The Lost Ground 〜忘却の大地〜

製作者:軟弱ヅュエリストさん




はじめに

 この物語はデュエルモンスターズGXのレギュラーキャラ・三沢大地が「光の結社編」終盤から「デスデュエル編」までの間の失踪期間の補間を私が勝手に行うものです。すでに三沢イベント脳内補間計画をしている方には偽りの歴史となるでしょうが多めに見て下さい。なお、この話はフィクションです、実在の人物団体などとは一切関係ありません。


設定
・ほぼTV版に規準。
・そのくせストラクチャーやデュエリストパック、ジャンプ付録は存在していそうです。
・禁止カード等は最近のものに準じますが、展開と都合でねじ曲がっています。
・セリフ中心なので、情景や姿の説明は不足しています。読者の想像力と知識に任せます。これは手抜きでもありますが、劇中時間と実時間を近似させるための処置でもあります。
・オリカは頻発します。むしろオリカメイン
・既存の需要の高いカードや御用達のカードは説明を省く場合がありますがご容赦下さい。
・デュエルモンスターズ以外のパロディを大量投入していますが、確信犯です。


属性 ・たまにマジになる3流コメディ
・三沢大地
・霊使いっぽい人達(イメージ崩れ注意!)
・戦士ダイなんとか(奇行注意!)


見どころ
・アニメでは見えなかった三沢君の心情?
・三沢君の存在感
・三沢君のセリフ数







―これは特別の「三沢」の物語ではない―


―誰にも物語はあり―


―それは光の中に完結する物語だ―






The Lost Ground 〜忘却の大地〜  第0話 エウレカ

 俺は三沢大地、デュエルアカデミア、ラー・イエローの主席だ。俺の頭脳は世界的に轟き、人類の財産とまで言われていてもおかしくはない。今、故あって校長室に呼び出されていた… 現在、ジェネックスと呼ばれる大会がアカデミアで開催されている。それにも関わらず鮫島校長は不在だ。光の結社がハッスルしているのにだ。無責任な。よって、クロノス教諭とナポレオン教頭に囲まれ、尋問を受けていた。こいつらもこいつらでボンクラ教師だが。




   〜アカデミア・校長室〜


クロノス教諭「私は君の事を見損なったノーネ」


 そもそも俺の事を見ていたのか? 見ないでくれ、その表現不能の面で。


ナポレオン教頭「そうだ、裸になって走り回る生徒なんて創立以来デアール」


 このエセ外国人共、普段は仲が悪いくせにこんな時だけはコンビネーションが取れている。何かの陰謀の伏線か?


ク「何か言ったらどうなノーネ」


・[ゴメンナサイ
>[うんちく攻撃


三「古代、アルキメデスは王から王冠が純金製かどうかの鑑定を依頼されました。風呂に入りながら考えていると、容積と重さから判別出来る事を思いついたそうです。その時、アルキメデスは喜びのあまり裸のまま飛び出して『見つけたぞ』と叫んだそうです。ちなみにギリシャ語で『見つけた』とは『エウレカ』と言い、探索手法などでよく出る言葉『ヒューリスティック』の語源になったそうです」


 決まった。30秒以内にウンチクを言い切った。その上、故事を混ぜ込むという中国的な知的さと古代(要はアンティーク・ギア)の文字を入れてクロノス教諭の高感度も上昇。我ながら最高の出来栄えだ、俺の揺れ衣も晴れるだろう。


ナ「アカデミアの女子ほぼ全員から三沢バッシングの声が届いているのデアル」
三「そ、そんな…」


 まさか明日香君にまで軽蔑されているのか? それだけはダメだ、仮に俺が全人類を敵に回したとしても彼女だけは敵に回したくない。いや、もう手遅れなのか?


ク「ちなみに、男子からは『三沢って誰?』という回答が7割を占めていたノーネ」
三「…」


 そうか、野郎共の7割はそう言って俺の無実を証明してくれているのか。少し寂しい気もするが、俺の人望も捨てたものじゃないな。


三「しかし、これはいつもやっている事です。ただ、先日は十代とツヴァインシュタイン博士のデュエルに感動しましてつい場所をわきまえず…」


 そう、俺は数式を解く喜びを表現する為、過去の偉人に習った行動をする場合がよくある。これは日常茶飯事なのだ。唯一非があるとすれば、全寮男子のイエロー寮ではなく外でやってしまった事か。それに白い制服を脱ぎ捨てる事によって光の結社との決別も表明できた。あの時の俺を否定するのであれば俺の全てが否定される事になる。まさか、これも光の結社の陰謀か? クロノスの野郎、名前のクセに白いしな。それよりアメリカ版では俺は裸ではなく、パンツ一丁で飛び出していった事になっているらしい。どうやら俺の彫刻のような美しい肉体はアメリカンには理解出来なかったようだ。アニメ事情の違いとしてNHK教育の英語番組で紹介していたぞ。ん? 俺は遊戯さんや十代を出し抜いてあのNHKで特集されたのか?


ク「だったら決まりなノーネ。シニョール大地、君を半年間の停学処分にするノーネ」


 俺はアカデミアを3回卒業できるほどの単位を取っている。正直言って半年停学になった程度で支障は無い。通常の3倍の単位数を誇る俺なのだから。もちろん俺は赤い3倍速のザクではなく黄色だ。だが、俺の輝かしいデュエリスト人生に汚点を残してしまう事には変わりない。


三「お願いします、クロノス教諭…いえ、校長代理…それだけは…」


 おのれ黒の巣め、俺に頭を下げさせるとは… これから心にもないお世辞攻撃で改心させてやる。俺という世界の財産に損害が出ては人類の存亡に関わりかねない。


ク「そう言うと思っていたノーネ。そのDrツヴァインシュタインから電話がアッテー、シニョール大地を半年ほど派遣させてくれないかって言って来たノーネ。形式上は休学にナッテー、停学にはならないノーネ」


(注)本当は「ツバインシュタイン」です。ですが、文章にするにあたって「ツヴァインシュタイン」の方が見栄えがいいので、あえてこちらにさせていただきます。


 どうやら俺は天運に恵まれていた。頼るべきものは師らしい。ありがとうツヴァインシュタイン博士、やはりあなたは神だ。ダメ教師共に礼と形式的なやりとりをし、博士との折り合いの話をすると、俺は退室する事になった。


三「ありがとうございました」
ク「さてと、イエロー寮の担任に連絡…誰だったノーネ?」
ナ「顔は思い出せるんだが…」


 イエロー寮にそんなのがいたのか? いるとしてもカレーのおじさんが1人だけだ、何かの手違いだろう。明日は船旅だ。さっそく荷造りをしないとな。仲間にメールを送ろう。




   〜アカデミア・港〜


 翌日…


 俺は港にいる。わざわざ俺専用の船がチャーターされていた。漁船のようにも見えるが中身は豪華だと信じよう。出発の時間が近付いていた。だが、誰も来ない。光の結社に操られた連中はともかく、十代達まで来ない。なぜだ? あいつらメールチェックしているのか? まあ、光の結社との決戦も近いのだろう、致し方ない。


三「…」
レイ「デュエリスト発見、勝負よ!」


 などと言っていると、突然女の子に声を掛けられた。歳は俺よりいくつか下のようだ、ジェネックスの参加者らしい。


>[望むところだっ!
・[ゴメンナサイ


 俺は有終の美を飾る為に相手をしてやる事にした。名前はレイというらしい。南斗の使い手と同じ名前だな。もしくはマーズか、零号機の無表情か、テロメアの短い人でもいいし、もはや言い出したらキリの無い名前だ。とにかく軽く楽しむとしよう、デュエル!


 …


 目の前にはウォータードラゴンがメロメロになって俺の前に立ち塞がっていた。気付くと俺のLPは0になっていた。これは俺がデュエリストとして劣っていたからではない、俺のモンスター達が『恋する乙女』の桃色光線に心を打たれたからだ。俺のモンスター達がそこまで必至になったのならば仕方が無い。あえて未来ある若人に勝ちを譲ってやったのだ。嘘じゃない、本当だぞ。


三「…」
レ「やったよ十代様、絶対優勝してアカデミアに紛れ込んでやるんだから」


・[今度は力ずくで…
>[女の子には優しくしないとな


 世界で1人しかいないであろう十代ファンである少女は、俺のメダルを受け取ると森の中へと走って行った。実は俺の所持数はトップなのだ。これさえあれば彼女も決勝まで勝ち進めるだろう。どうせだから新バージョンのオープニング参加権も貸してやった。いい事をした。紳士だな、俺。出航の時間が来た、明日の夜には博士の家に着くだろう。





今日の一言「パソコンを見る時は、部屋を明るくして2メートル以上離れて見てくれよな」

第0.5話 停車ボタンを探せっ!

 また会ったな、三沢大地だ。俺は今ツヴァインシュタイン博士の家に向かうべく新幹線の中にいる。博士は日本在住だ。デュエルが最も流行っている国だ、移住しても来るだろう。それにしても寒い…日本はこんなに寒かっただろうか? ちまたでは温暖化が懸念されているはずだ。考えてみればアカデミアから本土まで船で丸一日過ごしたのだ、むしろアカデミアの方が日本の国土なのかが疑わしい。熱帯植物の生える火山島だったしな、暑かったのだろう。明日香君も冬場でさえミニスカートでノースリーブだったのも証拠だ。あの脚線とも半年はお別れか…いや、それはメールアドレスもゲットした俺だ、どうでもいいか。




   〜新幹線・車内〜


三「ふう…」


 暇だ。いつもなら誰かしらかが喋ったりデュエルをしたりしていたのだ。そうだ、何か面白い事でも考えよう。


>[十代の事
・[明日香君のスカートの事


 …


 十代の引き、あれはどう思う? いくら主役としての展開補正があるとは言え、良過ぎだ。カイザーやエドにも言える事だが、十代のは群を抜いている。試しに俺はE・HEROデッキのダミーを作り回してみた事がある。事故りまくった… 十代に尋ねたら訊ねた所、こう答えた。


「もっとカードを信じようぜ、そうしたらHERO達も応えてくれるはずだぜ!」


 嘘つけ。カードの精霊さんがデッキの順番を入れ替えてくれるとでも言うのか? それこそ非科学的だ…いや、証明出来たとしたら不正も証明されるな。E・HEROのEってイービルのEなんじゃないか? HEROの名を騙る悪魔だ。あいつがいっその事エグゾディアデッキを使ったらどうなるかを試した事もあったな。そうしたら何度やっても3ターン以内に揃えていやがる。どんな細工をしたんだ? しかもこんな事を言いやがった。


「絶対勝てる勝負ってワクワクしないんだよな、やっぱE・HEROは最高だぜ!」


 遊戯さんだって揃えるのに苦労したんだぞ。全世界のエグゾディア使いさんに謝れコラ。


謎の男「…」
三「ん…?」
謎「よく言った…エグゾディアに代わり礼を言う…」
三「あ、え? そうですか…」


・[意気投合だぜ
>[無視


 紫の髪と黒マントの同乗者に突然を言われた。誰だよこいつ?


謎「クク…」


 酔っ払いの類だろう、気にしてはいけない。話の骨が折れた、そして俺はその引きの強さで宝くじを買ったらどうだと言ったんだ。そうしたらあいつはさらに信じられない事を言った。


「何もしないで貰う金って何か嫌なんだよな。ちゃんと汗水流して働かないとありがたみって奴を感じないというか…俺らしくないか、はは」


 どうやら十代は宝くじで数百億は当てているらしい。ええい、十代の引きの強さはバケモノか? しかもその大金は全て海馬コーポレーションと共同でロケットを打ち上げて使い切ってしまったらしい。何を考えている、十代? その時打ち上げたカードがネオスとユベ何とかとやらで、その時ネオスは宇宙のパワーを得たらしい。正気か? 宇宙に投げ出されたカードの気分になってみろ、俺なら復讐に走るな。寝言は寝て言え。


 …


三「ん…?」


 どうやら寝ていたのは俺らしい。ここはどこだ? 駅にいるのか。名前は…ま、待ってくれ、そこで俺は降りるんだ。寝ボケて俺は停車スイッチを探した。冷静になれ、ここはバスじゃない、新幹線だ。慌てて立とうとした俺は缶コーヒーをこぼしてしまった。せっかくクリーニングから卸したばかりなのに…


三「あ…」


 動き出す車両、手遅れだったらしい。今日ほどバスの停車スイッチが新幹線に付いていて欲しいと思ったことは無い。しかも駅員さんの話によるとこれが終電らしい。明日の始発まで何をしていろと言うんだ? 旅費もただじゃないんだぞ。おのれ、孤島のアカデミアめ。恵まれていない地理条件を恨みつつ、終点へと走り出す列車でため息を吐いた。


三「はあ…」







The Lost Ground 〜忘却の大地〜  第1話 三沢、大地に伏す

 俺は三沢大地だ、俺は今、早朝の駅にいる。アカデミアから船で丸一日、新幹線に数時間、乗り過ごして始発まで漫画喫茶で待つ事さらに数時間、最寄の駅まで普通で30分。本当に長旅だった。だが、俺は今ツヴァインシュタイン博士の住む町にいる。首都から近い、埋め立てと貿易で発展した大都市だ。確かに外国人の住んでいそうな感じがする街だ。




   〜駅前商店街〜


三「…」


 まだ早朝だ、閑散としている。だが、俺はとんでもない事に気が付いた。俺はアカデミア中等部に入って以来、島からほとんど出ていない。何か浦島太郎的な食い違いが出るかもしれない。それを俺は肝に命じた。


 …


 俺は博士の家までの地図を見た。地図は平面だったから分からなかったが、山の上にあるじゃないか。もしかして高級住宅地なのではないか? それ以前に距離あるな。


 …


 しかし山の下は下町のようだ。治安はいまいちのようだ。朝帰りの酔っ払いに共感を覚えてしまうのは乗り過ごし事件のせいだろう。


 …


 開店をしていない商店街は寂しいものだ、こんな朝っぱらに来る所じゃない。いや、声がする。ガラの悪そうな声だ。裏路地からか? 喧嘩か?


>[行ってみよう
・[興味ないね


 野次馬根性的な何かが働き、俺は裏路地へと入ってしまった。




   〜裏路地〜


不良A「オレはモンスターを一枚伏せてぇ、ターンエンドだぁ」


 最近珍しい絵に描いたようなクラッシックスタイルな不良が5人いる。天然記念物だ、ナメ猫と一緒に写真を取りたいな…って早速時代遅れか。しかもご丁寧にデュエルディスクを付けてデュエルしている。律義な連中だ。相手は…女の子? ショートカットのメガネっ子…例えるなら地霊使いアウスに似ている。服もどことなく似ている、狙いか? こちらもやはりデュエルディスク付き。まさか変な連中に絡まれて…いるのか? でもなぜデュエル? 血生臭い惨状になるよりはマシか。まだ事件は起きていない、様子を見させてもらおう。


アウス?「じゃあ僕のターン。ギラザウルスを特殊召喚。生贄にしてグランマーグ召喚。効果で裏モンスターを破壊。ギラザウルスを除外してギガンテスを特殊召喚。何かする?」

A「何だとぉ?」
?「ダイレクトアタック。マーグからね」


地帝グランマーグ ATK2400
ダイレクト。
不良A LP4000→1600


?「ギガンテスも、はい終わり」


ギガンテス ATK1900
ダイレクト。
不良A LP1600→0


 見事なワンキルだ。しかもモンスターだけでだ。アカデミアの凡骨共には真似出来まい。


A「てめぇっ! 黙って宙助さんの所に来いっ!」
三「やめろっ!」


 敗北した不良が少女に殴りかかった。


>[助けに入る!
・[数の多い方の味方だ、つーか俺も仲間に入れて


 喧嘩はいかん、だがこれは人助けだ。俺はとっさに飛び出した。だが相手は5人、後ろからの一撃で俺の意識は薄れた…

 …


 どれだけ経ったのか…俺の目に光が入った。


三「うぅ…」
?「あ、生きてた?」


 俺は…そうか、不良に殴られて気絶していたのか。慌てて周囲を見渡す。先程のアウス似少女があきれた顔でこちらを覗き込み、不良が悶絶したり気絶したりしている。何が起こったのだ?


三「大丈夫か?」
?「君こそ大丈夫? 頭にもろ入ったよね?」


 頭をなでてみる。何かに叩かれたのは現実なようだ。少し腫れていて触ると痛い。俺を叩いた得物は…ジャンプだ、たぶん大丈夫だろう。お、今週はカード付だったのか…


>[アウス似少女?が気になる
・[付録カードが気になる


三「こいつらは…?」
?「こう見えても武道の心得があるからね」
三「1人でやったのか?」
?「用事は済んだし、帰ってやる事があるから。もう二度とこんな場所に迷い込むなよ、じゃあね」
三「…」


 アウス少女は足早に立ち去ってしまった。立場は逆じゃないのか? 結構可愛かったな… でも強いしな… いや、虹色光線にうつつを抜かしてはいかん。博士の家に急行せねば。さらば不良、さらばアウス。




   〜道路〜


 俺は今信号待ちをしている。博士宅までは割と目立った街道を通るようだ。不良に叩かれた頭がまだ痛む。


三「…」
?「…」


 だが、なぜアウス似少女が隣にいるのだ?


>[声をかける
・[関係ないね


三「なぜ付いて来る?」
?「同感だね」


 通る路地もことごとく同じだ。無意味に競歩状態になっている。こ、これは…ラブコメの定石ではないか? いや、ここは落ち着け。せっかくの機会を不意にするな。フラグを立てるのだ。


>[会話してみよう
・[抱きしめる


?「うちの近くに用?」
三「君に用があるわけではない」
?「あっそう。その制服、デュエルアカデミアの?」
三「だったらどうした?」
?「鶴のゲーム屋行くの?」
三「亀のゲーム屋じゃないのか?」
?「ツヴァインシュタインの爺さんのとこ、デュエリストなら行くに決まってるよね?」
三「もちろんだ、俺は博士の助手に頼まれた」
?「助手ね、店番に使われるのがオチだよ。帰れば?」
三「俺は引きと計算を組み合わせた最強のデュエル理論を組み上げると心に誓ったんだ」
?「ふーん、そう言って何人脱落したっけな?」




   〜博士の家・前〜


 と、会話していると、博士宅に着いた。だが、それは俺の想像を超えていた。そう、ここはあの武藤双六氏の亀のゲーム屋と瓜二つのおもちゃ屋だったのだ。


三「…」
?「嫌になったらいつでもうちに来ればいい。助けの電話ぐらいなら貸してあげてもいいから」


 アウス似少女は博士宅の隣の家に住んでいるらしい。表札からすると苗字は『大地』…俺と被ってる? どうやら俺はツイている。ラブコメの王道を走りぬいてやろうではないか。アカデミアを停…いや、休学した価値は十分にあったと感じた。期待膨らむ研究生活が待っている。門を叩くぞ。たのもー


?「そうだ、僕は大地耕介。耕すに4画の介って書くんだ。よろしく」
三「お、おう…」
耕介「また後で」
三「…」


>[触って確かめる
・[後で博士に訊いてみる


 ウゲ… アウス似のあいつは見かけによらず男だった。サギだ。代償は…タンコブ1つだ。



大地耕介 15歳 高校1年
この物語の主役的人物
女性的な容姿を持つが、心はきれいで腹は黒い
デッキコンセプト:アウス+ドリル+グレ○ァーデッキ 除去して一気に乗り込む
趣味:相手をビミョーな気分にする嫌がらせ
特技:大地流武古術 未来予測
得意料理:10倍モウヤンのカレー





今日の一言「みんな、遊戯さんを見習って、ルールを守って楽しくデュエルしようぜ」

第1.5話 殴り合いそるぁっ!

 俺は三沢大地。念願かなってツヴァインシュタイン博士の研究所に居候させてもらう事になった。鶴のゲームと呼ばれているその店では、俺に多くの驚きを与える事になる。




   〜博士の店〜


博士「よく来おったな、三沢君」
三「博士…」
博「早速じゃが開店の手伝いをしてくれ、歳のせいか重い物が辛くてのう」


 今、俺は博士に挨拶を済ませ、なぜか開店の準備をさせられている。博士は何屋なんだ?


耕「オラァーッ! 起きろ、クルァッッッ!!!」


 自宅に帰るや否や耕介が叫んだ。複雑な家庭事情なのだろう。ご苦労な事だ。


博「三沢君、丁度いいから孫を起こして来てくれんか?」
三「いいですが…」
博「エリカの部屋は2階じゃ、今頃コウちゃんの部屋で転がっているじゃろう」
三「はい?」


 なんと靴は玄関で脱ぐのか。さすがは博士、日本の文化になじんでいらっしゃる。博士の孫、エリカなる人物の部屋は鍵がかっていないため、簡単に入れた。これもまた絵に描いたような乙女の部屋だった。だが、誰もいなかった。神隠しか? いや違う、窓だ。確か外から見た時、何か出っ張っている何かがあった。隠し部屋だろうか? 朝で東向きの窓にも関わらず光っていない、当たりだ。失礼ながら突入し、俺は窓を開けた。その先は…また部屋があった。おかしいぞ、ここはお隣さんだ。




   〜エリカの部屋…の隣室?〜


耕「人の枕を…よだれで汚すなぁーっ!」
少女「うん…あと5分…」


 なぜか耕介が同年代の少女を掴み上げて殴打している。しかもかなり強烈だ。理由はよく分からないが、博士の家と耕介の家はこの窓で繋がっているようだ。俺にどんなリアクションを求めているんだ? それ以前に止めないと命の危険が及ぶ。


>[止めに入る
・[俺も仲間に入れてくれ


三「何をしているんだ?」
耕「あ、三沢。何?」
三「質問に答えなくてもいい、その子を離せ」
耕「放っておいたらこいつ夜まで寝てるよ。だったら永眠させてもいいんじゃない?」
三「それはよくないぞ」


 俺はガラにもなく力にものを言わせようとした。しまった、こいつ不良を叩ける強さだった。一瞬後悔したが、さらに後悔する事になった。


耕「はい、どうぞ」


 耕助の奴、素直に手を離した。俺も成り行き上、彼女の体を支えようとした。


怪獣?「エリカちゃんにさわるなギゴーッ!」


 俺が少女…つまりは博士の孫エリカに触れた直後、新たな人物(?)が俺にタックルをかました。


三「何だこいつは?」


 俺は夢を見ているのか? 二足歩行の巨大トカゲが日本語を喋っている。この感じ、まさかデジモンか?


怪「コイツでもアイツでもないギゴ、ガガギゴだギゴッ!」


 やはり喋っている。ちなみに俺はソイツでもドイツでもない。博士、こいつがいればノーベル賞も夢じゃないですよ。ガガギゴか…確か微妙に攻撃力の足りない爬虫類族モンスターだったな。外見で言うならこいつはまだギゴバイトか?


耕「あれはエリカに悪さしようとする悪漢だ、噛み付き攻撃だっ」
ガガギゴ「分かったギゴ」


 ガガギゴが俺の右腕を噛む。この感触この肌触りこそ、ガガギゴだ。俺が食われる、たかが攻撃力500にも満たないザコに。


三「やめてくれ…」
耕「やめろって言われてやめる奴がいたらもっと世界は平和になってるよ」
ギ「ギゴ〜」
三「ぎゃーっ!」
エ「おなかいっぱいもう食べられないよ…むにゃむにゃ…」


 確かにそうだが…それより痛いぞ。ほんの少しだが、ホントに少しだけ。それにしても、殴られても騒いでもこの娘は起きないのか?


>[人類の威信にかけてガガギゴと戦う
・[世界を半分お前にやろう、だから許して


 これより十数分経ってエリカが起きるまで、俺はガガギゴと互角のバトルを繰り広げた。


 …


ギ「ギゴ…」
三「はあっ、はあっ…」


 そして…俺は勝った。これは人類が爬虫類を制した瞬間でもあった。これぞ人類の夜明けであり永遠に語り継がれるべき伝説だ。三沢大地は人類の…


エ「あ…おはよー」


 狙ったかのように彼女は起きた。寝顔では判別しきれなかったが、かなりの美少女だ。博士の孫とは思えない。いや、耕介の事もある、男である可能性も考慮しなくてはならない。


エ「ねーコーチン、それ誰?」


 ナゴヤコーチンか?


耕「こいつは三沢、博士の新しい実験台。趣味は裸になって高笑いしながら走り回る事」


 耕介でコーチンか、なるほど。


三「と、言うより…俺は高笑いはしないぞ」
耕「他のはするんだ」
三「それはそっちに置いといて…俺は三沢大地だ。よろしく」
ギ「なんだ、そうだったら早く言うギゴ」
三「…」
エ「よろし…」
ギ「エリカちゃんに触るなギゴッ!」


 今度は左腕だ。2度も噛んだ、親父にも噛まれた事ないのに。


三「…」
ギ「…」
エ「よかったねギゴちゃん、友達が出来て」
耕「立派な同類だね」


 俺はガガギゴと並列か? まあいい。彼女こそ博士の孫、エリカ=ツヴァインシュタンだ。待てよ、耕介の事もある。まさか…


>[触って確かめる
・[耕介に訊いてみる


耕「首落として門の前に飾るよ」
三「…」


 なるほどな。低血圧で朝に弱い正真正銘の美少女だ。どっかのアウスもどきのようなサギではない。今度はエリアもどきか。今は寝癖付だが、綺麗な青い髪をしている。どうやら耕介とは幼馴染らしい。冷暖房完備の耕介の部屋に潜り込んで寝る習性があるようだ。


三「幼馴染とは言え、部屋を連結していていいのか? 何かあったら犯罪になる年齢だぞ」
耕「本当に嫌になるよね、何かあったら責任とってやらなきゃいけない立場だ。僕の一生ブチ壊し」
エ「私もコーチンみたいな女々しいのはヤダー」
耕「男の鉄拳受けてみる?」
エ「女の子を殴るなんて最低〜」


 2人とも仲はよさそうだ。腹が立つ程にな。


エリカ=ツヴァインシュタイン 16歳 高校1年
この物語のヒロイン的人物
日本生まれで日本育ちの博士の孫
デッキコンセプト:エリアガガギゴデッキ
趣味:日本文化…もとい、時代劇
好みのタイプ:耕介
嫌いなカード:掘削HEROドリル・ガイ


ガガギゴ(ギゴバイト)
通常モンスター
エリカのペット精霊
攻撃力350 守備力300
主食:肉からプラスチックまで何でも
座右の銘:エリカちゃんのためなら何でもするギゴ


 さて、ここで博士の家族を紹介しよう。まずは、博士の息子であり、I2社の社員でもあるキリコさんだ。日本暮らしも長く、日本語も完璧だ。もちろんエリカ君のお父さんだ。


キリコ「…」


 どう見てもいかつい戦士だ。むしろボトムズを思い出す名前だ。博士が誤ってカードの精霊を呼び出したときに率先して戦ったらしい。最後は自衛隊から身を盾にして精霊を守り、改心した精霊が例のガガギゴだそうだ。ウソ臭いと思うが、にじみ出る貫禄が頷かせてしまう文武両道のナイスガイだ。切り込み隊長と関係あるのか?


 次に、ミリアさん。キリコさんの奥さん、つまりはエリカ君のお母さんだ。エリカ君に似た美人だ。


ミリア「次におばさんと言ったら破壊して墓地に送りマス」


 おばさんと呼んではいけない、ミリアさんと呼ぼう。そうしないとフライパンで叩かれるぞ。怒った時は劇画のような顔をするが、それをツッコムともっと叩かれるぞ。


 ちなみに、耕介の家族は格闘家一家で、両親とも世直しの旅に出ているらしい。耕介の奴、平気で博士の家に上がり込んで勝手をしている。それだけ信頼があるという事なのだろうが、どうも気に入らん。マジで気に入らん。エリカ君と同じ屋根の下で暮らすというのに邪魔だ。





The Lost Ground 〜忘却の大地〜  第2話 水霊使いは時代劇が好き

 俺は三沢大地だ。今、俺は何をしているかと言うと…




   〜鶴のゲーム屋・店頭大会〜


三「さあっ、鶴のゲーム屋デュエル大会、決勝戦に進むのはどっちだーっ!」
耕「デュエルファイターさん、僕的にはあの髪の青いのが即死だと思うよ。ワンキルワンキル」
エ「ワンキル言うな」


 そう、俺は博士の店のデュエル大会の司会をしている。ミニ四駆ファイターならぬデュエルファイターの扮装して大声で叫んでいる。ちなみに耕介はアウスのコスプレ…って言うかそのまんまでアシスタントだ。胸に肉まんを仕込んでいやがる。サギだ。この店の大会はそこらの店頭大会とは格が違う。なぜならば、博士は世界でただ1人デュエルと科学を並列視した人物だからだ。ペガサス会長は名選手や技術的経済的援助をする者に対して特殊なカードを贈呈しているのは知っているか? 例えば海馬社長はレベル4のガジェットソルジャーや、効果範囲の広いウイルスを持っている。あれらのカードは試作カードであり、市販版のデータ取りに使われたらしい。大抵、市販版は試作品よりも性能が落とされる事が多く、デュエリストにとっては試作カードを手にする事はあらゆる意味での栄誉なのだ。最近は宝玉獣とやらを手にした少年の記事を見た事があるな。ツヴァインシュタイン博士にもそのような特殊なカードの類がしばしば届けられる。最も、賞品用のレアリティの違うカードであり、試作カードではないそうだが。それでも俺には興味がある、世界で1枚しか存在しないカードというものを。俺も大会に参加したいのも山々だが、店の関係者は大会に出られず、アカデミア生としても学校に無許可で大会に出る事は出来ない。だから俺はこんな得体の知れない扮装をして叫ばなければならないのだ。


エ「メテオストライクを装備、ゴギガ・ガガギゴで攻撃」
敵デュエリスト「痛い、痛い、痛いぃぃーーーっっっ………」
耕「おーい、ファイターさーん」
三「ん、どうしたんだ?」
耕「試合終わってるんだけど」
エ「やったね」
敵「す〜と〜ら〜い〜くぅ〜〜〜っっっ!!!」


 気付いたらエリカ君が準決勝の勝利を修めていた。物思いにふけっている場合ではない。それよりあの選手、正気か?


三「エリカ選手勝利ーっ! 決勝戦へと進んだ選手は…」


 誰だっけ? 決勝トーナメント表を見直そう。



エリカ=ツヴァインシュタイン
ガーディアン守田(ガーディアンデッキ)

御伽龍児(ダイスデッキ)
イザーク=ジュール(?)

ロック鍵沢(ロックデッキ)
ダイナソー竜崎(恐竜デッキ)

六部矢一(六武衆デッキ)
晩宙助(モンクデッキ)



 そうだった、ダイナソー竜崎だ。それにしてもデッキテーマと名前が面白いぐらい一致してるな。偽名だよなこいつら? 流行りか? 俺はマスマティック三沢と名乗るべきなのか? いや、イザークって誰だ? デュエル違いじゃないか? ザフトに帰れ。


三「ダイナソー竜崎と、エリカ選手ーっ!」
耕「面倒だからとっとと決勝戦終わらせるよ」


 こいつの徹底したエリカ君への嫌がらせ、賞賛に値するよ。


三「赤コーナーからはっ、ダイナソー竜崎選手っ!」
ダイナソー竜崎「ついに来た…ワイの時代が…」
耕「にぃ〜しぃ〜、エリカ〜ツヴァインシュタイン〜」
エ「私だけ相撲っぽいよー」
耕「気にしない気にしない、塩撒く?」
ギ「撒くギゴ」


 こんな時もガガギゴの奴、エリカ君と離れやしない。つーかこっちに塩撒くな。


竜「何や女か? 今までの中で一番貧相やないか」
エ「最低〜セクハラ〜」
竜「そう言う意味やない、デュエリストとしてや」
エ「ぶーぶー」
耕「噛ませ犬っぽいのと貧相なのが喧嘩しても面白くないから。はい、決勝始め」
エ「…ってあいつ犬なの? 人面犬?」
竜「ちゃうちゃう」
エ「チャウチャウ? 帽子とって、耳見せて」
竜「もうええっ、先攻はわいやっ!」
三「待った、コイントスで平等に決めてくれ」
竜「調子狂うな…」


 いや、これがエリカ君の素の性格だ、気にしないでくれ。俺の平等なコインが宙に待った。回答、裏。つまり竜崎先攻だ。


「「デュエルッ!」」
竜「結局同じやないか、ドロー。セイバーザウルスを攻撃表示で召喚、1枚セットしてターンエンドや」


セイバーザウルス ATK1900


三「1900モンスターか。まあ、セオリー通りの開始だな。エリカ君はどう出るか?」
耕「手札事故、手札事故」


 お前な…


エ「犬じゃないじゃんウソつき、ドロー」
ギ「エリカちゃん、ギゴを呼ぶギゴ」
エ「了解ー、ギゴバイトを攻撃表示」


ギゴバイト ATK350


 ガガギゴの奴、そのまま前に出やがった。お前、ソリッドビジョンなのか? まだ塩撒いてやがる、しょっぱっ! 実体なのかどっちなのか? 精霊ってのはよく分からん。


ギ「お前をブッ潰すギゴ」
竜「さっきから気になっとったんやが、そいつ何や?」
エ「この子はギゴちゃん、私の友達。よろしく〜」
ギ「塩を送ってやるギゴ」
竜「しょっぱっ!」
ギ「ざまあみろギゴ」
竜「まあええ、落とし穴にもかからんそんなザコ呼んで何するつもりや?」
エ「それ落とし穴なんだ」
竜「しまった、目ざとい奴め。だがな、攻撃力はワイのセイバーザウルスが上や」


 なんかほのぼのしてるぞ。試合は進んでいないが明らかにエリカ君ペースだな。伏せカードも自白させられたし。


耕「攻撃力は俺が上、そう言った奴はみんな痛い目会うんだよね」
三「まあな。俺はそんな奴等を数限りなく見て来た」


 ん? 俺も言った事あったか? 気のせいだろう。


エ「ギゴちゃんに『ギゴ竹光』を装備」
ギ「ギゴッ!」


 ガガギゴは竹で作られたショボイ刀を持った。


ギゴバイト ATK350+0=350


竜「何やそりゃ?」
エ「効果読んで」


ギゴ竹光 装備魔法
このカードは「ギゴ」と名の付くモンスターのみ装備可能。
攻撃力が0ポイントアップする。
このカードを装備したギゴバイトを生贄に捧げる事で、デッキもしくは手札からガガギゴを特殊召喚できる。
このカードの効果でガガギゴが特殊召喚された時、生贄に捧げたギゴバイトの装備していた装備カードを可能な限りガガギゴに装備出来る。


竜「知らねぇーっ!」


 それもそのはずだ、エリカ君のデッキはボツになった試作カードばかりで構成されてるのだ。もちろんキリコさんルートで流れて来たのだ。公式試合でも使えるカードだが、キワモノが多いぞ。


ギ「ガガギゴ進化ギゴッ! ガガギゴッ!」


 ガガギゴは進化した。SDだった体は瞬く間に筋肉質となり、本来あるべきガガギゴの形になった。ついでに変なまだ刀を持っている。やっぱりこいつデジモンか?


ガガギゴ ATK1850+0=1850


竜「やっぱ攻撃力はワイが上やないか。ぎゃはは…」
エ「ギゴちゃんに『ギゴマサムネ』も装備」


ギゴマサムネ 装備魔法
このカードは「ガガギゴ」と名の付くモンスターのみ装備可能。
攻撃力が0ポイントアップする。
このカードを装備したガガギゴを生贄に捧げる事で、デッキもしくは手札からギガ・ガガギゴを特殊召喚できる。
このカードの効果でギガ・ガガギゴが特殊召喚された時、生贄に捧げたガガギゴの装備していた装備カードを可能な限りギガ・ガガギゴに装備出来る。


ギ「ガガギゴ超進化ギゴッ! ギガ・ガガギゴッ!」


 再びガガギゴは進化した。戦闘用アーマーが飛び交い、ガガギゴに装着された。今度はセイント聖矢か? つーかギゴマサムネってどんな刀だ?


ギガ・ガガギゴ ATK2450


エ「これも出すよ」


ギゴアマゾン フィールド魔法
プレイヤーのモンスターが「ギゴ」と名の付くモンスター1体のみの時に以下の効果が発動可能。
「ギゴ」と名の付くモンスターの装備している装備カードを墓地に送る事で、そのモンスターの破壊を無効にできる。


 訳の分からん密林が広がる。こいつの故郷か? とっとと森に帰れ。


エ「行くよ、ギゴちゃんで攻撃」
ギ「ギガ・しょっぱい・クローッ!」


ギガ・ガガギゴ ATK2450  セイバーザウルス ATK1900
セイバーザウルス、破壊。
竜崎 LP4000→3450


耕「ほらね、痛い目見るのは決まってるんだ」
三「どっちかって言うと塩だな」
竜「何や…またしょっぱっ!」
ギ「どうギゴか?」
竜「この涙は痛かったからやない、塩が目に滲みたからやっ」
三「俺も体中しょっぱくなっている。その気持ち、よく分かるよ」
エ「1枚セットしてターンエンド」
耕「竜崎とエリカ…どっかで聞いたような組み合わせだと思わない?」
三「闘将ダイモスか?」
耕「似ても似つかないけどね」
竜「知るかっ、ワイのターン、ドロー」


竜崎 LP3450
手札:5
魔罠:伏せ(落とし穴)


竜「『地割れ』発動や」
エ「じゃあギゴアマゾンの効果でギゴ竹光を墓地に送るよ、無効」
ギ「ガガギゴは地の底から蘇るギゴー。つ、疲れた…」


 ガガギゴの奴、わざわざ穴に落ちてから登って着やがった。これもソリッドビジョンか? ソリッドビジョンが疲れるわけもないか。


竜「『死者への手向け』や」
エ「それも無効」
ギ「無駄ギゴーッ! 無駄無駄ぁっ!」


 ミイラの包帯を引き千切って脱出するガガギゴ、演出過剰だぞ。


竜「引っかかったなボケ、『早すぎた埋葬』で今墓地に送った暗黒恐獣を復活や」


 奴の地面からも恐竜が這い上がってきた。流行ってるのか? お、目の前に手ごろなマンホール、俺も後で地面から這い出よう。


暗黒恐獣 ATK2600


竜「攻撃や、その恐竜の成り損ないを踏み潰してまえ」


暗黒恐獣 ATK2600  ギガ・ガガギゴ ATK2450
ギガ・ガガギゴ、破壊。
エリカ LP 4000→3850


ギ「やられたギゴ…」
耕「ざまあみろ」


 同感だが、口に出すなよ耕介。吹っ飛ばされてギゴバイトの姿に戻り、エリカ君の横に横たわるガガギゴ。所詮君はそこまでのトカゲだったのだ。


エ「あーあ」
竜「次は何を出す? 出しても落とし穴でドボンや、ターンエンド」
エ「私のターン」


エリカ LP3850
手札:2
モン:
魔罠:ギゴアマゾン 伏せ


エ「えーと…モンスターを守備表示、ターン終了」
竜「ワイのターン」


竜崎 LP2650
手札:2
モン:暗黒恐獣+埋葬
魔罠:伏せ(落とし穴)


竜「アホめ、暗黒恐獣は相手が守備モンスターだけやと直接攻撃できるんや。踏ん付けてやれっ!」


暗黒恐獣 ATK2600
ダイレクト。
エリカ LP 3850→1250


エ「知ってるよ」
竜「そのライフを見い、次食らったら終わりやで? ターンエンド」
エ「たぶん食らわないから、ドロー」


 こんな時は切り札コンボの出番だ。さあ、十代並の引きを発揮してくれ。公平な立場にいる以上どちらにも肩入れは出来ないが、俺は君の味方だ。


耕「事故れ、事故れ」


 お前は黙ってろ。


エリカ LP1250
手札:2
モン:伏せ
魔罠:ギゴアマゾン 伏せ


エ「あ…『サイクロン』」
竜「げ…」


 早すぎた埋葬、破壊。暗黒恐獣、破壊。


 なんか、ものすごくアホな展開だぞ。現実とはこんなものなのかもしれないが。


エ「水霊使いエリアを反転召喚。発進ー」
ギ「エリカちゃん、頑張るギゴ」
エ「バンガロー」
耕「バンガオー」


 モンスターは現れなかった。代わりにエリカ君が装いを新たにそのまま場に出た。どんなシステムなんだ? もはや非の打ち所の無い水霊使いエリアだ。何を隠そう、エリカ君は勝手にカードのモデルにされたのだ。そしてエリカ君の持つものは市販の物とは違う、ウルトラレア版の試作品なのだ。本人は気に入っているようだが、この本人がモンスターゾーンに本人が乗る仕様はどうにかならないのか? カメラのシャッター音がうるさいぞ、何目当てだこいつら?


竜「何や、お前もかいな? 落としあ…ダメや」


水霊使いエリア(試作版) 水 魔法使い族 LV3
ATK500 DEF1500
このカードの攻撃力は墓地もしくはフィールドの「ギゴ」と名の付くカード1枚につき100ポイントアップする。
リバース:このカードがフィールドで表側表示で存在する限り、相手フィールド上の水属性モンスター1体のコントロールを得る。


水霊使いエリア ATK500+600=1100


エ「リバースオープン、『水霊術−「六文銭」』発動」


水霊術−「六文銭」 装備罠
 「エリア」、もしくは「ギゴ」と名の付くモンスターにのみ装備可能。LPが相手より低い分だけ攻撃力がアップする。ただし、このカードを装備したモンスターは相手プレイヤーのLPを0にする攻撃はできない。


水霊使いエリア ATK1100+1400=2500


竜「な、何やて…?」
エ「行くよ。真田の力を借りて、今必殺の、水霊波っ!」


 エリカ君…いや、水霊使いエリアの杖から水とも魔力とも思える波動が放たれる。君はそんなキャラなのか? 葵に六文銭…水霊術とは武将の旗印を模しているのか? それよりカメラ共、引っ込んでろ。


竜「ぐああああっ……」


水霊使いエリア ATK2500
ダイレクト。
竜崎 LP2650→150


水霊使いエリア ATK1100


エ「ターンエンド」
竜「…(あかん、このままじゃやられる? いや、落ち着け竜崎、ダイナソーの名が泣くで。あのカードはパワーダウンしたしトドメは刺せへん。伏せカードも無いんや。今のワイのカードは『デーモンの斧』に『超進化薬』…攻撃力2350、要は1350あれば絶対に勝てるんや。ワイのデッキは戦力の高い恐竜ばかり、モンスターカードが出れば絶対に勝てるんや。見えるけど見えないもの、答えはタコヤキ具なんかやない、今この時引く勝利のカードの事なんや。男、竜崎…恐竜さんと心を通わせて勝利のロードを進んでやるザウルス。デステニードローやっ!)」
エ「まだー?」
竜「ワイのターン、ドローだドンッ!」


 究極恐獣。要、生贄2。うむ、いい引きだ。時と場合にもよるがな。


竜「わぎゃぁぁぁっっっ!!! やってもうたぁ…」
耕「事故ったなら隠せばいいのにね」
三「それほど絶望的だったのだろう」
竜「ターンエンドや…(待て、あいつもモンスターが来ないなら…やれる、まだ希望はある…外せ、外せ、外せ…)」
耕「外せ、外せ、外せ」
竜「…(外せーっ!)」
エ「あ、もうこんな時間。黄門様(再)始まっちゃう、終わりにしていい?」


 エリカ君はサレンダーした。手早く片付けをして帰ってしまった。ちなみに再放送版は時代がかった感じがして最新版よりも風情が出ている、と彼女は言っていた。


竜「何ぃーっ!?」
耕「エリカ、敵前逃亡。失格」
三「優勝は、ダイナソー竜崎っ!」
竜「…」
耕「どうせ店の身内が出たんだから最初からエリカ失格だったんだけどね」
三「そうだったのか?」
耕「いきなり失格ってのもつまらないから勝利の喜びを萎えさせようとしたんだ。思ったよりうまく行ったね」
竜「…」
三「これが賞品のカードだ、おめでとうっ!」
竜「こ、これは…」


 世界で1枚だけのアルティメットレアの『もけもけ』だ。俺も欲しいぞ、もけもけ〜


竜「いるかこんなんっ!」


 奴は額ごとカードを地面に叩き付けると、怒りながら去って行った。こんな高価な品を投げるなんて…


耕「あはははは、萎えの境地って奴だね」
三「なんて奴だ… お前もな…」
耕「ぐだぐだになったし今大会も終わりだね。肉まん食べる? 人肌で温まってるよ」
三「いらん…」


 マナーの悪いデュエリストが決勝まで進んでしまったために大会はビミョーに嫌な感じをしたまま締める事になった。あんな奴の事は忘れよう。賞品のアルティメットもけもけだが、3位になったイザーク氏に贈呈される事になった。何だかんだで嬉しそうだったぞ。俺も欲しかったな…もけもけ〜 うっ………


 …


 この時、俺は「急性もけもけ中毒」が発症したらしい。意識を失って、目覚めたら病院のベッドの上だった。知らない天井だ… もけもけ中毒の後遺症で前後の記憶がはっきりしない…




   ―後日談―

イザーク「もけもけ〜」


 中毒者は俺以外にもいた。偶然にも同じ病室に居合わせた。





今日の一言「この怪文書はフィクションです、実在の人物団体とは関係ありません…とは言ったものの、本当にいたら怖くない?」

第2.5話 「L」

 俺は三沢大地、ここはツヴァインシュタイン博士の家だ。そして家族に混じっての朝食だ。




   〜博士の家・食卓〜


耕「…」
三「…」


 目の前にある事実を伝えよう。ツヴァインシュタイン家の食卓だ。博士は研究室にこもってここにはいない。目の前には耕介がいる。初日からそうだったのだが、なぜお前がそこにいる? そりゃ両親が世直しの旅に出ているから仕方ないと言えばそうなのだが。しかしな、なぜお前が毎日ツヴァインシュタイン家の食事を作っている? それだけでない、炊事洗濯掃除全てだ。外見の割に意地の悪い男だが、こんな時は外見に相応の実力を持っている。世の中不平等だぞ、こんな奴に多彩な才能とあんな風貌を与えるとは。中身はどうしようもない奴だが、なぜこんなにもエプロンが似合う? 今でも男か疑うぞ。見るモノは見たから確かに男なのだが。


耕「三沢朝ご飯いらないってさ」
三「ん?」


 ちょっと待て、なぜそうなる? 俺はまだ何も言っていないぞ。まさかあのメガネ、ミレニアムアイ内蔵か? 俺の心の声を聞いたのか? いや、非科学的だ、信じるものか。


耕「僕のは不味くて食えたもんじゃないって。エリカ、残飯整理してよ」
エ「三沢先輩、食べ物を粗末にするとお百姓さんに成敗されちゃいますよ」
三「あ…」


 どんな農民だ? 百姓になりすました何者なのだ? 仕事人か、それとも忍か? 襲われた日には返り討ちにして正体を暴いてやる。いや、そんな事はどうでもいい、日頃緩慢なエリカ君の手がまるで忍者のように俺の朝食を奪って行く。おのれ耕介、食べ物の恨みは深いぞ!


>[エリカ君の口から奪還だ
・[エリカ君の笑顔に代わるなら…


耕「三沢、変態?」
三「…」
エ「じゃあコーチン、いる?」
耕「そのうちね」
エ「そのうち〜」


 何だ、この待遇の差?


耕「でもさ、そんなに食べると体がアレなんじゃない?」
エ「太る言うな」
耕「僕は言ってないよ、自分で言ったんじゃないか」
エ「ぶ〜」
耕「ああ、もう手遅れだ。哀れな猪八戒に救いの手を。猿と河童で旅に出る」
エ「う〜」
耕「今までみたいに肉が胸に行けばいいけど保障は無いんだよね」
エ「セクハラ〜、訴えてやる〜」
耕「裁判所のシステムを調べてから出直して来れば? 家裁やお白洲もこんなの来たら迷惑だろうね。全く、エリカをこんなに追い詰めるなんて、三沢も悪よのう」


 なぜ俺だ? なんか腹立つぞ。


ギ「ギゴ?」


 ガガギゴ、ご主人様のピンチだぞ。得体の知れない骨付き肉なんてかじってないで何か言ってやれ、デジモン野郎。


キ「はっはっはっ」
ミ「うふふふ…」


 キリコさん、ミリアさん、笑ってないでこいつの暴走を止めて下さい。つーか俺の朝飯どうにかして下さい。


 …


 こんな感じの生活が今の俺の環境だ。




   〜鶴のゲーム屋〜


 俺は店番をしていた。これはアルバイトではない、修行なのだ。店番と言ってもカードを扱う時間は多い。売る側という別の角度から見る事で新しい発見する。博士はその意味を教えてくれたのだ、感謝しないとな。そう思っていると、一本の電話がかかって来た。


三「こちら鶴のゲーム屋です」
?「おう、お前か?」


 突然馴れ馴れしい口調で話しかけてきた。誰だ? 新手のサギか?


三「どちら様でしょうか?」
?「ワイや、ワイ」


 新手の…ワイワイ…サギ…か? 俺に関西系の友達はいないぞ。


>[何者か問い詰める
・[振り込みにダッシュ


三「いえ、本当にどちらさんで…?」
?「竜崎やっ!」


 誰だ? 竜崎? 竜崎竜崎…分からん。すまん、今の俺には竜崎と言ったら、『お蝶婦人』か『L』しか思い当たる節がない。


三「その竜崎さんが何のご用件でしょう?」
竜「先月はよくもワイをコケにしてくれた、リベンジって奴や」


 先月何があったんだ? 先月の俺は大会中の司会中に『急性もけもけ中毒』で病院に運ばれたんだ。後遺症で記憶があいまいなのだ。


三「すまん、何のリベンジだ?」
竜「何もかもや」


・[こいつ、お蝶婦人か?
>[こいつ、Lか?


 竜崎…まさか、こいつLなのか? そうに違いない、俺の天才的頭脳を見てキラと疑っているのだ。ここはうまく切り抜けろ、考えるんだ三沢。ん…? そう考えると俺も怪しい。そもそも、もけもけ中毒などという病気はあるのか? あれは偽りの記憶で、ノートを手放したから記憶が無いのかもしれない。俺はキラかもしれない。だが、このミサミサ…じゃなくて三沢、キラとして捕まるわけにはいかない。絶対にノートを取り戻して念願を叶えてやる。まずは「万丈目準 怒りの中で憤死」とな。さらば万丈目、俺は新世界のレギュラーになる。


三「…」
竜「おーい、聞いとるのか?」


>[妄想する
・[話を続ける


 どうせだから「天上院吹雪 苦しみ抜いて死亡」、これで明日香君との恋路を邪魔する最大の敵は消える。「ティラノ剣山 憎しみに実をやつし死亡」、本名だか分からんがこうすればうるさい奴は消える。おっと忘れてはいけない、「丸藤了 心臓麻痺」。今度アカデミアに来る留学生もみんな始末だ。早くノートを取り戻さないとな。これで俺は十代と並ぶスタメンの仲間入りだ。ゆくゆくは十代も始末して主役の座は俺のものだ。さあ来いL、お前の顔と名前、俺の頭に収めてやる。ふふふふふ… 削除削除削除削除削除…


三「…」
竜「聞けいっ!」


 何を考えている俺、あれはフィクションだぞ。


三「すまん、何の話だったか?」
竜「ええか、エリカちゅうノロマそうな娘に勝ち逃げされたんや。しかも優勝賞品とか抜かしてクソカードを押し付けやがって…ワイのプライドが許せへんっ!」


 話が全く掴めん。それにエリカ君は食べ物の話になると速攻のブラックニンジャより素早いぞ。ん、竜崎にエリカ…ダイモスか?


三「事の顛末を事細かに教えてくれ…」
竜「お前、当事者やろ? 司会者やろ? 来週の日曜午後1時に大公園の噴水の前に来いってな、あの娘に言っとけやっ!」


 電話は切れた。だからあれは誰だったんだ? Lとは思えんぞ。


>[エリカ君が心配だ
・[まずい、名前と顔を隠さねば


 まさか、エリカ君にたかる悪い虫か? そうに違いない、どさくさに紛れてデートに誘おうとしていた。これは先輩として男として俺が守ってやらねばならん。日を確認しろ。今日は…土曜、来週の日曜とは明日の事ではないか。まずいぞ時間が無い、張り込みの準備をしなければ。俺は急いで荷物をまとめると、公園へと遠征に向かった。





The Lost Ground 〜忘却の大地〜  第3話 憑く者、憑かれる者

 俺は…三沢大地…… エリカ君に付く悪い虫を払おうと公園で張り込みをしていた… だが誰も来ない… 俺が目を離した瞬間に来る可能性もあると思い…飲まず食わず眠らず見張り続け…6日が過ぎた…… 誰も来ない… いや、天国からお迎えが来そうだ…パトラッシュ…… 落ち着け三沢大地、天国などという非科学的な場所から向かえなど来るはずがない、竜崎とやらが来るまで見張り続けてやる。だが…顔がやつれて力が出ない…… 新しい顔を…冷静になれっ、たかがメインカメラがやられただけ……




   〜公園〜


 予定の時間から1週間が過ぎようとしていた……… 奴は来ない…… 食料はゼロ…こんなんならあの時無理してでも朝食を食べておくんだったな…… でもエリカ君のあの笑顔を不意にすると思うと……… ああ……まぶたを閉じるとエリカ君が………


>[おいしそう…
・[妄想の主軸に…


 誰が食うかっての……………


 …


 俺は死んだのか? 何か温かいものが俺の頭に…


三「はっ…!?」
エ「あ、生き返った。ナメック星行かなくてもいいんですね?」


>[ここは天国か?
・[今すぐ行こう


エ「住み慣れればどこだって天国ですよ〜」


 あの世か? 界王様の所に修行に行くべきなのか? 違う…目を開けると、本物のエリカ君の顔が見えた。この柔らかい感触は…まさかっ!?


>[触って確かめる
・[よく見る


 …ちっ、ガガギゴの腹か…


三「今日は何月何日だ? 何時なんだ?」
エ「三沢先輩、どの時代から来たんですか? 凄いです」


・[はい?
>[禁則事項です


エ「わー」


 なぜそうなる?


三「…」
エ「公園の隅で倒れてたんですよ、新手の流行り病かと思っちゃいました〜」


・[はい?
>[ワクチンはどこだ?


エ「そんなのないですよー、かかったらサスペンスの嵐に包まれて死んじゃいますって」


 どんな病だ?


三「すまんエリカ君…何か食べるものを…」
エ「そんな事もあろうかと、ヒーちゃんがコンビニ行ってま〜す」


 ヒーちゃんって誰だ? コーチンとかギゴちゃんとか意味不明だぞ、俺も大ちゃんと呼んでくれ。だめだ、そうしたらダイ・グレファーもダイちゃん、つまり俺だ。まあいい、この空腹を押さえんと超高性能な俺の頭脳が壊死してしまう。そんな事があっては世界的に致命的な損失だ。誰か、オラにカロリーを分けてくれ。


ギ「代金はお前が払うギゴ」
三「なぜだ?」
ギ「それは朱里ちゃんにお前の財布を渡したからギゴ」


 朱里って誰だ? それより俺の財布マジで無いぞ…返せ〜


 …


 その飛騨朱里とやらが戻って来た。安心した、エリカ君の友人らしい。いかにも無害そう…違う、大人しそうな娘だった。パターンで考えるとヒータかウィンのオリジナル持ちではないかと疑惑を持っていたがどちらとも似ていない。ヒータならもっと凶暴でウィンなら幼いはずだ。だが、飛騨とヒータの語呂が似ている。


朱「…」


 無言でレジ袋を出した。臆病なのか? 俺を警戒しているのか? 取って食ったりはしないぞ。もちろんメシは取って食うが。


エ「何買ってきたの?」
朱「いなり…」
エ「訊くまでもなかったね〜」


 待て、どんな娘なんだ? まだ警戒している、目が合うと威嚇しながら後ずさりしている。強気なのか弱気なのかはっきりしない、まるで野生生物だぞ。出鼻を挫かれたな。いや、それどころじゃない、何でもいいから食わせてくれ。そしてとっとと金返せ。


 …


 2人の女の子…と邪魔なガガギゴに囲まれて休日のランチか…俺も偉くなったものだ。


?「来ていたか、エリカ=ツヴァインシュタイン」


 などと考えていると、謎の男がこちらに向かって来た。怪しいマント付の服に仮面、明らかに異質だ。異質と言うより浮いているだけだ。こいつもまた、日頃からディスクを持ち歩くデュエリストのようだ。しかし見覚えのある扮装だ。


三「エリカ君の知り合いか?」
エ「誰〜?」
ギ「見るからに怪しいギゴ」


 お前もな、ガガギゴ。


朱「…」


 飛騨君は俺に以上に威嚇している。しかも弱気さを感じさせないぞ。


?「私は竜崎、ダークネス竜崎だ」


 ダークネス? 確かにセブンスターのダークネスと同じ仮面を着けている。まさか、吹雪さん? 違うぞ、吹雪さんはもっと背が高くて俺ほどではないがカッコイイ人だ。似ても似つかない。


朱「…」


・[俺が立つ
>[行け、ガガギゴ


ギ「何者ギゴか?」
竜「お前に名乗る名などない」
ギ「ギゴッ!?」


 ガガギゴがブッ飛ばされた。爽快だ。


エ「名乗ったばっかなのに?」
竜「さあエリカよ、私とデュエルするのだ。そして私より劣った存在である事を思い知れ」


 話が噛み合ってないぞ。この仮面ダークネス2号めが。


朱「…」
エ「竜崎竜崎…あ、Lかな? でも三沢先輩はミサミサじゃないよ」


>[こいつが竜崎…
・[こいつがL…


 エリカ君までそれを言うか…ん? そうか、こいつが竜崎? じゃああの関西弁の男なのか? それより今日は予定より1週間後の日曜1時…あっ? 来週とはまさか…そういう事か、俺は週の切れ目を勘違いしていたらしい。日曜から始まるか、月曜から始まるかだ。つまり、今日が竜崎の来る日だったのか。なるほど。


竜「さあ来い、私は今日の勝利をもって敗者の道と永遠の別れを告げるのだ」
エ「歯医者さん? あっちの商店街に行けばありますよ〜」


 まだ話が噛み合っていないぞ。誰だか知らんが唐突なシリアスはエリカ君には通用せんわ。


朱「…」


 何だ? 飛騨君の髪が逆立っているぞ。鬼太郎か? 妖気を感じるのか? 今日はいい陽気のポカポカ日和だぞ、夜の墓場でやってくれ。


・[エリカ君、ここは俺が…
>[エリカ君、俺と逃げよう


竜「ふふふ…怖じ気付いたか?」
朱「悪霊…」
三「はい?」
朱「この人…取り憑かれてる…」


 いきなり喋ったかと思えば、こちらもまた妙な言葉だった。電波か? いきなり歩き始め、竜崎の前に立った。霊能力者なのか? 妖気を感じたのか? 髪が立ったぞ。ゲゲゲのゲか? 今夜は墓場で運動会か?


竜「どけ、三下が」
朱「エリカは大事は友達…だから私が守る…」
エ「トモダチ〜」


 すまん、3人目までセリフが噛み合っていないぞ。俺はどの人物に合わせて喋ればいい?


竜「ならば貴様から血祭りに上げてくれるわ、デュエル!」
朱「分かった…カードの力で救う…」
エ「そうなの? ヒーちゃん頑張れ〜」


 何だこの展開は? それぞれ食い違いながらも話を同じ方向に持って行ったぞ。とにかくデュエル開始だ。飛騨君はディスクを持っていない、俺のを貸してあげよう。


飛騨朱里(あかり) 16歳?
二重人格少女
デッキコンセプト:ヒータ狐デッキ
好きなもの:油揚げ
特技:火霊術
嫌いな人:しっぽを凝視する人


朱「私が先攻… きつね火を召喚… 一枚伏せて終わり…」


 なるほど、狐におあげか…なるほどな、そういう娘なのか。狐デッキと見た。


竜「私のターン、アームド・ドラゴンLV3を召喚。攻撃だ、消えろザコめ」


 あれは、万丈目がノース校からパクッた強豪カードじゃないか。いや、よく見たらレプリカだ。つーかLV3もザコだぞ。


アームド・ドラゴンLV3 ATK1300  きつね火 ATK300


朱「罠… 『火霊術−「焔」』」


火霊術−「焔」 通常罠
 「ヒータ」、「狐」、「きつね」、「フォックス」、のいずれかの名の付くモンスターが攻撃される時に発動可能。以下の効果のうち2つを相手は選択し、受けなければならない。
1:戦闘を仕掛けた相手モンスターを破壊する。
2:相手にLP500のダメージ。
3:相手は手札を1枚選んで捨てる。


 俺も初めて見るカードだぞ。それにしても相手に選択権があるとは…一風変わった効果だな。


竜「ダメージと手札だ」
朱「燃やす…」


竜崎 LP4000→3500 手札5→4


アームド・ドラゴンLV3 ATK1300  きつね火 ATK300
きつね火、破壊。
朱里 LP4000→3000


 いきなりLPの削り合いになったぞ。だが、飛騨君のカードは復活可能だ。


竜「ふっ、2枚伏せてターンエンドだ」
朱「私のターン…」


朱里 LP3000
手札:5


 飛騨君は無言だが、効果できつね火が守備で復活した。


朱「きつね火を生贄にして…狐憑きを召喚だっ」


 待て、きつね火は生贄には出来んぞ。だが、明らかに取り憑かれた顔をした人物が場に出た。後ろに獣の霊が透けて見える。


狐憑き 炎 炎族 LV5
ATK2000 DEF1500
 このカードは場の「狐」、「きつね」、「フォックス」、のいずれかの名の付くモンスターを生贄に捧げる事で特殊召喚できる。


 そうか特殊召喚か、なら大丈夫だ。


朱「さらにデザートフォックスを攻撃表示っ」


 アラブ系の服装をした狐人間が現れた。それより飛騨君の口調が変わってないか?


デザートフォックス 地 獣族 LV4
ATK1800 DEF900


朱「焼いてやる…攻撃だ、行け狐憑きっ!」


 本当に口調が変わっているぞ。狐に憑かれているのは竜崎でもカードでもなく君の方じゃないのか? 早くお払いに行ったほうがいい。


狐憑き ATK2000  アームド・ドラゴンLV3 ATK1300


竜「攻撃の無力化」


 バトルは強制終了だ。危ないぞ、敵は次ターンに進化する。


朱「次こそ焼き尽くしてやるっ、1枚伏せてターンエンドっ」
竜「私のターン、ドロー」


竜崎 LP3500
手札:3
モン:アームドLV3
魔罠:伏せ


竜「そしてアームド・ドラゴンは進化する」


 LV5だ。高い攻撃力と優秀な効果を持つカード、しかも今のように簡単に出せる。


竜「まずは効果だ。私はレッドアイズを捨て、2400以下の…狐憑きを破壊する」


 飛騨君の人格を変えたカードがやられた。これで元に戻るか? それにしてもレッドアイズを捨てるとは…


朱「野郎…丸焼きじゃ済まさないぜっ! 罠発動っ、『火霊術−「緋」』」


火霊術−「緋」 通常罠
 「ヒータ」、「狐」、「きつね」、「フォックス」、のいずれかの名の付くモンスターが戦闘、もしくは相手のモンスター効果で破壊された時に発動可能。以下の効果のうち2つを相手は選択し、受けなければならない。
1:自分モンスターを破壊した相手モンスターを破壊する。
2:相手にLP500のダメージ
3:相手は手札を1枚選んで捨てる。


竜「破壊とLPだ」
朱「燃えろっ、燃えろぉっ!」


竜崎 LP3500→3000
アームド・ドラゴンLV5、破壊。


 すっかり凶暴になっている。冬場なのに心なしか暑くなって気がする。飛騨君なんてコートのボタンを外しているぞ。もはや彼女はヒータだ、間違いない。


竜「焼かれるのはお前の方だ。伏せカード『正統なる血族』を発動、真紅眼の黒竜を復活させる」


 やはりな、上級カードを捨てるならば復活させるためだ。


竜「この炎に耐え切れるかな?」


真紅眼の黒竜 ATK2400  デザートフォックス ATK1800
デザートフォックス、破壊。
飛騨 LP3000→2400


 まずいぞ、もしもあのデッキがレッドアイズデッキならば黒炎弾が入っているはずだ。発動されたら敗北確定の状態だ。


朱「ぬるいぬるいっ!」
竜「ならば1枚伏せてターンエンドだ」
三「なあ、本当にあれ燃えているのか? それに飛騨君の性格変わってるのは気のせいか?」
エ「ヒーちゃんっていつも大人しいけどカードやるとすっごい張り切るんだよ」


 そういうレベルじゃないぞ。例えるなら九尾のチャクラ全開のナルトだ。尻尾のようなものも見えるがソリッドビジョンの演出かチャクラだろう。我ながら最高の比喩だ。熱いぞ、俺は怖ろしくなってきた。


朱里 LP2400
手札:3


朱「私のターンッ『狐の恩返し』を発動っ、狐カードを1枚捨てて2枚ドローだっ!」


狐の恩返し 通常魔法
 「狐」、「きつね」、「フォックス」、のいずれかの名の付くモンスターを手札から1枚捨て、デッキから2枚ドローする。

 D−HEROにもこんなタイプのカードがあったな。それより体が馴染むって何だ? 今の人格は狐なのか?


朱「戦場の女狐を通常召喚っ」


 名前は狐だ。だがあくまで比喩であって狐ではないぞ。裏切りの女戦士に近い外見の戦士だ。


戦場の女狐 地 戦士族 LV4
ATK1500 DEF1200
 このカードはターン終了時まで敵フィールドに送る事ができる。


朱「『狐の誘惑』を発動だっ、レッドアイズは頂いたぜっ!」


狐の誘惑 通常魔法
 「狐」、「きつね」、「フォックス」、のいずれかの名の付くモンスターが自分の場に存在する時のみ発動可能。ターン終了時まで相手モンスター1体のコントロールを得ることができる。


 一気に形勢逆転したぞ。これが通れば勝ち確定だ。


竜「仕方が無い、『正統なる血族』をもう1枚発動だ。レッドアイズを復活させる」


 焔で捨てたカードもレッドアイズだったのか。この状況ならやる事は1つだけだ。


朱「黒竜共、相討ちしなっ!」


真紅眼の黒竜 ATK2400  真紅眼の黒竜 ATK2400
両方破壊。


朱「女狐、あいつを焦がしてやれっ! 焼き尽くせぇっ!」


戦場の女狐 ATK1500
ダイレクト。
竜崎LP 3000→1500


竜「ぐっ…やるな」
朱「次は炭クズだなっ、ターンエンドッ」


竜崎 LP1500
手札:2


竜「私のターンだ。『早すぎた埋葬』を発動。蘇れ、レッドアイズ」


竜崎 LP1500→700


 こいつ、一体何枚の復活カードを持っているんだ? ウザイぞ。


竜「炭になるのはお前の方だ。消えろ、女狐」


真紅眼の黒竜 ATK2400  戦場の女狐 ATK1500
戦場の女狐、破壊。
朱里 LP2400→1500


竜「我がレッドアイズの前に屈するがいい、1枚伏せてターンエンドだ」


朱里 LP1500
手札:2


朱「くくくくく…くははははっ!」
竜「何がおかしい? 気でも触れたか?」
朱「お前の自慢のレッドアイズを灰にしてやれるからだよっ! 狐カードを3枚除外っ、九尾の妖狐、特殊召喚っ!」


九尾の妖狐 炎 炎族 LV9
ATK2500 DEF2300
 このカードは通常召喚できない。「狐」、「きつね」、「フォックス」、のいずれかの名の付くモンスターを墓地から3枚除外した時のみ特殊召喚する事ができる。このカードは攻撃力を500減らす事で破壊を無効化できる。


 どうやら切り札が来たようだ。狐の最終形態と言えばこれだ。これならレッドアイズが何度復活しようが100ポイントの差でものを言う。


朱「ははっ、燃えろ燃えろ燃えろ燃えろぉっ!」


九尾の妖狐 ATK2500  真紅眼の黒竜 ATK2400
真紅眼の黒竜、破壊。
竜崎 LP700→600


竜「うぐっ…」
朱「ターンエンドッ。燃えカスの最後の機会だなっ、切り札が来る事を祈るがいいっ!」


竜崎 LP600
手札:1
魔罠:伏せ


竜「来たぞ」
朱「見せてもらおうじゃないかっ?」
竜「『魂の復活』でレッドアイズを復活させ…レッドアイズを生贄に、真紅眼の闇竜を召喚だ。これぞ我が真の姿だ」
朱「出やがったなっ、悪霊っ!」


真紅眼の闇竜 ATK2400+300×4=3600


 まずいぞ、吹雪さんも使った最強のレッドアイズだ。調子に乗ったツケだ、飛騨君。泥沼試合の臭いが増しているぞ。それよりどっちが悪役なんだ?


竜「炭も灰も残さんぞ、塵1つ残さず消してやる」


真紅眼の闇竜 ATK3600  九尾の妖狐 ATK2500
九尾の妖狐、ATKを500減らし破壊を無効。
朱里 LP1500→400


朱「霊体に炭も灰もあるかっ!」
竜「お前こそ最後の切り札を祈るがいい、ターンエンド」


朱里 LP400
手札:2


朱「とっくに来てたんだよっ! 私が出るぞっ、攻撃表示っ!」


火霊使いヒータ(試作版) 火 魔法使い族 LV3
ATK500 DEF1500
 このカードの攻撃力は墓地もしくはフィールドの「狐」、「きつね」、「フォックス」、のいずれかの名の付くカード1枚につき100ポイントアップする。
リバース:このカードがフィールドで表側表示で存在する限り、相手フィールド上の火属性モンスター1体のコントロールを得る。


 これは、試作版のヒータ。やはり来たか。しかし、これも本人が変身して場に出るシステムなのか。飛騨君がヒータとなって場に出たぞ。また変な効果がありそうだ。


竜「たかが攻撃力500に毛の生えたカードになにができる?」
朱「お前が闇竜と一体化したようにっ、私も九尾そのものなのさっ! 妖狐憑着っ!」

妖狐憑着−ヒータ 火 魔法使い族 LV9
ATK2500 DEF2300
融合 「火霊使いヒータ」+「九尾の妖狐」
 このカードは融合召喚できない。場の素材となるモンスターを除外する事でのみ特殊召喚できる。このカードの攻撃力は、墓地もしくはフィールドの、このカード以外の「狐」、「きつね」、「フォックス」、のいずれかの名の付くカード1枚につき300ポイントアップする。このカードは攻撃力を500減らす事で破壊を無効化できる。


 なんという強烈なカードだ。飛騨君から九尾のチャクラが溢れている。君はどこの忍者なのだ? それとも妖怪か? それより効果だ。今墓地にある狐系カードは4枚除外され、モンスターは2枚。魔法罠は2枚。あと本人が1枚。つまり5枚分の効果が得られる。同様の効果の闇竜を上回ったぞ。


妖狐憑着−ヒータ ATK2500+300×5=4000


竜「何だと?」
朱「さあっ、冥界に帰ってもらおうかっ! 火霊術奥義っ、爆炎火霊焼っ!」


妖狐憑着−ヒータ ATK4000  真紅眼の闇竜 ATK3600
真紅眼の闇竜、破壊。
竜崎 LP600→200


竜「ぐあぁぁぁぁっっっっ!!!!」


 飛騨君…いや、ヒータの放つ大爆炎と共に闇竜は消えた。竜崎は派手に吹っ飛ぶ。地面に叩き付けられた衝撃で竜崎のダークネス仮面が割れた。竜崎の肉体から何か光る物体が飛び出して行くようにも見えたが、ソリッドビジョンだろう。美しくない素顔が露わになった。この顔は…やはり記憶に無い。


朱「ちっ逃がしたか。ターンエンドッ!」


 何を逃がしたのだろうか? 竜崎は目の前にいるぞ。


エ「あー、大会の恐竜チャウチャウ人間〜」
竜「ワイ…は……」


 回想モード、開始。


 …


竜「なぜや、なぜワイは勝てん? ワイはダイナソー竜崎や、あの時は準優勝したんや…」
?「汝、力を求めるか…」
竜「誰やっ?」
?「そうだな…エグゾディア神の使いとでも名乗っておこう…」
竜「その使いが何の用や?」
?「力が欲しいのだろう?」
竜「そうや、ワイやてレッドアイズが城之内のアホに盗られてなきゃ…」
?「ならばこれを授けよう…」
竜「これは…レッドアイズ? それにドラゴンの補助カードに…ダークネス? これをワイにくれるんか?」
?「今なら19800円だ…」
竜「背に腹は変えられへん、ドラゴンの力…買いやっ」
?「ならばこの仮面を着けよ…」
竜「な、何をする… UUURRRRYYY!!」


 …


 回想モード、完。


 あの電話の声の男じゃないか。まさか、本当にあの仮面でダークネスに操られていたのか?


竜「あの仮面の力で… それに…また負けるんか……」
朱「1枚伏せるっ。お前のターンだっ、立てよっ」
竜「レッドアイズ…お前…お前も悲しいんか…? 目が赤く腫れてるで…」
朱「トドメを刺せないだろっ」
竜「そうや、ワイの魂のカード…まだLPが0になったわけやないっ、ワイはまだ戦えるっ。ドロー!」


竜崎 LP200
手札:1


竜「…(『魔法の筒』… ありがとな、レッドアイズ…お前、ワイに力を貸してくれたんやな…) ワイは1枚カードを伏せてターンエンドや」

朱「待てよっ、終了前に罠発動だっ!」


火霊術−「紅」 通常罠
 自分フィールド上に存在する炎属性モンスター1体を生け贄に捧げる。生け贄に捧げたモンスターの元々の攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。


コスト:妖狐憑着−ヒータ ATK4000


竜崎 LP400→0


竜「そん…な……」


 ナイスだ、飛騨君。君の勝ちだ。それならワンキルも狙えるぞ。


朱「ひゃははははっ! 燃えろっ、焼けろっ、こげ…ろ……」


 勝利し、1人燃え盛っていた飛騨君もトランスし切った後に、失神した。もうこれではグダグダだ。ん…? 何か変だぞ? 火の粉? デュエルはもう終わっているのだぞ。だが、明らかに周り中の物が燃えている。火事だ。ソリッドビジョンで火が起こるなどあり得ん。それより119だ。


 …


 ベンチの後ろでは消防士が火と格闘している。だが、大した被害にはならないようだ。竜崎は怪我人として病院に運ばれた。


朱「エリカ…また私やっちゃった…」
エ「ヒーちゃん強〜い。ダッチャ、楽しいデュエルだったぜ」


 君は十代か? ん、ダッチャ?


朱「でも…また燃やしちゃった…」
エ「乾燥してたからね、自然発火しやすかったんだよ」
三「違うだろ、これは…」
エ「雨男っているよね? ヒーちゃんは火事女なんだよ、何でだろうね〜?」


 違うぞエリカ君。この飛騨君はデュエルをすると人格が変わり、発火を起こす超能力者らしい。とんでもない娘と知り合ってしまった。それにしても、ダークネスが復活したとは… 何かが起こる前兆なのか? ここはアカデミアじゃない、俺しかいないんだ。俺が事件を解決しないととんでもない事になってしまう。それよか俺の財布は返してもらうぞ、飛騨君。




   ―後日談―


 俺はこの事件についてを吹雪さんに知らせた。


吹雪さん「何を言っているんだ、ダークネスの話はあと1年ぐらいしたら十代君が解決してくれる予定さ。はっはっは。で、君何て名前だっけ?」
三「…」


 吹雪さん、俺です三沢大地です…アカデミアで一緒にいたじゃないですか…





今日の一言「OCGの対象年齢は12歳以上だよ。子供は手を出しちゃダ・メ」

第3.5話 戦慄の10倍モウヤン

 オッス、オラ三沢。俺は今非常に機嫌がいい。なぜかって? 博士の論文がまたI2社が快く受け取ってくれたからだ。そのテーマは『精霊の放つ桃色光線』…つまりは、俺の考案した理論だ。ついに俺の研究が世に出る時が来たのだ。気分がいいついでだ、駅前の喫茶店でコーヒーの1杯でも飲んで帰ろう。今日は冷え込んでいるしな。




   〜喫茶店「東方不敗」〜


 心に響く店名だな。王者の風よっ!


>[入る
・[帰る


?「いらっしゃいませ、何にいたしま…うげ?」


 うげ? このウェイトレス、セリフを噛んだのか?


三「ホットコーヒーをくれ、エスプレッソでな」


 何だ、このウェイトレスに見覚えがあるぞ? 思い出せない…なぜだ、俺の脳に収めた女性のデータの全ての検索が完了したぞ。これも『急性もけもけ中毒』の後遺症なのか?


?「…」


 なぜ俺をそうまで見つめる。気があるのか? 違うぞ、三沢大地。こいつは…


・[耕介だ
>[俺に惚れている


三「俺に惚れたか?」


 大地耕介、博士の隣に住むアウスっぽい顔の少年だ。だが、わざと言ってやった。


耕「三沢アホ? アルバイトだよ。ウェイトレスって奴? この道6年目の」


 6年前って何歳だ?


三「ウェイターだろ?」
耕「ウェイトレスだよ。この服見れば分かるよね?」


 ああ、全く以ってその通りだ。だがな…


>[お前は男だ
・[色気が足りん


三「性別に問題がある」


 似合っているから問題ないとは思し、知らない奴には看板娘の類にしか見ないだろう。だが、お前は女装趣味があるのか?


耕「マスター、アイスコーヒー。身も心もめちゃくちゃ冷えるの」


 この口調、この中途半端な不快感、やはり耕介だ。


マスター「…」


 つーかマスター、笑ってうなずくな。俺はホットがいいんだ。外は寒いんだ。


三「おい待て…」
耕「やだな三沢、人間外見が印象の8割を占めるんだ。だったら適材適所としか言えないはずだ」
三「だったら残りの2割がお前の印象を最低にしているぞ」
耕「ほとんどの人間はその2割を見るほどの付き合いにはならない、そうは思わない?」


 こいつは近所では文武両道容姿端麗のおかげで性格までよく見られている。やはり外見のおかげなのだろう。


三「いつから俺とお前はそんな仲になった?」
耕「同じ屋根の下で暮らす仲だよね?」
三「誤解を招くような言葉を言うな、人が見てるぞ」
耕「あはははは」
三「笑うな、兵が見てる」


 そうだった、他人はこいつの事を知らないんだった。やけに周囲の目が冷たいような気がする。居づらいぜ。やはり外見が8割か…


耕「例えばさ、このメガネどう思う?」
三「どうって言われてもな」
耕「人は物事に偏見と先入観を持って接する。どうせ三沢の事だから、メガネにはドジッ娘とか秀才とか鬼畜みたいな想像しかしてないだろうけど」


 笑いたいぐらいの偏見と先入観だぞ。


耕「お待ちどうさまです。アイスコーヒーでよろしいですね?」


 本当にアイスが来た。湯気が立ってるぞ。一体どれだけ冷たいんだ? まあいい、飲んでやろう。


三「熱っ!?」
耕「引っかかった」


 ホットだった。これは熱いから湯気立ってたのか。マスターはちゃんと俺の声を聞いていたんだ。こんな事をしている場合ではない。俺を微妙な気分にさせる奴の前からとっとと姿を消さないとな。


朱「コウちゃん…」


 後の席を見ると多重人格発火少女飛騨君がキツネうどんをすすっていた。いつからいたんだ? ノーマルモードの時は存在感が薄いな。今度、存在感の示し方を手取り足取り指導してあげよう。それよりキツネうどんが洋風なメニュー表の中に紛れ込んでいる理由が分かったぞ。飛騨君、常連だな?


朱「楽しそう…」


 俺は全然楽しくない。


耕「三沢いじりは楽しいよ、一緒にやる?」


 やめてくれ。三沢いじりって何だ?


>[飛騨君、俺をいじってくれ
・[ほざけ


朱「男の人はちょっと…」


 男じゃないならいいのか?


三「ん?」


 メニューに変なのがあるぞ。モウヤンのカレー? しかも辛口10倍? 恐ろしいまでに気になるぞ。


耕「それ、気になる?」
三「もちろんだ、俺ははっきりしないものが大嫌いなんだ」
耕「三沢…それ、超自己否定」
三「何がだ?」
耕「いや、知らないなら知らないままでいいよ」


 俺のどこがはっきりしていないんだ? あえて言おう、俺の存在感はデュエルモンスターズGX最高峰であると。あえて言おう、他はカスであると。


耕「僕のおごりにするから食べてみる?」


>[くれ
・[いらん


三「珍しい事もあるんだな」
耕「同じ屋根の下で暮らす仲じゃないか」
朱「いいな…」


 まさか飛騨君、耕介みたいなのが好みなのか? 俺の情報が正しいと男が苦手らしいが… やはり外見か。


 …


耕「これが10倍モウヤン、これは当店のオススメメニューって奴だね」
三「すごい色だな」
耕「モウヤンだから?」
三「変な着色料使ってないよな?」
耕「自然食品オンリー?」
三「毒とか入ってるんじゃないのか?」
耕「むしろLP回復、モウヤンだからね。10倍だから2000回復?」


 疑問形はやめてくれ。


三「さっき言ったよな、人は外見が8割だと」
耕「大事なのは心さ、通じ合えば言葉や外見なんて必要ないんだ」


 カレーだぞこれ? 心を通じ合わせてどうだって言うんだ?


三「まあいい、何かあったらお前が責任取れよ」
耕「だから僕の払いだって」


 ヤケクソだ。この異様なカレーを口に放り込んだ。こ、これは…


三「クセになるっつーかいったん味わうとひきずり込まれるカラさっつーか……… たとえると『豆まきの節分』の時に年齢の数だけ豆食おうとして大して好きでもねぇ豆をフト気づいてみたら一袋食ってたっつーカンジかよぉーーー〜〜〜っ! うわあああ はっ腹が空いていくよぉ〜〜〜っ!! 食えば食うほどもっと食いたくなるぞッ! こりゃあよおーッ!!! んまあーーいっ!!」


 しまった、ジョジョっぽいセリフを吐いてしまった… 何だったんだ、あのカレーは…


三「モウヤン、恐るべし…」
耕「どうやら気に入ったようだね、ちなみにそれ僕の得意料理。知り合いによると僕の前世は1000年前の魔法使いアウス=モウヤンだとか何だとか。魔法使いのくせに変な料理が趣味だとか何だとか」
三「お嫁さんにしたい…」
耕「三沢がご乱心だ」


 拳? 客を殴るな、店員…ヒィィ〜





The Lost Ground 〜忘却の大地〜  第4話 さらば宙助っ! 窮鼠咬牙拳、グレファーに散る

 体は普通で頭脳は天才、その名も三沢大地だ。前回から引き続き、駅前の喫茶店だ。しばらくすると、1人の男が店に入って来た。いや、外見からすると男というよりあえて漢と言った方がよさそうだ。




   〜喫茶店「東方不敗」〜


?「…」
耕「いらっしゃいませ、お1人様ですね?」


 こいつ、猫かぶりはうまいな。


?「…」
耕「…」


 この張り詰めた感じは一体…


?「この前の返事、訊かせてもらおうか?」
耕「考えておけって言われたから…考えるだけ考えました」


 つーか誰だよお前、猫かぶりするな。不気味だぞ。


?「で、どうなんだ?」
耕「無理です…倫理的に」


 何の話だ?


マスター「あいつ事もあろうかコウちゃんに惚れちゃってね。もう何度も店に詰め掛けてるんだよ」


 いいタイミングのコメントです、マスター。その後のマスターからの情報によると、晩宙助とかいうここらの番長らしい。確かに時代遅れなぐらい古臭くそれらしい格好をしている。時おり子分を使って耕介を呼び出していたそうだが、子分は毎回返り討ちにあっているらしい。俺が耕介に始めて出合った時もその時だったようだ。


宙「なぜだ、俺に何が足りないというのだ?」


 そりゃ耕介は男だからだ。むしろ耕介に余計なのが付いてるだけだ。


耕「何が足りないか分からない時点で十分ダメだと思います」


 猫をかぶりながらも口は悪いぞ。


宙「俺はどうすればいいんだ…」
耕「言葉で無理なら力ずくで来ますか? そういうの好きですよ」
宙「分かった、俺の漢っぷりをコウちゃんに見せつけて惚れさせてやる。デュエルだっ!」


 訳分からんぞ。邪悪な予感もする。


>[飛騨君、止めてくれ
・[ここは俺が…


朱「コウちゃん…」


 飛騨君、ビクついてないで裏の人格にでもなって止めてくれ。


>[マスター、止めてあげましょう
・[ここは俺が…


マ「そんな事するなら外でやってくれ」


 そうだマスター、ここは耕介の度の過ぎた嫌がらせを断固阻止してくれ。


>[ここは俺が…
・[脱兎しようぜ


 そして、俺は勇気を振り絞った。


耕「客寄せですね?」
マ「そういう事だ」


 …が、無駄だった。あなたもどんな人ですか? 成り行きに任せて俺達は外へ出た。




   〜喫茶店「東方不敗」の外〜


耕「デッキは本気デッキとお遊びデッキどちらになさいますか」
宙「本気で来い、俺は本気で受け止めてやるっ!」
耕「圧倒的で屈辱的な敗北が約束されますがそれでもよろしいでしょうか?」
宙「構わんっ!」
「「デュエルッ!」」
耕「…」


 何を黙っている耕介、先攻を取られるぞ。


宙「俺の先攻、ドローッ! 我が心の戦友モンク・ファイターを召喚っ、カードを1枚伏せてターンエンドだ」


 お前…カードが友達なのか…… 俺も同じ穴のムジナだが。


モンク・ファイター ATK1300


耕「僕のターン、勝負はもう詰めたよ」


 猫の皮を脱いだな。それより何もする前からチェックメイトか? いきなりエクゾディアか?


耕「『ライトニング・ボルテクス』」


耕介:手札5→4
モンクファイター、破壊。


宙「心の友よぉーっ! しかしっ、友よりも大切な愛が目の前にあるっ! すまぬっ!」


 つくづく不憫な奴だ。


耕「今捨てたカードはこれ」


ドリルビーバー 地 獣族 LV2
ATK600 DEF500
 このカードが墓地へ送られた時、デュエル中に一度だけ「ドリルトークン」(地・機械・LV1・0・0・生贄召喚の生贄も可)を特殊召喚できる。


 何だかよく分からないと思うが、肉の代わりにドリルをかじっている(?)ビーバーが墓地へ落ちた。そして、そのかじっていたドリルだけが場に残った。


耕「で、生贄召喚のグランマーグ。効果でその裏の破壊」


伏せカード(孤高の格闘家)破壊。


宙「ふっ、だがそいつの攻撃だけでは俺を叩き潰せないぞっ!」
耕「分かってるよ、ビーバー除外してこれ特殊召喚」


掘削HEROドリル・ガイ 地 戦士族 LV4
ATK1700 DEF1600
 墓地の「ドリル」と名の付くカードをゲームから除外する事で特殊召喚できる。このカード名は「戦士ダイ・グレファー」としても扱う。


 何だ 掘削HEROって何なんだ? よく見るとドリルを持った工事現場のおっさん。パッとみてもドリルを持った工事現場のおっさん。つまりは工事現場のおっさんだ。工事で鍛えられた肉体と愛用の腹巻がイカすぜ。違うぞ…最後の効果を読め…えぇーっ!? スペックも顔も本物そっくりだ… 戦士だけじゃ生活できないからアルバイトか? その見覚えのある面がイカレてるぜ。いや、戦況を見てみろ。


ドリル・ガイ「だいぐれぐれぐれだいぐれふぁ〜 ○○○にハマってさあ大変〜…っていけね、つい本音言っちまったぁ。ドリル・ガイ、お出ましだぜぇっ!」


 ドングリコロコロの歌詞で気色悪い歌はやめろ。むしろ黙れ、モンスターカードの分際で。


耕「何か手札から使う? 何も出来ないよね?」
宙「なんだそいつは…君をたぶらかす悪い男かっ!?」
耕「じゃあ行くよ」


地帝グランマーグ ATK2400
ダイレクト
宙助 LP4000→1600


ドリル・ガイ「さあ〜、悪い所はどこかなぁ〜、おじさんが削っちゃうぞぉ〜〜〜 前かな、後かな〜」


 ヒィィ〜、喋った…グレ…じゃなくてドリルガイが変な事喋った…ドリルを握って敵ににじり寄る…お助け〜


耕「説明するよ、ドリル・ガイはどんな装甲だろうと透過して相手の急所が見えるんだ」
ド「男のなんか見たくねーっ!」


 何を見たんだ、こいつは。急所ってどこだ?


宙「ぐおぉぉぉーーーっっっ!!!」


掘削HEROドリル・ガイ ATK1700
ダイレクト
宙助 LP1600→0


 男として大事な所をドリルで削ぎ落とされる宙助、終わった…色んな意味で… 悶絶する宙助。ソリッドビジョンじゃなかったら奴の青春は終わっていたぞ、色んな意味で… すでに相手の見定めで終わっている気もするが。


宙「…」
ドリル・ガイ「やったぜ相棒」
耕「はい、終わり。もう一回やる?」


 余裕な顔をしてドリルガイとガッツポーズをする耕介。恐るべし、本気デッキ。屈辱まみれの敗北を与えたぞ。


宙「まだだ、まだ終わらんよ…」


 どこのエースパイロットだ? あの衝撃(笑撃か?)から立ち上がった。不死鳥のごとく。2回戦の開始だ。


耕「2戦目、僕の先攻。カードを2枚伏せて、モンスター召喚。ターンエンド」


ドリルビードル 地 昆虫族 LV4
ATK1600 DEF1000
 このカードが戦闘で相手モンスターを破壊した時、破壊したモンスターは効果を発動できない。


 それにしても、何かとドリルだな、耕介。お前の前世はドリルか?


宙「俺のターン、ドローッ! 我が心の分身、格闘ねずみチュー助を召喚っ、さらにデーモンの斧を2枚装備っ!」


格闘ねずみチュー助 ATK1200+1000+1000=3200


 両手におぞましい形の斧を持つねずみ。どこが格闘ねずみだ? まさにこいつの心が実を成したようだ。


宙「行けっ、我が分身よっ! 斬っ!」


格闘ねずみチュー助 ATK3200  ドリルビードル ATK1600
ドリルビードル、破壊。
耕介 LP4000→2400


耕「きゃっ…」


 ほざけ。


宙「済まないコウちゃん、だがこれも愛のためなのだっ! ターンエンドッ!」


 お前もな。


耕介 LP2400
手札:4
魔罠:伏せ2枚


耕「また詰めたよ」
宙「またあの男かっ!?」


 またアレか? アレが来るのか?


耕「違うよ、ドリル天使エリーさんだよ。それと『ドリルプレッシャー』」


ドリル天使エリー 地 魔法使い族 LV3
ATK400 DEF1500
 このカードが戦闘を行う場合、ダメージステップに発動可能。LPを1000払う事で、ダメージステップ中のみ攻撃力を2000上げる事ができる。この効果は1ターンに1回のみ使用できる。


ドリルプレッシャー 速攻魔法
 自分フィールドに「ドリル」と名の付くモンスターが存在する時のみ発動可能。場のモンスター1体を破壊する。手札を1枚捨てる事でもう1体破壊してもいい。


格闘ねずみチュー助、破壊。


宙「我が心の分身がーっ!?」


 エリーって誰だ? お注射天使リリーの下位交換版か? エリーとかリリーとかアトリエシリーズか? いや、これも俺の想像を超えている。白衣の天使がどでかいドリルを構えている。歯医者さんか? 強いて言うなら怪獣用のな。


耕「効果使って攻撃するよ」
エリー「痛くないですよ〜 はい、あーんして〜」


耕介 LP2400→1400
ドリル天使エリー ATK400+2000=2400
ダイレクト。
宙助 LP4000→1600


耕「説明するよ、エリーさんは鈍くさいから治療する歯を間違える時もあるんだ」


 いや、今どてっ腹に風穴を開けたように見えたぞ。


エリー「失敗ちゃった、てへ」


 どう間違えても歯でも何でもない。ソリッドビジョンじゃなかったら大事件だぞ。


宙「む、虫歯が…治ったっ!」


 おい、お前の虫歯は腹にあるのか?


耕「治ったところ悪いけど、「鉄」。エリーさんとドリルビードルを交換ね」


地霊術−「鉄」 通常罠
 自分フィールド上に存在する地属性モンスター1体を生け贄に捧げる。自分の墓地から、生け贄に捧げたモンスター以外でレベル4以下の地属性モンスター1体を特殊召喚する。


耕「はい、とどめ」


ドリルビードル ATK1600
ダイレクト。
宙助 LP1600→0


 カブトムシにドリルが付いたような変な虫によって引導を渡された。秒殺だったが今度はただの敗北だぞ。あの屈辱は無いが。


宙「ノォォォーーーッッッ!!!」
耕「まだやる?」
宙「三度目の正直だっ!」


 二度ある事は三度あるとも言うぞ。またどこか削られる前にとっとと退散してくれ。


耕「どっちから?」
宙「俺の先攻っ、モンクファイター召喚っ、生贄に捧げて我が心の師匠マスターモンクを特殊召喚っ、デーモンの斧3枚装備っ、1枚伏せてターンエンドッ!」


 ついに師匠も斧ですか。しかも三刀流を気取っている。ゾロか? だが耕介のカードは攻撃力などものともしないだろう。来るぞ、除去カード。


耕「『地割れ』」


マスターモンク、破壊。


宙「師匠ぉぉぉーーーっっっ!!!」
耕「悲しい所悪いけど、『スパイラルフュージョン』。地霊使いアウス…要は僕と掘削HEROドリル・ガイを…」
ドリル・ガイ「合体だぁっ!」
耕「融合させる」
耕+ドリル「「フューーージョンッ、ハッ!」」


 何をやっている、お前ら。


耕「突貫執着−ドリルアウス…融合完了、と」


スパイラルフュージョン 通常魔法
 手札またはフィールド上から融合モンスターカードによって決められたモンスターを墓地に送り、「ドリル」と名の付く融合モンスター1体を融合デッキから融合召喚する。このカードで召喚された融合モンスターは召喚ターンのみ攻撃力が1500アップする。


地霊使いアウス(試作版) 地 魔法使い族 LV3
ATK500 DEF1500
 このカードの攻撃力は墓地もしくはフィールドの「ドリル」と名の付くカード1枚につき100ポイントアップする。
リバース:このカードがフィールドで表側表示で存在する限り、相手フィールド上の地属性モンスター1体のコントロールを得る。


突貫執着−ドリルアウス 地 魔法使い族 LV7
ATK500 DEF1500
融合 「地霊使いアウス」+「ドリル」と名の付くモンスター
 このカードは融合召喚のみ召喚可能。上記以外のカードを融合素材の代用にする事は出来ない。このカードの攻撃力は墓地もしくはフィールドの、このカード以外の「ドリル」と名の付くカード1枚につき300ポイントアップする。
 このカードの攻撃力は融合素材となった「ドリル」と名の付くモンスターの攻撃力分だけ上昇する。
 このカードは融合素材となった「ドリル」と名の付くモンスターの効果を得る事が出来る。


 アウス、すなわち耕介が突貫執着などという謎形態となって場に乗り込んだ。杖の先にドリルが付いた妙ちくりんなアウスが参上。未知のカードだらけだ、どんな効果なんだ? よく読んでみよう…げっ!?


突貫執着−ドリルアウス ATK500+1700+1500+300=4000


 またワンキルか。いや、そんな事はどうでもいい、この現実を思い出してくれ。

1.アウスは耕介本人でもある。
2.突貫執着−ドリルアウスは素材の能力を真似る。
3.掘削HEROドリル・ガイは戦士ダイ・グレファーとしても扱う。
 みんな、3つを組み合わせて考えてみよう。凡骨な君でももう分かるはずだ。

解.耕介はグレファーとして扱う。

 ギャーッ!


耕「さあ〜、悪い所はどこかなぁ〜、僕が削っちゃうぞぉ〜〜〜」
宙「や、やめてくれコウちゃん…は、話せば分かる……」
耕「離さないぞぉ〜、悪い所は…そっこだぁーっ!(笑顔)」
宙「GYAAAAA!!!!!」
耕「地霊術奥義っ、ド〜リドリルンルンッ!(満面の笑顔)」


 すまん、もう俺には何も言えない。


突貫執着−ドリルアウス ATK4000
ダイレクト。
宙助 LP4000→0


 …


 お見苦しいので展開を少し省略させてもらう。デュエル3戦目終了。なぜか嬉しそうな宙助。自分が男である事を告げる耕介。物陰で証拠を見せる耕介。必要以上に落胆する宙助。省略終了。


 …


三「終わったな…」
耕「うん、何もかもね」
朱「すごい…コウちゃん…」


 色んな意味でな。そこで白目向いてる抜け殻のご冥福を祈りたい。


宙「…」
マスター「ん?」
耕「どうしましたか、マスター?」
マ「この紋章を見てみろ…裏十二支流窮鼠咬牙拳(きゅうそこうがけん)の使い手だぞ」


 本当だ、ガクランに可愛いネズミのバッヂが付いている。俺も欲しいぞ、どこで買った?


三「何ですかそれは?」
マ「コウちゃんの両親が世直しの旅に出ているのは知っているな? それは秘伝の格闘技を悪用する組織に立ち向かうためなのだ。その悪の格闘技の流派の1つが窮鼠咬牙拳、つまりはこいつなのだ」


 親切な説明ありがとうございます。どうやらあなたもマスターモンクとかマスターアジアとかそっち系のマスターっぽいですよ。


宙「そうかっ、いい事を聞いたぞっ!」


 晩宙助が起き上がった。つくづく不死身の男だな。


耕「つまり、君の探していた仇敵、大地耕介は僕の事なんだ。よろしく」
宙「おのれ…周到な罠だったという事か…」


 そうか? 偶然の一致だと思うぞ。


耕「勝手に暗殺に来たのも君、勝手に言い寄って来て返り討ちに逢ったのも君、自業自得じゃない?」
宙「問答無用っ、もはや漢同士の決闘にカードなどいらんっ、力と力のぶつかり合いが全てを決めるのだっ! 勝負っ!」


 今度はストリートファイトか?


耕「いいよ、どっからでも来れば?」
宙「行くぞっ、鼠牙誅々拳っ!」


 さすがは十二支流、ネズミの動きを模した見事なヘンテコ格闘技だ。ヤムチャさんのパクリっぽいぞ。


耕「弱っ」


 奇妙な拳を耕介は手に持つお盆で軽く弾いた。まあ、誰でも避けられそうだが。


宙「我が拳が…」


 前言撤回。じたんだを踏んだ宙助の足がコンクリートの地面を砕いた。後で修理費払えよ。


耕「君には失望したよ、直接触れるまでもないね」
宙「何っ?」
耕「萎えの奥義、男のパンチラ」


 アホか。


宙「正体を知ってしまえば惑わされんっ!」
耕「じゃあ朱里のは?」


 む、しましまか。それより…なんかふさふさした長いのが生えてないか? 飛騨君、君は一体何者なんだ? 化け狐か?


>[パンツのしまを数えよう
・[しっぽの数を数えよう


朱「ひゃっ…」
宙「ぐほぉっ!」


 その隙にお盆(鉄製)が宙助の顔面に直撃した。男のウェイトレス耕介の勝利だ。こいつ極度に女に免疫ないな。それと耕介、今のは犯罪だぞ。


朱「…」
宙「ひ、卑怯なり…」
耕「さあ、暗黒拳の使い手に卑怯も何も言われたくないな。悪が相手なのはいいよ、どんな事をしても良心が傷付かないからね。これも正義の味方の特権かな? それとも窮鼠猫を噛む? まだやる? まだやるなら本当に大事なモノ削り取っちゃうよ」


 お前、良心の欠片でもあるのか?


宙「お、覚えていろよ…次こそは……」
耕「次は無いよ。だって…」
朱「見たなー、見やがったなぁっ!」
宙「ひ、火が…母さんっ!」


 九尾のチャクラ(?)の溢れ出す飛騨君が燃え盛っていた。ネズミの丸焼きの出来上がりだ。それにしても飛騨君、そのしっぽは…


>[触って確かめよう
・[さりげなく聞き出そう


 やわらかい…


ドリル・ガイ「お前も戦友か…」


 何やってんだ、グレファー。飛騨君のしっぽを掴むんじゃない。俺は探求心、お前は煩悩、心の底にある何かは全く違うんだ。


朱「お前もだっ、三沢ぁーっ! グレファーッ!」


・[無罪を訴える
>[戦いを挑む


 勝ち目ないって。


ドリル・ガイ「おい、狐っ子っ、俺の事は構うなっ! 俺もろともこの変質者を討てぇっ!」
三「ちょっ…待て…」


 グレファーが破壊締めで俺を押さえ付ける。いや、それ以前にカードのソリッドビジョンだろ? なぜ触れる?


朱「覚悟はできたかぁっ!?」


 こっちも待て、誤解だ。ただの知的好奇心であり… だからなぜ…飛騨君はヒータ化したままなんだ? 裏切ったな、グレファーッ!?


三「うわああああっっっっ!!!!」


 飛騨君の真っ赤に燃える右腕が俺の顔面に直撃した。俺の頭が爆熱っ、ヒートエンドッ! 気付いた時には俺は病院のベッドの上にいた。奇跡的に火傷は軽症で済んだようだ。どうやら10倍モウヤンの効能らしい。隣では宙助が大火傷をして転がっていた。ちなみにさらにその横は竜崎、クサレ縁だ。俺は今日大事な事をいくつか学んだ。


1.10倍モウヤンの回復力は伊達じゃない。
2.グレファーは工事のアルバイトをしている。
3.アウスとグレファーが融合した。
4.飛騨君を怒らせるとマジで火傷する。
5.耕介に関わると痛い目に遭う。


 すごいぞ10倍モウヤン、もう傷が完全に治っている。カード屋のお兄さんは明日も店に立つぞっ!


ドリル・ガイ「サンキュー・マイ・フェイバリッド・エロ友」
三「…」


 そして、俺はかけがいのない何かを失ったような気がする。





今日の一言「カードの対象年齢が12歳以上だとしたら…十代やカイザーの回想シーンはいつの話?」

第4.5話 この壷はいい壷だ

 みんな、こんにちは〜カード屋の三沢お兄さんだよ〜 …もうこのアルバイトも板に付いてきましたよ、博士。息抜きに散歩でも行くか。




   〜鶴のゲーム屋〜


耕「板に付いてきたとこ悪いけど、ちょっと出かけない?」


 だからなぜ俺の心を読む?


・[行こう
>[ヤダ


三「俺は嫌だぞ、今度お前に付き合ったら怪我じゃ済みそうにないからな」
耕「同じ屋根の下に暮らす仲じゃないか」


 だからそれはやめろ。


三「とにかく、俺は暇じゃないんだ」
耕「大丈夫、今日はエリカと朱里も一緒だよ」


・[行こう
>[ヤダ


三「余計問題ある」
耕「ちなみに、行き先はヴィクトリア時代を最後に絶滅の一途を辿ったあの生物に会えるよ」
三「天然記念物でも見てガガギゴと叫んでろ」
耕「ちなみに、人それをそれ、メイドと呼ぶ。しかもどっかの店に巣食ってるような偽者じゃない」


・[仕方ないから行く
>[ぜひ行こう


 やっぱり行こう、俺の知的好奇心がうずく。




   〜道路〜


 メイド、それは住み込み低賃金女性労働者だ。細かく分類すれば雑多な種類に分けられるがあえてここではこれを総称としよう。一部の偏った者が偏見に満ちた描写をしているがそれは間違えだ。低賃金労働者に夢のある仕事など与えられる訳がない。朝は早く、夜は遅く、重労働は続き、休暇も給料も少ない。それに主と恋愛関係になるなどもっての他だ。ここで俺は宣言する、メイドに対する偏見を一掃したいと。耕介がヴィクトリア時代を最後にと言ったがそれは真実だ。あの時代のヨーロッパは格差が大きく、人口の数割がそのような従者をしていたと考えていい。意外と庶民の生活が安定していた同時期の江戸時代とは違い、ヨーロッパは厳しかったのだ。だが、近代化の波と民主主義がそのような仕事を減らしたのだ。人を雇って洗濯をさせずとも今ならば洗濯機がある。低賃金で重労働をさせては人権やらなんやらと訴訟が起きる。つまり、需要も供給も無くなったのだ。時代の流れの必然なのだ。今や本物のメイドは一部の高所得者の下にしかいない希少な職種となってしまったのだ。


耕「ふーん」
エ「わー」
朱「…」
ギ「…」
三「どうした、3人(と1匹)とも?」
エ「江戸、江戸江戸〜」
耕「三沢ってそういう趣味なんだ」
三「純粋に知識を求めた結果だ。年号と事件名と人物名だけの歴史など歴史の風上にも置けない」
耕「今から行く場所にそんな話をするのが極めて好きな変わり者がいるからね、楽しみにしててよ」
エ「江戸江戸〜、江戸フェニックス〜」


 どんな奴が住んでいる場所に行くんだ? そりゃ相当な金持ちの家なのだろうが。…ん、エリカ君? その歌は?




   〜正門〜


 俺はただ驚いている。おそらくアカデミアの面積以上はありそうな広大な土地を前にしている。博士の家より徒歩十数分、まさかこれ全部が所有地か? ここはまだ門であるにも関わらず屋敷が小さく見えるぞ。


三「まだ歩くのか?」
耕「そろそろ来ると思うよ」


 門の彼方から黒い何かが来る。車体が長い車だ。よく車種は知らないが見るからに高級車だ。


・[あの娘は?
>[あの紳士は?


三「絵に描いたような老紳士が運転してるように見えるが?」


 そう、一言で言い表すなら『セバスチャン』だ。俺の2.0の視力がそう言っている。日本にもセバスチャンが生息していた、俺は夢でも見ているのか?


エ「磯野さんだよ〜」
三「磯野? どっかで聞いたことがあるな」
耕「あの人の甥、海馬コーポレーションの磯野らしいよ」


 凄いな、磯野家。あ、磯野サザエとは違うぞ。


三「今から会う御仁は一体どちら様なんだ?」
耕「言ってなかったっけ? 花京院典子」
三「花京院典明? 教皇の緑の使い手か?」
?「そのような先入観が物事の判断を鈍らせるのが分からないのか?」


 すまん、なぜ後から声がするんだ? セバスチャンの車は正面200メートルだぞ。


耕「30点。前の地下からの方がよっぽど奇襲だったね」
?「そうか?」


 確かに先入観に騙されたいた。あの車がいい例だ。振り向くと俺達より何歳か年下の女の子が立っていた。どこ製かは知らないが高そうだぞ、この家の子か? まるで風に溶け込んだように透き通っような子だ、人のいる気配がしない。


?「これが三沢か、噂通りの透き通ったような」


 透き通ったような?


?「存在感だな」
耕「だってさ」


・[存在感を示す
>[我慢する


 今何て言った? デュエルモンスターズGXのレギュラーにてラーイエロー主席のこの三沢大地の存在感が無いだと? 光の結社の罠以来の冒涜だ、許せん。と言うより、この子も透けているぞ。もちろん透けていると言っても服がではない。幽霊か?


耕「立体ホログラフなんてすぐにバレるよ。だから30点」


 そうだったのか? 本物は…ホログラフに気を取られていたうちに横に来ていた。セバスチャンの車に乗っていたか。


?「久しぶりだな、エリカ、朱里」
朱「うん…」
エ「相変わらず偉そうだね〜」
?「相変わらず阿呆そうだな」
三「誰なんだ、この子は?」
耕「花京院典子、僕達の友達さ」
三「花京院典明と関係あるのか?」
典子「磯野っ、こいつを始末しろっ!」
磯野「かしこまりましたお嬢様」


 気付けば銃で武装したセバスチャンが俺を狙っている。周りを見渡せば、ただの林だと思ったら特殊部隊らしき人影が見え隠れしている。


・[存在感を示す
>[参った、俺の負けだ…


 うかつな動きは死に繋がるわけか。俺は両手を上げた、こんな所で世界の財産たる俺の頭脳を不意には出来ん。銃刀法違反は黙って見過ごしてやろう。


花京院典子 12歳?
驚異的な家元と思考回路を持った子供
デッキコンセプト:ウィン融合魔法デッキ
夢:打倒、海馬瀬人
邪魔な奴:海馬モクバ
興味のある人間:自分の話を相手にしてくれる人




   〜リムジン内〜


 そして、俺は黒くて高級そうな車に連行…ではない、同乗している。この子が4人目の霊使いか…ペガサス会長も乱心したのか? 人様をカードのモデルにするとは、乱心ついでに俺もカード化してくれ。コウスケ=アウス エリカ=エリア ヒダ=ヒータ そして、カキョウイン=ウィン なるほど…そうすると平等ウィン鳳凰堂、参議ウィン議ウィン選挙、天上ウィン吹雪…頭痛くなってきた…


典「これが三沢か」


 珍しそうに見るな、俺は珍獣か? 謎の珍獣なら横でギゴっている。俺からすれば日本に生息するセバスチャンの方がよっぽど希少だぞ。


典「風呂上りにアルキメデスの真似をすると訊いたぞ?」


・[存在感を示す
>[そうだ


三「俺の習慣だ」
典「下らないな、過去の偉人の真似をすれば賢くなれるとでも思ったのか? 愚かな。それで並列に立てるのであれば誰でも真似をするぞ。裸で動き回るなど中途半端だ、賢人の脳をすすり豪傑の血肉でもかじっていればいい。最も、どれを取っても犯罪に値するがな」


 何だ、この子? 深窓の令嬢と見せかけておいて素晴らしい舌を持っているではないか。対抗心が湧いてきたぞ。


三「俺の生まれながらの癖だ。知った時は俺も驚いた」
典「ただの変質者か、耕介のドリルガイと同類だな」


 真似なら愚かで犯罪者、素ならグレファーの同類、どっちもダメじゃないか。


・[存在感を示す
>[話題を逸らす


三「問題があるならエリカ君と耕介だ。こいつら高校生にもなって一緒に風呂に入るんだぞ」
エ「ぶふーっ!?」
典「そうなのか耕介?」
耕「エリカの奴1人じゃ何も出来ないからね」
エ「ぐふーっ!」
典「お前等まだまだ子供だな。まあ、あれだけ広い場所で1人というのが辛いのも当たり前か」
エ「げほっげほっ…」


 君に言われたくはないはずだぞ。考えようによっては…エリカ君と耕介はラブラブなのか? 断じて俺は認めんぞ。あと、広い? 君の知る浴室はどんな広さなんだ?


三「話は変わるが、ここは何の家なんだ?」
エ「典子ちゃんちだよ」


 ナイスボケ。


典「元はこの一帯を支配する家だった。だが、四民平等と財閥解体によって落ちぶれた。今やこの様だ」


 落ちぶれてこれですか?


耕「楽しい?」
三「ある意味な」


 饒舌なお嬢様はいいとしてだ、セバスチャンと特殊部隊を見ていても全然面白くないぞ。


耕「じゃああれは?」


 車は着実に屋敷に向かっている。近付くたびに大きくなって見えるのは確かだ。視界を占める割合が増える度に奇妙な物が見えるのだが気のせいか? 例えるなら、阿吽の呼吸で立つ一対のガガギゴの銅像が玄関の前で鎮座しましている。むしろ2体のガガギゴ像だ。何が目的だ?




   〜玄関前〜


 到着、なんて広い敷地なんだ。よく出来たガガギゴ像だな。俺は毎日噛まれているからガガギゴの生態についてはよく知っているつもりだ。


三「置くならガーゴイルとかだろ?」
典「三沢はそう思うか?」
三「もちろんだ、建物の前に像を置く習慣はスフィンクスから始まり、シルクロードを伝い日本の狛犬に辿り着く。全ては歴史の賜物だ」
典「歴史など過去の遺物だ。伝統などと嘘ぶいたところで元を辿れば誰かの思い付きに過ぎん。案外100年後の玄関にはガガギゴが並んでいるのが当たり前になっているかもしれんぞ?」
三「しかしガガギゴはどうかと思うぞ?」
ギ「こいつ酷いギゴ」
典「考えてみろ、シーサーや狛犬は実在したのか? 実在するかどうかも分からない幻獣に守られて安心など出来るか? いや、出来まい。魔除けなどと言う非論理的な現象に頼る位ならペットボトルやCDでも吊るして獣除けをした方がまだましだ。だからこそ犬や猫ではなく実在する精霊を飾ってみた」
三「ご利益あるのか?」
典「分からん、だがこれを作っている間の私は満足していた。人間とは満足と安心を得る事で初めて心を安定させられる生物だ。この像は私にその両方を与えた。それで十分ではないのか?」
三「ん? 自分で作ったのか?」
典「ブロンズ像作りというものも意外と難しいものだな」


 さりげなくとんでもない事言ってないか?




   〜ロビー〜


 言うまでもないがこれは正真正銘の豪邸だ。床から天井まで高級品の臭いがするぞ。さりげなく置いてある置物や絵も値を聞いたらビックリプライスなのだろう。


典「大した事も無い家だがくつろいで行ってくれ」


 すまん、ブルー寮が小さく見えるような豪邸でそんな事を言わないでくれ。


三「誰もいない…のか?」
典「休日に家に帰さないほど恩知らずではない」
三「そうか…」
耕「バカは来るー」


 いないじゃないか。騙したな、耕介。


典「まあ、常人が会って正気でいられるような連中ではないが」
耕「そうそう、手の数が多かったり、羽付いてたり、巨人だったり、有り得ない人ばっかりだもんね」
典「ひそひそ…(ちょっと待て、関係者以外にそれを話す気か?)」
耕「ひそひそ…(いいんじゃない別に、三沢だし。あいつ人間よりむしろ精霊よりだと思うよ、存在感とか)」


 腹立つワードが聞こえるぞ。


典「今のは耕介の下らない嫌がらせだ」


 いや、何か秘密あるだろ、この家。


エ「広い広い〜」
ギ「ギゴゴ〜」
朱「お邪魔します…」
耕「僕たち先に典子の部屋行ってるから」


 お前ら…慣れてるからって勝手過ぎるぞ。恥を知れ、遠慮を知れ。


典「どうした?」
三「いや、な…例えばこの壷いくらなんだ?」
典「マ・クベの壷か? ただのネタアイテムだろう?」


 おい、意味分かってるのか? たぶん白磁だぞ。音が違うぞ。キャラグッズとは違うのだよ、グッズとは。


>[俺にくれ
・[キシリア様に届けよう


三「いくつか持って帰ってもいいか?」
典「目的は何だ?」
三「もちろん生活レベルを上げるためだ、高そうだしな」
典「それだから三沢なのだ。貨幣など人が価値を付けたものに過ぎん、宝飾品や芸術品についてもだ。人という主観が入ってこそ価値は生まれるのだ。人の性に縛られているぞ?」
三「ならいいだろ? 価値など人が決めたも物だ」
典「有効活用するならば投資などいくらでもしよう、だが怠惰の元にするのであれば断るしかない」


>[対抗する
・[同情するなら金をくれ


三「だろうな、所詮人は人だ。人の作り出した概念の中でしか生きられない、どれだけあがこうが決められた柵からは出られない。それが人の性だ。庶民の俺ははした金を稼ぐ為に汗水を流すとするよ。どんな理屈を並べようがそれが人間だ」
典「お前…」
三「ん?」
典「少し気に入った」


 友好度が上がったぞ。変なフラグ立ってないよな?





The Lost Ground 〜忘却の大地〜  第5話 エレメンタルヒーローVS翠玉教皇竜

 俺は三沢大地、ラーイエロー主席の天才だ。そんな俺にも未知の世界があった。俺は典子ちゃんの家で驚きまくっていたところだ。




   〜典子の部屋〜


典「わざわざ呼んだ理由はこれだ」


 すまん、乙女の部屋にあるまじき強烈なメカだぞ。なんか見たような形の人型だぞ。


典「デュエルシミュレーター、その名もアヴドゥルさんプロトタイプ1号機だ」
三「魔術師の赤か?」
典「磯野っ!」
磯「かしこまりましたお嬢様」


 この人どこからでも出て来るな。逆らうのはやめておこう、世界的な頭脳に風穴が開いては致命的だ。お、起動したぞ。


エ「よろしくね、アヴドゥルさん」
アヴドゥルさん「Yes I am」


 喋ったよアヴドゥルさん…


朱「…」
ア「…」


 仲間意識を持ったような目で見ているぞ、火使いだもんな。


耕「前のポルナレフとは何が違うの?」


 おいおいおいおい、どんなシミュレーターだ? スタンド使いなのか?


典「海馬コーポレーションの技術協力で思考ルーチンが強化された。それと有力デュエリスト1000人のデータを拝借させてもらった。これさえあれば自宅で大会さながらの試合が出来るぞ。数年後には一家に一台が当たり前になるぞ」
三「いくらで売り出す気だ?」
典「コストを極限まで落として15万円だ」
三「高い」
典「私の作ったシミュレーターに文句があるのか?」
三「君が作ったのか?」
典「プログラミングという物も思ったより大変なんだ」


 特技は銅像作りだけじゃないのか?


耕「会話が弾んでるところ悪いんだけど、使ってみていい?」
典「そのために呼んだのだ」
耕「使い方は?」
典「キーボードにデュエリストの名前を入力すればいい」
耕「じゃあエリカ、やってみて」
エ「は〜い」
耕「か・い・ば・せ・と」


 いきなりそれか?


ア「Yes I am ダウンロード、海馬瀬人…ふん、凡骨が」


 数ターン後…


ア「アルティメットバーストッ、ワーハハハハハッ!」


青眼の究極竜 ATK4500
ダイレクト
エリカ LP600→0


エ「負けた〜」
ギ「ギゴ〜」
耕「ざまあみろ」
エ「じゃあ今度はコーチンがやってよ」
耕「いいよ、誰にする?」
エ「む・と・う・ゆ・う・ぎ」
耕「無理」
ア「Yes I am ダウンロード、武藤遊戯…俺はカードを信じるぜ」


 数ターン後…


ア「俺はクリボーを増殖させる。そしてカタパルトタートルで射出っ!」


クリボー(遊戯専用) 闇 悪魔族 LV1
ATK300 DEF200
 手札からこのカードを捨てる。自分が受ける戦闘ダメージを1度だけ0にする。この効果は相手のバトルフェイズ中のみ使用する事ができる。増殖の効果が発動した時に発動する。クリボーとクリボートークンに以下の効果を付属する。
・このカードは戦闘ダメージを受けない。
・自分モンスターゾーンに空きがあればクリボートークンを特殊召喚してもよい。


耕介 LP4000→3850
耕介 LP3850→3700
(中略)
耕介 LP100→0


ア「これが結束の力だっ」
耕「ひどくない? よってたかってタコ殴り?」


 お前が言うな。


典「これがデュエリストキングか、いいカードを使っているな」


 卑怯カードとも言う。


耕「次、朱里の番だよ」
朱「私は…いいよ…」
耕「誰にする? 世界中のデュエリストが君を待っている」
朱「コウちゃん…」


 君はドリルガイに削られたいのか?


典「海馬から貰ったデータとは別に入れておいたぞ、準備はいいか?」


 海馬って…呼びつけですか、典子お嬢様?


耕「典子の言う海馬は海馬モクバの方」


 だからなぜ心を読める?


エ「はい、デュエルディスク」
朱「燃えるぜバーニングッ!」
ア「Yes I am ダウンロード、大地耕介…ワンキルワンキル」


 1ターン後…


朱「ちっ…」
ア「掘削HEROドリルガイでダイレクトアタック、はい終わり」
ドリルガイ「おじさんは優しいからお嬢ちゃんを傷つけたりはしないよ〜」


 こいつ誰だよ? やけに優しいグレファーはドリルの柄で軽く叩いた。


掘削HEROドリルガイ ATK1700
ダイレクト
朱里 LP1600→0


朱「くそっ、燃えたりないぜっ、燃え足りねーなっ!」


 微妙にテニスっぽいセリフだな。


耕「3連勝、こりゃ強いねアヴドゥルさん。うん、異次元に消したくなってきたよ」
朱「…」
エ「今度は典子ちゃん」
典「私か、いいだろう。おい、三沢」
三「何だ?」
典「強いデュエリストを知らないか?」
三「遊城十代なんていいんじゃないか?」
典「誰だそれは?」
耕「ガッチャンとかよく言ってる人」
エ「あれ、ダッチャだよ〜」


 ガジラもラムも古いぞ。今の若い子に通じるのか?


典「まあ、何にせよやってみるか」
ア「Yes I am ダウンロード、遊城十代…今日の最強カードはこれだ」


 風霊使いウィンとE・HEROの試合か、結構な好カードじゃないか。さっきの3人のようなマヌケな展開はやめてくれよ。


ア「俺の先攻、ドローッ! E・HEROバブルマンを召喚、効果発動、場に他のカードが無ければ2枚ドロー出来る。カードを2枚伏せてターンエンドだ」


 いきなりアヴドゥルさんが十代調のズルイ手を使い始めたぞ。勝手に先攻取ったしな。主役補正で強いぞ、十代は。


典「私のターン。翠玉竜LV2を召喚だ。攻撃するぞ」


翠玉竜LV2 風 ドラゴン族 LV2
ATK900 DEF600
 このカードを自分スタンバイフェイズに生贄に捧げる事で「翠玉竜LV4」をデッキもしくは手札から特殊召喚できる。


翠玉竜LV2 ATK900  E・HEROバブルマン ATK800


ア「リバースカードオープン、『バブルシャッフル』。翠玉竜LV2を守備表示に変更、そしてバブルマンを墓地に送ってE・HEROネオスを手札から特殊召喚するぜっ!」


 すまん、アヴドゥルさんノリノリだぞ。見た目はアレだけどな。


典「戦わない。2枚伏せてターンエンドだ」


アヴドゥルさん LP 4000
手札:5
モン:ネオス
魔罠:伏せ1


ア「俺のターンッ、E・HEROスパークマンを召喚っ。スパークマンで翠玉竜に攻撃だっ!」
典「『和睦の使者』、無効だ」


戦闘ダメージ、無効。破壊、無効。


ア「俺は1枚伏せてターンエンドだっ」


典子 LP 4000
手札:4
モン:翠玉竜LV2
魔罠:伏せ1


典「翠玉竜を効果でレベルアップさせる」


翠玉竜LV4 風 ドラゴン族 LV4
ATK1600 DEF1000
 このカードが相手モンスターを破壊した時、生贄に捧げる事で「翠玉竜LV6」をデッキもしくは手札から特殊召喚できる。


典「「重奏」を発動する。『風霊術−「雅」』と融合させ、融合魔法『風霊術−「薫」』を翠玉竜LV4に装備させる」


 融合魔法? 初耳だな。実質2枚以上のカードを使って任意の魔法を使えるという事か。燃費の悪そうなカードだ。


風霊術−「重奏」 通常魔法
 自分の手札またはフィールド上から融合魔法カードによって決められたカードを墓地に送り、融合デッキから「風霊術」と名の付く融合魔法を発動させる。


風霊術−「薫」 融合装備魔法
 手札もしくは場から「風霊術」と名の付くカード墓地に送る事で発動する。このカードの発動にチェーンする事はできない。攻撃力700アップ。貫通ダメージを与えられるようになる。このカードを装備したモンスターは相手カードの効果対象にならない。


典「翠玉竜でスパークマンに攻撃するぞ」


翠玉竜LV4 ATK2300  スパークマン ATK1600
スパークマン、破壊。
アヴドゥルさん LP4000→3300


ア「魔法を融合させたのか? 楽しいぜ、やっぱ融合って最高だよな」


 このメカ、完全に十代になっているぞ。


典「戦闘で破壊した、さらに効果でレベルを上げるぞ。さらに効果で「重奏」を回収する」


翠玉竜LV6 風 ドラゴン族 LV6
ATK2400 DEF1000
 「風霊術」と名の付くカードが発動した時、生贄に捧げる事で「翠玉教皇竜」をデッキもしくは手札から特殊召喚できる。このカードが「翠玉竜LV4」の効果で特殊召喚された場合、墓地の「風霊術−「重奏」」を手札に加える。


ア「攻撃力ならネオスの方が上だぜ」
典「だから「涼」を使う」

風霊術−「涼」 通常罠
 相手フィールドにセットされた魔法・罠カードを1枚破壊する。


アヴドゥルさんの伏せカード、ヒーローシグナル、破壊。


典「風霊術を使った、よって翠玉竜は翠玉教皇竜となる」


 翠玉教皇竜だと? 典子ちゃん、君はやはり花京院典明と関係あるのか?


翠玉教皇竜 風 ドラゴン族 LV8
ATK2900 DEF2100
 このカードは通常召喚できない。「翠玉竜LV6」の効果でのみ特殊召喚可能。このカードが攻撃を行う時、相手は場のモンスター効果・魔法・罠を発動できない。このモンスターが戦闘でモンスターを破壊した時、破壊したモンスターを墓地へ送らず自分フィールド上に「翠玉トークン」の名で永続魔法扱いで場に残してもいい。このカードがフィールドから離れる時、『風霊術−「翠玉憑着法」』を融合デッキから発動させる事ができる。


典「攻撃だ」


翠玉教皇竜 ATK2900  ネオス ATK2500
ネオス、破壊。
アヴドゥルさん LP3300→2900
ネオス、エメラルド化。


ア「ネオス!?」
典「機械のくせに驚くな。ターンエンドだ」


 自分の造った機械に文句を言うな。それにしてもこの子、エメラルド好きだな。さりげなく着けているペンダントもでっかいエメラルド製だしな。


耕「あれは1000年前から伝わる秘宝らしいよ」


 だから俺が言う前になぜ返答するんだ?


アヴドゥルさん LP3000
手札:4


ア「俺のターンッ、俺も融合の力を見せてやるぜっ。フェザーマンとバーストレディを『融合』させ、E・HEROフレイムウイングマンを融合召喚だっ!」
典「強化カードか?」
ア「もちろん使うぜ、スカイスクレイパーをな。フレイムウイングマン、攻撃だっ!」


フレイムウイングマン ATK 2100+1000=3100  翠玉教皇竜 ATK2900
翠玉教皇竜、破壊+効果発動。
典子 LP4000→900


典「やれやれだな」
ア「何だって?」


 それは花京院じゃなくて空条だ。


典「翠玉教皇竜が破壊された、よってエメラルド化したネオスをコストに「翠玉憑着法」を発動する。翠玉教皇竜と手札のウィンを除外だ。私が出るぞ」


風霊術−「翠玉憑着法」 融合魔法
 手札もしくは場から「風霊術」と名の付くカード1枚を墓地へ送り発動する。手札・場・墓地いずれかの「翠玉教皇竜」と「風霊使いウィン」を除外する事で「翠玉教皇−ウィン」をデッキもしくは手札から特殊召喚する。


風霊使いウィン(試作版) 風 魔法使い族 LV3
ATK500 DEF1500
 このカードの攻撃力は墓地もしくはフィールドの「風霊術」、「翠玉」、のいずれかの名の付くカード1枚につき100ポイントアップする。
リバース:このカードがフィールドで表側表示で存在する限り、相手フィールド上の風属性モンスター1体のコントロールを得る。


翠玉教皇−ウィン 風 魔法使い族 LV8
ATK1850 DEF1500
 このカードは通常召喚できない。このカードは「風霊術−「翠玉憑着法」」の効果でのみ特殊召喚可能。
 このカードの攻撃力は墓地もしくはフィールドの、このカード以外の「風霊術」、「翠玉」、のいずれかの名の付くカード1枚につき300ポイントアップする。
 このカードが場に出た時、もしくは「風霊術−「重奏」」を発動した後、墓地から「風霊術−「重奏」」を1枚手札に戻す事ができる。


 ついに出たぞ、ウィンだ、ウィン。しかも大粒のエメラルドの。どっかの女男や発火娘とは違い特殊な設定は…たぶん無い。見せてもらおうか、オリジナルの風霊使いの性能とやらを。いや、マジで強い。


翠玉教皇−ウィン ATK1850+300×7=3950


ア「攻撃力3950のモンスターだって?」


 ウィンをモンスター呼ばわりするな。


ア「俺はこのままターンエンドだ」


典子 LP900
手札:3
モン:翠玉教皇−ウィン


典「私のターンだ、攻撃するぞ。エメラルドの結界から逃げられん」


翠玉教皇−ウィン ATK3950 フレイムウイングマンATK2100
フレイムウイングマン、破壊。
アヴドゥルさん LP2900→1050


ア「フレイムウイングマン!?」
典「1枚伏せてターンエンドだ」


 もしかしてもしかするんじゃないのか? 偽者とは言え十代が負ける瞬間を目に焼きつけられるんじゃないのか? さすがは典子ちゃん、不可能を可能にしてくれ


ア「ここで逆転のカードを引いたら面白いって思わないか?」
典「そのために引きのプログラムに偏りを加えたんだ。その力を発揮してみろ」


アヴドゥルさん LP1050
手札:2


ア「俺の信じたカードだ、N・グラン・モールを召喚っ! さらに『O−オーバーソウルで』ネオスを復活させるっ! コンタクト融合だっ、E・HEROグランネオスを召喚っ!」


 この状況でなぜ融合する? バラバラで使えば両方手元に残るぞ。さあ典子ちゃん、その伏せカードでネオスを無力化するんだ。


典「それでこそ私の作ったアヴドゥルさんだ」
ア「グランネオスの効果でウィンを手札に戻す、グランネオスでダイレクトアタックだっ!」


E・HEROグランネオス ATK2500
ダイレクト
典子 LP900→0


 ウィンの装束から元に戻った典子ちゃんはネオスのドリルに跳ね飛ばされた。このドリルはどっかの掘削HEROのようないかがわしい代物ではない。


ア「ガッチャ、楽しいデュエルだったぜっ!」
典「商品化しても問題なさそうだな」
ア「Yes I am」


 負けたんかい。アヴドゥルさん4連勝だぞ。つーか十代、敗者に鞭打つような言葉はやめてくれ。いくら強気そうな典子ちゃんも…いつも通りか。


耕「プピペピポポ〜」
エ「ダッチャね、ダーリン」


 だから古いと言っているだろうが。


典「確かに強いな、遊城…何だ?」
耕「○ト」
エ「み○か」


 前者はジャンプマンガ違いで後者は遊戯違いだ。それにしてもふしぎ遊戯か、懐かしい。そのうち俺の仲間達の体に文字とか浮き出たら面白いな。『疑』とか『怒』とか、微妙なのがな。


耕「最後は三沢だ、ラーイエロー主席の実力を見せてよね」


 そうだ、ここで俺が年長として、そして人類の知的財産としてメカに勝たずしてどうする? さあ、誰を相手にしようか。登録リストを少し見てみよう。ほう、カイザーも登録されている。万丈目までか? だったら俺の相手をするデュエリストは1人しかいない。


・[それは万丈目サンダー!
>[それは俺!


三「俺は俺自身と戦うぞ。デッキは同じだ、後は頭脳の差が物を言うっ! さあ来い、アヴドゥルさんっ!」


 決まった。なんかこの物語の主役のはずがほとんどデュエルをしていない。そして知的な俺で読者全員の目を釘付けにしてみせる。何てったってGXのレギュラーだ。さあ、入力するぞ。


ア「い…いったいなんだこいつはぁ〜〜〜ッ!」
三「へ?」
ア「み…三沢だ、だ、大地ィィィ〜〜ッ? し、知らねえェ〜〜〜」
耕「みんな危ない、伏せろーっ!」


 アヴドゥルさんがいきなりパンドラっぽいセリフを吐いたかと思えば。耕介も何かを叫んだ。そう思った時にはアヴドゥルさんが爆発していた。目の前にいた俺は爆発にもろに巻き込まれていた。遠のく意識の中、俺は思った。最近俺こんなの役ばかりじゃないのか? どうせこうなるならば10倍モウヤンを今日も食べておくべきだった。


典「アヴドゥルゥゥゥーッッ!」


 少しは俺の心配もしてくれ…





今日の一言「信じたカードに裏切られました… 最初から信じなければこんな想いをしないで済んだのに…」

第5.5話 青春今何処

 俺は三沢大地…俺はアヴドゥルさんの爆発で死んだのか…? アヴドゥルはこなみじんになって死んだようだが…




   〜花京院邸の一室〜


典「起きたか、三沢」


 生きている…俺は…? また知らない天井だ。ウィンの声が聞こえるぞ…


>[触って確かめる
・[返事する


 本物か…


典「怪我人でなかったら死人になっていたぞ」


 違う、典子ちゃんだ。危ない、危ない。


典「すまん、登録されていない名前を入力すると誤作動を起こすバグが検出された。おかげで修正できた」


 俺、登録されてないの? 隼人とかいうレッド寮のコアラ男さえ登録されていたのにか? テニス男やクイズ男やドロー男やもけもけ男も登録されていたのにか? なぜ俺だけ?


典「偶然のチェック漏れだ。デッキは登録されていたが名前は未登録だったようだ」


 偶然の一致だな、それこそ天文学的な。


耕「それにしても丸1日おねんねするなんて見事だね」


 待て、なぜお前がここにいる? ここは花京院宅だぞ。


耕「今日は学校帰りのオマケ、三沢のヘッポコな姿を見て安心したよ」
三「安心するなよ」
耕「頭平気? 青春って何か言ってみてよ」
三「青とは青龍の青、春とは季節の春だ。中国では方位と季節を同一視させ、四聖獣を置いた。春は東の青龍、夏は南の朱雀、秋は西の白虎、冬は北の玄武。青春と同じように朱夏、白秋、玄冬という言葉も存在している」
典「大まかには正解だ」
耕「こりゃもう手遅れだ。これよく見て」


 耕介は俺の目の前に糸の付いた5円玉を下げた。そして振り始めた。何のつもりだ?


耕「今、君は錯乱している。本当の三沢なら青春とは何かをちゃんと血と汗と涙の熱血トークで説明できたはずだ。つまりこの三沢は三沢であって本来の三沢ではない」


 催眠術のつもりか? 非科学的な。俺にそんな下らない手が通用すると思っているのか?


耕「このままでは世界の財産である三沢という頭脳は失われてしまう。さあ、立て三沢っ、大地を駆け巡り青春とは何たるかを思い出せっ!」


・[耕介、お前は間違っている
>[青春って何だ?


 何という事だ。今の俺は異常をきたしている。異常ではないという実感こそが俺が異常である事を証明しているのだ。立て俺っ、大地を駆け巡り青春とは何たるかを思い出すのだっ! こんな所で寝ている場合ではない。


・[耕介と青春ドラマを繰り広げる
・[典子ちゃんと青春を謳歌する
>[外へ飛び出そうぜ


三「うおおおおっっっ!!! 青・春っ! 青学ファイトォッ!」


 俺は走るぜっ、青春の限りっ、俺は大地っ、地の果てまで走り抜いてやるっ!


耕「行っちゃったね」
典「これでいいのか?」
耕「元気になったしいいんじゃない?」
典「それもそうだ」




   〜土手〜


三「うおおおおっっっ!!!」


>[拘束解除して走る!
・[拘束解除して高笑いする!


 やはり夕暮れの河原を走り抜けるのは気持ちがいい。


三「青春って何だぁぁぁーーーっっっ!!!???」
?「青春って何でござるかぁぁぁーーーっっっ!!!???」


 ん? 山彦か? ここは川だ、それに俺はゴザルではない。まさかとは思うが同胞がいるのか? それともバザールでゴザールか?


三「お前は誰だ?」
?「お主こそ何者?」


 鉢合わせた相手はまるで忍者のような扮装した男だ。この偶然の出会いを無駄には出来ない。漢夕日に向かって語り合おう。


 …


 彼の名は風丸という。斎王の妹ミヅチの部下の1人だと言う。確かに童実野町で「帝」使いのデュエリストと十代が戦っていた様を俺はよく覚えている。だが、地帝・氷帝・炎帝・雷帝の4人のみ、風帝ライザーの使い手は出てこずじまいだった。どうやら自己主張をせず、影なって動く事の得意な彼は十代と遭遇する事なく出番を終えてしまったらしい。ん…何だ…頭が痛い………


>[翔の言葉が…
・[光の結社が俺を呼んでいる…


「三沢君、いたの?」


 うっ…何だ今のフラッシュバックは? なぜだ? 俺はなぜあの時を思い出そうとすると頭が痛み出す? なぜなんだ? うおおおっ!?


風「三沢殿、どうしたでござるか?」
三「分からない…誰かが俺の存在を否定したような気がする…」
風「実は拙者もそうなのでござる」
三「そうなのか…」
風「…」
三「…」
風「何やらお主とはウマが合いそうでござる。三沢殿、拙者と忍となりて街に巣食う悪と戦う気はござらんか?」
三「それは青春か?」
風「拙者にとっては」


>[存在感を示そう
・[戦う、よくない


三「ああ、行こう風丸。都会の闇と共に生き、俺達の存在感を示してやろうっ!」
風「ニンニン」
三「だってばよ」


 そして俺は風となった…





第5.75話 Ninja

 みんな〜こんにちは〜、エリカ=ツヴァインシュタインだよ。今日は三沢先輩が失踪して5日目だから私がナレーションするね。




   〜私の家〜


耕「見てよエリカ、笑える記事があるよ」
エ「オーノー、ワタシニホンゴムズカシ、ヨメマセーン」


  こんな時はいつもこう言うんだ。でもコーチン優しいから読んでくれるんだ。本当はご先祖様が多国籍だからイギリス語、フランス語、ドイツ語、スペイン語が分かるし、育ちのおかげで日本語も猫語も犬語もガガギ語も分かるんだけどね。


耕「都市伝説か? 都会に忍者現る。しかもここのご近所」
エ「忍者?」


 忍者、それは日本に住む者皆が憧れる暗殺ヒーロー。夢のような職業、私も特訓したけど無理だったんだ。どんな速く走っても分身しないんだよ。


耕「盗人を退治したり、悪代官の悪行を暴露したり、ならず者をお縄にしたり、デュエルしたりしたらしいよ」
エ「見たい見たい、忍者見たい。絶滅したと思ったのにまだ棲んでたんだね。探そうよ、行こう。コート出して、着せて」


 ちなみに私は1人で服は着ないの。着れないって言えばコーチンが着せてくれるから。


耕「笑える心当たり無い?」
エ「ない〜」
耕「久々の笑いの種になりそうだね。行こうか」
エ「うん。行こ、ガガギゴ」
ギ「ギゴー」




   〜路地〜


 1時間後…


エ「どこに忍んでるのかな〜?」
耕「そう簡単に見つからないよ、何せ平成まで生き永らえた珍獣だからね」


 街中を歩いて忍者なんているわけないよね? 黒装束着て晩ご飯とか買ってたらクセ者間違い無し。成敗されちゃうよね。忍者は忍者ってバレないから忍者なの。


耕「で、何かいい道具持ってきたの?」
エ「ピザ、バナナ、キュウリ、ホウレンソウ、ドラヤキ、リンゴ、ガンプラ、それと油揚げ〜」
耕「…」
エ「…」
耕「探しものは?」
エ「忍者」
耕「サルとカッパとポパイとドラと死神とケロン人と化け狐も探す気?」
エ「でもミュータントタートルズはピザ食べてるよ」
耕「アレ忍者に見える?」
エ「でも忍者ってバレたら忍者じゃないよ〜」


 本当は家にある食べ物を片っ端から持って来ただけなのに。なのに理由を付けてくれるっていいね。


耕「ガンプラは食べ物じゃないけど」


 そうなの? ギゴちゃん食べてるよ。


ギ「初代はうまいギゴ」
耕「精霊だからね」


 初耳、精霊の主食はガンプラなんだ。次は新作あげよっと。


朱「油揚げ…」


 あれ? ヒーちゃんいつからいたの? 今度はヒーちゃんが油揚げをかじってるね。


耕「ほら、違うのが釣れたじゃないか」
朱「…」


 コーチンってたまにヒーちゃんの事、狐の妖怪みたいな言い方するんだよ。意味分からないよね? でも一緒にいた方が発見率も1人分増し、本当は2人きりがいいけど…いいよねコーチン?


 1時間後…


朱「いないね…」
耕「試しに事件起こそうか? シュシュッと参上するかもよ」
エ「犯罪はだめ〜」
耕「例えば、エリカが川に落ちるとか、エリカがマンホールに落ちるとか、エリカの上に隕石が落ちるとか、エリカが異次元の穴に落ちるとか」
エ「落ちないよ」
朱「落とさせない…」
耕「ほら、都合のいい事に開きっぱなしのマンホールが。落ちろ落ちろ」


 本当だ、水道屋さんが間違えたのかな?


エ「やだよ〜」
朱「バナナの皮…仕掛けない…?」
耕「それ採用。あとルアー代わりにガガギゴを落としておこう」
ギ「嫌ギゴーっ」


 ギゴちゃん、後でよく洗ってあげるからね。だからとっとと落ちやがれ。でもそんなんで引っかかったら忍者じゃないよ。


 数分後…


?「む、こんな所にバナナが落ちているでござる」
耕「今だっ!」
ギ「おうギゴッ!」


 忍者だ、マンホールから忍者。屋根からじゃなくてマンホール。忍者がバナナの罠に捕まったよー。コーチン、ギゴちゃん、ナイスプレイ。ナイスお縄〜


エ「忍者だ〜」
?「ぬ、不覚。罠でござったか…」
耕「その頭巾、外させてもらうよ」
?「…」


 これが忍者? 普通の人だね。それともこれから変身するの?


耕「なんだ、三沢じゃないんだ」
?「お主、三沢殿と何の…あっ!?」
エ「三沢先輩って忍者だったの?」
耕「催眠術が効き過ぎたかな?」
エ「ねえコーチン、何なの? 何が起きてるの?」
耕「さあ?」


 よく分からないけど三沢先輩が忍者なんだって。気付けば隣にいる、それが忍者なんだね。


?「…」
朱「…」
?「お主、ただならぬ妖気を感じるでござる。妖でござるな? 人に成りすまし何を企む?」
朱「違う…私は…」
?「成敗してくれようっ!」


 今度は何? 縛られた忍者が意味分からない事言い始めたよ。この人もヒーちゃんを妖怪扱いするの?


耕「成敗されてるのはどっちかな?」
?「ならばよかろう、縄抜けの術っ!」


 すごいよ、縄が生きてるように動いてほどけたよ。これが本物の忍術、カッコイイね。


耕「でも逃げられない」
ギ「逃がさないギゴ」


 さすがはコーチン、忍者を素手で掴んだ。カッコイイー。あとギゴちゃんもナイス噛みつき。


?「なかなかやるでござるな」
耕「で、どうする? 朱里に喧嘩売ったらどうなるか、思い知ってみる?」
朱「いいぜっ、珍獣を焼いたらどんな味なのか気になるしなっ!」
エ「ヒーちゃん張り切ってるね」
?「拙者は都会の闇に生き、悪を滅する忍者影丸。妖魔退散っ!」
「「デュエルッ!」」


 すごいね、忍者もデュエルするんだね。





The Lost Ground 〜忘却の大地〜  第6話 九尾と呪印と…大地の怒り?

 拙者は三沢大地、都会の闇に生き、悪を滅する忍者でござる。今、風丸殿の身に何かが起きたようだ。マンホールを昇って覗いてみよう。




   〜路地〜


風「拙者の先攻、ドローッ! 拙者は陽炎の銀忍者を召喚、1枚伏せてターンエンドでござる」


 何が起きたんだ? 風丸殿と飛騨君がデュエルをしている。確か風丸殿は悪と妖としか戦わない正義の忍のはずだ。なのになぜ? まさか飛騨君、君は…


陽炎の銀忍者(かげろうのシルバーにんじゃ) 光 戦士族 LV4
ATK1900 DEF900


 それより…こ、この忍者は…まさか…


エ「お銀だ、お銀〜、伝説の入浴忍者お銀〜」
朱「だったら火あぶりにしてやるぜっ」


 飛騨君…俺はこのデュエルで君の正体を見定めさてもらうよ。


朱「私のターンだっ、デザートフォックスを召喚。生贄に捧げて狐憑きを召喚だっ! 焼けっ!」


狐憑き 炎 炎族 LV5
ATK2000 DEF1500
 このカードは場の「狐」、「きつね」、「フォックス」、のいずれかの名の付くモンスターを生贄に捧げる事で特殊召喚できる。


狐憑き ATK2000  陽炎の銀忍者 ATK1900


風「妖怪にしてはよく人間の文化を知っているでござるな。だが罠でござる、分身の術っ!」


忍法分身の術 永続罠
 「忍者」と名の付くモンスターが攻撃を受けた時に発動できる。ダイスを振り、出た目に応じた効果が発動する。
1:このカードを破壊する。
2:この戦闘を相手のダイレクトアタックにする。
3:何も起きない。
4:この戦闘を無効にする。
5:攻撃されるモンスターの攻撃力をダメージステップの間500アップ。
6:相手の攻撃モンスターを破壊する。


エ「わー、分身した。見てよコーチン、見て〜 …あれ?」
風「ダイスロールッ」
エ「今の漢字でどう書くの?」
風「4でござる」


 ふう、年齢不詳の魅惑の忍者は生きながらえた。これからもご老公様を支えまくってくれ。


 戦闘、無効。


朱「ちっ、残像か。焼き損ねたなら1枚伏せてターンエンドだっ!」


風丸 LP4000
手札:5
モン:陽炎の銀忍者
魔罠:分身の術


風「拙者のターンでござる。風魔手裏剣を装備、妖怪よこの一撃を耐え切れるか?」


 あのお銀が巨大手裏剣を持った。これはファンとしては…いただけない姿だ。


陽炎の銀忍者 ATK1900+700=2600


くのいち・銀の忍者 ATK2600  狐憑き ATK2000


朱「だったらこっちも術を使うぜっ!」


狐のまやかし 永続罠
 「狐」、「きつね」、「フォックス」と名の付くモンスターが攻撃を受けた時に発動できる。ダイスを振り、出た目に応じた効果が発動する。
1:このカードを破壊する。
2:この戦闘を相手のダイレクトアタックにする。
3:何も起きない。
4:この戦闘を無効にする。
5:攻撃されるモンスターの攻撃力をダメージステップの間500アップ。
6:相手の攻撃モンスターを破壊する。


風「何? 拙者と同じタイプの術を使う…だと?」
朱「さあ、どれが出るか」


 5。ご愁傷様だ。


陽炎の銀忍者 ATK2600  狐憑き ATK2000+500=2500
狐憑き、破壊。
朱里 LP4000→3900


エ「わー、お銀強いー。次は飛猿出して」
風「まずは一体、次はお主でござる」
朱「さあな、次はお前が炭にならないように気を付けるんだなっ!」


朱里 LP3900
手札:5
魔罠:狐のまやかし


朱「『狐の恩返し』だ、赤いキツネを捨てて2枚ドローする。さらに『狐の恩返し』で、きつね火を捨てて2枚ドローする。来たぜっ、墓地の3枚の狐を除外して九尾の妖狐を召喚っ!」


 赤いキツネ? 今捨てたカードはどんなカードだ? 緑のタヌキもあるのか?


九尾の妖狐 炎 炎族 LV9
ATK2500 DEF2300
 このカードは通常召喚できない。「狐」、「きつね」、「フォックス」、のいずれかの名の付くモンスターを墓地から3枚除外した時のみ特殊召喚する事ができる。このカードは攻撃力を500減らす事で破壊を無効化できる。


風「それがお主の本性でござるか?」
朱「本性だろうが何だろうが、お前を消せば何も問題ない。『火霊術−煉』を付けて攻撃だっ! 焼き尽くせっ!」


火霊術−「煉」 装備魔法
 「ヒータ」、「狐」、「きつね」、「フォックス」、のいずれかの名の付くモンスターにのみ装備可能。攻撃力を800アップ。このカードを装備したモンスターが戦闘で相手モンスターを破壊した時、以下の効果を1つ相手は選択し、受けなければならない。
1:相手フィールド上のセットされた魔法・罠カードを破壊する。
2:相手にLP500のダメージ。
3:相手は手札を1枚選んで捨てる。


九尾の妖狐 ATK2500+800=3300


 これは面白い。溶けた金属が煉られるようにして狐に適した武器へと変わった。こんな爪で裂かれたら年齢不詳忍者でもひとたまりもない。


風「ダイスロールッ」


 3、これまたご愁傷様だ。


九尾の妖狐 ATK3300  陽炎の銀忍者 ATK2600
陽炎の銀忍者、破壊。
風丸 LP4000→3300


朱「さあ、どれにするか選びなっ!」
風「ならば、ダメージ。お主も風魔手裏剣の効果で700受けるでござるっ!」


風丸 LP3300→2800
朱里 LP3900→3200


朱「つくづく似たデッキだなっ!」
風「ならばこそ我が忍術が狐などの妖術の上を行く事を証明してみせるっ!」
朱「その前に焼き上げてやるがなっ! 1枚伏せてターンエンドッ!」


 そうだ、俺はどうすればいい? 片は博士の孫の友達、片は俺の心を理解してくれた同胞。俺は何かが起こった時どちらの味方として現れればいい? そもそも妖狐と忍者のぶつかり合いに過ぎないんだ、俺には関係ないんだぞ? いや、それでいいのか? そうだ、勝った方に合わせよう。


風丸 LP2800
手札:5
魔罠:分身の術


風「来たでござる、影分身の術っ!」


忍法影分身の術 通常魔法  このカードは自分フィールド上の「忍法分身の術」を墓地に送る事で発動する。自分のモンスターゾーンに忍者トークン(地・戦士・LV1・300・300・生贄召喚の生贄も可)を4体特殊召喚する。


風「現れよ、我が信ずる帝、ライザーよっ!」


 これは風帝使い風丸殿の切り札ではないか。効果は、場のカードをデッキに戻すものだ。もしも妖狐が消えれば飛騨君は軽いロックを受けた上に召喚条件を満たせなくない。これは風丸殿の逆転か?


風帝ライザー ATK2400


風「ライザーの効果を使う。風を舞え、その妖狐を山札へと飛ばすのだっ!」
朱「させるかっ!」


火霊術−「煌」 通常罠
 「ヒータ」、「狐」、「きつね」、「フォックス」、のいずれかの名の付くモンスターが自分フィールドに存在し、相手が対象を選ぶカードを発動した時に発動可能。以下の効果のうち2つを相手は選択し、受けなければならない。
1:相手の発動した対象を選ぶカードの効果を無効にする。
2:相手にLP500のダメージ。
3:相手は手札を1枚選んで捨てる。


風「無効とダメージでござる」


風丸 LP2800→2300


朱「どうだ? 切り札が不発になった気分は?」
風「それはどうかな、これで全ての障害は消えたでござる。安心して『融合』が使えるでござる」


 まさか、融合があるのか? 風帝に融合があるのか?


風「狐に対抗し得る最強の忍者の降臨でござる」


呪印開放−SASUKE 光 戦士族 LV7 ATK2400 DEF2200
融合 「忍者マスターSASUKE」+「融合呪印生物」と名の付くカード
 上記以外のカードを融合素材の代用にする事は出来ない。このカードは手札もしくは場のモンスターを1枚墓地に送るたびに攻撃力が300アップする。


 サスケだ。サスケが出た。しかも融合する事で呪印が浮き出ている。そして飛騨君の場には九尾の妖狐。この展開…何のパクリだ?


エ「サスケ君だ、千鳥使って〜」
朱「それがどうした?」
風「忍者トークン3体を生贄に捧げ、攻撃力を上げるでござるっ! さあ、受けよ妖狐、この一撃をっ!」
朱「ダイスロールッ」


 1。いい運をしているな。


呪印開放−SASUKE ATK2400+1500=3900  九尾の妖狐 ATK3300
狐のまやかし、破壊。
九尾の妖狐、破壊…を効果で無効。
朱里 LP3200→2600
九尾の妖狐 ATK3300−500=2800


風「ライザーは動かないままでござる。1枚伏せてターンエンド」
朱「…いいカードを引いたぜっ!」
エ「ヒータ?」
朱「調子狂うわせるなっ、エリカッ!」
エ「はーい」


朱里 LP2600
手札:4
モン:九尾の妖狐+「煉」


 まさか、この状況でヒータ…いや、引いたのか? 確か墓地にはキツネカードは4枚、妖狐憑着−ヒータでは攻撃力は微妙に足りないが、キツネを落とせばあるいは…


朱「さあっ、妖狐を憑着させた私の力の前に焼き尽くされろっ! 私(火霊使いヒータ)に九尾を憑着させるっ!」


妖狐憑着−ヒータ 火 魔法使い族 LV9
ATK2500 DEF2300
融合 「火霊使いヒータ」+「九尾の妖狐」
 このカードは融合召喚できない。場の素材となるモンスターを除外する事でのみ特殊召喚できる。このカードの攻撃力は、墓地もしくはフィールドの、このカード以外の「狐」、「きつね」、「フォックス」、のいずれかの名の付くカード1枚につき300ポイントアップする。このカードは攻撃力を500減らす事で破壊を無効化できる。


 来たぞ。コンタクト融合(?)。キツネオーラの発せられるヒータ、つまりは飛騨君が出現した。君の尻尾のような物が本物なら憑着なのではなく真の姿なのではないか?


妖狐憑着−ヒータ ATK2500+300×4=3700


風「攻撃力ならこちらが上でござる」
朱「そう言う奴はやられるのが決まりなんだよっ! 「煉」をもう1枚使うぜっ!」


妖狐憑着−ヒータ ATK3700+800=4500


風「この妖気…お主は一体…?」 朱「私か? 私はそこらにいるただの狐だ。人間様の数倍生きただけのなっ!」
風「この妖怪、拙者には荷が重過ぎたかもしれぬ…」


 道理で、その尻尾は本物だったのか。なるほどなるほど。


朱「さてと、忍者の姿焼きにしてやるかっ! 火霊術奥義っ、爆炎火霊焼っ!」
風「かかったでござるな、罠発ど…」
耕「あ、間に合った。こっちこっち」


 あれは耕介、今まで何をしていた? それ以前にこのヘリコプターの音は? かなり近いぞ。


典「狙いを付けろ、磯野」
磯「かしこまりました、お嬢様」


 あれは、典子ちゃんにセバスチャン。こんな所にヘリで何をしに来たのだ?


典「撃て」
磯「かしこまりました、お嬢様」


 そのセバスチャンが握っているものはまさか…やめろセバスチャン。


>[飛び出す
・[さらば、風丸…


三「撃つなーっ!」
風「何っ!?」


 俺はマンホールの中から飛び出した。風丸殿はセバスチャンからの銃撃を…かわした。何て事をするんだ。


耕「それオトリ、バン」
風「!?」


 耕介は風丸殿に詰め寄っていた。ヘリはオトリだったのか。そして、ピストルをゼロ距離で突き付け、放った。耕介の凶弾が風丸殿の体に突き刺さる。そして倒れた。俺はこの瞬間をただ見ている事しか出来なかった。風丸殿は身動き1つしない。デュエル中の決闘者に横槍を入れるとは…


朱「…」
耕「呼んどいてよかったね」
エ「コーチン…なんて事…」
典「奴はいずれこうなる運命だった。ただ、それが今になっただけだ」
耕「これにて一件落着」
三「何が一件落着だ…風丸殿は…風丸殿は…俺の心の孤独を理解してくれた数少ない友だったんだぞ。それを…それを……」
耕「あ、三沢いたの?」


 耕介…俺に言ってはいけない言葉を吐いたな…俺は怒りに満ちていた。そして風丸殿の形見となったデュエルディスクを取り上げ装着した。


三「俺は怒ったぞ、耕介ーっ!」


>[分身の術!
・[拘束解除!


 俺は手当たり次第にカードを使った。影分身か、俺は数百人に増えた。330人だ、ミ・サ・ワ(330)…語呂がいいな。仇は討つぞ、風丸殿。


耕「げ…」
典「磯野、何だあれは?」
耕「三沢の怒りだ、大地が怒りに満ちている」
典「三沢の怒りは大地の怒りか?」
耕「よく分からないけど逃げようか、なんか危険な臭いがするし」
典「飛べ、磯野」
磯「かしこまりました、お嬢様」
エ「何なに〜?」
朱「…」


 逃がすか耕介、俺は空だろうがどこだろうがお前を追い回し、風丸殿の仇をっ!


・[おいろけの術!
>[拘束解除!


 そう、今の俺は1人じゃない。後にはこんなに多くの俺がいるんだ、孤独なんかじゃないっ! しがらみも服も全て捨てよう。俺はヘリに乗って逃げ出した耕介の奴を追いかけた。この怒り収まるまで、330人の俺は暴走を続けよう。忍となった今の俺にはヘリコプターの飛行速度など牛歩に過ぎんっ!


朱「怖い…」
エ「なんかオームの群れみたいだよー」
耕「どうしようか? 海馬コーポレーションに頼んでオベリスクの巨神兵でも呼ぶ?」
典「そんな腐った真似出来るか」
耕「じゃあ風の姫様、単身で三沢の怒りを納めて来る?」
エ「それいいね。ラ、ラララ、ラララ〜」
典「嫌だ」
耕「じゃあガガギゴが行け」
ギ「そんなの嫌ギゴーッ!」


 何だ? 何が落ちてくる? ガガギゴか、俺の邪魔をするな。吹っ飛べ。


>[ガガギゴワッショイ!
・[ガガギゴシュート!


エ「ギゴちゃん…」
耕「ガガギゴは命と引き換えにこの街を救ったんだ…」
典「むしろ生贄だな」


 ガガギゴなど…ヘリに投げ飛ばす飛び道具にしてくれるっ! 俺の分身達よ、ガガギゴを持ち上げるんだ。


朱「神輿みたい…」
耕「奇跡だ、三沢がガガギゴに心を許したんだ」
エ「そうなの?」
耕「なんて遊ぶのも終わりにしようか。磯野さん、ヘリ降ろして」
磯「かしこまりました」


 観念したか、耕介。今から330人の俺が一丸となってガガギゴをぶつけるぞ、覚悟しろっ!


耕「三沢、今から僕の言う言葉をよく聞いて欲しい」
三「耕介ーっ! 風丸殿の仇ーっ!」
ギ「ギゴーッ!?」
耕「今から僕が手を叩いたら催眠術は解ける。ワンツージャンゴ」

 「パチン」

三「…」


 ん…? 俺は…何をしている? なぜ俺が330人もいるんだ? なぜガガギゴを祭り上げるような行為をしているんだ?


耕「撃て」
朱「本物はあれ…」
典「分かった、いいだろう」


 待て、典子ちゃん。その物騒なものは何だ? その形、麻酔銃か? それでも撃つなやめてく…れ……


耕「これにて一件落着」


 …


 どうやら俺は耕介の催眠術にかかってよく分からない行動をしていたらしい。話によると通りすがりの忍者と意気投合して慈善活動をしていたとか。俺らしくもない。ところでその風丸とやらも麻酔銃で撃たれて、俺と花京院宅に連れ込まれた。どんな拷問が待っているかは分からないが何とか生き抜こう。それよりも耕介、俺で遊ぶな。俺は忙しいんだ、早く帰って博士の手伝いをしないとな。




   ―後日談―


典「磯野」
磯「何でしょうか、お嬢様」
典「風丸」
風「ドロン」


 後日、すっかり花京院家お抱え忍者となった風丸と再会を果たした。





今日の一言「中途半端なレアカードよりも、ノーマルカードに使えるカードが多いと思ったあなたは…今日からノーマルハンター」

第6.5話 突撃! 海馬コーポレーション

 俺は三沢大地、人類の財産と言われる頭脳の持ち主だ。俺は今、何をしているかと言うと…




   〜海馬コーポレーション前〜


典「覚悟はいいか?」
三「何の覚悟だ?」


 訳あって海馬コーポレーションに来ている。目の前には青眼の白龍のモニュメントが豪勢に置かれている。なぜ、俺が典子ちゃんと2人でここに来ているのかと言うと、何かの商談があってここに来たらしい。詳細はまだ伝えられていない。間違えた、3人だった。


風「拙者は影となってお嬢様の警護に当たるでござる。三沢殿、お主は1人でないでござる」


 元ミヅチ部下、現花京院家お抱え忍者の風丸殿が影ながらサポートしてくれる算段になっている。人数が心もとない、何かあったらどうしてくれるんだ? あのセバスチャンは甥がいるとの理由でここに居合わせてはいない。それにしてもあの社長、色々バイオレンスで有名じゃないか。カードやらケースやらで怪我したなんて話はごまんとある。そうだ、耕介のくれた必殺アイテムとやらを開けてみよう。…油揚げ?


>[効果発動!
・[後で使おう


 そういう事か、すでに誰かがかじっているような感触がする所からすると、マグマ大使よろしく飛騨君が飛んで来てくれたのだろう。


朱「油揚げ…」


 ありがとう耕介、いざとなれば飛騨君の火力で生き抜くよ。あと飛騨君、その油揚げを頬張る顔で人と接すれば絶対うまくやっていけるぞ。もしかかしたらキツネかもしれないが、気にしてはいけない。


典「行くぞ、朱里、三沢」
朱「うん…」


 何も恐れないような歩みで典子ちゃんは海馬コーポレーションに乗り込んだ。いざ行かん。




   〜海馬コーポレーション・受付〜


受付嬢「あ…」


 なんだこの人は。その呆けた顔は客に対する態度なのか?


典「おい木更津、今日こそ海馬瀬人に会わせてもらうぞ。アポは取った」
受「せ、瀬人様に繋ぎますね…の、典子お嬢様…」
三「知り合いか?」
典「木更津だ、少し前までうちに務めていた。見栄えはいいが、どうも鈍くさくてな。色々遊んでやったんだが、なぜか辞めたんだ」


 たぶん、君の横暴に付いていけなかったんだよ。


典「本当に、何でなんだろうな?」


 構ってくれる人が欲しい、一緒にいてくれる人が欲しい、典子ちゃんがそう主張しているように見えたのは俺の気のせいなのだろうか?


木更津「では、こちらへ…」


 しかし、この木更津さん、本当に平気なのか? 前見てるのか? 転んだりしないのか? 貧血か? まるで夢うつつのような顔をしたこの人が接客業をやっていけるのかとても心配になった。危なっかしい人に案内される自分の身も心配になった。


朱「こんにちは…」
木「今日は朱里ちゃんも一緒なのね?」
朱「うん…」
木「よかった同類が一緒で」


 俺はスルーですか?




   〜海馬コーポレーション・社内〜


 海馬コーポレーション内部は面白い構造になっている。どの位置からでも見回せば絶対どこかにブルーアイズを思わせる何かが見える設計になっている。それこそ床の模様から、トイレのフタまでブルーアイズオンリー。もはや社長のブルーアイズ熱の留まるところは知らないのか? それ以前にトイレのフタは冒涜じゃないのか? では、廊下に引っ切り無しに張られた海馬社長直筆の謎のスローガンや置物、写真などを見てみよう。


掛け軸「神も生贄にしろ」

掛け軸「果てしなく続く戦いのロード」

掛け軸「粉砕・玉砕・大喝采」

スローガン「俺は断じて攻撃力100ではない」

スローガン「オカルトグッズなど信じるな」

スローガン「ワーハハハハハッ!」

写真「俺が遊戯に勝った最初で最後の瞬間」

写真「数年前の僕と今の俺様、ビフォーアフター」

写真「モクバのラブリー写真館」

慰霊碑「海馬乃亜慰霊碑」

記念碑「ダイヤモンドドラゴン36枚収集記念碑」

社長命令「ガジェットソルジャーをレベル4にせよ」

社長命令「死のデッキ破壊はデッキ全てを破壊する菌にせよ」

社長命令「トゥーンブルーアイズを抹消せよ」

社長命令「青氷の白夜龍を抹消せよ」


 一部、もしくはほとんど意味不明な物もあるが、熱意は認めてあげたい。絶対目に入るブルーアイズと社長の戯言集が魅力的な海馬コーポレーション。そして、毎日こんなのと暮らさねばならない社員に同情する。この木更津さんとかいうお方は例外のようだが。


>[話題に出す
・[無視に徹する


木「実はこれ、全部私の手作りなんです」


 どんな趣味なんだ?


木「今月の新作です。この瀬人様なんてもう最高です」


写真「海馬社長珍プレー好プレー集」


 帰っていいか?


「社長室」


 この表札までブルーアイズだ。すまん、俺の頭が真っ白になりそうだ。光の結社と共に世界を白く…違うだろ。そうだ、ピケルを考えろ。ピケルピケルピケル…斎王はピケルファン、斎王はピケルファン、斎王はピケルファン、双六爺さんもピケルファン、ツヴァインシュタイン博士はクランファン… よし、俺の白い衝動は収まった。副産物として妙な感情が芽生える感じがした。SEED覚醒か? 芽生え、言い換えるとそれは萌え。


>[心の中に仕舞っておく
・[俺の人生ピケル宣言




   〜海馬コーポレーション・社長室〜


木「社長、花京院典子様がお見えになりました… 社長? 瀬人様? 瀬人様ぁっ!?」


 うろたえ過ぎだ。留守か? 待て、誰かいる。


モクバ「何やってんだ、兄サマなら今出る所だぜ」
木「そんな…」
典「海馬、またしても私の邪魔をするつもりか?」


 一応言っておくが、典子ちゃんの言う海馬とはモクバの方だ。


モ「兄サマは今からペガサスに会いに行くんだ、そうしないとブルーアイズが…ブルーアイズが…」
典「量販されるのか?」
木「ブルーアイズは瀬人様だけのカードです。瀬人様のブルーアイズは私だけです」
モ「そうだ、そんな事あっちゃいけないってお前なんかでも分かるだろ?」
木「はい、そんな事不潔です」
典「そうか?」


 むしろ量産を急げ、使う奇人も今やいまい。


海馬瀬人「ペガサスーッ! 俺のブルーアイズを偽造しようとは、許せんっ!」


 なぜ社長の叫び声が社内放送される? その直後、轟音が鳴り響いた。ブルーアイズのような、戦闘機のような、恥ずかしい飛行物体は天高く舞い上がって行った。自己主張の激しいお方だ。


朱「ひっ…」
木「瀬人様…どうかご無事で…」
典「木更津、これはどういう事だ?」
木「おかしいです、スケジュールにはちゃんと今日という事に… そうですよね、モクバ様?」
典「まさか海馬モクバ、謀ったな?」
モ「へへーん、お前なんかを兄サマに会わせてやるもんか」
典「おのれモクバめ」
三「落ち着け、典子ちゃん。なんかセリフがガルマ様っぽくなってるぞ」
典「私は冷静だ」


 今の君に言ってやれる言葉は1つしかない。勝利の栄光を、君に。


モ「そういう事だ、お嬢様は箱に入ってそのまま出て来んな」
典「笑う気か?」
モ「ああ、苦労も知らないで甘い汁ばっか吸ってる奴なんか大嫌いだ」


 いや、同類だろう。生い立ちは波乱万丈だったらしいが、君にも言ってやろう。坊やだからさ。


典「人の苦労も知らずに何を言う?」
モ「自分が世界一苦労したような言い方するな」
典「兄の後にいなければ何も出来ない奴に言われたくはない」
木「あ、あの…2人とも…」
「「木更津は黙れっ!」」
木「…」


 モクバと典子ちゃんはこれより30分におよぶ口論が続いた。ここでふと思う。海馬と言えばモクバという典子ちゃんの言葉を。やっと話が繋がった、事あるごとに面会をモクバに邪魔され続けたのだろう。まあ、腐れ縁という奴だ。そのうちマブダチにはなれるだろうが、恋仲にはならないだろう事は俺の直感が察知した。





The Lost Ground 〜忘却の大地〜 〜忘却の大地〜  第7話 白き龍を宿す娘

 俺は三沢大地、何だかんだで海馬コーポレーションの接客室にいる。典子ちゃんと口喧嘩を終えたモクバは早々にどこかへ消えて行った。よって、この部屋にいるのは、俺と典子ちゃんと、飛騨君と、木更津さんの4人となる。カップやお茶菓子までブルーアイズ型だ。恐るべし、海馬コーポレーション。




   〜海馬コーポレーション・接客室〜


風「拙者、拙者も」


 布で隠れている男を忘れていた。5人だ。


典「実はなデュエルモンスターズを始めたのは木更津のせいなんだ」


 おかげ、の間違えではないのか?


木「そうでしたね…」
典「木更津がいないと日常に退屈の割合が増す」


 それはどういう意味だ?


典「ちょっとした事件は退屈な日常に刺激を与えてくれる。どいつもこいつも有能で、木更津のような鈍くさいのはいやしない」


 つまり、ドジってくれると楽しいわけか。


典「戻って来ないか? 誰が拒否しても、私が黙らせるぞ」
木「でも私は…(以下略)」


 ここで長い長い木更津身の上話が始まった。ただの身の上話ではなく、前世に遡った話となる。かなり電波の入った話になる。海馬社長の前世はエジプトの神官セトだったらしい。デュエルモンスターズの元となった精霊を使う神官という信憑性のない話だ。何だかんだで神に匹敵する精霊を宿した少女キサラが現れ、何だかんだでセトと出会い、何だかんだで死ぬまでの話を淡々と述べてくれた。その精霊が青眼の白龍で、自分の宿した白き幻獣だと言う。今でも前世の想いが残っていて海馬コーポレーションに潜り込んだというわけだ。かなりの妄想だぞ。


木「(省略完了)… 前世の事は覚えていなくとも、瀬人様は私の事を忘れたわけではない… そうでなければブルーアイズにここまで執着なさったりはしない… ああ、瀬人様…そんなに私を見せびらかさないで…… 今頃瀬人様は私の形をした飛行機の上…私の上…… ふふ、うふふふふ……」


 何を言ってるんだこの人は? もしかしてブルーアイズと自分の見境が付かない変人なのか? それに1人で勝手にのろけるな。


朱「…」


 ほら、飛騨君もポカーン顔だ。


朱「永く生きると大変なのは分かるから…辛いよね…」
木「段々性格がはっちゃけて来るから不思議」
朱「…」
木「…」


 妖狐と白龍の接触。もちろんそんな非科学的な事を信じる俺ではないが。ちなみに、木更津さんの名前は幻白(ましろ)という。こんな名前を付けられるから変な妄想癖になったんじゃないのか?


典「いつだったか? 前世を思い出した日は?」
木「DEATH−T記念日です」
典「あれから何も起きていないか?」
木「ええ、ファラオが成仏してからすっかり」
典「そうか、それならいい」
朱「…」


 後日調べると、海馬社長が遊戯さんにDEATH−Tとかいう楽しいアトラクションに招待した日だった。その日、青眼の白龍が1枚裂かれている。妄想設定もそこまで来れば言う事なしじゃないか。


モ「おい木更津っ、いるかっ!?」


 扉が景気よく開いた。ナイス割り込み、これで微妙な展開とおさらばだ。


木「私はここにはいません…我が魂、瀬人様の永遠の○○なり… むしろ○○○でも…瀬人様ぁん……」


 今、年齢制限入りそうな言葉が… ドリル・ガイでさえ言わなかったような言葉が… この人、只者じゃない…


典「っ!?」
朱「?」
モ「?」


 意味が分からないのか、それは安心だ。1人意外なのが妙な反応をしたが。


モ「へっへっへっ、約束通りお前のシミュレーターがヘタレだって事を証明してやるのさ」


 そうか、これが本題か。


典「何だと? 私のブチャラティさんがヘタレだと言うのか?」


 また変な名前を…


モ「それは俺様のセリフだ、海馬コーポレーションのブライトさんの方が高性能である事を思い知らせてやるっ!」


 モクバ繋がりか?


典「だったら話は早いな、シミュレーター同士で対決すればいい」
モ「そう言うだろうと思って、運び入れに来たぜ。おいっ、磯野っ!」
磯野「今ここにぃぃっっ!!」


 磯野(甥)が人間サイズのメカを2体持ち込んで来た。この人も花京院家の方の老磯野を超えるの豪傑だ。


典「起動させるぞ」
モ「早くしろ、磯野」
磯「スイッチ、オォォンッッ!!」


 君達、本当に似た者同士だな。微妙な名前と、それに準じた2体のメカが起き上がった。


ブチャラティさん「開けジッパーッ!」
ブライトさん「全砲門、開けっ!」


 すまん、怖いくらい会話が成り立っているぞ。


典「こちらは私のデッキを使わせる。お前は海馬瀬人のデッキを使え」
モ「それは無理だね、兄サマのデッキはシミュレーター上でも2つと存在しないのさ」
木「そうです、瀬人様にとって私に代わりはいません」


 いや、先日アブドゥルさんが使ったぞ。それにしても、木更津さんのトークに慣れてきた俺が怖い。


モ「仕方ないな。木更津、お前のデッキを使えっ!」
木「いいんですか? モクバ様が私を認めるとういう事は、もう私は海馬家公認のブルーアイズ…」
モ「正気に戻れ」
木「あっちの世界に逝っちゃいそうです…」
典「すまん、前バージョンで音声認識に問題があった。セリフは私が吹き込むぞ」
モ「フェアじゃないな。木更津、お前がノリで合わせて喋れ」
木「意味あるんですか?」
モ「ノリだ」


 待て、それではシミュレーターを使う意味はあるのか? そうか、戦略は機械任せでプレイヤーは喋るだけ。何て合理的なシステムなのだ。合理的過ぎて無駄が過ぎるぞ。


典「後悔するなよ、私の教皇竜がお前のポンコツをガラクタに変えてやるからな」
木「すみません、お嬢様… ヘタレシミュレーターなどと私は口には出せませんが…」
典「今出したぞ」
木「あっ!?」
典「準備はいいか?」
木「こちらは完了です」
ブチャラティさん「開けジッパーッ!」
ブライトさん「全砲門、開けっ!」
磯「デュエル開始ぃぃぃっっっ!!!」
「「デュエルッ!」」


 セリフは後付けでシミュレーター任せ。謎の二人羽織デュエルが開始した。ブライトさんには典子デッキ、ブチャラティさんには木更津デッキがセットされている。あれ?


典「む、私が先攻か。どうやら翠玉竜LV2を攻撃表示で召喚したらしい。2枚伏せてターンエンドのようだ」


 伝聞形だな。そりゃそうだ。自分のデッキを自分で操作できないとは、アホそのものだぞ。


木「では、私は…瀬人様を召喚しました…瀬人様ぁ〜〜〜」


正義の味方カイバーマン 光 戦士族 LV3
ATK200 DEF700
 このカードを生け贄に捧げる事で、手札の「青眼の白龍」1体を特殊召喚する。


 どう見ても海馬瀬人な正義の味方だ。だが、本物の海馬瀬人は100と言われている。真偽は定かではないが、とりあえず目の前にいるアレは本物ではない。


木「瀬人様の効果で、瀬人様瀬人様瀬人様瀬人様瀬人様ぁぁぁ〜〜〜っっっ!!! あんっ………」


 だから本物ではない。気絶したぞ、何なんだこの人は?


磯「デュエル裏ルールその52、気絶した場合は即失格となりますがよろしいですか?」


 そんなルールがあったのか? それより他51個が気になるぞ。


モ「落ち着け磯野、ここからが木更津のチャームポイントだ」


 どんなポイントだ?


?????「はい、恥ずかしながらこれがありのままの私です…」


 木更津さんの体から何かが抜け出たぞ。これはまさか…俺はまだ実物を見た事はなかったが…


朱「これが白き龍…」
青眼の白龍「はい」


 腹話術か? せめてドラゴン化したなら口調や音程を考えてくれ。気が抜ける。


朱「おばあちゃんが言ってた通り…綺麗…」


 うそつけ。君のおばあさんは一体何歳だ? 正しいとしたら数千年前のエジプトだぞ。


龍「瀬人様の効果で青眼の白龍を特殊召喚しました」
三「ちょっと待った、ブルーアイズは海馬瀬人しか持っていないはずですよ」
龍「あのブルーアイズであってブルーアイズではありません」


白き龍を宿す娘(キサラ) 光 ドラゴン族 LV8
ATK3000 DEF2500
 このカードは「青眼の白龍」として扱う。このカードは通常モンスターである。


 いや、これこそブルーアイズであってブルーアイズでない。つーか、恥ずかしそうにのたうち回るブルーアイズなどブルーアイズではない。海馬社長、自社にいますよ。不届き者が。


典「木更津、ちゃんと一発芸が出来るようになったな」
龍「頑張りました」
典「だが、所詮は観賞用カードだ」
龍「私を視線で汚していいのは瀬人様だけです、お嬢様ったらもう…」
典「元気そうだな」
龍「では典子お嬢様、覚悟はよろしいでしょうか?」
典「よくない」
龍「では、滅びの威光です。ワーハハハハハッッッ!!!」
モ「兄サマの真似するなっ!」


白き龍を宿す娘 ATK3000  翠玉竜LV2 ATK900


典「悪いが「雅」を使うぞ。後で会おう、翠玉竜」


風霊術−「雅」 通常罠
 自分フィールド上に存在する風属性モンスター1体を生け贄に捧げる。相手フィールド上に存在するカード1枚を選択し、持ち主のデッキの一番下に戻す。


コスト、翠玉竜LV2。
白き龍を宿す娘、デッキに戻る。


木「何て事するんですかっ?」


 お、龍が消えたら起きた。芸が細かいな。


典「当然の戦術だ」
木「でしたらこの儀式を行い、聖騎士の力を借ります。再び私はデッキから…」
龍「龍となります。ふう…」


白竜降臨 儀式魔法
 「白竜の聖騎士」の降臨に必要。フィールドか手札から、レベルが4以上になるよう生け贄を捧げなければならない。


白竜の聖騎士 光 ドラゴン族 LV4
ATK1900 DEF1200
 儀式モンスター。「白竜降臨」により降臨。フィールドか手札から、レベルが4以上になるようカードを生け贄に捧げなければならない。このカードが裏側守備表示のモンスターを攻撃した場合、ダメージ計算を行わず裏側守備表示のままそのモンスターを破壊する。また、このカードを生け贄に捧げる事で手札またはデッキから「青眼の白龍」1体を特殊召喚する事ができる。(召喚ターン「青眼の白龍」は攻撃できない。)


白竜の聖騎士、降臨。
生贄、白竜の聖騎士。白き龍を宿す娘、特殊召喚。


龍「というわけで、ターンエンドです」


 変わり身早いぞ、この人。寝たり起きたり忙しいな。


典子 LP4000
手札:4
魔罠:1枚


典「悪いが、私も今までの私ではない。まずは『翠玉の館』を使う」


翠玉の館 永続魔法
 「風霊術」と名の付く融合魔法が発動する度にカードを1枚ドローする。


龍「まるで花京院邸のようです」
モ「へっ、悪趣味な家だぜ」


 人の事言えるのか? 自分の会社を見てみな。


典「む… 「重奏」を発動させる。コストは場の「涼」だ、融合魔法「翠玉憑着法」を発動、手札のウィンと翠玉教皇竜を除外させ、デッキから翠玉教皇−ウィンを特殊召喚する。さらに効果で「重奏」を回収し、1枚ドローだ」


風霊術−「重奏」 通常魔法
 自分の手札またはフィールド上から融合魔法カードによって決められたカードを墓地に送り、融合デッキから「風霊術」と名の付く融合魔法を発動させる。


風霊術−「翠玉憑着法」 融合魔法
 手札もしくは場から「風霊術」と名の付くカード1枚を墓地へ送り発動する。手札・場・墓地いずれかの「翠玉教皇竜」と「風霊使いウィン」を除外する事で「翠玉教皇−ウィン」をデッキもしくは手札から特殊召喚する。


翠玉教皇−ウィン 風 魔法使い族 LV8
ATK1850 DEF1500
 このカードは通常召喚できない。このカードは「風霊術−「翠玉憑着法」」の効果でのみ特殊召喚可能。
 このカードの攻撃力は墓地もしくはフィールドの、このカード以外の「風霊術」、「翠玉」、のいずれかの名の付くカード1枚につき300ポイントアップする。
 このカードが場に出た時、もしくは「風霊術−「重奏」」を発動した後、墓地から「風霊術−「重奏」」を1枚手札に戻す事ができる。


 とてつもなく長い処理を一気に行って典子ちゃん、つまりはウィンが場に出た。やはり女モドキや狐女よりウィンだ、うん。


翠玉教皇−ウィン ATK1850+300×4=3050


典「これで立場はお前と同じだ」
龍「お嬢様? それがあなたの…」
典「ただのソリッドビジョンだ。さて、エメラルドの結界でその龍を吹き飛ばす、行くぞ」
龍「ああっ!?」


翠玉教皇−ウィン ATK3050  白き龍を宿す娘 ATK3000
白き龍を宿す娘、破壊。
木更津 LP4000→3950


木「さすがはお嬢様です…」


 また起きた。どうせシミュレーターがやるんだから見ていればいいんじゃないのか?


典「どうやら私は1枚伏せてターンエンドのようだ」


木更津 LP3950
手札:2


木「『早すぎた埋葬』で私は再び…」


木更津 LP3950→3150


龍「龍になりました。もう3度目です、疲れました…」


 ほら、言わんこっちゃない。それとも魂がブルーアイズの木更津さんがいないと使えないカードなのか?


典「実は私も疲れる。この服はあまり好みではないんだ」


 だったら使うな。変身するな。I2社でも何でも脅してイラストを書き直してもらってくれ。君の資金力なら可能だ。


龍「私の必殺技を使います、お召し上がり下さい、『滅びの炸裂疾風弾』です。ワーハハハハハッッッ!!!」


滅びの炸裂疾風弾 通常魔法
 「青眼の白龍」が自分フィールド上に表側表示で存在している時のみ発動する事ができる。相手フィールド上のモンスターを全て破壊する。このカードを発動したターン「青眼の白龍」は攻撃できない。


 ワハハの真似はもうやめて下さい。


典「「護」だ。破壊は無効になる」


風霊術−「護」 通常罠
 「ウィン」、もしくは「翠玉」と名の付くモンスターが相手の効果で破壊・除外・手札に戻される時のいずれかに発動可能。墓地の『風霊術』と名の付くカードを2枚除外する事でその効果を無効にする。


翠玉教皇−ウィン、破壊無効。
翠玉教皇−ウィン ATK3050−600+300=2750


龍「何て事するんですか? 炸裂疾風弾と言ったら私の得意料理ですよ? 瀬人様も大好きなんですよっ!?」
典「それで吹っ飛ぶのは誰だと思っている?」
龍「お嬢様です」
典「それはお断りだ」
龍「でしたらターンエンドです」


典子 LP4000
手札:2
モン:翠玉教皇−ウィン
魔罠:翠玉の館


典「光の護封剣だ、ターンエンド」
龍「ターンエンド」
典「ターンエンド」
龍「1枚伏せてターンエンド」
典「ターンエンド」
龍「1枚伏せてターンエンド。これで剣は切れました」


 まさか小説でこんなダメ展開になるとは… この判断をしたのはシミュレーターなんだよな? まあ、実際よくある現象なのだ、認めよう。


典子 LP4000
手札:4
モン:翠玉教皇−ウィン
魔罠:翠玉の館


典「来たぞ、「重奏」だ。「旋」と『サイクロン』を融合させ「嵐」を使う」


風霊術−「嵐」 融合魔法
 「風霊術」と名の付くカードとカードを破壊する効果を持つ魔法カードを墓地へ送り発動する。フィールド上のモンスターカード1枚を破壊し、相手に攻撃力分のダメージを与える。


龍「またですか?」
典「当然だ」
龍「わあっ!?」


白き龍を宿す娘、破壊。
木更津 LP3150→150


木「ああ… 本当に疲れるんですよ? 何度も繰り返さないで下さい」


 じゃあもうやめて下さい。


典「それがデュエルだ、いいだろう? もちろん「重奏」は回収し、1枚ドローする。ダイレクトアタックだ」


翠玉教皇−ウィン ATK2750+300=3050


木「『魔法の筒』…」
典「…」


 そう来たか、まさかこんな所でよくある光景になるとはな。場違いだ。


翠玉教皇−ウィン、攻撃無効。
典子 LP4000→950


木「LPが一気に追い付きましたね」
典「… 1枚伏せてターンエンドだ」


木更津 LP150
手札:2
魔罠:1


木「うふ、うふふふふ…」
典「どうした? 気でも触れたか?」
木「瀬人様ぁ〜、私達…繋がってるんですねぇ〜〜〜」


 そろそろ救急車呼ぼうか?


典「早くしろ」
木「『蘇る魂』で再び私の魂の姿となり…」
龍「ました。4回目となるともう体力が…」


 コントとしては最高だな。それだけで瀬人様も気に入ってくれるさ。


モ「終わったな」
龍「精霊デュオスと私を『融合』させます… 瀬人様の宿す精霊と、私の精霊が1つに…… 融合…私と瀬人様は、今1つに… ドッキングにドッキドキ…… もう我慢できない…気持ちいいっ!」


 もういい… 最後はアクエリ○ンっぽいぞ?


精霊デュオス 光 4 戦士族
ATK1900 DEF1500


ブルーアイズホワイトデュオスドラゴン 光 10 ドラゴン族
ATK3600 DEF3000
融合 「青眼の白龍」+「精霊デュオス」
 このカードは融合召喚でのみ召喚可能。上記以外のカードを融合素材の代用にする事は出来ない。このカードがバトルフェイズ中に2回攻撃する事ができる。


 表現不能の叫びと共に現れたのは、奇妙な形となったブルーアイズだった。剣士のようであり、龍でもある、不思議な生命体だ。何より、不思議度を激増させているのが…


龍「これが私と瀬人様の…1つになった姿…きゃっ」


 この人の声だ… 勝手にノロけて勝手にのた打ち回る龍、もう俺はこの世の何を見ても驚けない体になりそうだ。


朱「これが愛の力…」


 一方的だがな。


モ「さすがに木更津の勝ち確定だろ?」
龍「はいっ、そうです。私と瀬人様のラブラブパワーに勝るものはありませんっ。例えお嬢様でも邪魔するなら馬に蹴られて死んじまえですっ」
典「お前、人格変わったぞ」
龍「もう今の私は木更津幻白よりキサラの割合が多くなってますっ」


 これが古代エジプト人か? 日本語じゃないか。転生するうちに精神に異常をきたしたという事にしておこう。なるほど、あんな人やこんな人もそうに違いない。多重人格デュエリストの謎が解けた。論文を発表しよう。


朱「…」


 もちろん君の事もだ。


龍「行っきますよ〜、永遠のラブラブストリーム。ワーハハハハハッッッ!!!」
典「それは攻撃宣言か?」
龍「はい、とってもっ」
典「そうか、愛は強かった」


ブルーアイズホワイトデュオスドラゴン ATK3600  翠玉教皇−ウィン ATK3050
魔法の筒、発動。
ブルーアイズホワイトデュオスドラゴン、攻撃無効
木更津 LP150→0


龍「瀬人様の愛が私に…私の中にぃっ……」
木「もう…ダメェ………」


 最後まで不思議な人だった。前世の記憶を話したり、龍になったり戻ったり、あげくの果てに妄想を口に出しまくって失神した。確かにこの人がいれば退屈しないよ、典子ちゃん。


磯「勝者ぁっ、花京院典明ぃぃっっ!!」
典「典子だ」
磯「勝者ぁっ、花京院典子ぉぉっっ!!」
典「これがブチャラティさんの実力だ」
モ「バッカだろ? 勝ったのはお前のデッキだがな、そのデッキを使たのはブライトさんなんだよっ」
典「何?」


 俺は気付いていたぞ。デュエル開始宣言の少し後の行に注目してくれ。


モ「お前のヘタレマシンなんかをうちで使うわけないって事だ。分かったらとっとと帰りやがれ」
典「どちらにしても私かブチャラティさんに文句が言えるな、考えたなモクバめ」
モ「当然だぜっ」
典「待て、音声認識システムがオンになっている」
モ「それがどうした?」
ブチャラティさん「なにイィィィィィィィィッーーーッ!」
ブライトさん「何やってんのーっ!」
典「爆発するのか?」
ブチャラティさん「み…三沢だ、だ、大地ィィィ〜〜ッ? し、知らねえェ〜〜〜」
ブライトさん「み…三沢だ、だ、大地ィィィ〜〜ッ? し、知らねえェ〜〜〜」


 この瞬間、海馬コーポレーションの壁に大穴が開いたの見たのを最後に、俺の意識は飛んだ… そして俺が目覚めた時、目の中に入ってきたのは見慣れた病室の天井だった。横には風丸も寝込んでいた。俺はそんなに罪なのか?




   ―三沢が吹っ飛んだ間の出来事―


 ここからは花京院典子が解説する。私の作るシミュレーターはなぜか三沢大地を認識できない。そして今日、ブチャラティさんも爆発した。関係の無いブライトさんも同じ症状を起こした事からすると、メカではなく三沢に問題がある可能性も浮上した。


典「…」
朱「…」
モ「何だったんだよ、今のは? うわあっ?」


 少なくとも私は建物の外へ放り出されたはずだった。今度ばかりは助からないと思った。だが、私達は巨大な何者かの上にいる事を理解した。


磯「これは…青眼の白龍…」
龍「今のは危なかったですよ」
朱「木更津さん…」


 青眼の白龍の上にいた。木更津が助けてくれたのだ。ソリッドビジョンではない触感がする、前世の話は真実なのか。


龍「危ない機械は私のバーストストリームで消し飛ばしました。多少の犠牲は出ましたが、モクバ様とお嬢様、それに瀬人様の大事なビルは無事です」
朱「さよなら、三沢…」
龍「今日の事は瀬人様には秘密にしておいて下さいね」
磯「努力はしよう…」
典「悪かったな木更津、戻って来いなんて言って。お前は海馬コーポレーションが一番似合っている」
龍「はいっ、結婚式には必ず呼びます」
モ「兄サマいないのに勝手に決めるなっ!」


 もしもお前が海馬コーポレーションに行く事になったら必ず見てやってくれ。受付にいるはずだ、デュエルモンスターズ最強のモンスターを、この時代で初めての私の友達を…





今日の一言「ドローパンって賞味期限と原材料書いてあるのかな? 見れば中身がまる分かり。書いてなければ販売停止」

第7.5話 サンタクロースってモデルはニコラウスなんだからニコルでいいんじゃないのかな?

 俺は三沢大地、今日は最高の日だ。俺はエリカ君と2人でデパートに来ている。クリスマスイブに女の子連れでこんな所に来るとは、これは俺にもフラグが立ったのか? 出来るものならラブラブフラグが望ましい。




   〜デパート・前〜


エ「コーチンどんなのなら喜んでくれるかなー?」


 そういう事ですか、はい。ごめんなさい。


エ「私がプレゼント、ってダメかな?」


>[不純な行為は許さない
・[俺にもくれ


 阻止せねば。いざとなれば心のこもった品なら何でもいいじゃないか。呪いの品も心のこもった品も同じ、と最近誰かが言ったような気もするが。


三「エリカ君、サンタクロースが実在しないと知ったのは何歳の時だ?」
エ「サンタクロースって何〜?」


 そう来たか。


ギ「クリスマスに不法侵入して不審物を置いて行く住所不定のボケ老人ギゴ」


 なぜ飼い主が知らないでこのケダモノは知っている? たぶん言い方からして情報源は1人に絞られるが。


エ「それ言うならニコルだよ」
三「ニコル? 聖ニコラウスの略か? むしろ正しいが、正しいとは言い切れないな」
エ「ニコルは心の中で生きてるから大丈夫。ほら、こうやって目を閉じれば…」
三「閉じれば?」
エ「ボクの…ピアノ……」


 ブリッツの人か。


エ「ニィコルゥゥゥッッッ!!!」


 ニコル違いだぞ。まあいいや、エリカ君らしくていい。あの老人を見た者がいないのはミラージュコロイドを使っているからだ。新説だが、そういう事にしておこう。


ギ「…」
三「どうしたガガギゴ?」


「ペットのご入店はご遠慮下さい」 BYデパートの張り紙


ギ「…」
三「エリカ君、フォローしてやるんだ。飼い主だろう?」
エ「大丈夫、遠慮なんてしてたら人生損するよ。ガンガン行こうよ、ギゴちゃん」


 どんなフォローだ?


ギ「そうギゴ、ペットじゃないギゴ」


 こいつ、入る気マンマンだ。店員さんに迷惑かけるなよ。




   〜デパ地下〜


 数分後…


「ペットのご入店はご遠慮下さい」 BYデパートの張り紙


三「まるでガガギゴが見て見ぬふりをされているようだが…」
ギ「それはギゴの忍者レベルが三沢を超えたからギゴ」
エ「ガガギゴってね。夢とか希望とか持ってる子供にしか見えないんだよ」
三「そうなのか?」
エ「今作った設定。楽しいねー」
三「博士やミリアさんはどうなんだ?」
エ「…」
三「…」
エ「か、体は大人で頭脳は子供」
三「…」
エ「んーえ〜と、う〜ん…あっ、心は子供で頭脳はジジイ。完璧だね」
三「微妙に合ってるかもしれない…」
エ「それよりコーチンのプレゼント〜」
三「…」


 言ってあげた方がいいのだろうか、ここがデパ地下の惣菜売り場だと言う事を… 10分経ったら進言しよう。


ギ「ギゴ?」


 それよりも入店禁止の分際で試食品を貪り食うな。


・[俺も試供品を貪り食おう
>[俺はガガギゴを食べたい


 無理だった。意外とウマそうだが、今日は許してやろう。




   〜デパート・婦人服売り場〜


 十数分後…


「ペットのご入店はご遠慮下さい」 BYデパートの張り紙


エ「ねー、三沢先輩、この服コーチンに似合うよね?」


 進言した方がいいのだろうか、ここが婦人服売り場だと言う事を。


エ「これなら私が来ても不自然じゃなさそうだし〜」


 そりゃそうだ。


ギ「ギゴ?」


 それよりも入店禁止の分際で試着室を占拠するな。お前服着るのか?


>[力ずくで止める
・[服の不要さを体で示す


 何を考えている、俺は。




   〜デパート・屋上〜


 十数分後…


「ペットのご入店はご遠慮下さい」 BYデパートの張り紙


エ「わーい」


 進言した方がいいのだろうか、屋上の遊具で子供に混じって遊んでいていいのかどうかを。楽しそうな顔を壊してはいけない、黙っていよう。


ガキ共「「「オリャー」」」
ギ「ギゴ〜」


・[ガガギゴを助ける
>[さらば、ガガギゴ


 ガガギゴ、お前はそのままガキ共に揉み殺されてろ。




   〜デパート・レストラン〜


 十数分後…


「ペットのご入店はご遠慮下さい」 BYデパートの張り紙


エ「あれ〜? 何しに来たんだっけ?」


 もしかしてエリカ君はいつもこんな調子なのだろうか? 少なくとも俺の知るエリカ君はいつもこんな調子なのだが、耕介がタイミングよく補助していたため、事無きを得ていた。やはりエリカ君にとって耕介は欠かせない存在なのだ。


・[本当の事を教える
>[教えてやれ、ガガギゴ


ギ「もちろん霜降り和牛を買うためギゴ。あとガンプラ」


 それはお前のしたい買い物だ。


エ「違うよ〜、コーチンのクリスマスプレゼント」


 わざと忘れた振りしたんじゃないだろうな?




   〜デパート・玩具売り場〜


 十数分後…


「ペットのご入店はご遠慮下さい」 BYデパートの張り紙


エ「これいいな…」


 今度は何だ?


エ「超合金DX武田信玄…変形機構も完全再現…胸部ハッチから信玄モチを発射…初回限定で甲州軍鑑レプリカ同封…」


 どこからツッコめばいい? 誰が買うんだ?


・[俺が買ってあげよう
>[本来の目的は…


エ「9800円…」


 欲しいのかエリカ君? やめるんだ、そんな得体の知れない物体を買うな…


ギ「アグモン…似てるギゴ…」


 エリカ君、正直言うがそこでデジモンに共感しているガガギゴの方がまだ正常だぞ。


エ「…」


 買う気じゃないだろうな? そんな物を買ったらプレゼントが買えなくなるぞ。まさか、自分がプレゼント作戦を実行する気じゃないだろうな?


エ「…」
謎の女「…」


 ん? DX武田信玄を見つめる者が1人。20代中盤と思われる女性だ。俺の判断からして美人に見えるのだから世間もそう判断するのだろう。どこかで見た事のあるような顔だが、会った覚えは無い。清楚な顔をしておきながら派手なムカデ刺繍の入った服を着ている。ちなみにムカデは武田軍御用達のマークだ。エリカ君もそうなのだが、外見からは判断できない趣味を持った人もいる。外見が8割と宣言した男もいたが、否定したくてたまらなくなった。


エ「…」
女「…」
エ「…」
女「…」


 2人の手が同時にDX武田信玄へと伸びた。そしてDX武田信玄は1箱のみ。この展開、まさか。


エ「ふにゃっ!?」
女「え?」


 手がぶつかった。始まるぞ、DX武田信玄をめぐる低レベルな争いが。


エ「先生〜」
女「エリカさん?」


 知り合いなのか? それ以前に先生とは何ぞや?


エ「何で先生がこんな所に?」
女「エリカさんこそ1人でこんな所に来てはいけません」
エ「1人じゃないですよ〜」
三「どうも」
ギ「ギゴ」
女「いい存在感のお友達がいますね」


 どういう意味だ?


女「初めまして、武田レンです。武田信玄の子孫です」
ギ「よろしくギゴ」


 これもまたどこからツッコめばいい。二足歩行トカゲと握手する所か? それとも先祖の事か? つーか俺は無視か?


エ「おレン先生は地学の先生なんだよ」


 まあ、日本史や古文だったらそのまんまなんだけどな。


おレン先生「そういう訳で、このご先祖様の人形は私が購入します」


 どういう訳だ? それ以前にご先祖様を超合金で販売されたりしたら喜びより怒りが先に来ると思うぞ。


エ「先生〜、盗人猛々しい〜」
レ「私は武田家です」
エ「知ってますよ」
レ「よってこれは武田家の物です。家紋も付いています」
エ「私が先に見つけたんです」
レ「それを言うならこちらは数ヶ月前から目を付けていました」
エ「だったら予約して買って下さいよー」
レ「予約の仕方が分かりません」
エ「そういや予約ってどうするんだっけ? 今度コーチンに訊こっと」
レ「人に頼ってばかりではろくな大人になれませんよ」
エ「コーチンのお嫁さんになれば関係ありません〜」
レ「エリカさん、一応言ってきますが女同士は無理です。先生はそんな不純な事を許しません、先生悲しいです」
エ「コーチン男です」
レ「嘘はいけません、例え他の人は騙せても私は騙せません」
エ「また〜、それでも担任なんですかー?」
レ「改めて調べてみます」
エ「次会う時に必ずですよ〜」
レ「私があなたの担任である事を必ず証明してみせます、ご先祖様の名にかけて。なのでこれは私が買います」
エ「ダメ〜」


 楽しいぞ、この2人の会話、ものすごく噛み合っていないのに会話が続いているぞ。耕介、お前担任に女だと思われてるぞ。おレン先生とやらの性格のせいだとは思うがな。


レ「そうですか、それならば仕方がありません。何かしらの方法で決着を付けましょう」
エ「…」
レ「…」
エ「10倍モウヤン早食い競争」
レ「甲斐武者何人言えるかな」
エ「…」
レ「…」
エ「猫語犬語ガガギ語同時通訳試験」
レ「地学追試験」
エ「…」
レ「…」
エ「下克上」
レ「信濃統一。候補が6つも挙がりました、お好きなものをどうぞ」
エ「全部ムリ」
レ「無理ならば言わないで下さい」
エ「先生こそ信濃統一出来るんですかー?」
レ「ご先祖様に出来て私に出来ない事はありません。エリカさんこそ早く追試受けて下さい」
エ「私は平気です〜」
レ「そうでしたっけ?」
エ「こうなったら残った手は1つしか…」
レ「そうですね…」
 「「デュエルッ!」」


 どうなってるんだこの2人は? もしかして仲いいんじゃないか? 先生と生徒だけどな。





The Lost Ground 〜忘却の大地〜  第8話 風林火山ってよか風鈴違いだけど、ヒビ入ったガラスの風鈴を吊るしておくと色んな意味で涼しい日々を送れるよ

 俺は三沢大地、どんなシチュエーションなのか理解しがたい状況に立っている。時代劇ファンな外国人の少女と、自称武田家子孫の美人教師が、超合金DX武田信玄を巡ってデパートでデュエルを始めた。




   〜デパート・玩具売り場〜


「「私の先攻、ドロー」」
エ「…」
レ「…」
エ「先生、先にどうぞ」
レ「エリカさんこそ」
エ「…」
レ「…」
エ「コインが表なら私から、裏なら先生から」
レ「いいでしょう」
エ「えいっ」
レ「あら?」
エ「あー、このコインどっちが表?」
レ「では、こちらが裏ですから、こちらは…両面同じですね。両面裏なんて珍しい硬貨です」
エ「本当だー」


 わざわざそんな物を出さなくていい。硬貨なら他のもあるだろう。


レ「…」
エ「…」
レ「では、ダイスを振りましょう、偶数なら私からです」
エ「先生準備いい〜」
レ「振りました」
エ「…」
レ「…」
エ「割れちゃいましたねー」
レ「いえ、このダイスは合わせて7を出しました。奇数なのでエリカさんが先攻です」
エ「あ、はい。私の先攻」


 このダイス、闇のゲームか? なんだこの会話は? やる気あるのか? DX武田信玄を巡って争っているのではないのか?


ギ「ギゴが来てるギゴ」
エ「でもギゴちゃん以外のモンスター、デッキに入れてないよ」
ギ「エリアもモンスターギゴ」
エ「私モンスターじゃないもん、ガガギゴ召喚」
ギ「行くギゴッ、バトルモードッ!」
エ「『ギゴアマゾン』を置いて、1枚伏せて、終わり」
レ「楽しそうですね」
エ「ですよね〜」
レ「でも2人がかりは卑怯です」
エ「卑怯じゃないですー。そう、ギゴちゃんはペット」
レ「ペットのご入店はご遠慮下さい」
ギ「ひどいギゴーッ」


 すまん、俺の理解をさらに超えている。


レ「私のターンです。『高等儀式術』を使います。デッキからレベル1のモンスター3体を捨てて、精霊術師(エレメンタルマスター)ドリアード…つまり私ですが、を守備で降臨させます」


高等儀式術 儀式魔法
 手札の儀式モンスター1体を選択し、そのカードとレベルの合計が同じになるように自分のデッキから通常モンスターを選択して墓地に送る。選択した儀式モンスターを特殊召喚する。


精霊術師ドリアード 光 魔法使い LV3 ATK1200 DEF1400
 儀式 「ドリアードの祈り」により降臨。このカードの属性は「風」「水」「炎」「地」としても扱う。


 ああ、そうか。この人どこかで見た事あると思っていたらドリアード似だったのか。エレメンタルマスターでレン、語呂合わせもはなはだしい。それにしても、自分に似たカードを使うのが流行っているのか? I2社、この三沢大地をカード化してくれ。アルティメットレアでな。


エ「先生が2人になったー」
レ「エリカさんのように変身したりする真似は出来ません」
エ「そういう歳でもないですしね〜」
レ「淑女は年齢を言わないものです」
エ「はーい」


 で、この人何歳なんだ? (解答:32歳)


レ「まだ通常召喚をしていません、ワイトキングを通常召喚です。攻撃力は今墓地に送ったワイト3枚で3000になります」


ワイトキング 闇 アンデット LV1 ATK? DEF0
 このカードの元々の攻撃力は、自分の墓地に存在する「ワイトキング」「ワイト」の数×1000ポイントの数値になる。このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、自分の墓地の「ワイトキング」または「ワイト」1体をゲームから除外する事で、このカードを特殊召喚できる。


ワイトキング ATK3000


 どんなデッキなんだ? 高等デミスドーザーなどは知られているが、高等ドリアードワイトなど聞いた事ないぞ。まあ、ガガギゴデッキも同等なキワモノなのだが。


レ「では、攻撃します。ワイトキングです」
ギ「エリカちゃん、どうにかしてギゴ」
エ「じゃあ、罠。「毘」」


水霊術−「毘」 装備罠
 「エリア」、もしくは「ギゴ」と名の付くモンスターにのみ装備可能。攻撃力300アップ。装備モンスターが相手モンスターを破壊した時、1度だけ続けて戦闘を行う事が出来る。


ガガギゴ ATK1850+300=2150


レ「な、なんという文字を掲げるのですか? 先生それは許しませんよ? そのトカゲを粉々にします。さようなら、トカゲさん」
ギ「えーっ!?」
エ「大丈夫、ギゴちゃんは助かるから」
ギ「ギャーッ!」


ワイトキング ATK3000  ガガギゴ ATK2150
ガガギゴ、水霊術−「毘」を墓地に送って生存。
エリカ LP4000→3150


レ「その文字を私の前に出さないで下さい」
エ「先生怒り過ぎ〜」
ギ「ありがとうギゴ、エリカちゃん」
レ「では、2枚伏せてターンエンドです」


 一応言っておこう、「毘」は上杉家の軍旗に書かれた文字だ。武田とは犬猿の仲というやつだ。だが、どこが水霊術なんだ? まあ、ワイトを出すどこが武田なのかも分からないが。


エリカ LP3150
手札:4
モン:ガガギゴ
魔罠:ギゴアマゾン


エ「「桔梗」。ガガギゴとワイトキングを生贄にして、ゴギガ・ガガギゴ召喚。行くよ、ギゴちゃん」
ギ「敵は本能寺にありギゴッ!」
レ「まあ」


水霊術−「桔梗」 通常魔法
 「エリア」、もしくは「ギゴ」と名の付くモンスターが自分フィールド上に存在する時のみ発動可能。相手の場のカードを自分のコストとして1枚だけ使ってもいい。


 一応言っておこう、桔梗とは明智家の家紋だ。もう何も言わないよ、エリカ君。


エ「先生、やっちゃいますよー。ゴギガ、ギゴギゴギッタギタ〜」
ギ「ゴギガ、ギゴギゴギッタギターッ!」


 変な攻撃名だ。エリカ君らしいくていい感じだが。


ゴギガ・ガガギゴ ATK2950  精霊術師ドリアード DEF1400


レ「『風林火山』を使います」
エ「あれ? でも先生は今1人ですよ?」
レ「余計な事は言わないでドリアードの効果と照らし合わせて下さい。さようなら、トカゲさん」
ギ「今度こそダメギゴ〜」


風林火山 通常罠
 風・水・炎・地属性モンスターが全てフィールド上に表側表示で存在する時に発動する事ができる。次の効果から1つを選択して適用する。
1:相手フィールド上モンスターを全て破壊する。
2:相手フィールド上の魔法・罠カードを全て破壊する。
3:相手の手札を2枚ランダムに捨てる。
4:カードを2枚ドローする。


風林火山1。ゴギガ・ガガギゴ、破壊。


 なるほど、相性のいいカードだ。武田とドリアードの関係は…微妙だ。


エ「じゃあ、『早すぎた埋葬』でゴギガを帰って来させるね。1枚伏せてターンエンド」


エリカ LP3150→2350


ギ「デジモンよ…私は帰って来た…ギゴ…」


 変な帰り方をするな。それにソロモンの間違えだ。お前は核爆してろ。


おレン先生 LP4000
手札:3
モン:ドリアード


レ「それでしたら『精霊術−「疾如風」』を使って埋葬とアマゾンを飛ばします。さようなら、トカゲさん」
ギ「二度と忘れん…ギゴ…」
エ「あ〜」


精霊術−「疾如風」 速攻魔法
 「エレメンタル」と名の付く風属性モンスターが自分フィールドに存在する時のみ発動可能。相手の魔法・罠カードを2枚まで破壊する。


 どの辺が精霊術なんだ? 教えてくれ。


レ「「徐如林」で2枚ドロー、さらに「侵略如火」を使います。私の攻撃力は上がります」


精霊術−「徐如林」 通常魔法
 「エレメンタル」と名の付く水属性モンスターが自分フィールドに存在する時のみ発動可能。2枚ドローする。


精霊術−「侵略如火」 装備魔法
 自分フィールドの「エレメンタル」と名の付く火属性モンスターのみ装備可能。攻撃力1000アップ。貫通ダメージを与える。


精霊術師ドリアード ATK1200+1000=2200


レ「そして、侵略します」
エ「リビングデッド、ゴギガをまた出すよ」
ギ「ギゴゾンビギゴー」
レ「でしたら攻撃しません。「不動如山」を使い、1枚伏せてターンエンドです」


精霊術−「不動如山」 永続魔法
 「エレメンタル」と名の付く地属性モンスターが自分フィールドに存在する時のみ発動可能。相手モンスターは攻撃する時、攻撃力が1000下がる。「エレメンタル」と名の付く地属性モンスターが自分フィールド上からいなくなった時、このカードは破壊される。


 風林火山の単体ヴァージョンも一気に披露したぞ、どんな引きなんだ?


エリカ LP2350
手札:1
モン:ゴギガ・ガガギゴ(リビングデッド)


エ「来た…」
ギ「来たギゴね」
エ「私も出るよ、水霊使いエリアを召喚」
レ「いいですね、エリカさんは自分で戦えて」
エ「先生もやってみたらいいんじゃないですかー?」


 久々だな、エリア。今気付いたんだが、デパートでデュエルしていたんだ。観客が集まっているぞ。エリカ君、それでいいのか?


ギ「行くギゴッ!」
エ「コンタクト融合っ!」
「「ジュワッ!」」


 ジュワ? エリアとガガギゴの融合体、それはどんな姿なのか…


アリエエエリア 水 魔法使い族 LV6
ATK? DEF?
融合 「水霊使いエリア」+「ギゴ」と名の付くモンスター(アリエエエリアを除く)
 このカードは融合召喚できない。場の素材となるモンスターを除外する事でのみ特殊召喚できる。
 このカードはギゴと名の付くカードとしても扱う。
 このカードの元々の攻撃力と守備力は素材にした「ギゴ」モンスターと同じになる。
 このカードの攻撃力は墓地もしくはフィールドの、このカード以外の「ギゴ」と名の付くカード1枚につき300ポイントアップする。


アリエエエリア ATK2950+300×2=3550


 期待外れだ。名前からしてな。外見もエリアがガガギゴの着ぐるみを着ただけだ。他の憑着はなかなかのものだったが、これは…


エ「アリエエエリア、推・参っ!」
レ「かわいい…」
ギ「力がみなぎるギゴッ!」


 着ぐるみが喋った。ガガギゴが喋るだけでも十分バケモノなのだが。


エ「先生、私勝ちに行きますよ〜 ギゴ水霊術奥義・必殺仕事三味線撃〜っ!」
レ「ですが効果で攻撃力は1000下がります」


アリエエエリア ATK3550−1000=2550  精霊術師ドリアード ATK2200


エ「攻撃力ならこっちが上です」


 エリカ君、それは縁起悪い言葉だぞ。


レ「いい言葉です、『キツツキ戦法』を発動します」


キツツキ戦法 通常罠
 相手が攻撃宣言をした時に発動可能。コインを投げ、表裏で効果が変わる。
表:相手攻撃モンスターを破壊する。自分の墓地のモンスターを1体特殊召喚してもいい。
裏:自分の攻撃されるモンスターは墓地へ送られ、自分のLPは1000減る。


 キツツキ戦法か、確か川中島で失敗した奇襲作戦だな。これも縁起悪いぞ。


エ「最後は運ですよね」
レ「全くです。では、戦の決着を天に任せましょう」


 いや、待て。2人とも何かを忘れていないか? そのコイン、両方裏だぞ。自爆したな、おレン先生。


エ「裏ですよ〜」
レ「そうですか…」
エ「トドメです。ギゴ水霊術奥義・助格懲らしめ印籠砲〜っ!」


 奥義の名前、変わってないか?


精霊術師ドリアード、破壊。
精霊術−「不動如山」、破壊。
おレン先生 LP4000→3000
アリエエエリア ATK3550
ダイレクト。
おレン先生 LP3000→0


エ「勝っちゃいました〜」
レ「これも武田の定め、です… DX武田信玄はエリカさんのものです…」


 そうだった、DX武田信玄を賭けた戦いだった。そもそも耕介のプレゼントを買いに来たのだが、それは言わないであげよう。


エ「あれ〜?」
レ「勝者は勝者らしく…え?」
エ「信玄は? どこ行っちゃったの?」


 2人が争っている間に別の誰かが買ったんだろう。そうに違いない。信玄ファンの子に送られるんだ、信玄も本望だろう。店員さんへの迷惑な聞き込みの結果、可愛い女の子が買って行ったとの事だ。3人目の変人は本当にいたのだ。当初の目的をすっかり忘れたエリカ君は帰路についた。


レ「風林火山風林火山風林火山…」


 相当ショックらしい。怖いよこの人。


木更津「ひどいです瀬人様…今日明日と空けておいたというのに会議だなんて…」


 む、あれは自称ブルーアイズの木更津さん。ブルーアイズ戦闘機のプラモを大人買いしている。正気か?


レ「川中島川中島川中島…」
木「いえ、これもプレイの一環…そうなのですね?」
レ「ん…?」
木「あ…」


 出会っちゃったよ。出会っちゃいましたよ、とんでもない2人が。


レ「…」
木「…」


 何か意気投合してますよ。俺に分からない手法で交信してますよ。怖いですよ。あ、交信終了。呑みに行く事になったようだ。


木「言っておきますが、1バレルは呑みますよ」
レ「ご冗談を」
木「こう見えても龍なんです」
レ「でしたら私は武田の子孫です。なので甲斐の虎です」


 …


 ん…? 今日は違和感があるな… そうか、今日の俺は誰にもやられていない。以前の分をまとめてみよう。


1話…不良に雑誌で殴られて気絶
2話…急性もけもけ中毒で搬送
3話…1週間飲まず食わずで行き倒れ
4話…飛騨君の爆熱ゴッドフィンガー
5話…アブドゥルさんの爆発に巻き込まれる
6話…典子ちゃんに麻酔銃で撃たれる
7話…バーストストリームっぽいのにやられる


 おお、負のジンクスから抜け出したぞ。


耕「じゃあ、8話…耕介の秘拳の前に成す術もなく倒れる」
三「お前、いつの間に?」
耕「このツボを突かれた者は10秒後に内部破裂を起こす」
三「何、やめろぉーっ!?」
耕「神よ種も仕掛けも無い事をお許し下さい、3・2・1・キュッ」


・[俺はもう死んでいる
>[死ぬのはイヤッ


 破裂など起こしてたまるか、こうなったら仮死状態になって生き永らえてやる。


耕「ゴメン、本当は意識が飛ぶだけなんだ」




   ―後日談―


 翌日、つまりクリスマスの朝…


エ「くぴー、すかー」
耕「とっとと起きやがれエリカァッ!」
エ「あと10年…」
耕「ドラァッ!」
エ「クピスカルビショップッ?」
耕「は? 起きたら変なのが落ちてるんだけど。不審物だし、警察に届けていい?」
エ「コーチン…? ………それ、DX武田信玄〜」
耕「そうなんだ」
エ「何でうちにあるの?」
耕「ニコルの陰謀じゃない?」
エ「わあ…」
耕「でも、ここは僕の部屋だから、これは僕の物」
エ「じゃあコーチンの部屋にいあるから、私もコーチンの物〜」
耕「ヤダ」
エ「ダメ?」
耕「ダメ。手切れ金でこの不審物あげるから、それでいい?」
エ「うん」
耕「やれやれ」
エ「コーチン…ありがと…」




   〜路上〜


 …


 ふと辺りを見回してみると朝だった。10秒? 笑わせるな。耕介、俺はお前の秘拳になど負けなかったようだ。もはや俺に恐れるものなど何もない。


???「何やってんだ、三沢?」
三「お前は…誰だ?」
???「万丈目サンダー」
三「サンタじゃないのか?」
万丈目「何を言っている?」
三「どこにでも出て来る奴だな、そのくせ消えるのもうまい」
万「鏡を見て言え」
三「何の事だ?」
万「胸に手を当ててよく考えてみろ」
三「その服…ブラックサンダーか」
万「終わったぞ、光の結社編は」


 何ですとーっ!





 「The Lost Ground 〜失われた地霊使いの物語〜」へ続く



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