14章 闇に現れた男


 ――午後11時25分

 海馬とスエズの闘いの最中、遊戯、城之内、ブレイブの3人は、御伽を捜すため、ホラーハウスにやってきていた。

 ホラーハウスには、ソリッド・ビジョンによって人の姿を消してしまう技術が使われている。このため、人を隠すのにも好都合なのだ。

 そして何より、もう一人の敵の存在――千年鏡を持つとされる敵…。

 その敵もまた、ここにいるのだろう。



「御伽ぃー!」

「御伽くーん!」

 ホラーハウス内に遊戯達の声がこだまする。

 しかし返事は返ってこない。

「見つからないね…御伽くん…」

「ああ、ソリッドビジョンで消されてるだけじゃねえみてぇだな…」

「オレ達の姿が消えないだけまだいいのかもしれない。とにかく徹底的に捜そう! 目で見るだけでは駄目だ!」

「ああ!」

「うん…」



 ――午後11時38分

 御伽を捜してから10分以上経過した。

 しかしまだ御伽は見つからない。

「あらかた捜せるところは捜した…。ここにはいないンじゃねえのか?」

 城之内が振り向きざまに言うが、

「上、あるんだよな、ここ…」

「え?」

「あ、そうか…!」

 唐突の遊戯の呟きに、城之内は面食らうが、ブレイブはすぐに理解を示し頷く。

「?」

「このホラーハウス、3階建てだから…」

「そういや、そうだったけどさ、どこにも上へ続く階段なんてなかったぜ。2階3階は単なる飾りみたいなもんだろ…?」

「階段も隠してあるんだと思うよ…」

「そ、そうか…! そんじゃ、階段探すぜ――」

――カツン…

 城之内がちょうど意気込もうとした時、小さな物音がした。

「あ、オレなんか蹴っちまったみたいだ…」

 そう言って城之内は、その蹴ったモノを拾う。

「あれ?」

 それはどこかで見た記憶のあるものだった。

「コレって…あン時のピースの輪に似たキーホルダー…」

「…?」

「ああ、ブレイブは知らねえんだったな…。コレはな、御伽のヤツがここでもらったキーホルダーなんだ。」

「御伽くんの…? それじゃあ、御伽くんはやっぱりここに…!」

「ああ…」

 その瞬間、背後に気配を感じた。

「ハハハ…! まさかそんなキーホルダーが落ちているとはな…!」

 低い声が部屋に響き渡る。

「何!」

「だ、誰だ!」

 振り向く遊戯達。

 そこには見知らぬ男が立っていた。

 男は夏にも関わらず黒いコートを纏い、全身黒で固めている。

「貴様達の推測通り、御伽はこの館の3階にいる…」

「っつうことは、てめえが…さらったのか!?」

「フフフ…その通り。そして返して欲しくば、オレと闇のゲームを行わなければならない…!」

 男はそう言って、左手を軽く前に突き出す。

 みるみるうちにデュエルディスクが浮かび上がっていく。



「よし、オレがやる!」

 遊戯が一歩前に出た。

「遊戯なら、速攻で決められるぜ!」

「頑張って…!」

「ああ!」

 遊戯も左手を軽く前に突き出す。

 すうっとデュエルディスクが現れる。

「分かっているだろうな。敗北した方は魂を奪われる…闇のゲームだ!」

「…ああ。」

 辺り一面、重苦しい空気に包まれる。

 デッキをディスクにセットする。

 そして――

「デュエル!」

 決闘が始まった。



「オレのターン…」

 先攻は黒装束の男。

「オレは――ニードル・ボールを守備表示にて召喚し、ターンを終える!」

 場に球状のモンスターが現れる。その球は全身トゲに覆われている。



「オレのターン! ドローカード!」

 遊戯はカードをドローすると、そのまま手馴れた手つきでカード1枚をディスクに出す。

「オレは――異次元の女戦士を召喚!」

黒装束の男
LP 4000
ニードル・ボール
守備表示
攻750
守700


異次元の女戦士
攻撃表示
攻1500
守1600
遊戯
LP 4000

(ニードル・ボールの守備力は700と低い…。だが、ニードル・ボールには特殊能力がある…)

(その特殊能力とは――ニードル・ボールが倒された時、そのトゲによってお互いにダメージを与える能力…。しかし、この特殊能力は相手の受けるダメージの方が多いはず! ならば――)

「オレは異次元の女戦士で、ニードル・ボールを攻撃!」

 異次元の女戦士は素早く詰め寄りその球の中心に剣を突き刺す。

「ニードル・ボール破壊!」

「フフ…。しかし、特殊能力で貴様はダメージを負う!」

 男が宣言すると共に、剣の突き刺さったニードル・ボールはトゲを飛ばす。

――ビュゥ!

 飛ばされたトゲが遊戯に体に突き刺さる。

「く…」

 遊戯 LP 4000 → 3000

「…だが、お前もダメージを受ける! しかも、2000ダメージをな!」

 黒装束の男 LP 4000 → 2000

 男も全身トゲが刺さっている。ニードル・ボールから近いからか、遊戯よりもその数は多い。

 しかし、男は苦痛の顔一つ浮かべてはいない。

 辺りは暗かったが、それは遊戯にも取るように分かった。

「く、ターンエンド…」



「オレのターン…」

 男は低い声で宣言して、ゆっくりとカードを引く。

「オレは…墓守の呪術師を守備表示で召喚!」

黒装束の男
LP 2000
墓守の呪術師
守備表示
攻800
守800


異次元の女戦士
攻撃表示
攻1500
守1600
遊戯
LP 3000

「また、ダメージモンスター…!」

 遊戯が顔をしかめる。

「その通り…。墓守の呪術師が召喚されると相手に500ダメージの呪いをかける…」

「ぐっ…」

 遊戯 LP 3000 → 2500

「オレのターンは終了だ…」



「遊戯くん、大丈夫かな…」

 苦しむ遊戯を見てブレイブは心配する。だが――

「大丈夫に決まってんだろ。あいつはゲームじゃあ絶対負けねえぜ。闇のゲームはむしろ得意部門っつうくらいだ…」

 城之内は表情一つ崩さず言う。

「それに、ダメージ受けてるっつてもよ、どっちかっつうと相手の方がやばいぜ…。自滅してるぜ、ありゃあ…」



「オレは磁石の戦士βを召喚! モンスター2体で攻撃だ!」

 遊戯のターン。

 遊戯の異次元の女戦士が墓守の呪術師を倒し、磁石の戦士βが男に直接攻撃をする。

――バギィィィ!

「……」

 男は声一つあげないまま、半歩程後ろに押される。

 黒装束の男 LP 2000 → 300

 もう男のライフは残り少ない。

「ターンエンドだ!」

 遊戯はターンを終える。その表情に余裕はない。

(く…、何を企んでいる!)

 黒装束の男は余裕の表情。それがまた、遊戯を警戒させていた。



「オレのターン…」

 静かな声でデュエルを進行していく。

「オレは、2枚目の墓守の呪術師を召喚!」

「まただ…!」

 遊戯 LP 2500 → 2000

 呪術により遊戯のライフは減る。

 しかし、致命傷になるほどのダメージではない。

「リバースカードを1枚セットし、ターンエンド…」

黒装束の男
LP 300
墓守の呪術師
守備表示
攻800
守800
伏せカード


 
異次元の女戦士
攻撃表示
攻1500
守1600
磁石の戦士β
攻撃表示
攻1700
守1600
遊戯
LP 2000



「おいおい、このまま遊戯の勝ちかあ? あっけねえな…」

「ううん、あのリバースカードが怪しいよ!」

「ああ、そうだな…! アレで一発逆転を狙っているのか…?」

「多分ね。…これからが、正念場だと思う!」



「オレのターン!」

(奴の場にある伏せカード…。アレがキーカードになっているに違いない! だが、ここで引き下がるのも勝機を逃すことになり得る…)

(よし、このままモンスターを追加召喚せずに攻撃し、相手の出方を見る!)

「オレは異次元の女戦士で墓守の呪術師に攻撃!」

 男はニヤリと笑みを浮かべる。

(やはりトラップか!)

「トラップカード発動――破壊リング!」

「何!」

 爆弾が取り付けれた指輪が、「墓守の呪術師」に装備され――

――ズガアアァァン!

 そのまま爆発した。

「な、なぜ…! 破壊リングは自軍のモンスターを破壊した後、『お互い』に1000ダメージを与えるカード…。つまり――」

 遊戯 LP 2000 → 1000

 黒装束の男 LP 300 → 0

「やはり、男のライフは0…! な、何を考えている…この男!?」

 遊戯は唖然として、男を凝視する。

 男は笑ったままだった。




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