12章 神の如く


「さあ…私のターン…」

 スエズはカードを引く。

 現在、フィールドはウイルスに侵食されつつある。

 それにより、海馬のモンスターは1体も残っていないのだ。

 海馬の表情は険しかった。

「私はデッキリーダーを前進させ、シェイプ・スナッチを召喚します!」

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ニュート
攻撃表示
ATK 2400
DEF 900

















【スエズ】
LP 3700


















スナッチ
攻撃表示
ATK 2200
DEF 2100

























【海馬】
LP 2700









 奇妙な格好をした魔法使いがフィールドに現れる。

(ウイルスの地形でも平然としている…。やはりこいつも旧神族なのか…)

「さあ、あなたなら気付いていると思いますが、シェイプ・スナッチも旧神族…。ウイルス地形は得意です。」

「……」

「得意地形は、攻守を上げるだけではないのはご存知ですよね…?」

「く…!」

「現在、シェイプ・スナッチとデッキリーダーとの距離は2マス…。さあ、シェイプ・スナッチ! 2マス移動し、デッキリーダーに攻撃です!」

 シェイプ・スナッチはさらに奇妙な動きをしながらも、手に持つ杖をデッキリーダーに向ける。

――ズガガガガガ!

「ぐ…」

 海馬 LP 2700 → 1000

 衝撃が伝わり、海馬は多少後ずさりしてしまう。

「フフ…。このままではあなたを待つのは…敗北…」

「……」

「しかし…あなたのことだ…。この程度では何らかの逆転の手を見せる可能性がある…。よって、このターン、ニュートを2マス右に移動させる…」

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ニュート
攻撃表示
ATK 2400
DEF 900









【スエズ】
LP 3700











































スナッチ
攻撃表示
ATK 2200
DEF 2100
【海馬】
LP 1000









 ニュートが右端まで移動する。

「く…囲まれた…!」

 海馬のデッキリーダーは壁と、スエズのモンスターによって逃げ道をなくしていた。

「フフ…これでもう逃げられない…。たとえ私のモンスターを倒しても、その後に待つのはウイルスの報復…」

「おのれぇ…」

「絶体絶命…。もちろん、ここで負けたらどうなるかは分かってますよね…?」

「く…」

「そう、あなたの魂は私が頂く…。いや、それだけではない…。モクバ様も…一生あのままなんですよ!」

 その言葉に海馬はカッと目を開く。

「…何だと!」

「フフフ…。私に怒りを感じていますね…。そしてもちろん私が憎いことでしょう…」

「貴様ぁ!」

 海馬は噛み付く。

「それでいいのですよ…」

 それを予想していたかのようにスエズは呟いた。

(……憎しみに身をゆだねたまま、敗北するがいい!)



「オレのターン!」

 海馬は大声を張り上げてターン開始宣言をする。

「…くっ。オレは、デッキリーダーを右に移動…。さらにカードを伏せ、ターンエンドだ。」

 デッキリーダーを守る位置に伏せカードが置かれる。

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ニュート
攻撃表示
ATK 1900
DEF 400









【スエズ】
LP 3700











































スナッチ
攻撃表示
ATK 2200
DEF 2100
????
守備表示
【海馬】
LP 1000







「私のターン!」

 場を見ながらスエズはまたニヤリと笑う。

「フフ…それにしても社長、また逃げの一手ですか…。おそらくその伏せカードは罠カードでしょうね…」

「……」

「しかし、このルールでは守りを固めさせる前に相手の手を摘むことが重要…。私は躊躇しない! ――シェイプ・スナッチ、伏せカードに攻撃!」

 奇妙な動きで攻撃を仕掛ける。

――シュウゥゥ…

 攻撃された伏せカードは何の抵抗も無く消滅していく。

「おや、罠ではなく魔法カードでしたか…? フフフ…、私でもたまには外すのですね…」

 スエズの余裕は消えない。

「私でも…だと? 貴様、神にでもなったつもりか…!?」

「神ですか…。フフ、そうかもしれません…。無比の存在、一点の曇りさえ無い存在…。私は、神にでもなったのでしょうかね…」

「…くだらん!」

「――さて、私は…ニュートを前進させ、ターンエンドです。」

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【スエズ】
LP 3700





ニュート
攻撃表示
ATK 1900
DEF 400






































スナッチ
攻撃表示
ATK 1700
DEF 1600
【海馬】
LP 1000







「オレのターン…ドロー!」

 カードを引いた海馬の顔に笑みが浮かぶ。

「ククク…」

「フフ…どうしました…社長?」

「一点の曇りもない神か…。なるほどな…」

「…何?」

 海馬の一言で、スエズの顔から余裕が消えた。

「自分を完全な存在に見立て、相手をののしる…。そうして相手を精神的に追い詰めていく…」

 予想範疇の内容だったのか、スエズに余裕が戻ってくる。

「ほう…。さすが社長、鋭いようで…」

 しかし、スエズの余裕はそれが最後だった。スエズが言い終わる前に海馬は口を開く。

「貴様の演じている神とやらから、もう一つ気付いたことがある。」

「……!」

「貴様は無理に隠しているのだ! 自分を――自分の中にある闇をな!」

「……っ!」

 瞬間、スエズの顔は凍りついた。

「誰にでも自分の心に闇はある。無論オレにもな! そして、人は自分の持つ闇と闘い、生きていかなければならない!」

「……」

「だが、貴様は――自分を神に見立てることで、自分の闇を隠し、相手だけでなく自分さえも偽っているただの臆病者……」

「な……」

「自分のことを棚に上げて人を責めたてるような臆病者の神に、今のオレが負けるはずがない!」

「し、しかし…この状況を見てみるがいい…。お前のデッキリーダーは、旧神族モンスターに囲まれ、反撃どころか逃げ道さえ……」

 取り繕おうとするスエズ。

 しかし逆に海馬は笑う。

「逃げるだと…」

「……」

「うわべだけの神にオレが負けるだと、逃げるだと! 笑わせてくれるわ!」

「だが、貴様では…!」

「フン、見るがいい! うわべだけの神の脆さをな! …デッキリーダーを1マス上に移動!」

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【スエズ】
LP 3700





ニュート
攻撃表示
ATK 1900
DEF 400














【海馬】
LP 1000




















スナッチ
攻撃表示
ATK 1700
DEF 1600









 デッキリーダーはシェイプ・スナッチの攻撃射程圏を脱し、2つの壁に二方を囲まれた位置に移動した。

「そ、それが、どうしたと言うんだ…? ただ、逃げただけではないか…!?」

「貴様は知っているはずだ…。このルールではデッキリーダーの周囲8マスにカードを出せることを…!」

「周囲8マス…。ま、まさか…!」

「そう、壁をナナメにまたいだこの位置にモンスターを召喚する! 召喚するモンスターは――青眼の白龍!」

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【スエズ】
LP 3700
青眼白龍
攻撃表示
ATK 3000
DEF 2500

ニュート
攻撃表示
ATK 1900
DEF 400














【海馬】
LP 1000




















スナッチ
攻撃表示
ATK 1700
DEF 1600









 神々しい光をまとって巨大な竜が現れた。

 誰もが怯んでしまうような威圧感だけではない。

 いかなる者にも負けぬ誇りと魂が、そこにはあった。

 そして、その瞳は確実に敵のデッキリーダーをとらえている。

「デッキリーダーの真横にブルーアイズ…」

 半ば上の空で、スエズは呟く。

「――そして、デッキリーダーのいる位置はウイルス地形だが、攻撃終了後にブルーアイズがウイルス地形にいることは無いため、ウイルスには感染はしない…」

「……」

「デッキリーダーに攻撃だ、ブルーアイズ! バースト・ストリーム!」

――ズキュウウウン!!

 その光線は、瞬く間にデッキリーダーに届き、そして――

――ズガアアアア!!

 大きな爆裂音をあげる。

「ぐわあああ!」

 スエズ LP 3700 → 700

 隠し続けていた心の闇に光が射した瞬間だった。




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