6章 古代都市の崩壊
「オレは…カードを1枚伏せ、ターン終了!」
デュエルは城之内の優勢で始まった。
城之内は声高らかにターンエンドを宣言する。
その表情は自信に満ち溢れていた。
「く…オレのターン…!」
ノディは、前のターンでの失敗を振り払うかのように、勢いをつけてデュエルを進行する。
「ドローカード!」
デュエルディスクから無造作にカードを1枚ドローする。
ドローカードは、水属性・レベル5のモンスター「暗黒大要塞鯱(シャチ)」。
レベル5なので、普通なら召喚する際に、生け贄が必要なカードだが――
「オレの場にあるアトランティスは、その文明を利用した特殊能力がある…!」
「何…!?」
「暗黒大要塞鯱を召喚!」
「要塞シャチ…! レベル5のモンスターをいきなり出しただと!」
ノディ
LP 3950
暗黒大要塞鯱
攻撃表示
攻2300
守1400
伝説の都アトランティス
水属性モンスターの
攻守+200
水モンスター1レベルダウン
ガガギゴ
攻撃表示
攻2050
守1200
伏せカード
城之内
LP 4000
海の中に武装されたシャチが出現した。
大きさだけならガガギゴの10倍以上は確実にあるだろう。
「アトランティスが場にある時、水属性モンスターのレベルは1少なくなる…。つまり、レベル5のモンスターはレベル4になり、生け贄は不要になるのさ!」
「く…迂闊だった…!」
「フ…今さら後悔しても遅いよ! 要塞シャチの攻撃! ガガギゴを破壊するんだ!」
攻撃宣言と共に巨大なシャチの口が開く。その口の中には大砲が仕込まれている。
シャチはその身をくねらせ、ガガギゴに大砲の照準を合わせる。そして――
「……な〜んてな!」
城之内は笑った。
「何!」
「…お前の目は節穴かぁぁ? オレの場には伏せカードがあるんだよなぁ〜!」
城之内はニヤニヤしながら自分の伏せカードを指差す。
「こ、この…野郎…!」
「リバースカードオープン! 悪魔のサイコロ! このカードで攻撃モンスターの攻撃力を下げるぜ!」
水中を舞うように悪魔が現れサイコロを投げる。
その目は「2」を指していた。
ノディ
LP 3950
暗黒大要塞鯱
攻撃表示
攻1150
守1400
伝説の都アトランティス
水属性モンスターの
攻守+200
水モンスター1レベルダウン
ガガギゴ
攻撃表示
攻2050
守1200
悪魔のサイコロ
サイコロをふり
出た目をXとする。
相手の攻撃力は1/Xとなる。
城之内
LP 4000
「つまり、要塞シャチの攻撃力は半減!」
――ドン!
シャチの大砲から砲弾が発射される。
しかしそのスピードは目に追える程度。ガガギゴは難なくかわし、間合いを詰める。
「さあ、ガガギゴの反撃だぜ!」
――バギィィィ!
ガガギゴの蹴りが炸裂し要塞シャチは爆発、消滅する。
ノディ LP 3950 → 3050
「こ、この…!」
「フフフ、甘いな、デュエル初心者君…! てめえじゃあオレには勝てねえよ!」
「く…調子に乗りやがって! カードを1枚伏せ、ターンエンドだ!」
「フ、オレのターン…ドローカード!」
城之内は華麗に――いや、少なくとも本人の中では華麗に、カードを引く。
「さあ、反撃行くぜ! オレはリトル・ウィンガードを召喚! そして――」
「おっと、その前にこのカードを発動! 隠れ兵!」
「…隠れ兵?」
「このカードによって、オレは手札からアクア・マドールを守備表示で特殊召喚する!」
ノディ
LP 3050
アクア・マドール
守備表示
攻1400
守2200
伝説の都アトランティス
水属性モンスターの
攻守+200
水モンスター1レベルダウン
隠れ兵
相手がモンスターを
召喚した時に
自分も召喚できる
ガガギゴ
攻撃表示
攻2050
守1200
リトル・ウィンガード
攻撃表示
攻1400
守1800
城之内
LP 4000
「アクア・マドール…。ちっ、壁モンスターか…」
城之内は軽く舌打ちをし――
「カードを1枚伏せ、ターンエンド…」
そのままターンを終えた。
「オレのターン! …ドローカード!」
ノディはカードを引き、そのまま目を閉じる。
(頼む…あのカードよ来てくれ…!)
祈るように徐々に目を開けていく。
その目に映ったカードは、「海竜−ダイダロス」。
(運命はオレを見放さなかった!)
「城之内…。お前に、見せてやるよ…!」
「ン…?」
「いにしえの都市の崩壊をだ…!」
「…崩壊?」
「アクア・マドールを生け贄に――海竜−ダイダロス召喚!」
アクア・マドールは淡い光と共に消滅し、そして、沈んだ都市からうっすらと影が現れる。
その影は次第に大きくはっきりとしたものになっていく。
ノディ
LP 3050
海竜−ダイダロス
攻撃表示
攻2800
守1700
伝説の都アトランティス
水属性モンスターの
攻守+200
水モンスター1レベルダウン
ガガギゴ
攻撃表示
攻2050
守1200
リトル・ウィンガード
攻撃表示
攻1400
守1800
城之内
LP 4000
「攻撃力…2800だと!」
大きな蛇…いや、竜と言ってもいい。その大きさはガガギゴを超越している。体長15メートルはあるだろう。
巨大な海竜が城之内の前に立ちはだかった。
「しかし、ダイダロスは攻撃力だけではない…。真の恐ろしさをお前に見せてやる!」
その瞬間――辺りを覆っていた水が消える。ダイダロスも消える。残ったのは、城之内のモンスターと…都市だけ。
その都市は、最初から何事もなかったように賑やかだった。
人がいる。
活気づいている。
「ど、どうなってンだ?」
城之内は辺りを見回す。
どこを見ても…ダイダロスどころか、海さえも見当たらない。
「一瞬にして過去に飛ばされたような…」
思わず城之内は呟いた。
「なかなか鋭いじゃないか…! そう、これは過去…。そして今から起こるのは…その惨劇!」
「惨劇…?」
「一夜にして沈んだ都市――アトランティス。…神には逆らえない。…運命には逆らえない。」
ノディは自嘲するような笑みを見せる。
「そして、これがその惨劇だ!」
その瞬間、あたりは暗転する。――夜になったのだ。
重い地響きが鳴ると同時に、遠くに何かが見えた。
「つ、津波…!」
遠くにぼんやりと見える地平線が高くなった。巨大な水の流れがそれを変えたのだ。
津波はダイダロスと共に迫ってくる。
「そして、アトランティスの者達は――神を恨み、運命を呪う!」
ノディがそう言った直後、津波が全てを飲み込んだ。
人も、町も、さらには、城之内のモンスターも、そこに伏せたリバースカードも全て飲み込まれ、消えていった。
残ったのは、都市の残骸、そして、海竜−ダイダロスのみ。
ノディ
LP 3050
海竜−ダイダロス
攻撃表示
攻2600
守1500
城之内
LP 4000
津波を追って来たかのように、前方からダイダロスが迫ってくる。
「喰らえ、ダイダロスの攻撃!」
都市の残骸を通り抜け、ダイダロスはその巨体をそのまま城之内にぶつける!
――ズガアァァン!
自動車と正面衝突したような激しい衝撃!
「ぐあああ!」
城之内は大きく飛ばされ、ホラーハウスの外壁に背中から叩きつけられた。
城之内 LP 4000 → 1400
「これが、アトランティス崩壊…! 人ごときでは逆らえない運命だ!」
倒れた城之内に言い放つノディの声。
「く、いててて…」
だが、城之内は体をさすりながらも立ち上がり、頭を軽く振る。
そして、まっすぐ前を見据えようとする。
「……!」
しかし、そこで城之内が見たものは……ノディの…涙であった。