闇を切り裂く星達3

製作者:クローバーさん





目次

 ――プロローグ――
 episode1――学年別ランキング戦――
 episode2――学年別ランキング戦〜その2〜――
 episode3――学内別ランキング戦〜その3〜――
 episode4――思わぬ来訪者――
 episode5――異変――
 episode6――悪夢の始まり――
 episode7――張り巡る策略――
 episode8――サバイバル開始――
 episode9――合流――
 episode10――増援――
 episode11――明かされたルール――
 episode12――まだ友達と呼べないけど――



――プロローグ――



 夕日が沈みかけていた。
 冬が近づく季節の寒さが肌を襲う。
 舞台は放課後の学校。2人の男子が決闘をしていた。
 デュエルディスクを使用していることによって、ソリッドビジョンが浮かび上がり臨場感が生まれている。

 決闘は終盤。状況は圧倒的にガラの悪い男子の方が有利だ。
 少し気弱そうな男子は相手の強力モンスターを見つめながら、為すすべもなく立ちすくんでいた。
「おらぁ!! 攻撃だぁ!!」
 1人の男子が叫ぶ。
 その声に反応したモンスターが、対戦相手を攻撃する。

「うわぁあ!」

 ???:700→0LP

 気弱そうな男子のライフが0になり、決闘が終了する。
 負けた男子は、ソリッドビジョンの迫力に押されて尻餅をついてしまった。
「ったくよ。弱いくせに生意気な口をきいてんじゃねぇぞ」
「う、うぅ……」
 負けた男子は地面に座ったまま、対戦相手を見上げた。
「ほら、とっととアンティカードを出せ。まぁ、てめぇのカードなんて期待出来ねぇがな」
「や、やめて……!」
「何言ってんだよ。てめぇからアンティにしようって持ち出したんじゃねぇか。いいからよこせ!!」
 勝者が敗者からデッキを取り上げて、1枚のカードを抜き取る。
 取られまいとすがる敗者に、勝者は容赦なく拳を振るう。
 バキッ! という鈍い音が聞こえ、敗者は地面に伏せさせられた。
「けっ! やっぱたいしたカードを持ってないな。本当に時間の無駄だったぜ。じゃあな」
 倒れた男子に目もくれず、ガラの悪い男子はその場を立ち去る。
 敗者の男子は殴られた頬を撫でながら、ゆっくりと立ち上がった。
「また……負けた……」
 己の手の平を見つめて、男子は自らの非力さを痛感する。
 どうして勝てないのだろう。どうして負けてしまうのだろう。


「兄さん!!」


 フラフラと足取りのおぼつかない男子に、1人の女子が駆け寄った。
 その倒れそうな体を支えて、言葉をかける。
「どうして、そんな無茶をするの?」
「……放っとけよ。離せ!」
 支えてくれる女子の手を払いのけて、男子は1人で歩き始める。
 その表情は、落ち込んでいるようにも怒っているようにも見えた。
「……兄さん……」
 女子は胸に手を当てて、言いようもない不安を感じる。
 どんどん兄が遠くに行ってしまうような気がする。
 兄が深い闇の底へ向かって行ってしまうような……そんな気がする……。
「……!! 兄さん?」
 異変を感じて、急いで辺りを見渡す。
 さっきまでそこにたはずの兄の姿が、消えていた。
 辺りに隠れるような場所はないのに……どうして?
「兄さん!!」
 女子の声が、夕日が沈んだ町に響き渡る。
 だが兄の返答はなかった。まるで、どこか別の世界に消えてしまったかのように……。




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「……ここは……どこ……?」
 男子は、暗い世界にいた。
 どこまでも黒く、何もない世界。
 いつもなら不気味で怯えていたかもしれないのに、今はなぜか怖くなかった。
 それどころか、この空間がとても心地よく感じた。

『やぁ。はじめまして』

 少年のような声がした。
 男子は声のした方を向き、声の主を視認する。
 黒いマントのような布を羽織り、漆黒の瞳と髪を持った少年がこっちに微笑みかけていた。
「だれ?」
『ボクの名前はアダム。この空間は、ボクが作り出したものだよ。どう? 気に入ってもらえたかな?』
「……悪くないね」
『それは良かった♪ やっぱり君には才能があるみたいだね♪』
「才能……?」
『うん。君は誰よりも強い素質を持っている。ボクが協力すれば、君は誰よりも強くなれるよ?』
「誰よりも強く……? この僕が?」
 暗かった男子の瞳に光が宿る。
 だがその光は、暗く濁っている。
『そうさ。君には才能がある。もう妹に守ってもらわなくてもいい。どこぞの不良に負けてカードを奪われることもなくなる。君は、誰よりも強い”力”を手に入れることができるんだ』
「……本当に? 僕は誰よりも強くなれるの……?」
『もちろんさ』
 濁った光を宿した男子に、アダムは優しく微笑む。
 男子の肩に手を置いて、アダムは言った。


ボクの言う通りにすれば、君は誰よりも強くなれるよ




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 さきほど決闘に勝った男子は、コンビニで弁当を買って帰路についていた。
 張り合いのない決闘をしたことを後悔し、手に入れたカードを見つめる。
「ったく、まったく使えないカードだぜ……」
 手に入れたカードを捨てて、男子はあくびをした。


「待ってよ」


 呼びかけられた声。
 男子は深いため息をついて、振り返った。
「またか。いい加減、うぜぇんだけど?」
「……今度は面白い決闘になると思うよ……」
「っ!?」
 さっきまでとは一変した相手の雰囲気に警戒する。
 時間帯のせいか、相手の体に黒い霧が覆っているように見えた。
「始めようよ。僕と決闘するの……怖い?」
「……! はっ! 上等じゃねぇか。今度はデッキ丸ごと賭けてもらうぜ?」
「いいよ。僕は……負けないから」
 気弱そうな男子は口元に笑みを浮かべて、腕のデュエルディスクを展開した。


「「決闘!!」」


 互いのプレイヤーが叫び、決闘が始まる。



 次の瞬間、気弱そうな男子の体から深い闇が溢れ出した。






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「はぁ……はぁ……」
 兄を探して、妹は走り回っていた。
 あの短時間で、彼はいったいどこへ行ってしまったのだろう。
 そこまで足が速いわけではないはずなのに……今の彼を独りにしてはいけないはずなのに……。
「どこなの……兄さん……!」




「ぎゃあああ!!」

 悲鳴が聞こえた。
 兄のものかと思い、急いで現場へ向かう。
 そして女子が目にしたものは、予想していたものとはまったく逆の光景だった。

「て、てめぇ……いったい…!」
 先ほどの決闘で勝利していた男子は、ボロボロに傷つきながら地面に伏していた。
 さっきとはまったく逆の構図。暗い光を宿した男子は、敗者の男子を見下ろして詰まらなそうな表情を浮かべた。
「おかしいな。あなたはもっと強かったように感じたけど……所詮はこんなものなんだ」
 少年の場には、見たこともないモンスターが君臨していた。
 しかもただのモンスターではない。そこにいるだけで、場の雰囲気が重くなるような……そんな雰囲気を持ったモンスターだった。
「兄さん……これは……?」
「遅いよ。せっかくお前に、決闘を見せてあげようと思ったのに……」
「え?」
「僕は強くなったんだ。誰よりも……もちろん、お前よりもね……」
「兄さん……?」 
「さぁ、帰ろう。僕には、やることが出来たからね」
 不気味に笑う兄を見て、妹は背筋に寒気を感じた。
 自分の知っている兄ではない。いったい、自分が見ていない間に何があったのだろうか。
 まるで別人だ。明らかにおかしい。本当に……彼は兄なのだろうか?
「どうしたの? 帰ろうよ。夕ご飯も作らないといけないしね」
「う、うん……」
 先を行く兄の後ろを、妹はついていく。
 見えない闇に染まってしまった兄の姿を、彼女は不安を抱えたまま見つめていた。




episode1――学年別ランキング戦――



 ……キーンコーンカーンコーン……

 学校のチャイムが校内に響き渡った。
 教卓に立った担任が出席簿をまとめ、教室を出ていく。
「はぁ、終わったぁ〜」
 誰かの言葉が聞こえて、他の全員も授業の疲れにうなだれている。
 当然ながら、中岸大助(なかぎし だいすけ)も同じようにうなだれ、深いため息をついていた。


 季節は冬。12月の冷たい風が吹き付ける外では、灰色の雲が空を覆っている。
 窓から見える道には通行人の人々がコートを着ながら寒そうに身を震わせている。登校時にも感じたあの寒さを下校時にも感じないといけないのかと思うと、気が萎えそうだ。
 そもそも学校の廊下ですら寒さが充満しているのに、暖房の効いた教室を出るという行為自体が自殺行為に思える。
 暖房に頼るのはよくないってことも、二酸化炭素が溜まって体に良くないのも分かっているのだが、換気のために窓を全開にすることもしたくない。
「まったく……」
 小さく溜息をついてしまう。
 テレビでよく地球温暖化について放映されているが、こうして冬の寒さを感じてみると、その放送が嘘ではないのかと思う。
 ヒートテックやセーターなどを着こんでも、外に出れば凍えるしかないし……。

「ったく、てめぇはだらしねぇなぁ」
 
 耳元で呼びかけられた。
 心の中で溜息をつきつつ、顔を上げる。
 俺の視線の先には寝癖のようなボサボサ茶髪の男子が立っていた。
 挑戦的な目つきで俺を睨み付けて、なぜか不敵な笑みを浮かべている。
 クラスメイトの雲井忠雄(くもい ただお)だ。
 入学してから何かと絡まれることが多く、迷惑にもライバル認定されている。
 最初は少し嫌っていたのだが、夏休みの事件やその後の事件などを経て、以前よりは遥かに仲良くなっていると思う。
 もちろん、まだ親友と呼べる存在ではないのは確かなのだが……。
「何か用か?」
「けっ! ずいぶんと余裕じゃねぇか」
 雲井の言う『余裕』とは、おそらくこれから行われる”アレ”についてのことだろう。
「余裕なわけないだろ? お前の方こそ、ずいぶん余裕そうじゃないか?」
「俺はてめぇと違ってめちゃくちゃ強くなってるからな」
 自信満々という感じで、雲井は言う。
 そういうところは、純粋に見習いたいところだと思った。
「なんたって俺は1人で神をぶっ倒した男だからな。いやぁあのときは――――」
 聞いてもいない武勇伝を語る雲井を無視して、教室の端へと目をやる。

 教室に備えられた暖房器具の前では、数人の女子グループが集まってる。
 何を話しているのか分からないが、みんな楽しそうに笑っている。意識しているわけではないのだが、俺は自然とその中にいる1人の女子を見つめてしまう。
 グループの中で話の中心になっているらしき女子。長い黒髪にぱっちりとした瞳。そしてどこか勝ち気な表情。

 俺の幼なじみ、かつ恋人の朝山香奈(あさやま かな)だ。
 小学校の頃からの付き合いで、小学、中学、高校と同じところに通っている。家が近いこともあって毎日のように一緒に登校している。
「それでね、母さんったら――――」
「あはは、なにそれー」
 キャッキャッと楽しそうに友達と話している香奈の姿はやっぱり生き生きとしていて、見ているとなんだか安心する。
 牙炎の事件で辛い目に遭わせてしまって、一時は『自分がいない方がいい』など散々ネガティブな発言をしていたから学校生活に支障がないか少し心配していたのだが、どうやら余計なお世話だったらしい。
「あれからね……」
「ん?」
 俺の視線に気づいたのか、女子の1人が香奈の耳元で何かを囁いた。
「な、ち、違うわよ!!」
 香奈は途端に顔を少し赤くして、怒鳴っている。
 ………いったい何を言われたんだ?

「――――それで俺が一撃でぶっ飛ばしてやったんだよ」
「あぁ、はいはい。分かったよ」
 適当に受け流す。
 ようやく自慢話が終わったか。もう聞き飽きたぞ。

 12月になる前に、学校では5日間の秋休みがあった。
 そこで雲井は地の神に憑りつかれてしまった女性に会い、単身で戦いを挑んでその女性を救ったらしい。
 ついでに地の神にも気に入られたらしく、自身専用のデッキワンカードまで手に入れてしまったのだ。
 秋休みが終わって、その話をもう6回は聞かされている。

「てめぇ、ちゃんと聞いてたのかよ!?」
「だから聞いてたって」
「ちっ、いちいちムカつく野郎だぜ。昨日の決闘で勝利したからっていい気になってんじゃねぇぞ。今度やったら俺が勝つんだからな!!」
「分かったよ。また今度な」
 いちいちまともに付き合っていたらキリがない。
 もう少し突っかかってこなきゃ、もっと仲良くなれる気がするんだが……。

「あの、中岸君、ちょっといいですか?」
「はい?」
 俺と雲井が会話している中、女子の声が割り込んだ。
 凛とした顔立ちに黒縁の眼鏡、短い黒髪を後ろでゴムでまとめているのは、本城真奈美(ほんじょう まなみ)。俺や香奈のクラスメイトで、最近この高校に転入してきたのだ。
 少し控えめな性格だが友達を何よりも大切に思う優しい性格だ。たまに心配し過ぎなところもあるが、それもその性格によるものだろう。
「どうしたんですか本城さん?」
「えっと、その、香奈ちゃんが中岸君に”こっち見るな”って伝えてほしいって……」
「………それくらい自分で言えって言っておいてください」
「は、はい。分かりました」
 少し苦笑を浮かべた後、本城さんは女子グループに戻っていった。
 俺からの伝言を聞いた香奈は、頬を膨らませながらこっちを睨み付ける。
「やれやれ……」
 あとでジュース奢れって言われそうだな……。
 
「相変わらずラブラブだな」
「悪いか?」
「へっ、別に俺は気にしてねぇからな」
「そうかよ」
 俺と香奈が付き合っていることを知っているのは、雲井と本城さん、あと香奈の友達の雨宮雫(あまみや しずく)だけだ。他の男子や女子には、今のところ知られていない。もしバレたら騒がしいことになりそうだしな。


 ……ピンポーンパンポーン……


 教室に、通常とは違うチャイムの音が鳴った。
 どうやら、いつの間にか時間になっていたらしい。

《これより学年別ランキング戦、最終日を開始します。プレイヤーの生徒は各自、準備してください》

 その放送で、教室にいる全員が机を隅に移動させる。
 椅子と机が教室の脇に移動し、みんなも壁側に寄る。
 教室の真ん中に適度なスペースが生み出され、これから始まる勝負に最適な空間が出来た。
「いよいよだな」
「ああ」
 雲井が武者震いをしながら言う。
 俺はたいして緊張していなかったのだが、こうして対戦が近づくと少し緊張感がある。

「おっ、みんな準備が早いな」

 担任の山際(やまぎわ)が、教室に入ってきた。
 これから行われる対戦を記録するために来たのだろう。
「少し遅れて悪かったな。他のクラスも対戦を見たいらしくて廊下が混雑してたんだ」
 廊下の方に目をやると、確かに他クラスの生徒たちが教室のドアから教室を覗き込んでいた。
 人間1人がやっと通れるくらいの隙間があるくらいで、かなり混雑している。
「4人とも、準備はいいか?」
 そう言って山際は俺と香奈、雲井に本城さんへと視線を送る。
 俺達は黙って頷き、バッグの中からデュエルディスクとデッキを取り出した。

 これから行われる対戦。
 それは遊戯王の授業の一環であり、ある意味ちょっとしたイベントでもある『学内別ランキング戦』だ。


 俺達の通う『私立星花(せいか)高校』は、対戦型カードゲームである遊戯王の授業を採用している。某週刊誌で連載された漫画から生まれたこのカードゲームは全世界共通の遊び道具として広まっている。
 プロ制度を定めようとする動きや、エンターテイメントとしての有効活用など様々な事業が企画を立てたりしているらしい。星花高校のように授業の一環として採用している学校も、最近では増えてきた。
 大規模な専門店などは県に2、3店は必ず存在しているし、小さなカードショップを含めれば全国で10000店は軽く超える数が存在する。

 モンスター、魔法、罠。これら3種類のカードを使用し、相手のライフポイントを0にした方が勝つという単純明快なルール。老若男女、誰にでも楽しめるルールであることも世界中に広まった要因でもあるだろう。
 近年では新たに『シンクロモンスター』と『デッキワン』というカテゴリーも登場して、遊戯王界をさらに盛り上げている。

 特に『デッキワン』にカテゴリーされるカード、通称『デッキワンカード』は遊戯王界に旋風を巻き起こしている。
 通常、対戦で使用するデッキには同名カードは3枚しか入れられない。強力すぎるカードは『禁止カード』『制限カード』『準制限カード』が認定され、デッキに入れられる枚数が制限される。どのカードが何枚入れられるのか、それは遊戯王本社のホームページにある『禁止・制限リスト』によって確認することが出来る。
 そしてデッキワンカードは、デッキに元々1枚しか入れてはいけないカードなのだ。
 その分、通常では有り得ないくらい強力な効果を持っていて、使えば確実に戦局を有利にすることが出来る。
 テーマデッキの強化のためとして生まれたデッキワンカードには、デッキに入れるための条件が書かれている。
 例えば『魔法カードが15枚以上入っているデッキにのみ入れることが出来る』というようにだ。
 それらの条件を満たさなければ、デッキに入れることができない。もし条件を満たしていなければ、デュエルディスクが自動的に検知して警告音が鳴る。
 さらに、デッキワンカードは1つのデッキに1枚しか入れられない。
 例を挙げるとすれば、『カウンター罠が15枚以上入ってるデッキ』という条件を持つデッキワンカードと『罠カードが15枚以上入っているデッキ』という条件を持つデッキワンカードは一緒のデッキには入れられないということだ。

 テーマデッキを扱っている人には喉から手が出るほど欲しいカードなのだが、デッキワンカードを入手するためには『ENDLESS PACK』というパックを買い、当てなければならない。だが、そのパックに入っている種類の多さと封入率の低さ、さらに自分が欲しいテーマデッキのデッキワンカードかどうかは限らないことを踏まえると、自分の欲しいデッキワンカードを入手することは宝くじで1等を当てるのと同じくらい難しいかもしれない。
 ちなみに俺は3箱買ってもデッキワンカードが当たらなかった。

 デッキワンカードの登場によってルールも追加された。それは―――

 決闘中に1度、自分のターンのメインフェイズにデッキからデッキワンカードを手札に加えることができる。
 この効果を使った場合、相手はデッキからカードを1枚ドローする。

 ――――というものだ。

 このルールによって、強力な効果を発揮するデッキワンカードを自分の好きなタイミングで使用可能になった。
 当然ながら、決闘もより激しいものに変化したのは言うまでもない。


「さぁ、じゃあまずは最初の1組、出てこい」
「はい」
「はい」
 山際の声に答えて、俺は教室の中心に出る。
 辞書型になっているデュエルディスクを、ボタンを押して展開させる。展開させたデュエルディスクを左腕に装着してデッキをセットした。

 これから行われるのは、星花高校でやっている遊戯王の授業の一環。
 夏から今までの授業における戦績を考慮して、学年別に軽くランキングを付けようというのである。
 ランキングと言っても、約1000人ほどいる全校生徒に明確なランキングを付けるわけじゃない。各学年それぞれ約350人の中から、上位30名を選んでリーグ戦方式で決闘していき、その結果を集計して教師が内密にランキングをつけるというものだ。ランキング上位になった生徒は他学校との交流試合や親善試合に代表として決闘する確率が上がる。
もちろん嫌だったら断ってもいいし、仮に負けたところで何のデメリットもない。
 上位に選ばれなかった生徒も、上位の決闘者の対戦を見ることも出来るし、自習も同然の授業なので帰って友達と遊ぶこともできる。一応は授業なのだが、縛りはゆるい。

「まさか、あんたとこんな場で対戦することになるなんて思わなかったわ」
 俺の前に、見慣れた姿が立ち塞がる。
 香奈が不敵な笑みを浮かべて、俺の数メートル先に立っていた。

 このクラスで上位30名の中に選ばれた人は、俺と香奈、本城さんと雲井の計4名だ。
 俺や香奈、本城さんは日頃からかなり良い戦績だったため、上位30名に選ばれてもたいして騒がれなかった。
 だが雲井が上位30名に選ばれたことは、クラス全員が納得いかない様子だった。考えてみれば当然だ。夏休み前まで雲井の戦績は最悪で、クラス最弱とまで言われていたのだ。だけど、夏休みを終えたあたりから急激に実力をつけ始めてきて、確実に勝率を増やしていった。秋休みが明けた頃からは、デッキワンカードも手に入れたおかげでかなり高い勝率を誇っている。

 今日は学年別ランキング戦の最終日。俺達に残っている試合はそれぞれ1試合ずつ。本当は昨日のうちに終わるはずだったのだが、昨日の決闘が思った以上に長引いてしまったため、こうして今日の放課後を使って対戦することになった。
 対戦カードは俺VS香奈、本城さんVS雲井だ。今日で最後だからなのか、いつもは帰る生徒も観戦することにしたようだ。
 それにしても、まさかこんな状況で香奈と対戦するとは……運がいいのか悪いのか、よく分からない。
「最近はあんまり対戦してなかったけど、こうして直接対決できるなんてね」
「ああ。やるからには全力でやるぞ」
「当たり前のこと言ってんじゃないわよ。あんたをこてんぱんに倒してやるわ。新しくなった私のデッキを見せてあげるわよ!」
「その言葉、そっくりそのまま返してやる。俺だってデッキを改良したんだからな」
 互いにデュエルディスクを構える。
 自動シャッフルがなされて、決闘の準備が完了した。
 俺達は息を合わせ、叫ぶ。



「「決闘!!」」



 大助:8000LP   香奈:8000LP



 決闘が、始まった。



 デュエルディスクの青いランプが点灯した。
 どうやら先攻は香奈らしい。

「私のターン! ドロー!!」(手札5→6枚)
 引いたカードを手札に加えて、香奈はすぐさま行動に移った。
「手札から"豊穣のアルテミス"を召喚するわ!!」


 豊穣のアルテミス 光属性/星4/攻1600/守1700
 【天使族・効果】
 このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
 カウンター罠が発動される度に自分のデッキからカードを1枚ドローする。


 白いマントを翻す天使が、香奈の場に現れる。
「さっそくか……」
「カードを3枚伏せて、ターンエンド!!」
 自信満々の表情で、香奈はターン終了を宣言した。
 あの伏せカードにかなりの自信があるらしい。

 香奈の使うデッキは【パーミッション】。
 カウンター罠やそれをサポートするモンスターを用いて相手の行動を制限するタイプのデッキだ。そんなデッキ相手に先攻を取られてしまったのはキツイとしかいいようがない。
 しかもこれまでの対戦で、香奈の先攻で始まった決闘の勝率はかなり低い。
「どうしたの? 大助のターンよ?」
「ああ」
 考えていても仕方ない。なんとかするしかないな。


「俺のターン! ドロー!!」(手札5→6枚)
 デッキからカードを引く。
 香奈は伏せカードを発動する様子はない。
 さて、どうするか……。相手の場にいるアルテミスは、カウンター罠を発動するたびにデッキから1枚ドロー出来る効果を持っている。下手に行動してカウンター罠を連発させるわけにはいかない。かといって行動しなければ負けてしまうし……。
「なにやってんのよ。さっさとターンを進めなさいよ!!」
「分かってるよ」
 急かされるまま、俺は手札にある1枚のカードに手をかけた。
「俺は"六武の門"を発動する!!」


 六武の門
 【永続魔法】
 「六武衆」と名のついたモンスターが召喚・特殊召喚される度に、このカードに武士道カウンターを2つ置く。
 自分フィールド上の武士道カウンターを任意の個数取り除く事で、以下の効果を適用する。
 ●2つ:フィールド上に表側表示で存在する「六武衆」または「紫炎」と名のついた
 効果モンスター1体の攻撃力は、このターンのエンドフェイズ時まで500ポイントアップする。
 ●4つ:自分のデッキ・墓地から「六武衆」と名のついたモンスター1体を手札に加える。
 ●6つ:自分の墓地に存在する「紫炎」と名のついた効果モンスター1体を特殊召喚する。
 

「なっ、最初からそのカード!?」
「ああ。さぁどうする?」
 六武衆の展開力を大幅に増強させる永続魔法。
 どうするなんて尋ねてみたものの、これを通すわけないだろうな。
「もちろん、無効にするわよ!!」
 たいして考える様子も見せず、香奈は伏せておいたカードを発動した。


 マジック・ジャマー
 【カウンター罠】
 手札を1枚捨てて発動する。
 魔法カードの発動を無効にし破壊する。


「手札の"アテナ"をコストに、大助の発動した"六武の門"を無効にするわ!!」
 俺の背後に建築されかけていた巨大な門が、不思議な魔法陣によって粉々に砕かれた。

 六武の門→無効→破壊
 香奈:手札2→1枚

「アルテミスの効果でカードを1枚ドローするわ!!」(手札1→2枚)
 マントを翻した天使から光が放たれて、香奈の手札を補充する。
 あいつがいる限り、こっちの不利は否めない。早めに倒しておかないといけないな。
「"六武衆−ザンジ"を召喚する!!」
 橙色の召喚陣が描かれて、薙刀を持った武士が現れた。


 六武衆−ザンジ 光属性/星4/攻1800/守1300
 【戦士族・効果】
 自分フィールド上に「六武衆−ザンジ」以外の「六武衆」と名の付いたモンスターが存在する限り、
 このカードが攻撃を行ったモンスターをダメージステップ終了時に破壊する。このカードが破壊される
 場合、代わりにこのカード以外の「六武衆」という名の付いたモンスターを破壊することが出来る。


 俺が使うデッキは【六武衆】。
 様々な効果を持つ武士を使い分けて状況に応じた戦術ができる。モンスターの展開力もあるため、序盤から相手を圧倒することも出来るデッキだ。香奈の使う【パーミッション】とは対極的なデッキかもしれない。

「召喚したけど、何か発動するか?」
「……何も発動しないわ」
「そうか。それなら、六武衆が場に1体いることで、手札から"六武衆の師範"を特殊召喚する!!」
「っ!」
 先ほど召喚された武士の隣に、隻眼の武士が颯爽と現れた。


 六武衆の師範 地属性/星5/攻2100/守800
 【戦士族・効果】
 自分フィールド上に「六武衆」と名のついたモンスターが表側表示で存在する場合、
 このカードは手札から特殊召喚する事ができる。
 このカードが相手のカード効果によって破壊された時、
 自分の墓地に存在する「六武衆」と名のついたモンスター1体を手札に加える。
 「六武衆の師範」は自分フィールド上に1枚しか表側表示で存在できない。


「バトルだ!! ザンジでアルテミスに攻撃!!」
「通すわけないでしょ!! カウンター罠"攻撃の無力化"を発動するわ!」


 攻撃の無力化
 【カウンター罠】
 相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
 相手モンスタ1体の攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了する。


 斬りかかろうとした武士の前に次元の穴が現れた。
 このまま突っ込めば飲み込まれてしまうと判断した武士は、やむなく攻撃を中断した。
「アルテミスの効果で1枚ドローよ!」(手札2→3枚)
「……! カードを1枚伏せて、ターンエンドだ!」

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 大助:8000LP

 場:六武衆−ザンジ(攻撃:1800)
   六武衆の師範(攻撃:2100)
   伏せカード1枚

 手札2枚
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 香奈:8000LP

 場:豊穣のアルテミス(攻撃:1600)
   伏せカード1枚

 手札3枚
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「私のターン、ドロー!!」(手札3→4枚)
 引いたカードを確認した瞬間、香奈が満面の笑みを浮かべた。
 なんだか、嫌な予感がする。
「大助、あんたに私の新しい戦術を見せてあげるわ!」
「ああ、望むところだ」
「手札から"テラ・フォーミング"を発動よ!」


 テラ・フォーミング
 【通常魔法】
 自分のデッキからフィールド魔法カード1枚を手札に加える。


「このカードの効果で、デッキから"天空の聖域"を手札に加えるわ!」(手札4→3→4枚)
「フィールド魔法!?」
 そんなカード、今まで香奈のデッキに入っていなかった。
 いったい、何をするつもりなんだ?
「そして手札に加えた"天空の聖域"を発動するわ!!」
 ソリッドビジョンによって、周りの景色が変化していく。
 教室の床が白い石床へと変わり、天空に浮かぶ建物が建造される。教室内にもかかわらず空の上に浮かんでいるようだ。


 天空の聖域
 【フィールド魔法】
 このカードがフィールド上に存在する限り、
 天使族モンスターの戦闘によって発生する天使族モンスターの
 コントローラーへの戦闘ダメージは0になる。


「これがある限り、天使族モンスターの戦闘で発生する私への戦闘ダメージは0になるわ!」
「なるほどな……」
 戦闘ダメージを軽減するカードか。けどそれくらいなら問題ない。
「さらに手札から"天空聖者メルティウス"を召喚するわ!」


 天空聖者メルティウス 光属性/星4/攻1600/守1200
 【天使族・効果】
 このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する限り、
 カウンター罠が発動される度に自分は1000ライフポイント回復する。
 さらにフィールド上に「天空の聖域」が存在する場合、
 相手フィールド上のカード1枚を破壊する。


 フィールドに現れた新たな天使。
 リボンのような赤い布を巻いた光の輪を携えて、小さな翼を羽ばたかせている。
「このカードはカウンター罠が発動するたびに、私のライフを1000ポイント回復してくれる。しかも"天空の聖域"があるときにカウンター罠が発動されれば、相手のカードを1枚破壊できるわ!!」
「なっ!?」
 カウンター罠が発動されるたびに1枚破壊だと!?
 冗談じゃない。ただでさえアルテミスがいて不利な状態なのに、こんなモンスターまでいるなんて……。
「カードを2枚伏せて、ターンエンドよ!!」

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 大助:8000LP

 場:六武衆−ザンジ(攻撃:1800)
   六武衆の師範(攻撃:2100)
   伏せカード1枚

 手札2枚
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 香奈:8000LP

 場:天空の聖域(フィールド魔法)
   豊穣のアルテミス(攻撃:1600)
   天空聖者メルティウス(攻撃:1600)
   伏せカード3枚

 手札0枚
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「俺のターン、ドロー!」(手札2→3枚)
「伏せカード発動よ!!」
「っ!?」
 引いたカードが見えない力によって叩き落とされてしまった。(手札3→2枚)
 当然のように、香奈の場の伏せカードが開かれていた。


 強烈なはたき落とし
 【カウンター罠】
 相手がデッキからカードを手札に加えた時に発動する事ができる。
 相手は手札に加えたカード1枚をそのまま墓地に捨てる。


「げっ……」
「アルテミスの効果で1枚ドロー!!」(手札0→1枚)
 香奈は得意気にカードを引く。
 いつもならこれだけだが、今は……。
「さらにメルティウスの効果で1000回復!! ついでにザンジも破壊よ!!」
「ぐっ!」
 天使から眩い閃光が放たれて、薙刀をもった武士が消されてしまった。

 六武衆−ザンジ→破壊
 香奈:8000→9000LP

「くそ……!」
 厄介なんてもんじゃない。たった1枚カウンター罠が発動されただけなのに、被害が大きすぎる。
 これが香奈の新しいデッキか。かなり強力になってるな。
「俺はこのままバトルフェイズに入る!」
「え? な、何もしないの?」
「ああ」
 パーミッションに対して行う戦法は、何もしないのが一番だ。
 下手に魔法や罠、モンスターを召喚してカウンター罠でアドバンテージを稼がせるわけにはいかない。
「師範でアルテミスを攻撃!!」
 薙刀を持った武士が、マントを羽織った天使へ斬りかかる。
 反撃のために放たれた光球をかわし、武士は渾身の力で天使を切り裂いた。

 豊穣のアルテミス→破壊

「"天空の聖域"の効果で、私は戦闘ダメージを受けないわ」
「分かってる。メインフェイズ2に入るぞ」
 チャンスがあるとすれば、このターンしかない。
 上手くいけばいいが……。
「伏せカード発動だ!!」


 トラップ・スタン
 【通常罠】
 このターンこのカード以外のフィールド上の罠カードの効果を無効にする。


「このタイミングで……!?」
「ああ。どうする?」
「……カウンター罠を発動するわ!!」


 盗賊の七つ道具
 【カウンター罠】
 1000ライフポイント払う。
 罠カードの発動を無効にし、それを破壊する。


 香奈:9000→8000LP

「これで大助のカードは無効よ。さらにメルティウスの効果で1000回復。ついでに師範も破壊よ!!」

 トラップ・スタン→無効→破壊
 香奈:8000→9000LP
 六武衆の師範→破壊

「相手カードの効果で破壊された師範の効果で、墓地に送られた師範自身を手札に戻す」(手札2→3枚)
「いいわよ」
「そして手札から"六武衆の結束"を発動する!」


 六武衆の結束
 【永続魔法】
 「六武衆」と名の付いたモンスターが召喚・特殊召喚される度に、
 このカードに武士道カウンターを1個乗せる(最大2個まで)。
 このカードを墓地に送る事で、このカードに乗っている武士道カウンターの数だけ
 自分のデッキからカードをドローする。


「それは無効にしないわ」
「だったら"六武衆−ヤイチ"を召喚する」
 青色の召喚陣が描かれて、中から弓矢を携えた武士が現れる。


 六武衆−ヤイチ 水属性/星3/攻1300/守800
 【戦士族・効果】
 自分フィールド上に「六武衆−ヤイチ」以外の「六武衆」と名の付いたモンスターが存在する限り、
 1ターンに1度だけセットされた魔法または罠カードを一枚破壊することが出来る。
 この効果を使用したターンこのモンスターは攻撃宣言をする事ができない。このカードが破壊される
 場合、代わりにこのカード以外の「六武衆」という名の付いたモンスターを破壊することが出来る。


 六武衆の結束:武士道カウンター×0→1

「あっ!」
「何か発動するか?」
「うるさいわよ。発動しないわ」
「そうか、ならさっき回収した"六武衆の師範"を特殊召喚だ!!」


 六武衆の師範 地属性/星5/攻2100/守800
 【戦士族・効果】
 自分フィールド上に「六武衆」と名のついたモンスターが表側表示で存在する場合、
 このカードは手札から特殊召喚する事ができる。
 このカードが相手のカード効果によって破壊された時、
 自分の墓地に存在する「六武衆」と名のついたモンスター1体を手札に加える。
 「六武衆の師範」は自分フィールド上に1枚しか表側表示で存在できない。


 六武衆の結束:武士道カウンター×1→2

「"六武衆の結束"を墓地に送って、2枚ドロー!!」(手札0→2枚)
「さすがね。私の伏せカードをかいくぐって立て直してくるなんて」
「何回お前と決闘したと思ってるんだよ。これぐらい当然だ」
「そうね。さぁ、どうするの?」
「俺はヤイチの効果発動。その伏せカードを破壊する!!」
「させないわよ!!」
 待ってましたと言わんばかりに、香奈は伏せカードを開いた。


 神罰
 【カウンター罠】
 フィールド上に「天空の聖域」が表側表示で存在する場合に発動する事ができる。
 効果モンスターの効果・魔法・罠カードの発動を無効にし破壊する。


「なっ!?」
「計算が違ったみたいね。"天空の聖域"は、このカードを使うために入れたんだから!」
「くっそ……」
 てっきりメルティウスの効果を最大限に発揮するためだけに入れたと思ったのに、まさかこんなカードまであるなんて思わなかった。
「ヤイチは破壊。メルティウスの効果でライフ回復をして、師範を破壊よ!!」
 弓矢を引き絞った武士の頭上から赤い雷が落ちる。
 さらに天使から光の輪が放たれて、もう1体の武士を消し去ってしまった。

 六武衆−ヤイチ→効果無効→破壊
 香奈:9000→10000LP
 六武衆の師範→破壊

「師範の効果で、師範自身を回収する」(手札2→3枚)
「……今更だけど、その師範の効果ってちょっと厄介ね」
「悪かったな。俺はこのままターンエンドだ」

-------------------------------------------------
 大助:8000LP

 場:なし

 手札3枚(そのうち1枚は"六武衆の師範")
-------------------------------------------------
 香奈:10000LP

 場:天空の聖域(フィールド魔法)
   天空聖者メルティウス(攻撃:1600)

 手札1枚
-------------------------------------------------

「私のターン、ドロー!!」(手札1→2枚)
 香奈が真剣な表情でカードを引いた。
 一見、俺が不利なように見える場だが実際は五分五分だ。
 香奈もそのことが分かっているからこそ、あの表情なのだろう。
「このままバトルよ!! メルティウスで直接攻撃!!」
 天使から閃光が放たれる。
 防ぐカードは無い俺は、黙ってその攻撃を受け止めた。

 大助:8000→6400LP

「ターンエンドよ」
「……何も伏せないのか?」
「ええ」
「……………」


 香奈のターンが終わり、ターンが俺へと移行した。


「俺のターン、ドロー……」(手札3→4枚)
 引いたカードは、デッキに新たに加わったカード。
 香奈との対戦で使うのは、初めてになるな。
「どうしたの?」
「……香奈、俺もデッキを改良したんだ」
「さっき聞いたわよ」
「今から新しいデッキの力を見せてやるよ」
「……!」
「いくぞ!! 手札から"真六武衆−カゲキ"を召喚する!!」


 真六武衆−カゲキ 風属性/星3/攻200/守2000
 【戦士族・効果】
 このカードが召喚に成功した時、手札からレベル4以下の
 「六武衆」と名のついたモンスター1体を特殊召喚する事ができる。
 自分フィールド上に「真六武衆−カゲキ」以外の「六武衆」と名のついたモンスターが
 表側表示で存在する限り、このカードの攻撃力は1500ポイントアップする。


「真六武衆……!? なによそれ!?」
「ちょっと色々あってな。新しく手に入れたんだ」
「むぅ……」
 どこか不満そうな顔をして、香奈はこっちを睨み付けた。
 何かカンに障ることでもしてしまったか?
「カゲキの効果発動。手札から"六武衆−カモン"を特殊召喚!」


 六武衆−カモン 炎属性/星3/攻1500/守1000
 【戦士族・効果】
 自分フィールド上に「六武衆−カモン」以外の「六武衆」と名の付いたモンスターが存在する限り、
 1ターンに1度だけ表側表示で存在する魔法または罠カード1枚を破壊することが出来る。
 この効果を使用したターンこのモンスターは攻撃宣言をする事ができない。このカードが破壊される
 場合、代わりにこのカード以外の「六武衆」という名の付いたモンスターを破壊することが出来る。


「その六武衆は……」
「ここで"真六武衆−カゲキ"の効果発動。カゲキ以外の六武衆が自分の場にいるとき、攻撃力が1500ポイントアップする!!」
「なっ!?」

 真六武衆−カゲキ:攻撃力200→1700

「一気に攻撃力が上がった……!!」
「さらに"六武衆の師範"を特殊召喚だ!!」


 六武衆の師範 地属性/星5/攻2100/守800
 【戦士族・効果】
 自分フィールド上に「六武衆」と名のついたモンスターが表側表示で存在する場合、
 このカードは手札から特殊召喚する事ができる。
 このカードが相手のカード効果によって破壊された時、
 自分の墓地に存在する「六武衆」と名のついたモンスター1体を手札に加える。
 「六武衆の師範」は自分フィールド上に1枚しか表側表示で存在できない。


 一気に並び立つ3体の武士。
 まさかここまでモンスターを展開されるとは予想していなかったのだろう。香奈の目が驚きで見開かれていた。
「やってくれるじゃない」
「強くなってるのは、お前だけじゃないってことだ。カモンの効果発動。"天空の聖域"を破壊する!!」
 赤い鎧を纏った武士が、手に持った爆弾の導火線に火をつける。
 そして辺り一面に無数の爆弾を投げ、天空に浮かぶ建造物を吹き飛ばしてしまった。

 天空の聖域→破壊

「なにすんのよ! せっかく綺麗な空間になってたのに!!」
 フィールド魔法が無くなったことで、景色が元の教室に戻ったことが気に入らないらしい。
 たしかに綺麗だったのは認めるが、それは勝負とは関係ないだろ……。
「カモンは破壊効果を使ったターンは攻撃できない。バトルだ! 師範でメルティウスに攻撃!!」
 師範の武士が攻撃態勢に入り、天使へ向かって突撃する。
 反撃のために放たれた光線を躱し、巧みな剣捌きによって天使の体を切り裂いたた。

 天空聖者メルティウス→破壊
 香奈:10000→9500LP

「メルティウス……!」
「やっと初ダメージだな。続けてカゲキで攻撃だ!!」
「させないわ!! 手札から"純白の天使"の効果発動よ!!」


 純白の天使 光属性/星3/攻撃力0/守備力0
 【天使族・チューナー】
 このカードを手札から捨てて発動する。
 このターン自分が受けるすべてのダメージを0にし、自分フィールド上のカードは破壊されない。
 この効果は相手ターンでも発動する事ができる。


「これで私へのダメージは0になるわ!!」
「……なんでカモンの破壊効果の時に使わなかったんだ?」
 そのタイミングで使っておけば、フィールド魔法もメルティウスも破壊されずに済んだはずだ。
 なのにわざわざ、カゲキの直接攻撃時に使ったのはどうしてだ? ライフがまだ十分ある状況だから、ダメージを受けたくなかったからって訳ではないだろう。
「さぁ、どうしてかしらね?」
 香奈は不敵な笑みを浮かべて、そう言った。
 何か狙いがあるのか? それともハッタリか?
「さぁどうするの?」
「…………」
 考えても分からない。対策をしようにも、今の手札じゃ無理だ。
 あの香奈の態度が、ハッタリであることを祈るしかない。
「俺はこれで、ターンエンドだ!!」




episode2――学年別ランキング戦〜その2〜――




-------------------------------------------------
 大助:6400LP

 場:六武衆−カモン(攻撃:1500)
   真六武衆−カゲキ(攻撃:1700)
   六武衆の師範(攻撃:2100)

 手札1枚
-------------------------------------------------
 香奈:9500LP

 場:なし

 手札1枚
-------------------------------------------------

 六武衆−カモン 炎属性/星3/攻1500/守1000
 【戦士族・効果】
 自分フィールド上に「六武衆−カモン」以外の「六武衆」と名の付いたモンスターが存在する限り、
 1ターンに1度だけ表側表示で存在する魔法または罠カード1枚を破壊することが出来る。
 この効果を使用したターンこのモンスターは攻撃宣言をする事ができない。このカードが破壊される
 場合、代わりにこのカード以外の「六武衆」という名の付いたモンスターを破壊することが出来る。


 真六武衆−カゲキ 風属性/星3/攻200/守2000
 【戦士族・効果】
 このカードが召喚に成功した時、手札からレベル4以下の
 「六武衆」と名のついたモンスター1体を特殊召喚する事ができる。
 自分フィールド上に「真六武衆−カゲキ」以外の「六武衆」と名のついたモンスターが
 表側表示で存在する限り、このカードの攻撃力は1500ポイントアップする。


 六武衆の師範 地属性/星5/攻2100/守800
 【戦士族・効果】
 自分フィールド上に「六武衆」と名のついたモンスターが表側表示で存在する場合、
 このカードは手札から特殊召喚する事ができる。
 このカードが相手のカード効果によって破壊された時、
 自分の墓地に存在する「六武衆」と名のついたモンスター1体を手札に加える。
 「六武衆の師範」は自分フィールド上に1枚しか表側表示で存在できない。


 決闘は中盤に差し掛かっている。
 今のところ、状況は俺の方が有利のはずだ。
 だが香奈はたいして焦っている様子も見せないで、不敵な笑みを浮かべている。
「どうしてそんなに余裕なんだ?」
「別に余裕じゃないわよ」
「だったらどうしてそんな顔してるんだよ……」
 香奈は感情が顔に出やすい。今のこの表情から察するに、このターンで俺にアッと言わせてやろうと思っているのだろう。だがどうやって巻き返す気だ? 【パーミッション】は基本的に相手のカードを無効にして自分の有利な状況を保ったまま戦うスタイルだ。だがパーミッションの要となるカウンター罠は、相手の行動に対して発動される。そしてそれをサポートするモンスター達も、攻撃力が全体的に低いため戦闘にはあまり向いていない。つまり、1度でも相手に好き勝手な行動を許してしまえば、巻き返し辛いデッキなのだ。
 俺の場には六武衆が3体存在しているし、香奈にとってはピンチのはずだ。
 まさか、この状況を覆せるカードがあるのか?

「いくわよ! 私のターン、ドロー!!」(手札1→2枚)
 考えているうちに、香奈のターンが始まる。
 香奈は引いたカードを手札に加え、元々あった1枚を静かに手に取った。

私の墓地には、天使族がちょうど4体いるわ……

「ああ、それがどう………!」
 そこまで言われて、ようやく気付いた。
 しまった。香奈は”あのカード”まで入れていたのか……!!
いくわよ!! "大天使クリスティア"を特殊召喚!!
 眩い光と共に、大きな翼をもった大天使が降臨する。
 その神々しい姿に、周りにいるクラスメイトも驚嘆していた。


 大天使クリスティア 光属性/星8/攻2800/守2300
 【天使族・効果】
 自分の墓地に存在する天使族モンスターが4体のみの場合、
 このカードは手札から特殊召喚する事ができる。
 この効果で特殊召喚に成功した時、自分の墓地に存在する天使族モンスター1体を手札に加える。
 このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、お互いにモンスターを特殊召喚する事はできない。
 このカードがフィールド上から墓地へ送られる場合、墓地へ行かず持ち主のデッキの一番上に戻る。


「このカードがいる限り、私も大助も特殊召喚ができなくなるわ!!」
「くっ……!」
 すべての特殊召喚を封じるモンスター。しかも攻撃力は2800もある。
 俺の六武衆には、まともにぶつかって攻撃力で勝てるモンスターは存在しない。
「さらにクリスティアは自身の効果で特殊召喚したとき、墓地にいる天使族モンスターを手札に加えるわ! もちろん私は墓地にいる"純白の天使"を手札に戻すわ!」(手札1→2枚)
 さっき香奈を守った天使が、再び主のもとへ戻っていく。
 なるほど。これが狙いだったのか。前のターン、わざわざメルティウスを破壊させて墓地に送り、不可解なタイミングで"純白の天使"を墓地に送ってダメージを防ぎつつ、墓地の天使族モンスターの数を調整してクリスティアの召喚に繋げる……。香奈にしては、ずいぶんと考えられた戦術だと思った。
「バトルよ!! クリスティアで師範に攻撃!!」
 大天使が翼を羽ばたかせ、両手から光球を無数に打ち出す。
 隻眼の武士は防御の姿勢を取ったが受けきれず、倒されてしまった。

 六武衆の師範→破壊
 大助:6400→5700LP

「っ……」
「私はこれで、ターンエンドよ!!」

-------------------------------------------------
 大助:5700LP

 場:六武衆−カモン(攻撃:1500)
   真六武衆−カゲキ(攻撃:1700)

 手札1枚
-------------------------------------------------
 香奈:9500LP

 場:大天使クリスティア(攻撃:2800)

 手札2枚(そのうち1枚は"純白の天使")
-------------------------------------------------

「俺のターン……」
 信じたくないが、本当に状況が一変してしまった。
 特殊召喚を多用する六武衆にとって、クリスティアの存在はかなりキツイ。しかも対処しようにも香奈の手札には絶対防御カードと呼ぶにふさわしい"純白の天使"がある。このままじゃジリ貧になって負けてしまうのがオチだ。
「さっさとカードを引きなさいよ」
「分かってる、ドロー!!」(手札1→2枚)
 引いたカードを確認し、もう一方の手札も見つめる。
 よし、これならいける。
「クリスティアの前だと、さすがに六武衆でもキツイんじゃない?」
「いや、そうでもないぞ?」
「え?」
「今の俺には、真六武衆っていう強い味方がいるんだよ!」
 そう言って俺は、手札の1枚をデュエルディスクに叩き付けた。


 真六武衆−エニシ 光属性/星4/攻1700/守700
 【戦士族・効果】
 自分フィールド上に「真六武衆−エニシ」以外の
 「六武衆」と名のついたモンスターが表側表示で存在する場合、
 1ターンに1度、自分の墓地に存在する「六武衆」と名のついたモンスター2体をゲームから
 除外する事で、フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して手札に戻す。
 この効果は相手ターンでも発動する事ができる。
 また、自分フィールド上に「真六武衆−エニシ」以外の「六武衆」と名のついたモンスターが
 表側表示で2体以上存在する場合、このカードの攻撃力・守備力は500ポイントアップする。


「また真六武衆……!?」
「エニシは自分以外に六武衆が2体いると、攻守が500ポイントアップする」

 真六武衆−エニシ:攻撃力1700→2200 守備力700→1200

「でもまだクリスティアの攻撃力には届かないわ」
「まだだ! エニシの効果発動!! 墓地の六武衆2体を除外して、相手の場にいるモンスターを手札に戻す!!」
「えぇ!?」
「墓地にいるヤイチとザンジを除外して、クリスティアを手札に戻す!!」
 大剣を装備した武士が大きく振りかぶり、剣を振り下ろす。
 それによって発生した突風によって、大天使は主の手札まで吹き飛ばされてしまった。

 六武衆−ヤイチ→除外
 六武衆−ザンジ→除外
 大天使クリスティア→香奈の手札へ(香奈:手札2→3枚)

「バウンスまで出来るなんて……なかなかやるじゃない」
「バトルだ!!」
 俺の宣言で、場にいるすべての武士が攻撃態勢に入った。
 これがすべて決まれば、香奈に大ダメージを与えることが出来る。
「全員で直接攻撃だ!!」
「させないわ!! 手札の"純白の天使"の効果発動よ!」(手札3→2枚)
 香奈へ斬りかかったすべての刃が、真っ白な小さな天使によって形成された光の壁に防がれた。


 純白の天使 光属性/星3/攻撃力0/守備力0
 【天使族・チューナー】
 このカードを手札から捨てて発動する。
 このターン自分が受けるすべてのダメージを0にし、自分フィールド上のカードは破壊されない。
 この効果は相手ターンでも発動する事ができる。


「これで私へのダメージは0よ! しかもこれでまた墓地に天使族が4体になったから、次のターンにクリスティアを出せるわ!」
「…………」
 分かっている。だからこそ、このドローカードが来てくれて助かったと思ったんだ。
「俺はカードを1枚伏せて、ターンエンドだ!!」


 俺のターンが終わり、香奈へとターンが移った。


「私のターン、ドロー!!」(手札2→3枚)
 ドローカードを手札に加えてすぐに、香奈は行動した。
「墓地に天使族が4体いるから、"大天使クリスティア"を特殊召喚するわ!!」


 大天使クリスティア 光属性/星8/攻2800/守2300
 【天使族・効果】
 自分の墓地に存在する天使族モンスターが4体のみの場合、
 このカードは手札から特殊召喚する事ができる。
 この効果で特殊召喚に成功した時、自分の墓地に存在する天使族モンスター1体を手札に加える。
 このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、お互いにモンスターを特殊召喚する事はできない。
 このカードがフィールド上から墓地へ送られる場合、墓地へ行かず持ち主のデッキの一番上に戻る。


「伏せカード発動だ!!」
 狙い通り、俺は伏せておいたカードを発動した。


 奈落の落とし穴
 【通常罠】
 相手が攻撃力1500以上のモンスターを
 召喚・反転召喚・特殊召喚した時に発動する事ができる。
 そのモンスターを破壊しゲームから除外する。


「あっ!」
「これでクリスティアは除外だ!!」
 クリスティアにはフィールドから墓地に行ったとき、デッキの一番上に戻る効果を持っている。だがこうして除外してしまえば、再び召喚される心配もない。
「……除外されたけど、クリスティアの効果発動。墓地にいる"豊穣のアルテミス"を手札に加えるわ」(手札2→3枚)
 どこか不満そうに香奈は効果処理をする。
 クリスティアが思ったよりも早く退場してしまったのが気に入らないのかもしれない。
「カードを1枚伏せて、ターンエンドよ」

-------------------------------------------------
 大助:5700LP

 場:六武衆−カモン(攻撃:1500)
   真六武衆−カゲキ(攻撃:1700)
   真六武衆−エニシ(攻撃:2200)

 手札0枚
-------------------------------------------------
 香奈:9500LP

 場:伏せカード1枚

 手札2枚(そのうち1枚は"豊穣のアルテミス")
-------------------------------------------------

「俺のターン、ドロー」(手札0→1枚)
 引いたカードを確認する。
 それを見た瞬間、なんだか罪悪感が出てきてしまった。
 けどこれは勝負だ。これが原因で不機嫌になってしまったら、あとで謝ろう。
「手札から"禁止令"を発動する!!」
「えっ!?」


 禁止令
 【永続魔法】
 カード名を1つ宣言して発動する。
 このカードがフィールド上に存在する限り、
 宣言されたカードをプレイする事はできない。
 このカードの効果が適用される前からフィールド上に存在するカードには
 このカードの効果は適用されない。


「俺が宣言するのは、もちろん"ファイナルカウンター"だ!!」
「なんでそのカードを入れてるのよ!!」
「いや、お前と決闘することが分かってて、デッキワンカードの対策をしていないわけがないだろ……」
「あ、あんた……!」
 殺気の込められた目つきで睨み付けられた。
 とりあえずその視線を受け流して、次の行動に移る。
「バトル!! 全員で直接攻撃だ!!」
 武士がそれぞれの武器を構えて、香奈へ一斉に斬りかかった。
「きゃっ!」

 香奈:9500→8000→6300→4100LP

「ターンエンド」



「私のターン、ドロー!!」(手札2→3枚)
 勢いよくカードを引くと、香奈は再び俺を睨み付けた。
「別に大助なんか、デッキワンカードを使わなくても勝ってあげるわよ!!」
「…………」
 何の確信もない言葉なのは分かるのだが、香奈が言うと本当にそうなってしまいそうで怖い。
 とにかく、今はこの決闘に集中しないとな。
「手札から"豊穣のアルテミス"を召喚するわ!」


 豊穣のアルテミス 光属性/星4/攻1600/守1700
 【天使族・効果】
 このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
 カウンター罠が発動される度に自分のデッキからカードを1枚ドローする。


「バトルよ! アルテミスでカモンに攻撃!!」
 マントを羽織った天使から光球が放たれる。
 それは赤い鎧をまとった武士を貫き、消し去ってしまった。

 六武衆−カモン→破壊
 大助:5700→5600LP

「っ……」
「六武衆が減ったから、エニシの攻守も当然、下がるわよね?」
「ああ」

 真六武衆−エニシ:攻撃力2200→1700 守備力1200→700

「そしてメインフェイズ2にデッキワンサーチシステムを発動するわ!」
 香奈がデュエルディスクの青いボタンを押して宣言する。
 自動的にデッキからカードが1枚突出され、香奈はそれを勢いよく引き抜いた。(手札2→3枚)
《デッキからカードを1枚ドローしてください》
 俺のデュエルディスクから音声が流れる。
 それに従ってデッキからカードを引く。(手札0→1枚)
「"禁止令"の効果で、伏せることはできないぞ?」
「え!? そうなの!?」
「ああ」
 "禁止令"のプレイを禁ずる効果は、カードのセットすら許さない。
 つまり罠カードである"ファイナルカウンター"は、完全に封じたも同然なのだ。
「うぅ……まぁいいわ。ターンエンドよ!」
「エンドフェイズ時にエニシの効果発動!!」
「えっ!?」
「墓地にいるカモンと師範を除外して、アルテミスをお前の手札に戻す!」

 六武衆−カモン→除外
 六武衆の師範→除外

「ちょ、なんでエニシの効果が!?」
「このエニシの効果は、相手ターンでも発動できるんだ」
「……!」
 香奈の目が再び、驚きで見開かれる。
 今までの対戦からくる経験則なのか、なんとなく今のうちにアルテミスを戻しておかないといけない気がした。
「アルテミスは手札に戻してもらうぞ!」
「まだよ! 伏せカード"天罰"を発動よ!!」
「げっ!?」


 天罰
 【カウンター罠】
 手札を1枚捨てて発動する。
 効果モンスターの効果の発動を無効にし破壊する。


「手札の"ファイナルカウンター"を捨てて、エニシの効果を無効にして破壊するわ!!」(手札3→2枚)
 大剣を構えた武士の頭上から雷が落ちる。
 強力な天の怒りを受けて、武士は為すすべもなく崩れ落ちた。

 真六武衆−エニシ→効果無効→破壊

「さらに、相手モンスターの効果を無効にしたことで手札から"冥王竜ヴァンダルギオン"を特殊召喚!!」
「なっ!?」
 フィールドの地面が黒く染まり、その中から冥府の力を宿した竜が現れる。
 巨大な体で俺を見下ろす姿は、まさしく冥王と呼ぶにふさわしい貫禄があった。
「相手のモンスター効果を無効にしたことで特殊召喚されたヴァンダルギオンの効果発動よ。墓地にいる"アテナ"を特殊召喚するわ!」


 冥王竜ヴァンダルギオン 闇属性/星8/攻2800/守2500
 【ドラゴン族・効果】
 相手がコントロールするカードの発動をカウンター罠で無効にした場合、
 このカードを手札から特殊召喚する事ができる。
 この方法で特殊召喚に成功した時、無効にしたカードの種類により以下の効果を発動する。
 ●魔法:相手ライフに1500ポイントダメージを与える。
 ●罠:相手フィールド上のカード1枚を選択して破壊する。
 ●効果モンスター:自分の墓地からモンスター1体を選択して自分フィールド上に特殊召喚する。


 アテナ 光属性/星7/攻撃力2600/守備力800
 【天使族・効果】
 自分フィールド上に存在する「アテナ」以外の天使族モンスター1体を墓地に送る事で、
 自分の墓地に存在する「アテナ」以外の天使族モンスター1体を自分フィールド上に
 特殊召喚する。この効果は1ターンに1度しか使用できない。
 フィールド上に天使族モンスターが召喚・反転召喚・特殊召喚される度に、
 相手ライフに600ポイントダメージを与える。


「……っ!」
 不用意に効果を使用したのが裏目に出てしまった。
 ここにきて上級モンスターが2体も出てくるんなんて……!
「さらにアルテミスの効果で1枚ドローよ!!」(手札1→2枚)
 ついでに"天罰"の手札コストもアルテミスの効果でプラスマイナス0になっている。
 まさかこんな簡単に体勢を立て直すなんて……さすがとしかいいようがないな。
「……他に六武衆がいなくなったことで、カゲキの攻撃力は元に戻る……」

 真六武衆−カゲキ:攻撃力1700→200

「今度はあんたがピンチね」
「そうみたいだな……」
「このまま勝たせてもらうわよ。エンドフェイズは終わりよ」

-------------------------------------------------
 大助:5600LP

 場:真六武衆−カゲキ(攻撃:200)
   禁止令(永続魔法:"ファイナルカウンター"を宣言)

 手札1枚
-------------------------------------------------
 香奈:4100LP

 場:豊穣のアルテミス(攻撃:1600)
   冥王竜ヴァンダルギオン(攻撃:2800)
   アテナ(攻撃:2600)

 手札2枚
-------------------------------------------------

「俺のターン……」
 さて、どうしたものか。
 香奈の場には強力モンスターが2体いる。それに対して俺の場には攻撃力わずか200のカゲキのみ。
 いくらデッキワンカードを封じてあるとはいえ、かなり厳しいな。

 でも………。

「どうしたの?」
「いや、なんでもない。ドローだ!」(手札1→2枚)
 引いたカードを確認して、すぐさまデュエルディスクに叩き付けた。
「俺は手札から"六武衆の影武者"を召喚する!」


 六武衆の影武者 地属性/星2/攻400/守1800
 【戦士族・チューナー】
 自分フィールド上に表側表示で存在する「六武衆」と名のついたモンスター1体が
 魔法・罠・効果モンスターの効果の対象になった時、
 その効果の対象をフィールド上に表側表示で存在するこのカードに移し替える事ができる。


「また新しいカード……しかもチューナー!?」
「レベル3の"真六武衆−カゲキ"に、レベル2の"六武衆の影武者"をチューニング!!」
 陰の存在として活躍していた武士が光の輪となって、四刀流の武士の体を包み込む。
シンクロ召喚!! "真六武衆−シエン"!!
 紫色の炎が燃え上がり、若き日の大将軍の姿が現れた。


 真六武衆−シエン 闇属性/星5/攻2500/守1400
 【戦士族・シンクロ/効果】
 戦士族チューナー+チューナー以外の「六武衆」と名のついたモンスター1体以上
 1ターンに1度、相手が魔法・罠カードを発動した時に発動する事ができる。
 その発動を無効にし破壊する。
 また、フィールド上に表側表示で存在するこのカードが破壊される場合、
 代わりにこのカード以外の自分フィールド上に表側表示で存在する
 「六武衆」と名のついたモンスター1体を破壊する事ができる。


「シンクロモンスターまでいるなんて……」
 若干驚きつつも、香奈の口元には笑みが浮かんでいた。
 もしかしたら、あいつも俺と同じことを思っているのかもしれない。
「さらに手札から"団結の力"をシエンに装備する!!」


 団結の力
 【装備魔法】
 自分のコントロールする表側表示モンスター1体につき、
 装備モンスターの攻撃力と守備力は800ポイントアップする。


 真六武衆−シエン:攻撃力2500→3300 守備力1400→2200

「バトルだ!! シエンでヴァンダルギオンに攻撃!!」
 倒れた仲間の力によって高まった武士の刀に紫色の炎が宿る。
 武士は冥府を司る竜へ向けて飛び掛かり、見事にその体を一閃した。

 冥王竜ヴァンダルギオン→破壊
 香奈:4100→3600LP

「さすがね」
「褒められても困るんだが……」
 ヴァンダルギオンじゃなくアテナを攻撃する選択肢もあったのだが、"オネスト"はまだ墓地にいない。最悪の場合すでに香奈の手札にあるかもしれない。仮に持っていなかったとしても、ライフも十分にあるし、放っておいても大丈夫だろう。おそらく、ここが勝負どころだな。
「メインフェイズ2に、俺はデッキワンサーチシステムを使う!!」(手札0→1枚)
「私もデッキから1枚引くわよ」(手札2→3枚)
 俺はデッキワンカードを手札に加え、香奈はルールによってカードを引く。
 けど香奈の場にはアテナが1体だけだから反撃はし辛いはずだ。
「カードを1枚伏せて、ターンエンドだ!」

-------------------------------------------------
 大助:5600LP

 場:真六武衆−シエン(攻撃:3300)
   団結の力(装備魔法)
   禁止令(永続魔法:"ファイナルカウンター"を宣言)
   伏せカード1枚

 手札0枚
-------------------------------------------------
 香奈:3600LP

 場:豊穣のアルテミス(攻撃:1600)
   アテナ(攻撃:2600)

 手札3枚
-------------------------------------------------

「私のターン、ドロー!!」(手札3→4枚)
 引いたカードを確認した香奈の表情が綻んだ。
 やばい、何か良いカードを引いたのかもしれない。
「いくわよ! 手札から"天空の聖域"を発動するわ!」
「またかよ……」


 天空の聖域
 【フィールド魔法】
 このカードがフィールド上に存在する限り、
 天使族モンスターの戦闘によって発生する天使族モンスターの
 コントローラーへの戦闘ダメージは0になる。


 香奈のデッキの戦力の幅を大きく広げるフィールド魔法。
 この局面で発動してくるってことは、またメルティウスが手札に来ているのかもしれない。それなら……。
「"真六武衆−シエン"の効果発動だ!! お前の発動した"天空の聖域"を無効にして破壊する!!」
「っ……」
 若き日の大将軍の持つ刀から紫色の炎が放射される。
 その炎は香奈の発動したカードを焼き尽くしてしまった。

 天空の聖域→無効→破壊

「大助のくせに、私のカードを無効にしてんじゃないわよ」
「たまにはいいだろ? とにかくこれで、お前の目論見は崩れた」
 ガラにもなく、少し勝ち誇ってみる。
 だが香奈は俺よりも遥かに勝ち誇った笑みでこっちを見つめていた。
「まっ、大助なら"天空の聖域"を無効にしてくると思ったわよ」
「え……」
「本命はこっちのカードよ! 私は手札から"禁止令"を発動するわ!!」
「なっ!?」


 禁止令
 【永続魔法】
 カード名を1つ宣言して発動する。
 このカードがフィールド上に存在する限り、
 宣言されたカードをプレイする事はできない。
 このカードの効果が適用される前からフィールド上に存在するカードには
 このカードの効果は適用されない。


「私が宣言するのは大助のデッキワンカード、"神極・閃撃の陣"よ!!」
「……!!」
 嘘だろ。ここで禁止令だと?
 どうする? ここでチェーンして発動してしまうか? いや駄目だ。香奈の場には"アテナ"がいる。"アテナ"は場に天使族モンスターが出される度に相手に600ポイントのダメージを与える効果がある。チェーンして"神極・閃撃の陣"を発動すれば、コストで俺のライフは50になってしまうから危険すぎる。
「どうするの? チェーンする?」
「……いや、しない」
「了解よ。これで大助もデッキワンカードは使えなくなったわね」
「どうしてパーミッションにそんなカードを入れているんだよ……」
「大助と対戦するんだから、デッキワンカードの対策をするのは当たり前じゃない」
「はぁ……」
 溜息が出てしまった。二人とも揃いもそろって、"禁止令"を対策カードとして入れてるなんてな……。
 これでお互いデッキワンカードは使用不可能になってしまった。だがお互い、相手の"禁止令"を破壊できればデッキワンカードを使えるようになる。そうなると破壊カードが香奈よりも多くデッキに入っている俺の方が少し有利かもしれない。
 だけどそんなこと、香奈も分かっているはずだ。速攻で勝負を決めに来るだろう。
「いくわよ大助!! 手札から"マシュマロン"を召喚!」


 マシュマロン 光属性/星3/攻300/守500
 【天使族・効果】
 フィール上に裏側表示で存在するこのカードを攻撃したモンスターのコントローラーは、
 ダメージ計算後に1000ポイントダメージを受ける。
 このカードは戦闘では破壊されない。


「"アテナ"の効果であんたに600ポイントのダメージよ!」
「くっ」
 場の女神から光の矢が放たれて、俺の腕を貫く。

 大助:5600→5000LP

「そして"アテナ"の効果で"マシュマロン"を墓地に送って、墓地から"純白の天使"を特殊召喚するわ!! 新たに天使が出てきたことで、600ポイントのダメージよ!!」

 マシュマロン→墓地
 純白の天使→特殊召喚(攻撃表示)
 大助:5000→4400LP


 純白の天使 光属性/星3/攻撃力0/守備力0
 【天使族・チューナー】
 このカードを手札から捨てて発動する。
 このターン自分が受けるすべてのダメージを0にし、自分フィールド上のカードは破壊されない。
 この効果は相手ターンでも発動する事ができる。


「そしてレベル7の"アテナ"に、レベル3の"純白の天使"をチューニング!!」
 白き天使が光の輪となって、女神の体を覆い尽くす。
 巨大な光の柱が出現し、中から白い翼を羽ばたかせる天空の守護者が現れる。
シンクロ召喚!! 出てきて"天空の守護者シリウス"!!


 天空の守護者シリウス 光属性/星10/攻撃力2000/守備力3000
 【シンクロ・天使族/効果】
 「純白の天使」+レベル7の光属性・天使族モンスター
 このカードが表側表示で存在する限り、相手は自分の他のモンスターへ攻撃できず、
 相手に直接攻撃をすることもできない。
 このカードが特殊召喚されたとき、以下の効果からどちらか一つを選びこのカードの効果にする。
 ●1ターンに1度、デッキまたは墓地からカウンター罠1枚を選択して手札に加える事ができる。
 ●バトルフェイズの間、このカードの攻撃力は自分の墓地にあるカウンター罠1種類につき
  500ポイントアップする。


「私は第2の効果を選択するわ。私の墓地にはカウンター罠が7種類ある! バトルよ!!」
 香奈のバトルフェイズの宣言と共に、場に降臨した守護者の翼に7つの光が吸い込まれる。
 それによって自身の力を高めた守護者の翼が、一気に広がる。

 天空の守護者シリウス:攻撃力2000→5500LP

「攻撃力5500か……!」
「いっけーシリウス!!」
 聖なる翼から放射された莫大な光が、真紅の甲冑を纏った武士を飲み込んだ。

 真六武衆−シエン→破壊
 団結の力→破壊
 大助:4400→2200LP

「シエン……!」
「さらにアルテミスで攻撃!!」

 大助:2200→600LP

「くっそ……!」
「私はこれで、ターンエンドよ!!」

 天空の守護者シリウス:攻撃力5500→2000

-------------------------------------------------
 大助:600LP

 場:禁止令(永続魔法:"ファイナルカウンター"を宣言)
   伏せカード1枚

 手札0枚
-------------------------------------------------
 香奈:3600LP

 場:豊穣のアルテミス(攻撃:1600)
   天空の守護者シリウス(攻撃:2000)
   禁止令(永続魔法:"神極・閃撃の陣"を宣言)

 手札1枚
-------------------------------------------------

「俺のターン、ドロー」(手札0→1枚)
 デッキワンカードを封じているにも関わらず、まさかここまで追い詰められてしまうなんて思わなかった。
 真六武衆を投入してかなり強くなってたと思ったのだが、香奈もすごく強くなっていたらしい。
「ふぅ……」
 大きく息を吐く。
 不思議だ。ここまで追い詰められた状況なのに、香奈との決闘がとても楽しく感じる。
「なんでニヤついてるのよ」
「いや、お前とこんなギリギリの決闘が出来て、楽しいって思っただけだ」
「な、き、急に何言ってんのよ!! そ、そりゃあ私も、楽しいけど……」
 顔を赤くして視線を逸らす香奈。
 周りにいるクラスメイトがヒューヒューと野次を飛ばしてきた。
「う、うるさいわよ!」
 照れながら怒鳴る香奈を見て、みんな笑っている。
 やれやれ、完全にからかわれてるぞ……。
「うぅ……大助、さっさとターンを進めなさいよ!!」
「ああ。手札から"一時休戦"を発動する!!」


 一時休戦
 【通常魔法】
 お互いに自分のデッキからカードを1枚ドローする。
 次の相手ターン終了時まで、お互いが受ける全てのダメージは0になる。


「お互いにデッキから1枚ドローだ」(手札0→1枚)
「分かったわ」(手札1→2枚)
 これで次の香奈のターンが終わるまで、俺はダメージを受けずに済む。
 勝負は次のターンだ。
「ターンエンドだ」


 俺のターンが終了して、香奈のターンになった。


「私のターン、ドロー!!」(手札2→3枚)
 楽しそうに笑みを浮かべながら、香奈はカードを引いた。
 俺と同じように心の底からこの決闘を楽しんでいるようだ。
「次のターンで逆転しようって思ってるみたいだけど、そうはいかないわよ! カードを2枚伏せて、ターンエンド!」
「ここにきて2枚のカウンター罠かよ……」
 容赦がないというか、なんというか……。
 まぁ、香奈も全力でこの決闘に勝とうとしてるってことか。

-------------------------------------------------
 大助:600LP

 場:禁止令(永続魔法:"ファイナルカウンター"を宣言)
   伏せカード1枚

 手札1枚
-------------------------------------------------
 香奈:3600LP

 場:豊穣のアルテミス(攻撃:1600)
   天空の守護者シリウス(攻撃:2000)
   禁止令(永続魔法:"神極・閃撃の陣"を宣言)
   伏せカード2枚

 手札1枚
-------------------------------------------------

「俺のターン……」
 デッキの上に手をかけて、大きく息を吸う。
 このターンに何とかできなければ俺の負けだ。楽しい決闘だが、どうせなら勝ちたいからな。
「ドロー!!」(手札1→2枚)
 恐る恐る、引いたカードを確認した。
 よし! これならいける!!
「手札から"ダブル・サイクロン"を発動する!! 対象はお互いの"禁止令"だ!!」


 ダブル・サイクロン
 【速攻魔法】
 自分フィールド上に存在する魔法・罠カード1枚と、
 相手フィールド上に存在する魔法・罠カード1枚を選択して発動する。
 選択したカードを破壊する。


「カウンター罠発動よ!!」
 間髪入れず、香奈が伏せカードを発動した。


 マジック・ドレイン
 【カウンター罠】
 相手が魔法カードを発動した時に発動する事ができる。
 相手は手札から魔法カード1枚を捨ててこのカードの効果を無効化する事ができる。
 捨てなかった場合、相手の魔法カードの発動を無効化し破壊する。


「あんたは手札から魔法カードを捨てれば、この罠カードの効果を無効にできるわよ」
「……俺は、手札の"サイクロン"を捨てて"マジック・ドレイン"の効果を無効にする!!」
「分かったわ。効果は無効にされちゃったけど、カウンター罠の発動には成功してるからアルテミスの効果で1枚ドローさせてもらうわ」
 強烈な突風が吹き荒れて、俺と香奈の場にあるカードを吹き飛ばす。

 禁止令→破壊
 禁止令→破壊
 香奈:手札1→2枚

「これで"禁止令"の効果は無くなった。伏せカード発動だ!!」
 おそらく最後のチャンス。
 微かな希望をかけて、俺は切り札を開く。


 神極・閃撃の陣
 【通常罠・デッキワン】
 「六武衆」と名のついたカードが15枚以上入っているデッキにのみ入れることができる。 
 自分のライフが100のとき、このカードは手札から発動でき、発動と効果を無効にされない。
 自分のライフポイントが50ポイントになるようにライフポイントを払って発動する。 
 自分のデッキに存在するすべてのモンスターを墓地へ送り、自分の墓地に存在する「六武衆」と
 名のついたモンスターを自分フィールド上に可能な限り特殊召喚する。
 また、手札からこのカードを発動したとき、以下の効果も使うことが出来る。
 ●この効果で特殊召喚したモンスターの数まで、フィールド上のカードを破壊することが出来る。
 ●このターンのエンドフェイズ時まで、自分のモンスターは相手のカード効果を受けない。


 大助:600→50LP

「かかったわね!! カウンター罠発動!!」
「っ!」


 魔宮の賄賂
 【カウンター罠】
 相手の魔法・罠カードの発動と効果を無効にし破壊する。
 相手はデッキからカードを1枚ドローする。


「くっ……!」
「そのデッキワンカードは無効! アルテミスの効果で私は1枚ドローよ!!」(手札2→3枚)

 神極・閃撃の陣→無効→破壊
 香奈:手札2→3枚

「残念だったわね。これで本当に私の勝ちよ!」
 勝ち誇る香奈。周りにいる観客も、俺の負けを確信しているようだ。
 だけど……。

「勝手に決めつけるなよ」

 できるだけ不敵な笑みを香奈に見せつける。
 俺には少しだけ可能性が残されている。本当に微かな可能性が。
「"魔宮の賄賂"の効果で、俺はデッキからカードを1枚ドロー出来る!」
「知ってるわよ。でもそれで――――あ!?」
 香奈が気づいたように声を上げた。
 周りにいる観客の何人かも、”あのカード”の存在があることに気づいたらしい。
「はぁ……ふぅ……」
 大きく深呼吸して、デッキの上に手をかける。
 頼んだぞ俺のデッキ。これが正真正銘、最後のチャンスだ。
 あのカードを引かせてくれ……!!

 ―――俺の想いの応えるように、デッキの一番上のカードが微かに光った気がした―――

「ドロー!!」(手札0→1枚)
 引いたカードを確認して、心の中でガッツポーズを取った。
「手札から"先祖達の魂"を召喚する!!」
「しまった……!」
 俺の場に無数の青白い光が現れる。
 それらはまるで俺を守るかのように辺りを回り、フィールドをわずかに照らした。


 先祖達の魂 光属性/星3/攻0/守0
 【天使族・チューナー】
 このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時に自分フィールド上と手札に他のカードが無い
 場合、自分の墓地から「大将軍紫炎」1体を表側攻撃表示で特殊召喚する事ができる。
 ただし、この効果で特殊召喚したカードの効果は無効となり、攻撃力・守備力は0になる。


「このカードが召喚に成功したとき、自分の場と手札にカードが無ければ墓地から"大将軍 紫炎"を特殊召喚できる!」
「で、でも……紫炎なんて墓地にいっていないはずよ!!」
「よく思い出せよ。そういうタイミングはあっただろ?」
「え……そんなこと言われても分からないわよ」
 少しだけ考えて香奈は首を横に振った。
 おい、もう少し考えてくれよ……。
「はぁ……決闘が始まった序盤に、お前、"強烈なはたき落とし"を発動しただろ?」
「……あ!! まさか、あの時!?」

##################################################
##################################################

【4ターン目】

「俺のターン、ドロー!」(手札2→3枚)
「伏せカード発動よ!!」
「っ!?」
 引いたカードが見えない力によって叩き落とされてしまった。(手札3→2枚)
 当然のように、香奈の場の伏せカードが開かれていた。


 強烈なはたき落とし
 【カウンター罠】
 相手がデッキからカードを手札に加えた時に発動する事ができる。
 相手は手札に加えたカード1枚をそのまま墓地に捨てる。


「げっ……」
「アルテミスの効果で1枚ドロー!!」(手札0→1枚)

##################################################
##################################################

「ああ。あのときに墓地に落ちたカードが"大将軍 紫炎"だったんだ」
「全然気づかなかったわ……」
「とにかく、"先祖達の魂"の効果で"大将軍 紫炎"を特殊召喚!! ただし攻守は0になって、効果も無効になる!」


 大将軍 紫炎 炎属性/星7/攻撃力2500/守備力2400
 【戦士族・効果】
 自分フィールド上に「六武衆」と名のついたモンスターが2体以上表側表示で存在する場合、
 このカードは手札から特殊召喚する事ができる。このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
 相手プレイヤーは1ターンに1度しか魔法・罠カードの発動ができない。このカードが破壊される場合、
 代わりにこのカード以外の「六武衆」という名のついたモンスターを破壊する事ができる。


 大将軍 紫炎:攻撃力2500→0 守備力2400→0 効果無効

「そしてレベル7の"大将軍 紫炎"にレベル3の"先祖達の魂"をチューニング!!」
 ボロボロの姿になっている将軍の周りを、無数の青白い光が回る。
 先祖達の想いと力を受けて、将軍は新たな力を手に入れて立ち上がる。
シンクロ召喚!! "大将軍 天龍"!!
 紅蓮の炎の中から、真紅の甲冑に身を包んだ最強の将軍が現れた。


 大将軍 天龍 炎属性/星10/攻3000/守3000
 【戦士族・シンクロ/効果】
 「先祖達の魂」+「大将軍 紫炎」
 1ターンに1度だけ、デッキ、手札または墓地から「六武衆」と名のついたモンスターカード1種類
 すべてをゲームから除外することができる。この効果で除外したモンスターの属性、攻撃力、守備力、
 効果を、相手ターンのエンドフェイズ時までこのカードに加える。
 この効果で得た効果は、他に「六武衆」と名のついたモンスターが存在しなくても発動できる。


「天龍の効果発動!! 六武衆1種類をすべてゲームから除外することで、その攻守と効果、属性を天龍に加える! 俺は"真六武衆−エニシ"をすべてゲームから除外して、天龍の力にする!!」
 俺の墓地から緑色の光が浮かび上がり、天龍の握った刀を纏う。
 するとただの刀だったものが、巨大な刀へと変化した。

 大将軍 天龍:攻撃力3000→4700 守備力3000→3700 炎→炎+光属性

「さらに天龍に付加された効果は、他に六武衆が存在しなくても発動できる! つまりエニシの攻守が500ポイントアップする効果も適用される!」

 大将軍 天龍:攻撃力4700→5200 守備力3700→4200

「攻撃力5200……!! でもシリウスが場にいる限り、あんたはダイレクトアタックも、シリウス以外のモンスターに攻撃することも出来ないわ! しかもシリウスは自身の効果でバトルフェイズ中は攻撃力が6500になるわよ!!」
「ああ、だから香奈には悪いけど、シリウスには退場してもらう」
「え?」
「エニシの効果を宿した天龍の効果発動!! 墓地にいるカゲキと影武者を除外して、シリウスをバウンスする!!」
 天龍が手に持った刃を大きく振る。
 それによって発生した爆発的な風が、天空の守護者を吹き飛ばしてしまった。

 真六武衆−カゲキ→除外
 六武衆の影武者→除外
 天空の守護者シリウス→エクストラデッキ

「シリウス……!」
「これで、アルテミスに攻撃できるようになったな」
「ふ、ふん! 調子に乗ってんじゃないわよ!! 攻撃できるもんならしてみればいいじゃない!!」
 3枚の手札を前に突き出して見せつけながら、香奈は強気に言う。
 だがその目は、明らかに泳いでいた。
「やれやれ……」
 こういうときの嘘は、やっぱり苦手なんだな。
「バトル!! 天龍でアルテミスに攻撃だ!!」
 風の力が込められた刃が、マントを羽織った天使へ振り下ろされる。
 防御しようと張られた天使のバリアを突き破り、その刃は香奈ごと天使を切り裂いた。

 豊穣のアルテミス→破壊
 香奈:3600→0LP



 香奈のライフが0になる。



 そして決闘は、終了した。













「そこまで!!」
 担任の山際が、決闘終了を告げる。
 途端にあたりから歓声が沸いた。さっきの決闘が思った以上に白熱したせいだろう。
 観客全員から惜しみない拍手が送られて、なんだか気恥ずかしい。
「ほら、うるさいぞ!」
 山際の一喝で、あたりが一気に静かになった。
 だけど廊下の方では、まだ騒がしい声が聞こえている。
「じゃあこれで中岸と朝山の決闘は全部終わりだな」
「はい」
「ええ」
「よし、じゃあ帰ってもいいぞ。次の対戦者は準備しとけ」
 山際は手に持ったノートのようなものに何かを記入している。
 おそらくアレに俺達の戦績が記されているのだろう。
「大助!」
 後ろから香奈に呼びかけられた。
「なんだ?」
「今回は負けちゃったけど、今度やったら私が絶対に勝つんだからね!! 絶対に絶対に絶対なんだから!!」
「わ、分かったよ……」
 どんだけムキになってるんだよ。
 まぁ、香奈らしいと言えば香奈らしいが……。
「今度やるときは、もっと楽しい決闘しような」
「当たり前のこと言ってんじゃないわよ。手を抜いたりしたら承知しないんだからね!!」
「はいはい」
「次の対戦が終わったら、みんなでカードショップに行くんだからね!」
「分かった」
 周りのギャラリーの中に入って、次の対戦を観戦することにする。
 次は雲井と本城さんの対決だ。
「どっちが勝つと思う?」
「真奈美ちゃんに決まってるでしょ。そもそも雲井が上位30位に入ってるってこと自体が信じられないわよ……」
 そう言って香奈は苦笑する。
 正直に言えば、俺も同じように感じていた。

「よっしゃあ!! 次は俺の番だぜ!!」

 そんなことを思われているとは露知らず、雲井が教室の中心に立つ。
 対する本城さんは、少し緊張気味で向かい合っている。

「真奈美ちゃん! 頑張ってね!!」
「は、はい!」
 香奈の声援に笑顔で答える本城さん。

「雲井、モンスター出せよ!!」
「せめてワンキルされんなよ!!」
「う、うるせぇ!!」
 それに対してクラスメイトから野次が飛ばされる雲井。

「楽しみだな」
「そうね」
 今まであまり対戦したことのない2人の決闘に、少し期待が高まる。
 俺と香奈はクラスメイトと一緒に、雲井と本城さんの決闘を見守ることにした。




episode3――学年別ランキング戦〜その3〜――



「よし、じゃあ次は雲井と本城の対戦だな」
 中岸達の決闘の記録が終わったらしく、担任の山際は俺と本城さんに目を向けた。
「はい」
「おう、バッチリだぜ」
 互いに大きく返事をして、数メートルの距離を置いて向かい合う。
 これから始まるのは俺と本城さんの決闘。
 考えてみれば、俺と本城さんって全然戦う機会がなかった気がするぜ。

「おい雲井〜!! ハンデ付けてもらった方がいいんじゃねぇか?」
「頼むからワンキルされないでくれよ〜!」
「ブラフでもいいから何か伏せておけよ〜!!」

「う、うるせぇ! 黙ってみてろ!!」
 周りにいる友人からからかわれる。
 くそったれ、今に見てやがれ。俺がこの夏休みと秋休みでどれだけレベルアップしたのかをな。

「あの……雲井君」
「はい?」
 対面する本城さんが話しかけてきた。
「こうやって決闘するのは初めてですね」
「ああ」
「雲井君には悪いですけど、私、全力でいきますね!」
「もちろんだぜ! 俺も本城さんをぶっ飛ばす気でいるから覚悟しておきやがれ!」
 人差し指を突き付けて、堂々と宣言する。
 たしかに本城さんは強い。けど俺だって強くなってんだ。決して倒せない相手じゃないぜ!
「真奈美ちゃん! 雲井なんてさっさと倒しちゃいなさい!」
「真奈美! ちゃちゃっとやっちゃって!!」
 女子グループからの応援も、明らかに俺が瞬殺されることを前提にしている。
 くそぅ……みんなから見て俺ってそんなに弱いキャラだったのか。
 なんか自信なくしそうだぜ……。
「2人ともそろそろ始めてもらっていいか?」
 痺れを切らしたのか、山際が言った。
 俺達は頷き、互いに腕にデュエルディスクを展開する。
 デッキを差し込み、自動シャッフルがされて準備が完了した。



「「決闘!!」」



 雲井:8000LP   真奈美:8000LP



 決闘が、始まった。



 デュエルディスクの赤いランプが点灯する。
 よっしゃ、先攻は俺からだぜ。
「俺のターン、ドロー!!」(手札5→6枚)
 6枚になった手札を確認する。
 よし、今回はなかなか良い手札だぜ。
「いくぜ! 手札から"ミニ・コアラ"を召喚!!」
 カードをデュエルディスクに叩き付ける。
 フィールドに光が走り、手の平サイズの小さなコアラが姿を現した。


 ミニ・コアラ 地属性/星4/攻1100/守100
 【獣族・効果】
 このカードをリリースすることで、デッキ、手札または墓地から
 「ビッグ・コアラ」1体を特殊召喚できる。


「雲井がモンスターを出した!!」
「やべぇ、今日は雨が降るぞ!!」
 クラスメイトが野次を飛ばしてくるけど、気にしない。
 さすがに俺だって、何もせずにターンエンドなんてことはしなくなったんだぜ。
「そのモンスター可愛いですね」
「へっ! まだまだこれからだぜ! "ミニ・コアラ"をリリースして、デッキから"ビッグ・コアラ"を特殊召喚!」
 手の平サイズのコアラが光に包まれる。
 そしてその光の中から、教室の天井に届くほど巨大なコアラが出現した。


 ビッグ・コアラ 地属性/星7/攻撃力2700/守備力2000
 【獣族】
 とても巨大なデス・コアラの一種。
 おとなしい性格だが、非常に強力なパワーを持っているため恐れられている。


「お、大きいですね……」
 巨大なコアラを見上げながら、本城さんが呟く。
 いくらソリッドビジョンとはいえ、ここまで大きいとやはり迫力もあるのかもしれない。
「こいつの攻撃力は2700もある! そう簡単には超えられないぜ。カードを1枚伏せて、ターンエンドだ!!」
 快調な出だしで、ターンを終える。
 本城さんが相手だと少し不安が残るが、きっと大丈夫だぜ。


 俺のターンが終わって、本城さんへターンが移る。


「私のターンです。ドロー!」(手札5→6枚)
 滑らかな動きで、本城さんはデッキからカードを引いた。
 引いたカードを見つめ、彼女は小さく笑みを浮かべる。
 どうやら良いカードを引かれちまったみたいだ。
「いきますよ雲井君! 手札から"召喚士のスキル"を発動します!」


 召喚師のスキル
 【通常魔法】
 自分のデッキからレベル5以上の通常モンスターカード1枚を選択して手札に加える。


「このカードの効果で、私はデッキから"ブラック・マジシャン"を手札に加えます!」(手札5→6枚)
 デッキからカードを引き抜き、すぐさま次のカードへと手をかける。
 その一連の動きを見ていると、本城さんの強さが垣間見える気がするぜ。
「私は、"古のルール"を発動します。この効果で、手札から"ブラック・マジシャン"を特殊召喚です!」
「っ!」
 本城さんを中心に魔法陣が展開される。
 すると彼女の前に、黒衣を纏った魔術師が現れた。


 古のルール
 【通常魔法】
 自分の手札からレベル5以上の通常モンスター1体を特殊召喚する。


 ブラック・マジシャン 闇属性/星7/攻2500/守2100
 【魔法使い族】
 魔法使いとしては、攻撃力・守備力ともに最高クラス。


「いきなりエースカードか、さすがだぜ本城さん」
「あ、ありがとうございます」
 若干照れたように視線を逸らす本城さん。

 彼女が使うデッキは【魔法使い族】デッキだ。様々な魔法カードや魔法使い族モンスターを使い、トリッキーな戦術で相手を翻弄するデッキだ。いくつも魔法カードを使うため、自然と複雑なコンボが出来上がってしまう。
 とても俺には使いこなせないデッキだぜ……。

「まだまだいきます! 手札から"大魔導士の古文書"を発動します!」
「ぐっ……」


 大魔導士の古文書
 【速攻魔法】
 自分フィールド上に「ブラック・マジシャン」が
 表側表示で存在する時のみ発動する事ができる。
 相手フィールド上の魔法・罠カード1枚を破壊する。
 相手のエンドフェイズ時に、このカードをゲームから除外して、
 デッキから同名カードを手札に加えることができる。


「その伏せカードを破壊しますね!」
「させねぇ! チェーンして伏せカード発動だぜ!!」


 強欲な瓶
 【通常罠】
 自分のデッキからカードを1枚ドローする。


「……!」
「この効果でデッキからカードを1枚ドローするぜ!!」(手札4→5枚)
「それなら、カードを2枚伏せてターン終了です」

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 雲井:8000LP

 場:ビッグ・コアラ(攻撃:2700)

 手札5枚
-------------------------------------------------
 真奈美:8000LP

 場:ブラック・マジシャン(攻撃:2500)
   伏せカード2枚

 手札2枚
-------------------------------------------------

「俺のターン、ドロー!」(手札5→6枚)
 引いたカードを確認する。
 なかなか今日は運がいいみてぇだ。
 これならすぐにでも決めることが出来そうだぜ。
「手札から"強欲なカケラ"を発動するぜ!!」
 俺のフィールドに、緑色の壺の欠片が現れた。


 強欲なカケラ
 【永続魔法】
 自分のドローフェイズ時に通常のドローをする度に、
 このカードに強欲カウンターを1つ置く。
 強欲カウンターが2つ以上乗っているこのカードを墓地へ送る事で、
 自分のデッキからカードを2枚ドローする。


「初めて見るカードですね」
「ああ、俺だって前よりかなり強くなってるんだぜ!!」
「それは私もです!」
「へっ! いくぜ! "ビッグ・コアラ"で"ブラック・マジシャン"に攻撃だ!!」
 伏せカードが気になるけど、ビビってたら意味がねぇ。
 ここは臆せず攻撃だぜ!!
「伏せカード発動です!!」
 当然のように、本城さんは伏せていたカードを開く。


 スキル・サクセサー
 【通常罠】
 自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動する。
 このターンのエンドフェイズ時まで、
 選択したモンスターの攻撃力は400ポイントアップする。
 また、墓地に存在するこのカードをゲームから除外する事で、
 自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体の
 攻撃力はこのターンのエンドフェイズ時まで800ポイントアップする。
 この効果はこのカードが墓地へ送られたターンには発動する事ができず、
 自分のターンのみ発動する事ができる。


 ブラック・マジシャン:攻撃力2500→2900

「なっ!?」
「これで、雲井君のモンスターは返り討ちです!!」
 襲いかかるコアラへ向けて、黒き魔術師は杖を振る。
 その杖の先端から黒い魔力の塊が放たれ、攻撃してきたモンスターを吹き飛ばしてしまった。

 ビッグ・コアラ→破壊
 雲井:8000→7800LP

「くっ……」
「そう簡単に、ブラック・マジシャンは破壊させません!」
 やっぱり攻撃対策のカードが伏せられていやがったか。
 とにかくこれで俺の場にモンスターがいなくなっちまった。このままターンエンドするわけにはいかないぜ。
「メインフェイズ2に、俺はカードを1枚伏せるぜ」
 俺の場に裏側表示のカードが浮かび上がる。
 今は、これで耐えるしかない。
 あとは……。
「手札から"D.D.クロウ"を捨てて、効果発動だ!」
「え?」


 D.D.クロウ 闇属性/星1/攻100/守100
 【鳥獣族・効果】
 このカードを手札から墓地へ捨てて発動する。
 相手の墓地に存在するカード1枚を選択し、ゲームから除外する。
 この効果は相手ターンでも発動する事ができる。


「この効果で、俺は本城さんの墓地にある"大魔導士の古文書"をゲームから除外するぜ!!」
「そんな……!」

 大魔導士の古文書→除外

「よっしゃ!」
 本城さんの使う"大魔導士の古文書"には、相手のエンドフェイズ時にゲームから除外して同名カードをサーチする効果を持っている。今のうちに除外して、何度も使わせないようにしないとな。
「これで、俺の伏せカードは守れるぜ」
「……」
 本城さんが少し険しい表情になった。
 周りにいる奴らも、変なヤジを飛ばさなくなった。
 みんなやっと、俺が成長したってことを理解してくれたみてぇだな。
「俺はこれで、ターンエンドだぜ!!」

-------------------------------------------------
 雲井:7800LP

 場:強欲なカケラ(永続魔法:強欲カウンター×0)
   伏せカード1枚

 手札3枚
-------------------------------------------------
 真奈美:8000LP

 場:ブラック・マジシャン(攻撃:2500)
   伏せカード1枚

 手札2枚
-------------------------------------------------

「……雲井君、本当に強くなってるんですね」
「ああ。この前の俺とは違うぜ」
「…………」
 少しずれた眼鏡を直して、本城さんは大きく深呼吸した。
 そろそろ仕掛けてくるつもりなのかもしれねぇな。
「私のターンです、ドロー!!」(手札2→3枚)
 引いたカードを確認し、本城さんはすぐさまそれを発動した。


 黒・魔・導
 【通常魔法】
 自分フィールド上に「ブラック・マジシャン」が
 表側表示で存在する時のみ発動する事ができる。
 相手フィールド上の魔法・罠カードを全て破壊する。


「っ!」
「まずはこれで、雲井君の戦術を封じます!!」
「へっ! 狙いは悪くねぇけど、そこらへんの対策は”あいつ”に嫌ってほど教え込まれてるぜ!!」
 黒い魔術師が杖に魔力を込めようと瞑想する間に、俺は伏せておいたカードを発動した。


 魔宮の賄賂
 【カウンター罠】
 相手の魔法・罠カードの発動と効果を無効にし破壊する。
 相手はデッキからカードを1枚ドローする。


「カウンター罠!?」
「ああ、知り合いに連絡して余ってたカードをもらったんだぜ」
 もっとも、たまたまライガーが連絡先を知ってたからできたことなんだけどな。
 そういや彩也香のやつ、電話してるとき妙にテンション高かった気がするけどなんかあったのか?
 おっと、今はそれどころじゃねぇな。決闘に集中しねぇと。
「この効果で、本城さんのカードは無効にさせてもらうぜ!!」
「……!」
 魔術師の杖にたまっていた魔力が、不可思議な力によって弾け飛ぶ。
 何度も魔力を込めようとしても込められなくなったことで、魔術師は構えていた杖を下ろした。

 黒・魔・導→無効→破壊
 真奈美:手札2→3枚

 なんとかドロー加速させるカードは守ったが、本城さんの手札は3枚でブラック・マジシャンもいる。
 対して俺の場には防ぐカードなんかあるわけもない。
 少しでもライフが残ってくれればいいんだけどな……。
「さぁどうする? このままターンエンドするか?」
「そ、そんなわけありません! 雲井君のコンボが完成する前に、一気に決めます!」
「ぐっ……」
 やっぱそうくるよなぁ。
 でも相手の場にはモンスターが1体だけ。俺のライフはまだ8000近くもあるし、凌げるはずだぜ。
「バトルです!」
 本城さんの宣言と共に、黒き魔術師が杖を構える。
 ソリッドビジョンだと分かっていても、自然と身構えてしまう。
「さらにこの瞬間、伏せカード発動です!」
「なに!?」


 マジシャンズ・サークル
 【通常罠】
 魔法使い族モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
 お互いのプレイヤーは、それぞれ自分のデッキから
 攻撃力2000以下の魔法使い族モンスター1体を表側攻撃表示で特殊召喚する。


「この効果で、私はデッキから"ブラック・マジシャン・ガール"を特殊召喚します!」
「くそっ……!」
 魔法使い族モンスターを呼び出すカード。
 本城さんのデッキにはうってつけのカードだけど、俺のデッキには魔法使い族モンスターが入っていないから恩恵を受けることができねぇ。
「でてきて! "ブラック・マジシャン・ガール"!!」
 黒き魔術師の隣に、その弟子にあたる女魔術師が現れる。
 可愛らしくウインクしながら登場した姿に、クラスにいる一部のファンが喜んだ。


 ブラック・マジシャン・ガール 闇属性/星6/攻2000/守1700
 【魔法使い族・効果】
 お互いの墓地に存在する「ブラック・マジシャン」
 「マジシャン・オブ・ブラックカオス」1体につき、
 このカードの攻撃力は300ポイントアップする。


「攻撃続行。2体のモンスターで直接攻撃です!!」
 主の命令によって魔術師の師弟が杖を大きく掲げる。
 その杖の先端に込められた魔力が重なり、一気に俺へ向けて放たれた。
「ぐっ……!」

 雲井:7800→5800→3300LP

 いくらソリッドビジョンだっていっても、実際に喰らったように錯覚しちまうぜ。
 でもまぁ、とにかくライフは残すことが出来たな。
「メインフェイズ2に入ります。手札から"魔法吸収"を発動しますね」


 魔法吸収
 【永続魔法】
 魔法カードが発動する度に、このカードのコントローラーは500ライフポイント回復する。


「なんで"黒・魔・導"を発動する前に使わなかったんだ?」
「はい。そのときは手札に無くて……さっきの"魔宮の賄賂"で引いたんです」
「あぁ、なるほど」
 "魔宮の賄賂"は相手のカードを無効にする代わりに1枚引かせちまうからな……。
 まぁ嘆いたところで仕方ねぇけど……。
「雲井君が相手だと、このカードは私の命綱みたいなものですから引けて良かったです」
 そう言って笑顔を見せる本城さん。
 なるほどな。たしかに本城さんのデッキにはたくさんの魔法カードが入っている。魔法カードが発動するたびにライフを回復する"魔法吸収"なら、大幅に回復することが出来るだろうな。
 けど甘いぜ。いくらライフを回復させようと、俺のデッキなら一撃で削りきれるんだ。
「……えっと、じゃあ私はこれでターンを終了しますね」

-------------------------------------------------
 雲井:3300LP

 場:強欲なカケラ(永続魔法:強欲カウンター×0)

 手札3枚
-------------------------------------------------
 真奈美:8000LP

 場:ブラック・マジシャン(攻撃:2500)
   ブラック・マジシャン・ガール(攻撃:2000)
   魔法吸収(永続魔法)

 手札2枚
-------------------------------------------------

「俺のターン、ドロー!!」(手札3→4)
 カードを引いた瞬間、場に浮かび上がった壺のカケラが微弱に光る。

 強欲なカケラ:強欲カウンター×0→1

 これであともう1個カウンターが溜まれば、強力なドロー効果が使えるぜ。
 まぁその前に、少しは反撃しておかねぇとな。
「手札から"デス・カンガルー"を召喚するぜ!!」


 デス・カンガルー 闇属性/星4/攻撃力1500/守備力1700
 【獣族・効果】
 守備表示のこのカードを攻撃したモンスターの攻撃力がこのカードの守備力より低い場合、
 その攻撃モンスターを破壊する。


 ボクシンググローブを身に着けたカンガルーが、自分の力を見せつけるかのようにシャドーボクシングをする。
 攻撃力では相手の方が上なのに、こっちの方が強そうに見えるのが不思議だぜ……。
「その、攻撃表示……ですか?」
「ああ。もちろん、これじゃあ終わらないぜ!! 手札から"デーモンの斧"を装備するぜ!!」
「……!」


 デーモンの斧
 【装備魔法】
 装備モンスターの攻撃力は1000ポイントアップする。
 このカードがフィールド上から墓地へ送られた時、
 自分フィールド上に存在するモンスター1体を
 リリースする事でデッキの一番上に戻す。


 さっきまでシャドーボクシングをしていたカンガルーの手に、悪魔の力を宿した斧が握られる。
 それと同時に、本城さんの体に回復の光が降り注いだ。

 デス・カンガルー:攻撃力1500→2500
 真奈美:8000→8500LP("魔法吸収"の効果)

「攻撃力がブラック・マジシャンと並びましたね」
「いくぜ!! "デス・カンガルー"で"ブラック・マジシャン・ガール"に攻撃だ!!」
 カンガルーが斧を構え、女魔導士に飛び掛かる。
 力任せに振り下ろされた刃によって、本城さんのモンスターは切り裂かれた。

 ブラック・マジシャン・ガール→破壊
 真奈美:8500→8000LP

「雲井!! てめぇなんでブラマジガール倒してんだよ!!」
「そうだそうだ! もっと俺達に鑑賞させろ!!」
 一部のファンからヤジが飛ぶ。
 くそっ、分かってはいたけどやっぱり面倒くせぇな。
「うるせぇ! 勝負なんだから仕方ねぇだろ! カードを1枚伏せてターンエンドだぜ!」


 騒がしい俺のターンが終わり、本城さんのターンになった。


「私のターンです、ドロー!」(手札2→3枚)
 引いたカードを確認し、本城さんは考え込んだ。
 場には同じ攻撃力のモンスターが向き合っている。このまま攻撃すれば相打ちになってしまうから悩んでいるのかもしれない。特にブラック・マジシャンは彼女のデッキにとって要となるモンスターだしな。
 そう言う俺も、デス・カンガルーはキーカードだからあんまり倒されたくないんだが……。
「へっ、どうした本城さん。このままターンエンドしてもいいぜ?」
「っ、ば、馬鹿にしないでください!」
 一応、親切心で言ったつもりだったんだけどな。
 どうにも逆の意味で捉えられちまったみてぇだ。
「けどこのままじゃ、相打ちだぜ?」
「だったら、相打ちにしなきゃいいだけです! 墓地の"スキル・サクセサー"の効果発動!」
「えっ」


 スキル・サクセサー
 【通常罠】
 自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動する。
 このターンのエンドフェイズ時まで、
 選択したモンスターの攻撃力は400ポイントアップする。
 また、墓地に存在するこのカードをゲームから除外する事で、
 自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体の
 攻撃力はこのターンのエンドフェイズ時まで800ポイントアップする。
 この効果はこのカードが墓地へ送られたターンには発動する事ができず、
 自分のターンのみ発動する事ができる。



 ブラック・マジシャン:攻撃力2500→3300

「バトルです!」
 少しムキになった本城さんに応えるように、黒き魔術師の魔力が強くなる。
 先ほど弟子を倒したカンガルーへ向けて、手に持った杖を向ける。
「待った! 伏せカード発動だぜ!!」
「え!?」


 グラヴィティ・バインド−超重力の網
 【永続罠】
 フィールド上に存在する全てのレベル4以上のモンスターは攻撃をする事ができない。


 攻撃に入ろうとした魔術師の体に、光の網が絡みつく。
 思うように身動きが取れなくなってしまったことで、魔術師は攻撃を中断してしまった。
「防御カードがあったんですね」
「これぐらい当たり前だぜ」
「……じゃあ私は、カードを2枚伏せて、ターン終了です」

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 雲井:3300LP

 場:デス・カンガルー(攻撃:2500)
   デーモンの斧(装備魔法)
   強欲なカケラ(永続魔法:強欲カウンター×1)
   グラヴィティ・バインド−超重力の網(永続罠)

 手札1枚
-------------------------------------------------
 真奈美:8000LP

 場:ブラック・マジシャン(攻撃:2500)
   魔法吸収(永続魔法)
   伏せカード2枚

 手札1枚
-------------------------------------------------

「俺のターンだぜ!!」
 なんとか防ぐことが出来たけど、それもいつまでもつか分からない。
 ここらへんで一気に決めておきたいところだ。
「ドロー!!」(手札1→2枚)
 勢いよくカードを引く。
 場に存在する緑色のカケラが、大きく光輝く。

 強欲なカケラ:強欲カウンター×1→2

「カウンターの溜まったカケラを墓地に送ることで、俺はデッキからカードを2枚ドローするぜ!」(手札2→4枚)
「っ!」
 新たに加わった2枚の手札。
 俺の望んでいるカードが来てくれた。
 これは……行くっきゃねぇな!!
「さらにバインドをコストに、"マジック・プランター"を発動するぜ!!」
「また手札増強ですか!?」


 マジック・プランター
 【通常魔法】
 自分フィールド上に表側表示で存在する永続罠カード1枚を墓地へ送って発動する。
 自分のデッキからカードを2枚ドローする。


 グラヴィティ・バインド−超重力の網→墓地(コスト)
 真奈美:8000→8500LP

「このカードの効果で、デッキから2枚ドロー!!」(手札3→5枚)
「そんな、防御カードを自分から取り除くなんて……」
「へっ、俺は自分がいけると思ったらすぐに攻めることにしてるんだぜ」
 ドローカードによって5枚になった手札を眺めながら言う。
 いつもこうやって決闘してきたんだ。誰が何と言おうが、これが俺の戦術だぜ!!
「さらに、デッキワンサーチシステムを使うぜ!!」
「え!?」
 デュエルディスクについている青いボタンを押し、宣言する。
 自動的にデッキからカードが選び出されて突出し、俺はそれを勢いよく引き抜く。(手札5→6枚)
「雲井君、デッキワンカードを手に入れたんですか……」
「ああ。さぁ、本城さんもカードを引いていいぜ」
「あ、はい。私もルールで引かせてもらいますね」
 本城さんもデッキからカードを引く。(手札1→2枚)
 これで相手の手札は2枚。俺の手札は6枚になった。
(やっと我を使う時が来たか)
 頭に直接語りかけてきた声。ライガーの声だというのは言うまでもない。
 こうしてカードに直に触れているとライガーと言葉を交わさなくても会話ができるのだ。
 知ったのはつい最近になってのことだけど……。
(まったく、さっさと終わらせろ小僧)

 うるせぇ。黙って見てろ。

 心の中で悪態をつきつつ、次の手に移る。
 もう十分に手札は揃った。あとは一気に攻めるだけだぜ!!
「手札から"死者蘇生"を発動!! 墓地にいる"ビッグ・コアラ"を特殊召喚だぜ!!」
「っ、私も"魔法吸収"の効果でライフポイントを回復します!」


 死者蘇生
 【通常魔法】
 自分または相手の墓地からモンスター1体を選択して発動する。
 選択したモンスターを自分のフィールド上に特殊召喚する。


 ビッグ・コアラ→特殊召喚(攻撃)
 真奈美:8500→9000LP

「ここでそのモンスターということは、来るんですね」
「もちろんだぜ!! 手札から"融合"を発動だ!!」


 融合
 【通常魔法】
 手札・自分フィールド上から、融合モンスターカードによって決められた
 融合素材モンスターを墓地へ送り、その融合モンスター1体を
 エクストラデッキから特殊召喚する。


 真奈美:9000→9500LP

「場にいる"デス・カンガルー"と"ビッグ・コアラ"を融合!! 出てこい! "マスター・オブ・OZ"!!」
 フィールドに現れた光の渦。
 俺の場にいる2体のモンスターが飲み込まれて、力が合わさりあっていく。
 やがてその光の渦から、チャンピオンベルトを掲げるモンスターが姿を現した。


 マスター・オブ・OZ 地属性/星9/攻撃力4200/守備力3700
 【獣族・融合モンスター】
 「ビッグ・コアラ」+「デス・カンガルー」


「攻撃力4200……でも、これで終わるつもりは――――」
「もちろんねぇぜ!! 手札から"コード・チェンジ"を発動!! "マスター・オブ・OZ"を機械族に変更するぜ!」


 コード・チェンジ
 【通常魔法】
 自分フィールド上のモンスター1体を指定する。
 指定したモンスターの種族を、このターンのエンドフェイズまで自分が指定した
 種族にする。


 マスター・オブ・OZ:獣→機械族
 真奈美:9500→10000LP

「本城さんのライフが10000になったぞ!」
「でも、雲井だってやる気だよ?」
 クラスメイトから歓声が沸く。
 言われてみて、ようやく本城さんのライフが10000になったことに気が付いた。
 "魔法吸収"の効果は相手が魔法カードを発動しても発動するのか。俺も攻撃力を上げるために魔法カードをたくさん使うから、尋常じゃないくらいライフを回復できるのは間違いない。
「……へっ、上等じゃねぇか」
「く、雲井君?」
 思わずニヤついてしまう。
 こっちが攻撃力を上げれば上げるほど、あっちもライフが上がっていくって訳か。
 面白れぇ。なおさらやる気が出てきたぜ!!
「本城さん、先に言っておくぜ。いくらライフを回復しても、俺はそのライフを一気に削りきってやるぜ!!」
「っ! わ、私だって、負けるつもりはありません!! 絶対に雲井君の攻撃をしのいでみせます!」
「いくぜ! 手札から"オーバーブースト"を発動だ!!」


 オーバーブースト
 【速攻魔法】
 自分フィールド上に表側表示で存在する機械族モンスター1体を指定する。
 このターンのエンドフェイズまで、そのモンスターの守備力を攻撃力に加える。
 指定されたモンスターはこのターンのエンドフェイズ時にゲームから除外される。


 マスター・オブ・OZ:攻撃力4200→7900LP
 真奈美:10000→10500LP

 "コード・チェンジ"の効果で機械族になっているから、本来は獣族のモンスターでも"オーバーブースト"の効果は適用される。ここまで攻撃力を上げているのに、本城さんの伏せカードは開かれる様子がない。
 ということは、俺の攻撃に反応する罠カードか何かだろう。
 けど、今の俺にそんなの通用しないぜ!!
「そして手札から"リミッター解除"を発動だぁ!!」


 リミッター解除
 【速攻魔法】
 このカード発動時に自分フィールド上に存在する全ての表側表示機械族モンスターの攻撃力を倍にする。
 エンドフェイズ時この効果を受けたモンスターカードを破壊する。


 マスター・オブ・OZ:攻撃力7900→15800
 真奈美:10500→11000LP

「攻撃力15800……!」
「これが、今の手札で出せる最高の攻撃力だぜ!」
 このままブラック・マジシャンを攻撃すれば、本城さんのライフを削りきることが出来る。
 だけど彼女が何も仕掛けていない訳がない。あの2枚の伏せカードにかけているに違いないぜ。
 今までだったら何も対抗策が無かったが、今の俺にはデッキワンカードがある!!
「これで終わらせるぜ! 手札から"デステニー・ブレイク"を発動だぁ!!」


 デステニーブレイク
 【速攻魔法・デッキワン】
 雲井忠雄の使用するデッキにのみ入れることが出来る。
 2000ライフポイント払うことで発動できる。そのとき、以下の効果を使用できる。
 ●このターンのエンドフェイズ時まで、モンスター1体の攻撃力を100000にする。
  ただしそのモンスターが戦闘を行うとき、プレイヤーに発生する戦闘ダメージは0になる。
 デッキの上からカードを10枚除外することで発動できる。そのとき、以下の効果を使用できる。
 ●このカードを発動したターンのバトルフェイズ中、相手のカード効果はすべて無効になる。



 雲井:デッキの上から10枚除外。(コスト)
 真奈美:11000→11500LP

 限界まで高められたチャンピオンの拳を、獅子の頭の形をしたオーラが纏う。
 そこから感じられる圧力に、対峙する魔術師も顔をしかめていた。
「……! な、なんですか……!?」
「これが俺専用のデッキワンカードだぜ!!」
 辺りがざわめく。何度か発動したことはあったが、こうしてみんなの前で発動するのは初めてだ。
 さすがに都市伝説にもなってる『個人名義のデッキワンカード』を、俺が持っているわけだからな。
「この効果で、本城さんはバトルフェイズ中に発動されるカードの効果はすべて無効になる!」
「えっ!?」
「これでどんなカードが仕掛けられても大丈夫だぜ!!」
 チャンピオンが拳を構え、攻撃態勢に入る。
 その右拳から感じられる異様なプレッシャーに、本城さんも自然と身構えている。
「大丈夫なのか、ライガー?」
 ポツリと呟く。
 聞こえてしまったのか、返答が返ってきた。
(安心しろ。ダメージを現実にする力は無い)
「そうか」
 本当に信じていいのかどうか心配になったが、今さら気にしても仕方ねぇ。
 ここはライガーを信じて攻撃するしかないぜ。
「バトル―――」
「待ってください!!」
 バトルフェイズに入ろうとした瞬間、本城さんが大声を上げた。
「その前に、伏せカード発動です!!」
 そう言って開かれたのは、ずっと発動されていなかった2枚のカード。


 神秘の中華なべ
 【速攻魔法】
 自分フィールド上のモンスター1体をリリースする。
 リリースしたモンスターの攻撃力か守備力を選択し、
 その数値だけ自分のライフポイントを回復する。


 非常食
 【速攻魔法】
 このカード以外の自分フィールド上に存在する
 魔法・罠カードを任意の枚数墓地へ送って発動する。
 墓地へ送ったカード1枚につき、自分は1000ライフポイント回復する。


「中華鍋でブラック・マジシャンをリリース!! さらにチェーンして"非常食"で中華鍋のカードを墓地に送ります!」
「なっ!?」
 主人を守るために君臨していた魔術師の体が、暖かな優しい光の粒へと変わる。
 回復の光に包まれて、本城さんのライフが大幅に回復していく。

 ブラック・マジシャン→墓地
 神秘の中華鍋→墓地
 真奈美:11500→12500→13000→15500→16000LP

「なっ!?」
 ライフポイントが、俺の攻撃力を超えやがった!?
 しかも、伏せられていたカードは2枚とも罠カードじゃなかったってのか!?
「さぁ雲井君!! どうしますか?」
「くっ……バトルだ!!」
 俺の攻撃宣言で、超攻撃力を携えたチャンピオンが拳を振るう。
 防ぐカードが何もない本城さんは、その攻撃をまともに喰らってしまった。
「きゃっ!」

 真奈美:16000→200LP

 莫大なライフが、一撃のもとにほとんど削られる。
 だけど0にはなっていない。つまり、まだ決闘が続くということだ。
「ふぅ、凌ぎましたよ雲井君!」
「ぐっ……」
 何か行動しようにも、俺にはもう手札は無い。
 このターンで決着を付けようと思っていたから、温存なんてしているわけがない。
 もうこのターン内には、やれることは無くなってしまった。
「俺はこれで、ターンエンドだ」
 ターンが終了するとともに、限界を超えた力を身に着けたチャンピオンが崩れ去った。

 マスター・オブ・OZ→破壊

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 雲井:3300LP

 場:なし

 手札0枚
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 真奈美:200LP

 場:魔法吸収(永続魔法)

 手札2枚
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「私のターンです、ドロー……」(手札2→3枚)
 何とか凌いだはずの本城さんだったが、その表情はどこか暗い。
 いったいどうしたんだ? このターンは逆転するチャンスだってのに。
「……私は手札から、このモンスターを召喚します」
 少し考えたあと、本城さんは静かにモンスターを召喚した。


 王立魔法図書館 光属性/星4/攻0/守2000
 【魔法使い族・効果】
 このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
 自分または相手が魔法カードを発動する度に、
 このカードに魔力カウンターを1つ置く(最大3つまで)。
 このカードに乗っている魔力カウンターを3つ取り除く事で、
 自分のデッキからカードを1枚ドローする。


「攻撃力0!?」
 この場面で攻撃力0のモンスターって、何を考えてんだよ。
「本当は、一気に攻めたてたいところなんですけど、今の手札にこれ以外モンスターはいません」
「なっ」
「ですから、このカードで引いて見せます! 手札から"魔力掌握"を発動です!!」


 魔力掌握
 【通常魔法】
 フィールド上に表側表示で存在する魔力カウンターを
 乗せる事ができるカード1枚に魔力カウンターを1つ置く。
 その後、自分のデッキから「魔力掌握」1枚を手札に加える事ができる。
 「魔力掌握」は1ターンに1枚しか発動できない。


 王立魔法図書館:魔力カウンター×0→1→2
 真奈美:手札2→1→2枚
 真奈美:200→700LP

「さらに手札からサイクロンを発動します! 対象は私の場にある"魔法吸収"です!」
「自分のカードを、自分で破壊するだって!?」


 サイクロン
 【速攻魔法】
 フィールド場の魔法または罠カード1枚を破壊する。


 魔法吸収→破壊
 王立魔法図書館:魔力カウンター×2→3

「そして"王立魔法図書館"の効果を発動します! 魔力カウンターを3つ取り除いて、デッキから1枚ドローです!」
 デッキの上に手をかけて数秒間、本城さんは動かなかった。
 まるでそのカードに願いを込めているように見える。
「お願い! ドロー!!」(手札1→2枚)
 一瞬の緊張が、会場を支配する。
 恐る恐る引いたカードを確認した本城さんの瞳に、光が宿った。
「来ました! 魔法カード"師弟の奇跡"を発動します!!」
「なぁ!?」


 師弟の奇跡(マジシャンズ・ミラクル)
 【速攻魔法】
 このカードは無効にされない。
 墓地に「ブラック・マジシャン」と「ブラック・マジシャンガール」がいる時、発動できる。
 デッキ、手札または墓地から魔法使い族モンスター1体を攻撃表示で特殊召喚する。
 エンドフェイズ時に、自分はこの効果で特殊召喚したモンスターの攻撃力分のダメージを受ける。


 師匠と弟子、二人の魔術師が墓地にいるときのみ発動できる強力カード。
 登場して数ヶ月で制限カード行きになったことでも有名なカードだ。
 くそったれ。やっぱり本城さんも持ってるのかよ。
「この効果で、私はデッキからモンスターを特殊召喚します!!」
 フィールドに立つ2本の光の柱。
 倒れた2人の魔術師が放つ最後の魔力が、奇跡を起こすために放たれる。
 その奇跡の光に包まれて、フィールドに真っ白な装束を身に纏い、青い瞳を持った美しい魔法使いが舞い降りた。


 エターナル・マジシャン 闇属性/星10/攻3000/守2500
 【魔法使い族・効果・デッキワン】
 魔法使い族モンスターが15枚以上入っているデッキにのみ入れることが出来る。
 このカードが戦闘によってモンスターを破壊し墓地へ送った時、
 破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。
 このカードがフィールドに表側表示で存在する限り、
 自分は魔法カードを発動するためのコストが必要なくなる。
 1ターンに1度、手札を1枚捨てることで
 デッキまたは墓地に存在する魔法カード1枚を手札に加えることが出来る。



「本城さんのデッキワンカードか……!」
「はい! これが私の切り札です!!」
 すべての魔法使いの最高位に立つにふさわしい姿。
 そのすべてを見通すかのような青い瞳が、俺を見据えている。
「へっ、さすがだぜ本城さん。でもそいつの攻撃力は3000だ。このままじゃ俺は倒せないぜ!!」
「大丈夫です。"エターナル・マジシャン"の効果で、私は手札を1枚捨てて魔法カードをサーチします!」
「あ……そうだったっけ?」
「この効果で、私は"魔術師の力"を手札に加えて、"エターナル・マジシャン"に装備します!」


 魔導師の力
 【装備魔法】
 装備モンスターの攻撃力・守備力は、
 自分フィールド上に存在する魔法・罠カード1枚につき
 500ポイントアップする。


 エターナル・マジシャン:攻撃力3000→3500 守備力2500→3000

「バトルです!!」
 その宣言で、白き魔法使いが杖を構える。
 槍にも思えるその杖の先端に、膨大な魔力が込められていく。
「……………はぁ」
 溜息が出ちまった。
 あと少しだったんだけどな……。

 ――エターナル・マジック!!――

 放たれた魔力の塊が、俺を飲み込んだ。


 雲井:3300→0LP





 俺のライフが0になり、決闘は終了した。








「そこまで!」
 決闘を見届けた担任の山際が声を出す。
「さすがだぜ本城さん」
「ありがとうございます。でも、今回は運が良かっただけです」
 互いに握手を交わし、健闘を称えあう。
 周りにいる観客も俺達の決闘に感動したのか、盛大な拍手をしてくれた。
「今度は、俺が勝って見せるぜ」
「はい。でも私も、負けるつもりはありません」
 優しい微笑みで答える本城さん。
 今回は負けちまったけど、次は絶対に勝ってやるぜ。


「よし、これで予定されてた決闘は全部終了だな」
 記録を終えた山際がそう言うと、教室外にいた観客がぞろぞろと帰っていく。
 今は放課後だもんな。帰るのは当然か。
「惜しかったな」
 中岸が声をかけてきた。
「けっ! てめぇに慰められても嬉しくねぇよ」
「そうかよ。このあとカードショップに行くんだが、一緒に行くか?」
「いかねぇよ。てめぇと違って学校の課題が溜まってるんだ
「大変だな」
 小さく溜息をつきつつ、中岸はそう言った。
 まったく、ムカつく野郎だぜ。絶対にいつかぎゃふんって言わせてやるぜ。


「じゃあお前ら、お疲れ様だったな。全員、帰っていいぞ」
 そう言って山際は教室を出ていく。
 それに続いて、クラスのみんなもぞろぞろと下校の準備を始めていた。



 こうして、学内ランキング戦は終幕を迎えた。




episode4――思わぬ来訪者――



 学内別ランキング戦が終わってから翌日。
 外では灰色の厚い雲が空を覆い、通行人が白い息を吐きながら歩いている。
 星花高校では普段通りの授業が行われていて、クラス全員が黒板を見ながらノートにペンを走らせていた。

 ……キーンコーンカーンコーン……

 授業終了のチャイムが鳴り、みんなが疲れたように息を吐いた。
 これで残る授業は1つだけ。それが終われば下校になる。
「はぁ〜。やってらんねぇよなぁ〜」
 友達の曽原(そはら)がグッタリしながらやってきた。
 ただでさえ勉強が苦手なやつなのに、さっきは一番苦手な数学だったもんな。
「なぁ、さっきの範囲教えてくれよぉ」
「別にいいが、そろそろ小テストだろ? 大丈夫なのか?」
「だからお前に頼んでんだろ大助〜」
「はぁ、分かったよ。じゃあ放課後にな」
「マジか! 助かるぜ大助!」
 子供のように笑顔を浮かべる曽原。
 勉強のこととはいえ、頼りにされるのは少し嬉しい。
「そういや次の授業、遊戯王の授業なんだよな?」
「ああ、それがどうした?」
「なんかクラスのやつらが騒いでたんだけどよ、今日から新しい講師が来るらしいぜ?」
「講師?」
 そんな話、聞いたこともなかったんだが……。
 しかもこの時期に講師って、なんか不自然な気がするのは俺だけか?
「どんな講師なんだろうな? 可愛い女性だったら俺、ウルトラハッピーって叫ぶかもしれねぇよ」
「アニメの見過ぎだ。そんなこと言ったらとりあえずひくぞ」
「おいおい、俺と大助の仲じゃねぇか。そこは一緒に叫ぶことにしようぜ」
「頼むから勘弁してくれ」
 いくら友達だと言っても、付き合うのに限度というものがあるだろう。
 もし曽原と一緒になってそんなこと言えば、間違いなく全員から白い目で見られてしまうだろう。
「く〜〜!! 楽しみだなぁ。どうする? 香奈ちゃんより美人だったら?」
「どうしてそこで香奈の名前が出てくるんだよ」
「照れんなって。そろそろ恋人くらいに発展したんだろ?」
「どうだかな」
 曽原には、俺と香奈が付き合っていることを教えていない。
 口がかなり軽いこいつに話せば、たちまち学校中に広まってしまうだろう。
「じゃあ俺がもらっちまってもいいのかよ?」
「馬鹿なこと言ってないで、とっとと席に戻れよ」
「ちぇ、つまんねぇの。そういや、今日のお昼はどうする?」
「いつも通り購買でいいんじゃないか?」
「なんだなんだ? 今日は愛しの幼馴染と弁当を食べるんじゃないのかよ」
「そんなこと一回もやったことがない。いいから席に戻れよ」
「はいはい」
 そう言って曽原は自分の席に戻っていった。
 やれやれ、そろそろ隠しているのも限界なのかもな。

 ガラッ

 教室のドアが開いた。
 まだ授業開始のチャイムが鳴っていないはずなのに、山際が入ってくる。
「お〜い、まだ授業には早いが、みんな席についてくれ」
「「「はーい」」」
 言われるがまま、クラス全員が自分の席に着く。
 だが、みんな隣にいる人とコソコソと話をしていて教室が静かにならない。
「ほら静かにしろ。今日は新しい講師の先生が、お前らに挨拶したいって言ってきてくれたんだ」
「本当か先生!?」
「こんなところで嘘をついてどうする。では、お願いします」
 山際が促すと、開いたドアから1人の女性が入ってきた。
「なっ」
「え!?」
「は?」
「そんな……」
 俺と香奈、雲井に本城さんが同時に驚きの声を上げてしまった。
 教室に入ってきたのは、童顔の顔に茶色のショートヘア。見慣れない青のスーツに身を包んだ女性。

「はじめまして、薫(かおる)って言います。今日からみなさん、よろしくお願いします」

 そう言って優しい笑顔を見せたのは、スターのリーダーである薫さんだった。
 伊達メガネをかけているせいか、いつもとは少し違った雰囲気を感じる。
「なんで薫さんがここにいるのよ?」
「知るかよ」
 後ろから囁いてきた香奈に、同じ音量で答える。
 近くにいる雲井も本城さんも、薫さんの登場に戸惑っているようだ。
「知っている方もいらっしゃるかもしれませんけど、今日から少しの間、教育実習でみなさんと一緒に生活させていただくことになりました。本当は今朝から挨拶したかったんですけど、一身上の都合で遅れてしまいました。こんな私ですけど、どうぞよろしくお願いします」
 丁寧なあいさつで自己紹介を終えた薫さんは、教卓を山際に譲って窓際まで移動した。
 その身のこなしは、本当に教師のようだ。
「さて、自己紹介も終わったところでそろそろ授業なんだが、次の授業は薫先生に任せようと思うんだがいいか?」
「「「はい!!」」」
 一部の男子が大声で答える。
 山際は苦笑して、薫さんに目配せをした。
「じゃあお願いします」
「はい」
 静かに頷き、薫さんは再び教壇に立った。
「では、授業は初めてですけど、よろしくお願いします。えっと、みんなの戦績とかデッキの特徴は山際先生から教えてもらっているので、何かデッキについて相談があれば気軽に話しかけてくださいね」
「薫先生は、遊戯王が出来るんですか?」
「うん。ちょっとだけね」
 そう言って笑う薫さん。
 冗談にもほどがある。今まで数々の闇の組織を壊滅させてきたスターのリーダーである彼女が”ちょっとだけできる”わけがない。2人がかりでまともにぶつかっても、勝てるかどうか怪しいくらいだ。
「じゃあ授業を始めるね。今日は、海外と日本のカード事情についてです」
「「「はい」」」
 戸惑いを覚えつつ、とりあえず授業を聞くことにする。
 当然ながら、どうして薫さんがここにいるのか気になってまともに頭に入らなかったのは言うまでもない。



 その日の放課後、俺は曽原に今日の授業範囲の復習に付き合っていた。
 薫さんの事も気になったのだが、友達との約束は破るわけにはいかない。そっちの方は香奈たちに聞いてもらうことになったし、たぶん大丈夫だろう。
「いや悪いな。本当に教えてもらって」
「別に大丈夫だ。それより、さっさと復習終わらせろよ」
「そうしたいのは山々なんだけどな、あの薫先生が気になって仕方ないんだよ」
「……お前、まさか好みだとか言わないよな?」
「さすがだぜ大助。俺の好みがよく分かってんじゃん。童顔だぞ!? あの茶髪ショートも魅力的で、なんか守ってあげたくなるっていうかさ!」
「…………」
 思わずため息が出てしまった。
 こいつの好みなど知らなかったのだが、まさかこういう好みだったとは……。
「それなら、俺が一緒に勉強するより薫さんのところに行った方がいいんじゃないのか?」
「あっ! そうか! その手があったな!!」
「はぁ、じゃあ俺は帰るぞ」
「待て待て!! 冗談だって!!」
 俺の腕にすがる曽原。
 やれやれ、本気で帰ろうかと思ったぞ。
「ったく、冗談の1つくらい受け流してくれよ」
「お前が言うと冗談に聞こえないんだよ」
「悪かったって、怒んなよ」
「そう思うならさっさと復習と課題のプリント終わらせよう」
「おうともよ!」
 席に座り直し、それぞれの作業に取り掛かる。
 さて……この微分したやつをこっちに代入して……
「なぁ大助」
「なんだ?」
 問題をやりながら、片手間に返事する。
「俺なんかに付き合わせて、本当にごめんな」
「はい?」
「いやぁ、俺ってお前と違って頭もよくねぇし、遊戯王もお前とタイマンできるほど強くないだろ? 今だって俺と勉強するより香奈ちゃんとかと一緒にいた方が本当はいいんじゃないか?」
「急に何言ってんだよ」
 ガラにもないことを言われてしまい、こっちも少し困る。
 だが向こうはそれなりに真剣なようで、言葉を続ける。
「なんか、俺ばっかりお前に頼ってばかりで悪いっつうか……ああ、うまく言えないんだけどよ……」
「まぁ言いたいことはなんとなく分かったよ」
「そうか、それで?」
「別に気にしてない。そもそも、俺は損得で友達選んでいるわけじゃないからな。一緒にいて楽しいって思える奴と友達になりたいって思ってるし。それに、お前は俺よりスポーツが得意だろ?」
 曽原は、勉学の成績はあまり良くないのだが運動は得意だ。
 サッカー部でもレギュラー争いをしているくらいだし、期待もかなりされている。
「けどよぉ、お前は俺にサッカー教えてくれとか言わねーじゃん?」
「悪いがサッカーにはあんまり興味がないんだ」
「だろ? 結局のところ、頼ってるのは俺だけになるじゃんか」
「だから気にするなよ。別に負い目なんか感じる必要ない」
「そんなもんか?」
「ああ。さっさと終わらせて、帰ろうぜ」
「おう」
 それから俺と曽原は、無駄な会話を一切せずに復習と課題プリントに取り掛かった。
 終わるころには時計は5時を過ぎており、日が短くなった外は暗くなっていた。
「うわぁ、思ったよりかかっちまったな」
「そうだな」
 携帯を開いて、時計を見るついでにメールを確認する。
 香奈からメールが来ていた。どうやら本城さんと先に帰ったらしい。
「じゃあ帰るかな」
「おう。悪かったな。俺はこれから部活だから」
「オフなのに練習か。さすが未来のエースストライカーだな」
「バーカ、俺はDFだっての」
「知ってるよ。じゃあな」
 曽原に別れを告げて、俺はバッグを持って教室を出る。
 外はもう夕日が沈んでいて暗い。雪が降っていないのが幸いと言うところだが、気を付けて帰らないとな。


 一階に降りるため階段に向かったところ、目の前に見覚えのある人影が現れた。
「あっ、大助君。今から下校?」
「薫さん……」
 スーツ姿に身を包んだ薫さんが、微笑みながら話しかけてきた。
 ちょうど話したいと思ってたから、タイミングが良かったかもしれない。
「どうしてここにいるんですか?」
「香奈ちゃんたちにも聞かれたよ。ちゃんと説明したいんだけど、そろそろ下校時刻だし、歩きながらでいいかな?」
「はい」
「ありがとう」
 薫さんは階段を上り始める。一年生の教室がある4階を超えて、屋上に向かう。
 俺はその後ろについていきながら質問をすることにした。
「それで、さっきの続きですけど……」
「うん。実は、1週間くらい前にこの星花高校で闇の力の反応があったんだ」
「なっ!?」
 ここで闇の力だって!? どういうことだ?
 少なくともここ1週間、俺の持っている白夜のカードは光らなかったのに……。
「また闇の組織が動き出したってことですか?」
「うーん。何とも言えないんだよね。佐助(さすけ)さんによれば反応は一瞬だったみたいだし、ここに教育実習として潜入してからも反応は見られないみたいなんだ。システムの誤作動ってことも考えられるんだけど、念のためこうやって調査してるんだ」
「佐助さんや伊月は?」
「えっと、佐助さんはシステムに誤作動がないかどうかメンテナンスしてる頃かな。伊月君は本社の方に出向いてもらってるよ。そういう私は、こうやって内部から調査って感じかな」
「その眼鏡は、伊達ですか?」
「うん。やっぱり教師って、眼鏡があった方が貫禄があるかなって思ってね」
 子供っぽく笑いながら、薫さんはそう言った。
 イメージだけでそういうアイテムを用意するあたりも、相変わらずというかなんというか……。
「ずいぶん慣れてるように見えたんですけど」
「うん、大学の方でも教員免許はとっておいたからね。ちゃんと出来てたかな?」
「はい。俺の友達も薫さんの事を気に入ってましたよ」
「それなら良かった♪」
 会話しているうちに、俺達は屋上にたどり着く。
 本来なら戸締りがしてあるかどうかの確認をするだけらしいのだが、薫さんはドアを開けて屋上に入る。
 それに続いて屋上に行くと、冷たい風が吹き付けてきた。
「寒いね」
「そうですね」
 明かりがいっさいに無い屋上は、まるで漆黒の平野を錯覚させる。
 下手に動き回ったら落ちてしまいそうだな。
「ちょっと明かりをつけるね」
 そう言って薫さんは懐のカードケースから1枚のカードを取り出してかざす。
 途端にあたりの地面が光り、日が沈んだにもかかわらず明るくなった。
「相変わらず便利ですね」
「えへへ、褒めても何も出ないよ?」
 そう言いながらも、少しだけ照れている薫さん。
 白夜カードを使いこなす彼女は、カードを現実に呼び起こすことが出来る。俺や香奈には出来ないが、スターの幹部は当然のように扱える。いつだったか香奈と白夜のカードを使いこなす努力をしてみたのだが出来なかった。あとで聞いてみたところ、特別な訓練が必要らしく素質もそこそこ必要らしいのだ。そして残念なことに俺と香奈には素質が無いらしく、今までカードを現実に呼び起こす術を教えてもらえなかった。
 だが香奈はどうしても諦めがつかないらしく、いつか絶対に扱えるようになってやると言っている。
「何にもないね」
 明るくなった辺りを見回しながら、薫さんは呟く。
 たしかに屋上はいつも通りで、特に何か変わった様子は見られなかった。
「やっぱり誤作動だったのかな……」
「そうですね」
 間違いだったらそれに越したことは無い。
 もし学校で闇の力なんか使われたら、甚大な被害がでてしまうことだろう。
「仕方ないね。今日は帰ろうか」
「はい」
「そんなに真剣な表情にならなくても大丈夫だよ。万が一の時のために、私がここにいるんだからね」
 そう言って親指を立てる薫さん。
 確かにそれは心強いのだが、もしそういう状況になったら否が応でも戦わなければいけない状況になると思う。いくらスターのリーダーだと言っても、1人だけでは学校全体を守りきることなんかできるわけがないからだ。
「何か手伝えることがあれば、遠慮なく言ってください」
「うん。ありがとう」



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 翌日、俺はいつも通り香奈と登校していた。
 俺は昨日のことを伝え、香奈は昨日教務室で薫さんから聞いたことを話してくれた。
 お互いに、彼女から伝えられたことはほとんど同じ内容だった。
「そう。じゃあやっぱり誤作動なんじゃない?」
「だといいけどな……」
 どうにも、嫌な予感がする。
 気の迷いのせいかもしれないが、闇の力が学校に現れたらと思うとやはり気になってしまう。
「なに深刻そうな表情してんのよ。起こってもないことに気を張っても意味ないじゃない」
「そりゃあそうだが……」
「しばらく学校には薫さんもいてくれるんでしょ? だったら安心じゃない。それにもし私達の学校を危険にさらそうっていう奴がいたら、真っ先にぶっとばしてやるわよ!」
 自信満々といった感じで香奈は言った。
 本当に、その自信はどこから湧いてくるのだろう。
「そんなことより大助。今日の放課後、デパートに行かない?」
「何か買いたいものがあるのか?」
「うーん、買いたいっていうか食べたいのがあるのよ」
「もしかしてまた限定品か?」
「よく分かってるじゃない。今日はウィンターフェアで男女一組で店に入ると、メニューにチョコケーキが無料でついてくるのよ。あそこの店のケーキっておいしいじゃない?」
「まぁ、確かにな」
 香奈のお気に入りの店のケーキを思い浮かべながら答える。
 スイーツ好きのこいつは、こうして時々一緒に喫茶店に行ったりしている。牙炎の事件が終わってから、そういう機会が多くなった気がする。
「そういうわけだから、放課後はきっちり予定を空けておきなさいよ!」
「分かったよ」
「決まりね♪」
 満面の笑みを浮かべて、香奈は俺の手を引く。
 こうして引っ張られる関係は、相変わらずなんだよな……。
「やれやれ……」
「どうしたのよ?」
「いや、別に何でもない」
「そう。ならいいわ。さっさと学校に行きましょう!」
 そう言って香奈は俺を引っ張りながら、急ぎ足で学校へ向かう。
 そんなに急がなくてもいい気がするのだが、何かイベントでもあったか?



 そうして学校に着いた俺と香奈は、いつも通りに教室へ入る。
 中ではクラスのみんなが朝の挨拶をしたり、昨日のテレビの話をしていたりする。
 この教室に来るまでの間も、学校はいつもどおりの雰囲気で特に違和感は感じなかった。白夜のカードも光っていないし、とてもじゃないが闇の力の反応があったなんて信じられない。
「ねぇ大助」
「どうした?」
「ここに闇の力なんて……出てこないわよね」
「……そうだな」
 少しトーンの落ちた声。
 明るく振舞っていても、心のどこかで気にしていたのだろう。
 香奈もみんながいる学校に闇の力が現れてほしくないと思っているに違いない。
「気にしないことにしようぜ。きっと何かの間違いだ」
「そうね……」
 少し俯いた香奈の肩を叩き「またあとで」と言って席に向かった。
 たしかに、何も知らないみんなにあんな危険な力が襲い掛かったらと思うとゾッとする。
 本当に何かの間違いであってほしい。

「ん?」

 携帯が振動する。授業中に鳴らないようにマナーモードに設定していたためだ。
 ポケットから取り出して画面を開くと、メールが1通届いていた。
「……誰だ?」
 見たこともないアドレスに、不信感を抱く。
 迷惑メールなら専用ボックスに分別されるはずだし、そうじゃないとすると……。
「まぁいいか」
 一応、メールを確認してみた。

=================================================
 スターのリーダーの薫です。

 みんなにメールするのは初めてだよね。
 何か分かったことがあったら、
 このアドレスでみんなに教えるね。

 逆に何かあったら私にすぐ連絡すること。
 くれぐれも自分で解決しようとしないで。
 事件は全部スターが何とかするから、
 みんなは学校生活を楽しんでね。

 P.S.
 学校では『薫先生』って呼んでね♪
=================================================

「…………」
 薫さんのアドレスだったのか。
 よく見ると、メールを送られたのは俺だけじゃなく、香奈や本城さん、雲井にも送られていた。
 つまりこれは緊急用のアドレスということなのだろう。
「っ!」
 心強くあると同時に、不安が増大してしまった。
 緊急用のアドレスが送られてきたということは、闇の力の反応が間違いではなかったということなのだろう。
 くそっ、どうして学校に……。

 ……キーンコーンカーンコーン……

 授業のチャイムが鳴り、思考を中断された。
「…………」
 小さく深呼吸して、心を落ち着かせる。
 落ち着け。まだ闇の力が現れたわけじゃないんだ。もし現れたって、スターがいてくれるなら全校生徒が避難することもできるはずだ。いくらだって手段はある。信頼できる仲間もいるじゃないか。
「ほら、授業を始めるぞ」
 山際が教室に入ってきて、いつも通りの授業が始まる。
 俺は気持ちを切り替えて授業に集中することにした。



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 学校で授業が始まった時刻、薫は屋上で佐助に電話をかけていた。
 校長に事情を説明して、少し自由行動できる時間をもらったのである。
《俺だ》
「もしもし佐助さん? そっちはどう?」
《ああ、何度もコロンとメンテナンスしたが、どこにも異常は見られなかった》
「そっか……今は反応どうなってる?」
《音沙汰なしだ。潜入調査も順調ではなさそうだな》
「うん。学校中歩き回ったんだけど、どこにも反応がなかったんだ。今日、もう一回見て回るつもりだけど……」
《分かった。無理はするなよ。もし何かあれば、大助たちの協力も考えておけ》
 その言葉を聞いて、薫は口元を軽く噛む。
 正直に言えば協力してくれるなら心強い。だけどそれは、同時に彼らを事件に巻き込むことになってしまう。そういう危険な事件や組織をなんとかするためのスターなのに……。
《自分を責めるな》
「え?」
《大助たちを巻き込みたくない気持ちは分かるが、そこは大助たちの通っている高校だ。学校の中ならお前よりあいつらの方が分かってる》
「うん……」
《こっちも色々調べてみる。コロンもそっちに向かってるから引き続き調査してくれ。また放課後に連絡を頼む》
「分かった。じゃああとでね」
 通話を切って、携帯をポケットにしまう。
 辺りを見回して、溜息をつく。

『ほーら、薫ちゃん、溜息ついちゃだめだよ』

 頭上から聞こえた、幼い女の子のような声。
 コロンが仕事服で宙に浮かんでいた。人形に着せるお洋服を加工して作った青のスーツ服。
 白い長髪と緑色の瞳で、自分の右手とほとんど同じサイズの体が、羽もないのに宙を舞っている。
「早いねコロン」
『うん♪ 超特急で来たからね♪』
 そう言ってコロンは、薫の肩に乗る。
 体重はまったく感じられない。
『薫ちゃんは、溜息つかないほうが可愛いよ?』
「……ありがとうコロン」
『相談があったら、いつでも言ってね♪』
「分かった。そうするよ」
 小さな頭を人差し指で撫でて、薫は笑顔を見せた。
「じゃあ、さっそく調査しようか」
『うん!』
 コロンは薫の肩から離れて、宙に浮かぶ。
 目を閉じて両手を組み、祈るようなポーズをとるとその体が白く発光した。
 その光は紙に落としたインクのように屋上全体、やがては校舎全体を照らす。
 薫は目を凝らして、その光が淀んでいる地点を探す。
 闇の力が働いている地点に白夜の光をぶつけると、そこだけ濁った灰色のような色が浮かび上がる。当然そこには闇の力を持った人間か、何かしらの装置があると考えていい。
『どう?』
「うーん……もうちょっと頑張って」
『オッケー』
 時間にして約1分間。薫は辺りを見回してみたが、何も変化は見られなかった。
「駄目だ。見つからない……」
『そっか〜』
 コロンが発光を止め、薫の掌の上に降りた。
 小難しい顔をして、腕を組み首を傾げている。
『おっかしいね〜。ここまで反応がないなんて……』
「うん。表示された闇の力の反応って、今までで一番大きかったんだよね?」
『あれは大きいなんてレベルじゃないよ。あんな巨大な反応なんて、見たことないもん』
「そっか……」
 それもそのはずだった。小さな闇の力程度だったら、ここまで詳しい調査なんて行わない。
 今までで見たこともないような巨大な闇の力の反応があったからこそ、スターは神経質になっているのだ。
『なんか嫌な予感がするね』
「そうだね。なんとかしたいところなんだけど、何もわからないから動きようがないし……」
『いっそ何か起こる前に、みんな避難できないのかな?』
「できたらいいんだけどね。明確な事情を話しても、まず信じてもらえないし」
 なにより、みんなに不安を与えたくないというのもある。
 秘密裏に解決できるなら、それに越したことは無い。
『正義のヒーローは大変だよね』
「えへへ、私は、自分がヒーローだなんて思ったことはないけどね」
『またまた、そんな謙遜しなくても薫ちゃんは十分にヒーローだよ』
「ありがとうコロン」
『どうしたしまして。じゃあ私と薫ちゃんで、もう少し調査してみようか?』
「うん!」


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 授業が終わって放課後。
 私は背筋を伸ばして、大きく息を吐いた。
「お疲れですね、香奈ちゃん」
「ホントよ。あの教師の教え方って下手なのよね。真奈美ちゃんは分かった?」
「はい。なんとか……もしよかったら、教えましょうか?」
「ありがとう。じゃあテスト前にお願いするわ」
「はい」
 そう言って真奈美ちゃんは笑う。
 私と違って成績超優秀な彼女にかかれば、あんな難しい授業もきっと簡単なのよね。
「こらこら真奈美ぃ、香奈は中岸に教えてもらうんだから余計なことしちゃダメだよ?」
「雫ちゃん……」
「こら雫、変なこと言わないでよ」
 友達の雨宮雫(あまみや しずく)がいつもの陽気な笑顔でやってきた。
 肩に掛かるか掛からないかぐらいの黒髪で、大きな目が特徴的だ。個人的には"霊使い−ライナ"にそっくりに見える。
「またまたぁ、彼氏に教えてもらった方が身につくんじゃないの?」
「ふざけないでよ。大助なんかより真奈美ちゃんの方が教え方上手なんだから、そっちの方がいいに決まってるでしょ」
「あ、ありがとうございます」
 少し照れるように笑う真奈美ちゃん。
 ずれかけた眼鏡を直しながら、彼女は空いている隣の席に座った。
 雫も近くの席に腰かけて、前に置かれた机に両肘をつく。
「ねぇねぇ香奈ぁ、真奈美ぃ。実は昨日デッキを改良しててさ、すっごいカードを家で見つけちゃったわけよ」
「凄いカード?」
「うん、そのカード達があれば、あたしも香奈や真奈美に楽勝だって思ったわけさ」
「そ、そんなに凄いカードなんですか?」
 真奈美ちゃんが少し驚いたように言う。
 遊戯王の実力はほぼ初心者と同等な雫が、これほど言うってことは、もしかして本当に凄いカードなのかしら?
「それで、どんなカードなのよ?」
「とりあえず、香奈への対策カードはこれね」
 雫はデッキケースから2枚のカードを取り出した。


 王宮のお触れ
 【永続罠】
 このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
 このカード以外のフィールド上の罠カードの効果を無効にする。


 人造人間−サイコ・ショッカー 闇属性/星6/攻2400/守1500
 【機械族・効果】
 このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
 お互いに罠カードを発動する事はできず、
 フィールド上の罠カードの効果は無効化される。


「あぁ、なるほどね」
 罠カードを封じる代表的なカード。
 カウンター罠を多用する私のデッキには、かなり効くカードね。
「あれ? あんまり驚いてない?」
「まぁ慣れちゃってるからね。まっさきに私への対策が思いつくとしたらそのカードになるし、今までも結構使われて困ったこともあるわよ」
「じゃあこれを使えば香奈にも勝てるってこと?」
「うーん、私もそれらのカードに対策はしてあるから、そう簡単にはいかないわよ」
「そっかぁ……でも一歩前進ってことでオーケー。早速デッキに入れようっと♪」
「あの、私への対策もあるんですか?」
「もちろん。これはもう、真奈美を倒せっていう神様の思し召しだと思ったのさ! それがこれ!!」


 カウンタークリーナー
 【通常魔法】
 500ライフポイントを払う。
 フィールド上に存在する全てのカウンターを取り除く。


「どうだ!」
「………え、えぇっと……」
「ま、まぁ、悪くないと思うわよ?」
「むっ、なにその微妙な反応。はっきりアドバイスしてくださいな二人とも」
「あの、正直に言って、あんまり対策カードにはならないかなって……」
「えぇぇぇぇぇ!? なんで!? どうして!? 真奈美は魔力カウンターをたくさん使うじゃん。これを使えば一気に魔力カウンターを0にできるんだよ?」
「でもそれ、通常魔法じゃない。真奈美ちゃんは魔力カウンターを貯めても、大体はそのターン内にある程度使っちゃうからあんまり意味ないわよ」
「いーや! そんなことない! 絶対にこれは役に立つんだって!! ほかにもほら! 中岸への対策とか雲井への対策とかあるんだよ!?」


 戦士抹殺
 【通常魔法】
 フィールド上に表側表示で存在する戦士族モンスターを全て破壊する。


 あまのじゃくの呪い
 【通常罠】
 発動ターンのエンドフェイズ時まで、攻撃力・守備力のアップ・ダウンの効果は逆になる。


「あ、あはは……そ、それはちょっと……」
「ふぇ? なんでまた微妙な顔してんの?」
「いい? そりゃあ対策カードを入れればある程度はできるだろうけど、いつもそのカードが引けるわけないじゃない。だったら自分のデッキを強化する方がよっぽど効率がいいのよ。分かった?」
「えぇぇぇぇ。だってだってぇ〜」
 明らかに不満そうに雫がうなだれる。
 テーブルに置いたカードをデッキに戻して、子供のように頬を膨らませた。
「そういえばさ、そろそろクリスマスだよね?」
「それがどうかしたんですか?」
「ねぇねぇ、あたしらでクリスマスパーティー開いちゃおうよ。会場はもちろん香奈の家でさ」
「な、なんで私の家なのよ!?」
「だってさ、あたしの家は当日忙しいし、真奈美の家はこの前のお泊り会でお世話になったじゃん? 残るは香奈の家に行くしかないでしょ?」
「う……それはそうかもしれないけど……」
 別にパーティーするのは構わないんだけど、こんな急に提案されても戸惑っちゃうわね。
「あ、もちろん香奈と中岸の熱いデートの日とは被らないようにするからさぁ」
「なっ、そ、そんな、まだ決めたわけじゃ―――」
「『まだ』ってことは、デートする予定なんですね」
「うぅ……」
 真奈美ちゃんも雫も、そう言って私を見て笑っている。
 大助との関係を話してから、こうやってからかわれる回数が増えた気がするわ。
「もう二人とも、からかわないでよ!」
「あはは、ごめんごめん。じゃあさっそくパーティーの予定を立てようよ」
「そうですね」
「まずお泊りは確定だとして、ケーキ屋巡りとかする?」
「いいわね。ちょうどクリスマス期間だからセールやってると思うし、職人さんも気合が入ってるはずよね」
「あ、それなら商店街でクリスマスイベントをやるらしいですから、行ってみませんか?」
「さすが真奈美! そういう情報はちゃんとチェックしてるんだね♪」
 こんな感じで、クリスマスのお泊り会についての話題で盛り上がる。
 やっぱりこうやって友達同士で付き合うのは、楽しいのよね。
 だからこそ、こんな場所に闇の力なんてあっちゃいけないのよ。真奈美ちゃんや雫だけじゃない。クラスみんなが危険に晒されることなんて、考えたくもない。
 あれから薫さんの連絡はない。それが”どっちの意味”なのか、少し不安だ。
「香奈ちゃん、どうかしましたか?」
「え? な、なんでもないわよ!」
 作り笑いで答える。
 大助にも言ったように、起きていないことを心配していたらキリがない。
 闇の力が現れないことを祈って、いつも通りの生活を過ごしかないんだから……。
「香奈、何か変なこと考えてない?」
「な、なによ。大助の事なんか考えてないわよ!」
 雫がずいっと顔を迫らせてくる。
「香奈はあたしに嘘が通用しないんだからさ、正直に話しちゃいなよ。もしかしてまた危ない事件に巻き込まれてるとかじゃないよね?」
「そ、そんなわけないじゃない!! だ、第一、それを雫が気にする必要なんかないわよ」
「気にするに決まってんじゃん。香奈や真奈美が危険な目に遭ってるのに、あたしだけ知らないのなんて嫌だよ」
 ふてくされたように口をとがらせる雫。
 こうなったときの彼女は、本当に頑固なのよね……。
「し、雫ちゃん、香奈ちゃんは心配して……」
「そんな心配いらないよ。前だって言ったじゃん。いくらでも巻き込んでくれて構わないって。前の事件みたいに香奈が勝手にいなくなったりしたらあたしは嫌だよ?」
「それは前の事件の話でしょ。もう私は大丈夫よ。絶対にいなくなったりなんかしないわ」
 まっすぐに雫の瞳を見つめる。
 牙炎の事件のせいで、雫にはすごく心配をかけてしまった。
 だからきちんと、もう大丈夫だってことを伝えておきたかった。
「本当に?」
「ええ、本当よ」
「………じゃあ、今はそういうことにしてあげるからさ。なんか手伝えることあったら、すぐに言ってよね」
 そう言って雫は席を立って、教室を出て行ってしまった。
 なんか、怒らせちゃったみたいね。
「きっと香奈ちゃんのことが心配なんですよ」
「……でも……」
「大丈夫ですよ。だって香奈ちゃんと雫ちゃんは、親友なんですから」
 真奈美ちゃんはそう言って優しい微笑みを向けてくれた。
 あとで、雫とちゃんと話をしないといけないわね。
「でも、やっぱり巻き込みたくないですよね」
「ええ。あれから何の音沙汰もないけど、どうなってるのかしら?」
「早く安心する連絡が欲しいですよね」
「そうね」
 なんとなく外を見る。
 冬という時期もあって、日が沈むのが早い。早く帰らないと真っ暗になってしまいそうだ。
「そろそろ帰るわ。大助もそろそろ来る頃だと思うし」
「あ、はい。私も雫ちゃんを見つけて、帰りますね」
「分かったわ。じゃあお先に」
「はい!」
 手を振る真奈美ちゃんに別れを告げて、私は荷物を持って校門前に急いだ。
 大助と一緒にケーキを食べながら、クリスマスにどこへ出かけるのか相談することにしよう。
「……ふふ」
 そう思うと、自然に笑みが浮かんでしまった。
 いつ何が起こるかわからないこんな状況だからこそ、楽しめるときには楽しんでおかないとね。



 校門に行くと、大助が首にマフラーを巻きながら白い息を吐いていた。
「ごめん、ちょっと待った?」
「いや、5分くらいだな」
 そう言って大助は少し笑った。
 もう、どうせ15分くらい待ってたくせに……。
「じゃあデパート行くか」
「ええ」
「その、今日も……繋ぐか?」
 少し遠慮がちに、手を差し伸べて大助が尋ねる。
 最近、2人っきりで帰るときは手を繋いで歩くことが習慣になっている。牙炎の事件があってから、大助が前より少しだけ積極的になってくれた気がする。まだ鈍感なのは変わらないけど、ちょっとは成長したってところかしら。
「どうした?」
「何が?」
「なんかニヤついていた気がしたから……」
「……!! ば、馬鹿じゃないの。ほら、さっさと行くわよ!!」
 繋いだ手を引っ張って、私はさっさと歩きはじめる。
 少し嬉しかったから……なんて言えるわけないじゃない。大助のバカ。




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 それぞれが普段の日常を過ごした1日。
 夜を迎えた星花高校の上空に、1つの影があった。

『あははは、さてさて、そろそろいいかなぁ〜♪』

 漆黒の布を身にまとい、小学校高学年程度の背の少年のような姿。
 アダムが校舎を遥か上空から見下ろしながら、不気味な笑みを浮かべていた。

『薫さんも佐助さんもまだまだ甘いねぇ。地面だけに反応探っても、見つかるわけないじゃない』

 アダムの周りには漆黒の槍のような形状をした物体が無数に浮かんでいた。
 それらすべてに、アダムの持つ闇の力が込められている。

『いよいよ明日かな。さぁ、スターの皆さん、頑張って戦ってね♪』

 不気味な含み笑いが、漆黒の空に響く。
 平和を祈る願いは届くことなく、闇の力が迫ろうとしていた。




episode5――異変――





 翌日、いつも通りの登校を終えた俺と香奈は教室で自分の席に座っていた。
 近くには雲井や本城さんも座っていて、何気ない会話をしている。
 正確には、香奈と本城さんがクリスマスのことについて盛り上がっていて、雲井のいつも通りのケンカ腰を俺がかるく受け流している。
 端から見れば、あまりに対極な二つの会話が近くで展開されている様子が奇妙に映るだろう。
「ったく、てめぇはホントに俺の話を聞いてんのかよ」
「聞いてるよ。ていうかお前の自慢話はもう聞き飽きたんだが……」
 さすがに飽きてきた俺は、雲井との会話を終了させるべく机に突っ伏す。
 眠いと言って無理やり終わらせるつもりだ。
「あぁ、ったく、今日はこれぐらいにしておいてやるぜ」
「おう。そりゃどうも」
「いいか中岸。てめぇは俺がいつかギャフンって言わせてやるからな」
「はいはい」
 そんなこと言わなくても、お前には今まで色々なことで驚かされているんだがな。 
 持ち前の超攻撃力はもちろんのこと、闇の神とサシで勝負して引き分けに持ち込んだり、地の神を自力で倒してしまったりと、本当に凄いと思っている。
 もちろんそれを言えばさらに調子に乗るだろうから、言うつもりはないんだけどな。

「あ、メールだ」

 香奈がポツリと言った。
 俺の携帯電話も振動していて、新着メールが届いたことを伝えている。
「………」
 なんとなくメールの送り主を推測しつつ、受信ボックスを開く。
「やっぱりか……」

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 薫です。

 ここ2日間、学校の調査をしたんだけど、
 異変が見られませんでした。

 でも闇の力をサーチする機器にも異常が無かった
 んだよね。

 だから引き続き調査をするけど、
 みんなも何か異変があったらすぐに教えてね。
=================================================

 望んでいたメール内容では無かったため、俺達の間で微妙な空気が流れた。
 内容からして新たに起こるかもしれない事件には、進展がないようだ。
「大助……」
 香奈が不安そうな表情でこっちを見つめてきた。
 隣にいる本城さんも、同じように不安を抱えているように見える。
「なぁ中岸、このメールって、どういうことだ?」
「何にも進展がないけど、とりあえず警戒しておけってことだ」
「……そうか」
 事件に何の進展もない。だけど警戒はし続けなければいけない。
 そのどっちつかずの状態が、良い意味で崩れることを祈るばかりだ。


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『さーてと、あと1分だな』
 校舎に付けられた巨大な時計を見下ろしながら、アダムは笑みを浮かべる。
 その周囲に浮かぶ無数の黒い槍が、闇を帯びる。
『さぁイブ。そろそろキミも目覚めているんだろ? いい加減、出てきなよ』
 今いるところからさらに上空に飛び上がると、アダムは右手を高く掲げる。
 黒い槍の矛先が、星花高校へと向けられた。

『10秒前……9……8……7……』

 何も知らない生徒たち。
 微かな不安を覚える大助たち。
 様々な人たちがいつもの生活を過ごしている校舎に、危険が迫る。

『6……5……4……3……』

 混乱と絶望に染まる生徒たちの姿を想像し、アダムは静かに笑う。
 まだ完全になっていない自身の力でも、普通の人間に絶望を与えるには十分。
 そして、イブを呼び覚ますための鍵となる人間の力を測るには、ちょうどいいだろう。

『2……1……0』

 学校のチャイムが鳴る。
 同時にアダムの作り出した無数の槍が、星花高校の敷地めがけて降り注いだ。
 黒い槍は校舎や地面に突き刺さり、黒い闇を放射状に広げていく。
 やがて学校の敷地内を闇が浸食して、闇の霧が校舎を覆い隠すように広がった。

『さぁ、楽しいゲームの始まりだ♪』



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「―――っ!?」
 突然、デッキに入っている白夜のカードが強く輝いた。
 今までで最も強く、激しい光だった。
「な、なによこれ!?」
「そんな、これって……!」
「くっ」
 なんだこれ……こんな光り方、今までしたことなかったぞ。
 闇の力に反応して輝く白夜のカードがここまで光輝くってことは、それだけ大きな闇の力が近くにあるってことか?
「ど、どうなってんだよ中岸!?」
「知るかよ。とにかく、薫さんに連絡を―――」
「だ、ダメです! 携帯電話が圏外になってます!」
「なっ」
 自分の携帯電話を開いて確認すると、本城さんの言ったとおり圏外になっていた。
 これじゃ、誰とも連絡が取れない。何かあっても、薫さんやスターにそれを伝える手段がない。

「あれ? 携帯電話が繋がんないな」
「なんか……外が暗くない?」
「嫌な寒気がすんだけど……風邪かな?」

 クラスの数名も、異変に気付いたのか騒ぎ始める。
 それに追い打ちをかけるように、全校放送専用のチャイムが鳴った。

《ただいまより、緊急の教員会議を行います。生徒の皆さんは各自教室で静かに待機していてください》

 その放送によって、辺りがさらに騒がしくなる。
 各々が突然の異変に困惑しつつ、様子を見ているようだ。
「どうする?」
「……とりあえず様子を見よう。薫さんだって、この異変に気付いているはずだ。今は教員会議で動けないだろうけど、それが終われば何か行動を起こすと思うし……」
「でもどうすんのよ。さっきから白夜のカードは光りっぱなしだし、クラスのみんなだって……」
「そうですね。なんとかしないといけないと思いますけど、いったいどうしたら……」
 途方に暮れる俺達は、これからどうするべきかに頭を悩ませる。
 すると雲井がおもむろにデッキから1枚のカードを取り出し、机の上に置いた。
「なにしてるんだ?」
「いいから黙って見てやがれ」
「……?」
 俺達はその行動に疑問を持ちつつ、雲井の机の周りを囲む。
 机の上に置かれた1枚のカードが黒く染まり、その形を変えていく。
 やがて1枚のカードだったものは、小さな黒い犬に変化した。
「な、なによこれ!?」
「……もしかしてこれが、地の神なのか?」
「ああ。ライガーって名前だぜ。おいライガー、教えやがれ、いったい何が起こってんだ?」
『我に対して命令するな小僧』
 見た目から想像していたよりもずっと低い声で、ライガーは答えた。
 雲井はその態度に軽く舌打ちをして、さらに問いかける。
「いいから答えろ。気に食わねぇけど今はてめぇに頼るしかねぇんだ」
『ふん、生意気な小僧だ』
「頼むライガー。今は頼りになるのがお前だけなんだ。いきなり呼び出されて気に食わないかもしれないが、今の状況を教えてくれないか?」
『ほう、こっち小僧よりも少しだけ礼儀が正しいな』
 そう言ってライガーは雲井をちらっと見る。
 雲井は怒りそうになるのをギリギリで耐えながら、貧乏ゆすりをしていた。
『我にも詳しいことは分からん。だが……これはアダムの仕業に間違いない』
「あ、アダムって……!」
 本城さんの顔が青ざめる。
 アダムって、牙炎の事件で現れたっていう少年の事か。そいつが今回の事件に関わっているってことか?
「どうしてこれが、そのアダムってやつの仕業だって分かるのよ?」
『簡単なことだ。我はもともと奴の力の一部として生み出された。力の根源が何をしているかくらいは理解できる』
「じゃああんたは、闇の力だっていうの? え、でも白夜のカードは今まで光らなかったわよ? ていうか、私達に危害を加えるつもりとかないでしょうね?」
『質問が多い小娘だな。たしかに元々、我の力は闇の力に属するものだ。だが我はそれを外部に感知されないようにすることができるし、今は普通の動物と同じように食物によって活動のエネルギーを得ている。少なくとも貴様たちに危害を加えるつもりは無いから安心しろ』
 ため息交じりにライガーは答える。
 分かったことは、この状況がアダムというやつによって作り出されたものだということぐらいか……。
 ライガーには悪いが、あまり打開策に繋がる情報は得られなかったな。
「それで……どうしましょうか?」 
「そうね、そのアダムってやつを倒せばいいんじゃないの?」
『残念だがそれは無理だ』
「な、なんでよ!?」
『簡単だ。奴は貴様たちの想像を超えた世界にいる。ドラゴンを倒せる蟻が存在すると思うか?』
「…………」
 そこまで言われたためか、珍しく香奈も黙ってしまった。
 アダムはそんなに強いのか。でも香奈の言うとおりこの状況を覆すにはアダムを倒すことが一番なのも確かだろう。
「……じゃあ、他に何か方法は無いのか?」
『知らんな。それよりいいのか?』
「何がよ?」
『この教室に、闇の結晶を持った奴が近づいているぞ』
「……!!」
 気を張り詰めた瞬間、教室のドアが開いた。

「いやぁ、あぶねぇあぶねぇ、ギリギリセーフだったぜ」

 教室に入ってきたのは、部活の早朝練習を終えた曽原だった。
 急いで来たためか、制服がかなり乱れている。
「それにしてもなんだったんださっきの放送?」
 そう尋ねながら、曽原は俺へまっすぐ向かってきた。
 ……なんだ? なんとなく、いつもの曽原と違うような……?
「大助、どうした。怖い顔すんなよ」
「曽原……」
「ははーん。さては宿題忘れたな? だったら俺の見せてやってもいいぜ?」
「大丈夫だ。ちゃんと宿題はやったし持ってきてある」
「へぇ、そうかぁ……」
 ゆらりと、曽原の体が動く。
 言いようのない違和感を感じ、思わず後ろに一歩下がってしまった。
「ん? どうした大助、逃げんなよ」
「……曽原、なんか変なもの食べたか?」
「食っちゃいねぇけど、良いものなら拾ったぜ」
 そう言って曽原は、ワイシャツの下から黒い結晶のペンダントを取り出した。
 見間違いようもない。それは、闇の結晶だった。
「お前……!」
「不思議だよなぁ。更衣室にあったからもらっといたんだ。これを付けてると全身に力が湧き出てきて、何でも出来そうな気がするんだ。最高の気分だぜ大助」
 途端に曽原の体から、闇が溢れ出した。
 何も知らないクラスのみんなは、途端に悲鳴を上げる。
「大助、勝負しようぜ? どうせ教師は会議でしばらく帰ってこないんだしよ。暇つぶしだと思ってさ」
 そう言って曽原は、バッグから取り出したデュエルディスクを身に着けた。
 ここで決闘をするつもりなのか?
「やめろ曽原。それはただの決闘じゃない。危険なんだ。お前も俺も、タダじゃ済まないぞ!」
「はぁ何言ってんだ? 負けるのが怖いからって逃げんな。それに危険だろうがなんだろうが、今の俺にはどうでもいいことだぜ」
「……!」
 もう、まともに話を聞いてくれそうになかった。
 このまま逃げれば、相手は他の人に標的を変更しかねない。
「やるしか……ないのか」
「だ、大助!」
「香奈、みんなを連れて下がっててくれ」
「いいねぇ、やる気になってくれて嬉しいぜ大助。強くなった俺の力、見てビビんなよ?」
 バッグからデュエルディスクを取り出して、デッキをセットする。
 自動シャッフルがなされて、準備が完了した。
「気を付けなさいよ」
「ああ」
 クラスの全員が教室の端に移動したことを確認する。
 いくつか机を挟んだ向かい側に、闇を纏った曽原が不気味な笑みを浮かべて立っている。
「楽しみだぜ。大助と良い決闘ができそうだ」
「………」
「そんな険しい顔すんな。せっかくなんだから楽しもうぜ」
 もう曽原は、俺と決闘することしか考えていないらしい。
 闇の結晶は決闘で勝てば、白夜の力で破壊することが出来る。このまま放っておいたら曽原は他人を傷つけかねない。
 だからその前に、俺が友達として止めないといけないんだ。
「さぁいくぜ!!」



「「決闘!!」」



 大助:8000LP   曽原:8000LP



 決闘が、始まった。



「この瞬間、デッキからフィールド魔法を発動!!」
「やっぱりか……!」
 曽原のデュエルディスクから、漆黒の闇が溢れ出す。
 それは決闘する俺達を囲む柵のように広がり、闇のフィールドを作り出す。
「お前の闇の世界か……」
「ああ、これが俺の"戦禍を刻む闇の世界"だ!!」


 戦禍を刻む闇の世界
 【フィールド魔法】
 このカードはデュエル開始時に、デッキまたは手札から発動する。
 このカードはフィールドから離れない。
 このカードがフィールドに表側表示で存在する限り、装備カードが装備された
 自分のモンスターの攻撃力と守備力は1000ポイントアップする。



「なんだあれ!?」
「デッキから発動するなんて聞いたことないよ!」
 闇の世界を初めて見るクラスメイトが声を上げる。
 決闘開始時に発動されるフィールド魔法。除去をすることが不可能で、厄介なカードだ。 
「最高だろ大助。俺専用のカードだ。お前を倒すにはうってつけってもんだ」
「曽原……どうしてこんなこと……」
「俺のターン、カードドロー!!」(手札5→6枚)
 どこか楽しそうに、曽原はデッキからカードを引く。
 その表情はいつもの陽気な感じとは違い、少し不気味だ。
「手札から"未来融合−フューチャー・フュージョン"を発動するぜ」
「っ、そのカードは……!」


 未来融合−フューチャー・フュージョン
 【永続魔法】
 自分のデッキから融合モンスターカードによって決められたモンスターを
 墓地へ送り、融合デッキから融合モンスター1体を選択する。
 発動後2回目の自分のスタンバイフェイズ時に選択した融合モンスターを
 自分フィールド上に特殊召喚する(この特殊召喚は融合召喚扱いとする)。
 このカードがフィールド上に存在しなくなった時、そのモンスターを破壊する。
 そのモンスターが破壊された時このカードを破壊する。


「この効果で選択するのは、ドラゴン族最強の"F・G・D"だ!!」
「やっぱりそれかよ」
「"F・G・D"の融合素材として、デッキからドラゴン族モンスター5体を墓地に送る!」
 フィールドの現れた巨大な光の渦。
 そこへ相手のデッキから飛び出した5体のドラゴンが吸い込まれていく。

【墓地へ送られたモンスター】
・ハウンド・ドラゴン
・ハウンド・ドラゴン
・ハウンド・ドラゴン
・ボマー・ドラゴン
・ヘル・ドラゴン

「そのデッキ、相変わらずだな」
「へへ、余裕だな大助。俺なんか敵じゃないってか?」
「そんなわけないだろ」
 これまでに何度か曽原と決闘したことがある。そのすべてが俺の勝利だったが、危うく負けてしまうこともしばしばあった。ましてや今の相手は闇の世界まで使っている。余裕なんかあるはずがない。
「大丈夫か? 2ターン後には、最強のドラゴンが現れるぜ?」
「なんとかするさ。それに、お前の本当の目的は"F・G・D"を召喚することじゃないだろ」
「さすが大助、よく分かってるぜ」
 そう言って曽原は手札から1枚のカードをデュエルディスクに叩き付けた。


 サイバー・ダーク・ホーン 闇属性/星4/攻800/守800
 【機械族・効果】
 このカードが召喚に成功した時、自分の墓地に存在する
 レベル3以下のドラゴン族モンスター1体を選択し、装備カード扱いとしてこのカードに装備する。
 このカードの攻撃力は、このカードの効果で装備したモンスターの攻撃力分アップする。
 このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、その守備力を攻撃力が超えていれば、
 その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。
 このカードが戦闘によって破壊される場合、代わりに装備したモンスターを破壊する。


「出たな」
 曽原が使うデッキは【サイバー・ダーク】。墓地にいるドラゴン族モンスターを装備して、自身の攻撃力を高める効果を持ったモンスターが主軸のデッキだ。ドラゴン族と混合で使われることが多く、圧倒的な攻撃力で敵をビートダウンしていくのが主な戦法だ。
「ホーンの効果で、俺は墓地にいる"ハウンド・ドラゴン"をホーンに装備する! キールは"ハウンド・ドラゴン"の攻撃力分だけ攻撃力をアップするぜ! よって1700ポイントアップだ!」
 漆黒の機械龍が、墓地に眠るドラゴンの体に纏わりつきその力を吸収する。
 ドラゴンに機械龍から伸びる管が連結される様子は、少し気持ちが悪い。

 サイバー・ダーク・ホーン:攻撃力800→2500

「さらに"戦禍を刻む闇の世界"の効果発動! 装備カードが装備された俺のモンスターの攻守を1000アップだ!」
 辺りの闇が、漆黒の機械龍の体へ入り込んでいく。
 闇の力を携えたモンスターは、大きな咆哮と共に体が大きくなった。

 サイバー・ダーク・ホーン:攻撃力2500→3500 守備力800→1800

「そ、そんな、攻撃力3500って!?」
「なんなんだよ。あのカード、なんかオカシイだろ!」
 見たこともない力に、怯えはじめるクラスメイト。
 だけど今までの戦いで見慣れた光景である俺や香奈は、あまり動揺しない。
「まぁ最初のターンはこんなもんだろ。カードを1枚セットで、ターンエンドだ!」


 第1ターンが終了し、俺のターンになった。


「いくぞ、俺のターン、ドロー!!」(手札5→6枚)
 6枚の手札を見つめながら、状況を整理する。
 曽原の場に発動されているフィールド魔法は、装備カードを装備されたモンスターの攻守を1000ポイントアップさせる効果を持っている。その効果のせいで、攻撃力3500のモンスターが1ターン目から存在している。
 高い攻撃力がいない六武衆には少しキツイ数値だ。だけど、これぐらいの効果なら攻略法はいくらでもある!
「手札から"六武衆−カモン"を召喚する!!」
 俺の場に描かれる赤い召喚陣。その中から爆弾を携えた武士が参上した。


 六武衆−カモン 炎属性/星3/攻1500/守1000
 【戦士族・効果】
 自分フィールド上に「六武衆−カモン」以外の「六武衆」と名の付いたモンスターが存在する限り、
 1ターンに1度だけ表側表示で存在する魔法または罠カード1枚を破壊することが出来る。
 この効果を使用したターンこのモンスターは攻撃宣言をする事ができない。このカードが破壊される
 場合、代わりにこのカード以外の「六武衆」という名の付いたモンスターを破壊することが出来る。


「さらに六武衆が場に1体以上いることで、手札から"六武衆の師範"を特殊召喚だ!!」
 描かれる召喚陣。隻眼の武士が颯爽と現れ、その鋭い眼光を漆黒の龍へ向ける。


 六武衆の師範 地属性/星5/攻2100/守800
 【戦士族・効果】
 自分フィールド上に「六武衆」と名のついたモンスターが表側表示で存在する場合、
 このカードは手札から特殊召喚する事ができる。
 このカードが相手のカード効果によって破壊された時、
 自分の墓地に存在する「六武衆」と名のついたモンスター1体を手札に加える。
 「六武衆の師範」は自分フィールド上に1枚しか表側表示で存在できない。


「ちっ、そのモンスターか」
「カモンの効果発動! ホーンに装備されている"ハウンド・ドラゴン"を破壊する!!」
 赤い鎧を着た武士が爆弾に火をつけ、曽原の場にいる龍へ向けて放り投げる。
 放物線を描いた爆弾は、力を吸収されているドラゴンに当たり跡形もなく吹き飛ばしてしまった。

 ハウンド・ドラゴン(装備カード状態)→破壊
 サイバー・ダーク・ホーン:攻撃力3500→1800→800

「その闇の世界の効果は、装備カードが装備されている状態でしか発動しない! これなら、簡単に突破できる!」
「気づくのが早いんだよ。気に入らないぜそういうところ」
「バトルだ! 師範でホーンへ攻撃!!」
 隻眼の武士が刀を構え、大幅に力を減少させた機械龍へ斬りかかった。
「甘ぇよ! セットカード発動!」
「……っ!」
 この瞬間を待っていたかのように、発動されたカード。
 隻眼の武士が斬りかかった機械龍の体が弾け飛び、無数の紫色の粒に変化した。


 死のデッキ破壊ウイルス
 【通常罠】
 自分フィールド上に存在する攻撃力1000以下の
 闇属性モンスター1体をリリースして発動する。
 相手のフィールド上に存在するモンスター、相手の手札、
 相手のターンで数えて3ターンの間に相手がドローしたカードを全て確認し、
 攻撃力1500以上のモンスターを破壊する。


 サイバー・ダーク・ホーン→墓地(コスト)

「しまった……!」
「ホーンをコストに、大助の場と手札の攻撃力1500以上のモンスターを破壊させてもらう!」
 紫色の粒が、まるで細菌のように俺の場と手札を侵食していく。
「さぁ、手札を見せてもらおうか?」
「………」
 効果に逆らうわけにもいかないので、止む無く手札を曽原に見せた。

【大助の手札】
・六武衆−ザンジ
・真六武衆−ミズホ
・ガード・ブロック
・六武衆の師範

「ぎゃはは、攻撃力1500以上のモンスターが3体もいるな。その手札は破壊だぜ!」
「くっそ……」
 場と手札に浸食するウイルスによって、武士たちは一斉に破壊されてしまった。

 六武衆−カモン→破壊
 六武衆の師範→破壊

 六武衆−ザンジ→破壊
 真六武衆−ミズホ→破壊
 六武衆の師範→破壊
 大助:手札4→1枚

「これで大助の手札は壊滅! 残念だったなぁ!!」
「まだだ! 破壊された2体の"六武衆の師範"の効果発動! 相手カードの効果で破壊されたとき、墓地の六武衆1体を手札に回収することが出来る! この効果で俺はカモンと師範を手札に戻す!」(手札1→3枚)
「っ、やってくれんじゃねぇか」
 苦虫を噛み潰したような顔をして、曽原は言った。
 ウイルスの効果は、ドローカードにのみ反応する。こうして墓地から回収したカードに対しては破壊効果は適用されない。これでとりあえず、ギリギリで損失を抑えることができたが、これで3ターンの間、俺は圧倒的に不利になってしまったな。
「俺はカードを1枚伏せて、ターンエンドだ」

-------------------------------------------------
 大助:8000LP

 場:伏せカード1枚

 手札2枚(カモンと師範)
 (**ウイルス効果継続中**)
-------------------------------------------------
 曽原:8000LP

 場:戦禍を刻む闇の世界(フィールド魔法)
   未来融合−フューチャー・フュージョン(永続魔法)

 手札3枚
-------------------------------------------------

「俺のターン、カードドロー!!」(手札3→4枚)
 曽原は勢いよくカードを引き、手札の1枚を力強くデュエルディスクに置く。
 相手の場に、新たな漆黒の機械龍が出現した。


 サイバー・ダーク・エッジ 闇属性/星4/攻800/守800
 【機械族・効果】
 このカードが召喚に成功した時、自分の墓地に存在する
 レベル3以下のドラゴン族モンスター1体を選択し、装備カード扱いとしてこのカードに装備する。
 このカードの攻撃力は、このカードの効果で装備したモンスターの攻撃力分アップする。
 このカードは相手プレイヤーに直接攻撃する事ができる。
 その場合、このカードの攻撃力はダメージ計算時のみ半分になる。
 このカードが戦闘によって破壊される場合、代わりに装備したモンスターを破壊する。


「また新しいモンスターか」
「エッジの効果を発動だ。墓地にいる"ハウンド・ドラゴン"を装備。闇の世界の効果でさらにパワーアップだ!」

 サイバー・ダーク・エッジ:攻撃力800→2500→3500 守備力800→1800

「また攻撃力3500か……」
 サイバー・ダークは、どのモンスターも攻撃力が同じだ。
 つまり曽原の手にモンスターが来るたびに、攻撃力3500が平然と出てくるということになる。
「さぁバトルだ!!」
 力を増幅した機械龍が、口から電磁波を放出する。
 まともに喰らうわけにはいかない。
「伏せカード発動だ!!」


 ガード・ブロック
 【通常罠】
 相手ターンの戦闘ダメージ計算時に発動する事ができる。
 その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になり、
 自分のデッキからカードを1枚ドローする。


 俺の体に薄いバリアが張られる。
 放たれた電磁波をなんとか弾き、そのバリアは砕け散った。
「ダメージを0にして、デッキからカードを1枚ドローだ!」(手札2→3枚)
「ウイルス効果だ。ドローカードを見せてもらうぜ」
「……俺が引いたのは魔法カード"六武衆の結束"だ」
「ちっ、残念だぜ。1枚セットでターンエンドだ」



「俺のターン、ドロー!」(手札3→4枚)
 デッキからカードを引いた瞬間、ウイルスの浸食が始まる。
 引いたカードは……

・紫炎の老中 エニシ

「くっ……」
「ざまぁみろ。そいつの攻撃力は2200だ。破壊させてもらうぜ!」
 浸食されたウイルスによって、年老いた武士は活躍することなく破壊されてしまった。(手札4→3枚)


 紫炎の老中 エニシ 光属性/星6/攻撃力2200/守備力1200
 【戦士族・効果】
 このカードは通常召喚ができない。自分の墓地から「六武衆」と名のついたモンスター2体をゲーム
 から除外する事でのみ特殊召喚する事ができる。フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体
 を破壊する事ができる。この効果を発動する場合、このターンこのカードは攻撃宣言をする事が
 できない。この効果は1ターンに1度しか使用できない。


 墓地の六武衆2体を除外することで特殊召喚できるモンスター。
 攻撃しない代わりに、どんなモンスターでも破壊することができる強力な効果を持っている。エニシを出せれば相手のモンスターを問答無用で破壊できたのに……。
「おいおい、そんな悔しそうな顔されると悪いことした気分じゃねぇか。勝負なんだから仕方ないよなぁ?」
「……ああ。そうだな」
 俺の知っている曽原は、こんな気分を害するような挑発はしてこない。
 手遅れになる前に、早く決着をつけて終わらせないといけない。
「手札から"六武衆の結束"を発動する!」


 六武衆の結束
 【永続魔法】
 「六武衆」と名の付いたモンスターが召喚・特殊召喚される度に、
 このカードに武士道カウンターを1個乗せる(最大2個まで)。
 このカードを墓地に送る事で、このカードに乗っている武士道カウンターの数だけ
 自分のデッキからカードをドローする。


「そして"六武衆−カモン"を召喚、さらに"六武衆の師範"を特殊召喚だ!!」
 背後に現れた結束を示す陣の前に、2体の武士が参上する。
 武士たちの登場を称えるように、結束を示す陣が大きく光輝いた。


 六武衆−カモン 炎属性/星3/攻1500/守1000
 【戦士族・効果】
 自分フィールド上に「六武衆−カモン」以外の「六武衆」と名の付いたモンスターが存在する限り、
 1ターンに1度だけ表側表示で存在する魔法または罠カード1枚を破壊することが出来る。
 この効果を使用したターンこのモンスターは攻撃宣言をする事ができない。このカードが破壊される
 場合、代わりにこのカード以外の「六武衆」という名の付いたモンスターを破壊することが出来る。


 六武衆の師範 地属性/星5/攻2100/守800
 【戦士族・効果】
 自分フィールド上に「六武衆」と名のついたモンスターが表側表示で存在する場合、
 このカードは手札から特殊召喚する事ができる。
 このカードが相手のカード効果によって破壊された時、
 自分の墓地に存在する「六武衆」と名のついたモンスター1体を手札に加える。
 「六武衆の師範」は自分フィールド上に1枚しか表側表示で存在できない。


 六武衆の結束:武士道カウンター×0→1→2

「カウンターの溜まった"六武衆の結束"を墓地に送って、2枚ドローだ!!」(手札0→2枚)
「ウイルス効果だ!! 見せてもらうぜ!」
「俺の引いたカードは、魔法カード"一族の結束"と罠カード"六武派二刀流"だ」
「ちっ、運がいいな大助」
「手札から"一族の結束"を発動する!!」


 一族の結束
 【永続魔法】
 自分の墓地に存在するモンスターの元々の種族が
 1種類のみの場合、自分フィールド上に表側表示で存在する
 その種族のモンスターの攻撃力は800ポイントアップする。


 六武衆−カモン:攻撃力1500→2300
 六武衆の師範:攻撃力2100→2900

「攻撃力が上がりやがった……!」
「それだけじゃない。カモンの効果で、装備された"ハウンド・ドラゴン"を破壊する!!」
 赤い鎧を纏った武士が爆弾を使い、機械龍に取り込まれたドラゴンを吹き飛ばす。
 力の吸収源を失った機械龍は、その攻撃力を大きく減少させた。

 ハウンド・ドラゴン(装備カード状態)→破壊
 サイバー・ダーク・エッジ:攻撃力3500→1800→800 守備力1800→800

「エッジの攻撃力が……」
「強力なサイバー・ダークも、装備カードが無ければ怖くない。バトルだ!!」
 俺の攻撃宣言で、隻眼の武士が力を失った機械龍へ斬りかかる。
 巧みな剣捌きによって、機会の体を真っ二つにしてしまった。

 サイバー・ダーク・エッジ→破壊
 曽原:8000→5900LP

「ぐあああああああ!!??」
 ダメージを受けた瞬間、曽原が悲鳴を上げた。
 周りにいるクラスメイトも、予想もしていなかったその声に驚く。
「な、なんだこれ、いてぇ……」
「これが、闇の決闘なんだ。この決闘で受けるダメージは全部、現実のダメージになるんだ」
「……へへっ、命がけって訳か。いいねぇ。いつか大助と、こういうバトルがしてみたかったんだ!」
「っ、曽原!!」
 駄目だ。まともに聞いてくれない。
 これ以上、ダメージをあいつに与えたくないのに……。

「何を言ってるの中岸君……」
「曽原のやつ、なんか苦しそうじゃねぇか?」
「まさか、本当にダメージが現実になってるんじゃ……」

 クラスのみんなも、かなり戸惑っているみたいだった。
 当然だ。闇の決闘なんて都市伝説扱いになっているし、実際に目の前でやられて理解が追いつくわけがない。
「曽原、頼むからもうやめよう。このままじゃ、また痛みが―――」
「おいおい、なんで自分はダメージを受けないみたいなことを言ってんだよ。やられたらやり返す。それが俺のモットー
なんだぜ。それに、こんな最高な決闘、やめるわけない!」
「くっ……! カードを1枚伏せて、ターンエンドだ!!」

-------------------------------------------------
 大助:8000LP

 場:六武衆−カモン(攻撃:2300)
   六武衆の師範(攻撃:2900)
   一族の結束(永続魔法)
   伏せカード1枚

 手札0枚
 (**ウイルス効果継続中**)
-------------------------------------------------
 曽原:5900LP

 場:戦禍を刻む闇の世界(フィールド魔法)
   未来融合−フューチャー・フュージョン(永続魔法:1ターン経過)
   伏せカード1枚

 手札2枚
-------------------------------------------------

「よし、俺のターン、カードドロー!」(手札2→3枚)
 ターンが始まるやいなや、曽原は口元に不気味な笑みを浮かべた。
 予想はしていたが、このターンに仕掛けるつもりなのだろう。
「大助、もちろん分かってるよなぁ?」
「ああ。未来融合が効果を発揮するんだろ」
「その通りだ! "未来融合−フューチャー・フュージョン"の効果で、"F・G・D"を特殊召喚だ!!」
 最初のターンからフィールドにずっと現れていた光の渦。
 その中から一本の光の柱が立ち、中から五つ首の巨大な竜が姿を現した。


 F・G・D 闇属性/星12/攻5000/守5000
 【ドラゴン族・融合・効果】
 このモンスターは融合召喚でしか特殊召喚できない。
 ドラゴン族モンスター5体を融合素材として融合召喚する。
 このカードは地・水・炎・風・闇属性のモンスターとの戦闘によっては破壊されない(ダメージ計算は適用する)


「どうだ! 攻撃力5000だぜ!」
「……っ」
 心の中で舌打ちをする。
 存在を忘れていたわけじゃないが、こうして実際に場に出されるとかなりの迫力があるな。
「さらに手札から"サイバー・ダーク・キール"を召喚!」


 サイバー・ダーク・キール 闇属性/星4/攻800/守800
 【機械族・効果】
 このカードが召喚に成功した時、自分の墓地に存在する
 レベル3以下のドラゴン族モンスター1体を選択し、装備カード扱いとしてこのカードに装備する。
 このカードの攻撃力は、このカードの効果で装備したモンスターの攻撃力分アップする。
 このカードが戦闘によって相手モンスターを破壊した時、相手ライフに300ポイントダメージを与える。
 このカードが戦闘によって破壊される場合、代わりに装備したモンスターを破壊する。


「追加ダメージを与えるサイバー・ダークか」
「その通りだぜ。効果で墓地にいる"ハウンド・ドラゴン"を装備だ!!」

 サイバー・ダーク・キール:攻撃力800→2500→3500 守備力800→1800

「まだモンスターを持ってるのかよ……」
「なめんなよ。さらにセットカード発動だ!」


 トラップ・スタン
 【通常罠】
 このターンこのカード以外のフィールド上の罠カードの効果を無効にする。


「そのカードは……!」
「大助、てめぇがよくデッキに入れてるカードだよなぁ。こっちも採用させてもらったぜ!」
 1ターンだけ罠カードを封じるカード。
 けどこれは、明らかなプレイングミスだ。ウイルスの効果で伏せカードは罠カードだと分かっていたはずだ。わざわざこのタイミングで発動しなくても、俺が罠カードを発動した瞬間を狙えばよかった。
 相手の表情からは、何か狙っているようには思えない。ただ純粋に攻撃を通したいがためだけに"トラップ・スタン"を発動したのだろう。
「大助ぇ、さっき喰らったダメージを利子を付けて返してやるぜ!!」
 どっちにしろ、このターンは罠カードを発動できない。
 相手の攻撃を防ぐ手段は……無い。
「バトル!! ホーンでカモンに攻撃!!」
 機械龍から放たれた電磁砲が、赤い鎧を纏った武士を吹き飛ばす。
 その衝撃が、俺の体に襲い掛かった。
「ぐあぁ!」

 六武衆−カモン→破壊
 大助:8000→6800LP

「さらにキールは、戦闘で相手モンスターを破壊したときに300の追加ダメージを与える!!」
 教室の床を這う電流が襲い掛かる。
 さっきほどではないが、かなりの痛みが足元を通り抜けた。
「ぐっ!」

 大助:6800→6500LP

「さらにぃ、F・G・Dで師範に攻撃ぃ!!!」
 五つ首の竜からは激しいブレスが吐かれる。
 いかに攻撃力をあげた武士であっても、相手の強力な攻撃を前に為すすべもなく吹き飛ばされてしまった。

 六武衆の師範→破壊
 大助:6500→4400LP

「ぐあああぁぁ!!」
 生じた衝撃によって、あたりの机ごと俺は黒板まで吹き飛ばされる。
 背中を強く打ってしまい、一瞬だけ呼吸が苦しくなった。
「いいねぇ、やっぱこっちの方が迫力あって燃えるってもんだぜ!」
「ぐっ、曽原……!!」
 吹き飛ばされた机のいくつかは壊れたり歪んだりしている。
 壊れた破片がこっちに飛んでこなかったのは幸いだったのだろう。

「…………」
「…………」
「…………」

 クラスのみんなから、もう悲鳴すら上がらなくなった。
 目の前で繰り広げられている異常な現象に言葉を無くしているのだろう。
「ははは、このまま、勝たせてもらうぜ大助ぇ」
「どうして、お前とこんな決闘をしなくちゃいけないんだよ……!」
 元の位置まで移動して、相手を見据える。
 体を覆う闇が、最初より深まっているような気がした。
「俺はこれでターンエンドだぜ」

-------------------------------------------------
 大助:4400LP

 場:一族の結束(永続魔法)
   伏せカード1枚

 手札0枚
 (**ウイルス効果継続中**)
-------------------------------------------------
 曽原:5900LP

 場:戦禍を刻む闇の世界(フィールド魔法)
   F・G・D(攻撃:5000)
   サイバー・ダーク・キール(攻撃:3500)
   ハウンド・ドラゴン(装備カード状態)
   未来融合−フューチャー・フュージョン(永続魔法)

 手札2枚
-------------------------------------------------

「……俺のターン、ドロー」(手札0→1枚)
「ウイルス効果だ。手札見せろ」
「引いたカードは魔法カード"戦士の生還"だ」
「ちっ、つくづく運がいいな」
「そりゃどうも。早速だけど、使わせてもらうぞ」


 戦士の生還
 【通常魔法】
 自分の墓地に存在する戦士族モンスター1体を選択して手札に加える。


「この効果で、墓地にいる"真六武衆−ミズホ"を手札に加える。そして召喚だ!」
 描かれる赤い召喚陣。
 その中から軽そうな鎧を身に着けた女武士が姿を現した。


 真六武衆−ミズホ 炎属性/星3/攻1600/守1000
 【戦士族・効果】
 自分フィールド上に「真六武衆−シナイ」が表側表示で存在する場合、
 このカードは手札から特殊召喚する事ができる。
 1ターンに1度、このカード以外の自分フィールド上に存在する
 「六武衆」と名のついたモンスター1体をリリースする事で、
 フィールド上に存在するカード1枚を選択して破壊する。


 真六武衆−ミズホ:攻撃力1600→2400

「俺はこれで、ターンエンドだ」
 ウイルス効果はあと1ターン。ここを何とか耐えきることが出来れば、まだ勝負は分からない。
 問題は、次のターンだ。



「俺のターン、カードドロー!!」(手札2→3枚)
 圧倒的に有利な立場にいると思っているのか、曽原の表情にはかなりの余裕が伺える。
 たしかに、端から見ればこの状況は俺の不利にしか映らないかもしれないな。
「これで終わりだぜ!! バトルだ!! キールでミズホに攻撃ぃ!!」
 ダメージを優先させるため、曽原はキールから攻撃してきた。
 心の中でガッツポーズをとりつつ、伏せておいたカードに手をかける。
「甘いぞ曽原」
「なに?」
「そんな簡単にやられるほど、俺はヤワじゃない!」


 六武派二刀流
 【通常罠】
 自分フィールド上に存在するモンスターが、表側攻撃表示で存在する
 「六武衆」と名のついたモンスター1体のみの場合に発動する事ができる。
 相手フィールド上に存在するカード2枚を選択して持ち主の手札に戻す。


「な、なんだその効果!?」
「このカードで、お前の場のカードを2枚手札に戻す! 戻すのは"F・G・D"と装備状態の"ハウンド・ドラゴン"だ!」
「し、しまった!」
 敵の攻撃を待ち構える女武士の刃に、疾風の力が宿る。
 手に持った三日月状の武器を振り回すと、そこから突風が発生して相手の場に吹き荒れた。
「まだだ! 手札から速攻魔法"即神仏"を発動! "F・G・D"を墓地に送る!!」
「な!?」


 即神仏
 【速攻魔法】
 自分フィールド上に存在するモンスター1体を選択して墓地へ送る。


 F・G・D→墓地("即神仏"の効果)
 未来融合−フューチャー・フュージョン→破壊(このカード自体の効果)
 ハウンド・ドラゴン(装備カード状態)→曽原の手札("六武派二刀流"の効果)
 サイバー・ダーク・キール:攻撃力3500→1800→800

「自分からモンスターを墓地に送ったのか」
「ああ。俺の切り札のためには、この最強のドラゴンは墓地にいてもらわなきゃ困るんだよ!」
「そうかよ。お前のバトルは続いてる。攻撃力の下がったキールなら、ミズホでも倒せるぞ!」
「野郎……!」
 力を吸収する媒体となるドラゴンを失ったことで、機械龍の力が著しく減少する。
 だが攻撃は止めることが出来ず、放った小さな電磁砲は身軽な女武士に難なく躱され、返り討ちにされてしまった。

 サイバー・ダーク・キール→破壊
 曽原:5900→4300LP

「ぐぁっ、ちっくしょう。これが狙いか!」
「当たり前だ。ウイルスを使うなら、ちゃんと相手の引いたカード効果も確認しておけよ」
 軽く挑発してみる。いつもなら軽く受け流す曽原も、今の状態ではかなり頭にきたようだ。
「舐めやがって……メインフェイズ2だ。モンスターをセットしてターンエンド!」 

-------------------------------------------------
 大助:4400LP

 場:真六武衆−ミズホ(攻撃:2400)
   一族の結束(永続魔法)

 手札0枚
 (**ウイルス効果継続中**)
-------------------------------------------------
 曽原:4300LP

 場:戦禍を刻む闇の世界(フィールド魔法)
   裏守備モンスター1体

 手札1枚
-------------------------------------------------

「俺のターン!」(手札0→1枚)
 デッキからカードを引き抜く。
 このターンで、ウイルスの効果は切れる。
「ウイルス効果で、手札を確認させてもらうぜ!」
「引いたのは攻撃力500の"六武衆の御霊代"だ」
「ちっ、攻撃力1500以上じゃないから破壊出来ねぇか」
「いくぞ! 手札から"六武衆の御霊代"を召喚する!」


 六武衆の御霊代 地属性/星3/攻500/守500
 【戦士族・ユニオン】
 1ターンに1度だけ自分のメインフェイズに装備カード扱いとして自分フィールド上の「六武衆」と
 名のついたモンスターに装備、または装備を解除して表側攻撃表示で特殊召喚する事ができる。
 この効果で装備カード扱いになっている場合のみ、装備モンスターの攻撃力・守備力は500ポイント
 アップする。装備モンスターが相手モンスターを戦闘によって破壊した場合、自分はカードを1枚ドロー
 する。(1体のモンスターが装備できるユニオンは1枚まで、装備モンスターが破壊される場合は、
 代わりにこのカードを破壊する。)


 六武衆の御霊代:攻撃力500→1300

「くそぅ、よりによってそいつか」
「御霊代の効果で、ミズホにユニオンする!」
 肉体を持たない鎧が分離して、女武士の体に装着されていく。
 神秘の鎧を装備したことによって、女武士の力もわずかに増した。

 真六武衆−ミズホ:攻撃力2400→2900 守備力1000→1500

「さらに攻撃力を上げやがったな」
「それが目的じゃないけどな。バトルだ!」
 力を高めた武士が、曽原の場にセットされているモンスターへ斬りかかった。

 ハウンド・ドラゴン→破壊


 ハウンド・ドラゴン 闇属性/星3/攻1700/守100
 【ドラゴン族】
 鋭い牙で獲物を仕留めるドラゴン。
 鋭く素早い動きで攻撃を繰り出すが、守備能力は持ち合わせていない。


「やっぱりそのモンスターだったか」
「バレてたか。まぁ仕方ねぇよな」
「ユニオン状態の御霊代の効果で、デッキからカードを1枚ドローだ」(手札0→1枚)
「ウイルス効果だ。見せろ」
「……引いたのは罠カード"強制終了"だ」
「っ……!」
 あからさまな舌打ちが聞こえた。
 どうやらこのカードの効果は知っていたらしい。
「カードを1枚伏せて、ターンエンドだ」


 俺のターンが終わり、相手のターンになる。
 だが曽原は俺を睨み付けたまま、カードを引こうとしなかった。
「どうした? お前のターンだぞ?」
「……なんでだよ」
「は?」
「なんで大助は、いつもどおり平然と決闘してんだよ。闇の決闘だぞ。ダメージが現実化してんだぞ。闇の世界を使ってんだぞ。ずいぶんと落ち着いているじゃねぇか」
 その言葉に、周りにいるクラスメイトもざわつき始める。
 ひそひそと話す声や、疑いの眼差しが向けられているのが感じられた。
「答えたくねぇならそれでいいぜ。ただし、この決闘には、どうしても負けられない」
「………」
「覚悟しろよ大助。俺は、お前に勝つ!! カードドロー!!」(手札1→2枚)
 引いたカードを確認した瞬間、曽原の口元に笑みが浮かんだ。
 この局面で笑うということは、どうやら”あのカード”を引かれてしまったらしい。
「いくぞ! 魔法カード"サイバー・ダーク・インパクト!"を発動だ!!」


 サイバーダーク・インパクト!
 【通常魔法】
 自分の手札・フィールド上・墓地から、「サイバー・ダーク・ホーン」
 「サイバー・ダーク・エッジ」「サイバー・ダーク・キール」を
 それぞれ1枚ずつデッキに戻し、「鎧黒竜−サイバー・ダーク・ドラゴン」1体を
 融合召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する。


「墓地にいる3体のサイバー・ダークをデッキに戻して"鎧黒竜−サイバー・ダーク・ドラゴン"を融合召喚だ!!」
 相手の墓地から3体の機械龍が出現し、その体を一つにしていく。
 3体分の体が合わさった体はとても大きく、そして禍々しい漆黒の機械龍が出現した。


 鎧黒竜−サイバー・ダーク・ドラゴン 闇属性/星8/攻1000/守1000
 【機械族・融合/効果】
 「サイバー・ダーク・ホーン」+「サイバー・ダーク・エッジ」+「サイバー・ダーク・キール」
 このモンスターは融合召喚でしか特殊召喚できない。
 このカードが特殊召喚に成功した時、自分の墓地に存在するドラゴン族モンスター1体を選択して
 このカードに装備カード扱いとして装備し、その攻撃力分だけこのカードの攻撃力をアップする。
 自分の墓地のモンスターカード1枚につき、このカードの攻撃力は100ポイントアップする。
 このカードが戦闘によって破壊される場合、代わりに装備したモンスターを破壊する。


「こいつの効果で、墓地にいる"F・G・D"を装備! さらに墓地のモンスター1体につき100ポイント攻撃がアップするぜ! さらに闇の世界でパワーアップだ!!」
「……っ!」
 漆黒の機械龍が、最強のドラゴンの力を吸収する。
 さらに墓地に眠るモンスターの力、闇を司る世界の力を得て、機械龍はその力を爆発的に上昇させる。

 鎧黒竜−サイバー・ダーク・ドラゴン:攻撃力1000→6000→7000→7500 守備力1000→2000

「攻撃力7500か……!」
「これが、てめぇにトドメをさす俺の最強モンスターだ!! バトル!!」
 巨大な力を携えた機械龍の口から、高密度の電磁砲が放射された。
 あれを喰らってしまったら、文字通りひとたまりもない。
「"一族の結束"を墓地に送って、罠カード"強制終了"を発動する!!」
 俺の場にある1枚のカードがバリアへと変化する。
 そのバリアは機械龍の攻撃を受け止め、かき消してしまった。


 強制終了
 【永続罠】
 自分フィールド上に存在する
 このカード以外のカード1枚を墓地へ送る事で、
 このターンのバトルフェイズを終了する。
 この効果はバトルフェイズ時にのみ発動する事ができる。


 一族の結束→墓地(コスト)
 真六武衆−ミズホ:攻撃力2900→2100

「まったく面倒なカードを使いやがって!」
「悪かったな。それで、バトルフェイズは終了させたけどどうする?」
「……1枚セットでターンエンドだ」

-------------------------------------------------
 大助:4400LP

 場:真六武衆−ミズホ(攻撃:2100)
   六武衆の御霊代(装備カード状態)
   強制終了(永続罠)

 手札0枚
-------------------------------------------------
 曽原:4300LP

 場:戦禍を刻む闇の世界(フィールド魔法)
   鎧黒竜−サイバー・ダーク・ドラゴン(攻撃:7500)
   F・G・D(装備カード状態)
   伏せカード1枚

 手札0枚
-------------------------------------------------

 なんとか凌ぐことは出来た。
 ウイルスの効果は切れたが、以前として状況はこっちの方が不利。
 けど……まだ手はある。
「俺のターン、ドロー!」(手札0→1枚)
 引いたカードを確認し、すぐさま発動する。


 六武衆の結束
 【永続魔法】
 「六武衆」と名の付いたモンスターが召喚・特殊召喚される度に、
 このカードに武士道カウンターを1個乗せる(最大2個まで)。
 このカードを墓地に送る事で、このカードに乗っている武士道カウンターの数だけ
 自分のデッキからカードをドローする。


「ここでドロー強化か」
「ああ。ユニオン状態の御霊代の効果発動。ユニオンを解除して場に攻撃表示で特殊召喚だ!」
 女武士の体に装着されていた鎧が分離して、再び戦いの場へ舞い降りる。
 肉体を持たない鎧が宙に浮かんでいる様子は少し不気味だった。

 六武衆の御霊代→特殊召喚(攻撃)
 真六武衆−ミズホ:攻撃力2100→1600 守備力1500→1000
 六武衆の結束:武士道カウンター×0→1

「そしてミズホの効果発動! 場にいる六武衆1体をリリースして、相手の場のカードを1枚破壊する!」
「なにぃ!?」
「御霊代をリリースして、俺は"鎧黒竜−サイバー・ダーク・ドラゴン"を破壊する!」
 肉体を持たない鎧が光となって、女武士の持つ刃に吸収される。
 莫大な攻撃力を持つ機械龍へ狙いを定めて、女武士は大きく振りかぶった。
「なめてんじゃねぇぞ! セットカード発動だ!」
「っ!」
 武器を振り下ろそうとした女武士の体を、漆黒の鎖が縛り上げてしまった。


 デモンズ・チェーン
 【永続罠】
 フィールド上に表側表示で存在する
 効果モンスター1体を選択して発動する。
 選択したモンスターは攻撃する事ができず、効果は無効化される。
 選択したモンスターが破壊された時、このカードを破壊する。


「これでそいつの効果は無効になる! しかもミズホの効果のコストで、御霊代は墓地送りだ!」
「……!」
 やられた。たしかに考えてみれば、この状況でミズホの効果への対策をしていない訳がない。
 ミズホの効果が封じられてしまっている以上、俺の場に鎧黒竜を倒す手段は無い。
 この状況を覆すには、やはり”あれ”しかない!
「俺はデッキワンサーチシステムを使う!」
「なっ、デッキワンカードだと!?」
 デュエルディスクについている青いボタンを押す。
 自動的に選び出されたカードがデッキから突出し、それを勢いよく引き抜く。(手札0→1枚)
 対する曽原も、ルールによってカードをドローした。(手札0→1枚)
「そして俺はミズホを守備表示にして、カードを1枚伏せてターンエンドだ!」

 こうなったら最後の切り札を使うしかない。
 次のターンの攻撃を"強制終了"でミズホをコストにしてバトルフェイズを終了し、返しのターンに"神極・閃撃の陣"で一気にたたみかける。5体の六武衆がいれば、あの鎧黒竜だって倒せるはずだ。

「俺のターン、カードドロー!!」
 曽原のターンが始まる。
 勢いよく引いたカードを確認して舌打ちを打つと、手札の1枚をデュエルディスクに叩き付けた。


 サイバー・ダーク・ホーン 闇属性/星4/攻800/守800
 【機械族・効果】
 このカードが召喚に成功した時、自分の墓地に存在する
 レベル3以下のドラゴン族モンスター1体を選択し、装備カード扱いとしてこのカードに装備する。
 このカードの攻撃力は、このカードの効果で装備したモンスターの攻撃力分アップする。
 このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、その守備力を攻撃力が超えていれば、
 その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。
 このカードが戦闘によって破壊される場合、代わりに装備したモンスターを破壊する。


「またそいつかよ」
「悪かったな。ホーンの効果、墓地の"ハウンド・ドラゴン"を装備してパワーアップ。さらに闇の世界の効果でさらにパワーアップだ!!」

 サイバー・ダーク・ホーン:攻撃力800→2500→3500 守備力800→1800

「くっそ……」
 高攻撃力のモンスター2体が、咆哮をあげながら威圧してくる。
 場の"強制終了"があれば安心だけど、目の前にここまで高い攻撃力を持ったモンスターがいるとやはりキツイ。
「残念ながら、そのウザいカードを除去するカードは引けなかったぜ」
「そうか」
「……大助、俺は何が何でも、てめぇに勝つ。たとえおかしな力に頼ったって、てめぇに勝ってやる!!」
 力強い視線で、曽原はそう宣言する。
 その執着とまでいえる勝利への渇望に、尋ねずにはいられなかった。
「どうして、そんなに勝ちたいんだ。これが、闇の決闘だからか?」
「関係ねぇ。これは、俺の自己満足なんだ。俺なりの友達としての付き合い方なんだよ!!」
「どういうことだ?」
「前も言ったよなぁ。俺は、いつだって大助に頼ってばかりだ。勉強だって、カードゲームだって、得意なサッカー以外、何一つとしてお前に勝てることなんかねぇ。俺は、友達に頼ってばかりの自分が嫌なんだよ! 友達だって言ってくれる奴に引け目を感じる俺が嫌いなんだよ!!」
 どこか苦しそうに、叫ぶように曽原は言った。
 ここまで感情にまかせて言葉を発するその姿を、俺は初めて見た気がした。
「だから! 俺はてめぇに勝つ! 勝って対等な関係で、てめぇと友達やるんだ!! だから、勝たせてくれよ! わざとでもいい、偶然でもいい。俺のお前に対する引け目を消し去らせてくれよ!!」
「曽原……」
 あの親しげな態度の裏で、こいつはこんなことを思っていたのか。
 昨日の会話も、その”引け目”とやらが言葉として表面化していたのかもしれない。
「その”引け目”ってやつは……俺がわざと負けても消せるのか?」
「だ、大助!? 何言ってんのよ!?」
「ごめん香奈。少しだけ黙っててくれ。これは俺と曽原の問題なんだ」
「さすがだな大助。よく分かってんじゃねぇか。分かったなら、さっさと俺に負けてくれよぉ!! バトル!!」
 2体の機械龍がその口に高密度の電磁砲を込めていく。
 このまま攻撃を通せば、一瞬で俺のライフは0になってしまうだろう。
 そして俺が負ければ、曽原はそれで満足してくれるのかもしれない。

 ………だけど―――

「ごめんな」
 まっすぐに曽原を見つめ、俺は言い放つ。
「なに?」
「お前がそんなこと思っていて苦しんでいたのに、気付いてやれなかった。お前が、俺に勝つことで引け目を消し去れるって思っているならそれもいいのかもしれない。けど、わざと負けたってその引け目が消し去れるはずがない。それこそわざと負ければ、全力で戦うお前を侮辱することになる。お前は侮辱されて、それでも引け目を感じることなく俺と友達でいれるつもりなのか?」
「そ、それは……」
 口に込められた電磁砲が、いよいよ発射されようとする。
 俺は場に開かれた"強制終了"に手をかけた。
「お前がバトルフェイズに入った瞬間、俺は"強制終了"の効果で―――」


(ダメだよ。中岸大助君)


「!?」
 頭の中に直接響く声。
 知らない声のはずなのに、どこかで聞いたことがあるような気がする。
(そのデッキワンカードは使っちゃだめ。使ったら、きっと後悔するよ)
 何を言っているんだ?
 どう考えても、ミズホをコストにバトルフェイズを終了させるのが一番の選択肢のはずだ。
 "神極・閃撃の陣"をコストに使う手もあるけどそれは………。

(お願い。ワタシを信じて中岸大助君。ワタシはいつだって、君たちの味方だから)

 いったい、誰なんだ?
 ここで"神極・閃撃の陣"を使わないなんて、自ら不利な状況に追い込むことと同じだ。
「これで、トドメだぁ!!」
 発射された電磁砲が、迫ってくる。
 考える時間はまったく無い。
「……!! 俺は"強制終了"の効果で、伏せカードを墓地に送ってバトルフェイズを終了させる!!」
「なにっ!?」
 俺の場に伏せられたカードがバリアとなって、俺の場を覆い尽くす。
 放たれた電磁砲のすべてが弾き飛ばされ、女武士もライフポイントも無傷となった。

「なんでだよ……どうして、届かねぇんだよ……!!」

 曽原が歯ぎしりをしながら、声を漏らした。
 その体を覆う闇が、さらに大きく濃くなっていく。
「……」
 俺が選択したのは、謎の声に従って"神極・閃撃の陣"を使わない事だった。
 どうしてこの選択をしたのかは、自分でもよく分からない。直感とか、そこらへんの感覚が働いたのかもしれない。
 だがおかげで、依然として不利な状況は変わらない。
 切り札であるデッキワンカードを失ってしまったため、なんとかするとしたら次のターンしかない。
「くそっ、次こそ……! ターンエンドだ!」

-------------------------------------------------
 大助:4400LP

 場:真六武衆−ミズホ(攻撃:1600)
   六武衆の結束(永続魔法:武士道カウンター×1)
   強制終了(永続罠)

 手札0枚
-------------------------------------------------
 曽原:4300LP

 場:戦禍を刻む闇の世界(フィールド魔法)
   鎧黒竜−サイバー・ダーク・ドラゴン(攻撃:7500)
   サイバー・ダーク・ホーン(攻撃:3500)
   F・G・D(装備カード状態)
   デモンズ・チェーン(永続罠)

 手札1枚
-------------------------------------------------

「俺のターン……」
 逆転できるとしたら、間違いなくこのターンしかない。
 強力な相手モンスター2体を除去しつつ、半分近く残っている曽原のライフを削りきる。
「曽原……どっちみち、これが最後のターンになると思う」
「だからなんだよ? 負けてくれるのか?」
「俺は、お前のことを友達だって思ってる。だから、お前が他の誰かを傷つける前に止めてやる」
「出来るってのか……この状況だぞ」
「ああ。やってみせるさ」
 デッキの上に手をかけて、目を閉じる。
 頼むぞ、曽原を倒すための……助けるための力を貸してくれ。
「ドローだ!!」(手札0→1枚)
 引いたカードを確認する。
 自然と口元に笑みが浮かんでしまった。
「場に"真六武衆−ミズホ"がいることで、"真六武衆−シナイ"を特殊召喚する!!」


 真六武衆−シナイ 水属性/星3/攻1500/守1500
 【戦士族・効果】
 自分フィールド上に「真六武衆−ミズホ」が表側表示で存在する場合、
 このカードは手札から特殊召喚する事ができる。
 フィールド上に存在するこのカードがリリースされた場合、
 自分の墓地に存在する「真六武衆−シナイ」以外の
 「六武衆」と名のついたモンスター1体を選択して手札に加える。


 鎖で身動きを封じられた女武士の隣に、巨大な棍棒を携えた武士が参上する。
 同時に、背後にある結束を示す陣が大きく光輝いた。

 六武衆の結束:武士道カウンター×1→2

「カウンターの溜まった結束を墓地に送って、デッキから2枚ドロー!」(手札0→2枚)
「ちっ、本当に運の良いやつだな。けどいくら引いたって無駄だぜ」
「そうでもないさ。手札から"六武衆の露払い"を召喚する!!」


 六武衆の露払い 炎属性/星3/攻1600/守1000
 【戦士族・効果】
 自分フィールド上にこのカード以外の「六武衆」と
 名のついたモンスターが表側表示で存在する場合に発動する事ができる。
 自分フィールド上に存在する「六武衆」と名のついたモンスター1体をリリースする事で、
 フィールド上に存在するモンスター1体を破壊する。


「なっ、そいつは……!」
「露払いの効果発動。シナイをリリースして、"鎧黒竜−サイバー・ダーク・ドラゴン"を破壊する!!」
「ぐっ……」

 真六武衆−シナイ→墓地
 鎧黒竜−サイバー・ダーク・ドラゴン→破壊
 F・G・D(装備カード状態)→墓地

「さらにリリースされたシナイの効果で、墓地にいる"六武衆の師範"を回収する。そして師範を特殊召喚だ!!」
「俺のモンスターを除去した上に、また師範を特殊召喚だと!?」


 六武衆の師範 地属性/星5/攻2100/守800
 【戦士族・効果】
 自分フィールド上に「六武衆」と名のついたモンスターが表側表示で存在する場合、
 このカードは手札から特殊召喚する事ができる。
 このカードが相手のカード効果によって破壊された時、
 自分の墓地に存在する「六武衆」と名のついたモンスター1体を手札に加える。
 「六武衆の師範」は自分フィールド上に1枚しか表側表示で存在できない。


「そしてもう1度、露払いの効果発動。ミズホをリリースして、ホーンを破壊する!!」
「くそっ!!」

 真六武衆−ミズホ→墓地
 サイバー・ダーク・ホーン→破壊
 ハウンド・ドラゴン(装備カード状態)→墓地

「俺のモンスターが、全滅だと……!」
 これで曽原の場にはモンスターはいない。
 これが最後のチャンスだ!
「バトル! 露払いと師範で直接攻撃!!」
「ぐああああああああ!!!」

 曽原:4300→2700→600LP

 大きな悲鳴を上げて、曽原は膝をついた。
 だがすぐにフラフラと立ち上がり、その口元に笑みを浮かべる。
「ははっ、なんとか残ったぜ。見てろよ大助。次のターンには俺が―――」
「手札から速攻魔法を発動する」
 曽原の目が、驚きによって見開かれる。
 発動したのは、この決闘に終止符を打つためのカード。


 六武ノ書
 【速攻魔法】
 自分フィールド上に表側表示で存在する「六武衆」と名のついたモンスター2体をリリースして
 発動する。自分のデッキから「大将軍 紫炎」1体を自分フィールド上に特殊召喚する。


「場にいる2体の六武衆をリリースして、デッキから"大将軍 紫炎"を特殊召喚する!!」
 攻撃を終えた2体の武士が巻物に飲み込まれる。
 その巻物が激しく燃え上がり、中から真紅の甲冑に身を包んだ大将軍が現れた。


 大将軍 紫炎 炎属性/星7/攻撃力2500/守備力2400
 【戦士族・効果】
 自分フィールド上に「六武衆」と名のついたモンスターが2体以上表側表示で存在する場合、
 このカードは手札から特殊召喚する事ができる。このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
 相手プレイヤーは1ターンに1度しか魔法・罠カードの発動ができない。このカードが破壊される場合、
 代わりにこのカード以外の「六武衆」という名のついたモンスターを破壊する事ができる。


「………俺の……負けか」
「バトルフェイズ中の特殊召喚だから、紫炎は攻撃できる!! 攻撃だ!!」
 大将軍が刀を構える。その刀身に炎が纏わりつき、すさまじい熱気を放つ。
 大きく振りかぶられ、振り下ろされた刃から炎が放射され、曽原の体を飲み込んだ。
「がああああああああ!!」

 曽原:600→0LP



 曽原のライフが0になり、胸にかけられた闇の結晶が砕け散る。
 周囲を囲んでいた闇が消滅し、決闘は終了した。




「はぁ……はぁ……」
 緊張がほどけ、近くの机に手を置く。
 数メートル先では曽原が仰向けで倒れており、周りではクラスメイトが呆然としている。
「大助……」
 真っ先に香奈が呼びかけてくれた。
 その隣にいる本城さんや雲井も、心配そうに俺を見つめている。
「………」
 何も言葉が思いつかず、俺はそのままゆっくりと曽原に近づいた。
「ぐ……ぁ……」
 闇の決闘による痛みが残っているのだろう。
 曽原が呻きながら目をうっすらと開けて、俺を見上げてくる。
「結局、勝てなかったな……やっぱ大助は……強いな……」
 目元を腕で隠しながら、曽原はさらに言葉を続ける。
「本当に、カッコわりぃぜ。変な力に頼って、さんざんヒドイこと言って、このザマじゃな……」
「……そうだな」
「へへっ、手厳しいなぁ大助……けどな、負けて悔しいけど、妙に晴れ晴れしてる気分だ。散々、負けてくれって言ったくせに、お前がサレンダーせず俺と正面から戦ってくれて、良かったぜ……」
 腕で隠しているため目元は見えないが、その口は静かに笑みを浮かべていた。
 今、曽原がどんな気持ちでいるのかは分からない。
 そして、今の俺に出来ること……友達として出来ることは……。
「なんにしても、これで対等になったんじゃないか?」
「はぁ?」
「思えば、お前と本気で戦ったことも無かったしな。本気で戦いあえる仲ってことは、対等ってことなんじゃないのか?」
「………まっ、今はそれでもいいか……」
 安堵のような溜息のような息を吐いて、曽原は再び笑った。
 どうやら完全に元のこいつに戻ってくれたらしい。

 何事も無くて良か―――

「ぐっぁ!」
「!?」
 突然、曽原が苦痛の声を上げた。
 今までとは違ったトーンだったため、何かおかしいと感じる。
「どうした?」
「うっ、ぐああああ!!」
 苦しみだした曽原の体が、つま先から黒い霧のようになって消えていく。
 それはまるで、”夏休みの戦い”で見た光景と同じように。
「なっ!?」
「うぅ、大助っ……! 助け―――!」
 助けを求める声もむなしく、その体のすべてが霧のように消えていく。
「おい! 曽原!!」

 そして曽原は、俺達の目の前で、消滅してしまった。


「………………………………………………………………」
「………………………………………………………………」
「………………………………………………………………」
「………………………………………………………………」


 クラス全体が、凍りついたように静まった。
 時間にして約数秒だったのかもしれないが、俺にはそれが1時間くらいの静寂に感じられた。

「きゃああああああああああああああ!!!」

 クラスの女子の悲鳴が、教室中に響き渡った。




episode6――悪夢の始まり――
 


「きゃあああああああ!!」

 女子の叫びがきっかけとなって、教室中が悲鳴で包まれた。
 全員が窓際により、恐怖に怯えた目で俺を見つめている。
「………」
 意味が分からない。
 いったい何が起こったんだ? どうして曽原は消えてしまったんだ?
 決闘に負けたら消えてしまうなんて、まるで闇の神のときみたいだ……。
「だ、大助……」
 香奈が真っ先に駆け寄ってくれて、続いて雲井と本城さんが歩み寄ってくる。
 だが3人とも、その表情は困惑に満ちている。

「中岸に近づくな!!」

「!?」
 クラスメイトの1人が、怒号交じりの声を上げた。
「さっきの見てただろ! 中岸は……曽原を消しやがったんだぞ! 近づいたら何されるか分からない!!」
「……!」
「な、何言ってんのよ! 大助のせいじゃないわよ!」
「なんで分かるんだよ!? 闇の決闘とか、闇の世界とか、訳も分からないことが起こってるのに平然と対処してた中岸は絶対におかしいだろ!」
 その言葉に、周りにいる何人かが頷いた。
 彼らの視線は、明らかに俺達……いや、俺に敵意のようなものを向けている。
「早くそいつから離れろ! 消されちまうぞ!」
「そんなことないわよ!」
「分からねぇだろ! 中岸が曽原を消したのに、他のやつを消さない保障なんかない!」
「そ、それは―――!」
 言い返そうとした香奈の肩に手を置く。
 これ以上反論しても、余計に状況を悪くするだけな気がする。
「香奈、もういい。ありがとう」
「大助……」
 悔しそうに口元を歪めた香奈は、一歩退いてそっぽを向いた。
 俺はゆっくりと周りを見渡す。女子も男子も、それぞれが怯えた表情や敵意をむき出しにした表情で俺を見ている。
 こんな状況だ。みんながこうなるのは仕方ないと思うが、さすがにこたえる。
「みんな……ごめん。曽原が消えるなんて、思ってもみなかったんだ」
「信じられるかよ。そう言って油断させるつもりなんだろ」
「…………」
 本当に、何を言っても無駄らしい。
 目の前であんなことが繰り広げられて、クラスメイトを1人消されてしまったんだ。消した俺が目の敵にされるのは当たり前のことだろう。
「……分かった。俺は、教室から出ていくから、安心してくれ」
 それだけ言って、みんなに背を向ける。
 仕方ないこと。仕方ないことだと頭では分かっているのに、自然と拳に力が入ってしまった。
 俺だって……曽原を消してしまった事実をまだ受け止めきれていないんだ……。
「だ、大助!」
 香奈がついてきた。雲井や本城さんも一緒だ。
「どこにいくつもりなのよ?」
「分からない。でも俺がいたら、おさまる混乱もおさまらないだろ?」
 全員の視線が、まるで刃物のように鋭く突き刺さってくる。
 このままここにいることに、俺自身も耐えられそうにない。
「でも、1人じゃ危ないじゃないんでしょうか?」
「……きっと大丈夫です。心配してくれてありがとうございます」
 急いで教室のドアに手をかける。
 心のどこかで、早くこの教室から逃げたい気持ちがあったのかもしれない。
「大助、私も行くわよ」
「いや、香奈はここにいてくれ。薫さんがこっちに来るかもしれないし」
「で、でも……!」
「大丈夫だ。危険なことをするつもりはないから」
「…………」
 何か言いたそうに一瞬だけ口を開いた香奈だったが、黙って頷いてくれた。
 その右拳が少し震えているのが分かったが、気づかないふりをした。
「絶対に、危ないことなんかするんじゃないわよ」
「ああ」
 小さく頷いて、俺は教室のドアを開いた。
 当然ながら誰もいない廊下を見わたし、小さく溜息をついた。
「けっ、溜息なんかつくんじゃねぇよ」
 背後から雲井が言う。
「てめぇだけ外に出るなんて卑怯だぜ。俺も連れてけ」
「な、お前……」
「勘違いすんな。てめぇに自由行動させたくねぇだけだ」
 そう言って雲井は、肩にバッグをひっさげながら真っ先に教室から出て行ってしまった。
 なんか怒っているように見えたのは、気のせいだろうか?



 雲井に続いて、俺も自分の教室を出た。
 ドアを閉めると、ドアの向こうから微かな安堵の声が聞こえたことが、少し辛かった。
「さて、これからどうすんだ? 屋上で寝るか?」
「馬鹿なこと言うなよ。やることなんて決まってるだろ」
「はぁ?」
 これからどうするべきか。
 そんなの決まってる。曽原に闇の結晶を渡した犯人を捜し出すことだ。
 香奈に危険なことはしないって言ったけど、犯人の検討をつけるための調査くらいなら大丈夫のはずだ。
 たしか曽原は、更衣室に闇の結晶が置いてあったと言っていた。
 そこへ行けば何か分かるかもしれない。
「説明は歩きながらするから、とりあえずグラウンド近くの更衣室に行こう」
 そういえば、デュエルディスクとデッキを身に着けたまま教室を出てきてしまったな。
 デッキはケースに入れて上着ポケットにギリギリ入るから良しとして、デュエルディスクは……仕方ないからこのまま腕に付けておこう。辞書型に変形させてもいいが、持ち運びも面倒だ。
「じゃあ行こう」
「あぁ、ちょっと待て」
 雲井が懐から1枚のカードを取り出して、地面に投げる。
 カードが黒い光を帯びて、ライガーに変化した。
『扱いが雑ではないか小僧』
「へっ、てめぇをどうしようと俺の勝手だろうが。第一、てめぇもその方が楽なんだろ?」
『ふん。まぁいい』
「よし、じゃあさっそく更衣室に行くことにするか」
「ああ」
 雲井が何を意図してライガーを出したのかは分からないが、闇の力に詳しいライガーがいるのは心強い。
 ただでさえ状況が分からない環境では、味方が多いに越したことは無いしな。




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 同時刻、場所は移り教務室。
 薫は緊急職員会議のため、教務室で多くの教師と集合していた。
 全員が席についているが、その表情は混乱が隠せていない。
(みんな、やっぱり混乱してるね)
 思念会話で、デッキケースに入れたカード状態のコロンが話しかけてくる。
(そうだね。無理もないよ。こんな状況だもん)
 窓の外に見える景色を見ながら、薫は答える。
 突然、学校全体を覆った黒い霧。霧の中、かすかに見える地面に突き刺さった無数の棒状の物体。
 すぐにでも調査したいところだったが、まずは学校内の人をフォローすることが先決だ。
「現在の様子はどうなってますか?」
「はい。相変わらず黒い霧は消えません。学校外へつながる通信機器も使えず、外に出ようとしても霧の中で迷って玄関まで戻ってきてしまいます」
「そうですか。生徒たちの方は?」
「今のところは落ち着いていますが、時間の問題かと思います」
「そうでしょうね……どうしたものか……」
 校長が考え込むと同時に、薫も考える。
 自分がこうした事件に詳しいことは校長にも話してあるわけだし、今すぐ全員の前で指揮を取っても問題は無い。
 だが校長がさっきから1度もこっちに何かしらの合図を送ってこないため、動くかどうか迷っているのだ。
「とにかく生徒たちの安全を最優先に考えましょう。黒い霧には対応を考えるとして、生徒を外に出さないようにしてください」
「ですが校長、それでは生徒たちが余計に不安がるのではないでしょうか?」
「それは……そうですが……」
 顎に手をかけて、校長は口ごもる。
 正直なところ教師たちも困っているのだろう。実際、薫自身も困惑しているのだ。
 様々な事件を解決し、闇の力に関わってきたスターのリーダーである彼女も、ここまでの異常事態はあまり経験したことがないのだ。
(佐助さんとかだったら、どうするかな?)
(うーん、佐助も分からないんじゃないかな。でもきっとあっちだって異常に気付いて駆けつけてくれるよ。黒い霧だって外からならなんとかできるかもしれないし)
(そうだね。もう少し様子を見てみようか)


 …ピーン…ポーン…パーン…ポーン…


 突然、教務室に響いたチャイム。
 視聴覚室から放送される、全校放送専用のチャイムだった。
「なっ、一体誰が!?」
「生徒の悪戯か?」
「みなさん、今はお静かに」
 校長の一声で、教室が静かになった。全員が放送の声に耳を傾けている。

『えー、みなさんみなさん、聞こえていますかぁ?』

 聞こえてきたのは、幼い男子のような声。
「っ!?」
 その声に、薫は今までにない悪寒を感じた。
 胸によぎる嫌な予感。直感が告げる危険性。嫌な感じの手汗が噴き出していることに気づくのに、少し時間がかかってしまった。

『どうも、ただの通りすがりの者です。えーと、とりあえず一度しか言わないからよく聞いてね。今の学校は、ちょっとした不思議な力で閉鎖空間にしてまーす。ここから出る手段はあんまりないんだ。つまり、君たちは絶体絶命の状況下にいるわけだ。校舎から出ることはできないし、食料もせいぜいお弁当くらいでしょ? アハハ、早く脱出しないと餓死しちゃうよ?』

 人を小馬鹿にしたかのような笑みが、学校中に響き渡る。
 ただでさえギリギリで混乱を抑えられている状況なのに、こんなことを言われてしまったら……。

『ルールを教えるよ。ここでは遊戯王のカードがカギになる。決闘して負ければ、負けた人間の体は消えちゃうんだ♪ 信じられないかもしれないから、試しに誰かと決闘してみればいいよ。ダメージが現実化してるはずだよ♪』

「……!」
 軽い口調で恐ろしいことを言うその声に、再び薫は戦慄を覚える。
 周りにいる教師も、戸惑いながらその声に聞き入っているようだ。

『負ければ消える。何もしなければそのまま餓死かストレスで体調不良かな。どうだろう? 負けたら消えちゃう楽しいゲームなんだけど、もしかしたらゲームが嫌いだって人がいるよね。そんな人に朗報なんだけど、このゲームを辞める方法はあるんだ。みんな、デュエルディスクを腕に装着してみてよ』
 数人の教師が、言われるがままにデュエルディスクを装着する。
 薫も静かにデュエルディスクを装着して、様子を見る。
『………みんな装着したかな? じゃあ、こんな危険で残酷な楽しいゲームをやりたくない人は、ライフカウンターの上に手を置いて”リタイア”って言ってみてよ。それで君たちは、この空間から脱出できるよ♪』
「え、ライフカウンターの上って………まさか……!?」
 嫌な予感がした。
 流れた言葉につられて、周りにいる何人かがライフカウンターの上に手を置いている。
「駄目!!」
 叫ぶのが遅かった。
 ライフカウンターの上に手を置いた人のほとんどが「リタイア」と口にした。


 ―――次の瞬間、その人たちが黒く染まり、消えてしまった―――。


 十数秒経って、学校中から悲鳴が聞こえた。
 おそらく同じことが、各教室でも起こってしまったのだろう。

『あ、ごめんごめん♪ 言い間違えちゃった♪ リタイアすると消えちゃうんだったよ。ごめんね〜、でも言い間違いだから許してよ』
「なんなんですか……! この声は……!」
「教師を馬鹿にしやがって……!」
『えっと、ここから抜け出す方法だよね? 簡単だよ。決闘で敵を10人倒せば、その人は学校から脱出できるんだ♪ どうかな、簡単でしょ? 日頃から気に入らないクラスメイトを倒しちゃってもいいし、ムカつく教師を狙ってもいいし、対象は自由だ。あ、でも不良の皆さんは気を付けてね? 暴力で相手を倒してもその数はカウントされないからさ♪ さてさて、ついでに別の情報を与えてあげるよ。これから学校の全部のモニターにこの学校にいる残り人数を表示するよ。あと、決闘して負けたら消えちゃうルールだけど、決闘が弱い人でも生き残れるチャンスがあるようにしてるから、頑張ってね♪』

 放送が切られる。
 不気味な静寂が、教務室を包み込んだ。
 不思議と外も静かで、何とも言えない嫌な空気が漂っている。

「………致し方ありませんね。薫さん、お願いできますか?」
 神妙な面持ちで、校長は言った。
 薫は席から立ち上がり、あたりを見回した。
「事態は深刻です。なんとか私達に指示をください」
「!? 校長、いったいどういうことですか?」
「皆さんには黙っていましたが、彼女は教育実習生ではありません。彼女は遊戯王本社に属するスターという組織の一員です。こうした緊急事態においては、彼女ほど頼りになる存在はいません」
「しかし……」
「みなさん、今は薫さんの指示に従いましょう。このまま何もできないでいると、生徒たちもどうなるかわかりません。まずは生徒たちを落ち着かせて、それからどうするかを具体的に決めましょう。そういう感じで、指示をお願いできますか薫さん?」
「はい」
 大きく深呼吸して、薫は思考を巡らせる。
 全体に指示を出すことはあまり慣れていないのだが、任された以上やるしかない。
 こんなとき、佐助さんだったらどんな指示を出すだろう。どう言えば、周りの人が素直に動いてくれるだろう。
 それらすべてを考えながら、薫は慎重に言葉を選んだ。
「えっと、まず教務室から放送を流してください。決闘は絶対にしないように生徒たちに伝えてください。教師の皆さんは各教室に行って、混乱している生徒たちを落ち着かせてください」
「分かりました。では教室に向かう教師は2、3人まとまっての方が都合がよさそうですね?」
「はい。外の調査は私が1人でやりますから、とにかくみなさんは生徒たちを落ち着かせることだけを考えてくださいますか? あと、注意してほしいことがあるんですけど、もし何か不審な物を見つけたら、絶対に近づかないようにしてもらえますか」
「不審な物とは?」
「えっと、具体的には黒い結晶です。ペンダントの形になっている物が多いので分かると思います。もしその黒い結晶を身に着けた人を見つけたら、すぐに……私に知らせてください」
 少しためらった後、薫は『私に知らせてください』と言った。
 この学校には大助と香奈がいる。彼らも自分と同じように、闇の結晶を破壊できる力を持っている。本当は頼りにしたいところだが、危険な目に遭わせたくないのも事実だった。
「……分かりました。では、みなさんは各教室に向かってください」
 少し間をおいて、校長が指示を出した。
 幾人かの教師がどこか納得いかない様子で席を立つ。
 薫と校長以外の人が教務室からいなくなり、再び静かになった。
「あの、校長先生どうかしましたか?」
「………ふぅ、嘘をつくというのは、大変ですね」
 そう言って校長は自分の机からデュエルディスクを取り出した。
 ゆっくりとそれを腕に装着し、儚い表情を浮かべる。
「この今年で私は55歳。もう何十年も教師をやっていて、こんな事態に遭遇したのは初めてです。こうして専門家であるあなたがいなければ、どうなっていたかなんて想像もできません」
「校長……?」

「あなたがさっき言っていた黒い結晶とは、これのことですか?」
 
 校長は胸元から、黒い結晶を取り出した。
「っ!」
「今朝早くに、窓際に置いてあったんです。迂闊にも触れてしまいました」
「だ、大丈夫なんですか?」
「そうですね。少し残酷な気持ちになってますが、この年にもなると、何か大それたようなことをする気分にはなりませんね。ですがあなたが言うことが本当なら、このままだと私は危険な存在になってしまうのでしょう? だとすれば、私にできることは1つです」
 校長がデュエルディスクにデッキをセットして構える。
 途端にその体から深い闇が溢れ出して、教務室全体に広がっていく。
「薫さん、この黒い結晶を処理するには決闘で私に勝って破壊するしかない。それは事前に本社の方からお話を聞いています。薫さん、私に勝って、この結晶を破壊してください」
「で、でも……! そしたら……!」
「あの放送が真実ならば、この決闘に負けたほうは消えてしまうのでしょう。ですが薫さん、このまま私を野放しにすれば、より多くの人が危険にさらされてしまいます。全校生徒数は約1000人。こんな老いぼれの校長1人のために未来豊かな生徒たちを犠牲にするわけにはいきません」
「そんな……!」
 薫は戸惑ってしまう。
 たしかに、このまま闇の力を持った人を放っておくわけにはいかない。だが今回は今までと事情が違う。決闘で負けたら消えてしまうのだ。闇の力を破壊することが出来ても、それを操っていた人を救うことができない。
 またあの夏の戦いのような、辛い経験をしなければならないのかと思うと……。
「躊躇わないでください。あなたは、多くの人を守らなければならない。そのための多少の犠牲は必要だと私は考えています」
「……必要な犠牲なんて、あっていいはずがないよ!!」
「そうですね。ですけどね薫さん。私にとって一番の犠牲は、生徒たちが傷つくことなんです。もし私が大切な生徒を傷つけるようなことになったら、私は死んでも死にきれません。だからお願いします薫さん。私と本気で戦ってください」
 校長の瞳は、闇に染まりかけていながらも真剣だった。
 薫は歯を食いしばり、デュエルディスクを展開する。
 目の前にいる優しい教師と戦うため、彼女の願いを聞き入れるため、神経を集中する。
「さぁ、始めましょう」
「……はい!」
 両者は距離を置いて、互いを見据える。
 そして声を合わせて決闘の合図を叫んだ。



「「決闘!!」」



 薫:8000LP   校長:8000LP



 教務室での決闘が、始まった。

 

「決闘開始時、私はデッキからフィールド魔法を発動します」
 校長のデュエルディスクから深い闇が溢れ出す。

「私はデッキからフィールド魔法"闇の世界"を発動します」
「えっ!?」


 闇の世界
 【フィールド魔法】
 このカードはデュエル開始時に、デッキまたは手札から発動する。
 このカードはフィールドから離れない。
 ライフを半分支払い、カード名を一つ宣言する。
 そのカードはフィールド場にある限り、以下の効果が付加される。
 ●「このカードを対象にする相手の魔法・罠・モンスターの効果を無効にする。」
 また、宣言したカードがモンスターカードだった場合、以下の効果も付加する。 
 ●「攻撃力は1000ポイントダウンする。」
 この効果は、デュエル中に1度しか発動できない。


 発動されたのは、何の変化もない闇の世界だった。
 ダークとの戦い以降、闇の世界には何らかの特有の効果が付属していた。てっきり今回も何かの効果が付属していると思っていたのに。
(もしかして……欲望が無いから?)
 薫の脳裏に、今までの調査内容で明らかになったことが浮かんだ。
 あくまで仮説でしかないが、闇の世界に特有の効果が付属するようになったのは持ち主の感情が起因しているというのがスターの見解だった。個人の持つなんらかの欲望……嫉妬や怒り、悲しみや孤独などが独自の効果を生み出している。そう考えれば辻褄はあう。なぜダークの一員のほとんどがただの"闇の世界"を使っていたのか……それはメンバーのほとんどがダークによって洗脳された、いわば操り人形の状態だった。
 そんな状態の人間に、闇の世界に独自の効果を付加するほどの欲望があるとは考えにくい。
 だとすれば、もし欲望の無い人間が闇の世界を使う場合は、ただの"闇の世界"になってもおかしくないはずだ。
「どうしましたか? 薫さん?」
「……! 私も、デッキからフィールド魔法を発動するよ!!」
 薫のデッキから、まばゆい光が溢れ出す。
 その光は辺りを覆う闇を切り裂き、漆黒の空間を元の状態まで引き戻した。


 光の世界
 【フィールド魔法】
 このカードはデュエル開始時に、デッキまたは手札から発動する。
 このカードはフィールドから離れない。
 このカードがフィールド上に存在する限り、相手は「闇」と名の付くフィールド魔法の効果を使用できない。


「これで、先生はフィールド魔法の効果を使えないよ!」
「……なるほど、これが薫さんの力ですか」
「そうだよ。これならどんな相手でも、戦えます!」
「そうですね。あなたに、この不気味な力に対抗できる能力が宿っていて安心しました」
 校長は静かに笑みを浮かべ、デッキの上から引いた5枚の手札を確認する。
 心なしか、どこか楽しそうだ。
「校長先生……」
 いまだに戸惑いを隠せない薫のデュエルディスクのランプが赤く点灯する。
 先攻は彼女からだ。
「さぁ薫さん。あなたの先攻ですよ」
「……私のターン、ドロー……」(手札5→6枚)
 ぼんやりと手札を眺めながら、薫は思考を巡らせる。
 自分はどうすればいいのだろう。このまま決闘すれば、必ず自分か相手のどちらかが負けて消えてしまう。
 何か方法があるはずだ。どちらも犠牲にならない方法が、きっと……。
「どうかしましたか?」
「……えっと、私は……」
 駄目だ。どう考えても、良い方法が思いつかない。
 引き分けに出来れば、もしかしたらどちらも助かるかもしれない。けど自分のデッキは、引き分けに出来る戦術が用意されているわけじゃない。
 つまり、どちらかのライフが0になるまで戦うしかないのだ。
 だがそれはつまり………。
「早くしてください薫さん。何もしないなら、私のターンを開始しますよ?」
「あっ……私は、モンスターをセットして、カードを1枚セットして、ターンエンドです」
 様子見と言わんばかりのターンを終え、薫は目を泳がせる。
 どうすればいいのか分からない。このまま本気で戦ってしまえば、きっと……。

「薫さん。”本気で”戦ってくださいと言ったはずです」

「あっ……」
 本気になりきれていない薫を見透かすかのように、校長は言う。
 闇に囚われていない瞳で、戸惑う対戦相手の心を読み取っていく。
「あなたが本気でやれないなら、仕方ありません。こちらは遠慮なく、相手させてもらいますよ」
 そう言って校長はカードを引いた。(手札5→6枚)
 手札を眺め、その口元に小さく笑みを浮かべる。
 この手札なら、文字通り全力で戦えるだろう。
「手札から"ロード・オブ・ドラゴン−ドラゴンの支配者−"を召喚します」


 ロード・オブ・ドラゴン−ドラゴンの支配者− 闇属性/星4/攻1200/守1100
 【魔法使い族・効果】
 このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
 フィールド上のドラゴン族モンスターを
 魔法・罠・効果モンスターの効果の対象にできない。


 校長の場に現れた竜の支配者。
 漆黒のマントを翻し、竜の骨で作られた鎧を纏っている。
「さらに手札から"ドラゴンを呼ぶ笛"を発動します」
「あっ」


 ドラゴンを呼ぶ笛
 【通常魔法】
 フィールド上に「ロード・オブ・ドラゴン−ドラゴンの支配者−」が
 存在する場合、手札からドラゴン族モンスターを2体まで特殊召喚する。


「この効果で、私は手札から2体のドラゴン族モンスターを特殊召喚します。薫さんも特殊召喚できますけどどうしますか?」
「……私は、召喚しません」
「そうですか。では私は"ホルスの黒炎竜 LV6"を2体特殊召喚します」
 竜の支配者が、手に持った大きな笛を吹き鳴らす。
 そこから響く低い音波が、どこからともなく2体の竜を呼び出した。


 ホルスの黒炎竜 LV6 炎属性/星6/攻2300/守1600
 【ドラゴン族・効果】
 このカードは自分フィールド上に表側表示で存在する限り、魔法の効果を受けない。
 このカードがモンスターを戦闘によって破壊したターンのエンドフェイズ時、
 このカードを墓地に送る事で「ホルスの黒炎竜 LV8」1体を
 手札またはデッキから特殊召喚する。


 黒い炎を身に纏い、鋭い眼光で2体の竜が薫を見下ろしている。
 並び立つ2体の竜の迫力に、薫は思わずたじろいてしまった。
「うっ……」
「あなたが戦うつもりがないのなら、用はありません。このまま消えてもらいます。バトルです」
 校長の命令で、黒炎竜がその口に炎を溜める。
 そして姿の見えない薫のモンスターへ向けて、漆黒の炎が吐きだされた。

 チューニング・サポーター→破壊

 チューニング・サポーター 光属性/星1/攻100/守300
 【機械族・効果】
 このカードをシンクロ召喚に使用する場合、
 このカードはレベル2モンスターとして扱う事ができる。
 このカードがシンクロモンスターのシンクロ召喚に使用され墓地へ送られた場合、
 自分はデッキからカードを1枚ドローする。


「続けて2体目で攻撃です」
「っ……! 伏せカード発動だよ!!」
 追撃の炎が迫る中、薫は伏せておいたカードを開く。
 その体を薄い光の膜が覆い、漆黒の炎を弾いてしまった。


 ガード・ブロック
 【通常罠】
 相手ターンの戦闘ダメージ計算時に発動する事ができる。
 その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になり、
 自分のデッキからカードを1枚ドローする。


「この効果で、ダメージを0にしてカードを1枚ドローするよ!」(手札4→5枚)
「なるほど。戦う意思が無いわけではないようですね。ですがまだモンスターは残っていますよ」
 場にいる竜の支配者が、手にエネルギーを溜める。
 防ぐものが何もない薫へ向けて、容赦なくそのエネルギーを解き放った。

 薫:8000→6800LP

「うぅ…!!」
「メインフェイズ2へ入ります。カードを1枚セットして、"明鏡止水の心"をロード・オブ・ドラゴンに装備します」


 明鏡止水の心
 【装備魔法】
 装備モンスターは、戦闘及び装備モンスターを対象とするカードの効果では破壊されない。
 装備モンスターの攻撃力が1300以上の場合、このカードを破壊する。


「これで装備モンスターは効果の対象にならず、戦闘でも破壊されません」
「はい……」
「そしてエンドフェイズ時に、あなたのモンスターを戦闘で破壊した"ホルスの黒炎竜 LV6"はLV8に進化します」
 黒炎竜が漆黒の炎に包まれて燃え上がる。
 その姿を昇華させて、新たに生まれ変わった黒炎竜が舞い降りた。


 ホルスの黒炎竜 LV8 炎属性/星8/攻3000/守1800
 【ドラゴン族・効果】
 このカードは通常召喚できない。
 「ホルスの黒炎竜 LV6」の効果でのみ特殊召喚する事ができる。
 このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する限り、
 魔法カードの発動を無効にし破壊する事ができる。


「これで、あなたは魔法カードを使えなくなりましたよ」
「…………」
 6枚あった手札をすべて使い切っての戦術。
 躊躇などみじんも感じさせないプレイングに、薫は相手の本気を感じ取った。

-------------------------------------------------
 薫:6800LP

 場:なし

 手札5枚
-------------------------------------------------
 校長:8000LP

 場:ロード・オブ・ドラゴン−ドラゴンの支配者−(攻撃:1200)
   ホルスの黒炎竜 LV6(攻撃:2300)
   ホルスの黒炎竜 LV8(攻撃:3000)
   明鏡止水の心(装備カード)
   伏せカード1枚

 手札0枚
-------------------------------------------------

「私の……ターン……」(手札5→6枚)
 力なく薫はデッキからドローする。
 相手は間違いなく本気だ。このままでは、押し切られてしまう。
 でも……。

「薫さん」

「は、はい」
「どうにも煮え切らないようですね」
「………………」
 薫は言い返せずに俯いてしまう。
 そんな様子を見ながら、校長は優しく微笑んだ。
「本当に、あなたは優しい人ですね。とても、組織のリーダーを担うような人柄ではありません」
「よく言われます。もっと非情になれとか、優しすぎるとか……」
「ですが、そんなあなただからこそ、組織の皆さんはあなたに付いていこうと思ったのでしょう」
「え……?」
「長年、色んな教師や生徒を見てきました。みんな大きくなり、そして変わっていく。ですけど、私が見てきた限りでは、みんなきちんとした大人になっていきました。もちろんこの学校にいる生徒たちも、やがては大人になっていく。そして私には想像もつかないような形で、未来へ羽ばたいていくんだと思っています。ですが今の状況は、そんな子供の未来を奪い去るようなシステムになっている。このまま事態を放っておけば、きっと多くの未来が奪われてしまう。それだけは避けなくてはならないことです。そして子供たちを守れるのは、薫さんだけなのでしょう?」
「……!!」
「守ってください。私にとって”希望”である生徒たちを。そしてそのために、あなたの力を私に示してください」
「っ……!」
 静かに、薫は拳を握りしめた。
 涙がこぼれそうになるのを必死で抑えて、小さく深呼吸する。
 どんなに考えても、どちらも助かる方法なんて思いつかなかった。
 けど、これだけは言える。目の前にいる人にとっての”救い”は、この決闘を生き残ることじゃない。今ごろ、恐怖に怯えているであろう生徒たちを守れる力があることを示すことが、彼女にとっての”希望”なのだ。
 仮に自分が消えてしまっても、後を託せる人がいるということを示してほしいのだ。
 そして託されるのは、今戦っている自分なんだ!
「………校長先生……ありがとうございます」
「いえいえ。私はただ、自分の思っていることを述べたまでですよ」
 薫の瞳に光が戻ったことを確認して、校長は再び笑みを浮かべる。
 とても綺麗な光を宿した瞳。きっと彼女なら、生徒たちを……。
「さぁ薫さん、この状況をどうしますか?」
「もちろん、逆転します」
「そうですか。ではスタンバイフェイズにセットカードを発動しましょう」
 校長の場に伏せられていたカードが開かれる。


 王宮のお触れ 
 【永続罠】
 このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
 このカード以外のフィールド上の罠カードの効果を無効にする。


「これであなたは魔法、罠カードを使えなくなったも同然です。さぁ、どうしますか?」
「問題ありません。いきます!」
 魔法と罠カードの封殺。
 たしかに端から見れば厳しい状況だろう。けどこれぐらいの状況をなんとかできなければ、スターのリーダーは務まらない。ましてや、みんなを闇の力から守ることなんか出来るはずがない。
「相手の場にだけモンスターがいることで、手札から"サイバー・ドラゴン"を特殊召喚!!」
 反撃の狼煙と言わんばかりに、薫の場に現れた機械龍が咆哮をあげた。


 サイバー・ドラゴン 光属性/星5/攻撃力2100/守備力1600
 【機械族・効果】
 相手フィールド上にモンスターが存在し、自分フィールド上にモンスターが存在していない場合、
 このカードは手札から特殊召喚する事ができる。


「手札の"ボルト・ヘッジホッグ"を墓地に送って、"クイック・シンクロン"を特殊召喚だよ!」
 薫の場に、カウボーイハットを被った戦士が現れる。
 両手の二丁拳銃を華麗に構え、マントをバサリとなびかせた。


 クイック・シンクロン 風属性/星5/攻700/守1400
 【機械族・チューナー】
 このカードは手札のモンスター1体を墓地へ送り、
 手札から特殊召喚する事ができる。
 このカードは「シンクロン」と名のついたチューナーの代わりに
 シンクロ素材とする事ができる。
 このカードをシンクロ素材とする場合、「シンクロン」と名のついた
 チューナーをシンクロ素材とするモンスターのシンクロ召喚にしか使用できない。


「そして、さっき墓地に送った"ボルト・ヘッジホッグ"は、自分の場にチューナーがいれば特殊召喚できる!」
 カウボーイハットを被った戦士の隣に、背に無数のボルトを突き出したハリネズミが現れた。


 ボルト・ヘッジホッグ 地属性/星2/攻800/守800
 【機械族・効果】
 自分フィールド上にチューナーが表側表示で存在する場合、
 このカードを墓地から特殊召喚する事ができる。
 この効果で特殊召喚したこのカードはフィールド上から離れた場合、ゲームから除外される。


「レベル2の"ボルト・ヘッジホッグ"にレベル5の"クイック・シンクロン"をチューニング!!」
 無数の光の輪が出現し、2体のモンスターの体が同調していく。
 緑光の柱が立ち、その光から新たな戦士が姿を現す。
「シンクロ召喚!! 出てきて! "ジャンク・アーチャー"!!」


 ジャンク・アーチャー 地属性/星7/攻2300/守2000
 【戦士族・シンクロ/効果】
 「ジャンク・シンクロン」+チューナー以外のモンスター1体以上
 1ターンに1度、相手フィールド上に存在するモンスター1体を選択して発動する事ができる。
 選択したモンスターをゲームから除外する。
 この効果で除外したモンスターは、
 このターンのエンドフェイズ時に同じ表示形式で相手フィールド上に戻る。


 薫の場に現れた、巨大な弓を携える戦士。
 1度も召喚権を使わずに、強力なモンスターが現れたことに、校長は驚きを隠せなかった。
「"ジャンク・アーチャー"の効果発動だよ。相手モンスター1体をエンドフェイズまで除外する。私はこの効果で、校長先生の場にいる"ロード・オブ・ドラゴン−ドラゴンの支配者−"を除外するよ!」
 戦士が弓を大きく引き絞り、竜の支配者へ向けて光の矢を放つ。
 その矢は敵に突き刺さる前に空間に穴をあけ、竜の支配者を次元の狭間に飲み込んでしまった。

 ロード・オブ・ドラゴン−ドラゴンの支配者−→除外
 明鏡止水の心→破壊

 "明鏡止水の心"が装備されたモンスターは、対象を取る破壊効果を無力化する力がある。だが無力化できるのは、あくまで”破壊効果”だけだ。ジャンク・アーチャーの”除外効果”なら、問答無用で場から取り除くことができる。
 そして竜の支配者がいなくなったことで、ドラゴン達を守護する力は無くなった。
「これでもうドラゴン達に効果耐性は無くなったよ」
「ですが依然として魔法と罠は封じてありますよ?」
「大丈夫です。まだ私は通常召喚をしていません。手札から"召喚僧サモンプリースト"を召喚します」


 召喚僧サモンプリースト 闇属性/星4/攻800/守1600
 【魔法使い族・効果】
 このカードはリリースできない。
 このカードは召喚・反転召喚に成功した時、守備表示になる。
 1ターンに1度、手札から魔法カード1枚を捨てる事で、
 自分のデッキからレベル4モンスター1体を特殊召喚する。
 この効果で特殊召喚したモンスターは、そのターン攻撃する事ができない。


 召喚僧サモンプリースト:攻撃→守備表示

「サモンプリーストの効果発動。手札の魔法カード"調律"を墓地へ送って、デッキから"レスキューキャット"を特殊召喚します!」
 不気味な雰囲気を持つ僧が、なにやら呪文を唱え始める。
 すると僧の横に召喚時が浮かび上がり、そこからヘルメットをかぶった小さな子猫が現れた。


 レスキューキャット 地属性/星4/攻300/守100
 【獣族・効果】
 自分フィールド上に表側表示で存在するこのカードを墓地に送る事で、
 デッキからレベル3以下の獣族モンスター2体をフィールド上に特殊召喚する。
 この方法で特殊召喚されたモンスターはエンドフェイズ時に破壊される。


「こんな簡単に制限カードを登場させるとは、さすがですね」
「まだです! "レスキューキャット"の効果発動。このカードを墓地に送ることでデッキからレベル3以下の獣族モンスターを2体特殊召喚します!」
 子猫が胸にぶら下げた笛を吹き鳴らす。
 笛を鳴らすことに疲れ果ててしまった子猫の後ろから、呼ばれたように2体のモンスターが現れた。

 レスキュー・キャット→墓地
 デス・ウォンバット→特殊召喚(攻撃)
 X−セイバー エアベルン→特殊召喚(攻撃)

 デス・ウォンバット 地属性/星3/攻1600/守300
 【獣族・効果】
 このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
 コントローラーへのカードの効果によるダメージを0にする。


 X−セイバー エアベルン 地属性/星3/攻1600/守200
 【獣族・チューナー】
 このカードが直接攻撃によって相手ライフに戦闘ダメージを与えた時、
 相手の手札をランダムに1枚捨てる。


「レベル4の"召喚僧サモンプリースト"にレベル3の"X−セイバー エアベルン"をチューニング!!」
 再び現れる無数の光の輪。2体のモンスターが力を合わせ同調し、新たな力を創造する。
 光の中から現れたのは、白の装飾に身を包む魔導士の姿。
「シンクロ召喚! お願いね! "アーカアイト・マジシャン"!!」


 アーカナイト・マジシャン 光属性/星7/攻400/守1800
 【魔法使い族・シンクロ/効果】
 チューナー+チューナー以外の魔法使い族モンスター1体以上
 このカードがシンクロ召喚に成功した時、このカードに魔力カウンターを2つ置く。
 このカードに乗っている魔力カウンター1つにつき、このカードの攻撃力は1000ポイントアップする。
 また、自分フィールド上に存在する魔力カウンターを1つ取り除く事で、
 相手フィールド上に存在するカード1枚を破壊する。

 アーカナイト・マジシャン:魔力カウンター×0→2
 アーカナイト・マジシャン:攻撃力400→2400

「ま、またシンクロ召喚ですか……」
「アーカナイトの効果発動! 魔力カウンターを1つ取り除くたびに、相手のカードを1枚破壊できる! 私は魔力カウンターを2つ取り除いて、ホルスの黒炎竜を2体破壊するよ!!」
 魔導士がその身に宿る魔力を力に変換し、杖から魔力弾を放つ。
 高密度の魔力が込められた弾に、2体の黒炎竜は為すすべもなく打ち抜かれてしまった。

 アーカナイト・マジシャン:魔力カウンター×2→1→0
 アーカナイト・マジシャン:攻撃力2400→1400→400
 ホルスの黒炎竜 LV6→破壊
 ホルスの黒炎竜 LV8→破壊

「あら……まぁ……」
 さっきまでとは明らかに違う状況に、校長は言葉を失ってしまう。
 君臨していた強力なモンスターはすべて場から取り除かれ、代わりに相手の場には強力なモンスターが3体もいる。
「まさか本当に、逆転してしまうとは……」
「まだです! 手札から"シンクロキャンセル"を発動します! ホルスの黒炎竜がいなくなったから、私の魔法カードは使用可能です!」
「……!!」


 シンクロキャンセル
 【通常魔法】
 フィールド上に表側表示で存在するシンクロモンスター1体をエクストラデッキに戻す。
 さらに、エクストラデッキに戻したこのモンスターのシンクロ召喚に使用した
 モンスター一組が自分の墓地に揃っていれば、この一組を自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。


「この効果で、"アーカナイト・マジシャン"のシンクロを解除して、素材になった2体のモンスターへ戻すよ」
 力を使い果たして疲れ切った魔導士が分離して、僧と獣のモンスターに分離した。


 召喚僧サモンプリースト 闇属性/星4/攻800/守1600
 【魔法使い族・効果】
 このカードはリリースできない。
 このカードは召喚・反転召喚に成功した時、守備表示になる。
 1ターンに1度、手札から魔法カード1枚を捨てる事で、
 自分のデッキからレベル4モンスター1体を特殊召喚する。
 この効果で特殊召喚したモンスターは、そのターン攻撃する事ができない。


 X−セイバー エアベルン 地属性/星3/攻1600/守200
 【獣族・チューナー】
 このカードが直接攻撃によって相手ライフに戦闘ダメージを与えた時、
 相手の手札をランダムに1枚捨てる。


「………………」
「これで、私の場にいるすべてのモンスターの攻撃力の合計は8400です」
「モンスターのいない私に……すべての攻撃が通れば、私のライフは0になる……ということですか」
 自分の敗北を確信したのか、校長の体から力が抜ける。
 正直な話、予想以上の力だった。
 まさか本当にこの状況を覆し、相手のライフをすべて削りきる布陣を並べてしまうとは……。
「これがあなたの実力ですか。素晴らしいです、薫さん」
「……ありがとうございます」
「ふふっ、本当に見事です。私の負けです。薫さん」
「校長先生、このまま攻撃すれば激痛が体を襲うと思います。ですから、サレンダーしていただけませんか?」
「ですがサレンダーは自分のターンにしか行えません。あなたはこのまま何もせずにターンエンドするつもりですか? 次のターンに私が何かしないとも限りませんよ?」
「……私は、校長先生を信じます」
「では、その期待を裏切ろうと思います。あなたが何もせずにターンを終えるなら、私は次のターンに必ず反撃することになるでしょう」
 優しい笑みを浮かべたまま、校長は言った。
 その言葉が本心でないことは、考えるまでもなく分かることだった。
 なのにどうして、攻撃を促すような言葉を発するのか……考えれば簡単なことなのかもしれない。
「っ……バトルです!!」
 躊躇いそうになる心を抑えて、薫は叫ぶ。
 主人の命令に従って、モンスターたちは一斉に相手へ攻撃した。

 校長:8000→7200→5600→4000→1900→0LP



 校長のライフが0になり、闇の結晶が砕け散る。



 そして決闘は、終了した。



 校長の体を覆っていた闇が晴れて、校長がゆっくりと倒れ込む。
 薫は急いで駆け寄り、床に倒れる前にその体を支えた。
「だ、大丈夫ですか?」
「ふふっ、この年にはなかなかキツイですね……」
「ごめんなさい……」
 責任を感じて俯く薫の顔に、校長はそっと手を添える。
 傷つきながらも、たくさんの生徒に見せてきた優しい笑みで、語りかける。

「薫さん、あなたは体は大人でも、心は子供のように純粋ですね。大丈夫。あなたならできます。心を強く持って、前を向いていてください。それだけで、あなたは自分の信念を貫くことができるはずです」

「校長……先生……」
 決闘に負けたことで、校長の体が足元から消えていく。
 あの放送で言われていたことが、真実であることが分かった。
「薫さん、あとはすべて、あなた達にお任せします。多大な負担になると思いますが、どうかお願いします」
「分かりました。必ずみんなを、守って見せます」
「ええ。お願い……しま……」
 言い終わる前に、校長は意識を失う。
 それから数十秒も経たないうちに、体は黒い霧となって消えてしまった。

『薫ちゃん……』
 コロンが心配そうに呼びかける。
『大丈夫?』
「……うん。ありがとうコロン」
 小さな頭を撫でて、微笑みで答える。
 後悔している場合じゃない。
 自分は、想いを託されたんだ。必ず生徒たちを守るって約束したのだ。
 そのために、今の学校の状況について詳しく調査しなければいけない。
「行こうコロン。早くこの空間を、抜け出す方法を見つけよう」
『うん!!』

 立ち止まっている時間は無い。
 小さなパートナーと共に、薫は教務室を出て行った。




episode7――張り巡る策略――




「ここが男子更衣室か」
 隣で雲井が言う。そのすぐそばにはライガーもいる。
「ああ。来たことなかったのか?」
「まぁな。グラウンド近くの更衣室って、たいていは部活のやつらが占領してて入りづらいしな」
「そうか」
 たしかに依然入った時はラグビー部やら野球部やらサッカー部の部員が占領しているような状態だったな。
 グラウンドが近いということもあって、自然とこの更衣室は野外部活専用の場所のような認識が取られてしまったのだろう。
「入るぞ」
「おう」
 ドアノブを捻って、ドアを開ける。
 冬と言う季節のためか、冷たい空気が流れてきた。
 窓もロッカーもすべて閉められていて、シャワー室には誰もいないようだ。
「それにしても、ここに痕跡なんか残っているのかよ? 普通、犯人なら痕跡とか残さないんじゃないか?」
「分からないだろ。探してみなきゃ……」
「けっ! なんかてめぇらしくねぇぞ中岸。もしかして焦ってんのか?」
 会話をしながら、1つ1つロッカーを開いて、中身を確認しては元に戻していく。
 雲井の言う通りなのかもしれない。学校に闇の力が現れて、友達が敵になって、それを俺が消してしまって……分からないことの連続で、いつもの冷静さを欠いているのは事実だ。
 でもじっとしていても、心の整理がつく気がしなかったのだ。
「なぁライガー。なんか痕跡とかねぇのかよ?」
『……ああ。痕跡は無いな』
「やっぱそう簡単には見つからねぇよなぁ」
 すべてのロッカーを確認しても、何かが見つかることは無かった。やはり相手も、痕跡を残すほど甘くは無いらしい。
「……何にもなかったな」
「悪かったな。これから、どうする?」
「てめぇが決めろよ」
「…………」
 痕跡は無かった。だとしたらもうやることは無い。
 さっき流れた全校放送。あの声の言っていることが確かなら、俺への誤解も解けていて欲しいと思う。
「ライガー、さっきの声はアダムで間違いないのか?」
『ああ。そこの小僧も直に対峙したのだから分かるはずだが?』
「雲井はどうなんだ?」
「けっ、ライガーの言うとおりだぜ。あれはアダムってやつの声だったぜ」
「そうか……」
 ついに本格的に動き出したということなのだろう。
 だとしても目的が分からない。どうしてわざわざ学校全体を巻き込んでまで、こんな事件を引き起こさなければならなかったんだ?
 それに、さっきの放送も変だ。いかにも俺達にサバイバルをさせたいかのような内容だったし……。
 アダムの放送のすぐ後に教頭先生からの全校放送で「誰とも決闘をしないように」と言われたし、他のみんなが決闘することは無いと思うが……。
「こんなところで考え込んでんじゃねぇよ。早くここから出ようぜ」
「ああ」
 たしかにここで考えても仕方ないか。
 やれやれ、まさか雲井に指摘されるとは……。

「あれ? ドアが開かねぇ?」

「は?」
 雲井がガチャガチャとドアノブを回そうとするが、それは一向に回る気配がない。
「本当に開かないのか?」
「ああ。ど、どうなってんだよ!?」
「知るかよ」
 俺もドアノブを回そうとするが、それはまるで凍ったかのように動かない。
 なんだ? いったいどうして?

 ザーーーーーーーーーーーー

「この音……シャワー室か?」
 シャワー室の方へ目をやると、そこからゆっくりと水たまりがこちらへ広がってきていた。
「なっ!?」
「ちょ、ちょっと待てよ!? 排水溝はどうなってんだよ!?」
 とめどなく放出される水は止まる気配がなく、ついには床全体に水たまりが出来てしまう。
 このまま放っておけば、この部屋は浸水してしまうような気がした。
「ら、ライガー! 何がどうなってんだ!?」
『闇の力で換気扇以外の場所を閉じているんだ。シャワーも同じく放出したまま止まらないようにしてある』
「なんで平然と言ってんだよ! てめぇさっき闇の力は無いって言ったじゃねぇか!」
『何を勘違いしている。我は”痕跡がない”と言ったのだ。闇の力の気配は、お前たちがこの部屋に入った時から感じていたに決まっているだろう』
「……!!」
 俺達が部屋に入ってきたときからって……つまり罠ってことか。
 おそらくつけられていたのだろう。まったく気づかなかったな。
「どうすんだよ。このままじゃ溺れちまうぞ」
「くっそ……」
 窓を開けてみようと試みたが、ドアと同じようにまったく動かない。
 水はすでに足首まで浸かっている。ここが水でいっぱいになるのも、時間の問題だろう。
「どうにかして脱出しないとまずいぞ!」
「分かってる」
 どうすればいい。ドアも窓も開けないし、シャワーからの水の放出は止めることはできない。
 天井にある換気扇はとても小さく、窒息を防ぐための空気穴として活用するのは無理だろう。
 可能性があるとすれば……。
「なぁライガー」
『なんだ小僧?』
「ライガーなら、この状況をなんとかできるか?」
『ほう。どうしてそう思う?』
「このまま放っておいたら、俺達もライガーも溺れる。なのにお前は、たいして焦ってもいなかった。それってつまり、何か方法があるってことなんじゃないのか?」
 俺がそう言うと、ライガーは小さく息を吐きながら笑みを浮かべた。
 血のような赤い瞳が、鋭く光る。
『なかなか頭が回るな小僧。我の持ち主とは大違いだ』
「おい! 俺を馬鹿にしてんのか!?」
『黙っていろ小僧。ここを出るには、貴様の協力が不可欠だ』
「脱出できるのか?」
『そこの馬鹿な小僧の対応次第だがな』
「……雲井、頼む」
 他に方法が無い。水はすでに膝下まで来ている。
 早くしないと取り返しがつかない。
「へっ、分かったぜ。ライガー、どうしたらいいんだ?」
『簡単だ。我に体を貸せ』
「っ!」
『落ち着け。何も小娘の時のように支配しようというわけではない。この体では我の力が発揮できないため、力を扱うための媒体が欲しいだけだ。そして媒体となれるのは、持ち主である貴様しかいない』
「…………」
 雲井はしばらく考え込む。
 体を貸せと言われて、すぐに”はい”と言えるはずもないだろう。
「………分かったぜ」
「雲井、いいのか?」
「ああ。こんな野郎に好き勝手やらせるほど俺はヤワじゃねぇぜ」
『ふん、言ってくれるな小僧。では、デュエルディスクを展開させろ』
 言われた通り、雲井はデュエルディスクを展開させて腕に装着する。
『よし、あとは我をそこにセットして殴れ』
 ライガーは不敵な笑みを浮かべ、カードへと変形する。
 雲井は躊躇なくライガーのカードをセットした。
 次の瞬間、デュエルディスクから黒い霧が溢れ出して、雲井の左腕にまとわりつく。
「っ……!!」
 一瞬だけ歯を食いしばったあと、雲井は静かに目を開けた。
 その左腕からは黒いオーラのようなものが溢れていて、とてつもない力を感じる。
「……中岸、そこどけ」
 その口から発せられた言葉に妙な威圧感を感じ、俺はドアの前から退く。
 部屋にたまった水は、すでに膝をまで届いていた。
「いくぜ!」
 雲井が腕を引き、一気に拳を前へ突き出す。
 突き出した左手がドアにぶつかった瞬間、ドア全体に亀裂が入った。
「なっ」
 そして亀裂の入ったドアは、形状を維持できなくなりバラバラに砕け散った。
 部屋にたまっていた水がドアを通して廊下へ流れ出ていく。
「……なにしたんだ?」
 尋ねた瞬間、雲井の体から黒い霧が噴き出して1か所に集まり、ライガーに変化した。
 雲井の左腕も元の状態に戻っていた。
『言っただろう。これが我の力だ』
「ドアを、破壊したのか?」
『その通りだ。もともと我は、攻撃に特化した神だったからな。こうした破壊行為は得意分野なのだ。もっとも、以前のように万物を破壊できるわけではなくなってしまったがな』
 ライガーは溜息交じりにそう言った。
 ドアを粉々に破壊できるほどの力が、劣化した力だとは恐れ入る。
「けっ、やればできんじゃねぇか。こんな力があるなら早く教えてくれよ」
『馬鹿を言うな。万物を破壊できなくなったと言っても、大概の物は破壊できるのだ。それにこの力は我の体力も奪う。よほどのことが無い限り、使うつもりは無い』
「なんだよ。ずいぶん弱気な発言じゃねぇか」
『ふん。貴様も気を付けろよ小僧。この力は、一定以上の衝撃を与えれば問答無用で発動する。あの状態で床を強く殴りでもしたら、床が全壊するぞ』
「うっ……」
 さらっと恐ろしいことを口にしたライガーに、雲井は反論できない。
 その言葉が本当なら、迂闊に使うわけにもいかないだろう。
『あと忠告だが、あまりこの力をスターの前で使うなよ。我の力は、闇の力、白夜の力にも有効だ。もっとも、我の持つ闇の力以上の闇の力や白夜の力は無力化できないがな』
「けっ! 言われなくたって、味方に使うわけねぇだろうが」
 そう言って雲井はさっさと更衣室を出ていく。
 俺もライガーも後に続いて、更衣室を抜け出した。


「あれれ? 脱出してんじゃん。うわーショックー」


 更衣室を出てきた俺達を待ち構えていたのは、軽い口調をした男子生徒だった。
 その胸には闇の結晶のペンダントがぶらさげてある。
「なにさなにさ。せっかく水で部屋をいっぱいにして、リタイアするように促すつもりだったのに、こんな簡単に脱出させられちゃたまったもんじゃないよ」
 耳にピアスをはめて、片側だけ長くした髪にだらしない制服姿。
 どこかチャラいその男子は、ケラケラと笑いながら言葉を続ける。
「ったくさぁ、”あの人”は人使いが荒いんだよねぇ。まぁ頭もよさそうだし、黙って従ってれば学校から脱出できるみたいだからさぁ」
「”あの人”って、アダムの事か?」
「アダム? だれそれ? 新手のバンドか何か? あぁ、思い出した。あれでしょ。食べちゃいけない果物食べたせいで神様からディスられちゃった人でしょ? 大爆笑だよね。神様も果物食べたくらいで怒んなくてもいいと思わない?」
 ぺらぺらとお喋りな男子だ。
 ”あの人”がアダムでないとするなら、一体誰なんだ?
 このまま上手く誘導して、情報を引き出して―――。

「てめぇか!! あんな悪質な罠を張りやがったのわ!!」

 情報を引き出してやろうと思っていた矢先、雲井が突っかかった。
「てめぇのせいでズボンがびしょ濡れだろうが! 責任とってもらうぜ!!」
「えぇぇぇ、いやだよぉ。どうせここで君は始末するんだし、意味なくない?」
「はぁ!?」
「さっきの放送聞いたでしょ? ここで決闘して負ければ、敗者は消えちゃうんだよぉ。だから簡単に邪魔者は排除できるわけでさぁ。つまりこれから、俺と決闘してもらうよぉ?」
 ヘラヘラとした笑みを浮かべる男子の体から闇が溢れ出す。
 それは一瞬で俺と雲井を分断し、闇の空間を作り出してしまった。
「くそっ!」
 これじゃあ雲井を助けることが出来ない。
 負けたら消えてしまう決闘が、始まってしまう。


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 闇の力によって作られた空間で、俺とチャラい男子が向き合う。
 相変わらずヘラヘラした笑みを浮かべ、まるで俺を馬鹿にするような視線を向けてくる。
「まずは俺から始末するってか。上等だぜ」
「いやぁ、普通に考えてそうでしょお。なんたって中岸大助は闇の力を破壊できる。この闇の力は、俺達にとって生命線なんだよねぇ」
「どういうことだよ?」
「負けたら消えちゃう決闘なんだけどさ、実は例外があるんだよね。この闇の結晶を身に着けた人間は、負けても消えないんだ」
「なにっ!?」
 闇の結晶を付けた人は、決闘に負けても消えないだと!?
 冗談じゃねぇぞ。じゃあ俺が倒しても、目の前にいるこいつは消えないってことじゃねぇか。
「分かったかなぁ。君は闇の力を破壊できないんでしょ? だから負けても俺にはリスクがないの。そして君はリスクがありまくりってわけ。俺が勝つまで、何度でも闇の決闘に付き合ってもらうよぉ?」
「……!!」
 こいつ、俺に勝つまで何度でも決闘するつもりか。
 ちくしょう、だから先に俺を狙ったって訳か。消えるリスクのない相手から確実に始末するってことかよ。
「さぁ始めようぜぇ。楽しい楽しい決闘をさぁ」
「くそったれ……」
 やべぇ、どうする?

『手を貸してやろうか小僧』

「ライガー……」
 いつの間にか、俺の足元に子犬モードのライガーがいた。
 俺を見上げながら、どこか不敵な笑みを浮かべている。
『まったく、貴様も難儀だな。弱いゆえに狙わるとは』
「てめぇ、馬鹿にしてんのか」
『まぁな。さて、話を戻すぞ。単刀直入に言えば、あの生意気な小僧の目論見は崩せる』
「マジかよ?」
『ああ。とりあえずこの決闘に勝て、あとは我がなんとかしてやろう』
「けっ、てめぇに言われなくたってこんなやつに負けっかよ!!」
 バッグからデュエルディスクを取り出し、同じく取り出したデッキを差し込む。
 ライガーもカードに変化して、デッキの中に入り込んだ。
「あーあ、めんどいなぁ。ちゃちゃっと終わらせようよぉ〜」
 チャラ男もデュエルディスクを構えて、俺を見据える。
「てめぇ、名前を教えやがれ」
「俺ぇ? 俺は石田だよぉ?」
「けっ、そのふざけた態度もそこまでだぜ!!」



「「決闘!!」」



 雲井:8000LP   石田:8000LP



 決闘が始まり、石田のデュエルディスクから深い闇が溢れ出す。
「この瞬間、デッキからフィールド魔法を発動させてもらうよぉ」
 作り出された空間は、赤や青、黄色などのスプライトが入った黒い世界だった。
「これは……」
「ふふーん。これが俺の”反転する闇の世界”さ!!」


 反転する闇の世界
 【フィールド魔法】
 このカードはデュエル開始時に、デッキまたは手札から発動する。
 このカードはフィールドから離れない。
 このカードがフィールドに表側表示で存在する限り、
 フィールド上に表側表示で存在する全てのモンスターの元々の攻撃力・守備力を入れ替える。


「攻守逆転……てめぇらしいおかしな効果だぜ」
「あれまぁ、他の人にも言われたよぉ。でもさぁ、”あの人”が言ってたんだよねぇ。どんな効果だって、使い方次第でいくらでも強力になるってさぁ」
「けっ! いくらでも言いやがれ!」
 デュエルディスクの赤いランプが点灯する。
 よし、先攻は俺からだぜ!!
「俺のターン、ドロー!!」(手札5→6枚)
 攻撃力と守備力が逆転する効果か……。
 思ってたよりたいした効果じゃなさそうだぜ。これなら簡単に勝つことが出来る!!
「手札から"デス・カンガルー"を召喚だぜ!!」


 デス・カンガルー 闇属性/星4/攻撃力1500/守備力1700
 【獣族・効果】
 守備表示のこのカードを攻撃したモンスターの攻撃力がこのカードの守備力より低い場合、
 その攻撃モンスターを破壊する。


 デス・カンガルー:攻撃力1500→1700 守備力1700→1500

 周りのスプライトの光が一瞬輝いたかと思うと、モンスターの攻守が入れ替わってしまった。
 やっぱりたいした効果じゃねぇ。しかもこの効果のおかげで、カンガルーの攻撃力が少しアップしたぜ!
「俺はカードを1枚伏せて、ターンエンドだぜ!!」


 ターンが終わり、石田へとターンが移った。


「じゃあ俺のターン、ドロ〜」
 締まらない態度でカードを引く石田に、若干の苛立ちを覚える。
 ちくしょう、どんだけ俺のことを舐めてんだよ……。
「おっ、ラッキー♪ 手札から"融合"を発動するよぉ」
「!?」


 融合
 【通常魔法】
 手札・自分フィールド上から、融合モンスターカードによって決められた
 融合素材モンスターを墓地へ送り、その融合モンスター1体を
 エクストラデッキから特殊召喚する。


「手札の"おジャマ・イエロー"と"おジャマ・ブラック"を融合。出てきてくださぁーい"おジャマ・ナイト"!!」
 空間に生まれた光の渦。石田の手札にいた2体のモンスターが、その中に飲み込まれて、分厚い鎧に身を固めたモンスターが姿を現した。


 おジャマ・ナイト 光属性/星5/攻0/守2500
 【獣族・融合/効果】
 「おジャマ」と名のついたモンスター×2
 このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
 使用していない相手のモンスターカードゾーンを
 2ヵ所まで指定して使用不可能にする。


 おジャマ・ナイト:攻撃力0→2500 守備力2500→0

「こ、攻撃力2500……!?」
「そうさぁ。君が馬鹿にしたこの闇の世界のおかげで、俺のデッキは革新的な進化を遂げたんだよねぇ。それじゃあバトルさせてもらうよぉ?」
 石田の攻撃宣言。
 モンスターが手に刃渡りの短い剣を握って突進する。場にいる俺のモンスターはそれを回避しようとサイドステップを試みたが間に合わず、その剣にたやすく切られてしまった。

 デス・カンガルー→破壊
 雲井:8000→7200LP

「ちっ…!」
 発生したダメージと、微かな痛み。これが本物の闇の決闘だということを物語っている。
 くそ、まさか【おジャマデッキ】を使うなんて考えてもみなかったぜ。おジャマがどういうスタイルのデッキだったかはあんまり覚えてねぇけど、なんか嫌な予感しかしねぇな。
「あっ、そうそう、忘れてたけどぉ、ナイトがいる限り、君のモンスターゾーンは2つとも使えないから、そこんところよろしくぅ〜」
「なっ!?」
 フィールドをよく見ると、俺の場におかしな格好をしたオブジェクトが2つ置かれていた。
 モンスターゾーンを使用不可にする効果……まったく、めんどくせぇ効果だぜ。
「俺はカードを1枚だけ伏せて、ターンエンドだよぉ〜」

-------------------------------------------------
 雲井:7200LP

 場:(モンスターゾーン2つ使用不可)
   伏せカード1枚

 手札4枚
-------------------------------------------------
 石田:8000LP

 場:反転する闇の世界(フィールド魔法)
   おジャマ・ナイト(攻撃:2500)
   伏せカード1枚

 手札2枚
-------------------------------------------------

「よっしゃ!! 俺のターンだぜ!! ドロー!!」(手札4→5枚)
 たかだか攻撃力2500なんて、たいしたモンスターじゃねぇぜ。
 このターンで一気に―――。
「スタンバイフェイズに、このカードを発動ねぇ」
「っ!?」


 おジャマトリオ
 【通常罠】
 相手フィールド上に「おジャマトークン」(獣族・光・星2・攻0/守1000)を
 3体守備表示で特殊召喚する(生け贄召喚のための生け贄にはできない)。
 「おジャマトークン」が破壊された時、このトークンのコントローラーは
 1体につき300ポイントダメージを受ける。


 おジャマトークン×3:攻撃力0→1000 守備力1000→0

 石田がカードを開いた瞬間、俺の空いているモンスターゾーンに3体のトークンが出現した。
 使用不可能な2つのモンスターゾーンを合わせて、俺のモンスターゾーンが埋まってしまう。
 それはつまり、俺はこれ以上モンスターを場に出せないことを意味していた。
「ちなみにそのトークンはアドバンス召喚のリリースには使えないよぉ?」
「っ!!」
 これ以上、モンスターが召喚できないだと!?
 じょ、冗談じゃねぇ。いくらなんでもキツすぎるぜ。
「どぉするのぉ?」
「……っ、俺はカードを1枚伏せて、ターンエンドだぜ」



「ぷふっ、やっぱねぇ。そんな程度だと思ったよぉ」
 何もできなかった俺を見ながら、石田は小馬鹿にした笑みを浮かべる。
 それと同時に、自身の勝利も確信しているように感じた。
「それじゃあ俺のターンね、ドローっと」(手札2→3枚)
 余裕の表情でカードを引く石田に対して、俺はかなり焦っていた。
 やべぇどうする? モンスターが出せない以上、超攻撃力で一気に倒すのは無理に近い。
 このトークンだって………いや、待てよ?
 別にこのトークン、攻撃表示にしちまってもいいんだよな?
 そうか! そうだぜ!! さすが俺!!
 次のターンに俺がトークンで自爆特攻してしまえば、モンスターゾーンが空くじゃねぇか。
 そうなればモンスターも召喚できる! 一気にあいつをぶっ飛ばせるぜ!!
「じゃあ、"手札抹殺"を発動するねぇ」


 手札抹殺
 【通常魔法】
 お互いの手札を全て捨て、それぞれ自分のデッキから
 捨てた枚数分のカードをドローする。


 すべてをの手札を捨てて、捨てた枚数分だけドローする魔法カード。
 手札を交換するつもりみてぇだけど、それはこっちにとっても好都合だぜ!!
「この効果で、俺は2枚、君は4枚を交換ね」

――【石田の捨てた手札】――
・おジャマジック
・魔の試着部屋

――【雲井の捨てた手札】――
・マジック・プランター
・ビッグ・コアラ
・簡易融合
・融合呪印生物−地

 モンスターゾーンが埋まっているせいで使用できないカードばかりが手札にたまっていたから助かったぜ。
 しかも引いたカードはどれも強力なカードばかりだ。
「この瞬間、墓地に送られた"おジャマジック"の効果発動ね」
「なに?」


 おジャマジック
 【通常魔法】
 このカードが手札またはフィールド上から墓地へ送られた時、
 自分のデッキから「おジャマ・グリーン」「おジャマ・イエロー」
 「おジャマ・ブラック」を1体ずつ手札に加える。


「"おジャマジック"は墓地に行くと、デッキからおジャマ3兄弟を手札に加える効果を発揮する。当然、俺もデッキから"おジャマ・イエロー"と"おジャマ・グリーン"、"おジャマ・ブラック"を手札に加えるよ」(手札2→5枚)
「一気に手札が増えやがった……!」
「ぷふっ、まだまだこれからだよ。手札から"トークン収穫祭"を発動」


 トークン収穫祭
 【通常魔法】
 フィールド上のトークンを全て破壊する。
 破壊したトークンの数×800ライフポイントを回復する。


「これで君の場にいる3体のトークンを破壊して、俺は800×3、つまり2400のライフを回復。そしておジャマトークンを破壊されたプレイヤーは1体につき300のダメージを受ける。よって合計900のダメージねぇ」

 おジャマトークン×3→破壊
 石田:8000→10400LP
 雲井:7200→6300LP

「ぐっ…」
 思わぬ形でのダメージだった。
 けど都合がいいぜ。わざわざ向こうから邪魔なトークンを消してくれるなんてな。
 これで――――。
「そして"融合"を発動だよ」
「……は?」
「手札のおジャマ3兄弟を融合して、でてきなよ"おジャマ・キング!!"」
 再び現れる巨大な光の渦。
 今度は3体のモンスターがその中に飲み込まれて、まるまると太り大きな王冠を被ったモンスターが現れた。

 融合
 【通常魔法】
 手札・自分フィールド上から、融合モンスターカードによって決められた
 融合素材モンスターを墓地へ送り、その融合モンスター1体を
 エクストラデッキから特殊召喚する。


 おジャマ・キング 光属性/星6/攻0/守3000
 【獣族・融合/効果】
 「おジャマ・グリーン」+「おジャマ・イエロー」+「おジャマ・ブラック」
 このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
 相手のモンスターカードゾーンを3ヵ所まで使用不可能にする。


 おジャマ・キング:攻撃力0→3000 守備力3000→0

「こ、攻撃力3000だって!?」
「そうだよぉ。しかもキングが場にいる限り、君のモンスターゾーンは3つ使用できなくなる。これがどういう意味か分かるかなぁ?」
「……!」
 おジャマ・ナイトの効果でモンスターゾーンを2つ封じられた俺の空いているモンスターゾーンは残り3つ。そして、キングの効果は3つのモンスターゾーンを使用不可能にする……つまり………!!
「気づいたかなぁ? これで、君はすべてのモンスターゾーンが使用不可能になったんだよ」
「なんだって……!?」
 モンスターのいない場所に、新たなオブジェが3つ配置される。
 どのオブジェも憎たらしい笑みを浮かべて、こっちに嫌味な笑みを送っている。
「なんかさぁ、攻撃力が売りみたいだけど、モンスターが場に出せなきゃ意味ないよねぇ、ぷふふっ!」
「て、てめぇ!!」
「あはは、じゃあバトルねぇ」
 ナイトとキングが、その高い攻撃力を振りかざして襲い掛かってくる。
 この攻撃をまともに喰らえば、俺のライフは1000を切ってしまう。通せるわけがねぇ。
「ふ、伏せカード発動だぜ!!」
 襲い掛かってくる2体のモンスターを、強力な光の網が絡め捕った。


 グラヴィティ・バインド−超重力の網
 【永続罠】
 フィールド上に存在する全てのレベル4以上のモンスターは攻撃をする事ができない。


「これで、そいつらは攻撃出来ねぇぜ!!」
「なんだ防御カードを持ってたのかぁ、つまんないのぉ〜。手札もなくなっちゃったし、俺はこれでターンエンドねぇ」

-------------------------------------------------
 雲井:6300LP

 場:(モンスターゾーン全て使用不可)
   グラヴィティ・バインド−超重力の網(永続罠)
   伏せカード1枚

 手札4枚
-------------------------------------------------
 石田:10400LP

 場:反転する闇の世界(フィールド魔法)
   おジャマ・キング(攻撃:3000)
   おジャマ・ナイト(攻撃:2500)

 手札0枚
-------------------------------------------------

「俺のターン……」
 やばい、やばすぎる。
 モンスターゾーンが全部使えないなんて状況、今まで経験したこともねぇ。
 手札には良いカードが来てるのに、モンスターが出せないんじゃそのカード達を使うことすら出来ないじゃねぇか。
「くそったれ……!」
 こんなときはどうしたらいいんだ。
 カード効果で相手のモンスターを破壊すれば万事解決なのは分かってるけど、相手のモンスターを破壊するカードは今のところ手札にきてねぇ。バインドがあるから今のところ攻撃は防げているけど……このままじゃあ……。
「雲井!!」
「っ!」
 背後から中岸に呼びかけられた。
「諦めるなよ! 手札を見ろ!!」
「けっ、てめぇに言われなくても、手札くらい見てるぜ」
「馬鹿かお前は!! ちゃんと効果もよく読め!!」
「あぁ!? バカって言ったな!?」
「突っかかってる場合かよ。いいからよく見ろ!!」
 いつになく中岸が必死なように見えた。
 ったく、てめぇなんかに心配されなくたって、これぐらいの逆境は乗り越えてやるぜ!!
「俺のターン、ドロー!!」(手札4→5枚)
 いつまでも耐えられるわけがねぇ。
 下手したら、次のターンにでも"サイクロン"とか引かれて防御カードを破壊されかねない。
 せめてモンスターを召喚しておきてぇな。
 そのためには………。

 ガラにもなく、手札をじっくり眺めながら考える。
 こんなとき中岸だったらどうやって状況を打開すんだよ。
 第一、効果を見ろってなんだよ。そんなもん見てるに決まってんじゃねぇか。

 ……………ん? あれ? これってもしかして……?

「……けっ、そういうことかよ中岸……」
 舌打ちをして、中岸に目配せする。
 こんなやろうにアドバイスされるなんて少しムカつくけど、仕方ねぇよな。
「どうしたのぉ? さっさと続けてよぉ。どうせ何にもできないだろうけどさぁ」
「言われなくてもやってやるぜ! まずは手札から"マジック・プランター"を発動するぜ!!」


 マジック・プランター
 【通常魔法】
 自分フィールド上に表側表示で存在する永続罠カード1枚を墓地へ送って発動する。
 自分のデッキからカードを2枚ドローする。

 グラヴィティ・バインド−超重力の網→墓地(コスト)
 雲井:手札4→6枚

「手札補充か。自分から防御網を壊すなんてね」
「けっ! そんな馬鹿な真似するわけねぇだろ! 続いて手札から"ビッグバン・シュート"を発動だぜ!!」


 ビッグバン・シュート
 【装備魔法】
 装備モンスターの攻撃力は400ポイントアップする。
 装備モンスターが守備表示モンスターを攻撃した時、その守備力を攻撃力が超えていれば、
 その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。
 このカードがフィールド上から離れた時、装備モンスターをゲームから除外する。


「はぁ〜? 装備するモンスターがいないじゃ〜ん?」
「俺が装備するのは、てめぇの場にいる"おジャマ・キング"だぜ!!」
「えっ?」
「そして手札から"大嵐"を発動だぁ!!」


 大嵐
 【通常魔法】
 フィールド上に存在する魔法・罠カードを全て破壊する。


「は、はぁ?」
「これで、場にあるすべての魔法と罠カードを破壊するぜ!!」
 フィールドに吹き荒れる膨大な風。
 その風の渦に巻き込まれて、場にあるすべての魔法・罠カードが破壊されていく。

 ビッグバン・シュート→破壊
 黄金の邪神像→破壊

「自分からカードを破壊するなんてなにやってんのぉ?」
「これでいいんだよ! 場にいるモンスターをよく見やがれ!!」
「はぁ?」

 おジャマ・キング→除外
 黄金の邪神像→特殊召喚(守備)

「えぇ? ちょ、待っ、えぇ?」
 いったい何が起こったのか、相手は分かっていないようだった。
 そんな石田に向かって、俺は得意気に人差し指を突き付ける。
「簡単な話だぜ。"ビッグバン・シュート"が装備されたモンスターは、"ビッグバン・シュート"が場から離れたときにゲームから除外される! そしてキングがいなくなったことで、俺のモンスターゾーンは使用可能になる。さらに俺の場で破壊された伏せカードは、"黄金の邪神像"だ!」


 黄金の邪神像
 【通常罠】
 セットされたこのカードが破壊され墓地に送られた時、自分フィールド上に
 「邪神トークン」(悪魔族・闇・星4・攻/守1000)を1体特殊召喚する。


「こいつはセット状態で破壊されたら、1体のトークンを特殊召喚できるんだぜ!!」
「……ふーん、そんでそのトークンは攻守が同じ1000だから、"反転する闇の世界"の影響も意味がないってぇ?」
「そういうことだぜ!!」
 自分の持っている装備カードを、相手に装備するなんてな。
 今までこんなことやったことなかったから、思いつくのに時間がかかっちまったぜ。
「やっと気づいたか……」
 後ろで中岸の溜息が聞こえた。
 やっぱり、中岸はとっくに攻略法に気づいてやがったのか。つくづくムカつく野郎だぜ。
「俺はカードを1枚伏せて、ターンエンドだぜ!!」

-------------------------------------------------
 雲井:6300LP

 場:邪神トークン(守備:1000)
   (モンスターゾーン2つ使用不可)
   伏せカード1枚

 手札3枚
-------------------------------------------------
 石田:10400LP

 場:反転する闇の世界(フィールド魔法)
   おジャマ・ナイト(攻撃:2500)

 手札0枚
-------------------------------------------------

「俺のターン、ドローっと」(手札0→1枚)
 少しふてくされたように、石田はカードを引いた。
 なんとか危機的状況は脱することが出来たみてぇだ。
 あとは一気に押し切れればいいんだけど……。
「ぷふっ、せっかくキングを除去したのに、残念だったねぇ!!」
「なんだと?」
「手札から"フュージョン・ウェポン"を発動するよぉ」


 フュージョン・ウェポン
 【装備魔法】
 レベル6以下の融合モンスターのみ装備可能。
 装備モンスターの攻撃力と守備力は1500ポイントアップする。


 おジャマ・ナイト:攻撃力2500→4000 守備力0→1500

「モンスターゾーンが使えるようになっても、これだけ高い攻撃力があれば十分だよねぇ! バトルだ!!」
 石田が高らかに笑いながら、攻撃を宣言する。
 守備態勢をとったトークンは対抗する術を持たずに、破壊されてしまった。

 邪神トークン→破壊

「この時を待ってたぜ!!」
「なにぃ!?」
「伏せカード発動だぁ!!」


 チャンピオン見参!
 【通常罠】
 自分のモンスターが戦闘で破壊されたとき、
 墓地の「デス・カンガルー」と「ビッグ・コアラ」を1体ずつ除外することで、
 エクストラデッキから「マスター・オブ・OZ」を特殊召喚することができる。
 その後、バトルフェイズを終了する。


「この効果で、墓地にいる"デス・カンガルー"と"ビッグ・コアラ"をゲームから除外して、"マスター・オブ・OZ"を特殊召喚するぜ!!」
「そんな馬鹿な。いつ"ビッグ・コアラ"が墓地に?」
「てめぇが"手札抹殺"を発動したときに墓地に行ったんだぜ!」
 トークンが破壊された瞬間、あたり一面にスモークがたった。
 どこからかスポットライトがスモークを照らし、その中からチャンピオンベルトを携えたモンスターが姿を現した。

 デス・カンガルー→除外
 ビッグ・コアラ→除外

 マスター・オブ・OZ 地属性/星9/攻撃力4200/守備力3700
 【獣族・融合モンスター】
 「ビッグ・コアラ」+「デス・カンガルー」


 マスター・オブ・OZ:攻撃力4200→3700 守備力3700→4200

「へっ! モンスターさえ出せればこっちのもんだぜ!!」
「強がらないでよぉ〜。"反転する闇の世界"の効果で攻守は逆転してるんだよぉ? 攻撃力4000もあるナイトに勝てるわけないじゃん」
「………けっ、マジでおめでたい野郎だな」
「なんだって?」

「攻撃力4000程度で、攻撃力が高いなんてほざいてんじゃねぇぞ」

「!?」
「さぁ、どうすんだ?」
「ぐぅ……ターンエンドだよ」

-------------------------------------------------
 雲井:6300LP

 場:マスター・オブ・OZ(攻撃:3700)
   (モンスターゾーン2つ使用不可)

 手札3枚
-------------------------------------------------
 石田:10400LP

 場:反転する闇の世界(フィールド魔法)
   おジャマ・ナイト(攻撃:4000)
   フュージョン・ウェポン(装備魔法)

 手札0枚
-------------------------------------------------

「いくぜ!! 俺のターン、ドロー!!」(手札3→4枚)
 デッキから勢いよくカードを引く。
 相手のモンスターの攻撃力は4000。正直言って、たいした攻撃力じゃねぇな。

(やっと我を引いたのか、小僧)

「けっ、よりによってドローカードはてめぇかよ」
(残念だったな。それでどうする? 我の手を借りるか?)
「うるせぇ。今回はてめぇの力なんかいらねぇよ」
(なかなか賢い判断だな小僧。我を使うと、闇の世界の効果が無力化されて攻守が再逆転してしまうからな)
「……けっ、そんくらい、俺だって分かってるぜ」
 かろうじて平静をよそいつつ、そっと胸をなでおろした。
 危ねぇ〜。ライガーを使っていたら、そんなことになっていたのか。
 最初から使うつもりなんか無かったから良かったけど……助かったぜ……。
「おい、石田っていったよな?」
「なぁにぃ? 君なんかに気安く呼ばれる筋合いはないんだけどさぁ〜」
「けっ、相変わらずムカつく態度だぜ」
 こいつとは、本当に性格が合わなそうだ。
 少しでもこんな野郎に追い詰められたと思うと、自分で自分に腹が立つぜ。
「さっきからボソボソうるさいんだけど、はやくしてよぉ」
「てめぇに言われなくても、このターンで終わらせてやるぜ!!」
「はぁ?」
 首を傾げる石田を無視して、俺は手札の1枚をデュエルディスクに叩き付けた。


 コード・チェンジ
 【通常魔法】
 自分フィールド上のモンスター1体を指定する。
 指定したモンスターの種族を、このターンのエンドフェイズまで自分が指定した
 種族にする。


「こいつの効果で、俺の場にいる"マスター・オブ・OZ"を機械族に変更するぜ!!」
「……げっ、これって……”あの人”が言っていた必勝パターン……!」
 俺の発動したカードから光が放出されて、チャンピオンの体を包み込む。

 マスター・オブ・OZ:獣→機械族

「これで準備は整ったぜ! 手札から"巨大化"と"リミッター解除"を発動だぁ!!」
「……!!」


 巨大化
 【装備魔法】
 自分のライフポイントが相手より下の場合、
 装備モンスターの攻撃力は元々の攻撃力を倍にした数値になる。
 自分のライフポイントが相手より上の場合、
 装備モンスターの攻撃力は元々の攻撃力を半分にした数値になる。


 リミッター解除
 【速攻魔法】
 このカード発動時に自分フィールド上に存在する全ての表側表示機械族モンスターの攻撃力を倍にする。
 エンドフェイズ時この効果を受けたモンスターカードを破壊する。


 マスター・オブ・OZ:攻撃力3700→7400→14800

「こ、攻撃力……14800って……!?」
「見たかこの野郎! これが本当の高い攻撃力ってやつだぜ!! バトルだ!!」
 体を巨大化させ、自身の限界を超えた力を身に着けたチャンピオンが拳を構える。
 懸命に剣を構えるナイトへ向けて、高速のステップで接近する。
 膨大な力が込められた拳が放たれて、ナイトは鎧ごと吹き飛ばしてしまった。
「うわぁぁぁぁぁっぁっぁ!!!???」

 おジャマ・ナイト→破壊
 石田:10400→0LP
 


 石田のライフが0になり、決闘は終了した。




「くっ……」
 だけど周りを包む闇は晴れない。
 目の前にいる石田も、膨大なダメージを受けて倒れてはいるものの、その体が消えることは無かった。
「へへへ、だからさぁ……言ったじゃん。闇の結晶を持っている俺を倒したところで、意味ないってさぁ〜」
「てめぇ……!」
「今は動けないけど……動けるようになるまでここにいてもらうよぉ〜」
 負けた石田は、そう言って不敵に笑う。
 ちくしょう。せっかく決闘には勝ったってのに、これじゃあ意味ねぇじゃねぇか。

『よくやったな小僧』

 デッキからライガーが飛び出して、子犬モードで着地した。
 倒れて動けない石田の方へゆっくりと歩み寄り、その仰向けの体に乗る。
『まったく、我の主ごときにやられるようでは、貴様もまだまだだな』
「なんだ……この犬は……?」
『どうやら聞いていないようだな。まぁ好都合だ。さて、”食事”をさせてもらうか』
「え?」
 ライガーはおもむろに石田の持つ闇の結晶を咥えこんだ。
 結晶に繋がっている鎖を千切り、そして―――。

 パリン

 ガラスの破片が砕けたような、そんな音がする。
 石田の持っていた闇の結晶はライガーの口の中で粉々に砕かれて、飲み込まれてしまった。
「……!?」
『やはりアダムが作り出した闇の結晶だけはあるな。なかなか美味だ』
「く、食ったのかよ!?」
『ああ。言っただろう。我は闇の力に属する存在だ。これで少しは我の力も以前の物に戻せることができたかな』

「あ、そ、そんな……」

『ああ。貴様を忘れていたな。たしか、闇の結晶を持っている人間は消えないんだったな。あいにく、貴様が大事にしていた結晶は我が食べてしまったぞ? さぁどうなる?』
「う、うわぁ……うわぁぁぁぁぁ!!」
 石田が苦しみだした。
 その体が黒く染まっていき、足元から消えていく。
『やはり消えるか。残念だったな小僧。アダムの作り出したルール通り、消えていけ』
「うわぁぁぁぁ!!」
 大きな悲鳴を上げながら、石田は消えてしまった。
 その光景は、俺にとってかなりキツイものだった。
 自分が倒した相手が、目の前で消えていくのって……辛いな。

「雲井……大丈夫か?」

 中岸が呼びかけてきた。
 いつの間にか、周りを覆っていた闇は晴れていた。
「へっ、てめぇに心配されるほど、俺はヤワじゃねぇぜ」
「そうか……」
「なんでてめぇが暗い顔してんだよ。敵はやっつけたんだし、それでいいじゃねぇか」
「……それもそうだな」
 小さく溜息をついてから、中岸はそう言った。
 今更だけど、こいつが焦ってしまうのも分かる気がした。目の前で友達が消えて、しかもその原因が自分が勝ったことによるものだって分かったら……さすがに嫌だよな。
「どうした?」
「いや、なんでもねぇよ。それよりこれからどうすんだ?」
「………」
 少し考えた後、中岸は口を開いた。
「教室に戻ろう。さっき相手が言ってただろ? ”あの人”の指示に従っているって。きっと、敵はグループを組んでるんだ。もし多人数でかかられて来たら、俺もお前もキツイだろ」
「けっ、てめぇと違って俺はいくらでも戦ってやるけどな」
「そうかよ。とにかく戻ろう」
「濡れてるズボンも着替えてぇしな」
「だな」
 俺と中岸は互いに小さく笑みを交わし、教室に戻るために歩き出した。





---------------------------------------------------------------------------------------------------

 
 ほぼ同時刻、学校のとある教室に数人の生徒が集まっていた。
 全員が席に座り、中央にいる一人の人物へ向けて視線を向けている。
「石田がやられてみたいですね」
「そう……残念。彼なら雲井君に勝てると思っていたんだけど……」
「それよりも、雲井忠雄が闇の結晶を処理したってことに観点を置いた方が良くないですか?」
「ですね。それで、どうすんですか? 俺達が行きましょうか?」
「いいえ。もう一人ずつ始末するのは難しいと思います」
「どういうことっすか?」
「雲井君の方はまだしろ、中岸君の方はそこそこ頭が切れると聞きます。石田君を仕向けたことで、こっちがグループを組んで行動しているのに気づくに違いありません」
「じゃあどうするんすか?」
「別に。作戦を変えるだけで私たち自身がやることはさして変わりません。少し考えてから指示を出しますので、しばしお待ちください」
 そう言いながら、その人物は静かに考える。

 別に、石田が負けたことには驚かない。
 もともと、彼は当て馬にしかすぎなかった。雲井の……相手の力量を測るために送り込んだだけ。
 まさか闇の結晶まで処理されてしまうとは予想の範囲外だったが、相手の実力が知れただけでも目的は達せられたのだから良しとしよう。

「そろそろ……時間ですね……」

「え? 何か言いました?」
「いいえ、ただの独り言です」
 そう答えて微笑みを見せたあと、その人物は静かに時計を確認した。

 その瞳はとても冷たく、まるで底の見えない湖のように黒く濁っていた。




episide8――サバイバル開始――



 大助と雲井が教室を出て行ってから、だいたい30分くらい経った。
 アダムと名乗った人物からの全校放送も、当然のように全員が聞いていた。デュエルディスクのライフカウンターに手を置いて「サレンダー」と言わせるのは、私と真奈美ちゃんで静止させたおかげで犠牲者は出なかった。
 でも他の教室からたくさんの悲鳴が聞こえてきた。
 たぶん、どこの教室でも何人も消えてしまったんだと思う。
 被害に遭わなかったみんなの雰囲気も暗いままで、全員が何をどうしたらいいのか分からないみたい。
 もちろん、私もその一人だ。
「香奈ちゃん……中岸君と雲井君は、大丈夫でしょうか?」
「きっと大丈夫よ。無理はしないって言ってたし……」
「そ、そうですよね! きっとすぐに戻ってきてくれますよね!」
 真奈美ちゃんの表情が少し和らぐ。
 でも私の胸の中は、不安でいっぱいだった。胸にある星のペンダントに触れて、少しでも落ち着こうと努力してみる。
 ”無理はしない”って言った時の大助の表情が、少し申し訳なさそうになっていた。
 きっと私達に心配をかけないように嘘をついたんだと思う。
「もう……嘘だってバレバレなんだから……」
「香奈、なんか言った?」
「え、な、なんでもないわよ。ただの独り言よ」
「そう?」
 雫がどこか腑に落ちない様子で首を傾げる。
 大助が私達に余計な心配をかけないように振舞ってくれたんだから、真奈美ちゃんや雫に心配をかけるような態度を取るわけにはいかないわよね。

 ガラガラッ!

 ドアの開く音。
 大助だと思って、思わず目を向けてしまう。
「お前ら、大丈夫か?」
 入ってきたのは、担任の山際だった。
 少しだけ期待してしまった自分を後悔した。 
「悪いな。教員会議が長引いていしまったんだ。とりあえず全員、席に座ってくれ」
「「「「……………」」」」
 みんなが無言で、席についていく。
 当然、決闘で負けて消えてしまった曽原と、この場にいない大助と雲井の席は空いている。
「おい、そこの三人はどうした?」
「……大助は……その……」

「中岸のことなんか気にしなくていいと思います!」

 クラスメイトの誰かが、そう言った。
「どういうことだ?」
「中岸は、曽原と決闘して、曽原を消しやがったんだ!! だから、俺達が追い出したんです。雲井は中岸に付いて行って、ここにはいません」
 淡々と、まるで他人事のように話すクラスメイト。それに賛同するように互いに顔を見合わせながら頷く何人かのクラスメイト。
 どうしてかしら……とても、気分が悪い。自分のことを言われているわけじゃないのに、みんなが大助のことを悪く言っていると思うと、すごく苛立ってくる。
「闇の世界とか………訳わかんないカードを使う曽原もおかしかったけど、それを驚きもせずに対処してる中岸は絶対になんかおかしかったです」
「…っ!」
 なによそれ。大助がおかしいですって?
 大助は……友達を消すようなやつじゃない。きっと、友達が誰かを傷つける前に止めたかったに決まってるわ。なのに助けたかった人は消えちゃって、みんなから責められて……大助がどんな気持ちだったか分かるの?
「…………っ」
 星のペンダントを握り、必死に堪える。
 私まで怒ったら、クラスの雰囲気が余計に悪くなる。そしたら本当に手に負えなくなってしまう。
 それだけは、避けなくちゃいけないことだと思う。

「……お前ら、本当にそう思っているのか?」

 山際が、珍しく恐い表情で言った。
 滅多に聞くことのないその声に、クラスのほとんどが黙り込む。
「決闘して、負けたら消えることは放送で流れただろう。中岸も曽原もそれを知らなかったはずだ。それで中岸を追い出すのはおかしいんじゃないのか?」
「だ、だって―――!」
「お前たちが不安になるのは無理もないから、俺はこれ以上何も言わないさ。だが責められた中岸の気持ちも、少しは考えておけよ」
 そう言って山際は持ってきた名簿を教卓に置いた。
 再び教室が静かになって、重苦しい雰囲気が漂い始める。
「とりあえず、会議で決まったことを伝えるぞ。全員が教室で待機。あの放送が真実であることが分かっているなら決闘はするな。あと、黒い結晶のような物を見かけたら絶対に触れずに教師に報告するように」
「外に出ないんですか!?」
「ああ。教師たちで脱出を試みてみたが、外の霧が濃すぎて進めず、無理に進んでも学校に戻ってきてしまった。心配するな。専門チームが調査しているから、きっとすぐに脱出できる」
 山際がそう言うものの、教室がざわざわと騒がしくなってしまう。
 みんなが不安そうな声をあげ、互いにこそこそと話し合っている。
「香奈ちゃん、専門チームってスターのことでしょうか?」
「たぶんそうね。薫さんが学校にいるんだし、伊月や佐助さんが行動しない訳ないわよ」
「そうですよね。きっとスターの皆さんをならすぐに解決できますよね」
「そうね……」
 早く解決できれば、それに越したことは無いわよね。
 でも、何か嫌な予感がする。言葉ではあんまり説明できないけど、何か嫌な感じが……。

 ギギギ……ガガガ……

 突然、教室のスピーカーからノイズが聞こえた。
 教室にいる全員が、聞き耳を立てる。

『……午前10時ニ、ナリマシタ。闇ノ霧、発生シマス』

 機械で作られたような音声だった。
 次の瞬間、床から黒い霧が噴き出してきた。
「なんだ!?」
「きゃあ!」
 何人かの悲鳴が響く。
 噴き出した闇は、まるでドライアイスの出す冷気のように床に広がり、教室の床全体を覆ってしまう。
 別に違和感はないけど、足元が完全に真っ暗になってしまった。
「なんですかこれ?」
「わ、分かんないわよ」
 真っ黒なドライアイスの煙みたいなものが、足元を包み込んでいて気持ち悪い。
 でも別に変な感じはしないし……いったいなんなのかしら?


「うるせぇ……」


「!?」
 一人の男子生徒が、ゆらりと立ち上がった。
「おい、黒瀬どうした?」
 山際が尋ねる。すると黒瀬は怒った表情で山際に近づいていく。
「いつもいつも下らないことで怒りやがって……!! ムカつくんだよ!!」
 そう叫び、黒瀬は山際に掴みかかる。
 突然のことで対応できなかったのか、山際はそのまま壁に叩き付けられた。
 それだけじゃない。黒瀬だけじゃなく、他のみんなも苦しそうにしている。
 みんな誰かに掴みかかったり、言い争いを始めている。
「ど、どうなってんのよ!?」
「香奈ちゃん……!」
「真奈美ちゃん!? どうしたの!?」
「なんだか、苦しいです……!」
 胸を抑えて、真奈美ちゃんはうずくまる。
 その背中をさすって、呼びかける。
「しっかりして! どうしたの!?」
「なんだか……気分が……」
「え?」
「っ! 香奈ちゃん後ろです!!」
 振り返ると、そこにはすでに雫が迫っていた。
 首を掴まれて、そのまま床に押し倒されてしまう。
「痛っ!」
「香奈……香奈……!!」
 そのまま覆いかぶさる形で、首が絞めつけられる。
 少し息が苦しいけど、絞め殺されるほどじゃない。
「雫……どうしたの!?」
「あたしだって、分かんない! 体が勝手に……こんな…香奈にこんな……!」
 その瞳から、ポタポタと涙が落ちる。
 自分でもどうしてこんなことをしているのか、雫自身も分からないみたいだった。
 だけど分かることもある。
 雫は、本気で私を傷つけるつもりなんかないんだってこと。そしてとても苦しんでいるってことが。
「っ、し、雫……!」
 締め付ける腕を放っておいて、泣いてる雫をそのまま抱き寄せる。
 何かしようと思ったわけじゃない。何の算段もないけど、ただ、こうしたかった。
「香奈……!」
「大丈夫よ。あんたが何したって、私があんたのこと嫌いになるわけない。だって私達、親友でしょ?」
「あっ……」
「ね? だから、手を放してくれると、嬉しいんだけど……?」
「……うん……」
 静かに放された手を、そっと掴む。
 相変わらず苦しそうにしているけど、さっきより良さそうね。
「香奈ちゃん……」
「真奈美ちゃんは、私に何かしたい?」
「そ、そんなことしません!」
「ありがとう」
 二人は今のところ大丈夫みたいね。
 でも……他のみんなは……。

「ふざけてんじゃないぞこの野郎!」
「前から気に食わなかったんだよ!!」
「ずっとウザかったんだよ!!」

 みんな、普段からは考えられないような暴言を口にしている。
 ところどころで殴り合いの喧嘩も起こっているし、山際も複数の生徒に掴みかかられて身動きが取れずにいる。
 どうしよう。こんなとき、どうしたらいいの?
「逃げろ!!」
「え!?」
「意識がはっきりしてるやつがいたら、逃げろ!! こいつらは正気じゃない!!」
 山際が額から血を流しながら、誰とも問わずに叫んだ。
 複数の生徒を抑え込み、それでも周りに気をかけている。
「くっ……!」
 雫と真奈美ちゃんの手を引いて、荷物を持って一目散に教室を抜け出す。
 とにかく逃げなきゃ! あのままいたら、絶対に無事じゃすまない!
「ほら、二人ともしっかりして!!」
「ごめん香奈……」
「す、すみません……」
「そんなのいいから、早く出るわよ!」
 今はとりあえず安全な場所にいかないと!
 でも、どこに行けばいいの? このぶんだと他の教室も同じようなことになってるに決まってる。二人もあんまり動けるわけじゃなさそうだし……。
「そうだ!」
 保健室なら、きっと誰もいないはずよね。
 雫も真奈美ちゃんも休ませることもできるし、一石二鳥だわ。
「2人とも、保健室に行きましょう」
「は、はい」
「お、オッケー……」
 教室から出ても、二人とも気分が悪そうだ。
 早く休ませてあげないとね。




 一階まで下りて、周りに注意をしながら早足で進む。
 幸い、誰にも会わずに保健室近くの廊下までたどり着くことができた。
 でもここまで来る途中でたくさんの悲鳴を聞いてきた。私達は無事にいれたけど、大助や雲井、他の人達はどうなってるのかしら。
「2人とも、大丈夫?」
「うん……さっきよりは、だいぶ楽かな」
「わ、私もです」
「無理すんじゃないわよ。まだ顔色が悪いじゃない」
 2人に肩を貸したまま、ゆっくりと移動する。
 依然として足元には黒い煙のようなものが立ち込めていて、気持ちが悪い。
 本当に、いったいなんなのかしら。この変な煙みたいなものが出てきてからみんなおかしくなっちゃった。間違いなくこれが原因よね。なんとかしてあげたいけど……。
「ほら2人とも、もうすぐ保健室だから頑張って――――」


待てよ


「……!」
 廊下の陰から、1人の男子生徒が現れた。
 ずいぶんと痩せこけた印象で、背が高い。髪は男子にしては長めで、キツネのようなツリ目をしている。
「あんた誰よ。あいにく私達は急いでいるの。用事があるならあとにしてくれない?」
「俺は長谷川(はせがわ)。君たちの事情なんかしったこっちゃない。今すぐ、俺とデュエルしろ」
「はぁ!? なんで見ず知らずのあんたの戦わなくちゃいけないのよ! それに決闘で負けたら、消えちゃうのよ!?」
「それでいいんだよ!!」
「ど、どういうことよ?」
 長谷川はゆっくりとこっちに近づきながら、腕に付けたデュエルディスクにデッキをセットする。
 その細い目がわずかに開き、殺気にも似た眼差しで睨み付けられた。
「決闘で10回勝てば、学校から脱出できるんだ。こんな不気味な学校に、1秒でも長くいられるか! 早くデュエルしろ! 俺に勝ちを譲って、さっさと消えちまえよ!」
「なによそれ!? 自分が脱出するためだけに、他人を蹴落とすつもりなの!?」
「綺麗ごと言うな! 他人なんかより、自分の身の安全が大事なんだよ。早くしろ! そっちの2人とも戦わなくちゃいけないんだから!」
「……っ!! 私だけじゃなくて、雫や真奈美ちゃんまで消そうとしてるのね……」
「もちろんだよ。星花高校は、遊戯王の技量が強い女子なんてそんなにいない。だったら男子を狙うより、こうやって弱そうな女子を狙うのが効率がいいに決まってるだろ!」
 不気味な笑みを浮かべながら、その男子は近づいてくる。
 間違いなく相手は、自分の事しか考えていない。自分が助かるためなら、他の人なんかどうでもいいと思っている。
「あんた……最低よ!!」
「最低でもなんでもいいさ! 早くやろうよ。君が相手してくれるか? 3人まとめてでも構わないけどさぁ!」
「本当、どうしようもない奴ね。いいわよ。やってやろうじゃない! 私の大切な友達に手を出そうっていうなら、覚悟しなさいよ!!」
 肩を貸していた2人を壁に寄りかからせて、敵を見据える。
 念のためにデッキとデュエルディスクが入ったバッグを持ってきていてよかったわ。こんな状態の雫と真奈美ちゃんを戦わせるわけにはいかない。私がこの2人を守らなくちゃ!
「雫、真奈美ちゃん、ちょっと待っててね」
 ぐったりしている2人の頭を撫でて、バッグから取り出したデュエルディスクを構える。
 デッキをセットして、自動シャッフルが完了した。
「やっとやる気になってくれたか。君みたいな綺麗な女子を消しちゃうのはもったいないけど、俺のために消えてくれ」
「馬鹿じゃないの? あんたみたいな最低な男に褒められたって気持ち悪いだけよ」
 数メートルほどの距離が空き、私達は声をそろえて叫んだ。



「「決闘!!」」



 香奈:8000LP   長谷川:8000LP



 決闘が、始まった。



「デッキからフィールド魔法を発動だ!!」
「えっ!?」
 長谷川の体から深い闇が溢れ出した。
 まさか、こいつも闇の結晶を持っていたの!?
「俺は"破滅を誘う闇の世界"を発動する!!」


 破滅を誘う闇の世界
 【フィールド魔法】
 このカードはデュエル開始時に、デッキまたは手札から発動する。
 このカードはフィールドから離れない。
 このカードがフィールドに表側表示で存在する限り、
 自分のモンスターがカード効果で破壊されたとき、相手に800ポイントのダメージを与える。


 真っ黒や闇に辺りを覆われて、真奈美ちゃんと雫の姿が見えなくなる。
 2人に心配をかけないためにも、早く決着をつけないとね。
「俺の先攻。ドロー!」(手札5→6枚)
 あいにく先攻は長谷川からだ。
 私のデッキは、相手に先攻を取られることをあまり好まない。面倒な相手じゃなければいいんだけど……。
「さぁいくよ! 手札から"スクラップ・シャーク"を召喚だ!」


 スクラップ・シャーク 地属性/星4/攻2100/守0
 【魚族・効果】
 効果モンスターの効果・魔法・罠カードが発動した時、
 フィールド上に表側表示で存在するこのカードを破壊する。
 このカードが「スクラップ」と名のついたカードの効果によって
 破壊され墓地へ送られた場合、自分のデッキから
 「スクラップ」と名のついたモンスター1体を墓地へ送る事ができる。


「スクラップね……」
 あまりカード知識が乏しい私でも、スクラップデッキは知っている。
 たしか、自分からモンスターを破壊することで効果を発揮するモンスターが多いカテゴリーだった気がする。
 シンクロ召喚も結構多用するから、かなり強力だって大助が言っていたわね。
「さらに場にスクラップがいるため、手札から"スクラップ・オルトロス"を特殊召喚する!!」


 スクラップ・オルトロス 地属性/星4/攻1700/守1100
 【獣族・チューナー】
 このカードは通常召喚できない。
 自分フィールド上に「スクラップ」と名のついたモンスターが表側表示で存在する場合、
 このカードを手札から特殊召喚する事ができる。
 この効果で特殊召喚に成功した時、自分フィールド上に表側表示で存在する
 「スクラップ」と名のついたモンスター1体を選択して破壊する。
 このカードが「スクラップ」と名のついたカードの効果によって破壊され墓地へ送られた場合、
 「スクラップ・オルトロス」以外の自分の墓地に存在する
 「スクラップ」と名のついたモンスター1体を選択して手札に加える事ができる。


「オルトロスの効果発動! 俺は自分の場にいる"スクラップ・シャーク"を破壊する!」
 鉄によって作られた犬型の獣が、鮫型の機械を勢いよく噛み砕いた。
 体がバラバラになる姿を見るのは、少し気分が悪くなる。
「この瞬間、"破滅を誘う闇の世界"の効果発動!」
「えっ」
 味方によってバラバラにされたモンスターの破片が、金属の飛礫(つぶて)となって襲いかかってきた。
「きゃ!」

 香奈:8000→7200LP

「どうだ! さらに破壊されたシャークの効果を発動。デッキから"スクラップ・ゴーレム"を墓地に送る!!」
「っ!」
 直接ダメージを狙うデッキじゃないはずなのに、ダメージを喰らってしまった。
 自分のモンスターがカード効果で破壊されたときにダメージを与えてくるんじゃ、味方を破壊する効果を持っているスクラップと相性がいい。しかもダメージが800もあるんじゃ、油断していたらあっという間に削られちゃうわね。
「カードを1枚伏せて、ターンエンド!!」



「私のターンよ! ドロー!!」(手札5→6枚)
 勢いよくカードを引き、確認する。
「……!」
 それを見た瞬間、少しだけ戸惑ってしまった。
 いつもなら真っ先に引くことが出来て嬉しいカードなのに、今の状況だと……。


 天空の聖域
 【フィールド魔法】
 このカードがフィールド上に存在する限り、
 天使族モンスターの戦闘によって発生する天使族モンスターの
 コントローラーへの戦闘ダメージは0になる。


 新しく私のデッキに入ったフィールド魔法。天使族の戦闘によるダメージを無効化してくれるし、このカードが場にあるだけで一部のモンスター効果も強くなるし、強力なカウンター罠も使えるようになる。
 けどそれは、場に発動されていなくちゃ意味がない。
 闇の世界の厄介なところは『フィールドを離れない』という共通の効果だ。カード効果でもルール効果でも破壊が出来ない。つまり私がこのまま"天空の聖域"を発動しても、闇の世界が破壊されない。それどころか、逆に"天空の聖域"が破壊されてしまうという話を夏休みに聞いたことがある。
「………」
 でも、本当にそうなの?
 もしかしたら、普通に発動できるんじゃないかしら?
 ここで発動して闇の世界をルール効果で破壊できれば嬉しい限りだし、破壊できなくてもこっちのフィールド魔法は残るかもしれないじゃない。
 そうよ。ものは試し。何事もやってみるに限るわ!
「私は手札から"天空の聖域"を発動するわ!」
「なにぃ!?」
 闇が支配する世界に、神秘的な神殿が出現した。
 だがそれは一瞬だけのことで、辺りを覆っている闇が神殿を飲み込んで崩壊させてしまった。

 天空の聖域→破壊

「そんな……!」
 やっぱり、どうやっても闇の世界は破壊できないってことなの?
 これじゃあフィールド魔法の無駄撃ちじゃない。
「くはは、何やってんだよぉ! 闇の世界を破壊できるわけねぇんだ!」
「…っ! う、うるさいわよ! 手札から"智天使ハーヴェスト"を召喚するわ!!」
 デュエルディスクに力強くカードを叩き付ける。
 闇に覆われた空間に、角笛を高らかに吹き鳴らす天使が現れた。


 智天使ハーヴェスト 光属性/星4/攻1800/守1000
 【天使族・効果】
 このカードが戦闘によって破壊され墓地に送られた時、
 自分の墓地に存在するカウンター罠1枚を手札に加える事ができる。


「なんだよ。普通に戦うつもりか……サレンダーすれば苦しまなくても済むのにさぁ」
「あんたなんかに負けるわけないでしょ! バトルよ!!」
 ハーヴェストが犬型の機械獣へ向けて、笛を鳴らした。
 そこから流れる安らかな音色が、相手のモンスターを眠らせるように倒してしまった。

 スクラップ・オルトロス→破壊
 長谷川:8000→7900LP

「っ、初ダメージか……」
「私はカードを2枚伏せて、ターンエンドよ!!」

-------------------------------------------------
 香奈:7200LP

 場:智天使ハーヴェスト(攻撃:1800)
   伏せカード2枚

 手札2枚
-------------------------------------------------
 長谷川:7900LP

 場:破滅を誘う闇の世界(フィールド魔法)
   伏せカード1枚

 手札3枚
-------------------------------------------------

「俺のターン、ドロー!!」(手札3→4枚)
 不気味な笑みを浮かべて、長谷川はカードを引いた。
 余計なダメージを受けないように、カウンター罠の使いどころを考えないといけないわね。
「手札から"シフトチューン"を発動するよ」


 シフトチューン
 【通常魔法】
 墓地にいるモンスター1体を選択して発動する。
 このターンのエンドフェイズ時まで、そのモンスターをチューナーとして扱う。


 墓地にいるモンスターをチューナー扱いする魔法カード。
 使いどころが難しいカードだからあまり採用されることはないけど、この場面で使ってくるってことは何か仕掛けてくるってことよね。
「この効果で、墓地にいる"スクラップ・ゴーレム"をチューナーとして扱う! さらに手札から"スクラップ・キマイラ"を召喚!!」


 スクラップ・キマイラ 地属性/星4/攻1700/守500
 【獣族・効果】
 このカードが召喚に成功した時、自分の墓地に存在する「スクラップ」と名のついた
 チューナー1体を選択して特殊召喚する事ができる。
 このカードをシンクロ素材とする場合、
 「スクラップ」と名のついたモンスターのシンクロ召喚にしか使用できず、
 他のシンクロ素材モンスターは全て
 「スクラップ」と名のついたモンスターでなければならない。


「"スクラップ・キマイラ"の効果発動!! 墓地にいるチューナー扱いの"スクラップ・ゴーレム"を特殊召喚だ!!」
 機械の合成獣が不気味な咆哮をあげると、その隣に機械人形が出現した。


 スクラップ・ゴーレム 地属性/星5/攻2300/守1400
 【岩石族・効果】
 1ターンに1度、自分の墓地に存在するレベル4以下の
 「スクラップ」と名のついたモンスター1体を選択し、
 自分または相手フィールド上に特殊召喚する事ができる。


 本来なら呼び出せるはずのないゴーレムを、チューナー扱いとすることで呼び出すのが目的だったのね。
 敵ながら、やってくれるじゃない。
「さらに"スクラップ・ゴーレム"の効果で、墓地にいる"スクラップ・シャーク"を特殊召喚させてもらうよ!」
 機械人形が地面に手を突っ込み、地の底から鮫型の機械を引きずり出す。
 鉄屑で出来た体は蘇生直後に関わらずしっかりとしていて、簡単には崩れそうにはない。


 スクラップ・シャーク 地属性/星4/攻2100/守0
 【魚族・効果】
 効果モンスターの効果・魔法・罠カードが発動した時、
 フィールド上に表側表示で存在するこのカードを破壊する。
 このカードが「スクラップ」と名のついたカードの効果によって
 破壊され墓地へ送られた場合、自分のデッキから
 「スクラップ」と名のついたモンスター1体を墓地へ送る事ができる。


「さらに相手の場にいるとき、手札から"スクラップ・ブレイカー"を特殊召喚!」
「また!? どんだけモンスターを場に出す気なのよ!!」


 スクラップ・ブレイカー 地属性/星6/攻2100/守700
 【機械族・効果】
 相手フィールド上にモンスターが存在する場合、
 このカードは手札から特殊召喚する事ができる。
 この効果で特殊召喚に成功した時、自分フィールド上に表側表示で存在する
 「スクラップ」と名のついたモンスター1体を選択して破壊する。


「さらに特殊召喚された"スクラップ・ブレイカー"の効果で、さっき蘇生させたシャークを破壊する!! 破壊されたことで君に800ポイントのダメージだ!」
 特殊召喚された機械の化け物が、蘇生されたばかりに鮫型の機械を粉々に叩きつぶす。
 破壊されたモンスターの破片が再び飛んできて、私の体を切りつけた。

 スクラップ・シャーク→破壊
 香奈:7200→6400LP

「うっ!」
「破壊された"スクラップ・シャーク"の効果で、デッキから"スクラップ・サーチャー"を墓地に送る!!」
 また新しいモンスターが墓地へ送られる。
 なるほど。スクラップデッキはこうやって破壊と再生を繰り返して戦術を組み立てるってわけね。
 つまり相手のデッキで重要になるのは、チューナーを簡単に蘇生させてしまう"スクラップ・キマイラ"ってことになるわね。ということは、あいつさえいなくなれば相手の戦術も簡単に封じられる。
「バトルだ!!」
 機械獣たちが長谷川の命令に従い、私の場へ向けて飛び掛かる。
 この攻撃は通すわけにはいかない!
「カウンター罠を発動するわ!」


 攻撃の無力化
 【カウンター罠】
 相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
 相手モンスタ1体の攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了する。


「これであんたのモンスターの攻撃は無効! ついでにバトルフェイズも終了よ!」
「面倒なカードを伏せてるんだね。勝負の結果は変わらないのにさぁ!」
「そうね。どうせ私の勝ちで終わるんだから、さっさとどっかいっちゃいなさいよ!」
「っ、可愛くない女子だなぁ……」
「あんたみたいな男に可愛いなんて思われたくもないわよ」
「ホントに口の減らないやつだな。メインフェイズ2にチューナー扱いとなっているレベル5の"スクラップ・ゴーレム"とレベル4の"スクラップ・キマイラ"をチューニング!」
 機械人形の体が光の輪となって、合成獣の体を包み込む。
 無数の鉄屑が集まり、巨大な塊となって場に出現する。やがてその中から現れたのは、鉄屑で作られた二つ首の機械龍だった。
「シンクロ召喚! でてこい"スクラップ・ツイン・ドラゴン"」


 スクラップ・ツイン・ドラゴン 地属性/星9/攻3000/守2200
 【ドラゴン族・シンクロ/効果】
 「スクラップ」と名のついたチューナー+チューナー以外のモンスター1体以上
 1ターンに1度、自分フィールド上に存在するカード1枚と
 相手フィールド上に存在するカード2枚を選択して発動する事ができる。
 選択した自分のカードを破壊し、選択した相手のカードを手札に戻す。
 このカードが相手によって破壊され墓地へ送られた時、
 シンクロモンスター以外の自分の墓地に存在する
 「スクラップ」と名のついたモンスター1体を選択して特殊召喚する。


「攻撃力3000……」
「効果発動! といいたいところだけど、今はメインフェイズ2だしあまり意味は無いな。俺はターンエンドだ」
 てっきりすぐに効果を発動すると思ってたけど、思ったより慎重な奴みたいね。
 まぁどんな性格をしているにしろ、男として最低なのは変わらないけど。

-------------------------------------------------
 香奈:6400LP

 場:智天使ハーヴェスト(攻撃:1800)
   伏せカード1枚

 手札2枚
-------------------------------------------------
 長谷川:7900LP

 場:破滅を誘う闇の世界(フィールド魔法)
   スクラップ・ツイン・ドラゴン(攻撃:3000)
   スクラップ・ブレイカー(攻撃:2100)
   伏せカード1枚

 手札1枚
-------------------------------------------------

「私のターンよ、ドロー!」(手札2→3枚)
 状況は相手の方が有利に見える。
 今のうちになんとかしておかないと、取り返しのつかないことになりそうね。
「手札から"豊穣のアルテミス"を召喚するわ!」


 豊穣のアルテミス 光属性/星4/攻1600/守1700
 【天使族・効果】
 このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
 カウンター罠が発動される度に自分のデッキからカードを1枚ドローする。


 マントを羽織った天使が、角笛を構える天使の隣に舞い降りる。
 カウンター罠を多用するデッキにとってキーカードのアルテミス。これを守るためには……仕方ないわね。
「バトルよ! ハーヴェストで"スクラップ・ブレイカー"に攻撃!」
「馬鹿か。攻撃力はこっちの方が上なのに」
 自分よりも強い力を持っている相手へ向かって天使は角笛を構えて果敢に挑む。
 だがいくら意気込もうとも力の差は埋められず、機会の化け物に叩き潰されてしまった。

 智天使ハーヴェスト→破壊
 香奈:6400→6100LP

「っ、ごめんね。戦闘で破壊されたハーヴェストの効果で、私は墓地にある"攻撃の無力化"を手札に加えるわ! そしてメインフェイズ2にカードを2枚伏せる!」
「あぁなるほどね。わざわざアルテミスを守るために自爆特攻をしたってことか」
「そうよ。おかげで少しダメージを受けちゃったけどね」
 最初のターンに"天空の聖域"が無事に発動できていれば、こんな余計なダメージを受けることなんか無かったのに。
 ……って、今さら悔やんでも仕方ないわ。とりあえず今は耐えるしかない。
「これで私は、ターンエンドよ!!」

-------------------------------------------------
 香奈:6100LP

 場:豊穣のアルテミス(攻撃:1600)
   伏せカード3枚

 手札1枚
-------------------------------------------------
 長谷川:7900LP

 場:破滅を誘う闇の世界(フィールド魔法)
   スクラップ・ツイン・ドラゴン(攻撃:3000)
   スクラップ・ブレイカー(攻撃:2100)
   伏せカード1枚

 手札1枚
-------------------------------------------------

「ははっ、さっきから防戦一方だな」
「うるさいわよ。さっさとターンを進めなさいよ」
「じゃあこのターンで決めてあげよう。俺のターン、ドロー!!」(手札1→2枚)
 今の有利な状況からか、自信満々と言った感じで長谷川はカードを引いた。
 そこまで言うからには何か仕掛けてくるつもりよね。
「手札から"スクラップ・スコール"を発動する!」


 スクラップ・スコール
 【速攻魔法】
 自分フィールド上に表側表示で存在する「スクラップ」と名のついた
 モンスター1体を選択して発動する。
 自分のデッキから「スクラップ」と名のついたモンスター1体を
 墓地へ送り、カードを1枚ドローする。
 その後、選択したモンスターを破壊する。


「この効果でデッキから"スクラップ・ゴブリン"を墓地に送り、デッキからカードを1枚ドロー! そして俺の場にいる"スクラップ・ブレイカー"を破壊する!!」
 天井を覆う闇から、鉄屑の雨が降り注ぐ。
 それは長谷川のモンスターを破壊し、そのモンスターの破片が私へ飛来した。

 スクラップ・ブレイカー→破壊
 香奈:6100→5300LP

「うぅ…!」
「そして俺の場にいるスクラップが破壊されたことで、墓地にいる"スクラップ・サーチャー"を復活させる!」
「墓地からモンスター効果!?」
 破壊されて粉々になったモンスターのいた場所から、小型の偵察機のようなモンスターが現れた。
 体のいたるところからライトを照らすモンスターはどこか不気味だ。


 スクラップ・サーチャー 地属性/星1/攻100/守300
 【鳥獣族・効果】
 このカードが墓地に存在し、自分フィールド上に存在する
 「スクラップ・サーチャー」以外の「スクラップ」と名のついたモンスターが破壊され、
 墓地へ送られた時、このカードを墓地から特殊召喚する事ができる。
 このカードが特殊召喚に成功した時、「スクラップ」と名のついたモンスター以外の
 自分フィールド上に表側表示で存在するモンスターを全て破壊する。


「まだまだぁ! 手札から"スクラップ・キマイラ"を召喚! その効果で墓地にいる"スクラップ・ゴブリン"を特殊召喚させてもらうよ!」
「また!?」


 スクラップ・キマイラ 地属性/星4/攻1700/守500
 【獣族・効果】
 このカードが召喚に成功した時、自分の墓地に存在する「スクラップ」と名のついた
 チューナー1体を選択して特殊召喚する事ができる。
 このカードをシンクロ素材とする場合、
 「スクラップ」と名のついたモンスターのシンクロ召喚にしか使用できず、
 他のシンクロ素材モンスターは全て
 「スクラップ」と名のついたモンスターでなければならない。


 スクラップ・ゴブリン 地属性/星3/攻0/守500
 【獣戦士族・チューナー】
 フィールド上に表側守備表示で存在するこのカードが攻撃対象に選択された場合、
 バトルフェイズ終了時にこのカードを破壊する。
 このカードが「スクラップ」と名のついたカードの効果によって破壊され墓地へ送られた場合、
 「スクラップ・ゴブリン」以外の自分の墓地に存在する
 「スクラップ」と名のついたモンスター1体を選択して手札に加える事ができる。
 また、このカードは戦闘では破壊されない。


「なんだ、さっきから全然カウンター罠を発動しないねぇ。もう諦めたってことでいいのかな?」
「さぁね。そう思うなら好き勝手にやってみればいいじゃない」
「お言葉に甘えさせてもらうよ!! "スクラップ・ツイン・ドラゴン"の効果発動だ!! 自分のカードを1枚破壊して君の場にあるカードを2枚手札に戻す!!」
 場に君臨している機械のドラゴンが、その二つ首から青色の光線を放つ。
 狙いは私の場にいるアルテミスと1枚の伏せカード。
「なめんじゃないわよ。いつまでも好き勝手にやらせるわけないでしょ!!」
 ここが勝負どころだと判断した私は、すぐさま伏せカードを開いた。


 リ・バウンド
 【カウンター罠】
 フィールド上のカードを手札に戻す効果を相手が発動した時に発動できる。
 その効果を無効にし、相手の手札・フィールド上からカードを1枚選んで墓地へ送る。
 また、セットされたこのカードが相手によって破壊され墓地へ送られた時、
 デッキからカードを1枚ドローする。


「私の場にあるカードを戻す効果を無効して、相手のカードを1枚墓地に送るわ!! 私が墓地に送るのは、あんたの場にいる"スクラップ・ツイン・ドラゴン"よ!!」
 放たれた青い光線が、突然現れた光の壁で反射する。
 跳ね返された光は長谷川のモンスターを貫き、バラバラに崩してしまった。

 スクラップ・ツイン・ドラゴン→墓地

「くっ……"スクラップ・ツイン・ドラゴン"は破壊されたときにスクラップを蘇生させる効果があるけど、それは墓地に送るという効果では発動しない……」
「残念だったわね。ついでに”破壊”じゃないから闇の世界の効果も発動しないわよ。しかもアルテミスの効果で、私はデッキからカードを1枚ドローするわ!!」(手札1→2枚)
「ずいぶん大人しくしていたと思ったら、この場面を狙っていたって訳か」
「知らないわよ。さっさとターンを進めなさい」
「ちっ、レベル1のサーチャー、レベル4のキマイラにレベル3のゴブリンをチューニング!!」
 2体の機械獣を、光の輪が包み込む。
 鉄屑が集まって固まり、やがて巨大なドラゴンとしてフィールドに現れた。
「シンクロ召喚! 破壊しろ"スクラップ・ドラゴン"!!」


 スクラップ・ドラゴン 地属性/星8/攻2800/守2000
 【ドラゴン族・シンクロ/効果】
 チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上
 1ターンに1度、自分及び相手フィールド上に存在するカードを1枚ずつ選択して発動する事ができる。
 選択したカードを破壊する。
 このカードが相手によって破壊され墓地へ送られた時、シンクロモンスター以外の自分の墓地に存在する
 「スクラップ」と名のついたモンスター1体を選択して特殊召喚する。


「またシンクロモンスターね……」
「"スクラップ・ドラゴン"の効果発動! 俺の場にある伏せカードと、君の場にある伏せカード1枚を破壊する!!」
 機械のドラゴンがその口に青色のエネルギーを込め始めた。
 さっきから執拗に伏せカードを狙っているのは、カウンター罠を警戒しての行動よね。
 けど私だって、そんな簡単に通すわけないわ!
「手札の"神罰"をコストに、伏せカード"天罰"を発動よ!」(手札2→1枚)


 天罰
 【カウンター罠】
 手札を1枚捨てて発動する。
 効果モンスターの効果の発動を無効にし破壊する。


 その口からエネルギー弾を発射しようとした機械のドラゴンの頭上から、雷が降り注ぐ。
 無数の雷に撃たれて、鉄屑のドラゴンは黒こげになって崩れ去った。

 スクラップ・ドラゴン→破壊

「アルテミスの効果で、デッキから1枚ドロー!!」(手札1→2枚)
「くっ、だが”破壊”された"スクラップ・ドラゴン"の効果で、墓地にいる"スクラップ・ゴーレム"を特殊召喚する! さらに"破滅を誘う闇の世界"の効果で、君に800のダメージだ!!」
「うぅ……!!」

 スクラップ・ゴーレム→特殊召喚(攻撃)
 香奈:5300→4500LP

「そしてゴーレムの効果発動!! 墓地にいる"スクラップ・ゴブリン"を特殊召喚する!!」
「なっ……!?」


 スクラップ・ゴーレム 地属性/星5/攻2300/守1400
 【岩石族・効果】
 1ターンに1度、自分の墓地に存在するレベル4以下の
 「スクラップ」と名のついたモンスター1体を選択し、
 自分または相手フィールド上に特殊召喚する事ができる。


 スクラップ・ゴブリン 地属性/星3/攻0/守500
 【獣戦士族・チューナー】
 フィールド上に表側守備表示で存在するこのカードが攻撃対象に選択された場合、
 バトルフェイズ終了時にこのカードを破壊する。
 このカードが「スクラップ」と名のついたカードの効果によって破壊され墓地へ送られた場合、
 「スクラップ・ゴブリン」以外の自分の墓地に存在する
 「スクラップ」と名のついたモンスター1体を選択して手札に加える事ができる。
 また、このカードは戦闘では破壊されない。


 無効にしても、破壊しても、湧き出てくる鉄屑の軍団。
 でもいくらモンスターを並べたところで、私の場にはさっき回収した"攻撃の無力化"があるわ。ここさえ耐えきれれば、次のターンに……。
「レベル5のゴーレムに、レベル3のゴブリンをチューニング!」
「え、またシンクロ召喚!!」
「なんだよ。さすがに焦るってか? 俺は、しつこいことで有名な男なんだよぉ!!」
 2体の機械獣が合わさり、さっき破壊されたモンスターと同じ姿の機械竜が現れた。


 スクラップ・ドラゴン 地属性/星8/攻2800/守2000
 【ドラゴン族・シンクロ/効果】
 チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上
 1ターンに1度、自分及び相手フィールド上に存在するカードを1枚ずつ選択して発動する事ができる。
 選択したカードを破壊する。
 このカードが相手によって破壊され墓地へ送られた時、シンクロモンスター以外の自分の墓地に存在する
 「スクラップ」と名のついたモンスター1体を選択して特殊召喚する。


「どうせその伏せカードは"攻撃の無力化"だろ? だったら遠慮なく効果が使えるぜ!! ドラゴンの効果発動。俺の場にある伏せカードと、君の場にある伏せカードを破壊する!」
「っ!」
 機械のドラゴンから、青色のエネルギー弾が放たれる。
 そのエネルギー弾は私と相手の場にある伏せカードを見事に撃ち抜き、破壊してしまった。

 攻撃の無力化→破壊
 荒野の大竜巻→破壊

「やってくれるじゃない……!」
 まさかもう1回シンクロ召喚してまで伏せカードを破壊しに来るなんて……。
 これじゃあ、アルテミスを守ることができないじゃない。でも、少しくらいのダメージなら……。
「さらに破壊された"荒野の大竜巻"の効果発動!!」
「えっ!?」


 荒野の大竜巻
 【通常罠】
 魔法&罠カードゾーンに表側表示で存在するカード1枚を選択して破壊する。
 破壊されたカードのコントローラーは、手札から魔法または罠カード1枚をセットする事ができる。
 また、セットされたこのカードが破壊され墓地へ送られた時、
 フィールド上に表側表示で存在するカード1枚を選択して破壊する。



「この効果で、アルテミスを破壊する!!」
 破壊された長谷川のカードから突風が吹き荒れる。
 鉄屑を含んだ風に切り刻まれて、マントを羽織った天使は倒されてしまった。

 豊穣のアルテミス→破壊

「そ、そんな……!」
 たった1ターンで、私の場にあった3枚の伏せカードとモンスターが取り除かれてしまった。
 しかも相手の場には、鉄屑のドラゴンが今にも攻撃しようと擦れる金属音を響かせている。
「これで、がら空きだねぇ! 喰らえ!」
 機械のドラゴンが体中から鉄の飛礫を放つ。
 無数の鉄屑が私を襲い、全身に強烈な痛みが走った。

 香奈:4500→1700LP

「きゃあああああっ!!!」
 体を抑えて、痛みに耐える。
 少しだけふらついたけど倒れるわけにはいかない。雫と真奈美ちゃんは、私が守るんだから!!
「まだ立つのか。まぁいいや。次のターンでトドメだ。ターンエンド」

-------------------------------------------------
 香奈:1700LP

 場:なし

 手札2枚
-------------------------------------------------
 長谷川:7900LP

 場:破滅を誘う闇の世界(フィールド魔法)
   スクラップ・ドラゴン(攻撃:2800)

 手札1枚
-------------------------------------------------

「はぁ………はぁ………」
 息が少し切れてきた。
 思った以上にダメージを受けてしまったのが、原因よね。
「……」
 後ろで壁にもたれかかっている2人の姿を想像する。
 時間がかかちゃってごめんね。悪いけど、もう少しだけ待ってて。絶対にこいつを倒してみせるから。
「あ……」
 ふっと頭に、大助の姿が浮かんだ。
 いつもいつも、あいつはボロボロになりながら戦っていた。今なら少しだけ、大助の気持ちが分かる気がする。
 大切な人を守ろうって思うと、自分の事が見えなくなっちゃいそうになる。
 そして少しだけ、いつもより力が発揮できる気がする。
 きっと大助は、ずっとこんな気持ちで戦っていたのよね。
「ふふっ」
「なに笑ってんだよ?」
「別に何でもないわ。私のターン、ドロー!!」(手札2→3枚)
 戦況的にも時間的にも、これ以上長引かせてなんかいられない。
 賭けになるかもしれないけど、もうやるしかない。
「デッキワンサーチシステムを使うわ!!」
 デュエルディスクの青いボタンを押す。
 デッキから自動的にカードが選び出されて突出し、私はそれを引き抜いた。(手札3→4枚)
 同時に長谷川も、ルールによってデッキからカードをドローする。(手札1→2枚)
「いくわよ! 手札から"天空聖者メルティウス"を召喚!!」


 天空聖者メルティウス 光属性/星4/攻1600/守1200
 【天使族・効果】
 このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する限り、
 カウンター罠が発動される度に自分は1000ライフポイント回復する。
 さらにフィールド上に「天空の聖域」が存在する場合、
 相手フィールド上のカード1枚を破壊する。


 大きな光の輪を身に着けて新たな天使が舞い降りる。
 状況はかなり厳しいけど、覚悟を決めてやるしかない!
「カードを1枚伏せて、ターンエンドよ!!」



「俺のターン、ドロー!!」(手札2→3枚)
「この瞬間、伏せカードを発動するわ!!」
 長谷川のドローフェイズに合わせて、私は意を決して伏せておいたカードを開いた。


 ファイナルカウンター
 【カウンター罠・デッキワン】
 カウンター罠が15枚以上入っているデッキにのみ入れることが出来る。
 このカードはスペルスピード4とする。
 発動後、このカードを含めて、自分の場、手札、墓地、デッキに存在する
 魔法・罠カードを全てゲームから除外する。
 その後デッキから除外したカードの中から5枚まで選択して自分フィールド上にセットする事ができる。
 この効果でセットしたカードは、セットしたターンでも発動ができ、コストを払わなくてもよい。


「デッキワンカードか……!!」
「そうよ! この効果で私はデッキから5枚のカードをセット! それ以外のすべての魔法・罠カードをゲームから除外するわ!!」
 デッキに残った魔法・罠カードから5枚のカードを選び出して、フィールドにセットする。
 それ以外のカードはデュエルディスクに備え付けられた除外ゾーンへ送り、デッキの厚さが約半分になった。
「さらにメルティウスの効果発動! カウンター罠が発動したことで、私はライフを1000回復するわ!!」
 光の輪を身に着けた天使が祈ると、私の体に優しい光が降り注いだ。

 香奈:1700→2700LP

「5枚をセットって……とんでもないカードだね。けど、それで俺の攻撃が防げると思ってるのか?」
「あんたがどう思おうと、私は負けないわ。御託はいいからさっさとかかってきなさい!」
「ちっ、本当にうざい女子だな。そんなに消えたきゃ消してやるよ! 手札から"大嵐"を発動だ!!」


 大嵐
 【通常魔法】
 フィールド上に存在する魔法・罠カードを全て破壊する。


「これで君の伏せカードは全滅だ!!」
「させるわけないでしょ!」
 吹き荒れる暴風がすべての伏せカードを吹き飛ばそうとするなか、私はすぐさま伏せカードを開いた。


 マジック・ジャマー
 【カウンター罠】
 手札を1枚捨てて発動する。
 魔法カードの発動を無効にし破壊する。


 香奈:2700→3700LP("天空聖者メルティウス"の効果)

「この効果で、あんたの魔法は無効よ!!」
「っ、やっぱ通すわけないか……」
 "ファイナルカウンター"の効果でセットされたカードは、発動のためのコストを支払う必要が無い。
 手札の枚数やライフポイントを気にせずに発動できるのは強みだけど、残る伏せカードは4枚になった。
 でも今さら後には引けないわ。このまま一気に勝負を仕掛けるだけよ。
「相手の魔法カードをカウンター罠で無効にしたから、私は手札から"冥王竜ヴァンダルギオン"を特殊召喚よ!!」
「なっ、手札から!?」
 フィールドに広がる闇の中から、冥府を統べる竜が出現する。
 漆黒の翼が大きく広がり、その鋭い瞳が機械のドラゴンを見据えた。


 冥王竜ヴァンダルギオン 闇属性/星8/攻2800/守2500
 【ドラゴン族・効果】
 相手がコントロールするカードの発動をカウンター罠で無効にした場合、
 このカードを手札から特殊召喚する事ができる。
 この方法で特殊召喚に成功した時、無効にしたカードの種類により以下の効果を発動する。
 ●魔法:相手ライフに1500ポイントダメージを与える。
 ●罠:相手フィールド上のカード1枚を選択して破壊する。
 ●効果モンスター:自分の墓地からモンスター1体を選択して自分フィールド上に特殊召喚する。


「ヴァンダルギオンの効果で、あんたに1500ポイントのダメージを与えるわ!!」
「なんだと!?」
 冥王竜が咆哮をあげると、無数の電撃がその翼から放たれた。
 それらの電撃は機械のドラゴンを飛び越して、長谷川へと襲い掛かる。

 長谷川:7900→6400LP

「ぐっあ……!」
「さすがにこれは、少しくらい効いたでしょ」
「まだまだぁ! 手札から"スクラップ・ワーム"を召喚する!!」


 スクラップ・ワーム 地属性/星2/攻500/守100
 【昆虫族・チューナー】
 このカードは相手プレイヤーに直接攻撃する事ができる。
 このカードは攻撃した場合、バトルフェイズ終了時に破壊される。
 このカードが「スクラップ」と名のついたカードの効果によって破壊され墓地へ送られた場合、
 「スクラップ・ワーム」以外の自分の墓地に存在する「スクラップ」と名のついた
 モンスター1体を選択して手札に加える事ができる。


「今さらそんな攻撃力の低いモンスターで直接攻撃しても、たいして意味ないわよ」
「そんなことするわけないだろ。手札から"スクラップ・ポリッシュ"を発動だ!!」


 スクラップ・ポリッシュ
 【速攻魔法】
 自分フィールド上に表側表示で存在する
 「スクラップ」と名のついたモンスター1体を選択して破壊する。
 自分フィールド上に表側表示で存在する全ての
 「スクラップ」と名のついたモンスターの攻撃力は、
 このターンのエンドフェイズ時まで1000ポイントアップする。


「……!」
 自分のスクラップを破壊して、モンスターの攻撃力を増強するカード。
 伏せてあるカードを考えれば無効にしなくてもいいかもしれないけど、ここは……。
「伏せカード発動よ!!」


 魔宮の賄賂
 【カウンター罠】
 相手の魔法・罠カードの発動と効果を無効にし破壊する。
 相手はデッキからカードを1枚ドローする。


「この効果で、あんたのカードを無効にするわ!!」
「またか。けどその効果で俺はデッキからカードをドロー出来る!」
「私だってメルティウスの効果で1000ポイントのライフを回復するわ!」

 スクラップ・ポリッシュ→無効→破壊
 長谷川:手札0→1枚
 香奈:3700→4700LP

 メルティウスのおかけで、あれだけ減らされたライフがどんどん回復していく。
 相手のカードも上手く無効に出来ているし、このまま押し切れそうね。
「……ふっ、無効にするタイミングを間違えたね」
「え?」
「手札から"スクラップ・ポリッシュ"を発動だ!!」
「に、2枚目!?」
「効果はさっき見せたから分かってるよなぁ? ワームを破壊して、スクラップモンスターの攻撃力を1000ポイントアップさせる! さらに"破滅を誘う闇の世界"の効果で、君に800ポイントのダメージだ!」

 スクラップ・ワーム→破壊
 スクラップ・ドラゴン:攻撃力2800→3800
 香奈:4700→3900LP

「うっ…!」
「さらに破壊された"スクラップ・ワーム"の効果で墓地の"スクラップ・キマイラ"を手札に加える!」(手札0→1枚)
 また墓地からモンスターカードが回収される。
 ホント、どんだけしつこいのよ。
「バトルだ! スクラップドラゴンでヴァンダルギオンに攻撃!!」
 機械のドラゴンがエネルギー弾を口から発射する。
 強化された攻撃を喰らえば、さすがの冥王竜もひとたまりもない。
「"攻撃の無力化"を発動よ!!」


 攻撃の無力化
 【カウンター罠】
 相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
 相手モンスタ1体の攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了する。


 香奈:3900→4900LP

「くっ、ターンエンド……!」
 ギリリッと、相手の歯ぎしりが聞こえた。
 長谷川のターンが終わり、強化された機械竜がおとなしくなった。
 
 スクラップ・ドラゴン:攻撃力3800→2800

-------------------------------------------------
 香奈:4900LP

 場:天空聖者メルティウス(攻撃:1600)
   冥王竜ヴァンダルギオン(攻撃:2800)
   伏せカード2枚

 手札2枚
-------------------------------------------------
 長谷川:6400LP

 場:破滅を誘う闇の世界(フィールド魔法)
   スクラップ・ドラゴン(攻撃:2800)

 手札1枚
-------------------------------------------------

「私のターンよ」(手札2→3枚)
 デッキからカードをドローし、今の状況を確認する。
 私の残りの伏せカードは2枚。相手のライフはまだ半分以上ある。
 無理にでも、攻めるしかないわね。
「手札から"ジェルエンデュオ"を召喚するわ!」


 ジェルエンデュオ 光属性/星4/攻撃力1700/守備力0
 【天使族・効果】
 このカードは戦闘によって破壊されない。このカードのコントローラーがダメージを受けた時、
 フィールド上に表側表示で存在するこのカードを破壊する。
 光属性・天使族モンスターをアドバンス召喚する場合、このモンスター1体で2体分のリリースとする
 事ができる。


「バトルよ! ヴァンダルギオンで"スクラップ・ドラゴン"に攻撃!!」
 冥王がその口から、漆黒のブレスを吐き出す。
 そのブレスはまるで黒い光線のように機械竜へ向かい、それに対抗して青色のエネルギー弾を機械竜が放つ。
 互いの攻撃はぶつかることなく交差し、互いに相手の攻撃をまともに喰らって倒れてしまった。

 冥王竜ヴァンダルギオン→破壊
 スクラップ・ドラゴン→破壊

「相討ちってことか。だけど"スクラップ・ドラゴン"は相手によって破壊されたとき、墓地から―――」
「この瞬間、カウンター罠を発動するわ!」


 透破抜き
 【カウンター罠】
 手札または墓地で発動する効果モンスターの効果の発動を無効にしゲームから除外する。


「その効果は墓地で発動するんでしょ? だったらその効果を無効にして、ゲームから除外してあげるわ!!」
「お前っ!」

 スクラップ・ドラゴン→除外
 香奈:4900→5900LP

「これであんたの場はがら空きよ! 2体で直接攻撃!!」 
 私の攻撃宣言で、2体の天使が一斉に長谷川へ攻撃を放つ。
 防ぐ術のない相手は、その攻撃をまともに喰らって吹き飛ばされた。
「ぐあああああ!」

 長谷川:6400→4800→3100LP

「お、お前っ、よくも……!」
「これで私はターンエンドよ!!」
 相手のライフは残り3100。次のターンに何もなければ、2体の攻撃でトドメよ。



「くそっ、無駄に抵抗しやがって……俺のターン!」(手札1→2枚)
 ライフが少なくなってきたことで焦りが出てきたのか、長谷川は乱暴にカードを引いた。
 残りの伏せカードは1枚。絶対にこのターンを凌いでみせるわ。
「いくぞ! 手札から"スクラップ・キマイラ"を召喚する!」
 機械の合成獣がまた現れる。
 スクラップデッキの起点となるモンスターだってことは、今までの戦いで分かってる。
 ならこいつさえ出させなければ……!
「カウンター罠発動よ!!」


 神の宣告
 【カウンター罠】
 ライフポイントを半分払う。
 魔法・罠の発動、モンスターの召喚・反転召喚・特殊召喚の
 どれか1つを無効にし、それを破壊する。


 香奈:5900→6900LP("天空聖者メルティウス"の効果)

「これでキマイラの召喚を無効にして破壊するわ!! 場に出た扱いにはならないから、闇の世界の効果も発動しないわよ!」
「……まぁそれを伏せてるよね当然」
「なんですって?」
「キマイラをわざと犠牲にして良かったよ! 手札から"死者蘇生"を発動!!」


 死者蘇生
 【通常魔法】
 自分または相手の墓地からモンスター1体を選択して発動する。
 選択したモンスターを自分のフィールド上に特殊召喚する。


「こっちの方が本命だったってことね……!」
「こいつで墓地の"スクラップ・ドラゴン"を特殊召喚だ」
 フィールドに眩しい光が発生し、その中から機械のドラゴンが現れる。
 何度も現れているにも関わらず鉄屑の体は朽ちることなく、鋭い眼光を飛ばしてくる。


 スクラップ・ドラゴン 地属性/星8/攻2800/守2000
 【ドラゴン族・シンクロ/効果】
 チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上
 1ターンに1度、自分及び相手フィールド上に存在するカードを1枚ずつ選択して発動する事ができる。
 選択したカードを破壊する。
 このカードが相手によって破壊され墓地へ送られた時、シンクロモンスター以外の自分の墓地に存在する
 「スクラップ」と名のついたモンスター1体を選択して特殊召喚する。


「よっぽどお気に入りなのね、何度も出てきて……いい加減に飽きてきたわよ」
「減らず口は変わらないのか。君の伏せカードはもうない! 俺の行動は、もう制限できないぞ!」
「…………」
 ファイナルカウンターで伏せたカードは、もう使い切ってしまった。
 当然、もう私に相手の行動を制限するカードは残っていない。
「バトルだ!! スクラップ・ドラゴンでメルティウスに攻撃ぃ!!」
 勝利を確信した主に感化されるかのように、機械竜がその口から巨大なエネルギー弾を放った。
 無防備な天使へ攻撃が迫る中、私は手札から1枚のカードを手に取った。

 次の瞬間、私のフィールド全体に光の壁が現れる。
 その光は相手の攻撃をかき消して、天使たちと私を守ってくれた。

「な……に……?」
「残念だったわね。手札から"純白の天使"の効果を発動したのよ」


 純白の天使 光属性/星3/攻撃力0/守備力0
 【天使族・チューナー】
 このカードを手札から捨てて発動する。
 このターン自分が受けるすべてのダメージを0にし、自分フィールド上のカードは破壊されない。
 この効果は相手ターンでも発動する事ができる。


「この子のおかげで、私のライフもモンスターも守ることが出来たわ」
「お前……!」
「どうするの? あんたの手札は無いけど?」
「ちっ、ターン……エンドだ」

-------------------------------------------------
 香奈:6900LP

 場:天空聖者メルティウス(攻撃:1600)
   ジェルエンデュオ(攻撃:1700)

 手札1枚
-------------------------------------------------
 長谷川:3100LP

 場:破滅を誘う闇の世界(フィールド魔法)
   スクラップ・ドラゴン(攻撃:2800)

 手札0枚
-------------------------------------------------

「私のターンよ!! ドロー!!」(手札1→2枚)
 勢いよく引いたカードを、ゆっくりと確認した。
「………」
「さぁどうした? さっさとターンを進めろよ」
「……私は"ジェルエンデュオ"をリリースして、"アテナ"をアドバンス召喚するわ!!」


 アテナ 光属性/星7/攻撃力2600/守備力800
 【天使族・効果】
 自分フィールド上に存在する「アテナ」以外の天使族モンスター1体を墓地に送る事で、
 自分の墓地に存在する「アテナ」以外の天使族モンスター1体を自分フィールド上に
 特殊召喚する。この効果は1ターンに1度しか使用できない。
 フィールド上に天使族モンスターが召喚・反転召喚・特殊召喚される度に、
 相手ライフに600ポイントダメージを与える。


「上級モンスターをリリース1体で!?」
「"ジェルエンデュオ"は天使族をアドバンス召喚するとき、2体分のリリース要因になれるのよ」
「そうか……けど攻撃力は足りないぞ?」
「"アテナ"の効果発動よ。メルティウスを墓地に送って、墓地から"純白の天使"を特殊召喚するわ! そして効果であんたに600ポイントのダメージよ!」
 女神が祈ると、その前に光の矢が形成される。
 6本の矢は目にも止まらぬ速さで長谷川の体を貫いた。
「くっ!」

 長谷川:3100→2500LP

「レベル7の"アテナ"にレベル3の"純白の天使"をチューニング!」
 小さな天使が光の輪となり、女神の体を包み込む。
 女神の体に纏っている鎧が昇華されて、白く輝く。その背に大きな翼が広がり、天空の守護者となって降臨する。
「シンクロ召喚! "天空の守護者シリウス"!!」


 天空の守護者シリウス 光属性/星10/攻撃力2000/守備力3000
 【シンクロ・天使族/効果】
 「純白の天使」+レベル7の光属性・天使族モンスター
 このカードが表側表示で存在する限り、相手は自分の他のモンスターへ攻撃できず、
 相手に直接攻撃をすることもできない。
 このカードが特殊召喚されたとき、以下の効果からどちらか一つを選びこのカードの効果にする。
 ●1ターンに1度、デッキまたは墓地からカウンター罠1枚を選択して手札に加える事ができる。
 ●バトルフェイズの間、このカードの攻撃力は自分の墓地にあるカウンター罠1種類につき
  500ポイントアップする。


「私は第2の効果を選択するわ。墓地にカウンター罠は5種類。だからバトルフェイズ中にシリウスの攻撃力は4500
まで上がるわ!」
「スクラップ・ドラゴンの攻撃力を超えたか。だけどそれでも俺のライフは残る! 次のターンにいくらでも―――」
「次のターンなんて、あるわけないでしょ! バトルよ!!」
「っ!?」
 シリウスが大きく翼を広げて、機械竜へ突撃する。
 広げた翼に光が宿り、眩しく輝く。
「そして、手札から"オネスト"の効果を発動するわ!!」


 オネスト 光属性/星4/攻1100/守1900
 【天使族・効果】 
 自分のメインフェイズ時に、フィールド上に表側表示で存在するこのカードを手札に戻す事ができる。
 また、自分フィールド上に表側表示で存在する光属性モンスターが戦闘を行うダメージステップ時に
 このカードを手札から墓地へ送る事で、エンドフェイズ時までそのモンスターの攻撃力は、
 戦闘を行う相手モンスターの攻撃力の数値分アップする。


 天空の守護者シリウス:攻撃力2000→4500→7300

「そ、んな……馬鹿な!?」
「これで終わりよ!!」
 輝く翼が、光の力を受けてより強く輝く。
 そこから放たれる光の奔流が、機械竜を飲み込んだ。
「ぐあああああああああ!!」

 スクラップ・ドラゴン→破壊
 長谷川:2500→0LP



 相手にライフが0になり、その胸にかけられた闇の結晶が砕け散る。



 そして決闘は、終了した。



「そんな……俺が……負けるなんて……うわぁぁぁぁぁ!!」
 辺りを包む闇が無くなる。
 決闘に敗北した長谷川の体が、黒く染まって消えてしまった。


「はぁ…はぁ…」
 思った以上に、手こずっちゃったわね。
 早く2人を休ませてあげないと。
「雫、真奈美ちゃん、もう大丈夫よ」
「香奈……」
「か、香奈ちゃん……」
「ほら掴まって、保健室で休みましょう」
 2人を連れて私は保健室のドアを開ける。
 具合の悪そうな2人はもちろんだけど、かなりダメージを負ってしまった私も休まなきゃ。
「大助……」
 別行動をとっている大助たちのことが心配になってきた。
 早く、合流しないといけないわね。




episode9――合流――




#################################################


「……ター……て下…い」

 誰? 誰の声、ですか?
 香奈ちゃんでも雫ちゃんの声でもない、大人びた女性の声。
 お母さん……でもない。薫さんでも……吉野さんでも……ない?

「……もう、大丈夫ですよ」

 私の頬に何かが触れました。
 とても暖かい……これは……?

#################################################

「……ちゃん。真奈美ちゃん」
「ぅ……」
 閉じていた目を、ゆっくりと開ける。真っ先に見えたのは、白い天井。
 視点を横にずらすと、香奈ちゃんが安心した表情でこちらを見下ろしていました。
「香奈…ちゃん?」
「良かった、目が覚めたのね。具合はどう?」
「え、あ、大丈夫……です」
 胸の中に渦巻くような黒い感情は、もう消えていました。

 大切な友達を、傷つけたい。壊したい。

 教室で感じたあの恐ろしい気持ち。かろうじて抑え込むことが出来ましたけど、一歩間違えていたら私も雫ちゃんみたいに友達に襲い掛かっていたのかもしれません。
「あの、雫ちゃんは?」
「こっちで横になってるわ。まだあんまり具合はよくないみたい……」
 香奈ちゃんは雫ちゃんの手を握りながら、心配そうに見つめていました。
 私達2人は保健室のベッドで横になっていました。きっと香奈ちゃんが寝かせてくれたんだと思います。ここまで来た道のりとかは、あんまり覚えていません。感情を抑えるのに必死になり過ぎてしまったのだと思います。
「あの……そのまま、手を握っててあげてください」
「え?」
「上手く言えないんですけど、香奈ちゃんが手を掴んでくれたとき、少しだけ気分が楽になってんです。だから……」
「そう。分かったわ。真奈美ちゃんも手を握った方がいいかしら?」
「え、いや、わ、私はもう大丈夫です!」
「ふふっ、どうして顔を赤くしてんのよ」
「か、からかわないでください!!」
「ごめんごめん。それだけ元気なら本当に大丈夫そうね」
 香奈ちゃんはそう言って笑い、再び雫ちゃんの方を見つめました。
 彼女の言うとおり、雫ちゃんの調子は悪そうです。まるで悪夢にうなされているようです。何とかしてあげたいと思いますけど、どうしたらいいんでしょうか。
「私も何か手伝いましょうか?」
「無理しなくてもいいわよ。さっきまで具合が悪かったんだから、休んでていいわよ」
「ほ、本当に大丈夫ですから。それに、香奈ちゃんばかりに頼っていられません!」
「分かったわ。じゃあ――――」

 コンコン

 保健室のドアがノックされました。
 どうしてわざわざノックするのかと思いましたけど、よく見ると内側からカギがかけられていました。
「香奈ちゃんがカギをかけたんですか?」
「ええ。誰かが勝手に入ってこないようにね。もちろん誰かが来たら開けるつもりだったわよ?」
「じゃあ私が開けますね」
 ベッドから降りて、ドアの方へ向かいます。
 かかっているカギを取り除いて、ドアを開きました。

「本当にここにいるのかよ?」
『我の言うことが信じられないのか小僧』
「いいからさっさと入るぞ」

「あ!」
 ドアの外にいたのは、中岸君、雲井君、そしてライガーでした。
「2人とも無事だったんですね!」
「本城さん! 大丈夫だったのかよ!?」
「はい。香奈ちゃんも雫ちゃんも無事です」
「そうか。中に入っても大丈夫か?」
「はい。どうぞ」
 中に招き入れてドアを閉めます。カギは面倒なので、かけないでおきました。
「大丈夫か香奈?」
「あっ、大助! あんたどこ行ってたのよ! みんな大変だったのよ!?」
「そうみたいだな。教室は、ヒドイことになってた……」
「……みんなは?」
「……いなかった」
「は?」
「詳しく説明するから、本城さんもこっちに来てくれますか?」
「あ、はい」
 中岸君に言われた通り、私達は雫ちゃんの眠るベッドの周りに集まりました。
 そこで中岸君が説明してくれたのは、次のようなことでした。

 更衣室で闇の結晶を持つ人と戦った後、自分たちの教室に向かった中岸君達は、教室がやけに静かなことを不思議に思ったそうです。中に入ってみるとそこには人がいなくて、机や椅子が無残に散乱した光景があったそうです。中岸君の予想では、みんなどこかへ行ってしまったか、誰かに消されたのでは? ということでした。
 床に広がっていた黒い煙は無くなっていて、他の教室も同じような感じだったそうです。
 ライガーが言うには、あの黒い煙は人の持つ残酷な感情を増幅させて、互いを傷つけあいやすくさせるものだったそうです。もちろんアダムの力で作られたもので、普通の人はその感情に支配されて普段からは考えられない行動を取ってもおかしくないだろうということでした。
 とりあえず私達と合流しようと思った2人は、ライガーにお願いして臭いをたどってきたそうです。
 ライガー本人はとても不機嫌そうに道案内をしていたそうですけど……。

「……ということで、ここに合流したって訳だぜ」
「そうなんですか」
『まったくもって屈辱だ』
「へっ、そんな姿してるからそうなるんだぜ」
 雲井君が憎たらしい笑みをライガーに見せつけています。
 このコンビは、仲がいいのでしょうか? それとも悪いのでしょうか?
「どうして私達は無事だって分かったのよ?」
「香奈のバッグが無かったからな。たぶん荷物を持って教室を出て行ったと思ったんだ」
「なるほどね。大助にしてはなかなかの推理じゃない」
「そりゃどうも。雨宮は、どうしたんだ?」
「教室に黒い煙が出てから、ずっと具合が悪いのよ。どうしたらいいか分からなくて……」
 香奈ちゃんが心配そうに見つめる中、雲井君の隣にいたライガーがベッドに飛び乗り、うなされている雫ちゃんの上に乗りました。
『……なるほどな』
「何か分かったってのかよ?」
『ああ。この娘は闇の霧に感情を支配されかけている。本来なら感情を支配されて楽になれるところを、その娘が持っている白夜の力によって止められているんだ。中途半端に闇に飲まれた状態を保たれているんだ。苦しむのも無理がないだろうな』
「……ちょ、ちょっと待ってください。意味がよく分からないんですけど……」
『簡単な話だ。中岸大助と朝山香奈は、白夜の力を宿しているためアダムの力の影響を受けなかった。そして白夜の力をもっている朝山香奈に触れたことで、この娘への闇の浸食が阻害された』
「え、でも雲井君や私は、白夜の力なんて持っていませんよ?」
『小僧は心を支配される前に我が取り除いた。こんな風にな』
 ライガーは眠っている雫ちゃんの前で、大きく口を開きました。
 雫ちゃんの体から黒い霧が出てきて、ライガーの口に飲み込まれていきます。
 すると、さっきまでうなされていた彼女の表情が和らいでいきました。
『もういいぞ。少しすれば目を覚ますだろう』
「本当!? 良かったぁ……」
「てめぇ……いつのまに俺にそんなことを……」
『気づかなかったのか? 馬鹿なだけじゃなく、感覚まで鈍いとは呆れた小僧だな』
 お返しとばかりにライガーは雲井君を鼻で笑います。
 もしかしたら、このコンビにとってはこれが信頼の表し方なのかもしれません。
「けっ、てめぇももう少し性格が良かったら俺だって困らねぇのにな」
『くだらんことを気にするな。我が貴様の家に世話になってやっているだけ感謝しろ』
「なんだとぉ!?」
 つっかかろうとする雲井君を、中岸君が制止させます。
「こんなところで喧嘩してどうするんだよ。それより今は状況を整理しないといけないだろ」
「っ……、分かったぜ」
 雲井君は近くにあった椅子に座り、腕を組んでふてくされています。
 私と中岸君はさっきまで私が眠っていたベッドの端に座り、香奈ちゃんは雫ちゃんの手を握ったまま体をこっちへ向けました。
「それで、何を話すつもりなんですか?」
「もちろん、これからどうするかでしょ」
「ああ。さっき男子更衣室に行ったときに、闇の力を持っている奴に襲われたのは言ったよな? その時に相手が言っていたんだ。”あの人の命令”だって……」
「あの人って誰の事よ?」
「分からない。けどアダムってやつの事じゃないのは確かだ。ここからは推測になるんだけど、たぶん学校の中にアダムの協力者がいるんだと思う。その協力者が、仲間に指示を出しているんだ。そしてその協力者は、白夜の力や闇の力について知っていて、白夜の力を持っていない雲井を狙ってきたんだ」
「まっ、俺にかかればあんな敵、たいしたことなかったぜ」
 誇らしげに言う雲井君。
 あんな恐ろしい闇の力に堂々と立ち向かえるのは、純粋に凄いなぁと思いました。
「それに俺が決闘したおかげで分かったこともあるぜ。闇の結晶を持っている奴は決闘で負けても消えることはないらしいぜ」
「何よそれ!? そんなの反則じゃない!」
「ああ。だから相手も事情を知っている俺達を狙ってくるんだろうな。そして雲井は白夜の力を持っていないから真っ先に狙われたんだろう」
「たしかに……それなら相手が雲井君を狙ってきた理由も説明がつきますね」
『まぁ我の存在で、敵の計画にいくらか支障が出たがな』
 ライガーが闇の結晶を食べてしまったことで、相手は消えてしまった。
 相手から考えれば、それはかなりの脅威だと思います。そしてさらに考えれば、敵の標的は自然と絞れてしまいます。
 それは……私です。白夜の力も、ライガーの手助けもない私が狙われてしまう可能性は高いような気がします。
「でもそんなことしなくても、敵はさっさと10勝して学校から出て行っちゃうんじゃない?」
「……たしかに、それもそうか……」
 中岸君は頭をかきながら考え込みます。
 だけどなんとなく、”それはない”と私は思いました。
「あの……ちょっといいですか?」
「なに真奈美ちゃん?」
「えっと、少し気になったんですけど、10勝したら学校を抜けられるっていうルール……これが本当の事だとしたら、なんかおかしくありませんか?」
「どういうこと?」
「この学校の全校生徒って、だいたい1000人くらいです。教師とか事務員さんも合わせると、だいたい1080人くらいです。仮に学校の生徒が同時にペアになって決闘していって負けた人が消えていく場合、2分の1の10乗。つまり10連勝出来る人は1024分の1です。もちろん仮定の話なのでこの計算が当てはまるわけじゃないですけど、簡単に考えて学校全体で数人しか脱出できないことになっちゃいます」
「……そう言われてみれば、たしかに変ね」
「しかも、決闘して10連勝ですよ? アダムの嘘で何人も決闘せずに消されちゃっていますし、みなさんがいつも自分のデッキを持ち歩いているわけありません。遊戯王の授業が無い日は、持ってこない生徒も多いと思います。実際に決闘出来る人は、もう数百人くらいしかいないんじゃないでしょうか?」
 考えれば考えるほど、アダムの言っていたルールはおかしなことばかりです。
 全員がデッキを持っていないことは考えれば分かるはずですし、なによりデッキを持っていない人は脱出する術がありません。それに放送で流れた『決闘が弱い人でも生き残れるチャンスがある』というのは、いったいどういうことなのでしょうか。たとえ決闘が弱くても闇の結晶を持てば負けても消えないからチャンスがあるという意味でしょうか。
 それとも……何か別のルールが……?
「うーん、情報が足りないわね。脱出させるのが目的じゃないなら、アダムはなんでこんな空間を作り出したのよ」
「分からない。だけど無闇に決闘しない方がよさそうだな」
「負けたら消えちゃうからってこと?」
「それもあるけど、敵は多分だけど集団でいるんだと思う。学校から出られない以上、デッキのカードをあんまり変えることはできないだろ? 俺はサイドデッキ用のカードを持ち歩いているからまだ大丈夫だけど……」
「下手に回数をこなしちゃうとデッキ内容が敵にばれちゃうってことですね」
「ああ。相手が闇の力を持っていたら逃げられないから覚悟を決めるしかないけど、闇の力を持っていない生徒なら決闘せずに逃げよう」
「そうですね」
「分かったぜ」
 どんな決闘であれ、負けたら消えてしまう。
 またあの闇の中に飲み込まれてしまうと思うと、怖くて震えそうになります。
「真奈美ちゃん、大丈夫?」
「え、は、はい」
「そう……? それで、これからどうするのよ」
「薫さんと合流するべきだと思う」
「場所が分からないじゃない。それに無闇に動いたら危ないわよ。雫もまだ目覚めてないし、放っておけないわ」
「じゃあ俺が――――」
「それも駄目! どうせあんたは無茶ばっかりするんだから行っちゃ駄目よ!」
 香奈ちゃんが大声で言います。
 その心配する表情を見て、中岸君はただ「分かったよ」と言いました。
 


 結局、どうするべきか決まらないまま10分が過ぎました。
 雲井君は保健室の冷蔵庫からペットボトルを取り出して、コップに注いでお茶を飲んでいます。中岸君はずっと考え込んでいて、私と香奈ちゃんは眠っている雫ちゃんの面倒を見ています。

「ぅん……?」

 唸り声をあげて、雫ちゃんがゆっくりと目を覚ましました。
「雫! 目が覚めたのね!」
「雫ちゃん! 大丈夫ですか?」
「ふぇ……香奈、真奈美……あたし……どうして……あっ!」
 何かを思い出したかのように、彼女は勢いよく起き上がりました。
「あ、あたし、香奈の首、絞めて……それで……」
「そんなのどうだっていいわよ。あんたが元気ならそれでいいわ」
「そうですよ。みんな雫ちゃんのことを心配していたんですよ」
「ありがとう……」
 お礼を言った雫ちゃんは、ゆっくりと辺りを見回します。
 ここが保健室であることや、中岸君と雲井君がいることを確認したようで、まだおぼつかない足でベッドから下りました。
「香奈、いったい、何がどうなってるの?」
「分からないわ。とにかく今の状況を説明するわね」
 さっきまで眠っていた雫ちゃんに、香奈ちゃんは説明を始めました。
 以前にデパートで事情を説明していたおかげでスムーズに説明が進み、彼女もすぐに状況を理解してくれました。
「なるほどなるほど。それで今はどうしたらいいか分からない状況ってわけですか」
「ええ。下手に動いても危ないから、こうやって休憩してるってわけ」
「オッケー。じゃあさ、教室に行こうよ」
「はぁ!? なんでよ!?」
「だって、私と真奈美の荷物は教室にあるんだよ? あそこにはデッキもデュエルディスクもあるし、あたしに至っては財布とか入ってるしさ。放っておけないじゃん。それにあたしだって、香奈の力になりたいし」
「だからって……」
「分かってる! あたしじゃ戦力にならないけど、せめて自分の身は自分で守るくらいのことはしたいじゃん。足手まといにはなりたくないの!」
 必死で想いを訴える雫ちゃん。
 気持ちはすごく分かりますけど、やっぱり危険な気がします。香奈ちゃんもどうしたらいいか分からないみたいです。
「じゃあ一緒に行けばいいじゃねぇか」
「え?」
 雲井君があっさりとした口調で言いました。
「……それもそうだな」
 めずらしく中岸君もそれに賛同しました。
「このままいても、何もすることができないし、多少でも行動すれば新しい情報が手に入るんじゃないか?」
「でも……」
「全員で行けば、きっとなんとかなるだろ。もちろん誰かに挑まれそうになったら全力で逃げればいい」
「ほらほら♪ 中岸も雲井も賛成してくれてるし、ちゃちゃっと行っちゃおうよ!」
「……分かったわよ。じゃあ全員でさっさと行って荷物を取って戻ってきましょう」
 ついに香奈ちゃんまで折れて、みんなで教室に向かうことになりました。
 何事もなければいいんですけど……。



 私の心配をよそに、私達は誰にも会わず無事に教室にたどり着くことができました。
 教室だけじゃなく廊下も静かです。まるで、音という概念が消えてしまったのではないかと思えるくらいでした。
「じゃあ行くわよ」
 香奈ちゃんが先導して、ドアを開けます。
 中は机や椅子が散乱していて、ところどころに血のようなものが飛び散っています。中岸君が言っていたとおり誰もいなくて、なんだかとても不気味でした。
「おっ、あったあった♪ 良かったぁ荷物が無事で」
「ちょっとは周りを警戒しなさいよ」
 雫ちゃんは自分の荷物を取って、中身を確認しています。
 その隣で香奈ちゃんは「やれやれ」といった感じで溜息をついていました。
「そうだ、私も……」
 私も自分の荷物を見つけ出して、中身を確認します。
 教科書やデュエルディスク、財布、あとはデッキは………朝に確認した内容と同じものです。あの状況でしたから誰かが盗むとは思えませんでしたけど、やっぱりバッグの中身が無事なのは安心しました。
「本当に誰もいないわね」
「みなさん、どこに行ってしまったんでしょうか……」

 ガララッ!

 突然、教室のドアが開きました。
 私を含めて全員が、警戒します。
「誰ですか!?」
 そう言って入ってきたのは、副担任の浅井(あさい)先生でした。赤縁の眼鏡に小柄な体。目がクリクリとしていて、まるでお人形みたいだとよく男子からからかわれています。美術部の顧問で、星花高校に入ってきたばかりの私にも優しく接してくれた先生でした。
「本城さん、無事だったのね!? 朝山さんに、中岸さん、雲井さんに雨宮さんも……良かったぁ〜」
「浅井先生も、大丈夫だったんですね!」
「もちろん。先生、とっても嬉しいわ。だって――――」
「……え?」


「だって――――こんなにたくさんの生徒を”救う”ことができるんだから


 浅井先生の体から、深い闇が溢れ出しました。
 一番近くにいた私と、他の4人が一瞬で分断されてしまいました。
「真奈美ちゃん!!」
 香奈ちゃんの声が聞こえたときには、もう遅かったです。
 すでに私と浅井先生の周りは、闇に囲われた空間が出来上がってしまっていました。
「あ、浅井先生……どうして……」
「恐がらないで本城さん。安心して? これからあなたを学校から脱出させてあげるから」
「どういうことですか?」
「決闘に負けると消えちゃうって放送されたでしょ? あれね、本当は負けたら学校から出られるんだって。”あの子”がそう教えてくれたの。そして私に、この闇の結晶をつけてくれたのよ」
 いつもと変わらないはずの優しい笑顔。
 だけどその瞳は、濁った闇に染められてしまっていました。
「大丈夫よ? 少しだけ痛いのを我慢すれば、こんな恐ろしい場所から脱出できる。だから、決闘しよ?」
「い、嫌です……」
「恐いのは分かるわ。大丈夫、先生が出来るだけ痛くないようにしてあげるから」
 その優しい笑みを絶やさぬまま、浅井先生は一歩ずつ近づいてきます。
 もう何を言っても、先生には届かないのだと分かりました。
「真奈美ちゃん! 逃げて!!」
「か、香奈ちゃん……」
「浅井先生! 私が決闘するわ!! だから真奈美ちゃんに構わないで!!」
「駄目よ朝山さん。早く脱出したい気持ちは分かるけど、順番は守らないとね?」
「……!」
 浅井先生は、私と決闘すると心に決めてしまっているようでした。
 闇で覆われた不思議な壁は、とても人の力で壊すことができません。つまり、浅井先生と戦うことは避けられないということです。
 負けたら消えてしまう決闘。闇の結晶を持っている相手は、決闘に負けても消えない……それが本当なら、白夜の力を持っていない私は………。
「諦めちゃだめ!」
「し、雫ちゃん……でも……!」
「決闘で負けても消えないなんて、相手が嘘ついているだけかもしれないじゃん! まだ諦めるには早いよ!」
 明らかに苦し紛れの言葉だということは、私を含めて全員が分かりました。
 でも、確かに彼女の言うとおりです。まだ可能性はあります。もしかしたら決闘中に先生が正気に戻ってくれて、決闘を中断してくれるかもしれません。外にいるライガーが私を助けてくれるかもしれません。薫さんが助けに来てくれるかもしれません。
 あまりに低い可能性ばかりだということは分かります。だけど、このまま何もせず消えてしまうなんて恐くて出来ません。恐い気持ちを抑えて、戦うしかないんです!
「さぁ構えて本城さん」
「……はい」
 荷物からデュエルディスクとデッキを取り出して、準備を整えます。
 手が震えています。こんなとき、自分の臆病さが嫌になります。香奈ちゃんや中岸君みたいに強い心があったら、震えることなんて無かったのでしょうか。
「いくわよ」



「「決闘!!」」



 真奈美:8000LP   浅井:8000LP



 決闘が始まりました



「この瞬間、デッキからフィールド魔法を発動するね」
 浅井先生のデュエルディスクから闇が溢れ出します。
 間違いなく闇の力です。あんなに優しい先生が……どうしてこんなことに……。
「発動。"変動する闇の世界"」


 変動する闇の世界
 【フィールド魔法】
 このカードはデュエル開始時に、デッキまたは手札から発動する。
 このカードはフィールドから離れない。
 このカードがフィールドに表側表示で存在する限り、
 自分のメインフェイズ時、自分の場、手札、墓地にいるモンスターのレベルを
 任意のものに変更できる。(レベル1〜12まで)


 モンスターのレベルを自在に変更する能力。一見すると、何の意味もない効果のように思えます。
 でも油断はできません。どんな能力でもデッキとの相性次第です。

 デュエルディスクに点灯した赤いランプ。先攻は私です。
「私のターン、ドローです!」(手札5→6枚)
 相手のデッキが分からない以上、迂闊に動けません。
 だったら……。
「"魔導騎士 ディフェンダー"を召喚します」


 魔導騎士 ディフェンダー 光属性/星4/攻1600/守2000
 【魔法使い族・効果】
 このカードが召喚に成功した時、
 このカードに魔力カウンターを1つ置く(最大1つまで)。
 フィールド上に表側表示で存在する魔法使い族モンスターが破壊される場合、
 代わりに自分フィールド上に存在する魔力カウンターを、
 破壊される魔法使い族モンスター1体につき1つ取り除く事ができる。
 この効果は1ターンに1度しか使用できない。


 魔導騎士 ディフェンダー:魔力カウンター×0→1

「あれ? どうしてモンスターを召喚するの本城さん?」
「っ……! わ、私は、カードを1枚伏せて、ターン終了です」


「……私のターンね。ドロー」(手札5→6枚)
 さっきまで笑みを浮かべていた先生の顔が、今度は戸惑いの表情を浮かべていました。
「抵抗しないでいいのよ本城さん。その方がすぐに終わるんだから」 
「……先生、わ、私は、脱出する前に、先生と楽しい決闘がしたいんです」
「そっか。それなら早く言ってくれればいいのに」
 嘘をつくということが、こんなに辛いとは思いませんでした。
 そして目の前にいる浅井先生は、やっぱり私の知っている先生です。本気で、私を救えると思って戦ってくれているんです。騙されているなんて、きっと微塵も思っていないんだと思います。
「じゃあ楽しい決闘をしましょう。手札から"マンジュ・ゴッド"を召喚」


 マンジュ・ゴッド 光属性/星4/攻1400/守1000
 【天使族・効果】
 このカードが召喚・反転召喚に成功した時、
 自分のデッキから儀式モンスターまたは
 儀式魔法カード1枚を手札に加える事ができる。


「"マンジュ・ゴッド"の効果。デッキから儀式魔法"エンド・オブ・ザ・ワールド"を手札に加えるね」(手札5→6枚)
「儀式デッキ……!」
 アドバンス召喚や、シンクロ召喚、数々の召喚方法が存在する遊戯王で昔から存在する特殊な召喚方法。
 それが儀式魔法を使った『儀式召喚』です。儀式モンスターとそれ専用の儀式魔法が手札に存在し、なおかつ場や手札から儀式モンスターのレベル分のリリースをしなければいけません。本来ならたくさんのカードを消費する召喚方法ですけど、"変動する闇の世界"でレベルを調整すれば、リリース要因は1体だけで済みます。出来る限り損失を抑えて、なおかつ強力な儀式モンスターで攻めてくるつもりなのでしょう。
「じゃあ"変動する闇の世界"の効果で"マンジュ・ゴッド"のレベルを4から8へ変更するよ」

 マンジュ・ゴッド:レベル4→8

「そして手札から"エンド・オブ・ザ・ワールド"を発動。レベル8になった"マンジュ・ゴッド"をリリースすることで、"破滅の女神ルイン"を儀式召喚!」
 リリースされたモンスターが8つの火の玉となって、フィールドに円形に浮かび上がります。
 それらの火の玉が一斉に消えて、円の中心から紫色の光が輝きだしました。
 やがてその光の中から、赤と黒の服に身を包んだ銀髪の女神が現れました。


 エンド・オブ・ザ・ワールド
 【儀式魔法】
 「破滅の女神ルイン」「終焉の王デミス」の降臨に使用する事ができる。
 フィールドか手札から、儀式召喚するモンスターと同じレベルになるように
 生け贄を捧げなければならない。


 破滅の女神ルイン 光属性/星8/攻2300/守2000
 【天使族・儀式/効果】
 「エンド・オブ・ザ・ワールド」により降臨。
 フィールドか手札から、レベルの合計が8になるようカードを生け贄に捧げなければならない。
 このカードが戦闘によって相手モンスターを破壊した場合、もう1度だけ続けて攻撃を行う事ができる。


「バトル。ルインで本城さんのモンスターへ攻撃するわね」
 銀髪の女神が手に持った杖を手に、魔法の鎧を着た騎士へ斬りかかります。
「……! "魔導騎士 ディフェンダー"の効果を発動します。場に存在する魔力カウンターを取り除いて、破壊を1度だけ無効にします!」
 斬りかかれた騎士の前に、魔力で作られたバリアが作られて攻撃を受け止めました。
 でも攻撃によって発生する衝撃まで消すことは出来ず、私まで届きます。
「っ!」

 真奈美:8000→7300LP
 魔導騎士 ディフェンダー:魔力カウンター×1→0

 体に襲い掛かった痛み。
 これが闇の決闘なんだということを、改めて実感させられました。
「私はカードを2枚伏せて、ターンエンドね」

-------------------------------------------------
 真奈美:7300LP

 場:魔導騎士 ディフェンダー(攻撃:1600)
   伏せカード1枚

 手札4枚
-------------------------------------------------
 浅井:8000LP

 場:変動する闇の世界(フィールド魔法)
   破滅の女神ルイン(攻撃:2300)
   伏せカード2枚

 手札2枚
-------------------------------------------------

「私のターン、ドロー……」(手札4→5枚)
 やっぱり予想通り、浅井先生はレベルを調整して強力な儀式モンスターで攻めてくる戦術みたいです。
 それなら私の取るべき戦術は決まっています。儀式モンスターは強力な分、儀式魔法と儀式モンスターが手札に揃わないと召喚することが出来ません。それに闇の世界で軽減しているといっても、儀式召喚のためにボードアドバンテージを少なからず犠牲にしています。
 つまり相手モンスター1体1体を確実に倒していけば、負けることはないはずです!
「私は手札から"熟練の黒魔術師"を召喚します!」


 熟練の黒魔術師 闇属性/星4/攻1900/守1700
 【魔法使い族・効果】
 このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
 自分または相手が魔法カードを発動する度に、
 このカードに魔力カウンターを1つ置く(最大3つまで)。
 魔力カウンターが3つ乗っているこのカードをリリースする事で、
 自分の手札・デッキ・墓地から「ブラック・マジシャン」を1体特殊召喚する。


 私のエースモンスターを呼び出すために、何度もお世話になっているモンスター。今回の決闘も、お世話になります。
「そして"魔力掌握"を発動します!」


 魔力掌握
 【通常魔法】
 フィールド上に表側表示で存在する魔力カウンターを
 乗せる事ができるカード1枚に魔力カウンターを1つ置く。
 その後、自分のデッキから「魔力掌握」1枚を手札に加える事ができる。
 「魔力掌握」は1ターンに1枚しか発動できない。


 熟練の黒魔術師:魔力カウンター×0→1→2
 真奈美:手札4→3→4枚("魔力掌握"の効果で"魔力掌握"をサーチ)

「さらに伏せカード"漆黒のパワーストーン"を発動します! この効果で"熟練の黒魔術師"に、さらに魔力カウンターを乗せます!」


 漆黒のパワーストーン
 【永続罠】
 発動後、このカードに魔力カウンターを3つ置く。
 自分のターンに1度、このカードに乗っている魔力カウンター1つを取り除き、
 フィールド上に表側表示で存在するこのカード以外の魔力カウンターを
 置く事ができるカード1枚に魔力カウンターを1つ置く事ができる。
 このカードに乗っている魔力カウンターが全て無くなった時、このカードを破壊する。


 漆黒のパワーストーン:魔力カウンター×3→2
 熟練の黒魔術師:魔力カウンター×2→3

「あらあら、一気に魔力カウンターが溜まっちゃったのね」
「いきます! 魔力カウンターの溜まった"熟練の黒魔術師"をリリースすることで"ブラック・マジシャン"をデッキから特殊召喚します!!」
 杖に魔力を溜めた魔術師が光に包まれて、その姿を昇華させていく。
 私の場に、黒衣を身にまとった高位の魔術師が姿を現しました。


 ブラック・マジシャン 闇属性/星7/攻2500/守2100
 【魔法使い族】
 魔法使いとしては、攻撃力・守備力ともに最高クラス。


「攻撃力2500……か……」
 難なく"ブラック・マジシャン"を召喚することが出来ました。ルインよりも攻撃力が上なので、このまま攻撃すれば、きっとダメージを与えれられると思います。でも、先生を……傷つけるなんて………。
「っ!」
 首を横に大きく振って、思考を中断させます。今は……今の先生はいつもの先生じゃありません。
 元に戻る可能性が微かにでもあるのなら、たとえ辛くてもちゃんと戦わないといけないんです!
「バトル! "ブラック・マジシャン"でルインに攻撃です!!」
 黒衣の魔術師が杖に魔力を込めて解き放ちます。
 漆黒の魔力の塊は、銀髪の女神を飲み込んで消し去ってしまいました。

 破滅の女神ルイン→破壊
 浅井:8000→7800LP

「っ」
「まだです! ディフェンダーで直接攻撃です!!」
 魔法の騎士が手の平から魔力弾を放ちます。
 それは一直線に浅井先生に向かい、直撃しました。

 浅井:7800→6200LP

「っぁああ!!」
「せ、先生……!」
「ひどいじゃない本城さん。楽しい決闘にしようって言って、私に直接攻撃するなんて……」
「あ、そ、それは……」
「でも大丈夫。先生は負けたりなんかしないから、思いっきり戦いましょう? そしたら気持ちよくこの学校から脱出できるもんね」
「そ、そう……ですね……」
 思わず目を背けてしまいました。互いを傷つけあって、そして敗者は消えてしまう。
 こんな悲しさしか残らない決闘をしているのに、浅井先生は私を救おうと思ってくれている。その気持ちが嬉しくて、そしてとても痛々しくて……。
「私は、カードを2枚伏せて、ターン終了です」

-------------------------------------------------
 真奈美:7300LP

 場:ブラック・マジシャン(攻撃:2500)
   魔導騎士 ディフェンダー(攻撃:1600)
   漆黒のパワーストーン(永続罠:魔力カウンター×2)
   伏せカード2枚

 手札2枚(そのうち1枚は"魔力掌握")
-------------------------------------------------
 浅井:6200LP

 場:変動する闇の世界(フィールド魔法)
   伏せカード2枚

 手札2枚
-------------------------------------------------

「私のターン、ドロー!」(手札2→3枚)
 浅井先生は勢いよくカードを引きます。
 場の状況を見る限り、まだ私の方が有利なはずです。
「手札から"カードガンナー"を召喚するね」


 カードガンナー 地属性/星3/攻400/守400
 【機械族・効果】
 1ターンに1度、自分のデッキの上からカードを3枚まで墓地へ送って発動する。
 このカードの攻撃力はエンドフェイズ時まで、
 墓地へ送ったカードの枚数×500ポイントアップする。
 また、自分フィールド上に存在するこのカードが破壊され墓地へ送られた時、
 自分のデッキからカードを1枚ドローする。


「"カードガンナー"の効果発動。デッキの上から3枚墓地に送るわ。そして墓地に送ったカードの枚数分、このカードの攻撃力をアップさせるわね」

【墓地に送られたカード】
・儀式魔人ディザーズ
・破滅の儀式
・儀式魔人リリーサー

 カードガンナー:攻撃力400→1900

「さらに魔法カード"儀式の準備"を発動。この効果でデッキからレベル7の儀式モンスター"破滅の魔王ガーランドルフ"を手札に、そして墓地にある儀式魔法"破滅の儀式"を手札に加えるわね」
「……!!」


 儀式の準備
 【通常魔法】
 デッキからレベル7以下の儀式モンスター1体を手札に加える。
 その後、自分の墓地の儀式魔法カード1枚を選んで手札に加える事ができる。


 たった1枚のカードで、儀式召喚に必要なパーツが揃えられてしまいました。
 きっと新しいパックに入っているカードでしょう。そして、さっき墓地に送られた見たことのないモンスターは……?
「さぁ、ここからが本番よ。"変動する闇の世界"の効果で、墓地にいる"儀式魔人ディザーズ"のレベルを1から7に変更
するわね」
「え?」
 墓地にいるモンスターのレベルを変更した? いったいどういうことでしょうか?
 儀式召喚を狙うなら、場にいる"カードガンナー"のレベルを変更するはずなのに。
「不思議に思う? だったらこれで分からせてあげるね。墓地にいる"儀式魔人ディザーズ"の効果。儀式召喚をする際にこのカードを除外することで召喚に必要なレベル分の素材として代用できるのよ」


 儀式魔人ディザーズ 闇属性/星1/攻200/守200
 【悪魔族・効果】
 儀式モンスターの儀式召喚を行う場合、
 その儀式召喚に必要なレベル分のモンスター1体として、
 墓地に存在するこのカードをゲームから除外する事ができる。
 このカードを儀式召喚に使用した儀式モンスターは罠カードの効果を受けない。


「そ、そんな……!」
 墓地にいることで儀式召喚の素材になれるモンスター。
 これじゃあボードアドバンテージを全く失うことなく、儀式召喚が出来るようになってしまいます。
「じゃあ手札から"破滅の儀式"を発動。そして墓地のレベル7となったディザーズを除外することで必要なレベル分のリリースは確保。出てきて! "破滅の魔王ガーランドルフ"!!」
 場に7つの火の玉が浮かび上がり、その中心から深い闇が溢れ出します。
 その闇から現れたのは、禍々しい顔をした屈強な戦士でした。


 破滅の魔王ガーランドルフ 闇属性/星7/攻2500/守1400
 【悪魔族・儀式/効果】
 「破滅の儀式」により降臨。
 このカードが儀式召喚に成功した時、このカードの攻撃力以下の守備力を持つ、
 このカード以外のフィールド上のモンスターを全て破壊し、
 破壊したモンスター1体につき、このカードの攻撃力は100ポイントアップする。


「ガーランドルフの効果発動。儀式召喚成功時に、このカードの攻撃力以下の守備力をもつモンスターをすべて破壊するわ! もちろん、ガーランドルフ自身は例外だけどね」
「っ……! わ、私はディフェンダーの効果で、"漆黒のパワーストーン"に乗っている魔力カウンターを2つ取り除くことで"ブラック・マジシャン"と"魔導騎士ディフェンダー"の破壊を無効にします!!」
 破滅の魔王は、その手の平から無数のエネルギーを放出します。
 敵味方問わずに放たれるそれは魔術師たちにも襲い掛かりましたが、魔力で形成した壁によってなんとか防ぐことが出きました。

 漆黒のパワーストーン:魔力カウンター×2→0("魔導騎士 ディフェンダー"の効果)
 漆黒のパワーストーン→破壊(自身の効果)
 カードガンナー→破壊

「あらあら、また防がれちゃったね。でもガーランドルフは、効果で破壊したモンスター1体に付き攻撃力を100ポイントアップさせる。さらに破壊された"カードガンナー"の効果で、私はデッキから1枚ドローよ」

 破滅の魔王ガーランドルフ:攻撃力2500→2600
 浅井:手札1→2枚

 モンスターを破壊できたことの喜びからか、魔王は自身の力をわずかに増幅させます。
 相手モンスターの除去を狙いつつ、自分は手札を増強。とても考えられた戦術だと思いました。
 しかも"儀式魔人ディザーズ"を使用して召喚されたガーランドルフには、罠カードが効きません。
「バトル。ガーランドルフで"ブラック・マジシャン"に攻撃!」
 先生の宣言と共に、魔王が笑みを浮かべながら手の平をこっちへ向けます。
 魔王から放たれた漆黒のエネルギーに飲み込まれて、黒衣の魔術師は倒れてしまいました。

 ブラック・マジシャン→破壊
 真奈美:7300→7200LP

「っ、ブラック・マジシャン!」
「私はこれで、ターンエンドよ」

-------------------------------------------------
 真奈美:7200LP

 場:魔導騎士 ディフェンダー(攻撃:1600)
   伏せカード2枚

 手札2枚(そのうち1枚は"魔力掌握")
-------------------------------------------------
 浅井:6200LP

 場:変動する闇の世界(フィールド魔法)
   破滅の魔王ガーランドルフ(攻撃:2600)
   伏せカード2枚

 手札2枚
-------------------------------------------------

 まさか、墓地で儀式召喚のサポートをするモンスターがいるなんて思いませんでした。
 あの儀式魔人シリーズをなんとかしないといけませんけど、今は出来ません。それなら、一気に攻めたてるだけです!
「私のターンです。ドロー!」(手札2→3枚)
 引いたカードは、つい最近になってデッキに投入したカードでした。
 今の状況を考えても、使わない手はありません!
「"魔導騎士 ディフェンダー"をリリースして、手札から"闇紅の魔導師"をアドバンス召喚します!!」


 闇紅の魔導師 闇属性/星6/攻1700/守2200
 【魔法使い族・効果】
 このカードが召喚に成功した時、このカードに魔力カウンターを2つ置く。
 このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
 自分または相手が魔法カードを発動する度に、このカードに魔力カウンターを1つ置く。
 このカードに乗っている魔力カウンター1つにつき、このカードの攻撃力は300ポイントアップする。
 1ターンに1度、このカードに乗っている魔力カウンターを
 2つ取り除く事で、相手の手札をランダムに1枚捨てる。


 闇紅の魔導師:魔力カウンター×0→2
 闇紅の魔導師:攻撃力1700→2300

「さらに"魔力掌握"を発動! "闇紅の魔導師"に魔力カウンターを乗せて、デッキから"魔力掌握"を手札に加えます!」
 召喚された魔導師に、さらなる魔力が込められます。
 それに応じて、魔導師自身の力が大きくなりました。


 魔力掌握
 【通常魔法】
 フィールド上に表側表示で存在する魔力カウンターを
 乗せる事ができるカード1枚に魔力カウンターを1つ置く。
 その後、自分のデッキから「魔力掌握」1枚を手札に加える事ができる。
 「魔力掌握」は1ターンに1枚しか発動できない。


 闇紅の魔導師:魔力カウンター×2→3→4
 闇紅の魔導師:攻撃力2300→2600→2900
 真奈美:手札2→1→2枚("魔力掌握"をサーチ)

「あら、ガーランドルフの攻撃力を超えたわね。それが狙い?」
「まだです! 伏せカードを発動します!」


 奇跡の復活
 【通常罠】
 自分フィールド上の魔力カウンターを2個取り除く。
 自分の墓地にある「ブラック・マジシャン」か「バスター・ブレイダー」1体を特殊召喚する。


「この効果で、"闇紅の魔導師"に乗っている魔力カウンターを2個取り除いて、墓地から"ブラック・マジシャン"を特殊召喚します!!」
 場に現れる魔法陣。そこに魔力の込められた球体が二つ飲み込まれます。
 魔力を吸収した魔法陣から輝かしい光が溢れ、黒衣に身を包んだ魔術師が再び姿を現しました。

 闇紅の魔導師:魔力カウンター×3→1
 闇紅の魔導師:攻撃力2900→2300
 ブラック・マジシャン→特殊召喚(攻撃)

「そのモンスターを呼び出すために、わざわざ攻撃力を下げたの?」
「はい。これで、ガーランドルフを倒せます!」
「なんですって?」
「手札から"千本ナイフ"を発動します!!」


 千本ナイフ
 【通常魔法】
 自分フィールド上に「ブラック・マジシャン」が
 表側表示で存在する場合のみ発動する事ができる。
 相手フィールド上に存在するモンスター1体を破壊する。


 闇紅の魔導師:魔力カウンター×1→2
 闇紅の魔導師:攻撃力2300→2600

「……!」
「この効果で、ガーランドルフを破壊します!」
「チェーンして伏せカードを発動するわね」


 祝宴
 【速攻魔法】
 フィールド上に表側表示の儀式モンスターが
 存在するときのみ発動することができる。
 自分のデッキからカードを2枚ドローする。


 闇紅の魔導師:魔力カウンター×2→3
 闇紅の魔導師:攻撃力2600→2900

「この効果で、デッキからカードを2枚ドローよ」(手札2→4枚)
「で、でもガーランドルフは破壊させていただきます!」
 黒衣の魔術師が杖を振ると、空中に無数のナイフが現れました。
 それらは一斉に破滅を司る魔王へ襲い掛かります。抵抗しようとした魔王でしたが、その圧倒的なナイフを受けきれず切り刻まれてしまいました。

 破滅の魔王ガーランドルフ→破壊

「っ、罠カードが効かないから、魔法効果で倒しに来たのね」
「はい。そしてこれで、先生の場はがら空きです!!」
 モンスターがいなくなったことで、私は一斉攻撃を宣言します。
 あの残りの伏せカードが気になりますけど、前のターンに発動されなかったことを考えるとおそらくブラフです。
「まずは"ブラック・マジシャン"で攻撃――――」
 そう宣言した瞬間、気づきました。
 浅井先生の口元に小さな笑みが浮かんでいることを。

「今、”攻撃”って言ったわね?」

「ぇ……そ、そんな……!」
「伏せカード発動!」
 浅井先生が伏せておいたカードを発動すると同時に、魔術師の放った魔力が虹色の壁に阻まれました。


 聖なるバリア−ミラーフォース−
 【通常罠】
 相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
 相手フィールド上に存在する攻撃表示モンスターを全て破壊する。


「あ……そんな……!?」
「前のターンに発動しなかったからって油断しちゃだめよ。前のターンはディフェンダーがいたから、発動しても破壊を免れちゃうでしょ? だから温存しておいたってわけ」
 攻撃を防いだ虹色の壁から、無数の光が乱反射して私の場に襲い掛かりました。
 無数の光に貫かれて、場にいる私のモンスターは倒されてしまいます。

 ブラック・マジシャン→破壊
 闇紅の魔導師→破壊

「迂闊な攻撃は、自ら身を滅ぼすだけよ? さぁ本城さん、どうする?」
「……た、ターン……終了……です」

-------------------------------------------------
 真奈美:7200LP

 場:伏せカード1枚

 手札1枚("魔力掌握")
-------------------------------------------------
 浅井:6200LP

 場:変動する闇の世界(フィールド魔法)

 手札4枚
-------------------------------------------------

「あらあら、一気に戦意が削がれちゃったみたいね」
「………」
 浅井先生の言うとおりでした。まさか聖バリが伏せてあるなんて、思ってもみませんでした。
 強力なモンスターを2体失い、なおかつ相手の手札は4枚もある。
 精神的なダメージは、かなりのものでした。
「私のターン、ドロー」(手札4→5枚) 
 落ち込む私にお構いなく、浅井先生はターンを進めます。
「まずは手札から"儀式の檻"を発動しますね」


 儀式の檻
 【永続魔法】
 このカードがフィールド上に存在する限り、自分フィールド上に表側表示で存在する
 儀式モンスターの戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になる。
 また、自分フィールド上に表側表示で存在する儀式モンスターは
 効果モンスターの効果の対象にならず、効果モンスターの効果では破壊されない。


 儀式モンスターの戦闘によって発生するダメージを0にし、なおかつ効果モンスターによる破壊を無効にするカード。
あのカードを除去しないと、戦闘ダメージを与えることが難しくなってしまいます。
「これでモンスター効果対策は完了。そして"変動する闇の世界"の効果で"儀式魔人リリーサー"をレベル3から7へ変更するわね」
「っ……!」

 儀式魔人リリーサー:レベル3→7

「そして儀式魔法"救世の儀式"を発動。墓地のレベル7となったリリーサーを除外して、レベル分のリリースは確保して手札から"救世の美神ノースウェムコ"を儀式召喚!!」
 場に現れる7つの火の玉。その中心から白い光が輝き、中から美しい女性型のモンスターは現れました。
 右手に太陽を象ったかのような杖を携え、銀色の長い髪が腰を超えています。美しいその瞳が、私を見据えました。


 儀式魔人リリーサー 闇属性/星3/攻1200/守2000
 【悪魔族・効果】
 儀式召喚を行う場合、その儀式召喚に必要なレベル分のモンスター1体として、
 自分の墓地のこのカードをゲームから除外できる。
 また、このカードを儀式召喚に使用した儀式モンスターがフィールド上に表側表示で存在する限り、
 相手はモンスターを特殊召喚できない。


 救世の儀式
 【儀式魔法】
 「救世の美神ノースウェムコ」の降臨に必要。
 自分の手札・フィールド上から、
 レベルの合計が7以上になるようにモンスターをリリースしなければならない。
 また、自分のメインフェイズ時に墓地のこのカードをゲームから除外し、
 自分フィールド上の儀式モンスター1体を選択して発動できる。
 このターン選択した自分の儀式モンスターはカードの効果の対象にならない。


 救世の美神ノースウェムコ 光属性/星7/攻2700/守1200
 【魔法使い族・儀式/効果】
 「救世の儀式」により降臨。
 このカードが儀式召喚に成功した時、このカードの儀式召喚に使用したモンスターの数まで、
 このカード以外のフィールド上に表側表示で存在するカードを選択して発動する。
 選択したカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
 このカードはカードの効果では破壊されない。


「ノースウェムコの効果発動。儀式召喚に使用したモンスターの数だけ、場のカードを選択する。選択したカードが場にあるかぎり、このカードはカード効果で破壊されないわ」
「え!?」
「もちろん私が選択するのは"変動する闇の世界"。これで、何がどうあってもノースウェムコは破壊できなくなったわ」
「……!」
 闇の世界は決して取り除くことのできないフィールド魔法。そのフィールド魔法が存在する限り、ノースウェムコ自身も決してカード効果で破壊されない。
 ほぼ無敵のようにも思える耐性を持つモンスター。こんなの……いったいどうしたら……。
「じゃあついでに墓地の"救世の儀式"の効果発動。このカードを除外して、このターンだけ私のモンスターはカード効果の対象にできなくするわね」
 な、なんで……この局面で……もしかして、私の伏せカードがばれてる?
 いえ、そんなことあるわけありません。きっとたまたまです。
「バトルよ!」
 浅井先生のモンスターが、私に斬りかかります。
 一瞬だけ伏せカードに手をかけようとして、思いとどまります。今の相手モンスターは効果対象に出来ないなら、このカードを発動しても無駄になるだけです。
 何も防ぐものがないことを確認したノースウェムコが、勢いよく杖を振って私を切りつけました。

 真奈美:7200→4500LP

「うぁぁっ……あぁ!」
 体を激痛が襲いました。でも、ふらつきながらギリギリで耐えます。
 まだ……まだです。まだ決闘は終わってません。
 でも………。
「そんなに頑張らなくてもいいのよ本城さん? リリーサーを使って召喚されたノースウェムコは、相手の特殊召喚をすべて封じる効果があるの」
「っ、そ、そん、な……」
 特殊召喚が出来ない? 特殊召喚が出来ない状態で、戦うしかないってことですか?
 相手モンスターは破壊耐性があって、攻撃力は2700もあります。それを特殊召喚なしで倒すなんて……。
「分かった? もう勝ち目なんかないのよ。私はこれでターンエンド」

-------------------------------------------------
 真奈美:4500LP

 場:伏せカード1枚

 手札1枚("魔力掌握")
-------------------------------------------------
 浅井:6200LP

 場:変動する闇の世界(フィールド魔法)
   救世の美神ノースウェムコ(攻撃:2700)
   儀式の檻(永続魔法)

 手札2枚
-------------------------------------------------

「私のターン……ドロー……」(手札1→2枚)
 引いたカードは、今の状況ではまったく役に立たないカードでした。
 もう……駄目なのかもしれません。特殊召喚を封じられて、手札も少なくて……相手の場には破壊不可能なモンスターがいます。
 打つ手は……ありません。
「……ターン終了です」

 こう言うしか……ありませんでした。


「本城さんはよく頑張ったわよ。それじゃあ、さっさと終わらせちゃうね。私のターン、ドロー」(手札2→3枚)
 浅井先生は勝利を確信したようで、淡々とカードに手をかけます。
 外で香奈ちゃんや雫ちゃんが呼びかけてくれるような気がしますけど、きっと、気のせいです。
「手札から"仮面魔獣の儀式"を発動ね。手札のレベル8の"終焉の王デミス"をリリースして、手札からレベル8の儀式モンスター"仮面魔獣マスクド・ヘルレイザー"を儀式召喚!!」
 フィールドに現れる8つの火の玉。
 円形に並ぶ火の玉の中心から、禍々しいオーラを纏い、不気味な仮面をかぶった化け物が現れました。
 上半身は人で、下半身は見たことも無いモンスターのもの。まさしく魔獣と呼ぶにふさわしいモンスターです。


 仮面魔獣の儀式
 【儀式魔法】
 「仮面魔獣マスクド・ヘルレイザー」の降臨に必要。
 手札・自分フィールド上から、レベルの合計が8以上になるように
 モンスターをリリースしなければならない。


 仮面魔獣マスクド・ヘルレイザー 闇属性/星8/攻3200/守1800
 【悪魔族・儀式】
 「仮面魔獣の儀式」により降臨。


「これで終わりね本城さん。あなたとの決闘、楽しかったわよ」
「そう……ですか……」
「じゃあバトル! まずはノースウェムコで攻撃!!」
 浅井先生の場にいる美神が、再び私を切りつけます。
「うぅっ…!!」

 真奈美:4500→1800LP

「これで終わり! ヘルレイザーで直接攻撃!」
 仮面魔獣が、その面から怪光線を放ちます。
 迫りくる光をぼんやりと見つめながら、私の手は静かに伏せカードに伸びていました。
「真奈美ちゃん! 負けないで!!」
「お願い真奈美ぃ!」
 聞こえたのは、大切な友達の叫び声でした。

「伏せカードを、発動します」

 私に当たる寸前、仮面魔獣の放った怪光線が魔法で作られた巨大な筒の中に吸い込まれました。
「えっ!?」
 驚く浅井先生に、私は発動したカードを見せました。


 魔法の筒
 【通常罠】
 相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
 相手モンスター1体の攻撃を無効にし、
 そのモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。


「これで、ヘルレイザーの攻撃力分……3200ポイントを先生にダメージとして与えます」
 浅井先生の頭上に、もう一つの筒が現れます。
 そこから、さきほど吸い込まれた怪光線がまるで滝のように降り注ぎました。
「きゃああっ!!」

 浅井:6200→3000LP

「い、痛った〜」
「………」
 先生、私もすごく痛いです。体だけじゃなく、心まで。
 どうしてこんな悲しい決闘をしなくちゃいけないんでしょうか。私は、浅井先生のことが大好きなのに……。
「先生、どうしますか?」
「そ、そうね。とりあえずターンエンドかな」

-------------------------------------------------
 真奈美:1800LP

 場:なし

 手札2枚(そのうち1枚は"魔力掌握")
-------------------------------------------------
 浅井:3000LP

 場:変動する闇の世界(フィールド魔法)
   仮面魔獣マスクドヘルレイザー(攻撃:3200)
   救世の美神ノースウェムコ(攻撃:2700)
   儀式の檻(永続魔法)

 手札0枚
-------------------------------------------------

「私のターン……」
 状況は絶望的です。
 相手の場には強力なモンスターが2体もいて、私は特殊召喚が封じられています。
 どうあがいても……敗北は免れません。それなら……いっそ……。

『まだですよ』

「……え?」
 また、あの声……。幻聴でしょうか?

『――――なら――救えます。――――を使って――――』

 途切れ途切れで、内容はほとんど聞き取れませんでした。
 でも、優しくてどこかホッとする声。
 なぜでしょう。少しだけ、何とかなるような気がしてきました。
 不思議です。こんなにピンチなのに、心はとても落ち着いています。
 痛みを訴えていた体が軽くなって、さっきまでの焦りや不安が嘘みたいです。とても冷静に、この状況を見ることが出来ます。
「……真奈美……ちゃん?」
 外にいる香奈ちゃん達が、不思議そうな顔をしています。
 どうしてそんな顔をしているんでしょう? 心配なのでしょうか?
「大丈夫ですよ。みなさん」
 外にいるみなさんに笑いかけた後、私は浅井先生に向き直りました。
 先生も不思議そうな顔をしていますけど、今はそんなの関係ありません。
 この決闘を終わらせないといけません。これ以上、先生が苦しむのも、生徒を救おうとする姿も見たくありません。

「浅井先生……このターンで、終わらせますね」

「え?」
「私のターンです。ドロー」(手札2→3枚)
 引いたカードを確認し、すぐさまデュエルディスクの青いボタンを押します。
「デッキワンサーチシステムを使います」
 デュエルディスクによって、デッキから自動的にカードが選び出されます。
 私はそれを勢いよく引き抜きました。(手札3→4枚)
 同時にルールによって、浅井先生もカードを引きました。(手札0→1枚)
「今さらデッキワンカードを使うつもり? でも無駄だよ。ノースウェムコがいる限り本城さんは特殊召喚ができない。アドバンス召喚を狙っても、本城さんの場にリリースするモンスターはいないじゃない。いくらデッキワンカードでも、場に出せなきゃ意味ないのよ?」
「それはどうでしょう」
 たしかに先生の言うとおり、あのモンスターがいる限り特殊召喚はできません。
 しかも破壊が出来ないのですから、厄介極まりありません。でも方法はあります。
「手札から"マジカル・コンダクター"を召喚します」


 マジカル・コンダクター 地属性/星4/攻1700/守1400
 【魔法使い族・効果】
 自分または相手が魔法カードを発動する度に、
 このカードに魔力カウンターを2つ置く。
 このカードに乗っている魔力カウンターを任意の個数取り除く事で、
 取り除いた数と同じレベルの魔法使い族モンスター1体を、
 手札または自分の墓地から特殊召喚する。
 この効果は1ターンに1度しか使用できない。


「なっ、特殊召喚が出来ない状況で……そのモンスター?」
「はい。いきますよ浅井先生。魔法カード"手札抹殺"を発動します」


 手札抹殺
 【通常魔法】
 お互いの手札を全て捨て、それぞれ自分のデッキから
 捨てた枚数分のカードをドローする。


 真奈美:手札2→0→2枚
 浅井:手札1→0→1枚
 マジカル・コンダクター:魔力カウンター×0→2

 手札をすべて捨てて、捨てた枚数分だけカードを引きます。
 ちょうどよく、望んだカードが手札に舞い込んできてくれました。
「魔法カード"精神操作"を発動します」


 精神操作
 【通常魔法】
 このターンのエンドフェイズ時まで、
 相手フィールド上に存在するモンスター1体のコントロールを得る。
 このモンスターは攻撃宣言をする事ができず、リリースする事もできない。


 マジカル・コンダクター:魔力カウンター×2→4

「この効果で"救世の美神ノースウェムコ"のコントロールを得ます」
「……!」
 発動したカードから細い糸が伸びて、浅井先生の場にいる美神の手足に繋がります。
 その糸に引っ張られて、私の場に美神が移動してきました。
「コントロールを奪ってどうするつもり?」
「こうするんですよ。装備魔法"ワンダー・ワンド"を発動」


 ワンダー・ワンド
 【装備魔法】
 魔法使い族モンスターにのみ装備可能。
 装備モンスターの攻撃力は500ポイントアップする。
 また、自分フィールド上に存在するこのカードの装備モンスターと
 このカードを墓地へ送る事で、自分のデッキからカードを2枚ドローする。


 マジカル・コンダクター:魔力カウンター×4→6

「あっ!?」
「ノースウェムコは魔法使い族です。問題なくこのカードを装備できます。そして"ワンダー・ワンド"が装備されたノースウェムコをリリースすることで、デッキからカードを2枚ドローします」
 糸に繋がれたモンスターが、装備された魔法の杖と共に光に変換されます。

 救世の美神ノースウェムコ→墓地
 ワンダー・ワンド→墓地
 真奈美:手札0→2枚

「ノースウェムコはあくまで相手のカード効果で破壊されません。だからこうやって墓地に送ってしまえばいいんです」
「……!」
「そして手札から"召喚士のスキル"を発動します」


 召喚師のスキル
 【通常魔法】
 自分のデッキからレベル5以上の通常モンスターカード1枚を選択して手札に加える。


 マジカル・コンダクター:魔力カウンター×6→8

「この効果で、デッキから"ブラック・マジシャン"を手札に加えます」(手札1→2枚)
「魔力カウンターが……!」
「もうひとつです。永続魔法"魔力倹約術"を発動します」


 魔力倹約術 
 【永続魔法】
 魔法カードを発動するために払うライフポイントが必要なくなる。


 マジカル・コンダクター:魔力カウンター×8→10

「そして"マジカル・コンダクター"の効果発動です。このカードに乗っている魔力カウンターを10個取り除くことで、墓地にいる"エターナル・マジシャン"を特殊召喚します
 僧侶のような姿をした魔法使いが、天を仰ぎながら祈りを捧げます。
 空間に浮かび上がる10個の魔力の塊。それらが円を描くように回転し、眩い光を発します。
 その光に呼び出され、白きローブに身を包んだ最高峰の魔法使いが現れます。腰まで届くような長い白銀の髪に、槍を思わせる杖を構え、すべてを見透かすような青い瞳が魔獣を見据えました。


 エターナル・マジシャン 闇属性/星10/攻3000/守2500
 【魔法使い族・効果・デッキワン】
 魔法使い族モンスターが15枚以上入っているデッキにのみ入れることが出来る。
 このカードが戦闘によってモンスターを破壊し墓地へ送った時、
 破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。
 このカードがフィールドに表側表示で存在する限り、
 自分は魔法カードを発動するためのコストが必要なくなる。
 1ターンに1度、手札を1枚捨てることで
 デッキまたは墓地に存在する魔法カード1枚を手札に加えることが出来る。


 マジカル・コンダクター:魔力カウンター×10→0

「デッキワンカード……! さっきの"手札抹殺"で墓地に送っていたのね」
「はい。その通りです。"エターナル・マジシャン"の効果発動。手札を1枚捨てることで、デッキから魔法カード1枚を手札に加えます」
 手札に残っているカードを墓地へ送り、デッキから新たなカードを手札に加えます。(手札1→0→1枚)
 この決闘に決着をつけるために、浅井先生を……倒すために……。
「手札から"魔導師の力"を"エターナル・マジシャン"に装備します」


 魔導師の力
 【装備魔法】
 装備モンスターの攻撃力・守備力は、
 自分フィールド上に存在する魔法・罠カード1枚につき
 500ポイントアップする。


 エターナル・マジシャン:攻撃力3000→4000

「そんな……私が……負ける!?」
「これで終わりです。バトル」
 白き魔法使いが杖を構え、莫大な魔力を溜めていく。
 辺りの空気が振動するような力が込められた杖の先端を魔獣へ向け、魔法使いは小さく深呼吸します。
 そして放たれた魔力の波が、相手のモンスターを飲み込みました。

 仮面魔獣マスクドヘルレイザー→破壊

「"儀式の檻"の効果で、浅井先生に戦闘ダメージはありません。でも"エターナル・マジシャン"は、戦闘で破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手に与えます」
「あ…あぁ……!」
 放出された魔力の波はモンスターを飲み込むと、その勢いを保ったまま浅井先生を飲み込みました。
「ああああああああああ!!!」

 浅井:3000→0LP



 浅井先生のライフが0になりました。



 決闘は、終了です。



「っ? うぅ……」
 さっきまではっきりしていた意識が、急にぼやけてきました。
 辺りを囲んでいる闇は晴れません。倒れている浅井先生の胸にある闇の結晶も、そのままです。
 やっぱり、白夜の力を持っていない私には………。

 ……ピシッ……

 何かに、ヒビが入るよな音がしました。
「え……?」
 思わず自分の目を疑ってしまいます。
 浅井先生の持っている結晶が、砕けていっているんです。そして――――

 パリンッ

 とても小さくて、あっけない音と共に闇の結晶が砕け散りました。
 な、なんで……私が闇の力を……?
「あぁぁぁ!!」
 突然、浅井先生が苦しみだして、その体が霧のようになって消えていきます。
 私との決闘に負けたせいで……私が……勝ってしまったせいで……。
「あああああ!!」

 そして浅井先生は、叫び声と一緒に消えてしまいました。

 闇に囲まれた空間がなくなり、香奈ちゃんと雫ちゃんが真っ先に駆け寄ってくれました。
 気が抜けたんでしょうか。膝に力が入りません。
「真奈美ちゃん! しっかりして!!」
「香奈ちゃん、雫ちゃん……私……私……先生を……!」
「分かってるよ。真奈美は悪くない。あたしたちがしっかり見てたもん。だから、今は助かったことだけを喜ぼうよ」
「雫ちゃん…………………」
 どうしてでしょう。涙が出てきてしまいます。
 浅井先生を消してしまった責任からでしょうか、助かったことによる喜びからでしょうか、とにかく涙が止まりませんでした。
 泣いている私を、香奈ちゃんが優しく抱きしめてくれました。
「真奈美ちゃんは悪くないわ。悪いのは、こんな空間を作り出した奴よ」
「そうだよ。あたしたちでその悪者を対峙してやろうよ!」
 必死で元気づけてくれる2人の優しさが、とても嬉しかったです。
「香奈。とりあえずここを出よう。他にも誰かが来るかもしれない」
「大助……そうね。真奈美ちゃん、立てる?」
「はい。なんとか……」
 2人の肩を借りて、なんとか立ち上がります。
 思っている以上に決闘のダメージが体に響いているみたいです。
「あ、1人で歩けるので、もう大丈夫です」
「そう? 無理ならすぐに言ってね?」
「そーそー。なんだったらあたしがおんぶしてあげてもいいからね♪」
「あはは……じゃ、じゃあその時はお願いします」
 痛む箇所を押さえて、私達は教室をあとにします。
 誰もいない教室を眺めながら、私は誰にも触れられなかった疑問について考えてしまいました。
 どうして白夜の力を持っていないはずの私が……闇の力を破壊できたんでしょうか。
『小娘』
「はい?」
 足元にライガーがいました。どことなく真剣な眼差しでこっちを見上げています。

『貴様は………いや、なんでもない。今の生活を、せいぜい楽しんでおくことだな』

「え?」
 ライガーはそう言うと、さっさと教室を出て行ってしまいました。
 いったい何を言いたかったのでしょうか? 
「………?」
 様々な疑問を抱えたまま、私は皆さんと一緒に教室をあとにしました。




episode10――増援――




 とある教室に、1人の女子生徒が座っていた。
 彼女の他には誰もおらず、彼女は自身のデッキを確認しながら、淹れた熱いお茶を飲みながら一息ついていた。
『やぁやぁ栞里(しおり)さん。調子はどうだい?』
 栞里と呼ばれた女子生徒の背後に、黒い布を羽織った少年が現れた。
「そうやって出てくるのは止めてくださいアダム。ただでさえあなたがいるだけで気分が悪くなるんですから」
『アハハ、相変わらず厳しいね。決闘してきて、休憩がてら一服かい?』
「ええ。2人ほど倒してきましたよ」
『そっか。どう? ボクが言ったとおりだったでしょ?』
「そうですね。あなたからもらった闇の力も、十分に活用させてもらっていますよ」
『恐いなぁ。君の闇の世界は、ボクが今まで見てきた中でも5本指くらいに入る凶悪さだからね。特にこの空間の中ではより凶悪だもん』
 アダムがケラケラと笑いながら、近くに置いてあった机の上に座る。
 栞里は調整を終えたデッキをまとめて、デッキケースにしまった。
「何の用ですか? 兄さんは?」
『君のお兄さんは休憩中だよ。着実に強くなっていっているから安心してよ』
「……私の闇の世界が、兄さんの闇の世界だったら良かったのに……」
『アハハ、それは無理な話だね。結晶によって具現化する闇の世界は、個人の欲望以上に素質がモノを言うからね。そこだけ見れば君はお兄さんよりも素質が高いと言えるのは間違いないね』
「…………」
『そんな顔しないでよ。お兄さんの闇の世界だってかなり強力だし、どんな能力だって使い方次第だよ。お兄さんはボクが出来る限り強くしてあげるからさ。君はスターのみんなをどんどん苦しめてよ』
「最初からそのつもり。兄さんの邪魔をしようとするのなら、たとえあなたでも消しますよ」
『アハハ、ボクを消すのは無理だけど、その心意気は素晴らしいと思うよ』
 明らかな余裕を見せるアダムに、栞里は底知れぬ恐怖を感じてしまう。
 闇の力を得てどれだけ強力になっても、アダムを倒せる気がしない。
「……それで、何の用ですか? 暇だからここに来ただけではないんですよね?」
『もちろん。どうせ君の仲間からすぐに報告があると思うけど、浅井先生は本城真奈美ちゃんに敗北したよ。闇の結晶も彼女に壊されちゃったからね』
「なっ、どういうことですか!? 本城さんは白夜の力を持っていないはずでは?」
『詳しい話は君に関係ないことだからするつもりはないよ。ただね、彼女は雲井君と同じ”不確定要素”なのさ。ボクにとってはその2人だけが計画通りに動いてくれなさそうな邪魔な要因でしかないんだよね。まぁとにかく彼女も闇の結晶を破壊できるってことだから気を付けてよ』
「……分かりました。わざわざ教えてくれたありがとう」
『どういたしまして。じゃあボクはまたお兄さんのところに行ってくるよ』
 無邪気な少年のように手を振りながら、アダムは教室から姿を消した。
 肌に残る気持ち悪さを感じながら、栞里は静かに溜息をついた。

「”不確定要素”……ですか」

 兄さんの邪魔になりそうならば、自ら倒しに行かなければならないと栞里は思う。
 アダムに授けられた力を使って……確実に……。
「もう少し、準備が必要ですね」
 確実に倒すためには、こっちにも準備がいる。
 放送された際にアダムが明言しなかったルール。それを知ると知らないとではこのサバイバルを生き残る可能性が格段に違う。出来れば、敵には気づかれたくないルールなのだが……。
「さて、これからどうするか……」
 栞里は額に手を当てて、深く考え込むことにした。



---------------------------------------------------------------------------------------------------



『うーん、だいたい集められたかな薫ちゃん?』
「そうだね、コロン。手伝ってくれて、ありがとう」
 時刻を同じくして、薫とコロンは体育館にいた。
 そこには教室にいたほとんどの生徒が、白夜の力によって作られた光の膜に包まれて横たわっている。
 正確には、座ったまま眠らされている状態だ。
「だいたい、600人、くらい?」
『うん。他の人は、まだ学校を徘徊しているか、消えちゃったかのどちらかだと思うよ』
「………」
 教務室で校長と決闘した後、薫とコロンは放送室に向かった。
 だがそこには誰もおらず、闇の霧が発生したかと思うと学校中の生徒が暴れだした。薫とコロンは白夜の力を使って、暴れている生徒たちを片っ端から眠らせて体育館へ転送した。
 それからすべての教室を回り、暴れている生徒たち全員を眠らせて転送する作業を繰り返して、こうして見つけた生徒達を体育館に集め終わったところである。
『あの闇の霧は、多分だけど人の悪い感情を増幅させるものだと思う。とりあえずあれで体内の霧を浄化できればいいんだけど……』
 生徒たちを囲んでいる光の膜は、中にある闇の力を浄化させる作用をもっている。
 作るのにかなりの体力を消費する上、それを維持するのもそれなりの体力が必要だ。いかにスターのリーダーである薫といえども、600人近くの生徒それぞれに光の膜を施しているため著しく体力を消耗している。
『本当に大丈夫? なんだか今にも倒れそうだよ?』
「はは、心配してくれて、ありがとう、コロン。コロンも、手伝ってくれてるから、大丈夫、だよ」
 力ない笑みを浮かべる薫は、床に座ったまま動こうとしなかった。
 もはや少し動くのも辛いのだろう。こうやって話すこと自体、辛いのかもしれない。
『とにかく休もう? 回復はあんまり得意じゃないけど、少しはマシになるかもしれないし』
「ううん。コロンは、もしもの時のために、力を、温存して」
『もしもって?』
「なんだかね、嫌な感じがするんだ。えへへ、咲音さんみたいに、何かを感じる力があるわけじゃないけど」
『……その感覚なら分かるよ。私もなんか嫌な感じがするもん』
 学校が不思議な空間に包まれてから、それとは別にコロンには不思議な感覚が芽生えていた。
 それは夏の戦いで感じた感覚。
 まるで誰かに呼ばれるような……そんな感覚。
 薫に心配かけまいと、何も言わないでいた。
『せめて、伊月君とかいればなぁ……』


「おやおや、お呼びですか?」


 体育館の入り口から発せられた声。
 コロンと薫がそこへ顔を向けると、スターの幹部である伊月がそこにいた。
「い、伊月君……!」
「遅くなりました。こちらに巨大な闇の力の反応があると報告を受けて急いで来たのですが、どうやら事態はかなり深刻なようですね」
『ホントだよ! 遅いよ!』
「本当に申し訳ありません。ここに入ってくるときに少々厄介なことがありまして……」
「厄介なこと……?」
「ええ。それは作業をしながらお話ししましょう。まずは薫さんの体力を回復させることが先です」
 伊月はそう言うと、座り込む薫に近づき懐から取り出したカードをかざした。
 薫の体を暖かな光が包み込み、消耗していた体力を徐々に回復させていく。
『厄介なことって何?』
「はい。この学校に到着したのはいいのですが、全体が黒い霧に包まれていましてね。野次馬が群がっている上に、報道機関までやってきそうだったので、本社に頼んでこの区域の閉鎖をお願いしていたんですよ」
『でもそれくらいなら、電話一本でどうにかなるんじゃないの?』
「その通りです。情報操作についても本社の方にお任せして、この事件の解決はスターにすべて任せるということになりました。部下のみなさんも一緒にこの学校に入ろうとしたのですが、僕以外の人間は弾かれてしまいましてね。どうやら白夜の力を持っていない人間はこの霧を突破できないようなんですよ」
『ふーん……じゃあ外からの助けは期待できないってこと?』
「ううん。そうじゃないよコロン。白夜の力を持った伊月君が入ってこれたってことは、逆に言えば白夜の力持った人間は出入りが自由ってことになる。だから生徒たちを私達が誘導すれば―――」
「問題はそこです。僕達が生徒たちを誘導して外に出るというのが最善の策なのですが、外には闇の力で作られたモンスターが徘徊しています。動いている生物を見つけたら真っ先に攻撃してきます。数えられないほどのモンスターがいましたから、生徒たちを誘導しながらだと危険です。ちなみにこれは携帯で撮った写真です」
 伊月はポケットから取り出した携帯の画面を取り出し、薫とコロンに見せる。
 そこに映っていたのは、様々なモンスターの群れ。狼や巨人、または無数の触手をもつモンスター。どれも一筋縄に倒せそうなモンスターではない。
「僕一人だけなら、なんとか突破できたんですがね。生徒たちがいるとなると……」
「そっか。私も生徒のみんなもこんな状態だし、すぐに脱出できなさそうだね」
「はい。とにかく、現在の状況を僕に教えていただけますか?」
「うん」
 体力を回復させながら、薫は現在の状況を伊月に説明した。
 謎の放送が流れて、決闘に負ければ消えてしまうというサバイバルが始まったこと。闇の結晶が学校の各地にあるかもしれないということ。携帯などの外へ連絡する手段はすべて断たれてしまっているということ。
 とにかく分かっていることだけを、事細かに伊月へと伝えた。
「……なるほど。そうなると放送で流れた『弱い人でも生き残れるチャンスがある』というのが気になりますね」
「うん。いったいなんなんだろうね」
「考えていても仕方ありません。僕は生き残った生徒がいないかどうか辺りを見まわってきましょう。薫さんはこのまま体力の回復をしてください」
「待って! 伊月君が行くなら、私も―――」
「おやおや、体力が不十分な状態の薫さんが来ても足手まといになるだけですが?」
「む……」
 膨れっ面になった薫に爽やか笑みを向けて、伊月は体育館を出ていく。
 生き残っている生徒たちを見つけることはもちろんだが、まずはこの学校にいるはずの大助たちと合流することが先決であろう。
 彼らの実力を考えれば、そう簡単に負けることなどない。闇の結晶があるというのが分かった以上、それを破壊できる力を持った味方は確保しておかなければならないだろう。
「さて、どこにいるのでしょうか?」
 その場に立ち止り、考える。
 こんな異常事態だが、様々な戦いを経験した彼らが冷静さを失うとは考えにくい。ならば彼らが真っ先に考えそうな事は、この学校に潜入していた薫との合流であろう。そうなれば彼らが目指すのは教務室……………いや、すでに闇の力を持った決闘者と戦っている可能性もある。その傷を癒す術を持っていない彼らは、体を休める場所を求めるはずだ。それならば保健室であろうか。
 とにかく、闇雲に探すよりも教務室と保健室のどちらかを目指すのが得策であろう。
「ここからなら、教務室が近いでしょうか」
 頭に叩き込んだ学校の全体図から考えて、最短ルートで伊月は教務室に向かう。
 その間、生徒にも教師にも会わなかった。体育館で眠らされている人数が全員なのか、それともどこかに隠れているのかは分からないが、学校を走り回って誰にも会わないというのも不気味である。
「………」
 人の気配を感じ、伊月は立ち止まる。
 渡り廊下の曲がり角。そこから感じられる殺気にも似た雰囲気。
「そこにいるのは分かっていますよ。出てきたらどうですか?」
 そう語りかけると、柱の陰から3人の人間が姿を現した。
 2人はそこか虚ろな目をしており、その後ろに立つ男子生徒の胸には闇の結晶がかけられている。
「なんだ、見た目によらず鋭いのな。ていうか教師のやつらじゃない……ってことはスターって組織の一員かい?」
「おやおや、自らの名前を名乗らない相手に自己紹介するほど親切ではありませんが?」
「ふん、俺の名前は宮野塚(みやのづか)っていうんだ。ああ、この操り人形達は気にしないでいいぜ。どうせあんたを消耗させて、負けて消されるためだけの駒だからな」
「どういうことでしょうか?」
「やってみりゃ分かる。さっさと決闘してもらうぜ。まずはこっちの男からだ!」
 宮野塚は虚ろな目をした男子を押し出して、伊月と向き合わせる。
 外見から判断するに、どうやら正気を失っているうえに意識を操られているようだ。
 なるほど、無関係な生徒たちに戦わせて自分は高みの見物。こちらの戦術を理解したうえで、消耗した自分と戦おうという魂胆であろう。
「ずいぶんと、舐められたものですね……」
 そう呟き、伊月は小さく溜息をつく。
「無駄な手間は省きましょう」
 素早い動作で、伊月はカードをかざした。
 カードの絵柄から2本の光の矢が発射され、操られた2人の男子生徒を貫く。
 光の矢に貫かれた生徒たちは串刺しのまま壁際まで飛ばされて、そのまま壁に磔にされた。
「なっ!?」
「あなたの思惑通りに行くと思ったら大間違いですよ? 敵の作戦に付き合ってやるほど、僕は暇ではないし甘くありません」
「だからって……躊躇なく生徒を殺したってのか!?」
「とんでもない。さすがに刑務所に入るのはごめんですからね。2人には眠っていただいただけです。とにかくこれで僕とあなたのサシ勝負。あなたは色々と事情を知っていそうですから、白状してもらいますよ?」
「……!」
 宮野塚の表情が変わる。神原(かんばら)栞里の話では、スターという組織は一般人に対して甘い傾向があるという話だった。だから操った生徒をぶつければ、倒すまではいかないにしろ消耗させることができると踏んでいたのだが……。
「あんた、組織の中で変わり者だろ?」
「おやおや、僕達の組織には変わり者しかいませんよ」
 そう言って伊月は笑う。考えてみれば、スターには変わり者ばかりだと思ったからだ。
 どこまでも美しい世界を夢見る優しいリーダー。老け顔の天才ハッカーに、甘い物好きの妖精。彼らの事を話すだけで一日は過ごせてしまいそうだ。
「大変そうだな。そんな組織辞めて俺達と協力してくれないか?」
「それは出来ない相談ですね。今の職場は気に入っていますし、闇の組織に関しては大学時代の頃から絶対に入りたくないと思って生きてきましたから」
「そうか。じゃあお前には消えてもらうしかなさそうだなぁ!」
 宮野塚はデュエルディスクを構える。
 対して伊月もデュエルディスクを構えて、デッキをセットする。
 互いに数メートルの距離を置き、同時に叫んだ。



「「決闘!!」」



 伊月:8000LP   宮野塚:8000LP



 決闘が、始まった。



「この瞬間、デッキからフィールド魔法を発動させてもらうぜ!」
 宮野塚のデュエルディスクから闇が溢れ出して、2人の周囲を包み込む。
 闇で包まれたドーム状の空間に、無数の剣が切っ先を伊月へ向けて浮遊していた。


 追撃する闇の世界
 【フィールド魔法】
 このカードはデュエル開始時に、デッキまたは手札から発動する。
 このカードはフィールドから離れない。
 このカードがフィールドに表側表示で存在する限り、
 自分の場にいるモンスターが相手モンスターを戦闘で破壊して墓地に送った時、
 そのモンスターのレベル×500ポイントのダメージを相手に与える。


「おやおや、ずいぶんと物騒な世界ですね」
「余裕そうな顔をしてるじゃないか。お前のその余裕も、すぐに消してやるよぉ!」
「期待して待ってますよ。それでは、僕のターンです」
 デュエルディスクの赤いランプが点灯したことを確認して、伊月はデッキからカードを引く。(手札5→6枚)
 戦闘破壊をトリガーにして発生する効果ダメージ。あのフィールド魔法の影響下では、星4のモンスターがやられてしまっただけでも大ダメージを受けてしまう。
 長引かせてはこちらが不利。ならば、速攻で勝負を仕掛けるべきであろう。
「僕はデッキワンサーチシステムを使います」
 デュエルディスクの青いボタンを押して、デッキから1枚のカードをサーチする。(手札6→7枚)
「じゃあ、俺もカードを引かせてもらうぜ」(手札5→6枚)
 ルールによって宮野塚もカードを引く。
 普通は序盤から相手にたくさん手札を与えるのは少し不安になるものだが、伊月から見れば”引かせる”ことが目的なのだから何の問題もない。
「いきますよ。手札から永続魔法"堕天使の楽園"を発動します」


 堕天使の楽園
 【永続魔法・デッキワン】
 ライフポイントを回復する効果をもつカードが15枚以上入っているデッキにのみ入れることができる。
 お互いのプレイヤーは自分のスタンバイフェイズ時に、手札1枚につき500ライフポイント回復する。
 1ターンに1度、デッキ、または墓地から「堕天使」または「シモッチ」と
 名のつくカード1枚を手札に加えることが出来る。
 このカードが破壊されるとき、1000ライフポイントを払うことでその破壊を無効にする。


 フィールドに舞う無数の黒い羽。地面には血のように見える液体が広がり、気味の悪い空間を生み出す。
「さっそく"堕天使の楽園"の効果を発動します。デッキから"堕天使ナース−レフィキュル"を手札に加えて、そのまま場に召喚します」


 堕天使ナース−レフィキュル 闇属性/星4/攻1400/守600
 【天使族・効果】
 このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、相手のライフポイントが回復する効果は、
 相手のライフポイントにダメージを与える効果になる。


「っ、よりによって【シモッチバーン】か。あんたはずいぶんと面倒なデッキを使うじゃねぇか」
「おやおや、誰がどのようなデッキを使おうと個人の勝手だと思いますが?」
 軽くあしらい、伊月は手札の1枚を発動した。


 恵みの雨
 【通常魔法】
 お互いは1000ライフポイント回復する。


「さっそくか!」
「この効果でお互いのライフは1000回復。もっとも、あなたはレフィキュルの効果で回復ではなくダメージに変換されます」
 フィールドに現れた堕天使の力によって、癒しの力を持つ雨が赤く染まる。
 赤く染まった雨は宮野塚へ降り注ぎ、回復をもたらす雨は伊月へ降り注いだ。

 伊月:8000→9000LP
 宮野塚:8000→7000LP

「ぐっ、なかなか痛ぇな」
「この程度で音をあげていては、先が思いやられますねぇ。僕はカードを2枚伏せてターンエンドです」



「俺のターン、ドロー!」(手札6→7枚)
「この瞬間、僕の場にある"堕天使の楽園"の効果が発動しますよ。あなたの手札7枚分、つまり3500ポイントの回復をダメージへ変換します」
 伊月の場にいる堕天使が宙に舞う黒い羽根に触れた瞬間、その羽たちが鋭い刃へと変化して、一斉に宮野塚に襲い掛かった。
「がああああぁ!?」

 宮野塚:7000→3500LP

 思わず膝をつき、宮野塚は伊月を睨み付ける。
 その鋭い視線をいつもの軽い態度で躱し、伊月は静かに笑みを浮かべていた。
「ついでにもう少しダメージですよ。罠カード"ギフトカード"を発動します」
「なっ!?」


 ギフトカード
 【通常罠】
 相手は3000ライフポイント回復する。


 可愛らしいクリスマスボックスの中から、赤い光が放射される。
 膝をつき動きが鈍くなっている相手を、その光は容赦なく飲み込んだ。
「がっは!?」

 宮野塚:3500→500LP

「おやおや、ずいぶんとライフが減ってしまいましたね?」
「あんた……嫌な性格してるじゃねぇか……!」
「僕はそんなつもりは無いんですがね、よく言われてしまいます。ところで、あなたの知っていることをすべて話していただけませんか? 僕としてはあなたにトドメを刺すのは気が進まないのですがね……」
「心にもないことを言いやがって……その余裕、すぐに消してやるぜ!」
 大ダメージを受けた体を立ち上げて、宮野塚はデュエルディスクの青いボタンを押した。
「デッキワンサーチシステム使わせてもらう!」
「あなたも持っていたんですか。本社としては、デッキワンカードは滅多に手に入らないように封入率を操作しているんですが……」
「あいにくこっちは『ENDLESS PACK』を10箱も買ったからなぁ!」
 デッキから自動的にカードが選び出され、宮野塚の手札に舞い込む。(手札7→8枚)
 対して伊月もルールによってカードを引いた。(手札4→5枚)
「こっから本番だ! 永続魔法"Sin Castle"を発動!!」


 Sin Castle
 【永続魔法・デッキワン】
 「Sin」と名のついたカードが15枚以上入っているデッキにのみ入れることが出来る。
 このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
 「Sin」と名のついたモンスターはフィールド上に表側表示で1体以上存在することが出来る。
 また「このカードが表側表示で存在する限り、自分の他のモンスターは攻撃宣言できない。」
 という効果は無効になる。
 「Sin」と名のついたモンスターが守備表示モンスターを攻撃した時、
 その守備力を攻撃力が超えていれば、その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。
 このカードが破壊されるとき、自分の除外しているモンスター1体を墓地に戻すことで
 その破壊を無効にすることが出来る。


 宮野塚の背後に、真っ白な壁の城が現れる。
 装飾も外壁も屋根もすべてが白く染められていて、華やかさは無いがどこか不気味な雰囲気を醸し出している。
「……【Sin】デッキですか……」
 伊月の表情が若干だが曇る。デッキから元となるモンスターを除外することで、手札から特殊召喚できるSinシリーズのモンスター。場に1体しか存在できなかったり、他のモンスターは攻撃できなかったりするなどのデメリットがあるが、どれも高い攻撃力を持った厄介なモンスター群である。
 そして発動されたデッキワンカードは、そんなSinモンスターのデメリットをすべて打ち消す効果を持っている上に貫通効果まで付加させる。なおかつ戦闘破壊したモンスターのレベルに比例したダメージを与えてくる闇の世界。
 型は全く違えど、相手の戦術はおそらく自分と同じ『高火力で短期決戦を狙うタイプ』であろうと伊月は予想した。
「あなたも、あまり良い趣味のデッキではありませんね」
「お互い様だろうな。俺が受けた痛みは、同程度くらいに返してやる! デッキから"真紅眼の黒竜"を除外して、手札から"Sin 真紅眼の黒竜"を特殊召喚だ」
 宮野塚のデッキから、1枚のカードが除外される。
 場に現れる真紅の瞳を持った黒竜。その身に白い外装が取り付けられ、禍々しい力を纏わされる。
 まるで苦しむような大きな咆哮をあげて、闇に染まった黒竜は舞い降りた。


 Sin 真紅眼の黒竜 闇属性/星7/攻2400/守2000
 【ドラゴン族・効果】
 このカードは通常召喚できない。
 自分のデッキから「真紅眼の黒竜」1体をゲームから除外した場合に特殊召喚できる。
 「Sin」と名のついたモンスターはフィールド上に1体しか表側表示で存在できない。
 このカードが表側表示で存在する限り、自分の他のモンスターは攻撃宣言できない。
 フィールド魔法カードが表側表示で存在しない場合このカードを破壊する。


「おやおや、早速ですか」
「まだいくぜ! エクストラデッキから"サイバー・エンド・ドラゴン"を除外して"Sin サイバー・エンド・ドラゴン"を特殊召喚!!」
 黒竜の隣に現れる三つ首の機械龍。
 同じように白い外装を取り付けられ、禍々しい力を強制的に纏わされる。
 三つの首がそれぞれ声を上げて、伊月の姿を見据えた。


 Sin サイバー・エンド・ドラゴン 闇属性/星10/攻4000/守2800
 【機械族・効果】
 このカードは通常召喚できない。
 自分のエクストラデッキから「サイバー・エンド・ドラゴン」1体を
 ゲームから除外した場合のみ特殊召喚できる。
 「Sin」と名のついたモンスターはフィールド上に1体しか表側表示で存在できない。
 このカードが表側表示で存在する限り、自分の他のモンスターは攻撃宣言できない。
 フィールド魔法カードが表側表示で存在しない場合このカードを破壊する。


「いきなり攻撃力4000ですか……」
「さぁバトルだ。Sinサイバーエンドで、レフィキュルを攻撃!」
 機械龍の口に強力なエネルギーが込められて、一気に放出される。
 圧倒的な攻撃力の前に、伊月のモンスターは為すすべもなく消されてしまった。

 堕天使ナース−レフィキュル→破壊
 伊月:9000→6400LP 

「ぐっ……っっ!」
「なかなか効いたんじゃねぇか? この瞬間、"追撃する闇の世界"の効果発動! 戦闘破壊したレフィキュルのレベルは4だ。よって2000ポイントのダメージを受けてもらおうか!!」
 闇の空間に浮いていた無数の剣が、一斉に伊月へ襲い掛かる。
 四方八方からの斬撃に、伊月は思わず膝をついてしまった。
「がっ…!?」

 伊月:6400→4400LP

「まだ休んでる暇は無いぞ! "Sin 真紅眼の黒竜"でダイレクト攻撃だ!!」
「くっ……あいにくですが、止めさせてもらいますよ!」
 もう1体のモンスターからの攻撃が放たれる直前、伊月は素早く手札のカードをデュエルディスクに置いた。
 黒竜から放たれた火炎弾の前に、振り子時計のような形をしたモンスターが立ち塞がる。
 手に持った鐘を鳴らすと辺りに不思議な音が鳴り響き、火炎弾を消し去ってしまった。


 バトルフェーダー 闇属性/星1/攻0/守0
 【悪魔族・効果】
 相手モンスターの直接攻撃宣言時に発動する事ができる。
 このカードを手札から特殊召喚し、バトルフェイズを終了する。
 この効果で特殊召喚したこのカードは、
 フィールド上から離れた場合ゲームから除外される。


「へぇ、止めやがったか。さすがに簡単に倒せる相手じゃないみたいだな」
「どうやらあなたも、一筋縄ではいかないようですね」
「……いいねぇ、お互いに相手の強さを認識できたってところか。次から本番ってことでいいのか?」
「ご想像にお任せしますよ。ところで早くターンを進めてほしいのですが?」
「ふん、カードを2枚セットして、ターンエンドだ!」

-------------------------------------------------
 伊月:4400LP

 場:バトルフェーダー(守備:0)
   堕天使の楽園(永続魔法・デッキワン)
   伏せカード1枚

 手札:4枚
-------------------------------------------------
 宮野塚:500LP

 場:追撃する闇の世界(フィールド魔法)
   Sin 真紅眼の黒竜(攻撃:2400)
   Sin サイバー・エンド・ドラゴン(攻撃:4000)
   Sin Castle(永続魔法・デッキワン)
   伏せカード2枚

 手札:3枚
-------------------------------------------------

「僕のターン、ドロー」(手札4→5枚)
 伊月は真剣な眼差しで相手を見据える。
 油断していたわけではない。単に相手が想定以上の決闘者だった。とことん追い詰めて情報を聞き出す手段も使えそうにない。そうなればあとは考えることは無い。目の前にいる相手が強敵である以上、ここで倒すだけである。
「スタンバイフェイズ、楽園の効果で僕は2500ポイントのライフを回復します」

 伊月:4400→6900LP

「さらに"堕天使の楽園"の効果でデッキから"堕天使ナース−レフィキュル"を手札に加えます」(手札5→6枚)
「サーチ効果で手札を増やす上に、回復か……わざわざ自分から苦しい方を選ぶなんてどうかしてるんじゃねぇか?」
「おや、その言い方だとまるで自分が勝つ、と言うつもりですか? ずいぶんと余裕ですね」
 そう言いながら、伊月はたった今サーチしたモンスターを場に召喚した。


 堕天使ナース−レフィキュル 闇属性/星4/攻1400/守600
 【天使族・効果】
 このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、相手のライフポイントが回復する効果は、
 相手のライフポイントにダメージを与える効果になる。


「この瞬間、伏せカード発動だ!」
「!?」
 宮野塚が開いたカードから竜巻が現れて、場に降りた堕天使を吹き飛ばしてしまった。


 Sin Claw Stream
 【通常罠】
 自分フィールド上に「Sin」と名のついたモンスターが
 表側表示で存在する場合に発動する事ができる。
 相手フィールド上に存在するモンスター1体を選択して破壊する。

 堕天使ナース−レフィキュル→破壊

「残念だったなぁ!」
「別にそうでもありませんよ。伏せカード発動です」


 シモッチによる副作用
 【永続罠】
 相手ライフポイントが回復する効果は、
 ライフポイントにダメージを与える効果になる。


「っ! そのカードを伏せていたのか……!」
「そういうことです。これで終わりですよ。手札から"ソウルテイカー"を発動します」


 ソウルテイカー
 【通常魔法】
 相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を破壊する。
 この効果によって破壊した後、相手は1000ライフポイント回復する。


「対象は"Sin サイバー・エンド・ドラゴン"です。まぁ、あなたのライフは残り500。この効果が通れば僕の勝ちですがね」
「ぷっ、おめでたいやつだな。俺が対策してないわけないだろ!!」
 伊月の笑みを不気味な笑みで返しつつ、宮野塚は伏せカードを開いた。


 王宮のお触れ
 【永続罠】
 このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
 このカード以外のフィールド上の罠カードの効果を無効にする。


「っ!」
「少し動揺したか? これで"シモッチの副作用"の効果は無効! "ソウルテイカー"の効果はそのまま適用される!」
「まさか……罠を封じるカードまで伏せているとは……」
 白い外装が取り付けられた機械龍の体から、魂ともいえる光が抜き取られる。
 魂を失った機械龍はどんどん黒く錆びていき、風化してしまった。

 Sin サイバー・エンド・ドラゴン→破壊
 宮野塚:500→1500LP

「どうだどうだ! 罠カードが消されちゃあんたも厳しいだろ!」
「………」
 何も答えないまま、伊月は下唇を噛む。
 まさか罠カードまで封じられてしまうとは思わなかった。相手モンスターは強力なものばかりで、状況はかなり不利だろう。
「弱りましたね……」
 小さく呟き、覚悟を決める。
 どうやら頭を使わなければならない相手に当たってしまったらしい。
(さて……久々で少し不安ですが……なんとかするしかありませんね)
「さぁ、どうするんだよ!?」
「僕はターンエンドです」

-------------------------------------------------
 伊月:6900LP

 場:バトルフェーダー(守備:0)
   堕天使の楽園(永続魔法・デッキワン)
   シモッチの副作用(永続罠)

 手札:4枚
-------------------------------------------------
 宮野塚:1500LP

 場:追撃する闇の世界(フィールド魔法)
   Sin 真紅眼の黒竜(攻撃:2400)
   Sin Castle(永続魔法・デッキワン)
   王宮のお触れ(永続罠)

 手札:3枚
-------------------------------------------------

「俺のターン、ドローだ!」(手札3→4枚)
 宮野塚がカードを引き、場に舞っている黒い羽根が光となって降り注ぐ。

 宮野塚:1500→3500LP

 王宮のお触れを発動されている状況では、シモッチの副作用も効果が成り立たない。だから堕天使の楽園の回復効果が相手にもメリットとして働いてしまうのだ。
「デッキから"青眼の白龍"を除外して"Sin 青眼の白龍"を特殊召喚!」


 Sin 青眼の白龍 闇属性/星8/攻3000/守2500
 【ドラゴン族・効果】
 このカードは通常召喚できない。
 自分のデッキから「青眼の白龍」1体をゲームから除外した場合に特殊召喚できる。
 「Sin」と名のついたモンスターはフィールド上に1体しか表側表示で存在できない。
 このカードが表側表示で存在する限り、自分の他のモンスターは攻撃宣言できない。
 フィールド魔法カードが表側表示で存在しない場合このカードを破壊する。


 禍々しい力を宿した白龍が降り立つ。
 闇の力が宿った外装に支配された状態では、誇り高きその姿も形無しだった。
「バトルだ!! "Sin Castle"の効果で、貫通ダメージだぜ!!」
 白龍から放たれたブレスが、置時計のような形をしたモンスターをかき消してしまった。

 バトルフェーダー→破壊→除外
 伊月:6900→3900LP

「がっ……確かに貫通効果はキツいですが、あなたの闇の世界はモンスターを戦闘破壊した後に墓地へ送らなければならない。場から離れた除外される"バトルフェーダー"なら、効果ダメージはありませんよ」
「だからなんだよ。あんたが大ダメージを受けることに変わりはないだろ!!」
 続けて放たれた黒竜のドラゴンから放たれたブレスが、伊月へ襲い掛かった。
「ぐっ、くぅっ……!!」

 伊月:3900→1500LP

 大ダメージに、伊月の呼吸が大きく乱れる。
 宮野塚は口元に笑みを浮かべ、苦悶の表情を浮かべる相手を見据えた。
「ずいぶんと苦しそうだな。さっさとサレンダーしたらどうだ?」
「……この程度で、勝ち誇るとは……まだまだ子供ですね」
「口が減らないな。だったらこれでどうだ!! 手札から"禁止令"を発動!!」


 禁止令
 【永続魔法】
 カード名を1つ宣言して発動する。
 このカードがフィールド上に存在する限り、
 宣言されたカードをプレイする事はできない。
 このカードの効果が適用される前からフィールド上に存在するカードには
 このカードの効果は適用されない。


「俺が宣言するのは"堕天使ナース−レフィキュル"だ!!」
「……面倒なカードを使いますね……」
「どうだ! 次のターンに決着をつけてやるぜ! ターンエンド!!」


 傷ついた体を立ち上げて、伊月は小さく溜息をついた。
 どうにも辛い戦いになりそうだ。あまりこういった戦いは好まないのだが、仕方ないのだろう。
「僕のターンですね。ドロー……」(手札4→5枚)
 伊月がカードを引くと同時に、場に舞った黒い羽根が光になって降り注いだ。

 伊月:1500→4000LP

 手札があればある分だけ大幅にライフを回復できる永続魔法。
 こうしてライフ回復だけを目的にしても、堕天使の楽園は十分すぎるくらい強力なカードだ。
(さてさて、調整を始めますか……)
「"堕天使の楽園"の効果で、デッキから"堕天使ナース−レフィキュル"を手札に加えます」(手札5→6枚)
「けっ、まだ戦う気かよ」
「えぇもちろんですよ。手札から"成金ゴブリン"を発動しますよ」


 成金ゴブリン
 【通常魔法】
 デッキからカードを1枚ドローする。
 相手は1000ライフポイント回復する。


 伊月:手札5→6枚
 宮野塚:3500→4500LP

「わざわざライフを回復させてまで手札を引くとは、ずいぶん切羽詰まってるんじゃないか?」
「そうでもありませんよ。手札から"クリッター"を召喚します」


 クリッター 闇属性/星3/攻1000/守600
 【悪魔族・効果】
 このカードがフィールド上から墓地へ送られた時、
 自分のデッキから攻撃力1500以下のモンスター1体を手札に加える。


「バトルです。"クリッター"で"Sin 真紅眼の黒竜"を攻撃します」
「はぁ!?」
 三つ目の悪魔が、黒竜に向かって突撃する。
 黒竜は口から炎を吐き出して、向かってくる小さな悪魔を消し去ってしまった。

 クリッター→破壊
 伊月:4000→2600LP

「"追撃する闇の世界"の効果で、あんたに1500のダメージだ!!」
「くっ……!」
 闇の世界に漂う無数の剣が、伊月を切り刻んだ。

 伊月:2600→1100LP

「っ、"クリッター"の効果でデッキから"バトルフェーダー"を手札に加えます」(手札5→6枚)
「なるほどなぁ。ダメージ覚悟で次のターンの攻撃を防ぐカードをサーチしたってことか」
「どう思おうと、あなたの勝手ですよ。ターンエンドです」

-------------------------------------------------
 伊月:1100LP

 場:バトルフェーダー(守備:0)
   堕天使の楽園(永続魔法・デッキワン)
   シモッチの副作用(永続罠)

 手札:6枚
-------------------------------------------------
 宮野塚:4500LP

 場:追撃する闇の世界(フィールド魔法)
   Sin 真紅眼の黒竜(攻撃:2400)
   Sin 青眼の白龍(攻撃:3000)
   Sin Castle(永続魔法・デッキワン)
   禁止令(永続魔法:"堕天使ナース−レフィキュル"を宣言)
   王宮のお触れ(永続罠)

 手札:2枚
-------------------------------------------------

「俺のターン、ドロー!!」(手札2→3枚)
 意気揚々とカードを引いた宮野塚に、癒しの光が降り注ぐ。
 さらにライフを回復したためか、その表情にさらに余裕が出てきた。

 宮野塚:4500→6000LP

「いくぜぇ! デッキから"究極宝玉神 レインボー・ドラゴン"を除外して、"Sin レインボー・ドラゴン"を特殊召喚する!!」
 フィールドに走る七色の光。その光の中から現れた虹の龍が、闇の力に染められていく。
 闇の外装を取り付けられた虹の龍が、どこか悲しそうな咆哮をあげた。


 Sin レインボー・ドラゴン 闇属性/星10/攻4000/守0
 【ドラゴン族・効果】
 このカードは通常召喚できない。
 自分の手札・デッキから「究極宝玉神 レインボー・ドラゴン」1体を
 ゲームから除外した場合のみ特殊召喚できる。
 「Sin」と名のついたモンスターはフィールド上に1体しか表側表示で存在できない。
 このカードが表側表示で存在する限り、自分の他のモンスターは攻撃宣言できない。
 フィールド魔法カードが表側表示で存在しない場合このカードを破壊する。


「また新しいモンスターですか、容赦がありませんね」
「敵を倒すのに容赦なんかいるはずねぇだろ。バトルだ!!」
「あなたの攻撃宣言時、僕は手札から"バトルフェーダー"を特殊召喚します」(手札6→5枚)
 伊月へ向けて一斉攻撃をしようとしたモンスターたちの前に、再び振り子時計のような姿をしたモンスターが現れた。
 その手にある鐘から響く特殊な音波によって、モンスターたちの動きは止まった。


 バトルフェーダー 闇属性/星1/攻0/守0
 【悪魔族・効果】
 相手モンスターの直接攻撃宣言時に発動する事ができる。
 このカードを手札から特殊召喚し、バトルフェイズを終了する。
 この効果で特殊召喚したこのカードは、
 フィールド上から離れた場合ゲームから除外される。


「はっ、どこまで耐えられるかな?」
「もちろんあなたのライフが0になるまで負けるつもりはありませんよ?」
「……ちっ、ターンエンドだ」



「さぁ、僕のターンですね。ドロー」(手札5→6枚)
 涼しい顔をしてカードを引く伊月のライフが、堕天使の羽によって回復する。
 ライフを回復しても闇の決闘で受けたダメージが消えるわけではないが、少しだけ気分が楽になった。

 伊月:1100→4100LP

「"堕天使の楽園"の効果で、デッキから"シモッチの副作用"を手札に加えます」(手札6→7枚)
「またかよ……」
「魔法カード"ソウルテイカー"を発動します。対象は"Sin レインボー・ドラゴン"です」
 虹の龍から魂が抜かれ、美しいその姿が朽ちていく。
 たくさんいるとはいえ、強力なモンスターを簡単に除去されたことに宮野塚の表情が若干だが歪んだ。


 ソウルテイカー
 【通常魔法】
 相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を破壊する。
 この効果によって破壊した後、相手は1000ライフポイント回復する。


 Sin レインボー・ドラゴン→破壊
 宮野塚:6000→7000LP

「さらに"成金ゴブリン"を2枚発動します」
「……!」


 成金ゴブリン
 【通常魔法】
 デッキからカードを1枚ドローする。
 相手は1000ライフポイント回復する。


 伊月:4→5→6枚
 宮野塚:7000→8000→9000LP

「ふぅ、やっと引けましたよ。手札から"レベル制限B地区"を発動します」
 場に張り巡らされる無数のバリケード。
 そのバリケードを前に、強力なモンスターたちは身動きが取れなくなってしまった。


 レベル制限B地区
 【永続魔法】
 フィールド上に表側表示で存在するレベル4以上のモンスターは全て守備表示になる。


 Sin 真紅眼の黒竜:攻撃→守備表示
 Sin 青眼の白龍:攻撃→守備表示

「そのカードを引くために、デッキ圧縮とドローを連発してたってのか」
「もちろんですよ。あなたの強力なモンスターを封じるカードは、これくらいしか入っていないんですよ」
「たいしたことねぇカードしか持ってないな」
「そうですか。カードを2枚伏せて、ターンエンドです」

-------------------------------------------------
 伊月:4100LP

 場:バトルフェーダー(守備:0)
   堕天使の楽園(永続魔法・デッキワン)
   レベル制限B地区(永続魔法)
   シモッチの副作用(永続罠)
   伏せカード2枚

 手札:2枚
-------------------------------------------------
 宮野塚:9000LP

 場:追撃する闇の世界(フィールド魔法)
   Sin 真紅眼の黒竜(守備:2000)
   Sin 青眼の白龍(守備:2500)
   Sin Castle(永続魔法・デッキワン)
   禁止令(永続魔法:"堕天使ナース−レフィキュル"を宣言)
   王宮のお触れ(永続罠)

 手札:2枚
-------------------------------------------------

「俺のターン!」(手札2→3枚)
 攻撃を封じられているにもかかわらず、宮野塚は余裕の表情でカードを引いた。
 "堕天使の楽園"の効果により、その体を温かい光が包み込み、ライフを回復させていく。

 宮野塚:9000→10500LP

「さっきはその防御カードを引くためにずいぶん苦労したみたいだなぁ」
「それがどうかしましたか?」
「そんな薄い防御で、俺の攻撃が防げるわけねェだろ! 手札から"サイクロン"を発動だ!」
「なっ!?」


 サイクロン
 【速攻魔法】
 フィールド場の魔法または罠カード1枚を破壊する。


 レベル制限B地区→破壊

 吹き荒れた突風によって、場に張り巡らされたバリケードがすべて吹き飛ばされてしまう。
「そして守備表示になっていたモンスターを全員攻撃表示に変更!!」
「こ、これは……さすがにまずいですね……」
「エクストラデッキから"スターダスト・ドラゴン"を除外して、"Sin スターダスト・ドラゴン"を特殊召喚!」
 白龍と黒竜の間に現れた星屑の龍。
 輝かしい光を纏っていたその体に、真っ黒な外装が装着される。
 宿していた星のような光が黒く濁り、美しいその姿は闇に染められてしまった。


 Sin スターダスト・ドラゴン 闇属性/星8/攻2500/守2000
 【ドラゴン族・効果】
 このカードは通常召喚できない。
 自分のエクストラデッキから「スターダスト・ドラゴン」1体を
 ゲームから除外した場合のみ特殊召喚できる。
 「Sin」と名のついたモンスターはフィールド上に1体しか表側表示で存在できない。
 このカードが表側表示で存在する限り、自分の他のモンスターは攻撃宣言できない。
 フィールド魔法カードが表側表示で存在しない場合このカードを破壊する。
 このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
 表側表示で存在するフィールド魔法カードは効果では破壊されない。


「おやおや……まだ、Sinモンスターがいるんですか……」
「これで終わりだぁ!!」
 主人の宣言と共に、3体のドラゴンがその口にブレスを溜める。
 白龍から放たれたブレスが、伊月の場にいるモンスターを飲み込んだ。

 バトルフェーダー→破壊→除外(自身の効果)
 伊月:4100→1100LP

「ぐぁ……!」
「トドメだぜ!」
 星屑の龍から、流星のように輝くブレスが放たれる。

 攻撃が迫る中、伊月は口元に小さな笑みを浮かべてた。
「手札から"バトルフェーダー"を特殊召喚します」(手札2→1枚)
 三度も現れたモンスター。
 その手に持った鐘から鳴った音波に、相手モンスターのすべてが動きを止めた。


 バトルフェーダー 闇属性/星1/攻0/守0
 【悪魔族・効果】
 相手モンスターの直接攻撃宣言時に発動する事ができる。
 このカードを手札から特殊召喚し、バトルフェイズを終了する。
 この効果で特殊召喚したこのカードは、
 フィールド上から離れた場合ゲームから除外される。


「3体目か……けどそれで打ち止めだ!!」
「ええ。バトルフェーダーはこれで最後です。なんとか防ぐことが出来ました」
「ちっ、ターンエンドだ!!」

-------------------------------------------------
 伊月:1100LP

 場:バトルフェーダー(守備:0)
   堕天使の楽園(永続魔法・デッキワン)
   シモッチの副作用(永続罠)
   伏せカード2枚

 手札:1枚
-------------------------------------------------
 宮野塚:10500LP

 場:追撃する闇の世界(フィールド魔法)
   Sin 真紅眼の黒竜(攻撃:2400)
   Sin 青眼の白龍(攻撃:3000)
   Sin スターダスト・ドラゴン(攻撃2500)
   Sin Castle(永続魔法・デッキワン)
   禁止令(永続魔法:"堕天使ナース−レフィキュル"を宣言)
   王宮のお触れ(永続罠)

 手札:1枚
-------------------------------------------------

「さて……僕のターンですね……ドロー」(手札1→2枚)
 顔を下に向けたまま、伊月はカードを引いた。

 伊月:1100→2100LP("堕天使の楽園"の効果)

 わずかながらライフを回復したにもかかわらず、伊月は黙り込んだままだった。
 これだけのライフ差である。勝利を諦めたのかと思った宮野塚は高笑いをした。
「最初はあんなに余裕そうだったのに、今じゃこのザマか! スターってのも大したことがねぇなぁ!!」
「いえ、この状況を導いてしまったのは、スターではなく僕自身の力のなさが原因でしょう」
「ぎゃはは! 今度は敗北宣言かよ! まぁ相手が悪かったってことだなぁ!!」
「そうですね。その点に関しては僕も同意ですよ。相手が悪かったですね、宮野塚君」
「……なんだと?」
「かなりリスキーでしたが、調整は完了しました
 伏せていた伊月の顔が、前を向く。
 いつも通りの爽やかな笑みを浮かべ、手札の1枚に手をかける。
「あなたの場にある"王宮のお触れ"を墓地に送り、手札から"トラップ・イーター"を特殊召喚します」
「なっ!?」


 トラップ・イーター 闇属性/星4/攻1900/守1600
 【悪魔族・チューナー】
 このカードは通常召喚できない。
 相手フィールド上に表側表示で存在する罠カード1枚を
 墓地へ送った場合のみ特殊召喚できる。


 王宮のお触れ→墓地

「な、なんで……そんなカードが……!」
「おやおや、僕は自分のデッキの弱点くらい分かっているつもりですよ。罠を封じる"王宮のお触れ"などは、その最たるものです。だからデッキには、こうしたカードが少しだけ入っているんですよ」
「ぅ、で、でもそれがどうした! これだけのライフ差を覆せると思ってんのかよ!?」
「おやおや、さっき言ったはずですよ。”調整”は完了した、とね」
 静かに、そしてゆっくりと伊月は伏せておいたカードを開いた。


 ライフチェンジャー
 【通常罠】
 お互いのライフポイントに8000ポイント以上の
 差があった場合に発動する事ができる。
 お互いのライフポイントは3000になる。


 伊月:2100→3000LP
 宮野塚:10500→3000LP

 たった1枚のカードで、互いのライフ差が無くなる。
 互いのライフは3000ポイント。それは宮野塚にとっても、伊月にとっても、相手からの一撃で沈む程度の数値。
「このカードを使うには、互いのライフ差が8000以上ないといけなかったんですよ。まったく、自分のライフを徐々に減らしていきながらあなたのライフを回復するのには、少しだけ苦労しました」
「……! この状況を……わざと引き起こしたってのか!?」
「ええ。"レベル制限B地区"を引きたかったのは、"サイクロン"のような魔法・罠を破壊するカードの矛先を向けるためです。この場に伏せられているカードや、無力化されている"シモッチの副作用"を破壊されるわけにはいきませんでしたからね。ライフをたくさん得て安心したのでしょう。僕が簡単に予測できるほど、プレイングが単調でしたよ」
「……!!」
 宮野塚は思わず戦慄した。
 いつから始まっていたのかは分からない。だが、自分は相手の掌で踊っていたことが分かった。
 モンスターの攻撃から、魔法を破壊する対象まで……そしてライフポイントまでも……。
「さて、これで終わりですよ。伏せカード発動です」


 闇よりの罠
 【通常罠】
 自分が3000ライフポイント以下の時、
 1000ライフポイントを払う事で発動する。
 自分の墓地に存在する通常罠カード1枚を選択する。
 このカードの効果は、その通常罠カードの効果と同じになる。
 その後、選択した通常罠カードをゲームから除外する。


 伊月:3000→2000LP

「この効果で、僕は墓地にある"ギフトカード"をコピーして、その効果を使います。あなたのライフを3000回復させるという効果ですが"シモッチの副作用"によってダメージに変換しますよ」
 宮野塚の背にある闇の中から、無数の光の刃が降り注いだ。
「うぎゃああああああ!!」

 宮野塚:3000→0LP



 叫び声とともに、宮野塚のライフが0になる。



 そして決闘は、終了した。



「ぐっ、く、くそが……」
「あなたはなかなかの強敵でしたよ。あと少しで、僕も負けてしまうところでした」
 倒れた相手を見下ろし、伊月は言う。
 宮野塚の体が、足元から消えていく。
「へへ……まぁ、こんなもんか……」
「……どういう意味ですか?」
「後悔すんぜ……そんだけ”ダメージを受けた”ってことをな……」
 負け惜しみではない、どこか勝ち誇ったような笑みを浮かべて、宮野塚は消えてしまった。
 彼の言っている言葉が分からず、伊月はその場に佇む。
 いったいどういう意味だったのだろうか。負け惜しみにしては……どこか不自然な気がする。
 ダメージを受ける……ダメージを…………。
「……まさか……!」
 一瞬だけよぎった考え。
 もしその考えが正しいとしたら、すべての辻褄が合う。
 そしてなにより、そのルールがあるとしたら……。
「まずいですね」
 自分はともかく、薫や大助たちが危ない。
「これは、思っていたよりも厄介な状況なのかもしれませんね」
 急いで伝えなければ、手遅れになってしまいかねない。
 伊月は早く大助たちと合流すべく、駆け足でその場を後にした。




episode11――明かされたルール――





 本城さんが行った決闘の後、俺達は保健室に向かっていた。
 決闘による疲れを癒すためもあるし、なにより香奈が本城さんを心配しての提案だった。
「そ、そんなに心配しなくても大丈夫ですよ?」
「別にいいじゃない。私達だって休みたいし、お昼くらいだからお弁当も食べたいしね」
「そうそう。腹が減っては戦が出来ぬって言うじゃん♪」
 香奈と雨宮が先導して先に進む。
 2人が特に気にしているのが、さっきの決闘で見せた本城さんの”異変”だ。
 あの気弱な本城さんの雰囲気が、決闘終盤で少しの間だけ変わった。
 本人は気づいていないようなのだが、俺達にとって”それ”は一目瞭然で、一瞬だけ本城さんとは別の誰かなのではないだろうかと思えてしまうほどだった。
「本当に大丈夫ですから」
「別に真奈美ちゃんだけの心配してるわけじゃないわ。みんな戦いの疲れがあるんだから、休むくらいいじゃない。薫さんもどこにいるか分からないし」
 普段通りの様子で会話する女子3人組。
 本城さんも、さっきまでの変な雰囲気はなくなっている。
 もしかして俺達の気のせいだったのか? 
「なぁ中岸、どう思う?」
 隣にいた雲井が囁いてきた。前にいる3人に聞かれないようにするためか、かなり声が小さい。
「本城さんの事か。たしかになんか変だったけど、元気そうだしな……」
「そうか。実はライガーがさっきからデッキから出てこねぇんだ。普段はあんなにデッキに入りたがらないんだぜ?」
「疲れただけじゃないのか? 子犬モードは体力使うんだろ?」
「普段はほとんど子犬モードで過ごしてるんだ。体力不足とかありえないぜ」
「そうなのか……」
 雲井の言う通りなら、ライガーにも何か考えがあるということなのだろうか。
 もしくは、何か聞かれたくないことがあるから実体化していないとか……。
「ほら2人とも、ボーっとしてると置いていくわよ!」
 香奈が呼びかけてきた。
 いつの間にかずいぶん先に行かれてしまったらしい。
「分かった。すぐに行く!」




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 時刻を同じくして、とある教室。
 机の広げたカードの束を一つにまとめて、神原栞里は席を立った。
「どこかにいくのかい?」
「玉木(たまき)さん……どうかしたんですか?」
 栞里の視線の先には、赤髪のポニーテールに四露死苦と大きく書かれた白い番長服を羽織った女子が立っていた。
 腰には帯にくくりつけられた木刀があり、不敵な眼差しを栞里に向けている。
「どうしたもこうしたも、あたいを呼び出したのはそっちだろう? あと、あたいのことは茜(あかね)って呼んでくれて構わないんだぜ!」
「そうですね。全員集合と連絡したんですけど、なかなか集まりが悪いですね」
「たっはっは! まぁそう不満そうに言うなって! あたいはこうやって一番乗りで来てやったろ!」
「その無駄に高いテンションさえなければ、なお良いんですけどね……」
「そいつぁ出来ない相談だねぇ。こいつはあたいの……ぽ、ぽり……」
「ポリシー?」
「そうそれ! ポリシーってやつだからな!」
 高らかに笑う茜を見ながら、どこにそんな元気があるのだろうと栞里は疑問に思う。
 闇の結晶を持っていれば、普通の人は性格が少し悪くなるものだとアダムから聞いていたのだが、茜は出会った当初からの性格のままだ。もともと破天荒な彼女にとっては、闇の結晶による浸食など関係ないのだろうか。
「どうした? あたいの顔になんかついてるかい?」
「いいえ。ただ、やけに私に親しく接してきますね」
「たっはっは! そりゃそうだろ。あたい達は仲間なんだからな! まっ、やってることは決して良いこととは言えないけどな!」
「悪いことをしているのに、そんな清々しい笑顔が出来るなんて変わってますね」
「よく言われる。けどこれも個性ってやつさ!」

 ガチャリ

 教室のドアが開く。
「お? やっと来たかい」
 開いたドアを通り、何人もの生徒が教室に入ってくる。
 栞里を中心に全員が集合し、それぞれが彼女の言葉を待っている。
「集まってくれてありがとうございます。戦いはまもなく終盤に入ると思います。ですが、状況はあまり喜ばしくありません。すでに何人もの結晶を持った人が消されてしまっています。中岸大助、朝山香奈、雲井忠雄、本城真奈美、薫先生……そして新たにスターの人間が1人……彼らがいるかぎり、私達は学校から出ることができません。だからそろそろ、彼らの排除を本格的にやろうと思います」
「神原さん、ちょっといいかい?」
「はい?」
「向こうはこっちの存在を知ってか知らずか、多人数で行動している。もし2対1やタッグデュエルを求められたら厄介だ。分断する方法はあるのかい?」
「もちろんです。1人ずつに分断するのは難しいかもしれませんけど、彼らを分断することはできます。薫先生にいたっては体育館で600人近い生徒を保護しているので、動けないでしょう」
「そこまで情報があるとは、さすがだね」
「監視カメラの画像を見ていますからね。これぐらい当然ですよ」
 机の上に置かれた5台のノートパソコンを指差しながら、栞里は言った。
 仲間の一人に、学校全体の監視カメラを見れるようにしてもらったのだ。
「どうでもいいけどさぁ、その6人を消したら、本当にここから出られるのか?」
「もちろんですよ。それは私が保証します。あなたたちに闇の結晶を授けたアダムも、そう言っていたでしょう?」
「………まぁ、脱出できるならなんでもいいけど」
「他にご質問はありませんか?」
 栞里は全体を見渡し、誰からも発言が出ないことを確認する。
 そっと笑みを浮かべながら、そのまま言葉を続けた。
「では、これからみなさんには戦う相手を決めてもらいたいと思います」
「戦う相手を、決める?」
「はい。正直な話、私はみなさんのデッキは知りませんし、相手との相性も分かりません。ですからここは平等に決めたいと思います。自分が戦い相手なら、それだけやる気も出るでしょうし……」
「かぶったり、戦いたくない場合は?」
「戦いたくない方は、ここでお茶でもどうぞ。ただ楽しみが減ってしまうのは確かですね。かぶってしまったら、ジャンケンで決めてください」
 ざわざわと、辺りが騒がしくなる。
 全員が誰と戦いたいか、戦いたくないかを相談しているのだろう。
「はいはいはーい!!!」
 騒がしい教室の中、それに負けない大声と共に真っ先に手を挙げたのは茜だった。
 その眼の奥には、燃え盛るような闘志があった。だけどその表情は、まるで子供のようにキラキラとしている。
「こういうのは早いもん勝ちだろ!? あたいが中岸大助と戦ってやるよ! 文句あるかい?」
「どうして彼と?」
「あいつはあたいの隣のクラスでさ。ちょいちょい噂は聞いてきたんだよ。なかなか強いらしいじゃん。燃えないわけがないね!! く〜! ウズウズする〜〜!!」
「じゃあ玉木さんに中岸君はお願いしますね」
「おう! まかしとけ!!」
 満面の笑みで、茜は胸を張った。
 若干名が苦笑いを浮かべながら、彼女を見つめていた。
「早い者勝ちっていうことなら、僕は雲井忠雄とやらせてもらうよ。彼なら簡単に倒せそうだし」
「分かりました。じゃあお願いしますね」


 数分経って、全員の戦う相手が決定した。
 多少は戦いたい相手がかぶってしまったが、おおむね良しとすることにする。
「それで、どうやって分断するんだい?」
「これを使うんですよ」
 そう言って栞里は1枚のカードを取り出した。
「"迷宮変化"……?」
「これを学校全体にかけます。さすがに学校の構造を変えることは出来ませんけど、人力じゃ開けることのできない防火シャッターを下ろすことが出来ます」
「そう上手くいくかなぁ?」
「やってみますよ。まぁ見ててください。みなさんはここで待機していて下さい」
「君は?」
「ちょっとお花を摘みに行きますね」
 栞里は教室を出ていき、誰にもつけられていないことを確認する。
 そのまま階段を上り、屋上へと向かう。
『やぁやぁ神原栞里さん。お兄さんに何か用かな?』
 アダムが何もない空間から現れる。
 その無邪気で不気味な笑みから視線を外しながら、栞里は問いに答えた。
「様子を見るつもりだったんですけど……都合が悪そうですね」
『そうだね。君のお兄さんはまだまだ不安定なんだよ。ちゃんと戦えるまでもう少しかかるかな?』
「……この際、あなたでもいいです。私に少しだけ力を貸してください」
『いいよー。学校全体に"迷宮変化"をかけるんだから、ボクの力が無いと疲れちゃうもんね』
「助かります」
『じゃあちょっと結晶を貸してね…………はい、これでいいよ♪』
 ほんの数秒。アダムが闇の結晶に力を込めた。
 本当にこれだけで学校全体に闇の力を働かせることが出来るのか疑問だったが、栞里はアダムを信じることにする。
『お兄さんも準備が出来次第、合流させるようにするからさ、それまで屋上には来ないようにね』
「はい。分かりました」
『じゃあまたね。バイバーイ♪』
 軽い口調で別れを告げ、アダムが姿を消す。
 自分の兄が”誰にも負けない強さ”を求めて、アダムの傍にいるようになってから1ヶ月近く。あの優しかった兄さんは、もういない。
 それならせめて………。
「…………」
 小さなため息をついて、栞里はさっきいた教室まで戻ることにした。
 扉の前には茜が腕を組みながら立っていて、いびきをかいていた。
「何をしているんですか玉木さん」
「んっ? おぉ、悪いねぇ。暇だしドアの前で待ってようと思ったら寝ちまったんだ」
「立ったまま寝るなんて器用ですね」
「だろ? あたいの隠れた特技なのさ!」
「自慢にもなりませんけど………」
「たっはっは! いいんだよ! 自慢になんなくても特技の1つくらいあった方が得だって!」
 栞里の肩を強くたたきながら茜は笑う。
 その手を掴んで、栞里は小さく溜息をつく。
「あなたに叩かれると痛いんですから、勘弁してください」
「おう、そうかい? じゃあさっさと対戦相手を分断してくれていいぜ!」
「はいはい」
 茜と共に教室に入り、中央に置いてあるパソコンの前に立つ。
 手に持った"迷宮変化"のカードを手に取り、意識を集中した。



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「それにしても、本当に誰にも会わないわね」
「そうだね〜。みんなどこかに集まってるのかな?」
 保健室に向かい、ゆっくりと歩く俺達。
 前にいる女子3人のグループは、どこかリラックスした様子で会話をしている。
 香奈や本城さんはともかく、雨宮はよくこんな状況に対応できているなと感心してしまう。
「もしかして、薫さんが体育館にみんなを集めているんじゃないか?」
「どういうこと?」
「いや、薫さんの性格からしたら、暴走した生徒たちを傷つけないでどこかに集めると思うんだ」
「確かにそうね、だったら体育館かしら?」
「それだ! 体育館ならあたし達がまだ行っていないし、たくさんいる生徒が集められるしね」
「よっしゃ! そうと決まればさっさと行こうぜ!」
 雲井が突然走り出して、体育館へつながる通路へ向かう。
「ちょっと待ちなさいよ! 勝手に動いたら危ないでしょ!!」
 それを追うように、先頭にいた香奈が走り出した。
「待てよ!」
「ま、待ってください!」
 遅れて俺と本城さん、雨宮が走り出す。

 その瞬間――――

「っ!?」
「きゃっ!」
 突然、地面が――いや、学校全体が揺れ始めた。
 震度5以上ではないかと思えるほどの揺れが体を襲い、その場からまともに動けなくなる。
「なんだよこれ!?」
「わ、分からないわよ!!」
「くっ!」
 こんなときに地震か?
 いや、きっと敵の仕業だ。初期微動もなくこんな巨大な地震が起きるなんて考えにくい。

 ガラガラッ!!

 上にあった防火シャッターが、勢いよく下りてくる。
 ちょうどその真下には、本城さんと雨宮がいた。
「っ、危ない!!」
 右手と左手でそれぞれの服を掴み、力の限り引っ張る。
 すんでのところでシャッターを躱し、二人はこっちに倒れ込んだ。
 連続して辺りからも、シャッターが下りる音がする。ここだけシャッターが下りたわけではないらしい。
 やっぱり、敵の罠か……!

 学校全体の揺れが収まる。
 かなりの揺れの後で、少し気分が悪い。
「大丈夫か、二人とも」
「は、はい、大丈夫です」
「うぅ……あ、ありがと中岸」
 二人から体を離し、シャッターに触れる。
 かなり硬そうだ。何か道具でも無いと、壊せるとは思えない。
「大助! 大丈夫!?」
「こっちは全員無事だ! そっちは!?」
「私も雲井も無事よ! それよりこのシャッターどうにかならないの!?」
「俺よりも雲井に頼んでくれ。ライガーの力を借りれば破壊できるはずだ!!」
 男子更衣室で見せてくれた破壊の力。
 あれがあれば、この硬そうなシャッターも壊せるはずだ。
「駄目だ中岸! ライガーが出てこねぇ!!」
「なっ……」
 こんなときこそ頼りにしたいのに……。自分たちでどうにかするしか無いってことか。
 どうする? たぶん、俺達を分断することが敵の目的だろう。だとしたらこのまま分断されたままでいるわけにはいかない。どうにかして合流しないと。
「仕方ないわね。こっから別行動にするわよ」
「大丈夫か?」
「私の心配してる暇があったら、雫と真奈美ちゃんの心配しなさいよ。ちゃんと2人を連れてきなさいよ。こっちは先に体育館で待ってるから!」
「分かった! そこで合流しよう!!」
 シャッターを破壊する手段がない以上、どこかで合流するしかない。
 できれば誰にも会わずに、体育館にいければいいんだが……。



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 大助たちと分断されたあと、私は雲井と一緒に体育館に向かっていた。
 ちょうどよくシャッターは閉まっていなかったから、廊下に閉じ込められることなく先に進むことが出来た。
 それにしても、雲井と二人っきりなんて今まで無かったわよね……。
 なんとなく気まずい………。
「ライガーはまだ出てこないの?」
「あぁ、こんなときだってのに、使えない奴だぜ」
「そう……」
 会話が終了してしまった。
 大助と一緒にいるときはどんどん話題が出てくるのに、こういう時に限って話が弾まないわね。
「………」
 互いに無言が続く状況で、考える。
 敵の目的は分からないけれど、こうやって私達を分断するのが狙いよね。 
 私は負けるつもりはないから大丈夫だけど、大助や雫、真奈美ちゃんが心配ね。雫はデッキを持っているけど初心者に等しい実力だし、真奈美ちゃんもさっきの決闘で何か変な感じがしたからあまり戦ってほしくない。
 大助に関しては言うまでも無くて、また無理をするんじゃないかって思うと気になって仕方がない。
「3人とも、大丈夫かしら……」
「中岸もいるし、きっと大丈夫だぜ」
「…………」
 ホント、雲井は何もわかってないんだから……。


 そうこうしているうちに、無事に体育館にたどり着くことが出来た。
 中には何百人もの生徒たちが眠っていて、ステージには薫さんが辺りを見回しながら立っていた。
「薫さん!」
 大声で呼びかけて、急いで駆け寄る。
「香奈ちゃん! 雲井君! 二人とも無事だったんだね!」
 嬉しそうに、薫さんがそう言った。
 彼女はステージを降りて、私の無事を確かめるかのように肩に触れてきた。
「大丈夫? 怪我とかしてない?」
「ええ。大助達も無事よ。ちょっとはぐれちゃったけど、すぐに来ると思うわ」
「そっか、良かった〜」
 心から安心したように、胸をなでおろす薫さん。
 あんまり心配はしていなかったけど、薫さんも無事みたいで本当に良かった。
『香奈ちゃん! 雲井も元気そうだね♪』
「コロンも来てたのね。佐助さんは?」
『佐助は部下のみんなの指揮にあたってるよ。そろそろこっちに来ると思う』
「そう。ここにいるみんなは、無事なの?」
「うん。とりあえずね……。もう暴れたりはしないと思うけど、起こして今の状況を説明してもパニックになるだけだろうから、白夜の力で眠ってもらっているんだよ」
 眠っている生徒たちを見ながら、薫さんは言った。
 こんなにたくさんの生徒を眠らせているんだ。きっと、すごく疲れているわよね。
「薫さんは、休まなくていいのかよ?」
「心配してくれてありがとう。伊月君に体力は回復してもらったから、まだまだ動けるよ」
『でもあんまり無茶しないでね。体力を消費してることに変わりはないんだから』
 コロンは私の肩に乗って、可愛らしい笑みを浮かべた。
 2人とも、思っていたよりも疲れていないみたいね。
「そういえば香奈ちゃん、雲井君。ここまで来る途中に闇の力を持った人たちと戦った?」
「ええ。私と大助、雲井に真奈美ちゃんの全員が戦ったわ。もちろん全員勝ったわよ」
「そっか。戦ってくれてありがとう。本当は巻き込まないようにしたかったんだけど……」
「こんな状況じゃ仕方ないわよ。薫さん1人に戦わせるわけにもいかないし、私達も協力するわ」
「俺だって協力するぜ! ライガーのおかげで、俺も闇の力を消すことが出来るようになったんだ。これで足手まといなんて言わせねぇぜ!」
「……2人とも本当にありがとう。でも今はここで様子を見よう? 伊月君が様子を見に行ってくれているから」
「分かったぜ」
 雲井はその場に座って、壁に背を預けた。
 薫さんもステージ上に座って、目を閉じる。
「…………」
 こっちは多分、大丈夫。薫さんがいる以上、心配することなんかほとんどない。
 大助達は無事かしら………早く体育館に着ければいいんだけど……。





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 香奈たちと分断されて、俺と本城さんと雨宮は辺りを警戒しながら歩いていた。
 白夜のカードは学校に異変が起きたときから光りっぱなしで、近くにある闇の力を感知するレーダーとしての働きは為さない。きっとアダムは、そのことを踏まえた上で学校全体を闇の力で覆ったのだろう。
「駄目だね。ここもシャッターが閉まってる」
 体育館へ進む通路を探し、俺達は歩く。
 学校全体の廊下やルートは把握しているのだが、防火シャッターが閉まっている状態だと勝手が違う。
 外に出て体育館に向かおうとしてみたのだが窓は全部閉まっているうえに、物をぶつけても割ることができない。
「3階からなら、回り込めるんじゃないでしょうか?」
「おっ、ナイス真奈美♪ じゃあレッツゴー!」
「あんまり離れるなよ。敵にあったらどうするんだ?」
「中岸は心配性だね。香奈もなかなか苦労しそうな彼氏を手に入れちゃったもんだ♪」
「その話題をこの状況でやるのか……」 
 緊張感が無いというかなんというか……。
 いや、雨宮は雨宮なりに気を張っているのかもしれない。それを周りに気にさせないように、こうして無理に元気そうな様子を見せているのかもしれない。
「だってさ、こういう時でもないと中岸に聞くことが出来ないじゃん」
「香奈に聞けばいいだろ」
「恥ずかしがって答えてくれないんだもん。それでそれで? どうなのさ?」
「……………」
 こうして俺と香奈の関係を聞いてくることも、もしかしたら不安を隠すためなのかもしれない。
 そう考えてしまうと、あまり冷たく当たるのはかわいそうな気がする。
「ん? どうしたどうした? もしかして中岸も恥ずかしがっちゃう感じ?」
「……まぁ、そういうことにしておいてくれ」
「なーんだつまんないの。せっかくのチャンスなのにさ」
「雨宮、無理してるなら早めに言えよ?」
「はい? 何の話かさっぱりですな♪」
 ケロッとした表情で、雨宮は先に進む。
 本当に大丈夫なのかどうか心配だ。
「雫ちゃん、本当に大丈夫でしょうか?」
「……本人がそう言っているなら、今はそれを信じよう」
「そうですね」
 先を行く雨宮の後を追う。
 こういう時、香奈なら上手く気遣ってやることが出来るのだろうか。

「っ…?」

 不意に立ち止まる。
 なんだ? 誰かに……見られてる?
「待て雨宮!!」
「ふぇ?」
 本城さんの手を掴み、雨宮に駆け寄った。
「ど、どうしたんですか?」
「いいから、離れるな。誰かに見られているような気がする」
「え、もしかして敵!?」
「分からない。でも会わない方が良さそうな気がするから、走ろう」
「オーケー」
「はい!」
 せーの、の掛け声で走り出す。敵か味方かわからないが、物陰からこっちの様子を見ているなんて怪しすぎる。
 戦うつもりがないならそれでいいし、戦う気がある相手なら逃げるに越したことは無いはずだ。
「うわっ!」
「きゃっ!」
 10メートルほど走った辺りで、目の前に壁が現れた。
 漆黒のレンガで出来たような壁は道を塞いでいるため、これ以上先に進めなくなってしまった。
「なにこれ! なんで学校にレンガがあんの!?」
「違います。きっとこれは、闇の力ですよ!」
「くっ……」
 素直に逃がしてはくれないらしい。
 せめて、これから出てくるであろう相手が敵でないことを祈るばかりだ。
「そこにいるんだろ。隠れてないで出てこいよ」
 2人を背に隠すようにして、誰もいない廊下に呼びかける。
 数秒経って、廊下の陰から真っ白な番長服を羽織った女子が現れた。紅いポニーテールを揺らして、挑戦的な目つきでこっちを見据えている。
「なぁんだよぉ。あたいの存在に気づいていたなら逃げなくてもいいじゃないか」
「もしかして、玉木茜?」
「知ってるのか雨宮」
「うん。隣のクラスでちょっと有名なんだ。毎日の登下校でほとんどあの格好でいるから目立つって」
 その噂なら聞いたことがあるが、まさか女子だとは思わなかった。
 しかも赤毛なんて……いくら校則が緩い星花高校でも、罰則を喰らってしまうんじゃないだろうか。
「おお、あたいは隣でそんな噂をされているのか。曲がりなりにも有名人になれてあたいは幸せだねぇ。さーてと、話が逸れちまったね。確認するけど中岸大助ってのはあんたで間違いないかい?」
 気さくな雰囲気で、玉木茜はそう言った。
 なんとなくだが、あまり悪い人ではなさそうに思える。
「……俺に何の用だ?」
「たっはっは! 聞かなくても分かるだろう? あたいと決闘してもらおうか!!」
 腕につけたデュエルディスクを構えて、玉木茜はそう言った。
 その首には闇の結晶が取り付けられたペンダントが下がっているのが見える。
「断っちゃ駄目なのか?」
「えぇ〜、せっかくバトルモードに入ってたのに冷めたこと言うなよぉ〜」
「玉木さん、あんたは話が分かりそうだから言うけど、これは危険な決闘なんだ。出来ることならやりたくない」
「あたいのことは茜って読んでくれて構わないよ。なかなか真っ当なことを言うじゃないかい。けどあんたを倒さないとみんなが脱出できないって言うんだから、放っておくわけにもいかないだろう?」
「どういうことだ?」
「あたいの仲間が教えてくれたんだ。あんたたちを倒せば、学校から脱出できるって」
 なるほど、そういうことか。
 敵のリーダーは、俺達を倒せば学校から出られるという名目で仲間を戦わせているのか。
「騙されているんじゃないのか?」
「うーん、あたいは難しいことは分かんないし、正直な話、脱出とかあんまり考えていないんだよね。あんたと戦いたいっていうのも、3割があの子の頼みだからで、残りの7割はあたいがあんたと戦いたいんだ! どうだい? 文句はあるかい?」
「悪いけど、ありまくりだ」
「つれないねぇ。けど、嫌でも決闘してもらうよ。その壁はあたいを倒さない限り消えないから、先に進みたいなら決闘しな。くぅ〜! わくわくするねぇ! もっぱら強いって噂の中岸大助と戦えるなんてな〜!」
 まるで子供のようにニヤけながら、茜はデュエルディスクを再び構えた。
 どうあっても俺と戦う意思は曲げないつもりらしい。
 逃げようと思っても、他に通路は無いし、茜を力づくでどかそうとしても腰にぶら下げた木刀で殴りかかられたら敵わない。
「………」
 覚悟を決めて、俺はデュエルディスクを構えた。
「中岸君!」
「中岸……!」
 後ろにいる2人が袖を掴んできた。
 無事に送り届けるように香奈から任されたんだ。この2人に戦わせるわけにはいかない。
「大丈夫。少し待っててくれ」
 袖を掴む手を外し、少し前に出て茜と向き合う。
 デュエルディスクにデッキをセットして、自動シャッフルが完了した。
「ようやくやる気になったねぇ。あたいも全力でいくから、あんたも全力で来いよ!」
「ああ」
 数メートルの距離を置いて、俺と茜は同時に叫んだ。


「「決闘!!」」


 大助:4400LP   茜:8000LP


 決闘が始まり、異変は起こった。


「なっ!?」
 自分の目を疑ってしまった。
「なんで!?」
「どうして、ライフポイントが減っているんですか!?」
 後ろにいる2人も、その信じられない出来事に困惑しているようだった。
 いったい何がどうなってる? どうしてライフポイントが減っているんだ?
 いや違う。減っているんじゃない。
「まさか……」
 最悪のイメージが浮かんでしまう。
 ライフポイントが4400。この数値は、曽原との決闘で残ったライフポイントそのままだ。そして、サバイバルが始まってすぐに流れた放送の内容。”決闘が弱い人でも生き残れるチャンスがある”という言葉の意味。
 ここから導き出される結論は1つしかない。
「そういうことか……」
「おっ、まさか気づいたのかい?」
「ああ。この学校でのサバイバルは、ライフポイントが継続されるってことだろ」
「さすがだねぇ〜その通りさ!」 
 本来ライフポイントは、決闘が終わるたびに初期値の8000までリセットされる。だがライフポイントが継続性になれば、どれだけ弱い決闘者でも削られたライフポイント相手なら勝てる可能性がかなり上がる。
 くそっ、こんなルールが隠されていたなんて……迂闊だった。
 これじゃあ香奈や雲井、本城さんもライフが継続されていると考えるのが自然だろう。
「まぁ気を悪くしなさんな。あたいだって万全なあんたと戦えないことは残念なんだけどさ、あたいに免じて許してくれないかい?」
「……このライフ継続は、闇の結晶を持っている奴にも適応されるのか?」
「ん? あぁ、それは個人の好きだよ。ライフを継続させることも出来るし、初期値の8000に戻すことも出来るよ」
 選択制か。つまりライフが8000より多くなったら継続させて、8000より少なくなったら8000に戻すということが可能になるということか。
 決闘に負けても消えないというだけでもキツいのに、ライフポイントまで調整できるなんてどうかしてる。
「そんな深刻そうな表情しないでくれよ。さっきも言ったけど、あたいだってあんたと万全の状態で戦いたかったんだ。どう言ったらあたいに免じて許してくれるんだい?」
「………」
 相手は心底困ったようにそう言った。
 どうやら嫌味とかそんなことを言うつもりは無く、彼女なりに真摯に謝っているのかもしれない。
 だがいくら謝られたところで、ライフが減っている状態での決闘なんて初めてだ。動揺しない訳がない。
「はぁ……」
 深く息を吸い込み、そして吐きだす。
 落ち着け。悪い方向ばかり考えるな。まだ半分以上のライフが残っている。
 ここで対戦したのが俺で良かったと考えるべきだ。本城さんの残りライフは1800ポイント。下級モンスターの一撃で削りきられてしまうほどの数値しか残っていないんだ。雨宮は8000ポイントあるが、とても戦えるようなデッキじゃない。この中なら、俺が一番、安全圏のライフを持っているんだ。
 相手の実力が分からないけど、いつも通りにプレイをすれば何の問題もない。
「お前が悪気が無いのは分かった」
「ホントかい? じゃああたいと全力で戦ってくれるかい?」
「ああ。その代わり、どんな結果になっても後ろの2人には手を出さないでくれ」
「いいよ。あたいが戦いたいのはあんただけだからね。ただ他の仲間が2人を襲わない保証はないから、約束はできないよ?」
「……分かった。じゃあ続けるぞ」
 他の仲間ということは、まだ闇の力を持った人がいるってことになる。
 この分だと香奈や雲井の方にも敵が向かっているのかもしれない。
 2人とも、無事でいてくれよ。
「それじゃあ決闘再開!! あたいはデッキからフィールド魔法"戦慄する闇の世界"を発動さ!」
 茜のデュエルディスクから闇が吹き出し、ドーム状に広がった。
 一見すると普通の闇の世界と変わらないが、油断はできない。
 

 戦慄する闇の世界
 【フィールド魔法】
 このカードはデュエル開始時に、デッキまたは手札から発動する。
 このカードはフィールドから離れない。
 このカードがフィールドに表側表示で存在する限り、フィールド上に表側表示で
 存在する通常モンスター扱いのデュアルモンスターは再度召喚された状態になる。


「……!」
 効果テキストを確認した瞬間、相手のデッキが把握できてしまった。
 ここまで限定的な効果を持った闇の世界まであるのか。
「お前のデッキって、【デュアル】か?」
「ご名答さ! あたいのデッキはデュアルモンスターをたくさん入れたデッキ。いやぁ、闇の世界を発動させると一発でバレちゃうからさ、素直に答えることにしてるんだよ」
「そうか……」
 なんていうか、どこまでも前向きな人だと思った。
 格好がアレだが、根はいい人なのかもしれない。
「ねぇねぇ真奈美。デュアルって何?」
「雫ちゃん、授業でやったじゃないですか。デュアルモンスターって言うのは、再召喚することで効果を発揮するモンスター群です」
「再召喚? え、2回も召喚するってこと?」
「うぅ……1度は普通に召喚するんですけど、その時は通常モンスターとして扱われるんです。そして再度召喚。つまり召喚権を1回使うことで効果モンスターになれるんですよ」
 本城さんの言うとおり、デュアルモンスターは再召喚をすることで効果モンスターに変わる特別なモンスターだ。墓地などでも通常モンスターとして扱われるため、通常モンスター専用サポートカードも使用できる。1体1体の効果が強力で、再召喚された状態にさせたらかなり厄介だ。
 弱点としては再召喚まで時間がかかってしまうことがあげられるのだが、"戦慄する闇の世界"の効果で相手モンスターは常に再召喚された状態になってしまう。弱点は無いといっても過言じゃない。
「さぁ熱い決闘を始めようぜ!」
 デュエルディスクのランプが青く点灯した。
 先攻は相手からか。
「おっ、あたいの先攻かい。じゃあいくぜ! あたいのターン、ドロー!!」(手札5→6枚)
 茜は勢いよくカードを引く。その表情は、心の底からこの決闘を楽しもうとしているようだった。
「うーん、まぁこんなもんかな。あたいはモンスターをセットしてカードを1枚伏せて、ターンエンドだ」
「…………」
 思っていたよりも慎重なプレイングだな。
 【デュアル】と戦うのはこれが初めてだけど、臆せずに戦うしかない。
「俺のターン、ドロー!!」(手札5→6枚)
 6枚になった手札を確認する。
 考えられる限り、かなりいい手札だ。
「手札から"六武衆の結束"を発動する!!」


 六武衆の結束
 【永続魔法】
 「六武衆」と名の付いたモンスターが召喚・特殊召喚される度に、
 このカードに武士道カウンターを1個乗せる(最大2個まで)。
 このカードを墓地に送る事で、このカードに乗っている武士道カウンターの数だけ
 自分のデッキからカードをドローする。


「いきなりドロー加速をするカードかい。いいねいいね、最初から全力って訳だ!」
「お前が全力で戦えって言ったんじゃないか」
「たっはっは! そりゃそうだ。別に怒ってるわけじゃないよ。むしろ嬉しいね。あたいとガチでやりあえる相手は滅多にいないからさ!」
「そうかよ。いくぞ! 手札から"真六武衆−カゲキ"を召喚する!!」
 輝く召喚陣の中から4刀流の武士が参上する。
 背後にそびえる結束を示す陣が、武士の登場を歓迎するように輝いた。


 真六武衆−カゲキ 風属性/星3/攻200/守2000
 【戦士族・効果】
 このカードが召喚に成功した時、手札からレベル4以下の
 「六武衆」と名のついたモンスター1体を特殊召喚する事ができる。
 自分フィールド上に「真六武衆−カゲキ」以外の「六武衆」と名のついたモンスターが
 表側表示で存在する限り、このカードの攻撃力は1500ポイントアップする。


 六武衆の結束:武士道カウンター×0→1

「攻撃力200のモンスター……ってわけじゃないんだろう?」
「ああ。カゲキの効果発動。手札からレベル4以下の六武衆を特殊召喚できる。この効果で"六武衆の影武者"を特殊召喚する!」


 六武衆の影武者 地属性/星2/攻400/守1800
 【戦士族・チューナー】
 自分フィールド上に表側表示で存在する「六武衆」と名のついたモンスター1体が
 魔法・罠・効果モンスターの効果の対象になった時、
 その効果の対象をフィールド上に表側表示で存在するこのカードに移し替える事ができる。


 六武衆の結束:武士道カウンター×1→2

「チューナーか。なるほどね、シンクロ召喚が狙いだったって訳かい」
「まぁな。カゲキの効果だ。他に六武衆がいるときに、攻撃力が1500ポイントアップする!」

 真六武衆−カゲキ:攻撃力200→1700

「すごいね。そこまでの攻撃力になるとは……けどどうせシンクロするんだろ?」
「ああ。まずは"六武衆の結束"の効果だ。カウンターの乗ったこのカードを墓地に送ることで、そのカウンターの数だけデッキからドローする。カウンターは2つだから、デッキから2枚ドローする!!」
 輝きを放つ結束の陣が光になって消える。
 その力によって、俺はデッキから新たな手札を加えた。

 六武衆の結束→墓地
 大助:手札3→5枚

「良い手札が引けたかい?」
「さぁな。レベル3のカゲキにレベル2の影武者をチューニング! "真六武衆−シエン"をシンクロ召喚だ!」
 2体の武士が光となって、互いの力を共鳴させる。
 光の柱が立ち、その中から真紅の鎧に身を包んだ若い武将が姿を現した。


 真六武衆−シエン 闇属性/星5/攻2500/守1400
 【戦士族・シンクロ/効果】
 戦士族チューナー+チューナー以外の「六武衆」と名のついたモンスター1体以上
 1ターンに1度、相手が魔法・罠カードを発動した時に発動する事ができる。
 その発動を無効にし破壊する。
 また、フィールド上に表側表示で存在するこのカードが破壊される場合、
 代わりにこのカード以外の自分フィールド上に表側表示で存在する
 「六武衆」と名のついたモンスター1体を破壊する事ができる。


「攻撃力2500のうえに、魔法・罠の効果を無効化か。なかなかいいモンスターじゃないかい」
「バトルだ! シエンで裏守備モンスターに攻撃だ!」
 手に持った刀に炎を宿し、茜の場に伏せられたモンスターへ攻撃する。
 巨大な炎に包まれて、相手モンスターは黒焦げになってしまった。

 フェデライザー→破壊

「かかったね。"フェデライザー"の効果発動だ。デッキからデュアルモンスター"チューンド・マジシャン"を墓地に送ってデッキをシャッフル。そのあとデッキから1枚ドローするよ!」
「っ!」


 フェデライザー 風属性/星2/攻700/守1100
 【魔法使い族・効果】
 このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、
 自分のデッキからデュアルモンスター1体を墓地へ送り、
 自分のデッキからカードを1枚ドローする事ができる。


 チューンド・マジシャン→墓地
 茜:手札4→5枚

 墓地を肥やしたうえにデッキからドローか。
 やっぱり相手は一筋縄ではいかないみたいだな。
「カードを1枚伏せて、ターンエンドだ」

-------------------------------------------------
 大助:4400LP

 場:真六武衆−シエン(攻撃:2500)
   伏せカード1枚

 手札4枚
-------------------------------------------------
 茜:8000LP

 場:戦慄する闇の世界(フィールド魔法)
   伏せカード1枚

 手札5枚
-------------------------------------------------

「よっしゃ、あたいのターンだね。ドロー!!」(手札5→6枚)
 不敵な笑みを浮かべたまま、茜はカードを引いた。
 デュアルデッキがどんなデッキだろうと、魔法・罠カードを無効化する効果を持っているシエンがいるのはキツイはずだ。デュアルの戦術が分からない以上、とりあえずこれで相手の対応を見るしかない。
「最初から全力で来てくれてありがとな中岸大助。てっきりライフが減ってるから落ち込んでるかと思ったけど、あまり気にしていないみたいだね」
「これでも結構、気にしてるんだ。それよりさっさとターンを進めてくれ」
「たっはっは! 悪い悪い。あたいも全力でいかせてもらうよ!」
 そう言って茜は、手札から1枚のモンスターカードをデュエルディスクに叩き付けた。


 ダーク・ヴァルキリア 闇属性/星4/攻1800/守1050
 【天使族・デュアル】
 このカードは墓地またはフィールド上に表側表示で存在する場合、通常モンスターとして扱う。
 フィールド上に表側表示で存在するこのカードを通常召喚扱いとして再度召喚する事で、
 このカードは効果モンスター扱いとなり以下の効果を得る。
 ●このカードが表側表示で存在する限り1度だけ、このカードに魔力カウンターを1つ置く事ができる。
 このカードの攻撃力は、このカードに乗っている魔力カウンターの数×300ポイントアップする。
 また、このカードに乗っている魔力カウンターを1つ取り除く事で、
 フィールド上のモンスター1体を選択して破壊する。


 ダーク・ヴァルキリア:魔力カウンター×0→1
 ダーク・ヴァルキリア:攻撃力1800→2100

「……!」
 黒い翼をもった魔法使いが舞い降りる。
 不気味な笑みを浮かべる魔法使いの翼が、込められた魔力によって薄く輝いている。
「まずはその邪魔なモンスターを破壊させてもらうよ! ヴァルキリアの効果発動! このカードに乗っている魔力カウンターを取り除くことで、モンスター1体を破壊させてもらうよ!」
「なっ!?」
 不気味に光る翼から放たれた光線が、場にいる武将の体を貫いた。

 真六武衆−シエン→破壊
 ダーク・ヴァルキリア:魔力カウンター×1→0
 ダーク・ヴァルキリア:攻撃力2100→1800

「くっ……!」
 やられた。まさかこんな簡単にシエンが除去されてしまうなんて……。
「さぁて、魔法が解禁になったところで攻めさせてもらうよ! 手札から"黙する死者"を発動! さっき墓地に送った"チューンド・マジシャン"を守備表示で特殊召喚!」


 黙する死者
 【通常魔法】
 自分の墓地に存在する通常モンスター1体を選択して発動する。
 選択したモンスターを表側守備表示で特殊召喚する。
 この効果で特殊召喚したモンスターは
 フィールド上に表側表示で存在する限り攻撃する事ができない。


 チューンド・マジシャン 風属性/星4/攻1800/守1600
 【魔法使い族・デュアル】
 このカードは墓地またはフィールド上に表側表示で存在する場合、通常モンスターとして扱う。
 フィールド上に表側表示で存在するこのカードを通常召喚扱いとして再度召喚する事で、
 このカードは効果モンスター扱いとなり以下の効果を得る。
 ●このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、このカードをチューナーとして扱う。


 茜の場に現れる新たなモンスター。
 "戦慄する闇の世界"の効果で、デュアルモンスターは場に出た瞬間から再度召喚された状態になっている。
「チューナーか……」
「ああ! あんたがシンクロモンスターを披露してくれたから、あたいだってシンクロさせてもらうよ!! レベル4の"ダーク・ヴァルキリア"にレベル4の"チューンド・マジシャン"をチューニング!」
 魔法使いの1人が光の輪となり、黒い翼をもった魔法使いを包み込む。
 巨大な光の柱が立ち、中から黒く硬い皮膚に覆われたドラゴンが姿を現した。


 ブラック・ブルドラゴ 炎属性/星8/攻3000/守2600
 【ドラゴン族・シンクロ/効果】
 チューナー+チューナー以外のデュアルモンスター1体以上
 1ターンに1度、手札からデュアルモンスター1体を墓地へ送って発動できる。
 相手フィールド上の魔法・罠カード1枚を選択して破壊する。
 また、このカードが破壊され墓地へ送られた時、
 自分の墓地のデュアルモンスター1体を選択して特殊召喚できる。
 この効果で特殊召喚したデュアルモンスターは再度召喚された状態になる。


「攻撃力3000か……!」
「それだけじゃないさ。ブルドラゴの効果発動。手札のデュアルモンスター1体を捨てて、相手の魔法・罠カードを破壊する! あたいは手札の"ヘルカイザー・ドラゴン"を捨てて、あんたの伏せカードを狙うよ!」
「……!」
 高い攻撃力だけじゃなく、魔法・罠カードの破壊までできるのか。
 こいつ自体はデュアルモンスターではないが、強力なことであることに変わりはない。
 もちろん、このまま相手の好き勝手にさせるわけにはいかない。
「その効果にチェーンして、"和睦の使者"を発動する!」
 ドラゴンから放たれた火炎に焼き尽くされる前に、俺は伏せカードを発動した。


 和睦の使者
 【通常罠】
 このカードを発動したターン。相手モンスターから受けるすべての戦闘ダメージを0にする。
 このターン自分のモンスターは戦闘によって破壊されない。


 俺の前に光の壁が現れる。
 これでこのターンは戦闘ダメージを受けることがなくなった。いくら攻撃力が高くても、ダメージを与えられなければ問題は無い。
「くぅ! そうやってあたいの攻撃を凌ぐなんて、さすがだね!」
「まぁな」
 なんとか防ぐことが出来たが、厳しい状況であることに変わりはない。
 思っていた以上に、茜の実力は高いようだ。
「あたいはこれでターンエンドだ!!」
 番長服を翻して、茜は不敵な笑みを浮かべたままエンドフェイズを宣言した。




episode12――まだ友達とは呼べないけど――




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 玉木茜が彼女と出会ったのは、つい3日前のことだった。
 いつものように友達と駄弁っている昼休み、教室に乗り込んできたのは1人の女子。
「あの、玉木茜さんはいらっしゃいますか?」
「はいはい?」
 赤毛をなびかせて、茜はその女子に駆け寄る。
 セミロングの茶髪に眼鏡をかけた清楚な感じを醸し出す彼女は、自分とは正反対のように感じた。
「あたいに何か用かい?」
「ええ。少しだけ、お時間よろしいですか?」
「いいよ。あんた名前は?」
「私は神原栞里です」
 簡単な自己紹介を済ませた後、栞里は茜を屋上まで連れて行った。
 屋上には誰もおらず、茜と彼女の二人きりだった。
「あのさぁ、ここに呼ばれた理由がさっぱり分からないし、あんたが誰かも分からないけどさ、もしかして告白するつもりなら勘弁してくれないかい? あいにくあたいはそういう趣味はないんだけど?」
「大丈夫です。これを身に着けてみてください」
 そう言って栞里は闇の結晶を手渡した。
 茜がそれに触れた瞬間、黒い霧のようなものが体を包み込んだ。
「おわっ、なんじゃこれ!?」
「やっぱり素質があったんですね」
「いったいなんなんだい? 宝石にしちゃ高そうに見えないけど?」
「………あの、なんともないんですか?」
「何が?」
「いえ、その、気分が悪いとか、力が湧いてくるとか……」
「たっはっは! あたいは生まれてこのかた病気になったことなんかないし、力だっていつでも満タンさ!」
「……………」
 呆れたような表情をした後、栞里は小さく溜息をついた。
「もしかしてなんか都合が悪かったかい?」
「いいえ。それならそれで構いません。少しだけ、お話を聞いてくれませんか?」
 その女子が話したのは、自分の兄についての事だった。
 他人の長い話にはあまり興味がない茜だったのだが、その時は珍しく聞く気になっていた。それが単なる気まぐれだったのか、闇の結晶を身に着けたことによる何らかの作用だったのかは分からない。

 10分ほどの話だっただろうか。
 思っていたよりも深刻そうな内容だった。

「……以上です」
「ふーん、まぁよく分からないけど、あんたはその兄貴のためになんかしてやりたいってわけか」
「協力してくれますか?」
「はっきり言うけど嫌だね。ブラコンなのは結構なことだけど、学校全体を巻き込むってのはいただけないな。なんならここであたいがあんたを力ずくで止めるって選択肢もあるぜ? こう見えてもあたいは結構、喧嘩は強いんだ」
 ファイティングポーズを取る茜へ、栞里は手をかざす。
 次の瞬間、見えない力によって茜はフェンスまで飛ばされた。
「っ!?」
 それが闇の力による攻撃だったことは、分かるはずもなかった。
 不意を突かれたうえに、後頭部を強打したことで茜は気を失ってしまう。
「ごめんなさい……でもこれしか方法が無いんです」
 気絶した茜の額に、栞里は手を当てる。
「少しだけマインドコントロールさせてもらいます。私に協力的になってくれるように、ほんの少しだけ……」


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 大助:4400LP

 場:なし

 手札4枚
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 茜:8000LP

 場:戦慄する闇の世界(フィールド魔法)
   ブラック・ブルドラゴ(攻撃:3000)
   伏せカード1枚

 手札3枚
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 戦慄する闇の世界
 【フィールド魔法】
 このカードはデュエル開始時に、デッキまたは手札から発動する。
 このカードはフィールドから離れない。
 このカードがフィールドに表側表示で存在する限り、フィールド上に表側表示で
 存在する通常モンスター扱いのデュアルモンスターは再度召喚された状態になる。


 ブラック・ブルドラゴ 炎属性/星8/攻3000/守2600
 【ドラゴン族・シンクロ/効果】
 チューナー+チューナー以外のデュアルモンスター1体以上
 1ターンに1度、手札からデュアルモンスター1体を墓地へ送って発動できる。
 相手フィールド上の魔法・罠カード1枚を選択して破壊する。
 また、このカードが破壊され墓地へ送られた時、
 自分の墓地のデュアルモンスター1体を選択して特殊召喚できる。
 この効果で特殊召喚したデュアルモンスターは再度召喚された状態になる。


 決闘は中盤に差し掛かっていた。
 俺の場にはカードがなく、相手の場には攻撃力3000の強力モンスターが存在している。
「俺のターン、ドロー!!」(手札4→5枚)
 ただでさえライフが少ない状態で始まった決闘。
 焦って攻め急がないように注意しなければならないが、出し惜しみをしている余裕もない。
「いくぞ! 手札から"六武の門"を発動する!!」


 六武の門
 【永続魔法】
 「六武衆」と名のついたモンスターが召喚・特殊召喚される度に、このカードに武士道カウンターを2つ置く。
 自分フィールド上の武士道カウンターを任意の個数取り除く事で、以下の効果を適用する。
 ●2つ:フィールド上に表側表示で存在する「六武衆」または「紫炎」と名のついた
 効果モンスター1体の攻撃力は、このターンのエンドフェイズ時まで500ポイントアップする。
 ●4つ:自分のデッキ・墓地から「六武衆」と名のついたモンスター1体を手札に加える。
 ●6つ:自分の墓地に存在する「紫炎」と名のついた効果モンスター1体を特殊召喚する。


 俺の背後に現れた巨大な門。その中心には武士たちを象徴する大きな陣が描かれている。
「おっ、出たねそのカード! 六武衆デッキの要注意カードだから効果はよく知ってるよ!」
「分かってるなら説明しなくてもいいな。手札から"真六武衆−ミズホ"を召喚する!!」
 輝く赤色の召喚陣。
 その中から三日月のような巨大な刃を装備した女武士が現れた。


 真六武衆−ミズホ 炎属性/星3/攻1600/守1000
 【戦士族・効果】
 自分フィールド上に「真六武衆−シナイ」が表側表示で存在する場合、
 このカードは手札から特殊召喚する事ができる。
 1ターンに1度、このカード以外の自分フィールド上に存在する
 「六武衆」と名のついたモンスター1体をリリースする事で、
 フィールド上に存在するカード1枚を選択して破壊する。


 六武の門:武士道カウンター×0→2

「女武士かぁ、格好いいね! 時代が時代ならあたいも武士になってみたかったぜ」
「……続けるぞ。ミズホが場にいるから、手札から"真六武衆−シナイ"を特殊召喚する!!」
 紫色の召喚陣が出現し、中から巨大な棍棒を携えた武士が現れた。


 真六武衆−シナイ 水属性/星3/攻1500/守1500
 【戦士族・効果】
 自分フィールド上に「真六武衆−ミズホ」が表側表示で存在する場合、
 このカードは手札から特殊召喚する事ができる。
 フィールド上に存在するこのカードがリリースされた場合、
 自分の墓地に存在する「真六武衆−シナイ」以外の
 「六武衆」と名のついたモンスター1体を選択して手札に加える。


 六武の門:武士道カウンター×2→4

「"六武の門"の効果発動。このカードに乗ったカウンターを4つ取り除いて、デッキから"六武衆の師範"をサーチする。そしてそのまま特殊召喚だ!!」
 背後にそびえる門が輝き、そこから隻眼の武士が参上した。


 六武衆の師範 地属性/星5/攻2100/守800
 【戦士族・効果】
 自分フィールド上に「六武衆」と名のついたモンスターが表側表示で存在する場合、
 このカードは手札から特殊召喚する事ができる。
 このカードが相手のカード効果によって破壊された時、
 自分の墓地に存在する「六武衆」と名のついたモンスター1体を手札に加える。
 「六武衆の師範」は自分フィールド上に1枚しか表側表示で存在できない。


 六武の門:武士道カウンター×4→0→2

「たった1ターンで3体のモンスターとは、なかなかやるね!」
「そりゃどうも。ミズホの効果発動! シナイをリリースすることで、お前のモンスターを破壊する!!」
「んなっ!?」
 女武士が、その手に持った刃を力任せに放り投げる。
 まるでブーメランのような軌跡を描く斬撃に、漆黒のドラゴンは切り裂かれた。

 真六武衆−シナイ→墓地
 ブラック・ブルドラゴ→破壊

「そしてリリースされたシナイの効果発動! 墓地にいる"真六武衆−カゲキ"を手札に加える!」(手札2→3枚)
「おいおい、破壊したうえにモンスターを回収かい。やってくれるじゃないか。でもあたいのシンクロモンスターだって伊達じゃない! こいつが破壊された時、墓地にいるデュアルを復活できる! あたいは"ヘルカイザー・ドラゴン"を攻撃表示で特殊召喚!」
「……! さっきブルドラゴの効果で手札から捨てておいたカードか」
「よく分かってるね。そんじゃ遠慮なく特殊召喚だ!」


 ヘルカイザー・ドラゴン 炎属性/星6/攻2400/守1500
 【ドラゴン族・デュアル】
 このカードは墓地またはフィールド上に表側表示で存在する場合、通常モンスターとして扱う。
 フィールド上に表側表示で存在するこのカードを通常召喚扱いとして再度召喚する事で、
 このカードは効果モンスター扱いとなり以下の効果を得る。
 ●このカードは1度のバトルフェイズ中に2回攻撃する事ができる。


「こいつは攻撃力2400だ。師範じゃ超えられないぜ?」
「そうでもないさ。"六武の門"の効果発動! カウンターを2個取り除いて師範の攻撃力を500アップさせる!」
 門から放たれた光が、隻眼の武士が握る刀に帯びた。
 それによって隻眼の武士の攻撃力が少しだけ上昇する。

 六武の門:武士道カウンター×2→0
 六武衆の師範:攻撃力2100→2600

「うっそ!? 超えられた!?」
「バトルだ! 師範でヘルカイザー・ドラゴンに攻撃だ!!」
 鋭い斬撃。
 武士が放った一撃は、茜の場にいるドラゴンを真っ二つに切り裂いた。

 ヘルカイザー・ドラゴン→破壊
 茜:8000→7800LP

「くっ……!」
「さらにミズホで直接攻撃だ!」
「待った! 伏せカードを発動させてもらうよ!」


 正統なる血統
 【永続罠】
 自分の墓地の通常モンスター1体を選択し、表側攻撃表示で特殊召喚する。
 このカードがフィールド上から離れた時、そのモンスターを破壊する。
 そのモンスターがフィールド上から離れた時このカードを破壊する。


「この効果で破壊された"ヘルカイザー・ドラゴン"を特殊召喚だよ!」
「……!」
 追撃しようと武器を構えた女武士の前にドラゴンが出現する。
 くそっ、ライフを削っておきたいところだったのに防がれてしまった。
 やっぱりこいつ、かなり強い。長引かせれば長引かせた分だけ、こっちが不利になりそうだ。
「カードを1枚伏せて、ターンエンドだ!」

-------------------------------------------------
 大助:4400LP

 場:真六武衆−ミズホ(攻撃:1600)
   六武衆の師範(攻撃:2100)
   六武の門(永続魔法:武士道カウンター×0)
   伏せカード1枚

 手札2枚
-------------------------------------------------
 茜:7800LP

 場:戦慄する闇の世界(フィールド魔法)
   ヘルカイザー・ドラゴン(攻撃:2400)
   正統なる血統(永続罠)

 手札3枚
-------------------------------------------------

「わくわくするねぇ。強い相手と戦えるのはいつだって楽しくて仕方ないよ! あたいのターン!!」(手札3→4枚)
 茜は真剣な眼差しのまま笑みを浮かべ、デッキからカードを引いた。
 こんな状況なのに、本当にこの戦いを楽しんでいるように見える。
「このまま攻撃するってのも1つの手なんだけど、手札にいるカゲキが厄介そうだから、こいつを使わせてもらうよ!」
 そう言って、茜は手札の1枚をデュエルディスクに叩き付けた。


 手札断殺
 【速攻魔法】
 お互いのプレイヤーは手札を2枚墓地へ送り、デッキからカードを2枚ドローする。


「あたいは手札にいる"フェニックス・ギア・フリード"と"ダークストーム・ドラゴン"を捨てて、2枚ドローさせてもらうよ。あんたは2枚しか手札が無いから、必然的に全部取り替えることになるね」
「……!」
 効果に従い、2枚の手札を捨てて新たにデッキからカードを2枚引く。(手札2→0→2枚)
 カゲキの効果を警戒して、場に出される前に処理したってことか。
「捨てた手札はなんだい?」
「……カゲキと"紫炎の寄子"だ」 


 紫炎の寄子 地属性/星1/攻300/守700
 【戦士族・チューナー】
 自分フィールド上に存在する「六武衆」と名のついたモンスターが戦闘を行う場合、
 そのダメージ計算時にこのカードを手札から墓地へ送って発動する。
 そのモンスターはこのターン戦闘では破壊されない。


「うわぁ、手札から戦闘破壊耐性を付加させるカードかい。だからあたいのモンスターを前にしてもあんまり困ってなかったんだね」
「ああ。さっきの"手札断札"のせいで目論見は崩されたけどな」
「たっはっは! じゃああたいの勘と戦術は的中って訳だね。それじゃあ脅威が無くなったところで、一気に攻めさせてもらうよ! 手札から"エヴォルテクター シュバリエ"を召喚!」
 茜の場に燃え上がる炎。
 その中から赤い鎧に身を包んだ、若い騎士が現れる。


 エヴォルテクター シュバリエ 炎属性/星4/攻1900/守900
 【戦士族・デュアル】
 このカードは墓地またはフィールド上に表側表示で存在する場合、通常モンスターとして扱う。
 フィールド上に表側表示で存在するこのカードを通常召喚扱いとして再度召喚する事で、
 このカードは効果モンスター扱いとなり以下の効果を得る。
 ●自分フィールド上に表側表示で存在する装備カード1枚を墓地へ送る事で、
 相手フィールド上に存在するカード1枚を破壊する。


「さらに"スーペルヴィス"を発動するよ!」
「……!」


 スーペルヴィス
 【装備魔法】
 デュアルモンスターにのみ装備可能。
 装備モンスターは再度召喚した状態になる。
 フィールド上に表側表示で存在するこのカードが墓地へ送られた時、
 自分の墓地に存在する通常モンスター1体を選択して特殊召喚する。


「こいつにはモンスターを再召喚扱いにする効果があるんだけど、"戦慄する闇の世界"の効果があるからあんまり意味がないな」
「だけど、そのカードの効果はそれだけじゃないだろ」
「分かってるね! 再召喚状態になっているシュバリエの効果発動!! 装備カードを墓地に送って、あんたの場にある"六武の門"を破壊させてもらう!」
 赤い騎士が、手に持った剣を振る。
 そこから放たれた炎の斬撃が、俺の背後にそびえる巨大な門を焼き尽くしてしまった。

 スーペルヴィス→墓地
 六武の門→破壊

「その永続魔法は厄介だからねぇ。早めに取り除かせてもらったよ」
「………」
「そして墓地に送られた"スーペルヴィス"の効果発動。墓地にいる"フェニックス・ギア・フリード"を特殊召喚!」
 燃えている門の中から、炎の渦が巻き起こった。
 それは茜の場に降り立ち、真紅の鎧を着た高貴な騎士が現れた。


 フェニックス・ギア・フリード 炎属性/星8/攻2800/守2200
 【戦士族・デュアル】
 このカードは墓地またはフィールド上に表側表示で存在する場合、通常モンスターとして扱う。
 フィールド上に表側表示で存在するこのカードを通常召喚扱いとして再度召喚する事で、
 このカードは効果モンスター扱いとなり以下の効果を得る。
 ●相手が魔法カードを発動した場合、自分の墓地に存在する
 デュアルモンスター1体を選択して特殊召喚する事ができる。
 また、自分フィールド上に表側表示で存在する装備カード1枚を墓地へ送る事で、
 フィールド上に存在するモンスターを対象にする魔法・罠カードの発動を無効にし破壊する。


「これがあたいの切り札だ。どうだい、格好いいだろ?」
「ああ、そうだな」
 高い攻撃力だけじゃなく、相手が魔法カードを発動するたびにデュアルモンスターを復活させる効果……。考えるまでもなく強力だ。迂闊に魔法カードは発動できないな。
「さぁバトルだよ! まずはヘルカイザーで師範とミズホに攻撃だ!!」
 再召喚状態になっている"ヘルカイザー・ドラゴン"は、バトルフェイズ中に2回攻撃できる。
 その口に炎を溜め、狙うのは俺の場にいるモンスターだ。

 真六武衆−ミズホ→破壊
 六武衆の師範→破壊
 大助:4400→3600→3300LP

「ぐっ!」
「さらにシュバリエで直接攻撃だ」
 若い騎士の刃が、俺の体を切り裂いた。
 まともに喰らってしまい、斬られた箇所に激痛が走る。

 大助:3300→1400LP

「がっ…は……!」
「中岸君!!」
 後ろで本城さんの叫び声が聞こえた。
「これでトドメってことはないだろうけど、続いて攻撃だよ!」
 ギアフリードが手に持った巨大な剣を構え、斬りかかってくる。
 これを受ければ、ライフが0になって負けてしまう。もう、残りライフを気にしている余裕なんかない!
「伏せカード発動だ!!」


 究極・背水の陣
 【通常罠】
 自分のライフポイントが100ポイントになるようにライフポイントを払って発動する。自分の墓地に
 存在する「六武衆」と名のついたモンスターを自分フィールド上に可能な限り特殊召喚する(同名カード
 は1枚まで)。ただし、フィールド上に存在する同名カードは特殊召喚できない。


 大助:1400→100LP

「おぉ! 出た出た切り札のカード! 対象はどれだい?」
「俺は……シエン、カゲキ、師範、ミズホ、シナイを選択する!」
 光輝く巨大な召喚陣。残りのライフをわずかにする代わりに、仲間の武士たちを呼び出す切り札。
 ライフポイントが継続されるこの場では致命的なコストを支払うカードだが、負けて消えるよりも何倍もマシだ。

 真六武衆−シエン→特殊召喚(守備)
 真六武衆−カゲキ→特殊召喚(守備)
 六武衆の師範→特殊召喚(守備)
 真六武衆−ミズホ→特殊召喚(守備)
 真六武衆−シナイ→特殊召喚(守備)

「くぅ! ライフを犠牲にして一気に5体も出してくるなんて燃えるね! まさしく背水の陣って感じがするよ!」
「そんな楽しそうに言うなよ。こっちは必死なんだ」
「たっはっは! それもそうだ。じゃあギアフリードにミズホを攻撃させてもらうよ!」
 炎を纏った剣が、守備体勢を取る女武士の体を切り裂いた。
 破壊された衝撃の余波が、体に響いた。
「っ……!」
「まだまだ終わりそうにはないねぇ。本当に楽しいよ中岸大助。あたいはこれでターンエンドだ!」

-------------------------------------------------
 大助:100LP

 場:真六武衆−シエン(守備:1400)
   真六武衆−カゲキ(守備:2000)
   六武衆の師範(守備:800)
   真六武衆−シナイ(守備:1500)

 手札2枚
-------------------------------------------------
 茜:7800LP

 場:戦慄する闇の世界(フィールド魔法)
   ヘルカイザー・ドラゴン(攻撃:2400)
   フェニックス・ギア・フリード(攻撃:2800)
   エヴォルテクター シュバリエ(攻撃:1900)
   正統なる血統(永続罠)

 手札1枚
-------------------------------------------------

「俺のターン!」
 残りのライフが少ししかない。ここで逆転へつながるカードを引かないと、負けてしまう。
 デッキワンカードがあるが、今は使っても効果が薄い。それなら……!
「ドロー!!」(手札2→3枚)
 引いたカードを確認して手札に加えて、手札の1枚に手をかけた。
「カゲキとシナイをリリースして、手札から"六武の書"を発動する!」


 六武ノ書
 【速攻魔法】
 自分フィールド上に表側表示で存在する「六武衆」と名のついたモンスター2体をリリースして
 発動する。自分のデッキから「大将軍 紫炎」1体を自分フィールド上に特殊召喚する。


 真六武衆−カゲキ→墓地
 真六武衆−シナイ→墓地

 2体の武士が巻物の中へ光となって吸い込まれる。
 巻物から光が溢れ、そこから甲冑に身を包んだ将軍が現れた。


 大将軍 紫炎 炎属性/星7/攻撃力2500/守備力2400
 【戦士族・効果】
 自分フィールド上に「六武衆」と名のついたモンスターが2体以上表側表示で存在する場合、
 このカードは手札から特殊召喚する事ができる。このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
 相手プレイヤーは1ターンに1度しか魔法・罠カードの発動ができない。このカードが破壊される場合、
 代わりにこのカード以外の「六武衆」という名のついたモンスターを破壊する事ができる。


「おっ、紫炎が出たね。でも魔法カードを発動したから、ギアフリードの効果が発動するよ」
「っ、そうだったな」
「あたいは墓地にいる"ダークストーム・ドラゴン"を特殊召喚するよ!」
 辺りの闇から黒い煙が溢れ、龍を形作っていく。
 真っ黒な雲から作られた龍の瞳が輝き、目の前に立つ将軍を睨んだ。


 ダークストーム・ドラゴン 闇属性/星8/攻2700/守2500
 【ドラゴン族・デュアル】
 このカードは墓地またはフィールド上に表側表示で存在する場合、通常モンスターとして扱う。
 フィールド上に表側表示で存在するこのカードを通常召喚扱いとして再度召喚する事で、
 このカードは効果モンスター扱いとなり以下の効果を得る。
 ●1ターンに1度、自分フィールド上に表側表示で存在する
 魔法・罠カード1枚を墓地へ送る事で、フィールド上の魔法・罠カードを全て破壊する。


「またデュアルモンスターか……」
 紫炎を場に出すためとはいえ、相手の場にモンスターを増やしてしまった。
 だけどこれしか手が無い。危険を承知で、やるしかないんだ。
「さらにチューナーモンスター"先祖達の魂"を召喚する!」


 先祖達の魂 光属性/星3/攻0/守0
 【天使族・チューナー】
 このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時に自分フィールド上と手札に他のカードが無い
 場合、自分の墓地から「大将軍紫炎」1体を表側攻撃表示で特殊召喚する事ができる。
 ただし、この効果で特殊召喚したカードの効果は無効となり、攻撃力・守備力は0になる。


「んん!? なにそのカード!? 見たことないんですけど!?」
「特別なカードってやつだよ。いくぞ! レベル7の紫炎に、レベル3の"先祖達の魂"をチューニング!」
 場に浮かぶ無数の青白い光の玉が、将軍の体を包み込む。
 装備した甲冑と武器が、先祖達の力を得てより強力なものへと変化していく。
 輝かしい光と共に、身の丈もある大きな刀を携えた武士が姿を現した。


 大将軍 天龍 炎属性/星10/攻3000/守3000
 【戦士族・シンクロ/効果】
 「先祖達の魂」+「大将軍 紫炎」
 1ターンに1度だけ、デッキ、手札または墓地から「六武衆」と名のついたモンスターカード1種類
 すべてをゲームから除外することができる。この効果で除外したモンスターの属性、攻撃力、守備力、
 効果を、相手ターンのエンドフェイズ時までこのカードに加える。
 この効果で得た効果は、他に「六武衆」と名のついたモンスターが存在しなくても発動できる。


「うぉ! 格好いいね! それがあんたの切り札ってことかい?」
「ああ。天龍の効果発動! デッキから"六武衆−ヤリザ"をすべて除外することで、その能力を天龍へ付加させる!」
 デッキから一筋の光が流れ、天龍の持つ刀へ宿る。
 すると刀が形状を変え、鋭い一本の槍になった。

 大将軍 天龍:攻撃力3000→4000 守備力3000→3500 炎→炎+地属性

「攻撃力4000か!」
「それだけじゃない! ヤリザの能力を受け継いだ天龍は、直接攻撃することが出来る!!」
「うっそ!?」
「バトルだ!!」
 槍を構え、天龍が目にもとまらぬ速さで突進する。
 すべてを貫くかのような一撃が、相手モンスターを飛び越えて茜へ届いた。

 茜:7800→3800LP

「くあああああ!!」
 大ダメージを受けたせいだろう。茜は膝をつき、苦しそうに顔を歪めた。
 一気に4000ポイントも削られたんだ。かなり効いているだろう。
 このまま天龍で押し切れるといいが……。
「……メインフェイズ2に、デッキワンサーチシステムを使う!」
「なに!?」
 デュエルディスクから1枚のカードが選び出されて、俺の手札に加わる。(手札1→2枚)
 対して茜もルールによってデッキからカードを1枚ドローした。(手札1→2枚)
 この状況で手札を与えるのは危険だが、デッキワンカードが手の内にあることを見せれば少しは警戒してくれるかもしれない。
「俺はカードを1枚伏せて、ターンエンドだ!」

-------------------------------------------------
 大助:100LP

 場:真六武衆−シエン(守備:1400)
   六武衆の師範(守備:800)
   大将軍 天龍(攻撃:4000《ヤリザの能力付加》)
   伏せカード1枚

 手札1枚
-------------------------------------------------
 茜:3800LP

 場:戦慄する闇の世界(フィールド魔法)
   ヘルカイザー・ドラゴン(攻撃:2400)
   フェニックス・ギア・フリード(攻撃:2800)
   エヴォルテクター シュバリエ(攻撃:1900)
   ダークストーム・ドラゴン(攻撃:2700)
   正統なる血統(永続罠)

 手札2枚
-------------------------------------------------

「あたいのターンだ! ドロー!」(手札2→3枚)
 デッキからカードを引いた瞬間、茜は口元に笑みを浮かべた。
 何か良いカードを引かれてしまったのかもしれない。
 だけど六武衆の力をコピーした天龍には、他の六武衆を身代わりに破壊を無効にできる効果がある。
 そう簡単に除去することはできないはずだ。それに、たとえ破壊されても………。
「うーん、その伏せカードが気になるけど、このままバトルしようか! ヘルカイザーで真シエンと師範に攻撃だ!」
「……!」
 ドラゴンが炎を吐き出し、守備態勢を取る2体の武士へ攻撃する。
 伏せカードに一瞬だけ手をかけるが、発動しないことにした。

 真六武衆−シエン→破壊
 六武衆の師範→破壊

「さぁて、あとはその厄介な大将軍様だけだな!」
「こっちの攻撃力は4000だぞ。どうするんだ?」
「たっはっは! こうするんだよ! 速攻魔法発動だ!」


 デュアルスパーク
 【速攻魔法】
 自分フィールド上に表側表示で存在する
 レベル4のデュアルモンスター1体をリリースし、
 フィールド上のカード1枚を選択して発動できる。
 選択したカードを破壊し、デッキからカードを1枚ドローする。


「……!」
「シュバリエをリリースして、天龍を破壊! さらにデッキから1枚ドローだよ!」
 炎の騎士が光に変わり、電撃となって俺の場に襲い掛かった。
 このまま天龍を破壊させたら、負けてしまう。
「させるか! 伏せカード発動だ!!」
 電撃が将軍の体を焼く前に、その体が場から消えた。


 強制終了
 【永続罠】
 自分フィールド上に存在する
 このカード以外のカード1枚を墓地へ送る事で、
 このターンのバトルフェイズを終了する。
 この効果はバトルフェイズ時にのみ発動する事ができる。


「"デュアル・スパーク"の効果にチェーンして、このカードで天龍をコストにした!」
「むぅ、バトルフェイズは終了かい。しかも対象を失ったからカードをドローすることもできないってわけかい。あたいとしたことが、伏せカードを読み違えたみたいだねぇ」
「残念だったな」
「たっはっは! 相手の心配をする余裕はあるみたいだね。けど心配には及ばないよ! あたいはカードを2枚伏せて、ターンエンドだ」

-------------------------------------------------
 大助:100LP

 場:強制終了(永続罠)

 手札1枚
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 茜:3800LP

 場:戦慄する闇の世界(フィールド魔法)
   ヘルカイザー・ドラゴン(攻撃:2400)
   フェニックス・ギア・フリード(攻撃:2800)
   ダークストーム・ドラゴン(攻撃:2700)
   正統なる血統(永続罠)
   伏せカード2枚

 手札0枚
-------------------------------------------------

「俺のターン、ドロー!!」(手札1→2枚)
 なんとか、ライフを100にした状態で自分のターンに移すことが出来た。
 相手の場にカードがたくさんあるとはいえ、俺の場にはモンスターはいない。デッキワンカードを使うには最適と言える状況だ。チャンスがあるとすれば、このターンしかない!
「勝負だ! 手札からデッキワンカード"神極・閃撃の陣"を発動する!」


 神極・閃撃の陣
 【通常罠・デッキワン】
 「六武衆」と名のついたカードが15枚以上入っているデッキにのみ入れることができる。 
 自分のライフが100のとき、このカードは手札から発動でき、発動と効果を無効にされない。
 自分のライフポイントが50ポイントになるようにライフポイントを払って発動する。 
 自分のデッキに存在するすべてのモンスターを墓地へ送り、自分の墓地に存在する「六武衆」と
 名のついたモンスターを自分フィールド上に可能な限り特殊召喚する。
 また、手札からこのカードを発動したとき、以下の効果も使うことが出来る。
 ●この効果で特殊召喚したモンスターの数まで、フィールド上のカードを破壊することが出来る。
 ●このターンのエンドフェイズ時まで、自分のモンスターは相手のカード効果を受けない。


 大助:100→50LP

「……っ!! 対象は……どれだい?」
「俺は、シエンと、師範、ザンジ、エニシ、そして…………ニサシを選択する!!」
 フィールド全体に描かれる、巨大で複雑な召喚陣。
 光輝く陣の中から、5体の武士が現れた。


 真六武衆−シエン 闇属性/星5/攻2500/守1400
 【戦士族・シンクロ/効果】
 戦士族チューナー+チューナー以外の「六武衆」と名のついたモンスター1体以上
 1ターンに1度、相手が魔法・罠カードを発動した時に発動する事ができる。
 その発動を無効にし破壊する。
 また、フィールド上に表側表示で存在するこのカードが破壊される場合、
 代わりにこのカード以外の自分フィールド上に表側表示で存在する
 「六武衆」と名のついたモンスター1体を破壊する事ができる。


 六武衆の師範 地属性/星5/攻2100/守800
 【戦士族・効果】
 自分フィールド上に「六武衆」と名のついたモンスターが表側表示で存在する場合、
 このカードは手札から特殊召喚する事ができる。
 このカードが相手のカード効果によって破壊された時、
 自分の墓地に存在する「六武衆」と名のついたモンスター1体を手札に加える。
 「六武衆の師範」は自分フィールド上に1枚しか表側表示で存在できない。


 六武衆−ザンジ 光属性/星4/攻1800/守1300
 【戦士族・効果】
 自分フィールド上に「六武衆−ザンジ」以外の「六武衆」と名の付いたモンスターが存在する限り、
 このカードが攻撃を行ったモンスターをダメージステップ終了時に破壊する。このカードが破壊される
 場合、代わりにこのカード以外の「六武衆」という名の付いたモンスターを破壊することが出来る。


 真六武衆−エニシ 光属性/星4/攻1700/守700
 【戦士族・効果】
 自分フィールド上に「真六武衆−エニシ」以外の
 「六武衆」と名のついたモンスターが表側表示で存在する場合、
 1ターンに1度、自分の墓地に存在する「六武衆」と名のついたモンスター2体をゲームから
 除外する事で、フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して手札に戻す。
 この効果は相手ターンでも発動する事ができる。
 また、自分フィールド上に「真六武衆−エニシ」以外の「六武衆」と名のついたモンスターが
 表側表示で2体以上存在する場合、このカードの攻撃力・守備力は500ポイントアップする。


 六武衆−ニサシ 風属性/星4/攻1400/守700
 【戦士族・効果】
 自分フィールド上に「六武衆−ニサシ」以外の「六武衆」と名の付いたモンスターが存在する限り、
 このカードは1度のバトルフェイズ中に2回攻撃する事ができる。このカードが破壊される場合、
 代わりにこのカード以外の「六武衆」という名の付いたモンスターを破壊することが出来る。


「これで終わりだ! "神極・閃撃の陣"の効果で、お前の場にある5枚のカードを破壊する!!」
 輝く5つの槍が、それぞれの武士の手に握られる。
 武士たちはその光を構え、茜の場へ向けて解き放った。
「させないね! デッキワンカードにチェーンして、あたいはこのカードを発動しておいたよ!!」
「っ!?」
 茜の場には、伏せてあった2枚の伏せカードが開かれていた。


 安全地帯
 【永続罠】
 フィールド上に表側攻撃表示で存在するモンスター1体を選択して発動する。
 選択したモンスターは相手の効果の対象にならず、戦闘及び相手の効果では破壊されない。
 また、選択したモンスターは相手プレイヤーに直接攻撃する事はできない。
 このカードがフィールド上に存在しなくなった時、そのモンスターを破壊する。
 そのモンスターがフィールド上から離れた時このカードを破壊する。


 宮廷のしきたり
 【永続罠】
 フィールド上に表側表示で存在する「宮廷のしきたり」以外の永続罠カードを破壊する事はできない。
 「宮廷のしきたり」は、自分フィールド上に1枚しか表側表示で存在できない。


「"安全地帯"の効果で"フェニックス・ギア・フリード"を守らせてもらうよ! さらに"宮廷のしきたり"で、あたいの場にある"安全地帯"を守る!!」
 光輝く5つの光が、茜の場を飲み込んだ。

 ヘルカイザー・ドラゴン→破壊
 ダークストーム・ドラゴン→破壊
 宮廷のしきたり→破壊
 正統なる血統→破壊(自身の効果)

「"フェニックス・ギア・フリード"が……残った……!」
「本当にギリギリだったね。"安全地帯"がある限り、あたいのモンスターはほぼ無敵だよ」
「……!」
 まさか、そんなカードを伏せているなんて……。
 こんなことなら特殊召喚するモンスターに、魔法・罠を破壊できるモンスターを選択しておくんだった。
 相手のモンスターの攻撃力は2800。対象にする効果や破壊効果が効かない以上、この場にいる六武衆の効果で除去することはできない。
「あたいは負けられないのさ。栞里に協力するって決めたからね。仲間のために、この決闘は勝たせてもらうよ!」
 言い放つ茜に呼応するように、赤き騎士が鋭い眼光で睨み付けてきた。
 栞里と呼ぶ人が、どんな人かは分からない。
 だけど茜は、その人のために全力で俺を倒そうしている。負けられないと思っている。
「………」
 チラリと、後ろにいる二人を見た。
 本城さんも雨宮も、固唾をのんで決闘を見守ってくれている。
「……お前だけじゃない……」
「ん?」
 大きく一呼吸。残った1枚の手札に手をかける。

「負けられない理由があるのは、こっちだって同じだ!!」

 そして俺は最後の手札を勢いよくデュエルディスクに叩き付けた。


 団結の力
 【装備魔法】
 自分のコントロールする表側表示モンスター1体につき、
 装備モンスターの攻撃力と守備力は800ポイントアップする。


「あっ……」
「これをニサシに装備して、攻守を4000ポイントアップさせる!!」
 仲間の力を受けて、2刀流の武士の持つ武器が光輝いた。

 六武衆−ニサシ:攻撃力1400→5400 守備力700→4700

「…………参ったねぇ。最後の最後に、やられたね」
 肩を落とし、悟ったように茜は言った。
 赤き騎士も剣を収め、光輝く刃を持つ武士を見つめている。
「くぅ〜、あたいとしたことが、栞里の力になってやれなかったか………」
「……その栞里って人は、お前の友達なのか?」
 そう尋ねると、茜は少しだけ儚い表情を浮かべた。
「……どうなんだろうね。最初に協力を求められたときは、何が何でも止めてやるって思ってたんだけど、なんだか協力してもいいかもしれないって思っちまったんだよ。まっ、栞里はそれを闇の力のせいだって思ってるかもしれないんだけどさ、そういうんじゃないんだよ。なんていうか、自分の周りが見えていないやつってのは、放っておけないんだよ」
「だから、協力したのか?」
「ああ。まだ友達とは呼べないけどさ、一緒にいてやりゃあ、本当の意味で力になれるかもしれないって思ったんだけどね。どうやらあたいはここまでらしい」
「……きっと、伝わると思うぞ」
「ん?」
「お前の”本当の意味で力になりたい”って気持ちは、きっといつか伝わると思う」
「そうかい……じゃあそろそろ、決着といこうぜ!」
 覚悟を決めたのだろう。茜は不敵に笑いながら胸を張った。
 俺も覚悟を決めて、最後の攻撃宣言をする。
「バトルだ!!」
 ニサシが光の刃を握り、赤い騎士へ向かう。
 疾風を思わせる連続斬りが、フィールドに舞った。

 茜:3800→1200→0LP



 相手のライフが0になり、身に着けていた闇の結晶が砕け散る。



 そして決闘は、終了した。




「中岸!」
「中岸君!!」
 辺りを覆っていた闇が晴れて、本城さんと雨宮が駆け寄ってきた。
 崩れそうになる膝をなんとか気合で支え、あたかも大丈夫そうに振舞ってみせる。
「大丈夫ですか!?」
「俺は、大丈夫。それより……」
 仰向けに倒れた茜の方へ意識を向ける。
 羽織った番長服と木刀と一緒に、その体が足元から消えていく。
「あたいの負けだよ中岸大助。悪かったね、ずいぶん迷惑かけちまったな」
「……闇の決闘じゃなきゃ、きっと楽しい決闘だったよ」
「たっはっは……じゃあ楽しい決闘を提供してくれたお礼だ。良いこと教えてやるよ。デュエルディスク同士を接触させて、好きな数値を宣言すれば自分のライフポイントを他人に与えることができる。もちろん与えてライフが0になったら消えちゃうけどな。あと、屋上に行ってみな。栞里の目的が詳しく分かってる訳じゃないけど、屋上にいる奴が、カギを握っているはずだよ」
「……ありがとう」
「たっはっは、お礼なんかいらないさ。ついでに栞里に会ったら全力で逃げたほうがいい。たぶん、あんたのデッキじゃ敵わ………な……い……」
 その言葉を残して、茜はこの場から姿を消してしまった。
 勝ったには勝ったが……やっぱり後味が悪いな。


 近くの壁に寄りかかり一息つく。
 仕方なかったとはいえ、これで俺の残りライフは50ポイントしかなくなってしまった。
「屋上か……」
 何が待っているか分からないが、せっかく茜が情報をくれたんだ。
 この辛い戦いを終わらせる可能性があるなら、それに賭けてみるのも悪くないだろう。
「中岸、あんた本当に大丈夫なの? フラフラじゃん」
「ああ。少し休めば何とかなる。俺はあとから行くから、2人は先に体育館に向かってくれないか?」
「え、でも、一緒に行きましょうよ。他に敵がいるかもしれませんし」
「真奈美の言うとおりだよ」
 2人とも、まるで香奈のような台詞を言った。
 きっと香奈がこの場にいたら、一緒に行こうというまで絶対に動かないだろう。
「本当に大丈夫だから、先に行ってくれ。香奈も待ってるから」
「……分かりました。絶対に、あとから来てくださいよ?」
「もちろんです」
「じゃあ、雫ちゃん、行きましょう?」
「………………ちょっと待って」
 雨宮は自身のデュエルディスクを取り出して、腕に取り付けた。
 そして強引に俺の左腕を掴み、デュエルディスク同士を接触させる。
「これでいいのかな……3000ポイント」
「なっ、雨宮、お前!」
「いいの。あたしにライフが残っていたって宝の持ち腐れだよ。それに、50しかライフが残っていないやつを1人残しておくわけにはいかないよ。3000ポイントあれば、一撃でやられちゃうことはないでしょ?」
 雨宮のデュエルディスクから俺のデュエルディスクへ、赤い光が流れ込んでくる。
 これが茜の言っていた、ライフポイントを与えることができるということなのだろうか。
「中岸、あんたがもしいなくなったら、香奈が悲しむんだからね?」
「……分かった」
「よし。じゃあ真奈美にもライフあげるよ」
「え、私はいいですよ! 雫ちゃんのライフが……」
「だからぁ、あたしはいいの! はい、3000ポイント!」
 雨宮はこれまた強引に本城さんのデュエルディスクに接触させて、ライフの受け渡しを宣言する。
 赤い光が、デュエルディスクを通じて流れ込んでいく。
 これで本当にライフが受け渡しされているなら、俺の残りライフは3050ポイント。本城さんは残り4800ポイント。そして雨宮は……2000ポイントということになる。
「雫ちゃん……ごめんなさい」
「もう、こういうときは”ありがとう”って言ってよね」
「そ、そうですね。ありがとうございます雫ちゃん」
「どういたしまして。そんじゃ行こう!」
「はい!」
 本城さんと雨宮は手を繋いで、先へ行ってくれた。
 香奈がこの場にいなくて、本当に良かったと思う。いたら間違いなく怒鳴られてしまうだろう。


 2人がちゃんといなくなったことを確認して、俺は屋上へと繋がる階段へ目を向けた。
 たしかに考えてみればおかしいことだった。敵は防火シャッターを下ろして通路を規制しているにも関わらず、なぜか屋上へつながる通路だけは塞がれていなかった。まるで、いつどこでも屋上へ行けるようにするために……。
「行くしかない……か」
 何もなければそれはそれでいい。
 だけど何かあるなら、調べておくに越したことはないだろう。
「よし……」
 覚悟を決めて、階段を上がる。
 一歩一歩、屋上へ近づくことに変な違和感が体を付きまとってきた。
 そして、いよいよ屋上のドアに辿り着いた。
「………」
 ドアノブをゆっくりと回す。
 鍵はかかっておらず、ゆっくりとドアが開いていく。

 真っ先に見えた灰色の空。まるで時間が止まっているのではないかと錯覚するほどの静けさが屋上にあった。
 だがそんな屋上の真ん中に、1つの人影が見えた。制服を着ていることから考えると、生徒だろうか。
「……」
 ドアを静かに閉めて、ゆっくりとその人影に近づいていく。
 10メートル手前くらいで、その人影はこっちに振り向くような動作を見せた。
「なんだ……生徒か」
 そいつはそう言って、ゆっくりと体をこっちへ向けた。
 160センチほどの痩せた体。シャープな顎に、黒の長い前髪から見える濁った瞳。どこか気弱そうな印象を受けるその男子は、俺を見ながら小さく溜息をついた。
「ねぇ、君って、強い?」
「…………」
「僕が質問してるんだから、黙ってないで答えてよ。君は、強いの?」
「……弱くは無いと思うぞ」
「そっか。まぁいいよ。練習台になるなら」
「お前は、誰だ?」
「僕? ああ、自己紹介していなかったね。僕の名前は神原(かんばら)聡史(さとし)。この学校サバイバルを企画した張本人だよ」
「……!」
 神原聡史はそう言って、不敵で不気味な笑みを浮かべた。




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「中岸君、大丈夫でしょうか?」
「きっと大丈夫だよ。それに今は信じるしかないでしょ」
 中岸君と別れた後、私は雫ちゃんと一緒に体育館へ進む通路を探していました。
 でも防火シャッターが下りているせいで、やっぱり上手く進めません。
「うーん、こっちも塞がれてるね」
「こっちもです……」
「本当に体育館前に繋がる道はあるのかな?」
「それは―――」

ありますよ

 すぐ近くの教室から、声がしました。
 私は警戒して、すぐのその声が聞こえたところから距離を置きます。
「真奈美!」
「雫ちゃん、逃げま―――」
「逃がしません」
 凄まじい速さで、闇が広がりました。
 その闇によって私と雫ちゃんは分断されてしまいました。
「そんな……!」
 雫ちゃんが力いっぱい闇の壁を叩きますけど、当然のように壊れません。
 薫さんのように白夜の力を持っていれば破壊できるのかもしれませんけど、何の力もない私達に闇の壁を破壊できる可能性は0に近いです。
「驚かせてしまってすいません。本城真奈美さんで、よろしいですよね?」
 教室の中から、1人の女子が現れました。
 セミロングの茶髪。眼鏡をかけ、どこかお淑やかな雰囲気を持っています。細い顎に丸い瞳が、少し可愛らしいです。
「あなたは……?」
「ああ。自己紹介がまだでしたね。私は神原栞里。この学校サバイバルを企画した、張本人です」
「っ……!」
 栞里さんはそう言って、冷たい微笑みを浮かべました。




続く...




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