5章 襲撃


「それじゃあ、みんなで手分けして捜そう!」

 ――午後9時58分

 遊戯達は4手に分かれて御伽の捜索を開始した。

 海馬とモクバと伊佐坂はレストラン、遊戯と杏子はボーリング場、舞と磯野とブレイブはデュエル場、城之内とノディはホラーハウスを中心に捜すこととなった。



「御伽ーー!」

「御伽いないかぁー」

 ドーム内には御伽を呼ぶ声だけが響いている。

「御伽くーーん!」

「御伽さーーん!」

 何者かに監禁されている可能性もあるということで、ベンチの下や従業員専用ルームや倉庫など、細かいところにまで目を通していく。



 ――ホラーハウス裏手。

 城之内とノディもまた、御伽、御伽と叫び、辺りを見回しながら歩いていた。

 しかし、一向に御伽は見つからない。

 城之内は嫌々ながらもホラーハウスに目を向ける。

「ちっ、やっぱりホラーハウスの中を調べるしかねぇのか…」

 舌打ちをする。

「でもさ、さっき伊佐坂とかいう係員が、ここのソリッドビジョンはオフにしたって言ってただろ…」

 半ば呆れ顔のノディ。

 だが、その手は腰に巻いたポーチのチャックを開けたり閉めたりして、せわしない。

「ソリッドビジョンがオフなら、人が消えるってことはないんだけどさ、なんつーか、最初に来た時のトラウマっつうか…」

「意外と肝小さいな、城之内。」

「く…」

 ついには見知ってすぐのノディにまで馬鹿にされ始める。

「い、いくぜ! ホラーハウスに!」

 強がる城之内。だが――

「あ、思い出した。ホラーハウスの照明…動かないって言ってたな。」

 ノディの呟きに、扉に掛けた手が止まる。

「う…。く、暗いのは苦手だ…」

 扉の方を向いたまま、情けない声を出す城之内。

「…暗いのが…苦手ねぇ…」

 ノディは多少低い声で呟きながらも、ポーチのチャックに再び手を掛ける。

「苦手、なら…」

 そのままポーチのチャックを全開にする。

 そして僅かな沈黙。

「なら…?」

 ノディの方を向き直りながら、先を促す城之内。

 ノディの目つきが変わる。



「なら…永遠の闇に送ってやろうか?」



 全開になったポーチの中から、壺のような物を取り出してノディは笑った。

 その表情は今まで見せていた好青年のものとはかけ離れていた。

「え?」

 唐突な一言から城之内がその意味を把握するより早く、その壺から淡い光が放たれる。

「ま、まさか――!」

 気付いた時には既に遅かった。

 壺の光は輝きを増し、それは城之内を包み込む。

 3秒と経たないうちに、城之内を覆っていた光は壺へと戻る。

 城之内は意識を失い、そのまま地面に倒れこんでしまった。

 その様を見てノディは一言だけ呟いた。

「魂はもらった…」



 しばらくすると、壺自体にとどまっていた光も徐々に消えていった。

 光が完全に消えると、ノディは壺を両手で力強く握りしめる。

 その表情は真剣だ。

「………」

 どうやら、壺に念を込めているようだ。

 壺は黄金色から暗い紫色に変色していく。

 念を込め終わると、ノディは壺の口を倒れている城之内の方に向けた。

「返してやるよ、魂は…。しかしその魂は、既にオレの支配下にあるけどな…!」

 淡い光が壺から城之内の方へ飛んでいく。

 その光は城之内の体に入ると共に消えた。

「………」

 10秒と経たずして、城之内が起き上がる。

 スローモーション映像の如く、ゆっくりとゆっくりと立ち上がる。

「さて、城之内、お前はオレの思うがまま…。遊戯と闘い、苦しみを…憎しみを…絶望を…植えつけてくるのだ!」

 ノディは城之内に向かって叫ぶ。

「………」

 城之内は無言のまま顔をあげた。その目には狂気じみた顔のノディが映っている。

「さあ、行け! 遊戯と闘ってこい!」

「………」

 まっすぐにノディを見る城之内。

 そのままゆっくりと頭を下げる。

 この様子を早送りさせたなら、頷いているように見えるのかもしれなかった。

「………」

 頭を下げ、視線を落とした城之内は、自分の右手を見る。

 だらしなく垂れ下がった右手に力を入れていく。

 力を入れられた右手は拳を作る。

 その拳は徐々に城之内の顔の前まで持ち上がり、そして、城之内の口が動く。

「歯ぁ…食いしばれ…」

「何?」



――バキィィィィ!



 城之内はその拳でノディの右頬を殴りつけた!



「ぐはぁ!」

 ノディは1メートル近く吹っ飛ばされて倒れる。

 口からは僅かに血の筋が見られる。

「な…何故…!」

 ノディは困惑していた。

 殴られた痛みを感じないほど困惑していた。

「そ、そんなはずは…!」

 口元から流れる血が自分の服を汚し始めていることにも気付かず、ただ動揺している。

 城之内は殴りつけた右手を軽く振って、ノディに近づく。

 ノディは倒れたまま、顔だけ城之内の方を向く。

 ノディは城之内に見下された格好だ。

 そのまま城之内は笑い出す。

「わははははー! ざーんねんでしたぁ、ノディちゃん!」

「……!」

 たった一言に怯むノディ。自信溢れる城之内。

 立場は逆転。

 パニックになったまま動けずにいるノディに、城之内は真顔で言う。

「オレと遊戯を闘わせることはできねえぜ! オレ達の友情は、何があっても崩せねぇんだよ!」

 その目はまっすぐにノディをとらえていた。



「さて、この怪しげなツボはもらっていくぜ…」

 城之内はノディの後ろに転がった壺に向かっていく。

 動揺しているノディだったが、壺に近づく城之内に気付き、我に返る。

(あの壺だけは…取られてはいけない!)

 ノディは城之内よりも早く壺を拾い上げると、その壺を素早くポーチにしまい込む。

「はぁ…はぁ……。…なら、貴様の魂だけでもいただく!」

「そんなモン! もう通用しねえよ!」

「この壺はな…お互いの魂を賭けたゲームによって、その力を最大限に引き出せる!」

「ゲーム…!?」

 ノディはジーンズのポケットからカードの束を取り出す。

「デュエルだ…! 敗者はその魂をこの壺に封印される――闇のゲームだ!」

 壺が入ったポーチからどす黒い気体が辺りに充満していく。

「闇のゲーム…!」

 周囲が黒に包まれていくと共に、二人の左腕にはデュエルディスクが浮き出てくる。

(デュエルディスク…!?)

 デュエルディスクに目を奪われている間にもあたりは黒色に染まっていく。

 ついには城之内とノディは闇に包まれた。

 空気が重苦しくなる。

(これは…千年アイテムが見せた闇のゲームと同じ雰囲気…!)

 戦慄を覚えた。

 しかし、それに怯むことなく、ポケットからデッキを取り出し、デュエルディスクにセットする。

「ああ、闇のゲームだろうが何だろうがやってやるぜ!」

「フフフ…後悔するなよ…!」

 二人は睨み合った。

 そして――

「デュエル!」

 どちらからともなくデュエル開始の宣言をした。

 闘いの火蓋が今切って落とされたのだ。



「オレから行くぞ…ドローカード!」

 ノディの先攻でデュエルは開始された。

「オレは――こいつを召喚――暗黒の海竜兵!」

ノディ
LP 4000
暗黒の海竜兵
攻撃表示
攻1800
守1500





城之内
LP 4000

「さらに――カードを1枚伏せてターン終了だ!」



「オレのターン! ドロー!」

(オレの手札には攻撃力1850のガガギゴがある…。こいつを召喚すれば、暗黒の海竜兵を倒せるぜ!)

「オレはガガギゴを召喚! そして――暗黒の海竜兵に攻撃だ!」

 その瞬間、ノディはニヤリと笑みを浮かべ、下を指差しながら――

「フフフ…お前の目は節穴かぁ…? オレの場には伏せカードがあるんだよ!」

「…そんなこと百も承知だぜ…!」

「ならばお望みどおり発動させてやる! フィールドカード――伝説の都アトランティス!」

 直後、周囲は海に沈む。

「アトランティスが場にある限り、水属性モンスターの攻撃力・守備力は200ポイントアップ! ――暗黒の海竜兵の攻撃力は2000となり、ガガギゴは返り討ちに遭う!」

 それを聞いて城之内は笑い出す。

「ハハハ…! お前…オレよりバカなんじゃねえか…?」

「な、何だと!」

「フィールドを良く見てみろって!」

ノディ
LP 4000
暗黒の海竜兵
攻撃表示
攻2000
守1700
伝説の都アトランティス
水属性モンスターの
攻守+200


ガガギゴ
攻撃表示
攻2050
守1200
城之内
LP 4000

(ガガギゴの攻撃力が上がっている…ガガギゴも水属性だというのか…!)

「いきなり墓穴を掘ってくれてありがとよ! ガガギゴの攻撃が炸裂するぜ!」

 ガガギゴは水の中を舞い、暗黒の海竜兵に蹴りを入れる。

――バキィィィ!

 暗黒の海竜兵の鎧は砕け、その体は彼方へ吹っ飛ぶ。そしてそのまま、海に溶けていった。

 ノディ LP 4000 → 3950

「く…くそ…!」

「フ…てめえごときじゃあオレは倒せねぇんだよ!」




前へ 戻る ホーム 次へ