ジ・アブソリュート・ディスティニー
１７章〜
製作者：？？？ネオスさん
１７章：再会と女王
「しょ勝者、尾瀬呂学園 相馬十悟！！これで３対２、尾瀬呂学園が童実野高校を下してまず１勝をおさめた！！」
会場中にアナウンスが響く。
そして一気に会場が沸き立つ。
割れんばかりの拍手と歓声。
まるでプロデュエルのような状態が長く続いた。
十悟たちは勝利の余韻にひたりながらも、すぐに会場を後にした。
その日の夕方からプロリーグのデュエルがあるというのだ。
全部借りておけというツッコミがありそうだが…。
選手専用の通路を７人揃って歩く。
勝利したからなのか皆どこか軽い足取りだった。
「あの、お姉ちゃん！童実野高校戦の勝利、おめでとう！！」
透き通るようなブラウンの髪。
大きな瞳の少女が話しかけてくる。
鮮やかな青のスカートが特徴のデュエルアカデミア、オベリスクブルーの制服を着ている。
少女はゆっくりと近づき、朝子の前で足を止める。
メンバーの視線も自然と朝子に集まる。
今まで仲間と楽しく話していた朝子の表情に少しずつ変化するのが分かる。
顔を少し強ばらせ、怒りとも悲しみともつかない切なげな表情だ。
「私は・・・私はタッグデュエルで負けたのよ！十悟や澪たちが頑張ったから、尾瀬呂は勝てたの。そのくらい見てればわかるでしょ！！」
朝子は冷たく言い放ち、少女を避けながら歩いていく。
勝利から一転、メンバーの空気が重くなる。
皆、何と言っていいのか言葉に困っている状態だ。
朝子は振り向かずに口を開く。
「もう…いいじゃない。私の母とあなたの父が結婚しなければ私達は他人同士。母が死にあなたの父に拒絶された私はもう姉でも何でもないのよ！！」
消えそうな声でゆっくりと話す。
その後ろ姿からも怒りと悲しみが伝わってくる。
何も言えずにいた少女は悲しそうに口を開く。
「ご、ごめんなさい」
「謝っても…謝っても母はもう…戻って来ない！夕汰だって！！皆、ごめん！先に帰ってるね。」
朝子はそう言って走り出す。
彼女の大粒の涙が流れるのが分かった。
「あ、朝子待ってよ。」
真っ先に久美が彼女を追いかけた。
澪、いつき、迎人がそれに続くように走りだした。
それとすれ違うように少年が近付いてくる。
髪の色も少女と一緒。
オベリスクブルーの制服に身を包んだ少年だった。
「美月は悪くない！だから言ったんだ！今更、過去の事を掘り返しても無意味だと！！」
「でも…戻りたいよ。楽しかったあの頃に…。」
少女は涙を流しながらつぶやく。
悲しい気持ちが抑えられずに膝をついて泣き崩れる。
少年は少女を励ましながら十悟の方を見る。
「十悟兄ぃ、久しぶりだな。悪いんだけどこれを姉さんに返しておいてくれないか？」
少年は黒いカードケースを取り出して十悟に手渡す。
カードは何も入っていない。
少し古くなってはいるが、使われていない新品のようなケースだ。
「夕汰君のケースだね。」
「ああ。姉さんが置いていったものだ。あの…あのさ、俺たちの親父も悪気があったわけじゃねぇと思うんだ。」
少年はそこで言葉を詰まらせる。
わずかな沈黙が流れる。
十悟はゆっくりと口を開く。
「朝子だってそれは分かっていると思う。だから今度会う時はデュエリストとして、朝子に堂々としたデュエルを見せてほしい！！」
「それでもお姉ちゃんは…。」
「美月、今日は帰ろう。明日は童実野高校とのデュエルがある！」
少年が少女を支えるようにして歩きだす。
十悟にはそれ以上彼らになんと声をかけていいのか分からなかった。
事情を知っているだけに…。
「十悟君・・・。」
「智花、僕の頼みを聞いてもらえるかな？」
「いいですけど、私に何が？」
「もちろん、デュエルさ。詳しい話はあとでするよ。先に帰っていて。」
十悟はそう言って黒須たちが残っている会場の方に走っていった。
智花は追いかけて行こうか迷ったがホテルに戻る事にした。
強引についていくのは自分らしくない…そんな気がしたのだ。
朝子は一足早くホテルに到着していた。
部屋に鍵をかけ久美や澪が声をかけても出てこない。
あの日の記憶が何度も何度も頭の中で渦を巻く。
できる事なら忘れたい記憶が…。
いつしか朝子は眠りについていた。
この夢も何度みただろう。
始まりはそう、十悟のお父さんの言葉から…。
「被告人：山本花子は勤務する『童実野総合病院』に出産のために入院していた『反町貴子』に誤って別の薬を投与し、死亡させた・・・・。さらに・・・。」
母は殺されたのだ・・・。
生まれてくるはずだった赤ちゃん。
母と一緒に考えた『夕汰』という名前。
一緒にデュエルする事を考えてカードケースも用意した。
父は母が再婚してできた新しい父親だ。
双子の兄妹を男手一つで育てている姿に共感を覚えたと母から聞いた事があった。
三人とも悪い人ではない…。
でも、私は知ってしまったのだ。
あの日、母に投薬した看護士に二人が何度も一緒に遊びたいとだだをこねていた事。
それが原因で薬を取り違えていた事も。
小さい私一人が主張しても簡単には信じてもらえないこと・・・信じてもらえても、兄妹には罪を背負わせる事はできない。
でも、父には分かって欲しかった。
結局それは叶わなかったのだけれど。
自分の『本当の子供』の方がかわいいのだと無理やり自分を納得させた。
何時間しただろうか？
突然、部屋の電話が鳴り響く。
「十悟？久美かな？」
すっかり心配をかけてしまったと今更ながら後悔した。
ゆっくりと受話器を手に取り耳を当てる。
それは十悟でも久美からの電話でもなかった。
「ど、どうしてあなたが？え、ええ分かったわ！！」
朝子は部屋を飛び出す。
なぜあんな人物が私を呼び出すのか？
想像がつかない。
いや、分かるかもしれない
彼女はゆっくりと扉を開ける。
そこは巨大なコンサートホールのような所だ。
勇壮で優雅、可憐で力強い音色が流れている。
ステージ上に高級そうなピアノを少女が弾いている。
観客もいないそのコンサートはしばらく続いた。
朝子はそっと前列の席に座る。
その第一楽章が終わると同時に少女は立ち上がる。
「初めまして反町朝子さん！私（わたくし）、天王寺つかさと申します！」
「なぜあなたが私を呼んだのよ！？」
朝子は自分を呼んだ理由を問いかける。
自分の想像した通りの答えが返ってくるのか…。
それとも。
「私が女王だからです！！女王は愚民をいかなる時も呼び出す事ができるのですわよ！」
「愚民ってあんたねぇ！！」
自分はからかわれているのかと思うような答え。
人を小馬鹿にしたような話し方に怒りを覚える。
「失礼！でも姉であるあなたが私の大好きな人を苦しめている事は許せませんことよ！！」
「ああ！彼は私の弟でも何でもないのよ！！勝手にすればいいわ！！」
朝子は怒って答える。
自分でも大きな声を出してしまった事がわかる。
ホールに思いっきり響き渡る。
「弟！？何を勘違いされてますの？私が好きなのは反町美月の方ですわよ！！」
「え！？」
朝子は固まった…。
デュエルアカデミアの女王が何と言うカミングアウト！？
冗談なのか…。
どこかに隠しカメラとかがあって…。
大会に合わせたドッキリ企画とかがあってもおかしくない。
そう思ったがどうやら冗談ではないらしい。
「あなたを呼び出したのは、あなたに改心して頂くためですわよ！！もちろんデュエルで！！ただでとは言いませんわ！このカードを美月から預かってますのよ！！」
「受けるわ！！そしてそのカードは返してもらう！！」
余程大切なカードなのか？
朝子はデュエルを受けた。
持ってきたデュエルディスクを構える。
反町朝子：ＬＰ８０００
天王寺つかさ：ＬＰ８０００
「デュエル！！」
つかさも自分のディスクを構えて臨戦態勢をとる。
女王たる風格と闘志！
朝子はそれを感じていた。
「それでは私から行かせていただきますわ！！カードドロー。」
「デュエルアカデミア最強のデュエリスト！！相手にとって不足はないわ！！」
朝子をまっすぐ見据えながらつかさはドローする。
スポーツ選手のパフォーマンスはそれだけで美しいと言うが、彼女のドローもそれと同じ。
一瞬ではあるが朝子を魅了した。
「いきますわよ！手札の『終焉龍-導きのランスロット』を墓地に送り、デッキから『終焉のカウントダウン』を手札に加え、ライフを２０００支払う事で発動しますわ！！さあ、死神が今ここに舞い降りましたわよ！」
終焉龍-導きのランスロット ☆４ 地属性 ドラゴン族
ＡＴＫ１４００ ＤＥＦ１２００
「このカードを手札から墓地に捨てる。デッキから『終焉のカウントダウン』１枚を手札に加える。『終焉のカウントダウン』が発動している時、このカードが戦闘によって破壊され墓地に送られた場合、『終焉のカウントダウン』のカウントを２つ進める。この効果でカウントを２０とすることはできない。」
終焉のカウントダウン 通常魔法
「２０００ライフポイントを払う。発動ターンより２０ターン後、自分はデュエルに勝利する。」
つかさの言う通りフィールドの上空に不気味なドクロが浮かぶ。
そして丁度右上に炎が１つ灯される。
ドクロにも生命が宿ったかのように朝子を睨みつける。
反町朝子：ＬＰ８０００
天王寺つかさ：ＬＰ８０００→６０００
終焉のカウントダウン
カウント：１
「手札から『未来融合−フューチャー・フュージョン』を発動させますわ！！デッキから『終焉龍-不滅のパーシヴァル』『ボマー・ドラゴン』『ブリザード・ドラゴン』『レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン』２枚を墓地に送り『Ｆ・Ｇ・Ｄ』を対象にします！さらに『龍の鏡』を発動！エクストラデッキから『Ｆ・Ｇ・Ｄ』を特殊召喚ですわ！！」
未来融合−フューチャー・フュージョン 永続魔法
「自分のデッキから融合モンスターカードによって決められたモンスターを墓地へ送り、融合デッキから融合モンスター１体を選択する。発動後２回目の自分のスタンバイフェイズ時に選択した融合モンスターを自分フィールド上に特殊召喚する（この特殊召喚は融合召喚扱いとする）。このカードがフィールド上に存在しなくなった時、そのモンスターを破壊する。そのモンスターが破壊された時このカードを破壊する。」
龍の鏡 通常魔法
「自分のフィールド上または墓地から、融合モンスターカードによって決められたモンスターをゲームから除外し、ドラゴン族の融合モンスター１体を融合デッキから特殊召喚する。（この特殊召喚は融合召喚扱いとする）」
Ｆ・Ｇ・Ｄ ☆１２ 闇属性 ドラゴン族
ＡＴＫ５０００ ＤＥＦ５０００
「このモンスターは融合召喚でしか特殊召喚できない。ドラゴン族モンスター５体を融合素材として融合召喚する。このカードは地・水・炎・風・闇属性モンスターとの戦闘によっては破壊されない。（ダメージ計算は適用する）」
ボマー・ドラゴン ☆３ 地属性 ドラゴン族
ＡＴＫ１０００ ＤＥＦ０
「このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、このカードを破壊したモンスターを破壊する。このカードの攻撃によって発生するお互いの戦闘ダメージは０になる。」
ブリザード・ドラゴン ☆４ 水属性 ドラゴン族
ＡＴＫ１８００ ＤＥＦ１０００
「相手フィールド上に存在するモンスター１体を選択する。選択したモンスターは次の相手ターンのエンドフェイズ時まで、表示形式の変更と攻撃宣言ができなくなる。この効果は１ターンに１度しか使用できない。」
レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン ☆１０ 闇属性 ドラゴン族
ＡＴＫ２８００ ＤＥＦ２４００
「このカードは自分フィールド上に存在するドラゴン族モンスター１体をゲームから除外する事で特殊召喚する事ができる。１ターンに１度だけ、自分のメインフェイズ時に手札または自分の墓地から「レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン」以外のドラゴン族モンスター１体を自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。」
フィールドには巨大な龍が現れる。
５つに別れる首からはそれぞれ違う属性の龍が顔を見せる。
その圧倒的な力は名だたるデュエリスト達も畏怖するほど。
朝子もそれを肌で感じていた。
「く、いきなり攻撃力５０００なんて…。」
「まだですわよ！『終焉龍-計略のアレミラ』を通常召喚！このカードをリリースすることで手札の『終焉龍-絶望のヘディウェア』を特殊召喚ですわ！！」
体は小さいが黄金色に輝く仔竜が現れる。
全身が光に包まれると次の瞬間、別のドラゴンがその場には現れる。
不気味な紫の龍。
巨大な鍵爪をまっすぐ朝子に向ける。
「ヘディウェアの効果を発動しますわよ！場の『Ｆ・Ｇ・Ｄ』をリリース！！」
「最強クラスのモンスターをリリース！？」
「ヘディウェアの効果はリリースしたモンスターのレベル分だけ『終焉のカウントダウン』のカウントを進める！よってカウントは・・・１３！！」
終焉龍-計略のアレミラ ☆１
ＡＴＫ１００ ＤＥＦ１００
「『終焉のカウントダウン』が発動している時、このカードをリリースすることで手札の『終焉龍』と名のつくモンスターを特殊召喚する事ができる。『終焉のカウントダウン』のカウントが１０以上の時、このカードをリリースすることで自分の墓地から『終焉龍』と名のつくモンスターを２体特殊召喚する」
終焉龍-絶望のヘディウェア ☆９ 水属性 ドラゴン族
ＡＴＫ２８００ ＤＥＦ２３００
「自分の墓地に存在する『終焉龍』と名のつくモンスターを３枚除外した場合、このカードを手札から特殊召喚することができる。自分のフィールド上のモンスター１体をリリースすることでそのモンスターのレベル分だけ『終焉のカウントダウン』のカウントを進める。この効果で『終焉のカウントダウン』のカウントを２０とすることはできない。」
巨大な龍がフィールド上空に浮かぶドクロに吸い込まれていく。
ドクロは生け贄を得て不気味な笑い声を上げる。
次の瞬間、ドクロの周りに次々と炎が灯る。
１、２、３・・・・・。
終焉のカウントダウン
カウント：１３
「さらにフィールド魔法『終焉の大渓谷』を発動！！ターンエンドですわよ！！」
周囲はさびれた渓谷に広がる。
建物もなければ植物もほとんど生えていない。
おおよそ女王と呼ばれるデュエリストが発動するフィールド魔法には見えない。
朝子はもう一度周囲を見回してつかさに目をやる。
１８章：最後のカウント
一方
尾瀬呂のメンバー
「何だって！！朝子がいない！！」
十悟たちは久美の話を聞いて大声を上げる。
久美は朝子に何度声をかけても返事が無いのを心配したのだ。
迎人、智花、いつき、澪も集まって６人が揃った。
「探そう！もしもの事…なんて考えたくはないけれど、朝子たち姉妹（弟）の関係は僕らの想像以上に深刻だ！！」
十悟の言葉に皆がホテルの各階に散って行った。
さすがに海馬コーポレーションの関連会社だけはある。
広大な敷地に充実の設備。
ただ、今はそれが彼らの手間を増やしているのだが…。
「十悟、俺はレストランフロアに行ってみる！！」
「ああ、僕はこのままコンサートホールに！！」
迎人と十悟は分かれ道で二手に別れる。
迎人が何か買い食いでもするためにあちらを選んだ気がしないでもなかった。
「待て！！ここから先は立ち入り禁止だ！！決して貴様の仲間がいる（うっかり）なんて事はないぞ！！」
「・・・じゃあ、進ませてもらうよ！！」
仁王立ちしたアカデミアの生徒らしき少年の言葉に反射的に答える。
少年はデュエルしかない。
そう言わんばかりにディスクを構える。
十悟もデッキをディスクに装着して臨戦体勢をとる。
「ならば、アカデミアの精鋭中の精鋭『女王親衛隊』を倒してからにするがいい！！」
女王親衛隊 ☆４ 地属性 戦士族
ＡＴＫ１７００ ＤＥＦ１２００
「このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する限り、自分フィールド上に存在する『魅惑の女王』と名のついたモンスターを攻撃対象に選択できない。」
そんなカードもあった事を思い出す。
後ろに何人いるか分からない！！
でも、倒して行こう！
そう考えて十悟もデュエルディスクを構える。
「デュエル！！」
一人また一人とデュエリストが倒れていく。
名門、デュエルアカデミアの生徒たちが。
彼らのライフがほとんど減っていないのは言うまでもない。
「ま、待て・・・話せばわかる！！いや、デッキ破壊ってのはどうかと思うぞ！！」
追い込まれた少年は何をしたらいいのか分からず混乱している。
十悟はそれを見て一歩前に出る。
少年は一歩下がりながら考えをめぐらす。
「デュエルしないのならば、そこをどいてもらえますか？」
「そ、そうだ。クイズだ！！クイズに答えてもらう！我らが偉大なる神田次男先輩のデュエルを基に作り上げたクイズだ！！第１問、罠カード『大革命』の発動に必要な３枚のカードは？」
少年は間髪いれずに問題を出す。
十悟は少し考えたが迷わず答える。
「『逃げまどう民』『弾圧される民』『団結するレジスタンス』の３枚！！」
弾圧される民 ☆１ 水属性 水族
ＡＴＫ４００ ＤＥＦ２０００
「いつの日か自由を手にする事ができると信じて日々の生活に耐えている。」
逃げまどう民 ☆２ 炎属性 炎族
ＡＴＫ６００ ＤＥＦ６００
「いつも苦しみに耐えているが、いつか必ず革命を起こすと心に誓っている。」
団結するレジスタンス ☆３ 風属性 雷族
ＡＴＫ１０００ ＤＥＦ４００
「強大な力に立ち向かう誓いを交わすために集結した人々。革命の日は近い。」
少年は間違いが無いかカードを見ながら確認する。
答えを当てられ少しがっかりしながら、次の問題を見る。
どうやらカードケースにメモを忍ばせているらしい。
「第２問、ガガギゴ ギガ・ガガギゴ ゴギガ・ガガギゴを３回言え！！」
ガガギゴ ☆４ 水属性 爬虫類族
ＡＴＫ１８５０ ＤＥＦ１０００
「かつては邪悪な心を持っていたが、ある人物に出会う事で正義の心に目覚めた悪魔の若者。」
ギガ・ガガギゴ ☆５ 水属性 爬虫類族
ＡＴＫ２４５０ ＤＥＦ１５００
「強大な悪に立ち向かうため、様々な肉体改造をほどこした結果恐るべきパワーを手に入れたが、その代償として正義の心を失ってしまった。」
ゴギガ・ガガギゴ ☆８ 水属性 爬虫類族
ＡＴＫ２９５０ ＤＥＦ２８００
「既に精神は崩壊し、肉体は更なるパワーを求めて暴走する。その姿にかつての面影はない・・・。」
「クイズですよね・・・？」
「だよなぁ。これはいいや。第３問、１０秒以内に腕立て伏せを２０回しろ！！」
「あの・・・だからクイズ・・・（絶対無理だと思う。物理的に）」
クイズらしいクイズはまだ『大革命』の発動条件だけ…。
正直デュエルと関係性の薄いものが続く。
「そ、そうだなぁ。これもダメと。第４問、テキストが５０字以下のカードをドローせよ！」
「（良く分からないけど）ドロー。僕のカードは『煉獄焚書』・・・・２９文字という事は正解という事でいいかな？」
煉獄焚書 通常魔法
「ライフを１０００支払うことで、相手デッキを５枚墓地へ送る。」
相手を有利にする可能性が高いので最近は作者も使用を控えています。
ただ、デッキ破壊の数合わせには使えます。
ディスティニー・ブレイカーには出ていたような・・・。
「いいだろう！第５問、１分間息を止めろ！」
「だからクイズ・・・（普通に死にそうな気がするのだけど）」
それは自分で自分の息の根を止めろと同義のような…。
そして、クイズなのに語尾が命令口調なのはなぜなのか？
いろいろ疑問は尽きない。
「俺も無理だ！第６問、俺のドローしたカードに描かれたモンスターの数は？ドロー。きた〜！！『百獣大行進』だ！！さあ答えろ！」
「僕も『遊戯王カードWiki』は見るんだ！正解は２１体だよ！！」
作者は数えていません。
一応あのＨＰを信用すると言う事で。
「ふふふ。やるな！さすが我が最大のライバル！！行くぞ！第７問、特殊な勝利条件を発生させるカードを３つ答えよ！！」
「（いつの間にかライバルになってる・・・）まずは童実野のエース、阿紋君が使う『エクゾディア』、２つ目はプロフェッサーコブラの『毒蛇神ヴェノミナーガ』、最後は君たちの女王の『終焉のカウントダウン』でいいかな？」
「ここまでやるとはな。正直驚いた。（ネタがないぞ・・・どうする？）よし、１０回クイズだ！！まずは、『ピケル』と１０回言ってもらおう！！」
「ピケル、ピケル、ピケル、ピケル、ピケル、ピケル、ピケル、ピケル、ピケル、ピケル！！」
「では自分のライフを４００ポイント回復させるカードは？今回は時間無制限だ！」
「ピケルのカードテキストは久美から何度も見せてもらった。あれはモンスターの数で回復量が変動してしまう！！」
十悟は考え込む。
対して少年はほっと胸をなでおろす。
「今のうちに次のクイズを考えねば…。いつまで真面目に答えてくれるか分からないけど」
正解
ブルーポーション 通常魔法
「自分は４００ライフポイント回復する。」
朝子たちのデュエル
反町朝子：ＬＰ８０００
天王寺つかさ：ＬＰ６０００
終焉のカウントダウン
カウント：１３
「私のターン。カードをドロー。」
「この瞬間、フィールド魔法『終焉の大渓谷』の効果発動！！相手の各フェイズ終了時に『終焉のカウントダウン』のカウントが１つ進みますわ！！よってカウントは１４！！」
「く、そんな効果があったなんて！！」
ドローフェイズ終了
カウント：１４
「スタンバイフェイズで何も無ければ、さらにカウントが進みますことよ！！」
終焉の大渓谷 フィールド魔法
「相手ターンの各フェイズ終了時に『終焉のカウントダウン』のカウントを１つ進める。この効果でカウントを２０とすることはできない。」
スタンバイフェイズ終了
カウント：１５
朝子はドローしたカードを素早く手札に加え、手札のカードを発動する。
「手札より魔法カード『トリプル・カウンター』を発動！デッキからカウンター罠を３枚フィールドにセット！！さらに、そのうち１枚を墓地に送り魔法カード『反逆者の宝札』を発動！カードを２枚ドロー！！」
トリプル・カウンター 通常魔法
「デッキからカウンター罠を３枚までセットすることができる。セットされたカードを墓地に送ることで、次のターンのスタンバイフェイズに送った枚数分ドローすることができる。」
反逆者の宝札 通常魔法
「自分のフィールドにセットされているカウンター罠を墓地に送る。デッキからカードを２枚ドローできる。」
残るフェイズは
メインフェイズ１
バトルフェイズ
メインフェイズ２
エンドフェイズ
「トリプル・カウンターの効果、セットしたカード2枚を墓地に送って次のターンに２枚のドローを確定させるわ！」
「面白いデッキですわね。さあ！次は何できますの？」
「私は手札のカウンター罠を墓地に送り『カウンター・ドラゴン』を特殊召喚！！さらに墓地のカウンター罠１枚を除外して『冥界天使−ゾグラーヴ』を特殊召喚！」
カウンター・ドラゴン ☆５ 光属性 ドラゴン族
ATK２０００ DEF１００
「手札からカウンター罠１枚を墓地に送ることで、このカードは特殊召喚できる。自分のターンのエンドフェイズに墓地のカウンター罠１枚をセットすることができる。」
冥界天使−ゾグラーヴ ☆５ 闇属性 天使族
ＡＴＫ？ ＤＥＦ０
「このカードは墓地のカウンター罠を墓地から１枚除外することで生け贄なしで召喚できる。このカードの攻撃力は墓地のカウンター罠の数×１０００となる。」
ＡＴＫ？→３０００
「（バトルフェイズを行いたい所だけど、そうするとメインフェイズ１、バトルフェイズ、メインフェイズ２、エンドフェイズでカウントが４つ進む。通常のカウントと合わせたら丁度２０になって敗北してしまう…。）」
「さあ！どうしましたの？攻撃力３０００なら私のモンスターを破壊できますわよ！！」
「その手には乗らないわ！！カードを３枚伏せてターンエンドよ！！カウンター・ドラゴンの効果で墓地のカウンター罠1枚をセットする！」
メインフェイズ１終了
カウント１６
エンドフェイズ
カウント１７
終焉のカウントダウン効果
カウント：１８
「私のターンですわね。カードをドロー。カードを１枚伏せてターンエンドですわ！あなたに残された最後のターンですわよ！お忘れになってませんわね？」
「私は絶対に勝つ！カードドロー。」
「それではカウントが１９に進みますわ」
ドローフェイズ
カウント１９
「トリプル・カウンターの効果発動！！さらにカードを２枚ドロー。（私の手札には速攻魔法『カウンター・エナジー』がある。自分のモンスターが戦闘で破壊された時、戦闘を行った相手モンスターを破壊し、別の自分のモンスターに破壊した相手モンスターの攻撃力を加算するカード。相手は罠を張っているけど、私のリバースカードには『魔宮の賄賂』がある。相手の罠をカウンターした上でのゾグラーヴの攻撃力は６８００！！）」
「私のバトルフェイズ！『カウンター・ドラゴン』で『絶望のヘディウェア』を攻撃！カウンター・ブレス！！」
つかさは少し驚いたがすぐに考えを巡らせる。
普通ならば攻撃力の高いモンスターに攻撃するのは自殺行為。
ならば『オネスト』のようなカードがあるに違いない。
「罠カード発動『終焉龍咆哮』！！」
「カウンター罠『魔宮の賄賂』！その効果を無効化に…」
「残念ですがこのカードに罠をチェーンする事はできませんのよ。」
巨龍が雄叫びをあげる。
ホールの音響効果でそれが増幅され響き渡る。
攻撃はかき消され龍まで届く事はなかった。
終焉龍咆哮 通常罠
「自分のフィールドに『終焉龍』と名のつくモンスターが存在する時、相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。相手モンスター１体の攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了する。『終焉のカウントダウン』のカウントが１０以上の時、このカードに罠カードをチェーンする事はできない」
魔宮の賄賂 カウンター罠
「相手の魔法・罠カードの発動を無効にし破壊する。相手はデッキからカードを１枚ドローする。」
「く、もうダメージが与えられない。カードを３枚伏せてターンエンドよ！」
「終焉の時が参りました。あなたの敗北です！」
つかさは当たり前のように言い放つ。
女王たる風格は始まる前と同じ。
あるいはそれ以上のものを朝子は感じていた。
終焉のカウントダウン
カウント：２０
不気味なドクロに最後の炎が灯される。
ドクロは口元をわずかに緩ませ笑い声を発する。
それがホール全体に響き渡る。
生者を死に誘う死神のようにゆっくりゆっくりと朝子に近づく。
「こ、来ないで！きゃああああああああ」
ホール全体に朝子の悲鳴が響く。
彼女は足を踏み外し、ステージの上から転落し倒れこむ。
「そうそう。美月に頼まれたこのカードは返しておかねばなりませんわね。」
供物と言わんばかりに朝子の手元にカードを置く。
彼女はそれに手をのばし僅かに微笑む。
悲しげなその横顔を確認するとつかさはステージを降りる。
「地獄から私と美月の幸せを祝福して下さい！さようなら！！」
１９章：傷つく心は炎のように
ホールの扉が勢いよく開く。
十悟とクイズ少年の前につかさが現れる。
少年が一歩下がって十悟とつかさが向かい合う。
「彼女でしたらホールの中ですわ。心配せずともデュエルをしただけです。」
「朝子の身に何かあったら僕は君を許さないよ！」
「あらあら。私が闇のデュエリストみたいなもの言いですわね。怪我の治療費でしたらいつでも請求して下さって結構ですわよ！！」
つかさはそのままホールを後にする。
クイズ少年や十悟に負けたデュエリスト達もそれに続く。
十悟はホールの扉に手をかける。
力いっぱい扉を開きステージに駆け寄る。
「あ、朝子？どこ？」
十悟がそう呼びかけながら周囲を見渡す。
ステージに上がり会場全体を見るが誰もいない。
中央に置かれたピアノの裏も確認するが彼女の姿は見当たらない。
ホールを何度も回って確認するが人の気配が無い。
舞台裏にも誰もいない。
「おかしいなぁ。女王とかアカデミアの人たちの様子からここにいたのは間違いと思うのだけど…。そ、そうだ携帯電話！！」
電話帳を開き彼女の電話番号をコールする。
嫌な予感がする。
早く…早く出てくれ。
そんな事ばかり考えている。
「もしもし、朝子？今どこに…。」
「あ、十悟君！？久美です。今みんな医務室に集まってる。朝子が大変なの…早く来て！！」
電話はそこで切れた。
嫌な予感が一層強くなる。
コンサートホールのステージを飛び降り、出口へとダッシュする。
「いったい何があったんだ？」
ホテルの階段を駆け下りる。
人ごみを縫って医務室がある棟へと急ぐ。
目的地へ近付くにつれて人が多くいる事に気づく。
「十悟君、こっちやこっち！」
澪に呼び止められる。
彼女に連れられ、職員用と思われる通路から医務室に入る。
そこには尾瀬呂のメンバーと黒須先生、医者らしき人物が数人立っていた。
周囲には医薬品や包帯が散らばっている。
まるで猛獣が暴れたかのように…。
「朝子は無事なんですか？」
ベッドに横たわる朝子を見ながら尋ねる。
「怪我はないようだが…精神に異常をきたしている事は確かだ。部屋の状態を見れば分かるだろう？鎮静剤を打って今は眠っている状態だ。」
ここに運び込まれ、目が覚めた途端、錯乱状態に陥ったと説明された。
検査の結果はまだ出ていないが過大なストレスが原因ではないかとの診断という。
姉弟との再会がきっかけだという事は分かった。
でも解決方法が分からなかった。
朝子と２人を合わせるのは逆効果。
それ以外には何もする事がないのがもどかしい。
「今日は部屋に戻りなさい…。」
医者は十悟達全員にそう告げた。
ここは医者に任せるしかない。
そう考えたのか６人は医務室を後にする。
「大会はどうするんだよ！？」
「迎人、朝子はきっと大丈夫！幸い明日はデュエルアカデミアと童実野高校が対戦する日だ！時間はある…。」
迎人を励ましたつもりだった。
しかしそれが自分に言い聞かせている事はすぐにわかった。
皆、無言のまま１人また１人と自分の部屋に入っていく。
十悟も自分の部屋のベッドに倒れこむ。
疲労からだろう…すぐに眠りについた。
翌日
大会２日目！！
朝、目覚めはあまり良くない。
やはり朝子の事が気にかかり普段より大分早く目が覚めた。
顔を洗い、歯を磨き、軽く髪を整える。
一応、デュエルディスクを持って部屋を出る。
足は重いが速足で医務室へと向かう。
ドアをゆっくり開けると朝子はまだ眠っているらしい。
医師の姿が見えない。
「・・・」
寝言だろうか？
微かに朝子の声が聞こえた。
「十悟…」
聞き間違いかもしれない。
でも名前を呼ばれた気がして彼女に近づく。
近くにいても見守る事しかできないけれど、それでいいのなら…。
そっと彼女の顔を覗き込む。
何か思いつめたような…辛い表情。
「どうして？どうして母を殺したあの看護士が死刑じゃないの？夕汰だって生まれてくるはずだった夕汰を殺したのに！！」
あの日の言葉が十悟の胸に突き刺さる。
忘れるはずもない…。
朝子が全てを拒絶したあの瞬間だ。
「それにどうして十悟のママはあの女の味方をするの！？人殺しの味方をするのが仕事なの！？」
僕の父、相馬一輝は童実野裁判所の裁判官だ。
朝子の母親に誤って違う薬を投与したあの事件に判決を出したのも父だった。
法律の事は今もあまり詳しくは無いが死刑にするような事件では無かったらしい。
僕の母、相馬百恵は当時、童実野病院の顧問弁護士をしていた。
病院の院長が自ら母に依頼に来たのを覚えている。
私情を挟む事は許されないが幼い朝子のためにできる限りの配慮をしたいと引き受けたのだと後で聞かされた。
「絶対におかしいよ！ねえ十悟！十悟もそう言ってよ！！何で？何で黙ってるのよ！そっか…十悟は２人の子供だもんね。当り前か…。みんなにとっては他人事なんだよね！」
子供の僕にも痛い言葉だった。
あれから朝子は何日も学校を休んだ。
あの時と同じ。
自分の無力さを痛感させられ、朝子の苦しさが伝わってくる。
「朝子の心はまだ、あの日から…」
自分には何ができるのか？
そんな事を何度も考えたが一向に名案は浮かばない。
あの時から僕たちは成長した。
でも、いくら時が過ぎようとも消せないものがある…。
「ううう…十悟…た、助けて。みんな…他の人達が全部敵に見える…倒さなきゃ。」
朝子は本能的に近くにあった花びんを振りかざす。
見えない何かに脅える彼女の視線が自分に合った瞬間、十悟は迷わず口を開く。
そしてデュエルディスクを彼女に手渡す。
「朝子！落ち着いて。そうだ。デュエルをしよう！」
目を覚ましたが情緒不安定なのは見れば分かる。
あの頃の僕たちに無かったもの。
デュエルを通して語り合う事、それが今ならできる！
朝子は振り上げた花びんを元のテーブルに戻す。
代わりに自分のデッキを取り出しデュエルディスクに装着する。
「１回だけじゃ…すぐ終わっちゃう…。」
「時間はある！朝子が気の済むまで付き合うよ！！」
その言葉に朝子がわずかに微笑む。
精神が安定したのだと思い少し安心した。
医務室でデュエルしていいものか疑問にも思ったが、患者のためを思えば医師も許してくれるだろう。
「デュエル！！」
相馬十悟：ＬＰ８０００
反町朝子：ＬＰ８０００
朝子とデュエルをするのは久しぶりかもしれない。
大会前は迎人の新デッキの調整に付き合う事が多かったからだ。
「私の先行でいい？」
「いいよ！！」
「ホント？本当に？私のターン。ドロー。ふふふ、うれしい！超嬉しい！！欲しかったカードがこんなに早く来てくれるなんて！！」
いつもと違う…。
朝子の表情は笑っているけれど、その瞳は笑っていない。
顔も血の気が引いて青白くなっている。
原因は分からない…。
いや分かっているけど何もできないという方が正しい。
デュエルを続けるしかない。
「私は手札から『ガトリング・エンジェル』を攻撃表示で召喚！これはね…名前の通りあの『ガトリング・オーガ』と同じ効果を持っているの！うふふ。どうするか分かるよね？」
純白の衣に炎のタトゥ。
銀の銃器背負った天使が現れる。
銃口がまっすぐ自分に向けられたのが分かる。
その指を少しでも引けば僕の体を弾が貫くだろう。
ガトリング・エンジェル ☆３ 炎属性 天使族
ＡＴＫ８００ ＤＥＦ８００
「自分の魔法・罠ゾーンのカウンター罠を墓地に送る事で相手に送った枚数×８００ポイントのダメージを与える」
「朝子のデッキはカウンター罠を速攻でフィールドに揃え、それを利用してビートダウンを狙うスタイルだったはず…。」
「ふふふ。私をそこまで良く見ていてくれるなんて嬉しい！ははは、あはっはははは。興奮してきた！！デュエルでアドレナリンが出てくるって言う海馬瀬人の言葉もあながち間違いじゃないかも！！」
無邪気に笑う朝子。
でも、何か違う…。
それにこのモンスターは今までの朝子のデッキには無かったものだ。
「手札から『トリプル・カウンター』を発動ぉ！デッキのカウンター罠を３枚フィールドにセット！さらにカードを２枚セットするわ！」
トリプル・カウンター 通常魔法
「デッキからカウンター罠を３枚までセットすることができる。セットされたカードを墓地に送ることで、次のターンのスタンバイフェイズに送った枚数分ドローすることができる。」
「あれは間違いなくカウンター罠！朝子のデッキならカウンター罠を５枚揃えるのも難しくないはず…。」
「あ・た・り！！５枚すべてを墓地に送り、ガドリングに弾を装填！！ファイヤーーー！！」
朝子の宣言と同時に天使の銃器に弾が込められる。
静かな医務室に射撃音が響き渡る。
相手の先行１ターンという事もあり、僕には何もできない。
ただ、弾丸に耐えるだけだ。
相馬十悟：ＬＰ８０００→４０００
反町朝子：ＬＰ８０００
「あははっはははははっは！！楽しい、最高ぉ。もっと、もっと撃ち込んであげるね！！手札から『フェイクトラップ・ダイス』発動！サイコロを１つ振って出た目の数だけ墓地の罠をセットする事ができる。」
黒いダイスが転がる。
その目は４で止まった。
「墓地にある４枚のカウンター罠をセット。さらに…『トイ・エンジェル』をカウンター罠としてフィールドにセット。」
トイ・エンジェル ☆４ 炎属性 天使族
ＡＴＫ１５００ ＤＥＦ１６００
「このカードはカウンター罠扱いとして手札から魔法＆罠カードゾーンにセットする事ができる。魔法＆罠カードゾーンにセットされたこのカードが相手のコントロールするカードの効果によって破壊され墓地へ送られた場合、そのターンのエンドフェイズ時にこのカードを自分フィールド上に特殊召喚する。また、このカードが反転召喚に成功した時、フィールド上に表側表示で存在する『トイ・エンジェル』の数だけカウンター罠をセットする事ができる。」
フェイクトラップ・ダイス 通常魔法
「サイコロを１つ振る。出た目の数だけ墓地の罠カードをフィールドにセットする事ができる。セットしたカードの効果は無効化され、エンドフェイズに墓地に送られる。」
「という事は…朝子の場のカウンター罠は５枚…。」
「言ったよね…来て欲しかったカードが来たって。ガドリング・エンジェルの効果を再び発動！！ダメージもさっきとお・な・じ・よ！！」
再び銃弾が何度も僕の体を貫く。
腕、足、腹に次々と撃ち込まれる。
そのリアル過ぎる痛みに思わず声を上げてしまいそうだ。
もっともその痛みはソリットビジョンによる衝撃だけではない。
朝子が今までため込んでいたもの。
それが吐き出されたような気がする。
相馬十悟：ＬＰ４０００→０
反町朝子：ＬＰ８０００
「く！１ターンキルか！」
「もう１回…。」
「え！？」
膝をついた僕に引きつった笑顔を見せながら言う。
朝子はデュエルディスクを構え、カードをドローする。
「私のターン。ドロー。『ガトリング・エンジェル』を攻撃表示で召喚！！手札の『トリプル・カウンター』を発動！！カードを２枚伏せてガドリングに弾を装填！！ファイヤーーー！！」
ガトリング・エンジェル ☆３ 炎属性 天使族
ＡＴＫ８００ ＤＥＦ８００
「自分の魔法・罠ゾーンのカウンター罠を墓地に送る事で相手に送った枚数×８００ポイントのダメージを与える」
トリプル・カウンター 通常魔法
「デッキからカウンター罠を３枚までセットすることができる。セットされたカードを墓地に送ることで、次のターンのスタンバイフェイズに送った枚数分ドローすることができる。」
朝子は無邪気な子供のように言い放つ。
なぜだろう？胸が痛い。
それはモンスターの弾丸が何度も胸を貫くからだけではない…。
「もっと…もっと…もっと撃ち込ませてくれる？くれるよね？」
ガドリングの音は絶え間なくなり続ける。
今がどっちのターンとか…デュエルの戦況とか…
アドバンテージとか…戦術とか…。
今の彼女には関係ないようだ。
勢いを増す炎のごとく彼女の１ターンキルが続く。
相馬十悟：ＬＰ ０
「あははっはははははっは！デュエルって本当に楽しい！もっと、もっと…。」
相馬十悟：ＬＰ ０
「あははっはははははっは！もっと、もっと…。」
相馬十悟：ＬＰ ０
「あははっはははははっは！もっと、もっと…。」
相馬十悟：ＬＰ ０
デュエルの時間は３０分にも満たないだろう。
でも僕にはそれが途方もなく長い時間に感じた。
ただ、ガドリングの銃弾に貫かれるだけ…。
朝子は一種の快楽に溺れるかのようにデュエルを続けた。
彼女の頬は酒を飲んだように赤みがかっている。
「私だって分かっているのよ！美月はいい子よ！父だって本当は…。母に投薬したあの看護士の謝罪の気持ちだって十分過ぎるほど受け取った。」
朝子は大声で語り出す。
それを聞き逃してはいけない。
そう思った。
「私にはもう憎む相手がいないの！！それなのに…それなのに、あの時。運命の神『ディスティニー・クリエイター』が私の中に入ってきた時に…全ての憎しみが私の中に戻ってきたのよ！！美月達に憎悪を向ければ向けるほど、そんな自分が醜く思えて…。でも、どうしていいか分からなくて…」
朝子は一生懸命に涙をぬぐう。
それでも自分の気持ちを少しずつだが出そうとしている。
彼女の瞳からは大粒の涙は流れ続ける。
何と言っていいのか分からない。
でも何も言わないのはダメだ。
それじゃあの時と同じ…朝子はまた…。
心の傷は医者にも治せない。
まして僕には何もできる事はない。
「涙が…涙が止まらないよぉ！！」
「今だけ…泣いていいよ！ずっと…ここにいるから！！僕はここにいるから…。」
２０章：戦う勇気は
朝、小鳥がさえずる中を少女は歩いている。
長い黒髪が風になびく。
少女は地図を取り出して自分のいる場所を確認する…。
「あかん！ウチ、迷子や！！こんな事なら散歩なんかせずにホテルにいれば良かった…。」
澪は地図を放り投げて頭を抱える。
周囲には人もいない。
公園のような場所だが木々に覆われている。
「はあ？この童実野町でストリートデュエルっていったらアンティルールに決まってるだろうが！武藤遊戯の時代からの常識だ常識！！」
「で、でも…２対１なんて…」
「俺たちと勝負して勝ったら…って言ったじゃないか。つまり２対１って事だろ？」
「そ、そんな。」
女の子が男２人にからまれている。
見ているのは澪しかいない…。
思わず彼女は飛び出して言う。
「ちょっと待ってえな！！どんな事情があるか分からんけど、２対１はダメや！」
「な！じゃあ君が彼女とタッグを組めばいい。でもこれはバトルシティと同じアンティルールだよ。それでもやるのかい？」
「バトルシティ？あんてぃい？」
澪は知らない英単語でも出されたように首をかしげる。
彼女がデュエルを始める前の出来事は知らなかったらしい。
「ははは！！デュエリストなのにバトルシティもアンティルールも知らないなんて…とんだ初心者だな。」
「勝てばええんや！」
澪は自分のデュエルディスクを構える。
少女と男２人もディスクを展開する。
「デュエル！！」
澪＆少女 ＬＰ８０００
男２人 ＬＰ８０００
「さあ！かかってきな！まずはドローするんだよ。分かるかな…初心者に。はははは！」
「ガタガタうるさいんだよ！切り刻んでたこ焼きの具にしたろか？初心者は邪魔だけはすんなや！！」
少女がいきなり関西弁で怒鳴り声を上げる。
澪はびっくりして少女の方を見る。
デュエルディスクを持った瞬間なのか分からないが少女は強気で喋り出した。
「こっちは初心者がおるんや、うちの先行！！カードドロー。手札より『調和の宝札』を発動！手札から『ドラグニティ−ファランクス』を捨ててカードを２枚ドロー。」
ドラグニティ−ファランクス ☆２ 風属性 ドラゴン族
ＡＴＫ５００ ＤＥＦ１１００
「このカードがカードの効果によって装備カード扱いとして装備されている場合に発動する事ができる。装備されているこのカードを自分フィールド上に特殊召喚する。この効果は１ターンに１度しか使用できない。」
調和の宝札 通常魔法
「手札から攻撃力１０００以下のドラゴン族チューナー１体を捨てて発動する。自分のデッキからカードを２枚ドローする。」
「見せたるわ！うちのシンクロモンスター！！手札より『ドラグニティ−ドゥクス』を攻撃表示で召喚！！墓地のファランクスを装備！！そして解除！！」
白き翼を持つ戦士が翼を広げ、鎧に覆われた竜がファイティングポーズをとる。
竜が光に包まれ、星のような輝きを見せる。
「鮮紅に煌めく至高の龍よ、猛き騎士と交わりて降臨せよ！！シンクロ召喚『ドラグニティナイト−ガジャルグ』！！」
深紅の鎧に覆われた龍に戦士が騎乗した姿が相手を圧倒する。
龍は咆哮し戦士はまっすぐ槍を構える。
ドラグニティ−ドゥクス ☆４ 風属性 鳥獣族
ＡＴＫ１５００ ＤＥＦ１０００
「このカードの攻撃力は、自分フィールド上に表側表示で存在する『ドラグニティ』と名のついたカードの数×２００ポイントアップする。このカードが召喚に成功した時、自分の墓地に存在するレベル３以下の『ドラグニティ』と名のついたドラゴン族モンスター１体を選択し、装備カード扱いとしてこのカードに装備する事ができる。」
ドラグニティナイト−ガジャルグ ☆６ 風属性 ドラゴン族
ＡＴＫ２４００ ＤＥＦ８００
「ドラゴン族チューナー＋チューナー以外の鳥獣族モンスター１体以上
１ターンに１度、自分のメインフェイズ時に発動する事ができる。自分のデッキからレベル４以下のドラゴン族または鳥獣族モンスター１体を手札に加え、その後手札からドラゴン族または鳥獣族モンスター１体を捨てる。」
「まだや！『二重召喚』発動！！うちは『ドラグニティ−ドゥクス』をもう１体召喚！！これによりファランクスを装備や！！そして合体を解除！シンクロ召喚！『ドラグニティナイト−ガジャルグ』！！」
二重召喚 通常魔法
「このターン自分は通常召喚を２回まで行う事ができる。」
深紅の竜騎士が２体並ぶ。
それぞれのモンスターが男２人を威嚇するように攻撃態勢を取る。
「ガジャルグ２体の効果発動！『ドラグニティ−ブランディストック』と『ドラグニティ−コルセスカ』を手札に加え、そのまま墓地へ！！ターン終了や！！」
少女はデッキからカードを素早く選択して墓地に送る。
「へー少しはやるねぇ。だが『初心者（お荷物）』を背負ったままどこまで粘れるかな！俺のターン。ドロー。ちぃ手札が悪いな。俺は『ブリザード・ドラゴン』を攻撃表示で召喚！」
ブリザード・ドラゴン ☆４ 水属性 ドラゴン族
ＡＴＫ１８００ ＤＥＦ１０００
「相手フィールド上に存在するモンスター１体を選択する。選択したモンスターは次の相手ターンのエンドフェイズ時まで、表示形式の変更と攻撃宣言ができなくなる。この効果は１ターンに１度しか使用できない。」
氷を纏うドラゴンが現れる。
ヒレのような腕で空を裂くようにして相手を威嚇する。
「こちらも『二重召喚』だ！『ブリザード・ドラゴン』をもう一体召喚！！２体のガジャルグを氷漬けにしろ！！ブリザードカーテン！！」
氷の竜が放つブレスが深紅の竜騎士を凍らせる。
氷は次第に大きくなり、それはやがて竜騎士の全身を包む。
「悪いな。俺は手札が悪いみたいだ。」
「俺は悪くねえ。すぐに召喚してやるよ。氷結界に眠る最強のドラゴンを！！」
男はエクストラデッキからカードを見せながら言う。
「なんやて！？氷結界の龍！？」
「初心者のアンタにも今の危機くらい分かるんやろ！？地砕きでも何でもええ。シンクロ素材を削るんや！！」
少女は澪に命令する。
澪はだまってフィールドを見ている。
氷漬けになったガジャルグとブリザード・ドラゴンがそれぞれ２体ずつ存在する。
（澪！やっぱり君には分かるんだね。モンスターの嘆きが…）
宝玉獣−ジェード・ラビット
澪の持つ宝玉獣の１つだ。
人懐っこい性格で何度も澪にアドバイスをしてくれる精霊でもある。
「（聞こえる。モンスターは何も言わないけどウチには伝わってくる。ガジャルグの思い…。）」
（さあ！カードを引いて！！君の力を見せてあげよう。３人にね）
十悟たちは
「澪がホテルから出てるってのは本当なのか十悟？」
「フロントのお姉さんが言ってたから間違いないよ。散歩に行くとか」
「朝子の次は澪かよ。まったく！そう言えば朝子は大丈夫なのか？」
「あとは医者に任せるしかない…と思う。」
十悟と迎人は澪を探していた。
丁度東から太陽が昇り始め、辺りはずいぶん明るくなっていた。
月は西に傾き、小鳥の声も聞こえる。
「お！！誰かデュエルしてる……って澪かよ！！行くぞ十悟！！」
「迎人、目がいいな。ここからじゃドラゴンが召喚されている事しか分からないよ」
何百メートルあるか分からない。
迎人が走り出し、十悟がそれに続く。
陸上部にスカウトされ、オリンピックも狙えるとまで言われた俊足と十悟ではどうしても十悟が遅れをとってしまう。
しばらく走ると樹木の影でデュエルの様子が見えなくなった。
小さなウサギの精霊はデッキに引っ込んでいく。
澪はもう一度自分のデッキを見る。
「（ウチにもできるかなぁ。１ターンキル！！）」
２１章：風は虹に向かって
「ウチ今、１ターンキルをするために色々考えてて…。」
澪は手札を見ながら考える。
学校の詰めデュエルの授業を思い出す。
このターンで相手ライフを０にしなければこちらが負け。
そんな気持ちで手札のカードを一つ一つ組み合わせていく。
「何で初心者のアンタが１キルやねん！初心者は除去って殴ればええやないか！！」
少女は澪にツッコミを入れる。
関西人の血が成せる業なのだろうが、澪はそれを鮮やかにスルーした。
（詰めデュエルはね、デッキとフィールド、墓地のカードをフルに活用しないと解けない事が多いんだ。）
「フィールドとデッキ！？（ありがとな、十悟君）」
澪は何かひらめき、声を上げる。
そしてもう一度手札を見る。
カードは揃ってる。
まっすぐ顔を上げてモンスターに視線を向ける。
「（ガジャルグ、冷たいんやろなぁ？ウチが今助けたる）ウチのターン。カードドロー。ウチはガジャルグ２体の効果発動！！鳥獣族の『宝玉獣ペリドット・スワロー』と『宝玉獣 コバルト・イーグル』を手札に加え、そのまま墓地へ！！」
ドラグニティナイト−ガジャルグ ☆６ 風属性 ドラゴン族
ＡＴＫ２４００ ＤＥＦ８００
「ドラゴン族チューナー＋チューナー以外の鳥獣族モンスター１体以上
１ターンに１度、自分のメインフェイズ時に発動する事ができる。自分のデッキからレベル４以下のドラゴン族または鳥獣族モンスター１体を手札に加え、その後手札からドラゴン族または鳥獣族モンスター１体を捨てる。」
「ほ、宝玉獣だと！！？」
男は驚いて声を上げる。
二人は顔を見合わせてもう一度澪をみる。
「アンタまさか尾瀬呂の…。」
「うーん。そうやけど、自己紹介はまた後でなぁ。」
澪は少女に笑って答える。
そしてゆっくり自分の手札に指を掛ける。
「ウチは永続魔法『宝玉の樹』発動！そして魔法カード『宝玉の恵み』、この効果で墓地のペリドット・スワロー、コバルト・イーグルを魔法・罠ゾーンに置く！！」
宝玉の樹 永続魔法
「『宝玉獣』と名のついたモンスターが魔法＆罠カードゾーンに置かれる度に、このカードにジェムカウンターを１つ置く。このカードを墓地に送る事で、このカードに乗っていたジェムカウンターの数だけデッキから『宝玉獣』と名のついたモンスターを永続魔法カード扱いとして自分の魔法＆罠カードゾーンに表側表示で置く。」
宝玉の恵み 通常魔法
「自分の墓地に存在する『宝玉獣』と名のついたモンスターを２枚まで選択し、永続魔法カード扱いとして自分の魔法＆罠カードゾーンに表側表示で置く。」
透き通るような青の宝玉
輝きを見せる黄緑の宝玉
２つが澪のフィールドに置かれる。
「宝玉の樹に宝玉の実がなるんよ。２つ置かれたから２つのジェムカウンターを置く」
宝玉の樹・ジェムカウンター：２
「さらに宝玉の樹を墓地に送る事で『宝玉獣 ガーネット・ホエール』『宝玉獣 トルマリン・ドッグ』の2枚を魔法・罠ゾーンに宝玉として置く。」
「宝玉を４つ揃えたっていうんか？」
少女は宝玉の美しさと澪の戦術に思わず声を上げる。
「この瞬間、ガーネット・ホエールの効果発動！！すべてのモンスターカードを手札に戻す！！いけー、ガーネット・ウェーブ！！」
宝玉獣 ガーネット・ホエール ☆４ 水属性 水族
ATK１８００ DEF１６００
「このカードが魔法、罠ゾーンに置かれた時フィールド上のモンスターすべてを持ち主の手札に戻す。このカードがモンスターカードゾーン上で破壊された場合、墓地へ送らずに永続魔法カード扱いとして自分の魔法＆罠カードゾーンに表側表示で置く事ができる。」
フィールドを突如として津波が襲う。
波が渦巻き、龍騎士とドラゴンをのみ込んでいく。
「バカな！俺のブリザード・ドラゴンが手札に…。」
「ウチはさらに手札の『レスキュー・キャット』を攻撃表示で召喚！！そしてその効果発動！！デッキから『宝玉獣 アメジスト・キャット』『宝玉獣 ジェード・ラビット』を特殊召喚！！」
レスキュー・キャット ☆４ 地属性 獣族
ＡＴＫ３００ ＤＥＦ１００
「自分フィールド上に表側表示で存在するこのカードを墓地に送る事で、デッキからレベル３以下の獣族モンスター２体をフィールド上に特殊召喚する。この方法で特殊召喚されたモンスターはエンドフェイズ時に破壊される。」
宝玉獣 アメジスト・キャット ☆３ 地属性 獣族
ＡＴＫ１２００ ＤＥＦ４００
「このカードは相手プレイヤーに直接攻撃する事ができる。この時、このカードが相手プレイヤーに与える戦闘ダメージは半分になる。このカードがモンスターカードゾーン上で破壊された場合、墓地へ送らずに永続魔法カード扱いとして自分の魔法＆罠カードゾーンに表側表示で置く事ができる。」
宝玉獣 ジェード・ラビット ☆２ 地属性 獣族
ATK１０００ DEF６００
「このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時、デッキから『宝玉の』と名のつくカード1枚を手札に加える。このカードがモンスターカードゾーン上で破壊された場合、墓地へ送らずに永続魔法カード扱いとして自分の魔法＆罠カードゾーンに表側表示で置く事ができる。」
（ありがとう。澪！僕を呼んでくれて！さあ！君に必要なカードだ！受け取って！！）
澪はウサギの精霊に軽く笑顔を見せる。
そして素早くデッキからカードを取り出す。
「ウチはジェード・ラビットの効果発動！！デッキから『宝玉の導き』を手札に加える。」
「なんだ、この展開力は！」
「まだまだや！ウチは『宝玉の導き』発動！デッキから『宝玉獣 ダイヤモンド・ライオン』を特殊召喚！！このモンスターは魔法・罠ゾーンの宝玉の数だけパワーアップする！ダイヤモンド・フォース・チャージ！！」
宝玉獣 ダイヤモンド・ライオン ☆４ 光属性 獣族
ATK１６００ DEF１１００
「自分の魔法、罠ゾーンの宝玉獣1体につき攻撃力が４００ポイントアップする。このカードがモンスターカードゾーン上で破壊された場合、墓地へ送らずに永続魔法カード扱いとして自分の魔法＆罠カードゾーンに表側表示で置く事ができる。」
すべての宝玉が光を放つ。
それが純白のライオンの雄々しき牙に集約されていく。
ＡＴＫ１６００→３２００
「すごいやんかアンタ。本当に初心者か？」
「だが、まだライフは８０００だ！！すべての攻撃を受けてもライフは残る…。そうすれば次のターン。俺の氷結界の龍で逆転してやる！！」
ダイヤモンド・ライオン→ＡＴＫ３２００
アメジスト・キャット→ＡＴＫ１２００
ジェード・ラビット→ＡＴＫ１０００
男は大声で叫ぶ。
少女はもう一度澪を見つめる。
心配ではない。
澪の次の一手に期待している。
「ウチのフィールド・墓地に存在する宝玉獣は全部で７体！！」
「ま、まさか…？」
澄んだ大空のような水色。
７つの宝玉をその身に宿した龍が現れる。
巨大な翼で羽ばたきながら咆哮する。
その輝きは朝の日差しを受けてさらに輝きを増す。
「究極宝玉神 レインボー・ドラゴン！！」
究極宝玉神 レインボー・ドラゴン ☆１０ 光属性 ドラゴン族
ＡＴＫ４０００ ＤＥＦ ０
「このカードは通常召喚できない。自分フィールド上及び墓地に「宝玉獣」と名のついたカードが合計７種類存在する場合のみ特殊召喚する事ができる。このカードが特殊召喚されたターンには以下の効果を発動できない。●自分フィールド上の「宝玉獣」と名のついたモンスターを全て墓地に送る。墓地へ送ったカード１枚につき、このカードの攻撃力は１０００ポイントアップする。この効果は相手ターンでも発動する事ができる。●自分の墓地に存在する「宝玉獣」と名のついたモンスターを全てゲームから除外する事で、フィールド上に存在するカードを全て持ち主のデッキに戻す。」
「バトルや！！宝玉獣３体の攻撃！ジェード・タックル！アメジスト・ネイル！！ダイヤモンド・ファング！！！」
薄黄緑のウサギが全身で体当たりをする。
ピンクのネコがその鋭い爪で切り裂く。
そして純白のライオンは雄々しき牙で噛みつく。
罠もモンスターもいない男にその攻撃は直撃する。
男２人 ＬＰ８０００→２６００
「とどめやレインボー・ドラゴンの攻撃！！オーバー・ザ・レインボー！！！」
龍の口からは虹色の閃光が放たれる。
衝撃は男たちに当たり炸裂。
有り余るエネルギーはやがて弧を描き、七色の虹へと姿を変えていく。
何とも表現しがたい幻想的な現象がそこでは起きている。
そこを一陣の風が吹き抜ける。
まるで勝利を祝福するように。
男２人 ＬＰ２６００→０
男たちはそれぞれ黙ってカードを1枚取り出し、澪に手渡す。
「こんなレアカード…。」
「ルールは守る…それが童実野町でデュエルをする者の誇りだ。まあ、海馬コーポレーションが監視しているって事もあるけどな。」
公園のデュエル場には良く見ると監視カメラがいくつか付いていた。
男たちは黙ってその場を去ろうとする。
その姿を見て少女がわずかに微笑む。
「さすが童実野町のデュエリストやなぁ。」
「あ、このカード１枚はあなたの分…。」
「ええよ。あんたが持っとき！うちのエクストラデッキはもう１５枚ある。それから、あなたやない！うちはデュエルアカデミア３年、五十嵐雅！もちろん大会の選手や！！宝生澪、明日は直接デュエルできるといいなぁ」
雅はそっと手を出す。
澪がそれに応えて握手する。
「お〜い、澪！！」
迎人が大声で呼びかけながら走ってくる。
十悟がそれに遅れて続く。
「お仲間も来たようやな！うちはもう行かせてもらうわ。」
少女は手を振って歩きだす。
十悟と迎人に軽く視線をやりながらすれ違う。
振り返らずにまっすぐホテルの方に歩いていく。
「あの…ウチ…迷子になってもうて…それで色々あってデュエルしてて…。」
澪が恥ずかしそうに切り出す。
十悟はほっとして胸をなでおろす。
対する迎人は真剣な顔をして澪にせまる。
怒られると思って澪の顔が少し強ばる。
「い、今の子はいったい誰だ？清楚な顔立ち、薄黄緑色の髪を後ろで束ねていて、まるで『風霊使いウイン』みたいで、すごい俺好みだった！！」
「さっき知り合って、一緒にデュエルした雅ちゃん。デュエルアカデミアの選手で…」
「何ぃ！？大会に出てるのか。俄然、燃えて（萌えて）きたぜ！そうと分かれば早くホテルに戻るぜ！！いや、今から追いかければ間に合うかも！！」
迎人が大声を上げる。
どうやら恋の『ヒーローシグナル』が鳴り始めたようだ。
十悟たちを放置し『召喚制限―猛突するモンスター』の『レッド・ガジェッド』のごとくその場を走り去る。
結局、十悟たちがその場に残された事になる。
「澪、それは…シンクロモンスター？」
「えっと…これはその…」
澪は声を詰まらせる。
賭けごとが良くないのは知っている。
ましてや、自分が持っているのは宝玉獣。
今更ながら大変なことをしたと思い、そっと十悟の顔を見る。
「ウチ、もう…アンティルールはしない！宝玉獣たちを賭けの対象には絶対せんようにするから…許してえな。」
十悟は笑顔で頷いた。
カードの大切さは自分達となんら変わらない澪の言葉に少し安心した。
悪びれる様子が無いなら、怒らなければならないと思ったけれど大丈夫だった。
「帰る前に、近くのカード屋に寄っていこうか！？澪のデッキに『チューナー』は無かったよね。」
「十悟君がウチとデートしたいって言うなら…。な〜んて、ウチもそうしたいと思ってたんよ。その後、喫茶店でお茶して、海馬ランドで遊んで、海馬ドームシティで洋服見たりしようね！！」
澪は無邪気な笑顔でそう話す。
その笑顔は名だたる宝玉と並ぶほど…と言っても過言ではなかった。
ただ、それは言葉にするには少し恥ずかしい。
「・・・」
「大会の真っ最中だってツッコミ入れてや！アカデミアのデュエル見て研究せな。明日はウチらが戦うんやし。さあ！お目当てのカード探しにレッツゴーや！！」
ふわふわで、気まぐれ。
そんな風のように澪は歩き出す。
しかし、公園の入り口でふとその足が止まる。
びっくりして十悟は澪をみる。
「ウチ・・・・・迷子やった！！」
関西人のボケなのか？
単に彼女が天然なのか？
でもそんな姿が少し可愛かった。
２２章：童実野ＶＳデュエルアカデミア
早朝の新聞社。
積み上げられた資料に、雑然とした部屋。
中心に机がいくつか並べられていて、所々に作業用のパソコンが置かれている。
「これじゃ新聞記事としてはダメだな。尾瀬呂ＶＳ童実野は結果だけで、アカデミアの選手特集と意気込み。これもアカデミア、こっちも、こっちもかよ！！」
男は手元にある新聞をひっくり返して溜息をつく。
国崎康介
体当たり取材や長期間の潜入取材などで数々のスクープを飛ばしてきた敏腕新聞記者だ。
かつてデュエリストだった経験を活かした『読ませるデュエル記事』も大衆に受け、ついには報道デスクにまで昇格した男だ。
かつては金のためならどんな汚い事でもしてきたが、ある人物との出会いで改心して以来、『真実の報道』を追い続けている。
「おい！！みんな集まってるか！！？」
ベテラン記者２人と若手記者が２人の計４人が今日の出勤らしい。
カメラを磨く者、メモをひっくり返す者、ペンをクルクル回しながら返事する者など様々だ。
「何なんだ今朝の記事は！？アカデミアの取材なんざ、開会式の時かそれよりも前に済ませとくもんだ！！昨日はどう考えても尾瀬呂に照準を合わせた記事を書くべきだろ！！宝玉獣使いに、見たこともねえシンクロモンスター、禁止デッキを倒すデッキ破壊、どこから書き始めても他のどの新聞社よりいい記事が書けるに決まってるじゃねえか！！」
国崎は早朝にも関わらず声を上げる。
記者たちは委縮しながら話を聞いている。
「いいか！？俺がにらんだ所では今日アカデミアが勝つ。優勝はアカデミアか尾瀬呂のどちらかになる！アカデミアが勝つんだろうが、尾瀬呂はこんなチームでそれでもアカデミアは強かったみたいな記事にするんだよ！！」
大会の記事についての熱弁が続く
自分だったらこんな角度から写真を狙うかや、取材の心得を語り出す。
「（また始まったよ…国崎さんのアカデミア贔屓が…。）」
「（おい、聞こえるぞ。でも、スクープのためだ。聞いておけ）」
記者２人が小声でしゃべり終わると同時に国崎の話も区切りがついた。
国崎は４人の顔を見渡して深呼吸をする。
「言いたい事はそれだけだ…。それから、ちょっと気になるタレコミがあってな。それによると『カード・スイーパーズ』っていうカード犯罪専門の警察集団が続々と会場周辺に集まってきているらしい…。命が最優先だが『虎穴に入らずんば虎児を得ず』とも言うからな！！以上、今日は特ダネを期待してるぞ！！」
国崎はそれだけ言い残して仮眠室のような部屋に入って布団を被る。
昨夜は大分遅かったらしい。
４人は顔を見合わせる。
そして自分の荷物を担ぎ会社を飛び出していった。
ホテルのとある会議室
「昨日、尾瀬呂に負けた私達には後がありません。大会規定により今日アカデミアを倒す事でしか、我々に優勝の道はない！！」
白銀の髪をかき上げながら白峰は選手たちに語り掛ける。
かつては『神狩りの使徒』のリーダーとして暗躍していた彼だが、十悟に敗れた後ペガサスの計らいで童実野高校に教師としてやってきた。
大学時代はプロデュエリストを目指しながら心理学を専攻し、人の心理を理解しその能力を伸ばす術を学んできた。
教師、ある意味それは彼にとってプロデュエリストよりも天職だった。
それを知ってか知らずか７人は彼の話を真剣に聞いている。
「俺は絶対に負けない！！相馬十悟にも天王寺つかさにも。俺のエクゾディアが最強だって事を思い知らせてやる！」
「鏡介、そうだ！それでいい！！気合も入ったところで、これからアカデミア戦のメンバーを発表する！！」
白峰はホワイトボードにメンバー表を書き出していく。
シングルデュエルが３つ。
タッグデュエルが２つ。
その５回のデュエルで勝敗を決めるのが大会のルールだ。
Ｓ（シングル）：伊東淳也
Ｔ（タッグ）：五階堂ミヤ、王崇陳
Ｓ（シングル）：岩熊隆男
Ｔ（タッグ）：香取奈菜、神城大和
Ｓ（シングル）：阿紋鏡介
「まずは淳也お前だ。昨日デュエル出来なくてウズウズしているだろう？まず、先制してやるんだ！タッグは五階堂ミヤ、王崇陳の２人だ。昨日の尾瀬呂戦みたいなコンビネーションを頼む！！次は岩熊隆男、いつも通り粘り強いデュエルを見せてくれ！！次が香取奈菜、神城大和のコンビ、童実野が誇る超重量級モンスタータッグだ。パワーで圧倒してやれ！！」
白峰はそれぞれに言葉を掛ける。
そして最後に鏡介を見る。
それに応えるように鏡介は胸を張る。
「分かっていると思うが…お前に求められるのは勝つ事だ！！いつも『勝利こそが全て』と言い張っているお前の事だ十分に分かってるか…。」
「もちろんだぜ！童実野は負けねえ！！武藤遊戯、海馬瀬人、城之内克也…。名だたる伝説のデュエリスト達に誓って、童実野は勝つ！！！行くぞ！！」
鏡介の掛け声と共に全員で気合いを入れる。
全員自分のデュエルディスクを持って会議室を出る。
彼らの目にはこれから戦場に向かう戦士の瞳！
そう言っても過言ではないだろう。
海馬ドーム
この日も会場には多くの人が集まっていた。
デュエルアカデミアの生徒がデュエルするという事もあり、前日より人が入っている。
すでにデュエルが始まっているらしい。
赤い制服を着た少年が先行らしい。
「俺の先行。カードドロー。俺は『デーモン・ビーバー』を攻撃表示で召喚！！さらに『二重召喚』発動！！手札から『プチリュウ』を召喚！！これでターン終了だ。」
デーモン。ビーバー ☆２ 地属性 獣族
ＡＴＫ４００ ＤＥＦ６００
「悪魔のツノと翼を持つビーバー。どんぐりを投げつけて攻撃する。」
プチリュウ ☆２ 風属性 ドラゴン族
ＡＴＫ６００ ＤＥＦ７００
「とても小さなドラゴン。小さなからだをいっぱいに使い攻撃する。」
二重召喚 通常魔法
「このターン自分は通常召喚を２回まで行う事ができる。」
フィールドには２体の低級モンスターが並ぶ。
可愛らしいドラゴンとドングリを抱えたちょっとブサイクなビーバーだ。
「俺のターンだな。カードドロー。」
淳也は勢いよくカードを引く。
彼の後ろにそっと黒い影が現れる。
精霊の『悪魔の調理師』だ。
（ふふふ。早速俺様を引き当てるとはな…流石はマスターだ）
「俺は『悪魔の調理師』を攻撃表示で召喚！！さらに手札を１枚捨てて『トラップ・ブースター』を発動！！俺が発動する罠は『グリード』だ！！さあ見せてもらうぜ。お前が自身の欲望によって破滅していく姿を！！」
トラップ・ブースター 速攻魔法
「手札を1枚捨てて発動する。手札の罠カード1枚を選択して発動する事ができる。」
グリード 永続罠
「カードの効果でドローを行ったプレイヤーは、そのターンのエンドフェイズ終了時にカードの効果でドローしたカードの枚数×５００ポイントダメージを受ける。」
「手札から『レベル調整』を発動！！さあデッキからカードを２枚ドローしな。俺は今墓地に送った『マッド・パティシエ ＬＶ４』を特殊召喚する！！このカードは攻撃を放棄する代わりにフィールド上のカード１枚につき１枚、お前がカードをドローする。さあ！魅惑のスイーツでお前の食欲を満たすがいい！！」
マッド・パティシエ ＬＶ４ ☆４ 闇属性 悪魔族
ＡＴＫ１４００ ＤＥＦ１８００
「1ターンに１度相手プレイヤーはお互いのフィールドに存在するカードの合計分デッキからカードをドローする。この効果を使用する場合、このカードは攻撃できない。自分のターンのスタンバイフェイズ時、表側表示のこのカードを墓地に送る事で『マッド・パティシエ ＬＶ６』１体を手札またはデッキから特殊召喚する。」
レベル調整 通常魔法
「相手はカードを２枚ドローする。自分の墓地に存在する「ＬＶ」を持つモンスター１体を、召喚条件を無視して特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターは、このターン攻撃できず効果を発動及び適用する事もできない。」
白い調理服を着た悪魔は大きなバスケットを取り出す。
モンブラン、チョコムース、抹茶…数えきれないスイーツをフィールド上にばらまいていく。
海馬瀬人のこだわりなのか、どれも手にとって食べたくなるような品ばかりだ。
「フィールドはモンスターが４体と罠が１枚の計５枚だ！！お前には５枚ドローしてもらう！！さらに『悪魔の調理師』でデーモン・ビーバーを攻撃！やれ！血塗られの大包丁！！」
不気味な悪魔が身の丈ほどもある包丁を振り上げる。
それはまっすぐビーバーに振り下ろされモンスターを粉砕する。
「モンスター効果、お前はデッキから２枚のカードをドローしてもらうぜ！！俺はカードを１枚伏せてターン終了だ。このターン、お前は欲望のまま９枚のカードをドローした。今、その報いを受ける時だ！グリード！！！」
グリード効果：ドローカード９枚×５００ポイント
アカデミアの少年ＬＰ８０００→３５００
「俺のターン。ドロー。手札から『きつね火』を攻撃表示で召喚！！さらに『ワン・フォー・ワン』を発動！手札を１枚捨ててデッキから『ギゴバイト』を特殊召喚！！」
きつね火 ☆２ 炎属性 炎族
ＡＴＫ３００ ＤＥＦ２００
「表側表示で存在するこのカードが戦闘で破壊されたターンのエンドフェイズ時、このカードを墓地から自分フィールド上に特殊召喚する。このカードは生け贄召喚のための生け贄にはできない。」
ギゴバイト ☆１ 水属性 爬虫類族
ＡＴＫ３５０ ＤＥＦ３００
「今はまだおだやかな心を持っているが、邪悪な心に染まる運命を背負っている・・・。」
ワン・フォー・ワン 通常魔法
「手札からモンスター１体を墓地へ送って発動する。手札またはデッキからレベル１モンスター１体を自分フィールド上に特殊召喚する。」
「俺はさらに『黙する死者』の効果で『プチリュウ』を特殊召喚！！カードを５枚伏せてターンエンド。」
黙する死者 通常魔法
「自分の墓地に存在する通常モンスター１体を選択して発動する。選択したモンスターを表側守備表示で特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターはフィールド上に表側表示で存在する限り攻撃する事ができない。」
少年は表情を変えずカードをセットする。
５枚の中に起死回生のカードがあるのは明白。
それを悟られないようにしているのだろう。
「俺のターン。ドロー。（あのうち１枚は『風林火山』か『エレメンタル・バースト』のような罠カード。残りはその発動の妨害を防ぐカウンター罠って所か…）」
少年は動こうとしない。
タイミングを図ってるのか。
じっと淳也の方を見つめる。
「来るなら来い！！俺は『マッド・パティシエ ＬＶ４』を墓地に送って『マッド・パティシエ ＬＶ６』を特殊召喚！！さらにモンスター効果発動！！！」
淳也は高らかにＬＶアップを宣言する。
そしてデッキから勢いよくカードを叩きつける。
先程よりもスマートで気品のある悪魔が召喚される。
彼の手にはさらなるスイーツが並んでいる…。
「その効果にチェーンする！罠発動…」
少年も負けじとカードを発動させる！！
２３章：童実野高の熱き戦い
少年の掛け声と共にカードが次々と表になる。
ソリットビジョンのカードが３枚。
それも、スロットで当たりが出たかのような同じカードだ。
「ふ、風林火山が…３枚だと？」
「ああ、俺が選択するのは『モンスターの破壊』『魔法・罠の破壊』『２ドロー』の３つの効果だ！！」
風林火山 通常罠
「風・水・炎・地属性モンスターが全てフィールド上に表側表示で存在する時に発動する事ができる。次の効果から１つを選択して適用する。
●相手フィールド上モンスターを全て破壊する。
●相手フィールド上の魔法・罠カードを全て破壊する。
●相手の手札を２枚ランダムに捨てる。
●カードを２枚ドローする。」
少年は静かに宣言する。
その瞬間、淳也のフィールドが次々と破壊されていく。
「俺は決めた…こいつらと勝つと！！魔法カード『カップ・オブ・エース』を発動！コイントス！！」
淳也はコインを取り出し、迷わず天高く投げる！
それを素早く受け止め左手の甲に乗せる。
相手、会場全体の視線が彼の手に集まる。
コインを見て淳也は僅かに微笑む。
カップ・オブ・エース 通常魔法
「コイントスを１回行い、表が出た場合は自分のデッキからカードを２枚ドローし、裏が出た場合は相手はデッキからカードを２枚ドローする。」
「表だ！！俺はデッキから２枚ドロー！！行くぜ！装備魔法『三ツ星の称号』発動！さあ！最高の調理師の称号を得て蘇れ『悪魔の調理師』！！」
悪魔の調理師 ☆４ 闇属性 悪魔族
ＡＴＫ１８００ ＤＥＦ１０００
「このカードが相手に戦闘ダメージを与えた時、相手はデッキからカードを２枚ドローする。」
三ツ星の称号 装備魔法
「デッキまたは墓地の『調理師』と名のつくモンスターを１体特殊召喚しこのカードを装備する。装備モンスターはレベルを３つ上げ、攻撃力を１２００ポイントアップする。」
ＡＴＫ１８００→３０００
「いくぜ！悪魔の調理師の攻撃！！」
淳也がまっすぐ相手モンスターを指差す。
それに応えるように不気味な悪魔が巨大な包丁を振り上げる。
「罠発動！『血の代償』！ライフを５００支払って『ハッピー・ラヴァー』を召喚する！」
ハッピー・ラヴァー ☆２ 光属性 天使族
ＡＴＫ８００ ＤＥＦ５００
「頭からハートビームを出し敵をしあわせにする、小さな天使。」
アカデミアの少年ＬＰ３５００→３０００
少年のライフが僅かに減少する。
そしてフィールドに可愛らしい天使が現れる。
小さくてちょこちょこと動き回っている。
血の代償 永続罠
「５００ライフポイントを払う事で、モンスター１体を通常召喚する。この効果は自分のメインフェイズ時及び相手のバトルフェイズ時にのみ発動する事ができる。」
淳也はフィールドを軽く見まわしてモンスターを確認する。
そして１つのモンスターに狙いを定める。
「攻撃続行！悪魔の調理師で『きつね火』を攻撃！血塗られの大包丁！！」
「罠発動『風林火山陰雷』！！手札の『Ｄ・ナポレオン』をコストに効果発動！こいつは風林火山にさらに効果が２つ追加され、選択できる数も墓地の風林火山の数だけ増やす事ができる！！」
風林火山陰雷 通常罠
「地・水・炎・風を含む５つの属性のモンスターがフィールド上に表側表示で存在し、それ以外の属性のモンスターを手札から墓地に送って発動する。次の効果から１つを選択して適用する。墓地に存在する『風林火山』の数だけ選択する効果の数を追加できる。
●相手フィールド上モンスターを全て破壊する。
●相手フィールド上の魔法・罠カードを全て破壊する。
●相手の手札を２枚ランダムに捨てる。
●カードを２枚ドローする。
●自分の墓地のカードを２枚を手札に加える。
●相手は次のターンに魔法・罠・効果モンスターの効果を発動できない。」
「４つ選択だと？」
「その通り。選択するのは『モンスター破壊』『２枚のハンデス』『次のターンの魔法・罠・効果の封殺』、そして『２ドロー』だ！」
「ならば、その効果にチェーン、手札を１枚捨てて速攻魔法『調和への代償』！こいつでフィールドを一掃する！！そしてお前は破壊されたカードの数だけドローできる。つまり８枚ドローだ。」
調和への代償 速攻魔法
「手札を１枚墓地に送る。フィールド上に表側表示で存在するカードを全て破壊する。その後相手は破壊されたカードの枚数分だけデッキからカードをドローする。」
フィールド上が一層される。
少年は少し眉をひそめて場を確認する。
「俺は『風林火山陰雷』の効果を処理！お前には手札をランダムに２枚捨ててもらう。そして次のターンに魔法・罠・効果モンスターの効果を発動できない！！俺はこれでターンを終了する。」
少年は自信満々で淳也を見る。
淳也もまた少年を見据える。
その瞳に絶望の色は無い。
「この瞬間、墓地の『シャドー・グリード』のモンスター効果発動！こいつは墓地にこのカードと『グリード』がある時、『グリード』と同じ効果を発動できる！！さあ！欲望の闇に消えな！！シャドー・グリード！！」
シャドー・グリード ☆５ 闇属性 悪魔族
ＡＴＫ１６００ ＤＥＦ１８００
「墓地にこのカードと『グリード』が存在する時、カードの効果でドローを行ったプレイヤーは、そのターンのエンドフェイズ終了時にカードの効果でドローしたカードの枚数×５００ポイントダメージを受ける。」
伊東淳也 ＬＰ８０００
アカデミアの少年 ＬＰ３０００→０
「くぅ、『調和への代償』で墓地に送っていたのか…。」
少年は悔しそうだが冷静にデュエルを分析した。
そして淳也に目をくれる事もなく仲間の元へと戻っていく。
「勝者、童実野高校『伊東淳也』！！」
審判が高らかに宣言する。
アカデミアが初戦を落とすという事態。
意外な結果にざわめきが起きている。
淳也はそれを気にも留めずにベンチへと帰っていく。
「さすがだな。淳也」
「まあな。」
鏡介と淳也が向かい合う。
その一言だけ交わしただけだ。
ただ、彼らにはそれで十分だった。
まだ１勝したこの状況では。
「よっしゃ、次も勝とうぜ！！」
鏡介の言葉に童実野高校メンバー全員が頷く。
監督である白峰も満足そうにその光景を見つめる。
選手用の通路。
観客も通らないその場所に二人の影が。
一人は淳也に負けた少年だ。
もう一人はアカデミアの監督。
「お疲れ様。デュエルでの敗北は悔しいでしょうが、私の出した条件『実戦で風林火山陰雷を発動する』は見事、クリアしたようね。君は大会から帰ったらラーイエローに昇格です。」
「・・・」
「心配しなくてもいいわ。この敗北も計算のうち。２敗まで追い込まれ、背水の陣で逆転。エンターテイメントとしても盛り上がる展開でしょ。今日のデュエルも昨日とスコアの上
では同じ結果になるわ。でも尾瀬呂と私達アカデミアの違いは、最初の２敗で『正選手』を出さずに温存するということ。」
その女監督の言葉に少し驚いた少年の表情が少し変わる。
自分がコマのように扱われて少し不機嫌な様子だ。
監督はそれを気にも留めずに少年を見つめ返す。
「・・・分かりました。帰り次第、ラーイエローとして頑張ります。ありがとうございました。」
「うん。本当におめでとう！！」
二人の会話はそこで終わった。
少年と女監督はそれぞれ別の方向に向かって歩いていく。
女監督は女子トイレに入り、鏡を見ながら口紅や化粧を直す。
「うーん、デュエルの強い子供たちってどうして扱いづらい子ばかりなのかしら…。彼はまだましな方だったけど。」
大会２日目の経過
Ｓ（シングル）：童実野高校が勝利
Ｔ（タッグ）：童実野高校が勝利
Ｓ（シングル）：アカデミアが勝利
Ｔ（タッグ）：アカデミアが勝利
Ｓ（シングル）：
天王寺つかさ：ＬＰ６０００
阿紋鏡介：LP４３００
「期待ハズレですわね。すでにエクゾディアパーツのカードが何枚か揃ってはいるようですが、もう終わりですわね。」
「く、モンスターをセットしてターンエンドだ。」
終焉のカウントダウン
カウント：１６
悔しそうにエンドする。
それを軽く笑うようにつかさはデッキに手を掛ける。
「私のターンですわね。カードドロー。やはり、あなたでは役不足…。手札より『終焉龍-計略のアレミラ』を召喚。そしてモンスター効果、カウントが１０以上あるとき、墓地の『終焉龍』を２体特殊召喚しますわ！来なさい『終焉龍-鉄壁のルーカン』『終焉龍-導きのランスロット』！！」
つかさのフィールドに２体の龍が現れる。
１体は硬い装甲に覆われた白き龍。
もう１体は流線型のフォルムに長い翼が特徴的な龍だ。
終焉龍-計略のアレミラ ☆１
ＡＴＫ１００ ＤＥＦ１００
「『終焉のカウントダウン』が発動している時、このカードをリリースすることで手札の『終焉龍』と名のつくモンスターを特殊召喚する事ができる。『終焉のカウントダウン』のカウントが１０以上の時、このカードをリリースすることで自分の墓地から『終焉龍』と名のつくモンスターを２体特殊召喚する」
終焉龍-鉄壁のルーカン ☆３ 光属性 ドラゴン族
ＡＴＫ１００ ＤＥＦ２０００
「『終焉のカウントダウン』が発動している時、このカードは戦闘では破壊されない。『終焉のカウントダウン』のカウントが１０以上の時、このカードは魔法・罠・カード効果では破壊されない。」
終焉龍-導きのランスロット ☆４ 地属性 ドラゴン族
ＡＴＫ１４００ ＤＥＦ１２００
「このカードを手札から墓地に捨てる。デッキから『終焉のカウントダウン』１枚を手札に加える。『終焉のカウントダウン』が発動している時、このカードが戦闘によって破壊され墓地に送られた場合、『終焉のカウントダウン』のカウントを２つ進める。この効果でカウントを２０とすることはできない。」
「低級モンスターが２体だと？」
「さらに手札から『終焉龍-神速のトリスタン』を特殊召喚。このカードは『終焉のカウントダウン』が発動している時、特殊召喚が可能。そして特殊召喚時、カウント１０以上でフィールド上の『終焉龍』の数だけカウントを進めますわ！！」
終焉龍-神速のトリスタン ☆５ 炎属性 ドラゴン族
ＡＴＫ２１００ ＤＥＦ１６００
「『終焉のカウントダウン』が発動している時、このカードは手札から特殊召喚する事ができる。『終焉のカウントダウン』のカウントが１０以上の時、このカードが自身の効果で特殊召喚された場合に『終焉のカウントダウン』のカウントをフィールド上の『終焉龍』と名のつくモンスターの数だけ進める。」
フィールド上空のドクロに炎が灯される。
時計回りに一周。
１９個の炎が不気味に燃え続ける。
「トリスタンでセットモンスターを攻撃！」
鋭い鍵爪でモンスターが敵を素早く切り裂く。
裏側だったカードが表になって砕け散る。
「俺は『マッド・リローダー』の効果発動！！手札を２枚捨て、２枚ドロー！！（来た！これで４枚目！）」
マッド・リローダー ☆１ 闇属性 悪魔族
ＡＴＫ０ ＤＥＦ０
「このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、自分の手札からカードを２枚墓地へ送り、自分のデッキからカードを２枚ドローする。」
「カードを１枚伏せてターンエンドですわ。忘れてないと思いますが、あなたの最後のターンですわよ！！」
つかさはカウントに目をやりながら話す。
こうしている間も不気味に炎は燃え続けている。
「俺のターン。ドロー！！！俺は…」
「何もする必要はありませんわ。」
「なに？」
「罠カード『手札奉還』を発動させますわ！」
つかさの言葉に鏡介の手が止まる。
その視線はまっすぐ伏せカードへと向かう。
つかさのフィールドの罠がゆっくり表になる。
「このカードはお互いに手札をデッキに戻し、それぞれが戻した枚数だけ相手が墓地のカードを指定してそのカードを手札に加えるんですわよ！そうですわね、墓地のモンスターを４枚手札に加えてもらいますわ。」
手札奉還 通常罠
「お互い手札のカードをデッキに戻す。それぞれ相手がデッキに戻した枚数と同じになるように相手墓地のカードを選択する。お互いに選択されたカードを手札に加える」
「お、俺のエクゾディアパーツが…。」
「絶望など、デュエルが終わってからいくらでもできますわよ。早くエンド宣言をして下さるかしら？」
つかさは鏡介に言い放つ。
鏡介は手札を確認する。
ドロー効果やサーチ効果を持つモンスターもある。
しかし、このターンには使えないものしかない。
「くそ！ターンエンドだ…」
不気味なドクロに最後の炎が灯される。
確かに２０個の炎が円を描くように灯されている。
その中心のドクロは口元をわずかに緩ませ笑い声を上げる。
その死神とも取れる魔物の放つ黒い霧に包まれる。
次の瞬間、会場にアナウンスが響き渡る。
「しょ、勝者デュエルアカデミア、天王寺つかさ！！！」
そして会場は一気に盛り上がる。
スタジアムが壊れるかと思えるくらいの盛り上がりを見せている。
つかさは鏡介に軽く視線をやりながらデュエル場を後にする。
敗者には興味がないと言わんばかりだ。
「ちくしょー。相馬十悟とデュエルができず、天王寺つかさには敗北…。俺のデュエルはいったい何だったんだ、ちくしょ、ちくしょー、ちくしょー、ちくしょー、ちくしょー、ちくしょー、ちくしょー、ちくしょー。ぐわあああああああ！！！」
鏡介の叫びがこだまする。
一人のデュエリストの叫びとしてはあまりに大きすぎる。
彼の心に召喚神が呼応する…そんな感じだ。
誰もが驚愕する中、淳也はまっすぐ鏡介の前に立つ。
次の瞬間、鏡介の体がくずれ落ちる。
淳也の拳が丁度彼の腹部に当たっているのが分かる。
鏡介の体を淳也が丁度受け止める。
「童実野のエースがみっともねぇ。まあ、気持ちは痛いほど分かるけどな」
そう言いながら鏡介を背負って会場を後にする。
童実野の残りのメンバーもそれに続く。
チームとしての結束が確かに存在しているのだと分かる。
童実野高校
トライアングル・デュエル・カーニバル
デュエル大会：第３位！
２４章：最後の神の鼓動
十悟達の泊っているホテル。
その一室に厳重に鍵の掛ったトランクケースが音を立てて開く。
さらに強固にプロテクトされたカードが取り出される。
ＴＨＥ・ＡＢＳＯＬＵＴＥ・ＤＥＳＴＩＮＹ-究極絶対運命神 ☆１０ 神 幻神獣族
ＡＴＫ ？ ＤＥＦ ？
「？？？」
（目覚メノ時カ、先程話シタガ後悔スルゾ！！）
「あいにく私はデュエリストではないの。私の可愛い生徒たちがプロデュエリストになれればそれでいいのよ。彼らはもう３年生…。オシリスレッド、ラーイエローの生徒ならいざしらず、私が受け持ちのオベリスクブルーの生徒の進路が決まっていないでは示しがつかない。そのためなら…」
部屋の扉を軽く叩く音。
それがニ度三度聞こえてくる。
扉が開きその中に生徒を招き入れる。
「紅木先生、話って何ですか？」
「明日の尾瀬呂戦、あなたはこのデッキを使いなさい。上手くいけばあなたをプロリーグに推薦する事ができます！！いえ、あなたにはできます。」
「本当ですか？俺、絶対にプロデュエリストになりたいんです。明日は頑張りますよ！！！」
少年はデッキを握りしめて部屋を後にする。
オベリスクブルーの制服を着てはいるが、かなり使い込まれた古着だ。
まだ幼さが残る部分もあるが、苦労人といった風貌だ。
「我の持ち主は神になってもらう…それが我を扱う唯一の条件。それが理解できるのならデュエルで使えですって、彼がデュエルの神になったら私をどこまで出世させてくれるのかしら…ふふふ」
尾瀬呂学園メンバー達は
「みんな集まってるな？来るべきデュエルアカデミア戦に向けての会議を開始するぞ！！」
十悟たちの担任であり、チームの監督でもある黒須が声をかける。
７人が向かい合うような形で座っている。
「えええ、ウチ、海馬ランドで遊びたいのに〜。」
澪が立ち上がり真っ先に反応する。
それを聞いて困った顔をする黒須。
だが、少し考えて口を開く。
「優勝したら…１日フリーパスを私が自腹で出そう！！」
「やった〜。冗談やったんやけど、結果オーライやね。」
澪だけでなく、みんなの顔に笑顔ができる。
それを見て黒須は軽く咳払いをする。
そして真面目な顔をして口を開く。
「デュエルは明日だ！そこでお前たちに家庭教師を付ける事にした！！！」
黒須は真剣な顔だ。
ただ、十悟たちの反応がイマイチだったせいか、空回りしているように見える。
なぜこのタイミングで、何を教わるのか、どんな人なのか…。
メンバーの頭の中は、だいたいこんな事が回っているようだ。
「何すかいきなり『かてきょー』って？」
「まあ、詳しい事は彼らに任せてある…。勝つために、学べる事は学ぶ。そのヒントは託してあるから！！久美と澪は第１会議室、迎人といつきは第２会議室、智花と朝子は第３会議室でその人達は待ってる！！」
「えっと、僕は…？」
「ここで待ってればいい。」
黒須はそれぞれの顔を見ながら行き場所を指示する。
十悟を除き、それぞれ２人ずつが部屋から出ていく。
黒須もそれに続いて部屋から出ていく。
部屋には十悟ひとりが残された。
だがそう時間が経たないうちに部屋のドアが開く。
見たところ大学生風の青年だ。
「初めまして、俺の名前は秋葉豪（あきば つよし）だ。尾瀬呂学園大学部の生徒会長を務めている。」
「尾瀬呂学園高等部３年、相馬十悟です。よろしくお願いします。」
青年と十悟は握手しながら軽く自己紹介をする。
そして近くにあるイスに座って向かい合う。
「まず、初めに宣言しておくが、俺は根っからのデュエリストではない。精霊研究のためにカードを所有したり、そのエネルギー原理解明のためにデュエルする事はあるけどな。」
「な、なるほど…。それで僕の課題というのは？」
十悟は真剣な顔で尋ねる。
「ああ、俺も良く分からないんだが、このカードをお前が使うようなら…俺がデッキ調整の為にデュエルをする。」
青年はカードを取り出す。
そのカードを見て十悟の表情が少し強張る。
ＤＥＳＴＩＮＹ・ＢＲＥＡＫＥＲ‐運命の破壊者 ☆１０ 神 幻神獣族
ＡＴＫ４０００ ＤＥＦ４０００
「このカードはフィールドと手札にこのカードしかない場合のみ特殊召喚できる。このカードを対象とする魔法、罠、効果モンスターの効果は無効となる。このカードを特殊召喚したプレイヤーはドローフェイズの前にフェイズを１つ宣言する。以後そのフェイズをすべてスキップする。このカードが相手に戦闘ダメージを与えた時相手はカードの種類（魔法、罠、モンスター）を１つ宣言する。デッキのその種類のカードをすべて墓地へ送る。」
幾度となく十悟を苦しめてきたカードだ。
それをいきなり使ってもよい。
何か納得のいかない事だ。
「僕は…使いません！！そもそも、これは大会の賞品のはず…。」
「ん、そうなのか？良く分からないけど、使わないなら俺の出番はここまでだな。忙しいから帰るぜ！カードは黒須さんに返しておくわ。それじゃあな！」
青年はカードを閉まってイスから立ち上がる。
そして軽い足取りでドアへと進む。
「あの、本当にそれだけなんですか？」
「ああ、そうだが。俺はこれから家に帰って撮り溜めたアニメを見なくてはいけないんだ！！悪いけど１分１秒も無駄にできない！！」
青年は真面目な顔をして言い放つ。
十悟は開いた口がふさがらない。
「ん？聞こえなかったか？お・れ・は・ア・ニ・メ・を・見・に・帰・る！！魔法少女ピケルたんＳｔｒｉｋｅｒｓだ！！」
「き、聞こえてます…。（内容は聞いてない）」
青年は安心した様子を見せる。
そしてドアを勢いよく開く。
「それじゃあ頑張ってくれよ。」
軽く手を振って出て行った。
十悟は黙ってそれを見守る事しかできなかった。
「何だったんだろう結局…。」
第３会議室
「あなた達ね。私の十悟を奪おうという女狐というのは！！！」
十悟と同じ髪の色。
ミドルショートで、しなやかキューティクル。
キリッとした瞳が智花と朝子を交互に見つめる。
「もしかして、この方は十悟君の…」
「そ、お姉さん。失恋するたびに十悟に泣きついて…を繰り返してるうちに重度のブラコンになったらしいわ…。ちょっと危険なくらいにね！！」
朝子は小声で手短に説明する。
「話はここまで、デュエルよ！！私が勝ったら私は十悟の元へいくわ！！」
「「受けて立ちます！！」」
智花と朝子が同時に答える。
そして３人がデュエルディスクを構える。
「デュエル！！」
２５章：真の敵、真に向かい合うべきもの
数年前
ある日の相馬家
「でね、彼が賭けデュエルで奪われたカードを取り返すために借金してカード買って、同じ相手にデュエル挑んで負けて、また借金して…。それで私にまでお金貸せって…もう嫌になって別れちゃった」
「それがいいと思うよ（正直うんざりなんだけど…）」
「この前の彼氏はさ〜。」
僕の姉、相馬万桜は男運が無い。
犯罪に巻き込まれた事はないが、付き合う男は皆、ダメ人間ばかりだ。
うちは父親と母親が共働きで帰りが遅くなる事が多い。
家事全般はもう一人の姉、千春が引き受けている事もあり、彼女の愚痴を聞かされるのは大抵、僕なのだ。
最初は勉強しながら、デッキを調整しながら聞いていた事もあったんだけど…。
「ああああ、もう！！！」
そう言って今日も姉は机を激しく叩く。
それこそ、ソリットビジョンでモンスターが破壊されるような衝撃。
つまり、ちゃんと聞くしかないという事だ。
台所では千春姉さんが夕飯の用意をしている。
つまり、夕飯までの辛抱と言うわけだ。
「そうだ！！他から男を探して来るからいけないだ！！！そうよ、十悟を私の物に！私色に染めていく『実弟光源氏計画！』コレだわ！！」
「ちょ、ちょっと…。」
「あらあら、万桜も元気になったのね。それじゃあ２人とも夕飯にしましょう。」
何も聞いてない千春姉さんは箸を並べながら僕達に声をかける。
万桜姉さんはスッキリした顔で食事が並べられたテーブルに着く。
「うん、僕は何も聞かなかった。何も聞かなかった…。」
それから姉さんは…と言うのは話さない方がいいだろう。
現在
反町朝子 ＬＰ８０００
木村智花 ＬＰ８０００
相馬万桜 ＬＰ８０００
「３人だけしかいないから、バトルロイヤルルールで。最初のターンは全員が攻撃不可。次からは誰をターゲットにしてもＯＫ。」
「分かりました。」
３人の視線が交互にぶつかり合う。
それぞれをけん制しながらデュエルの準備が整う。
小さく深呼吸した朝子からターンが始まる。
「私が勝つ！私の先行、カードドロー。私は『智天使ハーヴェスト』を攻撃表示で召喚！カードを３枚伏せてターンエンド。」
智天使ハーヴェスト ☆４ 光属性 天使族
ＡＴＫ１８００ ＤＥＦ１０００
「このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、自分の墓地に存在するカウンター罠１枚を手札に加える事ができる。」
天使は使い慣れた角笛を片手にフィールドに現れる。
戦いのファンファーレを高らかに吹き鳴らされている。
自らの気力を高めて攻撃態勢を取る。
エンド宣言を聞いた智花がデッキに手をかける。
朝子と万桜に視線をやり気持を整える。
「私のターンですね。カードをドローします。私は朝子さんのフィールドにモンスターが存在するため『サイバー・ドラゴン』を特殊召喚！」
「カウンター罠『混沌の落とし穴』！サイドラはゲームから除外よ！（シンクロ召喚の起点となるカードは潰したわ）」
機械の龍がフィールドに現れる。
その周囲を光と闇が渦を巻き始めるのが分かった。
次の瞬間、機械龍がその渦に引き込まれ、消滅した。
それに合わせて朝子のライフが減少する。
反町朝子 ＬＰ８０００→６０００
サイバー・ドラゴン ☆５ 光属性 機械族
ＡＴＫ２１００ ＤＥＦ１６００
「相手フィールド上にモンスターが存在し、自分フィールド上にモンスターが存在していない場合、このカードは手札から特殊召喚する事ができる。」
混沌の落とし穴 カウンター罠
「２０００ライフポイントを払って発動する。光属性及び闇属性モンスターの召喚・反転召喚・特殊召喚を無効にしゲームから除外する。」
「モンスターと、カードを１枚伏せてターン終了です。」
「カウンター罠『城壁崩壊』を発動！モンスターがセットさせた時、そのモンスターを破壊する！」
城壁崩壊 カウンター罠
「相手がモンスターをセットした時、そのモンスターをセット状態のまま破壊する。」
守備表示のままのカードが破壊される。
智花のフィールドにはセットカードしか残っていない。
「（智花の出ばなは、完全にくじいたはず！）」
「（まずは私を潰すつもりのようですね…。）」
２人の視線がぶつかりあう。
その目には万桜の姿は映っていない。
だが彼女はそれを気にはしていないようだ。
「私のターン。ドロー。これは…。」
「（万桜さんはいったいどんなデュエルを…」」
「（あの人のデュエルは私も初めて見る…）」
万桜はカードを見ながら戦略を立てる。
その姿は十悟のそれによく似ている。
２人にはそう感じられた。
万桜は、わずかに微笑んでデュエルを進める。
「私は『おろかな埋葬』を発動！デッキから『精気を吸う骨の塔』を墓地に送るわ。さらに『封印の黄金櫃』の効果で…」
「（十悟と同じデッキ破壊？）カウンター罠『魔宮の賄賂』を発動！黄金櫃の効果を無効化するわ！！」
おろかな埋葬 通常魔法
「自分のデッキからモンスター１体を選択して墓地へ送る。」
封印の黄金櫃 通常魔法
「自分のデッキからカードを１枚選択し、ゲームから除外する。発動後２回目の自分のスタンバイフェイズ時にそのカードを手札に加える。」
魔宮の賄賂 カウンター罠
「相手の魔法・罠カードの発動を無効にし破壊する。相手はデッキからカードを１枚ドローする。」
ソリットビジョンで出現した魔法カードが音を立てて砕け散る。
万桜は気にせずカードを墓地に送る。
その後、流れるようにカードをドローし手札に加える。
「それじゃあ『マッド・ヴァンパイア』を攻撃表示！カードを２枚伏せてターン終了よ。」
マッド・ヴァンパイア ☆４ 闇属性 アンデット族
ＡＴＫ１９００ ＤＥＦ ０
「このカードが相手プレイヤーに戦闘ダメージを与える度に、カードの種類（モンスター、魔法、罠）を宣言する。相手はデッキからその種類のカード３枚を選択して墓地に送る。」
「私のターン。ドロー。私は『おろかな埋葬』発動！デッキの『冥界天使−ダーナ』を墓地に送るわ！そして墓地の『おろかな埋葬』を除外して『冥界天使−ゾグラーヴ』を特殊召喚！ダーナは墓地に存在するとき、墓地のカードすべてをカウンター罠として扱う。
冥界天使−ゾグラーヴ ☆５ 闇属性 天使族
ＡＴＫ？ ＤＥＦ０
「このカードは墓地のカウンター罠を墓地から１枚除外することで生け贄なしで召喚できる。このカードの攻撃力は墓地のカウンター罠の数×１０００となる。」
ＡＴＫ？→３０００
冥界天使−ダーナ ☆５ 闇属性 天使族
ＡＴＫ１０００ ＤＥＦ１０００
「このカードが墓地に存在するとき、自分の墓地のカードは全てカウンター罠としても扱う。カウンター罠が発動するたびに自分フィールド上に存在するこのカードの攻撃力は１０００アップし、そのカウンター罠の発動と効果は無効化されない。」
「ゾグラーヴでマッド・ヴァンパイアを攻撃！暗黒冥光弾！！！」
漆黒の衝撃波が不気味なゾンビを破壊する。
万桜のリバースカードが発動する気配はない…。
朝子は安心して智花の方を見る。
「ハーヴェスト、智花にダイレクトアタック！ハーヴェストシャイン！！！」
「罠発動です！『不完全同調』！！自分のデッキをチューナーとチューナー以外のカードが出るまでめくり、その２枚で特殊召喚可能なシンクロモンスターをエクストラデッキから特殊召喚します！！」
智花がゆっくりデッキに手をかける。
彼女のデッキに視線が集まる。
不完全同調 通常罠
「自分のデッキをチューナーとチューナー以外のカードがそれぞれ１枚ずつ出るまでめくる。その２枚で特殊召喚可能なシンクロモンスターがいる場合、その２枚を墓地に送りってそのモンスターをエクストラデッキから特殊召喚することができる。めくったカードはデッキに加えてシャッフルする。このモンスターは発動ターンのエンドフェイズにエクストラデッキに戻る。この特殊召喚は正規のシンクロ召喚として扱う。」
「行きます！１枚目『サイバー・ドラゴン』、２枚目『サイクロン』、３枚目『テンダネス』！！」
テンダネス ☆３ 光属性 天使族 チューナー
ATK７００ DEF１４００
「恋人たちの永遠を祝福する、かわいらしい天使。」
（本作品特別仕様です）
「レベル５『サイバー・ドラゴン』にレベル３『テンダネス』をチューニング！！希望を紡ぐ流星群よ！荒れ狂う疾風を纏い、勝利を導く架け橋となれ！！シンクロ召喚！飛翔せよ！スターダスト・ドラゴン！！」
漆黒の夜空に輝く流星。
その輝きを秘めたドラゴンが智花のフィールドに舞い降りる。
あらゆる人を魅了するその輝く翼を何度も羽ばたかせる。
スターダスト・ドラゴン ☆８ 風属性 ドラゴン族
ＡＴＫ２５００ ＤＥＦ２０００
「チューナー＋チューナー以外のモンスター１体以上
「フィールド上のカードを破壊する効果」を持つ魔法・罠・効果モンスターの効果が発動した時、このカードをリリースする事でその発動を無効にし破壊する。この効果を適用したターンのエンドフェイズ時、この効果を発動するためにリリースされ墓地に存在するこのカードを、自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。」
「く、攻撃はキャンセル、ターンエンドよ！」
朝子は予想外のシンクロモンスターの登場に悔しがる。
万桜はじっと戦況を見守っている。
「スターダストはエクストラデッキに戻ります！！私のターンですね。カードドロー。私は手札から『死者蘇生』を発動します！」
「この瞬間、『マジック・ジャマー』発動！手札を１枚捨てて魔法カードの発動を無効にして破壊する。しかも墓地のカードが増えた事により、ゾグラーヴの攻撃力は５０００！！」
マジック・ジャマー カウンター罠
「手札を１枚捨てて発動する。魔法カードの発動を無効にし破壊する。」
フィールド上の天使はその妖しさと強さを増していく。
そしてもう一度不気味な杖を構え、攻撃態勢を取る。
「やはりカウンター罠、でもこちらはオトリです。手札より『精神操作』を発動！ゾグラーヴのコントロールを得ます！！さらに『トラスト・ガーディアン』を通常召喚！再び舞い上がって『スターダスト・ドラゴン』！！」
「（ダーナの効果でハーヴェストは今、墓地のどのカードでも回収できる。戦闘破壊しなければ…問題はありませんね。）私は、万桜さんにダイレクトアタック！！シューティング・ソニック！！」
相馬万桜 ＬＰ８０００→５５００
「バカな子達ね。手札もフィールドのカードも使い切るまで争って。」
「そ、そこまで言われるような事は…。私はこれでターンを終了です。」
「いいわ。終わりにしましょう。私のターン。ドロー。手札より『生者の書−禁断の呪術−』を発動！墓地の『精気を吸う骨の塔』を特殊召喚！さらに『骨の塔に潜む死霊』を通常召喚！！」
精気を吸う骨の塔 ☆３ 闇属性 アンデット族
ATK４００ DEF１５００
「自分フィールド上にこのカード以外のアンデット族モンスターが存在する場合、このカードを攻撃する事はできない。アンデット族モンスターが特殊召喚に成功する度に、相手のデッキの上からカードを２枚墓地へ送る。」
骨の塔に潜む死霊 ☆２ 闇属性 アンデット族
ATK１０００ DEF１０００
「このカードが墓地からの特殊召喚に成功した時、相手のデッキの上からカードを３枚墓地に送る。このカードがフィールドから墓地に送られたとき、相手のデッキの上からカードを２枚墓地に送る。」
生者の書−禁断の呪術− 通常魔法
「自分の墓地に存在するアンデット族モンスター１体を特殊召喚し、相手の墓地に存在するモンスター１体をゲームから除外する。」
「低級アンデットが２体？」
「見てれば分かるわ。リバースカード・オープン！『２人３脚ゾンビの魂』、さらに手札を１枚捨てて『レインボー・ライフ』を発動！！」
２人３脚ゾンビの魂 通常罠
「自分フィールド上にアンデット族モンスターが２体存在する時のみ、その２体を指定して発動する。このターンに自分のアンデット族モンスターが戦闘によって破壊され、墓地に送られた時、指定したもう片方のモンスターが存在する場合、破壊されたモンスターを特殊召喚する事ができる。特殊召喚したモンスターが攻撃可能ならば攻撃しなくてはならない。」
レインボー・ライフ 通常罠
「手札を１枚捨てる。このターンのエンドフェイズ時まで、自分が受けるダメージは無効になり、その数値分ライフポイントを回復する。」
「バトルフェイズ！『骨の塔に潜む死霊』で『智天使ハーヴェスト』を攻撃！！この瞬間、戦闘によって破壊された『骨の塔に潜む死霊』の効果でデッキの上から２枚を墓地へ！そして『２人３脚ゾンビの魂』の効果で蘇生し、『精気を吸う骨の塔』と『骨の塔に潜む死霊』の効果で５枚のカードを墓地へ送る！」
「（そして、バトルフェイズ中の蘇生だからまだ攻撃が可能…。）」
「（しかも『レインボー・ライフ』で戦闘ダメージを回復に変えている）」
「１回の攻撃と蘇生で合計７枚のデッキを削っていく」
「「つまり…無限ループ！！」」
智花と朝子が同時に口にする。
十悟のデッキ破壊を始めて見た時のような衝撃。
まさにそれが今、この瞬間に自分に向けられている事がわかる。
「その通りよ！！」
朝子 デッキ：０
智花 デッキ：０
「ターン終了！あなた達２人にデッキは無いわね。私の勝ち！！つまり、十悟は私のものね！！！」
万桜は堂々と宣言する。
そして手早くカードを片づけ、ディスクを外す。
「待って下さい！！あなたと十悟君は姉弟です。だから結婚はできません！！」
「な、なんですって！！？」
万桜は驚愕の事実を聞かされ、思わずディスクを落とす。
その様子に朝子と智花が焦る…。
「あ、当たり前ですよ…」
「弁護士の母に聞いてみなくちゃ。………もしもし。ママ、私だけど。それでね。えええええええええええええええ！！分かった。ありがとう…。」
「・・・」
「・・・」
「ダメだった…。」
万桜はがっかりしてつぶやく。
朝子と智花はそれを見ているしかなかった。
「あ、あの……」
智花はそっと万桜に声をかける。
それを聞き、万桜が顔を上げる。
そして智花と朝子を交互に指差しながら口を開く。
「ふふふ。私の陰謀を見事に阻止したつもりでしょうが、甘かったわね。私は相馬家四天王の中でも最弱な存在。あなた達は次の千春姉さんに手も足も出ずに、敗れていくでしょう！！十悟を手に入れたければ精々がんばるのね…ははははは！」
「って冗談はここまで。私から一言言わせてもらうわね。確かにデュエリストとしては、いいセンスを持っていると思うわ。でも、このデュエルで２人とも『私』と言う敵が見えていなかった。真の敵を見極め、真に向き合うべきものと向き合う…２人ならできると思うわ！！」
「真の敵を見極める…この大会の真の敵？」
「真に向かい合うべきもの…（私が向き合わなきゃいけないのは、美月たち…）」
それぞれの言葉を呪文のように繰り返す２人も見ながら、万桜は部屋を出る。
最後は十悟の姉としてではなく、２人の家庭教師としての役目が果たせたと満足したからだ。
ポケットから小さく折りたたまれたメモを取り出す。
「千春姉さんの作った今日のための台本…結構、面白いじゃない…。」
そう呟きながら微笑んだ。
２６章：それぞれの家庭教師
第２会議室
迎人、いつきチーム。
「あ、あんたが俺達のかてきょーなのか？」
迎人がそっと口を開く。
見た目は男なのだが格好は女…。
「そうなんだけど、そうじゃ無いのよね。とりあえず自己紹介から、あたしの名前は大釜修一郎！！まあ、こっちの名前は覚えなくていいわよん。もう少ししたら変えるつもりだから。今は源氏名『秘華瑠（ピケル）』って呼んでね〜」
「丁重に断らせて頂きます。」
いつきは即答する。
何か不気味なものでも見るような顔だ。
「そんでオカマ先輩！！俺達はどうすれば強くなれるんだ？」
「おか、おか…オカマ先輩ですって！！！！」
「迎人、大釜先輩を言い間違えたのか、本当にオカマと言いたかったのか微妙に分かりにくいぞ。」
いつきはフォローしたつもりだったが言って後悔していた。
そっと、彼（彼女）の顔を見る。
「あんた達２人とも失礼ね…まあいいわ。ここは年上のあたしが我慢するわ。」
「「すみませんでした」」
２人が同時に謝る。
「オッケイ、オッケイよん。あなた達２人はこれからお互いにデュエルしてもらうわね。『自分に足りない物を相手から探し出して自分のものにする』という事ね。」
明智迎人 LP１２００
森崎いつき LP３０００
「ふふ、もらったぜ！俺は『神の居城−ヴァルハラ』発動！堕天使アスモディウスを特殊召喚！！」
堕天使アスモディウス ☆８ 闇属性 天使族
ＡＴＫ３０００ ＤＥＦ２５００
「このカードはデッキまたは墓地からの特殊召喚はできない。１ターンに１度、自分のデッキから天使族モンスター１体を墓地へ送る事ができる。自分フィールド上に存在するこのカードが破壊され墓地へ送られた時、自分フィールド上に「アスモトークン」（天使族・闇・星５・攻１８００／守１３００）１体と、「ディウストークン」（天使族・闇・星３・攻／守１２００）１体を特殊召喚する。「アスモトークン」はカードの効果では破壊されない。「ディウストークン」は戦闘では破壊されない。」
神の居城−ヴァルハラ 永続魔法
「自分フィールド上にモンスターが存在しない場合、手札から天使族モンスター１体を特殊召喚できる。この効果は１ターンに１度しか使用できない。」
「いつきにダイレクトアタック！！」
森崎いつき LP３０００→０
「よっしゃ。２勝１敗、今のところ俺の勝ち越しだぜ！！」
「僕達に足りないものを探すんだろ…？」
「そうだったな…うーん。」
「相手と本気で向き合って相手の事を理解しようとする事が重要よ。デュエルも恋もね」
一瞬、迎人といつきの視線が集まる。
でも何も聞かなかったように向き直る。
彼女（彼）がウインクしているように見えたからだ。
「よっしゃ、もう一回デュエルだ！！」
「「デュエル！！」」
第１会議室
久美、澪チーム。
「あ、あの…澪さん…」
「どうしたの？久美ちゃん。」
「あの人が私達の家庭教師ですよね？」
２人の目の前には異様な雰囲気の女性が座っている。
黒を基調にしたどこかアジアンテイストの服。
黒褐色の肌に青い瞳をしている。
怪しい儀式の道具ともとれる品をいくつも携帯している。
「来ましたね…。早速、１人ずつ占ってさしあげましょう…こちらの椅子にどうぞ！！」
小さく消えそうな声。
それでいて透き通る綺麗な声だった。
女性は細い手を差し出して椅子を指差す。
それに応えて久美がまず、女性と向かい合う。
女性の視線が彼女の顔とその周辺へと移る。
澪はそれを横で見ている。
「今日、あなたには決別の相が出ています…しかしこれはあなたが前に進むために大いにプラスになる事です…西南西に向かってみるといいでしょう！！」
久美は言われた事を頭の中で巡らせ考える。
入れ替わるようにして、今度は澪が椅子に座って女性と向かい合う。
女性の視線はまっすぐ澪の瞳だけを見つめる。
そしてゆっくり顔全体を見る。
「あなたには変革の相が出ていますね…今まで作り上げていたものを大きく変える時ですね…北北東へ行ってみる事をお勧めします！」
「そ、それだけですか？デュエルの事とかは？」
２人は向かい合ってから女性の方を見る。
女性は久美と澪を交互に見て口を開く。
「デュエル？私は黒須さんから２人を占ってあげて欲しいと頼まれただけなのですが…そうですね、２人にはオマケしてあげます…この水晶を覗き込んで下さい。その中に見えたものがヒントになると思います！」
「うーん、久美ちゃんは何に見えるん？」
「蛇？じゃないな、なんかギザギザしてる…」
「ウチもなんかゴツゴツしたものが…」
女性はそっと水晶をしまう。
それから一息ついて口を開く。
「最初のインスピレーションが重要です…それではお二人とも御機嫌よう！」
女性は静かに立ち上がる。
そして音も立てずに部屋を出る。
「よしウチは北北東に行ってみよう！！！…って北北東ってどっち？」
「やっぱり皆と合流してからの方が…。」
「ほな、皆の様子見にいこか。」
「そ、それどころではないかもしれませんね…」
久美と澪が揃って部屋を出る。
お互いの占いの事を話しながら他のメンバーの部屋へと向かう。
女性はその姿を眺めていた。
そして１枚のカードを取り出して小さくつぶやく。
「ご挨拶せずとも良かったのですか？」
（いいえ、私は智花さんに最後の力を届けるのがこの世界に来た使命。その手伝いをしてもらった、あなたには感謝しています…。）
精霊と話す女性。
その傍らには深紅のマントに青いマントを付けたモンスターがいる。
常に３つの水晶を所持している『水晶の占い師』だ。
かつて異世界で智花の姉である智世に仕え、十悟と死闘を繰り広げたデュエリストでもある。
「あなたと私の占いで導きだした未来…。いえ、辞めておきましょう。我々はデュエル大会に出る後輩達を応援している大学生です。」
女性にはまだ迷いがあるようだ。
それを無理やり押し殺したのが精霊である「水晶の占い師」にも分かった。
２７章：対決！ストーン流！！
「うーん、皆頑張っているはずなのに…僕だけ何も出来てない気がする。」
十悟はホテルを出て、会場への道を歩いていた。
どこに向かう訳でもない。
デュエル場には観客も無く閑散としている。
「すっげえ！！ここが海馬ドームのデュエル場か！プロリーグはこの会場が一杯になって、すげー盛り上がるんだよな〜。俺もこんな所でデュエルしてみて〜な〜。」
片手にバックを持った少年が声を上げる。
びっくりした十悟が思わず彼を見ると２人の目が合う。
少年は十悟を見ながら記憶を巡らす。
「おお、アンタは確か昨日ここでデュエルしていた人だろう？ボロホテルのテレビの調子が微妙に悪くてね、何でも禁止カードが入りまくったデッキをぶっ潰したんだって？なあ、俺ともデュエルしてくれないか？ここで！！」
「こ、ここで…」
十悟は少し困ったように呟く。
練習のために会場への入場やデュエルは許可されてはいたのだが…。
「俺をナメてもらっちゃ困るぜ。爆岩粉砕！ストーン流のリーベルトと言えば、俺の街では知らない奴はいねえ！！」
右手親指を立てそれをまっすぐ自分の方に向ける。
十悟は何か言ってあげなきゃいけないと思いながらもそれが思い浮かばない。
俺の街では…には突っ込みたいと思っていたが…。
「なあ、いいだろ？」
「分かった。受けて立つよ！！（彼は腕に覚えがあるみたいだ…。このデュエルで何か得られるものがあるかもしれない。）」
十悟はデッキを取り出してディスクを構える。
リーベルトのデュエルディスクは黒くゴツゴツとしている。
僅かに光るそのディスクは何か不思議な力を秘めていそうな気がした。
「珍しいデュエルディスクだね…。」
「いいだろ？俺の故郷で取れる『ダイン』って言う鉱石で出来ているんだ。このディスクで戦っていると、モンスター達の声が聞こえる気がするんだよな！！」
「（彼も精霊が見えるデュエリスト？）」
（十悟…彼は強敵だ。全力でいった方がいい！）
彼の精霊、魔獣王アルドヴァームが語りかけてくる。
十悟はその声に黙って頷く。
そして、まっすぐリーベルトを見つめる。
「「デュエル！！」」
相馬十悟 ＬＰ８０００
リーベルト ＬＰ８０００
「僕の先行！カードドロー。手札より『手札抹殺』を発動！！お互いにすべて手札を捨てて、捨てた枚数分だけカードをドローする。」
手札抹殺 通常魔法
「お互いの手札を全て捨て、それぞれ自分のデッキから捨てた枚数分のカードをドローする。」
相手デッキ：３５→３０
「へへ。俺にとっても悪くないカードだな。」
リーベルトは迷わず手札を墓地に送る。
そして勢いよくカードをドローする。
「僕はさらに永続魔法『戦場の惨劇』を発動！モンスターとカードをそれぞれ1枚セットしてターン終了！！」
戦場の惨劇 永続魔法
「戦闘を行ったプレイヤーはバトルフェイズ終了時にデッキから５枚のカードを墓地へ置く。」
「俺のターン。ドロー。俺も『手札抹殺』を使わせてもらう！５枚ドローさせてもらう！！」
「僕は２枚捨てて２枚ドロー！（相手はデッキを圧縮しにかかってる…僕にも好都合だ）」
相手デッキ：３０→２４
「俺は手札のレベル３モンスター1枚を墓地送り、『パワー・ジャイアント』を特殊召喚！！さらに『カードガンナー』を攻撃表示で通常召喚！俺はデッキの上から３枚を墓地送り、カードガンナーの攻撃力を上げる！！カードガンナー！ガンナーミサイル！！」
パワー・ジャイアント ☆６ 地属性 岩石族
ＡＴＫ２２００ ＤＥＦ０
「このカードは手札のレベル４以下のモンスター１体を墓地へ送り、手札から特殊召喚する事ができる。この方法で特殊召喚した場合、手札から墓地へ送ったモンスターのレベルの数だけこのカードのレベルを下げる。また、このカードが戦闘を行う場合、そのダメージステップ終了時まで自分が受ける効果ダメージを０にする。」
カードガンナー ☆３ 地属性 機械族
ＡＴＫ４００ ＤＥＦ４００
「１ターンに１度、自分のデッキの上からカードを３枚まで墓地へ送って発動する。このカードの攻撃力はエンドフェイズ時まで、墓地へ送ったカードの枚数×５００ポイントアップする。また、自分フィールド上に存在するこのカードが破壊され墓地へ送られた時、自分のデッキからカードを１枚ドローする。」
宇宙人のような小型ロボットと、希少鉱石で組み上げられたような巨大ロボットが、フィールドに現れる。
まずは、小型ロボがアームを構える。
両腕のアームから次々と小型ミサイルを次々と発射していく。
「僕のモンスターは、守備力１６００の『甲殻魔獣ディーテス』！効果発動！！このカードが破壊された場合、墓地の『魔獣』を除外することで、特殊召喚する事が出来る。僕は墓地の『烈風魔獣バ・ムーナ』を除外する！蘇れ！！ディーテス！！」
甲殻魔獣ディーテス ☆４ 地属性 悪魔族
ＡＴＫ１００ ＤＥＦ１６００
「このカードが墓地に存在する時、墓地の『甲殻魔獣ディーテス』以外の『魔獣』と名のついたモンスター１枚を除外する事で、このカードを特殊召喚する事が出来る。この効果で特殊召喚されている場合、エンドフェイズにフィールド上に存在するこのカードをデッキに戻す。」
「パワー・ジャイアント、ぶっ壊せ！プリズムナックル！！」
大きな拳が振り上げられる。
そして爆音とともにモンスターが吹き飛ぶ。
「墓地の『幻光魔獣アル・ミューレ』を除外してディーテスを特殊召喚！」
十悟の宣言とともに不気味な殻が戻ってくる。
攻撃を受ける寸前のところで殻にこもったその悪魔はそっと顔をのぞかせる。
「メインフェイズ２でカードを１枚伏せる。俺のターンは終了だぜ！！」
「エンドフェイズに自身の効果で特殊召喚されたディーテスはデッキに戻る！！」
十悟はテキストに従いカードをデッキ加えた。
そしてデッキを軽くカットして元に戻した。
「僕のターン。ドロー。僕は『魔獣の宝札』を発動！デッキの上から５枚を確認！そしてその中にある『氷結魔獣ザ・ギーネ』をゲームから除外。残りのカードをデッキに加え、シャッフル。そして２枚のカードをドロー！！」
「へー面白いデッキだな…。それからどうする？」
「僕は永続魔法『戦場の惨劇』をもう1枚発動！そしてこの２枚を墓地に送り、『破壊獣ゾミューア』を通常召喚！さらにゲームから除外している『魔獣』と名のつくモンスター３枚をデッキに戻し、エクストラデッキから『魔獣騎士ラジル・キュームス』を特殊召喚！」
破壊獣ゾミューア ☆８ 闇属性 獣族
ＡＴＫ２８００ ＤＥＦ２１００
「このカードはフィールドから墓地に送った永続魔法の数だけ召喚に必要なリリースを減らすことができる。戦闘で相手モンスターを破壊した時、そのモンスターの元々のレベル分だけ相手デッキからカードを墓地に送る。」
魔獣騎士ラジル・キュームス ☆７ 闇属性 戦士族
ATK２８００ DEF２３００
「『魔獣』と名のつくモンスター×３
ゲームから除外されている上記のモンスターをデッキの１番下に戻した場合のみ融合デッキから特殊召喚することができる。ゲームから除外されている、モンスターカード１枚をデッキの１番下に戻す事で、このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、その守備力を攻撃力が超えていれば、その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。このカードを特殊召喚する場合、このターンに『魔獣』と名のつく他のカードを特殊召喚することはできない。」
魔獣の宝札 通常魔法
「デッキの上から５枚を確認する。その中に『魔獣』と名の付くカードがある場合はそのカードを除外して残りをデッキに戻しシャッフル。ない場合は５枚全てをゲームから除外する。デッキからカードを２枚ドローする。」
「うおおお。上級モンスターが２体！！！」
「僕はさらにリバースカードオープン！『破滅の双子悪魔‐デストロイ・ツインズ』！！手札２枚をコストにフィールド上のモンスター２体は２回攻撃する事ができる！そして超過ダメージ５００ポイントに付き１枚相手デッキを墓地に送る！！」
破滅の双子悪魔‐デストロイ・ツインズ 通常罠
「手札２枚を墓地に送って発動する。自分フィールド上のモンスター２体を選択し、このターン対象モンスターはこのターン２回攻撃することができる。この戦闘によって発生するダメージ５００ポイントにつき１枚、相手デッキの上のカードを墓地に送る効果となる。このカードは自分フィールド上のモンスターが２体の時しか発動できない。」
「で、デッキ破壊？そんな戦術があったのか〜。」
「行くよ！ゾミューア１回目の攻撃で、パワー・ジャイアントを攻撃！！ジェノサイドファング！！そしてゾミューアの効果、そのモンスターの元々のレベルと同じ６枚のカードを墓地に送ってもらうよ！！２回目の攻撃！カードガンナーを破壊して、デッキからカードを３枚ドローしてもらうよ！さらに１ドロー効果があったはず。」
相手デッキ：１２枚
「バトル続行！魔獣騎士でダイレクトアタック！！戦闘ダメージは罠効果でデッキ６枚を墓地送る効果に変更！！そして効果によりもう一度攻撃！！ダメージ合計は６００、そしてデッキから墓地に送るカードは１０枚！！」
「ぐお。マジかよ！！」
相馬十悟 ＬＰ８０００
リーベルト ＬＰ８０００→７４００
デッキ：２枚
「俺のターン。ドロー。俺は『リミット・リバース』発動！墓地の『ロストガーディアン』を特殊召喚！！俺は『死者転生』を発動！！手札の『グローアップ・バルブ』を墓地に送り『ナチュル・クリフ』を手札に加える。そして召喚！デッキの１番上のカードを墓地に送り、グローアップ・バルブを特殊召喚！！俺はこの３体でシンクロ召喚だぜ！！来い！！『ナチュル・ガオドレイク』！！」
ロストガーディアン ☆４ 地属性 岩石族
ＡＴＫ１００ ＤＥＦ？
「このカードの元々の守備力は、自分が除外している岩石族モンスターの数×７００ポイントの数値になる。」
ナチュル・クリフ ☆４ 地属性 岩石族
ＡＴＫ１５００ ＤＥＦ１０００
「このカードがフィールド上から墓地へ送られた時、自分のデッキからレベル４以下の「ナチュル」と名のついたモンスター１体を自分フィールド上に表側表示で特殊召喚する事ができる。」
グローアップ・バルブ 地属性 植物族 チューナー
ＡＴＫ１００ ＤＥＦ１００
「自分のデッキの一番上のカードを墓地へ送り、墓地に存在するこのカードを自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。「グローアップ・バルブ」の効果はデュエル中に１度しか使用できない。」
ナチュル・ガオドレイク ☆９ 地属性 獣族
ＡＴＫ３０００ ＤＥＦ１８００
「地属性チューナー＋チューナー以外の地属性モンスター１体以上」
「攻撃力３０００！」
「まだだぜ！！俺は墓地の岩石族１５枚を除外して、俺の故郷に眠ってた最強のカードを召喚だ！！来い！！メガロック・ドラゴン！！」
メガロック・ドラゴン ☆７ 地属性 岩石族
ＡＴＫ ？ ＤＥＦ ？
「このカードは通常召喚できない。自分の墓地に存在する岩石族モンスターを除外する事でのみ特殊召喚できる。このカードの元々の攻撃力と守備力は、特殊召喚時に除外した岩石族モンスターの数×７００ポイントの数値になる。」
轟音と共にフィールドに地震が起きる。
大地が裂け、その間から巨大な龍が現れる。
歩くたびに大地を震わせ、雄叫びだけで場を震撼させた。
ＡＴＫ？→１０５００
「どうだ！攻撃力1万超えのモンスター！！行け！メテオ・フォール！！」
巨体を地面に叩きつけ上空に岩のかけらを舞いあがらせる。
それがまっすぐ十悟たちに向かって落ちてくる。
さながら、隕石が降り注ぐかのようだ。
黒き獣は十悟の前に立ち、一歩前に進む。
主人を守る忠犬のごとき姿だ。
攻撃はモンスターと十悟を直撃。
ライフカウンターは急激に減少を始める。
「追撃のガオドレイクアタック！！」
雄々しきライオンは岩石の隙間を縫うようにして、甲冑の悪魔に向かっていく。
そして強烈な一撃を加えた。
騎士も剣で反撃したが、破壊されてしまった。
「く、魔獣騎士が…」
相馬十悟 ＬＰ８０００→３００→１００
リーベルト ＬＰ６４００
「ターン終了だ！あと少しだ！」
「僕のターン…。」
相馬十悟 ＬＰ１００
（お、俺か？俺なら追い詰められた時こそ…デュエルを楽しむかな。次のドローで世界がガラリとかわるかもしれねえじゃねえか！そう考えると楽しいだろ？）
「ふふふ。なぜあの時の事…あの人にあった日の事を思い出したんだろう…。ここで運命の神を引いて…。この大会で優勝したら、そんな事もあるのかな？」
十悟は小さくつぶやく。
その時が来るまでは…。
そう考えていた。
「おーい、どうした？」
十悟はデッキのカードにそっと手をかける。
もう一度リーベルトを見て口を開く。
「行くよ！！カードドロー。」
十悟の口元が僅かに緩む。
逆転のカード。
それが今、手札に舞い込んだ。
「ありがとう！！僕のデッキ！！魔法発動『封印の黄金櫃』！！デッキから『邪念魔獣ラム・シューラ』をゲームから除外する！！このモンスターは、あのネクロフェイスと同じお互いのデッキを５枚除外する効果を持っている！！」
邪念魔獣ラム・シューラ ☆４ 闇属性 悪魔族
ＡＴＫ：１２００ ＤＥＦ：１８００
「このカードがゲームから除外されたときお互いはデッキの上から５枚をゲームから除外する。」
封印の黄金櫃 通常魔法
「自分のデッキからカードを１枚選択し、ゲームから除外する。発動後２回目の自分のスタンバイフェイズ時にそのカードを手札に加える。」
「つ、つまり俺のデッキは…０（ゼロ）。最後のカードは『死者蘇生』！！１ターン早くこのカードを引いていれば…。」
「僕のターンは終了だ！！」
リーベルト デッキ：０枚
「で、デッキ切れで俺の負けええ。こんなデュエル初めてだ！やっぱアンタすごいな！」
「君もね。ライフが１００残ったのも多分偶然だよ！あそこまで『メガロック・ドラゴン』を使いこなすなんて。」
ディスクを外しながら２人で言葉を交わす。
そしてベンチに座る。
リーベルトはバックからミネラルウォーターを取り出し、一気に飲み干す。
「負けちまったか…。俺もまだまだだな。」
２８章：それぞれの決意
「俺さ、今旅をしてるんだ…その途中でどうしてもデュエルの聖地『童実野町』に寄ってみたくて、そしたらアンタがいたわけ。何かデュエルしたくてウズウズしてきてさ…。」
リーベルトはゆっくりと話し始める。
十悟は黙って耳を傾ける。
リーベルトは周囲を山に囲まれたのどかな田舎町に生まれた。
そこは鉱山で発展してきた街で祖父母と３人で暮らしていた。
母は若くして病死。
父も鉱山での作業中に死亡していた。
祖父は世界でも有数のデュエル流派である「ストーン流」の継承者だった。
リーベルトも祖父の跡を継ぐと決めていたし、祖父もまたそれを望んでいた。
彼は中学生にしてストーン流の師範代となり、デュエルの研鑽に励む毎日を送っていた。
「よいかリーベルト、ストーン流には２つのテーマがあるのじゃ。まずは先代の師範から続くそれは『Rock』でロック、横文字は若者の方が詳しいと思うが『岩』という意味。よって岩石族を中心にデッキを組むという事じゃ。そしてワシの代より始まったテーマが『Lock』のロック、『鍵とか錠』という意味じゃが、デュエルで言ならば相手の攻撃や行動を封鎖するロックの事を指す事になるんじゃ。」
「なるほどな。ロック…ロック…ロックンロール！？」
「ななな、なんじゃいきなり！！」
「俺のストーン流さ。３つめのロック。音楽のロックンロールのように、見る人の心を揺さぶる熱いデュエルを目指す！！それが俺のストーン流！もちろん、じいちゃん達の教えも忘れねえ、曲げねえ！！その上で俺は俺のストーン流を作り上げてやる！！！」
高校卒業を控えたその日リーベルトは決意した。
真のデュエリストになると。
「ふぉふぉ。ついに継承の時かの〜」
そう言って重い腰を上げた老人は戸棚を開け、小さな箱を取り出す。
身に着けていた鍵でその箱を開く。
「こ、これは…」
「昔、寝るときに話した事があったじゃろ。この辺りは周囲を山に囲まれていて、豪雨があると山肌が崩れ町を襲ったのじゃ。人々は神に祈ったのじゃよ、自分達を守りたまえ…とな。古くから岩には精霊が宿ると信じられておっての…その化身がこのカード『メガロック・ドラゴン』。カードに精霊が宿ったと考えられておるがのぉ。」
メガロック・ドラゴン ☆７ 地属性 岩石族
ＡＴＫ ？ ＤＥＦ ？
「このカードは通常召喚できない。自分の墓地に存在する岩石族モンスターを除外する事でのみ特殊召喚できる。このカードの元々の攻撃力と守備力は、特殊召喚時に除外した岩石族モンスターの数×７００ポイントの数値になる。」
とある夜、それ急にやってきた。
もう１週間近く雨が続いている。
人々の間では、また昔の悲劇が繰り返されるのではないかと囁かれていた。
リーベルトは珍しく早く布団に入った。
祖父母と暮らしているせいか、一般的な若者としては寝るのは早い方だが、その日は特に早かった。
雨が屋根の瓦を打つ音。
時折風で窓に吹き付ける音。
けして心地よいとは言えない。
しかし、それがどんどん強くなる。
リーベルトはわずかに感じていた。
自分のデッキに眠るあのカードの鼓動を。
次の瞬間、彼は目を覚ます。
「お前は…俺に…。分かった…。」
最初は寝ぼけている…と思った。
だが、カードの想いはガンガン伝わってくる。
その場所に向かえと。
コートを急いで羽織り家を飛び出す。
水たまりを一足飛びで越えて、どんどん町の外れへと向かう。
「じ、じいちゃん！！」
そこには祖父が足を怪我して倒れている。
リーベルトは急いで祖父を助け起こす。
「すまんのぉ。実は…」
「理由なんていいっての。」
そう言いかけた瞬間、山の上から土砂と大木が音を立てて向かってくる。
リーベルトは、祖父をおぶり山道を町に向かって走り出す。
「俺は死なねえ・・・・じいちゃんも死なせねえ…うおおおおおおお！！」
全速力で走り続けるが、土砂はすぐそこまで迫っている。
神に…仏に祈っていたかもしれない。
それが通じた…と考えるのが妥当であろう。
彼の持っていた大地の龍が２人と土砂の前に立ちふさがった。
その巨体ですべての土砂を受け止める。
しかし、大自然の脅威を前に、徐々にその体が後退していく。
リーベルトは必死に走りながら考える。
自分に出来る事を…。
次の瞬間、彼は叫んでいた。
「牙城のガーディアン！！アイツを…メガロック・ドラゴンを助けてやってくれ！！」
牙城のガーディアン ☆４ 地属性 戦士族
ＡＴＫ ０ ＤＥＦ１５００
「自分フィールド上に守備表示で存在するモンスターが攻撃された場合、そのダメージステップ時にこのカードを手札から墓地へ送る事で、その戦闘を行う自分のモンスターの守備力はエンドフェイズ時まで１５００ポイントアップする。」
メガロック・ドラゴンの体はリーベルト達がいる場所ギリギリで止まった。
二人は安堵して足を止める。
「ありがとな。メガロック・ドラゴン！！」
「（ふぉふぉ。メガロック・ドラゴンは元来、気性も荒いモンスターじゃが、真に堅い意志を持つ者にのみ力を貸す。リーベルトはその意志を持ち合せている、メガロックに相応しいデュエリストになった。嬉しい事じゃのお）」
大地の龍は雄叫びを上げてリーベルトのカードに戻る。
さながら土砂崩れのような轟音だった。
それによって、雲が吹き飛ばされた…と言うのは大げさかもしれない。
しかし、２人が帰路に着く頃には雨も上がり、空にはわずかに月も見えていた。
「次の日さ、俺が街を出たのは。」
「すごいな。」
「笑わないのか？カードの精霊とか…」
「僕も精霊を知っているんだ！」
十悟は簡単にだが、異世界で起きた出来事を語った。
本の精霊ホークビショップ、悪魔の調理師、水晶の占い師。
リーベルトは子供のように無邪気な笑顔で話を聞いていた。
「アンタ、ヒーローだな。次元を救ったあの遊城十代みたいな。」
「君もね。その土砂、君が止めて無ければ街にも被害を出していたんだ…。君だってヒーローだよ！！」
２人の間に友情が芽生えた。
小さなつながりが出来た。
「アンタ…いや、十悟でいいか。十悟になら俺の試練を教えておきたい。」
「ストーン流を正式に継承するっていうやつかな。」
「ああそうだ。世界中にはストーン流の他にもいくつか流派がある。あの『サイバー流』以外にも『サンダー流』『ファイヤー流』『ブリザード流』『ミスト流』…俺が調べられただけでこんなに。期間は３年…その継承者達と戦い、自身の戦術を極めて真のデュエリストになれた時、それが正式な継承らしい！！」
「頑張ってね！」
「おおよ。そろそろ行くわ！！楽しいデュエルだったぜ！！！おっと、太郎のやつ心配しているかな。童実野駅集合だったか…。」
十悟は彼を見送った。
ストーン流にエールを送りながら。
「自身の戦術を極めて…真のデュエリストになる…か。カッコイイ生き方だな。僕も頑張ろう！！！」
そう声に出した！
自身も決意を新たにするように。
続く...
