My wish and your desire

製作者:炭酸龍さん




プロローグ〜予兆〜


「行くぜ!手札からE・HERO スパークマンを召喚!」

威勢の良い、熱きその心を示すかのように熱い声に導かれるよう2枚の手札の中から雷の力を持つE・HEROの一人、スパークマンが少年のフィールドにその姿を現した。

―――普段ならばカードはソリットビジョンで立体化し、リアルな映像がそのデュエルに参加している者だけでなく見る者全てに興奮を与えるのだが、現在の時刻は当に夜の11時を過ぎている。

他の生徒の迷惑にならぬようと、デュエル・アカデミアではこの時間帯、デュエルディスクの使用は禁止されていた。

そうでなくても、ディスクの充電にかかる電気代も馬鹿にならないため、オシリスレッドではフリーデュエル時にはあまりディスクを使用しない傾向になっている。

「そんなぁ〜、兄貴、引き良すぎっスよ!」

「へへっ、運も実力の内ってね!」

対戦相手の水色の髪の少年はこの状況でモンスターカードを引き当てる相手の運の良さに、つい情け無い声を上げてしまった。

スパークマンを召喚した――兄貴と呼ばれた者のフィールドには、リバースカードも他のモンスターも見当たらない。

一方少年のフィールドには、パトロイドと呼ばれるパトカーのような風貌をした可愛らしいモンスターが1体のみ。手札は全て使い切っている。

ライフは2300と2600で自分がやや負けてはいたが、先ほどまでは相手のフィールドにモンスターは見当たらず、次のターン直接攻撃が決まれば一気に流れを引き寄せることが出来るはずだったのだ。

「行くぜ、バトルフェイズ!スパークマンで攻撃だ!!」

スパークマンの攻撃は1600。一方パトロイドの攻撃力は1200だ。パトロイドは特殊能力を持っているがこの戦闘では全く役に立たない。

リバースカードも手札も無いと言う事は対抗手段が無いという意味であり、パトロイドは一方的に破壊され超過ダメージである400が水色の髪の少年――丸藤翔のライフから引かれる。ライフは1900となった。

「僕のターンっす。ドロー!」



☆十代
ライフ:2300
・モンスターゾーン
1:E・HEROスパークマン(ATK1600 DEF1400)
・魔法、罠ゾーン
無し
・手札
無し

☆翔
ライフ:1900
・モンスターゾーン
無し
・魔法、罠ゾーン
無し
・手札
無し



80%を越えていたと思われるが勝率が一気に10%以下へと急変と言うのに、少年の闘志は未だ潰えない。

オシリスレッド――このアカデミアで一番下の寮、即ち落第したのとほぼ同じ意味であるこのクラスに所属している生徒にしては珍しい。

大抵の者は自分の境遇に絶望しデュエリスとの心も折れ、このような状況に陥ると直ぐに自暴自棄となり勝負を諦めるのだ。

この場にはいないが、ルームメイトである前田隼人もまたその一人だった・・・

今この場でその事を詳しく語ることは無いが、ただ言える事は十代の不思議な力が――少しずつ、オシリスレッドを中心としながらデュエルアカデミアに革命を起こしていると言うことだ。

「兄貴!悪いっスけど、今日こそ勝たしてもらいますよ!」

デュエリストとは常にカードを信じる者。勝負は常に非情だが、心を通わせたカードはここぞという時に応えてくれる。

「へっ、そんな簡単に負ける遊城っちじゃないぜ!」

「ふっふっふっ、いくら兄貴の運が強くてもこのカードには勝てませんよ!僕はスチームロイドを召喚するっす!」

メインフェイズに召喚されたカードは蒸気機関車のような、パトロイドと同じく可愛らしい風貌のモンスターである。



スチームロイド
☆☆☆☆ 地属性 機械族・効果
ATK1800 DEF1800



「何!?スチームロイドって言えば…」

「そう!攻撃力は1800…スパークマンの攻撃を上回ってるっす!そして…」

見かけによらず(?)強力なステータスのモンスターの出現に驚く十代。

彼も気付いてはいるが――翔の勝利を確信したような表情の裏には、まだ何かがあった。

「スチームロイドには、ダメージステップの間攻撃力が500ポイントアップ効果があるっス!」

「てことは…攻撃力2300!!」

十代を守るスパークマンの攻撃力との差は700。モンスターを全滅させられるだけでなく、ライフポイントでも逆転されてしまう。

そして――十代に打つ手はない。

「スチームロイドの攻撃!スパークマンを撃破ッス!」



☆十代
ライフ:1600
・モンスターゾーン
なし
・魔法、罠ゾーン
無し
・手札
無し

☆翔
ライフ:1900
・モンスターゾーン
1:スチームロイド(ATK1800 DEF1800)
・魔法、罠ゾーン
無し
・手札
無し



「ぐわっ…。畜生、レベル4以下のモンスターは翔の方が強いのか…」

翔のターンが終了し、再び十代のドローフェイズが回ってきた。

手札がないのは同じとはいえ、非常にまずい状況だ。

スチームロイドのパワーアップ効果はモンスター攻撃時のみだから多少の安心は出来るが、もしモンスターカードを引き当てて召喚されれば…。

ここで一発逆転のカードを引かなければ十代は負ける。同時に、連勝記録は84勝で止まってしまうこととなる。

だというのに、十代の表情は青ざめるどころか、どんどん加熱しているように見えた。

彼は優勢であろうと劣勢であろうと、常に心の底からデュエルを楽しんでいるのだ。

「俺のターン、ドロー!」

希望を託し引いたカード。その絵柄を見るや、少し強張っていた顔が満面の笑みへと変わった。

「よっしゃ!俺の勝ちだぜ、翔!」

「しまった!まさか攻撃力が1300以上のモンスターを引いたんスか!?」

自分のダメージステップの間攻撃力が500ポイントアップするスチームロイドの弱点。それは、攻撃を受ける時自分自身の攻撃力が500下がる事だ。

エネミー・コントローラーや月の書のコンボである程度和らげれるのだが、生憎翔のデッキにそんなレアカードが入っているはずもなかった。

「違うぜ。俺が引いたのは魔法カード!」

「魔法カードって…もう早すぎた埋葬は使っちゃってるし、モンスター破壊系を引いてもまだ僕が有利っスよ!」

確かにこの場で『ハンマー・シュート』等を引けば問答無用でスチームロイドを破壊できるが、次のカード補充は翔の方が早い。状況的に翔の方が圧倒的に有利だ。

まさか光の護封剣のような攻撃封じ系なのかな?と予想はするものの、“俺の勝ち”というワードが妙に引っ掛かった。

それに、こう言う時の十代目は――確実に、攻撃的なカードを発動させると決まっている。

「引いたのは、ミラクル・フュージョン!」

「ま、マジッスか!?」

メインフェイズに発動されたのは、E・HERO系専用の特殊融合カード――ミラクル・フュージョン。

墓地に眠るカードを対象とするこのカードは手札の消費も少なく、墓地にモンスターが溜まる後半、つまり現在のような状況にその真価を発揮するカード。

その効果は墓地に眠る融合素材を除外し、E・HERO系の融合モンスターを呼び出す。

「俺は墓地のフェザーマンとバーストレディを除外して、E・HEROフレイム・ウィングマンを召喚するぜ!」


E・HERO フレイム・ウィングマン
☆☆☆☆☆☆ 風属性 戦士族・融合/効果
ATK2100 DEF1200


フィールド上に颯爽と現れた、十代のシンボルともいえる強力モンスター。

この状況で切り札のモンスターが姿を現す。その名の通り、まさに奇跡の合体だろう。

「いっけぇ!フレイム・ウィングマン!!」

フレイム・ウィングマンの攻撃力は2100。対してスチームロイドの攻撃力はその効果で1300に減少していた。

「スチームロイド撃破だぜっ!」

上級モンスターの容赦のない攻撃にスチームロイドは成す術もなく破壊され、その攻撃力の差800が翔のライフから引かれる。

翔のライフは1900から1100に減少。そして――

「フレイム・ウィングマンの効果発動!破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与えるぜ!」

切り札のカードだけあって、その効果は非常に強力な物を備えていた。勝利を会得する最後の詰めの効果がモンスターを破壊したこの瞬間に発動する。

スチームロイドの破壊された時の攻撃力、1300がウィングマンの効果で翔のライフから引かれるのだ。


翔のライフポイント:1100→0


「ガッチャ!楽しいデュエルだったぜ!」

本日12回目の台詞が辺りに木霊する。別に言っても言わなくても大した差は無いのだが、これを言わなくては十代の気が治まらないらしい。

「あーもー、また負けたッスよ〜。これで85連敗、いい加減如何にかしないとなぁ〜…」

先のデュエルを振り返るかのように、翔は手に取った自分のデッキのカードを1枚1枚注意深く見てゆく。

今回の敗因はフレイム・ウィングマンの出現が主な原因だ。

となると、それに対抗する力は何か…。翔は翔なりに真剣に考える。

「やっぱり、もっとレベルの高いモンスターを入れるべきかなぁ…」

「いや、この場合罠カードがあればよかったのかもしれない。十代のデッキは先ほどのフレイム・ウィングマンに代表されるようにモンスターの攻撃的要素が強く、融合を多用している。となると、モンスター1体を呼び出すのに自ずと手札、場の消費が多くなるだろう。そして多くの消費を払って出したモンスターを破壊すれば、十代は一気に不利になる。…そうだな、例えば『奈落の落とし穴』等が有効だろうか」

「あ、成る程〜。確かに融合して出たカードって結構手札とか消費してるっスからねー。それにやっぱりレベルの高いモンスターは重くなるから駄目だよなぁ…」

「しかし奈落の落とし穴かぁ…確かに使われたら厳しいぜ。なんてったってミラクル・フュージョンでシャイニング・フレア・ウィングマンに出来なくなるからなぁ」

「だけど、罠カードはやっぱり重いんだよなぁ。入れすぎるとショッカーやお触れに弱くなりすぎるから、結構響くぜ」

「難しい所だな。…そうだな、収縮などの速攻魔法も勧めよう」

「やっぱりもっと研究するべきッスね!」

結局数枚のカードを入れ替えて、翔のデッキ構築は終了した。

「って、あまりにも馴染んでたので気付かなかったけど、その声はまさか…」

デッキ構築に集中しすぎたためか、もしくはその声が会話に馴染んでいたからか。ようやく二人は気付く。

――2人しかいない食堂に、3人目の声が…

とホラー的な雰囲気が流れるが、その冷たいほど落ち着いた雰囲気とは裏腹に、温かみのある声の持ち主を二人は知っていた。

だが、オベリスクブルーの生徒である“彼”がここにいるはずも無い。恐る恐る二人の視線が声が聞こえた方向、食堂の出入り口方面に半ば無意識に集中した。

丸藤亮カイザー!?」

「兄さん!なんでこんな所に!!」

デッキ構築のアドバイスをしたのだから当然では有るのだが、案外近い距離にいた事と、夜中に学園最強のデュエリストがこんな所に来ている事に二人はダブルで驚愕する。

そして、カイザーの口から言葉が放たれた次の瞬間――

「イエロー、ブルーの寮で亡霊が現れたと言う騒ぎが起きて、心配になってこっちに来たのだが……」

「亡霊ッスか!?」

「うお〜っ、見てみて〜!!」

(約一名は若干違うが)二人の驚愕は、最高潮に達した。

――その亡霊の正体は実体化したデュエルモンスター達と言うことに、彼らはまだ気付いていなかった。














――ときは遡る――














生と死が常に双極であるように


万物には必ず対となる物が存在する。


光るあるところに闇が有りて


夜が満ちれば光は闇に食われるように。


3体の神もまた、対を成す存在に蝕まれる。


ファラオの力を受け継ぎし少年、遊戯よ。


刻が満ちる時、3枚の冥府の審判者が舞い降りるであろう。


この世の絶望を司る血塗られた龍。


魂を封印する冥府の門を守護する悪魔の巨人。


そして、永久という名の暗黒へと導く黒き龍。


決して3体の使者を拒んではならない。


例えそれが光を侵食し、闇をもたらす存在でも。


決して否定してはいけない。


闇の中にこそ――――のだから






続く...



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