NEXUS
第21話〜

製作者:ネクサスさん






目次

第21話 第22話 第23話 第24話 第25話 第26話 第27話 第28話 第29話 第30話





第21話 −決勝トーナメント1回戦! 虚無のHERO封印−


−翌日、朝8時−


 時計の針が8時を示すと同時に、決勝進出者の8名とその組み合わせが書かれた紙が、アカデミア校内の各掲示板に張られた。

決勝トーナメント進出者と、その組み合わせ

1戦目:明石(あかし)栄一(えいいち)(オシリスレッド)vs平賀(ひらが)悠二(ゆうじ)(オベリスクブルー)

2戦目:北条(ほうじょう)(ひかり)(オベリスクブルー)vs吉野(よしの)明子(あきこ)(オベリスクブルー)

3戦目:迫水(さこみず)新司(しんじ)(ラーイエロー)vs日比野(ひびの)篤志(あつし)(オベリスクブルー)

4戦目:佐々木(ささき)健吾(けんご)(オシリスレッド)vs真壁(まかべ)(とおる)(オベリスクブルー)

準決勝1戦目:1戦目の勝者vs2戦目の勝者

準決勝2戦目:3戦目の勝者vs4戦目の勝者

 エントラスの掲示板では、数十名の生徒が決勝トーナメント進出者の確認を行っていた。
 栄一と三橋もまた、その生徒の一部である。

「うっし! トーナメント進出! しかもトップバッターだぜ!」

「おめでとう、栄一。・・・にしても、佐々木までもが・・・」

 栄一は自らが進出している事に体全体を使ってガッツポーズしているが、その周りからは溜息や落ち込みの言葉が聞こえる。
 どうやら、この中で決勝トーナメントに進出したのは栄一だけのようだ。

 そしてその栄一の横で三橋は、トーナメント表に書かれた意外な人物・・・佐々木の名に、疑問と不安を感じていた。

「・・・アイツ、そんなに実力あったのか・・・? やっぱおかしいよ、栄一」

「ええぇ? そうかなぁ・・・? でも結局、寮でも変な所はなかったんだろ?」

 確かに、昨晩の寮内での佐々木の様子に、いつもと違った様子は無かった。
 食堂で他のレッド仲間と食事をしながら談笑し、風呂で汗を流し、自室で軽くデッキを弄った後ベッドに就いた。
 佐々木と相部屋の三橋は、その佐々木の一挙手一投足を全て見逃さなかった。
 しかし、佐々木はいつもの佐々木と別段変わりは無かったのである。



「まぁ、レッドから2人ってのは意外だったかもなぁ」

「新司! それに光!」

 栄一と三橋以外は既に人が去り始めていた掲示板周辺に、新司と光がやって来た。
 2人の態度を見ると、どうやらトーナメントの出場者は既に確認済みのようである。

「それに対して新司君、イエローからはアンタ1人・・・」

「それは言うな光。俺も結構肩身狭いんだ・・・」

 そう言う新司の目線の先には、彼を嫉むような目で見る多くのラーイエローの生徒がいた。
 肩身が狭い・・・というのも無理が無い話である。

「明子が上がってきたのも意外ね・・・。あの子、歓迎ペアデュエルでマスターの足引っ張ってたのに・・・」



「私の実力はそんなものじゃなかったって事よ!」

「明子!?」

 光はじめ一同の振り向いた先に現れたのは、眼鏡を上下させつつ不敵に笑う明子の姿。

「都合よく私の相手はアナタね、光。デュエルが終わった時には、今吐いた言葉を言わせないようにしてあげるわ!」

 そう光に向かって宣言する明子の表情は、歓迎タッグデュエル大会で見せた、あの弱弱しいものではなかった。
 自信満々・・・悪いように捉えれば、光を挑発したような・・・そんな表情であった。

「くぅ〜〜〜。・・・イイわ! その余裕の表情、デュエルでズタズタにしてあげるから!」

 そして明子の挑発めいた言動に、光は完全に乗ってしまった模様である。



「・・・おい栄一、この状況どこかで見た事ないか?」

「俺もちょうどそう思っていたところだ、新司。確か・・・どこかの2人の先輩が・・・」

「あ、やっぱり・・・。女ってこんなのばかりなのか・・・?」

「俺が知るかよ!?」

 2人の女子の対立を見て、栄一と新司は口を手で隠して小さい声で話し合っていたのだが・・・

「「ちょっとそこの2人、何コソコソ話してるの!?」」

「「いえ、別に! 何でもありません!」」

 光と明子の2人には、その内容は大体お見通しだったようである。
 鬼のような形相をした光と明子に怒鳴りつけられた栄一と新司の脳裏には、彼らをパシリとして扱う2人の先輩女生徒の顔が浮かんでいた。



「楽しそうだね。ボク達も混ぜてくれないかい?」

「(今度は誰!?)」

 軽く皮肉めいたその言葉に、掲示板周辺にいる一同は一斉に上記の感想を持ちながら、さっきまで向いていた側と逆の方を向いた。
 そしてそこには、全く違う3つのオーラを全身から放つ、青い服を着た3人の長身の男子がいた。

 向かって左に立つ、腰付近まで伸びた赤黒い長髪を持った、口を横一文字にして全く無表情の男からは、周辺が全て無に帰すような張り詰めたオーラ。

 真ん中に立つ、軽く茶色がかった短髪を持つ笑顔が眩しい男からは、吹雪が晴れ、太陽が照った冬の朝のようなオーラ。

 向かって右に立つ、黒の髪が、何故か右目周辺だけがそれを隠すほど長い、不気味な笑みを浮かべる男からは、明らかに周辺がどす黒く見える、邪念の篭ったようなオーラ。

 それぞれが放つオーラのギャップが、彼ら3人をさらに不気味に仕立てていた。

「おいおい光・・・あいつら誰だ?」

 初見なのか、新司が左手で口を隠しながら光に耳打ちする。

「左から平賀、日比野、真壁の順よ。・・・オベリスクブルーの中でも、特に優秀な3人組・・・・・・通称ブルー三羽烏よ」

「・・・優秀な割には、影薄いな。俺、初めて知ったんだが・・・」

「薄くて悪かったね、そこの黄色い人」

 眩しい笑顔を崩さないまま、真ん中の男・・・日比野がそう言う。

「黄色い人って・・・俺の事か!? 俺は迫水新司だ!覚えておけ!」

「新司君・・・最初っから知ってたけどね。そう言えば、ちょうどボクの対戦相手は君だったね。楽しみにしてるよ」

「くそぅ・・・コイツ、ムカつく・・・」

 新司は両拳を握り締めて苛立っていた。
 当然である。バカにされているのだから。
 笑顔で皮肉を言い放つ日比野の態度もまた、新司の癪に障っていた。

「オレの相手・・・明石栄一はお前か!」

 右手人差し指で栄一を指差しながら、日比野の左にいる男・・・平賀はそう言った。

「あ、あぁ、明石栄一は俺だけど?」

「ふぅん! もうちょっと凄そうな奴かと思っていたが、案外ひょろい奴だな!」

「何ぃ! ・・・と言いたいところだが、俺の身長を考えたら大きく反論できないから悔しい・・・」

 確かに、16歳という年齢を考えればやや単身の栄一は、長身の平賀から見れば小さいと言われても仕方が無いのかもしれない。
 だが、今はそんな問題ではない。
 
「遊城十代二世だとかなんとか言われているか知らないが、お前のデッキもオレの前では無力だって事を教えてやる!」

「そんなの、やってみないと分からないじゃないか」

「フン! デュエルをしてみたら分かる。お前の戦法もオレには通用しないって事を! ・・・って真壁、どうした?」

 平賀と栄一が言い争っている間を、突如、ブルー三羽烏最後の一人・・・真壁が割って入ってきた。
 真壁は、右手をおでこに翳しながら、周辺を見通している。誰かを探しているようだ。
 ちなみに補足をしておくと、全くの偶然であるのだが、決勝トーナメント出場者8名はお互いに予選では顔を合わせていない。
 お互いに同じ条件で、ノーデータの状況で相対する事になっているのである。



「横からスマンが、自分の対戦相手の佐々木って奴はどこにいるんだ?」

「俺だよ」

 突然の声に驚きながら、栄一達全員が振り向いた先には・・・ちょうど入り口から校内に入ってきたばかりの佐々木の姿があった。

「俺が佐々木健吾だ。よろしく」

 真壁の前に立ってその一言だけを言うと、佐々木はさっさとホールの方へと足を向けようとする。

「ちょっと待て! 『初めまして→それじゃあ』ってどんだけ愛想ないんだよ!?」

 勿論真壁はそれだけで納得する訳が無く、佐々木を引きとめようとするが・・・。
 「そんな事言われても」とまで佐々木が言った瞬間、ドアチャイムのような音楽が流れ、次いで鮫島校長の校内放送が流れ始めた。



「間も無く、『フレッシュマン・チャンピオンシップ』決勝トーナメントの第1試合を開始いたします。第1試合に出場する両名は、速やかにホールのデュエルコートに集合してください。その他の生徒諸君も、ホールの観客席に待機してください」



「だってさ」

「え!? もうそんな時間経ってんの!? ていうか第1試合の出場者って俺じゃん!?」

「くっ! 遅刻なんかで減点とかなったらやってられないぜ! オレは先にいくぞ!」

「あっ! 平賀、待てよ!」

 栄一がその場であたふたしている間に、平賀はホールの方へと突っ走って行った。日比野が、そんな平賀を右手を振りながら笑顔で見送っている。

 そしていつの間にか、佐々木の姿はその場から無くなっていた。



「佐々木・・・また勝手に消えた・・・。アイツ、一体どうしちまったんだ?」

「アイツ・・・デュエルで酷い目に遭わせてやる! 絶対だ!」

 だが、それに気付いているのは三橋と真壁だけのようだ。
 明子は既にホールに向けて足を進め始めているし、日比野は平賀の見送りに夢中。
 新司と光は慌てる栄一に呆れ果てている。栄一は・・・自分の事で精一杯の様子だ。

「じゃ、じゃあ行って来るぜ、新司! 光! 三橋!」

 平賀に一歩出遅れながら、栄一はホールへと走り出した。

「はいはい。分かったからさっさと行って、そして勝ってこいよ!」

「準決で、ワタシの目の前にいなかったらお仕置きなんだからね!」

「お、おう! お仕置きは嫌だからな、絶対勝って来るぜ!」

 その一言を最後に、栄一の走る姿は徐々に小さくなっていった。















−アカデミア、森林奥深く−


「・・・では指揮官様、この状況はどう説明してくださるのですか?」

「そう言うなトーレ・・・。私にだって、この状況は予想外なのだ・・・」

 軽く「怒り」が篭ったトーレの質問に、チンクはただ、たじろぐしかなかった。
 それもそのはず、彼らが今回「潰す」予定であった人物が、1日探し回っても見つからなかったのであるから。

「寮の奴の部屋を調べても見つからなかったし・・・どういう事?」

「調べてもって・・・・・・・・・お前は、奴の倉庫の漫画読んでただけだろ?」

 チンクの鋭い一言に、トーレはそっぽを向き、ドゥーエはただ笑い飛ばしていた。
 確かに、昨晩「奴」の部屋に侵入した際、「奴」について調べていたのはチンクのみであった。
 トーレは勝手に部屋の倉庫を開け、くまなく整理されていた本棚の漫画を読み耽っていただけなのである。

「すぐやめるはずだったのよ・・・。だけど、結構ハマッちゃって・・・。あの『しゅ○キャラ!』の二○堂って奴が、ウーノにそっくりなのよ・・・」

「そんなディープな話をされても、私にはワカラン」

 トーレの言い訳によって、2人の立場は完全に逆転した。
 そんな2人を見てドゥーエは、結界の維持によって動けない体をギリギリに使って爆笑。

「兎に角、今日はアカデミアの人間のほとんどはホール周辺にいるだろうから、昨日よりかは幾分か見つけやすくなってるはずだ! だから、そこを重点的に探す! お前達は、昨日と同じように待機してろ!」

 その言葉だけを残してチンクは、忍者のようにサッとその場から姿を消した。



「・・・苛立ってたわね、チンク」

「プライド高いからね〜♪ ウーノには作戦への参加を拒否されてたし、余計腹立ってたんだろうね〜(笑)」

 とは言っても、ドゥーエは結界を張り続けなければならないし、トーレにはまだ出番は無い。
 彼らは、プライドの高い指揮官様のお言葉通りに、この場で待機する他無かったのである。















−観客席−


 ホールの天上に設置されたオーロラビジョンに映る、遅刻ギリギリで到着した栄一と平賀の様子を見ながら、昨日と同じ付近の席に座するのは、鮫島校長、そしてクロノス教諭である。

「ここまでは、何事も無く進みましたね・・・」

「デスーノ・・・」

 トップシークレットな内容の会話だけに、2人の目はお互いを映し、顔の距離もやや近づく。
 別に、危険な関係なわけではない。彼らの近くにも、事情を知らない生徒がいるのだ。
 その生徒達に聞こえないように会話しようとした結果、手で口元を隠しての小声での会話になったのだが・・・。

「この決勝トーナメントデーモ、何も起こらなケレーバ、いいのデスーガ・・・。シニョール護達からの連絡ーハ?」

「まだありません。『ネズミ』がどこに潜んでいるのかも、まだ不透明な状態です・・・」

「そうデスーカ・・・」

 その言葉を最後に、鮫島校長の視線は再びオーロラビジョンへと戻り、クロノス教諭は右手に持つマイクのスイッチをONに入れる。
 オーロラビジョンの4面全てには、栄一と平賀が互いのデッキをシャッフルする姿が映っていた。





−デュエルコート−


 パシッ!


 お互いに、シャッフルし終えたデッキを相手に渡し、自らの位置に着こうと一歩を踏み出した。

「さっきも言ったが、お前のデッキではオレに通用しない。覚えておくんだな」

「例え相手が何であろうと、俺は負ける気は全くないぜ。平賀!」

 栄一と平賀、お互いに指定された自らの位置に着く。
 そしてそれをオーロラビジョンで確認したクロノス教諭が、マイク片手に決勝トーナメントの開始を宣言した。



「決勝トーナメント1回戦第1試合、明石栄一vs平賀悠二、デュエル開始ナノーネ!」



「「デュエル!」」

栄一:LP4000
平賀:LP4000

「俺のターン、ドロー!」

 栄一の先攻で、デュエルは始まった。

「『E・HERO フォーチチュードマン』を攻撃表示で召喚! ターンエンド!」

 ドローしたカードをそのまま自らのデュエルディスクにセットした栄一。
 それにより栄一のフィールドに現れたのは、全身に熱い炎を纏ったヒーロー、『フォーチチュードマン』だ。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) フォーチチュードマン ☆4(オリジナル)
炎 戦士族 効果 ATK1600 DEF1200
自分の墓地に存在する、破壊されたこのカードをゲームから除外する事で、
自分の墓地から「E・HERO」と名のついたモンスター1体を特殊召喚する。

栄一LP4000
手札5枚
モンスターゾーンE・HERO フォーチチュードマン(攻撃表示:ATK1600)
魔法・罠ゾーンなし
平賀LP4000
手札5枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンなし





−観客席−

 栄一と別れた新司と光の2人もまた、観客席の一席に腰を下ろしていた。

「そう言えば光。栄一にあの平賀って奴の情報とか、教えてやらなくていいのかよ?」

「アイツはそんな事聞いてデュエルする奴じゃないってのは、わかってるでしょ?」

「まぁ確かに・・・」

 新司の質問をさらっと流す光。その発言も態度も御尤もだなぁと、新司は心の中で感心する。

「それに・・・、教えない方が懸命だわ」

「へっ!?」

 新司が感心している中、光は不吉な発言をさらっと言い放った。
 重たい発言のはずなのに、それを軽く言い続ける光の態度に、さすがに焦る新司。

「あの平賀のデッキ・・・。ハッキリ言って、栄一のヒーローデッキとの相性は最悪だわ! 平賀のデッキの前では・・・、栄一の『バーニング・バスター』でさえ無力に等しくなる」

「そんなヤバい奴なのか? 平賀って奴は?」

「まぁね・・・。ワタシも強がって栄一を送り出したけど、正直勝てる可能性は・・・」

「マジかよ・・・。栄一・・・」

 新司は心の中で、栄一の勝利を祈りつつ、その発言をもう少し早く言って欲しかったなぁ・・・との感想を持った。





−再び、デュエルコート−

「オレのターン! モンスター1体をセットして、ターンエンド!」

 対する平賀、ドローしたカードを手札に加え、モンスターを1体セットしただけでターンを終えた。
 ・・・デュエル前の会話とは打って変わって、静かなデュエルの幕開けとなった。

栄一LP4000
手札5枚
モンスターゾーンE・HERO フォーチチュードマン(攻撃表示:ATK1600)
魔法・罠ゾーンなし
平賀LP4000
手札5枚
モンスターゾーン裏側守備表示モンスター
魔法・罠ゾーンなし

「俺のターン! 行け、『フォーチチュードマン』! その伏せモンスターを攻撃だ!」

 栄一はドローしたカードを手札に加えると、そのまま『フォーチチュードマン』の攻撃宣言を行う。
 それにより『フォーチチュードマン』の右手の平から発せられた炎が、平賀の伏せモンスターを一瞬にして灰にした。

「チッ! だが、今お前が破壊したモンスターは『ニュードリュア』! このカードは戦闘によって破壊された場合、別のモンスター1体を道連れにする能力を持っている! 『フォーチチュードマン』を道連れにしろ!」

 平賀の墓地ゾーンから、今破壊されたばかりの『ニュードリュア』の亡霊が現れる。
 その亡霊は『フォーチチュードマン』に抱きつくと、『フォーチチュードマン』に振り払う間を与えないまま、そのまま一緒に墓地へと引きずって行った。

ニュードリュア ☆4
闇 悪魔族 効果 ATK1200 DEF800
このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、
フィールド上に存在するモンスター1体を破壊する。

「くっ、やられたか!(・・・だが、これで『フォーチチュードマン』の効果を発動できる条件は整った。後は、強力なヒーローを墓地へ送るだけ!)・・・俺は『E・HERO クレイマン』を守備表示にして、ターンエンド」

E・HERO(エレメンタルヒーロー) クレイマン ☆4
地 戦士族 通常 ATK800 DEF2000
粘土でできた頑丈な体を持つE・HERO。
体をはって、仲間のE・HEROを守り抜く。

栄一LP4000
手札5枚
モンスターゾーンE・HERO クレイマン(守備表示:DEF2000)
魔法・罠ゾーンなし
平賀LP4000
手札5枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンなし

「オレのターン! モンスター1体と、カードを1枚セットして、ターンエンド!」

 相変わらず平賀は、ドローしたカードを確認して、カードをディスクにセットするだけ・・・。
 単純な行動・・・、それは何か、不気味なものを感じさせる行動でもあった。

栄一LP4000
手札5枚
モンスターゾーンE・HERO クレイマン(守備表示:DEF2000)
魔法・罠ゾーンなし
平賀LP4000
手札4枚
モンスターゾーン裏側守備表示モンスター
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚





−観客席−

「平賀の奴、カードセットしてばかりだぞ・・・? 受動型のデュエリストなのか?」

 再び新司が、光に疑問をぶつける。
 平賀のプレイングを見た事がない新司には、平賀がこれから何をしたいのかが分からないので、当然と言えば当然だが。

「じっとして、よく見てなさい。すぐに、アイツの恐ろしさが分かるから・・・」

「そ、そうなのか・・・?(この版権ネタはかなり無理があるだろ・・・。この小説が、ドンドンチープになっていくぞ・・・)」

 分かる人には分かる光のセリフですが、分からないからって別に悩む必要はありません。
 取り敢えず、3期の8話辺りを見れば分かります。冥王降臨辺りのシーン注目。





−デュエルコート−

「俺のターン! よしっ! 一気にいくぜ! 魔法カード『おろかな埋葬』! この効果により、デッキから『E・HERO エッジマン』を墓地へ送る!」

 『おろかな埋葬』の効果により栄一は、自らのデッキから『エッジマン』のカードを抜き出し、墓地ゾーンへと置いた。
 これから始まるコンボの序章である。





 ・・・・・・本来ならば。





おろかな埋葬(まいそう) 通常魔法
自分のデッキからモンスター1体を選択して墓地へ送る。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) エッジマン ☆7
地 戦士族 効果 ATK2600 DEF1800
このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、
その守備力を攻撃力が超えていれば、
その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。

「そして墓地の『フォーチチュードマン』の効果発動! 『フォーチチュードマン』をゲームから除外する事で、墓地に存在する『HERO』、すなわち『エッジマン』を復活させる!」

 そう言いつつ、栄一は『フォーチチュードマン』のカードを墓地から取り出し、ポケットに仕舞った。

 ・・・その時である。

「来たぁ! この時を待っていたんだ!」

 ドローカードの確認とカードのセットだけしか行動を示さず、栄一のターンでも沈黙を貫いていた平賀が、突如叫びだす。

「リバースカードオープン! 『速攻召喚』! この効果により、俺のフィールドのモンスター1体をリリースして、手札から『虚無魔人(ヴァニティー・デビル)』をアドバンス召喚する!」

「『虚無魔人(ヴァニティー・デビル)』!?」

 平賀のフィールドにセットされていたカードが、突如地面から現れた闇の穴の中に消え・・・代わってその闇から、赤い髪の毛を伸ばし、黒いマントに身を包んだ悪魔、『虚無魔人(ヴァニティー・デビル)』が現れた。

「コイツの特殊効果は、全ての特殊召喚を妨害する事! よって、『フォーチチュードマン』の効果も勿論無効! 『フォーチチュードマン』がコストとして除外されるだけだ!」

「くっ! しまった・・・」

「さらに、今リリースした『クリッター』の効果により、俺は攻撃力1500以下のモンスター・・・『闇の住人 シャドウキラー』を手札に加える!」

虚無魔人(ヴァニティー・デビル) ☆6
闇 悪魔族 効果 ATK2400 DEF1200
このカードは特殊召喚できない。
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
モンスターを特殊召喚する事ができない。

速攻召喚(そっこうしょうかん) 速攻魔法(アニメGXオリジナル)
手札のモンスター1体を通常召喚する。

クリッター ☆3
闇 悪魔族 効果 ATK1000 DEF600
このカードがフィールド上から墓地へ送られた時、
自分のデッキから攻撃力1500以下のモンスター1体を手札に加える。






−観客席−

 今、デュエルコートで相対している栄一と同じく、平賀のデュエルは初見となる新司にも、『虚無魔人』の召喚によって平賀の戦術を判断する事ができた。

「光、お前が言ってた事って・・・」

「この事よ。平賀のデッキは、モンスターの特殊召喚を封じる『虚無デッキ』。融合を中心とした栄一のデッキとの相性は最悪だわ」

「だ、だけど、あの『虚無魔人』を何とかすれば、栄一にもまだチャンスがあるんじゃ?」

「平賀の凄いところは、一度作った流れを離さない事。『虚無』が敗れたとしても、すぐに体制を取り戻してくるわ」

「・・・?」

「見てたら分かるわ! アイツの恐ろしいところは・・・」

 そう言う光の顔は、少し青ざめているようにも見えた。
 しかし、新司は光が何に怯えているのか、今はまだ理解する事ができなかったのである。

 デュエルにおいて特殊召喚という行為は、大きなウェートを占める。
 栄一のような、融合召喚や『バーニング・バスター』の誘発召喚効果・・・特殊召喚を戦術の基本としているデュエリストは、それがさらに大きい。
 そして平賀の戦術は、そのデュエルにおいて大きなウェートを占める、特殊召喚を封じ込める戦術である。
 一般のデュエリストでさえ特殊召喚を封じ込められたら、それは戦況が大きく不利になると言う事なのである。特殊召喚に多く頼る栄一は尚更である。

 さらに光の言う事には、この『虚無魔人』が敗れたとしても、平賀にはそれを取り返す力があると言うのだ。
 今、『フォーチチュードマン』によるコンボを封じられてしまった栄一。それは、自らの戦術を封じ込められたに等しいという事なのであろう。





−三度、デュエルコート−

 ・・・思わぬカウンターに、顔に焦りを見せながら、栄一は自らの手札を再び確認した。

栄一の手札:
『E・HERO フェザーマン』
『スパークシールド』
『スパークガン』
『E・HERO クラッチマン』
『E・HERO バーニング・バスター』

「(くっそー、折角『バスター』も来てくれたっていうのに・・・。これじゃあどうしようもできない・・・)『E・HERO フェザーマン』を守備表示で召喚。ターンエンド。・・・・・・くそー」

E・HERO(エレメンタルヒーロー) フェザーマン ☆3
風 戦士族 通常 ATK1000 DEF1000
風を操り空を舞う翼を持ったE・HERO。
天空からの一撃、フェザーブレイクで悪を裁く。

栄一LP4000
手札4枚
モンスターゾーンE・HERO クレイマン(守備表示:DEF2000)
E・HERO フェザーマン(守備表示:DEF1000)
魔法・罠ゾーンなし
平賀LP4000
手札4枚
モンスターゾーン虚無魔人(攻撃表示:ATK2400)
魔法・罠ゾーンなし

「オレのターン! 『闇の住人 シャドウキラー』を攻撃表示で召喚! そしてバトルフェイズ、『虚無魔人』で『クレイマン』を攻撃! 『ヴァニティー・ナイトメア』!」

 特殊召喚を封じる効果によって、栄一を不利に追いやった『虚無魔人』が、早速更なる実力を発揮する。
 『虚無魔人』から発せられる邪悪な霧は、栄一の場の『クレイマン』を包み込んでいき、そのまま闇に彼を飲み込んでいってしまった。

「さらに『シャドウキラー』で攻撃! 『シャドウ・ソード』!」

 そしてこの『シャドウキラー』の攻撃が、栄一不利の状況に追い討ちをかける。
 『クレイマン』がやられたとは言え、栄一のフィールドにはまだ『フェザーマン』がいる。つまり、普通なら『シャドウキラー』の攻撃の対象となるのは、『フェザーマン』のハズである。
 しかし『シャドウキラー』は、『フェザーマン』の防壁を飛び越え、栄一に直接剣による一撃を喰らわしたのである。

「なんで!? 『フェザーマン』がいるのになんでダイレクトアタックなんだ!?」

「残念だったな、栄一! 『シャドウキラー』は相手のモンスターゾーンに守備モンスターしか存在しない時、相手プレイヤーを直接攻撃できる能力があるのさ!」

「くっ! そんな厄介な効果があったなんて・・・」

(やみ)住人(じゅうにん) シャドウキラー ☆4
闇 悪魔族 効果 ATK1400 DEF200
相手のモンスターカードゾーンに守備表示モンスターしか存在しない場合、
このカードは相手プレイヤーに直接攻撃できる。

栄一:LP4000→LP2600

 平賀は、最後にリバースカードを1枚セットして、自らのターンを終えた。
 栄一優勢と思われたデュエル序盤。それが、1体のモンスターの登場で、ガラリと雰囲気が変わってしまった。
 『虚無魔人』が現れてまだ2ターン。しかしその2ターンは、つくづく特殊召喚の重みというものを味わわされる2ターンとなってしまったのである。

栄一LP2600
手札4枚
モンスターゾーンE・HERO フェザーマン(守備表示:DEF1000)
魔法・罠ゾーンなし
平賀LP4000
手札3枚
モンスターゾーン虚無魔人(攻撃表示:ATK2400)
闇の住人 シャドウキラー(攻撃表示:ATK1400)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚

「くっ、ヤッベェ! 俺のターン、ドロー!」

 しかし、それでも栄一は諦めない。その栄一の心意気にデッキも応えたのか、今、栄一の望むカード、それが栄一の手に舞い込んできたのである。

「・・・・・・よし! 何とかいけそうだ! 『E・HERO スパークマン』を攻撃表示で召喚!」

E・HERO(エレメンタルヒーロー) スパークマン ☆4
光 戦士族 通常 ATK1600 DEF1400
様々な武器を使いこなす、光の戦士のE・HERO。
聖なる輝きスパークフラッシュが悪の退路を断つ。

「ん? どうするつもりだ? 『虚無魔人』の攻撃力は2400だぞ。『スパークマン』の攻撃力では『虚無魔人』は倒せないぜ!」

「そう焦るなって! さらに、装備魔法『スパークガン』を『スパークマン』に装備!」

 栄一のフィールドに現れた、放電によって両手から激しく火花を飛び散らせるヒーロー。
 そしてそのヒーローの呼びかけに応え、彼の右手元に現れたのは、彼の愛用する拳銃(ハンドガン)・・・。

「この拳銃(ハンドガン)は、フィールド上のモンスターの表示形式を3回まで変更できるカード! 俺が表示形式を変更するのは、勿論『虚無魔人』!」

「なっ!?」

スパークガン 装備魔法
「E・HERO スパークマン」にのみ装備可能。
自分のターンのメインフェイズ時に表側表示
モンスター1体の表示形式を変更する事ができる。
この効果を3回使用した後、このカードを破壊する。

 『スパークガン』から放たれた光線が『虚無魔人』に命中すると同時に、『虚無魔人』自身は動きを封じられ、強制的に防御態勢を強いられてしまう。

「『虚無魔人』の攻撃力は2400と、確かに今の俺じゃ太刀打ちできない。だが、その守備力は・・・」

虚無魔人:DEF1200

「これなら『スパークマン』でも倒せる! いけぇ! 『スパーク・フラッシュ』!」

 『スパークマン』は、右手に持っていた愛用の拳銃を左手に持ち替え、その右手から強烈な火花を発射した。

 ・・・だが。

「甘い! 速攻魔法発動!」

 瞬間、フィールドに現れたトーテムポール。それから発せられた強烈な音波が、ホール全体を包み込む。
 栄一、このデュエルを見届ける者、そして勿論『スパークマン』も、この音波から逃れる為に耳を防ぐ。

「『コマンドサイレンサー』! この効果によって、『スパークマン』の攻撃は無効! さらにオレは、カードを1枚ドローできる!」

コマンドサイレンサー 速攻魔法(アニメDMオリジナル)
相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
相手モンスター1体の攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了する。
その後、自分はデッキからカードを1枚ドローする。

「これじゃあ『虚無魔人』を破壊できない・・・。カードを1枚セットして、ターンエンド」

栄一LP2600
手札2枚
モンスターゾーンE・HERO フェザーマン(守備表示:DEF1000)
E・HERO スパークマン(攻撃表示:ATK1600)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
スパークガン(装備:E・HERO スパークマン 残り2回)
平賀LP4000
手札4枚
モンスターゾーン虚無魔人(守備表示:DEF1200)
闇の住人 シャドウキラー(攻撃表示:ATK1400)
魔法・罠ゾーンなし

「オレのターン! 『虚無魔人』を攻撃表示に変更! さらに『ジェルエンデュオ』を攻撃表示で召喚!」

 2体の悪魔が臨戦態勢を整えるフィールドに新たに加わったのは、彼らとは180度スタイルが違う、1体はピンク、もう1体は水色の体をした、可愛らしい天使。
 しかし、可愛らしいとは言っても油断はできない。この天使の登場によって、流れはますます平賀の方へと傾いてしまったのだから・・・。

ジェルエンデュオ ☆4
光 天使族 効果 ATK1700 DEF0
このカードは戦闘では破壊されない。
このカードのコントローラーがダメージを受けた時、
フィールド上に表側表示で存在するこのカードを破壊する。
天使族・光属性モンスターをアドバンス召喚する場合、
このカードは2体分のリリースとする事ができる。

「『ジェルエンデュオ』で、『スパークマン』を攻撃だ! 『ジェル・クラッシュ』!」

 天使とは言え、戦う宿命に生まれた2体の天使。その彼女達が、『スパークマン』目掛けて突進する。

「くっ、まだだ! 永続(トラップ)『スパークシールド』! コイツは『スパークマン』が存在する限り、相手の攻撃を3回まで受け止める効果を持つ盾!」

 ゴキーン!

 全力で『スパークマン』に突っ込んで行った天使達。突如『スパークマン』の前に現れた、火花を散らす盾に対処できる訳が無く、そのまま2体同時に『スパークシールド』に頭をぶつけた。
 ちょっと可愛そうな気もする・・・。そんな罪悪感が頭を過ぎった、栄一と作者であった。

スパークシールド 永続罠(オリジナル)
「E・HERO スパークマン」が自分フィールド上に
表側表示で存在する場合のみ発動する事ができる。
相手モンスターの攻撃を3度まで無効にする事ができる。
3度攻撃を無効にした場合、このカードを破壊する。
「E・HERO スパークマン」が自分フィールド上に
存在しない場合、このカードを破壊する。

「だが、受け止められるのは3回までだろ! 『シャドウキラー』、『フェザーマン』を攻撃! 『シャドウ・ソード』!」

「くっ! 『スパークシールド』!」

 ガンッ!

 『ジェルエンデュオ』に続き『シャドウキラー』もまた、『スパークマン』の前に立つ火花の盾にそのまま突っ込み、頭をぶつけた。

「まだまだぁ! 『虚無魔人』、『スパークマン』を攻撃! 『ヴァニティー・ナイトメア』! ・・・当然、『スパークシールド』を発動するんだろ?」

「・・・くそっ!」

 2度に渡って、相手モンスターの攻撃を受け止めた火花の盾。前の2度と同じように『虚無魔人』の攻撃を受け止めるも、その衝撃には耐える事が出来ず、とうとう破壊されてしまった。

「『スパークシールド』は破壊されたが、モンスターは残った。まだいける! ・・・って思ってるんじゃないか?」

「何!?」

 「何とか耐え切った・・・」そう安堵する栄一の図星を突く、平賀の強烈な一言。
 そして、平賀がディスクに差し込んだ1枚のカードが、栄一の安堵を絶望へと変えてゆく・・・。

「ライフを800ポイント払い、魔法カード『アンフェアー・ジャッジ』発動! このカードは、バトルフェイズに相手モンスターを破壊できなかった場合に発動する事ができ、『虚無魔人』の攻撃力以下の攻撃力または守備力の相手モンスターを全て破壊する効果を持つ!」

「なっ、まさか!?」

E・HERO フェザーマン(守備表示):DEF1000

E・HERO スパークマン(攻撃表示):ATK1600

虚無魔人:ATK2400

「お前のフィールドの、2体のモンスターを破壊!」

 攻撃を終了した筈の『虚無魔人』だったが、再び栄一の場の2体のモンスターに対して攻撃態勢を取ると、そのまま2体に向けて闇を放った。
 栄一のフィールドにいる2体のヒーローに為せる事は無く、そのまま闇に飲み込まれていってしまった。

アンフェアー・ジャッジ 通常魔法(アニメGXオリジナル)
このターンのバトルフェイズにモンスターを破壊していない場合、
800ポイントのライフを払う事で発動する。
相手フィールド上に表側表示で存在する、攻撃表示なら攻撃力、
守備表示なら守備力が、自分フィールド上に表側攻撃表示で存在する
攻撃力が一番高いモンスターの攻撃力より低いモンスターを全て破壊する。

平賀:LP4000→LP3200

 平賀の『虚無』の力・・・。それは、栄一のフィールドを今、『無』へと帰してしまった・・・。



第22話 −砕けて散った、ガラスのように−

 栄一の耳に、ホールのあちこちから歓声が聞こえる。
 デュエルの流れを手中にした、平賀を称える声。苦戦する栄一に対しての野次。逆に、栄一を応援する声も聞こえる。
 しかし、平賀の魔人に戦力全てを無に帰され、孤独にコートに立つ栄一にとっては、それら全てが物悲しく聞こえた。

栄一LP2600
手札2枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンなし
平賀LP3200
手札3枚
モンスターゾーン虚無魔人(攻撃表示:ATK2400)
闇の住人 シャドウキラー(攻撃表示:ATK1400)
ジェルエンデュオ(攻撃表示:ATK1700)
魔法・罠ゾーンなし





−観客席−

「(奴め・・・。どこにいる・・・?)」

 観客席の、とある入場ゲート付近に陣取る、フードを被った男が1人・・・。チンクである。
 彼の姿は、彼の仲間であるドゥーエの張った結界により、周辺にいる生徒達には見る事はできず、その存在を感じる事もできない。

「(何故、これだけ見回してもいないのだ・・・? このホールのどこにもいないという事は、ありえんはずだが・・・)」

 チンクはここに到着して以来、何回にも渡ってホール中を、目を凝らして目的の人物を探している。だが、見つからないのだ。

「(どういう事だ?)」

 しかし、このチンクの徒労も、結局は無駄に終わる事になるのである。
 なにしろ、目的の人物は、今このホールにはいないのだから・・・。
 そして、もしここにいたとしても、チンクにはその存在は確認する事ができないのである・・・。





−デュエルコート−

「ターンエンドだ! お前のターンだぜ、栄一!」

 『虚無』による殲滅を終え、平賀が、ちょうど自らのターンを終えた所である。

「(チクショー! モンスターを残せれば、『バスター』を呼ぶ事ができたのに・・・)」

 そう言いつつ、平賀のフィールドと自分の手札を見比べ確認する栄一の顔は、やや青ざめているように見える。汗も結構かいているようだ。

栄一の手札:
『E・HERO クラッチマン』
『E・HERO バーニング・バスター』

 ピンチに陥ったこの状況の中で、何とか突破口はないかと一考する栄一の目にまず留まったのは、無論手札の『バーニング・バスター』。

「(『バスター』を呼ぶ事ができれば、まだ俺にも勝機はあるんだ!)」

 次が、平賀のフィールドの『虚無魔人(ヴァニティー・デビル)』。そして『ジェルエンデュオ』。
 そこから栄一が得た結論は、『バスター』と『ジェルエンデュオ』が形勢逆転へのキーとなる・・・である。

「(応えてくれ! 俺のデッキ!)」

 カードを引こうとする栄一の右手に、自然と力が入る。
 希望と不安・・・。それらが同時に、栄一の心を揺らしていた。

「俺のターン、ドロー!」

 「デュエルは99%の知性が勝敗を決する。運が働くのは1%にすぎない」と語ったデュエリストがいる。それも一理あるだろう。
 しかしデュエリストの中には、その1%の運を自らの味方に付けてしまう、すなわち強い引きを持った、いわゆる一つのカリスマ性とも言えるものを持った者が、ごく稀にいる。
 その引きは、99%の知性では片付けられない、生まれつき恵まれた、俗に言う天賦の才と呼ばれるものである。

「・・・魔法カード『エレメンタル・リレー』発動! 手札の『クラッチマン』を捨てる事で、デッキから2枚ドロー! ・・・本当はこの『クラッチマン』で、強力なヒーローを融合召喚したかったんだが、今はそんな事言ってる場合じゃないからな」

 そして、今カードを引いた栄一もまた、その天賦の才に恵まれたデュエリストの1人なのかもしれない・・・。

エレメンタル・リレー 通常魔法(オリジナル)
手札から「E・HERO」と名のついたモンスター1体を捨てて発動する。
自分のデッキからカードを2枚ドローする。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) クラッチマン ☆3(オリジナル)
闇 戦士族 効果 ATK1000 DEF800
このカードを融合素材モンスター1体の代わりにする事ができる。
その際、他の融合素材モンスターは正規のものでなければならない。
このカードを融合素材にして融合召喚されたモンスターは、攻撃力が500ポイントアップする。

「ここで手札増強のカード・・・。まだ運は残ってるみたいだな、栄一!」

 平賀の挑発も他所に、栄一はドローした2枚のカードを確認する。そして、その2枚のカードに、栄一はまだ勝機がある事を確信した。

「よしっ、いけるぞ! 俺は『E・HERO プリズマー』を攻撃表示で召喚!」

 栄一が1枚のカードをディスクにセットすると同時に、その名の通り全身がプリズムで出来たヒーロー『プリズマー』が、栄一のフィールドに現れる。

「だが今更、そんなモンスターを召喚してどうする?」

 確かに、『プリズマー』の攻撃力は1700。対する『虚無魔人』のそれは2400なので届かない。
 ただ召喚するだけでは、現状況では相手の追撃を一手凌ぐだけの壁にしかならないだろう。
 だが、栄一にはある秘策があった。『プリズマー』を使う事による、手札に眠る『バーニング・バスター』をこのターン中に呼ぶ秘策が・・・。

「『プリズマー』の特殊効果、相手に俺の融合モンスター1体を確認させる事で、そのモンスターに記された融合素材1体を墓地へ送り、エンドフェイズまでそのモンスター名を『プリズマー』は得る! 俺が選んだ融合モンスターは、『E・HERO ダーク・ブライトマン』! そして墓地へ送るモンスターは『E・HERO ネクロダークマン』! 『プリズマー』よ、『ネクロダークマン』の力を得よ! 『リフレクト・チェンジ』!」

 栄一の宣言と共に、栄一のフィールドにいるヒーロー『E・HERO プリズマー』は、その自らの体を発光させ、ホール全体を光で包む。
 その光が消えると、『プリズマー』であった存在は、赤い身体に骨のようなデザインをした鎧を身に纏った闇のヒーロー、『ネクロダークマン』へと姿を変えていた。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) プリズマー ☆4
光 戦士族 効果 ATK1700 DEF1100
自分のエクストラデッキに存在する融合モンスター1体を相手に見せ、
そのモンスターにカード名が記されている融合素材モンスター1体を
自分のデッキから墓地へ送って発動する。このカードはエンドフェイズ時
まで墓地へ送ったモンスターと同名カードとして扱う。
この効果は1ターンに1度しか使用できない。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) ネクロダークマン ☆5
闇 戦士族 効果 ATK1600 DEF1800
このカードが墓地に存在する限り1度だけ、
自分はレベル5以上の「E・HERO」と名のついた
モンスター1体をリリースなしで召喚する事ができる。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) ダーク・ブライトマン ☆6
闇 戦士族 融合・効果 ATK2000 DEF1000
「E・HERO スパークマン」+「E・HERO ネクロダークマン」
このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。
このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、
その守備力を攻撃力が超えていれば、
その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。
このカードは攻撃した場合、ダメージステップ
終了時に守備表示になる。このカードが破壊された場合、
相手フィールド上に存在するモンスター1体を選択して破壊する。

「・・・だが、特殊召喚が封じられた今、モンスター名を変更する為だけに通常召喚を放棄するのは自殺行為だぞ!」

「いや、俺の真の目的は・・・『ネクロダークマン』を墓地へ送る事! 魔法カード『二重召喚』! 俺はもう1度、通常召喚を許される!」

「え・・・? まさか、既にお前の手札には・・・」

「そうさ! コイツは既に、俺の手札で出番を待っている! 『ネクロダークマン』の効果により、リリースは必要なし! 来い、『E・HERO バーニング・バスター』!」

 瞬間、コートの周りを円を描くように炎が包み込み・・・やがてその炎は栄一の目の前の1点に集中し、熱き戦士の身体を形成していく。
 そしてその炎が炸裂した瞬間、中から現れたのは、灼熱のE・HERO(エレメンタルヒーロー)、栄一の絶対的切り札、『E・HERO(エレメンタルヒーロー) バーニング・バスター』である。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) バーニング・バスター ☆7(オリジナル)
炎 戦士族 効果 ATK2800 DEF2400
自分フィールド上に存在する戦士族モンスターが
戦闘またはカードの効果によって破壊され墓地へ送られた時、
手札からこのカードを特殊召喚する事ができる。
このカードが戦闘によってモンスターを破壊し墓地へ送った時、
破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。

二重召喚(デュアルサモン) 通常魔法
このターン自分は通常召喚を2回まで行う事ができる。

 ついに、栄一のフィールドに現れた、紅い鎧に全身を包んだ灼熱の戦士。
 そしてその身に纏った炎は、いつも以上に美しく、神々しく見えた。

「いけぇ、『バーニング・バスター』! 『虚無魔人』を攻撃しろ! 『バァァァニング・バーストォ』!」

 『バーニング・バスター』の右腕から現れた炎の球体。それは一瞬で成人男性1人分程の大きさまで膨れ上がる。

「ブレイクゥゥゥゥゥ、シュゥゥゥゥゥトォ!!!」

 そしてその右腕から放たれた球体は、平賀のフィールドの魔人を、一瞬にして飲み込んでいった。

「ぐわぁぁぁ!」

平賀:LP3200→LP2800

「さらに『バーニング・バスター』のモンスター効果! 戦闘で破壊したモンスターの、元々の攻撃力分のダメージを受けてもらう! 『レイジング・ダイナマイト』!」

 『虚無魔人』を倒した『バスター』はそのまま平賀の目の前に立ち、その身から発した熱のエネルギーによって、平賀の体を灼熱の炎で包んだ。

「2段攻撃!? ぐ、ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

平賀:LP2800→LP400

「そしてお前がダメージを受けた事によって、『ジェルエンデュオ』は破壊される!」

「ぐっ! しまったぁ!」

 平賀の体を焼き尽くした炎から、火の粉が飛び散り、2体の天使に触れる。瞬間、火の粉は勢いを増し、一瞬にして2体の天使を燃やし尽くした。
 そう。『ジェルエンデュオ』には、コントローラーがダメージを受けた時、その身を消滅させる効果が兼ね備えられていたのである。

「さらに、『プリズマー』・・・もとい『ネクロダークマン』で『シャドウキラー』を攻撃! 『ダーク・スクラッチ』!」

 逆転劇の仕上げ・・・それを司るように、『ネクロダークマン』は栄一の目前から『シャドウキラー』の真後ろへ瞬間移動(ワープ)のごとく立ち位置を変え、その右手の赤く鋭い爪で『シャドウキラー』の背中を斜めに切り裂いた。

平賀:LP400→LP100

「ターンエンドだ! 形勢逆転だぜ、平賀!」

 栄一のエンド宣言と共に、『ネクロダークマン』へと姿を変えていた『プリズマー』は、再び体を光らせ、その自らの姿へと戻った。

栄一LP2600
手札0枚
モンスターゾーンE・HERO プリズマー(攻撃表示:ATK1700)
E・HERO バーニング・バスター(攻撃表示:ATK2800)
魔法・罠ゾーンなし
平賀LP3200
手札3枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンなし





−観客席−

「凄い・・・。自らの十八番、特殊召喚を封じられてここまでのデュエルをするなんて・・・」

「さすが、あのマスターを追い詰めた事はある。多少のハンデは諸共しない、逆境になればなるほど強くなる・・・。それが、明石栄一という男!」

 栄一の思わぬ反撃に、新司も、流石の光も栄一を称えるしかなかった。・・・だが。

「確かに、ここまではさすが栄一と言ったところね。でも・・・」

 それでも光は、まだ安心する事はできなかった。
 同じオベリスクブルーの生徒、平賀悠二の恐ろしさを知っているから。

「なんだよ光? まだ何か不安があるのかよ?」

「まぁ、ね。実は平賀には・・・特殊召喚封じを超えた戦法が、まだ残されてるの」

「な、なんだって!? じゃあ平賀の奴は、まだ100%の力を出してないって言うのか?」

「・・・恐らく、ね」

「なんてこった・・・。栄一・・・」

 新司の見つめる先にいるのは、手元で小さくガッツポーズをとる栄一。
 だが、その栄一は、光と新司が感じている不安も、その不安がこれから現実になる事も、まだ気付く事ができないのであった・・・。










−デュエルコート−

「どうだ、平賀! 俺の『バスター』、そしてヒーロー達の結束の力は!」

 1ターン前の逆転劇に、完全に波に乗った栄一。発言にも、勢いがある。
 だが、そんな栄一の前に、こんな事は当然といった態度で平賀は栄一に言葉を返した。

「・・・オレの特殊召喚封じを破ったのは褒めてやる。だが、こんな事は計算の内だ」

「何!?」と驚嘆の声を上げる栄一も他所に、その赤黒い長髪をなびかせながら平賀は、さらに言葉を進めていく。

「オレは、お前のデュエルパターンを調査し尽くしている。『ネクロダークマン』の存在を、忘れてる筈が無いだろう? ・・・まぁさすがに、『ネクロダークマン』の墓地送りから『バスター』の召喚までを1ターンでやってのけたのには驚いたがな。・・・だが、オレの手札に眠るモンスターが呼び出された時、今度こそお前の敗北となるのだ!」

 そして勢いよく、平賀はデッキから1枚のカードを抜き取った。

「まずは速攻魔法『ご隠居の猛毒薬』で、オレのライフを1200ポイント回復する!」

隠居(いんきょ)猛毒薬(もうどくやく) 速攻魔法
次の効果から1つを選択して発動する。
●自分は1200ライフポイント回復する。
●相手ライフに800ポイントダメージを与える。

平賀:LP100→LP1300

「次にオレは、同じく速攻魔法『魔導書整理』を発動。オレはデッキの上からカードを3枚めくり、それらを好きな順番で戻す!」

「この状況で、カードの順番を入れ替える・・・だと?」

 栄一は戸惑った。この状況で、次のドローカードを操作するカードの使用、それが珍しく映ったのである。
 故に、今、平賀のやろうとしている事を、栄一は読む事ができなかった。

 この平賀のプレイングは、栄一を絶望に陥れる前準備だという事にも、勿論気付いてはいなかった。

魔導書整理(まどうしょせいり) 速攻魔法
自分のデッキの上から3枚カードを
めくり好きな順番でデッキの上に戻す。
相手はそのカードを確認できない。

 デッキの上から3枚のカードを手に取り、それらを眺める平賀。
 一瞬の沈黙が流れた後、平賀の口元が不気味な笑みを浮かべ始めた。

「フフフ・・・ハハハハハハ!」

 そしてその笑みは、徐々にホールのあちこちから聞こえる歓声をも消すほどの高笑いへと変貌していく。

「栄一! やはり勝利の女神はオレに微笑むようだ! 確かに、今のターンの逆転劇を呼んだお前の引きの強さ、中々のものだ。だが、その強さはどうやら、オレも持っていたようだな・・・」

 そう言いつつ、3枚のカードの順番を入れ替え、再びデッキへと差し込む平賀。
 平賀の言葉と行動に不審を覚えつつある栄一だが、平賀が次に手に取った1枚のカードが、栄一の平賀に対する思いを、不審から恐怖へと一瞬にして変えた。

「オレは、墓地の『虚無魔人』『シャドウキラー』『ニュードリュア』『ジェルエンデュオ』の4体をゲームから除外する事で、手札に眠る『虚無』の申し子を呼び出す!」

「墓地のモンスターを4体も除外!? ・・・その召喚方法は、まさか!?」

 この特殊な召喚条件。それが、栄一の心を不審から恐怖へと変えた正体。
 栄一は、平賀が召喚しようとしているモンスターの正体に気が付き、その顔を顰めた。

「『天魔神 ノーレラス』を特殊召喚!」

 平賀の墓地の、3体の悪魔の魂と、1体の天使の魂を吸収し、平賀の目の前に舞い降りた、全身を黒で包む『天魔神』。
 その身から出される威圧感は、まさしく『魔神』そのものであった。

「『ノーレラス』の効果、それはオレのライフ1000と引き換えに、お互いのフィールド、そして手札を全て無に帰す事! そしてその無から、オレに新たな命、すなわち1枚のカードを授ける事! ・・・全ての生命を消滅させる力、それこそまさしく『虚無』!」

「『猛毒薬』でライフを回復したのは、『ノーレラス』の効果の発動条件を満たす為、『魔導書整理』でカードの順番を入れ替えたのは、『ノーレラス』の効果をより確実にする為だったのか!?」

「今頃気付いても遅いぞ、栄一! さらに装備魔法『宝玉の剣』を『ノーレラス』に装備する!」

 黒の仮面の下で、何を思うか『虚無』の申し子。その申し子の右手元に、1つの宝石が埋め込まれた剣が現れる。
 『虚無』の申し子は勿論、その剣を手に掴む。

天魔神(てんましん) ノーレラス ☆8
闇 悪魔族 効果 ATK2400 DEF1500
このカードは通常召喚できない。自分の墓地の光属性・天使族モンスター1体と
闇属性・悪魔族モンスター3体をゲームから除外した場合のみ特殊召喚する事ができる。
1000ライフポイントを払う事で、お互いの手札とフィールド上のカードを全て墓地へ送り、
自分のデッキからカードを1枚ドローする。

宝玉(ほうぎょく)(つるぎ) 装備魔法(アニメGXオリジナル)
装備モンスターの攻撃力は300ポイントアップする。
このカードがフィールド上から墓地に送られた時、
自分はデッキからカードを1枚ドローする。

天魔神 ノーレラス:ATK2400→ATK2700

「これで準備は整った! 『虚無』の申し子よ! 全てを無に帰せ! 『終焉の角笛 ギャラルホルン』!」

 平賀が宣言した瞬間、『ノーレラス』の黒く巨大な体が溶け、『ノーレラス』の立っていたその足場に、黒い水溜りのようなものが出来上がる。
 そしてそれは、徐々に範囲を広げて行き、フィールド上に立つ全ての生命を飲み込んでいく。


 ・・・当然、栄一のフィールドの『バーニング・バスター』も。

平賀:LP1300→LP300

「くっ、『バスター』・・・」





 この瞬間であった。胸の奥の方で、自分を支えていた何かが、音をたてて崩れ去っていくのを、栄一ははっきりと感じた。
 その瞬間、今までの勢いが嘘であったかのように、急激に栄一の顔が青ざめていき、両の膝がガクガクと震え始める。

「そしてオレは『ノーレラス』と『宝玉の剣』の効果によって2枚ドローする。そしてこの2枚のカードが、お前を敗北に導くカードだ! 魔法カード『埋葬されし生け贄』発動!」

「『埋葬されし生け贄』?」

 それは・・・栄一の初めて見る魔法カード。
 そしてそのカードの名は、どう考えてもとんでもない力を持つカードであると、栄一の本能が叫んでいた。

「このカードはモンスターをアドバンス召喚する時、フィールドのモンスターの代わりに、お互いの墓地のモンスターを除外する事で、アドバンス召喚を行えるカード・・・。この効果により、俺の墓地の『クリッター』と、お前の墓地の『バーニング・バスター』を除外し、『虚無の統括者(ヴァニティー・ルーラー)』をアドバンス召喚する!」

「!? ・・・・・・『バスター』!」

 2人の墓地から、『クリッター』と『バーニング・バスター』の魂が抜け、それらは天へと昇っていく・・・。
 そしてそれらが光となって消えた瞬間、天から、白く長いマントに身を包んだ、その名に『虚無』を持つ天使が、平賀の目の前へと舞い降りた。
 彼女の力は、先ほどまで平賀のフィールドに存在した魔人をも上回る。
 魔人も持っていた、「特殊召喚を封じる効果」を相手プレイヤーだけに行使するのである。

虚無の統括者(ヴァニティー・ルーラー) ☆8
光 天使族 効果 ATK2500 DEF1600
このカードは特殊召喚できない。
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
相手はモンスターを特殊召喚する事ができない。

埋葬(まいそう)されし()(にえ) 通常魔法(アニメDMオリジナル)
自分と相手の墓地からモンスターカードを1枚ずつゲームから除外して発動する。
このターン自分はレベル5以上のモンスター1体をリリースなしで通常召喚する事ができる。

「あ、ああぁ・・・」


 『虚無』の名を持つ、天使の姿をした絶望の降臨。


 絶対的存在である『バスター』が天に召された、という事実。


 それらは、栄一に虚無感を与えるのに十分すぎた。





−観客席−

「・・・現れたか。『孤独な王(Lonely King)』の孤独への恐怖。・・・そして『バーニング・バスター』依存症が」

 栄一の心の移り変わりを、チンクも観客席で見守り続けていた。
 あの誘拐犯とのデュエルの時に垣間見せた、栄一の弱い心・・・。それが間違いではなかった事を、チンクは今ここに確信したのである。

「さぁ、我らが『孤独な王(Lonely King)』よ。この現実をどう受け止め、そして乗り越えてゆく?」

 目的の人物が見つからない中での、突然の収穫。その大きな収穫に、チンクはニヤリと笑みを浮かべた。





−再びデュエルコート−

 反則級の力を秘めた、墓地に眠りし魂を強引に起こすカード。そして、逆転のキーとなる特殊召喚を封じる『虚無』の天使。
 この2枚の力によって栄一は、ほぼ完全に詰まれたと言っても過言ではない状況に陥ってしまったのである。
 それに加えて、『バスター』の力を借りる事ができなくなってしまったという事実が、栄一をさらに絶望へと追いたてていた。

「喰らえ、『虚無』の名を持つ天使の洗礼を! 『ヴァニティー・バプティズム』!」

 大地を蹴り、宙を舞う『虚無』の天使。
 彼女がその身に着けたマントを広げた瞬間、目を眩ますほど眩しい光が、ホール全体を包み込む。
 そしてその強烈な光は、栄一のライフだけではない、戦う気力すらも奪っていったのだった・・・。

栄一:LP2600→LP100

栄一LP100
手札0枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンなし
平賀LP300
手札0枚
モンスターゾーン虚無の統括者(攻撃表示:ATK2500)
魔法・罠ゾーンなし

「ターンエンド・・・。怯えているな、栄一?」

 自らのターンを終えた平賀が、突如、その場で震える栄一に声をかけた。

「何・・・どういう事だ!?」

 まるでこの世の終わりを見たかのような顔で、平賀に答える栄一。それを見て平賀は、先ほどまでの軽く挑発めいた口調とは打って変わって、冷静な口調で栄一に問いかけ始めた。

「いいか、栄一? オレの耳に入ってくるお前についての話は、『あの遊城十代の再来』といったように、お前を英雄扱いするような話ばかり。まるで漫画の主人公みたいに、全てに打ち勝つ勇気を持ち、どんな逆境をも跳ね除け、勝利を導く・・・。まさしくヒーロー、そんなデュエリストの話ばかりだった。でも今のお前には、噂に聞く勇気は甚だ見られない・・・。・・・栄一、お前まだ気付いてなかったのか?」

「何、何にだ?」

 平賀の発言に、栄一の心が徐々に、明らかな恐怖、そして絶望によって侵食されていく。
 そして平賀が次に発した言葉が、栄一の恐怖を決定付ける一言となる。

「・・・お前、デュエルの全てを『バスター』に頼っているだろ? だから『バスター』がやられる事に抵抗があったのさ。・・・『ノーレラス』によって『バスター』が失われる事に、恐怖を感じていたのさ。だから、『バスター』を失った今のお前は、その現実となった恐怖に襲われている。・・・違うか?」

「・・・」

 平賀のとどめの言葉に、栄一は下を向いて無言を貫いた。

 平賀の言葉は、全て図星であった。
 栄一の脳裏に、今と似たような状況・・・そう、俊介を攫った誘拐犯との、あのデュエルが思い浮かぶ。




「・・・なーんて。怒りで我を忘れてる奴ほど、やりやすい相手はいないぜ! トラップカード『イクイップ・シュート』! コイツは、オレのモンスターに装備された装備カードを相手モンスターに装備させ、再度戦闘を行なわせるカード! オレが選ぶ装備カードは『流星の弓−シール』! そしてオレが選ぶモンスターは当然、『バーニング・バスター』・・・」

「な、なにー!?」



「(俊介・・・。俺には、お前を助ける事ができないのか・・・。どうしたらいいんだ・・・)」



「(『バーニング・バスター』・・・。だけど、お前を失った今、俺はどうしたらいいんだ・・・?)」




 あの時の栄一は、『バスター』がやられたのと同時に、その勢いを崩していた。
 その後は、突如謎の男が聞こえてきた瞬間、どこからか込み上がって来る怒りに、我を忘れてしまったのか、気付いた時にはいつの間にか、自らの勝利によってデュエルを終わらせていたが・・・。

「確かに・・・。あの時俺は、『バスター』がやられたと同時に、一気に崩れていってしまった。デュエルそのものだけじゃない、俺の心の余裕、そして何かを守らなければという心も・・・、それすらも一緒に崩してしまった・・・。『バーニング・バスター』・・・、アカデミアの恐ろしさに打ち勝つ為に、智兄ちゃんに謝って、借りた力・・・。この力は、使い始めると同時に、俺の精神的支柱になっていた・・・。あのデュエルの時も・・・」

「お前のデュエルを調査し尽くしたオレだから言える。・・・『バスター』がいないお前に、勝機がある訳がない!」

「(黒田先生が言っていた事って、もしかしてこういう事だったのかな・・・? 「どんな状況に陥っても、それに負けない勇気」・・・って?)」

 以前栄一は、このアカデミアという巨大な存在に打ち勝つ為に、智から与えられた『バーニング・バスター』の封印を解いた、と自ら話していた。
 事実、『バスター』のまさしくヒーローと言うに相応しい能力は強く逞しく、栄一がデュエルをしていく中での心の支えとなっていった。

 だが同時に、それは栄一が『バスター』に甘えているという事の裏返しでもあった。
 平賀は、栄一のデュエルを何度も見、研究しているうちに、それを確信していたのである。
 『バスター』と共に戦ってきた栄一にとって、平賀の今の言葉は痛烈なものであり、「確かに、このままでいいのか?」と感じさせてしまう一言なのであった。

「俺は、俺は・・・」

 栄一は悩んだ。その事について、今まで何も思っていなかった栄一の心の中で、それが突然葛藤し始めたのである。

「俺は・・・・・・」





−観客席−

「ダメ。アイツ、完全に弱気になってるわ・・・」

「確かに『バスター』はアイツのデッキの象徴・・・。それが敗れたんだ。弱気になるのは分かる、分かるけど・・・」

 どうしようもない。ただデュエルを見て、栄一の勝利を祈る事しか出来ない・・・。そんな新司と光の前に・・・

「・・・支柱が折れただけで、家全てが潰れてしまう・・・。そんなへこたれたデュエルは教えていないはずだよ、栄一君」

 1人の長身の男性が、後ろから現れた。

「「黒田先生!」」

 男性の正体、それは黒田先生であった。

「(象徴を失っただけで、心まで折れてしまうなら、私が教えた『守る為のデュエル』は実践できないよ。君は、こんな所で堕ちるデュエリストでは無い筈だ、栄一君・・・)」





−デュエルコート−

「さぁ、お前のターンだ、栄一! それともサレンダーか?」

 その平賀の言葉に、栄一は俯きながら、デッキに右手をかける。

 サレンダーの為ではない。カードをドローする為である。
 一瞬、平賀の言う通りに、構えた右手をそのままデッキの上に乗せてしまいそうになったが、栄一の心の中の何かが、ギリギリのところでそれを止めさせたのである。

「・・・ドロー」

「・・・まだ、ドローする気力だけはあるか」

 平賀の言葉も他所に、栄一はドローしたカードを確認し、それをディスクに静かに置いた。

「魔法カード『ホープ・オブ・フィフス』を発動。墓地の『クレイマン』『フェザーマン』『スパークマン』『ネクロダークマン』『プリズマー』の5体をデッキに戻し、デッキをシャッフル」

ホープ・オブ・フィフス 通常魔法
自分の墓地に存在する「E・HERO」と名のついたカードを5枚選択し、
デッキに加えてシャッフルする。その後、自分のデッキからカードを2枚ドローする。
このカードの発動時に自分フィールド上及び手札に
他のカードが存在しない場合はカードを3枚ドローする。

 栄一の墓地から、彼と共に闘った5体のヒーローのカードが姿を現す。
 栄一はそれらを右手に持ち、自分のデッキに加え、デッキをシャッフルする。

「そして俺は、カードを3枚ドローする」

 栄一は、これからカードをドローする右手に、力を入れる。
 緊張しているのか? 右手が、いや栄一の体中が震えているようにも見えた。

「・・・この3枚に、俺の全てが懸かっている。・・・・・・・・・ドロー!





 栄一のドローと共に、場内に一瞬、沈黙が流れる。





「・・・それでも俺は、『バスター』に頼るしかないみたいだ」

 ドローした3枚を、確認した栄一。つぶやくように言葉を発し、そして1枚のカードを、ディスクに差し込んだ。

「魔法カード『戦士の忘れ形見(メメント・オブ・バスター)』。『バスター』がフィールド上を離れた次のターンに発動可能で、相手の墓地に存在する通常魔法1枚の効果を、このカードは得る」

オレの墓地に存在する通常魔法・・・。まさか!?」

 平賀の脳裏に1枚のカードが浮かんだ。
 特殊召喚を封じられたこの状況で、栄一が欲するであろうカード。それが今、平賀の墓地に存在したのである。

「お前の墓地の『埋葬されし生け贄』を選択! お前の墓地から『天魔神 ノーレラス』、俺の墓地から『クラッチマン』を除外し、レベル5の『E・HERO スプラッシャー』を召喚する!」

「特殊召喚を封じられた状況で、オレのカードを利用してモンスターを召喚するだとぉ!?」

 平賀の墓地を抜け出し、天へと昇り行く『虚無』の申し子、『ノーレラス』。
 その黒き「悪魔」に僅かに残された「天使」の面影が、天高くで光となり、そして拡散する。
 瞬間、新たなるヒーロー、全身を川のように水が流れる、水を操りし戦士『スプラッシャー』が、天から舞い降りた。

戦士の忘れ形見(メメント・オブ・バスター) 通常魔法(オリジナル)
「E・HERO バーニング・バスター」が自分フィールド上を離れた次のターンに、
相手の墓地に存在する通常魔法カード1枚を選択して発動する。
このカードの効果は選択した通常魔法カードの効果と同じになる。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) スプラッシャー ☆5(オリジナル)
水 水族 通常 ATK2300 DEF1500
激しい水の流れをも操る、水のE・HERO。
その水の猛撃は、どんなに堅い悪をも貫く。

「攻撃力2300か。僅かながら『虚無の統括者(ヴァニティー・ルーラー)』には届かない・・・。どうするつもりだ?」

 栄一の思わぬプレイングに、一瞬冷や汗を流した平賀だったが、『スプラッシャー』の攻撃力に胸を撫で下ろして安堵感を得た。





 ・・・・・・しかし、忘れてはいけない。栄一にはまだ、手札が1枚残っている事を。

「・・・フィールド魔法『スカイスクレイパー』。その効果により、『E・HERO』が自らより攻撃力が高いモンスターを攻撃する時、その攻撃力は1000ポイントアップする」

「・・・えっ!?」

 栄一がディスクに『スカイスクレイパー』のカードをセットすると同時に、デュエルコートは大きく震え、たちまち高層ビルが建ち並び、星が浮かぶ夜の摩天楼へと様変わりしていく。
 そして、そのビルの最頂点に、水の戦士、『スプラッシャー』が両腕を組んで姿を現す。

「『スカイスクレイパー』・・・だと!? ・・・この状況で、引いたと言うのか!?」

摩天楼(まてんろう) −スカイスクレイパー− フィールド魔法
「E・HERO」と名のつくモンスターが攻撃する時、
攻撃モンスターの攻撃力が攻撃対象モンスターの攻撃力よりも低い場合、
攻撃モンスターの攻撃力はダメージ計算時のみ1000ポイントアップする。

「・・・『虚無の統括者(ヴァニティー・ルーラー)』の攻撃力は2500。『スプラッシャー』の攻撃力は2300。そしてオレのライフは・・・」

平賀:LP300

 無駄な抵抗ではあった。しかし平賀は、一種の防衛本能の行使、もしくは現実逃避を、自らも気付かぬうちに行っているのだろうか?フィールドの状況・・・虚無の天使と水の戦士の力の比較、自らの残りライフ、そして、摩天楼の効果を復唱する。

「『スプラッシャー』で、『虚無の統括者(ヴァニティー・ルーラー)』を攻撃! この瞬間、『スプラッシャー』の攻撃力は1000ポイントアップ! 『スカイスクレイパー・スプラッシュ・ポール・クラッシュ』!」

E・HERO スプラッシャー:ATK2300→ATK3300

 『スプラッシャー』はビルの頂上から勢いよく飛び降りると、地面に衝突する寸前にその右腕を激しく地面に叩き付ける。
 すると、デュエルコート上の至る場所に皹が入り、そこから勢いある水の柱が何本も飛び出した。
 そしてその何本もの水の柱によって、虚無の天使は激しく叩かれ、宙に放り投げられる・・・。



「オレの『虚無の統括者(ヴァニティー・ルーラー)』が・・・。完璧な、オレの『虚無デッキ』が・・・」

 勝利を確信していた平賀が、小さく呟く。

 『虚無』をその名に持つ誇り高き天使は、月明かり眩しい摩天楼の夜空に散っていった・・・。

平賀:LP300→LP0




第23話 −女の戦い 意外な強敵手−



「決勝トーナメント1回戦第1試合の勝者は、シニョール栄一に決まったノーネ!」



 ワァーーーーーーーーーーーーー!



 死闘の決着は着いた。
 自らの声を最大にして叫ぶクロノス教諭。そして、今終わったデュエルに興奮する観客席の生徒達・・・。
 ホール内のボルテージは最高潮であった。



−観客席−

「栄一!」

「やったわね!」

 デュエルを終え、観客席へと姿を現した栄一。その栄一の下へ、新司と光がやって来て、彼の奇跡の逆転勝利を祝福し始めた。
 だが、2人の祝福に対して栄一は、少し間を置いた後、軽く「ああ」と返すに留まった。


「・・・栄一君」

 そんな栄一の目の前に現れたのは、黒田先生。しかし彼は、栄一を呼びかけただけで、その後は何も語ろうとしない。
 ・・・それによって、2人の間には沈黙が生まれ、新司と光を含めた4人の間には緊張が走る。


「黒田、先生・・・俺は、俺は・・・・・・」

 ようやく口を開くも、どう言えばいいのか分からない栄一。口を濁すばかりの発言を続ける。
 それに対して黒田先生は・・・

「・・・君自身で考えるんだね」

 その一言だけを残して、その場を去っていった。
 栄一は彼を呼び止める事もできず、ただその後ろ姿を見つめるしかなかった。


「栄一、黒田先生と何かあったのか?」

 このやり取りを不思議に思った新司が、栄一に声をかける。

「ん・・・? あぁ、いやぁ別に・・・。なんでもないよ」

「そうか・・・」

 新司の問いかけに、栄一は誤魔化すように返答する。勿論、新司はそれを見逃さない・・・。
 だが、尋ね辛い雰囲気でもあったせいか、栄一の返答に多少の不安と疑問を覚えながらも、新司はその不安も疑問も口に出さず、心の奥に閉じ込めた。

「・・・さぁて! 栄一も無事勝ったし、次はワタシの出番ね! じゃ、早速行って来るわ!」

 多少暗いその場の空気。それを見るに見かねた光が、いつも以上にデカい声を出して、その場を盛り上げようとする。

「あ、あぁ。頑張って来いよ」

 その態度に多少ビビッたのか、新司は軽く引きながら光にハッパをかけた。
 勿論その新司の態度を、光は見逃さない。

「新司、栄一の時と見送り方がビミョーに違うわね・・・。そんなにワタシが不安とでも?」

「い、いやぁ、そういう訳じゃ・・・」

「ったく! じゃあ行って来るわね!」

 だが、時間が迫っている事もあり、煩わしい気分が残りつつも、光はデュエルコートへと向かって行く。
 新司は軽く嫌な汗をかきながらも、それを見送った。

 栄一が、光の見送りもせずにただその場で突っ立っているのにも気付かずに。










−観客席別の場所−

 他の生徒が盛り上がっている最中、宇宙はただ1人、無言でデュエルコートを見つめ続けていた。

「・・・どうやら、栄一が勝ったみたいだね」

 後ろから聞こえた男の声に振り向いた、宇宙の視線の先にいるのは、護であった。

「よう、おはようさん。遅かったな。もう栄一のデュエル終わったぞ」

 宇宙と護が今日会ったのは、これが最初。宇宙は、護へと軽く挨拶した。

「悪い。支度したらすぐ来るつもりだったんだが・・・部屋が軽く荒らされていたんでね」

 宇宙の挨拶に対して、護はトンでもない事をサラッと言い放った。
 荒らされている=侵入者があった・・・すぐにそう直結できる、極めて重大な出来事の筈なのに、それを護はアッサリと説明したのである(一応、周囲の人間には聞こえないように小声で話してはいる)。

「倉庫を見たら『しゅ○キャラ!』の3巻と4巻の順番が逆になっていてね・・・。それで・・・」

「ちょっと待て、漫画のタイトルとか聞いてないから。別にオレはオタクじゃないぞ。それに、そんな重大な話をサラッとしないでくれ。話に追いつけない」

 話を続ける護の口を、宇宙がツッコミながら強引に防ぐ。
 そして、自分自身と護を少し落ち着かせた後・・・

「・・・で、あの場所はどうだった?」

 宇宙は、周囲の人々に聞こえない程度の声で、護に本題を尋ねた。

「いや・・・別段変わりはなかった。何時間か見張っていたけど、気配すらしなかったよ・・・」

 護もまた、小さな声で宇宙に言葉を返す。
 その護の言葉を聞いて、宇宙はとある点に気付いた。

「で、部屋に戻ったら倉庫が弄られていた・・・。それってお前、また寝てないんじゃないか?」

「あ、あぁ・・・そうだけど? まぁでも、こんなの小学生の時からだし、別にたいした事はないよ」

 護はやけに簡単に喋るが、その中身はどれも重い物ばかりである。
 だが宇宙は、こういう点に関しては護は何を言っても聞かない事を知っているので、それに対して咎める事はしなかった。それとなく、タイムリーな話題へと切り替える。

「ところでだ護。ただの直感での意見だが、オレの見る限りは栄一も平賀もシロだ。シロであってほしい・・・」

「大丈夫。あの2人はシロで間違いないよ。栄一は勿論、平賀君もさっきたまたますれ違った時に確認した」

 護の言葉に嘘は無かった。事実、すれ違った時に感じた平賀の「気」。
 彼は(こうべ)を垂れて落ち込んでいた。だがそれに、何かの「悪意」のようなものは見て取れなかったのである。

「頼もしい。さすが水原護だ。見る目がある」

 そして宇宙もまた、護の発言に嘘は無い事を確信した。
 このアカデミアで3年間付き合ってきたのである。護が嘘をついていたら、それくらい宇宙にはすぐ分かるのである。
 そして2人が会話している間に、デュエルコートの中央には既に光と明子、両名がスタンバイしていた。
 それを見て宇宙が、再び護に問いかける。

「という訳でだ・・・。そのお前の「目」で見る限りでは、次の対戦カード、光君と吉野君に、何か感じる事はあるか?」

「今のところは特に・・・。だが・・・」

 光と明子、両名を見る限りでは、特に危険な「気」は感じない。にも関わらず、話している途中で口篭る護。
 不思議に思った宇宙が、三度尋ねる。

「だが・・・? どうした? 何かあったのか?」

「だが・・・、あの北条君から、何か別のエネルギーを感じるな・・・。それも、見た事あるエネルギー・・・。おそらく、僕のプロ時代に1度・・・」

「プロ時代に? この前の歓迎タッグの時には見えなかったのか?」

「ああ・・・。観客席から見ていたその時には、何も感じなかった。今初めて感じたよ(・・・あの人が言っていた事、それが本当なら・・・)」

 そう言う護には、光の後ろに何か巨大な・・・、強いて言えば、光に満ちた龍の様なものの姿が見えていた・・・。





−デュエルコート−


「アンタ、ペアデュエルでマスターの足引っ張って以来『歩くドジ要素』とか言われてたわよね・・・。よく勝ち上がってきたわね・・・」

 光が、目を細めながら明子を貶す。これでも、彼女は軽く言ったつもりである。「彼女は」。
 だが、『歩く萌え要素』等なら言われて光栄な事もあるかもしれないが、『歩くドジ要素』と言われて嬉々とした反応を示す人間は・・・そうはいない。
 勿論、明子もその内の1人である。

「うっ、うるさいわね! ちゃんとデュエルできれば、私だって強いのよ! 舐めてもらっちゃ困るわ!」

 光の挑発じみた言葉に、顔を少し赤くしながら応える明子。その声は中々に大きい。歓声が中和される程だ。
 ・・・それはすなわち、女の野次り合いが、観客席にまで響いている事を意味する。

「まぁ、勝つのはワタシよ。ここで勝って、一気に優勝まで上り詰めてやるわ」

 そんな明子も他所に、堂々の勝利宣言しながらデッキを明子に手渡す光。顔からも、そして光の周囲からも自信が湧き出ている。

「舐めてたら、イタイ目に遭うわよ・・・」

 対する明子も負けてはいない。光にデッキを手渡す動作が力強い。かなりの自信が見て取れる。





−観客席−

「なんかあの2人、スゲェ怖くないか? 栄一は何も感じないのかよ?」

「ん、ああ別に・・・」

 2人の女の醜い口喧嘩に、戦慄する新司。まだこんなもの、これから始まる戦争の序章にすぎないというのに・・・。
 だが、対する栄一は、目の前の手すりに顔をつき、目を細めながらボーっとデュエルコートを見ていた。

「スッゲェマイペースな奴だな、お前・・・」

「んん・・・」

 栄一の態度に、今更ながら呆れる新司であった。
 栄一が、ただマイペースという事でこのような態度を示している事には気付かずに。





「決勝トーナメント1回戦第2試合、北条光vs吉野明子、デュエル開始ナノーネ!」

 会場内に、クロノス教諭の開始宣言が響き渡る。
 それと同時に光と明子、両デュエリストがデュエルディスクを起動させ、右手でデッキから5枚のカードを引き、左手に持ち替えた後それらを手札にする。

「「デュエル!」」

明子:LP4000
光:LP4000

 乙女のプライドを賭けたデュエルが、今始まった。先攻は明子である。

「私のターン、ドロー! モンスターを1体と、カードを1枚セットして、ターンエンド!」

 明子は、ドローしたカードを手札に加えると、すぐさま手札の別の2枚のカードを選択して、デュエルディスクにセットする。
 それによってフィールドに2枚のカードが伏せられた事を確認すると、すぐに明子は自らのターンを終えた。

明子LP4000
手札4枚
モンスターゾーン裏側守備表示モンスター
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
LP4000
手札5枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンなし

「ワタシのターン、ドロー!(あの伏せモンスター、おそらくは・・・)」

 そして、光のターン。
 素早くターンを終わらせた明子を見る光の脳裏に、歓迎タッグデュエル大会での明子のプレイングが過ぎる。



「ハッハイ! えーと、『マシュマロン』を攻撃表示で召喚!」



「(『マシュマロン』よね・・・? なら・・・)ワタシもモンスターを1体とカードを1枚セット、ターンエンドよ!」

 光も、明子と同じく何の躊躇も無く2枚のカードをデュエルディスクにセットして、ターンを終える。

明子LP4000
手札4枚
モンスターゾーン裏側守備表示モンスター
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
LP4000
手札4枚
モンスターゾーン裏側守備表示モンスター
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚

「私のターン、さらにモンスターを1体セット、ターンエンド!」

 明子は、またもやカードを伏せただけで、そのターンを終えた。
 前回の栄一vs平賀同様、カードのセットのし合い。・・・静かな、だが素早く流れるデュエルの幕開けである。

明子LP4000
手札4枚
モンスターゾーン裏側守備表示モンスター
裏側守備表示モンスター
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
LP4000
手札4枚
モンスターゾーン裏側守備表示モンスター
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚

「(モンスターをセットしてばっかり・・・、守りに入ってるわね。なら・・・)ワタシのターン! ドロー!」

 光は、今ドローしたカードをすぐに左手に持ち直し、ディスクにセットされたモンスターを裏返した。
 瞬間、光のフィールドに、両後ろ足と胴体付近に鎧を纏った、白き犬が現れる。

「リバースモンスター『ライトロード・ハンター ライコウ』! このモンスターは、フィールド上のカードを1枚破壊し、デッキからカードを3枚墓地へ送る効果があるわ。行くのよ『ライコウ』! 対象は、明子が最初のターンに伏せたモンスター!」

ライトロード・ハンター ライコウ ☆2
光 獣族 効果 ATK200 DEF100
リバース:フィールド上のカードを1枚破壊する事ができる。
自分のデッキの上からカードを3枚墓地に送る。

 光の命に応え、フィールドに現れた白き犬『ライコウ』は、明子のフィールドに伏せられた1枚のカードに飛び掛り、それを一撃で踏み潰した。
 『ライコウ』に圧し掛かられる瞬間に、その姿を現したのは・・・

マシュマロン ☆3
光 天使族 効果 ATK300 DEF500
フィールド上に裏側表示で存在するこのカードを
攻撃したモンスターのコントローラーは、
ダメージ計算後に1000ポイントダメージを受ける。
このカードは戦闘では破壊されない。

 光の予想した通り、ズバリマシュマロに命が宿ったようなモンスター、『マシュマロン』であった。

「あぁ、私の『マシュマロン』が・・・」

「やっぱり『マシュマロン』だったのね。『ライコウ』の更なる効果により、ワタシはデッキからカードを3枚墓地へ送るわ!」

墓地に送ったカード:
『ライトロード・プリースト ジェニス』
『ライトロード・ハンター ライコウ』
『ライトロード・マジシャン ライラ』

「そしてフィールドの『ライコウ』をリリースして、『光帝クライス』をアドバンス召喚! 攻撃表示よ!」

 光のフィールドから『マシュマロン』を破壊した白き犬が姿を消し、代わって全身を光で染めた巨大な戦士が1人、現れた。
 デュエルモンスターズの中でも、特に強力な効果を持つモンスター群、『帝』の文字をその名に持つモンスターのうちの1体。
 『光の帝』・・・『光帝クライス』である。

「『クライス』の効果! このカードの召喚・特殊召喚に成功した時、フィールド上のカードを2枚まで破壊する事ができ、破壊したカードのコントローラーは、破壊されたカードの数だけカードをドローできる! 『ブリリアント・レイ』!」

 『クライス』が両腕を胸の前で構えると、その間に1つの眩い光の球体が発生する。飲み込んだものを、問答無用で消し去る光の球である。
 だがそのタイミングに合わせて、明子がフィールドに伏せられたカードを発動させる。

「くっ、リバースカード『和睦の使者』! この効果によって、このターン発生する私への戦闘ダメージは全て0!」

 『和睦の使者』の効果によって、明子のフィールド上に何人もの使者である女性が現れる。
 だが、彼女達はすぐさま、『クライス』の放った光の球体に、伏せられていた天使のモンスターと共に飲み込まれ、消滅していった。

光帝(こうてい)クライス ☆6
光 戦士族 効果 ATK2400 DEF1000
このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、
フィールド上に存在するカードを2枚まで破壊する事ができる。
破壊されたカードのコントローラーは、破壊された数だけ
デッキからカードをドローする事ができる。
このカードは召喚・特殊召喚したターンには攻撃する事ができない。

破壊されたカード:
『和睦の使者』
『シャインエンジェル』

和睦(わぼく)使者(ししゃ) 通常罠
このカードを発動したターン、相手モンスターから受ける全ての戦闘ダメージを0にする。
このターン自分のモンスターは戦闘では破壊されない。

シャインエンジェル ☆4
光 天使族 効果 ATK1400 DEF800
このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、
自分のデッキから攻撃力1500以下の光属性モンスター1体を
自分フィールド上に表側攻撃表示で特殊召喚する事ができる。

 和平の使者達は葬り去られた。だが、チェーンの関係によってこのターンの和平は成立。光がバトルフェイズを行う事は、それほど意味が無い物となった。
 そして・・・

「私のフィールド上のカードが2枚破壊された事によって、私はデッキからカードを2枚ドローする」

「このターンの戦闘はほぼ意味なし・・・。でも、元々ワタシの『クライス』は召喚ターンには攻撃できないの。カードを1枚セットして、ターンエンド」

 明子の『和睦の使者』の発動にも、平然としつつターンを終了させる光。
 召喚ターン『クライス』は攻撃できない為、『和睦の使者』も意味が無いのだ。

明子LP4000
手札6枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンなし
LP4000
手札3枚
モンスターゾーン光帝クライス(攻撃表示:ATK2400)
魔法・罠ゾーンリバースカード2枚

「私のターン、ドロー」

 明子は、ドローしたカードを確認し、そのカードを左手に持つ手札に加える。そして、誇らしげに光に話しかけた。

「あなたを倒すカードは揃ったわ! そろそろ本気でいくわよ!」

 そう言うと明子は、今ドローして手札に加えたばかりのカードに手をかける。

「(何!? 何が来るの!?)」

 明子の自信満々な態度に、光は少し怯んでしまう。

「まずは永続魔法『神の居城−ヴァルハラ』を発動する!」

 明子が魔法・(トラップ)ゾーンに、『ヴァルハラ』のカードを差し込んだ瞬間、明子のフィールド上に、かつて神々が、最終戦争「ラグナロク」の日に備え、戦や宴が行われたという神秘の宮殿が現れた。

(かみ)居城(きょじょう)−ヴァルハラ 永続魔法
自分フィールド上にモンスターが存在しない場合、
手札から天使族モンスター1体を特殊召喚する事ができる。
この効果は1ターンに1度しか使用できない。

「私のフィールドにモンスターは存在しない。よって『ヴァルハラ』の効果により、私は手札から『守護天使 ジャンヌ』を攻撃表示で特殊召喚!」

 神々の集いし宮殿。そこから、その身に鎧を纏った、まさに「神秘的」という言葉が相応しい1人の女性が姿を見せた。
 彼女から発せられる光が、周辺を眩しくする。

守護天使(ガーディアンエンジェル) ジャンヌ ☆7
光 天使族 効果 ATK2800 DEF2000
このカードが戦闘によってモンスターを破壊し墓地へ送った時、
破壊したモンスターの元々の攻撃力分だけ、自分のライフポイントを回復する。

「さらに『コーリング・ノヴァ』を攻撃表示で召喚し、魔法カード『強制転移』を発動!」

「え・・・ちょ・・・まさか!?」

 続いて明子のフィールドに現れるは、破壊されてもデッキから新たなモンスターを呼び寄せる事ができる、通称『リクルーター』と呼ばれるモンスター達の1体である天使。そして発動された魔法は、モンスター1体同士のコントロールを入れ替える『強制転移』・・・。
 光のフィールドには、『クライス』1体のみ。よって・・・。

「私のフィールドの『コーリング・ノヴァ』と、あなたのフィールドの『クライス』の、コントロールを入れ替える!」

 『強制転移』から発せられた重力によって、『クライス』も『コーリング・ノヴァ』も、自らの主の下を離れざるを得ない結果となってしまった。

強制転移(きょうせいてんい) 通常魔法
お互いに自分フィールド上に存在するモンスター1体を選択し、
そのモンスターのコントロールを入れ替える。
そのモンスターはこのターン表示形式を変更する事はできない。

「そしてフィールド魔法『天空の聖域』を発動! これで準備完了よ!」

 とどめと言わんばかりに現れるは、雲の上に在りし聖なる神殿。
 そして、今は光のフィールドに留まりし天使には、この神殿と共鳴してさらに自らの力を飛躍させる能力が備わっている。

天空(てんくう)聖域(せいいき) フィールド魔法
天使族モンスターの戦闘によって発生する
天使族モンスターのコントローラーへの戦闘ダメージは0になる。

「バトルフェイズ、まずは『ジャンヌ』で『コーリング・ノヴァ』を攻撃!」

「わっ、ちょっとやばいかも・・・」

 『ジャンヌ』から発せられた光によって、『コーリング・ノヴァ』は一瞬にして破壊された。
 先ほどまで平然としていた光に、焦りが見え始める。

「『ノヴァ』のモンスター効果、戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、デッキから攻撃力1500以下の光属性・天使族モンスター1体を特殊召喚できる・・・んだけど、私のフィールドには『天空の聖域』がある! よって代わりに、デッキから『天空騎士パーシアス』1体を特殊召喚する事ができる! ちなみに『ノヴァ』が破壊されたのはあなたのフィールドでだけど、破壊された『ノヴァ』が最終的に送られるのは私の墓地。よってこの『ノヴァ』の特殊召喚効果を使えるのも私よ! ・・・『天空の聖域』の効果のせいで、あなたにダメージを与えられないのは残念だけど」

「分、分かってるわよそのくらい! ていうか、上級モンスターである『パーシアス』の召喚の為に、『天空の聖域』を張ってたのね・・・。『ノヴァ』をワタシに渡しておきながらバトルフェイズ前に発動するなんて、どういう事かと思ってたのに・・・」

 延々と半棒読みで効果を語る明子。だが、その棒読みの中身は光も勿論知っている物である。
 故に光は、半ギレといった雰囲気で明子に突っ込みを入れた。
 そしてそんな事をしているうちに、光のフィールドに存在する、破壊されたばかりの『コーリング・ノヴァ』が、眩い光にその姿を変え・・・そしてその光から、1体の天使・・・いや、その身を鎧で包んだ騎士が現れた。

コーリング・ノヴァ ☆4
光 天使族 効果 ATK1400 DEF800
このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、
自分のデッキから攻撃力1500以下の天使族・光属性モンスター1体を
自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。
フィールド上に「天空の聖域」が表側表示で存在する場合、
代わりに「天空騎士パーシアス」1体を特殊召喚する事ができる。

天空騎士(エンジェルナイト)パーシアス ☆5
光 天使族 効果 ATK1900 DEF1400
このカードが守備表示モンスター攻撃した時、
その守備力を攻撃力が超えていれば、
その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。
また、このカードが相手ライフに戦闘ダメージを与えた時、
自分のデッキからカードを1枚ドローする。

「そして『ジャンヌ』のモンスター効果、戦闘によってモンスターを破壊し墓地へ送った場合、破壊したモンスターの元々の攻撃力分、私のライフを回復する!」

 戦闘を終えたばかりの天使のヴェールが、明子を包む。そして、そのヴェールを通して、天使が明子に活力を送り込む。

明子:LP4000→LP5400

「『パーシアス』で、光にダイレクトアタック!」

 続いて第二撃。明子のフィールドに呼ばれたばかりの騎士が、光に襲い掛かる。だが・・・

「くっ! 手札を1枚捨てて、トラップカード『レインボー・ライフ』を発動! このターンにワタシが受けるダメージを全て無効とし、その数値分だけワタシのライフを回復する!」

レインボー・ライフ 通常罠
手札を1枚捨てる。このターンのエンドフェイズ時まで、
自分が受けるダメージは無効になり、その数値分ライフポイントを回復する。

 間一髪。騎士が光に刃を向けた瞬間、光の周りにバリアの様な物が張られ、『パーシアス』の攻撃を遮断した。
 同時に、光のライフポイントが、光を斬ろうと目論んだ張本人の攻撃力と同じ数字だけ回復する。

光:LP4000→LP5900

「これじゃあ攻撃しても、ダメージをライフに変えられてしまう・・・。カードを1枚セットして、ターンエンドよ!」

 明子のフィールドにはまだ黄金の帝が残っている。だが、攻撃しても無意味・・・。
 明子は名残惜しみながらも、自らを守る「盾」のカードを伏せ、そのターンを終えた。

明子LP5400
手札1枚
モンスターゾーン守護天使 ジャンヌ(攻撃表示:ATK2800)
光帝クライス(攻撃表示:ATK2400)
天空騎士パーシアス(攻撃表示:ATK1900)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
神の居城−ヴァルハラ
フィールド魔法天空の聖域
LP5900
手札2枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚

「やっとワタシのターンね・・・。ドロー!」

 待ち望んだ、自らのターン。ドロー。
 瞬間、彼女の心の中の「龍」が、一際強い鼓動を上げる。
 そう、その「龍」の分身とも言える存在の、闘うフィールドが出来上がったのである。

「手札から『サイバー・ドラゴン』を攻撃表示で特殊召喚! 『サイバー・ドラゴン』は、ワタシの場にモンスターが存在せず、相手の場にモンスターが存在する場合、手札から特殊召喚できる!」

 白銀の、機械で出来たボディ。主のピンチに颯爽とフィールドに現れる、頼もしき龍、『サイバー・ドラゴン』。それが、光のフィールドに姿を見せた。

サイバー・ドラゴン ☆5
光 機械族 効果 ATK2100 DEF1600
相手フィールド上にモンスターが存在し、
自分フィールド上にモンスターが存在していない場合、
このカードは手札から特殊召喚する事ができる。

「『サイバー・ドラゴン』・・・。あなた、そんなカード持ってたの?」

 明子が、驚きの声を上げる。
 『サイバー・ドラゴン』と言えば、中々手に入らないレアカードの1枚である。それを、彼女の目の前の少女が召喚した。当然の反応と言えば当然の反応であろう。

「持ってて悪い? さらにリバースカードオープン! トラップカード『閃光のイリュージョン』! この効果により、ワタシの墓地から『ライトロード・マジシャン ライラ』を特殊召喚!」

 そんな明子の反応もサラッと流した光のフィールドに、何かの結界の様な物が現れ、そこから眩いばかりの閃光が発する。そしてその閃光から、その名に『光の使者』を(かざ)した1体の女性の魔術師が現れた。

閃光(せんこう)のイリュージョン 永続罠
自分の墓地から「ライトロード」と名のついたモンスター1体を選択し、
攻撃表示で特殊召喚する。
自分のエンドフェイズ毎に、デッキの上からカードを2枚墓地に送る。
このカードがフィールド上から離れた時、そのモンスターを破壊する。
そのモンスターがフィールド上から離れた時このカードを破壊する。

「『ライラ』!? ・・・何時の間に墓地に送られていたの?」

「『ライコウ』の効果の時に、ちょっとね! さらに『ライラ』のモンスター効果、このカードを守備表示に変更する事で、相手フィールド上の魔法または(トラップ)カード1枚を破壊する! 『天空の聖域』を破壊よ!」

 光のフィールドの魔術師は、防御体勢を構えると同時に1つの呪文を唱え始める。すると同時に、明子のフィールドを形成していた聖なる神殿が、音を立てて崩れ去っていった。

ライトロード・マジシャン ライラ ☆4
光 魔法使い族 効果 ATK1700 DEF200
自分フィールド上に表側攻撃表示で存在する
このカードを表側守備表示に変更し、
相手フィールド上の魔法または罠カード1枚を破壊する。
この効果を発動した場合、次の自分のターン終了時まで
このカードは表示形式を変更できない。
このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する限り、
自分のエンドフェイズ毎に、自分のデッキの上からカードを3枚墓地に送る。

「さらにフィールドの『ライラ』をリリースする事で、『ライトロード・エンジェル ケルビム』を攻撃表示でアドバンス召喚!」

 魔術師の命を引き継いで現れたのは、白き鎧に白き翼、手に持つ杖も同じく白の天使。
 その天使は現れてすぐに、明子のフィールドへと杖を構える。

「『ケルビム』は、『ライトロード』と名のついたモンスターをリリースしてアドバンス召喚された場合、ワタシのデッキからカードを4枚墓地へ送る事で、相手フィールド上のカードを2枚まで破壊する事ができる! ワタシが破壊するのは、『クライス』と『ジャンヌ』!」

「えっ!?(リバースカードノーマーク? ラッキー!)」

 明子の謎の反応も他所に、天使が構えた杖の先から、黄金の帝と守護天使に向けて光が発せられる。
 その光によって、帝も守護天使も、為す術なく消滅した。

ライトロード・エンジェル ケルビム ☆5
光 天使族 効果 ATK2300 DEF200
このカードが「ライトロード」と名のついたモンスターを
生け贄にして生け贄召喚に成功した時、
デッキの上からカードを4枚墓地に送る事で
相手フィールド上のカードを2枚まで破壊する。

墓地に送ったカード:
『ライトロード・ビースト ウォルフ』
『創世の預言者』
『ライトロード・ハンター ライコウ』
『光の召集』

「バトルフェイズよ! 『サイバー・ドラゴン』で『パーシアス』を攻撃! 『エヴォリューション・バースト』!」

 1枚のリバースカードが残ったものの、フィールドの邪魔なカードの大体を掃除し終えて、バトルフェイズに入る光。
 先陣を切る『サイバー・ドラゴン』の口から放たれた砲撃が、『パーシアス』を襲う。
 だが・・・。

「残念ね光・・・。トラップカード『聖なるバリア−ミラーフォース−』! 相手が攻撃してきた時、相手フィールド上の攻撃表示モンスターを全て破壊する!」

「なんですって!?」

 瞬間に明子が発動したリバースカードの正体が、光に、彼女自身のプレイングミスを気付かせる結果となった。
 『パーシアス』の目の前に、光のバリアが現れ、それが『サイバー・ドラゴン』の砲撃を跳ね返す。そして、光のフィールドにいるモンスターを一撃で全滅させた。

(せい)なるバリア−ミラーフォース− 通常罠
相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
相手フィールド上に存在する攻撃表示モンスターを全て破壊する。






−観客席−

「勝負を急いだな。光のプレイングミスだ・・・。『ライラ』もしくは『ケルビム』の効果で、『ミラーフォース』を破壊しておけば、こんな事にはならなかったのに・・・。伏せカードより、戦闘ダメージを0にする『天空の聖域』の方がやっかいだとでも思ったのか・・・?」

 結果論とは言え、光のプレイングミスとも言えるべき行動。それを新司は、冷静に分析していた。
 そのキーカードは『天空の聖域』。
 『天空の聖域』を明子のフィールドに残した場合、おそらく天使族中心の彼女からダメージを奪うのは容易ではなくなるだろう。
 だが、光自身が操っているモンスターの中にも、『ケルビム』という天使族のモンスターが存在する。
 彼女の存在を考えると、『天使の聖域』と正体も分からないリバースカード。優先して除去するべきは、後者の方が良い結果になる可能性が高いであろう。

「お前はどう思う、栄一? ・・・って栄一、お前デュエル見てるのか?」

 栄一に意見を尋ねようとする新司。だが当の栄一は、目の前の手すりに顔をつき、何も言わずに目を細くして真正面を見続けている。
 新司の話を聞いていないどころか、デュエルを見てすらいない。
 さらにそれを見た新司の見解では、はっきり言って栄一の目の焦点は合っていないように見えた。
 重症である証拠である。

「(ダメだ、聞いてない・・・。さっきの『バスター』の件で、何かあったのか・・・?)」

「・・・新司」

 心配する新司に、栄一が突如声をかける。
 新司は、不安になりながらも栄一に返事を返そうとするが、それを遮って栄一が

「ゴメン・・・。ちょっとトイレ行って来る。・・・1人にさせてくれ」

 とだけ新司に説明して、そのままスタスタと会場から姿を消してしまった。

「栄・・・栄一・・・」

 呆然とする新司。追いかけようと右足を一歩前に差し出すも、すぐに、踏みとどまる。
 「ここは本人の意思を尊重しよう」。そう考えたのである。





−デュエルコート−

「くっ! ワタシの今の手札じゃ、何もする事ができない・・・。ターンエンド・・・」

 モンスターが全滅し、フィールドは空っぽ。手札には、今は役に立たない魔法カード・・・。
 危険ではあるが、光は何も出来ない。
 ・・・悔しいが、ただ、ターンの終了宣言をするしかなかった。

明子LP5400
手札1枚
モンスターゾーン天空騎士パーシアス(攻撃表示:ATK1900)
魔法・罠ゾーン神の居城−ヴァルハラ
LP5900
手札1枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンなし

「私のターン、墓地の『マシュマロン』と『コーリング・ノヴァ』をゲームから除外する事で、『神聖なる魂』を攻撃表示で特殊召喚する!」

 萎縮する光を見て、「チャンスだ」とばかりに、明子は戦力を強化する。
 明子のフィールドに、全身を白で染めた女性の霊が現れた。

神聖なる魂(ホーリーシャイン・ソウル) ☆6
光 天使族 効果 ATK2000 DEF1800
このカードは通常召喚できない。
自分の墓地に存在する光属性モンスター2体を
ゲームから除外した場合に特殊召喚する事ができる。
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
相手のバトルフェイズ中のみ全ての相手モンスターの
攻撃力は300ポイントダウンする。

「バトルフェイズ、『パーシアス』と『神聖なる魂』でダイレクトアタック!」
 明子の命を受け、2体の天使が光に飛び掛る。
 だが、自らを守る「盾」が無い光は、2体の攻撃をそのまま受けるしかない。
 『パーシアス』の斬りかかりにも、デュエルディスクで頭を庇うのが精一杯であった。

光:LP5900→LP2000

「(油断してた・・・。この娘、メチャクチャ強いじゃない!)」

 デュエル開始前までの、若干舐めた態度を取っていた自分自身を、光は大いに悔やんだ。
 もしその時間に戻れるなら、戻ってその態度を訂正させたい・・・とまで考えるようになっていたのである。

「『パーシアス』のモンスター効果、このカードが相手プレイヤーに戦闘ダメージを与えた場合、ワタシはデッキからカードを1枚ドローする。そしてターンエンドよ」

 対する明子、優勢を保っているが故か、その表情はデュエル開始時から何も変わらず、自信満々といった表情である。
 優勢と劣勢・・・今それが、くっきりと別れていた。

明子LP5400
手札2枚
モンスターゾーン天空騎士パーシアス(攻撃表示:ATK1900)
神聖なる魂(攻撃表示:ATK2000)
魔法・罠ゾーン神の居城−ヴァルハラ
LP2000
手札1枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンなし

「ワタシのターン!(粘れ、粘るのよワタシ・・・)・・・カードを1枚セットして、ターンエンド」

 顔に、そしてカードを持つ左手にも汗が流れる。
 幸いにも、引いたカードは何時でも使える防御のカード。
 まだ勝機はある。光は、そう信じた。

明子LP5400
手札2枚
モンスターゾーン天空騎士パーシアス(攻撃表示:ATK1900)
神聖なる魂(攻撃表示:ATK2000)
魔法・罠ゾーン神の居城−ヴァルハラ
LP2000
手札1枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚

「私のターン、これで終わりよ! 『神聖なる魂』で、光にダイレクトアタック!」

 明子のターン、スタンバイフェイズ、メインフェイズ1を通過してすぐさまバトルフェイズ、そして攻撃宣言。
 白の精霊が、光に向かって突進する。
 だが・・・

「そう簡単に終わってたまるもんですか! トラップカード『和睦の使者』! これでこのターンに発生する戦闘ダメージは0よ!」

 光が言葉にしたその通り、簡単には終わらないのがデュエルの面白い部分である。
 精霊の攻撃が光にヒットしかけた瞬間、光の目の前に和睦の為に呼ばれた幾人もの使者たちが現れ、明子のモンスター達に和睦を唱えていった。
 その唱えを聞いた事により、明子のモンスター達の攻撃意欲は失われていった。

和睦(わぼく)使者(ししゃ) 通常罠
このカードを発動したターン、相手モンスターから受ける全ての戦闘ダメージを0にする。
このターン自分モンスターは戦闘によっては破壊されない。

「くぅー、あなたも『和睦の使者』を持ってたなんて〜! カードを1枚セットして、ターンエンド!」

 口に出した通り、本当にこのターンで決着をつけようとしていた明子は、本当に悔しそうだ。
 だが、以前流れは明子にある。現に、今伏せたカードは手札コストこそかかるものの、どんなカードでも破壊する事ができる(トラップ)
 トンでもないカードを引かれでもしない限り、明子の勝利は揺ぎ無い筈なのである。

明子LP5400
手札2枚
モンスターゾーン天空騎士パーシアス(攻撃表示:ATK1900)
神聖なる魂(攻撃表示:ATK2000)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
神の居城−ヴァルハラ
LP2000
手札1枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンなし

「(なんとかこのターンは凌げたけど・・・。次のワタシのターンが正念場となりそうね・・・。)」

 何とかこのターンを凌いだ光、その頬を汗が流れる・・・。
 光はポケットに仕舞っていたハンカチで、その汗を拭う。
 そしてハンカチを仕舞った後、ドローの為右手をデッキにかける。

「(今私が伏せたカード・・・。後1ターン来るのが早ければ、私の勝ちだったのに・・・)」

 こちらは、引いたカードのタイミングに、自らの運命力を呪う明子である。
 ・・・2人の女子の思いが、フィールドを交錯する。

「(このターンで、何とかする!)ワタシのターン、ドロー! ・・・魔法カード、『貪欲な壺』発動! ワタシの墓地からモンスターを5体選択し、デッキに加えてシャッフル、新たに2枚ドローする!」

「(『貪欲な壺』・・・。カードが強制的にドンドン墓地へ送られていく『ライトロード』中心の光のデッキとは相性抜群のカードね・・・)」

貪欲(どんよく)(つぼ) 通常魔法
自分の墓地に存在するモンスター5体を選択し、
デッキに加えてシャッフルする。
その後、自分のデッキからカードを2枚ドローする。

 墓地から5枚のモンスターカードが顔を見せ、光がそれらをデッキに加えてシャッフル・・・そして、光は新たな2枚のカードをドローする。

デッキに戻されたモンスター:
『ライトロード・ハンター ライコウ』
『ライトロード・ハンター ライコウ』
『創世の預言者』
『ライトロード・エンジェル ケルビム』
『サイバー・ドラゴン』

「2枚ドロー! ・・・よしっ、ワタシの墓地には『ライトロード』が4種類存在する! よって手札から『裁きの龍(ジャッジメント・ドラグーン)』を攻撃表示で特殊召喚!」

「えっ!? ・・・ここで、『裁きの龍(ジャッジメント・ドラグーン)』ですって!?」

 デュエルは、本当に面白い。何が起こるか分からない。
 『ライトロード』の結束。それによって、光のフィールドに呼び出された白き龍。光の、そして『ライトロード』の切り札である『裁きの龍(ジャッジメント・ドラグーン)』・・・。

 ホール内に響き渡る龍の叫び声。・・・既に、白き龍は攻撃の準備を終えていた。

裁きの龍(ジャッジメント・ドラグーン) ☆8
光 ドラゴン族 効果 ATK3000 DEF2600
このカードは通常召喚できない。自分の墓地に「ライトロード」と名のついた
モンスターカードが4種類以上存在する場合のみ特殊召喚する事ができる。
1000ライフポイントを払う事で、このカード以外のフィールド上に存在する
カードを全て破壊する。このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する
限り、自分のエンドフェイズ毎に、デッキの上からカードを4枚墓地に送る。

光の墓地の『ライトロード』:
『ライトロード・プリースト ジェニス』
『ライトロード・マジシャン ライラ』
『ライトロード・ビースト ウォルフ』
『ライトロード・ハンター ライコウ』

「『裁きの龍(ジャッジメント・ドラグーン)』のモンスター効果、ワタシのライフを1000ポイント払う事で、『裁きの龍(ジャッジメント・ドラグーン)』を除くフィールド上の全てのカードを破壊する!『ジャッジメントブラスト』!」

 光の命を受け、『裁きの龍』は自らの口から砲撃の発射準備を始める。それにより、『裁きの龍』の口の前に、巨大なエネルギーの球体が発生する・・・。
 だが、明子も負けてはいない。瞬時に、伏せていた最後のリバースカードを反転させる。

「まだよ! トラップカード『サンダー・ブレイク』! 手札を1枚捨てる事で、フィールド上のカード1枚を破壊する! 私が破壊するのは当然『裁きの龍(ジャッジメント・ドラグーン)』! 私のモンスター達と道連れよ!」

 デュエルコートの上空に雨雲ができる、雷が鳴る・・・。
 そして『裁きの龍』が砲撃を発射すると同時に、『サンダー・ブレイク』によって鳴り響く雷が、『裁きの龍』に落ちる!

「ギィャァァァァァァ!」

 雷の直撃を受け、『裁きの龍』が悲鳴を上げる。
 だが、それだけでは終わらない。

 『裁きの龍』自身が放ったその砲撃により、フィールドは一瞬にして焼け野原となり、如何なるカードも存在しなくなった。

サンダー・ブレイク 通常罠
手札を1枚捨て、フィールド上に存在するカード1枚を選択して発動する。
選択したカードを破壊する。

光:LP2000→LP1000

「くっ、全滅・・・」

 明子が、顔を歪める。
 優勢であった自らのフィールドを、一瞬にして0にリセットされたのだ。当然であろう。

 だが、まだ明子は諦めていない。
 何故なら、彼女の最後の手札は・・・

死者蘇生(ししゃそせい) 通常魔法
自分または相手の墓地に存在するモンスター1体を選択して発動する。
選択したモンスターを自分フィールド上に特殊召喚する。

 なのである。加えて、彼女のライフは5400。光は1000・・・。
 光が、大きな行動を取らなければ・・・

「(私が勝てる!)」

 明子は、そう信じた。
 だが、耳にたこが出来る程語るが、デュエルは本当に面白い。何が、どう転ぶか分からない・・・。

「・・・魔法カード、『貪欲な壺』発動! 墓地から再びモンスターを5体選択してデッキに加えシャッフル。カードを2枚ドロー!」

 ・・・どう転ぶか、本当に分からない。

「2、2枚目の『貪欲な壺』!?」

 明子の驚く顔も他所に、光はデッキからさらに2枚のカードをドローする。

デッキに戻されたモンスター:
『ライトロード・プリースト ジェニス』
『ライトロード・マジシャン ライラ』
『ライトロード・ビースト ウォルフ』
『ライトロード・ハンター ライコウ』
『裁きの龍』

「・・・ワタシの勝ちみたいね、明子!」

 勝ち誇った顔で、突如勝利宣言をする光。
 そう。先ほどから光の手札に眠る魔法カード、そして今ドローした2枚のカード・・・。それら全てが、光の勝利への要素となったのである。
 光は、その自らの手札である3枚のカードを明子に見せながら、ある1体のモンスターの召喚宣言を行う。

「魔法カード『融合』! この効果により、手札の2体の『サイバー・ドラゴン』を融合! 『サイバー・ツイン・ドラゴン』を融合召喚!」





−観客席−

「!?」

 ガタッ!

 静かにデュエルを観戦していた鮫島校長が、光が『サイバー・ツイン・ドラゴン』の名を発するのと同時に、突如立ち上がった。
 その突然の行動は、寝耳に水・・・まさにその(ことわざ)がピッタリの表情も合わさって、周囲に座る生徒やクロノス教諭に戦慄を与えていた。

「岡ピート!? 鮫島コウチョーウ?」

 これに驚いたのはクロノス教諭。心配そうに鮫島校長に声をかける。

「・・・いえ、なんでもありません」

 クロノス教諭の尋ねに、鮫島校長はハッと気付いた素振りを見せると、すぐに軽い言葉を返した。

「そうデスーカ? それにシテーモ、まさかシニョーラ光が『サイバー・ツイン・ドラゴン』のカードを持っていたナンーテ、驚キ桃ノ木山椒ノ木ナノーネ」

「・・・そう、ですね」

 その場を和ませようとギャグを交えたクロノス教諭の言葉に、冷静さを取り戻した校長。クロノス教諭に再び軽く返事を返し、席に着いた。
 そして、心の中で・・・

「(・・・聞こえる。・・・あのモンスターの声が、彼女のデッキから・・・。しかし、彼女は誰からあのモンスターを? まさか、亮が・・・?)」

 ・・・光のフィールドに降り立った龍。そして、彼女のデッキに眠るさらなる龍について、考えを巡らせた。





−観客席別の場所−

「『サイバー・ツイン・ドラゴン』・・・」

「護、どうした?」

 独り言のように、今フィールドに現れたモンスターの名を呟く護。
 それを心配したのか、隣にいた宇宙が声をかける。

「いや、なんでもないよ・・・」

 宇宙が自分を心配しているのに気付いたのか、心の中でそれを感謝しながら、護も宇宙の言葉に応えた。
 それを確認した宇宙は、何かに気付いたような反応を見せ・・・

「まさか、さっき感じたエネルギーって、こn」

 と、護に再び問いかける。
 だが、その言葉を遮って護は・・・

「いや、違う。さっき感じたエネルギーは、これよりももっとデカイ・・・」

 ・・・と、宇宙に言い返した。
 宇宙は、疑問と不安に駆られながらも「そうか」とだけ護に言って、再びデュエルコートへと顔を向けた。

「(という事は、まさか彼女、あのモンスターも・・・?)」



 護が感じたエネルギー。それは、鮫島校長が感じたそれと全く同じ・・・あの「光の機械龍」のものであった。





−デュエルコート−

 光のフィールドで、その体に首を2つつけた、機械でできた1体の龍が、威風堂々にその姿を晒していた。

サイバー・ツイン・ドラゴン ☆8
光 機械族 融合・効果 ATK2800 DEF2100
「サイバー・ドラゴン」+「サイバー・ドラゴン」
このカードの融合召喚は、上記のカードでしか行えない。
このカードは一度のバトルフェイズ中に2回攻撃する事ができる。

融合(ゆうごう) 通常魔法
手札・自分フィールド上から、融合モンスターカードによって
決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、
その融合モンスター1体をエクストラデッキから特殊召喚する。

「『サイバー・ツイン・ドラゴン』・・・。まさか、あなたがそんなカードを持っていたなんて・・・。私の負けだわ・・・」

 為す術が無くなったのか、身構えていた両手を下げ、大人しく敗北を認める明子。
 それを確認すると光は、『サイバー・ツイン・ドラゴン』の攻撃宣言をする。

「『サイバー・ツイン・ドラゴン』は一度のバトルフェイズに2回攻撃できる! 『サイバー・ツイン・ドラゴン』で、明子にダイレクトアタック! 『エヴォリューション・ツイン・バースト』!」

 2つの首から同時に放たれた光線。それは瞬時に、明子のライフを0にした。

明子:LP5400→LP0






 ワァーーーーーーーーーーーーー!


「決勝トーナメント1回戦第2試合の勝者は、シニョーラ光ナノーネ!」



 クロノス教諭が、マイク片手に勝者を宣言する。
 ・・・デュエルの勝敗が決まると同時に、明子は歩き出し、光の前でその足を止める。

「負けちゃった・・・。でも、いいデュエルだったわ」

 そう言う明子の顔に、落ち込んだ様子は見られない。

「ワタシもよ! ていうか、ちょっと油断しちゃった・・・。テヘ♪ まさか、アンタがここまで強いとは思わなかったからねぇ」

 その明子の態度に安心し、光は少しからかう感じで明子の言葉に応える。

「プー! それはどういう事よ! フン!」

 やはり、ちょっと拗ねてしまった明子であった。しかし・・・。

「・・・・・・プッ! ・・・ハハハ、ハハハハハ」

「ハハハハハ、ハハハハハ」

 何なのであろう。突如笑い出してしまった。そしてそんな明子の様子を見ていた光も、また笑い出す。





「「ハハハハハ、ハハハハハ・・・」」

 今のデュエルを見ていた人達の歓声の中、その中心の2人の女子は、いつまでも笑い続けていた・・・。
 そして、光の心の中に在りし機械龍もまた、彼女の姿を見て、その鼓動をさらに強めるのであった。















−アカデミア校舎内、とあるトイレの一室−

「・・・」

 光と明子のデュエルが終わったのと同時刻・・・。トイレの個室、その便座に、オシリスレッドの制服を着た生徒が1人、無言で腰を下ろしていた。
 ・・・紛れも無く、それは明石栄一その人である。



 彼は、1人で何を思っているのか・・・。



第24話 −ダイノキラー・メビウス−

「・・・」

 洋式トイレの便座に、無言で座る栄一。徐に、腰に付けたデッキケースから、1枚のカードを取り出した。
 栄一の象徴、『バーニング・バスター』のカードだ。

「・・・『バスター』。俺、どうしちゃったのかな・・・?」

 ふと、栄一はその手に持つ『バーニング・バスター』、その精霊に問いかけた。
 怯えたような表情、不安が入り混じった口調。
 明らかに、栄一の精神は衰弱していた。

『(・・・)』

 だが、『バーニング・バスター』から返事は返されなかった。
 ただ、無言でいる『バーニング・バスター』。その『バーニング・バスター』の反応に、栄一は項垂れた。

 平賀の言葉。それは実際、栄一の心に深く突き刺さり、彼を傷付けていたのだ。



 過去の記憶を掘り返す事が嫌だった。智兄ちゃんと過ごした日々は、本当の親もいない、兄弟もいない、孤独な栄一にとっては夢物語のような毎日だったから。
 掘り返せば掘り返す程、その記憶から悲しみが滲んでくる。思い出す度に、誰にも気付かれないように、1人で泣いていた。
 だから、『バーニング・バスター』は使わなかった。目の前に、智兄ちゃんがいる気がする。そんな錯覚に囚われて、デュエルどころではなくなるだろうから。
 栄一はその幼き心で、本能的にそう感じていた。

 お守りでいい。自分の一番近くで見守ってくれる。それだけでいい。

 ディスクを構え、相手と対峙する。デュエルが始まる事を周りに伝える、「儀式」的な、緊張の一瞬。
 その「儀式」を行う前に、栄一は必ず見つめる。『バーニング・バスター』のカードを。
 そして目を閉じて、心の中で祈る。願いを込める。「どうか、このデュエルを見守っていて」と。

 祈りが終わり、いざデュエル。その時栄一は、必ず自らのデッキを仕舞うデッキケースに『バーニング・バスター』を仕舞う。
 使う筈が無いのに、デッキを入れるケースと同じそれに仕舞う。

 ポケットに仕舞えば良いではないか? ―論外だ。

 『バーニング・バスター』専用のケースを用意すれば? ―隔離でもするつもりか?

 使う筈は無い。だがそれでも栄一は、常に『バーニング・バスター』のカードをデッキと共に携帯した。
 デッキケースに入れるからこそ、デッキの一員として、自分と共に闘っている。そんな気がした。
 そう思えば、何故か心が楽になる。自然な流れであった。
 自らも気付かないままに、『バーニング・バスター』の指定席は、自らのデッキが眠るデッキケースの中、と、栄一は決めていた。



 デュエルアカデミアを受験する事が決まった。
 今や、語り継がれる存在となったデュエリストである遊城十代。そしてプロの最前線で活躍するデュエリスト、エド・フェニックスや水原護の存在もあり、『HEROデッキ』そのものの知名度・実力も今や一線級。
 その『HEROデッキ』を操り、自身も一定の実力を持った栄一は、地元ではそこそこ名の通ったデュエリストであった。

 だがその栄一から見ても、デュエルアカデミアから発されるプレッシャーはかなり強く、栄一は連日、そのプレッシャーに押し潰されまいかと、心底不安になった。怯えるようになった。

 筆記試験を終えたその日の夜も、栄一は1人、施設(いえ)の自分の部屋で不安を感じていた。
 あまり出来の良くなかった筆記試験。合格するには、実技試験で結果を残すしかない。
 だけど・・・自分のデュエルは、果たして通用するのだろうか? 自分のデュエルは、アカデミアの生徒として相応しいものなのだろうか?

 気付いたら、栄一はデッキケースから、1枚のカードを取り出していた。

「・・・智兄ちゃん、ゴメン」

 そのまま『バーニング・バスター』のカードをデッキケースに戻す栄一。
 だが、この行動は今までのそれとは意味合いが違った。

 ケースに仕舞うのではない。デッキに加えたのだ。

 『バーニング・バスター』のカードをデッキに加える。その意味合いを込めた行動。ただそれだけで栄一は、想像以上の安心感に包み込まれた。
 確かに、『バスター』は特別なカードだ。それでも、そのカード1枚を加えただけで、何故ここまで心が穏やかになるのか。
 分からない。だがその瞬間、栄一は変わった。不安に押し潰されそうな気弱な少年から、普段通りの活発な少年に戻った。



 そして、実技試験当日。



「『E・HERO バーニング・バスター』。俺のフィールド上の戦士族モンスターが破壊された時、手札から舞い降りる炎の戦士! 俺がデュエルを教わった人から授かった、魂のカードだ!」



 灼熱の戦士が、フィールドに降臨した。その時に感じた、一体感。
 智兄ちゃんが、後ろについている。そんな錯覚を、栄一は確かに感じ取ったのだ。
 「闘っていける」。確信だった。護に負けた後でも笑えていたのも、それが理由であった。
 それだけ、『バーニング・バスター』の持つ能力、そして精神的な「力」は強かったのだ。

 だがそれが、『バーニング・バスター』への極端な依存の引き金であった。



 闘う度に、『バーニング・バスター』を誇らしく感じていった。

 『バーニング・バスター』がいれば、どんな逆境も乗り越えられる気がした。

 怖いものはなかった・・・。



 つまり、甘えていた。

 自分でも気付かぬ間に。

 いや・・・本能では気付いていたのであろうか?

 現に、俊介の誘拐事件の時、『バーニング・バスター』が破壊されると共に、栄一は覇気を失ったのだ。

 心の奥では、既に依存症に気付いていたのかも・・・。



 だからこそ、明石栄一のデュエル=『バーニング・バスター』。平賀に言われた事は、栄一の頭の中でそう解釈された。



 『バーニング・バスター』への極端な依存症。その結果が、今の状況だった。



 ふと、栄一が、その顔を上げ・・・こう、呟いた。

「俺・・・今のままじゃ、お前と一緒に闘って行けないかも・・・」

 と。

 この言葉を聞いて、『バーニング・バスター』のカードに眠る精霊が、栄一のやろうとしている事を悟った。
 瞬間、『バーニング・バスター』のカードが、栄一の履いているズボンのポケットへと仕舞われた。

 受け継いだその時から仕舞っていたデッキケースではなく、ズボンのポケットにである。

 それは、栄一が『バーニング・バスター』と共に闘う事に怯え、拒否した事を意味した。



「俺は・・・俺は・・・」

 トイレを去り、誰もいない通路を1人ふらふらと歩いて行く栄一。
 その背中は、何故か小さく見えるようであった。










−デュエルコート−


「(栄一の奴、大丈夫かな・・・? 一体どうしたってんだ・・・?)」

 新司は、デュエルコートに立っていた。
 それもその筈、ようやく自分の出番が回って来たのだ。

「(・・・まぁ、後は光が何とかしてくれるだろ。メール入れておいたし)」

 確かに栄一の事は心配ではあったが、今は自分のデュエルなのである。他人の心配をしている暇は無かった。無い筈なのである。

「(・・・とは言っても、やっぱり気になるなぁ)」

 無い筈なのだが、どうしても栄一の事が頭から離れない新司であった。










−観客席−


 デュエルを終え、観客席に戻った光。自らの携帯を開いた際に新司からのメールに気付き、それを確認した。


 ―――栄一が夢遊病者のままどっかにいったから、見つけたらちょっと面倒見といてくれ! 頼む!><   ps><って『E・HERO バブルマン』の目に似てるな!


「・・・・・・アホか! 次、ワタシは栄一とのデュエルなのよ! なんで戦う相手の面倒を見ないといけないのよ!?」

 そのメール内容を確認して、光は溜息をつきながら呆れ果てた。何という他人任せ・・・。

 ちなみに最後の『バブルマン』が、光の神経を逆撫でていたりするのはまた別の話。

「・・・とは言っても、結局栄一はいないんだけどね」

 そう、光が今いるのはちょうどさっきまで栄一と新司が、光のデュエルを観戦していた辺りである。
 だが辺りを見回しても、栄一の姿を見つける事はできなかった。

「・・・準決勝で会うからって避けてるのかしら? ・・・まぁそれならワタシも都合がいいんだけど、新司のメール見たら、どうやらそれだけじゃなさそうね。・・・さっきのデュエル、まだ引きずっているのかしら?」

 光は栄一の事を心配しつつも、自分から雲隠れした栄一に内心感謝していた。
 光の勝利によって、栄一と光は準決勝で対戦する事になった。それなのに、デュエルの直前まで2人同じ場所にいるという事はとてもできない。微妙な空気が流れる事は目に見えているのだ。
 故に、栄一が勝手に消えた今、光は準決勝への闘争心を何の躊躇も無く高める事ができるのであった・・・。










−再びデュエルコート−


 何とか栄一の事を忘れようとしながら、新司は対戦相手であるヒビノミr・・・もとい、日比野(ひびの)篤志(あつし)のデッキをシャッフルし続ける。

 ・・・し続ける。し続けるったらし続k

「いつまでシャッフルするつもりなんだい?」

「!?」

 突然耳に響く日比野の声に、体をビクつかせる新司。
 ずっと栄一の事を考えていた為、時間を忘れてシャッフルし続けていたのである。

「全く・・・。デュエルの前に上の空はどうかと思うよ?」

「悪、悪ぃ悪ぃ・・・」

 呆れ顔の日比野と手にあるデッキを交換し、新司は自らの立ち位置に着く。日比野も同じくである。


 シャッ、シャッ、シャッ、シャッ、シャッ!


 そして互いにデッキから5枚のカードを引き、自らの手札とする。その行為を確認したクロノス教諭は、マイクを片手に高々とデュエルの開始を宣言した。



「決勝トーナメント1回戦第3試合、迫水新司vs日比野篤志、デュエル開始ナノーネ!」





「「デュエル!」」

日比野:LP4000
新司:LP4000

「ボクのターン!」

 先攻の日比野は、ドローしたカードを手札に加えつつ、最初の一手に頭を悩ませる。

「(新司君のデッキは、恐竜族主体のデッキと聞いている・・・。果たして今日もそれで来るのか? それとも、ボクのデッキ対策としてデッキを入れ替えているのか・・・?)」

 50%の確率。それが日比野の頭の中を駆け巡っていた。そして・・・

「『(ヒョウ)』を攻撃表示で召喚する! そしてカードを1枚セットして、ターンエンドだ!」

 召喚したのは通常モンスター。それも攻撃力は僅か800。加えて攻撃表示。
 正体を見せないカードと相まって、不気味な初手を、日比野は繰り出してきた。

(ヒョウ) ☆3
水 戦士族 通常 ATK800 DEF1200
全身が氷でできている戦士。
触れるものを何でも凍らせてしまう。

 ちなみにこのモンスターが戦士族であるという事を作者が知ったのは、この話(第24話)の投稿寸前であった事を、ここに記述しておく(無駄話)。

日比野LP4000
手札4枚
モンスターゾーン氷(攻撃表示:ATK800)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
新司LP4000
手札5枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンなし

「俺のターン! カードドロー!」

 対する新司も、手札を眺めながら頭を悩ませる。

「(何の効果も持たない低攻撃力のモンスターを攻撃表示・・・。普通に考えたら、相手をリバースカードに誘っているプレイング・・・。だが果たして、本当に誘っているのか? ただのブラフじゃないのか?)」

 そう考えながら、新司は日比野の方へ目をやる。日比野の態度から戦略を読み取ろうとしたのだ。

「・・・どうした、新司君。ボクの顔に何かついているかい?」

 しかし、日比野はポーカーフェイスを貫いている。新司の目論見は失敗に終わった。

「(・・・光に聞いときゃよかったな。奴の戦術。『ブルー三羽烏』とか言ってたけど、それしか聞かなかったのは不味かったな。どんなデッキなのか、分かりゃしない。・・・・・・けど、迷っていてもしょうがないな)」

 そう頭で思いつつも、何かを決めたように新司は、手札の1枚のカードに手をかける。

「(ブラフ・・・。俺はそう読む!)『セイバーザウルス』を攻撃表示で召喚! 『(ヒョウ)』に攻撃だ!」

セイバーザウルス ☆4
地 恐竜族 通常 ATK1900 DEF500
おとなしい性格で有名な恐竜。大草原の小さな巣で
のんびりと過ごすのが好きという。怒ると怖い。

 新司のフィールドに呼び出された、頭部に2本、そして両肩に1本ずつ角を持ち、尾が剣となった赤い恐竜。
 その恐竜がこちらに突っ込んでくるのを見て、日比野は1つの確信を持った。

「(ラッキー! 新司君は通常通り、恐竜デッキで来てくれた!)トラップカード発動! 『炸裂装甲(リアクティブアーマー)』! 『セイバーザウルス』を破壊する!」

炸裂装甲(リアクティブアーマー) 通常罠
相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
その攻撃モンスター1体を破壊する。

 日比野の発動したカードの効果により、突進する赤い恐竜は勢いよく大爆発を起こしてしまった。

「くっ! ブラフじゃなかったか! カードを2枚セットしてターンエンドだ」

日比野LP4000
手札4枚
モンスターゾーン氷(攻撃表示:ATK800)
魔法・罠ゾーンなし
新司LP4000
手札3枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンリバースカード2枚

「ボクのターン! 新司君、君を倒すカードは既に、ボクの手札にある!」

 そう言いながら、手札の内の1枚のカードに手をかける日比野。その両頬が、この上なく緩んでいるのが分かる。

「フィールドの『(ヒョウ)』をリリースし、『氷帝メビウス』をアドバンス召喚する!」



「来い、『メビウーーーーーーーーーース』!」



 日比野の呼び声と共に、リリースされた『氷』から発せられた光の中から現れた『氷帝メビウス』・・・なのだが、登場の仕方がどこかおかしい。
 右腕を天に伸ばし、目線も天を向いている。まるで、宇宙から来た銀色の特撮ヒーローを思わせる登場の仕方なのである。

「『メビウス』! デュエルモンスターズの中でも強力な効果を持つモンスター群、『帝』の1体か・・・。まぁ、それはそうとして、この登場の仕方はかなり危ないだろ! 円○プロに怒られるぞ!」

 シリアスな戦略の読み合いで始まったこのデュエルに、このギャグとも取れる登場の仕方は完全にミスマッチであった。
 冷静に行動を取っていた新司は、この行為に完全なる呆れと、違った方向への危機感を感じとっていた。

「つべこべ言ってる場合じゃないよ! 『メビウス』のアドバンス召喚に成功した時、フィールド上の魔法・罠カードを2枚まで破壊する事ができるのだから! ボクが破壊するのは勿論、君のフィールドの2枚のリバースカード! 『フリーズ・バースト』!」

 だが、そんな新司のツッコミにすら、日比野は聞く耳を持たなかった。言い分を軽く払い除け、冷静に『メビウス』の効果を発動したのだ。

氷帝(ひょうてい)メビウス ☆6
水 水族 効果 ATK2400 DEF1000
このカードがアドバンス召喚に成功した時、
フィールド上に存在する魔法・罠カードを
2枚まで選択して破壊する事ができる。

 そして『氷』の力を持つ帝『メビウス』から放たれた息吹は、新司のフィールドにセットされた2枚のカードを瞬時に凍らせようとする。

「チッ! 速攻魔法発動『アクティブ・フォッシル』発動!」

 だが、凍りつくギリギリに発動された『アクティブ・フォッシル』のカード。その効果によって新司の場に、骨だけで体が作られているのに、何故か活発的に動く2体の恐竜が現れた。
 それでも『メビウス』は、突如現れた2体の化石恐竜にも恐れず、2枚のカードを問答無用に破壊した。

アクティブ・フォッシル 速攻魔法(オリジナル)
このカードを発動する場合、自分は発動ターン内に召喚・反転召喚・特殊召喚できない。
自分のフィールド上に「化石恐竜トークン」(岩石族・地・星1・攻/守0)を
2体守備表示で特殊召喚する。(このトークンは恐竜族としても扱い、
岩石族・恐竜族モンスター以外のアドバンス召喚のためにリリースする事はできない)

化石恐竜トークン ☆1(オリジナル)
地 岩石族 トークン ATK0 DEF0
このトークンは恐竜族としても扱う。
また、このトークンは、岩石族・恐竜族モンスター以外の
アドバンス召喚のためにリリースする事はできない。

「リバースカードが無くなった今、新司君を守るのはその骨格標本のみ! 『メビウス』で、右の骨格標本を攻撃! 『メビューム・シュー』・・・」

「そのネタはもういいって! ていうか、俺のモンスターを骨格標本言うな!」

 日比野の、ギャグなのか真面目なのか分からない言動に、新司は大いに焦りながら素早く日比野にツッコミをいれた。
 だがその間にも、『メビウス』自身は新司の場の化石恐竜への攻撃の手を緩めず、自らの手から作り出した氷の槍を新司に向かって投げつけた。
 骨のみで出来た化石恐竜に、巨大な氷の槍を破壊する力は無く、そのまま槍の直撃を受け脆く崩れ去っていった。

「守備表示だからダメージは与えられないか・・・。ボクはカードを1枚セットして、ターンを終了する」

 自分のターンであれだけギャグを連発していたにも拘らず、ターンのエンド宣言時には、日比野は既にそれまでのターンのような冷静さを取り戻していた。

日比野LP4000
手札3枚
モンスターゾーン氷帝メビウス(攻撃表示:ATK2400)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
新司LP4000
手札3枚
モンスターゾーン化石恐竜トークン(守備表示:DEF0)
魔法・罠ゾーンなし

 先手を取ったにも関わらず、相変わらずその表情を緩めない日比野。そのくせ自分のターンではあんなギャグを飛ばしたりするなんて、余程余裕があるんだな・・・と、新司はそう思わずにいられなかった。

「(これが『ブルー三羽烏』と呼ばれるが所以の自信か?)俺のターン! ・・・よし!」

 ドローしたカードに、新司の表情が一瞬緩む。

「カードを1枚セットして、『暗黒プテラ』を守備表示で召喚する。ターンエンドだ」

 新司のフィールドに、伏せられたカードが1枚と、翼を体の前で畳んで防御の体勢を取った、全身を黒で染めた翼竜が現れた。
 ごく基本的な、防御の陣営である。

暗黒(ブラック)プテラ ☆3
風 恐竜族 効果 ATK1000 DEF500
このカードが戦闘によって破壊される以外の方法で
フィールド上から墓地に送られた時、このカードは持ち主の手札に戻る。

日比野LP4000
手札3枚
モンスターゾーン氷帝メビウス(攻撃表示:ATK2400)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
新司LP4000
手札2枚
モンスターゾーン化石恐竜トークン(守備表示:DEF0)
暗黒プテラ(守備表示:DEF500)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚

「ボクのターン。ドロー!」

 声高々に自らのターンを宣言した日比野は、ドローしたカードを手札に加えるとすぐさま手札の別のカードに手をかけ、それをディスクにセットした。

「『氷騎士(アイスナイト)』を召喚する!」

 日比野の場に現れたのは、機械のような表情をした水色の騎士。
 その瞬間、『メビウス』と『氷騎士』自身から水色のオーラが発され、騎士の攻撃性を上昇させる。

「『氷騎士』は、フィールドの水族モンスター1体につき攻撃力を400ポイントアップする。フィールドにいる水族モンスターは『氷騎士』自身を含めて2体。よって『氷騎士』の攻撃力は・・・」

氷騎士(アイスナイト) ☆4(アニメGXオリジナル)
水 水族 効果 ATK1300 DEF1200
フィールド上に表側表示で存在する水族モンスター1体につき、
このカードの攻撃力は400ポイントアップする。

氷騎士:ATK1300→ATK2100

「『氷騎士』で、骨格標本を攻撃!」

「なっ!? また骨格標本って・・・」

 新司のツッコミをまたも無視し、『氷騎士』は手に持つ(ランス)で、新司の場に残っていたもう1体の化石恐竜の胴体付近を貫いた。
 結果、体を貫かれた化石恐竜は先に破壊された化石恐竜と同じように、その体をその場に脆く崩していった。

「(スマン、俺の恐竜! 骨格標本呼ばわりまでされて・・・。だが、お前のおかげでこのリバースカードを発動できる!)」

 新司は、心の中で今破壊された化石恐竜に詫びを入れつつ、先ほどの自分のターンに伏せたリバースカードに目を向けた。
 だがその間に、対する日比野は残る『暗黒プテラ』に照準を絞り、『メビウス』の攻撃宣言を行う・・・。

「そして『メビウス』で『暗黒プテラ』を攻撃! 『アイス・ランス』!」

 さすがに、何度も同じネタを使うのはアレなのか、今度は普通に『メビウス』の攻撃を宣言した日比野。それに応えた『メビウス』が、右手のひらに作り出した巨大な氷の槍を投げつけようとした瞬間であった。

「リバースカードオープン!」



 ―――グニャリ!



「むっ!?」

 新司がリバースカードを発動した瞬間、フィールド中の重力が無くなったのか、フィールドの3体のモンスターは自らの体勢を保つ事ができなくなり、『暗黒プテラ』は攻撃の態勢を、『メビウス』と『氷騎士』は防御の体勢を取らざるを得なくなった。

「トラップカード『重力解除』。この効果により、お前のモンスターを守備表示に変更させてもらった」

重力解除(じゅうりょくかいじょ) 通常罠
自分と相手フィールド上に表側表示で存在する
全てのモンスターの表示形式を変更する。

 日比野は不審に思った。自らのモンスターを骨格標本呼ばわりされる事に腹を立てる程モンスターの事を考えているのなら、何故『氷騎士』の攻撃の時点で『重力解除』を発動しなかったのか、と・・・。

「・・・ターン、エンド」

 しかし、自らが伏せているカードを見て日比野は、この一見プレイングミスにも思える新司の行動に対する不安を揉み消した。

日比野LP4000
手札3枚
モンスターゾーン氷帝メビウス(守備表示:DEF1000)
氷騎士(守備表示:DEF1200)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
新司LP4000
手札2枚
モンスターゾーン暗黒プテラ(攻撃表示:ATK1000)
魔法・罠ゾーンなし

「(今こそ、反撃のチャンスだ!)俺のターン、ドロー!」

 新司は、ようやく流れの尻尾を掴んだと思ったのか、カードのドローも勢いがいい。
 しかしこの時はまだ、新司は気付く事ができなかった。



 ・・・自らの伏せカードを見つめる日比野の口元が、うっすらと笑みを浮かべているのを。



「魔法カード、『大進化薬』を発動! 俺のフィールドの『暗黒プテラ』をリリースする事で、俺はこのターンから3ターンの間、リリースなしで恐竜族モンスターを召喚する事ができる!」

大進化薬(だいしんかやく) 通常魔法
自分フィールド上に存在する恐竜族モンスター1体をリリースして発動する。
このカードは発動後、相手のターンで数えて3ターンの間フィールド上に残り続ける。
このカードがフィールド上に存在する限り、レベル5以上の恐竜族モンスターを
リリースなしで召喚する事ができる。

 日比野がこの新司のプレイに一切チェーンをしなかった事により、『大進化薬』の発動は成立された。
 そしてその瞬間、墓地に送られたはずの『暗黒プテラ』が、新司の手札に舞い戻る。『暗黒プテラ』自身の特殊能力である。

「『暗黒プテラ』は、戦闘破壊以外によってフィールド上から墓地へ送られた時、俺の手札に戻る! そして『大進化薬』の効果によって、『ダークティラノ』をリリースなしで召喚する!」

 そう言いながら新司がディスクに1枚のカードをセットした瞬間、中生代白亜紀を生きた史上最大級と呼ばれる恐竜、ティラノサウルスをモチーフとした、巨大な恐竜が新司のフィールドに現れた。

ダークティラノ ☆7(アニメGXオリジナル)
地 恐竜族 効果 ATK2600 DEF1800
相手のモンスターカードゾーンに守備表示モンスターしか存在しない場合、
このカードは相手に直接攻撃できる。

「『ダークティラノ』は、相手のモンスターゾーンに守備表示モンスターしか存在しない場合、相手にダイレクトアタックを行う事ができる!」

「何!?」

 そう。新司の目的はここにあった。
 『氷騎士』が攻撃してきた時点で『重力解除』を発動しても構わなかったのだが、そうした場合、日比野は自身のメインフェイズ2で『メビウス』を攻撃表示に戻してしまうであろう(『重力解除』発動時点で『メビウス』は攻撃宣言を行っていない為、メインフェイズ2で表示形式変更の権利が『メビウス』にはあるから、また『メビウス』の守備力が僅か1000であるから等の理由により)と考えたのである。
 日比野に対して防戦一方であるという事、そして今の自身の手札を考えると、ここは日比野の戦力を潰していく=俗に言うボード・アドバンテージを稼ぐよりかは、大型の一撃でライフの差で有利になる=俗に言うライフ・アドバンテージを稼いだ方が懸命である、と新司は考えたのである。

「『ダークティラノ』で、日比野にダイレクトアタック! 『レックス・ボンバー』!」

 だがその考えは、日比野の伏せた1枚のリバースカードによって無残にも崩れ去る。
 『ダークティラノ』が、防御体勢を取って待機している日比野の場の2体のモンスターを華麗に、かつ豪快にすり抜け、日比野自身に向って振り抜いたその自らの長い尾をぶつけようとした、その瞬間であった。

 「・・・なんだ!?」

 突如、『ダークティラノ』の足場が見る見る凍り付いていき、さらにその氷はフィールドの足場全体を覆ってしまったのである。

「・・・・・・トラップ発動だ。『メビウスの氷河』。この効果により、相手の恐竜族モンスターは全て攻撃表示となり、攻撃宣言も行えない!」

メビウスの氷河(ひょうが) 永続罠(アニメGXオリジナル)
「氷帝メビウス」が自分フィールド上に表側表示で存在しない時、
このカードは破壊される。相手フィールド上の獣族・獣戦士族・
鳥獣族・植物族・昆虫族・恐竜族モンスターは全て攻撃表示となり、
相手は守備表示での通常召喚ができなくなる。
このカードがフィールド上に存在する限り、
上記の種族のモンスターは攻撃する事ができない。

 足場諸共自らの足が凍ってしまったせいで、足を動かしたくても動かせないもどかしさに、『ダークティラノ』はただその場で叫び続けるしかなかった。

「嘘だろ・・・。コレじゃあ俺は、『メビウスの氷河』を何とかしない限り攻撃できず、モンスターで防御する事も不可能って事かよ・・・。カードを1枚伏せて、ターンエンドだ」

日比野LP4000
手札3枚
モンスターゾーン氷帝メビウス(守備表示:DEF1000)
氷騎士(守備表示:DEF1200)
魔法・罠ゾーンメビウスの氷河
新司LP4000
手札1枚
モンスターゾーンダークティラノ(攻撃表示:ATK2600)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
大進化薬(残り3ターン)










−観客席とある場所−


「・・・何故だ。何故見つける事ができない!!!」

 チンクは激怒していた。自らは天然であるのかとさえ疑いたくなる程に。

 誰にも見つからない事を良い事に、ホール内を片っ端から歩き回りもした。自らの視力をフルに使ったりもした。
 だがそれでも、目当ての人物・・・水原護を発見するには至らなかったのである。

 時間も押している。何が何でも、この大会が終わるまでに護を見つけなければならないのだ。



「クソッ! 観客席をもう1周するか? それとも・・・・・・・・・ん?」

 苛立ちながら、たまたま振り向いた先・・・観客席を歩いて180度の地点。つまり、デュエルコートを挟んだ真正面に、チンクは「それ」を見つけた。

「アレは・・・確か奴の友人、天童宇宙・・・。何をしている? 何故1人で口を動かしているのだ?

 チンクの視線の先に映ったもの、それは天童宇宙その人であった。
 だが、その行動がおかしい。チンクがしばらく見つめ続けている間、宇宙は引っ切り無しにその口を動かしていた。1人でいるのに、である。
 独り言にしても、おかしすぎるのだ。

「一体どういう・・・・・・・・・・・・まさか!?」

 瞬間、チンクの頭の中で1つの可能性が生まれる。
 こうしてはいられない。チンクはその思念を、未だに出番を待つ仲間の元へと放った。





−アカデミア、森林奥深く−


「暇だねー」

 草の上にその体を横たえらせるのは、仲間内で最も子供っぽいと称される男、ドゥーエである。
 彼は器用な事に、寝転びながらでもその「結界」を維持していた。

 ちなみに、彼はチンクに「結界を維持したままなら動けないだろう?」と言われていたが(第19話参照)、ただ突っ立っている事に流石に嫌気が差して、色々試しているうちに・・・いつの間にか、歩く以上の運動でもしない限り、その結界を維持できるようになっていたりする。

「アンタはまだマシでしょ。私なんか、現時点で出番すらないのよ・・・」

 と、その横で突っ立っている、仲間内の紅一点・トーレが、寝転ぶドゥーエに対して愚痴をこぼしていたその時であった。



『オイ! ドゥーエ! 聞こえたら返事をしろ! 聞こえなくても今すぐ返事をしろ!』

 突如、ドゥーエの耳に響く耳障りな雑音・・・もといチンクからの応答要請。その声はあまりにも大きく、横に立つトーレにすら聞こえる程であった。
 結果、ドゥーエが置き上がりながら「何大声出してんのさぁ?」と嫌々返事をする横で、トーレは「相変わらず無茶苦茶言う指揮官様ね・・・」と、呆れ果てていた。

「一体どうしたのさチンクぅ? さすがに聞こえてなかったらボクチン返事ができな・・・」

『そんな事はどうでもいい! 今すぐ結界を解除しろ! 今すぐだ!』

 さらに続くチンクの怒鳴り声。ドゥーエは一瞬ポカンとなりながらも、徐々にチンクのその言葉の意味を理解し・・・

「・・・へ? どうし・・・」

『つべこべ言うな! さっさと解除しろ!』

 チンクに疑問を訴えようとしたが、光の速さで一蹴された。
 指揮官様のあまりの迫力に、さすがのドゥーエも戦慄を覚えたのか、「ハイハイ、わかったよー」と前置きして、何かの呪文を唱え始めた。





「おーおー、消えてく消えてく」

 徐々にアカデミア全体を覆っていた結界が消滅していく。そのさまを、トーレはまじまじと見つめていた。

「・・・これでいーか、チンク?」

 やがて結界が完全に消え去り、ドゥーエはチンクに尋ねる。
 チンクの威圧に怯んで猛スピードで結界を解除した為か、さすがのドゥーエも疲労感を覚えたようだ。

『・・・また追って連絡する。それまで待機してろ』

 だが、ドゥーエの問いかけに対してチンクは素っ気無く応え、そのまま思念による通信を遮断した。

「・・・何? あのチンクの態度・・・」

 一所懸命チンクの命令を遂行したのに、「よくやった」の言葉1つすらない。そのチンクの態度に、ドゥーエはずばり子供の如く、一瞬にして口を尖らせながら不機嫌になった。

「・・・諦めなさいドゥーエ。アレが私達の指揮官様よ」

 ドゥーエに対してのトーレの慰めの言葉。その言葉には、台詞通りの明らかな「諦め」の感情が強く入り混じっていた。





−会場内、通路−


 ドゥーエとの通信を切ったチンクは、その場を離れ、急ぎ足で通路を進んでいた。
 このホールを半周し・・・宇宙の居る場所へと。

「(私の推測が正しければ、おそらく奴は・・・)」

 ふと、チンクの足が止まる。宇宙の居る場所に、最も近い入場ゲートへと辿り着いたからだ。
 そのままチンクは、その体をゲートの壁に密着させ・・・壁伝いに、徐々に徐々にとその体を会場内へと近づける。

 そして・・・

「(・・・やはり!)」

 会場内が一目で見渡せる位置まで辿り着いた時、チンクはようやく、その自身の目に「それ」を収める事に成功した。

 手に何かを持ちながら、横に立つ男に質問を繰り返す宇宙。そして・・・その質問に的確に答えている護の姿を。






「へぇー。トメさんも太っ腹だねぇ。いくら売れ残りだからって、元々は商品だろ?」

 そう言いながら宇宙は、その手に持つ物・・・デュエルモンスターズのカードパックを、護へと渡した。
 護が、たまたまズボンのポケットから落とした物である。

 宇宙から返され、護のポケットへと再び仕舞われたこのパックは、今朝、彼がホールへと急ぐ際にバッタリ出くわしたトメさんから頂戴した物である。
 商品の購入や購買の業務を手伝ってくれている日頃のお礼だと、「売れ残りだけど」と前置きしつつ8パックも手渡されたのだ。
 「タダでは受け取れない」と、護は丁重に断ったのだが、そこはトメさん、宇宙の言う通り太っ腹である。最後にはやや強引になりもしつつ、「遠慮しないで」と護に手渡したのだ。



「日頃のお礼って、そんな大した事はやってないんだけどね・・・・・・!」

 その時、護は異変に気付いた。

 誰かが・・・こちらを見ている。鋭い視線が、自身を貫いている、と。



「何かといわくつきのこの学園です。いずれにしろ、この大会に『ネズミ』が潜入する可能性があった事は、我々も既に予測していたのですが・・・」

「例の『アノ件』にツイ〜テ調査を行なって貰ッテ〜ル、ツバインシュタイン博士と影丸(かげまる)理事長カ〜ラ、『ネズミ』の潜入の可能性、そして『アノ件』と『ネズミ』の潜入が関係している可能性が共に90%を超エ〜タとの情報が、先日入ったノーネ」



 直感が、すぐにその対象へと繋げた。
 今、アカデミアが総力を挙げて探している、「ネズミ」と呼ばれる者へと。

 自分でも気付かぬ間に護は、その視線の下に向けて、足を踏み出していた。

「宇宙・・・デュエルの方は頼む!」

「えっ!? ちょっ・・・護!?」

 突如走り出し、ゲートの奥へと消えていった護。
 そのあまりの突然さに、宇宙はただ呆然と立ち尽くすしかなかった。





「・・・気付いたか」

 護がこちらに向かって来るのを見て、チンクもまた動き出す。

 護とチンク、2人による追い掛け合いが始まった。










「フフフ・・・」

「・・・速いな」

 駆け出してすぐに、護はその人物・・・チンクを眼中に捉える。しかし、少しでも近づく事はできなかった。
 速い。チンクの突き進むスピードが、尋常ではなく速かったのだ。

 だが・・・置いていかれる訳にはいかない!

 共に、ジグザグに両の壁を蹴り、その進むスピードをさらに高める。
 2人のスピードは、既に通常の人間のそれを遥かに超えていた。

 通路に沿って進み・・・

 エントランスに辿り着き・・・

 そして・・・外へと飛び出る。



「(・・・誘われたな)」

 護は悟った。
 奴は、人目につかない場所へと自らを誘導している。
 今、誰にも見つからないであろう・・・森の奥へと。



 スタッ!

 突如、護の前を先行するチンクが、その足を止め、地面へと降りた。
 それに応じて、護もチンクから一定の間隔を空けて、地面へと着地する。



「・・・ようやく見つけたぞ、ガーディアンズマスター!」

 チンクが、護の方へと顔を向け、そう呟く。
 護は、目の前にいる名も知らぬ者、チンクが何を言っているのかはさっぱり分からなかった。

 だが、そのフードに隠された顔から放たれる鋭い視線が示している事だけは、ハッキリと分かっていた。





 ・・・この者が、「例の件」を通して敵対する「ネズミ」なのだと。










−再び、デュエルコート−


「ボクのターン!」

 自らのターンに回り、カードをドローする日比野。ドローしたカードを瞬時に確認するとそれを手札に加え、手札の別のカードをデュエルディスクの魔法・罠ゾーンに差し込んだ。


 その瞬間・・・


 ―ゴゴゴゴゴ!


「! 今度はなんだ!?」

 新司が驚きの声を上げたのと同時に、日比野の後ろに巨大な氷の城が建ち、先ほど発生した氷河を助長するように2人の足場をさらに凍りつかせていった。

「永続魔法『氷帝(メビウス)(しろ)』。このカードが存在する時、相手フィールド上の獣、獣戦士、鳥獣、植物、昆虫、恐竜族モンスターの攻撃力と守備力は500ポイントダウンする!」

「なにぃ! 俺の行動をさらに封じる気か!?」

氷帝(メビウス)(しろ) 永続魔法(アニメGXオリジナル)
「氷帝メビウス」自分フィールド上に表側表示で存在しない時、
このカードは破壊される。相手フィールド上の獣族・獣戦士族・
鳥獣族・植物族・昆虫族・恐竜族モンスターの
攻撃力と守備力は500ポイントダウンする。

ダークティラノ:ATK2600→ATK2100 DEF1800→DEF1300

「そして魔法カード『デビルズ・サンクチュアリ』を発動し、『メタルデビル・トークン』をボクのフィールドに特殊召喚する。さらにこのトークンをリリースして、来い! 2体目の『氷帝メビウス』!」

 日比野の発動したカード、『デビルズ・サンクチュアリ』によって呼び出されたトークンを糧に、日比野の場に呼び出された『氷帝メビウス』。
 その召喚のされ方は、先ほど呼び出された1体目の『メビウス』と同じような以下略。



 ・・・ネタに行き詰ったからって、完全に読者と円○プロに喧嘩売ってるだろ作者! ていうかネタは『メビウス』2回目攻撃の時点で自粛したんじゃないのかよ!!! by新司



デビルズ・サンクチュアリ 通常魔法
「メタルデビル・トークン」(悪魔族・闇・星1・攻/守0)を
自分のフィールド上に1体特殊召喚する。このトークンは攻撃をする事ができない。
「メタルデビル・トークン」の戦闘によるコントローラーへの超過ダメージは、
かわりに相手プレイヤーが受ける。自分のスタンバイフェイズ毎に
1000ライフポイントを払う。払わなければ、「メタルデビル・トークン」を破壊する。

メタルデビル・トークン ☆1
闇 悪魔族 トークン ATK0 DEF0
このトークンは攻撃をする事ができない。
このトークンの戦闘によるコントローラーへの超過ダメージは、
かわりに相手プレイヤーが受ける。自分のスタンバイフェイズ毎に
1000ライフポイントを払う。払わなければ、このトークンを破壊する。

「『メビウス』のモンスター効果、アドバンス召喚された時、フィールド上の魔法・罠カードを2枚まで破壊する。この効果でボクが選ぶのは、勿論君のフィールドの『大進化薬』と伏せカードの2枚だ!」

 この『メビウス』も先ほどの1体目と同じく、新司の場の2枚のカードに向けて冷たい息吹を吹きかける。
 しかし、新司もこのままやられっぱなしでは終われない。既に発動されている『大進化薬』こそどうする事もできず凍り付いてしまったが、残った方の伏せカードを凍りつく瞬間に何とか発動させる。

「トラップカード発動、『威嚇する咆哮』。これにより、このターンのお前の攻撃宣言を封じる!」

威嚇(いかく)する咆哮(ほうこう) 通常罠
このターン相手は攻撃宣言をする事ができない。

 『威嚇する咆哮』が発動された瞬間、フィールド中に耳を防ぎたくなるほどの怒号が響き、それによって日比野の場の3体のモンスターは怯んで攻撃を行う事ができなくなってしまった。

「・・・時間稼ぎにすぎないね。『メビウス』が召喚された事により、『氷騎士』の攻撃力がさらに400ポイントアップする。1体目の『メビウス』と『氷騎士』を攻撃表示に変更してターンエンドだ」

 しかし日比野もただでは自分のターンを終わらせられない。
 今召喚された『メビウス』からもオーラが発され、『氷騎士』の攻撃力をさらに上昇させていく。

氷騎士:ATK2100→ATK2500

日比野LP4000
手札1枚
モンスターゾーン氷帝メビウス(攻撃表示:ATK2400)
氷騎士(攻撃表示:ATK2500)
氷帝メビウス(攻撃表示:ATK2400)
魔法・罠ゾーンメビウスの氷河
氷帝の城
新司LP4000
手札1枚
モンスターゾーンダークティラノ(攻撃表示:ATK2100)
魔法・罠ゾーンなし

「くっ! 俺のターン、ドロー!」

 背水の陣とはこの事か、後が無い新司がドローしたのは、幸運にもドロー強化カード。勿論すぐに使用する。

「魔法カード『弱者の贈り物』を発動! 手札の『暗黒プテラ』をゲームから除外し、カードを2枚ドロー!」
 
弱者(じゃくしゃ)(おく)(もの) 通常魔法(漫画GXオリジナル)
手札からレベル3以下のモンスターカードを1枚ゲームから除外する。
自分のデッキからカードを2枚ドローする。

 ドローしたカードを確認した新司。幸運は続いているのか、2枚とも無駄になるカードではなかった。





 ・・・日比野の出方次第なのだが。

「(『ハイパーハンマーヘッド』と『ガード・ブロック』・・・。この2枚を上手く使えば、若干だが日比野のフィールドを崩す事ができる。だが・・・)」

ハイパーハンマーヘッド ☆4
地 恐竜族 効果 ATK1500 DEF1200
このモンスターとの戦闘で破壊されなかった相手モンスターは、
ダメージステップ終了時に持ち主の手札に戻る。

ガード・ブロック 通常罠
相手ターンの戦闘ダメージ計算時に発動する事ができる。
その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になり、
自分のデッキからカードを1枚ドローする。

 そう、『ガード・ブロック』は相手の攻撃に反応するトラップカードである。
 万が一日比野が今持つ最後の手札、いや次のドローカードにでも『メビウス』ないしフィールドの魔法・罠カードを葬り去るカードがある場合、『メビウスの氷河』によって守備表示での召喚を妨害されている事もあり、おそらく新司は致死量のダメージを受け敗北してしまうだろう。

「(くそー! ここに来て結局は運頼みかよ・・・。だが、四の五の言ってられないか・・・)カードを1枚セットし、『ハイパーハンマーヘッド』を攻撃表示で召喚。ターンエンドだ」

 新司のフィールドに現れた、頭がハンマーの形をした身軽そうな恐竜。その恐竜もまた、日比野のフィールドに建つ氷の城から自身の足場へと伸びて行く氷によって、自らの攻撃力を下げた。

ハイパーハンマーヘッド:ATK1500→ATK1000 DEF1200→DEF700

日比野LP4000
手札1枚
モンスターゾーン氷帝メビウス(攻撃表示:ATK2400)
氷騎士(攻撃表示:ATK2500)
氷帝メビウス(攻撃表示:ATK2400)
魔法・罠ゾーンメビウスの氷河
氷帝の城
新司LP4000
手札0枚
モンスターゾーンダークティラノ(攻撃表示:ATK2100)
ハイパーハンマーヘッド(攻撃表示:ATK1000)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚

「ボクのターン! 新司君、そろそろデュエルを終わらせようか」

 ドローしたカードを手札に加えるとすぐに、日比野はこの一言と共にスッと右手を天に掲げる。
 それに反応して、日比野の場の3体のモンスターが一斉に、その右手に持つ氷の槍を新司の場に向けて投擲する構えを見せる。

「『氷騎士』で、『ダークティラノ』を攻撃! 『アイス・ランス』ダイイチダァァァァァ!」

 『氷騎士』の投げつけた氷の槍は、新司の場で身構える『ダークティラノ』をアッサリ貫き、一瞬で絶命へと導いた。

「くっ! 『ダークティラノ』・・・。」

新司:LP4000→LP3600

「まだボクには2体の『メビウス』がいるよ、新司君。2体で攻撃したら、『ハイパーハンマーヘッド』の効果で1体はボクの手札に戻されるが、その前に君のライフが尽きる! 『アイス・ランス』ダイニダァァァァァ!」

 日比野の掛け声と共に『メビウス』が投げつけた氷槍が、『ハイパーハンマーヘッド』に命中する。だが。

「トラップカード『ガード・ブロック』。この効果により俺は戦闘ダメージを免れ、カードを1枚ドローできる。そして、今攻撃した『メビウス』は、お前の手札に戻る!」

 氷槍の串刺しとなり、『ハイパーハンマーヘッド』がその身を崩す。
 だが、その氷槍を投げつけた張本人でもある『メビウス』もまた、光となってフィールドを去り、日比野の手札へと舞い戻った。
 そして同時に、水族モンスターが1体減った事で、『氷騎士』の攻撃力がダウンした。

氷騎士:ATK2500→ATK2100

「けど、まだダイレクトアタックが残っている! 『アイス・ランス』ダイサンダァァァァァ!」

 もう、一直線にこちらに向って飛んでくる氷槍を防ぐ手段はない。
 氷槍が、新司の胸を貫いた。

「くぅぅぅ!」

 ソリッドビジョンの為身体に直接ダメージはないが、2400ポイントものライフを削り取る衝撃はやはり大きなものであった。

新司:LP3600→LP1200

「モンスターを1体セットして、ターンエンドだよ」

 日比野は、王手をかけた事を確信した。
 それもその筈・・・

「(今伏せたモンスターは『ペンギン・ソルジャー』。例え次のターンで新司君が壁モンスターを出そうとも、このカードで手札に戻せる! 魔法・(トラップ)をセットしてきても、『メビウス』で葬り去れば、ダイレクトアタックでボクの勝ち!!!)」

 ・・・なのだ。
 対する新司は、次のターンカードをドローしても手札は2枚。フィールドには何も無し。
 圧倒的に日比野が有利な戦況なのだ。そう思うのも無理は無いだろう。

ペンギン・ソルジャー ☆2
水 水族 効果 ATK750 DEF500
リバース:フィールド上に存在するモンスターを2体まで持ち主の手札に戻す事ができる。

日比野LP4000
手札2枚
モンスターゾーン氷帝メビウス(攻撃表示:ATK2400)
氷騎士(攻撃表示:ATK2500)
裏側守備表示モンスター(ペンギン・ソルジャー)
魔法・罠ゾーンメビウスの氷河
氷帝の城
新司LP1200
手札1枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンなし

「俺の、ターン!」

 『ガード・ブロック』の効果で手札に加えたカード、それは今の状況では、単体では役に立たないカードであった。
 上手く使えば中々面白い動きをしてくれるのだが、それには、これを有効的に使える発動キーが必要なのである。
 新司は、このカードを上手く使え、逆転の一手となるであろうカードが来る事を期待しつつ、デッキからカードを引いた。

「(・・・よし、まだ可能性は残されているぞ!)『ドロオドン』を召喚! コイツの効果で、さらに俺はカードをドローする!」

 現れたのは、前足が短く後ろ足の2本で立つ、首の長い緑色の華奢な恐竜。モデルは白亜紀に北米大陸に生息していたとされる恐竜、トロオドンだろうか?
 そしてその恐竜の効果により、新司はさらにカードを引く。



 ・・・引いたカードが問題だった。



「(これ、デッキから抜いてなかったっけ・・・・・・? 確か、あまりにも一方的すぎるカードだとか理由つけて・・・。ま、まぁこれならさっき引いたカードも活きる。元々、このカードとのシナジーを期待して入れたカードだからな)」

 新司の脳内を、帰省する直前の光とのデュエル辺りから現在までの記憶が猛スピードで駆け巡る。
 新司自身は今ドローしたカードは抜いたと思っていたようだが、どうやら勘違いのようであった。

ドロオドン ☆4(オリジナル)
地 恐竜族 効果 ATK800 DEF1200
このカードの召喚に成功した時、自分はデッキからカードを1枚ドローする。
このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、
自分はデッキからレベル4以下の恐竜族モンスター1体を
選択して手札に加える事ができる。

「だが『ドロオドン』は『メビウスの氷河』によって攻撃表示を強制され、『氷帝の城』によって攻撃力を下げるんだよ」

「ああ、分かってる。カードを2枚セットして、ターンエンド」

 『ドロオドン』の足下が凍りつき、攻撃力を奪う。

ドロオドン:ATK800→ATK300 DEF1200→DEF700

 その攻撃力は、僅か300。一撃喰らえば、一瞬にして新司のライフは消滅する。
 伏せた2枚のカード・・・それが、新司の最後の希望であった。

日比野LP4000
手札2枚
モンスターゾーン氷帝メビウス(攻撃表示:ATK2400)
氷騎士(攻撃表示:ATK2500)
裏側守備表示モンスター(ペンギン・ソルジャー)
魔法・罠ゾーンメビウスの氷河
氷帝の城
新司LP1200
手札0枚
モンスターゾーンドロオドン(攻撃表示:ATK300)
魔法・罠ゾーンリバースカード2枚

「ボクのターン!」

 嬉しそうに、カードをドローする日比野。そしてドローしたカードを、横目で一瞬のうちに確認する。



 ・・・確信した。

「(ボクの勝t)」

「俺の勝ちだ!」

「・・・・・・ハイ!?」

 勝利を確信したその思いを、新司の一言に遮断され、戸惑う日比野。その瞬間である。


 ヒューーーーーー!


 突如フィールドに響き渡る高音、そして真上から落ちてくる幾つもの隕石。


 ドスゥン! ズドォン! ドカァン!


「な・・・『メビウス』!? みんなぁ!?」

 そしてその隕石によって、敵味方関係なく一瞬のうちに潰されていく、フィールドのモンスター達。

 フィールドに、死屍累々の構図が一瞬にして出来上がった。

「トラップカード『ジュラシック・インパクト』。俺のライフが相手のライフより少ない時に発動する事ができる、フィールドリセットカードだ。これでお互いのフィールドのモンスターは全て破壊され、破壊されたモンスター1体につき、そのコントローラーは1000ポイントのダメージを受ける」

ジュラシック・インパクト 通常罠(アニメGXオリジナル)
自分のライフが相手のライフより少ない時のみ発動する事ができる。
フィールド上のモンスターを全て破壊する。
この効果で破壊されたモンスター1体につき、
そのモンスターのコントローラーは1000ポイントのダメージを受ける。
お互いのプレイヤーは、次のそれぞれの1ターン目が終了するまで
モンスターを召喚、特殊召喚する事はできない。

 日比野のフィールドにはモンスターが3体、そして新司のフィールドには1体。すなわち、お互いのライフ消費は・・・。

日比野:LP4000→LP1000

新司:LP1200→LP200

「(くぅぅ・・・全滅だと・・・。だ、だがボクの手札には『光の護封剣』がある。これで新司君の攻撃を封じ、その間にレベル4以下のモンスターを呼び込む!)」

(ひかり)護封剣(ごふうけん) 通常魔法
相手フィールド上に存在するモンスターを全て表側表示にする。
このカードは発動後、相手のターンで数えて3ターンの間
フィールド上に残り続ける。このカードがフィールド上に存在する限り、
相手フィールド上に存在するモンスターは攻撃宣言をする事ができない。

「・・・とか、思ってるんじゃないか?」

「・・・へ!?」

 図星をつかれた日比野が間抜けな表情を見せると共に、新司のフィールドに伏せられていたカードが開かれた。
 そのカードには、何人もの兵士が命がけで戦っているイラストが描かれている。

「トラップカード『白兵戦』。俺がダメージを受けた時発動可能で、相手に700ポイントのダメージを与える」

「だ、だが、それでもまだボクのライフは300ある! それだけあれb」

「お前、『白兵戦』の2つ目の効果を知ってるか?」

「勿論だ! 発動時に自分の墓地に『白兵戦』がある場合、1枚につきさらに相手に300ポイントのダメージを・・・・・・・・・・・・・・・まさか!?」

 日比野の顔が青ざめていく。新司の自身タップリの態度に、日比野は新司が言おうとしている事を悟ったのだ。

 ・・・そして日比野の悪い予感は、現実のものとなる。

「そう、俺の墓地にはもう1枚の『白兵戦』が眠っていたわけだ」

 そう言いつつ新司は、自らの墓地に眠っていた『白兵戦』のカードを取り出し、日比野に見せつけた。
 もうお気づきの方もいらっしゃるかもしれないが、そう、あの時である。あの、日比野が1体目の『氷帝メビウス』を召喚した際に『アクティブ・フォッシル』と共に破壊したカード。それが・・・

「もう1枚の・・・『白兵戦』・・・」

 ガク!

 日比野はそのまま、膝を付いてその場で項垂れた。そして同時に、地面に散らばった日比野の手札。
 このターンに日比野のドローしたカードが、後1ターン早く来ていれば・・・・・・おそらく、結果は変わっていただろう。

日比野の手札:
『氷帝メビウス』
『光の護封剣』
『大寒波』

大寒波(だいかんぱ) 通常魔法
メインフェイズ1の開始時に発動する事ができる。
次の自分のドローフェイズ時まで、お互いに
魔法・罠カードの効果の使用及び発動・セットはできない。

白兵戦(はくへいせん) 通常罠
自分がダメージを受けた時に発動可能。
相手ライフに700ポイントダメージを与える。
自分の墓地に「白兵戦」が存在する場合、
さらにその枚数分だけ相手ライフに300ポイントダメージを与える。

日比野:LP1000→LP0


 ワァーーーーーーーーーーーーー!


「ふぅ・・・何とか勝ったな・・・(今度こそ『ジュラシック・インパクト』のカードは抜いておこう・・・。さすがにこれはキツイわ・・・。)」

 新司は小さなため息を1つつきながら、『ジュラシック・インパクト』のカードは絶対抜こうと心に誓った。






























−アカデミア、森中−


「ガァァァァァァァァァァ!?」

 森全体に響く、男の絶叫。それに反応して、叫んだ男の近くにいた鳥達が、空へと大急ぎで羽ばたいた。

「・・・フフフ、今日が貴様の命日だよ。ガーディアンズマスター?

 叫びながら、その場に膝から崩れ行く男・・・護の姿を見て、相対する男、チンクは、フードで隠れたその口元を不気味に緩ませた。


第25話 −傷だらけのその体で−




 時間は、少し前まで遡る。















「ようやく見つけたぞ、ガーディアンズマスター」

「・・・?」

 チンクの言葉の意味を理解できず、護は一瞬黙り込む。一寸の沈黙が生まれる。

「・・・それは、こちらの台詞ですが?」

 そして放たれた、護の言葉。

 この大会に『ネズミ』が入り込んだという情報を得た。だが、アカデミア内を半日以上探し回っても、その「尻尾」を掴む事すらできなかった・・・。

「だが、貴方はいきなり僕の前に現れた・・・」

 突然に、本当に突然にである。

「いきなり・・・確かに、いきなりだな。本来なら、キサマを始末するまでにこれほど梃子摺るつもりはなかったのだが・・・」

「・・・どういう・・・事ですか?」

 チンクの意味深な言葉に、護は真意を探るような口調で質問をする。
 だが、チンクがそれに答える事は無い。

「単刀直入に聞こう。なぁに、簡単な事だよ・・・」

 ただ単に、自らの疑問をぶつけてくるだけである。



 疑問。それは・・・








































「・・・キサマ、デュエルモンスターズの精霊と融合しているな?」

 精霊・・・融合・・・。
 常人に言っても、決して理解してもらえる内容ではない。返答を聞けるはずが無い。それどころか、異常な質問を問いかけてくる「変人」という扱いを受ける可能性もあるだろう。

 ・・・だが、護は違った。

「・・・だとすると? それが、今の状況と関係あるのですか?」

 心当たりがある・・・。明らかに、そういった返答であった。

「脈あり・・・か。まぁ、気が向いたら教えるかもしれんが・・・そんな事無いだろうね。何故なら・・・」










「キサマは今日、ここで私に敗れ、命を落とすのだから」










 その言葉と共に、チンクが、デュエルディスクを展開する。

「仕様がないですね・・・。では、デュエルと共に尋ねるとしましょうか・・・」

 護も、デュエルディスクを展開。そして同時に、ある事を行う。










「(・・・僕だ。『ネズミ』と思われる者の1人と対峙している。僕のいる座標はこの通話と共に全員に送る。至急来てくれ!)」

 調査に向かわせたカードの精霊全員との、思念による通話だ。
 何故なら、デュエルを行おうにも、何らかの事情でカードから精霊が抜けていれば、そのカードを使う事ができないから。より正確に言えば、そのカードを使用してもデュエルディスクは何の反応も示さないからだ(これは、そもそも精霊を見る事ができる人間がこの世界には少ない為に、あまり知られていない事なのだが)。
 だから、このような状況に陥った場合、護は、使いに出しているカードの精霊に召集をかける必要がある。

 そして数秒後、調査に向かわせた精霊達の第一陣、『G・HERO(ガーディアンヒーロー) ラピート』と『G・HERO(ガーディアンヒーロー) スピーディアン』が、護の視界に届く付近まで近づいてきた。
 このまま、護のディスクにセットされたデッキへと飛び込むだけなのだが・・・その時であった。





「・・・!? いや、やっぱり待て!」

 後数mで、『ラピート』と『スピーディアン』が護に到達する、といった所で、護が唐突に声を荒げた。
 まるで、何かに気付いたかのように。

『『どうした!?』』

 あまりに突然の事に、『ラピート』も『スピーディアン』も急ブレーキをかけて護から半径1mといったところで止まり、護に呼びかける。
 だが護は、それに答えもせず彼らの方へと振り向き、そして、右手を彼らの方へと差し出す・・・。





 バチィ!





 その瞬間、護と精霊達を遮るかのように、何か電流のようなものが天から地面へと走り、護の右手を襲った。
 思わず護は、その差し出した右手を引っ込めてしまう。

「・・・やられたな」

 そう呟く護。同時に、護と精霊を再び遮るかのように、彼らの間に紫の色をしたバリアのようなものができ・・・ドーム状に、護とチンクを覆った。

「これは・・・『絶対不可侵領域』・・・ですね?」

「・・・その通りだ」

絶対不可侵領域(ぜったいふかしんりょういき) 通常罠
自分のスタンバイフェイズに発動する事ができる。
手札からカードを1枚捨てる。
相手は次の相手ターンに通常召喚・特殊召喚ができない。

 『絶対不可侵領域』。紛れもない、デュエルモンスターズのカードの1枚である。それが今、こうして護達の目の前で実体化している・・・。
 護の考えが正しければ、目の前にいる男・チンクは・・・

「もしや・・・貴方、巷で噂のサイコデュエリストですか・・・?」

 サイコデュエリスト。最近、各地で噂になっている、特殊な力を持っているとされるデュエリストの事である。
 噂では、彼らとのデュエルではダメージがそのままプレイヤーに伝わって負傷したり、周辺に物理的被害を及ぼしたりするとの事である。その他にも、今護が目の当たりにしているように、カードの実体化も行う事ができるという。
 護はまだサイコデュエリスト自体を確認した事は無いが、話を聞く限りでは彼らはあまり良い印象を持たれていないらしい。

「それか、貴方も精霊と融合した存在・・・?」

 もう1つの可能性が、チンクがデュエルモンスターズの精霊と融合している、という事。
 精霊と融合していれば、サイコデュエリストと同様にカードの実体化が可能である。昨日、護がやったと同じように・・・。

「・・・そんな事はどうでもいいのだよ。それより、精霊がそれぞれのカードに戻る事ができない今、キサマは『ガーディアンデッキ』を封印されたも同然・・・。違うか?」

「・・・分かっていましたか」

 そう言いながら護は、上着の内ポケットへと右手を差し入れる。
 前述した通り、諸事情で精霊が離脱しているカードは、デュエルで使用する事ができない=デッキの殆どの精霊を使いに出している護は、デッキ自体を使用する事ができない。

「・・・!?」

 そしてこの現実が、1つのミスを犯してしまった事を護に気付かせる。
 制服の上着の内ポケットを探っても、そこにある筈の物が無いのである。

「(・・・まさか、こんな時に限って忘れるか!?)」

 そう、護は今、いつも肌身離さず所持している筈の、『ガーディアンデッキ』以外の既に構築済みのデッキを持っていないのだ。
 普段ならこんなミスはありえないのだが・・・、これには、護自身にとっても信じがたいちょっとした理由がある。
 護は昨日、アカデミアに到着した際、制服に着替えただけで寮の自分の部屋を出て行き、チャンピオンシップの開会式に合流している。
 その後1度だけ部屋に戻っているが、荒らされていた本棚を整理し、新たな制服(護は制服を2着所持している)に着替えただけで、アカデミア帰宅時に着ていた私服には目もくれていない。これが、ミスの原因である。
 冬休み、栄一の施設に居候している間、護は勿論私服(アカデミアから出発する際に着ていた服と、予備のもう1着。非常時は、栄一の義父・孝富(たかとみ)の服を借りていた)で生活している。そしてデッキは、常時上着の内ポケットに「肌身離さず」仕舞っていた。
 だが、アカデミアで制服に着替えた際、『ガーディアンデッキ』はしっかり制服に仕舞い直したものの、何の因果か運命か、予備デッキは私服の上着ポケットに仕舞ったまま、護は自分の部屋を去ってしまったのだ。
 『ガーディアンデッキ』はその後、精霊召喚時にデュエルディスクにセットして以降そのままである。その為、今朝制服を着替え直した時も、上着の内ポケットまで頭が回らなかったのだ。結果、予備デッキは今も私服のポケットの中である。
 つまり、今護が所持している物といえば、『ガーディアンデッキ』とデュエルディスク、財布・筆記具・手帳・携帯電話・PDA(アカデミアの電子生徒手帳)、そして、先程トメさんから頂戴したアレぐらいである。

 ちなみに、護が今までの人生で忘れ物をした回数は、今回の件を含めても両手の指で数える事ができる程度である。

「どうした・・・? まさかキサマ、『ガーディアンデッキ』以外のデッキを持っていないのか!?」

 そんな護の異変を、チンクも見逃す筈がなかった。
 しかしこれは、チンクにとってもある意味大問題である。
 チンクは護とデュエルするに至って、護の情報をやや大雑把にだが調べ上げている。本棚に仕舞っている漫画の位置が違っていたらそれを丁寧に直す程、几帳面な性格をしているという事もである。
 だからこそ、仮に『ガーディアンデッキ』を封じられても、その対応手段ぐらい護はしっかり用意しているであろう、というのがチンクの見解だった。まさか、護が他のデッキを持っていないなど、想定外の話なのである。
 しかも、チンクにとって護を倒す手段は、デュエルでなければならない。デュエルに自信を持ってる護だからこそ、そのデュエルで護を屈服させなければ、意味が無いのだ。

 だが、運命はさらに思わぬ方向へと転ぶ。

「いや・・・デッキはちゃんと持ってますよ」

 その言葉と共に、護はズボンのポケットからある物を取り出す。
 トメさんから頂戴したアレ・・・デュエルモンスターズのカードパックである。その数8パック。

「・・・まさか!?」

 そして護は、そのパックを1パックずつ開け、中身を確認していく。
 そう。1パック5枚入りなので、8パック組み合わせると、ちょうど40枚となる。

「えぇ・・・そうです。デッキは・・・ここに!」

 開けたパックをズボンのポケットへと仕舞うと、護はそのままデュエルディスクから『ガーディアンデッキ』を外し、代わりに今取り出した40枚のカードの束を軽くシャッフルした後、ディスクへとセットする。
 ディスクからの警告音も無いので、同じカードが4枚以上あるとか融合モンスターが紛れ込んでるとかいう事も無いだろう。

「いいだろう、デュエルを始めようか。だがその前に・・・これをつけてもらおう」

 そう言うとチンクは、黒い、トゲの生えた首輪のような物を、どこからともなく取り出し、それを護の足下へと放り投げた。

「これは・・・?」

「衝撃増幅装置・・・。その名の通り、デュエル中に発生する衝撃を増幅させる装置だ。それを、首につけてデュエルしてもらおう」

「なるほど。『絶対不可侵領域』のバリアで、拒否という選択肢は無いわけですね・・・」

 チンクが張った『絶対不可侵領域』。それは、守護者(ガーディアン)達を護から隔離させると共に、護の逃げ場を失わせる役割もあった。
 護は渋々、その装置を自らの首に取り付けた。

「便利になったものだな。かつてはその装置、他人の手を患わなければならず、自力では取り付けられたなかったそうだ。装置の規模にしても、両手にも同様の物をはめなければならなかったらしいしな」

「そうですか。今必要ない情報を、どうもありがとうございます」

「・・・フン。精々言ってるがいい」

 チンクに皮肉交じりの礼を言いつつ、装置の取り付けを終えた護の耳に、後ろから幾つもの声が入ってきた。

『おい護、やめろ! こんなデュエル、危険すぎる!』

『それに、もしやるにしても、まさか護だけがこれをつけるなんて言うんじゃないだろうなぁ!?』

 バリアの外では、既に何体もの精霊が陣を取っていたが、張られた『絶対不可侵領域』のバリアをどうする事もできず、護を止める、もしくはチンクに対して声を荒げる事ぐらいしかできなかった。

「外野は黙っていろ・・・。勿論、私もこれをつけてデュエルするのだ。文句は無いだろう?」

 そう言うチンクは、護が首につけた物と同じ物をいつの間にかその手に持っており、それを自身の首につけた。
 しかし、それでも精霊達のブーイングは収まらない。



「皆・・・僕は大丈夫だ。だから・・・終わるまで待っていてくれ!」

『『『護・・・』』』

 そんな精霊達を黙らせたのは、他でも無い、主である護であった。
 さすがに主の命とあれば、精霊達も黙ってこのデュエルを見届けるしかない。

『ミー・・・』

「『コメット』も! そんな顔しないで・・・。本当に大丈夫だから」

『・・・』

 精霊達の中で最も幼い、妖精『コメット』は、特に心配そうに護を見つめている。
 護に優しい言葉をかけられたが、それでも心配は心配だ。

「さて・・・外野も静まった事だ。いい加減始めようか」

 チンクの言葉と共に、2人はデュエルディスクを構え、デッキの上から5枚のカードを手に取る。

「そういえば、まだ名前を聞いていませんでしたね」

「フン。語るような名ではないよ。名前から正体を探っていこうという事みたいだが、甘かったね」

「(・・・誘いに乗って来ない、か)」

 そう。地の文で何度も名が出ているが為ややこしくて申し訳ないが、まだ護は、目の前にいる男=チンクの名前を知らない。
 なので会話に合わせてサラッと呟いてみたのだが・・・チンクはそれに乗って来なかった。用心深い男である。
 ちなみに、さらにややこしくなる可能性も孕んでいるが、都合上地の文ではこの後もチンクの名を記述させて頂く事を、ここで謝罪しておく。

「「デュエル!」」

チンク:LP4000
護:LP4000

 そして、冬の冷たい風が吹く森の中、デュエルは始まった。

「私の先攻だ。カードをドローさせてもらうよ」

 そう言いつつチンクは、自らのデッキから静かにカードを1枚引く。

「魔法カード『手札断殺』。お互いに手札を2枚墓地へ送り、デッキからカードを2枚ドローする」

手札断殺(てふだだんさつ) 速攻魔法
お互いのプレイヤーは手札を2枚墓地へ送り、デッキからカードを2枚ドローする。

 墓地へと送るカードの選択に、お互いに迷いは無かった。決められていたかのように素早く、手札からカードを2枚抜き取り、墓地へと送る。
 そして、新たな2枚のカードを手札に加える・・・。

「『ダーク・グレファー』を召喚。その効果により、手札及びデッキから闇属性モンスターを1体ずつ墓地へと送る」

ダーク・グレファー ☆4
闇 戦士族 効果 ATK1700 DEF1600
このカードは手札からレベル5以上の闇属性モンスター1体を捨てて、
手札から特殊召喚する事ができる。
1ターンに1度、手札から闇属性モンスター1体を捨てる事で
自分のデッキから闇属性モンスター1体を選択して墓地へ送る。

 全身を黒で染め上げ、闇に堕ちた戦士。その力は強大。
 闇のモンスターを効率良く墓地へ落とし、俗に言う『墓地肥やし』を簡単に行う。

チンクLP4000
手札3枚
モンスターゾーンダーク・グレファー(攻撃表示:ATK1700)
魔法・罠ゾーンなし
LP4000
手札5枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンなし

「(滑らかに闇属性モンスターを墓地へ・・・)」

 護には、チンクが何をしたいのかが大体読めていた。
 チンクが『ダーク・グレファー』の効果では勿論、『手札断殺』の効果でも2体の闇属性モンスターを送っていた事を、護は見逃さなかった。
 つまりチンクは、大量の闇属性モンスターを墓地へと溜めたいのである。墓地の闇属性モンスターの力によって呼び出され、闇属性モンスターを糧にフィールドを支配するモンスターを召喚する為に。

「(という事は・・・厄介なのは、『ネクロ・ガードナー』が2枚も墓地へと送られた事・・・かな?)」

ネクロ・ガードナー ☆3
闇 戦士族 効果 ATK600 DEF1300
自分の墓地に存在するこのカードをゲームから除外して発動する。
相手モンスターの攻撃を1度だけ無効にする。

 懸念すべきは『ネクロ・ガードナー』の効果。意外に見落としやすいがこの効果、墓地にさえいれば相手ターン中いつでも発動可能である。
 そしてそれは即ち、墓地の闇属性モンスターの数を安易に操作できるという事である。

「(なら・・・こちらから数を減らした方が懸命、かな?)」

 考えを纏め上げ、護はデッキに手をかけた。
 手札に揃う面子も、これから加えるカードも、全て普段とは違った布陣。
 未知数な戦力を、護はどう統括するのか。

「僕のターン、ドロー!」

 敵の戦力を削るには、この上ないカード。それが、護の手元に舞い込んだ。

「『ビッグ・ピース・ゴーレム』を、攻撃表示で召喚します!」

 全身が岩で造られた巨人『ビッグ・ピース・ゴーレム』が、護のフィールドに参上する。

「僕のフィールドにモンスターが存在せず、相手フィールドにモンスターが存在しない場合、このカードはリリースなしで召喚が可能。さらに、僕は墓地の『金華猫』を除外し、手札から『大和神(ヤマトノカミ)』を特殊召喚します!」

 続いて現れるは、強面の顔をした力強そうな男。名は『大和神(ヤマトノカミ)』。
 護のフィールドに、2体の上級モンスターが並んだ。

ビッグ・ピース・ゴーレム ☆5
地 岩石族 効果 ATK2100 DEF0
相手フィールド上にモンスターが存在し、
自分フィールド上にモンスターが存在しない場合、
このカードはリリースなしで召喚する事ができる。

金華猫(きんかびょう) ☆1
闇 獣族 効果・スピリット ATK400 DEF200
このカードは特殊召喚できない。
召喚・リバースしたターンのエンドフェイズ時に持ち主の手札に戻る。
このカードが召喚・リバースした時、
自分の墓地に存在するレベル1のモンスター1体を
自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。
このカードがフィールド上から離れた時、
この効果で特殊召喚したモンスターをゲームから除外する。

大和神(ヤマトノカミ) ☆6
闇 戦士族 効果・スピリット ATK2200 DEF1200
このカードは通常召喚する事ができない。
自分の墓地に存在するスピリットモンスター1体を
ゲームから除外した場合のみ特殊召喚する事ができる。
特殊召喚したターンのエンドフェイズ時に持ち主の手札に戻る。
このカードが戦闘によって相手モンスターを破壊した場合、
相手フィールド上に存在する魔法または罠カード1枚を破壊する事ができる。

「『手札断殺』の効果で、スピリットモンスターを墓地へと送っていたか・・・」

「えぇ。バトルフェイズ、『大和神』で『ダーク・グレファー』を攻撃!」

 『大和神』が、その右腕を振りかざし、『ダーク・グレファー』を一撃で粉砕せんとす。
 しかし、振り下ろされたその右腕は、2人の間に現れた戦士の幻影の防御によって、『ダーク・グレファー』に辿り着く事は無かった。

「『ネクロ・ガードナー』の効果で、攻撃は無効だ」

 チンクが、つまらなそうにそう呟く。それでも護は、攻撃の手を緩めない。

「なら、『ビッグ・ピース・ゴーレム』で、『グレファー』を攻撃!」

 今度は『ビッグ・ピース・ゴーレム』のその堅い右腕が、『ダーク・グレファー』を襲う。

「芸が無いねぇ。『ネクロ・ガードナー』で、攻撃を無効」

 だがチンクの言う通り、結局は『大和神』の攻撃の二の舞であった。
 2体のモンスターの間に現れた幻影が、攻撃を遮断したのである。

「・・・カードを2枚伏せて、ターンエンド。この瞬間、『大和神』は手札に戻ります」

 そう。『大和神』は実際、この世の存在ではない「魂のみの存在」である。故に、1ターンのみしか現世に留まれない制約があるのだ。

チンクLP4000
手札3枚
モンスターゾーンダーク・グレファー(攻撃表示:ATK1700)
魔法・罠ゾーンなし
LP4000
手札3枚
モンスターゾーンビッグ・ピース・ゴーレム(攻撃表示:ATK2100)
魔法・罠ゾーンリバースカード2枚

「(さぁ・・・どう出る?)」

 護は身構えた。
 やれるだけの事はやった。後は神のみぞ知るだ。

「私のターン・・・。では、その身で存分に味わってもらおうか」










「私の、闇の力を」










 チンクが、1枚のカードをデュエルディスクへと差し込んだその瞬間、フィールドの『ダーク・グレファー』が光の粒子となり、護へと一直線に突っ込む。
 そして・・・



 ドスゥ!



 護のどてっ腹を貫いた。それと同時に、護の全身を衝撃が走る。

「ぐっぐわぁぁぁぁぁ・・・!? ・・・こ、これは!?」

 それは、デュエルでは体感した事のないほど大きな衝撃。
 ソリッドビジョンシステムでは、ここまでの身体的ダメージはない。
 もっと、巨大なダメージが、護を蝕んだのである。

「魔法カード『リニアキャノン』。コストにしたモンスター・・・『ダーク・グレファー』の元々の攻撃力の半分のダメージを、相手に与える」

リニアキャノン 通常魔法
自分フィールド上に存在するモンスター1体を生け贄に捧げ、
そのモンスターの元々の攻撃力の半分のダメージを相手ライフに与える。
このカードを発動する場合、このターン中に他の魔法カードを発動する事はできない。

護:LP4000→LP3150

「ぐっ・・・これで、闇属性が3体墓地へ揃った・・・」

 デュエルが始まって間もないが、護の感じる疲労は既にデュエル終盤のそれであった。それでも護は、体を蝕む痛みに耐えながら、何とか声を上げた。
 そしてその言葉に対してチンクは、「その通りだよ」と前置きしつつ、手札の1枚のカードに手をかけた。

「見せてやろう、ガーディアンズマスター・・・。私の、ダークモンスターの一角を・・・」

 手札から抜かれた1枚のカードが、そのままチンクのデュエルディスクへと、ゆっくりと置かれる。

「私の墓地に闇属性モンスター3体が存在する場合のみ、召喚を許されるモンスター・・・出でよ!」















「『ダーク・アームド・ドラゴン』・・・」














 周囲にどす黒い『闇』を生みながら、それは現れた。
 顔から首にかけて、両手首、両肩や尻尾をも鋼鉄の鎧で守り、両肩には鋭く巨大な死神の大鎌(デスサイズ)を思わせるような刃を持つ、全身を黒で染めた巨大な竜・・・・・・『ダーク・アームド・ドラゴン』である。

「『ダーク・アームド・ドラゴン』・・・。『ダークモンスター』と呼ばれるモンスターの中でも、特に驚異的な力を持つモンスター・・・」

「どうだ、ガーディアンズマスター。有り合わせの8パックのカードで、このモンスターを打ち破れるか?」

 チンクの挑発じみた言葉・・・。同時に、チンクの足下の周囲から激しい風が生まれ、チンクを取り巻く。

「では・・・行くぞ!」

 そしてその風は、チンクの言葉と同時に護へと向かって吹き荒れた。

 来る・・・。

 『ダーク・アームド・ドラゴン』の猛攻が・・・。

「『ダーク・アームド・ドラゴン』は、墓地の闇属性モンスター1体をゲームから除外する事で、フィールド上のカード1枚を破壊する事ができる」

 そう言いつつチンクは、自らのデュエルディスクの墓地ゾーンから1枚のカードを取り出し、護に見せ付ける。
 そのカードは無論、『手札断殺』の効果で墓地へ送ったカードのうちの1枚である。

「墓地の『異次元の偵察機』を除外し、私から見て右にある、キサマのセットカードを破壊させてもらう!」

 『ダーク・アームド・ドラゴン』が、護の伏せたカード目掛けて猛スピードで突進を始める。そして伏せカードを射程距離に置いた瞬間、『ダーク・アームド』は足を止め、その右腕を天に向け振り上げた。
 右腕をカードに叩きつける事で、一撃でカードを粉砕しようとしているのだ。

ダーク・アームド・ドラゴン ☆7
闇 ドラゴン族 効果 ATK2800 DEF1000
このカードは通常召喚できない。
自分の墓地に存在する闇属性モンスターが3体の場合のみ、
このカードを特殊召喚する事ができる。
自分の墓地に存在する闇属性モンスター1体をゲームから除外する事で、
フィールド上のカード1枚を破壊する事ができる。

「くっ! 速攻魔法『緊急テレポート』! その効果により、僕はデッキからレベル3のサイキック族モンスター『メンタルプロテクター』を守備表示で特殊召喚します!」

 しかし護も、自らの戦力が潰されるのを黙って見過ごすわけにはいかない。
 『ダーク・アームド』に狙われたカードを、咄嗟に発動させる。

緊急(きんきゅう)テレポート 速攻魔法
自分の手札またはデッキからレベル3以下の
サイキック族モンスター1体を特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したモンスターは
このターンのエンドフェイズ時にゲームから除外される。

 護の場に突然出現したワームホールから現れたのは、大きな両手のひらに紫の鉱物のような物をはめ込んだ、滑稽な顔をした金色のモンスター『メンタルプロテクター』。
 これにより、『ダーク・アームド・ドラゴン』の狙った『緊急テレポート』のカードはその役目を終えた為、その右腕が振り下ろされる前にフィールドから消滅した。

メンタルプロテクター ☆3
光 サイキック族 効果 ATK0 DEF2200
このカードのコントローラーは自分のスタンバイフェイズ毎に500ライフポイントを払う。
この時に500ライフポイント払えない場合はこのカードを破壊する。
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
サイキック族モンスター以外の攻撃力2000以下のモンスターは攻撃宣言をする事ができない。

「チッ! ならもう1枚の『異次元の偵察機』を除外し、その隣の伏せカードを破壊する!」

 破壊できなかった事にもどかしさを覚えていた『ダーク・アームド・ドラゴン』であったが、今さっきまで存在した『緊急テレポート』の隣に伏せられているカードを見つけると、そのカードに照準を絞り、再びその右腕を振り上げた。

「残念ですが、こっちは『針虫の巣窟』です。これにより、デッキからカードを5枚墓地へと送る!」

針虫(はりむし)巣窟(そうくつ) 通常罠
自分のデッキの上からカードを5枚墓地に送る。

 護は5枚のカードをデッキの上から抜き取り、それらを墓地へと送る。そして対象のカードが役目を終え再び消滅した事により、『ダーク・アームド』の右腕はまたも空を切る事となった。
 2度もの失敗に苛立ちを感じ始めたのか『ダーク・アームド・ドラゴン』は、皆が耳を防ぎたくなるような大きなボイスでその場で鳴き叫んだ。

「・・・カスが! このまま野垂れ死んでしまえばよかったものの・・・」

 相次いで破壊をかわされた事に余程腹を立てたのか、チンクの口調もやや乱暴になる。

「ザコがいい気になるな! 『ダーク・グレファー』を除外し、『メンタルプロテクター』を破壊だ!」

 三度目の正直とはこの事か。
 『メンタルプロテクター』目掛けて振り落とされた『ダーク・アームド・ドラゴン』の右腕は、今度は空振る事無くモンスターに命中し、モンスターを『粉砕』した。
 『粉砕』出来た事にようやく満足したのか、暴走気味であった『ダーク・アームド・ドラゴン』の感情も平常へと戻ったようである。

「『メンタルプロテクター』!」

「泣き叫ぶのはまだ早いぞ! バトルフェイズ、『ダーク・アームド・ドラゴン』で『ビッグ・ピース・ゴーレム』を攻撃! 『ダーク・アームド・パニッシャー』」

 自らの尻尾を振り回し、それを『ビッグ・ピース・ゴーレム』へと叩きつける『ダーク・アームド・ドラゴン』。
 それは、例え強靭なモンスターでも一撃で破壊されるであろう程の衝撃・・・の筈であった。
 だが・・・

「・・・何故だ? 何故『ビッグ・ピース・ゴーレム』は破壊されない!?」

 耐え切った。『ビッグ・ピース・ゴーレム』は、ギリギリながらその衝撃から生還したのだ。
 ある、1人の戦士の力によって。

「『シールド・ウォリアー』を除外し、『ビッグ・ピース』の戦闘破壊を防ぎました・・・」

「な・・・『シールド・ウォリアー』だと!?」

 『シールド・ウォリアー』。お気づきかとは思われるが、そう、『手札断殺』の効果によって護が墓地に送っていたうちのもう1枚がこのカードだ。
 彼の力が、『ビッグ・ピース』を守り切ったのである。

シールド・ウォリアー ☆3
地 戦士族 効果 ATK800 DEF1600
戦闘ダメージ計算時、自分の墓地に存在する
このカードをゲームから除外して発動する事ができる。
自分フィールド上に存在するモンスターはその戦闘では破壊されない。

「・・・だが、戦闘ダメージは受けてもらう!」

 チンクが、そう口走ったと同時に・・・

「・・・!? ・・・ガァァァァァァァァァァ!?」

 再び、護の身体に大きな衝撃が走った。森中に轟く絶叫、そしてそれに驚嘆して、羽ばたく鳥達。
 2度にも渡って受けた多大なダメージは、さすがの護も耐える事はできなかったようである。
 護は、膝からその場に崩れこんでしまった。

「・・・フフフ、今日が貴様の命日だよ。ガーディアンズマスター?」

護:LP3150→LP2450

「悪あがきをするからだ。どうかね、衝撃の具合は?」

 ダメージに苦しむ護を見て、チンクはあざ笑いながらそう言った。

「ぐっ! こ、これが、衝撃増幅装置の力か・・・」

「そうだ。素晴らしいとは思わんかね? 観客の残虐なカタルシスが生み出した、地下デュエルの産物。そしてその力を。人間などとうに終わった種族だと思っていたが、この辺りはまだまだ捨てがたい物があるね」

 このチンクの言葉に、護は膝をついて苦しみながらもチンクを鋭い眼光で睨み付ける。その瞳からは、反抗の感情が見て取れた。

「・・・どうした? 何か言いたいのかね?」

「・・・方がいい」

 チンクの挑発じみた言葉に、護の口がパクパクと動く。
 1度目は読唇術でも体得していなければ、何を言ってるのか分からない程小さな声であったが・・・

「人間を、馬鹿にしない方がいい」

 2度目の言葉。それは耳を澄まさずとも聞こえる、はっきりと口を動かしての言葉であった。

「・・・・・・カスが。エンドフェイズに『異次元の偵察機』2体をその効果で特殊召喚。ターンエンドだ」

 しかしその言葉も、チンクにとっては気に食わないものであったようで、簡単に一蹴されてしまった。
 同時に現れた、低攻撃力でありながら攻撃態勢を取る2体の『偵察機』が、チンクの態度を代弁しているようであった。

異次元(いじげん)偵察機(ていさつき) ☆2
闇 機械族 効果 ATK800 DEF1200
このカードがゲームから除外された場合、
そのターンのエンドフェイズ時にこのカードを
自分フィールド上に表側攻撃表示で特殊召喚する。

チンクLP4000
手札2枚
モンスターゾーンダーク・アームド・ドラゴン(攻撃表示:ATK2800)
異次元の偵察機(攻撃表示:ATK800)
異次元の偵察機(攻撃表示:ATK800)
魔法・罠ゾーンなし
LP2450
手札3枚
モンスターゾーンビッグ・ピース・ゴーレム(攻撃表示:ATK2100)
魔法・罠ゾーンなし

『護!』

『ミー!』

 何とか立ち上がったものの、護の疲弊は目に見えて分かる。
 精霊達は、思わず叫んでしまうが・・・

「大丈夫だ! 僕の、ターン!」

 護は、心配無用とばかりに返答した。
 先ほどのダメージがまだ残る体。それでも決して、護が折れる事はない。



 あの時の怪我に比べたら、この程度の傷ぐらい・・・



「墓地にある2枚目の『金華猫』を除外し、再び『大和神』を特殊召喚! 攻撃表示!」

 魂のみの存在の男が、再び護のフィールドに降臨する。しかし、これだけでは足りない。

「フッ! ハハハハハ! 血迷ったかガーディアンズマスター? 『ダーク・アームド・ドラゴン』が蹂躙するこのフィールドで、たかだか攻撃力2200を攻撃表示だと!? 確かに、私の場の『異次元の偵察機』は倒せるかもしれんが、それだけでは私を倒せんぞ?」

 チンクも同じ考えなのだろう。高笑いと共に護を挑発する。
 だがそれでも、護は屈しなかった。

「それで良いんですよ」

 それどころか、自身に満ちた表情をチンクへと返した。
 その表情に、チンクが動揺する。

「今貴方が言ったじゃないですか。『異次元の偵察機』なら倒せる、と。そう、『偵察機』を倒せればいいんですよ!」

 そう言いつつ護は、手札に眠りし1枚のカードをデュエルディスクに差し込む。

「まさか・・・それは!?」

 チンクが驚きの声を上げたと同時に、護のフィールドに現れる1枚の魔法(マジック)カード・・・。
 そのカードには、万人が知っているだろう、札を自らの好みに並べていき、最後に倒して遊ぶというあの遊びに似せたイラストが描かれていたのである。

「『ドミノ』発動・・・」

ドミノ 永続魔法
相手フィールド上に存在するモンスターが
戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、
自分フィールド上に存在するモンスター1体を墓地へ送る事で、
相手フィールド上に存在するモンスター1体を破壊する。

 そう、護の思惑はこうだ。
 まず、バトルフェイズで素直に『異次元の偵察機』を戦闘破壊する。それにより、『ドミノ』の発動条件「相手フィールド上のモンスターが戦闘破壊され墓地へ送られる事」が成立する。それと同時に護は自身の場のモンスター1体を墓地へ送る事で、『ダーク・アームド』を破壊する事ができるのである。

「さらに、『ミッド・ピース・ゴーレム』を攻撃表示で召喚! その効果により、『スモール・ピース・ゴーレム』も攻撃表示で召喚!」

 戦力の拡大の手を止めない護。2体の岩の巨人が、まるで元からフィールドに佇む巨人に導かれたかのように、護のフィールドに現れる。

ミッド・ピース・ゴーレム ☆4
地 岩石族 効果 ATK1600 DEF0
自分フィールド上に「ビッグ・ピース・ゴーレム」が表側表示で存在する場合に
このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時、
自分のデッキから「スモール・ピース・ゴーレム」1体を特殊召喚する事ができる。
この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化される。

スモール・ピース・ゴーレム ☆3
地 岩石族 効果 ATK1100 DEF0
自分フィールド上に「ビッグ・ピース・ゴーレム」が表側表示で存在する場合に
このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時、
自分のデッキから「ミッド・ピース・ゴーレム」1体を特殊召喚する事ができる。
この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化される。

「さっきの『ダーク・アームド・ドラゴン』の効果、1つは『メンタルプロテクター』ではなく『ビッグ・ピース・ゴーレム』に使うべきでしたね」

 そう。結果論ではあるが、先程のターンに『ダーク・アームド・ドラゴン』の効果で破壊するべきは、『メンタルプロテクター』ではなく『ビッグ・ピース・ゴーレム』の方が良かった。
 そもそも『メンタルプロテクター』は『緊急テレポート』の効果で特殊召喚された為、何もしなくてもエンドフェイズに除外されていたし、『ビッグ・ピース・ゴーレム』を破壊しておけば、このターンの護の反撃もなかったのだ。

「くぅぅ! おのれぇ! ガーディアンズマスターめ!」

 その事実と護の挑発めいた態度に、チンクが歯軋りする。プライドを捨ててまで、護の守護者(ガーディアン)達のデュエルへの干渉を封じた。確実な護抹殺の戦術を実行してきた。それなのに・・・





 まだこれでも、足りないと言うのか!?





「『大和神』で、『異次元の偵察機』を攻撃!」

 護の攻撃宣言。それを聞き入れた『大和神』が、その屈強な体に似合わない素早さで『異次元の偵察機』の真横に立ち、それに強烈な張り手をお見舞いする。
 反撃もままならず、吹っ飛ぶ『異次元の偵察機』。その先には、フィールドを蹂躙する筈の黒竜『ダーク・アームド・ドラゴン』の姿が。

「そして『ドミノ』の効果! 『大和神』を墓地へ送る事で、『グレファー』と共に『ダーク・アームド・ドラゴン』を破壊!」

 弾き返された『異次元の偵察機』の体が、呑気に立つ『ダーク・アームド・ドラゴン』のどてっ腹に命中する。
 瞬間、『ダーク・アームド・ドラゴン』はそこら中に響き渡る程の大声で鳴きながら、その身を崩していった。
 それと同時に『大和神』も、その役目を終え護のフィールドから消滅していった。

 そして、今度はチンクに、悪夢が襲い掛かる。

「今の攻防で、貴方に戦闘ダメージが発生しました。よって・・・貴方に装着された衝撃増幅装置が作動する・・・。自分で掘った穴に、自分で落ちろ!

「うぬぬぬぬ! ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 衝撃が、チンクを襲う。体を強張らさずにはいられない。両の膝が笑っている。
 チンクは今にも、その場に倒れこみそうになる・・・。

チンク:LP4000→LP2600




































「と、言いたい所ですが・・・。三文芝居はやめたらどうですか? 僕には通用しませんよ?」

 チンクが苦しむ姿を見て、護はボソッとその口を動かす。
 瞬間、その場でもがき苦しんでいた筈のチンクがその動きを止め、平常を取り戻す。

「その、貴方が着けている衝撃増幅装置は、僕が着けている物のそれに似せただけの、ただのレプリカ・・・。ただ貴方はそれを着けているというだけで、実際はデュエルディスクの設定によって発生する以上の衝撃は貴方は受けない・・・。違いますか?」

 護の続ける言葉に、チンクはその表情をピクっと強張らせ・・・言葉を返した。

「・・・その通り、一寸の狂いもない。不本意だがね。キサマの戦力を落としてからデュエルする事も、そのような装置をつけさせてデュエルする事も。私の方が実力が上なのは間違いないのだから!」

 明らかに激情に任せた、チンクの言葉。
 これを聞いて護は、目の前にいる男・チンクは、完全にプライドが高い人物であると、推測した。
 出会ってから今までの、護を見下す態度を見ても、そう察するのは容易な事であった。

『っておい! それじゃあやっぱり反則じゃねぇか!』

「うるさい! 外野は黙っていろと言った筈だ!」

 精霊への対応も、荒っぽいものである。

「(・・・そういえば、さっき衝撃増幅装置の事を語っていた時も、幾分か声が震えていたな。余程我慢していたんだろうなぁ・・・)」

 あの衝撃増幅装置を褒め称えていた事も、本心ではないだろう。

「だがこのデュエル、私は必ずキサマに勝利し、キサマを確実に亡き者にしなければならない・・・。その為なら・・・・・・・・・・・・、ここまでしないといけないのだよ!

 格下の筈の人間に対して、自らハンデを設定しての戦い。それへの屈辱・・・苛立ち・・・。チンクの心がそれで埋め尽くされている事を、護は簡単に察する事ができた。

「・・・デュエルを続けましょう。『ビッグ・ピース・ゴーレム』で、2体目の『偵察機』を攻撃!」

 だが、これ以上チンクの愚痴を聞くのも野暮であった。
 戦闘が、再開される。

チンク:LP2600→LP1300

 もうチンクは必要以上の演技をしない。ただ、戦闘によって発生した衝撃を淡々と受けるだけ。

「(後、一撃か・・・。攻撃時にいきなりモンスターを特殊召喚してくる・・・なんて事は無いだろうけど・・・)」

 危険はある。デュエルモンスターズは日々、進化を遂げているのだ。
 かつては、モンスター同士のバトルを魔法や(トラップ)、闘うモンスター自身の効果で支え、妨害して勝ち抜いていく・・・というのが普通であったが、カードプールの拡張された現在では、それらに加えて手札からデュエルを支えたり、敵を妨害したりするといったカードも増えてきている。
 護はその、手札から突如現れて味方を支えたり、相手を妨害したりするといったそれらのカードの殆どを記憶している。

「(こういった場面で手札から使えるカードは限られている・・・。それに・・・)」

 先程衝撃増幅装置によって受けたダメージは、実際中々酷いものであった。
 何とか押し隠してはいるものの、その痛みがいつぶり返し、自身の身体を蝕むかは分からない。
 なら、決断するしかない。

「『ミッド・ピース・ゴーレム』で、ダイレクトアタック!」

 大きなゴーレムと小さなゴーレムに見守られ、中型のゴーレムがチンク目掛けて飛び掛る。
 これが通れば、一気にデュエルの決着が着く。
 一か八かの突撃思考では決してないが、この一撃で決まるのであれば、それに越した事は無い。





「・・・そう簡単に、終わるわけがなかろう! 手札の『フーリッシュ』をゲームから除外し、攻撃を無効にする!」

フーリッシュ ☆4(オリジナル)
闇 悪魔族 効果 ATK1100 DEF1900
自分のメインフェイズ時に、フィールド上に表側表示で存在する
このカードを手札に戻す事ができる。
相手が直接攻撃を宣言した時、手札のこのカードを
ゲームから除外する事で発動する。その攻撃を無効にする。

 悪魔・・・というよりかは、名前の通り「愚か者」を具現化したかのような姿をした男がチンクを取り巻き、彼を攻撃から守り抜く。
 普段では、気休めな行為にしかならないだろう。
 しかし、今の護にとっては、これは大きな意味を持つ。

「『フーリッシュ』を隠していましたか・・・。じゃあ、『スモール・ピース・ゴーレム』で、ダイレクトアタック!」

 最後のゴーレムのパンチ。まだ何かやって来るかと、護は身構える。だが、それはただの杞憂であった。
 『ミッド・ピース』の時とは違い、『スモール・ピース』の攻撃を、チンクはただ天井から吊られているサンドバッグのようにあっさりと受ける。
 デュエルディスクのライフカウンターだけが、ただ変動するだけ。

チンク:LP1300→LP200

 しかし、チンクの行為は護にとって、逆にチンクをさらに不気味な存在に仕立て上げている事に変わりなかった。

「ターン、エンド・・・ぐっ・・・!」

 護の体が、また少しふらつく。
 今の体の状態では、デュエルが長引けば長引くほど護は不利になってくる。
 ターンを終えた瞬間に多少の緊張が切れたらしく、押し隠していた痛みが、再び護の体を走り始めたようだ。

チンクLP200
手札1枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンなし
LP2450
手札1枚
モンスターゾーンビッグ・ピース・ゴーレム(攻撃表示:ATK2100)
ミッド・ピース・ゴーレム(攻撃表示:ATK1600)
スモール・ピース・ゴーレム(攻撃表示:ATK1100)
魔法・罠ゾーンドミノ

「私のターン・・・。ガーディアンズマスター・・・キサマは『ダーク・アームド・ドラゴン』を攻略できて満足しているんじゃあないだろうねぇ?」

「・・・まさか。そんな事あるわけ・・・ないでしょう・・・」

 チンクの問いかけに対しての護の、途切れ途切れながらの言葉。これは、護の本心である。悪ふざけの言葉ではない。
 だが、この言葉がチンクにとっては挑発ととれてしまったのか、チンクは軽く舌打ちをし、そしてさらに言葉を続けた。

「・・・私を馬鹿にした事を、後悔するがいい! 私の墓地には、闇属性モンスターが3体! よって、このモンスターを特殊召喚する!」

「その召喚方法は・・・あのモンスターか!?」

 2体目の『ダーク・アームド・ドラゴン』・・・という可能性は、護の頭には毛頭なかった。『ダーク・アームド』はデッキに1枚しか入れる事ができない「制限カード」である。
 そうなると、この場面でチンクが呼ぶであろうモンスターといえば・・・

「・・・『ダークネス』」





「『リーダー』・・・。正解だよ、ガーディアンズマスター・・・」

 黒いマントに身を隠した、長身のスリムな体つき。ただ、隠す事のできない顔には肉が無い・・・。そう、骸骨そのものである。それでも、その目は鋭く、しっかりと護を貫いている。『闇の(ダークネス)統率者(リーダー)』・・・。その名に相応しい、悪魔である。

「『ダークネス・リーダー』の統率するフィールドでは、キサマは闇属性モンスターをカードの対象にできず、このモンスター以外の闇属性モンスターを攻撃の対象に選択する事もできない。その忌々しい『ドミノ』も、このモンスターの前では無力だ・・・」

ダークネス・リーダー ☆8(オリジナル)
闇 悪魔族 効果 ATK2700 DEF3000
このカードは通常召喚できない。
自分の墓地に存在する闇属性モンスターが3体の場合のみ、
このカードを特殊召喚する事ができる。
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
相手は闇属性モンスターを魔法・罠・モンスターの効果の対象にできず、
このカード以外の闇属性モンスターを攻撃対象に選択する事もできない。
???

 『ダークネス・リーダー』が、胸の前で両手を構え、両手の間に黒い球体を生成する。その球体は徐々にその体積を増して行き、成人男性なら軽く飲み込んでしまいそうな程の大きさまでに膨れ上がった。

「バトルフェイズ! 『ダークネス・リーダー』で、『ビッグ・ピース・ゴーレム』を攻撃! 消え去れ!」










「『ダークネス・トラジェディ』!」










 そして、チンクの攻撃宣言。
 『ダークネス・リーダー』から放たれた球体は、『ビッグ・ピース・ゴーレム』の胸元に直撃し、その体を一撃で粉砕。同時に、その衝撃波によって、護のライフを削る。

護:LP2450→LP1850

「忘れるな! 衝撃増幅装置の事を!」

 チンクが吼える。戦闘によって発生した衝撃波が、衝撃増幅装置によって威力を増大させ、護の体を切り刻む。

「ぐあぁっ!」

 ダメージは僅か600。だが衝撃増幅装置によって増大した衝撃は、護をただ両足で立たせる事すら困難にさせる。

「ターンエンド! さぁ、キサマのターンだ!」

チンクLP200
手札1枚
モンスターゾーンダークネス・リーダー(攻撃表示:ATK2700)
魔法・罠ゾーンなし
LP1850
手札1枚
モンスターゾーンミッド・ピース・ゴーレム(攻撃表示:ATK1600)
スモール・ピース・ゴーレム(攻撃表示:ATK1100)
魔法・罠ゾーンドミノ

「僕の・・・ターン!」

 意識が混濁しそうな中、ドローしたカードに護はまだ勝機がある事を確信した。
 だが、反撃の狼煙を上げる為には、次のターンを凌ぎ切らなければならない。それは、ただライフポイントを残さなければならないという意味だけではない。自らの意識も残しておかなければならないし、体も潰されてはならない。

 ・・・死んでは、ならない。

「(耐えろ・・・耐えるんだ・・・)カードを1枚セットして、ターンエンド!」

チンクLP200
手札1枚
モンスターゾーンダークネス・リーダー(攻撃表示:ATK2700)
魔法・罠ゾーンなし
LP1850
手札1枚
モンスターゾーンミッド・ピース・ゴーレム(攻撃表示:ATK1600)
スモール・ピース・ゴーレム(攻撃表示:ATK1100)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
ドミノ

 チンクのターンへと移る。単調に・・・実に単調にである。

「・・・何故、モンスターを守備表示にしなかった?」

 そう。護はリバースカードをセットしただけで、2体のゴーレムをそのままにしてターンを終了してしまった。
 本来ならこの場面、自らのダメージを防ぐ為にモンスターを守備表示へと変更するのが定石である。
 しかし・・・。

 護は、息絶え絶えながらに返答した。

「分かりきった事・・・言わないで下さいよ・・・。『ダークネス・リーダー』には、守備モンスターを攻撃した時、守備モンスターの守備力を、攻撃力が越えていれば、相手に貫通ダメージを与える効果がある・・・。もし、守備表示に変更したら・・・、2体の『ゴーレム』は、共に守備力0・・・。一撃でゲームセットじゃないですか・・・」

ダークネス・リーダー ☆8(オリジナル)
闇 悪魔族 効果 ATK2700 DEF3000
このカードは通常召喚できない。
自分の墓地に存在する闇属性モンスターが3体の場合のみ、
このカードを特殊召喚する事ができる。
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
相手は闇属性モンスターを魔法・罠・モンスターの効果の対象にできず、
このカード以外の闇属性モンスターを攻撃対象に選択する事もできない。
また、このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、
その守備力を攻撃力が越えていれば、
その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。

「・・・知っていたか」

 チンクは、また舌打ちをした。
 先程の口ぶりからして、護が『ダークネス・リーダー』の存在を認知していた事は間違いなかった。だが、『ダークネス・リーダー』の効果自体については別で、護が何も知らぬままモンスターを守備表示にしてくれれば・・・と、チンクはそんな「あわよくば」を期待してしまっていたのだ。
 プライドの高い者とは思えないかもしれない思想だが・・・・・・チンクは既に、そう願ってしまう程追い詰められていた。

 自らの最高の戦術を用い、プライドを捨ててまで護の戦力を削ぎ、その上彼に衝撃増幅装置というハンディキャップまで負わせたのに、それでも後一歩の所まで追い詰められた。
 そう。追い詰められたのである。それも、デュエル状況より先に精神が、である。
 護のデッキは、たまたま持っていた8パックをそのまま束にした物。急造デッキ。デッキコンセプトも何も無い。
 テストデュエルもしていないし、デッキの調整など不可能な話。行き当たりばったりな戦術に頼るしかない。
 だが護はそのデッキで、チンクの戦術を一旦とはいえ簡単に攻略した。
 『ダークネス・リーダー』で形勢を再逆転できそうとはいえ、チンクは今の状況でようやく肩を並べる事ができたといったところか。
 万全vs急造なのにである。

 その劣等感がチンクに、「もう勝てるなら相手のプレイングミスでも何でもいい」という雑念を生ませた。
 そして、その雑念とプライドの間で悩み苦しんでいる事が、今のチンクの態度を生んでいるのである。

「(この恥辱・・・屈辱の代償は・・・デュエルで支払ってもらうぞ!)」

 チンクは怒りそのままに、1枚のカードをディスクへと叩きつけた。
 その瞬間、先導者『ダークネス・リーダー』に導かれるが如く、チンクのフィールドに1体のモンスターが姿を現す。

「『終焉の精霊(ジ・エンド・スピリッツ)』を召喚!」

 現れたのは、いかにもステレオタイプな姿をした黒い悪魔。その力は、闇の力を喰らう事で増幅する。

「『終焉の精霊(ジ・エンド・スピリッツ)』は、除外された互いの闇属性モンスターの数で攻撃力が決定する。除外された闇属性は6体。よって・・・」

終焉の精霊(ジ・エンド・スピリッツ) ☆4
闇 悪魔族 効果 ATK? DEF?
このカードの攻撃力・守備力は、ゲームから除外されている
闇属性モンスターの数×300ポイントになる。
このカードが破壊され墓地へ送られた時、
ゲームから除外されている闇属性モンスターを全て墓地に戻す。

除外された闇属性モンスター:
『金華猫』
『ネクロ・ガードナー』
『ネクロ・ガードナー』
『ダーク・グレファー』
『金華猫』
『フーリッシュ』

終焉の精霊:ATK?→ATK1800

 切り札ないしそれに近い存在としてはやや心許ないが、それでもアタッカーとしては十分な数値の攻撃力である。

「バトルフェイズ・・・! 『ダークネス・リーダー』で、『ミッド・ピース・ゴーレム』を攻撃! 『ダークネス・トラジェディ』!」

 『ダークネス・リーダー』から放たれた黒い球体が、今度は『ミッド・ピース』に直撃。そして爆発。護は大幅にライフを削られてしまう。

護:LP1850→LP750

「ぐ・・・・・・!」

 そして、衝撃増幅装置によって増大した、体を蝕むダメージ。
 護の思考が、途切れそうになる。だが、まだ攻撃は続いている。

「『終焉の精霊(ジ・エンド・スピリッツ)』で、『スモール・ピース・ゴーレム』を攻撃! 『ジ・エンド・ダーク』!」

 最後に残された『スモール・ピース』を襲う、『終焉の精霊』の一撃。そして、間髪入れずに護に走る衝撃。

「・・・・・・・・・!?」

 その場で膝をつく。頭が垂れる。もはや護には、絶叫を上げる気力すら残されていない。

護:LP750→LP50


 ドサッ!


 そして・・・そのまま・・・護はその場に・・・崩れ去って・・・行った・・・。


『護!』

『・・・!?』

「・・・終わったか。私自身でトドメをさせないのは屈辱だが、この状況、もはやキサマに逆転できる術は無いな」

 チンクはそう言いつつ、ディスクに置かれたカードを外そうとする。
 勝負は着いた。後は護が勝手にくたばるのを待つだけ・・・。
 バリアの外ではヒーロー達が叫び、『コメット』が目に涙を浮かばせながら、両手で口元を押さえている。
 護が、最期の時を迎えている・・・・・・。それが、この場にいる全員一致の見解だった。










 ・・・だが。

「・・・まだ・・・デュエルは・・・終わってませんよ」

 まだ、護の意識は途切れてはいなかった。このデュエル中積み重ねられた3950のダメージ。衝撃増幅装置によって増大したそのダメージを、護は耐え切ったのだ。

「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・」

 息はまだ途切れ途切れだ。
 だが護は、ゆっくりと、自らの両足で、この大地を、再び踏みしめた。

「言っただろう・・・。僕は、大丈夫だって!」

 そして、彼を心配する精霊達に一声かける。その護の姿を見て、精霊達は取り合えず胸を撫で下ろした。

「フン・・・。なるほど、『ガーディアンデッキ』を使っていないが故に、命拾いしたというわけか」

 護の立つ姿を見て、チンクは1人納得した態度を見せる。
 「どういう事か?」。護がそう尋ねる前に、チンクはさらに言葉を続けた。

「デュエリストには、デュエルエナジーというデュエルを行う事によって発揮される力、言わば闘争心のようなものが秘められているという。そして、デュエリストとしての実力は勿論、デュエリストとしてのメンタルが強ければ強いほど、つまり優秀なデュエリストほど、備わっているデュエルエナジーは多いとされている・・・」

「・・・で?」

 体力的にも、話を聞ける時間は少ない。それに、疲労を考えたら喋る事自体もなるべく避けたい・・・。
 それでも護は、ついつい合いの手を入れてしまう。

「そしてキサマ、ガーディアンズマスター・水原護の、その内に秘めたデュエルエナジー。それは、膨大だ。あの伝説のデュエリストで、このデュエルアカデミアの卒業生でもある遊城(ゆうき)十代(じゅうだい)や、キング・オブ・デュエリストの武藤(むとう)遊戯(ゆうぎ)にも負けず劣らず・・・。いや、もしかすると、彼らをも遥かに超えている可能性すら・・・」

「それは・・・どうも」

 チンクの言葉に、護は全く心のこもっていない態度で礼を言う。かの伝説のデュエリスト達と同等、もしくはそれ以上の存在と言われたのにである。
 別に、チンクの言葉を皮肉と取っているわけではない。ただ、謙遜しているだけである。「自分はそれ程大した存在では無い」と。
 しかし、その態度をチンクは気に入らなかったのか、舌打ちをした後・・・

「これは、かつて古代エジプトで信じられていた力である(バー)やら魔力(ヘカ)と同等の力であるという説もあるそうな・・・。詳しい事は分からんがね。さすがに、そこまでは調べて無いからねぇ」

 どう考えても、余談としか思えない話を挟み込む。護が満身創痍の状態だと分かっていての、明らかな嫌がらせである。

「・・・で、この話の・・・終着点は・・・どこになるんですか?」

 護にもチンクの本心が読めているのか、話の本筋に戻すよう忠告する。

「そう急くな。体がボロボロだからってね。今言ったように、キサマは膨大なデュエルエナジーをその内に秘めている。だがそれは、余りに膨大すぎて・・・本気を出した時など下手をすれば、その力が暴走し、体外へ放出され、周りにいる者達へ甚大な被害を与える可能性も出てきてしまった。そしてキサマ自身でも、それを抑える事が容易ではなくなっている。抑える事はできるが、その為にはそれ以上の力、体力も精神力も大幅に削らなければならない。だからキサマは考えた。このデュエルエナジーを、簡単に抑制できる方法は無いかと・・・。そして出した結論が・・・」

「『G・HERO(ガーディアンヒーロー)』、そして『BG(ブレイブガーディアン)』の・・・常時フル使用・・・」

「そう。キサマの持つ守護者(ガーディアン)、それを扱うには、莫大な体力と精神力・・・つまり、デュエルエナジーに類似されるものが要求されるという。守護者(ガーディアン)を世界でただ1人、キサマしか所持していない理由もそれだ。守護者(ガーディアン)を扱うのに要求されるデュエルエナジーは、一般のデュエリストのレベルでは余りにも足りなすぎるからな・・・。だからI2(インダストリアル・イリュージョン)社の会長であるペガサス・J・クロフォードは、『G・HERO(ガーディアンヒーロー)』も『BG(ブレイブガーディアン)』も、一般向けの販売を行わなかった。一般人にこれらのカードを使わせるという事は、最悪死人が出る可能性もあると語っているようなものだからな・・・」

 そう。万が一まだ幼い子供が守護者(ガーディアン)のカードを使って、デュエルエナジーを吸い取られて倒れでもしたら、大問題どころの話では済まなくなってしまうだろう。

「だが、この守護者(ガーディアン)の扱いにくさは、キサマにとって寧ろ好都合だった・・・。守護者(ガーディアン)のカード1枚を扱うには、一般のカード1枚を扱う為に必要とされるデュエルエナジーの5倍、いや10倍以上のそれを必要とすると聞く。つまり、キサマ自身で暴走しそうになるデュエルエナジーを抑制しなくても、その分のデュエルエナジーを守護者(ガーディアン)達が勝手に吸い取って行くからだ。結果、キサマはデュエルエナジーの暴走を気にしなくても良くなる。だからキサマは、プロリーグでの制限・禁止改定のような余程の事態が無い限り、『ガーディアンデッキ』を使い続けた・・・。それが、最善の行動だと信じたからね。別に否定はしない。私も、キサマと同じ状況に陥ったら、キサマと全く同じ選択をするだろうからね・・・」



 チンクが言っている事は、全て正しかった。正しかったが・・・ただ1つだけ、不可解な点がある。
 ここまでチンクが語ってきた事は、話の中にも出て来たペガサス会長を含めた、ごく一部の人間しか知らない筈なのである。
 という事は・・・。

 護の中で、1つの仮説が立てられる。

「(僕の、身近にいる・・・人間の中に・・・スパイがいて・・・、こちらの・・・情報が・・・筒抜けになっている!?)」

 この仮説が真実であるとすれば、それこそ大問題どころの話ではない。

「それを・・・誰に、聞いたのですか?」

 今にも倒れそうな体に鞭打って、護は精一杯にチンクに尋ねる。

「まぁ、そちらの話はどうでもいいじゃないか。それより、ここまでの話を統括すると、私が最初に言った「『ガーディアンデッキ』を使わなかった故に命拾いした」という説とは辻褄が合わなくなってしまうのだ」

 しかし、チンクはそれすら全く相手にせず、自らの話を押し通す。
 聞かせている対象の護の体がふらついているのにも、お構いなし。一方通行の会話だ。
 無視されてしまった護は、半ば「仕様がない」といった感じに、溜息を1つつく。

「何故なら、『ガーディアンデッキ』を使っていないという事は、キサマはデュエルエナジーの抑制を自力で行わなければならないからだ。デュエルエナジーの抑制に体力と精神力を消費しているのなら、結局は守護者(ガーディアン)達にエナジーを垂れ流しているのと同じだ」

 つまり、疲労の蓄積した護の体は、衝撃増幅装置の餌食となってしまうのである。

「しかし、キサマはまだ生きている・・・。これの意味は・・・? 答えは簡単だ」

 淡々と話し続けるチンクの口調が、ここで重くなる。

「隠そうとしても無駄だ。キサマは三文芝居と言ってくれたが・・・あのダメージを受けた時の私の行動は、半分は本当だったのだよ?」

「・・・バレて・・・ましたか」

 チンクの言葉に、護はまるで悪戯の見つかった子供のように、舌を出して笑って見せた。
 その態度に、チンクはますます腹を立てる。

「キサマ・・・いかにも人畜無害ですよと周りに振舞っておきながら、内面は中々腹黒いな・・・」

「褒め言葉と受け取っておきます」

「チッ! まあいい、話を続ける。核心を言えば、今のキサマは、デュエルエナジーの抑制を行っていない。そうだろ? 「バレたか」なんて言ってるぐらいなのだから」

 チンクの問いかけに、護は頷かない。だが、その目はチンクをしっかりと捉えている。
 その態度が語っている。これも、当たっている。

「大方、私が張った『絶対不可侵領域』のバリアがあれば、エナジーが暴走しても周囲への被害は出ないだろうと考えたんだろう。それに、もしバリアで抑え切れなかったとしても、ここは森の奥深くだ。私達2人以外には、ギャラリーとしてキサマの精霊がいるだけ。大きな被害が出る事は無いだろうな。精霊にしても、さっきのキサマと精霊のやり取りを見てたら大体分かる。信頼感は絶大なのだろう。それだけ信頼しているのだ。例えこのバリアが破れ、キサマのエナジーの暴走が精霊を襲っても、キサマは精霊達は心配ないと思っているのだろう。精霊にしても、万が一の事があっても、主には絶対迷惑をかけないとでも思っているのだろう。・・・違うか?」

「端から端まで・・・寸分・・・違わずに・・・」

 護は、何としてもチンクの情報の元を辿りたかったが、それを口に出す事は無かった。
 核心に近いであろう質問は、既に何度もスルーされているのだ。これ以上尋ねても、チンクが口を割る事は無いだろう。
 それならば、まずはこのデュエルを終わらせる事が先決・・・。
 途切れそうな意識で、護は何とか結論を纏め上げた。

「フン・・・。無駄話はこれくらいにしておこうか。いずれにしても、キサマに残されたターンは後1ターンだ。精々足掻くがいい、ガーディアンズマスター!」

 その意思を読み取ったのか、チンクもようやく自らのターン終了の宣言をした。
 先程の追い詰められた態度から打って変わって、チンクに自身が戻りつつある。
 アタッカー2体が並んでいる自分に対して、護はリバースカード1枚のみというフィールドの状況。そして、一度完全に倒れ、今も限界ギリギリといった感じに何とか両の足で体を支えている護の姿が、チンクに「敗北はありえない」と思わせているのだ。

チンクLP200
手札1枚
モンスターゾーンダークネス・リーダー(攻撃表示:ATK2700)
終焉の精霊(攻撃表示:ATK1800)
魔法・罠ゾーンなし
LP50
手札1枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
ドミノ

 チンクのエンド宣言を聞いて護は、ふらつく体を何とか保たせ、デッキへと手をかける。

「僕のターン・・・ですね・・・」

 そして、自らのターンを宣言、カードを引く。同時に、再びその場に倒れそうになる護の体。

 しかし、倒れる訳にはいかない。

 今ここで自分が倒れては、奴らはすぐに、その手を伸ばしてくるであろう。

 そうなってしまえば、栄一が危ない・・・。

 いや、それだけではない。このアカデミア、そしてこの世界が危ない・・・。

「(・・・よし! まだ、いける!)トラップカード・・・『サイコ・チャージ』を発動・・・! 墓地の、サイキック族モンスター3体をデッキに戻し・・・デッキをシャッフル!」

サイコ・チャージ 通常罠
自分の墓地に存在するサイキック族モンスター3体を選択し、
デッキに加えてシャッフルする。
その後、自分のデッキからカードを2枚ドローする。

デッキに戻されたモンスター:
『メンタルプロテクター』
『メンタルプロテクター』
『テレキアタッカー』

「2体目の『メンタルプロテクター』と『テレキアタッカー』は、『針虫の巣窟』の時か!?」

「えぇ・・・。そして・・・2枚・・・ドロー!」

 最後の力を振り絞り、護は2枚のカードをドローした。






























「何だと!?」

 その瞬間、護のフィールドに現れたのは、巨大な蒼の翼を広げた、3つ首の巨竜。
 チンクのフィールドで指揮を取る先導者をも遥かに上回るその巨大な体は、威圧感ある姿を周囲に堂々と見せていた。

「手札の『デッド・ガードナー』・・・『ゴロゴル』・・・『オイスターマイスター』をコストに・・・、『モンタージュ・ドラゴン』を・・・特殊召喚!」

 3つ首の巨竜はその瞳に、墓地へ送られた3体のモンスターの姿を映した。
 その3体のレベル。それが、巨竜の力となるのである。

モンタージュ・ドラゴン ☆8
地 ドラゴン族 効果 ATK? DEF0
このカードは通常召喚できない。手札のモンスターカードを
3枚墓地へ送った場合のみ特殊召喚する事ができる。
このカードの攻撃力は、このカードの特殊召喚時に
墓地へ送ったモンスターのレベルの合計×300になる。

「墓地へ送った3体のレベルの合計は10・・・。よって、その攻撃力は・・・」

デッド・ガードナー ☆4
闇 戦士族 効果 ATK0 DEF1900
自分フィールド上に表側表示で存在するモンスターが攻撃対象に選択された時、
このカードに攻撃対象を変更する事ができる。
このカードが破壊され墓地へ送られた時、相手フィールド上に表側表示で
存在するモンスター1体の攻撃力はエンドフェイズ時まで1000ポイントダウンする。

ゴロゴル ☆3
地 岩石族 効果 ATK1350 DEF1600
このカードと戦闘を行った相手モンスターは、
ダメージステップ終了時に裏側守備表示になる。

オイスターマイスター ☆3
水 魚族 効果 ATK1600 DEF200
このカードが戦闘によって破壊される以外の方法でフィールド上から墓地へ送られた時、
「オイスタートークン」(魚族・水・星1・攻/守0)1体を特殊召喚する。

モンタージュ・ドラゴン:ATK?→ATK3000

「バ・・・バカな・・・! それだけのモンスターを、手札に呼び込んだだと・・・!」

 腰を抜かしたのか、チンクは尻餅をつき、その場で身じろぐ。
 自らの勝ちは揺るがないと確信していた状況からの、まさかの転落劇。
 チンクは、「今」が信じられなかった。

 しかし、護の場の巨竜の瞳は、チンクを狙って外さない。

「『モンタージュ・ドラゴン』で・・・、『ダークネス・リーダー』を・・・攻撃! 『パワー・コラージュ』!」

 3つの首から同時に放たれた砲撃。
 それは闇の先導者ですら反撃に出る事は叶わず、一瞬にしてその身体を粉砕されてしまった。

「そんな・・・バカなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 そして、チンクを襲うダメージ。それは・・・

「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 チンクが今まで受けてきたダメージの中でも、群を抜いた強さを誇っていた。
 身に着けている衝撃増幅装置はレプリカ、デュエルディスクの衝撃設定も通常のレベル。それなのに、普通では考えられないこのダメージの大きさ・・・。

 自業自得・・・人を呪わば穴二つ・・・。チンクは、そのダメージに一瞬にして意識を彼方へとやってしまった。

チンク:LP200→LP0











「貴方自身が・・・言ってたじゃないですか・・・。忘れたんですか?」

 バチ! バチ!

 デュエルが終わった瞬間、2人の体中に装着されていた衝撃増幅装置が、1人でに外れて地面に落下した。

「デュエルエナジーの・・・抑制が・・・どうとか、こうとか・・・。デュエルエナジーの・・・操作は・・・抑制だけでは・・・ないんですよ・・・」

 そう。最後の攻撃。護は、デュエルエナジーを「制御」した。
 詳しく言えば、表に放出されるデュエルエナジーを、ある1点に集中させるように操作したのである。

 ある1点に・・・そう、チンクにである。

 つまりチンクは、膨大なデュエルエナジーによって発生する衝撃を、直撃で受けたのだ。
 ただでさえ、放出されると尋常じゃない被害を起こしてしまう可能性がある、護のデュエルエナジーである。それをチンクは・・・。
 対する護は、捕らえ易いように、一撃でKOできるようにという考えで、1点集中でチンクに直撃するようにコントロールしたのだ。
 命は奪わないように、ちゃんと抑制もしてある。放っておいたら、そのうち目を覚ますだろう。後遺症も無い筈だ。

 ―ブゥン!

『護!』

『大丈夫か!?』

「・・・何とか、ね」

 チンクが倒れた事によって、『絶対不可侵領域』のバリアも消え去る。それにより、精霊達も護に近づけるようになった。
 精霊達は各々、護に対して安否の確認の言葉をかける。護も、健在をアピールし、精霊達に心配をかけまいとする。

『ミ〜』

「『コメット』も・・・。大丈夫。僕は死なない。決して」

 小さな妖精、精神年齢が最年少の『コメット』に至っては、護に抱きついて泣き喚いている。
 これらは全て、護と精霊達の、持ちつ持たれつの関係を象徴するかのような一場面だ。

「ハァ・・・ハァ・・・では・・・申し訳ないですけど・・・身動き、できないように・・・縛らせて、もらいますよ・・・」

 漸く息の整って来た護は、何時の間にやら手にロープを持ちながら、仰向けに倒れて気絶しているチンクへ、途切れ途切れにそう問いかける。

 だが、その瞬間だった。



「お邪魔しまーす」

「!? ・・・貴方は・・・一体!?」

 地面から、1人のフードを被った何者かが水面から飛び出るように現れ、そのまま気絶しているチンクの体を持ち上げる。
 怪しい人物だ。しかも、チンクを拾ったという事は、彼の仲間の可能性が高い。
 その考えで護は、その者の行動を止めようとする。だが・・・。

「ゴメンなさい、ガーディアンズマスター。アナタと世間話している暇はないの。それじゃあね」

 そう言いつつフードの何者かは、チンクを抱えながら再び地面へと潜り直そうとする。
 護は「逃してはならない」とばかりの速さで、何時の間にやら輪の形をしたロープの先端を2人に向かって投げつけようとするのだが・・・。



「・・・誰か、そこにいるのかい?」

 森の奥から、1人の男性と思われる人の声が聞こえた。

「(一般人!?)」

 その瞬間、護に一瞬の隙が生まれてしまった。

「(今ね!)アディオース、ガーディアンズマスター!」

「くっ! しまった・・・」

 その隙をついて、チンクを抱えたフードはそのまま地面へと消えていった。
 護の反射神経ならば、その一瞬でも彼らを捕らえる事は可能ではあったのだが、一般人に見られてはならないという判断が、手を鈍らせてしまった。










「・・・誰か、いるのかい・・・水原君!?」

「・・・黒田・・・先生・・・!?」

 先ほどから聞こえる声の主・・・それは何と、黒田先生。
 その黒田先生が見たものは、両膝を地面に着いて、息を切らせている護の姿であった。

「どうしたんだい、その酷い傷?」

 護は気付いていなかったが、実は体の中のダメージだけではなく、外傷も激しかったりする。
 髪はアホ毛のように逆立っている毛が何本もあり、制服はボロボロ、コゲて白い生地が黒くなっている箇所もある。

「大丈夫・・・なんでも・・・ありません」

「なんでもない事ないだろ!? さぁ、捕まって! 保健室に行かないと!」

 そう言いつつ黒田先生は、護の右腕を後ろから自分の体に回し、彼の体を支える。

「で、でも・・・」

「いいから! 早く!」

 護は保健室へ行くのを拒んだが、黒田先生の激しい剣幕に最終的には折れ、黒田先生に手伝ってもらいながら保健室へと足を運んだ・・・。






























−アカデミア森林深く−



 ・・・ビリッ!

「?」

 空間に、縦一文字の皹が入る。
 結界を解除して以降、何もやる事が無く昼寝をしていたドゥーエがそれに気付き、目を覚ます。

 にしても、アカデミアの関係者の殆どは大会に集中しているとは言え、昼寝とは中々無防備な行動である。
 この辺りが、他の仲間から「ドゥーエはガキ」と揶揄される所以だろう。

「・・・フゥ・・・コイツ、前から思ってたけどなんて重いのかしら?」

 一文字の皹が、瞬時に横に広がり円のような形になる。
 そして、気絶している1人のフード・・・チンクを左腕で抱えながら、もう1人のフード・・・トーレが、勢いよくその円から飛び出して来た。

「トーレ、おかえりー」

 ようやく緊張から開放された、といった表情のトーレとは対照的に、ドゥーエはのん気に座り込みながらトーレに挨拶をした。

「まったく・・・この指揮官様は・・・。自分で「出来る限り早く始末しなければならない」とか意気込んでおきながら、十枚落ちのガーディアンズマスターに負けてるんだから・・・」

「アハハハハ! チンクなっさけなーい!」

※十枚落ち
 将棋におけるハンディキャップの事。
 上手側の人間が下手側の人間との差を埋める為に、飛車と角行、両方の香車と桂馬、さらに両方の金将と銀将を使わないで対局する事。
 よってこの場合、上手側は9枚の歩兵と王将のみで対局する事になる。(参照:ウィキペディア)

 つまりトーレは、お得意の『ガーディアンデッキ』の使用不可を余儀なくされ、持っていた8パックのカードのみでデッキを組む事になった護の状況を十枚落ちと表現したのである。

「まったく・・・。とんだ指揮官様ね・・・・・・?」

 トーレは取り合えず、気絶したままのチンクを介抱しようと、彼を地面に仰向けに寝転ばせたのだが・・・。
 その時トーレは、気絶しているにもかかわらず、チンクがその左手でしっかりと握っている1枚のカードの存在に気付いた。

「・・・フン。チンクのプライドの、最後の抵抗といったところかしら。使っていれば、確実に勝てていたでしょうにね・・・」

 気絶した今でも、その手に握っているという事は、デュエル中に使わなかったないし使えなかったという事である。
 しかし今回のデュエル状況では、チンクはそのカードを使える機会が確実にあった。

禁断の巨神(アンタッチャブル・ギガント) ☆10(オリジナル)
闇 悪魔族 効果 ATK3000 DEF3000
このカードは通常召喚できない。自分フィールド上に存在するレベル8以上の
闇属性モンスター1体をゲームから除外する事でのみ特殊召喚する事ができる。
???

「自分でパクらせておいて、それを自分で使わないなんて・・・。無駄なプライドね・・・」

 トーレは、チンクのそのプライドを馬鹿馬鹿しく思ったのか、まだ目覚めぬ彼を「フン」と鼻で笑った。



「・・・トーレ・・・それにドゥーエもか?」

 そのようなやり取りが行われている最中、ようやくチンクが目を覚ました。

「おっはー! チンクー!」

「目覚めの気分はどう? 指揮官様?」

 皮肉たっぷりの表現で、チンクへと挨拶をするトーレとドゥーエ。
 しかし、チンクはそれに答えずそのまま立ち上がると・・・

「・・・帰るぞ! こんな忌々しい場所、居るだけで胸糞が悪くなる!」

 と、荒々しい口調で2人に命令した。
 護に負けた事が、よっぽど気に食わないのだろう。

「・・・クアットロはどうするのよ?」

「五月蝿い! 奴なら勝手に帰ってくるわ!」

「・・・はいはい」



 トーレは、チンクの愚痴等を適当にあしらった後、チンクとドゥーエを掴み、空間に空いた円に飛び込んだ。

「また会いましょ、デュエルアカデミア」

 トーレのこの言葉を最後に、3人は異次元の彼方へと消えていった。


 ピシッ!


 そして、空間の円は閉じられ、辺りには彼らがいたという痕跡が残る事は無かった。



第26話 −悟り悟られ−

「オイオイ・・・。嘘だろ・・・」

 今のデュエルフィールドの状況を見て、宇宙は思わず呟いてしまった。
 宇宙の周りにいる生徒達、いや、このホールにいる人間全員が、宇宙と全く同じ感想を述べているであろう。

 デュエルフィールドでは、第4試合の佐々木と真壁のデュエルが行われていた・・・のだが、先攻・佐々木のターンが終わり、真壁のターンに入った瞬間、その「事件」は起こった。



「・・・さらにチェーンして、『全弾発射(フルバースト)』を発動。これでお前のライフは0だ」

 佐々木の発動したカードから計10発のミサイルが発射され、その全てが真壁に直撃。
 その威力に、真壁のライフは一瞬にして失われてしまった。

全弾発射(フルバースト) 通常罠
このカードの発動後、手札を全て墓地へ送る。
墓地に送ったカードの枚数×200ポイントダメージを相手ライフに与える。

真壁:LP3000→LP1000→LP0

 開始から5分も経っていない。一瞬にしてデュエルの決着が着いた。
 圧倒的、かつ予想外の展開であった。それもその筈、オシリスレッドの佐々木が、オベリスクブルーの、それも「ブルー三羽烏」と形容される真壁に、何もさせないまま勝利を収めたのだから。

「(・・・何かアイツ、雰囲気ヤバくね?)」

 デュエルコートから去ろうとする佐々木。その背中から感じる何かの「オーラ」。それを宇宙は感じ取った。恐怖心を抱いた。



「嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ・・・・・・」

 ホール全体が唖然とする中、真壁は膝を着き、信じがたい現実を何度も何度も復唱していた。















−校舎内通路−



「さて、どうするかなぁ・・・」

 宇宙は、これからすべき事を考えながら廊下を歩いていた。
 『チャンピオンシップ』の影で動いているであろう「ネズミ」。それらしき人物を宇宙は、今のデュエルを見てある程度ながら特定した。

 結果的には8人全員が灰色なのだが、その中でもとりわけ佐々木が怪しい。一番クロに近い。それが、宇宙の見解であった。

 先程、ホールで護と別れた後も、宇宙は新司と日比野のデュエルを見続けていた。だが2人とも、一切怪しいアクションをとらなかったし、怪しい雰囲気も無かった。何より去る前の護が彼らに対して何も感じていなかった事を考えると、栄一・平賀・光・明子と同様、新司と日比野も、灰色は灰色でもシロに近い灰色である。
 という事は、単純に消去法で考えると、クロの可能性が一番高いのは真壁と佐々木。その2人の中でも、一段怪しいのが佐々木である。
 今し方のデュエルで垣間見た佐々木の姿が、宇宙の中で特に決め手となっている。

 だが、特定した所でどうする?
 本人に一対一で問い詰める、というのもあるが、もし問い詰めた相手が「ネズミ」だった場合、バレたと分かった相手が何をしてくるか分からない。宇宙は精霊を見る事はできても、護のようにそれを操る事はできない。精霊にボディガードを・・・なんていう荒技も不可能だ。
 だからといって、単身で乗り込むのも危険すぎる。

「どうしたもんかねぇ・・・」



「今から、約40分のインターバルを挟むノーネ。『フレッシュマン・チャンピオンシップ』準決勝は、11時00分から開始する予定ナノーネ。準決勝第1試合進出者の明石栄一と北条光は、開始5分前までにホールのデュエルコートに集合するノーネ。遅刻は厳禁ナノーネ」

 宇宙は、気付いた時には既にエントランスまで来ていた。
 校舎内全域に、クロノス教諭のアナウンスが響いている。決勝トーナメントの第1ステージ4試合が全て終わった事で、一旦休憩を挟むようだ。携帯を確認すると、時刻は10時20分を少し回っていた。
 辺りには、お手洗いや友人と談笑する為にホールから出てきた生徒達がちらほら見え始めている。宇宙を憧憬の眼差しで見つめる生徒も少なくない。

「どうしたもんですかねぇ・・・」

 だが宇宙は頭を抱えたいほど悩んでいるせいか、それらの目も全く気にかけぬままに、あまり人気の無い側の通路へと歩いていき、そして他の生徒の視界から姿を消した。















「・・・ありゃ? こんな所に来ちまったか」

 通路の真ん中で、宇宙は足を止めた。
 辺りには人っ子一人いなかった。普段からあまり人気の無い場所ではあるが、『チャンピオンシップ』で人口が一部に集中してるという事が、それを尚更強調しているようだ。

「どうしようもないからって、さすがにこんな所にいてもなぁ・・・」

 確かに、誰もいないこの場所に1人でいても、何も始まらないのは明らかだ。

「戻るか・・・」

 そう呟きつつ、踵を返そうとしたその時であった。



「・・・・・・誰だ?」

 こちらに向かって歩いて来る生徒が一人、宇宙の視界に入った。体は小柄、赤い服からしてオシリスレッドの生徒だろう。

「栄一?」

 そう。我らが主人公、栄一である。だが当の栄一は、俯きながら歩いているせいもあるのか、宇宙の存在には気付いていないようだ。

「栄一!」

 宇宙は、いつも栄一にかけているのと同じような明るい口調で栄一に呼びかけた。
 ボーっとしている所に急に呼びかけられた為か、栄一はその言葉にビクッと体を震わせながら、恐る恐るとその顔を上げた。

「・・・宇宙、先輩?」

「よぉ! こんな所に1人でどうした? お得意の散歩にしては、コースの選択が悪すぎるぞ? こんな寂しい通路を選ぶなんてな」

「あ・・・いや・・・その・・・」

 宇宙は笑顔を絶やさずに栄一に接しているのだが、対する栄一は言葉が詰まっているのか、再びその顔を俯けてしまう。その栄一の態度を見て、宇宙はすぐに全てを理解した。



 栄一が、先程の平賀戦の事をまだ引きずっているのだと。



 そうと分かれば話が早い。宇宙の行動もまた早い。

「どうやら悩んでいるようだな。よしっ! オレが相談に乗ってやろう! 場所、移動するぞ?」

 そう言いつつ宇宙は、栄一の来た方向へとその足を進めていった。

「え・・・。あ、あぁ・・・」

 栄一は、急な話の展開に一瞬判断を遅らせるが、それでも何とか宇宙の話を理解し、宇宙の後ろについて進んで行った。















「ここは・・・」

 栄一が連れて来られたそこは、1月の凍てつく風が体を切り裂く寒空の世界。端から下を覗くと、地面が遠くに見える。落ちたらひとたまりも無いだろう。
 つまり2人は、校舎の屋上に来ていた(といっても振り向けば、そこには校舎の断片がさらに聳え立っているのだが)。

 ちなみにここは、あの遊城十代が在学時に「お気に入りの場所」と言ってよく昼寝の為に足を運んでいた場所でもある。

「お前の悩み、大勢の人に聞かれるのもアレだろ? ここなら、さすがに人はいないだろうからな。さっきの場所も人はいなかったけど、校舎の中な分、ここより人に聞かれる可能性高いからな」

 宇宙の言う通り、ここには栄一達を除いて人っ子一人いない。与えられた休息時間は約40分。その短い時間をわざわざここで過ごそうと考える人間はまずいないだろうから、当然と言えば当然だろう。

「・・・ま、寒さから来る精神的拷問はこっちの方が遥かにキツイけどな。さて、今お前が抱えている悩み、一から十まできっちり話してもらおうか」

 前述の通り、宇宙は栄一が何に悩んでいるのかをほぼ理解しきっている。先程のデュエルコートでの平賀と栄一のやりとりを丸々見ているのだから、ある意味当然と言えば当然なのだが。
 だが宇宙は、栄一の深層心理を確認する為、また栄一が悩みを隅々まで話すのをやりやすくする為に、あえて栄一の悩みを初めて知るかのように振舞った。

「・・・先輩」

 この宇宙の言葉に、栄一は全てを語る他無くなった。宇宙の明るく優しい、頼もしい振る舞いに、精神的に追い詰められていた栄一は、宇宙に頼らずにはいられなかったのだ。

「実は・・・」

 栄一は、ゆっくり、ゆっくりと、自らが抱え込んでいる事を喋り始めた。










「(・・・やっぱりな)」

 栄一は、先程までの事を全て宇宙に話した。平賀の言葉に、『バーニング・バスター』と自らの関係に葛藤を覚えた事、トイレで『バーニング・バスター』のカードをデッキから抜いた事も。全部。

 全部。全部である。全部、宇宙の思った通りだった。簡単な話であった。




「・・・お前、デュエルの全てを『バスター』に頼っているだろ?」



 栄一は、『バーニング・バスター』を自らが使い続けていいのかという事に悩み・・・、



「・・・『ノーレラス』によって『バスター』が失われる事に、恐怖を感じていたのさ」




『バーニング・バスター』が敗れる事を、恐れているのである。



「先輩・・・。俺、どうしたら・・・」

 栄一は、完全に精神が衰弱していた。
 クリスマス・イブの誘拐犯戦辺りからその兆候は薄々みえていたが、栄一本人はそれに全く気付いていなかった。それを今日突然、責められるが如く平賀にあれだけ言われてしまい、栄一はようやくそれに気付くと同時に、心を大きく傷付けてしまった。
 平賀も悪気があって言ったわけではない筈なのだが・・・。彼の言葉は、それだけ栄一の心に深く刺さったのである。

 そんな栄一を救うべく、宇宙が出した案は・・・

「じゃあ・・・デュエルでもすっか?」

「・・・えっ?」

 であった。
 栄一が素っ頓狂な声を上げたその時には、宇宙は既にデュエルできるだけの距離を栄一から取り、自らのデュエルディスクを構えていた。

「デュエルに関係してる事なら、デュエルで解決するのが一番早いだろ? ほら、お前も!」

 宇宙の言葉も、一理あると言えば一理あるだろう。栄一の悩みはデュエルに関した事なのだから、デュエルで解決するのが望ましいし、手っ取り早いだろう。
 だが宇宙が有言即実行を地で行きすぎるせいか、栄一は宇宙の言葉と行動を理解するのにどうしても遅れてしまう。
 宇宙がディスクを起動させたのと同時にようやく全てを理解した栄一は、断れる筈もなかろう、渋々デッキケースからデッキを取り出し、それを軽くシャッフル。デュエルディスクへとそれを備える。そしてディスクを起動させる。



「おっと! 栄一、まさか『バーニング・バスター』なしのままデュエルしようとか思ってないよな?」

「えっ?」

 図星だった。簡単に見抜かれた。今の栄一のデッキに『バーニング・バスター』のカードは入っていない。
 たった今『バーニング・バスター』をデッキから抜いた話を宇宙にしたばかりなのだ。ばれるのは当然であるが・・・それでも栄一の心中を察すれば、『バーニング・バスター』抜きでデュエルをしたくなるのも、分からないでもないだろう。

「入れろ」

 だが、宇宙は容赦しなかった。『バーニング・バスター』抜きでデュエルを行うなど有り得ない。それでは、一々デュエルを申し込んだ意味が無い。

「入れるんだ」

 別に宇宙は険しい顔をしているわけではないが、それでもこの宇宙の一言が、栄一には恐ろしく感じた。あまりそうしたくなかったが、『バーニング・バスター』を再びデッキに入れる他無かった。
 栄一は体を震わせながら、デッキケースに残された『バーニング・バスター』を取り出し、ディスクのデッキと混ぜて再びシャッフルした。

「それでいい。んじゃ、始めようか」

 互いに、デッキから5枚のカードを手に取る。
 雲がかかり太陽からの熱の配給が遮断されてしまった分、この屋上の寒さはさらに増しているのだが、その事は既に2人の眼中には無かった。


「デュエル!」
「デュエル・・・」


 デュエルディスクを構える2人以外には、人がいない静かな冬の世界に、栄一と宇宙、2人の声が響く。
 だが、宇宙の声は何時も通りによく響いているのだが、栄一の声はどこか勢いに欠け、篭っているように聞こえる。
 2人の今の心境を、よく表しているようだ。

宇宙:LP4000
栄一:LP4000

「オレのターン! 『暴風小僧』を守備表示で召喚し、カードを2枚セットしてターンエンドだ!」

 先攻、宇宙のフィールドに現れたのは、ボサボサの髪型をした、周囲に風が吹き荒れ続ける少年『暴風小僧』と、2枚のリバースカード。
 少年には、風属性モンスターをアドバンス召喚する際に、自らを2体分のリリースモンスターとして扱う事ができる力がある。

 フィールドの状況、そして自信満々の顔を見せる宇宙・・・そこから考えるに、切り札が彼の手札に既に眠っているのは、明白だった。

暴風小僧(ぼうふうこぞう) ☆4
風 天使族 効果 ATK1500 DEF1600
風属性モンスターを生け贄召喚する場合、
このモンスター1体で2体分の生け贄とする事ができる。

宇宙LP4000
手札3枚
モンスターゾーン暴風小僧(守備表示:DEF1600)
魔法・罠ゾーンリバースカード2枚
栄一LP4000
手札5枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンなし

「俺の、ターン・・・」
 
 対する栄一、弱弱しくカードを引く。そして、今引いた1枚を加えた、6枚の手札を確認する・・・。

栄一の手札:
『E・HERO ワイルドマン』
『サイクロン・ブーメラン』
『フェイク・ヒーロー』
『ダミー・マーカー』
『E・HERO キャプテン・ゴールド』
『E・HERO バーニング・バスター』

 栄一は動揺した。どうすればいいのだと迷う間も無く、こんなに早く『バーニング・バスター』が手札に舞い込むなんて・・・と。

「(『バスター』・・・!? まさか、もう来るなんて・・・!?)」

 その時、栄一の耳元に、誰かのかすかな声が聞こえた。不安になった栄一は、その声の持ち主が誰であるかと耳を澄ませる。

『(栄一・・・栄一・・・)』

 その正体は、すぐに判明した。カードの精霊『バーニング・バスター』である。栄一が再びデッキに加えた事で、その声がハッキリと聞こえるようになったのである。

「(『バスター』・・・!? 俺は、どうしたらいいんだ・・・? お前を、使っていいのか・・・?)」

 栄一は、自らの思いをぶちまけた。どうすればいいか、分からないから。

『(何度もいったはずだ、栄一。私は、お前を選んだからこそ、お前の元に現れた。それだけだ)』

 対する『バーニング・バスター』は、その一言だけを残して栄一との会話を遮断した。
 栄一が自らを再びデッキに加えた心中を察し、自らの思念を伝える為に現れたのであった。



「(・・・兎、兎に角、何とかしないと)」

 『バーニング・バスター』からのちゃんとした返事を貰えなかった栄一は、軽くパニックに陥りながらも、手札のカードに手をかけた。

「『ワイルドマン』を、攻撃表示で召喚」

 フィールドに現れた瞬間、その鋭い視線を風の少年に投げかける、野生のヒーロー『ワイルドマン』。

「さらにこの魔法カードを、『ワイルドマン』に装備する」

 そして、『ワイルドマン』の手元に現れた巨大なブーメランが、『ワイルドマン』自身の攻撃力を上昇させる。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) ワイルドマン ☆4
地 戦士族 効果 ATK1500 DEF1600
このカードは罠の効果を受けない。

サイクロン・ブーメラン 装備魔法
「E・HERO ワイルドマン」にのみ装備可能。
装備モンスターの攻撃力は500ポイントアップする。
装備モンスターが他のカードの効果によって破壊され墓地へ送られた時、
フィールド上の魔法・罠カードを全て破壊する。
破壊した魔法・罠カードの枚数×100ポイントダメージを相手ライフに与える。

E・HERO ワイルドマン:ATK1500→ATK2000

「『ワイルドマン』で、『暴風小僧』を攻撃」

 『ワイルドマン』が、少年に向けてその巨大なブーメランを思い切り投げつける。
 攻撃・・・。だがそれに反応して、宇宙のフィールドに伏せられた2枚のカードが、同時に顔を見せる。

「トラップカード『炸裂装甲(リアクティブアーマー)』! さらに、それにチェーンする形で速攻魔法『禁じられた聖杯』を発動!」

 発動された、栄一から向かって右のカードから、白の服に身を包み、右手に黄金の杯を持つ女性が、『ワイルドマン』の目の前に現れる。
 するとその女性は、『ワイルドマン』の口元に手に持つ杯を近づけ、その中の飲料を彼に静かに飲ませた後に、フィールドから姿を消した。

E・HERO ワイルドマン:ATK2000→ATK2400

 されるがままに杯に注がれた物を飲んだ瞬間、『ワイルドマン』の顔が紅く染まり、飲んだ物に酔ったのか、雄たけびを上げた後、その場で膝を着く。それと同時に、『ワイルドマン』の足元が爆発。
 爆発の煙が晴れたその時、『ワイルドマン』の姿は既にフィールドには無かった。

炸裂装甲(リアクティブアーマー) 通常罠
相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
その攻撃モンスター1体を破壊する。

(きん)じられた聖杯(せいはい) 速攻魔法
フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動する。
エンドフェイズ時まで、選択したモンスターの攻撃力は
400ポイントアップし、効果は無効化される。

 黄金の杯には、その中に注がれた物を飲ませた相手の能力を封じる力があった。
 その力によって、『ワイルドマン』は「(トラップ)をすり抜ける」という能力を失い、普段なら軽くかわせる爆発をモロに受けてしまった、という事である。
 杯の中身はどうやら酒であったらしく、一瞬、自身の戦闘本能を剥き出しにしたと思われたが、それを安定させる事は出来なかったらしく、酔いに負けた後、爆発に巻き込まれてしまったようである。

「『サイクロン・ブーメラン』には、装備モンスターが破壊された時、フィールドの魔法・(トラップ)を全て破壊する効果とバーン効果が備わっているが・・・生憎フィールドには魔法も(トラップ)も無いな」

 少年に難なくかわされてしまったブーメラン。物理の法則に沿って、自らの持ち主の下へ戻ろうとするも、その持ち主は既にフィールドを去っている。
 結局ブーメランは、自身の持ち主が元いた辺りの地面に突き刺さり、そのまま消滅していった。

「・・・」

 そして、『ワイルドマン』とブーメランの消え去る姿を、まじまじと見せ付けられた栄一。その動きが止まり、冬の世界に静寂が走る。



 そんな状況が数十秒ほど続いた後、宇宙が痺れを切らせたのか、栄一に向かって冷静に問いかけた。

「・・・なんで召喚しない? いるんだろ? 『バスター』」

「!?」

 そう。栄一が数十秒もの間動きを止めていた原因は、『バーニング・バスター』の誘発召喚効果にある。
 本来なら、『ワイルドマン』が破壊され墓地へ送られた今、手札に眠る『バーニング・バスター』の誘発召喚効果を発動するのが普通である。
 しかし、今の栄一にそれは、普通の話ではなかった。

「どうして・・・分かった? 俺の手札に、『バスター』がいる事を・・・」

「いや・・・デュエルする前にあんな事言われて、それで始まった途端にそんな何かに怯えたような顔されたら、普通気付くだろ・・・」

 栄一は、恐る恐る問いかけた。その顔に血の気は無く、放っておいたらその場で倒れてしまいそうな、完全に青ざめた表情だ。
 しかし対する宇宙は、そんな栄一の問いかけにも、素っ気無く返事を返した。

「で、どうするんだ? 召喚するのか? しないのか?」

「えっ・・・あ・・・」

 栄一から返答の言葉が発せられる事はなかった。俯きながら、その場で立ち続けていた。
 彼の言いたい事は、宇宙にも分かる。答えは「NO」だ。

「・・・召喚しないのか? じゃあ、オレのターンでいいんだな?」

 宇宙は、呆れ顔でそう言った。
 その言葉に栄一は、ハッと何かに気付いたかのような態度を取ると、慌てて手札の1枚のカードをディスクに差し込み、自分のターンを終えた。

宇宙LP4000
手札3枚
モンスターゾーン暴風小僧(守備表示:DEF1600)
魔法・罠ゾーンなし
栄一LP4000
手札3枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚

「オレのターン・・・。こんな所で、こんなカードが来るとはな・・・」

 栄一が「えっ」と不思議がっている間に、宇宙は2枚のカードをディスクに差し込み、続いてもう1枚のカードを発動させた。

「魔法カード、『墓穴の道連れ』発動・・・」

墓穴(はかあな)道連(みちづ)れ 通常魔法
お互いに相手の手札を確認し、それぞれ相手の手札のカードを
1枚選択して墓地に捨て、カードを1枚ドローする。

 栄一が顔を歪めた。宇宙が発動した『墓穴の道連れ』。お互いに手札を確認し合い、その中から1枚のカードを捨てさせるカード。それは即ち、先ほど悩みに悩みぬいた結果、手札に留める事とした『バーニング・バスター』のカードを、捨てさせられるかもしれない・・・と言う事である。

「オレの手札は1枚・・・まじまじと確認するまでもないな」

 宇宙は、栄一に残った1枚の手札をサッと見せ、そのまま墓地へとカードを置いた。
 そのカードは『パワードウィング・ホーク』・・・。宇宙のエースカードである。

「じゃあ、次はお前だ。手札を見せてもらおう」

 栄一は、手に持つ3枚のカードを、それらを持った左手ごとひっくり返し、宇宙へと見せつけた。

栄一の手札:
『フェイク・ヒーロー』
『E・HERO キャプテン・ゴールド』
『E・HERO バーニング・バスター』

「・・・やっぱり持っていたか。『バーニング・バスター』を」

「・・・くっ!」

 宇宙の口調からすると、明らかに『バーニング・バスター』を選択するだろう・・・。栄一はそう思った。



 ・・・だが。

「オレは、『キャプテン・ゴールド』のカードを選択する」

「・・・えっ!?」

 選ばれたのは、『バーニング・バスター』ではなかった。
 栄一は、不安と疑問を覚えながらも、選ばれた『キャプテン・ゴールド』のカードを墓地へと送る。
 そして『墓穴の道連れ』の第2の効果により、お互い同時に、デッキから1枚のカードを引いた。

「・・・お前が、自分で『バスター』を召喚できないのなら・・・オレが引導を渡してやろう」

 ドローしたカードを確認し、宇宙はそう栄一に呟いた。
 宇宙は、栄一が『バーニング・バスター』を召喚出来ないでいるこのタイミングで、『バーニング・バスター』の召喚を誘導する為に必要なカードがこれだけ揃うとは、運命とは残酷だな・・・と思いつつ、栄一の反応も待たないうちに、今し方セットしたばかりのカードを発動させた。

「リバースカードオープン・・・・・・『手中掌握』。魔法カードの名前を1つ宣言、そのカードが相手の手札にあるならば、発動を強制させるカードだ。オレは・・・『フェイク・ヒーロー』を宣言する!」

「『フェイク・ヒーロー』・・・だと・・・!?」

 『フェイク・ヒーロー』。手札の『E・HERO(エレメンタルヒーロー)』を特殊召喚する事ができる魔法カードである。
 栄一の手札にこのカードが眠っている事は、『墓穴の道連れ』のピーピング効果で確認済みである。
 結果、『手中掌握』によって、栄一は『フェイク・ヒーロー』の発動、即ち手札の『E・HERO』1体を特殊召喚する事を強制された。
 そして、栄一の手札に眠る『E・HERO』は、『バーニング・バスター』ただ1体・・・。
 即ち、あれだけ拒んだ『バーニング・バスター』の召喚を、栄一は否が応でも行わなければならなくなってしまったのである。

手中掌握(しゅちゅうしょうあく) 通常魔法(アニメDMオリジナル)
魔法カードの名前を1つ宣言する。相手の手札を確認し、
宣言したカードが相手の手札に存在する場合、
その場で相手はそのカードを使用しなければならない。

フェイク・ヒーロー 通常魔法
自分の手札から「E・HERO」と名のついたモンスター1体を特殊召喚する。
そのモンスターは攻撃する事はできず、このターンのエンドフェイズ時に持ち主の手札に戻る。

「あ・・・あぁ・・・」

 栄一の顔が不安で染まる。同じくして、『フェイク・ヒーロー』が強制的に発動された事により、栄一の手札に眠りし『バーニング・バスター』のカードが光る・・・。

「お前が召喚できないのなら、オレが『バスター』を召喚させる!

 宇宙が叫ぶ。そして周囲に現れた無数の炎が、栄一の目の前に集まっていき、1人の戦士の身体を形成していく。

「『E・HERO バーニング・バスター』・・・特殊召喚!」

 宇宙が宣言した瞬間炎の中から、紅の鎧を身に纏った戦士『バーニング・バスター』が、栄一の目の前に現れた。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) バーニング・バスター ☆7(オリジナル)
炎 戦士族 効果 ATK2800 DEF2400
自分フィールド上に存在する戦士族モンスターが
戦闘またはカードの効果によって破壊され墓地へ送られた時、
手札からこのカードを特殊召喚する事ができる。
このカードが戦闘によってモンスターを破壊し墓地へ送った時、
破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。

 『バーニング・バスター』が現れた途端、栄一の心を埋め尽くしたのは、「疑問」「不安」「怯え」。
 トイレに引き篭もっている間も、ずっと考えていた。

 何故、智兄ちゃんは俺に『バーニング・バスター』を預けたのか?

 俺は、預かった筈の『バーニング・バスター』に頼りっぱなしなのではないか?

 という事は、もし『バーニング・バスター』を失ったら、俺は・・・?

「・・・怯えるな、栄一」

 ネガティブな感情に心を支配され、葛藤し続ける栄一に、宇宙はそっと呼びかけた。
 そして、ディスクの魔法・罠ゾーンに差し込まれた最後のカードを発動させる。

「『死者蘇生』発動! 蘇れ・・・『パワードウィング・ホーク』!」

 宇宙のフィールドに伏せられていた、最後のカード。そのカードの力によって「冥界」から「現世」へと蘇った、白き翼を羽ばたかせた巨大な鷹『パワードウィング・ホーク』が、宇宙のフィールドから飛翔する。そしてこの大鷹には、今のこのフィールドを支配するに相応しい力が秘められている。



 フィールドを支配する力・・・すなわち、栄一のフィールドの『バーニング・バスター』をも飲み込む力である。



死者蘇生(ししゃそせい) 通常魔法
自分または相手の墓地に存在するモンスター1体を選択して発動する。
選択したモンスターを自分フィールド上に特殊召喚する。

「『暴風小僧』をリリースして、『パワードウィング・ホーク』の効果を発動! フィールド上のカード2枚を破壊する!」

 宇宙の命を受け、『暴風小僧』の身体がエネルギー体となっていき・・・『パワードウィング・ホーク』の両翼へと吸収されていく。そしてそのエネルギーにより、燃え盛るように紅くなった『パワードウィング・ホーク』の翼。

 突進。栄一のフィールドの伏せカード、そして『バーニング・バスター』へと・・・。『パワードウィング・ホーク』が、疾風(はやて)の如く、突っ込む。
 そして紅き左の翼により伏せカードを、右の翼により『バーニング・バスター』を・・・粉砕した・・・。

パワードウィング・ホーク ☆7(オリジナル)
風 鳥獣族 効果 ATK2400 DEF2000
自分フィールド上に存在するモンスター1体をリリースする事で、
フィールド上に存在するカード2枚を破壊する。
この効果は1ターンに1度、自分のメインフェイズにしか使用できず、
この効果を使用した場合、このカードはこのターン攻撃できない。

「『バスター』・・・『バスター』・・・『バスター』!!!」

 『バーニング・バスター』の名を連呼する栄一。その時栄一は、心の中でハッキリと感じた。

 栄一の心を支えていた何かが、脆く崩れ去っていくのを・・・。










「・・・オレ、分かったわ。なんでお前が、そんなに『バスター』の墓地送りに怯えているのかを」

 悲痛の叫びを続ける栄一を見ながらでも、宇宙の態度はやはり素っ気無かった。
 しかしそんな態度でありながら、宇宙は重要な事を確かに言い放った。
 「栄一が怯える理由」・・・それが分かった・・・と。

「・・・どういう事だよ・・・先輩」

 弱弱しい声で、栄一が尋ねる。自分の事でありながら、自分では分からない。

 この小説を読まれている方にも、経験は無いだろうか? 誰かに言われて、初めて自分の難癖等に気付いた、という事は。
 他人には周知の事実でも、自分には何の事か分からない、と言うのはよくある話である。今の状況がまさにそれだ。
 第三者である筈の宇宙に分かり、当の本人である栄一には分からない。
 そんなややこしい問題の答え・・・それを今、宇宙が解明しようとしているのだ。

「・・・いきなり昔の事を掘り返すようでスマンが、智兄さんについて語ってくれたあの夜、お前は「智兄さんを思い出しそうで怖かった。だからアカデミアに入学するまで『バスター』を封印していた」と言っていたな。続けて「アカデミアという壁に恐れて、『バスター』の封印を解放した」とも」

 宇宙の言葉に、栄一は小さく頷く。しかし、今の話だけではまだ、栄一には宇宙が何を言っているのかは分からなかった。
 それを見て宇宙が、さっきまでの素っ気無い態度を一変させ、真剣な表情で栄一の目を見ながら、言葉を続けた。

「そこだ。『バスター』の封印を解放したお前は、『バスター』のその潜在能力の高さに取り込まれ、いつしか『バスター』を自分の拠り所に、支えにしていたんだ。自分では気付かない間にな。・・・この点は、平賀も言っていたな」

 栄一は、平賀とのデュエルの際に、彼に言われた事を思い出す。
 あの時言われた事、それは確かに、栄一にとって全て図星の話であった。

「何年も心の底に押し込んでいた物を、急激に解き放ったんだ。その取り込まれ方はおそらく、常識を超えたスピード、依存力だったんだろうな。・・・例えて言えば、麻薬みたいなもんだろう。そしてその『バスター』への依存は、いつしかお前の心の隙間を埋めるようになっていたんだ」





 ・・・智兄さんがいなくなった事によってポッカリ空いた、お前の心の隙間をな。





「つまりお前は、『バスター』がフィールドを去った「今」を、智兄さんが去った「あの日」に重ねているんだ」

 その言葉と同時に宇宙は、デュエルディスクに置かれている『パワードウィング・ホーク』のカードを右手に持ち、そのままディスクの墓地ゾーンへとそれを仕舞いこむ。

「フィールドの『パワードウィング・ホーク』をリリースして・・・」

 そして左手に持つ最後の1枚のカード・・・それを右手に持ち替え、静かにディスクへと置いた。

「来い! 『グレートウィング・ホーク』!」

 フィールドに佇んでいた『パワードウィング・ホーク』が、その身を光らせ、さらなる成長を遂げる。
 白く美しい両翼は、筋肉がさらに発達した事によって、その力強さを強調しており、その眼も鋭さを増している。極めつけは、ただでさえ巨大な体が、所有者である宇宙の全身を完全に隠しきってしまう程の図体までに成長した、という事であろうか。
 そして・・・

「『グレートウィング』は、墓地の鳥獣族モンスター1体につき、400ポイントパワーアップする!」

 墓地に眠るは、進化前の『パワードウィング』。そのエネルギーをフィールドの『グレートウィング』は得、さらに力強さを増していく・・・。
 効果を使用したが故に、このターンの攻撃を封じられた『パワードウィング』。それを『グレートウィング』に進化させる事で、このターン中の攻撃を可能とし、さらに『グレートウィング』の攻撃力を上昇させる・・・。
 『ウィング・ホーク』モンスターの、基本型進化コンボである。

グレートウィング・ホーク ☆8(オリジナル)
風 鳥獣族 効果 ATK2800 DEF2400
このカードは通常召喚できない。自分フィールド上に存在する
「パワードウィング・ホーク」1体をリリースする事でのみ特殊召喚する事ができる。
自分フィールド上に存在するモンスター1体をリリースする事で、
フィールド上に存在するカード2枚を破壊する。
この効果は1ターンに1度、自分のメインフェイズにしか使用できず、
この効果を使用した場合、このカードはこのターン攻撃できない。
このカードの攻撃力は、自分の墓地に存在する
鳥獣族モンスター1体につき400ポイントアップする。

グレートウィング・ホーク:ATK2800→ATK3200

「『グレートウィング・ホーク』で、栄一にダイレクトアタック! 『翼の襲撃』!」

 『グレートウィング・ホーク』の眼が、鋭く正確に栄一を捉える。刹那、『グレートウィング・ホーク』は両翼を広げ、射程範囲に捉えた獲物・・・栄一に向けて、真っ直ぐに突っ込む。
 その強烈な一撃に、栄一の体は後方へと投げ飛ばされてしまった。

栄一:LP4000→LP800

「オレは、これでターンエンドだ」

 『グレートウィング・ホーク』での攻撃を終え、宇宙はターンを終了させた。
 しかし投げ飛ばされ、地面に叩きつけられた栄一が起き上がる様子は無い。
 別に、今の攻撃で怪我をしたわけではない。小柄な体格だが、これで結構頑丈だ。起き上がらない原因は、寧ろ精神面の方である。

 『バーニング・バスター』が破壊されたショックを引きずり、反撃の姿勢を失ってしまったのだ。

 もう起き上がりたくない。『バーニング・バスター』について悩みたくもない。早く楽になりたい。
 それらの感情が、交錯し、栄一の手足をフリーズさせてしまったのだ。



 ビー! ビー! ビー! ビー!



 起き上がらない栄一を他所に、フィールドに喧しい程のアラームが鳴り響く。栄一のデュエルディスクが、何かを警告しているのだ。
 体を動かす事すら億劫になっていた栄一だが、アラームのあまりの五月蝿さに仕方がなく体を起こし、ディスクを見つめながら原因を考えようとする。

「・・・お前、自分が使ったカードぐらいちゃんと覚えておけよな」

 だが、見てるだけでは何も解決しない。栄一のこの体たらくに宇宙は軽く呆れてしまい、仕方なく助け舟を出した。

「俺が『パワードウィング』の効果で破壊したリバースカードは『ダミー・マーカー』。このカードが破壊された時、お前はカードを1枚ドローできるんだろ? そのドローをまだしてないから、ディスクが警告してるんだ。さぁ、ドローしな」

ダミー・マーカー 通常罠(アニメGXオリジナル)
このカードが破壊された時、デッキからカードを1枚ドローする。
このカードが相手の魔法カードの効果で破壊された時、
デッキからカードを2枚ドローする。

「・・・ドロー?」

「あぁ、ドローだ。さぁ、早くするんだ」

 宇宙が急かす。うじうじしている栄一を見ていられないのだ。
 だが、『バーニング・バスター』が破壊された事によって栄一は、既にデュエルに対する「勇気」を失ってしまっている。
 今の栄一にとって、『バーニング・バスター』がデュエルの全てであり、その『バーニング・バスター』が敗れた今、もう栄一に闘えるだけの精神力は残されていないのだ。

「(気持ちは分からんでもないけど・・・それじゃあこの先には進んで行けないぞ?)」

 その栄一の態度が、宇宙に苛立ちを覚えさせ、栄一に俊敏な行動を強要するような言葉を発させてしまった。喧しいアラームのBGMが、それを助長させてしまっている。
 宇宙は苛立った自分を咎めつつ・・・優しく、栄一へと口を開いた。

「栄一・・・。恐れる事なんて何もないんだ。お前が信じさえすれば、例え破壊されようが除外されようが、『バスター』はその「答え」を導いてくれる。何時でも・・・お前の傍にいるんだから!」

「・・・」

 栄一は反応しない。それでも宇宙は、何とか栄一の心を開こうとさらに言葉を続ける。

「智兄さんは、お前から去って以降音信不通。何時かは戻って来てくれるだろうとお前は考えていたんだろうが、それも叶わなかった。そして今のお前は、智兄さんと『バスター』を重ね合わせている。つまり、『バスター』も一度お前の傍から離れてしまえば、もう戻って来ないかもしれないという不安に、お前は怯えているんだ。そんな今のお前の心情では、俺の言葉を、『バスター』を信じろという方が酷かもしれんが・・・」

 宇宙は、息を大きく吸い、自らの結論を・・・ハッキリと栄一に示す。

「だが、智兄さんには申し訳ないが・・・、智兄さんと今の『バスター』には、決定的な違いがある! それは、確かに智兄さんはお前の傍から離れてしまったが、『バーニング・バスター』はそれでもお前の傍を離れていないという事だ!」

「!?」

 宇宙の結論・・・。それに栄一は、声にもならない驚きの表情を見せた。同時に、見えなくなってしまう程開いてしまったと思っていた『バーニング・バスター』との距離が、自身の隣に見えるまで急速に縮まっている事を、栄一は確かに感じた。

 そこには、自身でも気付かないままに右手を自らのデッキに構えている栄一の存在があった。

「智兄さんも、軽いノリで『バスター』をお前に託した筈が無い。去ってしまう自らの分身として、お前の守護者(ガーディアン)にしてほしいという思いで、お前に託したに違いない。だから・・・その思いを裏切るな! 裏切るつもりがないなら、カードを引け! 栄一!」

 ビシュ!

 宇宙がそう言うと否や、栄一は半ば破れかぶれにカードを引いていた。





 ・・・その引いたカードとは

ドローカード:『戦士の生還』

「(『戦士の生還』・・・? これが、『バスター』の「答え」・・・?)」

 これで、自らを呼び戻せという事なのだろうか。手札のもう1枚のカードと一緒に見つめても、栄一にはそれ以上の事が思い浮かんでこなかった。

宇宙LP4000
手札0枚
モンスターゾーングレートウィング・ホーク(攻撃表示:ATK3200)
魔法・罠ゾーンなし
栄一LP800
手札2枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンなし

「・・・さっき言った通り、オレはもうターンを終了させている。お前のターン。つまりお前には、もう1枚のドローが残されているぞ」

 そうだ。栄一にはまだ最後のドローが残されている。そのドローカードも合わせた手札こそ、『バーニング・バスター』の答えなのかもしれない。
 そう思うと、再び怖くなって来る。栄一の体は、自然と震えていた。

「さぁ、ドローしな」

 再び、優しい口調で栄一を導こうとする宇宙の言葉。
 栄一は恐る恐るながら、その右手を再びデッキに構えた。

「俺の、ターン・・・・・・!」

 震える栄一の右手。その右手に、誰かが覆いかぶさるように手を重ねる。
 その誰かを、栄一も、そして宇宙も、その目でしっかりと捉えた。

「「(・・・『バスター』!?)」」

 『バーニング・バスター』。彼だった。彼が、栄一の手に自らの手を重ねているのだ。
 「答え」を導き出す為に、共にカードを引こうとしているのだ。

「引け! 栄一!」

 背中を後押しする、宇宙の言葉。栄一は咄嗟に反応し・・・

「ドロー!」

 『バーニング・バスター』と一緒に、カードをドローした。

「引いたカードを使え! 栄一! お前と『バーニング・バスター』の絆が本物なら、その手札は今のお前に応える布陣になっている筈だ!」

 宇宙の言葉に、栄一は手札をもう1度確認する。
 先程まで感じた『バーニング・バスター』の存在は、カードをドローした瞬間に何時の間にか消えていた。
 だが、その『バーニング・バスター』の態度が、栄一にある事をハッキリと感じさせた。

 これらのカードが『バーニング・バスター』を再臨させる、そしてVへの道を拓く存在だと。

「オレには分かる。それらのカードは、『バーニング・バスター』がお前の「怯え」を払拭させる為に与えたカードだ! だから・・・躊躇するな! 使え、栄一!」

 宇宙も感じ取っていた。カード達の鼓動を。だからこそ、声を荒げてまで栄一に説いた。

 栄一を、もう1度立ち上がらせる為に。



 スッ!

 宇宙の声が、栄一の心の奥まで届いたのか、ついに栄一がその手を動かした。カードをディスクへと差し込んだ。

「俺は・・・『戦士の生還』を発動・・・。それにより、『キャプテン・ゴールド』を手札に加える」

戦士(せんし)生還(せいかん) 通常魔法
自分の墓地に存在する戦士族モンスター1体を選択して手札に加える。

 栄一が手札に呼び戻したのは、『バーニング・バスター』ではなかった。だが栄一は、再び逃げたのでは決してない。
 このカードの選択は、『バーニング・バスター』の闘う舞台を作り上げる為のものだ。

「さらに、手札に加えた『キャプテン・ゴールド』を捨てて、その効果を発動。『スカイスクレイパー』を手札に加える。そして『スカイスクレイパー』を発動」

 『バーニング・バスター』の闘う舞台。そう、夜の『摩天楼』である。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) キャプテン・ゴールド ☆4
光 戦士族 効果 ATK2100 DEF800
このカードを手札から墓地に捨てる。
デッキから「摩天楼 −スカイスクレイパー−」1枚を手札に加える。
フィールド上に「摩天楼 −スカイスクレイパー−」が存在しない場合、
フィールド上のこのカードを破壊する。

 冬の寒空が一転、真夜中の世界へと移り変わる。2人の周りには、幾つもの高層ビルが自らの存在を示すかのように聳え立っている。
 準備は整った。後は、この舞台に相応しい真打を呼び出すだけだ。それを呼び出すカードも、既に栄一の手札にある。

 栄一はそのカードを、ゆっくりとディスクへと差し込んだ。

「『ファイヤー・バック』・・・。手札の『超熱血球児』を、墓地へ送り・・・」



 墓地へ送られた「炎」が、灼熱の戦士を呼び覚ます。



「墓地から・・・『バーニング・バスター』を復活させる!」



「・・・!? ・・・そうだ。いいぞ、栄一」

ファイヤー・バック 通常(アニメGXオリジナル)
手札から炎属性モンスター1体を墓地に送り、
自分の墓地から炎属性モンスター1体を特殊召喚する。

超熱血球児(ちょうねっけつきゅうじ) ☆3
炎 戦士族 効果 ATK500 DEF1000
フィールド上にこのカード以外の炎属性モンスターが存在する場合、
このカードの攻撃力は1体につき1000ポイントアップする。
このカード以外の炎属性モンスターを墓地に送る度に、
相手プレイヤーに500ポイントダメージを与える。

 摩天楼の世界に一筋の炎が現れ、荒々しく天へと伸びる。そして、ビルの最上階にその「存在」を作り出す。
 紅の鎧に身を包んだヒーロー、灼熱の戦士『バーニング・バスター』だ。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) バーニング・バスター ☆7(オリジナル)
炎 戦士族 効果 ATK2800 DEF2400
自分フィールド上に存在する戦士族モンスターが
戦闘またはカードの効果によって破壊され墓地へ送られた時、
手札からこのカードを特殊召喚する事ができる。
このカードが戦闘によってモンスターを破壊し墓地へ送った時、
破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。

「『スカイスクレイパー』の効果により、自分より攻撃力が上のモンスターを攻撃する時、『バーニング・バスター』の攻撃力は1000ポイントアップする」

摩天楼(まてんろう) −スカイスクレイパー− フィールド魔法
「E・HERO」と名のつくモンスターが攻撃する時、
攻撃モンスターの攻撃力が攻撃対象モンスターの攻撃力よりも低い場合、
攻撃モンスターの攻撃力はダメージ計算時のみ1000ポイントアップする。

E・HERO バーニング・バスター:ATK2800→ATK3800

 『バーニング・バスター』が、天から見下ろしその目に焼き付けるは『グレートウィング・ホーク』。先程のリベンジマッチと、その体の炎を滾らせる。


「バトル・・・! 『バーニング・バスター』で、『グレートウィング・ホーク』を攻撃!」

 『バーニング・バスター』がビルから飛び降り、その身に炎を纏わせながら猛スピードで『グレートウィング』へと突っ込む。

「『スカイスクレイパー・バーニング・バースト』!」

 炎の弾丸となった『バーニング・バスター』が、『グレートウィング』に直撃。フィールドに大爆発を起こさせる。

宇宙:LP4000→LP3400

「・・・フッ! やればできるじゃないか、栄一!」

 何とか第一段階は突破した・・・。その栄一を、素直に褒め称える宇宙。その目の前には、『グレートウィング』から勝利を収めた『バーニング・バスター』が佇む。

「『バスター』が戦闘でモンスターを破壊し墓地へ送った場合、破壊したモンスターの元々の攻撃力分のダメージを、相手に与える。『レイジング・ダイナマイト』!」

 足場から天に向かって吹き荒れる炎が、宇宙のライフを大幅に削る。この力こそが、『バーニング・バスター』の真骨頂である。

宇宙:LP3400→LP600

「・・・俺はこれで、ターンエンド」

宇宙LP600
手札0枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンなし
栄一LP800
手札0枚
モンスターゾーンE・HERO バーニング・バスター(攻撃表示:ATK2800)
魔法・罠ゾーンなし
フィールド魔法摩天楼 −スカイスクレイパー−

 栄一と『バーニング・バスター』による反撃。それを直に受けた宇宙は、2人の絆が偽物でない事を確信した。
 栄一に、偽物でない事が証明されたという事を伝えた。

「分かっただろ、栄一。お前と『バスター』の絆は本物だ。『バスター』がお前を信じているから、こういう状況を作る事ができたんだ。なら、お前もそれに応えなきゃならんだろ、栄一?」

 栄一は頷くが、その動作は鈍い。まだ、疑心暗鬼の部分が強いのだろう。

「(んー。こりゃもうちょいリハビリが必要かな?)じゃあデュエルを続けるか。その間に『バスター』との絆を、もっと証明していけばいい」

 宇宙の優しい問いかけに、栄一は恐る恐る頷いた。
 了解を得た。デュエルが再開する。

「オレのターn・・・?」

 その時であった。カードをドローしようとした宇宙が、自らの足下に落ちている小さな物体の存在に気付く。

「ありゃ、オレ携帯落としてたか」

 それは、宇宙の携帯電話だった。『バーニング・バスター』の『レイジング・ダイナマイト』による炎の猛攻は凄まじく、その衝撃によって宇宙の携帯はポケットから飛び出してしまっていたのだ。
 宇宙はすぐさま携帯を拾い、故障は無いかと確認しようとして・・・

「・・・オイ、ちょっと待て。これはマズいんじゃないのかなぁ?」

 絶望の現実に気付いてしまった。宇宙の携帯の時計は、10時52分を差していたのだ。

「そりゃねぇぜ作者さんよぉ・・・」

 愚痴を呟く宇宙の脳裏を、先程のクロノス教諭の放送が過ぎる。




「『フレッシュマン・チャンピオンシップ』準決勝は、11時00分から開始する予定ナノーネ。準決勝第1試合進出者の明石栄一と北条光は、開始5分前までにホールのデュエルコートに集合するノーネ。遅刻は厳禁ナノーネ」




「(宇宙先輩・・・!?)」

 栄一が宇宙の一人芝居に疑問を覚えたその時、宇宙は既に栄一の目の前まで接近していた。

「急げ栄一! 準決勝の集合時間まで3分切ってる!」

 そう言いつつ宇宙は、大急ぎでデュエルディスクを閉じつつ、右手で栄一を掴む。

「えっ? えっ? 先p・・・うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 そして栄一が状況を整理するのを待たぬままに、栄一を振り回しつつホールへと猛スピードで向かって行った。










「(あぁぁぁぁ、しまった・・・。栄一の「果たして『バーニング・バスター』を使ってもいいものか?」という問題の方にまだ手を付けてない・・・。本当ならこっちについても、今言及しなきゃならなかったんだけど・・・。「怯え」の方にもまだ若干の不安があるし・・・。オレも不器用だなぁ・・・)」

 ・・・自らのミスを、大きく悔やみながら。



第27話 −再臨せし最強の機械龍−

 集合時間を指定された場合、時間の10分前には集合場所に到着しているのが良しとされる。
 個々の事情もあるので、それを厳守しろと押し付ける事はできないが、特に待ち合う相手が格上の人間の場合は、それが礼儀でもある。
 初対面の人間相手だと、「時間にルーズである」という第一印象を植えつけられる可能性もある。
 それもあってか、集合10分前をも越え、時間ギリギリになっても目的の人間が現れない場合、待つ立場の人間もまた焦りを、苛立ちと共に覚えるケースが多々ある。

 時刻は、10時54分を回った。準決勝の集合時間までもう間もない頃である。
 準決勝進出者の1人である光は、既にデュエルコートの指定された位置に立ち、開戦の時をまだかまだかと多少苛立ちながら待ち続けている。

 多少苛立ちながら・・・そう、対戦相手の栄一が、未だに姿を現さないのである。

「・・・全く、何時まで待たせるのかしら!」

 我慢の限界が来たのか、光はその場で地団太を踏みつつ、怒号を吐いた。
 そしてその光の横には、クロノス教諭がいる。さすがに遅すぎる栄一を心配したのか、観客席からデュエルコートに降りて来ていたのである。彼は今も、左腕に巻いた時計と入場口に対して同時に睨めっこを続けている。
 残り1分弱のうちに栄一が姿を現さないと、まず口頭での注意は間違いないだろう。状況によっては何らかのペナルティ、最悪栄一は失格・光の不戦勝もある。
 その審判を下す為に、彼は時計と入場口を交互に目を移しているのである。責任は重大だ。
 観客席に残る鮫島校長も、心配でならないようだ。その周りのあちこちからも、どよめきの声が聞こえる。

「・・・後30秒ナノーネ」

 クロノス教諭の腕時計の秒針が、6を指した。これが12に到達すると、栄一に何らかの審判が下される。
 開戦予定時間までにはさらに5分を要する為にインターバルがあるとはいえ、集合時間が定められている以上、それに遅れる事は好ましくない。
 光は苛立ちが募り、クロノス教諭の顔が不安で染まる。会場全体のどよめきが、より一層強まる。

 しかし、栄一がコートに現れる事はない。いよいよ、残り10秒だ。

「10・・・9・・・8・・・7・・・」

 10カウントを、クロノス教諭が声に出して数え始める。光の苛立ちが募りに募る。

「・・・栄一の奴、一体どうしたって・・・!」

 瞬間、光はある事に気付いた。同時に、光の心の中に眠る巨大な「光」が鼓動する。彼女の持つ光の機械龍が、その白き翼を広げ、彼女の心の中で羽ばたく。

「・・・6・・・5・・・4・・・」

「(あんのチキン野郎! まさか、まださっきのあれを引きずっているっていうの!?)」

 さっきのあれ・・・平賀とのデュエル中の、『バーニング・バスター』についてのやりとりである。

「・・・3・・・2・・・」

「(その推測が本当なら・・・それで試合放棄なんて・・・)」

 多少下品な口調も交えつつある。光の堪忍袋は、既に限界だ。

「・・・1・・・」



「(ふざけんじゃないわよ!)」



「・・・ゼ・・・」

「遅くなってスマン!」

 叫び声が響き、会場が静まる。だが、その声は、栄一のものではない。
 本来、栄一が現れる筈の入場ゲートの方へ皆が目をやると、そこには右手に何か大きな物体を持った1人の男が、軽く息を切らせながら立っていた。

「ハァ・・・ハァ・・・クロノス先生、光君、皆・・・遅くなってスミマセン。・・・ご注文の品物、お持ちしました!」

 宇宙である。この意外な人物の登場、そしてその本人の「この場を和ませよう」としているのであろう態度に、会場全体は唖然とするも・・・宇宙が右手に持つ「ご注文の品物」を見て、再び会場が沸き始めた。

「栄一!」

 宇宙が右手に持つ物は、栄一であった。
 当の本人は、半ば宇宙に引きずられてここまで来た為、目を回して気絶しているのだが。

「あー、栄一が小柄な奴で助かった! コイツが16歳男児の平均身長と体重だったら絶対遅れてた・・・・・・って、時間ギリギリセーフですよね。クロノス先生?」

「・・・ナノーネ」

 デュエルコートの中心までやって来て、白い歯が見える程の笑顔で尋ねる宇宙に、クロノス教諭は呆気に取られたような顔で答えた。
 「栄一お咎め無し」を確認した宇宙は、彼の右手元で未だにノビている栄一に向かって・・・

「おーい、何時まで寝てるんだー? とっくにコートには着いてるぞー!」

 ・・・と、栄一を掴んだまま右腕をブンブン上下に振り、彼を強引に起こそうとする。ある意味栄一が小柄だからこそできる芸当である。逆効果な気もするが・・・。
 クロノス教諭もそれを感じ取ったようで、冷や汗顔で止めるように言うが、宇宙は全く気にせず、むしろ腕の動きを強めたりしている。

 だが・・・

「う・・・なんか気持ち悪い・・・」

 奇跡が起きた。宇宙の無茶苦茶な処置にも関わらず、栄一は目を覚ました。
 勿論、気分は最悪であろうが。

「グッモーニン! 栄一!」

「・・・本間(ホンマ)に起きたノーネ。元SH(ソフト○ンクホークス)背番号10・・・」

「作者がモタモタしていたせいで気が付いたら戦力外通告されてしまっていた、鷹ファンでもないと分かり辛い人物をネタにするのは止めて下さい、先生。それより、本人も目を覚ました事だし、早速デュエルを・・・」



「・・・ん?」

 軽く頭痛を起こしている頭を押さえつつ、誰かが話し合っている方へと、未だ焦点が合っていない目をやる栄一。
 だんだん焦点が合うに連れて、その正体がはっきりとしていく話し合っている「誰か」・・・クロノス教諭と宇宙。
 両目の焦点が一致し、ようやく頭痛も治まったとホッと一息つけようとした瞬間・・・



 ゲシィィィィィ!



 栄一の右頬を物凄い衝撃が襲った。体が宙を舞った。そして、その痛みの正体を知る間も無くコートへと叩き付けられた・・・。
 栄一は勿論見る事が出来ないが、ついさっきまで会話していたクロノス教諭と宇宙も、そしてこの一部始終を見続けていた観客達も、皆目を丸くして言葉を失っている。

「グッモーニン栄一ィィィ!!! ワタシをここまで待たせた覚悟は出来ているんでしょうねぇ・・・」

 栄一が右頬を押さえながら声のする方を見ると・・・そこには、目を光らせながら、口元だけで不気味に笑う光の姿があった。
 彼女は、両手を組んで指をポキポキと鳴らしながら、一歩一歩ゆっくりと栄一に近づいてくる。

 そして彼女の周囲からは、ドス黒い邪悪なオーラが!

「ちょ・・・ちょっと待て光君! 栄一にも色々あったんだ! タッグパートナーの俺に免じて許してやってくれ!」

 今にも栄一に殴りかかろうとする光を、宇宙が後ろから羽交い絞めをして制する。
 女性に対して無礼な行動ではあるが、今はそんな事を言っている場合ではない。
 このまま光を野放しにしていたら、栄一は光速よりも速いスピードで雲より上の世界の愉快な仲間達の一員になってしまう。

「それに・・・このまま暴れていたら・・・」

 宇宙の後ろからの囁きに、光はハッとなりながら周りを見渡す。
 観客席にいる者の視線は全て、ホールの中心であるデュエルコート・・・・・・のそれまた最中心部で手足をバタつかせて暴れている光に集まっている。
 途端に、光の顔が耳たぶまでリンゴのように真っ赤に染まり、暴れていた手足が大人しくなった。
 公衆の面前で大暴れしていたという現実が、光の羞恥心に触れてしまったのだ。

「・・・分かりました。宇宙先輩に免じて今回だけは許します」

 たった今自らが作ってしまった黒歴史を、何の事かさっぱり分からないといった感じに先程とは打って変わって落ち着いた態度をとる光。
 まだ顔を赤く染めつつそっぽを向く光を見て、宇宙は安堵の溜息を1つつきながら光の両脇に回していた両腕を解いた。

 ・・・その時である。


 この大空〜に〜♪ 翼を広〜げ〜♪ 飛んで〜行きた〜い〜よ〜♪


 小学校でも音楽の時間などで良く児童によって歌われる某曲が、光の暴走を見せ付けられたせいで不気味な程静かになっているホールに響く。
 次の瞬間、日常生活ではあまり聞かないようなこの曲に、発生源はどこだどこだと皆がざわめき始めた。

「あ、オレか」

 そして、その発生源が発覚し、今度はどよめきの声が漏れ始める。
 某曲の発生源は、何とアカデミアツートップの1人、天童宇宙の携帯の着メロだったのだ。
 有名な歌手やアニメによって何度もカバーされてはいるものの、今時の若者ならそうそう着メロに選択しない曲だろう。

「ん? 知らない番号だなぁ」

 周囲のどよめきも気にせずマイペースに、宇宙は携帯の画面に映った番号を見て1人疑問を覚える。画面に映った番号は、宇宙にとって見覚えの無い番号であったからだ。そもそも番号と一緒に相手方の名前が出ていない時点で初めての番号である。
 悪戯か間違いか・・・宇宙は通話ボタンを押した。

「もしもし・・・」

『あ、宇宙君! 突然ごめんなさい、私よ!』

 相手方は、声質からしてどうやら女性のようだ。それも、度々聞いた事のある人の声・・・

「って鮎川先生!?」

 宇宙の携帯に電話をかけてきたのは、デュエルアカデミアの保険医、鮎川(あゆかわ)恵美(えみ)先生であった。
 詳しい事情は分からないが、護が頻繁に保健室のお世話になっており、その付き添いで宇宙も良く保健室に出入りしている為、保険医という普段はそうそう接しないだろう存在ながら、今や信頼し合っている担任と生徒レベルまでに親密な関係になっている人物である。
 とはいえ、さすがに携帯の電話番号までは分からない筈なのだが・・・。

「なんでオレの携帯の番号知って・・・えっ、護が!?

 だがそんな疑問も、一瞬で吹っ飛んでしまう。電話番号の疑問が簡単にもみ消されてしまう程の重大な話を、鮎川先生は話しかけてきたのである。
 簡単に説明すると、どうやら護が黒田先生によって保健室に運ばれたようである。
 『ネズミ』侵入の可能性→先程護が勝手に突っ走って行った→護が保健室に運ばれたとの連絡と連想すれば、護が『ネズミ』との接触に成功したものの、そこで一悶着あり結果怪我をしたと推測するのは想像に難くない。
 そのような重大な話となれば、声を大にして喋れるわけがない。そもそもがこの話は極秘事項なのである。「護」という人名を出す時点で、必然と声は小さくなってしまう。
 宇宙が周囲を見回すと、光もクロノス教諭もこちらを凝視している。着メロの物珍しさのせいか、観客席の生徒達からの視線も突き刺さるように感じる。
 結論から言うと、宇宙が今やるべき事は至ってシンプル。「一般生徒に怪しまれないように振舞い、この場を凌ぐ」である。

「分かりました。すぐ行きます」

 小声で鮎川先生に返事を返した後、何事もなかったかのように携帯の電源を切り、そして・・・

「クロノス先生、後で話しますので、ここはそのまま準決勝を進めて下さい」

 クロノス教諭に近づき、彼に耳打ちする。
 状況を読み取ったクロノス教諭は、これも小声で「分かったノーネ」とだけ返し、どこからとなく取り出したマイク片手に観客席に向けて準決勝を予定通り開始する事を宣言。観客席の注目を集め、宇宙のその場凌ぎを援護した。

「じゃ、この場に全く関係ないオレは去ります。・・・栄一!」

 デュエルコートからの去り際に宇宙は、まだ右頬を摩る栄一を呼びつつ彼の目の前に立った。
 そして、屋上でのやり取りもあるが故にまだ何かあるのかと身構える栄一に対して・・・

「栄一、『バスター』外すなよ」

 と、一言放った。
 この言葉に、栄一は過剰に反応する。目を見開き、肩を震わせた。
 この態度を見れば、宇宙が栄一の思考を読み取るのは難しい事ではなかった。大方宇宙がコートを去った後、こっそりまた『バーニング・バスター』のカードを抜こうとでもしていたのだろう。
 先程のデュエルを見ても、栄一の『バーニング・バスター』への絆が半信半疑なのは明らかだった。完全に信じきれるまではまだ時間がかかるであろう事も、宇宙も重々承知だ。
 つまり、今は『バーニング・バスター』を抜いてその場を凌ぎ、ゆっくり時間が取れた時にまたもう1度考え直そうとしていたのだろう。
 
 栄一の露骨な反応に、宇宙は苦笑いを浮かべ・・・そして、口を開いた。

「栄一、他人に自らの技術・力・財産などを受け継がせる事は、並大抵の事じゃないんだぜ。そしてお前は、智兄さんの力を『受け継いだ者』・・・『継承者』だ」

 『バーニング・バスター』は、智の最大の切り札であったカード。デュエルにおける智の技術であり力であり財産であり、「全て」といっても過言ではない。
 そして栄一は、智から『バーニング・バスター』のカードを与えられた。「受け継いだ」。

「そして『継承者』には、やるべき使命がある」

 それは「怯える事」ではない。もっと、大切な事。

「それって、一体・・・?」

「いや・・・オレには分からない」

 自分で言っておきながら、素っ気無く簡単に「分からない」と言い切る宇宙。栄一はさらなる焦燥にかられる。

「分からないが・・・」

「・・・えっ?」

 しかし、まだ話は終わっていない。

「デュエルをすれば、きっと見つかる。見つかる筈だ。・・・じゃっ、オレはこれで!」

「えっ・・・ちょっ・・・先輩・・・」

 言うだけ言って宇宙は、栄一の呼び止めにも全く反応せずそのままデュエルコートから去っていってしまった。





「智兄ちゃんから「受け継いだ」・・・。俺は・・・『継承者』?」

 宇宙の言葉。おそらく、何らかのヒントを語ったつもりではあるのだろう。
 しかし、その真意を汲み取る事はできなかった。

「何をゴチャゴチャ言ってんの? ホラ、早くデッキ貸しなさいよ!」

 そう考え込んでいるうちに、何時の間にか目の前まで来ていた光が強引にデッキを取り上げ、勝手にシャッフルを始めてしまった。
 一瞬戸惑う栄一であったが、やがて観念したか、代わりに渡された光のデッキをシャッフルし始めた。



「・・・両者、準備は良いノーネ?」

 デッキシャッフルを終えた2人のデュエリストが指定の位置に着いた事で、クロノス教諭が2人に呼びかける。

「いいですよ」

 光は、すぐに返事した。

「・・・はい。俺もいいです」

 若干の間はあったが、栄一も了解の返答を返した。
 両者の準備完了を確認。クロノス教諭は、その右腕を大きく上げ・・・

「ではこれヨーリ、準決勝第1試合、明石栄一vs北条光のデュエルを開始するノーネ!」

 マイク越しに、デュエルの開始を宣言した。
 同時に、2人の威勢良い声が、ホール中に響いた。

「「デュエル!」」

 栄一と光、2人のデュエリストがデュエルディスクを構え、5枚のカードを引く。
 先攻を示すデュエルディスクのランプが光ったのは、栄一のデュエルディスクだ。

栄一:LP4000
光:LP4000

「俺の先攻・・・ドロー!」

 流れのままにデッキに残しはしたが、『バーニング・バスター』への苦悩は募るばかり。

 宇宙には申し訳ないが、『継承者』と言われても訳が分からない。

 どうすればいいのかも、また分からない。

 『バーニング・バスター』を使っていいのかすらも、分からない。

 今は、あまり難しい事は考えたくない。

 だから、『バーニング・バスター』が来る前に、決着を着ける・・・。

 逃げる・・・そうかもしれない。だが、今は早くこの場を何とかしたい。

 その思いを胸に、栄一は2枚のカードに手をかけた。

「『クレイマン』を守備表示で召喚。カードを1枚セットして、ターンエンドだ」

 ごつい体つきをした粘土のHERO『クレイマン』と、1枚のリバースカードがフィールドに現れる。
 初手としては、無難なプレイングであろう。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) クレイマン ☆4
地 戦士族 通常 ATK800 DEF2000
粘土でできた頑丈な体を持つE・HERO。
体をはって、仲間のE・HEROを守り抜く。

栄一LP4000
手札4枚
モンスターゾーンE・HERO クレイマン(守備表示:DEF2000)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
LP4000
手札5枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンなし

「ワタシのターン!」

 速攻でケリを着ける・・・その考えは、光も同じである。
 そしてその考えの元に、光は自らのターンをスタートさせた。

「禍転じて福、か。先攻取られちゃった時は残念と思ったけど、こんな形でそれが吉に変わるなんてねぇ〜」

 手札の内の1枚を右手に掴みながら、光はそう言い放った。
 そして栄一がそれに反応するまでも無く、光は言葉を続ける。

「ワタシの手札には、アンタのフィールドにモンスターが存在し、ワタシのフィールドにモンスターが存在しない場合、特殊召喚できるモンスター・・・すなわち、コノ子がいるのよ! おいで!」





「『サイバー・ドラゴン』!」





 白銀のボディに鋭い目付き。全身が機械で作られた龍、『サイバー・ドラゴン』が、フィールドに姿を現す。
 召喚するだけで、デュエルの流れを変えてしまう力を秘めたレアモンスター。それを光は、初手で繰り出してきたのである。

サイバー・ドラゴン ☆5
光 機械族 効果 ATK2100 DEF1600
相手フィールド上にモンスターが存在し、
自分フィールド上にモンスターが存在していない場合、
このカードは手札から特殊召喚する事ができる。

「『サイバー・ドラゴン』!? お前・・・そんなカード持ってたのかよ?」

 突如言い放たれた、栄一の間の抜けた発言。しかも、さっき光が対戦した明子の発言とほぼ同じである。光には、デジャヴにしか思えないだろう。
 光は、冗談でなく本気で新喜劇宜しく豪快にずっこけてしまった。

「ア・・・アンタ、ワタシのさっきのデュエル見てなかったの?」

「え・・・いや・・・まぁ・・・」

 結論、ズバリ栄一は見ていない。
 光と明子のデュエル中、前半はほぼ夢遊病者状態であったし、後半はトイレで引き篭もり状態。見ていないも同然である。
 故に、光の問いかけに対しても栄一は言葉を濁すしかなかったのである。

「ま・・・まぁいいわ。デュエルを続けましょ。『ライトロード・マジシャン ライラ』を攻撃表示で召喚するわ」

 続けて光のフィールドに現れたのは、金の装飾物があちこちに目立つ白き服を着た女性の魔術師、『ライトロード・マジシャン ライラ』。
 1人の魔術師と1体の機械龍。共に白で身を染めたモンスターが、栄一に立ち向かう。

「『ライラ』のモンスター効果! 攻撃表示のこのカードを守備表示にする事で、相手フィールド上の魔法または(トラップ)カード1枚を破壊する!」

 『ライラ』が、金色に塗られた杖を天に掲げると、その先から白き光線が発せられ、栄一のフィールドに伏せられたカードを襲う。

「くっ! トラップカード発動!」

 すぐさま栄一はそのカードを反転させたが、時既に遅し。光線の直撃を受けたカードは爆発四散し、フィールドから消滅した。

ライトロード・マジシャン ライラ ☆4
光 魔法使い族 効果 ATK1700 DEF200
自分フィールド上に表側攻撃表示で存在する
このカードを表側守備表示に変更し、
相手フィールド上の魔法または罠カード1枚を破壊する。
この効果を発動した場合、次の自分のターン終了時まで
このカードは表示形式を変更できない。
このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する限り、
自分のエンドフェイズ毎に、自分のデッキの上からカードを3枚墓地に送る。

「これでアンタのフィールドは『クレイマン』のみ! 『サイバー・ドラゴン』で『クレイマン』を攻撃! 『エヴォリューション・バースト』!」

 光の攻撃宣言。それを聞き入れた『サイバー・ドラゴン』が、『クレイマン』目掛けて白き光線を口から放つ。
 結果、その光線を真正面から受ける事となった『クレイマン』は、受けた瞬間の爆発によって一撃で粉砕された。



 ・・・筈だった。



「・・・無傷!? なんで!?」

 煙が晴れ、視界が良好となった光が見つめた先には、今し方、確かに破壊した筈の『クレイマン』の姿。それも、傷一つ負っている様子も無い。

「あ・・・もしかして、さっき『ライラ』の効果で破壊したのって・・・」

 そう。『ライラ』の効果によって破壊されたカード。それは、条件さえ整っていれば発動機会を問わない『E・HERO(エレメンタルヒーロー)』専用のトラップカード・・・。

ヒーローバリア 通常罠
自分フィールド上に「E・HERO」と名のついたモンスターが表側表示で存在する場合、
相手モンスターの攻撃を1度だけ無効にする。

「・・・やるわね、栄一。『ライラ』の召喚時に発動しなかったから、てっきり攻撃にしか反応しないトラップかと思ったわ!」

 と、光。ここは素直に栄一の策を賞賛する。
 だが、当の栄一の実はというと・・・

「(・・・伏せれるカードがこれだけだった、ってだけなんだけどね。後は伏せてもブラフにしかならないし・・・)」

 ・・・。

「エンドフェイズ、『ライラ』の効果でデッキのカードを3枚墓地へ送る。そしてターンエンドよ」

 そう説明しながら、デッキの上から3枚のカードに手をかける光。
 瞬間、デュエルの前から続いている光の心の中の「鼓動」が、さらに大きな物へと変わった。
 白銀の機械龍・・・その再臨の準備が、整ったのである。

栄一LP4000
手札4枚
モンスターゾーンE・HERO クレイマン(守備表示:DEF2000)
魔法・罠ゾーンなし
LP4000
手札4枚
モンスターゾーンサイバー・ドラゴン(攻撃表示:ATK2100)
ライトロード・マジシャン ライラ(守備表示:DEF200)
魔法・罠ゾーンなし

「俺のターン!」

 だが、それは栄一にも同じ事であった。
 栄一もまた、このドローによって、攻撃の準備が整ったのである。

「『融合』発動!」

 『融合』。そのカードの力に反応して、フィールドの『クレイマン』、そして栄一の手札に眠るもう1体の『HERO』モンスターが光る。

「フィールドの『クレイマン』と手札の『クラッチマン』を融合! 『クラッチマン』は、融合素材モンスター1体の代わりにする事が出来る! 現れろ! 『サンダー・ジャイアント』!」

 粘土のHERO『クレイマン』と、黒塗りのHERO『クラッチマン』が、その力を1つにする。
 そして現れるは、ずんぐりむっくりとした巨大な体を持った、雷のHERO『サンダー・ジャイアント』。
 全身に走る激しい火花と、周囲に溢れるその威圧感は、「巨人(ジャイアント)」の名に相応しい。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) サンダー・ジャイアント ☆6
光 戦士族 融合・効果 ATK2400 DEF1500
「E・HERO スパークマン」+「E・HERO クレイマン」
このモンスターは融合召喚でしか特殊召喚できない。
自分の手札を1枚捨てる事で、フィールド上に表側表示で存在する
元々の攻撃力がこのカードの攻撃力よりも低いモンスター1体を選択して破壊する。
この効果は1ターンに1度だけ自分のメインフェイズに使用する事ができる。

融合(ゆうごう) 通常魔法
手札・自分フィールド上から、融合モンスターカードによって
決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、
その融合モンスター1体をエクストラデッキから特殊召喚する。

「そして『クラッチマン』の効果! 『サンダー・ジャイアント』は攻撃力が500ポイントアップする!」

 『クラッチマン』の力により、雷の巨人『サンダー・ジャイアント』から発される火花は勢いを増し、その力を上昇させる。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) クラッチマン ☆3(オリジナル)
闇 戦士族 効果 ATK1000 DEF800
このカードを融合素材モンスター1体の代わりにする事ができる。
その際、他の融合素材モンスターは正規のものでなければならない。
このカードを融合素材にして融合召喚されたモンスターは、攻撃力が500ポイントアップする。

E・HERO サンダー・ジャイアント:ATK2400→ATK2900

「(ここは、確実に場を殲滅させながらダメージを与えたい・・・。なら!)手札1枚をコストに、『サンダー・ジャイアント』のモンスター効果を発動! 対象は、『ライトロード・マジシャン ライラ』!」

 命を受けた『サンダー・ジャイアント』が、『ライラ』の目の前に立ち、そして右手から強烈な雷を放つ。

「『ヴェイパー・スパーク』!」

 至近距離で雷をまともに受けた『ライラ』は、対抗する術もなかろう。大爆発を起こして、フィールドから消滅した。

「さらにバトルフェイズ。『サンダー・ジャイアント』で、『サイバー・ドラゴン』を攻撃! 『ボルティック・サンダー』!」

 続けて、攻撃宣言。その宣言に応えた『サンダー・ジャイアント』は、鋭い目付きで彼を威嚇する『サイバー・ドラゴン』の方へと視線を向ける。そして両手を胸の前で構え、間に雷の塊を作り、それをそのまま『サイバー・ドラゴン』に向けて勢いよく放った。
 結果、雷をまともに受けた『サイバー・ドラゴン』は、耳を防ぎたくなるような悲鳴を上げながら、先ほどの『ライラ』のリプレイを見ているかの如く爆発し、フィールドから姿を消した。

光:LP4000→LP3200

「カードを1枚セットして、ターンエンド!」

 自らのターンを終えた栄一。先手を取れた、上々の立ち上がりである。

栄一LP4000
手札1枚
モンスターゾーンE・HERO サンダー・ジャイアント(攻撃表示:ATK2900)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
LP3200
手札4枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンなし










−これより5分ほど前、保健室−


「あのなぁ・・・1つ聞いていいか? オレは「護が怪我をして、黒田先生に運ばれて保健室に来た」と、鮎川先生に呼ばれたんでここに来たんだ」

 と、アカデミア校舎内にある保健室のドアの前に立つ男・・・宇宙であるのだが、その宇宙は目の前の惨状を見て呆れながら、この場にいる全員に問いかけた。

「・・・なのに、なんで怪我人のはずの護がピンピンしていて、連れて来た黒田先生が左腕に包帯巻いてるんだ?

「ハハハ・・・」

 宇宙の問いに、鮎川先生に包帯を巻いてもらっている最中の黒田先生は、苦笑いで誤魔化す事しかできなかった。
 よって代わりに(?)、保険医である鮎川先生が何故このような状況になったかについて答えた。

「最初保健室に入ってきた時には、まだ宇宙君に電話した通りだったんだけど・・・・・・」



「座れるかい、水原君?」

「全然大丈夫ですよ、1人でも座れますよ」

 ドサッ!

「えぇ。それじゃあお願いね」

 黒田先生に支えられながら、護がベッドに座ると同時に、鮎川先生は宇宙への連絡を終え、自らの教員用机から腰を上げてベッドの方へと向かった。

「どうしたの護君? そのケガ・・・」

「いえ、全然大丈夫ですよ、こんなケガ・・・。それより・・・」



 ズッテン!



「「?」」

 突然部屋中に響き渡る、誰かがコケた時に出るような豪快な音。
 鮎川先生と護は、この急な出来事に「?」を浮かべつつも、同時に音の出先を凝視する・・・。

「くぁwせdrftgyふじこlp;@・・・・・・!!!!!!??????」

「「黒田先生!?」」

 音の発生源・・・・・・黒田先生は、左腕を右手で押さえつつその場で悶絶していた・・・。



「・・・つまり、どうやら左腕を下にしてうつ伏せになるようにコケたようで・・・」

 鮎川先生の解説に、宇宙は大きくため息をついて呆れ果てた。

「何もない所でコケるか普通・・・。で、護の方は?」

「大丈夫、少し休んだからもう100%全快だよ」

「100%って・・・オレが鮎川先生から連絡を受けて、まだ5分程度だぞ・・・」

 護の回答に、宇宙は再び唖然としてしまう・・・・・・も、親友として付き合って来たこの2年強の間、このような事はしょっちゅうあったので「驚かない、もう何も驚かないぞ・・・」と、心の中で言い聞かせてすぐに平常を保たせた。

「本当に大丈夫だよ。だから急いでホールに戻r」

 そう言いつつ、護がベッドから立ち上がろうとした瞬間であった。
 護の目の前を何か矢の様な物が一瞬で通り過ぎ、壁に当たった後、地面へと音を立てて落ちた。

 落ちた物の正体・・・それはシャープペンシルであり、そのシャープペンシルが飛んできた方向を護と宇宙の二人が見ると、そこには的を目掛けてダーツを投げた後のような格好をした鮎川先生がいた。表面上は笑顔だが、内心は明らか怒っている様に見える。
 既に黒田先生の応急処置は終了しているようであり、鮎川先生はそのまま護が座るベッドへと近づく。

「何が大丈夫なの、護君?」

「何って・・・もう体に痛みもないし、疲れも残っていません。大丈b」

 右腕をブライアン・シ○ースキー(現○武)宜しくぐるぐる回しながら説明し、そのままベッドから立ち上がろうとする護の体を、鮎川先生は右手1本で押し返した。
 この不意打ちにはさすがの護も対処出来ず、ベッドに寝転ぶ羽目となってしまった。

「全く・・・本当に困った患者さんね・・・。無茶ばっかりして・・・」

 そう言う鮎川先生の顔は、護に対して本当に呆れたような表情をしていた。

「いい、護君? 貴方がこのデュエルアカデミアの生徒である限り、貴方の主治医は私です。他人を守る事も大切だけど、自分を守る事も大切よ? 私の言う事も聞かずに、無茶な行動ばかりするのはやめなさい!」

「ですが、今は本当n」

「ですがも何もありません! はっきり言います! 今の貴方の仕事はここで休む事です! 休んで、体調を本当の100%に戻す事です! ・・・・・・・・・私も、勿論皆も、貴方に8年前のような経験はもうして欲しくないの!」

 護を説教する鮎川先生の両の目は、いつの間にかうっすらと潤み、軽く充血しかかっているように見える。

 8年前のあの日、彼女が見た、まだ10歳の幼き護の姿。
 生きている方がおかしい、とまで思ってしまったほど傷ついていた護の全身。
 あの日の護の姿が、彼女の脳裏を今、駆け巡っている。



 ・・・もう、あんなおぞましい光景は見たくない。まだまだ幼い少年に、このような悲劇を与えていい訳が無い。
 それが、鮎川先生の率直な感想であった。



「8年前・・・?」

 8年前に、このデュエルアカデミアで起こった出来事。護に関して全ての事を聞いてきた筈の宇宙でさえも、その事は知らなかった。
 何なのだろうと、鮎川先生が護に説教を続ける隙に、傍にいる黒田先生に密かに訪ねようとしたが、ボーっとした黒田先生の顔を見る限り、どうやらこの事は黒田先生も知らないようである。
 それもそのはず黒田先生は、8年前のあの日にはまだこのアカデミアにはいなかった人なのだから。
 あの日、アカデミアにいた人間の中で、今現在もアカデミアにいる人間と言えば、目の前の鮎川先生、クロノス教諭、鮫島校長・・・・・・、変わった所では、購買部のトメさんやセイコさんぐらいである。
 そして宇宙が感じた事は、自分の事は全て教えてくれたはずの護が教えてくれなかった事なのだから、それは本当に隠しておきたい事なんだろうなぁ・・・という事であった。

「まぁ、大会が気になるのは分かるわ。そんな君のような生徒の為に、大会の模様をテレビに流してくれているみたいだから、それで我慢しなさい」

 そう言うと鮎川先生は、机に置いてあったリモコンを手に取り、部屋に備えられているテレビの電源を入れた。



『『サンダー・ジャイアント』で、『サイバー・ドラゴン』を攻撃!』

 電源の入ったテレビが映したのは、その雷によって『サイバー・ドラゴン』を粉砕した『サンダー・ジャイアント』と、攻撃を命ずる栄一の姿であった。

「お、栄一リードしてるじゃん。光君のライフの減り具合から考えたら、多分『サンダー・ジャイアント』の攻撃力は2900・・・。『クラッチマン』でも融合素材に使ったか?」

 まだ落ち着かない様子で座っている護を宥めながら、宇宙が冷静に分析する。
 ちなみにこの中継は、大会の開会式時に生徒に配られた腕時計型の機械を通して大会本部のコンピュータに集積されたデータが編集された上で流されており、さながら野球中継のボールカウントやランナーの状況、得点状況等と同様に、デュエリストのライフやモンスターの攻守の数値の変動等が逐一に視聴者に伝わるようになっている。

「ところで宇宙、佐々木君と真壁君のデュエルはどうだったんだい?」

「えっ!? あぁ、その、なんだ。結局他の皆と変わらんよ」

 あやふやになりながらも何とか誤魔化そうとする宇宙。
 しかし、そんなうやむやな返事を護が「あぁ、そうですか」と聞き流す訳が無かった。

「新司君と日比野君のデュエルにも不審な点が無かった事から考えれば、やはりあの2人がクロに一番近いか・・・。なr」

「大丈夫だからお前は寝てろ!」

 護はベッドから立ち上がるも、宇宙の手によって再びベッドに押し返されてしまった。
 本当ならすぐにでも事実を伝えて、対策を練りたいというのが宇宙の本音だ。
 だが今の護と、『ネズミ』が騒動らしい騒動はまだ起こしていない、起こす様子も無いという状況を考えたら、今は彼の体調を整える事が先決だ。
 『ネズミ』の件については、後でクロノス教諭に報告すればいい。


 親友の体を案ずるが故の怒声が、保健室を通り越して周辺の廊下にまで響いた。










−デュエルコート−

 『サンダー・ジャイアント』の活躍により、光のフィールドは一気にガラ空きとなってしまった。にも関わらず、光が気落ちしている様子はない。
 手札の枚数では勝っているものの、栄一のフィールドには『サンダー・ジャイアント』にリバースカードもある。ライフポイントも一歩リードされてしまった。
 それでも光が気丈でいられるのは、栄一有利の流れを引っ繰り返す事の出来るカードが既にスタンバイされているから。

「ワタシのターン!」

 リバースカードキラーの『ライラ』は、既に墓地へと沈んだ。手札を確認しても、今の光のフィールドや墓地を考えると、栄一のリバースカードを除去できるカードは無い。
 だがそれでも、光に迷いは無い。名を残したデュエリストの1人に数えられる、「あの人」の究極の切り札を受け継いだという「誇り」が、光を迷わせなかったのである。
 リバースカードにも臆しない。最高の一撃を・・・叩き込む!

「・・・見せてあげる、栄一。ぐずぐずしてるアンタの目を覚ますのに最も相応しい、究極の龍の姿を!」

「究極の・・・龍・・・だと?」

 瞬間、1枚のカードが、光のディスクの墓地ゾーンから顔を見せる。
 『ライラ』の効果によって既に墓地に送られていた、光の言う、究極の龍の降臨を施す「融合」のカードが。

「墓地の『サドゥン・フュージョン』を除外する事で、その効果を発動! 手札または墓地にいる、決められたモンスターをゲームから除外する事で、融合召喚を行う! ワタシが除外するのは、この3体!」

 光は、墓地から2枚、そして手札から1枚のカードを抜き取り、それらを栄一に見せつける。
 抜き取られた3枚のカードは全て、全く同じモンスターカード・・・



 そう、『サイバー・ドラゴン』である。



「3体の『サイバー・ドラゴン』を融合して・・・現れよ!」





「『サイバー・エンド・ドラゴン』!!!」





 光の言葉に連動して、3体の機械龍がその体を巻き付け合い、1つになって眩しく光る。続けて爆発。それによって生まれた煙が、辺りの視界を奪う。

「『サイバー・エンド・ドラゴン』・・・!? なんでそのカードを!? そのカードは確か・・・」

 栄一は混乱した。光の発したモンスターの名に。
 爆発の煙が晴れた時、光の後ろで威風堂々の姿を現したのは、3つの首を持ち、白銀の巨大な両翼を横に広げた最強の機械龍、『サイバー・エンド・ドラゴン』。
 あの『カイザー』丸藤(まるふじ)(りょう)が所持し、彼の絶対的切り札と呼ばれたモンスターである。

 そしてそれが、栄一を混乱に陥れた理由である。
 噂では、彼、カイザー亮は『サイバー・エンド・ドラゴン』のカードを2枚所持していたという。その内1枚は、後に彼自身の弟である丸藤(まるふじ)(しょう)に譲渡された事が、プロリーグで翔自身が使用していた事によって周知の事実となっている。
 だが、残る1枚は・・・。
 その1枚については特に情報の更新が無く、今現在でもカイザー亮自身が所持している、と言うのが一般の常識であった。

サイバー・エンド・ドラゴン ☆10
光 機械族 融合・効果 ATK4000 DEF2800
「サイバー・ドラゴン」+「サイバー・ドラゴン」+「サイバー・ドラゴン」
このカードの融合召喚は上記のカードでしか行えない。
このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、
その守備力を攻撃力が越えていれば、
その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。

サドゥン・フュージョン 通常魔法(オリジナル)
自分の墓地に存在するこのカードをゲームから除外する事で発動する。
自分の手札または墓地から、融合モンスターカードによって決められた
融合素材モンスターをゲームから除外し、その融合モンスター1体を
融合召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する。






「(やはり・・・『サイバー・エンド・ドラゴン』を持っていたか。与えたのも亮で間違いないだろう。しかし何故彼女に? そして何故私に一言でも言ってくれなかったのだ、亮)」

 複雑そうな表情。『サイバー・エンド・ドラゴン』に対して、観客席から真剣な眼差しを向けるは鮫島校長。カイザー亮に『サイバー・エンド・ドラゴン』を与えたその人であり、カイザー亮の師でもある。
 かつてカイザー亮は、サイバー流と呼ばれたリスペクトデュエルを信条としたデュエル流派に入門しており、その時に当時サイバー流の師範であった鮫島校長と師弟関係を結んでいる。そしてリスペクトデュエルを体得した者に与えられるサイバー流の免許皆伝の証、それが『サイバー・エンド・ドラゴン』のカードである。
 カイザー亮と鮫島校長、そして『サイバー・エンド・ドラゴン』には、そこまで深い繋がりがあるのだ。
 にも関わらず鮫島校長は、カイザー亮が『サイバー・エンド・ドラゴン』を手放した事を一切聞かされていなかった。
 恩師に対して後ろめたい気持ちでもあったのか、カイザー亮は鮫島校長に伝えなかったのである。

「(己の限界を感じたか・・・それとも彼女に、サイバー流の新たな可能性を感じたか)」

 あくまで推測。だが確信できる。呼び出された『サイバー・エンド・ドラゴン』と光からは、一体感が見て取れるからだ。
 サイバー流の師範、そしてアカデミアの校長を歴任してきた男。その目は確かに、光と『サイバー・エンド・ドラゴン』の未来を見抜いていた。





−保健室−

「(やはり持っていたか、『サイバー・エンド・ドラゴン』)」

 『サイバー・エンド・ドラゴン』の姿を、真剣な眼差しで見つめる者がもう1人いた。護である。
 前回の光のデュエルで感じた鼓動。それが正しかった事が今証明された。
 そして、事実を証明した彼は思い出す。彼に対して放った、カイザー亮の言葉を。

『『サイバー・エンド・ドラゴン』のカードは全て譲った。1枚は翔に、そしてもう1枚も、あるデュエリストに・・・。1度闇に堕ち、それを正しき力として操る事ができず、逆にそのまま飲み込まれていってしまった俺では、もう1度『サイバー・エンド』と共に光の道を歩む事はできない、と考えてな・・・』

 プロリーグで出会い、交流を育んで来たプロとしても人間としても先輩である人から聞かされた、「もうカイザー亮は『サイバー・エンド・ドラゴン』を所持していない」という事実。
 限界。護は否定したが、それでもカイザー亮は『サイバー・エンド・ドラゴン』と共に歩む事は、既に限界に到達していると言い切った。
 同時にこの事は、恩師・鮫島校長には伝えていない事も聞かされた。
 何故かと問うと、分からないと答えられた。伝えないでくれとも忠告された。

『2人の飛躍を、自分の目で確認してくれというところだろうな。翔は『サイバー・ダーク』の闇の力も、『サイバー・エンド』の光の力も、自らの力として完全に操り、あいつらと共に歩み続けている。もう1枚の『サイバー・エンド』を与えたデュエリストも、『サイバー・エンド』の光の力を引き出すには適任と判断した。俺が辿り着けなかった境地に、辿り着くに違いない』

 そして次世代の健闘も確信していた。『サイバー・エンド・ドラゴン』と共に、永遠(eternal)進化(evolution)し続ける事も。

「(亮さん、貴方の目は確かですよ。間違いない、彼女は『サイバー・エンド・ドラゴン』の新たなる所有者に相応しい人物ですよ)」

 一目見ただけ。まだ共に闘う姿すら見ていないが、護もまた確信した。元プロデュエリストの肩書きは伊達ではない。
 「カイザー亮」の恩師、そして友に等しき者が認めたこの瞬間、『サイバー・エンド・ドラゴン』が光に「受け継がれた」事はより確かなものとなったのである。









 様々な人々の思いが交錯する中、ターンはメインフェイズから、闘いの舞台・バトルフェイズへと移行する。
 その時、光の口が開いた。

「アンタ・・・平賀にどんな風に吹き込まれたか知らないけど、そんなみみっちい事で棄権しようとすんじゃないわよ!」

「な、な・・・みみっちい事だと!?」

 突然のこの言葉。これからの人生を左右するとも言える問題を、単純なもの扱いしたこの言葉は、栄一にとっては暴言に等しい。勿論反論する。
 だが、光は栄一の反論も無視し、スッと右手を上げ・・・機械龍『サイバー・エンド・ドラゴン』の攻撃を宣言した。

「目を覚ましなさい栄一! 『サイバー・エンド・ドラゴン』で、『サンダー・ジャイアント』を攻撃!」



「『エターナル・エヴォリューション・バースト』!!!」



第28話 −継承者の使命−

 白銀の巨体がフィールドを制す。主の命を受け、最強の機械龍が攻撃を開始する。

 『サイバー・エンド・ドラゴン』の3つの首から同時に、白く巨大な光線が放たれる。
 力が違いすぎる『サンダー・ジャイアント』に対応する術はなし。結果、3つの光線を同時に受け、大爆発と共にその身を散らす事となった。
 そしてその爆発の凄まじさに、閃光が拡散。フィールド全体を飲み込んでいく。

「ぐ、ぐぅぅぅぅぅ、ぐわぁぁぁぁぁ!」

 思わず顔の前で腕をクロスし、強く目を瞑って閃光を避けようとする栄一。耳には、まだ劈く程の爆音が聞こえる。


 一瞬、栄一は唯1人、別世界へと飛ばされた気持ちになる。


 そしてそれは、現実のものとなった・・・のかもしれない。


栄一:LP4000→LP2900











「・・・ん・・・・・・ん!? ・・・えっ!?」

 ゆっくりと瞼を開いていった栄一の視界に入ったもの。それは・・・

『『サイバー・エンド・ドラゴン』! 『エターナル・エヴォリューション・バースト』!!!』

 一寸前に『サンダー・ジャイアント』目掛けて放ったのと同じように、自らに向けて砲を放とうとする最強の機械龍『サイバー・エンド・ドラゴン』の姿であった。
 だが、その後ろで命ずる人間を見て栄一は目を疑う。光ではなかったからだ。
 まず性別が明らかに違う。性格は男勝りの乱暴者だが、あれで光はれっきとした女性だ。だが、『サイバー・エンド・ドラゴン』の後ろに立つ人間は違う。男性だ。
 紺色がかった髪は神々しさを見せ付ける。目つきは鋭く力強い。だが高圧的なものは決して感じない。
 体は長身。体格も良さそうだ。そして身に纏っている服は、護や宇宙の着ている物と同じ、アカデミア特待生専用の白い制服。

「・・・誰・・・あれ? どこかで見た事がある気はするけど・・・!」

 瞬間、超絶の砲撃が栄一に直撃・・・せずに、そのまま彼をすり抜ける。
 呆気にとられる栄一。そんな彼の耳に・・・誰かの声が流れ込んできた。

『くっ・・・『バスター』!』

 聞いた事がある声だった。そして、もう長い間聞いていない声でもあった。
 幼い時の思い出でしかないが、それでもしっかりと耳に残っている。焼きついている。あの人の声だ。
 信じられない。だが、確かに聞こえたあの人の声。その声の持ち主を探すべく、栄一は後ろに振り向いた。

 探し求めた声、その持ち主は・・・

「・・・えっ・・・何・・・これ・・・? どういう事だ!?」

 栄一の、すぐ後ろにいた。

「智・・・兄ちゃん!? それに・・・」

 自分目掛けて放たれた筈の砲撃が、自らをすり抜けそのままにまだ突き進んでいるのは何故かなど、どうでもよかった。
 紛れもなかった。栄一の瞳に映ったのは、幼少の頃から憧れ続けている、そして今もなお追い求め続けている本当の兄同然の人。智であった。
 青い、一般のオベリスクブルー生徒が着ている物と同じ服に身を包んだその姿。小奇麗な黒髪に成人前後の若さと大人っぽさが両方見て取れる顔。
 記憶に残っている彼より若々しく見えるが、それでも見間違える筈が無かった。

 そして、彼の前で構える紅の鎧を身に纏った、1体のヒーロー。

「『バーニング・バs』・・・」

 砲がヒーローに直撃し、周囲に大爆発をもたらす。
 爆風は栄一にも襲い掛かり、彼の視界を再び奪う。
 一瞬しか確認できなかったが、『サイバー・エンド・ドラゴン』の砲撃を受けたのは、智の切り札、そして今は栄一の手元にある筈の『バーニング・バスター』で間違いなかった。

 攻撃を命じた男性の正体も、ようやく分かった。
 幼い時分にプロリーグの中継で何度も見た顔。(栄一の推測では「おそらく」)前『サイバー・エンド・ドラゴン』の所有者、『カイザー』丸藤亮である。
 そして智も、カイザー亮も、アカデミアの制服を身に着けているという事は・・・

「ここは・・・かつてのアカデミア!? いや・・・そんな・・・けど・・・」

 結論付けるのは早すぎるとも思ったが、幼い時に見たそれよりも智やカイザー亮の姿が若々しく見えた事や、カイザー亮がこのアカデミア出身だという事を栄一は確認している事からも考えれば、この場が数年前のデュエルアカデミアだという可能性は高い。

「という事は・・・俺、タイムスリップでもしちまったのか!?」

 時間移動という荒唐無稽な行為をやらかしてしまうなど、未来から来たネコ型ロボットなどの空想の世界でだけの出来事だと思っていた。
 しかしそれ以上に栄一を驚かせたのは、智と『バーニング・バスター』がこの場に存在するという事だった。
 智がデュエルアカデミアに在学していたというのは初耳であった。
 智は、栄一に出会うまでの全ての経歴を、栄一には勿論、栄一の保護責任者である由香里にも孝富にも一切伝えなかった。
 経歴を様々な方法で確認できるカイザー亮とは違い、本人が口にしない限り智の過去は分からないのだ。

「何だよ・・・。これは・・・何なんだよ!!!」

 周囲は何も見えない。だが、一瞬の出来事でありながら、爆発前の出来事が栄一に与えた情報の量は余りにも多すぎた。不可思議な事だらけすぎて、栄一はパニックに陥る。
 そんな状態の最中、栄一は再び声を聞き取る。

『(俺では・・・無理なのか・・・?)』

「えっ!?」

 智の声であった。耳から聞き取ったのではない。心に直接響いた。
 そもそもまだ、爆音が耳を劈いているのである。それ以外の音を耳で拾う事は困難だ。
 しかし栄一は、智の言葉をはっきりと聞き取った。

『(俺は、これ以上高みを目指す事はできないのか・・・? 『バスター』に、さらなる強さを求める事は不可能なのか・・・?)』

 また智の声が聞こえ、煙が晴れる。
 真っ先に栄一が見たものは、両膝をつく智の姿。あれほど強くて逞しかった智と、同一人物とは思えない程の、寂しい姿。

『(年下の丸藤にも敗れた・・・。そしてアイツ(・・・)にも、もう勝つ事は出来ない・・・。俺の成長は、本当に完了してしまったのか・・・?)』

「・・・智・・・兄ちゃん?」

 声は聞こえる。やはり耳からではない。心に直接響くのであった。
 不思議な話だが、智を見つめ続けていると、自ずとその謎の答えが出た。
 智は、一切口を動かしていないのだ。おそらく、さっきからずっと。
 口に出していない筈のものが聞こえる。それはつまり・・・

「これは・・・智兄ちゃんの・・・心の声!?」

 これも間違いなかった。栄一は智の心を読み取ったのだった。まるで、栄一と智の心がシンクロしているかのように。
 栄一は思わず、智の元へ向かい彼に触れようとする。
 だがそれは叶わなかった。触れようとした手が、智の身体をすり抜けたのだ。

「触・・・れない? これ・・・は?」

 不思議に思いながら、周囲を見渡す。瞬間、根拠があるわけではないが、分かる事ができた。
 ホールにいる人々は皆、栄一の存在に気付いていない。存在するものとして扱っていないようであった。

『先輩』

 振り向けば、声をかけながらカイザー亮が智へと足を運んでいた。彼の視線もまた、智のみを捉えているように見える。

『ありがとうございました』

 そしてカイザー亮は、智の目の前に立ち、智へと手を差し伸べた。
 栄一にとってのカイザー亮は、『地獄の皇帝(ヘルカイザー)』と呼ばれ、ただ己の勝利のみを追及し続けていた、ある種のヒール役とも言える存在であった時代の印象が一番強い。
 栄一が成長していくにつれ、テレビで見るカイザー亮も、徐々に丸くなり人を思いやる心を見せるようにはなっていたが、それでも黒い服に身を包んだ冷徹な人格が裏にいる、という印象は振り切れなかった。
 優しい笑顔と共に自ら手を差し伸べる姿など、半ば信じ難かった。

『・・・すまない。自分で立てる。・・・少し、1人にしてくれないか?』

 だが、智はカイザーの手を振り払い、1人で立ち上がると、そのままゲートの方へと寂しげに足を進めて行った。
 全てを見届けていた栄一。だが今の状況に対するショックの大きさに体が動かなかった為か、智を呼びかけ智の元へ向かう事は出来なかった。
 いや、体が動いたとしても、呼びかける事も近寄る事も出来なかっただろう。
 気付かれていないのなら呼びかけても意味が無いし、何より自分の存在に気付いてもらえたとしても、今ここにいる智はまだ自分に出会っていない頃の智であろうから、自分の事を分かってもらえる筈が無いからである。

『(おそらく、『バスター』はそのうち手放さなくてはならないだろうな・・・)』

「えっ!?」

 呆然と立ち尽くしていると、また聞こえた。寂しげな、智の声が。

『(もう少し、足掻けるなら足掻きたい。だけど、俺なんかよりも『バスター』の持ち主として相応しい奴が、俺の目の前に現れたら・・・その時は・・・)』

 寂しい背中が伝える智の心中。栄一の心に大きく響く。何度も、脳内で繰り返される。
 そうもしているうちに智は、栄一やカイザー亮、観客席の人々に見守られながら、ゲートの向こうへと唯1人、寂しく消えていった。



「智・・・兄ちゃん・・・」

 悲しげに呟く栄一。その頬には、本人も気付かないうちに一筋の雫が伝っていた。




















「栄一!」

「・・・えっ!」

 瞬間、栄一の瞳に映ったのは、光と『サイバー・エンド・ドラゴン』、観客席には友人・知人、見覚えある人々の顔も揃っている。
 紛れもない、元の世界であった。

「ここは・・・元の世界、だよな?」

 呟き。独り言のつもりであったが、その呟きに答える者がいた。
 耳が痛くなる程の咆哮が、ホールに響く。『サイバー・エンド・ドラゴン』であった。

「(・・・えっ!? まさか、今のはお前がやったっていうのか? 『サイバー・エンド・ドラゴン』!?)」

 また、高音の咆哮が鳴り響く。栄一の問いに答えるかのように。
 確かに、今まで栄一がいた世界には『サイバー・エンド・ドラゴン』の姿もあった。
 故に、今までの出来事は全て、『サイバー・エンド・ドラゴン』の見せた過去のビジョンであったと説明をつける事も可能といえば可能だ。
 難しい事はよく分からないが、それでも栄一の思考は何とかそう結論付けることが出来た。

「(そうか・・・ありがとうって言うべきなのかな?)」

 ふと、栄一は頬を伝う冷たいものに気付く。それを右手で拭い取りながら、おそらく問いかけが通じているであろう『サイバー・エンド・ドラゴン』に、思念を送った、疑問を尋ねた。

「(でも、だからといって俺はどうすればいいんだ? 今のが何になるってんだ?)」

 何故『サイバー・エンド・ドラゴン』は過去のビジョンを見せたのか。それを見せてどうしたいというのか。栄一の中で、再び葛藤が生まれ始める。
 そんな時・・・

「ポケーっと突っ立ってんじゃないわよ、栄一。・・・アンタ、本当に『バスター』から逃げるつもり?」

 光の声が、栄一に届いた。
 落ち着いた・・・そして感情の篭った口調。境遇の似た人間としての、悩む男への問いかけであった。

「ワタシは、ある人・・・って、もう隠す必要も無いわね。そう、『サイバー・エンド・ドラゴン』の元々の持ち主であった丸藤亮さんから、このカードを託された。亮さんの、絶対的切り札だったこのカードをね」





 北条光という少女。男勝りの性格は、幼少の頃に既に身に付いていた。
 1番になりたいという願望を持つ事は、何も可笑しな話ではない。だが彼女は、その願望が一際強かった。
 男に負けたくないと言う気持ちが、彼女の力を、そして心を強くしていた。
 男に対して積極的に対抗できるその力強さ故に、同年代の女子達の人望を得るのはそう時間がかからなかった。

 そんな彼女がデュエルモンスターズに出会ったのは、小学2年の春の事であった。
 クラスメートの女子達が、教室でデュエルしている姿を偶然見かけた事が始まりだった。
 デュエルモンスターズが、老若男女に愛されているカードゲームであるという事は光も承知であったが、まだまだ幼い少女達が私物の持ち込みが制限されている学校に持って来てまで遊んでいる、という事実は衝撃であった。
 女子の間でも随分と盛んになって来ているとはいえ、元々は男子の間で特に盛んであったデュエルモンスターズ。
 何でも1番になりたいと思っている少女が、その世界に飛び込み、のめり込むまでにもまた、そう時間がかからなかった。

 デュエルをやるにつれて、特に彼女の興味を引かせたのは『ライトロード』と呼ばれるカードシリーズであった。
 「ワタシの名前と同じ」、『光の使者』達。その力は、デュエルモンスターズの中でも強力と呼べる位置にある。
 『ライトロード』を主体にした光属性モンスターで多くが構成されたデッキは、彼女との相性が抜群だった為か、後に彼女は数々の戦績を残していく事となった。

 あれは、中学2年の夏であった。自らの生い育った町で行われたとあるデュエルモンスターズの大会で、光は優勝した。
 近辺では既に敵無しと言える程までに成長していた光にとって、それ程規模はでかくない大会で勝ち進む事は、そう苦になる事ではなかった。
 その大会の表彰式の後、人気の余り無い場所で、光は彼に出会った。

 野球帽を被り、サングラスをかけ、上下共に黒い服を身に纏っていた、初めて出会った彼の第一印象は「明らか危険人物」。か弱い少女が、他に誰もいない場所で出会ってはいけないような存在であった。
 知る筈もないのに、自らの名前を呼ばれた時には身震いまでした。寒気が身体を襲った。目の前の男がサングラスを外すまで、それは続いた。
 彼の素顔が明らかになった瞬間、「疑い」は「驚き」に変わった。有名人が目の前にいるという事実に、光は先程までとは別の意味で身震いした。

 彼は、カイザー亮は、光に1枚のカードを手渡しながらこう言った。
 
「俺の辿り着けなかった境地に、こいつを連れて行ってやってくれ。君ならできる」

 渡されたカードを見て、光は凍り付いた。
 『サイバー・エンド・ドラゴン』。目の前にいるカイザー亮の、エースモンスターカードだったからだ。

 それは偶然であった。光がデュエルモンスターズを始めた理由も偶然であれば、カイザー亮が光のデュエルを目にした事もまた偶然であった。
 偶然見学したローカル大会。そこで偶然目にした光のデュエル。その時彼は、自らの持つ『サイバー・エンド・ドラゴン』のカードから確かに鼓動を感じた。同時に、『サイバー・エンド・ドラゴン』を彼女に譲る事を決意した。
 自らが受け継いだサイバー流免許皆伝の証、『サイバー・エンド・ドラゴン』のカード。1枚は実弟の翔に譲った。そして手元に残るもう1枚・・・。それを次に受け継ぐのは、彼女しかいない。そう確信したからだ。
 それら全てを話してくれた後、カイザー亮は光の元を去っていった。

 だからといって、アカデミアに入学するまで光は、『サイバー・エンド・ドラゴン』のカードを使う事はなかった。その理由は、栄一のような複雑な感情があったからではない、ただ単純な理由であった。

 『サイバー・エンド・ドラゴン』を使っている事が周囲にバレたら、それこそ大変な事になる。

 『サイバー・エンド・ドラゴン』は元々、丸藤兄弟のみが所持していたカードである。何度も大会で優勝しているとはいえ、たかがアマチュアデュエリストの1人でしかない自分が持っている事が知れたら、それ目当てに欲に塗れた野次馬連中が自分の周りに集まってくる事は目に見えていたからである。

 『サイバー・エンド・ドラゴン』の封印。それは、各地から猛者が集まるデュエルアカデミアに入学しても変わらなかった。ある事を耳にするまで、それは続いた。





「亮さんから預かったこのカード、預かったまま結局今まで一度も使わなかったんだけど、使わせる気にしたのは栄一、アンタなのよ」

「えっ・・・俺・・・!?」

 光の意外な告白に、栄一は驚いた。
 今の状況が示す『サイバー・エンド・ドラゴン』の封印の解除。そのきっかけが自分であるなどとは思いもしなかったのだから当然である。

「アンタの『バーニング・バスター』もまた受け継がれたカードと聞いて、躊躇してられなくなったのよ。アンタもワタシも立場は同じ。なら、どうしてワタシだけ誤魔化し続ける事ができるの? ってね。けど・・・どうやら今のまま、そんな決断力の無いチキンハートのままじゃあ、アンタに感化されたワタシが馬鹿だった、で終わるかもね」

 言い切った。清々する程に光は言い切った。ストレートな罵声が、栄一に突き刺さった。
 周囲からも、栄一の握った両の拳が震えているのが簡単に見て取れた。

「お前に・・・何が分かるってんだよ!」

 栄一は、威勢よく光に反論する。だが、その反論が本当に威勢だけのものである事も、今の栄一に反論する権利が無い事も、自他共に認めるであろう事であった。

「何でも分かるわよ! 栄一、ワタシは『サイバー・エンド・ドラゴン』を受け継いだ事を誇りに思っている。亮さんから直々に受け継いでくれと言われたのだから、悩む事なんて何も無い。このカードと共に闘うと決めたのだから、怯えている暇なんて無い。アンタのようにね!」

 また、鋭い言葉が栄一の心にグサッと刺さる。
 認めたくは無かったが、栄一に対する光の言葉は正論ばかり。栄一から、これ以上反論する気力すら奪っていった。

「悩んでんじゃないわよ! 怯えてんじゃないわよ! 震えてんじゃないわよ! 智兄さんも、今のアンタを見たら落胆するに違いないわね! 「こんなつもりで『バーニング・バスター』のカードをアンタに与えたつもりじゃなかったのに」ってね!」

「・・・」

「アンタを認めたからこそ、智兄さんは『バスター』のカードを与えたんでしょ? そもそも、偶々出会った見知らぬガキのアンタと毎日のように遊んでくれたって時点で、アンタの事を真剣に考えていてくれていたって事でしょ? 嫌々の慈善行為で毎日遊びに行くなんて、そうそうできない筈だわ!」

「・・・!?」

 栄一の脳裏で、初めて出会った日から別れる日までの、智との記憶が次々に再生される。
 自分が駄々を捏ねたら、窘めながらもその無理難題を叶えてくれた。自分の好奇心旺盛な度重なる質問に、いつも真剣に答えてくれた。DDをはじめとした一流デュエリストを目指す自分を、厳しく優しく育ててくれた。自らのデュエリストとしての礎を築いてくれた。
 初めて出会った日から別れる日まで、本当の兄のように自分を気にしてくれていた。自分に接してくれていた。



『そうだなぁ・・・。相手をリスペクトでき、どんな状況ででも最後まで諦めない。・・・そんな心を持てて、尚且つ俺に勝つ事。それができたら、考えてやってもいいぜ!』



「(あんな事言ってたけど、もしかして智兄ちゃんは・・・)」



『(もう少し、足掻けるなら足掻きたい。だけど、俺なんかよりも『バスター』の持ち主として相応しい奴が、俺の目の前に現れたら・・・その時は・・・)』



「(俺に『バスター』のカードを与える事を、最初から決めていた・・・?)」

 次々と、智の言葉も思い出されていく。思い出されていく毎に、智の思惑に対しての推測が真実味を帯びていく。



『栄一、他人に自らの技術・力・財産などを受け継がせる事は、並大抵の事じゃないんだぜ。そしてお前は、智兄さんの力を『受け継いだ者』・・・『継承者』だ』



 宇宙の言葉も蘇る。
 智は、栄一の事を思っていたからという事も勿論だが、『バーニング・バスター』を栄一に受け継がせる事を決めていたからこそ、いっそう栄一に気遣ってくれていたのかもしれない。
 そう考えれば、栄一に『バーニング・バスター』を受け継がせたあの日。何故あの日にしたのかは分からないが、少なくとも『バーニング・バスター』を受け継がせた事は成り行きで決めた事ではないだろう。



「・・・デュエル、続けるわよ? 『サイバー・エンド・ドラゴン』の攻撃を終えた為、ワタシはもうバトルフェイズにやる事はない。メインフェイズ2に移ってもいいかしら?」

 光が言う。確認を取ったのは、栄一のフィールドに存在するリバースカードが、戦闘破壊に誘発して発動されるカードかもしれないからだ。
 そして光の確認は、正しかった事になる。

「あ・・・待ってくれ・・・。『サンダー・ジャイアント』の戦闘破壊に対して、リバースカードを発動する。『融合の恩恵(フェーバー・オブ・フュージョン)』。『サンダー・ジャイアント』が戦闘破壊された為、『サンダー・ジャイアント』の融合素材になったモンスターの数だけ・・・2枚のカードを、俺はドローする・・・」

融合の恩恵(フェーバー・オブ・フュージョン) 通常罠(オリジナル)
自分フィールド上の融合モンスターが戦闘によって破壊された時に発動する事ができる。
その融合モンスターの融合召喚に使用した融合素材モンスターの数だけ、
自分はデッキからカードをドローする。

 デッキに手をかける栄一。宇宙とデュエルした時と同じだ。また手が震えている。
 いくら諭されても、荒療治を受けても、病がそう簡単に直るわけではない。それを表現しているかのようだ。

 ・・・そんな時、栄一の右手に、再び誰かが覆いかぶさるように手を重ねた。
 やはり宇宙とデュエルした時と同じ。あの時感じた暖かさと変わらなかった。

「・・・『バスター』!」

 『バーニング・バスター』だった。彼は、栄一の盾として戦うが如く、栄一の後ろで共にカードに手を重ねていた。



「分かっただろ、栄一。お前と『バスター』の絆は本物だ。『バスター』がお前を信じているから、こういう状況を作る事ができたんだ。なら、お前もそれに応えなきゃならんだろ、栄一?」



「(宇宙先輩・・・俺も、応えなきゃいけないんだよな?)」

 信じるしかない。『バーニング・バスター』の、そして智兄ちゃんの心中を。

「ドロー!」

 引いた2枚のカード。その中には、やはりあった。『バーニング・バスター』のカードが。
 そうだ。ピンチの時、『バーニング・バスター』はいつも傍にいた。
 偶然なんかでは片付けられない。『バーニング・バスター』は栄一を信頼しているからこそ、いつも栄一の手札に舞い降りたのだ。

「(『バスター』が本当に信頼してくれるのなら・・・継承者の俺が、怯えている場合じゃない! 智兄ちゃん、俺はもう迷わない! 『バスター』の継承者として闘う! ・・・いいよね?)」

 『バーニング・バスター』のカードが、応えるように光る。その反応に勇気が出たか、このデュエル中初めて、栄一の口元から力強い笑みが生まれた。

「・・・『融合の恩恵(フェーバー・オブ・フュージョン)』の効果処理も終わったし、メインフェイズ2に入ってもいいわよね?」

「ああ、いいぜ」

 2枚のカードを手にした栄一の目付きが変わった。自らの問いかけに対する返事も、上辺だけのものではない力強い返事だった。
 その事実を、光は見逃さなかった。 

「・・・? カードを2枚セットして、ターンエンド」

 「何かをしてくる?」そう考えた光が伏せたのは、『サイバー・エンド・ドラゴン』をあらゆる攻撃からも守り抜く事のできるカード。
 勝つ為にはまだ、『サイバー・エンド・ドラゴン』の力が必要・・・。
 共に闘う・・・。その想いが込められた、カードである。

栄一LP2900
手札3枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンなし
LP3200
手札2枚
モンスターゾーンサイバー・エンド・ドラゴン(攻撃表示:ATK4000)
魔法・罠ゾーンリバースカード2枚





−保健室−

「光君・・・良い事言うねぇ・・・」

 宇宙はテレビを通して、栄一と光2人のやり取りを感慨深く見つめていた。同時に、栄一に忠告しきれなかったという自らのミステイクを光が補ってくれた事に対して、光に多大なる感謝の念も送っていた。

「・・・僕のいない間に何かあったみたいだね、宇宙」

「まぁな。オレも栄一と、ちょっとお喋りしてたんだよ」

 護の問いかけに、宇宙は軽く言葉を返した。
 横に渋々ながら大人しく座っている親友は、やはり何事にも鋭かった。逆に言えば、一々最初から説明する必要が無い事も確かなのだが。

「本当に、宇宙は良いお兄さんだよ。僕と違って」

「お褒めの言葉は素直に受け取っておくよ。だからお前は寝てろ。後、自虐すんな。お前が言ったら冗談に聞こえない」

 窘めるが如く護の頭を右手で押さえつけえながら、宇宙は照れ隠しに答えた。





−再びデュエルコート−

「俺のターン!」

 『融合の恩恵(フェーバー・オブ・フュージョン)』は、栄一にとって確かに恩恵となった。
 『サイバー・エンド・ドラゴン』の攻略、そして形勢の逆転を導き出すカードを、栄一は引き当てたのだ。

「魔法カード『アクア・フュージョン』を発動! 墓地の『サンダー・ジャイアント』と、『スプラッシャー』をゲームから除外し・・・」

「『サンダー・ジャイアント』と『スプラッシャー』? 珍しい組み合わせね。・・・・・・って、確か『アクア・フュージョン』は水属性専用の融合カード! という事は!?」

 光の思考はすぐに、栄一が呼ぼうとしているHEROの存在へと繋げた。栄一の目の前に頂のように高く聳え立つ巨大な氷の塊が、それをさらに確かなものとしている。
 皆様も既にお分かりであろう。そう、栄一が融合するのは『サンダー・ジャイアント』と『スプラッシャー』ではない。『HERO』と『水属性のモンスター』である。

「『アブソルートZero』、融合召喚!」

 瞬間、氷が粉々に割れる。そしてその中から、全身を白の鎧で固め、鎧と同じ白色の長いマントを着用した、絶対零度の名を与えられしHERO『アブソルートZero』が、その姿を現した。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) アブソルートZero(ゼロ) ☆8
水 戦士族 融合・効果 ATK2500 DEF2000
「HERO」と名のついたモンスター+水属性モンスター
このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。
このカードの攻撃力は、フィールド上に表側表示で存在する
「E・HERO アブソルートZero」以外の
水属性モンスターの数×500ポイントアップする。
このカードがフィールド上から離れた時、
相手フィールド上に存在するモンスターを全て破壊する。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) スプラッシャー ☆5(オリジナル)
水 水族 通常 ATK2300 DEF1500
激しい水の流れをも操る、水のE・HERO。
その水の猛撃は、どんなに堅い悪をも貫く。

「さらに『アクア・フュージョン』の効果で、俺はカードを1枚ドローできる!」

アクア・フュージョン 通常魔法(オリジナル)
自分のフィールド上または墓地から、融合モンスターカードによって
決められた融合素材モンスターをゲームから除外し、
水属性の融合モンスター1体を融合召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する。
この効果によってモンスターの融合召喚に成功した時、
自分はデッキからカードを1枚ドローする。

「『サンダー・ジャイアント』のコストで、『スプラッシャー』を既に墓地へ送っていたのね・・・」

「正解だぜ、光。さぁ反撃だ! 『アブソルートZero』で、『サイバー・エンド・ドラゴン』を攻撃!」

 『アブソルートZero』が、『サイバー・エンド・ドラゴン』に向かって猛スピードで突き進む。
 攻撃力だけを比較すれば、『アブソルートZero』の敗北は目に見えている。自殺行為だ。
 だが、この攻撃での狙いは、戦闘での『サイバー・エンド・ドラゴン』の破壊ではない。それは、光も重々承知の上であった。

「(栄一が狙っているのは、『アブソルートZero』の効果の行使!)」

 『アブソルートZero』には、フィールドを離れた際に敵のフィールドを殲滅する能力がある。
 さらに、『融合の恩恵(フェーバー・オブ・フュージョン)』の効果の時に見せた栄一の表情と、『アブソルートZero』は戦士族だという事実。
 それらの点から光が導いた結論は・・・

「(手札には既に、『バーニング・バスター』がいる! そしてここでの特殊召喚を狙ってくる筈! なら!)」

 光が、自らのディスクに手をかける。カードの発動を宣言する。

「トラップカード『フローラル・シールド』発動!」

 姿を現したリバースカード。そこから花びらが吹雪のように舞い、盾を形成。『アブソルートZero』の猛突進を、見事に食い止めた。

「『フローラル・シールド』はモンスターの攻撃宣言を無効にし、ワタシに新たなカードを与える盾! 『アブソルートZero』の攻撃は無効よ!」

フローラル・シールド 通常罠(アニメ5D'sオリジナル)
相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
その相手モンスターの攻撃宣言を無効にし、
自分のデッキからカードを1枚ドローする。

「くっ! カードを1枚セット、ターンエンドだ」

 露骨に悔しがる栄一。彼は気付いていない。この一連の戦術の魂胆が、既に光に筒抜けになっているという事を。

栄一LP2900
手札3枚
モンスターゾーンE・HERO アブソルートZero(攻撃表示:ATK2500)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
LP3200
手札3枚
モンスターゾーンサイバー・エンド・ドラゴン(攻撃表示:ATK4000)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚

「ワタシのターン!」

 一方の光は、既に把握済みの栄一の戦術を何としてでも完封したいと思っているせいか、自らのターンを素早く進める。
 引いたカードをそのままディスクへと差し込む。

「魔法カード『手札断殺』を発動! 手札のカードを2枚捨て、新たに2枚のカードをドロー!」

「なら俺も、この2枚を墓地へ送って、新たに2枚ドロー!」

 栄一と光。共に既に墓地へ送るカードと手札に残すカードを選別していたのか、すぐに2枚のカードを抜き取って墓地へと送った。
 そしてお互いに、新たな2枚のカードを手札に加える。

手札断殺(てふだだんさつ) 速攻魔法
お互いのプレイヤーは手札を2枚墓地へ送り、デッキからカードを2枚ドローする。

「栄一。一気に畳み掛けようとしていたみたいだけど、そうは問屋が卸さない・・・ってところかしらね?」

「それは・・・どういう・・・」

 手札から2枚のカードを抜き取りつつ、栄一に問いかける光。
 戦術が光に筒抜け、という事がまだ分かっていない栄一には、光の言葉がどういう意味を示しているのかが分からない。
 混乱する栄一に対して光は、抜き取ったカードをディスクに差し込みながら・・・

「こういう事よ! 『月の書』と、『シールドクラッシュ』を発動!」

 自信満々に、カードの発動宣言を行った。
 瞬間、『アブソルートZero』がその姿を裏側表示のカードの中へと隠してしまい、そのカード毎そのまま粉々に爆発、四散した。

(つき)(しょ) 速攻魔法
フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択し、裏側守備表示にする。

シールドクラッシュ 通常魔法
フィールド上に守備表示で存在するモンスター1体を選択して破壊する。

「『アブソルートZero』は、裏側守備表示のままフィールド上を離れた場合には効果を発動できない。また『バーニング・バスター』も、破壊された戦士族が裏側守備表示では特殊召喚効果を発動できない・・・でしょ?」

「・・・」

 全て図星。栄一は、ぐうの音も出せなかった。
 そして同時に、ようやく光が自らの戦術を読み切っている事に気が付いた。
 光の言う通り『バーニング・バスター』の効果も、そして『アブソルートZero』自身の効果も、その姿を隠されてしまっては発動する事ができない。
 だが、気付くのが遅すぎた。
 同時に、光のフィールドの『サイバー・エンド・ドラゴン』が、その3つの口元にエネルギーを集め始める。

「バトルフェイズ! 『サイバー・エンド・ドラゴン』で、ダイレクトアタック! 『エターナル・エヴォリューション・バースト』!」

 『サイバー・エンド・ドラゴン』の、3つの口元が一閃。次の瞬間、栄一の目に映ったのは、栄一を葬り去ろうとする3つの白き光線。
 たまらず栄一は、フィールドにセットしていたカードを発動させた。

「トラップカード、『トゥルース・リインフォース』発動! デッキから、レベル2以下の戦士族モンスター1体を特殊召喚する!」

トゥルース・リインフォース 通常罠
自分のデッキからレベル2以下の戦士族モンスター1体を特殊召喚する。
このカードを発動するターン、自分はバトルフェイズを行う事ができない。

 だが、光線はその勢いを止めない。そのまま栄一の目の前に現れたモンスターに直撃する。





「危ねぇ・・・。このモンスターを召喚できてなかったら、やられてたぜ!」

 しかし、そのモンスターは破壊されていなかった。
 その頑強な体が、強烈な光線に屈する事も無く、栄一をダメージから守り抜いたのだ。

マッシブ・ウォリアー ☆2
地 戦士族 効果 ATK600 DEF1200
このカードの戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になる。
このカードは1ターンに1度だけ、戦闘では破壊されない。

「『マッシブ・ウォリアー』とは厄介ね・・・。ターンエンドよ」

栄一LP2900
手札3枚
モンスターゾーンマッシブ・ウォリアー(守備表示:DEF1200)
魔法・罠ゾーンなし
LP3200
手札1枚
モンスターゾーンサイバー・エンド・ドラゴン(攻撃表示:ATK4000)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚

「俺のターン」

 手札は潤沢。だが、『アブソルートZero』の効果による『サイバー・エンド・ドラゴン』攻略戦術を簡単にかわされた栄一には、手札が4枚もあるにも関わらず、現状況を逆転する術はなかった。
 手札に眠る、智兄ちゃんとの「絆」である『バーニング・バスター』。フィールドに呼ぶ事自体は、既に可能。だが、今のままでは犬死するのが目に見えている・・・。
 ・・・仕方がない。ここは守りに徹するしかない。そうするしかないのだ。

「ターンエンドだ」

栄一LP2900
手札4枚
モンスターゾーンマッシブ・ウォリアー(守備表示:DEF1200)
魔法・罠ゾーンなし
LP3200
手札1枚
モンスターゾーンサイバー・エンド・ドラゴン(攻撃表示:ATK4000)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚

「ワタシのターン、カードドロー!」

 しかし、例え頑丈な防壁であれ、僅か1枚のカードに蹂躙される事もある。そしてその蹂躙する事ができるカードを、光は持っていた。
 勿論それは、栄一も知っている。

 だが、それがこんな場面で来るなんて・・・。

「・・・ワタシの墓地には、4体の『ライトロード』がいる! よって、このカードを特殊召喚できるわ! 『裁きの龍(ジャッジメント・ドラグーン)』!」

 光の墓地に眠りし4体の『ライトロード』の呼び声に応え、白き龍が光のフィールドに舞い降り、白銀の機械龍とその姿を並べる。
 光には希望を、栄一には絶望を与える『ライトロード』の切り札、『裁きの龍(ジャッジメント・ドラグーン)』である。

「俺が倒した『ライトロード』は、『ライラ』1体だけの筈・・・? あ、『手札断殺』の時か!?」

「後、『ライラ』自身の効果でね。『ライラ』の効果で墓地へ送られたのが、3体の『サイバー・ドラゴン』のうちの1枚、『サドゥン・フュージョン』、そしてこの『ライコウ』。『手札断殺』で送ったのが『ケルビム』と『グラゴニス』よ」

 墓地から取り出した3枚の光の使者を、栄一に見せつける光。
 そう、機械龍の降臨を呼び込む光の使者の力は、同時に彼らの切り札を呼び込む条件をも整えていたのだ。

裁きの龍(ジャッジメント・ドラグーン) ☆8
光 ドラゴン族 効果 ATK3000 DEF2600
このカードは通常召喚できない。自分の墓地に「ライトロード」と名のついた
モンスターカードが4種類以上存在する場合のみ特殊召喚する事ができる。
1000ライフポイントを払う事で、このカード以外のフィールド上に存在する
カードを全て破壊する。このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する
限り、自分のエンドフェイズ毎に、デッキの上からカードを4枚墓地に送る。

ライトロード・ハンター ライコウ ☆2
光 獣族 効果 ATK200 DEF100
リバース:フィールド上のカードを1枚破壊する事ができる。
自分のデッキの上からカードを3枚墓地に送る。

ライトロード・エンジェル ケルビム ☆5
光 天使族 効果 ATK2300 DEF200
このカードが「ライトロード」と名のついたモンスターを
生け贄にして生け贄召喚に成功した時、
デッキの上からカードを4枚墓地に送る事で
相手フィールド上のカードを2枚まで破壊する。

ライトロード・ドラゴン グラゴニス ☆6
光 ドラゴン族 効果 ATK2000 DEF1600
このカードの攻撃力と守備力は、自分の墓地に存在する「ライトロード」
と名のついたモンスターカードの種類×300ポイントアップする。
このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、その守備力を攻撃力が
超えていれば、その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。
このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する場合、
自分のエンドフェイズ毎に、デッキの上からカードを3枚墓地に送る。

「さぁて、厄介な『マッシブ・ウォリアー』には退場してもらうわ! ライフを1000ポイント払い、『裁きの龍』の効果を発動! 『ジャッジメント・ブラスト』!」

 『裁きの龍』が、自らを除いた全てを消し去るエネルギーを、その口元に作り始める。
 瞬間、栄一に一つの疑問が生まれ・・・

「・・・オイオイ。そんな事したらお前の『サイバー・エンド』m・・・!?」

 それを口にするも、途中で言葉が途切れてしまった。
 同時に、栄一の表情が驚嘆の色で染められる。話題の中心であった『サイバー・エンド・ドラゴン』が、『裁きの龍』がまだ砲を放っていないにも関わらず、既に姿を消し去っていたから。
 そんな栄一の視線の先に映ったのは・・・

「・・・そんな簡単に、ワタシが『サイバー・エンド』を手放すわけないでしょ?」

 自信満々に言い放つ光。そして、『サイバー・エンド・ドラゴン』を一切の攻撃から守り抜く1枚の(トラップ)カードの姿であった。
 『サイバー・エンド・ドラゴン』を守り抜くのに、最も適しているであろう装置。その装置が、光の期待に応えた形となった。

亜空間物質転送装置(あくうかんぶっしつてんそうそうち) 通常罠
自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択し、
発動ターンのエンドフェイズ時までゲームから除外する。

 『サイバー・エンド・ドラゴン』が姿を消したフィールドに、『裁きの龍』の砲撃が拡散する。
 栄一を守る頑強な戦士『マッシブ・ウォリアー』も、その巨大なエネルギーに簡単に飲み込まれてしまった。

光:LP3200→LP2200

「(それでも、『バスター』は召喚しない・・・。当然よね。召喚しても『裁きの龍』の効果でまた破壊されるだけだから)」

 そう。『裁きの龍』の効果はライフが尽きぬ限り1ターンで何度も発動できる。
 『マッシブ・ウォリアー』の破壊に誘発して『バーニング・バスター』を特殊召喚しても、彼に無駄な死を与えてしまうだけなのだ。

「バトルフェイズ・・・。『裁きの龍』!」

 光の命を受け、『裁きの龍』は再び口元にエネルギーを集め・・・それを栄一に向けて放った。
 この攻撃が通れば、栄一の敗北が決定する。



「・・・そうは問屋が許さない・・・だろ?」

「へ?」

 瞬間、栄一の目の前に長い白髪の戦士の幻影が現れ、白龍の砲撃から栄一を守った。
 ちなみに光の間の抜けた言葉には、「勝ちを確信した瞬間に水を差された事による気抜け」と「栄一の言葉の間違いに対するツッコミ」のダブル・ミーニングがある。

「墓地の『ネクロ・ガードナー』を除外する事で、戦闘を無効にする!」

ネクロ・ガードナー ☆3
闇 戦士族 効果 ATK600 DEF1300
自分の墓地に存在するこのカードをゲームから除外して発動する。
相手モンスターの攻撃を1度だけ無効にする。

「・・・『手札断殺』の時に、墓地へ送ってたのね」

「そうさ。『手札断殺』で布陣を整えたのは、お前だけじゃないって事だな!」

「みたいね・・・。そうでなくっちゃ面白くないわ! カードを1枚セットしてエンドフェイズ! 『サイバー・エンド』は、ワタシのフィールドに舞い戻る!」

 栄一と光。二人の表情が、気迫の篭った笑みを浮かべる。
 そして同時に、転送装置によって別次元へと飛ばされていた『サイバー・エンド・ドラゴン』が、時空を越えて再び光のフィールドへと現れ、敵を威圧する咆哮を高らかに上げた。

「そして『裁きの龍』の効果で、カードを4枚墓地へ送る・・・! 良いカードが来たわね」

「?」

 光の口元が緩む。同時に、光の周りをオーラが包み、彼女のライフを回復させていく。

「今墓地に送られたカードの中に、『髑髏顔(ドクロがん) 天道虫(レディバグ)』が2枚あったわ。よってワタシのライフは2000ポイント回復する!」

髑髏顔(ドクロがん) 天道虫(レディバグ) ☆4
地 昆虫族 効果 ATK500 DEF1500
このカードが墓地に送られた時、自分は1000ライフポイント回復する。

光:LP2200→LP4200

「一気にライフ初期状態かよ・・・。地味に嫌なカードだなぁ・・・。主にカードイラストが

「へ? なんか言った栄一?」

「あ、いや・・・なんでもないぜ・・・」

栄一LP2900
手札4枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンなし
LP4200
手札0枚
モンスターゾーンサイバー・エンド・ドラゴン(攻撃表示:ATK4000)
裁きの龍(攻撃表示:ATK3000)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚

 2人の死闘とも言えるこの決闘(デュエル)は、まだまだ決着を迎えそうになかった。



第29話 −灼熱の反撃−

 光の猛攻を辛くも凌いだ栄一。だが、光のフィールドには、最強の機械龍『サイバー・エンド・ドラゴン』と、光の使者(ライトロード)の切り札『裁きの龍(ジャッジメント・ドラグーン)』、2体の龍が顔を揃える。
 対して栄一は、手札こそ揃っているもののフィールドには何も無い。

「俺のターン、ドロー・・・・・・!」

 しかし、ピンチの後にはチャンスありだ。
 勝利を呼ぶ強力な布陣にも盲点はある。その盲点を上手く付く事ができれば・・・

「(この一撃で、勝てるかもしれない!?)」

 確信ではない。だが、可能性はある。
 もう迷いは無い。今こそ、灼熱のHEROを降臨させる時である。
 瞬間、栄一の墓地に眠る闇のHEROと、手札に眠る1枚のカードが共鳴し、光り始めた。

「光・・・行くぜ! 墓地の『ネクロダークマン』の効果で、俺は1度だけ『E・HERO』をリリースなしで召喚できる!」

「『ネクロダークマン』・・・も、『手札断殺』の時ね・・・」

 光は悔やんだ。『ネクロ・ガードナー』に『ネクロダークマン』。2体のネクロヒーローを墓地に送るチャンスを、自らが与えていたなんて・・・と。
 相手にもチャンスを与える可能性がある手札交換カード『手札断殺』とはいえ、まさかここまでその効果を有効的に使われるとは、夢にも思わなかったのである。

「俺はもう迷わない! 俺は智兄ちゃんを信じる! 来い!」

 掛け声と共に、ディスクに置かれる1枚のカード。それに反応して、カードのソリッドビジョンがフィールドに出現する。そして刹那、そのカードから光に向かって、まるでバックドラフトのように炎が吹き荒れる。
 思わず両腕をクロスして目の前を覆う光が、その腕と腕の隙間から見たものは・・・


「『E・HERO(エレメンタルヒーロー) バーニング・バスター』!」


 炎が止んだフィールドに佇む、紅の鎧に身を固めた灼熱のHERO『バーニング・バスター』の姿であった。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) バーニング・バスター ☆7(オリジナル)
炎 戦士族 効果 ATK2800 DEF2400
自分フィールド上に存在する戦士族モンスターが
戦闘またはカードの効果によって破壊され墓地へ送られた時、
手札からこのカードを特殊召喚する事ができる。
このカードが戦闘によってモンスターを破壊し墓地へ送った時、
破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) ネクロダークマン ☆5
闇 戦士族 効果 ATK1600 DEF1800
このカードが墓地に存在する限り1度だけ、
自分はレベル5以上の「E・HERO」と名のついた
モンスター1体をリリースなしで召喚する事ができる。

『(栄一・・・)』

「(・・・うん!)」

 栄一の方を向き、静かに彼を見つめる『バーニング・バスター』。それに栄一も応え、自信の篭った表情で1つ頷いてみせた。
 何を言われようと、どう批判されようと、決めた信念を曲げる事はもうない。
 栄一と『バーニング・バスター』の、新たな信頼感の誕生の瞬間であった。

「光、『裁きの龍』が、勝敗のキーとなりそうだな?」

 そして突如発せられた、栄一の言葉。ちょうど光が、『バーニング・バスター』単体で『サイバー・エンド・ドラゴン』にどうやって栄一が立ち向かうのかを考えているのと、同じ時であった。
 戸惑う光の意思を読むかのように、栄一はその『答え』となるカードを手札から抜き取り、そのままディスクに差し込んだ。

「『ヒートハート』、そして『ニトロユニット』を発動! 『バーニング・バスター』の攻撃力を500ポイントアップさせ、『ニトロユニット』を『裁きの龍』装備する!」

 勝敗のキーの『答え』。
 1つは、対象となったモンスターの闘争心をさらに上昇させる魔法。その魔法を与えられた『バーニング・バスター』も例に漏れず、全身に纏った炎の威力を一段と強くする。
 そしてもう1つは、装備されたモンスターが戦闘破壊された時、その際に発生する衝撃によって相手のライフを削り取る、『バーニング・バスター』や『フレイム・ウィングマン』の能力に酷似した性能を持つ機械。
 その機械が『裁きの龍』に装備された。

(エイチ)−ヒートハート 通常魔法
自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動する。
選択したモンスターの攻撃力は500ポイントアップする。
そのカードが守備表示モンスターを攻撃した時、
その守備力を攻撃力が越えていれば、
その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。
この効果は発動ターンのエンドフェイズまで続く。

ニトロユニット 装備魔法
相手フィールド上モンスターにのみ装備可能。
装備モンスターを戦闘によって破壊し墓地へ送った時、
装備モンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。

E・HERO バーニング・バスター:ATK2800→ATK3300

「『バスター』の攻撃力が、『裁きの龍』の攻撃力を上回った。そして『裁きの龍』が戦闘破壊されれば、その場でゲームセット・・・ね?」

「ああ・・・。遠慮なしに行くぜ? ・・・『バーニング・バスター』!」

 栄一の宣言に『バーニング・バスター』は頷き、そして右手元に球状の炎を作り上げ・・・それを頭上へと掲げる。
 瞬間、その炎は成人男性の背丈並みの大きさへと、ドンドン膨れ上がって行く。

「『バスター』で、『裁きの龍』を攻撃! 『バァァァァァァァァニング・バーストォ』!」

 『バーニング・バスター』が『裁きの龍』に向けて、作り上げた灼熱の炎球を投げつけた。
 これが『裁きの龍』に命中すれば、その瞬間に光の敗北が決定する。

 だが・・・。

「そう簡単に負けるわけ無いでしょ! トラップカード・・・」

 瞬間、光のフィールドに伏せられていたカードが、その正体を現す。そのカードは・・・

「『亜空間物質転送装置』発動!」

 先ほど『サイバー・エンド・ドラゴン』を別次元へと転送し、それによって『サイバー・エンド・ドラゴン』を『裁きの龍』の殲滅砲から守り抜いた装置であった。
 その装置から発せられた光線を受けた『裁きの龍』は、光の粒となってフィールドから姿を消し、同時に背中に無理やり装着させられていた厄介な機械『ニトロユニット』からも解放された。
 結果、目標を失った炎球は、『裁きの龍』の存在した付近の地面に衝突し、(から)の爆発を起こす事となる。

「『亜空間物質転送装置』は、ワタシの取って置きよ! 『裁きの龍』が除外された事により、バトルステップの巻き戻しが発生。でも『バーニング・バスター』の攻撃力では、ワタシの『サイバー・エンド』を戦闘破壊する事はできない。そうでしょう?」

「くぅぅ・・・」

 このターンでの決着を着ける事が出来なかった栄一の顔が、露骨に歪む。
 しかし、そう簡単に終わりはしなかった。

「(・・・あれ? ちょっと待てよ。もしかして、これを使えば・・・)」

 決して諦めない気持ちが、栄一に再びチャンスを与える。
 逆転を信じる栄一の目に、1枚の手札が留まった。

「(『裁きの龍』を倒すチャンスはまだある!?)」

「バトルフェイズは終了するしかないでしょ? どうする? メインフェイズ2になんかする? それともエンドフェイズ?」

 光の問いかけも気にしない。そうと決まれば即実行。
 栄一は、そのカードに手をかけ、そのままディスクへと差し込んだ。

「誰が終わるか! 一か八かで決めてやる! 速攻魔法『異次元からの埋葬』を発動!」

 発動されたのは、別次元に送られたカードを墓地へと埋葬するカード。様々な使い方が可能な汎用性の高いカードである。

「ゲームから除外されている、お前の『裁きの龍』と、俺の『ネクロ・ガードナー』、『スプラッシャー』を、それぞれの墓地に戻す!」

 そしてある意味では、『亜空間物質転送装置』の天敵ともいえるカードであった。

異次元(いじげん)からの埋葬(まいそう) 速攻魔法
ゲームから除外されているモンスターカードを3枚まで選択し、そのカードを墓地に戻す。

 栄一は勢いよく、光は悔しそうに、ポケットからそれぞれのカードを取り出し、墓地ゾーンへと置いた。
 してやられた。絶対の自信があった防御手段を打ち破られた光は、ショックを隠せない。
 いや、今やられた通り、この手段にも勿論穴がある事は承知であったが、その穴をつくカードをここで使われるなんて。
 そのあまりのタイミングの良さに、光はショックを隠せなかった。

「『異次元からの埋葬』・・・。ここで使ってくるなんて・・・」

 『亜空間物質転送装置』によって時空を越えたモンスターは、呼び戻される前に強制的に墓地等に置かれた場合、フィールドへと呼び戻す事ができない。これが、『異次元からの埋葬』が『亜空間物質転送装置』の天敵といえる所以である。
 さらに、『裁きの龍』は『リビングデッドの呼び声』などによる蘇生が実質不可能な為、手札やデッキに戻す手段を見つけない限り、光は事実上切り札の内の1手を失った事になる。
 対する栄一。光の戦力を1枚削った上に、闇の守り手『ネクロ・ガードナー』を墓地に呼び戻す事に成功した為、超絶の攻撃力を持つ『サイバー・エンド・ドラゴン』を目の前にしても、1テンポの余裕を作る事に成功した。『バーニング・バスター』をフィールドに残せる確率も上がったのである。

「光・・・。やっぱり『サイバー・エンド』を無視して勝つなんて、誰も望んでいないみたいだな」

 突如、栄一が言った。この状況を見て、言わずにはいられなかったのだろう。

「神様がそう思ったのかもね・・・。これは、神様から与えられたチャンスなのかもしれない。だからこそ、ワタシはこの『サイバー・エンド』で、アンタを倒す!」

 対する光も、意気込みを語り、切り札の1手(ジャッジメント・ドラグーン)を失ったハンデを栄一に感じさせないよう振舞う。

「あぁ・・・。俺も・・・『バーニング・バスター』と共に、お前に勝つ!」

 光の言葉に、栄一も発奮する。
 負けられない・・・。それは当然、2人共に共通する結論である。

「カードを1枚セットして、ターンエンドだ!」

 次なるターンに可能性を託して、栄一はターンを終えた。
 同時に、『バーニング・バスター』の身体から放たれていた炎の勢いも、平静なものへと戻った。

E・HERO バーニング・バスター:ATK3300→ATK2800

栄一LP2900
手札0枚
モンスターゾーンE・HERO バーニング・バスター(攻撃表示:ATK2800)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
LP4200
手札0枚
モンスターゾーンサイバー・エンド・ドラゴン(攻撃表示:ATK4000)
魔法・罠ゾーンなし

「ワタシのターン!」

 引いたカードを手札に加え、光は一考する。今引いたカードは、今の状況では余り役に立たないカードなのである。

「(栄一のフィールドには攻撃表示の『バーニング・バスター』。だけど、アイツの墓地には『ネクロ・ガードナー』がいるから、『バスター』を戦闘破壊する事はまず不可能。だけど・・・)」

 考えを纏めた後、光はスッと右手を上げ・・・

「『サイバー・エンド』で、『バーニング・バスター』を攻撃! 『エターナル・エヴォリューション・バースト』!」

 『サイバー・エンド・ドラゴン』の攻撃宣言を行った。
 『サイバー・エンド・ドラゴン』は三度、3つの口元に超絶のエネルギーを集め、それを栄一のフィールドの『バーニング・バスター』へと向けて放つ。

「まだだ! 俺の墓地の『ネクロ・ガードナー』を除外する事で、この攻撃を無効にする!」

 瞬間、再び『ネクロ・ガードナー』の幻影が栄一のディスクの墓地ゾーンより現れ、今度は『バーニング・バスター』の目の前に立ち、彼を守る。
 結果、『サイバー・エンド・ドラゴン』の砲撃は寸でで遮断され、『バーニング・バスター』まで届く事はなかった。

「・・・でも、これでいいわ。厄介な『ネクロ・ガードナー』を取り除けただけでね。ターンエンド」

 攻撃は防がれたものの、光に不安は無かった。
 『サイバー・エンド・ドラゴン』を守るカードは、今の光のフィールドには無い。だが、攻め側に立つ人間特有の気持ちか光は、機械龍が敗れ去ってしまうIfの未来を想像すらしなかった。

栄一LP2900
手札0枚
モンスターゾーンE・HERO バーニング・バスター(攻撃表示:ATK2800)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
LP4200
手札1枚
モンスターゾーンサイバー・エンド・ドラゴン(攻撃表示:ATK4000)
魔法・罠ゾーンなし

「俺のターン・・・くっ!」

 エースがフィールドに立ちながらも、栄一は守勢に回らざるを得なかった。
 今引いたカードの力も、この状況を逆転するには至らない。
 という事は、『バーニング・バスター』を手放す事になる。
 だが、もうそんな事は・・・恐れない!

「(例え『バスター』がやられても、俺はもう怖がらない。カードを信じれば、カードは必ず応えてくれる!)カードを1枚セットして、ターンエンド!」

 2枚のリバースカード。その中に『バーニング・バスター』を守るカードは無い・・・が、次に繋げるカードならある。
 栄一は、その架け橋となるであろう2枚のカードに運命を託した。

栄一LP2900
手札0枚
モンスターゾーンE・HERO バーニング・バスター(攻撃表示:ATK2800)
魔法・罠ゾーンリバースカード2枚
LP4200
手札1枚
モンスターゾーンサイバー・エンド・ドラゴン(攻撃表示:ATK4000)
魔法・罠ゾーンなし

 栄一のフィールドに現れたリバースカード。その存在を警戒しながら、光は自らのターンを開始する。

「ワタシのターン、ドロー! 手札の『ライトロード・ビースト ウォルフ』をコストに、『ソーラー・エクスチェンジ』を発動! カードを2枚ドローし、その後デッキの上からカードを2枚墓地に送る!」

ソーラー・エクスチェンジ 通常魔法
手札から「ライトロード」と名のついたモンスターカード1枚を捨てて発動する。
自分のデッキからカードを2枚ドローし、その後デッキの上からカードを2枚墓地に送る。

ライトロード・ビースト ウォルフ ☆4
光 獣戦士族 効果 ATK2100 DEF300
このカードは通常召喚できない。このカードがデッキから墓地に送られた時、
このカードを自分フィールド上に特殊召喚する。

 『ウォルフ』。前のターンで光がドローしたモンスターカードである。
 高攻撃力を誇りながら通常召喚できない為、手札に来てしまった場合はこのように手札コストにされるなどの活躍しか出来ない。
 しかしその『ウォルフ』の犠牲は、決して無駄にはならない。

「さらに、魔法カード『貪欲な壺』を発動! 墓地のモンスター5体をデッキに戻し、さらに2枚ドロー!」

貪欲(どんよく)(つぼ) 通常魔法
自分の墓地に存在するモンスター5体を選択し、
デッキに加えてシャッフルする。
その後、自分のデッキからカードを2枚ドローする。

デッキに戻されたモンスター:
『髑髏顔 天道虫』
『髑髏顔 天道虫』
『裁きの龍』
『光帝クライス』
『創世の預言者』

 光は、上手く『ライトロード』を避けながら墓地から5枚のモンスターカードを取り出し、シャッフルした後2枚のカードをドローする(ちなみに『光帝クライス』『創世の預言者』は、『ソーラー・エクスチェンジ』の効果でデッキから墓地へ送られたカードである)。
 そしてドローした2枚のカードを確認して、光は心の中でガッツポーズを取った。
 来た。これを使えば一気に決着まで進める可能性が高い。そんなカードを、光は引いたのだ。

「行くわよ、栄一! 今引いたうちの1枚、『L・リインフォースメント・フォーメーション』を『サイバー・エンド』を選択して発動! このカードの効果により『サイバー・エンド』は、墓地の『ライトロード』1体につき攻撃力が300ポイントアップする! ワタシの墓地の『ライトロード』は7体!」

 リバースカードは気になる。それでも、攻撃が通った際のリターンを考えれば攻撃しない手は無い。
 この攻撃は通る。確証がある訳ではないが、攻め気の光にはそうとしか思えなかった。
 だからこそ、リスクのあるこの場面でもこのカードを発動する事ができた。
 カードを発動した光のその度胸満点さに、栄一も思わず怯んでしまう程であった。

(エル)・リインフォースメント・フォーメーション 通常魔法(オリジナル)
自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動する。
発動ターンのエンドフェイズまで、自分の墓地に存在する「ライトロード」と
名のついたモンスター1体につき、選択モンスターの攻撃力を300ポイントアップする。

 そして光の墓地から7体の『ライトロード』の霊魂が現れる。それらは全て『サイバー・エンド・ドラゴン』の体に吸収されていき、『サイバー・エンド・ドラゴン』の攻撃力を一気に上昇させる。

「ってちょっと待てよ! お前の墓地の『ライトロード』は、今墓地に送られた『ウォルフ』を含めても5体のはずじゃ・・・」

 栄一が突如、抗議に出る。ここまでのデュエル展開で墓地へ送られた『ライトロード』の数と、『サイバー・エンド・ドラゴン』に吸収された『ライトロード』の数が一致しないのだ。

「・・・アンタ、見逃してるわね?」

 栄一の質問に対し、光はディスクを装着した左腕を自らの胸の前に構えながら言葉を返した。だがその言葉に、栄一の「質問」に対する「答え」は含まれてはいない。光は、それ以上の言葉を発さない。
 数秒間の沈黙が生まれる。光がディスクを前に構えたという事は、ディスクにヒントが隠されているのだろう。

 墓地ゾーンはそのデュエルディスクの構造上、ディスクの中心部に作られているのだが。

「・・・! 『裁きの龍』の効果か!?」

「せーかい。その時に『ガロス』と『オルクス』が送られていたのでしたー!」

 光の無言のメッセージを、栄一はようやく読み取った。
 そう、『裁きの龍』のコストによって墓地に送られていたカードを、栄一はカウントし忘れていたのである。
 その証拠を示す為に、光は墓地から2枚のカード・・・『ライトロード・ウォリアー ガロス』と『ライトロード・ドルイド オルクス』のカードを取り出し、栄一へと見せつけた。

ライトロード・ウォリアー ガロス ☆4
光 戦士族 効果 ATK1850 DEF1300
自分フィールド上に表側表示で存在する
「ライトロード・ウォリアー ガロス」以外の
「ライトロード」と名のついたモンスターの効果によって
自分のデッキからカードが墓地に送られる度に、
自分のデッキの上からカードを2枚墓地に送る。
このカードの効果で墓地に送られた「ライトロード」
と名のついたモンスター1体につき、
自分のデッキからカードを1枚ドローする。

ライトロード・ドルイド オルクス ☆3
光 獣戦士族 効果 ATK1200 DEF1800
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
「ライトロード」と名のついたモンスターを
魔法・罠・効果モンスターの効果の対象にする事はできない。
このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する限り、
自分のエンドフェイズ毎に、自分のデッキの上からカードを2枚墓地に送る。

『裁きの龍』の効果で墓地に送られたカード:
『髑髏顔 天道虫』
『髑髏顔 天道虫』
『ライトロード・ウォリアー ガロス』
『ライトロード・ドルイド オルクス』

光の墓地の『ライトロード』:
『ライトロード・ハンター ライコウ』
『ライトロード・マジシャン ライラ』
『ライトロード・エンジェル ケルビム』
『ライトロード・ドラゴン グラゴニス』
『ライトロード・ウォリアー ガロス』
『ライトロード・ドルイド オルクス』
『ライトロード・ビースト ウォルフ』

「疑惑も晴れたわね? 7体の『ライトロード』の力によって、『サイバー・エンド』の攻撃力は・・・」

サイバー・エンド・ドラゴン:ATK4000→ATK6100

「攻撃力・・・6100!?」

 超絶の攻撃力を誇る『サイバー・エンド・ドラゴン』のさらなる強化に、栄一もさすがにたじろぐ。
 その栄一の姿を見て、光は・・・

「これで・・・終わり! 『サイバー・エンド』で、『バーニング・バスター』を攻撃! 『エターナル・エヴォリューション・バースト』!」

 もう何度目か、機械龍『サイバー・エンド・ドラゴン』の攻撃宣言を行った。
 『サイバー・エンド・ドラゴン』の3つの口元がまた一閃し、それぞれから超絶のエネルギーが放たれる。

 さっきは闇の守り手『ネクロ・ガードナー』が、『バーニング・バスター』を守ってくれた。
 だが、その守り手は、もういない。

 砲撃が1つとなり、『バーニング・バスター』に命中。周囲に大爆発を引き起こす。

「くぅぅぅぅぅ! まだだ! リバースカードオープン!」

 爆発が、耳を防ぎたくなるほどの爆音と視界を奪う煙を誘発する。ホールにいる人々全員がその影響を受ける。
 攻撃を命じた光も勿論、爆音に耳を防ぎ、煙によって視界を奪われた。
 だが、光はそんな爆音も煙ももどかしく思わなかった。何故なら、この煙が晴れたらその先には自らの勝利が・・・





「・・・なんで!? なんでライフが0じゃないの!? それに・・・そのモンスターは!?」

 ある筈だった。でも無かった。代わりにあったのは・・・

栄一LP600
手札0枚
モンスターゾーンE・HERO バブルマン(守備表示:DEF1200)
魔法・罠ゾーンなし

 栄一のライフがまだ残っており、背中に2つのタンクを背負い右腕に銃を備えた水色の泡のHERO『バブルマン』が、『バーニング・バスター』に代わって栄一のフィールドで防御の体勢を取っている現実であった。

「残念だったな、光! 俺が伏せていたのは、この『エレメンタル・チャージ』と『ヒーロー・シグナル』だったのさ!」

 してやったりといった顔をして栄一は、墓地から先ほどまで伏せていた2枚のカードを取り出しながら説明を始めた。

「『サイバー・エンド』の攻撃が『バスター』に当たる瞬間に『エレメンタル・チャージ』を発動して、俺のライフを回復」

エレメンタル・チャージ 通常罠
自分フィールド上に表側表示で存在する
「E・HERO」と名のついたモンスター1体につき、
自分は1000ライフポイント回復する。

栄一:LP2900→LP3900

「そして『バスター』が戦闘破壊された事によって『ヒーロー・シグナル』を発動し、デッキから『バブルマン』を特殊召喚させてもらった!」

ヒーロー・シグナル 通常罠
自分フィールド上のモンスターが戦闘によって
破壊され墓地へ送られた時に発動する事ができる。
自分の手札またはデッキから「E・HERO」という
名のついたレベル4以下のモンスター1体を特殊召喚する。

栄一:LP3900→LP600

「・・・やられたわ、栄一」

「へへ! さらに『バブルマン』のモンスター効果! 特殊召喚時に俺の手札とフィールドにカードが存在しなかった為、俺は2枚ドローする!」

 光の素直な賞賛に、栄一は軽く調子に乗った感じで答えながら、新たな2枚のカードを手に取る。
 その2枚ともが、現状況で十分戦力になり得るカード。ここでも、ドロー効果を効果的に使う事ができた栄一であった。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) バブルマン ☆4
水 戦士族 効果 ATK800 DEF1200
手札がこのカード1枚だけの場合、
このカードを手札から特殊召喚する事ができる。
このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時に
自分のフィールド上と手札に他のカードが無い場合、
デッキからカードを2枚ドローする事ができる。

「カードを1枚セットして、ターンエンドよ」

 フィールドに新たなカードがセットされる。同時に、吸収していた『ライトロード』の霊魂が再び墓地に戻った事で、『サイバー・エンド・ドラゴン』がその攻撃力を元の状態へと戻した。

サイバー・エンド・ドラゴン:ATK6100→ATK4000

栄一LP600
手札2枚
モンスターゾーンE・HERO バブルマン(守備表示:DEF1200)
魔法・罠ゾーンなし
LP4200
手札1枚
モンスターゾーンサイバー・エンド・ドラゴン(攻撃表示:ATK4000)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚

 『バーニング・バスター』を失いながらも、かろうじてライフを残す事が出来た。
 その接線の攻防が再び流れを変えたか、ついにその時は来た。

「俺のターン、ドロー・・・・・・!」

 栄一がカードをドローした瞬間、彼の中に眠った炎が燃え上がる。
 灼熱の戦士『バーニング・バスター』の、さらなる力。それが発揮される時が来たのだ。
 既に役者も揃っている。舞台も整っている。炎がフィールドを、支配する!



『栄一・・・。恐れる事なんて何もないんだ。お前が信じさえすれば、例え破壊されようが除外されようが、『バスター』はその「答え」を導いてくれる。何時でも・・・お前の傍にいるんだから!』



「(・・・だよな、宇宙先輩?)」

 宇宙の言葉が、栄一の脳裏で再生される。もう、彼の言葉を疑う事はなかった。

「(俺が信じさえすれば、何があっても『バスター』は俺の傍にいる。先輩の言葉が一切間違っていなかった事、今、証明できたよ!)」

 引いたカードをそのまま差し込む。
 同時に炎が吹き荒れ、フィールドに巨大な人の姿を形成する。
 引いたカード。それは、栄一と智兄ちゃんの「絆」の終着点に位置する巨人に到達させる「融合」のカードだった。

「炎の融合魔法、『フレア・フュージョン』発動!」

「『フレア・フュージョン』!? そして墓地に『バーニング・バスター』・・・。もしかして!?」

 光もすぐに、栄一が呼ぼうとしている存在に気付いた。
 アカデミアの入試デュエルの際に栄一が、ガーディアンズマスター・護に対して呼び寄せた「灼熱の巨人」。
 見たのはその1度限りだが、その時の印象は今でもちゃんと光の脳裏に焼きついている。

「墓地の『アブソルートZero』『クラッチマン』『バーニング・バスター』を除外し・・・現れろ!」





「『E・HERO(エレメンタルヒーロー) ウルティメイト・バーニング・バスター』!」





 そう、こんな感じだった。
 灼熱の戦士(バーニング・バスター)を1回りも2回りも大きくした、筋肉質の逞しい体。そして遠く離れた場所からでも感じる事ができる、全身から溢れる熱気と威圧感。紅蓮に輝くその姿は、神々しさを感じる。
 あの時、目の前で見たわけでもないのに途轍もなき畏怖を覚えた「巨人」。それが今、光と『サイバー・エンド・ドラゴン』の目の前に現れ、その鋭い緑の瞳が彼女達を射抜くように見つめる。
 一睨み。それだけで光は、身震いを覚えた。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) ウルティメイト・バーニング・バスター ☆10(オリジナル)
炎 戦士族 融合・効果 ATK4000 DEF3200
「E・HERO バーニング・バスター」+戦士族のモンスター×2
このモンスターの融合召喚は、上記のカードでしか行えず、融合召喚でしか特殊召喚できない。
このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、その守備力を攻撃力が超えていれば、
その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。
このカードが戦闘によってモンスターを破壊し墓地へ送った時、
破壊したモンスターの攻撃力か守備力の高い方の数値分のダメージを相手ライフに与える。

「『フレア・フュージョン』の効果! このカードによる融合召喚に成功した時、相手に1000ポイントのダメージを与える!」

 巨人の右手の平から一筋の炎が放たれ、光のライフを奪う。だがそれも、巨人の「本攻撃」に比べたら身体的にも精神的にも全然軽いものである。

フレア・フュージョン 通常魔法(オリジナル)
自分のフィールド上または墓地から、融合モンスターカードによって
決められた融合素材モンスターをゲームから除外し、
炎属性の融合モンスター1体を融合召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する。
この効果によってモンスターの融合召喚に成功した時、
相手に1000ポイントのダメージを与える。

光:LP4200→LP3200

 灼熱の巨人の与える存在感に押し潰されそうになりながらも、光は何とか「巨人」を凝視する。睨み返す。
 どれだけ対抗手段を用意できていたとしても、この威圧感の前ではそれによる余裕も無くなる。だから、何としてでも余裕を保たせようと凄んでみせるのだ。

「1000ダメージぐらいならまだ許容範囲。それより・・・ついに来たわね。『ウルティメイト・バーニング・バスター』!」

 頬を伝う汗は、目の前の「巨人」から発せられる熱によってフィールドが熱せられたが為の生理現象か。それとも、「巨人」の発する強烈な威圧感を感じたが故の冷や汗か。
 何れにせよ、光に落ち着きが無い事は理解できる。

「あぁ。だが・・・まだ終わりじゃないぜ。魔法カード『エレメンタル・ターボ』を発動! この効果により、俺はカードを2枚ドロー!」

 しかし、栄一は反撃準備の手を緩めない。
 融合戦術の弱点、カードの大量消費の対応策ともいえるカードが発動され、栄一の手札が強化される。
 だが、それでもまだ終わりではなかった。

「さらに『クラッチマン』の効果により、『ウルティメイト・バーニング・バスター』の攻撃力は500ポイントアップする!」

エレメンタル・ターボ 通常魔法(オリジナル)
「E・HERO」と名のついたモンスターの
融合召喚に成功したターンに発動する事ができる。
自分のデッキからカードを2枚ドローする。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) クラッチマン ☆3(オリジナル)
闇 戦士族 効果 ATK1000 DEF800
このカードを融合素材モンスター1体の代わりにする事ができる。
その際、他の融合素材モンスターは正規のものでなければならない。
このカードを融合素材にして融合召喚されたモンスターは、攻撃力が500ポイントアップする。

E・HERO ウルティメイト・バーニング・バスター:ATK4000→ATK4500

「攻撃力4500・・・。『サイバー・エンド』を・・・超えた!」

 クラッチによって噛み合いが良くなり、『ウルティメイト・バーニング・バスター』を包む炎がさらに膨れ上がる。
 分かっているのに。光は、ただたじろぐしかなかった。本能が、危険信号を流していた。

「・・・?」

 だが、精神的余裕が出来たはずの栄一もまた、安心してはいなかった。
 怯えた表情を見せながらも、光はまだ何か持っている・・・。そんな事を、栄一の本能が、驚異的な動物的勘が促しているのだ。
 そしてその本能に従った栄一は、『バブルマン』を動かす。さらに、手札から1枚のカードを抜き取り、ディスクに差し込んだ。

「『バブルマン』を攻撃表示に変更し、さらに装備魔法『バブル・ショット』を、『バブルマン』に装備する!」

 攻撃態勢を取った『バブルマン』の手元に現れたのは、彼専用の水のバズーカ砲。それを手に取り光に向けて構える事により、『バブルマン』の攻撃力が上昇する。

バブル・ショット 装備魔法
「E・HERO バブルマン」にのみ装備可能。
装備モンスターの攻撃力は800ポイントアップする。
装備モンスターが戦闘で破壊される場合、
代わりにこのカードを破壊し、装備モンスターの
コントローラーへの戦闘ダメージを0にする。

E・HERO バブルマン:ATK800→ATK1600

 ようやくながら、準備が全て整った。そう確信した栄一は・・・

「いくぜ! 『ウルティメイト・バーニング・バスター』で、『サイバー・エンド・ドラゴン』を攻撃!」

 『ウルティメイト・バーニング・バスター』の、攻撃宣言を行った。
 瞬間、『ウルティメイト・バーニング・バスター』が両腕を天に掲げ、その両手元に巨大な炎の塊を作り出す。
 どれだけ巨大な者であろうと、どれだけ強き者であろうと、どれだけ猛き者であろうと、一撃で焼き払う。
 その信念が込められた炎球が、フィールドを支配する。





「『ウルティメイト・バーニング・バースト』!」





 栄一の掛け声と共に、『ウルティメイト・バーニング・バスター』はその巨大な炎球を、『サイバー・エンド・ドラゴン』に向けて思い切り良く投げつけた。
 フィールドの支配。それは、そこに立ちはだかる敵を支配する事をも意味する。
 直撃。そして炎が燃え上がる。炎が、機械で形成された巨大な身体を支配する。
 炎球に全身を覆われた『サイバー・エンド・ドラゴン』は、物悲しく、耳鳴りがする程高い悲鳴を上げながら、炎によって燃え尽くされた。

光:LP3200→LP2700

「『サイバー・エンド・ドラゴン』・・・」

 共に闘う仲間を失い、落胆する光。だが、そう長く落ち込んでもいられない。『ウルティメイト・バーニング・バスター』には、まだ追撃の能力があるのだ。
 『サイバー・エンド・ドラゴン』を倒した『ウルティメイト・バーニング・バスター』が、その勢いのまま光の目の前に立つ。同時に光は、彼の発するプレッシャーに完全に押し潰されそうになる。

「『ウルティメイト・バーニング・バスター』のモンスター効果により、『サイバー・エンド・ドラゴン』の攻撃力分、4000ポイントのダメージを受けてもらう! 俺の勝ちだ!」

 『ウルティメイト・バーニング・バスター』が、光に向けて右腕を構える。
 瞬間、『ウルティメイト・バーニング・バスター』の右手元から、彼女のライフを奪い去る烈火の炎が吹き・・・










 ・・・上がらない。
 そして代わりに、『ウルティメイト・バーニング・バスター』が急に足元から崩れ・・・そのままフィールドから消滅した。

「・・・『バスター』!? 何!? 何が起こったんだ!?」

 勝利目前。その時に何故『ウルティメイト・バーニング・バスター』が消滅したのか?
 栄一の頭は、状況に追いつく事が出来なかった。

「・・・そう簡単に、負けてたまるもんですか! 『ウルティメイト・バーニング・バスター』の効果が発動した時、このカードを発動させてもらったわ!」

 答えは簡単だった。光が伏せていたカードが、『ウルティメイト・バーニング・バスター』の猛撃から光を守ったのであった。



 そのカードとは・・・



天罰(てんばつ) カウンター罠
手札を1枚捨てて発動する。効果モンスターの効果の発動を無効にし破壊する。

 『天罰』。手札1枚と引き換えに効果モンスターの効果発動を問答無用で遮断する、強力なカウンターカードである。
 『ウルティメイト・バーニング・バスター』の真骨頂である戦闘破壊後の砲撃の瞬間に、光はこのカードを発動させたのだ。
 転んでもただでは起きない。切り札を倒されたのなら、こちらも切り札を倒すまでだ。

「・・・・・・だが、まだ俺のバトルフェイズは終了してないぜ! 『バブルマン』!」

 心の支え、『ウルティメイト・バーニング・バスター』が消え去った。
 だがそれでも、栄一の闘志は消えなかった。もう怯える事はなかった。
 その栄一の心意気に『バブルマン』も応え、光へと向けて右肩に背負ったバズーカ砲から水玉の砲を放った。

光:LP2700→LP1100

「『バブルマン』に攻撃準備させておいたなんて、勘がいいわね、栄一!」

 そう。『ウルティメイト・バーニング・バスター』と『サイバー・エンド・ドラゴン』の戦闘によって発生する戦闘ダメージ。そしてそれに誘発して発生する『ウルティメイト・バーニング・バスター』の効果によるダメージ。その2つが決まれば、栄一の勝利は決まっていた。
 だが栄一は、そのどちらかないし両方が防がれた時の為に、さらなる追撃の手段を打っていたのだ。
 その栄一の判断を、光は素直に褒め称えた。

「何となくなんだけど、まだ終わる気がしなかったんだ。お前が、そう簡単に終わらせてくれるとはね・・・。ターンエンドだ」

 光の言葉に答えた栄一は、どこか寂しそうな表情であった。
 しかしそれでも、覇気は失ってなかった。



 まだ栄一には、前向きに闘う意志がしっかりと残されていた。



栄一LP600
手札2枚
モンスターゾーンE・HERO バブルマン(攻撃表示:ATK1600)
魔法・罠ゾーンバブル・ショット(装備:E・HERO バブルマン)
LP1100
手札0枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンなし



第30話 −共に進む道−

「ワタシの・・・ターン!」

 手札も0。フィールドにも何も無い。
 一転劣勢に追い詰められた光。だが彼女も、後ろ向きな考えは毛頭なかった。

「魔法カード『デュアル・ゲート』を発動! このカードと墓地の同名カードをゲームから除外し、カードを2枚ドローする!」

「ここでドローソースかよ。もう1枚の『デュアル・ゲート』は、さっきの『天罰』のコストか・・・」

 そしてその心意気に、彼女のデッキも応えた。
 引いたのは、新たなドロー強化のカード。光は心勇んでカードを引いた。

デュアル・ゲート 通常魔法(アニメGXオリジナル)
このカードと墓地にある同名カード1枚をゲームから除外する。
自分のデッキからカードを2枚ドローする。

「・・・この勝負、まだまだ終わりそうにはないわね」

 光が、手札の内の1枚に手をかけながら、突如そう言う。それは本当に突然で、栄一の反応を待つ前に光は、そのカードをディスクに差し込み・・・

「魔法カード『再融合』を発動! 『サイバー・エンド・ドラゴン』を復活させ、このカードを装備する!」

 カードの発動を宣言した。
 融合モンスターを蘇らせる効果を持つカードによってフィールドに再び現れるは、勿論光の切り札の機械龍『サイバー・エンド・ドラゴン』。
 両翼を豪快に広げ、白銀の機械龍が再び咆哮する。

再融合(さいゆうごう) 装備魔法
800ライフポイントを払う。自分の墓地から融合モンスター1体を
選択して自分フィールド上に特殊召喚し、このカードを装備する。
このカードが破壊された時、装備モンスターをゲームから除外する。

光:LP1100→LP300

「『サイバー・エンド』で、『バブルマン』を攻撃! 『エターナル・エヴォリューション・バースト』!」

  そしてバトルフェイズ。『サイバー・エンド・ドラゴン』の超絶の砲撃が、再び『バブルマン』を襲う。

「まだだ! 『バブル・ショット』を破壊する事で、戦闘ダメージを0にする!」

 だがそれは、『バブルマン』をフィールドから消滅させるまでには至らなかった。
 『バブルマン』が右肩に背負ったバズーカ砲が、彼の身代わりとなる事でダメージを防いだのだ。

バブル・ショット 装備魔法
「E・HERO バブルマン」にのみ装備可能。
装備モンスターの攻撃力は800ポイントアップする。
装備モンスターが戦闘で破壊される場合、
代わりにこのカードを破壊し、装備モンスターの
コントローラーへの戦闘ダメージを0にする。

E・HERO バブルマン:ATK1600→ATK800

「でも、これで『バブルマン』の破壊耐性は無くなったわ! ワタシは『ライトロード・プリースト ジェニス』を守備表示で召喚し、ターンエンドよ!」

 白き女性の魔術師『ジェニス』が、光のフィールドで防御の体勢を取る。
 今の状況ではあまり存在意義の分からない彼女だが、それでも光にとっては「この先」を考えたプレイングであった。

ライトロード・プリースト ジェニス ☆4
光 魔法使い族 効果 ATK300 DEF2100
「ライトロード」と名のついたカードの効果によって自分の
デッキからカードが墓地へ送られたターンのエンドフェイズ時、
相手ライフに500ポイントダメージを与え、
自分は500ライフポイント回復する。

栄一LP600
手札2枚
モンスターゾーンE・HERO バブルマン(攻撃表示:ATK800)
魔法・罠ゾーンなし
LP300
手札0枚
モンスターゾーンサイバー・エンド・ドラゴン(攻撃表示:ATK4000)
ライトロード・プリースト ジェニス(守備表示:DEF2100)
魔法・罠ゾーン再融合(装備:サイバー・エンド・ドラゴン)

「俺のターン! ドロー!」

 栄一と光、共に手札消費の激しいこのデュエル。それ故に、ドロー強化カードは貴重だ。
 そしてやはり運命なのか、この場面で栄一は・・・

「魔法カード『HEROの遺産』! カードを3枚ドローする!」

 その、ドロー強化カードを引いた。
 『HEROの遺産』。手札消費と共に墓地の入れ替えも激しい栄一の墓地には、勿論レベル5以上の「HERO」は2体以上存在する。

HERO(ヒーロー)遺産(いさん) 通常魔法(漫画GXオリジナル)
自分の墓地にレベル5以上の「HERO」と名のついたモンスターが
2体以上存在する場合のみ発動する事ができる。
自分はデッキからカードを3枚ドローする。

栄一の墓地のレベル5以上『HERO』:
『E・HERO ネクロダークマン』(☆5)
『E・HERO スプラッシャー』(☆5)
『E・HERO ウルティメイト・バーニング・バスター』(☆10)

 新たに手札に加わった3枚のカード。それもまた、十分戦力となりうるカードであった。
 栄一のデッキは、『E・HERO(エレメンタルヒーロー)』の融合とカード間のコンビネーションが基本戦術である以上、俗に言う『グッドスタッフ』とはかけ離れた構成となっている。
 それでも栄一は、この状況を凌ぐ事が出来、尚且つ次に続ける事が出来るカードを揃えた。
 これもやはり栄一の、輝く恵まれた力か。

「『次元合成師(ディメンション・ケミストリー)』を召喚する! さらに『バブルマン』を守備表示に変更し、2枚のカードをセットしてターンエンド!」

次元合成師(ディメンション・ケミストリー) ☆4
光 天使族 効果 ATK1300 DEF200
1ターンに1度だけ、自分のデッキの一番上のカードをゲームから除外し、
さらにこのカードの攻撃力をエンドフェイズ時まで500ポイントアップする事ができる。
自分フィールド上に存在するこのカードが破壊され墓地へ送られた時、
ゲームから除外されている自分のモンスターカード1枚を選択し、手札に加える事ができる。

栄一LP600
手札2枚
モンスターゾーンE・HERO バブルマン(守備表示:DEF1200)
次元合成師(攻撃表示:ATK1300)
魔法・罠ゾーンリバースカード2枚
LP300
手札0枚
モンスターゾーンサイバー・エンド・ドラゴン(攻撃表示:ATK4000)
ライトロード・プリースト ジェニス(守備表示:DEF2100)
魔法・罠ゾーン再融合(装備:サイバー・エンド・ドラゴン)

「ワタシのターン!」

 栄一が召喚した天使『次元合成師』には、破壊される事で除外されているモンスター1体を手札に加える事ができる能力がある。そして、除外された栄一のモンスターの中には『バーニング・バスター』がいる・・・。
 つまり、後一撃で栄一のライフを削り取る事が出来るとはいえ、迂闊に『次元合成師』には攻撃できない。
 となれば、光が攻撃対象に選ぶモンスターは・・・

「『サイバー・エンド』で、『バブルマン』を攻撃!」

 ・・・である。
 伏せられた2枚のカードは気になる。だが、それでも光は、自信を持って『サイバー・エンド・ドラゴン』で攻撃する事ができた。
 そして光の心と同調するように、『サイバー・エンド・ドラゴン』も臆せず3つの口から砲を放った。
 その3つの砲は途中で1つに混じり合い、『バブルマン』を襲う。

「まだだ! 『シフトチェンジ』と『ガード・ブロック』を発動! 『シフトチェンジ』によって攻撃対象を『次元合成師(ディメンション・ケミストリー)』に変更し、『ガード・ブロック』で戦闘ダメージを0にする!」

 砲が、『バブルマン』に直撃するギリギリの所で急に軌道を変え、最終的にその横にいた『次元合成師』へと直撃する。
 そして、その反動によって栄一を襲う筈だった衝撃は、栄一の目の前に現れたバリアに吸収され、栄一に一切ダメージを与えなかった。

シフトチェンジ 通常罠
相手が魔法・罠・戦闘で自分のフィールド上モンスター1体を指定した時に発動可能。
他の自分のフィールド上モンスターと対象を入れ替える。

ガード・ブロック 通常罠
相手ターンの戦闘ダメージ計算時に発動する事ができる。
その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になり、
自分のデッキからカードを1枚ドローする。

「『次元合成師(ディメンション・ケミストリー)』が破壊された事により、俺はゲームから除外されたモンスター1体を手札に加える事ができる! 手札に加えるのは勿論、『バーニング・バスター』!」

 その言葉と共に、栄一はポケットから『バーニング・バスター』のカードを取り出し、手札へと加えた。

「くぅ・・・また、『バーニング・バスター』が手札に・・・」

 全て誘導されていた。『サイバー・エンド・ドラゴン』で攻撃される事。それ自体が、栄一の狙いであったのだ。
 何としてでも封じなければならなかった、『バーニング・バスター』の帰還。それが、栄一の戦術によってものの見事に成功させてしまった。
 だが、光の落胆はまだ終わらない。

「さらに俺は、『ガード・ブロック』の効果によりカードを1枚ドローする!」

 『ガード・ブロック』の効果だ。これにより、栄一の手札をさらに強化させてしまう事になった。
 『サイバー・エンド・ドラゴン』の攻撃をかわし、次に繋げる為に減らした筈の手札を、瞬く間に回復させてしまった事は、光にとって多大な痛手である。

「でも・・・まだよ。『ライトロード・サモナー ルミナス』を守備表示で召喚。そしてエンドフェイズ。ワタシは『ルミナス』の効果により、3枚カードを墓地へ送る」

ライトロード・サモナー ルミナス ☆3
光 魔法使い族 効果 ATK1000 DEF1000
1ターンに1度、手札を1枚捨てる事で自分の墓地に存在する
レベル4以下の「ライトロード」と名のついた
モンスター1体を自分フィールド上に特殊召喚する。
このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する場合、
自分のエンドフェイズ毎に、自分のデッキの上からカードを3枚墓地に送る。

 褐色の肌に、白く多少露出が強い衣服を纏った女性召喚師『ルミナス』の効果により、新たにカードが墓地へ送られる。
 守りを固めるなら、裏側守備表示でも構わない。だが光は、あえて「表側守備表示」で『ルミナス』を召喚した。
 墓地肥やし・・・確かにそれも理由の1つだが、その最もたる理由は・・・

「この瞬間、『ジェニス』の効果発動! 『ライトロード』の効果によってデッキからカードが墓地へ送られた事で、アンタに500ポイントのダメージを与え、ワタシは500ポイントライフを回復する!」

 そう。魔術師『ジェニス』の能力の発動である。
 召喚師『ルミナス』の能力に反応して、魔術師『ジェニス』の右手に持つ杖の先端、そして左手が光り、それらから同時に2つの光線が放たれる。
 左手から放たれたそれは光に当たり、彼女のライフを回復させる。そして杖から放たれたそれは栄一に当たり、逆に彼のライフを減らす・・・。

栄一:LP600→LP100

光:LP300→LP800

「ライフ・・・100・・・。危ねぇ・・・」

「おっしぃ! 後1歩だったのにね・・・。これでターンエンドよ」

 ギリギリ首の皮1枚繋がった事に、栄一は安堵の溜息を1つ吐き、光は右手の指を弾き鳴らして悔しがった。

栄一LP100
手札4枚
モンスターゾーンE・HERO バブルマン(守備表示:DEF1200)
魔法・罠ゾーンなし
LP800
手札0枚
モンスターゾーンサイバー・エンド・ドラゴン(攻撃表示:ATK4000)
ライトロード・プリースト ジェニス(守備表示:DEF2100)
ライトロード・サモナー ルミナス(守備表示:DEF1000)
魔法・罠ゾーン再融合(装備:サイバー・エンド・ドラゴン)

 100のライフが、栄一を助けた。手札も豊富になった。
 そして何より、再び『バーニング・バスター』が栄一の手札に戻って来た。

「俺のターン! ドロー!」

 光のフィールドは守りにも攻めにも転じれる布陣。『サイバー・エンド・ドラゴン』の砲も勿論だが、2人の『ライトロード』の協力によるライフバーン&ゲインも、ライフ100の栄一にとっては脅威だ。
 だが、苦労して回復させた今の栄一の手札なら・・・この布陣を、攻略できる!

「カードを1枚セットし、『バブルマン』を再び攻撃表示に変更!」

「え・・・攻撃するの!?」

 その第1段階、それは『バブルマン』に攻撃態勢を取らせる事。勿論光は戸惑う。

「ああ! 攻撃するぜ! ただし・・・このフィールドの中でだけどな!」

 光の問いに答えながら、栄一は1枚のカードをディスクへとセットする。
 瞬間、フィールドが揺れると共にそこにたちまち高層ビルが建ち並び、星が浮かぶ夜の摩天楼へと様変わりしていく。

「フィールド魔法『スカイスクレイパー』発動!」

摩天楼(まてんろう) −スカイスクレイパー− フィールド魔法
「E・HERO」と名のつくモンスターが攻撃する時、
攻撃モンスターの攻撃力が攻撃対象モンスターの攻撃力よりも低い場合、
攻撃モンスターの攻撃力はダメージ計算時のみ1000ポイントアップする。

 摩天楼が完成すると同時に、『バブルマン』がその右手に備えた銃から強烈な水を放つ。目標は、防御の態勢を取る召喚師『ルミナス』だ。

「『バブルマン』の攻撃力は800。このままじゃ、お前のフィールドのどのモンスターも倒せねぇ・・・。だが、『スカイスクレイパー』を使えば・・・」

 『ルミナス』は、攻守共に1000ポイント。そして摩天楼の力は、「攻撃モンスターの攻撃力が、攻撃対象モンスターの攻撃力より低い場合」に発揮する。攻撃力1000と800なら当然低いのは800。だから・・・

E・HERO バブルマン:ATK800→ATK1800

「守備表示の『ルミナス』を、倒せるんだ!」

 本来なら負ける筈のない攻防。だが『ルミナス』は、摩天楼の力を授かった『バブルマン』の前に敗れ去る事となった。

「・・・『ジェニス』とのコンボは破ったわね。けど、それでどうするつもりなの? ワタシのフィールドには『サイバー・エンド』が・・・・・・!?」

 守備・・・表示・・・?
 光が振り向いた先には、先程まで攻撃態勢で構え、栄一を威圧していた筈の『サイバー・エンド・ドラゴン』が、何故か防御の体勢を取っている姿が。
 戸惑いながら光が栄一のフィールドへと視線を変えると、こちらも、たった今攻撃したばかりの筈の『バブルマン』が、膝をつき、腕を前に汲んで防御の態勢を取っている姿があった・・・。

「・・・まさか!?」

 光の脳裏に1枚のカードの姿が浮かんだ。同時に、光の背中を寒気が襲う・・・。
 カードの正体が正しいならば、光の恐怖はまだ続くのである。

「『バブル・シャッフル』!?」

 思わず光が、そのカードを口走る・・・。
 瞬間、栄一の傍に座る『バブルマン』がその姿を消し・・・代わって、栄一の象徴である灼熱の戦士『バーニング・バスター』が、フィールドに再び現れた。

「ご名答・・・。俺は『バブル・シャッフル』を発動し、その効果によって『バーニング・バスター』を特殊召喚した!」

バブル・シャッフル 速攻魔法
「E・HERO バブルマン」がフィールド上に表側表示で存在する時のみ発動する事ができる。
自分フィールド上に表側攻撃表示で存在する「E・HERO バブルマン」1体と
相手フィールド上に表側攻撃表示で存在するモンスター1体を守備表示にする。
守備表示にした「E・HERO バブルマン」1体を生け贄に捧げ、
「E・HERO」と名のつくモンスター1体を手札から特殊召喚する。

「そして・・・『バブルマン』と『ルミナス』の時と同じだ! 今なら、『バーニング・バスター』で『サイバー・エンド』を倒せる! 俺の勝ちだ!」

 栄一の言葉に反応し、『バーニング・バスター』が右手元に灼熱の球を作り上げる。・・・だがその瞬間!

「ま、まだよ! 魔法カード『埋没神の救済』! このカードを含む墓地のカード5枚をゲームから除外し、バトルフェイズを終了する!」

 光が、墓地から5枚のカードを取り出し、それらをポケットに仕舞う。それによって、『バーニング・バスター』の手元の炎が鎮火し、強制的に戦闘が終了する事となった。

埋没神(まいぼつしん)救済(きゅうさい) 速攻魔法(アニメDMオリジナル)
自分の墓地からこのカードを含む5枚のカードをゲームから除外する。
相手モンスターの攻撃を1度だけ無効にして、バトルフェイズを終了する。

除外されたカード:
『亜空間物質転送装置』
『亜空間物質転送装置』
『未来融合−フューチャー・フュージョン』
『誘発ダイナマイト』
『埋没神の救済』

「今度は『ルミナス』の時かよ・・・。何でそんなに都合良くカードが墓地に送られるんだ?」

「日頃の行いが良いからじゃない? それより、これでターンエンドでいいわよね?」

 栄一の嘆きに表では勝ち誇ったような表情を見せる光だが、裏、すなわち内心では自らのプレイングミスを悔やんでいた。
 『埋没神の救済』。これは『バブルマン』の攻撃時に使うべきであった。そうすれば、例え自らのターンに『バブル・シャッフル』によって機械龍の攻撃を封じられたとしても、『ライトロード』コンボで栄一を倒す事が出来たのである・・・。
 だが光は、ここまで栄一のプレイング等を何度も的中させておきながら、『バブル・シャッフル』の存在を失念していた。
 だから、『スカイスクレイパー』と『バブルマン』のコンボ攻撃を「その後にどう繋ぐか」が想像出来なかった為に、あえてスルーしてしまったのだった。

栄一LP100
手札1枚
モンスターゾーンE・HERO バーニング・バスター(攻撃表示:ATK2800)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
フィールド魔法摩天楼 −スカイスクレイパー−
LP800
手札0枚
モンスターゾーンサイバー・エンド・ドラゴン(攻撃表示:ATK4000)
ライトロード・プリースト ジェニス(守備表示:DEF2100)
魔法・罠ゾーン再融合(装備:サイバー・エンド・ドラゴン)

「ワタシのターン」

 ドローしたのは、モンスター強化の魔法カード。『サイバー・エンド・ドラゴン』の攻撃が通り、『ガード・ブロック』などの妨害さえなければゲームセットの今の状況では、それ程関係の無いカードだ。
 だが・・・

「(万が一を考えたら・・・使っておいた方がいいかもね)『サイバー・エンド』を再び攻撃表示に変更! そして装備魔法『団結の力』を、『サイバー・エンド』に装備するわ!」

 自軍のモンスターの数だけ攻撃力を上昇させる強力な装備魔法。その恩恵を受けて、『サイバー・エンド・ドラゴン』の攻撃力がさらに上昇する。
 栄一のフィールドにセットされたカードや栄一の手札が、もし『バーニング・バスター』と『サイバー・エンド・ドラゴン』の力関係を変えるものであれば、逆に自らが危機に陥る可能性もある。
 後一歩まで追い詰めた者の、最後の最後の用心である。

団結(だんけつ)(ちから) 装備魔法
自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体につき、
装備モンスターの攻撃力・守備力は800ポイントアップする。

サイバー・エンド・ドラゴン:ATK4000→ATK5600

「今度こそ・・・終わりよ! 『サイバー・エンド』で、『バーニング・バスター』を攻撃! 『エターナル・エヴォリューション・バースト』!」

 『サイバー・エンド・ドラゴン』もまた、光と同じ考えを持っているのだろうか?
 『サイバー・エンド・ドラゴン』の3つの口元が一際強く一閃し、続いてこのデュエル中一番と言える程の強烈なエネルギー砲が、『バーニング・バスター』に向かって放たれる。

「くっ・・・ゴメン! 『バスター』!」

 光にとっては幸運か。栄一の手札もリバースカードも、『バーニング・バスター』を守るようなカードではなかった。
 結果、超絶の砲はまたしても『バーニング・バスター』に直撃、一瞬にして彼を葬り去る。
 そして爆発が伴い、その余波が、栄一のライフを奪い去らんと襲いかかる。



 ・・・筈だった。



「クリクリ〜」



 幾体もの可愛らしい悪魔が栄一の前に現れ、壁を作る。衝撃を、後ろで構える主・栄一には一切漏らそうとしなかった。

「『クリボー』・・・!? また嫌らしいモンスターを・・・」

クリボー ☆1
闇 悪魔族 効果 ATK300 DEF200
相手ターンの戦闘ダメージ計算時、このカードを手札から捨てて発動する。
その戦闘によって発生するコントローラーへの戦闘ダメージは0になる。

「危なかった。コイツがいなけりゃ、俺は負けてた・・・」

 戦術を盗み、覚える。数ヶ月前に偶々観戦していた、姿も見せぬデュエリストが護に対して披露したギリギリの防御。それを見た栄一は、追い込まれた時の最後の手段としてこのカードをデッキに搭載したのだ。その行動が、見事功を成した結果となった。

「けど、これでアンタのカードは『スカイスクレイパー』とそのリバースカードのみ! 次こそ最後よ!」

栄一LP100
手札0枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
フィールド魔法摩天楼 −スカイスクレイパー−
LP800
手札0枚
モンスターゾーンサイバー・エンド・ドラゴン(攻撃表示:ATK5600)
ライトロード・プリースト ジェニス(守備表示:DEF2100)
魔法・罠ゾーン再融合(装備:サイバー・エンド・ドラゴン)
団結の力(装備:サイバー・エンド・ドラゴン)

 光の言葉もあながち間違いではない。おそらくこのドローが、このデュエルでの栄一の最後のドローとなるであろう。
 その筈、ただでさえ強力な『サイバー・エンド・ドラゴン』が、仲間の団結によってさらに強化され、栄一の前に立ちはだかる。
 対して栄一は手札を持たず、ライフは100。ディスクに置かれたカードも、デュエルフィールドを形成する摩天楼と1枚のリバースカード。
 だが・・・それでも栄一は・・・

「それでも俺は、諦めない! 最後の・・・最後まで! 俺のターン!」

 ドローしたカード、それは逆転を呼び込む事もできるカードであった。
 そのカードを確認すると、栄一は口元に少しの笑みを浮かべながら、それをディスクに差し込み、発動させた。

「魔法カード『ホープ・オブ・フィフス』を発動!」

 逆転を呼び込むカード。それは、HERO5人の希望を集結し、新たな2枚の可能性を生み出すカードであった。
 だが、ここでの選択が命取りになる可能性もある。だから栄一は、墓地に眠る6枚の『E・HERO』を改めて、慎重に確認する。
 墓地の『E・HERO』の中で、自らのデッキに未だ眠っているカードの力を最も発揮できるカード。それは・・・

「(勿論・・・『バスター』だ!)墓地の『クレイマン』『ネクロダークマン』『スプラッシャー』『ウルティメイト・バーニング・バスター』『バブルマン』をデッキに戻してシャッフルし、カードを2枚ドロー!」

ホープ・オブ・フィフス 通常魔法
自分の墓地に存在する「E・HERO」と名のついたカードを5枚選択し、
デッキに加えてシャッフルする。その後、自分のデッキからカードを2枚ドローする。
このカードの発動時に自分フィールド上及び手札に
他のカードが存在しない場合はカードを3枚ドローする。

「(・・・来た! 今度こそ、決着を着ける!)」

 5人のHEROの希望によって与えられた2枚の可能性。その可能性を信じて栄一は、まず1枚のカードをディスクへと差し込んだ。

「行くぜ・・・光! まずは魔法カード、『戦士の忘れ形見(メメント・オブ・バスター)』を発動!」

「『バスター』の・・・『忘れ形見』・・・!? 平賀とのデュエルの時に使ったカードね!?」

「あぁ、そうだ! 『バスター』は敗れても、俺と共にあるんだ!」

 瞬間、光のフィールドで防御の構えを取る魔術師『ジェニス』が、その場で苦しみ始める。
 灼熱の戦士『バーニング・バスター』の忘れ形見が、その真価を発揮したのである。

「お前の墓地にある通常魔法・・・『シールドクラッシュ』をコピーする! これにより、『ジェニス』を破壊!」

 『ジェニス』が消滅する。そして同時に、仲間の団結を失った『サイバー・エンド・ドラゴン』の攻撃力が下降する。

戦士の忘れ形見(メメント・オブ・バスター) 通常魔法(オリジナル)
「E・HERO バーニング・バスター」が自分フィールド上を離れた次のターンに、
相手の墓地に存在する通常魔法カード1枚を選択して発動する。
このカードの効果は選択した通常魔法カードの効果と同じになる。

サイバー・エンド・ドラゴン:ATK5600→ATK4800

「さらに伏せていたカード、『ヒーローズルール1 ファイブ・フリーダムス』を発動! 俺はもう怯えない! 自分の墓地から『バーニング・バスター』を、お前の墓地から4枚のカードを除外する!」

「『バーニング・バスター』を・・・除外!? どうするつもりなの!?」

 栄一の戦術を理解出来ない光が、驚嘆の声を上げる。
 そうしている内に、灼熱の戦士『バーニング・バスター』を含めた5つの魂が、天へと昇り、光となって消滅した。

ヒーローズルール1 ファイブ・フリーダムス 通常罠(アニメGXオリジナル)
自分と相手の墓地から、合計が5枚になるようにカードをゲームから除外する。

除外されたカード:
『E・HERO バーニング・バスター』
『ライトロード・マジシャン ライラ』
『ライトロード・ドラゴン グラゴニス』
『ライトロード・ウォリアー ガロス』
『ライトロード・ドルイド オルクス』

「そして・・・これがお前を倒す為のカードだ!」

 その言葉と共に、栄一は最後の手札をデュエルディスクへと差し込む。
 栄一の全てをかけた、最大の切り札。もう1度、『バーニング・バスター』を最頂点に導く為の、必殺の「融合」・・・。

「魔法カード、『平行世界融合(パラレル・ワールド・フュージョン)』! 発動!」

「『平行世界融合(パラレル・ワールド・フュージョン)』!? そんな・・・この場面で!?」

 瞬間、夜の摩天楼を照らす月に皹が入り、亀裂が走る。そしてその亀裂は徐々に全体へと広がっていき、最後はガラスのようにバリンッと割れた。
 割れた部分からは、この世のものとは思えない空間を垣間見る事ができる。
 皆が住むこの次元と、人類がまだ見ぬ異次元とが、トンネルによって繋がった瞬間であった。

平行世界融合(パラレル・ワールド・フュージョン) 通常魔法
ゲームから除外されている、融合モンスターカードによって決められた
自分の融合素材モンスターをデッキに戻し、「E・HERO」と名のついた
融合モンスター1体を融合召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する。
このカードを発動するターン、自分はモンスターを特殊召喚する事はできない。

「・・・ゲームから除外された、『ネクロ・ガードナー』『クラッチマン』、そして・・・『バーニング・バスター』をデッキに戻す事で、このヒーローを融合召喚する!」





 俺は、この時に全てをかけて、『バスター』と共にまた進む! 『E・HERO(エレメンタルヒーロー) ウルティメイト・バーニング・バスター』!





 異次元と繋がったトンネルから・・・・・・1人の、灼熱の巨人が姿を現し、フィールドに聳え立つビルの最頂点へと立った。
 頂点は勿論、地上から遠く離れている。だが、その頂点に立つ巨人から発せられるプレッシャーは、地面に立つ光は勿論、巨大な体を持つ『サイバー・エンド・ドラゴン』にすら恐怖を与える。
 「畏怖」が、再びフィールドを支配する。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) ウルティメイト・バーニング・バスター ☆10(オリジナル)
炎 戦士族 融合・効果 ATK4000 DEF3200
「E・HERO バーニング・バスター」+戦士族のモンスター×2
このモンスターの融合召喚は、上記のカードでしか行えず、融合召喚でしか特殊召喚できない。
このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、その守備力を攻撃力が超えていれば、
その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。
このカードが戦闘によってモンスターを破壊し墓地へ送った時、
破壊したモンスターの攻撃力か守備力の高い方の数値分のダメージを相手ライフに与える。

「『ウルティメイト・バーニング・バスター』の本来の攻撃力は4000。だが今は、『クラッチマン』の効果によりさらに500ポイントアップして4500だ!」

E・HERO(エレメンタルヒーロー) クラッチマン ☆3(オリジナル)
闇 戦士族 効果 ATK1000 DEF800
このカードを融合素材モンスター1体の代わりにする事ができる。
その際、他の融合素材モンスターは正規のものでなければならない。
このカードを融合素材にして融合召喚されたモンスターは、攻撃力が500ポイントアップする。

E・HERO ウルティメイト・バーニング・バスター:ATK4000→ATK4500

「それでも・・・『サイバー・エンド』の攻撃力には届かない。でも・・・」

 でも、それだけではない。
 光は、全てを・・・自分の敗北を悟り、ボソリと口を開いた。

「・・・そう。『スカイスクレイパー』の効果により、『ウルティメイト・バーニング・バスター』の攻撃力は、ダメージ計算時のみ・・・5500!」

 光の言葉を受け継ぎ、栄一は答える。
 その表情は・・・嬉しさと、悲しさが入り混じったような・・・複雑なものであった。
 栄一にも・・・恥ずかしながら、これを執筆する作者にも分からない。
 それ程様々な要素が入り混じった・・・そんな表情だ。

摩天楼(まてんろう) −スカイスクレイパー− フィールド魔法
「E・HERO」と名のつくモンスターが攻撃する時、
攻撃モンスターの攻撃力が攻撃対象モンスターの攻撃力よりも低い場合、
攻撃モンスターの攻撃力はダメージ計算時のみ1000ポイントアップする。

E・HERO ウルティメイト・バーニング・バスター:ATK4500→ATK5500

 ・・・やがて、栄一は覚悟を決めたのか。右手をスッと上げ・・・

「バトルフェイズだ。『ウルティメイト・バーニング・バスター』で・・・『サイバー・エンド・ドラゴン』を攻撃!」

 灼熱の巨人『ウルティメイト・バーニング・バスター』の、攻撃宣言を行った。
 『ウルティメイト・バーニング・バスター』が、その宣言に応え、ビルの最頂点から遠く離れた地面へと向けて勢いを付けて飛び降りる。



『栄一、他人に自らの技術・力・財産などを受け継がせる事は、並大抵の事じゃないんだぜ。そしてお前は、智兄さんの力を『受け継いだ者』・・・『継承者』だ』



『そして『継承者』には、やるべき使命がある』



「(『『継承者』のやるべき使命』に対する、俺なりの答え。それは・・・)」

 悩まない。怯えない。震えない。『バーニング・バスター』を信じ、智兄ちゃんの思いを引き継ぎ、そして・・・

「(何があっても、最後の最後まで『バーニング・バスター』と共に闘う事!)」










『スカイスクレイパー・バーニング・バーストォ!!!』










 栄一の思いが、誓いが、燃え盛る炎の弾丸となり、フィールドを支配する。全ての人々の注目を集める。
 両拳に炎を灯した灼熱の弾丸『ウルティメイト・バーニング・バスター』は、猛スピードで最強の機械龍『サイバー・エンド・ドラゴン』へと一直線に突進し、『サイバー・エンド・ドラゴン』の体を一気に貫いた。
 体の真ん中にポッカリと穴が空いた『サイバー・エンド・ドラゴン』は・・・そのまま、脆く、崩れ去っていった。

光:LP800→LP100

「そして『ウルティメイト・バーニング・バスター』の効果。相手は、破壊されたモンスターの攻撃力か守備力の高い方の数値分のダメージを受ける・・・」

 『サイバー・エンド・ドラゴン』を破壊した灼熱の巨人『ウルティメイト・バーニング・バスター』が、光の目の前に立つ。
 「畏怖」が具現化し、自らの目の前にいる。太陽が目の前にあるかのような熱気で、体の芯まで燃やし尽くされてしまいそうな筈なのに、逆にこの上ない寒気を覚えている事も確か。
 『継承者』の象徴『サイバー・エンド・ドラゴン』が敗れ去った今、もう、光を守るものは、光が縋れるものは、何も無かった。
 瞬間、光の足場から炎が勢い良く噴き出し・・・


『レイジング・ダイナマイト』!!!


 同時に・・・光のライフが・・・0となった。


光:LP100→LP0











 ワァーーーーーーーーーーーーー!

 夜の摩天楼が消え、元の姿へと戻ったホール。そのホールの360度全体から、凄まじい程の歓声が聞こえる。
 ・・・そして

「準決勝の勝者・1人目は、オシリスレッドのシニョール・明石栄一ィ!!!

 マイク片手に叫ぶ、クロノス教諭の声が響く。この瞬間、死闘の勝者が正式に栄一に決まったのである。

「・・・俺・・・やった・・・のか? 勝ったのか?」

 緊張から解放されたか、思わずその場に尻餅をつく栄一。
 勝利した身でありながら、それを信じられないといった表情でいる。

「・・・いいんだよな? また、『バーニング・バスター』と一緒にデュエルしてもいいんだよな?」

 そして、ディスクから『ウルティメイト・バーニング・バスター』のカードを取り外し、それを目の前に掲げながら何度も何度もそう呟いた。
 雫が、再び両頬を伝っている。嬉し涙か。それとも、疑ってきた事への謝罪の涙か。
 何れにせよ栄一が、例えそれが未遂であろうと『バーニング・バスター』を裏切る事は、二度と無いだろう。

 だが、全ての神経が『バーニング・バスター』に集中していたせいか、栄一は気付く事が出来なかった。目の前にまで接近していた、彼に対して怒りのオーラを醸し出している存在の事を。

「あームカツクー! 何で勝者が泣いてんのよ! 泣きたいのはこっちだっつーの!」

 瞬間、栄一はデュエル開始前に受けた衝撃と同じそれを右頬に受け、再び宙を舞った地面に叩きつけられた。

「ひ、光・・・。何だよ急にぃ・・・」

 悶絶しながらも、光に抗議する栄一。
 その時彼は見た。僅かに上を向いた光の両頬が紅く染まっているのを。
 「泣きたいのはどちらか」という光の言葉は、嘘ではなかった。

「全く、うじうじうじうじばっか! 誰よ、アンタを遊城十代二世とか最初に言い出した奴は!」

 勿論、遊城十代を生で見た事は一度もないが、ここまで感情の変化が激しすぎる栄一と、いつ何時でも勇敢に闘い続けたであろう遊城十代を一緒にするのは失礼だ・・・。
 それが、光の本音だろう。

「・・・でも、まぁいいわ。栄一、このワタシに勝ったんだから、絶対優勝しなさいよ! 決勝戦で無様に負けたら承知しないから!」

 両目を袖で拭った後、光はそう言いながら右手を栄一に差し出す。
 光の望んでいる事は、誰が見ても明らかであった。

「あぁ・・・あぁ!」

 栄一も、勇ましい返事と共に右手を差し出し、彼女の手を強く握る。
 敗者の光が、悔しさを押し殺してまで堂々と握手を申し込んできたのだから、男としてそれを拒む事は出来ない。いや、拒む理由もない。





 二人の友情が、より一層強まった瞬間であった。




















−保健室−

 デュエルの決着を見て、保健室にいる人々の中で最初に言葉を放ったのは宇宙であった。

「決まった・・・か。全く、栄一め。これじゃあどっちが男か分かりゃしないな」

 呆れた口調を維持しつつも、栄一の勝利を褒め称えているのは周りの誰が見ても明らか。

「本当に、宇宙は良いお兄さんだよ」

 兄貴分とはそういうものなのだろう。それが、宇宙に対する護の見解であった。

「なーに言ってんだ。本当は心の中で、大切な存在の言動に一喜一憂してたんだろ、お前も?」

「おいおい宇宙・・・」

「そうでしょうね。何だかんだで護君、心配性だから」

「鮎川先生まで・・・」

 軽く茶化した感じの護の言葉に、宇宙も負けじと言葉を返す。鮎川先生も混じる。
 気心の知れた存在だからこそ出来るやり取りである。

「本当なら・・・栄一にとって「良いお兄さん」にならないといけないのはお前じゃないのか? もう少しちゃんt・・・」

 ガラッ!

 そして、宇宙の言葉が徐々に説教じみてきたその時であった。突如、保健室のドアが開いた。
 何事かと、保健室にいる面々(護、宇宙、鮎川先生、黒田先生)は一斉にドアへと注目する。



 そこに立っていたのは、この場にいる誰にとっても意外な人物であった。






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