血の刻印

製作者:オウカさん









第一話「壊し屋ソーガ」


 ――パズルシティ、第3ハイウェイ

 深夜のハイウェイを二台の大型二輪――D・ホイールと呼ばれる発展系デュエルディスクが二輪駆け抜ける。

 行われているのはD・ホイールによって行われるデュエル――ライディングデュエル。

「これで終わりっすね! 《暗黒のマンティコア》でダイレクトアタック!」

 茶髪の青年が操る魔獣のモンスターは、対戦相手に爪の一撃を叩きつける。

「そんな……このルドルフが、こんな卑劣な男に……ぐあああああああ!!」

 対戦相手であるルドルフと名乗る金髪の青年のライフポイント表示がゼロになったことにより、彼の乗るD・ホイールは緊急停止する。

 そこに勝利した茶髪の青年がUターンをして戻り、D・ホイールから降りて敗者の元に向かう。

「なんだ、この丁度っすか? 退屈なデュエルだったっすけど、約束通りデッキは貰うっすよ」

「ま、待ってくれ! それだけは……」

 デッキをD・ホイールから外そうとする勝者の青年と、それを止めようとする敗者の青年。

「ああ? 負け犬が何言ってるっすかぁ!?」

 茶髪の青年は相手を蹴り飛ばし、強引にデッキを奪う。

「このデッキもオイラの最高傑作のエネルギーになれるっす、光栄に思うことっすね! キーッヒッヒッヒ!」

 D・ホイールに乗り去っていく勝者の後ろ姿を、敗者はただ眺めることしか出来なかった。

「ちくしょう……あのデッキは、俺の仲間たちと組み上げた魂のデッキなのに……」

 ルドルフは手を握りしめ、静かに決意する。

「アイツは……絶対に許さない!」







 ――パズルシティ、ある裏路地

 人通りの少ない、薄汚れた裏路地。そこでルドルフはあるデュエリストを待っていた。

「壊し屋……コンタクトは取れたんだ、きっと来てくれる!」

 自分を打ち負かし、デッキを奪い取った茶髪の青年

 ルドルフは、彼に復讐するためにある男に依頼をした。

 パズルシティを中心に都市伝説のように語られる、闇のD・ホイーラー――壊し屋。

「ん……?」

 腕時計を確認しながら待っていると、裏路地に足音が近づいてくる。

「来た……来てくれたんだな! あんたが壊し屋か!」

 その裏路地に来たのは、青年と少女の二人組。

「ククク……俺が壊し屋――ソーガ・ダイモンだ」

「私は壊し屋の助手を務めるセーナ・クロエです」

 金髪の青年は、目の前の二人組を注意深く観察する。

 自分と大して年の変わらない二十代の青年だが、彼の醸しだす雰囲気は自分とは別世界で生きてきたデュエリストであることを認識させる。

 その男の眼光は悪魔のように鋭く、逆立った髪は黒と赤の色で威圧的、そして何色にも染まらない黒いコートを纏っている。

 側に仕えるのは白いマフラーを巻き、錦のような銀髪を束ねた高校生くらいの少女。

 だが、彼女からは研ぎ澄まされた刀のような雰囲気があり、壊し屋の助手たる力量を持つと推測される。

「さて、事前に情報は頂いているが……俺としてはお前の口から依頼内容とその経緯を聞きてえ」

 壊し屋ことソーガはそうルドルフに言う。

「ああ、分かった。 あれは丁度一週間前の出来事だった……

 俺はデッキを強化するためにこの街のカードショップに来たんだ。珍しいカードがたくさん置いてあるもんだからつい遅くまでショップにいてしまったんだ。

 日が暮れた頃、俺はD・ホイールでホテルに向かって第3ハイウェイを走っていたんだ。 そこに、一人の男が俺にライディングデュエルを挑んできたんだ。

 強化したデッキを試したくて俺は挑戦に乗ってしまったんだけど……今からすれば、デュエルを受けるべきじゃなかった!」

「過ぎたことをどうこう言っても仕方ねえよ。 さっさと続きを話しな」

 ルドルフの悲痛な様子を気にも止めず話を聞くソーガ。

「ああ……その男は、ライディングデュエルが始まると同時に負けた方のデッキは勝った方の物となるとかふざけたことを言い出したんだ!

 そして結果は御察しの通り……けど、アイツのD・ホイールは何かがおかしかった! きっとに公式に認められているパーツとは違うんだ!

 あんな卑劣な道具を使うなんて許せない! だから、壊し屋! 頼む、あの悪党をこれ以上好きにさせないでくれ! もう被害者を出してはいけないんだ!」

 ルドルフが最期まで言い終わると、ソーガは「はぁ〜」と深くため息をつく。そして呆れた様子でルドルフにこう言い放つ。

「あー下らねえ。 お前さあ、この俺を正義の味方とかと勘違いしているんじゃねえか?」

「!? それは……」

「そもそもお前がデッキを奪われたのは自業自得。 お前自身の弱さが原因だ。 ソイツを棚に上げてよくもまあ俺に泣きつけたもんだ」

 ソーガの発言にうろたえるルドルフ。

「けど、悪いのはどう考えても……」

「ま、俺にすがりつくヤツらはほとんどが自分の弱さが原因だから、棚に上げても別に構わねえんだけどな」

 そう言うとソーガはコートの裏側から鋭く光る”何か”を取り出し、ルドルフの首に突きつける。

 ルドルフは突然の出来事に、それがナイフだと分かるのに数秒の時を要した。

「俺が一番気に食わねえのはお前が最後に言った悪党を好きにさせないでーとか被害者を出してはいけないーとかの部分だ。 随分と綺麗事言ったじゃねえか」

 威圧的なソーガの態度に一歩後退りするルドルフと、すぐに一歩前に進んで首のすぐ前にナイフを突きつけるソーガ。

 数歩のやり取りの末、ルドルフの背中が壁に付いたことで彼の逃げ場なくなった。

「お前はただ憎いだけだろ、お前に屈辱を与えたその男が。 他の被害者がどうとかじゃねえ、ソイツをぶっ壊してやりてえんだろ?」

 ソーガの眼光は、刺すようにルドルフを追い込む。

「俺にすがり付いた時点で、お前は俺と同様に悪人なんだからよ。 小奇麗に取り繕うな、ただ本心を、己の闇を吐き出せばいい」

 核心をつくソーガの言葉。付きつけられたナイフと眼光と言葉は、彼から逃げ場を奪った。

「ああ……憎い! あの男が憎い! 憎い! 憎い! 憎い! アイツは俺の魂のデッキを奪いやがった! WRGPに向けて頑張っていた俺の夢を砕いた! 俺のD・ホイーラーとしてのプライドを汚した! 憎いったらありゃしない! 壊し屋、頼む! ヤツを……ぶっ壊してくれ!」

 逃げ場を失い剥かれた彼の本心。

 憎悪を顕にした彼の言葉。

 怒りで歪んだ彼の表情。

 それを見て、ソーガは満足した。

「ククク……それでいい。 悪を背負い、悪を歩み、悪を狩る。 それが壊し屋なんだからなあ。 だから、この俺の力を利用したいって言うんなら悪に足を踏み入れる覚悟くらいはしてほしいもんだぜ」

「じゃ、じゃあ……俺の依頼は」

「引き受けてやるぜ」

 その言葉を聞いてルドルフは安心する。

「お前のデッキなんぞどうでもいいが、その男が持つD・ホイールには興味がある。 ぶっ壊して、俺の力の糧にできそうだ」

「ではソーガさん、早速準備に取り掛かりましょう」

 ソーガが助手のセーナと共に、路地の闇へと消えて行く。

「フフ……これでアイツは終わりだ!」

 残されたルドルフは、静かに微笑んだ。











 ――パズルシティ、第3ハイウェイ沿いの屋台

「へいらっしゃーい! お客さん、何にするっすか?」

「豚骨ラーメンを一人前、頼むぜ!」

 夜空に綺麗な満月が浮かぶ時間帯。

 ソーガが立ち寄ったのは、そこそこ新しい屋台のラーメン屋。

 若い男が一人で経営しており、他に客も店員も見当たらない。

「お客さん、D・ホイーラーっすよね? WRGPってのに出場するっすか?」

 青年は屋台の隣に止めたソーガのDホイールを指差す。

「ああ、D・ホイーラーだ。 WRGPには出場しねえがな。 生憎俺は日の当たる晴れ舞台で暴れるのは苦手でな」

 ちなみに、WRGP――ワールド・ライディングデュエル・グランプリというのは来月に開催される世界的なライディングデュエルの大会だ。

 三人一組のチーム戦で行われ、アトランティス大会で優勝したチームユニコーンを始めとする世界中の強豪が集まるライディングデュエルの一大イベントだ。

 最も、裏デュエル界の住人であるソーガにとってそのような大会は管轄外であるのだが。

「そうなんすか。 でも、お客さんはライディングデュエルの腕は凄そうっすよ。 あのD・ホイールも中々高そうなヤツみたいっすし」

「ククク……見る目があるじゃねえか」

「いやあ、これでも昔はライディングデュエルでプロ目指していたんすよ。 ま、結局オイラじゃ力不足で今はこうやってラーメン屋をやっていますがね。 へい、豚骨ラーメンっす!」

「お、ウマそうじゃねえか。 いただきまーす」

 豚骨ラーメンを美味しそうに食べるソーガ。

 その様子を見て、ラーメン屋は歪んだ笑みを浮かべる。

「ふーむ、中の上ってとこか。 まあ悪くはないな」

 やや満足気にラーメンを味わうソーガの死角から、ラーメン屋は手に持った何かを彼に向ける。

 何かはラーメンを啜るソーガの首筋に近づき――。

 弾かれた。

「な……!?」

 ソーガは左手でラーメン屋の握っていた注射器をはたき落とした。

「これは驚いたじゃねえか。 D・ホイーラーにデュエルをふっかけるだけかと思いきや、まさか薬物を打ち込もうとするなんてよお」

 言葉とは裏腹に余裕の笑みを浮かべるソーガ。

「アンタ、オイラのことを知ってここに来ていたっすか!?」

「ああ。 ところで、あの注射器は何だ、薬物か? 強引なアンティでデッキを奪ってることを考えればテメエの目当ては俺のデッキだろうから、意識を奪う睡眠薬や動くを封じるしびれ薬か?」

「……後者っすね、しびれ薬。 アンタ、何者っすか?」

 ソーガに対峙し、只者ではないと本能的に感じ取ったラーメン屋。

「ほう、俺の正体か?」

 そんな彼にソーガは、宣言する。

「常闇より現れし悪夢の使者、悪を食らう高尚なる悪。 人は俺を壊し屋と呼ぶ!」

 その宣言を聞き、ラーメン屋は驚愕する。

「壊し屋……! まさかあの壊し屋っすか!?」

「ああ。 始めようぜ、闇のゲームを!」

 屋台を椅子から立ち上がり、自分のD・ホイールに歩むソーガ。

 目の前の悪党の反応が無かったため、ソーガは振り返る。

 そこにいたのは、ラーメン屋の振るえる姿。

「おいおい、まさかビビッてんじゃねえだろうなあ?」

 ソーガの挑発じみた質問に、ラーメン屋は答えた。

「……キヒヒ、キーヒヒヒ……キーッヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒ!!! たまらないっす! たまらないッスァァァァァ!! あの壊し屋が目の前にいるッスァァァァァァ!! だったら、壊し屋の首を奪えばオイラの名が売れまくり、プロ復帰も遠くないッスァァァァァァァァァァ!!!」

 突如として豹変したラーメン屋。

 彼は屋台にあった調理道具や食材を投げ出し、何かのスイッチを押す。

 その瞬間、屋台が音を立てて変形、数段の変化の末、D・ホイールと成り果てた。

「キーッヒッヒッヒッヒッヒ!! これがオイラのD・ホイールッスァァァァァァ!! どうッスァァァァァァ、壊し屋ァァァァァァァァ!!?」

 捨てられた調理道具と食材を見て、ソーガはこう返す。

「まったく、環境によろしくねえなあ。 俺の助手は料理が趣味で色々作っているんだが、曰く『料理人たるもの調理道具には誇りを、食材には敬意を』とのことだぜ」

「知ったことッスカァァァァァァァァ!! さあ、ライディングデュエルを始めるッスァァァァァァァァァ!! オイラの最高傑作の前じゃあ壊し屋でさえかなわないッスァァァァァァァァァァ!!!」

「最高傑作か、ソイツは楽しみだ。 始めようじゃねえか、ライディングデュエルをよ!」

 ソーガはD・ホイールを起動させ、デュエルモードとする。

 ライディングデュエル――それは、スピードの世界で進化したデュエル。

 Dホイールと呼ばれる大型二輪の形状をしたデュエルディスクに乗り、それを走らせてデュエルを行う。

 そのスピードに付いて来られないものは、カードを引く資格すら与えられない。

 なお、D・ホイールにはモーメントという小型のエネルギー源が用いられている。

 回転の力で半永久的にエネルギーを生み出す夢の機関――モーメントの発明があったからこそ、ライディングデュエルは誕生したのである。

「セーナ、準備はできているな?」

 ヘルメットについた通信装置で助手のセーナにそう話すソーガ。

『はい。 当然ながら準備完了です!』

 セーナの返事を聞き、ソーガすぐにライディングデュエルの準備にとりかかる。

「《スピード・ワールド2》、セットオン!」

 《スピード・ワールド2》――ライディングデュエルにおいては常時このフィールド魔法が適応され、これを除去することは不可能。

 ゆえにライディングデュエルではこのフィールド魔法が重要な役割を果たす。

《スピード・ワールド2》
フィールド魔法 (アニメ5D’sオリジナル)
Sp」スピードスペルと名のついた魔法カード以外の魔法カードをプレイした時、自分は2000ポイントダメージを受ける。
お互いのプレイヤーはお互いのスタンバイフェイズ時に1度、自分用スピードカウンターをこのカードの上に1つ置く。
(お互い各12個まで、1ターン目を除く)
自分用スピードカウンターを取り除く事で、以下の効果を発動する。
●4個:自分の手札の「Sp」と名のついたカードを任意の枚数公開することで、その枚数× 800ポイントダメージを相手ライフに与える。
●7個:自分のデッキからカードを1枚ドローする。
●10個:フィールド上に存在するカードを1枚破壊する。

『レーンセレクション、使用可能な最適レーンをサーチ。 デュエルレーン、セントラルに申請』

 D・ホイールからアナウンスが流れる。

 ライディングデュエルは平たく言えば大型バイクに乗りながらデュエルをするため、必然ために走るためのコースが必要となる。

 専用のスタジアムや練習用レーン等も存在するのだが、最近は一般のハイウェイにライディングデュエル用のシステムが導入され、申請すれば誰でもハイウェイを借りてライディングデュエルが行える。

『デュエルが開始されます。 デュエルが開始されます。 ルート上の一般車両は直ちに退避してください』

 ライディングデュエルの邪魔にならないよう、ハイウェイにアナウンスが流れる。

「ん、これは!?」

 ラーメン屋は自分のD・ホイールのモニターを見て驚く。

「オイラの名前は表示されているのに、なぜお前の名前が表示されてないッスァァァァァァ!?」

 ラーメン屋の言う通り、モニターにはラーメン屋の名前のみが表示されソーガは代わりに”UNKNOWN”と表示されている。

「ククク……俺は壊し屋、そんな俺が正体をセキュリティに送りながらライディングデュエルをして対戦相手をぶっ壊し続けていたら、セキュリティにマークされまくるだろう? だから俺の優秀な助手がデータを改ざんして、上手く俺の正体やD・ホイールの識別番号を隠蔽しているのさ」

「なるほど、流石は壊し屋ッスァァァァ! じゃ、無駄話にも飽きたっすから始めっるッスァァァァァァ!!」

「ああ。 手っ取り早く壊してやるぜ」

「「ライディングデュエル、アクセラレーション!!」」

ソーガ LP:4000 ラーメン屋 LP:4000

 加速し、一気に突き抜ける二台のD・ホイール。

 ライディングデュエルは大きく分けてオートパイロットモードとマニュアルモードの二種類が存在する。

 前者はD・ホイールが自動操縦され、D・ホイーラーはデュエルのみを行う。

 後者はD・ホイールをD・ホイーラー自信が操縦し、その状態でデュエルを行う。

 開催の近い世界規模のライディングデュエル大会・WRGPがマニュアルモードで行われることもあり、このデュエルを含め最近は多くのライディングデュエルがマニュアルモードで行われる。

 そして、マニュアルモードではオートパイロットモードとの大きな違いがもう一つ存在する。

「ハッ、遅えじゃねえかラーメン屋ァ!」

 黒光りするソーガのD・ホイールが、ラーメン屋のD・ホイールの前に出る。

「それはどうッスカァァァァァァ!? オイラの最高傑作を見るッスァァァァァァァァァァ!!!」

 ――加速!

 ラーメン屋のD・ホイールは圧倒的なスピードでソーガのD・ホイールを抜き去る。

「客から盗んだデュエリストの魂であるデッキを三日三晩煮込み続けて完成した、デュエリストの魂のエネルギー源!! そのデュエリストの魂は、モーメントの回転を加速し、爆発的なエネルギーをD・ホイールに供給する! それが、このソウル・モーメントッスァァァァァァ!!!」

「解説ご苦労……だが、甘え!」

 驚異的なスピードを出したラーメン屋のD・ホイールだが、そのスピードゆえにコントロールが不完全であり、車体とコーナーの間に隙間が生まれている。

 そこを、ソーガは左カーブで鋭く駆け抜けた。

「何……だとッスァァァァァァ!?」

「第一コーナーは頂いたぜ!」

 マニュアルモードのオートパイロットモードとの違いは、先攻の決定方法。

 自動的にD・ホイールが先攻後攻を決めるオートパイロットモードに対し、マニュアルモードでは第一コーナーを先取した方の先行となる。

「しかし、さっきの加速は見事なモンだ。 あそこまでの爆発力をモーメントに出させるとはな。 そういえば、どこかで”モーメントは人の心に反応する”だとかいう都市伝説を聞いたが、デュエリストの魂であるデッキに反応しているってことは、あの噂は間違いでもねえのか……?」

 疑問に思うソーガだが、すぐに切り替える。

「まあいいや。 俺のターンだな、ドロー!」

 ソーガは一枚のカードを選び出す。

「ダークビショップデーモンを守備表示で召喚」

 骨格にむき出しの肉を埋め込んだような風貌の、青い衣を纏った悪魔が現れる。

《ダークビショップデーモン》
効果モンスター
 星3/水属性/悪魔族/攻 300/守1400
このカードのコントローラーは自分のスタンバイフェイズ毎に500ライフポイントを払う。
自分フィールド上に存在する「デーモン」という名のついたモンスターカードが
相手のコントロールするカードの効果の対象になり、その処理を行う時にサイコロを1回振る。
1・3・6が出た場合、その効果を無効にし破壊する。

「さらに、カードを2枚セットしてターンエンドだ」

「そんなザコモンスター、踏みつぶしてやるッスァァァァァァ! オイラのターン、ドローッスァァァァァァァァ!!」

 ラーメン屋のターンとなると、二人のD・ホイールのモニターに表示されたスピードカウンターの表示が1に増える。

ソーガ LP:4000
手札:3枚
モンスター:《ダークビショップデーモン》(守1400)
魔法&罠:セット2枚
スピードカウンター:0→1
ラーメン屋 LP:4000
手札:5→6枚
モンスター:無し
魔法&罠:無し
スピードカウンター:0→1

 ライディングデュエルにおいて常時適応されるフィールド魔法《スピード・ワールド2》――その効果は通常の魔法カードは使用不可となり、代わりに「Spスピードスペル」という専用の魔法カードを使用する。

 「Spスピードスペル」は使用するのに《スピード・ワールド2》に毎ターン乗るスピードカウンターが必要となる。

 故に、ターンが進み《スピード・ワールド2》にスピードカウンターが貯まるほど、強力なSpスピードスペル」を使用可能となるのだ。

《スピード・ワールド2》
フィールド魔法 (アニメ5D’sオリジナル)
Sp」スピードスペルと名のついた魔法カード以外の魔法カードをプレイした時、自分は2000ポイントダメージを受ける。
お互いのプレイヤーはお互いのスタンバイフェイズ時に1度、自分用スピードカウンターをこのカードの上に1つ置く。
(お互い各12個まで、1ターン目を除く)
自分用スピードカウンターを取り除く事で、以下の効果を発動する。
●4個:自分の手札の「Sp」と名のついたカードを任意の枚数公開することで、その枚数× 800ポイントダメージを相手ライフに与える。
●7個:自分のデッキからカードを1枚ドローする。
●10個:フィールド上に存在するカードを1枚破壊する。

「オイラのフィールドにモンスタがいないことで、コイツを特殊召喚するッスァァァ! 来い、《ジャンク・フォワード》!」

《ジャンク・フォワード》
効果モンスター
星3/地属性/戦士族/攻 900/守1500
自分フィールド上にモンスターが存在しない場合、
このカードは手札から特殊召喚する事ができる。

「更に、《ジャンク・フォワード》をリリースし、《ミノケンサテュロス》をアドバンス召喚!」

 自分フィールドのモンスターを墓地に送り上級モンスターを召喚するアドバンス召喚――ラーメン屋のD・ホイールの追うように現れたのは、槍を構え下半身が馬になっている獣戦士。

《ミノケンサテュロス》
効果モンスター
星6/地属性/獣戦士族/攻1800/守1000
このカードは特殊召喚できない。
このカードをリリースする事で、自分のデッキから
獣戦士族・レベル4の通常モンスター2体を特殊召喚する。

「ほう、1ターン目からレベル6の大型モンスターか」

「まだまだッスァァァァァァ! 《ミノケンサテュロス》の効果により、コイツをリリースすることでデッキから同名で通常モンスターの四つ星獣戦士を2体呼び寄せるッスァァァァァァ!!」

 ミノケンサテュロスが槍を地面に突き刺すと光が放たれ、そこから斧を振り回して2体の魔獣人が現れる。

「《ブラッド・ヴォルス》2体を特殊召喚ッスァァァァァァ!!」

《ブラッド・ヴォルス》
通常モンスター
星4/闇属性/獣戦士族/攻1900/守1200
悪行の限りを尽くし、それを喜びとしている魔獣人。
手にした斧は常に血塗られている。

「ほう、腐ってもプロデュエリストだな。 この状況なら上級モンスターで攻めるよりも下級アタッカー2体のほうが効率良くダメージを与えられるからな」

「そんな態度を取っていられるのも今のうちッスァァァァァァ! 行け、1体目の《ブラッド・ヴォルス》で《ダークビショップデーモン》を攻撃ッスァァァァァァ!」

 余裕の態度で状況を分析するソーガに対し、ラーメン屋はD・ホイールの速度を上げ、攻撃な態度で宣言する。

「ククク……伏せカード発動、永続罠《万魔殿の瘴気》!」

 ソーガの周囲を薄い紫の霧が覆う。

 しかしその霧はソーガのモンスターを守ることもなく、悪魔は魔獣人の斧に切り裂かれた。

「デーモンが破壊されたことで、《万魔殿の瘴気》の効果を発動! デッキから破壊された《ダークビショップデーモン》のレベル3よりも下の、レベル2の《デーモンバット》を手札に加える」

《万魔殿の瘴気》
永続罠 (血の刻印オリジナル)
このカードがフィールド上に存在する限り、このカードのカード名を「万魔殿−悪魔の巣窟−」として扱う。
戦闘またはカードの効果によって「デーモン」と名のついたモンスターが破壊されて墓地へ送られた時、
以下の効果から一つを選択して発動することができる。
●そのカードのレベル未満の「デーモン」と名のついたモンスターをデッキから1枚選択して手札に加える。
●カードを1枚ドローする。

「小賢しいッスァァァ! 2体目の《ブラッド・ヴォルス》でダイレクトアタックッスァァァァァァァァァァァ!!!」

 振り下ろされる斧の一撃、その攻撃はソーガを捉え、ダメージを与える。

「クク……」
ソーガ LP:4000→2100

「キーッヒッヒッヒ! 壊し屋のライフを半分近く削ってやったッスァァァァァァ!!」

「結構食らっちまったなあ……まあ、いいか」

「その余裕がいつまで続くっすかね? オイラはカードを3枚伏せてターンエンドッスァァァァァァァァァ!!」

 ラーメン屋の言う通りライフを大きく削られたソーガ。

 しかし、その表情は不敵な笑みを浮かべるのみで焦りや虚勢は見られない。

「さあて、今度は俺のターンだ。 ドロー!」

ソーガ LP:2100
手札:4→5枚
モンスター:無し
魔法&罠:《万魔殿の瘴気》、セット1枚
スピードカウンター:1→2
ラーメン屋 LP:4000
手札:1枚
モンスター:《ブラッド・ヴォルス》×2(攻1900)
魔法&罠:セット3枚
スピードカウンター:1→2

「さっき手札に加えたコイツを呼ぶぜ! 来い、《デーモンバット》!」

 骸骨のような頭部を持ったコウモリが現れソーガのDホイールを追うように飛行する。

「コイツはテメエの《ジャンク・フォワード》同様に自分のモンスターがフィールドにいない時、手札から特殊召喚できるのさ」

《デーモンバット》
効果モンスター (血の刻印オリジナル)
星2/風属性/悪魔族/攻1300/守800
自分フィールド上にモンスターが存在しない場合、
このカードは手札から特殊召喚する事ができる。

「大型モンスター召喚のリリースッスカァァァァ?」

「ククク……そうじゃねえ。 俺の手札にはこのデッキのエースモンスターたる強力な王様がいるんだが、コイツは我儘なやつでな。 同胞がフィールドに居ねえと戦場に駆けつけてくれねえ怠け者の王様なんだよ。 だがな、一度戦場に降り立てば敵を潰し、刻み、ぶっ壊し続ける虐殺の王として君臨するんだよ!」

 翼を羽ばたかせ、攻撃的な形状の剣を構えた黒い影。

「さあ、虐殺ショーの始まりだ! 召喚、《ジェノサイドキングデーモン》!」

 黒い影の正体は、先程のデーモン同様に骨格に肉を埋め込んだような外見の悪魔。

 しかし《ダークビショップデーモン》とは異なり、纏う雰囲気はまさに王。

 剣を構え、鋭い眼光は2体の《ブラッド・ヴォルス》とラーメン屋の喉元を狙っている。
《ジェノサイドキングデーモン》
効果モンスター
星4/闇属性/悪魔族/攻2000/守1500
自分フィールド上に「デーモン」という名のついた
モンスターカードが存在しなければこのカードは召喚・反転召喚できない。
このカードのコントローラーは自分のスタンバイフェイズ毎に800ライフポイントを払う。
このカードが相手のコントロールするカードの効果の対象になり、
その処理を行う時にサイコロを1回振る。
2・5が出た場合、その効果を無効にし破壊する。
このカードが戦闘で破壊した効果モンスターの効果は無効化される。

「このモンスターは……!?」

「さあ、バトルフェイズだ! 《ジェノサイドキングデーモン》、《ブラッド・ヴォルス》をぶっ壊せ! ジェノサイド・ブレイド!」

 虐殺の王の名を冠す悪魔は、手にした剣を構え魔獣人に向かう。

 魔獣人は斧を振りかぶり返り討ちを狙うが、悪魔はそれをかわし、背後から魔獣人の首を薙ぎ払う。

「ぎああっ……何っすか、これは」

ラーメン屋 LP:4000→3900

「更に罠発動、《デーモンの宝札》! 俺はカードを2枚ドローできるが、その代償として《ジェノサイドキングデーモン》を破壊する!」

「何!? ソイツはエースモンスターって言っていたじゃないッスカァァァァ!?」

「ククク……俺のデッキは犠牲の上で勝利を掴むデッキでな、エースだろうと捨て駒にするときは捨てるんだよ」

《デーモンの宝札》
通常罠 (血の刻印オリジナル)
自分フィールド上に存在する「デーモン」と名のついたモンスター1体を選択して発動する。
デッキからカードを2枚ドローし、選択したモンスターを破壊する。

「だが、手札から《デスルークデーモン》の効果を発動。 コイツを手札から墓地に捨て、破壊された《ジェノサイドキングデーモン》を墓地から特殊召喚するぜ」

 黒い霧のようなものが現れると、それはしだいに固まっていき悪魔の王を形成する。
《デスルークデーモン》
効果モンスター
星3/光属性/悪魔族/攻1100/守1800
このカードのコントローラーは自分のスタンバイフェイズ毎に500ライフポイントを払う。
このカードが相手のコントロールするカードの効果の対象になり、
その処理を行う時にサイコロを1回振る。
3が出た場合、その効果を無効にし破壊する。
自分フィールド上の「ジェノサイドキングデーモン」が破壊され墓地に送られた時、
このカードを手札から墓地に送る事で、その「ジェノサイドキングデーモン」1体を特殊召喚する。

「そして、《ジェノサイドキングデーモン》が破壊されたことで《万魔殿の瘴気》の効果を発動。 デッキから2枚目の《デスルークデーモン》を手札に加える」

《万魔殿の瘴気》
永続罠 (血の刻印オリジナル)
このカードがフィールド上に存在する限り、このカードのカード名を「万魔殿−悪魔の巣窟−」として扱う。
戦闘またはカードの効果によって「デーモン」と名のついたモンスターが破壊されて墓地へ送られた時、
以下の効果から一つを選択して発動することができる。
●そのカードのレベル未満の「デーモン」と名のついたモンスターをデッキから1枚選択して手札に加える。
●カードを1枚ドローする。

「《デーモンの宝札》のデメリットを《デスルークデーモン》の蘇生効果で帳消しにし、消費した《デスルークデーモン》は《万魔殿の瘴気》で補充する……これが壊し屋の戦術ッスカァァァァ!?」

「それだけじゃねえ。 俺が《デーモンの宝札》を使ったのはバトルフェイズ。 つまり、バトルフェイズに一度フィールドを離れ蘇った《ジェノサイドキングデーモン》は別のモンスターとして攻撃の権利が与えられるんだよ!」

「このコンボには隙がない……完璧ッスァァァァァァ!!」

「行け、《ジェノサイドキングデーモン》! ジェノサイド・ブレイド!」

「ぐあああ!」

ラーメン屋 LP:3900→3800

「何かがおかしいッスァァァ! このダメージ、まるで本物のような……」

「ククク、気がついてくれたか! どうだ? 壊し屋特製、闇のゲームモードは?」

「闇のゲームモード!?」

 ソーガの口より放たれた不気味な単語に、ラーメン屋は驚く。

「俺の左胸に付いている紫色の宝石を使ったブローチ、コイツは俺の家に代々伝わる魔石を使っていてなあ。 その闇の力でデュエルのダメージを実際のものとして与えることができるんだぜ」

「そんなことが……」

「信じられねえなら、その身でもっと味わってくれよ! 《デーモンバット》、ダイレクトアタックだ!」

 悪魔のコウモリはラーメン屋に向かって飛び、鋭い牙で一撃を放つ。

 が、その攻撃は直前で何かに弾かれる。

「キーッヒッヒッヒ! 甘いッスァァァァァァ!! 伏せカードを発動していたッスァァァァァァ!! 《エンジェル・ロンド》により、そのダイレクトアタックは無効ッスァァァァァァァァァァァァァ!!!」

《エンジェル・ロンド》
カウンター罠 (光は鼓動するオリジナル)
相手モンスターの直接攻撃宣言時に、手札を1枚捨てて発動する。
相手モンスターの直接攻撃を1度だけ無効にする。
その後、自分のデッキからカードを2枚ドローする。

「チッ、防御カードを伏せてやがったか……ならカードを3枚セットしてターンエンドだ」

「エンドフェイズに入ったっすね! この瞬間、墓地の《暗黒のマンティコア》の効果を発動するッスァァァァァァァァァァァァ!!!」

 フィールドに突如立ち昇る火柱。その中より、広げられた翼と長い尾を持つ獣のシルエットが浮かぶ。

「手札の獣戦士族モンスター《千年原人》を墓地に送り、《エンジェル・ロンド》で墓地に捨てた《暗黒のマンティコア》を特殊召喚ッスァァァァァァァァァァァァァ!!!」

 ライオンの肉体、コウモリの翼、サソリの尾。

 様々な生物のパーツを合成した魔獣が火柱を掻き分けて姿を表した。

《暗黒のマンティコア》
効果モンスター
星6/炎属性/獣戦士族/攻2300/守1000
このカードが墓地に送られたターンのエンドフェイズ時に発動する事ができる。
獣族・獣戦士族・鳥獣族のいずれかのモンスターカード1枚を
手札または自分フィールド上から墓地に送る事で、
墓地に存在するこのカードを特殊召喚する。

「見たッスカァァァァ、これがプロのタクティクスッスァァァァァァァ!! さあ壊し屋、お前のデッキもソウル・モーメントの燃料にしてやるッスァァァァァァ!!」

「そんなに言うなら元プロさんよ、さっさとデュエルを続けてくれよ」

「なら進めてやるッスァァ、オイラのターン! ドローッスァァァァァァァァ!!」
ソーガ LP:2100
手札:2枚
モンスター:《ジェノサイドキングデーモン》(攻2000)、《デーモンバット》(攻1300)
魔法&罠:《万魔殿の瘴気》、セット3枚
スピードカウンター:2→3
ラーメン屋 LP:3800
手札:1→2枚
モンスター:《暗黒のマンティコア》(攻2300)
魔法&罠:セット2枚
スピードカウンター:2→3

「キーッヒッヒッヒ! 《Spスピードスペル−思い出のブランコ》を発動! 墓地から通常モンスター《千年原人》を1ターン限りで復活させるッスァァァァァァァァ!!

 上空より豪快に落ちてきた一つ目の巨人は、混紡を手に取り豪快に振りかざす。

Spスピードスペル−思い出のブランコ》
通常魔法 (血の刻印オリジナル)
自分のスピードカウンターが2つ以上あるとき
自分の墓地の通常モンスター1体を選択して発動できる。
選択したモンスターを特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したモンスターはこのターンのエンドフェイズ時に破壊される。

《千年原人》
通常モンスター
星8/地属性/獣戦士族/攻2750/守2500
どんな時でも力で押し通す、千年アイテムのパチモンを持つ原始人。

「更にチェーンして《マジック・キャプチャー》を発動ッスァァァァァ! 手札を1枚捨て、発動済みの《Spスピードスペル−思い出のブランコ》を墓地に送らずに手札に加えるッスァァァァァァァァ!!

《マジック・キャプチャー》
通常罠
自分が魔法カードを発動した時、手札を1枚捨ててチェーン発動する。
チェーン発動した魔法カードが墓地へ送られた時、そのカードを手札に戻す。

「なるほど、1ターン限りの蘇生である《Spスピードスペル−思い出のブランコ》を最利用することで実質的に2ターンに及んで《千年原人》を呼び出せるってことか

「余裕ぶってんじゃないッスァァァァァァァァ!! 行け、《暗黒のマンティコア》! 《デーモンバット》を攻撃ッスァァァァァァ!!」

 跳躍からの鋭い爪の一撃により、デーモンのコウモリはあっけなく破壊された。

 その衝撃波がソーガを襲おうとした瞬間、彼の目の前に突如として巨大な毛玉が出現した。

「だが、手札から《クリボー》を捨てることで俺へのバトルダメージはゼロになるぜ」

 毛玉は攻撃を受け止めると、煙となって消滅した。

《クリボー》
効果モンスター
星1/闇属性/悪魔族/攻 300/守 200
相手ターンの戦闘ダメージ計算時、このカードを手札から捨てて発動する。
その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になる。

「そして、《万魔殿の瘴気》の効果によりドローさせてもらうぜ」

《万魔殿の瘴気》
永続罠 (血の刻印オリジナル)
このカードがフィールド上に存在する限り、このカードのカード名を「万魔殿−悪魔の巣窟−」として扱う。
戦闘またはカードの効果によって「デーモン」と名のついたモンスターが破壊されて墓地へ送られた時、
以下の効果から一つを選択して発動することができる。
●そのカードのレベル未満の「デーモン」と名のついたモンスターをデッキから1枚選択して手札に加える。
●カードを1枚ドローする。

「だったら次ッスァァァァァァ!! 《千年原人》で《ジェノサイドキングデーモン》に攻撃! 必殺・千年クラッシュ振り下ろしッスァァァァァァァァ!!!」

「ククク……今、攻撃を宣言したな? コイツを食らいな、《ヘイト・バスター》!」

 混紡を振り下ろそうとする一つ目の巨人に対し、悪魔の王は剣を向ける。

「攻撃対象となった悪魔族の《ジェノサイドキングデーモン》と攻撃を仕掛けた《千年原人》を道連れにし、さらに相手に《千年原人》の攻撃力分のダメージを与える!」

《ヘイト・バスター》
通常罠
自分フィールド上の悪魔族モンスターが攻撃対象に選択された時に発動できる。
相手の攻撃モンスター1体と、攻撃対象となった自分モンスター1体を選択して
破壊し、破壊した相手モンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。

 悪魔の王は跳躍し、剣を手に翼を広げて巨人に突進する。

「そうはさせないッスァァァァァァ! カウンター罠《トラップ・ジャマー》! 《ヘイト・バスター》の効果を無効にするッスァァァァァァァァ!!」

《トラップ・ジャマー》
カウンター罠
バトルフェイズ中のみ発動する事ができる。
相手が発動した罠カードの発動を無効にし破壊する。

「カウンター罠かよ、そういうのはイラッと来るぜ」

 飛びかかる悪魔の動きが、何らかの力で妨害され勢いを削がれる。体勢を崩した悪魔を、一つ目の巨人は混紡で容赦なく叩き潰す。

「がはっ!」
ソーガ LP:2100→1350

「だが、手札の《デスルークデーモン》を墓地に捨て《ジェノサイドキングデーモン》は復活、さらに《万魔殿の瘴気》の効果によりデッキから3枚目の《デスルークデーモン》を手札に加える」

 黒い霧が現れ、それが悪魔も王を再び形成する。

「このエンドフェイズ時、《千年原人》は墓地に戻るっす。 けど、オイラにはまだ《暗黒のマンティコア》がいるッスァァァァァァ!! さらにライフポイントも2000以上上回っているッスァァァァァァ! キーッヒッヒッヒ!! ターンエンドッスァァァァァァァァ!!

 己の勝利を確信するラーメン屋。

 対してソーガは――

「ククク……」

 ただ、嘲笑った。

「何がおかしいッスァァァ!? 壊し屋、この状況が分かっているッスァァァァァァ!?」

「ああ、分かっているさ。 俺のターン、ドロー!」

 ソーガは、キレのある動きでカードを引く。

 圧倒的不利な状況を感じさせないような、鮮やかなカード捌き。

 それは、彼の自信に由来するものだろう。

ソーガ LP:1350
手札:2→3枚
モンスター:《ジェノサイドキングデーモン》(攻2000)
魔法&罠:《万魔殿の瘴気》、セット2枚
スピードカウンター:3→4
ラーメン屋 LP:3800
手札:1枚 《Spスピードスペル−思い出のブランコ》
モンスター:《暗黒のマンティコア》(攻2300)
魔法&罠:無し
スピードカウンター:3→4

「自分のスタンバイフェイズ時、《ジェノサイドキングデーモン》のコントローラーは800ライフを支払う」

ソーガ LP:1350→550

《ジェノサイドキングデーモン》
効果モンスター
星4/闇属性/悪魔族/攻2000/守1500
自分フィールド上に「デーモン」という名のついた
モンスターカードが存在しなければこのカードは召喚・反転召喚できない。
このカードのコントローラーは自分のスタンバイフェイズ毎に800ライフポイントを払う。
このカードが相手のコントロールするカードの効果の対象になり、
その処理を行う時にサイコロを1回振る。
2・5が出た場合、その効果を無効にし破壊する。
このカードが戦闘で破壊した効果モンスターの効果は無効化される。

「キーッヒッヒッヒッヒッヒ!! 壊し屋、アンタは《スピード・ワールド2》のセーフティラインってのを知っているッスカァァァァ!? 《スピード・ワールド2》はスピードカウンターを4つ取り除くことで相手に手札の「Spスピードスペル」1枚につき800ダメージを与えられるッスァァァァァァ! そしてこのターンでスピードカウンターは4つ! つまり、ライフが800を下回ったアンタは次のターン《スピード・ワールド2》のダメージで負けるッスァァァァァァァァァァァァァ!!!」

《スピード・ワールド2》
フィールド魔法 (アニメ5D’sオリジナル)
Sp」スピードスペルと名のついた魔法カード以外の魔法カードをプレイした時、自分は2000ポイントダメージを受ける。お互いのプレイヤーはお互いのスタンバイフェイズ時に1度、自分用スピードカウンターをこのカードの上に1つ置く。(お互い各12個まで、1ターン目を除く)
自分用スピードカウンターを取り除く事で、以下の効果を発動する。
●4個:自分の手札の「Sp」と名のついたカードを任意の枚数公開することで、その枚数× 800ポイントダメージを相手ライフに与える。
●7個:自分のデッキからカードを1枚ドローする。
●10個:フィールド上に存在するカードを1枚破壊する。

 ラーメン屋の様子に呆れた表情を浮かべつつ、ソーガは手札のモンスターを呼び出す。

「説明ご苦労さん。 さてと、俺はコイツを召喚するぜ! チューナーモンスター《幻影王 ハイド・ライド》!」

「チュ、チューナーモンスターだとッスァァァァァァァァァァァァァァ!!??」

 ソーガのD・ホイールと並走するのは、黒馬に乗り銀の鎧に身を包んだ騎士。

《幻影王 ハイド・ライド》
チューナー(効果モンスター)
星3/闇属性/悪魔族/攻1500/守 300
自分フィールド上に表側表示で存在する
このカードをシンクロ召喚に使用する場合、
このカードをチューナー以外のモンスターとして扱う事ができる。

「行くぜ! レベル4《ジェノサイドキングデーモン》にレベル3《幻影王 ハイド・ライド》をチューニング!」

 黒馬の騎士は飛び上がると3つの緑色の環となり、それを悪魔の王は潜り抜ける。

 潜った悪魔は4つの星となり、一筋の光を紡ぎだす。

「新たなる王者の脈動、混沌の内より出でよ! シンクロ召喚! 誇り高き、《デーモン・カオス・キング》!」

 炎に包まれた翼を広げ、細身の悪魔がフィールドに舞い降りる。

デーモン・カオス・キング ATK:2600

 ――シンクロ召喚。

 チューナーと呼ばれる特殊なモンスター1体と、チューナー以外のモンスター1体以上をフィールドから墓地に送り、そのレベルの合計を持つシンクロモンスターを呼び出す召喚方法。

 魔法カードを使わずに呼び出せる強力モンスターであり、D・ホイーラーを始め多くのデュエリストに愛用される、今の時代を代表するモンスターだ。

「更にコイツを使うぜ! 《Spスピードスペル−スピード・エナジー》! 俺のスピードカウンターは4個、よって《デーモン・カオス・キング》の攻撃力は800ポイントアップ!

 ソーガのD・ホイールの先端にある角のようなパーツから光が放たれ、《デーモン・カオス・キング》はそれを受ける。

Spスピードスペル−スピード・エナジー》
通常魔法 (アニメ5D'sオリジナル)
自分のスピードカウンターが2つ以上あるとき
自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動する。
選択したモンスターの攻撃力はエンドフェイズ時まで
自分のスピードカウンターの数×200ポイントアップする。

デーモン・カオス・キング ATK:2600→3400

「な……攻撃力3400だとッスァァァァァァ!?」

「やれ、《デーモン・カオス・キング》! 《暗黒のマンティコア》に攻撃! そしてこの瞬間、《デーモン・カオス・キング》の効果発動! コイツは攻撃宣言時に相手モンスターの攻守の数値を入れ替えることができる!」

 《デーモン・カオス・キング》は翼の炎を放つと、それを受けた魔獣は力が抜け弱体化する。

《デーモン・カオス・キング》
シンクロ・効果モンスター
星7/闇属性/悪魔族/攻2600/守2600
悪魔族チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上
このカードの攻撃宣言時、
相手フィールド上に表側表示で存在する全てのモンスターの
攻撃力・守備力をバトルフェイズ終了時まで入れ替える事ができる。

暗黒のマンティコア ATK:2300→1000 DEF:1000→2300

「さあ、《デーモン・カオス・キング》! ぶっ壊してやれ! ファイアソード!」

 《デーモン・カオス・キング》は炎の剣を生み出し、弱体化した魔獣をいとも容易く切り倒す。

「げひゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

ラーメン屋 LP:3800→1400

 魔石の力によるダメージの実体化。

 しかも2000以上ものダメージによる衝撃はかなりのものだ。

「これが壊し屋の力っすか。 けど、オイラのライフはまだ残っているッスァァァ! そして、次のオイラのターンになれば《スピード・ワールド2》の効果でお前のライフはゼロッスァァァァァァ!! シンクロ召喚での反撃は褒めてやるっすけど、結局のところ勝つのはオイラッスァァァァァァァァァァァァァァ!!! このデュエルでオイラは壊し屋の首をとったD・ホイーラーとして名を上げ、プロの世界に復帰するッスァァァァァァァァァ!! そして、オイラを引退に追い込んだ憎きジャック・アトラスを倒し、このオイラがキングとして世界に君臨するッスァァァァァァァァァァ!!! キーッヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒ!!!!」

「……ククク」

 吠えるラーメン屋に、ただ笑うソーガ。

「何がおかしいッスカァァァ!? この状況で、なんで笑えるッスカァァァァァァァ!? このデュエ中に何度も見せた、その余裕っぽい態度は何ッスカァァァァァァァァァ!!??」

「この態度が何かって? ただ愉快なんだよ、お前が俺の手のひらの上で踊る姿がよ!」

 狂気じみたモノへと歪んでゆくソーガの表情に、恐怖を覚えるラーメン屋。

「伏せカード発動、《デーモンの雄叫び》! 500ライフを払い、墓地よりデーモンを蘇らせる!」

「そ、それは……!?」

ソーガ LP:550→50

《デーモンの雄叫び》
通常罠
500ライフポイントを払い発動する。
自分の墓地から「デーモン」という名のついたモンスターカード1枚を
自分のフィールド上に特殊召喚する。
このモンスターは、いかなる場合にも生け贄にする事はできず、
このターンのエンドフェイズに破壊される。

「さあ、虐殺ショーに幕を下ろせ! 《ジェノサイドキングデーモン》!」

 ソーガの頭上に黒い霧が集まり、悪魔の形を形成する。

 王の名を冠す悪魔は、不気味な笑みを浮かべ剣を構える。

「バトルフェイズ中の特殊召喚ってことは……まだ攻撃が……」

「どうだぁ、ラーメン屋。 手にした勝利という希望が、この俺によって見せられた幻想だった気分は! 敗北という絶望が、突如として目の前に現れた気分は! ククク……ハハハハハハハハハハ!!」

「ああ……そ、そんな……」

 対抗手段のないラーメン屋は、ただ目の前に付きつけられた現実に立ち向かうしか無い。

 しかし、目の前の男は到底立ち向かうどころか、まともに直視することすら恐ろしい程だった。

「ハハハハハ! さあ、ぶっ壊れちまいなぁ! 《ジェノサイドキングデーモン》、ラーメン屋にダイレクトアタックだ!」

 闇夜の空に浮かぶ満月、そこに影が映し出される。

 翼を広げたその影は剣を高く掲げると、一気に地に落ちてゆく。

 天より落ちる狂気は、目の前の獲物にその剣を突き立て、戦いの幕を下ろした。

「げひょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 ラーメン屋はD・ホイールのバランスを崩し転倒、ハイウェイ上に放り出される。

 彼のD・ホイールは転倒の勢いでハイウェイの下の海に転落。

 そこにD・ホイールを降りたソーガが歩み寄る。

「ヒ……く、来るなッスァァァ! あ、悪魔ぁ……!」

「おいおい、そんなに嫌われちまうと寂しいぜ。 俺と楽しいライディングデュエルをしてくれたお礼に、素敵なプレゼントをくれてやるってのによぉ」

 ソーガはラーメン屋の側に寄り、右手で頭を掴む。

 左手で胸に付けられた魔石のブローチに指を当て、静かに呟く。

「罰ゲーム――死の体感!」

「ぎあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

 ――絶叫。

「ハハハハ! せいぜい楽しんでくれよ!」

 もがき苦しむラーメン屋を後にソーガはD・ホイールに乗る。

「安心しな、テメエ程度の小悪党は一晩で済む罰ゲームで許してやるよ」

 そう言い残し、ソーガはその場を立ち去る。








 ――パズルシティ、ある喫茶店

「ご苦労様でした、ソーガさん!」

 ラーメン屋とデュエルしたハイウェイから少し離れた喫茶店。すっかり日が暮れた時間でも営業しているこの店でソーガはセーナと合流した。

「おう、セーナもご苦労だったな」

「いえいえ、私は大したことはしていませんって。 それとここに到着するのが遅れてすいませんでした」

「ま、気にするな。 お前はお前で俺のサポートをしっかりしてくれたわけだし、それで遅れたところで咎めやしねえよ」

「あの……」

 そんな二人の間に、依頼者である金髪の青年の青年ルドルフが割って入る。この場所にはセーナが連れてきたのだろう。

「本当にありがとうございました!」

「クク……報酬は十分もらったし、まあそこそこ楽しめた仕事だったぜ」

「壊し屋さん、本当に助かりました。 では!」

 店を出ようとするルドルフに、ソーガは声をかける。

「WRGP、せいぜい頑張れよ」

 思いもよらない壊し屋の声援に、ルドルフは驚く。

「え!? けど、デッキもD・ホイールも……」

「デッキもD・ホイールも無くなった? 俺から言わせりゃその程度、絶望どころか希望がたくさんあるじゃねえか。 今じゃ市場の量産型D・ホイールもそこそこ使えるし、デッキはまた組み直せばいい。 だから自分が不幸のどん底にいるとか思い上がるんじゃねえぞ」

「……! はい、わかりました! 絶対、WRGPまでに何とかして見せます!」

 そう言うと、ルドルフは先程よりも明るい表情で店を出ていく。

 彼が店を出ると、セーナはソーガに問う。

「ソーガさん、今回はどうでしたか?」

「まあ退屈はしなかったが、得るものは無かったな。 ソウル・モーメントとか言う代物があったが、あの程度じゃ使えねえ」

「もう4年もこの仕事を続けていますが、やはりそう簡単には見つかりませんね」

 セーナがそう言うと、ソーガはコーヒーをすすり返答する。

「ああ。 だが必ず、俺は手に入れてやるぜ! 全ての”大門七神器”をよ!」

 コーヒーをテーブルに置き、ソーガは不敵な笑みを浮かべる。

「全ての大門七神器を手にし、究極の闇の力を手に入れるのはこのソーガ・ダイモンだ!」






 ――パズルシティ、第3ハイウェイ

「ヒヒヒ、流石は壊し屋……見事なデュエルですなあ」

 静まり返った深夜のハイウェイで、杖を持った老人は側にいる少年にそう語る。

「うん、そうだね。 それでいい、それでこそ僕が越えるべき存在なんだ」

 そう答えるのは、腰まで届くほどの長い金髪が目立つ小柄な少年。

「さて、僕の方も彼と戦う準備を進めなきゃね。 あ、そうだ!」

 少年は思い立ったように、ハイウェイに横たわりもがき苦しむラーメン屋に近寄る。

「この負け犬が適合しているか、試してみよう! そこらの一般人よりはずっと強いみたいだし」

 少年はマントから茶色の球がついたネックレスを取り出し、ラーメン屋にかける。

 そして球の部分を彼の胸に押し付ける。

「ぎああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 絶叫するラーメン屋。そんな彼を少年と老人は眺める。

「ヒヒヒ、拒絶反応を起こしてるようですな。 まあ、流石に適合者はそうは見つかりませんかな」

「いや、そうでもないよ。 見なよ、マリス」

 胸に押し付けられた球から、血管のようなものが現れラーメン屋の肉体を徐々に覆ってゆく。

 そして、しだいにラーメン屋の叫び声も収まっていった。

「おお! まさかこの男が四元素の力に適合するとは! ヒヒヒ、うれしい誤算ですなあ」

「うん、僕も正直に言うとあんまり期待はしていなかったんだけど、物は試しってやつだね。 マリス、帰ったら早速コイツの調整をしようよ!」

 マリスと呼ばれた老人は杖を振ると、ラーメン屋の肉体は宙に浮く。

「いよいよ君と戦う時が来たんだね。 待ち望んでいたよ、大門総我……いや、今はソーガ・ダイモンだったね」

 金髪の少年はマリスと共に闇へと消え去っていった――。






 悪を背負い、悪を歩み、悪を狩る。

 闇に名を馳せるD・ホイーラー”壊し屋”ことソーガ・ダイモン。

 圧倒的なデュエルタクティクスで数々のデュエリストを葬り、恐怖を植えつけてゆく――。

「うー、眠い……セーナぁ、もうちょっと寝かせて」

 そんな彼も、日常ではこの様である。

「ダメですよソーガさん、朝ごはん覚めてしまいますよ」

 ベットにしがみ付くソーガと、それを起こそうとする助手の少女――セーナ・クロエ。

 ポニーテールに束ねた銀の長髪が特徴的で、エプロンを着た少女はソーガの腕を掴んで彼を引っ張りだそうとする。

「んー、仕方ないなあ……顔洗ってくるから、飯の準備しといてぇ……」

 ソーガは渋々ベットから這い出ると、ふらふらとした足取りで部屋を出てゆく。

「ふう、ようやく起きてくれましたか」

 そんな彼の後ろ姿をみて、セーナは満足気にそう言った。



第ニ話「煌めく刀身、蠢く蜘蛛」


 ――パズルシティ、ソーガの家

「ん! 味噌汁美味え! セーナ、味付け変えたのか?」

「はい。 先日に泊まった旅館の味噌汁をソーガさんが褒めていたので、その味を再現してみました」

「おおー、あのデュエルヤクザの一件の時に食べたアレか! ここまで美味え味噌汁を作るとは流石は俺の助手だな、ありがとうな!」

「いえいえー、壊し屋の助手として、これくらいは当然ですから!」

 カーテンの開けられた窓からは朝日が差し、テーブルで向い合って食事をする二人。

 その様子からセーナはソーガに対して純粋な敬意を向け、またソーガはセーナを大切にしているのが映る。

 喧嘩も不満もなく、実に穏やかな食卓。

 その姿は世間で噂される壊し屋としての彼らとは実にかけ離れたものであった。

「なあセーナ、今日って仕事無えよな」

「はい、今日はオフです。 ここ一週間は忙しかったですからね」

「そうだよなあ、ラーメン屋の一件に、デュエルヤクザの討伐やら、デュエル新興宗教の壊滅やら、デュエル土木建築の違法運営者をぶっ壊すなんてのもあったなあ」

「今週は少々仕事を入れすぎましたね」

「ああ。 できれば働くってのは性にあわねえ。 壊し屋の仕事はまあクズどもをぶっ壊す快感があるから続けてるが、他の仕事は働く気にならねえなあ」

「ソーガさん、そのうちニート生活でもするつもりなのですか……?」

「悪くねえな。 壊し屋でボッタクリ価格で稼いだ金に、親父が山ほど残した財産。 一生遊んで暮らせんじゃねえの?」

「もう、あなたほどの人がそんな考えでどうするんですか」

 穏やかな雰囲気の食卓の中、ソーガは取留めのない日常会話をするように殺伐とした壊し屋の仕事を持ち出す。

 とはいえ、それが場違いというわけではない。彼らにとって壊し屋としての仕事は日常であり、それゆえ日常会話として当てはまるのである。

「オフか……じゃあ、今日は市街地で買い物しようぜ。今日は待ちに待った名シリーズの新作ソフト『正義の味方カイバーマン13 魔王ディアボロスの野望』が発売日だからな」

「構いませんけど、夜遅くまでゲームをするのはいけませんよ。 寝不足は体調を崩しますから」

「分かってるって。 人生、生まれてきたからには楽しんで有効活用しないといけないし、だからこそ体は大事にしねえとなあ」

「はい、その通りですね」








 ―― パズルシティ、市街地

「思ったよりも早く済んだな、買い物」

「ええ。 ソーガさんはいつもならカードショップで色々見て回っていますけど、今日は寄りませんでしたからね。 新作のゲームソフトを早くやりたかったのですか?」

「その通り。 ま、だからといってデッキ調整に抜かりはないぜ?」

 雑談をしながら帰路につく二人。その様子は、周囲の民衆と同様の一般的な青年や少女のようである。

(この気配……!)

 ソーガはふと、何かを感じ取る。裏デュエル界で生きてきた経験がなせる技であり、こういった点は周囲の民衆とはまるで異なっている。

(尾行、か……)

「そうだ。 セーナ、ちょっと寄りたいところあるんだが」

「どちらに?」

「こっちだ」

 そう言うとソーガは市街地の奥へと進む。

 セーナはソーガの様子を見て、状況についての察しがついた。

「確かこっちにケーキ屋があったな、最近は他の店ばかりだったからたまにはこっちもいいかな」

「はい、そうでしたね」

 ソーガの一言により、セーナの推測は確信に変わる。

(こちらにケーキ屋なんて無い。 つまり、ソーガさんが目指しているのは……!)

 ソーガはどんどんと市街地の奥の路地を歩き、開けた場所に出る。

 あまり人通りの無い、裏路地。近くには、フェンスに囲まれた空き地がある。

 ――パズルシティは、世界トップクラスの大都市・ネオドミノシティに距離的に近い都市である。

 ネオドミノシティ程では無いとはいえ、かなり発展している。

 表通りの目立った部分は栄え、利便性があり立派な都市である。

 しかしながら、裏の目立たない部分では治安が悪く、スラムや貧困層も多い。

 このパズルシティはネオドミノシティがかつて行ったシティとサテライトという街の二分化による格差社会の形成に影響を受けている部分が多い。

 サテライトのように下層地域の住民を島に隔離するようなことはないものの、それでも街の中では南北で事実上の居住区の区別が行われている。

 当のネオドミノシティはここ最近で格差の撤廃を行なっているのだが、このパズルシティは未だに格差が続いている。

「ソーガさん、このあたりでよろしいのでは……?」

「ああ、そうだな」

 セーナの返答を聞くと、ソーガは振り返り声を上げる。

「出てこいよ、ストーキングとは悪趣味だなあ。 そういうの、嫌いじゃねえがな」

 物陰から、フード付きのローブで姿を隠した何者かが姿を現す。

「ふーん……気づいてたんだ」

 フードの下に見えるのは、右目を隠すように伸びた見える紫色の髪。

 声からすると女性、体格からすると年齢はセーナよりも下で、中学生くらいが妥当であろう。

「何だお前は? 俺に何の用だ?」

「私は夜条。 ソーガ・ダイモン、デュエルを申し込みたい」

「ほう、面白え! 俺を知った上でデュエルを挑んでくるか、だったら」

 ソーガがそう言いかけたところで、セーナが彼の前に立つ。

「お待ちください、ソーガさん。 夜条といいましたね、あなたは何者ですか? ソーガさんに用事があるなら、まずはソーガさんの助手である私に話を通してください」

「助手には用事はない、私はソーガ・ダイモンとデュエルをしに来た」

 無表情で、淡々と話す夜条。

「私も随分と舐められたものですね……ソーガさん、ここは私に任せてくれませんか? ソーガさんが出る必要もありませんので!」 

「ま、お前もああ言われちゃ頭にきただろう。 よし、セーナ! 俺の助手として、頼んだぜ!」

「了解です、このセーナ・クロエにお任せください!」

 セーナの提案に対し、ソーガはノリ気味のセリフで答える。そしてセーナはさらにノリノリで返す。

「ノリがうざいけど……そうか、それが助手のセーナ・クロエか……」

「じゃ、デュエルはそこの空き地でしようぜ」

 ソーガの提案により、三人は金網製の扉を開けて中に入る。

 扉があるといっても、とくに天井等があるわけでもない。

「悪を背負い、悪を歩み、悪を狩る――気高き闇のデュエリスト”壊し屋”の懐刀、このセーナ・クロエが相手です!」

 セーナは背負っている鞘から刀を抜き、片手で持ち夜条に向ける。

「刀……物騒な装備」

「フッ、ただの刀ではありませんよ、これがデュエル妖刀”鬼蜘蛛”の真の姿!」

 セーナは刀を上空に投げると、変形していきデュエルディスクとなる。

 そしてデュエルディスクとなった刀は天に向けてあるセーナの左腕に装着された。

(確かにあの刀はただの刀じゃねえんだよなあ。 なんせ、この俺がプレゼントしてあげた大門七神器の一品なんだからよ。)

 ソーガをセーナの持つ刀を見て、不敵な笑みを浮かべる。

(俺の持つ大門七神器は二つ……魔石のブローチと、妖刀・鬼蜘蛛。 つまり俺が探しているのは残り五つの大門七神器ってわけだ)

 セーナはデュエルディスクとなった妖刀を構える。

「面白いもの、持っているんだ……さあ、始めようか」

 夜条はフードを外し、ローブを開いてデュエルディスクを装着する。

「ソーガさんのジャマをするものは斬り倒すまで! デュエル!」

「デュエル……」

セーナ LP:4000 夜条 LP:4000

 火蓋が切って落とされた二人のデュエル。

 彼女らが行うのは、D・ホイールを使わずデュエルディスクで行うスタンディングデュエル。

 近年登場した形式であるライディングデュエルと区別するために現在はスタンディングデュエルと呼ばれているものの、デュエルの歴史からすればこれがデュエルの基本形であり、歴史も古い。

 専用のライセンスが必要でD・ホイールの値段や制作費もバカにならないライディングデュエルとは違い、手軽に入手できるデュエルディスクとデッキのみで行えるので老若男女問わず楽しまれている。

「私のターン、ドロー! 私は《ナチュル・バタフライ》を守備表示で召喚。 カードを2枚伏せ、ターンエンドです」

 セーナが召喚したのは、桃色の羽を持つ蝶のモンスター。

《ナチュル・バタフライ》
チューナー(効果モンスター)
星3/地属性/昆虫族/攻 500/守1200
1ターンに1度、相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
自分のデッキの一番上のカード1枚を墓地へ送り、その攻撃を無効にする。

「私のターン、ドロー……」

セーナ LP:4000
手札:3枚
モンスター:《ナチュル・バタフライ》(守1200)
魔法&罠:セット2枚
夜条 LP:4000
手札:5→6枚
モンスター:無し
魔法&罠:無し

 シンプルで守備的なセーナの布陣。夜条は、手札から2枚のカードを選び出す。

「召喚、《ゴブリンゾンビ》。 さらに装備、《死霊の大鎌》」

 夜条の呼び出したアンデットモンスターは、目の前に現れた大鎌を手に取り振り回す。

《ゴブリンゾンビ》
効果モンスター
星4/闇属性/アンデット族/攻1100/守1050
このカードが相手ライフに戦闘ダメージを与えた時、
相手はデッキの上からカードを1枚墓地へ送る。
このカードがフィールド上から墓地へ送られた時、
自分のデッキから守備力1200以下の
アンデット族モンスター1体を手札に加える。

《死霊の大鎌》
装備魔法 (血の刻印オリジナル)
アンデット族モンスターのみ装備可能。
装備モンスターの攻撃力は700ポイントアップする。
フィールド上に表側表示で存在するこのカードが墓地へ送られた時、
デッキからアンデット族モンスター1体を選択して墓地へ送る。

ゴブリンゾンビ ATK:1100→1800

「《ゴブリンゾンビ》、攻撃……!」

 大鎌を振り下ろし蝶を切り落とそうとするゾンビ。しかし、その攻撃を蝶は優雅にかわす。

「……?」

「《ナチュル・バタフライ》の効果。 デッキの一番上のカードを墓地に送り、攻撃を無効にする!」

《ナチュル・バタフライ》
チューナー(効果モンスター)
星3/地属性/昆虫族/攻 500/守1200
1ターンに1度、相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
自分のデッキの一番上のカード1枚を墓地へ送り、その攻撃を無効にする。

「なら、カードを1枚セット。 これでターン終了」

「私のターン、ドロー!」

セーナ LP:4000
手札:3→4枚
モンスター:《ナチュル・バタフライ》(守1200)
魔法&罠:セット2枚
夜条 LP:4000
手札:3枚
モンスター:《ゴブリンゾンビ》(攻1800)
魔法&罠:《死霊の大鎌》、セット1枚

「蝶のように舞ったのなら、次は蜂のように刺すまでです。 《アーマード・ビー》を召喚!」

 金属で武装された蜂が現れ、針で相手を威嚇する。

アーマード・ビー ATK:1600

「けど攻撃力は、《ゴブリンゾンビ》が上」

「それはどうですかね、《アーマード・ビー》の特殊能力を発動! ポイズン・ニードル!」

 蜂の放った毒針はゾンビに命中し、その肉体を崩れさせる。最も、ゾンビなので既に肉体は崩れているようなものだが。

ゴブリンゾンビ ATK:1800→900

「これは……?」

「ポイズン・ニードルを受けたモンスターは毒により攻撃力が半減します。 これで攻撃力は逆転ですね」

《アーマード・ビー》
効果モンスター
星4/風属性/昆虫族/攻1600/守1200
1ターンに1度、相手フィールド上に表側表示で存在する
モンスター1体を選択して発動する。
選択した相手モンスターの攻撃力をエンドフェイズ時まで半分にする。

「《アーマード・ビー》で《ゴブリンゾンビ》に攻撃! ビー・カッター!」

 急降下から放たれる蜂の一撃は、弱体化したゾンビを葬った。

夜条 LP:4000→3300

「《ゴブリンゾンビ》と《死霊の大鎌》の効果、発動……」

 デュエルの様子を見て、ソーガは状況を考察する。 

(相手の攻撃を防ぎ、戦闘補助を利用して戦闘で有利に立つ。 流石は俺の助手、基本的ながら綺麗な戦術だぜ。 だが、アンデット族モンスターは墓地利用を得意とする。 厄介なのはこれからだぜ、セーナ)

「それだけじゃない……更にチェーン発動。 罠カード《道連れ》で、その蝶を破壊する」

 先程破壊された《ゴブリンゾンビ》が地面より這い出て、《ナチュル・バタフライ》を掴んで再び地へと戻る。

「死霊の怨念、受けるがいい」

「《ナチュル・バタフライ》が!」

「なるほど、《アーマード・ビー》が効果を使えるのは自分のターンのみ。 それよりも2体以上の攻撃でないと突破できねえ《ナチュル・バタフライ》の方が厄介ってことか」

《道連れ》
通常罠
フィールド上に存在するモンスターが自分の墓地へ送られた時に発動する事ができる。
フィールド上に存在するモンスター1体を破壊する。

「《死霊の大鎌》により、デッキの《馬頭鬼》を墓地に……。 更に、《ゴブリンゾンビ》によりデッキの《ゾンビ・カイザー》を手札に」

《死霊の大鎌》
装備魔法 (血の刻印オリジナル)
アンデット族モンスターのみ装備可能。
装備モンスターの攻撃力は700ポイントアップする。
フィールド上に表側表示で存在するこのカードが墓地へ送られた時、
デッキからアンデット族モンスター1体を選択して墓地へ送る。

《ゴブリンゾンビ》
効果モンスター
星4/闇属性/アンデット族/攻1100/守1050
このカードが相手ライフに戦闘ダメージを与えた時、
相手はデッキの上からカードを1枚墓地へ送る。
このカードがフィールド上から墓地へ送られた時、
自分のデッキから守備力1200以下の
アンデット族モンスター1体を手札に加える。

 夜条は破壊されたカードの処理を淡々と行う。

「私はこれでターンエンド」

「私のターン、ドロー。 手札のアンデット族モンスター《怨念の魂 業火》を墓地に捨てる。 よって、《ゾンビ・カイザー》を特殊召喚」

 《ゴブリンゾンビ》よりも大きく、装備も豪華になったゾンビが現れる。朽ち果てた肉体にボロボロのマントを纏い、剣を構えた姿はまさにゾンビの皇帝。

《ゾンビ・カイザー》
効果モンスター (血の刻印オリジナル)
星5/地属性/アンデット族/攻2400/守1200
このカードは手札のアンデット族モンスター1体を捨て、
手札から特殊召喚する事ができる。

「墓地の《馬頭鬼》を除外し、効果発動。 墓地の《怨念の魂 業火》、特殊召喚」

 フィールドに鐘のような金属の筒が現れると、そこから炎が吹き出し怨霊の顔となる。

《馬頭鬼》
効果モンスター
星4/地属性/アンデット族/攻1700/守 800
自分のメインフェイズ時、墓地に存在するこのカードをゲームから除外する事で、
自分の墓地からアンデット族モンスター1体を選択して特殊召喚する。

《怨念の魂 業火》
効果モンスター
星6/炎属性/アンデット族/攻2200/守1900
自分フィールド上に炎属性モンスターが存在する場合、
このカードは手札から特殊召喚する事ができる。
この方法で特殊召喚に成功した場合、
自分フィールド上の炎属性モンスター1体を破壊する。
自分のスタンバイフェイズ時に、自分フィールド上に
「火の玉トークン」(炎族・炎・星1・攻/守100)を1体守備表示で特殊召喚する。
自分フィールド上のこのカード以外の炎属性モンスター1体を生け贄に捧げる事で、
このターンのエンドフェイズ時までこのカードの攻撃力は500ポイントアップする。

「大型モンスターが一気に2体も!」

「これが私のアンデットデッキ。 黄泉より闇の力で蘇り、全てを喰らい尽くす。 それがアンデット族の力……」

 形勢は一気に不利になったものの、セーナの表情はまだ余裕である。

「《怨念の魂 業火》、《アーマード・ビー》に攻撃」

 業火の放つ巨大な炎は、蜂を一瞬で焼き尽くした。

「くっ……!」

セーナ LP:4000→3400

「《ゾンビ・カイザー》、ダイレクトアタック……!」

 ゾンビの皇帝が剣を振りかぶった瞬間、その体に光る粉のようなものが纏わり付く。すると、ゾンビの皇帝は膝を折り、守備体勢をとった。

「これは……?」

「罠カード《隷属の鱗粉》! これで《ゾンビ・カイザー》は守備表示となり、攻撃はキャンセルです」

《隷属の鱗粉》
通常罠
相手モンスターの攻撃宣言時に発動できる。
攻撃モンスターの表示形式を守備表示にし、
そのモンスター1体にこのカードを装備する。
また、1ターンに1度、メインフェイズ
及びバトルフェイズ中に発動できる。
装備モンスターの表示形式を変更する。

ゾンビ・カイザー 表示形式:攻撃表示(攻2400)→守備表示(守1200)

「なるほど……なら、私はこれでターンエンド」

セーナ LP:3400
手札:3枚
モンスター:無し
魔法&罠:《隷属の鱗粉》、セット1枚
夜条 LP:3300
手札:3枚
モンスター:《怨念の魂 業火》(攻2200)、《ゾンビ・カイザー》(守1200)
魔法&罠:無し

「私のターンだな、ドロー!」

 セーナはドローカードを確認すると、そのカードをデュエルディスクに置く。

 そして、蜘蛛のモンスターが出現する。

「私のモンスターは《スパイダー・スパイダー》!」

スパイダー・スパイダー 攻1500

「バトル! 《スパイダー・スパイダー》で守備表示となった《ゾンビ・カイザー》に攻撃!」

 蜘蛛は糸を吐き出し、鱗粉により守備を構えていたゾンビの皇帝を縛り破壊する。

「この瞬間、《スパイダー・スパイダー》の効果発動! 守備表示モンスターを戦闘破壊した時、墓地の下級昆虫族を特殊召喚できます!」

《スパイダー・スパイダー》
効果モンスター
星4/地属性/昆虫族/攻1500/守1000
このカードが戦闘によって相手フィールド上に
守備表示で存在するモンスターを破壊した場合、
自分の墓地に存在するレベル4以下の
昆虫族モンスター1体を選択して特殊召喚する事ができる。

「さあ、蘇れ! 《ナチュル・バタフライ》!」

 前のセーナのターンに破壊された蝶が、再び現れる。

「またそのモンスター、か……」

 厄介な攻撃封じの能力を持つ《ナチュル・バタフライ》の復活に、夜条は少々不機嫌な様子だ。

 だが、ソーガはセーナが《ナチュル・バタフライ》を呼び出したのは守りを固めるためでない、と見抜く。

(《隷属の鱗粉》で表示形式を変更し攻撃を防ぎつつ、《ゾンビ・カイザー》の低い守備力を引きずり出し戦闘補助も兼ねる。 そこに攻撃力は低めだが戦闘破壊をトリガーとする《スパイダー・スパイダー》で攻撃、効果を使用し《ナチュル・バタフライ》を蘇生。 この流れなら、締めのカードは……)

「さらに、伏せていた罠カードを発動!」

(《緊急同調》!)

「《緊急同調》!」

 ソーガの予測通り、セーナの発動したカードはこの状況から打つに相応しい一手――《緊急同調》。

「《緊急同調》……! バトルフェイズ中のシンクロ召喚を可能とするカード……」

《緊急同調》
通常罠
このカードはバトルフェイズ中のみ発動する事ができる。
シンクロモンスター1体をシンクロ召喚する。

「その通りです。 レベル4《スパイダー・スパイダー》に、レベル3《ナチュル・バタフライ》をチューニング!」

 フィールドの《ナチュル・バタフライ》は3つの環となり、《スパイダー・スパイダー》はそれを潜る。

「スリーチャージ、フリーエントリー、ノーオプション! シンクロ召喚! チャージ・イン、《レッド・ビートル・ボーグ》!」

 フィールドを駆け抜け現れるは、赤い装甲を纏った機械甲虫。

レッド・ビートル・ボーグ ATK:2700

「さあ、《レッド・ビートル・ボーグ》! 《怨念の魂 業火》に攻撃、レッドアウト・マキシマム・バーニング!」

 炎を纏った機械甲虫のと、炎より生まれし死霊の激突。

 猛る炎のぶつかり合いは、死霊を貫いた機械甲虫の勝利となった。

「ぅ……」 

夜条 LP:3300→2800

「まだです! 《レッド・ビートル・ボーグ》の効果により、破壊した相手モンスターの攻撃力を1000下げて復活、そのモンスターと再びバトルを行えます!」

「再戦闘の効果……!?」

《レッド・ビートル・ボーグ》
シンクロ・効果モンスター (血の刻印オリジナル)
星7/炎属性/昆虫族/攻2700/守2400
昆虫族チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上
このカードが表側表示で存在する限り、自分フィールド上に表側表示で存在する昆虫族モンスターは相手の罠の効果を受けない。
1ターンに1度、このカードの攻撃によって相手モンスターを破壊し墓地へ送った時、
破壊したそのモンスターを相手フィールド上に表側攻撃表示で特殊召喚することができる。
この効果で特殊召喚したモンスターの攻撃力は1000ポイントダウンする。
さらに、このバトルフェイズ中、このカードはもう1度だけ攻撃できる。

怨念の魂業火 ATK:2200→1200

「これが徹底的に相手をいたぶる外道マシーン《レッド・ビートル・ボーグ》の力です! さあ、二度目の攻撃!」

 破壊された《怨念の魂 業火》が再び現れると、赤い機械甲虫は嬉々とした様子で再び炎を纏った突進を放つ。

 その一撃により、業火は再び墓地へと戻る。

「うあっ……!」

夜条 LP:2800→1300

「カードを1枚セット、これで私のターンは終了!」

「ククク……見事だったぜ、セーナ! ま、流石は俺の助手ってとこか」

 セーナの戦術に感心したソーガは、彼女に賞賛の言葉を送る。

「いえいえ、ソーガさんに比べればまだまだ私は未熟者ですって。 ソーガさんの方が凄いです!」

 嬉しそうな表情で振り返り、ソーガを称えるセーナ。

「おう! 確かに一番凄いのはお前をここまで育て上げたこの俺だからな」

「その通りです、ソーガさーん!」

 ソーガとセーナ、二人のやり取りを眺める夜条。

「ふーん、適当にデュエルして仕事終わらせて……さっさと帰ろうと思っていた。 けど……むかつくんだよ、お前ら」

 夜条の眼光が鋭くなり、放つ雰囲気が殺気じみたものとなる。

「……!」

「セーナ、気をつけろよ。 何か来るぜ」

「はい、それでも私は勝ちます!」

「よく言った、それでこそ俺の助手だ」

セーナ LP:3400
手札:2枚
モンスター:《レッド・ビートル・ボーグ》(攻2700)
魔法&罠:セット1枚
夜条 LP:1300
手札:3枚
モンスター:無し
魔法&罠:無し

「私のターン……ドロー! さあ、不死の世界へようこそ。 フィールド魔法《アンデットワールド》発動!」

 裏路地の空き地の景色が、しだいに不気味な沼地へと変貌する。

 紫色の霧に包まれ、当たりには朽ちた木に数々の骸。

 沼は血のように赤く、空には死霊の魂が舞う。

「このフィールドでは、場と墓地のモンスターは全てアンデットと化す……」

《アンデットワールド》
フィールド魔法
このカードがフィールド上に存在する限り、
フィールド上及び墓地に存在する全てのモンスターをアンデット族として扱う。
また、このカードがフィールド上に存在する限り
アンデット族以外のモンスターのアドバンス召喚をする事はできない。

「チッ、昆虫族を主体とするセーナには厄介だな。 種族サポートが完全に潰される上、昆虫族を素材指定するビートル・ボーグ等のシンクロ召喚が封じられちまうとはな」

「さらに、《ゾンビ・マスター》を召喚、効果発動!」

 体が朽ち果てたゾンビの男は、手から糸のようなものを地面に向けるとそこから新たなゾンビが現れた。

「手札のモンスターを捨て、墓地のアンデット族を復活させる。 私は《ゾンビキャリア》を捨て、捨てた《ゾンビキャリア》を特殊召喚」

《ゾンビ・マスター》
効果モンスター
星4/闇属性/アンデット族/攻1800/守   0
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
手札のモンスター1体を墓地へ送る事で、
自分または相手の墓地のレベル4以下の
アンデット族モンスター1体を選択して特殊召喚する。
この効果は1ターンに1度しか使用できない。


 墓地より蘇ったのは、様々な動物の部位を繋ぎ合わせた合成ゾンビ。

《ゾンビキャリア》
チューナー(効果モンスター)
星2/闇属性/アンデット族/攻 400/守 200
手札を1枚デッキの一番上に戻して発動する。
墓地に存在するこのカードを自分フィールド上に特殊召喚する。
この効果で特殊召喚されたこのカードは、
フィールド上から離れた場合ゲームから除外される。


「シンクロ召喚ができるのはお前だけじゃない。 レベル4《ゾンビ・マスター》にレベル2《ゾンビキャリア》をチューニング!」

 セーナの時と同様、環となった《ゾンビキャリア》と星となった《ゾンビ・マスター》は一筋の光となる。

「冥府に沈みし死にゆく骸よ、今こそ業火を纏い不死へと昇華せよ! シンクロ召喚! 蘇れ、《デスカイザー・ドラゴン》!」

 炎をその身に現れたのは、骨のような外見の龍。

「これが夜条のシンクロモンスター。 しかし私の《レッド・ビートル・ボーグ》の方が攻撃力は上ですよ」

「それはどうかな……私は《デスカイザー・ドラゴン》の効果を発動! 相手の墓地のアンデット族モンスターを私のモンスターとして蘇らせる。 《アーマード・ビー》……!」

《デスカイザー・ドラゴン》
シンクロ・効果モンスター
星6/炎属性/アンデット族/攻2400/守1500
「ゾンビキャリア」+チューナー以外のアンデット族モンスター1体以上
このカードが特殊召喚に成功した時、
相手の墓地に存在するアンデット族モンスター1体を選択し、
攻撃表示で自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。
このカードがフィールド上に存在しなくなった時そのモンスターを破壊する。


 不死の力を得た龍の咆哮にに呼応し、《アンデットワールド》の大地より《アーマード・ビー》が現れる。

 その姿は朽ち果て、まさにアンデット族と化している。

「そうか、《アンデットワールド》の効果で私の墓地のモンスターの種族はアンデット族に!」

「そう、そのための《アンデットワールド》。 早速《アーマード・ビー》の効果、発動……!」

 ゾンビと化した《アーマード・ビー》は毒針を放ち、機械甲虫を腐食させる。

《アーマード・ビー》
効果モンスター
星4/風属性/昆虫族/攻1600/守1200
1ターンに1度、相手フィールド上に表側表示で存在する
モンスター1体を選択して発動する。
選択した相手モンスターの攻撃力をエンドフェイズ時まで半分にする。

レッド・ビートル・ボーグ ATK:2700→1350

「バトル、《アーマード・ビー》で《レッド・ビートル・ボーグ》に攻撃」

 ゾンビ化した蜂の一撃は、弱った機械甲虫を一瞬で葬った。

セーナ LP:3400→3150

「《デスカイザー・ドラゴン》、ダイレクトアタック……!」

 不死の龍の放つ炎により、セーナは大ダメージを受け吹き飛ばされる。

「あぁぁぁぁぁぁぁっ!」

セーナ LP:3150→750

「カードを1枚伏せ、ターンエンド……」

「……私の、ターン!」

 セーナは立ち上がり、デッキのカードを引く。

セーナ LP:750
手札:2→3枚
モンスター:無し
魔法&罠:セット1枚
夜条 LP:1300
手札:無し
モンスター:《デスカイザー・ドラゴン》(攻2400)、《アーマード・ビー》(攻1600)              
魔法&罠:《アンデットワールド》、セット1枚

「まだ諦めないんだ……」

「私はソーガさんの助手です、この程度で諦めるわけがありません」

「やっぱり、むかつく……」

 セーナは手札からカードを1枚選び、デュエルディスクに置く。

 すると突如として突風が巻き起こり、不死者の世界は崩れていく。

「私の戦術を妨害するカードを使ってくるなら、それを破壊すればいい……速攻魔法《サイクロン》です」

《サイクロン》
速攻魔法
フィールド上の魔法・罠カード1枚を選択して破壊する。

「これで、種族は元に……」

「私のモンスターが昆虫族に戻ったのでこのカードが使えますね。 墓地の《スパイダー・スパイダー》を除外し、《ジャイワントワーム》を特殊召喚!」

 緑色の巨大ムカデが地面を突き破り出現する。

《ジャイワントワーム》
効果モンスター
星4/地属性/昆虫族/攻1900/守 400
このカードは通常召喚できない。
自分の墓地に存在する昆虫族モンスター1体を
ゲームから除外した場合のみ特殊召喚する事ができる。
このカードが相手ライフに戦闘ダメージを与えた時、
相手のデッキの上からカードを1枚墓地へ送る。

「さらにチューナーモンスター《ダークデルタ》を召喚し、効果を発動! 《ジャイワントワーム》のレベルを1下げます!」

《ダークデルタ》
チューナー(効果モンスター) (血の刻印オリジナル)
星3/闇属性/昆虫族/攻1500/守 900
1ターンに1度、このカード以外の
自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択し、
レベルを1つ下げる事ができる。


ジャイワントワーム レベル:4→3


「レベル3となった《ジャイワントワーム》にレベル3《ダークデルタ》をチューニング!」

 緑色の環となる《ダークデルタ》を《ジャイワントワーム》がくぐり抜け、4つの星となり一筋の光を生む。

「深淵に垂れる蜘蛛の糸、今こそ地の底より女邪神を呼び覚ませ! シンクロ召喚!」

 光は黒く染まり、そこから蜘蛛の下半身を持った女性が現れる。

「さあ、出番です! 《地底のアラクネー》!」

《地底のアラクネー》
シンクロ・効果モンスター
星6/地属性/昆虫族/攻2400/守1200
闇属性チューナー+チューナー以外の昆虫族モンスター1体
このカードが攻撃する場合、相手はダメージステップ終了時まで
魔法・罠カードを発動する事ができない。
1ターンに1度、相手フィールド上に表側表示で存在するモンスターを
装備カード扱いとしてこのカードに1体のみ装備する事ができる。
このカードが戦闘によって破壊される場合、
代わりにこの効果で装備したモンスターを破壊する事ができる。


「新たなシンクロモンスター……!」

「ただのシンクロモンスターではないです。 この《地底のアラクネー》は、何でもネオドミノシティの旧モーメント跡地で発見されたという代物で、去年ソーガさんが裏の市場で取り寄せて私にくれたものです。 このカードが何なのか、未だに情報は掴めていませんが確かなのはこのカードの力は本物ということです」

 《地底のアラクネー》は糸を放ち、《デスカイザー・ドラゴン》を縛り付ける。

 拘束された不死の龍を引き寄せ、自分のもとで捕縛した。

「私の《デスカイザー・ドラゴン》が……!?」

「これが《地底のアラクネー》の効果。 相手モンスターを装備カードとして装備できます。 そして《デスカイザー・ドラゴン》がフィールドに存在しなくなったことで、《アーマード・ビー》は破壊されます!」

《デスカイザー・ドラゴン》
シンクロ・効果モンスター
星6/炎属性/アンデット族/攻2400/守1500
「ゾンビキャリア」+チューナー以外のアンデット族モンスター1体以上
このカードが特殊召喚に成功した時、
相手の墓地に存在するアンデット族モンスター1体を選択し、
攻撃表示で自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。
このカードがフィールド上に存在しなくなった時そのモンスターを破壊する。


「なら……! 《強制脱出装置》で《地底のアラクネー》をエクストラデッキに……」

「甘い! 《トラップ・スタン》でその効果は無効です!」

《強制脱出装置》
通常罠
フィールド上に存在するモンスター1体を持ち主の手札に戻す。


《トラップ・スタン》
通常罠
このターンこのカード以外のフィールド上の罠カードの効果を無効にする。


「これが、壊し屋の助手……!」

「フッ、思い知りましたか、これがソーガさんのただ一人の助手の力です! つまりは私の上司のソーガさんはもっと凄いってことですけど!」

「いやセーナ、ここは別に俺を褒める場面じゃねえだろ。 気持ちはありがてえけどよ」

「あ、そうでしたか? まあそれは置いといて、バトルフェイズ! 《地底のアラクネー》でダイレクトアタック!」

 放たれた糸は夜条に命中し、彼女の体を吹き飛ばす。

「ふん……」

夜条 LP:1300→0


 夜条のライフカウンターが0を示し、デュエルの決着を伝える。

「ソーガさん、どうでしたか!?」

「ククク……いいデュエルだったぜ、セーナ。 流石は俺の助手だ」

「フフ、ソーガさんの助手としてこれくらいは当然ですから!」

 デュエル時の雰囲気とは打って変わるセーナ、それを見て不愉快そうな顔をする夜条は、立ち上がりソーガとセーナに告げる。

「壊し屋……。 今夜の8時、パズルシティ南東部にある港……そこに来て」

「敗者が随分な言いようですね、ここはソーガさんと私の側から質問をするのが筋でしょう? 夜条、あなたは一体何者ですか?」

 デュエル妖刀・鬼蜘蛛を夜条に向け、鋭い雰囲気を纏い問い詰めるセーナ。

「それは……秘密。 けど、大門七神器の情報が欲しいなら……来るといいよ」

 そう言うと、夜条の周囲に突如として炎が巻き上がる。

「これは!?」

「下がれ、セーナ!」

 夜条を中心に猛る炎。

「それと、セーナ・クロエ……」

 炎の中、夜条はセーナを睨む。

「お前はいずれ、倒す……」

 夜条がそう言い残すと炎が膨張し燃え上がる。

 炎はすぐに収まったが、そこに夜条の姿は無かった。

「消えた……!?」

「あの女、何者だ? それに、大門七神器の存在も知っていたし、ソイツを俺が探していることまで……」

 裏路地の跡地、そこに残った焦げ跡を見ながら、ソーガはこう呟く。

「何かが、始まろうとしてんのかもしれねえな……」




 ――パズルシティ南東部、港

「そろそろ時間だな」

「はい。 ところでソーガさん、今日は私は裏方で援護に回らなくても良いのですか?」

「今回は壊し屋の仕事とはわけが違う。 不測の事態に対処するなら俺一人よりもお前を側に置いて動いたほうがいい」

「なるほど、了解です! ソーガさんの背中は私にお任せください!」

 日が落ち、闇夜に包まれた港。

 そこに佇む青年と少女――ソーガ・ダイモンと、セーナ・クロエ。

 そこに、カツカツと鳴り響く足音。

 二人は、すぐに足音の方向を向く。

「来たんだ」

 足音の主は、フード付きローブを纏い、右目にかかった紫髪の小柄な少女――夜条。

 昼間にセーナとデュエルをし、この場所へ来るように言った張本人だ。

「来いって言ったのはテメエだろうが。 さあて、早速俺に大門七神器について教えてくれよ」

「流石はソーガさん、素早く本題に切り込みましたね!」

「せっかちは良くない。 壊し屋に、会いたいって人がいる……戦って」

「ソーガさんに会いたい人?」

「ソイツと戦えと? どこの誰だよ?」

「それは、オイラっす!」

 三人の会話に割って入る、男の声。

 声の主は港のコンテナの影より現れ、夜条が用いるものと似たフード付きローブを纏っている。

「……誰だよ?」

「……誰ですかね?」

「だからオイラっす! オイラのことを忘れたっすか!?」

 ソーガとセーナ、二人は困惑した。

 何故なら、声の主の正体が思い浮かばないからだ。

 二人は彼の声をどこかで聞いたことはある、と思いつつもそこから先が思い出せないのである。

 壊し屋として裏の世界を生きてきた二人にとって情報の重要さは理解しており、それゆえ覚えておくべき人間の声や外見はインプットされている。

 にも関わらず、目の前の男からは曖昧な情報しか呼び起こされないのだ。

 それ故に、二人は一つの結論を導いた。

「まあ、大したこと無えヤツだろうな」

「ええ、そうですよね」

「いや、いくらなんでも酷すぎるッスァァァァァァァァァァァ!!!」

「新入り、ローブは私と被る……だから早く脱いで」

「夜条さんも酷いッスァァァァァァァァァァァ!!!」

 ローブを剥いで現れたのは、茶髪の青年。

「これで思い出したっすか!?」

「ええっと……誰だっけ?」

「大したこと無い、というくらいしか手掛かりがないですしねえ……」

「本当にいい加減にしてくださいッスァァァァァァァァァァァ!!!」

 幾度と放たれる男の叫び――聞き覚えのあるその叫びが、セーナの記憶を呼び起こした!

「あ、思い出しました!」

「思い出してくれたっすか!?」

「先週にソーガさんに叩きのめされ、無様な醜態を晒した三流以下のプロ崩れ――ラーメン屋です!」

「な、なんて思い出し方ッスカァァァァァァァァァァァ!!??」

「あー、いたなそんなの」

 コントのようなやり取りに飽きたのか、夜条はラーメン屋に声をかける。

「新入り、さっさとデュエルして」

「あ、夜条さんすいません。 そんなわけで壊し屋ァ、オイラと再びライディングデュエルッスァァァァァァ!!」

 D・ホイールを起動し、跨るソーガ。

 そこにセーナが寄り、彼に声をかける。

「ソーガさん、確かにラーメン屋自体は大したことのないD・ホイーラーでしたが……」

「ああ、分かっている。 俺の罰ゲームを食らって一週間で復帰した、それが問題だ」

「これまで罰ゲームを受けてソーガさんをまともに直視できる人間は見たことありません。 どころかソーガさんとのデュエルがトラウマになってカードに触れるのすら拒絶反応を起こすのが大半ですからね。 にも関わらず、なぜラーメン屋は堂々とソーガさんに挑戦できるのでしょうか……?」

「確かに前のデュエルで徹底的にぶっ壊してやったんだがなあ……。 だが、それならヤツが再び自信をもつきっかけとなった”何か”を見つけ、奪うなり壊すなりすればいい話だ!」







第三話「ラーメン屋再び! キメラデュエリストの恐怖」


 ――港から離れた高台

「ヒヒヒ、そろそろ始まるようですなあ」

 不気味な笑みを浮かべるのは、杖を持った老人。

 彼の前には、空中に浮かぶ円には映像――港にいるソーガ達が映し出されている。

 そしてその隣には、金髪の小柄な少年が目を輝かせ映像を見ている。

「楽しみだなあ、大門の末裔ことソーガ・ダイモンはアレにどんな反応をしてくれるんだろう」

「おやおや、随分と楽しそうですなあ」

「そりゃそうだよ、マリス。 長年待ち望んでいたソーガ・ダイモンとの戦いが近づいてきたんだからさ。 マリスが下準備に力を入れすぎるから何年も待たされちゃったよ」

「ヒヒヒ、これは申し訳ないことをしてしまいましたなあ。 ですが、あなたもあの研究には乗り気だったではないですか」

「ハハ、それはそうなんだけどね。 さて、そろそろソーガ・ダイモンと僕の研究成果の対決が始まるね」

 金髪の少年は、歳相応の屈託のない笑顔で映像を視聴する。






 ――港沿いの道路

「「《スピード・ワールド2》、セットオン!!」」

『デュエルモード、オン』

《スピード・ワールド2》
フィールド魔法 (アニメ5D’sオリジナル)
Sp」スピードスペルと名のついた魔法カード以外の魔法カードをプレイした時、自分は2000ポイントダメージを受ける。
お互いのプレイヤーはお互いのスタンバイフェイズ時に1度、自分用スピードカウンターをこのカードの上に1つ置く。
(お互い各12個まで、1ターン目を除く)
自分用スピードカウンターを取り除く事で、以下の効果を発動する。
●4個:自分の手札の「Sp」と名のついたカードを任意の枚数公開することで、その枚数× 800ポイントダメージを相手ライフに与える。
●7個:自分のデッキからカードを1枚ドローする。
●10個:フィールド上に存在するカードを1枚破壊する。

 ソーガとラーメン屋は、それぞれのD・ホイールをデュエルモードに起動する。

(コイツのD・ホイールは前に俺が壊したから、今回は屋台の変形したヤツじゃねえようだな。 しかしコイツが使っているのはボルガー&カンパニー社の量産型D・ホイール――量産型とはいえ、プロ崩れのコイツが買えるかは資金面で怪しいところだ。 夜条か他の誰かがバックに付いているのか……)

「壊し屋! 生まれ変わったオイラの力、みせてやるッスァァァァァァァ!!」

「せいぜい楽しませてくれよ、負け犬」

 二人はD・ホイールのアクセルを踏み、戦いは幕を上げた。

「「ライディングデュエル、アクセラレーション!!」」

ソーガ LP:4000 ラーメン屋 LP:4000

 加速する二人の戦う舞台は港の近くにある古く寂れた人通りのない道路。

 治安の悪いこの辺りではハイウェイが設置しておらず、ライディングデュエルをするにはこのような場所で行うしか無いのである。

「ハッ、使い慣れねえD・ホイールじゃその程度だろうなあ。 先攻は頂いたぜ! 俺のターン!」

 第一コーナーを先取したソーガは、カードを引き自分のターンを始める。

「手札の《ジェノサイドキングデーモン》を捨てることで、《アサルト・デーモン》を特殊召喚!」

 ソーガの呼ぶ悪魔は翼を広げ、その体には鋭利な刃物の如き爪、角、牙――攻撃的な風貌の悪魔が咆哮する。

《アサルト・デーモン》
効果モンスター (血の刻印オリジナル)
星5/闇属性/悪魔族/攻2200/守0 
このカードは手札から「デーモン」と名の付いたモンスター1体を墓地へ送り、
手札から特殊召喚する事ができる。
このカードが破壊され、墓地に送られた時、自分の墓地に存在する
「アサルト・デーモン」以外の「デーモン」と名の付いたモンスター1体を選択し、特殊召喚する。

「更に、カードを1枚セット! ターンエンドだ」

「今度はオイラのターンッスァァァァ! 《シールド・ウィング》を守備表示で召喚ッスァァァァァ!」

 緑色の体色をした小型の鳥が、翼を盾のように構え召喚された。

《シールド・ウィング》
効果モンスター
星2/風属性/鳥獣族/攻 0/守 900
このカードは1ターンに2度まで、戦闘では破壊されない。

「コイツは1ターンに2度までバトルで破壊されないモンスターッスァァァァァァァ! さらに、カードを2枚セットし、ターンエンドッスァァァァァァァ!!」

「ほう、破壊耐性持ちか。 どうした、ビビッてんのか?」

「黙れッスァァァァァァァァァァァ!!! さっさとお前のターンを進めるッスァァァァァァァァァァァ!!!」

「おー怖い怖い。 じゃ、お言葉通り俺のターンだな、ドロー!」

ソーガ LP:4000
手札:3→4枚
モンスター:《アサルト・デーモン》(攻2200)
魔法&罠:セット1枚
スピードカウンター:1→2
ラーメン屋 LP:4000
手札:3枚
モンスター:《シールド・ウィング》(守900)
魔法&罠:セット2枚
スピードカウンター:1→2

 攻撃を狙うソーガと守備を固めるラーメン屋。先攻は最初のターンに攻撃不可であるため、このターンからソーガの攻めが本格的に始まると言える。

「さあ、出番だ! 《ランサー・デーモン》を召喚!」

 両腕が槍となった悪魔が、《アサルト・デーモン》の隣に現れる。

「行け、《アサルト・デーモン》! 《シールド・ウィング》に攻撃だ!」

 爪を振り上げ、翼を広げて飛びかかる《アサルト・デーモン》。そこに向け《ランサー・デーモン》が槍を向け、力を注ぎ込む。

「この瞬間、《ランサー・デーモン》の効果発動! コイツは1ターンに1度、俺のモンスターに貫通効果を付与できるぜ!」

《ランサー・デーモン》
効果モンスター
星4/闇属性/悪魔族/攻1600/守1400
相手フィールド上に守備表示で存在するモンスターを
攻撃対象とした自分のモンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
そのモンスターが守備表示モンスターを攻撃した場合、
その守備力を攻撃力が超えていれば、
その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。
この効果は1ターンに1度しか使用できない。

 悪魔の斬撃を、緑の鳥は左の翼で受け止める。

「《シールド・ウィング》は1ターンに2度まで破壊されないッスァァァァァァァ!!」

「だがダメージは受けてもらう!」

「グヒィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!!!」

ラーメン屋 LP:4000→2700

 衝撃を受けたラーメン屋の車体がバランスを崩すも、持ちこたえる。

「まだまだ! 《ランサー・デーモン》で《シールド・ウィング》に攻撃!」

 2体目の悪魔の槍を、《シールド・ウィング》は右の翼で受け止める。

「効果により破壊はされないっすが……意味のない攻撃、では無いっすね」

「その通りだぜ、分かってんじゃねえか! 伏せカード発動、《デーモンの宝札》! 《アサルト・デーモン》を破壊し、2枚ドローだ!」

《デーモンの宝札》
通常罠 (血の刻印オリジナル)
自分フィールド上に存在する「デーモン」と名のついたモンスター1体を選択して発動する。
デッキからカードを2枚ドローし、選択したモンスターを破壊する。

「そして、《アサルト・デーモン》は破壊された時、墓地のデーモンを呼び覚ます! さあ、虐殺ショーの始まりだぁ!」

《アサルト・デーモン》
効果モンスター (血の刻印オリジナル)
星5/闇属性/悪魔族/攻2200/守0 
このカードは手札から「デーモン」と名の付いたモンスター1体を墓地へ送り、
手札から特殊召喚する事ができる。
このカードが破壊され、墓地に送られた時、自分の墓地に存在する
「アサルト・デーモン」以外の「デーモン」と名の付いたモンスター1体を選択し、特殊召喚する。

「来たっすね!!」

 ソーガの一手に、ラーメン屋は笑みを見せ伏せカードに手をかけた。

「罠発動、《夜霧のスナイパー》! コイツはモンスター名を宣言し、相手が宣言したモンスターを呼び出したらそのモンスターを除外するッスァァァァァァァ!!」

「何!? 《夜霧のスナイパー》だと!」

「オイラが宣言するのは……忌まわしき壊し屋の下僕、《ジェノサイドキングデーモン》!!」

《夜霧のスナイパー》
永続罠
モンスターカード名を1つ宣言する。
宣言したモンスターを相手が召喚・特殊召喚・リバースした場合、
宣言したモンスターとこのカードをゲームから除外する。

 砕け散った《アサルト・デーモン》の残骸から、新たな悪魔が姿を現す。

 禍々しい剣を構え、マントを背にフィールドに降り立つは、王。

 そこに鳴り響く銃声――。

 悪魔の王は、銃弾の一撃を喰らい呆気無く退場となった。

「チッ、俺の《ジェノサイドキングデーモン》を……小賢しい!」

「キーッヒッヒッヒッヒッヒッヒ!! これであの目障りなモンスターは封印されたッスァァァァァァァァァァァ!!! 特殊召喚されたソイツで《シールド・ウィング》を倒す参段も崩せて最高ッスァァァァァァァァァァァ!!!」

「何の対策もなしに俺に挑んだ訳じゃねえか。 なら、カードを2枚セットし、ターンエンド!」

「おっと、このエンドフェイズに《砂塵の大竜巻》ッスァァァァ! オイラから見て左のセットカードを破壊ッスァァァァァァァ!!」

《砂塵の大竜巻》
通常罠
相手フィールド上の魔法・罠カード1枚を選択して破壊する。
その後、自分の手札から魔法・罠カード1枚をセットできる。

 砂を巻き上げる竜巻は、ソーガの伏せカードを吹き飛ばす。

 吹き飛ばされたカードは、前回のデュエルで決め手となった1枚。

《デーモンの雄叫び》
通常罠
500ライフポイントを払い発動する。
自分の墓地から「デーモン」という名のついたモンスターカード1枚を
自分のフィールド上に特殊召喚する。
このモンスターは、いかなる場合にも生け贄にする事はできず、
このターンのエンドフェイズに破壊される。

「またまたやったッスァァァァァァァ!! 前のデュエルでオイラに屈辱を与えた2枚は、これで退場ッスァァァァァァァ!!」

 ソーガの手を潰していくラーメン屋の戦術――ソーガは、焦ること無く冷静に分析を行なっていた。

(前回の一戦から学んだのか、俺への対策を行なってきているな。 奴もただの馬鹿じゃねえってことか。 だが、コレじゃねえ。 アイツから出てくる妙な雰囲気の正体は、こんな対策なんかじゃねえ……何だ、この気配は?)

 ソーガの抱く疑問……彼は、それを最も単純な手段で解決しようと試みた。

 無論、彼はこの手段に絶対の自信を持って行ったわけではない。

 運良く疑問を解決できればよし、駄目ならそれはそれで他の手段で解決すれば良い。

 そう考え、ラーメン屋に問う。

「ラーメン屋……お前、一体何を手に入れた?」

「流石は壊し屋、気がついたッスカァァァ!? このオイラが究極のパワーを手に入れたことに!」

 ラーメン屋は服の内側から焦げ茶色の玉がついたネックレスを取り出しソーガに見せつける。

「オイラはアンタとのデュエルに敗れた後、ある人に出会ったッスァァァ! その人は、オイラにこの”地のオーブ”を授けてくれたッスァァァァァァァ!!」

「地のオーブ?」

「これはその人が錬金術の力で生み出した属性を司るオーブの一つ……オイラはその一つに適合し、新たな力を手に入れたッスァァァァァァァァァァァ!!!」

 ラーメン屋は突如、D・ホイールに付いているデュエルディスクを強引に取り外し、腕に装着する。

 彼の使用しているD・ホイールはハイブリット型といい、デュエルディスクの部分を取り外しスタンディングデュエルにも使用出来る機能を持つ。

 そしてラーメン屋はそのままD・ホイールを踏み台に乗り捨て、空高く跳躍する。

「目覚めるッスァァァァァァァ、我が肉体に眠りし大地の獣王の因子!! スァァァァァァァァァァァァ!!」

 膨張――!

 筋肉は膨れ上がり、上半身の服を弾き飛ばす。

 彼の首周りには百獣の王の如きたてがみが生え、鋭利な牙が生える。

 肉体もまた獣のそれに近く、半人半獣へと変貌した。

 跳躍から着地すると、ソーガのD・ホイールと互角の速度で自らの足で走り出した。

「これがオイラの新たなる力――キメラデュエリスト・モードライオン!!!」

「どういう……ことだ……?」

『ラーメン屋の姿がライオン男に……!? まるで意味がわかりません!』

 対戦しているソーガだけでなく、デュエルをモニター越しに観戦しているセーナも驚きの声を上げる。

 数々の修羅場をくぐり抜けてきた彼らでも、D・ホイールと同速度で走る獣人は初めての経験だ。

「見たっすか、壊し屋ァァァァ!! これがオイラがあの人――ゴドール様から授かった新たなる力ッスァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」

「ゴドール……それがお前に力を与えたヤツの名か!」

「さあさあ、オイラの番ッスネェェェェェェェェェェェ!! ドローッスァァァァァァァァァァァ!!」

ソーガ LP:4000
手札:3枚
モンスター:《ランサー・デーモン》(攻1600)
魔法&罠:セット1枚
スピードカウンター:2→3
ラーメン屋・モードライオン LP:2700
手札:3→4枚
モンスター:《シールド・ウィング》(守900)
魔法&罠:無し
スピードカウンター:2→3

 駆けるソーガのD・ホイールと、自力で走るラーメン屋・モードライオン。

 彼らの戦いの場である道路は、次第に辺りに廃棄物の集まる地帯を通って行く。

「前のターンに《シールド・ウィング》を破壊できなかったのは惜しかったっすね、オイラはこのモンスターをアドバンス召喚するッスァァァァァァァ!!」

 渦に包まれ消える《シールド・ウィング》、そして現れたのは大剣を背負った獅子の戦士。

「現れよ、《獣王剣のレオ》!」

《獣王剣のレオ》
効果モンスター (血の刻印オリジナル)
星6/地属性/獣戦士族/攻2500/守1600 
このカードが守備表示モンスターを攻撃した場合、
その守備力を攻撃力が超えていれば、
その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。
このカードが獣族・獣戦士族・鳥獣族をリリースして
アドバンス召喚に成功した時、このカードは以下の効果を得る。
●このカードはフィールド上に表側表示で存在する限り
効果モンスターの効果を受けない。

「キーッヒッヒッヒッヒッヒッヒ! コイツは貫通能力を持っている上にモンスター効果を受け付けない超強力カードッスァァァァァァァ!!」

「ほおう、ソイツは凄いじゃねえか! ま、三流以下の使用者じゃ強力カードも活かせず意味はねえがな」

「壊し屋ァ、だったらまずはその減らず口を閉じさせてやるッスァァァァァァァァァァァ!! 《ランサー・デーモン》に攻撃するッス、《獣王剣のレオ》! キング・スラッシャー!!」

 獅子の戦士は大剣で斬りかかり、悪魔の槍をものともせず両断する。

「ぐあっ!」

ソーガ LP:4000→3100

 ダメージを受け、ソーガのD・ホイールの軌道が少し揺れる。

 その隙にラーメン屋はソーガを抜き去る。

「コイツは……!」

「気がついたッスカァァァ? オイラの真の姿はアンタの魔石とやらと同じく、ダメージを相手に与えることもできるッスァァァァァァァァァァァ!!!」

 この戦闘の衝撃の影響か、辺りの廃棄物の山が突如崩れる。

 捨てられた機械達が左右から流れてくる。

「この程度、今のオイラにはノープロブレムッスァァァァァァァァァ!!」

 冷蔵庫を跳び越え、ドラム缶を殴り両断し、転がる廃車は右に移動し躱す。

 自分の足で走っているからこその柔軟さで廃棄物を回避するラーメン屋。

 まさに獣の如き動きである。

「壊し屋ァ! D・ホイールに乗ったアンタじゃこの障害物はかわせないッスネェェェェェェェェェ!!!」

「ハッ、この俺も舐められたもんだな!」

 ラーメン屋の後ろを走っているソーガはD・ホイールのアームハンドルを繊細な動きで操作し、襲い来る機械の残骸を巧みにかわす。

 速度を細かく調整し、微細なコントロールで一つ一つの廃棄物を抜いていく。

 そこに山の高所から鉄パイプが何本も降り注ぎ、空中で束ねていた紐が解ける。

「運が無いっすね、壊し屋ァ! あの鉄パイプの雨は避けられるはずが……」

『ソーガさん! 上から来ます、気をつけて!』

 前を走るラーメン屋と、D・ホイールのモニターを通じるセーナの言葉。

 ソーガは彼らの言葉も意に介さず、D・ホイールの操作に集中する。

 彼の頭に向けて跳ねる鉄パイプ。

 対してソーガは、前後の方向を反転させるターンバックを用いてかわす。

 ターンバックによる反転に、アクセルとブレーキを調整しての速度コントロール、そして細かいハンドル捌き。

 実に鮮やかに、ソーガは鉄パイプを避け切った。

『凄い! 凄いですソーガさん! 繊細にして大胆なハンドル捌きに、危機敵状況の中でも崩さないニヒルな笑み、そして漆黒の車体とマッチしたその素敵な……』

「セーナ、もうちょっと静かにしてていいんだぜ。 ん……?」

 二人の目の前から転がってくる巨大な物体。

 どこかの工場で使われた機械か何かだと思われるそれは、ソーガ達を押し潰すに十分な大きさと質量を備えていた。

 そして、左右には未だ転げ落ち続ける数多の廃棄物。

「こんなもの、跳び越えるッスァァァァァァァァァァァ!!!」

 加速し、一気に跳躍するし巨大機械を越えるラーメン屋。

「まあ、跳び越えるしかねえよなあ」

 D・ホイールを起こし、ソーガもまたD・ホイールごと跳躍する。

「な……D・ホイールで、跳んだッスァァァァァァァァァァァ!!??」

 空中を突き進むかのようなソーガのD・ホイール。

 綺麗に着地を決め、何事もなかったかのように走行する。

「なんてヤツっすか……ならオイラはカードを3枚セットし、ターンエンドッスァァァァァァァ!!」

「この程度で浮かれねえ方が身のためだぜ? 俺のターン、ドロー!」

ソーガ LP:3100
手札:3→4枚
モンスター:無し
魔法&罠:セット1枚
スピードカウンター:3→4
ラーメン屋・モードライオン LP:2700
手札:無し
モンスター:《獣王剣のレオ》(攻2500)
魔法&罠:セット3枚
スピードカウンター:3→4

 廃棄物の多い地帯を越え、辺りは通常の道路となる。

「《Spスピードスペル-エンジェル・バトン》を発動! デッキからカードを2枚ドローし、手札から1枚捨てる!」

Spスピードスペル−エンジェル・バトン》
通常魔法 (アニメ5D'sオリジナル)
自分のスピードカウンターが2つ以上存在する場合に発動する事ができる。
自分のデッキからカードを2枚ドローし、その後手札を1枚墓地へ送る。

「攻撃力2500か、だったらこのカードで勝負だ! 《デーモン・ソルジャー》を召喚し、攻撃!」

 ソーガが呼び出したのはデーモンのエリート戦士。

 フィールドに現れると、すぐさま《獣王剣のレオ》に切りかかって行った。

《デーモン・ソルジャー》
通常モンスター
星4/闇属性/悪魔族/攻1900/守1500
デーモンの中でも精鋭だけを集めた部隊に所属する戦闘のエキスパート。
与えられた任務を確実にこなす事で有名。

「血迷ったッスカァァァ!? 攻撃力はオイラのレオの方が上ッスァァァァァァァ!!」

「それはどうかな? 俺は伏せカードを使うぜ! ひっくり返れ、《反転世界リバーサル・ワールド》!」

 フィールドに突如、光が瞬く。

 その光を受けた《獣王剣のレオ》の姿は、反転したかのような色合いとなった。

獣王剣のレオ ATK:2500→1600 DEF:1600→2500

「な、何が起こっているッスカァァァ!?」

「ククク、この罠カードはフィールドにいる全ての効果モンスターの攻守を反転させる。 ま、効果を持たねえ俺の《デーモン・ソルジャー》は管轄外だがな」

反転世界リバーサル・ワールド
通常罠
フィールド上に表側表示で存在する全ての効果モンスターの攻撃力・守備力を入れ替える。

「《デーモン・ソルジャー》は高い攻撃力を維持したまま《獣王剣のレオ》が弱体化っすか……だが、それなら《シールド・スピア》発動ッスァァァァァァァ!!」

 盾と矛を組み合わせた、文字通り矛盾の武器を手にし《獣王剣のレオ》はパワーアップする。

獣王剣のレオ ATK:1600→2000 DEF:2500→2900

《シールド・スピア》
通常罠
フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動する。
選択したモンスターの攻撃力・守備力はエンドフェイズ時まで400ポイントアップする。

 獅子の戦士は大剣と矛を組み合わせ、悪魔の戦士を返り討ちにする。

「クッ、迎撃用の罠か」

ソーガ LP:3100→3000

「なら、俺はカードを2枚セットしターンエンドだ!」

 自らの足で駆けるラーメン屋は加速し、ソーガの前に出てターンをはじめる。

「オイラのターン、ドローッスァァァァァァァァァァァ!!!」

ソーガ LP:3000
手札:1枚
モンスター:無し
魔法&罠:セット2枚
スピードカウンター:4→5
ラーメン屋・モードライオン LP:2700
手札:0→1枚
モンスター:《獣王剣のレオ》(攻1600)
魔法&罠:セット2枚
スピードカウンター:4→5

「《反転世界リバーサル・ワールド》の効果で《獣王剣のレオ》が弱体化しているっすけど、それでもこのターンで壊し屋のライフを削りきれるっすね! 召喚、《X-セイバー エアベルン》!」

 鋭い爪を持った、獅子のような二足歩行する獣が現れる。

 2体の獅子の戦士を操る獅子のデュエリスト――このような光景は滅多に見れたものではないとソーガは思った。

《X-セイバー エアベルン
チューナー(効果モンスター)
星3/地属性/獣族/攻1600/守 200
このカードが直接攻撃によって相手ライフに戦闘ダメージを与えた時、
相手の手札をランダムに1枚捨てる。

「そう簡単にこの俺を倒せると思うなよ? 《隠れ兵》を発動し、手札の四つ星闇属性モンスター《ダークジェロイド》を守備表示で特殊召喚するぜ」

《隠れ兵
通常罠
相手がモンスターを召喚・反転召喚した時に発動できる。
手札からレベル4以下の闇属性モンスター1体を特殊召喚する。

 罠カードの効果により現れたのは、青色の不気味な悪魔。

 何本もの腕が生えており、体の下に頭、その上に人間の胴体というグロテスクな姿をしている。

「《ダークジェロイド》の特殊召喚に成功したことで、エアベルンの攻撃力は800下がるぜ」

《ダークジェロイド
効果モンスター
星4/闇属性/悪魔族/攻1200/守1500
このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時、
フィールド上の表側表示モンスター1体を選択する。
そのモンスターはフィールド上に表側表示で存在する限り、
攻撃力が800ポイントダウンする。

X-セイバー エアベルン ATK:1600→800

「攻撃力を下げられたっすか! なら、レベル6《獣王剣のレオ》にレベル3《X-セイバー エアベルン》をチューニング!」

 2体の獅子の戦士は同調し、一筋の光となる。

「野性の血流交わりしとき、大地を切り裂くパワーが目覚める! 咆哮せよ! シンクロ召喚! 大自然の力、《ナチュル・ガオドレイク》」

 ヒカリより飛び出したのは、強靭な四肢を持った獅子。

 雄叫びを上げながら、ラーメン屋の後を追うように駆ける。

《ナチュル・ガオドレイク
シンクロモンスター
星9/地属性/獣族/攻3000/守1800
地属性チューナー+チューナー以外の地属性モンスター1体以上

「攻撃力3000……!」

「さらに罠発動、《シンクロ・ソニック》! オイラの場にシンクロモンスターがいることで、アンタの伏せカードを破壊するッスァァァァァァァァァァァ!!!」

 大自然の獅子より放たれる衝撃波は、ソーガの伏せていたカードをやすやすと切り裂く。

「……クク」

《シンクロ・ソニック
通常罠 (アニメ5D'sオリジナル)
自分フィールド上に存在するシンクロモンスターの数まで、
相手の魔法・罠カードゾーンに存在するカードを選択して破壊する。

「さあ、《ナチュル・ガオドレイク》よ! その目障りな悪魔に攻撃するッスァァァァァ!」

 獅子の姿をした男の命令の元、大自然の獅子は跳びかかる。

「キーッヒッヒッヒ! この瞬間、《ストライク・ショット》を発動ッスァァァァァァァァァァァ!! これで《ナチュル・ガオドレイク》は攻撃力が上がり貫通能力を得るッスァァァァァァァァァァァ!!」
 ラーメン屋の罠カードにより、《ナチュル・ガオドレイク》は炎を纏い突進する。

ナチュル・ガオドレイク ATK:3000→3700

《ストライク・ショット
通常罠
自分フィールド上に存在するモンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
そのモンスターの攻撃力はエンドフェイズ時まで700ポイントアップする。
そのモンスターが守備表示モンスターを攻撃した場合、
その守備力を攻撃力が越えていれば、
その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。

「食らえ! ライオン超ウルトララーメンストライク突進!!」

 《ナチュル・ガオドレイク》の突進により、《ダークジェロイド》は呆気無く砕け散る。

「がはっ!」

ソーガ LP:3000→800




 ――港から離れた高台

「地のオーブより生まれしキメラデュエリスト……ヒヒヒ、中々の出来ですなあ」

「うん、そうだね。 僕もここまで彼が頑張ってくれるとは思わなかったよ」

 ソーガとラーメン屋の戦いを眺める老人と少年。

 少年は体を伸ばし、首を鳴らす。

「さてと、そろそろ屋敷に戻ろうかな?」

「おや、まだ決着は付いていませんが?」

「もう付いたよ。 結果は分かりきっている」

 振り返りながら、少年はこう言った。

「だって僕達は運命で繋がれているんだ。 その運命がこんなところで千切れるわけないだろう?」



 ――港沿いの道路

「キーッヒッヒッヒッヒッヒッヒ! これでアンタのライフはセーフティラインを割ったッスァァァァァァァァァァァ!! 次のターン、オイラがスピードスペルを引けば《スピード・ワールド2》の効果でオイラの勝ち! そうでなくても攻撃力3000を誇る《ナチュル・ガオドレイク》は破られないッスァァァァァァァァァァァ!!!」

「ククク……それはどうかな」

「ヘ?」

 銃声――!

 放たれた銃弾は、大自然の獅子の胴体に命中し、貫く。

 フィールドに現れるは、白銀の衣装に身を包み長銃を構える男。

 彼の放った一撃により、大自然の獅子は呆気無く消え去った。

「な……なにがおこっているっすか……!?」

「テメエが発動した《シンクロ・ソニック》、ソイツで破壊した伏せカードは、この《白銀のスナイパー》だったのさ」

「けど、その《白銀のスナイパー》とやらはアンタのフィールドにモンスターとして召喚されているっす! 《シンクロ・ソニック》で破壊したのは魔法か罠だったのに、どういうことっすか!?」

「それこそが《白銀のスナイパー》の効果……コイツは魔法カード扱いでセットでき、その状態で破壊されたターン終了時にフィールドに現れる。 そしてその時、相手のカード1枚を撃ちぬくのさ」

《白銀のスナイパー
効果モンスター
星4/地属性/戦士族/攻1500/守1300
このカードは魔法カード扱いとして
手札から魔法&罠カードゾーンにセットできる。
魔法&罠カードゾーンにセットされたこのカードが
相手のカードの効果によって破壊され墓地へ送られたターンのエンドフェイズ時、
このカードを墓地から特殊召喚し、
相手フィールド上のカード1枚を選択して破壊する。

「そんな! まさか、アンタはオイラが伏せカードを破壊することを読んでいたっすか!?」

「ククク……《ジェノサイドキングデーモン》を《夜霧のスナイパー》で封じて前回の二の轍を踏まねえよう必死そうだったし、《砂塵の大竜巻》で伏せカードの警戒までしていた。 そんなテメエが終盤の俺の伏せカードを残したまま俺にターンを渡すとは思えねえ。 まあ、スナイパーの借りはスナイパーで返したってとこかな」

 アクセルを踏み、加速してラーメン屋を抜き去るソーガ。

「こ、これじゃあオイラのフィールドがカラに……でもまだライフがのこっているっす、大丈夫っす……!」

「行くぜ、俺のターン!」

ソーガ LP:800
手札:0→1枚
モンスター:《白銀のスナイパー》(攻1500)
魔法&罠:無し
スピードカウンター:5→6
ラーメン屋・モードライオン LP:2700
手札:無し
モンスター:無し
魔法&罠:無し
スピードカウンター:5→6

「《白銀のスナイパー》をリリースし、《暗黒魔族ギルファー・デーモン》をアドバンス召喚!」

 赤黒い体色の大型悪魔が舞い降り、ソーガを追うように飛行する。

《暗黒魔族ギルファー・デーモン
効果モンスター
星6/闇属性/悪魔族/攻2200/守2500
このカードが墓地へ送られた時、フィールド上に存在する
モンスター1体を選択して発動する事ができる。
このカードを攻撃力500ポイントダウンの装備カード扱いとして、
選択したモンスターに装備する。

「行け、ギルファー・デーモン! 暗黒火炎葬ギルファーフレイム!」

 ギルファー・デーモンは手より炎を生み出し、半人半獣の男に放つ。

「け、けど! 《暗黒魔族ギルファー・デーモン》の攻撃力は2200! オイラのライフを削り切るには後500足りないはずっす!」

 慌てふためくラーメン屋に、ソーガは止めの一手を打つ。

「墓地より罠発動、《スキル・サクセサー!》 コイツを墓地から除外し、ギルファー・デーモンの攻撃力を800アップする!」

「ぼぼぼ墓地から罠だとスカァァァァァァァァァァァァァァァァァ!? いつの間に墓地に!?」

「前にエンジェル・バトンで墓地に捨てたカードだ」

《スキル・サクセサー》
通常罠
自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動する。
このターンのエンドフェイズ時まで、
選択したモンスターの攻撃力は400ポイントアップする。
また、墓地に存在するこのカードをゲームから除外する事で、
自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体の
攻撃力はこのターンのエンドフェイズ時まで800ポイントアップする。
この効果はこのカードが墓地へ送られたターンには発動する事ができず、
自分のターンのみ発動する事ができる。

暗黒魔族ギルファー・デーモン ATK:2200→3000

 悪魔の炎により、変貌したラーメン屋は焼き払われる。

 無論、ソーガも持つ魔石で受けるダメージは現実のものとなっている。

「ギョヘヒヘヒヘバキェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!!!!!」

ラーメン屋・モードライオン LP:2700→0

「ラーメン屋、爆殺!」

 炎に包まれたラーメン屋は、そのまま道路近くの海に転げ落ちる。

「海に逃げたのか、それとももがき苦しんでいたら転げ落ちただけなのか……まぁいいや」








――パズルシティ南東部、港

「凄いです、ソーガさん! パワーアップしたラーメン屋如き、ソーガの敵ではありませんでしたね!」

 ソーガが港に戻るとすぐさまセーナが駆けより、賞賛の言葉を送る。

「ククク、当然の結果だがな。 で、夜条! 俺をここに呼んだのはあんなヤツとデュエルさせるためだけか? 大門七神器と関係が見えねえしよ」

「勘違い、しない。 アレは、ちょっとした前座……面白かった?」

「ま、ライオン人間の部分はまあ楽しめたかな」

「そう……じゃあ、合わせてあげる」

 夜条はそう言うと振り向き、歩き出す。

「合わせる? ソーガさんに誰を合わせるつもりですか?」

 セーナの質問に、夜条は振り返らずに答える。

「キメラデュエリストの創造主――ゴドールに……」


「ここ……入って」

 夜条に案内されソーガとセーナが訪れたのは、港に近い古びた洋館。

 敷地には雑草が茂り、建物の壁面も所々崩れ剥げている。

 今は時間帯が夜ゆえに、ホラー番組にでも出てきそうな雰囲気である。

「ったく、夜条! テメエが徒歩で俺達二人はD・ホイール、そのせいでわざわざ付いていくのにも一苦労なんだよ! D・ホイールを押すのは疲れるし、かといって乗って運転するにはテメエが遅すぎるし!」

「……」

 不快感をあらわにするソーガに、夜条は無言で対応する。これを対応というのは疑問が残るが。

 二人は洋館の前にD・ホイールを駐車し、その間に夜条は木製の扉を開ける。

 3メートルほどの高さの扉だが、小柄な少女の夜条でも開けられるところを見ると金具部分はそれ程古くなく多少の修繕は行われているのであろう。 

「あ、綺麗」

 古びた外見とは裏腹に洋館の内部は修繕どころか新築のような絢爛さであり、セーナも思わず声を漏らした。

 玄関からすぐ廊下となっているようで、床には赤絨毯、左右の壁には照明として燭台が取り付けられている。

 夜条に続いて二人は赤絨毯の上を直進し、奥の扉にたどり着く。

「この先に、ゴドールがいる……」





第四話「錬金術師ゴドール」



 音を立て、開かれる扉。

 照明に燭台が使われていたためにやや暗かった廊下とは違い、開かれた扉から明るい光が流れこむ。

 その光によって映し出されるシルエットは、小柄な少年。

「お前が……ゴドールか!」

 次第に眼が慣れたソーガとセーナは、目の前の少年を目視する。

 夜条より小さめの小学生程度の体格、腰ほどある長い金髪、子供らしさの中に高貴さの漂う整った顔立ち、羽織った研究者のような白衣。

 そして、白衣の下はトライアングルを描くセクシーなビキニ1枚。

「僕はゴドール、錬金術師さ」

 目の前の少年に対し、セーナは冷めた眼で言い放つ。

「ソーガさん、変態です。 セキュリティーに通報しましょう」

「いやいやセーナ、壊し屋である俺達もセキュリティーはヤバイんだぜ? 変態は認めるけど」






「これでよしっと! 改めて、僕はゴドール、錬金術師さ」

「ちなみに私はマリスと申すものです」

 ゴドールは白衣ビキニからピンクのワイシャツに黒の長ズボンの服装に着替え、改めて名乗る。

 着替えを持ってきたのは、マリスと名乗る老人。ゴドールの後ろに使えるように立っている。

「別に2度も名乗らなくていいんだよ。 色々と言いたいことはあるが、まずアレはなんだ?」

 ソーガが指さした先にあるのは、大きなテーブルの上に並べられた料理の数々。

 この部屋自体が結婚式でもあげられそうな大部屋であり、天井には豪華なシャンデリア、壁には手の込んでいる彫刻が掘ってあり、奥にはオーケストラが出来そうな大きさのステージまである。

「君を招待するのにもてなしの一つや二つ、しないとね。 気に入っていただけたかな? ちなみに作ったのはマリスだよ。 ここまで料理ができるとは僕もびっくりだったよ」

「この程度の料理なら私でも作れます。 ソーガさんへのもてなしには不足だと思いますが?」

「セーナの言う通りだぜ。 ま、毒が含まれているという危険性は多分無えけど」

 そう言うソーガの目線にあるのは、いつの間にか席に座って料理を食べている夜条。

「あー、夜条ちゃん! 駄目じゃないか、お客さんのための料理を食べちゃ」

「雑用たくさん押し付けられた、だから好きにやらせてもらう」

「それは困ったなあ。 じゃ、君たちは食べるのも食べないも好きにしていいから、まずは話をしようよ」






 席につき、食事をするのはソーガ、セーナ、ゴドール、夜条、マリスの5人。

 とりあえず食べるソーガとセーナ、無言でてきぱきと食べる夜条、体格からは考えられないほどガツガツと食べるゴドール、小食なのかゆっくりと食事を摂るマリス。

「ゴドール、俺はお前に聞きたいことがいくつもある。 まず、夜条を使って俺を呼び出し、キメラデュエリストとのデュエルを仕組んだのはお前だな」

「うん、そうだよ。 キメラデュエリストは僕の自信作でね」

「さっき錬金術師とか名乗っていたがその一環でアレを作ったのか?」

「そうそう。 まずは錬金術で作り上げた元素のオーブの力を元に、デュエリストに属性の基盤を作る。 基本的にはその後に様々な生物の細胞をデュエリストに混ぜ込んで作るんだ。 ま、そもそも元素のオーブと共鳴できる人間自体が希少でね。 だからキメラデュエリストはそうそう作り出されるものじゃないのさ」

(基本的には、ねえ……。 例外も居そうな口ぶりだな)

 ソーガはゴドールの言葉を鋭く見ぬくが、追求はせず他の質問を投げかけた。

「キメラデュエリストには大して興味はねえが、お前は大門七神器に関する何かを知っているんだな? 夜条が大門七神器について知りたければ港に来いと言っていたからなあ」

「うん、知っているよ。 というか……」

 ゴドールは食事を止め、右腕に付けられた金の腕輪をソーガに見せる。

「大門七神器の一つ、黄金のブレスレット。 中々いいと思わないかい?」

「中々いいな。 俺にくれよ」

「駄目、あーげない」

 セーナは横に少し移動し、ソーガに小声で話す。

「どうします? このまま強引にデュエルで奪いますか?」

「いや、ここは様子を見る。 まだ聞きたいことがあるからな」

 セーナが元の位置に戻ると、ソーガはゴドールに次の質問をする。

「で、ゴドール。 お前が俺を呼んだ目的は何だ?」

 質問を聞いたゴドールは、頬杖をつき笑みを浮かべて答える。

「それはね、ソーガ・ダイモン――君を殺すことだよ」

 刹那――!

 抜刀、跳躍、斬撃――!

 乱れる食卓に、舞い散る鮮血――!

 それは、一瞬の出来事であった。

 ゴドールの返答を聞いた瞬間、セーナはすぐさま刀を抜き、テーブルを足場にゴドールに跳びかかる。

 氷のような眼をした少女は、刀を振り下ろす。

 ゴドールは右に体を反らしたものの、左肩に浅く傷が入る。

 その傷より撒かれた鮮血は、辺りに舞い散った。

「ヒィ〜〜、ゴドール様〜!!」

 慌てふためくマリスを尻目に、セーナはゴドールに言い放つ。

「ソーガさんを、殺す……だったらその前に、貴様を殺す!」

 鋭利で、強靭な意志を秘めた少女。

 彼女は目の前の少年に刀を突きつける。

「もう、酷いなあ。 シャツが台無しじゃないか」

 あくまで余裕の態度を崩さないゴドールを、セーナは更に睨む。

「待て、ソーガ。 冷静になれ」

「そう言われましても、あんなことを言われて黙っているわけにはいきません!」

 ソーガの制止を聞かず、刀を構えるセーナ。

 ソーガはため息を吐くと、二度目の制止を行った。

「……待て、と俺は言ったんだ」

「っ!? も、申し訳ありません……!」

 二度目の制止は聞き入れ、怯えた顔つきで刀を納めてソーガの元に戻る。

 そんなセーナの頭を撫で、ソーガは言う。

「いきなり突っ走ったり斬りかかったりするのは駄目だぜ。 けど、俺のために怒ってくれたことには礼を言うぜ、流石は俺の助手だ。 俺の弟子でもあるしな」

「は、はい! すいません、それとありがとうございます!」

 そんなソーガの言葉で、セーナの怯えは払拭され笑顔になる。

 それを見て、ソーガもまた笑みを浮かべる。

 そして、その様子を見たゴドールはふくれっ面でソーガに文句を言った。

「もう、僕みたいな子供をいきなり斬るなんて、酷いじゃないか。 助手だか弟子だか知らないけど、ちゃんと教育しておいてよ」

「悪い悪い、コイツ普段は子供に優しいんだがな。 だが上司にして師匠のために動いてくれる助手にして弟子なんだ、教育は十分だろ?」

「はあ、親馬鹿というか上司馬鹿か師匠馬鹿か。 一方で夜条ちゃんは」

「私は助手でも弟子でもないし、お前の下に付いているつもりはない」

 夜条の近くの食事は先程の騒動に巻き込まれていないようであり、彼女は食事を少し止めて返答すると直ぐに再開した。

「とまあ、こんな感じだもん」

 荒れ果てた食卓に再び着くと、ソーガはゴドールに問う。

「じゃ、教えてもらおうか。 お前が俺を狙う理由をよ」

「うん、いいよ」

 そう答えるとゴドールは、シャツを引っ張り左肩を出し、血を払う。

「傷が無え……?」

「私が斬ったときは浅かったものの手応えはあったはず……!」

 二人の反応の通り、先程セーナに斬られた傷は綺麗に無くなっており、流れた血が付いているだけである。

「僕は錬金術師であり、錬金術により生まれたホムンクルスでもある……それゆえ、人を超えた能力を持ち、この治癒能力もその一つさ」

 ホムンクルス――ソーガとセーナはその単語自体はデュエルモンスターズのカードを始めとする架空の話で聞いたことがあった。

 しかし、それが実在するとは夢にも思っていなかった。

 最も――

「そんな存在が実在するとは、この世界もまだまだ退屈はしねえなあ」

 ソーガにとってその事実は喜ばしいことである様子だが。

「そして、この僕を生み出した男の名は――君も知っていると思うよ」

「?」

「君の父親――大門総魔さ!」

「大門……総魔だと!?」

 先程の歓喜から一転、ソーガの表情は怒りに包まれる。

 隣のセーナの表情もまた似たようなものである。

「そう、あの狂気の天才こと大門総魔さ、ソーガ・ダイモン――いや、この場合は大門総我と呼ぶべきかな?」

「今の俺はソーガ・ダイモンだ。 それより、俺の親父が……あのクズがお前の創造主だと!?」

「そう、あの男が――正しくは、あの男の元で僕の開発が行われたんだ」

 不愉快そうな表情をするソーガ。

 セーナは、彼の様子を心配そうに見守る。

「ソーガ・ダイモン、昔の君は父親からあまり評価されていなかったみたいだね」

「親父からはよく落ちこぼれって言われていたぜ。 更には親父が歴代大門家でも至高の天才と言われていたんだ、そりゃあ評価もされねーよ」

「それで、大門総魔はどうやら君を越え、代わりとなる大門の当主として僕を作ったらしくてね」

「ま、今となっては意味は無えがな。 あのクソ親父は俺の手で葬ってやったし、大門家の当主なんていらねえからよ」

 ソーガはそう言いながら狂気じみた笑みを浮かべる。

 その笑みは先程セーナに向けたものとは程遠い。

「知っているよ、君が大門総魔を葬ったのは。 僕はその騒ぎに乗じて大門の研究所を壊滅させて、職員を全滅させて、ついでにこの大門七神器を頂いて脱走したからね」

「で、なんでお前は俺を殺したいんだ? 大門の当主になりてえなら好きにしていいし、親父が死んだ今俺の代わりなんて意味無えからよ」

 ソーガの発言に対し、ゴドールはため息を吐く。

「そうじゃないんだよ、ソーガ・ダイモン。 違うんだよ」

「……?」

「僕は、君を越えるために創られたんだ。 僕は、その為だけに創られたんだ。 それは、君と戦い、君とぶつかり、君と比べ合い、君と読み合い、そして君を殺して達成される!」

 ゴドールはどこからかデュエルディスクを取り出し、腕に装着する。

「これは運命だよ、ソーガ・ダイモン! 僕は生まれた時から君と切っても切れない糸で繋がれているんだ。 この運命からは逃れられない! 僕からは逃れられない!」

 ゴドールは部屋のステージに上がると、片方の手でソーガを指しもう片方の手でシャツの胸元に手をかけて言った。

「さあ、運命のデュエルをやらないか」

 ソーガはデュエルディスクを装着し、起動する。

「ソーガさん、気をつけてください!」

「ああ」

 ソーガはステージの上に跳び乗る。

「受けて立つぜ、ゴドール! 大門七神器を、究極の闇の力を手に入れるための踏み台として、ぶっ倒させてもらうぜ!」

 不敵な笑みで、ゴドールを指すソーガ。

 対するゴドールもまた、不敵な笑みを返す。

「さあ、始めよう」

「ククク……行くぜ」

「「デュエル!!」」

ソーガ LP:4000 ゴドール LP:4000

「先攻は貰うぜ、俺のターン! ドロー!」

(ほう、いきなり良いカードを引いたぜ)

 ソーガはデュエルディスクのフィールド魔法ゾーンを展開し、そこにドローしたカードを置く。

「さあ、闇の宴にご招待だ。 フィールド魔法《万魔殿パンディモニウム -悪魔の巣窟-》!」

 フィールドがステージから、悪魔達の住む禍々しい場所へと変貌する。

 血のように赤い天に闇のように黒い雲が浮かび、辺りに雷が轟く。

 緑を基調とし、骨や爪などに見える奇妙な造形の大地。

 まさしく悪魔の巣窟に相応しい地だ。

万魔殿パンディモニウム-悪魔の巣窟-》
フィールド魔法
「デーモン」という名のついたモンスターはスタンバイフェイズにライフを払わなくてよい。
戦闘以外で「デーモン」という名のついたモンスターカードが破壊されて墓地へ送られた時、
そのカードのレベル未満の「デーモン」という名のついたモンスターカードを
デッキから1枚選択して手札に加える事ができる。

「コイツは俺のデーモン達の巣窟……このフィールドではデーモンは主からの生命供給を必要とせずに現界が可能となる」

「へえ、中々楽しそうなフィールドだね」

「ククク……そうか、だったらもっと楽しませてやるよ! 俺は《デーモンに堕ちた戦士・ゼラ》を召喚!」

 緑の鎧を着た戦士が、剣を片手に現れる。

 かつては聖域に伝わる聖なる力を求めた戦士だが、今は魔族の誘惑に負け彼らの元で力を蓄えている。

 その目からは光が消え、今や求めるは力のみ――。

「万魔殿が存在し、コイツの召喚に成功した時デッキから《デビルマゼラ》を手札に加える!」

《デーモンに堕ちた戦士・ゼラ
効果モンスター (血の刻印オリジナル)
星4/闇属性/悪魔族/攻1600/守1600
このカードはフィールド上に表側表示で存在する限り、カード名を「ゼラの戦士」としても扱う。
このカードが召喚に成功した時、自分の墓地・デッキから「デビルマゼラ」1体を手札に加える事ができる。
この効果は自分フィールド上に「万魔殿−悪魔の巣窟−」が存在しなければ適用できない。

「さらに、万魔殿の大地の元、ゼラをリリースし《デビルマゼラ》を特殊召喚!!」

 戦士の肉体が盛り上がり、叫び声を上げ苦しみ始める。

 肉体と鎧は融合し、背中からは翼が、更には爪や尾、角が生える。

 その姿は、まさに悪魔そのもの。

 違った運命に導かれれば聖域の大天使と成り得た彼だが、今や闇と力に溺れた邪悪な怪物と成り果てている。

「進化召喚型のモンスターか……!」

「コイツの特殊召喚に成功した時、相手の手札3枚を墓地に捨てさせる! トライデント・ディスペアー!」

「何!?」

 悪魔の爪が放つ三筋の斬撃。

 それはゴドールの手札のカードを撃ちぬいた。

《デビルマゼラ
効果モンスター
星8/闇属性/悪魔族/攻2800/守2300
このカードは通常召喚できない。
このカードは「万魔殿−悪魔の巣窟−」が
フィールド上に存在し、自分フィールド上に表側表示で存在する
「ゼラの戦士」1体をリリースした場合のみ特殊召喚できる。
このカードが特殊召喚に成功した場合、相手はランダムに手札を3枚捨てる。
この効果は自分フィールド上に「万魔殿−悪魔の巣窟−」が
存在しなければ適用できない。

ゴドール 手札:5→2

「凄い、流石はソーガさんです! 1ターン目から攻撃力2800ものモンスターを呼び、更に相手の手札を一気に削り取るなんて! 3枚も捨てられてしまえばゴドールはまともにデュエルできません!」

 セーナの嬉々とした解説だが、そう上手くはいかなかった。

「ふう、このカードが手札になかったら危なかったよ」

 ゴドールは捨てられた3枚の中の1枚を公開する。

《エレクトリック・スネーク
効果モンスター
星3/光属性/雷族/攻 800/守 900
このカードが相手のカードの効果によって手札から墓地へ捨てられた時、
自分のデッキからカードを2枚ドローする。

「この《エレクトリック・スネーク》が墓地に捨てられたので、カードを2枚ドローさせてもらうよ」

「チッ、手札破壊対策かよ……なら、俺はカードを2枚セットしてターンエンドだ!」

「僕のターン、ドロー!」

ソーガ LP:4000
手札:2枚
モンスター:《デビルマゼラ》(攻2800)
魔法&罠:《万魔殿-悪魔の巣窟-》、セット2枚
ゴドール LP:4000
手札:4→5枚
モンスター:無し
魔法&罠:無し

「よし、魔法発動《トレード・イン》! 手札の八ツ星モンスター《ガーディアン・オブ・オーダー》を捨て、2枚ドロー!」

《トレード・イン
通常魔法
手札からレベル8のモンスターカードを1枚捨てる。
自分のデッキからカードを2枚ドローする。

《ガーディアン・オブ・オーダー
効果モンスター
星8/光属性/戦士族/攻2500/守1200
自分フィールド上に光属性モンスターが表側表示で2体以上存在する場合、
このカードは手札から特殊召喚する事ができる。
「ガーディアン・オブ・オーダー」は、
自分フィールド上に1枚しか表側表示で存在できない。

(とりあえず挑発して反応を見てみるか……)

「初っ端からそんなカードかよ、手札事故か?」

「さあ、どうだろうねえ。 僕は墓地の装備魔法《神剣-フェニックスブレード》の効果を発動。 この剣は墓地の戦士族を2枚除外し、手札に舞い戻ってこれるんだ」

「俺の《デビルマゼラ》で捨てられたカードか……!」

「その通り。 僕は墓地から《ガーディアン・オブ・オーダー》と《黄金のホムンクルス》を除外し、フェニックスブレードを回収!」

《神剣-フェニックスブレード
装備魔法
戦士族モンスターにのみ装備可能。
装備モンスターの攻撃力は300ポイントアップする。
自分のメインフェイズ時、自分の墓地に存在する
戦士族モンスター2体をゲームから除外する事で、
このカードを自分の墓地から手札に加える。

「このカードは装備魔法としては貧弱だけど、何度も回収できるから手札コストとしては便利なんだ。 そこで、《手札抹殺》を発動!」

「また手札交換だと……!? テメエのデッキには、そんなに捨てるカードが入っているのか?」

《手札抹殺
通常魔法
お互いの手札を全て捨て、それぞれ自分のデッキから
捨てた枚数分のカードをドローする。

ソーガの捨てたカード
《ヘルウェイ・パトロール》
《インフェルノクインデーモン》

ゴドールの捨てたカード
《異次元の女戦士》
《ジャンク・コレクター》
《光帝クライス》
《異次元の一角戦士》
《神剣-フェニックスブレード》

「そして墓地の《異次元の女戦士》と《ジャンク・コレクター》を除外し、フェニックスブレードを回収」

(魔法カードを駆使し手札を交換しつつ墓地にカードを貯める……何が狙いだ?)

「さて、そろそろモンスターを召喚しようかな? 来い、《放浪の勇者 フリード》!」

 汚れなき剣を手に、鎧を着込んだ金髪の剣士が現れる。

 威風堂々としたその姿は、まさに勇者。

「このモンスターは墓地の光属性を2枚除外し、破壊効果を発揮できるのさ! 《エレクトリック・スネーク》と《光帝クライス》を除外し、効果発動!」

《放浪の勇者 フリード
効果モンスター
星4/光属性/戦士族/攻1700/守1200
自分の墓地に存在する光属性モンスター2体をゲームから除外する事で、
フィールド上に表側表示で存在するこのカードの攻撃力より高い攻撃力を持つ、
フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して破壊する。
この効果は1ターンに1度しか使用できない。

 勇者は剣を構え、悪魔へと堕ちた戦士に向かう。

 悪魔の爪での攻撃を躱すと、勇者は剣を掲げ、そこに光を集める。

「消え去れ、《デビルマゼラ》! ジャスティス・ブライト!」

 光の一閃――。

 闇に堕ちた戦士は勇者の一撃で両断され、光となって消えていった。

「さて、ここはフリードを強化しておこうかな? 《放浪の勇者 フリード》に《神剣-フェニックスブレード》を装備!」

《神剣-フェニックスブレード
装備魔法
戦士族モンスターにのみ装備可能。
装備モンスターの攻撃力は300ポイントアップする。
自分のメインフェイズ時、自分の墓地に存在する
戦士族モンスター2体をゲームから除外する事で、
このカードを自分の墓地から手札に加える。

放浪の勇者 フリード ATK:1700→2000

「コンボ攻撃でパワーアップしてソーガ・ダイモンにダイレクトアタックだ! ブレイブ・ソード!」

 勇者は不死鳥の剣を手にし、ソーガに斬りかかる。

 しかし、その攻撃は半透明のバリアに防がれた。

「罠発動、《ガード・ブロック》! 俺の受けるバトルダメージは0になり、カードをドロー!」

《ガード・ブロック
通常罠
相手ターンの戦闘ダメージ計算時に発動する事ができる。
その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になり、
自分のデッキからカードを1枚ドローする。

「あんな大型モンスターを呼んでおいて防御系の罠を仕組んでいたんだ。 随分と慎重だね」

 ゴドールはそう言うと、手札のカードを2枚選び、使用する。

「なら、これはどうかな? 速攻魔法発動、《フォトン・リード》!」

「速攻魔法! バトル中に唯一発動可能な魔法カードか!」

「このカードは、手札から四つ星以下の光属性モンスターを呼び出すカードだ。 さあ来い、《カオスエンドマスター》!」

《フォトン・リード
速攻魔法
手札からレベル4以下の光属性モンスター1体を
表側攻撃表示で特殊召喚する。

《カオスエンドマスター
チューナー(効果モンスター)
星3/光属性/戦士族/攻1500/守1000
このカードが戦闘によって相手モンスターを破壊し墓地へ送った時、
デッキからレベル5以上で攻撃力1600以下の
モンスター1体を特殊召喚できる。

「行け、《カオスエンドマスター》! ダイレクトアタックだ!」

 翼を持った白い闘士は、跳躍しソーガに拳の一撃を与える。

「チッ……」

ソーガ LP:4000→2500

「まあ大門七神器の所持者対決だ、こうなるよなあ」

「うん。 君もご存知の七神器によるダメージ再現さ。 臨場感が出て楽しいよね」

 ゴドールはフィールドを見つめると、さらなる戦略を繰り出す。

「さて、ステータスの低めな《カオスエンドマスター》をこのままにしておくのも不安だし……ここは、レベル4《放浪の勇者 フリード》にレベル3《カオスエンドマスター》をチューニング!」

「ここでシンクロ召喚か!」

「集いし光が、天空の雷を鳴り響かせる! シンクロ召喚! 光臨せよ、《ライトニング・ウォリアー》!」

 雷を纏い降り立つは雷光の戦士。

 長く逆だった金髪と白い衣装を身につけた戦士は、左手に雷を集め威嚇する。

《ライトニング・ウォリアー
シンクロ・効果モンスター
星7/光属性/戦士族/攻2400/守1200
チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上
このカードが戦闘によって相手モンスターを破壊し墓地へ送った時、
相手の手札の枚数×300ポイントダメージを相手ライフに与える。

「まだだよ、僕は墓地の《異次元の一角戦士》と《放浪の勇者 フリード》を除外して《神剣-フェニックスブレード》を回収、そして《ライトニング・ウォリアー》に装備!」

ライトニング・ウォリアー ATK:2400→2700

「カードを2枚セットし、ターン終了」



「ヒヒヒ、流石はゴドール様ですな。 壊し屋の手札破壊を利用し、大型モンスターを容易く破壊し、ダメージを与え、さらにはシンクロ召喚までとは」

 マリスはゴドールに賞賛を送るが、少し離れ座っているセーナには不快なものであった。

「む、言っておきますがソーガさんはこんなものではありませんよ! その身に纏った黒衣の如く何色にも染まらず、己が胸に秘めた悪を信念に突き進む! そんな壊し屋たるソーガさんが負けるはずがありません!」

「おやおや、うるさい小娘ですなあ。 もう少し静かにできないのかのう」

「うるさいのはそちらも同じです」

 マリスと険悪な雰囲気でありつつも、セーナは目の前のデュエルに集中し分析をする。

(ゴドールのデッキは光属性と戦士族を織り交ぜ、手札交換を使って墓地にカードを送り、フェニックスブレードやフリードのコストを確保する、といったところですか。 だが、それだけではない……まだ、何かがあるはずです)



「今度は俺のターンだな、ドロー!」

ソーガ LP:2500
手札:3→4枚
モンスター:無し
魔法&罠:《万魔殿-悪魔の巣窟-》、セット1枚
ゴドール LP:4000
手札:無し
モンスター:《ライトニング・ウォリアー》(攻2700)
魔法&罠:《神剣-フェニックスブレード》、セット2枚

「さっきの《手札抹殺》、実にありがたかったぜ! お陰で俺の墓地にいいカードが送られたからなあ!」

 ソーガは墓地からカードを1枚取り出し、ゴドールに見せる。

「墓地の《ヘルウェイ・パトロール》を除外することで、手札から攻撃力2000以下の悪魔族を特殊召喚する!」

「へえ、墓地発動系のカードか」

《ヘルウェイ・パトロール
効果モンスター
星4/闇属性/悪魔族/攻1600/守1200
このカードが戦闘によってモンスターを破壊し墓地へ送った時、
破壊したモンスターのレベル×100ポイントダメージを相手ライフに与える。
自分の墓地に存在するこのカードをゲームから除外する事で、
手札から攻撃力2000以下の悪魔族モンスター1体を特殊召喚する。

「さあ、虐殺ショーの始まりだ! 《ジェノサイドキングデーモン》!」

 血のように赤いマントを背負い、禍々しい剣を片手に万魔殿の大地に降り立つは王たる悪魔――ジェノサイドキングデーモン。

 ここが己の縄張りだと言うように、剣を向け雷の戦士を睨む。

《ジェノサイドキングデーモン》
効果モンスター
星4/闇属性/悪魔族/攻2000/守1500
自分フィールド上に「デーモン」という名のついた
モンスターカードが存在しなければこのカードは召喚・反転召喚できない。
このカードのコントローラーは自分のスタンバイフェイズ毎に800ライフポイントを払う。
このカードが相手のコントロールするカードの効果の対象になり、
その処理を行う時にサイコロを1回振る。
2・5が出た場合、その効果を無効にし破壊する。
このカードが戦闘で破壊した効果モンスターの効果は無効化される。

「出た、ソーガさんのエースモンスターです!」

「ヒヒヒ、ですが攻撃力が足りませぬな。 これでは折角のエースもすぐに退場でしょう」

(退場、か……まあ間違ってもいねえな)

 攻撃力の劣る《ジェノサイドキングデーモン》を呼んだソーガ――無論、彼が意味もなく呼んだわけがない。

 目の前の《ライトニング・ウォリアー》撃破の一手として呼んだのである。

「俺はまだこのターン召喚を行っちゃいねえ。 チューナーモンスター《幻影王 ハイド・ライド》を召喚!」

 黒馬に跨った騎士が、万魔殿の大地を駆け現れる。

《幻影王 ハイド・ライド》
チューナー(効果モンスター)
星3/闇属性/悪魔族/攻1500/守 300
自分フィールド上に表側表示で存在する
このカードをシンクロ召喚に使用する場合、
このカードをチューナー以外のモンスターとして扱う事ができる。

「テメエがシンクロなら、こっちもシンクロだ! レベル4《ジェノサイドキングデーモン》にレベル3《幻影王 ハイド・ライド》をチューニング!」

 2体の悪魔は同調し、新たなる悪魔をフィールドに導く。

「新たなる王者の脈動、混沌の内より出でよ! シンクロ召喚! 誇り高き、《デーモン・カオス・キング》!」

 炎の翼を広げ、混沌王の悪魔が降臨する。

《デーモン・カオス・キング》
シンクロ・効果モンスター
星7/闇属性/悪魔族/攻2600/守2600
悪魔族チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上
このカードの攻撃宣言時、
相手フィールド上に表側表示で存在する全てのモンスターの
攻撃力・守備力をバトルフェイズ終了時まで入れ替える事ができる。

「攻撃力は僕の《ライトニング・ウォリアー》の方が上だよ」

「それはどうかな? コイツは攻撃時にバトルフェイズの間のみ、相手の攻守を入れ替える効果を持つ! 反転し、焼き切れ! ファイア・ソード!」

 広げられた翼から放たれた炎は雷の戦士を惑わし、力を奪う。

「知っているよ、ソイツの効果は! なら、その効果にチェーンして罠発動! 《光子化フォトナイズ》!」

 《デーモン・カオス・キング》の炎が吸い取られ、《ライトニング・ウォリアー》の雷へと変換されていく。

「これは……!?」

「さて、チェーンの処理だね。 まずは僕のカードからだ。 このカードは光属性への攻撃を無効にし、さらに攻撃モンスターの攻撃力だけ攻撃対象の光属性はパワーアップする!」

光子化フォトナイズ
通常罠
相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
相手モンスター1体の攻撃を無効にし、
その相手モンスターの攻撃力分だけ、
自分フィールド上に表側表示で存在する光属性モンスター1体の攻撃力を、
次の自分のエンドフェイズ時までアップする。

ライトニング・ウォリアー ATK:2700→5300

「続いて君の《デーモン・カオス・キング》の効果処理だ。 ま、攻守反転したところでバトルフェイズが終われば元に戻るから意味は無いけどね」

ライトニング・ウォリアー ATK:5300→1200 DEF:1200→5300

「さあ、どうする? このままだと君の《デーモン・カオス・キング》の攻撃力を吸い取った僕の《ライトニング・ウォリアー》が君を襲うよ?」

「ククク……甘えよ。 罠発動!」

 フィールドに現れる一筋の影。

 万魔殿の赤い空を舞うそれは、雷の戦士の頭上から舞い降り、剣を振るう。

 そして、戦士を両断しつつ大地に降り立った。

「ぐああああっ!!」

ゴドール LP:4000→3200

 万魔殿に現れた影――《ジェノサイドキングデーモン》は、両手で持った剣を地面に突き刺し堂々と佇む。

「これは……」

「俺は500ライフをコストに罠カード《デーモンの雄叫び》を発動したのさ」

《デーモンの雄叫び》
通常罠
500ライフポイントを払い発動する。
自分の墓地から「デーモン」という名のついたモンスターカード1枚を
自分のフィールド上に特殊召喚する。
このモンスターは、いかなる場合にも生け贄にする事はできず、
このターンのエンドフェイズに破壊される。

ソーガ LP:2500→2000

「そうか……そのカードでバトルフェイズ中に《ジェノサイドキングデーモン》を復活させたのか」

「流石はソーガさん、《デーモン・カオス・キング》の効果を受けて《ライトニング・ウォリアー》の攻撃力は1200まで落ちていたところを突き、戦闘破壊を狙うとは実に鮮やかな手際です」

 セーナはそう感心する。

「前のターンの《フォトン・リード》のお返しってわけかい?」

「バトルフェイズ中の特殊召喚を使った奇襲は俺の得意な戦術の一つでな、あんな戦術見せられたら返さねえわけにはいかねえだろ。 さらに相手のシンクロモンスターを破壊したことで、《グリード・グラード》を発動し、2枚ドロー!」

《グリード・グラード》
速攻魔法
自分が相手フィールド上に表側表示で存在するシンクロモンスターを
戦闘またはカードの効果によって破壊したターンに発動する事ができる。
自分のデッキからカードを2枚ドローする。

「カードを1枚セット! このエンドフェイズ時に《デーモンの雄叫び》で蘇った《ジェノサイドキングデーモン》は破壊されるが、この時《万魔殿パンディモニウム-悪魔の巣窟-》の効果発動!」

万魔殿パンディモニウム-悪魔の巣窟-》
フィールド魔法
「デーモン」という名のついたモンスターはスタンバイフェイズにライフを払わなくてよい。
戦闘以外で「デーモン」という名のついたモンスターカードが破壊されて墓地へ送られた時、
そのカードのレベル未満の「デーモン」という名のついたモンスターカードを
デッキから1枚選択して手札に加える事ができる。

「デーモンが戦闘以外で破壊された時、デッキからそのレベル未満のデーモンを手札にサーチする! 来い、レベル3《デスルークデーモン》! これでターンエンドだ」

 《ジェノサイドキングデーモン》こそ消えたものの、ソーガの場には《デーモン・カオス・キング》が存在する。

 にも関わらず、ゴドールの顔に焦燥や恐怖は一切無く、それどころかこの状況を楽しんでいるようでもあった。

「なら僕のターンだ、ドロー!」

ソーガ LP:2000
手札:3枚
モンスター:《デーモン・カオス・キング》(攻2600)
魔法&罠:《万魔殿-悪魔の巣窟-》、セット1枚
ゴドール LP:3200
手札:0枚→1枚
モンスター:無し
魔法&罠:セット1枚

「墓地の《カオスエンドマスター》と《ライトニング・ウォリアー》を除外し、フェニックスブレードを手札に回収するよ。 さらに、回収したフェニックスブレードを除外し《トライ・ケミストリー》を発動だ」

《トライ・ケミストリー》 
通常魔法 (開放されし記憶オリジナル)
自分の手札からカードを1枚選択して発動する。
選択したカードをゲームから除外し、デッキからカードを1枚ドローする。
この効果でドローしたカードが、発動時に除外したカードと違う種類
(モンスター・魔法・罠)だった場合、ドローしたカードを相手に
確認させることにより、もう1枚カードをドローする。

「ドローしたのはモンスターカード《錬金生物 ホムンクルス》だ。 よって追加のドローをするよ」

 ドローで手札を整えたゴドールは、モンスターを呼び出す。

「僕は《錬金生物 ホムンクルス》を召喚!」

 ゴドールが召喚したのは、鎖につながれ体の一部が金属となっている人間――いや、人造人間。

《錬金生物 ホムンクルス》
効果モンスター
星4/光属性/植物族/攻1800/守1600
このモンスターの属性を変更する事ができる。
この効果は1ターンに1度だけ使用する事ができる。

「さらに伏せていたカードを発動するよ! ホムンクルスをリリースし、《光霊術-「聖」》を発動! 除外されたモンスターを呼び戻す!」

《光霊術-「聖」》
通常罠
自分フィールド上の光属性モンスター1体をリリースし、
ゲームから除外されているモンスター1体を選択して発動できる。
相手は手札から罠カード1枚を見せてこのカードの効果を無効にできる。
見せなかった場合、選択したモンスターを自分フィールド上に特殊召喚する。

「そうか、テメエは序盤から手札交換や手札破壊で墓地に送ったモンスターをフェニックスブレードやフリードで除外しまくっていた……そこから強力なモンスターを選べるってわけか」

「まあ、除外の狙いはそこじゃないんだけどね。 光霊術は君が手札から罠カードを見せることで無効にできる。 さあ、さらけ出してごらん」

 ソーガは自分の3枚の手札を順に見る。

《幻銃士
効果モンスター
星4/闇属性/悪魔族/攻1100/守 800
このカードが召喚・反転召喚に成功した時、
自分フィールド上に存在するモンスターの数まで自分フィールド上に
「銃士トークン」(悪魔族・闇・星4・攻/守500)を特殊召喚する事ができる。
また、自分のスタンバイフェイズ毎に自分フィールド上に表側表示で存在する
「銃士」と名のついたモンスター1体につき相手ライフに
300ポイントダメージを与える事ができる。
この効果を発動するターン、自分フィールド上に存在する
「銃士」と名のついたモンスターは攻撃宣言をする事ができない。

《冥界流傀儡術》
通常魔法
自分の墓地に存在する悪魔族モンスター1体を選択して発動する。
レベルの合計が選択したモンスターのレベルと同じになるように、
自分フィールド上に存在するモンスターをゲームから除外する。
その後、選択したモンスターを墓地から特殊召喚する。

《デスルークデーモン》
効果モンスター
星3/光属性/悪魔族/攻1100/守1800
このカードのコントローラーは自分のスタンバイフェイズ毎に500ライフポイントを払う。
このカードが相手のコントロールするカードの効果の対象になり、
その処理を行う時にサイコロを1回振る。
3が出た場合、その効果を無効にし破壊する。
自分フィールド上の「ジェノサイドキングデーモン」が破壊され墓地に送られた時、
このカードを手札から墓地に送る事で、その「ジェノサイドキングデーモン」1体を特殊召喚する。

(罠カードなんてもう伏せちまったぜ……前のターンの攻撃やヤツ自信が纏う得体のしれない雰囲気で警戒させ、俺に罠カードのセットを誘い込んだってところか。 大したヤツだ)

「……俺は、罠を公開しない」

「よかった、君の手札に罠はないみたいだね。 それじゃあ、光霊術の効果で除外されたモンスターを呼び出させてもらうよ」

 万魔殿の大地がひび割れ、轟音を響かせながら金色の腕が這い出る。

 その腕の主は万魔殿の地上へと登って行き、しだいに姿を現す。

 召喚されしは、全身が黄金に輝き太い四肢と肉体を持つ巨人。

 混沌王を見下ろすほどの巨体から、天を震わすような咆哮を放った。

「さあ、錬金術の力を味あわせてあげるよ! 特殊召喚、《黄金のホムンクルス》!」

「何だ、このモンスターは……!」

「このモンスターの元々の攻撃力は1500……けど、モンスター効果により除外されている僕のカード1枚につき300ポイントパワーアップするのさ!」

《黄金のホムンクルス》
効果モンスター
星6/光属性/戦士族/攻1500/守1500
このカードの攻撃力・守備力は、
ゲームから除外されている自分のカードの数×300ポイントアップする。

「除外されているカードの数に比例して強化だと……これが、テメエの除外戦術の真の狙いか……!」

「その通りだよ。 今、除外されているのは10枚。 よって、《黄金のホムンクルス》の攻撃力は……」

黄金のホムンクルス ATK:1500→4500

「攻撃力4500だと……あの伝説のモンスター《青眼の究極竜》に匹敵するじゃねえか……!」

 圧倒的な力を得て、天からソーガを見下ろす黄金の巨人。

 その足元で、錬金術師の少年は高らかに笑う。

「さあ、すぐにイカせてあげるよ! ソーガ・ダイモン! フフフ……ヒハハハハハハハハハハハハ!!!」




「さあ、《黄金のホムンクルス》よ! 《デーモン・カオス・キング》を粉砕せよ!」

 振り下ろされる金色の拳。

 混沌王は炎の剣を振り対抗するが、圧倒的な力の前に抵抗虚しく押し込まれる。

「運命の鉄槌、ゴールデン・ハーヴェスト!」

 万魔殿の大地をえぐる一撃により、《デーモン・カオス・キング》は跡形もなく粉砕された。

「ぐああああああああああああっ!!」

ソーガ LP:2000→100

 衝撃により大きく飛ばされ、後ろに二回転するソーガ。

「ソーガさん!」

「ヒハハハ、これで君のライフは風前の灯! これが君の運命だ、君は僕に蹂躙されればいいのさ!」

 煙の中、体を起こすソーガ。

「ククク……随分とふざけたことぬかすじゃねえかよ、ゴドール!」

 立ち上がり、デュエルディスクを構えるソーガの眼は未だ闘志が満ちている。

「俺はこんなところで死ぬ気は無え! 俺は全ての大門七神器を手にし、究極の闇の力を手にするデュエリストだ! だから、勝つのは俺だ!」

 己が目的のため、立ち上がるソーガ。

 その様子を、ゴドールは嬉しそうに見つめる。

「いいね、そういう熱いのは嫌いじゃないよ。 流石は僕の運命の相手だ! さあ、デュエルを続けるよ!」


第五話「解き放たれし神器龍」


「速攻魔法《グリード・グラード》! 相手のシンクロモンスターを破壊したことで2枚ドローする!」

《グリード・グラード》
速攻魔法
自分が相手フィールド上に表側表示で存在するシンクロモンスターを
戦闘またはカードの効果によって破壊したターンに発動する事ができる。
自分のデッキからカードを2枚ドローする。

「あれはソーガさんが使っていたカード!」

「テメエもデッキに入れていたか……」

「さらに、永続魔法《強欲なカケラ》を発動。 これで2回目の僕のドローフェイズになれば2枚のドローができる」

《強欲なカケラ》
永続魔法
自分のドローフェイズ時に通常のドローをする度に、
このカードに強欲カウンターを1つ置く。
強欲カウンターが2つ以上乗っているこのカードを墓地へ送る事で、
自分のデッキからカードを2枚ドローする。

「またドロー効果……ずいぶんとドローが好きだな」

「うん、僕はドローが好きでね。 どんな強力なカードもデッキに眠っていては意味がなく、ドローして初めて力を発揮する。 無意味なものを変換し、価値あるものとする。 ドローは卑金属を金属へと変える錬金術と通じる部分があると思うんだ」

「ふーん、どうでもいいな」

「なんだよ、自分から聞いておいて酷いなあ。 僕はカードを1枚セットし、ターンを終了するよ」

 ソーガが先攻1ターン目から強烈な手札破壊を決め、対してゴドールは破壊効果を駆使してソーガの布陣を突破しつつライフを削り、さらにはシンクロモンスターまで呼び出す。

 しかしソーガもシンクロモンスターで対抗、ゴドールの罠も自信の罠で攻略し反撃、にも関わらずゴドールは圧倒的な攻撃力を叩きだしソーガを一気に追い詰める。

 ソーガとゴドール、二人は一進一退の高度な攻防戦を繰り広げていた。

「錬金術師ゴドール……ソーガさんをここまで追い込むなんて……!」

「ま、僕はそこらのデュエリストとは根本的に創りが違うからね」

「ほう、創りが違う?」

「そう。 僕は大門総魔の元で生み出されたホムンクルス。 その時、僕の肉体を生み出すのに使ったのは数々のデュエリストの細胞なのさ」

「デュエリストの細胞だと?」

「それも並のデュエリストじゃないよ。 武藤遊戯、海馬瀬人、遊城十代を始めとする数々の伝説のデュエリスト――それらの細胞を組み合わせ、構成されたのがこの僕さ!」

 驚愕の事実。

 だがそれを前にしても、ソーガは臆さずデュエルを続ける。

「俺のターン、ドロー!」

「へえ、この話を聞いても動じないんだ」

「ハッ、伝説のデュエリストの細胞が組み込まれている? だったらそれらをまとめて叩き潰すだけだ」

ソーガ LP:100
手札:3→4枚
モンスター:無し
魔法&罠:《万魔殿-悪魔の巣窟-》、セット1枚
ゴドール LP:3200
手札:無し
モンスター:《黄金のホムンクルス》(攻4500)
魔法&罠:《強欲なカケラ》、セット1枚

「俺は《幻銃士》を召喚! コイツを召喚したことで俺の場のモンスターの数――つまり今は《幻銃士》1体と同じ数の《銃士トークン》を特殊召喚する!」

 背に砲台を背負った悪魔が召喚されると、それに並んで色違いで同じデザインの悪魔が現れる。

《幻銃士
効果モンスター
星4/闇属性/悪魔族/攻1100/守 800
このカードが召喚・反転召喚に成功した時、
自分フィールド上に存在するモンスターの数まで自分フィールド上に
「銃士トークン」(悪魔族・闇・星4・攻/守500)を特殊召喚する事ができる。
また、自分のスタンバイフェイズ毎に自分フィールド上に表側表示で存在する
「銃士」と名のついたモンスター1体につき相手ライフに
300ポイントダメージを与える事ができる。
この効果を発動するターン、自分フィールド上に存在する
「銃士」と名のついたモンスターは攻撃宣言をする事ができない。

「さらに罠発動《闇霊術-「欲」》! 《銃士トークン》をリリースし、2枚ドローするがテメエは手札の魔法カードを公開しこれを無効にできるぜ」

《闇霊術-「欲」
通常罠
自分フィールド上の闇属性モンスター1体をリリースして発動できる。
相手は手札から魔法カード1枚を見せてこのカードの効果を無効にできる。
見せなかった場合、自分はデッキからカードを2枚ドローする。

「ま、僕の手札は0枚だから見せようがないんだけどね。 しかし僕の光霊術に対し君は闇霊術か。 やっぱり僕たちは運命で繋がれているんだね」

「こっちは願い下げだぜ、そんな運命。 闇霊術の効果で2枚ドロー!」

 引いたカードを確認するソーガ。

(来たな……!)

「魔法発動、《冥界流傀儡術》! 墓地の悪魔族を選択し、そのモンスターと同じレベルになるよう自分フィールドのモンスターを除外することでその悪魔族を復活させる!」

 《幻銃士》に青く光る糸が絡みつき、地中に引きずりこむ。

《冥界流傀儡術》
通常魔法
自分の墓地に存在する悪魔族モンスター1体を選択して発動する。
レベルの合計が選択したモンスターのレベルと同じになるように、
自分フィールド上に存在するモンスターをゲームから除外する。
その後、選択したモンスターを墓地から特殊召喚する。

「レベル4《幻銃士》を除外することで、墓地よりレベル4《ジェノサイドキングデーモン》を特殊召喚!」

 大地を突き破り、剣を片手に持った悪魔が現れる。

「またそのモンスターかい? 前のターンと同じく攻撃力が足りないけど、今度は何を見せてくれるのかな?」

「俺が見せてやるのはコレだ! 装備魔法発動!」

 ソーガは1枚のカードをデュエルディスクに置き、発動する。

 モンスターに装備し、その対象に効果を発揮する装備魔法。

 が、《ジェノサイドキングデーモン》には一向に変化が訪れない。

「ソーガ、君は《ジェノサイドキングデーモン》に何を装備したんだい?」

「ククク……何勘違いしているんだ? 俺は《ジェノサイドキングデーモン》に装備するなんて言っていないぜ」

「じゃあ、一体……まさか!」

 ゴドールはソーガの狙いに気づき、《黄金のホムンクルス》の姿を見る。

「その力、俺のものにさせてもらうぜ」

 金色に煌めいていたその巨体は、黒ずんだ色合いに侵食されつつあった。

「俺のデーモンデッキの得意とする戦術の一つ――相手を堕とし、傀儡とする。 これが装備魔法《堕落フォーリン・ダウン》だ!」

堕落フォーリン・ダウン
装備魔法
自分フィールド上に「デーモン」という名のついたカードが存在しなければ
このカードを破壊する。
このカードを装備した相手モンスターのコントロールを得る。
相手のスタンバイフェイズ毎に、自分は800ポイントダメージを受ける。

 黒く染まった《黄金のホムンクルス》は、ソーガと《ジェノサイドキングデーモン》の元へ歩み、膝を付く。

「ククク……せいぜい俺の手駒として働いてくれよ、《黄金のホムンクルス》! ま、俺はテメエ程カードを除外してねえから攻撃力は大したことねえがな」

黄金のホムンクルス ATK:4500→1800

「《ヘルウェイ・パトロール》1枚しか除外されていないから攻撃力は1800。 けど、ゴドールのがら空きのフィールドに《ジェノサイドキングデーモン》と共にダイレクトアタックを叩きこめば、ソーガさんの勝ちです!」

「行くぜ! 《ジェノサイドキングデーモン》、ジェノサイドブレイド! 《黄金のホムンクルス》、ゴールデン・ハーヴェスト!」

 悪魔の王と漆黒の巨人。

 2体は少年に向かい、剣と拳の一撃を放つ。

 その瞬間、巻き起こる突風。

 舞い上がる風に、ソーガは目を逸らす。

 僅かな時間を置いて再びソーガがフィールドに目を向けた時、漆黒の巨人の姿は無かった。

 代わりにあるのは、悪魔の王の前に立ちはだかる黄金の巨人。

「速攻魔法、《サイクロン》。 これで装備魔法《堕落》を破壊し、コントロールを元に戻した」

《サイクロン》
速攻魔法
フィールド上の魔法・罠カード1枚を選択して破壊する。

黄金のホムンクルス ATK:1800→4500

「チッ……攻撃を中断しろ、《ジェノサイドキングデーモン》! 俺はカードを2枚セットし、ターン終了だ!」

 圧倒的な攻撃力を誇る《黄金のホムンクルス》の前には、並の攻撃は通用しない。

 ソーガは攻撃をやめ、次のターンの猛攻に備えるしか無かった。

「さあ、僕のターンだ! ドロー! 僕がドローフェイズに通常のドローをしたことで、《強欲なカケラ》に強欲カウンターが1つ乗るよ!」

ソーガ LP:100
手札:2枚
モンスター:《ジェノサイドキングデーモン》(攻2000)
魔法&罠:《万魔殿-悪魔の巣窟-》、セット2枚
ゴドール LP:3200
手札:0→1枚
モンスター:《黄金のホムンクルス》(攻4500)
魔法&罠:《強欲なカケラ》(強欲カウンター:0→1)

「行け、《黄金のホムンクルス》! 《ジェノサイドキングデーモン》に攻撃だ!」

 再び振り下ろされる鉄槌。

「ヒヒヒ、これが決まればゴドール様の勝利ですなあ」

「そう上手く行くと思ってんのか? 罠発動、《デーモンの宝札》! コイツで2枚ドローし、《ジェノサイドキングデーモン》を破壊する!」

《デーモンの宝札》
通常罠 (血の刻印オリジナル)
自分フィールド上に存在する「デーモン」と名のついたモンスター1体を選択して発動する。
デッキからカードを2枚ドローし、選択したモンスターを破壊する。

ソーガ 手札:2→4

「そして、《ジェノサイドキングデーモン》が破壊されたことで手札の《デスルークデーモン》を捨て、守備表示で蘇生する!」

 砕ける悪魔の王、しかし直後に再生し、守備体勢をとって現れる。

《デスルークデーモン》
効果モンスター
星3/光属性/悪魔族/攻1100/守1800
このカードのコントローラーは自分のスタンバイフェイズ毎に500ライフポイントを払う。
このカードが相手のコントロールするカードの効果の対象になり、
その処理を行う時にサイコロを1回振る。
3が出た場合、その効果を無効にし破壊する。
自分フィールド上の「ジェノサイドキングデーモン」が破壊され墓地に送られた時、
このカードを手札から墓地に送る事で、その「ジェノサイドキングデーモン」1体を特殊召喚する。

「そして、《万魔殿-悪魔の巣窟-》の効果で新たな《デスルークデーモン》を手札に加える!」

万魔殿パンディモニウム-悪魔の巣窟-》
フィールド魔法
「デーモン」という名のついたモンスターはスタンバイフェイズにライフを払わなくてよい。
戦闘以外で「デーモン」という名のついたモンスターカードが破壊されて墓地へ送られた時、
そのカードのレベル未満の「デーモン」という名のついたモンスターカードを
デッキから1枚選択して手札に加える事ができる。

「凄いです、ソーガさん! 《ジェノサイドキングデーモン》を破壊し、《デスルークデーモン》の効果で復活させることで表示形式を変えるとは!」

「ハハ、やるねソーガ・ダイモン! それでこそ倒す勝ちがある! けど、《黄金のホムンクルス》の攻撃はやめないよ! 運命の鉄槌、ゴールデン・ハーヴェスト!」

 剣を横にし守備表示の《ジェノサイドキングデーモン》だが、《黄金のホムンクルス》の一撃はあまりにも重い。

 剣は割り箸のように容易く割れ、《ジェノサイドキングデーモン》も前のターンの《デーモン・カオス・キング》と同様に押しつぶされる。

「だが手札の《デスルークデーモン》を捨て、《ジェノサイドキングデーモン》は蘇る! 《万魔殿-悪魔の巣窟-》の効果は戦闘破壊には対応していないから使えねえがな」

 このデュエルで5度目となる《ジェノサイドキングデーモン》の登場。

 このモンスターのように、1度のデュエルである1枚のモンスターを何度も使いまわす戦術は一部のデュエリストはよく行う。

「僕はカードを1枚セットして終了。 ソーガ・ダイモン、君の番だよ」

「言われなくても分かってる、俺のターン! ドロー!」

 ソーガは勢い良く自分のターンに入り、カードをドローする。

ソーガ LP:100
手札:3→4枚
モンスター:《ジェノサイドキングデーモン》(攻2000)
魔法&罠:《万魔殿-悪魔の巣窟-》、セット1枚
ゴドール LP:3200
手札:無し
モンスター:《黄金のホムンクルス》(攻4500)
魔法&罠:《強欲なカケラ》(強欲カウンター:0→1)、セット1枚

「このターン、君は僕に何を見せてくれるのかな? バトルフェイズの奇襲や僕のモンスターの洗脳……次は何かな?」

「次はこれだぜ! 罠発動《魔族の邪魂鏡デーモンズ・イビルミラー 》!」

 ソーガのフィールドに悪魔を象った装飾の鏡が現れる。

「コイツのコストとして手札の《ヘルポーンデーモン》を捨てる。 このカードは相手の墓地の通常罠を選択し、その効果を写しとる! ちなみに写すのは効果のみでコストはいらねえんだぜ」

「モンスターの次は墓地の罠を奪うのか!」

「俺が選ぶのは……《光霊術-「聖」》!」

魔族の邪魂鏡デーモンズ・イビルミラー
通常罠 (血の刻印オリジナル)
手札から「デーモン」と名のついたモンスター1体を墓地へ送り、
相手の墓地に存在する通常罠カード1枚を選択して発動する。
このカードの効果は選択した通常罠カードの効果と同じになる

《光霊術-「聖」》
通常罠
自分フィールド上の光属性モンスター1体をリリースし、
ゲームから除外されているモンスター1体を選択して発動できる。
相手は手札から罠カード1枚を見せてこのカードの効果を無効にできる。
見せなかった場合、選択したモンスターを自分フィールド上に特殊召喚する。

「テメエの手札は0……よって、光霊術の効果は無効にされず適応! よって除外されたモンスターを呼び寄せる! 来い、《放浪の勇者 フリード》!」

 鎧と剣を装備した、金髪の勇者がソーガの元に現れる。

《放浪の勇者 フリード》
効果モンスター
星4/光属性/戦士族/攻1700/守1200
自分の墓地に存在する光属性モンスター2体をゲームから除外する事で、
フィールド上に表側表示で存在するこのカードの攻撃力より高い攻撃力を持つ、
フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して破壊する。
この効果は1ターンに1度しか使用できない。

「しまった、光霊術は相手の除外されたカードでも特殊召喚できる……それを利用するなんて」

「確かにテメエは強力なデュエリストだが、そういうヤツらは力を逆に利用してやるのが効くのさ! 墓地の光属性モンスター《デスルークデーモン》2枚を除外し、《放浪の勇者 フリード》の効果発動! 《黄金のホムンクルス》を破壊する! ジャスティス・ブライト!」

 光を剣に集め、飛びかかって斬撃を放つ勇者。

 膨大な光を受け黄金の巨人は両断され、崩れ落ちる。

「僕の《黄金のホムンクルス》が……!」

「食らいな、ゴドール! 《放浪の勇者 フリード》でダイレクトアタック! ブレイブ・ソード!」

 勇者は万魔殿を駆け抜け、ゴドールに鋭い一撃を放つ。

「がはっ!」

ゴドール LP:3200→1500

「さあ、この俺の前に這いつくばりな! 《ジェノサイドキングデーモン》の攻撃、ジェノサイドブレイドォ!!」

 翼を広げ、赤黒い万魔殿の空へと飛翔する悪魔の王。

 上空で剣を掲げ、邪悪な笑みを浮かべながら、急降下してゴドールに向かう。

「予想外だね……これが、ソーガ・ダイモン……!」

 ゴドールとすれ違いざまに、悪魔の王はその手の剣で一閃を放つ。

「全ての大門七神器を集め、頂点に立つのはこの俺――ソーガ・ダイモンだ」

 ソーガの宣言とともに、悪魔の王はゴドールを切り裂いた。











 ――かに見えた。

ゴドール LP:1500

「これは……ゴドールのライフが減っていない!? ソーガさんの《ジェノサイドキングデーモン》の一撃は通ったはずなのに……」

「ハハハ……今のは本当に危なかったよ、ソーガ・ダイモン! けど僕は《ガード・ブロック》でダメージを打ち消したのさ!」

《ガード・ブロック
通常罠
相手ターンの戦闘ダメージ計算時に発動する事ができる。
その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になり、
自分のデッキからカードを1枚ドローする。

「そして《ガード・ブロック》の効果で1枚ドロー!」

「仕留め損ねたか……なら俺はカードを1枚セットし、ターンエンドだ!」

 ターンを終了するソーガ。

 だがその瞬間、彼は悪寒を感じる。

 裏のデュエリスト・壊し屋として数々の戦いを経験してきた彼にとって、危機の察知は自然と身についた技能であり、これに助けられたことも多々ある。

 だが、この悪寒はこれまで彼が感じたあらゆる危機とは異質な――別格なものであった。

(何だこれは……ゴドールの放つ不気味な気配は! 元からホムンクルスだとか人外じみた部分はあるが、これはそういうもんじゃねえ……!)

 ソーガは息を呑むと、ゴドールの動向を深く注目する。

(何が来るかは分からねえが、何が来ても対応できるように警戒すべきだ……。 そして、勝ってその力を奪い取る!)

 得体のしれない物を感じつつも、彼が恐怖で動けなくなることなど無い。

 驚こうが警戒しようが、あくまで勝利を目指す。それが壊し屋ソーガ・ダイモンである。

「さあ、僕のターン! このドローで《強欲なカケラ》に強欲カウンターが乗るよ!」

ソーガ LP:100
手札:1枚
モンスター:《ジェノサイドキングデーモン》(攻2000)、《放浪の勇者 フリード》(攻1700)
魔法&罠:《万魔殿-悪魔の巣窟-》、セット1枚
ゴドール LP:1500
手札:1→2枚
モンスター:無し
魔法&罠:《強欲なカケラ》(強欲カウンター:1→2)

「強欲カウンターが2つ乗った《強欲なカケラ》を墓地に送り、さらに2枚のカードをドロー!」

《強欲なカケラ》
永続魔法
自分のドローフェイズ時に通常のドローをする度に、
このカードに強欲カウンターを1つ置く。
強欲カウンターが2つ以上乗っているこのカードを墓地へ送る事で、
自分のデッキからカードを2枚ドローする。

「ハハ、良い手札だよ。 僕は魔法カード《チューナー・ゲート》を発動! 手札からチューナーモンスターを特殊召喚するよ!」

《チューナー・ゲート》
通常魔法 (血の刻印オリジナル)
手札からチューナー1体を特殊召喚する。

「さあ、現れろ! 《D  Tダークチューナー ナイトメア・ハンド》!」

 黒い体に紫色の装飾が入った、人形のようなモンスターが現れる。

 お世辞にも強そうな外見とは言えない。

D  Tダークチューナー ナイトメア・ハンド ATK:0 DEF:0 レベル:10

「ダークチューナー!? 何だこのモンスターは!?」

「それにレベル10のチューナー!? ソーガさん、このモンスターは一体!?」

「分からねえ、だがヤバイ気配がする……!」

 ソーガとセーナの様子を見て、ゴドールは確信する。

「その様子……どうやらたどり着いていないみたいだね」

「たどり着いていない? どういうことだ、ゴドール!」

「ナイトメア・ハンドの効果により、手札のレベル2のモンスターを特殊召喚する! 来い、《聖騎士の槍持ち》!」

《聖騎士の槍持ち》
効果モンスター (アニメ5D's、タッグフォースシリーズオリジナル)
星2/光属性/戦士族/攻 800/守 400
フィールド上に表側表示で存在するこのカードをリリースする事で、
自分のデッキから装備魔法カード1枚を手札に加える。

「2体のモンスターか! ダークチューナーだか何だか知らねえが、つまりはチューナー! シンクロ召喚を狙ってんだろう!」

 ソーガは場の伏せカードを発動し、シンクロ封じの一手を打つ。

「ククク……ハハハハハ! 永続罠《デビリアン・ソング》! テメエの全モンスターはレベルが1下がる! これで狙っていたシンクロモンスターは呼べやしねえ!」

《デビリアン・ソング》
永続罠
このカードがフィールド上に存在する限り、
相手フィールド上に表側表示で存在する
全てのモンスターのレベルは1つ下がる。

DT ナイトメア・ハンド レベル:10→9
聖騎士の槍持ち レベル:2→1

「なるほど、シンクロ封じの罠か。 惜しい、本当に惜しい」

「……?」

「僕が狙っていたのがシンクロ召喚なら、この一手で僕の切り札は潰されていた。 けど、僕の狙いはシンクロじゃない……ダークシンクロだよ!」

「「ダークシンクロ!?」」

 未知の言葉に驚愕のソーガとセーナ。

 ゴドールは、彼らにその未知を披露する。

「ダークチューナーはダークシンクロ専用のチューナー。 シンクロが足し算でシンクロモンスターを呼び出すのに対し、ダークシンクロは引き算でダークシンクロモンスターを呼ぶのさ!」

D  Tダークチューナー ナイトメア・ハンド》
ダークチューナー(効果モンスター) (アニメ5D's、タッグフォースシリーズオリジナル)
星10/闇属性/戦士族/攻 0/守 0
このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、
手札からレベル2モンスター1体を特殊召喚する事ができる。
このカードをシンクロ素材とする場合、
ダークシンクロモンスターのシンクロ召喚にしか使用できない。

「引き算……しまった! 足し算のシンクロ召喚だと《デビリアン・ソング》は素材の数分呼び出すシンクロモンスターのレベルが下がるが、引き算のダークシンクロ召喚は両辺から同じ数が引かれるから、呼び出すモンスターのレベルは変化しねえ!」

「その通り! 僕はレベル1となった《聖騎士の槍持ち》にレベル9になった《D  Tダークチューナー ナイトメア・ハンド》をダークチューニング!!」

 ゴドールが右腕を掲げると、彼のつけている大門七神器・黄金のブレスレットが光り輝く。

「さあ、我が神器よ! 今こそ封印されし力を紐解け!」

「何!? 大門七神器を……!?」

 ナイトメア・ハンドの広げる闇に包まれ、槍持ちは苦しみながら1つの黄色い星となる。

「虚空に放たれし魂よ、闇より生まれし光をその手に、今こそ運命を刻め!」

 闇の中の青い9つの星、その1つは黄色い星の1つと打ち消し合い、残る8つの星は円を描き広がる。

「ダークシンクロ!」

 広がる闇より現れしは、2対の翼を持った龍。

 闇のような黒の肉体に光のような金の装甲を纏い、鋭い翼を空に広げる。

「君臨せよ、《デステニー・ロード・ドラゴン》!!」

 大地に降り立ち、咆哮する龍。

 その威圧感は、先程の黄金の巨人の比ではない。

「これが大門七神器に封じられし神器龍の一角、《デステニー・ロード・ドラゴン》!」

「神器龍……だと……!?」

「ソーガ・ダイモン、君は大門七神器についてどれだけ知っているんだい?」

 ゴドールからの問いかけ。

 自分よりも大門七神器を知っているであろうゴドール相手に情報を出し渋っても意味は無いので、ソーガは自分の知る全てを話す。

「大門七神器は、俺の先祖――大門家の開祖が生み出した7つの神器だ。 それぞれが闇の力を秘め、全てを集めれば究極の力を手に入れられる。 俺が知るのはこんなところだ」

「うん、その通りだ。 けど、大門七神器が秘める闇の力――その源は何だか知っているかい?」

「闇の力の源……? まさか、それが!」

「そう。 初代大門が封印した7体の魔龍――それが大門七神器の力の根源さ。 そして、大門七神器に認められし者は、封じられし魔龍――神器龍を従えられる!」

「認められれば、か。  魔石ちゃんよお……長い付き合いだってのに酷えもんだぜ」

「その魔石のブローチが秘めた闇の力を開放できているから、ある程度は認められてるみたいだけどね。 けど、神器龍を扱うまでではないみたいだ」

 大門七神器の力を引き出せていない――その事実はソーガにとって屈辱であったが、にも関わらず彼は冷静に思考をはりめぐらせていた。

(まあ、七神器の実態を知らなかった俺が認められねえのも仕方ねえ。 ゴドールをぶっ倒し、神器龍を呼び覚ます方法を吐かせるとするか)

「さあ、トークは終わりだ。 《デステニー・ロード・ドラゴン》のモンスター効果により、除外されているモンスターのレベルの合計の100倍が、攻撃力に加算される!」

「コイツも除外されたカードでパワーアップするのか……!」

《デステニー・ロード・ドラゴン》
ダークシンクロ・効果モンスター  (血の刻印オリジナル)
星8/闇属性/ドラゴン族/攻3000/守2000
チューナー以外のモンスター1体−ダークチューナー
このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、
その守備力を攻撃力が超えていれば、
その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。
このカードの攻撃力は、ゲームから除外されている
自分のモンスターのレベルの合計×100ポイントの数値分アップする。

「僕の除外されたモンスターのレベルは合わせて40! よって、《デステニー・ロード・ドラゴン》の攻撃力は4000ポイントアップする!」

ガーディアン・オブ・オーダー レベル8
異次元の女戦士 レベル4
ジャンク・コレクター レベル5
エレクトリック・スネーク レベル3
光帝クライス レベル6
異次元の一角戦士 レベル4
カオスエンドマスター レベル3
ライトニング・ウォリアー レベル7

「つまり、《デステニー・ロード・ドラゴン》の攻撃力は……!」

デステニー・ロード・ドラゴン ATK:3000→7000

「攻撃力7000!?」

「ヒハハハハハハハハハハ!! 見たか、ソーガ・ダイモン! 大いなる運命の前にひれ伏せ!」

 運命を統べる龍は、4枚の翼を広げ天空へと飛翔する。

「さあ、《放浪の勇者 フリード》を攻撃しろ! ジ・アブソリュート・デステニー!!」

 龍は右腕を天に向けて突き上げると、光がそこの収束し巨大な刃が創られる。

 その光の量は前に勇者が収束した光などとは比べ物にならない。

 天空より大地に突進し、溢れんばかりの光の刃を勇者に叩きつける。

 力――運命そのものを体現したかのような絶対的な力の前に、勇者は消滅し辺りは光りに包まれる。

「分かったかい、これが僕の力だ。 この力で僕は君を越える!」

 光が消え、視界に万魔殿の景色が戻る。

 そこにいたのはゴドールと、彼の前に立つソーガ。

ソーガ LP:100

「やはり生きていたか……手札から《クリボー》でも捨てたのかな?」

「ご名答」

《クリボー》
効果モンスター
星1/闇属性/悪魔族/攻 300/守 200
相手ターンの戦闘ダメージ計算時、このカードを手札から捨てて発動する。
その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になる。

「ハハハハ、そうでないとねえ! 僕はカードを1枚伏せ、ターンを終了するよ! ちなみに、《デステニー・ロード・ドラゴン》は貫通能力を持っているから守備モンスターでしのごうとか考えちゃいけないよ?」

 黒と金の龍はゴドールの頭上を飛翔し、フィールドの支配者として高らかに雄叫びを上げる。

 対するソーガの場には、悪魔の王と万魔殿、そして役には立たないカードが1枚。

「ククク……思ったよりもやるなあ、褒めてやるぜゴドール」

「ハハ、誰かに褒められるのは初めてだね。 意外と嬉しいものだなあ」

「そうか、ソイツは良かったなあ」

 ソーガは息を吸い、吐く。

 そして、目の前の龍を見る。

(流石は大門七神器に封じられし闇の力だ、圧倒的すぎて殺されちまいそうだ)

 ソーガはデュエルディスクを構え直し、胸のブローチに手を付ける。

(所持者が追い詰められて絶体絶命のピンチだし、こういうタイミングで覚醒してくれるのが定番だと思うんだが……)

 魔石のブローチはただ、無機質に何も答えない。

(そう上手くはいかねえよな)

 ソーガは呼吸を整え、自分のデッキを見つめる。

(だからといって、俺は負けるつもりは無え)

 彼の脳裏に浮かぶ言葉――

『圧倒的な力があれば、どんなに脆い絆でも砕けることはないんです』

(そうだ――力だ。 大門七神器を全て集め、究極の力を手にするのはこの俺だ!)

 ソーガはデッキの上に指をかざす。

「神器龍か……その力、すぐに俺のものにしてやるよ! ドロー!」

ソーガ LP:100
手札:0→1枚
モンスター:《ジェノサイドキングデーモン》(攻2000)
魔法&罠:《万魔殿-悪魔の巣窟-》、《デビリアン・ソング》
ゴドール LP:1500
手札:無し
モンスター:《デステニー・ロード・ドラゴン》(攻7000)
魔法&罠:セット1枚

 ソーガは引いたカードを叩きつけるようにデュエルディスクに置く。

「魔法発動、《マジック・プランター》! 使えねえ《デビリアン・ソング》を捨て、2枚ドロー!」

《マジック・プランター》
通常魔法
自分フィールド上に表側表示で存在する
永続罠カード1枚を墓地へ送って発動する。
自分のデッキからカードを2枚ドローする。

「ここでドローカードとは、流石だねえ」

「まずは《シャドウナイトデーモン》を召喚!!」

 青い髪の、右腕が剣と一体化した騎士の悪魔がフィールドに現れ王と並び立つ。

《シャドウナイトデーモン》
効果モンスター
星4/風属性/悪魔族/攻2000/守1600
このカードのコントローラーは自分のスタンバイフェイズ毎に
900ライフポイントを払う。
このカードが相手のコントロールするカードの効果の対象になり、
その処理を行う時にサイコロを1回振る。
3が出た場合、その効果を無効にし破壊する。
このカードが相手プレイヤーに与えるダメージは半分になる。

「そして、魔法発動! さあ、《シャドウナイトデーモン》よ! 俺の勝利のために死ね!!」

 王は騎士の背後に回ると、剣で騎士の体を貫く。

 騎士は己の仕える王の行動を理解できない様子で振り向くが、王は剣を騎士から抜き、今度は騎士の体を何度も斬る。

 万魔殿の「地」に騎士の「血」が流れ、その肉体が「散」る。

 返り血を浴びた王は、その身に新たなる力を授かる。

「ハハハハハハ!! 《ディスカバード・アタック》はデーモンを1体犠牲にし《ジェノサイドキングデーモン》に直接攻撃の権利を与えるカードだ!! この俺の勝利のために、この俺の絆のために、モンスターなんぞいくらでも死ねばいいんだよ!!」

《ディスカバード・アタック》
通常魔法
自分フィールド上に存在する「デーモン」という名のついたモンスター1体を生け贄に捧げる。
このターン自分フィールド上の「ジェノサイドキングデーモン」1体は
相手プレイヤーに直接攻撃をする事ができる。

 血を浴びた悪魔は、右腕をゴドールに向ける。

「凄い、やっぱりソーガさんは強い!」

「当然だろ、この俺はソーガ・ダイモンだからなあ!」

 セーナに声に、ソーガは答える。

 狂気じみた彼の笑顔にも、彼女はいつも通り信頼と敬愛を向ける。

「さあ、ゴドール! チェックメイトだ! 《ジェノサイドキングデーモン》の攻撃、ディスカバード・アタック!!」

 王の右腕が、力強く脈動する。

 その右手より放たれる光線。

 それは龍を無視してゴドールへと向かう。









 ――はずだった。

 その光線は逸れ、向かう先は天空の龍。

 龍の肉体は、その光線を容易く弾く。

「な……!」

「甘いよ、甘いよソーガ・ダイモン!! 《地縛霊の誘い》で攻撃対象は《デステニー・ロード・ドラゴン》に変えてもらったよ!」

「攻撃対象を……変更……!?」

《地縛霊の誘い》
通常罠
相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
攻撃モンスターの攻撃対象はこのカードのコントローラーが選択する。

 龍は、己に攻撃を加えた王を金色の瞳に映す。

「さあ、《デステニー・ロード・ドラゴン》の反撃だよ!」

 再び龍の右腕に光が集る。

 膨大な、火花のように舞う光。

 それは巨大な刃を形成していく。

「ククク……コイツは困った、対抗手段がまるで無え」

「見事だったよ、ソーガ・ダイモン! このデュエルは最高だったよ! 僕の人生……まあ人じゃないけど、その中でも最高に楽しかった!」

 少しずつ肥大化していく光の刃。

「ソーガさん!」

 セーナは飛び出し、ソーガの前に出る。

「セーナ……!」

「殺させません! ソーガさんは絶対に殺させません!」

「何言っているんだ! さっさとここを離れろ! 神器の力で実体化したダメージを……それも5000ものダメージを食らえばタダじゃすまねえ!」

「ソーガさんこそ何を言っているんですか! 助手の私が、あなたを守らないでどうしろと!?」

 二人の様子を客席から見ていた少女――夜条。

 このデュエルの観戦では沈黙を貫いていたが、静かに口を開いた。

「やっぱり、あの二人は不愉快……」

 光が龍の右腕に集まり、刃が完成する。

 それを見たゴドールは、反撃の命を下す。

「《デステニー・ロード・ドラゴン》、放て」

 右腕を振りかぶる龍。

 その腕の刃は、万魔殿の赤い天空を貫き、緑の大地を金色に照らす。

「さっさと退け、セーナ! テメエが庇ったところで、ヤツの狙いは俺だ!」

「それでも、私は……」

 そして、終幕の一太刀が降りる――

「これで、僕は君を超える! ジ・アブソリュート・デステ……」

 ――はずだった。










 足元に付きそうなほどの長い黒髪。

 身にまとうは純白の衣装。

 黒と白のコントラストが印象的な姿は、女神の如き神聖さを放っていた。

 セーナより少し年上であろう女性は、ただ静かに、それでいて圧倒的な存在感で戦いに割り入った。

「なんだ……僕のデステニー・ロードが……!」

「これは……!?」

 今にも刃を振り下ろそうとする龍に、ただ反撃を待つしか無い悪魔の王、そして万魔殿の大地――。

 それらの姿は歪み、静かに消えて行く。

 ソーガ、セーナ、ゴドール、さらにはデュエルを沈黙して眺めていた夜条がこの状況に驚きを隠せない中、マリスの驚きはやや異質であった。

「あの女は……!」

 女性は、告げる。

「戦いは中断よ」

 景色は元の部屋に戻るが、デュエル前と違うのは壁に直径10メートルはある大きな穴がひらいていること。

 おそらく女性はこの壁に大穴を開け、部屋に入ってきたのだろうが冷静に状況を分析できる者はこの場に居なかった。

「なんだい、君は? 僕とソーガ・ダイモンの運命の戦いを邪魔しないでくれ」

「誰だお前は……? なぜ俺を助けた……?」

 二人の質問に、女性はただ微笑む。

 そして、左手を天井に向ける。

「私の名はアウロラ。 いずれあなた達とは、宿命に導かれることになるわ」

 そう告げると、左手より何かを放つ。

 放たれた光の球体により崩れる天井。

 さらには部屋の柱の一つが倒れ、ソーガとゴドールを分断する。

 崩壊を始める建物を見てソーガは、危機感で我を取り戻す。

「セーナ、逃げるぞ!」

「え? は、はい!」

 謎の女性――アウロラに魅入っていたセーナだが、ソーガの言葉で気を直し後に続く。

「ゴドール、逃げよう」

「ヒィィィ〜、ゴドール様! 早く逃げましょう!」

「……そうだね」

 夜条とマリスの忠告を受け、ゴドールはやむを得ず脱出を試みる。

 マリスの表情は先程とは異なり、いつもと同じに戻っている。

「こんな形でお預けか……けど良かったかもしれないね。 ソーガ、君とまた最高の時間を過ごせるのだから」

 ソーガとゴドールは別々に脱出していった――。











 ――洋館表玄関

「あった、俺のD・ホイール!」

「私のも!」

 ソーガとセーナは自分のD・ホイールに乗り、一気に加速し洋館を離れる。

 直後、洋館が音と煙を立てて崩壊する。

「とりあえず、ここから離れるぜ」

「はい!」

 D・ホイールで駆け、道路をしばらく走る。

 数分間走り続けた彼らは、港でD・ホイールを止める。

「ふう……ま、ここまで来れば大丈夫だろう。 俺とは違う方向に逃げたゴドールは追ってはこれねえはずだ」

「ソーガさん、あのアウロラという女性は何者なんでしょうかね?」

 セーナっがそう言った瞬間、二人は背後に妙な気配を感じる。

「さて、何者でしょう」

「「うあぁぁ!?」」

 セーナの言うアウロラ本人がいつの間にか背後に立ち、そう返す。

 二人は驚きを隠せず、素っ頓狂な声を出してしまった。

「心臓に悪いやつだ……」

「あらあら、酷いわね。 あのままだったらあなた達は全滅していたのに」

「ああ、それに関しては礼を言う」

「私からも。 ソーガさんを助けてくれてありがとうございました」

 謝礼をするソーガとセーナ。

「フフ、どういたしまして。 じゃあね、ソーガ君、セーナさん。 また会いましょう」

 いつの間にか置いてあった白いD・ホイールに乗ると、アウロラは去っていった。

「何だったのでしょう、あの人は……?」

「さあな……だが、確かなのはあの女に助けてもらわなければ俺は死んでいた」

 ソーガは拳を握る。

「力だ……俺には力が要る! 何者をも寄せ付けねえ圧倒的な力が!」








 ――パズルシティ、とあるビル

「あー驚いた。 一体あの女は何だったんだろうねえ、夜条ちゃん」

 ゴドールの問いに、夜条は静かに答える。

「さあ……?」

「ま、夜条ちゃんだからそんな答えだろうね。 で、マリスは? 何か思わせぶりなことを言っていなかった?」

「いえ、私も知りませぬ」

「ふーん、そうなんだ」

 ゴドールはソファーに腰掛け、足を組みながら話を続ける。

「それにしても僕たちの拠点が壊されたのは痛いなあ。 一応、この予備の拠点を持っていてよかったけれど」

「ヒヒヒ、ここを調達してくれた彼らに感謝しませんといけませんねえ」

「おう、感謝してくれよ!」

 突如聞こえる何者かの声。

 声の方向にあった部屋の扉が開き、二人の男が中に入る。

「ヒヒヒ、見事なタイミングですねえ」

 二人組の片方、痩身でサングラスをかけた男は抱えた何かを床に放る。

「新入りの回収、済ませましたよ」

 床に転がるのは、意識を失い水に濡れたラーメン屋。

 濡れているのはソーガとのデュエルに敗れ、海に落ちていたからだろう。

「おお、お見事ですな。 流石は水の属性を司るキメラデュエリスト――レヴィさん!」

 そこに二人組のもう片方――大柄で筋肉質の男が歩み寄る。

「おいおい、俺様の力も活躍したんだぜ? 忘れないでくれよ!」

「ええ、風の属性を司るキメラデュエリスト――バハムさん。 あなたの力も流石ですな」

 水と風、二人のキメラデュエリスト。

 彼らに、ゴドールは告げる。

「よくやってくれた、僕の創りしキメラデュエリスト達よ」

「「はっ」」

 二人はゴドールに向け膝をつき、忠誠の意を見せる。

「僕にとって君たちの力は必要不可欠だからね。 で、ゴールデン・ファミリーの調子はどうかな?」

「はい、好調です!」

「カード売買を中心に勢力を着実に伸ばしております」

「そうかい」

 ゴドールは右腕に巻かれたブレスレットを見て、呟く。

「ソーガ・ダイモン、君と僕は運命の糸で繋がっている……決戦の時を待っていてくれよ」

 ――パズルシティ、ソーガの家

「ソーガさん! 今日はソーガさん好評の作るチーズケーキを作ってみました! 前回よりも美味しく仕上がっているはずです! どうでしょうか?」

 笑顔で皿に乗せたケーキを差し出すセーナ。

 テーブルに座るソーガは、受け取ったケーキをフォークで口に運ぶ。

「ああ、上手いな」

 そう言うと、黙々とゆっくり食べ進めていく。

「そうですか。 では、ゆっくり召し上がってくださいね」

 そう言うとセーナは食卓を離れ、部屋を出る。

(ソーガさん……)

 彼女は自室に入り、ベットに腰掛けるとため息を付いた。

(ゴドールとの一戦から3日……ソーガさんはまだ元気が戻らないようですね)

 錬金術師ゴドール――彼の圧倒的な力と神器龍《デステニー・ロード・ドラゴン》の前に、ソーガは敗れた。

 性格には謎の女性・アウロラの介入によりデュエルは中断となったが、実質負けたも同然である。

 そして、その敗因はソーガが自分の持つ大門七神器に封じられた神器龍を操れなかったから。

 神器龍の有無が、ソーガとゴドールの戦いを決める要因となったのだ。

(ソーガさんは普段通り振舞っているつもりでしょうが、私からすれば違和感しかありません。 明らかにあの敗北のことを引きずっています。 ……どうにかしてソーガさんを元気づけないと)

 セーナはふと、机の上のパソコンのモニターに目が行く。

(あ、ケーキを作る前に使っていたのをつけっ放しでしたね)

 すると、彼女はメールが一通届いているのに気がついた。

(これは……壊し屋への依頼。 今のソーガさんに仕事をさせるのは危険だからここは断るべきですね……いや! 壊し屋として戦えばいつものソーガさんに戻るかもしれません!)

 セーナは、すぐさま依頼主に返信をした。




第六話「忍び寄る刺客 二人のキメラデュエリスト」


 ――パズルシティ、街外れのバー

 薄暗い店内で、ソーガとセーナはカウンター席に座り、マスターと向かい合う。

 店内にはソーガとセーナとマスター、そして合わせて十人に満たないの店員と客がいる。

 そして、二人の前にはそれぞれコーヒーが置いてある。

 バーなのにコーヒーを飲むというのも妙だが、ソーガもセーナも仕事前にアルコール摂取をするような真似はしない。

 最も、セーナに関しては未成年で飲酒はNGだが。

「さて、改めて話を聞かせてもらいます、マスター……いや、依頼主と呼ぶべきですね」

「その前に、あなたは?」

「まだ名乗っていませんでしたね。 私はセーナ・クロエ、壊し屋の助手を務めています。 そしてこちらが壊し屋のソーガ・ダイモンさんです」

「俺が壊し屋だ」

 セーナの紹介に対し、静かにそう答えるソーガ。

 普段ならもっと威圧的で悪っぽい自己紹介をするはず、とセーナは考える。

「なるほど、そうでしたか。 依頼というのは、ここ最近に流行りだしたあるカードのことについてです

「あるカードとは?」
 
「そのカードについては、実際に見てもらったほうが早いと思います」

 依頼者は店の一角を指差す。

 そこにいたのは、コーヒーをすする紳士的な服装をした青年。

 この店はバーにも関わらず何故コーヒーを飲む人が多いのだろうか。

「あの青年が何かあるのですか?」

「まあ、見ていてください」

 セーナの問いに依頼者はそう答える。

 青年の様子を伺うと、カードをポケットから取り出しす。

「あのカードが依頼に関係ある最近流行りだしたカードですね?」

「はい、見てください」

 青年は取り出したカードをコーヒーに入れ、そのままコーヒーをすする。

「キェェェェェェェェ!! このテイィィィィィィィィィィィィィストッ!! ミィィィィィィィィナァァァァァァァァギィィィィィィィィィィルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!」

「!?」

「彼だけではありません。 ほら、そこにも、あちらにも」

 他にもいるんですか!

 セーナはそう叫びたくなった。

「Foooooooooooooooooooooooooooooooooooooo!!」

「ヒァァァァァァァァァァァッッッッッッッッッッフォォォォォォォォォォォォァァァァァァァァァァ!!!!!」

「エクスクルーダーたんペロペロペロペロペロペロペロペロ」

 店内ではカードをコーヒーに付けたり、そのまましゃぶったり舐めたりする人が何人もいる。

 そのうち1人はビールに付けていたが、バーにも関わらずコーヒーにつけている人は4人であった。

「これは……まさかドラッグカード!? 中毒性のある物質を組み込んだカードで、見た目はカードと変わらないからバレにくい違法カードですか!?」

 ソーガとセーナはドラッグカードを過去に何回か見たことがあり、判別法も知っている。

 しかし素人じゃ普通のカードとの見分けはつかないのが厄介な点である。

「その通りです。 最近このドラッグカードが広まりだして、この店にもドラッグカードを持つものが出入りするようになりました。 その結果、一般のお客様は怖がって店に立ち入らなくなりまして……。 お願いです、壊し屋様! ドラッグカードをばら撒く不穏な輩を殲滅し、この店に、そしてこの街に平和を取り戻してください!」

 依頼者は前金の入った封筒を渡す。

「前金は十分ですね。 ソーガさん、行きましょう!」

 セーナがそう言うと、ソーガは席を立つ。

「分かった。 さっさと終わらせてくる」

 彼は、静かにそう言って店を出た。






 ――パズルシティ、南部の裏路地

 パズルシティの南は、治安が悪い。

 それは、この街が主に南北で格差が広がっているからだ。

 セーナと夜条がデュエルした時に訪れた市街地のように、裏路地に入れば治安が悪いと言うのは中央部にも当てはまる。

 しかし、パズルシティの南部は裏路地も何もあったものではない。

 道路や建物がまともに整備されておらず、スラム街となっている。

「もう少しで港に出るのですが……」

 日が沈みかけた頃、ソーガとセーナは薄暗い路地を進み、十字路にさしかかっていた。

 すると、彼らの前にデュエルディスクを持った一人の少年が路地より飛び出す。

「ハッ、ハッ、ハッ……」

 ソーガとセーナを前にして、足を止める少年。その後ろから、数人の男が姿を見せる。

「ケーッヒャッヒャッヒャ!! 坊ちゃんよお、そのディスクをおじちゃん達にプレゼントしてくれないかな〜? そうしないと、おじちゃん達が怒っちゃうぞ〜!」

 鎖鎌みたいに分銅が鎖で繋がっているデュエルディスクを構えた、数人のデュエルギャングが鎖を振り回して少年に歩み寄る。

「ディスクとカードを頂ォォォォーーー戴ィィィィィィーーーーー!!」

 鎖を持ってデュエルディスクを振り回す集団は、ゆっくりと少年に近づく。

「ケーッヒャッヒャッヒャッヒャ!!、俺にカードとディスクを上納するがいい!!」

「だ、だめだよ……。 こ、このカードは……」

 少年はディスクを抱えるようにして、うずくまる。

 そんな少年の前に、セーナは抜刀し立ちふさがる。

「こんな子供を追い回すとは、随分とまあ小悪党ですね」

 呆れた表情でため息をつくセーナ。まるでゴミを見るような目付きである。

「んだとこりゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! おじちゃん達が小悪党だってのかぁぁぁぁぁぁぃぃぃぃぃ!!??」

「はい」

「なぁぁぁぁぁぁにぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!??」

 激情し、鎖を止めてデュエルディスクを腕につけるデュエルギャング。

 セーナも刀をデュエルディスクに変形し腕につけるが、そこにソーガが彼女の肩に手を置いた。

「ソーガさん……?」

「セーナ、俺にやらせろ」

 スランプ気味なソーガではあるが、そもそも依頼のデュエルを通じて本調子を取り戻そうというのが彼女の目的。

 ならば、依頼に直接関係はなくてもとりあえずデュエルをやらせるべきではないか。

「分かりました! ソーガさんにお任せさせてもらいます!」

 セーナは引き、ソーガは前に出た。

「マーカー付きだぜ? 兄ちゃん、セキュリティーから逃げてきたのかよぉ? ケーッヒャッヒャッヒャ!!」

「御託はいい、さっさと始めろ」

 ソーガはデュエルディスクを構え、静かにそう言い放つ。

「ここはこの俺、デュエルギャング界のマヨネーィズこと大山・エキサイティング・川口様の縄張りなんだよ。 ヒーローごっこならお家でやりな。 だが、持ってるカードやディスクはそのガキよりも良さそうだ、置いてけ! ケーッヒャッヒャッヒャッヒャ!!!」

 見るからにガラの悪いデュエルギャング共がソーガを睨む。

「イーッヘッヘッヘッヘ!! そのデュエルディスクは中々のレア物とMe様の直感が告げてるゼーイ!! そんなお宝をデュエルマフィア界のアナログレコードと呼ばれた、このジェームズファミリーの多太田中ジェームズ様の前に見せるなんて、愚かだゼーイ!!」

 黒いスーツに身を包み、銃型デュエルディスクを付けた集団が俺の左側からやって来る。

「にょーほほほほほ!! キシャーマのデッキは悪い気に満ちてるよーん! だからわたーしが天に導いてあげるんだよーん! そんな訳で、キシャーマのデッキはこのデュエル宗教界の魚肉ソーセージと呼ばれた、この山本山教の・山本山太様が頂くよん!!」

 顔以外に露出のない黒い服を纏った、十字架型デュエルディスクを付けた集団が俺の右側からやって来る。

「ケーッヒャッヒャッヒャ!!」

 前にはデュエルギャング。

「イーッヘッヘッヘッヘ!!」

 右にはデュエルマフィア。

「にょーほほほほほ!!」

 左にはデュエル教徒。

「お、お兄さん、逃げたほうがいいよ!」

 追われていた少年は、ソーガにそう忠告する。

「僕のことを助けようとしてくれたのは嬉しいけど、あんな数が相手じゃお兄さんが死んじゃうよ!」

 そう言う少年を、ソーガは睨む。

「うるせえよ……俺がアイツらに、負けるって言いてえのか?」

「ひっ……」

 威圧的なソーガの言葉と表情に、少年は怯え尻餅をつく。

「まあ、あの人なら大丈夫ですから」

 セーナは少年に、優しく声をかける。

「いいぜ……ぶっ壊してやるぜぇ! ハハハハハハハハ!! 強そうなのはリーダー格の三人だな。 テメエら三人、まとめてかかって来い!!」

「「「「デュエル!!!」」」」

「先攻は貰うぜ、俺のターン!!」

















「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」

 ギャングだかマフィアだか教徒だかが転がっている中、ソーガは息を切らしながら一人立っている。

「ハッ、雑魚が……クククク」

 ソーガは辺りの敗者を手当たり次第に踏み、蹴り、痛めつける。

 そして一人の小悪党を掴み上げると、拳を構える。

 しかし、その拳はセーナの手により掴まれる。

「何のつもりだ、セーナ……」

「その程度の小悪党にソーガさんがそこまでしてあげる必要はありません。 すでに彼らの心は十分に折れています」

 セーナの言葉を聞くと、ソーガは小悪党を放り投げる。

「そうだな」

 今のままでは駄目だ――セーナは、ソーガを見てそう確信した。

(今のデュエル、実力に大きな差があったから問題はなかったものの、ソーガさんは本来のタクティクスを披露できていなかった……。
 ソーガさんのデュエルは策を張り巡らしたトリッキーなタイプ。
 バトルフェイズ中の特殊召喚のような不意打ちに、ゴドール戦で多用したような相手のカードの利用、ラーメン屋戦での《白銀のスナイパー》のように相手の心理を読んだ戦略も得意です。
 けど、今のソーガさんは単純なパワー押し。 力任せに相手を押し込む戦術をとっていた。 この程度の相手ならまだしも、ゴドールのような実力者には通用しない……!)

「セーナ、依頼を済まそう」

「あ、はい」

 セーナはソーガの前に出て、道案内をする。

 そんな二人を少年は、静かに見続けていた。





 ――パズルシティ、南部の港

 数日前にも二人はこの街の港に来ていたが、ここは前の場所以上に不穏な雰囲気が漂っている。

 犯罪者の匂いが漂っている、とでも言うべきだろう。

 しかしながら、この場所に黒いローブを纏いフードで姿を隠しているこの二人はまさに怪しさの塊である。

「黒いローブは便利ですよね。 夜条もラーメン屋も使っていましたし」

「ああ」

 例のドラッグカードの調査は、セーナに手にかかれば簡単だった。

 ドラッグカードの密輸・販売をしているのは、デュエルマフィア・ゴールデンファミリー。

 マイナーな組織で合ったが、ここ三年ほどで勢力を伸ばし多くの利益を上げている。

 手っ取り早くゴールデンファミリーを壊滅させるために、セーナは一つ手を打った。

 それは、釣り。

 セーナはうまくゴールデンファミリーにドラッグカードの取引を持ちかけ、ファミリーのボスとの面会を約束させた。

 そして、今夜この港で取引が行われる。

 当然、取引は嘘。

「ゴールデンファミリーのお出ましみたいですね」

 黒いスーツに身を包んだ二人組の男が現れる。

「おおー、コイツは驚いた! まさか壊し屋のソーガ・ダイモンにその助手のセーナ・クロエが取引の相手だとはなあ! おいおいレヴィ、俺達騙されちまったぜ」

 大柄で筋肉質の男は、大きな声でそう言う。

「ふむふむ。 こちらから仕掛ける手間が省けましたねえ、バハムさん」

 続いてそう言ったのは、長髪で痩身の男。

「ほう、よく気がついたな」

 二人はローブを翻し、デュエルディスクを構える。

「壊し屋だ、テメエらを壊しに来た」

「さあ、覚悟してくださいよ! ですがその前に一つ、私達が壊し屋とよく見抜けましたね」

 セーナがそう言うと、バハムと呼ばれた大柄な男は笑いながら答える。

「ハッハッハ! そいつは簡単、お前達の匂いでわかったんだ!」

 ゴールデンファミリーのボスは腕を俺たちに向けると、その腕は獣のように変化する。

「テメエ……ゴドールの作ったキメラデュエリストか! 今回の依頼は罠だったのか!?」

「いやあ、罠ではないですよ。 ゴールデンファミリーはゴドール様の研究資金調達のために作った組織でしてねえ、できればソーガ・ダイモンにバレずに活動をしたかったんですが……ソーガ・ダイモンに襲われた場合は全力を持って撃退するようにとゴドール様から言われてましてねえ!」

 レヴィと呼ばれた男はそう返答すると、デュエルディスクを装着する。

「お、デュエルか! 向こうは二人いるんだし、ダッグ戦といくかあ!」

 もう一人の男、バハムも戦う様子だ。

「おおっと、デュエル前には名乗らねえとなあ! 俺様はバハム! ゴールデンファミリーのボスってとこだ!」

「ふむふむ。 バハムさんは無駄に熱いですね。 僕様はレヴィ。 一応はゴールデンファミリーのナンバー2ですが、そもそもこの組織はボスが2人いるようなものなのですよ」

 バハム、レヴィの二人から突如として暴風が巻き起こる。

「これは!」

 風の音とは別に、鈍い音が響く。

 風に包まれよくは見えないが、二人の姿は変貌しているようだ。

「ラーメン屋と同じ、キメラデュエリストの変身か……!」

「ラーメン屋と同じ?」

「俺様達をあんな新入りと一緒にしちゃ困るぜ!」

 風が止み、二人はその姿を現す。

「風を司るキメラデュエリスト・モードベヒーモス!」

「水を司るキメラデュエリスト・モードリヴァイアサン!」

 魔獣を取り込んだ、逞しく強靭な肉体。

 海竜を取り込んだ、流れるようなフォルム。

 魔獣と海竜、二人のキメラデュエリスト。

「よし! 変身も済んだし、さっさと始めるぜ!」

「ふむふむ。 油断は禁物ですよ?」

「ソーガさん、サポートは任せて下さい!」

「俺の前に立ち塞がる敵は誰であろうがぶっ壊す!」

「「「「デュエル!!」」」」

ソーガ&セーナ LP:4000 バハム&レヴィ LP:4000

「先攻はもらった、俺のターン!」

(一気に押し切ってやる!)

 ドローしたソーガは、すぐさまモンスターを呼び出す。

「自分の場にモンスターがいないことで、《デーモンバット》を特殊召喚!」

《デーモンバット》
効果モンスター (血の刻印オリジナル)
星2/風属性/悪魔族/攻1300/守800
自分フィールド上にモンスターが存在しない場合、
このカードは手札から特殊召喚する事ができる。

「さらに、《デーモンバット》をリリース! 来い、《迅雷の魔王-スカル・デーモン》!」

 落雷とともに現れたのは、雷を統べる高等悪魔。

《迅雷の魔王-スカル・デーモン》
効果モンスター
星6/闇属性/悪魔族/攻2500/守1200
このカードのコントローラーは自分のスタンバイフェイズ毎に
500ライフポイントを払う。
このカードが相手のコントロールするカードの効果の対象になり、
その処理を行う時にサイコロを1回振る。
1・3・6が出た場合、その効果を無効にし破壊する。

「カードを2枚セットし、ターンエンドだ!」

「おお、いきなり大型モンスターか! だったらこっちも全力だな、俺様のターン!」

 バハムはドローすると、すぐさまモンスターを呼び寄せる。

「さあ来い、《サンライト・ユニコーン》! 効果を発動だ!」

 呼び出されたのは青いたてがみのユニコーン。

 ユニコーンが角を輝かせると、バハムのデッキの一番上が共鳴するように光りだす。

「コイツは1ターンに1度、デッキの上を確認してソイツが装備魔法なら手札に加えられるんだぜ」

《サンライト・ユニコーン》
効果モンスター
星4/光属性/獣族/攻1800/守1000
1ターンに1度、自分のメインフェイズ時に発動する事ができる。
自分のデッキの一番上のカードをめくり、
それが装備魔法カードだった場合手札に加える。
違った場合、自分のデッキの一番下に戻す。

「外れても特に損失はない効果、なら低い確率でも使うだけ特な効果ですね」

「外れても? オイオイ、誰に向かってそんなこと言ってるんだ?」

 バハムはめくったカードを公開する。

 そのカードには、装備魔法を意味する十字架のアイコンがついていた。

《幸運の鉄斧》
装備魔法
装備モンスターの攻撃力は500ポイントアップする。
フィールド上に表側表示で存在するこのカードが
相手のカードの効果によって破壊され墓地へ送られた時、
デッキからカードを1枚ドローする。

「装備魔法《幸運の鉄斧》、手札に回収! さらに、手札から《星見獣ガリス》の効果発動! デッキの上から1枚墓地に送り、ソイツがモンスターならそのレベル1つにつき200ダメージ、さらにガリスを特殊召喚できる」

《星見獣ガリス》
効果モンスター
星3/地属性/獣族/攻 800/守 800
手札にあるこのカードを相手に見せて発動する。
自分のデッキの一番上のカードを墓地へ送り、
そのカードがモンスターだった場合、
そのモンスターのレベル×200ポイントダメージを相手ライフに与え
このカードを特殊召喚する。
そのカードがモンスター以外だった場合、このカードを破壊する。

「また、デッキトップに介入するカード!」

「墓地に送られたのはレベル2《素早いモモンガ》だ。 さあ、400ダメージを喰らえ!」

 翼の生えた獣が現れると、2つの星をソーガに打ち込む。

「チッ……!」

ソーガ&セーナ LP:4000→3600

「こんなギャンブル性の高いカードを連続で……まさか、匂い!?」

「おおー、直感が良いな嬢ちゃん! そういやさっき匂いでお前らの正体を見破ってたもんな。 その通り、キメラデュエリストの力で俺様は匂いでデッキの一番上が何だか分かるんだぜ!」

「これがキメラデュエリスト……!」

 驚きを隠せないセーナに対し、バハムはさらにモンスターを呼び出す。

「よぉーし、まだまだ行くぜ! 2体の獣族をリリースし、コイツを特殊召喚だ! 《ケルベロス・カイザー》!!」

《ケルベロス・カイザー》
効果モンスター (血の刻印オリジナル)
星8/光属性/獣族/攻2400/守1200
このカードは通常召喚できない。
自分フィールド上に存在する獣族モンスター2体をリリースし、手札から特殊召喚する。
1度のバトルフェイズ中に3回攻撃する事ができる。
このカードが直接攻撃する場合、相手ライフに与える戦闘ダメージは半分になる。
このカードが戦闘によってモンスターを破壊し墓地に送った場合、
自分の墓地から獣族モンスター1体を選択し手札に加える。

「さらに装備魔法《幸運の鉄斧》で《ケルベロス・カイザー》を強化! これで《迅雷の魔王-スカル・デーモン》にコンボ攻撃だ!」

ケルベロス・カイザー ATK:2400→2900

 魔犬の首の一つは斧を加える。

 そして装備魔法で強化された魔犬は悪魔の操る雷を躱し、三つ首で攻撃を放つ。

 攻撃を受けた悪魔は骨のような肉体をバキボキとへし折られ、消滅する。

「ぐっ……」
ソーガ&セーナ LP:3600→3200

「この瞬間、《ケルベロス・カイザー》の効果発動! コイツがバトルで敵を葬る度、俺様は墓地の獣族を手札に戻せるんだ。 さあ戻って来い、《星見獣ガリス》!」

 バハムはカードを回収すると、右手を上げて人差し指と中指を伸ばす。

「またソイツか……」

「まだまだ行くぜ、《ケルベロス・カイザー》は1度のバトルフェイズに3回攻撃ができる! ま、ダイレクトアタックだとダメージ半減するんだがな」

「何!?」

「連続攻撃!?」

 魔犬はソーガに跳びかかり、強烈な爪の斬撃を放つ。

「ぐあっ!」

ソーガ&セーナ LP:3200→1750

「ソーガさん!」

 中指を曲げ、人差し指のみを伸ばすバハムは魔犬に命令を下す。

「さあ、三撃目! 行け、《ケルベロス・カイザー》!」

「おやおや、壊し屋も大したことは無いようですね」

 レヴィはそう言い放つ中、魔犬の突進がソーガに向かう。

 魔犬がソーガの眼前に来た瞬間、鈍い音が響く。

「お、何だ!?」

 驚くバハムの眼前には、障壁に弾かれる魔犬と、罠カードを発動したソーガの姿。

「俺がこの程度で終わると思ってんのか? 罠カード《バトル・スタン・ソニック》で攻撃は無効だ」
《バトル・スタン・ソニック》
通常罠 (アニメ5D'sオリジナル)
相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
相手モンスター1体の攻撃を無効にする。
その後手札からレベル4以下のチューナー1体を特殊召喚できる。

「さらに《バトル・スタン・ソニック》の効果によりチューナーモンスター《幻影王 ハイド・ライド》を特殊召喚!」

 黒馬に跨る銀の騎士がソーガの元に駆けつける。

《幻影王 ハイド・ライド》
チューナー(効果モンスター)
星3/闇属性/悪魔族/攻1500/守 300
自分フィールド上に表側表示で存在する
このカードをシンクロ召喚に使用する場合、
このカードをチューナー以外のモンスターとして扱う事ができる。

「ふむふむ。 攻撃を防ぎつつチューナーの展開ですか。 一撃目や二撃目で使っていればダメージこそ少なくなりますがチューナーは戦闘破壊され、さらに《ケルベロス・カイザー》の回収効果をもう一度使われていた……訂正しましょう、壊し屋。 見事な選択ですね」

「ハハ、やるじゃねえか! そうこなきゃ面白くねえよなあ! だったら俺様はカードを1枚セットし、ターンエンド!」

 冷静に分析するレヴィに、熱く滾るバハム。

 二人に対するセーナは一歩前に出てデッキに指を重ねる。

「見事でした、ソーガさん! 反撃はお任せください!」

「セーナ、そのチューナーは好きに使え」

「了解です! 私のターン、ドロー!」

ソーガ&セーナ LP:1750
手札:1&5→6枚
モンスター:《幻影王 ハイド・ライド》(攻1500)
魔法&罠:セット1枚
バハム&レヴィ LP:4000
手札:3&5枚
モンスター:《ケルベロス・カイザー》(攻3100)
魔法&罠:《悪魔のくちづけ》、セット1枚

「まずは《至高の木の実 スプレマシー・ベリー 》を発動。 相手より自分のライフが少ないのでライフを2000回復します!」

至高の木の実スプレマシー・ベリー
通常魔法
このカードの発動時に、自分のライフポイントが
相手より下の場合、自分は2000ライフポイント回復する。
自分のライフポイントが相手より上の場合、
自分は1000ポイントダメージを受ける。
 
ソーガ&セーナ LP:1750→3750

「お、前のターンのダメージがほとんど無くなっちまったか」

「さらに《共鳴虫》を召喚!」

共鳴虫ハウリング・インセクト
効果モンスター
星3/地属性/昆虫族/攻1200/守1300
このカードが戦闘によって破壊され墓地に送られた時、
デッキから攻撃力1500以下の昆虫族モンスター1体を
自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。
その後デッキをシャッフルする。

「レベル3・昆虫族の《共鳴虫》にレベル3・闇属性の《幻影王 ハイド・ライド》をチューニング!」

 セーナの呼び出した昆虫は、ソーガのチューナーとシンクロする。

「深淵に垂れる蜘蛛の糸、今こそ地の底より女邪神を呼び覚ませ! シンクロ召喚! 《地底のアラクネー》!」 

 呼び出されたのは禍々しき虫の魔物。

 上半身は一見すると女性のそれであるが、下半身は巨大な蜘蛛である。 

「おおー、シンクロ召喚か! やるじゃねえか!」

「《地底のアラクネー》の効果発動! 《ケルベロス・カイザー》を捕縛します!」

 蜘蛛の糸は魔犬を絡めとり、盾として糸の主に吸収される。

「な、俺様の《ケルベロス・カイザー》がぁぁぁ!!」

「相手モンスターを装備し、さらに戦闘破壊時には《ケルベロス・カイザー》を身代わりにできます」

《地底のアラクネー》
シンクロ・効果モンスター
星6/地属性/昆虫族/攻2400/守1200
闇属性チューナー+チューナー以外の昆虫族モンスター1体
このカードが攻撃する場合、相手はダメージステップ終了時まで
魔法・罠カードを発動する事ができない。
1ターンに1度、相手フィールド上に表側表示で存在するモンスターを
装備カード扱いとしてこのカードに1体のみ装備する事ができる。
このカードが戦闘によって破壊される場合、
代わりにこの効果で装備したモンスターを破壊する事ができる。


「やりやがったな、だがダイレクトアタックは通さねえぜ! 伏せカードオープン《威嚇する咆哮》! すぅぅぅぅーーっ!」

 バハムは罠を発動させると、大きく息を吸う。

「があああああああああああああっっっっ!!」

 そして放たれる爆音の如き野獣の咆哮!

「うっ、なんて声……!」

「うるせえな……」

 バハムの咆哮により、《地底のアラクネー》は怯んでしまう。

「ふう、これでこのターンバトルはできないぜ! さあどうする?」

《威嚇する咆哮》
通常罠
このターン相手は攻撃宣言をする事ができない。


「《地底のアラクネー》の持つ攻撃時の魔法、罠封じもバトル前の罠には効力を発揮出来ませんね。 なら、私は《強欲なカケラ》を発動、さらにカードを1枚セットし、ターン終了です!」

《強欲なカケラ》
永続魔法
自分のドローフェイズ時に通常のドローをする度に、
このカードに強欲カウンターを1つ置く。
強欲カウンターが2つ以上乗っているこのカードを墓地へ送る事で、
自分のデッキからカードを2枚ドローする。

 シンクロモンスターを呼び寄せ、ダメージこそ与えられなかったがバハムの強力モンスターを除去したセーナ。

 次のターンプレイヤーのレヴィはセーナの操るモンスターを凝視する。

「ふむふむ。 シンクロモンスターですか、いいですね。 なら僕様もシンクロモンスターで対抗しますか。 僕様のターン!」

 海竜のキメラデュエリスト・レヴィはカードを引くと、すぐにそのカードをデュエルディスクに置く。

「さあ、今引いたカードはこれですよ。 チューナーモンスター《深海のディーヴァ》!」

 下半身に魚の尾を持つ人魚がレヴィの場に召喚される。

「狙い通りチューナーを引いた……!? まさかあなたもバハム同様の能力を?」

「いえいえ。 僕様の能力はただデュエル流れを呼び寄せるだけです。 この能力で形勢逆転できるカードを引いたまで、デッキの上の確認なんてできません」

「デュエルの流れを呼び寄せる能力……!」

 時にはバハム以上にやっかいになるレヴィの能力。

 彼は《深海のディーヴァ》を形勢逆転できるカードと語っており、そのためセーナはこれからの反撃に警戒する。

「《深海のディーヴァ》の召喚時、デッキからレベル3以下の海竜を呼び寄せます。 僕様が選ぶのは《ロスト・ブルー・ブレイカー》!」

《深海のディーヴァ》
チューナー(効果モンスター)
星2/水属性/海竜族/攻 200/守 400
このカードが召喚に成功した時、
デッキからレベル3以下の海竜族モンスター1体を特殊召喚できる。


《ロスト・ブルー・ブレイカー》
効果モンスター
星3/水属性/海竜族/攻1400/守   0
フィールド上にこのカード以外の
魚族・海竜族・水族モンスターが存在する場合に
このカードをリリースして発動できる。
フィールド上の魔法・罠カード1枚を選択して破壊する。


 人魚は水のリングを生み出すと、そこから双頭の海竜が飛び出した。

「一気に素材を揃えられるチューナーか」

「と言うことは、来ますね……!」

「レベル3《ロスト・ブルー・ブレイカー》にレベル2《深海のディーヴァ》をチューニング!」

 緑の環となった人魚と光る星となった海竜は交わり、一筋の光となる。

「大いなる海より生まれし神秘、怒涛の津波とともに姿を現せ! シンクロ召喚! 《神海竜ギシルノドン》!」

 澄み渡る海のような色の海竜がレヴィの元に舞い降りる。
神海竜ギシルノドン ATK:2300

(攻撃力2300……これなら私の《地底のアラクネー》には及ばないですね)

「さて、僕様はここで《浮上》を発動して墓地の《ロスト・ブルー・ブレイカー》を特殊召喚します」

 コンクリートで舗装された港の地面が水に変わると、そこより双頭の海竜が姿を現す。

《浮上》
通常魔法
自分の墓地のレベル3以下の
魚族・海竜族・水族モンスター1体を選択して発動できる。
選択したモンスターを表側守備表示で特殊召喚する。


「《ロスト・ブルー・ブレイカー》をリリースし、効果を発動といきましょう。 このモンスターは僕様の場に他の水・魚・海竜族がいる場合、その身を犠牲に魔法か罠を破壊できるのです」

 《ロスト・ブルー・ブレイカー》は蜘蛛の魔物に突進し、糸で捕縛されていた魔犬を自分もろとも破壊した。

《ロスト・ブルー・ブレイカー》
効果モンスター
星3/水属性/海竜族/攻1400/守   0
フィールド上にこのカード以外の
魚族・海竜族・水族モンスターが存在する場合に
このカードをリリースして発動できる。
フィールド上の魔法・罠カード1枚を選択して破壊する。


「これで《地底のアラクネー》の装備カードとなった《ケルベロス・カイザー》は破壊され、《地底のアラクネー》自身の破壊耐性もなくなりました」

「けど、《神海竜ギシルノドン》の攻撃力では私の《地底のアラクネー》には及びませんよ!」

「その程度のことは百も承知ですよ。 《神海竜ギシルノドン》はレベル3以下のモンスターが場から墓地に送られると、大いなる海の怒りにより攻撃力が3000となります」

《神海竜ギシルノドン》
シンクロ・効果モンスター
星5/水属性/海竜族/攻2300/守1800
チューナー+チューナー以外のレベル3モンスター1体
フィールド上に表側表示で存在する
レベル3以下のモンスターが墓地へ送られた時、
このカードの攻撃力はエンドフェイズ時まで3000になる。


 青い海竜は散っていった同胞の玉砕を嘆いたのか、天に向けて唸る。

 するとその身に水が纏わり付き、巨大な翼を形成する。

「《地底のアラクネー》の装備カードを破壊しつつ攻撃力の増強! これが流れを呼び寄せる力ですか!?」

「ふざけた真似しやがって……!」

「ふむふむ。 バトルと行きましょうか」

 ギシルノドンは纏った水の翼を羽ばたかせると、水はすぐに地上に落ちて津波を形成する。

 《地底のアラクネー》は津波に押しつぶされ、呆気無く破壊される。

「ああぅ!」

「ぐああっ!」

 押し寄せる津波はソーガとセーナを弾き飛ばし、二人はコンクリートの地面にたたきつけられる。

ソーガ&セーナ LP:3750→3150

「おおー、流石はレヴィじゃねえか!」

「僕様は僕様の仕事をしたまで、この程度は当たり前ですよ。 僕様はカードを2枚伏せてターンエンドです」

 立ちふさがる二人のキメラデュエリスト――。

 ソーガは、立ち上がるとデッキの上からカードを引く。

「調子に乗るなよ、俺のターン! ドロー!」

ソーガ&セーナ LP:3150
手札:1→2&2枚
モンスター:無し
魔法&罠:セット2枚、《強欲なカケラ》
バハム&レヴィ LP:4000
手札:3&3枚
モンスター:《神海竜ギシルノドン》(攻2300)
魔法&罠:セット2枚

「ソーガさん、その伏せカードを!」

「ああ、借りるぜ。 《八汰烏の骸》を発動し、カードを1枚ドロー!」

《八汰烏の骸》
通常罠
次の効果から1つを選択して発動する。
●自分のデッキからカードを1枚ドローする。
●相手フィールド上にスピリットモンスターが表側表示で
存在する場合に発動する事ができる。
自分のデッキからカードを2枚ドローする。

(セーナのお陰で厄介な犬は片付いた……この程度のシンクロモンスターは俺が片付けねえとな!)

「ライフを500払い、《デーモンの雄叫び》を発動だ。 蘇れ、《迅雷の魔王-スカル・デーモン》!」

 雷鳴と共に蘇るは、雷を統べる魔王。

ソーガ&セーナ LP:3150→2650

《デーモンの雄叫び》
通常罠
500ライフポイントを払い発動する。
自分の墓地から「デーモン」という名のついたモンスターカード1枚を
自分のフィールド上に特殊召喚する。
このモンスターは、いかなる場合にも生け贄にする事はできず、
このターンのエンドフェイズに破壊される。

《迅雷の魔王-スカル・デーモン》
効果モンスター
星6/闇属性/悪魔族/攻2500/守1200
このカードのコントローラーは自分のスタンバイフェイズ毎に
500ライフポイントを払う。
このカードが相手のコントロールするカードの効果の対象になり、
その処理を行う時にサイコロを1回振る。
1・3・6が出た場合、その効果を無効にし破壊する。

「さらに、自分のフィールド上にデーモンが存在することでコイツを召喚だ! 壊し尽くせ、《ジェノサイドキングデーモン》!」

 剣を片手に大地に降り立つ、虐殺者の王。

 迅雷の魔王と共に肩を並べる姿は、禍々しくも圧巻である。

《ジェノサイドキングデーモン》
効果モンスター
星4/闇属性/悪魔族/攻2000/守1500
自分フィールド上に「デーモン」という名のついた
モンスターカードが存在しなければこのカードは召喚・反転召喚できない。
このカードのコントローラーは自分のスタンバイフェイズ毎に800ライフポイントを払う。
このカードが相手のコントロールするカードの効果の対象になり、
その処理を行う時にサイコロを1回振る。
2・5が出た場合、その効果を無効にし破壊する。
このカードが戦闘で破壊した効果モンスターの効果は無効化される。

「出た! ソーガさんのエースモンスターだ!」

「バトルフェイズだ! 《迅雷の魔王-スカル・デーモン》で《神海竜ギシルノドン》に攻撃! 魔降雷!」

 降り注ぐ幾多もの雷の槍に、青い海竜はその身を貫かれ消滅する。

「ふむ……」

バハム&レヴィ LP4000→3800

「行け、《ジェノサイドキングデーモン》! ジェノサイドブレイド!」

 跳びかかり、剣を振り下ろす悪魔の王。

 しかしその攻撃は、半透明のバリアに弾かれる。

「甘いですね。 《ガード・ブロック》でダメージを0にし1枚ドローさせてもらいますよ」

《ガード・ブロック
通常罠
相手ターンの戦闘ダメージ計算時に発動する事ができる。
その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になり、
自分のデッキからカードを1枚ドローする。

「チッ、小賢しい真似を! カードを1枚セットし、ターンエンドだ!」

 そうソーガが宣言すると、場のスカル・デーモンが砕け散る。

「《デーモンの雄叫び》で呼び出したモンスターはエンドフェイズ時に破壊される」

ソーガ&セーナ LP:2650
手札:1&2枚
モンスター:《ジェノサイドキングデーモン》(攻2000)
魔法&罠:セット1枚、《強欲なカケラ》
バハム&レヴィ LP:3800
手札:3&4枚
モンスター:無し
魔法&罠:セット1枚







 ――港から離れた高台

「ヒヒヒ、流石はキメラデュエリストのお二人。 ソーガとその助手が相手でも引けを取りませんなあ」

 不気味に笑うのは、ゴドールに仕える謎の老人――マリス。

「このデュエルをきっかけにソーガがあの力に目覚めてくれれば良いのですがねえ、ヒヒヒ」

 老人の笑い声は、ただ夜空に響いていった――



 ――3年前

「なんだこのガキ共……?」

「おいおい、ウチのファミリーに何やってんだ小僧」

「軽く焼き入れとくか」

 満月の煌めく闇夜の中――

 何人ものデュエルマフィアに囲まれるのは謎の三人組。

 少年と、少女と、老人。

 少女は、一歩前に出るとデュエルディスクを腕に付ける。

「私に近づくものは地獄の業火に包まれる……」






 薄暗い部屋の中、大柄な男が痩身の男に質問をする。

「おいおい、外が騒がしいな? レヴィ、何か知ってるか?」

「ふむふむ。 私も知りませんが、何か嫌な予感がします。 見に行きましょう、バハムさん」

 痩身の男――レヴィは飲みかけのウォッカをテーブルに置くと立ち上がる。

「おう、そうだな」

 大柄な男――バハムも目の前の男に続いた。






「何だよ、これ……!」

「僕様達の部下が、全滅……!」

 アジトの外に一歩踏み出た二人が見たのは、信じがたい光景だった。

 彼らのもとに集ったデュエルマフィアの精鋭数十人、それらが一人残らず辺りに横たわっている。

 そしてその中心に立っているのは、炎を統べる少女。

 彼女の体は骨のような鎧に包まれ、その姿は死神のようであった。

 そして、炎を統べる少女の奥には、少年と老人が静かに、しかし存在感を持って佇んでいる

 ふと、佇んでいた少年は二人に向かって歩み、口を開く。

「僕はゴドール、錬金術師さ」

 見た目は少年である。

 長い金髪に、ピンク色のシャツを着た小学生くらいの少年。

 しかし、二人はすぐに理解した。

 この少年が、人智を超えた存在であると。

「ずいぶんとメルヘンな答えですね、嫌いではないですがね」

「俺様達の部下をこんな目に合わせて、無事で帰れると思うなよ?」

 二人は、裏の住人といえど人の上に立つ者。

 得体のしれない相手であろうが、引くこと無く立ち向かう。

 少女は二人に視線を移すが、その存在をゴドールと名乗る少年は引き止める。

「もう休んでていいよ、夜条ちゃん。 彼らの相手は僕がするからさ」

「分かった」

 夜条と呼ばれた少女から、炎が消えていく。

 それと同時に、纏っていた骨の鎧も消えて行く。

「さあ、デュエルの時間だよ」

 デュエルディスクを構えるゴドール。

「よし、デュエルマフィアの力ってもんを見せてやるぜ!」

「バハムさん、あまり熱くなり過ぎないでくださいよ?」

 闇夜の中、戦いは幕を上げる。

「「「デュエル!!」」」










「さあ、運命の終幕だ! 《デステニー・ロード・ドラゴン》の攻撃! ジ・アブソリュート・デステニー!」

 龍は、その手に光を収束させる。

「馬鹿な……俺様とレヴィの二人がかりで……」

「まるで歯がたたないとは……」

 闇夜を切り裂く閃光の刃は、振り下ろされた。

バハム&レヴィ LP:100→0

「僕の勝ちだ」

 圧倒的な力を持ってして、二人の前に君臨する存在――

 二人は、悟った。

 目の前の存在は、常識など通用しない別次元の存在なのだと。

 まるで神にでも祈るがごとく、二人は静かに跪いた。

「あれ? どうしたんだい、二人共」

「ヒヒヒ、彼らは今のデュエルを通じて何かを感じ取ったのかもしれません」

 口を開いたのは少女の横で静かに観戦していた老人。

「ふーん、僕に何を感じたんだい?」

 存在の問い、二人はそれに答える。

「俺様は、アンタ……いや、あなたこそが究極のデュエリストと感じ取りました!」

「ええ……あなたは神の申し子、いや……神そのものではないのですか? 炎の化身すら従えるとは……」

 答えを聞いた存在は、驚いた様子だ。

「へえ。 僕、だいぶ気に入られちゃったみたいだね。 ところで頼みがあるんだけど、君たちのマフィアを使わせてくれないかな?」

「「了解! ゴドール様の仰せのままに!」」

「ヒヒヒ、ゴドール様の研究には十分な資金が必要でしてね、あなた達のファミリーの収入を少しばかり頂きたいのですよ」

「ゴドール様の為なら!」

「仰せのとおりに!」

 二人の様子を見た存在は、何かを取り出し二人に授ける。

「これは……?」

「水と風のオーブ。 君たちがこれに適合すれば、そこの夜条ちゃんみたいにキメラデュエリストの力を手に入れられるよ」

「キメラ……」

「デュエリスト……」

「まあでも夜条ちゃんはキメラデュエリストとしては異質で例外的なタイプだけどね。 けど、大いなる力が手に入るのは確かさ」

 二人は、手にとったオーブの力を手にし握った――。





第七話「暗黒星雲」

ソーガ&セーナ LP:2650
手札:1&2枚
モンスター:《ジェノサイドキングデーモン》(攻2000)
魔法&罠:セット1枚、《強欲なカケラ》
バハム&レヴィ LP:3800
手札:3&4枚
モンスター:無し
魔法&罠:セット1枚

「さあて、ようやく俺様の番だな。 ドロー!」

 勢い良くカードを引いたバハムは、前のターンにも使ったモンスターを呼び出す。

「《星見獣ガリス》の効果発動! デッキの上はレベル4《素早いビッグハムスター》、よって800ダメージを与えガリスを特殊召喚だ!」

 バハムが《星見獣ガリス》を召喚すると、ガリスは4つの星をソーガに放つ。

《星見獣ガリス》
効果モンスター
星3/地属性/獣族/攻 800/守 800
手札にあるこのカードを相手に見せて発動する。
自分のデッキの一番上のカードを墓地へ送り、
そのカードがモンスターだった場合、
そのモンスターのレベル×200ポイントダメージを相手ライフに与え
このカードを特殊召喚する。
そのカードがモンスター以外だった場合、このカードを破壊する。

「グッ……!」

「ソーガさん!」

ソーガ&セーナ LP:2650→1850

「《星見獣ガリス》をリリースし、《百獣王アニマル・キング ベヒーモス》をアドバンス召喚!」

 ガリスが光りに包まれ消滅すると、巨大な獣の王者が召喚される。

 しかしながら、1体のリリースでは本来の力を発揮できないのかやや弱々しく見える。

「このモンスターは7つ星モンスターだが攻撃力を2000まで下げることでリリース1体で召喚できるモンスターだ! さらに、コイツはアドバンス召喚時にリリースの数だけ墓地の獣族を回収する!」

百獣王アニマル・キング ベヒーモス》
効果モンスター
星7/地属性/獣族/攻2700/守1500
このカードはリリース1体で通常召喚する事ができる。
その場合、このカードの元々の攻撃力は2000になる。
アドバンス召喚に成功した時、リリースした数だけ
自分の墓地の獣族モンスターを持ち主の手札に戻す事ができる。

「回収効果か!」

「ということは!」

 デュエルディスクの墓地ゾーンよりカードを取り出すバハム。

 選ばれるのはソーガとセーナが予測したものと同じカード。

「そしてもう一回行くぜ! 《星見獣ガリス》の効果によりデッキの上のレベル4《トップ・ランナー》を墓地に送り、800ダメージを与えてガリスを特殊召喚!」

 3度フィールドに降り立つ獣は星を放ち、ソーガを貫く。

「がはっ……!」

ソーガ&セーナ LP:1850→1050

 膝を付くソーガだが、バハムを睨むとすぐに立ち上がる。

「おおー、いい根性してんじゃねえか!」

「ああ? この程度で俺が終わると思ってんのか?」

「飢えた野獣のようなその目、俺好みだぜ! そんなお前にプレゼントだ! 《暗黒界の取引》発動!」

 バハムが発動した魔法は、双方に効果をもたらすカード。

「コイツは互いに1枚ドローし、そして1枚捨てるカードだ」

《暗黒界の取引》
通常魔法
お互いのプレイヤーはデッキからカードを1枚ドローし、
その後手札を1枚選んで捨てる。

「引いて捨てればいいんだろ?」

 互いにドローする二人は、ドローしたカードをすぐさま捨てた。

「よし、俺様の捨てた《霞の谷ミスト・バレー の幼怪鳥》は手札から捨てられるとフィールドに舞い戻ってこれるチューナーだ! さあ来い!」

 バハムの元に小型の鳥が現れる。

霞の谷ミスト・バレーの幼怪鳥》
チューナー(効果モンスター)
星2/風属性/鳥獣族/攻 400/守 600
このカードが手札から墓地へ送られた時、
このカードを墓地から特殊召喚できる。

「次のドローであのチューナーを引くことがわかっていたから《暗黒界の取引》を発動したのですか……!」

「ハッ、何がプレゼントだ」

「おいおい、お前にも手札交換させてやったんだ、感謝しろよ。 さて、俺はレヴィの伏せたカードを発動するぜ! 《下降潮流》でベヒーモスのレベルを3にする!」

《下降潮流》
通常魔法
自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択し、
1から3までの任意のレベルを宣言して発動できる。
選択したモンスターのレベルは宣言したレベルとなる。
 
百獣王ベヒーモス レベル:7→3

「レベル調整をしてきたか。 そして奴の場には特殊召喚されたチューナー……」

「ということは、来ますね!」

「行くぜ! レベル3の《百獣王ベヒーモス》と《星見獣ガリス》にレベル2《霞の谷の幼怪鳥》をチューニング!」

 獣の王と星の獣は、風に舞う小鳥の創る環に包まれる。

「命を刈り取る狂乱の嵐よ、高潔なる獣王の元に吹き荒べ!」

 6つの星と2つの環は、一筋の光を経て大いなる魔獣を生み出す。

「シンクロ召喚! 《爆風のベヒーモス》」

 暴風――

 圧力を持って周囲を威圧する風より現れしは、先程の百獣王をも超える巨大な魔獣。

(やはりシンクロ召喚か! だが、大型モンスターで来るのは俺の狙い通り! 俺の伏せた《ヘイト・バスター》で返り討ちにし、その攻撃力をダメージにしてプレゼントしてやるぜ)

《ヘイト・バスター》
通常罠
自分フィールド上の悪魔族モンスターが攻撃対象に選択された時に発動できる。
相手の攻撃モンスター1体と、攻撃対象となった自分モンスター1体を選択して
破壊し、破壊した相手モンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。

「コイツが俺の最強カードだ! さあ、《爆風のベヒーモス》効果発動!」

 ベヒーモスは咆哮すると、周囲に再び暴風が起こる。

「相手の魔法・罠を全て破壊する!」

「何!?」

《爆風のベヒーモス》
シンクロ・効果モンスター (血の刻印オリジナル)
星8/風属性/獣族/攻3000/守2800
風属性チューナー+チューナー以外のモンスター2体以上
このカードは以下の効果をそれぞれ1ターンに1度ずつ発動できる。
●相手フィールド上に存在する魔法・罠カード全てを破壊する。
●???

「俺の伏せカードを!」

「罠で迎撃なんて甘えぜ! ぶっ潰してやるよ、壊し屋! 《爆風のベヒーモス》で《ジェノサイドキングデーモン》攻撃だ! ストーム・インパクト!!」

 ベヒーモスの放つ巨大な嵐は、悪魔の王を飲み込み破壊する!

「ぐああああああああっ!!」

「ソーガさん!」

 衝撃で大きく吹き飛ばされるソーガ。

ソーガ&セーナ LP:1050→50

「ソーガさん、大丈夫ですか!?」

 セーナはすぐに駆け寄り、ソーガの様子を見る。

「チッ、厄介なカードを使いやがる。 あの手の破壊効果持ちは長居させると危険だな」

 立ち上がるソーガだが、その様子は満身創痍と言ったところだ。

「俺はカードを1枚セットし、ターンエンドだ! レヴィ、後は任せたぜ」

「ふむふむ。 この状況なら問題無いですね、すぐに終わります」

 圧倒的な力を持って立ちはだかるキメラデュエリスト達――

 セーナは、ソーガの目を見て語る。

「ソーガさん」

 彼女はソーガの前に出て、デュエルディスクを構えてデッキに指を置く。

「ここは任せて下さい」

 セーナは静かに、それでいて決意のこもった目でカードを引く。

「私のターン!」

ソーガ&セーナ LP:50
手札:1&2→3枚
モンスター:無し
魔法&罠:《強欲なカケラ》
バハム&レヴィ LP:3800
手札:0&3枚
モンスター:《爆風のベヒーモス》(攻3000)
魔法&罠:セット1枚

「永続魔法《強欲なカケラ》にはすでに2つの強欲カウンターが乗っています! よってこのカードを墓地に送り、2枚ドロー!」

《強欲なカケラ》
永続魔法
自分のドローフェイズ時に通常のドローをする度に、
このカードに強欲カウンターを1つ置く。
強欲カウンターが2つ以上乗っているこのカードを墓地へ送る事で、
自分のデッキからカードを2枚ドローする。

「チューナーモンスター《スクラップ・ワーム》を召喚! さらに自分フィールドに昆虫族が存在することで《速攻のマンティス》を特殊召喚!」

 セーナの場にガラクラの芋虫と緑色のカマキリのモンスターが姿を現す。

《スクラップ・ワーム》
チューナー(効果モンスター)
星2/地属性/昆虫族/攻 500/守 100
このカードは相手プレイヤーに直接攻撃する事ができる。
このカードは攻撃した場合、バトルフェイズ終了時に破壊される。
このカードが「スクラップ」と名のついたカードの効果によって破壊され墓地へ送られた場合、
「スクラップ・ワーム」以外の自分の墓地に存在する「スクラップ」と名のついた
モンスター1体を選択して手札に加える事ができる。
 
《速攻のマンティス》
効果モンスター (血の刻印オリジナル)
星3/風属性/昆虫族/攻1700/守1200
自分フィールド上に昆虫族モンスターが表側表示で存在する場合、
手札のこのカードを特殊召喚できる。
このカードがシンクロ召喚の素材として墓地へ送られた場合、
相手ライフに500ポイントダメージを与える。

「レベル3《速攻のマンティス》にレベル2《スクラップ・ワーム》をチューニング!」

 2体の昆虫族モンスターは同調し、一筋の光となる。

「スリーチャージ、フリーエントリー、ノーオプション! シンクロ召喚! チャージ・イン、《イエロー・ビートル・ボーグ》!」

 黄のカラーリングの、カブトムシを模した機械昆虫がセーナの元に呼び出される。

イエロー・ビートル・ボーグ ATK:2300

「そしてこの瞬間、シンクロ素材にした《速攻のマンティス》の効果で相手に500ダメージを与えます!」

 墓地へ送られたカマキリは半透明になってフィールドに復活すると、跳びかかり鎌でバハムを切りつける。

「うおっ」

バハム&レヴィ LP:3800→3300

 役割を全うしたカマキリはフィールドから姿を消した。

「何が来るかと思えばそんなモンスターかよ」

「それはどうですかね? 私は、《イエロー・ビートル・ボーグ》の効果発動! チャイナクック・マーベラス!」

 突如、《イエロー・ビートル・ボーグ》の上に幾つもの中華料理が現れる。

 すると、それらは《爆風のベヒーモス》の元に群がり、爆発する。

「な、俺様のベヒーモスが……!」

「これが《イエロー・ビートル・ボーグ》の効果です! 攻撃を放棄する代わりに相手モンスター1体を葬り、さらに800ダメージを与えます!」

《イエロー・ビートル・ボーグ》
シンクロモンスター (血の刻印オリジナル)
星5/地属性/昆虫族/攻2300/守2200
昆虫族チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上
このカードが表側表示で存在する限り、自分フィールド上に表側表示で存在する昆虫族モンスターは相手モンスターの効果を受けない。
1ターンに1度、相手フィールド上に存在するモンスター1体を選択して発動できる。
選択したモンスターを破壊し、相手に800ポイントダメージを与える。
この効果を発動するターン、このカードは攻撃できない。

バハム&レヴィ LP:3300→2500

「俺様にダメージを!」

「まだまだ、墓地の昆虫族モンスター《共鳴虫》と《速攻のマンティス》を除外し、《デビルドーザー》を特殊召喚!」

 地面を突き破り現れたのは、赤色の巨大ムカデ。
 
《デビルドーザー》
効果モンスター
星8/地属性/昆虫族/攻2800/守2600
このカードは通常召喚できない。
自分の墓地の昆虫族モンスター2体を
ゲームから除外した場合のみ特殊召喚する事ができる。
このカードが相手ライフに戦闘ダメージを与えた時、
相手のデッキの上からカードを1枚墓地へ送る。

「行け、《デビルドーザー》!」

「させるかよ、《威嚇する咆哮》! があああああああああああっっっ!!」

 再び吠えるバハム、その爆音に巨大ムカデは怯み、攻撃を行えない。

《威嚇する咆哮》
通常罠
このターン相手は攻撃宣言をする事ができない。


「やはりそう来ましたか。 そのカードを警戒し、《イエロー・ビートル・ボーグ》の効果で《爆風のベヒーモス》を除去したのは正解でしたね」

「ふむふむ。 なるほど……」

「私はカードを2枚セットし、ターンエンドです」

ソーガ&セーナ LP:50
手札:1&0枚
モンスター:《イエロー・ビートル・ボーグ》(攻2300)、《デビルドーザー》(攻2800)
魔法&罠:セット2枚
バハム&レヴィ LP:2500
手札:0&3枚
モンスター:無し
魔法&罠:無し

「さて、僕様の番ですか。 ……ケヒッ、ケヒケヒケヒケヒ!」

 レヴィが不気味な笑い声を上げると、見開かれた目がセーナに向けられる。

「ケヒケヒケヒケヒ! いいですねえ、助手の小娘さぁん! 健気にご主人様に尽くそうとするその姿ぁ! ああ、おもいっきり蹂躙したいですねぇ!」

 笑いながらセーナを舐め回すように見つめるレヴィを、バハムは呆れた様子で眺めていた。

「ったく、お前は興奮するといつもそうだな」

「いやぁすいませんねぇ、バハムさん。 さて、まずは僕様の力で流れを引き戻しましょうかぁ、ドロー!」

 デュエルの流れを操るキメラデュエリスト・レヴィ――バハムの切り札を破ったセーナにとって、次のターンが彼というのは最悪とも言える。

「ケヒケヒィ! 《サルベージ》を発動しぃ、墓地の《深海のディーヴァ》と《ロスト・ブルー・ブレイカー》を手札に加えまぁす」

《サルベージ》
通常魔法
自分の墓地の攻撃力1500以下の水属性モンスター2体を選択して手札に加える。


「またシンクロ召喚か」

「さらに《強欲なウツボ》を発動ぉ。 手札の《ロスト・ブルー・ブレイカー》と《海竜神》をデッキに戻し、2枚ドロー」

《強欲なウツボ》
通常魔法
手札の水属性モンスター2体をデッキに戻してシャッフルする。
その後、デッキからカードを3枚ドローする。


 手札を整えたレヴィは、モンスターを呼び出した。

「ケヒケヒケヒ、《深海のディーヴァ》を召喚しぃ、その効果でデッキの《海皇の長槍兵》を特殊召喚します」

《深海のディーヴァ》
チューナー(効果モンスター)
星2/水属性/海竜族/攻 200/守 400
このカードが召喚に成功した時、
デッキからレベル3以下の海竜族モンスター1体を特殊召喚できる。


《海皇の長槍兵》
通常モンスター
星2/水属性/海竜族/攻1400/守   0
海底を支配していると言われる、海皇に仕える長槍兵。
深く暗い海の底から襲いかかる長槍の連続攻撃は、深海魚たちに恐れられている。


 前のターン同様、簡単に現れる2体の海竜族モンスター。

 しかし、今回はこれだけではない。

「墓地の水属性モンスター《神海竜ギシルノドン》を除外し、《水の精霊 アクエリア》をぉ特殊召喚」

「さらにモンスターを!」

 水を操る精霊が、海竜達と並び召喚される。

《水の精霊 アクエリア》
効果モンスター
星4/水属性/水族/攻1600/守1200
このカードは通常召喚できない。
自分の墓地に存在する水属性モンスター1体をゲームから除外した場合に特殊召喚する事ができる。
相手のスタンバイフェイズ毎に、相手フィールド上に表側表示で
存在するモンスター1体を選択し、表示形式を変更する事ができる。
そのモンスターはこのターン、表示形式を変更する事ができない。


「チューナーを含んだ3体のモンスターを揃えたか」

「よおっし、行けレヴィ!」

「ケヒケヒケヒ! 僕様はレベル4の《水の精霊アクエリア》とレベル2の《海皇の長槍兵》に、レベル2の《深海のディーヴァ》をチューニング! 命を飲み込む猛りし津波よ、高貴なる竜王の元に巻き上がれぇ!」

 6つの星と2つの環の同調――バハムの行うシンクロ召喚と類似したものが、再び行われていた。

「シンクロ召喚! 《激流のリヴァイアサン》!」

 巨体をくねらせ現れる海の竜王。

 深海のような深い青の鱗を纏い、堂々とソーガ達の前に立ちはだかる。

「ケヒケヒケヒケヒケヒィッ! リヴァイアサンの効果発動ぉ! 相手のモンスターを、全て破っ壊ぃぃぃぃぃぃ!」

 放たれる津波、その前に2体の昆虫族は為す術もなく飲み込まれる――

《激流のリヴァイアサン》
シンクロ・効果モンスター (血の刻印オリジナル)
星8/水属性/海竜族/攻3000/守2800
水属性チューナー+チューナー以外のモンスター2体以上
このカードは以下の効果をそれぞれ1ターンに1度ずつ発動できる。
●相手フィールド上に存在するモンスター全てを破壊する。
●???

 が、津波を突き破り機械甲虫と巨大ムカデが姿を現す。

「《イエロー・ビートル・ボーグ》の効果発動! 私の昆虫族モンスターはモンスター効果を受け付けません!」

《イエロー・ビートル・ボーグ》
シンクロモンスター (血の刻印オリジナル)
星5/地属性/昆虫族/攻2300/守2200
昆虫族チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上
このカードが表側表示で存在する限り、自分フィールド上に表側表示で存在する昆虫族モンスターは相手モンスターの効果を受けない。
1ターンに1度、相手フィールド上に存在するモンスター1体を選択して発動できる。
選択したモンスターを破壊し、相手に800ポイントダメージを与える。
この効果を発動するターン、このカードは攻撃できない。

「ケヒケヒ、ですが魔法には無力ぅ。 《地砕き》を発動し《デビルドーザー》を破壊です」

「しまった!」

 地面が砕けると、巨大ムカデはそこに飲み込まれ消えていく。

《地砕き》
通常魔法
相手フィールド上に表側表示で存在する守備力が一番高いモンスター1体を破壊する。


「さらに、《激流のリヴァイアサン》のもう一つの効果発動ぉ」

「もう一つの効果だと!?」

 フィールド上に立ち上る水柱、そこより現れしは、巨大な獣王――

「ケヒケヒケヒィ、蘇りなさいぃ! 《爆風のベヒーモス》!」

 海を統べるリヴァイアサンに並び立つは、陸を統べるベヒーモス。

 対となる2体が、レヴィとバハムの元に並び立つ。

《激流のリヴァイアサン》
シンクロ・効果モンスター (血の刻印オリジナル)
星8/水属性/海竜族/攻3000/守2800
水属性チューナー+チューナー以外のモンスター2体以上
このカードは以下の効果をそれぞれ1ターンに1度ずつ発動できる。
●相手フィールド上に存在するモンスター全てを破壊する。
●自分の墓地に存在する《爆風のベヒーモス》1体を特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したモンスターの効果は、このターンのエンドフェイズまで無効となる。

《爆風のベヒーモス》
シンクロ・効果モンスター (血の刻印オリジナル)
星8/風属性/獣族/攻3000/守2800
風属性チューナー+チューナー以外のモンスター2体以上
このカードは以下の効果をそれぞれ1ターンに1度ずつ発動できる。
●相手フィールド上に存在する魔法・罠カード全てを破壊する。
●自分の墓地に存在する《激流のリヴァイアサン》1体を特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したモンスターの効果は、このターンのエンドフェイズまで無効となる。

「海を統べるリヴァイアサンと陸を統べるベヒーモス、この2体は互いを蘇生しあうのですか……!」

「ハッハッハ! ベヒーモスを倒したのが無駄になっちまったなあ、お嬢ちゃん?」

「ケヒケヒケヒケヒ! さぁて、小娘さぁん! 可愛いぃぃ喘ぎ声を、聞かせてくださいよぉぉぉ! 《爆風のベヒーモス》でぇ、《イエロー・ビートル・ボーグ》に攻撃ぃぃ! ストームゥ・インパクトォォ!」

 ベヒーモスの放つ爆風により、黄色の機械甲虫は粉々に砕け散る。

「《ガード・ブロック》でダメージを0にし、ドローします!」

 セーナの前に現れた半透明の障壁により、風の衝撃は防がれた。

《ガード・ブロック
通常罠
相手ターンの戦闘ダメージ計算時に発動する事ができる。
その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になり、
自分のデッキからカードを1枚ドローする。

「くだらなぁぁい悪あがきですねえぇ。 さぁ、僕様の手で喘ぎなさぁい! 《激流のリヴァイアサン》よ、小娘さんを蹂躙しましょうかぁ!」

 リヴァイアサンが生み出すは、天を包むほどの巨大な津波。

 押し寄せるのは、圧倒的な量の水。

「まだです! 伏せカード発動、《スパイダー・エッグ》! 直接攻撃を無効にし、3体のトークンを特殊召喚します!」

 糸で固定された卵が現れ、セーナの盾となる。

 そして津波を受け止め終えた卵は割れ、中から3匹の子蜘蛛が這い出てきた。

《スパイダー・エッグ》
通常罠
相手が直接攻撃を宣言した時、自分の墓地に
昆虫族モンスターが3体以上存在する場合に発動する事ができる。
そのモンスターの攻撃を無効にし、自分フィールド上に
「スパイダートークン」(昆虫族・地・星1・攻/守100)
3体を攻撃表示で特殊召喚する。

「くぅぅぅぅぅ〜、気に入りませんねぇぇ! 僕様が見たいのはぁ、心に芯のある強い小娘がぁ、怯えてぇ、泣き叫んでぇ、絶望している姿なんですよぉ!」

「私はソーガさんの助手です、ソーガさんが絶望していないのに私が絶望するはずないでしょう?」

「なんですとぉぉ〜!」

 セーナの発言に不快そうな表情を見せたレヴィは、手を空に掲げる。

 すると、ソーガとセーナの元に幾多もの剣が降り注ぐ。

「《光の護封剣》を発動ぅ、あなた達の攻撃は3ターン封じさせてもらいますぅぅぅ! ケヒケヒケヒケヒケヒィィィ!」

「……!」

《光の護封剣》
通常魔法
相手フィールド上のモンスターを全て表側表示にする。
このカードは発動後、相手のターンで数えて3ターンの間フィールド上に残り続ける。
このカードがフィールド上に存在する限り、
相手フィールド上のモンスターは攻撃宣言できない。

「バハムさぁん、次のターンで決着をお願いしますねぇ! そうしたらぁ、あの小娘ちゃぁんの前で壊し屋さんをぶっ殺してあげましょうかぁ! その時の小娘さんの泣き叫ぶ顔がぁ、想像したら堪りませんねぇぇぇぇぇ!」

「おいおい、ハイになり過ぎんなよ」

「そうですねぇぇぇ、本番はデュエルの後ですからぁ。 ではこれでぇ、ターン終了です。 ケヒッ!」

ソーガ&セーナ LP:50
手札:1&1枚
モンスター:《スパイダートークン》(攻0)×3
魔法&罠:なし
バハム&レヴィ LP:2500
手札:0&0
モンスター:《激流のリヴァイアサン》(攻3000)、《爆風のベヒーモス》(攻3000)
魔法&罠:《光の護封剣》

 相手の場には高い攻撃力と凶悪な破壊効果、そして相互に蘇生しあう2体のモンスター。

 さらに、攻撃さえも封じられた状況。

 そんな中レヴィは、ソーガに声をかける。

「ところでぇ、壊し屋さぁん! そぉんな小娘さんを助手として連れ回している理由を聞きたいですねぇぇぇ!」

「……?」

「可愛いぃぃぃぃ小娘さぁぁぁんなんてのはぁぁぁ、プライベェェェートで遊ぶためのものでしょぉぉぉう! それを仕事場に連れ込むとはぁ、社会人としていけませんねぇぇぇ?」

「……」

「駄目ですよぉぉ、自分の側に置く人材は吟味しませんとねぇぇぇぇ! そぉぉぉんな小娘さぁぁぁぁぁんじゃ、足手まといにしかならないでしょうからぁぁぁぁぁぁ!!」

「黙れ」

 ソーガは静かにそう返し、セーナに歩みよる。

「テメエは何も分かってねえよ、俺のことも、セーナのことも。 まあ、俺みたいな奇人変人の類を理解できるヤツなんてのは滅多にいねえけどな」

「ソーガさん……」

 近くによったソーガは、セーナの頭を優しく撫でる。

「足手まとい? 俺はセーナをそう思ったことなんぞ一度もねえよ」

 ソーガは目線をセーナに向けながら話を続ける。

「俺はロクでもねえ悪人だ。 自分のために平気で人を陥れ、壊し、殺してきた。 ガキのころはテレビアニメで主役を張るような正義にヒーローに憧れたもんだが、忌まわしい親父から逃げるため、そして殺すためにそんな憧れは捨てて悪へと堕ちた」

 フッ、と笑いながらソーガは話を続ける。

「けどなあ、そんな俺でも今ではこの生き様に気に入ってる。 堕ちた先も、道はある。 悪の道ってのも悪くねえ。 だったら壊し屋なんて名乗ってこの道を突き進んでやろうじゃねえか。 俺にそう思わせてくれたのは、俺みたいな悪人を必要として懐いてきた一人の小娘との絆だ」

 そう言うとソーガはデュエルディスクを構える。

「後は俺に任せろ」

 振り返り少女にそう告げる青年の姿は、少女が普段から見慣れ、憧れ、敬愛した青年の姿そのものだった。

「おいおい、俺様達の最強カードがそろい踏みした後で何しようってんだよ、壊し屋よお?」

「ケヒケヒケヒ! せいぜい醜く足掻きなさぁぁぁい。 その惨めな光景はしっかりとゴドール様にお伝えしますよぉぉぉ」

「ククク……」

 挑発的な態度の二人に、青年は笑いで返す。

「ゴドールに負けて以来、俺がただデュエルにスランプ気味で意気消沈していたとでも思っていたか? まあスランプ気味は確かなんだが、何もして来なかったわけじゃねえ。 大門家に関する資料を色々と漁っていたんだよ」

「ええ!? ソーガさん、、そんなことやってたんですか!?」

「ああ。 資料をセーナが見たら妙なことを率先してやりそうだったから、こっそりとな。 そして大門七神器の力を、神器龍を引き出す術を見つけたぜ」

「「何……!?」」

 バハムとレヴィは戦慄した。

 ソーガの言っていること、それはつまりあの恐るべき力をソーガが手にしていることに他ならないからだ。

 かつて自分達に圧倒的な存在というものを教えこんだ、神器龍を――

「さて、いくか」

 ソーガは瞳を閉じ、静かに念じた。

(大門七神器の力を解き放つには、強靭な意思が必要だ。 何者にも屈せず貫き続ける信念――それを持つものを大門七神器に封じられし神器龍は認める)

 右手を胸にある魔石のブローチに掲げ、静かに息を吐く。

(俺が貫く信念か、そんなものは決まっている――)

 ソーガの口元から笑みが零れる。

『私はずっと、ソーガさんに付いていきます!』

『今日はソーガさんの大好きなシュークリームを作りました!』

『ご苦労様でした、ソーガさん!』

『了解です! このセーナ・クロエにお任せください!』

『ソーガさんのジャマをするものは斬り倒すまで!』

『フフ、ソーガさんの助手としてこれくらいは当然ですから!』

『圧倒的な力があれば、どんなに脆い絆でも砕けることはないんです』

(ったく、考えれば考えるほどアイツのことが思い浮かぶぜ。 当然さ、俺が貫く信念、それは――)

「忌まわしき因縁の末にようやく手に入れた、この絆――何があろうが断ち切らせはしねえ。 それが俺の信念さ」

 ソーガの胸の魔石が、赤く発光する。

「ソーガさんの魔石が……!」

 ソーガの手に、体に、魂に伝わる鼓動――

 彼の魂に共鳴し、開かれた闇の扉――

 魔石を離れ、デッキを上に置かれる右手――

 そこに集まる、禍々しくも純粋で美しい黒い霧――

「俺の……タァァァァァァァァァァァン!!」

 ソーガはドローしたカードを確認し、それをデュエルディスクに置く。

「セーナ、お前のモンスターを借りるぜ」

「はいどうぞ、遠慮なく使ってください!」

「俺は2体の《スパイダートークン》をリリースし、アドバンス召喚! レベル8モンスター《D  Tダークチューナー  カタストローグ》!」

 三体の子蜘蛛の内、二体が供物として闇に飲まれ消滅する。

 そして闇のオーラを纏った悪魔がフィールドに降り立つ。

「ダークチューナー……ということは! ソーガさん、手に入れたのですね!」

「ああ、当然だ。 この俺を誰だと思っているんだ?」

「それはもちろん、悪を背負い、悪を歩み、悪を狩る――気高き闇のデュエリスト”壊し屋”にして、私の上司で師匠でもあるソーガ・ダイモンさんです!」

「ハッ、分かってんじゃねえか! じゃあ行くぜ、俺はレベル8《D  Tダークチューナー  カタストローグ》にレベル1《スパイダートークン》をダークチューニング!」

 悪魔の体から闇が広がると、子蜘蛛はそれに飲み込まれてゆく。

「馬鹿な、こいつは……」

「ゴドール様でもないのに、その召喚方をぉぉぉ!」

 子蜘蛛を食らった闇は、7つの黒い星を生み出しそれらは次第に円を描く。

「煌めく星の影たる闇夜、今こそ深淵より這い出て光を喰らえ!」

 7つの黒い星は、一筋の闇を創りだす。

 その闇の中より、姿を現す影。

「光なき世界へ! ダークシンクロ!」

 闇夜のように漆黒の肉体――

 頭部の中央に見開かれた、赤い1つの瞳――

 鉤爪のようなものが出た腹部――

 背中より翼と共に生えた、人のそれと類似した6本の腕――

 その姿は、まさに異形――

 狂気と醜悪さを混ぜたような、漆黒の龍――

「舞い降りろ、《ダークネブラ・ドラゴン》!」

 奇声を鳴り響かせ、君臨する異形の龍――

 その悍ましく禍々しい姿に、誰もが圧倒された――

ダークネブラ・ドラゴン ATK:2500

「なんだコイツは……」

「ゴドール様と同じ……」

「これがソーガさんの神器龍!」

「これが俺の神器龍か。 いいねえ、俺らしいデザインじゃねえか。 だがその前に、《D  Tダークチューナー  カタストローグ》の効果により《光の護封剣》を破壊するぜ」

D  Tダークチューナー カタストローグ》
ダークチューナー(効果モンスター) (アニメ5D's、タッグフォースシリーズオリジナル)
星8/闇属性/悪魔族/攻   0/守   0
このカードをシンクロ素材とする場合、
ダークシンクロモンスターの シンクロ召喚にしか使用できない。
このカードがダークシンクロモンスターのシンクロ召喚に使用され
墓地に送られた場合、相手フィールド上に存在するカード1枚を破壊する。

 夜空より闇の雷が落ち、光の剣を粉微塵に砕く。

「僕様の護封剣を破壊した……攻撃する気ですか!」

 ソーガは右手を挙げ、龍に命令を下す。

「さあ、《ダークネブラ・ドラゴン》よ! 屍共を引きずり出せ!」

 龍は地上に降り立つと、背中から生えた6本の腕は肥大化しそれを地中に埋め込む。

「なんだ、あの化物は何を!?」

「あれはぁぁもしや僕様達のぉぉ!?」

 龍が地中から引き出したのは、3体のモンスター。

「ククク……《ケルベロス・カイザー》に、《サンライト・ユニコーン》、それに《水の精霊 アクエリア》でいいかな」

 3つ首の魔犬、白い幻獣、水より生まれし精――3体はされるがまま龍の腕に引きずられる。

「さあ、喰らうがいい!」

 腹部の鉤爪が開くと、そこから口のような捕食器官が現れる。

 龍はそこに腕で捉えた3体のモンスターを運ぶと、鉤爪で捉え内部に吸収する。

「俺様達のモンスターを捕食した!?」

「なんですかぁあの不気味な光景は!」

 龍の翼より、吸収されたモンスターのもがく姿が現れるが、すぐに内部に取り込まれた。

 そして捕食を終えた龍は再び天に舞い戻る。

「これが《ダークネブラ・ドラゴン》の効果だ。 相手の墓地のモンスターを吸収し、その効果を得る。 そしてソイツらは破壊時の身代わりにできる!」
《ダークネブラ・ドラゴン》
ダークシンクロ・効果モンスター  (血の刻印オリジナル)
星7/闇属性/ドラゴン族/攻2500/守2000
チューナー以外のモンスター1体−ダークチューナー
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り1度だけ、相手の墓地に存在するモンスターを3体まで選択して発動する。
選択したモンスターを装備カード扱いでこのカードに装備し、そのモンスターの効果を得る。
このカードが破壊される場合、代わりにこのカードの装備カード1枚を破壊することができる。

《ケルベロス・カイザー》
効果モンスター (血の刻印オリジナル)
星8/光属性/獣族/攻2400/守1200
このカードは通常召喚できない。
自分フィールド上に存在する獣族モンスター2体をリリースし、手札から特殊召喚する。
1度のバトルフェイズ中に3回攻撃する事ができる。
このカードが直接攻撃する場合、相手ライフに与える戦闘ダメージは半分になる。
このカードが戦闘によってモンスターを破壊し墓地に送った場合、
自分の墓地から獣族モンスター1体を選択し手札に加える。

《サンライト・ユニコーン》
効果モンスター
星4/光属性/獣族/攻1800/守1000
1ターンに1度、自分のメインフェイズ時に発動する事ができる。
自分のデッキの一番上のカードをめくり、
それが装備魔法カードだった場合手札に加える。
違った場合、自分のデッキの一番下に戻す。

《水の精霊 アクエリア》
効果モンスター
星4/水属性/水族/攻1600/守1200
このカードは通常召喚できない。
自分の墓地に存在する水属性モンスター1体をゲームから除外した場合に特殊召喚する事ができる。
相手のスタンバイフェイズ毎に、相手フィールド上に表側表示で
存在するモンスター1体を選択し、表示形式を変更する事ができる。
そのモンスターはこのターン、表示形式を変更する事ができない。


「さらに装備魔法《デーモンの斧》を発動し、《ダークネブラ・ドラゴン》の攻撃力を1000アップする!」

《デーモンの斧》
装備魔法
装備モンスターの攻撃力は1000ポイントアップする。
このカードがフィールド上から墓地へ送られた時、
自分フィールド上に存在するモンスター1体を
リリースする事でこのカードをデッキの一番上に戻す。


ダークネブラ・ドラゴン ATK:2500→3500

 背中の腕で悪魔の斧を掴む龍。

 斧より放たれる瘴気を取り込み、闇の力はさらに膨張する。

「俺様の《ケルベロス・カイザー》を吸収したってことは、3回の攻撃ができんのかよ……」

「ケヒケヒ……ありえません! キメラデュエリストたる僕様達が負けるなど……」

「ククク……ハハハハハ! さあ、その身で堪能してくれよ、極上の恐怖と絶望をよ! 《ダークネブラ・ドラゴン》の攻撃! コラプサー・ブラスト!!」

 禍々しき龍の放つ青紫のブレスは、陸を統べるベヒーモスを包み込む。

 ベヒーモスは邪悪なブレスに飲まれ、もがきながら消滅する。

「グオァァァァァァァ!!」

「まだだ、二度目の攻撃! コラプサー・ブラスト!」

 次の標的は海を統べるリヴァイアサン。

 しかしダークネブラの攻撃の前にはなすすべなく葬られるだけであった。

「ケヒィィィィィィィィィ!!」

バハム&レヴィ LP:2500→2000→1500

 ダークネブラの攻撃を受け、崩れ落ちる二人のキメラデュエリスト。

 ソーガは、容赦なくデュエルを進める。

「確か《ケルベロス・カイザー》の連撃はダイレクトアタック時にはダメージが半減するんだったが……それでもテメエらを葬るには十分だぜ。 さあ、ぶっ壊れちまいなあ!」

 龍は、目の前の獲物に容赦なく止めのブレスを放つ。

「圧倒的すぎる……」

「これはまさにぃぃ、あの時のぉぉ……」

 迫り来るブレスに二人は為す術もなく、飲み込まれる。

「「グァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」」

バハム&レヴィ LP:1500→0

 ダークネブラのブレスの衝撃を受け、数メートル吹き飛ばされるバハムとレヴィ。

 彼らのライフは0を示し、デュエルディスクが敗北を表示する。

「ソーガさーん、お見事でした! あの神器龍を手にするなんて、流石ですね!」

「お前もよくやってくれたな。 流石は俺の助手だ、感謝するぜ」

「いえ、ソーガさんの助手として当然のことをしたまでです」

 駆け寄ってきたセーナの頭を撫でると、ソーガは倒れている二人のキメラデュエリストに向かい歩く。

 魔石のブローチが輝き、ソーガに不気味な笑みが浮かぶ。

「さあーて、運命の罰ゲー……」

 途中まで言いかけたところで、ソーガは港の倉庫の上から放たれる気配を感じた。

「テメエは……ゴドールの部下、確かマリスとか言ったな」

「ヒヒヒ、その二人は回収させてもらいますよ」

 マリスが杖を振ると、黒い触手のようなものが現れ二人を捕縛する。

「バハムとレヴィが!」

「テメエ、俺の獲物を……」

 触手はマリスの元まで戻り、二人をガッチリ掴む。

「キメラデュエリストには大事な役割がありまして、1人足りともかけてはならないですからねえ。 ヒヒヒ」

 そう言うとマリスは二人のキメラデュエリストと共に煙の如く消え去った。

「何者なんでしょうね、あの老人は」

「さあな。 だが、誰であろうが叩き潰すだけだ」

 ソーガは手元の黒いカードを見つめる。

「この新たな力――《ダークネブラ・ドラゴン》でな」










 ――パズルシティ、町外れのバー

「いらっしゃいま……おや、貴方たちは!」

「よう、依頼主。 とりあえず元凶のゴールデンファミリーは壊滅させたぜ。 残念ながらボスはどこかに逃げちまったが、ある程度痛めつけてやったし、もうドラッグカードは出回んねえだろ」

 あの後、俺とセーナはケルベロスファミリーのアジトに殴りこみをし、片っ端から構成員をデュエルで片付けてやった。

「ありがとうございます。 新たなドラッグカードは出まわることはないだけで十分です。 これは報酬金です」

 依頼者のマスターは封筒を差し出すが、俺はそれに前金の封筒を付けて返す。

「これは……?」

「ケルベロスファミリーのボスを取り逃がしちまったんだ、こんな半端な仕事で報酬を貰うようじゃ壊し屋の名が廃るぜ」

「ですが……」

「じゃあな」

 壊し屋とその助手は返事を待たず、店を出ていった――




 ――ソーガの家

「ほらよ。 これが俺の調べた資料だ。 大門家に関わる儀式やらオカルトやらに関する文献を片っ端から突っ込んどいたぜ」

 そう言いながらソーガがテーブルに置いたのは、小型の端末機器。

 ソファーに腰掛けているセーナはそれを受け取り操作すると、幾つもの画像が立体映像で出現する。

「こんなにあったんですか! それも私に気付かれずに調べあげたなんて……」

「お前の行動パターンは読めているんだよ」

「うっ……流石はソーガさんですね」

 セーナは資料の一つ一つに目を通していく。

「なるほど……ソーガさんが危惧しているのが分かりました。 しかしこの資料はずいぶんとありますね。 その中には自分の体の一部や数多の人命を供物とするものまで……」

「ああ。 迂闊にお前が見てしまえば何をやらかすか分からねえからな。 それとその資料、大門七神器の力の開放以外にも大門家が開発した様々な闇の儀式に関する資料も多く混ざっているみてえだ」

 セーナの後ろに立つソーガは後ろからソファーにもたれかかり、映像に指をさしながら説明する。

「なるほど、それでこの量ですか。 しかし闇の儀式ですか、流石は大門家というべきですね」

「ま、俺達に重要なのは大門七神器についてだからその資料の大半はどうでもいい。 で、この資料から大門七神器に関するものを厳選し、整理した神器龍の資料がこれだ」

 ソーガはセーナの後ろから身を乗り出し、端末に触れる。

「あっ」

 背後からソーガに密着され、頬を赤らめるセーナを気にもせずファイルを開くソーガ。

「ほら、コイツだ」

「え、あ、はい。 これですね」

 目の前に表示された立体映像の資料を用いて、ソーガは簡潔に説明する。

「神器龍を手に入れるって言ってもたった二つの要素でできた実にシンプルな攻略法だ。 まず一つ目は、大門七神器に認められるだけの力量を持つことだ」

「力量、といいますと?」

「そのまんまだ。 そこらの凡人どもじゃなく、死線を超えてきた腕の立つものじゃねえといけねえ。 ま、これは俺もお前も当てはまるぜ」

 ソーガはセーナの頭を撫でると、説明を続ける。

「もう一つだが、肝心なのはコイツだ」

 セーナは息を呑み、ソーガの言葉を待つ。

「大門七神器は所持者の強い願望や信念といったメンタル面に反応するようだ。 特に悪意や狂気、心の闇が好物らしいぜ。 俺の場合は力への渇望ってところか?」

 魔石のブローチを指で突きながらそう語るソーガ。

「力への渇望、ですか。 バハムやレヴィとの戦いでソーガさんが勝ちたいと強く願った、ということでしょうか?」

「ああ、そうだろうな。 だが、大門七神器はちょっとやそっとの思いじゃ反応してくれねえぜ」

(そう言えばゴドール戦はダメでバハム&レヴィ戦だと覚醒したのは、側にセーナがいたってのが理由なんだろうなあ。 ククク……壊し屋だの何だの言って、俺ってそうとうヌルいやつだなあ)

 セーナは自分の持つ大門七神器の1つ――妖刀・鬼蜘蛛を取り出し見つめる。

「強い思い、ですか……」

(ゆっくり考えさせてやるか)

 ソーガはそう思いながら立体映像の資料を眺めていたが、ふとある資料が目にとまる。

 それは彼がまとめた神器龍の開放に関する資料でなく、それを探る資料の中にあったである大門家の生んだ闇の儀式に関する書物の一部。

(魔幻の儀、ねえ。 本当に俺の先祖はろくでも無えもん作るなあ)

 そもそもこの資料のほとんどが胡散臭い儀式だということはすでに知っており、それゆえソーガはくだらないと一笑に付した。

「ソーガさん、神器龍を手に入れる条件は分かりましたが、それにはやはりデュエルが必要なのですよね?」

「ああ、だが相手はどうするかだな。 お前のことだ、俺が相手だと全力でやれねえだろ。 となると……」

「そうね、私ならいいんじゃないかしら」

「「何でいるんだよ(ですか)」」

 ソーガとセーナのシンクロしたツッコミを受けたのは、なぜかソファーに座っている黒髪の女性――アウロラ。

 かつてゴドールからソーガを助けた恩人である。

「うーん、ここはノリツッコミを期待してたんだけどね。 そんなわけでこんにちは、お邪魔しています」

「よくもまあお邪魔できたもんだ。 この家のセキュリティを突破できるとはよお」

 ソーガの家は、パズルシティの北部寄りに立っている。

 この辺りは治安もよく、そこに豪華な一軒家を構え生活している。

 資金に余裕のあるソーガにとってこの程度の家を建てるのは造作でもなく、地下には広いスペースを活用したD・ホイール用のガレージもある。

 また、表面上は普通の一般市民であっても裏の顔は壊し屋。

 それゆえ、家には多彩な仕掛けが施されており、侵入者に備えるセキュリティも万全である。

 よってこの家に侵入するのは簡単ではないのだが――

「ふふ、ハッキングは得意なの。 驚かせちゃってごめんなさい、お詫びにここのセキュリティの穴を教えてあげるわ」

「ま、ありがたく受け取ってやるぜ。 それで、お前がセーナの相手をすると?」

「ええ。 なんでも神器龍の開放を目指しているそうね」

「そもそもお前は何者なんだよ。 大門七神器に関して知ってそうな口ぶりだな」

「ただの壊し屋のファンよ。 そして正体は秘密よ」

 笑顔でそう答える美しい女性。

 ソーガは目の前の女性を信頼すべきか考える。

 自分を助けてくれたことに恩義は感じでいるが、だからといって彼女が自分の味方であるとは言い切れない。

 利害の一致――人を助ける理由としては(ソーガ的には)メジャーな部類であるのだが、アウロラがその理由で自分達を助けた場合は信頼すべきでない。

 理由は単純、利害が合わなくなった時点で即座に敵になるからである。

「ソーガさん」

 セーナの声で我に返るソーガ。

「私、アウロラさんと戦ってもいいですか?」

 セーナの発言に対し、ソーガは頭を切り替え質問する。

「理由は?」

「私も神器龍を手に入れ、ソーガさんの役に立ちたいからです!」

「そうか……ま、お前らしいな」

 しかし、このままあの得体のしれない女と戦わせていいものか……?

 ソーガは少し悩み、結論を導いた。

「アウロラ、セーナの相手を頼むぜ。 俺も観戦する、文句はねえな」

「ええ、任せて」

(現段階、アウロラを敵か味方か判断するのは情報が少なすぎる。 だからこそ、デュエルを通じで情報を増やすべきだ。 セーナが危なくなっても俺が側にいれば助けに行けるしな)

「私としてはライディングデュエルをやりたいところなんだけど、いいかしら?」

「分かった、ならハイウェイに行くぜ」

 ソーガ、セーナ、アウロラの3人は、家を後にしハイウェイに向かった。




第八話「戦場に舞う千の刃」


 ――パズルシティ、第4ハイウェイ

 青く澄み渡る空と、その青を写し広がる海。

 二つの青に挟まれた海上ハイウェイにて、並び立つ銀と白のD・ホイール。

 銀のD・ホイールに乗ったセーナは、呼吸を整えデュエルに集中する。

 白のD・ホイールに乗ったアウロラは、落ち着いた様子でセーナの準備を待っている。

「じゃあ始めてくれ、俺は少し後ろを追いかけてるからよ」

「了解しました! 《スピード・ワールド2》、セットオン!」

 ソーガの指示通り、ライディングデュエルの準備をするセーナ。

《スピード・ワールド2》
フィールド魔法 (アニメ5D’sオリジナル)
Sp」スピードスペルと名のついた魔法カード以外の魔法カードをプレイした時、自分は2000ポイントダメージを受ける。
お互いのプレイヤーはお互いのスタンバイフェイズ時に1度、自分用スピードカウンターをこのカードの上に1つ置く。
(お互い各12個まで、1ターン目を除く)
自分用スピードカウンターを取り除く事で、以下の効果を発動する。
●4個:自分の手札の「Sp」と名のついたカードを任意の枚数公開することで、その枚数× 800ポイントダメージを相手ライフに与える。
●7個:自分のデッキからカードを1枚ドローする。
●10個:フィールド上に存在するカードを1枚破壊する。

『レーンセレクション、使用可能な最適レーンをサーチ。 デュエルレーン、セントラルに申請』

「全力で行きますよ、アウロラさん」

「あらあら。 なら私も気が抜けないわね」

『デュエルが開始されます。 デュエルが開始されます。 ルート上の一般車両は直ちに退避してください』

 2人はアクセルを踏み込み、スタートダッシュに備える。

「「ライディングデュエル、アクセラレーション!!」」

セーナ LP:4000 アウロラ LP:4000

 合図とともに、2人は加速する。

 2台のD・ホイールは、銀と白の装甲で日光を反射しながらハイウェイを駆ける。

「先攻はもらいます!」

 先にコーナーを抜けたのは、セーナ。

「あら、速度をほとんど落とさずにコーナーを曲がるなんて凄いわね」

「では、私のターンです! ドロー!」

 セーナは思考時間をほとんど使わずにカードを2枚選び、D・ホイールに置く。

「《代打バッター》を守備表示、さらにカードを1枚セットしてターンエンドです」

 緑色のバッタは飛び跳ねながら、D・ホイールに乗るセーナに並走する。

代打バッター DEF:1200

「私のターンね。 ドロー」
セーナ スピードカウンター:0→1 アウロラ スピードカウンター:0→1

「手札の《神龍-ブリザード・ドラゴン》を捨てて、チューナーモンスター《神龍-クイック・ドラゴン》を特殊召喚するわ」

 アウロラが呼び出したのは、東洋風のデザインをした緑色の龍。

《神龍-クイック・ドラゴン》
チューナー(効果モンスター) (血の刻印オリジナル)
星2/風属性/ドラゴン族/攻 700/守 300
自分のメインフェイズ時に発動する事ができる。
手札から「神龍」と名のついたモンスター1体を捨て、このカードを手札から特殊召喚する。
この効果で特殊召喚に成功した時、手札からレベル3以下の「神龍」と名の付いたモンスター1体を特殊召喚する事ができる。
このカードをシンクロ素材とする場合、「神龍」と名のついたモンスターのシンクロ召喚にしか使用できない。

「これは……神龍モンスター!」

「ふふっ、《神龍-クイック・ドラゴン》の効果により、手札から《神龍-ハリケーン・ドラゴン》を特殊召喚よ」

 すでにフィールドにいる龍に並び、風を纏う龍が召喚される。

「《神龍-ハリケーン・ドラゴン》の効果によりカードを2枚ドローし、手札の《神龍-リバイブ・ドラゴン》を捨てるわ」

《神龍-ハリケーン・ドラゴン》
効果モンスター (ハピフラシリーズオリジナル)
星3/風属性/ドラゴン族/攻1200/守 800
このカードの召喚・特殊召喚に成功した時、デッキからカードを2枚ドローし、その後手札からカードを1枚捨てる。

「場に出ただけで手札増強かよ、なんてインチキ効果だ。 だが、神龍デッキか……驚いたな」

「流通枚数が少ないレアカードで、強力効果を備えたドラゴン族のシリーズモンスター。 生で見るのは初めてですね」

「神龍は融合や儀式といった多彩な戦術を持ったシリーズだ。 そしてアウロラの使うのは……」

 アウロラが手を掲げると、2体の神龍は空に上る。

「レベル3《神龍-ハリケーン・ドラゴン》にレベル2《神龍-クイック・ドラゴン》をチューニング!」

「やはりシンクロ神龍ですね!」

 光の環となったチューナーを潜り、星が光の道を作りだす。

「神龍封印、解除! 疾風之紋、承認! シンクロ召喚! 龍脈解放、《神龍-スカイ・ドラゴン》!」

 ハリケーン・ドラゴンよりも一回り大きく、強力な風を操る龍がアウロラのもとに舞い降りる。

《神龍-スカイ・ドラゴン》
シンクロ・効果モンスター (血の刻印オリジナル)
星5/風属性/ドラゴン族/攻2200/守1800
チューナー+チューナー以外の「神龍」と名のついた風属性モンスター1体
このカードが戦闘によってモンスターを破壊し墓地へ送った時、破壊したモンスターのレベル×200ポイントダメージを相手ライフに与える。

「風のシンクロ神龍ですか」

「まだ私は通常召喚を行なっていないわ。 チューナーモンスター《神龍-サルベージ・ドラゴン》を召喚し、その効果により墓地の《神龍-ブリザード・ドラゴン》を効果を無効にして特殊召喚」

 アウロラの場に現れる2体の青い龍。

《神龍-サルベージ・ドラゴン》
チューナー(効果モンスター) (血の刻印オリジナル)
星2/水属性/ドラゴン族/攻1000/守   0
このカードが召喚に成功した時、自分の墓地に存在するレベル3の「神龍」と名のついたモンスター1体を表側守備表示で特殊召喚する事ができる。
この効果で特殊召喚した効果モンスターの効果は無効化される。
このカードをシンクロ素材とする場合、「神龍」と名のついたモンスターのシンクロ召喚にしか使用できない。

《神龍-ブリザード・ドラゴン》
効果モンスター (ハピフラシリーズオリジナル)
星3/水属性/ドラゴン族/攻1400/守 600
このカードの召喚・特殊召喚に成功した時、フィールド上に存在する魔法・罠カード1枚を選択して破壊する。

「レベル3《神龍-ブリザード・ドラゴン》にレベル2《神龍-サルベージ・ドラゴン》をチューニング! 神龍封印、解除! 海洋之紋、承認! シンクロ召喚! 龍脈解放、《神龍-オーシャン・ドラゴン》!」

 同調し、光より姿を現したのは深い海の如く青いシンクロ神龍。

《神龍-オーシャン・ドラゴン》
シンクロ・効果モンスター (血の刻印オリジナル)
星5/水属性/ドラゴン族/攻2200/守1800
チューナー+チューナー以外の「神龍」と名のついた水属性モンスター1体
このカードは1ターンに1度だけ、戦闘では破壊されない。

「速い、1ターンで2体のシンクロモンスターを呼ぶなんて……!」

「流石は神龍ってとこだな、スピードとパワーを兼ね備えているじゃねえか」

「ふふっ、バトルフェイズに入るわ」

 青と緑、2体の神龍は目の前のバッタを睨みつける。

「まずは《神龍-スカイ・ドラゴン》で《代打バッター》に攻撃するわ。 スカイ・ハリケーン!」

 攻撃態勢を取る緑の神龍だが、その身を光の粉塵に包まれる。

「そうはさせません、罠カード《隷属の鱗粉》を《神龍-スカイ・ドラゴン》に装備して守備表示に変更、これで攻撃は中断です」

《隷属の鱗粉》
通常罠
相手モンスターの攻撃宣言時に発動できる。
攻撃モンスターの表示形式を守備表示にし、
そのモンスター1体にこのカードを装備する。
また、1ターンに1度、メインフェイズ
及びバトルフェイズ中に発動できる。
装備モンスターの表示形式を変更する。

神龍-スカイ・ドラゴン 表示形式:攻撃表示(攻2200)→守備表示(守1800)

「なら、《神龍-オーシャン・ドラゴン》で攻撃。 オーシャン・ブリザード!」

 青い神龍が放つ水と氷のブレスは、バッタを容易く粉砕する。

「ですが、《代打バッター》は墓地に送られた時、手札の昆虫族を特殊召喚できます!」

《代打バッター》
効果モンスター
星4/地属性/昆虫族/攻1000/守1200
自分フィールド上に存在するこのカードが墓地に送られた時、
自分の手札から昆虫族モンスター1体を特殊召喚する事ができる。

 セーナは手札から1枚のカードを選び、場に呼び出す。

「特殊召喚、《ミレニアム・スコーピオン》!」

 呼び出されたのは尾を2体の龍に向け、威嚇する蠍のモンスター。

ミレニアム・スコーピオン ATK:2000

「なるほど、なら私はカードを3枚セットしてターンを終了するわ」

 セーナはアクセルを踏み、加速しながらカードを引く。

「私のターン!」

セーナ LP:4000
手札:3→4枚
モンスター:《ミレニアム・スコーピオン》(攻2000)
魔法&罠:《隷属の鱗粉》
スピードカウンター:1→2
アウロラ LP:4000
手札:無し
モンスター:《神龍-オーシャン・ドラゴン》(攻2200)、《神龍-スカイ・ドラゴン》(守1800)
魔法&罠:セット3枚
スピードカウンター:1→2

「《ミレニアム・スコーピオン》で守備表示の《神龍-スカイ・ドラゴン》に攻撃します!」

 巨大な蠍は緑の神龍を捕獲すると、頭から喰らい尽くす。

 龍を喰らった蠍は、体が少し膨張し大きくなった。

「《ミレニアム・スコーピオン》がバトルでモンスターを破壊した時、攻撃力が500ポイント上昇します!」

《ミレニアム・スコーピオン》
効果モンスター
星5/地属性/昆虫族/攻2000/守1800
このカードが相手フィールド上モンスター1体を戦闘によって破壊し墓地へ送る度に、
このカードの攻撃力は500ポイントアップする。

ミレニアム・スコーピオン ATK:2000→2500

「なるほど、モンスターを倒せば倒すほど強化されるのね」

「さらに私は《ナチュル・バタフライ》を守備表示で召喚、カードを1枚伏せてターンエンドです」

 桃色の羽根の蝶がセーナの場に舞い降りる。

《ナチュル・バタフライ》
チューナー(効果モンスター)
星3/地属性/昆虫族/攻 500/守1200
1ターンに1度、相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
自分のデッキの一番上のカード1枚を墓地へ送り、その攻撃を無効にする。

「私のターン、ドロー。 墓地の《神龍-スカイ・ドラゴン》を除外し、罠カード《シンクロ・スピリッツ》を発動。 シンクロ素材とした《神龍-ハリケーン・ドラゴン》と《神龍-クイック・ドラゴン》を特殊召喚するわ」

《シンクロ・スピリッツ》
通常罠 (アニメ5D's、タッグフォースシリーズオリジナル)
自分の墓地に存在するシンクロモンスター1体を選択してゲームから除外する。
さらに、除外したモンスターのシンクロ召喚に使用したモンスター一組が自分の墓地に揃っていれば、
この一組を自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。


 アウロラの場に舞い戻る2体の龍。

 その片方は咆哮し、アウロラに恩恵をもたらす。

「《神龍-ハリケーン・ドラゴン》の効果によりカードを2枚ドローして手札を1枚捨てるわ」

《神龍-ハリケーン・ドラゴン》
効果モンスター (ハピフラシリーズオリジナル)
星3/風属性/ドラゴン族/攻1200/守 800
このカードの召喚・特殊召喚に成功した時、デッキからカードを2枚ドローし、その後手札からカードを1枚捨てる。

「続いて罠カード《神龍賜与》を発動。 私の場に2体の神龍が存在するので2枚のカードをドローするわ」

《神龍賜与》
通常罠 (血の刻印オリジナル)
自分フィールド上に「神龍」と名のついたモンスターが2体以上存在する場合に発動できる。
デッキからカードを2枚ドローする。
このカードを発動するターン、自分はレベル7以上のモンスターを特殊召喚できない。


「そして《神龍-ハリケーン・ドラゴン》をリリースして《Sp-リリースの代償》を発動。 デッキからカードを2枚ドロー」

Spスピードスペル−リリースの代償》
通常魔法 (ハピフラシリーズオリジナル・改変)
自分のスピードカウンターが2つ以上存在する場合に発動する事ができる。
自分のフィールド上に存在するモンスター1体をリリースする。
自分はデッキからカードを2枚ドローする。

「凄い、1ターンでドロー効果を連発して手札を大幅に増強するなんて」

「ハリケーンで捨てたカードがあるとはいえ、効果だけで6枚ものドローを行うとは……大したやつだ」

「ふふっ、こんなことに驚いてたら困っちゃうわ。 手札を増やしたのはもちろん神龍を呼び出すための下準備に過ぎないのだから」

 そう言いながらアウロラは黒い神龍を呼び出す。

「レベル3の《神龍-ヘル・ドラゴン》を召喚して、レベル2の《神龍-クイック・ドラゴン》をチューニング! 神龍封印、解除! 暗黒之紋、承認! シンクロ召喚! 龍脈解放、《神龍-シャドウ・ドラゴン》!」

 光を飲み込む影のように黒い龍が、アウロラの横に現れる。

《神龍-シャドウ・ドラゴン》
シンクロ・効果モンスター (血の刻印オリジナル)
星5/闇属性/ドラゴン族/攻2200/守1800
チューナー+チューナー以外の「神龍」と名のついた闇属性モンスター1体
このカードがシンクロ召喚に成功した時、「神龍」と名のついたレベル3のモンスター1体を自分のデッキから特殊召喚することができる。
この効果で特殊召喚した効果モンスターの効果は無効化される。

「《神龍-シャドウ・ドラゴン》のシンクロ召喚に成功したことで、デッキから《神龍-アース・ドラゴン》を特殊召喚。 私の場に神龍が存在することで、墓地の《神龍-リバイブ・ドラゴン》を特殊召喚」

 黒い神龍の雄叫びにより茶色の龍が、それに続いて同じ色の龍が姿を現す。

《神龍-アース・ドラゴン》
効果モンスター (ハピフラシリーズオリジナル)
星3/地属性/ドラゴン族/攻1500/守 500
このカードが相手モンスターに攻撃する場合、攻撃対象モンスターの攻撃力を半分にする。

《神龍-リバイブ・ドラゴン》
チューナー(効果モンスター) (血の刻印オリジナル)
星2/地属性/ドラゴン族/攻 800/守 200
自分フィールド上に「神龍」と名のついたモンスターが表側表示で存在する場合、このカードを墓地から特殊召喚する事ができる。
この効果で特殊召喚したこのカードはフィールド上から離れた場合、ゲームから除外される。
このカードをシンクロ素材とする場合、「神龍」と名のついたモンスターのシンクロ召喚にしか使用できない。

「どれだけ召喚するんですか……」

「それはもちろん召喚できるかぎり。 レベル3《神龍-アース・ドラゴン》にレベル2《神龍-リバイブ・ドラゴン》をチューニング! 神龍封印、解除! 大樹之紋、承認! シンクロ召喚! 龍脈解放、《神龍-フォレスト・ドラゴン》!」

 木で作られたような龍が、青と黒の神龍に並びアウロラのフィールドに召喚される。

 青空の下に集う3体の神龍の姿は圧巻である。

「《神龍-フォレスト・ドラゴン》はシンクロ召喚された時、相手モンスターの表示形式を変更できるわ。 スカイ・ドラゴンのお返しね、《ミレニアム・スコーピオン》を守備表示にするわ」

 巨大蠍の足元から木の根が生え、蠍を拘束する。

《神龍-フォレスト・ドラゴン》
シンクロ・効果モンスター (血の刻印オリジナル)
星5/地属性/ドラゴン族/攻2200/守1800
チューナー+チューナー以外の「神龍」と名のついた地属性モンスター1体
このカードがシンクロ召喚に成功した時、フィールド上に存在するモンスター1体を選択し、表示形式を変更する事ができる。

ミレニアム・スコーピオン 表示形式:攻撃表示(攻2500)→守備表示(守1800)

「くっ、《ミレニアム・スコーピオン》の守備力じゃシンクロ神龍には及ばない……」

「ふふっ、バトルフェイズね。 けど、攻撃前にこのカードを使うわ。 永続罠カード《竜の逆鱗》」

 アウロラの発動した罠カードにより、3体の神龍は唸り声を上げ攻撃的な雰囲気となった。

「ほう、神龍に貫通効果を付けたか。 セーナ、気をつけろよ」

「はい!」

《竜の逆鱗》
永続罠
自分フィールド上に存在するドラゴン族モンスターが守備表示モンスターを攻撃した時、
その守備力を攻撃力が超えていれば、その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。

「《神龍-オーシャン・ドラゴン》で《ナチュル・バタフライ》に攻撃よ」

「ですが《ナチュル・バタフライ》の効果により、デッキの一番上を墓地に送り攻撃を無効にします!」

《ナチュル・バタフライ》
チューナー(効果モンスター)
星3/地属性/昆虫族/攻 500/守1200
1ターンに1度、相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
自分のデッキの一番上のカード1枚を墓地へ送り、その攻撃を無効にする。

 青い神龍放つ水のブレスを、桃色の蝶はひらりとかわす。

「その効果は1ターンに1度だけ、次は無いわ。 《神龍-シャドウ・ドラゴン》で《ナチュル・バタフライ》に攻撃」

 黒い龍は自分の影を操り、蝶を背後から襲う。

「《竜の逆鱗》の効果で貫通ダメージを受けてもらうわ」

 蝶を仕留めた黒い影が、セーナを襲う。

「うっ……!」

セーナ LP:4000→3000

「まだ私の神龍は残っているわ。 《神龍-フォレスト・ドラゴン》で《ミレニアム・スコーピオン》に攻撃するわ」

 地面が隆起し、木の根が槍のように蠍を襲う。

 先ほどの拘束を受けた蠍は逃げることもできず、そのまま貫かれる。

「さあ、貫通ダメージよ」

 蠍を貫いた木の根がセーナを襲い、ライフポイントを削る。

「くっ……」

セーナ LP:3000→2600

 3体の龍を引き連れたアウロラは、ダメージを受けよろめいたセーナを抜き去り前方を駆ける。

「ふふっ、カードを3枚伏せて私のターンは終了よ」

 セーナはD・ホイールを安定させ、アウロラの後を追う。

「どうかしら、私の神龍デッキは。 壊し屋の助手さんにも引けをとらないみたいね」

「私は壊し屋であるソーガさんの助手です、この程度で終わりましません! 私のターン!」

「あらあら、熱くなっちゃって」

セーナ LP:2600
手札:2→3枚
モンスター:無し
魔法&罠:セット1枚
スピードカウンター:3→4
アウロラ LP:4000
手札:1枚
モンスター:《神龍-オーシャン・ドラゴン》(攻2200)、《神龍-シャドウ・ドラゴン》(攻2200)、《神龍-フォレスト・ドラゴン》(攻2200)
魔法&罠:《竜の逆鱗》、セット3枚
スピードカウンター:3→4

「まずは伏せカード発動、《リミット・リバース》! 墓地より攻撃力1000以下のモンスターを特殊召喚します! 私が選ぶのはチューナーモンスター《ナチュル・バタフライ》!」

《リミット・リバース》
永続罠
自分の墓地の攻撃力1000以下のモンスター1体を選択し、
表側攻撃表示で特殊召喚する。
そのモンスターが守備表示になった時、そのモンスターとこのカードを破壊する。
このカードがフィールド上から離れた時、そのモンスターを破壊する。
そのモンスターが破壊された時、このカードを破壊する。

《ナチュル・バタフライ》
チューナー(効果モンスター)
星3/地属性/昆虫族/攻 500/守1200
1ターンに1度、相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
自分のデッキの一番上のカード1枚を墓地へ送り、その攻撃を無効にする。

「自分フィールドに昆虫族モンスターがいることで、手札の《速攻のマンティス》を特殊召喚!」

《速攻のマンティス》
効果モンスター (血の刻印オリジナル)
星3/風属性/昆虫族/攻1700/守1200
自分フィールド上に昆虫族モンスターが表側表示で存在する場合、
手札のこのカードを特殊召喚できる。
このカードがシンクロ召喚の素材として墓地へ送られた場合、
相手ライフに500ポイントダメージを与える。

 セーナの場に揃う蝶とカマキリ。

 チューナーと非チューナーが揃ったからには、狙うは1つ。

「レベル3《速攻のマンティス》にレベル3《ナチュル・バタフライ》をチューニング!」

「私のシンクロ神龍に対し、あなたもシンクロ召喚で対抗というわけね」

 チューナーが緑の環を作り、非チューナーが光の星となり一筋の光を導く。

 シンクロ召喚の演出の後、青い機械甲虫が姿を現す。

「スリーチャージ、フリーエントリー、ノーオプション!シンクロ召喚! チャージ・イン、《ブルー・ビートル・ボーグ》!」

《ブルー・ビートル・ボーグ》
シンクロ・効果モンスター (血の刻印オリジナル)
星6/風属性/昆虫族/攻2500/守2300
昆虫族チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上
このカードが表側表示で存在する限り、自分フィールド上に表側表示で存在する昆虫族モンスターは相手の魔法の効果を受けない。
1ターンに1度、フィールド上に存在するモンスター1体を選択し、表示形式を変更する事ができる。
この効果は相手ターンでも発動する事ができる。
このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られたターンのエンドフェイズ時、
このカードを墓地から特殊召喚することができる。
「ブルー・ビートル・ボーグ」の効果はデュエル中に1度しか使用できない。

「シンクロ素材となった《速攻のマンティス》の効果により、相手に500ダメージを与えます!」

「あら」

 カマキリはアウロラに跳びかかり斬撃を放つ。

アウロラ LP:4000→3500

「永続罠《リミット・リバース》は対象が破壊以外の方法でフィールドを離れた場合、無意味にフィールドに残り続けます。 そこで《S pスピードスペル -マジック・プランター》を発動し、《リミット・リバース》を墓地に送って2枚ドロー!」

Spスピードスペル−マジック・プランター》
通常魔法 (血の刻印オリジナル)
自分のスピードカウンターが2つ以上存在する場合、
自分フィールド上に表側表示で存在する
永続罠カード1枚を墓地へ送って発動する。
自分のデッキからカードを2枚ドローする。

「レベル6《ブルー・ビートル・ボーグ》のレベルを1つ下げ、墓地の《レベル・スティーラー》を特殊召喚」

 機械甲虫を貫くように、背中に星が描かれたテントウ虫が現れる。

《レベル・スティーラー》
効果モンスター
星1/闇属性/昆虫族/攻 600/守   0
このカードが墓地に存在する場合、
自分フィールド上のレベル5以上のモンスター1体を選択して発動できる。
選択したモンスターのレベルを1つ下げ、
このカードを墓地から特殊召喚する。
このカードはアドバンス召喚以外のためにはリリースできない。

ブルー・ビートル・ボーグ レベル:6→5

「なるほど、そのカードは《ナチュル・バタフライ》の効果で墓地に送られたのね」

「その通りです。 そして《レベル・スティーラー》をリリースし、チューナーモンスター《ミレニアム・スカラベ》をアドバンス召喚!」

 セーナが召喚したのは大型の甲虫モンスター。

《ミレニアム・スカラベ》
チューナー(効果モンスター) (血の刻印オリジナル)
星6/闇属性/昆虫族/攻1000/守2400
相手フィールド上にモンスターが存在し自分フィールド上にモンスターが存在しない場合、
このカードはリリースなしで召喚する事ができる。

「《ミレニアム・スカラベ》のレベルを下げて《レベル・スティーラー》を特殊召喚、そしてレベル1《レベル・スティーラー》にレベル5となった《ミレニアム・スカラベ》をチューニング!」

「これは、私と同じ1ターンで2回のシンクロ召喚ね」

「ククク……コイツを甘く見ないほうがいいぜ。 才能なら俺よりもよっぽどあるんだからよ」

「深淵に垂れる蜘蛛の糸、今こそ地の底より女邪神を呼び覚ませ! シンクロ召喚! 《地底のアラクネー》!」

 呼び出されたのは、上半身が女性、下半身が巨大蜘蛛の禍々しいモンスター。

《地底のアラクネー》
シンクロ・効果モンスター
星6/地属性/昆虫族/攻2400/守1200
闇属性チューナー+チューナー以外の昆虫族モンスター1体
このカードが攻撃する場合、相手はダメージステップ終了時まで
魔法・罠カードを発動する事ができない。
1ターンに1度、相手フィールド上に表側表示で存在するモンスターを
装備カード扱いとしてこのカードに1体のみ装備する事ができる。
このカードが戦闘によって破壊される場合、
代わりにこの効果で装備したモンスターを破壊する事ができる。


「《地底のアラクネー》の効果により、《神龍-オーシャン・ドラゴン》を装備カードにし装備します! トワイナー・スレッド!」

 蜘蛛の糸を吐き、青い龍に巻きつけて捕縛。

 それを引き寄せ、自らを守る盾とするアラクネー。

「さあ、次はバトルです! 《地底のアラクネー》、スパイダー・ストリングス! 《ブルー・ビートル・ボーグ》、デンジャラス・サンダー!」

 蜘蛛の魔物は糸を吐き出し、樹木の神龍を地に叩きつける。

 青い機械甲虫は雷の騎士のオーラを纏い、黒い神龍を砕く。

アウロラ LP:3500→3300→3000

「ふふっ、1ターンで3体のシンクロ神龍を倒すなんて、見事よ。 けど、このダメージをトリガーに手札を1枚捨て、《ダメージ・コンデンサー》を発動。 デッキの《神龍-マジック・ドラゴン》を特殊召喚するわ」

《ダメージ・コンデンサー》
通常罠
自分が戦闘ダメージを受けた時、手札を1枚捨てて発動する事ができる。
その時に受けたダメージの数値以下の攻撃力を持つモンスター1体を
デッキから攻撃表示で特殊召喚する。

《神龍-マジック・ドラゴン》
チューナー(効果モンスター) (血の刻印オリジナル)
星2/炎属性/ドラゴン族/攻 300/守 700
自分フィールド上に表側表示で存在するこのカードをシンクロ素材とする場合、
手札のモンスターを他のチューナー以外のシンクロ素材にする事ができる。
このカードをシンクロ素材とする場合、「神龍」と名のついたモンスターのシンクロ召喚にしか使用できない。

 アウロラの場に新たに現れる赤い龍。

(戦線を崩壊させられても、次なるモンスターへの一手を残したか。 さあて、俺のセーナはどうするかな?)

「シンクロモンスターを破壊したことで《Sp-グリード・グラード》を発動。 カードを2枚ドローします」

Spスピードスペル−グリード・グラード》
速攻魔法 (血の刻印オリジナル)
自分のスピードカウンターが2つ以上存在する場合、
自分が相手フィールド上に表側表示で存在するシンクロモンスターを
戦闘またはカードの効果によって破壊したターンに発動する事ができる。
自分のデッキからカードを2枚ドローする。

「2連シンクロ召喚だけでなく、ドローカードの連発まで……私の戦略を真似ているのかしら?」

「いえ、ただ単にこの程度のことは私でも容易くできるだけです。 私はソーガさんにデュエルを教えてもらったんですから。 カードを2枚セットし、これでターンエンドです」

「では、エンドフェイズに罠カードを発動するわ。 《力の集約》で、対象は《神龍-マジック・ドラゴン》よ」

 アウロラが罠カードを発動すると、赤い龍の周りに光が集る。

「フィールドにある装備カードは指定したモンスター、この場合は《神龍-マジック・ドラゴン》に全て装備されるわ。 ただし、対象が正しくなければ破壊されるけど」

「つまり、《地底のアラクネー》の効果で装備した《神龍-オーシャン・ドラゴン》は対象が正しくないから破壊されるのですね」

「ふふっ、そういうこと」

《力の集約》
通常罠
フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動する。
フィールド上に存在する全ての装備カードを選択したモンスターに装備する。
対象が正しくない装備カードは破壊する。

 アラクネーが糸で捕縛した龍は、木っ端微塵に砕け散った。

セーナ LP:2600
手札:1枚
モンスター:《地底のアラクネー》(攻2400)、《ブルー・ビートル・ボーグ》(攻2500)
魔法&罠:セット2枚
スピードカウンター:4
アウロラ LP:3000
手札:無し
モンスター:《神龍-マジック・ドラゴン》(攻300)
魔法&罠:《竜の逆鱗》、セット1枚
スピードカウンター:4

「ふふっ、セーナさん、あなたはいいデュエリストね。 だから、あのカードを使うに値するわ。 私のターン!」

(あのカード……)

(おそらく、ソイツがアウロラの切り札ってとこだろう)

「《神龍-マジック・ドラゴン》は手札の神龍にチューニングできるわ。 手札のレベル3《神龍-ヘヴン・ドラゴン》にレベル2《神龍-マジック・ドラゴン》をチューニング!」

《神龍-マジック・ドラゴン》
チューナー(効果モンスター) (血の刻印オリジナル)
星2/炎属性/ドラゴン族/攻 300/守 700
自分フィールド上に表側表示で存在するこのカードをシンクロ素材とする場合、
手札のモンスターを他のチューナー以外のシンクロ素材にする事ができる。
このカードをシンクロ素材とする場合、「神龍」と名のついたモンスターのシンクロ召喚にしか使用できない。

《神龍-ヘヴン・ドラゴン》
効果モンスター (ハピフラシリーズオリジナル)
星3/光属性/ドラゴン族/攻1600/守 400
このカードが戦闘を行う事によって受けるコントローラーの戦闘ダメージは無効になり、その数値分ライフポイントを回復する。

「神龍封印、解除! 雷光之紋、承認! シンクロ召喚! 龍脈解放、《神龍-サンダー・ドラゴン》! その効果で墓地の《神龍-サルベージ・ドラゴン》を手札に加えるわ」

 5体目のシンクロ神龍は雷を纏った白い龍。

《神龍-サンダー・ドラゴン》
シンクロ・効果モンスター (血の刻印オリジナル)
星5/光属性/ドラゴン族/攻2200/守1800
チューナー+チューナー以外の「神龍」と名のついた光属性モンスター1体
このカードがシンクロ召喚に成功した時、自分の墓地に存在する「神龍」と名のついたレベル3以下のモンスター1体を選択して手札に加える。

 そしてアウロラはさらなるシンクロへと繋ぐ。

「《神龍-サルベージ・ドラゴン》を召喚し、効果を発動。 墓地の《神龍-バーニング・ドラゴン》を特殊召喚し、チューニング!」

《神龍-サルベージ・ドラゴン》
チューナー(効果モンスター) (血の刻印オリジナル)
星2/水属性/ドラゴン族/攻 1000/守 0
このカードが召喚に成功した時、自分の墓地に存在するレベル3の「神龍」と名のついたモンスター1体を表側守備表示で特殊召喚する事ができる。
この効果で特殊召喚した効果モンスターの効果は無効化される。
このカードをシンクロ素材とする場合、「神龍」と名のついたモンスターのシンクロ召喚にしか使用できない。

《神龍-バーニング・ドラゴン》
効果モンスター (ハピフラシリーズオリジナル)
星3/炎属性/ドラゴン族/攻1600/守 400
このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、そのモンスターの守備力は0になる。

「神龍封印、解除! 紅蓮之紋、承認! シンクロ召喚! 龍脈解放、《神龍-ヴォルケーノ・ドラゴン》!」

 炎を撒き散らす赤い神龍が、白い神龍に並びアウロラの頭上を飛ぶ。

《神龍-ヴォルケーノ・ドラゴン》
シンクロ・効果モンスター (血の刻印オリジナル)
星5/炎属性/ドラゴン族/攻2200/守1800
チューナー+チューナー以外の「神龍」と名のついた炎属性モンスター1体
このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、その守備力を攻撃力が超えていれば、その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。

 サンダーにヴォルケーノ、二体のシンクロ神龍がセーナの昆虫たちの前に並ぶ。

「二体のシンクロ神龍を並べたところで、その攻撃力は私のシンクロ昆虫には届きませんよ」

「ええ、分かっているわ。 私は永続罠《エンジェル・リフト》を発動し、墓地の《神龍-マジック・ドラゴン》を特殊召喚するわ」

 二体のシンクロ神龍の間に挟まれるように、赤い龍がよみがえる。

《エンジェル・リフト》
永続罠
自分の墓地に存在するレベル2以下のモンスター1体を選択し、攻撃表示で特殊召喚する。
このカードがフィールド上に存在しなくなった時、そのモンスターを破壊する。
そのモンスターがフィールド上から離れた時このカードを破壊する。

《神龍-マジック・ドラゴン》
チューナー(効果モンスター) (血の刻印オリジナル)
星2/炎属性/ドラゴン族/攻 300/守 700
自分フィールド上に表側表示で存在するこのカードをシンクロ素材とする場合、
手札のモンスターを他のチューナー以外のシンクロ素材にする事ができる。
このカードをシンクロ素材とする場合、「神龍」と名のついたモンスターのシンクロ召喚にしか使用できない。

「その神龍は手札のモンスターを素材にシンクロできるモンスターでしたが、今のアウロラさんの手札は0枚。 それでは意味が……」

「いや、違うぜセーナ! 素材はすでにフィールドに揃っている!」

「ふふっ、流石はソーガ君ね、大正解よ。 見せてあげるわ、シンクロ神龍最強カードを!」

 アウロラが手を掲げると、青空が陰り次第に暗く染まっていく。

「これは……何が起こっているんですか!?」

「レベル5《神龍-ヴォルケーノ・ドラゴン》とレベル5《神龍-サンダー・ドラゴン》に、レベル2《神龍-マジック・ドラゴン》をチューニング!」

 暗くなった空に舞い上がるマジック・ドラゴンは輝くと2つの環となり、それを2体のシンクロ神龍がくぐり抜ける。

「神龍最終封印、完全解除! 極光之紋、承認!」

 環をくぐった2体は光輝き、その身は光の星となる。

 煌めく星が龍の形の光を生み出し、闇の空の中心へと突き抜ける。

「闇に舞う気高き龍よ、今こそ幻想の煌めきを纏い暗き天空を魂で彩れ! シンクロ召喚!」

 その瞬間、黒い空は彩られた。

 変幻自在、あらゆる色に輝く光のカーテン。

 空を包む幻想的なオーロラ。

 その中を舞うは、神々しき巨龍。

 その肉体はオーロラの如く幾多もの色に彩られ、輝く瞳はまさに夜空に浮かぶ星。

「光臨せよ、《極光神龍》!」

 これまでの神龍とは比べ物にならない巨体の龍に見下されるセーナ。

 その圧倒的な威圧感と神秘的な美しさに、驚きの表情を隠せない。

「これが……シンクロ神龍最強のモンスター……!」

「ほう、とんでもねえカード持っているじゃねえか」

「ふふっ、《極光神龍》は素材としたシンクロ神龍の属性により効果が決定する。 私が素材にしたのは炎を光のシンクロ神龍。 よって破壊・ダメージ効果と耐性効果を得るわ」

《極光神龍》
シンクロ・効果モンスター (血の刻印オリジナル)
星12/水属性/ドラゴン族/攻5000/守5000
チューナー+チューナー以外の「神龍」と名のついたシンクロモンスター2体
このカードはシンクロ召喚でしか特殊召喚できない。
このカードはシンクロ素材にしたチューナー以外のモンスターの属性によって以下の効果を得る。
●地属性:効果モンスターの効果が発動した時、自分の墓地の「神龍」と名のついたレベル5以上のモンスター1体を除外する事でその発動を無効にし破壊する。
●風属性:このカードの攻撃力は自分の墓地に存在する「神龍」と名のついたモンスターの数×500ポイントアップする。
●炎属性:1ターンに1度、相手フィールド上のモンスター1体を破壊し、そのモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与えることができる。
●水属性:1ターンに1度、自分のメインフェイズ時に発動する事ができる。このカードはエンドフェイズ時まで魔法・罠カードの効果を受けない。
●光属性:フィールド上に表側表示で存在するこのカードが破壊される場合、代わりに自分の墓地の「神龍」と名のついたシンクロモンスターを除外することができる。
●闇属性:このカードは1度のバトルフェイズ中に2回攻撃する事ができる。

「《極光神龍》の炎属性の効果により、あなたの《ブルー・ビートル・ボーグ》を破壊し、その攻撃力をダメージとして与えるわ。 ヴォルケーノ・オーロラ!」

 空を彩るオーロラが赤くなり、龍は真紅の炎に包まれる。

「ただでは破壊されませんよ! 《ブルー・ビートル・ボーグ》はテクニカルな戦略を得意とするビートル・ボーグ、その効果を発動で《極光神龍》を守備表示にします!」

《ブルー・ビートル・ボーグ》
シンクロ・効果モンスター (血の刻印オリジナル)
星6/風属性/昆虫族/攻2500/守2300
昆虫族チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上
このカードが表側表示で存在する限り、自分フィールド上に表側表示で存在する昆虫族モンスターは相手の魔法の効果を受けない。
1ターンに1度、フィールド上に存在するモンスター1体を選択し、表示形式を変更する事ができる。
この効果は相手ターンでも発動する事ができる。
このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られたターンのエンドフェイズ時、
このカードを墓地から特殊召喚することができる。
「ブルー・ビートル・ボーグ」の効果はデュエル中に1度しか使用できない。

極光神龍 表示形式:攻撃表示(攻5000)→守備表示(守5000)

 青い機械甲虫は素早く龍の背後に回りこみ、電撃を龍に放つ。

 龍は電撃でダメージを受けつつも、身を包む炎を凝縮させ、機械甲虫を焼きつくす。

「さあ、ダメージを受けてもらうわ」

 機械甲虫を葬った炎は広がり、津波のようにセーナに押し寄せる。

「あああぁぁっ!!」

セーナ LP:2600→100

「はぁっ……ですが《極光神龍》が守備表示になった以上、このターンの攻撃は行えませんよ?」

「うーん、地属性の効果があればモンスター効果を無効にできたのに……なんてね。 墓地の《ADチェンジャー》を除外し、《極光神龍》の表示形式を変更するわ」

「そんな!」

《ADチェンジャー》
効果モンスター
星1/光属性/戦士族/攻 100/守 100
墓地に存在するこのカードをゲームから除外し、
フィールド上に存在するモンスター1体を選択して発動する。
選択したモンスターの表示形式を変更する。

「ふふっ、《シンクロ・スピリッツ》で特殊召喚した《神龍-ハリケーン・ドラゴン》の効果で墓地に捨てていたの」

 攻撃の構えを見せ、上空に舞う龍。

 アウロラは、その龍に命令を下す。

「さあ、《極光神龍》で《地底のアラクネー》に攻撃よ」

 空を彩るオーロラの主は、そのオーロラを映したかのような翼を広げる。

 翼は次第に青白く輝き、その光は龍の口元に集まる。

 光は球体を形成し、その射程は目に映る蜘蛛の魔物。

「ゴッド・オーロラ・レイ!」

 放たれる光球。

 蜘蛛の魔物は糸を吐くが、その程度で受け止められるわけもない。

 蜘蛛はただ、光に押しつぶされた。

「少しやりすぎたかしら……?」

 次第に薄くなる光。

 しかし、アウロラの目の前には走行するD・ホイールの影が映る。

 そこにいたのは光を反射する銀の車体と、それを操る少女。

「罠カード《ガード・ブロック》を発動し、ダメージを無効にしてカードを1枚ドローしました」

《ガード・ブロック
通常罠
相手ターンの戦闘ダメージ計算時に発動する事ができる。
その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になり、
自分のデッキからカードを1枚ドローする。

「ふふっ、そうこなくっちゃ。 これで私はターンエンドよ」

 そう宣言するアウロラ。

 その頭上には悠々と君臨する巨龍。

セーナ LP:100
手札:2枚
モンスター:無し
魔法&罠:セット1枚
スピードカウンター:5
アウロラ LP:3000
手札:無し
モンスター:《極光神龍》(攻5000)
魔法&罠:《竜の逆鱗》
スピードカウンター:5

「攻撃力5000、さらに《竜の逆鱗》で貫通効果まで付いている……どうすれば」

「ふふ、私の《極光神龍》は素敵でしょう? けど、あなたも負けないくらい素敵だわ」

 セーナの前を駆けるアウロラは、セーナを振り返りながらそう言う。

「壊し屋の助手として、ソーガ君のために戦い続けるあなた……確かにソーガ君も凄いけど、大切な人のために全てを捧げられるセーナさんも同じくらい凄いわ」

「私が、ソーガさんと? 冗談はやめて下さい」

「謙遜しなくたっていいの、これはあくまで私個人の評価だからそう突っぱねないで。 人は歴史上、そのほとんどが支えあって生きている。 まあ孤独を好む人も少数いるけど、いつの時代も人は繋がりを大切にしてきた」

 曇った空を見上げながら、アウロラは話を続ける。

「だけど人が真に他人のために生きるのは難しいことなの、特に自分の身に危機が迫った時なんかはね。 でもセーナさんはソーガ君のためならどんな危機であろうと立ち向かうでしょう」

「当然です、私はソーガの助手ですから」

「そう、あなたのソーガ君への思いはとても素晴らしいわ。 それこそ、異常な程に――」

 アウロラの口元に笑みが浮かぶ。

「あなたのその思いを深く念じて。 どんな危機でも、どんな状況でも、どんな相手でも、どんな場合でも――崇める存在のために、何だってすると」

 アウロラの言葉を受けたセーナは、目を閉じ言われたとおりに念じる。

(その通りです、私はソーガさんの助手です。 私にとってソーガは尊敬すべき唯一無二の存在、この人のためなら何だってしましょう)

 セーナの持つデュエル妖刀・鬼蜘蛛が微かに揺れる。

(ソーガさんのためなら、何百、何千、何万の敵であろうと戦います。 ソーガさんのためなら、何百、何千、何万の人であろうと葬ります)

 さらに妖刀が揺れ、鞘の中でぶつかりカタカタと音がする。

(ソーガさん! ソーガさん! ソーガさん! ソーガさん! ソーガさん!)

「ふふふ……」

 アウロラは、どこか不気味な笑みでセーナを見る。

「とても純粋な愛ね……善悪を超えた、一点の曇りもない、とっても綺麗な感情。 それは時に狂気と言えるかもしれない……だからこそ、あの龍を従えるのはこの子なのね」

 ソーガにもセーナにも聞こえない声で、アウロラはそう呟く。

「私は、ソーガさんのために戦う! だから、そのための力を!」

 セーナは右手を高く挙げ、決意を込めた瞳で言った。

 その瞬間、妖刀が光り輝く。

 驚き、抜刀して眺めるセーナ。

「これは……」

「神器龍を手にするのに必要な強く純粋な思い、それはあなたがソーガ君に向けている思い。 ふふっ、やはりあなたは神器龍の使い手に相応しいわ」

 刀の輝きが収まり現れたのは、鬼蜘蛛とは違った妖刀。

 薄く赤い光を放っており、刀身の一部には謎の呪文のようなものが記されている。

「それこそ初代大門が愛用した2つの刀剣が1つ、魔剣・蒼帝そうていと対をなす妖刀・紅皇こうおう !」

「妖刀・紅皇……!」

 セーナは刀を天に向け、背負った鞘に納刀する。

「これが私がソーガさんに捧げるデュエル! 私のターン!」

 その手とデッキに黒い霧が集まり、新たなる力を創造する。

「ドロー!」

 引いたカードを、すぐにフィールドに呼び出す。

「自分の場にモンスターが存在せず相手の場にモンスターが存在することで、手札のこのモンスターを特殊召喚! 《D  Tダークチューナー  スパイダー・コクーン》!」

 セーナに呼び出されたのは紫色の蜘蛛のモンスター。

D  Tダークチューナー スパイダー・コクーン》
ダークチューナー(効果モンスター) (アニメ5D's、タッグフォースシリーズオリジナル)
星5/闇属性/昆虫族/攻0/守0
相手フィールド上にモンスターが存在し、自分フィールド上に モンスターが存在しない場合、
このカードは手札から特殊召喚する事ができる。
このカードをシンクロ素材とする場合、ダークシンクロモンスターのシンクロ召喚にしか使用できない。

 続いてもう1体の蜘蛛のモンスターが現れる。

「さらに《ダーク・スパイダー》を召喚! その効果により、《D  Tダークチューナー  スパイダー・コクーン》のレベルを2つ上げます!」

《ダーク・スパイダー》
効果モンスター
星1/闇属性/昆虫族/攻 0/守 0
1ターンに1度、自分フィールド上に表側表示で存在する昆虫族モンスター1体のレベルをエンドフェイズ時まで2つ上げる事ができる。

D  Tダークチューナー  スパイダー・コクーン レベル:5→7

「レベル7となった、《D  Tダークチューナー  スパイダー・コクーン》に、レベル1《ダーク・スパイダー》をダークチューニング!」

 片方の蜘蛛が生む闇に、もう片方の蜘蛛は飲み込まれる。

 闇の中、形成される黒い星。

「我が手に握られし刃よ! 宵闇の道を切り開くため、その身で鮮血を貪り尽くせ!」

 円を描き広がる闇と黒き星。

 それらは銀色の龍の姿を創りだす

「ダークシンクロ!」

 巻き上がる風――

 掻き消すは、オーロラの彩る暗闇――

 払いのけられた闇より差し込む青空の日差し――

 その光に煌めくは、幾多もの刃――

 夥しい刃をその身に纏った、芸術品のような姿――

「殲滅せよ、《サウザンド・エッジ・ドラゴン》!」

 少女が従えしは、千刃の龍――

サウザンド・エッジ・ドラゴン ATK:2400

「これが、セーナの神器龍……!」

「ただ全てを斬り尽くす、純粋な刃……とてもセーナさんに相応しいわ」

 セーナは、さらに1枚のカードを発動する。

「罠発動、《ギブ&テイク》! 墓地のモンスターを選択し、相手の場に守備表示で特殊召喚します! 蘇れ、《ミレニアム・スカラベ》!」

 アウロラの場に甲虫のモンスターが出現する。

「そしてこの効果で特殊召喚したレベルの数だけ、自分のモンスターのレベルを上げます! 《ミレニアム・スカラベ》のレベルは6、よって《サウザンド・エッジ・ドラゴン》のレベルは6上がります!」

《ギブ&テイク
通常罠
自分の墓地に存在するモンスター1体を
相手フィールド上に守備表示で特殊召喚し、
そのレベルの数だけ自分フィールド上に表側表示で存在する
モンスター1体のレベルをエンドフェイズ時まで上げる。

サウザンド・エッジ・ドラゴン レベル:6→12

 レベルを上昇させる千刃の龍。

 その刹那――

 刃が、煌めいた――

 両断され、崩れ落ちる甲虫――

 それに歓喜する龍――

 その体の刃は、呼応して数が増す――

「《サウザンド・エッジ・ドラゴン》の効果発動。 敵味方問わず場に現れたモンスターの攻撃力が自らの半分以下なら問答無用で斬り殺す。 さらにその血を浴びた刃は研ぎ澄まされ、攻撃力が上昇する」

《サウザンド・エッジ・ドラゴン》
ダークシンクロ・効果モンスター
星6/闇属性/ドラゴン族/攻2400/守1800
チューナー以外のモンスター1体−ダークチューナー
フィールド上にモンスターが召喚・特殊召喚された時発動する。
そのモンスターの攻撃力がこのカードの攻撃力の半分以下の場合、そのモンスターを破壊する。
このカードが戦闘または効果によってモンスターを破壊するたびに、
このカードの攻撃力は1体につき800ポイントアップする。

サウザンド・エッジ・ドラゴン ATK:2400→3200

「制圧・コントロール型のモンスターか……流石はセーナだ、とんでもねえ神器龍を手に入れたな!」

 速度を上げセーナと並走しているソーガに、セーナは笑顔を向ける。

「見ていてくださいね、ソーガさん! 私のデュエルを!」

「おう!」

 笑顔のセーナの目元に、影ができる。

「墓地の《レベル・スティーラー》の効果を発動です! 《サウザンド・エッジ・ドラゴン》のレベルを1つ下げ、墓地から特殊召喚します!」

 前のセーナのターンにも使用されたテントウ虫が、またもや現れる。

《レベル・スティーラー》
効果モンスター
星1/闇属性/昆虫族/攻 600/守 0
このカードが墓地に存在する場合、
自分フィールド上のレベル5以上のモンスター1体を選択して発動できる。
選択したモンスターのレベルを1つ下げ、
このカードを墓地から特殊召喚する。
このカードはアドバンス召喚以外のためにはリリースできない。

サウザンド・エッジ・ドラゴン レベル:12→11

「これは……」

「そして《サウザンド・エッジ・ドラゴン》の効果により破壊」

 千の刃が襲いかかり、テントウ虫が両断される。

《サウザンド・エッジ・ドラゴン》
ダークシンクロ・効果モンスター
星6/闇属性/ドラゴン族/攻2400/守1800
チューナー以外のモンスター1体−ダークチューナー
フィールド上にモンスターが召喚・特殊召喚された時発動する。
そのモンスターの攻撃力がこのカードの攻撃力の半分以下の場合、そのモンスターを破壊する。
このカードが戦闘または効果によってモンスターを破壊するたびに、
このカードの攻撃力は1体につき800ポイントアップする。

サウザンド・エッジ・ドラゴン ATK:3200→4000

「《サウザンド・エッジ・ドラゴン》も《レベル・スティーラー》も、1ターンで発動できる回数制限は無い。 よって《サウザンド・エッジ・ドラゴン》のレベル残り11が4になるまで7回、《レベル・スティーラー》の再生効果を使えます」

「コイツは……ループコンボ! 流石は俺の助手だ、容赦ねえな」

 蘇りは殺され、殺されは蘇る。

 目の前の無慈悲な殺戮を、セーナは笑顔で眺める。

サウザンド・エッジ・ドラゴン レベル:11→10→9→8→7→6→5→4 ATK:4000→4800→5600→6400→7200→8000→8800→9600

 幾多もの殺戮で研ぎ澄まされた龍の刃は、もはや眼前に佇むオーロラの龍を霞ませる程の存在であった。

「ククク……セーナ、見事じゃねえか! 手に入れたばかりの神器龍をここまで活用するとはよ!」

「ありがとうございます、ソーガさん! それでは、勝負を決めますね! 《サウザンド・エッジ・ドラゴン》で《極光神龍》に攻撃!」

 狂気に満ちた凶器の龍は、翼を広げる。

「サウザンド・スラスト!」

 斬撃の嵐――

 全身から風の刃を作り出し、放たれた一撃――

 それは、巨龍の肉体を徹底的に切り刻んだ――

 細かな肉片として崩れ落ちる龍――

 その中で、黒髪の女性は静かに微笑んだ――

「見事ね、セーナさん」

アウロラ LP:3000→0

 ライフが0になったことで急停止するアウロラのD・ホイール。

 ソーガはその側に停車し、セーナもUターンし戻ってくる。

「で、アウロラ。 お前は一体何者なんだ? 神器龍解放の辺りで意味深なことを吐きまくっていたが、あれはどういうことだ?」

 ヘルメットを外し、アウロラは答える。

「ふふっ、それは秘密よ。 あなた達が生きていればいずれ分かるわ。 その時はあなた達が必要になるから、ゴドール君に負けて殺されちゃダメよ」

「……得体の知れねえヤツだな」

 そう言うソーガに続き、ヘルメットを外したセーナは頭を下げる。

「アウロラさん、私の神器龍を解放する手伝いをしてくれてありがとうございます」

「どういたしまして。 それじゃあ、私は帰るわね」

 アウロラがそう言った瞬間、周囲を光が包む――

「これは……!」

「いったい何が……!?」

 光が収まったハイウェイにはアウロラの姿はなく、澄んだ青空と輝く海が静寂していた。

「消えた……本当に何者なんだか」

「とりあえず、これで私の神器龍は解放されました! この力、ソーガさんの役に立てていきますね!」

 セーナがそう言うと、ソーガはセーナの頭を撫で答える。

「ああ、頼りにしているぜ」

 ソーガは目線をセーナから青空へと移す。

(それにしてもアウロラ……あの女、どこかで見たことがある気がするんだよなあ。 おそらくゴドール戦よりも前、ずっと昔に……)

「ソーガさん、どうかしました?」

「いや、何でもねえ。 さて、帰ろうぜ」

「はい!」

 二人はD・ホイールに乗り、ハイウェイを疾走し帰宅する。









 ――パズルシティ北部、第4ハイウェイ末端

「ふふっ、今日は素敵なものが見れたわ」

 満足気な表情のアウロラは、D・ホイールの墓地からカードを1枚取り出す。

 それは、《ダメージ・コンデンサー》の発動コストとして捨てたカード。

《ネクロ・ガードナー》
効果モンスター
星3/闇属性/戦士族/攻 600/守1300
相手ターン中に、墓地のこのカードをゲームから除外して発動できる。
このターン、相手モンスターの攻撃を1度だけ無効にする。

「ふふ……セーナさん、彼女はいずれ――」

 アウロラの姿は、やがて地平線の彼方へ見えなくなっていった――









続く...




戻る ホーム 次へ