11章 信じる心、憎しむ心


 ――午後11時12分

 ルーレットレストラン3階・コントロールルーム。

 遊戯、城之内、ブレイブの3人は、モクバを杏子と舞に任せ、今後のことについて話し合っている。



「なあ、やっぱりオレ達、御伽のヤツを捜しに行った方がいいんじゃねえのか?」

「ああ…。千年アイテムが絡んだ以上、一刻も早く助ける必要があるぜ。」

 3人で話し合いをしているとは言っても、実際には遊戯と城之内だけで話は進行している。

 ブレイブは、壁にもたれかかったままほとんど口を開かなかった。



「…よし、決まりだ。」

 話が終わったのか、城之内はブレイブの方を向く。

「ブレイブ! これから、オレと遊戯で御伽のヤツを捜しに行く。お前はどうする?」

「え?」

 面食らったようにブレイブは顔を上げる。

「あ、ぼくは…。……。うん、行くよ…」

 ブレイブはもたれていた壁から体を離す。しかしその表情は暗いままだった。

「…無理しなくていいんだぜ。」

「…ううん、大丈夫。」

「…分かった。――それじゃあ、捜しに行くぜ!」

「ああ。」

「うん…」



 杏子と舞にモクバを頼み、遊戯、城之内、ブレイブの3人は、ルーレットレストランを出る。

 ドーム内は相変わらず静かだった。

「ねえ、どこを捜すの?」

 意外にもブレイブが最初に沈黙を破る。

「適当に回ってみる。あれこれ考えてる時間がもったいねえ。」

「それはそうだけど…」

 ブレイブの様子を見て遊戯が気付く。

「ブレイブ…。何か心当たりでもあるんじゃないか…?」

「うん…」

 ブレイブは小さく頷く。

「何だよ、手がかりがあるんなら早く言えって!」

 思わず城之内はブレイブを責めてしまう。ブレイブの煮え切らない態度も原因だろう。

「ごめん…。でも…」

 ブレイブはうつむき加減で謝る。そして、その表情は固かった。

「ン…?」

「ぼくを…信じてくれる?」

 顔を上げ、遊戯と城之内の目を見て言った。

「……。…し、信じろって?」

 不意をついた発言と、その目に圧倒され、城之内はたじろいでしまう。

「……」

 しかし遊戯はブレイブの目をしっかり見据える。そして――

「オレは信じる。」

 その目を見たままそう言った。

「…え?」

 城之内は動揺したままだったが、遊戯とブレイブの表情を見て、頷く。

「ああ、オレも信じるぜ。」

 二人の返事を聞くなり、ブレイブの顔に笑みが浮かぶ。

「…うん。ありがとう。」

「ああ、それより――」

「分かってる。」

 ブレイブは頷いて話を進める。

「多分、御伽くんは……もう一人の敵に捕まっているんだ。」

「……!」

「もう一人……!?」

「うん。あと一人、『鏡』を持った敵がいる…」

 遊戯と城之内は驚きを隠せない。

「何でお前……」

 城之内は思わずそう言ってしまい、口をつぐむ。

「……いや、それで、そいつがどこにいるか分かるのか!?」

 ブレイブはそのまま話を続ける。

「ここからは推測だけど……多分、ホラーハウスにいると思う。」

「…だけどあそこは、オレもノディに襲われた後で、一応探した…。だが、そん時には何にも見つからなかったぜ。」

 それを聞いた遊戯がハッを目を見開く。気付いたのだ。

「そうか…。海馬ランドのスエズ…。あいつがオレ達に嘘をついていたんだ…」

「?」

「うん、ぼくも多分そう思う…」

「ど、どういうことだよ…。説明してくれよ…!」

 城之内はどうやら話が見えていないようだ。

「ホラーハウスには、人や物を消す仕掛けが使われているのは、城之内くんは知っているハズだ…」

「ああ。でもそれは解除したって…。あ!」

「そう、解除したと言ったのはスエズ本人なんだ。だから、奴が嘘をついていれば、まだあのホラーハウスの仕掛けは解かれていない!」

「だから、ホラーハウスにいるのか…」

「ああ。」

 城之内は大きく頷き、そして、そのまま駆け出す。

「おっしゃあ! 遊戯、ブレイブ、行くぜ!」

 わずかに振り返って城之内は言う。足は動いたままだ。

「ああ!」

「うん!」

 遊戯とブレイブも、城之内に続いて駆け出した。





 同時刻、パーフェクトルールデュエル体験場。



「海馬社長…。あなたは、憎しみを感じたことはありますか…?」

 突如、スエズが海馬に問いかけた。

「貴様、血迷ったか!?」

 突然の言動に海馬は多少動揺してしまう。その口調は荒々しかった。

「…質問に答えてください。」

 スエズはまるでその反応を期待していたかのように、そのまま問い詰めようとする。

「…断る。」

 落ち着きを取り戻した海馬は、腕組みをして拒絶する。

「まあ…いいでしょう。この世に憎しみを感じたことのない人なんていませんからね…」

 ニヤリと笑うスエズ。

 海馬は顔を歪める。

(こいつ…何が目的だ…?)

「さて、私はデッキリーダーを前進させてターンを終えましょう。」

 何事もなかったように、スエズはデュエルを進行する。

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【スエズ】
LP 4000





















ニュート
攻撃表示
ATK 2400
DEF 900











































【海馬】
LP 2700








































「オレのターン…!」

 スエズの態度に苛立ちながらも海馬はデュエルを進行していく。

(く…手札が悪い! ひとまず魔法カードを盾にするしかない…)

「オレは、デッキリーダーを後退させ、カードを守備表示で伏せる…」

 責めの手が見つからない海馬は仕方なく守りに入る。

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【スエズ】
LP 4000





















ニュート
攻撃表示
ATK 2400
DEF 900











































????
守備表示





















【海馬】
LP 2700













「フフ…。逃げの一手ですね…。これは後ろめたさの象徴でしょうか…?」

 スエズはまたニヤリと笑う。

「ぬぅぅ、いちいちカンに触ることを! ……ターンエンドだ!」



「私のターン…」

 余裕面でスエズはデッキからカードをドローする。

「私は、ニュートを横に移動し、中央の最短ルートを確保…。そして、デッキリーダーを1マス前進させ、このモンスターを召喚…!」

 奇妙な形をしたモンスターが場に現れる。

「リグラス・リーパー召喚!」

 人型だが、その容姿は人のそれとはかけ離れている。手に持った大ガマが妙にマッチして不気味に映っている。

「そして、リグラス・リーパーも旧神族…。ウイルスでは破壊されない!」

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【スエズ】
LP 4000
ニュート
攻撃表示
ATK 2400
DEF 900

















リグラス
攻撃表示
ATK 2100
DEF 600


















????
守備表示





















【海馬】
LP 2700













「そして、あなたの伏せカードに攻撃です!」

――ブゥン!

 カマを大きくなぎ払う。

「ちっ…」

 そのカードは魔法カード・ドラゴンを呼ぶ笛。何の抵抗もなく消滅した。

「さあ、あなたのターンですよ、社長…」



「く…。オレのターン…ドローカード!」

(このまま奴に主導権は握らせん!)

「オレは、デッキリーダーを右に移動…!」

(そして、現在の場の状況は…)

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【スエズ】
LP 4000
ニュート
攻撃表示
ATK 2400
DEF 900







































リグラス
攻撃表示
ATK 1600
DEF 100

























【海馬】
LP 2700









(今、リグラス・リーパーはウイルス地形の外――つまり、オレのモンスターが攻撃しても攻撃後にウイルスに感染することはない。)

(しかも、得意地形の外であるため、攻撃力も低下している。)

(ならば…!)

 手札のモンスターカード1枚に手をかける。

「オレは――ブラッド・ヴォルスを召喚! リグラス・リーパーに攻撃する!」

 ブラッド・ヴォルスの持つ斧が、リグラス・リーパーの持つ大ガマを弾き飛ばし、そのまま胴を切り裂く。

「リグラス・リーパーを撃破!」

 スエズ LP 4000 → 3700

「フフ…」

 しかし、スエズは何の動揺も見せない。

 胴を切り離されたリグラス・リーパーは堰を切ったように、ひとりでに全身がバラバラになっていく。

 その様子は糸の切れた操り人形……そのものだった。

 バラバラになった体は地面に散らばり――そこから紫色の煙が湧き出す。

――フシュウゥゥ…

「煙……。 ……!! ま、まさかこの煙は…!」

「そう、ウイルス…」

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【スエズ】
LP 3700
ニュート
攻撃表示
ATK 2400
DEF 900







































ヴォルス
攻撃表示
ATK 1900
DEF 1200

























【海馬】
LP 2700









 突如、ブラッド・ヴォルスの顔に苦痛の色が浮かび、そのまま消滅していった。

「く…」

「フフフ…。ウイルス地形では攻撃力1500以上のモンスターは感染、消滅する…」

「旧神族――彼らは神に歯向かう者に制裁を与えたと言われています…。そう、このウイルスの制裁をね!」

 スエズは両手を広げ、問いかける。

「さあ、あなたはこの神に勝てますか…?」

 その顔と声には、異様なまでの自信があった。




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