闇を切り裂く星達4
episode14〜

製作者:クローバーさん





目次2

 episode14――試練と再会の最終日――
 episode15――それでも俺は――
 episode16――君が傍にいるのなら――
 episode17――世界のために死んでくれるか?――
 episode18――まずは簡単な自己紹介を――
 episode19――決戦の始まり――
 episode20――プランB――



episode14――試練と再会の最終日――
 合宿最終日。俺と香奈は2人で街へ出かけていた。
 この1週間で俺たちは数多くの決闘をこなし、考え得る限りの状況下での戦い方を学んだ。
 雲井と本城さんは別メニューをこなしていたらしいが、それもかなり良い成果を得られたらしい。

「それにしてもなんで私達だけみんなと別行動なわけ?」
「さぁな。薫さんが本社に出向けって言ったんだから、きっと何かあるんだと思うけど……」
 
 最終日ということもあって、各自の仕上がりを確認したいということで俺と香奈は遊戯王本社に出向くことになっていた。
 どうやら本社で会ってほしい人がいるらしく、その人と最終試練を受けてほしいとのことだった。
 遊戯王本社は小学生の見学会で来て以来だ。以前に聞いた話では、本社では薫さんにも劣らない腕利きの決闘者がたくさんいるということだから、きっとその人達を相手に決闘するのが目的だろう。
 ちなみに雲井と本城さんはあの合宿場で試験らしい。
 たぶん、薫さんと伊月が決闘相手になるのだろう。

「あっ! 見えてきたわよ!」

 隣で香奈が指差す先。
 市街地の中に一際目立つビルが見えた。
 昔見た時より、少しだけ小さく感じるのは成長した証だろうか……。

 ビルに入って受付に行く。
 名前を告げれば、二つ返事でゲスト用の通行証を渡された。
 それを首にかけてエレベーターで15階へ向かう。時間帯が早かったためか、俺達以外に乗っている人はいない。
 15階に着いた後、白衣を着たスタッフが案内してくれた。俺はエレベーターを出て右へ、香奈は左に向かう。
「じゃあまたあとでね」
「ああ。頑張れよ」
「そっちこそ」
 香奈と別れて、スタッフの案内の元、俺は一つの部屋に案内された。
 鉄製で重苦しい雰囲気のドアだった。まるで監獄にあるかのような、頑丈な扉だ。

「約束通り、面会時間は2時間とさせていただきます。それでは、お気をつけて」

「え?」
 ギギギ…という音と共にドアが開く。
 半ば押し込まれるように、俺は部屋の中へ足を踏み入れた。

 部屋の中は、灰色だった。コンクリートでできた天井と壁に、蛍光灯がいくつかある。
 テーブルなどの家具は一切見当たらなくて、間隔をあけた状態で椅子が二つ向かい合う形で置いてあった。
 そして奥の椅子には誰かが座っていた。
 回転式の椅子なのか、その人物は俺に背を向けている。
「あの、すみません」
「……………」
 声をかけてみても返事が無い。
 聞こえないのかと思って、少しだけ近づいた。
「あの―――」


「ようやく来たか。待ちくたびれたぞ」


「っ!?」
 その声を聞いた瞬間、背筋を悪寒が襲った。
 思わず、一歩退いてしまう。
 そんな、まさか……この声は……!
「驚いたか? まぁそうだろうな。俺もまさか、再び貴様に会えるとは思っていなかった」
 そう言って、椅子に座った人物は振り返った。
 刈り上げた黒髪に、筋肉質の体が真っ白なパジャマのような服装をしている。
 すべてを射抜くかのような鋭い視線に、そこから発せられる威圧感。
 外見はかなり変わっているが、この感覚は忘れるはずがない。


「ダーク……!」


「その名前で呼ばれるのも……久しぶりだな」
 懐かしそうに笑みを浮かべ、立ち上がった人物。
 忘れるはずもない。俺達が闇の力に関わるきっかけになった戦い。
 闇の組織を総べていた存在が、目の前にいたのだから。

「なんでお前が、ここにいるんだ!?」
「聞いていなかったらしいな。まぁ明かせば来ない可能性もあったから当然か……」
「どういうことだ?」
「スターのリーダーに頼んでおいたのさ。合宿が終わったら、貴様を俺と面会させてくれるようにな。まぁ”あいつ”も、別の頼みごとをしていたらしいが、それは知ったことじゃない」
「…………」
「そんなに怖い顔をするな中岸大助。危害を加えるようなことをするつもりはない。ただ貴様と話したかっただけさ」
 平静を装ってみるが、ダークはそれを見透かしているかのように余裕の笑みを浮かべている。
 分からないことだらけだ。どうして薫さんが俺をダークに会わせたのか。
 ダークが俺に話すようなことがあるのか。そもそもどうしてこのタイミングで会わせるのか。
 本当に、疑問が溢れだすばかりだ。
「まぁ座れ。2時間は案外、長いぞ?」
「………」
 少しだけ警戒しながら、椅子に腰かけた。
 相手との距離は約5メートル。音が通りやすい部屋のか、話し声が聞きやすい。
「さて、何から話せばいいかな? まずは、俺がどうしてここにいるかってところか」
「……薫さんから、お前が本社に捕まってるって聞いた……」
「そうだな。俺はこの本社に連れてこられて色々と事情聴取をされた。犯してきた罪も他の人間よりも重いこともあって、こうして本社内でしか行動ができない。しかもこの15階のみだ。まぁ風呂も飯もしっかりしているから、居心地は悪くないがな」
「こんなところで、生活してるのか?」
「まさか。俺の部屋はもっと小さい。ここは罪人と面会するときに設けられる場所だ。刑務所だとガラス越しの面会になるが、ここは甘いことにそうした仕切りが無い。まぁ監視カメラがあるからおかしなことをすればすぐに警備が飛んでくる」
 よく見ると、部屋の四隅や天井のいたるところに監視カメラが設置してあった。
 死角が出来ないようにするためか、かなりの数が置いてある。
「とりあえずそういうわけだ。まだ警戒するなら、俺はここから動かない。一歩でもお前に近づけば叫べばいい。それで面会は終わりだ」
「……俺と何を話すつもりだったんだ?」
「物わかりが良くて助かるぞ中岸大助。いやなに、俺の組織を潰した後も、いろんな事件に巻き込まれていたらしいじゃないか?」
「っ! どうしてそのことを…!」
「本社は基本的に情報を罪人にも開示している。世間では公表されない情報もな。ましてやスターの連中が頻繁に出入りしているんだ。情報を知らない訳がないだろう。北条牙炎、小森彩也香、神原聡、一之瀬遥人……貴様らが関わったすべての事件を俺は把握している」
「………知ってるから、なんだっていうんだ?」
「貴様はもちろん、スターを含めてだが、驚いたんじゃないか? まさか……闇の神や光の神以外にも神のカードが存在したということに」
「そりゃあ……当たり前だろ。あんな凶悪な力が他にもあったなんて考えたくもなかったさ」
「だろうな。俺自身もそれを聞いたときは少し驚いた。だが、冷静に考えてみればおかしなことじゃない。遊戯王には7つの属性がある。それぞれの属性に沿った神がいても不思議じゃないはずだ」
「………話が見えない。お前は、何が言いたいんだ?」


「アダムの一部である神に苦戦したくせに、本気で奴に勝てると思っているのか?」


「っ!!」
 一気に核心を突かれてしまった。
 言葉に詰まる俺に、ダークはさらに言葉を畳み掛ける。
「さすがにアダムのことは知っているだろう。闇の力の源泉ともいえる存在。分かりやすく言えば闇の神の生まれ変わりのような存在だ。人間の持つ黒い感情を蓄積した”最悪の人災”……それが奴の本質だ。貴様らは、そんな存在に本気で勝てると思っているのか?」
「……やってみなくちゃ、分からないだろ……」
「その通りだ。勝負である以上、100%は無いのが道理だ。だが俺から見れば、あれから貴様たちがどんなに成長していたとしてもアダムには敵わない」
「まるで、アダムと決闘したことがあるみたいな言い方だな」
「したさ。そして負けた」
「っ!」
 平然とダークはそう言った。
 そこに悔しさは微塵も感じられない。まるで、負けるべくして負けたような言い方だった。
「そんなに……強いのか?」
「あれを”強い”かどうかを判断するのは個人の自由だな」
「1万回やっても勝てないのか?」
「回数の問題じゃない。奴の力は、この世界の”現実そのもの”を形にしたようなものだ。世界を相手に人間が戦いを挑んだところで、結果は目に見えているだろう」
「……!」
 いったい、どんなデッキを使ってくるんだアダムは……。
 あのダークが即答で「勝てない」と言ってしまうような実力を持っているっていうのかよ。
「険しい顔をするな中岸大助。まだ話す時間はある。そもそも貴様はアダムについて1つ勘違いしていることがあるぞ」
「なに?」
「アダムは決して、無敵なんかじゃないってことだ」
「えっ」
「おっと、希望は持つなよ。無敵ではないにしろ、最強であることには変わりはない。厄介なのは、アダムがそれを自身で認識しているってことだ。自分が最強であり、無敵ではないことを知っているからこそ暗躍してきたんだ。貴様たちと同じように必死なのさ。最強の力を持っている者の弱点は、自身が無敵だと思い込んでいる点だ。普通なら、そこを突けば勝機を掴むこともできるだろう。だがアダムは自身が無敵じゃないことを知っている。だからこそ、自分が決闘してきた相手の記憶を消してきたんだ。まぁ俺に限っては、その記憶が消されなかったわけだが……」
「なんで消されなかったんだ? いや、それよりも……知っているなら教えてくれ。アダムは、どんなデッキを使うんだ?」

「なぜ俺がそれを言わなきゃならん?」

「え?」
「アダムの目的がこの世界を消すことなら、願っても無いことだ。わざわざ障害となる貴様たちの手助けをする義理など俺には無い」
「お前、まだ世界を滅ぼそうと……」
「まだ? まさか1度敗北して改心するとでも思っていたのか? 貴様らの絆とやらに負けて、この世界も捨てたものではないと思ってくれる、とでも考えていたか? 冗談では無い。そんな程度で消える恨みなら、最初から無かったのと同じだ」
「…………」
 確かに、考えが甘かったのは認めざるを得ない。
 世界を滅ぼそうと考えて実行に移した人間が、そう簡単に諦めるはずがない。
「少しだけ、昔話をしてやろうか?」
「え?」
「昔あるところに、仲のいい家族がいた。父と母、姉と弟の4人家族だった………」




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 最初に述べておくとするならば、これは悲劇の物語だ。
 青年の名は……ここではAとしておこう。青年Aは父と母と姉の4人家族だった。
 
 Aの家族はボランティア団体に所属していた。
 海外の……特に発展途上国や貧困に苦しむ国に物資を送ったり、井戸の開発や学校の建築など、様々な活動をする大きな団体だった。
 元をたどれば、父と母が共に活動していたのがきっかけだったのだろう。
 大学で出会ったという父と母は、共にボランティア団体に属していた。
 二人の子供を産んだ後も、団体に所属し、子供と共に活動を続けていたのだ。

 自分たちは比較的裕福な国に生まれたということは、高校生になる頃には理解していたAだった。
 普通に学校に通えること、朝昼晩のご飯を食べられるという事、友と遊ぶことができること……普段の日常として受け入れているすべてが、どれほど裕福な事かも理解していた。
 そして同時に、怖くもなった。裕福な国で生きている自分たちと同じ時間を、つらく苦しい境遇で生きている人たちがいる。そしてそれらの情報が、まるで報道されたりしないということに。
 自分と同じように多くの人たちが、それらを知識として知っているものの何も行動していないという事に。

「あんたは深く考えすぎよ」

 そう言ったのは、3歳年上の姉だった。
 気さくな話し方で誰からも好かれる性格をしていた。深く考慮しがちな自分の悩みをあっさり吹き飛ばしてしまうような……そんな存在だった。
「なんでだよ姉さん」
「考えたって無駄だって言ってるのよ。考えたところで世界が変わるわけ? そんなんで変わるくらいなら、とっくにこの世界は滅んでるわよ」
「何も考えないよりマシだと思うんだが?」
「どうしようもないことを考えるのは時間の無駄だって言ってるのよ。テストの問題が分からないなら、鉛筆削ってサイコロでも作った方がよっぽど効率的って話」
 なんだそれはと言いたくなったが、こうした口喧嘩で姉に勝てたことが無い。
 Aは深く溜息をつきながら、思考を中断した。
「こういうことはね。何か考えるよりも行動した方がいいのよ。もちろん闇雲に行動するってことじゃないわ。ちゃんと考えた上での行動よ。父さんも母さんも、少しでも誰かを助けたいって想うからボランティアをしてる。私もあんたも、そうでしょ?」
「……そりゃあそうかもしれないが……」
「考えて行動しないやつより、考えながら行動する奴の方が世の中では有意義なものよ? 残念ながら今のあんたは前者みたいだけどね」
 姉はそう言いながら、モデルのようにその場でくるりと回転する。
 少し憂いを帯びた表情が、その時は少し印象的だった。


 家族でボランティア活動をする際に、姉とAは基本的に一緒だった。
 物資の積み込みをしながら、周りにいる人間を見つめてみる。
 みんながみんな、どこか誇らしげだった。
「なぁ、姉さん」
「なによA?」
「俺達がしていることは、正しいことなんだよな?」
「………世間一般では正しい事かもね」
「珍しいな。いつもより歯切れが悪い」
「人の心ほど分からないことは無いわ」
 姉は荷物を運び終えて、大きく背伸びをした。
 首に回したタオルを使って汗をぬぐいながら、その場に腰かける。
「ボランティアって言っても、している目的は人それぞれよ。父さんや母さんみたいに慈善心でしている人もいれば、就活のための材料として参加している人もいる。単なる暇つぶしのためって人もいるかもね」
「俺だって、みんながみんな慈善心でしているなんて思ってないさ」
「その慈善心が問題なのよ」
「どういうことだ?」
「簡単な話よ。その慈善は、本当に慈善なのかってこと」
「…………もう少し噛み砕いて説明してくれ」

「自分が思っているよりも、人の心は複雑ってことよ。どんなに正しいことをしたって、環境が変われば悪に変わってしまうように、人の心も環境によって変化する。今こうやってボランティアしていることだって、誰かを助けたいからと思っているつもりでも、実際は”誰かを助けている自分は偉い”のだと思いたいだけかもしれない。自分の労力で誰かを助けている。人の助けになれる自分は他の人よりも優れている……そう思って優越感に浸っているだけかもしれないわ」

「そんなつもりは――!」
「そうね。でも私はどちらかというと、そっち側よ」
「え?」
「情けは人の為ならず……昔の人はよく言ったものね。誰かのために行動できる人間なんて、ほんの一握りよ。結局は大多数の人間は自分のために行動している。大なり小なりは勿論あるだろうけど、人なんてそんなものよ」
 姉のらしからぬ態度に、Aはただ聞き入れることしかできなかった。
 考えていた”つもり”だった自分よりも、姉は遥かに考えていたことを思い知らされた気がした。
「らしくないこと言っちゃったわね。Aは私みたいになっちゃ駄目よ」
「…………」
「はぁ、そんな顔しないの! 私だって悩むときくらいあるってことよ。あんたはあんたらしく頑張りなさい」
 そう言いながら、姉はAの頭を撫でた。
 自分よりも華奢の手のぬくもりが、とても印象的だった。


 世界は争いで満ちている。
 誰かが幸福になるという事は、誰かが不幸を引き受けるという事だ。
 1つの国が貿易に頭を悩ませているその隣で、物資の奪い合う国がある。
 世の中は不条理だ。
 皆が平等に、幸せを享受できないようにできている。
 人の命も平等じゃない。
 指を紙で切った程度で大騒ぎされる人間もいれば、全身を切り刻まれても見て見ぬふりをされる人間もいる。
 地べたを這いずり、泥を啜り必死で金を稼ぐ者がいれば、酒を浴び権力を振りかざし無駄遣いする政治家がいる。
 幸せなんて人それぞれだという人がいれば、生きているだけで人を不幸にしてしまう人もいる。
 誰かにそっと手を差し伸べる者を、悪に手を貸す偽善者だと笑う英雄もいる。

 どんなに時が経ち、人が変わってもこの理はきっと変わらない。
 なぜなら、こうして今の世界が存在しているから。
 不条理と不平等の世界が滅ぶことなく、個人の感情や境遇を無視して、世界全体のシステムに組み込まれた歯車のように……。
 まるで神の掌で踊らされているかのように、世界はこのままゆっくりと滅びに進んでいく。
 街が、国が、世界が、星が、宇宙が、銀河の更に先までこの理は続いていく。
 考えれば考えるほど、自分の考えていることが馬鹿馬鹿しく感じてしまう。

「結局、俺も自分のために動いてるだけなのかもしれないな……」

 ぽつりとつぶやいたAは、鏡に映った自分の表情を見た。
 酷い顔だと思った。
 とても、人には見せられないような表情だと思った。
 姉は自分に頑張れと言ったが、あれはいったいどういう意味で言ったのだろう。
 こうして思い悩めば悩むほど身体が鉛のように重くなっていく。心は縛られ動かなくなっていく。
 どうして自分のこの考えを、誰もかれもが持っていないだろう。
 いや、本当はみんな考えていて、個々に折り合いをつけているのだろうか。
 折り合いがつけられていないのは、自分だけではないのだろうか。

 どうして。

 なぜ。

 分からない。

 世界は……どうしてこんなに、不平等にできてしまったのだろう。

 そもそも最初から平等なんてもの、存在するのかどうかすら怪しくなってくる。

「はぁ……」
 何度目の溜息だろうか。
 息を吐くたびに、胸に、心に、何か暗いものが住み着いてくる。
 その正体を探ろうとすれば途端に吐き気を催してしまう。
 自分でも分かっている。
 きっとこれは……悪意というものなのだろう。
 誰かに対するものじゃない。もっと大きな……どうしようもないほど途轍もない何かに対するものだ。
「なぁ、俺……教えてくれよ。”俺”の行動に、意味はあるのか…?」

 そう尋ねると同時に、鏡の中にいる自分が笑っていた。





 ボランティア活動が終わりを告げた次の週、突然に両親が旅行に行こうといった。
 どうやらたまたま仕事の休みが重なったらしく、家族サービスをしようと思ったらしい。
「外国に行こう。発展途上国だが、なかなか裕福な街だ」
「しばらく家族で旅行になんて行ってなかったし、ちょうどいいわよね」
 両親はそう言って笑った。
 姉も、家族水入らずの旅行を楽しみにしているようだった。

 そして旅行初日。
 初めて、ボランティア活動以外の目的で海外に来た。
 いつも貧困に苦しむ環境の中で活動してきたこともあって、普通に街の中に人々が行きかっているのを見るのが新鮮だった。
「平和ね」
「ああ……」
 ボランティアしている時は見ることすらなかった光景だった。
 食糧不足に苦しむ人々の傍らで、こうして様々な人が幸せそうに暮らしている。
 その現実が、Aにとっては不気味だった。
 幸せに暮らしている人と、苦しんでいる人……相反する環境で暮らしている人々が同じ世界で暮らしている。
 享受される幸せの1%でも……苦しんでいる人に分け与えることが出来たのなら世界から争いは無くなるような気がした。
 そして同時に、そんなことはありえないとも思ってしまった。

 
 ――大多数の人間は自分のために行動している――


 姉の言葉が、不意に思い起こされた。
 Aは途端に自分が何者なのか分からなくなりそうだった。
 自分の言葉が、行動が、真に自分の心から生まれたものなのか、分からなくなりそうだった。
 考えても仕方なのかいことだとは理解している。
 だが、そうして思考から逃げているだけでいいのか?
 誰かに考えを求めたり、世界に訴えることはできないのか?

 そんな考えが脳裏を巡っていく。

「ボーっとするなA!!」
 背中を強く叩かれた。
 姉だった。ボランティアしている時とはまた違った、年相応の可愛らしい笑みを浮かべている。
「せっかく来たんだから、楽しまないと損よ。普段は大変なところしか見てないんだから、たまにはこうやって平和なところを見ないとやっていけないわよ?」
「……なぁ姉さん。ここにいる人達は皆、貧困に苦しんでいる人がいることを知っているのかな?」
「知識としては知っているかもね。でもそれだけよ。対岸の火事を見るように、自分の身に降りかからない出来事に関してはあんまり考えないのが人間よ」
「じゃあ、俺達がやっていることって、無意味なのか?」
「なんでそうなるのよ。理由はどうあれ、私達は苦しんでいる人達の手助けをしてきた。その事実は変わらないし誰にも覆すことは出来ないわ」
「それはそうだけど……どうして皆、無関心でいられるんだよ」
「当たり前なことを言わないでよ。あのねA、現実は漫画やアニメじゃないわ。自分が今こうして生きているだけでも精一杯なのに、他人まで面倒見ることなんて出来るわけがない。それが出来るのは金も時間も心も余裕がある人間だわ。一般人に出来るのは、せいぜい手の届く距離で、聞いたり、見たり、手を差し伸べることくらいなのよ」
「姉さん……」
「さて、もう話は終わりよ。父さんも母さんも噴水の前で待ってるわ。あんたがシャッター押しなさいよね」
 姉は溜息交じりにそう告げて、Aにデジタルカメラを渡した。
 視線の先には噴水があった。西洋風の、大きな噴水。
 観光名所の一つとしても有名な場所だった。

「ほらA! さっさと撮って!」
「まだまだ行くところはあるんだぞー!」
「早く早く!」

 楽しそうに、家族は笑っていた。
 それにつられるように、Aも静かに笑みを浮かべていた。
 ……そうだ。どうかしていた。
 あくまで他人は他人……それはどうしたって覆せるわけではない。
 だけど、それでも出来ることはいくらだってある。自分たちがしているボランティア活動だけではない。目の前にいる人間に手を差し伸べ続けることが、いつかきっと平和へと繋がっていくはずだ。
 誰かに手を差し伸べる。それがどんなに大変な事かは分かっているつもりだ。
 だがそれを見た他の人が、ほんの気まぐれでも手を伸ばすことが出来れば……そんな行為がゆっくりでも連鎖的に広がっていければ……。
「それじゃあ撮るよー!」
 カメラを構えて、噴水を背景にピントを合わせていく。
 そうだ。今度の活動では家族の写真をみんなに見せてあげよう。
 他の国にはこんなに綺麗な場所があるのだと……辛いことばかりじゃない、楽しいこともたくさんあるのだと教えてあげよう――。



 ――大きな爆発が、噴水を襲った――。
 


「………え?」
 爆風に倒された体。
 ところどころに感じる痛み。
 原因が分からぬまま、状況が理解できなかった。

 辺りに聞こえる悲鳴。何かから逃げ惑う人々。爆発が起こった噴水からは、水が溢れて流れてきた。
 だがその水は赤く染まってる。何度も見てきたからわかる。人の血だ。
「え……ぇ…?」
 目の前に起きている現実が、受け入れられなかった。
 自分はカメラを構えていただけだった。噴水の前で笑顔でいる家族を前に………家族を………。
「ぁ……ぁぁぁ…!」
 ようやく、脳が現実に追い付いてきた。
 見てしまった。
 撮影の瞬間、家族が爆発に巻き込まれた姿を……舞い散る血しぶきを……。

「あああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 ただ叫ぶことしかできなかった。
 なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでナンデなんでなんでなんでどうしてどうしてドウシテどうして。
 分からないワカラナイわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからない。

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 喉の奥から出ていく声が、自分のもののように聞こえなかった。
 声が掠れても、息が切れかけても、絶え間なく発せられる悲鳴は、ただ残酷に、この状況の無慈悲さを物語っていた。







 それから病院に運ばれたAが事件の全容を知ったのは、病室に取り付けられたテレビでやっていたニュースだった。
 『自爆テロ』と呼ばれる行為。自らの体に爆発物を巻きつけて、自分の命と共に他を巻き込み行うテロ行為だ。
 他人のみならず自分すらも巻き込む、文字通り道連れの残虐な行い。
 A以外の家族は皆、巻き込まれて死亡した。
 遺品は見つからなかった。それほどまでに損傷が激しかったらしい。
 だがそんなことすらも、当時のAには聞こえていなかった。
「…………」
 現実が受け入れられなかった。
 ほんの少し前、家族は共に生きていた。
 だが、死んだ。
 悪意に染まった行為の道連れとなって、死んだ。

 面倒を見てくれた医者は「家族の分まで生きてくれ」と能書きを垂れた。

 家族が所属していたボランティア団体は、家族を表彰しただけで何も語ることは無かった。

 騒いでいたニュース番組も、翌日には万引きのニュースを取り上げていた。

 興味本位の記者たちが、被害者の自分に「事件の全容」を話すように言ってきた。

「……死んでしまえ……」
 虚ろな表情で、Aは呟いていた。
 まるで自分の声では無いようだった。
「死んでしまえ……死ね……死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね」
 口が勝手に動く。
 自分の意志ではないように、その口から悪意の塊が言葉となって吐き出される。

 ボロボロになった自分の所有物が、机に散らばっていた。
 破れた衣服、割れた携帯電話。ヒビの入ったカメラ。
 元が何だったのか分からない紙の切れ端まで、そこには散らばっていた。
 なぜかAの目線は、その中の一つに吸い寄せられていた。

《暗黒界の狩人 ブラウ》

 自分の所有物ではない。
 たまたま自分の近くに落ちていた物が回収されたのだろう。
 爆発に巻き込まれて、名前の部分しか残っていない。焦げてボロボロで、少し力を咥えれば容易く灰になってしまいそうだ。
「悪魔……か…」
 力無い笑みが浮かぶ。
 頭の片隅で、そのカードのイラストが浮かんだからだ。
 どうして目を惹かれたのは分からない。
 1枚のカードの残り滓が、何を意味するのか分からない。
 ただ、その残り滓からは何かを感じたのは確かだった……。



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 帰国したAを待っていたのは友人の玲亜だった。
 心底、Aの無事を安心していた様子で、その肩を掴んでくる。
「良かった! 無事で……! お前が行った国でテロが起こったって聞いたから……!」
「………」
 無事だと?
 何が、無事なんだ?
 家族を失ったんだぞ俺は?
 どうしてそんな風に安堵していられる?
 何も知らないくせに……何も――!

 言いかけて、Aは気づいた。気づいてしまった。

 ――ああ、こういうことか――


 所詮、そういうことなのだ。
 あれほどボランティアをしてきて、自分は自爆テロに関して他人事のように考えてきた。
 玲亜も同じだ。自分が無事なのに安心するくせに、家族の事はまったく気にかけていない。
 結局は、人間は自分本位でしかありえないのだ。
 他人に関わろうと思っても、所詮は自分に関係のある奴の事しか気にかけない。
 遠い世界のことなど、知ったことか。

 この世界は絶望に満ちている。
 平和という聞こえのいい単語で上辺だけを塗り固めた世界が、こうして自分が生きている世界だ。
 どれだけ他人に手を差し伸べても、救った気になっていても、世界が返還してくるのは途方もない残酷な現実だ。
 逆に、こうして何も知らない人間が、家族も、時間も、命も……すべてを得られる幸せを享受している。その幸せを分け与えることなどせずに、のうのうと生きている。

 こんな世界に、生きている価値はあるのか…?
 いや、そもそもこんな世界が存在していてもいいのか?

 いいわけがあるか。
 家族を奪った世界だ。
 自分だけじゃない。多くの人間に、不幸を撒き散らすようなこの世界など、滅んでしまえ。
 滅ばないというのならせめて、壊してやる。
 壊して壊して、壊して壊して壊して壊してコワシテコワシテコワシテ破壊しつくしてやる。


 のちにAは、とある闇の組織に身を堕とすことになる。
 その瞳の奥には凄まじいまでの憎悪と、怒りを秘めて………。



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「………………」
 ダークの話が終わって、俺は何も言えなかった。
 話された内容が、かつての彼自身の事だったのかは聞くまでも無いだろう。

 分かっているつもりだった。
 ダークは生まれた時から世界を滅ぼそうなんて考えたりなんてしなかったはずだ。
 大事な人を……家族を失った。自分たちは世界に貢献していたつもりなのに、その世界にすべてを奪われた。
 他人を支えて少しでも幸福を与えてきたはずなのに、世界が返上してきたのは最悪の不幸だった。
 世界を恨んで……滅ぼそうと考えても、おかしくはない。

「いい加減、認めたらどうだ中岸大助?」
「なに……?」
「お前も俺も、たいして変わらないということをだ」
「ふ、ふざけるな! 俺は、世界を滅ぼそうなんて考えたことは1度もない!!」
「俺も考えたことは無かったさ。目の前で大切な家族を失うまではな……。もしお前の前から朝山香奈が消えたらどうする?」
「そんなこと――――」
「させない。とでも言うつもりか? 突然の心臓発作が起こったら? 転んで頭を打って死んだら? 人間は割と丈夫だが、死ぬときはあっけなく死んでしまう。目の前で大切な人を失ったとき、お前だって怒り狂っていたじゃないか」
「っ!」
 たしかに。闇の神の攻撃によって香奈が目の前で消されたとき、俺は全身の血が沸騰するかのような怒りにかられた。
 世界の事とか、決闘のこととかどうでもよくなって、ダークを痛めつけることしか考えられなかった。
「あの時の貴様は、俺とは同じ答えを出さないと言ったな。だが本当にそうか? 前と同じようなことが起こった時に、まったく同じ答えを出せる自信はあるか?」
「…………」
 黙り込んでしまった。
 ダークの言うことに反論することができない。
 もし香奈を目の前で失ってしまったら、俺はどうなってしまうのだろう。
 また怒り狂ってしまうのか……悲しんで絶望してしまうのか……そして、ダークのように、世界を……滅ぼそうなんて思うのか?
「いいか中岸大助。どんなに強い信念を持っても、不屈の心で立ち向かっても、綺麗事を並べても、それらを容易く踏みにじるのがこの世界の現実だ」
「…………」
 何も言い返せない。
 たしかに、ダークの言う通りなのかもしれない。
 どれだけ頑張っても、報われないことだってある。覆せないことがあるのが世の中だ。
 だけど……それでも……!
「たしかに、お前の言う通りかもしれない。大切な人を目の前で失ってしまったら……俺もお前と同じ答えを出してしまうかもしれない」
「意外だな。あっさり認めたか」
「認めるしかないだろ。だけど、受け入れたりはしない」
「……ほう……?」
「香奈を失ったら、どうなるかなんて分からないし考えたくもない。だから、失わないように、残酷な現実に抗うために諦めないで戦うんだ。諦めて下を向くくらいなら、諦めずに上を向き続けていたいだけだ」
 何の算段も無くていい。
 すがりつく希望が無くてもいい。
 それでも俺は、諦める事だけはしたくないんだ。
「諦めたほうがよほど楽だろうに」
「だろうな。自分でもそう思うし、香奈にだって呆れられてる」
「諦めなかった末に、大切なものが守れなったらどうする」
「分からない。そんなの、この場で考えたってどうしようもないだろ。そういうことは、そうなった時に考える」
「そうやって問題を先延ばしにするか。はっきり答えてもらいたいものだな?」
「……今は断言できないけれど……俺は、どんなことがあったって……この世界を滅ぼしたりなんてしない。お前みたいに、死ぬほど恨むことになったって、苦しんだって……滅ぼすわけにはいかない……!!」
「なぜだ?」

「どれだけ世界が残酷だって……今ある世界は……香奈がいた世界だからだ……! あいつがいた世界を消したら、それこそ……あいつのいた証を消すことになるからだ……!!」

 俺がそう言うと、ダークは小さく溜息をついた。
 だがその口元が少しだけ笑っているように見えた。
「どうやらお前とは口論しても決着がつきそうにないな」
「……残念だったな」
「いや、もともとこうなるだろうと思っていたさ」
 そう言ってダークは懐からデュエルディスクを取り出して、装着した。
「なにを……?」
「どうした? 俺と戦うなんて予想していなかったか? 初めて戦った洞窟では、闇の神を復活させるために俺が手加減した。2度目は2対1で始まったし、途中からは闇の神に意識を奪われた状態だった。まともに決闘したことなんて1度も無い。貴様との話は、ただの前座。これでもなかなか執念深い性格をしていてな。こういうことはきっちりと勝敗をつけておきたいんだよ」
「っ!」
 ダークはそう言って静かに立ち上がった。
 つられるように、俺も席を立つ。用意していたデッキとデュエルディスクを装着し、数メートル先にいる相手を睨んだ。
「決着をつけるぞ中岸大助。これは光と闇の戦いでも、世界を賭けた戦いでもない。1人の決闘者としての、ただ純粋な真剣勝負だ!!」
 ダークに促され、俺はデュエルディスクを構える。
 同時に押し寄せる威圧感。闇の力を使っていたときほどではないが、それでも尋常じゃないプレッシャーだ。
 きっと前だったら手も足も出ないほどの実力差だっただろう。
 だけど俺も前より確実に強くなっている。
 なにより相手はおそらく最高峰の決闘者。全力をぶつけるにはもってこいの相手だ。
「さぁ、始めるぞ!」


「「決闘!!」」



 3度目にして、初めての決闘が幕を開けた。




episode15――それでも俺は――

 決闘が始まった。
 ピリピリと肌が震えるような威圧感……何かされているというわけじゃない。
 ただ相手の雰囲気に、場が支配されかけていることが分かった。あの夏の戦いから半年以上経っている。俺も成長はしたつもりだが、どれだけ実力差が埋められているのかは想像がつかない。
「俺のターン、ドロー」(手札5→6枚)
 デッキからダークはカードを引いた。その仕草にブランクらしきものは見当たらない。
「手札から"闇の欲望"を発動する」
「っ!」


 闇の欲望
 【通常魔法】
 デッキからカードを2枚ドローする。
 その後、手札の闇属性モンスター1体を捨てる。
 手札に闇属性モンスターがない場合、手札を全てゲームから除外する。


「この効果で俺はデッキからカードを2枚ドローし、手札から1枚捨てる。捨てたのは"暗黒界の狩人 ブラウ"だ。こいつの効果でさらにデッキから1枚ドロー」(手札5→7→6→7枚)


 暗黒界の狩人 ブラウ 闇属性/星3/攻1400/守800
 【悪魔族・効果】
 このカードが他のカードの効果によって手札から墓地に捨てられた場合、
 デッキからカードを1枚ドローする。
 相手のカードの効果によって捨てられた場合、
 さらにもう1枚ドローする。

「さっそくか……」
「懐かしいだろう? 手札から"墓の装飾女"を召喚する」


 墓の装飾女 闇属性/星4/攻1600/守800
 【魔法使い族・効果】
 このカードの召喚に成功したとき、自分の墓地にいるレベル3以下の闇属性モンスター1体を
 このカードに装備カード扱いとして装備することが出来る。
 このカードの攻撃力は、装備したモンスターの攻撃力分アップする。


 ダークの場に、白髪の女性が姿を現した。
 その身体はやせ細り、纏う布もボロボロで歯も欠けている。
「効果発動。墓地にいるレベル3以下のモンスターを装備し、その分の攻撃力分アップする」
 女性型のモンスターが、突然手を下へ伸ばした。
 その手は地面に埋め込まれ、墓地に送られた悪魔が引きずりだされる。女性が口を開けると、悪魔はそこへ飲み込まれた。

 墓の装飾女:攻撃力1600→3000

「ターンエンドだ」
 ダークはそう言って、何食わぬ表情でターンを終えた。
 その手札は6枚。一切の無駄のなく、攻撃力3000のモンスターを召喚してしまった。
 これだけで確信に至るには十分。相手の実力は、以前から何も変わっていない。



「俺のターン!!」(手札5→6枚)
 勢いよくカードを引き、状況を見つめる。
 ダークは何も言わないが、言わんとしていることは分かるような気がした。
 この状況は”あの日”、ダークと初めて戦った時と同じ1ターン目……きっとダークは試しているのだろう。あれから俺がどれだけ成長しているのかを……。
「手札から"六武の門"を発動する!」
 カードをデュエルディスクに叩きつけると同時に、俺の背後に巨大な門が出現した。


 六武の門
 【永続魔法】
 「六武衆」と名のついたモンスターが召喚・特殊召喚される度に、このカードに武士道カウンターを2つ置く。
 自分フィールド上の武士道カウンターを任意の個数取り除く事で、以下の効果を適用する。
 ●2つ:フィールド上に表側表示で存在する「六武衆」または「紫炎」と名のついた
 効果モンスター1体の攻撃力は、このターンのエンドフェイズ時まで500ポイントアップする。
 ●4つ:自分のデッキ・墓地から「六武衆」と名のついたモンスター1体を手札に加える。
 ●6つ:自分の墓地に存在する「紫炎」と名のついた効果モンスター1体を特殊召喚する。


「いきなり全力だな」
「お前を相手にするのに、手加減なんか出来るわけないだろ。"真六武衆−カゲキ"を召喚する!」
 描かれる召喚陣。その中心から4刀流の武士が姿を現した。


 真六武衆−カゲキ 風属性/星3/攻200/守2000
 【戦士族・効果】
 このカードが召喚に成功した時、手札からレベル4以下の
 「六武衆」と名のついたモンスター1体を特殊召喚する事ができる。
 自分フィールド上に「真六武衆−カゲキ」以外の「六武衆」と名のついたモンスターが
 表側表示で存在する限り、このカードの攻撃力は1500ポイントアップする。

 六武の門:武士道カウンター×0→2

「カゲキの効果発動! 手札からレベル3以下の六武衆を特殊召喚できる! 俺は手札から"六武衆の御霊代"を特殊召喚! さらに場に六武衆が1体以上いることで"六武衆の師範"を特殊召喚だ!!」
 連続して出現する召喚陣から2体の武士が現れる。
 彼らの登場と共に、背後の聳える門の紋章が光り輝いた。


 六武衆の御霊代 地属性/星3/攻500/守500
 【戦士族・ユニオン】
 1ターンに1度だけ自分のメインフェイズに装備カード扱いとして自分フィールド上の「六武衆」と
 名のついたモンスターに装備、または装備を解除して表側攻撃表示で特殊召喚する事ができる。
 この効果で装備カード扱いになっている場合のみ、装備モンスターの攻撃力・守備力は500ポイント
 アップする。装備モンスターが相手モンスターを戦闘によって破壊した場合、自分はカードを1枚ドロー
 する。(1体のモンスターが装備できるユニオンは1枚まで、装備モンスターが破壊される場合は、
 代わりにこのカードを破壊する。)


 六武衆の師範 地属性/星5/攻2100/守800
 【戦士族・効果】
 自分フィールド上に「六武衆」と名のついたモンスターが表側表示で存在する場合、
 このカードは手札から特殊召喚する事ができる。
 このカードが相手のカード効果によって破壊された時、
 自分の墓地に存在する「六武衆」と名のついたモンスター1体を手札に加える。
 「六武衆の師範」は自分フィールド上に1枚しか表側表示で存在できない。

 六武の門:武士道カウンター×2→4→6
 カゲキ:攻撃力200→1700

「カゲキは他に六武衆がいるときに攻撃力が1500アップする。さらに御霊代のユニオン効果で師範に装備! 六武の門の武士道カウンターを4つ取り除くことでデッキから"真六武衆−ミズホ"を1枚手札に加える! さらにカウンターを2つ取り除くことで、師範の攻撃力を500ポイントアップさせる!!」
 連続して使用される効果。
 鎧の化身となった武士が分離し、隻眼の武士の防具をより強固にしていく。
 光り輝く門からは1体の仲間が手札へ呼び出され、その門の力によって隻眼の武士の力は更に高まる。

 六武の門:武士道カウンター×6→2→0
 大助:手札2→3枚(ミズホをサーチ)
 六武衆の師範:攻撃力2100→2600→3100(御霊代のユニオン効果&六武の門の効果)

「ほう、多彩な効果を使ってこちらの攻撃力を超えてきたか」
「ああ! バトルだ!! 師範で"墓の装飾女"を攻撃!!」
 力を増した武士の一閃が、亡者を喰らう女性を切り裂いた。

 墓の装飾女→破壊
 ダーク:8000→7900LP

「御霊代を装備したモンスターが相手を戦闘破壊したとき、デッキからカードを1枚ドローする」(手札3→4枚)
「やるな、それで?」
「続けてカゲキで攻撃だ!!」
 華麗な4本の剣捌きによって、無防備なダークの身体を切り裂いていく。
 ダークは表情を変えないままその攻撃を黙って受け止めた。

 ダーク:7900→6200LP

「カードを1枚伏せて、ターンエンドだ」
 ターンを終えると同時に、隻眼の武士を強化していた力が消え去った。

 六武衆の師範:攻撃力3100→2600

--------------------------------------------
 ダーク:6200LP

 場:なし

 手札6枚
--------------------------------------------
 大助:8000LP

 場:六武衆−カゲキ(攻撃:1700)
   六武衆の師範(攻撃:2600)
   六武衆の御霊代(ユニオン状態)
   六武の門(永続魔法:武士道カウンター×0)
   伏せカード1枚

 手札3枚
--------------------------------------------

 ターンが移り、ダークは口許に僅かに笑みを浮かべていた。
「成程……少しは成長したようだな」
「まぁな」
「少しは楽しめそうだな。俺のターン」(手札6→7枚)
 ダークの手札が7枚になる。
 盤面は完全に俺の方が有利になっている……だが相手はあのダークだ、どんなに有利な状況でも油断は出来ない。
「手札から"おろかな埋葬"を発動する」


 おろかな埋葬
 【通常魔法】
 自分のデッキからモンスター1体を選択して墓地へ送る。
 その後デッキをシャッフルする。


「この効果でデッキから"闇に祈る神父"を墓地へ送る。さらに墓地へ送られた神父の効果で、デッキから"闇の使い−ダークウルフ"を除外する。ダークウルフは除外されたとき、場に特殊召喚する」
「っ!」
 地面から現れた無数の手によって、ダークのデッキから一人の神父が闇へ沈んでいく。
 だが闇に祈る神父の力が、闇の中から凶暴な獣を呼び起こした。


 闇に祈る神父 闇属性/星1/攻500/守300
 【魔法使い族・効果】
 このカードが墓地へ送られた時、
 自分のデッキからカード1枚を選択してゲームから除外する。
 その後、自分のデッキをシャッフルする。


 闇の使い−ダークウルフ 闇属性/星5/攻2200/守300
 【獣族・効果】
 このカードはデッキから除外されたとき、
 自分の場に表側攻撃表示で特殊召喚することが出来る。


「そして墓地に闇属性モンスターが3体いることで、"ダーク・アームド・ドラゴン"を特殊召喚する」
「来たな…!」
 続けざまに召喚される強力なモンスター。
 鋭い牙を携えた闇の獣の隣に、闇の力に染まった竜が現れた。


 ダーク・アームド・ドラゴン 闇属性/星7/攻2800/守1000
 【ドラゴン族・効果】
 このカードは通常召喚できない。
 自分の墓地に存在する闇属性モンスターが3体の場合のみ、
 このカードを特殊召喚する事ができる。
 自分の墓地に存在する闇属性モンスター1体をゲームから除外する事で、
 フィールド上のカード1枚を破壊する事ができる。


「ダーク・アームド・ドラゴンの効果発動。墓地にいる"墓の装飾女"を除外して"六武の門"を破壊する!」
「させるかよ! 伏せカード発動だ!!」
 闇の力を纏った爪を振り下ろそうとした竜の四肢を、光の輪が拘束した。


 ブレイクスルー・スキル
 【通常罠】
 相手フィールド上の効果モンスター1体を選択して発動できる。
 選択した相手モンスターの効果をターン終了時まで無効にする。
 また、墓地のこのカードをゲームから除外する事で、
 相手フィールド上の効果モンスター1体を選択し、その効果をターン終了時まで無効にする。
 この効果はこのカードが墓地へ送られたターンには発動できず、自分のターンにのみ発動できる。


「ふん、ならばバトルだ! ダーク・アームド・ドラゴンで師範に攻撃!!」
 拘束する光の輪をそのままに闇の竜は隻眼の武士へ向かって炎を吐き出す。
 視界一面に広がる巨大な炎に、武士は為す術無く飲み込まれた。
「御霊代はユニオン効果で、師範の代わりに破壊される!」
「だがダメージは受けるだろう?」
 炎の余波が襲い掛かり、当然のごとくダメージが発生した。

 六武衆の御霊代→破壊(ユニオン効果:身代わり)
 六武衆の師範:攻撃力2600→2100
 大助:8000→7800LP

「そしてダークウルフでカゲキを攻撃だ!」
「っ!」
 闇の獣の鋭い牙が、4刀流の武士の身体を切り裂いた。

 真六武衆−カゲキ→破壊
 大助:7800→7200LP

「これで盤面は取り戻した。カードを1枚伏せてターンエンドだ」

--------------------------------------------
 ダーク:6200LP

 場:ダーク・アームド・ドラゴン(攻撃:2800)
   闇の使い−ダークウルフ(攻撃:2200)
   伏せカード1枚

 手札4枚
--------------------------------------------
 大助:7200LP

 場:六武衆の師範(攻撃:2100)
   六武の門(永続魔法:武士道カウンター×0)

 手札3枚
--------------------------------------------

「俺のターン!」(手札3→4枚)
 やっぱり強い。
 どれだけ有利な状況でも、すぐに反撃してくる。
 しかもさっきのバトルフェイズ……ダークは師範では無くカゲキを攻撃してきた。次の俺のターンを見込んでの上での行動だろう。
 読まれているのは分かっているが、この状況じゃとれる手段は一つだ。
「手札から"真六武衆−ミズホ"を召喚する! さらにミズホが場にいることで"真六武衆−シナイ"を特殊召喚!!」
 描かれる二つの召喚陣。
 現れる女武士の隣に寄り添うように、棍棒を持った武士が参上する。


 真六武衆−ミズホ 炎属性/星3/攻1600/守1000
 【戦士族・効果】
 自分フィールド上に「真六武衆−シナイ」が表側表示で存在する場合、
 このカードは手札から特殊召喚する事ができる。
 1ターンに1度、このカード以外の自分フィールド上に存在する
 「六武衆」と名のついたモンスター1体をリリースする事で、
 フィールド上に存在するカード1枚を選択して破壊する。


 真六武衆−シナイ 水属性/星3/攻1500/守1500
 【戦士族・効果】
 自分フィールド上に「真六武衆−ミズホ」が表側表示で存在する場合、
 このカードは手札から特殊召喚する事ができる。
 フィールド上に存在するこのカードがリリースされた場合、
 自分の墓地に存在する「真六武衆−シナイ」以外の
 「六武衆」と名のついたモンスター1体を選択して手札に加える。

 六武の門:武士道カウンター×0→2→4

「ミズホの効果発動! 他の六武衆をリリースすることで相手の場のカードを1枚破壊できる! 俺はシナイをリリースすることで、ダーク・アームド・ドラゴンを破壊する!!」
 女武士がかざす武器に乗り、棍棒を持った武士が闇の竜へ突撃する。
 その身と引き換えに闇の竜を討ち取った武士は、満足げな笑みを浮かべて消えていった。

 真六武衆−シナイ→墓地
 ダーク・アームド・ドラゴン→破壊

「さらにシナイは効果でリリースされたときに墓地の六武衆を手札に加える! 俺は墓地のカゲキを手札に加える!!」
 さっきのターン、ダークが師範を攻撃しなかったのはこれを見越しての事だったのだろう。もし師範を攻撃して墓地へ送っていたら、シナイの効果で回収されて再び特殊召喚していたはずだ。そうさせないために、召喚権を使わざるを得ないカゲキの方を墓地へ送っておいたのだろう。
「場に六武衆が2体以上いることで、"大将軍 紫炎"を特殊召喚する!!」


 大将軍 紫炎 炎属性/星7/攻撃力2500/守備力2400
 【戦士族・効果】
 自分フィールド上に「六武衆」と名のついたモンスターが2体以上表側表示で存在する場合、
 このカードは手札から特殊召喚する事ができる。このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
 相手プレイヤーは1ターンに1度しか魔法・罠カードの発動ができない。このカードが破壊される場合、
 代わりにこのカード以外の「六武衆」という名のついたモンスターを破壊する事ができる。


 並び立つ2体の武士とそれらを束ねる将軍が相手を見据える。
 このまま攻撃が通れば大ダメージを与えることができるが……。
「バトルだ! 紫炎でダークウルフに攻撃!!」
「残念だったな。伏せカード発動だ」


 聖なるバリア−ミラーフォース−
 【通常罠】
 相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
 相手フィールド上に存在する攻撃表示モンスターを全て破壊する。


「っ!」
「これで貴様のモンスターは全滅だ」
 将軍の振るう刃を、聖なる光の壁が受け止める。
 その壁は光を乱反射するように場を殲滅し、俺のモンスターを焼き払った。

 大将軍 紫炎→破壊
 六武衆の師範→破壊
 真六武衆−ミズホ→破壊

「まだ読みが甘いな。俺がその程度のことを想定していないと思ったか?」
「……」
 やられた。ここまで見越して、ダークは聖バリを伏せておいたのかもしれない。
 だけど……確かにしてやられた気分だが、それに反して嬉しく感じてしまう自分もいた。
 以前に戦った時は発動すらしてくれなかった聖バリを……使ってくれる程度には成長できたかな。
「破壊された師範の効果発動。墓地から師範自身を手札に加える。さらにメインフェイズ2に六武の門の効果でカウンターを4つ取り除いてデッキから"六武衆の影武者"を手札に加える」
「……やはり厄介だな、その永続魔法」
「そりゃどうも。カードを1枚伏せて、ターンエンドだ」

--------------------------------------------
 ダーク:6200LP

 場:闇の使い−ダークウルフ(攻撃:2200)

 手札4枚
--------------------------------------------
 大助:7200LP

 場:六武の門(永続魔法:武士道カウンター×0)
   伏せカード1枚

 手札3枚
--------------------------------------------

「俺のターン、ドロー」(手札4→5枚)
 ダークは手札を引き、静かに笑みを浮かべる。
 場を冷静に見つめながら、気を引き締めた。
「そろそろ本気で相手をしてやる」
「……今まで真面目にやっていなかったってことか?」
「いや、真面目に戦っていたさ。ただ……本気でやっていなかっただけだ」
 そう言ってダークは手札から1枚のカードをデュエルディスクに置いた。


 闇の精霊 ダークデビル 闇属性/星4/攻1800/守200
 【悪魔族・効果】
 このカードは通常召喚できない。
 自分の墓地にある闇属性モンスター1体をゲームから除外することでのみ特殊召喚することが出来る。
 1ターンに1度、相手の墓地にあるモンスターカード1枚をゲームから除外することが出来る。

 ダーク・アームド・ドラゴン→除外(特殊召喚のコスト)

「っ…!」
「いくら六武衆が新たな力を手に入れようが、弱点は変わらないだろう? ダーク・デビルの効果発動。貴様の墓地にいる"大将軍 紫炎"を除外する」
 相手の場に現れた闇の精霊の掌から放たれた瘴気によって、俺の墓地から1枚のカードが掻き消される。

 大将軍 紫炎→除外

「くっ…!」
「その表情をするのはまだ早いぞ。さらに手札から"霊滅術師 カイクウ"を召喚する」


 霊滅術師 カイクウ 闇属性/星4/攻1800/守700
 【魔法使い族・効果】
 このカードが相手に戦闘ダメージを与える度に、
 相手墓地から2枚までモンスターを除外する事ができる。
 またこのカードがフィールド上に存在する限り、
 相手は墓地のカードをゲームから除外する事はできない。


「また除外効果を持ってるモンスターを…!」
「相変わらず、この効果は苦手らしいな。バトルだ! ダークデビルで攻撃!!」
 闇の精霊から放たれた瘴気の塊が直撃する。
 闇の決闘ではないから肉体的なダメージは無いにしろ、つい表情を歪めてしまう。

 大助:7200→5400LP

「さらにカイクウで攻撃!」
「それは通さない! 伏せカード"ガード・ブロック"を発動だ!!」
 錫杖を振りかざし僧から放たれた呪詛の塊を、薄い光のベールが包み込み消し去った。


 ガード・ブロック
 【通常罠】
 相手ターンの戦闘ダメージ計算時に発動する事ができる。
 その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になり、
 自分のデッキからカードを1枚ドローする。

 大助:手札3→4枚

「ならばダークウルフで攻撃!!」
 3体目の攻撃。防ぐ術はないため、その攻撃を受け止めることしかできなかった。

 大助:5400→3200LP

「っ…!」
 大幅に削られたライフ。
 場の状況的にも、かなり追いつめられてしまったことは考えなくても分かった。
「カードを2枚伏せてターンエンドだ」

--------------------------------------------
 ダーク:6200LP

 場:闇の使い−ダークウルフ(攻撃:2200)
   闇の精霊 ダークデビル(攻撃:1800)
   霊滅術師 カイクウ(攻撃:1800)
   伏せカード2枚

 手札1枚
--------------------------------------------
 大助:3200LP

 場:六武の門(永続魔法:武士道カウンター×0)

 手札4枚
--------------------------------------------

「俺のターン!」(手札4→5枚)
 相手の場には3体のモンスター。対してこっちはがら空き。
 手札を改めて眺めながら、頭の中で道筋を立てていく。相手の2枚の伏せカードの正体を読めるほど、俺の読みは鋭くないことは分かっている。だからこそ、今は恐れずに前に進むしかない。
「手札から"真六武衆−カゲキ"を召喚する! この効果で手札のレベル3以下の六武衆……"六武衆の影武者"を特殊召喚する!!」


 真六武衆−カゲキ 風属性/星3/攻200/守2000
 【戦士族・効果】
 このカードが召喚に成功した時、手札からレベル4以下の
 「六武衆」と名のついたモンスター1体を特殊召喚する事ができる。
 自分フィールド上に「真六武衆−カゲキ」以外の「六武衆」と名のついたモンスターが
 表側表示で存在する限り、このカードの攻撃力は1500ポイントアップする。


 六武衆の影武者 地属性/星2/攻400/守1800
 【戦士族・チューナー】
 自分フィールド上に表側表示で存在する「六武衆」と名のついたモンスター1体が
 魔法・罠・効果モンスターの効果の対象になった時、
 その効果の対象をフィールド上に表側表示で存在するこのカードに移し替える事ができる。

 六武の門:武士道カウンター×0→2→4

「そして――」
「影武者の特殊召喚にチェーンして、伏せカードを発動する!」
「っ!」
 開かれたカード。途端に辺りに耳障りな音が響き渡った。


 不協和音
 【永続罠】
 お互いのプレイヤーはシンクロ召喚をする事ができない。
 発動後3回目の自分のエンドフェイズ時にこのカードを墓地へ送る。


「シンクロ封じのカード…!」
「俺がこの程度の対策をしていないとでも思ったか?」
 平然とダークはそう言って笑う。
 まさかこのカードが相手のデッキに入っているとは考えていなかったのは確かだ。だけど今の手札なら、それも対応できる!
「それなら手札から速攻魔法、"六武衆の荒行"を発動する!!」


 六武衆の荒行
 【速攻魔法】
 自分フィールド上に表側表示で存在する「六武衆」と名のついたモンスター1体を選択して発動する。
 選択したモンスターと同じ攻撃力を持つ、同名カード以外の
 「六武衆」と名のついたモンスター1体を自分のデッキから特殊召喚する。
 このターンのエンドフェイズ時、選択したモンスターを破壊する。


「この効果でデッキから、"六武衆−カモン"を特殊召喚する!」
 描かれた赤い召喚陣から爆弾を抱えた武士が参上した。
 その存在に、ダークは僅かに表情を歪めた。


 六武衆−カモン 炎属性/星3/攻1500/守1000
 【戦士族・効果】
 自分フィールド上に「六武衆−カモン」以外の「六武衆」と名の付いたモンスターが存在する限り、
 1ターンに1度だけ表側表示で存在する魔法または罠カード1枚を破壊することが出来る。
 この効果を使用したターンこのモンスターは攻撃宣言をする事ができない。このカードが破壊される
 場合、代わりにこのカード以外の「六武衆」という名の付いたモンスターを破壊することが出来る。

 六武の門:武士道カウンター×4→6

「カモンの効果発動! 場にある"不協和音"を破壊する!!」
 赤い鎧を纏った武士が爆弾に火をつけて相手の場に投げつける。
 そのまま表側に開かれたカードめがけて爆発を起こし、ダークのカードを破壊した。

 不協和音→破壊

「そして手札から"六武衆の師範"を特殊召喚!! そしてレベル3の"六武衆−カモン"とレベル2の"六武衆の影武者"をチューニング!! シンクロ召喚!! "真六武衆−シエン"!!」


 六武衆の師範 地属性/星5/攻2100/守800
 【戦士族・効果】
 自分フィールド上に「六武衆」と名のついたモンスターが表側表示で存在する場合、
 このカードは手札から特殊召喚する事ができる。
 このカードが相手のカード効果によって破壊された時、
 自分の墓地に存在する「六武衆」と名のついたモンスター1体を手札に加える。
 「六武衆の師範」は自分フィールド上に1枚しか表側表示で存在できない。


 真六武衆−シエン 闇属性/星5/攻2500/守1400
 【戦士族・シンクロ/効果】
 戦士族チューナー+チューナー以外の「六武衆」と名のついたモンスター1体以上
 1ターンに1度、相手が魔法・罠カードを発動した時に発動する事ができる。
 その発動を無効にし破壊する。
 また、フィールド上に表側表示で存在するこのカードが破壊される場合、
 代わりにこのカード以外の自分フィールド上に表側表示で存在する
 「六武衆」と名のついたモンスター1体を破壊する事ができる。

 六武の門:武士道カウンター×6→8→10

「ずいぶんとモンスターを展開するじゃないか。攻め急いでいるのか?」
「ここが攻め時だと思ったから攻めてるだけだよ。六武の門の効果でカウンターを4つ取り除いてデッキから"真六武衆−キザン"をサーチして、そのまま特殊召喚する!!」


 真六武衆−キザン 地属性/星4/攻1800/守500
 【戦士族・効果】
 自分フィールド上に「真六武衆−キザン」以外の「六武衆」と名のついたモンスターが
 表側表示で存在する場合、このカードは手札から特殊召喚する事ができる。
 自分フィールド上にこのカード以外の「六武衆」と名のついたモンスターが表側表示で
 2体以上存在する場合、このカードの攻撃力・守備力は300ポイントアップする。

 真六武衆−キザン:攻撃力1800→2100
 六武の門:武士道カウンター×10→6→8

 並び立つ4体のモンスター。このまま一気に押し切ってやる。
「バトルだ! シエンでダークウルフに攻撃!」
「……いいだろう。その攻撃、すべて通してやる」
 ダークは目を閉じて、攻撃してくるモンスター達に何もすることは無かった。
 武士たちの凄まじい斬撃によって、ダークの場にいるモンスターたちは為す術無く倒されていく。
 がら空きになった場に、4刀流の武士の連撃がダーク自身へダメージを与えて、怒涛の攻撃が終わった。

 闇の使い−ダークウルフ→破壊
 闇の精霊 ダークデビル→破壊
 霊滅術師 カイクウ→破壊

 ダーク:6200→5900→5600→5300→3600LP

「メインフェイズ2に入って、六武の門の効果で墓地から"真六武衆−ミズホ"と"真六武衆−シナイ"をサーチしてターンエンドだ」

 六武の門:武士道カウンター×8→4→0
 大助:手札1→2→3枚

--------------------------------------------
 ダーク:3600LP

 場:伏せカード1枚

 手札1枚
--------------------------------------------
 大助:3200LP

 場:真六武衆−シエン(攻撃:2500)
   真六武衆−キザン(攻撃:2100)
   真六武衆−カゲキ(攻撃:1700)
   六武衆の師範(攻撃:2100)
   六武の門(永続魔法:武士道カウンター×0)

 手札3枚
--------------------------------------------

 相手の場には伏せカードが1枚。
 こっちの場には魔法・罠効果を無効にできるシエンと、他に3体の六武衆がいる。
 幾らダークでも、この状況で逆転は難しいはずだ……!
「……くくく……」
「何が可笑しい?」
「いや、貴様の考えが透けて見えるようでついつい笑ってしまったのさ。いくら俺でもこの状況を覆すのは難しい……とでも考えていたか?」
「っ!」
 完全に見透かされていたことに動揺を隠せない。
 これだけ不利な状況なのに、ダークは焦る素振りすら見せない。まだ何か手があるっていうのか?
「そんな険しい表情をするなよ中岸大助。まだまだ勝負はこれからだぞ。俺のターン…!」(手札1→2枚)
 ダークが勢いよく、デッキからカードを引いた。

 ――その瞬間、俺の場から2体のモンスターが姿を消した――

「しまった……!」
 気づいた時には、もう遅かった。
 ”俺の場”に、新たなモンスターが召喚されていた。


 溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム 炎属性/星8/攻3000/守2500
 【悪魔族・効果】
 このカードは通常召喚できない。
 相手フィールド上に存在するモンスター2体をリリースし、
 手札から相手フィールド上に特殊召喚する。
 自分のスタンバイフェイズ毎に、自分は1000ポイントダメージを受ける。
 このカードを特殊召喚するターン、自分は通常召喚できない。


 真六武衆−キザン:攻撃力2100→1800

「貴様の場にいる"真六武衆−シエン"と"六武衆の師範"をリリースして特殊召喚させてもらったぞ。このカードまでは考えていなかったらしいな」
「くっ…!」
「だがまだだ。伏せカード発動」


 洗脳解除
 【永続罠】
 このカードがフィールド上に存在する限り、自分と相手の
 フィールド上に存在する全てのモンスターのコントロールは、元々の持ち主に戻る。


「なっ!?」
「これでラヴァ・ゴーレムは俺の場に戻る。さらに場の六武衆が減ったことでキザンの攻撃力は下がっている。バトルだ。キザンに攻撃!!」
 ダークの場にいる溶岩の悪魔が、その口から灼熱の炎を吐き出した。
 武士は咄嗟に身構えるも、その容赦ない炎に飲み込まれて姿を消した。

 真六武衆−キザン→破壊
 大助:3200→2000LP
 真六武衆−カゲキ:攻撃力1700→200

「これで形勢再逆転だな。メインフェイズ2に魔法カード"マジック・プランター"を発動する。"洗脳解除"をコストに2枚ドロー」
「く……」

 洗脳解除→墓地
 ダーク:手札0→2枚

 俺の場にいるモンスターを処理するだけじゃなく、強力なモンスターを自陣に置いて更に手札補充……本当に無駄のない動きだ。
 悔しいが、本当にダークは凄いと感心すらしてしまう。
「おっ、良いカードを引いたな。手札から"サイクロン"発動だ」


 サイクロン
 【速攻魔法】
 フィールド場の魔法または罠カード1枚を破壊する。

 六武の門→破壊

 フィールドに吹く突風によって、俺の背後にそびえた門は崩されてしまった。
 強力な永続魔法を失い、余計に不利な状況が作られていくような気がした。

「カードを1枚伏せてターンエンドだ」

--------------------------------------------
 ダーク:3600LP

 場:溶岩魔神−ラヴァ・ゴーレム(攻撃:3000)
   伏せカード1枚

 手札0枚
--------------------------------------------
 大助:2000LP

 場:真六武衆−カゲキ(攻撃:200)

 手札3枚
--------------------------------------------

「俺のターン!! ドロー!」(手札3→4枚)
 互いにライフが半分を切り、終盤へと突入する。
 状況は五分五分……といいたいところだが、相手があのダークである以上、何が起こるか分からない。
 どれだけ不利な状況でも、すぐに逆転されてしまうんだ。油断すれば一気にライフを削り切られてもおかしくは無い。
「どうした考え込んで? 遠慮せずにかかってきていいんだぞ?」
「……っ」
 必死に考えを巡らせている俺をダークは笑っているようだった。
 どこまで戦いの流れを読まれているかは分からないけれど……この状況を黙って見ているわけにはいかない。
「手札から"真六武衆−シナイ"を召喚する!!」


 真六武衆−シナイ 水属性/星3/攻1500/守1500
 【戦士族・効果】
 自分フィールド上に「真六武衆−ミズホ」が表側表示で存在する場合、
 このカードは手札から特殊召喚する事ができる。
 フィールド上に存在するこのカードがリリースされた場合、
 自分の墓地に存在する「真六武衆−シナイ」以外の
 「六武衆」と名のついたモンスター1体を選択して手札に加える。


「また出てきたか。とすれば次は……」
「ああ。場にシナイがいることで、手札から"真六武衆−ミズホ"を特殊召喚する!」


 真六武衆−ミズホ 炎属性/星3/攻1600/守1000
 【戦士族・効果】
 自分フィールド上に「真六武衆−シナイ」が表側表示で存在する場合、
 このカードは手札から特殊召喚する事ができる。
 1ターンに1度、このカード以外の自分フィールド上に存在する
 「六武衆」と名のついたモンスター1体をリリースする事で、
 フィールド上に存在するカード1枚を選択して破壊する。


 場の六武衆をリリースすることで相手の場のカードを破壊する効果を持ったミズホなら、相手のモンスターを倒せる。
 だがダークがこれに何も対策していないとは考えづらい。
「伏せカード発動だ」


 奈落の落とし穴
 【通常罠】
 相手が攻撃力1500以上のモンスターを
 召喚・反転召喚・特殊召喚した時に発動する事ができる。
 そのモンスターを破壊しゲームから除外する。

 真六武衆−ミズホ→破壊→除外

「これで破壊効果は使えないだろう? さぁどうする?」
「くっ……カゲキを守備表示にして、カードを1枚伏せてターンエンドだ」

--------------------------------------------
 ダーク:3600LP

 場:溶岩魔神−ラヴァ・ゴーレム(攻撃:3000)

 手札0枚
--------------------------------------------
 大助:2000LP

 場:真六武衆−カゲキ(守備:2000)
   真六武衆−シナイ(攻撃:1500)
   伏せカード1枚

 手札1枚
--------------------------------------------

「俺のターン、ドロー」(手札0→1枚)
 ダークがカードを引くと同時に、溶岩の魔人から灼熱の体液が零れて降り注いだ。
 ラヴァゴーレムはスタンバイフェイズ、持ち主に1000ポイントのダメージを与えてくる。

 ダーク:3600→2600LP

「手札から"アドバンス・ドロー"を発動する」
「っ!?」


 アドバンス・ドロー
 【通常魔法】
 自分フィールド上に表側表示で存在する
 手ベル8以上のモンスター1体をリリースして発動できる。
 デッキからカードを2枚ドローする。

 溶岩魔神−ラヴァ・ゴーレム→墓地(コスト)
 ダーク:手札0→2枚

「そして手札から"ダーク・クリエイター"を特殊召喚する」


 ダーク・クリエイター 闇属性/星8/攻2300/守3000
 【雷族・効果】
 このカードは通常召喚できない。
 自分の墓地に闇属性モンスターが5体以上存在し、
 自分フィールド上にモンスターが存在していない場合に特殊召喚する事ができる。
 自分の墓地の闇属性モンスター1体をゲームから除外する事で、
 自分の墓地の闇属性モンスター1体を特殊召喚する。
 この効果は1ターンに1度しか使用できない。


「く……」
 デメリットがあるとはいえ、3000の攻撃力を持ったモンスターを躊躇なくドローカードのコストに使ってカードを引き、新たなモンスターを特殊召喚してきた。
 引きの強さもさることながら、その判断に迷いが無い。
「墓地にいる"闇の精霊−ダークデビル"を除外して"闇の使者−ダークウルフ"を特殊召喚する」


 闇の使い−ダークウルフ 闇属性/星5/攻2200/守300
 【獣族・効果】
 このカードはデッキから除外されたとき、
 自分の場に表側攻撃表示で特殊召喚することが出来る。


「さぁバトルだ!!」
「っ、伏せカード発動だ!!」
 このまま一気に攻撃されたら、取り返しのつかないことになる。


 強制終了
 【永続罠】
 自分フィールド上に存在する
 このカード以外のカード1枚を墓地へ送る事で、
 このターンのバトルフェイズを終了する。
 この効果はバトルフェイズ時にのみ発動する事ができる。


「このカードの効果でシナイを墓地に送ることで、バトルフェイズを終了する!!」
「……なるほど、仕留めきれなかったな。カードを1枚伏せてターンエンド」

--------------------------------------------
 ダーク:2600LP

 場:ダーク・クリエイター(攻撃:2300)
   闇の使者−ダークウルフ(攻撃:2200)
   伏せカード1枚

 手札0枚
--------------------------------------------
 大助:2000LP

 場:真六武衆−カゲキ(守備:2000)
   強制終了(永続罠)

 手札1枚
--------------------------------------------

「俺のターン!」(手札1→2枚)
 なんとかギリギリで防げたからいいものの、いつまでもつかは正直分からない。
 次のターンにサイクロンなどの破壊カードを引かれたら負けてしまう。
 それなら…!
「手札から"マジック・プランター"を発動する!!」


 マジック・プランター
 【通常魔法】
 自分フィールド上に表側表示で存在する永続罠カード1枚を墓地へ送って発動する。
 自分のデッキからカードを2枚ドローする。


 強制終了→墓地(コスト)
 大助:手札1→3枚

「墓地にいる"六武衆−カモン"と"真六武衆−シナイ"をゲームから除外して、"紫炎の老中エニシ"を特殊召喚だ!」
 出現する灰色の召喚陣。
 そこから年老きながらも、確かな威厳を携えた武士が現れる。


 紫炎の老中 エニシ 光属性/星6/攻撃力2200/守備力1200
 【戦士族・効果】
 このカードは通常召喚ができない。自分の墓地から「六武衆」と名のついた
 モンスター2体をゲームから除外する事でのみ特殊召喚する事ができる。
 フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を破壊する事ができる。
 この効果を発動する場合、このターンこのカードは攻撃宣言をする事ができない。
 この効果は1ターンに1度しか使用できない。


「エニシの効果発動! このターン攻撃しない代わりに相手の場のモンスター1体を破壊する!」
「差せると思うか? 伏せカード発動だ」
 腰の刀に手を当てた老中の身体を、邪悪な鎖が縛り上げた。


 デモンズ・チェーン
 【永続罠】
 フィールド上に表側表示で存在する
 効果モンスター1体を選択して発動する。
 選択したモンスターは攻撃する事ができず、効果は無効化される。
 選択したモンスターが破壊された時、このカードを破壊する。


「さぁ、次はどうする?」
「くっ…それなら、"真六武衆−エニシ"を召喚する!!」


 真六武衆−エニシ 光属性/星4/攻1700/守700
 【戦士族・効果】
 自分フィールド上に「真六武衆−エニシ」以外の
 「六武衆」と名のついたモンスターが表側表示で存在する場合、
 1ターンに1度、自分の墓地に存在する「六武衆」と名のついたモンスター2体をゲームから
 除外する事で、フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して手札に戻す。
 この効果は相手ターンでも発動する事ができる。
 また、自分フィールド上に「真六武衆−エニシ」以外の「六武衆」と名のついたモンスターが
 表側表示で2体以上存在する場合、このカードの攻撃力・守備力は500ポイントアップする。


 真六武衆の中でも強力な効果を持っているカードだ。
 バウンスをすることが出来ることもさることながら、相手ターンにも使える効果であることが大きい。
「エニシの効果発動! 墓地にいる"六武衆の御霊代と"六武衆の師範"を除外して、ダークウルフを手札に戻す!」
 大剣を振るう武士の一閃。
 その刃から発せられた暴風によって、闇の獣は主人の手札へと戻っていった。
 ダーク・クリエイターは特殊召喚モンスターであるため、バウンスしても効果は薄い。
 だがダークウルフの方は星5のため、通常召喚するためにはリリースが必要だ。あのまま場に出しておくよりは、ずっといいはず。
「カードを1枚伏せて、ターンエンドだ」

--------------------------------------------
 ダーク:2600LP

 場:ダーク・クリエイター(攻撃:2300)
   デモンズ・チェーン(永続罠)

 手札1枚
--------------------------------------------
 大助:2000LP

 場:真六武衆−カゲキ(守備:2000)
   真六武衆−エニシ(攻撃:1700)
   紫炎の老中エニシ(攻撃:2200)
   伏せカード1枚

 手札0枚
--------------------------------------------

「……俺のターン、ドロー」(手札1→2枚)
 ダークは引いたカードを見つめながら、小さく笑った。
「やはりまだまだだな。手札から"闇の誘惑"を発動する」
「なっ!?」


 闇の誘惑
 【通常魔法】
 自分のデッキからカードを2枚ドローし、
 その後手札の闇属性モンスター1体をゲームから除外する。
 手札に闇属性モンスターがない場合、手札を全て墓地へ送る。

 ダーク:手札1→3→2枚("闇の使い−ダークウルフ"を除外)

「ダークウルフをバウンスしていなければ、余計な手札を与えずに済んだのにな」
「くっ…!」
 やられた。そのカードがあることは想定してなかったわけではないが、まさか引かれるなんて思わなかった。
 ……いや、落ち着け。カードを引かれても、良いカードが引けるとは限らないはずだ。
「さて、そろそろ終わりにするか。ダーク・クリエイターの効果で墓地の"闇に祈る神父"を除外し、"霊滅術師 カイクウ"を特殊召喚だ」
「っ!」


 霊滅術師 カイクウ 闇属性/星4/攻1800/守700
 【魔法使い族・効果】
 このカードが相手に戦闘ダメージを与える度に、
 相手墓地から2枚までモンスターを除外する事ができる。
 またこのカードがフィールド上に存在する限り、
 相手は墓地のカードをゲームから除外する事はできない。


 闇の創世者の手によって、不気味な法師が再び姿を現す。
 新たにモンスターが場に出たことだけじゃない。カイクウが出されたということは――!
「カイクウは相手の、墓地からカードを除外する効果を封じる。これでエニシの効果は使えないな」
「ぐ……」
 カイクウさえ場に出なければ、相手のバトルフェイズにエニシの効果を使ってバウンスし、攻撃をある程度防ぐことが出来たはずだ。
 だが今やその作戦も、使えなくなってしまった。
「バトルだ!! ダーク・クリエイターで老中エニシに、カイクウで"真六武衆−エニシ"に攻撃だ!!」
 伏せられたカードは、攻撃を封じるものでは無い。
 ダークの場にいるモンスターたちの攻撃に、武士たちは為す術も無く倒されてしまった。

 紫炎の老中エニシ→破壊
 真六武衆−エニシ→破壊
 大助:2000→1900→1800LP

「さらにカイクウの効果発動。貴様の墓地にいる"真六武衆−シエン"と"六武衆の影武者"を除外する」
 俺の墓地から、更に武士たちが消されていく。
 残ったのは1枚の伏せカードと、守備体制をとる武士が1人のみ。
「崖っぷちだな。どうするのかな? カードを2枚伏せて、ターンエンドだ」

--------------------------------------------
 ダーク:2600LP

 場:ダーク・クリエイター(攻撃:2300)
   霊滅術師 カイクウ(攻撃:1800)
   伏せカード2枚

 手札0枚
--------------------------------------------
 大助:1800LP

 場:真六武衆−カゲキ(守備:2000)
   伏せカード1枚

 手札0枚
--------------------------------------------

「俺の……ターン……!!」
 完全に崖っぷちだ。
 このターンで何とかしない限り、俺は負ける…!
 頼むぞ俺のデッキ……!!

「ドロー!!」(手札0→1枚)

 勢いよくカードを引き、恐る恐るカードを確認する。
「……!!」
「なにかいいカードでも引けたか?」
「ああ! 手札から"六武衆の露払い"を召喚する!」


 六武衆の露払い 炎属性/星3/攻1600/守1000
 【戦士族・効果】
 自分フィールド上にこのカード以外の「六武衆」と
 名のついたモンスターが表側表示で存在する場合に発動する事ができる。
 自分フィールド上に存在する「六武衆」と名のついたモンスター1体をリリースする事で、
 フィールド上に存在するモンスター1体を破壊する。


「ほう、この土壇場でそのカードを引いたか……」
「露払いの効果発動! 露払い自身をリリースすることで、"ダーク・クリエイター"を破壊する!!」
 女武士が自らに刃を突き立てて、その体を光へと変える。
 その光はまるで矢のように、闇の創世者を破壊した。

 六武衆の露払い→墓地
 ダーク・クリエイター→破壊

「相討ちか。だがまだ俺の場には――」
「いくぞ! 伏せカード発動!! "究極・背水の陣"!!」
「っ!」


 究極・背水の陣
 【通常罠】
 自分のライフポイントが100ポイントになるようにライフポイントを払って発動する。自分の墓地に
 存在する「六武衆」と名のついたモンスターを自分フィールド上に可能な限り特殊召喚する(同名カード
 は1枚まで)。ただし、フィールド上に存在する同名カードは特殊召喚できない。

 大助:1800→100LP

 俺を中心に4つの召喚陣が輝きはじめる。
 逆転へ繋ぐための道筋が、頭の中に描かれていく。
「俺はこの効果で、墓地から4体の六武衆を――」


 パァン!!


 まるで風船が破裂したような音。地面に描かれていた召喚陣が、消え去っていた。
 何が起こったか分からず、戸惑ってしまう。
「伏せカードを発動した」


 神の宣告
 【カウンター罠】
 ライフポイントを半分払う。
 魔法・罠の発動、モンスターの召喚・反転召喚・特殊召喚の
 どれか1つを無効にし、それを破壊する。

 ダーク:2600→1300LP
 究極・背水の陣→無効→破壊

「な……」
「終わりだな」
「ま、まだだ…!」
 諦めるわけにはいかない。まだ俺には最後の切り札が残っている!
「デッキワンサーチシステムを使う!!」
 デュエルディスクの青いボタンを押すと同時、デッキからカードが選び出されてその1枚を手札に加えた。(大助:手札0→1枚)
 ダークもルールによって、デッキからカードを1枚ドローする。(ダーク:手札0→1枚)
「これで最後だ!! 手札から"神極・閃撃の陣"を発動する!!」


 神極・閃撃の陣
 【通常罠・デッキワン】
 「六武衆」と名のついたカードが15枚以上入っているデッキにのみ入れることができる。 
 自分のライフが100のとき、このカードは手札から発動でき、発動と効果を無効にされない。
 自分のライフポイントが50ポイントになるようにライフポイントを払って発動する。 
 自分のデッキに存在するすべてのモンスターを墓地へ送り、自分の墓地に存在する「六武衆」と
 名のついたモンスターを自分フィールド上に可能な限り特殊召喚する。
 また、手札からこのカードを発動したとき、以下の効果も使うことが出来る。
 ●この効果で特殊召喚したモンスターの数まで、フィールド上のカードを破壊することが出来る。
 ●このターンのエンドフェイズ時まで、自分のモンスターは相手のカード効果を受けない。


 大助:100→50LP

 フィールド全体の地面に光り輝く複雑な召喚陣。デッキのモンスターがすべて墓地に送られて、その中から4体の六武衆を選び出す。
「デッキワンカードだと…!?」
「ああ、この効果で俺は墓地から"真六武衆−エニシ"、"六武衆−ザンジ"、"六武衆の師範"、"六武衆−ニサシ"を特殊召喚する!!」
 描かれた召喚陣から、5体の武士たちが姿を現す。


 真六武衆−エニシ 光属性/星4/攻1700/守700
 【戦士族・効果】
 自分フィールド上に「真六武衆−エニシ」以外の
 「六武衆」と名のついたモンスターが表側表示で存在する場合、
 1ターンに1度、自分の墓地に存在する「六武衆」と名のついたモンスター2体をゲームから
 除外する事で、フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して手札に戻す。
 この効果は相手ターンでも発動する事ができる。
 また、自分フィールド上に「真六武衆−エニシ」以外の「六武衆」と名のついたモンスターが
 表側表示で2体以上存在する場合、このカードの攻撃力・守備力は500ポイントアップする。


 六武衆−ザンジ 光属性/星4/攻1800/守1300
 【戦士族・効果】
 自分フィールド上に「六武衆−ザンジ」以外の「六武衆」と名の付いたモンスターが存在する限り、
 このカードが攻撃を行ったモンスターをダメージステップ終了時に破壊する。このカードが破壊される
 場合、代わりにこのカード以外の「六武衆」という名の付いたモンスターを破壊することが出来る。


 六武衆の師範 地属性/星5/攻2100/守800
 【戦士族・効果】
 自分フィールド上に「六武衆」と名のついたモンスターが表側表示で存在する場合、
 このカードは手札から特殊召喚する事ができる。
 このカードが相手のカード効果によって破壊された時、
 自分の墓地に存在する「六武衆」と名のついたモンスター1体を手札に加える。
 「六武衆の師範」は自分フィールド上に1枚しか表側表示で存在できない。


 六武衆−ニサシ 風属性/星4/攻1400/守700
 【戦士族・効果】
 自分フィールド上に「六武衆−ニサシ」以外の「六武衆」と名の付いたモンスターが存在する限り、
 このカードは1度のバトルフェイズ中に2回攻撃する事ができる。このカードが破壊される場合、
 代わりにこのカード以外の「六武衆」という名の付いたモンスターを破壊することが出来る。


「成程……起死回生というわけか。まさかデッキワンカードまで手に入れているとはな……」
「まだ効果は残ってる。手札から"神極・閃撃の陣"を手札から発動したとき、特殊召喚した六武衆は相手のカード効果を受けない。更に俺の場に特殊召喚した数だけ、相手の場のカードを破壊できる!!」
「なんだと!?」
「俺はこの効果で、お前の場にあるカードを全て破壊する!!」
 特殊召喚された武士たちの手に、光の刃が握られる。
 それを振り下ろすと同時、無数の刃がダークの場に襲い掛かった。


 霊滅術師 カイクウ→破壊
 黒いペンダント→破壊


「な………」
 あってはいけないカードが、そこにはあった。



 黒いペンダント
 【装備魔法】
 装備モンスターの攻撃力は500ポイントアップする。
 このカードがフィールド上から墓地へ送られた時、
 相手ライフに500ポイントダメージを与える。



「この俺が終わりだと言ったんだ。だから……終わりさ」

 破壊された漆黒の宝石が、黒い閃光となって俺を貫いた。


 大助:50→0LP


 俺のライフが0になる。


 そして決闘は………終了した。








「惜しかったな」
 デュエルディスクをたたみながら、ダークは自身のデッキを仕舞ってそう言った。
 俺は……しばらく何も出来なかった。
 ただ純粋に、悔しかった。全力を出し切ってもなお、ダークに及ばなかったことが悔しかった。
「以前に比べれば大分マシにはなったが……やはりまだまだだな」
「……何が……悪かったんだ………?」
 口から、そんな言葉が零れてしまった。
 半分放心状態だったこともあるだろう。敵だった相手にそんなことを尋ねるなんて……。

「単純な実力差だ。どうすることもできないさ」

 ダークはそう言って、椅子に腰を下ろした。
 俺は静かにデュエルディスクを畳んで、デッキを仕舞う。
「なかなか楽しめたぞ中岸大助」
「………」
 何も答えることが出来ない。
 ダークに勝てなかったこともあるが、”その先”のことを考えると気が滅入りそうだった。
「アダムは……お前より強いんだよな?」
「そうだな」
「お前に勝てないようじゃ……アダムに勝つことなんて、到底出来ないってことだよな……?」
「どう思うかは貴様の勝手だ」
 ダークはそう言うが……胸の奥に暗い感情が湧き出てくる。
「どうしたら、そんなに強くなれるんだ……?」
「…………」
 ダークは、何も言わなかった。
 しばらくの沈黙があって、小さな溜息が聞こえた。
「俺に意見を求めても無意味だろう。貴様と俺は違うのだと、貴様自身が言っていたではないか」
「っ…」
「さて、俺の用は済んだ。まだ他に聞きたいことはあるか?」
「…………お前は、世界を滅ぼそうって気持ちをまだ持っているんだよな?」
「ああ」
「これから先、もし俺達が負けて、アダムが世界を滅ぼしたら、お前は喜ぶのか?」
「さぁな。正直な話、俺もよく分からない。この感情が果たして満たされるのかどうかもな……。人間なんてそんなものだろう? どれだけ幸せでも、更に幸せを求めるようにな。”慣れる”ことが、良い方に作用することもあれば悪い方向に作用することにもなる」
「……………」
「この世界がどうなるか……そんなの誰にもわかるわけないだろう? 仮に貴様らがアダムを倒して世界を救ったところで、どこかの国が戦争を始めて滅ぶかもしれない。隕石が降ってきて滅ぶかもしれない。過程はどうあれ時間はどうあれ……世界はいつか必ず滅ぶ。俺にとっては、そんな世界を必死になって救おうとする貴様らの気がしれないな」
「確かに、お前の言う通りかもしれない。だけど……それでも俺は……!!」
 ダークの言っていることは、正しいのかもしれない。
 俺達がやっていることは、結局は無駄なのかもしれない。
 それでも俺は……香奈と……みんなとこの世界に生きていたいと思うから。
「はぁ……もういいだろう? そろそろ面会時間も終わりだ。さっさと出ていけ」
 ダークはそう言って椅子を回転させて背を向けた。
 もう話すことは無いという事だろう。

 自然と、背を向けるダークに礼をしていた。
 どうしてそんなことをしたのか、よく分からない。ただなんとなく、そうしたかったからだ。

 背後の扉が開く。係の人がやってきて、俺はその部屋を後にした。




episode16――君が傍にいるのなら――

 15階で大助と別れてから、私は突き当りの奥の部屋まで足を運んでいた。
 鉄製の大きなドア。まるで牢獄のような雰囲気を持つその扉を、係の人が私を見るなりゆっくりと開く。

「面会は2時間となっております。ではお気をつけて……」

 部屋の中は、灰色だった。コンクリートでできた天井と壁に、蛍光灯がいくつか。
 テーブルなどの家具は一切見当たらなくて、間隔をあけた状態で椅子が二つ向かい合う形で置いてある。
 そして奥の椅子には誰かが座っていた。
「あんた誰? 私に何の用なのよ?」
 警戒しながら、一歩ずつ近づいていく。
 私に用意されたであろう椅子の前まで近づいた時、向こうの椅子が反転して相手がその表情を見せた。
 男にしては長い黒髪と細い体に大きな瞳。
 どこかつかみどころのない雰囲気を持つ相手が笑っていた。
「やぁ、久しぶり、というべきかな?」
「あんた……どっかで会ったっけ?」
 なんとなく見たことはある顔だ。
 だけどどこで会ったのか思い出すのが難しい。
「まぁまともに顔を見合わせたのは1度だからね。俺の名前は清風玲亜。スターの元リーダーと言えばいいのか……ダークの幹部フレアと名乗るのが分かりやすいかい?」
「………そんなあんたが、私に用があるわけ?」
 頭の片隅で埋もれていた記憶が蘇ってきた。
 私は直接戦ったわけじゃないけれど、薫さんの先輩だった人の筈だ。
「薫君に言われて本社に来るように言われたんだろう?」
「そうよ。つまり……あんたが決闘の相手ってわけ?」
「理解が早くて助かるよ。それにしても、ずいぶんと俺の事を警戒しているね」
「当たり前でしょ。それ以上近づいたら人呼ぶからね」
「手厳しいね……」
 苦笑を浮かべながら玲亜は席を立った。
 なんだかよく分からないけれど、嫌な胸騒ぎがする。
 私がこの人と戦うってことは、もしかして大助は……”あいつ”と戦っているのかもしれない。
 そんな考えが浮かんできて落ち着かなかった。
「何を焦っているのかな? ボーイフレンドの事が気になって仕方がないのかな?」
「……っ!」
「もう気づいているかもしれないが、彼は今、俺の友と戦っている」
「……そう」
「あれ? 案外、動揺しないんだね?」
「私がここでジタバタしたところで、どうせ出してくれないんでしょ。あんたをとっとと倒して出てった方がきっと早いわ」
 小さく息を吐いて、カバンからデュエルディスクを取り出して腕に装着する。
 そしてデッキを取り出して、デッキゾーンに差し込んだ。
「やれやれ、話に聞いていたのとはずいぶん違って、迷いがあまり感じられないね」
 溜息と共に、相手も同じようにデュエルディスクを取り出した。
 ゆっくりとした動作で、急ぐつもりは無いらしい。
「まぁいいさ。俺としては、”あいつ”の邪魔をしないために君を引きとめたかっただけだからな」
「あいつって……ダークのことよね」
「そうさ。あいつは君のボーイフレンドと大事な話をしたいらしいからね。邪魔になりそうな君には退場願いたかったわけさ」
「ダークに頼まれたって事?」
「いいや、俺個人の判断さ。大事なパートナーの意を汲んでやるのも、パートナーとしての義務だろう?」
 そう言って笑いながら、相手はデュエルディスクを構えた。
 私は小さく息を吸って意識を集中する。
 相手の目的は分からない。だけどどっちみち、この決闘を終えなければ大助のところに行くこともできないなら戦うしかない。



「「決闘!!」」



 香奈:8000LP   玲亜:8000LP



 決闘が、始まった。



「俺のターン、ドローだ」(手札5→6枚)
 デュエルディスクの青いランプが点灯する。先攻は相手からだ。
 相手の行動に意識を向けながら、頭の片隅で夏休みの戦いを思い出す。
 確か、前に薫さんと戦った時のデッキは……。
「手札から"終末の騎士"を召喚しよう」


 終末の騎士 闇属性/星4/攻1400/守1200
 【戦士族・効果】
 このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時、
 自分のデッキから闇属性モンスター1体を選択して墓地に送る事ができる。


「この効果でデッキから"ユベル"を墓地に送る」
「……やっぱり、そのデッキなのね」
「ああ。闇の組織にいる間に使っていたせいで馴染んでしまってね……念のために言っておくが、闇のカードはデッキに入ってはいないからね」
 そう言って玲亜は笑った。
 闇のカードは入っていない……ってことは、ユベルは第3形態までってことなのかしら?
「そう考えなくてもいずれわかるよ。カードを3枚伏せてターンエンドだ」


 玲亜のターンが終わって、私のターンになる。


「私のターン、ドロー!!」(手札5→6枚)
「スタンバイフェイズに、伏せカード発動」
 勢いよくデッキからカードを引いた私を遮るように、相手から強い声が飛んできた。
 開かれたカードは―――


 王宮のお触れ
 【永続罠】
 このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
 このカード以外のフィールド上の罠カードの効果を無効にする。


「っ!」
「君の使うデッキは知っている。だからこそ対策させてもらったよ」
「やってくれるじゃない」
「まだまだこれからさ、さらに"王宮のお触れ"にチェーンする形で"リミット・リバース"を発動だ」


 リミット・リバース
 【永続罠】
 自分の墓地から攻撃力1000以下のモンスター1体を選択し、攻撃表示で特殊召喚する。
 そのモンスターが守備表示になった時、そのモンスターとこのカードを破壊する。
 このカードがフィールド上から離れた時、そのモンスターを破壊する。
 そのモンスターが破壊された時このカードを破壊する。


「逆順処理だ。リミット・リバースは王宮のお触れが発動される前に適用される。俺が墓地から蘇らせるのは、当然"ユベル"だ!!」
「きたわね…!」
 相手の場に現れたのは、大きな翼を携えた人型のモンスター。
 無限にも思えるほどの闇をその瞳の奥に隠し、不敵な笑みを浮かべる存在が立ちはだかった。


 ユベル 闇属性/星10/攻0/守0
 【悪魔族・効果】
 このカードは戦闘によって破壊されない。
 表側攻撃表示で存在するこのカードが相手モンスターに攻撃された場合、
 攻撃モンスターの攻撃力分ダメージを相手ライフに与える。
 このカードが戦闘を行う事によって受けるコントローラーへの戦闘ダメージは0になる。
 このカードは自分のエンドフェイズ時に
 自分フィールド上のモンスター1体を生け贄に捧げなければ破壊される。
 このカードの効果以外の方法で破壊された時、自分の手札・デッキ・墓地から
 「ユベル−Das Abscheulich Ritter」1体を特殊召喚できる。


「これで俺は切り札の召喚に成功した。同時に君の得意のトラップを封じたわけだけど、どうする?」
「それが何よ! 手札から"天空の使者ゼラディアス"を捨てることで"天空の聖域"をサーチ、そして発動するわ!!」
 確かに罠カードを封じられることはキツイ。
 だけどその程度でどうしようもなくなるほど、軟な構築はしてないわ。


 天空の使者 ゼラディアス 光属性/星4/攻2100/守800
 【天使族・効果】
 このカードを手札から墓地へ捨てて発動する。
 自分のデッキから「天空の聖域」1枚を手札に加える。
 フィールド上に「天空の聖域」が表側表示で存在しない場合
 このカードを破壊する。


 天空の聖域
 【フィールド魔法】
 このカードがフィールド上に存在する限り、
 天使族モンスターの戦闘によって発生する天使族モンスターの
 コントローラーへの戦闘ダメージは0になる。


 殺風景な部屋が、輝かしい天空の居城へと変化する。
 相手はたいして動揺もしないまま、次の行動を待っているようだった。
「さらに私は"コーリング・ノヴァ"を召喚するわ!」


 コーリング・ノヴァ 光属性/星4/攻1400/守800
 【天使族・効果】
 このカードが戦闘によって破壊され墓地に送られた時、デッキから攻撃力1500以下で光属性の
 天使族モンスター1体を自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。
 また、フィールド上に「天空の聖域」が存在する場合、代わりに「天空騎士パーシアス」1体を
 特殊召喚する事ができる。


「そのモンスターか…っ!」
「私の狙いが分かったみたいね。バトルよ! コーリング・ノヴァで終末の騎士に攻撃!!」
 リースのような天使が、光の輪となって闇の騎士に襲い掛かる。
 対する騎士も剣を振り下ろし、互いは打ち消しあうように消えていった。

 コーリング・ノヴァ→破壊
 終末の騎士→破壊

「"コーリング・ノヴァ"の効果発動よ。戦闘で破壊されたとき、デッキから"天空騎士パーシアス"を特殊召喚するわ!!」
 消えていった天使の羽が光の粒となって場に残る。
 その光を辿るように、天空を守護する騎士が参上した。


 天空騎士パーシアス 光属性/星5/攻1900/守1400
 【天使族・効果】
 守備表示モンスター攻撃時、その守備力を攻撃力が越えていれば、
 その数値だけ相手に戦闘ダメージを与える。
 また、このカードが相手プレイヤーに戦闘ダメージを与えた時、
 自分はカードを1枚ドローする。


「成程ね。本来なら"コーリング・ノヴァ"はデッキから攻撃力1500以下のモンスターを特殊召喚するが、天空の聖域があるときはパーシアスを特殊召喚できるんだったね」
「そういうことよ。カードを2枚伏せて、ターンエンド!」

--------------------------------------------
 玲亜:8000LP

 場:ユベル(攻撃:0)
   王宮のお触れ(永続罠)
   リミット・リバース(永続罠)
   伏せカード1枚

 手札2枚
--------------------------------------------
 香奈:8000LP

 場:天空の聖域(フィールド魔法)
   天空騎士パーシアス(攻撃:1900)
   伏せカード2枚

 手札2枚
--------------------------------------------

「俺のターン、ドロー」(手札2→3枚)
「………」
「おや、伏せカードは発動しないのかな?」
「ええ。ここでは発動しないわ」
 場に王宮のお触れがある以上、私はカウンター罠を発動しても効果が無効になってしまう。
 だけど相手だって簡単には動けないはずだ。"ユベル"はダメージを反射する効果を持っているけど、それはこちらから攻撃した時に発動するものだ。
 こっちから攻撃さえしなければ、まだ大丈夫だ。
「手札から"マジック・プランター"を発動する」


 マジック・プランター
 【通常魔法】
 自分フィールド上に表側表示で存在する永続罠カード1枚を墓地へ送って発動する。
 自分のデッキからカードを2枚ドローする。

 リミット・リバース→墓地
 玲亜:手札2→4枚

「手札増強ね」
「その通りさ、更にこのモンスターを召喚する!」


 ザ・カリキュレーター 光属性/星2/攻?/守0
 【雷族・効果】
 このカードの攻撃力は、自分フィールド上に表側表示で存在する
 全てのモンスターのレベルを合計した数×300になる。

 ザ・カリキュレーター:攻撃力?→3600

「っ!」
 いきなり攻撃力3600のモンスターが召喚されて驚いてしまう。
 私の表情を見ながら、玲亜は楽しそうに微笑んでいた。
「パーミッションならこの攻撃力を超えるのは至難だろう? バトルだ!!」
 電卓のような姿をしたモンスターが、その手にスパークを迸らせて天空騎士へと襲い掛かる。
「甘いわね。手札から"オネスト"を捨てて効果発動よ!!」
「なっ!?」


 オネスト 光属性/星4/攻1100/守1900
 【天使族・効果】 
 自分のメインフェイズ時に、フィールド上に表側表示で存在するこのカードを手札に戻す事ができる。
 また、自分フィールド上に表側表示で存在する光属性モンスターが戦闘を行うダメージステップ時に
 このカードを手札から墓地へ送る事で、エンドフェイズ時までそのモンスターの攻撃力は、
 戦闘を行う相手モンスターの攻撃力の数値分アップする。

 天空騎士パーシアス:攻撃力1900→5500

 突如、その背に光の翼を羽ばたかせた騎士の姿に怯んだのか、攻撃の手が止まる。
 力を大幅に高めた相手に対し、騎士は聖なる光を照射して消し去ってしまった。

 ザ・カリキュレーター→破壊
 玲亜:8000→6100LP

「パーシアスの効果発動よ。相手を戦闘で破壊した時、デッキから1枚ドローするわ」(手札1→2枚)
「やるね。それなら別の手段をとることにしようかな。メインフェイズ2に"ユベル"を守備表示に変更し、このカードを発動させる」
 玲亜は笑みを絶やさず、手札の1枚をデュエルディスクに叩きつけた。


 シールドクラッシュ
 【通常魔法】
 フィールド上に守備表示で存在するモンスター1体を選択して破壊する。


「っ!」
「この効果でユベルは破壊される。そして――」
 玲亜のモンスターが砕け散る。散った体の破片が霧のように霧散し、1つに集まり新たな形を創り上げる。
 黒い翼と先程より人間離れした姿。
 その体の中心には大きな目があり、頭となる部分には2匹の龍が鋭い牙をあらわにしている。


 ユベル−Das Abscheulich Ritter 闇属性/星11/攻0/守0
 【悪魔族・効果】
 このカードは通常召喚できない。
 「ユベル」の効果でのみ特殊召喚できる。
 このカードは戦闘によっては破壊されない。
 表側攻撃表示で存在するこのカードが相手モンスターに攻撃された場合、
 攻撃モンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。
 このカードが戦闘を行う事によって受けるコントローラーへの戦闘ダメージは0になる。
 自分のエンドフェイズ時にこのカード以外のモンスターを全て破壊する。
 このカードがフィールド上から離れた時、自分の手札・デッキ・墓地から
 「ユベル−Das Extremer Traurig Drachen」1体を特殊召喚できる。


「まさかこんなに早く召喚されるなんてね……」
「君相手に、手加減は出来そうにないからね。ターンエンドだ。そしてエンドフェイズ時に、ユベル第二形態の効果が発動する」
 相手の不気味な黒い翼が広がった。そこから無数の黒い矢が無差別にフィールド上に放たれる。
 私の場にいる騎士はその黒い矢に貫かれて、その場に崩れ落ちた。

 天空騎士パーシアス→破壊

--------------------------------------------
 玲亜:6100LP

 場:ユベル−Das Abscheulich Ritter(攻撃:0)
   王宮のお触れ(永続罠)
   伏せカード1枚

 手札2枚
--------------------------------------------
 香奈:8000LP

 場:天空の聖域(フィールド魔法)
   伏せカード2枚

 手札2枚
--------------------------------------------

「私のターン、ドロー!!」(手札2→3枚)
 3枚になった手札を見て、状況を確認する。
 相手の場にユベルと王宮のお触れがある以上、私の不利は否めない。
 この手札で、私に出来ることは……!
「手札から"天空聖者メルティウス"を召喚するわ!」


 天空聖者メルティウス 光属性/星4/攻1600/守1200
 【天使族・効果】
 このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する限り、
 カウンター罠が発動される度に自分は1000ライフポイント回復する。
 さらにフィールド上に「天空の聖域」が存在する場合、
 相手フィールド上のカード1枚を破壊する。


「なるほど、そのカードか……」
「私は更にカードを1枚伏せて、ターンエンドよ」
「君のエンドフェイズに、伏せカード発動」


 迷える子羊
 【通常魔法】
 このカードを発動する場合、このターン内は召喚・反転召喚・特殊召喚できない。
 自分フィールド上に「仔羊トークン」(獣族・地・星1・攻/守0)を2体守備表示で特殊召喚する。


「っ!」
 全体破壊をするモンスターがいるのにトークンを召喚してきたってことは……十中八九、次のターンで何かを狙ってくるって事よね。
 いや……考えても仕方ないわ。
 大した行動も起こせないまま、ターンを終える。
 同時に玲亜へとターンが移行した。



「俺のターン!」(手札2→3枚)
「この瞬間、伏せカードを発動するわ!!」


 強烈なはたき落とし
 【カウンター罠】
 相手がデッキからカードを手札に加えた時に発動する事ができる。
 相手は手札に加えたカード1枚をそのまま墓地に捨てる。


「っ、なるほど。そうきたか…!」
「"王宮のお触れ"の効果で効果自体は無効になるけど、発動したことに変わりは無いわ! メルティウスはカウンター罠が発動した時、ライフを1000回復する! さらに天空の聖域があるとき相手のカードを1枚破壊できるわ!!」
 場にいる天使が光の輪を放つ。
 それらの光は玲亜の背後にそびえる王宮を、跡形も無く消滅させた。

 王宮のお触れ→破壊
 香奈:8000→9000LP

「これでようやく、罠カードが使えるわ!」
「そうだね、でも――!」
 次の瞬間、場にいた2体のトークンが消えた。
 羽ばたく金色の翼、僅かに炎を纏う鳳凰がフィールドに降臨した。


 ネフティスの鳳凰神 炎属性/星8/攻2400/守1600
 【鳥獣族・効果】
 このカードがカードの効果によって破壊され墓地へ送られた場合、
 次の自分のスタンバイフェイズ時にこのカードを墓地から特殊召喚する。
 この効果で特殊召喚に成功した時、フィールド上の魔法・罠カードを全て破壊する。


「えっ!?」
「さすがにこのモンスターが入っているとは考えていなかったみたいだね。バトルだ!!」
 その巨大な翼を羽ばたかせ、鳳凰神は天使を焼き払う。
 余波となって襲い掛かる炎は聖域の加護によって阻まれて、私には届かない。

 天空聖者メルティウス→破壊

「俺はこれでターンエンドだ」
 エンドフェイズの宣言。
 再び場全体を黒い矢が降り注ぎ、すべてを打ち貫いていく。

 ネフティスの鳳凰神→破壊

--------------------------------------------
 玲亜:6100LP

 場:ユベル−Das Abscheulich Ritter(攻撃:0)

 手札2枚
--------------------------------------------
 香奈:8000LP

 場:天空の聖域(フィールド魔法)
   伏せカード2枚

 手札1枚
--------------------------------------------

「わ、私のターン!」(手札1→2枚)
 思わぬモンスターの登場に、困惑してしまった。
 まさかネフティスまで入っているなんて思わなかった。
 次のターン、相手のスタンバイフェイズでネフティスが再び特殊召喚されてしまう。そうなれば私の場にある魔法・罠カードは全て破壊されてしまう。
 でもかといって、ユベルの方も放っておくわけにはいかない。
 あのモンスターを何とか処理しない限り、私に攻撃のチャンスが訪れないからだ。
 本当に……厄介なデッキね。
「ずいぶんと悩んでいるようだね?」
「なによ、人が困っているのを見て楽しいわけ?」
「そういうつもりじゃないさ。少しくらい話す時間があってもいいじゃないか。どうして君はそのデッキを使っているんだい?」
「はぁ? なんでそんなこと、あんたに話さなきゃいけないのよ」
「当ててあげようか。そのデッキは、君の心そのものさ。自分の大切な人を守りたい、支えたい。そういった気持ちがそのデッキを使わせている」
「…………」
「君は、大切なボーイフレンドとずっと一緒にいたいと思っているんだろう? こうして決闘している最中も、頭の片隅では彼氏の事が気になって仕方ないはずだ。こんなところで油を売っていないで、早く彼のところに行きたいって思っているんじゃないのかな?」
「……何が言いたいのよ」
「別に。ただの忠告さ。俺から言わせれば、君の彼氏と”あいつ”は似ている。君が傍にいるのなら、ちゃんと気を付けてあげた方がいい。俺のように取り返しがつかなくなる前にね……。あいつと君のパートナーの違いは、どれだけの痛みを感じているかどうかだ。取り戻せる程度の悲劇だったか、そうじゃないか……その一点につきる。君の存在が、彼にどれほど重要なものになっているかをちゃんと自覚した方がいいと思っただけさ」
 玲亜の視線がまっすぐ突き刺さってくる。
 構えていた腕が、自然と下りていた。
 正直な話、相手が何を言っているのかちゃんと理解できているわけじゃない。傍にいるなら気を付けてやれとか。私が大助にとってどれだけの存在なのかとか……そんなこと言われたって、分かるわけがない。
 だけど……これだけは言える。
 言わなくちゃいけないことがある。

「馬鹿じゃないの? なんであんたが勝手に決めつけるわけ?」

「え?」
「確かに、ダークと大助が似てるかもってことは否定しないわ。私が闇の神に倒された時だって大助は怒ったみたいだし、世界を滅ぼそうとか考える可能性だって0じゃないわ。でもね、たとえそうだとしたって、大助は世界を滅ぼしたりなんかしないわよ」
 玲亜の眉が僅かに揺れた。
 どうしてそんなことが言える、と目が訴えている。
「確証なんかないわ。でもね、大助とずっと一緒にいる私がそう思っているってことは、きっとそうなのよ。どれだけ理不尽なことが起きたって、絶望があったって、大助は諦めない。諦めないで、頑張って、ボロボロになりながらも前に進んでいこうとする……そんな大助の姿をずっと傍で見てきたの。たとえ私がいなくなっても、大助はこの世界を否定したりなんかしない。私がそう信じている以上、あんたなんかに好き勝手言われる筋合いはないわ」
「そんな、無茶苦茶な……」
「これが私よ。誰にも文句は言わせないし、私の気持ちは変わらない。大助やみんなと一緒に生きていきたい……あいつが道を踏み外そうとするなら、殴ってでも止めさせる。たとえ死んだって化けて出て止めてやるわ」
「っ…! 信じたところで、無駄かもしれないんだよ? 君がいなくなったとき、彼は―――」
「だから、そうならないって言ってるでしょ? ちゃんと理由があれば納得するわけ?」
「っ!」
「話は終わり? 私はこのまま何もせず、ターンエンドよ」


 私のターンが終わり、玲亜へとターンが移行した。


「俺のターン!」(手札2→3枚)
 若干、玲亜のカードを引く手に力が籠った。
 スタンバイフェイズに入り、地面から炎が湧き立ってくる。
「この瞬間、墓地からネフティスの効果が発動する!!」
「その効果にチェーンして、伏せカード発動よ!!」


 人造天使
 【永続罠】
 カウンター罠が発動される度に、
 「人造天使トークン」(天使族・光・星1・攻/守300)を1体特殊召喚する。


「ずいぶんマイナーなカードを使うね。だがネフティスは蘇る! そして自身の効果で蘇ったとき、相手の場の魔法・罠カードをすべて破壊する!!」
「させないわ! "大革命返し"を発動よ!!」


 大革命返し
 【カウンター罠】
 フィールド上のカードを2枚以上破壊する
 効果モンスターの効果・魔法・罠カードが発動した時に発動できる。
 その発動を無効にしゲームから除外する。


「くっ!」
「これでネフティスの破壊効果を無効にして、ゲームから除外するわ!!」
 炎を撒き散らそうとする鳳凰神を、光の球体が包み込む。
 全身を光に覆われて、ネフティスはこの場から消え去った。

 ネフティスの鳳凰神→除外

「さらに"人造天使"の効果で、トークンが場に1体特殊召喚されるわ! さらに―――!」
 私の場に現れた小さな天使が光になる。
 途端に辺りを雷雲が覆い、雷鳴と共に裁きの天使が現れる。


 裁きを下す者−ボルテニス 光属性/星8/攻2800/守1400
 【天使族・効果】
 自分のカウンター罠が発動に成功した場合、自分フィールド上のモンスターを全てリリースする事
 で特殊召喚できる。この方法で特殊召喚に成功した場合、リリースした天使族モンスターの数まで
 相手フィールド上のカードを破壊する事ができる。


「ボルテニスはカウンター罠が発動した時、場のモンスターをすべてリリースして特殊召喚される! 更にその時リリースしたモンスターの数だけ、相手のカードを破壊するわ! 私はユベルを破壊する!」
 天使がその手に雷を纏い、1つに固めて解き放つ。
 轟く雷鳴と共に、黒き翼のモンスターは姿を消した

 ユベル−Das Abscheulich Ritter→破壊

「くっ…だがユベルは更に進化する!! こい! ユベル−Das Extremer Traurig Drachen!!」
 雷によって消し去られた身体が闇へと変わり、新たな形を作りだしていく。
 先程よりもさらに深い闇。
 黒い翼は大きくなり、胴体には不気味な顔があらわになる。
 禍々しい姿でゆっくりと、それはフィールドに降り立った。


 ユベル−Das Extremer Traurig Drachen 闇属性/星12/攻0/守0
 【悪魔族・効果】
 このカードは通常召喚できない。
 「ユベル−Das Abscheulich Ritter」の効果でのみ特殊召喚できる。
 このカードは戦闘によっては破壊されない。
 表側攻撃表示で存在するこのカードが相手モンスターと戦闘を行った場合、
 ダメージステップ終了時に相手モンスターの攻撃力分のダメージを
 相手ライフに与え、そのモンスターを破壊する。
 このカードが戦闘を行う事によって受けるコントローラーへの戦闘ダメージは0になる。


「わざわざ進化させてくれるとはね」
「毎回、全体破壊されたらたまったもんじゃないわよ!」
「自ら不利にするとは、面白いね! バトルだ!!」
 相手モンスターが裁きの天使に攻撃を仕掛ける。
 その瞳に見つめられ、天使は我を失ったように主人である私へ雷を落とす。
「きゃぁ!」

 香奈:9000→6200LP

「ユベルの効果によって、君のモンスターは破壊される!」
「うっ…」
 正気を失った天使の身体にヒビが入り、朽ちた石像のように崩れ落ちる。
 心の中で謝りながら私はカードを墓地ゾーンへ置いた。

 裁きの天使 ボルテニス→破壊

「カードを1枚伏せて、ターンエンドだ!」

--------------------------------------------
 玲亜:6100LP

 場:ユベル−Das Extremer Traurig Drachen(攻撃:0)
   伏せカード1枚

 手札2枚
--------------------------------------------
 香奈:6200LP

 場:天空の聖域(フィールド魔法)
   人造天使(永続罠)

 手札1枚
--------------------------------------------

「私のターン、ドロー!」(手札1→2枚)
 ついにユベルを第三形態まで引き出すことが出来た。
 闇のカードが入っていない以上、あのユベルを倒せばもう切り札は無いはず。
 私だって、無闇にモンスターを破壊したわけじゃない。
 あの第三形態は効果は強力だけど、性質上”攻撃をする”という選択肢が増える。
 パーミッションで相手をする以上、カウンターするための相手の行動は多い方がいい。
「カードを1枚伏せて、"豊穣のアルテミス"を召喚するわ!!」


 豊穣のアルテミス 光属性/星4/攻1600/守1700
 【天使族・効果】
 このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
 カウンター罠が発動される度に自分のデッキからカードを1枚ドローする。


 カウンター罠が発動するたびにデッキからカードを引けるカード。
 本当はもっと早く出して活躍させたかったけど、今更言っても仕方がない。
「私はこれでターンエンドよ!」



「俺のターン!」(手札2→3枚)
 カードを引くと同時に、玲亜はすぐさまバトルフェイズに入った。
 出来るだけ私にカウンター罠を発動させるタイミングを与えないためだろう。
 だけど――!
「伏せカード発動よ!」


 攻撃の無力化
 【カウンター罠】
 相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
 相手モンスタ1体の攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了する。


 香奈:手札0→1枚(アルテミスの効果)
 人造天使トークン→特殊召喚(守備)

「そっちが伏せられてたか。それならこっちだ」
 そう言い放ち、玲亜は手札の1枚をデュエルディスクに置いた。


 サイクロン
 【速攻魔法】
 フィールド場の魔法または罠カード1枚を破壊する。

 天空の聖域→破壊

 放たれる嵐によって、フィールドに存在していた神殿が破壊され、元の無機質な部屋へと戻ってしまう。
 これで私は、戦闘ダメージを受けるようになってしまった。
「ターンエンドだ」

--------------------------------------------
 玲亜:6100LP

 場:ユベル−Das Extremer Traurig Drachen(攻撃:0)
   伏せカード1枚

 手札2枚
--------------------------------------------
 香奈:6200LP

 場:豊穣のアルテミス(攻撃:1600)
   人造天使トークン(守備:0)
   人造天使(永続罠)

 手札1枚
--------------------------------------------

「私のターン!」(手札1→2枚)
 なんとかギリギリで凌いでこれたけど、いつ相手の場に新しいモンスターが出てきてもおかしくは無い。
 アルテミスも場にいるし……”あのカード”を使うしかない。
「デッキワンサーチシステムを使うわ!!」
 デュエルディスクの青いボタンを押すと同時、デッキからカードが選び出されて手札に加える(手札2→3枚)
 ルールによって玲亜もデッキからカードを引いた。(手札2→3枚)
「ついにくるのかな? 超強力なデッキワンカードが……」
「その通りよ。カードを1枚伏せるわ!!」
「この瞬間、伏せカードを発動する!」
「えっ!?」


 王宮の鉄壁
 【永続罠】
 このカードがフィールド上に存在する限り、
 カードをゲームから除外することはできない。


 そのカードを見た瞬間、ハッとした。
 私のデッキワンカードを封じることが出来る数少ないカード。あれを発動させたらまずい!
「その効果にチェーンして手札から"サイクロン"を発動するわ!!」


 サイクロン
 【速攻魔法】
 フィールド場の魔法または罠カード1枚を破壊する。


「これでそのカードを破壊するわ」
「そうはさせないよ。"緑光の宣告者"の効果を発動だ」


 緑光の宣告者 光属性/星2/攻300/守500
 【天使族・効果】
 自分の手札からこのカードと天使族モンスター1体を墓地に送って発動する。
 相手の魔法カードの発動を無効にし、そのカードを破壊する。
 この効果は相手ターンでも発動する事ができる。


 紫光の宣告者→墓地(手札コスト)
 サイクロン→無効→破壊

「カウンター罠だけが、相手の行動を打ち消せるわけじゃないんだよ。ユベルはデッキの性質上、手札が余りがちだからね……入れておいて正解だったらしい」
「そ、そんな……」
「さぁ、どうする?」
 残り1枚の手札は"冥王竜ヴァンダルギオン"。今の状況じゃ、召喚しても意味は無い。
 とにかくここは……
「アルテミスを守備表示にして、ターンエンドよ」

--------------------------------------------
 玲亜:6100LP

 場:ユベル−Das Extremer Traurig Drachen(攻撃:0)
   王宮の鉄壁(永続罠)

 手札1枚
--------------------------------------------
 香奈:6200LP

 場:豊穣のアルテミス(守備:1700)
   人造天使トークン(守備:0)
   人造天使(永続罠)
   伏せカード1枚

 手札1枚
--------------------------------------------

「俺のターン、ドロー」(手札1→2枚)
 カードを引き、玲亜は勝ち誇った笑みを浮かべていた。
「手札から"死者蘇生"を発動する」


 死者転生
 【通常魔法】
 手札を1枚捨てて発動する。
 自分の墓地に存在するモンスター1体を手札に加える。


「これで墓地にいる"ザ・カリキュレーター"を特殊召喚する!」
「うっ…」


 ザ・カリキュレーター 光属性/星2/攻?/守0
 【雷族・効果】
 このカードの攻撃力は、自分フィールド上に表側表示で存在する
 全てのモンスターのレベルを合計した数×300になる。

 ザ・カリキュレーター:攻撃力?→4200

 また新しいモンスターが出てきてしまった。
 でもまだ終わっていない。あの2体のモンスターに攻撃されても、ライフは残る。
 そうすれば……!
「次のターンは無いよ。君の場にある"人造天使"をコストに"トラップ・イーター"を特殊召喚!」


 トラップ・イーター 闇属性/星4/攻1900/守1600
 【悪魔族・チューナー】
 このカードは通常召喚できない。
 相手フィールド上に表側表示で存在する罠カード1枚を
 墓地へ送った場合のみ特殊召喚できる。

 人造天使→墓地
 ザ・カリキュレーター:攻撃力4200→5400

「そんな……」
「バトルだ! トラップ・イーターでトークンを、ユベルでアルテミスを攻撃!!」
 守備体制をとる小さな天使を悪魔が噛み砕き、マントを羽織る天使が理性を失い攻撃し、やがて朽ちて消えてしまう。

 トークン→破壊
 豊穣のアルテミス→破壊
 香奈:6200→4600LP

「これで止めだ! カリキュレーターで攻撃!!」
 膨大になった力を込めて、モンスターが掌に電気を迸らせる。
 防ぐ手段の無い私は、それを黙って受け止めるしかできなかった。


 香奈:4600→0LP



 私のライフが0になる。


 そして決闘は……終了した。








「残念だったね」
 デュエルディスクを仕舞いながら、玲亜が話しかけた。
 私は小さく溜息をつきながらデッキとデュエルディスクをカバンに仕舞う。
「何よ。次にやったら負けないんだから」
「ああ。俺も2回目は勝てるとは思っていないさ」
 苦笑を浮かべながら、玲亜はそう言った。
 その視線が右左と動いている。まるで、何か言葉を探しているようだった。

「朝山香奈さん……俺が言えた口じゃないが、君は君のまま、彼の傍にいてやるといい」

「……」
 僅かに憂いを帯びた言葉に、何も返すことが出来なかった。
 もしかしたらこの人は、自分と私を重ねていたのかもしれない。
 目を離したらどこかへ行ってしまいそうなパートナーを持つ存在として……。
「あんたに言われなくても大丈夫よ」
 多分ね。
「そうか……ならいい。君たちが困難を乗り越えて行けるように、心の片隅で祈ってるよ」
「あんたも頑張りなさいよね。どんな過去があったって、今こうしてダークのそばにいるのは、あんただけなんだから……」
「……それもそうだな。さて、そろそろ時間もちょうどいいだろう。面会は終わりだ」
 そう言うと、後ろの扉が開いてスタッフの人が入ってきた。
 私はもう1度、玲亜の方を見た。
 その憂いを帯びた表情が変わることは無く、ただ笑顔を向けている。
「薫君によろしく言っておいてくれ。それじゃあまたいつか会おう」
 そう言って手を振る玲亜に軽く礼をして、私はその部屋をあとにした。




episode17――世界のために死んでくれるか?――

 合宿最終日、中岸と香奈ちゃんは本社に出向くという事で街へ行っている。
 俺と本城さんは合宿場で最終調整をすることになっている。
『あの小娘は一緒ではないのだな』
「そうみたいだぜ?」
 足元でライガーが見上げながら尋ねてきた。
 本城さんは俺とは別の場所で最終調整するという事になっている。
 俺と同じように決闘以外の練習もしていたみたいだし、それを込みで試験するのかもしれねぇな。

「お待ちしていましたよ」

 視線の先に、伊月が木を背にして待っていた。
 その両手には拳銃が握られており、その体はほんのりと白く発光していて白夜の力が込められているのが分かった。
「ここで最終調整ってやつをするのかよ?」
「おや、珍しく察しがいいですね」
「一言余計だぜ。さっさと決闘しようぜ」
 肩に下げたバッグからデュエルディスクを取り出そうとするが、伊月はそれを静止させるように銃口をこちらに向けてきた。
『何の真似だ?』
「おやおや、そんなに物騒な顔をしないでもらえると助かりますね。こちらとしてもあまり手荒な真似はしたくないのですが」
『……』
 ライガーの表情が一気に険しくなったのが見えた。
 その場の雰囲気が変わっていることに、俺もゆっくりと身構える。
「雲井君。君には色々と活躍してくれていることには感謝しています。今回もドレッド・ルートの討伐を手伝ってくれたようですしね」
「別に成り行きでああなったってだけだぜ」
「そうですね。ですがスターとしては礼を述べておかなければならないでしょう。しかし同時に、問題も起こってしまいました」
 伊月は右手の銃を構えたまま、懐から1枚の紙を取り出した。
 ここからの距離は約10メートル。文字が細かくてここからは見えそうにない。
「合宿前に受けてもらった定期健診の結果です」
「それがなんだってんだよ」
 ライガーの事件以来、俺は定期的に本社に赴いて検診を受けることになっていた。
 合宿前までで合計10回の検診。ライガーがいることの影響が出ていないかどうかを診断するためのものだ。
 中岸達には言っていないが、連続10回とも『影響なし』の診断を受けていたから問題ないと思っていた。
「雲井君……あまり聞きたくないのですが、あなたは本当に自分の意志で動いていますか?」
「ああ?」
「破壊衝動に駆られたことはありませんか? 誰かを何かを壊したい、そう思ったことはありませんか?」
「ふざけんじゃねぇよ。そんなこと思うわけねぇじゃねぇか!!」
 真意の見えない相手の発言に、つい声を荒げる。
 右拳にも力が入ってしまった。

「おや、目の色が変わりましたね?」

「っ!?」
 咄嗟に目を擦ってしまった。
 そんな様子を見て面白そうに伊月は笑っている。
「どうやら心当たりがあるようですね」
「っ…!」
「まぁライガーに聞いた方が早いでしょうか。ライガー、そろそろ隠し事は無しにしませんか? あなたにとってもスターにとっても、主人である雲井君にも良いことはないと思いますが?」
『……そうだな。そろそろ頃合いかと思っていたところだ』
 深い溜息の後、ライガーが面倒臭そうに口を開いた。
『小僧、貴様の身体は徐々に闇の力に染まりつつある』
「なっ」
『正確には、我との同調性が高くなっているというだけだがな』
「俺が、闇の力を……?」
「考えてみればおかしなことではないでしょう。あのダークですら闇の神を宿した状態でどんどん体を蝕んでいったという記録もあります。神を所持するということは、それなりのリスクがあるということでしょう」
『その通りだ。何度か我に体を貸すうちに波長が噛み合ってきたのだろう。まぁ貴様自身が闇の力を扱う事は出来ないが……今なら簡単に我が身体を乗っ取ることもできるだろうな』
「っ…!」
 明かされた事実に、動揺することが隠せなかった。
 今まで戦ってきた闇の力が自分にも宿りかけているのだと思うと、あまりいい気はしない。
「それで? 雲井君を、あなたはこれからどうするつもりなのですか?」
『どうするつもりもないさ。今のところな』
「………」
『そう怖い顔をするな。一応は、この小僧を主として扱ってやっているんだ。小僧がアダムと戦うつもりならば気が乗りはしないが協力くらいはしてやるつもりだ。もっとも…我を排除しようと考えるのも自然だろうが戦力が多いに越したことはないだろう』
「……それもそうですね」
 伊月は銃を下ろして、静かに溜息をついた。
「なるほど。懸念していた事項が解決して良かったです。あなたが嘘をついているという可能性もありますが……もし我々に不都合な事を引き起こすようでしたら全力で対処させていただきますので」
『人間ごときに止められるとは思えんが、一応頭に入れておこう』
「ライガー……」
『心配するな小僧。闇の力を宿しているとはいえ、貴様の身体に影響は出ないはずだ。中岸大助も白夜の力を持っていても影響は出ていないだろう? 無理に授けられたものならいざ知らず、徐々に浸透させられた闇の力ならば負担もかかるまい』
 ライガーはそう言って笑った。
 こいつの言葉を信じないわけじゃねぇが……。
『それで、話は終わりか?』
「ええ。では最後に……」
 伊月がおもむろにデュエルディスクを構えた。
 やっぱり、そうなるのかと思いながら俺も用意していたデュエルディスクを構える。
「雲井君。今までの訓練をよく頑張ってくれました。記念というわけではありませんが……決闘しましょうか」
「分かったぜ。それで、勝てばいいのか?」
「特に規定は設けませんよ。君の力は、危機的な状況でこそ光るのですからね。それに僕の役目は君の足止めですから」
「はぁ?」
「なんでもありません、こちらの話ですよ。では……」


「「決闘!!」」



 雲井:8000LP   伊月:8000LP



「それでは、僕の先攻ですね、ドロー」(手札5→6枚)
 先攻は伊月からだった。
 脳裏に彩也香の事件の時の決闘が浮かんできて、あまりいいイメージは無い。
「僕は手札から"光の護封剣"を発動しますね」
「いきなりかよ……」
 フィールド上に幾多もの光の刃が降り注ぐ。
 それらは俺を囲うように配置され、身動きを制限してきた。


 光の護封剣
 【通常魔法】
 相手フィールド上に存在するモンスターを全て表側表示にする。
 このカードは発動後、相手のターンで数えて3ターンの間フィールド上に残り続ける。
 このカードがフィールド上に存在する限り、
 相手フィールド上に存在するモンスターは攻撃宣言をする事ができない。


「そして僕はカードを2枚伏せて、ターンエンドです」


 ターンが終了して、俺のターンになった。


「いくぜ! 俺のターン!!」(手札5→6枚)
 デッキの上から勢いよくカードを引く。
 いきなり相手はこっちの攻撃を封じてきた。
 それだけ俺の攻撃を警戒してるって事だろう。
 だけどそんなの、こっちの思うつぼだぜ。そうやって時間稼ぎするってことは、こっちの準備する時間が得られるってことだからな。
「手札から"強欲なカケラ"を発動するぜ!!」


 強欲なカケラ
 【永続魔法】
 自分のドローフェイズ時に通常のドローをする度に、
 このカードに強欲カウンターを1つ置く。
 強欲カウンターが2つ以上乗っているこのカードを墓地へ送る事で、
 自分のデッキからカードを2枚ドローする。


「おやおや、手札増強カードですか」
「ああ。そうやって俺の攻撃を封じたつもりだろうけど、いつまでも防げると思ったら大間違いだぜ!!」
「ええ、そうでしょうね」
「否定しないのかよ?」
「これでも僕は、君の事をかなり評価しているんですよ? 手加減する理由はあっても、侮る理由は見当たりませんね」
「……」
 褒められている…と素直に受け取っていいのかよく分からねぇ。
 こうやって俺のことを油断させる目的なのかもしれねぇし……。
「さぁ、次はどうしますか?」
「……カードを1枚伏せて、ターンエンドだぜ」


--------------------------------------------
 伊月:8000LP

 場:光の護封剣(通常魔法:1ターン経過)
   伏せカード2枚

 手札3枚
--------------------------------------------
 雲井:8000LP

 場:強欲なカケラ(永続魔法:強欲カウンター×0)
   伏せカード1枚

 手札4枚
--------------------------------------------

「僕のターンです、ドロー」(手札3→4枚)
 伊月はカードを引くと、しばらく手札を眺めながら考えていた。
 まだ序盤だからそこまで考え込む必要はないと思うんだが………。

 それから数分、伊月は黙ったまま考えこみ、そして――

「待たせてしまってすみませんね、ターンエンドです」
「っ!?」
 結局、何もしないまま伊月はターンを終えてしまった。
 こっちの攻撃を封じているなら、絶好の攻撃チャンスなのに……何もしてこない。
 さては手札事故って奴だな。

(成程な……)

 内側からライガーの声が聞こえた。
「どうしたんだよ?」
(いや、別に何でもないさ……)
「言いたいことがあるならはっきり言いやがれ」
(……小僧、貴様はもう少し、相手の言動に気を使った方がいいな)
「あぁ?」
(意味が分からぬのなら、それでいいさ。決闘に集中しろ)
 それっきり、ライガーの声が聞こえなくなった。
 結局何が言いたかったのかは分からない。ただ、なんとなく伊月が本気を出していない事だけは理解できた。
 まぁ理由がなんであれ関係ねぇ。今は戦いに集中するだけだぜ。




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 合宿最終日、私は薫さんの指示でいつも通り訓練所へ向かっていました。
 1週間に渡る訓練で、私がどれだけ成長できたのかを確かめたいということらしいです。
(マスター、緊張しますか?)
「うん。ちょっとね……」
 きっと薫さんと擬似的な戦闘を行うんだと思います。
 いくら訓練の成果確認だと言っても、誰かと戦うなんてあまり考えたくありません。

 地下室へ向かう階段を下りて、部屋に入ります。
 広い空間の奥に、背を向けた人物がゆっくりと振り返ります。
「……来たか」
 そこにいたのは、佐助さんでした。
 その隣にはコロンちゃんも浮いています。
「あれ? 佐助さん……?」
 てっきり薫さんがいると思っていました。
 もしかして、薫さんは雲井君の相手をしているのでしょうか…?
「…コロン」
『うん、分かった…』
 コロンちゃんが指を鳴らすと、入り口が光の壁に塞がれてしまいました。
 どうしてわざわざ入り口を塞いだのか分かりません。
 疑問を解決する魔も無く、佐助さんがゆっくりとこっちに近づいてきました。

「コロン……ユニゾンだ」

『うん』
 コロンちゃんが光の球体に変化して、佐助さんの身体に入り込みました。
 ボサボサの黒髪が白に染まり、その瞳は緑色。全身を強力な白夜の光が覆っています。
「さ、佐助、さん…?」
 彼の不審な様子に、さすがに違和感を感じてしまいました。
 ユニゾンをしたこと、何の説明も無く近づいてくること、そしてなにより――

 ――あんなに殺意の籠った視線で睨みつけてくること――

(マスター!!)
「え―――」
 途轍もない衝撃が、身体を貫きました。
 肺にある息が一気に吐き出され、そのまま身体が後方へ吹き飛ばされて壁に激突しました。
「がっ――はっ…! えほ、げほ……!」
『……仕留めきれなかったか』
(マスター! 大丈夫ですか!?)
「う、うん……けほっ…!」
 思っていたよりも痛くないです。
 咄嗟にエルが物理保護を全開にしてくれたおかげで、大怪我をしなくて済みました。
 だけど分からないことだらけです。どうして、佐助さんは私にこんなことを……。
「な、なん、で……」
「本城。すまないが、こうすることが最善の道なんだ」
「ど、どういうことですか?」
 壁際で横たわる私に、ゆっくりと歩み寄りながら佐助さんは口を開きました。
「お前の持っている”永久の鍵”の力は、アダムの持つ神を……つまりはアダムの一部を封印することが出来る性能を持っている。ならばその力を使えば、アダムを戦うことなく封印できる可能性がある。さらに元はと言えば薫から受け取った力だ。ならば、お前の力を薫へと移してやることが出来れば……薫はより強い力を手に入れることが出来るだろう」
「で、でも、私の、力は……!」
「コロンから聞いたさ。リンクしている状態だから外すことは出来ない。だがそれは……”生きている場合”に限りだ」
「っ!!」

「本城真奈美、手荒なことはしたくない。世界のために、死んでくれるか?」

(マスター!! 彼は本気です!!)
「っ!!」
 右手に杖が握られて、全身を白いローブが覆いました。
 途端に身体から力が溢れてきます。白夜の力で全身を強化したからです。
 すぐに立ち上がり、杖の先を相手へ向けます。
「こ、来ないでください!」
「抵抗するか。それならば別に構いはしないさ」
「っ!」

 ――ライトシューター×15!!――

 私の周囲に小さな光球がいくつも浮かびます。
 その気になればいつでも、佐助さんへ向けて発射することが出来ます。
 だけど彼はまるで気にする素振りも見せないで確実に私に近づいています。
「どうした? 撃たないのか?」
「ぅぅ…!」
 たまらず、私は光球を佐助さんへ向けて放ちます。
 上下左右から襲いかかる光球を眺めながら、躱す様子はありません。
 そして―――
「え?」
 佐助さんの間近で、光球たちが一気に掻き消されてしまいました。
 目にも止まらないほどの速さで拳を振るって、襲ってきた光球をすべて壊してしまったんです。
「そんな……」
(マスター!)
 エルの必死の叫びも間に合わず、白夜の力を帯びた拳が腹部に直撃しました。
 殴られた勢いで、私はそのまま別の壁まで飛ばされてしまいます。
「はぁ…はぁ……!」
 背中を強く打ちつけられ、そのままズルズルともたれこむように床に倒れてしまいました。
(マスター! しっかりしてください!)
「うっ……」
 痛いです。
 エルが物理保護を全開にしてくれたおかげで致命傷にはなっていませんけど、痛みがあることに変わりはありません。
 薫さんも、佐助さんも、伊月さんも……みんなこんな風にたくさんの痛みと戦ってきたのでしょうか。
「そろそろ諦めてくれ。出来れば俺も、お前を苦しませたくない。永久の鍵の力は薫に有効に使ってもらう。だから……おとなしく死んでくれ」
「っ……」
 佐助さんがゆっくり近づいてきます。
 体はまだ動きます。思考もはっきりしています。
 だけどこのまま戦っても、私は……殺されてしまいます。
 水の神の事件の時に決めたんです。私は、私が笑顔でいられる世界にいたいって思えたんです。
 諦めません。絶対に……!!
「エル、聞いて……」
(マスター?)
「ひとつだけ……お願いがあります」



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 ゆっくりと進めていた歩を止める。
 佐助の視線の先には、腹部を抑えながら立ち上がる真奈美の姿があった。
 ほぼ全力で攻撃したのにたいした傷を受けていない防御力の高さもさることながら、まだ戦う気力が残っていたかと感心した。
 だが、それだけだ。状況は変わらない。まだ立てるというのなら、立てなくなるまで攻撃するだけ。気力が残っているのなら、それらすべてを消耗させるだけ。
 静かに拳に力を籠め、構える。
 真奈美は杖こそ右手に持っているものの、構えることは出来ていない。少し俯いているため表情も見えない。
 だが少なくとも、攻勢に出る準備は整っていないように見えた。


 そう―――思っていた。


「っ!?」
 視界から真奈美の姿が消える。
 同時に背後から出現する気配。
 振り向いた時には遅かった。

 白夜の力が込められた杖の先端が、すぐ目の前にあった。

 ――シューティングレイ!!――

 体全体を飲み込む光の砲撃が、直撃した。
「ぐっ!?」
 腕を交差し、白夜の力で防御力を高めて耐える。
 0距離からの強烈な攻撃は、いかに佐助といえども無視することは出来なかった。
 砲撃が止むと同時に反撃へ出る。瞬時に距離を詰め、左拳を振るう。

 ――プロテクトバインド!――

 その拳が届く前に、3重層の防御壁が立ち塞がった。
 1枚目、2枚目の防御壁は容易に突破されるも、それによって瞬間的に動きが止まった左拳に、3枚目の防御壁から飛び出してきた鎖が巻きつき縛る。
「っ!?」
 強固な防御壁と拘束技の同時使用。
 それは薫ですら為しえていない超高等技術だった。当然、コロンも真奈美に教えた記憶は無い。
 硬い鎖で腕を縛られ動きが制限された佐助へ向け、”彼女”は素早く杖を向ける。

 ――ライトシューター×60!!――

 佐助の周囲を光弾が埋め尽くし、一斉に襲い掛かる。
 光弾は接触すると同時に連鎖的に破裂し、大きな爆発を引き起こした。

 部屋に巻き起こる粉塵。
 その中から佐助は姿を現し、改めて状況を見つめた。
 粉塵によって僅かに咳き込みながらも、その体には僅かな傷しか見受けられない。
(コロン、何が起こった?)
(分からないけど、真奈美ちゃん、白夜の力の扱いが急に上手くなってるよ)
(なんだと……)
 その視線の先、杖を片手に先端を此方に向けながら睨みつけてくる。
 
『まだ倒れませんか。さすがですね』

「……その声は……まさか……!」
 彼女の口から発せられたその声で佐助とコロンは直感した。
 それは相手のここまでの反撃を納得させるものであり、それ以上に真奈美のしていることが『とんでもないこと』だという認識を得るものだった。

「自分の肉体のすべての権限を、永久の鍵の力に任せたのか!?」

『ご明察ですね。そうです。今はマスターの体を使って戦っています』
 彼女は……エルはそういって静かに微笑んだ。
 その笑みに不気味さや悪意は無く、心から安らぎを得ているような純粋な笑みだった。

 直前に真奈美がエルに頼んだこと。
 それは自分の体をすべて好きに使っていいからエルが自由に戦ってくれという内容だった。
 訓練を受けていたとはいえ真奈美の白夜の力の扱いはエルに遥かに劣る。なによりエルの指示に従いながら真奈美が行動するのでは、戦闘において致命的な遅れが生じる。
 だがエル自身が戦うことが出来れば、それらの問題すべてを解決し状況を打開できる。
 そう真奈美は考えたのだ。

「正気か……お前ら……!」

 畏怖の念を込めた佐助の言葉は、正しい。
 どんなに気を許した相手でも、たとえ家族であろうとも、自分の体すべてを他人に自由にさせることなど躊躇いが生じる。
 その逆もまた然りだ。
 それを何の躊躇もなく、平然とこなしているのだから畏怖を感じるのも当然だろう。
「佐助さん、エルは私の家族で、お姉さんで、親友なんです。エルならきっと私なんかよりもずっと上手に戦えます。私の体を悪いようにはしないです」
『マスターは私を信じて、すべてを受け止めれくれました。なによりマスターは私の主で、家族で親友で、妹のような存在です。妹に頼られて、応えない訳にはいきませんよ』
「……さっきは、何をした……?」
『簡単ですよ。高速移動によってあなたの背後に回り砲撃、その後の攻撃に対して三重層の防御壁を展開。一枚目と二枚目の防御壁には破壊されたときにチェーン・バインドを発動するように設定しました。そしてライトシューターは単体で使えば広域に等しく攻撃できますが、弾幕を集中させれば誘爆に似た形で連鎖破裂して破壊力を増すことができます』
「ずいぶんとペラペラしゃべるな。余裕ということか?」
『そんなわけありません。いくらマスターの成長が早くても、まだ私は全力の6割しか出せません。”本気”のあなたを相手にするのは厳しいと思っていますよ?』
「お前……」
『出来ればこのまま退いてください。心優しいマスターは、あなたを傷つけたくないと思っています』
「……そういうことは、俺を倒せる力があってから言うものだ」
『退くつもりはないんですね。分かりました。では、ここからは私事になりますが……マスターを傷つけて、無事に帰れると思わないでくださいね?
 笑顔でそう言った真奈美――エルは杖を構える。
 佐助も無防備な姿勢をやめて、構えた。

 空気が変わり、辺りが緊張に包まれる。

 先に動いたのは佐助だった。
 瞬時にエルの背後に回り込み、右拳を振るう。
 その攻撃がヒットした瞬間、そこにあったはずのエルの姿が霧散した。
 それどころか空振りした先に小さな光球があり、そこから小規模の光の砲撃が放たれた。
「ぐっ!」
 咄嗟に腕で防御し、一歩退く。
「幻覚か……!」

 ――ミラージュ・シリンダー――

 幻影の姿を映し、そこに攻撃してきた相手に自動反撃する魔法。
 真奈美やエルの扱う永久の鍵の力は、本質的には白夜の力と同じである。
 だが薫や伊月の扱うように、カードをかざすことでモンスターや銃などの物質を具現化させることはできない。
 その代わり、杖を使うことによって発動することが出来る。イメージの基礎となるカードは本人の自由であり、その効果も本人のイメージ次第だ。ファイアボールが炎の灯った野球ボールになる使い手もいるかもしれないし、巨大な隕石となる使い手となる場合もある。もちろん規模が大きければ力の消費は激しい。
(す、すごいねエル)
 精神世界の内側にいる真奈美から、感嘆の声が漏れた。
(この戦いをよく見ておいてください。きっとマスターなら、すぐに私と同じように力を扱えるようになります)

「調子に乗るなよ」

 佐助は辺りに現れる幻影を、片っ端から攻撃していく。
 そこからくる自動反撃が自身に大したダメージを与えないということを判断したためだ。
 エルは連続で幻影を出現させるが、それよりも佐助が幻影を破壊していくスピードの方が速い。このままではすぐに本体の自分へ攻撃が来るだろう。
『やはり、そうきますか』
(どうするのエル?)
『……どうしましょうかマスター』
(ええ!? 打つ手無しなの!?)
『とりあえず相手のユニゾンが解けるまで時間を稼ごうと思っていましたが、ミラージュ・シリンダーでは稼ぐことは出来なそうですし、そもそも相手の持続時間が分からないです。となると、相手を戦闘不能にするしかありません』
(戦闘不能って……)
『簡単なのは、相手を殺すことですが、マスターはそんな物騒なことをお望みではありませんよね』
(当たり前だよ! 他にないの? バインドで拘束して行動不能にするとか……)
『チェーン・バインドは力づくで破られてしまいますし、攻撃による足止めは効果が薄そうですね。煙幕も吹き飛ばされてしまいそうですし……』
(………………じゃあエル、こんな方法は?)
『はい?』
(あのね――――)
 真奈美からの言葉を聞き、エルは納得したような笑みを浮かべた。
『名案ですねマスター。さっそく実践しましょう。空間系の魔法は、かなり消費が激しいですが大丈夫ですか?』
(うん。エルに全部任せる)
『ありがとうございます』
 エルは杖を構え、瞬時にイメージする。
 辺りに出現していた幻影がすべて消えて、本体が露わになった。
「そこか!」
 佐助が突っ込んでくる。
 エルはタイミングを見計らい、杖を床に突き刺した。

 ――ウォーター・ワールド!!――

 次の瞬間。地下室のすべてが水で満たされた。
 突然の出来事に、佐助もコロンも動揺する。
(コロン、空気を作ってくれ!)
(うん、分かった!)
 内部にいるコロンの力で、なんとか呼吸を可能にする佐助。
 その数メートル先では、エルが勝ち誇った笑みを浮かべていた。
『地下室で助かりました。ここなら水を充満させても外へ出ることがない』
「それがどうした? 呼吸も会話も戦闘もまだできるぞ」
 水中にも関わらず佐助は勢いを失わないまま突進する。
『くっ』
 杖を前方に構えて、突進する相手の拳を受け止めた。
 後方へと身体が飛ばされるが、態勢を立て直して改めて相手を見据える。
(これでも駄目なの?)
『水で部屋を満たして戦闘力の減少を試みましたが、駄目ですね。相手の身体能力補助の調整が異常です。相手が元々、近接戦闘に長けているからというのもあるでしょうが……これではジリ貧ですね』
 水中で繰り広げられる戦闘。
 水の抵抗をほとんど感じさせずに連続で攻撃を繰り返す佐助の拳を華麗な杖さばきで何とか受け止めていく。だがやはり経験値の差であろうか……防戦一方となってしまっていた。
 たまらずエルは水の空間を解除するも、それでも不利な状況が変わるわけではない。
『……マスター、ご相談があります』
(なに?)
『相手は身体能力を増強させて戦っています。アレを殺さずに止めるには、それ以上の力で対抗するしかありません』
(っ…! それって…!)
『はい。一か八かの賭けになりますが……どうしますか?』
(…………)
 真奈美の脳裏に、以前エルと話した内容が浮かんできた。


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 訓練が終わって布団に着いた頃、今までの内容を復習しているとエルが語りかけてきた日のことだ。

『マスター、ちょうどいい機会なので、私とマスターの力について説明させていただきますね』
「うん」
『ではまず、永久の鍵の力は、白夜の力と同一であり、その扱い方も薫さんたちとほぼ同じであるということはマスターも理解していらっしゃいますよね』
「うん。私達の想いを力に変えて、具現化することが出来るんだよね」
 白夜の力も闇の力も、その源となるのは使用者の”想い”の力。
 誰かを守りたいと願う心や、倒したいという想い。それらを体力と共に力に変えることで現実に現象を呼び起こすことが出来る。
 そこに込められた想いが強ければ強いほど効果は絶大な事は言うまでもないだろう。
『はい。ですが薫さんたちと違い、私達は杖を媒介に白夜の力を使用することになります。カードを媒体に具現化をしないのでモンスターや物質の具現化は行えませんが、汎用性は高いです。そしてスターメンバーと違う点がもう1つあります』
「え?」
『マスターが白夜の力を使用するとき、杖のみを扱うデバイスモードと、私の姿……つまり魔法のローブを纏い杖を扱うユニゾンモードの2パターンあることに気づかれていましたか?』
「……そういえばそうだね。あんまり気にしていなかったけど、何か違いがあるの?」
『はい。簡単にいえば、デバイスモードは低燃費なんです。杖やローブは具現化して維持するのにも白夜の力を消費しますから』
「あれ? じゃあ、いつも杖だけ……デバイスモードならいいんじゃないんですか?」
『そうはいきません。ローブはマスターのお体をお守りするための防御魔法が編みこまれていますし、身体強化などの補助効果もあるんですよ。杖は対象物へ作用させる道具だとするなら、ローブはマスター自身へ作用させる道具だと思ってください。扱う場面を考えれば、日常生活に使う程度ならデバイスモード、誰かと戦うときならユニゾンモードといった具合ですね』
「誰かと……戦う……」
『マスターは望まないとは思いますが、闇の力が存在する以上、戦うべき時は必ず来ます。覚悟だけはしておいてください。そして最後に……もし戦いにおいてユニゾンモードでも敵わなかったとき、使える手段があります』
「え?」

『”エクセリオンモード”……全身にリミッター解除をかけた状態で戦うモードです』

「えっ!? それって、薫さんが入院した原因の……」
『そうですね。しかしこのモードは単にリミッター解除をかけるのとは少し違います。さっき言ったように私達は杖とローブを具現化して、それを媒介にして戦います。エクセリオンモードはその杖とローブにリミッター解除をかけるんです。なのでマスターへ反動がくることはありません』
「でも、言うのをためらったってことは、何かしらの代償がいるってことだよね?」
『そうですね。エクセリオンモードはマスターに著しい体力の消耗が強いてしまいます。体力を使い果たせば白夜の力は使えなくなりますし、立っているのもままならなくなるでしょう』
「…………」
『リスクは大きいですが、出力や効果範囲は桁違いになります。事実上の決戦モードですね。このエクセリオンモードはマスターが自分の意志で使ってください』



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 意識が現実へと戻ってくる。
 一撃一撃に必殺の意志が込められた拳をいなし、弾き、時には躱しながらエルは交戦を続けていた。
 身体能力に差はあれど、時折、自らの幻影も交えることで相手の目を誤魔化しているのも効いているのだろう。
『どうしますか、マスター』
 その問いかけに、真奈美は小さく答えを示した。
 エルの口元が少しだけ緩む。

 ――チェーン・バインド×3!――

 地面から魔方陣が3つ現れて、そこから伸びた白い鎖が佐助へ巻きつく。
 攻撃の手が止んだ瞬間を見計らい、エルは素早く距離を取った。
「こんなもので俺が止められると思ったか?」
 不敵に言う佐助の四肢を縛る鎖には、すでに亀裂が入っている。
 分かっている。”この程度”で止められるなんて思っていない。
 欲しかったのは時間だからだ。

『いきますよ、マスター!』
(うん!!)
 大きく息を吸い、目を閉じる。
 真奈美もエルもすべての神経を集中させ、ゆっくりと杖を前に突き出した。

『「リミットブレイク! モード――――エクセリオン!!」』
 
 二人の声が重なり、自身に内在する白夜の力を開放される。
 次の瞬間、彼女を中心に眩い白光が放たれた。
 部屋全体を覆うような眩い光に、佐助も思わず目を閉じる。
「なんだ…!?」
 やがて目を開き、彼が見たのは変化した彼女の姿だった。

 体全体を白夜の力が纏い、杖の先端は光り輝いている。
 ローブを羽織った彼女の背からは溢れ出る白夜の力が放射状に広がり、まるで光の翼を携えているような印象を受けた。

『「いきます」』

 光り輝く翼。
 それを携える彼女の姿が、佐助の視界から消える。
「っ!?」
 見えなかった。
 強化した動体視力でも捉えることのできないほどの速さだった。
(佐助、左!!)
「っ!」
 気づいた時には遅かった。
 視界すべてに広がる眩い光。
 巨大な光の砲撃が、放たれていた。
(防御力全開!!)
 攻撃に飲み込まれる直前、コロンの咄嗟の機転でまともに喰らうことは無かった。
 だが圧倒的な攻撃に佐助は為す術無く壁まで吹き飛ばされていた。
「ぐっ…ぁ…!」
 痛みが声となって溢れるが、攻撃は止まらない。

 ――ライトシューター×600!!――

 無尽蔵にも思えるほどの、大量の光弾が襲い掛かった。
 連鎖的に破裂し破壊力を増した連撃が、確実にダメージを与えていく。
「ぐぅ…!」

 ――エクストラ・バインド!!――

 攻撃によって身動きの取れない佐助の身体全体を強靭な鎖が巻きついた。その上からはゴムのような伸縮性を持つ光の縄が巻きつき、手首と足首をリング状の光輪が嵌められて空間に固定され、さらに四方を格子状の小さな檻が囲う。
「な、なんだ、これは…!?」
 動きを制限するバインドの類だと分かったが、驚かざるを得なかった。

『「チェーン・バインド、ライト・バインド、リング・バインド、クリスタル・バインド……複合四式のエクストラ・バインドですよ」』
「っ!」
 視線の先、20メートルほど離れた距離に彼女はいた。
 両手で構えられた杖の先には、膨大な光が溜まっている。
 しかしよく見れば、身に纏うローブはすでに半分消えていて、杖も柄の端から砂のように消えていっている。
 エクセリオン・モードの限界が近いという事をエルも真奈美も理解していた。
『「あまり時間がありませんので、終わりにしますね」』
「く…!」
 回避を試みようにもバインドを解くほどの余裕は無い。
 あれだけの高密度な砲撃を喰らえばただでは済まないだろう。
『「覚悟はいいですね?」』
「この…!」
 佐助は必死に動こうとするが、間に合わない。
 杖の先には光が溜まり切り、まるで星屑が集まったかのような錯覚すら受ける。
 放たれるであろうトドメの一撃。受け切れるかどうかは、佐助にもコロンにも判断が付かなかった。

『「……スターダスト・ブレ―――っ!!」』

 杖を振り下ろす寸前。
 彼女の周囲を覆っていた膨大な光が霧散した。
「…!?」
 同時に佐助を拘束していたバインドも、効果を失う。

 気付けば真奈美は、床に倒れていた。
 エクセリオン・モードの時間切れ………体力を使い果たし、手に持っていた杖も身に纏っていたローブも消えて、完全に戦闘不能となっていた。




「はぁ………っ!」
 佐助は額に汗を流しながら、呼吸を整えていた。
 ユニゾンを解除して、ゆっくりと立ち上がる。そばにはコロンが現れて、倒れた真奈美へと寄り添いに行った。
『もう、いいでしょ?』
「……ああ」
『凄かったね真奈美ちゃん……これでまだ伸びしろがあるなんて、末恐ろしいよ』
「そうだな。正直、ここまでとは……」
 深い溜息をついて、佐助は倒れた彼女へ歩み寄った。



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「う……うぅん……?」
 閉じた瞼が光を感じて、目が覚めます。
 真っ先に飛び込んできたのは木目の天井。すぐに、合宿場の寝室だとわかりました。
 体に残る気怠さ。まるで全力疾走して疲れ果ててそのまま眠ってしまい、起きても疲れが取れていないような感覚。
 おぼろげに、何があったのかを思い出していきます。
 たしか、佐助さんに襲われて……それで……エクセリオンモードを使って、それから……。
「っ! そうだ! エル!!」
 慌てて飛び起きます。
 佐助さんは永久の鍵の力を求めて私を殺そうとしました。
 ということは、目的はエルです。
 もし私が気を失っていたんだったとしたら――――!
「エル! エル! 返事して!」
 必死で呼びかけます。
 数秒経ったでしょうか、隣から、聞きなれた声が聞こえてきました。

『お呼びですかマスター?』

「……え?」
 隣から、エルの声が聞こえました。
 私の内側からじゃなくて、隣から……?
 見るとそこには、ベッドの上に広がる銀色の髪、一緒の毛布をかぶったエルがベッドに横たわっていました。
 私の手を握り、うっすらと笑みを浮かべて、こちらを優しさに満ちた青い瞳で見つめています。
「え、エル…?」
『はい。どうかされましたか?』
「なんで? エルが、隣にいるの?」
『……おそらく、エクセリオンモードが原因ですね。マスターが白夜の力を全力で使用した影響で、私が具現化できるようになったのかもしれません』
「え、あ、そ、そうなんだ……」
 具現化出来るようになったと言われ、少しだけ嬉しく感じてしまいます。
 今まで内側にしか感じられなかった存在が、こうして目の前に……しかもちゃんと触れられる実体としているのは、とても安心できます。
『マスターとこうして添い寝をすることが出来るなんて、夢のようです♪』
「う、うん…私も嬉しいよエル」
 そう答えますけど、疑問はまだあります。
 佐助さんは私達を殺そうと襲い掛かってきたのに、こうしてベッドの上で眠らされている理由が分かりません。
 気が変わった……ということなのでしょうか? それとも、もしかして最初から……?


『起きたー?』


「ひゃあっ!?」
 すぐ目の前にコロンちゃんが現れました。
 その表情は暗く、どこか申し訳なさそうです。
『良かった……起きたみたいだね。体力は消耗しちゃってるみたいだけど、無事でよかった。本当にごめん! 痛かったよね? 佐助ってば手加減を知らないから……』
「ど、どういうことですか?」
『コロンと佐助さんは、最初から私達を殺そうとは思っていなかった、ということですよマスター』
 私の疑問を解決するかのように、隣でエルがそう言いました。
『ちゃんと私とマスターに戦える力があるのかどうか……それを判断したかったということですよね?』
『うん。訓練では真奈美ちゃんは一人前に力を使えるようになったけど、実戦で使えないと意味がないから確かめたかったの。でも薫ちゃんだと本気で出来ないし、伊月君は防御が堅くないから怪我をする危険性がある。だから、防御も堅くて本気で戦える私と佐助が、真奈美ちゃんと戦って判断することにしたの』
「そんな……! でも、間違ったら死ぬかもしれなかったです!」
『そうだね。一応、私も殺さない程度に力のコントロールはしたつもり。真奈美ちゃんには、本気で戦う状況でどう対処するのかを経験してほしかったんだ。本当にごめん! あとで佐助にも謝らせるから……』
 本気で謝っているようでした。
 一歩間違えれば死んでしまうくらい激しい戦闘をして、それが訓練だったなんて信じたくありません。
 でも……きっとそうでもしないと判断できなかったのかもしれません。
「わ、分かりました……じゃあ、そういうことにしておきます」
『ありがとう。本当にごめんね。でも、本当にすごいね真奈美ちゃん。あそこまで戦えるなんて、正直思ってもみなかったよ』
「え、いや、私なんてそんな……エルが助けてくれたから……」
『マスター♪』
 嬉しそうな笑みを浮かべ、エルが手を強く握ります。
 その手を強く握り返してそれに応えます。
『エルも、初めましてだよね。改めまして、コロンです。よろしくお願いします』
『こちらこそ、エターナル・マジシャンです。よろしくお願いします』
「……ところでエル。ずっと手を繋いでいるけど……」
 意図しない形で、私はエルから手を離します。
 すると彼女の姿が光の粒子になって、霧のように消えてしまいました。
「エル!?」
(ご心配なくマスター。ちゃんといますよ)
 内側から声が聞こえます。
 よかった。いなくなったわけじゃないんですね。
 でも、これはいったい……?
(どうやらマスターと触れ合っていないと、実体化は出来ないみたいですね)
「ええ!? でも、なんで?」
(マスターが未熟だから、というのが正確な解答になると思います。もともと私はマスターと力を共有していますから、一定距離離れることは出来ないのでそれも原因だと思いますが)
「……そっか。じゃあその、実体化はどうすれば出来るの?」
(簡単です。私の姿を思い浮かべて手に白夜の力を集めればできます)
「分かった!」
 深呼吸して、エルの姿を思い浮かべながら手に力を籠めます。
 すると優しい白い光が手から溢れて、それが人型を形成し、やがてエルの姿へと変化しました。
『マスター♪』
 エルは嬉しそうに私に抱き着いてきます。
 白夜の力の持つ心地よい温かさ。本当に、エルがそこにいるのが実感できました。
 なんだか本当にお姉ちゃんができたみたいで、ちょっぴり嬉しいです。


「起きたみたいだな」


 部屋のドアが開いて、佐助さんが入ってきました。
 私とエルを見るや否や、その場で深く頭をさげます。
「……すまなかった。他にいくらでもやりようがあったのは分かっているが、この方法がベストだと判断したんだ。本当に、すまない」
『私からも謝るね。本当に、ごめん……』
「え、あの、その……」
 あの佐助さんがここまで頭を下げるなんて思ってもみませんでした。
 それほど申し訳ないことをしたって思っているんでしょう。
『マスター、どうか許してあげていただけませんか?』
「えっと、その……わ、分かりました。こ、こちらこそ、たくさん訓練に付き合ってくれて、サポートしてくれて、ありがとうございました!」
 私とエルは、自然と頭を下げていました。
 こうしてここまで白夜の力をコントロールできるようになったのも、スターの皆さんのおかげでもあります。
 今までだってたくさん助けられてきたんですから、こっちこそ感謝が足りないくらいです。

「今日をもって、合宿は終了だ。今頃、雲井には伊月が、大助と香奈には薫が訓練終了を伝えている頃だろう」
『みんな色々あったけど、最終的にはバッチリ鍛えれたからね。安心していいよ』
「そうなんですか。良かったです……」
「本城……分かっているとは思うが、アダムと戦うときにはお前たちの力が必要になってくる時がくるだろう。その時は頼んだぞ」
「は、はい!! 頑張ります!!」
「そうか……ならいい」
 佐助さんはそう言って、小さく息を吐いて部屋を出て行ってしまいました。
 振り向きざまに見えたその表情が、とても険しいものでした。
 きっと、アダムとの戦いが近づいていることを感じているんだと思います。
『マスター……』
 握った手に力が籠ります。
 エルはそんな私の手を、優しく握り返してくれました。
『大丈夫ですよマスター。きっと、うまくいきますから』
「うん、ありがとうエル」




 そして……私達の合宿は、無事に終了を迎えたのでした。




episode18――まずは簡単な自己紹介を――

 ダークとの面談を終えた後、俺は香奈と合流して本社を後にしていた。
 話を聞いてみると、香奈はどうやらスターの前リーダー、玲亜と会って決闘したらしい。
「ダークは、どんな感じだったの?」
「相変わらずって感じだったな。やっぱりまだ、世界の事を恨んでる……」
「そう……それで、決闘の方はどうだったの?」
「……負けた」
「私も負けちゃったわ。薫さんからは、合宿はちゃんと成果が見込めたからOKだって言われたけどね……」
 本社から出てすぐに、待っていたかのように薫さんが目の前に現れて合宿終了を告げられた。
 俺も香奈も決闘でどうなったかは言わなかったけれど、彼女曰く「決闘の結果がどうあれちゃんと成果が出たんだからOKだよ」ということらしい。
 ただやはり俺達としては、きちんと勝って合宿を終えたかった。

「ねぇ大助、このまま帰るのもあれだし、ちょっと付き合ってよ」

 唐突に香奈が言った。
 俺の手を引き、目的地も言わないまま街の中を進んでいく。
「急にどうしたんだよ?」
「まぁいいじゃない。とっておきの場所に行くわよ」
「はぁ?」
 だからそれはどこだよ、と言いかけて気付く。
 香奈の言う「とっておきの場所」というのが、分かったからだ。



 着いたのは星花山。
 小さな山であるため、よく小さな子供たちが遠足などで登ってくることもしばしばだ。
 ここにやってくるのは夏休み以来……香奈が先導となって生い茂る草をかき分けて進む。 
 そして、それらが一気にひらけた場所が現れた。
 草の絨毯が敷かれていて、ちょうど誰かが座れるように切り株が一つ。周りを木が囲んでいて、広さは学校のグラウンドくらいで、かるい傾斜がある。ここから見える空は本当に綺麗だと香奈が言っていたのを思い出した。
「ん〜、やっぱり春も近づいてるから居心地がいいわね」
「ここに来るのも久しぶりな気がするな」
「夏休みに私がここに来た時以来よね……あの時、大助に抱きしめられたんだっけ」
「あ、あの時は、お前がどっか行っちゃいそうだったからつい……」
「ふふっ、なに恥ずかしがってんのよ」
 振り向き様に笑いながら、香奈は草地の腰を下ろした。
 つられるように俺もその隣へ腰を下ろす。
「ねぇ、大助」
 右肩に重みを感じた。
 香奈が寄りかかっていることは見なくても分かった。
「なんだ?」
「あの時、大助は私が傍にいてもいいって言ってくれたわよね。ここでだけじゃない……牙炎の事件のときだって、大助は私と一緒にいたいって言ってくれたわよね」
「ああ」
「私ね……今だから言うけど、すっごく嬉しかったのよ?」
「それは何となく察してた。お前、顔に出やすいし」
「えっ、そうだったの?」
「今更かよ……」
 自然と笑みが浮かんでしまう。
 横に視線をやれば香奈も笑っていることが分かった。
「ねぇ大助……もし、もしよ…? 私が事故に遭ったり、病気で死んじゃったりしたら……大助は世界を滅ぼそうとか思う?」
「………あんまり考えたくないな。でも、多分だけど、滅ぼそうとは思わない」
「良かった」
「香奈は……俺がいなくなったら、どうするんだ?」
「知らないわよ。すでに2回くらい最悪な気分を味わってるんだから……」
 2回とは、闇の神に俺が消された時、牙炎の事件で俺が死んだと伝えられた時の事を言っているのだろう。
 今思い返しても、当時の香奈の気持ちを考えるとやるせなくなってくる。
「まず間違いなく泣くわ。それで塞ぎこんで、泣いて泣いて……何度も大助の名前を呼ぶのよ。でも雫や真奈美ちゃんが遊びに来てくれて……励ましてくれて……色々あってようやく立ち上がって、お墓参りにいくわ」
「なんかかなり具体的で辛いな」
「半分、実体験だからね。そりゃリアリティも出るわよ」
「……ごめんな」
「何に対して謝ってるの? 私に最悪な気分を味あわせたこと? それとも別の?」
「多分、全部だと思う。ダークの事件の時も、牙炎の事件の時も、学校での事件だって、結局は香奈に心配をかけた。何度も何度も注意されたのに……それでも治らなくて……」
 ここに来るまで言葉をまとめておいたはずなのに、うまく言えない。
 香奈は何も言わずに言葉の続きを待っていてくれる。
「俺は香奈に心配かけて、助けられてばかりで、何度も香奈を泣かせた……俺はこれからも無茶をすると思う。だけどそれは、自分を大切にしていないとかそういうのじゃないんだ。結果として、そうなってるだけで……困難にぶつかったときに、俺は諦めないで戦おうとする癖がある。どんなに絶望的でも、方法が無くても、諦めて下を向くことだけはしたくない。最後まで諦めずにあがき続けたいんだ。だから……ごめん」
 自分でも、どうしてこうなってしまったのかはよく分からない。多分、幼いころに親父から言われた言葉が胸に刻みつけられているんだと思う。
 ここから見える香奈の拳が、固く握られている。
 視線をあげたら、どんな表情をしているかが分かるのに……見ることが怖かった。


「なんだ、そんなことわざわざ言いたかったの?」


「え?」
 予想もしてなかった言葉に、思わず顔をあげる。
 香奈は笑っていた。優しさに満ちた、可愛い笑顔だった。
「あんたが散々無茶してきた理由が分かってないとでも思ったわけ? ずっと大助のそばにいるんだから、気づかない訳ないでしょ。ホント、損な性格よね。でもね大助、あんたが私に言ってくれたのよ。私は、私のままでいていいんだって。だから大助も、大助のままでいいのよ」
「香奈……」
「あんたが無茶したら、私が何度だって怒ってあげるし支えてあげるわ。もし大助が私に心配をかけることに負い目みたいなものを感じていたならお門違いよ。代わりに私が間違えそうになったらちゃんと止めてよね」
「お前を止められるか、自信が無いな」
「なにそれ、酷いわよ。でも大助がちゃーんと反省してるってことが分かったから、それはよかったわ」
「……ありがとう」
「どうしたしまして」
 寄りかかっていた香奈の左手が、俺の右手と重なった。
 互いのぬくもりが伝わり、自然と指が絡んでいく。

「……あったかい」
「……そうだな」

 たったそれだけ。
 手を繋いだまま、俺と香奈はしばらく言葉を発さなかった。
 いや、言葉が無くても十分だったと言った方が正しいだろう。親指や人差し指、絡めた指先に力を籠めたり緩めたりするだけでなんだか楽しかった。温かな風が吹く中、二人きりの空間が心地いい。 
 しばらく合宿で、二人きりになれる機会が少なかったから余計に楽しく感じるのかもしれない。
 普段はたまにはこうして二人でゆっくりするのもいいかもしれないな。
 俺も身体を傾けて、香奈に身体を預けるように凭れ掛かった。
「……大助、ちょっと重い……」
「どこうか?」
「ううん、このままがいい……」
 文句を言ったようにも聞こえたが、その表情を見ればそんな意図は無かったのだと分かってしまう。
 繋いだ手の力が強くなれば、同じように握り返してやった。




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『〜♪〜〜♪』
「ご機嫌だねエル」
 合宿を終えてスターの皆さんや雲井君と別れた後、私はエルと一緒に街中を歩いていました。
 隣で鼻歌を歌いながら足取り軽く、エルは私の手を強く握っています。
 訓練のおかげで前より白夜の力の扱いがかなり上手になった自覚があります。なにより、こうしてエルをみんなの目にも見えるように実体化出来るようになれたことがとても嬉しいです。
 だけどまだ慣れていないせいか、私の体のどこかに触れていないとエルは実体として姿を現せないことが分かりました。
 街中で誰かと手を繋ぐのは少し恥ずかしいですけど、こんなに上機嫌なエルは初めて見たような気がします。
「合宿場を出てから、ずっとそんな感じだよ」
『だって、こうしてマスターと手を繋いでデートできているんですよ♪ 嬉しくないはずがありません♪』
 眩しい笑顔でエルはそう言いました。
 こうして実体化している間も感覚は共有しているらしいですけど思っている事は伝わらないらしいです。
 もっと練習すれば感覚共有もオフに出来るらしいですけど、まだ私にはできません。
「ごめんねエル。私の力不足で……」
『いいえマスター♪ お気になさらず♪ むしろずっとこのままでも私は大丈夫です♪』
「そ、そう?」
 太陽のように晴れやかな笑顔で、エルは手を強く握ります。
 彼女の服装はいつもの魔法のローブではありません。私の服装をトレースして、エルのサイズに合わせたものを着ています。エルの身長は私よりも10センチほど高くて、持ってきた服の中で合うサイズが無かったんです。
 一応、色は変えてありますけど服装はまったく一緒です。俗にいうペアルックというものです。
『こうして並んで歩いていると、私達は姉妹に見えてしまうのでしょうか』
「そうかもね。やっぱりエルの方がお姉ちゃんに見えるのかな?」
『ふふっ、試しにお姉ちゃんって呼んでみますか?』
「あはは、さすがにそんな年じゃないよー」
『むぅ…そうですか……』
 あからさまにがっかりして、エルは小さく溜息をつきました。
 ちょっと悪い事をしちゃったかなと思いましたけど、誰かに聞かれたら恥ずかしいですし。
『ところで、今日はどちらへ行かれるんですか?』
「うん。霊使い喫茶だよ。エルのことを実体化させることが出来たし、まずは雫ちゃんにエルのことを紹介しようと思ってね。さっき電話したら暇みたいだから、ちょうどいいかなって」
『そうですか。マスターと私の関係を明らかにしてしまわれるのですね。ありがとうございます♪』
「う、うん? とにかく行こっか。あ、それと、改めて確認だけど、街中で杖を具現化するのは禁止ね」
『もちろんです』
 こうして会話をしているうちに、私たちは霊使い喫茶に着いていました。
 デコレーション豊富な看板に可愛いイラストの女の子がたくさん描かれています。
 オープンしてから人気があって、一時期はテレビの取材も来たことがあるくらいです。
 初めてここに来たときはその異質さに驚いてしまいましたけど、慣れてみると可愛い喫茶店に思えてきます。

 カランカラン♪

「「「いらっしゃいませ〜♪」」」

 小気味いいベルの音と共に、従業員の皆さんが出迎えてくれました。
 その中には光霊使い−ライナのコスプレをした雫ちゃんの姿もありました。
「あ、真奈美! いらっしゃい!」
「雫ちゃん、お疲れ様です。お邪魔じゃなかったですか?」
「ううん。ピークも過ぎたし、この時間帯はお客さんもあんまり来ないから大丈夫だよ。それより真奈美、そちらの方は初めて見るけど……」
「はい。今から紹介します。えっと、空いてる席は……」
「それならあたしがちゃーんと席予約しておいたから大丈夫だよ。ほら、こっちこっち♪」
 雫ちゃんが私の左手を引いて、案内してくれました。
 彼女の言うとおり、今の時間帯は私達以外のお客さんがほとんどいません。
 これなら心置きなく、雫ちゃんに事情を説明できます。

 私とエルは隣同士で座り、対面に雫ちゃんが座ります。
 それにしても、雫ちゃんのコスプレは何度見ても完成度が高いです。本当にライナと対面しているような気分になってしまいます。
「それで、そちらの方は?」
「はい。彼女は――――」
『初めまして雨宮雫さん。私の名前はエル。マスター―――いえ、真奈美の恋人です
「……………」
 ………あれ? ちょっとエル、何を言っているの!?
「え?」
 あまりに衝撃の発言で、雫ちゃんが固まってしまっています。
 それなのにエルは憎らしいくらいの笑顔です。
「え、えっと、真奈美?」
「ち、違うんです雫ちゃん! これはエルの冗談で―――」
『冗談ではありません。私と真奈美は文字通り”一心同体”。感覚すら共有できるほど、親しい間柄です。それにこうしてずっと手を繋いでいるのが何よりの証拠ですよ』
 繋いだ手を見せつけるように机の上に置いて、エルはなぜか誇らしげな笑みを浮かべています。
 それを見て雫ちゃんも顎に手を当てて、私とエルを交互に見つめます。
「たしかに、お店に来てからずっと手を繋いでるよね。もしかして外でもずっと繋いでたの?」
「え、いやこれは――」
『そうなんです雫さん。それにこの服装をよく見てください。真奈美とお揃いです。ペアルックですよ♪』
「た、確かに!」
「違うんです! これには事情があって仕方ないことなんです! エルも誤解を生むようなこと言わないでください!」
 このまま放っておいたら取り返しのつかないことになりそうなので、急いで事情を説明します。
 雫ちゃんは香奈ちゃんと同じように水の神の事件に関わっていたので、説明はしやすかったです。
 説明の途中でエルが何度もちょっかいを出してきましたけど、無視して続けました。


「……ということなんです。エルはこうやって手を繋いでいないと、姿を維持できないんです」
「ふーん、前に会ったコロンって妖精みたいな感じ?」
 水の神の事件で事情聴取のためにスターに招かれた雫ちゃんはコロンのことを知っていました。
 おかげでエルのことも、なんとか理解してくれたみたいです。
「ごめんなさい。今まで秘密にしてしまって……ちゃんと話さないといけないと思っていたんですけど……」
「いいよいいよ♪ 香奈と違って真奈美はこうやってあたしに打ち明けてくれたし。魔法使いになるっていう夢が叶って良かったじゃん♪」
「もう、からかわないでくださいよ雫ちゃん」
 笑いあう私達。
 最初の変な空気は、もう無くなっていました。
『………』
 繋いだ右手が痛いくらい強く握られました。
 隣でエルが頬を膨らませています。
 もしかして、嫉妬してる?
「じゃあさじゃあさ、真奈美は変身したり空とか飛べちゃったりするの?」
「えっと、変身は出来ますけど、空はまだ飛べないです」
「マジで!? じゃあ今度、変身するの見せてよ! それでそれで―――」

 ギュウゥゥゥl!!
 
「痛たたたたた!! エル! 痛いよ!?」
 さらに強く握られて、痛みが増しました。
 エルは相変わらず笑顔を取り繕っていますけど、すごく不機嫌になっているのが分かります。

『雫さん、この際ですけどはっきりさせておきたいと思います』

「え、エル?」
『前々からマスターの内側で拝見させていただきましたけど、雫さんは”わ・た・し”のマスターに少し馴れ馴れしくありませんか?』
「そうかなぁ?」
『そうです! 特に雫さんは酷いです。マスターの体に頻繁に触れるし、胸だって何度も揉みしだいて……! 確かにあなたはマスターの命の恩人に等しいですけど、マスターのことを一番に考えているのは私です。その私を差し置いてマスターとイチャイチャイチャイチャイチャイチャして……!!』
「いや、あれはその、スキンシップっていうか……」
 怖いです。
 表情は笑っているのに、発せられる言葉は怒りに満ちています。
 ここが喫茶店じゃなかったら、雫ちゃんに襲い掛かっていたかもしれません。
「確かに真奈美にはスキンシップが過ぎたかもしれないけどさ、別に女の子同士なんだからいいじゃん。それにさっきの話を聞く限り、エルさんは真奈美とずっといるんでしょ? だったらちょっとくらい、いいじゃん」
『たしかに私はマスターとずっと一緒にいますけど……』
「いいなぁ。真奈美と一緒に寝放題じゃん。真奈美はあったかくて抱き枕みたいだし、快適な睡眠できそう」
「雫ちゃん、私のことを睡眠グッズとしてしか見てないんですか?」
「いやいやそうじゃなくて、いつも真奈美と一緒にいるんだからあたし以上に真奈美を好き放題にできるじゃんって言いたいの!」
『マスターを…好き放題に……?』

 あれ? なんか話がおかしな方向に進んでいるような……?

「そうそう。それに真奈美もいけないと思うなぁ。話を聞く限り、エルさんは真奈美のことをずっと守ってきたんだよ? それなのに真奈美が素っ気ないから、エルさんがこうやってあたしに文句言ってきたんじゃないの?」
「そ、そうでしょうか?」
 確かに、雫ちゃんの言う通りなのかもしれません。
 エルはずっと私のことを守ってくれました。こうやって実体化できる前も、日常生活でサポートしてくれていました。そんな彼女に、私は何かしてあげられていたのでしょうか? 考えてみれば何も恩返し出来ていません。それどころか街中で杖を出さないようにとか、不自由を強いてきてしまっていました。
 うぅ、考えれば考えるほど罪悪感が生まれてしまいます。
『マスターは気に病む必要はないんですよ?』
「そうやってエルさんも甘やかせるから、真奈美も甘えてそれでいいんだって思うんじゃん! ちゃんと言う時は言わないと駄目だよ!」
『で、でもぉ……』
「……雫ちゃんの言う通りです。私はエルのこと、全然考えてなかった……これからはきちんと考えるようにするね。だからエルも、雫ちゃんのことは大目にみてあげてくれない?」
『マスター♪ 分かりました!』
「えぇぇぇ、切り替え早ーい」
 喜怒哀楽の激しいエルの姿に、さすがに雫ちゃんも苦笑を浮かべていました。




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『まったく、相手の意図に気づくことも出来んとは…』
「うるせぇよ。まさか時間稼ぎしてくるなんて発想が無かったんだ」
 子犬モードのライガーと共にバスを降りる。
 星花町に到着し、合宿の内容を振り返りながら俺達は歩いていた。
 結局、伊月との決闘は相手のサレンダーで幕を閉じた。光の護封剣とか悪夢の鉄檻とか、散々時間を稼がれた挙句サレンダーされて終わっちまった。
 俺の力を測るというよりは、本城さんと佐助さんの戦いの邪魔をさせないことが目的だったらしい。
 まんまと伊月師匠の策略に嵌っちまったってわけだ。
「てめぇは気づいてたんだろ? なんで教えてくれなかったんだよ?」
『あそこで我が教えるメリットが無かっただけだ。仮に決闘を打ち切って加勢に向かったところで力になれたかどうかは怪しいからな。貴様はあの佐助とかいう男と本気で戦えると思うのか?』
「知らねぇよ。佐助さんの戦いを見たこともねぇし」
『まったく……スターの幹部で、戦闘における最高戦力だぞ。我の力を宿したところで、いいところ相討ちが山だろう。仮にも主である貴様に死なれては困るからな』
「なんだよ、心配してくれてんのか?」
『調子に乗るな小僧』
 ため息交じりにライガーが一足先を歩く。
 口は悪いが、なんだかんだで俺の心配もしてくれているのは分かっているつもりだ。
 伊達に半年近く一緒にいるわけじゃない。
「なぁライガー……」
『なんだ?』
「ずっと聞きたかったことがあるんだけど、聞いていいか?」
『随分と遠回しな言い方だな。我にいちいち確認を求めてくるような性格ではあるまい』

「アダムとの戦いが終わったら、てめぇはどうなるんだ?」

『……ほう、まさか貴様からそんな台詞が来るとは思わなかったぞ』
「誤魔化すんじゃねぇよ。てめぇはアダムから生まれた存在なんだろ? もし俺達がアダムに勝ったら、お前も消えちまうんじゃねぇのか?」
『くだらん質問だな。そんなことを聞いてどうするつもりだ?』
「いいからさっさと答えやがれ!」
『……結論から言えば、問題は無い。あのコロンとかいう生意気な妖精がいただろう? あれも光の神の力でこの世に残っている。我も同じように、どんな結果になろうとこの世に残るに違いないさ』
「本当か?」
『嘘を言ってどうする。それより自分自身の心配をした方がいいのではないか? イブが目覚めたことで、アダムも本格的に動き出すだろう。いくら我が傍にいるとはいえ貴様はただの人間だ。たとえ闇の力を宿すようになったとはいっても、貴様自身は脆弱な人間であることは無い』
 脳裏に、今まで戦ってきた敵の姿が思い浮かぶ。
 どいつもこいつも簡単に勝てた相手なんて一人もいなかった。
 正直な話、ここまで無事に勝ててきたことすら奇跡のようにも思える。
「ライガー、てめぇは知ってるんじゃねぇのか? アダムがどんなデッキを使うのか……」
『あいにくだが我も知らん。アダムの使う力については、我にも想像がつかない』
「じゃあなんで、俺達が勝てないって簡単に言えんだよ」
『……それも分からん。なんとなくそう思ったから言っただけだ。アダムがどんなデッキを使うか、どんな能力を持っているのか、その目的すらも分からん』
「………」
 てっきりスターがあの場にいたから言わなかっただけだと思ったのに、どうやらライガーは本当に知らないらしい。
 誤魔化したり、嘘を言っているような感じもしない。
『……死ぬなよ小僧』
「あ?」
『貴様は、我を真正面から打ち破った初めての人間だ。そんな貴様に死なれると我も退屈だからな』
「なんだよ、やっぱ心配してくれてんじゃねぇか」
『どう思うかは貴様の勝手だ。さぁ、さっさと家に帰るぞ』
 こっちに1度も振り返ることも無くライガーは先を進む。
 表情は全く見えないが、どんな表情をしているのか分かる気がする。
『どうした、さっさと行くぞ』
「ああ、分かったぜ」
 足早に帰路につくライガーに追い付くように、俺も脚を速めた。



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「「「「『かんぱーい!!』」」」」
 大助たちが去った合宿場、そのリビングで薫たちスターの面々は軽い打ち上げを行っていた。
 ちょうど麗花もやってきて飲み物類も充実し、打ち上げパーティーをすることになったのである。
「麗花ちゃんありがとうね」
「いやぁ、私としては弘伸の様子を見にきただけだったんだけど、ちょうどよかったよ」
「おやおや、スーパーであれやこれやと買っていたのは麗花だったではありませんか」
「もうっ! それは言わない約束だったでしょ!」
 二人のやり取りを見ながら薫は笑う。
 しばらく仕事で忙しくて会えていなかった親友の姿も見れたことの安心感もあるかもしれない。
『いやぁ、色々と大変だったけどなんとか乗り切ったね〜』
「ああ。1週間という短い期間だが十分な成果は出たと思うぞ」
『真奈美ちゃんの件で薫ちゃんにすごく叱られたけどねー』
「だって二人とも方法が乱暴すぎるよ! もし大怪我したら大変だったんだよっ!」
「まぁまぁ薫ってば落ち着いて。結果的に無事に終わったんだからそんなに責めないであげてよ」
「もう……あとでもう1回説教だからね」
 頬を膨らませながらコップのジュースを飲む薫に、横から麗花が新たに飲み物を注ぐ。
「彼らの成長は目を見張るものがありましたしね。僕達としても、参考になる場面は多かったです」
「そうだな。特に雲井と本城の伸び幅が良かった」
『だねー、でも大助と香奈ちゃんもかなり実力が上がったんじゃない?』
「あの二人は今までの戦いの経験値もあったからな。雲井や本城に比べれば大きく成長はしなかったかもしれんが、それでも十分だろう」
「僕としては、あの4人をスターのメンバーに加えてしまった方が何かと都合がいいのではないかと思うんですがね?」
「それは、駄目、だよ。あの4人は、まだ、ひっく、高校生なんだから」
「ん?」
 口調に違和感を感じ、佐助は薫の方へ視線をやった。
 ちょうど手に持ったコップの飲み物が空になっている。
 その表情はほんのりと赤く染まり、瞳もとろんとしている。
「「『!?』」」
 佐助、伊月、コロンは戦慄した。
 その横では麗花が逃げるようにキッチンの端へと移動する。

「さーすけーさーん♪」

「っ!?」
 ゆらりと動く視線、薫が凭れ掛かるように佐助に抱きついた。
 普段から考えられないくらいの甘いトーンと、突拍子もない行動に全員が困惑する。
「えへへ、佐助さーん♪」
 まるで猫のように頬を摺り寄せる彼女を引きはがそうとするが、身体強化を使っているのかびくともしない。
 傍で感じる吐息からは仄かな酒の匂いがした。
「か、薫! 離れろ!」
「やーだぁ♪ この方がいーい♪」
「誰だぁ!? 薫に酒を飲ませた奴はぁ!?」
 犯人はキッチンの端で、携帯カメラで撮影をして楽しそうに笑っている。
 必要以上に密着しようとする薫さんを、佐助さんは力づくで引きはがそうとする。
 だが女性相手に本気をだすわけにもいかないのだろうか、完全に引きはがすことは出来ないでいた。
「いいぞー薫! そのまま押せー!!」
「麗花ぁぁぁ!! お前わざとだろう!!」
「いやー、薫ちゃんが酒弱いのを知ってて見張ってなかった佐助さんの責任だと思うな♪」
「い、伊月! 助けろ!!」
「助けたいのは山々なんですがね……」
 苦笑を浮かべる伊月は、すでにその身体を柱に縛り付けられていた。
 コロンも空中に創られた立方体の中に囚われている。

 ここだけの話なのだが、薫は酒に弱い。
 その癖、酔うと誰かに抱きつくようになってしまう。普段は表に出せない感情も、堪えることなく吐き出されてしまうのだ。
 もちろん、麗花はそれを知っているからこそ薫のコップにカクテルを注いでおいたわけだが……。

『もう、なんで薫ちゃん、こういう時に限って硬いバインド作るの……』
「僕の方も、外すのに少し時間を要しますね」
「えへへ、これで邪魔が入らなくなったよ佐助さん♪ はい、ちゅー♪」
「よせっ薫っ!」
 無理やりにでも唇を寄せようとする彼女をギリギリのところで抑えつけながら佐助は叫ぶ。
「いいぞ薫! そのままそのまま!」
「貴様ぁ!! あとで覚えてろよぉ!!」






 騒ぎから20分後、薫は机にソファの上で眠らされていた。
 コロンが毛布を掛けながら傍で面倒を見て、机では伊月と佐助、麗花が酒を酌み交わしている。
「いやぁ、惜しかったなぁ。結局ほっぺにしかチューできなかったもんねー」
「貴様……本気で怒るぞ……」
 げんなりとしながら佐助は項垂れる。
 そんな彼の様子を見ながら、他の2人は笑みを浮かべた。
「薫さんも疲れが溜まっていたのでしょう。ストレス発散には良かったのではないですか?」
「そうそう、彼女はスターのリーダーで、我々の切り札ですよ♪ そんな彼女の望むことくらい叶えてあげればよかったのにぃ♪」
「それとこれとは話が別だ……」
 差し出したお猪口に、伊月が冷酒を注ぐ。
 それを一口飲みながら、再び佐助は溜息をついた。
「もうすぐ決戦、始まるんでしょ? 正直な話、勝率はいかほどなの?」
「僕としては、五分五分というところですかね。僕達も日々成長していますが、肝心のアダムの情報は無いですから」
「そうだな。いくつか作戦は立てたし本社からの協力も得ているが、それでも勝てる見込みは薄い」
「なるほどねぇ、弘伸に頼まれて調査はしてみたけど、全然情報掴めないし……まぁ闇の力に関連することなんて最初から全然情報の仕入れが無かったんだけどさぁ……」
「あまり言いたくはありませんが、出たとこ勝負になりそうですね」
 苦笑を浮かべながら伊月は溜息をついた。
「そのための合宿だったんだ。アダムがどんな闇の世界を使ってくるか分からない以上、色々と試行錯誤して決闘の経験値を稼いだ。大助たちの決闘データも色々と検証したしな」
「成程ねー。高校生たちを鍛えるついでに決闘のデータを集めてたってわけだ。強かだねぇ〜」
「何とでも言え。決闘が出来ない俺に出来ることは、この程度だ」
「確かに。でも佐助君は情報網とか、肉弾戦闘とかで大活躍してるじゃん」
「喧嘩が得意で、それをコロンに補助してもらっているだけだ。それを役に立つとは言い難いと思うがな?」
「そう? 弘伸みたいに喧嘩強くないのに比べたらだいぶいいと思うんだけどなぁ」
「痛いところを突いてきますね」
「ふん、仕事だからって彼女を放ったらかしにしてる弘伸にはいいお灸だよ。それにほら、よくあるじゃん。ここは俺に任せて先に行け、的な台詞。喧嘩が強いと、ああいうの言いやすいでしょ?」
「……俺はあまりその台詞は好きじゃない」
「どして? 佐助君なら好きだと思ってたのに……」
「勝手なイメージを押し付けるな」
「ねぇ、なんでなんで? なんか理由でもあるの?」
「……自分が戦いの場を引き受けて、味方を先に進ませる……それは裏を返せば、味方に他の敵を任せたと言っていることと同義だ。当然、先にはより強敵が待ち受けているだろう。それを『自分に任せて先に行け』なんて言葉で、強敵との戦闘を回避しているのが気に食わないだけだ」
「ふーん、まぁ佐助君なら、一人で相手を全滅しちゃえそうだし……そういう台詞を言う機会もないか」

「……だが……」

「ほえ?」
「万が一、誰かに戦いを託さなければならなくなったなら、俺も言ってみたい台詞ではあるがな」
「うわぁ〜、なにその余裕。なんか腹立つんですけど……」
 笑いあうスターの面々を見ながら、コロンは眠る薫の頭を静かに撫でた。
『薫ちゃん……頑張ろうね……』
 そっと囁く声に応えるように、薫は静かに笑みを浮かべていた。






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 大助達やスターの面々がそれぞれの日常を過ごした3日後、遊戯王本社はいつも通り運営を開始していた。
 基本的に本社は午前9時からオープンとなり、そこには各業界の役人、社員たちが多く出入りしている。
 スーツ、白衣、各々が仕事服に身を包む中、悠然とその中心を歩く『少年』がいた。

 『少年』は普通に歩いて、会社の窓口にやってくる。
 受付には容姿の整った3人の女性が座っていた。
 今日もいつも通り、受け答えをして過ごすつもりだった。

『ねぇねぇお姉さんお姉さん♪』

 呼びかけられた声に、背筋が凍りつくような感覚がした。
 思わず立ち上がってしまうが、目の前にいる『少年』を見ればそれが勘違いだったのだろうと思ってしまう。
「あ、あら坊や、どうしたの?」
『うん♪ お姉さん達に聞きたいことがあって来たんだ♪』
「なにかな?」
『あのね、ボク、この会社を乗っ取りたいんだけど、どうすればいいのかな? 社長さんに直接訴えればいいのかな?』
 その言葉を聞いて、思わず3人は笑ってしまった。
 幼い子供らしい、純粋無垢な妄言だと思ったからだ。

 だが、それは間違いだった。
 純粋無垢な事には違いないが、妄言では無かったからだ。

「あのね坊や、そういう物騒なことは考えちゃ駄目なんだよ?」
「そうそう、君がもっと大きくなって偉くなってから考えようね」
「さて、お話は終わりかな? そうだ坊や、お名前は?」

『あっ、ごめんごめん♪ まずは簡単な自己紹介からだよね♪』

 無邪気に笑う『存在』は、漆黒の衣を翻して丁寧に頭を下げる。
 その次の言葉を聞いて、受付嬢の3人から、笑顔が消えた。



『ボクの名前はアダム。世界を滅ぼす手始めに、この遊戯王本社を乗っ取りに来たよ♪』




episode19――決戦の始まり――

 遊戯王本社全体に、緊急警報が鳴り響いた。
 滅多に鳴ることのないその音を聞き、職員全員が異常事態だという事に気づく。
『あーあ、やっぱり警報機鳴らされちゃったよねー』
「っ……!」
『ははっ♪ そんなに怯えた表情をしないでよ♪ ボクはこれでも女の人には優しいんだよ?』
 恐怖に慄く3人の受付嬢を見下ろしながらアダムは笑う。
 周囲にいる人間達も、受付で何かが起こっていることは分かるが、動けないでいた。

 なぜならアダムのすぐそばで、屈強な警備員達がすでに薙ぎ倒されていたからだ。

 受付嬢の悲鳴を聞くや否や、異変を察知した警備員達がアダムを取り押さえにかかったのだが一瞬のうちに倒されていた。
 常人の目には見えぬほどの速さに、周囲にいた者達も戦慄してしまったのだ。
「お、お願い、助けて……」
『だからね、危害を加えるつもりは無いよ。むしろ警報機鳴らしてくれてありがとうって感じかな? だから貴方達には、これをあげるね♪』
 アダムは掌の上で3枚のカードを握りしめる。
 紙だった筈の物が3つの黒い結晶へと変わると、それらを受付嬢たちへ放り投げる。
「ひっ!」
「な、なにっ!?」
 闇の結晶は女性達の前に浮かぶと、漆黒の光を放ち受付嬢たちを包み込んでいく。
 悲鳴をあげる暇も無くその全身を闇が侵食しつくした頃、現れたのは3体のモンスターだった。


 ハーピィ・レディ1 風属性/星4/攻1300/守1400
 【鳥獣族・効果】
 このカードのカード名は「ハーピィ・レディ」として扱う。
 このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
 風属性モンスターの攻撃力は300ポイントアップする。


 ハーピィ・レディ2 風属性/星4/攻1300/守1400
 【鳥獣族・効果】
 このカードのカード名は「ハーピィ・レディ」として扱う。
 このモンスターが戦闘によって破壊した
 リバース効果モンスターの効果は無効化される。


 ハーピィ・レディ3 風属性/星4/攻1300/守1400
 【鳥獣族・効果】
 このカードのカード名は「ハーピィ・レディ」として扱う。
 このカードと戦闘を行った相手モンスターは、
 相手ターンで数えて2ターンの間攻撃宣言ができなくなる。


『キシャァァ』
『カァァ』
『ウゥァァ』
 そこから発せられた声は最早、人の物とは思えなかった。
 モンスターと化した3人を見つめながらアダムは笑う。
『さてさて、検証するのは初めてだったけど概ね成功かな♪ さぁ外に出て色んな人を襲っておいで♪』
 アダムの言葉を受けて、3体のモンスターが翼を広げて飛び立った。
 繰り広げられる異常な光景に、動けないでいた職員たちも事態の深刻さを改めて実感する。
『よし、次は君達だね♪ パレードを賑やかにする一員になってもらうよ♪』



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 異変に気付いたのは佐助だった。
 いつものようにパソコンの画面を通じて調査をしていたところ、途方もない闇の力が出現したことが分かった。
 しかもその場所は《遊戯王本社》。スターやその他多くの組織をまとめる拠点となるところだ。一般向けの開放区もあることから基本的に警備は手薄だ。中に入ることは簡単にできるが、深部に入るのはどんな腕利きであろうと難しいはず。
 だが……検出された闇の力は異常だった。
 示された数値を数えるのも馬鹿らしくなるほどの巨大な力。
 以前に星花高校で検出された際のものと同じ……いや、それ以上のものだった。
「まさか、この反応は……」
『考えたくないけど……アダムが本社にってこと?』
「く……まさかよりによって……」
 冷や汗が額を流れるも、同時に佐助はどこか安心している部分もあった。
 警備が薄いとはいえ、本社には腕利きの決闘者も多く存在する。薫と同程度の実力を持っている者も多数いるため、迎え撃つにはうってつけの場所と言えるだろう。ましてや本社はここから車で1時間もかからない。スターのメンバーを集めてすぐに向かうことだって出来るのだ。
「コロン、本社への回線は生きているか?」
『うん! まだ陥落はしてな―――って、ちょっとまって! 本社から新しく3つの闇の力が出てきてる!』
「なんだと!?」
『え…嘘………また新しく、4つ……5つ……どんどん新しい闇の力が出てきて、街の色んなところに向かってる! どの闇の力も弱いけど数が急速に増えてるよ!!』
 佐助は奥歯を噛み締めながらも、対処を考える。
 理由は分からないが、アダムが出現してから、本社を起点に幾多もの闇の力を持った者が外に排出されている。
 それらを対処しなければならないのは事実だが……アダムも放っておくことは出来ない。
『佐助、どうする?』
「……とにかくこれはスターだけじゃ対処できない。大助達もここに呼んで対処を考えた方がいい。全員に連絡をしてくれ」
『分かった!』
 大きく頷いて、コロンはその場から姿を消した。
 佐助も携帯を取り出して、薫と伊月に連絡を取る。
≪もしもし佐助さん、どうかしたの?≫
「薫か、今すぐ家に来て――」
≪え、ちょ―――なに―ザザッ―聞こ―――ない≫
「!?」
 通話が繋がらない。
 よく見れば電波が何かに妨害されているようだった。
『佐助、駄目だよ。伊月君と連絡が取れない!』
「そうか」
 通信機器が使えなくなってきていることも、偶然ではないのだろう。
 それらを司る機関にもアダムの手が伸びているという事だろうか。
「ここまで急速に動き出すとは思わなかった」
『どうする? みんなを探しに行く?』
「……いや、俺達はここを動かない方がいいだろう。薫や伊月だけじゃなく、大助たちも異変に気づけばここにやってくるはずだ。行き違いになってもまずいだろう」
『そっか。じゃあ私達はここで、今後の作戦を考えておかないとだね』
「そうだな」



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「それで? 大助はこういうのどう思うわけよ?」
「はい?」
 合宿が終わって三日後。
 俺は香奈に連れられて、霊使い喫茶にやってきていた。
 行先も告げられないままここに連れられて、様々なコスプレをした従業員に「いらっしゃいませご主人様、お嬢様♪」と迎え入れられて席に案内された。
 最初は何かの冗談かと思ったのだが、隣に≪光霊使い−ライナ≫の格好をした雨宮までやってきて向かい合う形で座らされている。
「えーっと、もう1回言ってくれるか?」
「だ、だから、大助はこういう格好どう思うのかって聞いてんのよ!」
 雨宮の隣で≪火霊使い−ヒータ≫の格好をした香奈が顔を紅くしながら問いただしてくる。
 学校での制服姿や、デートの際にオシャレな服を着てくるのとはまた違って、似合っているように感じる。
「可愛いと思うぞ?」
「そ、そう……」
「良かったねー香奈。中岸はこういう格好も好きなんだってさ♪」
 なぜか雨宮がにやけながら肘で香奈を小突く。
 ここで香奈がヒータのコスプレをしてバイトしたことがあるのは知っていたが、だったらわざわざここに来なくても口頭で尋ねれば良かったのではないだろうか。
「じゃあこれから偶には、この格好でデートしてみる? あ、ここをデートの待ち合わせ場所にしてもいいよ!」
「いや……さすがにそれは……」
「なんでなんで? コスプレした彼女に色々と奉仕してもらうのもいいんじゃない?」
「ほ、奉仕って、私に何させるつもりなのよ!!」
「えぇぇ…俺は何も言ってないだろう……」


 バァン!!


「「「!?」」」
 店のドアが突然開いた。
 その乱暴な訪問に従業員のみんなも声を出せないでいた。
『キシャァァ!』
 訪問者は、不気味な奇声をあげながら店内に侵入してくる
 その姿はまさしく、≪ハーピィレディ1≫だった。
 突然現れた本物のモンスターに、店内は大パニックになる。
「きゃああ!!」
「化け物だぁ!!」
「っ! 香奈!」
「雫は私の後ろにいて!」
 俺と香奈は席を立って、騒ぎの中心へ足を運ぶ。
 その騒ぎを聞きつけたのか、店の奥から雨宮のお姉さんがやってきて避難誘導を始めた。
『アァァァ…!』
 飢えた獣のような声をあげながら、モンスターは逃げ惑う人達へ襲い掛かろうとする。
「っ!」
 咄嗟に近くにあった椅子を投げつける。
 椅子は相手の肩に当たるも、椅子の方が壊れるだけだった。
『シャアァ!!』
 だが注意はこちらに引けただろう。
 鋭い視線が逃げている人達から、俺の方に向く。
 とりあえずこれで逃げる時間くらいは稼げるだろう。
「大助、気を付けて」
「ああ、分かってる」
 俺や香奈は薫さんや伊月みたいに白夜の力を使って何かできるわけじゃない。
 かといって佐助さんのように戦闘が得意というわけでもない。
『ガルルルル』
 モンスターは俺が敵だと思ったのか、左腕を前に突き出した。
 警戒して身構えていると、その左腕にデュエルディスクが装着された。
 まさか決闘をするのか?
「大助!」
「分かってる…!」
 バッグの中からデュエルディスクとデッキを取り出して装着する。
 自動シャッフルが終わり、準備が完了した。



「決闘!!」
『キィィ!!』



 大助:8000LP   ハーピィレディ1:8000LP



 決闘が、始まった。



『ガァァ!!』
 相手のデッキから1枚のカードが発動された。


 羽の舞う闇の世界
 【フィールド魔法】
 このカードはデュエル開始時に、デッキまたは手札から発動する。
 このカードはフィールドから離れない。
 このカードがフィールドに表側表示で存在する限り、
 風属性モンスターの攻撃力は300ポイントアップする。


「やっぱり闇の世界を使ってくるのか…!」
『アァァ』
 相手は手札の1枚をモンスターゾーンに置く。
 するとフィールド上に1体のモンスターが姿を現した。


 ハーピィレディ 風属性/星4/攻撃1300/守1400
 【鳥獣族】
 人に羽のはえたけもの。
 美しく華麗に舞い、鋭く攻撃する。


 ハーピィレディ:攻撃力1300→1600

『………』
 そのまま何もすることなく、相手はターンを終えた。
 デュエルディスクのランプが点灯し、俺のターンに移ったことが分かる。



「俺のターン!」(手札5→6枚)
 相手の場には攻撃力1600のモンスター。
 伏せカードは何もない。手札誘発系のカードを持っているかもしれないが、ここは攻める!
「"六武衆−ニサシ"を召喚する!」


 六武衆−ニサシ 風属性/星4/攻1400/守700
 【戦士族・効果】
 自分フィールド上に「六武衆−ニサシ」以外の「六武衆」と名の付いたモンスターが存在する限り、
 このカードは1度のバトルフェイズ中に2回攻撃する事ができる。このカードが破壊される場合、
 代わりにこのカード以外の「六武衆」という名の付いたモンスターを破壊することが出来る。


「場に六武衆が1体いることで"六武衆の師範"を特殊召喚!! さらに場に六武衆が2体以上いることで"大将軍 紫炎"を特殊召喚だ!!」


 六武衆の師範 地属性/星5/攻2100/守800
 【戦士族・効果】
 自分フィールド上に「六武衆」と名のついたモンスターが表側表示で存在する場合、
 このカードは手札から特殊召喚する事ができる。
 このカードが相手のカード効果によって破壊された時、
 自分の墓地に存在する「六武衆」と名のついたモンスター1体を手札に加える。
 「六武衆の師範」は自分フィールド上に1枚しか表側表示で存在できない。


 大将軍 紫炎 炎属性/星7/攻撃力2500/守備力2400
 【戦士族・効果】
 自分フィールド上に「六武衆」と名のついたモンスターが2体以上表側表示で存在する場合、
 このカードは手札から特殊召喚する事ができる。このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
 相手プレイヤーは1ターンに1度しか魔法・罠カードの発動ができない。このカードが破壊される場合、
 代わりにこのカード以外の「六武衆」という名のついたモンスターを破壊する事ができる。


「さらに"団結の力"を発動!! ニサシに装備する!!」


 団結の力
 【装備魔法】
 自分のコントロールする表側表示モンスター1体につき、
 装備モンスターの攻撃力と守備力は800ポイントアップする。

 六武衆−ニサシ:攻撃力1400→3800

 次々と現れる武士達がフィールドに存在する鳥人を見据える。
 相手もこの展開力に驚いているのか、一歩退いたのが分かった。
「バトル! 紫炎で攻撃!!」
 将軍の刃に炎が灯る。
 振り下ろす灼熱の刃に切り裂かれ、鳥人型のモンスターは跡形も無く消え去った。

 ハーピィレディ→破壊
 ハーピィレディ1:8000→7100LP

「そしてニサシで2回攻撃だ!!」
 仲間たちの力を得た二刀流の武士の連撃。
 相手は手札のカードに手を掛けることもなく、その攻撃を受け止めた。
『ガアアアァァ!!??』

 ハーピィレディ1:7100→3300→0LP



 相手のライフが0になる。


 そして決闘は、終了した。


『が…アァ……』
 大ダメージを受け、モンスターはその場に倒れた。
「た、倒したの?」
「ああ…多分……」
 手ごたえがあまり感じられなかった。
 今まで戦ってきた闇の世界と種類は同じだが、肝心のデッキの方があまり強くなかったのかもしれない。
 途端に白夜のカードが強く輝き、倒れたモンスターを照らす。
 その姿が黒い霧のように霧散していくと、そこにはスーツを着た女性が倒れていた。
「う……うぅ…」
「ちょっと、大丈夫!?」
 香奈が急いで駆け寄り、倒れた女性を抱きかかえる。
 気付くようにうっすらと瞳を開いた女性は、俺達を見ながら今ある状況を確認しているようだった。
「こ、ここは……私は……」
「さっきまであなた、モンスターになってたのよ。どうしてこんなことになってるの?」
「わ、分からない……あ、ぁぁ…! そ、そうよ……あの、アダムって子供に……」
「っ!」
 その名が出たことで、俺と香奈は目を合わせていた。
 間違いない。この騒ぎはアダムの仕業。いよいよ本格的に動き出したという事だろう。
「香奈……中岸……」
「……ごめん雫。この人をお願い。私と大助はこのままスターのところに行ってくるわ」
「この人の事は任せて。2人は……大丈夫なの?」
「ええ。とっとと解決して戻ってくるから安心しなさい」
「……分かった。気を付けてね香奈。中岸も……頑張って」
「ありがとう」
 デュエルディスクをバッグに仕舞う。
 香奈もカツラを取って、ヒータの格好から普段着へと着替えに行ってしまった。
「あのさ、中岸」
「ん?」
「香奈はああ言ってるけど……きっと不安だと思うんだ。だから……中岸が支えてあげてね?」
「ありがとう。雨宮も気を付けてくれ」
「うん!」



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 本社での戦いは激しさを増していた。
 一般客を避難誘導しながらも、ついには銃火器まで用いてアダムを足止めしようと試みるようになっていた。
 だがまるで通用せず、まるで何も気にしていないように銃弾の雨霰を歩きながら次々とアダムは社員を闇の力を宿したモンスターへと変えていく。
 モンスターへ変えられた者はアダムの命で外に出ていき、一般人を片っ端から決闘で襲っていた。
『うーん、だいたいはモンスターに変えられたかな?』
 数にしておよそ100人ほど。
 モンスターパレードの”発生源”としては十分だと判断した。
『まぁでも、念には念を入れてもう少しモンスターに変えてあげようかな♪』
 遠足に行った子供のように笑いながら、銃火器を放つ相手を薙ぎ払っていく。
 倒れ気を失った相手を片っ端からモンスターへ変えながらスキップをしながら2階へと階段で上がる。

 本社の方も銃火器の効果が無いことが分かったことで、対抗手段を変えることにした。
 スターの幹部からアダムへの対抗手段は遊戯王であることは伝えられていたため、それを実行することにした。
 すぐさま決闘が出来る面子を揃え、すぐにアダムの討伐へ向かわせる。

「そこまでだ! お前はここで止める!!」
『あはは♪ ボクを止めるかぁ……そこは”倒す”くらいの意気が無いとなぁ』
「っ、かかれ!!」
 リーダー格の者の一声で、3人が一斉にアダムを取り囲む。
 行うのはサバイバル方式。全員がライフ8000でスタートし、誰か一人が残るまで戦う方式だ。牙炎の事件で武田達が大助に対して取った戦術でもある。どれだけ実力差があろうとも、3人に集中砲火されればまともに戦うことすらも難しいだろう。
『あはは♪ 3対1じゃなくて、わざわざサバイバル決闘にするなんて本気だね♪』
「卑怯でもお前は倒す!!」
『はいはい、じゃあ始めよっか♪』


「「「『決闘!!』」」」


 決闘が、始まった。



 そして―――



 アダム:Win!


「え?」
「は?」
「……あ?」
 決闘が始まると同時に、3人が敗北して闇の中へ沈んでいった。
 リーダー格の者は何が起こったのか分からず、その光景を見ていることしかできなかった。
『やれやれ、君たちはもう少し様子見ということを覚えた方がいいんじゃないかな?』
「な、何をした!?」
『教えるわけないじゃないか♪ ボクだって、いちいち力を使うのも面倒だって思うんだよ?』
「くっ……!」
 不気味に笑い続けるアダムに恐怖を感じながらも、男はデュエルディスクを構える。
 アダムはそんな彼の姿を見ながら、笑みを絶やさずにデュエルディスクを構えた。



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「ど、どうなってるんや! あれ!」
「分かりません!」
「とにかく逃げよう!」
 デパートの3階、琴葉、華恋、ヒカルの3人は逃げ惑う人々に紛れて走っていた。
 突然、窓から異形のモンスター達が乗り込んできて一般客に決闘を仕掛けてきたのである。
 物理的な抵抗が一切効かず、ところ構わず強制的に決闘を仕掛ける。場から離れることのない未知のフィールド魔法を使って戦う相手に対戦相手は皆、戸惑いのままに敗れた者が多かった。敗れた者は同じように異形のモンスターへと変わっていく。勝てた時は負けた側のモンスターは消え人の姿に戻るが、また別のモンスターが襲い掛かってきて負けてしまう。その波のように襲い来る相手に、全員が対抗できずにいた。
「携帯も繋がらへんな」
「この混乱で、繋がりづらくなっているのかもしれませんね……」
「せやな。あのモンスターみたいなのも、何か分からんし」
「………」
 琴葉も会話に入るも、明確な答えが出せずにいる。
 彼女の脳裏には、自分が幽体離脱をすることになった事件がよぎっていた。
 あの頃の記憶は今でも少し怖くなってしまう。それを言おうかとも思ったが、直感的に話さない方がいいと思った。
「にしても参ったなぁ……どこもかしこもモンスターうじゃうじゃしとるし、逃げる人達で非常口も混んでるしなぁ…」
「どこかに隠れた方がいいかもしれませんね」
「っ! 華恋ちゃん! ヒカルちゃん!」
 琴葉が何かに気づき指をさす。
 その先には標的を見つけたモンスターがこっちに迫ってきていた。
 逃げようにもフロアの端まで来てしまっているため、逃げる場所は少ない。
「逃げられそうにあらへんな……」
「やるしか、ないのでしょうか……」
「わ、わたしも頑張るよ!」
 迎え撃とうと身構えた瞬間―――


 ―――ライトシューター×10!!―――


 襲い掛かるモンスター目掛けて、眩い光弾が襲い掛かった。
 光弾に打ち抜かれたモンスターはその場に倒れ、その姿が人間へと戻っていく。
「大丈夫ですか、3人とも!!」
「「「え?」」」
 聞き慣れた声が、上から聞こえてきた。
 白いローブを纏い、右手には切っ先の尖った杖を携えた青い瞳の少女が舞い降りた。

「「「ま、真奈美さん!?」」」

 そう。3人の目の前に降り立った少女は本城真奈美だった。
 たまたまデパートで買い物をしていたところ、異変に気づき慌ててユニゾンモードになったのである。
「ま、真奈美さん、空を飛んでました……よね?」
「その格好……それに、杖も……!」
「魔法使いだったんだね真奈美さん!!」
 各々の反応を示す3人。
 真奈美は苦笑を浮かべながら、どう答えるか困っていた。
「すごいです!! まさか本物の魔法少女がいるなんて!!」
「うんうん! あの、サインとかもらってもええか?」
「あの! あの! 何か魔法使って欲しい!!」
 3人に詰め寄られ、誤魔化しが効かなくなってしまう。
 急務だったとはいえ、こんなことなら誰か分からないように髪を伸ばしておくくらいしておけばよかったと後悔した。
(マスター……これはもう、腹を括るしかなさそうですよ)
(そ、そうだね。下手に説明するより、そっちの方がいいかも……)
 コホン、と1つ咳払いして3人の頭を優しく撫でる。
 幸いにしても、色々と”予習”済みだ。そんな感じで振る舞うことは出来るはず。
「ば、ばれちゃったなら仕方ないね……。そうなんだ。いつもは普通の高校生、だけどその正体は、悪を退治する正義の使者……魔法少女マジカルまなみんだったの!!」
 エルが気を利かせたため、真奈美の周囲には煌びやかな星が舞う。
 目の前で鮮やかな登場シーンを魅せられて、小学生たちはキラキラと目を輝かせていた。
(マスター、随分と慣れていらっしゃいますね)
(う、うん……伊達に毎週魔法少女のアニメ見てないからね……)
 ついに後には引けなくなってしまったことを実感しながら真奈美は笑う。
 ここで細かく説明している時間は無さそうだったからだ。
「あのね3人とも、ここは危ないから薫さんの家に行こう。あそこならきっと安全だから」
「うん! 分かった!!」
「あ、あとそれから―――」
「言わんでもええ! うちら分かっとる! 真奈美さんの……ううん、マジカルまなみんの正体は秘密なんやろ!」
「私達、真奈美さんの事、誰にも言いません!」
 目を輝かせながら自分の事を見つめてくる少女達に、真奈美は何も言うことが出来なかった。




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『やぁ、久しぶりだねダーク』
 本社15階。
 出会った社員のほとんどを蹂躙し、モンスターへ変えたアダムは収容者のいるフロアへとやってきていた。
 部屋のドアが破壊され、中にいたダークと玲亜を視界に捉える。
「久しぶりだな。貴様とは、また会うと思っていたぞ」
『へぇ。ということは、ボクがここに何をしに来たかも分かるよね?』
「ああ、俺を消しに来たんだろう?」
 その言葉に、玲亜はすぐにアダムの前に立ちふさがった。
 目の前の存在から感じられる圧倒的威圧感に震えながらも両手を広げ、後ろで笑う友を守るように……。
『邪魔しないでほしいんだよな玲亜さん。ボクは別に、君まで危害を加えようなんて思っているわけじゃないんだよ?』
「……俺の友を傷つけようとしている時点で、それは十分に俺にとっての危害だ」
 震える身体を抑えながら、玲亜はデュエルディスクを構えていた。
 まともに戦ったのでは、おそらく1秒も持たないだろう。
 だが決闘なら……相手がどんなに強かろうと、数分は凌げるはずだ。その間に、彼が逃げてくれれば―――


「玲亜……忠告だ。やめておけ」


「っ、出来るわけないだろう!」
「そうか。なら、さよならだな」
「何を―――」
 その瞬間、視界の端でアダムがデュエルディスクを構えるのが見えた。

 そして―――


 玲亜:LOSE


「……え?」
 床から無数の手が伸びて、玲亜の身体を掴む。
 共にいると誓った友を守ることも出来ず、そのまま深い闇の中へと彼は沈んでいった。
『これで邪魔者はいなくなったよダーク』
「ふん。白々しいな。最初からあいつを消すつもりだったくせに」
『そんなことないよ。向こうから勝負を挑んできたんだから返り討ちにしただけさ。正当防衛だよ』
「ふざけた力で正当防衛とは笑わせるな」
 おどけて笑う存在に、ダークはくくっと笑みを零す。
 アダムは漆黒の衣を弄りながら、床に座る彼を見下ろす。
『君は、ボクとの決闘を覚えているんだよね、なんで?』
「……簡単な話さ。闇の力で記憶は消せない。元々、人間の脳は物事を忘れないようにできている。忘れたように思っても、思い出せないだけなのさ……何かきっかけさえあれば、細いが記憶は復元できる。貴様は闇の力で記憶を奥底に封じ込め、さらにそれらを思い出そうとする思考も封じているに過ぎない。だが封じているのは所詮、闇の力だ。闇の神に飲み込まれたときに、俺は闇と同化するような感覚を得た。その時に闇で封じられていた記憶が戻ったというわけさ」
『なるほどねー。黒い絵の具に黒い絵の具を落としても分からないように、闇の中なら闇で封じられた記憶も簡単に引き出せたわけか』
「そういうことだ。それにしても、本当にふざけた力だな」
『……ボクと決闘した記憶があるとはいえ、ボクの力を明かしたつもりはないんだけど?』
「一流の決闘者ならだいたいの想像はつくさ。『■■■の■■■■■を■■■■■■■出来る』とか、そんなところだろう? さっき玲亜を敗北へ追い込んだのは、その力の応用というところか?」
 ダークの言葉を聞いて、アダムは笑みを向けるのを止めた。
 その瞳が光を失い、黒く濁る。
『へぇ……さすがだね。けど1つ訂正するなら、さっきの決闘で使った力がボクの本質的な力さ。君が言ったのは、その応用だよ』
「どちらでもいいさ。ふざけた力だ。もっとも……いくつか制限がありそうだがな。そうでなければ記憶をいちいち消しはしないはずだ」
『本当に凄いね。その通りだよ。やっぱりダークは凄いや♪ ねぇねぇ、どうせならボクと手を組もうよ! 君がいれば千人力だ!』
「断る」
『どうして? 世界を滅ぼせるチャンスだよ?』
「貴様の駒になるのは御免だからな」
『そんなこと言わないでよ。君から黒い感情はまだ消えていない。まさか1回負けたくらいで、世界を滅ぼすことをあきらめたわけじゃないんだろう? ボクと一緒に戦えば、簡単に世界を滅ぼせるよ?』
「だろうな。だが答えは同じだ」
『どうして? 何か不満があるの?』
「あるさ。俺は他人に動かされるのが嫌いなんだ。たとえ貴様であろうとも、軍門に下るつもりは無い。消すならさっさと消すといい。闇の中から、貴様と白夜の力を持つ者達との戦いを見ているさ」
『ふーん、じゃあお言葉に甘えて……』
 アダムは無表情のまま、ダークへと手をかざした。
『残念だよ。ボクと君なら、最高のパートナーになれたのに』
「冗談は寝てから言えよ。利用する存在を、パートナーとは呼ばないんだ」

 ――本当のパートナーとは”あいつら”のような――

 その言葉を飲み込んで、ダークは不敵に笑った。
(改めて見せてもらおう。精々、諦めずに頑張ってみるがいい)
 胸の内に秘めた言葉と共に、アダムの手から闇が放たれてダークは姿を消した。



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「武田! 奥様と旦那様の避難は!?」
「2人とも車に乗せた! 早くお前も乗れ!!」
 鳳蓮寺家においても異変は発生していた。
 多くのモンスターが襲来し、襲い掛かって来たのだ。
 吉野が率先して囮となり、決闘によって襲い來るモンスター達を蹴散らしている。
 だが多くの相手をしていくうちに吉野にも疲労がたまっているのは事実だった。
 じわじわと詰め寄ってくる相手に背を向けて、裏口に停めた車へと乗りこむ。
「吉野。急いで!」
「しかし…! お嬢様達が……」
「あの子達ならきっと大丈夫です。星花デパートにいるはずですから、逃げる途中に拾いましょう」
「っ、分かりました!」
 この異常事態は、間違いなく闇の力が関わっている。
 ならばすぐにスターのところに向かうのがいいだろう。
「咲音。いったい、何が起こっているんだい?」
「数馬さんには、後で説明させていただきます」
「……どうにも並々ならない事情がありそうだね」
「武田、出しなさい!」
「ああ」
 サイドブレーキを外し、アクセルを一気に踏んで急発進させる。
 急激なGが発生するもそれに構うことなくギアを可変し、4人は家を後にした。
≪ニュースです。現在、星花町を中心にデュエルモンスターの姿をした存在が暴れまわっているという被害が相次いでいます。遊戯王本社からは何の連絡も無く、問い合わせも出来ない状態となっています。警察や消防が動いていますが、住民の皆さんは速やかに避難をお願いします≫
「どうやら、異変はここだけじゃないらしいな」
「そうですね」
 猛スピードで裏道を通りながら、大通りの渋滞を回避し薫の家へと向かう。
 咲音は何度も琴葉の携帯へと電話を掛けるが、繋がらない。
「お願い……琴葉……出て…!」
 さっき吉野に大丈夫と言ったものの、胸のうちでは不安でいっぱいだった。

「っ! みんな何かに掴まれ!!」

 武田の叫びと同時に、急ブレーキがかかる。
 ほぼ全員が前のめりになりながら、前方を確認する。
 その視線の先には、無数のモンスターが明らかな敵意を向けてこちらに歩み寄ってきていた。
 バッグをしようとするも、後ろからもモンスターが現れている。
「く……裏道を使っていたのが裏目に出たか……」
「仕方ないですね。武田。あなたは前を担当しなさい。私は後ろのモンスター達を足止めします」
「ああ―――いや待て吉野!」
「はい?」
 静止をかけた武田が指差す先、襲い掛かろうとするモンスター達と一人の少年が戦っていた。
 少年の全身からは黒いオーラのようなものが溢れ、その腕が振るわれる度にモンスターが倒され、薙ぎ払われていく。
 その赤い瞳が車に気付くと……。
「あれ、武田じゃねぇか」
「雲井忠雄……!」
 少年の正体は、雲井忠雄だった。
 闇の力を宿すその姿を初めてみるも、見知った顔に安心する。
「ちょうどよかったぜ! なんか事情を知ってるなら教えてくれ!!」
 車の窓を開けて、武田は応える。
「……あいにくこちらも様子は知らない。だが助かった。私達はひとまずスターの家に向かうから乗れ!」
「待って武田! 琴葉達も助けに向かわないと…!」
「奥様達をスターの家に下ろしたらすぐに向かいます。今はとにかく、奥様達の安全を優先させていただきます」
「そんな…! 吉野からも何か言って! 琴葉達を助けないと…!」
「……咲音。私としては武田の意見に賛成です。まずは咲音と数馬さんの安全を確保して、それから私と武田で琴葉たちを助けに行った方が結果的に効率がいいと思います」
「でも―――」
「咲音。吉野さんの言う通りだと思う。僕達がいたらかえって足手まといだ……事情は詳しく分からないけど、きっとあの子なら大丈夫だよ」
「………」
 言葉には出さないものの、その表情は不安に満ちている。
 吉野はそんな彼女を宥めながら、武田に運転の指示を出した。
「少年、とりあえず助手席に乗れ。このまま行くぞ」
「……分かったぜ」
 雲井が助手席に乗ると同時に、その膝の上に黒い犬型のライガーが乗った。
『ちょうど良かったな小僧』
「とりあえずこのままスターのところまで行くぜ。そこで説明してくれるんだろ?」
『珍しく察しがいいな。おい運転手、早く行け』
「ああ」
 ライガーの言葉に頷きながら、武田は再びアクセルを踏んだ。



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 遊戯王本社にアダムが襲撃してから2時間が経った。
 スターの本部、薫の家には闇の力に対抗するべく全員が集まっていた。
 大助、香奈、雲井、真奈美、伊月、佐助、薫、武田、吉野、コロン……琴葉と華恋とヒカル、咲音と数馬は別室で休んでもらっている。
 2人とも子供達が無事だということで面倒を見てもらうことにしたのだ。
「みんな集まってくれたな」
 リビングの中心のソファで佐助が静かに口を開いた。
 その場にいる全員が、今起きていることが緊急事態であることを理解できていた。
「まずは状況整理ですね。僕達は色んなところでモンスターが徘徊しているのを見てきましたが、やはり―――」
「ああ、アダムの仕業だ。出現地点である遊戯王本社とはもう連絡が取れない。なんとか通信回線は残っているが、それもいずれ繋がらなくなってしまうだろう。街には様々なモンスターが徘徊中。物理的な抵抗が効かず、決闘を仕掛けてくる者が大多数らしい」
「無差別ってこと?」
「そうだな。確認できる限り全員が闇の世界を使ってくる。勝てば相手のモンスター化が解除できるが、もし負ければ、そいつも同じようにモンスターになってしまうようだ」
「じゃあ、片っ端から倒していけば―――」
「それは無理だ」
 香奈の発言を遮るように佐助は言った。
「相手は目についた相手に強制的に決闘を仕掛けてくる。カードゲームを経験したことがある者ならまだ分からないが、決闘者じゃない人間だっていくらでもいる。そいつらにも強制的に決闘を仕掛けている以上、モンスターに変えられていくスピードの方が圧倒的に早いはずだ」
「ということは、やっぱりアダムを倒してしまった方が早いってこと?」
「理屈的にはそうなるな。住民の避難は各組織が率先して行っているから、これ以上急速に被害が広まることは無いだろう。だがやはり相手が闇の力を使っているとなると、時間稼ぎが精一杯だ。俺達がアダムを倒すことが最も早い解決方法だろう」
 相手の戦力がどんどん増えているのに対してこちらは10名ほど。
 少数精鋭でアダムを倒しに向かうことが効率的であろう。
「作戦には異論はありません。ですが街には幾多ものモンスターが徘徊しています。いちいち決闘で倒していたら日が暮れてしまいますよ」
「その点については問題が無い。徘徊しているモンスターは、白夜の力を用いた攻撃によって退けることが出来る……そうだな本城?」
「は、はい! 私がデパートで攻撃したら、モンスターは人に戻りました!」
「成程。薫や伊月さん、真奈美さん達によって相手を退けながら本社に乗り込む……ということですか」
「ああ。もっと早くに対処できていればその方法でモンスターになった全員を元に戻すことも出来ただろうが、すでに反応は1000を超えてしまっている。対してこちらで白夜の力を使って攻撃できるのは4人……正直言って労力の無駄だ。被害がこれ以上拡大する前に、俺達でアダムを倒す」
 その場にいる全員が、状況を理解していた。
「……やはり全員で対処に向かうのでしょうか?」
「そうなるな。薫の"ポジション・チェンジ"で一気に本社まで行くことになる」
「……ならば一気にアダムの元へ行った方が効率的ではないでしょうか?」
「そう言いたいのは山々だが、建物内部まで座標を確認できていない。闇雲に飛んでも床や壁に埋もれるのがオチだ」
 薫の使う座標移動は、あくまで向かう先の正確な座標を把握していなければ使えない。
 慣れ親しんだ我が家ならいざ知らず、普段から頻繁に向かう事のない本社だと勝手が違う。
「小学生たちは、麗花や鳳蓮寺家の夫妻に任せましょうか。武田さんと吉野さんはいかがしますか?」
「……私も行こう。大して力になれるかどうか分からないが、盾になることくらいできるはずだ」
「縁起でも無いことは言わない。私も共に行きます。本社で何体のモンスターが待ち構えているか分からない以上、人数が多いに越したことはないでしょう」
 その場にいる全員が、戦いに向かう覚悟が出来ていた。
 気になることがあるとすれば家に残していく事になる小学生達の心配くらいだろう。
「武田こそ、奥様やお嬢様には行く事を伝えないのですか?」
「2人に言ったら、間違いなく止めに来るだろう。下手したら付いてくるとか言いかねないからな」
「察しが良くなりましたね。まぁ咲音なら、そんなこともお見通しだと思いますが……」
「吉野、なんならお前はここに残ってもいいぞ。一応はお前も女性だ。無理に戦いに出る事は―――」
「それ以上言ったら殴りますよ。戦いたいという人間の意志を尊重しないのは愚の骨頂です」
 吉野の鋭い視線に、武田は言葉を返せなかった。


「……みんな……」


 不意に口を開いたのは、これまで何も話さなかった薫だった。
 ソファの中心に座りながら、両手を机の上で組んで忙しなく指を動かしている。
「本当は……こんなこと言っちゃいけないって分かってる。皆の気持ちも、すごく嬉しい……だけど、本当は……皆を戦いに巻き込みたくなんかなかったんだ」
「薫さん……」
「ご、ごめんね! みんなのやる気を削いじゃうような事を言って……でも、これからの戦いは今までの戦いとは全然違う。何人かは……ううん、下手したら全員が元の生活に戻れなくなっちゃうかもしれない。それでも……みんな、付いてきてくれるの?」
 その言葉に、その場の空気が一気に重くなった。
 他の誰でもないスターのリーダーから放たれた一言が、どれほどの重さを持っていたのかは言うまでもない。

「……それは違うわよ、薫さん」

 重苦しい雰囲気を破ったのは、香奈の一言だった。
「確かに、アダムとの戦いは危険だし、みんなそれを分かってる。でもね……それでも私達が協力するのは、”元の生活に戻るため”なのよ」
「っ!」
「私がいて……大助がいて…雲井や真奈美ちゃんもいて…スターのメンバーや、鳳蓮寺の人達……みんなが全員無事に帰ってこられるように、みんなで戦いに行くのよ。ね? そうでしょ大助?」
「……そうだな。香奈の言う通りだと思う」
「香奈ちゃん……大助君……」
「わ、私も頑張ってサポートします、そのために訓練したんですから!」
「乗りかかった船って奴だぜ。ここまで来て逃げ出せるわけねぇだろ!」
「真奈美ちゃん……雲井君……」
「決まりですね」
「お前はそうやってすぐに抱え込むんだな」
『薫ちゃん、大丈夫、私達がいるよ♪』
「そうですよ、微力ながら私も手伝います」
「スターには救ってもらった恩を返せていないしな」
「伊月君…佐助さん…コロン…吉野さん、武田さん……」
 全員が、優しさと覚悟を秘めた視線を向けていた。
 自然と力が入っていた両手から、力が抜ける。

 ――ああ……そっか……緊張してたんだ……――

 ついに始まった決戦の狼煙を受けて、リーダーとしての責任、みんなを戦いに出さなければいけないことの恐怖。
 それらすべてが重荷となって圧し掛かってきていたことにようやく気付く。
 ずしりと肩に乗る”何か”に、押し潰されてしまいそうになっていた。
 だが、見渡せばそこには仲間がいた。
 綺麗事だって思うし、都合のいい解釈なのかもしれない。だけど少なくとも……ここに”みんな”がいることは紛れもない事実だった。

「みんな……ありがとう」

 薫はゆっくりと立ち上がり、全員の表情を改めて見渡した。
 大きく深呼吸して、覚悟を決める。
「私達で、アダムの企みを阻止しよう!」
 その呼びかけに、全員が頷いた。





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 薫の白夜の力によって”ポジション・チェンジ”で本社の前に全員が移動した。
 最後の通信から30分が経っていた……もう本社内に残っている人間はいないだろう。
「なんか……凄く静かだね」
「ああ。建物も壊れていない」
 薫の隣で佐助が頷く。
 普段ならば家で指示を出している彼も、その場に同行していた。
 すでに通信設備は敵の手に落ちたためか、遠くからの指示が出来なくなったためである。
「なんだか、作戦内で隣に佐助さんがいるのって新鮮だね」
「……せいぜい足手まといにならないようにするさ。それよりも油断するな。いつどこから襲ってくるか分からないぞ」
「うん」
 薫と真奈美、コロンを先頭に他の者達が続く形で本社の中へと入る。

 本社内部はいくつか破壊された痕跡が残されているものの、予想よりずっと無事な状態だった。
 ただもちろん、人はいない。
 だがモンスターの姿もいないのだ。
 てっきりモンスター達が徘徊しているものだと思っていた全員が拍子抜けを喰らい戸惑っている。



『アハハ♪ ようこそいらっしゃい♪』



 1階の空間内に響いた声。
 全員がほぼ同時に身構えた。
 エントランスの中心に設けられた巨大ディスプレイに映し出されたアダムは笑っていた。
『そんなに身構えなくても大丈夫だよ。この建物にはもうボクしかいない』
「他の人はどうしたの!?」
『一部の人を除いて、みーんなモンスターに変えちゃったよ♪ 色んなところから連鎖的に被害は広まっていく。もうモンスターパレードは止められない……ボクを倒さない限りね♪』
 自身のやったことを、平然と言ってのける相手の姿を見て、薫は静かに拳を握る。
 これ以上、被害を広げさせるわけにはいかない。
 だったらやることは一つであろう。
「あなたを倒せば、みんな元に戻るの?」
『うん♪ まぁ無理だろうけどね♪』
「そんなのやってみなくちゃ分からないよ!」
『じゃあやってみるといいよ♪ そこのエレベーターからおいで? 最上階にボクはいるからね♪』
 そう言い残し、映像が途絶えた。
 小さな到着音が聞こえて、中央の大型エレベーターの扉が開く。
「佐助さん……」
「罠である可能性は否定できないが、他に敵がいない以上チャンスだ。行くしかないだろう」
 その言葉に促されて、全員がエレベーターに乗った。
 最上階である17階まで約30秒。全員が意識を張り巡らせて、どんな状況でも対応できるように心掛けていた。

「みんな……大丈夫だよ」

 その中で響く薫の声。
 優しく力強い……そんな声色だった。


 そして、ついに最上階へ到達する。
 本来なら社長が座っているはずの部屋。だがその席にはアダムが座り、部屋も荒らされ天井は跡形も無くなり吹き抜けとなっていた。
『いらっしゃい♪』
 椅子の上に立ち、アダムは漆黒の布を靡かせて一礼する。
 幼い容姿で無邪気に笑う存在であるも、滲み出る底の見えない不気味さを全員が感じ取っていた。
「警備すら置いていないとは……随分と不用心じゃないのか?」
『あはは♪ 適当な警備を置いたって、どうせやられちゃうんだし戦力の損失は抑えるに越したことはないよ♪ ボクがここにいるってことが何よりの警備にもなるしね♪』
 こちらの人数差を意に介している様子も無い。
 佐助は静かに拳を握り、コロンはそのすぐそばで戦う姿勢へと変わっていく。

 だが握られた拳に、優しく触れる者がいた。
 皆が相手の出方を伺っている中、薫が1人前に出る。その腕にはすでにデュエルディスクが装着されていた。
「みんな、ここは私に任せて」
「薫っ!」
「未知の戦力には、最初から全力で当たるべし……そうでしょ佐助さん?」
「く……」
 その言葉に異を唱えることが出来なかった。
 これまでも未知の組織を相手にするとき、特に相手組織のトップと戦う時、薫は優先的に戦うようにしていた。
 そして結果的に勝利してきた。相手の実力が分からない以上、最初から全力で戦うに越したことは無い。他の者の被害を嫌う薫ならばなおさらそう思うだろう。
『いきなり薫さんからかぁ……ボク的には、てっきり1番手は中岸大助君とかかなぁって思ってたんだけどなぁ? ほら、ダークと初めて戦ったのも大助君だったでしょ?』
「っ! ダークは……どうしたんだ?」
『消しちゃったよ。仲間にお誘いしたのに断られちゃったからね』
 そう言いながらアダムは椅子の上から飛び立ち、空中で1回転して床に下りる。
 左腕を前に突き出せばそこに濃い闇が纏わりつき、デュエルディスクへと変化していた。
「もう1度確認させて。あなたを倒せば、全部元に戻るんだよね?」
『そうだよ。モンスターパレードの元凶はボクだ。具現化された闇の力は発現者を倒せば解除される……ダークが使った”終焉のカウントダウン”もそうだったでしょ?』
「……分かった。じゃあ、始めるよ」
『いいよ♪ ボクとの決闘、楽しんで逝ってね♪』



『「決闘!!」』



 薫:8000LP   アダム:8000LP




 決闘が始まった。
 同時にアダムから溢れだす闇の波動。その威圧感に全員が身震いした。

「この瞬間、デッキからフィールド魔法を発動するよ!!」

 薫のデッキが光り輝き、辺り一帯に広がっていく。
 フローリングの床は大理石のように真っ白で平らになり、そこを踏みしめる度に淡く優しい光の粒が花弁のようの舞い踊る。
 一切の闇を打ち消してしまうほどの美しい光が、その空間を染め上げた。


 光の世界
 【フィールド魔法】
 このカードはデュエル開始時に、デッキまたは手札から発動する。
 このカードはフィールドから離れない。
 このカードがフィールド上に存在する限り、相手は「闇」と名の付くフィールド魔法の効果を使用できない。


 無数に存在する闇の世界を封じることが出来るカード。
 薫が自ら望んで戦いに赴いたのも、このカードがあるからだった。
 相手がどんな闇の世界を使ってきたとしても、それを封じることが出来る。

 だが……アダムは一向に闇の世界を発動する気配が無い。

『あれ? もしかしてボクが闇の世界を使うと思ってる?』
「っ!」
 思っていたことを告げられて、軽く息を吐いた。
 薫の視線を真正面から受け止めて、アダムは純粋無垢な笑みを向ける。

『やだなぁ薫さん。人でも無い機関のボクが……闇の力の根源たるボクが……闇の世界なんか使うわけないだろう?』

「闇の世界を……使わないの?」
『うん♪ あっ、気付いてないなら教えてあげるよ。”闇の世界”は人間しか発現出来ないんだ。だから犬や猫が決闘者になっても、その子の闇の世界は発現しない』
「……」
 ここまで余裕を持っている理由が理解できないというのが率直な意見だった。
 闇の世界を使ってこないというのは予想外だったが、それでも有利不利は変わらない。むしろ相手のフィールド魔法の発動は制限されるわけだからこちらが有利にすら感じる。何か裏があるのか……と、薫の胸に不安に似た何かが渦巻きはじめる。
『さぁさぁ、薫さんの先攻だよ♪』
「……私の先攻、ドロー!!」(手札5→6枚)
 勢いよくカードを引き、薫は手札を眺める。
 相手が何をしてくるか分からない以上、出来ることは限られてくる。
 この手札で出来る最善手を考え、実行するべく手札の1枚に手を掛ける。
「魔法カード"調律"を発動するよ!!」


 調律
 【通常魔法】
 自分のデッキから「シンクロン」と名のついたチューナー1体を手札に加えて
 デッキをシャッフルする。その後、自分のデッキの上からカードを1枚墓地へ送る。


「この効果でデッキから"ジャンク・シンクロン"を手札に加えてシャッフルして、そのあとにデッキの1番上から墓地に送る!」
 軽やかな音色が響き、薫の手札に新たなカードが舞い込む。
 同時にデッキの上から1枚のカードが墓地へと送られた。
『うわぁ、もしかして早速かな?』
「手札から"ジャンク・シンクロン"を召喚! その効果で墓地から、さっきデッキから墓地へいった"グローアップ・バルブ"を特殊召喚!!」


 ジャンク・シンクロン 闇属性/星3/攻1300/守500
 【戦士族・チューナー】
 このカードが召喚に成功した時、自分の墓地に存在する
 レベル2以下のモンスター1体を表側守備表示で特殊召喚する事ができる。
 この効果で特殊召喚した効果モンスターの効果は無効化される。


 グローアップ・バルブ 地属性/星1/攻100/守100
 【植物族・チューナー】
 「グローアップ・バルブ」の効果はデュエル中に1度しか使用できない。
 (1):このカードが墓地に存在する場合に発動できる。
 自分のデッキの一番上のカードを墓地へ送り、このカードを墓地から特殊召喚する。


「さらに墓地からモンスターが特殊召喚されたことで、手札から"ドッペル・ウォリアー"を特殊召喚!!」
 アダムは手札から何かを発動する様子は見せない。
 ただ薫の戦術を見守っているようだった。


 ドッペル・ウォリアー 闇属性/星2/攻800/守800
 【戦士族・効果】
 自分の墓地に存在するモンスターが特殊召喚に成功した時、
 このカードを手札から特殊召喚する事ができる。
 このカードがシンクロ召喚の素材として墓地へ送られた場合、
 自分フィールド上に「ドッペル・トークン」
 (戦士族・闇・星1・攻/守400)2体を攻撃表示で特殊召喚する事ができる。


「レベル2の"ドッペル・ウォリアー"とレベル3の"ジャンク・シンクロン"をチューニング!! シンクロ召喚!!」
 2体のモンスターの身体が光となり、光の輪となって重なっていく。
 新たに現れたのは、白いマントを羽織り幾多もの知識を詰め込んだ書を誇らしげに掲げた人型のモンスター。


 TG ハイパー・ライブラリアン 闇属性/星5/攻2400/守1800
 【魔法使い族・シンクロ/効果】
 チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上
 このカードがフィールド上に表側表示で存在し、
 自分または相手がシンクロ召喚に成功した時、
 自分のデッキからカードを1枚ドローする。


「さらにシンクロ召喚に使った"ドッペル・ウォリアー"の効果発動! レベル1のトークンを2体特殊召喚! さらにレベル1の"グローアップ・バルブ"とレベル1のトークンをチューニング!! シンクロ召喚! "フォーミュラ・シンクロン"!!」


 フォーミュラ・シンクロン 光属性/星2/攻200/守1500
 【機械族・シンクロ・チューナー】
 チューナー+チューナー以外のモンスター1体
 このカードがシンクロ召喚に成功した時、自分のデッキからカードを1枚ドローする事ができる。
 また、相手のメインフェイズ時、自分フィールド上に表側表示で存在する
 このカードをシンクロ素材としてシンクロ召喚をする事ができる。


『わぉ♪ 一気に2体のモンスターをシンクロ召喚か』
「"フォーミュラ・シンクロン"の効果とライブラリアンの効果で、デッキから1枚ずつ……合計2枚ドロー!」(手札4→5→6枚)
 手札を引き、確認した後にすぐさま行動に移る。
 今できる最善の一手を打つために。
「さらに手札から"レベル・スティーラー"を墓地に送ることで、手札から"クイック・シンクロン"を特殊召喚!!」
『まだモンスターを出すつもりなんだね……』


 クイック・シンクロン 風属性/星5/攻700/守1400
 【機械族・チューナー】
 このカードは手札のモンスター1体を墓地へ送り、
 手札から特殊召喚する事ができる。
 このカードは「シンクロン」と名のついたチューナーの代わりに
 シンクロ素材とする事ができる。
 このカードをシンクロ素材とする場合、「シンクロン」と名のついた
 チューナーをシンクロ素材とするモンスターのシンクロ召喚にしか使用できない。


「さらに"クイック・シンクロン"のレベルを1つ下げて墓地にいる"レベル・スティーラー"を特殊召喚!」


 レベル・スティーラー 闇属性/星1/攻600/守0
 【昆虫族・効果】
 このカードが墓地に存在する場合、自分フィールド上に表側表示で存在する
 レベル5以上のモンスター1体を選択して発動する。
 選択したモンスターのレベルを1つ下げ、このカードを墓地から特殊召喚する。
 このカードはアドバンス召喚以外のためにはリリースできない。

 クイック・シンクロン:レベル5→4

「レベル4になった"クイック・シンクロン"とレベル1の"ドッペル・トークン"をチューニング! シンクロ召喚! "ジャンク・ウォリアー"!!」


 ジャンク・ウォリアー 闇属性/星5/攻2300/守1300
 【戦士族・シンクロ/効果】
 「ジャンク・シンクロン」+チューナー以外のモンスター1体以上
 (1):このカードがS召喚に成功した場合に発動する。
 このカードの攻撃力は、自分フィールドのレベル2以下の
 モンスターの攻撃力の合計分アップする。

 薫:手札4→5枚("TG ハイパー・ライブラリアン"の効果)

 並び立つ3体のシンクロモンスター。その圧巻の光景を眺めながらアダムは笑みを絶やさない。
『ははっ、イレイザーに披露してくれたモンスターを出してくれるのかな?』
「知ってるんだね。じゃあいくよ!! レベル5の"TG−ハイパー・ライブラリアン"と"ジャンク・ウォリアー"に、レベル2の"フォーミュラ・シンクロン"をチューニング!!」
 並び立っていた3体のシンクロモンスターが光へ変化する。
 輝き照らされた光の世界。そこで煌びやかに交わる無数の光輪。
 金色に輝くそれらの光は1つに重なり、強い星の輝きへと昇華する。
「シンクロ召喚!! "シューティング・クェーサー・ドラゴン"!!」


 シューティング・クェーサー・ドラゴン 光属性/星12/攻4000/守4000
 【ドラゴン族・シンクロ/効果】
 シンクロモンスターのチューナー1体+チューナー以外のシンクロモンスター2体以上
 このカードはシンクロ召喚でしか特殊召喚できない。
 このカードはこのカードのシンクロ素材とした
 チューナー以外のモンスターの数まで1度のバトルフェイズ中に攻撃する事ができる。
 1ターンに1度、魔法・罠・効果モンスターの効果の発動を無効にし、破壊する事ができる。
 このカードがフィールド上から離れた時、「シューティング・スター・ドラゴン」1体を
 エクストラデッキから特殊召喚する事ができる。


『いきなり攻撃力4000のモンスターかぁ……キツイなぁ』
「さらに私はカードを2枚伏せて、ターンエンドだよ!!」
 壮絶ともいえる決闘の幕開け。
 最強のシンクロモンスターを従えた薫は、静かにターンを終えた。

--------------------------------------------
 薫:8000LP

 場:光の世界(フィールド魔法)
   シューティング・クェーサー・ドラゴン(攻撃:4000)
   レベル・スティーラー(守備:0)
   伏せカード2枚

 手札3枚
--------------------------------------------
 アダム:8000LP

 場:なし

 手札5枚
--------------------------------------------

『ボクのターン、ドロー!』(手札5→6枚)
 漆黒の衣が靡く。
 力強くカードを引くアダムに対し、薫は間髪入れずに伏せカードを開いた。
「スタンバイフェイズに、伏せカード発動だよ!」


 生贄封じの仮面
 【永続罠】
 このカードがフィールド上に存在する限り、
 お互いのプレイヤーはカードをリリースできない。


『………あー、なるほどねぇ』
「このカードが場にある限り、お互いにリリースは出来なくなるよ!」

 手の内が分からないアダムに対して薫が取った行動は、様子見をすることだった。
 攻撃力と守備力が共に4000もあり、相手の魔法・罠・モンスター効果を1ターンに1回だけ無効にできる"シューティング・クェーサー・ドラゴン"。
 名実ともに最強のシンクロモンスターだが、"ヴォルカニック・クイーン"のような相手モンスターを強制的にリリースして召喚されるモンスターに弱い。
 だが"生贄封じの仮面"によってその類の効果を持つモンスターを無力化し、同時に相手の上級モンスターの召喚も制限する。何の効果も使わず、元々の攻撃力が4000以上の数値を持つモンスターを召喚する方法は数少ない。下級モンスターに至っては存在すらしていない。同じくシンクロモンスターなら可能かもしれないが、それに対する手段として薫は"奈落の落とし穴"をセットしてある。
 他にカードをセットしてもよかったが、"大嵐"などの全体除去カードの危険性などを考え得る限り、これが最善の一手だった。

『さすがスターのリーダーだね。最初のターンで切り札を召喚するだけじゃなく、どんな人でも難しい対応の求められる環境作り。しかもカードアドバンテージを損なっていない』
「褒めてくれてありがとう。でも褒めたところで、あなたの状況は変わらないよ」
『そうだね。だからボクはこのカードを場に出すよ』
 アダムが手札の1枚をデュエルディスクに置いた。


 途端に空が灰色で覆われた。辺りから雷鳴が轟き、雲で覆われたその場所から蛇のような赤い胴体が垣間見える。
 巨大な口の上にもう一つの口を持ち、全体が見えないほど巨大な躰。
 空全体を迸る雷が、大気を震わせた。



 オシリスの天空竜 神属性/星10/攻?/守?
 【幻神獣族・効果】
 このカードを通常召喚する場合、自分フィールド上の
 モンスター3体をリリースして召喚しなければならない。
 このカードの召喚は無効化されない。
 このカードが召喚に成功した時、魔法・罠・効果モンスターの効果は発動できない。
 このカードは特殊召喚した場合エンドフェイズ時に墓地へ送られる。
 このカードの攻撃力・守備力は自分の手札の数×1000ポイントアップする。
 相手モンスターが攻撃表示で召喚・特殊召喚された時、
 そのモンスターの攻撃力を2000ポイントダウンさせ、
 攻撃力が0になった場合そのモンスターを破壊する。


 攻撃力?→5000


 天空を司る紅き竜。
 召喚されるはずのないモンスターが―――降臨していた。





episode20――プランB――

「………え?」
 目の前の光景に、その場にいる全員が言葉を失っていた。
 天空を支配するかのごとく、その躰をくねらせて紅の竜は咆哮をあげる。


 オシリスの天空竜 神属性/星10/攻?/守?
 【幻神獣族・効果】
 このカードを通常召喚する場合、自分フィールド上の
 モンスター3体をリリースして召喚しなければならない。
 このカードの召喚は無効化されない。
 このカードが召喚に成功した時、魔法・罠・効果モンスターの効果は発動できない。
 このカードは特殊召喚した場合エンドフェイズ時に墓地へ送られる。
 このカードの攻撃力・守備力は自分の手札の数×1000ポイントアップする。
 相手モンスターが攻撃表示で召喚・特殊召喚された時、
 そのモンスターの攻撃力を2000ポイントダウンさせ、
 攻撃力が0になった場合そのモンスターを破壊する。

 攻撃力?→5000

 一瞬、何が起こったのか分からなかった。気が付いたらオシリスが場に出ていた。
 相手の行動を見逃したはずが無い。仮に見逃していたとしても……おかしいことがある。
 オシリスの攻撃力は持ち主の手札の数で決まる。攻撃力が5000ということは、アダムの手札は5枚ということになる。つまり、他のカードを経由せずに場に出したことになる。だが"生贄封じの仮面"によってリリースは封じられ、召喚することは出来ないはずだ。
 だとしたら―――
「オシリスが場に出た時、私は伏せカードを―――」

 ビー!

 伏せておいた"奈落の落とし穴"を発動しようと試みるも、デュエルディスクが警告音を鳴らした。
 ライフカウンターに表示されたのは【相手カードの効果により、発動できません】という1文のみ。
(”特殊召喚”されたわけじゃない…!? あのオシリスは”通常召喚”されているってこと!?)
 アダムが何らかの方法でオシリスを特殊召喚しているのならば、奈落の落とし穴は問題なく発動できるはずだ。
 だが、オシリスが召喚されているならば話は違う。
 あのカードには召喚時に相手の魔法・罠を発動させない効果がある。
 間違いなく、あのオシリスは………
「っ!!」
 その表情が青ざめる。
 薫の脳裏を掠めたのは”最悪の可能性”だった。
(ありえない……でも、もしそうなら説明がつく……でも、だとしたらなんで……?)

『驚いているところ申し訳ないけど、バトルフェイズに入るね♪』

「っ!」
 薫は身構える。
 同時に、アダムの場にいる紅の竜がその口に雷を溜めこんだ。

 ――超伝導波−サンダー・フォース!!――

 視界を奪い尽くすほどの凄まじい攻撃。
 圧倒的な神の一撃によって、星屑の竜は跡形も無く消し去られてしまった。

 シューティング・クェーサー・ドラゴン→破壊
 薫:8000→7000LP

「かっ……は…!」
 凄まじい痛みが身体を襲ってきた。
 数値にしてわずか1000ポイント。それでも今まで受けてきたダメージで、最も重い。
 圧倒的な闇の力が為せる現実のダメージ。間違いなく、今までの敵と桁が違う。
『やったぁ♪ 薫さんの切り札を倒したぞ♪』
「ま、まだだよ! クェーサーは破壊された時、エクストラデッキから"シューティング・スター・ドラゴン"を特殊召喚できる!!」
 無邪気に笑うアダムに対し、薫は叫ぶ。
 神の雷によって消し去られた竜のいた場所に、微かな光が溢れだす。
 星の残照を体現するように、僅かに輝きを淡くさせた竜が場に戻る。


 シューティング・スター・ドラゴン 風属性/星10/攻3300/守2500
 【ドラゴン族・シンクロ/効果】
 シンクロモンスターのチューナー1体+「スターダスト・ドラゴン」
 以下の効果をそれぞれ1ターンに1度ずつ使用できる。
 ●自分のデッキの上からカードを5枚めくる。
 このターンこのカードはその中のチューナーの数まで1度のバトルフェイズ中に攻撃する事ができる。
 その後めくったカードをデッキに戻してシャッフルする。
 ●フィールド上のカードを破壊する効果が発動した時、その効果を無効にし破壊する事ができる。
 ●相手モンスターの攻撃宣言時、このカードをゲームから除外し、
 相手モンスター1体の攻撃を無効にする事ができる。
 エンドフェイズ時、この効果で除外したこのカードを特殊召喚する。


『守備表示で特殊召喚かぁ。オシリスの効果は使えないね』
「…………」
 オシリスは相手の場にモンスターが攻撃表示で出された時、攻撃力を2000ダウンさせる凶悪な効果がある。
 だから薫は、シューティング・スター・ドラゴンを守備表示で特殊召喚した。
 戦線は一応保持できている。だがそれでも、疑問は尽きない。
『あはは♪ そんなに見つめても状況は変わらないよ? メインフェイズ2にボクは"トレード・イン"を発動するよ』


 トレード・イン
 【通常魔法】
 (1):手札からレベル8モンスター1体を捨てて発動できる。
 自分はデッキから2枚ドローする。


 アダム:手札4→6枚
 オシリスの天空竜:攻撃力4000→6000

「……発動コストを、支払わないんだね……」
『あはは♪ 何のことかボクにはさっぱり分からないな♪ カードを2枚伏せてターンエンド♪』

 オシリスの天空竜:攻撃力6000→4000

--------------------------------------------
 薫:7000LP

 場:光の世界(フィールド魔法)
   シューティング・スター・ドラゴン(守備:2500)
   レベル・スティーラー(守備:0)
   生贄封じの仮面(永続罠)
   伏せカード1枚

 手札3枚
--------------------------------------------
 アダム:8000LP

 場:オシリスの天空竜(攻撃:4000)
   伏せカード2枚

 手札4枚
--------------------------------------------

「私のターン、ドロー!」(手札3→4枚)
 頭によぎった可能性を胸の片隅に追いやって、薫は考える。
 まだ、そうと決まったわけじゃない。まだ……分からない。
「"生贄封じの仮面"をコストに"マジック・プランター"を発動するよ!」
『どうぞどうぞ』


 マジック・プランター
 【通常魔法】
 自分フィールド上に表側表示で存在する永続罠カード1枚を墓地へ送って発動する。
 自分のデッキからカードを2枚ドローする。

 生贄封じの仮面→墓地(コスト)
 薫:手札3→5枚

 新たに2枚のカードを手札に加えて、薫は小さく頷いた。
 これなら……突破できるはずだ。
「手札から"精神同調波"を発動するよ!」


 精神同調波
 【通常魔法】
 自分フィールド上にシンクロモンスターが表側表示で存在する場合のみ
 発動する事ができる。相手フィールド上に存在するモンスター1体を破壊する。


「これで"オシリスの天空竜"を破壊する!!」
『っ!』
 放たれる一筋の光が、紅の竜を貫き沈ませる。
 アダムはそれを静かに見つめ、カードを墓地へと送った。

 オシリスの天空竜→破壊

「さらに"レスキュー・キャット"を召喚!! そして、このカードを墓地に送ってデッキから"コアラッコ"と"X−セイバー エアベルン"を特殊召喚!!」
『ふふっ、下級モンスターの弱点であるオシリスを倒した途端にシンクロ召喚だもんね〜』


 レスキューキャット 地属性/星4/攻300/守100
 【獣族・効果】
 自分フィールド上に表側表示で存在するこのカードを墓地に送る事で、
 デッキからレベル3以下の獣族モンスター2体をフィールド上に特殊召喚する。
 この方法で特殊召喚されたモンスターはエンドフェイズ時に破壊される。



 コアラッコ 地属性/星2/攻100/守1600
 【獣族・効果】
 このカード以外の獣族モンスターが自分フィールド上に表側表示で存在する場合、
 相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体の攻撃力を
 エンドフェイズ時まで0にする事ができる。
 この効果は1ターンに1度しか使用できない。



 X−セイバー エアベルン 地属性/星3/攻1600/守200
 【獣族・チューナー】
 このカードが直接攻撃によって相手ライフに戦闘ダメージを与えた時、
 相手の手札をランダムに1枚捨てる。



 ヘルメットを被った子猫が消えると同時に、2体のモンスターがフィールドに現れる。
 狙うは当然シンクロ召喚。
「レベル2の"コアラッコ"にレベル3のエアベルンをチューニング!! シンクロ召喚!! "ナチュル・ビースト"!!」


 ナチュル・ビースト 地属性/星5/攻2200/守1700
 【獣族・シンクロ/効果】
 地属性チューナー+チューナー以外の地属性モンスター1体以上
 このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する限り、
 自分のデッキの上からカードを2枚墓地に送る事で、
 魔法カードの発動を無効にし破壊する。


「このモンスターがいる限り、あなたの使う魔法は無効にできる!」
『……なるほどね。ボクの戦術への対策をしたわけだ。だけど―――』
 アダムは笑みを絶やさぬまま、伏せカードを開いた。


 昇天の角笛
 【カウンター罠】
 自分フィールド上のモンスター1体をリリースする。
 モンスターの召喚・反転召喚・特殊召喚を無効にし、それを破壊する。

 ナチュル・ビースト:特殊召喚→無効→破壊

「っ…!」
『スターのリーダーが相手だもん。これくらいの対策は当然、打っておかないとね♪』
 表情には出ないものの、薫の心には焦燥感が滲んでくる。
 自分の思い通りに決闘が進まないことに関してでは無い。
 先程、脳裏を過った”最悪の可能性”が、ますます的を得ていることを実感しているからだ。
『ふふっ、だんだん余裕が無くなって来たね薫さん』
「まだだよ! シューティング・スター・ドラゴンを攻撃表示にして効果発動!! デッキの上から5枚カードをめくって、チューナーの数だけ攻撃できる!!」
 相手の場にカードは1枚だけ。
 また強力なモンスターが召喚される前に、決着させてしまえばいい。
『複数回の攻撃で一気にボクのライフを0にしようってことか』
「うん、いくよ!」
 デッキの上から5枚、一気にカードを引き抜く。

・エフェクト・ヴェーラー
・リミット・リバース
・ハネワタ
・デブリ・ドラゴン
・死者転生

「チューナーが3体いたから、このターン、シューティング・スター・ドラゴンは3回攻撃が出来る!!」
『そのモンスターの攻撃力は3300……全部攻撃が通れば、ボクのライフは0になっちゃうね』
「バトル!!」
『させないよ。バトルフェイズ移行前に伏せカード発動!!』


 血の代償
 【永続罠】
 500ライフポイントを払う事で、モンスター1体を通常召喚する。
 この効果は自分のメインフェイズ時及び
 相手のバトルフェイズ時にのみ発動する事ができる。


「そのカードは……!」
『残念ながら攻撃誘発じゃないよ。さぁさぁ、どうするのかな?』
「っ…今度こそバトルだよ! シューティング・スター・ドラゴンで攻撃!!」
『だったらボクは"血の代償"の効果でこのモンスターを召喚するね!!』
 アダムが手札の1枚をデュエルディスクに置いた。
 大地が罅割れ、現れる巨躯。
 鋼にも勝るほどの隆起した全身。
 握りしめたその拳からは、すべてを粉砕する力と意志が感じられた。


 オベリスクの巨神兵 神属性/星10/攻4000/守4000
 【幻神獣族・効果】
 このカードを通常召喚する場合、自分フィールド上の
 モンスター3体をリリースして召喚しなければならない。
 このカードの召喚は無効化されない。
 このカードが召喚に成功した時、魔法・罠・効果モンスターの効果は発動できない。
 このカードは魔法・罠・効果モンスターの効果の対象にできない。
 このカードは特殊召喚した場合エンドフェイズ時に墓地へ送られる。
 自分フィールド上のモンスター2体をリリースする事で、
 相手フィールド上のモンスターを全て破壊する。
 この効果を発動する場合、このターンこのカードは攻撃宣言できない。


「攻撃力4000のモンスターを、こんな簡単に……」
『やだなぁ……薫さん、もう気付いちゃっているんでしょ?
 光を宿さない漆黒の瞳が、薫を睨みつける。
 額から冷や汗を流しながらも、その視線を受け止め口を閉ざす。
 十中八九、間違いない。
 もしそうなら……すべて説明がついてしまう。

「薫さん!!」

 闇の瘴気で作られた壁の向こう。
 真奈美が心配そうな表情を浮かべて叫ぶ。
 薫は無理やり笑顔を作って、ただ静かにピースサインを返した。
『いいねいいね♪ 皆を不安にさせないように気丈に振る舞っているんだぁ』
「………」
 アダムの言葉に応えることなく、薫は大きく深呼吸する。
 心を静め、今の状況を出来る限り冷静に見つめた。
 バトルフェイズ中にモンスターが特殊召喚されたことで、攻撃の巻き戻しが発生する。
 シューティング・スター・ドラゴンの攻撃力は3300。それに対してオベリスクの攻撃力は4000ある。
 このまま攻撃したら自滅行為だ。
「バトルは中断するよ」
『了解だよ。次はどうするのかな?』
「カードを1枚伏せて、ターンエンドだよ」

--------------------------------------------
 薫:7000LP

 場:光の世界(フィールド魔法)
   シューティング・スター・ドラゴン(攻撃:3300)
   レベル・スティーラー(守備:0)
   伏せカード2枚

 手札2枚
--------------------------------------------
 アダム:8000LP

 場:オベリスクの巨神兵(攻撃:4000)
   血の代償(永続罠)

 手札3枚
--------------------------------------------

『ボクのターン、ドロー!』(手札3→4枚)
 楽しげにカードを引いたアダムに対して、薫は身構えた。
 今までの常識が通用しないことは分かっている。
 次にどんな戦術が披露されるか、予想がつかない。
『じゃあボクはこのカードを召喚するよ!』
 辺りから溢れだす黒い闇。
 形を持たぬ泥の塊のように浮かび上がったそれは、1つの球体となって場に降臨する。


 邪神アバター 闇属性/星10/攻?/守?
 【悪魔族・効果】
 このカードは特殊召喚できない。
 自分フィールドのモンスター3体をリリースした場合のみ通常召喚できる。
 (1):このカードが召喚に成功した場合に発動する。
 相手ターンで数えて2ターンの間、相手は魔法・罠カードを発動できない。
 (2):このカードの攻撃力・守備力は、「邪神アバター」以外の
 フィールドの攻撃力が一番高いモンスターの攻撃力+100の数値になる。


「っ! それは、召喚させない! 伏せカード発動だよ!!」
 考え得る限り最も場に出されたくないモンスターが出されてしまった。
 アバターが召喚に成功すると、2ターンの間、魔法と罠が使えなくなってしまう。それだけは避けなければいけなかった。


 神の警告
 【カウンター罠】
 2000ライフポイントを払って発動する。
 モンスターを特殊召喚する効果を含む効果モンスターの効果・魔法・罠カードの発動、
 モンスターの召喚・反転召喚・特殊召喚のどれか1つを無効にし破壊する。

 薫:7000→5000LP
 邪神アバター→破壊

『さっきのお返しってわけだ。それとも、さすがの薫さんも神の警告を使わざるを得なかったってことかな? でも……まだ甘いなぁ。血の代償の効果を使ってもう1回、召喚をする!!』
「っ!」
 燃え盛る炎。
 金色に思える火の粉が舞い、巨大な翼と共に黄金の竜が出現する。


 ラーの翼神竜−不死鳥 神属性/星10/攻4000/守4000
 【幻神獣族・効果】
 このカードは通常召喚できず、このカードの効果でのみ特殊召喚できる。
 (1):このカードが墓地に存在し、
 「ラーの翼神竜」がフィールドから自分の墓地へ送られた場合に発動する。
 このカードを特殊召喚する。
 この効果の発動に対して効果は発動できない。
 (2):このカードは他のカードの効果を受けない。
 (3):1000LPを払って発動できる。
 フィールドのモンスター1体を選んで墓地へ送る。
 (4):エンドフェイズに発動する。
 このカードを墓地へ送り、自分の手札・デッキ・墓地から
 「ラーの翼神竜−球体形」1体を召喚条件を無視して特殊召喚する。


「あ…!」
『このカードの存在を失念してたんだね? そりゃあそうだよねぇ……こんなオシリスもオベリスクもラーも……本社じゃなきゃこんな超レアカード置いてないもんね?』
「そのために……本社を襲ったんだね……」
『うん♪ おかげでボクの力を存分に扱えるほどにデッキをカスタマイズ出来たよ♪ 不死鳥の効果発動だ! 効果を2回使って薫さんの場にいるモンスター達を墓地へ送る!』
 黄金の竜が、その灼熱の翼を羽ばたかせる。
 巻き起こる業火に飲み込まれ、薫の場にいるモンスター達は跡形も無く飲み込まれた。

 シューティング・スター・ドラゴン→墓地
 レベル・スティーラー→墓地

 発生した衝撃に耐え、薫は歯を食いしばる。
 シューティング・スター・ドラゴンの無効に出来る効果は、破壊効果だけ。
 直接墓地に送る効果に耐性を持っているわけじゃない。
『これで薫さんの場はがら空きだ! さぁバトルだよ!!』
 間髪入れず、アダムは攻撃宣言をする。
 攻撃力4000を誇るモンスターが2体。これらの攻撃をすべて受ければ、ライフは一気に消し飛んでしまう。
「く……! 手札から"バトル・フェーダー"の効果発動だよ!!」
 たまらず手札からカードを発動した。
 小さな悪魔の持った鐘の音が強く響き渡り、2体の神の攻撃を止める。


 バトルフェーダー 闇属性/星1/攻0/守0
 【悪魔族・効果】
 相手モンスターの直接攻撃宣言時に発動する事ができる。
 このカードを手札から特殊召喚し、バトルフェイズを終了する。
 この効果で特殊召喚したこのカードは、
 フィールド上から離れた場合ゲームから除外される。


『ふふっ、なかなか粘るね♪ メインフェイズ2に不死鳥の効果でバトル・フェーダーを墓地に送るね』
「……バトル・フェーダーは場を離れるとき、ゲームから除外されるよ」
 再び黄金の竜が羽ばたき、薫のモンスターを焼き尽くす。

 バトル・フェーダー→除外

『このターンで決めきれなかったかぁ、ざーんねん♪ カードを1枚伏せてターンエンドだよ♪ そしてエンドフェイズ時に不死鳥は卵に戻っていく。不死鳥を墓地に送ってデッキから"ラーの翼神竜−球体形"を特殊召喚だ』


 ラーの翼神竜−球体形 神属性/星10/攻?/守?
 【幻神獣族・効果】
 このカードは特殊召喚できない。
 このカードを通常召喚する場合、
 自分フィールドのモンスター3体をリリースして自分フィールドに召喚、
 または相手フィールドのモンスター3体をリリースして相手フィールドに召喚しなければならず、
 召喚したこのカードのコントロールは次のターンのエンドフェイズに元々の持ち主に戻る。
 (1):このカードは攻撃できず、相手の攻撃・効果の対象にならない。
 (2):このカードをリリースして発動できる。
 手札・デッキから「ラーの翼神竜」1体を、
 召喚条件を無視し、攻撃力・守備力を4000にして特殊召喚する。


 金色の不死鳥が儚く消えたと思えば、神々しい雰囲気を放つ黄金の球体が現れる。
 その内側からは力強い鼓動が鳴り響き、無音の威圧感を周囲へ撒き散らしていく。

--------------------------------------------
 薫:5000LP

 場:光の世界(フィールド魔法)
   伏せカード1枚(奈落の落とし穴)

 手札1枚
--------------------------------------------
 アダム:8000LP

 場:オベリスクの巨神兵(攻撃:4000)
   ラーの翼神竜−球体形−(攻撃:?)
   血の代償(永続罠)
   伏せカード1枚

 手札1枚
--------------------------------------------

『薫さん、そろそろ諦めたら? この布陣を崩すのは、いくら薫さんでも無理があると思うよ?』
 両手を広げて、アダムは諭すように首を傾げる。
 だが薫は必死に思考を巡らせながら、この戦況を覆す術を探していた。
「私のターン、ドロー!!」(手札1→2枚)
 引いたのは、逆転へとつながるキーカード。
「手札から"貪欲な壺"を発動するよ!!」


 貪欲な壺
 【通常魔法】
 自分の墓地に存在するモンスター5体を選択し、デッキに加えてシャッフルする。
 その後、自分のデッキからカードを2枚ドローする。


「この効果で私は墓地から―――」
『させないよ』
「えっ」


 神の宣告
 【カウンター罠】
 ライフポイントを半分払う。
 魔法・罠の発動、モンスターの召喚・反転召喚・特殊召喚の
 どれか1つを無効にし、それを破壊する。

 貪欲な壺→無効

 だが無慈悲に、冷酷に、アダムはそれを無効にした。
 当然のようにコストを支払うことも無く、最強のカウンター罠によって。
『残念だったね薫さん。きっと薫さんなら、新しくカードを引いて逆転できたんだろうね。それとも、その残っている1枚が本命だったりするのかな…?』
「………私は手札から"サイバー・ドラゴン"を守備表示で特殊召喚するよ」


 サイバー・ドラゴン 光属性/星5/攻撃力2100/守備力1600
 【機械族・効果】
 相手フィールド上にモンスターが存在し、自分フィールド上にモンスターが存在していない場合、
 このカードは手札から特殊召喚する事ができる。


 機械の龍は、その身を丸めて主を守るように現れた。
 2体の神に見下ろされながらも、必死にその声を唸らせて抵抗する。
『壁モンスターにするつもりかな?』
「墓地の"レベル・スティーラー"の効果で、サイバー・ドラゴンのレベルを1つ下げて守備表示で特殊召喚!!」


 レベル・スティーラー 闇属性/星1/攻600/守0
 【昆虫族・効果】
 このカードが墓地に存在する場合、自分フィールド上に表側表示で存在する
 レベル5以上のモンスター1体を選択して発動する。
 選択したモンスターのレベルを1つ下げ、このカードを墓地から特殊召喚する。
 このカードはアドバンス召喚以外のためにはリリースできない。

 サイバー・ドラゴン:レベル5→4

『なるほどなるほど。そうやって時間を稼ぐつもりなんだね?』
「……ターンエンドだよ」

--------------------------------------------
 薫:5000LP

 場:光の世界(フィールド魔法)
   サイバー・ドラゴン(守備:1600)
   レベル・スティーラー(守備:0)
   伏せカード1枚(奈落の落とし穴)

 手札0枚
--------------------------------------------
 アダム:8000LP

 場:オベリスクの巨神兵(攻撃:4000)
   ラーの翼神竜−球体形−(攻撃:?)
   血の代償(永続罠)

 手札1枚
--------------------------------------------

『ボクのターン、ドロー!』(手札1→2枚)
 圧倒的に不利な状況でも、薫は諦めない。
 確かに絶対的な力を誇っているが、付け入る隙が無い訳じゃない。
 このターンさえ凌ぎ切れれば、まだ可能性はある。
『ボクは球体形の効果発動!! デッキから"ラーの翼神竜"を攻守4000にして特殊召喚する!!』
「また…!」
 場に君臨する球体が光り輝くと同時、その隣に黄金の翼を羽ばたかせる竜が現れた。


 ラーの翼神竜 神属性/星10/攻?/守?
 【幻神獣族・効果】
 このカードは特殊召喚できない。
 このカードを通常召喚する場合、自分フィールド上の
 モンスター3体をリリースして召喚しなければならない。
 このカードの召喚は無効化されない。
 このカードが召喚に成功した時、このカード以外の魔法・罠・効果モンスターの効果は発動できない。
 このカードが召喚に成功した時、ライフポイントを100ポイントになるように払う事で、
 このカードの攻撃力・守備力は払った数値分アップする。
 また、1000ライフポイントを払う事でフィールド上のモンスター1体を選択して破壊する。

 ラーの翼神竜:攻撃力?→4000 守備力?→4000

「球体形が……場から消えていない……!?」
 本来なら発動コストとして、球体形はリリースされていなければならないはずだった。
 だが球体は依然として場に君臨し、圧倒的な存在感を放っている。
『やだなぁ。薫さんならこれくらい予想済みでしょ?』
「っ…! 伏せカード"奈落の落とし穴"!!」


 奈落の落とし穴
 【通常罠】
 相手が攻撃力1500以上のモンスターを
 召喚・反転召喚・特殊召喚した時に発動する事ができる。
 そのモンスターを破壊しゲームから除外する。


「そのラーは特殊召喚された……召喚時に発動する魔法・罠封殺の効果は使えない!」
『ふふ♪ 最初のターンからずっと伏せられていたカードはそれだったんだ。三幻神ばかり出てくるから、発動する機会が無かったんだね』
 現れた黄金の竜を、巨大な穴が飲み込んでいく。
 これで倒した神はオシリス、アバタ―、ラーの3体。
 三幻神、三邪神などのカードはかなりのレアレティであるため、手に入れられることは滅多にない。誰かが独占できないように、本社では現在それらを制限カードとして扱っている。
 今までアダムは、下級モンスターや他の上級モンスターを見せていない。
 もしメインモンスターが最上級モンスターで構成されているならば、それらすべてを倒してからなら反撃が出来るはずだ。
『ここまで粘られるとは思っていなかったなぁ……仕方ないか。"血の代償"の効果発動だよ』
 ドローフェイズを経て、2枚になった手札。
 アダムはそれらを一気にデュエルディスクに叩きつけた。


 降雷皇ハモン 光属性/星10/攻4000/守4000
 【雷族・効果】
 このカードは通常召喚できない。
 自分フィールドの表側表示の永続魔法カード3枚を墓地へ送った場合のみ特殊召喚できる。
 (1):このカードがモンスターゾーンに守備表示で存在する限り、
 相手は他のモンスターを攻撃対象に選択できない。
 (2):このカードが戦闘で相手モンスターを破壊し墓地へ送った場合に発動する。
 相手に1000ダメージを与える。


 幻魔皇ラビエル 闇属性/星10/攻4000/守4000
 【悪魔族・効果】
 このカードは通常召喚できない。
 自分フィールド上に存在する悪魔族モンスター3体を
 リリースした場合のみ特殊召喚する事ができる。
 相手がモンスターを召喚する度に自分フィールド上に「幻魔トークン」
 (悪魔族・闇・星1・攻/守1000)を1体特殊召喚する。
 このトークンは攻撃宣言を行う事ができない。
 1ターンに1度だけ、自分フィールド上のモンスター1体をリリースする事で、
 このターンのエンドフェイズ時までこのカードの攻撃力は
 リリースしたモンスターの元々の攻撃力分アップする。


「な、なによ、それ…!?」
 後ろで見ている香奈の声。
 薫は歯を食いしばりながら、並び立つ大型のモンスターを見た。
 そのどれもが、本来なら容易に召喚することのできないモンスターばかりだった。
 そして確信する。アダムの”力”と、その凶悪性について。
『これで終わりだね♪ ハモンでサイバー・ドラゴンに攻撃!!』
 黄金の翼を羽ばたかせた幻魔が、その口から膨大な光を吐き出した。
 必死に守備体制を取る機械の龍を、跡形も無く消し去った。
『ハモンで戦闘破壊したことで、薫さんに1000ポイントのダメージだよ』

 サイバー・ドラゴン→破壊
 薫:5000→4000LP

「ぅ…ぁぁ…!!」
 発生する衝撃とダメージによって、薫の身体が揺れる。
『更にラビエルでレベル・スティーラーを攻撃!!』
 幻魔の拳が、テントウムシ型のモンスターを叩き潰す。

 レベル・スティーラー→破壊

 フィールド上のモンスターが全滅する。
 薫は墓地にある"グローアップ・バルブ"を見た。
 もしさっきのターン、これを召喚していたら………。
「か、薫さん…!」
 呼びかける真奈美の声が震えていた。
 薫には手札もカードも無く、アダムの場にはまだ攻撃宣言をしていない攻撃力4000のモンスターが1体。
 今から行われるであろう攻撃を、防ぐ方法は……ない。

『今まで本当にお疲れ様。それじゃあ、バイバイ♪』

 オベリスクの巨大な拳が振り下ろされる。
 その光景を、全員が黙って見ていることしかできない。
「薫!!」
 咄嗟に叫ぶ声。佐助の声だった。
「佐助さん……みんな……」


 ――ごめん、勝てなかった――


 その言葉と涙を零すと同時に、オベリスクの拳が直撃した。



 薫:4000→0LP





 薫のライフが0になる。



 そして決闘は、終了した。




-------------------------------------------------------------------------------------------------------



「薫!」
「薫さん!!」
 全員が一斉に、彼女へ駆け寄ろうとした。
 だが、アダムから放たれた闇がそれよりも早く、意識を失った彼女を呑みこんでいった。
『さてさて、薫さんは倒したし、次は誰から消していこうかな?』
「………!!」
 アダムの無邪気で不気味な瞳がこっちを向く。
 凄まじい決闘を目の当たりにした俺達は、その場から動けずにいた。
 あの薫さんが、手も足も出ずにやられてしまった……その事実が、俺達に深い絶望を与えていた。
 もし薫さんが少しでもダメージを与えられていたら少しは心境が変わっていたのかもしれない。だがアダムは一切のダメージを受けていない。それほどまでに圧倒的な戦いだった。
『やっぱり順番的に伊月さんかな? それとも中岸君かな? あ、でもそうすると朝山さんが悲しむから朝山さんから消していこうかな?』
「っ!」
 反射的に香奈の前に立ち塞がる。
 体が勝手に動いただけだった。どうこうしようなんて考えられるほどの余裕は無かった。
『よし決めた! まず――――っ!!』


 ドゴォッ!!!


 キャノン砲が撃ちだされたかのような轟音が響いた。
 アダムがものすごい勢いで吹き飛ばされ、近くの壁を突き破って視界から消える。
「しっかりしろ!!」
「……!」
 佐助さんの声だった。
 その髪は白く染まり、瞳の色はコロンと同じエメラルドグリーンになっている。
 これが……香奈の言っていた……『ユニゾン』ってやつか?
「伊月。プランBだ。内容は分かっているな?」
「っ! さ、佐助さん……!」
「俺の作戦にケチをつけるつもりか?」
「……分かりました。ご武運を」
 そう言って伊月が佐助さんへと背を向けた。
 その表情から、何かを覚悟していることが見て取れる。
「プランBってなんですか?」
「万が一、薫さんが敗北してしまった時のための作戦ですよ。佐助さんとコロンによる実力行使。決闘で勝てないことが分かった以上、武力に物を言わせて倒してしまおうというわけです」
「じゃ、じゃあ私も加勢を……!」
「いいえ。この状況では僕も真奈美さんも援護したところで邪魔になるだけです。ここは佐助さんに任せて戦いの邪魔にならないところへ避難するのが最善の行動ですよ。さぁ脱出しますよ!!」
 伊月の先導でみんなが避難を開始する。
 さっきの衝撃のせいだろうか、エレベーターは使えないため非常階段を使って降りることにする。
 武田と吉野の先導のもと、香奈と本城さんが先に脱出を始めた。

「大助……雲井……」

 佐助さんは俺達へ背を向けて、アダムが飛ばされた方向を警戒していた。
 最後に避難しようとする俺達に、彼は背を向けたまま言い放つ。


「……俺達が守れなかった世界は……お前らに託したぞ」


「っ!!」
「さぁ、分かったら行け。戦いの邪魔だ」
「っ……雲井、行くぞ!」
「あ、ああ!」
 歯を食いしばって、走る。
 雲井は気づいていないようだが、今の言葉で察してしまった。



 このプランBという作戦の………『本当の目的』を。




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 大助たち全員がこの場から避難したことを確認し、佐助は小さく息を吐いた。
 崩れた壁から意識を逸らさず、先程アダムを殴った右手を確認する。
「ちっ」
 骨が砕けていた。少しでも動かそうとするだけで激痛が走る。
 アダムに何かされたわけじゃない。
 単純な話だ。普通の人間が鋼鉄を殴れば硬度の差によって殴った方の骨が折れる。
 規模が違えど、それとまったく同じことが佐助とアダムの間で起きていたのだ。
(全力で殴ったんだが……骨がイったか……。かなり硬いな)
 鋼鉄も貫けるはずのユニゾン状態の拳を、白夜の力で回復させる。
 ユニゾン状態の一撃でも、おそらく相手にはほとんどダメージが与えられていないだろう。
 薫がやられ、肉弾による戦闘でも勝ち目が見えないこの状況で、自分が下すべき判断は……1つしかない。

『びっくりしたなぁ。びっくりしてうっかり隣のビルまで吹き飛ばされちゃったよ』

 崩れた壁の向こうから、アダムが姿を現した。
 纏う漆黒の布にすら傷がついていない。
 予想していた通り、ダメージがあるようには見えなかった。
『ボクが言うのもアレかもしれないけど、そうやってなんでも暴力に訴えるのは良くないと思うな? それともあれかな? 薫さんがやられちゃって怒ってるのかな?』
「……黙れ。その口を閉じろ」
 自分の口から溢れ出た言葉に、佐助自身が驚いてしまった。
 胸の奥で煮え滾る熱が、自然と全身に力をみなぎらせる。
 佐助は拳を構えてアダムを見据える。内側にいるコロンも全神経を集中して戦う態勢になっていた。

 この状況下ですべきこと……それはプランBの実行。
 そしてプランBとは、伊月が言っていた『実力行使によってアダムを倒す』ことではない。

 この作戦の本当の目的は……『スターが死力を尽くして、大助たちを逃がすこと』だ。
 アダムは遊戯王で戦うことが、一番の対抗手段。
 合宿でイブの言っていたことはおそらく本当なのだろう。
 最高戦力だった薫が敗れた今、薫と同等の……いや、それ以上の決闘者になる可能性を秘めた彼らを逃がすことが最優先事項だった。

 つまりこれからする戦いは、単なる時間稼ぎ。
 だが死力を尽くさなければならない。一分、一秒、一瞬でも、未来の希望を繋ぐための時間を稼がなければならないのだから。

『あはは、まさか喧嘩でボクを倒すつもり? 大助君達の前だからって格好よくキメてもらったところ悪いけど、それは無理な話だね』
「お前が、負けないから……とでも言う気か?」
『さすが佐助さん。よく分かってるじゃない。それなら、君が今どれだけ無駄なことをしているのかってことも分かるよね?』
「……ふっ、最悪の人災というわりに、分からないんだな。いや、そういう存在だからこそ分からないだけか」
『どういうことかな?』
「心配するな。いずれすぐに分かる。お前が散々利用してきたあいつらの刃は、必ずお前の心臓に届くからな」
『……遺言は、それだけかい?』
「じゃあもう一つ言わせてもらおうか?」
『なんだい?』
「覚悟しろよ、最悪の人災……!!」
 その捨て台詞と共に、佐助は前へ出た。
 一瞬でアダムとの距離を詰め、心臓の位置へ全力の一撃を叩き込む。
 今度は打撃の瞬間に拳に力を集中させたため、骨は折れずに済んだ。
『あはは♪ ボクと遊びたいならそう言ってくれればいいのに』
「っ!」
 全力の一撃を受けて、アダムは笑顔で返事をした。
 攻撃力強化の一点集中ですらダメージが入っていない。
 その事実を重く受け止めつつ平静を装った。
「あいにくこっちは、お前を倒すつもりだがな」
『そうなの? じゃあボクが遊んでいるうちに倒せるといいね♪』
 佐助が退くと同時に、アダムが右腕を横に振った。
 反射的にしゃがみ込む。
 その背にあった壁が切り裂かれていた。
『へぇ避けたんだ。さすがだなぁ。普通の人だったら気づかないで斬られちゃっていたはずなのに』
「っ!」
 屋内での戦闘はまずいと感じ、佐助は全速力をもってアダムに掴みかかる。
 そのままの勢いで崩れた壁を抜け、屋外へ飛び出した。
『わぉ♪ 空中戦かぁ。いいよいいよ。空中戦ってあんまりやったことがないから楽しみだなぁ♪』
「楽しめる余裕があればな!!」
 二つのビルの間。その空間内に佐助は無数の透明なブロックを展開する。
 以前、星花高校で山中と戦ったときに見せた『空を駆ける足場』だ。
 足元のブロックを蹴り、宙へ浮かぶアダムへ突進する。
『あはは♪』
 反撃するように腕を振るアダム。
 佐助はすぐさまブロックを蹴って方向転換し、アダムの周囲を高速で駆け回る。
 そして死角となる位置から攻撃を加え、すぐさま一定距離を保つ。
(佐助! なんで連続で攻撃しないの!?)
「連続で攻撃して、アダムに捕まったらアウトだ。さっき繰り出された刃はまともに喰らったんじゃ受けきれない」
(でもこのままじゃこっちの白夜の力が尽きちゃうよ!)
「ああ。だから一定距離を保って攻撃しつつ、相手の隙を――――っ!?」

 視界から、アダムが消えた。

『こっちだよ♪』
「っ!?」
 振り向きざまにアダムの拳がわき腹に直撃した。
 肋骨が何本も折れる音がして、同時にビルの壁に叩き付けられる。
「が……はっ…!?」
(佐助!)
 コロンがすぐに傷を修復するが、すぐに動けるようにはならない。
 その隙をついて、アダムが佐助の周囲に無数の黒い槍を展開した。
『避けれるかなぁ? それ♪』
 周囲に展開する槍が一斉に佐助の元へ放たれる。
 避けようとは思わなかった。そもそも避けられないと判断した。
 両腕を前に組んで、全速力で前へ出る。
 槍の何本かが腕に刺さり、体を掠ったが展開された槍の量から判断すればかなりの軽傷で済んだ。
 下手に避けようとしたり防御しようとすればこれ以上の負傷を負っていただろう。
『すごいすごい♪』
 手をパチパチと叩くアダムを見据えながら、佐助は自身の腕に刺さった槍を抜く。
 その傷はすぐに癒されるが、呼吸は乱れ、大量の汗が全身から噴き出していた。
「はぁ…はぁ…はぁ…!」
 疲労の色を隠せないながらも、佐助は冷静だった。
 今までの戦いから、相手の能力と自分の能力を比較する。
(防御力も、スピードも、パワーも、すべて相手の方が上。しかもレベルが桁外れ……か。白夜の力を使った攻撃に関しても……間違いなく相手の闇の力の方が勝っているから意味がない……薫のようにリミッター解除を使う手もあるが、それを踏まえてもアダムの力の方が遥かに勝っている……か……)
 思わず力ない笑みが浮かんでしまった。
 どの要素をとっても勝てる可能性がない。
 コロンも頑張ってサポートしてくれてはいるが、ここまで連続で白夜の力を消費させられては、もってあと5分と言うところだろう。

『もう終わり? ボク、まだ本気の1%もだしていないんだけど?』

「…………」
 さらに絶望的な言葉を叩き付けられた。
 ここまでの実力差があるにも関わらず、相手は本気を出していない。少なく見積もっても、あと100倍以上の戦闘力が発揮できるほどの余裕がある。
「まいった……な……」
 どうしようもない状況に追い込まれたとき、笑うことしかできないというのは本当の事らしい。
 心のどこかでは、少しくらいなら対抗できるのではないかと思っていた。
 だがその考えがいかに甘かったかを、この場で思い知らされた気がした。
『諦めてくれると嬉しいな佐助さん。さすがにボクも、弱い者いじめは好きじゃないんだよ?』
「ふん……まだまだ、これからだろう……?」
『残念だけど、飽きちゃった』
 次の瞬間、アダムが目の前にいた。
 咄嗟に両腕を組んで防御の態勢を取る。
 かざされた掌から、膨大な闇のエネルギーが放出された。
 そのエネルギー波に飲み込まれ、佐助はビルの中まで吹き飛ばされた。


「ぐっ……がふっ……っ!」
 吹き飛ばされたビルの柱。
 もたれかかりながら、佐助は口から血を吐き出した。
 たった1撃で、全身がボロボロになっていた。なんとか呼吸は出来るようだが、全身の骨に異常を感じた。
 立つことすらままならず、かろうじて右腕が動かせる程度だった。
「コ……ロン……無事か……?」
(う、うん。でも、もう白夜の力が……! 佐助の傷を治したらユニゾン解除しなきゃいけなくなっちゃう!)

「そう……か……なら……もう傷は……治さなくて……いい」

(え!?)
「コロン……俺は……ここまでだ。お前だけ……この場から……脱出……しろ……」
(……やだよ! 佐助! 一緒に戦うって言ったじゃん! 最後まで戦おうよ!)
「悪い……な……。無駄な……戦いは……しない主義………なんだ………。もうすぐ……アダムが……トドメを刺しにくる……その前に………!」
(やだ! やだやだやだ!! 絶対にやだ!!)
 コロンが駄々をこねると共に、佐助によってユニゾンが強制解除される。
 妖精姿のコロンが、瞳に涙を浮かべながら現れていた。
『見捨てることなんてできないよ! だって、佐助、パートナーなのに……!』
「お前は……本当に………薫みたいなことを……言うんだな……」
 残された力を振り絞り、何とか動く右腕を動かして、佐助はコロンの頭を優しく撫でた。
 こんな小さな体で、自分と一緒に戦ってくれたパートナーを、誇りに思った。
「俺には……大切なものなんて……無いと思っていた……。だが失って……気づいた。薫もお前も……俺にとって……がふっ!」 
『さ、佐助!』
「だから……コロン……せめてお前だけでも……逃げてくれ………お前まで……目の前で失ったら……俺は………」
『…………』
 優しく、そして儚く笑う佐助を見て、コロンは自身の瞳に流れるものをぬぐった。
 必死で歯を食いしばり、鼻をすすり、精一杯の笑顔を向ける。
『っ……分かった…ぅ…それが佐助の望みなら……ぐすっ……そうするよ!』
「ああ……ありがとう」
『いつもコーヒーしか飲んでなくて、パソコンしかしてなくて、そのくせ喧嘩が強くて、薫ちゃんの事、はっきりさせないままで……私に見捨てろなんて言うし……そんな佐助なんて、こっちから見捨ててあげるよ!!』
「そうしてくれ……」
『でも……!』
「?」
 コロンの体が、瞬間移動するために発光する。
 泣きじゃくる顔を佐助に向け、たった一言。

『でも……そんな佐助が、大好きっ……!!』

「……あぁ、俺もだ」
 互いに、その”好き”の意味がパートナーとしての”好き”だと分かっていた。
 言葉にしなくても分かりきっていたことだった。
 それでも……こうして言葉にして、伝えておきたいことだった。
『絶対、仇はとるからね!!』
「ああ。頼む」
 コロンの体から眩い光が放たれて、彼女はその場から姿を消した。
 きっと、大助たちと合流しているだろう。
 あとは……すべてあいつらに……任せるしかない。


『あれ? ユニゾン解除しちゃったの?』


 アダムが現れ、見下ろしてきた。
 悔し紛れの言葉すら、思いつかなかった。
『何か言い残すことはある? もし良かったら他の人に伝えてあげるよ?』
「……………」
『あらら、気を失っちゃったか。まぁいいか♪ どうせみんな消しちゃうんだしね♪』
 アダムが掌をかざす。
 消え行く意識の中で、佐助はどこか安らかな気持ちに包まれていた。

(……何かを託すというのも……それほど悪いものではない……か……)



 そして、漆黒の闇が佐助を飲み込んだ。





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 伊月がみんなを誘導しながらビルからの脱出を図る。
 佐助さんが全力で戦っているせいか、上の階から激しい振動が伝わってくる。
「落ち着いて、迅速に行動してください」
 伊月の指示に従って動くものの、ビル全体を襲う激しい揺れがそれを困難にしていた。
 俺と雲井は列の最後尾にいて、後ろから誰かが追いついてきていないか意識を集中している。
「佐助さん、大丈夫かよ?」
 階段を下りながら尋ねてきた雲井。
 俺は静かに拳を握りながら、平静を装いながら答える。
「……今は信じるしかないだろ」
「ああ」

「大助君、雲井君」

 伊月が呼びかけてきた。
 いつの間にか、みんなとの距離が離れていたらしい。
「2人とも急いでください。このビル自体が長くもちそうにありません」
「っ、はい!」
 急いで階段を駆け下りる。
 せっかくの佐助さんの頑張りを、無駄にすることはできない。


『伊月君!』

「「「っ!」」」
 幼い女の子のような声。
 壊れた窓から、コロンがやってきていた。
「コロン!? なんでここに……!?」
「ま、まさか……!」
『………………』
 赤く腫れた瞳とその沈黙で、俺達はすべてを察してしまった。
 伊月は少しだけ顔を伏せた後、コロンに真剣な眼差しを向ける。
「よく時間を稼いでくれました。あなたたちの頑張りは無駄にはしません。この先に香奈さん達がいます。行って先導してあげてください」
『伊月君は……?』
「おやおや、それを聞くのは野暮というものですよ」
 伊月は爽やかな笑みを浮かべ、そう言った。
 隣にいた雲井が、突っかかる。
「ちょっ、待てよ! まさか……!」
「大助君、雲井君を連れて先にいる香奈さん達と合流してください。あとのことはコロンに任せます」
「待てって言ってんだろうが!!」
雲井!!!
 大声で叫ぶ。
 これ以上、黙っていることができそうになかった。
「な、中岸!」
「行こう。みんなが待ってる」
「てめぇ、佐助さん達を見捨てんのかよ! 冗談じゃねぇぞ!」
 掴みかかってきた雲井の腕を逆に掴み、そのまま壁際に押し付ける。
 勢い余って叩き付けるような感じになってしまったが、俺も感情を抑えるのに必死で気にしていられなかった。

「まだ分からないのか!? 佐助さんも伊月も、俺達を逃がすために戦ってくれてるんだ!!」

「っ!!」
「薫さんが負けて、スター以外で戦えるのは俺達だけだ!! ここで全滅したら、終わりなんだぞ!!」
 嘘だ。
 本当は、怖かった。
 訳の分からない力で戦いを挑んでくるアダムから、一刻も早く逃げたいだけだ。
「けど、全員で戦えば――――」
「ふ、ふざけるな!! アダムは薫さんが相手でも1ポイントのダメージも受けなかったんだぞ!! しかもアダムは上級モンスターをなぜかリリースなしで場に出している! 闇の世界を使っていないのにだ!! 魔法や罠のコストだって無視してる!! そんな奴が相手なのに、何の策も無しに戦ってもやられるだけだ!!」
 吐き出す言葉に、自分の恐怖が滲んでいるようだった。
 分かってる。分かっているはずなのに……言葉が止まらない。
「全員で戦えばなんとかなるだって!? 闇雲に戦って勝てるなら、苦労しないだろ!!」
「中岸……お前……」
「大助君の言うとおりです」
 伊月が2枚のカードをかざすと同時に、その両手に銃が握られていた。
 間違いない。伊月は1人でここに残って、アダムの足止めをするつもりだ。
「本当は一般人である君たちに頼むわけにはいかないのですが……状況が状況です。あとのことは任せましたよ」
「っ、分かったぜ! あとはまかせやがれ!!」
 雲井の歯ぎしりがここまで聞こえてきた。
 よほど、この状況をどうにかできないことが悔しかったのだろう。
「いくぜ中岸!!」
「……ああ!」
 溢れ出そうになる感情を抑えながら、俺と雲井は伊月を置いて階段を駆け下りた。



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『伊月君……』
「おやおや、コロンも早く行ってください。佐助さんに、大助君達をサポートするように言われたのでしょう?」
『でも、でも…!』
「いいから、早く」
『っ! 無茶しないでよ!?』
「おやおや、1つ誤解していませんか?」
『え?』
 首を傾げるコロンに、伊月はいつものような爽やかな笑みを向けてこういった。

「時間稼ぎをするのはもちろんですが……別に、アダムを倒してしまっても構わないのでしょう?」

『……勝算あるの?』
「ええ。いい考えがあります。この戦いが終わったら麗花とビールを飲む約束をしていますし、ここは僕に任せてください。なに、すぐに追いつきますよ」
『……伊月君、真面目に言ってるのかもしれないけど、それフラグだよ?』
「おやおや、フラグは折るために存在していると思いますが?」
 コロンが小さく溜息をついて、この場から姿を消した。
 伊月はさっきまで降りていた階段を上がりながら、銃を握る手に力を込めた。




「こんなことになるなら……麗花ともう少し話しておけばよかったですね」





 ビルの10階に位置する場所で伊月は大きく息を吐き出した。
 全神経を集中させて、白夜の力で自身の体を覆う。薫やユニゾン状態の佐助が行う、白夜の力による身体強化だ。
 もっとも伊月の場合は2人と違い、運動神経の強化よりも視覚、聴覚など、空間把握用の感覚神経の強化に重点を置いている。
 伊月は戦闘において銃しか使わない。なので他の2人と違って機動力のみの強化をすればたいして支障はない。本来なら攻撃力やその他に使うべき分の力を感覚神経に使うことが出来る。
 神経が敏感になり、少しだけ世界がゆっくりに感じた。
(来ましたね)
 窓の外。誰もいない空間に向けて、伊月は引き金を引いた。
 放たれた10発近くの弾丸が空を飛ぶアダムに直撃した。
「これくらいでダメージがあるとは思えませんね」
 追撃としてさらに100発の弾丸を撃ち込む。
 それらすべてがアダムに直撃し、巨大な爆発を引き起こした。

『びっくりしたなぁ。階段下りるのが面倒だから外を飛んでたのに、ビルの中から急に攻撃されるんだもん』

 爆発による煙の中から、アダムが姿を現した。
 その体どころか、衣服にすら傷がついていない。
(なるほど。佐助さんでも勝てない訳ですね)
 とても冷静に、伊月は相手の戦闘力を感じた。
 そもそも、実力行使によってアダムを倒せるなんて伊月は微塵も思っていない。
 佐助が敗れた時点で、アダムに対しての実力行使は無駄だということが分かっていたからだ。
「そんなに驚いてくれたなら嬉しい限りですね」
『これは佐助さんにも言ったんだけど、あんまり暴力に頼るのは良くないと思うな? ボク達は言語を通じて意思を疎通することができるんだから話し合いで解決するならそれに越したことは無いと思わない?』
「では一応聞いてみましょうか? おとなしくこの世界から手を引いてただの機関に戻っていただけませんか?」
『丁重にお断りするね。ボクはこの世界を消してイブと一緒に暮らすっていう大切な夢があるんだ♪』
「おやおや、交渉決裂ですね」
 爽やかな笑みを浮かべると同時に、伊月は引き金を引いた。
 アダムは首を傾けてそれをひょいと躱す。
「……………」
『そうやって不意を突くのも感心しないなぁ。スターは正義の味方なんだから、やるなら正々堂々戦うべきだと思わない?』
「それもそうですね」
 軽く笑みを返すと、伊月は何もない空間内に無数の弾丸を放った。
 放った先に漆黒の刃が現れ、弾丸がそれらを的確に打ち抜いた。
『わぁ。凄いね。闇の力を微かな気配を察して、刃が出現すると同時にそれらを撃ちぬくなんて』
「……不意打ちは卑怯だったのではないですか?」
『ボクはほら、正義の味方じゃないから問題ないんだよ♪ それにしても、本当に凄いね伊月さん。ここまでの空間把握能力に特化した相手は初めてだよ♪』
「褒めても何も出ませんよ?」
『出るさ。君の血がね♪』
「っ!?」
 伊月の肩を熱い痛みが襲った。
 左肩を、漆黒の槍が貫いていた。
「いったい……何を……?」
『簡単だよ。君は外部の気配をすべて察することが出来る。それなら君の体の内部に直接刃を形成すればいいだけの話だからね♪ もちろん白夜の力で防御を高めればそれは出来なくなるけど、単純な話で君の空間把握能力に勝る密度の攻撃をすればいいだけだし、仮にすべて把握されても君が防げない攻撃をすれば何の問題もないよね』
「…………」
 伊月は槍を引き抜き、すぐさま傷を癒した。
 そして銃をおろし、大きく溜息をつく。
(なるほど。これは………勝てませんね……)
『あれ? 武器を下ろしたってことは、負けを認めたってことでいいのかな?』
「いえいえとんでもない。あなたの言うことを実践しようと思っただけですよ」
『んー?』
 伊月はウエストポーチから辞書型のデュエルディスクを取り出し、変形させる。
 デッキケースからデッキから取り出し、セットした。

「正義の味方らしく、正面堂々あなたに挑むとしましょう」

『へー、薫さんでも勝てなかったボクと、どうして戦おうと思うのかなぁ?』
「おやおや、たしかに僕の実力は薫さんに劣るでしょう。ですが、僕達のリーダーが守ろうとし、僕達の参謀が希望を託したものを傷つけると言うのなら、英雄でない僕でも放っておくわけにはいきませんね」
『ふーん、じゃあお望み通り、薫さんと同じところに送ってあげるね♪』



『「決闘!!」』



 伊月:8000LP   アダム:8000LP




 決闘が、始まった。
 同時にアダムから溢れだす闇の波動。その威圧感を全身で感じながら伊月は震える膝に力を入れる。


 伊月のデュエルディスクが点灯する。先攻は彼からだ。
「僕のターン、ドロー!」(手札5→6枚)
 手札を眺め自分が取るべき戦術を考える。
 さっきまでの薫との決闘を見ていれば、アダムのデッキが上級モンスターで構成されていることは分かった。
 さらには闇の世界を発動しないことからも、薫が相手だから意図的に発動しなかった、ということは考えにくい。
(……考えても無駄かもしれませんね。ならば僕に出来る戦術は一つ)
「デッキワンサーチシステムを使いますよ」(手札6→7枚)
 デュエルディスクの青いボタンを押して、伊月はデッキからカードを手札に加える。
『あはは♪ 最初のターンから全力ってわけだね、じゃあボクもルールによってデッキからカードを引くよ♪』(手札5→6枚)
「お好きにどうぞ。デッキワンカード"堕天使の楽園"を発動します!」


 堕天使の楽園
 【永続魔法・デッキワン】
 ライフポイントを回復する効果をもつカードが15枚以上入っているデッキにのみ入れることができる。
 お互いのプレイヤーは自分のスタンバイフェイズ時に、手札1枚につき500ライフポイント回復する。
 1ターンに1度、デッキ、または墓地から「堕天使」または「シモッチ」と
 名のつくカード1枚を手札に加えることが出来る。
 このカードが破壊されるとき、1000ライフポイントを払うことでその破壊を無効にする。


 フィールドに赤い海が広がり、辺りを黒い羽根が舞い散っていく。
 不気味に場を彩る楽園の中心で、伊月は静かにアダムを見据えた。
「"堕天使の楽園"の効果でデッキから"堕天使ナース−レフィキュル"をサーチ。そしてそのまま召喚します」
 全身を包帯で包まれた女性型のモンスターが現れる。
 手に持った大きな注射器の先端を相手に向けて、看護師は不気味に微笑んだ。


 堕天使ナース−レフィキュル 闇属性/星4/攻1400/守600
 【天使族・効果】
 このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、相手のライフポイントが回復する効果は、
 相手のライフポイントにダメージを与える効果になる。


「そしてカードを3枚伏せて、ターンエンドです」

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 伊月:8000LP

 場:堕天使ナース−レフィキュル(攻撃:1400)
   堕天使の楽園(永続魔法・デッキワン)
   伏せカード3枚

 手札3枚
--------------------------------------------
 アダム:8000LP

 場:なし

 手札6枚
--------------------------------------------

『ボクのターン! ドロー!』(手札6→7枚)
 楽しそうに笑いながら、アダムはカードを引く。
 間髪入れず、伊月は伏せカードを発動した。
「あなたのドローフェイズ時、"マインド・クラッシュ"を発動します。宣言カードは"ハネワタ"です」


 マインドクラッシュ
 【通常罠】
 カード名を1つ宣言して発動する。
 宣言したカードが相手の手札にある場合、相手はそのカードを全て墓地へ捨てる。
 宣言したカードが相手の手札に無い場合、自分は手札をランダムに1枚捨てる。


『……はーい』
 アダムはしぶしぶ手札を見せた。

 【アダムの手札】
 ・ハネクリボー
 ・オシリスの天空竜
 ・ラーの翼神竜
 ・オベリスクの巨神兵
 ・二重召喚
 ・レインボーライフ
 ・ガーディアン・エアトス

「おやおや、外れですね。僕は手札の"ネクロ・ガードナー"を捨てましょう」
『……伊月さん、ビーピングは相手に嫌われる戦術だよ?』
「おやおや、そんなことを気にしている暇はありませんよ? スタンバイフェイズに"堕天使の楽園"の効果が発動します。それにチェーンして"ギフトカード"を2枚発動。合計9500ポイントの回復をダメージに変換して終わりです!」


 ギフトカード
 【通常罠】
 相手は3000ライフポイント回復する。


 連続して発動された回復カード。
 伊月の場から、アダムへ向けて無数の赤い光が放たれた。

 アダムのやっていることが分からない以上、何かされる前に倒すしかない。
 たしかに伊月は実力では薫に劣るかもしれないが、限定的状況下なら薫を超える火力を発揮できるのが彼のデッキだ。

『うわぁ………それは防げないなぁ』

 数秒後、放たれたすべての光がアダムへと襲い掛かった。



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 階段を下りながら、俺と雲井とコロンは香奈たちと合流した。
 吉野と武田が俺達の姿を確認するや否や、何も言わずに先導を再開する。
 あの二人はもう何があったのかを察しているようだった。
「大助……伊月は…?」
「…………」
「そんな、どうして……」
「ごめん香奈。今は……何も言わないでくれ……」
「………ごめん」
 視界の端で、香奈が表情を俯かせた。
 こんなときに何も出来ない自分の無力さが辛い。
「中岸……」
「雲井も、さっきはごめん……」
「いや、別に気にしてねぇよ」
「……ありがとう」



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『ふぅ、危ない危ない♪』


 伊月:0LP


 決闘は終了していた。
 アダムがデュエルディスクとデッキを仕舞う傍らで、伊月は全身を漆黒の十字架に貫かれていた。
「っ……ぁ……!」
『さすがのボクもヒヤッとしたよ。でも残念だったね。君の刃はボクには届かなかったみたいだ♪』
 漆黒の布を靡かせて、アダムは倒れ伏す伊月へ歩み寄る。
 ぼやける視界の中、伊月は静かに絶望していた。
「なる……ほど……すべ、て……合点が、いき……ました……」
『えへへ♪ ざーんねんでしたー♪』
「おやおや、あなたは……理解していないようですね」
『なにが?』
「人間というのは………誰かに想いを託すことが出来る………。そして……あなたが一番よく分かっている……人の想いには力がある」
『…………』
「僕達の………想いは、どんなことが起きようと………いつか必ず、あなたの前に強大な壁として立ち塞がる………」
『それは面白いね。そんな日が来ることを楽しみにしてるよ♪』
 アダムは笑みを絶やさぬまま、掌をかざした。
 薄れいく意識の中で、伊月は静かに目を閉じた。

(あとは……弟子である君に……任せましたよ……)

 そして、漆黒の闇が伊月を飲み込んだ。




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 本社一階。
 全員が息を切らしながら、出口へ向かっていた。
「武田! あなたは先に行って車の用意をしなさい!」
「吉野! お前はどうするんだ!?」
「私にはやることがあります。すぐに追いつきますから先に行きなさい!!」
 先導する吉野の指示に、武田は素直に従った。
 悔しいが危機的対処能力は彼女が上だからだ。
「武田、あとこれをあなたに」
 後ろにいる大助たちに見えないように、吉野はポケットから1枚の封筒を取り出した。
「これは?」
「キーが無くてもエンジンをかける方法。あとは執事としてのノウハウが書かれています」
「……っ! お前―――」
「勘違いしないで。万が一の時のためよ。あと10分経っても私が戻らなかったら発進しなさい」
「吉野!!」
「無駄口は叩くな。今は薫たちの意志を尊重することだけを考えなさい」
 すべてを射抜くような強い視線。
 こうなったときの彼女を説得するのは至難の業だという事を、武田は知っていた。
 自分の無力さをはがゆく思いつつも、封筒を受けとり武田は駐車場へ向かった。




 武田達と別れた吉野は、一人で遊戯王本社の地下へ赴いていた。
 その思惑はたった一つ。

 アダムの能力を暴くことだ。

 このままただ逃げたところで、アダムのやっていることを解析できなければ敗北は必至。傍から見ても何を行われているかは判断が出来なかったが、せめてその決闘記録だけでも送ることが出来たなら……。
(決闘のデータのほとんどは本社のデータベースに保存されているはず。せめて薫の決闘の記録だけでも抽出できたなら…!!)
 地下室の一室。
 データベースにアクセスすることができるパソコンの前に辿り着く。
 幸いにも起動状態であったため、すぐさま操作しデータを確認する。
 膨大なデータ量だが、最新の決闘記録を検索すればすぐに見つかった。
「あった!」
 闇の力で作られたアダムのデュエルディスクのデータは送られていないようだが……薫のデュエルディスクのデータは送られていた。
 すぐさまそのデータを電子メールに添付して、薫の家のアドレスまで転送を始める。
 本社の回線は一般住宅とは違う。それを使えばデータを送れるはずだ。
(よし。データは送信できた。あとは―――)

『あれれぇ? いーけないんだいけないんだぁ♪』

 背筋に走る悪寒。
 振り返らなくても、そこに何がいるのか……分かってしまった。
『まったく、会社のデータを抜き取るなんてやっちゃ駄目なんだよ?』
「そうですか、それは知りませんでしたね」
 音をたてないように、通信機をある電話番号に向けて接続した。
 そのままゆっくりと振り返り、そこにいる存在を見据える。
「あなたこそ、よくも何食わぬ顔で現れましたねアダム。元を正せば貴方がいたから、琴葉が意識不明になったんですよね」
『やだなぁ。実行犯は牙炎じゃないか。ボクはそれにちょっと協力しただけだよ♪』
「白々しいですね。そこまで読んでいたんでしょう?」
『さすがだなぁ…これでもボク、吉野さんにはそれなりに期待していたんだよ?』
「今まで似たような言葉を何度も聞いてきましたが、これほど心の籠っていない言葉を聞くのは初めての経験ですね」
 会話をなんとか続けながら、吉野は策を考えていた。
 情報は送信し終わっている。だがその情報に誰かが気づけなければ意味が無い。
 さっき接続した電話番号は……自分が最も信頼する人物。
 親でもない……共に働いてきた武田でもない。

 彼女の……初めての友達。

≪……もしもし……?≫

 ああ、繋がってくれた。
 安心感から、吉野は自然と笑みが浮かんでいた。
「咲音。良かった……繋がってくれて……」
≪吉野……?≫
 アダムから視線を逸らさず、吉野は続ける。
 この声が、聞けて良かった。
「私達が初めて出会ったのは、あの小さな公園でしたね。思えば、あそこからすべてが始まったような気がします」
≪な、なに?≫
 突然の言葉に、電話の向こうの咲音は戸惑っていた。
 聞こえる声の調子から、何かあったのだと理解する。
 アダムは会話する吉野を見つめたまま、ゆっくりと手をかざし始める。
「咲音、あなたは一児の母親だというのに、掃除も料理も満足に出来ませんでしたね……。コーヒーの淹れ方もなっていませんでした。メイド服を着させられたこともありましたか。今にして思えば、それも楽しい思い出ですね」
≪どうしたの……吉野、やめて…! そんなこと……最後みたいなこと言わないで!≫
「武田はいつまでも手のかかる部下でした。いつか”私の代わり”に立派な執事になることを少しばかり願っておきましょう」
≪何を言ってるの!? お願い、話を聞いて!!≫
 すがりつくような声。
 見ることが出来ない咲音も、察してしまった。
 大事な友が、危険な目にあっているのだと理解してしまった。
「長年、私の欲しかった大切なものを、咲音と琴葉にいただきました。薫を交えたお茶会も、素敵な思い出ですね。薫の家のパソコンにもその時の写真が入っていましたか。素敵な思い出ですし、メールを通して私の携帯に送っておいてくれませんか?」
≪逃げて吉野! お願いだから逃げて!!≫
「いいえ咲音。私はここまでです。この上、あなたを守るために戦えるのですから、執事としてこれ以上の幸せはありません」
≪ダメ……! お願い、あのアダムの闇に飲み込まれたら、もう、もう……!≫
「そうでしょうね。もう、あなたには会えないでしょうね」
≪いやっ! 私は、あなたの主です……! 執事は、主の命令を聞いてください……!≫
「いいえ咲音。執事として一番の務めは、主の安全を第一に考えることです。実をいうと、あなたの執事になると決めたときから、私は命を懸けてでもあなたを守ろうと思っていたんですよ?」
 泣きそうになる。
 声が震えて、今すぐにでもここから逃げ出したくもなる。
 だがそんな素振りを見せればすぐに、自分は消されるだろうという事を理解していた。
≪お願い! 執事じゃなくていい! ただ、親友として、一緒にいてくれるだけでいいですから、だから……いなくならないで…!≫
「駄々っ子は、友人に嫌われてしまいますよ咲音」
≪私には……吉野と薫さんしか……!≫
 電話の向こうで泣き声が聞こえた。
 ああ、彼女を泣かせてしまった……と、吉野は少し後悔する。
 きっと子供の様に泣いているのだろう。身体は大人でも、心はまだ成熟しきっていない彼女だ。
≪やめて! やめて吉野!≫
「泣かないでください。あなたには、いつまでも笑っていてほしい。それが、私の”最後のお願い”です」
≪いや…いや……! 吉野がいなきゃ、私は、私は……!!≫
「咲音。今まで本当にありがとうございました。あなたと共に過ごした時間は、私の人生の中で、最高の時間でした」
≪そんな……やめて……! お願いやめて……!!≫
 声が遠ざかっていく。
 吉野が少しずつ、スピーカーの音量を下げているのだ。


「咲音。大好きですよ」


 ただ一言。
 それだけを告げて、吉野は通信を切った。

『別れの挨拶は済んだのかな?』
「ええ。しかし意外ですね、てっきり最悪のタイミングで私を消すと思っていましたが?」
『これでもボク、女の子には優しいんだよ♪ どうする? このまま消えたい? それとも最後に決闘する?』
 その言葉に、吉野はゆっくりとデュエルディスクを構えた。
 おそらくこれが自分にとって、最後の戦いになるだろう。
 だが、ただでやられたりなんかしない。
 自分だって、数少ない友人を……薫を目の前で失った。その仇を取りたいと思う気持ちは、あったっていいはずだ。
「私と勝負しなさい、アダム!」
『あはは♪ 意気込みはいいけど、白夜のカードを持っていない君じゃあ相手にならないよ?』
「それはどうでしょうか?」
『ん?』
(お願いです……! 咲音、薫!! 私に力を貸して!!)


『「決闘!!」』



 吉野:8000LP   アダム:8000LP



 決闘が、始まった。


 アダムから溢れる闇の波動。
 その威圧感が、吉野の全身を襲う。

『…………あれ? ボクの勝利にならないなぁ?』

 首を傾げながら、アダムは吉野を睨みつけた。
「予想的中……というところですね」
 そう言って吉野は胸ポケットに入っていた闇の結晶を見せつけた。
 本社の研究機関に置いてあったものだ。本社がスターから収集したデータで闇の力を研究していたことは知っていた。ここに来る前に拝借してきたのだ。
 もちろん研究用であるため、本来の闇の結晶と違って闇の世界は発現しない。
 当然だが武力として行使することも出来ないものだ。ただの闇の力を持っている塊を身に着けているだけに過ぎない。
「勝利にならない……つまり本来なら私は、あなたにすぐ負けていたわけですか……」
『……ちょっと心外だなぁ。まさか研究用の闇の結晶程度でも防がれちゃうのか。それともボクが近くにいるせいで、研究用でもそれなりの濃度を持つ結晶になっちゃったのか……それとも、1度闇の力を扱ったことのある吉野さんだからかな……?』
「白夜のカードを持っていない私じゃ相手にならないと言っていましたね……あなたの”能力”は、白夜の力や闇の力を扱う者には通用しないのではないですか?」
『……あはは、それについてはノーコメントだよ。まぁすぐに倒せないなら、普通に君を倒すことにするよ♪』

「それは無理ですね」

 吉野は勝ち誇り、笑う。
 確かにまともに戦ったとしても、アダムの絶対的な力を誇るデッキには敵わないかもしれない。
 だが、それすら今の吉野には関係は無かった。
 たとえどんなデッキが相手だろうと、対抗できない手段が1つだけ存在する―――



 封印されしエクゾディア 闇属性/星3/攻1000/守1000
 【魔法使い族・効果】
 このカードに加え、「封印されし者の右足」「封印されし者の左足」「封印されし者の右腕」
 「封印されし者の左腕」が手札に全て揃った時、デュエルに勝利する。



 封印されし者の右腕 闇属性/星1/攻200/守300
 【魔法使い族】
 封印された右腕。封印を解くと、無限の力を得られる。



 封印されし者の左腕 闇属性/星1/攻200/守300
 【魔法使い族】
 封印された左腕。封印を解くと、無限の力を得られる。



 封印されし者の右足 闇属性/星1/攻200/守300
 【魔法使い族】
 封印された右足。封印を解くと、無限の力を得られる。



 封印されし者の左足 闇属性/星1/攻200/守300
 【魔法使い族】
 封印された左足。封印を解くと、無限の力を得られる。



『っ!』
「咲音と薫が力を貸してくれました。いくらあなたでも、闇の決闘で受けるエクゾディアのダメージは無事じゃ済まないはずです!!」
 対戦型カードゲームとして有名な遊戯王だが、エクゾディアデッキのみにおいて0ターンキルが可能になっている。
 決闘が始まり、初期手札5枚を引く。この時は先攻も後攻も決まっておらず互いが何のアクションも起こせない。
 そしてエクゾディアは手札に5枚すべてのパーツが揃えば勝利が決定する。
 現在の遊戯王における最速の勝利方法だ。

 五芒星が描かれて、その中心から召喚神が現れる。
 すべてを焼き尽くす業火が、放たれた。
































『吉野さんはRPGとかやったことある?』
「っ!」
 背筋が凍りついたような感覚。
 今も消えない業火の中に、一つの影があった。


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「みんな、急いで乗れ!!」
 本社に停車してあるスポーツカー、非合法的な方法でエンジンをかけた武田が全員に呼びかける。
 急いでその場にいる者達が乗り込み、発進する。
「飛ばすぞ!!」
 アクセルを全開にして、急いで本社から離れていく。
 街に蔓延るモンスター達が車に向けて襲い掛かるが、そこへ―――


 ――ライトシューター×30!!――


 光弾が幾多にも放たれて迎撃していく。
 ユニゾンモードを発現した真奈美が杖を構えていた。
 屋根の無いスポーツカーならば、こうして車に乗りながらでもモンスター達を退けることが出来る。
「すまんな。僅かな道を開けてくれればそこを抜ける!」
「大丈夫です!! 武田さんも、元に戻った人たちを轢かないように注意をお願いします!!」
 白いローブを翻し、杖を構えなおす。
 真奈美の周囲には常に十数個の光球が浮かび、いつでも射出できるようになっている。

 結局、10分経っても吉野は戻ってこなかった。
 仕方なく発進し、武田は彼女を見捨てる形で走り出していた。
(吉野……すまない……!!)
 胸の内で深く謝罪しながら、武田はハンドルをきった。




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 吉野:0LP


『ゲームでRPGってあるでしょ。それにはよく即死系の呪文があるんだけどね、それってラスボスには効かないんだよ。なんでだろうね、理不尽だと思わない? まぁラスボスが一撃で死んじゃうRPGも詰まらないんだけどね♪』
「…………」
 倒れ伏し、消えゆく意識の中、吉野は一つの確信を得た。
(間違い、ない……それ、なら……すべ、て……説明が……つく………アダムの……能………力………は……)
 しかし、気づいても何も出来なかった。
 全身を漆黒の十字架によって貫かれ、指一本すら動かせない。
『さようなら吉野さん♪ 闇の中でみんなを待っているといいよ』
 最後にアダムが微笑む姿を見ながら、彼女は闇の中へと沈んでいった。



『さーて、かなり遠くに逃げられちゃったかなぁ……うーん、どうしようかなぁ。まっ、いっか。きっとなんとかなるよね♪』
 アダムは無邪気に笑いながら、再び屋上へと向かっていった。



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 武田の運転で街の中を疾走する。
 すでに本社からはかなり距離を取っていた。
 スターの時間稼ぎのおかげとも言えるだろう。
 襲い来るモンスター達も、本城さんの攻撃によってなんとか退けてきていた。だが彼女の表情にも疲労が見えるため、長くは続かないだろうと思った。
「大丈夫? 真奈美ちゃん?」
「はい。まだまだ大丈夫ですよ」
 心配する香奈ちゃんに本城さんが笑みを返す。
 杖を握る手に、力が籠っていた。


 ――あはは、逃がすと思ったかい?――


 どこからか、無邪気な声が聞こえてきた。
 本社の方向。
 その場所から膨大な闇の力が上空へ放たれる。
 次の瞬間、放出された闇が巨大な炎の塊へと変化した。
 ゆっくりと、その塊が落ちてくる。まるで太陽そのものが、落ちてきているようだった。

「な、なんなんですかあれ!?」
「あんなの落とされたら、ひとたまりもねぇぞ!」
 車に乗る全員が、途方もない力に身を震わせた。
「っ、エル! ライトバスター、フルチャージ!!」
 本城さんが杖を構えたが、その先に光が宿ることは無かった。
 まるで、あの落ちてくる太陽に攻撃すること自体無駄だと悟らせているようだった。

「……………」

 この状況下で、俺がやるべきことは決まっていた。
 あの落ちてくる太陽を破壊しない限り、俺達は全滅してしまう。
 壊せる可能性があるとしたら、俺の持っている破壊の力だけだ。

「……本城さん、頼みがあるぜ」
「え?」
「俺を、あの太陽に向けて一直線に飛ばしてくれ」
「っ!? 何言ってるんですか!?」
「ふざけるな! 何するつもりだ!?」
「そうよ! そんなことしたら、あんたが死んじゃうわ!!」
「分かってんだよそんなこと! だけど、これしかねぇなら……」
 これからやろうとしていることがどういうことか分かっている。
 正直言って、震えが止まらない。
 だけど、他に方法なんか思いつかない。
 この状況を打開できる可能性があるんだったら、俺は……!!


『……ここらが潮時だな』


 その瞬間、口が勝手に動いて低い声が出た。
 ライガーの声だった。
「雲井君?」
『小娘。この小僧の言う通り、我をまっすぐに飛ばせ。あとは何とかしてやろう』
「だ、駄目です! 死にに行かせるようなこと、出来ません!」
『まったく……頑固な小娘だな』
 いつの間にか、体の支配権がライガーに移ってしまっていた。
 くそっ、意識がはっきりしているのに、体が動かせない……!
 ここまでライガーの力が戻っていたってことなのか……!?

『……そういうわけだ小僧。あの太陽を破壊することは、諦めろ』

 ふざけんな!
 放っておいたら、全滅しちまうんだぞ!?

『仕方ないだろう。”人間”の貴様では、あそこまで到達する手段がないのだからな』

 そんなの分かって……………いや待て。
 てめぇ、おかしなことを考えているんじゃねぇよな?
 ”人間”である俺に無理だってことは……まさか……!!!

『……ほう。長く生活してきた中で一番察しが良かったぞ。伊達に我と共に過ごしたわけではないということか』 

 くそったれ! 本城さん! こいつを……ライガーを止めてくれ!!
 こいつは……こいつは……!!

『無駄だ。貴様の言葉は我以外には届かない。そのために体を支配したのだからな』

 うるせぇ! いいから早く体を元に戻しやがれ!
 あんな馬鹿でかい火の玉くらい、俺と本城さんでなんとかできる!!

『出来るわけないだろう。あれはアダムが全力で攻撃してきたものだ。たかが人間の力で止めるのは無理だ。もっとも、あれさえ凌げばしばらくアダムも動けないだろうがな』

「っ!」
 体が自由に動くようになった。
 だけど同時に、内側から”何か”がいなくなったような感覚があった。
『まったく、やれやれだな』
「ライガー!!」
 声を上げた時には、すでにライガーは落ちてくる太陽へ向かっていた。
 いつもの子犬モードではない。初めて会ったときと同じ、巨大な獅子の姿だった。
『小僧、どうやらお別れだ』
「なっ!?」
『安心しろ。貴様専用のデッキワンカードは残しておいてやる。我からの餞別だと思え』
「ふざけんじゃねぇぞ!! そんなことされて、俺が納得すると思ってんのかよ!?」
『別に納得してもらおうと思っているわけではないさ。ただ純粋に、貴様への”借り”を返す時が来たと思っただけだ』
「はぁ!?」

『小僧、貴様は我の”破壊の力”を私欲に使わず、”救いの力”として使ってくれたからな。感謝するぞ、雲井忠雄

 その言葉を残して、ライガーは声の届かない遥か上空へ跳躍した。

「ライガー! ライガー!!」

 必死に呼びかけた声が、届いたかどうかは分からない。
 言いようもない感覚と共に、悔しさで拳を握る。

「雲井君! ライガーは?」
「……あの馬鹿野郎。あの太陽を、破壊する気だ……!」
「っ!」
 その言葉で、本城さんも察したみたいだった。
 遠ざかっていくライガーの姿を、俺達は黙って見ていることしかできなかった。



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『我ながら……ガラにも無いことを言ってしまったな』

 ライガーは自嘲気味に笑う。
 だがすぐに意識を切り替え、視線の先にある巨大な熱球を見据えた。

 実物の太陽とまではいかないようだ。どちらかと言えば、超巨大な隕石のようなものだろう。
 近づいただけで、その表面温度に焼かれてしまいそうだ。
 事実、銀色の体毛が焦げ始めている。
 くわえて、ただ壊すだけでは駄目だ。粉々に跡形も無く壊さなければ、飛び散る破片で人間達は滅ぶ。


 結界を破る場合を除いて、ライガーの力は原則的に対象物に直接触れなければならない。
 あの隕石には、近づくことすら容易ではないだろう。


 だが、それがどうした?

 これから使うのは、すべてを砕く大地の一撃。

 我は地の神−ブレイクライガー。

 運命も、理も、すべてを粉砕する、破壊の神。

『我に壊せぬ物など、あると思うなぁぁぁぁ!!!!!』

 その全身を躍動させ、熱球へ向けて突撃する。

 閃光。

 爆風。

 熱気。

 轟音。

 すべてを吹き飛ばす衝撃が、町全体に響き渡った。


「……っ!! ライガァァァァァァァァァァ!!!!」

 発生する衝撃波に煽られながらも、雲井は叫んでいた。

 天高く跳躍した巨大な獅子は、その身を挺して熱球を跡形も無く破壊した。

 そして同時に……その姿は閃光の中へと消えていった……。




続く...




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