15章 ゲーム続行


 男は笑っている。

「フフフ…」

 低い声で笑い続けている。

「やい、テメー! 負けといて何笑ってやがる!」

 遊戯の後ろから城之内が指をさしながら非難の言葉を浴びせる。

「オレは所詮分身…」

 男が言うと同時に、その体が徐々に闇に溶けていく。

「き、消える…!?」

 足元から徐々に男は消えていっている。

「ソリッドビジョンで消えたのか…?」

 城之内の考えを遊戯は否定する。

「いや、もしかしたら、この男『自体』が最初からソリッドビジョンなのかも…!」

 男はもはや頭を残して消えている。

 その頭も下から徐々になくなっている。

 この男の正体もまた闇の中に消えていくのか。

 頭だけになった男は最期に一言だけメッセージを残した。

「2階への階段は、甲冑の下。」

「……!」

 男が言い終わる頃には、その姿は完全に消えていた。

 だが、遊戯の装着したデュエルディスクはそのままだった。



 ――午後11時54分

 遊戯達は、言われたがままに広間にあった甲冑を調べていた。

「スイッチだ…」

「わ、罠じゃあ…ないよな…?」

「フ…、半分踏み込んだようなものだけどな…」

――カチッ

 遊戯はためらうことなくスイッチを入れる。

――ガガガガガガ

 機械的な音と僅かな振動を立て、天井から階段が現れる。

「なるほど…。階段は直接隠してあったんじゃないんだ。」

 感心した様子でブレイブが言う。少し余裕が出てきたようだった。



 1分程で音は止まる。

 部屋の中央に階段が現れた。

「行くぞ、みんな!」

 先頭を切って遊戯は階段に足を掛ける。

 城之内とブレイブは深く頷いて、遊戯に続いた。



「ハハハ…。来たな…」

 階段を上るや否や、低くくぐもった声が聞こえる。

 1階で聞いたのと同じ声。

 そこには男が立っていた。黒いコートを纏い、全身黒で固めている男。

 疑うまでもなく、その男は1階で闘った男と同一人物だった。

「さては、てめーが本体かぁ!」

 城之内が一歩前に出て睨みつける。

「今のうちに絶望を与えておこう…」

「何だとぉ!」

「オレは本体ではない。オレもまた鏡の作り出した分身…」

「鏡――千年鏡の力……」

 遊戯は思わず呟く。

「そう。オレの本体が持つ鏡は、自身の分身を作り出すことができるのだ。」

「く…、ポンポン増えやがって、コイツは…!」

 城之内はひがむ。

「ハハ……安心せよ。本体はこの上――3階にいる。お互い3人という訳だ…」

 指を上に向けて言う。

「つまり――」

 言いながら遊戯が前に出る。

 そして遊戯は男の方を向いたまま、消えない左手のデュエルディスクを構える。

「ここでお前を倒せば上へ行けるんだな!」

「そう、その通りだ…」

 男の左腕にデュエルディスクが浮き出てくる。

「遊戯くん、このまま連戦で…?」

「ああ。闇のゲームだろうが、こんな男に連戦しても負ける気はしないぜ!」

「でも…」

 ブレイブからは不安が抜け切らない。

 城之内はその肩に手を置く。

「ブレイブ、遊戯に任せるんだ…!」

「え?」

 振り返るブレイブ。

 薄暗い館で、その目に映ったのは城之内の瞳。そこからは不安など感じられない。

「あいつの力を信じろ!」

 城之内には遊戯に対する強い信頼があった。

「あ…」

 ブレイブは思い出す。

 御伽を捜そうとレストランを出た時に、遊戯と城之内に「信じて」もらえたことに。

「…うん、分かった。信じる!」

「よーし!」

 そう言って城之内も頷いた。

 遊戯がさらに一歩前に出る。

「頑張れ、遊戯!」

「負けないで!」

「ああ!」

 強く返事をして、セットされたデッキからカードを5枚引く。

 そして――

「デュエル!」

 2回戦が開始された。



「オレのターン…」

 先攻は黒装束の男。

 男は手札から1枚のカードを裏側のままディスクにセットする。

「オレはリバースカードを1枚セットし、ターン終了…」

 モンスターを出すことなくそのままターンを終えた。



「オレのターン!」

 気合いを入れ直し、遊戯は宣言する。

 そのまま右手をデッキの上に伸ばしカードを引こうとする。

 しかし――

「な、何だと…!」

 遊戯の手が止まる。

「ど、どうしたってんだ、遊戯!?」

 遊戯の視線はある1点に向けられている。

 それはデッキではなく、すぐ左の小さなディスプレイに。

黒装束の男
LP 4000

伏せカード






遊戯
LP 1000

「オレのライフが…1000に!」

「い…!」

「そ、そんな…!」

「ありえねぇぜ…。普通にやってりゃ、最初のライフは4000のハズだ!」

「ああ。オレもそんな操作をした覚えはない。」

「何か原因があるんじゃ…」

「原因……。まさか…!」

 遊戯は異変の正体に気づく。

「オレのライフ――1000ポイント…。これは、前のデュエル終了時のライフ…」

 呟く。

 その一言に、城之内とブレイブも理解を示した。

「そうか…! だから1階のヤツは道連れにするような戦術を!」

「遊戯くん…!」

 困惑する遊戯達を見て、男は笑みを浮かべる。

「そう…。このゲームは3階の本体を倒すまで、ライフは戻らない…」

「ここはライフポイントが精神力となる闇のゲーム。ライフを失うごとに精神は消耗していく。」

「現に遊戯、貴様の精神力は既に削られ、疲労を感じているはずだ。まあ、表面上だけは気付かれないように、無理をしているようだがな…」

「く…」

「さあ、デュエルを続けろ! 貴様のターンだぞ!」

 遊戯は改めてデッキからカードを引き、そのカードをそのまま場に出す。

「ジャックス・ナイト召喚!」

黒装束の男
LP 4000

伏せカード



ジャックス・ナイト
攻撃表示
攻1800
守1200
遊戯
LP 1000

「お前の場にはモンスターはいない! このまま直接攻撃だ!」

 ジャックス・ナイトが剣を構える。

「リバースカード発動! スケープ・ゴート!」

「く…!」

 場に4体の身代わり羊が現れる。

 ジャックス・ナイトはその1体だけを斬り、そのまま攻撃を終えてしまう。

「……。ターンエンド…」

 覇気の抜けた声でターン終了宣言をする。



「オレのターン…ドロー…」

 男はカードを引く。

 引き当てたカードはモンスターカード。

「いいカードを引いた…」

 呟いて、男の表情が変わる。

「……」

 その様子を見るだけの遊戯。

 男はそのカードを場に出す。

 それはモンスター、機械型のモンスターだった。

 歩行型の機械兵器で、その装甲は青紫。そして頭には1つの砲身が装備されている。

黒装束の男
LP 4000
羊トークン
守備表示
攻0
守0
羊トークン
守備表示
攻0
守0
羊トークン
守備表示
攻0
守0
キャノン・ソルジャー
攻撃表示
攻1400
守1300


ジャックス・ナイト
攻撃表示
攻1800
守1200
遊戯
LP 1000

「キャノン・ソルジャー!」

「そう…。名前を知っているなら効果も説明する必要はあるまい…」

 遊戯のライフは1000ポイント。勝利を確信したかのように男は笑う。

 ――キャノン・ソルジャーは、1つの特殊能力を持っている。

 それは自分のモンスターを砲弾にして発射し、相手プレイヤーに500ダメージを与える能力。

「羊トークンを発射!」

――ズン!

「ぐあっ!」

 遊戯 LP 1000 → 500

 そしてその特殊能力は、自分の場にモンスターがいる限り、1ターンに何度でも使用できるのだ。

「2体目の羊トークン発射!」

 無常に響く男の声。

 現在の遊戯のライフは500。

 キャノン・ソルジャーの特殊能力で与えるダメージも500。

――ズン!

 弾が発射される。

「遊戯くん!!」

 発射音と同時に、ブレイブの声が響く。

 だが、弾は確実に遊戯の腹部に命中する。

「く…」

 遊戯は右手で腹を押さえ、膝をつく。

「遊戯くん…!」

 駆け寄るブレイブ。

 しかしそれは遊戯自身によって止められる。

「まだ、終わってないよ!」

 そう言って平然と遊戯は立ち上がる。

「え…?」

 ブレイブは止まる。

「何だと…!」

 そして、男が初めて驚愕の表情を見せた。



「待ってたぜ、遊戯!」

 城之内が声を掛ける。半ば嬉しそうな声色だ。

「うん! バトンタッチしてきたよ!」

黒装束の男
LP 4000
羊トークン
守備表示
攻0
守0
キャノン・ソルジャー
攻撃表示
攻1400
守1300


ジャックス・ナイト
攻撃表示
攻1800
守1200
遊戯
LP 3500

「遊戯のライフが3500に…! 何故…!」

「もう一人のボクからの伝言。」

「……!?」

「『ゲームは常にフェアであれ』だってさ…」

「ぐ…」

「あと、ボクからもひとつ。」

「……ゲームはまだ始まったばかりだぜー!」

「お、おのれ……」





補足

それなりに説明しているのですが、この闇のゲームでは精神力がライフと直結しているので、2人の遊戯はそれぞれで別々のライフを持ちます。




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