10章 古き神
――午後11時05分
パーフェクトルールデュエル体験場。
ここは本来、子供達を喜ばせるためにあったものだ。
しかし、今、そこにはあるのは燃えたぎる闘争心。
海馬、スエズ、共にその目には強靭な意思が感じられた。
すぐ側には審判役の磯野が立っている。
彼は、先程かなりの量のワインを飲んでいたのだが、今は既に酔いから覚めていた。
「デュエルを始める前に、貴様に聞いておきたいことがある…」
カードシャッフルを終えた海馬が、スエズにデッキを渡しながら尋ねる。
「何でしょう…」
「貴様の目的は何だ? こんなデュエルに勝って何になるというのだ!」
「フフフ…愚かな質問ですね…。しかし、社長の質問とあらば私もお答えしない訳には参りません。」
「く…、貴様…いちいち敬語を使ってくれるな!」
「すみませんね…。これはもう癖みたいなもので…。社員教育の賜物ですよ…」
「…フン、まあいい! それより、質問に答えてもらおう。」
「そうでしたね、目的を話さなければいけません…。単刀直入に言いましょう。私の目的は……魂です。」
「魂だと…!」
「ええ、魂です。このリング(指輪)を使って、誰か一人の魂を頂きたいのです。そのためには闇のゲームを行うのが一番いい…」
「フン…くだらん! オレはそんなオカルトグッズには騙されんぞ!」
「信用して頂かなくても結構です。私はこのデュエルであなたに勝てばいいだけなのですから…!」
「貴様ごときがオレに勝つだと…!?」
「ええ…」
「ククク…ワハハハハ! 入社早々面白い冗談を抜かしてくれるわ! 海馬コーポレーションの社員教育もユーモラスになったものだ!」
「喜んでもらえて光栄ですよ…!」
「行くぞ、スエズ…! デュエルだ!」
「ええ…!」
【パーフェクトルール概要】
フィールドの概念を持ったルール。7×7の大きさのフィールドを使う。
最初に「デッキリーダー」を決める。デッキリーダーはただの駒で、戦闘には参加しない。今回、デッキリーダーの特殊能力は水面下に隠れて機能している(召喚パワーの増減)。
自分のターンに1枚だけ、カードをデッキリーダーの周囲8マスに出すことができる。場に出すカードの種類は、モンスターでも魔法でも罠でも、裏側でも表側でも構わない。
モンスターは召喚パワーを用いて召喚するが、今回は自動補充の分で足りるので、意識する必要はない。召喚パワーさえあれば、高レベルモンスター召喚の際に生け贄は必要ない。
場のカードとデッキリーダーは、1ターンに1マスだけ移動することができる。
カードを移動した時に、相手のカードに重なったら、バトル開始。もし、それが魔法カードだったら、無条件で破壊。また、デッキリーダーに攻撃できれば、直接攻撃扱いになる。
カードによっては、パーフェクトルール特有の処理がなされることがある。
得意地形では攻守+500、1ターンに2マス移動可能になる。
今回は、「壁」地形(迷宮壁−ラビリンス・ウォール−)が初期状態で存在。いかなるカードもこの地形には侵入できない。
「まずはデッキリーダーを決める! オレは、カイザー・シーホース!」
「それでは私は…モイスチャー星人にしましょう…」
それぞれが場にデッキリーダーとなるモンスターをセットする。
緊迫した空気がさらに張り詰めていく。
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【スエズ】 LP 4000 |
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【海馬】 LP 4000 |
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「準備はいいですね…!」
「もちろんだ…! さあ、デュエル開始の宣言をしろ! 磯野!」
「ハ、ハイ! デ、デュエル開始ィィィ!」
気迫と緊迫に押される形で、磯野は決闘開始宣言をした。
「オレの先攻!」
海馬の先攻でデュエルが始まった。
手札を見る。
(フフフ…。いきなり手札にあのコンボカードが揃った!)
「オレはデッキリーダーを進撃させ、カードを1枚攻撃表示で伏せる! …ターン終了だ。」
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【スエズ】 LP 4000 |
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???? 攻撃表示 |
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【海馬】 LP 4000 |
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「私のターン…」
「私は…カードは出さず、デッキリーダーの進撃だけ行い、ターンエンドです…」
宣言と同時に、デッキリーダーは1マスだけ前進する。
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【スエズ】 LP 4000 |
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???? 攻撃表示 |
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【海馬】 LP 4000 |
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「フン、カードを出さないとは自信過剰な…! まあいい、オレのターンだ!」
「オレは…場のカードを進撃させ、さらにカードを1枚攻撃表示で場に出す!」
2枚の伏せカードが隣あって並ぶ。
「さらに、今出したカードを前進させ――前のターンに出したカードに重ねる!」
海馬は、伏せカードの上に伏せカードを乗せる。
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【スエズ】 LP 4000 |
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???? 攻撃表示 |
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【海馬】 LP 4000 |
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「フフ…なるほど…。今のはモンスターカードに何らかのカードを仕込んだのですね…」
「ほう…さすがだな…。ここまで詳しいとは…」
「一応私はこのシステムの設計者の一人…。それくらい常識ですよ…」
「フン…。オレのターンは終了だ…!」
「私のターンですね…」
ターン開始してすぐに1枚のカードを場に出す。
「私は…ニュートを召喚!」
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【スエズ】 LP 4000 |
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ニュート 攻撃表示 ATK 1900 DEF 400 |
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???? 攻撃表示 |
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【海馬】 LP 4000 |
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ニュートの攻撃射程圏内に海馬の伏せカードがある。
「フフフ…。あなたが何を仕込んだかは分からないが、この攻撃力の前ではそう簡単に太刀打ちできない…」
「……」
海馬は無言のまま、わずかに顔をしかめる。しかし――
「私は、ニュートでその伏せカードに攻撃!」
これを待っていたとばかりに、海馬の表情は変わる。
「フ…かかったな!」
「…何!」
「伏せカードは…闇・道化師のサギー、普通のモンスターカードだ…。そして、貴様の推測通り、あるカードを仕込んでおいた…」
「……」
「だが、それもまた狙い…! 貴様が高攻撃力モンスターで攻撃することを予想してのこと…」
「く…」
「オレが仕込んだカードは――死のデッキ破壊! サギーは破壊されるが…その周囲1マスはウイルス地形と化す!」
海馬 LP 4000 → 2700
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【スエズ】 LP 4000 |
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ニュート 攻撃表示 ATK 1900 DEF 400 |
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【海馬】 LP 2700 |
壁
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ニュートの周囲の地形は、紫色に染まっていく。
「ウイルス地形では攻撃力1500以上のモンスターは死滅する! ニュート……破壊!」
(ククク…。ニュートを破壊したことでデッキリーダーへの進路を確保した…。次のターン、目にものを言わせてやるわ!)
海馬の優勢でデュエルは始まった……ように見えたのだが――
「社長、甘いですよ…!」
「何!?」
肝心のスエズは動揺するどころか、笑みを浮かべている。
「まさか勝手に自滅してくれるとはね…」
「どういうことだ、スエズ!」
逆に動揺してしまう海馬。声が荒立っている。
「場をもう一度良く見てくださいよ…!」
「……!」
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【スエズ】 LP 4000 |
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ニュート 攻撃表示 ATK 2400 DEF 900 |
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【海馬】 LP 2700 |
壁
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「ニュートが生きている!」
紫色に染まったウイルス地形――そこにニュートがいる。何事もなかったように、腹から上がぐるぐると回転している。
「フフフ…。それだけではありませんよ…」
「……!」
海馬は、もう一度フィールドを見回し、ウイルス地形で平然とたたずんでいるニュートのステータスを調べる。
ニュートの攻撃力は、1900から2400になっていた。
「…攻撃力が上がっている!?」
「そう…。ニュートは古き時代の神に使えた者――旧神族なのです。」
「旧神族だと…!」
(バカな…。そんな種族は存在しないハズ…!)
「フフフ…。どうやらM&W創始者は、カード化する時にこのことを知らなかったようですね…。旧神族の存在はごく最近発見されましたから…」
さらにスエズは続ける。
「ですから、このシステムを組む際に、私が旧神族を再現しておいたのです…」
「…くっ。」
「さて、お分かりの通り…旧神族はウイルス地形を得意としています。ですのでウイルスは通用しません…!」
「おのれぇ…」
「とんだ墓穴を掘りましたね…海馬社長…!」
「ぬうぅぅ…」
■補足■
パーフェクトルール再登場です。
「パーフェクトルール概要」で書きましたように、今回はデッキリーダーの特殊能力を意識する必要はないです。
いずれにせよ、細かいことを考えなくとも、図面、文章面で、できるだけ感覚的に分かるようにしてありますので、難しく考えなくてもOKです。