16章 非情なるダメージデッキ


「仕方ない…。最後の羊トークンを発射し――!」

――ズン!

 遊戯 LP 3500 → 3000

「ターン終了だ!」



「ボクのターン!」

 人格交代した遊戯が宣言する。

 周囲の闇は、少しずつではあるが、プレイヤーの精神力を消耗させている。

 だが、遊戯はそれに屈することなく立っている。

 千年パズルを組み立てたあの時から、遊戯は様々な経験を積み、確実に強くなっていたのだ。

「ボクは磁石の戦士αを召喚! モンスター2体で攻撃だ!」

黒装束の男
LP 4000
キャノン・ソルジャー
攻撃表示
攻1400
守1300


ジャックス・ナイト
攻撃表示
攻1800
守1200
磁石の戦士α
攻撃表示
攻1400
守1700
遊戯
LP 3000

 ジャックス・ナイトが華麗な剣さばきでキャノン・ソルジャーの装甲を切り裂く。

――ズガァァン

 黒装束の男 LP 4000 → 3600

 それに続いて磁石の戦士αの磁空剣一閃が男に炸裂する。

――ズバアァァ

「……」

 黒装束の男 LP 3600 → 2200

 男は衝撃で多少押される。

 だが、この男もまた幻。これも演技のうちかもしれなかった。

「ボクはこれでターンエンド!」

 遊戯のターンは終わる。



「オレのターン…」

 男は低くゆっくりとした口調に戻っていた。

「オレは、伏せカードを出し――ボーガニアンを召喚!」

黒装束の男
LP 2200
ボーガニアン
攻撃表示
攻1300
守1000

伏せカード



ジャックス・ナイト
攻撃表示
攻1800
守1200
磁石の戦士α
攻撃表示
攻1400
守1700
遊戯
LP 3000

「ボーガニアン…!」

 その名の通り、ボーガンを構えた機械型モンスターが姿を現した。

 小さな胴体に二つの手と一つの目だけがついている。ボーガンを撃つためだけに作られた構造とも言えるだろう。

「ボーガニアンは相手ターン毎に300ダメージを与えていくモンスター。ハハ…次のターンが楽しみだ。」

「く…」

 男は薄ら笑いを浮かばせながらターンを終える。



 遊戯のターン。

「ボクは――磁石の戦士αを生け贄にギルファー・デーモン召喚!」

 ターン開始後すぐに上級モンスターを召喚する。

「このモンスターで、ボーガンを撃たせる前に倒すのみだ! ギルファー・デーモン! ボーガニアンに攻撃だ!」

 遊戯の宣言と同時に、ギルファー・デーモンは両拳に力を入れ、炎を起こそうとする。

 ――が、それは男の声で止められる。

「トラップカード発動! 超重力の網−グラヴィティ・バインド!」

「……!」

 突如中空に巨大な網が現れる。

「グラヴィティ・バインドがある限り、お互いの4ツ星以上のモンスターは攻撃できない!」

 網にからめとられギルファー・デーモン、ジャックス・ナイト、共に動きが取れなくなる。

「ボクの場のモンスターはどちらも4ツ星以上…。このままターンを終えるしかない…」

「おっと、ボーガニアンの特殊能力を忘れるな!」

 ボーガニアンからボーガンの矢が放たれる。

「ぐ…」

 遊戯の右胸に矢が突き立てられた。

 仮想の映像とは言え、これは闇のゲーム。痛みが遊戯を襲う。

 遊戯 LP 3000 → 2700

「タ、ターンエンド…」

 苦痛を顔に浮かべながらも遊戯はターンを終える。



「オレのターン…」

 大きな網が張られた場でデュエルは進行していく。

「オレはさらに2枚のカードを場に出そう…」

黒装束の男
LP 2200
ボーガニアン
攻撃表示
攻1300
守1000
ボーガニアン
攻撃表示
攻1300
守1000
グラヴィティ・バインド
お互いの
4ツ星以上のモンスターは
攻撃できない。
悪夢の拷問部屋
相手の受ける
ダメージは常に
+300となる


ジャックス・ナイト
攻撃表示
攻1800
守1200
ギルファー・デーモン
攻撃表示
攻2200
守2500
遊戯
LP 2700

 場に出されたカードは2枚目のボーガニアンと、永続魔法・悪夢の拷問部屋。

「更なるダメージカード…!」

「ハハハ…。悪夢の拷問部屋により、ボーガニアンのダメージは600に上昇、そしてそのボーガニアンは2体存在する…」

「1ターンに1200ダメージ!」

「ご名答…。さあ、貴様のターンだ。」



「ボクのターン…」

 遊戯の手札にはこの状況を回避すべきカードはない。

「ドロー…」

 ドローカードは、幻獣王ガゼル。

 切り札にはならない。

「ボクは、幻獣王ガゼルを守備表示で召喚し、カードを1枚セットしてターンエンド…」

「エンドの前にボーガン地獄を喰らうがいい!」

 2本の矢が同時に放たれる。

「ぐあ…」

 右と左の胸に痛みが走る。

 しかも、悪夢の拷問部屋のカードのせいだろうか――その痛みはなかなか消えない。

「うぅ…」

 めまいを感じ、そのまま膝を着いてしまいそうになる。

 遊戯 LP 2700 → 1500

「遊戯!」

「遊戯くん!」

 城之内とブレイブの声が聞こえる。

(ここで負けるわけには…!)

 膝が床に着く前に体勢を整える。

「ターンエンド…」

 ターン終了を宣言する。

 遊戯はまだ負けてはいない。



 男のターン。

 不利な遊戯に対し、さらにダメージカードで追い詰めていく。

「オレは墓守の呪術師を召喚し、悪夢の拷問部屋の追加分を合わせて800ダメージを与える!」

「ぐ…!」

 遊戯 LP 1500 → 700

 遊戯の表情に苦痛の色が濃く浮かんでくる。

黒装束の男
LP 2200
ボーガニアン
攻撃表示
攻1300
守1000
ボーガニアン
攻撃表示
攻1300
守1000
グラヴィティ・バインド
お互いの
4ツ星以上のモンスターは
攻撃できない。
悪夢の拷問部屋
相手の受ける
ダメージは常に
+300となる
墓守の呪術師
攻撃表示
攻800
守800


ジャックス・ナイト
攻撃表示
攻1800
守1200
ギルファー・デーモン
攻撃表示
攻2200
守2500
伏せカード
遊戯
LP 700

 相手の場にはまだ2体のボーガニアンが残っている。

 そして遊戯のライフはあと僅か。

「これで、次のお前のターンが『最期』になる。」

 次の遊戯のターンでボーガニアン2体をなんとかしない限り、遊戯の敗北が決まってしまう。

 だが、そのボーガニアンは重力の網によって守られている。

「……オレはターンエンドだ!」

 男のターンは終わり、遊戯のターンに移る。



(遊戯くん…)

(あの網で攻撃を無効化されているのに、ボーガニアン2体を倒すなんて無理だよ…!)

(もう、終わりだ…)

 ブレイブには、遊戯が負ける結末しか思い浮かばなかった。

 だが彼の隣には、遊戯の勝利を信じて見守る姿があった。

「遊戯、負けんなよ!」

 信じて応援する城之内の声が聞こえる。

「……」

(こんな状況でも、信頼しているんだ…!)

「城之内くん…」

 強い信頼の絆が、ブレイブの心を強く揺さぶっていった。

(まだ負けと決まったわけじゃあ……ないよね。)

 ブレイブは遊戯を見る。

 その表情は苦痛をこらえて辛そうにしているようには見えるが、勝負を諦めているようには見えなかった。

 遊戯はまだ負けてはいない。




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