3章 完全封鎖


「それで結局、海馬ランドに閉じ込められたのは…10人か…」

「ええっと、遊戯、城之内、御伽くん、舞さん、海馬くん、モクバくん、それと――係員の2人と、ブレイブくん…最後に私…これで10人ね…」

 ――午後6時43分

 遊戯達は、コントロールルームに戻ってきていた。

 やはり非常口は4つとも使えなかった。いずれも溶接されてしまっていた。

 また、ブレイブ以外に閉じ込められた人もいなかった。

 遊戯達が非常口を調べている間、海馬と伊佐坂はコンピュータと格闘していたが、未だにゲート開閉装置の制御は不可能なままだった。

 そして結局、遊戯達ができる手立ては――

「よし、非常口を壊しに行くぞ!」

 ――これだけだった。

 遊戯、城之内、御伽、そして磯野の4人は、それぞれ倉庫にあった予備の鉄パイプを抱えてレストラン裏の非常口に向かった。



「1番バッター…城之内…行くぜー!」

――ガギィィィン! ガギィィィン! ガギィィィン!

 城之内は鉄パイプをドアに何度も叩きつける。

――ガギィィィン! ガギィィィン! ガギィィィン!

「はぁはぁはぁ…全然ダメじゃねえかよ…」

 ドアは少しへこんだだけで、鉄パイプの方がひん曲がってしまっていた。

「じゃあ次はオレが行くぜ!」

 そう言って、遊戯が鉄パイプを持ち、前に出る。

――ガギィィン! ガギィィン!

 小さな体で鉄パイプを叩きつける遊戯。しかし、城之内ほど大きな音は出ない。

「く…ダメか…」

 ほとんどドアにはダメージを与えることはできず、鉄パイプは使い物にならなくなった。

 御伽も同じように鉄パイプをドアに叩きつけるが、結果は同じだった。

「後は…磯野…とか言ったけ、審判やってたオッサン…頼むぜ…!」

「はい。」

 磯野は鉄パイプを握りしめドアの前に立った。

 そして大きく息を吸った後、大声をあげながら、鉄パイプをドアに思いっきり叩きつける。

「カァァァツ!」

――ガギイィィン!!

「オオオオオ!」

――ガギイィィン!!

「す、すげえ…」

 鉄パイプがドアにぶつかる度に大きな音を立てていた。城之内の時よりも間違いなく大きな音だった。

 もしかしたら、訓練されているのかもしれない。そう思えるほど常人離れした力だった。

 遊戯達はその勢いに圧倒され、少しドアから離れた。

「ワァァオォォー!」

――ガギイィィン!!

「カァァチャァー!」

――ガギイィィン!!

「メエェリャアー!」

――バギィィィ!!

 ついに鉄パイプの方がやられてしまう。しかも真ん中からまっぷたつに折れ、片方はレストランの壁に思いっきりぶつかった。

「あ、危ねえ…」

「も、申し訳ありません…」

「おい、でも、穴だけは開いたぞ…!」

 ドアは相変わらず開くような状態ではなかったが、ドアの中央には直径10センチ余りの穴が開いていた。

「穴開いたっつても、これじゃあな…手しか通らないぜ。」

 そう言って、城之内は右腕を穴の中に通す。

――バチイィィ!

「あ痛たっ」

 音を立てて火花が散った。城之内は思わず手を引っ込める。

「…静電気?」

 もう一度、穴の中に手を入れる城之内。

――バチイィィン!

「痛たたたっ」

 また火花が散った。

「こ、これは…?」

「高圧の電圧がかけられている…。バリアみたいなものだろう…。これを通るのは危険だ…」

「――ってことは遊戯、たとえドアを完全に壊せても、オレ達は外に出られない…?」

「…ああ、おそらくな。どうしてもオレ達を閉じ込めておきたいらしい…」

「ちっ、フザけやがって…!」

――ガンッ…

 城之内はドアを蹴り上げた。



 ――午後7時17分

 遊戯達4人はレストランに戻ってきていた。

 レストラン1階には10人全員の姿があった。

 先程までコンピュータと格闘していた海馬達も3階から降りてきていた。

「仮に入場口を開けられても、外には出られないというのか…!」

「ああ。なにやらバリアのようなものが張ってある。」

「徹底的にオレ達を閉じ込めるつもりか…。ククク…面白い!」

「だが、こうしている間にも敵は――」

 遊戯と海馬を中心に今後のことについて話し合っている。

 しかし、一人だけその話し合いに参加できていない者がいた。

 城之内だ。

 城之内は先程から辺りをきょろきょろと見回していた。

(ト、トイレはどこだったけ…?)

(あ、あった!)

 城之内はそれらしき扉を見つけると、そこに直行した。



「…ふう。」

 城之内は一息ついていた。

 そのまま手を洗おうと蛇口に近づいた時、一つの個室に目がいった。

(何であの扉閉まってるんだ?)

 その個室の扉は閉まっていた。

(誰か入ってンのか…? いや、今は全員あそこにいるはずだよな…)

 疑問に思いながらも扉に近づく城之内。

 その時、水の流れる音がして、個室の扉が開く。

「お、おわっ!」

「うおっ!」

 城之内と中から出てきた男はぶつかりそうになる。

 お互いに間抜けな声をあげてしまう。

(や、やべ、またぶつかりそうになっちまったぜ…)

「わ、わりいな…」

 城之内は顔をあげ、その男を見る。

 ――知らない男だった。

「びっくりさせんなよ…いくら遅いからって…」

 その男はぶつくさと文句を言っている。

 男はパーカーにジーンズ、腰には大きめのポーチ――といった格好をしている。客に間違いなさそうだ。

 若い顔立ちをしているが、城之内よりも年上だろう。二十歳ちょっと過ぎといったところか…。

「まあいいや、オレは友達のトコに行かなきゃいかんから。」

 男はそう言って、そのまま外に出ようとする。

「え?」

 面食らう城之内。

(もしかして、こいつ…自分が閉じ込められたことに気付いてないのか?)



「…なるほど、そんなことがあったのか…」

 男は城之内から概要を聞き、ようやくこの事態を把握した。

「はぁ、オレは友達にも見捨てられたか…」

 男は勝手にうなだれる。

 というのも、この男、レストランで冷たいものを食いすぎて、腹が痛くなったらしいのだ。

 4時半頃から今までずっと、腹痛が治まるのを待って個室にいたらしい。

「それで、オレは城之内…。あと…まだ他に閉じ込められた人が9人いるんだ。」

「ああ、世話になっちまうな…。――あ、オレは…ノディって言うんだ。よろしくな!」

 そう言って、男――ノディは右手を差し出す。

「ああ、よろしくな!」

 城之内も右手を出し握手を交わした。

 しかし――

(あ、二人とも…手…洗ってない…)

 それに気付いた城之内は、すぐに手を離してしまった。




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