマ・グリーン』『おジャマ・ブラック』3セットと、上級モンスターの『サンダー・ドラゴン』×2)は戦力になりうるか分からないカードと言えど、ここまでに増えた手札が発するプレッシャーは、やはり途轍もないものである。
 だがそれでも佐々木は無言で、手札から1枚のカードを取り出し、それをそっとディスクに置いた。

「『ファイヤー・トルーパー』を召喚。『ファイヤー・トルーパー』は、召喚に成功したこのカードを墓地へ送る事で、相手ライフに1000ポイントのダメージを与える」

 佐々木のフィールドに現れた、顔と両拳に炎を灯した戦士は、すぐさまフィールドから姿を消してしまう。だがそれにより、新司は1000ポイントのダメージを受ける結果となった。

ファイヤー・トルーパー ☆3
炎 戦士族 効果 ATK1000 DEF1000
このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時、
このカードを墓地に送る事で、相手ライフに1000ポイントダメージを与える。

新司:LP4000→LP3000

「カードを3枚セット。そして俺は、このカードを発動する」

 その言葉と共に、佐々木は手札から1枚のカードを捨て、さらに2枚のカードをディスクに差し込む。

「手札1枚をコストに、速攻魔法『トラップ・ブースター』を発動。この効果により俺は、手札からトラップカードを発動できる。俺が発動するのは『全弾発射(フルバースト)』・・・。俺の手札は11枚。よって2200ポイントのダメージを受けてもらう」

「くっ・・・遂に来たか!」

 『トラップ・ブースター』によって発動された、通常は手札から発動される筈の無いトラップカードは、新司が危惧していた火力のカードそのものであった。勿論、新司の顔は歪む。そして同時に、佐々木が手に持つ11枚のカードそれぞれが、発動された『全弾発射(フルバースト)』のカードに吸い込まれて行き、計11発のミサイルとなって新司を襲う。

トラップ・ブースター 速攻魔法(アニメGXオリジナル)
手札を1枚捨てる。手札から罠カード1枚を発動する事ができる。

全弾発射(フルバースト) 通常罠
このカードの発動後、手札を全て墓地へ送る。
墓地に送ったカードの枚数×200ポイントダメージを相手ライフに与える。

新司:LP3000→LP800

「大ダメージは受けたが・・・だが、これでお前の手札h」

「リバースカードオープン。『貪欲な壺』」

「・・・そう上手く行くわけ、ないよな・・・」

 安堵の言葉を放とうとした瞬間に、それを阻まれた新司。当然、嘆きの言葉が出る。
 それを見ても佐々木は、無表情でカードの効果処理を進める。

「『おジャマ・イエロー』2枚、同じく『グリーン』を2枚、『ブラック』1枚をデッキに戻してシャッフル。そして2枚ドロー」

貪欲(どんよく)(つぼ) 通常魔法
自分の墓地に存在するモンスター5体を選択し、
デッキに加えてシャッフルする。
その後、自分のデッキからカードを2枚ドローする。

「・・・さらに、お前のカードを利用させてもらうよ」

 カード効果の処理以外では殆ど口を開かなかった佐々木が、ここで新司に話しかける。
 そして新司の驚きもやはり他所に、『貪欲な壺』の効果によって手札に加えられた内の1枚に手をかけ、それをディスクに差し込む。

「魔法カード『蜘蛛の糸』を発動。前のターンにお前の墓地に送られたカード1枚を俺の手札に加える。俺が選ぶのは勿論、『ブラスティング・ヴェイン』だ」

「・・・何!?」

 瞬間、新司の墓地が光り、1枚のカード・・・『ブラスティング・ヴェイン』がその姿を見せる。
 新司は、悔しそうな顔をしながらもそれを右手に取り、佐々木の目の前まで向かってそれを手渡した。

蜘蛛(くも)(いと) 通常魔法(アニメDMオリジナル)
1ターン前に相手の墓地に送られたカード1枚を自分の手札に加える事ができる。

「お前は『手札抹殺』で墓地へ送った『おジャマジック』を、『堕天使の施し』で手札に戻している。そしてさっきの『全弾発射(フルバースト)』の効果で捨てた手札の枚数から考えても、お前は間違いなくそれをセットしている・・・。という事は・・・」

 新司の頭の中で、負のスパイラルが構成されていく・・・。

「魔法カード『ブラスティング・ヴェイン』発動。俺のフィールド上にセットされたカード1枚を破壊し、デッキから2枚ドロー・・・。そして破壊したカードは・・・」

『ブラスティング・ヴェイン』によって破壊されたカード:『おジャマジック』

「・・・いい加減にしろよ」

 新司が、両手で頭を抱えながら嘆く。
 18枚という常識外れの数から、一気に0までになった手札を、また一瞬にして6枚にまで回復させてしまったのだ。

「さらに、手札から『デュアル・ゲート』を発動。『トラップ・ブースター』のコストで墓地へ送っていた『デュアル・ゲート』とこのカードを除外し、2枚ドロー」

 だが、それでもまだ中間点である。絶望への門は、まだ開かれたばかりであった。

デュアル・ゲート 通常魔法(アニメGXオリジナル)
このカードと墓地にある同名カード1枚をゲームから除外する。
自分のデッキからカードを2枚ドローする。

「ドローした『暗黒界の取引』を発動。お互いに1枚ドローし、手札から1枚捨てる」

 開いた門の先で待っていたのは、悪魔の取引。ただ佐々木のソリティアに付き合っているだけの筈なのだが、新司はこの上ない疲労を感じていた。

暗黒界(あんこくかい)取引(とりひき) 通常魔法
お互いのプレイヤーはデッキからカードを1枚ドローし、
その後手札からカードを1枚捨てる。

「・・・そろそろ行くか。墓地の『サドゥン・フュージョン』を取り除き、その効果を発動。墓地の『サンダー・ドラゴン』2体を除外し、融合する・・・」

 そう言うと佐々木は、墓地から3枚のカード・・・『サドゥン・フュージョン』と、2枚の『サンダー・ドラゴン』のカードを取り出し、ズボンのポケットへと仕舞う。
 すると、突如フィールドに現れた2体の『サンダー・ドラゴン』が、周りに電撃を放ちながらその体を巻き付け合い・・・辺りにいる者全員の目を眩ます程に光る。

「『双頭(そうとう)雷龍(サンダー・ドラゴン)』、融合召喚」

 その光が治まったフィールドに佇んでいたのは、通常の口の他に背中近くにも口を持ち、4本足で歩くピンクの体をした雷龍の進化形態、『双頭(そうとう)雷龍(サンダー・ドラゴン)』であった。

双頭(そうとう)雷龍(サンダー・ドラゴン) ☆7
光 雷族 融合 ATK2800 DEF2100
「サンダー・ドラゴン」+「サンダー・ドラゴン」

サドゥン・フュージョン 通常魔法(オリジナル)
自分の墓地に存在するこのカードをゲームから除外する事で発動する。
自分の手札または墓地から、融合モンスターカードによって決められた
融合素材モンスターをゲームから除外し、その融合モンスター1体を
融合召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する。

「『サドゥン・フュージョン』・・・。『暗黒界の取引』で捨てていたのか」

「・・・。『双頭の雷龍』で、『セイバーザウルス』を攻撃」

 またもや新司の言葉を無視して、佐々木は『双頭の雷龍』の攻撃宣言を行う。
 その宣言に応えた『双頭の雷龍』は、自身の鼻の近くに生えた長い角から強烈な雷を、新司のフィールドの『セイバーザウルス』へと放ち、それを一瞬にして黒こげの物体へと変えてしまった。

新司:LP800→LP200

「カードを1枚セットして、ターンエンドだ」

 時間をタップリ使って、佐々木のターンはようやく終焉を見せた。
 だが、あれだけ目まぐるしいプレイを見せながら、佐々木の手札は事実上ターン開始時の半分も減っていない。加えて高攻撃力のモンスター『双頭の雷龍』まで傘下に置き、ライフも差をつけられている。
 新司が不利な状況に陥っているのは、傍から見ても明確であった。

佐々木LP2100
手札5枚
モンスターゾーン双頭の雷龍(攻撃表示:ATK2800)
魔法・罠ゾーンリバースカード2枚
新司LP200
手札4枚
モンスターゾーン暗黒ステゴ(守備表示:DEF2300)
魔法・罠ゾーンなし
フィールド魔法ジュラシックワールド



第32話 −太古と未来 疾風と迅雷−

「・・・」

 観客席の入場口付近で、1人でデュエルを見つめる男・・・護。
 保健室を勝手に抜け出して以来、ずっとここでデュエルを見続けていた。
 そんな護の後ろから・・・彼の良く知る気配が漂う。

「やっと見つけた。鮎川先生が不動明王と化していたぞ」

 護が振り向いた先には、呆れ果てた顔を見せる親友の姿があった。

「宇宙か。大丈夫、怒られるのには慣れている・・・筈だから」

「・・・そういう問題じゃねぇよ」

 全く、友人関係とはこういうものなのか。溜息をつきながら、宇宙はそう思っていた。
 最も、兄貴分な性格上、余計に心配してしまうのかもしれないが。

「で、どうなんだ? お目当てちゃんは?」

「・・・デュエルが終わったら、ね」

「・・・りょーかい」

 一を聞いて十を知る。2年間で築き上げてきた信頼関係の賜物である。
 軽く返事をした後、宇宙もまたデュエルの方へと目を向けた。

「終わったら、保健室にしょっ引くからな」

「ハイハイ」

 鮎川先生から与えられた「任務」の事も、しっかり忘れていなかった。





−観客席、別地点−

「(・・・やっぱり、只者じゃない。あんなデュエリストが、このアカデミアにいたの?)」

 先程から戦慄が続いている光。佐々木とすれ違った際に感じた恐怖が嘘ではない事が、ここまでのデュエル展開で証明されていた。

「(新司・・・勝ちなさいよ)」

 既に敗者の身。もどかしさを当然感じているが、それでも今の彼女に出来るのは、新司の必勝を祈願する事だけであった。

「で、で、結局明石君とはどういった間なの?」

「だぁかぁらぁ、勿論アレな関係に決まってるでしょ! で、どこまで進んでるの?」

「「「キャー!」」」

「・・・」

「「「ノリ悪ーい」」」

 未だに周りで喚いている女子連中の言葉など、とっくの昔に右から左であった。










−デュエルコート−

「やっと俺のターンか・・・。カードドロー!」

 長い佐々木のターンをやり過ごし、草臥れた感じで新司はカードをドローする。
 しかし、息つく暇も無いとはこの事か。地雷とも呼べる罠を、佐々木は伏せていたのだ。

「この瞬間、伏せていた『リビングデッドの呼び声』を発動する」

リビングデッドの()(ごえ) 永続罠
自分の墓地からモンスター1体を選択し、攻撃表示で特殊召喚する。
このカードがフィールド上に存在しなくなった時、そのモンスターを破壊する。
そのモンスターが破壊された時このカードを破壊する。

「(『リビングデッド』!? ・・・ヤバい、マジでヤバいよ!)」

 墓地のモンスターを蘇生させるトラップカード『リビングデッドの呼び声』。他の蘇生系カードと比べると速効性で劣るものの、奇襲戦術を行う時にはそれらのカードを上回る性能を発揮する事もある。そして今の新司にとっては、最後通告を渡されているに相応しいカードでもあった。
 佐々木の墓地には、フィールドに現れると同時に、その身をコストに相手に1000ポイントのダメージを与える『ファイヤー・トルーパー』が眠っている。それを蘇生されれば、新司の敗北はほぼ決定付けられるようなものなのだ。
 そしてターン開始時の新司の4枚の手札には、蘇生を妨害出来るカードは無い。残された可能性は・・・

「(ドローカードのみ・・・・・・!)」

 である。
 恐る恐るカードを確認する新司。しかしそれは、今の新司にとって最高の結果を与える。

「(このカードをカウンターされれば、俺にもう手は無い!)」

 一瞬のタイミング。佐々木が『ファイヤー・トルーパー』のカードを墓地から取り出すより早く、新司はドローカードをそのまま墓地へと捨てる。

「蘇れ、『ファイヤー・トr』」

「『D.D.クロウ』だ! 『ファイヤー・トルーパー』を除外!」

「!?」

(ディー).(ディー).クロウ ☆1
闇 鳥獣族 効果 ATK100 DEF100
このカードを手札から墓地へ捨てて発動する。
相手の墓地に存在するカード1枚を選択し、ゲームから除外する。
この効果は相手ターンでも発動する事ができる。

 命の炎は、再び灯らなかった。佐々木からのカウンターが無かった為、『D.D.クロウ』の効果が見事に発揮されたのだ。
 僅かの差で、『ファイヤー・トルーパー』はゲームから取り除かれたのだった。

「(危なかった・・・。いつも栄一と一緒にいるから、アイツのツキを貰えたのかな?)」

 冗談めいた事を考えながら、新司は一息つく。
 そして、佐々木のフィールドで全身に電撃を走らせる『双頭の雷龍』の姿を、しっかりと見据えた。

「(じゃあ次は、『双頭の雷龍』だな)『暗黒ステゴ』をリリースし、『フロストザウルス』を攻撃表示で召喚する!」

 現れたのは、全身氷づけの巨大な首長恐竜『フロストザウルス』。効果こそ持たないが、その攻撃力は計り知れないものがある。
 そしてこの恐竜もまた、楽園『ジュラシックワールド』の恩恵を受けて、その能力を向上させる。それは、一瞬にして『双頭の雷龍』の攻撃力を超える。逆転への第一歩だ。

フロストザウルス ☆6
水 恐竜族 通常 ATK2600 DEF1700
鈍い神経と感性のお陰で、氷づけになりつつも氷河期を
乗り越える脅威の生命力を持つ。寒さには滅法強いぞ。

フロストザウルス:ATK2600→ATK2900 DEF1700→DEF2000

「バトルフェイズ! 『フロストザウルス』で、『双頭の雷龍』を・・・・・・・・・!?」

 しかし、その逆転の芽もまた幻だったのか、攻撃を通すどころか、その命令すら届く事は無かった。
 新司の命令を阻む強烈な音波が、再びホール内に響き始める。その音波を拒むような表情をしながら耳を押さえる新司の先には、そう、先程も現れ、これと同じ音波を発していたトーテムポールの姿があった。

「速攻魔法『コマンドサイレンサー』。相手の攻撃宣言を無効にして、カードを1枚ドロー」

「・・・またドローか。俺はカードを1枚セットして、ターンエンドだ」

佐々木LP2100
手札6枚
モンスターゾーン双頭の雷龍(攻撃表示:ATK2800)
魔法・罠ゾーンリビングデッドの呼び声
新司LP200
手札2枚
モンスターゾーンフロストザウルス(攻撃表示:ATK2900)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
フィールド魔法ジュラシックワールド

「俺のターン・・・ドロー」

 また機械的に、カードをドローする佐々木。無表情だ。
 だが、新司は今、確かに感じ取った。先程までとは違う、佐々木から発せられるオーラを。
 「このターンで終わらせてやる」。先程までは感じなかった、そんなオーラ。
 新司は恐怖した。自然と、体を強張らせていた。

「『死者蘇生』を発動する。その効果により、『精霊王ルクランバ』を復活させる」

死者蘇生(ししゃそせい) 通常魔法
自分または相手の墓地に存在するモンスター1体を選択して発動する。
選択したモンスターを自分フィールド上に特殊召喚する。

 トカゲのモンスター『精霊王ルクランバ』が蘇る。既に『ファイヤー・トルーパー』が除外されているのは、新司にとっては不幸中の幸いだろう。

「・・・何をする気だ?」

 新司は、佐々木にそう問いかけた。そして、その問いに対する佐々木の返事は・・・・・・

「・・・こうするのさ。『ルクランバ』をリリースする事で、その効果を発動する」

 絶望を呼ぶ、風神と雷神の召喚宣言であった。

「攻撃力の合計が2000以下になるように、俺は手札からモンスターを特殊召喚する事ができる。俺が選ぶのは、この3体だ」

 瞬間、『ルクランバ』がフィールドから消え去り、代わってそれぞれ黄・緑・黒の体色をした、得体の知れない姿の3体のモンスターが現れた。

おジャマ・イエロー ☆2
光 獣族 通常 ATK0 DEF1000
あらゆる手段を使ってジャマをすると言われているおジャマトリオの一員。
三人揃うと何かが起こると言われている。

おジャマ・グリーン ☆2
光 獣族 通常 ATK0 DEF1000
あらゆる手段を使ってジャマをすると言われているおジャマトリオの一員。
三人揃うと何かが起こると言われている。

おジャマ・ブラック ☆2
光 獣族 通常 ATK0 DEF1000
あらゆる手段を使ってジャマをすると言われているおジャマトリオの一員。
三人揃うと何かが起こると言われている。

「・・・やるな」

 この言葉は、新司のものでは無い。佐々木のものである。
 佐々木が、このデュエル中初めてだろうか、相手を感心する声を上げたのだ。
 何故なら・・・何時の間にか新司のフィールドに、その体が機械で造られた巨大な恐竜が現れていたのだから。

「お前が『ルクランバ』の効果で手札からモンスターを召喚したのに連動して、『サイバー・ダイナソー』を手札から特殊召喚させてもらった。勿論守備表示だ」

サイバー・ダイナソー ☆7
光 機械族 効果 ATK2500 DEF1900
相手が手札からモンスターを特殊召喚した時、
手札からこのカードを特殊召喚する事ができる。

 だが、「勿論」守備表示である。何故なら、『サイバー・ダイナソー』は機械で造られた、人工の恐竜。故に自然の産物である恐竜の楽園、『ジュラシック・ワールド』の恩恵を受ける事ができない為、『双頭の雷龍』に攻撃力で勝る事ができないのだ。

「余計な邪魔が入ったか。だが・・・これで終わりだ」

 佐々木が、再び言葉を発する。低い、ドスの効いた声を。
 続けて彼は、手札から1枚のカードを抜き取り、それをデュエルディスクへと差し込んだ。

「『おジャマ・デルタサンダー!!』を発動」

 佐々木のフィールドにいる3体のモンスターが、佐々木の言葉と共に飛び上がり、それぞれの手足を繋ぎ合わせて組み体操のように空中で構える。その3体の中心が、三角形の形を司っている。

「これは、俺のフィールドに『おジャマ・イエロー』『グリーン』『ブラック』が存在する時に発動可能な魔法。その力は、相手の手札とフィールド上のカード1枚につき、相手に500ポイントのダメージを与える」

「俺の手札とフィールドにはカードが5枚ある。という事は・・・2500ダメージ!?」

 宙に静止した3体から強力な電流が流れ、新司を襲う。

「待て待て待て、ここで負けられるか! 『ピケルの魔法陣』! このターンに俺が受ける効果ダメージを全て0にする!」

ピケルの魔法陣(まほうじん) 通常罠
このターンのエンドフェイズまで、
このカードのコントローラーへのカードの効果によるダメージは0になる。

 刹那の差であった。新司に直撃するギリギリのタイミングで、魔法陣の効果によって雷は消え去った。

「・・・何とか繋いだ。だけど、確か『デルタサンダー』には続きの効果があったよな?」

 『おジャマ・デルタサンダー!!』の、恐るべき効果。新司はそれを、既に知っていた。
 雷神(サンダー)の次は、風神(ハリケーン)が新司を襲うのである。

「その通り。『おジャマ・デルタサンダー!!』には続きの効果がある。デッキまたは手札から『おジャマ・デルタハリケーン!!』を墓地へ送る事で、お前のフィールドのカードを全て破壊する。デッキの『デルタハリケーン』を墓地へ送り、その効果を発動する」

 墓地に送られた『嵐』のカードと同調し、宙に浮かぶ3体の『おジャマ』が、手を繋ぎ直して・・・その体を回転させていく。
 その回転が生み出す暴風は、2体の恐竜を吹き飛ばし、恐竜の楽園を2度と再建できない程までに破壊した。

おジャマ・デルタサンダー!! 通常魔法(アニメGXオリジナル)
自分フィールド上に「おジャマ・グリーン」「おジャマ・イエロー」
「おジャマ・ブラック」が表側表示で存在する場合に発動する事ができる。
相手の手札とフィールド上のカード1枚につき、500ポイントのダメージを
相手ライフに与える。さらに、デッキまたは手札から「おジャマ・デルタハリケーン!!」
を墓地へ送る事で、相手フィールド上に存在するカードを全て破壊する。

おジャマ・デルタハリケーン!! 通常魔法
自分フィールド上に「おジャマ・グリーン」「おジャマ・イエロー」
「おジャマ・ブラック」が表側表示で存在する場合に発動する事ができる。
相手フィールド上に存在するカードを全て破壊する。

 『雷』と『嵐』による蹂躙、その被害は大きい。新司に残されたのは、1枚の手札のみだ。

「『双頭の雷龍』で攻撃。これで終わりだ」

「くっ!」

 雷鳴。再び、怒号がフィールドに鳴り響く。
 『双頭の雷龍』の角から放たれた雷が、新司を襲う・・・



「クリクリ〜」

「何!?」

 筈だった。しかしその雷は、一瞬の駆け引きによってかき消された。
 新司のフィールドに現れた幾体もの可愛らしい悪魔が、壁となり雷から新司を守り抜いたのだ。

クリボー ☆1
闇 悪魔族 効果 ATK300 DEF200
相手ターンの戦闘ダメージ計算時、このカードを手札から捨てて発動する。
その戦闘によって発生するコントローラーへの戦闘ダメージは0になる。

「ふぅ〜。最近、このカード使う奴多いよなぁ」

 冗談を言えるだけ、新司には案外まだ余裕が・・・・・・あるわけなかった。ただの強がりである。
 実際は疲労困憊も同然。寒いホールで汗をびっしょりとかいているのがいい証拠だ。
 今の『クリボー』による防御によって、フィールドも手札も何も無くなってしまった。はっきり言って状況は最悪である。
 佐々木もそれが分かっているのであろう。攻撃が通らないと分かるや否や、手札を2枚とも伏せて、さっさとターンを終了させてしまった。

佐々木LP2100
手札0枚
モンスターゾーン双頭の雷龍(攻撃表示:ATK2800)
おジャマ・イエロー(守備表示:DEF1000)
おジャマ・グリーン(守備表示:DEF1000)
おジャマ・ブラック(守備表示:DEF1000)
魔法・罠ゾーンリバースカード2枚
リビングデッドの呼び声
新司LP200
手札0枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンなし





−観客席−

「・・・凄ぇ。佐々木って、あんなに強かったか?」

 驚嘆の声を上げるは栄一。他の皆と違い、この大会で佐々木のデュエルを見るのは初めてな栄一は、驚きの新鮮さがまた人一倍なのだ。

「・・・で、何か気付いた事はないか?」

「気付いたって、何が?」

 突如、三橋が声をかけてきたが、栄一にはその意味が分からない。
 このデュエルにただ一直線に集中していた為、別の視点から見る、という事が栄一には出来ていないのだ。

「・・・お前がデュエルした事のある佐々木を思い出してみろ。アイツは『おジャマ』とか『サンダー・ドラゴン』とか使って、デッキをぐるぐる回すタイプのデュエリストだったか?」

「・・・!? そういえば、アイツとのデュエルはいつも、モンスター召喚し合ってバトル・・・だったような」

 今までを回想する。確かに、佐々木がこれ程技巧なデュエルを見せた事など、1度も無かった。

「・・・だろ? そういう事だよ」

「けど、デッキを変えたって事は・・・」

「プレイングも簡単に変えれるか?」

「・・・それも、確かに」

 そう言われると、どこか不安になってしまう。
 栄一は、この不安がただ杞憂であってほしいと、心から願うのであった。










−デュエルコート−

「さて、頼むぜ俺のデッキ。ドロー!」

 新司は、軽い態度で願掛けをして、切羽詰っている自分を少しでも隠そうとする。無駄だと分かっていても、そうするしかない。ネガティブ思考な者に、勝利の女神は微笑まないから。

「(・・・といっても、このカードは出来すぎじゃないか?)『逆転の宝札』、発動!」

 友の待つ決勝の舞台、そこに自分も立ちたい。その思いは、新司に再び望みのカードを与える。
 大量の手札を与えるドローカード。その名の通り、「逆転」への布石。

逆転(ぎゃくてん)宝札(ほうさつ) 通常魔法(アニメGXオリジナル)
自分フィールド上にカードが存在せず、手札がこのカード1枚だけの場合のみ発動する事ができる。
相手フィールド上に表側表示で存在するカード1枚につき、自分はデッキからカードを1枚ドローする。

「その効果により、カードを5枚ドローする!」

 ここで、不発になった場合、フィールドに意味無く残る『リビングデッドの呼び声』が、佐々木にとってまさしく邪魔な存在となる。
 表側表示で残っている為、『逆転の宝札』の効果対象にカウントされてしまうのだ。

「(さて、どうするか・・・)」

 5枚の手札を見据え、今出来る最善の策を練る。
 古代の恐竜のパワーに、新司の知恵と戦術が組み合わさる。

「『浅すぎた墓穴』! これにより、墓地の『フロストザウルス』をフィールドにセットする!」

「なら俺は、『ルクランバ』をセットする」

(あさ)すぎた墓穴(はかあな) 通常魔法
お互いはそれぞれの墓地に存在するモンスターを1体選択し、
それぞれのフィールド上に裏側守備表示でセットする。

 お互いのフィールドに、モンスターが1体ずつ増える。
 反撃の下準備の代償に、佐々木の戦力も増強させてしまった。
 だが、今新司の手札に眠るモンスター。そのモンスターの前には・・・

「(モンスターの1体や2体、関係ない!)『フロストザウルス』をリリースして、『大進化薬』を発動!」

 力を追い求めた恐竜が、さらなる進化を望む。そしてその希望を叶える夢のような薬。
 新司の手札に眠る、強大な力を持った恐竜が、今ここに降臨する。

「俺がこのターン呼び寄せるのはコイツだ! 『究極恐獣(アルティメットティラノ)』!」

 ―ズン!といった擬音が聞こえそうな、荒々しい登場。その力に相応しい登場の仕方とも言えるか。
 黒く光る鎧を纏った、巨大な体。鋭い目つきが、敵を捉える。その力強い顎は、すべてを噛み砕いてしまうだろう。
 強大な「力」の登場に、『双頭の雷龍』ですら後ずさりし、『おジャマ』に至っては3匹で体を寄せ合って怯えている。この場の全てが、この恐獣に威圧される。

究極恐獣(アルティメットティラノ) ☆8
地 恐竜族 効果 ATK3000 DEF2200
自分のバトルフェイズ開始時にこのカードがフィールド上に表側表示で存在する場合、
このカードから攻撃を行い、相手フィールド上に存在する全てのモンスターに1回ずつ
続けて攻撃しなければならない。

大進化薬(だいしんかやく) 通常魔法
自分フィールド上に存在する恐竜族モンスター1体をリリースして発動する。
このカードは発動後、相手のターンで数えて3ターンの間フィールド上に残り続ける。
このカードがフィールド上に存在する限り、レベル5以上の恐竜族モンスターを
リリースなしで召喚する事ができる。

「『究極恐獣(アルティメットティラノ)』は全てのモンスターに攻撃しなければならない! 『アブソリュート・バイト』!」

 そう。全てを噛み砕く『究極恐獣』の前では、いくらモンスターが増えようと意味が無い。幸い、佐々木のリバースカードも攻撃を妨害するものではないようだ。
 『究極恐獣』は1度高らかに咆哮した後、佐々木のフィールドのモンスターを、その口で次々と噛み砕いていった。

佐々木:LP2100→LP1900

「・・・『双頭の雷龍』が戦闘破壊された事によって、伏せていた『融合の恩恵(フェーバー・オブ・フュージョン)』を発動。『双頭の雷龍』の融合素材は2体。よって2枚ドローする」

 機械的に、佐々木はカードをドローする。
 四方八方から、『究極恐獣』の暴走に対する恐怖の声が聞こえるが、自らを守るモンスターを破壊された筈の佐々木自身は、それもどこ吹く風のようだ。

融合の恩恵(フェーバー・オブ・フュージョン) 通常罠(オリジナル)
自分フィールド上の融合モンスターが戦闘によって破壊された時に発動する事ができる。
その融合モンスターの融合召喚に使用した融合素材モンスターの数だけ、
自分はデッキからカードをドローする。

「・・・カードを1枚セットして、ターンエンドだ」

 ムッと顔を顰めつつ、新司はターンを終えた。
 調子に乗るつもりは無いが、それでも何の反応も示さない佐々木の態度が気に食わなかったようだ。

佐々木LP1900
手札2枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
リビングデッドの呼び声
新司LP200
手札1枚
モンスターゾーン究極恐獣(攻撃表示:ATK3000)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
大進化薬(残り3ターン)

 闘いもいよいよ終盤。 この佐々木のターンこそ勝負の分かれ目と、ホール内の誰もがそう感じていた。

「俺のターン。ここで伏せていたカード、『補充要員』を発動。『おジャマ』3体を手札に加える」

補充要員(ほじゅうよういん) 通常罠
自分の墓地にモンスターが5体以上存在する場合に発動する事ができる。
自分の墓地に存在する効果モンスター以外の
攻撃力1500以下のモンスターを3体まで手札に加える。

「また、手札補充か。今度は何をs」

 ―バキューン!

 その瞬間であった。新司は口を開けたまま、目の前の光景を疑った。
 佐々木が手札を増やしたと思ったら、いきなり銃声が聞こえた。そして、全てを噛み砕く破壊の恐竜『究極恐獣』の姿が、一瞬のうちにフィールドから消えた。

「一体、何が起き・・・!?」

 混乱する新司の目に映るは、機械で出来たハンドガンを彼に向けて構える、1体の黒い悪魔。
 体も小さく、姿からしても未熟そうな第一印象であったが、その実は、たられば要素がありつつも捉えた相手は確実に死に送る殺し屋であった。

スナイプストーカー ☆4
闇 悪魔族 効果 ATK1500 DEF600
手札を1枚捨て、フィールド上に存在するカード1枚を選択して発動する。
サイコロを1回振り、1・6以外が出た場合、選択したカードを破壊する。

「ランダム要素がある『スナイプストーカー』なのに・・・こうも簡単n」

 ―バキューン!

 まさしく悪魔。問答無用でしとめる殺し屋。新司が喋り終える前に、『スナイプストーカー』は新司のリバースカードに向けて銃を撃っていた。

「・・・ってちょっと待て! 勝手に俺が優先権を放棄した事にするな! 伏せていたのは『生存本能』だ!」

生存本能(せいぞんほんのう) 通常罠
自分の墓地に存在する恐竜族モンスターを任意の枚数選択しゲームから除外する。
除外した恐竜族モンスター1枚につき、自分は400ライフポイント回復する。

除外された恐竜族:
『セイバーザウルス』
『暗黒ステゴ』
『フロストザウルス』
『究極恐獣』

新司:LP200→LP1800

 フリーチェーンのカードなら、『スナイプストーカー』によって破壊される前に効果を発動できる。結果、佐々木は手札1枚を無駄にする事となった。
 だが、佐々木の表情からは、無駄撃ちに終わった悔しさは微塵も感じ取る事が出来ない。
 コストとして捨てられたカードが、現状況では殆ど役に立たない『おジャマ』のカードだから・・・という訳ではなさそうだ。
 ただただ機械的にプレイし、単に『スナイプストーカー』の効果が不発に終わっただけ・・・といった感じ。それだけだった。
 そして佐々木は、最後の『おジャマ』のカードを、また機械的に墓地へと捨て、『スナイプストーカー』の効果を発動する。

 ―バキューン!

「・・・やけに簡単に決めるなぁ」

 最早、ランダム要素など関係無かった。1/3の確率で外れる・・・という話が嘘みたいに、それはあっさりと『大進化薬』のカードを撃ち抜いていた。

 ―バキューン!

「っておい!」

 そして、新司の体もまたあっさりと。
 いや、そもそもデュエルモンスターズの戦闘にはランダム要素など無いのだが・・・それでも、それでも『スナイプストーカー』の銃撃は、あっさりと新司の体を打ち抜いていたのだった。

新司:LP1800→LP300

「カードを2枚セットして、ターンエンドだ」

佐々木LP1900
手札0枚
モンスターゾーンスナイプストーカー(攻撃表示:ATK1500)
魔法・罠ゾーンリバースカード2枚
リビングデッドの呼び声
新司LP300
手札1枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンなし

「(さぁてどうする? 俺の手札はこのモンスターだけだが・・・)」

機動恐獣(モビルティラノ) ☆8(オリジナル)
地 恐竜族 効果 ATK3400 DEF2600
???

 新司は、残った1枚の手札を見つめる。
 本来なら、このターンに『大進化薬』の効果を使って呼び出す手筈だったのだが、それも今や不可能な話。
 攻撃力だけならこのカードの方が上なのだが、制圧力では『究極恐獣』に劣る。故に先程は召喚候補から落選したのだが・・・。

「俺の、ターン!」

 だがこのデュエル、新司は要所要所で必要なカードを引き当てている。
 栄一からツキを貰っている、と冗談めいていたが、あながち間違いでは無いのかもしれない。
 デュエル前に栄一と交わした約束とハイタッチが、新司に力を与えている・・・そう考えるのも、馬鹿げた話では無いのかもしれない。

「・・・『トレード・イン』! 手札のレベル8モンスターをコストに、カードを2枚ドロー!」

トレード・イン 通常魔法
手札からレベル8のモンスターカードを1枚捨てる。
自分のデッキからカードを2枚ドローする。

 そしてこの局面でも、デッキは新司の期待に応える。手札交換のカード、そして、その効果によって得たカードも・・・

「(・・・よし! いける!)」

 新司に、可能性を与えるカードであった。
 仕込みは出来ている。太古の力と未来の力、その2つを組み合わせ、恐竜はさらに進化する。

「『究極進化薬』、発動! 来い、『超伝導恐獣(スーパーコンダクターティラノ)』!」

 未来の力で作られた鋼鉄の鎧を身に纏い、弱肉強食の太古を闘いぬいた恐竜は咆哮する。
 太古の力と未来の力。2つの力を合わせて呼び出すに相応しい恐竜。それが、『超伝導恐獣(スーパーコンダクターティラノ)』だ。

超伝導恐獣(スーパーコンダクターティラノ) ☆8
光 恐竜族 効果 ATK3300 DEF1400
自分フィールド上のモンスター1体を生け贄に捧げる事で
相手ライフに1000ポイントダメージを与える。
この効果は1ターンに1度しか使用できない。
また、この効果を発動したターンこのモンスターは
攻撃宣言をする事ができない。

究極進化薬(きゅうきょくしんかやく) 通常魔法(アニメGXオリジナル)
自分の手札または墓地から機械族モンスターと
恐竜族モンスターを1体ずつゲームから除外して発動する。
デッキまたは手札から光属性の恐竜族モンスター1体を特殊召喚する。

除外されたモンスター:
『サイバー・ダイナソー』
『機動恐獣』

 切り札を呼び寄せた新司は、今一度手札を確認する。
 『トレード・イン』の効果によって呼び寄せたもう1枚であるこのカードもまた、確実な仕事をしてくれるに違いないカードであった。

「バトルフェイズ、『超伝導恐獣』で、『スナイプストーカー』を攻撃!」

 『超伝導恐獣』が、その口元にエネルギーを集める。そして狙いを『スナイプストーカー』に定めるや否や・・・そのエネルギー砲を勢い良く放った。










 だがその攻撃は、突如現れた2つの大きな筒のうちの1つに吸い込まれていく。

「リバースオープン、『魔法の筒(マジック・シリンダー)』」

魔法の筒(マジック・シリンダー) 通常罠
相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
相手モンスター1体の攻撃を無効にし、
そのモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。

 攻撃を相手に跳ね返す『魔法の筒』。用心深い佐々木の隠し玉であった。
 瞬間、筒に吸い込まれていった筈のエネルギー砲が、もう片方の筒から新司目掛けて放たれる。










 だが、この一連の流れも、新司は計算済みであった。
 右手の指をパチンと1回弾かせた後、勢い良く最後の手札をディスクに差し込んだ。

「カウンターさせてもらう! 速攻魔法、『痛魂の呪術』を発動! 効果ダメージを跳ね返す!」

痛魂(つうこん)呪術(じゅじゅつ) 速攻魔法
相手が自分にダメージを与えるカードの効果を発動した時に発動する事ができる。
自分の代わりに、相手はその効果ダメージを受ける。

 新司に向かっていた筈のエネルギー砲が、急激に軌道を変え、今度は佐々木に向かって伸びる。
 これが通れば3300のダメージ。佐々木のライフを削り切る数値だ。
 新司は、勝利を確信した。自然と右手が、握り拳を作っていた。










 だが、展開は思わぬ方向へと転ぶ。
 新司も忘れていたわけでは無いであろうが・・・カウンターの成功が軽視させたのかもしれない。

 佐々木には、まだリバースカードが残されている事を。

「『魔法の筒(マジック・シリンダー)』『リビングデッド』をコストに、『非常食』を発動」

「・・・なにぃ!?」

非常食(ひじょうしょく) 速攻魔法
このカード以外の自分フィールド上に存在する魔法・罠カードを任意の枚数墓地へ送って発動する。
墓地へ送ったカード1枚につき、自分は1000ライフポイント回復する。

佐々木:LP1900→LP3900

 佐々木のライフが、『魔法の筒』と『痛魂の呪術』の友情コンボでも削り切れない数値にまで回復する。
 不発になった後、邪魔以外の何物でもなくなっていたどころか、寧ろ新司の好機を広げてしまっていた『リビングデッドの呼び声』が、皮肉にも佐々木を助ける事になろうとは。
 もう『超伝導恐獣』は攻撃出来ない。次のターン、『スナイプストーカー』の効果と攻撃で新司の負け。効果にはランダム性があるとは言うものの、元々が佐々木有利な確率で、その上先程のターンの脅威の的中率からすれば・・・新司の勝利が絶望的な事に変わりなかった。















 墓地に送られたカードは、以降そのデュエル中はデュエルに干渉する事が出来ないというルールが、デュエルモンスターズに存在すれば、の話だが。

超伝導恐獣:ATK3300→ATK4100

「・・・何!? 攻撃力が・・・アップした!?」

 寡黙にデュエルを続けていた佐々木が、この状況で初めて驚嘆の声を上げる。
 『スナイプストーカー』の効果的中には自信がある。自らの勝利に揺るぎは無いと確信していた所での、この展開。

 一瞬にして、形勢は逆転した。

「・・・危なかった。そもそも、『超伝導恐獣』単体の攻撃だったらお前のライフを削り切れなかった。だから、最初からこのカードで追撃するつもりだったんだが・・・思わぬ方向で役に立ったな」

 新司が、墓地から取り出したカードを佐々木に見せつける。
 今度こそ、本当に勝利を確信した握り拳を左手に作りながら。

スキル・サクセサー 通常罠
自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動する。
このターンのエンドフェイズ時まで、選択したモンスターの攻撃力は400ポイントアップする。
また、墓地に存在するこのカードをゲームから除外する事で、
自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体の攻撃力は
このターンのエンドフェイズ時まで800ポイントアップする。
この効果はこのカードが墓地へ送られたターンには発動する事ができず、
自分のターンのみ発動する事ができる。

 佐々木は、ここまでのデュエル展開を整理する。新司が『スキル・サクセサー』を墓地に捨てる事が出来たタイミングは、一箇所しかない。

「俺の、『暗黒界の取引』の時か」

「そうさ。・・・さて、もうお前のフィールドに、これをカウンター出来るカードは無い。お前の墓地も同じの筈だ。『スキル・サクセサー』の効果によって上昇した『超伝導恐獣』の攻撃力分、4100のダメージを受けてもらうぜ」

 もう、妨害する物は何も無い。エネルギー砲は、佐々木に向かって一直線に伸びる。





「(・・・なるほど。アカデミアのデュエリストにも、順調に育っている奴がいるんだな)」

 敗北を受け入れたのだろうか、足掻こうとする雰囲気は佐々木からは見て取れない。

「(いいだろう、今回は勝たせてやるよ)」

 砲が直撃しても、佐々木はその場で動く事は一切無かった。

佐々木:LP3900→LP0






「準決勝2人目の勝者は、シニョール・迫水新司ナノーネ!!!」

 緊張に次ぐ緊張の一戦は、ようやく決着が着いた。
 観客席から、拍手の雨が2人に降り注ぐ。
 熱戦続きの今大会、特にこの準決勝の2つの闘い、それが、如何に感動を呼ぶデュエルだったかを、この拍手が物語っている。

「・・・勝った。決勝、か!」

 改めて新司は、両拳を握り締め、その場でガッツポーズを作る。
 前途多難な道のりであったが、友の待つ舞台へようやく辿り着いた。その充実感が、後から後から何度も込み上げて来た。

「・・・中々、楽しませてもらったよ」

 その声に、新司は反応する。声の出先を向けば、そこには口元に薄らと笑みを浮かべた佐々木の姿があった。

「そりゃどーも。こっちは随分疲れさせてもらったよ。人生の中でも3指に入る厳しい闘いだった」

 額の汗を拭いながら、新司は答える。それを見た佐々木は、振り返り、ゲートの方へと足を運び始めた。

「・・・また、デュエル出来るといいな」

 再戦を望む、一言を残して。
 傍から見れば、キザな立ち振る舞いにも見えるかもしれないが、新司はそんな物は全く感じなかった。

「おう! まだアカデミアでの生活だけでも2年以上残ってるしな。またやろうぜ!」

 純粋な反応が、それを物語っている。
 だが、新司は気付いていなかった。佐々木の残した言葉の、本当の意味を。





「(・・・また、デュエル出来るといい。・・・そうだな。この世界の命運でも賭けて、な)」











「(・・・さて、ついに来たぜ、栄一!)」

 佐々木を見送った新司は、観客席の中から栄一を一心不乱に探し出し、見つけるとすぐさま彼に向かって大きくグッドポーズを取ってみせた。

「(・・・おう、待ってたぜ!)」

 栄一も、ポーズを返す。
 準決勝が終わって間もないが、決勝に向けての闘いは、この時点で既に始まっていた。





「・・・ってあれ、三橋は?」

 明るくポーズを取る栄一、その横に座っていた筈の三橋がいない。誰からともなく、その疑問の声が飛ぶ。

「そういや佐々木が出てくのとほぼ同時に、どっか消えて行ったな」

 偶々三橋の後ろの席にいた山口がその疑問に答えた。

「アイツ、デュエル中からそわそわしてたからな。何があったってんだ?」

 レッド仲間の間でも、詳しい事情は分からない。ただ、疑念だけが募るのであった。






























−ゲート裏−

「(・・・骨のある奴もいる、か。取り合えずは、タイムリミットまでに何とかなるだろうか)」

 思いを巡らせながら、佐々木・・・もといクアットロは歩く。
 全てが終わった以上、最早ここにいる必要は無い。そう判断した時・・・・・・彼の目の前に、2人の男が立ちはだかった。

「佐々木、健吾君・・・じゃあ、ないよね? では貴方は・・・誰ですか?」















 ようやく、尻尾を掴んだ。目の前の少年を見て、護は確信した。
 彼からは、人間からは感じる事が出来ない黒い「オーラ」を感じる事が出来る。
 先程デュエルしたフード男からは、殆ど何の情報も得る事が出来ないまま、あっさりと逃げられてしまった。
 それだけに、今目の前にいる、少年の姿をした何者かからの情報は貴重な物となる。心してかからないといけない。

 ・・・だが、彼からは『ネズミ』の一味と確信出来る「オーラ」と同時に、何か別の違和感を感じる事が出来るのもまた確かだった。

「・・・水原先輩と天童先輩、2人揃ってどうしたんですか? もしかして、応援して下さっていたのでs」

「もう、芝居は必要無い。分かりませんか?」

 一刀両断。彼は佐々木健吾だが、佐々木健吾ではない。そういう事である。

「・・・・・・。なんだかんだで、結構隠し通していたのだがな。予選の時は、貴様から離れた場所でデュエルしなければ、と躍起になっていたよ」

 そしてとうとう、彼も正体を現した。ならば、タイミングを上手く計って彼を取り押さえなければならない。

「・・・と、俺を捕らえるなんて考えは、やめた方がいい」

「・・・何? どういう事だ?」

 宇宙が食い下がる。だが・・・敵の行動は、それ以上に速かった。

「・・・こういう事だ。さようなら諸君、またそのうち会おう」

 瞬間、佐々木がその場で苦しみ出し・・・彼の身体から、どす黒い「何か」が、どんどん放出されていく。




 全てが放出され切った後、佐々木はその場で倒れてしまった。

「・・・ハハハ。捕マエル事ガ出来ナクテ残念ダッタナァ! ハハハ、ハハハハハ!」

「待て! せめて名前を」

「やめろ、宇宙! 深追いは危険だ。それに・・・奴はもう、ここにはいない」

 天へと消えていく、佐々木の身体に取り付いていたオーラみたいな何か。それを追いかけようと宇宙が踏み出したのだが、それも既に無駄な行動であった。
 何か感じ取っていた違和感。その正体は、どうやらこれの事であったようだ。

「予想の範囲内にはあったけど、本体は別の場所に居る。佐々木君は・・・実質、操り人形だったみたいだ」

 敵は、遠隔操作で佐々木を操っていた。ようは、本体は安全な場所で高みの見物という事だ。
 フード男とデュエルするまで、彼らと接触する事すら出来なかった事を考えると、既に操り人形だった佐々木を見つける事が出来なかったのも、やや強引ながら説明がつく。
 ある意味では、彼らが如何にして隠れ続ける事が出来たかを説明出来ない時点で、既にこちら側の敗北だったのである。

「取り合えず、佐々木君を・・・・・・・・・・・・保健室に、運、ぼう・・・」

「・・・ちっくしょぉぉぉぉぉ!!!」

 共に落胆するが、その意味合いは2人の間で大きく異なる。
 宇宙は純粋に『ネズミ』を捕まえられなかった事についての後悔の念なのだが・・・・・・護は既に切り替えているのか、というより、自らがやらかした事を今更後悔してるのか・・・。保健室で待つ不動明王への恐怖感で一杯なのであった。



第33話 −チャンピオンシップ決勝戦 太古の恐竜vsE・HERO−

 フレッシュマン・チャンピオンシップもいよいよ大詰め、決勝戦を残すのみとなった。
 現在、正午近く。皆昼食の為に席を立っており、ホールの人口密度は薄い。
 激戦に次ぐ激戦という大会の模様と、昼食時という時間帯が考慮されて、決勝戦の開始は午後12時半と設定されたのだ。


−保健室−

「・・・いやぁ、兎に角、元のお前に戻って良かったよ」

「元の俺ってなんだよ。大体俺、昨日から記憶が全く無いんですけど・・・」

 個性豊かな怪我人が集まる保健室には、新たに佐々木と三橋という仲間が加わっていた。
 護と宇宙が佐々木を運び込んだのとほぼ同時に、三橋が保健室に転がり込んで来たのだ。

「先輩達が、気絶したお前を運んでいるのを見かけれて良かったよ。心配したんだぜ・・・」

 そう。三橋は、新司と佐々木の準決勝が終わると、真っ先に佐々木の下へ駆けつけようと席を離れたのであった。
 ここ2日間の、彼への不安に対する答えを見つける為に。




「おいこら起きろ! 50m8秒4!」

「誰が小学生並みの鈍足じゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」




「保健室に運ばれた人間に対して、あんな起こし方をしておいて「心配した」とか言われても、信用性皆無だけどな・・・」

「まぁまぁ。そこはほら、その方が効果があると思ったから・・・」

「んだとゴルァァァ!!!」

 果たして答えは見つかったのか。それは、三橋のみぞ知る話、という事にしておく。



「いやぁ、友情だねぇ。冗談混じっても、会話がちゃんと成立してる」

「その言葉、宇宙が言うと説得力あるよ・・・」

 三橋と佐々木、2人のやり取りを、遠巻きに見つめる護と宇宙。微笑ましそうに見つめるが、共に顔は軽く引きつっている。
 その原因は・・・護の頭に出来た、大きなたんこぶであった。

「私はもう、貴方の一切合財に説得力を感じなくなったけどね」

「鮎川先生・・・」

 そのたんこぶの作り主こそ、膨れっ面を見せる保険医・鮎川先生であった。
 護達が連れて来た佐々木をベッドに寝かせたその次の瞬間、彼女は護に対して罵声にも等しいお説教を喰らわせ、さらに強烈な拳骨を彼の頭に御見舞いしたのだった。

「(・・・鮎川先生って、あんなに恐ろしい人だったんだ。知らなかった、知らなかった・・・((((((((;゚Д゚)))))))ガクガクブルブル)」

 あの破天荒な性格をした暮が、子犬のように怯え震えている。それ程、不動明王と化した鮎川先生から恐怖を感じたのであろう。
 隣で冷静を保っているように見える黒田先生も、その実、顔を引きつらせていた。

「全く・・・。今日中にやらないといけない事は、もう無い筈よね。大人しく、保健室で眠っていてもらうわよ、護君」

 そう。佐々木に操られていた間の記憶が無い以上、彼に深く問い詰める必要性は無いし、彼にとっても良い事ではない。
 鮫島校長への報告等も、全て宇宙に任せればよい。なら、今日の護に残された仕事は、「保健室で寝る事」・・・の筈なのだが。

「待って下さい、先生。後1つだけ」

 護が待ったをかけた。瞬間、鮎川先生が露骨な呆れ顔を見せる。
 「まだ何かあるの?」そんな事を言いたげなのは明確であった。

「お願いします。先生でも宇宙でも、付き添ってくれて構いません。決して、逃げたりはしませんので」

 そう言いつつ護はその場である行動をしながら・・・さらに言葉を続けた。

「・・・*******ですが、***を頼まれていまして」










―ホール付近廊下―

「お、三橋からメール!」

「ん? どうかしたか?」

「いや、三橋の奴、佐々木と合流して保健室にいるって。なんかさっきのデュエルの後、佐々木が倒れて保健室に運ばれたんだとさ。それで三橋が看病してるって」

「大丈夫か? 見舞いに行った方が・・・」

「ご本人様が直々に『大丈夫』と言ってるから、心配無いとよ。『それより決勝に集中しろ』って。デュエルしないオレ達も含めて」

 数名によって形勢された、紅い塊が、廊下を歩いていた。
 昼食を終え、栄一が友人達と共にホールへと戻っている所である。

「緊張している時は、手の平に『二次方程式の解の公式』を書いて飲み込めばいいって、ばっちゃんが言ってたぜ!」

「『二次方程式』って・・・ネタに時間差が無さすぎるだろ・・・。ていうかここまでダイレクトなパクり、大丈夫か?」

 周りの友人達の会話は、いつもと変わらない。ノリに任せた発言と、それに対するツッコミ。
 「平常心で行け」。いつも通りの気楽な雰囲気のまま、栄一を決勝の舞台へと送ってやろうという、彼らなりの気遣いなのだ。

「大丈夫。アップルパイは美味いし優しい味がする。おばさんのアップルパイはいつも優しい味だった」

「ちょ、おま、栄一w」

 だが、そんな周りの心配も他所に、当の栄一は元から、緊張している素振りを見せていなかった。普段通り、友人達との何気ないお喋りに混じっている。
 とても、これから校内レベルとはいえ、大会の決勝に向かう者とは感じ取れなかった。

 年齢的に考えれば当然だが、栄一にはこういった大会のような、あれだけの観衆の前、注目のど真ん中に放り込まれるといった経験がほぼ全く無い。
 ともすれば、「真っ直ぐ歩く」という事すら困難にさせる程、緊張していてもおかしくはない筈なのだが。
 それをさせないのが、何を隠そう、栄一のデュエルを心から楽しむ姿勢と、デュエルに対する集中力であった。

 デュエルに触れた事で栄一は、恩師とも言えるべき智兄ちゃんと出会えた。智兄ちゃんは、義父・義母同然のおじさん・おばさん以外では始めての、親しく接する事ができた人物であった。
 そして、智兄ちゃんとデュエルするのは、とても楽しかった。2人で楽しい時間を共有していると、薄々と感じていた寂しさも、何時の間にか忘れていた。
 だから必然と、栄一はデュエルの際、いつも目の前のデュエルを楽しんでいたし、デュエルに集中していた。
 単純かもしれない。不可思議な話かもしれない。だがこの原点が、栄一の「本来、デュエルは楽しくする物」というプレースタイルと、1つの物事に対する集中力を自然と鍛えていた。勉強への楽しみと集中力は中々育まれなかったが。

 鋭い集中力があるからこそ、その物事に対しての視野が広くなる。必然的に、突然の閃きも起こりやすくなる。直感的にデュエルの流れを作る事もできる。
 まさに栄一は、デュエルに一筋を貫いた、生粋のデュエリストといっても良かった。

 そして今も、注目の集まる舞台でデュエルができるという期待と、目の前のデュエルに対する集中力が、栄一から緊張というものを取り払っている。
 いや勿論、少しは緊張している面もあるだろうが、それも良い意味での緊張であって、行動に支障を与える物ではなかった。

 今大会では色々な事があり、心が挫けそうになる事も多々あった。デュエルを純粋に楽しむ事ができなくなりかけた。デュエルに対する集中力を、何度も失いかけた。
 だが、それらの不安が全て取り除かれた今、栄一は自分自身の、本来のスタイルを取り戻していた。

「・・・というわけで、5月15日はスペイン継承戦争が勃発した日で、沖縄がアメリカから返還された日でもある。そして『ハ○テのご○く!』の西沢さんの誕生日という、歴史的にも重要な日なんだぜ?」

「最後の1つ、余計じゃなかったか? ・・・ってアレ、新司じゃね?」

「「「えっ?」」」

 いつものような会話が続く中、友人の1人・山口が、向こう側からやって来る自分達と同じように塊を形勢している黄色い集団と、その中に混じっている新司の姿を発見する。
 山口の言葉に、栄一は他の友人と共に、足を止めつつ新司を凝視する。
 その視線に気付いたのか、新司もやはりその足を止め、こちら側へとその視線を向けた。



 ―――バチィ!



 そんな、火花のような効果音が聞こえそうな、栄一と新司、2人の見つめ合い。表情も共に、逞しい笑顔を見せている。
 そして互いに一言も口にしないまま、再び歩み始め、擦れ違ったのだった。



「何も喋らなくてよかったのか?」

「えっ!? 何か喋らないといけなかったの!?」

「・・・いや、まぁ、闘う者同士らしいと言えば、闘う者らしい、か」

 不意打ちな質問に、栄一は戸惑う。
 特に何か言葉を用意していたわけでもなく、別に新司に伝える用事も無かった。
 向こうも同じであろう。だから、視線を合わせるだけで、他には何もしなかった。
 これから勝負する者達らしいやり取りであった。






























「3・・・2・・・1・・・0! 時間ナノーネ!」

 デュエルコートに、1人立つクロノス教諭。左腕に巻く時計は、12時半を指している。いよいよ、この時が来た。
 既にホールの観客席も埋まっている。彼らの注目は全て、デュエルコートの中心に注がれているのだ。
 クロノス教諭はマイクのスイッチをONに入れ、高らかに宣言した。

「これより、『フレッシュマン・チャンピオンシップ』の決勝戦を行うノーネ!」

 クロノス教諭の高らかな宣言に、四方八方から生徒達の歓声が沸く。
 この日の為にわざわざ取り付けられたオーロラビジョンの全面が、デュエルコートの中心に立つクロノス教諭を映し出していた。





−観客席−

「・・・クロノス先生も張り切っているわねぇ」

 観客席の、女子達が占領するエリアに、光も座っていた。だが、その表情はあまりよろしくない。
 それもその筈、光様は現在物凄く不機嫌でいらっしゃるのだ。
 準決勝で敗北してから、まだそれ程時間は経っていない。悔しさが残っているのだろう。
 だが、不機嫌な理由はそれだけではないのだ。馬鹿馬鹿しい話かもしれないが、それ以上に光様を不機嫌にさせる理由がある。それは・・・

「で、で、光はどっちを応援するの!」

「まさか、勝った方に告白するとか、あるんじゃないの!」

「キャー! 贅沢な悩みー! ブスっとしているのも、もしかしてそれが理由?」

 この、周りの女子達の謎の質問攻めであった。いや、ある意味「当然」の質問攻めか。
 普段行動を共にする男子2人が決勝の舞台に立つ、というシチュエーションが、光に受け答え困難な質問を次々と生んでいた。
 女子といった存在は、こういった話題に目がない。やがて、光のフラストレーションは徐々に溜まっていき・・・

じゃかぁしゃい! おどれらいい加減にせぇよ!!!(うるさい! アンタ達、いい加減にしなさいよ!!!)

「「「ハッ、ハイ!?」」」

 我慢の限界に達した。火山が噴火した。
 周囲の迷惑関係無し。羞恥心なぞどこぞの方へ。
 ある意味、今日一番の光のブチギレ具合であった。

「「「(光・・・・・・・・・どちらから来られたお方ですか?)」」」










「それではぁ、この決勝の舞台に上がった2人の1年生を紹介するノーネ!」

 ホールでは、クロノス教諭による司会進行が続いていた。
 いよいよ、決勝戦を闘う両者の紹介が始まる所である。

「赤コーナー・・・オシリスレッド所属、明石栄一ィィィ!」

「(赤コーナーって・・・、ボクシングかよ(汗))」

 クロノス教諭の紹介に照れながら、栄一はデュエルコートの中心へと足を運ぶ。
 そして、これから現れる好敵手が立つであろう正面を、しっかりと見据えた。



「青コーナー・・・ラーイエロー所属、迫水新司ィィィ!」

「(ノリノリだな・・・クロノス先生。ていうか、ボクシングのルール知っているんだろうか・・・? この流れだと、栄一がチャンピオンで俺が挑戦者扱いなんだが・・・)」

 新司もまた、照れくさそうに頬をかきながらデュエルコートに向かう。
 そして彼もまた、目の前に立つ好敵手を、堂々と見据えた。

「「(・・・いよいよ、だな!)」」

 まだ、アカデミアの1年生。これから、アカデミアの中でも、それを越えても、幾度も対戦を繰り返すであろう2人。
 既に野良試合を1度経験しているが、大会という型にはまった上でのデュエルは、これが初めてである。
 皆が見つめる中で、どちらが学年最強のデュエリストとなるか。そういった意味でも、今回のデュエルは重要な要素を秘めていた。

「お互いのデッキをシャッフルするノーネ!」

 決勝戦という注目が集まる場面故か、クロノス教諭も今大会一番の饒舌を見せる。
 「口を挟む事が多い」とか、「余計なお喋りをしている」とは、決して言ってはならない。

「「・・・」」

 一方で、当事者である2人の間に、会話は一切無かった。
 ただ黙々と、お互いのデッキをシャッフルする事に専念している。
 お互いに緊張が走っているというのもそうだが、要はこの場面、2人の間に余計な言葉を挟む必要性は無いのだ。

「両者、用意はいいノーネ?」

 シャッフルを終え、元の位置へと戻る2人を見て、クロノス教諭が尋ねる。
 余計な言葉は必要無いが、余計な行動もまた必要は無かった。お互いに、自信満々の表情で「OK」の意味を込めた頷きを、1度だけ見せる。
 準備完了を了承したクロノス教諭は、片手を挙げ、デュエルの開始を宣言した。

「では決勝戦、デュエル開始ナノーネ!!!」


「「デュエル!」」


新司:LP4000
栄一:LP4000


 最後まで勝ち残った2人の、勢いある声。
 フレッシュマン・チャンピオンシップの最後のデュエルが、今始まった。

「俺のターン! カードドロー!」

 先攻のランプは、新司のデュエルディスクに光る。
 彼はドローしたカードを含む6枚の手札を見つめると、最初の行動に出る。

「まずはモンスターを1体と、カードを1枚セット。ターンエンドだ!」

 フィールドに、2枚の正体不明のカードが現れる。
 いきなりは仕掛けない。相手の出方を誘う1ターン目である。

新司LP4000
手札4枚
モンスターゾーン裏側守備表示モンスター
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
栄一LP4000
手札5枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンなし

 だが、元々積極的な上、先程の光とのデュエルで勢いを取り戻した栄一に、攻撃を躊躇するという意識は無かった。
 彼の手札も、攻撃的な布陣が揃う。

「俺のターン! 『E・HERO フォーチチュードマン』を、攻撃表示で召喚! さらに魔法カード『ヒートハート』を発動!」

 栄一のフィールドに現れるは、赤橙色の鎧を身に纏った、不屈の闘志を持つ戦士『フォーチチュドマン』。
 そして続けて栄一が発動した、対象に選ばれたモンスターの心を熱くする魔法『ヒートハート』が、『フォーチチュドマン』の不屈の炎をさらに燃え上がらせる。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) フォーチチュードマン ☆4(オリジナル)
炎 戦士族 効果 ATK1600 DEF1200
自分の墓地に存在する、破壊されたこのカードをゲームから除外する事で、
自分の墓地から「E・HERO」と名のついたモンスター1体を特殊召喚する。

(エイチ)−ヒートハート 通常魔法
自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動する。
選択したモンスターの攻撃力は500ポイントアップする。
そのカードが守備表示モンスターを攻撃した時、
その守備力を攻撃力が越えていれば、
その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。
この効果は発動ターンのエンドフェイズまで続く。

E・HERO フォーチチュードマン:ATK1600→ATK2100

「これで俺はメインフェイズ1を終了! 引き続き、バトルフェイズn・・・」

「残念! ここでリバースカードをオープンだ!」

 栄一がフェイズの移行を宣言しようとした瞬間、新司が伏せていたカードを発動させる。そして同時にホールに響く、耳を塞がずにはいられない程の怒号。この怒号では、栄一の攻撃宣言も『フォーチチュードマン』には届かないだろう。

「トラップカード『威嚇する咆哮』。これでお前は、バトルフェイズを行えない!」

威嚇(いかく)する咆哮(ほうこう) 通常罠
このターン相手は攻撃宣言をする事ができない。

「うーん。先制できると思ったんだけどなぁ・・・。カードを1枚伏せ、ターンエンドだ」

 栄一のフィールドに、カードが1枚伏せられる。それと同時に、『ヒートハート』の効果が切れ、『フォーチチュドマン』の炎が常の状態へと戻った。

E・HERO フォーチチュードマン:ATK2100→ATK1600

新司LP4000
手札4枚
モンスターゾーン裏側守備表示モンスター
魔法・罠ゾーンなし
栄一LP4000
手札3枚
モンスターゾーンE・HERO フォーチチュードマン(攻撃表示:ATK1600)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚

「(『フォーチチュードマン』。破壊経由で墓地にいると、墓地の別の『E・HERO』を復活させる厄介な効果を持つモンスター・・・。だが・・・)俺のターン!」

 新司はドローしたカードを確認し、手札に加えると、決められていたかのようにすぐさま別のカードに手をかけ、それをディスクに差し込む。
 『フォーチチュードマン』の効果を封じる手は、既に新司の手の中にある。

「装備魔法『ビッグバン・シュート』を発動。対象は、『フォーチチュードマン』だ!」

「なっ!? 攻撃力を上昇させる装備カードを、俺の『フォーチチュードマン』に装備だと!? それはどういう・・・」

 平常を保っていた『フォーチチュードマン』の不屈の炎が、新司の発動した魔法によって再び燃え盛り始める。

ビッグバン・シュート 装備魔法
装備モンスターの攻撃力は400ポイントアップする。
装備モンスターが守備表示モンスターを攻撃した時、
その守備力を攻撃力が超えていれば、
その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。
このカードがフィールド上から離れた時、
装備モンスターをゲームから除外する。

E・HERO フォーチチュードマン:ATK1600→ATK2000

 一見すれば自殺行為。だがそれも、次の一手により『フォーチチュードマン』攻略の手へと姿を変える。

「さらに、速攻魔法『ダブル・サイクロン』を発動! お互いの魔法・罠カードを、1枚ずつ破壊する!」

 新司が発動したカードより、強い風が吹き荒れ、栄一のリバースカードと、新司の『ビッグバン・シュート』を天へと舞わせ、そのまま消滅させようとする。

「そうはさせるか! トラップカード『ヒーローバリア』!」

 破壊されかけた瞬間、伏せられていた栄一のカードがその正体を現した。
 栄一の目の前に発生するバリア。これにより新司はこのターン、1度だけ攻撃を封じられる事になった。

ダブル・サイクロン 速攻魔法
自分フィールド上に存在する魔法・罠カード1枚と、
相手フィールド上に存在する魔法・罠カード1枚を
選択して発動する。選択したカードを破壊する。

ヒーローバリア 通常罠
自分フィールド上に「E・HERO」と名のついたモンスターが表側表示で存在する場合、
相手モンスターの攻撃を1度だけ無効にする。

「だがこの瞬間、『ビッグバン・シュート』の効果によって、装備モンスターである『フォーチチュードマン』はゲームから除外される!」

「なっ!? こんな方法で『フォーチチュードマン』の効果を防ぐだと!?」

 破壊されぬまま除外されてしまうと、『フォーチチュードマン』の効果を発揮する事はできない。
 さらにこのコンボ、『ヒーローバリア』がフリーチェーンのカードでは無かったら、栄一のこのターンの防御手段は完全に無くなってしまう所だったのだ。
 栄一が驚嘆している間にも、『フォーチチュードマン』はフィールドから姿を消し・・・そのまま、天へと召されていった。



「(『ヒーローバリア』の効果でこのターン、俺の攻撃は届かない。だが、コイツを召喚しておけば、栄一にプレッシャーだけは与えられる筈!)」

 『フォーチチュードマン』の除外に成功した新司は、次なる戦術を頭の中で纏め上げる。そしてその戦術に沿って、手札の1枚のカードに手をかけた。

「フィールドに伏せていた『暗黒プテラ』をリリースして、『フロストザウルス』を攻撃表示で召喚する! さらに『暗黒プテラ』はその効果により、俺の手札に戻る!」

 新司のフィールドに現れた、氷づけの首長恐竜『フロストザウルス』は、攻撃力2600にもなる強力なモンスター。それだけに攻撃を実質封じられた事は、新司にとって中々悔やまれる事であろう。
 だが新司も、転んでもただでは起きない。糧とされた翼竜『暗黒プテラ』を、自身の能力で回収する事によって、アドバンテージを失う事を防ぐ。

フロストザウルス ☆6
水 恐竜族 通常 ATK2600 DEF1700
鈍い神経と感性のお陰で、氷づけになりつつも氷河期を
乗り越える脅威の生命力を持つ。寒さには滅法強いぞ。

暗黒(ブラック)プテラ ☆3
風 恐竜族 効果 ATK1000 DEF500
このカードが戦闘によって破壊される以外の方法で
フィールド上から墓地に送られた時、このカードは持ち主の手札に戻る。

「リリース要因に『暗黒プテラ』を使う事で、アドバンテージを失わずに上級モンスターを召喚する為に、俺の最初の攻撃を封じたのか・・・」

「そんな所なんだけどね・・・。まさかお前も、何時でも発動できるカードを伏せていたとは思わなかったよ。カードを1枚セットして、ターンエンドだ」

 栄一も新司も、共に緊張の汗が頬を滴る。まだデュエルが始まってから、互いのターンを合わせて3ターンだが、それだけ緊迫したターンが続いているというわけだ。

新司LP4000
手札2枚
モンスターゾーンフロストザウルス(攻撃表示:ATK2600)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
栄一LP4000
手札3枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンなし

「俺のターン、ドロー!」

 ドローしたカードを確認した栄一の表情が緩む。そしてそれを見逃さなかった新司は逆に、心の中で「良いカードが来たのか?」と思いつつ眉をひそめる。

「魔法カード『エマージェンシーコール』! これにより、俺はデッキから『E・HERO』1体を手札に加える!」

(イー)−エマージェンシーコール 通常魔法
自分のデッキから「E・HERO」と名のついたモンスター1体を手札に加える。

 栄一がドローしたカード、それはデッキに眠りしHEROに、緊急事態に対する召集を求めるカードであった。
 この効果により栄一は、強力なHEROを手札に呼び込む事に成功する。

「現れろ! 『E・HERO エアーマン』!」

 緊急召集のコールに応えた、白と青で体を塗った大気のHERO『エアーマン』がフィールドに推参し、防御の構えを取る。そのHEROには、さらに「次」へと繋げる効果が備わっていた。

「『エアーマン』の召喚に成功した時、俺はデッキから『HERO』1体を手札に加える事ができる!」

E・HERO(エレメンタルヒーロー) エアーマン ☆4
風 戦士族 効果 ATK1800 DEF300
このカードの召喚・特殊召喚に成功した時、次の効果から1つを選択して発動する事ができる。
●自分フィールド上に存在するこのカード以外の「HERO」と名のついたモンスターの数まで、
フィールド上に存在する魔法または罠カードを破壊する事ができる。
●自分のデッキから「HERO」と名のついたモンスター1体を手札に加える。

 栄一は、『エマージェンシーコール』の処理終了によって元の位置へと戻していたデッキを再び取り出し、意中のカードを見つけるとすぐさまそのカードを抜き出して手札に加えた。そしてまた1度、デッキをシャッフルする。

「(栄一が手札に加えたカード・・・アレは間違いなく・・・)」

 栄一は、まだ手札に加えたHEROの名を宣言していない。だが、新司にはその正体がすぐ分かった。
 普通に考えたら、栄一がこの類のカードでいの一番に呼び出すカードもすぐ分かる、というのもある。だがそれは、正体が分かった事への単なる理由付けであって、実際は他に理由がある。
 新司は、確かに見たのである。栄一が手札に加えたカードが、熱く燃え上がっていた事を。
 新司は、俗に言う「カードの精霊」を見る事はできない。それでも、今のはハッキリと見えた。「見えてしまった」。
 あれだけ熱く燃え、見せずとも相手にプレッシャーを与えるカードは、あのカードを置いて他には無い。

「(『バーニング・バスター』に、迷い無し!)」

 新司は、そう結論付けた。
 「これは外れる事はない」。確信である。理由など無かった。



「・・・俺が選んだのは、『バーニング・バスター』だ!」

「(・・・やっぱり)」

 新司の結論は、当然の如く当たった。と同時に、新司の背中を嫌な寒気が襲う。
 灼熱の戦士『バーニング・バスター』のプレッシャー・・・だろうか? 力強い何かが、新司を締め付けているのだ。



 だが、その『バーニング・バスター』を呼び寄せた栄一もまた、見えないプレッシャーと闘っているように見えた。

「(『エアーマン』が破壊されても『バスター』を呼び出す事はバレバレ・・・だよな。という事は、新司は『エアーマン』を破壊させないか、『バスター』を特殊召喚しても、さっきの『ビッグバン・シュート』と『ダブル・サイクロン』のコンボのような事をしてくる筈・・・!)」

 少し迷いが見え始めている栄一の目に、1枚の手札が留まる。
 ひょっとしてひょっとすると、新司の思惑に上手く牽制を仕掛ける事ができるかもしれない。そんなカードを栄一は、実は最初から持っていたのである。

「(・・・やってみるか!)俺は、カードを1枚セットして、ターンエンド!」

 栄一もまた、自分の考えを強引に纏め上げ、その上で1枚のカードを伏せた。
 ・・・たまたま手札に眠っていたカードではあったが、栄一は彼独特のその咄嗟の閃きを信じて、そのカードを伏せたのである。

新司LP4000
手札2枚
モンスターゾーンフロストザウルス(攻撃表示:ATK2600)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
栄一LP4000
手札3枚
モンスターゾーンE・HERO エアーマン(守備表示:DEF200)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚

「俺のターン! 『フロストザウルス』で、『エアーマン』を攻撃!」

 新司はドローしたカードを手札に加えると、スタンバイフェイズ、メインフェイズ1と一気に省略して、すぐさま攻撃宣言を行う。



 ―ズシン!



 凍て付く恐竜『フロストザウルス』が、その冷たい左前足で『エアーマン』を踏み潰す。ほぼ一撃必殺である。
 ・・・だが、その蹂躙こそが、灼熱の戦士を呼び寄せる引き金となるのだ。

「(やっぱり・・・来た!)」

 新司も、『エアーマン』破壊からの流れは分かっている筈。
 だけど、攻撃して来た。それはつまり、新司は既に『バーニング・バスター』の攻略法を握っている事。
 それでも・・・。栄一は、手札に手をかける。

「『エアーマン』が破壊されたこの瞬間、俺は手札から、このカードを特殊召喚する事ができる!」

 その言葉と共に、栄一は勢い良くそのカードをディスクへと叩き付けた。
 同時に、栄一と新司、2人の周りを幾つもの炎が囲む。



「来い! 『バーニング・バスター』!」



 その言葉に連動して、徐々にその炎は栄一の目の前に集束していき、1人の戦士の身体を形成する。そしてその「恐怖」に新司が身構えるのと同時に、その炎が炸裂。
 煙の先に新司が見た物は、紅の鎧に身を纏ったヒーロー。栄一の切り札の姿であった。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) バーニング・バスター ☆7(オリジナル)
炎 戦士族 効果 ATK2800 DEF2400
自分フィールド上に存在する戦士族モンスターが
戦闘またはカードの効果によって破壊され墓地へ送られた時、
手札からこのカードを特殊召喚する事ができる。
このカードが戦闘によってモンスターを破壊し墓地へ送った時、
破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。

「『バーニング・バスター』。やっぱり、凄い威圧感だぜ・・・」

 灼熱を目の当たりにして、新司は再び緊張する。プレッシャーに押し潰されそうになる。

「だが・・・俺は、それをも跳ね返す! 装備魔法『強者束縛』を、『バーニング・バスター』に装備する!」

「! ・・・『バスター』!?」

 新たな装備魔法。それが『バーニング・バスター』に装備される。
 『バーニング・バスター』の体中に鎖が巻かれ、動きが束縛されてしまう。
 エースの突然の束縛に、栄一も困惑する。

「『強者束縛』は、レベル5以上のモンスターの攻撃を封じる装備魔法。だが、このカードのオイシイ所はそこじゃない。『強者束縛』がフィールドを離れた時、装備モンスターは除外され、俺はカードを1枚ドローできるんだ!」

強者束縛(きょうしゃそくばく) 装備魔法(オリジナル)
レベル5以上のモンスターにのみ装備可能。装備モンスターは攻撃する事ができない。
このカードがフィールド上から離れた時、装備モンスターをゲームから除外し、
自分はデッキからカードを1枚ドローする。

「・・・先程の『フォーチチュードマン』の時と、ほぼ変わらない。やっぱり・・・そう来たか!」

「あぁ・・・。さすがのお前も分かってるみたいだな! 速攻魔法『サイクロン』を発動!」

 流れ的に、もう分かっている。2人の間に、改めた説明は必要なかった。
 瞬間、竜巻がフィールド上に発生し、1枚のカード・・・『強者束縛』を吹き飛ばそうとする。

「悪く思うな、栄一! 『バーニング・バスター』には・・・、退場してもらう!」

サイクロン 速攻魔法
フィールド上の魔法または罠カード1枚を破壊する。

「『サイクロン』で『強者束縛』を破壊し、『バスター』を除外する・・・か。だが残念だけど、除外されるのは『フロストザウルス』の方だぜ! 新司!」

 その言葉と共に、栄一がフィールドにセットされたカードを起動させる。
 勘に任せて伏せた、一か八かのカードである。

「速攻魔法『移り気な仕立屋』を発動!」

「『移り気な仕立屋』だと!?」

 『移り気な仕立屋』・・・。装備カード1枚を、別のモンスターに移し変えるカードである。
 今回栄一が、その対象に選んだのは『フロストザウルス』。強者を束縛する装備魔法が、『バーニング・バスター』から『フロストザウルス』へとその対象を替える。
 そう。『フロストザウルス』のレベルは6。当然、『強者束縛』の効果範囲内なのだ。

(うつ)()仕立屋(したてや) 速攻魔法
モンスターに装備された装備カード1枚を別の正しい対象に移し替える。

 そして、竜巻によって吹き飛ばされた『強者束縛』の効果が発動される。『フロストザウルス』は、訳も分からぬままフィールドから退場する事となったのである。

「(俺のコンボを逆手に取るとは・・・)『強者束縛』の効果の続きだ。俺はカードを1枚ドロー」

 思わぬカードによる思わぬ反撃に、新司の表情は険しくなる。
 ドローしたカードが、この状況に適しているカードだったのが幸いかもしれない。

「『ドロオドン』を守備表示で召喚。その効果でカードを1枚ドロー」

 新司のフィールドに現れた、緑色の小型恐竜『ドロオドン』。その効果により、新司は新たに1枚のカードを引く。

ドロオドン ☆4(オリジナル)
地 恐竜族 効果 ATK800 DEF1200
このカードの召喚に成功した時、自分はデッキからカードを1枚ドローする。
このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、
自分はデッキからレベル4以下の恐竜族モンスター1体を
選択して手札に加える事ができる。

「・・・ターンエンドだ」

 だが、新司は引いたカードを一瞥しただけでターンを終えた。
 まだだ。このカードの出番は、まだなのである。

新司LP4000
手札2枚
モンスターゾーンドロオドン(守備表示:DEF1200)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
栄一LP4000
手札2枚
モンスターゾーンE・HERO バーニング・バスター(攻撃表示:ATK2800)
魔法・罠ゾーンなし

「俺のターン! カードを1枚セットして・・・行くぜ! 『バーニング・バスター』で、『ドロオドン』を攻撃だ!」

 見事新司のコンボを凌いだ栄一。いよいよ、攻撃が始まる。
 『バーニング・バスター』が、その右手に作り上げた炎の球を伏せられたモンスターへと投げつける。

「『バーニング・バースト』!」

 その炎球の直撃を受けた『ドロオドン』は、悲鳴を上げながらフィールドから消滅した。

「さらに『バスター』のモンスター効果! 戦闘によってモンスターを破壊した場合、そのモンスターの攻撃力分のダメージを相手に与える! 『レイジング・ダイナマイト』!」

 『ドロオドン』を倒した『バーニング・バスター』は、その勢いのまま新司の目の前へと立ち、その右手の平から熱き炎を新司目掛けて放つ。
 結果、新司は『ドロオドン』の攻撃力分・・・800ポイントのダメージを受ける事となった。

新司:LP4000→LP3200

「くぅぅぅ! 『レイジング・ダイナマイト』を受けたのは初めてだが、やはり強烈だな・・・! だが、ここで『ドロオドン』のモンスター効果発動! デッキからレベル4以下の恐竜族モンスター1体を手札に加える事ができる! 俺が選ぶのは『ハイパーハンマーヘッド』だ!」

 この小型恐竜『ドロオドン』のモデルとなった『トロオドン』は、集団で狩りを行っていたと言われている。そのモデルにあやかって、この狩りでやられた『ドロオドン』自身も、仲間を呼んだのである。
 『バーニング・バスター』の炎に怯みながらも新司は、『ドロオドン』の呼び声を受け、慣れた手つきでデッキから『ハイパーハンマーヘッド』のカードを探し出し、それを手札に加える。
 そして新司がその行動を終えた事を確認すると、栄一は自らのターンを終えた。

新司LP3200
手札3枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
栄一LP4000
手札2枚
モンスターゾーンE・HERO バーニング・バスター(攻撃表示:ATK2800)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚

 変わって新司のターン。ドローしたカードを確認すると新司は、反撃のチャンスができた事を確信する。
 リバースカード、先程加えた『ハイパーハンマーヘッド』・・・今ドローしたカードも、全てが、反撃への布石なのだ。

「『ハイパーハンマーヘッド』を召喚! 攻撃表示だ!」

 新司のフィールドに、ハンマーの形にかたどられた鼻を持つ、小型の恐竜『ハイパーハンマーヘッド』が現れる。
 その体の大きさが表すように、『バーニング・バスター』を倒すには明らかに攻撃力が足りない。それでも、新司は攻撃表示でこの『ハイパーハンマーヘッド』を召喚したのだ。

ハイパーハンマーヘッド ☆4
地 恐竜族 効果 ATK1500 DEF1200
このモンスターとの戦闘で破壊されなかった相手モンスターは、
ダメージステップ終了時に持ち主の手札に戻る。

「さらに魔法カード『ダブル・ディノ』を発動! このターン、『ハイパーハンマーヘッド』は2回攻撃する事ができる!」

「なっ!? 『バスター』より攻撃力の低い『ハイパーハンマーヘッド』に、2回攻撃を・・・?」

ダブル・ディノ 通常魔法(オリジナル)
自分フィールド上の恐竜族モンスター1体を選択して発動する。
選択モンスターはこのターンのバトルフェイズ中に2回攻撃する事ができる。

 頭を低く構えて、今にも『バーニング・バスター』に飛び掛ろうとする『ハイパーハンマーヘッド』の闘志が、今発動された魔法によってさらに滾る。
 たった今、『バーニング・バスター』を倒すには、『ハイパーハンマーヘッド』では攻撃力が足りないと書いたが、その攻撃力をも補ってこの『ハイパーハンマーヘッド』には、「戦闘破壊できなかったモンスターを手札に戻させる」という強力な効果がある。
 しかしその効果は、今の状況で言えば『ハイパーハンマーヘッド』自身は戦闘で破壊されてしまう、とも取れる。それなのに新司は、対象の恐竜に2回の攻撃を許可する魔法を発動させたのだ。
 ここまでの新司の行動も合わせて、栄一が疑問を覚えるのも無理は無い話である。

「バトルフェイズ! 『ハイパーハンマーヘッド』で、『バーニング・バスター』を攻撃!」

 そして、新司は攻撃宣言まで行う。『ハイパーハンマーヘッド』もそれを受けて、『バーニング・バスター』目掛けて突進する。だが栄一は、新司の行動が読めない為にこの攻撃に対してカウンターを行う事ができない。

 ・・・何れにしても、栄一のフィールドに伏せられたカードは、今はまだ発動する事のできないカードであるのだが。

「そしてここで、リバースカードをオープンだ! 『和睦の使者』! これでこのターン、俺は戦闘ダメージを受けず、俺のモンスターは戦闘によっては破壊されない!」

 そうもしているうちにフィールドに幾人ものフードを被った女性が現れ、和平の証となるバリアを新司の周りに張り付ける。

和睦(わぼく)使者(ししゃ) 通常罠
このカードを発動したターン、相手モンスターから受ける全ての戦闘ダメージを0にする。
このターン自分のモンスターは戦闘では破壊されない。

「・・・そういう事か、新司!」

 このカードの発動に、栄一はようやく新司の意図を読み取った。
 そう。『和睦の使者』の効果により、このターン『ハイパーハンマーヘッド』は戦闘破壊されず、新司は戦闘ダメージを受けない事が約束された。安心して、攻撃力が低い『ハイパーハンマーヘッド』で攻撃する事ができ、その効果も有効に使用する事ができる。
 和平の締結には、このような使い方もあるのだ。



 ―グワシィ!



 安全を約束された『ハイパーハンマーヘッド』がその鼻で、『バーニング・バスター』を持ち上げ・・・そのまま宙へと放り投げた。
 結果、『バーニング・バスター』は宙で上手く体勢を整える事ができず、そのまま栄一の手札へと戻ってしまった。

「さらに、『ダブル・ディノ』の効果で『ハイパーハンマーヘッド』はもう1度攻撃できる! ダイレクトアタックだ!」

 『バーニング・バスター』を攻略した『ハイパーハンマーヘッド』が、今度は栄一目掛けてその長い尾をスイングする。
 その尾の直撃を受けた栄一は、『バーニング・バスター』の時より角度こそ低いものの、彼と同じように宙に放り投げられ、果てには地面に軽く叩きつけられてしまった。

栄一:LP4000→LP2500

「くぅ〜、効くなぁ〜! これでまた、『バスター』召喚し直しかよ・・・」

 腰辺りを摩りながら、栄一は立ち上がる。精神的にも肉体的にも、この一撃は中々痛い。
 ・・・だが

「いや、今度こそ、『バスター』には退場してもらうぜ! 栄一!」

 新司のターンは、まだ終わりではないのだ。
 バトルフェイズが終わり、メインフェイズ2へ。
 そして1枚のカードが、新司のデュエルディスクへと差し込まれる。



 ・・・『バーニング・バスター』攻略の、最終手段となるカードを。



「魔法カード『異次元の指名者』を、『E・HERO バーニング・バスター』を宣言して発動する!」

 高らかな、カードの発動宣言と指名。
 この魔法には、宣言したカードが相手の手札にある場合、そのカードをゲームから除外させる能力がある。そして無論、新司が指名した『バーニング・バスター』のカードは、先程『ハイパーハンマーヘッド』の効果を受けて手札に戻されている。

異次元(いじげん)指名者(しめいしゃ) 通常魔法
カード名を1つ宣言する。相手の手札を確認し、
宣言したカードが相手の手札に存在する場合、
そのカード1枚をゲームから除外する。
宣言したカードが相手の手札に存在しなかった場合、
自分の手札をランダムに1枚ゲームから除外する。

「くそっ! 除外か・・・」

 栄一は悔しそうに、『バーニング・バスター』のカードをズボンの後ポケットに仕舞う。
 『バーニング・バスター』を手放す事で心を砕かれてしまうという事は、もう無い。それでも、エースを手放す事による精神的ダメージは、やはり大きなものである。

「何とか、お前を倒す為の第1段階は攻略(クリア)ってところだな・・・。俺はこれで、ターンを終了する」

 栄一の方へと傾きかけた勝負の流れが、この1ターンで一気に新司の方へ・・・辛口に見てもイーブンにまで縺れ込んだ。
 多くのカードを失いながら、それでも新司は、ようやく与えられたチャンスを見事にものにしたのである。

新司LP3200
手札1枚
モンスターゾーンハイパーハンマーヘッド(攻撃表示:ATK1500)
魔法・罠ゾーンなし
栄一LP2500
手札2枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚



第34話 −ヒーローの猛撃 劣勢なれば−

 幼い頃の迫水新司は、「強い」人間ではなかった。
 今でこそ身長は170cm近くあるが、幼稚園から小学校中学年頃にかけては、背の順では先頭の常連。ケンカは弱く、「いじめっ子」と「いじめられっ子」で区別するのなら、「いじめられっ子」だったと言える。
 身長が小さい上に、腕っ節が弱かった。故に、いつも同じクラスのガキ大将達に弄ばれ、その度に悔しい思いをしてきた。
 「弱い」自分が大嫌いだった。
 ボクシングの世界チャンピオン達も、昔はいじめられっ子が多かったと聞いて、一時期独学で体を鍛えた事もあったが、運命の神様が味方しなかったのか時期尚早だったのか、当時の彼ではまだ、腕っ節が強くなる事は無かった。
 いつもと何ら変わりなかった。

 その代わりと言ってはなんだが、勉学には自信があった。
 テストはいつも100点。予習・復習はキチンとこなし、先生や両親からは、塾などに頼らなくても名門の高校・大学に進学できる可能性は十分にある、とまで賞賛されていた。
 だが皮肉にも、その「ガリ勉っぷり」が、ガキ大将達の彼への乱暴をエスカレートさえていた。彼が先生に褒められる事が、ガキ大将達は気に入らなかったのである。

 そんな新司がデュエルモンスターズと出会ったのは、小学5年生の時。デュエルモンスターズが老若男女に幅広く愛されている現在に生きる子供としては、遅い方ではある。
 当時の新司は、ルールに必ず従うお堅い生真面目人間であった。夜中に寮を抜け出す等、多少ルールを破る事も承知、といった柔軟な対応力は、当時の新司にはまだなかった。
 だから、「学校に持って来てはいけない物は持って来ない」ので、友人達とデュエルモンスターズで触れ合う機会も、同世代の子供達と比べて遅れてしまったのである(ちなみに新司の弟は、新司より早くデュエルモンスターズを始めていたが、それも新司にとってはどこ吹く風であった)。

 だが、実際にカードを始めてからは、やはり新司も早かった。すぐにカードにのめり込んで行ったのだ。
 そして、「強い」存在になりたい、「自分は弱い」と自信を失っていた彼が、「力強い」恐竜族に惹かれたのは、必然であった。
 早速、恐竜族主体でデッキを組み、デュエルを繰り返していった。
 だが、勝てなかった。
 デュエルモンスターズの持込によって、初めて校則を破った初日に早速、新司はガキ大将グループに見つかり、コテンパンにやられてしまった。
 やっぱり、いつもと変わらない構図ができあがってしまったのだ。

 「どうすれば、この状況を逆転できるか」。持ち前の頭をフルに使って、新司は考えた。
 強力な攻守力で猪突猛進に闘うプレイングスタイルは、自分には合わないのではないか。
 なら、どうすればいいか。答えはどうして、結局は単純に見つかった。
 「自らの得意分野、ロジックを織り交ぜて攻めればいいのでは」。
 幸い、恐竜族の下級モンスターには、トリッキーな動きをするモンスターが多い。それを効果的に使えば、あるいは・・・。
 様々な戦術を模索し、研究に研究を重ね、月日は流れていった。

 そして、その日はついに来た。いつものように、サンドバッグ同然の扱いとしてガキ大将にデュエルを強要された時であった。
 勝った。ついに、勝つ事ができた。新司にとってはこの上ない、大きな1勝だった。
 何であっても、自分が敵わないと思っていた者に勝ったという事実は、新司に大きな自信を与えた。
 「自信」というものは、人が成長するにおいて大切なものである。この1勝で得た自信に連動するかのように、新司の背はぐんぐん伸びていった。密かに続けていた筋力トレーニングの成果も出てきたのか、平均以上の身体能力も身に付いた。

 このガキ大将に勝利した日を境に、新司は人間としてもデュエリストとしても、逞しい存在になっていくのであった。
 めでたし、めでたし。




















 と、いうわけにはいかなかった。その後の新司は、決して順風満帆というわけではなかったのである。
 あの日以降、自信をつけた新司は、地元のデュエルモンスターズの大会に顔を出し始めていく。年を重ねていくにつれ、大きな大会にも何度か出場した。
 だが、何時まで経っても、何度大会に出場しても彼は、決定的なあるものを手に入れる事ができなかった。
 「優勝」である。彼は、未だかつて「優勝」というタイトルを手にした事が無いのである。
 いつも、もう僅かという所で星を落とし、決勝戦を脇で観戦する事となった時も数多い。表彰台に上がる勝者を、いつも指を銜えて眺めていた。

 ここ一番で勝負弱いのか。それとも、自分はここまでの人間という事なのか。新司は大いに悩んだ。
 だから、今日のこの『フレッシュマン・チャンピオンシップ』。何がなんでも負けるわけにはいかない。
 今までの、後1歩を乗り切る事ができない自分を打ち破る為に。

「(何としてでも、勝ちたい。栄一に、勝ちたい)」

 「勝敗」という概念がある以上、「優勝」する事によって、自らをさらなる高みに上らせたい。
 そう思いつつ新司は、ただガムシャラに闘っていた。















「(くっそー・・・。序盤でいきなり『バスター』を除外されるなんて・・・。『ハイパーハンマーヘッド』、厄介だぜ)」

 エースモンスターである『バーニング・バスター』を除去され、栄一は焦燥に駆られていた。
 今、栄一の手札には『融合』のカードがある。だが、その栄一お得意の融合戦術も、『ハイパーハンマーヘッド』の効果は融合モンスターを手札どころかエクストラデッキに戻してしまう為、結果大幅にアドバンテージを失う事となるのだ。

融合(ゆうごう) 通常魔法
手札・自分フィールド上から、融合モンスターカードによって
決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、
その融合モンスター1体をエクストラデッキから特殊召喚する。

 エースは退場させられ、融合戦術に頼る事はできない。四方八方を塞がれている。そんな栄一にとって、このドローは重要なものとなる。

「ドロー! ・・・よしっ! 魔法カード『エレメンタル・リレー』を発動! 手札の『ネクロシャドーマン』を墓地へ捨て、カードを2枚ドローする!」

 発動したカード。それは手札の『E・HERO』を手放す代わりに、新たな可能性を舞い込ませるカードであった。
 その効果に従い栄一は、2枚のカードを手札に加えた。

エレメンタル・リレー 通常魔法(オリジナル)
手札から「E・HERO」と名のついたモンスター1体を捨てて発動する。
自分のデッキからカードを2枚ドローする。

「そしてこの瞬間、『ネクロシャドーマン』の効果が発動する。互いに、デッキの一番上のカードを墓地へ送る!」

E・HERO(エレメンタルヒーロー) ネクロシャドーマン ☆4(オリジナル)
闇 戦士族 効果 ATK1500 DEF0
???。
このカードが墓地へ送られた時、お互いにデッキの上からカードを1枚墓地へ送る。

 筋肉が露出したような赤い肌を持つ、不気味なヒーローの幻影が、栄一の墓地から颯爽と現れ、互いのデッキから1枚のカードを奪い去る。

墓地へ送られたカード:
栄一『E・HERO スパークマン』
新司『ADチェンジャー』

「(『ADチェンジャー』か・・・。悪くはないな。対する栄一は『スパークマン』・・・)」

 心の中で新司は、カードの再確認をする。
 デッキ破壊の効果も、捨てさせるカードが1枚では意味が殆ど無い。
 今の新司の心情を言えば、寧ろ「ごちそうさま」といった所だろうか。

「(『融合』と、・・・と、・・・と)」

 一方の栄一も、与えられた2枚のカード、そして『融合』。この3枚を見つつ考え込む。
 そして・・・

「(イイ事思いついた!)」

 1つの戦術を閃いた。人はこれを、偶然と呼ぶかもしれない。だが・・・この閃きもまた、栄一の強みなのだ。

「魔法カード『融合』を発動! 手札の『フェザーマン』と『バブルマン』を融合し・・・現れろ! 『セイラーマン』!」

 2体のモンスターが、『融合』の魔法によってフィールドに発生した渦に飲み込まれていく。
 そして、その渦から新たに現れたのは、両手に碇を備えた水兵のヒーロー『セイラーマン』である。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) セイラーマン ☆5
水 戦士族 融合・効果 ATK1400 DEF1000
「E・HERO バブルマン」+「E・HERO フェザーマン」
このモンスターは融合召喚でしか特殊召喚できない。
自分の魔法&罠カードゾーンにカードがセットされている場合、
このカードは相手プレイヤーに直接攻撃をする事ができる。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) バブルマン ☆4
水 戦士族 効果 ATK800 DEF1200
手札がこのカード1枚だけの場合、
このカードを手札から特殊召喚する事ができる。
このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時に
自分のフィールド上と手札に他のカードが無い場合、
デッキからカードを2枚ドローする事ができる。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) フェザーマン ☆3
風 戦士族 通常 ATK1000 DEF1000
風を操り空を舞う翼を持ったE・HERO。
天空からの一撃、フェザーブレイクで悪を裁く。

「『セイラーマン』は、俺が魔法または罠をセットしている場合、相手に直接攻撃ができる! 『アンカー・ナックル』!」

「・・・なるほどね。厄介な『ハイパーハンマーヘッド』は通過する、というわけか」

 『セイラーマン』が飛び上がり、右手に備えられた碇を新司へと向けて放つ。
 そう。ダイレクトアタックならば、小型恐竜『ハイパーハンマーヘッド』の恐怖にも怯えずに済むのだ。

新司:LP3200→LP1800

「よしっ! これでターンエンドだ!」

 新司の方へと傾きかけた流れが、また栄一の方へ傾こうとする。
 ライフ4000ポイントで始まるデュエルにとって、1400のダメージは中々に大きなものなのである。

新司LP1800
手札1枚
モンスターゾーンハイパーハンマーヘッド(攻撃表示:ATK1500)
魔法・罠ゾーンなし
栄一LP2500
手札0枚
モンスターゾーンE・HERO セイラーマン(攻撃表示:ATK1400)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚

「俺のターン! 手札から、魔法カード『弱者の贈り物』を発動! 手札の『暗黒プテラ』を除外し、カードを2枚ドローする!」

弱者(じゃくしゃ)(おく)(もの) 通常魔法(漫画GXオリジナル)
手札からレベル3以下のモンスターカードを1枚ゲームから除外する。
自分のデッキからカードを2枚ドローする。

 新司はドローしたカードを確認すると、すぐさまそのカードを発動させた。
 強力な効果を持つ『暗黒プテラ』。しかし新司は、それを失ってでも手札を強化したかったのだ。それなのに・・・。
 新たに手に入れた2枚のカード。残念ながら、それらは今の戦力を拡大できるカードではない。

「だが『セイラーマン』の攻撃力は、『ハイパーハンマーヘッド』のそれを下回る! 攻撃だ!」

 それでも新司は気落ちせず、『ハイパーハンマーヘッド』の攻撃宣言を行った。
 水兵のヒーロー『セイラーマン』は、中々に強力な効果を持ちながらも、小型の恐竜にも負ける攻撃力の低さが欠点なのだ。
 結果、『ハイパーハンマーヘッド』の突進に大した反撃を行う事もできず、『セイラーマン』は破壊されてしまった。

栄一:LP2500→LP2400

「だけど、それも対処済みさ! 『融合の恩恵(フェーバー・オブ・フュージョン)』! 『セイラーマン』が戦闘破壊された為、俺は『セイラーマン』の融合素材に使用されたモンスターの数と同じ数、つまり2枚のカードをドローする!」

融合の恩恵(フェーバー・オブ・フュージョン) 通常罠(オリジナル)
自分フィールド上の融合モンスターが戦闘によって破壊された時に発動する事ができる。
その融合モンスターの融合召喚に使用した融合素材モンスターの数だけ、
自分はデッキからカードをドローする。

 破壊された筈の『セイラーマン』の幻影が、栄一のデッキに舞い降りる。
 『セイラーマン』が与えた、多大な『恩恵』。それに深く感謝をしつつ、栄一は新たな2枚のカードを引いた。

「破壊されても、次に繋げる、か・・・。だが、『ハイパーハンマーヘッド』をいつまでもフィールドに置いておくのは酷なんじゃないか、栄一? ターンエンドだ!」

新司LP1800
手札2枚
モンスターゾーンハイパーハンマーヘッド(攻撃表示:ATK1500)
魔法・罠ゾーンなし
栄一LP2400
手札2枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンなし

「(新司の言うとおりだ。いつまでも『ハイパーハンマーヘッド』に怯えてなんかられない!)俺のターン! ドロー!」

 『セイラーマン』の恩恵によって手に入れた2枚のカードと、今引いたカード、合わせて3枚の手札。
 栄一自身の性格を表すような、猪突猛進になりかねない内容ではあったが、新司のフィールドを現状のまま維持さえすれば・・・

「(一気に決めれるか!?)行くぜ! 『エアー・フュージョン』発動!」

 栄一が引いたのは、フィールドと墓地に存在するモンスターを使って風の融合召喚を行う魔法。
 瞬間、栄一のディスクの墓地ゾーンから、一陣の風が吹き荒れる。嵐が、フィールドを支配する。

(フェザーマン)(スパークマン)(バブルマン)、3つの自然の力を重ね、現れろ!」





「『E・HERO(エレメンタルヒーロー) テンペスター』!」





 3体のモンスターが墓地より現れ、それぞれの力を1つにする・・・。その先に現れたのは、風のヒーロー(フェザーマン)の翼に、雷のヒーロー(スパークマン)の筋肉質の身体、右腕には雨のヒーロー(バブルマン)の銃が備えられた、暴風雨のヒーローテンペスター)・・・。
 彼は、その翼を羽ばたかせ、ゆっくりと栄一のフィールドに舞い降りた。

「・・・また、都合よく墓地に送られてたなぁ。『スパークマン』」

 『テンペスター』の舞い降りる姿を見て、新司は嘆きの言葉を1つ呟いた。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) テンペスター ☆8
風 戦士族 融合・効果 ATK2800 DEF2800
「E・HERO フェザーマン」+「E・HERO スパークマン」+「E・HERO バブルマン」
このモンスターは融合召喚でしか特殊召喚できない。
このカード以外の自分フィールド上のカード1枚を墓地に送り、
自分フィールド上のモンスター1体を選択する。
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
選択したモンスターは戦闘によっては破壊されない。(ダメージ計算は適用する)

E・HERO(エレメンタルヒーロー) スパークマン ☆4
光 戦士族 通常 ATK1600 DEF1400
様々な武器を使いこなす、光の戦士のE・HERO。
聖なる輝きスパークフラッシュが悪の退路を断つ。

「さらに『エアー・フュージョン』の効果発動! 融合召喚に成功したので、お前の手札1枚を墓地へ送る! 俺から見て左のカードを送ってもらうぜ!」

「ちっ! やっかいなハンデス効果か・・・」

エアー・フュージョン 通常魔法(オリジナル)
自分のフィールド上または墓地から、融合モンスターカードによって
決められた融合素材モンスターをゲームから除外し、
風属性の融合モンスター1体を融合召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する。
この効果によってモンスターの融合召喚に成功した時、
相手の手札からカードを1枚ランダムに選択して墓地へ送る。

 『テンペスター』の翼の舞い。その風が、新司の手から1枚のカードを奪う。
 強力なヒーローを呼び、さらには相手の手札を奪う事にも成功した栄一。だが、まだだ。
 さらなるカードを栄一は、ディスクへと差し込む。『テンペスター』に、今以上の力を与えるのである。

「装備魔法『テンペスト・ウェポン』を、『テンペスター』に装備する! これにより、墓地に眠るモンスターを除外する事で、その属性によって『テンペスター』は新たな力を得る! 『エアーマン』を除外!」

 『テンペスター』の右腕の銃が、さらに巨大に、さらに派手派手しい物に様変わりする。
 そして狙いが定まった瞬間、その銃から一筋の光線が放たれる。標的は、『ハイパーハンマーヘッド』だ。

「『エアーマン』は風属性。風属性の効果は、手札1枚をコストにフィールドのカードを持ち主のデッキの一番下に戻す効果だ!」

「なっ!? 『ハイパーハンマーヘッド』!」

テンペスト・ウェポン 装備魔法(オリジナル)
「E・HERO テンペスター」にのみ装備可能。???。
自分の墓地に存在する風・光・水属性のいずれかのモンスター1体を
ゲームから除外する事で、装備モンスターは以下の効果を得る。
●風属性:1ターンに1度、手札を1枚捨ててフィールド上の
カード1枚を持ち主のデッキの一番下に戻す事ができる。
●光属性:1ターンに1度、フィールド上の裏側表示モンスターを
2体まで表側表示にする事ができる。この時、リバース効果は発動しない。
●水属性:このカードが攻撃宣言した時、相手の手札1枚をランダムに選択して破壊する。

 光線が直撃した『ハイパーハンマーヘッド』。悪あがきも空しく、新司のデッキの一番下へと吸い込まれていった。
 これで、新司を守る物は何も・・・

「(・・・あの手札、何かありそうかも)」

 いや、まだ最後の手札という可能性が存在した。
 だがその可能性も、消そうと思えば消せる筈なのだが。

「(さっき、『テンペスト・ウェポン』のコストで捨てたのは、水属性の『スプラッシャー』。コイツを除外すれば・・・)」

E・HERO(エレメンタルヒーロー) スプラッシャー ☆5(オリジナル)
 水族 通常 ATK2300 DEF1500
激しい水の流れをも操る、水のE・HERO。
その水の猛撃は、どんなに堅い悪をも貫く。

 そう。水属性を除外した時の『テンペスト・ウェポン』の効果を使えば、攻撃と同時に新司の手札を奪う事ができるのだ。だが・・・。

「・・・バトルフェイズ! 『テンペスター』で、ダイレクトアタック! 『カオス・テンペスト』!」

 栄一は、「あえて」それを放棄したのであった。何か、ありそうな気がしたから。
 何かありそうなのに、その可能性を捨て去る事のできる権利をあえて放棄する。矛盾しているように思えるが、直感がそうしろと言っている。

 だがその栄一の直感は、幸か不幸か、皮肉にも当たっていたのであった。

「手札から『速攻のかかし』を捨て、その効果を発動! 攻撃を無効にして、バトルフェイズを終了する!」

 『テンペスター』の銃から放たれた光線が、新司を襲う。だがそれは、寸での所で新司の目の前に現れたかかしによって阻まれるのであった。

速攻(そっこう)のかかし ☆1
地 機械族 効果 ATK0 DEF0
相手モンスターの直接攻撃宣言時、このカードを手札から捨てて発動する。
その攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了する。

「・・・やっぱり、そういったカードだったか。ターンエンドだ」

 直感というのは、時に恐ろしいものである。
 『テンペスト・ウェポン』の水属性効果の発動タイミングと、『速攻のかかし』の効果の発動タイミングは同じである。だから、仮に『テンペスト・ウェポン』の効果で捨てさせようとしても、それにチェーンする形で『速攻のかかし』の効果を使われてしまっては、ただの骨折り損なのである。
 墓地にあるのと除外されているのであれば、墓地にある方が融通が利く事の方が多い。些細な事ではあるが、この駆け引きにより栄一は、『スプラッシャー』の無駄遣いをせずに済んだのである。

新司LP1800
手札0枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンなし
栄一LP2400
手札0枚
モンスターゾーンE・HERO テンペスター(攻撃表示:ATK2800)
魔法・罠ゾーンテンペスト・ウェポン(装備:E・HERO テンペスター)










−保健室−

 保健室では、怪我人・病人多種多彩な愉快な仲間達が、テレビ越しにデュエルを観戦していた。

「綱渡りだなぁ、どっちも。今の栄一、『テンペスト・ウェポン』の水属性の効果を使わなかったのは、意図的なのか、それとも・・・」

 保険医の鮎川先生を除いて、この保健室でただ1人の健康人・宇宙が言う。
 野戦病院と揶揄されそうな今のこの部屋で、健康体な彼の存在は異質とも言えた。

「直感・・・それが、強い感はあるよ。勿論、黒田先生に教わる前からのね」

 護が、言葉を合わせる。事実、さすがと言うべきか、彼の判断は当たっている。
 最後に、鋭い補足があったのは、どこか気にかかるが。

「確かに、あの直感とも言うべき判断力は、他人の教えだけでは身に付かない。天性の物が強いだろうね」

 蛇足とも言える護の補足に、それでも黒田先生は素直に答える。
 普段頼りないとはいえ、年長者だけある。至って冷静であった。

「さて、このピンチの状況を、新司君がどう覆すか・・・。1ターンでは無理かな?」

 不敵な笑みを浮かべつつ黒田先生は、再び教え子達の闘いに注目した。










−デュエルコート−

 何とか攻撃を防ぐ事はできた。だがそれでも、新司が手札のカードを使い切ってしまった事に変わりはない。これで新司を守る物は、次のドローカードのみなのだ。

「俺のターン、ドロー!」

 それでも、新司は投げない。まだ諦めてはいない。勢い良くカードをドローする。

「(・・・また、一か八かだな。今、発動する他は無い、か)」

 一旦間を置き、考え込む新司。引いたのは、新司に多くの可能性を与えてくれるカード。
 だが次のターン、栄一に『テンペスト・ウェポン』の効果を使われてしまえば、その可能性はほぼ0となってしまう。
 ポイントとなるのは、先ほど『ネクロシャドーマン』の効果で墓地へ送られたカードだ。

「モンスター1体をセットして、さらに墓地の『ADチェンジャー』を除外! その効果を発動する!」

AD(エーディー)チェンジャー ☆1
光 戦士族 効果 ATK100 DEF100
墓地に存在するこのカードをゲームから除外し、
フィールド上に存在するモンスター1体を選択して発動する。
選択したモンスターの表示形式を変更する。

「表示形式を変更するのは、俺の裏側守備表示モンスター! そしてコイツは、『メタモルポット』だ!」

 新司の墓地から、一昔前の番長と、応援団の団長を足し合わせたようなスタイルのモンスター『ADチェンジャー』が現れ、その手に持つ巨大な「A」の旗で、新司がたった今セットしたモンスターを引っ繰り返す。
 瞬間、その姿を現したのは、不気味な壺のモンスター『メタモルポット』である。今の時代となっては貴重な、膨大な手札増強を行えるモンスターである。

メタモルポット ☆2
地 岩石族 効果 ATK700 DEF600
リバース:お互いの手札を全て捨てる。
その後、お互いはそれぞれ自分のデッキからカードを5枚ドローする。

「お互い手札は0。よって、コストなしに5枚のカードを俺もお前も手にする」

「俺の手札まで増やすリスクを負ってまで、手札を増強するか。凄い事するな・・・、新司!」

 そう。手札を一気に増強させる事も可能なモンスター『メタモルポット』。それは相手の手札まで一緒に補充させる危険性を秘めている。
 それでも今の新司には、この戦術しか無いのだ。ここで『メタモルポット』の効果を使わなければ、次のターンに新司が敗北する事はほぼ決定的なのだから。

「・・・よし」

 一気に増えた手札を一瞥し、新たな戦術を組み立てる。
 栄一も手札が増えている。生半可な防御では、次のターンに易々と攻略されてしまうだろう。

「カードを1枚セットして、ターンエンドだ!」

 このカードを攻略されると、まず新司の勝ち目は無くなる。それ程、このセットカードもまた、重要なものとなった。

新司LP1800
手札4枚
モンスターゾーンメタモルポット(攻撃表示:ATK700)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
栄一LP2400
手札5枚
モンスターゾーンE・HERO テンペスター(攻撃表示:ATK2800)
魔法・罠ゾーンテンペスト・ウェポン(装備:E・HERO テンペスター)

「俺のターン!」

 『メタモルポット』は、『ADチェンジャー』の効果で攻撃表示となっている。『テンペスター』で攻撃すれば、新司のライフを一気に削り取る事ができる。ならば・・・

「『テンペスト・ウェポン』の効果発動! 手札の『フォレストマン』をコストに、そのリバースカードをデッキに戻す!」

 再び、フィールドに一筋の光線が放たれる。栄一にとって、邪魔なカードはもうこのリバースカードのみ。これを取り除けば・・・

「勝ちが見えてくるって? 甘いぜ、栄一! 伏せていたのは『エネミーコントローラー』だ!」

「!? しまった!?」

 瞬間、『メタモルポット』と『テンペスター』に、『エネミーコントローラー』の接続端子が突き刺さる。
 それは、『テンペスター』の自由が奪われてしまった事を意味していた。

「コマンド入力! ←・→・B・Aと入力する事で、『メタモルポット』をリリースし、お前の『テンペスター』のコントロールをエンドフェイズまでもらう!」

エネミーコントローラー 速攻魔法
次の効果から1つを選択して発動する。
●相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体の表示形式を変更する。
●自分フィールド上に存在するモンスター1体をリリースして発動する。
このターンのエンドフェイズ時まで、相手フィールド上に表側表示で存在する
モンスター1体のコントロールを得る。

 『テンペスター』が、新司のフィールドへと渡る。わざわざ手札を1枚失って、フィニッシャーを新司に譲渡してしまった。『テンペスター』の攻撃で決めようとしていた栄一にとって、これは大きな痛手であった。

「・・・『ワイルドマン』を守備表示で召喚し、カードを1枚セット。ターンエンドだ。『テンペスター』は返してもらうぜ」

 再び、栄一の下へと戻る『テンペスター』。
 強力なヒーローが単調にフィールドを左右する姿は、妙なシュールさをホール中に生んでいた。

新司LP1800
手札4枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンなし
栄一LP2400
手札3枚
モンスターゾーンE・HERO テンペスター(攻撃表示:ATK2800)
E・HERO ワイルドマン(守備表示:DEF1600)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
テンペスト・ウェポン(装備:E・HERO テンペスター)



第35話 −全力vs全力 ぶつかる力−

−観客席−

「栄一お得意の融合召喚が連発して以降、栄一優勢・新司劣勢の状況になりかかっているけど・・・。この『エネミーコントローラー』は、栄一にとって意外に痛いかもね」

 観客席では、かつての新司同然(・・・・・・・・)の状況にいる光様が、ぶつぶつと戦況を語っていた。
 デュエル開始時から、その不機嫌さは変わらずに。

「お互いに手札は豊富だし、次の一手でどう転んでもおかしくはないわよね・・・」

 だが、何時までも無愛想な顔を見せるだけでいても仕方が無い、と、自らが決勝に出られなかった不本意さに駆られながらも、今後の為にもしっかりと分析しているのだ。
 後ろの黄色い声を無視して。

「で、結局光はどっちを応援してるのよ〜」

「さっきから独り言ばっかり、変人に思われるわよ〜」

 黄色い声を無視して、無視して、無視して、無視して、無視して・・・・・・

「無視できるかぁ!!! おんどれら、さっきからやかましいんじゃ! ちょっとは黙ってられねぇんか!? えぇ!?」

 言葉の端正さと、羞恥心を捨てた、できる限りの罵詈雑言。
 あちらこちらからの歓声で、その罵声が中和され、周囲の人間だけにしか聞こえなかったのは、光にとって幸いだったであろう。

「(・・・男の子と行動する事が多い娘って、結構大変なのね)」

 近くで観戦していたメガネっ娘の少女、明子は、そんな光に同情の念を抱いていた。



 羨望の念では決して無い。嫉妬の念でも決して無い。










−デュエルコート−

「(取り合えずは、セーフ・・・かな?)」

 結局、栄一の手札に、『テンペスター』を攻略し、尚且つ新司にトドメを刺せるカードは存在しなかった。それによって与えられた猶予は、新司にとって大きい物なのだが・・・。

 実際は、余裕など無かった。あるのは、焦燥の感だけである。

「(でも、結局はヤバい事に変わりないんだろうなぁ・・・)俺のターン!」

 先程、『テンペスト・ウェポン』のコストとして墓地へ送られた、森のヒーロー『フォレストマン』。それが、新司に焦りを与えている正体であった。
 下級モンスターでは倒すのが難しい程の守備力の高さも魅力だが、それ以上に、毎ターン『融合』のカードを補充できるという栄一にはこの上なく嬉しい効果が、『フォレストマン』には備わっている。
 『メタモルポット』の効果によって増大した手札の中で、その『フォレストマン』を墓地へ送ったという事は・・・

「(あのリバースカード、スタンバイフェイズまでに墓地のモンスターを特殊召喚できる罠、もしくは速攻魔法か!?)」

 一応、栄一のターンにまで持って行けば、新司の手札にはその特殊召喚を防ぐ事のできるカードが存在する。
 だが、墓地から特殊召喚を行う罠または速攻魔法というのは、基本的にフリーチェーンのカードが多い。つまり、新司のターン中に特殊召喚されてしまっては、新司の手札に眠るその妨害カードも役に立たない。
 という事は、結局『フォレストマン』は特殊召喚され、次のターンには融合召喚されてしまう可能性が高い。

「(なら・・・ここで少しでもモンスターを減らしておく!)『セイバーザウルス』を召喚し、さらに装備魔法発動! 『戦線復活の代償』だ!」

セイバーザウルス ☆4
地 恐竜族 通常 ATK1900 DEF500
おとなしい性格で有名な恐竜。大草原の小さな巣で
のんびりと過ごすのが好きという。怒ると怖い。

 大人しいと有名らしいが、その赤の体つきからは想像もできない。そんな恐竜『セイバーザウルス』が、フィールドに現れた途端、姿を消す。
 さらに強力な恐竜を呼び込む為の、糧となったのだ。

「『セイバーザウルス』を墓地へ送り、墓地から『機動恐獣(モビルティラノ)』を特殊召喚する!」

戦線復活(せんせんふっかつ)代償(だいしょう) 装備魔法
自分フィールド上の通常モンスター1体を墓地へ送って発動する。
自分または相手の墓地に存在するモンスター1体を選択して
自分フィールド上に特殊召喚し、このカードを装備する。
このカードがフィールド上に存在しなくなった時、装備モンスターを破壊する。

 体のあちこちに装備された、鋼鉄の鎧。だがそれもお構い無しといった感じに、召喚された瞬間からフィールドを暴れまわり、その身軽さをアピールする、後ろ2本足で立つ凶悪な恐竜。それが『機動恐獣』だ。

「・・・!? どうした、『ワイルドマン』!」

 同時に、ワイルドマンの周りをオーラが囲み、『ワイルドマン』の闘争心を擽る。
 突然の出来事に、栄一も慌てる。

「感謝しろよ・・・とか言ったらやけに上から目線になっちゃうけど、『機動恐獣』の効果が発動したんだよ。お互いに、攻撃力2000以下のモンスターの攻撃力は300ポイントアップするんだ」

 その栄一を宥めたのは、他でもない新司であった。
 意外にも思える、『機動恐獣』のその能力。だが、迅速な展開を補助するという意味では、ある意味「機動」の名に相応しいのかもしれない。

機動恐獣(モビルティラノ) ☆8(オリジナル)
地 恐竜族 効果 ATK3400 DEF2600
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
フィールド上に表側表示で存在する攻撃力2000以下の
モンスターの攻撃力は300ポイントアップする。
???

E・HERO ワイルドマン:ATK1500→ATK1800

「こんなモンスター、いつの間に墓地に・・・! そうか、俺の『エアー・フュージョン』の時か・・・」

「そうさ。あの時選ばれたカードが逆だったら、俺は今頃負けていた・・・ってところかな」

 いやはや、1つの選択が天国と地獄を分けたこの駆け引きの何と面白い事か。
 最早、新司は、今目の前にいる栄一といつも行動を共にしているという事が、この絶妙な場面での運の強さを生んでいるのであろう、と信じずにはいられなくなっていた。
 非科学的であるとかは関係ない。後1歩で負け続けて来た今までが嘘みたいに、もうそれ程、ここ最近の絶妙な場面での勝負強さは、新司の人生の中でも特に神懸っているのだ。
 「友人として当然」行動を共にしている栄一にとっては、皮肉な話ではあるが。

「バトルフェイズ! 『機動恐獣』で、『テンペスター』を攻撃!」

 そしてバトルフェイズに入る。耳を劈くような叫びを1つ上げ、『機動恐獣』が「獲物」目掛けて突進する。
 だが、こちらも簡単にやられるわけにはいかない。栄一、そして『テンペスター』も、迎撃の策をちゃんと用意していた。

「くっ! 『テンペスト・ウェポン』を墓地へと送り、その効果を発動する! 『テンペスター』は、戦闘では無敵になる!」

テンペスト・ウェポン 装備魔法(オリジナル)
「E・HERO テンペスター」にのみ装備可能。
装備されているこのカードを墓地へ送る事で、装備モンスターは
フィールド上に表側表示で存在する限り戦闘によっては破壊されない
(ダメージ計算は適用する)。この効果は相手ターンのみ使用できる。
自分の墓地に存在する風・光・水属性のいずれかのモンスター1体を
ゲームから除外する事で、装備モンスターは以下の効果を得る。
●風属性:1ターンに1度、手札を1枚捨ててフィールド上の
カード1枚を持ち主のデッキの一番下に戻す事ができる。
●光属性:1ターンに1度、フィールド上の裏側表示モンスターを
2体まで表側表示にする事ができる。この時、リバース効果は発動しない。
●水属性:このカードが攻撃宣言した時、相手の手札1枚をランダムに選択して破壊する。

 強烈な体当たり。だが、寸でで『テンペスター』から装備を解除された『テンペスト・ウェポン』が、『テンペスター』の周りにドーム状のバリアを張り、体当たりによる衝撃を緩和。『テンペスター』を戦闘破壊から守った。

栄一:LP2400→LP1800

「くっ! けど戦闘ダメージは喰らうんだよなぁ」

 栄一はさも残念そうに言うが、『テンペスター』は健在。手札もまだある。状況はそれ程悪くない。
 すぐに巻き返してやると虎視眈々であった。・・・のだが。

「残念だけど、どの道『テンペスター』は破壊だ! 『機動恐獣(モビルティラノ)』が攻撃したモンスターは、必ず破壊される!」

「何!?」

 『テンペスター』を囲むバリアが消えた瞬間を計らって、『機動恐獣』はその自らの尾をフルスイング。『テンペスター』に思いきり叩きつけ、一撃で彼を絶命へと追いやった。

「そして、カードのドローまでできる! どうだ、凄いだろ!」

機動恐獣(モビルティラノ) ☆8(オリジナル)
地 恐竜族 効果 ATK3400 DEF2600
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
フィールド上に表側表示で存在する攻撃力2000以下の
モンスターの攻撃力は300ポイントアップする。
また、このカードと戦闘を行ったモンスターを
ダメージステップ終了時に破壊し、
自分はデッキからカードを1枚ドローする。

「そりゃないぜ・・・」

 安堵から一転、突然の破壊劇はたまったものではない。さすがの栄一も、落胆する他無かった。
 対する新司は、ようやくの形勢逆転に勇む。自然と口調も軽くなった。

「カードを2枚セットして、ターンエンドだ」










 そして、デュエルコートに一瞬の沈黙が流れる。
 今、新司はターンの終了宣言をした。普通なら、ターンが移り、栄一はカードをドローするのであるが・・・。

「(迷ってるんだな、栄一? 今蘇生カードを発動するか、それとも次のお前のターンに持ち越すか・・・)」

 そう。おそらく、また直感が呼びかけているのであろう。カードの発動に対する、警告が。
 栄一は、まだ自分のターンに入る宣言をしていない。つまり現在、新司のターンのエンドフェイズでデュエルはストップしているのだ。

「(何だろう・・・。別にスタンバイフェイズまでに発動できればいいのに、何か嫌な予感がするんだよなぁ・・・)」

 栄一が伏せているカードのうちの1枚。それは、攻撃力1000以下のモンスターを墓地より特殊召喚する『リミット・リバース』であった。

リミット・リバース 永続罠
自分の墓地から攻撃力1000以下のモンスター1体を選択し、攻撃表示で特殊召喚する。
そのモンスターが守備表示になった時、そのモンスターとこのカードを破壊する。
このカードがフィールド上から離れた時、そのモンスターを破壊する。
そのモンスターが破壊された時このカードを破壊する。

 『リミット・リバース』はフリーチェーンのカード。今発動する事も可能だし、スタンバイフェイズの直前に発動する事もできる。この効果で、『フォレストマン』の特殊召喚を栄一は狙っているのだ。

 だが、今新司が伏せたカード。これらは、栄一のターンに入れば発動が許可される。対して、新司のターンが続いている間には発動できない。伏せカードによる妨害を警戒するのなら、今発動した方が良い。

 だが、今発動するにしても、結局妨害の手段はある。新司の手札だ。
 手札からカードを除去する速攻魔法でも発動されれば、『フォレストマン』は次のスタンバイフェイズまでに再び墓地に眠る事になる。
 対して、栄一のターンに移ると新司の手札の速攻魔法は発動できない。

 伏せカードを取るか手札を取るか。それが、栄一の直感が発している警告であった。

「(・・・でも待てよ。手札に俺の伏せカードを除去できるカードがあって、しかも俺の伏せカードを警戒してるなら、とっくにその除去カードを使ってる筈! しかも新司はさっき、『強者束縛』とのコンボの時に『サイクロン』を使っている!)」

 『サイクロン』のような、リバースカードを除去できる速攻魔法は、デュエルモンスターズにおいてそう多くはない。という事は・・・。

「(一か八かで、今に賭けてみっか!)このエンドフェイズに、俺はリバースカードを発動する! 『リミット・リバース』! これで、墓地の『フォレストマン』を特殊召喚だ!」

「くっ! 今来たか・・・」

 結局、この駆け引きは新司の負けという結果に終わった。
 先程述べた通り、新司のターン中に特殊召喚されれば、リバースカードによる妨害はできない。
 分かっていながら、それを指を咥えて眺めている事しかできない。
 栄一のフィールドに森のヒーロー『フォレストマン』が現れるのを、新司は悔しそうに見つめていた。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) フォレストマン ☆4
地 戦士族 効果 ATK1000 DEF2000
1ターンに1度、自分のスタンバイフェイズ時に発動する事ができる。
自分のデッキまたは墓地に存在する「融合」魔法カード1枚を手札に加える。

E・HERO フォレストマン:ATK1000→ATK1300

「あ、そうか。『フォレストマン』も攻撃力が上がるんだった。ラッキー!」

 そう。『フォレストマン』の攻撃力も2000以下。よって『機動恐獣』の効果の恩恵を受けるのだ。
 『機動恐獣』の効果処理が終わり、ようやく新司のターンは終了を迎えたのであった。

新司LP1800
手札2枚
モンスターゾーン機動恐獣(攻撃表示:ATK3400)
魔法・罠ゾーンリバースカード2枚
栄一LP1800
手札3枚
モンスターゾーンE・HERO ワイルドマン(守備表示:DEF1600)
E・HERO フォレストマン(攻撃表示:ATK1300)
魔法・罠ゾーンリミット・リバース(対象:E・HERO フォレストマン)

「俺のターン、カードをドローし、スタンバイフェイズに『フォレストマン』の効果を発動する! デッキから『融合』を1枚手札に加える!」

 新司の視線を気にしながらも栄一は、デッキから『融合』のカードを手札に加える。そして、5枚に増えた手札を順に眺める。

「(・・・逆転の可能性は、あるにはあるんだけどなぁ)」

 さて、新司のフィールドには高攻撃力の『機動恐獣』に、リバースカードが2枚。中々堅い守りだ。特に、あの2枚のリバースカードが厄介だというのが、栄一の見解だ。

「(そんな時は、やっぱり・・・)魔法カード『ライトジャスティス』発動! 俺のフィールドの『E・HERO』の数と同じだけ、つまり2枚の魔法・罠カードを破壊する!」

(アール)−ライトジャスティス 通常魔法
自分フィールド上に表側表示で存在する「E・HERO」と名のついた
カードの枚数分だけ、フィールド上の魔法・罠カードを破壊する。

 栄一のフィールドにいるヒーロー達から、『ライトジャスティス』のカードに向けてエネルギーが送られる。
 そして、そのヒーロー達の力を得たそのカードから、新司のフィールドにセットされた2枚のカード目掛けて雷が放たれた。

「(・・・どうする? ここで発動するか?)」

 新司の伏せているカードは、共に今発動できるカードであった。そしてその内1枚は、栄一のフィールドに打撃を与える事のできるカードだ。
 だが・・・。

「(・・・いや。まだだ!)カウンター(トラップ)『魔宮の賄賂』! 『ライトジャスティス』を無効にし、相手はカードを1枚ドローする」

 まだ、このカードを発動するには早い。そう結論付けた新司は、結局もう1枚の方のカードを発動させた。そしてそのカードから発せられた力が、『ライトジャスティス』の雷を一瞬にして音もたてずに消滅させる。
 ちなみにこれが、「さっき『リミット・リバース』を妨害できる可能性があったカード」である。

「・・・防いできたか」

 結果、栄一はこの一連の流れに軽く舌打ちをしながら、『魔宮の賄賂』の効果により新たなカードを引いた。

魔宮(まきゅう)賄賂(わいろ) カウンター罠
相手の魔法・罠カードの発動を無効にし破壊する。
相手はデッキからカードを1枚ドローする。

「(俺にカードを与えてまでもリバースカードを守るなんて・・・。て事は、よっぽど良いカードなのか・・・?)」

 新司のフィールドにまだ残る1枚のリバースカードに、栄一は戦慄を覚える。
 迂闊に手を出して良いのか? 手を出して後悔はしないのか? そんな感情が、栄一の頭の中でぐるぐる回る。

 ・・・そして考える事、約数十秒。

「(あー! もう分っかんねぇ! 男なら突っ走る! そういうもんだろ!)」

 とうとう、栄一の脳内は情報量過多でオーバーヒートを起こしてしまった。
 そしてその自身の性格に任せて、1枚の手札をディスクに差し込む。

「魔法カード『融合』! この効果により、フィールドの『フォレストマン』と、手札の『ネクロダークマン』を融合する! 現れろ! 『E・HERO(エレメンタルヒーロー) ガイア』!」

 地響きを鳴らして、「それ」は現れた。
 黒い鋼鉄のボディの巨人『E・HERO ガイア』。フィールドに立ってからも彼は、その豪腕を地面に叩き付けて、フィールドを大きく揺らす。

「『ガイア』のモンスター効果! 融合召喚時、相手モンスター1体の攻撃力をエンドフェイズまで半分にし、その数値分このカードの攻撃力をアップする!」

 その栄一の言葉と共に、新司のフィールドの『機動恐獣』からエネルギーが吸い取られていき・・・それが『ガイア』へと与えられる。
 これにより一時的にだが、栄一のヒーローが新司の恐竜の攻撃力を上回る事となった。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) ガイア ☆6
地 戦士族 融合・効果 ATK2200 DEF2600
「E・HERO」と名のついたモンスター+地属性モンスター
このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。
このカードが融合召喚に成功した時、相手フィールド上に
表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動する。
このターンのエンドフェイズ時まで、選択したモンスター1体の
攻撃力を半分にし、このカードの攻撃力はその数値分アップする。

機動恐獣:ATK3400→ATK1700

E・HERO ガイア:ATK2200→ATK3900

「さらに、『ガイア』の融合召喚に成功したので、手札から『エレメンタル・ターボ』を2枚発動! カードを4枚ドローする!」

「4枚も!? なんかズルい気がするな・・・」

 栄一の融合戦術を助ける、貴重なドローソース。それも、ここまで派手に使われると、相手の嫉みしか生まない。
 またも栄一は、どちらかと言うと手札確保にも一苦労な新司の、羨望の眼差し攻撃をモロに受けるのであった。

エレメンタル・ターボ 通常魔法(オリジナル)
「E・HERO」と名のついたモンスターの
融合召喚に成功したターンに発動する事ができる。
自分のデッキからカードを2枚ドローする。

 羨望の眼差しは、中々痛いものであった。だが兎に角、準備が整った事に変わりはない。
 全てを打ち砕かんと、黒い巨人『ガイア』が動き出す。

「バトルフェイズだ! 行け! 『ガイア』!」

 振り上げられた『ガイア』の右腕。その影が、大きく見える。
 そしてたった今エネルギーを吸い取った対象の恐竜『機動恐獣』を一撃で粉砕せんと、その豪腕が振り下ろされる。

「・・・残念だが栄一、その攻撃は届かない!」

 『ガイア』の腕が接近し、新司を覆う影が徐々に大きくなる。しかし、彼は当然それを良しとしない。
 豪腕が『機動恐獣』に振り下ろされ切る瞬間、新司のリバースカードがその正体を見せる。

「トラップカード、『オーバースペック』!」

「何ぃ!?」

オーバースペック 通常罠
フィールド上に表側表示で存在するモンスターの攻撃力が
元々の攻撃力よりも高い場合、そのモンスターを全て破壊する。

「『オーバースペック』。『機動恐獣(モビルティラノ)』の効果を使えば、攻撃力2000以下のモンスターはこれで全滅する、ってわけか」

「そうだ。罠の効かない『ワイルドマン』を破壊できないのは残念だが・・・元々自身の効果で攻撃力がアップしてる『ガイア』は、これで破壊だ!」

 ここまで守り切った甲斐があった。迂闊に発動しなかった事で、強力な力を持つモンスターを「獲物」にする事ができたのだから。
 天より、1本の稲妻が走る。今にもその豪腕を、恐竜目掛けて叩き付けんとする『ガイア』目掛けて。
 しかし、栄一もまた、黙ってはいない。

「・・・・・・よし、これだ!」

 この刹那のタイミング。新たな直感が、栄一の脳裏を駆け巡る。
 その直感を信じて、栄一は手札を一瞥する。



 そう。手札には、さらなる可能性が残されていたのだ。

「・・・手札から、速攻魔法『皆既日蝕の書』を、さらにチェーンして、『融合解除』を発動! 『融合解除』により『ガイア』の融合は解除され、『フォレストマン』と『ネクロダークマン』に分離される! さらに『皆既日蝕の書』の効果で、全てのモンスターは裏側守備表示になる! 裏側表示なら、『オーバースペック』の効果も『機動恐獣』の効果も届かないぜ!」

「な、ここでそのカードを使うか!?」

皆既日蝕(かいきにっしょく)(しょ) 速攻魔法
フィールド上に表側表示で存在するモンスターを全て裏側守備表示にする。
このターンのエンドフェイズ時に相手フィールド上に
裏側守備表示で存在するモンスターを全て表側守備表示にし、
その枚数分だけ相手はデッキからカードをドローする。

融合解除(ゆうごうかいじょ) 速攻魔法
フィールド上に表側表示で存在する
融合モンスター1体を選択してエクストラデッキに戻す。
さらに、エクストラデッキに戻したこのモンスターの融合召喚に
使用した融合素材モンスター一組が自分の墓地に揃っていれば、
この一組を自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。

 「ここでそのカードを使うか」。新司の言葉には、2つの意味がある。
 1つは、ここまで大事に残してきた『オーバースペック』を完全に防がれた事への悔しさである。
 栄一にカードを与えてまで守ったのに、結末はこれ。モンスターを1体も破壊できなかった。勿体無いにも程があるだろう。

 そしてもう1つ。こちらが重要である。
 もう1つの理由。それは、この場面では別に『融合解除』を使う意味が無いという事への疑念だ。
 破壊からモンスターを守るのであれば、『皆既日蝕の書』を使うだけで十分。『ガイア』の融合を解除するメリットはそれ程無い。
 『ネクロダークマン』も『フォレストマン』も共に攻撃力2000以下。『機動恐獣』の効果の範囲内。『融合解除』によって特殊召喚された2体を守る為に『皆既日蝕の書』を使った・・・と、逆に考えても、なら最初から『融合解除』を使わなければいい話だ。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) ネクロダークマン ☆5
闇 戦士族 効果 ATK1600 DEF1800
このカードが墓地に存在する限り1度だけ、
自分はレベル5以上の「E・HERO」と名のついた
モンスター1体をリリースなしで召喚する事ができる。

「(・・・よし。何とか守り切ったぞ)リバースカードを1枚セットして、ターンエンドだ」

 だが、栄一に言わせてみれば、勿論これは意味の無い行動では無い。
 今伏せたカードが、今回の栄一の戦術のラストを飾るカードである。

「ここで、お前の『皆既日蝕の書』の効果で『機動恐獣(モビルティラノ)』を表側表示に変更し、カードを1枚ドローする!」

 1枚のドローを許してしまったが、今の栄一にとって、それは必要経費であった。

新司LP1800
手札3枚
モンスターゾーン機動恐獣(守備表示:DEF2600)
魔法・罠ゾーンなし
栄一LP1800
手札2枚
モンスターゾーン裏側守備表示モンスター(E・HERO ワイルドマン)
裏側守備表示モンスター(E・HERO フォレストマン)
裏側守備表示モンスター(E・HERO ネクロダークマン)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
リミット・リバース

「俺のターン!」

 一方の新司。前ターンではいいようにやられてしまった。だが、もうこれ以上栄一に好き勝手やらせるわけにはいかない。

「『抹殺の使徒』! 真ん中のモンスターを破壊、除外する! 俺の見間違いでなければそのモンスターは・・・」

 フィールドに剣を構えた騎士が現れ、栄一のフィールドにセットされたモンスターを串刺しにする。

「くっ! 『フォレストマン』!」

 ビンゴ。新司の狙い通り、除外されたモンスターは『フォレストマン』であった。

抹殺(まっさつ)使徒(しと) 通常魔法
フィールド上に裏側表示で存在するモンスター1体を破壊しゲームから除外する。
それがリバース効果モンスターだった場合、お互いのデッキを確認し、
同名カードを全てゲームから除外する。

「『機動恐獣』を攻撃表示に変更し、バトルフェイズ! 裏側守備モンスターを攻撃!」

 そして『機動恐獣』が再び立ち上がり、栄一のフィールドに突進する。
 だが、ここが栄一の見せ所だ。

「この瞬間、リバースカードオープン! 『アナザー・フュージョン』を発動! フィールドの『ワイルドマン』と、『ネクロダークマン』を融合する!」

「なっ!? ・・・そうか! 裏側守備表示だから、罠の効かない『ワイルドマン』でも、罠の『アナザー・フュージョン』で融合できる・・・か」

アナザー・フュージョン 通常罠(漫画GXオリジナル)
自分のフィールド上から、融合モンスターカードによって決められた
融合素材モンスターを墓地へ送り、その融合モンスター1体を
融合召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する。
この効果で特殊召喚した融合モンスターは、
このターンのエンドフェイズに破壊される。

 そう。栄一がわざわざ『融合解除』と『皆既日蝕の書』の両方を発動した理由はここにある。
 『アナザー・フュージョン』は融合素材を「効果」として墓地へ送るから、罠の効かない『ワイルドマン』を墓地へ送る事はできない。だが、裏側表示なら『ワイルドマン』の効果も通用せず、そのまま墓地へ送れるのだ。
 迎撃の融合モンスターを召喚する事を狙って、栄一は遠回しな戦術を取ったのであった。

「(『ガイア』を召喚しても、攻撃の巻き戻しでどの道『機動恐獣』は戦闘破壊できない。なら!)俺が呼ぶのは、『ネクロイド・シャーマン』だ!」

 2体のヒーローによる融合が行われ、栄一のフィールドに現れる『ネクロイド・シャーマン』。彼は、現れた瞬間に手に持った杖を地面へと叩きつける。
 フィールドに響く衝撃波。それが、『機動恐獣』を捕らえる。

「『ネクロイド・シャーマン』の効果により、『機動恐獣』を破壊し、お前の墓地より新たなモンスターを特殊召喚する。俺が選ぶのは、『速攻のかかし』だ! 攻撃表示!」

 『機動恐獣』がフィールドから消滅する。代わって新司のフィールドに現れるは、無防備な1体のかかし。
 攻撃力・守備力共に0。しかも攻撃表示となると、主を守る能力は皆無に等しい。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) ネクロイド・シャーマン ☆6
闇 戦士族 融合・効果 ATK1900 DEF1800
「E・HERO ワイルドマン」+「E・HERO ネクロダークマン」
このモンスターは融合召喚でしか特殊召喚できない。
このカードが特殊召喚に成功した時、相手フィールド上のモンスター1体を破壊する。
その後、相手の墓地からモンスター1体を選択し、相手フィールド上に特殊召喚する。

速攻(そっこう)のかかし ☆1
地 機械族 効果 ATK0 DEF0
相手モンスターの直接攻撃宣言時、このカードを手札から捨てて発動する。
その攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了する。

「くっ! カードを2枚伏せて、ターンエンドだ! この瞬間、お前のフィールドの『ネクロイド・シャーマン』は、『アナザー・フュージョン』の効果で破壊される!」

「・・・そうだな。ありがとう、『ネクロイド・シャーマン』」

 栄一の言葉と共に、『ネクロイド・シャーマン』がフィールドから消滅する。
 元々それを承知で『アナザー・フュージョン』を発動してはいるが、栄一が恰好の獲物を目の前にして攻め手を失った事実は変わらない。

新司LP1800
手札1枚
モンスターゾーン速攻のかかし(攻撃表示:ATK0)
魔法・罠ゾーンリバースカード2枚
栄一LP1800
手札2枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンリミット・リバース

「俺のターン、ドロー!」

 だが、栄一の引きの良さを忘れてはいけない。
 栄一がドローしたカードは、すぐさま彼のディスクに叩きつけられる。

「墓地の『ネクロダークマン』の効果で、『エッジマン』をリリースなしで召喚する!」

E・HERO(エレメンタルヒーロー) エッジマン ☆7
地 戦士族 効果 ATK2600 DEF1800
このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、
その守備力を攻撃力が超えていれば、
その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。

「そして『速攻のかかし』に攻撃! これが通ればお前のライフは0だ!」

 栄一の目の前に現れた黄金のヒーロー『エッジマン』が、その両腕に備わった刃を広げ、『速攻のかかし』へと飛び掛る。



 ―――斬!



 『速攻のかかし』の体が、簡単に3つに分断される。防御の術が存在しないのだから当然だ。
 そして、その斬撃によって引き起こされた衝撃が、新司を襲う。

「くぅ・・・。だが、戦闘ダメージは受けてたまるか! トラップカード『ガード・ブロック』を発動。俺の受ける戦闘ダメージは0になり、さらにカードを1枚ドロー!」

ガード・ブロック 通常罠
相手ターンの戦闘ダメージ計算時に発動する事ができる。
その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になり、
自分のデッキからカードを1枚ドローする。

 ギリギリのタイミングで新司の周りにバリアが張られ、衝撃を緩和する。そして新たなカードを生む。栄一の地団太も生む。

「ターンエンド! くっそぉ、後1歩だったのにぃ〜」

「残念だったな栄一! ついでに俺はここで、セットしていた『針虫の巣窟』を発動しておく! デッキの上からカードを5枚、墓地に送るぜ!」

針虫(はりむし)巣窟(そうくつ) 通常罠
自分のデッキの上からカードを5枚墓地に送る。

墓地に送られたカード:
『暗黒ドリケラトプス』
『究極恐獣』
『暗黒ステゴ』
『俊足のギラザウルス』
『ダークティラノ』

「・・・積み込み?」

「違ーよ! 偶然だから!」

 あまりにも出来すぎな(偏った?)、墓地に送られるカードの顔ぶれに、栄一も当の新司も思わず目を疑ってしまうのであった。

新司LP1800
手札2枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンなし
栄一LP1800
手札2枚
モンスターゾーンE・HERO エッジマン(攻撃表示:ATK2600)
魔法・罠ゾーンリミット・リバース


 勝負は、いよいよ佳境に向かおうとしていた。



第36話 −決着 最高の友よ−



 ブロロロロロロロ・・・



 誰もいないアカデミアの埠頭に、1艘の小型船がゆっくりと接岸した。
 少しの間を置いた後、その船の操縦室から1人の青年が現れる。

 埠頭に足を踏みしめ、冬の空を見上げながら、彼はこう口にした。

「・・・久しぶりだな、デュエルアカデミアも」

 白のスーツに身を包み、左腕にはデュエルディスクを付けた銀髪のその青年は、1月の厳しい寒さにも耐えながら、1歩1歩、アカデミアへと足を運んで行く。

「・・・保健室? また無茶をしたのか、アイツは? プロを引退しても相変わらず、といった所だな」

 携帯に届いていたメールを確認して、彼は苦笑する。
 「その無茶が、自らを引退に追い込んだのではないのか」。彼は、今すぐにでもアイツ(・・・)の目の前に立ち、そう言い放ちたかった。

「と、言う事は、まずは保健室かな」

 最初の行き先は決まった。まずは可愛い後輩(・・・・・)へのお説教タイムだ。
 そしてこれから始まるイベントに内心胸躍らせながら、彼は保健室への道を急いだ。






























 一方デュエルコートでは、栄一と新司、2人の1年生による熱戦が続いていた。

「俺のターンだ! さぁ、また新たな恐竜が現れるぜ!」

 そう言いつつ新司は、1枚のカードをディスクに差し込む。
 『ガード・ブロック』の効果によって手に入れたカードが、次の上級恐竜を呼び出す。

「墓地の恐竜族『暗黒ステゴ』と、機械族『速攻のかかし』を除外し、魔法カード『究極進化薬』を発動! 『超伝導恐獣(スーパーコンダクターティラノ)』を、デッキから特殊召喚する!」

 新司が2枚のモンスターカードをポケットに仕舞うのと同時に、新司のフィールドに1体の巨大な恐竜が現れる。
 体の様々な部分が機械でコーティングされた緑色の伝導恐竜、『超伝導恐獣(スーパーコンダクターティラノ)』だ。

究極進化薬(きゅうきょくしんかやく) 通常魔法(アニメGXオリジナル)
自分の手札または墓地から機械族モンスターと
恐竜族モンスターを1体ずつゲームから除外して発動する。
デッキまたは手札から光属性の恐竜族モンスター1体を特殊召喚する。

超伝導恐獣(スーパーコンダクターティラノ) ☆8
光 恐竜族 効果 ATK3300 DEF1400
自分フィールド上のモンスター1体を生け贄に捧げる事で
相手ライフに1000ポイントダメージを与える。
この効果は1ターンに1度しか使用できない。
また、この効果を発動したターンこのモンスターは
攻撃宣言をする事ができない。

「・・・準決で見せたコンボか!」

「そうだな。佐々木を倒す為の決定力になった恐竜さんだぜ! さぁ、攻撃だ! 行けぇ、『超伝導恐獣』!」

 新司の攻撃宣言。それを聞き入れ、『超伝導恐獣』は突進する。目の前の獲物に向かって。

 ―――グワシィ!

 上級ヒーロー『エッジマン』ですら、『超伝導恐獣』の圧倒的パワーには敵わない。突進攻撃に、あっさりと敗北を喫してしまう。

栄一:LP1800→LP1100

「カードを1枚セットして、ターンエンドだ」

新司LP1800
手札1枚
モンスターゾーン超伝導恐獣(攻撃表示:ATK3300)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
栄一LP1100
手札2枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンリミット・リバース

「スゲェぜ新司・・・。戦況を引っ繰り返したと思っても、それをさらに引っ繰り返してくる。何度も、何度も!」

 次から次へと上級モンスターが現れる恐竜族のパワー。そしてその召喚をすんなり成立させる新司の戦術。
 それを直に味わった栄一は、これ程の手足れが自らの身近にいた事に、改めて武者震いを覚えていた。

「ワクワクするぜ・・・この、デュエル! 俺のターン!」

 ドローしたカードに、新たな注目が集まる。
 先程から栄一が持つ手札は共に、このままでは何の役にも立たないものである。
 このドローが、勝負の明暗を分ける1手になるかもしれないのだ。

「・・・魔法カード『マジック・プランター』を発動! 『リミット・リバース』を墓地へ送り、カードを2枚ドローする!」

 『フォレストマン』との関係が解除されて以降、フィールドに無意味に残っていた『リミット・リバース』。それが、栄一にさらなる可能性を生む。

マジック・プランター 通常魔法
自分フィールド上に表側表示で存在する
永続罠カード1枚を墓地へ送って発動する。
自分のデッキからカードを2枚ドローする。

「・・・よし! イケる、イケるぜ! 魔法カード『オーバーソウル』を発動! 墓地より、『E・HERO』と名のついた通常モンスター1体を復活させる! 蘇れ! 『スプラッシャー』!」

 栄一のフィールドに、全身を水が走るヒーロー『スプラッシャー』が姿を現す。
 ゲーム序盤に墓地へ送られて以降、墓地に眠らされ続けていた『スプラッシャー』に、ようやく出番が廻って来たのだ。

(オー)−オーバーソウル 通常魔法
自分の墓地から「E・HERO」と名のついた通常モンスター1体を選択し、
自分フィールド上に特殊召喚する。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) スプラッシャー ☆5(オリジナル)
水 水族 通常 ATK2300 DEF1500
激しい水の流れをも操る、水のE・HERO。
その水の猛撃は、どんなに堅い悪をも貫く。

「『テンペスト・ウェポン』のコストで墓地へ送っていたのか・・・・・・って、えっ? そういやお前、『スプラッシャー』は水属性だけど、何で『テンペスト・ウェポン』の効果を使わなかったんだ?」

「何でって、その時の手札『速攻のかかし』だったじゃねぇか! ・・・まぁ、より確実に勝つ為には必要だったけど、効果を使おうとした時に何か嫌な予感がしてね。その結果が『速攻のかかし』だよ」

「・・・お前の直感、スゲェな」

 新司もまた、栄一に戦慄を覚える。
 天性の閃き、プレイングセンス。デュエリストなら誰もが羨ましがり、手に入れようと努力する能力。それを栄一は、生まれつき持っていると言っても過言ではなかった。
 栄一と出会ってまだ間もない頃、皮肉気味に「大物になる」と彼に言い放ったが、最早その言葉は皮肉めいたものだけではなくなっていた。
 栄一は本当の「大物」になる。新司は、そう確信していた。

「・・・だが、『スプラッシャー』の攻撃力では『超伝導恐獣』は倒せない。どうするつもりだ?」

「そんな事聞くのか? もうお前も分かってるくせに・・・」

「・・・だな」

 そう。一応カマはかけてみたものの、実際にはそんな事は必要なかった。
 分かっていた。新司は既に、栄一が反撃の準備を整え終えている事を知っていたのだ。

 栄一が、ディスクの墓地ゾーンへと手をかける。4枚のカードが、顔を見せる。

「俺の墓地に眠る、『ヒートハート』『エマージェンシーコール』『ライトジャスティス』『オーバーソウル』をゲームから除外し・・・」

 そして、渾身の一撃となるカードが、栄一のディスクへと差し込まれた。



「『ヒーローフラッシュ!!』を発動だ!」



 ホールの天に示される「HERO」の文字。巨大な力を持つ敵を倒す為の救援要請の様。
 そしてそれに応え、栄一のデッキから1体のヒーローが姿を現す。

「俺はこの効果により、デッキから通常モンスターの『E・HERO』・・・『ライオマン』を特殊召喚する!」

 獅子のような立派な鬣と、力強さを感じさせる鋭利な爪を持った、2本足で立つヒーロー『ライオマン』。『スプラッシャー』と共にフィールドに立つ姿は颯爽としている。
 敵を打ち砕く為のヒーローの共闘が今、実現する。

ヒーローフラッシュ!! 通常魔法
自分の墓地の「H−ヒートハート」「E−エマージェンシーコール」
「R−ライトジャスティス」「O−オーバーソウル」をゲームから除外して発動する。
自分のデッキから「E・HERO」と名のついた通常モンスター1体を特殊召喚する。
このターン自分フィールド上の「E・HERO」と名のついた通常モンスターは、
相手プレイヤーに直接攻撃をする事ができる。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) ライオマン ☆4(オリジナル)
地 獣戦士族 通常 ATK1700 DEF800
獅子のように大地を駆け巡るE・HERO。
正義の突進ライオクラッシュで悪を砕く。

「そして『ヒーローフラッシュ!!』が発動されたターン、俺の通常『E・HERO』は、相手にダイレクトアタックができる! 行け! 『スプラッシャー』!」

 『スプラッシャー』が飛び上がり、新司に引導を渡さんとその右掌から強烈な一筋の水を放つ。
 新司のライフは1800。この直接攻撃が決まれば、新司の敗北が決定する。

「こういった方法で『超伝導恐獣』との攻撃を回避し、俺にトドメを差しに来るか・・・。だが、そうはいかないぜ! リバースカード、『生存本能』だ!」

「何!?」

 瞬間、新司の墓地から現れる7体の恐竜のカード。それらが、新司のライフを大幅に回復させる。
 同時に、水の猛撃が新司を襲うが、ライフを削り切るまでには至らなかった。

生存本能(せいぞんほんのう) 通常罠
自分の墓地に存在する恐竜族モンスターを任意の枚数選択しゲームから除外する。
除外した恐竜族モンスター1枚につき、自分は400ライフポイント回復する。

除外された恐竜族:
『ドロオドン』
『セイバーザウルス』
『機動恐獣』
『暗黒ドリケラトプス』
『究極恐獣』
『俊足のギラザウルス』
『ダークティラノ』

新司:LP1800→LP4600→LP2300

「・・・なら、『ライオマン』で、ダイレクトアタック!」

 『ライオマン』は次のターンまで、表示形式を攻撃表示から変更する事はできない。なら、少しでもダメージを与えておきたい。
 『ライオマン』の爪による切り裂き攻撃が、新司を攻める。だがそれでも、ライフの全ては奪いきれなかった。 

新司:LP2300→LP600

「・・・そろそろ決めたかったんだけどなぁ。カードを1枚セットして、ターンエンドだ」

 またもや、またもや決定的な一打を受け止められてしまった。
 脆いようで、その実中々崩れない、難攻不落の新司城。それが、栄一には大きく見える。
 だが、栄一も諦めたわけではない。このリバースカードが、落ちない城を崩す為の希望の一矢だった。

新司LP600
手札1枚
モンスターゾーン超伝導恐獣(攻撃表示:ATK3300)
魔法・罠ゾーンなし
栄一LP1100
手札1枚
モンスターゾーンE・HERO スプラッシャー(攻撃表示:ATK2300)
E・HERO ライオマン(攻撃表示:ATK1700)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚

「俺のターン!」

 前のターンに勝負を決め切れなかった栄一のフィールドには、勿論攻撃表示のモンスターしか存在しない。
 猛烈な水を操る戦士も、百獣の王である獅子も、あの伝説のレアモンスターをも超える攻撃力を誇る恐竜『超伝導恐獣』の前では、ネギを背負ったカモも同然であった。

「決めるぜ、栄一! 『超伝導恐獣』で、『ライオマン』を攻撃だ!」

 フィールドに、一瞬の緊張が走る。同時に、『超伝導恐獣』の口元から放たれる砲撃。
 『ライオマン』を狙った砲撃が、ホール中全ての注目を集める。



「いや、まだだ!」

 栄一の叫びが、ホール中に響く。
 その瞬間であった。

「・・・!? なんだと!」

 事態は、急激に新司の思わぬ方向へと転んだ。何時の間にか、『ライオマン』と『超伝導恐獣』の立ち位置が変わっていたのだ。
 一瞬、新司の思考は停止してしまうが、次の瞬間には、ある1枚のカードの存在が、新司の脳裏を走ったのであった。

「チィ! 『異次元トンネル』か!」

異次元(いじげん)トンネル−ミラーゲート− 通常罠
自分フィールド上に表側表示で存在する「E・HERO」と名のついたモンスターを
攻撃対象にした相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
相手の攻撃モンスターと攻撃対象となった自分モンスターのコントロールを
入れ替えてダメージ計算を行う。このターンのエンドフェイズ時まで
コントロールを入れ替えたモンスターのコントロールを得る。

 栄一は、ここに来てとんでもないカードを伏せていた。
 『異次元トンネル−ミラーゲート−』。これにより、2体のコントロールが入れ替わってしまったのだ。
 そして、栄一よりさらにライフの低い新司は当然、この『超伝導恐獣』の攻撃を受ければ負けとなる。
 これが、難攻不落の新司城を落城へ導く一矢である。

「(・・・く! 次のターンの防御手段が無くなるが、ここはそんな事言ってらんねぇ!)」

 だが、新司もまだ粘る。砲撃が新司のフィールドに佇む『ライオマン』へと届く直前、新司は1枚のカードをディスクへと差し込む。

 ―――ドドドドド!

 砲が『ライオマン』に当たり、爆発を引き起こす。爆風と煙が、人々の視界を奪う。フィールドが荒れる。





「・・・やったか?」

 煙が晴れ、視界が良好となり、栄一はフィールドを凝視する。
 相手の攻撃が強力なら、それを味方にしてしまえばいい。
 まさに、敵の力が強い所以の、必殺の1手だった。



 だが、フィールドの状況は、栄一の青写真通りとはいかなかった。

「・・・どういう事だ!?」

 生き残っていた、新司のフィールドの『ライオマン』。姿を消していた、栄一のフィールドにいた筈の『超伝導恐獣』。そして・・・

新司:LP600

栄一:LP1100→LP1050

「新司じゃなくて、俺のライフが減ってる!?」

 栄一のシミュレーション通りに動いていない、互いのライフポイントであった。
 予想だにしなかった展開。落城を導く一矢は、防がれていたのであった。

「・・・このカード1枚でな」

収縮(しゅうしゅく) 速攻魔法
フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動する。
選択したモンスターの元々の攻撃力はエンドフェイズ時まで半分になる。

「『収縮』!? まさか・・・」

 そう。新司は攻撃が当たる直前に、『超伝導恐獣』に対して『収縮』を発動したのである。
 『超伝導恐獣』の攻撃力は3300。『収縮』によって半減されると、その攻撃力は1650となる。ギリギリで、『ライオマン』の攻撃力1700に届かない数値だ。

「・・・というわけで、皮肉じゃないけどありがとうな」

「何を! 俺にはまだ『スプラッシャー』がいる! 次のターンにその攻撃d」

「いや、別に今の戦闘に対しての言葉じゃない。『ライオマン』のコントロールをくれた事(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)、にだ!」

 その言葉と共に、新司は最後の手札をディスクに差し込む。同時に、『スプラッシャー』目掛けて突撃する『ライオマン』。


 ―――ガキィン!


「何!?」

 相打ちだった。2体揃って、フィールドから姿を消したのであった。
 「共に闘おう」と、一度は手を取り合ったヒーロー同士。それなのに、こうして互いを潰し合い、自らの命をも絶ってしまう。
 何とも皮肉な最期であった。

「『突撃指令』。通常モンスターをリリースして、相手モンスターを破壊するカードだ!」

突撃指令(とつげきしれい) 速攻魔法
自分フィールド上に表側表示で存在する通常モンスター(トークンを除く)1体を選択して発動する。
発動後、選択した通常モンスターを生け贄に捧げ、相手フィールド上のモンスター1体を破壊する。

「入れておいて損は無かったな。お前のデッキ構成から考えたら」

「・・・そういった点も研究済みってわけか。さすが新司、といったところだな」

 そう。『突撃指令』にしても、先程使った『戦線復活の代償』にしても、栄一のデッキをも考えての投入であった。
 『E・HERO』は、他のデッキと比べても必然的に通常モンスターの割合が多くなる。そこで新司は、自らコントロール奪取したりなどの、何らかの事情で栄一のモンスターのコントロールを得た時の為に、これらのカードを投入したのである。

「これで、俺の手札にもフィールドにも、カードは無くなった。ライフは次の一撃で十分決まるレベルだ」

「俺の次の引き次第って事だな!」

「あぁ。さぁ来い! 栄一!」

 『収縮』を使ってしまったのは痛かった。これで、次のターンの防御手段が無くなってしまったからだ。
 とはいえ、使ってしまった物は仕方が無い。後悔するのも馬鹿馬鹿しい。
 新司は、体を広げて大きく構える。どんな結末になろうとも、全てを受け止める覚悟の表れであった。

 ホール中が、手に汗握る緊張に包まれた。

新司LP600
手札0枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンなし
栄一LP1050
手札1枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンなし



















−保健室−

「いよいよだな」

「あぁ。決着近いよ」

 保健室の愉快な仲間達もまた、クライマックスの近い闘いに集中していた。
 患者を見張ってなければならない筈の鮎川先生までもが、テレビの中で起こっている闘いに注目している。

 と、その時である。

 ――ガシャン!

「失礼します」

 保健室中に響く、ドアの開く音と、甲高い声。緊張が切れた一同が、一斉にドアの方へと顔を向ける。

「護は・・・いたな。相変わらず、何をやってるんだか」

 瞬間、愉快な仲間達の7名中5名が、その場で凍りつく。突然の出来事に、思考回路が追いつかない。
 それもその筈、ドアの前に立つのは・・・そう、世界中の誰もが知っているであろうあのお人(・・・・)である。

「「「「「(え、ええええええええええええええええええ!!!!!?????)」」」」」

 呆然とする仲間達を不審に思いつつも、そのお人は、目の前にいる「お目当ての彼」・・・護に対して、言葉を続ける。

「全く、お前の無茶癖というのは・・・。『三つ子の魂百まで』とも言うが、悪癖という物はそう直らないものだな」

「ハハ・・・。貴方も、相変わらずのキツイお言葉ですね。お久しぶりです」

 苦笑いを浮かべながらも、親しい知人同然に話しかける護に対して、仲間達一同はさらに凍りつく。

「(何で護、普通に話してるの・・・ってあ、そっか、護も元プロだから・・・ってそうじゃなくて、何で今ここにこの人が・・・って、そりゃここはデュエルアカデミアだし、何の不思議も無いか・・・ってそうじゃなくって!!!)」

 支離滅裂な考えが浮かび上がり続けて、錯乱する宇宙。残りの4名も同じだろう。

「キャーお久しぶり! 元気にしてた?」

「お久しぶりです、鮎川先生。そちらも、まだまだ元気そうですね」

「もー! 私、そんな年じゃないわよ!」

「ハハ・・・。それは、失礼しました」

「「「「「(鮎川先生普通に馴染んでるー!?)」」」」」

 いや、確かに鮎川先生は、目の前のこのお人が学生時代の頃からこのアカデミアで保険医をやっているから、彼と面識があってもおかしくないのではあるが・・・。
 それでも、この順応の速さは異常である。さっき護に対して怒鳴り散らかした人とは別人のようである。やけに興奮している所とか。

「・・・で、今はどうなっているんだ?」

 そう言うとそのお人は、延々とデュエルを放送し続けるテレビの方へと視線を向ける。
 デュエルコートに立つ2人のうちの片方に、そのお人の目が留まる。

「ちょうど、決勝戦の最中ですよ」

「・・・なるほど、勝ち残ってはいるんだな」

「えぇ」

「それなら安心だ。奴が既に負けているのなら、わざわざ鮫島校長に呼ばれてここに来た意味が無い」

「最初は、来るのに難色を示してすらいましたからね」

「お前のあの一言が無かったら、ここには来ていなかったな」



「(・・・何を話してるんだ? こんなサプライズ、オレも聞いてないんですけど・・・)」

 護と、如何なる情報でも共有してきた筈の宇宙でさえ、現状を理解する事はできない。護達が、何の話をしているかさえ分からなかった。

「・・・さて、挨拶も終わった所だし、そろそろボクは行くかな。何せ、この大会のゲストだからな」

 話を終え、そのお人は再びドアの前へと移動する。
 同時に護もベッドから立ち上がるが・・・その場を動く様子は無い。

「お前は行かないのか?」

「・・・保健室でこんな状況、という事を理解して下さい(汗) 今日の残りの大体は、ここでお昼寝です」

「私プロデュースのお昼寝大会よ」

「・・・無茶も程ほどに、だな」

 にこやかな笑顔を見せる鮎川先生と、草臥れた表情を見せる護のギャップに、そのお人は呆れた表情を見せると、開いたドアの向こうへと歩を進める。

「じゃあ、体に気をつけろよ、護。他の皆さんも、健康は大事にして下さい」

 別れの挨拶を終えると、そのお人は閉まるドアの向こうへと姿を消した。





「(何だったんだ、今のは。ていうか結構意味深な言葉残してたよな・・・)」

 宇宙が、心の中でそう思う。全く話に絡めなかった他の4人も、同じ見解だろう。



 嵐が、過ぎ去った。



















−デュエルコート−

 保健室で波乱の騒ぎが起こっていたが、デュエルコートはそれ以上の盛り上がりを見せていた。次の栄一のドローが、勝敗を大きく左右するからだ。
 新司のライフも、勿論栄一のライフも、下級モンスターの攻撃でも十分削り切る事ができる数値。
 カードを引く右手にも、力が篭る。ホール中が、栄一に注目する。

「ドロー!」

 引いたカードを一瞥する。レベル4以下のモンスターなら、高確率で栄一に軍配が上がるが・・・。



「・・・・・・・・・カードを1枚セットして、ターンエンドだ」

 残念ながら、モンスターではなかった。途端、あちらこちらから緊張の解れる溜息が聞こえる。
 だが、栄一本人はまだ、緊張の最中である。新司の次の行動次第では、自身の敗北が決まるから。

新司LP600
手札0枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンなし
栄一LP1050
手札1枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚

「・・・」

 今度は、新司の右手に力が入る。ホール中の注目が、新司に集まる。
 闘いは、いよいよクライマックスを迎えようとしていた。

「俺のターン、ドロー!」

 ドローしたカードを確認して、新司の緊張が一瞬途切れる。この場面で新司は、大きなカードを引き当てたのだ。
 引いたカードを効率的に使用する「仕込み」は既に完了している。後は、神のみぞ知るだ。

「魔法カード『比例関係』を発動! ゲームから除外された俺のモンスターは12体! よって4枚ドローする!」

比例関係(ひれいかんけい) 通常魔法(オリジナル)
ゲームから除外された自分のモンスター3体につき、自分はデッキからカードを1枚ドローする。

ゲームから除外されている新司のモンスター:
『フロストザウルス』
『暗黒プテラ』
『ADチェンジャー』
『暗黒ステゴ』
『速攻のかかし』
『セイバーザウルス』
『ドロオドン』
『機動恐獣』
『暗黒ドリケラトプス』
『究極恐獣』
『俊足のギラザウルス』
『ダークティラノ』

 新司のデッキに除外ギミックが搭載されている理由は、このカードの存在が大きかった。
 モンスターが除外されていれば除外されている程、比例して強力な効果となるドローソース、『比例関係』。その効果により、新司は4枚もの手札を手に入れる。

 そして次の瞬間、三度フィールドを荒らす大風が発生する。

「『大嵐』! お前のリバースカード、除去させてもらう!」

大嵐(おおあらし) 通常魔法
フィールド上に存在する魔法・罠カードを全て破壊する。

「くっ! リバースカードが!」

 この極限の状況で発動された、強力な全体除去魔法。
 破壊されたのは、栄一がセットしていた1枚のリバースカードのみであるが、クライマックスが近いこの状況では、その1枚だけでも破壊される事は大きな痛手だ。

「(やっとアイツの出番か)」

 心の中で、新司はそう思った。
 今の戦況を最大に生かせるモンスター。それが、今の『比例関係』で新司の手札に舞い降りた。
 厄介なリバースカードの除去も終えた。後は、コイツと共に暴れるのみ。

 瞬間、太古の鼓動が、恐怖が、ホール中を支配する。

「・・・来る!?」

 栄一に戦慄が走る。
 新司と初めてデュエルした時・・・彼が切り札として召喚した恐竜のモンスター。その恐竜の面影が、栄一の脳裏を過ぎったのだ。

「あぁ、そういう事だ、栄一! ゲームから除外された恐竜全てを俺の墓地に戻す事で、この恐竜を特殊召喚する! 現れろ!」





『ディノバーサーカー』!





 栄一が予想した通りであった。
 フィールドに現れた瞬間から、所狭しと暴れまくる凶悪な恐竜。その凶暴さは、これまで新司が召喚してきた恐竜達全てのそれを、大きく上回っている。
 まさに、狂戦士(バーサーカー)の名に相応しい恐竜であった。

「『ディノバーサーカー』は、特殊召喚時に墓地に戻した恐竜の数によって攻撃力が決定する。俺が墓地に戻した恐竜は10体! よって、『ディノバーサーカー』の攻撃力は・・・」

ディノバーサーカー ☆4(オリジナル)
地 恐竜族 効果 ATK? DEF0
このカードは通常召喚できない。ゲームから除外された、
自分の恐竜族モンスターを全て墓地に戻す事でのみ特殊召喚する事ができる。
このカードの元々の攻撃力は、特殊召喚時に墓地に戻した
恐竜族モンスターの数×1000ポイントの数値になる。

ディノバーサーカー:ATK?→ATK10000

「10000・・・だと!?」

 それは、他を圧倒する数値。全てを恐怖で包み込むには十分すぎる、凶暴な数値であった。

「栄一・・・行くぜ! 『ディノバーサーカー』で、栄一にダイレクトアタック!」

 『ディノバーサーカー』が待ってましたとばかりに咆哮し、栄一を葬り去らんとその口元に超絶のエネルギー砲を溜める。
 栄一のフィールドに、彼を守るカードは無い。『ディノバーサーカー』の砲撃が、新司に勝利を与え・・・

「まだだ!」

 ・・・る、筈だった。
 瞬間、栄一の目の前に現れた、赤い筋肉が露出したような姿のヒーロー。
 栄一の叫びと、このヒーローの出現に、新司も、観客も体を強張らせ、驚嘆する。

「相手の攻撃宣言時、俺のフィールドにモンスターが存在しない場合、墓地の『ネクロシャドーマン』を特殊召喚する!」

E・HERO(エレメンタルヒーロー) ネクロシャドーマン ☆4(オリジナル)
闇 戦士族 効果 ATK1500 DEF0
相手の攻撃宣言時に自分フィールド上にモンスターが存在しない場合、
墓地に存在するこのカードを特殊召喚する事ができる。
このカードがフィールド上から離れた場合、ゲームから除外される。
このカードが墓地へ送られた時、お互いにデッキの上からカードを1枚墓地へ送る。

 序盤に『エレメンタル・リレー』のコストとして墓地へ送られていた『ネクロシャドーマン』が、墓地から颯爽と現れ、逞しく守備の体勢を取る。
 この姿を見て栄一は、「何とか、このターンは凌ぎ切った」。そう心の中で呟き、安堵の溜息を1つついた。
 だが・・・

「甘い!」

 次の瞬間、その場でもがき苦しむ『ネクロシャドーマン』。
 今度は栄一が、観客と共に体を強張らせ、驚嘆する。

「『死者への供物』。『ネクロシャドーマン』に、俺の勝利の邪魔はさせないぜ!」

 とうとう、フィールドから消滅してしまった『ネクロシャドーマン』。
 栄一の安堵が、粉々に打ち砕かれてしまった瞬間であった。

死者(ししゃ)への供物(くもつ) 速攻魔法
フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を破壊する。
次の自分のドローフェイズをスキップする。

「次のドローフェイズを放棄してまで・・・」

 次の可能性を捨て、この一撃に賭ける。このターンで決めるつもりで挑む。
 新司の覚悟の大きさに、栄一は改めて戦慄する。

「次のドローなんて関係ない! 今度こそ・・・決着だ!」

 新司の宣言に、再び咆哮し、その口元に超絶のエネルギー砲を溜める『ディノバーサーカー』。
 いよいよだ。ついに、この時が来たのだ。望み続けた栄光、優勝という悲願のタイトルが、新司の手元に舞い降りる瞬間が。
 
「『ディノバーサーカー』で、ダイレクトアタック!」

 『ディノバーサーカー』が、エネルギー砲を放つ。その大きさは、栄一の全身は勿論彼の半径5m以内にある物など余裕で飲み込まれるであろう程。明らかオーバーキルな力である。

オーバーキル 演出魔法(時空管理局本局武装隊(じくうかんりきょくほんきょくぶそうたい)航空戦技教導隊第5班(こうくうせんぎきょうどうたいだいごはん)高町(たかまち)なの○一等空尉(いっとうくうい)殿(どの)仕込(じこ)み。非OCGカード)
単純に言えば、相手プレイヤーへ過剰に攻撃する事。
これをs・・・

「だーーー! ここで分かる人だけネタを使うな! ていうかまだ終わってねーよ!」

 だが、栄一もまた、決して、決して・・・この状況でも、諦めてはいなかった。



 ズドドドドドドドドドドオオオオオォォォォォォォォォォン!!!



 並みの爆発とはケタ違い。耳を塞いでも防ぎきれない轟音と、観客席に座っていても、手すりを掴んでいても吹き飛ばされそうな爆風が、ホールにいる全ての人々を襲う。
 人体に大きなダメージは出ないように、デュエルディスクのソリッドビジョンシステムは調整されている。それでもここまで爆発が酷いと、流石にダメージを受けた栄一の心配をせずにはいられなくなる。
 その爆発を呼び込む宣言を行った当の本人ができるような立場ではないが、それが新司の見解であった。





 だが、その心配も杞憂に終わる結果となった。
 栄一が発動した、カードの効果によって。

「・・・『リダクション・バリアー』。俺が受けるダメージは、10分の1になる!」

リダクション・バリアー 通常罠(アニメDMオリジナル)
戦闘ダメージ計算時に発動する事ができる。
その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは10分の1になる。

栄一:LP1050→LP50

「『リダクション・バリアー』? どうしてだ!? お前のリバースカードは『大嵐』で破壊した筈だ・・・・・・!?」

 瞬間、新司は気付く。「気付いてしまった」。1枚残っていた筈の、栄一の手札が無い事に。
 有り得ない・・・? いや、有り得る。新司は知っている。この状況を実現させてしまうカードの存在を。

「『クロス・カウンター』・・・」

「・・・『トラップ』。正解だぜ、新司!」

クロス・カウンター・トラップ 通常罠(漫画Rオリジナル)
このカードが相手のカードの効果によって墓地へ送られたターン、
自分は手札から罠カード1枚を発動する事ができる。

 そう。栄一が先程セットしていたのは、『リダクション・バリアー』ではない。この、『クロス・カウンター・トラップ』である。
 『リダクション・バリアー』は、『大嵐』によって除去された『クロス・カウンター・トラップ』の効果によって、手札から発動されていたのである。

「(・・・一寸待てよ! 後一撃で負けてもおかしくない状況で、『リダクション・バリアー』をセットしないで手札に温存しただと!?)」

 この背水の状況、『リダクション・バリアー』ではなく、『クロス・カウンター・トラップ』をセットした栄一のプレイングに、新司は驚きを隠せない。
 ここで新司が『大嵐』(ないし魔法・罠を除去するカード)を引かなかった、もしくはそのまま『ディノバーサーカー』で攻撃していれば、栄一は負けてしまっていたのだ。
 結果的には退けられた『ネクロシャドーマン』という保険があったものの、「一か八か」のレベルでは済まない、危険な賭けである。

「どうだ、新司! 俺のライフはまだ0じゃないぜ!」

 右腕でガッツポーズをとりながら、栄一が新司にそう言う。

「(・・・直感・・・いや、読まれた、か)」

 さっきのあのドローの瞬間に「閃いた」。自身がやるであろう行動を「読まれた」。
 ここ一番という状況で、普段行動を共にしているというアドバンテージを生かされてしまった。

 栄一を改めて「恐ろしい」と思った。そして、この一撃で決める事のできなかったもどかしさが、新司を襲った。

「・・・カードを1枚セットして、ターンエンドだ!」

 闘いには「流れ」が存在する。
 ピンチの後にチャンスありとは有名な言葉である。ピンチを抑えきった側は、ほんの僅かでも心に「余裕」ができる。一方で、チャンスを掴みきれなかった側には、逆に「焦り」が出てくる。
 これは自然な流れなのである。

 次のドローフェイズを捨ててしまった事が裏目に出たか。今の新司には、後が無いという「焦り」が渦巻いていた。

新司LP600
手札0枚
モンスターゾーンディノバーサーカー(攻撃表示:ATK10000)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
栄一LP50
手札0枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンなし

 だが、後が無いのは栄一も同じなのである。
 栄一のフィールドには何も無い。『ネクロシャドーマン』のような、墓地から推参する防御カードももう無い。
 一方の新司は、次のドローこそできないものの、フィールドには攻撃力10000の『ディノバーサーカー』と、1枚のリバースカード。
 このドロー次第で、今度こそ2人の明暗が分かれてしまうかもしれないのだ。

「(このドローに、俺の全てがかかっている!)」


 ドタバタに始まったこの大会。


 自らの全力を発揮し、勝ち続けてきた予選。


 自らの「弱い所」を指摘され、本当の兄のように慕ってきた男から与えられた『バーニング・バスター』のカードに、全てを委ねてしまっていた事を痛感した平賀との闘い。


 故に『バーニング・バスター』を拒絶しかけてしまい、それを対戦相手から叱咤された。
 そしてそこから新たに生まれた、『バーニング・バスター』との絆を確認した光戦。


 「絆」が断たれても、決して恐れない。


 どれだけ誹謗中傷を並べられても、己の信念は絶対に曲げない。


 この大会で積み上げてきたもの。その集大成が、このドローに込められる。


「俺のターン! ドロー!」


 栄一が、カードを勢い良く引く様。そして彼から発される威圧感。新司はそれを、まじまじと感じる。

「(・・・まさか・・・)」

 前のターン、このデュエル中自身最大最強の一撃を、受け止められてしまった。
 何度も何度も防がれ、新司の心の中で積み重なっていくもどかしさ。そして今感じた威圧感。それが、新司に恐怖を与える。

「(・・・来る!?)」

 そしてその恐怖が今、具現化される。

「『ホープ・オブ・フィフス』! 墓地の『セイラーマン』『テンペスター』『ネクロダークマン』『ネクロイド・シャーマン』『ライオマン』をデッキに戻し、デッキをシャッフル!」

 この大会中、栄一を何度も助けてきた、ヒーローの主に希望を与えるカード。それを栄一は、この局面でも引いてきた。

ホープ・オブ・フィフス 通常魔法
自分の墓地に存在する「E・HERO」と名のついたカードを5枚選択し、
デッキに加えてシャッフルする。その後、自分のデッキからカードを2枚ドローする。
このカードの発動時に自分フィールド上及び手札に
他のカードが存在しない場合はカードを3枚ドローする。

「俺は手札にもフィールドにも何もカードを持っていない! よって3枚ドロー!」

 引いた3枚のカード。栄一はそれらを左手に持ち替え、確認する。
 自分のデッキに、無駄なカードは一切無い。それが今、証明される。

「現れろ! 『E・HERO(エレメンタルヒーロー) ボルテック』! 攻撃表示だ!」

「『ボルテック』!? 戦闘ダメージを与える事で、除外されたヒーローを復活させるヒーローか!?」

E・HERO(エレメンタルヒーロー) ボルテック ☆4
光 雷族 効果 ATK1000 DEF1500
このカードが相手ライフに戦闘ダメージを与えた時、
ゲームから除外されている自分の「E・HERO」と名のついた
モンスター1体を選択して自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。

 フィールドに参上した、電撃のヒーロー『ボルテック』。彼の持つ能力が、新司に更なるプレッシャーを与える。

「(攻撃力10000の『ディノバーサーカー』がいるこの状況で、攻撃表示で召喚してきた・・・)」

 つまり栄一は、このターン確実に『ボルテック』でダメージを与える事ができる策を手札に持っている。
 そして、十中八九『バーニング・バスター』を蘇らせるのであろう。
 だが・・・

「(・・・どうやって、来る!?)」

 新司が身構える。「何かをやってくる」。そんな嫌な予感が、例え攻撃力10000を誇るモンスターでさえ、諸刃の剣に感じさせてしまうのだ。

 そしてそんな新司を他所に栄一は、さらなるカードをディスクへと差し込む。

「魔法カード『財宝への隠し通路』を発動!」

「『財宝への隠し通路』!? しまった!?」

財宝(ざいほう)への(かく)通路(つうろ) 通常魔法
表側表示で自分フィールド上に存在する攻撃力1000以下のモンスター1体を選択する。
このターン、選択したモンスターは相手プレイヤーを直接攻撃する事ができる。

 新司の嫌な予感は、あっさりと的中してしまった。
 ダイレクトアタックを可能にさせてしまう魔法カード、『財宝への隠し通路』。
 いくら攻撃力が高いモンスターを支配下に置こうとも、それをすり抜けられてしまえば宝の持ち腐れだ。

「いけぇ! 『ボルテック』! ダイレクトアタックだ!」

 電撃の戦士『ボルテック』が、暴れる恐竜『ディノバーサーカー』の、僅かに開いた股の下を強引に潜り抜け、新司に飛び掛る。
 この直接攻撃を受ければ、新司の敗北が決定する。
 『バーニング・バスター』の再臨という恐怖。その前に新司は、まずこの第1の恐怖を何とかしなければならないのだ。

「くぅ! 速攻魔法、『収縮』を発動!」

 瞬間、『ボルテック』の身体が小さく小さく縮小していく。
 隠し球として伏せていた、2枚目の『収縮』が、ギリギリのタイミングで新司を守る。

収縮(しゅうしゅく) 速攻魔法
フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動する。
選択したモンスターの元々の攻撃力はエンドフェイズ時まで半分になる。

E・HERO ボルテック:ATK1000→ATK500

「だが、攻撃は続行される! 『ボルテック・サンダー』!」

 『ボルテック』の手の平から強烈な雷が放たれ、それが新司のライフを奪う。

新司:LP600→LP100

 首の皮一枚繋がった・・・かに見える。だが、違う。
 そう。『ボルテック』の真価が発揮されるのはここからなのである。

「『ボルテック』がダメージを与えたこの瞬間、俺はゲームから除外された『E・HERO』1体を復活させる事ができる!」















「戻って来い! 『バーニング・バスター』!」















 デュエルコートの中心に皹が入り、バリンと割れた音が響く。
 瞬間、その割れた隙間から、炎の柱が天目掛けて吹き上がる。熱く轟く。
 そしてその炎は、恐怖の時間を長引かせるように、徐々に徐々に、ゆっくりゆっくりと、人の形を形成していく。
 恐怖によって、強大な悪を支配するかの如きその様は、寧ろ、神々しさを感じさせてしまう。

 灼熱の戦士『バーニング・バスター』が、今ここに、『ディノバーサーカー』の目の前に降臨した。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) バーニング・バスター ☆7(オリジナル)
炎 戦士族 効果 ATK2800 DEF2400
自分フィールド上に存在する戦士族モンスターが
戦闘またはカードの効果によって破壊され墓地へ送られた時、
手札からこのカードを特殊召喚する事ができる。
このカードが戦闘によってモンスターを破壊し墓地へ送った時、
破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。

「(・・・やられた)」

 まだ、勝敗は決まっていない。
 だが、苦労して退場させた『バーニング・バスター』を簡単に復活させられた事、そして怒り狂う恐竜を目の前にして、怯えた様子を見せないどころか、逆に自らに畏敬の念を与える『バーニング・バスター』の姿が、新司にこう悟らせる。



 ―――負けた



 と。
 言い換えれば、『ボルテック』の攻撃を通してしまった時点で、新司は既に負けを覚悟していたとも言える。
 『収縮』の発動も、ある意味気休め程度でしかなかったのだ。



「『バーニング・バスター』・・・ゴー!」

 栄一の命に応え、『バーニング・バスター』が飛び上がり、『ディノバーサーカー』と対峙する。
 これが、今年の『フレッシュマン・チャンピオンシップ』最後の戦闘となる。

「速攻魔法『バーニング・バースト』! 『バーニング・バスター』の攻撃力は、『ディノバーサーカー』の攻撃力分だけアップする!」

 栄一の発動したカードは、切り札・『バーニング・バスター』の必殺技と同じ名を持つカード。
 そして、この死闘を見守る者全てに、「まさに決着に相応しい」との思いを持たせるカードでもあった。

 今、『バーニング・バスター』がその右手に発生させた炎球が、全てを包み込まんと、またゆっくりゆっくりと肥大化していく。

バーニング・バースト 速攻魔法(オリジナル)
自分フィールド上の「バーニング・バスター」と名のついたモンスターが
戦闘を行うダメージステップ時に発動する事ができる。
エンドフェイズ時までそのモンスターの攻撃力は、
戦闘を行う相手モンスターの攻撃力の数値分アップする。

E・HERO バーニング・バスター:ATK2800→ATK12800

「(あーあ。勝ちたかったなぁ・・・)」

 炎球の熱をその肌に感じながら、新司が天を仰ぐ。下を向くと、悔しさがこみ上げ、それが雫となって目から零れ落ちそうになるから。
 それは、新司のプライドが許さない。いくら悔しくても、涙は見せたくなかった。

「『バーニング・バスター』で、『ディノバーサーカー』を攻撃!」





「『バーニング・バースト』!」





 『バーニング・バスター』が、その右手に作り上げた炎球を『ディノバーサーカー』に向けて投げつける。



 一撃必殺。炎球をまともに受けた『ディノバーサーカー』の身体が一瞬にして燃え上がり、蒸発し、爆発する。



 それでも新司は、決してその場を動かなかった。



新司:LP100→LP0



「『フレッシュマン・チャンピオンシップ』の優勝者は、オシリスレッドのシニョール・明石栄一ィ!!!」



 クロノス教諭が、絶叫するかのように宣言する。ホール中が、歓声に包まれる。
 闘いは終わった。今、終わったのだ。

「っっっっっっっっっっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 その場で屈み込み、体のばねを駆使して飛び上がる。体全体を使って、勝利の喜びを噛み締める。
 言葉にならない叫びと共に、明石栄一の小さな体がデュエルコート中を縦横無尽に跳ね回った。

「・・・栄一!」

「ん? ・・・あ・・・新司」

 掛け声に栄一が振り向いたその先には・・・新司がいた。
 途端、栄一は気付いたかのように動きを止め、顔を俯かせた。

「・・・悪ぃ。何にも考えずにはしゃいじゃって」

 バツが悪そうに、新司に語りかける栄一。
 つい勢いでやってしまった。反省はしている。それでも、興奮しすぎてしまった事実は覆らない。
 だが・・・

「勝者が何で顔曇らせるんだよ? ほら、手、出せよ」

「え?」

「握手に決まってるだろ! 強要させんな、バーローが!」

 栄一の行為を一切咎める事もなく、新司は友情の証拠を求めて来た。
 後1歩の所で掴み損ねた栄光。手にする事ができなかった初めての優勝という誇り。
 悔しくない訳が無い。今、下手な情けの言葉をかけられたら、涙腺崩壊は確実だろう。

 それでも、闘い切った充実感はある。これからも、友情を築き上げていける自信がある。だから新司は、栄一に右手を差し出した。

「あ・・・・・・あぁ!」

 悔しい筈なのに、それでも凛々しく握手を求めて来た。なら、応えない訳にはいかない。
 栄一も、その右手を差し出し、新司の手をがっちりと掴む。
 周囲からの歓声も、拍手も鳴り止まない。スタンディングオベーションが2人を包み込む。
 死闘を繰り広げた2人の間には、友情が、しっかりと築かれていった。















「さて、『フレッシュマン・チャンピオンシップ』優勝おめでとう! 明石栄一君!」

 握手を交わし終えた栄一の耳に、鮫島校長のマイク越しの声が痛い程響く。

「あ・・・ありがとう、ございます・・・」

 キーンとする耳を押さえながら、栄一はお礼の言葉を返す。
 その様や、栄一と同じく耳を押さえつけている周囲の生徒達や教師陣の反応を見て、鮫島校長は反省したのか、マイクのボリュームを下げた後、言葉を続けた。

「んーおほん。改めて、明石栄一君。優勝おめでとう。さて、『フレッシュマン・チャンピオンシップ』を優勝した者の為に、我々は毎年、素晴らしい優勝賞品を用意している。そして今回は・・・」

 瞬間、栄一は、以前にも思いを巡らせた、昨年の優勝賞品「ハワイ旅行」を思い浮かべる。
 今ならそのワクワクを100倍にして、パーティの主人公にもなれそうだった。元から主人公(の筈)だが。

 だが・・・。

「・・・そのご褒美として、君の為にある1人のデュエリストを招聘した。君にはこの後、そのデュエリストともう1戦デュエルをしてもらう」

「えっ! ハワイじゃない・・・・・・・・・デュエリスト!? 誰!? 強い奴!?」

「ああ。きっとそのデュエリストは、君の要望に応えてくれるだろう。なにせ・・・」

 憧れたハワイの夢諸共、その場で崩れ去りかけた栄一であったが、次の瞬間、「デュエリスト」という単語に敏感に反応する。
 一喜一憂とはこの事である。

「そのデュエリストは、我がデュエルアカデミアの卒業生であり、現在もプロデュエリストとして活躍する・・・」















「ボクだ!」

 瞬間、鮫島校長の言葉を遮るように、何処からともなく響く声。栄一だけでなく、ホールにいる全ての者が辺りを見回す。
 そしてそれに応えるかのように、オーロラビジョンの全面に声の主が現れる。沸き起こる、歓声、悲鳴。

「君と同じ、『HERO使い』のデュエリスト・・・」

 白のスーツ、整えられた銀髪に凛々しい顔。人を見下すかのような表情さえも絵になる男。
 デュエリストなら誰もが知っている、プロリーグチャンプ。世界最強のデュエリスト。





















 ―――エド・フェニックス!



第37話 −運命は不死鳥の如く−

「・・・うわぁぁぁ! デッキが出来(デッキ)ない!」

「審議中(AA略)」

「良く分からない駄洒落ね」

「良く分からないのはお前らだろ! 俺、デッキ調整で忙しいんだぜ!」

「「一緒にいてこその友達だよね?」」

「・・・友達なら、その時々で最善の配慮をするもんじゃね?」

 アカデミア・オシリスレッド寮・栄一の部屋。『フレッシュマン・チャンピオンシップ』の優勝賞品であるデュエルを前に、再びインターバルが与えられる事が決定した瞬間、栄一は一目散にダッシュして、この自室に戻って来たのだ。
 本来なら誰にも邪魔されない、1人で集中して作業を行える筈のマイルーム。そこで彼は、黙々とデッキ調整を行っていたのだが・・・。

 どういう訳か、新司と光に居場所を嗅ぎ付けられ、現在に至るのである。

「うわぁ、後20分しかねぇ!? お前らの相手してるからぁ!」

 八つ当たりに近い栄一の怒り。人間、焦るとこんなものである。

「インターバル1時間強なのに、じっくり調整できるわけないだろう。ていうかどっちにしろ、今更調整しても無駄だと思うぜ?」

 新司の言葉に、光が「確かに」と相づちを打つ。
 それもその筈、栄一がこれからデュエルをするのは、あの・・・












「エド・・・フェニックス・・・さん・・・! 本物!?」

 自身の目の前に現れた、銀髪の青年。プロリーグチャンプのデュエリスト、エド・フェニックスを目の当たりにして、栄一は思わずそう言った。
 そんな栄一を見つめつつ、目の前にいる青年・エドは冷静に口を開く。

「・・・お前が、明石栄一だな?」





「・・・『E・HERO(エレメンタルヒーロー) バーニング・バスター』の継承者の」





「え・・・ハ、ハイ! そうです! 俺が、明石栄一です!」

 超一流のデュエリスト、そして超が付く程の有名人であるエドを前にして、直立不動、緊張で舌も上手く回らない栄一。何か重要な事も付け加えられたような気がするが、頭もちゃんと回転していないので、そこまで考えていられない。
 エドと同じく、超有名人であった護と初めて対面した時は、寧ろ興奮が治まらないといった感じで、五体でその感情を表していたが、それとは正反対の反応である。
 年齢の差などによる親しみ易さの違いなのだろうか。事実、初対面の相手でも対等に接する事ができるような雰囲気を醸し出す護とは違い、エドから放たれているオーラはまさしく「孤高」「求道者」。目の前に立たれたら、ある意味では、近寄り難いものである。

「(何で、こんな人が今ここに? いや確かに、この人はアカデミア出身だけど・・・)」

 2人のやり取りを傍で見つめる新司もまた、緊張で頭は回らず手足も動かないようだ。

「まずは、『フレッシュマン・チャンピオンシップ』優勝おめでとう・・・といった所だな。後は、何も語る必要も無い・・・」

「えっ!?」

 賛辞を呈されたと思った次の瞬間、展開されるは、エドの左腕のデュエルディスク。
 単刀直入。エドの望む事はただ一つ。

「ボクとデュエルだ、栄一! お前の最高のデュエルを、ボクに見せてみろ!」

 臨戦態勢。栄一に向けられた敵意。だが、決して憎しみの感情はない。
 純粋に一デュエリストとして、相手を待ち構える姿勢である。
 突然すぎる話の流れに、歓声に沸いていた観客席も一瞬にして静かになる。

 ホール中が、沈黙で包まれた。

「まぁまぁ、待ちたまえ。栄一君も昨日からの連戦で疲れているだろう。少し、体を休める時間をやってくれないか?」

「鮫島校長?」

 これは不味いと、戦友として占有していたマイクを放り投げて、鮫島校長が割って入る。何時の間にデュエルコートまで降りて来ていたのかは謎だ。

「・・・確かに、校長の言う通りですね。興奮して、話を勝手に進めようとしたボクも大人気なかった。謝ろう」

「えっ、い、いや、そんな・・・」

 エドの表情が、穏やかになる。緊張感漂う場の雰囲気は変わらない。それでも、彼の近寄り難いオーラは、若干薄まったように感じる。

「休息をとるなら・・・最低1時間は必要だろうし・・・・・・2時だな。午後2時に、このデュエルコートに再び集まる。それでいいな、栄一?」

「あ、ハイ! 俺は、そんな、全然!」

 エドの提案に対する栄一の素直な返事。実際は、頭が上手く回っておらずに無意識に返答しているだけなのだが。
 その無機質な返事を聞いたエドは、展開していたデュエルディスクを畳みながら、自らが現れた入場門へと足を向け・・・

「OKだな。では時間になったら、またここで会おう。楽しみにしているぞ、栄一」

「ハ、ハイ!」

 勝手にこれからの予定を決定し、その場を去って行った。
 それを見届けるは、ホールにいる一同。皆が、呆気に取られた表情でいる。誰も、その場から動きを見せない。

「・・・!」

 エドの姿が完全に見えなくなった瞬間、栄一は何かに気付いたかのように体をビクつかせると、エドが退場したのとは逆の入場口から猛ダッシュでどこかへと姿を消してしまった。

「待、待ちなさい! 栄一君!」

 遅れを取り、栄一を引き止められなかった鮫島校長。
 主役2人の消えたホールには、ただただ何とも言えない空気が漂い始める。

「・・・と、というわけで! これから2時までインターバルとする! 諸君もそれまで、観戦で強張った体をゆっくり休めるように!」

 どうしようもないこの状況。いくら鮫島校長と言えど、ここは強引に締めるしかなかった。













「プロリーグの現チャンピオン。現役デュエリストの中では間違いなく最強の、エド・フェニックスさんが相手だものねぇ〜。攻め方変えても無駄無駄。結局、マスターと相対する時と同じよ」

 「下手な変化球攻めは、決して通用しないわよ」と、光は続ける。

「それに、慣れてない変化球で攻めるのは自殺行為だぞ? 元阪○ブレーブスの山田○志投手は、「新しい変化球は試合で使えるまで3年かかる」と言ったそうだ」

 新司も同意見である。彼らからすれば護もエドも、幼い頃から誰もが足下にも及ばない程の実績を残して来た人物とあって、手を伸ばしきっても届かない天上人、揃いも揃って出鱈目人間・人外ズの存在である。
 そんな彼らに立ち向かうのに、煮詰まってすらいない下手な小細工でどうやって攻めるのか。通用する筈が無い。
 ならやはり、正攻法で闘うしかない。相手のストライクゾーンのど真ん中目掛けてFour−Seam−Fastball(ストレート)。それはつまり・・・

「「栄一本来のデュエル」」

 である。

「・・・拙いアドバイスありがとうよ。ていうかお前ら、俺にアドバイスしにここに来たんじゃないだろ?」

「「バレた?」」

 彼らのアドバイスとは思えないアドバイスを、右から左に流しながら栄一は、彼らの「本来の目的」を既に察知していた。
 茶目っ気たっぷりに舌を出す2人を見て、栄一は溜息をつく。

「要は・・・」

「つまりですねぇ・・・」





「「デュエル、変わって下さい!!!」」





「・・・いや、無理に決まってるだろ」

 時間は、刻々と過ぎて行くのであった。




















−校舎屋上(26話参照)−

 1月の寒風が体を苛める。それでも彼、エド・フェニックスは身動き1つ取らない。1人、校舎の屋上で佇んでいた。
 目の前に広がる冬の太平洋を見て、彼は何を思うのか。



「・・・護か?」

 エドが振り向いた先には、階段を上り切り、こちらに向かって来る護の姿があった。付き添いは誰もいない。

「昼寝大会じゃなかったのか?」

「貴方とお話したくて抜けて来ました。後1つだけ仕事も残ってますし、何とか鮎川先生の許可貰って」

 仕事と言っても、別に体を酷使するような事ではない。すぐ終わる事だと説得に説得を重ねて、ようやく外出の許可を貰ったのである。
 「宇宙が付き添いをする」という条件付きで。



「・・・まぁ、エドさんがいるし、この辺で待機しときゃ大丈夫だろう」

 その宇宙は、エドと一対一で話がしたいという護の我侭に折れ、階段のちょうど2人を確認できる辺りで待機していた。
 「憧れのデュエリストが目と鼻の先にいる。本当なら自分も一緒に居たい」という衝動を、必死に抑えて。



「珍しく、興奮してましたね」

「否定はできないな」

 護の言葉にそう返答しつつ、肩をすくめるエド。
 護にとって年上の筈のエドが、一瞬だけだが、無邪気な子供のように見えた。

「余程、楽しみにしていたんですね」

「言った筈だ。ボクは栄一(アイツ)とデュエルする為にアカデミア(ここ)に来たんだ」

 今度は護を軽く睨みつけるエド。だが、長年の付き合いでこのような事に慣れている護は怯まない。

「『E・HERO バーニング・バスター』の継承者、明石栄一とデュエルする為・・・。名前すら最近知ったばかりだというのに、興味津々ですね」

「そうさせたのはお前だろ。お前の相当な肩入れぶりを見たら、興味を持たずにはいられない」

 アマチュア相手のデュエルで、エドがあれ程まで興味を抱く事は珍しい。
 護も、ポジティブな方向に興奮する彼を見た経験は殆ど無いのだ。

「そして、とうとう見つかった『バーニング・バスター』のカード。駆けつけない訳にはいかないだろ? 同じ『HERO使い』のデュエリストとしても」

「ご尤もです」

 クスリと笑みを浮かべる2人。
 思えば、初めて出会った時から早10年。2人で支え合い、プロリーグを盛り上げて来た。
 時には護がエドに救いの手を差し出し、時にはエドが護を導くレールを敷いた。
 親を奪われ、復讐の鬼となりかけたエドに、待ったをかけた1人となった護。
 また、同じく親を失い、絶望に苛まれかけた護を叱咤激励したエド。
 共感できる面を持ち合い、共に満足し合えるデュエルを何度も繰り広げ、本当の兄弟のような絆を築き上げて来た仲。
 そんな2人の、久々のプライベートな会話であった。



「・・・そうだ、護。お前に渡したい物がある」

「渡したい物?」

 「そうだ」と言いつつ、エドはスーツの懐から何かを取り出し、護に手渡す。

「・・・封筒?」

 渡されたのは、洋式の封筒。しかし、差出人も何も書かれていない。
 疑念を抱きながらも護は、封を開け、中身を取り出す。
 中身の正体は、2枚のカードだった。

「・・・これは!?」

 瞬間、驚嘆の声を上げる護。その護の表情を見ても、エドは冷静を貫く。

「実はここに来るに際して、I2社のペガサス会長から使いを頼まれた。安心しろ。ボクは中身を見ていない」

 エドの言葉を聞く護の表情は硬い。何かの決断を強いられているようにも見れた。
 それもその筈、このカードは護が直々にペガサス会長に預けた、護の最後のリミッターなのだから。

 デュエルモンスターズの生みの親として名高い、I2(インダストリアル・イリュージョン)社の会長。そしてプロ時代の護の、最大のバックアップの1人でもあった男。ペガサス・J・クロフォード。
 後者はそれ程有名ではないが、護にしてみれば「デュエルモンスターズの生みの親」というだけで、心強いバックアップである。
 全幅の信頼を寄せる事ができる。安心して、自らのリミッターであるカードも預ける事ができるのである。



「・・・会長は、何か仰ってましたか?」

 冬の世界に訪れた沈黙の後、護の口からやっとの事で出て来た言葉が、それだった。

「・・・それを使うのはお前次第、との事だ」

「そう、ですか・・・」

「そうだ。・・・護、ついでだから言っておくが・・・一人で全てを背負い込もうとするのが、お前の悪い癖だ。最大の弱点だ」

 エドは、「この事」に関して何も聞かされていない。「この事」を知る者は、アカデミアと関わりを持つ、ごく一部の人間に限られているからだ。
 それが、護の希望によって叶えられているという事も、知る者は殆どいない。

「また、何か良くない事でもあったんだろ? そしてその事に関して、お前は多くの人々を巻き込みたくないと思ってる。巻き込んだ人には、多大な迷惑をかけているのではと思ってる」

「・・・」

 護は返答しない。図星だったのだ。

「お前の事ぐらい、大体分かるさ。だが護、もう少し、ボクらの事を信用してくれてもいいんじゃないか? 1人で解決出来ない事は、ボク達大人をどんどん利用すればいいんだ」

 諭すように、エドは言う。エドからすれば、護自身の責任感の強さというものは、素直に敬意を表せる程だ。
 だが、それが度を越し過ぎているのも確かである。責任感が強すぎて、いつも1人で全てを背負おうとするのだ。
 見ていて危なっかしい事この上ないし、もっと周りの人々に任せても良いのではと思ってしまうのだ。

「・・・今後、何か起こるのなら、必ず連絡を入れろよ。約束だぞ」

 約束・・・というよりは、最早脅迫に近い。それぐらいしないと、この水原護という男は、また1人で全てを背負ってしまう。

「・・・分かりました」

 嘘だ。どうせまた、誰にも助けを求めず、1人で突っ走って行ってしまうのだ。
 この男も、これで頑固な考えの持ち主だ。この男の意地というものは、梃子でも動かす事ができないだろう。
 となれば・・・責任者出て来・・・もとい、責任者に一言忠告しておく必要があるだろう。
 だが、そんな事はこの男の前では言えない。だから、ここは素直に引き下がるしかない。

「忠告はしたぞ。護」

 その言葉を残して、エドはこの場から去る。時間もちょうど良い頃になっていた。
 階段を下って行くと、中間辺りで1人の男・・・宇宙なのであるが・・・が、自らに向かって会釈して来る。
 エドは、宇宙に軽くアイコンタクトを取ると、そのままデュエル会場であるホールの方へと向かって行った。



「なーんか、また色々あったっぽいな」

 エドが去って行くのを見届けた宇宙は、そのまま護の方へと向かい、軽く言葉を投げかけた。

「・・・さて、僕も今日最後の仕事に行って参りますか」

 だが、その言葉に対する護の返事は無い。
 誤魔化している事が明白なまま、護もまた階段を下って行く。

「・・・まったく。規格外な人間に見えて、実際はアイツもまだまだお子ちゃまだな。オレも人の事は言えねぇけど」

 皮肉交じりの投げやりな言葉を呟きながら、宇宙もまた護と共に階段を下って行った。




















−ホール・観客席−

「あー、ここ良いわ。ちょうど2席空いているし、ここに座ろうぜ」

「全く・・・。何が悲しくて、こんな奴と一緒にスタンド応援組に徹しないといけないのよ・・・」

 栄一の部屋から強引に追い出された新司と光。仕方が無いので、一足先にデュエルが行われるホールへと来ていたのだ。観戦者として。

「トーナメント形式の勝負の何が悲しいって? 負けたらその瞬間、スタンド応援組に回される事よ。勝ってたら、今頃あのデュエルコートでデュエルしてるのはワタシなのに・・・」

「しゃーねぇじゃん。お前も俺も負けたんだから。揃いも揃って栄一にな」

「順位が一つ上ってだけで随分生意気ね!」

 激怒しながら、新司の胸倉に掴みかかる光。
 新司の言葉が気に食わなかったからなのだが、本当の事なのだから仕方が無い。
 だけどそれでも、こうでもして鬱憤を晴らさないとやっていられない。
 だから光は、新司を全力で上下に振り上げ振り下ろす。
 新司が「ギブ! ギブ!」と白旗を揚げているのもお構い無しだ。

 ・・・だが光は、この新司とのやり取りが、傍から見ればただの夫婦漫才にしか見えない事に気付いていなかった。

「ふーん、光の本命は新司君だったのかぁ」

「これは大ニュースよ! 大ニュース!!!」

「たっはー! やられた! 私、栄一君の方に賭けていたのに! ・・・けど光、アンタが決めた事なら仕方が無いわ。お幸せに、ね!」

 やけに黄色い・・・いや、気に障る声が聞こえるなぁと、1つ上の席の列の方へ目を向けると・・・そこには、こういった恋愛話に五月蝿い同僚、オベリスク・ブルーの女子達が固まって鎮座していた。

「・・・アンタ達、いつからいたの?」

「「「最初から」」」

 唖然とする光。彼女達の存在に全くもって気付かなかった自分が恥ずかしい。
 そしてその怒りの矛先は・・・新司へと向かった。

「新司・・・アンタ、最初っから分かっててここにしたの?」

「・・・モチ!」

 気持ち良い程爽やかな新司の笑顔。当然のように立てられた右手親指が、光の怒りをさらに増させる。

「たまには良いじゃん。賑やかな場所でデュエルを見るのも♪」

 これは完全に確信犯。はめられたのは光ただ1人。
 目の前にはそれはそれは爽やかな笑顔の新司。顔を横に向けると色々五月蝿い同僚連中。
 光の怒りは、頂点に達した。



「誰か!!! コイツらを今すぐ摘み出して!!! 冗談抜きで!!!」



 光の羞恥心完全無視の怒声が、ホール中に響いた。




















−入場ゲート前−

 いよいよ、エドとのデュエルの時が来た。今日一番の大舞台だ。
 新司と光を追い出した後、栄一自身もホールへと向かった。そして今、ホールへと入る入場ゲートの前にいる。

 右手を胸に置き、心を落ち着かせようとする。目前に迫った決戦の舞台、興奮と緊張の入り混じった感情に押し潰されそうなので、それから少しでも逃れようと懸命に努力する。けど、それは想像以上に難しかった。
 今の自分は「らしくない」。自分でもそれが分かる。「自分ではない誰かが自分を操っているのでは?」とまで思ってしまう程だ。
 決勝戦の前、デュエルに対する集中力からか、栄一はこういった大舞台の直前でも緊張の素振りを見せないと記述したが、それが嘘の記述だったとしか思えない。
 栄一は、完全に緊張していた。

 何故・・・? と言われれば、やはりエドの存在が原因だろうか。
 栄一は今日まで、こういった大舞台を経験した事が無かったが、同時に、これ程存在が大きなデュエリストと闘った事も無かった。
 護? 親しみ易さがエドとは違った。天上人の存在とはいえ、今の彼は栄一と同じアカデミアの生徒だ。既に一線から退いているのも理由の1つかもしれない。
 だから、デュエルの前から既に桁違いの威圧感を感じさせるデュエリストと闘うのは、栄一にとって実質これが初めてなのだ。

「誰か!!! コイツらを今すぐ摘み出して!!! 冗談抜きで!!!」

「(この声・・・絶対光だ・・・)」

 突如、耳に入って来た怒声。「光のものだ」と栄一はすぐに理解する。

「あ、なんかちょっと落ち着いた」

 馴染みの人物の声というのは、癒しの効果でもあるのだろうか。興奮も緊張も若干にだが落ち着いた。
 自分の怒声が、普段では有り得ない緊張状態だった栄一を落ち着かせる事になったとは、光本人は思ってもいないだろう。

「スー・・・ハー・・・よし! 行くか!」

 深呼吸を一度する事で、平常心を取り戻す。
 覚悟を決めた栄一。エドの待っているであろう舞台への、第一歩を踏み出す。
 ・・・その時であった。

「栄一!」

 後ろから聞こえて来るは、これも聞き覚えのある声。
 突然の出来事に、栄一は身体をビクつかせてしまう。

「・・・マスター? イキナリどうしたんだ?」

 天上の存在の筈なのに、面と向かい合う事ができ、気兼ね無く話す事ができる男。
 栄一が振り向いたそこに立っていたのは、マスターこと護であった。

「いよいよ、この時が来たね」

「・・・あぁ! わざわざ激励に来てくれたのか?」

 栄一の雰囲気を、一瞬にして感じ取ったのだろうか。普段通り栄一に接する護。
 護の思惑通り、普段通りの態度は栄一の緊張をさらに和らげたようだ。
 元気な返事。やはり栄一は、こうでなくてはならない。

「激励・・・まぁ、そんな所だね。・・・後は、ちょっと君に用事があってね」

「・・・俺に用事?」

 不思議がる栄一を前にして護は・・・自らのデッキケースから1枚のカードを抜き取ると、それを栄一に向けて示す。

「・・・このカードを、君に託す」

 そう言いながら護は、栄一にそのカードを手渡す。
 突然の事に栄一は困惑するが・・・

「・・・このカードは!? 何で!? 何でマスターがこのカードを持ってるんだ!?」

 渡されたカードを見て、さらに困惑する。
 それもその筈、護から渡されたカード。それは、栄一の大切な人が持っていたカードと同じカードであり、それ以外の人が持っているのを見た事がないカードだったのだ。

「栄一。それはもう、君のカードだ。これから行うデュエルでも、きっと君を助けてくれる」

「・・・それは・・・どういう事だ?」

 今、自分は夢を見ているのではないのだろうか?
 何もかもが分からなくなった栄一。護の言っている事も分からないし、自分が何を言っているのかも分からない。
 このカードが・・・自分の物? 本当に、それで良いのだろうか。

「どういう事も何も、そういう事だ」

 だが護は、本当にそれで良いのだと強調する。

「まぁ・・・僕からの『フレッシュマン・チャンピオンシップ』優勝の餞別と思って受け取ってくれ」

 そう言うと護は、栄一を入場門の方へと振り向かせ、その背中に両手で触れる。

「そのカードと共に行け! 栄一! 相手がエド・フェニックスだからなんて関係無い! いつもと違う事なんて何も無い! お前のデュエルを見せてやるんだ!」

「あ、あぁ! うわぁ!」

 そして・・・勢い良く、栄一の背中を押した。
 物理的にだけではない。護なりの、精神的な意味での後押しでもあった。



「・・・僕は、ちゃんとお兄ちゃん出来てたかい? 宇宙?」

「お前としては上出来だな。65点」

「手厳しいな。宇宙は」

 栄一を送り出した護は、後ろから現れた宇宙と共に苦笑いを浮かべる。
 可愛い後輩を自ら直接送り出す事が、これ程にむず痒い事とは。
 完璧超人と恐れられる護の、意外な一面であった。











「イテテテテ・・・マスター、強く押しすぎだぜ・・・」

 護に思い切り背中を押された為、よろけながらの登場となった栄一。今この場で服を脱げば、紅い紅葉が2つできた背中をさらけ出す事になるのは間違いないだろう。
 瞬間、四方八方から聞こえる大歓声。とんでもない舞台に来てしまったのだと思うと、緊張と興奮でまた胸が締め付けられる。
 そして、ホールの真ん中にあるデュエルコートの階段を上り切るとそこには・・・いた。

 これから栄一が闘う相手、エド・フェニックスが。

「この時を待っていたぞ、栄一」

「ハッハイ! 光栄です!」

 平常心で闘うと決めたのに・・・本人を目の前にすると、また緊張が増してくる。

「ダメだダメだ! うぉぉぉぉ!!!」

 バチ! バチ!

「よっしゃぁ!!!」

「オイオイ栄一・・・」

 このままでは駄目だと。気合を入れなければと。両頬を2回、勢い良く掌で叩く。
 鼻血が出るのではと思ってしまうぐらいに強く頬を叩く栄一を見て、さすがのエドも面食らう他無い。

「・・・まぁいい。さて、ではデュエルを始めようか」

 そう言うとエドは、自らのデッキを軽くシャッフルした後、それを栄一へと差し出す。

「(使うんだ・・・。俺の・・・新しい力として! このカードを使うんだ!)」

 護から渡された後、ポケットに仕舞っていた「大切な人が持っていたカード」と同じカード。
 与えれた力は、それがどのような経緯で手に入れたものであっても、自分の力。
 『バーニング・バスター』との絆から得た、栄一の新たな哲学。
 だから、使い惜しみなどしない。このカードと共に、闘う。
 そのカードを栄一は、直前まで改良を施していた自慢のデッキに差し込んだ。

「・・・これが、俺のデッキです!」

「なるほど・・・」

 1枚増えたデッキを軽くシャッフルして、エドに渡す。そしてエドのデッキを受け取る。そのデッキをシャッフルする。

「(・・・これが、エドさんのデッキ! 感じる・・・強大なパワーを! プレッシャーを!)」

 シャッフルしながら栄一は・・・エドの持つ『HERO』の力をダイレクトに感じ取る。
 これが、プロリーグで最強を誇るデュエリストの、デッキという姿をした力。
 エドにデッキを返す時、デッキを渡す手が若干震えてしまった。
 武者震い? 本当にそうであれば良いのだが。

「2人とも、用意はいいノーネ?」

「はい!」

「ボクも同じく」

 進行役のクロノス教諭の問いかけに、位置に着いた2人が同時に返答する。
 このクロノス教諭も実は、さっきからずっとこのデュエルコートにいたのだが、栄一がその事に気付いたのは今である。そんな事は絶対口に出せないが。

「いくぞ、栄一!」

「お願いします! エドさん!」

 共に構え、デュエルディスクを展開。デッキの上から5枚のカードを手にし、それを初期手札とする。
 そして・・・

「では、デュエル開始ナノーネ!!!」


 クロノス教諭が右手を高々と上げ、デュエル開始の宣言をした。

「「・・・デュエル!」」

 ついに・・・ついに、栄一にとってもう二度と体験できないかもしれない、夢のデュエルが始まった。

栄一:LP4000
エド:LP4000

「先攻は俺! ドロー!」

 相手は現役のプロ。些細なプレイングミスも、致命傷になりかねない。
 手札を見つめる栄一は、遠くから見れば、見た目こそ普段と変わらないが、内心では第一手の選択に珍しく迷いを抱いていた。
 そして慣れない脳内でのシミュレーションを何度も行い・・・ようやく右手を手札にかけた。

「『E・HERO(エレメンタルヒーロー) ライオマン』を攻撃表示で召喚! そしてカードを1枚セットして、ターンエンド!」

 現れるは、獅子の如き立派な(たてがみ)を持つ、後ろ2本足で立つ獣のヒーロー『ライオマン』だ。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) ライオマン ☆4(オリジナル)
地 獣戦士族 通常 ATK1700 DEF800
獅子のように大地を駆け巡るE・HERO。
正義の突進ライオクラッシュで悪を砕く。

栄一LP4000
手札4枚
モンスターゾーンE・HERO ライオマン(攻撃表示:ATK1700)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
エドLP4000
手札5枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンなし

 そして代わってエドのターン。やはり年長者、百戦錬磨のプロの表情からは、余裕の笑みさえ零れるほどだ。

「ボクのターン! お前の力を・・・見極めてやる! カモン! 『D−HERO(ディーヒーロー) ダイヤモンドガイ』!」

 エドに『ディーヒーロー』と呼ばれし、運命のヒーロー(デステニーヒーロー)。そのトップバッターとして現れたのは、全身にダイヤモンドが生えた、マントに身を包む黒の戦士、『ダイヤモンドガイ』である。

「これが・・・エドさん唯1人が持つ運命のヒーロー・・・『ヒーロー・ディーシリーズ』! ・・・スゲェ! マスターの『G・HERO(ガーディアンヒーロー)』や『BG(ブレイブガーディアン)』と同じ・・・いや、もしかしたらそれ以上のプレッシャーだぜ!」

 初めて目前で見る運命のヒーロー、そして彼から発される威圧感に、栄一は自身も気付かぬうちに一歩後ずさりしてしまう。
 だがその栄一の恐怖も、まだ序章に過ぎない。

「『ダイヤモンドガイ』の効果(エフェクト)発動! ボクのデッキトップのカードを確認し、それが通常魔法(マジック)だった場合、そのカードを墓地(セメタリー)へ送り、次のターン、そのカードのエフェクトを発動する! 違った場合はそのカードはデッキボトムに戻る!」

 エドはその言葉と共に、デッキの1番上のカードを引き、自ら確認した後、それを栄一へと見せ付ける。
 そう。『D−HERO』の運命を操りし効果が、栄一をさらに圧迫するのである。

「ボクが引いたのは『終わりの始まり』! よって次のターン、『終わりの始まり』のエフェクト発動が決定した!」

 これが、エドの運命力。引いたのは当然のように通常魔法。それも、強力なドロー強化カードである。
 このエドの前には、さすがの栄一もたじろぐ。

D−HERO(デステニーヒーロー) ダイヤモンドガイ ☆4
闇 戦士族 効果 ATK1400 DEF1600
このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する時、
自分のデッキの一番上のカードを確認する事ができる。
それが通常魔法カードだった場合そのカードを墓地へ送り、
次の自分のターンのメインフェイズ時に
その通常魔法カードの効果を発動する事ができる。
通常魔法カード以外の場合にはデッキの一番下に戻す。
この効果は1ターンに1度しか使用できない。

「いきなりアタリかよ・・・。だけど、『ダイヤモンドガイ』の攻撃力は『ライオマン』を下回っている・・・」

「甘い! ボクは手札からフィールドマジック、『ダーク・シティ』を発動する!」

 エドが、ディスクのフィールドカードゾーンに1枚のカードをセットすると同時に、フィールドが徐々に暗闇に支配されて行く。
 空には夜の闇と月、星明りが混在し始め、大地には灯りが灯る幾つもの建物が建ち並ぶ。石造りの道が敷かれる。
 夜のヨーロッパの街路を演出した、『D−HERO』の駆け巡る舞台が出来上がった瞬間であった。

「『ダーク・シティ』の影響下では、『D−HERO』から仕掛けた戦闘(バトル)中、『D−HERO』の攻撃力は1000ポイントアップする! 行け! 『ダイヤモンドガイ』!」

 『ダイヤモンドガイ』が、『ライオマン』目掛けて勢い良くジャンプする。

「くっ! 迎撃しろ! 『ライオマン』!」

 対する『ライオマン』もまた、『ダイヤモンドガイ』目掛けてジャンプ。2人の戦士が、空中で相見える。

「この瞬間、『ダイヤモンドガイ』の攻撃力は1000ポイントアップする! 『ダイヤモンド・ブロウ』!」

ダーク・シティ フィールド魔法
「D−HERO」と名のついたモンスターが攻撃する時、
攻撃モンスターの攻撃力が攻撃対象モンスターの攻撃力よりも低い場合、
攻撃モンスターの攻撃力はダメージ計算時のみ1000ポイントアップする。

D−HERO ダイヤモンドガイ:ATK1400→ATK2400

 2人の戦士は互いに、その右拳による一撃を、対峙する相手へとお見舞いする。だが、『ダイヤモンドガイ』の力の方が、『ライオマン』のそれを若干上回ったようだ。
 一撃を喰らった反動で、互いに空中に放り投げられたのだが、『ダイヤモンドガイ』が足から見事に地上へ着地したのに対して、『ライオマン』は体勢を整える事間に合わず、体全身を地面に叩き付けられる結果となった。

栄一:LP4000→LP3300

D−HERO ダイヤモンドガイ:ATK2400→ATK1400

「『ダーク・シティ』・・・。俺の持つ『スカイスクレイパー』の『D−HERO』版か・・・」

摩天楼(まてんろう) −スカイスクレイパー− フィールド魔法
「E・HERO」と名のつくモンスターが攻撃する時、
攻撃モンスターの攻撃力が攻撃対象モンスターの攻撃力よりも低い場合、
攻撃モンスターの攻撃力はダメージ計算時のみ1000ポイントアップする。

「怖気付いている暇はないぞ。ボクはカードを2枚セットして、ターンエンドとする」

栄一LP3300
手札4枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
エドLP4000
手札2枚
モンスターゾーンD−HERO ダイヤモンドガイ(攻撃表示:ATK1400)
魔法・罠ゾーンリバースカード2枚
フィールド魔法ダーク・シティ

「攻撃、防御、次への伏線・・・それを全て後攻1ターン目にやって来た・・・! これが・・・プロ!」

 エドからのプレッシャーを受けながらも、現役のプロの、その圧倒的タクティクスに、栄一は興奮していた。

「俺のターン!」

 だが、稚拙なプレイングを少しでも取れば、『D−HERO』の展開力によって一瞬にして蹴りを付けられる。そんな展開はごめんだ。
 エドに引き離されまいと、栄一は新たなヒーローを呼ぶ。

「来い! 『ホークマン』!」

 その見事な翼で大空を舞うは『ホークマン』。先程召喚された『ライオマン』とは、対になる存在である。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) ホークマン ☆4(オリジナル)
風 鳥獣族 通常 ATK1500 DEF1000
鷹のように力強く大空を飛ぶE・HERO。
ホーククロウが悪を切り裂く。

「!?」

 栄一は驚愕する。『ホークマン』を召喚した次の瞬間、エドのフィールドにも『ダイヤモンドガイ』とは違う新たな存在が現れていたから。

「トラップカード『隠れ兵』だ。このカードのエフェクトにより、手札から『D−HERO ダイハードガイ』を特殊召喚した」

 栄一の反応も右から左に、エドは冷静にカード効果を説明する。
 簡単に、エドのフィールドに2体のモンスターが並べられたという訳である。

D−HERO(デステニーヒーロー) ダイハードガイ ☆3
闇 戦士族 効果 ATK800 DEF800
このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する時、
このカードを除く自分フィールド上の「D−HERO」と
名のついたモンスターが戦闘によって破壊され墓地へ送られた場合、
そのモンスター1体を次の自分のスタンバイフェイズ時に
自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。
この効果は1ターンに1度しか使用できない。

(かく)(へい) 通常罠
相手がモンスターを召喚・反転召喚した時に発動可能。
手札からレベル4以下の闇属性モンスター1体を特殊召喚する。

 『ダイハードガイ』には、戦闘で破壊された味方を未来に復活させる効果が備わっている。攻め手としては、厄介な能力だ。

「『ダイヤモンドガイ』を倒しても、次のターン『ダイハードガイ』の効果で復活されてしまう・・・。かといって『ダイハードガイ』1体だけを倒しても・・・なら! いくぜ、エドさん!」

 2体の運命のヒーローを前に、考えを纏めた栄一が示すは1枚の魔法カード。栄一のデッキの、軸となる戦術を披露する為のカードだ。

「『ミラクル・フュージョン』発動! 墓地の『ライオマン』と、フィールドの『ホークマン』を融合して、現れろ! 『ストライカーグリフォン』!」

 「奇跡」の「融合」のカードによって発生した時空の渦に、『ライオマン』と『ホークマン』が飲み込まれていく。
 代わってその渦から現れたのは、しなやかな翼に逞しい体を持つ伝説の獣『グリフォン』をモデルとした攻撃的なヒーロー、『ストライカーグリフォン』である。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) ストライカーグリフォン ☆6(オリジナル)
風 獣戦士族 融合・効果 ATK2400 DEF1300
「E・HERO ホークマン」+「E・HERO ライオマン」
このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
相手は他の表側表示のモンスターを攻撃対象に選択できない。
このカードが戦闘によって相手モンスターを破壊した場合、
もう1度だけ続けて攻撃を行う事ができる。

ミラクル・フュージョン 通常魔法
自分のフィールド上または墓地から、融合モンスターカードによって
決められたモンスターをゲームから除外し、「E・HERO」という
名のついた融合モンスター1体を融合デッキから特殊召喚する。
(この特殊召喚は融合召喚扱いとする)

 『ストライカーグリフォン』には、攻撃2回を行う事ができる効果が備わっている。これなら・・・

「(2体の『D−HERO』を同時に破壊できる!)バトルフェイズだ! 『ストライカーグリフォン』で、『ダイハードガイ』を攻撃! 『ユー・エフ・オー・ストライク』!」

 『グリフォン』が、目にも見えぬ速さで『ダイハードガイ』向けて突進する。そして、その翼で力強く『ダイハードガイ』を叩き落とそうとした・・・その時である。

「トラップカード『立ちはだかる強敵』! これにより、攻撃対象は『ダイヤモンドガイ』に固定される!」

 エドの発動したトラップ。それが、『ダイハードガイ』への攻撃をよしとしなかった。
 トラップによって、『ダイヤモンドガイ』への攻撃を強制された『ストライカーグリフォン』は、その翼の一撃で『ダイハードガイ』の隣にいた『ダイヤモンドガイ』を打ち払った。

()ちはだかる強敵(きょうてき) 通常罠
相手の攻撃宣言時に発動する事ができる。自分フィールド上の表側表示モンスター
1体を選択する。発動ターン相手は選択したモンスターしか攻撃対象にできず、
全ての表側攻撃表示モンスターで選択したモンスターを攻撃しなければならない。

エド:LP4000→LP3000

「『ダイヤモンドガイ』は、一撃で破壊された。つまり俺はこのターン、もう攻撃できないって訳か・・・」

「それだけではない。『ダイヤモンドガイ』が破壊された事で、『ダイハードガイ』のエフェクト発動! 次のターン、『ダイヤモンドガイ』をボクのフィールドに復活させる! 『ワンダー・アライブ』!」

 途端、エドのフィールドに巨大な歯車が現れる。
 墓地に葬られし戦士の、復活の準備が始まったのだ。

「俺は・・・カードを1枚セットして、ターンエンド」

 栄一のフィールドに、新たなカードが裏側表示で置かれる。
 次のエドのターンをやり過ごす為には、今はこうする事しかできなかった。

栄一LP3300
手札2枚
モンスターゾーンE・HERO ストライカーグリフォン(攻撃表示:ATK2400)
魔法・罠ゾーンリバースカード2枚
エドLP3000
手札1枚
モンスターゾーンD−HERO ダイハードガイ(守備表示:DEF800)
魔法・罠ゾーンなし
フィールド魔法ダーク・シティ

「ボクのターン! このスタンバイフェイズに、『ダイハードガイ』のエフェクトが発動する! カモン! 『ダイヤモンドガイ』!」

 エドの言葉と共に、歯車が高速で回転を始める。そして、その回転が限界を突破しようかというその時、その黒いマントを翻して、『ダイヤモンドガイ』が再びフィールドに現れた。

「先程のターンに『ダイヤモンドガイ』のエフェクトでセメタリーへと送っていた、『終わりの始まり』のエフェクトも発動する! カードを3枚ドロー!」

 『終わりの始まり』は本来、7体の闇属性が墓地に存在しなければ発動できず、さらにそのうち5体を除外しなければカードをドローできない。だがそれを、『ダイヤモンドガイ』の効果が帳消しにしている。
 『ダイヤモンドガイ』の効果は、墓地へと送った魔法の『効果を発動する』のであって、その魔法に書かれたコストを要求する事は無いのだ。

()わりの(はじ)まり 通常魔法
自分の墓地に闇属性モンスターが7体以上存在する場合に発動する事ができる。
自分の墓地に存在する闇属性モンスター5体をゲームから除外する事で、
自分のデッキからカードを3枚ドローする。

「一気にいくぞ、栄一! 再び『ダイヤモンドガイ』のエフェクトを発動!」

 エドはデッキの一番上のカードを引いて自ら確認した後、栄一へとそのカードを示す。

「ボクが引いたのは、マジックカード『ドクターD』。よって次のターンも、マジックのエフェクト発動が決定した! そして『ダイハードガイ』を攻撃表示へと変更する!」

 エドが引いたのは、またしても魔法カードだった。
 栄一は、エドが『ダイヤモンドガイ』の効果を外す瞬間を、今まで見た事が無い。それは確かだ。
 それでも、魔法カードをこう軽々と引き当てる様を、目の前でまじまじと見せられるのは寒気さえ覚える。

「さらに『ダンクガイ』を攻撃表示で召喚し、そのエフェクトを発動! 手札の『D−HERO』1体を墓地へと送り、相手に500ポイントのダメージを与える!」

 エドのフィールドに現れたのは、ドレッドヘアの目立つバスケットボーラーのようなヒーロー『ダンクガイ』。そのヒーローのキックによって発生した衝撃波が、栄一のライフを削る。

D−HERO(デステニーヒーロー) ダンクガイ ☆4
闇 戦士族 効果 ATK1200 DEF1700
手札から「D−HERO」と名のついたカード1枚を墓地に送る事で、
相手ライフに500ポイントダメージを与える。

栄一:LP3300→LP2800

「バトルフェイズ! 『ダイヤモンドガイ』で『ストライカーグリフォン』にアタック! 『ダイヤモンド・ブロウ』!」

「くっ! 迎撃しろ! 『ストライカーグリフォン』!」

 エドの命を受けた『ダイヤモンドガイ』が、『ストライカーグリフォン』目掛けて飛び掛る。
 対する『ストライカーグリフォン』は、その自慢の翼を羽ばたかしてフィールドを飛び回り、『ダイヤモンドガイ』を撹乱しようとする。

 だが、忘れてはいけない。この夜のフィールドは、『D−HERO』の独壇場だと言う事を。

「この瞬間、『ダーク・シティ』のエフェクト発動! 攻撃力が上の『ストライカーグリフォン』と相対する『ダイヤモンドガイ』の攻撃力は、1000ポイントアップする!」

D−HERO ダイヤモンドガイ:ATK1400→ATK2400

 『ストライカーグリフォン』は目を疑った。どれだけ飛ばしても、『ダイヤモンドガイ』が自らの後ろから離れない、その事実に。
 スピードでは誰にも負けない自身があったのに・・・。

 ・・・気付いたら、前に回り込まれていた。

 咄嗟に彼を翼で叩いたが、彼はそれにもめげずに自分を殴ってきた。

 無念の思い・・・。それだけを残して、『ストライカーグリフォン』は『ダイヤモンドガイ』と共にフィールドから消滅した。

「『ダイハードガイ』のエフェクト発動! 次のボクのスタンバイフェイズ、『ダイヤモンドガイ』が復活する! 『ワンダー・アライブ』!」

 そしてエドの目の前には、先程『ダイヤモンドガイ』を復活させた歯車が再び現れる。
 だが栄一も、簡単には負けてはいられない。

「トラップカード『融合の恩恵(フェーバー・オブ・フュージョン)』! これにより俺は『ストライカーグリフォン』の融合素材分、カードをドローする! 2枚ドロー!」

融合の恩恵(フェーバー・オブ・フュージョン) 通常罠(オリジナル)
自分フィールド上の融合モンスターが戦闘によって破壊された時に発動する事ができる。
その融合モンスターの融合召喚に使用した融合素材モンスターの数だけ、
自分はデッキからカードをドローする。

「『ダイハードガイ』! ダイレクトアタック! 『デス・フォー・フィアーズ』!」

 栄一の手札補充。それを確認すると、エドはさらなる命令を下す。
 瞬間、『ダイハードガイ』が栄一目掛けて突進、彼を殴打する。

栄一:LP2800→LP2000

 栄一のライフが、あっという間に初期ライフの半分にまで削られる。だがこれで終わりではない。
 エドのフィールドでは、まだ『ダンクガイ』が構えている。このままでは、大ダメージは必至だ。

「まだだ、エドさん! トラップカード『フリッグのリンゴ』! 俺のライフを800回復する!」

 栄一の目の前に現れたのは、黄金の色をした1つのリンゴ。それが、栄一が今受けたダメージを帳消しにする。

フリッグのリンゴ 通常罠
自分フィールド上にモンスターが存在しない場合、
自分が戦闘ダメージを受けた時に発動する事ができる。
自分が受けた戦闘ダメージの数値分だけ自分のライフポイントを回復し、
自分フィールド上に「邪精トークン」(悪魔族・闇・星1・攻/守?)1体を特殊召喚する。
このトークンの攻撃力・守備力は、この効果で自分が回復した数値と同じになる。

栄一:LP2000→LP2800

「そして『邪精トークン』を、守備表示で特殊召喚!」

 現れたのは、回復したライフと同じだけの攻撃力・守備力を持った、黒い精霊のトークンモンスター。
 これ以上のダメージは許さない。その為の防御策だ。

邪精トークン ☆1
闇 悪魔族 トークン ATK800 DEF800

「・・・『ダンクガイ』で『邪精トークン』を攻撃。『パワー・ダンク』!」

 『ダンクガイ』の蹴り一発で、『邪精トークン』はあっさりやられてしまう。
 しかし、フラフラになりながらも、何とか追撃を凌ぐ事はできた。

「カードを1枚セットして、ターンエンドだ」

 とはいえ、ライフは互角。手札の数では勝っているとはいえ、フィールドの状況はエドが圧倒的有利。

 栄一にとって気の抜けない戦いは、序盤戦から中盤戦へと移行し始めた。

栄一LP2800
手札4枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンなし
エドLP3000
手札2枚
モンスターゾーンD−HERO ダイハードガイ(攻撃表示:ATK800)
D−HERO ダンクガイ(攻撃表示:ATK1200)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
フィールド魔法ダーク・シティ



第38話 −待ち望んだ瞬間−

「うげぇ・・・。お互いのデッキの攻撃力自体には、それほど差が無い筈なのに・・・」

「往復4ターンでこの差・・・。さすが、プロデュエリストね・・・」

 目の前で行われているデュエルに、新司も光も溜息交じりにそう呟く。
 ライフポイントを見る限りでは、エドと栄一、2人の間にそれ程差は無いように思える。だが実際はそうではない。
 一瞬の隙も無くカードをプレイするエドと、攻撃も守備も共にやっとの事な栄一。ここまでのデュエルの内容、ターンの進め方の質には、明らかな差があった。

「さぁて、栄一がどうやってエドさんに対抗するか・・・」

「結局は、高みの見物よねぇ。不本意だけど・・・」

 新司と光、スタンド応援組の2人は、共にもどかしさを感じながらも、デュエルの行方を見守るしかなかった。
 ちなみにその後ろには、まだ2人の仲を茶化すブルー寮の女子連中がいるのだが・・・


 ズキズキズキズキ・・・


 先程、光が羞恥心皆無の怒声を上げたと同時に振り下ろした拳骨。それによって、新司の頭に出来た大きなたんこぶ。それを見て彼女達は、これ以上安易に茶化す事ができなくなっていたのだ。
 2人の会話が、まさに阿吽の呼吸と呼ぶに相応しい程噛み合っているという、それはそれは美味しい話題があるにも関わらず・・・。





−デュエルコート−

「・・・強い! 俺の攻撃は簡単に防いで、自分の攻撃は楽に通してくる・・・」

 恐ろしいまでの、エドの状況把握能力。まるで流れ作業のように、栄一を追い詰めていく。
 無駄も無いし、隙も無い。エドの圧倒的な強さに、まだデュエルは始まったばかりだというのに、栄一は焦りを見せ始めていた。

「俺のターン、ドロー!」

 エドのフィールドに立つ2体の『D−HERO』は、攻撃力は共に高くないとはいえ、油断はできない。
 『融合の恩恵』の効果と、今のドローによって手札に加わったカード。これらのカードを合わせて、大胆かつ慎重に歩を進めていかねばならない。

「『フォーチチュードマン』を攻撃表示で召喚! さらに装備魔法『サラマンドラ』を、『フォーチチュードマン』に装備!」

 全身を紅の鎧で固めた不屈のヒーロー『フォーチチュードマン』が、フィールドに現れる。
 破壊されても、墓地に眠る別の『E・HERO』を蘇らせる事ができる優秀なヒーローだ。
 そして『フォーチチュードマン』に火の精霊が取り憑き、その不屈の炎の力を上昇させる。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) フォーチチュードマン ☆4(オリジナル)
炎 戦士族 効果 ATK1600 DEF1200
自分の墓地に存在する、破壊されたこのカードをゲームから除外する事で、
自分の墓地から「E・HERO」と名のついたモンスター1体を特殊召喚する。

サラマンドラ 装備魔法
炎属性モンスターの攻撃力は700ポイントアップ!

E・HERO フォーチチュードマン:ATK1600→ATK2300

「(破壊される事に意義がある『フォーチチュードマン』なら、エドさんも迂闊に破壊できない筈!)『フォーチチュードマン』、『ダイハードガイ』を攻撃だ! 『フォーチチュード・フレア』!」

 『フォーチチュードマン』の右手から放たれた炎が、『ダイハードガイ』を一瞬にして燃やし尽くした。
 それと同時に、『ダイヤモンドガイ』復活の鍵である歯車もフィールドから姿を消す。
 歯車を操る『ダイハードガイ』自身が消滅した事で、その機能を失ったのだ。
 しかし、それでもエドは、余裕の表情を崩さない。

「『ダイハードガイ』が破壊されたか。だが、バトルダメージはお前に受けてもらおう。トラップカード『ディメンション・ウォール』!」

「うぇっ!?」

 戦闘によって発生した、本来ならエドが受ける筈のダメージが栄一を襲う。
 高攻撃力のモンスターで低攻撃力のモンスターを倒した事が、裏目に出てしまった。

ディメンション・ウォール 通常罠
相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
この戦闘によって自分が受ける戦闘ダメージは、かわりに相手が受ける。

栄一:LP2800→LP1300

「くぅぅ! またかよ・・・。カードを1枚セットして、ターンエンド!」

 またも攻撃は、まともには通らなかった。
 止まらない栄一の歯軋りが、悔しさを強調するかのようだ。

栄一LP1300
手札2枚
モンスターゾーンE・HERO フォーチチュードマン(攻撃表示:ATK2300)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
サラマンドラ(装備:E・HERO フォーチチュードマン)
エドLP3000
手札2枚
モンスターゾーンD−HERO ダンクガイ(攻撃表示:ATK1200)
魔法・罠ゾーンなし
フィールド魔法ダーク・シティ

「破壊前提のエフェクトか・・・。ボクのターン!」

 とはいえ、計算外のダメージを受けながらも『ダイハードガイ』は倒せた。
 故に栄一は、エドのモンスター復活コンボを破ったかに思っていた。

 だがそれも、ただの思い込みであった事を、栄一はこのターン、思い知らされる事になる。

「『ダイヤモンドガイ』のエフェクトによって、セメタリーへと送られていた『ドクターD』のエフェクトを発動! セメタリーの『ダイハードガイ』を除外し、セメタリーから別の『D−HERO』を復活させる! カモン! 『ディスクガイ』!」

 全身にディスクを備えた華奢なヒーロー『ディスクガイ』が、フィールドに現れる。
 攻守共に数値は高くない。だが、それを補ってお釣りが来る程強力な効果を、彼は持っているのだ。

「『ディスクガイ』のエフェクトにより、ボクはカードを2枚ドロー!」

D−HERO(デステニーヒーロー) ディスクガイ ☆1
闇 戦士族 効果 ATK300 DEF300
このカードが墓地からの特殊召喚に成功した時、
自分のデッキからカードを2枚ドローする。

ドクター(ディー) 通常魔法(アニメGXオリジナル)
自分の墓地から「D−HERO」と名のついたモンスター1体を
選択してゲームから除外する。その後、自分の墓地からレベル4以下の
「D−HERO」と名のついたモンスター1体を選択して特殊召喚する。

 ドロー強化。反則気味の能力であるそれが『ディスクガイ』の効果である。
 結果、ターン開始時には2枚だったエドの手札は、一気に5枚までになった。

「何時の間に『ディスクガイ』を墓地に・・・!? さっきの『ダンクガイ』のコストか!?」

「その通りだ。さて、手札の補強もできた。一気にいくぞ、栄一!」

 エドはその言葉と共に、手札から1枚のカードを抜き出し、それを魔法・罠ゾーンへと差し込む。

「『クロス・ソウル』! リリースが必要な場合、『フォーチチュードマン』をリリースする事ができる! 『フォーチチュードマン』には、エフェクトを使えないままに退場してもらおうか!」

 不屈の戦士『フォーチチュードマン』のコントロールが、エドの傘下へと置かれた。

クロス・ソウル 通常魔法
相手フィールド上のモンスター1体を選択して発動する。
このターン自分のモンスターをリリースする場合、
自分のモンスター1体の代わりに選択した相手モンスターをリリースしなければならない。
このカードを発動するターン、自分はバトルフェイズを行う事ができない。

「リリースで墓地へ送られたら・・・『フォーチチュードマン』の効果は発動できない・・・くそっ!」

 栄一が歯を食い縛る。精一杯に立てた作戦を、簡単に破られたのだ。
 まるで、エドの掌の上で弄ばれているような感覚が、栄一を襲っているのである。

「いくぞ栄一! 『ダンクガイ』『ディスクガイ』『フォーチチュードマン』の3体をリリースし、この『D−HERO(ディーヒーロー)』を特殊召喚する! カモン!」



 『ドグマガイ』!



 不気味な笑みを浮かべながら現れた、独断(ドグマ)の名を与えられたヒーロー。
 黒い翼を広げたその姿は、迫力満点。その高いフィジカルと共に、栄一の戦意を削ぐ。

「『クロス・ソウル』を発動したターン、ボクはバトルフェイズを行う事ができない。カードを2枚セットして、ターンエンドだ」

栄一LP1300
手札2枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
エドLP3000
手札1枚
モンスターゾーンD−HERO ドグマガイ(攻撃表示:ATK3400)
魔法・罠ゾーンリバースカード2枚
フィールド魔法ダーク・シティ

「『フォーチチュードマン』の効果を、簡単にかわされるなんて・・・俺のターン!」

 前のターンの出来事をまだ悔しく思いながらも、栄一はカードを引く。

「この瞬間、『ドグマガイ』のエフェクト発動!」

「あ、しまった! ・・・・・・・・・ぐわあああああ!」

 エドの宣言と共に、栄一を中心にエネルギーの渦が発生する。それは天に向かって伸び・・・渦の中にいる栄一のライフを奪った。
 『ドグマガイ』の効果を忘れていた栄一。思わぬ一撃に、顔をさらに顰めた。

「『ライフ・アブソリュート』。『ドグマガイ』を特殊召喚した次の相手スタンバイフェイズに、相手のライフを半分にする」

D−HERO(デステニーヒーロー) ドグマガイ ☆8
闇 戦士族 効果 ATK3400 DEF2400
このカードは通常召喚できない。自分フィールド上に存在する「D−HERO」と
名のついたモンスターを含むモンスター3体を生け贄に捧げた場合のみ特殊召喚する事ができる。
この特殊召喚に成功した場合、次の相手ターンのスタンバイフェイズ時に相手ライフを半分にする。

栄一:LP1300→LP650

「くぅぅ、効いたぜ・・・。この能力に攻撃力3400・・・。やっぱ『D−HERO』は強ぇ・・・」

 その強大な力に対し、栄一は素直な感想を述べる。
 テレビで何度も見て来たヒーロー達が、全力を挙げて自分に襲い掛かって来る。
 その繰り出される一撃一撃の、何と重い事か。

「かと言って、俺もそう簡単には引き下がらないぜ! 魔法カード『エレメンタル・リレー』を発動! 手札の『ネクロシャドーマン』をコストに、カードを2枚ドローする!」

エレメンタル・リレー 通常魔法(オリジナル)
手札から「E・HERO」と名のついたモンスター1体を捨てて発動する。
自分のデッキからカードを2枚ドローする。

「さらに『ネクロシャドーマン』の効果により、互いにデッキの一番上のカードを墓地へ送る!」

「・・・了解した」

E・HERO(エレメンタルヒーロー) ネクロシャドーマン ☆4(オリジナル)
闇 戦士族 効果 ATK1500 DEF0
相手の攻撃宣言時に自分フィールド上にモンスターが存在しない場合、
墓地に存在するこのカードを特殊召喚する事ができる。
このカードがフィールド上から離れた場合、ゲームから除外される。
このカードが墓地へ送られた時、お互いにデッキの上からカードを1枚墓地へ送る。

墓地へ送られたカード:
栄一『E・HERO バーストレディ』
エド『D−HERO ディアボリックガイ』

 可能性の追求と、防御手段の確保を行う手札交換。そして、敵にもチャンスを与えかねない危険な墓地肥やし。
 それらを終え、栄一は引いたカードを確認する。

ドローカード:
『ミラクル・フュージョン』
『エレメンタル・ターボ』

 引いたカードは、栄一得意の戦術を立てる上で、この上ないカードであった。

「(『ミラクル・フュージョン』・・・良い時に来てくれたぜ!)」

 無論、栄一は勢い良くそのカードを差し込んだ。
 打倒『ドグマガイ』の構図は、栄一の頭の中に既に出来上がっている。

「2枚目の『ミラクル・フュージョン』を発動! 俺は、墓地の『ストライカーグリフォン』と『フォーチチュードマン』をゲームから除外し、このヒーローを融合召喚する!」

 『ミラクル・フュージョン』の力によって出来上がった時空の渦。
 その渦の中に、2体のヒーローが吸い込まれていき・・・渦の奥が光る。

「現れろ! 『フォーチチュードグリフォン』!」

 光が消えたそこに現れたのは、顔からつま先、果てはそのしなやかな両翼まで、全身に炎のシンボルを纏い、不屈の闘志を手に入れた伝説の獣のヒーロー。
 新たな『E・HERO』、『フォーチチュードグリフォン』が、ここに参上した。

「『フォーチチュードグリフォン』は、墓地の『E・HERO(エレメンタルヒーロー)』1体につき、攻撃力が300ポイントアップする! 勿論、『ストライカーグリフォン』の効果も受け継いでいるぜ!」

E・HERO(エレメンタルヒーロー) フォーチチュードグリフォン ☆8(オリジナル)
炎 獣戦士族 融合・効果 ATK2800 DEF2400
「E・HERO ストライカーグリフォン」+「E・HERO フォーチチュードマン」
このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。
このカードの攻撃力は、自分の墓地の「E・HERO」と
名のついたカード1枚につき300ポイントアップする。
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
相手は他の表側表示のモンスターを攻撃対象に選択できない。
このカードが戦闘によって相手モンスターを破壊した場合、
もう1度だけ続けて攻撃を行う事ができる。

栄一の墓地の『E・HERO』:
『ネクロシャドーマン』
『バーストレディ』

E・HERO フォーチチュードグリフォン:ATK2800→ATK3400

「さらに、融合召喚に成功した事で『エレメンタル・ターボ』を発動! 2枚ドローだ!」

エレメンタル・ターボ 通常魔法(オリジナル)
「E・HERO」と名のついたモンスターの
融合召喚に成功したターンに発動する事ができる。
自分のデッキからカードを2枚ドローする。

 栄一の手札が増強され、『フォーチチュードグリフォン』の胸を彩る炎のシンボルが紅く光る。
 漲る力で、敵を打ち破らんと血気盛んだ。

「だがそれでも、『フォーチチュードグリフォン』の攻撃力は『ドグマガイ』のそれと同等。どうするつもりだ、栄一?」

 確かに、『独断』のヒーローである『ドグマガイ』の壁は大きい。
 攻撃力が同等という事は、戦闘を行った場合の結果は「相打ち」である。これでは、『フォーチチュードグリフォン』自慢の連続攻撃も生かす事ができない。
 しかし、栄一の手札には、その結果を覆すカードが既に存在した。自らの活躍の場を、虎視眈々と狙っていた。

「こうするんです! 装備魔法『ミスト・ボディ』! これで『フォーチチュードグリフォン』は、戦闘では破壊されなくなったぜ!」

 『フォーチチュードグリフォン』の姿が、霧に隠れるかの如く薄くなり、その存在を確認し辛くなる。
 初めのうちは『ドグマガイ』より劣っていた。ヒーローの結束によって互角になった。その力関係が、今、覆されようとしている。

ミスト・ボディ 装備魔法
装備モンスターは戦闘では破壊されない。

「・・・ほぉ」

 逆転どころか、一気に王手をかけられかねない展開。それでも、エドの表情は変わらない・・・ように見えるが、実際、エドは栄一の戦術に関心の念を、誰も・・・自らも気付かぬ間に、静かにその表情に出していた。
 先程自らが披露した、『フォーチチュードマン』攻略の戦術。だがそれは、栄一の墓地に『ストライカーグリフォン』が眠っているという時点で、既に諸刃の剣である事をエドは熟知していた。
 それでも、この戦術はやる価値がある。だからやった。自ら握っている流れを、さらにこちらに引き付ける為に。
 だが栄一は、エドが懸念していたその行動を、僅か1ターンでやってのけたのだ。

「(自らが必要なカードを、一瞬にしてその手元に集める・・・。これもまた才能・・・か。そっくりだな、アイツ(・・・)にも。そして・・・アイツ(・・・)にも・・・)」

 栄一から目線を外すエド。その目に映るは、栄一の現れた入場門付近にいる、1人の男。





「(・・・感心してますね、エドさん)」

 護だ。彼もまた、エドの視線に気付いたのか、エドに向かって笑みを返した。

「・・・何2人でアイコンタクト取ってんだよ?」

「あ、バレた?」

 護の隣にいた宇宙は、自分だけ仲間外れにされているような気がしてならない。
 護に軽く肘打ちしながら、子供っぽく拗ねてみせた。





「いくぜ! 『フォーチチュードグリフォン』で、『ドグマガイ』を攻撃! 『フォーチチュード・ストライク』!」

 エドが感慨深く思っている間に、栄一は攻撃宣言を行っていた。
 それにより、不屈の獣戦士『フォーチチュードグリフォン』が、『ドグマガイ』目掛けて猛スピードで突進し・・・その燃え上がった炎のように凛々しい右の翼で『ドグマガイ』を叩く。

「迎え撃て! 『ドグマガイ』! 『デス・クロニクル』!」

 『ドグマガイ』も、反撃としてその両腕から飛び出した短剣で、『フォーチチュードグリフォン』の身体を切り刻む。
 『ミスト・ボディ』によって霧状となり、目視すら困難となった『フォーチチュードグリフォン』の身体を、である。

 バシィ!

「・・・って、えっ!?」

 目を疑う光景であった。目視すら困難だった筈の『フォーチチュードグリフォン』。その姿を『ドグマガイ』はあっさりと見つけ、死に際の一撃を『フォーチチュードグリフォン』に食らわせたのだ。
 2体のヒーローが、共にフィールドから姿を消す。栄一の描いていたビジョンとは、かけ離れた現実であった。

「残念だったな、栄一。『フォーチチュードグリフォン』が攻撃する瞬間、ボクは『サイクロン』を発動させた。『ミスト・ボディ』が破壊された事により、結局は相打ちとなったわけだ」

サイクロン 速攻魔法
フィールド上の魔法または罠カード1枚を破壊する。

「嘘だろ・・・。ターンエンド・・・」

 対処が困難と思われた、強大な力を持った敵を、僅か1ターンで片付ける事ができた。
 しかしその代償は大きい。自らの「強大な力」をも、同時に片付けられてしまったのだから。

栄一LP650
手札2枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
エドLP3000
手札1枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
フィールド魔法ダーク・シティ

「ボクのターン! ボクはここで、『リビングデッドの呼び声』を発動。そのエフェクトにより、『ディスクガイ』を復活させる! カモン! 『ディスクガイ』!」

 反則気味の手札増強効果を持つ『ディスクガイ』が、再びエドのフィールドに現れ、彼の手札を増やす。

リビングデッドの()(ごえ) 永続罠
自分の墓地からモンスター1体を選択し、攻撃表示で特殊召喚する。
このカードがフィールド上に存在しなくなった時、そのモンスターを破壊する。
そのモンスターが破壊された時このカードを破壊する。

「そして『ディスクガイ』をリリースし・・・アドバンス召喚! カモン! 『ダブルガイ』!」

 『ディスクガイ』が糧となり、フィールドに新たなモンスターが現れる。
 紫のマフラーで顔を隠した黒の紳士、『ダブルガイ』である。

「(『ダブルガイ』にも確か、2回攻撃の能力があったよな・・・)」

 そう。栄一の目の前にいる紳士には、もう1つの顔がある。まるで温度計のように細い体からはとても考える事ができない、筋骨隆々の荒くれ者の顔が。

D−HERO(デステニーヒーロー) ダブルガイ ☆6
闇 戦士族 効果 ATK1000 DEF1000
このカードは特殊召喚できない。
このカードは1度のバトルフェイズ中に2回攻撃する事ができる。
このカードが破壊された場合、次の自分ターンのスタンバイフェイズ時、
自分フィールド上に「ダブルガイ・トークン」(戦士族・闇・星4・攻/守1000)
を2体特殊召喚する事ができる。

「いくぞ栄一! 『ダブルガイ』で、ダイレクトアタック!」

 黒の紳士『ダブルガイ』が、その手に持つ杖を振り被りながら、栄一目掛けて飛び掛る。
 栄一のライフは残り僅か650。この攻撃が通れば敗北。通す訳にはいかない。

「墓地にいる『ネクロシャドーマン』の効果発動! 俺のフィールドに『ネクロシャドーマン』を特殊召喚する!」

E・HERO(エレメンタルヒーロー) ネクロシャドーマン ☆4(オリジナル)
闇 戦士族 効果 ATK1500 DEF0
相手の攻撃宣言時に自分フィールド上にモンスターが存在しない場合、
墓地に存在するこのカードを特殊召喚する事ができる。
このカードがフィールド上から離れた場合、ゲームから除外される。
このカードが墓地へ送られた時、お互いにデッキの上からカードを1枚墓地へ送る。

 『エレメンタル・リレー』のコストとして墓地へ送られていた『ネクロシャドーマン』がフィールドに復活し、『ダブルガイ』を迎え撃つ。
 ただし、守備表示で。

「今の状況では、『ネクロシャドーマン』も諸刃の剣。当然といえば、当然だな」

 そう。今のフィールドは『D−HERO』の為の舞台『ダーク・シティ』である。
 『ダーク・シティ』の効果によって、『ダブルガイ』の攻撃力は『ネクロシャドーマン』のそれを上回る。
 『ネクロシャドーマン』を攻撃表示で特殊召喚していれば、栄一は戦闘ダメージを被るのだ。

「攻撃対象を変更。『ダブルガイ』で、『ネクロシャドーマン』を攻撃! 『ダーク・シティ』のエフェクトにより、『ダブルガイ』の攻撃力は1000ポイントアップ!」

D−HERO ダブルガイ:ATK1000→ATK2000

 『ダブルガイ』の振り下ろした杖が、『ネクロシャドーマン』に直撃する。
 栄一を守る為に復活した『ネクロシャドーマン』は、哀れにも、一撃防いだだけでフィールドから姿を消す事となった。
 ちなみにこの時、栄一が光との対戦時に『スカイスクレイパー』影響下での戦闘時の盲点を突いた場面と同じで、意味が無いながらも『ダーク・シティ』の効果によって『ダブルガイ』の攻撃力がアップしている。
 『D−HERO』を迎え撃つモンスターが守備表示の場合でも、その迎撃モンスターの攻撃力が、攻撃する『D−HERO』の攻撃力を上回っていれば、『ダーク・シティ』の効果が適用されるのだ。

「何とか防いだ・・・といった様子だが、残念ながら『ダブルガイ』はもう1度アタックができる。2度目は防ぎきれるか、栄一?」

 エドの言葉と共に、『ダブルガイ』の姿が、紳士から荒くれ者のそれへと変わる。
 あの細い体をどうすれば、今のような逞しい体に化かす事ができるのか。それは、聞いてはいけない事なのかもしれない。

「『ネクロシャドーマン』とのバトルが終了した事で、『ダブルガイ』の攻撃力は下がるが・・・それでも、お前のライフを削り切るには十分だな」

D−HERO ダブルガイ:ATK2000→ATK1000

「ダイレクトアタックだ! 『デス・オーバー・ラップ』!」

 二つの人格を持った『ダブルガイ』に相応しい攻撃名が、ホール中に響き渡る。
 瞬間、突進。その筋肉モリモリの丸太のような太腕による殴打で、栄一を葬り去ろうとする。
 『ネクロシャドーマン』のような、栄一を守るモンスターは、もういない。

「くぅ! だが、防御の手段はまだ残っているぜ! トラップ発動、『ガード・ブロック』!」

 ガキィン!

 『ダブルガイ』の突進が、栄一の周りに張られたバリアによって阻まれる。
 プレイヤーへの戦闘ダメージを防ぎ、手札増強も行える頼もしい防御カードだ。

ガード・ブロック 通常罠
相手ターンの戦闘ダメージ計算時に発動する事ができる。
その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になり、
自分のデッキからカードを1枚ドローする。

 栄一にダメージを与えれない事を悟った『ダブルガイ』は、元の紳士へと姿を戻し、エドの下へと帰還した。

「持ち堪えるか。だが、そうでなくてはな。ボクはカードを1枚セットし、ターンを終了する」

栄一LP650
手札3枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンなし
エドLP3000
手札2枚
モンスターゾーンD−HERO ダブルガイ(攻撃表示:ATK1000)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
リビングデッドの呼び声
フィールド魔法ダーク・シティ

 圧倒的劣勢。次から次に栄一を襲う『D−HERO』の軍勢。
 殆ど手も足も出ないまま、栄一は剣が峰に立たされてしまった。
 かといって、このまま無残にやられる訳にはいかない。栄一は、デッキに手をかける。
 何か、逆転のきっかけが欲しい。そして、そのきっかけとなるカードは勿論・・・

「(勿論、『バスター』!)俺のターン!」

 思いを込めて、栄一はカードをドローした。



「(・・・よし、来た!)」

「(・・・来たか、ついに)」

 栄一が、そして、エドもまた待ち望んでいたカードの降臨が、ついに間近となった。
 栄一を象徴する力。栄一のデッキから発せられたその力を、エドも確かに感じ取ったのだ。

「『E・HERO エアーマン』を、攻撃表示で召喚! その効果により、俺はデッキから『HERO』1体を手札に加える!」

 角張った翼を広げ、旋風と共にフィールドに参上する「大気」のヒーロー『エアーマン』。
 彼の力が、栄一のデッキから、「栄一の象徴」のカードを選び抜く。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) エアーマン ☆4
風 戦士族 効果 ATK1800 DEF300
このカードの召喚・特殊召喚に成功した時、次の効果から1つを選択して発動する事ができる。
●自分フィールド上に存在するこのカード以外の「HERO」と名のついたモンスターの数まで、
フィールド上に存在する魔法または罠カードを破壊する事ができる。
●自分のデッキから「HERO」と名のついたモンスター1体を手札に加える。

「『E・HERO バーニング・バスター』を手札に!」

 栄一の象徴、灼熱の戦士『E・HERO バーニング・バスター』。それが、栄一の手札に加わった。
 しかし・・・。

「(・・・『バーニング・バスター』を手札に持ってきたのはいいが、それをどうやってフィールドに呼び出す? 栄一)」

 そう。手札に加えるだけでは、まだ意味が無い。
 この状況で、如何にして『バーニング・バスター』を呼び出すか。
 「見物だな」と、エドは密かにそう思った。

「・・・カードを1枚セット。そしてバトルフェイズ! 『エアーマン』で、『ダブルガイ』を攻撃!」

 しかし、決して出し惜しみではないだろうが・・・栄一は『バーニング・バスター』をまだ呼ばなかった。
 『エアーマン』の両の翼から竜巻が発生し、『ダブルガイ』を吹き飛ばす。
 『バーニング・バスター』とは無関係の、至って普通の戦闘風景であった。

エド:LP3000→LP2200

「『ダブルガイ』が戦闘破壊された事で、トラップカード『デステニー・シグナル』を発動。ボクはこのエフェクトにより、デッキより『ドゥームガイ』を特殊召喚する! カモン! 『ドゥームガイ』!」

 瞬間、『ダーク・シティ』の夜空に『D−HERO』に対する救援要請を意味する「D」のシグナルが示される。
 そのシグナルを察知して、エドのデッキから、まるで戦闘機が人に化けたような姿をしたヒーロー『ドゥームガイ』が推参した。

D−HERO(デステニーヒーロー) ドゥームガイ ☆4
闇 戦士族 効果 ATK1000 DEF1000
このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた場合、
次の自分ターンのスタンバイフェイズ時に、
自分の墓地に存在する「D−HERO ドゥームガイ」以外の
「D−HERO」と名のついたモンスター1体を自分フィールド上に特殊召喚する。

デステニー・シグナル 通常罠
自分フィールド上のモンスターが戦闘によって
破壊され墓地へ送られた時に発動する事ができる。
自分の手札またはデッキから「D−HERO」と
名のついたレベル4以下のモンスター1体を特殊召喚する。

「また新しいヒーローが・・・。俺は、ターンエンドです」

 栄一の心中は複雑であった。
 お互いのヒーローが次々に現れ、決死の覚悟で闘い抜く、全力全開のこのデュエル。本来の栄一なら、興奮冷めやらぬ、垂涎もののデュエル展開だ。
 しかし、いとも簡単に『D−HERO』を呼ばれ、何時首根っこを引っこ抜かれるかも分からない現状では、安易に気を緩め、興奮に身を任せるという、デュエル序盤にはまだ見せていた、栄一本来の姿でデュエルするのは、並大抵の事ではないのだ。

栄一LP650
手札3枚
モンスターゾーンE・HERO エアーマン(攻撃表示:ATK1800)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
エドLP2200
手札2枚
モンスターゾーンD−HERO ドゥームガイ(守備表示:DEF1000)
魔法・罠ゾーンリビングデッドの呼び声
フィールド魔法ダーク・シティ

「(『バスター』を呼ぶ布陣を・・・整えてきたか)」

 自らのターンに入る前に、エドは一考する。
 『エアーマン』で軽く盛り返したものの、尚も背水の状況に陥っている栄一は、形勢逆転の一手として手札の『バーニング・バスター』を呼び出したい筈。
 そして今の栄一のフィールドは、『バーニング・バスター』を呼び出す態勢を整え終えている。

「(なら・・・あえてその地雷を踏んでやる!)ボクのターン! このスタンバイフェイズに、さっきのターンに破壊された『ダブルガイ』のエフェクトにより、『ダブルガイ・トークン』を2体、攻撃表示で特殊召喚する!」

 現れたのは、黒の紳士の時の『ダブルガイ』と同じ姿をした2体のトークン。
 共に杖を構え、栄一を威嚇する。

ダブルガイ・トークン ☆4
闇 戦士族 トークン ATK1000 DEF1000

「そして『ダブルガイ・トークン』1体をリリースして、この『D−HERO』をアドバンス召喚する! カモン! 『ダッシュガイ』!」

 次に現れたのは、両手両足にローラーを備えた俊足の戦士。
 常の激走で人々を魅了し、敵を粉々に打ち砕くヒーロー、『ダッシュガイ』である。

D−HERO(デステニーヒーロー) ダッシュガイ ☆6
闇 戦士族 効果 ATK2100 DEF1000
自分フィールド上のモンスター1体を生け贄に捧げる事で、
このターンのエンドフェイズ時までこのカードの攻撃力は1000ポイントアップする。
この効果は1ターンに1度しか使用できない。このカードは攻撃した場合、
バトルフェイズ終了時に守備表示になる。このカードが墓地に存在する場合、
1度だけドローフェイズ時にドローしたモンスターカードをお互いに確認し特殊召喚する事ができる。

「『ダッシュガイ』のエフェクト発動! モンスター1体をリリースする事で、エンドフェイズまでこのカードの攻撃力を1000ポイントアップする! もう1体の『ダブルガイ・トークン』をリリースし、攻撃力を1000ポイントアップ!」

 そして、その『ダッシュガイ』にさらなるエネルギーが与えられる。
 『ダブルガイ・トークン』の力を加えた『ダッシュガイ』の周囲には光のオーラが発生し、両手足のローラーが、発進の許可はまだかまだかと言わんばかりに高速で回転を始めた。
 これで『ダッシュガイ』の攻撃力が、『エアーマン』を戦闘破壊する事で、栄一のライフを削り切る数値となった。

D−HERO ダッシュガイ:ATK2100→ATK3100

「バトルフェイズ! 『ダッシュガイ』で『エアーマン』を攻撃! 『ライトニング・ストライク』!」

 待ってましたとばかりに、『ダッシュガイ』が『エアーマン』向けて高速で突進する。
 そしてジャンプ一番、『ダッシュガイ』のその振り落とした足が、『エアーマン』に直撃しようかという・・・その時であった。

 ――ズドン!

「・・・やはり来たか!?」

 『ダッシュガイ』、そして『エアーマン』に、それぞれ一筋の雷が落ちる。
 粉砕。そしてそれは、灼熱のヒーロー召喚の舞台となる。

「トラップカード『ツイン・ボルテックス』。これで、『ダッシュガイ』と『エアーマン』を破壊させてもらったぜ、エドさん!

ツイン・ボルテックス 通常罠(アニメ5D'sオリジナル)
相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
自分フィールド上に存在するモンスター1体と
相手フィールド上に存在するモンスター1体を破壊する。

「そして『エアーマン』が破壊された事で、手札の『バーニング・バスター』の効果発動! 来い! 『バーニング・バスター』!」

 栄一の宣言。瞬間、自らが栄一を覆っていた筈のプレッシャーが、灼熱によって上塗りされる。
 同時に、細かな炎が数え切れない程に現れ、2人のバトルフィールドを包み込む。
 それらの炎は、栄一の目の前で組み合わさって行き・・・灼熱のヒーローの姿を形成する。

 ドン!

 鈍い音を伴っての爆発。そしてその煙が晴れた時、『バーニング・バスター』の姿が、そこにはあった。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) バーニング・バスター ☆7(オリジナル)
炎 戦士族 効果 ATK2800 DEF2400
自分フィールド上に存在する戦士族モンスターが
戦闘またはカードの効果によって破壊され墓地へ送られた時、
手札からこのカードを特殊召喚する事ができる。
このカードが戦闘によってモンスターを破壊し墓地へ送った時、
破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。

「『E・HERO バーニング・バスター』。とある(・・・)デュエリストから受け継いだ、明石栄一の象徴となるヒーロー・・・」

 エドが、そう呟く。
 アカデミアに来るまでに既に全て聞いていた、明石栄一という存在と、『E・HERO バーニング・バスター』の所在。
 デュエルモンスターズに存在する『HEROシリーズ』については、全てを知っていると豪語するエドでも、まだ、世界に2枚しか存在しないという『E・HERO』、『バーニング・バスター』とは対峙した事が無かった。人伝に、その存在と能力を聞いていただけだ。
 これだ。これを、この瞬間を、エドは待ち望んでいたのだ。この瞬間、エドの思考は、「栄一のライフを削り切る」事から、「如何にして『バーニング・バスター』を攻略するか」にシフトする。
 だが、今それを実行するのは、無理な話だった。『ダッシュガイ』が破壊された以上、『バーニング・バスター』に相対できるカードは、今のエドの下には無いのだ。

「・・・カードを1枚セットして、ターンエンドだ」

 故に今は、バトルフェイズを放棄した上で、素直に、冷静にターンを終了する他無かった。
 だが、エドは表面には見せないものの、このデュエル一番の興奮を覚えていた。
 如何にして『バーニング・バスター』を攻略しようか、という事と同時に、その『バーニング・バスター』を駆使して、栄一が如何に自らを攻めて来るか。それを考えるのが、楽しみで仕方が無いのである。

栄一LP650
手札2枚
モンスターゾーンE・HERO バーニング・バスター(攻撃表示:ATK2800)
魔法・罠ゾーンなし
エドLP2200
手札1枚
モンスターゾーンD−HERO ドゥームガイ(守備表示:DEF1000)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
リビングデッドの呼び声
フィールド魔法ダーク・シティ

「よし、俺のターン! 俺は、『E・HERO リリーバー』を攻撃表示で召喚する!」

 白いユニフォームに包まれ、羽毛で覆われた翼を広げる姿は、英雄というよりも、天使といった表現が相応しいか。
 決して、野球の「リリーフ投手」の意ではない。「救い人」の名が与えられた、光のヒーロー。
 『リリーバー』がフィールドに現れ・・・そして、『バーニング・バスター』を光のヴェールで包み込む。

「『バスター』に、破壊耐性を与えた・・・。一気に決める腹積もりか」

E・HERO(エレメンタルヒーロー) リリーバー ☆4(オリジナル)
光 戦士族 効果 ATK1200 DEF1800
このカードの召喚・特殊召喚に成功した時、「E・HERO リリーバー」以外の
自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動する。
選択したモンスターが破壊される場合、このカードをリリースしその破壊を無効にする。
???
このカードは自分のエンドフェイズに1度だけ表示形式を変更する事ができる。

 恐ろしい程の、流れを引き付ける力の強さ。『バーニング・バスター』1体で、形勢は一気に逆転した。
 追い詰めていた筈のエドが、僅か1ターンで逆に瀬戸際に立たされてしまった。

「バトルフェイズ! 『リリーバー』で、『ドゥームガイ』を攻撃! 『スピリット・フラッシュ』!」

 『リリーバー』の掌から光が放たれ、『ドゥームガイ』を消滅させる。
 『ドゥームガイ』には、次のターンに墓地の『D−HERO』を復活させる能力があるが・・・

「この一撃で決めれば関係ない! 『バスター』で、エドさんにダイレクトアタック!」

 『バーニング・バスター』が、その右腕を高々と上げる。灼熱の火球が、『バーニング・バスター』の掌に形成される。

「『バーニング・バースト』!」

 エドに向かって放たれる火球。観客席から見れるその大きさは、既にエドのサイズを上回っている。
 ソリッドビジョンでなく、実際にこんな火の玉が直撃すれば、エドは一溜まりもないだろう。

 ――ガキィン!

 だが、これはあくまでカードゲーム。デュエルモンスターズである。現実の話ではない。
 瞬間、現実ではなく、「幻」の姿の『ダブルガイ』がエドの目の前に現れ、火球の直撃の身代わりとなった。

「防がれた!?」

 勢いづいていた栄一は、足を引っ掛けられたような気分に襲われる。
 栄一の視界に入るは、エドの目の前で正体を表したリバースカード。
 一気に勝負を着けんという攻め手の勢いを挫くその能力は、まさに(トラップ)の名に相応しい。

「トラップカード『D−フォーチュン』! 相手のダイレクトアタック時、セメタリーに眠る『D−HERO』、『ダブルガイ』を除外する事で、バトルフェイズを終了する!」

(ディー)−フォーチュン 通常罠
相手が直接攻撃を宣言した時に発動する事ができる。
自分の墓地に存在する「D−HERO」と名のついたモンスター1体を
ゲームから除外する事で、バトルフェイズを終了する。

「これで、次のスタンバイフェイズ時に『ドゥームガイ』のエフェクトも発動する」

 まさに後一撃。その一撃を直前で回避されてしまい、しかも、厄介な『ドゥームガイ』の効果成立にも栄一自身が助力してしまった。
 まるで、「どうぞ召し上がれ」と言わんばかりに、だ。

「あ〜〜〜。こう言うのを『詰めが甘い』って言うんだろうなぁ〜。『リリーバー』を自身の効果で守備表示にして、ターンエンド」

 だが、言葉では悔しがっているものの、その表情は明るい。
 「デュエルが楽しい」。その率直な意見が、栄一の表情に出ているのである。
 『バーニング・バスター』の呼び出しに成功し、若干エドに近づく事ができたという事実が、デュエル中盤辺りから顔を出すようになった栄一の焦りを、漸く取り払ったようだ。

栄一LP650
手札2枚
モンスターゾーンE・HERO バーニング・バスター(攻撃表示:ATK2800)
E・HERO リリーバー(守備表示:DEF1800)
魔法・罠ゾーンなし
エドLP2200
手札1枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンリビングデッドの呼び声
フィールド魔法ダーク・シティ



「(なるほど・・・。護の肩入れも、強ち間違いではないという事か)」

 しかし、それでも相手はプロデュエリスト。それも、世界最高峰の存在だ。

「ボクのターン!」

 若干とはいえ、気を緩めてしまった栄一を前にしてエドは、次のカード、つまり『バーニング・バスター』攻略の糸口にもなり得る「可能性」を、デッキからドローした。



第39話 −背水の攻防−

「『ダッシュガイ』のエフェクト発動!」

 エドが、高らかに宣言する。『バーニング・バスター』の熱気に湧いていたホール中に、新たな注目を集める。
 エドに与えられた新たな「可能性」。それこそまさに、エドが今欲していたカードであった。

「このカードがセメタリーに存在する場合1度だけ、ドローフェイズにドローしたモンスターを特殊召喚する事ができる! カモン! 『デビルガイ』!」

 血の色に染まったマントを身に纏った『悪魔』の名を持つヒーロー『デビルガイ』が、高速のヒーロー『ダッシュガイ』の力を借りて、フィールドに参上する。
 その両手の巨大な鉤爪が狙うは、勿論『バーニング・バスター』の首である。

「さらにこのスタンバイフェイズに、『ドゥームガイ』のエフェクトを発動! セメタリーの『D−HERO』1体を特殊召喚する!」

D−HERO(デステニーヒーロー) ドゥームガイ ☆4
闇 戦士族 効果 ATK1000 DEF1000
このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた場合、
次の自分ターンのスタンバイフェイズ時に、
自分の墓地に存在する「D−HERO ドゥームガイ」以外の
「D−HERO」と名のついたモンスター1体を自分フィールド上に特殊召喚する。

 エドは今一度、自分の墓地に眠る『D−HERO』を確認する。
 『デビルガイ』を呼び出したこの状況で、復活させるのに最適な『D−HERO』は・・・この『D−HERO』だった。

「カモン! 『ディスクガイ』!」

D−HERO(デステニーヒーロー) ディスクガイ ☆1
闇 戦士族 効果 ATK300 DEF300
このカードが墓地からの特殊召喚に成功した時、
自分のデッキからカードを2枚ドローする。

 『ディスクガイ』が、三度エドのフィールドに舞い戻る。2枚のカードをエドは得る。
 ドロー効果をここまで再利用されたら、たまったものではない。

「また手札を補充されちまった・・・。しかも、『デビルガイ』まで・・・」

「そういう事だ。『デビルガイ』、エフェクト発動!」

 『デビルガイ』が『バーニング・バスター』の目の前に立ち、その鉤爪を『バスター』に当てる。

「『デステニー・ロード』!」

 瞬間、『バーニング・バスター』が光の粒子となり・・・そのままフィールドから消え去ってしまった。
 これぞ、対『バーニング・バスター』の為にエドが欲した『デビルガイ』の能力である。

「『バスター』が、簡単に消された・・・」

「2ターン先へと飛ばされただけだ。・・・もっとも、このデュエルに2ターン先があるかは分からないがな」

D−HERO(デステニーヒーロー) デビルガイ ☆3
闇 戦士族 効果 ATK600 DEF800
このカードが自分フィールド上に表側攻撃表示で存在する場合、
1ターンに1度だけ相手モンスター1体をゲームから除外する事ができる。
この効果を使用したプレイヤーはこのターン戦闘を行えない。
この効果によって除外したモンスターは、
2回目の自分のスタンバイフェイズ時に同じ表示形式で相手フィールド上に戻る。

「さらにお前の『リリーバー』は、選択モンスターがフィールドから離れたら自壊するエフェクトを持っていたな!」

「くっ!」

E・HERO(エレメンタルヒーロー) リリーバー ☆4(オリジナル)
光 戦士族 効果 ATK1200 DEF1800
このカードの召喚・特殊召喚に成功した時、「E・HERO リリーバー」以外の
自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動する。
選択したモンスターが破壊される場合、このカードをリリースしその破壊を無効にする。
選択モンスターがフィールド上から離れた場合、このカードを破壊する。
このカードは自分のエンドフェイズに1度だけ表示形式を変更する事ができる。

 『バーニング・バスター』が未来に飛ばされ、守り手である『リリーバー』も消滅する。栄一のフィールドはがら空きとなる。
 『バーニング・バスター』の召喚によって掴んだかに思えた流れが、再びエドへと向かう。灼熱のプレッシャーがかき消され、再びエドのプレッシャーが栄一を襲い始める。
 『デビルガイ』の効果により、このターンのエドの攻撃が束縛されているのが、唯一の救いか。このターンでの敗北の可能性は、ほぼ無くなったからだ。

「・・・! なんだ!?」

 とはいえ、そこはプロのタクティクス。攻撃できないのであれば、次への布石となる布陣を固めてくる。
 瞬間、鳴り響く轟音。突然の出来事に、栄一も、観客席も、落ち着いてはいられない。

「ボクはフィールドマジック『幽獄の時計塔』を発動した。これにより、新たな運命の歯車が回り始める!」

 夜の街『ダーク・シティ』が、音をたてて崩れ去り、替わって新たにフィールドを形成するのは、イギリスの国会議事堂と、そこに付属する通称「ビッグ・ベン」と呼ばれる時計塔を模した建物が並ぶ、暗闇の世界。
 時計塔の針が12時を示す。今よりこの時計が、二人の運命の時を刻み始めるのだ。

幽獄(ゆうごく)時計塔(とけいとう) フィールド魔法
相手ターンのスタンバイフェイズ時に、このカードに時計カウンターを1個乗せる。
時計カウンターの合計が4個以上になった場合、このカードのコントローラーは戦闘ダメージを受けない。
時計カウンターが4個以上乗ったこのカードが破壊され墓地へ送られた時、
手札またはデッキから「D−HERO ドレッドガイ」1体を特殊召喚する。

 この『幽獄の時計塔』の時計は、栄一のターンが来る度に3時間の時を刻む。
 そして、時計の針が再び12時を指す時、つまり往復8ターン後・・・栄一は、さらなる力に追い詰められる事となるのだ。

「(俺に残された猶予は往復8ターン、か・・・)」

「『ドレッドサーヴァント』を召喚。そのエフェクトにより、『幽獄の時計塔』に時計カウンターを1つ置く」

「って、うぇぇ! イキナリ!?」

D−HERO(デステニーヒーロー) ドレッドサーヴァント ☆3
闇 戦士族 効果 ATK400 DEF700
このカードが召喚に成功した時、「幽獄の時計塔」に時計カウンターを1つ置く。
このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、
自分フィールド上の魔法・罠カード1枚を破壊する事ができる。

 フィールドに現れた『ドレッドサーヴァント』の持つ杖から、『幽獄の時計塔』の時計に向けて一筋の光が放たれる。
 長針が3周し、短針が90度横に傾く。どこからともなく、鐘の音が3回鳴る。
 フィールドが、幻想的な力によって支配される。

幽獄の時計塔の時計カウンター:0つ→1つ

「カードを1枚セットして、ターンエンドだ」

 『バーニング・バスター』は未来に飛ばされ、『幽獄の時計塔』の時計の針の動きが栄一を苦しめる。
 運命を操るヒーロー『D−HERO』と、その使い手エド・フェニックス。
 その真骨頂が、ここまでのデュエルの中で最も発揮されたターンだった。

栄一LP650
手札2枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンなし
エドLP2200
手札0枚
モンスターゾーンD−HERO デビルガイ(攻撃表示:ATK600)
D−HERO ディスクガイ(守備表示:DEF300)
D−HERO ドレッドサーヴァント(守備表示:DEF700)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
リビングデッドの呼び声
フィールド魔法幽獄の時計塔(時計カウンター1つ)





 グラグラグラ・・・

「チョット、待ツーノ! グラグラグラ・・・」

 ヒュゥゥゥ ガン!

「マンマミ〜ア!」

 『ダーク・シティ』の崩壊、そして『幽獄の時計塔』の建設。

「い、痛いノーネ・・・」

 今回だけ、特別にデュエルコートで審判を務めるクロノス教諭は、ソリッドビジョンの筈の『ダーク・シティ』の瓦礫を頭にモロに受けていた。
 『ダーク・シティ』の崩壊の勢いは中々激しく、さらに新たなフィールド『幽獄の時計塔』も物凄い勢いで建設された為、彼の被害が誰にも見られなかったのは、不幸なのか幸いなのか。

「(・・・にしても、凄いデュエルナノーネ。あのシニョールエドが、我が校の生徒相手に、プロの時と同じように闘っているノーネ)」

 本来なら、今までと同様、このデュエルも鮫島校長と共に観客席で観戦する予定だった。
 しかし、このデュエルが行われる直前、鮫島校長から「このデュエルを責任を持って見届けて欲しい」と頼まれた為、急遽、デュエルコートで審判を務める事となったのだ。
 その結果、『フレッシュマン・チャンピオンシップ』優勝者である栄一と、プロデュエリストであるエドの激しいデュエルを、一番間近で見る事ができている訳なのだが。

「(鮫島校チョ〜ウ、今どうしてるノーネ・・・?)」

 鮫島校長自身は、校長室にある大型テレビでこのデュエルを観戦するという事になったのだが・・・その決定の際に見せた、深刻そうな表情。
 デュエルに集中しないといけないと分かりつつも、目の前のデュエルに興奮しつつも、その事については少なくとも頭の片隅には置いておかなければならない。
 それを覚悟しながら、クロノス教諭は再びデュエルコートへとその意識を集中した。





「(『幽獄の時計塔』に時計カウンターが4つ溜まったら、ほぼアウトだ。それまでに何とかしないと・・・)」

 『幽獄の時計塔』の時計が再び12時を指した時、発動される力・・・。それは、フィールドの時空を歪め、エドに発生する戦闘ダメージを全て0にしてしまう力だ。
 それだけではない。『幽獄の時計塔』には、新たな『D−HERO』が幽閉されている。
 時空が歪んだ状態で『幽獄の時計塔』が壊滅した時、その『D−HERO』の幽閉が解けてしまうのだ。
 そうなってしまえば、栄一の勝機は限りなく0に近いものとなる。

「俺のターン! ドロー!」

「このスタンバイフェイズ、『幽獄の時計塔』のエフェクトにより、時計カウンターがまた1つ置かれる!」

 時計の針が6時を指し、鐘の音が今度は6回鳴る。
 短針が後半周すれば、『幽獄の時計塔』の効果が成立してしまう。

幽獄の時計塔の時計カウンター:1つ→2つ

「うぅぅぅぅ・・・」

 声にもならない唸り声をあげながら、自分の手札を見つめ直す栄一。
 この状況を覆す為のアクションを起こせるカード。そのカードが、僅か1枚だが、栄一の手札には存在した。

「時間が無い! 頼む『バスター』! 力を貸してくれ!」

 四の五の言う暇も無い現状。栄一の頼みの綱は、やはり『バーニング・バスター』だった。
 『バーニング・バスター』への依存に対する誹謗中傷は、耳を塞がずに全て受け止めると、光との闘いで既に決めた。
 その時から、『バーニング・バスター』と栄一は、切っても切れない絆で結ばれた。
 どちらかだけがちょっと未来に飛ばされた。その程度では、この絆を切るのは不可能なのだ。

「魔法カード『戦士の忘れ形見(メメント・オブ・バスター)』を発動!」





「何!?」

「えっ!? ナノーネ・・・」

 ざわ・・・ざわ・・・

 エドが、ホール中の全てが、動揺し、栄一に注目する。
 それもその筈、栄一がカードを発動した瞬間、その栄一に『バーニング・バスター』の幻影が重なるのを、全ての人が目撃したのだ。
 この日培われた、栄一と『バーニング・バスター』の新たな絆。それを象徴するかのような出来事に、ホール中がこれでもかという程にざわめいた。



「・・・『バーニング・バスター』が、さっきのターンに『デビルガイ』のエフェクトによってフィールドを離れた為、発動条件が満たされた、という事か」

「えぇ。この効果により、エドさんの墓地にある魔法カード1枚の効果を使用できる! 俺は、『終わりの始まり』を選択する!」

 エドの墓地から光が放たれ、栄一のデッキに活力を与える。
 『バーニング・バスター』の残した力によって、栄一は3枚ものカードを手にする事となった。

「"Mement of Buster"・・・。期間限定の除外ぐらいでは、『バスター』を倒した事にはならない、という事か」

戦士の忘れ形見(メメント・オブ・バスター) 通常魔法(オリジナル)
「E・HERO バーニング・バスター」が自分フィールド上を離れた次のターンに、
相手の墓地に存在する通常魔法カード1枚を選択して発動する。
このカードの効果は選択した通常魔法カードの効果と同じになる。

()わりの(はじ)まり 通常魔法
自分の墓地に闇属性モンスターが7体以上存在する場合に発動する事ができる。
自分の墓地に存在する闇属性モンスター5体をゲームから除外する事で、
自分のデッキからカードを3枚ドローする。

 栄一の手札が揃い、不利な形勢を覆す為の前準備が始まる。

「まずは・・・『デビルガイ』からだ! 『フェザーマン』を召喚し、そのまま『デビルガイ』に攻撃!」

E・HERO(エレメンタルヒーロー) フェザーマン ☆3
風 戦士族 通常 ATK1000 DEF1000
風を操り空を舞う翼を持ったE・HERO。
天空からの一撃、フェザーブレイクで悪を裁く。

 召喚された『フェザーマン』が空を舞い、『デビルガイ』へと突進する。
 『幽獄の時計塔』の効果が成立していない今のうちに、エドのモンスターを1体でも取り除き、彼にダメージを与える。
 今は、そうするしかないのだ。

「『フェザー・ブレイク』!」

 ―ドガッ!

 『フェザーマン』の一撃が、『デビルガイ』に直撃する。

「よしっ・・・・・・!?」

 これで、エドに400のダメージが与えられる・・・筈だったのだが。

エド:LP2200

 ゴーン! ゴーン! ゴーン! ゴーン! ゴーン! ゴーン!
 ゴーン! ゴーン! ゴーン! ゴーン! ゴーン! ゴーン!

 エドのライフは減っていなかった。
 そして幻想的な鐘の音が、12回にも渡ってフィールドに鳴り響いた。

「残念だが、遅かったな」

「・・・マジかよ」

 栄一が気付いた時、既に、フィールドの時空は歪んでいた。
 ふと時計塔を見ると、時計の針は既に12時を指していた。
 そう。『幽獄の時計塔』の効果が成立してしまったのだ。

「トラップカード『エターナル・ドレッド』。そのエフェクトにより、『幽獄の時計塔』に時計カウンターが2つ置かれ、計4つとなった。これで、ボクが受けるバトルダメージは全て0となる!」

エターナル・ドレッド 通常罠
「幽獄の時計塔」に時計カウンターを2個乗せる。

幽獄の時計塔の時計カウンター:2つ→4つ

「うぅ〜〜〜悔しぃぃぃ」

 『幽獄の時計塔』単体でなら、時計の針が示す時間はまだ3時だった。だが、エドは僅か往復2ターンで、時計の針を12時まで進めてしまった。
 これで、エドは戦闘ダメージを受けなくなったのだが、それだけではない。
 エドのフィールドに立つ『ドレッドサーヴァント』は、その名の通り「召使い」。それも、『幽獄の時計塔』に幽閉されている『D−HERO』の、だ。
 彼の力をもってすれば、その『D−HERO』を幽閉から解き放つ事など容易い。
 そしてそれを阻止できるカードは、今の栄一の下には無かった。

「(・・・こうなってしまったら、その力に負けないよう粘るしかねぇ!)カードを3枚セットして、さらに永続魔法『凡骨の意地』を発動! ターンエンドです!」

凡骨(ぼんこつ)意地(いじ) 永続魔法
ドローフェイズにドローしたカードが通常モンスターだった場合、
そのカードを相手に見せる事で、自分はカードをもう1枚ドローする事ができる。

栄一LP650
手札0枚
モンスターゾーンE・HERO フェザーマン(攻撃表示:ATK1000)
魔法・罠ゾーンリバースカード3枚
凡骨の意地
エドLP2200
手札0枚
モンスターゾーンD−HERO ディスクガイ(守備表示:DEF300)
D−HERO ドレッドサーヴァント(守備表示:DEF700)
魔法・罠ゾーンリビングデッドの呼び声
フィールド魔法幽獄の時計塔(時計カウンター4つ)

「(手札を全てフィールドに? ヤケクソになったか? それとも・・・)ボクのターン!」

 絶対の防御から、一気に攻撃に転じる陣の完成を前にして、有耶無耶に手札を消費してしまったのだろうか。
 一度にここまでカードをセットされると、最早苦し紛れにしか思えない。「正体を隠す」意味が無くなってしまう。
 結果、エドはリバースカードなど全く気にせずに・・・

「『ディスクガイ』と『ドレッドサーヴァント』を攻撃表示に変更し、『ディスクガイ』で『フェザーマン』に攻撃!」

 ・・・攻撃を行う事ができた。
 とはいえそもそも、仮に栄一がモンスター撃退のトラップカードをセットしていたとしても、エドには『幽獄の時計塔』という保険がある。戦闘ダメージはそう簡単に通らない。栄一が『幽獄の時計塔』本体を崩しに掛かってきたら、『幽獄の時計塔』幽閉されたモンスターを呼ぶだけだ。
 よって、栄一の豪快な手札消費は、「エドの警戒心を募らせる」という目的では一切役に立たないものとなっていた。

「(・・・我慢だ。今はまだ、このカードは発動できない!)」

 『ディスクガイ』が、『フェザーマン』に返り討ちにされる。『幽獄の時計塔』の効果によって、エドにダメージは通らないが。
 だがこれも、エドにとっては『幽獄の時計塔』に幽閉されたモンスターを解放し、その後のフィールドを支配する為の手段だ。
 それが分かってるからこそ、リバースカードを発動できない栄一は、耐えるしかない悔しさに悶えた。

「『ドレッドサーヴァント』で、『フェザーマン』に攻撃!」

 『ドレッドサーヴァント』もまた、『フェザーマン』に飛び掛り、返り討ちにされる。
 これで、『幽獄の時計塔』に幽閉された『D−HERO』を解き放つ準備は整った。

「この瞬間、『ドレッドサーヴァント』のエフェクト発動! ボクのフィールドのマジック・トラップカード1枚を破壊する! ボクが破壊するのは勿論、『幽獄の時計塔』だ!」

「くっ! 来た!?」

 厳格な雰囲気を醸し出す建物も、フィールドを支配していた巨大な時計塔も、全てが崩れ去る。
 その間、僅か3ターン弱とは思えない程に、発動されてから破壊されるまでが長く感じられた『幽獄の時計塔』。
 崩壊の瞬間ですら、人々にとっては畏敬の対象であった。

「そして『幽獄の時計塔』のエフェクトにより、この『D−HERO』がデッキから特殊召喚される! カモン!」



「『ドレッドガイ』!」



 瞬間、崩れ切った時計塔から、1体の巨大な「怪物」が飛び出し、フィールドに姿を現す。
 着地の瞬間に地鳴りがする程、その身体は筋骨隆々で大きい。両手両足には、長く幽閉されていた事を、そして時計塔の崩壊に乗じて脱獄した事を象徴するかのような、チェーンの引き千切られた枷が嵌められている。
 その表情は仮面に隠されて見えない。しかし、その名の通り姿を見るだけで、人々が恐れ戦くのは間違い無いだろう。
 『D−HERO ドレッドガイ』。それが彼、『幽獄の時計塔』に幽閉されていた『HERO』とは思えない「怪物」の名前である。

「『ドレッドガイ』のエフェクト発動! 『ドレッドガイ』の特殊召喚に成功した時、ボクはセメタリーから2体の『D−HERO』を特殊召喚する事ができる! カモン! 『ダッシュガイ』! 『ディスクガイ』!」

 『ドレッドガイ』がその場で右腕を振り下ろした瞬間、墓地で眠っていた2体の『D−HERO』、『ダッシュガイ』と『ディスクガイ』がエドのフィールドに復活する。
 勿論、『ディスクガイ』の効果によって、エドは2枚のカードをドローできる。

「そして『ドレッドガイ』が特殊召喚されたターン、『D−HERO』は破壊されずボクが受けるダメージは0! さらに『ドレッドガイ』の攻撃力・守備力は、他の『D−HERO』の攻撃力の合計となる!」

D−HERO(デステニーヒーロー) ドレッドガイ ☆8
闇 戦士族 効果 ATK? DEF?
「幽獄の時計塔」の効果で特殊召喚した場合、自分フィールド上の「D−HERO」と名のついた
モンスター以外の自分のモンスターを全て破壊する。その後、自分の墓地から「D−HERO」と
名のついたモンスターを2体まで特殊召喚する事ができる。このカードが特殊召喚されたターン、
自分フィールド上の「D−HERO」と名のついたモンスターは破壊されず、
コントローラーへの戦闘ダメージは0になる。このカードの攻撃力・守備力は、
自分フィールド上のこのカードを除く「D−HERO」と名のついたモンスターの
元々の攻撃力を合計した数値になる。

 『ダッシュガイ』と『ディスクガイ』の攻撃力の合計は2400。よって、『ドレッドガイ』の攻撃力は・・・

D−HERO ドレッドガイ:ATK?→ATK2400 DEF?→DEF2400

 である。『フェザーマン』を戦闘破壊する事で、栄一のライフを十分削りきれる数値だ。

「いくぞ栄一! バトルフェイズ続行! 『ドレッドガイ』で、『フェザーマン』を攻撃! これでフィニッシュだ!」

 決着の為の攻撃宣言を、エドは行った。
 しかし、栄一も黙っている訳にはいかない。

「待って下さい! この瞬間、永続(トラップ)『正統なる血統』を発動! この効果により、墓地の通常モンスター『バーストレディ』を特殊召喚します!」

 蘇るは、炎を操りし女性HERO。『E・HERO』の姉御分である『バーストレディ』。
 しかし、このままでは『ドレッドガイ』の抑止力にはなりえない。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) バーストレディ ☆3
炎 戦士族 通常 ATK1200 DEF800
炎を操るE・HEROの紅一点。
紅蓮の炎、バーストファイヤーが悪を焼き尽くす。

正統(せいとう)なる血統(けっとう) 永続罠
自分の墓地に存在する通常モンスター1体を選択し、攻撃表示で特殊召喚する。
このカードがフィールド上に存在しなくなった時、そのモンスターを破壊する。
そのモンスターがフィールド上に存在しなくなった時、このカードを破壊する。

「何をするかは分からないが、攻撃する事に変更はない! 『ドレッドガイ』で、再び『フェザーマン』に攻撃!」

 モンスターが増えただけでは、『フェザーマン』への攻撃をやめる理由は無いのだ。
 両拳を合わせ、そのまま両腕を振り上げる『ドレッドガイ』。もう、この勢いは止められない。

「『プレデター・オブ・ドレッドノート』!」

 振り下ろされた両腕は『フェザーマン』へ。直撃すれば一溜まりもない攻撃。
 デュエルが決着・・・したかに思われた。





「・・・やっと、発動条件が整ったぜ!」

 栄一の、この一言が無ければ。

「トラップ発動! 『飛翔するフレイム・ウィング』! 相手フィールド上にレベル5以上のモンスターが存在する場合のみ発動でき、俺のフィールドの『フェザーマン』と『バーストレディ』を、緊急融合する!」

 『ドレッドガイ』の両腕は、空しく地面を叩き付けた。
 そして全てが見上げる上空には、融合召喚の時に見られる渦。そこに、『ドレッドガイ』の攻撃を上手く避けた『フェザーマン』と、『バーストレディ』が飲み込まれていく。
 その様を見ながら栄一は、自らのエクストラデッキから1枚のカードを取り出し、それを自らのデュエルディスクに置いた。

「『フェニックスガイ』を、守備表示で融合召喚!」

 その渦から代わって現れたのは、濃い赤と黒で体を塗り、鳥獣のような羽を広げたヒーロー、『フェニックスガイ』であった。
 その姿からは、同じ融合素材によって召喚される『フレイム・ウィングマン』と比べると、若干野生っぽさが見て取れる。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) フェニックスガイ ☆6
炎 戦士族 融合・効果 ATK2100 DEF1200
「E・HERO フェザーマン」+「E・HERO バーストレディ」
このモンスターは融合召喚でしか特殊召喚できない。
このカードは戦闘によっては破壊されない。

飛翔(ひしょう)するフレイム・ウィング 通常罠(オリジナル)
相手フィールド上にレベル5以上のモンスターが表側表示で存在する時のみ発動する事ができる。
自分フィールド上に存在する以下のモンスターを墓地へ送る事で、
以下に決められた融合モンスター1体を融合召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したモンスターはエンドフェイズに破壊される。
●「E・HERO フェザーマン」+「E・HERO バーストレディ」:
「E・HERO フレイム・ウィングマン」もしくは「E・HERO フェニックスガイ」
●「E・HERO フェザーマン」+「E・HERO バーストレディ」+「E・HERO スパークマン」:
「E・HERO シャイニング・フレア・ウィングマン」もしくは「E・HERO シャイニング・フェニックスガイ」

「ここで『フェニックスガイ』か・・・」

 エドは、胸中複雑であった。何故なら、彼が『HERO使い』と名乗り始めた当初から『D−HERO』を本格的に使い始めるまでのごく一時期ではあったが、その間、彼の切り込み隊長として活躍していたのがこの『フェニックスガイ』だったからだ。
 その切り込み隊長を、目の前に相対する男に使われる事実。エドは、苦笑するしかなかった。

「『フェニックスガイ』は、戦闘によっては破壊されない! 『ドレッドガイ』の攻撃は無力だぜ!」

 対して栄一は、してやったりと笑みを浮かべている。
 間一髪ではあったが、このターンでの敗北は逃れる事ができたからだ。
 しかし、まだ「このターンでの」であって、ピンチである事に変わりはない。

「確かにこのターン、ボクに追撃の手は無い。だが『飛翔するフレイム・ウィング』によって特殊召喚されたモンスターは、エンドフェイズに破壊される。カードを1枚セットして、ターンエンドだ。さぁどうする? 栄一」

 エドがターンの終了を宣言。同時に、『フェニックスガイ』がフィールドから消滅する。
 これで、栄一の布陣は1枚のリバースカードと『凡骨の意地』のみとなった。
 次のターンに起死回生を起こさなければ、今度こそ"THE END"だ。

栄一LP650
手札0枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
凡骨の意地
エドLP2200
手札2枚
モンスターゾーンD−HERO ドレッドガイ(攻撃表示:ATK2400)
D−HERO ダッシュガイ(攻撃表示:ATK2100)
D−HERO ディスクガイ(守備表示:DEF300)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
リビングデッドの呼び声

「だけど・・・まだ俺にもチャンスは残されている。大きな大きなチャンスが!」

 そう。この背水の布陣は同時に、起死回生を起こす布陣でもある。
 『凡骨の意地』。このカードが、新たなドラマを生む。

「俺の・・・ターン! このカードが通常モンスターなら、俺はもう1枚ドローできる!」

 勢い良く引いたカード。それを栄一は、恐る恐る確認する。
 この1枚が、このデュエルの結末に大きく響くのだ。当然といえば当然だろう。

 ・・・そして、栄一が引いたカードは。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) スパークマン ☆4
光 戦士族 通常 ATK1600 DEF1400
様々な武器を使いこなす、光の戦士のE・HERO。
聖なる輝きスパークフラッシュが悪の退路を断つ。

「俺が引いたのは通常モンスターの『スパークマン』! よって『凡骨の意地』により、もう1枚ドローする!」

「・・・流れを引き寄せる力、か。好きにするがいい」

 勝利の女神は、まだ栄一を見捨てていなかった。
 通常モンスター『スパークマン』を引き当てた事により、栄一はさらにカードを1枚ドローする。
 この決められていたかのような栄一のドローに、エドも感心する他無かった。

「(・・・よし、まだ大丈夫だ。勝機はある!)『スパークマン』を召喚! そして魔法カード『馬の骨の対価』を発動! 『スパークマン』を墓地へ送り、カードを2枚ドローする!」

 もう1度引いたカードこそ通常モンスターではなかったが、それでも可能性を繋げるカードに違いは無かった。
 ドローの連発で、一気に逆転のカードを引き当てんとする栄一。
 二度に渡ってあまりニュアンスの良くない扱いをされた『スパークマン』が少し可哀想な気もするが、今はそんな場合ではなかった。

(うま)(ほね)対価(たいか) 通常魔法
効果モンスター以外の自分フィールド上に表側表示で存在する
モンスター1体を墓地へ送って発動する。自分のデッキからカードを2枚ドローする。

「・・・来た! このカードなら、逆転できる! 魔法カード『フレア・フュージョン』を発動!」

 そして栄一が引き当てたのは、炎の融合のカード。まさに、栄一が逆転の為に望んだカードだ。
 瞬間、栄一の墓地から2体のヒーローが現れ、炎を発する融合の渦に飲み込まれていく。

「墓地の『フェニックスガイ』と『スパークマン』を除外し・・・現れろ! 『シャイニング・フェニックスガイ』!」

 緑の体に鋼の鎧を纏い、その硬き翼が大空を舞う。
 閃光の力を得た不死鳥が、英雄となりてフィールドに姿を現す。
 人は彼の事を、『シャイニング・フェニックスガイ』と呼んだ。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) シャイニング・フェニックスガイ ☆8
炎 戦士族 融合・効果 ATK2500 DEF2100
「E・HERO フェニックスガイ」+「E・HERO スパークマン」
このモンスターは融合召喚でしか特殊召喚できない。
このカードの攻撃力は、自分の墓地の「E・HERO」と
名のついたカード1枚につき300ポイントアップする。
このカードは戦闘によっては破壊されない。

「そして『フレア・フュージョン』の効果発動! エドさんに1000ポイントのダメージ!」

 フィールドに参上した『シャイニング・フェニックスガイ』。その翼から炎が吹き荒れ、エドのライフを削る。

フレア・フュージョン 通常魔法(オリジナル)
自分のフィールド上または墓地から、融合モンスターカードによって
決められた融合素材モンスターをゲームから除外し、
炎属性の融合モンスター1体を融合召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する。
この効果によってモンスターの融合召喚に成功した時、
相手に1000ポイントのダメージを与える。

エド:LP2200→LP1200

「『シャイニング・フェニックスガイ』・・・か」

 『シャイニング・フェニックスガイ』もまた、エドの『ヒーロー使い』としての黎明期に活躍したモンスターだ。
 新たな『ヒーロー使い』とのデュエルで、共に闘ったモンスターと相対する事になるとは。
 これもまた運命・・・。エドは、そう思った。

「『シャイニング・フェニックスガイ』は、俺の墓地の『E・HERO』1体につき、攻撃力が300ポイントアップする! 俺の墓地の『E・HERO』は5体!」

栄一の墓地の『E・HERO』:
『フォーチチュードグリフォン』
『エアーマン』
『リリーバー』
『フェザーマン』
『バーストレディ』

「よって『シャイニング・フェニックスガイ』の攻撃力は・・・」

E・HERO シャイニング・フェニックスガイ:ATK2500→ATK4000

「・・・4000、か」

 それは、『ドレッドガイ』の攻撃力ですら大きく上回る数値。
 そして『フレア・フュージョン』の効果によるダメージによって、エドのライフは『シャイニング・フェニックスガイ』の一撃で0になってしまう所まで来た。
 エドが、このデュエル2度目の窮地に追い込まれた瞬間だった。



「・・・『エレメンタル・ターボ』を発動! カードを2枚ドロー!」

 だが、栄一は気を緩めない。発動されたのは2枚目の『エレメンタル・ターボ』。
 手札を増強し、エドの「もしも」のカウンターに対する策を用意する。

エレメンタル・ターボ 通常魔法(オリジナル)
「E・HERO」と名のついたモンスターの
融合召喚に成功したターンに発動する事ができる。
自分のデッキからカードを2枚ドローする。

 準備は整った。残されるは、決着の為のバトルフェイズだ。

「・・・いくぜ! 『シャイニング・フェニックスガイ』で、『ドレッドガイ』を攻撃!」

 響くは、栄一の攻撃宣言。全てが、栄一に注目する。



「『シャイニング・フィニッシュ』!!!」



 勢いをつけ、巨体の『ドレッドガイ』向けて飛び掛る『シャイニング・フェニックスガイ』。
 この一撃が決まれば栄一の逆転勝利。プロデュエリストがアマチュアに敗れるかどうかの瀬戸際。ホール中の全てに緊張が走る。


 ・・・だが。


 ―ガキィ!


「何!?」

 『シャイニング・フェニックスガイ』の決死の一撃。それは、『ドレッドガイ』を包むように周りに張られたバリアによって防がれてしまった。

「『ドレイン・シールド』。『シャイニング・フェニックスガイ』のアタックを無効にし、ボクのライフを『シャイニング・フェニックスガイ』の攻撃力分回復する!」

ドレインシールド 通常罠
相手モンスター1体の攻撃を無効にし、
そのモンスターの攻撃力分の数値だけ自分のライフポイントを回復する。

エド:LP1200→LP5200

 決着の一撃だった筈が、逆にエドのライフを大幅に回復させてしまった。
 四方八方から、観客達の緊張が解けた事を意味する溜息が聞こえるが、栄一はそれどころではない。

「(・・・あんまり使いたくなかったけど、『ドレッドガイ』は今のうちに除去しとかないとマズい!)」

 『ドレッドガイ』は新たな『D−HERO』が召喚される度に、その攻撃力を増す。
 次のターンの事を考えても、これ以上『ドレッドガイ』が大きくなる事は望ましくない。
 最悪の状況でしか発動したくなかったカードだが、今がその状況となってしまった。
 もう、躊躇はできない。

「トラップ発動! 『奇跡の軌跡(ミラクルルーカス)』! 『シャイニング・フェニックスガイ』の攻撃力を1000ポイントアップし、もう1度の攻撃を可能にする!」

「・・・破れかぶれに近いな、栄一?」

奇跡の軌跡(ミラクルルーカス) 通常罠
自分フィールド上に表側攻撃表示で存在するモンスター1体を選択して発動する。
相手はデッキからカードを1枚ドローする。このターンのエンドフェイズ時まで、
選択したモンスターの攻撃力は1000ポイントアップし、
1度のバトルフェイズ中に2回までモンスターに攻撃する事ができる。
そのモンスターが戦闘を行う場合、相手プレイヤーが受ける戦闘ダメージは0になる。

E・HERO シャイニング・フェニックスガイ:ATK4000→ATK5000

「もう1度、『シャイニング・フェニックスガイ』で『ドレッドガイ』に攻撃! 『シャイニング・フィニッシュ』!」

 そのパワーを増した『シャイニング・フェニックスガイ』が、再び『ドレッドガイ』に飛び掛る。
 今度は何の妨害も無い。攻撃は届いた。『シャイニング・フェニックスガイ』の強力な蹴りによって、『ドレッドガイ』はその場で崩れ落ちた。フィールドから消滅した。
 しかし・・・

「『奇跡の軌跡(ミラクルルーカス)』のエフェクトにより、ボクが受けるダメージは0。そしてさらに、ボクはカードを1枚ドローできる」

 この一撃では決定力にはならない。さらに、エドに新たな可能性を与えてしまった。
 徐々に、徐々にだがエドを追い詰めてはいる。王手をかける事も何度もできた。
 だがその度に、最後の最後、土俵際で粘られ、そして体勢を引っ繰り返される。
 まさにプロのタクティクス。エドの横綱相撲を前にして、心を落ち着かせる事ができるターンは、栄一には決して来ない。

「・・・カードを2枚セットして、ターン終了です」

 悔しさだけが残るエンド宣言。それを表すかのように、『シャイニング・フェニックスガイ』の攻撃力も元に戻った。

E・HERO シャイニング・フェニックスガイ:ATK5000→ATK4000

栄一LP650
手札0枚
モンスターゾーンE・HERO シャイニング・フェニックスガイ(攻撃表示:ATK4000)
魔法・罠ゾーンリバースカード2枚
凡骨の意地
エドLP5200
手札3枚
モンスターゾーンD−HERO ダッシュガイ(攻撃表示:ATK2100)
D−HERO ディスクガイ(守備表示:DEF300)
魔法・罠ゾーンリビングデッドの呼び声

「ボクのターン」

 しかし、悪いニュースだけでは決してない。
 漸くこのターン、栄一の象徴がフィールドに帰って来るのだ。

「このスタンバイフェイズに、除外されていた『バーニング・バスター』が帰還します! 戻って来い! 『バスター』!」

 エドに「あるかどうか分からない」と言われた2ターン先が、存在したのだ。

「帰って来た英雄・・・か」

 灼熱が、再びフィールドに舞い戻る。エドに向きかけたデュエルの流れを再び呼び戻さんと、炎のプレッシャーがエドの発するプレッシャーを今一度上書きし、フィールドを支配する。
 栄一の象徴、灼熱の戦士『バーニング・バスター』が今、フィールドに帰って来た。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) バーニング・バスター ☆7(オリジナル)
炎 戦士族 効果 ATK2800 DEF2400
自分フィールド上に存在する戦士族モンスターが
戦闘またはカードの効果によって破壊され墓地へ送られた時、
手札からこのカードを特殊召喚する事ができる。
このカードが戦闘によってモンスターを破壊し墓地へ送った時、
破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。

「・・・『マジック・プランター』を発動。『リビングデッドの呼び声』をセメタリーへと送り、カードを2枚ドローする!」

 だがそのプレッシャーに臆する事なく、エドはターンを進める。
 発動されたのは『マジック・プランター』。フィールドに長い間居座っていた『リビングデッドの呼び声』を糧に、さらに手札を増強する。

マジック・プランター 通常魔法
自分フィールド上に表側表示で存在する
永続罠カード1枚を墓地へ送って発動する。
自分のデッキからカードを2枚ドローする。

 ・・・そして、運命を左右する攻撃のカードを手にする。

「・・・『バスター』が帰還したばかりの所を申し訳ないが、その『バスター』の力によって敗北するといった結末があるとしたらどうする、栄一?」

「えっ!?」

 素っ頓狂な声を上げる栄一。思ってもいなかった事例を挙げられれば、こういった反応をしてしまうのも仕方が無いが。
 瞬間、何故か『バーニング・バスター』の右手に、炎が灯る。

「マジックカード『ミスフォーチュン』! このターンのバトルフェイズを放棄する代わりに、『バーニング・バスター』のアタックによってお前にダメージを与える!」

「な、なにぃぃ!?」

 相手の傘下モンスターの造反を引き起こし、相手のライフを奪う。下級モンスターの攻撃力が低めのエドのデッキにとって、貴重なダメージ源の魔法カード。
 そう。攻撃を許されていない筈の『バーニング・バスター』の手元に炎を灯したのは、この『ミスフォーチュン』なのだ。

ミスフォーチュン 通常魔法
相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動する。
選択したモンスターの元々の攻撃力の半分のダメージを相手ライフに与える。
このターン自分のモンスターは攻撃する事ができない。

 『バーニング・バスター』が右腕を挙げる。そしてその手に形成される灼熱の球。
 それは、成人男性1人ぐらいなら軽く飲み込んでしまう程の大きさにまで膨れ上がる。

「来い! 『バーニング・バスター』! 『バーニング・バースト』!」

 そして、エドによる『バーニング・バスター』の攻撃宣言。
 放たれる灼熱。真っ直ぐの軌道を描いてエドに向かう紅い炎球。
 しかしそれは・・・

 ―ガキィン!

 エドの周りに張られたバリアによって跳ね返され、そのまま栄一に向かって突き進む。

「くっ・・・リバースカード発動!」

「・・・?」





 ―チュドーン!

 爆発。栄一を巻き込んで。そしてフィールドが煙に包まれ、一寸先すら見えない状況を作り出す。
 「今度こそ」の決着の時であろう瞬間は、観客席に座る者達には見る事が出来ない。



「・・・「そう簡単に終わってたまるか」といった所か」

 だが、煙が晴れたそこに、栄一は立っていた。まだ、デュエルは終わっていなかった。
 そしてそれをエドは、爆発の起きる直前に察知していた。

「『ダメージ・ポラリライザー』か。だが、ボクに新たなカードを与える事を忘れるな、栄一」

ダメージ・ポラリライザー カウンター罠
ダメージを与える効果が発動した時に発動する事ができる。
その発動と効果を無効にし、お互いのプレイヤーはカードを1枚ドローする。

「あっぶねぇ・・・。もうちょっとでやられてたぜ・・・」

 安堵の溜息をつく栄一。四方八方からも、同じような溜息が聞こえる。
 これでエドはバトルフェイズを封じられた。巻き返すチャンスが再び与えられたのだ。

「カードを1枚セットし、『ダッシュガイ』を守備表示にしてターンエンド」

 最低限の防御態勢を整えて、エドはターンを終えた。

栄一LP650
手札1枚
モンスターゾーンE・HERO シャイニング・フェニックスガイ(攻撃表示:ATK4000)
E・HERO バーニング・バスター(攻撃表示:ATK2800)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
凡骨の意地
エドLP5200
手札4枚
モンスターゾーンD−HERO ダッシュガイ(守備表示:DEF1000)
D−HERO ディスクガイ(守備表示:DEF300)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚

 そして栄一は、それをチャンスと見た。今が攻め時だと確信したのだ。

「俺のターン! いくぜ! 『バーニング・バスター』で、『ダッシュガイ』を攻撃!」

 ドローしたカードは通常モンスターではなかった。それを確認した栄一は、一気に攻めかかる。
 モンスターを戦闘破壊すれば追加ダメージを与える事ができる『バーニング・バスター』なら、敵が守備表示でも関係ない。
 先程、自らを襲いかけた炎球を、栄一は再び『バーニング・バスター』に作らせる。

「『バーニング・バースト』!」

 放たれる炎球。真っ直ぐに、『ダッシュガイ』へと伸びる。
 これが直撃すれば、エドは大ダメージを受ける事必死。
 栄一の脳裏では、形勢逆転のビジョンが描かれていた。

「・・・甘い! リバースカードの存在を忘れるとはな!」

 エドの、この一言を聞くまでは。

「トラップ発動! 『聖なるバリア−ミラーフォース−』! これにより、お前のヒーローを全て破壊する!」

「えっ・・・えぇぇ!?」

 炎球が、再びバリアによって妨げられる。そしてその余波が、栄一のフィールドを殲滅する。

「「グワァァァ・・・」」

 攻撃を放った『バーニング・バスター』も、攻撃の命を待っていた『シャイニング・フェニックスガイ』も、断末魔の叫びだけを残して、一瞬にしてフィールドから消え去った。

(せい)なるバリア−ミラーフォース− 通常罠
相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
相手フィールド上に存在する攻撃表示モンスターを全て破壊する。

「う、そ、だろ・・・。一気に全滅って・・・」

 エドの言う通り、リバースカードの警戒ができていなかった。
 このデュエル中、満足のいく攻撃が中々できなかった栄一は、今が一気に攻めるチャンスだと妄信し、フィールドと戦況を幅広く見ないままリバースカードを無視して突撃してしまったのだ。
 その結果は・・・起こりうる最悪の展開。この状況で発動して欲しくないカードランキングのトップを争う『ミラーフォース』を発動されてしまうという、まさに出来レースのような結果となってしまった。

「・・・だけど、そう簡単には引き下がれねぇ。トラップカード『道連れ』発動! 『ダッシュガイ』にも道連れになってもらいます!」

「・・・それぐらいなら、好きにするがいいさ」

道連(みちづ)れ 通常罠
フィールド上に存在するモンスターが自分の墓地へ送られた時に発動する事ができる。
フィールド上に存在するモンスター1体を破壊する。

 『ダッシュガイ』がその場で爆発するが、エドは冷静に『ダッシュガイ』のカードを墓地ゾーンへと仕舞う。
 この程度では、エドの有利を引っ繰り返す事はできないのだ。

「(・・・これらのカードで、次のターンを防ぎきれるか?)」

 栄一の脳内は最早、この後のエドの攻撃を凌げるかどうかだけに比重がかかっていた。
 残りの手札とフィールドの状況を見れば、仕方が無い事ではあるが。

「カードを2枚セットして、ターンエンド」

 またも、手札全てをセット。手札消費の激しいプレイングだが、こうするしかないのだ。

栄一LP650
手札0枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンリバースカード2枚
凡骨の意地
エドLP5200
手札4枚
モンスターゾーンD−HERO ディスクガイ(守備表示:DEF300)
魔法・罠ゾーンなし

 エドのターンが回って来る。余裕綽々のエドの姿と、疲弊困憊した栄一の姿。それが、このデュエルのここまでを物語っているようだ。
 そしてこのターンで決着をつけんと、エドが動き出す。

「ボクのターン。まずはマジックカード『デステニー・ドロー』を発動! 手札の『ディパーテッドガイ』をセメタリーへと送り、2枚ドローする!」

デステニー・ドロー 通常魔法
手札から「D−HERO」と名のついたカード1枚を捨てて発動する。
自分のデッキからカードを2枚ドローする。

 手札交換。そして、栄一を葬る策を導き出す。

「何だかんだで、ボクもチェックメイトを何度も妨げられているからな。今度こそいくぞ、栄一! カモン! 『D−HERO ディバインガイ』!」

 両肩に大きな刃を背負った、黒いヒーロー『ディバインガイ』が現れる。
 その目に映るは、勿論栄一であった。

D−HERO(デステニーヒーロー) ディバインガイ ☆4(アニメGXオリジナル)
闇 戦士族 効果 ATK1600 DEF1400
このカードは特殊召喚できない。このカードが攻撃する時、
相手フィールド上に存在する装備カード1枚を破壊する事ができる。
この効果で装備カードを破壊した時、相手に500ポイントのダメージを与える。

「バトルフェイズ! 『ディバインガイ』で、栄一にダイレクトアタック!」

 敵役に選ばれた『ディバインガイ』は上空にジャンプし、そして眩き閃光を放って栄一のライフを一気に削り取ろうとする。
 ホール中が息を呑む。「今度こそ、今度こそ決まりか?」そういった思いが、全ての人々の頭の中で駆け巡る。

「くぅぅ・・・まだだ! まだ、俺のライフは0じゃない!」

 栄一の右手が、デュエルディスクのリバースカード起動ボタンへと伸びる。
 まだ負けられない。何にでも縋る気持ちで、栄一はカードを発動させる。

「速攻魔法『非常食』を、『凡骨の意地』を墓地へ送って発動する!」

「・・・またか。粘るな、栄一」

非常食(ひじょうしょく) 速攻魔法
このカード以外の自分フィールド上に存在する魔法・罠カードを任意の枚数墓地へ送って発動する。
墓地へ送ったカード1枚につき、自分は1000ライフポイント回復する。

栄一:LP650→LP1650

 閃光が全てを奪い去る直前に、栄一のライフが回復する。
 可能性を広げる『凡骨の意地』を代償に、栄一は・・・

栄一:LP1650→LP50

 ギリギリの所で、踏み止まったのだ。

「ライフ50・・・。今のは本気で危なかった・・・」

 体から力が抜けそうになるが、何とか足に力を入れて踏ん張る。
 目の前に集中しようとする栄一には聞こえないが、またあちらこちらから溜息が漏れる。倒れそうになる人も出始めている。
 このデュエル、栄一の疲労も半端無いが、見てる側としても何度も何度も息を呑まされ気が気でない、恐ろしく疲れるデュエルなのであろう。



「・・・決してデュエルを諦めないその姿勢、嫌いではない」

「え・・・あ、ありがとうございます・・・」

 突如、エドの口が開かれる。あまりに突然の、賞賛を意味しているのであろう言葉に、栄一は戸惑いながらも礼を述べる。



「・・・だが、ここまでだ」

「・・・えっ!?」

 瞬間、栄一に向かって飛んでくる1枚のカード。
 栄一はそれを何とかキャッチし・・・

「おっとっと・・・なんだ、このカードh・・・!?」

 カードの正体を確認する。確認して、驚愕する。
 それもその筈このカードは、このデュエルの終焉を告げる宣告者。
 諦めない栄一の可能性・・・彼のドローフェイズを潰すカード。

「『D−HERO ダークエンジェル』。そのエフェクトは、相手のデッキトップにこのカードを置く事。これで・・・」

「俺の次のドローカードは、この『ダークエンジェル』に決定した・・・」

 それはつまり、この『ダークエンジェル』が、栄一のラストドローという事を意味する。
 その事実に、疲弊の観客席は、完全に沈黙した。

D−HERO(デステニーヒーロー) ダークエンジェル ☆1(アニメGXオリジナル)
闇 戦士族 効果 ATK0 DEF0
手札からこのカードを捨てる。
この効果でこのカードが墓地へ送られた時、このカードを相手のデッキの一番上に置く。
自分のターンのエンドフェイズ時に相手のモンスターカードゾーンに空きがある場合、
このカードのコントロールを相手に移す。

「・・・ターン、エンド」

 エドの、無情なるエンド宣言が響き渡る。
 諦めずに闘って来た栄一の粘りが全て、今、水泡に帰した。

栄一LP50
手札0枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
デッキトップD−HERO ダークエンジェル
エドLP5200
手札3枚
モンスターゾーンD−HERO ディスクガイ(守備表示:DEF300)
D−HERO ディバインガイ(攻撃表示:ATK1600)
魔法・罠ゾーンなし



第40話 −BELIEVE IN NEXUS(ビリーヴ・イン・ネクサス)

 栄一とエドのデュエルに、終止符が打たれた。誰もがそう思った。
 このターン、栄一がドローするカードは『D−HERO ダークエンジェル』。攻撃力も、守備力も0のモンスター。
 壁として召喚しても、意味はほぼ無い。エドのフィールドには、既に2体のモンスターが存在するからだ。
 どちらか片方で『ダークエンジェル』を殴られ、もう片方でトドメを刺される。敗北の未来しか、栄一には存在しなかった。
 だからこそ、このデュエルは実質、このターンで終焉を迎えるに等しかった。

「終わった・・・か」

「まぁ、相手はプロデュエリストのエド・フェニックスさんだし、かなり頑張った方よね・・・」

 新司と光が、共に諦観の言葉を発する。しかし、その口調は「当然」といった意味合いをも含んでいるように思えた。
 何せ、相手は最強のデュエリストだったのだ。栄一は十分敢闘した。それだけで立派なのだ。
 彼らの周りにいる人々は皆、彼らの会話に同意していた。2人の仲を茶化す女子達ですら、神妙な面持ちで2人の会話に頷いていた。















「いや、まだだよ」

「そうだな。ここで諦めるのは早すぎるな」

 しかし、その終戦ムードに待ったをかける者がいた。
 栄一の後方でデュエルを見守る、護と宇宙だ。

「そしてそれを、栄一も分かっている」

「だな」

 栄一の後姿を見て、彼らは「栄一がまだ諦めていない事」を悟っていた。
















「まだだぜ・・・」

「?」

 護達の悟った通りであった。
 栄一自身は、この状況を目前にして、笑顔を浮かべていたのだ。

「まだ、決着はついてませんよ、エドさん!」

 これでデュエルが終わり? とんでもない。俺には、まだ最後の希望があるじゃないか。
 それを強調するかのように、栄一のフィールドには・・・1枚のリバースカードが存在する。

「・・・まさか、そのようなカード(・・・・・・・・)を伏せていたのか?」

 エドも感づく。栄一がセットしていた、リバースカードの正体に。

「えぇ・・・そのまさかです! 俺のターン! 俺のドローしたカードは『D−HERO ダークエンジェル』! そして俺がセットしていたカードは・・・リバースカードオープン! 『闇の誘惑』!」

 『闇の誘惑』。闇属性モンスターを糧に、手札を増強できるカード。そして『D−HERO』に属するモンスターは、全て闇属性である。

(やみ)誘惑(ゆうわく) 通常魔法
自分のデッキからカードを2枚ドローし、その後手札の闇属性モンスター1体をゲームから除外する。
手札に闇属性モンスターがない場合、手札を全て墓地へ送る。

D−HERO(デステニーヒーロー) ダークエンジェル ☆1(アニメGXオリジナル)
 戦士族 効果 ATK0 DEF0
手札からこのカードを捨てる。
この効果でこのカードが墓地へ送られた時、このカードを相手のデッキの一番上に置く。
自分のターンのエンドフェイズ時に相手のモンスターカードゾーンに空きがある場合、
このカードのコントロールを相手に移す。

 こういった、『ダークエンジェル』をコストに何らかのメリットを得る事ができるカードを栄一は伏せている、という可能性がある事も頭の片隅には置いていた。だが、本当にそのようなカードだったとは。
 『フォーチチュードグリフォン』の時といい、この栄一という男、まさに欲しい場面で、その欲しいカードを手にしている。
 これはまさに天賦の才。どれだけ努力しても、常人ではそうそう手に入れる事ができない栄一の才能に、エドもただただ、脱帽する他なかった。

「カードを2枚ドロー! そして手札の『ダークエンジェル』を、ゲームから除外する!」

 栄一はさっきのターン、『非常食』のコストを『凡骨の意地』1枚に済ませた。伏せられていた『闇の誘惑』は温存して。
 1枚のコストで『ディバインガイ』の攻撃を防げたのが理由だが、それでも危険極まりない行為である。

「(一か八かを見据えて・・・か)」

 だがそれでも、その後の「可能性」へと繋げる為に・・・栄一は『闇の誘惑』を『非常食』のコストにせず、フィールドに温存していたのだ。

「・・・手札にあるこのカードの効果を発動します!」

 手札を増強した栄一が示すのは、1枚のモンスターカード。
 博打要素はあるが、成功すれば一気にフィールドの支配権を奪える所にまで持っていける。
 このモンスターの持つ効果は、それ程価値ある能力なのだ。

「『星見獣ガリス』、効果発動!」

星見獣(ほしみじゅう)ガリス ☆3
地 獣族 効果 ATK800 DEF800
手札にあるこのカードを相手に見せて発動する。自分のデッキの一番上のカードを墓地へ送り、
そのカードがモンスターだった場合、そのモンスターのレベル×200ポイントダメージを
相手ライフに与えこのカードを特殊召喚する。そのカードがモンスター以外だった場合、このカードを破壊する。

 ギャンブルに成功すれば、自身の特殊召喚、相手へのダメージ、墓地肥やし、3つの行動を同時に行えるモンスター。『星見獣ガリス』。
 だが今回の場合、それだけでは終わらない。

「頼むぜ・・・俺のデッキ! カードドロー!」

 ある属性のモンスターを引けば・・・形勢逆転すら見えてくるのだ。
 恐る恐る、ドローしたカードを確認する栄一。
 再び、2人のデュエリストの命運を分ける瞬間だった。





「・・・よし! デッキの一番上は『E・HERO オーシャン』! 『ガリス』を攻撃表示で特殊召喚!」

 ある属性・・・そう。栄一が今望んだモンスターこそ、水属性のモンスターだった。
 このギャンブルは栄一の勝ち。そしてそれは、このデュエルの形勢すら変えてしまいかねない事だった。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) オーシャン ☆4
水 戦士族 効果 ATK1500 DEF1200
1ターンに1度、自分のスタンバイフェイズ時に発動する事ができる。
自分フィールド上または自分の墓地に存在する「HERO」と
名のついたモンスター1体を選択し、持ち主の手札に戻す。

エド:LP5200→LP4400

 望んでいたモンスターが墓地へ送られた。後は、栄一お得意の戦術で攻勢に転じるだけだ。

「『アクア・フュージョン』! 墓地の『オーシャン』と『フォーチチュードグリフォン』を融合!」

 水の溢れる融合の渦に、2体のヒーローが飲み込まれていく。
 瞬間、フィールドに現れたのは、高く聳え立つ1本の氷柱。
 その中には、1体の白きモンスターが封印されている。

「来い! 『アブソルートZero』!」

 氷柱が砕ける。その中から現れたのは、白き鎧と白きマントに身を包んだ「絶対零度」のヒーロー『アブソルートZero』だ。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) アブソルートZero(ゼロ) ☆8
水 戦士族 融合・効果 ATK2500 DEF2000
「HERO」と名のついたモンスター+水属性モンスター
このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。
このカードの攻撃力は、フィールド上に表側表示で存在する
「E・HERO アブソルートZero」以外の
水属性モンスターの数×500ポイントアップする。
このカードがフィールド上から離れた時、
相手フィールド上に存在するモンスターを全て破壊する。

「『アクア・フュージョン』の効果! 『アブソルートZero』融合召喚に成功した為、カードを1枚ドローします!」

 そしてさらに、栄一は手札を増やす。
 手札増強効果。これこそ、『アクア・フュージョン』が強力と呼ばれる所以である。

アクア・フュージョン 通常魔法(オリジナル)
自分のフィールド上または墓地から、融合モンスターカードによって
決められた融合素材モンスターをゲームから除外し、
水属性の融合モンスター1体を融合召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する。
この効果によってモンスターの融合召喚に成功した時、
自分はデッキからカードを1枚ドローする。

「墓地の『リリーバー』を除外する事で、今ドローした装備魔法『リリーフ魂』を、『ガリス』に装備!」

 瞬間、栄一の墓地から『リリーバー』の霊が現れ・・・『ガリス』に憑依する。その『ガリス』の力を上昇させる。

リリーフ(だましい) 装備魔法(オリジナル)
自分フィールド上のレベル4以下のモンスターにのみ装備可能。
自分の墓地に存在する「E・HERO リリーバー」1体をゲームから除外して発動する。
装備モンスターの攻撃力は1200ポイントアップする。
装備モンスターが相手モンスターを戦闘によって破壊した場合、自分はカードを1枚ドローする。

星見獣ガリス:ATK800→ATK2000

「・・・強力なモンスターを、一気に2体も呼び出したか」

 速攻なら負けないつもりだったエドだが、この一か八かのギャンブルから一気に強力な攻撃陣を展開した栄一の運・プレイング・才能は、素直に認めるしかなかった。感動すらしている程だ。
 そしてデュエルの展開は、反撃のバトルフェイズへと向かう。

「バトルフェイズ! 『アブソルートZero』で『ディバインガイ』を攻撃! 『Freezing(フリージング) at(アット) moment(モーメント)』!」

 『アブソルートZero』の攻撃。『ディバインガイ』が一瞬にして氷付けに。そして崩壊する。
 このデュエル中久々に、戦闘ダメージによってエドのライフカウンターが変動した。

エド:LP4400→LP3500

「『星見獣ガリス』で、『ディスクガイ』を攻撃! 『スターダスト・ラッシュ』!」

 今度は『ガリス』の攻撃。その猛烈な突進に『ディスクガイ』は簡単に跳ね飛ばされた。

「『リリーフ魂』の効果により、カードを1枚ドロー!」

 そして栄一は、三度手札の補強を行う。
 エドの絶対有利だったフィールドは、僅か1ターンで栄一のモンスター達が制圧した。
 速攻では決して負けない。その栄一の信念を、垣間見れる攻撃であった。

「カードを1枚セットして、ターンエンド!」

 漸く、栄一の一挙手一投足に、英気が、勢いが戻って来た。

栄一LP50
手札0枚
モンスターゾーン星見獣ガリス(攻撃表示:ATK2000)
E・HERO アブソルートZero(攻撃表示:ATK2500)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
リリーフ魂(装備:星見獣ガリス)
エドLP3500
手札3枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンなし





−観客席−

「・・・前言撤回って、こういう時にこそ相応しい言葉よね」

「次郎並みに反省しないとな、俺達。本人がまだ闘っているのに、スタンド応援組が諦めてたとか洒落になんねぇ」

 2人の会話を聞いたら、皆が同意するであろう。それだけ、観客席は栄一に対して諦観していたのだ。
 だが結局は、諦めていたのはデュエルを観戦する自分達だけだったのだ。当事者はまだ白旗など振っていなかったのだ。
 新司が手前の椅子に右手を置いて懺悔していたが、誰もそれを突っ込んだり咎めたりしなかった。
 誰もが、新司と同じ気持ちだったからだ。










−デュエルコート−

「・・・」

 目の前で起こった出来事に、エドは立ち尽くしていた。
 このデュエル中、心の中で興奮していた事はあれど、表では常に冷静を保っていた。
 だが、後一歩で敗北の場面から、ここまで盛り返して来た栄一の実力に・・・

「(・・・面白い!)」

 興奮していた。
 心の中だけではない。表情にも出ている。
 このデュエルに、この1人のデュエリストに出会えた喜びが。

「中々やるじゃないか。『ダークエンジェル』の力を逆手に取って、ここまで反撃して来るとはな」

 気付いた時には、声をかけていた。
 栄一を素直に認める、賞賛の言葉を送っていた。

「はい! 『ダークエンジェル』を使われた時は正直ビビったけど、エドさんが俺の可能性を封じにかかって来たからこそ、負けられないという思いが一層強まったんです!」

 栄一も、ハキハキとした言葉で返答する。
 緊張で体が強張っていた初対面の時とは違った。
 絶対的な存在に押し潰されず、自らの「素」をぶつける事ができていた。

「なるほどな・・・。なら、ボクもそれに答えてやらないとな!」

 栄一の実力に「答える」。エドは確かにそう言った。
 栄一にもはっきりと分かった。目の前に立つ超一流のデュエリストが、自らを認めてくれた、という事を。
 そして注目は、デッキへと伸びたエドの右手に集まる。

「この対決に相応しいヒーローを召喚し、お前に挑んでやる! ボクのターン!」

 瞬間、エドだけではない、栄一も感じた。エドを象徴するモンスターが、エドの手札に舞い降りた事を。

「(・・・来る! あのヒーローが!)」

 あのヒーロー・・・エドの象徴・・・そう、『究極のD』のカードである。

「このスタンバイフェイズ、セメタリーに眠る『ディパーテッドガイ』のエフェクト発動。『ディパーテッドガイ』を、お前のフィールド上に特殊召喚する!」

 ボロボロの白いスーツに身を包んだ、「死者」であるヒーロー『ディパーテッドガイ』が・・・エドのフィールドではなく、栄一のフィールドに復活する。
 流れに任せた訳ではない。エドの計算通りの復活である。

D−HERO(デステニーヒーロー) ディパーテッドガイ ☆2
闇 戦士族 効果 ATK1000 DEF0
自分のスタンバイフェイズ時にこのカードが墓地に存在する場合、
相手フィールド上に表側攻撃表示で特殊召喚される。
このカードが戦闘で破壊された場合、墓地へは行かずゲームから除外される。
このカードが手札またはデッキからカードの効果によって墓地へ送られる場合、
墓地へは行かずゲームから除外される。

「次に、セメタリーの『ディアボリックガイ』を除外する事でそのエフェクトを発動! デッキから新たな『ディアボリックガイ』を特殊召喚する! カモン! 『ディアボリックガイ』!」

 ヒーローの名を持ちつつも、黒の翼に尻尾。その実体はまるで悪魔。それがこの『ディアボリックガイ』。
 エド自身、「自分は正義の名を語るとしても、それはダークヒーロー系」と言った事もある。エドのフィールドに現れたのは、それを象徴したようなヒーローである。

D−HERO(デステニーヒーロー) ディアボリックガイ ☆6
闇 戦士族 効果 ATK800 DEF800
自分の墓地に存在するこのカードをゲームから除外して発動する。
自分のデッキから「D−HERO ディアボリックガイ」1体を
自分フィールド上に特殊召喚する。

「カモン! 『ディフェンドガイ』!」

 さらに現れたのは、岩のようにゴツゴツとした身体つきのヒーロー『ディフェンドガイ』。
 名前からも見た目からも、その守備能力が高い事はハッキリと分かる。

D−HERO(デステニーヒーロー) ディフェンドガイ ☆4
闇 戦士族 効果 ATK100 DEF2700
相手ターンのスタンバイフェイズ時にこのカードが表側守備表示で存在する場合、
相手プレイヤーはカードを1枚ドローする。

「そして手札から、マジックカード『所有者の刻印』を発動! お前のフィールドにいる『ディパーテッドガイ』を、ボクのフィールドに呼ぶ!」

 計算通りの『ディパーテッドガイ』譲渡。その理由が、この『所有者の刻印』の存在である。
 結果、何の妨害もなく、『ディパーテッドガイ』はエドのフィールドへと移動した。

所有者(しょゆうしゃ)刻印(こくいん) 通常魔法
フィールド上に存在する全てのモンスターのコントロールは、元々の持ち主に戻る。

「3体のモンスターが・・・揃った・・・」

「・・・そうだな。3体の『D−HERO』が、ボクのフィールドに揃った」

 3体のモンスター。そう、エドの持つ『究極のD』の召喚に必要なモンスターの数である。
 誰もが、これからエドのしようとしている事を悟った。

「見せてやる、栄一! お前に・・・『究極のD』の姿を!」

 エドが右手に持つ1枚のカードに、力が集中する。
 その力がカードを鮮やかに光らせ・・・そして血のように紅く染める。

「『ディアボリックガイ』『ディフェンドガイ』『ディパーテッドガイ』の3体をリリースし・・・カモン! 『究極のD』!」





「『D−HERO(ディーヒーロー) Bloo−D(ブルーディー)』!!!」





 栄一の持つヒーロー、彼の象徴である『バーニング・バスター』は、味方には絶対の安心を与え、そして敵には恐怖を与える戦士だ。
 だが、そのようなヒーローは唯一無二ではない。敵味方関係なく畏敬の念を抱かせるヒーローは、この世にもう1人存在する。
 恐怖で全てを支配し、悪を粉砕する。このヒーローの前では、絶対的な悪ですら絶望に苛まされる。エドもまた、そんなヒーローを持っていた。
 自らが紅く染められる事に喜びを感じ、悪を紅く染め上げる事も厭わない「血」のヒーロー。
 『D−HERO(デステニーヒーロー) Bloo−D(ブルーディー)』。悪をも包み込む戦士が、フィールドに姿を現した。

D−HERO(デステニーヒーロー) Bloo−D(ブルーディー) ☆8
闇 戦士族 効果 ATK1900 DEF600
このカードは通常召喚できない。自分フィールド上に存在する
モンスター3体を生け贄に捧げた場合のみ特殊召喚する事ができる。
相手モンスター1体を指定してこのカードに装備する
(この効果は1ターンに1度しか使用できず、同時に装備できるモンスターは1体のみ)。
このカードの攻撃力は、装備したモンスターの攻撃力の半分の数値分アップする。
このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する限り、
相手フィールド上に表側表示で存在する効果モンスターは全て効果が無効化される。

 不気味なオーラを放つ『Bloo−D』。その恐怖でフィールドを支配しようとする彼に、全てが怯え、全てが許しを請う。

「『究極のD』のカード・・・『Bloo−D』・・・! スゲェ・・・。他のどんなモンスターよりも、スゲェプレッシャーだぜ・・・!」

 栄一も、足に力を入れ、何とかその場で踏み止まるが、やはり恐怖を抱いているというのが本心であった。
 闘う者としては失格な心持ちかもしれないが、実際に目の前で『Bloo−D』と相対すれば、誰もが「怯えるのも仕方が無い事」と思うであろう。
 それ程、この『Bloo−D』の放つ恐怖のプレッシャーは強いのだ。

「さぁいくぞ、栄一! 『Bloo−D』のエフェクト発動!」

 そんな栄一の葛藤もつゆ知らず、エドは宣言する。
 『Bloo−D』の、恐怖の能力の発動を。

「お前のフィールドにいる『アブソルートZero』を『Bloo−D』に装備! それにより、装備したモンスターの攻撃力の半分を『Bloo−D』は得る!」



「『クラッディ・ブラッド』!」



「くっ!」

 『Bloo−D』の両翼から、生暖かい風が吹き荒れ、『アブソルートZero』をその翼に引きずり込む。
 哀れ『アブソルートZero』。『Bloo−D』の体内で蠢き、苦しみ、『Bloo−D』の力の糧とされる。

D−HERO Bloo−D:ATK1900→ATK3150

「そしてバトルフェイズだ! このアタックを受けてみろ、栄一!」

「くぅぅ・・・」

 『Bloo−D』が、攻撃の為に上空に飛び上がる。
 瞬間、『Bloo−D』の両翼に生えるは、無数の紅い弾丸。
 「血」の攻撃により、全てを絶望に陥れる。

「『Bloo−D』で、『星見獣ガリス』に攻撃!!!」



「『Bloody(ブラッディ) Fears(フィアーズ)』!!!」



 猛スピードで放たれる、紅の弾丸。血の攻撃の雨あられ。その強烈な無数の弾丸は、止める事もままならない。
 弾丸の直撃を受けた『ガリス』が、その場で崩れ落ちる。そしてその攻撃の余波が・・・栄一に襲い掛かる。

「・・・まだだ! 最後の最後まで、俺は諦めない!」

 この戦闘ダメージが通れば、栄一は今度こそ敗北する。いくらプロ相手とはいえ、それはゴメンだ。
 だから・・・エドにさらなる可能性を与える事になるとしても、栄一はこのカードの力に賭けるしかなかった。

「トラップ発動! 『強欲協定』! お互いに、デッキからカードを1枚ドローする!」

「何!?」

強欲協定(ごうよくきょうてい) 通常罠(アニメGXオリジナル)
お互いのプレイヤーはデッキからカードを1枚ドローする。

 最後の希望『強欲協定』。エドにも可能性を与える事になるが、それでもやるしかない。
 デッキに1枚だけ眠るあのカード(・・・・・)を引いて、この攻撃を防ぐしかない。

「「カードドロー!」」

 瞬間、爆発。フィールドを煙が覆い、360度が見えなくなる。
 互いにカードをドローした瞬間に爆発が発生した為、その結果がどうなったかは、観客席からは知る事ができない。
 誰もが、煙が早く晴れる事を祈り、浮き足立った。もどかしさに苛まれた。










 クリ〜♪ クリクリ〜♪

 結果が分からずに、観客席から2人の安否を気遣う声が聞こえ始めたその時であった。
 煙の中から、複数の可愛らしい鳴き声が聞こえてきた。
 誰もが知っている、あの特徴的な鳴き声。瞬間、全ての人々が、あのキング・オブ・デュエリストも好んでデッキに入れていた事で有名な、1体の可愛らしい悪魔のモンスターの姿を思い浮かべた。
 そして、そのモンスターの鳴き声が聞こえる、という事は・・・

「「「「「栄一は、まだ負けていない!」」」」」

 意味する事は、そういう事。その事実に、誰もが思わず、そう口ずさんでいた。

「・・・へへっ!」

 煙が晴れる。全てがフィールドを凝視する。
 勿論、そこにはあった。誇らしい表情を浮かべ、2本の足でしっかりと大地を踏みしめている栄一と、複数体に増殖して栄一を攻撃から守り抜いた小さな悪魔・・・『クリボー』の姿が。

クリボー ☆1
闇 悪魔族 効果 ATK300 DEF200
相手ターンの戦闘ダメージ計算時、このカードを手札から捨てて発動する。
その戦闘によって発生するコントローラーへの戦闘ダメージは0になる。

「・・・『Bloo−D』のアタックも、ギリギリで止めたか」

 エドも、このデュエル中の自身最大の一撃を防ぎ切った栄一を褒め称える。
 この年にして、もう栄一も「真」のデュエリスト・・・その最上の有望株(トッププロスペクト)ぐらいになら既になっていると言える。
 エドは、そう確信した。

「・・・とはいえ、今の防御でお前は手札もフィールドも、全てのカードを失ったな」

 そう。確かに、自身を「真」のデュエリストとエドに認めさせる一手の代償は大きかった。
 だけど・・・

「だけど・・・まだ、俺には次のドローがある!」

 言い切った。誇らしく、惚れ惚れとするぐらいハッキリと、栄一は言い切った。
 栄一のハッキリとした物言いに・・・エドも、笑みを浮かべた。

「・・・面白い! カードを1枚セットして、ターンエンドだ! さぁ、この絶対不利な状況をもう1度覆してみろ! 栄一!」

 栄一の反撃を早く見たいと言わんばかりに、エドは自らのターンを終わらせた。
 いや、エドだけではない。この場にいる誰もが、彼と同じ事を思っているだろう。
 栄一が、これから何を仕出かしてくれるのか。全てが、その一点だけに集中する。

栄一LP50
手札0枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンなし
エドLP3500
手札1枚
モンスターゾーンD−HERO Bloo−D(攻撃表示:ATK3150)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
E・HERO アブソルートZero(装備:D−HERO Bloo−D)

 栄一も、そしてエドも、残りのデッキ枚数は限りなく少ない。それは、不利な状況にある者、つまり栄一に与えられたチャンスも限りなく少ない事を表す。

「(このドローで、『Bloo−D』を倒せるカードを引くしかない!)」

 次のターンを凌ぐだけのカードでは駄目だ。このターンで決めるぐらいの覚悟がなければ、エドに勝てるチャンスはもう無くなるだろう。
 カードに置かれた右手に力が入る。緊張で震えそうになるが、それを抑えてしっかりカードに触れる。
 ホール中にも、緊張が走る。誰もがこのドローを、他人事のように流す事はできないのだ。

「俺の・・・ターン!」

 運命のドロー。このドローの結果次第で、このデュエルの全てが決まる。
 栄一がドローしたカードは・・・

「・・・今ドローした『リリカル・セイジ』を墓地へ捨てて、その効果を発動! このターン、俺が受ける戦闘ダメージは0になる」

 単体では、この形勢を覆す事ができないカードであった。
 そう、単体では。

 単体では無理だが、『リリカル・セイジ』には「次」に繋げるもう1つの効果がある。

「『リリカル・セイジ』のもう1つの効果! 墓地のこのカードを除外する事で、さらに1枚ドロー!」

 「次」に繋げる。さらなる可能性へと繋げる、ドロー効果だ。

リリカル・セイジ ☆3(オリジナル)
炎 炎族 効果 ATK800 DEF800
このカードを手札から捨てて発動する。このターン、
自分が受ける戦闘ダメージ以外のダメージは全て0になる。
この効果は相手ターンでも発動する事ができる。
自分の墓地に存在するこのカードをゲームから除外して発動する。
自分はデッキからカードを1枚ドローする。

「カードドロー!」

 再びドローする栄一。緊張から解放された瞬間、また緊張に苛まれる観客席。
 ドローされたカードに、注目が集まる。



 ・・・えっ?



 誰もが目を疑った。これは現実かと頬を抓る者もいた。
 それもその筈、栄一の手にしたカードが・・・確かに光ったのだ。
 エドの『Bloo−D』の時のような、カードの演出とはまた違う。違うのだ。
 カードが、自らの意思で(・・・・・・)光った。確かに、そう見えたのだ。

「(・・・これは。このカードは!)」

 だが、皆のその推論は当たっていたのかもしれない。
 何故ならこのカードは、このデュエルの前に栄一が護から直接手渡された・・・大切な人との「絆」のカードだったからだ。
 その「絆」のカードだからこそ、普通のカードとは一味違う。特別な力が秘められているからこそ、カードと栄一が共鳴し、光ったのかもしれない。

「魔法カード『BELIEVE IN NEXUS(ビリーヴ・イン・ネクサス)』! 発動!」

「何!? そのカードは!?」

 栄一にとっての大切な人・・・そう。智兄ちゃんだ。
 智兄ちゃんが愛用していた、最強の融合のカード。それが、プレイヤーとモンスターの絆を試す、この『BELIEVE IN NEXUS(ビリーヴ・イン・ネクサス)』である。

「(その存在を聞いた事はあるが・・・ボクですら、プレイされるのを見たのは初めてだ・・・)」

 そう。実はこのカード、一般販売されていない。かといって、限定カードとして配られたという話もない。
 とあるデュエリストが所持し、切り札として愛用しているという情報だけが先走っていた、本当に存在するかすら怪しいカードだったのだ。
 そのカードを今、目の前にいる一人のアマチュアデュエリストが使用している。
 幻の存在に等しかったカードが、こうして実際に使用される事により、「幻のカード」から「実在するカード」へと生まれ変わる。

「『BELIEVE IN NEXUS』の効果により、墓地の『バーニング・バスター』『シャイニング・フェニックスガイ』『フェザーマン』を融合する!」



 来い! 『E・HERO(エレメンタルヒーロー) ウルティメイト・バーニング・バスター』!



 そして呼び出されるは、智兄ちゃんの持っていた最大最強のヒーローであり、栄一にとっても最大最強のヒーロー。
 師匠と弟子、智兄ちゃんと栄一との絆の終着点。栄一が持つ最強の「畏怖」のカード。
 全ての悪を、その灼熱によって灰にまで燃やし尽くす巨人。『ウルティメイト・バーニング・バスター』が、地鳴りを響かせてフィールドに現れる。
 その放たれる威圧感は、『バーニング・バスター』をも遥かに上回る。彼が呼ばれるまでフィールドを支配していた『Bloo−D』ですら、『ウルティメイト・バーニング・バスター』の迫力には敵わない。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) ウルティメイト・バーニング・バスター ☆10(オリジナル)
炎 戦士族 融合・効果 ATK4000 DEF3200
「E・HERO バーニング・バスター」+戦士族のモンスター×2
このモンスターの融合召喚は、上記のカードでしか行えず、融合召喚でしか特殊召喚できない。
このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、その守備力を攻撃力が超えていれば、
その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。
このカードが戦闘によってモンスターを破壊し墓地へ送った時、
破壊したモンスターの攻撃力か守備力の高い方の数値分のダメージを相手ライフに与える。

「そして『BELIEVE IN NEXUS』によって融合召喚されたモンスターは、融合素材となったモンスター1体につき攻撃力が500ポイントアップする! 『ウルティメイト・バーニング・バスター』の融合召喚に使用した融合素材は3体! よって攻撃力は1500ポイントアップする!」

E・HERO ウルティメイト・バーニング・バスター:ATK4000→ATK5500

BELIEVE IN NEXUS(ビリーヴ・イン・ネクサス) 通常魔法(オリジナル)
自分の手札・フィールド上・墓地から、融合モンスターカードによって
決められたモンスターをゲームから除外し、その融合モンスター1体を
融合召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する。
このカードによって特殊召喚したモンスターは、
融合素材としたモンスター1体につき攻撃力が500ポイントアップする。
発動ターンのエンドフェイズ時、このカードを発動したプレイヤーは
特殊召喚したモンスターの元々の攻撃力分のダメージを受ける。

 灼熱の巨人が、「絆」を信じた事によりその力を昇華させる。
 『ウルティメイト・バーニング・バスター』に灯る炎が、フィールドを紅色に染め上げる。
 誰もが、その灼熱の力に畏敬の念を抱く。

「これが・・・『BELIEVE IN NEXUS』の力と、『ウルティメイト・バーニング・バスター』の力が相乗した力か!」

「えぇ! これが俺の、全力全開です!」

 全力全開。今の栄一が持てる力を全て発揮した様。それが、「絆」を信じた『ウルティメイト・バーニング・バスター』となって実体化する。
 「血の恐怖」によって全てを支配する『Bloo−D』すらも、灼熱の炎の恐怖によって叩きのめしてしまう。





「あれが・・・お前の渡したカードか」

「あぁ。必ず使いこなせると信じて、ね」

 『BELIEVE IN NEXUS』の力を解放する栄一の姿を見て、護と宇宙は関心の念を抱いていた。
 使いこなせると信じて渡したカード。それを使って、栄一が輝く姿を、まじまじと凝視していた。





「いきます! バトルフェイズ!」

 栄一の宣言が、ホール中に響き渡る。絆の終着点のヒーロー『ウルティメイト・バーニング・バスター』の強大な力が、今、存分に揮われる。

「『ウルティメイト・バーニング・バスター』で『Bloo−D』に攻撃!」

 『ウルティメイト・バーニング・バスター』の両拳に炎が灯る。右拳に灯るは『Bloo−D』を葬り去る炎。そして左拳に灯るはエドに勝利する為の炎である。
 2つの攻撃法を持つ『バーニング・バスター』特有の力。それが、この両拳の炎。それらは徐々に体積を増して行き、全てを葬り去らんと言わんばかりに燃え上がる。
 それは幻想的で、強かで、艶やかで。誰もが敬意を表して、見惚れて、感動する様。
 全てを虜にするその姿は、他の何よりも美しい。



「『ウルティメイト・バーニング・バースト』!!! そして、『レイジング・ダイナマイト』!!!」



 放たれるは、灼熱の炎球。一直線に「血の恐怖」に襲い掛かる。
 自身の全力全開を叩き込み、最高の勝利を掴み取る。
 「血の恐怖」を燃やし尽くす炎と、エド本人を燃やし尽くす炎。
 その2つの炎で、このデュエルのフィナーレを飾る。

「ぐぅぅぅ・・・ぐわぁぁぁ!!!」

 エドの叫び。同時に、フィールドで大爆発が起こる。
 このデュエル中に起こったどの爆発よりも激しいそれに、旋風が起き、それが嵐となり、激しい煙と共に全てに襲い掛かる。
 何も見えない。何も聞こえない。皆が、不安に襲われる。
 栄一の最高の一撃。それが、プロリーグ最強の男から勝利をもぎ取った。その瞬間を、誰も見る事ができない。






























「・・・誰が負けたって? まだ、ボクのライフは0になってないぞ!」

「・・・え!?」

 ホール中に響くはエドの声。皆が驚き、その言葉を疑う。
 確かに、『ウルティメイト・バーニング・バスター』の攻撃は通った。『Bloo−D』は破壊された。デュエル序盤にエド自身が使用した、『ディメンション・ウォール』のようなカードの発動宣言も無かった。
 なのに、エドはまだ負けていないと言う。膝を折っていないと言う。有り得ない事を言う。










 ・・・だが、それは事実だった。

エド:LP3500→LP50

「ライフが・・・50残っている!?」

 煙が晴れたそこには、誇らしい表情のエドの姿。ライフも僅かに残っている。決して、「灼熱の恐怖」に屈したりはしていない。

「なんで・・・どうして!?」

 全ての力を出し尽くし、勝利を確信していた栄一。その目に映るは、まだ自身に立ちはだかるエドの姿。
 その現実に驚き、戸惑い、焦り、呆然と立ち尽くすしかない。

「今のバトルのダメージステップ時に、ボクは手札にいた『ダガーガイ』のエフェクトを発動した」

D−HERO(デステニーヒーロー) ダガーガイ ☆3
闇 戦士族 効果 ATK300 DEF600
手札からこのカードを捨てる。自分フィールド上に表側表示で存在する
「D−HERO」と名のついたモンスターは、
このターンのエンドフェイズ時まで攻撃力が800ポイントアップする。
この効果は相手ターンのバトルフェイズ中のみ使用する事ができる。

「このエフェクトにより、『Bloo−D』の攻撃力は3950に。『ウルティメイト・バーニング・バスター』のアタックと、その後のダメージエフェクト。両方を受けても、ギリギリライフが残る数値だ」

D−HERO Bloo−D:ATK3150→ATK3950

5500−3950=1550(戦闘ダメージ)

1550+1900(『ウルティメイト・バーニング・バスター』の効果による効果ダメージ)=3450

3500−3450=50

「やられた・・・スゲェ!」

 エドの隠し持っていた『ダガーガイ』という短剣によって防がれた、栄一の最大の一撃。
 勿論、戸惑いは止まらず、悔しさが募る。だが同時に栄一は、エドの極限のタクティクスに感動をも覚えていた。

「これで、お前のバトルフェイズは終了・・・だな?」

「確かに・・・俺にはもう、このターンのうちに繰り出せる手はありません」

 だが・・・仕留め損ねたが、デュエルの流れは栄一が掴んだ。それは確実だ。

「『BELIEVE IN NEXUS』には、エンドフェイズ時に俺にダメージを与える効果がある。だけど・・・」

「『リリカル・セイジ』のエフェクトにより、お前はこのターン、エフェクトダメージを受けない」

「えぇ!」

 『BELIEVE IN NEXUS』のデメリット効果も、既に封じている。
 だから、次のエドのターンさえ凌げば。

「俺はこれで、ターンエンド!」

 凌げば・・・このデュエル、確実にモノにできる。栄一はそう信じていた。





 このターンの開始時とは、全く逆の推論を。





栄一LP50
手札0枚
モンスターゾーンE・HERO ウルティメイト・バーニング・バスター(攻撃表示:ATK5500)
魔法・罠ゾーンなし
エドLP50
手札0枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚

「(・・・まさか、ここまでの男とはな)」

 エドが見つめるは、互いのデュエルディスク。そこに差し込まれた、双方のデッキ。
 見る限りは、栄一のデッキにはまだカードが残されているようだ。

「(・・・さっきの『BELIEVE IN NEXUS』で、奴がこのデュエルで使用したカードの枚数は、ちょうど40枚になった筈だが)」

 しかし、栄一のデッキにはまだ余力が残されている。元々デッキ枚数が40枚以上だったのかもしれない。
 デュエル開始直前に、栄一は護から託された当の『BELIEVE IN NEXUS』をデッキに足している為、元々栄一のデッキは40枚以上だった、という考えは正しいのだが。
 ちなみに勿論、今のエドのカウント枚数に融合モンスターの数は含まれていない。

「(そしてボクは・・・)」

 そう。問題はエドのデッキの残り枚数だ。
 エド自らのデュエルディスクに差し込まれているデッキのカードは・・・・・・残り、僅か1枚(・・・・)なのだ。

「デッキに投入したカード・・・。それらを全て使わされる事になるとは思ってもいなかったよ、栄一」

「えっ!? ・・・これは!?」

 突如、エドから放たれた言葉。栄一も、思わず声を上げる。
 瞬間、全てを包み込むは、栄一が上塗りした筈の「恐怖」。「究極」をも打ち破られたエドの持つ「最後の力」。
 デッキに残された「最後のカード」により、エドの持つ「最後の力」が、今、降臨する。

「この最後のドローによって・・・『究極のD』をも超えた『最後のD』! それをお前に見せてやろう! ボクのターン!」

 エドが、デッキ最後のカードを手に取る。
 誰もが一度は見た事があるであろう、エドの『最後のD』。
 その力を栄一は、直に感じる事となる。

「このスタンバイフェイズに、『ディパーテッドガイ』がそのエフェクトによりお前のフィールドに復活するが・・・そんな事は、もう構わない」

 蘇るは『ディパーテッドガイ』。またしても、栄一の配下につく。
 しかしエドは、もう関係ないと言った。つまりそれは・・・『最後のD』の力により、このターン限りでデュエルを決着させると宣言した事に等しい。
 瞬間、起動されるはエドがセットしていたリバースカード。とある行動下においてのみ、エドの全ての世界を繋げるカード。

「トラップカード『チェーン・マテリアル』。ボクはこのターンのみ、除外ゾーンとエクストラデッキを除いた全ての場所での融合召喚が可能となった!」

チェーン・マテリアル 通常罠
このカードの発動ターンに融合召喚を行う場合、融合モンスターカードによって
決められたモンスターを自分の手札・デッキ・フィールド・墓地から選択してゲームから除外し、
これらを融合素材とする事ができる。このカードを発動したターン攻撃する事はできず、
この効果で融合召喚したモンスターはエンドフェイズ時に破壊される。

 同時に、エドの墓地が光る。エドの墓地に眠った2体の『D−HERO』が、文字通り「最後」の力を振り絞り、自らを『最後のD』へと進化させる。

「来る!? ・・・エドさんに残されていた、『最後のD』が!?」

 冷や汗が頬を滴る。そしてそれが、栄一の足下に水溜りとなって広がる。
 足が震える。知らぬ間に後ずさりしている。「恐怖」をも超えた「最後」の力に、栄一は支配される。

「『融合』を発動! ボクはセメタリーから、『ドグマガイ』と『Bloo−D』を除外し、融合する!」

 『独断』のヒーロー『ドグマガイ』と、『究極のD』である『Bloo−D』が、『融合』の発動によって現れた時空の渦に飲み込まれていく。
 『独断』による支配と、『恐怖』による支配。その2つを重ねた『最終究極』の支配が、フィールドを覆い尽くす。





「カモン! 『最後のD』! 『Dragoon(ドラグーン) D−END(ディーエンド)』!!!」





 紅色の翼を広げ、右腕に備えられた「独断」の短剣と、左腕に備えられた「恐怖」の発射口が構えられる。
 融合前の2体と比べると、華奢な体格をしているように見えるが、周囲に放たれる威圧感はその2体の比ではない。
 胸と左腕の龍頭が、「最後」の力である事を強調するかのように吼え滾る。
 エドの持つ『最後のD』。全てに終焉を告げる『最終究極』のヒーロー。最後の融合によって、「力」の象徴とも呼ばれる龍の力をも得た戦士。
 それがこの、『Dragoon(ドラグーン) D−END(ディーエンド)』と呼ばれる存在であった。

Dragoon(ドラグーン) D−END(ディーエンド) ☆10
闇 戦士族 融合・効果 ATK3000 DEF3000
「D−HERO Bloo−D」+「D−HERO ドグマガイ」
このモンスターの融合召喚は上記のカードでしか行えない。
1ターンに1度だけ相手フィールド上のモンスター1体を破壊して
そのモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。
この効果を使用したターン、バトルフェイズを行う事ができない。
このカードが自分のターンのスタンバイフェイズ時に墓地に存在する場合、
墓地の「D−HERO」と名のついたカード1枚をゲームから除外する事で
このカードを特殊召喚する事ができる。

融合(ゆうごう) 通常魔法
手札・自分フィールド上から、融合モンスターカードによって
決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、
その融合モンスター1体をエクストラデッキから特殊召喚する。

「これが・・・『最後のD』!」

 目の前に現れた、エドの「最後の力」が具現化したヒーロー。その溢れるオーラに、栄一の全てが侵食される。
 このヒーローの登場に、観客席の皆と共に、栄一自身も悟った。「今度こそ、自身の敗北が決定した」と。
 だが、栄一は落胆していなかった。エドがぶつけてきた「全力」の姿に興奮し・・・感動すらしていた。

「『Dragoon D−END』の攻撃力は、『ウルティメイト・バーニング・バスター』には敵わない。だが『Dragoon D−END』には、その力関係をも覆すエフェクトがある!」

 『Dragoon D−END』が上空に飛び上がる。全てを終わらせんと。
 そして構えるは、龍の頭を司った左腕。勿論、狙いを定めるは『ウルティメイト・バーニング・バスター』。
 そして、デュエルの終焉を意味する言葉が、エドの口から発せられた。

「『Dragoon D−END』のエフェクト発動! 相手フィールド上のモンスター1体を破壊し、その攻撃力分のダメージを相手に与える! いけ! 『Dragoon D−END』!」





「『Invincible(インビンシブル) (ディー)』!」





 左腕の龍頭から放たれる、地獄の炎。『ウルティメイト・バーニング・バスター』の身体を全て包み込み、燃やし尽くす。
 灼熱の巨人である『ウルティメイト・バーニング・バスター』ですら、その炎には敵わない。

「強ぇ・・・。これが・・・プロのデュエリストの全力!」

 『ウルティメイト・バーニング・バスター』がその場で爆発し、その余波が栄一に襲い掛かる。
 だが栄一は、物凄い勢いで襲い掛かる爆発の衝撃にも、そして悔しさにもめげず・・・その場で、立ち尽くしていた。

栄一:LP50→LP0




第41話 −これから−

「そこまでナノーネ!」

 クロノス教諭の声が、ホール中に響き渡る。長きにわたった栄一とエドのデュエル。その決着の証であった。
 その時間、57分3秒。当事者だけでなく、2人を見守るホール中の人々ですら疲労困憊に陥った、まさに超長期戦であった。

「あぁぁぁぁ! 負けたぁぁぁぁぁ!!!」

 敗北の瞬間、両手足を大の字に広げ、その場に仰向けに倒れる栄一。
 計り知れない緊張感、疲労感。精神的圧迫から解放された為、全身から力が抜けてしまったのだ。
 だがその顔からは、「悔しさ」は見て取れない。あるのは、清々しいまでの笑顔だけだ。

 パチ・・・パチ・・・パチパチパチパチ・・・

 観客席にいた者は皆立ち上がり、熱戦を繰り広げた2人に対して誰からともなく拍手を送る。
 惜しみないスタンディングオベーション。それは、このデュエルが如何に皆を感動させ、興奮させたデュエルであったかを示していた。



「栄一」

「えっ?」

 エドが、栄一へと歩み寄り、声をかける。
 その問いかけ方からは、今までの近寄り難さは感じ取れない。
 だから栄一も、緊張せずに気軽に返答する事ができていた。

「中々楽しませてもらった。礼を言う」

 つっけんどんな言葉だが、それは間違いなく、栄一への賞賛の言葉。
 プロデュエリストの賛辞が、疲労困憊の栄一の五臓六腑に染み渡る。

 その時であった。

 ビシッ!

 エドが、右手を伸ばしてポーズをとる。
 その独特な恰好は、あの伝説のデュエリストを連想させるものであった。

「・・・アイツ(・・・)なら、当たり前のようにこんなポーズをするんだろうな。『楽しいデュエルだったぜ』とか言いながら」

 微笑しながら、エドはポーズを取った右手をそのまま栄一へと差し出す。

「えっ・・・っととと!」

 そして栄一がその手を掴むと、エドは栄一の体を思い切り引き上げた。
 疲れきった栄一とは反対に、まだ体力も精神も余力十分のエド。
 当然だろう。これぐらいでへばっていたら、強豪犇くプロリーグの頂点に立てる筈がない。

「・・・また、デュエルできればいいな。プロリーグで待ってるぞ」

「えっ・・・・・・ハ、ハイ! 俺、またエドさんとデュエルできるように、これからも全力で頑張ります!」

 掴み合いは、やがて力強い握手へと変わる。プロアマの垣根を越えて、互いの健闘を称え合う。
 マスコミがいれば、やれ簡単にお涙頂戴の美談に仕立て上げるであろうその姿。しかしたとえそうであっても、誰も批判したり中傷を加えたりはしないだろう。
 この2人の称え合う姿は、本当に「美しかった」からだ。

「そして! 次こそはエドさんに勝ちます!」

「・・・言ってくれるな」

 栄一の言葉に肩をすくめるエド。だがその表情を見る限りでは、満更でもないみたいだ。



「・・・では、また会おう」

「ハイ! ありがとうございました!」

 握手を解き、エドがデュエルコートから退場する。
 素晴らしいデュエルを見せた男への、賞賛と感謝を意味する拍手は、いつまでも止む事はなかった。















「お疲れ様でした」

 ゲートを潜ったエドを、2人の男が待ち構えていた。護と宇宙だ。

「なんだ。さっきまで栄一の側にいたくせに、先回りか」

 エドの言葉に、2人とも苦笑するしかなかった。
 事実、とある目的の為に2人は、エドが退場するまでに栄一側のゲートからこちらのゲートまで移動していたのであった。

 とある目的・・・そう。この一言が言いたかったからだ。

「栄一はどうでした?」

 端的な一言。だがその言葉の意味するものは、聞いた感じの軽さとは裏腹に重い。エドの「真意」を問いかけている。

「確かに、あまりお目にかかれない程の良いデュエルではあった。「真」のデュエリストになる才能も心構えも、奴は持っている」

 護の問いかけに、エドは素直に本音を答える。
 表面上の言葉だけではない。エドは、実際に栄一を認めていた。
 それを、護も確信する。

「だが・・・」

 しかし続けて放たれた言葉は、前に述べた事柄とは正反対の事柄を語る際に、頭に用いられる接続詞。

「まだまだ、だな」

 それは、エドは栄一を認めていながらも、栄一はまだ自らを追い越せる存在には至っていないという事を意味する。

「ボクでまだまだという事は、お前には到底及ばない、という事だ」

「謙遜しないで下さいよ」

 さらに続けられるは、自虐とも取れる言葉。その言葉に、護は即座に反応する。

「本当の事を言ったまでだ。プロリーグでの通算勝率と、ボクとお前の対戦成績は、お前に軍配が上がってるんだからな」

 「お前が勝ち逃げしたまま引退してしまったからな」と、エドは続ける。
 こうまで言われてしまえば、護に返す言葉は無い。

「アイツに『バーニング・バスター』を召喚させる為に、プレイを弄った部分もある。結果論の話とはいえ、そもそも『ディアボリックガイ』を早めに特殊召喚していれば、デュエルはここまで長引かなかった」

D−HERO(デステニーヒーロー) ディアボリックガイ ☆6
闇 戦士族 効果 ATK800 DEF800
自分の墓地に存在するこのカードをゲームから除外して発動する。
自分のデッキから「D−HERO ディアボリックガイ」1体を
自分フィールド上に特殊召喚する。

 そう。デュエルが序盤から中盤に移行しようとしていた時に、栄一の『ネクロシャドーマン』の効果でデッキから墓地へと送られていた『ディアボリックガイ』。
 結局、『Bloo−D』召喚の為のコストとして終盤に召喚されるまで墓地に眠り続けていたが、実際は特殊召喚できるタイミングはいつでもあった。
 結果的には、エド自身の言う通り『ディアボリックガイ』を早めに特殊召喚していれば、デュエルがここまで長引く事もなかったかもしれない。

「とはいっても、『ディアボリックガイ』を墓地に残しておく事は、ある意味「保険」でもありますからね。別に『ディアボリックガイ』を召喚しなくても勝てると思ったから、如何なる時も彼を墓地へ残しておいた。結果としては、保険を残したままでの攻撃は、全て栄一に妨害された訳ですが」

「放っておけ」

 反撃とばかりの護の言葉に、エドも閉口する他なかった。
 まるで、本当の兄弟のようなやり取りに・・・

「(2人にも、こんな一面があるんだねぇ)」

 隣にいた宇宙も関心を示していた。

「さて、デュエルも終わった事だし、長居も無用だな。そろそろ帰らせてもらうぞ」

 そう言いつつエドは、2人とそれぞれ別れの握手をする。

「はい。では、また」

 護にとっては当たり前のような事だが、隣を見ると宇宙がビクついているのが分かる。

「じゃあな」

 最後にその言葉を残して、エドはその場を去っていった。



「・・・護。オレ、エドさんと握手しちゃったよ! 暫く右手洗えねぇよ!」

「宇宙・・・君も結構、ミーハーだったりするんだね・・・」

 エドの姿が完全に見えなくなったその瞬間、宇宙が興奮の面持ちと共にそう言ってきた。
 宇宙にとってその握手は、憧れの存在を目の前にして我慢を重ねてきた、そのご褒美だったのだろうか。感動覚めやらぬといった態度で、護に食って掛かる。

 そんな親友を見て護は・・・・・・溜息をついていた。















「・・・頼みましたよ。ボクはこのアカデミアに、護に恩がある。そういった意味でも、護だけに何かを背負わせるつもりはありません」

 護達の下を離れたエドは、1人の男とすれ違う。そしてすれ違い際に、確認するようにその彼にそう呟いた。

「アイツの言い分に惑わされないで下さい。鮫島校長」

 そう。エドがすれ違った男こそ、鮫島校長であった。

「・・・ありがとう、エド。私も、考えを改め直します」

 姿が見えなくなったエドに対して、鮫島校長はそう返答した。
 今回、鮫島校長の頭を最も悩ませていた課題。その改善策の1つを、エドは提案してきた。栄一とのデュエルを行う前に、校長室に直談判しにきた。
 そしてエドの提案を、受け入れるか否か。護の我侭を切り捨てるか否か。その判断の為に、鮫島校長は今まで校長室に篭っていたのだ。
 しかし、今のエドの念押しに、どこか吹っ切れた部分もあるようだ。

「・・・では、『フレッシュマン・チャンピオンシップ』の表彰式に向かいますか」

 生徒に、教師に不安を与えない為、彼本来の穏やかな表情を作って、鮫島校長は、皆の待つホールへと足を急がせた。






























 暗くて、黒くて、禍々しい空間。そこに幾人の姿があった。
 まるで、地獄のような世界。普通の人間では、そこに数分立っている事でさえ困難であろう世界。
 だが、今そこに立つ彼らは、苦悶の表情すら浮かべていない。当たり前のように、この世界に順応していた。

「帰ったぞ」

 その世界に順応する影が、1つ増えた。
 この場にいる者達を統率する行動隊長、つまり指揮官様の我侭のせいで、置いてけぼりを食った男が、一足遅れてこの世界に「帰って来た」のだ。

「おかえりー、クアットロ!」

「ていうかアンタ・・・普通に喋れたのね・・・」

 男を迎えるは、子供っぽい口調で茶化す1人の男と、要らぬ疑問を浮かべる1人の女。そして、先程からご機嫌斜めの指揮官様。
 しかし彼らは、傍から見ればその性別すら判断する事が難しい。何故なら、彼ら全員が同じ黒色のローブに身を包み、顔をフードで隠しているからだ。

「行動が別になる可能性は理解していたが、まさか連絡も無しに放っていかれるとは思っていなかったぞ。なぁ? チンク?」

 皮肉を交えて、指揮官に文句を垂らす。それだけ、今回のクアットロは振り回されたのだ。
 指揮官の勝手な行動は、今後にしこりを残すであろう。

「・・・で、アカデミアの連中はどうだったんだクアットロ?」

「「「「!?」」」」

 クアットロに返答したのは、指揮官・チンクではなかった。
 突如聞こえたその言葉に、その場にいた全てが、憮然としていたチンクですらすぐに態度を改め、ある一点へと振り向き、その場で跪く。
 それもその筈、その声の持ち主こそ・・・彼らを傘下に置く首領だったからだ。

 瞬間、皆の注目する点に現れるは・・・人の輪郭を形成しながらも、体の部品は何も無い。それが「人」だと理解できるのは、それの輪郭だけ。黒い・・・まるで幻影のような存在。
 これこそが、『フレッシュマン・チャンピオンシップ』の舞台裏で暗躍した、正体不明の一味の「主そのもの」である。

「で、どうなんだ、クアットロ?」

 改めてクアットロに問いかける、その場に現れた彼らの主。
 その言葉には、重みがあり、鋭さがあり、そして何より、恐怖があった。
 クアットロも・・・傲岸不遜のチンクですら、頭を下げて止まない。

「・・・正直な事を言いますと、まだまだだと思います。『孤独な王(Lonely King)』をはじめとする一部の者については、今回の最大の目的を果たす為に十分な実力をつけていますが、全体としては『終焉の日』辺りで目標に至るかどうか・・・といったところです」

 恐れ多くといった形ながら、クアットロは言い切った。佐々木健吾という操り人形の目を通して見て来た、アカデミアの1年生達の実力は、彼らの目標を達成させるには怪しい部分があったのだ。

「なるほどね・・・。1年生がそれじゃあ、2・3年生も大部分はギリギリかもね。底辺が、土台がしっかりしてなかったら、上の方も不安定だろうし」

「申し訳ありません・・・。ここにいないウーノの動きが、期日までと比較してやや遅れているのかと・・・」

 あっさりとした口調で呟く主に対して、深く陳謝するチンク。
 ただ、よく聞くとそれは、今ここにいない者への責任転嫁の発言とも取れるが・・・

「彼らの潜在能力を甘く見てはいけない。『終焉の日』までには、必ず間に合うよ」

 瞬間、この世界にまた1つの影が増えた。
 噂をすれば影が差すという言葉が的を射すぎている程の、タイミングの良い登場。
 話題に上ったウーノの、参上であった。

「あら・・・ウーノ、珍しい・・・。何しに来たの?」

「何の事は無い。チンクから借りたこれを返しに来ただけだよ、トーレ」

 疑問を呈す女性・・・トーレの言葉に、ウーノは端的に返答する。
 そして同時に、懐から1枚のカードを取り出した。

「眉唾ものだったが、案外効くものだね。持ってるだけで、ドゥーエの結界ももろともしなかったよ」

「持ってるだけ・・・へぇチンク、貴方がそんなサポートするなんて珍しいわね・・・どれどれ?」

 そう言いつつトーレは、ウーノの差し出したカードを確認する。

「・・・前言撤回。これはえらい皮肉だわ」

 トーレは、呆れたようにそう言い放った。
 そしてそのトーレの言葉に、興味を抱いたのは仲間内の中でも「子供っぽい」事に定評のあるドゥーエ。
 トーレの口調を真似て「どれどれ」と言いながら、そのカードを確認し・・・その場で爆笑した。

 それもその筈、チンクがウーノに渡したカードとは・・・

ワイト夫人(ふじん) ☆3
闇 アンデット族 効果 ATK0 DEF2200
このカードのカード名は、墓地に存在する限り「ワイト」として扱う。
また、このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する限り、
フィールド上に表側表示で存在する「ワイト夫人」以外のレベル3以下の
アンデット族モンスターは戦闘によっては破壊されず、魔法・罠カードの効果も受けない。

 『ワイト夫人』。アンデット族モンスターに、魔法や罠を通用させなくする死人である貴婦人。
 『死人』に恩恵を与えるカードを持たせる事で、ドゥーエの張った結界に対しての耐性を持たせる。つまりそれが意味するのは・・・「ウーノが人間である」という事の否定・・・。

「お前ら! 五月蝿いぞ! それに頭も高い!」

 チンクが一喝する。主の目の前での、仲間の無礼。統率する身、実質的な中間管理職としては、いてもたってもいられないからだ。

「まぁいいまぁいい。そこまで目くじらを立てる事でもない。そうだろう、チンク?」

「ですが・・・」

 しかしこの主、部下の無礼にも、案外寛大だったりする。
 ただチンクが、恐れ戦いているだけなのかもしれない。

「そんな事はどうでもいい。それよりウーノ、アカデミアの連中の力が・・・『終焉の日』までに目標に到達する事。それは絶対だと言ったな。根拠はあるのか?」

 チンクを宥めながら主は、本題の最大の焦点へと掘り返す。
 万が一、寛大な主が怒りを表すとするならば・・・ウーノのこの返答次第だ。

「・・・力など、一朝一夕で身につくものではありません」

 しかしその主の問いにも、ウーノは怯む事無く返答した。
 「間に合わないよ」と言っているようにも解釈できる言葉を・・・。

「一朝一夕って・・・」

 チンクが「どれだけ時間を与えているつもりだ」と反論しようとするが、主がそれを制する。
 それを見たウーノは、話を続ける。

「人は、命懸けの場面に出くわす事で、その力を発揮する事もある。自己防衛能力という奴ですよ。彼らはまだ、そういった場面に出くわしていない。私には分かる。彼らには、内に秘めたる力が残っている」

 ウーノが、この目で見て来たアカデミアの生徒達。クアットロが2日見ただけでは判断し切れなかった、彼らの潜在能力。それが強大なものになるであろう事を、ウーノは間違いなく見据えていた。

「なるほどな。だがそれは・・・『終焉の日』に間に合うのか?」

 ウーノの言葉に、主は納得の返答をしてみせた。
 しかし、彼らの言う『終焉の日』に間に合うかどうかというのは、また別の話だ。

「・・・必ず」

 主の問いかけに、ウーノは言い切った。
 間に合う事を証明するデータも何も無い。あるのは、ウーノの経験則だけだ。
 だがその経験則に、ウーノは絶対の自信があると言った。

「・・・とは言っても、保険をかけておく事に越した事はありません。一応、『終焉の日』までにその辺の梃入れはしておきます」

「・・・良いだろう。好きにするがいい」

 この主、信じるといった意味では、案外部下受けの良い上司になれるのかもしれない。
 ウーノの、出任せかもしれない言葉を、あっさりと信用したのだ。
 だが楽観視してる訳では決して無い。彼もまた、経験則があるのだろうか・・・ウーノと同じ見解だったのだ。

「それより私は・・・水原護を早めに何とかした方が、良いと思いますが?」

「うぬぅ・・・」

 ウーノの挑発めいた言葉に、チンクが唸り声を上げる。
 簡単に退かされた苦い思い出を掘り返されて、良い気分になる者はいない。当然の態度だろう。

「放っておけ。こうなったら、奴にも生け贄になってもらうのが恐らくベストな案だ」

 だが主は、それについても楽観視していた。というより、それは寧ろ好都合と取っている、と表現した方がいいだろうか。

「確かに奴は、この計画に対して何よりも邪魔な存在だが、それを逆手に取れば良い」

 チンクが、話題の中心の人物・・・護とデュエルした際に仄めかした、「護の持つ力の強大さ」。
 それは、彼らの目的を達する上で、邪魔以外の何ものでもないが、「逆手に取る事ができれば」それはそれは大きな糧となる。
 主は、そう表現した。それだけ、護を危険視していると同時に、その莫大な力を歓迎しているのだ。

「まぁとは言っても、あんなバグのような存在、馬鹿正直にぶつかっても敵う筈が無いだろう。奴の戦力を十枚落ちにして闘ったチンクが、あっさりと退けられたんだからな」

「・・・申し訳ありません」

 あざ笑う主に対して、チンクは顔向けできない。
 ひたすら、俯く他なかった。

「取り合えず今は休ませておけ。そして『終焉の日』に近くなった時、また奴の体を酷使させてやればいい。それだけだ」

 そう言って、主は話を纏めた。護という脅威は、逆に利用してやればいい。その結論で、この話は決着した。

「では・・・私は帰らせてもらいますよ」

 そう言いつつウーノは、また懐から1枚のカードを取り出し、翳す。
 瞬間、ウーノの体は、一瞬にしてその場から消滅した。

「・・・ってチンク! あんなカード持ってるなら、私が必死こいて次元移動する必要も無かったんじゃない!? なんで隠してたのよ!?」

 ウーノが翳したカードの正体を、トーレは見逃さなかった。
 仲間の運搬謙救出係のトーレからすれば、ウーノの翳したカードは使う事すら許されざるカードだったのだ。

緊急(きんきゅう)テレポート 速攻魔法
自分の手札またはデッキからレベル3以下の
サイキック族モンスター1体を特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したモンスターは
このターンのエンドフェイズ時にゲームから除外される。

 『緊急テレポート』。その効果は、読んで字のごとくである。
 このカードさえあれば、トーレがわざわざ苦労して重たい連中を持ちながらアカデミアの世界と彼らの世界を往復する必要はなかったのだ。
 そういった意味では、トーレの怒りは理に適っている。

「まぁトーレ、許してやれ。ウーノは移動に時間をかけている暇も無い。あれは緊急措置だ。そうだろう、チンク?」

「その通りです」

 怒り狂うトーレを主が宥める。
 作戦をこなしていく上で、仲間内のコミュニケーションは必須だ。それを壊さない為にと、主がストップをかけたのだ。

「貴方がそう仰るのなら・・・」

 主に言われてしまえば、トーレも返す言葉は無い。
 あっさりと、大人しくなってしまった。

「はい、これで仲直り。めでたしめでたしだ」

 ドゥーエにも負けないような、子供っぽい口調で取り纏める主。
 だがその言動に不快感を得る者は、ここには誰もいない。
 主と志を共にした者達。全てを主に委ねた者達。この者達にとって、主が全てだからだ。

「というわけで、今日はここまでにしておこうか。全ては、『終焉の日』の為・・・そう・・・」





「悲しみも。寂しさも。辛さも。この世界の全てを終わらせる日の為だ」





 彼らの言う『終焉の日』。「世界の終焉の日」、そのままの意である。
 『終焉の日』を迎える為に、彼らは「ある力」を狙っている。そしてその力は、デュエルアカデミアに眠っている。
 その力を使い、世界を終焉に向かわせる。何もかもを破壊する。
 この『終焉の日』に、彼らは今までの全てを終わらせると誓った。その為だけに、皆動いてきた。

 主の高笑いが、地獄のような世界に響き渡る。そして悦に浸る主の前に跪くは、彼に仕える精鋭、そのうちの4人。
 彼らの定めた『終焉の日』。その日を彼らは、手薬煉を引いて待ち受けようとしていた。






























「ったくぅ! 栄一! 本当にアンタは詰めが甘いのよ!」

「いや光、そもそもお前ならあそこまで追い詰めてすらないだろ? 俺もだろうけど」

「なんですとー!?」

「ははは・・・」

 空が青黒く染められ、数え切れない程の星と、満月から僅かに欠けた月が顔を出し始めた頃。
 栄一は、新司や光、そしてオシリスレッドの仲間達と共に、レッド寮へと戻ってきていた。

 今日1日、色々な事があった。

 『バーニング・バスター』との絆を試され、1度はそれを自ら断ち切りかけた。だけど仲間に一喝され、また新たな絆を紡ぎ上げた。
 友情のデュエルを繰り返し、素晴らしい闘いを繰り広げた。友の猛撃を何度も防ぎ、『バーニング・バスター』との絆の力で打ち破った。
 憧れのデュエリストから「挑戦を受け」、まさに「激闘」という言葉が相応しいデュエルを皆に見せた。結局は負けてしまったが、絆の力をさらに高める事のできたこの経験は、彼の将来にとって大きな1ページになったに違いない。

 本当に、色々な事があった。密度の濃すぎる1日であった。

 『バーニング・バスター』に守られた今の彼には、多くの仲間が集っている。孤独な日々を送ったかつての面影は、もう無い。

「ていうか新司も光も道全然違うのに、何でわざわざ?」

「いいじゃねぇか。理由なんて、そんなものはねぇよ」

「イエロー寮に友達がいないだけじゃないの? 栄一とエドさんのデュエルの時だって、別にワタシと一緒に観る必要性あったのかだし」

「俺にも友達ぐらいいるわー!」

 相変わらずの、新司と光の夫婦漫才。本人達にとっては死活問題な会話だが、栄一にとっては「仲間」である事を感じさせる、見ていて暖かいものだ。

 デュエルアカデミアに来てからの3ヵ月強で、栄一は多くの仲間を作った。心から信じあえる、多くの仲間を。
 仲間達の騒がしい程の会話をBGMに、智兄ちゃんと別れてからの多くの時間を振り返りながら栄一は、どうか、この仲間達と過ごした時間が、自分の中で永遠に刻まれるものであってほしいと、そう願っていた。



「ほらほら、もう時間も時間なんだから、あまり騒いではいけないってぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!?????」

 皆がレッド寮に近づいた瞬間、1人の男の嗜める声・・・もとい悲鳴が、周辺に響いた。

「なんだ、今の悲鳴は?」

「黒田先生・・・。多分、余所見しながら俺達に声かけて、本棚の中身でも引っ繰り返したんじゃね?」

「いつもあんな感じなの?」

「「「「「うん」」」」」

 黒田先生の事をあまり知らない新司と光は、黒田先生のそれが不可思議でならない。
 見慣れているレッド寮の住人達が口を揃える姿を見て、2人は不安しか覚えなかった。



「それじゃあお休み。また明日な!」

「あぁ!」

「えぇ!」

 階段に足をかけながら、栄一は新司と光が去って行くのを見届けた。
 そしてレッド寮の仲間達にも声をかけながら、自らの部屋へと入っていった。

「あー、今日は大変だったな・・・。ていうか表彰式の時に見た黒田先生、なんか左腕に包帯巻いてたような・・・」

 さっきの悲鳴も、それが原因の1つだったのかもしれない。そう思いつつ栄一は、デュエルディスクから2枚の・・・『バーニング・バスター』と『BELIEVE IN NEXUS』のカードを取り出す。そしてその、2枚の絆のカードを見つめながら・・・その場で力強く叫んだ。

「智兄ちゃん・・・。俺、頑張るよ! 『バーニング・バスター』を持つにもっともっと相応しいデュエリストに、絶対なってみせるよ!」

 熱意の篭った宣言。今、どこにいるかも分からない恩師・智兄ちゃんだが、その恩師にも届くようにと、その思いを込めて栄一は、はっきりとした口調で言い切った。

「よし! 明日からまた頑張るぞー!」

 夜を迎えたオシリスレッド寮に、栄一の勇ましい叫びが響き渡った。















「・・・この明るい日常がいつまでも続くのなら、どれだけ幸せな事だろうか」

 遠巻きから、レッド寮を見つめる男がいた。護だ。

 世界は変わらず、慌ただしくも危険に満ちている。
 それを彼は分かっているからこそ、皆の明るい日常を、何より願っているのだ。

「この日常・・・決して壊してはいけない」

『その為に、我々は闘い続けている』

『ミー!』

「・・・あぁ!」

 『ネクサス』、『コメット』、そして多くの守護者達と共に、護もまた、決意を新たにした。





 明石栄一、水原護、そしてその彼らに取り巻く人々の日常は、概ね平和だ。
 だがこの平和は、直に打ち破られる事となる。その時は、刻一刻と迫っている。
 免れる事のできない闘い。それに彼らは巻き込まれる事になるだろう。

 変わり続ける世界。激変の世界に立ち向かう事、それは何者であろうと免れる事はできない。
 だが、いつ何時であっても、不変の物がある。栄一と『バーニング・バスター』のような「真」の「絆」だ。
 その「真の絆」がある限り、彼らは如何なる困難に苛まれても、それを必ず打ち破れる。

 その事を信じて今は、1度その手を休ませて頂く。








『NEXUS 2nd -TRUTH-』へつづく







前へ 戻る ホーム