4章 休息


 ――午後8時07分

 海馬ランドに閉じ込められた11人はルーレットレストラン1階に集まっていた。

 とりあえずは腹ごしらえ…ということで夕食にしていたのだ。

「磯野さん…これうまいよ!」

「あ、ありがとうございます!」

 11人は団体用の一番大きなテーブルに座っていた。

 もちろんコックはいないので、すぐにでも用意できる物で済ませるつもりだったのだが、磯野の活躍によってなかなか豪勢な夕食にありつけたのである。

 遊戯達は初めて磯野に感謝していた。



 ――午後8時21分

「ごちそうさま〜」

 各々満足そうな顔をして食器を片付けていく。

 海馬でさえもまんざらではなさそうだ。

「ブレイブ、お前は食わなくても大丈夫なのか?」

 城之内は、先程からずっと壁に寄りかかって立っているブレイブに話しかける。

「うん。大丈夫…。ぼくはいろいろ間食していたからあまり食欲出ないんだ…」

「そうか…? あんまり無理すんなよ。」

「うん、ありがとう。」

 そこに食器を片付け終わった遊戯が通りかかる。

「お、遊戯!」

「城之内くん。」

「今からさ――デュエル場行かないか?」

「ああ、いいぜ! 行こう!」

 遊戯は躊躇することなく頷いた。

「ちょっと遊戯、城之内――! 本気?」

 杏子が口を挟んでくる。

「別にいいじゃねえか…」

「ああ。こそこそ警戒している方が、敵の思う壺だぜ…!」

「遊戯の言うとーり! 敵に振り回されてたまるかっつーの!」

(単にデュエルしたいだけの気もするけど…)

「……分かったわよ。」

 杏子はしぶしぶ了解した。



「うわっ! これで3連敗…」

 城之内のライフ表示はまた0になっていた。

「またオレの勝ちだな、城之内くん!」

 遊戯のライフ表示は4000のままだった。

「…城之内、弱すぎだって。」

「無理に攻め込んで自滅している気がするよ…」

 いつの間にギャラリーに加わった御伽とブレイブが口を挟んでくる。

「う、うるせー! 遊戯あと1戦だ!」

「ああ!」

 デュエル開始から30分以上経過し、時刻は9時を回っていた。

 二人のテンションは高かった…。

「もう付き合いきれないな…オレはレストランに戻るよ…」

 御伽は大きなため息をついて、きびすを返した。

「誰もてめえに付き合えなんか言ってねぇぞ、御伽!」

 城之内は御伽に文句を言いながらも、モンスターを召喚させていた。



 一方、ルーレットレストランでは――

「かんぱーい!」

「かんぱーい!」

 なぜか舞と磯野が意気投合していた。

 そして二人の手にはワイングラス。

「舞さん…お酒なんて飲んでていいの…?」

「いいのいいの、どうせ何も起こってないんだしさ…」

「そうです! いいのです!」

「……」

 杏子はため息をついて、舞と磯野とは別のテーブルにある椅子に座った。

 そして意味もなく、ターンテーブルをぐるぐると回し始める。

 杏子はぼんやりと、回るターンテーブルを眺めていた。

「はぁ…」

 思わずまたため息をつく。

 回り続けるターンテーブルを見つけて、ノディがやってくる。

「オレさ…こういうの得意なんだよね…」

 唐突な一言。

「え?」

 杏子が面食らっている間に、ノディは回っているテーブルの上に乗ってくる。

「ちょ、ちょっと、何やってるんですか…!」

「あーあ、すぐ止まっちゃうな、これ…。誰か回してくれよ…」

「……。はぁ…。頭…痛くなりそう…」

 杏子はこめかみを押さえた。



 ――午後9時42分

 結局、城之内の7戦7敗でデュエルは終了した。

「あーあ、最後は結構いいセンまでいったんだけどな、負けは負け…だからな…」

「だが、城之内くんのデッキはパーフェクトルール向きじゃないかもしれないな。あれだけ闘えれば上等だぜ!」

「ぼくもそう思うよ。城之内くんは魔法や罠が単体対象のものが多いから、複数で来た時には太刀打ちできないんだよ。」

「そうか…そう思うか?」

 遊戯、城之内、ブレイブの3人はデュエル場を離れ、レストランに向かって歩き出す。

 3人とも十分満足した様子で、会話も弾んでいた。



「おそーい! いつまでデュエルしてるのよ!」

 レストランに入ると同時に杏子の怒声が聞こえてくる。

「べ、別にちょっとくらいいいじゃねえかよ…」

「ちょっと…って、1時間半よ、1時間半!」

「別に1時間半くらいいいじゃねえかよ…」

「………」

 杏子はあきらめていた。

 みんなやりたい放題やっているのに、いい加減慣れてきたのかもしれない。

「ところで、あれは…?」

 ブレイブは奥のテーブルを指差す。

 そのテーブルでは、磯野がターンテーブルをぐるぐる回し、その上に乗ってノディが奇妙な踊りを披露している。それを見て舞が爆笑していた。

「知らないわよ…。あ、それより…御伽くんは?」

「え…?」

「先に帰ってないのか、杏子?」

「…来てないよ。」

 舞の笑い声が消えた。

 ノディもテーブルから飛び降りる。

「おいおい、マジかよ…」

 ついには、ターンテーブルを回す磯野の手も止まった。

 一瞬にして、レストランの空気は緊張感に包まれたのであった。




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