17章 アクセサリ




「ボクのターン…ドロー!」

 ボーガニアンを始めとしたダメージコンボが遊戯敗北のリーチを告げているこの状況でも、遊戯は負けずに闘っている。

「ボクはクリボーを召喚する!」

黒装束の男
LP 2200
ボーガニアン
攻撃表示
攻1300
守1000
ボーガニアン
攻撃表示
攻1300
守1000
グラヴィティ・バインド
お互いの
4ツ星以上のモンスターは
攻撃できない。
悪夢の拷問部屋
相手の受ける
ダメージは常に
+300となる
墓守の呪術師
攻撃表示
攻800
守800


ジャックス・ナイト
攻撃表示
攻1800
守1200
ギルファー・デーモン
攻撃表示
攻2200
守2500
クリボー
攻撃表示
攻300
守200
伏せカード
遊戯
LP 700

 ポンと軽い音を立て、小さなモンスターが召喚された。

「クリボーか…。グラヴィティ・バインド下でも攻撃可能なモンスターだが、攻撃したところで勝てる相手などいない!」

「……」

「さあ、これで終わりだ…。ボーガニアン! その矢で遊戯の胸を貫け!」

 宣言に機械的に反応して、2体のボーガニアンが同時に動き出し、同時にボーガンを構える。

「死ね。」

 男は低い声で呟く。

――ヒュン!

 風を切る音がして、2本の矢が放たれる。

 矢は一直線に遊戯を襲う。

 だが、遊戯の目はまっすぐ前を向いている。

 あきらめてはいない。

「リバースカード――増殖を発動!」

黒装束の男
LP 2200
ボーガニアン
攻撃表示
攻1300
守1000
ボーガニアン
攻撃表示
攻1300
守1000
グラヴィティ・バインド
お互いの
4ツ星以上のモンスターは
攻撃できない。
悪夢の拷問部屋
相手の受ける
ダメージは常に
+300となる
墓守の呪術師
攻撃表示
攻800
守800


クリボー
攻300
守200
クリボー
攻300
守200
クリボー
攻300
守200
クリボー
攻300
守200
クリボー
攻300
守200
クリボー
攻300
守200
クリボー
攻300
守200
クリボー
攻300
守200
クリボー
攻300
守200
ジャックス・ナイト
攻撃表示
攻1800
守1200
ギルファー・デーモン
攻撃表示
攻2200
守2500
増殖
攻撃力500以下の
モンスターを
増殖させる
遊戯
LP 700

「クリボーが無尽蔵に…!」

――ボボボボン!

 盾になった無数のクリボーが2本の矢を受け止める。

 矢に反応して機雷化したが、そのおかげもあって矢は遊戯に届くことはなかった。

「くっ…」

「ありがとう、クリボー!」

 無数のクリボーの1体が遊戯の方を振り向いて、可愛らしい声をあげる。

「ボクのターンは終わりだ!」



「く…オレのターン…」

 場の無数のクリボーが遊戯を守っている。

 しかも男のデュエルディスクには5枚分のカードが出尽くし、これ以上カードを出すことができない。

「ターンエンドだ…」

 男は何もできないままターンを終える。

 表情に余裕はなかった。



「ボクのターン! ドロー!」

 引き当てたカードは「魔導戦士 ブレイカー」。

「よしっ!」

 遊戯は小さなガッツポーズを作る。

「何…!」

「このターンで決着をつけるよ! クリボーの増殖を解除し――魔導戦士 ブレイカー召喚!」

黒装束の男
LP 2200
ボーガニアン
攻撃表示
攻1300
守1000
ボーガニアン
攻撃表示
攻1300
守1000
グラヴィティ・バインド
お互いの
4ツ星以上のモンスターは
攻撃できない。
悪夢の拷問部屋
相手の受ける
ダメージは常に
+300となる
墓守の呪術師
攻撃表示
攻800
守800


ジャックス・ナイト
攻撃表示
攻1800
守1200
ギルファー・デーモン
攻撃表示
攻2200
守2500
クリボー
攻撃表示
攻300
守200
魔導戦士ブレイカー
攻撃表示
攻1600
守1000
遊戯
LP 700

 悠然とその場に立つ一人の魔導戦士が召喚された。

 右手には長身の剣、左手には紋章の入った盾を装備している。

「ブレイカー――所詮レベル4のモンスター…。攻撃はできまい!」

 瞬く間にブレイカーは網に絡め取られ、立っていることが出来なくなる。

「でも、その盾の持つ特殊能力で、魔法か罠を1枚破壊できるんだ!」

「な…!」

 ブレイカーは膝を着く前に盾を掲げた。

 盾の紋章が光り出し、その直後、重力の網は粉々に砕け散った。

「グラヴィティ・バインド破壊!」

 遊戯の声と共に立ち上がる遊戯のモンスター。

「く…!」

「そして、お前はグラヴィティ・バインドがあるからと言って油断しすぎた!」

黒装束の男
LP 2200
ボーガニアン
攻撃表示
攻1300
守1000
ボーガニアン
攻撃表示
攻1300
守1000
悪夢の拷問部屋
相手の受ける
ダメージは常に
+300となる
墓守の呪術師
攻撃表示
攻800
守800


ジャックス・ナイト
攻撃表示
攻1800
守1200
ギルファー・デーモン
攻撃表示
攻2200
守2500
クリボー
攻撃表示
攻300
守200
魔導戦士ブレイカー
攻撃表示
攻1600
守1000
遊戯
LP 700

「しまった…。オレのモンスターは全て攻撃表示のまま…!」

「そう、モンスター3体で攻撃すればボクの勝ちだ!」

「おのれ…」

 ジャックス・ナイトがボーガニアンを真っ二つに切り裂く。

 黒装束の男 LP 2200 → 1700

 ギルファー・デーモンも続いて、ボーガニアンを爆破。

 黒装束の男 LP 1700 → 800

 最後にブレイカーが呪術師を斬り――

 黒装束の男 LP 800 → 0

「く…」

「か、勝った…!」

 遊戯の勝利が決まった。





 ――7月22日午前0時22分

 男は既に消えていた。

「遊戯、大丈夫か?」

 肩で息をしている遊戯に城之内が近づいていく。ブレイブもそれに続く。

「うん。ちょっと休めば大丈夫だと思う。」

「…そうか、なら最後の本体はオレに任せとけ!」

「……う、うん。」

 ゆっくりと頷く遊戯。

 少しだけ表情が暗くなっていた。

「ま、仕方ねえさ。このままじゃあ、初期ライフが悲惨すぎるからな。」

「うん、分かってる。行こう!」

「ああ! 行くぜ、3階に!」

 部屋の奥の階段を指差しながら城之内は駆け出す。

――カツン…

 足音に混じって、別の音が聞こえた。

「あ、御伽のピースの輪落としちまった。」

 気付いた城之内が後ろを振り向く。

――カン…カン…

 落としたピースの輪は2、3度跳ね――

――コロコロ…

 僅かに転がり――

――カツッ…

 ブレイブの足元に止まった。

「あ…」

「お、ブレイブ、それ、拾ってくれ!」

「え…」

 ブレイブは表情を変える。

「そこに丸いアクセサリがあるだろ…?」

「あ、う、うん。」

 下を見続けたまま動かないブレイブ。

「だから、それ拾ってくれって!」

「で、でも…」

 否定する。

「な、なんだよ…パシリはゴメンってか? そんなつもりじゃねえのによ…」

 文句を言いながらも、城之内は引き返して自分で拾い、それをブレイブに見せる。

「これはさ、ピースの輪って言うのは知ってんだろ?」

 ブレイブの方を向き直り城之内は言う。

「ピースの輪って言うのは、なんつうか……一言で言えばだな、友情の証で――ほら、オレ達の手見てみな。」

 城之内は右手の甲を見せる。

 少し離れたところにいる遊戯も同じく手の甲を見せる。

「ここでオレ達7人分だったかな、とにかくみんなの手に描いたんだ。」

「う、うん…」

 気まずそうにブレイブは相づちをうったが、城之内は構わず続ける。

「それでな、みんなの手を合わせると、一つの大きな輪ができるっつうわけなんだが……」

 そこまで言って、城之内はポケットを探り出す。

「やっぱりねえか…」

 小さなため息をつく。

 その仕草の意図に気付いたからか、遊戯が近づき、ポケットからペンを取り出す。

「城之内くん、これ?」

「お、それそれ! グッドタイミングだぜ、遊戯!」

 城之内はブレイブに向き直る。

「――ってことで、ブレイブにも描いてやるぜ。」

「あ、ボクが描くよ。」

 消えない左手のデュエルディスクを今だけはずして、遊戯がブレイブの前に立つ。

 しかし――

「できないよ。」

 ブレイブは首を横に振った。

「え…」

 思わず言葉を失う遊戯。

「な…、どうして!」

 城之内が大声でまくし立てる。

 だが――

「できないんだよっ!!」

「……!」

 それに負けない程の大きな声でブレイブが叫ぶ。

 今までに見せたことのない声と、そして顔。

 いつもの気弱そうなブレイブとのギャップに、遊戯と城之内は圧倒され、反論どころか声も出せなかった。

「ぼくがどれだけ城之内くんや遊戯くんと信頼し合える仲になったとしても! 絶対にぼくにピースの輪は描けないんだ!」

 ブレイブの目に涙が浮かぶ。

 そこからこぼれ落ちた涙は、床を湿らすことなく消えていった。



「ぼくにピースの輪は描けない。」

 少しの沈黙の後に、ブレイブは涙声のまま静かに呟く。

「ぼくには触れることができないんだ。」

 ブレイブは右手に力を入れ、続ける。

 遊戯と城之内はただそれを見ているまま。

「なぜなら――」



「ぼくはもう死んでるんだから。」




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