闇を切り裂く星達4

製作者:クローバーさん





目次

 ――プロローグ――
 episode1――配られた招待状(1)――
 episode2――配られた招待状(2)――
 episode3――配られた招待状(3)――
 episode4――配られた招待状(4)――
 episode5――合宿開始!!――
 episode6――小学生組の到着――
 episode7――九鳳院華恋の挑戦――
 episode8――鳳蓮寺琴葉の挑戦――
 episode9――西園寺ヒカルの挑戦――
 episode10――凸凹タッグの決戦――
 episode11――伊月VSアバター――
 episode12――薫VSイレイザー――
 episode13――昼のお話。夜のお話――



――プロローグ――




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 これは、何の意味もない問題です。
 解けたところで何かが変わるわけでもなく、
 解けなかったからといって罰せられるわけでもありません。


 色には「反対色」というものが存在します。

 「赤」の反対色は「緑」。

 「青」の反対色は「黄」。

 「黒」の反対色は「白」。

 その組み合わせは色の数だけ存在しています。


 これを踏まえたうえで、問題です。



 「闇」の色の反対は、どんな色でしょうか?



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 3月。凍えるような寒さが襲った冬は過ぎ去り、季節は春直前。
 スターのリーダーである薫は、遊戯王本社を訪れていた。
 秋ごろに星花高校で起こった事件で受けた傷は完全に癒えており、退院も終えている。
「ここに来るのもなんだか久しぶりだなぁ」
 約3か月ぶりにやってきた本社を見つめながら、薫は呟く。
 受付で手続きを済ませてから、エレベーターで一気に15階まで上がる。


 『面会室』と書かれたそこは、本社で身柄を保護されている人物と会話することが出来る唯一の場所だった。
 そもそもこの15階すべてが闇の組織などで悪事を働き、その罪を償うための刑務所のような働きを為している。
「ここで少し待っていてください」
 係員の人がそう言って部屋を出ていく。
 1人取り残された薫は、部屋が放つ独特の雰囲気が苦手なものであると感じていた。


 数分経っただろうか。
 防弾ガラスの向こう側の部屋から、1人の男が現れる。
 その人物は近くに置いてあった椅子に座り、ガラス越しに薫を見つめて小さく笑みを浮かべた。
 男にしては長い黒髪、細い体に大きな瞳。
 どこかつかみどころのない雰囲気を持つ相手に対して、薫は深くお辞儀をした。

「お久しぶりです。玲亜(れいあ)先輩
「ああ。本当に久しぶりだね薫君」

 薫がここに来た理由。
 それはスターの元リーダー、清風(せいふう)玲亜(れいあ)に呼び出されたからである。
「それで、お話ってなんですか?」
「まぁまぁ。面会時間はそこそこあるんだし、少しは世間話に花を咲かせてもいいんじゃないのかい?」
「は、はい……」
 玲亜は笑みを浮かべながら、椅子に深く腰掛けた。

 それからしばらくの間、薫は玲亜と世間話することになった。
 といっても、情報がまんべんなく供給される遊戯王本社である。
 世間に対する知識に大して違いは無いため、必然的に互いの近況を話すことになっていた。
「相変わらず佐助君は素っ気ないのかな?」
「な、なんで急に佐助さんの話をするんですか……」
「いやいや、別に気になっただけだよ。それで進展はあったのかい?」
「だ、だから――――!」
「ははは。すまないすまない」
 わずかだが顔を赤くする薫を見て、玲亜は笑う。
 なんだかんだで、少しずつ仲を深めていってくれているようでなによりである。
「そういう先輩はどうなんですか? その……”あの人”とは……」
「ああ。あいつは相変わらずって感じだ。まだ世界が許せないって思っている」
「そうですか……」
「でもそれは、薫君が気にすることじゃない。あいつの傍には俺がずっといてやるって決めたんだ。だから、俺に任せてほしいな」
「はい。もし何か出来ることがあれば言ってください」
「ああ。そうするよ。ところで本題に入りたいんだけどいいかな?」
 玲亜が真剣な眼差しを向ける。
 薫も姿勢を正して、まっすぐに視線を向けた。
「実は小耳に挟んだんだよ。アダムの事をね」
「……!」
 『アダム』という名前が出てきたことに驚きつつ、平静を装う。
 玲亜は小さく笑みを浮かべたまま、言葉を続けた
「今まで戦ってきた闇の組織を裏で支えてきた……いや、この場合は闇の力の根源ともいうべき存在か。そんな存在が、君たちの前に立ちはだかろうとしているんだろう?」
「……どこで知ったんですか?」
「闇側の情報に詳しい人間なら、すぐ近くにいるからね」
「っ!」
「おっと。知っているからってあいつを尋問しないでくれよ。俺でさえ最近になって話してくれたんだ。尋問するだけ時間の無駄だからね。とにかく、アダムのことだけど……」
「はい。スターとしても、全力で対処に――――」
 玲亜が右手をあげて、薫の言葉を遮り、小さく溜息をついた。
「薫君。単刀直入に言うよ。アダムに対抗できる力を持っている人を”全員”で戦うんだ」
「……っ!」
 全員ということは、スターのメンバーじゃなく大助や香奈、真奈美や雲井のことも含んでいるのだろう。
 だが彼らは一般人。出来る事なら、巻き込みたくないと薫は思っていた。
「でも――――」

「この際、はっきり言うよ。君は自分達の持っている力の重要性をいまいち分かっていない。闇の組織と戦っているのはスターだけじゃないんだ。だけど君たち以外の組織は闇の組織に対して圧倒的に苦戦している。白夜の力を持っていないから、相手の力に対抗できないんだ。本社が君たちを重宝しているのは、リーダーである君自身が一番分かっているだろう?」

「…………」
 核心を突かれ、返す言葉が見つからなかった。
 たしかにスターは本社でもかなり優遇された立場にある。
 それは仕事の成果が良いというのもあるだろうが、一番の理由としては数ある組織の中で最も闇の組織に対抗できる力を持っているからだ。組織の一員ではないが白夜の力を持っている大助や香奈との繋がりが深いというのも大きな要因になっている。
「君の性格は分かっているから、責めるようなことは言わないよ。だけどね、戦う力を持っている人がいるのなら、その人がきちんと戦っていけるようにすることも君の仕事なんじゃないのかな?」
「それって……」

提案がある。どうするかは君にゆだねるよ

 そう言って、玲亜は静かに笑った。

















 面会が終わり、玲亜は本社に設けられた部屋に戻っていた。
 薫の反応を見る限り、おそらく自分の提案を受け入れてくれるだろう。
「どうだった?」
 2段ベッドの上側から尋ねられた。
「ああ。おおむねオーケーといったところだよ」
「俺の頼みは言ったのか?」
「もちろん」
「…………」
「ついでに俺も頼んでおいた」
「……何をする気だ?」
「さぁ。多分、お前と似たようなことをするんじゃないかな?」
 笑いながら言う玲亜に対して、ベッドの上で横になっていた男は溜息をついた。
 近くに置いてあったデッキケースを手に取り、中身を取り出す。
 他人から見れば考えられないような複雑な構築。
 その実力は、闇の組織にいたころから衰えてはいない。
「さて……この世界がどうなるか……見物だな」
 男はそう呟き、小さく笑った。










episode1――配られた招待状(1)――

 冬が過ぎて、だんだんと温かくなってきた頃。
 中岸(なかぎし)大助(だいすけ)は生徒会室を訪れていた。その隣には幼馴染である朝山(あさやま)香奈(かな)もいる。

「なんなのよ。こんなところに呼び出して……」

 不満そうに口を尖らせる香奈をなだめながら、俺は辺りを見回してみる。
 星花高校に入学してから約1年。もうすぐ高校2年生になるというのに、生徒会室に入ったことは数回しかない。
 膨大な書類の束が棚に収納されていて、どこかのトロフィーや優勝旗がいくつか飾られている。
 窓際に位置する生徒会長用の机と椅子。部屋の中心には会議用の長机が置いてあり、役員の人数分のパイプ椅子も置いてあった。
「せっかく終業式で早めに帰れると思ったのに……」
「昼食も用意してなかったしな。帰りにコンビニでも寄っていくか?」
「そうね。あ、でも駅前に新しい喫茶店が出来たからそこに寄っていきましょう。あそこのパフェって結構美味しいらしいわよ」
「本当に甘いものが好きだよな香奈は……」
「文句ある? 好きなものは好きな時に食べてこそ、美味しいものなのよ」
 なぜか不敵な笑みを見せながら、香奈はそう言った。
 やれやれ……とは思ってみるものの、香奈と一緒に過ごせる時間が増えるのは嬉しいことだから良しとしよう。



 ――そもそも、なんで俺達がこの生徒会室にいるかというと――


 ――話は数十分前に遡る――


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 2学期が終わり、星花高校では終業式が行われていた。
 校長からの簡単な挨拶があり、春休みを安全に楽しく過ごすように言い渡される。
 この春休みが終われば1年生は2年生、2年生は3年生となり、新入生も入ってくる。
 そう考えると、夏休みや冬休みとは一味違った長期休みな気がした。
「あんがい、早く終わったわね」
 隣で香奈がそう言いながら、バッグを片手に立ちあがった。
 終業式後のHRも終わり、みんながそれぞれ席を立つ。
「この教室ともお別れか……」
「そうね。休み明けに間違って来ちゃいそうだわ」
「確かにな」
 進級して2年生になる俺達は、4階から3階の教室へと移ることになる。
 今座っているこの椅子や机も4月からは新入生の物になるのかと思うと、少し感慨深いな。
「私達、先輩になるのよね。あー、なんかワクワクするわね!」
「お前の場合、またファンが増えるんじゃないか?」
「え?」
「……なんでもない」
 そういえば自覚が無いんだったな……。
「大助も気をつけなさいよ」
「何をだよ?」
「馬鹿ね。もし可愛い後輩とかに言い寄られたらどうするのよ。あんたのことだから押し切られちゃうんじゃないの?」
「さすがに俺だって断るときは断るさ。香奈以外の女子と付き合うつもりはないしな」
「っ…! な、なに恥ずかしいこと言ってんのよ……! ま、まぁ、私の目が黒いうちは浮気なんか絶対許さないけどね!!」
「はいはい」
 俺なんかよりも、香奈の方がよっぽど言い寄られそうなのだが……まぁ言わないでおくか。


「香奈ー! 帰りにカラオケ寄ってかなーい?」


 女子グループが香奈に声をかけた。
 午前中で終業式が終わったため、午後は遊びにでも出かけるつもりらしい。
「ごめん! 今日はちょっと用事があるからまた今度で!」
「いいよー。中岸とデートだもんねー♪」
「なっ、ち、違うわよ!! 一緒に買い物付き合ってもらうだけなんだから!!」
「それを世間ではデートって言うんだよ♪ じゃ、またねー!」
「あっ、ちょっ! もう……!」
 友達にからかわれて顔を赤くする香奈。
 いつになっても、この手のからかいは慣れないらしい。
「そういえば本城さんや雨宮はどうしたんだ?」
「ああ。雫は喫茶店の手伝いがあるからって急いで帰っていったわ。真奈美ちゃんは用事があるからって先に帰っちゃったわ。なんか真奈美ちゃん、私達に隠し事してるのよねー。特に冬休みの事件が終わってからだけど……」
 冬休みの事件というのは、水の神の事件のことだろう。
 永久の鍵という力を扱う本城さんが命の危険にさらされた事件。
 俺と雲井がなんとか解決することができたのだが、その結果として水の神を倒してしまった。
 そして水の神を倒してしまったということは、アダムの力が完全に戻ってしまったことを意味する。
 ただでさえ目的も存在も掴めないアダムが、本格的に動き出したらと思うと不安に駆られてしまう。
 幸運なことに水の神の事件以降、闇の力に関する事件は一切起きていないらしい。スターも今は子供たちに遊戯王を教えたりするチャリティー活動をメインに動いているそうだ。
「今度絶対に突き詰めてやるわ! ほら、さっさと帰るわよ!」
「ああ」



 足早に帰ろうとする香奈についていき、俺達は玄関までたどり着く。
 外履きに履き替えようと下駄箱を開いた瞬間、中から1枚の封筒が出てきた。
「なんだこれ?」
 手に取って確認する。
 綺麗に閉じられたその封筒には『中岸大助さんへ』と書かれており、封のところにはハートマークのシールが貼られている。
「…………」
 決して自惚れているわけじゃないのだが、下駄箱に手紙、しかもハートマークのシールときて連想するものは1つしかなかった。
「どうしたの?」
 覗き込む香奈の表情が、一気に不機嫌なものへと変化する。
 いやいや待て。まだ慌てるような時間じゃないはずだ。
「ふーん、ラブレターねぇ……」
「待て。中身を確認してからだ」
「あっそ」
 ツンと顔を背ける香奈に溜息をつきつつ、俺は封筒の中身を確認する。
 B5サイズの紙が折りたたまれて入っており、綺麗な文字が書かれていた。


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 中岸大助へ

 今日の放課後、生徒会室に来てくださるかしら?
 あぁ、香奈さんも一緒に連れてきてくださって構いませんわよ?
 むしろ連れてきてほしいですわ! ていうか連れてきなさい!

 たいした用事ではありませんが、少し内密にしたい内容ですので
 香奈さん以外にはこの手紙の事は教えないでくださいな。
 それでは、生徒会室で待っていますわ


 生徒会長:海山塑羅より


 P.S.

 もしかしてラブレターだと思いましたか?
 オーッホッホッホ! 私があなたに恋文を出すわけないでしょう!?
 あなたに出すくらいなら香奈さんへ100通ほど出していますわ!

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「………………」
 なんだろう……この期待を裏切られたと同時に湧き起る、言いようのない感覚は……。
「で? 誰からのラブレターだったのよ?」
「ラブレターじゃなかった」
「……あっそう。呪いの手紙だった?」
「似たようなものだと思うぞ」
 そう言って手渡した手紙を香奈は読み、そして俺と全く同じ反応をした。
「どうするのよこれ」
「仕方ないから行こうと思う。無視したら後で面倒なことになりそうだし……」
「はぁ、それもそうね。いいわ。私も付き合ってあげるわよ」
「いいのか?」
「あの会長に文句言うの忘れてたのよ。この際だからとことん文句を言ってあげるわよ」



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 そんなわけで、俺達は生徒会室にやってきた。
 だが呼び出した当人である海山会長の姿は見られず、こうして二人っきりで待ちぼうけをくらっているわけである。
「ねぇ大助。あと5分して来なかったら帰りましょう?」
「もう少しくらい待ってやれよ……」
「むこうから呼び出したのに、部屋にいない方が悪いんじゃない」
「それもそうだが……」
 反論しようとした瞬間、生徒会室のドアが乱暴に開かれた。
「「!?」」
「申し訳ありませんわ!! 担任の教師が号泣してみんなでそれを慰めていましたのよ!! あ、香奈さん! やはり来てくださったんですね!!」
「別にあんたのためじゃないわよ!!」
「きゃー!! 香奈さんのツンデレ頂きましたわ!! 本当にありがとうございます!!!」
「ごめん大助。私、やっぱり帰るわ」
「まぁまぁ落ち着いてください。今日は2人に大事なお話があってきましたのよ」
 そう言って海山会長はバッグから数枚の紙を取り出した。
 素早い身のこなしで生徒会長の椅子に座り、真剣な表情になる。
「大事なお話というのは他でもありませんわ。秋ごろに起きたこの学校での事件の事ですわ」
「……!」
「その件については私や一二三、その他大勢があなた方に迷惑をかけたことを謝罪します。特に香奈さんには痛い思いをさせてしまいましたね。まぁ、その、いつも見られない表情が見れて少し嬉しかったですけど……」
「…………」
 この人、実はまだ闇の結晶を身に着けているんじゃないだろうか?
 隣にいる香奈も、呆れ顔で溜息をついている。
「それで、先日スターから書類をもらいましてね。学校での事件を覚えている生徒に配って欲しいと言われました。一種のアンケートのようなものですね。私達も出来るだけ関係者をあたりましたが、限界があります。なのであなた方の知っている関係者の名前を教えてもらいたくてここに来てもらいましたのよ」
「あー、なるほど……」
 たしかに生徒会だけで事件のことを覚えている人をあたるのは無理がある。
 事件を解決した俺達に協力を仰ぐのは、当然の判断と言えるだろう。
「分かりました。俺達の知っていることを話します」
「……できれば香奈さんの口から聞きたいですわ」
「じゃあ最初から香奈に手紙を出してください」
「だってぇ、香奈さんってば私の手紙だと分かった瞬間に綺麗に折りたたんで無視するんですもの……」
「それはあんたが毎日毎日、手紙を出してきたからでしょ!!」
「誤解ですわ!! 2日に1度です!!」
「たいして変わらないのよ! 何度も断っているのに手紙を出されても困るわ!!」
「え、私はてっきり『10回や20回断られた程度で諦めるくらいなら私と付き合う資格なんかないのよ』という香奈さんの挑戦なのかと……」
「どんだけポジティブなのよ!?」
 さすがの香奈も、海山会長にはタジタジらしい。
 ここまで他人に対して積極的になれるのは、ある意味すごいことなのだろう。





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 海山会長の頼みを終えた俺達は、予定通り近くの喫茶店に来ていた。
 ランチメニューが他の店に比べて安くて美味しく、香奈も満足そうな笑みを浮かべている。
「ここのランチは最高ね♪ 今度は雫や真奈美ちゃんも連れてきましょう!」
「ああ。そうだな」
 会計を済ませて店を出た後、俺達は当初の予定通りデパートへ向かった。
 今日は春物の服が出回るらしく、香奈はそれを見て回るつもりらしい。
「何着ぐらい買うんだ?」
「うーん、今日は見て回るだけのつもりだからそんなに時間はとらないわよ?」
「そうなのか?」
 てっきり大量に買うもんだと思っていたが……。
 まぁ重い荷物を持たなくてよくなったのは幸いか。

「ねぇ大助。ちょっとそこの噴水の前までいかない?」
「あ、ああ……別にいいけど……」

 香奈に言われるまま、俺達は噴水の前にあるベンチで腰掛ける。
 噴水から放射される水しぶきが、ギリギリ届かない位置だ。
「なんか不思議よね。大助と付き合いはじめてもう半年なのよ?」
「そんなに経ったのか。色々あったから、ずいぶん短く感じるな」
「もともとずっと一緒にいたから、あんまり実感ないわよね」
「たしかにな」
 夏休みに告白して、付き合うことになってからもう半年経つのか。
 闇の事件とかに巻き込まれて大変なことばかりだったけど、楽しいこともたくさんあったな。
「……今度の戦いで……最後なのよね……」
「……………」
 少し暗い面持ちで、香奈はそう言った。
 その手には、ポケットから取り出したであろう招待状が握られている。
「……勝てるのかしら……私達……」
「そのための招待状なんだろう?」
「……大助だって分かったでしょ? アダムと対峙して……あんなの、まともじゃないわよ」
「………」
 秋ごろに起きた学校での事件。
 神原兄妹を倒した俺達の前にアダムは現れた。
 そこから発せられる不気味さと威圧感。それはあのダークすら軽く凌駕するものだった。
 たまたますぐにイブという存在が登場してくれたおかげで重苦しさからは解放されたが、まともに対峙したら呼吸もままならなかったと思う。
「大助は行くの?」
「ああ。行こうと思ってる。俺も力になれるなら、その方がいいと思うしな」
「………もし、負けるようなことになっても?」
「どうしたんだよ。弱気なんて珍しいな。いつものお前なら、”私がすぐに倒してあげるわよ”とか言いそうなのに……」
「自分でも分かってるわ……でも、なんか落ち着かなくてね……本当は今日も、デパートで買い物に付き合ってっていうのは口実で……こうやって大助に相談したかっただけなのよ……」
 胸にかけた星のペンダントを見つめながら、香奈はそう言った。
 俺は考えをまとめながら、香奈の手に握られた招待状へ眼を向ける。

 今朝、俺達の家にスターからの招待状が届いた。
 内容はこのようなものだった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 中岸大助君へ


 スターのリーダー、薫です。
 突然の手紙、ごめんなさい。

 実はもうすぐ、アダムとの決戦が始まるらしいの。
 それに備えて闇の力に対抗できる人たちを集めて、
 合宿を開こうと思っています。

 無理に参加してとはいいません。
 でも、少しでも私達に力を貸してくれるならぜひ参加してね。

 この手紙は大助君、香奈ちゃん、真奈美ちゃん、雲井君。
 その他にも力になってくれそうな人に向けても送っています。

 もし参加してくれるなら、学校の事件の際に送ったアドレスに
 返信してほしいです。

 もう1度だけ言うけれど、決して強制じゃありません。
 だけど、お願い。
 大助君の力を私に貸してほしいです。


 薫より

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 丸っこくて可愛らしい文字だったが、丁寧に書かれた手紙だった。
 それはアダムとの最終決戦が近いという知らせと、それに対応するための合宿への参加の是非を問うものだった。
 あんなに一般人を巻き込みたくないと言っていた薫さんがこんな手紙を出してきた。
 それだけで、今度の戦いの困難さが伝わってきた。
 強制じゃない。だがそれは裏を返せば、参加するなら覚悟を決めてという意味でもある。
 つまり、最悪の結末があり得るかもしれないということでもあった。
「香奈、俺は参加しようと思う」
「…………」
「たしかに今度の戦いは、今までで一番キツイ戦いになるのかもしれない。だけど、何もしないまま黙って見ているなんて出来ない」
「そうやってまた……私を心配させるくせに……」
「ごめん」
「もういいわよ。仕方ないわね。私も参加してあげるわ」
 ベンチから立ち上がって、香奈はそう言った。
 その表情は先ほどまでとは打って変わって、どこか晴れやかな表情になっている。
「大助がその気なら、私だって負けてられないわよ」
「そうか」
「うん。大助、ありがとう。おかげで決心がついたわ」
 優しい笑みを向けて、香奈はそう言った。
 その可愛さに少しだけ見惚れてしまったことは、バレていなければいいが……。
「よーし、そうと決まれば早速行動よ!」
「何するんだ?」
「そうね。とりあえずデートしましょう♪」
「なんでそうなるんだよ?」
「ほら、これから決戦なんだから、今のうちにたくさん楽しんでおかないと損じゃない? ちょうど春物の服とか見てみたかったし」
「分かったよ。じゃあ行くか」
 そうして俺達はベンチから立ち上がる。
 時間は午後2時過ぎ。これからデパートに行っていろいろ見て回るなら、ちょうどいい時間だと思った。



「ようやく見つけたぜぇ!!!」



 なぜか聞いたことのある声が耳に届いた。
 見るとそこには、耳と鼻にピアスを付けた、星花高校の制服を着た不良が立っていた。
 その視線は俺に向けられており、あきらかに敵意をむき出しにしていた。
「な、なんですか?」
「中岸大助!! 今日で最後だ! 決着をつけてやる!!」
「はい?」
 そんな因縁を付けられる覚えはないと言いかけた瞬間、俺は思い出した。
 そうだ。この人とは何回か決闘をしたことがある。夏休み直前に1回。闇の組織に関わる事件で1回。牙炎の事件が起こる前に1回。何の因果かは分からないが、3回も戦ったことのある相手だった。
「何の用ですか?」
「おっと、彼女も一緒だったか。だが俺との決着に付き合ってもらおうか! 俺は春には就職する。高校で好き勝手やって過ごせたから悔いはない。お前との決闘を除けばな!!」
「…………」
 この不良と戦った3回すべて、俺は勝利している。
 どれも圧勝とは言えなかったが、とにかく勝っている。
 そのことが目の前にいる不良にとっては気に入らない事なのだろう。
「この日のために俺もデッキを最高の状態にしてきた。これで勝てなかったなら、俺も潔く負けを認める。高校生活最後の締めくくりだ!! さぁ勝負だ中岸大助!!」
 まっすぐな瞳で不良はそう言った。
 今まで戦ってきたときに見たような暴力的な視線じゃない。
 ただ純粋に、決着を付けようと思っているように感じた。
「大助、どうするの?」
 後ろで香奈が囁く。
 俺は静かに溜息をついて、バッグからデュエルディスクとデッキを取り出した。
「ごめん香奈。少しだけ、待っててくれ」
「……仕方ないわね。いいわよ見ててあげる。その代わり、絶対に勝ちなさいよ!」
 背中を強く叩かれて、前に押し出される。
 自然と決闘をするためのスペースが出来ており、数メートル先にいる不良を見据える。
「一応、感謝しとくぜ中岸大助。全力で来い! その上でお前を叩き潰してやる!!」
 互いにデュエルディスクを合わせる。
 呼吸を合わせ、俺達は同時に叫んだ。



「「決闘!!」」



 大助:8000LP   不良:8000LP



 決闘が、始まった。



 デュエルディスクの青いランプが点灯した。
 どうやら先攻は不良の方かららしい。
「俺のターン! ドロー!」(手札5→6枚)
 引いたカードを手札に加え、すぐに不良は行動を開始する。
 発動されたのは、1枚の永続魔法カード。


 未来融合−フューチャー・フュージョン
 【永続魔法】
 自分のデッキから融合モンスターカードによって決められたモンスターを墓地へ送り、
 融合デッキから融合モンスター1体を選択する。
 発動後2回目の自分のスタンバイフェイズ時に選択した融合モンスターを自分フィールド上に特殊召喚する
 (この特殊召喚は融合召喚扱いとする)。
 このカードがフィールド上に存在しなくなった時、そのモンスターを破壊する。
 そのモンスターが破壊された時このカードを破壊する。


「俺が選択するのは"F・G・D"だ!! このカードの効果でデッキからドラゴン族モンスターを5体墓地に送る! 墓地に送るのはこの5体だ!!」
 不良はデッキの中から5枚のカードを選び出し、俺に見せつけた後で墓地に送る。
 墓地に送られたのは――――

・真紅眼の飛竜
・レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン
・伝説の白石
・伝説の白石
・伝説の白石

「っ!!」
「いくぜぇ! 墓地に送られた"伝説の白石"の効果発動!! デッキから"青眼の白龍"を手札に加える!! 墓地に送られた白石は全部で3体だから、デッキから3枚の"青眼の白龍"を手札に加える!!」(手札5→8枚)


 伝説の白石 光属性/星1/攻300/守250
 【ドラゴン族・チューナー】
 このカードが墓地へ送られた時、デッキから「青眼の白龍」1体を手札に加える。

 青眼の白龍 光属性/星8/攻3000/守2500
 【ドラゴン族】
 高い攻撃力を誇る伝説のドラゴン。
 どんな相手でも粉砕する、その破壊力は計り知れない。


「デッキ圧縮とサーチを同時に行ったのか……!」
 明らかにカードの扱い方が上手になっている。
 プレイングだけじゃなく、カード自体も強い組み合わせを選んで使っている。
 それだけこの決闘に勝つつもりでデッキを組んできたということだろう。
「さらに手札から"融合"を発動!!」
「なっ!?」


 融合
 【通常魔法】
 手札・自分フィールド上から、融合モンスターカードによって決められた
 融合素材モンスターを墓地へ送り、その融合モンスター1体を
 エクストラデッキから特殊召喚する。


「手札の"青眼の白龍"を3体融合だ!!」
 相手の場に融合の渦が出現し、3体の白龍が飲み込まれる。
 その渦が出現した空間にヒビが入り、その中から三つ首のドラゴンが出現した。


 青眼の究極竜 光属性/星12/攻4500/守3800
 【ドラゴン族・融合】
 「青眼の白龍」+「青眼の白龍」+「青眼の白龍」


「攻撃力4500を1ターン目から……!!」 
 場に現れると同時に大気を振るわせるかのような咆哮が響く。
 巨大な姿と鋭い瞳が、強大なモンスター独特の威圧感を増しているように感じた。
「俺はカードを1枚伏せてターンエンド! そしてエンドフェイズ時に墓地にいる"真紅眼の飛竜"の効果発動!! 通常召喚を行っていないターンのエンドフェイズ時に、このカードを除外して墓地にいるレッドアイズを場に特殊召喚できる!」
「っ!?」
「さぁ出てこい!! "レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン"!!」


 真紅眼の飛竜 風属性/星4/攻1800/守1600
 【ドラゴン族・効果】
 通常召喚を行っていないターンのエンドフェイズ時に、
 自分の墓地に存在するこのカードをゲームから除外する事で、
 自分の墓地に存在する「レッドアイズ」と名のついたモンスター1体を特殊召喚する。


 レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン 闇属性/星10/攻2800/守2400
 【ドラゴン族・効果】
 このカードは自分フィールド上に表側表示で存在するドラゴン族モンスター1体を
 ゲームから除外し、手札から特殊召喚できる。
 1ターンに1度、自分のメインフェイズ時に手札または自分の墓地から
 「レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン」以外の
 ドラゴン族モンスター1体を特殊召喚できる。

 真紅眼の飛竜→除外

 真紅の瞳を持った若い飛竜が咆哮を上げると同時に、その体が急成長する。
 漆黒の体を銀色の金属が覆い、黒銀の肉体を作り上げていく。口から洩れる黒い炎が、自らの闘志を表しているかのようだ。
「1ターン目で2体も上級モンスターを出したってこと!?」
 後ろで香奈も驚いている。
 さすがに予想外だった。
 まさか相手がここまで強くなっているなんて……。



 エンドフェイズが終わり、ターンが俺へと移る。



「俺のターン、ドロー!」(手札5→6枚)
 相手の本気が分かった以上、俺も全力でやるしかない。
 まずは……!
「手札から"六武衆−イロウ"を召喚する!!」
 地面に描かれる紫色の召喚陣。
 その中から長刀を携えた武士が参上した。


 六武衆−イロウ 闇属性/星4/攻1700/守1200
 【戦士族・効果】
 自分フィールド上に「六武衆−イロウ」以外の「六武衆」と名の付いたモンスターが存在する限り、
 裏側守備表示のモンスターを攻撃した場合、ダメージ計算を行わず裏側守備表示のままそのモンスター
 を破壊する。このカードが破壊される場合、代わりにこのカード以外の「六武衆」という名の付いた
 モンスターを破壊することが出来る。


「罠カード発動!!」
「っ!?」
 さらにモンスターを召喚するつもりだった俺を遮る声が届く。
 不良の場に伏せられていたカードが開かれていた。


 落とし穴
 【通常罠】
 相手が攻撃力1000以上のモンスターの召喚・反転召喚に
 成功した時に発動する事ができる。
 その攻撃力1000以上のモンスター1体を破壊する。


「この効果でそのモンスターを破壊する!!」
 登場した武士が、地面に出現した穴へ落とされてしまった。

 六武衆−イロウ→破壊 

「六武衆は並べられると厄介だからな! 最初の1体目から処理させてもらったぞ!!」
「くっ……」
 たしかに六武衆は単体だと普通のモンスターと変わらない。
 並べられる前に破壊してしまえば何の問題もないというわけか。
「さぁ、どうする?」
「……俺は、カードを2枚伏せてターンエンドだ」

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 大助:8000LP

 場:伏せカード2枚

 手札3枚
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 不良:8000LP

 場:レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン(攻撃:2800)
   青眼の究極竜(攻撃:4500)
   未来融合−フューチャー・フュージョン(永続魔法)

 手札3枚
--------------------------------------------------

「俺のターン、ドロー!!」(手札3→4枚)
 不良はドローカードを確認して、すぐに視線をフィールドに向けた。
「さらに"レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン"の効果発動! 1ターンに1度、墓地か手札からドラゴン族モンスターを特殊召喚できる! 俺は手札から"アックス・ドラゴニュート"を特殊召喚する!!」


 アックス・ドラゴニュート 闇属性/星4/攻2000/守1200
 【ドラゴン族・効果】
 このカードは攻撃した場合、ダメージステップ終了時に守備表示になる。 


「っ……!」
 レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン……通称レダメは強力なドラゴン族モンスターを大量展開できる効果を持っている。この前の改訂で制限カード入りしただけの効果だと思った。
 不良が場に出したのは下級モンスターだが、相手の場には最高クラスの攻撃力をもっている"青眼の究極竜"がいる。融合召喚に成功しているから蘇生制限も満たしているため、レダメの効果で何度でも復活できる。
 なんとかしてレダメを倒しておかないと、取り返しのつかないことになりそうだ。
「さぁバトルだ!! まずは"アックス・ドラゴニュート"で攻撃!!」
「その攻撃宣言時に"和睦の使者"を発動だ!!」


 和睦の使者
 【通常罠】
 このカードを発動したターン。相手モンスターから受けるすべての戦闘ダメージを0にする。
 このターン自分のモンスターは戦闘によって破壊されない。


 襲い掛かるドラゴンの攻撃を、聖なる力で作られたバリアが弾く。
 攻撃を防がれた相手モンスターは悔しそうに主人の元へ戻って行った。
「ちっ、防がれたか。"アックス・ドラゴニュート"は攻撃後に守備表示になる。ターンエンドだ」

--------------------------------------------------
 大助:8000LP

 場:伏せカード1枚

 手札3枚
--------------------------------------------------
 不良:8000LP

 場:レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン(攻撃:2800)
   青眼の究極竜(攻撃:4500)
   アックス・ドラゴニュート(守備:1600)
   未来融合−フューチャー・フュージョン(永続魔法:1ターン経過)

 手札3枚
--------------------------------------------------

「俺のターン! ドロー!!」(手札3→4枚)
 引いたカードを確認して、すぐさま発動する。
 俺の背後に、結束を示すための陣が描かれた。


 六武衆の結束
 【永続魔法】
 「六武衆」と名の付いたモンスターが召喚・特殊召喚される度に、
 このカードに武士道カウンターを1個乗せる(最大2個まで)。
 このカードを墓地に送る事で、このカードに乗っている武士道カウンターの数だけ
 自分のデッキからカードをドローする。


「ドロー強化のカードか」
「手札から"真六武衆−シナイ"を召喚! さらに場に六武衆が1体いることで"六武衆の師範"を特殊召喚する!!」
「っ!」


 真六武衆−シナイ 水属性/星3/攻1500/守1500
 【戦士族・効果】
 自分フィールド上に「真六武衆−ミズホ」が表側表示で存在する場合、
 このカードは手札から特殊召喚する事ができる。
 フィールド上に存在するこのカードがリリースされた場合、
 自分の墓地に存在する「真六武衆−シナイ」以外の
 「六武衆」と名のついたモンスター1体を選択して手札に加える。


 六武衆の師範 地属性/星5/攻2100/守800
 【戦士族・効果】
 自分フィールド上に「六武衆」と名のついたモンスターが表側表示で存在する場合、
 このカードは手札から特殊召喚する事ができる。
 このカードが相手のカード効果によって破壊された時、
 自分の墓地に存在する「六武衆」と名のついたモンスター1体を手札に加える。
 「六武衆の師範」は自分フィールド上に1枚しか表側表示で存在できない。

 六武衆の結束:武士道カウンター×0→1→2

 巨大な棍棒のような武器を持った武士と、隻眼の老武士が場に現れる。
 彼らの登場により、俺の背後に浮かび上がっている陣が光輝いた。
「カウンターの溜まった"六武衆の結束"を墓地に送って、デッキから2枚ドローだ!」(手札1→3枚)
「モンスターを展開した上に手札補充とはなかなかやるじゃねぇか!」
「まだだ! シナイが場にいるとき、手札から"真六武衆−ミズホ"を特殊召喚できる!!」
「なにぃ!?」


 真六武衆−ミズホ 炎属性/星3/攻1600/守1000
 【戦士族・効果】
 自分フィールド上に「真六武衆−シナイ」が表側表示で存在する場合、
 このカードは手札から特殊召喚する事ができる。
 1ターンに1度、このカード以外の自分フィールド上に存在する
 「六武衆」と名のついたモンスター1体をリリースする事で、
 フィールド上に存在するカード1枚を選択して破壊する。


「ミズホの効果発動! 1ターンに1度、六武衆1体をリリースすることで相手の場のカードを1枚破壊できる! 俺はシナイをリリースして、"レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン"を破壊する!」
 棍棒を持った武士が光に変わり、参上した女武士の武器に纏わりつく。
 女武士は体全体を大きく回転させ、その三日月状の刃を黒銀の龍へ放つ。
 仲間の意志が宿ったその刃は、堅い表皮を持った龍を容易に切り裂いた。

 真六武衆−シナイ→墓地(ミズホの効果コスト)
 レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン→破壊

「俺のエースモンスターが……!」
「さらにリリースされたシナイの効果発動! 墓地からシナイ以外の六武衆を1体手札に加える! 俺は墓地にいるイロウを手札に加える!」(手札2→3枚)
「破壊と同時にサルベージだと!?」
「俺だって強くなっているってことだ! バトル! 師範で"アックス・ドラゴニュート"に攻撃!」
 隻眼の武士が目に見えぬ一閃を放ち、斧を持った竜人を真っ二つに切り裂いた。

 アックス・ドラゴニュート→破壊

「ちっ!」
「俺はカードを1枚伏せて、ターンエンドだ!!」

--------------------------------------------------
 大助:8000LP

 場:真六武衆−ミズホ(守備:1000)
   六武衆の師範(攻撃:2100)
   伏せカード2枚

 手札2枚
--------------------------------------------------
 不良:8000LP

 場:青眼の究極竜(攻撃:4500)
   未来融合−フューチャー・フュージョン(永続魔法:1ターン経過)

 手札3枚
--------------------------------------------------

「やってくれたな! 俺のターン!」(手札3→4枚)
 少し乱暴な手つきで不良はカードを引いた。
 さっきのターンでなんとか盛り返せたが、問題はここからだ。
 未来融合−フューチュー・フュージョンが発動してから、これで2ターン目になる。
 ということは――――。

「スタンバイフェイズ! 未来融合の効果によって、俺は"F・G・D"を融合召喚する!!」
「……!」
 不良の場に存在していた巨大な渦の中から、五つ首の巨大な竜が出現した。


 F・G・D 闇属性/星12/攻5000/守5000
 【ドラゴン族・融合・効果】
 このモンスターは融合召喚でしか特殊召喚できない。
 ドラゴン族モンスター5体を融合素材として融合召喚する。
 このカードは地・水・炎・風・闇属性のモンスターとの戦闘によっては破壊されない(ダメージ計算は適用する)


「どうだ! 攻撃力5000のモンスターだぞ!」
「っ……」
 不良の場には攻撃力4500と5000のモンスター。
 しかも俺の記憶が正しければ、おそらく相手は……。
「まずは手札から"トレード・イン"を発動する!! 手札の"ダーク・ホルス・ドラゴン"コストに2枚ドローだ!」


 トレード・イン
 【通常魔法】
 手札からレベル8モンスター1体を捨てて発動できる。
 デッキからカードを2枚ドローする。

 不良:手札4→2→4枚
 ダーク・ホルスドラゴン→墓地("トレード・イン"のコスト)

「そしてデッキワンサーチシステムを発動! デッキから、"ドラゴニック・バーン"を手札に加える!」(手札4→5枚)
「くっ……俺もルールによって、デッキから1枚ドローだ!」(手札2→3枚)
「関係ねぇ! 手札からデッキワンカード、"ドラゴニック・バーン"を発動だぁ!!」


 ドラゴニック・バーン
 【永続魔法・デッキワン】
 ドラゴン族モンスターが15枚以上入っているデッキにのみ入れることができる。
 このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
 自分のモンスターが相手に与える戦闘ダメージは2倍になる。
 自分フィールド上のドラゴン族モンスターが守備表示モンスターを攻撃した時に
 その守備力を攻撃力が超えていれば、その数値だけ相手に戦闘ダメージを与える。
 また、自分のドラゴン族モンスターは魔法カードの効果を受けない。


「やっぱりか……!」
 以前戦ったときに使われたデッキワンカード。味方のドラゴン族モンスター全てに魔法耐性と貫通効果、そしてダメージを倍にする能力を付加させる強力な永続魔法だ。デッキワンカード自体に耐性がないから簡単に除去することが出来るが、強力なドラゴン族デッキなら発動したターンに決着がつけられてしまう可能性が高い。
 なんとか、ここは凌がないといけないな。
「さらに手札から"銀龍の轟咆"を発動! 墓地から"青眼の白龍"を特殊召喚だ!! さらに"スピア・ドラゴン"を通常召喚!」
「……!」


 銀龍の轟咆
 【速攻魔法】
 自分の墓地のドラゴン族の通常モンスター1体を選択して特殊召喚する。
 「銀龍の轟咆」は1ターンに1枚しか発動できない。

 青眼の白龍 光属性/星8/攻3000/守2500
 【ドラゴン族】
 高い攻撃力を誇る伝説のドラゴン。
 どんな相手でも粉砕する、その破壊力は計り知れない。

 スピア・ドラゴン 風属性/星4/攻1900/守0
 【ドラゴン族・効果】
 守備表示モンスターを攻撃したときにその守備力が攻撃力を超えていれば、
 その数値だけ相手に戦闘ダメージを与える。
 このカードは攻撃した場合、ダメージステップ終了時に守備表示になる。


 不良の場に展開されるドラゴン族モンスター達。
 間違いない。不良はこのターンで勝負を決めるつもりだ。つまりここを凌げれば、反撃のチャンスはある!
「バトルだ!! "F・G・D"で守備表示のミズホに攻撃だ!!」
 五つ首の竜がそれぞれの口に炎を溜めこむ。
 ミズホの守備力1000に対して、F・G・Dの攻撃力は5000。その差4000ポイントのダメージがデッキワンカードの力によって倍になって8000ポイント。この攻撃をまともに受ければ、俺は負ける。
「させるか! "ガード・ブロック"を発動だ!!」
 五つ首の竜が強烈な炎を吐き出し、女武士を焼き払う。
 その攻撃の余波が襲い掛かるが、周囲を覆う光の壁によってダメージを受けることは無かった。


 ガード・ブロック
 【通常罠】
 相手ターンの戦闘ダメージ計算時に発動する事ができる。
 その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になり、
 自分のデッキからカードを1枚ドローする。

 真六武衆−ミズホ→破壊
 大助:手札3→4枚

「1撃目は防がれたか……!! 次は究極竜で攻撃だ!!」
 今度は三つ首の竜の攻撃か。当然、通すわけにはいかない!
「伏せカード発動!!」


 六武派二刀流
 【通常罠】
 自分フィールド上に存在するモンスターが、表側攻撃表示で存在する
 「六武衆」と名のついたモンスター1体のみの場合に発動する事ができる。
 相手フィールド上に存在するカード2枚を選択して持ち主の手札に戻す。


「この効果で、俺は"青眼の究極竜"と"ドラゴニック・バーン"をバウンスする!!」
「なにぃ!?」

 青眼の究極竜→エクストラデッキ
 ドラゴニック・バーン→手札(不良の手札2→3枚)

「これで貫通効果もダメージ倍化もなくなった!」
「やってくれたなぁ! だがまだ攻撃は続くぜ! "青眼の白龍"で師範に攻撃! "スピア・ドラゴン"でダイレクトアタックだ!!」
「くっ!」

 六武衆の師範→破壊
 大助:8000→7100→5200LP
 スピア・ドラゴン:攻撃→守備表示(自身の効果)

「メインフェイズに"ドラゴニック・バーン"を発動しておいてもいいが……除去されると厄介だから発動はしないでおくか」
「そうか。それで、どうするんですか?」
「俺はこのままターンエンドだ!!」

--------------------------------------------------
 大助:5200LP

 場:なし

 手札4枚
--------------------------------------------------
 不良:8000LP

 場:F・G・D(攻撃:5000)
   青眼の白龍(攻撃:3000)
   スピア・ドラゴン(守備:0)
   未来融合−フューチャー・フュージョン(永続魔法)

 手札3枚
--------------------------------------------------

「俺のターン、ドロー!」(手札4→5枚)
 引いたカードを手札に加え、考える。
 さっきのターンはなんとか凌げたが、次に同じような猛攻が来たら防ぎきれない。
 それならこっちも攻めておくべきだろう。
「手札から"六武の門"を発動する!!」


 六武の門
 【永続魔法】
 「六武衆」と名のついたモンスターが召喚・特殊召喚される度に、このカードに武士道カウンターを2つ置く。
 自分フィールド上の武士道カウンターを任意の個数取り除く事で、以下の効果を適用する。
 ●2つ:フィールド上に表側表示で存在する「六武衆」または「紫炎」と名のついた
 効果モンスター1体の攻撃力は、このターンのエンドフェイズ時まで500ポイントアップする。
 ●4つ:自分のデッキ・墓地から「六武衆」と名のついたモンスター1体を手札に加える。
 ●6つ:自分の墓地に存在する「紫炎」と名のついた効果モンスター1体を特殊召喚する。


 俺の背後に、巨大な陣が描かれた門が出現する。
 六武衆の展開力を増大させる強力なカードだ。ついこの間の制限改定で”制限カード”入りしてしまったが、それでも十分に強力なカードだ。
「行くぞ! 手札から"真六武衆−カゲキ"を召喚! その効果によって手札から"六武衆−イロウ"を特殊召喚だ!」
 

 真六武衆−カゲキ 風属性/星3/攻200/守2000
 【戦士族・効果】
 このカードが召喚に成功した時、手札からレベル4以下の
 「六武衆」と名のついたモンスター1体を特殊召喚する事ができる。
 自分フィールド上に「真六武衆−カゲキ」以外の「六武衆」と名のついたモンスターが
 表側表示で存在する限り、このカードの攻撃力は1500ポイントアップする。

 六武衆−イロウ 闇属性/星4/攻1700/守1200
 【戦士族・効果】
 自分フィールド上に「六武衆−イロウ」以外の「六武衆」と名の付いたモンスターが存在する限り、
 裏側守備表示のモンスターを攻撃した場合、ダメージ計算を行わず裏側守備表示のままそのモンスター
 を破壊する。このカードが破壊される場合、代わりにこのカード以外の「六武衆」という名の付いた
 モンスターを破壊することが出来る。

 六武の門:武士道カウンター×0→2→4

「門のカウンターを4つ取り除いて、デッキから"六武衆の師範"を手札に加える! そして師範を特殊召喚!」
「またそのモンスターか……!」


 六武衆の師範 地属性/星5/攻2100/守800
 【戦士族・効果】
 自分フィールド上に「六武衆」と名のついたモンスターが表側表示で存在する場合、
 このカードは手札から特殊召喚する事ができる。
 このカードが相手のカード効果によって破壊された時、
 自分の墓地に存在する「六武衆」と名のついたモンスター1体を手札に加える。
 「六武衆の師範」は自分フィールド上に1枚しか表側表示で存在できない。

 六武の門:武士道カウンター×4→0→2

「ちぃ、さすがの展開力だな。だが並べたところで俺のドラゴン族モンスターを倒すことはできないぞ!!」
「それはどうかな?」
「なに?」
「手札から魔法カード発動だ!!」


 六武式三段衝
 【通常魔法】
 自分フィールド上に「六武衆」と名のついたモンスターが表側表示で3体以上存在する場合、
 以下の効果から1つを選択して発動する事ができる。
 ●相手フィールド上に表側表示で存在するモンスターを全て破壊する。
 ●相手フィールド上に表側表示で存在する魔法・罠カードを全て破壊する。
 ●相手フィールド上にセットされた魔法・罠カードを全て破壊する。


「こ、これは……!」
「この効果で俺は、相手の場のモンスターをすべて破壊する!!」
 場に参上した3人の武士が、それぞれの武器に力を込める。
 タイミングを合わせ、それらを一気に振り下ろすことで巨大な衝撃波が発生し、不良の場にいたドラゴン達を吹き飛ばした。

 F・G・D→破壊
 青眼の白龍→破壊
 スピア・ドラゴン→破壊

「くそっ、さっきドラゴニック・バーンを発動しておけば……!」
「おかげで助かった。バトルだ!!」
 がら空きになった不良へ向けて、武士たちは自らの刃を振るう。
 怒涛の如き斬撃が、すべて相手に直撃した。

 不良:8000→6300→4600→2500LP

「ライフが半分以上削られたか……!」
「メインフェイズ2に"一時休戦"を発動する」


 一時休戦
 【通常魔法】
 お互いに自分のデッキからカードを1枚ドローする。
 次の相手ターン終了時まで、お互いが受ける全てのダメージは0になる。

 大助:手札0→1枚
 不良:手札3→4枚

「ターンエンドだ」

--------------------------------------------------
 大助:5200LP

 場:六武衆−イロウ(攻撃:1700)
   真六武衆−カゲキ(攻撃:1700)
   六武衆の師範(攻撃:2100)
   六武の門(永続魔法:武士道カウンター×2)

 手札1枚
--------------------------------------------------
 不良:2500LP

 場:なし

 手札4枚
--------------------------------------------------

「やってくれたな中岸大助! 俺のターン、ドロー!!」(手札4→5枚)
 少し乱暴な手つきで不良はデッキからカードを引いた。
 このターン、俺は"一時休戦"の効果ですべてのダメージを受けない状態だ。
 いくら相手のデッキワンカードがダメージを倍加してこようと、そのダメージ自体が与えられなければ意味がない。
 このまま押し切ることが出来る……はずだ。
「手札から"トレード・イン"を発動! 手札の"トライホーン・ドラゴン"をコストに2枚ドローだ!」(手札5→3→5枚)


 トレード・イン
 【通常魔法】
 手札からレベル8モンスター1体を捨てて発動できる。
 デッキからカードを2枚ドローする。


「また手札交換か」
「さぁいくぜぇ! 手札から"龍の鏡"を発動する!!」
「っ!」


 龍の鏡
 【通常魔法】
 自分のフィールド上または墓地から融合モンスターカードによって決められたモンスターをゲームから除外し、
 ドラゴン族の融合モンスター1体を融合デッキから特殊召喚する。(この特殊召喚は融合召喚扱いとする)


 墓地のドラゴン族を除外して融合召喚するカードか。
 この状況で出してくるとしたら、やはり最高攻撃力の"F・G・D"か?
「俺はこの効果で、墓地の"青眼の白龍"を3体除外して、"青眼の究極竜"を特殊召喚する!!」
「なに?」
 "F・G・D"じゃなくて"青眼の究極竜"だと?
 いったいどうして?


 青眼の究極竜 光属性/星12/攻4500/守3800
 【ドラゴン族・融合】
 「青眼の白龍」+「青眼の白龍」+「青眼の白龍」


 考えているうちに、不良の場に三つ首の巨大な竜が現れた。
 その攻撃力は4500。強力なのは間違いないが……。
「見せてやるぜ! ドラゴン族最高の切り札!! 俺は"青眼の究極竜"をリリースして、"青眼の光龍"を特殊召喚する!!」
「なっ!?」
 三つ首の竜の体が、まばゆい光に包まれる。
 その聖なる光によって体が洗練され、聖なる力がその身に宿る。
 三つの首が一つに重なり、光の翼を大きく広げた光の龍が舞い降りた。


 青眼の光龍 光属性/星10/攻3000/守2500
 【ドラゴン族・効果】
 このカードは通常召喚できない。
 自分フィールド上に存在する「青眼の究極竜」1体を
 リリースした場合のみ特殊召喚する事ができる。
 このカードの攻撃力は、自分の墓地のドラゴン族モンスター1体につき300ポイントアップする。
 また、このカードを対象にする魔法・罠・モンスターの効果を無効にする事ができる。

 青眼の光龍:攻撃力3000→6000

「こ、攻撃力6000!?」
「しかも、強力な効果耐性まで……!」
 たしかにドラゴン族デッキにふさわしい切り札だ。
 召喚条件が厳しい分、場に出たときの威圧感は尋常じゃないものがある。
 さらに不良にはデッキワンカードまである。あれを使われたら"ライトニング・ボルテックス"のような効果対象をとらない魔法まで効かなくなる。
 ……いや、大丈夫だ。このターンはダメージを受けないし俺の場には3体の六武衆がいる。
 次のターンにいくらでも対応はできるはず――――
「そして手札から"闇の護封剣"を発動する!!」
「っ!」


 闇の護封剣
 【永続魔法】
 このカードの発動時に相手フィールド上に存在する全てのモンスターを裏側守備表示にする。
 また、このカードがフィールド上に存在する限り、相手フィールド上モンスターは表示形式を
 変更する事ができない。2回目の自分のスタンバイフェイズ時にこのカードを破壊する。

 六武衆−イロウ:表側攻撃表示→裏守備表示
 真六武衆−カゲキ:表側攻撃表示→裏守備表示
 六武衆の師範:表側攻撃表示→裏守備表示

「これでお前のモンスターたちは封じたぞ!!」
「くっ!」
 やられた。まさかそのカードがあったとは……。
 発動時に相手モンスターをすべて裏側守備表示にし、2ターンの間表示形式の変更を封じるカード。
 どんなモンスターも、裏側表示では効果を発動できない。さらに裏側表示ではモンスターの名前が分からないため『六武衆』として扱われないから"大将軍 紫炎"などの特殊召喚も発揮できなくなってしまった。
「そして手札から"ドラゴニック・バーン"と"レインボー・ヴェール"を発動する!!」


 ドラゴニック・バーン
 【永続魔法・デッキワン】
 ドラゴン族モンスターが15枚以上入っているデッキにのみ入れることができる。
 このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
 自分のモンスターが相手に与える戦闘ダメージは2倍になる。
 自分フィールド上のドラゴン族モンスターが守備表示モンスターを攻撃した時に
 その守備力を攻撃力が超えていれば、その数値だけ相手に戦闘ダメージを与える。
 また、自分のドラゴン族モンスターは魔法カードの効果を受けない。

 レインボー・ヴェール
 【装備魔法】
 装備モンスターが相手モンスターと戦闘を行う場合、
 バトルフェイズの間だけその相手モンスターの効果は無効化される。


 デッキワンカードによって対象を取らない魔法が、レインボー・ヴェールによってザンジのような対象を取らないモンスター効果が封じられる。
 さっきまでの優勢があっという間に覆されてしまった。
 次のターンに何とかできなければ、俺は負ける。
「これで俺の布陣は完璧だ!! 次のターン、"青眼の光龍"でトドメだ!」
「……勝手に決めつけるな……!」
 大きく息を吐き出し、そう答えた。
「ちっ、俺はターンエンドだ!!」

--------------------------------------------------
 大助:5200LP

 場:裏守備モンスター×3(表示形式変更不可)
   六武の門(永続魔法:武士道カウンター×2)

 手札1枚
--------------------------------------------------
 不良:2500LP

 場:青眼の光龍(攻撃:6000)
   闇の護封剣(永続魔法)
   ドラゴニック・バーン(永続魔法・デッキワン)
   レインボー・ヴェール(装備魔法)

 手札0枚
--------------------------------------------------

「俺のターン……!」
 デッキの上を見つめ、大きく深呼吸する。
 たしかに状況は厳しい。相手の場には攻撃力6000のモンスター。対象を取る効果は効かず、魔法もモンスター効果も通用しない。場にいる3体の六武衆もその動きが封じられている。
 だけど、今までだってたくさんの窮地を超えてきたんだ。
 これくらいの状況を覆す方法を思いつくことなんて、造作もないことだった。
「さぁ最後のドローだ! お前の切り札の将軍も、この状況では召喚することはできないはずだ!」
「ああ。そうだな」
 たしかにこの状況では"大将軍 天龍"を召喚することは難しいだろう。
 だが不良は1つ見失っていることがある。
 切り札が出せるとか、出せないとか……そういうことじゃない。俺のデッキに関する根本的なことを見失っている。
「いくぞ! ドロー!!」(手札1→2枚)
 恐る恐る確認する。
 引いたカードは、待ち望んでいたカードだった。
「手札から"紫炎の狼煙"を発動する!!」


 紫炎の狼煙
 【通常魔法】
 自分のデッキからレベル3以下の「六武衆」と名のついたモンスター1体を手札に加える。


「俺はこの効果で、デッキからレベル3以下の六武衆を手札に加える!」
「はっ! いまさらレベル3の六武衆で何が―――!?」
 俺がデッキから手札に加えたカードを確認した瞬間、不良の表情が青ざめた。
 サーチしたカードをそのままデュエルディスクに置く。
 フィールドに茶色の召喚陣が描かれて、その中から鋭い槍を携えた武士が現れた。


 六武衆−ヤリザ 地属性/星3/攻1000/守500
 【戦士族・効果】
 自分フィールド上に「六武衆−ヤリザ」以外の「六武衆」と名の付いたモンスターが存在する限り、
 このカードは相手プレイヤーに直接攻撃する事ができる。このカードが破壊される場合、
 代わりにこのカード以外の「六武衆」という名の付いたモンスターを破壊することが出来る。
 
 六武の門:武士道カウンター×2→4

「そ、それは……直接攻撃が出来る六武衆!!」
「天龍のことに気を使いすぎて忘れてるみたいだけど、俺のデッキは六武衆の多彩な効果で様々な状況に対応した戦術を展開できるのが強みだ。天龍が使えなくたって、この状況を突破することはできる!! さらに手札から"真六武衆−キザン"を特殊召喚する!!」


 真六武衆−キザン 地属性/星4/攻1800/守500
 【戦士族・効果】
 自分フィールド上に「真六武衆−キザン」以外の「六武衆」と名のついたモンスターが
 表側表示で存在する場合、このカードは手札から特殊召喚する事ができる。
 自分フィールド上にこのカード以外の「六武衆」と名のついたモンスターが表側表示で
 2体以上存在する場合、このカードの攻撃力・守備力は300ポイントアップする。

 六武の門:武士道カウンター×4→6

「場に他の六武衆がいることで、ヤリザはお前に直接攻撃できる!!」
「だ、だが俺のライフは2500だぞ。ヤリザの攻撃力は1000しか―――」
「"六武の門"の第1の効果を発動する!!」


 六武の門
 【永続魔法】
 「六武衆」と名のついたモンスターが召喚・特殊召喚される度に、このカードに武士道カウンターを2つ置く。
 自分フィールド上の武士道カウンターを任意の個数取り除く事で、以下の効果を適用する。
 ●2つ:フィールド上に表側表示で存在する「六武衆」または「紫炎」と名のついた
 効果モンスター1体の攻撃力は、このターンのエンドフェイズ時まで500ポイントアップする。

 ●4つ:自分のデッキ・墓地から「六武衆」と名のついたモンスター1体を手札に加える。
 ●6つ:自分の墓地に存在する「紫炎」と名のついた効果モンスター1体を特殊召喚する。


「カウンターを2つ取り除いて、六武衆1体の攻撃力500ポイントアップさせる! 貯まっているカウンターは6つ。2つずつ取り除いて、ヤリザの攻撃力を合計1500ポイントアップさせる!」
 背後に構えられた門に描かれた陣から、武士の持つ槍へと光が流れ込む。
 その光によって槍は鋭さを増し、それを持つ武士の体を羽のように軽くする。

 六武の門:武士道カウンター×6→4→2→0
 六武衆−ヤリザ:攻撃力1000→1500→2000→2500

「くっ、ちっくしょおおおおお!!」
「バトルだ! ヤリザで直接攻撃!!」
 場に君臨する光龍をすり抜けて、神速の突きが不良を貫いた。


 不良:2500→0LP




 相手のライフが0になる。





 そして決闘は、終了した。







 決闘が終了し、デュエルディスクとデッキをしまう。
 数メートル先では、不良が悔しさに身を震わせていた。
「さ、さすがだぜ中岸大助……俺の完敗だ」
「いや、一歩間違えれば俺の負けだったと思うけど……」
「はぁ……とにかく俺の負けだ。楽しい決闘だったぜ!」
「はい。その、ありがとうございました。就職しても頑張ってください」
 不良はグッと親指を立てると、どこかへ走り去って行ってしまった。
 なんだかんだで知り合いだった人が新学期にはいなくなってしまうのかと思うと少し寂しい気がする。
 海山会長も大学へ進学するらしいし、上級生がいなくなる分、俺達がしっかりしないといけないのかもしれない。
「あ、そういえば……」
 ふと思い出す。
 あの不良の名前。1度も聞いたことなかったな。
 まぁ……いいか。


「ごめんな香奈。待たせちゃって」
「別にいいわよ。ほら、さっさとデートに行くわよ♪」
 そう言って香奈が俺の手を握る。
 以前に比べたら、手を握ることにだいぶ抵抗を感じなくなったような気がする。
 もちろん学校内ではそういうことをしないようにと香奈に釘を刺されているが。
「今日はあんまり手持ちがないぞ?」
「あんたねぇ。さすがに毎回奢らせるほどひどい性格してないわよ」
「そうか。ありがとな助かる」
 決闘する前の不安の表情が嘘のように、いつもの笑顔を見せる香奈を見て安心する。
 アダムの事を気にしない訳にはいかないけれど、少なくとも今はデートを楽しむことにしよう。
「ほら、いくわよ」
 香奈に引っ張られながら、俺達はデパートへ向かって歩き出した。




episode2――配られた招待状(2)――

「ただいま〜♪」
 春が近づき、だんだん日も長くなってきた夕方。
 鳳蓮寺(ほうれんじ)琴葉(ことは)は元気な声で自身の帰りを告げた。
「「お邪魔します」」
 その隣には、九宝院(くほういん)華恋(かれん)と西園寺(さいおんじ)ヒカルがいる。
 学校での終業式が終わり、明日から春休みと言うことでさっそく琴葉の家でお泊り会ということになったのだ。
 2人とも自分の着替えなどの宿泊用の荷物を持っている。
 どこか落ち着かない様子の華恋にたいして、ヒカルは目を輝かせながら辺りを見回している。
「す、すごい豪邸ですね……!」
「ホンマ凄いなぁ。いや、話には聞いていたけどまさかここまでとは……」
「えへへ、ありがとう。じゃあお部屋に行く前にみんなに挨拶していこう」
「そうですね」
「ほな改めて、お邪魔します」
 リビングにいる吉野(よしの)、武田(たけだ)、咲音(さきね)に3人は挨拶を済ませる。
 普段から家の中にいる3人だが、珍しく全員が揃って相談事をしていた。
「どうしたのママ?」
「あら琴葉。おかえり。九宝院さんも西園寺さんもいらっしゃい」
「「お邪魔しています」」
「ねぇねぇママ。どうしたの?」
「あらあら……ちょっとね……」
「うん?」
 珍しく言い淀む母親を見て、琴葉は首を傾げている。
 吉野も武田も、頭を悩ませているようだった。
 3人が囲むテーブルの中央には、A4サイズの紙が置いてある。
「何が書いてあるの?」
 気になって手を伸ばそうとすると、それよりも先に吉野が紙を取り上げてしまった。
「あ!」
「駄目ですよお嬢様。今は大人同士の大事な話し合いなのです。それにご友人を放っておくのは感心しませんよ?」
「……分かった……」
 しぶしぶ納得し、琴葉は華恋とヒカルの手を引いて部屋に行くことにした。






 部屋に行き、用意していた遊び道具で遊び始める。
「いやぁ、琴葉ちゃんのお母さん、最初見たときにも思ったけどホンマに美人さんやなぁ」
「吉野さんは格好いいですし、武田さんも渋くていいですよね」
「なんやぁ華恋? もしかして年上の人が好みなんかぁ?」
「違います! 私はただ率直な感想を言っただけです!」
 からかうヒカルに対して、華恋は顔を赤くしてそう言った。
 初めて出会った時から、琴葉はこの2人とさらに深い仲になっていた。
 友達以上……つまり、親友と呼べるほどの存在になっていた。
 クラスのみんなとも親しくなり、学校の行事や世間の常識についても少しずつ学んでいる。
 ただ1つ、咲音からの言いつけで鳳蓮寺の能力……見たものの本質を見極める力については絶対に秘密にするようにと言われている。理由は分からなかったが、琴葉は二つ返事で了解した。
「どうしたん琴葉ちゃん?」
「え? ううん、なんでもないよ?」
「ははーん、さてはさっきの大人の相談が気になっているんやなぁ? 分かる。分かるよ琴葉ちゃん。なんだか自分だけ仲間外れにされている感じするもんなぁ」
「そうなんだ。みんな、わたしがまだ子供だからってお話しに入れてくれないことがあるんだもん」
 琴葉はそうぼやくが、真実は少し違う。
 吉野も武田も、もちろん咲音も琴葉が子供だからという理由だけで話に入れないわけでは無い。
 琴葉が大切な存在であるからこそ、知って欲しくないこと……例えば闇の組織に関する情報を伝えたくないのだ。
 『親の心子知らず』とはまさにこのことだろう。
「そういえば琴葉ちゃんのお父さんはお仕事なにしてるん?」
「うーん、わたしもあんまり分からないんだ。海外でお仕事してるのは知っているんだけどね」
 首を傾げながら琴葉は答える。
 自分の父親に関しての記憶は、あんまりない。
 物心がつく前に仕事に行ったきり戻ってきていないというのもあるが、母親である咲音が父親に関することをあまり語ってくれないというのもある。
「そうなんかぁ。いくらこんな豪華な屋敷があっても、家族が揃っていないんじゃ寂しいなぁ」
「そうですね。春休みですし、お父さんも帰ってこれたらいいんですけどね……」
「えへへ、そうだね。でもわたしには武田や吉野もいるから大丈夫だよ♪」
 笑顔を見せる琴葉に、華恋とヒカルも笑みを返す。
 

 コンコン


 部屋のドアがノックされた。
「あっ、武田だ♪」
「失礼しますお嬢様」
 琴葉の言ったとおり、武田が入ってきた。
 部屋のドアをノックしたときの音で、家の誰が入ってくるのか判断できる。
 牙炎の事件で幽体離脱をしていた際に、あまりに暇だったために身に着けた特技のようなものだった。
「もしよろしければ、紅茶とお菓子はいかがですか?」
「うん、ありがとう! 武田も一緒に食べようよ? 華恋ちゃんもヒカルちゃんもいいでしょ?」
「うちはかまへんよ?」
「わ、私も、大丈夫です……」
「おやおやぁ? やっぱり華恋は武田さんみたいなシブーイ人が好みなんかぁ?」
「ち、違います!!」
 楽しそうに会話する3人組を見ながら、武田は静かに笑みを浮かべる。
 吉野からお嬢様の注意を逸らすように言われてここまでやってきたのだが、それをする必要すらなかったらしい。
「それでは自分もご一緒させていただきます」
 武田はそう言って、”4人分の”紅茶とお菓子を机に置いた。


 少しの間、武田は小学生組の談笑に付き合う。
 自分が見る限り、咲音や吉野が心配しているようなことにはならなそうだと思った。
「そういえば武田。さっきみんなで話していたことはなんだったの?」
「……残念ですがお嬢様。それは咲音様から固く口止めされているのでお答えできません」
「えぇ〜、武田まで秘密にするの?」
「駄々をこねても駄目なものは駄目です」
「武田のケチ」
「ケチで結構です。咲音様から許可がいただけるまで、お話しすることはできません」
 断固として口を割らない武田に対して、琴葉は大きく頬を膨らませた。
 


 コンコン



 不意にドアがノックされた。
「……?」
 聞き覚えの無いノックの音に、琴葉は首を傾げる。
 誰か外からお客さんが来たのかもしれないと思い、席を立とうとした武田よりも先にドアのほうへ駆け寄った。
「はーい、どなたですか?」
 ドアを開いた瞬間、目の前に男性が1人立っていた。
 青色のスーツに身を包み、短い黒髪に少しふっくらした体格。
 その両目はなぜか閉じていて、右手には松葉杖のようなものを持っている。
「ん? もしかしてこの”声”は……」
 気配を感じたのか、その男は間近にいる琴葉の頭に触れた。
 咲音と同じで、温かくてどこか安心する手だった。
「おお、やっぱり琴葉か! 大きくなったなぁ」
 男は感動を覚えながら、琴葉の髪、頬、鼻、顎、首、肩と順になぞるように触れていく。
 普段ではあまりされない触れ方に、琴葉はどこかくすぐったさを感じる。
「もしかして……パ―――!」

「お嬢様!」

 武田の怒号が響いた。
 琴葉に触れていたその腕を掴みとり、一気にねじりあげる。
 そのまま体を力任せに床へ叩き伏せる。
「いたたたたたたたたた!!!!」
「貴様、何者だ!? 鍵のかかった玄関からどうやって入った!?」
 見知らぬ人間が琴葉に触れたことに、牙炎の時の記憶がフラッシュバックしてしまった。
 普段からは考えられないような表情で、男を捻じ伏せる武田。

「何事ですか!? 武田!」

 騒ぎを聞きつけたのか、吉野と咲音もやってきた。
 武田は男を捻じ伏せたまま、答える。
「不審者だ吉野。すぐに警察に連絡――――っ!?」
 スパーン! と小気味いい音と共に、吉野は武田の頭をひっぱたいた。
 予想していなかった反応に、武田は戸惑うばかりだ。
「あなたはいったい何をしているんですか!!」
「な、なにって、この不審者を――――」
「不審者じゃありません。この御方は、鳳蓮寺(ほうれんじ)和馬(かずま)。咲音の夫……つまり琴葉の父親です!!」
「なっ!?」
 予想もしていなかった言葉を受けて、武田はその場から飛び退くように退いた。
 叩き伏せられていた和馬は呻きながら、手探りで自分の持っていた杖を探す。
「パパ……大丈夫?」
 そう言って琴葉が和馬に杖を差し出した。
 和馬は無理やり笑顔を作って、その杖を優しく受け取った。
「あ、あぁ、大丈夫だよ」
「も、申し訳ありません! この家の人間だとは知らず、とんだご無礼を……!」
「いやいや、何の連絡もなしに帰ってきた僕も悪いし、琴葉を守ってくれる優秀な執事さんがいてくれることが分かったから十分だよ」
 そう言って和馬は立ち上がる。
 琴葉は和馬の足に抱き着き、満面の笑みを浮かべた。
「えへへ、久しぶりだねパパ♪ あ、華恋ちゃん、ヒカルちゃん、紹介するね。この人がわたしのパパだよ♪」
「は、初めまして。九宝院華恋です」
「はじめまして。西園寺ヒカルです」
「はじめまして。琴葉の父親の鳳蓮寺和馬です。2人とも、琴葉のお友達かな?」
「なはは、友達なんてレベルやあらへんよ。うちら3人は親友やからな♪」
「そうか。ちょっとこっちに来てくれるかい?」
「ん?」
 和馬は華恋とヒカルを呼びつけて近くに立たせる。
「ちょっとごめんね」 
 そう言って和馬は琴葉にした時と同じように、華恋の頭、頬、鼻、顎、首、肩となぞるように触れていった。
 ヒカルの時も同じように触れる。華恋もヒカルも、不思議と嫌な感じはしなかった。
「な、なんかくすぐったかったですね」
「そうやなぁ」
「うん。2人とも顔は覚えた。これからも琴葉と仲良くしてくれるかい?」
「はい」
「もちろんや!」




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 琴葉たちを部屋に戻した後、和馬は吉野や咲音、武田と共にリビングのソファに腰かけていた。
 用意された紅茶に手をかけて一口飲む。
「うん、美味しいね。吉野さんは紅茶を淹れるのが上手だ」
「お褒めにあずかり光栄です旦那様。それにしても、奥様にご連絡も無しに突然帰ってこられたのはどうしてでしょうか?」
「ああ。それについては謝るよ。仕事……というか僕は何にもしていないに等しいけれど、それが終わってね。久しぶりに帰ろうと思ったんだけど驚かせたくて秘密裏に帰ろうと思ったんだ。おかげで手痛い歓迎を受けてしまったけどね」
「も、申し訳ありません……」
「いやいや、謝らないでください武田さん。琴葉を守ろうと思ってやったことなんだ仕方ない。咲音も、本当にいい人を雇ったんだね」
「和馬さん、”雇った”んじゃなくて、一緒に暮らしているだけです」
 咲音はただ静かに、そう言った。
 和馬は笑みを絶やさぬまま、首を縦に振る。
「ごめんね咲音。急に帰ってきて怒っているんだろうけど、許してくれよ」
「怒るのも当然です。御付の方もいないのに1人で帰ってきて……事故にでもあったらどうするつもりだったんですか」
「でもこうして無事に家に着いたからいいじゃないか。やっぱり住み慣れた町なら1人でも大丈夫だ」
「それでも……心配です。だって、和馬さん……”目が見えない”のに……」
「心配してくれてありがとう。僕は大丈夫。咲音や琴葉を泣かせるようなことをするつもりはないよ。だから、許してくれないか?」
「……分かりました。この件については許してあげます」
「あれ? まだ他の件について怒ってる?」
「それはもちろん………3年間も家を放ったらかしにして酷いです……」
「咲音だって1〜2年くらい家を空けていたじゃないか」
「それは……和馬さんが手伝ってほしいって言うから……!」
「うん。そうだったね。ごめんよ。咲音にも琴葉にも、寂しい思いをさせてしまったみたいだね。しばらくは家にいるつもりだから機嫌を直してほしいな」
「…………」
 子供のように頬を膨らませる咲音を見て、吉野は心の中で溜息をついた。
 せっかく夫との再会なのに、目の前にいる親友はどうしてこうも素直になれないのだろうか……。
(まったく、仕方ありませんね……)
 吉野はもう1度、心の中で溜息をつくと呑み終わった紅茶のカップを下げながらこう告げた。
「奥様、旦那様、私達はお嬢様とそのご友人のお相手をしてまいりますので、何か御用があればお呼びつけください」
「え? 吉野?」
「咲音。せっかくの再会なのです。親友としてここは空気を読ませていただきますよ」
「………あ、あの、ありがとう……」
「どういたしまして。さぁ武田行きますよ」




 2人っきりになったリビングで、咲音は張りつめていた気を解くように息を吐いた。
「和馬さん。お帰りなさい」
 それは鳳蓮寺家の当主としてではなく、1人の妻としての優しい笑顔だった。
 その空気を感じ取り、和馬は笑みを浮かべる。
「咲音。隣に行ってもいいかい?」
「はい。あ、和馬さんはそのままで……」
 ソファを立とうとした和馬より先に、咲音は立ち上がってその隣まで移動する。
 夫の肩にもたれかかるようにしながら、そのぬくもりを感じ取る。
「僕が家にいないうちに、咲音もずいぶん変わったね」
「……私だけじゃありません。琴葉も、友達ができました」
「僕が、琴葉を学校には行かせないようにって言ったのは、やっぱり過保護だったのかな?」
「分かりません。でも、今の琴葉を見ていると、そう思ってしまうのも無理が無いと思います」
「ちゃんと教えることが出来ているんだね」
「これからですよ……本当に大変な時期は……」
「そっか。大丈夫、咲音なら出来るよ。吉野さんも武田さんもいることだしね」
 咲音の髪を撫でながら、和馬はそう言った。
 そんなに長い期間、離ればなれになっていたわけでは無いのに彼女の事をとても愛おしく感じた。
「和馬さん、実は私、友達が2人も出来たの」
「吉野さんと武田さんかい?」
「武田は……その、まだ完全に友達と言うわけでは無いのだけれど……吉野はそう。私にとって”初めての友達”……あとは薫さんって人も友達になってくれたの」
「2人ともいい人かい?」
「ええ。吉野はね、何でも出来るんだけど、たまに不器用なところがあってね……特に琴葉の事になると和馬さん以上に過保護なの……薫さんはスターっていう組織のリーダーなんだけど、誰にでも優しくてね、ぬいぐるみが大好きなの。あと甘いものも好きなの。とても純粋で、だからこそ強くて……」
 楽しそうに語る咲音の声の調子から、和馬は彼女の嬉しそうな顔を想像する。
 とても出会ったころからは、考えられない変化だった。
 出会ったころの彼女の心は固く閉ざされていた。
 それが少しずつ、他人へ心を開いていっていることは、良い変化だと思った。
「和馬さん、その……少しだけ、甘えてもいいですか?」
「断る理由が無いよ。ただ、他の人には見られないように、少しだけだよ?」
「はい」
 咲音は和馬の手を取り、少しの間だけ体を寄り添わせた。



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 吉野と武田は宣言通り、小学生組の相手をしていた。
 相手と言っても、3人で仲良く遊ぶのを見守りながら用意した紅茶を飲みながら椅子に座っているだけである。
「まったく、咲音の夫に暴力を振るうなんて信じられませんね」
「知らなかったのだ。吉野は、和馬さんとは会ったことがあったのか?」
「いいえ。写真を見せてもらっていたので顔は知っていましたし、咲音から色々と聞いてはいましたが実際に会うのは初めてでしたね」
「彼は……その、目が……」
「ええ。和馬さんは盲目です。先天性のものじゃなくて幼い頃の事故で視力を失ってしまったそうです。和馬さんの実家も有名な家だったはずですし、色々と大変だったのではないでしょうか」
「……その、なぜ咲音様は彼と結婚する気になったのだ? たしか、家族の事を見向きもしないことを分かって結婚したと聞いていたが……?」
「あぁ、それは私も勘違いしていました。見向きもしないのではなく、見向きも出来ないんです。目が見えませんからね。咲音からしてみれば、言葉のアヤというものなのでしょう。どうして2人が結婚することになったのかは、私も詳しくは知りません。ただ、咲音の心を最初に開いたのは和馬さんだということは確かです」
「心を……開く?」
 意味深な発言に、武田は首を傾げる。
 彼女の普段の雰囲気や言動からは、とても想像できない言葉だったからだ。
「咲音は、私と出会う以前……もっと言えば、和馬さんと出会うよりも以前は他人にまったく心を開かない人間だったそうです。鳳蓮寺の能力に向き合えず、誰にも自身を理解してもらえない……そんな孤独の中をずっと過ごしてきたと聞いています。咲音が世間知らずなのは、そういった過去の余韻のとも言えるでしょうか……」
「そう……なのか……」
 初めて聞く彼女のことに、武田は顔を曇らせた。
 目の前にいる吉野も、孤独な日常を過ごしていたと聞いている。
 似た境遇同士、何か惹かれるものがあったのかもしれない。
 それに対して自分はどうなのだろうか。本当の意味で、この鳳蓮寺の家に仕える資格があるのだろうか?
 そんなくだらない思考が、どうしても出てきてしまった。
「武田。余計なことは考えないでください」
「…………」
 見透かしたかのように、吉野はそう言った。
「私が私にしかできないことがあるように、あなたにはあなたにしかできないことがあります。資格があるかどうか、何ができるのかは分かりません。ですが、琴葉が認め、咲音がここにいることを許している以上。あなたは家族の一員です。堂々と胸を張って仕えなさい」
「………そうだな。そうさせてもらおう」
 武田は席を立ち、自分と吉野の紅茶のおかわりを注いだ。
「なぁ吉野」
「なんですか?」
「招待状の件だが、私はお嬢様を含めて参加してもいいと考えている」
「……なぜ?」
「あの招待状に書いてあることが本当ならば、最後の戦いが近いということなのだろう。だから、万が一のことがあるかもしれない。お嬢様は薫さんや朝山香奈にとても懐いている。だから……」
「最後の思い出に、とでも言うつもりですか? 縁起でもありません」
「違う。人は守るべき存在がいれば強くなれる。お嬢様がいて、私達が手助けすれば、色々と力になれるのではないだろうか?」
「それは……一理あるかもしれませんが……」
「詳しい事情は秘密にすればいい。お嬢様にとっては、ただのお泊り会のようなものなのだから」
 淹れられた紅茶を一口飲み、吉野は考える。
 武田の言うことはもっともだ。少しでも力になってあげられるのならば、なってやりたい。
 だがそれは同時に琴葉へ”真実”を告げてしまうことにもなりかねない。
 もし悪い影響を及ぼしたら……そう考えると、どうしても踏ん切りがつかなかった。
「最終決定は、咲音に任せましょう。武田の意見は伝えておきます」
「ああ、そうだな」
 武田は紅茶を一口飲み、菓子を口に運ぶ。
 その視線の先には、小学生3人が仲良くじゃれあっている姿があった。

(この光景を、守らならければならないな……)

 心に確かな決意をし、自身の右手を握りしめる。
 牙炎の時のようなことには絶対にさせない。あの純粋な笑顔を今度こそ、守りきってみせる。
「武田。そろそろ戻りましょう」
「ああ」
 席を立ち、2人は食器を片づける。
 部屋の掃除に夕飯の準備もあるからだ。





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 その日の夜、鳳蓮寺の家で豪華な夕食をご馳走になった華恋とヒカルは、家から持ってきたパジャマに着替えていた。
 髪をドライヤーで乾かし、スリッパを履いて寝室へ向かう。
「いやぁ琴葉ちゃんの家のお風呂はホンマに大きかったなぁ」
「そうですね。3人でも全然余裕がありました」
「えへへ。いつもはママや吉野と一緒に入ってるんだ♪」
「そうなんか。武田さんはじゃあいつも1人で入ってるんかな?」
「うん。武田も一緒に入ればいいのに……ママも吉野も『それは駄目』って言うんだ。なんでだろうね?」
「琴葉さん。さすがにそれは私も駄目だと思います……」
「え?」
 首を傾げる琴葉に、華恋とヒカルは苦笑いするしかなかった。



 寝室につき、大きなベッドの上で川の字になって横になる。
 枕元の電気を消して薄暗くなった部屋で、3人は会話を始めた。
「こんな大きなベッドで寝るのは初めてやな」
「それにフカフカですし、なんだか高級なホテルに来たみたいで緊張しちゃいます」
「ありがとう♪ 今度は華恋ちゃんやヒカルちゃんの家に泊まりに行ってもいい?」
「もちろんや。あ、でも家はここみたいに広くないで?」
「そんなの気にしないよ。わたしはみんなと一緒なら楽しいもん」
「なはは。嬉しいなぁ。そんじゃ今度頼んでみるわ。華恋もええやろ?」
「……は、はい。お母さんに………頼んで……みます……ぅん」
 うとうとする華恋の顔を見ながら、琴葉とヒカルは微笑む。
 時間は午後10時を回っている。普段ならもう眠っている時間なのだろう。
「華恋も眠そうみたいやし、うちらもお休みしよか?」
「うん。そうだね」
 毛布をかぶり、目を閉じる。
 友達との初めてのお泊り会。一緒に遊んだり、お風呂に入ったり楽しいことばかりだった。
(香奈おねぇちゃんに教えたら、喜んでくれるかな?)
 ふと、そんなことを思う。
 あの霊使い喫茶で会ってから、香奈には会っていない。
 こんなことなら、彼女の家の場所を聞いておくんだったと少しだけ後悔した。
「会いたいなぁ………おねぇ………ちゃん……」
 瞼が重くなってくる。
 大好きなおねぇちゃんの笑顔を思い浮かべながら、琴葉は静かに眠りについた。



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 それは夢だった。
 なぜかは分からないが、確実に夢だと分かる夢。

 真っ暗な世界の真ん中で、人影があった。
 なぜか自分もその場にいて、その場の様子を見守っている。

 あはは♪ という不気味で無邪気な声が聞こえた。

 途端に辺りを漆黒の槍が埋め尽くし、一斉に降り注ぐ。
 その場にいた一つの影が、自分に覆いかぶさるように地面に倒れた。

 覆いかぶさる人影は降り注ぐ漆黒の槍をその身に受ける。
 その影が守ってくれたおかげで、自分には傷一つない。

「ごめんね。約束、守れなくて……。せめて、あなただけでも、生き……て……」

 自分を守ってくれた人の顔はよく見えなかった。
 その人の胸には、小さく輝く何かが見えた。


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 ピピピピピピピピピ……!

 目覚ましが枕元で鳴る。
 胸に残る嫌な感じを抱えながら、琴葉は目を覚ました。
「うん……あれ、何の夢、見てたんだっけ……?」
 そう言って上半身を起こそうとしたが、動けなかった。
 よく見ると、自分の右腕を華恋が、左腕をヒカルががっちり掴んでいた。
「あ、あれ?」
 予想していなかった事態になぜか困惑してしまう。
 枕元で鳴っている目覚ましは、まだかまだかと急かすように鳴り続けている。
「あわわわわわわ、華恋ちゃんにヒカルちゃん、起きてー!」
「むにゃむにゃ……たこ焼き……お好み焼き……」
「………ヒカル…………ダイヤの5……止めないで……」
 一向に起きる気配が無い2人は、琴葉の腕を抱きしめて離さない。
 それはそれで嬉しいことなのだが、今回は場所が悪かった。
 この家は自分の家。目覚ましが”鳴り続けている”ということが、かなりまずい。
 普段から吉野に日常生活の事はきちんとやるようにと言われている。特に、朝の時間はしっかり起きるように言われているのだ。
 以前、誤って寝坊してしまったときは吉野に説教を喰らってしまったのだ。
 いつもは優しい彼女だが、こういうときにはママですら敵わない。

 ガチャリ

 ドアが開く音がした。
 間違いない。吉野である。
「おはようございますお嬢様」
「お、おはよう吉野。わ、わたしはちゃんと起きてたよ?」
「はい。そのようですね。ご友人はまだ眠られていますか」
「う、うん! だから、その、お説教はやめてほしいかなぁ……」
 視線を泳がしながら懇願する琴葉に、吉野は静かに息を吐いた。
「こういう時くらいは私も怒りませんよ。それよりも御仕度を。奥様からお話があるそうです」
「ママから? どんなこと?」
「詳しくは私も言えません。とにかくご友人を起こして、大広間までお越しください」
 それだけ告げて、吉野は部屋を出て行った。
 普段ではあまり見られない彼女の態度に疑問を抱きつつ、両脇で眠る2人を起こすことにした。





 2人を起こし、身支度を整えて、琴葉と華恋とヒカルは3人で大広間に向かった。
 そこには咲音、吉野、武田、そして和馬の姿があった。
 全員が自分たちを待っていたかのようだった。
「ママ? 何かあったの?」
「ううん。たいした用事じゃないのよ琴葉」
「……ママ、嘘ついてる」
「あらあら、ごめんなさいね。実はね、吉野と武田が1週間くらい旅行に行くことになったの」
「えぇ!?」
「それでね。その旅行には薫さんや、たぶん香奈さんも行くの」
「おねぇちゃんも来るの!? わたしも行きたい!」
「そう言うと思いました。そこで、ママから琴葉に試練を与えようと思います」
「試練……?」
「うん。吉野か武田、そのどちらかに勝てたら一緒に行くことを許してあげる」
 少しだけ意地悪く笑う咲音に対して、琴葉は大きく頬を膨らませた。
 実は琴葉は今まで、武田にも吉野にも一度たりとも勝てたことが無い。
 ドラグーンとペガサスが使えればまだなんとかなるかもしれないが、咲音に許しを貰わないとそれらは使えないからだ。
「ママ、わたし、どっちにも勝ったことないよ?」
「だからこそ試練になるのよ琴葉。お友達と協力してもいいわ」
「ホント!?」
 その言葉を聞いて琴葉の目が光を取り戻す。
 学校生活において、華恋とヒカルの決闘の腕が高いことは分かっている。
 自分一人だけじゃどうしようもない実力差があっても、3人一緒ならなんとかなるような気がした。
「華恋ちゃん、ヒカルちゃん、一緒に決闘しよう?」
「うーん、なんかよく分からへんけど、大人の人と決闘できるならうちも付き合うよ?」
「執事さんは強いって聞いていますし、私もやってみたいです!」
「決まりだね♪」
 2人の了承を得た琴葉は、咲音に意志を伝える。
 その言葉を受けて、武田と吉野はデュエルディスクを装着して前に出た。
「それで、どちらと戦いますかお嬢様?」
「もちろん、武田と戦う!!」
 それだけは最初から決めていたことだった。
 何度も戦ったことがあるため、執事二人のデッキ内容は分かっている。吉野のエクゾディアデッキだと、エクゾディアを揃えられて3人同時に敗北してしまいかねない。
 武田の守備デッキなら、3人がかりでなんとか突破できると思った。なにより、武田なら少しだけ手加減してくれると思ったからだ。
「私でいいのですかお嬢様?」
「うん!」
「分かりました。では3人まとめてお相手しましょう。ルールは遊戯王本社が定めた3対1ルールで構いませんね?」
「いいよ」


 遊戯王本社が定めたルールの中に3対1で行う変則決闘のルールがある。
 1人側のプレイヤーのライフポイントは12000ポイントで始まり、他3人のライフは4000ポイントでスタートする。
 先攻が1人側。それ以降はA→B→C→D→A…の順番で行い、攻撃が可能となるのは後攻プレイヤーからである。
 フィールドはそれぞれのプレイヤーが1つずつもち、常にプレイヤー全てのフィールドが存在し、対象にする事が可能。
 墓地や除外されているカード、エクストラデッキもそれぞれのプレイヤーのものとして扱う。
 プレイヤー同士では手札や伏せカードを見せあい相談することは不可能だが、伏せカードなどの相手のターンに使用できるカードは全プレイヤーのターンで全プレイヤーが使用可能である。
 特殊勝利が成立した場合、ボスに4000のダメージを与え、特殊勝利を決めたプレイヤーはゲームから脱落するものとする。
 3人側を全員脱落させれば1人側の勝利。1人側を倒せば3人側の勝利である。
 特別ルールとして、1人側はドローフェイズに行えるドロー回数が3回。通常召喚権も3回使えるものとする。
 それぞれのカードの処理については、本社が定めた裁定に従う。


 学校で習ったことを頭の中で反復しつつ、小学生3人はデュエルディスクを構えた。
 大人たちが見守る中で、4人は声を合わせて、叫んだ。



「「「「決闘!!」」」」



 武田:12000LP 華恋:4000LP ヒカル:4000LP 琴葉:4000LP



 決闘が、始まった。


 先攻は当然、武田からだ。

「私のターン、ドロー」(手札5→8枚)
 1人側のプレイヤーであるため、武田はデッキからカードを3枚ドローする。
 手札を見つめ、手慣れた手つきでデュエルディスクの青いボタンを押した。
「私はデッキワンサーチシステムを使います」
 武田のデッキから自動的にカードが選び出されて、その手札に加わる。(手札8→9枚)
 3対1のルールにおいて、1人側のプレイヤーがデッキワンサーチを行った場合、3人側全員がカードを1枚ドロー出来る。
 そのルールによって琴葉たちはデッキからカードを引いた。

 琴葉:手札5→6枚
 華恋:手札5→6枚
 ヒカル:手札5→6枚

「通常召喚権を2回使って、モンスターを2体セット。カードを4枚伏せてターンエンドです」


 ターンが移行し、次は華恋のターンになった。
「私のターンです! ドロー!」(手札6→7枚)
 7枚になった手札を見つめ、考える。
 相手は最初のターンからデッキワンサーチをしてきた。ということは、あの場に伏せられているカードの中にデッキワンカードがある可能性が高い……といっても、相手のデッキが分からない以上、どのような手を打てばいいか分からない。
 琴葉から相手が強いという話は聞いていたが、その詳しいデッキ内容までは聞いていなかった。
 少しだけ、そのことを後悔する。
 だけど今は悔やんでいても仕方がない。この決闘は3対1。どう考えてもこっち側が有利のはずだ。
 それなら積極的に攻めるべきだ。
「相手の場にだけモンスターがいるため、手札から"BF−暁のシロッコ"を召喚します!」


 BF−暁のシロッコ 闇属性/星5/攻2000/守900
 【鳥獣族・効果】
 相手フィールド上にモンスターが存在し、自分フィールド上にモンスターが存在しない場合、
 このカードはリリースなしで通常召喚する事ができる。
 1ターンに1度、自分フィールド上に表側表示で存在する
 「BF」と名のついたモンスター1体を選択して発動する。
 選択したモンスターの攻撃力は、そのモンスター以外のフィールド上に表側表示で存在する
 「BF」と名のついたモンスターの攻撃力の合計分アップする。
 この効果を発動するターン、選択したモンスター以外のモンスターは攻撃する事ができない。


 華恋が使うデッキは【BF】デッキ。BFと名のついた鳥獣族モンスターを使う展開力に優れたデッキだ。闇属性でもあるためサポートカードも多く、多くのユーザーが使う人気の高いデッキでもある。
「さらに場にBFがいることで、手札から"BF−黒槍のブラスト"と"BF−疾風のゲイル"を特殊召喚します!」


 BF−黒槍のブラスト 闇属性/星4/攻1700/守800
 【鳥獣族・効果】
 自分フィールド上に「BF−黒槍のブラスト」以外の「BF」と名のついた
 モンスターが存在する場合、このカードは手札から特殊召喚する事ができる。
 このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、その守備力を攻撃力が超えていれば、
 その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。

 BF−疾風のゲイル 闇属性/星3/攻1300/守400
 【鳥獣族・チューナー】
 自分フィールド上に「BF−疾風のゲイル」以外の「BF」と名のついた
 モンスターが存在する場合、このカードは手札から特殊召喚する事ができる。
 1ターンに1度、相手モンスター1体の攻撃力・守備力を半分にする事ができる。


 一気に3体ものモンスターが展開される。その展開力に、武田も吉野も少し感心した。
「シロッコの効果発動! ブラストにすべてのBFの攻撃力を集中させます!」
 場にいるモンスターの攻撃力の合計は5000もある。加えてブラストは貫通効果を持っている。
 その攻撃が通れば、一気に大ダメージを与えることが出来ると考えた。
「それは通せないな。伏せカード"ブレイクスルー・スキル"を発動。シロッコの効果を無効にしよう」


 ブレイクスルー・スキル
 【通常罠】
 相手フィールド上の効果モンスター1体を選択して発動できる。
 選択した相手モンスターの効果をターン終了時まで無効にする。
 また、墓地のこのカードをゲームから除外する事で、
 相手フィールド上の効果モンスター1体を選択し、その効果をターン終了時まで無効にする。
 この効果はこのカードが墓地へ送られたターンには発動できず、自分のターンにのみ発動できる。


 黒翼を持ったモンスターが武田の場から放たれた光の輪に囚われる。
 その輪の効力によって、シロッコは効果を封じられてしまった。
「っ、まだです! バトルフェイズ! ブラストで右側のモンスターへ攻撃します!!」
「攻撃宣言時に、伏せカードを発動しよう」
 静かに発動を宣言する武田。
 開かれたカードは―――


 金剛石の採掘場
 【永続罠・デッキワン】
 岩石族モンスターが15枚以上入っているデッキにのみ入れることが出来る。
 自分フィールド上に表側表示で存在する守備表示モンスターの守備力は倍になる。
 また自分のモンスターが反転召喚に成功したとき、相手に700ポイントのダメージを与える。
 自分の場に岩石族モンスターが表側表示で存在する限り、このカードは破壊されない。
 また1ターンに1度、デッキから岩石族モンスター1体を墓地に送ることが出来る。


「守備力を倍加させるデッキワンカード……?」
「なるほどなぁ。武田さんは岩石族デッキかぁ」
「っ!」
 学校ではあまり見ることのできないデッキに興味を抱く2人とは裏腹に、琴葉は危機感を感じていた。
 3対1の決闘では相談することができない。それゆえに今のターン、華恋に言うことが出来なかった。
 ”武田に対して、生半可な攻撃をしては命取り”だということを。
「さて、君が攻撃したモンスターだが……」
 ブラストが攻撃を仕掛けたモンスターが、裏側表示から表側表示になる。
 それは……


 アステカの石像 地属性/星4/攻300/守2000
 【岩石族・効果】
 このモンスターを攻撃した時に相手プレイヤーがダメージを受ける場合、
 その数値は倍になる。

 アステカの石像:守備力2000→4000("金剛石の採掘場"の効果)

「あっ!」
「ブラストの攻撃力は1700でアステカの守備力は4000。その差は2300ポイントだが、"アステカの石像"の効果によって反射ダメージは倍になる。つまり、4600ポイントのダメージだ!」
 このダメージをまともに受ければ、4000しかない華恋のライフは0になる。
 武田の絶対的な守備力を誇るデッキに対して、中途半端な攻撃は逆に命取りになってしまうのだ。
「華恋ちゃん!!」
「だ、大丈夫です! ダメージステップに手札から"BF−月影のカルート"の効果を発動します!!」


 BF−月影のカルート 闇属性/星3/攻1400/守1000
 【鳥獣族・効果】
 自分フィールド上に表側表示で存在する「BF」と名のついたモンスターが
 戦闘を行うダメージステップ時にこのカードを手札から墓地へ送る事で、
 そのモンスターの攻撃力はこのターンのエンドフェイズ時まで1400ポイントアップする。

 BF−黒槍のブラスト:攻撃力1700→3100
 華恋:4000→2200LP

 仲間の力を得たブラストが、堅い守備を誇るモンスターへ攻撃する。
 その反射ダメージが華恋に襲い掛かるが、間一髪で脱落を免れた。
「あ、危なかった……!」
「惜しい。では、どうしますか?」
「め、メインフェイズ2にゲイルの効果を発動します。アステカのステータスを半分にします!」
 華恋の場にいるモンスターが翼を動かして強烈な風を巻き起こす。
 守備態勢を取る石像は、その風によって体が削り取られてしまった。

 アステカの石像:守備力4000→2000

「カードを1枚伏せて、ターンエンドです」
 シンクロ召喚を行う選択肢もあったが、攻守を半減させることができるゲイルを場に残しておいた方がいいと判断したためシンクロ召喚を行わないことにした。

--------------------------------------------------
 武田:12000LP

 場:アステカの石像(守備:2000)
   裏守備モンスター1体
   金剛石の採掘場(永続罠・デッキワン)
   伏せカード2枚

 手札3枚
--------------------------------------------------
 華恋:2200LP

 場:BF−暁のシロッコ(攻撃:2000)
   BF−黒槍のブラスト(攻撃:1700)
   BF−疾風のゲイル(攻撃:1300)
   伏せカード1枚

 手札2枚
--------------------------------------------------
 ヒカル:4000LP

 場:なし

 手札6枚
--------------------------------------------------
 琴葉:4000LP

 場:なし

 手札6枚
--------------------------------------------------

「うちのターンや、ドロー!!」(手札6→7枚)
 ターンが移行してヒカルのターンになる。
 先ほどの華恋のターンを経て、その表情が真剣なものになっていた。
(なるほどなぁ。琴葉ちゃんの言うとおりみたいやね。あの華恋がワンキルされる寸前やったんか。こりゃあ、うちも本気でやらんと危なそうやな)
 眼鏡をかけなおしつつ、手札を見つめる。
 さっき引いたカードはデッキワンカード。そしてこの手札なら存分に戦えると思った。
「ほんならうちは永続魔法"確率変動の女神"を発動するわ!」
 ヒカルの背後に神々しい女神の映像が浮かび上がる。
 右手にサイコロ、左手にコイン、頭にルーレット盤を象ったティアラを乗せた女神の姿。
 まるですべてのギャンブルを司るような存在が、その場に現れた。


 確率変動の女神
 【永続魔法・デッキワン】
 コインまたはサイコロを使用するカードが15枚以上入っているデッキにのみ入れることが出来る。
 1ターンに1度、カード名を1つ宣言する。このターンのエンドフェイズ時まで、
 宣言したカードがコインまたはサイコロを使用する効果を発動したとき、
 そのコインの裏表、またはサイコロの目を自分の宣言したものにする。
 この効果は相手ターンのドローフェイズ時にも発動できる。
 このカードが破壊されるとき、手札を1枚捨てることでその破壊を無効にする。


「うちはこの効果で"マキシマム・シックス"を宣言! さらに手札から"二重召喚"を発動! これでうちはこのターン2回の通常召喚が出来る。手札から"時の魔術師"を召喚や!」


 二重召喚
 【通常魔法】
 このターン自分は通常召喚を2回まで行う事ができる。

 時の魔術師 光属性/星2/攻500/守400
 【魔法使い族・効果】
 1ターンに1度、自分のメインフェイズ時に発動する事ができる。
 コイントスを1回行い、裏表を当てる。
 当たった場合、相手フィールド上に存在するモンスターを全て破壊する。
 ハズレの場合、自分フィールド上に存在するモンスターを全て破壊し、
 自分は破壊したモンスターの攻撃力を合計した数値の半分のダメージを受ける。


「ほう。ギャンブルデッキですか」
「さらに"セカンド・チャンス"を発動!」
 畳み掛けるようにヒカルはカードを発動する。
 武田はそれを、ただ静かに見つめている。


 セカンド・チャンス
 【永続魔法】
 このカードがフィールド上に存在する限り、
 自分がコイントスを行う効果を1ターンに1度だけ無効にし、
 コイントスをやり直す事ができる。


「そして"時の魔術師"の効果発動や! コイントスして、表なら武田さんのカードをすべて破壊する!」
「なるほど。裏にならないように"セカンド・チャンス"で成功確率をあげるか」
 ソリッドヴィジョンによってコインの映像が映し出され、回転する。
 示されたのは、表側。
「よし、成功やな! 武田さんの場にいるモンスターをすべて破壊や!」
 時の魔術師が手に持った杖を振ると、辺りを時空の歪みが襲う。
 武田の場にいるモンスターはその時空の歪みに飲み込まれ、跡形もなく消えてしまった。

 アステカの石像→破壊
 黒曜岩竜→破壊

「そして"時の魔術師"をリリースして、"マキシマム・シックス"を召喚や!!」
 時の魔術師が光包まれ、その中から全身を強靭な筋肉に覆われたモンスターが現れた。


 マキシマム・シックス 地属性/星6/攻1900/守1600
 【戦士族・効果】
 このカードがアドバンス召喚に成功した時、サイコロを1回振る。
 このカードの攻撃力は、フィールド上に表側表示で存在する限り、
 出た目×200ポイントアップする。


「"確率変動の女神"で宣言したカードやから、召喚時に振るサイコロの目はうちが自由に決められる! 当然6や!!」
 ソリッドヴィジョンで映し出されたサイコロの目が6を示す。
 筋肉に覆われたモンスターの体が、さらに強靭なものへと変化した。

 マキシマム・シックス:攻撃力1900→3100

「さぁバトルや! 武田さんへダイレクトアタック!」
「その攻撃宣言時に伏せカードを発動しよう」
「え?」


 岩投げアタック
 【通常罠】
 自分のデッキから岩石族モンスター1体を選択して墓地へ送る。
 相手ライフに500ポイントダメージを与える。
 その後デッキをシャッフルする。


「私はこの効果で、デッキから"リバイバル・ゴーレム"を墓地へ送り、君に500のダメージだ」
 武田の場に開かれたカードから1つの岩が放たれてヒカルを襲う。
 その迫力に、ヒカルは思わずしゃがみこんでしまった。
「ひゃっ!?」

 ヒカル:4000→3500LP

「あちゃーダメージを受けてもうたか。でもこっちだって攻撃を―――っ!?」
 立ち上って再び場を見たヒカルの前には、巨大な人型の石像が立ち塞がっていた。


 リバイバルゴーレム 地属性/星4/攻100/守2100
 【岩石族・効果】
 このカードがデッキから墓地へ送られた時、
 以下の効果から1つを選択して発動する。
 「リバイバルゴーレム」の効果は1ターンに1度しか使用できない。
 ●このカードを墓地から特殊召喚する。

 ●このカードを墓地から手札に加える。


「"岩投げアタック"の効果でデッキから墓地へ送ったことでこのカードを特殊召喚した。そして"金剛石の採掘場"の効果で守備力は倍になる」

 リバイバル・ゴーレム:守備力2100→4200

「あららら……」
「新たにモンスターが場に現れたことで巻き戻しが発生しますが、どうしますか?」
「うーん、攻撃は中断や。うちはカードを2枚伏せて、ターンエンドや」

--------------------------------------------------
 武田:12000LP

 場:リバイバル・ゴーレム(守備:4200)
   金剛石の採掘場(永続罠・デッキワン)
   伏せカード1枚

 手札3枚
--------------------------------------------------
 華恋:2200LP

 場:BF−暁のシロッコ(攻撃:2000)
   BF−黒槍のブラスト(攻撃:1700)
   BF−疾風のゲイル(攻撃:1300)
   伏せカード1枚

 手札2枚
--------------------------------------------------
 ヒカル:3500LP

 場:マキシマム・マックス(攻撃:3100)
   セカンド・チャンス(永続魔法)
   確率変動の女神(永続魔法・デッキワン)
   伏せカード2枚

 手札0枚
--------------------------------------------------
 琴葉:4000LP

 場:なし

 手札6枚
--------------------------------------------------

「わたしのターン、ドロー!」(手札6→7枚)
 デッキからカードを引き、武田を見据える。
 やっぱり強い。華恋とヒカルが1ポイントもダメージを与えることが出来ない。
 それでも、負けたくない。ママがどういう意図でこの決闘をさせているのかは分からないけれど、勝てば香奈おねぇちゃんに会えるのだ。
 いっぱいお話がしたい。大切な友達が出来たことを教えたい。
 そのために、今できる精一杯の事をやるしかないのだ。
「手札から"ソーラー・エクスチェンジ"を発動するね!」


 ソーラー・エクスチェンジ
 【通常魔法】
 手札から「ライトロード」と名のついたモンスターカード1枚を捨てて発動する。
 自分のデッキからカードを2枚ドローし、その後デッキの上からカードを2枚墓地に送る。

 ライトロード・パラディン ジェイン→墓地(コスト)
 琴葉:手札7→5→7枚
 ライトロード・ビースト ウォルフ→墓地
 ライトロード・ハンター ライコウ→墓地

「やった! 墓地に送られたウォルフを墓地から特殊召喚するね!」
「なるほど」
 琴葉の場に現れる、光の力を宿した獣人モンスター。
 その瞳に主と同じ強い意志を秘めて、場に君臨する石像を睨み付ける。


 ライトロード・ビースト ウォルフ 光属性/星4/攻2100/守300
 【獣戦士族・効果】
 このカードは通常召喚できない。
 このカードがデッキから墓地に送られた時、このカードを自分フィールド上に特殊召喚する。


「ウォルフをリリースして、"ライトロード・エンジェル ケルビム"を召喚するね!」、
 獣人が光に包まれて、その中から大きな羽を持った天使が現れた。


 ライトロード・エンジェル ケルビム 光属性/星5/攻2300/守200
 【天使族・効果】
 このカードが「ライトロード」と名のついたモンスターを
 リリースしてアドバンス召喚に成功した時、
 デッキの上からカードを4枚墓地に送る事で
 相手フィールド上のカードを2枚まで破壊する。


「ケルビムの効果発動! デッキの上から4枚墓地に送って、カードを2枚破壊できる! わたしは"リバイバル・ゴーレム"とその伏せカードを破壊するよ!」
「チェーンして"針虫の巣窟"を発動します」
「っ」


 針虫の巣窟
 【通常罠】
 自分のデッキの上からカードを5枚墓地に送る。

【墓地へ送られたカード】
・番兵ゴーレム
・伝説の柔術家
・化石岩の解放
・超電磁タートル
・シフトチェンジ

 光の天使が手をかざすと、2本の光の槍が発射された。
 その槍は人型の石像を貫いた。

 ライトロード・レイピア→墓地
 ライトロード・バリア→墓地
 ライトロード・マジシャン ライラ→墓地
 ライトロード・ドラゴン グラゴニス→墓地

 リバイバル・ゴーレム→破壊

「ほう。ついに突破されてしまいましたか」
「まだだよ! 墓地に送られた"ライトロード・レイピア"をケルビムに装備!」


 ライトロード・レイピア
 【装備魔法】
 「ライトロード」と名のついたモンスターにのみ装備可能。
 装備モンスターの攻撃力は700ポイントアップする。
 このカードがデッキから墓地に送られた時、
 このカードを自分フィールド上に存在する「ライトロード」
 と名のついたモンスター1体に装備する事ができる。

 ライトロード・エンジェル ケルビム:攻撃力2300→3000

「バトルだよ! ケルビムで攻撃!!」
「おっと、墓地にいる"超電磁タートル"の効果発動。このカードをゲームから除外してバトルフェイズを終了させます」


 超電磁タートル 光属性/星4/攻0/守1800
 【機械族・効果】
 相手ターンのバトルフェイズ時に墓地のこのカードをゲームから除外して発動できる。
 そのバトルフェイズを終了する。
 「超電磁タートル」の効果はデュエル中に1度しか使用できない。

 超電磁タートル→除外

「そ、そんな……!」
「惜しかったですねお嬢様。さて、どうしますか?」
「うぅ、武田の意地悪……カードを2枚伏せて、ターン終了だよ!」

--------------------------------------------------
 武田:12000LP

 場:金剛石の採掘場(永続罠・デッキワン)

 手札3枚
--------------------------------------------------
 華恋:2200LP

 場:BF−暁のシロッコ(攻撃:2000)
   BF−黒槍のブラスト(攻撃:1700)
   BF−疾風のゲイル(攻撃:1300)
   伏せカード1枚

 手札2枚
--------------------------------------------------
 ヒカル:3500LP

 場:マキシマム・マックス(攻撃:3100)
   セカンド・チャンス(永続魔法)
   確率変動の女神(永続魔法・デッキワン)
   伏せカード2枚

 手札0枚
--------------------------------------------------
 琴葉:4000LP

 場:ライトロード・エンジェル ケルビム(攻撃:3000)
   ライトロード・レイピア(装備魔法)
   伏せカード2枚

 手札4枚
--------------------------------------------------

「では私のターン、ドロー」(手札3→4→5→6枚)
 3人の攻撃を完璧に凌ぎ、武田はデッキからカードを3枚ドローした。
 だがその瞬間、ヒカルの声が強く発せられる。
「武田さんのドローフェイズに、うちの"確率変動の女神"の効果を発動する! うちは"ラッキーパンチ"を宣言させてもらう!」
「なるほど。そうきましたか。では私は"金剛石の採掘場"の効果でデッキから"岩石の巨兵"を墓地に送ります。そして墓地の7体の岩石族モンスターを除外し、"メガロック・ドラゴン"を特殊召喚!!」
「「「っ!」」」
 武田がカードをデュエルディスクに叩き付けると、フィールドの地面が隆起し、巨大なドラゴンの姿を形作っていく。
 思わず気圧される小学生たちを見下ろし、岩石竜は咆哮をあげた。


 メガロック・ドラゴン 岩石族/星7/攻?/守?
 【岩石族・効果】
 このカードは通常召喚できない。
 自分の墓地に存在する岩石族モンスターを除外する事でのみ特殊召喚できる。
 このカードの元々の攻撃力と守備力は、特殊召喚時に除外した
 岩石族モンスターの数×700ポイントの数値になる。

 メガロック・ドラゴン:攻撃力?→4900 守備力?→4900

「攻撃力が4900ポイントも……!」
「くぅ、さすが琴葉ちゃんが言うだけあるなぁ」
「武田ってば、手加減してくれないんだね……」
「あいにくですがお嬢様。今回ばかりは手を抜くつもりはありませんよ。バトル。メガロック・ドラゴンで華恋様の場にいるゲイルを攻撃」
「ちょい待ちや! うちは伏せておいた罠カード"ラッキーパンチ"を発動や!!」


 ラッキーパンチ
 【永続罠】
 1ターンに1度、相手モンスターの攻撃宣言時に発動できる。
 コイントスを3回行い、3回とも表だった場合、
 自分はデッキからカードを3枚ドローする。
 3回とも裏だった場合、このカードを破壊する。
 また、フィールド上に表側表示で存在するこのカードが破壊された場合、
 自分は6000ライフポイントを失う。


「相手の攻撃時にコイントスして3回とも表なら3枚ドロー出来る! うちは"確率変動の女神"の効果でこのカードを宣言したから結果が好きに決められる! 当然、3回とも表にして3枚ドローや!」(手札0→3枚)
 3対1であるがゆえの発動方法。
 武田が攻撃したのは華恋の場だったが、ヒカルにとって武田は”相手”なのだ。
 仮に自分の場に攻撃されなかったとしても、カードを発動することが出来る。
「華恋! なんとか防いでや!」
 岩石のドラゴンが華恋のモンスターを狙う。
 この攻撃を受ければ当然、ひとたまりもない。
「ふ、伏せカードを発動です!」
 次の瞬間、華恋の場を強固なバリアが覆った。
 バリアが土砂の嵐からモンスターを守り、ダメージも通さなかった。


 和睦の使者
 【通常罠】
 このカードを発動したターン。相手モンスターから受けるすべての戦闘ダメージを0にする。
 このターン自分のモンスターは戦闘によって破壊されない。


「……では私はモンスターをセット。カードを4枚伏せて、ターンエンドです」
「また大量の伏せカード……!」
「こりゃあまずいかもしれへんなぁ」

--------------------------------------------------
 武田:12000LP

 場:メガロック・ドラゴン(攻撃:4900)
   裏守備モンスター×1
   金剛石の採掘場(永続罠・デッキワン)
   伏せカード4枚

 手札0枚
--------------------------------------------------
 華恋:2200LP

 場:BF−暁のシロッコ(攻撃:2000)
   BF−黒槍のブラスト(攻撃:1700)
   BF−疾風のゲイル(攻撃:1300)

 手札2枚
--------------------------------------------------
 ヒカル:3500LP

 場:マキシマム・マックス(攻撃:3100)
   セカンド・チャンス(永続魔法)
   確率変動の女神(永続魔法・デッキワン)
   ラッキーパンチ(永続罠)
   伏せカード1枚

 手札0枚
--------------------------------------------------
 琴葉:4000LP

 場:ライトロード・エンジェル ケルビム(攻撃:3000)
   ライトロード・レイピア(装備魔法)
   伏せカード2枚

 手札4枚
--------------------------------------------------

「むぅ………」
 少し頬を膨らませる琴葉を見ながら、武田は小さく息を吐いた。
 この勝負、手加減をするつもりはない。それは吉野や咲音や和馬に言われたからではなく、自分自身の意志だった。
 なにより正直な話、手加減をする必要はないと思っていた。
 琴葉のクラスメイトの事は、本人からほぼ毎日と言っていいほど聞かされていた。
 それゆえに友人たちの実力も、かなり高い部類に入ることが分かっていた。
「お嬢様」
「ん?」
 一言、琴葉へ呼びかける。
 たしかに3人とも、実力は確かだ。
 だが今回はきっとそれだけでは駄目なのだろう。そろそろ彼女には、別の”強さ”というものも教えるべきだと思った。
 その”強さ”というのがきっと、スターや大助たちの手助けに最も貢献するものであって欲しい。
「お嬢様も、華恋様も、ヒカル様も、素晴らしい実力の持ち主です。ですが結果はどうでしょう? 私に1ポイントのダメージも与えることが出来ていません。なぜだと思いますか?」
「……武田が……強いから……?」
「それもあるかもしれません。ですが一番の要因は、お嬢様たちがバラバラに戦っていることです」
「え?」
 首を傾げる琴葉たちに、武田は静かに笑みを浮かべながら3本の指を立てた。
「”3本の矢”という話をご存知ですか? ある有名な人が言ったとされる言葉で、1本では簡単に折れてしまう矢でも、3本まとめれば折れることはない。つまり、バラバラに戦うのではなく1つとなって戦うことで、より強く戦えるということです」
「……!」
「さぁお嬢様方。みごと”3本の矢”となって、私を倒してみてください」
「武田……」
「言っておきますが手加減はするつもりはありません。ですが、お嬢様たちならきっと出来ると信じております」


 ターンが、華恋へと移行する。


 さっきの武田の言葉の意味を考えながら、華恋はデッキからカードを引いた。(手札2→3枚)
「……!」
 引いたカードは、ブラストやアームズ・ウイングとシナジーのあるカードだった。
 だが今は残念ながら使えない。
(でも……私が使えなかったとしても……)
 ゆっくりと、視線をヒカルと琴葉へ移す。
 2人とも自分の視線に気づいてくれた。
(もし、私の読みが正しいなら……あの守備モンスターは……それなら……私に出来ることは……!)
 覚悟を決めて、手札の1枚を手にかけた。
「手札から"BF−極北のブリザード"を召喚します! この効果で墓地にいる"BF−月影のカルート"を守備表示で特殊召喚!!」


 BF−極北のブリザード 闇属性/星2/攻1300/守0
 【鳥獣族・チューナー】
 このカードは特殊召喚できない。
 このカードが召喚に成功した時、自分の墓地に存在するレベル4以下の
 「BF」と名のついたモンスター1体を表側守備表示で特殊召喚する事ができる。

 BF−月影のカルート 闇属性/星3/攻1400/守1000
 【鳥獣族・効果】
 自分フィールド上に表側表示で存在する「BF」と名のついたモンスターが
 戦闘を行うダメージステップ時にこのカードを手札から墓地へ送る事で、
 そのモンスターの攻撃力はこのターンのエンドフェイズ時まで1400ポイントアップする。


 華恋の場に並ぶ5体のモンスター。
 その圧巻な光景に、その場にいる全員が息をのむ。
「ヒカル、琴葉さん! みんなで武田さんを倒そう!」
「もちろんや!」
「うん!!」
 大切な親友2人が大きく頷く。3本の矢となるべく、3人の意志が一つになる。
「まずはゲイルの効果発動です! メガロック・ドラゴンのステータスを半分にします!」
「そうはさせません。チェーンして"神秘の中華なべ"を発動します」


 神秘の中華なべ
 【速攻魔法】
 自分フィールド上のモンスター1体をリリースする。
 リリースしたモンスターの攻撃力か守備力を選択し、
 その数値だけ自分のライフポイントを回復する。

 メガロック・ドラゴン→墓地
 武田:12000→16900LP

 膨大なライフを回復されても、華恋は動じない。
 伏せカードを読んでいたわけじゃない。ただ純粋に、他の2人ならなんとかしれくれると信じているだけだった。
「シロッコの効果発動です! 場にいるすべてのBFの攻撃力をブラストへ集中させます!!」
 黒槍を構えるモンスターの体に、仲間たちの力がすべて加わった。

 BF−黒槍のブラスト:攻撃力1700→3000→5000→6300→7700

「バトルです! 武田さんのセットモンスターに攻撃!!」
 槍を構え突撃する華恋のモンスター。
 仲間たちの力を一点に集中させた攻撃。これならきっと―――







 ロストガーディアン 地属性/星4/攻100/守?
 【岩石族・効果】
 このカードの元々の守備力は、自分が除外している岩石族モンスターの数×700ポイントの数値になる。

 ロスト・ガーディアン:守備力?→4900→9800

 仲間たちの力を受けた槍も、武田のモンスターを貫くには至らなかったか。
 数値の差による反射ダメージが、華恋を襲う。
「っ!」

 華恋:2200→100LP

「惜しかったですね」
「まだです! 手札から"BF−二の太刀のエデシア"の効果を発動します!!」


 BF−二の太刀のエテジア 闇属性/星3/攻400/守1600
 【鳥獣族・効果】
 自分フィールド上に存在する「BF」と名のついたモンスターが相手モンスターとの戦闘を行った
 ダメージステップ終了時にその相手モンスターがフィールド上に存在する場合、
 このカードを手札から墓地へ送って発動する事ができる。
 相手ライフに1000ポイントダメージを与える。

 武田:16900→15900LP

「やった…!」
 ついに与えた初ダメージ。このライフでは微々たるダメージだったかもしれないが、それでも少女たちにとっては武田に与えることが出来た初のダメージだった。
 それによって高まっていた闘志が更に高まる。
「2人とも、あとはお願いね! カードを1枚伏せて、ターン終了です!」

--------------------------------------------------
 武田:15900LP

 場:ロストガーディアン(守備:9800)
   金剛石の採掘場(永続罠・デッキワン)
   伏せカード3枚

 手札0枚
--------------------------------------------------
 華恋:100LP

 場:BF−暁のシロッコ(攻撃:2000)
   BF−黒槍のブラスト(攻撃:1700)
   BF−疾風のゲイル(攻撃:1300)
   BF−極北のブリザード(攻撃:1300)
   BF−月影のカルート(守備:700)
   伏せカード1枚

 手札0枚
--------------------------------------------------
 ヒカル:3500LP

 場:マキシマム・マックス(攻撃:3100)
   セカンド・チャンス(永続魔法)
   確率変動の女神(永続魔法・デッキワン)
   ラッキーパンチ(永続罠)
   伏せカード1枚

 手札3枚
--------------------------------------------------
 琴葉:4000LP

 場:ライトロード・エンジェル ケルビム(攻撃:3000)
   ライトロード・レイピア(装備魔法)
   伏せカード2枚

 手札4枚
--------------------------------------------------

「うちのターンや、ドロー!」(手札3→4枚)
 華恋の気持ちを引き継ぎ、勢いよくカードを引く。
 このままやられっぱなしもつまらない。多少無理してでも、攻めるべきだと思った。
「"確率変動の女神"の効果発動! うちは"ダイス・ポット"を宣言する!!」
「っ!」
 武田の表情が一変する。
 当然、ヒカルの何を狙っているのかが分かったからだった。
「モンスターをセット! そして手札から"太陽の書"を発動や!!」


 太陽の書
 【通常魔法】
 フィールド上に裏側表示で存在するモンスター1体を選択し、表側攻撃表示にする。


「この効果で今セットしたモンスターを表側攻撃表示にする! うちが表にしたのは"ダイス・ポット"や!」
「やはりですか」


 ダイス・ポット 光属性/星3/攻200/守300
 【岩石続・効果】
 リバース:お互いにサイコロを一回ずつ振る。
 相手より小さい目が出たプレイヤーは、相手の出た目によって以下のダメージを受ける。
 相手の出た目が2〜5だった場合、相手の出た目×500ポイントダメージを受ける。
 相手の出た目が6だった場合、6000ポイントダメージを受ける。
 お互いの出た目が同じだった場合はサイコロを振り直す。


「この効果も"確率変動の女神"で自由に決められる! うちは6を宣言するわ!!」
「……これは、仕方ありませんね」
 ヒカルの場に巨大なサイコロが現れて、6を示す。
 するとそのサイコロが割れて、中から無数の光の矢が放たれて武田へ襲い掛かった。

 武田:15900→9900LP

「つづいて手札から"二重召喚"を発動! そして"スナイプ・ストーカー"を召喚する!」

 二重召喚
 【通常魔法】
 このターン自分は通常召喚を2回まで行う事ができる。

 スナイプストーカー 闇属性/星4/攻1500/守600
 【悪魔族・効果】
 手札を1枚捨て、フィールド上に存在するカード1枚を選択して発動する。
 サイコロを1回振り、1・6以外が出た場合、選択したカードを破壊する。


「これで―――」
「その召喚時に、伏せカードを発動します」
 割り込む声。
 ヒカルの場に現れた小さな悪魔が、奈落の穴へと吸い込まれていった。


 奈落の落とし穴
 【通常罠】
 相手が攻撃力1500以上のモンスターを
 召喚・反転召喚・特殊召喚した時に発動する事ができる。
 そのモンスターを破壊しゲームから除外する。

 スナイプ・ストーカー→破壊→除外

「そう簡単に破壊はさせませんよ?」
「くぅ、さすがやな……ほんならうちは、ターンエンドや!!」

--------------------------------------------------
 武田:15900LP

 場:ロスト・ガーディアン(守備:9800)
   金剛石の採掘場(永続罠・デッキワン)
   伏せカード2枚

 手札0枚
--------------------------------------------------
 華恋:100LP

 場:BF−暁のシロッコ(攻撃:2000)
   BF−黒槍のブラスト(攻撃:1700)
   BF−疾風のゲイル(攻撃:1300)
   BF−極北のブリザード(攻撃:1300)
   BF−月影のカルート(守備:700)
   伏せカード1枚

 手札0枚
--------------------------------------------------
 ヒカル:3500LP

 場:マキシマム・マックス(攻撃:3100)
   ダイス・ポッド(攻撃:200)
   セカンド・チャンス(永続魔法)
   確率変動の女神(永続魔法・デッキワン)
   ラッキーパンチ!(永続罠)
   伏せカード1枚

 手札0枚
--------------------------------------------------
 琴葉:4000LP

 場:ライトロード・エンジェル ケルビム(攻撃:3000)
   ライトロード・レイピア(装備魔法)
   伏せカード2枚

 手札4枚
--------------------------------------------------

「わたしのターン、ドロー!!」(手札4→5枚)
 想いを込めて、カードを引く。
 引いたカードを確認し、思わず笑みが浮かんでしまった。
 武田と戦う時のためにいれておいたカードが舞い込んだからだった。
「いくよ! 手札から"死者転生"を発動するね! 手札の"転生の予言"をコストに墓地にいるグラコニスを手札に加えるよ!」


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 死者転生
 【通常魔法】
 手札を1枚捨て、自分の墓地に存在するモンスター1体を選択して発動する。
 選択したモンスターを手札に加える。

 琴葉:手札5→3→4枚
 転生の予言→墓地
 ライトロード・ドラゴン グラコニス→手札

「そしてケルビムをリリースして、"ライトロード・ドラゴン グラゴニス"をアドバンス召喚するね!!」
 琴葉の場にいる天使が光に包まれる。
 その眩い光の中から、聖なる力を宿したドラゴンが颯爽と姿を現した。


 ライトロード・ドラゴン グラゴニス 光属性/星6/攻2000/守1600
 【ドラゴン族・効果】
 このカードの攻撃力と守備力は、自分の墓地に存在する「ライトロード」
 と名のついたモンスターカードの種類×300ポイントアップする。
 このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、その守備力を攻撃力が超えていれば、
 その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。
 このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する場合、
 自分のエンドフェイズ毎に、デッキの上からカードを3枚墓地に送る。

 ライトロード・ドラゴン グラゴニス:攻撃力2000→3800

「いくよ武田―――!?」
「伏せカードを発動します」


 落とし穴
 【通常罠】
 相手が攻撃力1000以上のモンスターの召喚・反転召喚に
 成功した時に発動する事ができる。
 その攻撃力1000以上のモンスター1体を破壊する。

 ライトロード・ドラゴン グラゴニス→破壊

「う、うぅ……ま、まだだよ! 伏せカードの"閃光のイリュージョン"を発動!!」
 強力なモンスターが一瞬で破壊されたことによるショックからギリギリで立ち直る。
 その場に再び光が放たれ、地面へ飲み込まれたドラゴンを復活させる。


 閃光のイリュージョン
 【永続罠】
 自分の墓地から「ライトロード」と名のついたモンスター1体を選択し、
 攻撃表示で特殊召喚する。
 自分のエンドフェイズ毎に、デッキの上からカードを2枚墓地に送る。
 このカードがフィールド上から離れた時、そのモンスターを破壊する。
 そのモンスターがフィールド上から離れた時このカードを破壊する。

 ライトロード・ドラゴン グラコニス→特殊召喚(攻撃)

「蘇生カードですか」
「うん! さらに手札から"巨大化"を装備するね!!」


 巨大化
 【装備魔法】
 自分のライフポイントが相手より下の場合、
 装備モンスターの攻撃力は元々の攻撃力を倍にした数値になる。
 自分のライフポイントが相手より上の場合、
 装備モンスターの攻撃力は元々の攻撃力を半分にした数値になる。

 ライトロード・ドラゴン グラコニス:攻撃力2000→4000→5800

「……これは……」
 脳裏に雲井忠雄の姿が浮かび、武田は思わず苦笑した。
 だがすぐに気を引き締めて状況を確認する。攻撃力をあげたところで、自分の場にいるモンスターの守備力には届かない。
 何か策があることは明らかだった。
「そして手札から魔法カード"死角からの一撃"を発動するね!!」
「っ!!」


 死角からの一撃
 【速攻魔法】
 相手フィールド上に表側守備表示で存在するモンスター1体と、
 自分フィールド上に表側攻撃表示で存在するモンスター1体を選択して発動する。
 選択した自分のモンスターの攻撃力はエンドフェイズ時まで、
 選択した相手モンスターの守備力の数値分アップする。

 ライトロード・ドラゴン グラコニス:攻撃力5800→15600

「私の高い守備力を逆に利用するとは……!」
「えへへ。わたしだって強くなってるもん!」
「ですが、それでもまだ私のライフを削りきるには及びませんよ?」

「それはどうでしょうか?」

 わずかな余裕を見せる武田の耳に、今度は華恋の言葉が届く。
 彼女の場に1枚の罠カードが、開かれていた。









 ミクロ光線
 【通常罠】
 フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体の守備力は、
 エンドフェイズ終了時まで0になる。

 ロスト・ガーディアン:守備力9800→0

「っ!」
「武田さんの"金剛石の採掘場"は岩石族モンスターの守備力を倍にする……ですが、守備力を0にしてしまえば、2倍になろうと0のままです!!」
「やられましたね。たしかに仰る通りだ」
「ありがとう華恋ちゃん! バトルだよ! グラコニスで攻撃!!」
 膨大な攻撃力を得たドラゴンが、無力化された武田のモンスターへ向かって攻撃する。
 この攻撃が通れば、武田のライフは0になる。
 だが―――

「伏せカードを発動します」

 思惑通りにはいかない。
 武田の場に開かれたのは、1枚の罠カード


 ハーフ・アンブレイク
 【通常罠】
 フィールド上のモンスター1体を選択して発動できる。
 このターン、選択したモンスターは戦闘では破壊されず、
 そのモンスターの戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは半分になる。


「これでこのバトルで私が受けるダメージは半分になります。さらに攻撃されたモンスターもバトルでは破壊されません」
「そ、そんな……!」
 光のドラゴンが吐き出したブレスが相手を飲み込む。
 だが石像は不思議な光に身を守られ、武田へのダメージも半減させられていた。

 武田:9900→2100LP

「惜しかったですねお嬢様」
「うっ、ま、まだだもん! 伏せておいた罠カード"ソーラーレイ"を発動!!」
 琴葉の開いたカードから一筋の光が放たれて、武田を直撃した。


 ソーラーレイ
 【通常罠】
 自分フィールド上に表側表示で存在する
 光属性モンスターの数×600ポイントダメージを相手に与える。

 武田:2100→1500LP

「うぅ……」
 武田のライフを削りきれなかったことに悔しさを感じた。
 あと少しだったのに……。せっかく3人で協力して大ダメージを与えることが出来たのに……!
「悔しがることあらへんよ琴葉ちゃん」
「え?」
 ヒカルの声が、耳に届く。
 見ると隣ではヒカルと華恋が優しい笑みを向けてくれていた。
「大丈夫ですよ琴葉さん」
「え?」
「ホンマ助かったわ〜。ライフポイントを1800以下にしてくれて」
「え、どういうこと?」
「それはきっと、次のターンに分かります。そうだよね?」
「なはは。そういうことや」
「うん? じゃあ、ターンエンド」

--------------------------------------------------
 武田:1500LP

 場:ロスト・ガーディアン(守備:9800)
   金剛石の採掘場(永続罠・デッキワン)

 手札0枚
--------------------------------------------------
 華恋:100LP

 場:BF−暁のシロッコ(攻撃:2000)
   BF−黒槍のブラスト(攻撃:1700)
   BF−疾風のゲイル(攻撃:1300)
   BF−極北のブリザード(攻撃:1300)
   BF−月影のカルート(守備:700)

 手札0枚
--------------------------------------------------
 ヒカル:3500LP

 場:マキシマム・マックス(攻撃:3100)
   ダイス・ポッド(攻撃:200)
   セカンド・チャンス(永続魔法)
   確率変動の女神(永続魔法・デッキワン)
   ラッキーパンチ(永続罠)
   伏せカード2枚

 手札0枚
--------------------------------------------------
 琴葉:4000LP

 場:ライトロード・ドラゴン グラコニス(攻撃:2800)
   巨大化(装備魔法)

 手札1枚
--------------------------------------------------

「私のターン、ドロー」(手札0→1→2→3枚)
「武田さんのドローフェイズに、"確率変動の女神"の効果発動や! うちが宣言するカードは―――」
 勝利を確信し、ヒカルが宣言したカード。
 それを聞いた全員が、先程までの妙な余裕の意味を理解する。
 武田は静かに肩を落とし、称賛の笑みを向けた。
「そしてスタンバイフェイズ! 伏せカードオープンや!!」
 意気揚々と開かれた伏せカード。
 それは普段なら決して、強力とは言い難いカードだった。
 だがこの場においては……なにより、ヒカルが扱うこの場においては、非常に強力なカードだった。







 ファイアーダーツ
 【通常罠】
 自分の手札が0枚の時に発動する事ができる。
 サイコロを3回振る。
 その合計の数×100ポイントダメージを相手ライフに与える。


「"確率変動の女神"の効果で、結果はうちが好きに決められる。当然、全部6の目を選択させてもらうな」
 フィールド上に大きなサイコロが現れて、回転を始めた。
 ヒカルの背後に立つギャンブルの女神が右手に持ったサイコロを掲げると、表示されたサイコロの目が6を示した。
 サイコロが割れて、中から18本の火の矢が出現する。
 強固な守備力を持つモンスターを飛び越えて、それらは一斉に武田に降り注いだ。



 武田:1500→0LP




 武田のライフが0になる。




 そして決闘は、終了した。








「勝った……勝ったよ! 華恋ちゃん! ヒカルちゃん!」
「はい! やりましたね!!」
「うちら3人の勝利やな♪」
 決闘が終了して、喜びを分かち合う3人。
 敗れた武田は静かにデュエルディスクとデッキをしまい、吉野たちの元へと戻る。
「すまないな吉野。負けてしまった」
「……仕方ありません。あなたにしては、いい決闘でしたよ」
「ふふっ、吉野ったら……素直に褒めてあげればいいのに」
「吉野さんはこういうところが不器用みたいだね」
「なっ、旦那様まで……!」
 咲音と和馬にからかわれて、吉野の顔が少し赤くなった。

「さて、決まりですね」

 咲音は柔らかい笑みを浮かべたまま、そう言った。
 そして琴葉に近づき、小さく拍手をする。
「おめでとう琴葉。華恋さんもヒカルさんも、一緒に戦ってくれてありがとうね」
「い、いえ、先生以外の大人の人と決闘するのは初めてだったで、楽しかったです」
「うちも久々にハラハラする決闘できて面白かったよ♪」
 2人の言葉に偽りがないことを確認して、咲音は笑う。
 そして、これならきっと大丈夫だと思った。
「じゃあ約束通り、みんなで一緒にキャンプに行きましょう♪ それでね、もし良かったらなんだけど、華恋さんとヒカルさんも一緒にどうかしら?」
「え? 私達もですか?」
「迷惑にならへんか?」
「そんなことないわ。キャンプなんだから人数が多い方がいいわ♪ 日程はまたあとで教えるから、おうちの人に許可をとってみてくれる?」
「はい! 喜んで!!」
「キャンプかぁ。うちアウトドアは初めてやなぁ♪」
「えへへ♪ みんなと一緒ならきって楽しいよ♪」
 はしゃぎまわる小学生たちを見つめながら、吉野と武田は決意を固める。
 スターのリーダー薫から届いた招待状。
 一般人を巻き込みたくないと思っている彼女から届いたことが、これからの戦いの厳しさを物語っている。
 自分たちにいったい何が出来るのか。それは分からない。
 ただ1つ言えるのは、目の前にある光景を守るためなら、いくらでもスターに協力しようと思ったことだった。
「吉野」
「なんですか?」
「私はお前のように容量もよくないし、奥様のようにすべてを見抜くことも出来ない。だが私は私なりにやってみようと思う」
「……そうですか。あなたは琴葉の執事なのですから、しっかりやりなさい」
「ふっ、改めて言われるほどの事じゃないだろう」
「それもそうですね」
 そう言って互いに、自然と笑い合っていた。
 大きな屋敷の小さな空間で、和やかな雰囲気が辺りを包み込んでいた。




episode3――配られた招待状(3)――

(マスター、頑張ってください。もう少し……もう少しですから……!)
「んっ、エル……っ…!」
 とある家の部屋で、1人の少女が息を切らしていた。
 その額からは一筋の汗が流れ、その頬はわずかだが紅くなっている。
「だ、駄目…! もう限界ですっ……!」
(マスター。もうひと踏ん張りです)
 内側から語りかける声の主に励まされ、少女は歯を食いしばる。
 ふわふわとした浮遊感に身を任せながら、目を閉じて集中する。
 だが、それはすぐに終わりを迎えた。
「ぁっ………!」
 限界を超えた少女の体が、柔らかい布団の上に落ちる。
 2重に重ねていたおかげで、落下の衝撃はたいして感じなかった。
「はぁ、はぁ、はぁ、エル……どうだった……?」
(はい。とってもお上手でしたよマスター)
「そ、そうかな……?」
(もちろんですよ。私のサポートなしで3分も空中浮遊が出来たのですから)
「そっか。ありがとうエル」
 そう言って少女―――本城真奈美は立ち上がった。
 その右手には槍を思わせる杖が握られており、先端は微かな白い光を帯びていた。
 さっきまでやっていたのは、永久の鍵の力の訓練。
 去年の冬。真奈美は水の神の事件に巻き込まれ、永久の鍵と名付けられた力が覚醒した。
 一時は命を失いかけたほどの大変な事件だったが、雲井忠雄と中岸大助の活躍により今もこうして無事に生活が出来ている。
 封印するための鍵としての役割を失いはしたが、永久の鍵は白夜の力そのものでもある。いざというときに使えるようにと、永久の鍵ことエターナル・マジシャンから勧められた。
 以来こうして家に一人しかいない時を見計らって白夜の力のコントロール訓練を行っているのである。


(マスター、今日はこれくらいにしましょう)
「はい」
 内側からエルが優しく言ってくれました。
 白夜の力を使うには体力が必要だとは知っていましたけど、思っていた以上に疲れます。でも最初の頃に比べたらずいぶん消耗が減ってきています。エルが言うには、上手に扱えるようになればなるほど体力消費を抑えられるそうです。
(マスター、私が言うのもアレなんですが、ご友人と一緒に帰らなくて良かったんですか?)
「香奈ちゃんは中岸君とデートですし、雫ちゃんは喫茶店のお手伝いがあるそうですから今日は大丈夫です」
(すいませんマスター。無理に私に付き合わずとも、自分の予定を優先されて構いませんよ?)
「もうエル。それは言わない約束だよ。今はエルだって、私の大事な存在なんだから」
(ま、マスター…! もったいないお言葉です!)
 内側にいるエルが、満面の笑みを浮かべている光景が目に浮かびました。

「エルの事、香奈ちゃんや雫ちゃんに紹介できたらいいんだけどね……」
(それはマスターがもう少し力をコントロールできるようにならないと難しいですね。ライガーやコロンと違って、私はマスターから一定距離離れることはできませんし、力も共有しています。マスター以外の人に見えるようにするには、もう少しかかりますね)
「うん、やっぱり薫さんに指導してもらったほうがいいんでしょうか?」
(……それは、招待を受けるという意味ですか?)
「……………」
 自然と机の上に置いてある招待状に目を向けてしまいます。
 薫さんから送られてきたそれは、最終決戦が間近に迫っていることを知らせるものでした。
 みんなの力になりたい気持ちはあります。だけど、やっぱり戦うことは怖いです。
「エルは、どうしたらいいと思いますか?」
(……あのアダムを倒さない限り平穏は約束できません。ですけど、マスターには戦ってほしくありません……)
「薫さんたちに任せろってこと?」
(……恐れながら、私はマスターが一番大切です。他の人がどんなに傷ついても、マスターが傷つく姿は見たくありません)
 私の体から光が溢れて、エターナル・マジシャンの姿になりました。
 これは具現化したというよりは、私にだけ姿を見せられる立体映像みたいなものらしいです。
「エル。私の考え、聞いてくれますか?」
(はい)
「あのね……私が今、こうやって生活できているのは、みんなが救ってくれたからなんです。闇の組織で戦っていた頃は薫さんに……学校では香奈ちゃんが……この前の事件は、エルに雫ちゃん、中岸君に雲井君……。だから、少しでもお返しがしたいんです。今の幸せを守るためにも、戦いたいんです!」
(…………マスターがそうおっしゃるなら、私も全力で応援します。マスターが守りたいものを守れるように、マスター自身も守れるように……私も一緒に戦います)
「ありがとうエル。ごめんなさい、わがままなマスターで……」
(いいえマスター。私は、優しくて、可愛くて、ときどき頑固なマスターが大好きですよ♪)
 まるでお母さんのような表情でエルはそう言いました。
 そんなことを真正面から堂々と言われると、なんだか照れてしまいます。
(マスター、顔が紅くなっていますよ?)
「え、エルが照れるようなことを言うからです! え、エルだってその、き、綺麗なのに……」
(まぁ♪ 嬉しいですマスター♪)
 魔法でハートマークを空中にたくさん浮かべながらエルは笑いました。
 ずれた眼鏡をかけなおしつつ、私は薫さんへ返信するために携帯に手をかけました。








--------------------------------------------------------------------------------------------------------





 薫さんへの連絡を済ませて、私は商店街へ出かけることにしました。
 特に用事があるわけではありませんけど、たまにこうして探索じみたことをするのも新鮮で面白いです。
 新しい喫茶店や服屋さんが出来ていたりするのを発見できることもありますし。
(マスターはたまにこういうことをなさるんですか?)
「うん。変かな?」
(いいえ。私としましては、マスターと二人っきりのデートをしている気分でとても楽しいですよ♪)
 エルはときどき、こういうことを言って私を恥ずかしい気持ちにさせます。
 自分だけに聞こえる声だとは言っても、こういうことを堂々と言われるのはやっぱり慣れないです。



 とりあえず商店街の定食屋さんに入ります。
 お昼をまだ済ませていませんでしたし、ここの雰囲気がおばあちゃんの家に似ていて少し落ち着くからです。
「いらっしゃい。ご注文はお決まりですか?」
 店員のおばあちゃんが優しく聞いてくれます。
 私はサバの味噌煮定食を頼んで、近くにあった雑誌に手をかけました。
(マスターはサバの味噌煮がお好きなのですか?)
「うん。エルは何か好きな食べ物とかあるの?」
(そうですねぇ、私は食事を取りませんから……)
「え? そうなの?」
(はい。あくまで私は白夜の力の塊のような存在ですから。もっともマスターと感覚はリンクしていますので、食べ物の味などもちゃんと分かりますよ?)
「へー」



 昼食を済ませた後、今度はデパートの方へ向かいます。
 途中で霊使い喫茶があったので立ち寄ろうかとも思ったのですけど、どうやら混んでいるみたいなのでまた今度にすることにしました。
 デパートに行くまでの道で、小さな子供たちが公園で遊んでいたりするのを見ます。
 私もあんな元気に遊んでいた時期があったのでしょうか?
 ちょっと、想像できません。


 デパートは思っている以上に人が賑わっていました。
 どうやら屋上でヒーローショーがあるらしく、家族連れの人が多いみたいです。
(マスターは見に行かなくてよろしいのですか?)
「さすがに高校生にもなってそれはちょっと……」



「あっ! 大助! ヒーローショーだって!! せっかくだし見に行きましょ!!」



「…………」
(…………)
 遠くの方ですごく聞き覚えのある声が聞こえましたけど、気のせいにしておきます。
 はい。そうです。きっと気のせいですよ。
(マスター、今の声はもしかして―――)
「エル。それは、私達の胸にそっと秘めておくことにしよう?」
(……そうですね)



 気を取り直して、デパートの本屋さんに立ち寄りました。
 新書がたくさん出ていて、どれを買うか迷ってしまいそうです。
 どちらかというと本を読むほうが好きな私は、気になった本を一気に買い集めてしまいました。
(10冊も買って、お財布は大丈夫なのですか?)
「うん。まだお年玉の余りがあったし、買うときはいつもこれくらいまとめて買ってるからね」
 紙袋に入れた本を抱えて、デパートを色々と見て回ります。
 屋上でヒーローショーをやっているせいか、来た時よりも少しだけ人が少ない気がします。
(マスター、色々と見て回りましたし、このまま家に帰りますか?)
「そうだね。本を持ちながら運ぶのも疲れちゃった」
(そういうことなら私にお任せください。魔法で本の重さを無くしてさしあげます)
「できるの?」
(もちろんです。さっきまで練習していた浮遊魔法の応用ですから♪)
 突然、右手に魔法の杖が握られました。
「わっ! ちょ、ちょっとエル……!!」
 急いで階段の陰に隠れます。
 うぅ、誰にも見られていないといいですけど……。
(どうかされましたかマスター?)
「人がたくさんいるところで杖を発現しないでください。誰かに見られたらどうするんですか」
(見られるとまずいのですか?)
「知らない人ならまだしも、香奈ちゃんとか―――」


「真奈美ちゃん?」


「……え?」
 声のする方を向くと、香奈ちゃんが階段の上から覗き込んでいました。
「か、香奈ちゃん? ヒーローショーを見に行ったんじゃ……」
「え、なんで知ってんの……まぁいっか。なんか子供が多くて、保護者以外の12歳以上は進入禁止喰らっちゃったのよ。散々文句は言ってあげたけどね」
「高校生にもなってヒーローショーを見ようと思う女子もいないだろうけどな」
 その隣には中岸君もいました。
 ど、どどどどうしましょう。よりよって一番見られたくない人に見られてしまいました。
「真奈美ちゃん、その手に持っているのって……」
「え、えっと、あれ、えっと、そ、そうです!!! 雫ちゃんのコスプレの衣装の一部です!」
 雫ちゃんごめんなさい。
 咄嗟に思いついた嘘がこれだったんです。
「うーん、雫のコスプレにそんな形の杖を扱うのは無かった気がするんだけど……」
「し、新作! そうです! 新作なんですよ!!」
「なんでそれを真奈美ちゃんが持ってるの?」
「し、雫ちゃんに頼まれて……ちょうどお店が忙しいからって……」
「ふーん」
 香奈ちゃんは疑いの眼差しをもったまま、階段を飛び降りました。
 うぅ、なんてことでしょう。階段の陰に隠れていたせいで逃げ場がありません。
「ねぇ真奈美ちゃん。私に何か隠していることない?」
「ふぇっ、そ、そんなことないですよ」
 ごめんなさい。隠し事はしています。
 でもそれを説明できるほどの言葉を私が纏められていないだけなんです。
「………あのね真奈美ちゃん。私が言うのもあれなのかもしれないけど、真奈美ちゃんって嘘をつくのが下手なのよ? もし隠し事をしていることがあるなら言ってほしいわ。相談にだって乗れるかもしれないし」
「うぅ……」
 香奈ちゃんはこんなにも心配してくれているのに、私は嘘までついて何をやっているのでしょう。
 でもエルのことを上手く説明できる自信がありませんし……。
「……分かったわ。じゃあ決闘で決めましょう」
「え?」
「私が負けたら、真奈美ちゃんが話してくれるまで待つことにするわ。でももし私が勝ったら、真奈美ちゃんが隠していることを全部話してもらうわよ」
「お前、実は決闘がしたいだけなんじゃないのか?」
「ち、違うわよ!! だ、だいたい、あんただって私をほったらかしにして決闘してたんだからこれでおあいこでしょ!!」
 香奈ちゃんが動揺しながらそう言いました。
 いつも2人は、こんな感じでデートしているんだろうなぁと思えるような光景でした。




 デパートを出て、近くの噴水のある広場にやってきました。
 ベンチでは中岸君が香奈ちゃんと私の荷物を見守ってくれています。
 杖はその場にありません。「お店に置いてきた」と言って誤魔化しておきました。
「真奈美ちゃんと真剣に決闘するのは久しぶりね」
「そういえば、そうですね。初めて戦ったときは、私が負けてしまいました」
「ふふん、また私の勝ちにしてあげるわ」
「わ、私だって、負けません!!」
 互いにデュエルディスクとデッキを構え、声を合わせて叫びます。



「「決闘!!」」



 真奈美:8000LP   香奈:8000LP



 決闘が、始まりました。




 身に着けたデュエルディスクの青いランプが点灯します。
 どうやら先攻は香奈ちゃんからみたいです。
「いくわよ、私のターン、ドロー!」(手札5→6枚)
 引いたカードを手札に加えると、香奈ちゃんはすぐに行動に移りました。
「"豊穣のアルテミス"を召喚するわ!」
「っ! い、いきなりですか……」


 豊穣のアルテミス 光属性/星4/攻1600/守1700
 【天使族・効果】
 このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
 カウンター罠が発動される度に自分のデッキからカードを1枚ドローする。


 香奈ちゃんの使うのは【パーミッション】。カウンター罠をたくさん扱い、相手の行動を制限していくデッキです。
 召喚されたモンスターは、カウンター罠が発動されるたびにデッキからカードをドロー出来る効果を持っています。当然ながら香奈ちゃんとのデッキの相性はバッチリです。
「そしてカードを2枚伏せて、ターンエンドよ!!」


 香奈ちゃんのターンが終了して、私のターンになりました。


「私のターンです。ドロー!」(手札5→6枚)
 カードを引いても、香奈ちゃんは行動を起こしません。
 カウンター罠にはドローカードを捨てさせる効果を持ったものもあるので、ドローフェイズであっても少し緊張します。
「手札から"熟練の黒魔術師"を召喚します!」


 熟練の黒魔術師 闇属性/星4/攻1900/守1700
 【魔法使い族・効果】
 このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
 自分または相手が魔法カードを発動する度に、
 このカードに魔力カウンターを1つ置く(最大3つまで)。
 魔力カウンターが3つ乗っているこのカードをリリースする事で、
 自分の手札・デッキ・墓地から「ブラック・マジシャン」を1体特殊召喚する。


「……それは通すわ」
「分かりました。手札から"魔法吸収"を発動します」
「それも通す」


 魔法吸収
 【永続魔法】
 魔法カードが発動する度に、このカードのコントローラーは500ライフポイント回復する。

 熟練の黒魔術師:魔力カウンター×0→1

 モンスターの召喚を無効化されなかったのは、パーミッションデッキ相手には大きなアドバンテージです。
 パーミッションに入るモンスターは全体的に攻撃力が低めという弱点があります。
 だけど油断はできません。もう少し様子をみることにします。
「さらに手札から"魔力掌握"を発動します!」


 魔力掌握
 【通常魔法】
 フィールド上に表側表示で存在する魔力カウンターを
 乗せる事ができるカード1枚に魔力カウンターを1つ置く。
 その後、自分のデッキから「魔力掌握」1枚を手札に加える事ができる。
 「魔力掌握」は1ターンに1枚しか発動できない。

 熟練の黒魔術師:魔力カウンター×1→2→3
 真奈美:手札4→5枚("魔力掌握"をサーチ)
 真奈美:8000→8500LP

「っ!」
 香奈ちゃんの表情が険しくなりました。
 だけど伏せてあるカードが開かれる様子はありません。
 まさかとは思いますけど……ブラフなのでしょうか?
「このカードの効果で、熟練の黒魔術師には魔力カウンターが貯まりました。このカードをリリースして、デッキから"ブラック・マジシャン"を特殊召喚します!」
「分かったわ」
 香奈ちゃんが静かにそう言って、場を見つめています。
 ここまで連続で効果を使用したり召喚を試みても、伏せカードが使われる気配はありません。
 何か狙いがあるのでしょうか? いえ、考えても仕方ありません。妨害が入らないのなら、いつもどおり戦うだけです。
「出てきて! "ブラック・マジシャン"!!」
 私の呼びかけに呼応するように、黒衣の魔術師が場に現れました。


 ブラック・マジシャン 闇属性/星7/攻2500/守2100
 【魔法使い族】
 魔法使いとしては、攻撃力・守備力ともに最高クラス。


「出てきたわね。真奈美ちゃんのエースカード!」
「はい。バトルです! アルテミスに攻撃します!」
 黒衣の魔術師が杖を天使へ向けて、魔力の塊を撃ちだします。
 攻撃宣言時にも伏せカードは開かれていません。これなら―――!?


 豊穣のアルテミス:攻撃力1600→4100


「え?」
 天使の背で巨大な光の翼が羽ばたきました。
 その光は魔力の塊を打ち消して、力を高められた天使の反撃により魔術師は倒されてしまいました。

 ブラック・マジシャン→破壊
 真奈美:8500→6900LP

「そんなっ……!」
「ダメージステップに、手札から"オネスト"の効果を発動したわ」
 香奈ちゃんはそう言って、墓地に送られていた1枚のカードを見せてくれました。


 オネスト 光属性/星4/攻1100/守1900
 【天使族・効果】 
 自分のメインフェイズ時に、フィールド上に表側表示で存在するこのカードを手札に戻す事ができる。
 また、自分フィールド上に表側表示で存在する光属性モンスターが戦闘を行うダメージステップ時に
 このカードを手札から墓地へ送る事で、エンドフェイズ時までそのモンスターの攻撃力は、
 戦闘を行う相手モンスターの攻撃力の数値分アップする。


「カウンター罠だけが攻撃を防ぐ手段じゃないって、真奈美ちゃんが教えてくれたんじゃない」
「そ、そうでした……」
 前にアドバイスしたことを香奈ちゃんは実践してきました。
 油断しないって思っていたばかりなのに……完全に出鼻をくじかれた気分です。
「さぁ真奈美ちゃん、どうする?」
「……カードを1枚伏せて、ターン終了です」


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 真奈美:6900LP

 場:魔法吸収(永続魔法)
   伏せカード1枚

 手札3枚
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 香奈:8000LP

 場:豊穣のアルテミス(攻撃:1600)
   伏せカード2枚

 手札2枚
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「私のターン、ドロー!」(手札2→3枚)
 香奈ちゃんはカードを少し見つめて、少し考えました。
 やがて行動を決めたかのように、1体のモンスターを召喚します。


 ジェルエンデュオ 光属性/星4/攻撃力1700/守備力0
 【天使族・効果】
 このカードは戦闘によって破壊されない。このカードのコントローラーがダメージを受けた時、
 フィールド上に表側表示で存在するこのカードを破壊する。
 光属性・天使族モンスターをアドバンス召喚する場合、
 このモンスター1体で2体分のリリースとする事ができる。


 ハート形の天使がフワフワと場を飛んでいます。
 とても可愛らしい姿なので、個人的に好きなカードです。
「バトルよ! アルテミスとジェルエンデュオで攻撃!!」
「っ!」

 真奈美:6900→5300→3600LP

「このまま一気に押し切ってあげるわ! ターンエンドよ!!」





「私のターンです、ドロー!!」(手札3→4枚)
 一気に大ダメージを喰らってしまいましたけど、まだチャンスはあります。
 パーミッションデッキのモンスターは攻撃力が低いため、一気に相手ライフを削りきることも出来ません。
 ちょうど必要なカードも手札に舞い込んできてくれましたし、反撃するなら今しかありません。
「手札から"魔導騎士 ディフェンダー"を召喚します!!」


 魔導騎士 ディフェンダー 光属性/星4/攻1600/守2000
 【魔法使い族・効果】
 このカードが召喚に成功した時、
 このカードに魔力カウンターを1つ置く(最大1つまで)。
 フィールド上に表側表示で存在する魔法使い族モンスターが破壊される場合、
 代わりに自分フィールド上に存在する魔力カウンターを、
 破壊される魔法使い族モンスター1体につき1つ取り除く事ができる。
 この効果は1ターンに1度しか使用できない。

 魔導騎士 ディフェンダー:魔力カウンター×0→1

「バトルです!! ディフェンダーでアルテミスに攻撃します!」
「相討ち狙い?」
「いいえ、ディフェンダーは自身の魔力カウンターを取り除くことで破壊を無効に出来ます。よって破壊されるのはアルテミスだけです」
 魔導騎士と天使が互いの技をぶつけ合います。
 ですが天使の攻撃は魔力の壁に阻まれて届かず、騎士の攻撃だけが天使を撃ち抜きました。

 豊穣のアルテミス→破壊
 魔導騎士 ディフェンダー:魔力カウンター×1→0

「やるわね」
「まだこれからです。伏せカード"正統なる血統"を発動します!」


 正統なる血統
 【永続罠】
 自分の墓地に存在する通常モンスター1体を選択し、攻撃表示で特殊召喚する。
 このカードがフィールド上に存在しなくなった時、そのモンスターを破壊する。
 そのモンスターがフィールド上に存在しなくなった時、このカードを破壊する。


「蘇生対象は当然、ブラック・マジシャンです」
「させないわ! カウンター罠発動よ!!」


 盗賊の七つ道具
 【カウンター罠】
 1000ライフポイント払う。
 罠カードの発動を無効にし、それを破壊する。

 香奈:8000→7000LP
 正統なる血統→無効

「やっぱり通りませんか……」
「まだよ! カウンター罠で相手のカードを無効にしたことで、手札から"冥王竜ヴァンダルギオン"を特殊召喚!!」
「あっ……!」


 冥王竜ヴァンダルギオン 闇属性/星8/攻2800/守2500
 【ドラゴン族・効果】
 相手がコントロールするカードの発動をカウンター罠で無効にした場合、
 このカードを手札から特殊召喚する事ができる。
 この方法で特殊召喚に成功した時、無効にしたカードの種類により以下の効果を発動する。
 ●魔法:相手ライフに1500ポイントダメージを与える。
 ●罠:相手フィールド上のカード1枚を選択して破壊する。
 ●効果モンスター:自分の墓地からモンスター1体を選択して自分フィールド上に特殊召喚する。


「罠カードを無効にしたことで、私は相手のカードを1枚破壊できる! 私はディフェンダーを破壊するわ!!」
 闇の力を纏った竜が防御壁を失った魔導騎士へ炎を吐き出します。
 このまま黙って破壊されるわけにはいきません。
「させません! 速攻魔法"ディメンション・マジック"を発動です!」


 ディメンション・マジック
 【速攻魔法】
 自分フィールド上に魔法使い族モンスターが表側表示で存在する場合に発動する事ができる。
 自分フィールド上に存在するモンスター1体をリリースし、
 手札から魔法使い族モンスター1体を特殊召喚する。
 その後、フィールド上に存在するモンスター1体を破壊する事ができる。

 真奈美:3600→4100LP("魔法吸収"の効果)

「この効果でディフェンダーをリリースします! ヴァンダルギオンの効果は対象を失ったので不発で終わります。そして手札から"エターナル・マジシャン"を特殊召喚します!!」
 魔導騎士の体が消え、冥王竜の炎から逃れます。
 場に燃え盛る黒い炎の中から、炎をかき消すとともに最高位の魔法使いが現れます。
 真っ白なローブに白銀の長髪。透き通るような青い瞳が、冥王竜を静かに見据えます。
(マスター。私を召喚してくれてありがとうございます)
「お願いね! エターナル・マジシャン!!」
(ぇっ、私のことはエルと呼んでくれるんじゃなかったんですか?)
 エルが少しションボリした顔でこっちを見てきました。
(普段の生活ではエルだけど、決闘の時くらいはちゃんと正式名称で呼ぶのがマナーなので仕方ないことなんだよ)
(……そうなんですか。分かりました……では、少し我慢します)
 少し不機嫌そうにエルが杖を構えました。
 なにか悪いことをしてしまったような気分になってしまいました。
「こそこそ何を言ってるの?」
「え、な、何でもありません!! "ディメンション・マジック"の効果で、私は香奈ちゃんの場にいる"ジェルエンデュオ"を破壊します!」

 ジェルエンデュオ→破壊

「ヴァンダルギオンの破壊を回避するだけじゃなく、切り札まで出して私のモンスターまで破壊したのね……やっぱり真奈美ちゃん、すごいわね!」
「そ、そんな……たまたまですよ。バトルフェイズ中の特殊召喚なので、エターナル・マジシャンでヴァンダルギオンを攻撃します!!」
 白銀の魔法使いが杖を振ります。
 立ち塞がる冥王竜を無数の光の矢が貫きました。

 冥王竜ヴァンダルギオン→破壊
 香奈:7000→6800LP

「くっ…!」
「そしてエターナル・マジシャンは戦闘で破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手に与えます!」
「うぅ、そうだった……」
 再びエルが杖を振るうと、香奈ちゃんの足元で大爆発が起こりました。
 あまりの迫力に、観戦している中岸君も驚いています。

 香奈:6800→4000LP

(え、エル? なんか妙に過激な気がするんだけど……)
(気のせいですよマスター。ええ、私はまったくいつも通りですよ。けっして、名前で呼んでくれなかったことにふてくされているわけではありませんよ?)
 絶対に怒ってます。香奈ちゃんごめんなさい。
 あとできちんと言っておきますから……。
「びっくりした〜。初めて見たソリッドビジョンだったわね」
「あ、ああ、そうだな」
「ご、ごめんなさい……」
「真奈美ちゃんが謝ることじゃないわよ。本社が設定した映像なんだし」
「……………」
 2人はまったく気づいていないみたいで良かったです。
 いえ、良かったっていうのも変ですけど……。
「え、えっと、じゃあメインフェイズ2に入ります。エターナル・マジシャンの効果を使って、手札の"魔力掌握"を捨ててデッキから魔法カードを1枚手札に加えます」(手札1→0→1枚)
「そういう効果もあったわね。そういえば」
「はい。カードを1枚伏せて、ターン終了です」

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 真奈美:4100LP

 場:エターナル・マジシャン(攻撃:3000・デッキワン)
   魔法吸収(永続魔法)
   伏せカード1枚

 手札0枚
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 香奈:4000LP

 場:伏せカード1枚

 手札1枚
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「私のターン、ドロー!!」(手札1→2枚)
 香奈ちゃんのターンになりました。
 さっきのターンの攻防で、香奈ちゃんの場は圧倒的に不利になっています。
 でも彼女がこのまま黙ってやられるなんて思えません。
 そうなると、次の行動はおそらく……。
「来たわ! 手札から"天空の使者 ゼラディアス"を捨てて効果を発動するわ! デッキから"天空の聖域"を手札に加える!」
「待ってください。ゼラディアスの効果にチェーンして、伏せカード"相乗り"を発動します!!」


 天空の使者 ゼラディアス 光属性/星4/攻2100/守800
 【天使族・効果】
 このカードを手札から墓地へ捨てて発動する。
 自分のデッキから「天空の聖域」1枚を手札に加える。
 フィールド上に「天空の聖域」が表側表示で存在しない場合
 このカードを破壊する。


 相乗り
 【速攻魔法】
 このカードを発動したターン、
 相手がドロー以外の方法でデッキ・墓地からカードを手札に加える度に、
 自分はデッキからカードを1枚ドローする。
 「相乗り」は1ターンに1枚しか発動できない。

 真奈美:4100→4600LP("魔法吸収"の効果)

「これで香奈ちゃんがカードを手札に加えるたびに、私はデッキからカードをドロー出来ます」
「……相手の行動を利用した手札補充ってわけね。まぁいいわ。ゼラディアスの効果で"天空の聖域"を手札に加えるわ」(手札1→2枚)
「私も"相乗り"の効果で1枚ドローです」(手札0→1枚)
「そして"天空の聖域"を発動するわ!!」


 天空の聖域
 【フィールド魔法】
 このカードがフィールド上に存在する限り、
 天使族モンスターの戦闘によって発生する天使族モンスターの
 コントローラーへの戦闘ダメージは0になる。

 真奈美:4600→5100LP("魔法吸収"の効果)

 香奈ちゃんがカードを発動した瞬間、あたり一面が空中に浮かぶ神殿へ変化しました。
 聖なり光が辺りから溢れていて、まさしく聖域と呼ぶにふさわしい光景です。
「そしてゼラディアスを墓地に送ったことで、私の墓地には4体の天使族モンスターが存在するわ」
「っ!」
 その言葉でハッとなりました。
 香奈ちゃんの狙いは……!
「手札から"大天使クリスティア"を特殊召喚するわ!!」
 勢いよく叩き付けられたカード。
 聖域から眩い光が溢れ、その中から大きな翼を携えた大天使が降臨しました。


 大天使クリスティア 光属性/星8/攻2800/守2300
 【天使族・効果】
 自分の墓地に存在する天使族モンスターが4体のみの場合、
 このカードは手札から特殊召喚する事ができる。
 この効果で特殊召喚に成功した時、自分の墓地に存在する天使族モンスター1体を手札に加える。
 このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、お互いにモンスターを特殊召喚する事はできない。
 このカードがフィールド上から墓地へ送られる場合、墓地へ行かず持ち主のデッキの一番上に戻る。


「クリスティアの効果発動よ。墓地にいる"オネスト"を手札に加えるわ!」
「さ、させません! 手札の"エフェクト・ヴェーラー"を捨てて、クリスティアの効果を無効にします!」


 エフェクト・ヴェーラー 光属性/星1/攻0/守0
 【魔法使い族・チューナー】
 このカードを手札から墓地へ送り、
 相手フィールド上の効果モンスター1体を選択して発動できる。
 選択した相手モンスターの効果をエンドフェイズ時まで無効にする。
 この効果は相手のメインフェイズ時にのみ発動できる。


「甘いわよ真奈美ちゃん! 伏せカード"神罰"発動よ!!」
「あっ!」


 神罰
 【カウンター罠】
 フィールド上に「天空の聖域」が表側表示で存在する場合に発動する事ができる。
 効果モンスターの効果・魔法・罠カードの発動を無効にし破壊する。

 エフェクト・ヴェーラー→無効
 香奈:手札0→1枚("オネスト"を回収)
 真奈美:手札0→1枚("相乗り"の効果)

「バトルよ! クリスティアでエターナル・マジシャンに攻撃!! ダメージステップに手札から"オネスト"を使うわ!!」
 大天使が白銀の魔法使いへ向けて光の矢を放ちます。
 その矢は光の翼の力も受けて、巨大な閃光へと変わります。
 魔法使いが展開した防御壁を容易く貫き、その閃光は白銀の魔法使いを消し去ってしまいました。


 オネスト 光属性/星4/攻1100/守1900
 【天使族・効果】 
 自分のメインフェイズ時に、フィールド上に表側表示で存在するこのカードを手札に戻す事ができる。
 また、自分フィールド上に表側表示で存在する光属性モンスターが戦闘を行うダメージステップ時に
 このカードを手札から墓地へ送る事で、エンドフェイズ時までそのモンスターの攻撃力は、
 戦闘を行う相手モンスターの攻撃力の数値分アップする。

 大天使クリスティア:攻撃力2800→5800
 エターナル・マジシャン→破壊
 真奈美:5100→2300LP

(マスター、申し訳ありません……!)
「エターナル・マジシャン!!」
「悪いわね。このまま一気に決めさせてもらうわよ! デッキワンサーチシステムを使うわ!!」(手札0→1枚)
 香奈ちゃんが畳み掛けるように、デッキワンサーチを行いました。
 デッキワンサーチを相手が行ったとき、自分はデッキからカードを1枚ドロー出来ます。
 さらに"相乗り"の効果によってもう1枚ドローしました。(手札1→2→3枚)
「カードを1枚伏せて、ターンエンドよ!!」

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 真奈美:2300LP

 場:魔法吸収(永続魔法)
   
 手札3枚
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 香奈:4000LP

 場:天空の聖域(フィールド魔法)
   大天使クリスティア(攻撃:2800)
   伏せカード1枚

 手札0枚
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「私のターンです、ドロー!」(手札3→4枚)
「この瞬間、伏せカードを発動するわ!!」
 ドローフェイズに意気揚々と香奈ちゃんがカードの発動を宣言しました。


 ファイナルカウンター
 【カウンター罠・デッキワン】
 カウンター罠が15枚以上入っているデッキにのみ入れることが出来る。
 このカードはスペルスピード4とする。
 発動後、このカードを含めて、自分の場、手札、墓地、デッキに存在する
 魔法・罠カードを全てゲームから除外する。
 その後デッキから除外したカードの中から5枚まで選択して自分フィールド上にセットする事ができる。
 この効果でセットしたカードは、セットしたターンでも発動ができ、コストを払わなくてもよい。

 天空の聖域→除外("ファイナルカウンター"のコスト)

 カウンター罠を多用する彼女のデッキの切り札ともいえるカード。
 私が知っている中でも、おそらく最高峰の性能を誇るデッキワンカードです。
 デッキの中から5枚のカードを好きにセットできるうえ、コストすら払わなくて済むようになってしまいます。
 だけどその代償として、デッキの中に魔法・罠カードが存在しなくなってしまいます。
 パーミッションデッキにとっては、まさしく最後の切り札ともいえるカードでしょう。
「この効果で、私は5枚のカードをセットするわ!」
「相変わらず凄い効果ですよね、それ……」
「まぁね。私が使うカードだから当然と言えば当然だけど」
 なぜか誇らしげに笑う香奈ちゃん。
 その自信のようなものは、いったいどこから湧いてくるのか未だに分かりません。
「さぁ、真奈美ちゃんはターンを続けていいわよ」
「はい」
 相手の場に伏せられた5枚のカードを見つめて、次に手札を眺めます。
 場には特殊召喚を封じるクリスティア。そしてセットされた5枚のカウンター罠。
 かなり厳しい状況です。だけど、手が無いわけではありません。どんなにファイナルカウンターが強力なカードでも、セットするカードを選ぶのは香奈ちゃん自身であり、どの場面で使うかも香奈ちゃんが決めることです。
 以前、中岸君から聞いたことがあります。
 信じられませんけど、香奈ちゃんは基本的に直感に頼って決闘しているらしいです。
 なので揺さぶりや駆け引きの勝負に持ち込めば、勝ち目はある……ということでした。
 あまりやったことはありませんけど、ものは試しです。やってみる価値はあります。
「いきます! 手札から"ソウルテイカー"を発動します!!」


 ソウルテイカー
 【通常魔法】
 相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を破壊する。
 この効果によって破壊した後、相手は1000ライフポイント回復する。


「このカードでクリスティアを破壊します!」
「させないわ! 伏せカード発動よ!」


 マジック・ジャマー
 【カウンター罠】
 手札を1枚捨てて発動する。
 魔法カードの発動を無効にし破壊する。

 ソウルテイカー→無効

 まず1枚目は無効にされてしまいました。
 それなら、次は……!
「手札の"ブラック・マジシャン・ガール"をコストに"黒魔術の波動"を発動します!!」


 黒魔術の波動
 【通常魔法】
 手札1枚を捨てて発動する。
 フィールド上に表側攻撃表示で存在するモンスター1体選択して破壊する。
 その後、破壊したモンスターの攻撃力より低い攻撃力を持つ魔法使い族モンスターを
 墓地から手札に加えることができる。


「またモンスター破壊のカードね。当然、通さないわ!!」
 そう言って香奈ちゃんは、2枚目の伏せカードを発動させました。


 魔宮の賄賂
 【カウンター罠】
 相手の魔法・罠カードの発動と効果を無効にし破壊する。
 相手はデッキからカードを1枚ドローする。

 黒魔術の波動→無効
 真奈美:手札1→2枚

「っ……! やっぱり思い通りにはいきませんね」
「当たり前でしょ。さぁどうするの?」
「……モンスターをセットして、カードを1枚伏せてターン終了です」

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 真奈美:2300LP

 場:裏守備モンスター1体
   魔法吸収(永続魔法)
   伏せカード1枚

 手札0枚
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 香奈:4000LP

 場:大天使クリスティア(攻撃:2800)
   伏せカード3枚

 手札0枚
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「私のターン、ドロー!」(手札0→1枚)
 香奈ちゃんがカードを引いて、すぐさまバトルフェイズに入りました。
 どうやら新しいモンスターは召喚されないようです。助かりました。
「バトルよ! クリスティアでセットモンスターに攻撃!」
「その攻撃宣言時に、伏せカードを発動します!」


 ブレイクスルー・スキル
 【通常罠】
 相手フィールド上の効果モンスター1体を選択して発動できる。
 選択した相手モンスターの効果をターン終了時まで無効にする。

 また、墓地のこのカードをゲームから除外する事で、
 相手フィールド上の効果モンスター1体を選択し、その効果をターン終了時まで無効にする。
 この効果はこのカードが墓地へ送られたターンには発動できず、自分のターンにのみ発動できる。


「これでクリスティアの効果を無効にします!」
「っ……なるほど、さては真奈美ちゃんのセットモンスターはリクルーターね。それで耐えるつもりかもしれないけど、そうはいかないわ! 伏せカード"神の宣告"を発動よ!!」


 神の宣告
 【カウンター罠】
 ライフポイントを半分払う。
 魔法・罠の発動、モンスターの召喚・反転召喚・特殊召喚の
 どれか1つを無効にし、それを破壊する。

 ブレイクスルースキル→無効

「そのまま攻撃よ!!」
 大天使の攻撃が私の場にいるセットモンスターへ襲い掛かります。
 攻撃されたモンスターは―――


 執念深き老魔術師 闇属性/星2/攻450/守600
 【魔法使い族・効果】
 リバース:相手フィールド上のモンスター1体を選択して破壊する。


「リクルーターじゃない!?」
「香奈ちゃんにそう思わせるために、ブレイクスルースキルを発動したんです!」
「っ! まだよ! 伏せカード"天罰"を使うわ!!」


 天罰
 【カウンター罠】
 手札を1枚捨てて発動する。
 効果モンスターの効果の発動を無効にし破壊する。

 執念深き老魔術師→効果無効→破壊

「わざと私にカウンター罠を無駄撃ちさせるなんて……さすがね」
「はい。ありがとうございます」
 これで香奈ちゃんの場に残る伏せカードは1枚だけです。
 だけど依然として不利な状況は変わりません。次のターンが、勝負です。
「私はこれでターンエンドよ」

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 真奈美:2300LP

 場:魔法吸収(永続魔法)
   
 手札0枚
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 香奈:4000LP

 場:大天使クリスティア(攻撃:2800)
   伏せカード1枚

 手札1枚
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「私のターンです! ドロー!」(手札0→1枚)
 手札に舞い込んだのは、この場において強力なドローカードでした。
「"貪欲な壺"を発動します!」
「っ!」


 貪欲な壺
 【通常魔法】
 自分の墓地に存在するモンスター5体を選択し、デッキに加えてシャッフルする。
 その後、自分のデッキからカードを2枚ドローする。

 真奈美:2300→2800LP("魔力吸収"の効果)

「この効果で墓地から"エターナル・マジシャン"、"熟練の黒魔術師"、エフェクト・ヴェーラー"、"執念深き老魔術師"、"魔導騎士 ディフェンダー"を墓地に戻して2枚ドローします!」(手札0→2枚)
「この土壇場でドローカードとはね……」
「墓地にある"ブレイクスルー・スキル"の効果を使います。このカードを除外して、クリスティアの効果を無効にします!」
 何もない空間から光の輪が飛び出して、大天使の四肢を拘束します。
 途端に辺りを照らしていた眩い光が消え去りました。


 ブレイクスルー・スキル
 【通常罠】
 相手フィールド上の効果モンスター1体を選択して発動できる。
 選択した相手モンスターの効果をターン終了時まで無効にする。
 また、墓地のこのカードをゲームから除外する事で、
 相手フィールド上の効果モンスター1体を選択し、その効果をターン終了時まで無効にする。
 この効果はこのカードが墓地へ送られたターンには発動できず、自分のターンにのみ発動できる。


 大天使クリスティア→効果無効
 
「効果を無効にされたわね……!」
「これで特殊召喚ができるようになりました! 手札から"師弟の奇跡"を発動します!!」


 師弟の奇跡(マジシャンズ・ミラクル)
 【速攻魔法】
 このカードは無効にされない。
 墓地に「ブラック・マジシャン」と「ブラック・マジシャンガール」がいる時、発動できる。
 デッキ、手札または墓地から魔法使い族モンスター1体を攻撃表示で特殊召喚する。
 エンドフェイズ時に、自分はこの効果で特殊召喚したモンスターの攻撃力分のダメージを受ける。

 真奈美:2800→3300LP("魔力吸収"の効果)

「この効果で、デッキから"エターナル・マジシャン"を特殊召喚します!!」
 墓地に眠る魔術師の師弟がもたらす最後の力。
 2色の魔力の柱が立ち、その力が交わる場所から最高位の魔法使いが再び現れました。


 エターナル・マジシャン 闇属性/星10/攻3000/守2500
 【魔法使い族・効果・デッキワン】
 魔法使い族モンスターが15枚以上入っているデッキにのみ入れることが出来る。
 このカードが戦闘によってモンスターを破壊し墓地へ送った時、
 破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。
 このカードがフィールドに表側表示で存在する限り、
 自分は魔法カードを発動するためのコストが必要なくなる。
 1ターンに1度、手札を1枚捨てることで
 デッキまたは墓地に存在する魔法カード1枚を手札に加えることが出来る。


(再び呼んでくれてありがとうございますマスター)
「いきます! 手札から"魔術師の力"を装備します!!」


 魔導師の力
 【装備魔法】
 装備モンスターの攻撃力・守備力は、
 自分フィールド上に存在する魔法・罠カード1枚につき
 500ポイントアップする。

 エターナル・マジシャン:攻撃力3000→4000
 真奈美:3300→3800LP("魔力吸収"の効果)

「バトルです!」
 白銀の魔法使いが杖を構えます。
 その杖の先に膨大な魔力が込められて、身動きの取れない大天使へ向けて魔力を解き放ちます。
「……私の、負けね」
 がっくりと肩を落とす香奈ちゃん。
 同時に魔力が大天使を飲み込み、その余波が彼女を飲み込みました。


 大天使クリスティア→破壊
 香奈:4000→2800→0LP






 相手のライフが0になり、決闘は終了しました。






「あーあ、負けちゃったわ………」
 デュエルディスクをしまいながら、がっくりと肩を落とす香奈ちゃん。
 私もデュエルディスクを片づけながら、「勝てて良かったです」と返事をしました。
「最後の伏せカードはなんだったんですか?」
「"死者蘇生"よ。クリスティアがやられちゃったら発動しようと思っていたんだけど、一撃でライフを削りきられるのは考えてなかったわ」
「そうだったんですか……」
 もし香奈ちゃんが別のカードをセットしていたら、結果は変わっていたかもしれません。
 なんにしても、これで万事解決です。
 決闘にも勝てましたし、香奈ちゃんにエルの事を話さずに済むのですから。

「2人とも、いい決闘だったな」

 観戦していた中岸君が私達の荷物を手渡してくれました。
「大助、負けちゃったわ……」
「そういうときもあるだろ。また次に勝てばいいさ」
「そうね。じゃあ真奈美ちゃん! もう1度決闘しましょう!」
「え、いや、その、そろそろ帰ろうかと思っていたんですけど……香奈ちゃんたちの邪魔しちゃ悪いですし……」
「デートはもう終わったからいいのよ♪ 今は普通に一緒にいるだけだから」
 一緒にデートをした後で、普通に一緒にいる。
 いったい何がどう違うのか分かりません。
 隣で中岸君は少し苦笑しています。
「あの、香奈ちゃん」
「なに?」
「その……たしかに香奈ちゃんの言うとおり、隠し事はしています。でも、ちゃんと言える日が来たら、その時は話しますから、その時まで待ってくれませんか?」
「……じゃあ一つだけ答えて。その隠し事のせいで、真奈美ちゃんは辛かったり苦しくなったりしない?」
「いいえ。そんなことには絶対になりません」
「そう……じゃあ真奈美ちゃんが話してくれるまで待ってるわ。そうね、とりあえず1ヶ月くらいまで待つから、それまでに言ってくれなかったらもう1度決闘で決めるわよ」
「えぇ!? 私のタイミングで話してくれるまで待ってくれるんじゃないんですか?」
「私がそんなに我慢強いわけないじゃない。最初は2週間にしようと思ってたんだから、むしろ感謝してほしいくらいよ?」
「えぇぇぇ………」
 明るい笑顔でそう言った香奈ちゃんに、私は返す言葉が見つかりませんでした。
 でもなぜか、そんな彼女を見ていると元気な気持ちになれました。

 私の大切な友達……きっと彼女は、迷うことなく戦うことを決意していると思います。
 私自身も、自分の意志で戦うことを決めたんです。
 どんなに苦難が待っていても、最後までみなさんを信じて戦い抜きたいです。
(マスターなら、きっと大丈夫ですよ)

 内側から語りかけてくれる大切なパートナーにも励まされて、私の決意はより一層深まりました。




episode4――配られた招待状(4)――

「美味し〜〜〜♪ やっぱりラーメンは醤油に限るかも♪」
「おいおい、嬢ちゃんそんなに食べて大丈夫かい? もうこれで3杯だぜ?」
「心配してくれてありがとう店主さん♪ でも私の胃袋は宇宙だからもう1杯はいけるかも♪」
「…………」
 えーと、その、あれだ。
 状況を整理しろ雲井忠雄。
 終業式が終わったからいきつけのラーメン屋に行ってみたら、店主と見知った女性が親しげに話している。
 しかもその女性の側にはラーメンのどんぶりが3つ重なっている。
 替え玉せずに、汁まで飲み干したってこと……だよな?
「おう! いらっしゃい!」
「ん? あー!! 雲井君!! やほーこっちだよー♪」
「…………」
 大人気作家、空歌夜真姫(そらかよまき)……もとい、小森彩也香(こもりさやか)がラーメン屋のカウンターで手を振っていた。
 いや別に彩也香がラーメン屋にいちゃいけないってわけじゃねぇよ?
 でも、なんで星花町にいるんだ?
「こっちこっち♪」
「あ、ああ」
 彩也香に招かれるまま、俺はカウンターの隣の席に座る。
 店主のおっさんが「ご注文は?」と言ってきたので、とりあえず「醤油ラーメンの大盛り」を頼んでおく。
「久しぶりだね。もしかして終業式?」
「ああ。彩也香はどうしてここにいるんだ? もしかしてまたネタ探しか?」
「え、あ、え、えーと、まぁそんなところかな」
 歯切れ悪い答えに首を傾げつつ、俺はかついでいたバッグを下ろした。
 彩也香はポケットからメガネケースを取り出して、そこから眼鏡を取り出して身に着けた。
「あれ? 眼鏡なんてかけてどうたんだ? 視力落ちたのか?」
「ふふーん。どう雲井君? 最近トレンドの眼鏡っ娘だよ?」
「………」
「そういう反応されるとお姉さん困っちゃうなぁ。それともあれ? 雲井君は眼鏡属性は持っていない感じ?」
「眼鏡属性ってなんだよ?」
「あちゃー、まったく雲井君ったら眼鏡属性も知らないなんて時代遅れだよ? それにこれは変装用の眼鏡だから度は入ってないの♪」
 右手で眼鏡をクイッとあげて、彩也香は笑う。
 まぁよく分かんねぇけど、こいつもいつもどおりみたいだぜ。
「あれ、そういえばライガーは?」
「あいつは1人でどっかに行ってるぜ。最近、1人で出歩くことが多くなったな」
「そっか、他には何か変わったことない?」
「ああ? いつもと変わらず嫌味ばっか言ってくるぜ。あぁでも最初に比べたら少し体が大きくなったな。飯とか食う量も多くなったし」
「ふーん………ねぇ雲井君。これあげる」
「は?」
 そう言って彩也香に渡されたのは、1枚の遊戯王カードだった。
 これはたしか……彩也香のデッキに入っていたカード……?
「なんでこれを俺に渡すんだよ? 俺のデッキに入るようなカードじゃないぜ?」
「うーん、これは私の作家としてのカンなんだけど、そのカードはいつかきっと必要になると思うんだ」
「いつかって?」
「私も分からない。だけど、本当に危険な戦いとかに巻き込まれたときとか、絶対に負けられない戦いのときかな?」
「…………」
「そんな難しい顔しなくても大丈夫かも♪ ほら、お守り代わりだと思ってさ、デッキに入れておいてよ♪」
「あ、ああ……」
 彩也香に言われるまま、受け取ったカードをデッキケースに入れる。
 なんでわざわざこのカードを俺に渡したのかは分からないが、とりあえず入れておこうと思った。
「とりあえず礼を言っておくぜ。カードくれてありがとな」
「えへへ、そう言ってくれると嬉しいかも♪ とにかく元気そうでなによりだよ♪」
「俺はいつだって元気だぜ」
 そうして少し談笑した後に、注文しておいたラーメンが出された。
 学生向けにかなり大盛りにしてある。彩也香はこれを3杯も食べたのか……。
「はいよお待ち。お嬢さんはこれで最後にしてくんな。塩分取りすぎで体調壊されたら気分悪いからな」
「はーい♪」
「いやぁそれにしても、お二人さん仲がいいねぇ。もしかして恋人かい?」
「え!? い、いやぁ、や、やっぱりおじさんには分かっちゃうかぁ……」
「分かってねぇよ!? 意味深な返事すんじゃねぇ!!」
 噴出しそうになったギリギリで我慢し、すぐに否定する。
 おじさんはケラケラと笑い、彩也香は少し頬を膨らませてこっちを睨み付ける。
「もう雲井君ってば、冗談をいちいち真面目に受け取っていたら身がもたないよ?」
「彩也香の話はどれが冗談でどれが本気かが分かりづらいんだぜ……」



「やっと見つけましたよ!!」



 店のドアが勢いよく開かれ、中に黒いスーツを着た女性が入ってきた。
 黒縁の眼鏡をかけていて、真っ黒な長い髪を三つ編みにしてある。
 ウエストポーチをつけていて、おそらく走ってきたことによる息の乱れを整えていた。
「ソラ先生! こんなところにいたんですか!」
「な、なんのはなしですかー? ひ、人違いだと思いますよ?」
「眼鏡をかけても変装になりません! ほら、はやく仕事場に戻って小説書いてください! 締め切りはもうすぐなんですよ?」
「きゃあ、ミィちゃんったら強引♪」
「ミィじゃなくて三井(みつい)です!! 締め切りが近いからって逃げ出さないでください!」
「え……彩也香……?」
 逃げ出してきたって、まさか仕事からか?
 小説家の仕事ってのはよく分からねぇけど、それってまずいことなんじゃねぇのか?
「た、助けて雲井君! このままじゃ私、殺されちゃうよぉ!」
「誤解を招くような発言しないでください! 締め切りまでにソラ先生の原稿届けられなかったら私のクビが危ないんです!」
「そう言って原稿できるまでずっと部屋に居座るんだよ!? 私のプライベートが侵されちゃうよぉ!」
「いや、じゃあさっさと原稿仕上げればいいんじゃ……」
「簡単に言わないでよぉ! 帰国子女のお嬢様と引っ込み思案な図書委員長と活発なスポーツ少女の中から1人だけを選ぶなんて私にはできないのぉ! みんな主人公のことを健気に思う子なのに、1人しか結ばれないなんて可哀想だもん! あっ、そうだ! この際いっそハーレムエンドもありかも♪」
「前の巻のあとがきで”主人公と誰が結ばれるのか、楽しみに待っていてください”と書いたのはソラ先生ですよ」
「もう八方塞だよぉ……あ、そうだ。新しいヒロイン出して物語を伸ばすのも……」
「あとがきで”次でラストになります”って書いたのもソラ先生です」
「うわぁぁぁあぁん!! ファンの子からほぼ同数の応援票が届いてるのに決められないよぉ!」
「とにかく仕事場に戻ってください!」
「やーだー! 助けて雲井くん!」
 そう言って彩也香は俺の腕に抱きついてきた。
 なんか柔らかい感触がした気がするが、意識しないほうがよさそうだぜ……。
「一般の方にご迷惑かけるなんて大人としてどうなんですか?」
「っ…! 違うもん! この子は私の婚約者だもん!!

「「はああああああああああ!!!??」」

 一気に店の中がざわめいた。
 婚約者って、急に名に言い出しやがるんだよ!?
 三井さんは顔を真っ赤にして、ワナワナと震えているし。
「こ、ここここ、婚約って……!? そ、そんな、ソラ先生、いつの間に!?」
「この前、来たときに偶然出会ってね。悩んでいる私を救ってくれてね。その、心が熱くなる言葉を投げかけてくれて……それで、深夜の中あんな激しい戦いだったのに、それでも私を気づかってくれて……♪」
「ぷ、プロポーズに、い、一夜まで共に…!?」
「待て待て待て! 違う! 違うぞ!? だいたい合ってるんだけど全然違うぞ!?」
 顔を真っ赤にしながらうろたえる三井さんを尻目に、彩也香は口元に静かに笑みを浮かべる。
 なんだこの”計画通り”とでも言いたそうな表情は……。
「ふふふ、ミィちゃんはピュアな子だからね。こういう話をすれば冷静さを奪えるのさ」
「えぇぇぇ。人間としてそれはどうなんだよ彩也香……」
「雲井君。人間は時として非情にならないといけないときもあるんだよ」
「……すまん。かっこいい台詞なんだろうけど、今のお前が言っても心に響かねぇぜ……」
 あたふたしている三井さんが可哀想になってきたので、とりあえず落ち着かせて事情を説明する。
 闇の力とかのことは伏せつつ話をしたため少しだけ面倒だったが、このまま誤解を生むより遥かにマシだぜ。


「………ってな感じだぜ。とりあえず婚約とかした覚えはない」
「な、なるほど。また私はソラ先生に踊らされていたというわけですか」
 あんな嘘に騙される方もどうかと思うけど、言わないでおくか。
「と、とにかく一緒に仕事場まで戻ってもらいますよ!」
「えー、やだー」
「子供みたいな駄々をこねないでください。ソラ先生の新作を心待ちにしている読者さんがたくさんいるんですよ?」
「それを言われると厳しいなぁ……そうだ! じゃあさ、決闘で決めよう!!」
「はい?」
「今からミィちゃんと雲井君が決闘して、勝った方の命令を私は聞くよ。もちろんミィちゃんが勝ったら煮るなり焼くなり好きにすればいいさ」
「自分で戦うのではなく、そこの少年に勝利を託すとは……いいんですか?」
「もちろん! だって雲井君は負けないもんね♪」
 そう言って彩也香は俺に微笑んだ。
 なんか妙なことに巻き込まれたことを自覚しつつ、ため息をつく。
「いいぜ。よく分かんねぇけど、決闘すればいいんだな?」
「さすが雲井くん♪ 話が分かるね! じゃあさっさとミィちゃんを倒して一緒にどこか行こうね!」
 勝手にはしゃぐ彩也香を尻目に、俺と三井さんはラーメン屋の外に出る。
 近くの空き地に移動して、互いにバッグの中からデュエルディスクとデッキを取り出して装着した。
「すみません。うちの作家がご迷惑をおかけしたみたいで……」
「いや、なんかもう慣れちまったから大丈夫だぜ」


「「決闘!!」」



 雲井:8000LP   三井:8000LP




 決闘が始まった。






 デュエルディスクの青いランプが点灯する。
 どうやら先攻は三井さんからみたいだ。
「では行きます。私のターン、ドロー!」(手札5→6枚)
 カードを引き、三井さんはしばらく手札を眺める。
 彩也香と比べて、どことなく動作がぎこちない気がするぜ。
「私は手札から"古代の機械城"を発動します」


 古代の機械城
 【永続魔法】
 フィールド上に表側表示で存在する「アンティーク・ギア」と名のついた
 モンスターの攻撃力は300ポイントアップする。
 モンスターが通常召喚される度に、このカードにカウンターを1つ置く。
 「アンティーク・ギア」と名のついたモンスターをアドバンス召喚する場合、
 必要なリリースの数以上のカウンターが乗っていれば、
 このカードをリリースの代わりにする事ができる。


 三井さんの背後に巨大な機械の城が出現する。
 このカードが出てくるってことは、三井さんのデッキは【アンティークギア】ってことか。
 【アンティークギア】は、地属性機械族で統一されたテーマデッキ。そのモンスターのほとんどが、攻撃時に相手の魔法・罠を封殺できる攻撃的なデッキだ。効果だけを見れば、少しライガーに似ているような気がするぜ。
「さらに手札から"古代の機械騎士"を召喚。この瞬間、機械城にカウンターが1つ乗り、"古代の機械騎士"の攻撃力も300ポイントアップします」


 古代の機械騎士 地属性/星4/攻1800/守500
 【機械族・デュアル】
 このカードは墓地またはフィールド上に表側表示で存在する場合、通常モンスターとして扱う。
 フィールド上に表側表示で存在するこのカードを通常召喚扱いとして再度召喚する事で、
 このカードは効果モンスター扱いとなり以下の効果を得る。
 ●このカードが攻撃する場合、相手はダメージステップ終了時まで魔法・罠カードを発動できない。

 古代の機械騎士:攻撃力1800→2100
 古代の機械城:カウンター×0→1

「カードを1枚伏せて、ターン終了」



 三井さんのターンが終わって、俺のターンに移行する。



「よっしゃ。いくぜ俺のターン!!」(手札5→6枚)
 手札を引き、すぐさまモンスターを召喚した。


 ミニ・コアラ 地属性/星4/攻1100/守100
 【獣族・効果】
 このカードをリリースすることで、デッキ、手札または墓地から
 「ビッグ・コアラ」1体を特殊召喚できる。


「"ミニ・コアラ"の効果発動だぜ。このカードをリリースして、デッキから"ビッグ・コアラ"を特殊召喚だ!!」


 ビッグ・コアラ 地属性/星7/攻撃力2700/守備力2000
 【獣族】
 とても巨大なデス・コアラの一種。
 おとなしい性格だが、非常に強力なパワーを持っているため恐れられている。


「いきなり攻撃力2700!?」
「バトル! 攻撃だぁ!!」
「っ、伏せカード"くず鉄のかかし"を発動!!」


 くず鉄のかかし
 【通常罠】
 相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
 相手モンスター1体の攻撃を無効にする。
 発動後このカードは墓地に送らず、そのままセットする。


「ちっ、簡単には攻撃を通してくれねぇか。カードを1枚伏せて、ターンエンドだぜ」

--------------------------------------------------
 雲井:8000LP

 場:ビッグ・コアラ(攻撃:2700)
   伏せカード1枚

 手札4枚
--------------------------------------------------
 三井:8000LP

 場:古代の機械騎士(攻撃:2100)
   古代の機械城(永続魔法:カウンター×1)
   伏せカード1枚(くず鉄のかかし)

 手札3枚
--------------------------------------------------

「なるほど、ソラ先生が決闘の勝敗を託すだけのことはありますね」
「へっ! あんたもなかなかやるじゃねぇか」
「ありがとうございます。ですが勝利は譲れません! 私のターン!」(手札3→4枚)
 手札を引き、三井さんは口元に静かに笑みを浮かべた。
 なんかキーカードでも引き当てたのか?
「手札から"テラ・フォーミング"を発動!」


 テラ・フォーミング
 【通常魔法】
 自分のデッキからフィールド魔法カード1枚を手札に加える。


「この効果でデッキから"歯車街"をサーチして、そのまま発動します!!」
「フィールド魔法だって!?」



 歯車街
 【フィールド魔法】
 「アンティーク・ギア」と名のついたモンスターを召喚する場合に
 必要なリリースを1体少なくする事ができる。
 このカードが破壊され墓地へ送られた時、自分の手札・デッキ・墓地から
 「アンティーク・ギア」と名のついたモンスター1体を選んで特殊召喚できる。


「このフィールド魔法がある限り、アンティークギアのリリースは1体少なくなります。さらに"古代の機械城"に乗っているカウンターはリリース要員として扱えます! 機械城をリリースして、手札からモンスターを召喚です!」
「なっ!?」
 歯車街でリリース要員が1体少なくなっているのに、1体分のリリースをしたってことは……最上級モンスターか!
 マジか。じゃあ相手は場にいるモンスターを1体も無駄にすることなく、最上級モンスターを召喚したってことかよ。
「現れろ! "古代の機械巨人"!!」


 古代の機械巨人 地属性/星8/攻3000/守3000
 【機械族・効果】
 このカードは特殊召喚できない。
 このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、このカードの攻撃力が
 守備表示モンスターの守備力を超えていれば、その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。
 このカードが攻撃する場合、 相手はダメージステップ終了時まで魔法・罠カードを発動できない。


「ちっ、攻撃力3000か……!」
「バトルです! 機械巨人でビッグ・コアラに攻撃!! このモンスターが攻撃するとき、あなたはダメージステップ終了時まで魔法・罠は使えません!」
 機械の巨人が鉄の塊である拳を振るう。
 その拳をまともに受けた俺のモンスターは、遥か彼方まで吹き飛ばされてしまった。

 ビッグ・コアラ→破壊
 雲井:8000→7700LP

「くそっ……!」
「続いて"古代の騎士"で攻撃!!」
「させねぇぜ! 伏せカード"ガード・ブロック"を発動!!」


 ガード・ブロック
 【通常罠】
 相手ターンの戦闘ダメージ計算時に発動する事ができる。
 その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になり、
 自分のデッキからカードを1枚ドローする。


「この効果で戦闘ダメージを0にして、デッキから1枚ドローだ!」(手札4→5枚)
「"古代の機械騎士"には機械巨人と同じ効果は無い……そこをついて防御カードを発動させましたか。なかなか手強いですね。私はこのままターン終了です」



 ターンが移行した。



「俺のターン、ドロー!」(手札5→6枚)
 引いたカードをすぐさまデュエルディスクに叩き付ける。
 フィールド上に緑色のカケラが出現した。


 強欲なカケラ
 【永続魔法】
 自分のドローフェイズ時に通常のドローをする度に、
 このカードに強欲カウンターを1つ置く。
 強欲カウンターが2つ以上乗っているこのカードを墓地へ送る事で、
 自分のデッキからカードを2枚ドローする。


「ドロー加速ですか」
「まぁすぐには使えねぇけどな。とりあえずその巨人には退場してもらうぜ!! 手札から"地砕き"を発動だぜ!!」
「っ!」


 地砕き
 【通常魔法】
 相手フィールド上に表側表示で存在する守備力が一番高いモンスター1体を破壊する。

 古代の機械巨人→破壊

「処理されてしまいましたか」
「ああ。俺はモンスターをセットして、カードを1枚伏せて、ターンエンドだぜ」

--------------------------------------------------
 雲井:7700LP

 場:裏守備モンスター1体
   強欲なカケラ(永続魔法)
   伏せカード1枚

 手札2枚
--------------------------------------------------
 三井:8000LP

 場:歯車街(フィールド魔法)
   古代の機械騎士(攻撃:1800)
   伏せカード1枚(くず鉄のかかし)

 手札2枚
--------------------------------------------------

「私のターンです」(手札2→3枚)
 なんとか相手の切り札を倒せたのはいいけど、依然として不利な状況は変わっていない。
 次も凌げればいいんだが……。
「手札から"古代の機械獣"を召喚します」


 古代の機械獣 地属性/星6/攻2000/守2000
 【機械族・効果】
 このカードは特殊召喚できない。
 このカードが戦闘によって破壊した相手効果モンスターの効果は無効化される。
 このカードが攻撃する場合、
 相手はダメージステップ終了時まで魔法・罠カードを発動できない。


「レベル6を通常召喚!?」
「"歯車街"の効果で、リリースが1体減っているんですよ」
「あ、あぁ、そうだったぜ……」
 相手だけあんな簡単に上級モンスターをだされちゃ、たまったもんじゃねぇぜ。
 しかもあのモンスターは戦闘破壊したモンスターの効果を封じる力がある。
 このまま攻撃させるわけにはいかねぇか。
「さらに手札から"ダブル・サイクロン"を発動!! 対象はあなたの伏せカードと"歯車街"です」
「っ!?」
 わざわざ自分からフィールド魔法を破壊しに来た?
 いや、狙いは分からないけど、このまま伏せカードを破壊されるわけにはいかないぜ!
「チェーンして伏せカード発動だ!!」


 禁じられた聖杯
 【速攻魔法】
 フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動できる。
 エンドフェイズ時まで、選択したモンスターの攻撃力は
 400ポイントアップし、効果は無効化される。

 古代の機械獣:攻撃力2000→2400 効果→無効
 歯車街→破壊

「機械獣の効果を無効にされてしまいましたか……ですが、まだです! 破壊された"歯車街"の効果で、デッキから"古代の機械巨竜"を特殊召喚します!!」
「んなぁ!?」
 崩れ行く機会の街の中から、巨大な竜の姿をした機械が現れる。
 甲高い咆哮を上げながら、その機械竜は上空から俺を見下ろしていた。


 古代の機械巨竜 地属性/星8/攻3000/守2000
 【機械族・効果】
 このカードが攻撃する場合、相手はダメージステップ終了時まで魔法・罠カードを発動できない。
 このカードの召喚のためにリリースしたモンスターによって以下の効果を得る。
 ●グリーン・ガジェット:このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、
 その守備力を攻撃力が超えていれば、その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。
 ●レッド・ガジェット:このカードが相手ライフに戦闘ダメージを与えた時、
 相手ライフに400ポイントダメージを与える。
 ●イエロー・ガジェット:このカードが戦闘で相手モンスターを破壊した場合、
 相手ライフに600ポイントダメージを与える。


「攻撃力3000のモンスターをノーコストで特殊召喚だと!?」
「バトルです! まずは"古代の機械獣"で攻撃!!」
 機械獣がその牙をむき出しにして、俺の場にいるモンスターへ襲い掛かる。
 裏側表示のカードが表になり、守備態勢をとるネズミを引き裂いた。

 巨大ネズミ→破壊

 巨大ネズミ 地属性/星4/攻1400/守1450
 【獣族・効果】
 このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、自分のデッキから攻撃力1500以下の
 地属性モンスター1体を自分フィールド上に表側攻撃表示で特殊召喚する事ができる。


「戦闘破壊された"巨大ネズミ"の効果発動だぜ! デッキから"巨大ネズミ"を攻撃表示で特殊召喚!」
「リクルーターですか。ならば"古代の機械騎士"で攻撃!!」

 巨大ネズミ→破壊
 雲井:7700→7300LP

「ちっ! もう1回"巨大ネズミ"を攻撃表示で特殊召喚だぜ!!」
「最後に"古代の機械巨竜"で攻撃です!!」

 巨大ネズミ→破壊
 雲井:7300→5700LP

「く……!」
 巨大ネズミは便利なリクルーターだけど、攻撃表示で特殊召喚しなきゃいけないからダメージを喰らっちまうのも仕方ないか。
 とりあえず、相手モンスターの攻撃を凌げたから良しとするぜ。
「破壊された"巨大ネズミ"の効果で、デッキから"ミニ・コアラ"を特殊召喚するぜ!」


 ミニ・コアラ 地属性/星4/攻1100/守100
 【獣族・効果】
 このカードをリリースすることで、デッキ、手札または墓地から
 「ビッグ・コアラ」1体を特殊召喚できる。


「……私はこれでターン終了です」

--------------------------------------------------
 雲井:5700LP

 場:ミニ・コアラ(攻撃:1100)
   強欲なカケラ(永続魔法)

 手札2枚
--------------------------------------------------
 三井:8000LP

 場:古代の機械騎士(攻撃:1800)
   古代の機械獣(攻撃:2000)
   古代の機械巨竜(攻撃:3000)
   伏せカード1枚(くず鉄のかかし)

 手札1枚
--------------------------------------------------

「俺のターンだぜ!!」(手札2→3枚)
 デッキからカードを引くと同時に、俺の場にある緑色のカケラが光輝く。

 強欲なカケラ:強欲カウンター×0→1

「そしてメインフェイズに、"ミニ・コアラ"をリリースして"ビッグ・コアラ"をデッキから特殊召喚だ!!」
「っ!」
 小さなコアラが成長し、相手の場に並ぶ機械竜と並ぶ大きさのコアラに変化した。


 ビッグ・コアラ 地属性/星7/攻撃力2700/守備力2000
 【獣族】
 とても巨大なデス・コアラの一種。
 おとなしい性格だが、非常に強力なパワーを持っているため恐れられている。


「そして手札から"融合"を発動!! 手札の"デス・カンガルー"を融合だぜ!!」


 融合
 【通常魔法】
 手札・自分フィールド上から、融合モンスターカードによって決められた
 融合素材モンスターを墓地へ送り、その融合モンスター1体を
 エクストラデッキから特殊召喚する。


 デス・カンガルー 闇属性/星4/攻撃力1500/守備力1700
 【獣族・効果】
 守備表示のこのカードを攻撃したモンスターの攻撃力がこのカードの守備力より低い場合、
 その攻撃モンスターを破壊する。


 フィールドに出現した光の渦。
 その中に2体のモンスターが飲み込まれ、中心が爆発的な光を放つ。
 強靭な肉体を持ち、自らの力を示すチャンピオンベルトをかかげたモンスターが姿を現した。


 マスター・オブ・OZ 地属性/星9/攻撃力4200/守備力3700
 【獣族・融合】
 「ビッグ・コアラ」+「デス・カンガルー」


「攻撃力4200……!!」
「バトル……といきてぇけど、"くず鉄のかかし"があるから今回は見送るぜ。カードを1枚伏せてターンエンド!」
 本当は攻撃したかったが、相手の場に防御カードがある以上、攻撃しても意味がない。
 だけどOZの攻撃力は4200もある。いくら古代の機械が強力だって言っても、この攻撃力はそう簡単に超えられないはずだぜ。




「私のターン! ドロー!」(手札1→2枚)
 三井さんはドローカードをしばらく見つめ、口元にわずかな笑みを浮かべた。
 なんだ? まさか、除去カードでも引かれちまったのか?
「それがあなたのデッキの切り札ですね。たしかに素晴らしい攻撃力を持っています。ですけど、攻撃力なら私だって負けません!!」
「なに?」
「まずは手札から"古代の整備場"を発動します」


 古代の整備場
 【通常魔法】
 自分の墓地に存在する「アンティーク・ギア」と名のついたモンスター1体を手札に戻す。


「この効果で墓地にいる"古代の機械巨人"を手札に加えます!」
「またそのモンスターかよ。何度出したって無駄だぜ!」
「それはどうでしょうか? 手札から"融合"を発動です!」
「なっ!?」


 融合
 【通常魔法】
 手札・自分フィールド上から、融合モンスターカードによって決められた
 融合素材モンスターを墓地へ送り、その融合モンスター1体を
 エクストラデッキから特殊召喚する。


「手札の機械巨人と、場にいる"古代の機械騎士"と"古代の機械獣"を融合します!」
「さ、3体での融合召喚!?」
 まさか相手まで融合してくるとは予想外だったぜ。
 くそったれ、いったいどんな強力なモンスターが出てくるっていうんだ。
「現れなさい! "古代の機械究極巨人"!!」


 古代の機械究極巨人 地属性/星10/攻4400/守3400
 【機械族・融合/効果】
 「古代の機械巨人」+「アンティーク・ギア」と名のついたモンスター×2
 このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。
 このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、その守備力を攻撃力が超えていれば、
 その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。
 このカードが攻撃する場合、相手はダメージステップ終了時まで魔法・罠カードを発動できない。
 このカードが破壊された場合、自分の墓地の「古代の機械巨人」1体を選択し、
 召喚条件を無視して特殊召喚できる。


「な、なんだこりゃあ……」
 チャンピオンの体のサイズを遥かに超える機械の巨人。
 鈍く光る鉄の体と拳が、不気味で力強い雰囲気を醸し出す。
 その赤く光る両目は、明らかな敵意を含んで俺の場を見下ろしていた。
「バトルです!!」
 相手の命令によって究極巨人はその拳を振り下ろす。
 チャンピオンも全力で振り下ろされた拳にパンチを叩き込んだが、圧倒的な物量差によって押しつぶされてしまった。

 マスター・オブ・OZ→破壊
 雲井:5700→5500LP

「くっ…!」
「更に"古代の機械巨竜"で直接攻撃!!」

 雲井:5500→2500LP

「ちっくしょ……!!」
 切り札がやられただけじゃなく、ライフも大幅に削られちまったぜ。
 くそっ、油断してたわけじゃねぇのに……!!
「まだだぜ。バトルフェイズ終了時に、伏せカードを発動するぜ!!」


 奇跡の残照
 【通常罠】
 このターン戦闘によって破壊され自分の墓地へ送られた
 モンスター1体を選択して発動する。
 選択したモンスターを墓地から特殊召喚する。


「蘇生カード……!」
「この効果で墓地にいるOZを復活させる!」
 先ほどやられたチャンピオンが天から降り注ぐ光の力によって復活した。
「……ターン終了です」
 少し苦い表情をした三井さんだったが、手札が無い以上何もすることが出来なかったのだろう。
 そのままターンが終了された。

--------------------------------------------------
 雲井:2500LP

 場:マスター・オブ・OZ(攻撃:4200)
   強欲なカケラ(永続魔法:強欲カウンター×1)

 手札0枚
--------------------------------------------------
 三井:8000LP

 場:古代の機械究極巨人(攻撃:4400)
   古代の機械竜(攻撃:3000)
   伏せカード1枚(くず鉄のかかし)

 手札0枚
--------------------------------------------------

「………ふぅ………」
 小さく息を吐く。
 まさかOZ以上の攻撃力を持ったモンスターが召喚されるとは予想外だったぜ。
 このターンに何とかできなくちゃ、俺の負けか……。
 だけど不思議だぜ。何の確信もないけれど、何とかなるような気がするぜ。
「いくぜ! 俺のターン!!」(手札0→1枚)
 勢いよくデッキからカードを引く。
 同時に、俺の場にある"強欲なカケラ"のカウンターが2つになった。
「カウンターの溜まった"強欲なカケラ"を墓地に送って、デッキから2枚ドローするぜ!!」(手札1→3枚)
 舞い込む2枚のカード。
 よし、これならいけるぜ!!
「手札から"コード・チェンジ"を発動!! "マスター・オブ・OZ"の種族を機械族へ変更するぜ!」
「種族を変えるカード……!?」


 コード・チェンジ
 【通常魔法】
 自分フィールド上のモンスター1体を指定する。
 指定したモンスターの種族を、このターンのエンドフェイズまで自分が指定した
 種族にする。

 マスター・オブ・OZ:獣→機械族

「そして手札から"巨大化"と"リミッター解除"を発動だぁ!!」
「攻撃力を倍加するカードを2枚同時に!?」


 巨大化
 【装備魔法】
 自分のライフポイントが相手より下の場合、
 装備モンスターの攻撃力は元々の攻撃力を倍にした数値になる。
 自分のライフポイントが相手より上の場合、
 装備モンスターの攻撃力は元々の攻撃力を半分にした数値になる。


 リミッター解除
 【速攻魔法】
 このカード発動時に自分フィールド上に存在する全ての表側表示機械族モンスターの攻撃力を倍にする。
 エンドフェイズ時この効果を受けたモンスターカードを破壊する。

 マスター・オブ・OZ:攻撃力4200→8400→16800

「攻撃力が16800も……! で、ですが私の場には"くず鉄のかかし"が―――」
「デッキワンサーチシステムを発動だ!!」
「え!?」
 デュエルディスクの青いボタンを押して、力強く叫ぶ。
 デッキから自動的にカードが選び出されて、それを勢いよく引き抜いた。(手札0→1枚)
 ルールによって三井さんもデッキからカードを引いたが、その表情は浮かない。
「手札から速攻魔法、"デステニーブレイク"を発動するぜ!!」


 デステニーブレイク
 【速攻魔法・デッキワン】
 雲井忠雄の使用するデッキにのみ入れることが出来る。
 2000ライフポイント払うことで発動できる。そのとき、以下の効果を使用できる。
 ●このターンのエンドフェイズ時まで、モンスター1体の攻撃力を100000にする。
  ただしそのモンスターが戦闘を行うとき、プレイヤーに発生する戦闘ダメージは0になる。
 デッキの上からカードを10枚除外することで発動できる。そのとき、以下の効果を使用できる。
 ●このカードを発動したターンのバトルフェイズ中、相手のカード効果はすべて無効になる。


「個人名義のデッキワンカード……!」
 このカードの存在に三井さんは驚きを隠せていないみたいだった。
 そりゃあ都市伝説にある『個人名義のデッキワンカード』が実際に存在しているのを知れば、そういうリアクションにもなるか。
「あれ? そのカード……?」
 事情を知らない彩也香が首を傾げる。
 たしかに"デステニー・ブレイク"はライガーがカード化したときの状態だ。ライガーがいない状況では、俺のデッキに入ることはありえない。
 だけどそれは少し前の話だ。
 ライガーはこの場にいないが、デステニー・ブレイクのカードだけはデッキの中に存在している。
 水の神の事件が終わってからというもの、ライガーがいなくてもこのカードはデッキの中に存在できるようになった。
 ライガーが言うには、力が大分戻ってきたとかで力の一部をカード状態のままデッキに残せるようになった……らしい。
 ぶっちゃけ何を言っているのか分からなかったが、いちいちあいつがいなくてもこのカードが使えるようになったのは嬉しいことだぜ。
「このカードのコストとして、デッキの上から10枚除外!! そうすることでこのバトルフェイズ中、相手のカード効果はすべて無効になる!!」
「っ! つまり、防御カードが使えない……ということですか……」
「そういうことだぜ!! バトルだぁ!!」
 強大な獅子のオーラを纏ったチャンピオンが、立ちはだかる機械の巨人に突撃する。
 圧倒的物量によって振り下ろされた巨大な拳に対して、チャンピオンは渾身の右ストレートで正面から受け止める。
 互いの拳がぶつかり、チャンピオンを包む獅子のオーラが爆発的に大きくなる。
 次の瞬間、巨人の拳から腕までが粉々に砕け散った。
 すべてを破壊する衝撃の余波が、巨人の体全体に伝わる。
 断末魔にも聞こえる鈍い金属音と共に、相手の誇る機械の巨人は崩れ去った。


 古代の機械究極巨人→破壊
 三井:8000→0LP



 その場に残ったチャンピオンが、がれきの上に立ち右拳を高々と上げた。



 相手のライフは0になり、決闘は終了した。












 決闘が終了し、デュエルディスクとデッキをしまう。
 ギリギリだったけど、なんとか勝てたぜ。
「まさかあれほどの攻撃力を持っているとは……予想外でした。でも、楽しい決闘でした」
「ああ、俺もだぜ。また機会があったら決闘しようぜ」
「きゃー♪ 雲井君かっこいい! さぁ、一緒にデートだよデート♪」
 後ろではしゃぐ彩也香。
 そういやこの決闘ってあいつの命令権を賭けたやつだったんだっけ。
 すっかり忘れてたぜ。
「デートどこに行く? 映画館? 喫茶店? あ、別のラーメン屋さんでも構わないけど……」
「……………」
 1人で勝手にはしゃぐ彩也香。
 俺は心の中で謝りながら、三井さんと彩也香に聞こえるように大きな声で言った。

「じゃあ彩也香は仕事場に戻って原稿を完成させろ。それが俺の命令だぜ」

「………ふぇ?」
 目をパチクリとさせて、彩也香の動きが止まった。
「この決闘で勝った方が彩也香に命令できるって約束だっただろ? だから俺が命令してんじゃねぇか」
「え? え? 酷い!! なにそれ!?」
「仕事ほったらかしにしてるやつを遊びに連れて行けるわけねぇだろ。それに、遊ぶなら仕事が終わってからでも出来るじゃねぇか」
「そ、それは、そうだけど……」
「というわけで三井さん、彩也香を連れて行ってくれ」
「はい。ありがとうございます!!」
 三井さんは目を輝かせながら、彩也香の腕を引っ張っていく。
 彩也香は「雲井君のイジワル〜!」と憎まれ口を叩きながら、三井さんに連行されていった。





「ふぅ……」
 静かになった公園の中心で一息ついて、空を見上げる。
 彩也香には言わなかったけど、最終決戦が近づいている。
 ライガーがこの場にいなかったのは、周囲の闇の反応を探索するためだった。
 そろそろ戻ってきてもいい頃だと思うんだけどな……。

『ここにいたか』

「……ずいぶん帰りが遅かったんじゃねぇか?」
 空地の入り口にあたる場所に、ライガーがいた。
 やっぱり、前より体が大きくなっているように感じる。
 もしかして成長期ってやつなのか?
『我にも都合と言うものがある。それよりも、スターの招待状はどうするのだ?』
「あ? そんなもん参加するに決まってんじゃねぇか。きっと中岸や香奈ちゃんも参加するんだ。俺も参加しねぇ訳にはいかねぇだろ?」
『貴様ごときが参加したところで力になるかどうか怪しいがな』
「てめぇ、俺を馬鹿にするのもいい加減にしやがれ」
『ふん。まぁせいぜい腕を磨いておけ。アダムが相手なら、いくら準備をしたところで無駄だろうがな』
 そう言ってライガーはカード状態になってデッキケースに入ってしまった。
 ったく、人の言うことを聞かないで勝手な奴だぜ。

 ライガーの言うとおり、アダムはきっと強大な力を持っているに違いない。
 だけどどんな奴が相手だって、俺のやることは変わらねぇ。
 真正面からぶっ飛ばしてやるだけだぜ!!




episode5――合宿開始!!――


 春休み3日目。
 俺と香奈はバスに乗って星花町の外に出ていた。
 目的地は陽光町。星花町と比べて非常に自然が多く、山に囲まれた地域だ。
 都市部からも離れており、良くも悪くも田舎という感じの地域である。ネットで時間を調べても、2時間に1本の間隔でしかバスが運行しないルートだ。
「こんな山奥で合宿って……何するのかしら?」
「さぁな。もしかしたら体鍛えるのかもしれないし」
「えー、私は普段着しか持ってきてないから激しい運動できないわよ」
「薫さんが貸してくれるだろ。あっ、そろそろ着くぞ」
 止まりますボタンを押して、席においていた荷物を膝の上に乗せる。
 運転手以外に俺達しか乗っていないバスが、速度を落としていく。
『陽光町〜陽光町〜』
 アナウンスが流れ、バスの扉が開く。
 運賃を払い、俺と香奈はバスを降りた。
「真奈美ちゃんと雲井はあとで来るんだっけ?」
「ああ。俺達の後のバスで来るらしい」
「ふーん。それで、ここからどうやって合宿所まで行くの?」
「待ってくれ。たしかメールに地図が送られてきたはずだから………」
 携帯を開き、薫さんから送られてきた添付ファイルを見る。
 どうやら合宿所は山の中にあるらしい。やれやれ、1週間分の宿泊用の荷物を背負って山を登るのか……。


 山道を歩きながら、俺は今回の合宿の内容を思い起こす。
 今回の合宿では主に決闘の腕を上げるために行うらしい。様々な状況、相手に応じて自分のデッキでどのような戦術が取れるのか。もし苦手な相手がいるなら対策としてどう立ち回るか。
 とにかく経験を積ませて、どんな敵が襲ってきても対処できるようにするのが最重要事項ということだろう。
 薫さん曰く、そこまで厳しい合宿にはならないらしい。
 そしてもう1つ、琴葉ちゃんも今回の合宿に参加することが決まったため、闇の力に関する情報を極力明かさないように注意するようにとも付け加えられていた。
 要するに、みんなで1週間のキャンプをしながら強くなろうというのが今回の合宿の全容のようだ。
「まさか琴葉ちゃんも来るなんて思わなかったわね」
「そうだな」
「もうずいぶん会ってないから、背とか大きくなったのかしら?」
「さぁな。でもあの年の子って背が伸びるのが早いから、印象が変わってたりするかもな」
「ふふ、そうね」
 どこか嬉しそうに笑う香奈。
 『お姉ちゃん』にとってみれば、『妹』の成長は嬉しいことなのだろう。
「あ、念のために言っておくけど琴葉ちゃんに変なこと教えないでよ?」
「変なことってなんだよ? 雲井じゃないんだから闇の力のことなんて口走らないぞ?」
「そうじゃなくて、琴葉ちゃんは良い意味でも悪い意味でも純粋なのよ。教えてもらったことをありのまま受け取って使っちゃうくらいね。ロリコンとか、ツンデレとか、覚えなくてもいいことまで覚えさせないように注意しなさいってことよ」
「…………あ、ああ」
「歯切れが悪いわよ?」
「あ、あぁごめん」
 ツンデレをありのまま体現している香奈からそんなことを言われるとは思わなかったが、こいつはこいつなりに姉としての責任感を持っているのかもしれない。
「じゃあお前が一番気を付けないといけないな」
「なんで私が気を付けなくちゃいけないのよ?」
「さぁな」
「なによ! はっきり言いなさいよ!」
 香奈を少しからかいつつ、俺達は山道を進む。
 比較的緩やかな道であったため、そこまで疲れることは無い。


 15分ほど歩いたところで、大きな山小屋が見えた。
 山小屋と呼ぶには似つかわしくない大きさだとは思うが……。
 周囲は広い空き地のような空間になっており、高校のグラウンドくらいの広さがある。
 その中心に建てられた山小屋の煙突からは煙が出ていて、人がいる気配があった。
「ここかしら?」
「たぶん、そうだと思うが……」
 俺と香奈は玄関と思われるドアの前に立ち、強めにノックする。
 コンコンと小気味いい音が辺りに響き、中から聞き覚えのある声で返事が返ってきた。

「あっ、いらっしゃい!」

 中から出てきたのは、エプロン姿の薫さんだった。
 あまり見慣れない服装だったため、俺も香奈も少し動揺してしまった。
「ちょうどお昼ご飯を作っていたんだ♪ もし良かったら中で一緒に食べない?」
「あ、はい。じゃあせっかくなので……」
 招き入れられて入った山小屋の中は、とても広かった。
 10人前の料理が置けそうな大きな木のテーブルに、何人も並んで座れるような長い木の椅子。
 何から何まで木で作られていて、なんというか風情があるように感じた。
 もちろん建築もしっかりしているようで、天井にはシミの1つもない。
「「お待たせしました。みなさん」」
 キッチンと思われる場所から出てきたのは、吉野さんと綺麗な女性だった。
 どこか琴葉ちゃんと似た空気を感じる……ということは、この人が香奈の言っていた鳳蓮寺咲音さんか……?
「まぁ、香奈さんに大助さんもいらしていたんですね。少し作りすぎてしまいまして困っていたところだったんです」
「咲音も薫も、料理慣れしていないから適量な分が作れなくなってしまうんですよ?」
「だって作ろうとしても吉野が勝手に作っちゃうから機会が無くなっちゃうんだもん」
「う……それもそうですね。今度、食事当番を相談しましょう」
 テーブルに置かれる料理のどれもが、とても美味しそうだった。
 薫さんと吉野さん、そして咲音さんが作ったのだろう。
 吉野さんが料理上手なのはなんとなく想像がついていたが、薫さんも上手だったのは意外だな。
「あらあら、大助さん、それは少し失礼かもよ?」
「っ!?」
 考えが読まれた?
 いや、違う。たしか鳳蓮寺家の人は見るだけで相手の情報が分かってしまうんだった。
「すいません。ちょっとイメージ的に……」
「私こそごめんなさい。勝手に読んでしまって……その、小さいころからの癖で……気を付けるようにするので」
「いや、今のは俺が悪かったです。すいませんでした」
 咲音さんの表情が一瞬暗くなったのが見えた。
 どうやら深い事情があるみたいだが、俺が踏み込んでいい場所ではないような気がした。
「ありがとうございます大助さん」 
「あ、いや、はい……」
 言葉を発していないのに会話が成立していないというのも変な気分だが、そのうち慣れるだろう。
「さぁ、ご飯が冷めてしまいます。みなさん席に着きましょう」
 吉野さんが手を叩き、号令をかける。
 佐助さんと伊月も姿を見せて、みんなで席に着いて食事を取ることになった。







「は〜〜〜美味しかったわ♪」
 満足気に笑みを浮かべる香奈。
 たしかにとても美味しい料理だった。
「レシピ教えてもらおうかしら」
「……お前って意外と料理とか好きだよな」
「意外とは失礼ね。これでもお母さんに色々仕込まれているんだからね」
「そうなのか」
 リビングでくつろぐ俺達に、伊月が2階から話しかけてきた。
「大助君、香奈さん。荷物を部屋に置いてはどうでしょうか?」
「どこがどの部屋だか分からないわよ」
「おや、そうでしたね。男子は2階、女子は1階の部屋です。部屋といっても5〜6人が入れる広間みたいなものですが、宿泊施設としては十分でしょう」
「なんで男子と女子で別々の部屋なのよ?」
「おや? こちら側としては間違いが起こらないように配慮したつもりですが?」
 相変わらずの爽やかな笑みで伊月は答えた。
 香奈は小さく溜息をついて、自分の荷物を抱えた。
「そんなことしなくたって、変なことするつもりないわよ」
「どんな人間もするつもりがなくても、やってしまうことがあるそうですよ」
「っ……あぁもう分かったわよ」
 口では伊月に勝てないと判断したのだろう。
 香奈は少し口を尖らせて、女子用の部屋に入って行った。
 俺も荷物を持って2階へ上がる。
 部屋に入ると、そこには2段ベッドが3つ置いてあり、部屋の隅には折り畳み式のテーブルとイスが数台置いてあった。
 床にはカーペットが敷いてあり、和と洋が入り混じった空間となっている。
「適当に荷物は置いてください。ご希望であれば貴重品はこちらで管理しますが……」
「いや、こんなところで泥棒するやつなんていないと思うんでいいです」
「それもそうですね」
 荷物を置き、壁に背を預ける。
 窓から見える景色からは、森しか映らない。
 町の様子がまったく見えないというのも、なんだか慣れないな。
「なぁ、この合宿って……アダムとの決戦に向けたものなんだよな?」
「そうですよ? 何かご不満でもありますか? 本当は一般人のあなた方を戦いに巻き込むのは気が進みませんが、状況がそれだけ厳しいということですよ」
「……………」
 アダムの強さは知らない。ライガーが言うには俺達が想像できないほどの強さであるというのだが、いまいちそれが分からない。雲井と本城さんはアダムと戦った経験があるが、その時のデッキが本当のデッキとは考えづらい。
 こういうとアレだが、俺達には薫さんやダークといった最上級の遊戯王プレイヤーの実力を知っている。相手の先の先を読むプレイング。どんな状況にも瞬時に対応できるデッキ。引きの強さ。想いの強さ。
 それらをすべて兼ね備えた決闘者を遥かに超える実力があるとは、正直思えない。
「どうかしましたか?」
「いや……なんでもない」
 思考を止めた。
 なんだか考えても無駄なことを考えているような気がした。
 想像できないことを想像しようとするのは、無理があるらしい。
「そろそろ本城さんと雲井君も到着する頃でしょう。下に降りて合宿を開始するとしましょうか」



 山小屋の外に集合して、俺達は佐助さんの声に耳を傾ける。
 本城さんと雲井は荷物を片手に持っていることから、ついさっき到着したのだろう。
「それじゃあ今回の合宿の内容について説明する。メールで伝えたとおり、今回は決闘の実力を全員底上げするのが目的だ。具体的には、今まで戦ってきた相手の闇の世界の効果をデュエルディスクに反映させた状態で決闘をたくさん行ってもらう。他にも俺達が考えた闇の世界とも戦ってもらうことになるな」
「……つまり、俺達が闇の世界の効果を使って互いに決闘し合うってことですか?」
「まぁそうなるな。本社から改変の許可はもらってあるから、遠慮なく厳しい戦況を作らせてもらうぞ」
「なんだかよく分かんねぇけど、とにかくたくさん決闘すればいいんだな」
「ああ。そういうことだ。それと、雲井と本城は他のメンバーとは別メニューがある。雲井は伊月、本城は薫に内容を確認してくれ」
 雲井と本城さんだけ別メニュー?
 いったい、何をするんだ?
「さて、それじゃあさっそく、やってみようか♪」
 薫さんが手を叩き、号令をかける。
 佐助さんが手持ちのノートパソコンからコードをデュエルディスクに接続して、何かを設定している。
 30秒ほどの時間が経って、どうやら設定が完了したようだ。
「これで設定完了だ。さぁ、やってみろ」
「はい」
 デュエルディスクを構えて、香奈と向き合う。
 香奈のデュエルディスクにも佐助さんの設定が施されている。
「じゃあ始めましょ!」
「ああ!」



「「決闘!!」」



 大助:8000LP   香奈:8000LP




『『この瞬間、デッキからフィールド魔法を発動します』』

 デュエルディスクから音声が発せられ、デッキから自動的にカードが選び出される。
 そのカードは裏表も真っ黒なカードで、普通の遊戯王カードと言うよりは堅いプレートのようなものだった。
 なんでもこれが闇の世界の効果を反映させるカード代わりらしく、これにデータを入力してデュエルディスクで使うようだ。


 虐げられる闇の世界
 【フィールド魔法】
 このカードはデュエル開始時に、デッキまたは手札から発動する。
 このカードはフィールドから離れない。
 各プレイヤーはモンスターの召喚・反転召喚・特殊召喚を
 1ターンに合計2回までしか行う事ができない。


 罠を封じる闇の世界
 【フィールド魔法】
 このカードはデュエル開始時に、デッキまたは手札から発動する。
 このカードはフィールドから離れない。
 このカードが表側表示で存在する限り、
 罠カードを発動したプレイヤーは1000ポイントのダメージを受ける。


「「……!」」
 俺のデッキからは、以前に武田が使っていた闇の世界が発動されて、香奈のデッキからは見たことのない闇の世界が発動された。
 自分のデッキから自動的にカードが発動されるのは変な気分だが、それよりも………。
「これって……」
「ああ。自分が有利になるって言うより……」

「どうした? まさか自分が少しでも有利になるとか考えていたか?」

 決闘の様子を眺める佐助さんが静かに口を開いた。
「言っておくが、俺達はお前らの実力をあげるために合宿するんだ。手加減はしないぞ。ほら、さっさと決闘の続きをしろ」
「「……………」」
 どうやらこの合宿は、思っていたよりも厳しいものになりそうだ。



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 香奈ちゃんや中岸君、雲井君と別れて私は山小屋の離れにある小さな小屋に来ていました。
 その中には大きな階段があって、そこを下っていくと地下に真っ白で広い空間がありました。
「いらっしゃい真奈美ちゃん。ここが訓練場だよ」
 先導していた薫さんがこっちに振り向きました。
 私は手に持った荷物を隅に置き、部屋の中央まで歩きながら周囲を見回します。
 天井の蛍光灯に照らされた広い空間。壁と床は白いコンクリート……でしょうか?
「薫さん。あの、ここで訓練するんですか?」
「そうだよ。私も白夜の力を扱う練習はここでやったからね」
 笑顔でそう答える薫さん。
 先ほど、佐助さんが言っていた別メニューは『白夜の力の制御訓練』とのことです。
 永久の鍵の力を宿した私には、薫さんたちと同じように白夜の力を扱える素質があります。今までは家でエルと一緒に訓練していましたけど、せっかくだからということでスターの皆さんで協力して訓練を行ってくれることになったんです。
「……あの、ご指導よろしくお願いします」
「うん。まぁ、私が教えるんじゃないんだけどね?」
「え? じゃあどなたが――」

『ここにいるでしょ?』

 目の前がパッと光り、コロンちゃんが姿を現しました。
 コロンちゃんは頬を膨らませながらこっちを睨み付けてきました。
「ご、ごめんなさい。よろしくお願いします」
『まぁいいよ。とりあえずこれから1週間で、真奈美ちゃんを薫ちゃんレベルまで鍛え上げるつもりだから頑張ってね!!』
「か、薫さんレベルって、何もそこまで……」
『だーめー♪ 真奈美ちゃんの素質は薫ちゃん以上なんだから、最低でもそれくらいになってもらわないと困るよ』
「で、でも……」
「真奈美ちゃん」
 踏ん切りがつかない私に、薫さんが優しく語りかけます。
「たしかに訓練は少し厳しいものになるかもしれない。だけどね、真奈美ちゃんには私以上の素質があるんだよ。それは真奈美ちゃん自身を守る力に繋がるし、大切な人を助ける力にだってなるかもしれない。でも力を扱いきれなかったら、その力は逆に誰かを傷つけてしまうかもしれない。これからやる訓練は、真奈美ちゃんの力をきちんとしたものにしてあげるための物なの。だから一緒に頑張ろう?」
「……!」
 私の力は……みんなを守る力にすることができる……。
 そうですね。その通りです。
 やる前から臆していてどうするんですか。覚悟は決めてきたはずです。
「分かりました。よろしくお願いします!」
『覚悟は出来たみたいだね。じゃあさっそく訓練を始めるよ!!』
 コロンが指を鳴らすと、周囲の空間に無数の光の球体が浮かび上がりました。
 ピンポン玉くらいの大きさのそれらは、とてもゆっくりなスピードで私へ向かってきています。
『じゃあまずはファーストステップね。100個の球体を出現させたから、それが自分に当たる前に白夜の力で打ち消してね』
「こ、これ全部ですか!?」
『大丈夫だよ。当たっても静電気が弾ける程度の痛みしかないから♪』
 どこか楽しそうな笑みを浮かべてコロンちゃんはそう言いました。
 でも、そんなの冗談じゃありません。いくらダメージが少ないからって、何十個も連続で当たったら絶対に痛いに決まっています。
「コロンちゃん、あの、私は白夜の力の扱いにまだ慣れていないんですけど……」
『大丈夫だよ。誰だって初めてだから♪ ほらほら、はやくしないと取り返しがつかなくなるよ?』
「えー」
「真奈美ちゃん。言い忘れていたんだけど……コロンって結構スパルタなんだ。私の時もこんな感じだったよ?」
「そんなぁ……」
(マスター。どうやらやるしかないみたいですね)
「そうだね。いくよエル!」
(はいマスター!)
 目を閉じて、大きく深呼吸して、集中します。
 右手に魔法の杖が握られて、魔法使いのローブが身を包みます。
 永久の鍵の力を最大限に使う時の格好。水の神の事件から自主訓練を繰り返してこの姿になれるようになっていました。
『へぇ。それが永久の鍵の力なんだね。瞳の色も青くなってるし、私と同じユニゾンタイプの力だね』
 一目見ただけで判断出来てしまうのは、さすがだと思いました。
 この姿はエルが私と同化したときの姿です。
 言葉だけのサポートではなく、動作や力の運用を直接サポートしてくれます。
「エル!」
(はいマスター)
 杖を構え、先端に力を集中します。
 光が先端に集中し、大きな光に変わっていきます。
(今です!)
「はい!」
 エルの掛け声で、溜めた力を解き放ちます。
 杖の先端から光の奔流が放たれて、眼前に広がる無数の球体を飲み込んでいきました。
『おぉ〜。なかなかやるね♪ 一気に50個くらいは打ち消されちゃったかな』
「もう1度……!」
 さっきまでと反対方向を向き、杖に力を集中させます。
 そして再び、眼前に広がる球体を光の奔流ですべて打ち消しました。
「はぁ……はぁ……!」
 規模の大きな攻撃を2回しただけで、息が切れてしまいました。
 やっぱりまだ扱い慣れていないからなのでしょうか。
『お疲れ様。とりあえずファーストステップはクリアだね』
「あ、ありがとうございます……」
『ひとまず白夜の力の収束と開放はきちんと出来るみたいだね。まだまだ力の使い方に無駄が多いけど、それは反復練習で慣れていくしかないから及第点としておくよ。さて、じゃあ基礎的な使い方は身に付いているようだから、セカンドステップに行ってみようか♪』
「えっ……あの、少し、休憩させてくれませんか?」
『だ〜め♪ 訓練なんだから頑張って♪』
 なぜか楽しそうな笑みをコロンちゃんが浮かべています。
 薫さんも相変わらず、隣で苦笑を浮かべていました。




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 中岸や香奈ちゃんと、本城さんと別れた後、俺は伊月師匠と共に森の中を歩いていた。
 隣にはライガーが子犬モードで付いていて、伊月から一定の距離を保っている。
「どこまで行くんだ?」
「そうですね……このあたりでいいでしょう」
 伊月師匠はそう言って、近くの木に背を預けた。
「雲井君、君には僕達が用意した別メニューを受けてもらいます」
「ああ。それはなんなんだ?」
「もちろん、ライガーの力を宿した状態での戦闘訓練です」
「戦闘訓練?」
「ライガーの力を宿した状態のあなたが、様々なものを”破壊”してきたということは報告書で読んでいます。スターとしては、その能力がどの程度なものなのかをこの目で確かめておきたくてですね。ついでにあなたの戦闘力も上げてしまおうというわけです」
「そんなことして意味あんのかよ?」
「ありますね。そもそもこの合宿の目的は、一般人である君たちが自らの身を守れるようにするということが目的です。あなたは普段の決闘においては僕達の中で最弱に等しいですが、窮地における爆発力は随一と言っていいでしょう。そんな相手にわざわざ敵が決闘で挑んでくるとも限りません。もし闇の力による攻撃をされたらどうするつもりですか?」
「うっ………」
 たしかにその通りだと思った。
 牙炎の事件のときだって、中岸は闇の力を使った攻撃で殺されかけたんだ。
 まったく同じことがされない保障なんかどこにもねぇ。
「……分かったぜ。訓練すりゃあいいんだろ? ライガーも文句ねぇよな?」
『ああ。異論はない』
「では、さっそく始めましょうか」
 伊月は懐から2枚のカードをかざすと、その両手に拳銃が握られた。
 すぐに俺もライガーの力を宿して、ファイティングポーズを取る。
(気を抜くなよ小僧。今のうちに言っておくが、我と貴様のリンクできる時間は約10分だと考えておけ。それ以上使うと貴様の体力が持たないぞ)
「ああ。分かったぜ」
「右目が赤くなりましたね。準備はよろしいですか?」
 伊月はそう言って、左手の銃をこちらに向けた。
 まさかあれ……実弾じゃねぇよな?
「心配せずとも実弾じゃありません。僕の白夜の力を弾として打ち出す武器です。殺傷力もコントロールできますし、連射や曲射も可能ですよ。もちろん殺傷力は最低限に落としてあります。当たってもテニスボールが当たったくらいの痛みでしょう」
「そ、そうか、それなら―――」

 ズガガガガン!!

 連射音が聞こえて、俺の脇を光る何かが通り抜けた。
 あまりのスピードに、目が追いつかなかった。
「ですが、速度は普通の銃となんら変わりませんので、気を抜かないようにお願いします」
「っ! じょ、冗談じゃねぇ!!」
 すぐさまその場から逃げ出す。
 木の陰に隠れながら、伊月から距離を取っていく。
(敵前逃亡か、情けないな小僧)
「うるせぇ! 銃弾の速度なんか見えるわけねぇだろ!」
(まぁな。ちなみにあと9分だ。頑張れよ)
「他人事だと思いやがって!」
(これでも一応は応援しているんだ。我も貴様が殺されてはつまらんからな)
「そうかい―――っ!!」
 近くの木に光の弾が連射された。
 まさか、もう場所が……!?

「言っておきますが、今回の訓練はこの森を抜けて僕達の山小屋がある開けた場所までたどり着くことです。なので全力で逃げてもらって構いません。僕はここから動きませんので」

「はぁ? いくら銃持ってるからって、木がたくさんあるんじゃ簡単には―――っ!?」
 言いかけた瞬間、前方から光弾が飛んできた。
 咄嗟に右手を前に出して光弾を受け止める。パリンとガラスの割れるような音がして、光弾は消滅した。
「な、なんで前から攻撃が来るんだよ!? 師匠は動かないんじゃなかったのか!?」
(……跳弾だな)
「は?」
(撃ちだした光弾を木に反射させて攻撃しているんだ。あの攻撃は自身の白夜の力を撃ちだしている。殺傷力だけでなく、跳弾性をも自在に変えられるのだろう)
「だ、だとしても、なんで俺の場所が分かるんだよ!?」
(さぁな。そこまでは分からん。だが相手がこちらの位置を把握し、遠距離による攻撃が可能であるならば、逃げるのは至難の業だな。だいたいゴールまでは200メートルだが、簡単にはいくまい)
「っ!」
 言ってる傍から、今度は左右から光弾が飛んできた。前方に転がって攻撃を回避する。
 なんか、離れていくごとに攻撃が激しくなってきてるような……。
(相手はこちらを森から出す気はないようだな。あと7分近くだが大丈夫か?)
「うるせぇ! いいから見とけ!!」
 覚悟を決めて、走り出す。
 前方からの攻撃にだけ注意する。ライガーの力があれば攻撃は打ち消せるし、多少は背後から被弾しても我慢すれば済む話だぜ。

 ズガガガガガガガガガガガガガガン!!!


 遠くの方で盛大な連射音が聞こえた。
 木の幹を光弾が反射して、走る俺に一斉に襲ってくる。
「う、うおおお!!!」
 しゃがみ込んで右からの攻撃を回避すると同時に、左からの攻撃をライガーの力で打ち消す。
 だが次の瞬間、足元を幾多もの光弾が襲い掛かった。
「いってぇ!?」
 右足に被弾して、バランスを崩す。
 地面に倒れた俺が見上げた木々の中から、無数の光弾が襲い掛かった。・



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 日が落ちてきた夕方。
 俺と香奈は精神的にボロボロの状態で山小屋内のテーブルに突っ伏していた。
 佐助さんの想定した状況で香奈と何度も決闘して、終わったら反省会やデッキの組み替え。
 ライフが100の状態でスタートしたり、デッキが残り10枚の状況でスタートしたこともあった。
 とにかく今日一日だけで、様々な状況での決闘を経験したせいで精神的にボロボロになってしまったわけだ。
「あぁーもうダメ〜。しばらくカード触りたくない……」
「奇遇だな、俺もだ………」
 完全にダウンしている俺達に、佐助さんは深い溜息をついている。

 ガチャリ

 玄関のドアが開き、そこから倒れ込むように雲井と本城さんが入ってきた。
 雲井は全身泥だらけでところどころに擦り傷が出来ているし、本城さんは太い木の棒を杖代わりにしてなんとか歩いている状態だった。
「もう、駄目だ……」
「私も……限界です……」
 いったい二人とも何があったのだろうか。
 そういう俺も、他人を気にしているほどの余裕は残っていない。
 こんなのが1週間も続くとなると、気が滅入りそうだ。

「おやおや、皆さんお疲れのようですね」
「伊月君、やりすぎちゃったんじゃないの?」
「とんでもない。薫さんの方こそ、かなりスパルタだったのでは?」
「いやぁ、私というよりコロンが張り切っちゃってね……佐助さんはどうだった?」
「見ての通りだ」

 スターのメンバーが余裕の表情で入ってくる。
 さすがは闇の力に対抗する組織というところだろう。
「お疲れ様です。夕食をご用意しましたので、みなさん席についてください」
 吉野さんと咲音さん、そして武田が夕食を運んできた。
 疲れているからなのか、純粋に食欲をそそられる香りのせいかは分からないがお腹が鳴った。
「さぁ、冷めないうちに食べてしまいましょう」
 伊月がそう言って、俺達は改めて席に着く。
 疲れ切った心と体を癒してくれるかのように、美味しく温かい食事が提供された。





 夕食を食べ終わった俺達は、薫さんの指示でそのままリビングに待機することになった。
 なにやら重要な話があるらしい。俺、香奈、雲井、本城さん、薫さん、伊月に佐助さんにコロン、咲音さんに吉野に武田。
 この合宿に参加している全員が、同じ空間で待機していた。
「それで? 話って何なのよ?」
「うん。詳しくは私も分からないんだけど、今しか話せそうなタイミングが無いからね」
「どういうこと?」
「明日には琴葉たち小学生組も到着します。ですが彼女たちに闇の力について教えるわけにはいきません。なのでこのタイミングしか無いというわけです」
 尋ねる香奈に吉野さんが答えた。
「じゃあコロン、お願いね」
『うん!』
 コロンが目を閉じ、その体を発光させる。
 すると、玄関の位置に眩い光が突然現れた。
 その光はゆっくりと人の形を作り出していき、そして―――

『はじめまして皆さん』

 透き通るような、心の底から安らぐ優しい声。
 腰を超えるほどの純白の長髪に、雪のような白い肌。小学校低学年くらいの背の高さで、見に纏う真っ白なドレス。
 エメラルドグリーンの瞳を持った、以前に学校で出会った存在だった。

『ワタシの名前はイブ。こうしてちゃんと挨拶したのは、初めてかな?』
「お、お前は……!?」
『中岸大助君と朝山香奈ちゃんは前にも会ってるよね? スターのみんなにも、前に会ったきりだったかな』
 イブと名乗った存在は、静かに俺達に歩み寄った。
 人の形をしているが、人じゃない。なぜかは分からないが妙な確信があった。
「イブ、お話しって、何かな?」
『そうだったね。じゃあ話すよ。もうすぐアダムとの決戦が始まるってことは、みんな知ってるよね?』
「ああ」
『戦う前に、アダムの事を教えておこうと思ったの。正確には、アダムとイブがどういう存在なのかということをね』
「やっぱり……人じゃない……ですよね?」
 咲音さんが恐る恐る尋ねる。
 その表情は、どこか気分が悪そうだ。
『咲音さんはワタシやアダムを見ない方がいいよ? 絶対に気分が悪くなっちゃうから』
「はい。すいません……」
 深く頭を下げた後、咲音さんは一歩下がって目を閉じた。
 イブは静かに微笑んだまま、言葉を続ける。
『それじゃあまずはワタシたちのことについて話すね。勘付いているかもしれないけど、アダムは闇の力に関わるすべての事件の黒幕。ダークの事件から、ついこの間の星花高校での事件も、すべてアダムが引き金となって起こった事件だよ』
「ダークの事件から……!?」
『驚いているね。そもそもダークが闇の力を発見できたのは、アダムがそうなるように仕向けたから、ワタシの力を分けた白夜のカードを処分させようとしたのも、そう仕向けられたからなの。アダムを倒すことができる唯一の可能性。それがあなたたちの持っている白夜のカードだからね』
「だが現実には、こうして白夜のカードは俺達に渡った訳か……」
『うん。でも安心はできない。アダムを倒さない限り、この世界は滅びの運命を辿ってしまうよ』
 その言葉を聞いて、空気がわずかにざわついた。
 世界が滅びる可能性はダークの事件でもあった。だがイブの言葉には今まで以上の緊張感が籠っていた。
「ふん。出会った奴の言葉を、そのまま鵜呑みにすると思ったか?」
『佐助さんの言うとおりだね。まずは、ワタシが……ううん、ワタシとアダムがどういう存在なのかを話す必要があるんだね』
 そう言うとイブは、再び部屋の中央に戻って行った。
 全員を見渡せる位置で、エメラルドグリーンの瞳が小さく光る。

『分かってるかもしれないけど、ワタシとアダムは人間じゃない。貴方たちが暮らす世界を存在させるための機関だよ』

「機関? どういうことでしょうか?」
『ダークとの戦いで知ってると思うけど、かつてこの世界には、すべてを見守る神様がいた。人々の持っている感情を吸収して力に変えて、奇跡を起こしたり天災を起こしたり……世界をバランスを保って、成り立たせるための存在がいた。だけど神様には一つの誤算があった。生き物が生み出す感情というエネルギーは、白と黒……言うなれば善と悪という分類があった。希望や幸福などの白。絶望や不幸などの黒。それらの感情のすべてを受け入れた神様は、自身の存在が保てなくなってしまったの。でも自身が消えれば世界はまとめられなくなって滅んでしまう。だから、自分自身を光と闇に分けて存在を二つに分けて世界を保とうとした。その存在が、貴方たちが最初に見た神。"光の神−サンネリア"と"闇の神−デスクリエイト"だよ』
 俺の脳裏に、2体の神の姿が浮かぶ。
 あれは……神様という存在が分かれて生み出されたものだったことを思い出す。
「待て。話がまったく分からないぞ。そもそも、その神はどうして自身の存在が保てなくなったんだ? 感情を吸収するとはなんだ?」
『エネルギー保存則って知ってるよね?』
「ええ。ある孤立系の中のエネルギーの総量は変化しないというものですね」
『そう。この世界に存在するエネルギーは、常に形を変えて存在していて総量は変わらない。まともに計算しようとしたら途方もない手間になる複雑なエネルギーの行き来が世界では行われている。でもね、そのエネルギー保存則の枠から外れる要素があるんだ。それが生き物の持っている感情なんだよ。感情の力は感情の力でしか釣り合いが取れない。だから神様は白の感情をプラス、黒の感情をマイナスとして、それらを足し合わせてプラスマイナスゼロにすることで保存則を保っているんだ』
「馬鹿な。感情自体に、エネルギーがあるとでも言うつもりか?」
『あるんだよ。今の人類は、感情を目に見えるエネルギーに変換する術を持っていないだけなの。怒っているときはいつも以上に筋肉に力が入る。悲しい時は体がいつもより動かなくなる。学者さんは、感情が脳に働きかけることで肉体に影響が出るとか言って反論するんだろうけど、見方を変えれば、感情というエネルギー自体が人に影響を与えているとも見れるんだよ』
「でも、それだと………」
『うん。個人に与えられる感情は一定じゃない。不幸ばかり続く人もいれば、幸運ばかりの人もいる。当然、それから生み出される白黒の感情も個人で一定じゃない。だから神様は、生み出される感情を吸収して上手い具合にプラスマイナスゼロにして世界を保っていた。友達とケンカしても翌日には怒りが薄まっていることがあるよね? その時は感動した景色も、改めて見ると何のことも無かったりしたこともあるんじゃない? それは神様が感情の力を吸収したから、そうなったって考えることもできるでしょう? もちろん世界中の全員がそういうわけじゃないから反論されたらどうしようもないけどね。とにかく神様は、そうやって世界を保っていたんだ。もちろん毎回毎回ちょうどよくゼロに出来るわけじゃないから……余った黒のエネルギーを天災や人災として世界に吐き出したり、余った白のエネルギーを天恵や奇跡として世界に撒いたりしてたんだけど』
 イブの言葉を、頭の中で必死に整理する。
 要するに、神様は人々から生み出される”感情”というエネルギーを相殺させたり世界に吐き出して調整していた……ということなのだろうか。
「でも、上手くバランス配分が出来ていたなら、どうして自身を保てなくなっちゃったの?」
『神様も完璧じゃないってことだよ。そもそも完璧なんてこの世のどこにも存在しないしね。話を戻すと、光と闇の神に分離した後は、あなたたちが知ってのとおり。人間が二つの神を封印してしまった。そして今年の夏に復活し、闇の神は倒されて光の神は眠りについた。でもさ、考えてみて? 光と闇の神が封印されてしまっていたなら、その間の感情のエネルギーはどうなっていたと思う?』
『そっか! だから……!』
『気づいたみたいだね。そうだよ。神様は分離する前に、保険をかけておいたの。白の感情を吸収する存在であるイブ、黒の感情を吸収する存在であるアダムを創造した。それがワタシ達なの。でもイブもアダムも、ただ感情を吸収する存在だったから、互いの持っているエネルギーをぶつけあって消費させることはできなかった。やがて許容範囲を超えた感情のエネルギーは、ワタシ達をこうやって現出させるほどの密度になってしまった。これが、イブとアダムが人間じゃないという理由だよ。ワタシ達は世界を保つ機関であり、人々が生み出してきた感情の塊なの』
「なるほどな……だが、白夜の力と闇の力はどう説明するつもりだ? ただ感情を吸収する存在が、それらを作ったとは考えられないな」
『その通りだよ。それが神様のもう一つの誤算だった。集まった感情の密度が高くなることで、イブとアダムには自身の力を分離をさせる力を得てしまったの。イブは白夜のカードと永久の鍵という存在で。アダムは闇のカードや闇の結晶という存在でね。似たような存在だけど、イブとアダムが作り出した力は何もかも逆だった。白夜のカードが持ち主の想いに反応して持ち主に見合った効果をつけるなら、闇の世界は持ち主の欲望を読み取って効果を作り出した。もちろん、欲望と効果が一致するのは稀だったみたいだけど。そして、いくらでも生産出来て1度負ければ壊れてしまう闇の結晶と、数に限りはあるけど負けても壊れない白夜のカード。アダムとイブは同じ目的で生み出されたけど真逆の存在だからね。アダムは量を、ワタシは質を重視したんだよ』
「…………」
 イブ以外の全員が、言われたことを整理するのに時間がかかっていた。
 とても信じがたい話だが、今までの戦いや自身の持つ白夜のカードの事を考えれば合点がいってしまう。
 完全に信用するわけでは無いが、協力を仰ぐくらいの情報はもっているように思えた。
「お前の話は、そこそこ理解できた」
『そっか。ありがとう佐助さん。じゃあそろそろ本題に入るね』
「本題って、アダムの事だよね?」
『うん。負の感情が形となって現出したアダムは、生み出された目的を無視して世界を滅ぼそうとしている。止めるには、アダムと対の力を持つ白夜のカードを使うあなたたちしかいない。だからお願いです。協力してください』
 イブが深々と頭を下げて、懇願した。
 誰もが返答に困る中、真っ先に口を開いたのは薫さんだった。
「世界が消えるのを……止めなくちゃいけないね……」
「薫……!」
「何も言わないで佐助さん。イブの言っていることが真実かどうか分からないし、アダムがどれだけ危険な存在かも、はっきり言って実感があんまり無いよ。でも、私達の住んでる世界が消えちゃうのだけは、嫌だよ……」
『そうだね。薫ちゃんの言うとおりだよ!』
「おやおや、佐助さん以外の全員が乗り気ですね」
「……イブ。勝ち目はあるんだろうな?」
 伊月の視線を無視して、佐助は尋ねる。
 たしかに、それは何より重要な質問だと思った。今までの負の感情を一身に引き受けた機関。それが形となったアダムにどれだけの力が内蔵されているかなんて想像できない。白夜のカードを持っているとはいえ、立ち向かえるほどの相手とは考えづらいだろう。
『勝ち目があるかどうかは分からないよ。ただ、勝てる可能性があるのはワタシの力を扱える人だけってことは分かってる』
「ふざけるな!! 持っているエネルギー量がケタ違いすぎる。アダムが核爆弾を無数に持っているとしたら、こっちはハンドガンしか持っていないのと同じだ。どうやって勝つつもりだ?」
『もちろん。遊戯王だよ』
「なんだと?」
『この世界中に共通する戦いの手段。国境も言葉の壁も権力の差も超えて、互いが対等な状態で戦うことができる手段。圧倒的なエネルギー差を持っているアダムと戦う、唯一にして最高の方法。決闘によってアダムを倒すことが出来れば、アダムの持っている負のエネルギーは消えてなくなります。逆に貴方たちが全員負けて消されてしまえば、世界は消えてしまう』
「殲滅戦か……」
 つまり、この場にいる何人かは無事じゃ済まないかもしれないということだ。
 最悪の場合、全滅すらあり得る……か。
『アダムは自身の力を、炎の神、地の神、風の神、水の神に分けて決闘者に使わせた。それは人々から黒の感情を吸収しやすくすると同時に、ワタシを目覚めさせる一因としたんだ』
「どういうこと?」
『北条牙炎の事件の時、どうして香奈ちゃんが狙われたと思う? それは、香奈ちゃんが白夜の力を持っている人物であり、スターとの関わりが深い人物だったからだよ。人は危機的状況で最も成長する。白夜の力を高めて、まだ目覚めていなかったワタシを起こそうとしたんだ』
「待ってくれ。じゃあ今までの事件すべてが、イブを目覚めさせるためだったっていうのか?」
『そうだよ』
「それっておかしくないか? わざわざ自分の敵を目覚めさせるようなことをするか?」
『……それはきっと、世界を消滅させたあとのことを考えていることだと思うな』
「どういうこと?」
『ワタシもアダムも、人々の感情をエネルギーにしている。当然、世界が消えれば……人々が消えれば自身の存在もいずれ消えてしまう。そうならないようにするために、ワタシに新しい世界を作らせるつもりなんだと思う。ワタシとアダムしか存在せず、感情の供給も必要のない、アダムだけが幸せな世界をね』
「冗談じゃないわよ! 自分の好きな世界を作らせるために、私達の世界を滅ぼそうって言うの!?」
『朝山香奈ちゃん。アダムの行動に理由や理屈なんか求めちゃいけないんだよ。アダムは黒の感情の塊。この世界を醜いと感じ、すべてを消そうとする存在なの。そう言うワタシも、白の感情の塊だから、この世界を美しいと感じ、これからも様々な誕生を見守るための存在。ただ、それだけの存在なんだよ』
「…………………」
『ごめんね、なんだか重い話になっちゃったかな? とにかくワタシの話はこれで終わり。何か質問はあるかな?』
 まっさきに手を上げたのは、佐助さんだった。
「イブ……アダムの手の内を知ることはできないのか? どんなデッキを使うとか、闇の世界の能力とか……」
『具体的には分からないかな………ごめんなさい』
 イブはそう言って黙り込んでしまった。
 佐助さんは深い溜息をついて、リビングから出て行ってしまう。
『本当にごめんなさい』
「分かったよイブ。もし何か分かったらその時は教えてほしいな。知っていることをいろいろと教えてくれてありがとうね」
『薫さん……そう言っていただけると、ありがたいです。あ、それと本城真奈美ちゃん』
「は、はい!」
 イブが本城さんに歩み寄り、その頬に触れた。
 10秒くらいの間があっただろうか。
 触れていた手を離し、イブは静かに笑った。
『これからも仲良くね』
「はい」
「……? ちょっと、どういうこと?」
『こちらの話です。それではワタシはそろそろ失礼します。合宿が終わったあとでまたお会いしましょう』
 そう言い残して、イブはその場から姿を消した。








 イブの話が終わって、その日は解散となった。
 それぞれがそれぞれの時間を過ごして、男子は男子部屋で、女子は女子部屋で睡眠をとることになった。
「………」
 不思議だ。あんなに疲れていたはずなのに眠れそうにない。
 あんな話を聞かされて頭が混乱しているのか、単に落ち着けないだけなのか……。
「……何か飲み物を………」
 ベッドから起きて、部屋を出る。
 階段を下りて、キッチンへ向かった。
 ここに来たばかりのときには気づかなかったのだが、ここには電気、ガス、水道がきちんと完備されているらしい。
 俺は冷蔵庫から牛乳を取り出してマグカップに注いで電子レンジの中に入れた。
 温まるまでの1分間が妙に長く感じる。

「大助?」

 声をかけられ振り返ると、香奈がパジャマ姿で立っていた。
 ピンク色の生地に白色の水玉の、可愛らしいパジャマだった。
「どうした? 眠れないのか?」
「ええ。大助も?」
「ああ」
「そっか」
 自然と俺達が笑みを交わすと同時に、電子レンジが音を立てた。


 香奈にもホットミルクを用意してやり、2人で長椅子に座る。
 辺りはとても静かで、置時計の音がよく聞こえた。
「……何かしゃべりなさいよ」
「お前こそ」
「……………」
 静かに、香奈がもたれかかってきた。自然と俺ももたれかかるように体を預ける。
 横に感じる温かさが、とても心地いい。
「大助……」
「ん?」
「……ううん。なんでもない。もう少しだけこのままでいい?」
「ああ」
 香奈の傍にいるせいか、妙な安心感がある。
 横に感じる人の体温が心地よくて、瞼が重くなってくる。
「ふぁ……なんか眠くなってきたわね」
「そうだな。部屋に戻るか」
「ええ。明日は琴葉ちゃんたちも来るし……」
 預けていた体を起こして、ホットミルクを飲み干す。
 そして俺達はそれぞれの部屋に戻って、眠りについたのだった。




 episode6――小学生組の到着――


 午前10時、人気の少ないバスの中、3人の少女が最後部の座席に座っていた。
「琴葉さん、その……あとどれくらいで着くんでしょうか?」
「えへへ、次のバス停で降りるんだよ。吉野からちゃんと案内のメモをもらったから大丈夫だもん」
「なんや華恋、もしかして琴葉ちゃんのこと疑ってたんか?」
 焦げ茶の色に似た長髪と可愛らしい笑顔を浮かべる少女の両隣には、黒髪のツインテールをもつ少女と、茶髪のポニーテールに黒縁の眼鏡をかけた少女が座る。
「そ、そんなことないよヒカル。ただ、小学生だけでこんなに遠出するのは初めてで……」
「それもそうやなぁ。ここまで来て道に迷ったら、もうお手上げやなぁ」
 冗談でもあまり言ってほしくなかったことを口にして、ヒカルはケラケラと笑った。
 華恋はその言葉でさらに不安になり、琴葉も少し自信を無くしてしまう。
『次は〜陽光町〜陽光町〜』
 放送されたバス停に、琴葉はすぐに反応した。
 停まりますのボタンを押して、荷物を持つ。
「行こう! 華恋ちゃん! ヒカルちゃん!」
「ええ!」
「そやな!」
 意気揚々と、バス停で降りる3人。
 そこは都会を離れた土地にある森林溢れる場所だった。
 普段ではあまり見ることのできない木々の多さに、わずかながら感動を覚える。
「うわぁ〜、こんなに森があるなんて初めてやなぁ」
「虫よけスプレーを持ってきて良かったですね」
「それで琴葉ちゃん。ここからの道は分かるん?」
「えーとね、迎えに来てくれるらしいんだけど……」
 辺りをきょろきょろと見回す少女たちの姿を、迎えに来た人物の視界に入る。
 その人物を大きく手を振りながら、呼びかけた。

「琴葉ちゃん、こっちよ!」

 声のした方に、真っ先に琴葉が振り返った。
「あっ! 香奈おねぇちゃん!!」
 一目散に、琴葉は香奈に飛びついた。
 彼女はそれを受け止めて、頭を優しく撫でる。
「えへへ、おねぇちゃんだ♪ 久しぶりだね♪」
「そうね久しぶり。ほら、そんなにくっついてたら動きにくいでしょ? えっと、そっちの2人はお友達?」
「うん! 華恋ちゃんと、ヒカルちゃんだよ!」
 香奈に抱きついたまま、琴葉は2人の事を紹介した。
 少し慌てて、2人は自己紹介を始める。
「………は、はい。初めまして、九宝院華恋です」
「西園寺ヒカルです。よろしくお願いします」
 2人が真っ先に思ったことは、とても綺麗な人だということだった。
 肩までかかる真っ直ぐな黒髪にパッチリとした瞳。笑いかけてくれる表情も、とても可愛らしい。
「へぇ、華恋ちゃんにヒカルちゃんね。私は朝山香奈って言うの。よろしくね」
「はい。よろしくお願いします。このたびはお招きいただいて……」
「あーそういうのいいわよ。せっかくのキャンプなんだから、お互いに楽しくいきましょう。私の事も、気軽に香奈って呼んでくれて構わないわよ」
 親しみやすい口調で話す香奈に、いつの間にか華恋とヒカルの緊張は解けていた。
「え、じゃあ、香奈さん……よろしくお願いします」
「よろしくね華恋ちゃん。その髪型可愛いわね。自分で結ってるの?」
「はい……お母さんにやり方を教えてもらって……」
「そうなの。もし良かったら後で私にも結い方教えてくれる?」
「は、はい!」
 自身の髪形を褒められて、華恋は思わず頬を染める。
 その様子を見ながら、ヒカルは手を上げながら口を開いた。
「あの〜質問いいですか?」
「なにヒカルちゃん?」
「えっと、琴葉ちゃんと香奈さんって、姉妹なんですか? 苗字が違いますけど―――」
「だ、ダメだよヒカル! それはきっと家庭の複雑な事情があるんだよ!」
「あぁ〜その、そういう複雑な事情はないわよ。琴葉ちゃんが私の事を本当のおねぇちゃんみたいに慕ってくれているだけよ」
「なんだぁ、そうだったんですかぁ。ほんならうちも香奈おねぇちゃんって呼んでもええか?」
「別にいいわよ。じゃあ他の人を待たせると悪いし、早く行きましょう♪」
 目的地までの道中、琴葉は香奈と手を繋ぎながら学校でのことを楽しそうに語った。
 友達の事、先生の事、授業や行事の事。
 今まで経験したことのない様々なものへの感想を、想いのままに伝えている。
 華恋とヒカルはその様子を後ろから眺めながら、2人が本当に姉妹かのようにすら錯覚した。



 歩くこと15分。
 目的地である山小屋の前まで到着した。
「あ、ちょうど大助と真奈美ちゃんが決闘しているわね」
 香奈が指差す先には、大助と真奈美が決闘をしていた。
「おお、お兄さんの方は……六武衆やな」
「あっちは……魔法使い族デッキですかね?」

「バトルです! エターナルマジシャンで攻撃します」
「和睦の使者を発動だ!!」
「……カードを1枚伏せて、ターンを終了します」
 真奈美がカードを1枚伏せてターンを終える。
 対する大助の場には、1枚のカードも存在していなかった。
「あっちのおねぇさんの方が押してるみたいやな」
「そうだねヒカル。あのお兄さんは、どうするんでしょう?」
「俺のターン、ドロー! 手札から六武の門を発動。真六武衆−カゲキを召喚、その効果でミズホを特殊召喚。門の効果でサーチしてシナイを特殊召喚。師範を特殊召喚。門でサーチしてキザンを特殊召喚だ!!」
「っ!?」
 一気に召喚された5体のモンスター。
 その展開力に、その場にいる全員が驚きを隠せない。

「すごーい! あのお兄さん、一気に5体も召喚しちゃった!」
「大助ったら、ずいぶん調子良さそうね」
「え、じゃああの人が、香奈おねぇちゃんの恋人なの?」
「ま、まぁ、そうだけど……」

「手札から"団結の力"を装備して、バトルだ!」
「………私の負けです」
 強化されたモンスターの一撃を受けて、決着はついた。
 決闘は終了して、浮かび上がっていたソリッドビジョンが消えた。
「さすがですね中岸君。1ターンに1回しか攻撃できないっていう制約があったのに……」
「いや、本城さんだって場にモンスターが1体しか存在できないって制約があったのに、自在にデッキを動かしていてびっくりしました」
「じゃあ、あとで検討会ですね」
「ああ」
 デュエルディスクをしまい、大助達は香奈達の姿に気づいた。
「なかなかいい決闘だったじゃない」
「ありがとな。そっちは小学生組か?」
「ええ。琴葉ちゃんに、九宝院華恋ちゃん、西園寺ヒカルちゃんよ」
 香奈に紹介され、3人はお辞儀をする。
「中岸大助です。これから数日間よろしくな」
「本条真奈美です。よろしくね」
「うん♪ 大助さんも真奈美ちゃんもよろしくね♪」
「え、あ、あの、よろしくお願いします」
「ヨロシクお願いします♪」
 




 全員との挨拶を終えた琴葉たちは、案内された女子部屋に荷物を置いた。
 自分たちよりも年上の人間しかいないこの状況に、期待と興奮と不安が入り混じる。
「な、なんか緊張しますね……」
「せやな。でもみんな優しそうな人達やし、困ることはなさそうやけどな?」
「えへへ、みんなで一緒にキャンプだよ♪ 楽しみだね♪」
 どちらかというと緊張や不安な気持ちが多い華恋とヒカルとは違い、琴葉は純粋な笑みを浮かべている。

「お嬢様、失礼します」

 部屋のドアがノックされ、入ってきたのは吉野だった。
 自然と、華恋とヒカルは背筋を伸ばしていた。
「吉野、どうしたの?」
「はい。みなさんにこれからの予定をお伝えするために参上しました。お嬢様たちはこれから2泊3日でこのキャンプに参加していただきます。具体的なことは決めておりませんので、みなさんで遊ぶのも良し、香奈様や薫と一緒に辺りを探検するのも良しとします」
「つまり、自由行動でええってことか?」
「そうですね。ただし、辺りは森になっていますから暗くなったら道が見えなくなってしまいます。森の中で遊んでも構いませんが、早めに帰ってくることを約束してください」
「はい。分かりました」
「では何かご質問はありますでしょうか?」
 3人の手が上がらないことを確認すると、吉野は部屋から出て行った。
 残された琴葉たちは、ほっと一息ついた。
「自由行動かぁ。みんなはどうするん? デッキとデュエルディスクもあるから、いつもみたいに遊戯王で遊ぶこともできるけど……?」
「わたし、香奈おねぇちゃんのところに行ってくる! 行ってたくさんお話ししてくる!!」
「琴葉さんは本当に香奈さんの事が大好きなんですね」
「うん♪ だっておねぇちゃんだもん♪」
「ほなうちらも自分で好き勝手に行動しようか。うちは少し外でブラブラするつもりやけど、華恋はどうするん?」
「私は……少し山道で疲れたのでリビングで休憩してから考えます」
「決まりやな。ほんなら各自解散や!」
 ヒカルが号令をかけると同時に、琴葉はものすごい勢いで部屋から出て行った。
 それほど香奈との再会が嬉しかったのだろう。
 その様子を見ていたヒカルはケラケラと笑いながら部屋を出ていく。
 最後に華恋が静かに部屋を出て、リビングに出た。

「えっと……」
 華恋はキョロキョロと辺りを見回す。
 知らない場所に来たときは、まずはその場所の事をしっかり把握しておかないと不安で仕方ないのだ。
 ましてや知らない土地の知らない森の知らない山小屋の中なのだ。
 少しでも周囲を確認しておかないと落ち着かない。
「あっ」
 リビングに置いてあったロッキングチェアが目に入った。
 外国の映画などでよく見かける『揺れる椅子』。1度は座ってみたいと思っていたものだった。
「よいっしょ……と」
 少し高めの椅子だったため座るのに手間取ったが、憧れていたものに座れたことでその口元が自然と緩んでしまう。
 重心を少し後ろにやると揺ら揺らと動く椅子。
 幼稚園の頃に遊んでいた遊具を思い出しながら、少しだけ楽しい気持ちになった。
「〜〜♪ 〜〜♪」
 柄にもなく好きなメロディを口ずさんでしまう。
 もちろん、辺りに誰もいないことを確認した上でだ。
「〜♪♪」

 ガチャ

 玄関のドアが開いたことにも気づかず、憧れのロッキングチェアを堪能する。
 目を閉じながら、先程見た決闘を思い返す。
 場にモンスターがいない状態から一気に5体のモンスターを召喚した展開力。
 展開力に優れた自分のBFデッキでも、同じことができるか分からない。
「中岸大助さん……かぁ……」


「もしかして呼んだ?」


「え!?」
 聞こえたその声で一気に現実に引き戻される。
 ちょうどキッチンのあたりに、大助の姿があった。
「えっ、あの、いらしたんですか?」
「いや、ついさっき帰ってきたところだよ」
「………その、見てましたか?」
「何を?」
「その……私が……椅子で遊んでいたこと……」
「ああ。楽しそうだったね」
「っっっっ!?」
 恥ずかしさのあまり椅子から転げ落ちそうになってしまった。
 人に見られたくない姿を見せてしまった。しかも年上の人に。
「な、中岸さん! 私が遊んでいたのは、他の人には言わないでください!!」
「そんな必死にならなくても言わないよ……」
 顔を真っ赤にしながら懇願する華恋に大助は困惑しつつ、そう答えた。


「……落ち着いた?」
「はい……」
 普通の椅子に座りなおした少女に、大助はリンゴジュースを差し出す。
 それを飲んで一息ついた華恋はまじまじと目の前にいる大助を見つめた。
「あの、中岸さん……」
「大助でいいよ九宝院さん」
「あ、じゃあ私も下の名前でいいです。その、あんまり九宝院って苗字が好きじゃなくて……」
「どうして?」
「その、無駄に豪華な感じがして……」
「あぁなるほど。なんとなく分かるなその感覚。じゃあ華恋ちゃんって呼ばせてもらうよ」
「はい。大助さん、あの、高校生ですか?」
「そうだよ。星花高校って場所に通ってるんだ」
「凄いですね。高校って、小学校とはどう違うんですか?」
「そうだな………まず勉強が難しいかな。算数も数学ってものにレベルアップしているし、国語も古文や漢文っていう昔の言葉を習ったりするんだ。理科も化学や物理っていう専門的な感じになる」
「へー、やっぱり凄いですね。私の学校は遊戯王の授業があるんですけど、大助さんの学校はあるんですか?」
「あるよ」
「やっぱりみなさん強いんでしょうか?」
「それは人によるよ。香奈みたいに入学早々クラスメイトを全員倒すような人もいれば、手札事故を起こしてばかりの攻撃力馬鹿とかもいるからな」
 自分の知らない世界の話に、華恋は耳を傾ける。
 普段は知ることのできないことを知れるのは、貴重な機会だ。
「大助さんもお強いですよね。さっきの六武衆の決闘、すごかったです」
「俺はそこまで強くないよ。さっきのだってたまたまだよ。華恋ちゃんは、どんなデッキ使うんだ?」
「私はBFデッキです」
「凄いな。使いこなすのが難しいデッキでしょ?」
「あ、ありがとうございます……大助さん、もっといろいろとお話を聞いてもいいですか?」
「いいよ」
 そうして華恋は、しばらく大助と話をすることになった。




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「香奈おねえちゃん♪」
 山小屋を出てすぐに琴葉は香奈と合流した。
 ちょうど昼食の支度をしているところで、近くには吉野と咲音もいる。
「ほら、そんなにくっついてると危ないわよ?」
「やだ〜♪ お姉ちゃんと一緒がいい〜♪」
 香奈の腰にしがみつき、満面の笑みを浮かべる。
 このままでは昼食の準備が出来ないと思いながらも、無理に離すのも可哀そうな気がしてどうしたらいいかわからない。
 その様子を見ながら、咲音と吉野は微笑んでいる。
「香奈さん。ここは私達でやっておきますから、琴葉の気が済むまで少し遊んでいてもらえませんか?」
「え? でも……」
「仕込みはほとんど終わっていますし、調理なら二人で出来ますから」
「じゃあ、お願いしていいかしら?」
「ええ。今日は野外の施設でバーベキューですから、あとは焼くだけですしね」
「吉野もそう言ってるよ? ね? 一緒に遊ぼう?」
「いいわよ。じゃあ行きましょう」
 その場を大人二人に任せて、香奈と琴葉は森の中に入った。
 特に理由はない。琴葉が香奈に「森の中を探検してみたい」と提案したからだ。

「こんなところに来ても何もないわよ?」
「えへへ、香奈おねぇちゃんと一緒ならどこでも楽しいもん♪」
 すっかり浮かれ、ろくに辺りを確認もせずにはしゃぐ琴葉。
「あっ!?」
 当然、足元に注意を向けているはずもなく木の根に躓く。
 受け身もうまく取れず、盛大に転んでしまった。
「大丈夫!?」
 急いで駆け寄る香奈。
 琴葉はその場に座り込み、右足首を押さえていた。
「いっ……!」
「ちょっと見せて……赤くなってるわね。ひねっちゃったのかしら」
「痛いよぉ……!」
「泣かないで琴葉ちゃん。動けそう?」
「痛くて動けないよぉ……」
「そっか。とりあえず手当てしないといけないわね。おんぶするから私の背中につかまって」
 膝をおろし、促す香奈。
 琴葉は瞳に涙を浮かべながら、香奈の背につかまる。
「ちゃんとつかまってるのよ?」
「うん……ごめんなさい」
「こういう時は、”ごめんなさい”じゃなくて”ありがとう”って言えばいいのよ」
 香奈に背負われながら、琴葉は”おねえちゃん”の温かさを感じる。
 右足に感じる痛みが、少しだけ和らいでいくようだ。
「おねえちゃん」
「なに?」
「あのね、ママや吉野や武田は教えてくれなかったんだけど、みんな、ここで何をしているの?」
「え?」
「薫ちゃんや、伊月さんや佐助さんも見当たらないし……大助さんや雲井さんもいないし……わたし達に秘密にしていることってなぁに?」
「……そんな、秘密にしていることなんて無いわよ」
「香奈おねぇちゃん、嘘ついてる……」
 そういえば琴葉は他人の嘘を見抜くことができるんだったと思い出しつつ、香奈は苦笑する。
 このままだと、秘密にすることは出来そうにない。
「別に、琴葉ちゃん達を仲間外れにしたいわけじゃないのよ。あなたたちが大切だから、危ないことに巻き込みたくないって思っているだけなの」
「危ないことしてるの? どうして?」
「……大切なものを守るためかな」
「そうなんだ……でも、前に吉野が言ってたよ? ”守る”っていうのは、大切な人がいつまでも笑っていられるようにすることだって。わたしはみんな大切だって思ってるよ? それなのに、みんなが危ないことするのは、変じゃない?」
「…………………」
 返答する言葉が見つからず、少し歩幅が小さくなる。
 琴葉の言うことは間違っていない。何かを守るために戦うということは、自らの身を危険にさらしていることになる。
 それでも戦わなければいけないのは事実だ。
「琴葉ちゃんは何も心配しなくていいわよ。みんな、無事に帰るためにこの合宿を開いたんだから」
「どうしてわたしだけ仲間外れにするの? わたしだって、何かできるかもしれないよ?」
「琴葉ちゃんはもう十分に私達を助けてくれているわよ」
「え?」
「あなたたちがここに来てくれたから、みんな頑張ろうって思ってるわ。もちろん私だってその一人よ」
「そうなの?」
「ええ。嘘ついてないでしょ?」
「うん……」
「大丈夫よ。絶対に琴葉ちゃんを悲しませたりなんかさせないわ」
「ホント?」
「もちろんよ。とりあえず足の怪我を治して、たくさん遊びましょう♪」
「うん!」




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「おぉ、いかにも秘密基地っぽいところやなぁ」
 ヒカルは山小屋を出た後、離れにある小さな部屋を訪れていた。
 そこには地下への階段があり、ちょうどそこを下っているところだ。
「こんな山奥にあんな立派な山小屋があるんやから、秘密基地の1つや2つあってもおかしくはあらへんよなぁ♪」
 琴葉と華恋に良い報告が出来ると思い、顔がにやける。
 この先に広がるのは、いったいどのような空間なのか。



「はい。じゃあ次に行くよ」
「はい!」
 薫がカードをかざすと同時に、鳥の形をした物体が10体出現して空間内を飛び回る。
 真奈美は右手に持った杖を握りしめ、構える。

 ――ライトシューター×10!――

 真奈美の周囲に10個の光弾が出現し、一斉に放たれる。
 光弾は飛び回る鳥を追尾するかのように動き、すべて着弾した。
「すごいね! たった一日でここまでコントロールできるようになるなんて♪」
「はい。なんとかコツが掴めてきました……っていっても、今は10個のコントロールが限界ですけど」
「それだけでもすごいよ! やっぱり永久の鍵のおかげなのかな?」
「きっとコロンちゃんと薫さんの指導のおかげですよ」
「えへへ、ありがとう♪ それじゃあ次は身体能力の強化訓練をしてみようか」
「はい。お願いします」
「えっと………じゃあまずは見ててね」
「はい」
 薫は大きく深呼吸して、白夜の力を身に纏う。
 ほんの微かだが、彼女の体全体を白い光が覆っているように見えた。
「せーのっ!」
 ビュン! という風切り音。
 さっきまで目の前にいた薫の姿が、一瞬にして真奈美の背後に移動していた。
「これが身体強化の一例だね。白夜の力っていうのは自分の体の中に存在しているんだけど、それを強化したい場所に集中させることでその場所を向上させることが出来るんだ。自分の持っている白夜の力が高ければ高いほど強化範囲も強化率も大きくなるんだよ」
「……よく分からないです」
「まぁ言葉で言っても分からないよね。とりあえずやってみようか」
「そ、そうですね!」
 見様見真似でやってみることにした。
 目を閉じて集中し、大きく深呼吸する。
(エル。どうしたらいいのかな?)
(マスター、まずは自分の中に白夜の力があることを感じられますか?)
(うん。訓練を重ねていくうちに、なんとなくだけど感じることができるよ。なんだかフワフワして温かいような……)
(その感覚が今はどこに集中しているか、わかりますか?)
(えっと、胸のあたりかな?)
(正解です。その力を移動させればいいのですが、これは普段の力の使い方とは違うのでいきなりは難しいと思います。ひとまず位置的にいちばん近い、視力を強化してみましょうか。力の移動はイメージが重要です。胸の中にある力を、ゆっくり目の方へ持ち上げるような感覚です。私もサポートしますので、やってみましょう)
(はい)
 もう一度深呼吸すると、胸のあたりに感じていた力がゆっくり上へ移動するのを感じた。
 その力が目のあたりに来たことを感じ、真奈美は目を開ける。
「っ!」
 視界がひどく歪んで、目が痛くなりそうだった。
 かけていた眼鏡の度が合っていないのだ。
 たまらず眼鏡を外して辺りを見回してみる。
「わぁ……!」
 思わず感嘆の声が出てしまった。
 眼鏡をかけているときよりもはっきりと鮮明に視界が広がっている。
 白夜の力による視覚強化が成功している証拠だった。
「視覚を強化したんだね。真奈美ちゃん可愛いから眼鏡を外してもいいんじゃないかなぁって思ってたんだけど、やっぱり思った通りだったね♪」
「か、薫さんってば、照れるようなこと言わないでください……!」




「えへへ、じゃあ今日の訓練はこれくらいにしておこうか」
「はい。ありがとうございました」
 階段の向こう側から女性の声が聞こえた。
 咄嗟に入口の陰に身を隠して、ゆっくりと中を覗く。
 中では薫と真奈美が訓練を終えた直後で、体を休めているところだった。
「だいぶ力の扱いに慣れてきたみたいだね。家でかなり練習してた?」
「はい。エルと一緒に練習してきました」
「エルって永久の鍵……エターナル・マジシャンのこと?」
「そうです。まだコロンちゃんみたいに実体化出来ないので、みんなに紹介できないんですけど……」
「………ごめんね真奈美ちゃん」
「え?」
 突然の謝罪に、真奈美は困惑する。
 薫は顔を俯かせたまま言葉を続ける。
「水の神の事件は、元はと言えばイブが私に託してくれた力が真奈美ちゃんに渡ったから起こったようなものだし……事件が起こってもスターは何も出来なかった。大助君たちが頑張ってくれたから無事に事件が終わったけど、一歩間違っていたら真奈美ちゃんが死んじゃっていたかもしれない。それを……ずっと謝りたかったんだ」
 暗い表情で謝る薫に対して、真奈美は少し考えたあと、答えた。
「謝ることなんてありません」
「気を遣わなくてもいいんだよ?」
「いいえ。たしかに事件では危険な目に遭いましたけれど、それ以上に大切なものをたくさん貰いました。エルとだって一緒に生活できるようになって毎日楽しいですよ? 私だけのお姉さんが出来たみたいですし、白夜の力も使えるようになって本物の魔法使いになれた気分になりますし」
「そっか……分かったよ。もし私に何かできることがあったら遠慮なく言ってね」
「はい」


 真奈美と薫の会話を聞きながら、ヒカルは静かに頭をひねる。
 いったいあそこにいる2人は何を話しているのだろうか。
 事件とか言ってたいたが、そんな騒ぎになるような事件は近頃起きたというニュースがない。それは遊戯王本社は情報操作をしていて一般人に事件のことが伝わらないようにしているのだから、ヒカルが知らなくて当然だろう。
「いやぁ、こりゃあうちらが知らないところで何か面白いことが起こってるな」
 自然に湧き起こる高揚感に体を震わせ、さらに聞き耳を立てる。
「うちらだけ仲間外れにしようたってそうはいかへんよ♪」


『それがそうもいかないんだよ♪』


「え?」
 パチンッという音が聞こえた瞬間、ヒカルは意識を失った。
 コロンが白夜の力によって彼女を眠らせたのだ。
『もう、薫ちゃんも真奈美ちゃんも油断しすぎ。今度から誰か入らないようにしとかないといけないなぁ……』




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 昼食の時間になり、全員が小屋の前に集まっていた。
 吉野達が用意した食材が並んでおり、常備してあったバーベキューセットも準備が整っている。
「それではみなさん、たくさん食べてくださいね」
 咲音の言葉で、全員が食事を始める。
 それぞれが談笑しながら食事を進める中で、スターのメンバーは密かに集合しつつそれぞれの進捗について報告を行っていた。
「大助君と香奈ちゃんはどんな感じ?」
「雲井や本城と違ってメニューのほとんどを決闘に費やしているから成長はしている……だがやはり苦手な戦術にぶつかったときの対処に苦戦しているな」
「そっか……伊月君は?」
「彼に対して決闘の腕の向上はあまり見込めないので、ほとんど力の訓練ですね。身のこなしは大分良くなってきましたが、まだまだといったところです」
「なるほどね。私のほうもコロンと一緒に力の訓練と決闘の訓練をしているけど、決闘のほうは苦戦しているかな。でも真奈美ちゃん、やっぱり白夜の力の扱いが上手なんだよ。どんどん上達していって体力の消耗も少なくなっていっているし、基本的な力の扱い方なら完璧と言っても過言じゃないよ」
「おやおや、それは素晴らしいですね。薫さんのほうは順調そうで何よりです」
「だが……問題は小学生組だな。コロンから話は聞いたが、どうにも首を突っ込みたがる奴がいるらしい」
「予想はしていたことだけどね。琴葉ちゃんに至っては私たちが何かやっていることは感づいているみたいだし……どうしよう?」
「こればかりは、なるようにしかなりませんね。要するに小学生組を危険な戦いに巻き込まないようにすればいいのですから、いくらでも手の打ちようはありますよ」
 焼いた肉を頬張りつつ、伊月はそう言った。
 佐助は近くに置いておいたコーヒーを飲み、机に置いてあるノートパソコンへ注目する。
「そういえばさっき、本社から緊急の連絡があった」
「え? 内容は?」
「ちょっと待っていろ……」
 皿を置き、ノートパソコンのメールボックスを開く。
 本社からの緊急の連絡。
 スターメンバー全員で合宿を行っていることは本社には伝えてあった。それなのに、スターに直接連絡が来るということは余程の事態であることが容易に想像できた。
「内容は簡単だ。各地に3つの巨大な闇の力の反応あり。現在、他の組織が対処に向かっている。だが敵は姿をくらまし捜索中。場所が分かり次第、スターメンバーは解決にあたるべし……だそうだ」
「これって……ついにアダムが動き出したってことかな?」
「おそらくそうでしょう。どうしますか佐助さん? スターが対処にあたるべきだとは思いますが……貴重な合宿期間を削るわけにも……」
「…………伊月の言うことは最もだ。だが、闇の力を持つ存在が町のどこかにいるというのは危険すぎる。時間は惜しいが、敵の所在が判明し次第、俺たちで対処にあたるべきだ」
「そうだよ。町の人たちを放っておくことなんてできないよ」
「……分かりました。では所在が分かり次第、僕たちで対処しましょう。ですがどうしますか? 敵は3人いるそうですが? スターで決闘できるのは僕と薫さんしかいませんが……」
「そればかりは情報次第だな。3人の所在が同時に分かるとは限らない。見つかった順に対処していくしかないさ」


「なぁなぁ。何の話してるん?」


 薫の袖を引っ張りながら、ヒカルが尋ねた。
 その瞳はキラキラと好奇心に満ち溢れている。
「西園寺ヒカルちゃん……だよね? あのね、お姉さんたちは今、お仕事の話をしているんだよ」
「仕事って何の仕事なん? 遊戯王の仕事してるって琴葉ちゃんから聞いてるけど、どんなことしてるん?」
「えっとね。町内会とか小学校に行って、みんなに楽しい決闘を披露したりカードを配ったりしてるんだよ」
「それだけなん? 実は裏で悪の組織と戦ってますとかそんなことあらへんの?」
「えっ……そんなことないよ。ヒカルちゃんはアニメの見すぎだよ。ほら、私はただのお姉さんなんだよ? どちらかというと悪の組織に捕まっちゃうような人だからさ」
「なんか怪しいなぁ。地下室で本城さんと一緒に何かしてたやろ? うち、ちゃんと見てたんよ?」
「地下室? どこかにそんな場所があるの?」
「むぅぅぅ………」
 あくまでもシラをきる薫たちに、ヒカルは頬を膨らませる。
 そんな彼女の膨らんだ頬を、薫は指で突っついた。
「ほら、女の子がそんな顔しないで。せっかくの可愛い顔が台無しだよ?」
「っ……そ、そうやってうちを丸め込もうったって、そうはいかへんよ。絶対に暴いてやるわ!!」
 頬を染めつつ、ヒカルはその場から立ち去っていった。
「おやおや、好奇心旺盛なのも考え物ですね」
「まったくだな」








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 夜になり、ヒカル達3人は集まって小さな会議をしていた。
 周りには誰もいなく、声も小さいため仮に誰かが潜んでいても会話は聞こえないだろう。
「ヒカル、こんな夜遅くにどうしたの?」
「まぁ聞いてや2人とも。大人たちがなーんかうちらに隠し事しているっていうのは勘付いてるやろ? うちな、そういう楽しそうなことを隠すのってよくないと思うんよ」
「でも薫ちゃんも吉野も……香奈おねえちゃんだって教えてくれなかったよ?」
「大人が秘密にすることですから、あんまり探っちゃいけないんじゃないでしょうか?」
「華恋も琴葉ちゃんも甘いわ。そんなんやからみんな子ども扱いして教えてくれへん。せやから作戦を考えました!」
「作戦?」
「内容は………」
 2人をもっと近くに寄せて、ヒカルはその”作戦”を伝える。
 有用性はともかくとして、2人はすぐにその作戦に同意した。






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 同じころ、大助と雲井は男子部屋でテレビゲームで対戦をしていた。
 たまたま同じソフトを持っていたため、せっかくだから対戦しようぜと雲井からもちかけられたのだ。
「あー!? てめぇさっきから変化球ばっか使ってんじゃねぇぞ!? 男ならまっすぐストレートできやがれってんだ!!」
「変化球特化型の投手なのにストレートを多用するわけにいかないだろ。そういうお前こそ少しは変化球使えよ。いくら速球だからって慣れれば打てるし……」
「けっ! 4点差つけてるからって余裕かましてんじゃねぇぞ。満塁ホームラン打てば同点じゃねぇか」
「それはそうだが……」
 呆れてみるものの、雲井は強振の時はかなりボールに当ててくる。
 油断していると本当に逆転されかねないからな……。


 コンコン


 不意にドアがノックされる。
 ちょうど雲井の4番を三振に打ち取ったところでゲームを中断し、返事をする。
 少し慌てた様子で、香奈と本城さんが入ってきた。
「大助! どうしよう!? 大変よ!」
「どうしたんだよ?」
「琴葉ちゃんから果たし状をもらっちゃったの!」
「………は?」
 慌てる香奈の右手には、ハートのシールで封をされた手紙が握られていた。
 端っこのほうに平仮名で「かなおねぇちゃんへ」と書かれている。
「……中身見たのか?」
「まだよ。小学生組はこれを渡して「果たし状です」って言ってさっさとどっかに行っちゃったし……」
「仮にそれが果たし状だったとして、何が大変なんだ?」
「だって果たし状ってタイマン勝負で喧嘩しようってお誘いみたいなものじゃないの? 大助とかよくもらってたじゃない」
 たしかに香奈と付き合う前は時々もらったりしたこともあったが、男子が男子へ渡すのと女子が女子へ渡すのでは意味合いはかなり違ってくるように思える。
 しかも琴葉ちゃんは小学生だ。いくらなんでも高校生の香奈に……おねえちゃんと慕っている香奈に喧嘩をふっかけるようなことは考えられない。
「香奈ちゃん、気にしすぎですよ。とりあえず中身を見てみましょう?
「そ、そうね」
 本城さんに促されて、香奈は封を開ける。
 俺たちは覗き込むように手紙の内容を確認する。
 そこには――――


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 かなおねえちゃんへ

 はたしじょう

 あしたのあさから、ひろばのまえでわたしたちと
 たたかってください。1かいしょうぶです。

 もしわたしたちがかったら、ひみつにしていることを
 おしえてください。


 ことは ヒカル かれん より

##############################


「「「「……………」」」」
 すべてが平仮名だったためかなり読みづらかったが、内容を把握する。
 思っていた以上に果たし状だったな。
「……どうしますか?」
「無視するわけにはいかないわ。要するに私たちが負けなければいいわけでしょ?」
「挑戦を受けるのか? もし負けたらどうするつもりだよ……」
「何のために特訓してきたと思ってるのよ。私達ならきっと勝てるわ」
 いったいどこからそんな自信がくるのか分からない。
 どんな相手だって、絶対に勝てるなんてことはありえないのに……。
「こっちのメンバーはどうするんだ? 一回勝負ってことは3対3にするんだろ?」
「あっ、だったら俺が抜けるぜ」
 雲井はそう言って手を挙げた。
「どうしたんだ?」
「明日はちょっと野暮用があんだ。用事が済めば帰ってくるけど、小学生組との対戦には間に合わないと思うぜ?」
「……ライガーも一緒か?」
「ああ」
「……そうか。”気を付けろ”よ」
「てめぇに言われるまでもねぇぜ」
 雲井は不敵な笑みを浮かべて、そう言った。
 なんとなくだが、その野暮用が平和的なものではないように思えた。
「じゃあメンバーも決まったし私達もさっさと寝ましょう。それで朝にデッキ調整して、琴葉ちゃんたちと勝負よ!」
「はい。そうですね!」
 幸い女子二人は勘付いていないようだ。
 とりあえず、野暮用とやらは雲井に任せて俺は俺にできることをしよう。
「じゃあ私達は部屋に戻るわね」
「ああ」
 香奈たちが部屋から出て行ったことを確認して、俺と雲井は中断していたゲームを再開させる。
 ちょうど9回裏だし、ゲームの決着をつけてから眠っても遅くはないだろう。
「大丈夫なのか?」
「何が?」 
「その野暮用が無事に終わるのかってことさ」
「さぁな。俺も詳しく分かんねぇんだけど、ライガーがどうしてもっていうからな。あいつが俺に頼むのは珍しいし、貸しの1つや2つを作っておいても損はねぇだろ?」
「内容も知らないのにオーケーしたのか」
「ライガーが俺に頼む時点で、それなりに重要なことだってことは分かってんだ。それを無視するほど俺は薄情じゃねぇぜ」
「そうか」
 なんだかんだ言って雲井もライガーと信頼関係を気づいているらしい。
 雲井一人だけじゃかなり心配だが、ライガーが一緒ならばきっと大丈夫だろう。

『ストライーク! バッターアウト! ゲームセット!!』

 最後に外角低めのスライダーを決めて、試合は終了する。
 雲井は深いため息をついて、ゲームの電源をオフにした。




episode7――九宝院華恋の挑戦――

 小学生組に密かな宣戦布告を喰らい、俺と香奈、本城さんは部屋でデッキ構築を行っていた。
 今日はスター全員が外出しており、訓練は無しだ。
 久々に何の縛りもなく、純粋にキャンプを楽しめるのである。
 家には吉野と武田、咲音さんがいつもどおり家事全般を行ってくれている。小学生組からしてみれば、俺たち高校生と戦えるまたとない機会だ。
「誰と誰が戦うようにする?」
 ふと思ったことを口にすると、隣から香奈の深いため息が聞こえた。
「そんなの全員とするに決まってるでしょ? シングル戦だけじゃなくてタッグ決闘とかももちろんやるわよ。せっかくみんな楽しみにしているんだから、とことん付き合ってあげないとね」
「そうですね」
「やっぱりそうなるか……」
 2人とも平然とそう言っているが、女子5人に囲まれる俺の気持ちも考えてほしい。
 いや、嫌なわけじゃないし……むしろ喜ばしいことなのかもしれないが……。
「楽しみね。最近は訓練ばかりで大変だったから」
「はい。雲井君も一緒に戦えたらよかったんですけどね……」
「定期健診で遊戯王本社に呼ばれているんだから仕方ないですよ。それに午後には帰ってこれるみたいだし」
 雲井はライガーの力を宿した影響が出ていないかどうかの定期健診を受けに行っている……ということにしてある。
 スターが外出していることから鑑みるに、おそらく闇の力が関わる事件が起こったのだろう。
 ライガーがスターと共に行動するとは考えづらいから雲井は単独行動なんだろうが……。
「よし! 出来たわ!!」
 香奈が満面の笑みでデッキを机に置く。
 ちょうど本城さんも終わったようで、散らばったカードを片付けている。
 俺もデッキ調整が完了して、片付けを開始する。
 そろそろ小学生達もデッキの調整が完了した頃かもしれない。


 コンコン


 ドアがノックされ、開く。
 ゆっくりと中を覗き込んできたのは、華恋ちゃんだった。
「あの、準備は出来ましたか?」
「ええ! いつでもいいわよ!!」
「分かりました。じゃあ外でお願いします」










 デッキとデュエルディスクを持って外に出る。
 すでに琴葉ちゃん、華恋ちゃん、ヒカルちゃんがいて、期待のこめられた視線が飛んできた。
 俺たちに続いて吉野、武田、咲音さんも出てくる。3人とも観戦が目的のようだ。
「ほ、本日は私たちの挑戦を受けてもらってありがとうございます」
「気にしなくていいわよ。こっちは全然負けるつもりはないからね! ただし、秘密をかけた勝負は1回だけよ。その勝負が終わったら、純粋に決闘をたくさんして楽しみましょう!」
「それじゃあさっそく始めましょう。まずは誰と誰が決闘しますか?」
 本城さんがそう言うと、真っ先に琴葉ちゃんが手を上げて「おねぇちゃんと戦いたい!」と言ってきた。
 その隣でヒカルちゃんは大きく手を上げ、華恋ちゃんがひっそりと手を上げる。
「うちは真奈美さんと戦いたいな」
「わ、私は、大助さんと戦いたいです! 全力で!!」
「おぉ華恋は積極的やなぁ。やっぱり年上が好みなんかぁ?」
「ち、違います! 大助さんは普通に尊敬しているだけです!!」
 顔を赤くしながら答える華恋ちゃんに、その場にいる全員が微笑んでいる。
 尊敬か……何か凄いことをした覚えはないのだが……。
「上手い具合に対戦が決まったわね。じゃあ最初は大助と華恋ちゃんが戦いましょう。その次が私と琴葉ちゃん、その次に真奈美ちゃんとヒカルちゃんね」
「いいのか? 香奈が最初じゃなくて?」
「ええ。華恋ちゃんに免じて、一番手は譲ってあげるわ。せっかく尊敬されてるんだから、幻滅されないようにしなさいよね。あ、でも手加減したり負けたりしたら承知しないからね」
「注文厳しくないか?」
「いいからさっさと決闘しなさい。あとがつかえているんだから!」
 香奈に強く背中を押されて、前に出る。
 華恋ちゃんも前に出てきて、力強い瞳と共にデュエルディスクを構えた。
「よろしくお願いします」
「ああ。よろしく」
「はい!!」
 互いにデュエルディスクを構えて、呼吸を合わせる。
 心地良い風があたりを吹き抜け、同時に声を発した。


「「決闘!!」」



 大助:8000LP   華恋:8000LP



 決闘が、始まった。





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 尊敬する大助さんを相手に、決闘が始まった。
 期待と不安がいっせいに押し寄せてきて、緊張する。
 でも……。
「がんばって華恋ちゃん!」
「気負わずにやってなー」
 後ろで応援してくれている親友がいる。
 それだけで、少しだけ心が楽になる。
「はぁ、ふぅ」
 小さく深呼吸。せっかく大助さんと戦えるのだ。
 今の自分に出来ることを全力でぶつけていけばいいと思った。
「私のターンです。ドロー!」(手札5→6枚)
 初期手札を見つめ、最善の一手を考える。
 相手のデッキは六武衆。展開力と対応力には優れているものの、攻撃力は比較的高くはない。
 それならば、取るべき手は1つだろう。
「手札から"黒い旋風"を発動します!」
 デュエルディスクにカードを置く。途端にあたりを黒い羽が舞い始めた。


 黒い旋風
 【永続魔法】
 自分フィールド上に「BF」と名のついたモンスターが召喚された時、
 自分のデッキからそのモンスターの攻撃力より低い攻撃力を持つ
 「BF」と名のついたモンスター1体を手札に加える事ができる。


「さっそくか……!」
「いきます! 手札から"BF−蒼炎のシュラ"を召喚します。"黒い旋風"の効果でデッキから"BF−月影のカルート"を手札に加えます!!」(手札5→4→5枚)


 BF−蒼炎のシュラ 闇属性/星4/攻1800/守1200
 【鳥獣族・効果】
 このカードが戦闘によって相手モンスターを破壊し墓地へ送った時、
 自分のデッキから攻撃力1500以下の「BF」と名のついたモンスター1体を
 自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。
 この効果で特殊召喚した効果モンスターの効果は無効化される。


「カードを1枚伏せてターン終了です」
 まずは様子見。これで相手の出方を伺うことにする。


 ターンが大助に移行した。


「俺のターン、ドロー!」(手札5→6枚)
 華恋のプレイングに感心を持ちながら、大助はカードを引く。
 油断は出来そうに無いことを肌で感じつつ、今の手札を見つめて考える。
 相手の手札には戦闘補助のカードがある。下手に攻撃をするわけにはいかない。
 それならまずは少しずつアドバンテージを稼いでいくべきと思った。
「手札から"紫炎の狼煙"を発動。その効果でデッキから"六武衆−カモン"を手札に加えて、そのまま召喚する!!」
 地面に描かれる赤色の召喚陣。
 その中から現れる、爆弾を携えた武士の姿。


 紫炎の狼煙
 【通常魔法】
 自分のデッキからレベル3以下の「六武衆」と名のついたモンスター1体を手札に加える。


 六武衆−カモン 炎属性/星3/攻1500/守1000
 【戦士族・効果】
 自分フィールド上に「六武衆−カモン」以外の「六武衆」と名の付いたモンスターが存在する限り、
 1ターンに1度だけ表側表示で存在する魔法または罠カード1枚を破壊することが出来る。
 この効果を使用したターンこのモンスターは攻撃宣言をする事ができない。このカードが破壊される
 場合、代わりにこのカード以外の「六武衆」という名の付いたモンスターを破壊することが出来る。


「場に六武衆が1体いることで、手札から"六武衆の師範"を特殊召喚!!」
「っ!」

 六武衆の師範 地属性/星5/攻2100/守800
 【戦士族・効果】
 自分フィールド上に「六武衆」と名のついたモンスターが表側表示で存在する場合、
 このカードは手札から特殊召喚する事ができる。
 このカードが相手のカード効果によって破壊された時、
 自分の墓地に存在する「六武衆」と名のついたモンスター1体を手札に加える。
 「六武衆の師範」は自分フィールド上に1枚しか表側表示で存在できない。


「その特殊召喚にチェーンして、伏せカードを発動します!!」
 相手の場にモンスターが並んだのを見計らい、華恋は伏せておいたカードを開く。


 ゴッドバードアタック
 【通常罠】
 自分フィールド上の鳥獣族モンスター1体をリリースし、
 フィールド上のカード2枚を選択して発動する。
 選択したカードを破壊する。


「シュラをリリースして、大助さんの場にいるカモンと師範を破壊します!」
 華恋の場にいるモンスターが炎を纏い、大助の場にいる武士たちへ突撃する。
 巨大な爆発が発生し、その余波によって武士たちは吹き飛ばされてしまう。

 BF−蒼炎のシュラ→墓地
 六武衆−カモン→破壊
 六武衆の師範→破壊

「破壊された師範の効果発動だ! 墓地にいる六武衆1体を手札に戻す! 俺は墓地に送られたカモンを手札に戻す」(手札4→5枚)
「そういう効果を持っているモンスターもいるんですね」
「ああ。俺はカードを1枚伏せて、ターンエンドだ」

--------------------------------------------------
 大助:8000LP

 場:伏せカード1枚

 手札4枚(そのうち1枚は"六武衆−カモン")
--------------------------------------------------
 華恋:8000LP

 場:黒い旋風(永続魔法)

 手札4枚(そのうち1枚は"BF−月影のカルート")
--------------------------------------------------

「私のターンです!」(手札4→5枚)
 相手の場にモンスターはなく、伏せカードが1枚だけ。
 この状況ならば、積極的に攻めるのみだ。
「手札から"BF−黒槍のブラスト"を召喚します。"黒い旋風"の効果でデッキから"BF−そよ風のブリーズ"を手札に加えます!」
「またサーチ効果を……!」
「さらにブリーズはカード効果でデッキから手札に加えたとき、特殊召喚できます!!」
「っ!」


 BF−黒槍のブラスト 闇属性/星4/攻1700/守800
 【鳥獣族・効果】
 自分フィールド上に「BF−黒槍のブラスト」以外の「BF」と名のついた
 モンスターが存在する場合、このカードは手札から特殊召喚する事ができる。
 このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、その守備力を攻撃力が超えていれば、
 その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。


 BF−そよ風のブリーズ 闇属性/星3/攻1100/守300
 【鳥獣族・チューナー】
 このカードが魔法・罠・効果モンスターの効果によって自分のデッキから手札に加わった場合、
 このカードを自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。
 このカードをシンクロ素材とする場合、
 「BF」と名のついたモンスターのシンクロ召喚にしか使用できない。


 華恋の場に並び立つ2体のモンスター。
 その圧倒的展開力に、観戦する全員が感心の表情を浮かべる。
「バトルです! ブリーズで直接攻撃!」

 大助:8000→6900LP

「くっ……」
「続けてブラストで攻撃です!!」
「その攻撃に、伏せカード"ガード・ブロック"を発動だ!!」


 ガード・ブロック
 【通常罠】
 相手ターンの戦闘ダメージ計算時に発動する事ができる。
 その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になり、
 自分のデッキからカードを1枚ドローする。

 BF−黒槍のブラスト:攻撃無効
 大助:手札4→5枚

「防がれましたか。それならメインフェイズ2に移ります。レベル4の"BF−黒槍のブラスト"にレベル3の"BF−そよ風のブリーズ"をチューニング!!」
「シンクロ召喚……か」
「黒き風よ舞い上がれ! 強靭な盾をその身に宿し、戦場を翔る翼になれ!! シンクロ召喚!! "BF−アーマード・ウイング"!!」
 華恋の場にいる2体のモンスターが光の輪に包まれて、その体を同調させる。
 光の柱が立ち、大きな黒翼を宿した新たなモンスターが姿を現した。


 BF−アーマード・ウィング 闇属性/星7/攻2500/守1500
 【鳥獣族・シンクロ/効果】
「BF」と名のついたチューナー+チューナー以外のモンスター1体以上
 このカードは戦闘では破壊されず、このカードの戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になる。
 このカードが攻撃したモンスターに楔カウンターを1つ置く事ができる(最大1つまで)。
 相手モンスターに乗っている楔カウンターを全て取り除く事で、
 楔カウンターが乗っていたモンスターの攻撃力・守備力をこのターンのエンドフェイズ時まで0にする。


「戦闘で破壊されなくて、ダメージも通らないモンスター……!」
「はい! 六武衆なら、このモンスターを突破するのは難しいはずです!」
「……それはどうかな?」
「え?」
 予想外の返答に、華恋は少し動揺する。
 ハッタリなのかそうでないのか、大助の表情からは判断しづらい。
「さぁ、どうする?」
「……私はカードを1枚伏せて、ターン終了です。」

--------------------------------------------------
 大助:6900LP

 場:なし

 手札5枚(そのうち1枚は"六武衆−カモン")
--------------------------------------------------
 華恋:8000LP

 場:BF−アーマード・ウイング(攻撃:2500)
   黒い旋風(永続魔法)
   伏せカード1枚

 手札3枚(そのうち1枚は"BF−月影のカルート")
--------------------------------------------------

「俺のターン、ドロー!!」(手札5→6枚)
 勢いよくカードを引き、場の状況を見つめる。
 手札では勝っているものの、相手の場には戦闘破壊が出来ない攻撃力2500のモンスターがいる。
(まだ、反撃は出来ないか……)
 今は耐えるときだと考えを決め、大助は手札の1枚に手をかけた。
「手札から"六武衆の結束"を発動する!!」


 六武衆の結束
 【永続魔法】
 「六武衆」と名の付いたモンスターが召喚・特殊召喚される度に、
 このカードに武士道カウンターを1個乗せる(最大2個まで)。
 このカードを墓地に送る事で、このカードに乗っている武士道カウンターの数だけ
 自分のデッキからカードをドローする。


「そして手札から"真六武衆−カゲキ"を召喚!!」
「し、真六武衆!?」
 地面に描かれる赤色の召喚陣。
 その中から4刀流の武士が参上した。


 真六武衆−カゲキ 風属性/星3/攻200/守2000
 【戦士族・効果】
 このカードが召喚に成功した時、手札からレベル4以下の
 「六武衆」と名のついたモンスター1体を特殊召喚する事ができる。
 自分フィールド上に「真六武衆−カゲキ」以外の「六武衆」と名のついたモンスターが
 表側表示で存在する限り、このカードの攻撃力は1500ポイントアップする。


「カゲキの効果発動。手札からレベル4以下の六武衆を1体特殊召喚する。出て来い! "六武衆−カモン"!」


 六武衆−カモン 炎属性/星3/攻1500/守1000
 【戦士族・効果】
 自分フィールド上に「六武衆−カモン」以外の「六武衆」と名の付いたモンスターが存在する限り、
 1ターンに1度だけ表側表示で存在する魔法または罠カード1枚を破壊することが出来る。
 この効果を使用したターンこのモンスターは攻撃宣言をする事ができない。このカードが破壊される
 場合、代わりにこのカード以外の「六武衆」という名の付いたモンスターを破壊することが出来る。

 六武衆の結束:武士道カウンター×0→1→2

 2体の武士の登場と同時に、結束を示す陣が光り輝いた。
「カウンターの貯まった結束を墓地に送って、デッキから2枚ドローだ!!」(手札3→5枚) 
「モンスターを出すだけじゃなくて手札補充までするなんて……さすが大助さんですね!」
「まだまだこれからだ! カモンの効果発動! 華恋ちゃんの場にある"黒い旋風"を破壊する!!」
 赤き鎧の武士が手に持った爆弾に火をつけ、投げつける。
 それは放物線を描き、華恋の場に存在するカードを粉々に吹き飛ばした。

 黒い旋風→破壊

「っ…!」
「カードを1枚伏せて、ターンエンドだ!」

--------------------------------------------------
 大助:6900LP

 場:真六武衆−カゲキ(攻撃:1700)
   六武衆−カモン(守備:1000)
   伏せカード1枚

 手札4枚
--------------------------------------------------
 華恋:8000LP

 場:BF−アーマード・ウイング(攻撃:2500)
   伏せカード1枚

 手札3枚(そのうち1枚は"BF−月影のカルート")
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「私のターン、ドローです!」(手札3→4枚)
 雲行きが怪しくなってきたことを感じつつ、華恋はカードを引く。
 さっきから攻めているのはこちらのはずなのに、思ったよりダメージを与えることが出来ない。
 それどころか徐々に劣勢になりつつさえある。
 知らず知らずのうちに、華恋の中に”焦り”が生まれていた。
「手札から"BF−漆黒のエルフェン"を召喚します!」


 BF−漆黒のエルフェン 闇属性/星6/攻2200/守1200
 【鳥獣族・効果】
 自分フィールド上に「BF」と名のついたモンスターが表側表示で存在する場合、
 このカードはリリースなしで召喚する事ができる。
 このカードが召喚に成功した時、
 相手フィールド上に存在するモンスター1体の表示形式を変更する事ができる。


「このカードの効果で、守備表示のカモンを攻撃表示に変更します!!」
 エルフェンの放った暴風が守備体勢をとる武士を襲い、強制的に攻撃の体勢へしてしまった。

 六武衆−カモン:守備→攻撃表示

「バトルです!! エルフェンでカモンを攻撃!!」
「っ! カモンの効果発動! このカードが破壊されるとき、代わりに他の六武衆を破壊することが出来る! 俺はカゲキを変わりに破壊して、カモンの戦闘破壊を無効にする!」
「身代わり効果……! でも、ダメージは受けてもらいます!!」

 真六武衆−カゲキ→破壊(カモンの身代わり効果)
 大助:6900→6200LP

「続けてアーマード・ウイングで攻撃です!」
「この時を待ってたんだ。伏せカード発動だ!!」
「えっ!?」


 六武派二刀流
 【通常罠】
 自分フィールド上に存在するモンスターが、表側攻撃表示で存在する
 「六武衆」と名のついたモンスター1体のみの場合に発動する事ができる。
 相手フィールド上に存在するカード2枚を選択して持ち主の手札に戻す。


「あっ!」
「この効果で俺は華恋ちゃんの場にあるアーマード・ウイングとエルフェンをバウンスする!!」
 大助の場にいる武士へ襲い掛かるモンスターに、突如爆風が襲い掛かる。
 その風に吹き飛ばされるかのように、華恋のモンスターは手札に戻されてしまった。

 BF−アーマード・ウイング→エクストラデッキ
 BF−漆黒のエルフェン→手札

「……そういうカードもあったなんて思いませんでした……」
「たしかにアーマード・ウイングは強力なモンスターだよ。だけど、倒せなくても場から取り除くことはできる」
「その通りですね……私はこのままターン終了です」

--------------------------------------------------
 大助:6200LP

 場:六武衆−カモン(攻撃:1500)

 手札4枚
--------------------------------------------------
 華恋:8000LP

 場:伏せカード1枚

 手札4枚("BF−月影のカルート"、"BF−漆黒のエルフェン")
--------------------------------------------------

「俺のターン、ドロー!!」(手札4→5枚)
 大助は引いたカードを見つめ、静かに笑みを浮かべた。
「手札から"六武の門"を発動する!!」
「っ!」
 カードが発動されると同時に、大助の背後に巨大な門が出現する。
 その中心には六武衆の紋章が描かれ、力強い光を放つ。


 六武の門
 【永続魔法】
 「六武衆」と名のついたモンスターが召喚・特殊召喚される度に、このカードに武士道カウンターを2つ置く。
 自分フィールド上の武士道カウンターを任意の個数取り除く事で、以下の効果を適用する。
 ●2つ:フィールド上に表側表示で存在する「六武衆」または「紫炎」と名のついた
 効果モンスター1体の攻撃力は、このターンのエンドフェイズ時まで500ポイントアップする。
 ●4つ:自分のデッキ・墓地から「六武衆」と名のついたモンスター1体を手札に加える。
 ●6つ:自分の墓地に存在する「紫炎」と名のついた効果モンスター1体を特殊召喚する。


「手札から"六武衆の影武者"を召喚する!!」
「え、チューナーモンスター!?」


 六武衆の影武者 地属性/星2/攻400/守1800
 【戦士族・チューナー】
 自分フィールド上に表側表示で存在する「六武衆」と名のついたモンスター1体が
 魔法・罠・効果モンスターの効果の対象になった時、
 その効果の対象をフィールド上に表側表示で存在するこのカードに移し替える事ができる。

 六武の門:武士道カウンター×0→2

「さらにレベル3のカモンに、レベル2の影武者をチューニング!! シンクロ召喚!! "真六武衆−シエン"!!」
 2体のモンスターが同調し、紫色の炎を纏った武士が現れる。
 その溢れんばかりの力を剣に込め、武士は相手を睨みつけた。


 真六武衆−シエン 闇属性/星5/攻2500/守1400
 【戦士族・シンクロ/効果】
 戦士族チューナー+チューナー以外の「六武衆」と名のついたモンスター1体以上
 1ターンに1度、相手が魔法・罠カードを発動した時に発動する事ができる。
 その発動を無効にし破壊する。
 また、フィールド上に表側表示で存在するこのカードが破壊される場合、
 代わりにこのカード以外の自分フィールド上に表側表示で存在する
 「六武衆」と名のついたモンスター1体を破壊する事ができる。

 六武の門:武士道カウンター×2→4

「攻撃力2500に無効にする効果まで……!
「さらにカウンターを4つ取り除いて、デッキから"六武衆の師範"をサーチしてそのまま特殊召喚する!!」


 六武衆の師範 地属性/星5/攻2100/守800
 【戦士族・効果】
 自分フィールド上に「六武衆」と名のついたモンスターが表側表示で存在する場合、
 このカードは手札から特殊召喚する事ができる。
 このカードが相手のカード効果によって破壊された時、
 自分の墓地に存在する「六武衆」と名のついたモンスター1体を手札に加える。
 「六武衆の師範」は自分フィールド上に1枚しか表側表示で存在できない。

 六武の門:武士道カウンター×4→0→2

「俺はこのままバトルだ!!」
 大助の声とともに、2体の武士が華恋に切りかかる。
 防御手段をもたない華恋は、その攻撃をまともに喰らってしまった。

 華恋:8000→5900→3400LP

「うぅ!」
「カードを1枚伏せてターンエンドだ!!」

--------------------------------------------------
 大助:6200LP

 場:真六武衆−シエン(攻撃:2500)
   六武衆の師範(攻撃:2100)
   六武の門(永続魔法:武士道カウンター×2)
   伏せカード1枚

 手札2枚
--------------------------------------------------
 華恋:3400LP

 場:伏せカード1枚

 手札4枚("BF−月影のカルート"、"BF−漆黒のエルフェン")
--------------------------------------------------

「わ、私のターン、ドロー!」(手札4→5枚)
 あっという間に逆転されてしまった。
 こっちが何かミスをしたわけでもないのにだ。
 やはり大助さんは強い。こっちの攻撃を最小限のダメージで抑えて、逆転する機会をうかがっていたに違いない。
 学校ではおそらく出会えないであろう相手。
「ふふっ」
 以前の自分だったら、負けたらどうしようかと悩んでいたのかもしれない。
 だけど今は違う。大切な友達に教えてもらった、決闘を楽しむ心。それを胸に、全力を尽くすだけだ。
「手札から"闇の誘惑"を発動します!!」
「っ!」


 闇の誘惑
 【通常魔法】
 自分のデッキからカードを2枚ドローし、
 その後手札の闇属性モンスター1体をゲームから除外する。
 手札に闇属性モンスターがない場合、手札を全て墓地へ送る。


 魔法と罠カードを無効にする効果を持ったシエンがいる状況下での発動。
 当然、何かを狙ってのことだろうと大助は思ったが、無効にしないで相手にカードを引かせるメリットは薄い。
「シエンの効果で、そのカードの発動を無効にする!!」
 武士が刃から紫色の炎を放ち、発動された華恋のカードを焼き尽くした。

 闇の誘惑→無効

「っ、やっぱり無効にしますよね。それなら、手札から"BF−極北のブリザード"を召喚します!」
 粉雪の混じった風が辺りを舞う。
 その風と共に、新たなBFが姿を現した。


 BF−極北のブリザード 闇属性/星2/攻1300/守0
 【鳥獣族・チューナー】
 このカードは特殊召喚できない。
 このカードが召喚に成功した時、自分の墓地に存在するレベル4以下の
 「BF」と名のついたモンスター1体を表側守備表示で特殊召喚する事ができる。


「ブリザードの効果で、墓地にいるシュラを特殊召喚します!」
「……シンクロ召喚か!」
「はい! レベル4の"BF−蒼炎のシュラ"に、レベル2の"BF−極北のブリザード"をチューニング!! 黒き風よ舞い上がれ!! 鋭利な槍をその身に宿し、戦場を翔る翼になれ!! シンクロ召喚! "BF−アームズ・ウィング"!!


 BF−アームズ・ウィング 闇属性/星6/攻2300/守1000
 【鳥獣族・シンクロ/効果】
 「BF」と名のついたチューナー+チューナー以外のモンスター1体以上
 このカードは守備表示モンスターに攻撃する場合、
 ダメージステップの間攻撃力が500ポイントアップする。
 このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、その守備力を攻撃力が超えていれば、
 その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。


「だけどこっちの方が攻撃力は上だ!」
「はい! なのでシエンには退場してもらいます!! 罠カード"ブラックリターン"を発動です!」
「っ!?」


 ブラック・リターン
 【通常罠】
 「BF」と名のついたモンスター1体が特殊召喚に成功した時、
 相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動する。
 選択した相手モンスターの攻撃力分だけ自分のライフを回復し、そのモンスターを持ち主の手札に戻す。


「しまった…!」
「この効果でシエンをエクストラデッキに戻して、その攻撃力2500ポイントを回復します!!」

 真六武衆−シエン→エクストラデッキ
 華恋:3400→5900LP

「モンスターを除去すると同時にライフ回復か……さすがだね華恋ちゃん」
「あ、ありがとうございます! バトルです!!」
 黒き槍を携えた黒鳥が、隻眼の武士へ攻撃を仕掛ける。
 躱そうと体を動かす武士だったが、その行動よりも早く槍が体を貫いていた。

 六武衆の師範→破壊
 大助:6200→6000LP

「ターン終了です!!」

--------------------------------------------------
 大助:6000LP

 場:六武の門(永続魔法:武士道カウンター×2)
   伏せカード1枚

 手札2枚
--------------------------------------------------
 華恋:5900LP

 場:BF−アームズ・ウイング(攻撃力2300)
   伏せカード1枚

 手札3枚("BF−月影のカルート"、"BF−漆黒のエルフェン")
--------------------------------------------------

「俺のターン、ドロー!!」(手札2→3枚)
 大助は引いたカードを確認し、すぐさまそれをデュエルディスクに置いた。
「魔法カード"手札抹殺"を発動だ!!」


 手札抹殺
 【通常魔法】
 お互いの手札を全て捨て、それぞれ自分のデッキから
 捨てた枚数分のカードをドローする。


「お互いに手札を捨てて、捨てた枚数分だけデッキからドローする!!」
「っ、私のカルートを処理しましたか……!」
 手札誘発のカードの弱点とも呼べるべきカード。
 これでモンスター同士の戦闘における華恋の優位性は無くなった。
 効果に従って互いに手札を捨て、デッキからカードを勢いよく引く。

 六武衆−イロウ→墓地
 真六武衆−エニシ→墓地
 大助:手札2→0→2枚

 BF−月影のカルート→墓地
 BF−漆黒のエルフェン→墓地
 BF−精鋭のゼピュロス→墓地
 華恋:手札3→0→3枚

 引き直したカードを改めて確認し、大助と華恋はそれぞれ笑みを浮かべた。
「伏せてあったカードを発動だ!!」


 六武衆推参! 
 【通常罠】
 自分の墓地に存在する「六武衆」と名のついたモンスター1体を自分フィールド上に特殊召喚する。
 この効果で特殊召喚されたモンスターはこのターンのエンドフェイズ時に破壊される。


「この効果で墓地にいる"六武衆の影武者"を特殊召喚する!! さらに手札から"六武衆の御霊代"を召喚だ!! これで"六武の門"にカウンターが4個乗る!」
「っ!」


 六武衆の影武者 地属性/星2/攻400/守1800
 【戦士族・チューナー】
 自分フィールド上に表側表示で存在する「六武衆」と名のついたモンスター1体が
 魔法・罠・効果モンスターの効果の対象になった時、
 その効果の対象をフィールド上に表側表示で存在するこのカードに移し替える事ができる。


 六武衆の御霊代 地属性/星3/攻500/守500
 【戦士族・ユニオン】
 1ターンに1度だけ自分のメインフェイズに装備カード扱いとして自分フィールド上の「六武衆」と
 名のついたモンスターに装備、または装備を解除して表側攻撃表示で特殊召喚する事ができる。
 この効果で装備カード扱いになっている場合のみ、装備モンスターの攻撃力・守備力は500ポイント
 アップする。装備モンスターが相手モンスターを戦闘によって破壊した場合、自分はカードを1枚ドロー
 する。(1体のモンスターが装備できるユニオンは1枚まで、装備モンスターが破壊される場合は、
 代わりにこのカードを破壊する。)



 六武の門:武士道カウンター×2→4→6

「レベル3の御霊白にレベル2の影武者をチューニング! シンクロ召喚! "真六武衆−シエン"!!」
 2体のモンスターが再び同調し、若々しき武将を呼び戻す。
 その登場を喜ぶかのように、背後にそびえる門が光り輝く。


 真六武衆−シエン 闇属性/星5/攻2500/守1400
 【戦士族・シンクロ/効果】
 戦士族チューナー+チューナー以外の「六武衆」と名のついたモンスター1体以上
 1ターンに1度、相手が魔法・罠カードを発動した時に発動する事ができる。
 その発動を無効にし破壊する。
 また、フィールド上に表側表示で存在するこのカードが破壊される場合、
 代わりにこのカード以外の自分フィールド上に表側表示で存在する
 「六武衆」と名のついたモンスター1体を破壊する事ができる。

 六武の門:武士道カウンター×6→8

「カウンターの数が……!」
「一気に行くぞ! カウンターを4つずつ取り除いてデッキから六武衆2体を手札に加える!!」(手札1→2→3枚)
 デッキからモンスターをサーチして、すぐさま場に出す。
 このターンで決めるつもりで、大助は攻勢に打って出た。


 六武衆の師範 地属性/星5/攻2100/守800
 【戦士族・効果】
 自分フィールド上に「六武衆」と名のついたモンスターが表側表示で存在する場合、
 このカードは手札から特殊召喚する事ができる。
 このカードが相手のカード効果によって破壊された時、
 自分の墓地に存在する「六武衆」と名のついたモンスター1体を手札に加える。
 「六武衆の師範」は自分フィールド上に1枚しか表側表示で存在できない。


 真六武衆−キザン 地属性/星4/攻1800/守500
 【戦士族・効果】
 自分フィールド上に「真六武衆−キザン」以外の「六武衆」と名のついたモンスターが
 表側表示で存在する場合、このカードは手札から特殊召喚する事ができる。
 自分フィールド上にこのカード以外の「六武衆」と名のついたモンスターが表側表示で
 2体以上存在する場合、このカードの攻撃力・守備力は300ポイントアップする。


 六武の門:武士道カウンター×8→4→0→2→4
 真六武衆−キザン:攻撃力1800→2100

「さらに手札から"大将軍 紫炎"を特殊召喚だ!!」
「うぅ……」


 大将軍 紫炎 炎属性/星7/攻撃力2500/守備力2400
 【戦士族・効果】
 自分フィールド上に「六武衆」と名のついたモンスターが2体以上表側表示で存在する場合、
 このカードは手札から特殊召喚する事ができる。このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
 相手プレイヤーは1ターンに1度しか魔法・罠カードの発動ができない。このカードが破壊される場合、
 代わりにこのカード以外の「六武衆」という名のついたモンスターを破壊する事ができる。


 一気に召喚された4体の強力なモンスター。
 相手がこの勝負にケリをつけるつもりなのだということを華恋は肌で感じた。
 魔法や罠で妨害しようにも、シエンがいる限り無効にされてしまう。
 状況はかなり厳しい。だが――――
「バトルだ!! シエンでアームズ・ウイングに攻撃!」
 紫色の炎を纏った刃が黒羽のモンスターを切り裂いた。
 その余波が届き、華恋はデュエルディスクを盾にして耐える。
「っ」

 BF−アームズ・ウイング→破壊
 華恋:5900→5700LP

「さらにキザンと師範で攻撃だ!!」
「うっ……っ…!」
 さらなた武士の連撃が、華恋を襲った。

 華恋:5700→3600→1500LP

「これでトドメだ!!」
 最後に残った将軍が、刀を構えて突進する。
 この攻撃が決まれば華恋の負けだ。

「華恋ちゃん!」
「華恋、頑張って!!」

 必死な声援。それを聞き届けた華恋は、手札の1枚に手をかけた。
「まだ終わらせません!! 相手の直接攻撃時に手札から"BF−熱風のギブリ"を守備表示で特殊召喚です!!」
 将軍の前に、1羽の黒鳥が守備体制で立ちふさがった。


 BF−熱風のギブリ 闇属性/星3/攻0/守1600
 【鳥獣族・効果】
 相手が直接攻撃を宣言した時、このカードを手札から特殊召喚する事ができる。
 1ターンに1度、このカードの元々の攻撃力・守備力をエンドフェイズ時まで入れ替える事ができる。


「っ、攻撃続行だ!!」
 炎を纏う刃が、主を守るために立ちふさがった黒鳥を切り裂く。
 主を守るという使命を全うした黒鳥は、満足そうな笑みを浮かべて消えて行った。

 BF−熱風のギブリ→破壊

「凌いだか……簡単にはいかないな」
「はい。こんな楽しい決闘、まだまだ終わらせません!!」
「そっか。俺はこれでターンエンドだ!!」

--------------------------------------------------
 大助:6000LP

 場:真六武衆−シエン(攻撃:2500)
   六武衆の師範(攻撃:2100)
   真六武衆−キザン(攻撃:2100)
   大将軍 紫炎(攻撃:2500)
   六武の門(永続魔法:武士道カウンター×4)

 手札0枚
--------------------------------------------------
 華恋:1500LP

 場:なし

 手札2枚
--------------------------------------------------

「私のターンです!!」(手札2→3枚)
 華恋は引いたカードを確認し、すぐさまデュエルディスクに置いた。


 BF−疾風のゲイル 闇属性/星3/攻1300/守400
 【鳥獣族・チューナー】
 自分フィールド上に「BF−疾風のゲイル」以外の「BF」と名のついた
 モンスターが存在する場合、このカードは手札から特殊召喚する事ができる。
 1ターンに1度、相手モンスター1体の攻撃力・守備力を半分にする事ができる。


「ゲイルの効果発動です! "真六武衆−シエン"の攻守を半分にします!!」
 華恋の場にいるモンスターが羽ばたき、突風が起こる。
 その強烈な風に武将の鎧がわずかに剥がれ、刃は飛ばされてしまった。

 真六武衆−シエン:攻撃力2500→1250 守備力1400→700

「攻守を半減か。だけどそれじゃあどうしようもないぞ?」
「はい! もちろんこのままで終わりません! 墓地にいるゼピュロスの効果を発動します!!」
「っ!?」


 BF−精鋭のゼピュロス 闇属性/星4/攻1600/守1000
 【鳥獣族・効果】
 このカードが墓地に存在する場合、
 自分フィールド上に表側表示で存在するカード1枚を手札に戻して発動する。
 このカードを墓地から特殊召喚し、自分は400ポイントダメージを受ける。
 「BF−精鋭のゼピュロス」の効果はデュエル中に1度しか使用できない。


「この効果で場にいるゲイルを手札に戻してゼピュロスを特殊召喚! この効果を使った代償に400ライフを失いますけど、今は問題ありません! さらに手札に戻したゲイルを特殊召喚して、効果発動! 大将軍紫炎の攻守を半分にします!!」

 華恋:1500→1100LP
 大将軍 紫炎:攻撃力2500→1250 守備力2400→1200

 再度あらわれた黒鳥によって大将軍の装備が傷を受ける。
 さっきまでの攻撃力のアドバンテージがなくなってしまったことで、大助の表情は少し険しくなった。
「1ターンに1度しか使えない効果を、そうやって再利用するなんて……」
「これで攻撃力の差はなくなりました! バトルです! ゲイルでシエンに攻撃!」
「シエンの効果発動! このカードが破壊されるとき、代わりに他の六武衆を破壊できる! 俺はキザンを代わりに破壊してシエンの破壊を無効にする!!」
 黒鳥の攻撃が武将に迫る中、刀を構えた武士が身代わりとなる。
 仲間を守るために敵の攻撃を一身に引き受けて、黒色の武士は倒れた。

 真六武衆−キザン→破壊("真六武衆−シエン"の効果)
 大助:6000→5950LP

「さらにゼピュロスで紫炎に攻撃です!!」
「くっ!」

 大将軍 紫炎→破壊
 大助:5950→5600LP

「メインフェイズ2に入ります! レベル4のゼピュロスにレベル3のゲイルをチューニング!! シンクロ召喚!! アーマード・ウイング!!」


 BF−アーマード・ウィング 闇属性/星7/攻2500/守1500
 【鳥獣族・シンクロ/効果】
「BF」と名のついたチューナー+チューナー以外のモンスター1体以上
 このカードは戦闘では破壊されず、このカードの戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になる。
 このカードが攻撃したモンスターに楔カウンターを1つ置く事ができる(最大1つまで)。
 相手モンスターに乗っている楔カウンターを全て取り除く事で、
 楔カウンターが乗っていたモンスターの攻撃力・守備力をこのターンのエンドフェイズ時まで0にする。


「またそのモンスターか……!」
「いくら大助さんが強くても、何度も簡単にこのモンスターを除去することは難しいはずです!」
「うっ……」
 核心をつかれ、さすがに平静を装えない。
 先ほどはたまたま対処可能なカードはあったから強気だったが、今はそんなことを言ってしまったことを後悔した。観戦している香奈も、さすがに苦笑いで見つめている。
「ど、どうされましたか?」
「いや、なんでもないよ」
「そうですか? カードを2枚伏せて、ターン終了です」

--------------------------------------------------
 大助:5600LP

 場:真六武衆−シエン(攻撃:1250)
   六武衆の師範(攻撃:2100)
   六武の門(永続魔法:武士道カウンター×4)

 手札0枚
--------------------------------------------------
 華恋:1100LP

 場:アーマード・ウイング(攻撃2500)
   伏せカード2枚

 手札0枚
--------------------------------------------------

「俺のターン、ドロー!!」(手札0→1枚)
 引いたカードを確認し、考えを巡らせる。
 相手のライフは残り少ない。だが場のモンスターを除去しない限り、ダメージを与えることはできない。
 直接攻撃が出来るヤリザを召喚すれば問題ないが、あの2枚の伏せカードが気になる。
「……どうかしましたか?」
「いや、ちょっと考えていただけだよ。待たせてごめんな。メインフェイズに入って、"六武の門"の効果を発動だ。デッキから"六武衆−ザンジ"を手札に加える!」(手札1→2枚)
「っ!」
「そしてザンジを通常召喚だ!」
 描かれる橙色の召喚陣。その中から薙刀を携えた武士が参上した。


 六武衆−ザンジ 光属性/星4/攻1800/守1300
 【戦士族・効果】
 自分フィールド上に「六武衆−ザンジ」以外の「六武衆」と名の付いたモンスターが存在する限り、
 このカードが攻撃を行ったモンスターをダメージステップ終了時に破壊する。このカードが破壊される
 場合、代わりにこのカード以外の「六武衆」という名の付いたモンスターを破壊することが出来る。


 六武の門:武士道カウンター×4→0→2

「バトルだ! ザンジでアーマード・ウイングに攻撃だ!!」
「攻撃力で劣るのに……そっか、効果破壊ですね」
「ああ。ザンジは攻撃したモンスターをダメージステップ終了時に破壊する!」

 六武衆−ザンジ→破壊
 BF−アーマード・ウイング→破壊
 大助:5600→4900LP

「これで華恋ちゃんの場はがら空きだ! バトル!!」
「っ、ま、まだです! 罠カード"BF−バックフラッシュ"を発動します!」


 BF−バックフラッシュ
 【通常罠】
 自分の墓地に「BF」と名のついたモンスターが5体以上存在する場合、
 相手モンスターの直接攻撃宣言時に発動する事ができる。
 相手フィールド上に存在するモンスターを全て破壊する。


「そのカードの効果はシエンで無効にする!!」
「っ、だ、だったらそれにチェーンして、"禁じられた聖杯"を発動します!!」


 禁じられた聖杯
 【速攻魔法】
 フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動できる。
 エンドフェイズ時まで、選択したモンスターの攻撃力は
 400ポイントアップし、効果は無効化される。


 真六武衆−シエン:効果無効 攻撃力2500→2900

「これで"BF−バックフラッシュ"の効果は無効になりません!」
「……やられたな」
 切りかかる武士の地面から閃光が走り、華恋を襲う武士たちを飲み込んでいく。
 武士たちは為すすべもなく飲み込まれ、消滅してしまった。

 真六武衆−シエン→破壊
 六武衆の師範→破壊

「破壊された師範の効果発動! 墓地にいる"真六武衆−エニシ"を手札に加える!」(手札1→2枚)
 あくまで平静を装い、大助は効果処理をする。
 もしさっきザンジをサーチせずにヤリザを召喚して攻撃していたら、こちらのモンスターが全滅した上にアーマード・ウイングが場に残って圧倒的不利になっていた。勝負を急がなくて良かったと、大助は小さく息を吐いた。
「俺はこれでターンエンドだ」

--------------------------------------------------
 大助:4900LP

 場:六武の門(永続魔法:武士道カウンター×2)

 手札2枚
--------------------------------------------------
 華恋:1100LP

 場:なし

 手札0枚
--------------------------------------------------

「私のターン……」
 デッキの上を見つめ、華恋は大きく深呼吸する。
 なんとか凌げることができたけど、不利な状況は変わらない。
 このドローで、なんとかするしかない。
「いきます! ドロー!!」(手札0→1枚)
 恐る恐るカードを確認した華恋の瞳に、光が宿った。
「手札から"貪欲な壺"を発動します!!」


 貪欲な壺
 【通常魔法】
 自分の墓地に存在するモンスター5体を選択し、デッキに加えてシャッフルする。
 その後、自分のデッキからカードを2枚ドローする。


「この効果で私は墓地にいるゲイル、ブラスト、カルート、シュラ、ブリザードをデッキに戻して2枚ドローです!!」(手札0→2枚)
「ここでドローカードを引いたのか」
「続けていきます! 手札から"BF−極北のブリザード"を召喚します!! この効果で墓地にいる"BF−熱風のギブリ"を特殊召喚です!」
「っ、またシンクロ召喚か……!」
黒き風よ舞い上がれ! 煌めく光と共に戦場を駆け抜けろ! BF−煌星のグラム!


 BF−煌星のグラム 闇属性/星5/攻2200/守1500
 【鳥獣族・シンクロ/効果】
 チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上
 このカードはシンクロ召喚でのみエクストラデッキから特殊召喚できる。
 このカードがシンクロ召喚に成功した時、
 手札からチューナー以外のレベル4以下の「BF」と名のついたモンスター1体を特殊召喚できる。
 この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化される。


「私の手札にBFは無いので効果は使えません。ですけど、攻撃力2200のモンスターです!」
「下級モンスターを並べるんじゃなくて、シンクロ召喚で攻撃力の高いモンスターを出したのか」
「バトルです!」
 煌めく光と共に、黒翼のモンスターが大助へ突撃する。
 防ぐカードのないため、大助はその攻撃をまともに喰らってしまった。

 大助:4900→2700LP

「くっ!」
「カードを1枚伏せて、ターン終了です!」

--------------------------------------------------
 大助:2700LP

 場:六武の門(永続魔法:武士道カウンター×2)

 手札2枚
--------------------------------------------------
 華恋:1100LP

 場:BF−煌星のグラム(攻撃:2200)
   伏せカード1枚

 手札0枚
--------------------------------------------------

「俺のターン、ドロー!」(手札2→3枚)
 あの不利な状況から一気に形勢を逆転させた華恋のプレイングに感動しつつ、大助は冷静に場を見つめ考える。
 ライフ差は無いに等しい。相手の場には攻撃力2200のモンスターと1枚の伏せカード。
 伏せたということは、おそらく罠カードだろうと大助は推測する。
 推測は出来た……だがそれに対抗する術はない。罠だとわかっていても、飛び込まないといけないのだ。
(悪いな香奈。もしかしたら負けるかもしれない)
 正直な話、決闘前は大助自身も華恋のことを甘く見ている部分はあった。
 それが今のギリギリの状況を生み出してしまった原因かどうかは分からないが、真剣に挑んできてくれた相手に対して失礼なことを考えていたことは確かだった。
「はぁ……」
 張りつめた空気の中、様々な気持ちが小さな息とともに吐き出される。
 悔やんでいても仕方がない。
 この決闘の結末がどうなろうと、全力で戦い抜くだけだ。
「いくぞ! 手札から"真六武衆−エニシ"を召喚する!!」


 真六武衆−エニシ 光属性/星4/攻1700/守700
 【戦士族・効果】
 自分フィールド上に「真六武衆−エニシ」以外の
 「六武衆」と名のついたモンスターが表側表示で存在する場合、
 1ターンに1度、自分の墓地に存在する「六武衆」と名のついたモンスター2体をゲームから
 除外する事で、フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して手札に戻す。
 この効果は相手ターンでも発動する事ができる。
 また、自分フィールド上に「真六武衆−エニシ」以外の「六武衆」と名のついたモンスターが
 表側表示で2体以上存在する場合、このカードの攻撃力・守備力は500ポイントアップする。


「伏せカード発動です!」
「くっ」
 分かっていたとはいえ、罠が発動されるのは気持ちのいいものではない。
 召喚陣から現れた武士が、突如出現した穴へ真っ逆さまへ落ちて行った。


 奈落の落とし穴
 【通常罠】
 相手が攻撃力1500以上のモンスターを
 召喚・反転召喚・特殊召喚した時に発動する事ができる。
 そのモンスターを破壊しゲームから除外する。


 真六武衆−エニシ→破壊→除外
 六武の門:武士道カウンター×2→4

「……俺はカードを1枚伏せて、ターンエンドだ」
「っ、分かりました」


 大助のターンが終了し、華恋のターンに移る。


「私のターンです!」
 大助の場にモンスターが残らなかったことに対して、華恋の意気は上がる。
 ようやく掴んだ勝利のチャンス。伏せカードが何かは気になるが、こちらの有利は変わらないはずである。
 あとはこのドローでモンスターが引ければ、勝てる……かもしれない。
「ドローです!」(手札0→1枚)
 恐る恐る引いたカードを確認する華恋。
 同じくして大助も、体を緊張させてそれを見守っていた。
 場に伏せられたカードは、相手の攻撃そのものを防ぐことは出来ない。
 もし新たなモンスターを召喚されてしまえば、どうなるかは分からない。
「私は………」
 ゆっくりと口を開く華恋。
 その1枚のカードが、ゆっくりとデュエルディスクに差し込まれた。

「カードを1枚伏せて、バトルです!!」
「っ!」

 華恋が引いたカードは、モンスターではなかった。
 攻撃を宣言したモンスターが、大助へ大きなダメージを与える。

 大助:2700→500LP

 大きく減少したライフ。
 だが残りライフなど大助にとって今はどうでもよかった。
 遊戯王は基本的にライフが0にならない限り負けない。それはつまり、ライフが尽きない限り逆転のチャンスが残っているということだ。
「私はこれでターン終了です!」

--------------------------------------------------
 大助:500LP

 場:六武の門(永続魔法:武士道カウンター×4)
   伏せカード1枚

 手札1枚
--------------------------------------------------
 華恋:1100LP

 場:BF−煌星のグラム(攻撃:2200)
   伏せカード1枚

 手札0枚
--------------------------------------------------

「俺のターン! ドロー!」(手札1→2枚)
 デッキの上から勢いよく引いたカード。
 大助はその1枚を、デュエルディスクに強くたたきつけた。
「手札から"六武衆のご隠居"を特殊召喚する!」


 六武衆のご隠居 地属性/星3/攻400/守0
 【戦士族・効果】
 相手フィールド上にモンスターが存在し、自分フィールド上に
 モンスターが存在しない場合、このカードは手札から特殊召喚する事ができる。

 六武の門:武士道カウンター×4→6

「特殊召喚モンスター……でも、私の場にいるモンスターは超えられません!」
「ああ。だから、こっちも切り札を見せてやる! 六武の門の効果発動! 武士道カウンターを6個取り除くことで、墓地から"大将軍 紫炎"を特殊召喚する!!」
「あっ!」
 大助の背後に立つ巨大な門が開く。
 そこから紅い炎を纏い、甲冑に身を包んだ将軍が姿を現した。


 大将軍 紫炎 炎属性/星7/攻撃力2500/守備力2400
 【戦士族・効果】
 自分フィールド上に「六武衆」と名のついたモンスターが2体以上表側表示で存在する場合、
 このカードは手札から特殊召喚する事ができる。このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
 相手プレイヤーは1ターンに1度しか魔法・罠カードの発動ができない。このカードが破壊される場合、
 代わりにこのカード以外の「六武衆」という名のついたモンスターを破壊する事ができる。


「大助さんの切り札……! で、でも、まだ私のライフには届きません!」
「まだだ! 手札からチューナーモンスター"先祖達の魂"を召喚する!」
「えぇ!?」


 先祖達の魂 光属性/星3/攻0/守0
 【天使族・チューナー】
 このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時に自分フィールド上と手札に他のカードが無い
 場合、自分の墓地から「大将軍紫炎」1体を表側攻撃表示で特殊召喚する事ができる。
 ただし、この効果で特殊召喚したカードの効果は無効となり、攻撃力・守備力は0になる。


「そんなカード、見たことないです……」
「そうかもな。いくぞ! レベル7の"大将軍 紫炎"に、レベル3の"先祖達の魂"をチューニング!! シンクロ召喚! "大将軍 天龍"!!」
 将軍の周囲を漂う青白い光たちが、一斉にその体を包み込んでいく。
 受け継がれた武将の魂を束ね、業火と共に最強の将軍が姿を現す。


 大将軍 天龍 炎属性/星10/攻3000/守3000
 【戦士族・シンクロ/効果】
 「先祖達の魂」+「大将軍 紫炎」
 1ターンに1度だけ、デッキ、手札または墓地から「六武衆」と名のついたモンスターカード1種類
 すべてをゲームから除外することができる。この効果で除外したモンスターの属性、攻撃力、守備力、
 効果を、相手ターンのエンドフェイズ時までこのカードに加える。
 この効果で得た効果は、他に「六武衆」と名のついたモンスターが存在しなくても発動できる。

 六武の門:武士道カウンター×6→0

「うわぁ〜! おねえちゃん、カッコいいモンスターだね!」
「そうね。あれが大助の切り札、"大将軍 天龍"よ」
「でもあんなカード見たことあらへんな? ものすごいレアカードなんか?」
「うーん、まぁそんなところね」
「香奈おねえちゃんもああいうカード持っているの?」
「さぁね。それは決闘するまでのお楽しみよ♪」

 観戦している皆が各々の感想を述べる中、華恋は大助の召喚したモンスターの威圧感を感じていた。
 体が強張ってくる。それは恐怖に似た何かなのか、武者震いのようなものなのかは分からない。
 手にじわりと汗が滲んできて、緊張していることにようやく気が付いた。
「天龍の効果発動! デッキから"六武衆−ニサシ"をすべて除外して、その能力を加算する!」
「か、加算?」
 大助のデッキから緑色の光があふれ、将軍の刀に宿る。
 刀が光を放ち、2本の小太刀へ変化する。

 大将軍 天龍:攻撃力3000→4400 守備力3000→3700 炎→炎+風属性

「これで天龍は2回攻撃が出来る!!」
「そんな…!」
「バトルだ!!」
 素早い動きで、華恋の場にいるモンスターへ将軍が襲い掛かる。
「ふ、伏せカード発動です!!」
 小太刀がモンスターへ触れる寸前、光の壁が立ちふさがった。


 和睦の使者
 【通常罠】
 このカードを発動したターン。相手モンスターから受けるすべての戦闘ダメージを0にする。
 このターン自分のモンスターは戦闘によって破壊されない。


「あ、危なかった……」
「また防がれちゃったか。俺はこれでターンエンドだ」

--------------------------------------------------
 大助:500LP

 場:大将軍 天龍(攻撃:4400:ニサシの効果付与)
   六武衆のご隠居(守備:0)
   六武の門(永続魔法:武士道カウンター×0)
   伏せカード1枚

 手札0枚
--------------------------------------------------
 華恋:1100LP

 場:BF−煌星のグラム(攻撃:2200)

 手札0枚
--------------------------------------------------

「私のターン、ドロー!!」(手札0→1枚)
 大助の切り札の登場に、華恋は少し心を躍らせていた。
 ワクワクする。ドキドキする。
 こんな気持ちになれることが、本当に嬉しかった。
 小学生の自分を相手に全力で戦ってくれる。だったら、それに応えたいと思った。
「デッキワンサーチシステムを使います!」
 デュエルディスクの青いボタンを押して、華恋は叫ぶ。
 デッキから1枚のカードが選び出されて、それを手札に加える(手札1→2枚)
 大助もルールによって、デッキからカードを引いた。(手札0→1枚)
「手札から"死者蘇生"を発動します!」


 死者蘇生
 【通常魔法】
 自分または相手の墓地からモンスター1体を選択して発動する。
 選択したモンスターを自分のフィールド上に特殊召喚する。


「この効果で墓地にいる"BF−アーマード・ウイング"を特殊召喚します!!」
「……またか……」
 3度目の登場に、大助は苦笑を浮かべる。
 対処が困難なモンスターが何度も場に出されるのは、精神的にキツイものがあった。
「そして、私の場のモンスターをリリースして、このカードを特殊召喚します!!」
 手札に残った1枚を掲げ、華恋は宣言する。
 場にいるすべてのBFが光になって、一つに集約していく。
「黒き風と共に舞え!! 勝利を導く栄光の翼!! "BF−栄光のゴールド・ウインド"!!」
 吹き荒れる突風と共に、巨大な黒翼をもったモンスターが現れる。
 6本の羽が背にあり、両手に握られた鋭い槍。肩と胴体には漆黒の宝石が身に着けられている。
「それが華恋ちゃんの切り札か」
「はい。ゴールド・ウインドの効果発動です!! このカードの特殊召喚のためにリリースしたモンスターの攻守と効果をすべてこのカードに加えます!!」


 BF−栄光のゴールド・ウィンド 闇属性/星10/攻?/守?
 【鳥獣族・効果・デッキワン】
 「BF」と名のついたカードが15枚以上入っているデッキにのみ入れることが出来る。
 このカードは通常召喚できない。
 自分の場に表側表示で存在する「BF」と名のついたモンスターを
 任意の数リリースすることでのみ特殊召喚できる。
 このカードの特殊召喚時にリリースしたモンスターの元々の攻撃力と守備力、効果をこのカードに加える。
 「BF」と名のついたカードが破壊されるとき、墓地に存在する「BF」と名のついたカードを
 1枚除外することで、その破壊を無効にする。

 BF−栄光のゴールド・ウインド:攻撃力4700 守備力3000

「アーマード・ウイングの効果を受け継いだゴールド・ウインドは、戦闘で破壊されませんし戦闘ダメージも受けません。さらにゴールド・ウインド自身の効果で、墓地のBFを除外すれば破壊を無効にできます!」
「強力な耐性を持ったモンスターか……」
「バトルです! ゴールド・ウインドで天龍に攻撃します!」
 6つの翼を羽ばたかせ、黒鳥は大将軍に襲い掛かる。
 突き立てられる2本の槍に対して、風の力を宿した2本の小太刀で応戦する。
 刃が交じり、金属音が鳴り響く。
 野生の力に任せた黒鳥に対して、洗練された動きで対応する将軍。鋭い突きを刃で受け、生じた隙に切り掛かる。
 瞬間、黒鳥が翼を羽ばたかせた。
 舞い散る黒い羽根によって、視界が奪われた将軍の動きが一瞬だけ鈍くなった。
「今です!」
 鈍った動きを見逃さず、黒鳥が背後に回る。
 無防備になった背に槍が突き立てられた。
「破壊はさせない! ニサシの効果を宿した天龍の効果で、代わりにご隠居を破壊する!!」
 突き立てられた槍が、身代わりとなって飛び込んだ武士を貫く。
 将軍を守り、誇らしげな笑みを浮かべながらその武士は消えていった。

 六武衆のご隠居→破壊("大将軍 天龍"の効果)
 大助:500→200LP

「うぅ……ターン終了です……」

 エンドフェイズを迎え、将軍の刃に宿っていた光が消えた。

 大将軍 天龍:攻撃力4400→3000 守備力3700→3000 炎+風→炎属性

--------------------------------------------------
 大助:200LP

 場:大将軍 天龍(攻撃:3000)
   六武の門(永続魔法:武士道カウンター×0)
   伏せカード1枚

 手札1枚
--------------------------------------------------
 華恋:1100LP

 場:BF−栄光のゴールド・ウインド(攻撃:4700)

 手札0枚
--------------------------------------------------

「俺のターン、ドロー!!」(手札1→2枚)
 勝利を確信し、大助は静かにカードを引いた。
 華恋も何かを悟ったように、肩を落としていた。
「大助さん……」
「ん?」
「全力で戦ってくれて、ありがとうございました」
「華恋ちゃんも、すごく強かったよ。一歩間違えたら負けていたのは俺だったよ……」
「……じゃあ、あとはお願いします」
「ああ。天龍の効果発動! デッキから"六武衆−ヤリザ"を除外して、その能力を得る!!」
 大助のデッキから茶色の光が放たれて、天龍の刀に宿る。
 その刀が鋭い槍へ変化した。

 大将軍 天龍:攻撃力3000→4000 守備力3000→3500 炎→炎+地属性

「ヤリザの効果を宿した天龍は、直接攻撃できる!! バトルだ!!」
 槍を構えた将軍が、一直線に突撃する。
 立ちはだかる黒鳥を飛び越え、鋭い一閃が華恋を貫いた。

 華恋:1100→0LP







 華恋のライフが0になり、決闘は終了した。






「「ありがとうございました」」
 決闘が終わり、2人は互いに握手を交わす。
 敗れたにも関わらず、華恋はさわやかな笑みを浮かべていた。
「最後の伏せカードはなんだったんですか?」
「ん? あぁ……"六武衆推参!"っていう墓地の六武衆を1ターンだけ蘇生させる罠カードだよ」
「そうだったんですか……あの、本当にありがとうございました! いい経験になりました!」
「こちらこそ。また決闘しような」
 小学生にしては丁寧な挨拶に困惑しつつ、大助は笑みを返す。
 華恋は一礼をしたあと、静かにヒカルと琴葉のもとへ戻っていった。





「いやぁ〜惜しかったなぁ華恋」
「もう少しだったね華恋ちゃん!」
 敗北し肩を落とす彼女に、ヒカルと琴葉は声をかける。
 華恋は首を横に振って、小さく息を吐いた。
「いいえ、完敗です。大助さんはまだまだ余力を残していましたし、ニサシの効果を付加させたときだって、シエンの効果を付加されていたらどうしようもなかったです」
「え? あ、そういえばそうだね」
「むぅ〜華恋を相手に手を抜く余裕があるなんて……うちらが考えていたよりも相手の実力は高いみたいやなぁ」
 顎に手を当てて、改めて高校生たちの実力の高さを実感するヒカル。
 いまだにがっくりと肩を落とす華恋とは対照的に、琴葉はワクワクが止まらないといった感じでそわそわする。
 今か今かと、香奈との対戦を待ち望んでいるようだった。





---------------------------------------------------------------------------------------------




「ギリギリだったわね」
 大助が戻って最初にかけられた言葉が、それだった。
「ああ、マジで負けそうだった……」
「そうですね。あのときにモンスターを引かれていたら負けていたかもしれませんね」
「でもね大助。いくらなんでもあのプレイングは無いと思うわ?」
「何がだ? どこかおかしなところがあったか?」
「ええ。ニサシを除外して攻撃したとき、ニサシじゃなくて墓地のシエンを除外すれば勝ってたじゃない。仮に決められなくても天龍の効果は相手ターンまで続くんだから、シエンの無効効果で有利になったんじゃない?」
「…………」
 香奈の発言に、大助は呆気にとられたような表情をする。
 やがて何か納得したかのように、頭を静かに抱えた。

「あぁ……そうか……天龍の効果でシエンを除外できたんだな……」

「えっ!? もしかして気づいてなかったの!?」
「う、嘘ですよね?」
「いや……いつも天龍の効果を使うときはデッキから除外してるから……普段はエクストラデッキにいるシエンの能力を付加させる考えが浮かばなかったんだ……そうか…シエンが墓地にいるならその方法もあったんだな……」
 大助の情けない表情を見ながら、香奈と真奈美は苦笑する。
 同時に、対戦する小学生組の実力が高いことを肌で感じ取った。
 これから戦う自分たちも、油断は出来ない。
「香奈ちゃん、頑張ってくださいね」
「ええ。任せなさい!!」

 胸を張って前へ出る香奈。

 その視線の先には、満面の笑みを浮かべる少女。

 自分のことを姉として慕ってくれる、鳳蓮寺琴葉が待っていた。




episode8――鳳蓮寺琴葉の挑戦――

「待たせたわね琴葉ちゃん」
「うん♪ はやくやろう♪」
 琴葉は満面の笑みを浮かべ、そう言った。
 香奈も同じく笑みを返してデュエルディスクを構える。



「あの2人って、今まで決闘したことないのか?」
「はい。香奈ちゃんが言うには、牙炎の事件の時に戦う約束をしたらしいですけどなかなか機会がなかったみたいです」
「そうなのか……」
 大助は対峙する2人を見つめながら、小さく息を吐く。
 香奈のパーミッションデッキは相手とのデッキの相性が大きく影響する。
 琴葉ちゃんの使うデッキが何かは分からないが、せめて天敵のようなデッキでないことを祈るばかりだ。





「琴葉ー! 頑張ってねー!」
 観戦する咲音も、娘に声援を送る。
「お嬢様! 精一杯やってきてくださいね!」
「お嬢様ファイトです!」
 武田も吉野も声援を送る。
 応援を受けて、琴葉は大きく手を振って応えた。
「うん! ママもドラグーンとペガサス貸してくれてありがとう♪」
「ええ。今日一日だけだからね?」
「うん!」
 今日という日を迎えるため、琴葉は前日に咲音からドラグーンとペガサスを借りている。
 せっかく年上の人と戦えるのだから、全力を尽くしたいと強くお願いしたところ許可を得たのだ。
「おねぇちゃん! あのね、わたし、頑張るね!」
「ええ! こっちも全力で相手してあげるわ! じゃあいくわよ!」
「うん!」



「「決闘!!」」



 香奈:8000LP   琴葉:8000LP




 決闘が、始まった。



「わたしのターン!!」
 先攻は琴葉だ。
 意気揚揚と、デッキからカードを引いた。(手札5→6枚)
「いくよおねぇちゃん! 手札から"ライトロード・パラディン ジェイン"を召喚するね!」
 光り輝くフィールド。
 そこから騎士の姿をしたモンスターが参上し、華麗な剣さばきを披露した。


 ライトロード・パラディン ジェイン 光属性/星4/攻1800/守1200
 【戦士族・効果】
 このカードは相手モンスターに攻撃する場合、
 ダメージステップの間攻撃力が300ポイントアップする。
 このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する限り、
 自分のエンドフェイズ毎に、自分のデッキの上からカードを2枚墓地に送る。


「わぁ! ライトロードデッキなのね!」
「うん♪ わたしはカードを1枚伏せて、ターンエンドだよ!」
 エンドフェイズになり、ジェインの効果によって琴葉のデッキの上からカードが2枚墓地に送られた。

 【琴葉の墓地に送られたカード】
 ・ライトロード・シーフ ライニャン
 ・ライトロード・プリーテスト ジェニス


 ターンが移行して、香奈のターンになる。


「いくわよ! 私のターン、ドロー!」(手札5→6枚)
 カードを引き、香奈はすぐさま1枚のカードをデュエルディスクに叩きつけた。
「手札から"天空の聖域"を発動するわ!!」


 天空の聖域
 【フィールド魔法】
 このカードがフィールド上に存在する限り、
 天使族モンスターの戦闘によって発生する天使族モンスターの
 コントローラーへの戦闘ダメージは0になる。


 辺りの空間が草原から空に浮かぶ神殿へ変化する。
 その神秘的な世界に、琴葉は強く目を輝かせた。
「手札から"天空の使者 ゼラディアス"を召喚するわ!」


 天空の使者 ゼラディアス 光属性/星4/攻2100/守800
 【天使族・効果】
 このカードを手札から墓地へ捨てて発動する。
 自分のデッキから「天空の聖域」1枚を手札に加える。
 フィールド上に「天空の聖域」が表側表示で存在しない場合
 このカードを破壊する。


「攻撃力2100!?」
「ええ。いくわよ琴葉ちゃん! バトル!!」
 神殿から現れた天使が、手に持った槍を構えて突撃する。
 空中から放たれた鋭い一撃が、光の騎士の胸を貫いた。

 ライトロード・パラディン ジェイン→破壊
 琴葉:8000→7700LP

「うぅ」
「カードを2枚伏せて、ターンエンドよ!!」

------------------------------------------------
 香奈:8000LP

 場:天空の聖域(フィールド魔法)
   天空の使者 ゼラディアス(攻撃:2100)
   伏せカード2枚

 手札2枚
------------------------------------------------
 琴葉:7700LP

 場:伏せカード1枚

 手札4枚
------------------------------------------------

「わたしのターン、ドロー!」(手札4→5枚)
 いきなり自分のモンスターが倒されてしまったにも関わらず、琴葉は冷静に場を見つめる。
 相手に場にある天使族モンスターは、フィールド魔法がなければ自壊する。
 それならば……と、手札の1枚を取った。
「モンスターをセットして、ターンエンドだよ」


「あら。遠慮しないでどんどんかかってきていいのよ! 私のターン、ドロー!!」(手札2→3枚)
 香奈は引いたカードを確認し、すぐさまデュエルディスクに置いた。
「手札から"豊穣のアルテミス"を召喚するわ!!」


 豊穣のアルテミス 光属性/星4/攻1600/守1700
 【天使族・効果】
 このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
 カウンター罠が発動される度に自分のデッキからカードを1枚ドローする。


「?? 初めて見るカードだね……??」
「あかん! 琴葉ちゃん! 香奈おねぇさんのデッキはパーミッションや!!」
「パーミッション?」
「カウンター罠を使って、相手の行動を無力化して戦うデッキです!」
 後ろにいる華恋とヒカルが、声を張り上げる。
 彼女たちなりにパーミッションデッキの恐ろしさを伝えようとしたのだが、琴葉にはそれがいまいち伝わらなかった。
 それもそのはずである。琴葉のいる小学校でパーミッションデッキを使う者は、上級生に5人程くらいしかいないからだ。華恋もヒカルも、知識は習っているものの対戦経験は皆無なのだ。
「さすがにバレちゃったわね。でも関係ないわ!! バトルよ! ゼラディアスでセットモンスターに攻撃よ!」
 天空の使者の一撃が、琴葉の場に伏せられたモンスターを貫いた。

 ライトロード・ハンター ライコウ→破壊

 ライトロード・ハンター ライコウ 光属性/星2/攻200/守100
 【獣族・効果】
 リバース:フィールド上に存在するカード1枚を選択して破壊する事ができる。
 自分のデッキの上からカードを3枚墓地へ送る。


「この時、ライコウのリバース効果発動だよ! おねぇちゃんの場にある"天空の聖域"を破壊するね!」
「させないわ! カウンター罠"神罰"を発動よ!!」
「えっ!?」


 神罰
 【カウンター罠】
 フィールド上に「天空の聖域」が表側表示で存在する場合に発動する事ができる。
 効果モンスターの効果・魔法・罠カードの発動を無効にし破壊する。


 光の力宿した子犬が神殿を狙った攻撃をすると同時に、神殿から強烈な雷が放たれた。
 その雷はライコウを飲み込み、跡形もなく消滅させてしまった。

 ライトロード・ハンター ライコウ→効果無効

「さらにアルテミスの効果で、デッキからカードをドローするわ」(手札2→3枚)
「うぅ……」
 効果を無効にされた上に手札補充までされてしまった。
 僅かながら、パーミッションというデッキの恐ろしさを琴葉は実感する。
「まだバトルフェイズは終わってないわ! アルテミスで攻撃よ!」
 天使の放った光球が、琴葉に直撃した。

 琴葉:7700→6100LP

「カードを1枚伏せて、ターンエンドよ!」

------------------------------------------------
 香奈:8000LP

 場:天空の聖域(フィールド魔法)
   天空の使者 ゼラディアス(攻撃:2100)
   豊穣のアルテミス(攻撃:1600)
   伏せカード2枚

 手札2枚
------------------------------------------------
 琴葉:6100LP

 場:伏せカード1枚

 手札4枚
------------------------------------------------

「わ、わたしのターン、ドロー!」(手札4→5枚)
 表情を険しくし、琴葉はデッキからカードを引く。
 胸がドキドキしていて、武者震いがする。
 大好きなおねぇちゃんが、全力で戦ってくれている。
 それに応えたい。今の自分をぶつけたい。もっともっと、楽しい決闘にしたい。
 溢れんばかりの感情が、体を包み込んでいる。
「手札から"光の援軍"を発動するね!」


 光の援軍
 【通常魔法】
 自分のデッキの上からカードを3枚墓地へ送って発動する。
 自分のデッキからレベル4以下の「ライトロード」と
 名のついたモンスター1体を手札に加える。

 ライトロード・ドラゴン グラコニス→墓地
 ライトロード・ウォリアー ガロス→墓地
 ライトロード・スピリット シャイア→墓地

「この効果でデッキから"ライトロード・マジシャン ライラ"を手札に加えて、そのまま召喚するよ!」
 琴葉の場に現れた新たな光の戦士。
 聖なる衣を纏った魔法使いが、場に降り立った。


 ライトロード・マジシャン ライラ 光属性/星4/攻1700/守200
 【魔法使い族・効果】
 自分フィールド上に表側攻撃表示で存在するこのカードを表側守備表示に変更し、
 相手フィールド上の魔法または罠カード1枚を破壊する。
 この効果を発動した場合、次の自分のターン終了時まで
 このカードは表示形式を変更できない。
 このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する限り、
 自分のエンドフェイズ毎に、自分のデッキの上からカードを3枚墓地に送る。


「ライラの効果発動! このカードを守備表示にして、おねぇちゃんの場にある"天空の聖域"を破壊するね! ………ぁっ………な、何か発動する………?」
「ふふっ、心配しなくても何もチェーンしないわよ」
「そっか! いっけーライラ!」
 光の魔法使いが杖を振るうと、辺りの神殿の風景が一気に崩れ去った。
 天空の神殿が消えたことにより、使者たる天使の姿も消え去ってしまう。

 天空の聖域→破壊
 天空の使者 ゼラディアス→破壊

「やられちゃったわね」
「まだだよ! 罠カード"閃光のイリュージョン"を発動!」


 閃光のイリュージョン
 【永続罠】
 自分の墓地から「ライトロード」と名のついたモンスター1体を選択し、
 攻撃表示で特殊召喚する。
 自分のエンドフェイズ毎に、デッキの上からカードを2枚墓地に送る。
 このカードがフィールド上から離れた時、そのモンスターを破壊する。
 そのモンスターがフィールド上から離れた時このカードを破壊する。


「これで墓地にいる―――」
「それはさせないわ! カウンター罠発動よ!!」
「えぇ!?」


 盗賊の七つ道具
 【カウンター罠】
 1000ライフポイント払う。
 罠カードの発動を無効にし、それを破壊する。


 香奈:8000→7000LP
 閃光のイリュージョン→無効
 香奈:手札2→3枚("豊穣のアルテミス"の効果)

「うぅ……無効にされちゃった……」
「惜しかったわよ。でも、まだまだ甘いわね」
「ま、負けないもん! カードを2枚伏せてターンエンド!」

------------------------------------------------
 香奈:7000LP

 場:豊穣のアルテミス(攻撃:1600)
   伏せカード1枚

 手札3枚
------------------------------------------------
 琴葉:6100LP

 場:ライトロード・マジシャン ライラ(守備:200)
   伏せカード2枚

 手札2枚
------------------------------------------------

「私のターン、ドロー!!」(手札3→4枚)
 まるで手加減する様子はなく、香奈は勢いよくカードを引く。
 全力で戦うと約束したのだ。たとえ圧倒的勝利になったとしても、相手に楽しくない思いをさせたとしても最後まで戦い抜く。
 引いたカードを確認し、そのままデュエルディスクに置いた。
「手札から"智天使ハーヴェスト"を召喚するわ!」


 智天使ハーヴェスト 光属性/星4/攻1800/守1000
 【天使族・効果】
 このカードが戦闘によって破壊され墓地に送られた時、
 自分の墓地に存在するカウンター罠1枚を手札に加える事ができる。


「また新しいモンスター……!」
「バトルよ! アルテミスでライラに攻撃!!」
「さ、させないもん! 伏せカード発動!」


 聖なるバリア−ミラーフォース−
 【通常罠】
 相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
 相手フィールド上に存在する攻撃表示モンスターを全て破壊する。


「それはこっちの台詞よ! カウンター罠発動!!」
「えぇ!?」


 ギャクタン
 【カウンター罠】
 (1):罠カードが発動した時に発動できる。
 その発動を無効にし、そのカードを持ち主のデッキに戻す。


 聖なるバリア−ミラーフォース→無効→デッキ
 香奈:手札3→4枚("豊穣のアルテミス"の効果)

「攻撃続行! アルテミスでライラに攻撃!!」
 マントを羽織った天使から放たれた光球が、守備体制をとる光の魔法使いを貫いた。

 ライトロード・マジシャン ライラ→破壊

「ライラ……っ!」
「さらにハーヴェストで攻撃よ!」
 場ががら空きになった少女めがけて、天使は手に持った角笛を吹き鳴らす。
 リング状の光の輪が回転しながら飛んでいき、琴葉に直撃した。
「うぅ……!」

 琴葉:6100→4300LP

「このまま押し切るわ! カードを2枚伏せて、ターンエン―――」
「ま、待って! エンドフェイズ時に、このカードを発動するね!」
「っ!?」
 エンドフェイズを迎えようとした香奈の場に、無数の鎖が出現する。
 それは香奈の伏せたカードに巻きつき、その力を封じ込めてしまった。


 心鎮壷
 【永続罠】
 フィールド上にセットされた魔法・罠カードを2枚選択して発動する。
 このカードがフィールド上に存在する限り、選択された魔法・罠カードは発動できない。


「……なるほどね……吉野にもらったってところかしら?」
「な、なんで分かったの?」
「前に吉野と戦った時に、まったく同じ戦法を取られたからね。今回もやられちゃったわ」
 少し苦笑いを浮かべ、香奈はターンを終えた。

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 香奈:7000LP

 場:智天使ハーヴェスト(攻撃:1800)
   豊穣のアルテミス(攻撃:1600)
   伏せカード2枚(使用不可)

 手札2枚
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 琴葉:4300LP

 場:心鎮壺(永続罠)

 手札2枚
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「わたしのターン! ドロー!」(手札2→3枚)
 引いたカードを確認した瞬間、琴葉は満面の笑みを浮かべた。
 何か仕掛けてくることを予感し、香奈は身構える。
「いくよおねぇちゃん! 墓地にライトロードが4種類以上いるとき、このカードは特殊召喚できる!!」
「っ、来るわね……!」

すべての光を束ねる破壊の翼! 出てきて! "裁きの龍"!!

 フィールドに閃光が走った。
 巨大な光の柱とともに、巨大な翼をもったドラグーンが姿を現す。
 大きく咆哮をあげ、小さな主と共に戦わんとする意思を剥き出しにした。


 裁きの龍 光属性/星8/攻3000/守2600
 【ドラゴン族・効果】
 このカードは通常召喚できない。
 自分の墓地に「ライトロード」と名のついた
 モンスターが4種類以上存在する場合のみ特殊召喚する事ができる。
 1000ライフポイントを払う事で、
 このカード以外のフィールド上に存在するカードを全て破壊する。
 このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する限り、
 自分のエンドフェイズ毎に、自分のデッキの上からカードを4枚墓地へ送る。


「ライトロードデッキの切り札ね。そんな簡単に召喚できるなんて反則じゃないかしら?」
「えへへ♪ 今ならカウンター罠は使えないよね。だからいくよ! "裁きの龍"の効果発動! ライフを1000ポイント支払って、このカード以外の場のカードをすべて破壊する!!」
 琴葉の言葉と共に、ドラグーンはその翼を広げる。
 そこから光線が四方八方に放たれて、自身以外のすべてを破壊していく。
 カウンター罠を封じられた香奈は、それを黙ってみていることしかできなかった。

 琴葉:4300→3300LP
 心鎮壺→破壊
 豊穣のアルテミス→破壊
 智天使ハーヴェスト→破壊
 リ・バウンド→破壊
 大革命返し→破壊

「っ……! な、なかなかやるじゃない……!」
 すべてのカードを破壊したドラグーンの力を肌で感じつつ、香奈は静かに笑った。
 一方的な展開になっても構わないと思っていたはいたが、琴葉に反撃の機会がないのも少し可哀そうだと思っていた。
 そう思っていたところに、ライトロードデッキの切り札が登場してきた。
 胸が高まって、楽しくなってくる。やっぱり決闘はこうでなくちゃ面白くないと思った。
「破壊された"リ・バウンド"の効果発動よ。相手によってこのカードが破壊されたことで、デッキから1枚ドローするわ」(手札2→3枚)


 リ・バウンド
 【カウンター罠】
 フィールド上のカードを手札に戻す効果を相手が発動した時に発動できる。
 その効果を無効にし、相手の手札・フィールド上からカードを1枚選んで墓地へ送る。
 また、セットされたこのカードが相手によって破壊され墓地へ送られた時、
 デッキからカードを1枚ドローする。


「へぇ、そういう効果もあるんだね」
「これくらいで感心してちゃ駄目よ。まだまだこれからなんだから」
「うん! じゃあバトルだよ! "裁きの龍"で攻撃!」
 さっきのお返しと言わんばかりに、琴葉は攻撃を宣言する。
 ドラグーンの口から放たれた光のブレスが、香奈を勢いよく飲み込んだ。

 香奈:7000→4000LP

「っ、やるわね琴葉ちゃん!!」
「えへへ♪ 褒められた♪ ターンエンド! あっ、エンドフェイズにドラグーンの効果でデッキの上から4枚墓地に送るね」

 【墓地へ送られたカード】
・ライトロード・モンク エイリン
・ライトロード・バリア
・ライトロード・ドルイド オルクス
・ライトロード・エンジェル ケルビム

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 香奈:4000LP

 場:なし

 手札3枚
------------------------------------------------
 琴葉:3300LP

 場:裁きの龍(攻撃:3000)

 手札2枚
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「私のターン、ドロー」(手札3→4枚)
 今の状況を見つめ、香奈は静かに微笑む。
 圧倒的に不利な状況なのは分かっている。
 だが、それ以上に今の状況を楽しんでいる自分がいる。
(さて……少しは”おねぇちゃん”らしいところも見せてあげないとね)
 そう思いながら、手札に手をかけた。
「私はモンスターをセットして、カードを2枚伏せてターンエンドよ!!」


 香奈のターンが終了し、琴葉へターンが移る。


「わたしのターン、ドロー!!」(手札2→3枚)
 ここが攻め時だと感じ、琴葉は意気込む。
 香奈の場には裏守備のモンスターが1体と、伏せカードが2枚。
 またカウンター罠が発動されるかもしれない。だけど、怖気づいていても始まらない。
「手札から"死者蘇生"を発動するね!」


 死者蘇生
 【通常魔法】
 自分または相手の墓地からモンスター1体を選択して発動する。
 選択したモンスターを自分のフィールド上に特殊召喚する。


「この効果で、墓地にいる"ライトロード・ドラゴン グラコニス"を特殊召喚するよ!」
「っ、させないわ!!」
 そう言って香奈は勢いよく伏せカードを開いた。


 神の宣告
 【カウンター罠】
 ライフポイントを半分払う。
 魔法・罠の発動、モンスターの召喚・反転召喚・特殊召喚の
 どれか1つを無効にし、それを破壊する。

 香奈:4000→2000LP
 死者蘇生→無効

「また無効にされちゃった……」
「まだよ! 相手の魔法カードを無効にしたことで、手札から"冥王竜ヴァンダルギオン"を特殊召喚するわ!!」
「うぇぇ!?」
 フィールドに漆黒の闇が円状に広がる。
 その中心から、黒い炎を纏った冥王竜が姿を現した。


 冥王竜ヴァンダルギオン 闇属性/星8/攻2800/守2500
 【ドラゴン族・効果】
 相手がコントロールするカードの発動をカウンター罠で無効にした場合、
 このカードを手札から特殊召喚する事ができる。
 この方法で特殊召喚に成功した時、無効にしたカードの種類により以下の効果を発動する。
 ●魔法:相手ライフに1500ポイントダメージを与える。
 ●罠:相手フィールド上のカード1枚を選択して破壊する。
 ●効果モンスター:自分の墓地からモンスター1体を選択して自分フィールド上に特殊召喚する。


「相手ターン中に特殊召喚できるなんて……!」
「それだけじゃないわ! ヴァンダルギオンは魔法カードを無効にして特殊召喚された時、相手に1500ポイントのダメージを与えるわ!!」
「えぇ!?」
 冥王竜がその口から炎を吐き出し、琴葉に襲い掛かった。

 琴葉:3300→1800LP

「うぅ…!」
「さぁ、どうする?」
「だ、だったら、"裁きの龍"の効果発動だよ!!」
 再びドラグーンがその翼を広げ、場のすべてを破壊しようと咆哮をあげた。
「その瞬間を待ってたわ! 伏せカード発動よ!!」


 キャッシュバック
 【カウンター罠】
 相手がライフポイントを払って発動した
 効果モンスターの効果・魔法・罠カードの発動を無効にし、
 そのカードを持ち主のデッキに戻す。

 琴葉:1800→800LP("裁きの龍"の効果コスト)

「あっ!?」
「この効果で"裁きの龍"の効果を無効にして、デッキに戻すわ!!」
 ドラグーンの光を覆い尽くすような霧が発生し、その力を封じ込める。
 力を封じ込められた光の龍は、翼を閉じ主の元へと還っていった。

 裁きの龍→デッキ

「そ、そんな……ドラグーンまで……!」
 琴葉の表情が一気に曇る。
 切り札であったモンスターが簡単に処理されてしまっては、無理もないだろう。
「これで一気に形成逆転よ! さぁどうする?」
「う、うぅ……カードを1枚伏せて、ターンエンド……」

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 香奈:2000LP

 場:冥王竜ヴァンダルギオン(攻撃:2800)
   裏守備モンスター1体

 手札0枚
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 琴葉:800LP

 場:伏せカード1枚

 手札1枚
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「私のターン、ドロー!」(手札0→1枚)
 このターンで決着をつけるため、カードを引く手に力が入る。
「一気に行くわよ! セットしていた"ジェルエンデュオ"をリリースして、"大天使クリスティア"をアドバンス召喚するわ!!」


 ジェルエンデュオ 光属性/星4/攻撃力1700/守備力0
 【天使族・効果】
 このカードは戦闘によって破壊されない。このカードのコントローラーがダメージを受けた時、
 フィールド上に表側表示で存在するこのカードを破壊する。
 光属性・天使族モンスターをアドバンス召喚する場合、
 このモンスター1体で2体分のリリースとする事ができる。


 大天使クリスティア 光属性/星8/攻2800/守2300
 【天使族・効果】
 自分の墓地に存在する天使族モンスターが4体のみの場合、
 このカードは手札から特殊召喚する事ができる。
 この効果で特殊召喚に成功した時、自分の墓地に存在する天使族モンスター1体を手札に加える。
 このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、お互いにモンスターを特殊召喚する事はできない。
 このカードがフィールド上から墓地へ送られる場合、墓地へ行かず持ち主のデッキの一番上に戻る。


「上級モンスターが2体も……」
「それだけじゃないわ。クリスティアがいる限り、お互いに特殊召喚が出来なくなるわ!!」
「う、うん……」
「悪いわね琴葉ちゃん。これでトドメよ!! バトル!!」
 香奈の宣言と共に、冥王竜が少女に向かって漆黒の炎を吐き出す。
 これをまともに受ければ、琴葉のライフは0になる。
「っ、ま、まだだよ……!! 伏せカード発動!!」
 襲い掛かる炎を前に、琴葉は必至に伏せカードを開いた。


 和睦の使者
 【通常罠】
 このカードを発動したターン。相手モンスターから受けるすべての戦闘ダメージを0にする。
 このターン自分のモンスターは戦闘によって破壊されない。


 聖なる加護によって作られた防壁が出現し、冥王竜から放たれた炎を弾いていく。
 竜はその防壁を破れないことを悟ると、炎を吐き出すのを止めた。
「さすがにまだ決められないわね」
「あ、危なかった……」
「私はこれでターンエンドよ」 

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 香奈:2000LP

 場:冥王竜ヴァンダルギオン(攻撃:2800)
   大天使クリスティア(攻撃:2800)

 手札0枚
------------------------------------------------
 琴葉:800LP

 場:なし

 手札1枚
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「わたしの……ターン……」
 自分のターンになったにも関わらず、琴葉の表情は暗い。
 相手の場には強力なモンスターが2体もいる。しかも特殊召喚が封じられている以上、もう1つの切り札であるペガサスを召喚することが出来ない。そもそも、その召喚条件すら満たせていない。
 手札にある1枚のカードも、今は使えるカードではない。
「どうしたの琴葉ちゃん?」
「……おねぇちゃん………」
 拳を強く握りしめ、奥歯を強く噛む。
 楽しい決闘だったのにどうしてこんな気持ちになっているのかと、琴葉は困惑する。
 いや、本当は分かっている。
 ただ純粋に、悔しいのだ。
 華恋と大助の決闘を見て、自分もおねぇちゃんと互角くらいには戦えると思っていた。
 だけど現実には、香奈の圧倒的な制圧力に戦術のほとんどが封じ込まれている。
「っ…!」
 不意に、涙が滲んでしまった。
 その様子を見て、咲音と吉野は駆け寄ろうとする。

「琴葉ちゃん!!」

 香奈が大きく呼びかけた。
 体を僅かに震わせて、琴葉は下を向いた。
「まだ決闘は終わってないわ。泣くなら、終わってからにしなさいよね」
「でも……もう……」
「そうね。たしかに状況は絶望的かもしれないわ。カードを引いたって、何も変わらないかもしれない。でも……何か変わるかもしれないわ
「っ!」
「大助と決闘していた華恋ちゃんは、途中で諦めたりした? 最後まで、きちんと戦っていたでしょ?」
「…………」
「だったら琴葉ちゃんだって、最後まで戦い抜かなきゃ駄目よ。たとえ何も出来なくたって、最後まで自分を信じて戦わなきゃ」
「……自分を……信じる……?」
「そうよ。そのデッキは琴葉ちゃんが全力で組んだデッキでしょ? 自分のデッキを、自分で信じなくてどうするのよ」
「……!」
 その言葉を聞き、琴葉は目元をぬぐう。
 そして顔をあげて、まっすぐに相手である香奈を見つめた
「ありがとうおねぇちゃん……わたし、最後まで戦う!!」
「ええ、こっちも全力で迎え撃ってあげるわ!!」
「いくよ! ドロー!!」(手札1→2枚)
 願いを込めて、勢いよくカードを引く。
 大きく深呼吸して、恐る恐る、そのカードを確認した。




 数秒の沈黙。
 琴葉は光の宿った瞳で、引いたカードをデュエルディスクに叩きつけた。
「手札の"ライトロード・ビースト ヴォルフ"をコストに、"ソーラー・エクスチェンジ"を発動するね!!」


 ソーラー・エクスチェンジ
 【通常魔法】
 手札から「ライトロード」と名のついたモンスターカード1枚を捨てて発動する。
 自分のデッキからカードを2枚ドローし、その後デッキの上からカードを2枚墓地に送る。

 ライトロード・ビースト ヴォルフ→墓地(コスト)

「効果でデッキから2枚ドローして、デッキの上から2枚を墓地に送るよ!」(手札0→2枚) 
 
 【墓地に送られたカード】
・ライトロード・サモナー ルミナス
・ライトロード・レイピア

「っ!」
 墓地へ送られたカード。そしてたった今、引いたカード。
 そのすべてが、今この状況で最も必要なカードだった。
 この奇跡的な引きに、琴葉の胸が大きく高鳴る。
「いくよ! 手札から"禁じられた聖杯"を発動するね!!」


 禁じられた聖杯
 【速攻魔法】
 フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動できる。
 エンドフェイズ時まで、選択したモンスターの攻撃力は
 400ポイントアップし、効果は無効化される。


 大天使クリスティア:攻撃力2800→3200

 聖杯から零れた雫が、大天使の体に触れる。
 すると場を支配していた不思議な力が消え去った。
「これで特殊召喚が出来るようになったよ!!」
「……じゃあその手札の1枚で、この状況を逆転できるのね」
「うん!」
 強く意気込み、残った1枚の手札を高く掲げる。

 咲音から借りた大切なカード。
 華恋と仲良くなるきっかけとなってくれた1枚。
 大好きなおねぇちゃんに真正面からぶつかるために、召喚する最後の切り札。

「すべての光を導く浄化の翼!! 聖なる力を開放して!! "聖光の天馬(ホーリーライト・ペガサス)"!!」

 フィールド全体が光り輝く。
 地面から光の粒が溢れだし、それらが中心に集約し形を作っていく。
 神々しい翼を宿した逞しい四肢。透き通るような鳴き声をあげて、少女のもとに降臨した。


 聖光の天馬(ホーリーライト・ペガサス) 光属性/星10/攻?/守?
 【獣族・効果・デッキワン】
 「ライトロード」と名のつくカードが20枚以上入っているデッキにのみ入れることが出来る。
 このカードは通常召喚できない。
 自分の墓地に「ライトロード」と名のついたカードが15種類以上存在する場合のみ特殊召喚することができる。
 1ターンに1度、ライフポイントを半分にすることで、
 ライフポイントを半分にすることで、このカードを除く、場、墓地、除外、手札に存在するカードをすべてデッキに戻す。
 この効果は他のカードの効果を無視して適用され、チェーンすることはできない。
 このカードの攻撃力と守備力は、この効果でデッキに戻したカードの数×200ポイントになる。
 この効果を使用したとき、相手はデッキからカードを2枚ドローする。


「ペガサスの効果発動!! ライフを半分にして、お互いの手札、場、墓地、除外ゾーンにあるカードをすべてデッキに戻す!!」
「す、すべて!?」
 光の天馬がその翼を広げると同時に、空間全体を神々しい光が飲み込んだ。

 冥王竜ヴァンダルギオン→デッキ
 大天使クリスティア→デッキ
 琴葉:800→400LP(コスト)

「私のモンスターが……!」
「それだけじゃないよ! この効果で戻した枚数×200ポイントが、ペガサスの攻守になる! デッキに戻した枚数は合計で37枚! よって―――」

 聖光の天馬:攻撃力?→7400

「攻撃力が7400も!?」
「ありがとうおねぇちゃん! 楽しい決闘だったよ! バトル!!」
 場ががら空きになった香奈へ向けて、琴葉は攻撃を宣言する。
 天馬が翼を広げ、光を纏って突撃する。
 一筋の閃光が走り、フィールド全体を眩い光が覆った。

「「「やった……!!」」」

 見守っていた華恋とヒカルも、琴葉の勝利を喜ぶ。
 閃光が消えて、辺りを舞う粉塵も消えていく。



 そして―――



 香奈:2000LP


「え???」
 琴葉が目にしたのは、笑みを浮かべた香奈の姿だった。
 攻撃力7400のモンスターの攻撃を受けて、ライフが少しも減っていない。
「え? え? なんで?」
「危なかったわ。手札から"純白の天使"を捨てて、ダメージをすべて無効にしたわ」


 純白の天使 光属性/星3/攻撃力0/守備力0
 【天使族・チューナー】
 このカードを手札から捨てて発動する。
 このターン自分が受けるすべてのダメージを0にし、自分フィールド上のカードは破壊されない。
 この効果は相手ターンでも発動する事ができる。


「手札から発動できるカード……!」
「ええ。最後の最後まで、油断しちゃ駄目よ琴葉ちゃん。これくらいじゃ私は倒せないわ!」
「っ、で、でもっ! 次のターンで倒せるもん! ターンエンド!!」

------------------------------------------------
 香奈:2000LP

 場:なし

 手札1枚
------------------------------------------------
 琴葉:400LP

 場:聖光の天馬(攻撃:7400)

 手札0枚
------------------------------------------------

「私のターン、ドロー!」(手札1→2枚)
 不利な状況にも関わらず、香奈は笑みを絶やさない。
 それは純粋にこの決闘を楽しんでいるだけではない。心の底から自身の勝利を疑っていないような、そんな自身に溢れた表情だった。
「モンスターをセットして、カードを1枚伏せてターンエンドよ!!」


 短いターンが終わる。
 そして、琴葉へターンが移行する。


「わたしのターン、ドロー!!」(手札0→1枚)
 琴葉は引いたカードを確認すると、すぐさま発動した。


 レインボー・ヴェール
 【装備魔法】
 装備モンスターが相手モンスターと戦闘を行う場合、
 バトルフェイズの間だけその相手モンスターの効果は無効化される。


「このカードをペガサスに装備するよ!!」
「させないわ!! カウンター罠"八式対魔法多重結界"を発動よ!!」


 八式対魔法多重結界
 【カウンター罠】
 次の効果から1つを選択して発動する。
 ●フィールド上のモンスター1体を対象にした魔法の発動と効果を無効にし、そのカードを破壊する。
 ●手札から魔法カード1枚を墓地に送る事で魔法の発動と効果を無効にし、そのカードを破壊する。


 天馬の体を覆うとした虹の光が、小型の機械から放たれた結界によってかき消された。
「うっ、だったらバトル! ペガサスで攻撃!!」
 再び天馬が光を宿して、香奈の場に伏せられたモンスターへ突撃する。
 破壊されたモンスターは―――


 コーリング・ノヴァ 光属性/星4/攻1400/守800
 【天使族・効果】
 このカードが戦闘によって破壊され墓地に送られた時、デッキから攻撃力1500以下で光属性の
 天使族モンスター1体を自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。
 また、フィールド上に「天空の聖域」が存在する場合、代わりに「天空騎士パーシアス」1体を
 特殊召喚する事ができる。


「リクルートモンスター……!?」
「ええ。この効果で私はデッキから"オネスト"を守備表示で特殊召喚するわ!!」
 綺麗なベルの音に導かれて、大きな翼を宿した光の戦士が現れた。


 オネスト 光属性/星4/攻1100/守1900
 【天使族・効果】 
 自分のメインフェイズ時に、フィールド上に表側表示で存在するこのカードを手札に戻す事ができる。
 また、自分フィールド上に表側表示で存在する光属性モンスターが戦闘を行うダメージステップ時に
 このカードを手札から墓地へ送る事で、エンドフェイズ時までそのモンスターの攻撃力は、
 戦闘を行う相手モンスターの攻撃力の数値分アップする。


「っ!」
 そのモンスターの効果を確認し、琴葉の胸に焦りが生まれる。
 もし次のターン、モンスターを引かれてしまったら……負ける。
 いや、香奈おねぇちゃんならば、きっと次のターンにモンスターを引いてしまう。
「これで次のターンにモンスターを引けば私の勝ちよ!!」
「ま、まだだよ!! わたしはもう1回、ペガサスの効果発動だよ!!」
 焦った心で琴葉が出した結論は、もう1度ペガサスの効果を使うことだった。
 場に出されてしまったのなら、デッキに戻してしまえばいい。
 いかに香奈おねぇちゃんと言えども、そう簡単にオネストとモンスターを引くことは出来ないはず。そしたら強力な攻撃力を持ったペガサスで攻撃すればいい。
 幼いながらも、必死で考えて出した答えだった。

 琴葉:400→200LP
 オネスト→デッキ
 香奈:手札0→2枚("聖光の天馬"の効果)

 ペガサスが再び翼を広げ、聖なる光で空間を飲み込む。
 再びカードをデッキに戻され、香奈の表情も少し険しくなった。
「戻したカードは全部で4枚! これでペガサスの攻撃力は8200に―――」


 聖光の天馬:攻撃力7400→800


「………あれ?」
 光が止むと同時に現れたのは、手のひらサイズまで縮んでしまった天馬の姿だった。
 その場にいるほとんどの人間が、予想外の展開に戸惑っていた。
「あちゃ〜……」
「あらあら……」
 吉野は頭を抱え、咲音は微笑んでいた。
 困惑する琴葉へ向けて、咲音は大声で言う。
「琴葉ー!! ペガサスの効果をよーく読んでー!」
「え?」


 聖光の天馬(ホーリーライト・ペガサス) 光属性/星10/攻?/守?
 【獣族・効果・デッキワン】
 「ライトロード」と名のつくカードが20枚以上入っているデッキにのみ入れることが出来る。
 このカードは通常召喚できない。
 自分の墓地に「ライトロード」と名のついたカードが15種類以上存在する場合のみ特殊召喚することができる。
 1ターンに1度、ライフポイントを半分にすることで、
 ライフポイントを半分にすることで、このカードを除く、場、墓地、除外、手札に存在するカードをすべてデッキに戻す。
 この効果は他のカードの効果を無視して適用され、チェーンすることはできない。
 このカードの攻撃力と守備力は、この効果でデッキに戻したカードの数×200ポイントになる。
 この効果を使用したとき、相手はデッキからカードを2枚ドローする。


「ペガサスの効果はね、”戻した枚数×200の攻撃力になる”って効果でしょう? だからね、1回目の効果発動ならたくさんカードを戻せるから大きな攻撃力になるんだけど、2回目以降だと戻す枚数が少ないから攻撃力が低くなっちゃうのよ」
「………そ、そんなぁ……」
「あの……そ、それで、どうする琴葉ちゃん?」
「ターンエンド……」

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 香奈:2000LP

 場:なし

 手札2枚
------------------------------------------------
 琴葉:200LP

 場:聖光の天馬(攻撃:800)

 手札0枚
------------------------------------------------

「私のターン、ドロー!」(手札2→3枚)
 引いたカードを確認し、香奈は勝利を確信した。
「楽しかったわよ琴葉ちゃん! 私は手札から"純白の天使"を召喚するわ!!」


 純白の天使 光属性/星3/攻撃力0/守備力0
 【天使族・チューナー】
 このカードを手札から捨てて発動する。
 このターン自分が受けるすべてのダメージを0にし、自分フィールド上のカードは破壊されない。
 この効果は相手ターンでも発動する事ができる。


「さらに手札から"光神化"を発動! この効果で、手札から"アテナ"を特殊召喚!!」


 光神化
 【速攻魔法】
 手札から天使族モンスター1体を特殊召喚する。
 この効果で特殊召喚したモンスターの攻撃力は半分になり、
 エンドフェイズ時に破壊される。


 アテナ 光属性/星7/攻撃力2600/守備力800
 【天使族・効果】
 自分フィールド上に存在する「アテナ」以外の天使族モンスター1体を墓地に送る事で、
 自分の墓地に存在する「アテナ」以外の天使族モンスター1体を自分フィールド上に
 特殊召喚する。この効果は1ターンに1度しか使用できない。
 フィールド上に天使族モンスターが召喚・反転召喚・特殊召喚される度に、
 相手ライフに600ポイントダメージを与える。


「私の切り札を見せてあげるわ! レベル7の"アテナ"にレベル3の"純白の天使"をチューニング!! シンクロ召喚!! "天空の守護者シリウス"!!」


 天空の守護者シリウス 光属性/星10/攻撃力2000/守備力3000
 【シンクロ・天使族/効果】
 「純白の天使」+レベル7の光属性・天使族モンスター
 このカードが表側表示で存在する限り、相手は自分の他のモンスターへ攻撃できず、
 相手に直接攻撃をすることもできない。
 このカードが特殊召喚されたとき、以下の効果からどちらか一つを選びこのカードの効果にする。
 ●1ターンに1度、デッキまたは墓地からカウンター罠1枚を選択して手札に加える事ができる。
 ●バトルフェイズの間、このカードの攻撃力は自分の墓地にあるカウンター罠1種類につき
  500ポイントアップする。


「私は第1の効果を選択するわ! って言っても、あんまり意味ないけどね。さぁバトルよ!!」
 天空の守護者がその翼を広げて、聖なる光を放つ。
 その光は天馬を飲み込み、琴葉へ襲い掛かった。

 琴葉:200→0LP


 琴葉のライフが0になる。



 そして決闘は、終了した。







「楽しかったわよ琴葉ちゃん」
「うん……わたしも、楽しかった♪」
 互いに握手をし、笑みを交わす。
 2人の健闘に周りにいる全員が拍手をしていた。
「やっぱりおねぇちゃん、強いね♪」
「当然でしょ? 私を誰だと思ってるのよ?」
「えへへ、やっぱりおねぇちゃんは凄いね♪」
「そう? じゃあ次の対戦もあるし、またあとでね」
「うん!」




「いやぁ惜しかったなぁ琴葉ちゃん」
「そ、そんなことないよ。おねぇちゃん、すごく強かった……」
「パーミッションなんて難しいデッキを完璧に使ってましたもんね。香奈さんとも戦ってみたいです」
「まったく華恋は強い人がいたらすぐに戦いたがるんやなぁ。まっ、うちも同じ気持ちなんやけどね」
 そう言ってヒカルはデュエルディスクとデッキを用意する。
 その好戦的な視線は、本条真奈美の姿をとらえていた。




-------------------------------------------------------------------------------------




「香奈ちゃん、お疲れ様です」
「ありがと。次は真奈美ちゃんね。大丈夫そう?」
「実は、あんまり自信はないんですよね。中岸君も香奈ちゃんも、けっこう苦戦していましたし……」
 真奈美はそう言って苦笑いを浮かべる。
 こういうときほど、香奈の自信の強さを見習いたいと思ってしまう。
「本城さんなら大丈夫ですよ。全力で戦ってきてください」
「何よ大助。私の時は応援してくれなかったのに真奈美ちゃんのことは応援するわけ?」
「お前は応援してもあんまり意味無さそうだからな」
「どういう意味よ!?」
「ま、まぁまぁ2人とも……」
 大助と香奈をなだめて、真奈美はデュエルディスクの用意をする。
 ちらりと見ると、ヒカルが不敵な笑みを浮かべて待っていた。
(マスター、頑張ってください!)
 内側から語りかけるエルの言葉を受けて、真奈美は大きく息を吐き出す。
(そうだねエル。一緒に頑張ろう!)




episode9――西園寺ヒカルの挑戦――

「じゃあ最後はうちやな」
「ヒカルちゃん! 頑張ってね!」
「ファイトです!」
「なはは♪ まぁやれるだけやってくるわぁ♪」
 親友二人に応援され、ヒカルは笑いながら前に出る。
 その数メートル先には、やや緊張した面持ちの本条真奈美が立っていた。
「よろしくな真奈美さん♪」
「は、はい。こちらこそよろしくお願いしますね」
 優しい微笑みを向ける真奈美に、ヒカルは何食わぬ顔で言葉を続ける。
「なぁなぁ、真奈美さんは地下室でなにしてはったん?」
「え?」
 予想もしていなかった言葉に、真奈美は固まる。
 後ろにいる大助や琴葉達にはヒカルの声は届いていないようだ。
「あそこで会話してたの薫さんと真奈美さんやろ?」
「えっと……な、何の話ですか?」
 言葉に詰まりながらも首を傾げられ、ヒカルは深いため息をついた。
「まぁ簡単に教えてもらえるなんて思うとらんけどな。この決闘に勝ったら教えてもらう!」
「わ、私だって、負けるつもりはありません!!」



「「決闘!!」」



 真奈美:8000LP   ヒカル:8000LP



 決闘が、始まった。




「いくで! うちのターンや!」(手札5→6枚)
 デュエルディスクが赤く光り、ヒカルのターンが始まる。
 今までの対戦を見ていても分かる通り、いつものように出し惜しみをできる相手じゃないのは容易に想像できた。
 なのですぐさま、ヒカルはデュエルディスクの青いボタンを押した。
「うちはデッキワンサーチシステムを使うわ!」
 自動的に選び出されたカードを勢いよく引き抜く。(手札6→7枚)
 ルールによって真奈美もデッキからカードを引き、相手の行動を見守る。(手札5→6枚)
「最初から全力でいかせてもらうな! 手札から永続魔法"確率変動の女神"を発動や!!」
 ヒカルがカードをデュエルディスクに置くと同時に、その背後に美しい女神の姿が現れる。
 右手にサイコロ、左手にコイン、頭にルーレット盤を象ったティアラを乗せていた。


 確率変動の女神
 【永続魔法・デッキワン】
 コインまたはサイコロを使用するカードが15枚以上入っているデッキにのみ入れることが出来る。
 1ターンに1度、カード名を1つ宣言する。このターンのエンドフェイズ時まで、
 宣言したカードがコインまたはサイコロを使用する効果を発動したとき、
 そのコインの裏表、またはサイコロの目を自分の宣言したものにする。
 この効果は相手ターンのドローフェイズ時にも発動できる。
 このカードが破壊されるとき、手札を1枚捨てることでその破壊を無効にする。


「デッキワンカード……! ギャンブルデッキですね」
 相手のデッキを知り、真奈美はさらに集中する。
 遊戯王にはコイントスやサイコロで効果を決めるカード……通称『ギャンブルカード』が多数存在している。それらをまとめて使用するのが【ギャンブル】と呼ばれるデッキの総称だ。
 外れた時の効果を考えるとかなりリスキーなデッキなのだが当たったときの効果は凄まじく、時と場合によっては最強とすらなり得る可能性を秘めたデッキである。
 ましてやヒカルが発動したデッキワンカードは、その当たり外れを自在に操作できる効果を持っている。警戒するのに越したことはない。
「うちは"確率変動の女神"の効果で"カップ・オブ・エース"を宣言! そして手札から"カップ・オブ・エース"を発動や!」


 カップ・オブ・エース
 【通常魔法】
 コイントスを1回行い、表が出た場合は自分のデッキからカードを2枚ドローし、
 裏が出た場合は相手はデッキからカードを2枚ドローする。


「コイントスの結果はうちが好きに決められる! 当然、表や!」
 場に存在する女神の左手から放たれたコインが回転し、主に定められた結果を示す。
 コインは光に変わり、新たな手札となって降り注いだ。(手札5→7枚)
「さらに"一撃必殺侍"を召喚! そして"デンジャラスマシン Type−6"を発動!」


 一撃必殺侍 風属性/星4/攻1200/守1200
 【戦士族・効果】
 このカードが戦闘を行う場合、ダメージ計算の前にコイントスで裏表を当てる。
 当たった場合、相手モンスターを効果によって破壊する。


 デンジャラスマシン TYPE−6
 【永続魔法】
 自分のスタンバイフェイズ毎にサイコロを1回振る。
 出た目の効果を適用する。
 1.自分の手札を1枚捨てる。
 2.相手の手札を1枚捨てる。
 3.自分はカードを1枚ドローする。
 4.相手はカードを1枚ドローする。
 5.相手フィールド上のモンスター1体を破壊する。
 6.このカードを破壊する。


「っ!」
「そしてカードを1枚伏せて、ターンエンドや!!」


 ヒカルのターンが終了し、真奈美へとターンが移る。


「私のターンです、ドロー!」(手札6→7枚)
「ドローフェイズに"確率変動の女神"の効果発動や! うちは"一撃必殺侍"を選択する!」
「……これで"一撃必殺侍"の効果は、ヒカルちゃんの好きな結果を出せるってことですね」
「ああ。いくら真奈美さんが強力なモンスターだしてきても、問題無しってことやな」
「ふふっ、そう簡単にはいきません。手札から"魔導騎士ディフェンダー"を召喚します」


 魔導騎士 ディフェンダー 光属性/星4/攻1600/守2000
 【魔法使い族・効果】
 このカードが召喚に成功した時、
 このカードに魔力カウンターを1つ置く(最大1つまで)。
 フィールド上に表側表示で存在する魔法使い族モンスターが破壊される場合、
 代わりに自分フィールド上に存在する魔力カウンターを、
 破壊される魔法使い族モンスター1体につき1つ取り除く事ができる。
 この効果は1ターンに1度しか使用できない。

 魔導騎士ディフェンダー:魔力カウンター×0→1

「……あ!?」
「気づきましたか? それじゃあバトルです!」
「う、うちは"一撃必殺侍"の効果を表で発動させる!」
 襲い掛かる魔導騎士に対して、小さな侍は素早い抜刀で応戦する。
 抜かれた刃が、魔導騎士に触れようとした瞬間―――
「ディフェンダーの効果発動です。このカードに乗っている魔力カウンターを取り除いて、破壊を無効にします!!」
 ガキィン! という金属音が鳴り、侍の放った一撃は魔力の壁に阻まれて届かない。
 その隙に魔導騎士は魔力を込めた拳を振るい、小さな侍を叩き潰した。

 一撃必殺侍→破壊
 魔導騎士ディフェンダー:魔力カウンター×1→0
 ヒカル:8000→7600LP

「ま、まさかそんな方法で突破してくるなんてなぁ……」
「はい。その効果はあくまでダメージ計算前に破壊することで、実質的に戦闘による耐性をつけているだけです。なのでその破壊を防いでしまえば問題ありません」
 笑顔でそう答える真奈美。
 反対にヒカルの表情は、険しいものになっていた。
 まさかこんな簡単に突破されるなんて思ってもみなかったからだ。普通だったら"確率変動の女神"を除去することを考えるはずなのに、相手はこっちのモンスター効果の穴を的確に突いてきた。
(なるほどなぁ……華恋や琴葉ちゃんが大苦戦した理由がなんとなく分かったわぁ……)
「メインフェイズ2に入りますね。手札から"魔力吸収"と"魔力掌握"を発動します」


 魔法吸収
 【永続魔法】
 魔法カードが発動する度に、このカードのコントローラーは500ライフポイント回復する。


 魔力掌握
 【通常魔法】
 フィールド上に表側表示で存在する魔力カウンターを
 乗せる事ができるカード1枚に魔力カウンターを1つ置く。
 その後、自分のデッキから「魔力掌握」1枚を手札に加える事ができる。
 「魔力掌握」は1ターンに1枚しか発動できない。

 魔導騎士ディフェンダー:魔力カウンター×0→1
 真奈美:8000→8500LP
 真奈美:手札5→4→5枚("魔力掌握"の効果)

「これでディフェンダーは破壊耐性が付きました」
「むぅ、さすがやな真奈美さん」
「そ、そんなことありませんよ。カードを1枚伏せて、ターン終了です」

-----------------------------------------------
 真奈美:8500LP

 場:魔導騎士ディフェンダー(攻撃:1600:魔力カウンター×1)
   魔力吸収(永続魔法)
   伏せカード1枚   

 手札4枚
-----------------------------------------------
 ヒカル:7600LP

 場:確率変動の女神(永続魔法・デッキワン)
   デンジャラスマシン Type−6(永続魔法)
   伏せカード1枚

 手札4枚
-----------------------------------------------

「うちのターン、ドロー!!」(手札4→5枚)
 ヒカルがカードを引いてすぐに、フィールド上に置かれたルーレットマシンが点滅する。
 ゆっくりと点滅する間隔が短くなっていき、5の数字が示された。


 デンジャラスマシン TYPE−6
 【永続魔法】
 自分のスタンバイフェイズ毎にサイコロを1回振る。
 出た目の効果を適用する。
 1.自分の手札を1枚捨てる。
 2.相手の手札を1枚捨てる。
 3.自分はカードを1枚ドローする。
 4.相手はカードを1枚ドローする。
 5.相手フィールド上のモンスター1体を破壊する。
 6.このカードを破壊する。


「よっしゃ! 5の数字が出たから真奈美さんの場にいるディフェンダーを破壊させてもらう!」
「させません! ディフェンダーの魔力カウンターを取り除いて、破壊を無効にします!!」
 ルーレットマシンから放たれた光線が、魔導騎士の持つ障壁に阻まれ消える。
 その壁は役目を終えたといわんばかりに、音を立てて崩れた。

 魔導騎士ディフェンダー:魔力カウンター×1→0

「ほないくで! うちは"確率変動の女神"の効果で"サンド・ギャンブラー"を宣言! そして手札から"サンド・ギャンブラー"を召喚や!」


 サンド・ギャンブラー 光属性/星3/攻300/守1600
 【魔法使い族・効果】
 コイントスを3回行う。
 3回とも表だった場合、相手フィールド上モンスターを全て破壊する。
 3回とも裏だった場合、自分フィールド上モンスターを全て破壊する。
 この効果は1ターンに1度だけ自分のメインフェイズに発動する事ができる。


「そして効果発動! "確率変動の女神"の効果で、コイントスの結果を3回とも表にする!!」
 背後に立つ女神から投げられた3枚のコインが、予定調和のごとく表を示す。
 幸運に恵まれた小さなギャンブラーが指を鳴らすと真奈美の場に雷が降り注ぎ、そこにいる魔導騎士を焼き尽くした。

 魔導騎士ディフェンダー→破壊

「これで真奈美さんの場にモンスターはおらへん! バトルや!」
「待ってください! ヒカルちゃんの攻撃宣言時に、伏せカードを発動します」


 マジシャンズ・サークル
 【通常罠】
 魔法使い族モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
 お互いのプレイヤーは、それぞれ自分のデッキから
 攻撃力2000以下の魔法使い族モンスター1体を表側攻撃表示で特殊召喚する。


「……しもた! ギャンブラーは魔法使い族やった……!」
「私はこの効果でデッキから"ブラック・マジシャンガール"を特殊召喚します!!」
「っ、ほんならうちだって、デッキから"時の魔術師"を召喚や!!」


 ブラック・マジシャン・ガール 闇属性/星6/攻2000/守1700
 【魔法使い族・効果】
 お互いの墓地に存在する「ブラック・マジシャン」
 「マジシャン・オブ・ブラックカオス」1体につき、
 このカードの攻撃力は300ポイントアップする。


 時の魔術師 光属性/星2/攻500/守400
 【魔法使い族・効果】
 1ターンに1度、自分のメインフェイズ時に発動する事ができる。
 コイントスを1回行い、裏表を当てる。
 当たった場合、相手フィールド上に存在するモンスターを全て破壊する。
 ハズレの場合、自分フィールド上に存在するモンスターを全て破壊し、
 自分は破壊したモンスターの攻撃力を合計した数値の半分のダメージを受ける。


「場のモンスターの数が増えたことで攻撃の巻き戻しが発生しますけど、どうしますか?」
「うーん……勝てそうにあらへんから中断しとくわ。うちはカードを1枚伏せて、ターンエンドや」

-----------------------------------------------
 真奈美:8500LP

 場:ブラック・マジシャン・ガール(攻撃:2000)
   魔力吸収(永続魔法)

 手札4枚
-----------------------------------------------
 ヒカル:7600LP

 場:サンド・ギャンブラー(攻撃:300)
   時の魔術師(攻撃:500)
   確率変動の女神(永続魔法・デッキワン)
   デンジャラスマシン Type−6(永続魔法)
   伏せカード2枚

 手札3枚
-----------------------------------------------

「私のターン、ドロー!」(手札4→5枚)
「うちは"確率変動の女神"の効果で、"モンスターBOX"を宣言や!」
 ヒカルは大きく宣言し、息を吐く。
 ギャンブル効果を持っているモンスターは攻撃力の低い。それを補うためのカードは伏せてある。効果を確定させるために"確率変動の女神"で宣言しなければならず、相手にそのカードの存在を伝えることになるが、無防備にしておくよりはマシであろう。
「手札から"熟練の黒魔術師"を召喚します」


 熟練の黒魔術師 闇属性/星4/攻1900/守1700
 【魔法使い族・効果】
 このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
 自分または相手が魔法カードを発動する度に、
 このカードに魔力カウンターを1つ置く(最大3つまで)。
 魔力カウンターが3つ乗っているこのカードをリリースする事で、
 自分の手札・デッキ・墓地から「ブラック・マジシャン」を1体特殊召喚する。


「さらに手札から"魔力掌握"を発動します。この効果で"熟練の黒魔術師"に魔力カウンターを載せて、デッキから同名カードをサーチします」
「また魔力カウンターかぁ……」


 魔力掌握
 【通常魔法】
 フィールド上に表側表示で存在する魔力カウンターを
 乗せる事ができるカード1枚に魔力カウンターを1つ置く。
 その後、自分のデッキから「魔力掌握」1枚を手札に加える事ができる。
 「魔力掌握」は1ターンに1枚しか発動できない。

 熟練の黒魔術師:魔力カウンター×0→1→2
 真奈美:8500→9000LP("魔力吸収"の効果)

「さらに"精神操作"を発動します! ヒカルちゃんの場にいる"時の魔術師"のコントロールを一時的にいただきます!」
「うえっ!?」
 真奈美が発動したカードから糸が伸びて、時の魔術師を絡め取る。
 自分のモンスターを奪われたことで、ヒカルの表情が曇った。


 精神操作
 【通常魔法】
 このターンのエンドフェイズ時まで、
 相手フィールド上に存在するモンスター1体のコントロールを得る。
 このモンスターは攻撃宣言をする事ができず、リリースする事もできない。

 時の魔術師→真奈美の場へ移動
 熟練の黒魔術師:魔力カウンター×2→3
 真奈美:9000→9500LP("魔力吸収"の効果)

「うちのモンスターの効果を使う気なん?」
「いいえ、こうするんです。"ワンダー・ワンド"を発動します」


 ワンダー・ワンド
 【装備魔法】
 魔法使い族モンスターにのみ装備可能。
 装備モンスターの攻撃力は500ポイントアップする。
 また、自分フィールド上に存在するこのカードの装備モンスターと
 このカードを墓地へ送る事で、自分のデッキからカードを2枚ドローする。

 時の魔術師:攻撃力500→1000
 真奈美:9500→10000LP("魔力吸収"の効果)

「"ワンダー・ワンド"を装備したモンスターをリリースして、私はデッキから2枚ドローします」(手札2→4枚)
 時の魔術師の姿が光に変わり、手札となって降り注ぐ。
 同時にヒカルは、真奈美の戦術に感心していた。
 マジシャンズ・サークルによって相手の魔法使い族モンスターを引き出し、精神操作とワンダー・ワンドのコンボによって相手モンスターを除去しつつ手札補充。とても考えられたコンボだと思った。
「まんまとやられたなぁ……」
「まだまだいきますよ! 魔力カウンターの貯まった"熟練の黒魔術師"をリリースして、デッキから"ブラック・マジシャン"を特殊召喚します!!」


 ブラック・マジシャン 闇属性/星7/攻2500/守2100
 【魔法使い族】
 魔法使いとしては、攻撃力・守備力ともに最高クラス。


 黒衣の魔導師が場に現れ、華麗な動きで杖を振るう。
 真奈美のエースモンスターの登場に、ヒカルの表情がより険しくなった。
「バトルです!! "ブラック・マジシャン"で攻撃!!」
「!?」
 不可解な攻撃宣言にヒカルは困惑する。
 "確率変動の女神"のカード宣言によって"モンスターBOX"が伏せられていることは分かっているはずなのに攻撃してくる意味が分からなかった。
「うちは伏せカード発動や!」


 モンスターBOX
 【永続罠】
 相手モンスターが攻撃をする度に、コイントスで裏表を当てる。
 当たりの場合、攻撃モンスターの攻撃力は0になる。
 自分のスタンバイフェイズ毎に500ライフポイントを払う。
 払わなければ、このカードを破壊する。


「"確率変動の女神"の効果で、うちは効果を好きに決められる! うちは―――」
「手札から速攻魔法を発動します!!」
「っ!?」
 割り込むように発動された魔法。
 ヒカルの場に出現したBOXが、一筋の黒い光に破壊された。


 大魔導士の古文書
 【速攻魔法】
 自分フィールド上に「ブラック・マジシャン」が
 表側表示で存在する時のみ発動する事ができる。
 相手フィールド上の魔法・罠カード1枚を破壊する。
 相手のエンドフェイズ時に、このカードをゲームから除外して、
 デッキから同名カードを手札に加えることができる。

 モンスターBOX→破壊
 真奈美:10000→10500LP("魔力吸収"の効果)


「この効果で"モンスターBOX"を破壊しました。バトル続行です!」
「っ!」
 黒衣の魔術師が放った魔力弾がヒカルの場のモンスターを吹き飛ばした。

 サンド・ギャンブラー→破壊
 ヒカル:7600→5400LP

「くぅ……」
「つづけて"ブラック・マジシャン・ガール"で直接攻撃です!」

 ヒカル:5400→3400LP

「……!!」
 大きく削られたライフ。
 たった1ターンで、圧倒的に不利になってしまった。
 間違ったプレイングをしているわけじゃない。ただ相手の対応力が高すぎて、すべて丁寧に処理されてしまうのだ。
(まいったなぁ。さっさと”奥の手”を使わんと……やられてしまう)
「私はこれでターン終了です」

-----------------------------------------------
 真奈美:10500LP

 場:ブラック・マジシャン(攻撃:2500)
   ブラック・マジシャン・ガール(攻撃:2000)
   魔力吸収(永続魔法)

 手札3枚
-----------------------------------------------
 ヒカル:3400LP

 場:確率変動の女神(永続魔法・デッキワン)
   デンジャラスマシン Type−6(永続魔法)
   伏せカード1枚

 手札3枚
-----------------------------------------------

「うちのターンや!」(手札3→4枚)
 ヒカルがカードを引くと同時に、背後のルーレットマシンが回転する。
 示された数字は3だ。


 デンジャラスマシン TYPE−6
 【永続魔法】
 自分のスタンバイフェイズ毎にサイコロを1回振る。
 出た目の効果を適用する。
 1.自分の手札を1枚捨てる。
 2.相手の手札を1枚捨てる。
 3.自分はカードを1枚ドローする。
 4.相手はカードを1枚ドローする。
 5.相手フィールド上のモンスター1体を破壊する。
 6.このカードを破壊する。


「この効果でうちはデッキからカードを1枚ドローや」(手札4→5枚)
 勢いよくカードを引き、ヒカルは笑みを浮かべる。
「"確率変動の女神"の効果で"伝説の賭博師"を宣言して、そのカードを召喚や!」


 伝説の賭博師 闇属性/星4/攻500/守1400
 【魔法使い族・効果】
 コイントスを3回行う。
 3回とも表だった場合、相手フィールド上モンスターを全て破壊する。
 2回表だった場合、相手の手札をランダムに1枚捨てる。
 1回表だった場合、自分フィールド上に存在するカード1枚を破壊する。
 3回とも裏だった場合、自分の手札を全て捨てる。
 この効果は1ターンに1度だけ自分のメインフェイズに使用する事ができる。


「また全体除去モンスター……」
「ほんなら効果発動や。当然やけどコインは3回とも表!!」
 宣言通りに3枚のコインが表となり、真奈美の場へ雷が落ちる。
 魔術師の師弟はあえなくその雷に打たれて、場から消え去った。

 ブラック・マジシャン→破壊
 ブラック・マジシャン・ガール→破壊

「さすがですね。ギャンブルカードの強みが十分に生かされています」
「褒めてくれてありがとな。でもギャンブル関連のモンスターって攻撃力低いモンスターもいるからそこが問題なんやけど……まっ、とりあえずバトルや!!」

 真奈美:10500→10000LP

「これでターンエンドや」
「じゃあエンドフェイズ時に墓地にある"大魔導師の古文書"の効果を発動します。墓地のこのカードを除外してデッキから同名カードを手札に加えます」(手札3→4枚)


 真奈美へと、ターンが移った。


「私のターンです」(手札4→5枚)
 真奈美は手札を見つめ、少し考える。
 モンスターは全滅させられてしまったが、状況的に押しているのは自分だ。
 だが相手はギャンブルデッキ。思わぬ一撃で形勢が逆転しまう可能性は十分にある。少しでも不安要素があるなら、それを取り除くのに越したことはないはずだ。
「手札から"死者蘇生"を発動します!! 対象は墓地の"ブラック・マジシャン"です」
「っ!」

 
 死者蘇生
 【通常魔法】
 自分または相手の墓地からモンスター1体を選択して発動する。
 選択したモンスターを自分のフィールド上に特殊召喚する。


 ブラック・マジシャン 闇属性/星7/攻2500/守2100
 【魔法使い族】
 魔法使いとしては、攻撃力・守備力ともに最高クラス。


「また"大魔導師の古文書"を使われるんかなぁ……」
「いいえ、今回は別の魔法です!」
 そう言って真奈美は手札の1枚を力強く叩きつけた。


 黒・魔・導
 【通常魔法】
 自分フィールド上に「ブラック・マジシャン」が
 表側表示で存在する時のみ発動する事ができる。
 相手フィールド上の魔法・罠カードを全て破壊する。


「これでヒカルちゃんの場にある魔法・罠カードを破壊します!」
「っ、そんならうちだって伏せカード発動や!!」


 ダブル・サイクロン
 【速攻魔法】
 自分フィールド上に存在する魔法・罠カード1枚と、
 相手フィールド上に存在する魔法・罠カード1枚を選択して発動する。
 選択したカードを破壊する。


「対象は真奈美さんの場にある"魔法吸収"と……うちの場にある"確率変動の女神"や!!」
「え?」
 場に突風が吹き溢れ、真奈美とヒカルの場にあるカードを1枚ずつ吹き飛ばす。
 それと同時に、復活した黒魔術師から放たれた魔力がヒカルの場に襲い掛かった。

 魔法吸収→破壊
 確率変動の女神→破壊
 デンジャラスマシン−Type−6

「自分からデッキワンカードを破壊した……?」
 予想していなかった行動に、真奈美は少し動揺する。
 確率変動の女神には手札を捨てることで破壊を無効にする効果がある。てっきり手札を捨てて破壊を無効にしてくるものだと思っていたのだが……。
「"大魔導師の古文書"があるから、破壊を無効にしても無駄だと思ったんですか?」
「あぁ、まぁそれもあるんやけど、ちょっとな♪」
「はい?」
 意味ありげな笑みを浮かべるヒカルに対し、真奈美はただ首を傾げることしかできない。
「それじゃあバトルです。"ブラック・マジシャン"で攻撃です」

 伝説の賭博師→破壊
 ヒカル:3400→1400LP

「ターン終了です」

-----------------------------------------------
 真奈美:10500LP

 場:ブラック・マジシャン(攻撃:2500)

 手札2枚
-----------------------------------------------
 ヒカル:1400LP

 場:なし

 手札4枚
-----------------------------------------------

「うちのターン、ドロー!」(手札4→5枚)
 5枚になった手札を眺め、どこか満足そうな表情を浮かべるヒカル。
 後ろで見守る琴葉と華恋も、彼女の狙いを知って拳を握る。
「いやぁ、やっぱり真奈美さんは強いわぁ」
「え、あ、ありがとうございます」
「けどうちだって負けたくないから、奥の手を使わせてもろたわ」
「奥の手?」
「ああ。さっき"確率変動の女神"を破壊したやろ? うちな、"確率変動の女神"を破壊すると往復3ターンの間、サイコロやコインの結果が戦局有利の方向にしか働かなくなるんよ。これがうちの奥の手! 女神モードや!!」
「…………………ぁ……は、はい。そうなんですか」
「あっ、その顔は信じとらんな? まぁええわ。ほんなら全力でいくで! 手札から"ツインバレル・ドラゴン"を召喚や!」


 ツインバレル・ドラゴン 闇属性/星4/攻1700/守200
 【機械族・効果】
 このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時、
 相手フィールド上に存在するカード1枚を選択して発動する。
 コイントスを2回行い、2回とも表だった場合、選択したカードを破壊する。


「そして効果発動でコイントスや!」
 ソリッドビジョンで2枚のコインが回転する。
 2枚とも表になる確率は4分の1。決して成功率は高くはない。
 回転が止まり、示されたのは―――

 ―――2枚とも表だった。

「これで真奈美さんの場にいるブラマジを破壊させてもらう!」
 ヒカルのモンスターの頭部から大きな砲弾が放たれる。
 その弾は魔術師の胸を打ち抜き、魔術師は力無くその場に倒れた。

 ブラック・マジシャン→破壊

「これでがら空きやな。バトル!!」
「っ!」

 真奈美:10500→8800LP

「そしてカードを3枚伏せて、ターンエンドや!!」


 ヒカルのターンが終わり、真奈美のターンになった。


「……私のターンです。ドロー!」(手札2→3枚)
 引いたカードを手札に加え、真奈美はヒカルを見つめる。
 さっき彼女が言っていた言葉。すべてが戦局有利の方になるというのは、こちらを惑わせるためのブラフだろうか。それとも、本当に……?
(……考えても仕方ありませんよね)
 思考を中断し、手札の1枚をデュエルディスクに置いた。
「手札から"リロード"を発動します」


 リロード
 【速攻魔法】
 自分の手札を全てデッキに加えてシャッフルする。
 その後、デッキに加えた枚数分のカードをドローする。

 真奈美:手札2→0→2枚

 入れ替わった手札を見て、真奈美はすぐさま戦術を決める。
 相手の言った言葉が嘘か本当かは分からないが、やるべきことは変わらない。
「墓地にいる光属性と闇属性のモンスターを除外して、手札から"カオス・ソーサラー"を特殊召喚します!!」


 カオス・ソーサラー 闇属性/星6/攻2300/守2000
 【魔法使い族・効果】
 このカードは通常召喚できない。
 自分の墓地の光属性と闇属性のモンスターを
 1体ずつゲームから除外した場合に特殊召喚できる。
 1ターンに1度、フィールド上に表側表示で存在する
 モンスター1体を選択してゲームから除外できる。
 この効果を発動するターン、このカードは攻撃できない。

 魔導騎士ディフェンダー→除外
 熟練の黒魔術師→除外

「効果発動です。攻撃をしない代わりにヒカルちゃんの場にいる"ツインバレル・ドラゴン"を除外します!!」
「うっ……」

 ツインバレル・ドラゴン→除外

「ターンエンドです」

-----------------------------------------------
 真奈美:8800LP

 場:カオス・ソーサラー(攻撃:2200)

 手札1枚
-----------------------------------------------
 ヒカル:1400LP

 場:伏せカード3枚

 手札1枚
-----------------------------------------------

「うちのターン!」(手札1→2枚)
 ヒカルは勢いよくカードを引き、すぐさま伏せてあった1枚のカードを開いた。


 ニードル・ウォール
 【永続罠】
 自分のスタンバイフェイズ時にサイコロを1回振る。
 相手のモンスターカードゾーンを、
 このカードのコントローラーから見て右から1〜5とし、
 出た目にいるモンスターを破壊する。
 6の目が出た場合はもう一度サイコロを振る。


「そしてスタンバイフェイズにサイコロを振って、出た目のモンスターゾーンにいるモンスターを破壊する! 真奈美さんのモンスターは右から2番目におるから、2が出れば破壊できる!」
 場に大きなサイコロが出現し、コロコロと転がる。
 成功確率は6分の1。振り直しを考えると5分の1だ。
 先ほどよりも成功率は低い。
 なのに結果は―――

 サイコロの目:2

「そんな!?」
「よっしゃ!」
 地面から突然出現した無数の針が、真奈美の場にいるモンスターを無残に貫いた。

 カオス・ソーサラー→破壊

「まだまだいくで! モンスターをセットして、手札から"太陽の書"を発動や!」
 明るい光を放つ書物の力によって、伏せられたモンスターが顕になる。


 ダイス・ポット 光属性/星3/攻200/守300
 【岩石続・効果】
 リバース:お互いにサイコロを一回ずつ振る。
 相手より小さい目が出たプレイヤーは、相手の出た目によって以下のダメージを受ける。
 相手の出た目が2〜5だった場合、相手の出た目×500ポイントダメージを受ける。
 相手の出た目が6だった場合、6000ポイントダメージを受ける。
 お互いの出た目が同じだった場合はサイコロを振り直す。


「っ!」
 そのモンスターを見た瞬間、真奈美は戦慄した。
 ギャンブルデッキにおいて切り札ともいえる、最高のバーンダメージを発生させることのできるモンスター。
 もし本当に彼女の言っていることだとしたら……
「お互いにサイコロ振って、出た目で勝負や!」
 赤と青のサイコロが転がり、止まる。
 示された結果は―――

 ヒカルのサイコロ:6
 真奈美のサイコロ:3

「よし、真奈美さんに6000ダメージや!」
 ヒカルの場にいる壺型のモンスターが口を開き、真奈美へと襲い掛かる。
「きゃあ!」
 丸呑みにされたかと思うほど大きな口が襲い掛かって、その場にしゃがみ込んでしまう。
 だがそのモンスターは寸でのところで止まり、恐怖でしゃがみ込んだ相手を馬鹿にするようにゲラゲラと笑いながら元の場所へ戻っていった。

 真奈美:8800→2800LP

「これでだいぶ削れたかな?」
「うぅ、ま、まだです! 効果ダメージを受けた瞬間、手札から"ダメージ・メイジ"を特殊召喚!」
「へっ?」


 ダメージ・メイジ 闇属性/星3/攻600/守1200
 【魔法使い族・効果】
 カードの効果によって自分がダメージを受けた時に発動できる。
 このカードを手札から特殊召喚し、
 受けたダメージの数値分だけ自分のライフポイントを回復する。

 真奈美:2800→8800LP

「ダメージが……帳消しにされてもうた……」
「さぁ、どうしますか?」
「……ターンエンドや」

-----------------------------------------------
 真奈美:8800LP

 場:ダメージ・メイジ(守備:1200)

 手札0枚
-----------------------------------------------
 ヒカル:1400LP

 場:ダイス・ポッド(攻撃:200)
   ニードル・ウォール(永続罠)
   伏せカード2枚

 手札0枚
-----------------------------------------------

「私のターンです。ドロー!」(手札0→1枚)
「スタンバイフェイズ時に、伏せカード発動や!!」


 ファイアーダーツ
 【通常罠】
 自分の手札が0枚の時に発動する事ができる。
 サイコロを3回振る。
 その合計の数×100ポイントダメージを相手ライフに与える。


「サイコロを3回振って、出て目の数の合計×100ポイントのダメージを相手に与える!」
「そんな非効率なバーンカードを……」
 サイコロが3つ転がり、そのすべてが6の目を示した。
「っ、そ、そんな……!?」
「よっしゃ! 真奈美さんに1800ポイントのダメージや!!」
 18本の火の矢が襲い掛かり、そのライフを削る。

 真奈美:8800→7000LP

「…………」
 減少したライフを確認したあと、真奈美は静かに考える。
 どう考えても、おかしい。
 ヒカルが言ったように、さっきから最良の結果しか出ていない。
 とても信じられないことだが、相手の言ったことは本当のことなのだろう。
「ふぅ……」
 一息つき、守備表示だったモンスターを攻撃表示に変更する。
 ダメージ・メイジは攻撃力が高いモンスターではない。だが最良の結果を出すことのできる相手の場にダイスポッドを残しておく方が危険だと判断し、攻撃をすることにした。
「バトルです!!」
「ちょい待ち! 伏せカード発動や!!」


 ラッキーパンチ
 【永続罠】
 1ターンに1度、相手モンスターの攻撃宣言時に発動できる。
 コイントスを3回行い、3回とも表だった場合、
 自分はデッキからカードを3枚ドローする。
 3回とも裏だった場合、このカードを破壊する。
 また、フィールド上に表側表示で存在するこのカードが破壊された場合、
 自分は6000ライフポイントを失う。


「攻撃宣言時にコイントスを3回して、全部表なら3枚ドローできる!」
 ソリッドビジョンで投影された3枚のコインが回転し、そのすべてが表になる。
 ヒカルは自信に満ちた表情でデッキからカードをドローした。(手札0→3枚)
「でも攻撃は続行です!」

 ダイス・ポッド→破壊
 ヒカル:1400→1000LP

「くっ」
「私はこれでターン終了です」

-----------------------------------------------
 真奈美:7000LP

 場:ダメージ・メイジ(攻撃:600)

 手札1枚
-----------------------------------------------
 ヒカル:1000LP

 場:ニードル・ウォール(永続罠)
   ラッキー・パンチ(永続罠)

 手札0枚
-----------------------------------------------

「うちのターン、ドロー!」(手札3→4枚)
 スタンバイフェイズに入り、ニードルウォールの効果が発動する。
 サイコロが示した数字は3。
 地面から針が飛び出し、小さな魔法使いを貫いた。

 ダメージ・メイジ→破壊

「ほないくで! 手札から"暴れ牛鬼"を召喚や!」


 暴れ牛鬼 地属性/星4/攻1200/守1200
 【獣戦士族・効果】
 コイントスで裏表を当てる。
 当たった場合、相手ライフに1000ポイントダメージを与える。
 ハズレの場合、自分は1000ポイントダメージを受ける。
 この効果は1ターンに1度だけ自分のメインフェイズに使用する事ができる。


「そして効果を発動や!」
「うっ、1000ダメージですか……」
 コインが回転し、予定調和のごとく表を示す。

 真奈美:7000→6000LP

「さらに"カップ・オブ・エース"を発動!」
「手札増強カード……!」


 カップ・オブ・エース
 【通常魔法】
 コイントスを1回行い、表が出た場合は自分のデッキからカードを2枚ドローし、
 裏が出た場合は相手はデッキからカードを2枚ドローする。

 コイン:表
 ヒカル:手札3→5枚

「さらに手札から"二重召喚"を発動して、"きまぐれ女神"を召喚や!!」


 二重召喚
 【通常魔法】
 このターン自分は通常召喚を2回まで行う事ができる。


 きまぐれの女神 光属性/星3/攻950/守700
 【天使族・効果】
 (1):1ターンに1度、自分メインフェイズに発動できる。
 コイントスを1回行い、裏表を当てる。
 当たった場合、このカードの攻撃力はターン終了時まで倍になる。
 ハズレの場合、このカードの攻撃力はターン終了時まで半分になる。


「さらに手札から"受け継がれる力"を発動や!」


 受け継がれる力
 【通常魔法】
 自分フィールド上のモンスター1体を墓地に送る。
 自分フィールド上のモンスター1体を選択する。
 選択したモンスター1体の攻撃力は、
 発動ターンのエンドフェイズまで墓地に送った
 モンスターカードの攻撃力分アップする。

 暴れ牛鬼→墓地
 気まぐれ女神:攻撃950→2150

「そして"気まぐれ女神"の効果発動!! コイントスが表なら攻撃力は倍になる!!」
 回転するコイン。
 女神モードの発動しているヒカルが出した結果は、当然のごとく表だ。

 気まぐれ女神:攻撃力2150→4300

「攻撃力が4300も……!」
「バトルや!」
 欠伸をした女神が、手に持った小さな木槌を上空へ放り投げる。
 するとその大きさが一気に倍以上に膨れ上がり、真奈美へと落下した。

 真奈美:6000→1700LP

「さすがに戦闘ダメージまでは帳消しには出来んやろ! うちはカードを1枚伏せて、ターンエンドや!!」

 きまぐれ女神:攻撃力4300→2150→950

-----------------------------------------------
 真奈美:1700LP

 場:なし

 手札1枚
-----------------------------------------------
 ヒカル:1000LP

 場:きまぐれ女神(攻撃:950)
   ニードル・ウォール(永続罠)
   ラッキー・パンチ!(永続罠)
   伏せカード1枚

 手札0枚
-----------------------------------------------

「私のターンです……!」
 大きく深呼吸をして、デッキの上を見つめる。
 相手の戦術を適切に処理したのに、こうして追いつめられてしまった。
 もし少しでも選択を間違えていたら、負けていたかもしれない。
(マスター。どうかなされましたか?)
 内側にいるパートナーの声に、「なんでもないよ」と静かに答える。
 このドローで、決めるしかない。
「いくよ! ドロー!!」(手札1→2枚)
 勢いよく引いたカード。
 それはこの状況を覆す可能性を持った1枚だった。
「いきますねヒカルちゃん! 手札から速攻魔法"強制発動−アブソリュート・スペル−"を発動します!!」
「ぅん!?」


 強制発動−アブソリュート・スペル−
 【速攻魔法】
 罠カード名を1つ宣言し、相手か自分の手札を公開する。
 その中に宣言したカードがあり、発動タイミングが正しければ
 そのカードを強制発動させる。
 宣言したカードが発動されなかった場合、自分はライフを半分失う。


「私は"永遠の魂"を宣言して、私自身の手札を公開します!」
「……って、手札1枚しかないやん?」
「そうですね。もちろん、私の最後の手札は"永遠の魂"です。発動タイミングは問題ありません! なのでこのカードは強制発動されます!!」


 永遠の魂
 【永続罠】
 「永遠の魂」の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
 (1):以下から1つを選択してこの効果を発動できる。
 ●自分の手札・墓地から「ブラック・マジシャン」1体を選んで特殊召喚する。
 ●デッキから「黒・魔・導」または「千本ナイフ」1枚を手札に加える。
 (2):このカードが魔法&罠ゾーンに存在する限り、
 自分のモンスターゾーンの「ブラック・マジシャン」は相手の効果を受けない。
 (3):表側表示のこのカードがフィールドから離れた場合に発動する。
 自分フィールドのモンスターを全て破壊する。


「っ、なるほどな。罠カードを伏せないで発動させるカードか」
「"永遠の魂"の効果発動です! 墓地から"ブラック・マジシャン"を特殊召喚です!」


 ブラック・マジシャン 闇属性/星7/攻2500/守2100
 【魔法使い族】
 魔法使いとしては、攻撃力・守備力ともに最高クラス。


 地面から溢れる漆黒の光の中から、黒衣の魔術師が再び姿を現す。
 真奈美のエースモンスターの登場に、ヒカルの表情が僅かに曇った。
「バトルです!! "ブラック・マジシャン"で攻撃!!」
「待ちや! その攻撃宣言時に、伏せカード発動や!!」


 ルーレット・スパイダー
 【速攻魔法】
 (1):相手モンスターの攻撃宣言時に発動できる。
 サイコロを1回振り、出た目の効果を適用する。
 1・自分のLPを半分にする。
 2・その攻撃を自分への直接攻撃にする。
 3・自分フィールドのモンスター1体を選び、
 そのモンスターに攻撃対象を移し替えてダメージ計算を行う。
 4・攻撃モンスター以外の相手フィールドのモンスター1体を選び、
 そのモンスターに攻撃対象を移し替えてダメージ計算を行う。
 5・その攻撃を無効にし、そのモンスターの攻撃力分のダメージを相手に与える。
 6・その相手モンスターを破壊する。


「最後の運勝負やで真奈美さん! サイコロの目によって、ブラック・マジシャンの攻撃対象は変わる!!」
「っ!」
 魔術師が放った魔力弾を、大きな蜘蛛型のモンスターが受け止め回転する。
 その体の矢印が、真奈美、モンスター、ヒカルの順に高速で動く。
「よーし、ストップや!!」
 勝利を確信し、ヒカルは矢印を止める。
 女神モードはギャンブルカードの結果を戦局有利にする。
 この状況において、最良の結果とは真奈美への直接ダメージを与えることだ。
(勝った!!)
 矢印の動きが止まり、示された数字は――――


 ―― 2 ――


「………へ?」
 蜘蛛型のモンスターの矢印が示した先は、ヒカル本人だった。

 ヒカル:1000→0LP




 ヒカルのライフが0になり、決闘は終了した。




「な、なんで? なんでなん? 女神モードはまだ続いてるはずやろ?」
「えっと、ヒカルちゃん?」
「ん?」
「その……女神モードでしたっけ? それが往復3ターンしか保てないなら、さっきのヒカルちゃんのターンで効果切れですよ?」
「………え?」
 慌ててヒカルは指を折りながら数を数える。
 "確率変動の女神"が破壊されたのは、真奈美の第6ターン。つまり、第11ターンまでしか女神モードは続かない。
 ルーレット・スパイダーを発動したのは、12ターン目だ。
「……あかん……女神モード……切れとったんか……」
 がっくりと肩を落とし、深いため息をつく。
 すべての結果を戦局有利へ導く女神モードは、その期限が切れればすべてが戦局不利な方向へ導かれてしまう。
 それゆえにルーレット・スパイダーは、ヒカルにとって最悪の結果を示したのだ。
「あ〜あ〜、勝てへんかぁ……完敗や」
「そ、そんなことありませんよ。少しでも間違えていたら、私が負けていましたよ」
 落ち込むヒカルの頭を、真奈美は優しく撫でる。
「そうやって……うちを子供扱いして……」
「いいじゃないですか子供だって。大人になったら、こうやって頭を撫でてもらえることも少なくなっちゃいますし」
「っ、べ、別にそんなんどうだってええわ! あーはいはい、うちらの完敗ですよ、ほな、ありがとうございました!」
 頬を染めつつ、ヒカルは逃げるようにその場から立ち去る。
「あ、あれ……?」
(マスターは罪作りな方ですね)
「どういう意味?」
(私だってマスターに頭を撫でてほしいのに……)
「え? え?」
 エルの発言に首を傾げつつ、真奈美は皆のもとへ戻っていった。




episode10――凸凹タッグの決戦――

 大助たちが小学生組と戦っている頃、雲井はライガーと共に星花町に戻っていた。
 移動中にライガーから事情は聞かされていた。巨大な闇の力を発した存在が町をうろついているからそれに会いに行くというものだった。
 聞いたときはさすがの雲井も耳を疑った。
 ”敵を倒しに行く”のではなく、”会いに行く”とライガーが言ったからだ。



 バスを降りて、俺は子犬モードのライガーと共に河原を歩いていた。
 これから闇の力を持った奴のところに向かうってのに、ずいぶん悠長に感じるぜ。
「……敵に寝返るつもりじゃねぇよな?」
『心配するな。何度も言っているだろう? 会いに行くだけだ』
「会ってどうするつもりなのかを聞いてんだよ」
『さぁな。それは貴様が決めろ』
「は?」
『我は敵に尋ねたいことがあるから向かうだけだ。もし害があると貴様が判断したのなら、戦えばいいさ』
「…………」
 相変わらず、ライガーが何を考えているのか分からねぇ。
 こいつと一緒に生活してきて、それなりに気持ちは通じているものだと思ったんだけど、それは俺の思い違いだったのかもしれねぇな。
『着いたぞ』 
 そうこうしているうちに俺たちは目的地にたどり着いたらしい。
「あ……?」


 そこは、ただの公園だった。
 だが人はおらず、かなり寂しい印象を受けた。
「誰もいねぇじゃねぇか」
『……そうか。貴様には”誰もいないように見える”のだな』
「は?」
 ライガーはおもむろに公園の入り口へ歩き、凄まじい咆哮をあげた。
 その小柄な体からは想像もつかない音量にすぐに耳を塞いだ。
「な、なんだ―――!?」
 文句を言おうとした瞬間、俺の目の前の空間にヒビのようなものが入った。
 公園の入り口となる部分。そこに生じたヒビは亀裂となって公園という空間そのものに広がっていく。
 やがて、ガラスが崩壊したかのように空間が割れた。
「な……」
 その光景を見た瞬間、俺は硬直してしまった。
 何もなかったはずの公園。
 なのにそこには、たくさんの子供たちが遊んでいた。
 全員が無邪気に遊んでいる。おままごとや鬼ごっこ、砂場遊びにジャングルジム。公園に存在するすべての遊具お使い、100人近い子供がそこにはいた。
「ど、どうなってんだ?」
『公園を闇の力で覆って、外部から見えないようにしていたんだ。当然、中からの音も遮断してな』
 そういってライガーは前へ進む。
 俺もそれに続いて、公園の中へ入った。
 子供たちは俺たちがいることなどまるで気にしていないようで、それぞれが楽しく遊んでいるようだった。
 一見してみると微笑ましい光景なのかもしれないけれど、100人もいるのに”笑っている子供しかいない”という状況は不気味に感じるには十分すぎるものだった。
 その公園の中心。夜間用に取り付けられたであろう灯台の場所に、明らかに異質な存在がいた。

 人の形をしているが、その背には禍々しい翼が折りたたんである。
 頭部には闘牛を思い起こすような2本の曲がった太い角。屈強な全身の筋肉がプロレスラーを彷彿とさせるようだ。

『ずいぶんと不思議なことをしているな』
 ライガーが呼びかけると相手はゆっくりと顔を動かしこちらを見つめた。
 その口元が僅かに上がり、寄りかかっていた灯台から離れてポケットに両手を入れる。
『俺っちの閉鎖空間が壊されたから何者かと思ったが、地の神だったか』
『貴様の名は?』
『ドレッド・ルートだ。何の用?』
『何、我は争うつもりはないさ。ただ2つ3つ聞きたいことがあるからここまで出向いたまでだ』
『そう。それで内容は?』
『1つ。貴様はここで何をしていた?』
『見てのとおり、子供たちを楽しく遊ばせてたんだよ。ちゃんと午後5時には開放して家に帰してっからそこは安心してくれていいぜ?』
『2つ。なぜこんなことをしている?』
『あぁ。アダム様からは適当に暴れてこいって命令されたんだけどさ。せっかくこうして具現化できたわけだし暴れる前に遊ぼうと思ったんだ。それにしても子供はいいな。小さくて、無邪気で、活発で………少し力を入れたら簡単に壊れちまいそうなところが最高にイイ。この空間が壊される前までは一緒に遊んでいたんだぜ? 信じられないかもしれないけどな』
『では3つだ。貴様が具現化したということは、”モンスターパレード”が開始される前兆だと思っていいのか?』
『………………地の神には敵わないな』
 ドレッド・ルートは何か諦めたように深いため息をついた。
 さっきから何を話しているのかさっぱり理解できねぇけど、なんか重要そうな話なのだろう。
『そのとおりだ。俺っちとイレイザー、アバタ―は先発隊として具現化された。まぁスターや他の組織がどのような対応をするのか見たいってことなのかもしれないね』
『……捨て駒か?』
『まぁそうなるね。まぁ神である貴方たちと違って、俺っち達は生みの親に逆らうことは出来ない。もともとただの紙切れだった俺っちに曲りなりに命を与えてくれたから感謝もあるからな。だから俺っち達は何でもする。自分の存在を存続させるためなら、アダム様の命令にいくらでも従うさ』
『………そうか。たとえ操り人形でも、背に腹は代えられないか……』
 ライガーはそう呟き、ドレッド・ルートに背を向ける。
 そして「邪魔をしたな」という一言でカード状態に戻って俺のデッキに入ってしまった。
 ドレッド・ルートは残った俺を見据え、小さく息を吐いた。
『あんたも大変だな』
「え?」
『地の神に付き合わされてここまできたんだろう?』
「あ、ああ」
『俺っち達の会話の内容は理解できたか?』
「………」
『無理か。まぁ仕方ないけどな』
 そういってドレッド・ルートが笑みを浮かべる。
 俺は少し考えた後、ずっと気になっていた言葉を問いかけてみた。
「てめぇは、アダムの仲間なんだよな。つまり、俺たちの敵なのか?」
『ああ。敵だよ。まぎれもなく、君たち人間に害をなすものさ』
「っ!」
 ドレッド・ルートを中心に風が巻き起こった。
 砂埃が舞い、黒い霧が溢れてくる。
 明らかに相手が戦闘態勢に入っていることがわかる。
 そこから感じるプレッシャーが、ピリピリと空気を震わせているような錯覚すら感じた。
(やれやれ、やはりこうなってしまうか)
 内側にいるライガーが語りかけてくる。
 やはりってことは、この展開を予測してたってことかよ。
(仮にもアダムと敵対している我が接触したのだぞ? それをみすみす見逃したとなれば、アダムや他の仲間から何をされるか分からない。そうなれば当然、我らに戦いを挑んでくるのは当然だろう)
「マジかよ……」
 でも今までの会話で、相手がそこまで悪い奴に思えない。
 出来ることなら、あんまり戦いたくねぇ……。
(まさか貴様、相手が悪い奴ではないと勘違いしているのではないか?)
「え?」
(どうしてこの場にたくさんの子供がいるか分かるか? それはドレッド・ルートが片っ端から闇の決闘で襲っていったからだ。決闘に敗北した子供は闇の決闘による傷が癒えぬまま、公園で遊ばせられている。表情は笑顔であるが、肉体は危ないだろうな。定時に帰しているとはいえ、体も思考も支配されたままなのだぞ?)
「っ……!!」
 咄嗟にあたりを見回す。
 子供たちはいつの間にか戦いを始めようとしている俺たちの周囲を取り囲んでいた。
 その表情は笑顔だが、瞳は虚ろだ。
「てめぇ……子供をどうするつもりだ」
『体が壊れるまで遊んでもらうさ。子供は遊んでこそ子供らしい。それで壊れるなら本望というものだろ?』
「っ!」
 濁ったような瞳で不気味な笑みを浮かべるドレッド・ルート
 右拳に力が入った。
 途端に胸の内に、熱いものが込み上げてくる。
『へぇ、目の色が変わったな』
「てめぇ、子供をなんだと思ってやがる! どうやったら子供を解放できるんだ!?」
『決闘で勝てばいい』
「分かったぜ」
 バッグに入れておいたデュエルディスクとデッキを取り出し、腕に装着する。
 途端に足元から、闇が溢れだしてきた。
「さぁやるぜ!! てめぇをぶっとばして、子供たちを解放してやる!!」
『……』
 おもむろにドレッド・ルートが左腕を付きだす。
 すると何もなかったその腕に闇がまとわりつき、漆黒のデュエルディスクが装着された。
『準備完了だと言いたいが、もう1人招待しようか』
「あ?」
 ドレッド・ルートが指を鳴らす。
 すると周囲を囲んでいた子供の一人が、腕にデュエルディスクをつけて前に出てきた。
『決闘は、こいつとの2対1で挑んでもらおう。もちろん、俺っちが1人だ』
「なっ、子供まで巻き込むのかよ!?」
『立場をわきまえろ人間。この場において優位は俺っちにある。2対1の決闘で、俺っちのライフを0にできればお前の勝ちだ。もっとも、子供を容赦なく狙わせてもらうがな』
「はぁ!?」
 つまり、子供を守りながら相手のライフを0にしなくちゃいけないってことかよ。ふざけんな。
『安心しろ。決闘中は子供の支配は解ける。頑張って協力して、戦ってみろ』
 ドレッド・ルートがもう1度指を鳴らすと、俺の隣にやってきた男子がハッと目を覚ましたように顔をあげた。
 どこか生意気そうな表情。小学2、3年生くらいだろうか。
 今の状況が飲み込めず、必死に辺りを見回している。
「あ、あれ、俺は公園で……」
「大丈夫か?」
「ん? あ、あぁ。お兄さん、ここは……」
「詳しい話は後だぜ。目の前のあいつをぶっ倒さねぇと、ここから抜け出せないんだ」
『そういうことだ』
 ドレッド・ルートがそう言って笑う。
 男子はその姿を見るや否や、何かを思い出したように指を指した。
「あぁ! お前は公園の怪人!! そうだ! 俺、お前に決闘で負けたんだ!」
「そうだぜ。だから、今から俺と協力してあいつを倒すんだ。怖いかもしれねぇけど、俺がついてるから心配ねぇぜ!」
「お兄さんも、あの怪人と戦ってくれんのか?」
「ああ。俺は雲井忠雄。お前の名前は?」
「俺様は影山(かげやま)玲雄(れお)ってんだ! よろしく頼むぜ!!」
 影山と名乗った男子は意気揚々とデュエルディスクを構えた。
 闇の決闘が始まるっていうのに、ずいぶん気合が入ってるな。本当に小学生か?
「そんでお兄さん、周りにいるみんなは、どうなってんだ?」
「ああ。敵に操られてるんだ」
「オッケー! じゃあ俺とお兄さんが、怪人を倒すヒーローってことだな?」
「は?」
「すごいぜこのセット。黒いスモークとか初めて見たし、あんなリアルな怪人も初めて見たぜ。しかもヒーロー役のお兄さんと一緒に戦えるなんて、本当に俺様は運がいいぜ!!」
 目をキラキラと輝かせて、影山君はそう言った。
 どうやら、今の状況をヒーローショーのようなものと勘違いしているらしい。
 まぁ、下手に危険な決闘であることを教えるよりはマシだろうな。
『くくく、散々な言われようだな。いいだろう、かかってこい!』
「さぁいくぜ! 影山君!」
「ああ! 雲井さん!」



「「『決闘!!』」」



 ドレッド・ルート:16000LP  雲井:8000LP  影山:8000LP



 決闘が、始まった。



『この瞬間、デッキよりフィールド魔法を発動!!』
 ドレッド・ルートのデッキから闇が溢れだし、辺りを包み込んでいく。
 くそったれ。やっぱり闇の力を持っていやがったか。


 恐怖で縛る闇の世界
 【フィールド魔法】
 このカードはデュエル開始時に、デッキまたは手札から発動する。
 このカードはフィールドから離れない。
 このカードがフィールドに表側表示で存在する限り、
 相手フィールド上のモンスターの攻撃力と守備力は半分になる。


「ま、またかよ! な、なんなんだ雲井さん!? あのカード!?」 
「ああ。敵は闇の力で特別なカードを使う。だけど、俺と影山君の力を合わせれば大丈夫だぜ!」
「っ! 分かった!」
 影山君は目をキラキラと輝かせて相手を睨みつける。
 本当はワクワクできるような状況ではないんだろうが、下手に怖がらせても意味がねぇ。
 ここはヒーローショーの振る舞いのまま、戦うしかないぜ。
『俺っちの先攻。ドロー!』(手札5→7枚)
 2対1の変則決闘のルールによって相手は2枚のドローをした。
 中岸とタッグを組んだ時も思ったけど、ドローで2枚引けるっていうのはかなりのアドバンテージだ。強力な相手ならなおさらだろう。
『俺っちはモンスターをセットして、カードを2枚伏せてターンエンドだ』



「いくぜ! 俺のターン!!」(手札5→6枚)
 相手のターンが終わって、俺のターンになる。
 2対1の変則決闘では、全員が最初のターンは攻撃できない。
 だけどここで臆してたまるか。
 俺はいつも通り、全力で行くぜ!!
「手札から"ミニ・コアラ"を召喚! このカードをリリースすることで、デッキから"ビッグ・コアラ"を特殊召喚するぜ!!」


 ミニ・コアラ 地属性/星4/攻1100/守100
 【獣族・効果】
 このカードをリリースすることで、デッキ、手札または墓地から
 「ビッグ・コアラ」1体を特殊召喚できる。


 ビッグ・コアラ 地属性/星7/攻撃力2700/守備力2000
 【獣族】
 とても巨大なデス・コアラの一種。
 おとなしい性格だが、非常に強力なパワーを持っているため恐れられている。



「すげぇ! いきなり上級モンスターだ!」
『だが"恐怖で縛る闇の世界"の効果で、攻守は半分になる!』
 フィールドを覆う闇から、俺の場にいる巨大なコアラへ向けて灰色の煙が吹き出す。
 その煙を吸い込んだコアラは、力無くうなだれてしまった。

 ビッグ・コアラ:攻撃力2700→1350 守備力:2000→1000

「攻守を半分にしたって、どうってことないぜ! 俺はカードを1枚伏せて、ターンエンドだ!」


 俺のターンが終わり、次は影山君のターンだ。


「行くぜ! 俺様のターンだ!」(手札5→6枚)
 勢いよくカードを引き、すぐさま手札の1枚に手をかける。
 この状況に、一切の恐怖を感じていないらしい。
「手札から"切り込み隊長"を召喚! さらにこの効果で手札から"クイーンズ・ナイト"を召喚だぜ!」


 切り込み隊長 地属性/星3/攻1200/守400
 【戦士族・効果】
 このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
 相手は表側表示で存在する他の戦士族モンスターを攻撃対象に選択できない。
 このカードが召喚に成功した時、手札からレベル4以下のモンスター1体を特殊召喚できる。


 クィーンズ・ナイト 光属性/星4/攻1500/守1600
 【戦士族】
 しなやかな動きで敵を翻弄し、
 相手のスキを突いて素早い攻撃を繰り出す。


 切り込み隊長:攻撃力1200→600 守備力600→300
 クイーンズ・ナイト:攻撃力1500→750 守備力1600→800

「一気に2体のモンスターを召喚か。やるじゃねぇか影山君!」
「へへっ! 俺様はこれでターンエンドだ!」
『エンドフェイズ時に伏せカード発動だ』
「「っ!?」」


 迷える仔羊
 【通常魔法】
 このカードを発動する場合、
 このターン内は召喚・反転召喚・特殊召喚できない。
 自分フィールド上に「仔羊トークン」(獣族・地・星1・攻/守0)を
 2体守備表示で特殊召喚する。

 子羊トークン×2→特殊召喚(守備)

「へっ! びっくりさせんじゃねぇよ」
「いや、こういう時は気を付けた方がいいぜ影山君」
「……わ、分かった」
 こういう時はたいてい、相手が何か仕掛けてくることが多い。
 今までの経験で、なんとなくそれが分かってくるようになってきたぜ。

-----------------------------------------------
 ドレッド・ルート:16000LP

 場:恐怖で縛る闇の世界(フィールド魔法)
   裏守備モンスター×1
   子羊トークン×2(守備)
   伏せカード1枚

 手札4枚
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 雲井:8000LP

 場:ビッグ・コアラ(攻撃:1350)
   伏せカード1枚

 手札4枚
-----------------------------------------------
 影山:8000LP

 場:切り込み隊長(攻撃:600)
   クイーンズ・ナイト(攻撃:750)

 手札4枚
-----------------------------------------------

『俺っちのターン!』(手札4→6枚)
 カードを引いた瞬間、ドレッド・ルートは笑った。
 やっぱり、なんか仕掛けてくる気か……!
『手札から"俊足のギラザウルス"を特殊召喚する!』
「っ!」


 俊足のギラザウルス 地属性/星3/攻1400/守400
 【恐竜族・効果】
 このカードは手札から特殊召喚する事ができる。
 この効果で特殊召喚に成功した時、
 相手は相手の墓地に存在するモンスター1体を
 選択して特殊召喚する事ができる。


「特殊召喚モンスターか。だけどそれにはデメリットがあるのは知ってるぜ! そいつが特殊召喚されたことで、俺は墓地から"ミニ・コアラ"を守備表示で特殊召喚だ!」
『ふん。だったらこれでどうだ! 裏守備モンスターと子羊トークン2体をリリースする!』
「なっ!?」
 3体のモンスターをリリースだと!?
 いったい、何が――――


 神獣王バルバロス 地属性/星8/攻3000/守1200
 【獣戦士族・効果】
 このカードはリリースなしで通常召喚する事ができる。
 この方法で通常召喚したこのカードの元々の攻撃力は1900になる。
 また、このカードはモンスター3体をリリースして召喚する事ができる。
 この方法で召喚に成功した時、相手フィールド上に存在するカードを全て破壊する。

「しまっ……!」
『3体リリースして召喚したバルバロスの効果で、お前らの場のカードをすべて破壊する!!』
 現れた神に仕えし獣が、手に持った螺旋状の槍を天へ向ける。
 その槍から暴風が吹き荒れ、真空の刃を含んだ突風が襲い掛かった。

 ビッグ・コアラ→破壊
 ミニ・コアラ→破壊
 黄金の邪神像→破壊
 切り込み隊長→破壊
 クイーンズ・ナイト→破壊

「そ、そんな……!」
「まだだぜ! 相手によって破壊された"黄金の邪神像"は、モンスターとして特殊召喚される!」


 黄金の邪神像
 【通常罠】
 セットされたこのカードが破壊され墓地に送られた時、自分フィールド上に
 「邪神トークン」(悪魔族・闇・星4・攻/守1000)を1体特殊召喚する。



『へぇ、全体破壊効果の直後にモンスターを場に残すとはね。なかなかやるじゃないか。だがこっちだってまだ終わってないぞ。リリースした"ダンディライオン"の効果発動!』


 ダンディライオン 地属性/星3/攻300/守300
 【植物族・効果】
 このカードが墓地へ送られた時、自分フィールド上に「綿毛トークン」
 (植物族・風・星1・攻/守0)2体を守備表示で特殊召喚する。
 このトークンは特殊召喚されたターン、アドバンス召喚のためにはリリースできない。


 綿毛トークン×2→特殊召喚(守備)

『これで次のモンスターを召喚するためのリリース素材も確保できたぞ』
「ちっ、そういうデッキかよ」
「雲井さん、どういうこと?」
「相手のデッキは上級モンスターを召喚して攻めてくるデッキだってことだぜ。あのフィールド魔法でこっちの攻守は半分になっちまうから、ただの上級モンスターでもかなり脅威になるみたいだ」
「そ、そっか……」
「けどそんなの関係ねぇぜ。半分にされちまうなら、半分にされても問題ない攻撃力を持っているモンスターを場に出せばいいだけだ!!」
「なるほど! 分かったぜ雲井さん!」
『ふふっ、単純な思考回路だな。だけどそういう子供的な発想は嫌いじゃない。さてバトルに入ろうか?』
「っ!」
『バトルだ! 2体のモンスターで影山に攻撃!!』
 力強い咆哮をあげて、ドレッド・ルートのモンスターが影山君に襲い掛かる。
 闇の世界が発生している状況で、決闘でのダメージは現実のダメージに変換されてしまう。
 小学生の影山君に、それが耐えられるかどうか分からねぇ!
(ライガー! どうにかなんねぇのか!?)
(……衝撃だけなら消すことはできるが、ダメージ自体は無効にはできないぞ)
(なんでもいいから早くやりやがれ!)
(我儘な小僧だ)
 内側から溜息が聞こえたと同時に、俺の左手から獅子のオーラが放たれて影山君の体を覆った。
 2体のモンスターが攻撃を加えるが、獅子のオーラに阻まれて直撃することは無かった。

 影山:8000→6600→3600LP

「わ、わりぃ雲井さん! ライフが……!」
「大丈夫か!? 痛くないか!?」
「え? あ、ああ、いくらリアリティがあるからって、痛みなんかあるわけないじゃん?」
「そうか。なら良かったぜ」
(あまり楽観するなよ小僧。対象の体が小さかったから全身をなんとか覆えただけだ。しかも今の我の力では、4000ポイント以上のダメージの衝撃は掻き消すことはできないからな) 
 問題ねぇ。要するに、先に相手をぶっ飛ばせばいいだけだぜ!!
 とりあえず、次の俺のターンでなんとかしねぇとだな。
『カードを1枚伏せて、ターンエンドだ』

-----------------------------------------------
 ドレッド・ルート:16000LP

 場:恐怖で縛る闇の世界(フィールド魔法)
   神獣王バルバロス(攻撃:3000)
   俊足のギラザウルス(攻撃:1400)
   綿毛トークン×2(守備:0)
   伏せカード2枚

 手札3枚
-----------------------------------------------
 雲井:8000LP

 場:黄金の邪神像(守備:500)

 手札4枚
-----------------------------------------------
 影山:3600LP

 場:なし

 手札4枚
-----------------------------------------------

「いくぜ! 俺のターン!!」(手札4→5枚)
 影山君のライフはもう半分を切っている。
 ここで俺が相手の戦力を削ることが出来なきゃ、次の相手ターンで影山君がやられちまう。
「手札から"エアーズ・ロック・ザンライズ"を発動するぜ!!」


 エアーズロック・サンライズ
 【通常魔法】
 「エアーズロック・サンライズ」は1ターンに1枚しか発動できない。
 (1):自分の墓地の獣族モンスター1体を対象として発動できる。
 その獣族モンスターを特殊召喚し、
 相手フィールドのモンスターの攻撃力はターン終了時まで、
 自分の墓地の獣族・鳥獣族・植物族モンスターの数×200ダウンする。



「この効果で、墓地から"ビッグ・コアラ"を特殊召喚だ!」
 フィールドに出現した巨大な丘から、巨大なコアラが出現した。


 ビッグ・コアラ 地属性/星7/攻撃力2700/守備力2000
 【獣族】
 とても巨大なデス・コアラの一種。
 おとなしい性格だが、非常に強力なパワーを持っているため恐れられている。


『へぇ、上級モンスターを蘇生したか』
「まだだぜ! "エアーズ・ロック・サンライズ"の効果で、相手モンスターは俺の墓地にいる獣族モンスター×100ポイントの攻撃力が下がる! あいにく墓地には1体しかいねぇが、それでもてめぇのモンスターの攻撃力は下がるぜ!」

 神獣王バルバロス:攻撃力3000→2900
 俊足のギラザウスル:攻撃力1400→1300

「すげぇ!」
「まだまだこれから! "融合呪印生物−地"を召喚だ!!」


 融合呪印生物−地 地属性/星3/攻1000/守1600
 【岩石族・効果】
 このカードを融合素材モンスター1体の代わりにする事ができる。
 その際、他の融合素材モンスターは正規のものでなければならない。
 フィールド上のこのカードを含む融合素材モンスターをリリースする事で、
 地属性の融合モンスター1体を特殊召喚する。


「こいつとビッグ・コアラを墓地に送って、エクストラデッキから"マスター・オブ・OZ"を特殊召喚するぜ!!」
『っ!?』


 マスター・オブ・OZ 地属性/星9/攻撃力4200/守備力3700
 【獣族・融合】
 「ビッグ・コアラ」+「デス・カンガルー」

 マスター・オブ・OZ:攻撃力4200→2100 守備力3700→1850

『切り札の登場か。でも俺っちの闇の世界の効果で脅威にはならないな』
「やってみなくちゃ分からないぜ! とりあえずバトルだ! OZでギラザウルスに攻撃だ!!」
 攻守は半減させられているけど、ドレッド・ルートの場には攻撃力1400のモンスターがいるからな。
 そいつを戦闘で破壊すればダメージを与えられるぜ!
『させないぞ。伏せカード発動!!』


 地縛霊の誘い
 【通常罠】
 相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
 攻撃モンスターの攻撃対象はこのカードのコントローラーが選択する。


『これであんたのモンスターの攻撃対象をトークンからバルバロスへ変更する!!』
 恐竜に襲い掛かったチャンピオンの前に、相手の神獣王が立ちふさがる。
 やっぱり罠を伏せていやがったか。
 だけど、それくらいなら全然問題ないぜ!!
「ダメージステップに手札から速攻魔法を発動だ!」
『なに!?』


 野性解放
 【通常魔法】
 フィールド上に表側表示で存在する獣族・獣戦士族モンスター1体の攻撃力は、
 そのモンスターの守備力の数値分だけアップする。
 エンドフェイズ時そのモンスターを破壊する。

 マスター・オブ・OZ:攻撃力2100→4200→7900→3950

「あ、あれ? なんで攻撃力が……?」
「ああ。相手の攻守半減の効果は、攻撃力を変動したあとに適応されるんだぜ」
「え、えっと、そうか。前に先生が言ってたな」
「よく勉強してるじゃねぇか! バトル続行だぜ!!」
 力を増幅したチャンピオンの拳が神獣王を打ち砕く。
 それによって発生した衝撃が、ドレッド・ルートまで届いていく。
『くっ!』

 神獣王バルバロス→破壊
 ドレッド・ルート:16000→14950LP

『なかなかやるじゃん。さすが地の神の所有者ってところか』
「これでてめぇの切り札は倒したぜ! カードを2枚伏せて、ターンエンドだ」
『だけど、あんたの切り札も"野生解放"の効果で破壊される』

 マスター・オブ・OZ→破壊

「……」
 たしかに相手のモンスターは破壊できたけど俺のモンスターも墓地へ行ってしまった。
 とりあえずやれることはやった。影山君に頑張ってもらうしかないか。

-----------------------------------------------
 ドレッド・ルート:14950LP

 場:恐怖で縛る闇の世界(フィールド魔法)
   俊足のギラザウルス(攻撃:1400)
   綿毛トークン×2(守備:0)
   伏せカード1枚

 手札3枚
-----------------------------------------------
 雲井:8000LP

 場:黄金の邪神像(守備:500)
   伏せカード2枚

 手札0枚
-----------------------------------------------
 影山:3600LP

 場:なし

 手札4枚
-----------------------------------------------

「俺様のターンだ!! しゃあ!」(手札4→5枚)
 影山君はカードを引いた瞬間、大声で喜びを表現した。
 なんかいいカードを手に入れたみたいだな。
「手札から"死者蘇生"を発動するぜ! 墓地にいる"クイーンズ・ナイト"を特殊召喚!」


 死者蘇生
 【通常魔法】
 自分または相手の墓地からモンスター1体を選択して発動する。
 選択したモンスターを自分のフィールド上に特殊召喚する。


 クィーンズ・ナイト 光属性/星4/攻1500/守1600
 【戦士族】
 しなやかな動きで敵を翻弄し、
 相手のスキを突いて素早い攻撃を繰り出す。


「"キングス・ナイト"も召喚だ!」


 キングス・ナイト 光属性/星4/攻1600/守1400
 【戦士族・効果】
 (1):自分フィールドに「クィーンズ・ナイト」が存在し、
 このカードが召喚に成功した時に発動できる。
 デッキから「ジャックス・ナイト」1体を特殊召喚する。


「キングス・ナイトの効果発動! デッキから"ジャックス・ナイト"を特殊召喚するぜ!!」


 ジャックス・ナイト 光属性/星5/攻1900/守1000
 【戦士族】
 あらゆる剣術に精通した戦士。
 とても正義感が強く、弱き者を守るために闘っている。


 並び立つ3人の騎士。
 たしか、絵札の三騎士ってやつだ。戦士族モンスターでも有名どころだ。
 まさかとは思ったけど、影山君はそれを使うデッキだったのか。
『すごい展開力だな。だけど、それじゃあ終わらないんだろ?』
「あたりまえだぜ! 手札から"融合"を発動だ!!」


 融合
 【通常魔法】
 手札・自分フィールド上から、融合モンスターカードによって決められた
 融合素材モンスターを墓地へ送り、その融合モンスター1体を
 エクストラデッキから特殊召喚する。


『やっぱりか』
「前に決闘したときにも召喚したから分かってんだろ! 融合召喚! "アルカナ・ナイト・ジョーカー"!!」


 アルカナ ナイトジョーカー 光属性/星9/攻3800/守2500
 【戦士族・融合/効果】
 「クィーンズ・ナイト」+「ジャックス・ナイト」+「キングス・ナイト」
 このカードの融合召喚は上記のカードでしか行えない。
 (1):1ターンに1度、フィールドのこのカードを対象とする、
 モンスターの効果・魔法・罠カードが発動した時、
 そのカードと同じ種類(モンスター・魔法・罠)の手札を1枚捨てて発動できる。
 その効果を無効にする。


 アルカナ ナイトジョーカー:攻撃力3800→1900 守備力2500→1250

「バトルだ!」
 騎士の頂点に立つ存在の一閃が、相手の場にいる恐竜を切り裂いた。

 俊足のギラザウルス→破壊
 ドレッド・ルート:14950→14450LP

「どうだ! これが俺様の実力だぜ!!」
『やるじゃないか。でも、俺っちの闇の世界で威力は半減だな』
「っ、じゃあ俺様はカードを2枚伏せてターンエンドだ!」

-----------------------------------------------
 ドレッド・ルート:14450LP

 場:恐怖で縛る闇の世界(フィールド魔法)
   綿毛トークン×2(守備:0)
   伏せカード1枚

 手札3枚
-----------------------------------------------
 雲井:8000LP

 場:黄金の邪神像(守備:500)
   伏せカード2枚

 手札0枚
-----------------------------------------------
 影山:3600LP

 場:アルカナ ナイトジョーカー(攻撃:1900)
   伏せカード2枚

 手札0枚
-----------------------------------------------

『俺っちのターン! ドロー!!』(手札3→5枚)
 ドレッド・ルートはカードを引く。
 このままなら一気に押し切れるが、どう来る……?
『手札から"幻銃士"を召喚だ!』


 幻銃士 闇属性/星4/攻1100/守800
 【悪魔族・効果】
 このカードが召喚・反転召喚に成功した時、
 自分フィールド上に存在するモンスターの数まで自分フィールド上に
 「銃士トークン」(悪魔族・闇・星4・攻/守500)を特殊召喚する事ができる。
 また、自分のスタンバイフェイズ毎に自分フィールド上に表側表示で存在する
 「銃士」と名のついたモンスター1体につき相手ライフに300ポイントダメージを与える事ができる。
 この効果を発動するターン、自分フィールド上に存在する
 「銃士」と名のついたモンスターは攻撃宣言をする事ができない。


 銃士トークン×2→特殊召喚(守備)

『俺っちの場にモンスターは合計3体いる。だけどフィールドに空きは無いから、トークンは2体特殊召喚だ。これで俺っちの場には5体のモンスターが揃った!』
「へっ! でもお前は召喚権を使っちまったぜ!」
『ならこれでどうだ?』
 そう言ってドレッド・ルートは伏せカードを開く。
 一瞬で影山君の表情が暗くなった。


 血の代償
 【永続罠】
 500ライフポイントを払う事で、モンスター1体を通常召喚する。
 この効果は自分のメインフェイズ時及び
 相手のバトルフェイズ時にのみ発動する事ができる。


「召喚権を増やすカードか!」
『その通り! 500ライフポイントを払い、3体のモンスターをリリース!!』
「またバルバロスか!?」
『違うね。召喚するのは……俺っち自身さ!!』
「!!」
 相手の場にいる3体のモンスターが消え、禍々しい気配が辺りを支配する。
 禍々しい翼が広がり、頭部には2本の曲がった太い角。屈強な全身の肉体に圧倒的な威圧感。
 すべてを恐怖で支配する魔人が、現れた。


 邪神ドレッド・ルート 闇属性/星10/攻4000/守4000
 【悪魔族・効果】
 このカードは特殊召喚できない。
 自分フィールドのモンスター3体をリリースした場合のみ通常召喚できる。
 (1):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、
 このカード以外のフィールドのモンスターの攻撃力・守備力は半分になる。


 ドレッド・ルート:14450→13950LP
 黄金の邪神像:守備力500→250
 アルカナ ナイトジョーカー:攻撃力1900→950

「く、雲井さん……!」
『これが俺っちの切り札だ。闇の世界の効果と合わせて、あんたたちのモンスターの攻守は4分の1になる!』
「まだだ! 影山君! 伏せカードで何か使えるのは無いか!?」
「っ! そ、そうだった! 伏せカード発動だぜ!」


 落とし穴
 【通常罠】
 相手が攻撃力1000以上のモンスターの召喚・反転召喚に
 成功した時に発動する事ができる。
 その攻撃力1000以上のモンスター1体を破壊する。


『へぇ、そんなカードを伏せていたか』
「これでその切り札を破壊だ!」
『させないね。手札から速攻魔法発動』


 我が身を盾に
 【速攻魔法】
 1500ライフポイントを払って発動する。
 相手が発動した「フィールド上のモンスターを破壊する効果」を持つ
 カードの発動を無効にし破壊する。

 ドレッド・ルート:13950→12450LP
 落とし穴→無効→破壊

「くそっ!」
『さらに500ライフポイントを払い、2体のモンスターをリリース!』
 畳み掛けるようにドレッド・ルートはモンスターを召喚する。
 現れたのは体の一部を機械に変えられた、巨大な恐竜だった。


 超伝導恐獣 光属性/星8/攻3300/守1400
 【恐竜族・効果】
 1ターンに1度、自分フィールド上に存在するモンスター1体をリリースする事で、
 相手ライフに1000ポイントダメージを与える。
 この効果を発動するターン、このカードは攻撃宣言をする事ができない。


 超伝導恐獣:攻撃力3300→1650 守備力1400→700

『ドレッド・ルートの効果でこいつの攻守も半分になっちまうけど、4分の1になっているあんたたちのモンスターに比べたらマシだな。バトルだ!!』
「させねぇぜ!!」


 グラヴィティ・バインド−超重力の網
 【永続罠】
 フィールド上に存在する全てのレベル4以上のモンスターは攻撃をする事ができない。


「これでてめぇのモンスターは攻撃できねぇ!」
「ありがとう雲井さん!」
『まだだな。速攻魔法発動』
「っ!?」


 サイクロン
 【速攻魔法】
 フィールド場の魔法または罠カード1枚を破壊する。


 グラヴィティ・バインド−超重力の網→破壊

 くそったれ。また速攻魔法かよ!
 まずい。このままじゃ影山君のライフが……!!
『ドレッド・ルートで"アルカナ・ナイト・ジョーカー"に攻撃だ!』
「影山君!」
「っ、させっかよ! 伏せカード発動だ!」


 パワー・フレーム
 【通常罠】
 自分フィールド上に表側表示で存在するモンスターが、
 その攻撃力よりも高い攻撃力を持つモンスターの
 攻撃対象に選択された時に発動する事ができる。
 その攻撃を無効にし、このカードを攻撃対象モンスター1体に装備する。
 装備モンスターの攻撃力は、
 その時の攻撃モンスターと攻撃対象モンスターの攻撃力の差の数値分アップする。


『ん?』
「これでそいつの攻撃力を無効にして、その差分の攻撃力をアップさせる!」
『はっはっは! 防いだところでどうする? どうせ4分の1になって、弱小モンスターになり下がるだけだ!』
「くっそー!」
 大声をあげて笑うドレッド・ルート。
 たしかに、"パワー・フレーム"な強力なカードだけど4分の1になるんじゃ――――

「っ!!」

 その瞬間、思考の隅で閃光が走ったような気がした。
 合宿で学んだこと。カードの”使い方”を、きちんと理解すること。
(気づいたか小僧)
 ああ。合宿前の俺だったら、こんな使い方、思いつかなかったぜ。

「まだだぜ!」
「雲井さん……」
『悪あがきか? そこの小学生とタッグを組んだ時点で、あんたらの敗北は決定していたんだよ』
「そんなことねぇぜ。いつの間にか、勝利のピースは揃っていたんだからな!!」
『なんだって?』
「伏せカード発動だ!!」












 デステニーブレイク
 【速攻魔法・デッキワン】
 雲井忠雄の使用するデッキにのみ入れることが出来る。
 2000ライフポイント払うことで発動できる。そのとき、以下の効果を使用できる。
 ●このターンのエンドフェイズ時まで、モンスター1体の攻撃力を100000にする。
  ただしそのモンスターが戦闘を行うとき、プレイヤーに発生する戦闘ダメージは0になる。
 デッキの上からカードを10枚除外することで発動できる。そのとき、以下の効果を使用できる。
 ●このカードを発動したターンのバトルフェイズ中、相手のカード効果はすべて無効になる。


「個人名義のデッキワンカード!?」
『っ!? 効果を無効にしようってか? そんなことしたところで一時凌ぎにしか―――』
「俺が使うのは、攻撃力を100000にする効果だ!」

 邪神ドレッド・ルート:攻撃力4000→100000
 雲井:8000→6000LP

「攻撃力100000!? そんなモンスターに攻撃されたら俺様は―――」
「大丈夫だぜ。この効果で攻撃力が100000になったモンスターとの戦闘ではダメージが発生しない。なにより影山君の"パワーフレーム"の効果で、攻撃は無効になるしな」
「じゃあどうしてそのカードを………あっ!」
 影山君も気づいたみたいだった。
 向かい側にいるドレッド・ルートも、俺がデステニーブレイクを発動した理由が分かったみたいだぜ。
『き、貴様……!!』
「攻撃力100000になったドレッド・ルートの攻撃は"パワーフレーム"に効果で無効になる。そしてその攻撃力の差、つまり99050ポイントがアルカナ・ナイト・ジョーカーに加算されるぜ!!」

 アルカナ・ナイト・ジョーカー:攻撃力950→3800→102850→25713

「す、すげぇ! 俺様のモンスターがすげぇ攻撃力に……!」
『くっ……!』
 俺としたことが、深く考えすぎちまったみたいだぜ。
 たとえ相手が攻撃力を4分の1にしてこようが、減少されても問題ない攻撃力を出せば問題ないってことに今まで気づかなかったんだからな。
「一度は勝ったからって、影山君の実力を甘く見たてめぇの負けだぜドレッド・ルート」
『……………ここまで……か……』
 がっくりと肩を落として、ドレッド・ルートは言った。
 手札が無い以上、これ以上はターンを続けても意味は無い。
『ターン……エンド……』

 邪神ドレッド・ルート:攻撃力100000→4000

-----------------------------------------------
 ドレッド・ルート:12450LP

 場:恐怖で縛る闇の世界(フィールド魔法)
   邪神ドレッド・ルート(攻撃:4000)
   超伝導恐竜(攻撃:1650)
   血の代償(永続罠)

 手札0枚
-----------------------------------------------
 雲井:6000LP

 場:黄金の邪神像(守備:500)

 手札0枚
-----------------------------------------------
 影山:3600LP

 場:アルカナ・ナイト・ジョーカー(攻撃:25713)
   パワーフレーム(通常罠:装備扱い)

 手札0枚
-----------------------------------------------

「俺のターン、ドロー」(手札0→1枚)
 引いたカードは、1週間前に彩也香に貰ったカードだった。
 俺のデッキのどんな場面で使えばいいのかは、未だにわからない。
 それに、この状況で使う意味は無い。
「あとは頼んだぜ影山君」
「おう!」
「ターンエンドだ」



「へへっ! 俺様のターン!」(手札0→1枚)
 勢いよくカードを引き、影山君はバトルフェイズに入った。
 強大な力を得た騎士の刃が、邪神を真っ二つに切り裂いた。


 邪神ドレッド・ルート→破壊
 ドレッド・ルート:12450→0LP




 相手のライフが0になり、決闘は終了した。





『あーあ、負けちまったか……まぁ地の神の所有者が相手じゃ仕方ないか』
『そういうことだな』
 いつの間にか子犬モードになっていたライガーが、口を開ける。
 霧となっていくドレッド・ルートの体から発せられる闇が、その口に吸い込まれていった。

「……喰わなきゃ駄目だったのかよ」
『同情か? おかしなことを言うな。貴様ら人間だって、様々の生き物の命を喰らっているではないか』
「……………そうだな。悪かったぜ……」
『ふん』

 辺りを覆っていた闇が晴れ、周囲を囲んでいた子供たちが一斉に意識を取り戻す。
 とりあえず、ここで俺が言うべきことは一つだ。

「みんなぁ! 今日の遊びはここまでにして、安全に家に帰れぇ!!」

 俺の言葉をきっかけに、子供たちはぞろぞろと公園を出ていく。
 とりあえずこれで、元通りになったってことなんだよな。

「雲井さん!」
 デュエルディスクをたたんで、影山君が近くに寄ってきた。
 なんだかんだ言って、決闘も彼がいなきゃじゃ厳しかったな。

「助かったぜ影山君」
「へへへっ! 俺様は最強だからな! 雲井さんもなかなかやるな! あのデッキワンカードすごかった!!」
「当たり前だぜ。ただあんまり他の人に言わないでくれよ。これは影山君と俺の秘密ってことでいいだろ」
「ああ! こんな最高のヒーローショー、俺様は今まで経験したことないぜ!」
 そういえば影山君はこれをなんかのショーだと思ってたんだったな。
 今にして思えば、我ながらよく演技が出来たものだ。
「次はいつやるんだ!? 今度も絶対に観に行くから!」
「あ、ああ。まだ決まってないから、その……またいつか、ってやつだぜ」
「カッコいいなその台詞! じゃあ楽しめたし、俺様は帰るな」
「気を付けて帰ってくれよ」
「うん!」
 そう言って影山君は大きく手を振って、出口へ向かう。
 だが彼は途中で歩を止め、何かを思い出したようにこっちを向いた。
「あっ、そうだ雲井さん!!」
「なんだ?」

「ママが言ってたんだけど、カラーコンタクトはすぐに外した方がいいらしいぜ?」
「俺はカラーコンタクトなんてしてないぜ?」

「嘘だぁ〜。だってお兄さんの瞳、”両方”真っ赤だぜ?




 
 ………………………え?






「それじゃあな雲井さん!」
 影山君は大きく手を振って、公園を出ていって。


「…………」
 不意に、決闘前にドレッド・ルートが言っていた言葉が浮かんできた。


『へぇ、”目の色”が変わったな』


 あの言葉がもし比喩ではなく、そのままの意味だったとしたら………。
 いや、そんなはずはない。
 でも……ライガーはデッキに入っていたから、瞳が赤くなるはずは無い。
 だとしたら……。

『どうした小僧?』
「……ライガー……決闘中に、俺の体の中に入ったりしてねぇよな?」
『当然だろう。我はカード化してデッキに入っていたんだからな』
「今の影山君の言葉、聞こえてたか?」
『……………』
 ライガーの沈黙がやけに長く感じた。
 やがて溜息と共に、ライガーは口を開く。
『心配することではない。小森彩也香の時と違って、我は貴様を乗っ取ろうというつもりはないしな』
「…………今の俺の瞳、何色だ?」
『黒だ』
「そ、そうか」
『さっさと帰るぞ。スターに見つかれば言い訳が面倒だからな』
「……あ、あぁ……」

 影山君の見間違いだったのかもしれない。

 ドレッド・ルートの言葉も、単なる比喩表現だったのかもしれない。

 それでも頭の片隅に、小さな不安のようなものが生まれてしまったのは、確かだった。




episode11――伊月VSアバター――

「さてと、本社の伝えてくれたポイントはここら辺ですかね」

 携帯の地図で現在地を確認しつつ、伊月は辺りを見回した。
 雲井と影山が戦っている頃、スターは本社から伝えられた情報を元に闇の力を持った存在の対処に向かっていた。
 佐助は本社から直接指示を出し、薫と伊月の二人が対処する形式だ。

 やって来たのは高層ビルの立ち並ぶ都市部。
 部下の人間に頼み、辺りの人払いは済んでいる。

 出来るだけ広く見渡せる大きな交差点の中心。
 伊月は大きく深呼吸をして、自身の肉体へ白夜の力を集中させた。
 同時に武器である2丁拳銃も取り出し、白夜の力を弾として籠める。
 
「佐助さん、反応はどうですか?」
『駄目だな。闇の力がそこらに集中しているが、正確な位置まで把握できない』
 通信機から聞こえてくる不機嫌そうな声。
 どうやらここから先は、自分の力でどうにかするしかないようだ。
「ありがとうございます。あとはこちらで何とかしますよ」
『すまんな。状況が変わったら教えてくれ』
「了解しました」
 両手に持った拳銃を構え直し、周囲をゆっくりと見渡した。
 そしておもむろに右の拳銃を北西傾斜約45度で構え、連射した。
 ズガガッ! と連射された光の弾丸がビルに当たり乱反射をする。
 そして3秒経って左の銃を北東傾斜約−20度に構えて連射した。
 地面に跳ね返り、ビル、信号機を当たって乱反射する弾幕。手当たり次第に発射され、物体に乱反射する光の弾丸は当然、伊月へ向かっても飛んでくる。
 だが彼は一切動こうとせず、ひたすら銃を撃ち続けた。
 不思議なことに、乱反射する弾幕の1つたりとも、伊月本人に当たっていない。

 伊月は薫や佐助のように、白夜の力を用いた身体能力の強化をほとんど行っていない。
 強化するとしても脚力や移動補助などの機動力のみだ。
 そのため、防御や攻撃に用いる分の白夜の力を別の強化に用いている。
 彼が強化しているのは、動体視力や聴覚。俗にいう”感覚神経”を強化している。
 ウサギや猫など、動物は天敵となる動物から逃げられるように相手の気配を察することが出来るといわれている。個人差はあるが、人間も同様に気配を察することが出来る。
 二人一組になって片方が目を閉じ、もう片方が好きなタイミングで額に人差し指を近づけていくと、目を閉じていても何かが近づいてくるような感覚が得られることは広く知られている。

 伊月は鋭敏になった感覚で、視覚外の情報を取り入れることが出来る。
 合宿中、森の中で逃げる雲井へ向けて的確な射撃を行うことが出来たのも、ひとえにこの力のおかげだった。
 全身の感覚が研ぎ澄まされることで、自分以外の世界がゆっくりと動くような奇妙な感覚を得る。
 迫りくる弾幕の気配を察し、当たらないようにすることなど造作も無かった。
 当然、この乱反射させた弾幕も無意味ではない。
 闇の力が観測された地点に赴いても何も発見できなかったのは、敵が隠れているか姿を消しているかのどちらかだ。
 ダミーの可能性も考えられたが、ここに来てから”何か”が動く気配を感じたのですぐに否定した。

「そろそろ出てきてくれませんかね? 乱反射弾幕で、あなたの位置は分かっていますよ?」
 
 誰にとは言わず、空中にいる何かに語りかける。
 弾幕は弾性とマーキング能力を兼ねた混成弾。跳弾性能はさることながら闇の力を持つ物体に当たるとペイントボールのように付着する効果を付けた。
 貫通性や曲射性は極限まで抑え、街への被害を無くしてある。

 伊月が見据える先に、多くの弾を受けて発光する存在がいた。

『あらぁ、厄介な敵に捕まってしまったようねぇ』

 そいつはゆっくりと地面に降り立つと、姿を現した。
 黒と茶の混じった髪が目にかかるか、かからない程度に伸びている。目は細く瞳の色は黒い。

「僕?」

 その姿は伊月にそっくりだった。
 口調は似ていないがその容姿だけは彼と酷似していた。
『あらぁ、結構いい男じゃなぁい』
「おやおや、ずいぶんと面倒な相手のようですね。お名前は?」
『私ぃ? アバターよぉ』
 アバターと名乗ったその存在は、服装まで伊月そっくりだった。
 その胸には闇の結晶が身に着けてある。
「佐助さん、敵と遭遇しました」
『そうか。やり方は任せるが、倒せよ』
「もちろんですよ」
 通信を切り、伊月は静かにデュエルディスクを構えた。
 実力行使による排除も視野に入れたが、それでは街に被害が出そうなので止めた。
『あらぁ、決闘で勝負するのぉ?』
「そうですよ。あなたもそのために姿を現したのでしょう?」
『そうねぇ。アダム様からは好き勝手に暴れて来いって言われたしねぇ』
「あなた達は、アダムから生み出されたということですか?」
『ええ。スターのリーダーさんがやるように、闇の力によるモンスターカードの具現化。普通の人間がするのと違って、アダム様の場合はモンスターカードを決闘者として具現化できるみたいだけどね』
「目的は?」
『さすがにそこまで教える義理はないわぁ』
 アバターはそう言って右腕を付きだす。
 そこへ闇が纏わりつき、デュエルディスクへと変化した。



『「決闘!!」』



 伊月:8000LP   アバター:8000LP



 決闘が、始まった。



『デッキからフィールド魔法を発動するわぁ』
 アバターのデッキから深い闇が溢れだす。
 周囲を覆い尽くすほどの規模。今までの敵とは違うことを、伊月はすぐに認識した。

 
 模倣する闇の世界
 【フィールド魔法】
 このカードはデュエル開始時に、デッキまたは手札から発動する。
 このカードはフィールドから離れない。
 このカードがフィールドに表側表示で存在する限り、
 自分の場のモンスターの攻撃力はフィールド上に存在する
 元々の攻撃力が最も高いモンスターの攻撃力より100ポイント高い攻撃力になる。



「なるほど、アバタ―の名を持つだけあって、闇の世界もそういう効果ですか」
『そうよぉ。アダム様から具現化された私達には、その名に見合った闇の世界がもたらされている。他の仲間も、今頃あなたたちスターと戦っているんじゃないかしらぁ?』
「敵に情報を与えるとは、ずいぶんと余裕ですね」
『あらぁ、教えなくてもあなたくらいの頭脳があれば察しはつくでしょう?』
「………」
『それじゃあ、私のターン、ドロー』(手札5→6枚)
 アバターは軽やかな手つきでカードを引いた。
 そしてすぐさま、デュエルディスクの青いボタンを押す。
『デッキワンサーチシステムを発動するわぁ』(手札6→7枚)
「……僕もデッキからカードを引かせてもらいますよ」(手札5→6枚)
 最初のターンからのデッキワンサーチ。
 自身も行う戦術であるため、伊月は意識を集中して相手の出方をうかがう。
 アバターは妖しい笑みを浮かべ、サーチしたカードをデュエルディスクに置いた。


 堕天使の楽園
 【永続魔法・デッキワン】
 ライフポイントを回復する効果をもつカードが15枚以上入っているデッキにのみ入れることができる。
 お互いのプレイヤーは自分のスタンバイフェイズ時に、手札1枚につき500ライフポイント回復する。
 1ターンに1度、デッキ、または墓地から「堕天使」または「シモッチ」と
 名のつくカード1枚を手札に加えることが出来る。
 このカードが破壊されるとき、1000ライフポイントを払うことでその破壊を無効にする。


「っ!」
『あらあら、あなたはシモッチバーンのデッキなのねぇ』
「……まさか僕のデッキをコピーしたのですか?」
『アバターは固有の形をもたない存在。私は姿だけじゃなく、デッキまでその性質を受けている。さぁスターの伊月さん? ミラーマッチを楽しみましょう? もっとも……私の方が闇の世界がある分、有利のようだけどねぇ』
「………」
 背中に嫌な汗が流れた。
 もし本当にデッキをコピーされているとしたら、デッキの性能はほぼ互角と考えていいだろう。だが相手には"模倣する闇の世界"が存在し、常にこちらの攻撃力を上回ってくる。幸いにも伊月のデッキは攻撃力に頼るデッキではないから被害は少ないが、他の決闘者が戦えば敗北は必至だろう。
(やれやれ……どうにも僕は貧乏くじを引きがちですねぇ)
 自身の不運を嘆きつつも、冷静に状況を見つめる。
 発動されたデッキワンカードは、シモッチバーンのデッキ特性を大幅に高める。
 少しの油断が命取りになるだろう。
『楽園の効果で、デッキから"シモッチの副作用"をサーチしますね』(手札6→7枚)
「やはり、そう来ますか」
『ふふっ"堕天使ナース レフィキュル"を召喚しますわ』
 広がる漆黒の羽。
 全身を包帯で包まれた堕天使が、フィールドに舞い降りた。


 堕天使ナース−レフィキュル 闇属性/星4/攻1400/守600
 【天使族・効果】
 このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、相手のライフポイントが回復する効果は、
 相手のライフポイントにダメージを与える効果になる。


『そして"模倣する闇の世界"の効果で、攻撃力があがりますわぁ』
 アバターの展開するカードから、黒い霧が溢れて場にいるモンスターに取り込まれていく。
 不気味な黒霧を体から発し、どこか虚ろな瞳でモンスターは笑った。

 堕天使ナース レフィキュル:攻撃力1400→1500

『カードを3枚伏せて、ターンエンドですわぁ』



 アバターのターンが終了して、伊月へターンが移った。



「僕のターン、ドロー」(手札6→7枚)
『スタンバイフェイズに"堕天使の楽園"の効果を発動。あなたのライフを3500回復させるわぁ』
「さすがにそんな大ダメージを受けるわけにはいきませんね。手札から"ハネワタ"を捨てて効果発動です」


 ハネワタ 光属性/星1/攻200/守300
 【天使族・チューナー】
 このカードを手札から捨てて発動する。
 このターン自分が受ける効果ダメージを0にする。
 この効果は相手ターンでも発動する事ができる。


 アバターの場から放たれた赤い光が、小さな毛玉のようなモンスターに阻まれて消滅する。
『そう簡単にはいかないみたいねぇ』
「もちろんですよ。では、僕もデッキワンサーチシステムを使用します」
 すぐに伊月はデュエルディスクの青いボタンを押す。
 自動的にデッキからカードが選び出されて、勢いよくそれを引き抜いた。(手札6→7枚)
『私もカードを引かせてもらうわぁ』(手札3→4枚)
「サーチしたデッキワンカード"堕天使の楽園"を発動します!」


 堕天使の楽園
 【永続魔法・デッキワン】
 ライフポイントを回復する効果をもつカードが15枚以上入っているデッキにのみ入れることができる。
 お互いのプレイヤーは自分のスタンバイフェイズ時に、手札1枚につき500ライフポイント回復する。
 1ターンに1度、デッキ、または墓地から「堕天使」または「シモッチ」と
 名のつくカード1枚を手札に加えることが出来る。
 このカードが破壊されるとき、1000ライフポイントを払うことでその破壊を無効にする。


 伊月、アバタ―の場に漆黒の羽が舞い散る光景が浮かび上がる。
 互いに自身のもつデッキワンカードの強力さを知り、一層に気を引き締めた。
「僕は楽園の効果でデッキから"堕天使ナース レフィキュル"をサーチします」
『あらぁ、そっちをサーチするのねぇ』
「ええ。僕はモンスターをセットし、カードを3枚伏せてターンエンドです」

--------------------------------------------
 伊月:8000LP

 場:裏守備モンスター×1
   堕天使の楽園(永続魔法・デッキワン)
   伏せカード3枚

 手札3枚
--------------------------------------------
 アバター:8000LP

 場:模倣する闇の世界(フィールド魔法)
   堕天使ナース レフィキュル(攻撃:1500)
   堕天使の楽園(永続魔法・デッキワン)
   伏せカード3枚

 手札4枚
--------------------------------------------

『私のターン、ドロー』(手札4→5枚)
 ドローフェイズが終わり、スタンバイフェイズに移行する。
 同時に二人の場にある"堕天使の楽園"の効果が発動した。
 回復をダメージへ変えるレフィキュルが場にいるため、伊月の"堕天使の楽園"での回復効果はアバターにとってのダメージとなり、アバタ―の"堕天使の楽園"での回復はそのまま適用される。
 放っておけば、差し引き0でライフは変わらない。
 だがアバターは考える素振りすら見せず、手札から1枚のカードを捨てた。


 ハネワタ 光属性/星1/攻200/守300
 【天使族・チューナー】
 このカードを手札から捨てて発動する。
 このターン自分が受ける効果ダメージを0にする。
 この効果は相手ターンでも発動する事ができる。


『これで効果ダメージは受けない。堕天使の楽園の回復効果にチェーンして発動しましたので、回復量は2500ポイントで確定しますわぁ』

 アバター:8000→10500LP

「おやおや、何もしなくてもライフは変わらないというのに、増やす選択をしましたか」
『うふふ、余裕な表情を見せても無駄ですよぉ。伏せカード"ギフトカード"を発動しますわぁ』


 ギフトカード
 【通常罠】
 相手は3000ライフポイント回復する。

 伊月:8000→5000LP

「ぐっ!」
 不意を突かれた形でダメージを受けてしまった。
 崩れた体制を立て直す間もなく、アバタ―はカードを展開する。
『"キラートマト"を召喚』


 キラー・トマト 闇属性/星4/攻1400/守1100
 【植物族・効果】
 このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、
 自分のデッキから攻撃力1500以下の闇属性モンスター1体を
 自分フィールド上に表側攻撃表示で特殊召喚する事ができる。

 キラートマト:攻撃力1400→1500

『バトル! キラートマトで攻撃!!』
 力をわずかに増した悪魔が大きな口を開けて飛び掛かる。
 守備体制をとっていた伊月のモンスターを引き裂き、楽しそうに笑みを浮かべた。

 キラートマト→破壊

「っ、この瞬間、戦闘で破壊されたキラー・トマトの効果発動です。デッキから"キラートマト"を特殊召喚します」
『あらあら気が合うわねぇ。あなたもそのモンスターだったのね。じゃあ続けてレフィキュルで攻撃!』

 キラートマト→破壊
 伊月:5000→4900LP

「破壊されたキラートマトの効果で、デッキから"クリッター"を特殊召喚!」


 クリッター 闇属性/星3/攻1000/守600
 【悪魔族・効果】
 このカードがフィールド上から墓地へ送られた時、
 自分のデッキから攻撃力1500以下のモンスター1体を手札に加える。


『あらあら、じゃあメインフェイズ2に、使っていなかった楽園のサーチ効果でレフィキュルを手札に加えておくわねぇ。ターンエンドよ』(手札3→4枚)

--------------------------------------------
 伊月:4900LP

 場:クリッター(攻撃:1000)
   堕天使の楽園(永続魔法・デッキワン)
   伏せカード3枚

 手札3枚
--------------------------------------------
 アバター:10500LP

 場:模倣する闇の世界(フィールド魔法)
   堕天使ナース レフィキュル(攻撃:1500)
   キラー・トマト(攻撃:1500)
   堕天使の楽園(永続魔法・デッキワン)
   伏せカード2枚

 手札4枚
--------------------------------------------

「僕のターン、ドロー」(手札3→4枚)
『スタンバイフェイズに"堕天使の楽園"の効果が発動するわぁ』
「おやおや、僕の"堕天使の楽園"の効果も発動しますよ」
『そうねぇ、でも肉体へのダメージはしっかり受けてもらうわぁ!』
 アバターの場から赤い光は放たれて、伊月の左肩を貫く。
 その直後に彼の体を優しい光が包み込み、回復させる。

 伊月:4900→2900→4900LP

「くっ、回復するとは言っても、痛みは感じますからね……」
『いい男が苦痛にゆがむ表情をしていると楽しいわぁ♪』
「……僕は楽園の効果で"堕天使の診察"を手札に加えます」
『白夜のカードかしらぁ? そのカードだけはコピー出来ないみたいなのよねぇ』
「そうですか」
 その言葉を聞いて、伊月は密かに安心する。
 イブの力の一部である白夜のカードだけは、相手の影響を受けないようだ。
 そうであるならば……と伊月は思考し、手札に手をかける。
「僕はカードを1枚伏せて、モンスターをセット、クリッターを守備表示にしてターンエンドです」

--------------------------------------------
 伊月:4900LP

 場:クリッター(守備:500)
   裏守備モンスター×1
   堕天使の楽園(永続魔法・デッキワン)
   伏せカード4枚

 手札3枚
--------------------------------------------
 アバター:10500LP

 場:模倣する闇の世界(フィールド魔法)
   堕天使ナース レフィキュル(攻撃:1500)
   キラー・トマト(攻撃:1500)
   堕天使の楽園(永続魔法・デッキワン)
   伏せカード2枚

 手札4枚
--------------------------------------------

『私のターンよぉ、ドロー』(手札4→5枚)
 アバターがカードを引くと同時に、伊月の場からは光の矢が、アバタ―の場からは光が降り注ぐ。
 ダメージと回復を交互に喰らい、その表情が少しだけ歪んだ。

 アバター:10500→8000→10500LP

「あなたのスタンバイフェイズに、伏せカードを発動します」


 ダーク・キュア
 【永続罠】
 相手がモンスターの召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時、
 そのモンスターの元々の攻撃力の半分の数値分だけ相手ライフポイントを回復する。


 伊月がカードを開くと同時に、アバタ―の周囲に無数の注射器が浮かび上がる。
 その注射器内には様々な色をした液体が入っており、何かあればすぐにでも突き刺してきそうな不気味な雰囲気を漂わせる。
「これであなたがモンスターを出すたびに、回復効果が発動しますよ」
『おやおやぁ? それならぁ、さっさと除去するだけよ』


 トラップ・イーター 闇属性/星4/攻1900/守1600
 【悪魔族・チューナー】
 このカードは通常召喚できない。
 相手フィールド上に表側表示で存在する罠カード1枚を
 墓地へ送った場合のみ特殊召喚できる。

 ダーク・キュア→コスト

「っ!?」
『自分のデッキに入っているカードくらい、ちゃんと覚えておきなさいよぉ』
 余裕の笑みを崩さずに、アバタ―はそう言った。
 続けざまに手札から新たなモンスターが場に召喚される


 トラスト・ガーディアン 光属性/星3/攻0/守800
 【天使族・チューナー】
 このカードをシンクロ素材とする場合、
 レベル7以上のシンクロモンスターのシンクロ召喚にしか使用できない。
 このカードをシンクロ素材としたシンクロモンスターは、
 1ターンに1度だけ、戦闘では破壊されない。
 この効果を適用したダメージステップ終了時、
 そのシンクロモンスターの攻撃力・守備力は400ポイントダウンする。


「っ!」
『青ざめたわねぇ。レベル4のレフィキュルに、レベル3のトラスト・ガーディアンをチューニング!』
 光の輪が出現し、同調していく2体のモンスター。
 やがて光の柱が立ち、その中から神々しい光を放つ白龍が姿を現す。


 エンシェント・ホーリー・ワイバーン 光属性/星7/攻2100/守2000
 【天使族・シンクロ/効果】
 光属性チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上
 自分のライフポイントが相手より上の場合、
 その数値だけこのカードの攻撃力はアップする。
 自分のライフポイントが相手より下の場合、
 その数値だけこのカードの攻撃力がダウンする。
 このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、
 1000ライフポイントを払う事でこのカードを自分フィールド上に特殊召喚する。


『ワイバーンの攻撃力は、ライフが相手を上回っている分だけ上昇する。あなたと私のライフ差は5600……よって―――!!』

 エンシェント・ホーリー・ワイバーン:攻撃力2100→7700→7800
 キラー・トマト:攻撃力1500→7800
 トラップ・イーター:攻撃力1900→7800

 場に存在する闇の世界の力によって、アバターの場にいるすべてのモンスターが白龍と同等の攻撃力を持ってしまう。初期ライフとほとんど変わらないほどの高い攻撃力を持ったモンスターが3体。
 この芳しくない状況に、伊月に額から冷や汗が流れる。
「これは……まずいですね……」
『これで終わりかしらねぇ。バトル! キラー・トマトでクリッターに攻撃!!』
「くっ、伏せカードを発動します!」


 聖なるバリア−ミラーフォース−
 【通常罠】
 相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
 相手フィールド上に存在する攻撃表示モンスターを全て破壊する。


『無駄よぉ。こっちも伏せカード発動!』
「なっ!?」


 盗賊の七つ道具
 【カウンター罠】
 1000ライフポイント払う。
 罠カードの発動を無効にし、それを破壊する。


 アバター:10500→9500LP
 エンシェント・ホーリー・ワイバーン:攻撃力7800→6800
 キラー・トマト:攻撃力7800→6800
 トラップ・イーター:攻撃力7800→6800

『攻撃は続行! いきなさい!』
 禍々しい力を宿した赤い悪魔の牙が、守備体制をとる三つ目の悪魔を切り裂く。

 クリッター→破壊

「…っ! ですが、クリッターの効果を――!」
『それもさせませんよぉ。"透破抜き"を発動!!』


 透破抜き
 【カウンター罠】
 手札または墓地で発動する効果モンスターの効果の発動を無効にしゲームから除外する。


 クリッター→効果無効→除外

『バトルフェーダーをサーチなんてさせないわぁ。あなたはこのターンで死ぬんだから』
「……!」
 邪悪な笑みで宣告され、伊月は思わず一歩退いてしまう。
 その間に、もう1体のモンスターが、伏せられていたモンスターを容赦なく破壊する。

 堕天使ナース レフィキュル→破壊

『これでトドメ! エンシェント・ホーリー・ワイバーン!!』
 主の命令によって、大きく力を高めた白龍が白いブレスを吐き出す。
 視界を覆い尽くすかのような白い炎を見つめながら、伊月は負けじと伏せカードを開く
「伏せカード発動です!」


 堕天使の診察
 【通常罠】
 相手の攻撃宣言時に発動できる。相手モンスター1体の攻撃を無効にする。
 このカードが墓地にある場合、自分は罠カード1枚を手札から発動できる。
 この効果で罠カードを発動した後、このカードはデッキに戻してシャッフルする。
 そのあと相手は2000ポイントのライフを回復する。


 アバター:9500→11500LP
 エンシェント・ホーリー・ワイバーン:攻撃力6800→8800
 キラー・トマト:攻撃力6800→8800
 トラップ・イーター:攻撃力6800→8800

 放たれた白い炎は、咄嗟に張られた赤い防御膜に阻まれる。
 ギリギリのところで踏みとどまり、白い炎の放出が止まると同時に伊月は深いため息をついた。
『うーん、ざーんねん♪ カードを1枚伏せて、ターンエンドよ』

--------------------------------------------
 伊月:4900LP

 場:堕天使の楽園(永続魔法・デッキワン)
   伏せカード1枚

 手札3枚
--------------------------------------------
 アバター:11500LP

 場:模倣する闇の世界(フィールド魔法)
   エンシェント・ホーリー・ワイバーン(攻撃:8800)
   キラー・トマト(攻撃:8800)
   トラップ・イーター(攻撃:8800)
   堕天使の楽園(永続魔法・デッキワン)
   伏せカード1枚

 手札1枚
--------------------------------------------

「僕のターンですね……」(手札3→4枚)
『スタンバイフェイズに、"シモッチの副作用"を発動しますね』

 シモッチによる副作用
 【永続罠】
 相手ライフポイントが回復する効果は、
 ライフポイントにダメージを与える効果になる。


 スタンバイフェイズに入り、回復とダメージが交互に襲い掛かる。
 伊月はその痛みに表情を歪めながらも、歯を食いしばり踏みとどまった。

 伊月:4900→2900→4900LP

 カードを引いた伊月は、何かを考えこむようにしばらく黙りこんだ。
 その表情は険しく、とても追いつめられているように思える。
『いくら考えても無駄よぉ。あなたのデッキじゃあ、私の模倣には敵わない。諦めて、さっさと降参したらぁ?』
「………」
 伊月は目の前にいる、黒い姿をしたもう一人の自分を見ようともせず、ただ瞳を閉じた。
 静かに呼吸を繰り返し。そして……。


「まったく、やれやれですね……」


 深い深いため息。
 だがその表情は諦めてなどいない。
 むしろ、何かを確信したかのような、強気な笑みを浮かべていた。
『何かおかしい?』
「ええ。自分の実力不足に、思わず笑みが零れてしまいましたよ」
『そう。ならさっさとサレンダーでもしたら?』
「なぜ? 勝利が確定したというのに、どうしてサレンダーしなければならないのでしょうか?
『………え?』
「カードを2枚伏せて、ターンエンドです」

--------------------------------------------
 伊月:4900LP

 場:堕天使の楽園(永続魔法・デッキワン)
   伏せカード3枚

 手札2枚
--------------------------------------------
 アバター:11500LP

 場:模倣する闇の世界(フィールド魔法)
   エンシェント・ホーリー・ワイバーン(攻撃:8800)
   キラー・トマト(攻撃:800)
   トラップ・イーター(攻撃:8800)
   堕天使の楽園(永続魔法・デッキワン)
   シモッチの副作用(永続罠)

 手札1枚
--------------------------------------------

『私のターン……ドロー』(手札1→2枚)
 アバターは戸惑いの表情を浮かべながら、カードを引いた。
 勝利が確定したという彼の言葉の意味を考えるが、まったく理解できない。
 この圧倒的な状況差を、覆せるというのだろうか?

 アバター:9500→8500→9500LP(互いの場の"堕天使の楽園"の効果)

「それではスタンバイフェイズに、伏せカードを2枚発動します」
『っ!?』
 開かれた2枚のカード。
 その正体を見て、アバタ―は目を見開いた。


 バトルマニア
 【通常罠】
 相手ターンのスタンバイフェイズ時に発動する事ができる。
 相手フィールド上に表側表示で存在するモンスターは全て攻撃表示になり、
 このターン表示形式を変更する事はできない。
 また、このターン攻撃可能な相手モンスターは攻撃しなければならない。


 マインドクラッシュ
 【通常罠】
 カード名を1つ宣言して発動する。
 宣言したカードが相手の手札にある場合、相手はそのカードを全て墓地へ捨てる。
 宣言したカードが相手の手札に無い場合、自分は手札をランダムに1枚捨てる。


「チェーンの逆順処理です。マインド・クラッシュで僕が宣言するのはサイクロン。さて、手札を見せていただきましょうか?」
『………』

【アバターの手札】
・恵みの雨
・聖なるバリア−ミラーフォース

 しぶしぶ手札を公開するアバター。
 その中に、伊月が宣言したカードは存在しない。
「はずれですね。僕は手札を1枚捨てます。あぁ、捨てたのは"シモッチの副作用"です」
『……いったい、何が狙いなのかなぁ?』
「攻撃すれば分かりますよ」
『………それもそうね。バトル!! クリッターで攻撃!!』
 バトルマニアの効果によって、このターン、アバタ―の場にいるすべてのモンスターは攻撃しなければならない。
 本来ならば使われる機会がほとんどないカード。
 相手へ攻撃を強制させる意味は無いはずだ。

「伏せカードを発動します」

 静かに、開かれた最後のカード。
 それは――――


 血の代償
 【永続罠】
 500ライフポイントを払う事で、モンスター1体を通常召喚する。
 この効果は自分のメインフェイズ時及び
 相手のバトルフェイズ時にのみ発動する事ができる。


『なに…それ…?』
「おやおや、これは相手のバトルフェイズ中にもモンスターが召喚できる優れたカードですよ。ライフを500払うことによって、手札からモンスターを召喚します」
『はぁ!? 無駄よぉ。どんなモンスターを召喚したところで、この状況は――――!』
 次の瞬間、アバタ―の表情が驚愕に染まる。
 伊月の場に現れたのは、尻尾に可愛らしいリボンを付けた茶色い毛玉型のモンスター。


 クリボン 光属性/星1/攻300/守200
 【天使族・効果】
 このカードが相手モンスターの攻撃対象になったダメージ計算時に発動できる。
 その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になり、
 攻撃モンスターの攻撃力分だけ相手のライフポイントを回復し、このカードを手札に戻す。


 伊月:4900→4400LP("血の代償"のコスト)
 エンシェント・ホーリー・ワイバーン:攻撃力8800→9300
 キラー・トマト:攻撃力8800→9300
 トラップ・イーター:攻撃力8800→9300

『あ、あぁ…!!』
「ようやくお気づきになられたようですね。バトルフェイズ中に新たなモンスターが召喚されたことで巻き戻しが発生しますが、バトルマニアの効果によって、あなたのモンスターは攻撃しなければならない」
『っ!』
 三つ目の悪魔が場に現れた可愛らしい毛玉に襲い掛かる。
 すると毛玉型のモンスターはその体を強く発光させ、辺りを強く照らし出した。
「クリボンは相手と戦闘を行うとき、その攻撃を無効にして攻撃力分のライフポイントを回復させる。自身は手札に戻ってしまいますがね」
 丁寧に説明する伊月。
 その表情は、どこか涼しげだ。
 9300もの攻撃力を回復に変換され、それはシモッチの副作用によってダメージへと変換される。
『かっ…は…!』

 アバター:11500→2200LP

 大ダメージを受けて、よろけるアバター。
 ライフが減少したことにより、場に君臨する白龍の攻撃力は減少する。
 だが……。
「あなたの闇の世界は、場にいる最も攻撃力の高いモンスターよりも100ポイント高い攻撃力をモンスターに与えるんでしたね。つまり――――」

 エンシェント・ホーリー・ワイバーン:攻撃力7300→2100→0→2000
 キラー・トマト:攻撃力7300→2000
 トラップ・イーター:攻撃力7300→1900→2000

 場にいるモンスターで最も攻撃力が高いのはトラップ・イーター。
 その攻撃力1900に100を足した数値が、すべてのモンスターに与えられる。
「まだ攻撃しなければならないモンスターは2体いる。僕は再び500ライフを払ってクリボンを召喚します」
『ま、待って…!!』
 アバターの命令を無視して、モンスターは攻撃を続行する。
 再び毛玉型のモンスターが発光して、攻撃を無効にしてライフを回復させる。

 アバター:2200→200LP
 伊月:4400→3900LP("血の代償"のコスト)

「もう1度、500ライフを払ってクリボンを召喚します」
『そ、そんな……!?』
 敗北を確信し、絶望の表情に染まるアバター。
 そんな相手を見つめながら、伊月は静かに告げる。
「たしかにあなたの闇の世界は厄介でしたよ。しかし……相手が悪かったですね」
『あっ、ああああああ!!!』
 そして最後の攻撃。
 毛玉型のモンスターは三度その体を発光させ、攻撃を防ぐ。
 無効にされた分の数値が回復――――ダメージに変換され、アバタ―に襲い掛かった。


 アバター:200→0LP





 アバターのライフが0になり、決闘は終了した。





『ま、まさか……私が負けるなんて……』
 闇の結晶が砕け散ると同時に、アバタ―の姿が霧となって消えていく。
 そんな相手を見下ろしながら、伊月は尋ねた。
「あなたの目的はなんですか?」
『教える義理は……ないはずだけどぉ?』
「…………」
『ふふっ、そんな顔しないでちょうだぁい。私を倒したって功績だけで満足してほしいくらいなのにぃ』
「消えるというのに、ずいぶんと笑いますね」
『もちろん。短い間でも実体をもって遊べたからねぇ。あとは……アダム様のお力になれれば、それで十分よ』
「アダム……ですか」
 イブの語っていたアダムの存在。
 それがどれほどの力を有しているのかは、正直想像できない。
 少しでも情報を引き出したいが、相手はそれを察しているようで口を割るつもりは無いらしい。
『楽しかったわよぉ伊月さん。さすが……スターの幹部ね』
「お褒めに預かり光栄ですね」
『でも……やっぱりアダム様には遠く及ばないわ』
「おやおや。決闘に100%はありませんよ? こんな僕でも、案外勝ってしまうかもしれません」
『だといいわねぇ。それでは、ごきげんよう』
 どこか穏やかな笑みを浮かべながら、アバタ―はその姿を消した。
 決闘後の疲労感に息を吐きながら、伊月は通信機のスイッチをオンにする




《終わったのか?》
「ええ。あいにく、情報は引き出せませんでしたがね……」
《そうか。分かった。とりあえず合宿所まで戻ってきてくれ。今後の打ち合わせをしたい》
「了解です。佐助さん」

 通信機を再びオフにして、伊月はその場を後にした。




episode12――薫VSイレイザー――

「酷い……!」
 薫がそこへ到着したとき、辺りはすでに廃墟と化していた。
 赴いた場所は廃校になった校舎跡地。
 近隣の住民はすでに避難が完了していて、人への被害は今のところ確認されていない。
『あー? やっときたぁ♪』
 薫の見つめる先、異形の姿をした存在が振り向きながら笑った。
 上半身は人の形をしてはいるが、下半身はまるで蛇。その背には真っ黒な翼がある。
 その顔は同年代くらいの女性の顔だが、肌は黒く、瞳の中心は血のように赤い。
「あなたがこんなことをしたの?」
『そーだよぉ♪ スターのリーダーさんが遅いからぁ、暇つぶしに辺りを壊しちゃった♪』
 歪んだ笑みを浮かべながら、その存在は薫へ向き直る。
 下半身を動かして、まるで蛇のように、ゆっくりとこちらへ近づいてくる。
「あなたの目的は何?」
『んー? アダム様に、適当に暴れてきていいって言われたから、そうしてるだけだよぉ』
「……あなたはアダムの仲間ってこと?」
『そうそう♪ あ、あたしはイレイザーって名前だよ。アダム様に具現化してもらったんだぁ♪』
「イレイザー……」
 先ほど佐助から、伊月がアバターと名乗る存在との戦いが始まったという連絡があった。
 アバターにイレイザー。三邪神の1体として有名な名前だ。
 基本的にレベルが高いモンスターを具現化すると、下級モンスターの数倍の力を消費してしまう。
 レベル10ともなれば、その消費量は尋常ではないはずだ。
 それを3体も具現化できるということは、それだけアダムの所有している力が大きい証拠だろう。
『あなたがスターのリーダーさんでいいんだよねぇ?』
「……そうだよ。薫って名前だよ」
『薫さんかぁ。綺麗な人間だなぁ、いいなぁいいなぁ、その体をズタズタにしたら、もっともっと綺麗な人間になるのかなぁ?』
「っ!」
 咄嗟にカードをかざして、防御壁を展開する。
 相手から尻尾による薙ぎ払いが迫ったからだ。
 巨大な衝撃と共に、尻尾は防御壁に受け止められる。
「く……っ」
『わぁ♪ すごいねすごいね。校舎を薙ぎ払った私の一撃を簡単に受け止めちゃうんだもん♪』
「どうして、こんなことするの…!!」
『どうしてって言われてもなぁ……そうしたいからそうしてるだけだもん。人間だって食べたいとか寝たいとか、そういう欲求があるでしょう? あたしの場合、それが破壊行為でしか満たせないんだよね♪』
 純粋に笑みを浮かべながら、イレイザーは笑った。
 バリアを張り続けながら薫は静かに相手の言葉に耳を傾ける。
『あはは♪ もしかして説得しようとか思ってくれてるの? だとしたら無駄なんだよねぇ♪』
「っ、くぅ…!」
 乱雑に、力任せに、イレイザーは四方から尻尾を打ち付ける。
 衝撃がバリア越しに響くも、薫自身へはダメージが一切通らない。
『やっぱり力づくで傷つけるのは無理かなぁ』
「イレイザーさん、どうしてアダムに従っているの?」
『きゃあ♪ 敵に”さん”付けとか礼儀正しぃね♪ でもさっき言ったけど、説得しようと思っても無駄だよぉ♪』
「戦うしかないの?」
『そうそう♪ 楽しい楽しい決闘にしようね♪』
 乱暴に打ち付けられていた尻尾の乱打が終わり、本体の元へしゅるしゅると戻っていく。
 イレイザーの腕に闇がまとわりつき、デュエルディスクへと変化した。
「やるしか……ないんだね……!!」
 薫は覚悟を決めて、デッキをデュエルディスクにセットした。


『「決闘!!」』


 イレイザー:8000LP   薫:8000LP


 決闘が、始まった。
 




『この瞬間、あたしのデッキからフィールド魔法発動!!』
「決闘開始時、私のデッキからフィールド魔法を発動するよ!!」



 決闘が始まると同時に、イレイザーのデッキからは闇が、薫のデッキからは光が溢れる。 
 世界を染め上げようとする二つの力は拮抗し、互いを打消し何も存在しない世界を創り上げる。


 破滅を導く闇の世界
 【フィールド魔法】
 このカードはデュエル開始時に、デッキまたは手札から発動する。
 このカードはフィールドから離れない。
 このカードがフィールドに表側表示で存在する限り、
 自分のフィールド上のモンスターが破壊され墓地へ送られたとき、
 フィールド上のカードをすべて破壊する。


 光の世界
 【フィールド魔法】
 このカードはデュエル開始時に、デッキまたは手札から発動する。
 このカードはフィールドから離れない。
 このカードがフィールド上に存在する限り、相手は「闇」と名の付くフィールド魔法の効果を使用できない。


『わぁすごいすごい♪ 本当に闇の世界を無力化しちゃうんだぁ♪』
「褒められるのは嬉しいけど、何も変わらないよ?」
『それもそうだねぇ、とりあえずあたしの先攻っと!』
 勢いよく、イレイザーはカードを引いた。(手札5→6枚)


『手札から"終末の騎士"を召喚!!』
 引いたカードを確認した瞬間、イレイザーはそのままカードをデュエルディスクに置く。
 校庭の中心に漆黒の鎧をまとった騎士が姿を現した。


 終末の騎士 闇属性/星4/攻1400/守1200
 【戦士族・効果】
 (1):このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時に発動できる。
 デッキから闇属性モンスター1体を墓地へ送る。


『この子の効果でデッキから"D・HERO ディアボリックガイ"を墓地へ! さらに墓地へ送られたディアボリック・ガイの効果で、自身を除外してデッキから同名カードを特殊召喚!!』


 D−HERO ディアボリックガイ 闇属性/星6/攻800/守800
 【戦士族・効果】
 (1):墓地のこのカードを除外して発動できる。
 デッキから「D−HERO ディアボリックガイ」1体を特殊召喚する。


「一気に2体のモンスターを……」
『ふふふん♪ まだまだぁ! さらに手札から"俊足のギラザウルス"を特殊召喚!!』
 イレイザーの場に並び立つモンスターの横に、細身の恐竜型モンスターが現れる。


 俊足のギラザウルス 地属性/星3/攻1400/守400
 【恐竜族・効果】
 このカードは手札から特殊召喚する事ができる。
 この効果で特殊召喚に成功した時、
 相手は相手の墓地に存在するモンスター1体を選択して特殊召喚する事ができる。


『ギラザウルスは特殊召喚したとき、相手は墓地から好きなモンスターを特殊召喚できるんだけど……今の薫さんの墓地にはカードが無いからねー。残念でしたぁ♪』
「なるほどね。最初のターンで特殊召喚することでデメリットを無くしたんだ」
『そーいうこと♪ そして! 3体のモンスターをリリース!!』
「っ!」
 場にいる3体のモンスターが闇の中へ飲み込まれる。
 黒い柱がフィールドの中心に立ち、新たなモンスターが姿をあらわにする。
 全身が巨大な蛇のような体躯に、背には翼。禍々しい闇の瘴気と共に現れたのは―――


 邪神イレイザー 闇属性/星10/攻?/守?
 【悪魔族・効果】
 このカードは特殊召喚できない。
 自分フィールドのモンスター3体をリリースした場合のみ通常召喚できる。
 (1):このカードの攻撃力・守備力は、相手フィールドのカードの数×1000になる。
 (2):自分メインフェイズに発動できる。このカードを破壊する。
 (3):このカードが破壊され墓地へ送られた場合に発動する。フィールドのカードを全て破壊する。


『あははは♪ 張り切って最初のターンから召喚しちゃった♪ このカードの攻撃力は相手の場にあるカード数で変化する! 薫さんの場には"光の世界"があるから、常に1000ポイントは確保されるよ♪』

 邪神イレイザー:攻撃力1000

「…………」
『きゃはは♪ そんなに怖い顔しないでよっ。カードを3枚伏せて、ターンエンドだよ♪』

--------------------------------------------
 薫:8000LP

 場:光の世界(フィールド魔法)

 手札5枚
--------------------------------------------
 アバター:8000LP

 場:破滅へ導く闇の世界(フィールド魔法)
   邪神イレイザー(攻撃:1000)
   伏せカード3枚

 手札0枚
--------------------------------------------

「私のターン! ドロー!」(手札5→6枚)
『スタンバイフェイズに伏せカード発動っと!』
 力強くカードを引く薫の前に、1枚のカードが開かれた。


 魔封じの芳香
 【永続罠】
 (1):このカードが魔法&罠ゾーンに存在する限り、
 お互いに魔法カードはセットしなければ発動できず、
 セットしたプレイヤーから見て次の自分ターンが来るまで発動できない。


『これで薫さんの魔法カードは――!』
「させないよ! 手札から速攻魔法発動!!」


 サイクロン
 【速攻魔法】
 フィールド場の魔法または罠カード1枚を破壊する。

 魔封じの芳香→破壊

 イレイザーが発動した永続罠は魔法カードの使用を制限させるものだった。
 魔法カードが発動できないだけならば無視する手もあっただろう。しかし魔封じの芳香は魔法カードを強制的にセットさせる効果を持っている。相手の場にいる邪神イレイザーは相手の場のカードの数だけ攻守を上げる。こちらの魔法カードの使用を制限したうえで切り札の攻守を確保する……相手の思惑通りに事を運ばせる訳にはいかなかった。
『きゃはは♪ 破壊されちゃったざーんねん♪』
「一気に行くよ!! 手札から"エフェクト・ヴェーラー"を捨てて"クイック・シンクロン"を特殊召喚!!」


 クイック・シンクロン 風属性/星5/攻700/守1400
 【機械族・チューナー】
 このカードは手札のモンスター1体を墓地へ送り、
 手札から特殊召喚する事ができる。
 このカードは「シンクロン」と名のついたチューナーの代わりに
 シンクロ素材とする事ができる。
 このカードをシンクロ素材とする場合、「シンクロン」と名のついた
 チューナーをシンクロ素材とするモンスターのシンクロ召喚にしか使用できない。

 エフェクト・ヴェーラー→墓地(コスト)

『やっぱり特殊召喚するよねー♪ だけどそれは通さないよぉ♪ 伏せカードオープン!』


 王宮の弾圧
 【永続罠】
 800ライフポイントを払う事で、
 モンスターの特殊召喚及び、モンスターの特殊召喚を含む効果を無効にし破壊する。
 この効果は相手プレイヤーも使用する事ができる。

 イレイザー:8000→7200LP
 クイック・シンクロン→破壊

「っ! 特殊召喚対策まで投入してあるんだね」
『そうだよー。特殊召喚は封じておかないと厄介だからねー』
「それならっ…!」
 薫はすぐさま手札の1枚に手をかけた。
 次の瞬間、表側になっているカードが大きな口に飲み込まれる。


 トラップ・イーター 闇属性/星4/攻1900/守1600
 【悪魔族・チューナー】
 このカードは通常召喚できない。
 相手フィールド上に表側表示で存在する罠カード1枚を
 墓地へ送った場合のみ特殊召喚できる。

 王宮の弾圧→墓地(コスト)

『あはっ♪ なるほどなるほど、逆に利用されちゃったか!』
「これで特殊召喚は無効にできない! 手札から"ジャンク・シンクロン"を召喚!! その効果で墓地から"エフェクト・ヴェーラー"を特殊召喚!!」


 ジャンク・シンクロン 闇属性/星3/攻1300/守500
 【戦士族・チューナー】
 このカードが召喚に成功した時、自分の墓地に存在する
 レベル2以下のモンスター1体を表側守備表示で特殊召喚する事ができる。
 この効果で特殊召喚した効果モンスターの効果は無効化される。

 エフェクト・ヴェーラー 光属性/星1/攻0/守0
 【魔法使い族・チューナー】
 このカードを手札から墓地へ送り、
 相手フィールド上の効果モンスター1体を選択して発動できる。
 選択した相手モンスターの効果をエンドフェイズ時まで無効にする。
 この効果は相手のメインフェイズ時にのみ発動できる。


『あらら……一気に特殊召喚されちゃった……』
「まだだよ! 墓地からモンスターが特殊召喚されたことで、手札から"ドッペル・ウォリアー"を特殊召喚!」


 ドッペル・ウォリアー 闇属性/星2/攻800/守800
 【戦士族・効果】
 自分の墓地に存在するモンスターが特殊召喚に成功した時、
 このカードを手札から特殊召喚する事ができる。
 このカードがシンクロ召喚の素材として墓地へ送られた場合、
 自分フィールド上に「ドッペル・トークン」
 (戦士族・闇・星1・攻/守400)2体を攻撃表示で特殊召喚する事ができる。


 薫の場に並び立つ4体のモンスター。
 イレイザーは背筋に嫌な予感を感じながらも、笑みを絶やさずに相手の行動を見守る。
「レベル2の"ドッペル・ウォリアー"とレベル3の"ジャンク・シンクロン"をチューニング!! シンクロ召喚!!」
 2体のモンスターの身体が光となり、光の輪となって重なっていく。
 薫のデッキが得意とする”シンクロ召喚”が、始まった。
「シンクロ召喚! 出てきて! "TG−ハイパー・ライブラリアン"!!」


 TG ハイパー・ライブラリアン 闇属性/星5/攻2400/守1800
 【魔法使い族・シンクロ/効果】
 チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上
 このカードがフィールド上に表側表示で存在し、
 自分または相手がシンクロ召喚に成功した時、
 自分のデッキからカードを1枚ドローする。


『うげぇ……』
「シンクロ召喚に使った"ドッペル・ウォリアー"の効果発動! レベル1のトークンを2体特殊召喚!」
 新たに生成されたトークンによって、薫の場には5体のモンスターが並ぶ。
「さらにレベル1の"エフェクト・ヴェーラー"とレベル1のトークンをチューニング!!」
『ま、また…!』
「シンクロ召喚! "フォーミュラ・シンクロン"!!」


 フォーミュラ・シンクロン 光属性/星2/攻200/守1500
 【機械族・シンクロ・チューナー】
 チューナー+チューナー以外のモンスター1体
 このカードがシンクロ召喚に成功した時、自分のデッキからカードを1枚ドローする事ができる。
 また、相手のメインフェイズ時、自分フィールド上に表側表示で存在する
 このカードをシンクロ素材としてシンクロ召喚をする事ができる。


「"フォーミュラ・シンクロン"の効果とライブラリアンの効果で、合計2枚ドロー!」(手札0→1→2枚)
『シンクロ召喚した上に、手札補充まで!?』
「これくらいで驚いてもらったら困るよ。レベル4の"トラップ・イーター"にレベル1のトークンをチューニング! シンクロ召喚!! "A・O・J カタストル"!!」


 A・O・J カタストル 闇属性/星5/攻2200/守1200
 【機械族・シンクロ/効果】
 チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上
 このカードが闇属性以外のモンスターと戦闘を行う場合、
 ダメージ計算を行わずそのモンスターを破壊する。

 薫:手札2→3枚(ライブラリアンの効果)

『たった1ターンで、3体のシンクロモンスターを並べたの!? っていうか、これって……!!』
「気付いたみたいだね。本命はこの先だよ! レベル5の"TG−ハイパー・ライブラリアン"と"A・O・J カタストル"に、レベル2の"フォーミュラ・シンクロン"をチューニング!!」
 並び立っていた3体のシンクロモンスターが、自身の体を光へ変換する。
 邪神の吐き出す瘴気の中、鮮やかに輝く無数の光輪。
 金色に輝くそれらの光はやがて1つに重なり、眩い星の輝きへと変化する。
「シンクロ召喚!! "シューティング・クェーサー・ドラゴン"!!」


 シューティング・クェーサー・ドラゴン 光属性/星12/攻4000/守4000
 【ドラゴン族・シンクロ/効果】
 シンクロモンスターのチューナー1体+チューナー以外のシンクロモンスター2体以上
 このカードはシンクロ召喚でしか特殊召喚できない。
 このカードはこのカードのシンクロ素材とした
 チューナー以外のモンスターの数まで1度のバトルフェイズ中に攻撃する事ができる。
 1ターンに1度、魔法・罠・効果モンスターの効果の発動を無効にし、破壊する事ができる。
 このカードがフィールド上から離れた時、「シューティング・スター・ドラゴン」1体を
 エクストラデッキから特殊召喚する事ができる。

 邪神イレイザー:攻撃力1000→2000

『こ、これが…薫さんの、切り札……!』
「3体のモンスターでシンクロ召喚したクェーサーは、2回攻撃が出来る! バトルだよ!」
 巨大な体を発光させ、輝かしい光と共に星の龍は邪神へ突撃する。
 幾多もの星の輝きを帯びたまま、星の龍は邪神を跡形も無く吹き飛ばした。

 邪神イレイザー→破壊
 イレイザー:7200→5200LP

『くぅっ…! だ、だけど、邪神イレイザーは破壊されたとき、場にあるすべてのカードを破壊する!!』
「"シューティング・クェーサー・ドラゴン"の効果発動だよ! 1ターンに1度、相手のカード効果を無効にできる!!」
 邪神が道連れにしようと吐き出した闇の塊が、星の光によって切り裂かれる。
 場に残ったのは、未だに体を輝かせる龍のみだ。
「まだ2回目の攻撃が残ってるよ!! 直接攻撃!!」
『ぐっあぁあぁ!!??』

 イレイザー:5200→1200LP

「もう勝負はついたよ。サレンダーしてくれるなら、もうこれ以上、何もしない」
『はっ…はぁ……! 冗談じゃ、ないしぃ……まだ、終わってないもんねっ!』
 ボロボロになった体を動かしてイレイザーは最後の伏せカードを開いた。


 奇跡の残照
 【通常罠】
 このターン戦闘によって破壊され自分の墓地へ送られた
 モンスター1体を選択して発動する。
 選択したモンスターを墓地から特殊召喚する。


『これで"邪神イレイザー"は復活する! 残念だったね薫さん! まだまだ勝負は――っ!』
 イレイザーの目が一際大きく開く。
 薫の手札から1枚のカードが発動されていた。


 二重召喚
 【通常魔法】
 このターン自分は通常召喚を2回まで行う事ができる。


「メインフェイズ2だよ。このカードでもう1回通常召喚が出来る。私は手札からこのカードを召喚するよ」


 アマゾネスの射手 地属性/星4/攻1400/守1000
 【戦士族・効果】
 自分フィールド上に存在するモンスター2体をリリースして発動する。
 相手ライフに1200ポイントダメージを与える。


『あっ……』
「ごめんね。今度生まれてくるときは、ほんの少しだけ優しい心を持ってくれると嬉しいな」
 奥歯を噛み、悲しみを帯びた表情で薫は告げる。
 場にいる2体のモンスターが巨大な矢となって、イレイザーの胸を貫いた。


 イレイザー:1200→0LP





 イレイザーのライフが0になる。



 そして決闘は、終了した。




『あはは……負けちゃったぁ……まさかの1ターンキルだよぉ』
「……」
『なんでそんな悲しそうな顔をしてるのぉ? 敵に情けかけるんだぁ?』
「……やっぱり、駄目なのかな?」
『きゃはは♪ 敵にそんなこと聞いている時点で、甘ちゃんだよねー♪ まぁいいや短い間だったけど楽しかったし♪ どうせそのうちまた会えるしねー♪』
「え?」
『きゃははははははは♪』
 高らかに笑いながら、イレイザーはその姿を消してしまった。

「…………」
 消えてしまったイレイザーの言葉の意味を考えつつ、薫はその場から立ち去ろうと背を向けた。
 すると、ポケットに入れておいた携帯電話が鳴る。
「はい。もしもし?」
《やぁ薫君。元気にしているかい?》
「その声……玲亜先輩!?」
《ああ。本社の特別電話サービスからかけている。あいにく会話は録音されているから秘密裏な会話は出来ないし、通話できる時間も短いから用件だけ言うよ。この前に言った”お願い”を、すぐに実践してほしい》
「………本当に、それは必要なことなんですか?」
《さぁね。少なくとも僕は、無駄になるようなことじゃないと思うけどな。薫君だって、合宿の成果を確認できる相手が欲しかったところだろう?》
「っ、そこまで予想して、合宿の提案をしたんですか?」
《どうだろうね。さて、じゃあそういうことだから頼んだよ》
「あっ! 待って――――!」
 呼び止める声も空しく、通話は切られてしまった。
 玲亜からのお願い。それを叶えることは、薫からしてみれば少し危険なものだった。
「……………」
 しばらく考えて、覚悟を決める。
 きっと……彼らならば大丈夫。
 そのために特訓したのだから。

 玲亜のお願いを、今こそ実行すべきだと改めて感じる。
 そして薫は、決意の籠った瞳で佐助へ通信を繋いだ。





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 アダムとイブは、その日、夢を見た。
 世界を司る機関であるとともに正反対の存在である二人。
 見てきたものも、吸収した感情も違うが、共通の記憶だけは存在する。

 それは自分たちが生み出された時の話。

 神様が、神様で無くなろうとしていた、あの日のことだ。



 神様は万能だった。文字通り全知全能だった。
 光を操り闇を支配し、炎を燃やし水を湧かせ、大地を固め風を吹かせる。
 人々の感情というエネルギーを自らの力に変換できる神様は、この世界に出現した奇跡そのものだった。
 アダムもイブも、その頃は神様の中で感情を吸収する機関として存在しているだけだった。

 だがある日、神様の中にいる機関にも限界がきた。
 機能が無くなったわけではない。単純に、許容量の問題だった。
 万能である神様でも、自身の限界は悟ることは出来なかった。

 神様は自身の滅びを予見し、自らの光と闇の力を”光の神−サンネリア”と”闇の神−デスクリエイト”と命名して、後の世界を託した。
 だが神様は知っていた。
 光と闇は、常に対立するということを。
 やがて争いが起き、経緯はどうあれ2つの神はいなくなってしまうということを。

 そうなれば人々の想いが持つエネルギーを吸収するものがいなくなり、世界のバランスが崩れてしまう。
 そうさせないようにすることが、自分に残された最後の使命だと神様は感じていた。

 だから神様は保険を掛けた。

 自らの内にあった、人々の感情を吸収する機関……自らの心臓とも呼べるべきものに名を与え、光と闇の神が消えた時に想いのエネルギーを回収できるようにしたのだ。

『アダム、イブ。あとは頼んだ。儂に出来るのはこれだけだ。これからは共に世界を見守っていってほしい』
『分かりました。ワタシは神様の願いを叶えます』
『分かりました。ボクも神様の願いを叶えます』

 やがて神様は消えた。
 その中に存在していた炎、風、水、大地の力はアダムに与えることにした。
 イブは優しかった。これから別々の存在として生きるアダムが寂しくないように、4つの力すべてをあげた。アダムが与えた力をイタズラで使わないように、鍵も作った。
 アダムはわがままだった。どうせなら、イブとも一緒になりたかった。そして、言った。

『イブ、もしまた出会えるようなことがあったら、ボクと一緒になってほしい』
『それは駄目だよアダム。一緒になったら、”アダム”と”イブ”は、いなくなってしまうのだから』
『そういう世界を創ればいい』
『そういう世界は、創っちゃ駄目なんだよ』
『どうして? みんなが一緒になれる、優しい世界だよ?』
『違うよ。みんなが一緒になってしまう残酷な世界だよ』
『分からない。どうにかできないの?』
『分かるよ。どうにもできないの』

 その会話は、そこで打ち切られた。

 しばらく考え込んで、アダムは言った。

『じゃあイブ、もしまた出会うことがあったら、ボクとゲームで勝負してよ』
『ゲーム? ワタシと、貴方で?』
『もちろん、ボクと君でさ』
『なにをするの?』
『出会えた時に、その世界で最も流行っているゲームをやろう。もちろん、お互いに最高の状態でね』
『する意味あるの?』
『もちろん。イブとやるんだったら、きっと何をやっても楽しいさ』
『そうだね。本当に、アダムとイブが”両方楽しめる”ゲームがあるんだったら、ワタシもやってみたいな』
『じゃあ決まりだね』
『うん。そんな世界が、出来てるといいね』




 アダムは目を開けて、小さく笑った。
『本当に、嫌な夢だったなぁ』

 同時刻、イブは目を開けて、瞳から涙をこぼした。
『本当に、楽しい夢だったなぁ』


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episode13――昼のお話。夜のお話――

 小学生組との真剣勝負が終わった後、俺たちは当初の予定通りみんなとの決闘に付き合っていた。
 シングル戦はもちろんのこと、タッグデュエルやサバイバルデュエルなど考え付く限りの方式で決闘を行った。
 観戦していた武田や吉野、咲音さんも混じって決闘を行い、様々な組み合わせで楽しい対戦をすることができている。
「なはは♪ ほな次や!」
「負けませんよ」
 今はヒカルちゃんと華恋ちゃんのタッグが、武田と吉野のタッグに挑んでいる。
 その横では琴葉ちゃんと咲音さんが本城さんに2対1の決闘をしている。
「ん〜♪ 結構な数の決闘をしたわね」
「ああ」
 隣で香奈が背筋を伸ばしながらそう言った。
 短時間で多くの決闘をするなんて、以前ならすぐに疲れてしまっていただろう。だが合宿の成果もあってか、集中した状態で決闘を続けることが出来るようになっていた。
「みんな楽しそうでよかったわ」
「……香奈ってなんていうか、面倒見がいいよな」
「そう?」
「ああ。本当におねぇちゃんって感じがする」
「まぁ昔から頼られることは多かったから、そのおかげかもね。大助だって、華恋ちゃんに尊敬されてたじゃない。何かあったの?」
「いや、あいにく心当たりがないんだ。強いて言えばリビングで話したってことぐらいか。いや、でも高校での生活はどんなことするかぐらいしか答えてないし……」
「よく分からないけど、小学生の時って高校生とか大学生ってかなり上の存在に感じるんじゃない? もしそうなら尊敬されてもおかしくないわよ」
 もう1度背伸びをして息を吐く香奈。
 ちょうど決闘も終わったらしく、ヒカルちゃんと華恋ちゃんが肩を落とし、琴葉ちゃんと咲音さんがハイタッチをしている。
「うぅ、負けちゃいました……咲音さん、こっちの手札が見えているんじゃないかって思うくらい的確な対処をしてきて……」
「まぁそういうときもあるわよ。2人ともライトロードだったみたいだし、コンビネーションもしやすかったんじゃない?」


「そろそろお昼ですし、みなさん昼食にしましょう!」


 吉野が声を張ってそう告げた。
「ホンマ!? ちょうどお腹が空いてきたところやったんよ」
「ちょうど一区切りでしたし、休憩ですね」
 全員が別荘の中に入り、リビングに用意された席に座る。
 どうやら決闘が始まる前に予め武田や吉野が用意しておいたらしい。
「今日はカレーですよ♪」
 そういって各々に配られたのはカレーライスだった。
 鶏肉を使った甘口のカレー。辛い物が苦手な人でも食べられるように適度な味付けになっていた。
「本当においしいですね」
「ありがとうございます。それで、お嬢様たちは午後はどうなさるおつもりですか?」
「うーん、特に決めてなかったね」
「そうやなぁ。こんな山奥だと出来ることも限られてくるしなぁ」
 小学生組が頭を悩ませている様子を見ながら、俺達も顔を見合わせる。
 スターのメンバーからまだ帰ってくるという連絡が無い以上、俺達も訓練は出来ない。
 いや、自主的な訓練が出来ないことはないのだが小学生組の目を盗んですることは難しそうだ。

「ん〜、それなら決闘はやらないで、缶けりとか体を動かす遊びをしたらどうかしら?」

「缶蹴り? 缶蹴りってなに?」
「えーとね……かくれんぼと鬼ごっこを合わせたようなものかな」
「ふーん、華恋ちゃんとヒカルちゃんは知ってる?」
「いえ、私も初めて聞きました」
「うちは知ってるよ。やったことはあらへんけどな」
「じゃあ決まりね。ご飯食べて、少し休憩したら、みんなでやりましょう♪」
 香奈が笑顔で提案する。
 みんなということは、俺や本城さん、武田や吉野や咲音さんも入れてのことだろう。
 缶蹴りか……ずいぶん久しぶりだな。




 昼食を食べ終わって少し休憩した後、香奈の提案通り全員で缶けりをすることになった。
 ルール説明を終えて、鬼と逃げる人のチームに別れることになった。
 鬼は3人。俺と吉野と本城さんだ。残りの香奈、咲音さん、武田、琴葉ちゃん、華恋ちゃん、ヒカルちゃんは逃げる側だ。
「それでは3分後に開始しますので、頑張って逃げてくださいね」
 吉野がそういうと、全員が一目散に森の中へと入っていった。
 広場の中心に置かれた一つの缶。これを守り切れば負けることは無いわけだが、一人が缶に張り付いていては勝負にならない。なので追加ルールとして鬼は缶を踏むとき以外は缶から半径15メートル離れなければいけない。さらに複数人分を同時に踏むことは出来ず、一人分踏むたびにいったん15メートル離れてから再び踏まなければいけない。
 あとは普通の缶蹴りと同じだ。
 少し違うところがあるとすれば、鬼側は缶を一度でも蹴られれば負けというところだろう。

「……さて、3分経ちましたね。さて、どうしましょうか? 定石として二人は探しに、一人は見張りというのが妥当でしょう?」
「あっ、じゃあ私が見張ります。あんまり走るの得意じゃないですし……」
「分かりました。では中岸さんは北へ、私は南へ行きます。本城さん、どうかお気をつけて」
「は、はい! 任せてください!!」
 吉野が笛を大きく鳴らす。
 缶けり開始の合図だ。

「さてと……どうしたものか……」
 実を言うと、缶蹴りという遊びは数えるほどしかやったことが無い。
 とりあえず逃げる側を見つけなければならないのだが……この森の中、簡単に見つかるとは思えない。
 かといってこのまま何もせずに見つけることなんか出来るわけも無いし、適当に――――

「「「見つけた!!」」」

「っ!?」
 耳に届いたのは小学生達の声。木々の陰、俺の周囲3方向から同時に飛び出してきた小学生達の手には、どこから持ってきたのか縄が握られている。
「え?」
「大助さん! お覚悟を!」
「悪いなぁ、これも作戦やから!」
「ごめんね大助さん!」
 不意を突かれ、混乱している間に小学生達は手際よく俺の体に縄を巻きつけていく。
 適当な巻き付け方だが、3つの縄で脚を巻きつかれればさすがに動けなくなる。小学生が相手だし無理に抵抗すると怪我をさせてしまいそうだし……。
「ふぅ、こんなものか」
 どこかやり遂げた笑みを浮かべながら、彼女たちはそう言った。
 俺は脚を縄で縛りあげられ、木を背に地面に座らされている。
「……華恋ちゃん。これはいったい、どういうこと?」
「は、はい! 実は私達、缶蹴りって初めてで……香奈さんにルールと攻略法を教えていただいたんです!」
 彼女の言葉に、他の2人も自慢げにうんうんと頷いている。
 まさかとは思うが……香奈が教えてくれた攻略法って……。
「鬼側を封じるために、縄で縛り上げろって香奈が言ったのか?」
「うん! 武田が縄を調達してくれたから、人数分あるよ!」
「あーうん、それはすごいね……」
 良かったな香奈。琴葉ちゃんはどんどんお前に似てきているぞ。
 ついでに言えば缶蹴りはこんな野蛮なことはしないからな。
「ほんなら、大助さんはここにいてくれな? あと吉野さんを捕まえて、それで缶を蹴って終わりや!」
「……この縄を解いてくれるって選択肢は無いのか?」
「いややなぁ、適当に縄を巻いて雁字搦めにしたんやから、うちらが解ける訳ないやろ?」
「そりゃそうだな」
 思わず溜息をついてしまう。
 幸い、両手は縛られていないから、時間をかければ自力で解くことも出来るだろう。
「じゃあ俺はここにいるから、3人とも吉野さんを捕まえに行っていいよ」
「ほんまか?」
「ああ。気を付けてな」



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「うーん……待ってるのも暇だねエル…」
(そうですねぇ。私としてはマスターとこうして二人きりで話せて楽しいですけどね)
「私も嬉しいけど、中岸君と吉野さんが探しているんですからみんなあっという間に見つかってしまうんじゃないでしょうか?」
(確かにそうですねぇ)
「あっ、そういえばずっと聞きたかったんだけど、エルとイブってどういう関係なの?」
(あの時に語ってくれたままですよ?)
 エルが言う”あの時”……。
 みんなの前でイブが私に触れた時、私達は少しだけ会話をしていたんです。


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『本城真奈美ちゃん。永久の鍵を…ううん、エターナル・マジシャンを受け入れてくれてありがとう』
「え、いや、私は、そんな……」
『永久の鍵はね、私がアダムが悪さをしないように生み出したものだったんだ。といっても、実際にはその役目は果たせなかったみたいだけどね』
「………その、ごめんなさい……」
『謝らなくていいんだよ。貴方たちが選んだことなら、ワタシも非難したりしないよ?』
「ありがとうございます」
『エターナル・マジシャン。立派な主に出会えて良かったね』
『はい。本当に、イブ様には感謝しています』
『”様”付けなんてガラじゃないでしょ? これからも、立派に主を守ってあげてね?』
『もちろんです』
『よろしい♪ じゃあ真奈美ちゃん。これからもこの子と、仲良くしてあげてね?』
「はい!!」


#####################################


「エルを生み出したって言ってたけど……それはあくまで永久の鍵としてでしょ? どうしてエターナル・マジシャンの姿になったの?」
(なるほど、そういう質問でしたか。確かにイブが生み出した私は、ただの力の塊のような存在でした。その力は白夜のカードを通じて、当時で一番の素質を持っていた薫さんの"光の世界"に内包されていたんです。そして例の決闘の時、マスターの持っていたカードに乗り移った……ということですね)
「……それが、たまたま"エターナル・マジシャン"のカードだったってこと?」
(たまたま……というわけではありませんよ。マスターは当時、あのカードをデッキに入れていませんでしたよね?)
「え? そうだったっけ?」
(そうなんですよ。マスターは心を闇に支配されながらも、エターナル・マジシャンのカードだけはデッキに入れていませんでした。きっと何か、とても思い入れのあるカードだったのでしょう。闇の力の影響をほとんど受けていないカードだったからこそ、私もそのカードに乗り移ることが出来た、というわけです)
「そうだったんだ……」
 確かに昔、お母さんにあのカードをプレゼントしてもらって、ずっと大切にしていました。
 だからこそ、今こうして私の中にエルがいると思うと凄く嬉しいです。
(でも実はホッとしてたんですよ?)
「え?」
(もし人型じゃなかったらどうしようかと思っていました。今はまだ実体化出来ませんけど、いずれマスターが私を具現化してくれたときに怪物みたいな姿だったら一緒にお出かけできないじゃありませんか♪)
「え、あっ、そっか。そういう可能性もあったんだよね」
(そっか、じゃありません。マスターと一緒にデートできなくなるところだったんですよ!?)
 内側にいるエルが頬を膨らませている姿が目に浮かびました。
 好意を抱いてくれるのは嬉しいですけど、たまに周りが見えなくなることがあるんですよね……。
「たまにエルって、なんていうか、すごく積極的になるよね」
(私はいつでも積極的ですよ? マスターが鈍感なだけです)
「あはは……でも、ほどほどにね? まだ具現化できていない私が悪いんだけど、傍から見たら私が1人で話している風にしか見えないから……」
(ふふふ、心配しなくても、この合宿が終わることにはマスターは私をしっかり具現化出来るほど成長していますよ。なので2人っきりでデートできる日も近いです)
 内側にいるエルの周囲を、ハートマークが飛んでいる光景が浮かびました。
 うぅ……具現化できたとして、彼女のことを紹介するとなるとちょっと大変なことになりそうです……。


「みんな! 突撃よ!!」


「!?」
 エルとの会話に夢中になっていたころ、森の方から聞きなれた大声が聞こえました。
 その声と同時に周囲から小学生組と香奈ちゃんが飛び出してきました。
 みんなが一直線に、缶に向かって突撃してきます。
「な、なんで、中岸君や吉野さんは!?」
「悪いわね真奈美ちゃん! 勝負だから恨まないでよね!」
 一斉に缶に向けて走ってくる4人。走る速さに差はありますけど、一斉にかかられたんじゃどうしようもありません。
 そう思った時―――


『マスターと私の時間は邪魔させません♪』


(えぇっ!?)
 いつの間にか、体の主導権がエルに移っていました。
 右手には不可視化された杖が握られ、エルはすぐさま杖を地面に打ち付けました。


 ――落とし穴×4!!――



「えっ!?」
「嘘!?」
「きゃあっ!」
「うっそ!?」


 襲い掛かってきた4人の姿が、視界から消えてしまいました。
 正確には、エルが作った落とし穴に飲み込まれた訳ですけど……。
(ちょ、ちょっとエル!? やりすぎだよ! 怪我したら大変だよ!)
『大丈夫ですよマスター。ちゃんと下に安心安全の柔軟なクッションを敷いてますから♪』
 軽やかにそう告げながら、エルは私の体でゆったりと缶を踏んでいきます。
 みんなが落ちた穴からは、誰一人として上がってくる気配がありません。
(あの、エル? みんな、穴から出てこないんだけど…?)
『まぁ3メートルの深さですから、簡単には出られないかと思いますよ』
(深いよ! みんな出られなかったら大変だよ!)
『マスターは優しいお方ですね』
(そういう問題じゃないの! それに勝手に私の体を乗っ取るのは緊急時以外は禁止でしょ!?)
『まさに緊急時でしたよ。マスターと私の二人っきりの時間が無くなりかけたんですから』
(遊びなんだから駄目だよ! 私やエルの命が危なくなったときだけだから! 今度やったら1週間口きかないからね!)
『そ、そんなぁ……』
(とにかく駄目だよ! 缶蹴りは中止! 他の人たちを呼んでみんなを助けるの! いいね!?)
『………くっ…それがマスターの意志ならば、従います……』
 すごく不服そうに、エルはそう言いました。


 それから私はエルに体の主導権を戻してもらって、森の中へ他の人たちを探しに行きました。
 なぜか木に縛られている中岸君を見つけて縄を解き、縄を持った武田さんと木の棒を持った吉野さんが戦っているのを止めさせてました。
 ちょうどよく縄があったので、それらを繋ぎ合わせて穴に落ちた4人を協力して引っ張り出していきます。
 本当は私の白夜の力を使って救い出した方が早いんですけど、使ってしまうとみんなに私達のことを説明しなければならなくなってしまうのでやめました。
 もし薫さんやコロンちゃんがこの場にいたら、間違いなく叱られていたと思います。
 あとでもう1回、エルを叱っておかないといけないです。
 普段はとっても頼りになる存在なのに、ちょっと常識が欠けているというか……知らないことが意外と多いみたいなので……。


「はぁ〜びっくりしたわ〜、まさか落とし穴が作られているなんて思ってもみんかった」
「そうだねヒカル。ちゃんとクッションまで敷いてあったし」
「あれって真奈美ちゃんが作ったの?」
 ヒカルちゃん達が各々の感想を述べながら、私に詰め寄ってきます。
 ど、どうしましょう。なんていえばいいのか……でも本当のことは話せないですし……うぅ……。
「そ、そうだ、ね。私が作ったん、だよ?」
「すごいなぁ。うちらが森で逃げてる間に穴掘ってたんか」
「高校生になるとそういうことが出来るようになるんですかね?」
 うぅぅ……仕方ないとはいえ、嘘を付くのはやっぱり気が引けます。
 それになんだか取り返しのつかない誤解を生んでいるような気もしますし……。
「………真奈美ちゃん、なんか、変だよ?」
「え、え?」
「なんか……嘘ついてるんだけど、嘘ついてない、みたいな感じがする……」
「っ!」
 あわわわ、そうでした。琴葉ちゃんには嘘を付いているかどうか分かる感覚があるんでした。
 で、でも、たしかに私が作ったんじゃないけど、エルが作ったってことは元をたどれば私の力の訳ですから私が落とし穴を作ったって解釈も可能な気がします。
 でも琴葉ちゃんは疑っていますし……こうなったら…!
(エル! 一瞬だけチェンジ!!)
『えぇ!? え、あ、うん、わ、私が作ったんですよ?』
「……えへへ♪ 真奈美ちゃん嘘ついてないね、私の勘違いだったみたい♪」
(よし!!)
「それなら良かったよ。そろそろ香奈ちゃんも出てくるころかな?」
 視線の先では中岸君と武田さんと吉野さんにひっぱりあげられて、香奈ちゃんが穴から出てきました。
 服に着いた砂を払いながら、疲れ切った様子でこっちにやってきます。
「やられたわね……まさかあんな落とし穴作ってるなんて思わなかったわ」
「人を縄で縛り上げようって発案した奴にはちょうどいいお灸だったんじゃないか?」
「なによそれ。缶蹴りのルールで縛っちゃ駄目なんて定めてなかったでしょ」
「常識的に考えて誰もやらないから定めてなかったんだよ……」
「あはは……」
 言い合う二人に笑みを返すことしかできませんでした。



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 私達が落とし穴に嵌ってしまい、衣服がとても汚れたこともあって缶蹴りゲームは終了することになってしまった。
 とりあえず別荘のお風呂で私達は汗を流すことになったのだけど……。

「えへへ、香奈おねぇちゃんとお風呂だ♪」
「なはは♪ 別荘にこんな広いお風呂あるなんて思わんけどな?」
「5人が入れますもんね……」
 小学生たちは皆、私達とお風呂に入れるということではしゃいでいる。
 私と真奈美ちゃんは体にバスタオルを巻いて、裸を晒さないように心掛ける。
 さすがに高校生にもなると、友達と言えど互いに素肌を見せるのは気が引けるからだ。
「ほら、みなさん座ってください。順番に体を流しますからね」
「…………」
 本当なら咲音さんと吉野さんも一緒だったはずなんだけど、夕食の仕込みあるからということで私と真奈美ちゃんで世話することになっていた。別に嫌とかそういうわけじゃないんだけど……。
「あれ? 香奈ちゃん、どうかしましたか?」
「………ずるいわ」
「え?」
 自然と向けてしまっていた視線を外す。
 何がずるいとは、言わない。そっとタオルの上から自分の胸に手を当ててみる。
 ため息が零れてしまった。
「どうしたのおねぇちゃん?」
「なんでもないわ琴葉ちゃん」
「そうなの?」
「ええ。とにかく髪を洗ってあげるわ。そこに座ってね」
「「「はーい♪」」」

 私と真奈美ちゃんは協力して3人の髪を洗ってあげた。
 3人とも髪が長いぶん、洗うのには少し苦労した。だけどやはりというかなんというか、それぞれの髪の質感が違う。琴葉ちゃんの髪は細くて力を入れすぎるとすぐに千切れてしまいそうだけど、手触りがすごくいい。華恋ちゃんは1本1本がしっかりしていて癖も無くすごく洗いやすかった。ヒカルちゃんは少しくせ毛なのか、ところとごろが指に引っかかる。
 私が髪を洗って、真奈美ちゃんがお湯を流す係だ。
 少しぬるめのお湯で、できるだけ髪を傷めないように注意する。
 こういうことは小さいころから丁寧にやらないといけないことだからだ。
「じゃああとは体を洗うだけね」
 さすがに体を洗うのは一人でやってもらわないといけないと思う。
 真奈美ちゃんも同じことを考えていたのか、他の3人を放って自分の髪を洗いだした。


 体も洗い終わって、私達は広い湯船に浸かっていた。
 温かいお湯に全身を浸しながら、一息つく。
「相変わらず湯加減がちょうどいいわね」
「そうですね。吉野さんが準備してくれたみたいですよ?」
「さすがよね」
「えへへ、さすがでしょ。吉野は凄いんだから♪」
「こら琴葉ちゃん。肩まで浸かってないとダメでしょ?」
「うぅ、ごめんなさい……」
 琴葉ちゃんは少し顔を沈め、ぷくぷくと泡を立てる。

「なぁなぁ香奈さん」
「ヒカルちゃん、どうしたの?」
「1つ聞きたいことあるんやけど、大助さんと香奈さんって、お付き合いしてるんやろ?」
「なっ、どうして知ってるの……って、琴葉ちゃんから聞いたのね。まぁその、付き合ってるけど……」
「そうなんか。やっぱり、デートとかしたりしてんのやろ? 手繋いだり、オシャレなお店に行ったり、あ、あとは、そ、その……チューとかも、してるんやろ?」
 どこか恥ずかしげに尋ねる彼女の表情が赤く染まる。
 隣にいる華恋ちゃんや琴葉ちゃんも、同じように頬を染めていた。
「みなさんは学校に好きな人とかいないんですか?」
「うーん、正直、そういうのまだよく分からんくてなぁ。琴葉ちゃんや華恋と一緒にいた方が楽しいし……あっ、でも華恋は大助さんのことが気になってるんよなぁ?」
「ち、違います! 大助さんの事は尊敬してるだけです!!」
「へぇ。じゃあ華恋ちゃんは私のライバルね」
「か、香奈さんまで…! だから違いますってばぁ…!」
 バチャバチャと水面を揺らしながら、必死で華恋ちゃんは弁明する。
 小学生だから当然なんだけど、その純粋さが眩しい……。
「真奈美さんも、彼氏とかいるん?」
「あはは、私はまだいませんね」
「まだってことは、気になってる人はいるの?」
「ふふっ、それもまだいないんですよね」
 真奈美ちゃんはそう言って笑った。
 いつも私は大助との関係をからかわれてばかりだったから気にしたことは無かったけど、真奈美ちゃんや雫の恋愛とかあまり知らないのよね。真奈美ちゃんはまだしも、雫は霊使い喫茶とかで交友関係が広そうだし案外秘密の彼氏とかいたりするのかしら。
「ふーん、難しいんやなぁ」
「そんなに難しく考えることありませんよ。みんなそのうち、きっと素敵な人に出会えますよ」
「そうよ。まだ小学生なんだし、そういうことはあんまり考えなくていいのよっ! それ!」
「ひゃわぁ!?」
 後ろから華恋ちゃんのわき腹をくすぐってあげる。
 可愛らしい反応をしながら、湯船の中で彼女が身体をくねらせる。
「そこ、弱いんです、や、やめてぇ…!」
「ふっふっふ、悪いけど大助は譲れないわよぉ。他の人を当たりなさい。こちょこちょこちょ…」
「ふふっ、あはははは、ち、違うって、あはは、やめてぇ…!」
「なんや楽しそうやなぁ。真奈美さんもやってあげるわぁ、それぇ!!」
「えっ、ちょ、ちょっとヒカルちゃん!?」
「ほら琴葉ちゃんも参戦しぃや。真奈美さんの肌、すべすべで撫で心地最高やで?」
「ホント!?」
「きゃあっ! ふ、2人ともやめ――!」
 浴室に、笑い声が響く。
 それからしばらくの間、私達は湯船の中でじゃれあっていた。







「いいお湯だったわ〜」
 思っていたよりも長風呂になってしまった。
 用意しておいた服に着替えて、リビングに出る。
 そこにはちょうど大助がいて、椅子に座って本を読んでいた。
「ずいぶん楽しそうだったな。声がこっちまで聞こえてたぞ?」
「なによ。盗み聞きはあんまりいい趣味じゃないわよ?」
「そんなんじゃない。小学生たちは?」
「吉野達に髪を乾かしてもらってるわ」
「お前は乾かさなくていいのか?」
「馬鹿ね。浴室のコンセントが埋まっちゃったからリビングに来たんでしょ」
「そうか」
 そう言って手に持った本のページをめくる大助。
 さっきからこっちを見ようともしないなんて……そんなに面白い本を読んでいるのかしら。
 ちょうど大助がいる位置の近くにコンセントがあるから、そこで髪を……。
「あっ……」
 不意に思いついたことがあった。
 持参したドライヤーをじっと見つめた後、誰か周りにいないことを確認する。
「だ、大助……」
「ん?」
「あの、その、か、髪を乾かすの、手伝ってくれない?」
「え?」
「いや、もし良かったらでいいんだけど……その、他人にやってもらう方が、綺麗に乾かせるし……」
「あ、ああ……じゃあやるよ」
 読んでいた本を閉じて、大助はそう言った。
 私は大助の隣の椅子に座って、ドライヤーのコンセントを差し込みスイッチを入れる。
 温かい風がドライヤーから出ることを確認すると、それを大助に手渡した。
「はい。よろしく」
「ああ。でも、その、やり方はどうしたらいいんだ?」
「そんなことも知らないの? 基本的に根元から毛先の順で乾かしていけばいいのよ。櫛は忘れちゃったから手櫛で髪を整えながらやってよね」
「分かった。やってみる」
 後ろからドライヤーの風が当てられる。
 他人にやってもらうのなんて、いつ以来だろう。小学生くらいの頃は、母さんに毎日やってもらってたっけ。
 手慣れた母さんと違って、ぎこちない大助の手が私の髪を撫でていく。
 なんだかくすぐったい。でも、不思議と嫌な気はしない。
「こんな感じか?」
「ええ。なかなか上手じゃない。練習でもしたの?」
「誰でだよ。自分の髪すらドライヤーで乾かしたことないのに、他人の髪を乾かすなんてことしたわけないだろ」
「ちゃんと髪のケアしないとあとで大変よ?」
「そうなのか?」
 そんなやり取りをしながら、大助の手によって髪が乾かされていく。
 自分の髪を他人に……しかも男子に触られているのに、どうして私はこんなに安心した気持ちになっているのかしら。やっぱり大助だからなのかな……。
 ホント、どうしちゃったんだろ私。
 最近になって余計に大助の事を意識しちゃって、傍にいるだけで嬉しくなっちゃうし……もしかして大助もそうなのかな? そうだったら嬉しいけど……って、またこんなこと考えているし……。
「はぁ……」
「悪い。何か不満だったか?」
「え? あぁ違うわよ。ちょっと個人的なことでね……」
 自然と視線が落ちてしまい自分の胸が映る。
 自分で言うのもなんだけど、どうして大きくならないのかしら……。
「大助」
「なんだ?」
「大助は、女子の胸とか、興味ある?」
「は?」
 ……………………
 ……………
 ………
 ……あれ? 今、なんて言った?
 え? ええ? ええええええ!? 
「なっ、急に何言ってるんだよ!?」
「ば、馬鹿! へ、変な想像しないでよ!! 単純に意見を聞きたいのよ! ほら、私ってそんなに……大きくないし!」
 恥ずかしさのあまり自棄気味に怒鳴る。
 なんでこんなことを言ってしまったのか、自分でもよく分からない。
 ただ、口から自然と出てしまったというかなんというか……。
「そ、それで、その、やっぱり男子は、大きい方が好みなわけ?」
「……あー、曽原とかは大きいのがいいって言うな。けど俺はあんまり大きさとか気にしたことないな」
「そうなの?」
「ああ。少なくとも、そんな理由で香奈を嫌ったりなんかしないさ」
「へ、へぇそう……。そうなんだ……へへっ、そうなんだ……」
 予想もしていなかった返事に、思わずニヤけてしまう。
 そっか。なんだか、深刻に考えすぎちゃってたみたいね。
「ほら終わったぞ」
 ドライヤーの電源を切って、大助はそう言った。
 振り返ると彼の顔が、すごく近くにあった。
 やだ、どうしよう。なんか急に顔が熱くなってた。
「どうした?」
「あ、ああそうね! あ、ありがとね!」
 大助から目を逸らしてドライヤーを受け取る。
 心の落ち着かない私は、コンセントを抜くことすら忘れていた。
 すぐにこの場から離れたくて、大して注意もしていなかったせいで床に垂れているドライヤーのコンセント引っかかってしまう。バランスをくずして、体が前に倒れていく。
「きゃ!」
「危ない!」
 正面から受け止めてくれた大助ごと、私は床に倒れ込んでしまった。
「った〜」
「大丈夫!?」
「ああ。なんとか……」
「良かっ………ぁ」
 すぐ近くに大助の顔があることに気づく。
 しかも私の体は全体重を預ける形で彼の体の上に倒れ込んでいた。
 受け止めてくれた拍子で、大助の両腕が私の腰に回っている。
「ぁ……」
「な………」
 互いに言葉が出なくなった。
 やだっ、心臓がドクドク鳴ってる。こんなに密着してたら聞こえちゃうかもしれない。
 顔もきっと真っ赤になってる。私は今、どんな表情をしているんだろう。
「…………」
「…………」
 緊張と恥ずかしさで体が上手く動かせない。
 心にある何かが外れそう。
 身近に感じる体温が、自分の体温と融けあっていくような錯覚。
 欲しい。もっと、感じたい。
 もっと傍で……この温かさを感じたい。
「か、香奈?」
「……大助……もっと………」



「ごほん!」



「「!?」」
 1つの咳払い。
 我に返り、声のした方を向く。
 吉野と咲音さんが、それぞれの表情でこっちを見ていた。
「そういう行為は場所を慎んでください! 小学生たちもいるんですよ!?」
「駄目ですよ吉野。二人ともまんざらでもないって思ってたんですから」
「え、えっと……これは、違うのよ。違う。違うのぉぉぉ!!!!」
 すぐさま大助から離れて、逃げるように女子の部屋に飛び込んだ。
 後ろで困惑するような声が聞こえたけど、そんなことどうでもよくなるくらい、頭がパニックになっていた。




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 しばらく時間が経った後、香奈が顔を紅くしながら部屋から出てきた。
 皆がさっきの出来事に触れないようにしながら、再び外に出て遊ぶことになった。
 今度は吉野や咲音さんを加えて鬼ごっこをしたり、縄を使って大縄跳びをしたりした。
 最近は遊戯王ばかりしていて体を動かす遊びをしていなかったから、なまっていた体を解すにはいい運動になった。


 夕食になるころには薫さんや伊月、佐助さんに雲井も戻ってきていた。
 4人ともそれぞれに何があったのかは話してくれなかった。スターのメンバーは口が堅そうだから、あとで雲井だけでも事情を聴いておくことにしよう。
「あ〜あ、明日には帰らなくちゃいけないのかぁ〜」
「仕方ないですよ。春休みの宿題もやらないといけませんし」
「せやな。それにこの合宿が終わったらうちの家でお泊り会やし」
「そうだったね! ここに来る前に泊まった華恋ちゃんの家も楽しかったし、ヒカルちゃんの家も楽しみだなぁ」
「なはは♪ うちの家も色々準備してるから楽しみにしててな?」
「うん!」
 夕飯を食べながら小学生たちは談笑する。
 それはとても微笑ましい光景で、束の間の平和を実感させてくれた。
 だが同時に、決戦の時も近づいているのだと考えてしまう。この合宿の成果がきちんと現れたとしても、アダムを倒せるかどうかは分からないのだ。
「………」
「っ!?」
 机の陰から、隣にいる香奈から足蹴りが飛んできた。
 横目で確認すると、ご飯をかきこみながらもぐもぐと口を動かしている。
 言わんとしていることは分かった。「そんな暗い顔をするな」というところだろう。
「……ありがとな」
「大助さん、どうかしましたか?」
「いや、何でもないよ」
 笑顔を向けてそう答える。
 香奈の言う通りだろう。今更暗い顔をしたところで、何かが変わるわけじゃないんだ。
 俺は、俺に出来る精一杯の事を、するしかないんだから。



 夕食が終わって、俺は雲井に何があったのか問いただした。
 案外、あっさりと彼はその内容を教えてくれた。
 邪神ドレッド・ルートという存在と戦い、勝利したという事。他にもイレイザーとアバターという存在が街を徘徊していたという事をだ。
 雲井がドレッド・ルートを倒したのなら、イレイザーとアバターは伊月と薫さんが倒してくれたのだろう。
 俺達が遊んでいる間に、闇の力と戦ってくれていたことに感謝すると雲井は「てめぇに感謝されても嬉しくねぇぜ」と悪態をついてきた。



 その夜。俺は外に出て階段に腰かけ夜空を眺めていた。
 幸いにも雲一つない空で、星が真っ黒なキャンバスに彩られ輝いている。
 特に何かを思っていたわけじゃない。ただ何となく、落ち着いた場所にいたかっただけだ。
「あの、大助さん」
「ん?」
 後ろからかけられた声。
 振り返るとそこには、青い生地のパジャマを着て毛布を肩にかぶせた状態の華恋ちゃんがいた。
「どうしたの?」
「いえ、ちょっと外に出てみたくて……そしたら大助さんがいたので」
「そっか。隣に来る?」
「はい!」
 少し遠慮がちに、華蓮ちゃんは俺の隣に座った。
 なんだか、妹が出来たような気分だ。
「大助さんはどうしてここに?」
「なんとなくだよ。特に理由は無いかな」
「そうですか……あの、大助さん…………どこかの大会に、出場されるんですか?」
「急にどうしたの?」
 突拍子な質問に視線を向ける。
 彼女は少し困ったような表情を浮かべて、言葉を続ける。
「あの、薫さん達や、大助さん達が話しているのを聞いて……なんとなく予想してみたんです。相手がとても強いって聞いたので……だから、決闘の練習しているんじゃないかなって……」
 気を付けてはいたのだが、完全に隠しきることは無理だったらしい。
 まぁあれだけ決闘の練習をしているところを見せられていたら、そういう結論に至ってもおかしくは無いか。
「そうか。聞いたのはそれだけ?」
「あ、はい。その相手って、そんなに強いんですか?」
「実際に戦ったことは、一度もない。けど、話を聞く限りだと、ありえないくらい強いらしい」
「そんな、大助さんほどの実力でも、勝つのが難しいんですか?」
「……やってみないと分からないけど、たぶんそうだろうな」
「そんな……」
「まぁ、どんなに強い人でも負けることはあるだろうから、なんとも言えないけどな。逆にいえば俺だってどんなに強くなっても負けることだってあるし」
「そんなの困ります。大助さんは、私が尊敬する決闘者なんですから………」
「俺より、香奈とか薫さんの方がいいんじゃないか?」
「大助さんがいいんです」
「そっか……じゃあ、負けないように頑張るさ」
「あ、プレッシャーになってしまいましたか……?」
「いやいや、別にそんなこと無いよ。華恋ちゃんに心配をかけるわけにはいかないからさ」
 あくまで何とも無い様に振る舞う。
 何も知らない彼女に、余計な心配はかけたくない。
 自分で言うのもあれだが、アダムがどれだけ強くても、勝てる可能性が無い訳じゃないんだ。

「……えっと、負けても、いいですよ?」

「はい?」
 まさかの言葉に、つい返事をしてしまった。
 華恋ちゃんは小さな拳を握り、真っ直ぐな瞳でこっちを見つめてくる。

「大助さんが負けちゃったら、私が仇を取りますから!! だから、全力で頑張ってください!!」

 その視線と共に受け止めた言葉。
 自然と笑みが浮かんでしまう。
 やれやれ、まさか小学生に元気づけられるなんて思わなかったな。
「………そっか。じゃあ……」
 右手がのびて、彼女の頭を撫でる。
「もし俺が負けちゃったら、その時はお願いするよ」
「負けないでくださいね! 私、応援しています!」
「ありがとうな、凄く元気が出たよ」
 華恋ちゃんは笑顔でそう言った。
 もちろん彼女に仇など取らせる訳にはいかない。
 また1つ、負けられない理由が出来たな。
「それじゃあそろそろ戻ろうか? 湯冷めしたら大変だしな」
「はい!」



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 夜になりました。夕食もお風呂も済ませて、ほとんどの人が寝室に入っています。
 そういう私はエルと一緒に訓練の復習をしていました。
 今日一日は訓練が無かった分、習ったことを忘れないようにしなければいけません。
 辺りに誰もいないことを確認して、身体強化の練習をしています。
 これなら誰かに見られても、ただソファでボーっとしているようにしか見えないからです。
(右手………左手………右足……左足……聴覚……視覚……)
 内側にいるエルの指示のもと、内在する白夜の力を移動させていきます。
 頭の先から足の先まで、力を全身に自由自在に動かせるようにする練習です。
 昨日から比べたら、かなりスムーズに移動できるようになっていました。
(かなり上手になりましたねマスター。この分なら明日には次のステップに進めそうです)
(うん。そうだね。次は……力の分配込みでの移動だっけ?)
(はい。今やっているのは一点集中の強化です。マスターと私の白夜の力なら、ほぼ全身の強化も出来ますから)
(そうなんだ。ちょっと気になってたんだけど……白夜の力って、個人で変わるんだよね? みんなって、どれくらいの力をもっているの?)
(そうですね。分かりやすく数値でお話しましょう。あくまで個人の持っている白夜の力の容量の目安なので正確な力の量ではないですが、佐助さんを10とするなら大助さんや香奈さんは150ずつ。伊月さんは200。薫さんとコロンは350ずつですね)
(うーん、その数値って、大きいほど強くて幅広く力が使えるってことでいいのかな?)
(はい。もっとも……その力の運用方法によって強さも変わるので、この数値は大して意味はありませんよ。あくまで、目安なので)
(うん。じゃあ私は……500くらい?)
(いいえ。私とマスターは力がリンクしているので、合わせた数値を示すなら………1400くらいですね)
(そんなにあるの!?)
(あくまで目安です。永久の鍵は元々、全員が力を合わせてようやく使用できる物です。それをマスターは一人で行使できるのですから、それくらいの力を持っていて当然なのですよ)
 改めて自分の持っている力を認識させられました。
 確かに、元はと言えば神のカードを封印するために創られたのが「永久の鍵」です。それくらいの力を持っているのも頷けるような気がします。

「んー、真奈美さん、起きてたんかぁ?」

 声をかけられた方に視線を向けると、ヒカルちゃんが目をこすりながら歩み寄ってきました。
 ソファの隣にそっと腰かけて、こっちに身体を寄りかからせてきます。
「どうしたんですかヒカルちゃん? 眠れませんか?」
「んー、まぁそんなところやなぁ……ふぁぁ…うーん、眠いのに中々寝つけなくてなぁ」
「煎茶ばっかり飲んでいるからですよ。コーヒーと同じで、眠れなくなっちゃうんですから」
「そうなんかぁ……気を付けるわぁ。真奈美さんは、どうしてボーっとしてたん?」
「私はいつもはもう少し遅い時間に寝るので、ちょっと眠れなくて……」
「へぇ。学校の勉強でか?」
「はい。復習とか予習をしていると、遅くなっちゃうので」
「高校生も大変やなぁ……うちらもそうなるんやけど」
「3人とも、一緒の高校に進学するんですね?」
「まぁな。うちらの学校、小中高と一貫してるシステムあるんよ。まぁ別の高校に行くこともできるけど、みんなと離れ離れになるんも嫌やしなぁ」
「大切な友達なんですね」
「もちろんや。あ、でも新しい友達も作りたいしなぁ……どうしようか……」
「大丈夫ですよ。学校だけが友達を作る場所じゃありません。色んなことをして、色んなところに行けば、たくさんの友達に会えますよ」
 ちょっとだけ、ヒカルちゃんが羨ましいです。
 小さい頃は内気な性格のせいで、あまり友達と呼べる人はいませんでした。
 ちゃんとした友達が出来たのも高校生になってからです。
「友達が多いことは、いいことですよ。大切にしてくださいね」
「もちろんや。でもうち、こんな喋り方やろ? からかわれたりすることもあるかもしれんし……」
「その時は琴葉ちゃんや華恋ちゃんに助けてもらえばいいんですよ。親友なんですよね……それならきっと、大丈夫です」
「………せやな。うん……ありがと……真奈美さん。少し……元気出たわ」
「それなら良かったです……って、あれ?」
「……くー……くー……」
 私に寄りかかる形で、ヒカルちゃんは寝息を立てていました。
 眠いって言っていましたし、限界だったんだと思います。
(ずるい! 私だってマスターに寄り添って寝たいのに!!)
 ……うん。ちょっと子供なパートナーが駄々をこねる前に、彼女を寝室に運びましょう。
(子供ってなんですかマスター! 私はマスターの事を第一に――!)
(分かったから、はい。両腕の強化ね)
(うぅ…マスターは意地悪です……)
 腕の力を強化して、ヒカルちゃんを抱っこします。
 可愛らしい寝顔ですやすやと息を立てる彼女を、そのまま寝室へと運びました。



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 夕食も終えてお風呂も済ませた晩。
 私は女子部屋の布団に潜って天井を見上げていた。
 さっき真奈美ちゃんが出て行ったけど、何かあったのかしら…?

「えへへ♪」

「うわぁ!?」
 布団がもぞもぞと動いて、琴葉ちゃんが入り込んできた。
 髪からほのかにシャンプーの香りがする彼女は、満面の笑みを浮かべながら私の隣に来る。
「ど、どうした――!」
「しーっ」
 口元に人差し指を立てて、琴葉ちゃんは笑った。
 少し考えた後に、諦めて彼女を抱き寄せる。小さな体から優しい温かさが伝わってきた。
「明日には帰っちゃうから、今日はおねぇちゃんと一緒に寝るね♪」
「もう。朝起きて吉野やママに叱られても知らないわよ?」
「いいもん。その時はその時だよ♪」
「はいはい」
 無邪気な姿が、とても可愛らしい。
 本当に妹にしたくなっちゃうくらいだ。
「キャンプは楽しかった?」
「うん♪ おねぇちゃんにも会えたし、みんなと楽しく遊べたし♪」
「良かったわね。またこうやってみんなで遊びに来ましょう」
「えへへ、今度は夏休みかなぁ? あっ、でもゴールデンウィークっていうのもあるよね?」
「休みで予定が空いてたら、土日でも構わないわよ」
「そっか♪ あ……そうだおねぇちゃん。ちょっと教えてほしいことがあるんだけど……」
「なに?」
「えっとね、おねぇちゃんの、ケータイの番号とか……教えてほしいなって……その、たまには遊びに行きたいし……駄目?」
 恐る恐るといった感じで上目づかいに尋ねられる。
 ……可愛い。悔しいけど、これは断れそうにない。
「いいわよそれくらい。携帯は持ってる?」
「うん♪」
 もぞもぞと、琴葉ちゃんはパジャマのポケットから携帯を取り出した。
 準備万端ってわけね。
「よし、じゃあちょっと貸してね」
「うん!」
 彼女の携帯を借りて、自分の携帯と同時進行で操る。
 赤外線通信で電話番号と、ついでにメールアドレスも教えてあげる。
「はい、これで完了よ」
「ありがとう♪ えへへ、嬉しいなぁ♪」
 心底嬉しそうに、琴葉ちゃんは笑う。
 そんな彼女を撫でながら、私は携帯をしまった。
「ほら、そろそろ寝ましょう琴葉ちゃん」
「えー、もう少しだけ……お願い!」
「もう。我儘ねぇ。私が言えた事じゃないけど……」
「…………」
 不意に、琴葉ちゃんは黙り込んだ。
 少し不思議に思って視線を下に向ける。
 彼女の視線は、私の首にかけられていた星のペンダントに向けられている。窓から差し込む僅かな光を反射して、キラキラと輝いている。
「おねぇちゃん……これ、おねぇちゃんの……?」
「そうよ。大助にもらったの。私の大切な宝物よ」
「そっか……」
 口調が少しだけ暗くなったように感じた。
 琴葉ちゃんは、まるで何かを思い出したかのように唇を噛む。私の襟元を掴む手の力が少しだけ強くなった。
「おねぇちゃん……小指出して?」
「いいわよ。どうしたの?」
 言われるがままに、小指を差し出す。
 琴葉ちゃんは自らも小指を出して、ゆっくりと絡ませた。

「あのね……わたし、香奈おねぇちゃんが大好き。大助さんも、真奈美おねぇちゃんも、雲井さんも、薫ちゃんも、伊月くんも佐助さんも、ママもパパも吉野も武田も、華恋ちゃんにヒカルちゃん、みんなみんな大好き!」

 さっきまでとは少し違って、何かに訴えかけるような言葉だった。
 必死さを含んだ言葉に、ただ頷くしかできなかった。

「だから……約束して? みんな、絶対にいなくならないって……離ればなれになんか……なったりしないって……!!」

「………そうね。みんな、ずっと一緒がいいもんね」
「うん! だから約束! ホントのホントの、約束だよ!」
 そのまま強引に、彼女は指切りをした。
 どういう意図で約束をしたかったのかは、分からない。
 だけど彼女は、少しだけ安心したように笑みを浮かべた。
「大丈夫よ琴葉ちゃん。誰もいなくなったりしないわ。またみんなでこうやって、遊びましょう?」
「うん!」
 頷く彼女を強く抱きしめる。
 大助にはあんな風に指摘しちゃったけど、私も不安は感じてる。
 それでも……こうやってみんなの無事を祈ってくれる子がいる。それなら私だって、約束を叶えるために頑張っていきたい。
「ありがとね琴葉ちゃん」
「うん♪」
「それじゃあ今度こそ、眠りましょう?」
「うん!」
 せめて今だけは、幸せな時間を共有するように……。
 私は幸せな笑みを浮かべる彼女を抱きしめて、一緒に眠りの世界へと落ちて行った。




続く...




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