リベンジ・レアハンター

製作者:プロたん

 

 原作マンガのバトルシティ編完了を勝手に記念した、レアハンターシリーズの1作目です。OCGやアニメの事情は、当時のままとなっています。
 話の舞台はバトルシティ直後。デュエルのルールはきっと原作優先です。




第1章 レアハンターの朝

 私はレアハンター。
 裏ゲーム会を支配する闇組織グールズ――その平社員だ。
 今日も私は、M&Wの情報を集めるべく時計塔広場へとやってきていた。童実野町の時計塔広場にある喫茶店Psartで、浅煎りのコーヒーを飲みながらノートパソコンで情報収集することが出勤前の日課となっているのだ。ここ数年間通いつづけたこともあって、私はPsartの常連と言えるだろう。
 無機質なドアを開けると、聞き慣れた声が私を出迎えた。
「よぉ! レアハンター! 今日もいつもの席、開けておいてあるぜ!」
 そう言って、洒落たあごひげを生やしたマスターがにかっと笑った。
 やれやれ、何度言ったら分かるのやら。
「マスターよ、いつもいつも私を『レアハンター』の名で呼ばないでくれ。『レアハンター』はグールズの中でも、レアカード強奪団の部署に所属する者の通称なのだよ。私一人だけを指す言葉じゃないのだよ」
 そんな私の反論など意に介さず、マスターは肩をすくめた。
「そんなこと言ったってよォ、レアハンターちゃん……。おめぇ、名前ないだろ?」

「!!」


 第1章・完



第2章 私は強い

 ともかく、私はPsartのいつもの席で、いつも通りコーヒーを注文し、会社の備品であるノートパソコンを開いた。携帯電話をノートパソコンに接続し、電源をONにする。そのタイミングを見計らったように、喫茶店の店員がコーヒーを運んでくる。これもいつも通りだ。
 湯気立つコーヒー片手に、私は、インターネットで昨日のバトルシティ決勝の情報を探し出すことにした。ブックマークからデュエリストニュースサイトを選択する。このサイトは最新のM&Wの情報が書かれた有名所。少々ゆったりとしたスピードで、サイトの文章や画像がノートパソコンの画面に展開されていく。

 バトルシティ、その頂点に立ちデュエル王の称号を勝ち取ったのは『武藤遊戯』!

 バトルシティ優勝者はやはりというべきか遊戯。
 まあこの私があっさりやられてしまった程だ。当然の結果だろう。
 私は、カーソルキーを叩いて画面をスクロールした。

 バトルシティ準優勝、惜しくも敗れた『マリク・イシュタール』!

 続いて目に入ったのは、マリク様の名前。
 ほう、我が社の社長は2位か。マリク様は、私などでは及ばない程の実力者。これもまた納得できる結果だ。

 バトルシティ3位、主催者海馬コーポレーションの意地『海馬瀬人』!

 3位は海馬社長。
 やはり、主催者を買って出ただけあって、この順位は妥当なものだろう。

 同じくバトルシティ3位、凡骨デュエリスト卒業『城之内克也』!

 思いもよらぬ名前が見えた。
 城之内が、バトルシティ3位……? 海馬と同じ3位……だと?
 信じられない。城之内に圧勝したこの私ですら予選落ちだというのに、その城之内が3位だと! そんなことが……そんなことが、許されるわけが無い!!
 私は左手のコーヒーカップを、半ば叩きつける勢いでテーブルに置いた。勢い良く置かれたカップからコーヒーが少し飛び散って、ノートパソコンの液晶画面を汚してしまった。
「……いや、待てよ」
 落ち着いて考えればすぐに分かることだ。
 私にいとも簡単に負けた城之内が3位ならば、私は海馬瀬人並に……いや、それ以上に強いのではないか!? 予選落ちしたインセクター羽蛾などゴミ。あのリシドでさえもこの私より……下!
「フフフ……」
 気分がいい。有休も残っていることだし、今日は会社を休んでデュエリスト達を潰してやろう。
 私はコーヒーの残りを一気に飲み干し、備品のノートパソコンの画面をきれいに拭いてから、Psartを後にした。



第3章 ライバルは突如現れる

 ピンポーン。
「すみませーん。私はレアハンターという者ですが、羽蛾君いますか?」
「羽蛾お坊ちゃまですか? お坊ちゃまなら、もう出かけられましたよ」
「そ、そうですか。それでは失礼します」
 私は、手始めにインセクター羽蛾を潰すため、羽蛾の家に出向いた。
 だが、いきなり思わぬ障害に出くわしてしまった。そう、今日は平日。学校があるのは当然のこと。インセクター羽蛾が家にいなくて当たり前なのだ。
 迂闊だった。これではせっかく有休取った意味が……。
 とぼとぼと引き返そうとしたところ、2人組の高校生が私の後ろを通り過ぎた。もしやと思って振り返る。
 あの不自然な髪は……遊戯!
 その隣には、城之内までいるではないか……!
「おい遊戯、今すれ違った奴……」
 城之内が低い声を出す。会社の制服のままでは目立ったのだろう、私とすれ違ったことに気付いたようだった。
 遊戯と城之内が振り返る。私と遊戯達は、自然と対峙するように向き合った。
「フフ……遊戯、また会ったな」
「お前は……レアハンター? いったい何の用だ!」
 遊戯は敵意をむき出しにして私を睨みつけてくる。
「そういえば、表の遊戯は知らないんだったな。こいつはオレのレアカードを奪った……」
「うん、もう一人のボクから聞いてるよ。でも、もう一人のボクがデュエルで倒したんだよね」
 遊戯と城之内の間で意味不明な会話が始まった。「表の遊戯」とか「もう一人のボク」とか、まるで自己陶酔した中学生ではないか。
 それにしても、この気弱そうな遊戯を見ていると、私を打ち破りバトルシティを勝ち上がったデュエルキングだとは思えない。私でも勝てそうな気がしてならなかった。
 そうだ。私は、遊戯に敗北した後、何もせずに過ごして来たわけではない。私のエクゾディアデッキはあの時からパワーアップしているのだ。遊戯のデッキに入っているエクゾディア封じのカード――光の封札剣、連鎖破壊、手札抹殺、エクスチェンジ、削りゆく命――は、もう通用しない!
 自信が満ち溢れていく。
「ククク……。遊戯、デュエルだ!」
 私は遊戯に挑戦した。
 それに呼応するように、遊戯のぶら下げているパズルが妖しく光り出す……!
「ああいいぜ! 貴様のようなゴミは街を汚す……。今オレが片付けてやるぜ!!」
 こうして、戦いの火蓋が切って落とされたのだ!



第4章 光の封札剣

「ルールはスーパーエキスパートルールだ!」
「おい遊戯、こんな奴相手にしてたら、学校遅れちまうぜ!」
「気にすることはないさ城之内くん。すぐに片付ける!」
 城之内がビビっている中、遊戯は不敵に笑った。
「クク……。私もなめられたものだ。私の先攻! ドロー!」
 私は先攻をとり、カードをドローした。6枚の手札を確認する。

【手札】
封印されし者の右腕  封印されし者の左足  封印されし者の左足  天使の施し  盗賊の七つ道具  アステカの石像

 エクゾディアパーツは3枚あるが、左足がダブってしまっている。だが、天使の施しで手札を入れ替えてやれば問題はない。
「天使の施しを発動!」
 その効果で私は手札を3枚ドローした。その後で捨てる手札を2枚選ぶ。
「お、またエクゾディアを揃える気だぜ。しっかし相手の戦術バレバレだし、もう楽勝だな。遊戯!」
 その間に城之内がほざきだす。ふっ、だから城之内はザコなのだ。私の進化したデッキの恐ろしさに気付きもしないとは……!

【手札】
封印されし者の右腕  封印されし者の左腕  封印されし者の左足  封印されしエクゾディア  盗賊の七つ道具  アステカの石像

 天使の施しのおかげで、手札のエクゾディアパーツは4種類。早くも残り1枚で5枚のパーツ全てが揃う状況になった。
 後1枚。勝利は目前であるこの状況だが、相手はバトルシティを勝ち抜いた武藤遊戯。念には念を入れねば……。
「私はアステカの石像を守備表示で召喚――リバースカードを場に出し、ターンエンド」
 ちらりとリバースカードに視線を向ける。
 フフフ……以前は光の封札剣と連鎖破壊のコンボにやられたが、今回はそうはいかない。今伏せたリバースカードが遊戯のコンボを断ち切るのだ!

「オレのターン、ドロー! オレは幻獣王ガゼルを召喚――伏せカードを2枚出し、ターンエンド!」
 遊戯のターンは様子を見ただけで終わる。

「私のターン、ドロー!」
 そして再び私のターン。
 ドローカードを確認すると、天使の施しだった。またしても手札入れ替えカードだ。
 続けて視線をデッキに移す。私の特殊コンタクトによってデッキの一番上のカードが透けて見える。私には次のドローカードが分かるのだ。
 そして、特殊コンタクトを通して見えた次のドローカード――それは、封印されし者の右足!
 つまり、天使の施しの効果でカードドローした瞬間、私の勝利は決まるということだ!
「さらに天使の施しを発……」
 私は手札から天使の施しを場に出そうとした。
 だが、それよりわずかに早いタイミングで、遊戯がカードを手に取る。
「今だ! 光の封札剣!」
 その宣言とともに、頭上に光の剣が現れ、私の手札めがけてまっすぐに迫ってきた。遊戯の光の封札剣が炸裂し、私のエクゾディアパーツを封印しようとしているのだ。このままでは、私のエクゾディアパーツが失われ、勝利が遠のいてしまう。
 だが……!
「フッ、甘い! リバースカードオープン! 盗賊の七つ道具!」
 私は盗賊の七つ道具を発動した。これは、トラップを無効化することができるカウンタートラップ。
 シュウウゥゥゥ!!
「フフフ……これで遊戯の光の封札剣を無効化……!」
 しかし、シュウウゥゥゥと音を立てて消えていくのは、光の封札剣ではなかった。光の封札剣は消え去ることなく、私のエクゾディアパーツを貫いていた。
「……あれ?」
 シュウウゥゥゥと音を立てて消えているのは、私の盗賊の七つ道具のほうだったのだ!
 な、な……
「何故だぁあぁ!!」
「光の封札剣は魔法カードだ。罠を無効化する盗賊の七つ道具では光の封札剣は無効化できないぜ!」
 そ、そんな! アニメでは紫色だったはず。光の封札剣は紫色だったはず! 罠カードを意味する紫色だったはず!
 くっ! アニメと原作は別物だと言うのか! アニメはフィクションだと言うのか!
「遊戯! こいつバカだぜ! さっさとトドメ刺して学校に行こうぜ!」
 果てには城之内にまでバカにしてくる。生け贄なしで5ツ星モンスターを出そうとしたあのバカにまで!
「あ、ああ……。連鎖破壊を発動! 貴様のエクゾディアは全て墓地に落ちた! これでオレの勝ちだ!」
「……負けた。私の最強デッキが……」
 私の手からカードが滑り落ちていく。揃いかけたエクゾディアパーツがバラバラと落ちていく……!
 そして、私の意識は……!
「ヒィィィィィィィィ〜! ヒ…助けて…来る来る来る助けて…来るああああ! 来る…来る……来る…来る…マリク様が……」
「……おいおい、今さらマリクが洗脳するわけねぇだろ。遊戯、こんなの無視してさっさと行くぜ!」
「あ、ああ……」



第5章 リベンジ計画

「お? レアハンター! こんな時間に来るなんて珍しいな」
 屈辱的なデュエルを終えた私は、再び時計塔前の喫茶店Psartへ来ていた。いつものマスターがいつものにっかり顔で出迎える。
「レアハンターちゃん。いつもの席は空いてないけど、それでもいいかい?」
「……ああ、軽く食べていく」
 マスターに案内され、壁際の席までやってくる。通い慣れた店とは言え、店の奥で食事するのは久しぶりなので、少々奇妙な感覚がした。
 席に座ると、私は再びノートパソコンの電源を入れた。
 パソコンが起動するとすぐにメールを書きだす。宛先は遊戯王のアニメ制作部だ。

 遊戯王アニメスタッフへ。

 光の封札剣の色間違えてんじゃねえぞ! お前馬鹿じゃねぇの! バーカバーカバーカ!
 あと、乃亜編は良かったです。最後はちょっと感動しちゃいました。これからもアニメ作り頑張ってください。

 From レアハンター

 書き終えると、私は迷わず送信ボタンを押した。
 次に、遊戯王の戦略を練っているサイトに足を運ぶ。このサイトで紹介されているデッキレシピから、目的のデッキを探す。

『1ターンキル・エクゾディアデッキ』

 フフフ……。あった、あった。
 何々……。早すぎた埋葬、浅すぎた墓穴を使って、黒き森のウィッチやクリッターを蘇生し、生還の宝札でカードを大量にドロー……。
 なるほど。フフ……、これなら勝てるぞ!
 早速カード屋へ行って、デッキに必要なカードを買わねばな。当然、会社の経費でだ。
 私は急いで昼食を取ると、足早にカード屋へ向かった。



第6章 リベンジ計画

 闇が空を包みきった午後7時過ぎ、遊戯の家にやってきた私は、店の裏手に回ってチャイムを鳴らした。
「ホイホイ。店ならもう閉店じゃぞ」
 ガチャリと扉が開かれて、遊戯の祖父である双六が現れた。遊戯の家はゲーム屋でもあるのだが、早々に店を切り上げていたようだった。
「いえ、私、遊戯君に用事があるのですが……」
 私がそう言うと、双六は、
「遊戯、お友達が来ておるぞい」
 と呼びかけ、遊戯を連れて来た。
 私の前に現れた遊戯は、私の顔を見るなり、その表情を歪めていく。
「お、お前は……!」
「フフフ……。遊戯、デュエルだ!」
 そして、再び遊戯のぶら下げているパズルが妖しく光る。
「しつこいぜレアハンター! しかし、仕掛けられたデュエルを受けない訳にはいかない! デッキを取ってくるから待ってな!」
 遊戯はそう言って家の奥に消えていこうとした。だが、双六が遊戯を引き止める。
「ちょっと待つんじゃ遊戯。あの友達、いつも負けてかわいそうみたいじゃから、せめて……」
「だが、じいちゃん……」
 なにやら遊戯と双六が相談している。私を倒す作戦でも練っているのだろう。
 しかし、それは無駄なこと。私の1ターンキル・エクゾディアデッキにかなう者など存在しないのだ。1ターンキル戦術とは、1ターン目でケリをつける戦術。つまり、私が先攻を取った瞬間に勝利が確定すると言っても良い最強の戦術なのだ。
 相談が終わり、遊戯がデッキを持って現れた。
「ルールはスーパーエキスパートルールだ! いいな遊戯!」
「ああ。いいぜ!」
 お互いにデッキをシャッフルし、そして、
「デュエル!」
「デュエル!」
 デュエルが開始された!

「私の先攻! ドロー!」
 私はそう宣言して、カードをドローした。よし! さりげなく先攻を取ったぞ! 勝利は決まったも同然だ!
 早速、6枚の手札を確認する。

【手札】
封印されし者の左腕  黒き森のウィッチ  キャノン・ソルジャー  早すぎた埋葬  生還の宝札  天使の施し

 エクゾディアパーツは1枚しかないが、他のキーカードが豊富に揃っている。この手札なら、間違いなく次の遊戯のターンが来る前に勝てる……! ククク……。
「私は天使の施しを使い――カードを3枚引き、2枚を捨てる!!」
 まずは、手札入れ替えカードでカードを入れ替える。

【手札】
封印されし者の左腕  黒き森のウィッチ  早すぎた埋葬  生還の宝札  浅すぎた墓穴  生還の宝札

 フハハハハ、完璧な手札だ……! 負ける要素がどこにも見当たらない!
「私はさらに『生還の宝札』を発動!」
 そして、次なるカードを発動し、エクゾディア1ターンキルコンボを……
 シュウウゥゥゥ!!
 嫌な音がした。
 まさかと思って場を見ると、「生還の宝札」のカードが音を立てて消えていた。
 な、ななな、
「な、な……何故だぁあぁ!! 何故消えるんだぁぁああぁあ!!」
 すると、様子を見ていた双六が、苦笑いをしながら口を開いた。
「レアハンター君、このデュエルのルールはバトルシティで使った『スーパーエキスパートルール』じゃろ? スーパーエキスパートルールなら、1ターンに手札から使える魔法カードは1枚までじゃぞ」
「…………」
 しっ、しまったあぁぁ!!
 1ターンで何枚もの魔法カードを使うこのデッキでは勝てるわけがない! 私の頭の中に、「敗北」の二文字が浮かび上がる……!
「ヒ…助けて…来る来る来る…マリク様が…………あ、いや、待てよ?」
 考えてみる。スーパーエキスパートルールとは言え、まだまだ十分に勝機はあるのではないか? そう……
「フフ……。私は黒き森のウィッチを守備表示で出してターン終了だ」
 私は意気揚々とカードをセットした。



第7章 屈辱再び

「……オレのターン、ホビットを攻撃表示で召喚、黒き森のウィッチに攻撃、撃破! ターンエンド!」
「私のターン、ドロー! クリッターを守備表示で召喚! 早すぎた埋葬で黒き森のウイッチを蘇生!」
「オレのターン、アクア・マドール召喚! モンスター2体で、貴様の場のモンスター2体を撃破! ――さらに伏せカードを1枚伏せてターンエンドだ」
 淡々とデュエルが進んでいく。だが、優勢なのは私だ。
 この時点で、クリッターと黒き森のウィッチは合計で3回墓地へ送られている。それは、エクゾディアパーツを3枚手札に加えたことに等しい。
 すなわち、私の手札は、最初の手札にあったパーツを含めて4種類のエクゾディアパーツが揃っていることになる。つまり、あと1枚で私の勝利が確定するのだ!
 なお、スーパーエキスパートルールでは、クリッター等で手札に加えたカードはいちいち相手に見せなくてもいい。遊戯もまだ私の手札に警戒はしていないはずだ。

 遊戯のターンが終わり、私のターンになる。
「私のターン、ドロー!」
 私のドローカードは強欲な壺。またしても良いカードを引いた。
 続いて、特殊コンタクトで次のドローカードを確認した。次のドローカードは、最後のエクゾディアパーツだった。
 勝利のピースは揃った! 手札にある強欲な壺の効力でドローを行った瞬間、私の勝利が確定するのだ!
 フフ……これで終わりだ遊戯!!
「私は手札より強欲な壺を発動し……」
 その時、遊戯のリバースカードが表側になる。
「罠カード発動! 精霊の鏡! 貴様の強欲な壺はオレが掌握し、オレはデッキからカードを2枚ドローするぜ!」
 後一歩のところで、遊戯の罠カードに妨害されてしまった。私の代わりに遊戯の手札が2枚増える。
 だが、まあいい。今すぐドローが出来なくとも、次の私のターンでドローすれば良いだけ。勝利が1ターン先に伸びた――それだけの話なのだ。
「フフフ……レアハンター! どうやら、ここでデュエル終了のようだな!」
 遊戯が急に笑った。
「何!」
 どういうことだ? 遊戯は何を考えている?
 ……そうか、私の戦術に気付いたのか! 最強のエクゾディア戦術に気付いたのか! そして、勝てないと分かって逃げようと……!
「情けないぞ遊戯! いくら勝てないとは言え逃げるとはな!」
「フッ、そう思うならオレの手札を見てみな!」
 遊戯は笑みを崩すことなく手札をこちらに向けた。見慣れた絵柄が私の目に飛び込んでくる。

【遊戯の手札】
封印されし者の右腕  封印されし者の左腕  封印されし者の右足  封印されし者の左足  封印されしエクゾディア  ワイト

 見慣れたエクゾディアの封印パーツの絵柄。遊戯の手札には5枚のエクゾディアが揃っていたのだ!
 そ、そんな……!
「そんなバカなぁぁああぁああ!!」
「スマンスマン。ワシのデッキは『エクゾディアデッキ』なのじゃよ」
 す、双六のデッキィィ! 遊戯が使っていたデッキは双六のデッキだと言うのかぁぁああ!
「し、しかし! 双六のデッキにあったエクゾディアパーツのいくつかは海に捨てられたハズ……!」
 そうだ。双六のデッキにエクゾディアパーツが全て入っているわけがない。広大な海からカードを拾い上げるなど、到底無理な話。
 だが、遊戯は鼻で笑った。
「フ……。貴様は何も知らないようだな! ちょっと前にデュエリストレガシー2のパックが発売されたのさ」
「デュエリストレガシー2だと!」
「ワシはそのパックでエクゾディアを手に入れたのじゃ。遊戯はブルーアイズを引き当てておったがの! ホホ……」
 信じられない……! 私が……!
「……負けた……私の最強デッキが……。ヒィィィィィィィィ〜! ヒ…助けて…来る来る来る助けて…来るああああ! 来る…来る……来る…来る…マリク様が……」
「……遊戯! お友達の様子が変じゃぞ!」
 双六の表情が変わる。だが、
「……じいちゃん、ご飯が出来たって! 早く行こうよ!」
 遊戯は急に声色を変えて、家に入っていった。
「ホ……ホホ」
 双六も家に入っていった……。



第8章 完璧なエクゾディアデッキ

「お、またか、レアハンター。ったく3度目だぜ。今日はいったいどうしたんだ?」
 あれから長針が一周した午後8時。再び喫茶店Psartに戻った私は、最後の計画を立てていた。
 1ターンキルまで潰された私に残された最後の手段。それは、完璧なシュミレータによる完璧なエクゾディアデッキの作成だった。
 私はノートパソコンの電源を入れ、C言語のエディターを立ち上げた。今までに無いほどディスプレイを睨みつけながら、薄っぺらいキーボードを高速で叩きつける。
 そして、集中すること4時間、デュエルシミュレートプログラムは完成した。さあ、ここからが本番だ。このシミュレートプログラムによる緻密な計算を用いて、この世界で一番強いエクゾディアデッキを作り上げてやろう!
「レアハンターちゃーん、もう夜の12時回ってるよ。今日は何があったか知らないけど、もういい加減帰ってくれよー」
 少々うんざりした様子でマスターが言った。
「ああ、今日は迷惑かけてしまったな。おかげで完璧な戦略を練ることが出来そうだ。感謝する」
「分かった分かった、だがな、店のコンセント使ってノートパソコンの電源取っていっただろ? 電気代払ってくれ」
「……何?」
「払わないと軽犯罪だって、テレビでやってたぜ」
「……仕方ない。犯罪者だけにはなりたくないからな。電気代は置いていく。1000円あれば十分だよな」
 その夜、私は徹夜して完璧なエクゾディアデッキを完成させた。フフフ……これで遊戯に勝てる!



第9章 悲劇のディスティニー

 翌朝8時。私には出勤前に寄らねばならぬ場所があった。遊戯の家だ。
 遊戯の家から数十歩程度離れた道路で待ち伏せしていると、案の定、遊戯と城之内が現れた。
「フフフ……待ちわびたぞ遊戯!」
 私は一歩踏み出して、遊戯の前に立ちはだかった。
「お、お前、また現れやがって! 昨日はお前のせいで遅刻ギリギリだったんだぜ! 今日はもうデュエルしてる余裕はねぇからな!」
 城之内はびしっと指差して、そのまま私の脇を通り過ぎようとした。
「ふ、逃げる気か……」
 やはり城之内はザコだな。
「なにぃ! 言わせておけば!」
 面白いように城之内が振り返って吠えてくる。
「城之内くん! 挑発に乗っちゃ駄目だよ」
 ちょうどいい。
「肩鳴らしに、城之内、貴様とデュエルしてやろう」
 私はデッキを取り出した。
「いいぜ! 今ここでぶっ潰してやる! 予告KO宣言! お前は……」
「城之内くん、早くしないと今日こそ遅刻しちゃうよ!」
「お、おう! オレの先攻!」
 遊戯に急かされて、慌ててデッキを取り出す城之内。なんとも情けない姿だ。
「オレは漆黒の豹戦士パンサー・ウォリアーを召喚! ターンエンド!」
 モンスターを1体だけ召喚して、情けない城之内のターンは終了した。

「私のターン、ドロー!」
 私はカードをドローし、6枚の手札を確認した。

【手札】
封印されし者の右腕  封印されし者の左腕  封印されし者の右足  封印されし者の左足  封印されしエクゾディア  王宮の勅命

 目を疑った。
 いきなりエクゾディアが揃っているのだ……! 私でも信じられない! まさにディスティニードローだ!
「ククク……。私は……エクゾディアを召喚! 怒りの業火エクゾードフレーム!! 私の勝ちだ!」
「な、なにぃィィィ!!」
 城之内は何も出来ないまま敗北する。
「……レアハンター!」
 すると、遊戯のパズルが妖しく光りだした。
「レアハンター、貴様! コピーカードだけでなく、自分の手札まで操作するとは……! どこまで卑怯な奴なんだ!」
 な、何だと!?
「この私が手札を操作するわけなどないだろう!」
「フ……デタラメを! 貴様はオレが必ず倒してやるぜ!!」
 私のディスティニーが、否定されるだと……?
「貴様だけはオレが許さねぇ!」
 私のディスティニーがぁぁ!!
「遊戯! レアハンターの奴は1ターンでエクゾディアを揃えたんだ。そんな奴に勝つ方法なんかあるのか?」
「まかせろ城之内くん! ゴミは必ず片付けてやるぜ!」
 私のディスティニー……ディスティニー……。
「レアハンター、お前が負けたら『罰ゲーム』を受けてもらうぜ!」
 ディスティニィィィ!!
「レアハンター! デュエル開始だ!!」
 え?
「デュ、デュエル?」
 ……落ち着け、レアハンター。
 さっきのディスティニーは忘れて、ここで実力で遊戯を倒せば何の問題もないじゃないか!
「フフフ……。徹夜のデッキと戦術を貴様に見せてやる!」



第10章 幻の召喚神

「レアハンター、先攻はオレからだ! オレはクィーンズ・ナイトを召喚し、リバースカードを1枚伏せ――ターンエンド!」
 改めてデュエルが開始され、遊戯が先攻を取った。遊戯は様子見の一手のようだった。
「私のターン!」
 私は、ターン開始宣言をして、5枚の初期手札を見た。

【ドロー前の手札】
サンダー・ドラゴン  サンダー・ドラゴン  サンダー・ドラゴン  遺言状  遺言状

 ……って、最悪の手札じゃないかぁぁ!! サンダー・ドラゴンも遺言状も何の役にも立たないじゃないかぁぁあ!!
 くっ……、これは、さっきのディスティニーの反動だろうか。とにかくこの1ターン目のドローフェイズでキーカードを引かないと負けてしまう!
 そ、そうだ、手札抹殺……! 手札抹殺のカードを引けばまだ逆転できる……!
「ド、ドロー……」
 私は恐る恐るデッキに手をかけた。
「ドローはさせないぜ! リバースカード手札抹殺を発動! お互いのプレイヤーは手札を全て捨てる! 最初の手札を操作しているのなら、それらを墓地に送ってしまえばいいだけのこと! フフ……貴様のイカサマは崩したぜ!」
「さすが遊戯! すげえぜ!」
 遊戯は意気揚々と手札抹殺を使った。私の手札は入れ替わる。
「ククク……」
 まさか遊戯がこのピンチを救ってくれるとはな。フフフ……まだまだ運は尽きていないようだ。
「では改めてドローさせてもらおう!」
 私は6枚になった手札を確認した。

【手札】
封印されし者の右腕  封印されし者の右腕  封印されし者の左腕  封印されし者の右足  機動砦のギア・ゴーレム  ハンバニル・ネクロマンサー

 右腕がダブってはいるが、なかなかいい手札だ。
「私は、機動砦のギア・ゴーレムを守備表示で召喚してターン終了!」

 遊戯のターンになる。
「オレのターンで、キングス・ナイトを召喚! この瞬間――キングス・ナイトの能力でデッキからジャックス・ナイトを特殊召喚する!」
 遊戯の場にモンスターが3体並んだ。私の場には壁モンスターが出ているため攻撃を仕掛けられることは無かったが、遊戯が優勢であることには違いない。一刻も早くエクゾディアを揃えなくては。
「そしてオレはリバースカードを1枚伏せ、ターンエンド!」
 遊戯はターンを終了した。

「私のターン、ドロー。天使の施しを発動! カードを3枚引き――2枚捨てる!」

【手札】
封印されし者の右腕  封印されし者の左腕  封印されし者の右足  封印されしエクゾディア  デス・ハンド  ハンバニル・ネクロマンサー

 これでパーツが4つ揃った! あと1枚でパーツ完成だ……!
「私はさらに壁モンスター1体を出し、ターン終了」
 あと少し。あと少しで勝てる!

「オレのターン!」
 遊戯のターン。遊戯はカードを1枚ドローすると、そのカードを場へと出した。
「オレはクィーンズ・ナイトを生け贄にブラック・マジシャン・ガールを召喚――さらに魔術の呪文書で攻撃力を500ポイント上げ、しもべ3体で総攻撃!」
「くっ!」
 これはまずい。私は、壁モンスターを破壊されただけではなく、さらにモンスター2体の直接攻撃を受けてしまった。
 私のライフポイントは残り600。
「お前のモンスターは全滅した! ライフも残りわずか! もう後がないぜ!」
 遊戯はターンを終えた。

「私のターン……」
 私のライフは600。遊戯の場にはモンスターが3体いるのに対し、私の場にはモンスターが1体も出ていない。遊戯の言う通り、後がない状況だった。
 このターンしかない。このターンで「封印されし者の左足」を引き当てるしかない。そうしなければ負けてしまう!
 今日は特殊コンタクトをしていない。ドローカードの正体は分からない。この引きが私の運命を決めるのだ!
「ドロー……!」
 そして……

 ドローカード:封印されし者の左足

 最後のエクゾディアパーツが、私の手元に舞い降りる!
「フフ……。ハハハハハ……! ついに揃ったぞ、エクゾディア召喚!」
 5枚のカードを遊戯に見せる。攻撃力無限大。青眼の白龍ですら歯が立たないあのエクゾディアが召喚されたのだ!!
「リバースカード発動!」
 遊戯は悪あがきをしようとする。
「だが、遅いぞ遊戯! 既にエクゾディアは召喚された! 貴様の敗北は決まったのだ!」
「フ……、それはどうかな」
 この状況で、遊戯は不敵な笑みを見せた。
「リバースカードはディメンション・マジック! 生け贄2体を捧げ、ブラック・マジシャンを特殊召喚する!」
 遊戯が場に出したのはブラック・マジシャン。普段のデュエルなら切り札となりうる戦力であろう。
「しかし、攻撃力2500程度のモンスターを出したところでどうなる? 攻撃力無限大のエクゾディアには手も足も出せずに滅ぶのみ!」
「滅ぶのはお前だレアハンター! ディメンション・マジックで特殊召喚されたブラック・マジシャンとブラック・マジシャン・ガールは、そのターン連携攻撃が許される。……しかも、どんな攻撃力のモンスターでも撃破する!」
「な、何!?」
 どんな攻撃のモンスターでも破壊だと! 嘘だろう? そんな都合がいい効果があるはずがない!
「さすがだぜ遊戯! 神のカードをも打ち破った遊戯の十八番! やっちまえ、そんな野郎!」
「覚悟はいいな、レアハンター! ブラック・バーニング・マジック!!」
「ぐわぁああぁぁぁっ!」
 私のエクゾディアが消え去っていく……! 攻撃力無限大のエクゾディアが消え去っていく……!
「そして、レアハンター! 約束どおり受けてもらうぜ! 罰ゲーム!」
 間髪入れず、遊戯の額にウジャト眼が浮かぶ!
 私の視界が急に暗くなった。
 そして、暗闇に一人の男が現れた。あれは、マリク様……!
 マリク様は、千年ロッドの先端を私に向けて、こう言った。
「最弱のレアハンターよ。お前は、クビだ!」
 ク、クビ? そ、そんな! マリク様ぁぁ!!

「お、おい遊戯! 罰ゲームって……?」
「こいつが不安に思っていることを誇張して幻影を見せているだけさ。1分で元に戻る。大した悪事を働いたわけでもないし、これくらいで許してやるぜ」
「まあ、ちょっとしつこかったけどな……。おっといけねぇ、時間がねぇ! 急げ、遊戯!」
「うん、城之内くん!」



エピローグ

 1分後、私は「幻影」から解放された。
 まったく今日は運がない。リベンジする気もなくなってきた。もうリベンジは終わりだ。
 やはり、私は仕事している時が一番充実している気がする。
 ……そうだ、早く会社へ行こう! 遅刻したらまたマリク様に怒られてしまう!
 私は、会社――グールズへと急いだ。

 その日の晩、私が再び遊戯の家に赴くことになるのは説明するまでもないことであった。



 おしまい





 昔書いた後書きを見てみる
 (一応残しておきましたが、無理して読む必要は全然ないです)





戻る ホーム