5章・ランチタイム




(御伽龍児 視点)



 現在12時――

 ホラーハウスで手間取ったオレ達は、結局30分以上も迷うことになってしまった。

 特に本田が出てきたのは50分以上経った後だった。

 それにしても、ソリッドビションを応用して人を消すなんてとんでもないことをするものだ。

 人のいるところにラジカセをソリッドビションで映したり、オレ達が最初の部屋を出た後に暖炉と扉を入れ替えたりなど、細かい演出も相重なって、まんまとやられてしまった。

 冷房施設の充実しているこの屋内で汗をかくとは思わなかった。



「みんな、そろそろお腹空かないか?」

 ホラーハウスを出て少し歩いたところで、オレはそう提案した。

「そうだな…もう12時回ってるし…なんか食っていくか!」

「うん、賛成!」

「でも…レストランとかそういうのあるのかな?」

「…さすがにあるだろ、それくらい。」

「お、あそこに見える建物、レストランじゃないか? 行ってみようぜ!」



 オレ達はドームの後方にある建物へ向かっていく。

 歩いていくうちに、その建物の全体像がはっきりと浮かび上がってくる。

 建物は3階建てで、3階は小さなドーム状になっている。

 建物全体に色とりどりの装飾が散りばめられており、その装飾はナイフとフォークを形どっている。間違いなくレストランだろう。

 また、レストランには大きな看板がかけられており、そこには "Roulette Restaurant" と書かれていた。

 ルーレットレストラン……?

「まともなメシ食えるんだろうな…」

 隣で本田がぼやいていた。



「いらっしゃいませー! 何名様でいらっしゃいますか?」

 店に入るなり、女性店員が出迎えてくれる。

「えっと……確か6人…だよな…」

 オレがぎこちなく答えると、店員はオレ達をテーブルに案内する。

 そのテーブルには、中華料理店で見られるターンテーブルがあった。

 コレがルーレットなのか…?

 なんだ。変なゲームがあるかと思ったよ…。

 オレはホッと一息ついた。

 そして、オレ達は思い思いの料理を注文し、それらが運ばれてくるのを待った。



 それから15分後――



「――何でモクバがここにいるんだよ!」

「何で…っつても、ここはオレ達の海馬ランドだぜー。オープン初日にオレがいない方がおかしいぜぃ。」

「うっ…。た、確かに…」

 先程、料理を運ぶウェイトレスに混じって、モクバくんが現れた。

 相変わらずの態度で、7人テーブルの余ったイスに勝手に座ってきたのだ。

「ともかく、オレも一緒に食っていいか?」

「ん…ああ、構わないけど…」

「うん、賛成!」

「オレもだ。」

「……ま、いっか。」

 誰一人反対する人は現れず、モクバくんを交えた7人で昼食をとることになった。



 ターンテーブルの上に次々に料理が運ばれる。

 ステーキ、チラシ寿司、ピザ、牛丼、オムライス、お子様ランチ、そしてラーメン。

 みんなが注文した料理が全て運び終わるのを待っていたかのように、モクバくんが口を開く。

「ねぇ、これからさ――ゲームしない?」

 ゲーム?

「ぜぜぜぜぜったいやらねぇぞ! オレは…!」

 内容も分からないのに、城之内だけ何故か激しく否定している。

 何かあるのだろうか?

「毒なんか入ってないよー、城之内ぃ。」

 ニヤニヤしながら答えるモクバ。

 …って、ホントに毒が入っているのかよ!

 まさかと思いつつも、モクバの説明に聞き入る。

「ルールは簡単さ。一人ずつターンテーブルを回して、自分の手前に来た料理を食べる。」

 城之内の顔がさらに引きつったようだが、誰も気に止める様子はなく説明は続く。

「それで、7つの料理のうち、どれか1つの料理には宝物が入っているんだ。それを引き当てた人の勝ちさー。」



「なるほど…面白そうね。よーし、それじゃあ私から回すわね!」

 早速、杏子ちゃんが乗ってくる。

 杏子ちゃんはターンテーブルの淵に両手をかけて、そのまま時計回りに回した。

 あまり力をかけなかったためか、一周半したところで回転は止まってしまう。

 そして、杏子ちゃんの前に来た料理は――

「あ、ラーメンだ。」

 ラーメン――それって、オレの頼んだものじゃないか…。

「ラッキー! 私、ピザよりこっちの方が食べたくなっちゃったのよね…」

 少し…悔しかった…。



「じゃあ、次はオレな…」

 オレは杏子ちゃんに続いて、ターンテーブルを回すことにした。

 ラーメンを取られたからには、他のうまそうな料理で気を晴らさなきゃな。

 オレはターンテーブルの端を持ち、勢いに任せて回そうとした。

 …だけど、思いっきり回すと、料理がこぼれてしまうかもしれない。

 気を落ち着かせなくては…。

 オレは大きく息を吸い、適度に力をかけて回した。

――ゴオオォォォ

 ターンテーブルは2周ちょっとしたところで止まる。

 オレの目の前にある料理――

 平べったい皿の上にはご飯が盛られ、その上には色とりどりの具が散りばめられている。

 そしてこの特徴ある匂い…。

 ――チラシ寿司だった。

 酢はちょっと苦手なんだよな…。でも、食わなきゃいけないのかな…やっぱり。

 オレはがっくり肩を落とした。



 そうして、みんなそれぞれの料理が決まった。

「いただきまーす!」

 食事のあいさつとともにみんなの箸は進んでいく。

 ――2人の例外を除いて。

 オレと城之内だけ箸が動いていない。

 不意に、オレは小学校の給食を思い出していた。

 あの時は嫌いなものでも食わされたっけ…。

 ………。

「あれ? 食べないの?」

 ステーキを頬張りながら、獏良くんが声をかけてくる。

「いや、食べるさ。」

 一応これはゲームなんだ。食べなきゃダメだよな…。

 オレは意を決して食べることにした。

 まあ、意を決するほど苦手ってわけじゃあないけど…。



――カツン

 箸がなにやら硬いものに当たった。

 ご飯の中になにかがあるようだ。

 オレは箸を使ってそれを取り出す。

「こ、これは――?」

 それは、直径2センチほどの球状のプラスチックケースだった。

 オレはそのケースを開ける。いつの間にかみんなの視線がオレの手元に集中している。

「………」

 中にあったのは…キーホルダーだった。

 キーホルダーは、白色の玉にチェーンが取り付けられているシンプルなものだった。

 その玉には何かが描かれている。

 描かれているとは言っても、たいそうな絵柄ではなく、ただの落書きに見える。

 その落書きは、人の顔を描いたものに見えた。目と口と顔の輪郭を簡単に描いただけの顔…。

「あ! これって、ピースの輪にそっくりじゃない?」

 ふと、杏子ちゃんが口を開く。

「ピースの輪って?」

 オレが聞き返すと、杏子ちゃんはポケットに手を入れて――

「あ、あったあった。これこれ。」

 ――マジックを取り出した。

「ホラ、みんな手ぇ出してー!」

 そう言いながら杏子ちゃんはマジックのキャップをはずす。

 遊戯が右手を出したのに続いて、オレ達は順に手を差し出す。

 テーブルの中央に次々と集まる手。6つの手がテーブルの中央に差し出される。

 ――6つ?

 周りを見渡してみると、モクバくんだけが手を出していない。

「オ、オレは…」

 モクバくんは少し沈んだ顔で自分の右手を見つめている。

 少しの沈黙の後、本田が口を開いた。

「ホラ、モクバも出せよ! 手!」

 本田に続いてみんなもモクバくんに声をかける。もちろんオレも。

「う、うん!」



 差し出された7つの手に杏子ちゃんは大きな丸を描く。

 その丸の中に目と口を描いていく。

 オレの右手には右目が描かれた。

「ちょっとスキマ空いて描きにくかったけど、上等上等。」

 杏子ちゃんは満足げの表情でマジックにキャップをする。。

 他のみんなも何だか上機嫌だ。

「ピースの輪…かぁ。」

 オレは自分の右手を見ながら呟いた。

 ――オレも仲間…なんだよな。





微妙な後書き

酢のものと、酢メシとかは別物なんだよなあ…。ワタクシ非常識ですか…。
ちなみに最初に注文した料理、誰がどれだか分かります?
一応、答えは決めてあります。答えは書きませんが、全員それなりにピッタリ来るものになっていると思います。それが答えです。
気の向いた方は考えてみてください。

あと、これが3つめのアトラクションね…。
……これがこの話のオチ…だったりして。




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