帝王の涙

製作者:夏咲サカキさん




この話はPSPソフト「遊戯王GX タッグフォース」の世界を題材にした小説です。
そのため、一部アニメキャラクターに若干の設定の違いなどがありますが、ご了承下さい。




一章「石原法子」

あたしの名前は石原法子。


……「ホウコ」じゃない。「ノリコ」だ。


デュエルアカデミアのオベリスクブルーに所属している。
オベリスクブルーと言えば、アカデミアの中でもトップのクラスなのよ。

と、言っても女子寮はオベリスクブルーにしか無いから、
必然的にそうなるんだけどね。

でもやっぱり、オベリスクブルーと名乗るからには
それなりの実力が無いといけない。

ふふん。
実はあたしは「帝王の涙」という通り名を持つくらいの有名人なのよ!

名前の由来は「帝王も涙するほどの強さ」!

……のはずだったんだけど……

この前の学区内テストのデュエル実技試験で大きなミスをやらかしてしまった。
しかもそのとき相手は……

デュエルアカデミア始まって以来の天才デュエリスト、
丸藤亮ことカイザー亮が相手だったのだ。

ガッチガチに緊張しちゃって召喚の順番はミスするわ、
ルールのミスはするわで散々な結果に終わってしまった。

幸い、筆記テストの成績は良かったので落第は免れた……
が、その日以来「帝王も涙するほどの弱さ」という
なかなか不名誉な認識に変わってしまった。

やれやれ。

ま、いいわ。

あたしはあたしで気ままに生きていくもんね。
テストの結果がどーだってのよ!


そうそう、あたしには双子の妹がいる。
名前は石原周子。

「シュウコ」じゃないよ、「チカコ」だよ!

ちょっと引っ込み思案で、しかも物忘れが激しい周子は
イマイチ自分に自信が持てないみたい。
でもあたしに近い実力は確かにあるわ。

……あたしたちには憧れている人がいる。
それはカイザー亮のライバル、天上院吹雪だ。

憧れている……というよりは、むしろ恋心に近かった。少なくともあたしは。

陽気な性格、華麗なデュエル。

一目見ただけで惚れてしまった。


ファンクラブまで設立してあり、他の女子生徒の人気も高いのだ。
……でもファンクラブには入ってない……
なんかそういうのはヤダ。
見るだけでいいもの。


今日もまた、吹雪さんのカッコいいデュエルが見れた。

私の毎日はそれだけでも十分だった。

だが先日……
天上院吹雪が行方不明になったという話を聞いた。



二章「天上院吹雪」

5月になる。

しとしとと雨が降っていた。

天上院吹雪が行方不明になってから一ヶ月。

あたしはゲンナリとした日々を送っていた。


「はぁ……」


大きなため息をついて、机に突っ伏す。

隠し撮りした吹雪の写真をじっと見つめる。

「……ファンクラブの連中と変わんないな、あたし……」

そこへ周子が部屋に戻ってきた。

「お姉ちゃん……講義くらい出ないとダメだよ。」

物覚えは悪いくせになかなかのお節介な妹である。

「ヤダ……あたしクロノス嫌い…」

「そんなこと言っちゃダメ。ほら、補習の連絡プリント。
明日の7時までに教室に来いって。
PDAにも連絡入っているでしょ?」

PDAというのは、アカデミアの生徒や教員同士で
メールのやり取りなどが出来る小型の機械だ。
パーソナル・デュエル・アカデミアという意味(らしい)。

あたしは嫌な予感がしつつも、メール画面を開いた。

『エー、イシハーラ ノリーコさーん。
イシハーラ ノリーコさーん。
明日の7時までーに、教室に来るノーネ。』

聞きなれたクロノス教諭独特の音声が響き渡る。

「う……やっぱこの先生苦手だわ……
てか7時ってめちゃ早起きじゃん!
なんでそんな時間に行かなきゃなんないのよー!」

「それは授業をさぼっているお姉ちゃんが悪いよ……
あ、そうそう。転校生が来るって。」

転校生?
と聞くと、カッコいい男性を思い浮かべてしまうのは学生のサガだろう。

「ふーん……どんな人なの?」

「職員室でちょっとだけ見たよ。
赤い帽子を目深に被ってて、はっきりと顔は見えなかったけど。
オシリスレッドだって。」

「オシリスかぁ……まぁ転校生じゃしょうがないよね。」

オシリスレッドは、デュエルアカデミアの中でも
最下層のクラスと呼ばれている。
次にラーイエロー、オベリスクブルーと来るわけだ。

基本的に途中入学の男子生徒は、まずオシリスレッドに配属される。
そこで実力を計り、然る後に上位のクラスに転移するのである。

「ま……気分転換に行ってみっかなぁ。
その転校生とやらもちょっとだけ興味あるしね。」


・・・


次の日、あたしはなんとか起きれた。

しかし気分は相変わらず暗いまま。

まだ天上院吹雪を発見したという連絡が無い。

「どこにいるのよ……吹雪さん……」

ボ〜っとそんなことを考えながら教室に入ろうとして、
近くに歩いていた男子生徒にぶつかってしまった。

なんかもうツイてない。

「ゴメン……大丈夫?」

よろけて壁にぶつかってしまった、小柄な男子生徒に声をかける。
別になんとも無かったみたいで、その生徒も声を返した。

「……いえ」

赤い制服。オシリスレッドだ。
赤い帽子を目深に被っている。

昨日、周子が言っていたことを思い出し、あ、と声を上げた。

「もしかして、君が最近来たばかりの転校生?」

「……はい」

「へぇ〜、あたし石原法子。よろしくね。
あ!時間ヤバイ!
ほんとゴメンね、じゃ!」

そう言って、あたしは教室に駆け込んだ。

結構悪く無い……かも。


・・・


教室には同じオベリスクブルーの生徒、温田熱巴もいた。

「何よ温田、あんたも補習?授業サボってたの?」

「うるせーな。ちょっとテストの点が悪かっただけだ。」

温田熱巴は属性デッキ6人衆とかいう、わけのわからないグループに入っている。
彼らは常に集団で行動するため、あまり勉強してなかったのだろう。
それに一人サボると、つられるように他の5人もサボる。
加えて、温田熱巴はテストの成績も悪かったらしい。
そこが呼び出しを喰らった要員と思われる。

軽口を叩き合うあたしたちの前に、名物教師、クロノス教諭が現れた。

「ハイ、そこまでナノーネ。
今から二人でデュエルしてもうノーネ。」

「デュエル?なんでよ?」

「勝ったほうは今までのことを目を瞑って上げるノーネ。
ただし負けたほうは処罰するノーネ。」

実力主義者のクロノス教諭らしいやり方だ。
ま、デュエルに関しては自信のあるあたしは、同じブルーの生徒と言えど
負ける気はしなかった。

「俺は構わないけどな。
帝王の涙に負けるわけが無いぜ。」

「うっさい!
だからあのときは緊張してただけなの!
ほら、構えなさい。」

デュエルディスクにカードをセットして、起動させる。
面倒くさいからさっさと終わらせよう。

「ふん……火山のふもとで鍛えた俺のデュエルを甘くみるなよ。」


じゃんけん、ぽん。

よし、勝った。あたしの先行だ。


「よーし行くわよ!」

「行くぞ!」


デュエル!!


石原法子 LP 4000

温田熱巴 LP 4000
 

「あたしのターン、ドロー!」

いい引き≠している。

「あたしは魔法カード、天使の施しを使う!
このカードはデッキから3枚カードをドローした後、手札から2枚捨てる!」

よし、いきなりあたしの必殺コンボが炸裂しそう。
2枚のカードを墓地へ捨てた。

「魂を削る死霊を守備表示で召喚!
このカードは戦闘で破壊されず、相手プレイヤーにダメージを与えたら
手札を1枚、ランダムに捨てさせるカードよ。
そのかわり、カード効果の対象になったら破壊されるわ。」

魂を削る死霊は、攻撃力は300、守備力は200しか無い能力の低いカードだけど、
効果でそれを補っている強力なカードだ。

「そしてカードを1枚セット、ターンエンド。」

「へ!俺のターンだ!ドロー!
火炎木人18を攻撃表示で召喚!攻撃力1850だ。」

体の全身が燃えている巨人が召喚された。
臨場感抜群。
ソリットビジョンの迫力というのは凄いものだ。

「でもあたしの死霊は戦闘で破壊されないわよ。」

「わかってるよそんなこと!
手札から魔法カード、黒いペンダントを発動!
このカードは攻撃力を500ポイント上昇させる装備カードだが……
ここはお前のフィールド上の、魂を削る死霊に装備させる!」

しまった。
これではあたしの場の魂を削る死霊が……。
次の瞬間、魔法カードの対象になった″ーを削る死霊が消滅した。

「俺だってオベリスクブルーだぜ?
甘く見てたんじゃないかい、帝王の涙さんよ。
さらに黒いペンダントの追加効果発動!
墓地に送られたとき、相手プレイヤーに500ポイントのダメージを与える!」

「うぁ……」


石原法子 LP 3500


「行けぇ火炎木人18!
プレイヤーにダイレクトアタックだ!」

あたしの場に身を守るモンスターはいない。
だけどこいつは伏せカードの存在を忘れているようだ。

「和睦の使者を発動。このターンのダメージをゼロにするわ。」

「くそ……カードを2枚セット。ターンエンドだ。」

伏せカードか……
でもあたしには、そんなものが意味無いってことを教えてあげるわ。

「さ、あたしのターンね。ドロー。
スタンバイフェイズに、さっき天使の施しで墓地に捨てたモンスター、
黄泉ガエルを復活させるわ。」

黄泉ガエルは墓地に存在し、自分の場に魔法・罠カードが存在してないとき、
スタンバイフェイズ、つまりターンの開始時に復活する効果を持っているカードだ。

「黄泉ガエルを生贄に捧げ……
これよ!
氷帝メビウスを召喚!」

「なぁにぃ!?」

「このカードの効果は知ってるわよね?
生贄召喚に成功したとき、フィールド上の魔法・罠を2枚まで破壊できる。
当然、あんたの場のセットされたカードを2枚破壊するわ。
効果発動!フリーズ・バースト!」

破壊したカードはリビングデッドの呼び声と、レベル変換実験室。
前者は墓地のモンスターを蘇生させるカードで、
後者は手札にあるモンスターのレベルを変動させるカードだ。
伏せカードを破壊したことで、安心して攻撃できる。


他の女子はカッコいい容姿を持ったカード、いわゆるイケメンなカードを
多く使っているのだが、あたしはこういう結構ゴツイカードを使っていた。


あたしが氷帝メビウスを使うのは、ワケがある。

あの天上院吹雪さんが、プレゼントしてくれたカードなのだ。


「さらに手札から魔法カード、早すぎた埋葬を発動するわ。
このカードは墓地に存在するモンスターを蘇生させる。
さっき墓地に捨てた魔導戦士ブレイカーを復活!」

魔導戦士ブレイカーは攻撃力1600のモンスターで、手札から召喚したとき、
自身をパワーアップさせる効果を持っている。
でも今回は、墓地からの復活だからその効果はナシよ。

「もういっちょ手札から魔法カード、遺言状を発動よ。
墓地にモンスターが送られたターン、
――さっき生贄で黄泉ガエルを墓地に送ったわよね。
デッキから攻撃力1500以下のモンスターを
自分のフィールドに特殊召喚させる。
これよ。ならず者傭兵部隊!」

この見た目がちょっと怪しい戦士の集団は、攻撃力は1000しか無いが
フィールドのモンスター1体を破壊するという、強力な効果を持っている。
当然あたしが破壊するカードは温田のカード。

「あんたの場のモンスター、火炎木人18を破壊。
そして……」


温田を守るカードは無い。

「あ……!!」

「あたしの勝ちよ!
モンスターで攻撃よ!
魔導戦士ブレイカー!」


温田熱巴 LP 2400


「あ……あ……」

「もういっちょ攻撃よ!
氷帝メビウス!アイスランス!」


温田熱巴 LP 0


「マジかよ!負けちまった!」

公式の技の名前とはいえ、
ちょっと安直すぎる技名なんじゃないかなと疑問に思いつつも、
あたしの最愛のカード、氷帝メビウスで決着をつけた。

「そこまでなノーネ!ブリリアント!
イシハーラ ノリーコは約束どおり、今までのことは水に流すノーネ。
次回からはちゃんと授業に出席するノーネ。
オンダ アツーミは後日追試ナノーネ!
結果次第ではラーイエローへの落第もありえるノーネ。シルブプレ。」

「ちっくしょぉぉ!!」

あたしは久しぶりのデュエルに充実感を感じつつも、
天上院吹雪さんに思いを馳せていた。


・・・


――数ヶ月前のこと。

あたしは、夕陽が沈むころ、PDAで天上院吹雪さんを浜辺に呼び出した。

「どうしたんだい、ハニー。こんなとこに呼び出して。
まさか愛の告白かい?はっはっは。」

この人はいつもこんな調子だ。

「……デュエル……してもらえませんか?」

いきなり告白などは気恥ずかしくて出来きやしない。
てか出来るわけない。
でもデュエルすることで、少しは思いを知ってもらえるかと考えたのだ。

「君にとってデュエルは挨拶のキスみたいなものなのかい?
でもそんな挨拶も嫌いじゃないな。」

もちろんこの人もデュエルが大好きなのだ。

そして……


「漆黒の豹戦士パンサーウォーリアーで、法子くんにダイレクトアタック!」


天上院吹雪 LP 500

石原法子 LP 0


負けた。
あと少しまで追い詰めたが、罠カードの逆襲にあったのだ。
吹雪さんはカイザー亮のライバルという話があるほど、
高い実力を持っているのである。
むしろそこまで追い詰めることが出来たこと事態、奇跡だ。

「……か、完敗……です。」

「ありがとう!
君の熱いハートに僕は感動したよ。
そうそう、これを上げよう。君と僕の、今日の記念に。」

そう言って吹雪さんが差し出したカードが、氷帝メビウスであった。

「このカードを僕だと思ってくれ。
おっと、そろそろ行かないと我が妹に叱られてしまうな。
またいつでも僕に会いにおいで!」

妹。
それはあたしと同じオベリスクブルー女子の中で、
女王と呼ばれるほど高い実力を持った、天上院明日香のことだ。

クールな言動、整った容姿で男女問わずに高い人気を誇っている。


あたしは少しだけ嫉妬した。

妹を大事に思うのは兄として当然であろう。
しかし、それでも天上院吹雪の傍にいられる明日香を羨望した。

「負けないから……あたし……」

誰もいなくなった夕焼けの浜辺であたしはそうつぶやいた。

そして……

「氷帝……メビウス……」

吹雪さんからもらったカードをじっと見つめる。
名前は知っていたが、レアカードのため実際に見たことは無かった。
その能力を見て、強力さに改めてビックリしてしまう。

「こんなレアで強力なカードを……」

天上院吹雪さんほどのデュエリストにもなると、
こういうカードがたくさんもらえるのだろう。
あの人の性格からして、デュエルに挑んだきた人に(女子限定かもしれないが)
こうやってカードをプレゼントしているのだろう。

それでも、これほど強力なカードをプレゼントしてもらったあたしは、
とても感動してしまい……

ますます吹雪さんのことが好きになってしまった。


・・・


温田とのデュエルが終わり、普段の授業が始まった。
クロノス教諭によるデュエル講義である。

今日は転校生が来たばかりということで、基礎的な講義から始めることになった。

転校生の赤帽子くんを見つめる。

熱心にノートを取り、真剣に授業に取り組んでいる。
まだデュエルを始めたばかりなのだろうか。

あ……今、赤帽子くんがクロノス教諭に呼ばれた。
それと同じオシリスレッドの生徒が一人。

実際にデュエルを体感してみようとのことらしい。
顔に似合わず意外と熱心な教師だなと思った。

モンスターで攻撃、守備など基本的なことを、クロノス教諭が講師しながら
デュエルが進まれていく。

ドローする姿、モンスターの召喚。
赤帽子くんはなかなかサマになっている。

どことなく……どことなくだが、吹雪さんに似てるかな……と思った。


・・・


「お姉ちゃんは、タッグフォースのパートナーは誰か決まってるの?」

授業が終わり、部屋でゴロゴロしてたあたしに周子が話しかけてきた。
タッグフォース?なんだそれ?

「なんかのイベント?」

「ちょっとお姉ちゃん最近ボ〜っとしすぎ!
今から三ヵ月後に、タッグデュエルによる大きな大会をやるの。
パートナーのあてはあるの?」

タッグデュエル……パートナー……
もちろんあたしの脳裏には吹雪さんの姿がよぎった。
でも……
彼は今だに行方不明の身だ。

「いないわ……周子は?」

「えへへ……あたしもいない。組む?」

「そうね、それしか無いわね。」

「彼氏がいないと寂しいね。」

「うっさい。」

詳しく聞いてみれば、デュエルアカデミア内だけでなく、
外部からの参加もあり、テレビ放送もされるという
とても大掛かりなものらしかった。

もしかしたら、吹雪さんもこの話を聞きつけ、
タッグフォースに参加するためにひょっこり姿を現すかもしれない。
なんといっても目立つのが好きな人だからだ。

最高に盛り上がってきたところで
イエーイ!みんな僕の登場を待っていただろう!?
なんて声高らかに宣言しながら、大会に乱入なんてのも考えられる。
むしろその仕込みのためだけに、あえて行方をくらましているんじゃないか、
とすら思えてきた。

しかしあたしは大きな期待とともに……

何か例えようのない、黒い不安が胸中に渦巻いていた。



三章「天上院明日香」


五月の半ば。

この前のデュエルで気が少し紛れたおかげか、
以前よりは授業に出るようになった。


今日は学区内テストの日だ。


筆記は問題なくクリアできた。今回は優しい問題だったかな。
周子は物覚えが悪いので、筆記試験は苦手なのだけど大丈夫だろうか。

次は実技のデュエルだ。
対戦相手は教員が決め、そのデュエル内容により点数が決まる。

教員に呼ばれ、デュエル場へ向かう。

前回はカイザー亮が相手で、結果が散々だったこともあり、
あたしは気を引き締めてかかった。

「来たか、君の相手は、天上院明日香くんだ。」

一瞬、天上院という言葉を聞いてドキっとした。
しかしすぐ後に、相手があの天上院明日香ということを頭の中で理解したとき、
闘争本能が燃え上がった。

「よろしくね、石原さん。」

天上院明日香はあたしの姿を見ると、そう挨拶した。
しかしその表情は心なしか暗い。

その原因はおそらく……兄の、吹雪さんのことだろう。

そんな彼女に対して、あたしは敵意を剥き出しにしている。
罪悪感を感じ、ちょっと自己嫌悪した。

「はい、よろしくお願いします!」

いけないいけない。
嫉妬なんて見苦しいわ!
今は試験に集中するのよ!

審判の教員があたしに話しかけてきた。

「先行、後攻は君が決めるんだ。」

多分、前回の成績を考えての配慮だろう。
もっとも、先行後攻でデュエルが決まるわけでは無いが。

「先行でいかせてもらうわ。」

「わかった。」

負けるわけにはいかない!


デュエル!!


石原法子 LP4000

天上院明日香 LP4000


確か天上院明日香は、サイバーガールと呼ばれる
女性型の戦士族モンスターを中心に使用しているはず。
だとすれば、戦士族特有の展開力を警戒すべきだ。

「まずはあたしのターンね。ドロー!」

そこそこの手札だ……

「異次元の女戦士、守備表示!
このカードは戦闘を行ったとき、自分と相手をゲームから除外できる!
さらにカードを1枚セット、ターンエンド。」



石原法子 LP 4000 手札4枚
場:「異次元の女戦士」
  伏せカード1枚


天上院明日香 LP 4000 手札5枚
場:無し



まずは守りを固める戦術に出る。
相手の出方次第で、柔軟に対応できる布陣よ。

「私のターン。ドロー!
コマンドナイトを守備表示!
守備力1900よ。
このカードが存在するとき、自分フィールド上の戦士族の攻撃力を
400ポイントアップさせるわ。
そして伏せカードを1枚セットし、ターンエンドよ。」



石原法子 LP 4000 手札4枚
場:「異次元の女戦士」
  伏せカード1枚


天上院明日香 LP 4000 手札4枚
場:「コマンドナイト」
  伏せカード1枚



むむむ。
まずはお互いに壁モンスター、カードを1枚づつセットと来た。
こうなるとお互い攻め辛い。
しかし、あたしの手札には、モンスター破壊のカードが手札にある。

「あたしのターン!ドロー!
手札から魔法カード、シールドクラッシュを発動するわ。
その名の通り、フィールド上の守備表示のモンスター1体を破壊する。
明日香さんのコマンドナイトを破壊よ!」

盾を構えていた女剣士が四散した。
これで直接攻撃ができるようになった。
伏せカードが気になったが、今が好機と攻め込むことにする。

「クリッターを召喚よ。
このカードは墓地に送られたとき、デッキから攻撃力1500以下の
モンスターカードを手札に加えることが出来る。
行くわよ!
モンスターで攻撃!異次元の女戦士!」

この攻撃が通れば、2500ものライフを削れる。
しかし、女王と呼ばれるほどの天上院明日香は甘くなかった。

「甘いわね。リバースカード!
炸裂装甲!攻撃してきたモンスター1体を破壊する!」

異次元の女戦士が消滅し、ダメージを与えることが出来なかった。

「う……仕方ない……
クリッターで攻撃よ!」

「くぅ!まだまだ!」


天上院明日香 LP 3000


ライフを削れたものの、まだ余力があるだろう。
とりあえずこちらの伏せカードは残っているので、
まだ安心できる。

「ターンエンドよ。」


石原法子 LP 4000 手札3枚
場:「クリッター」
  伏せカード1枚


天上院明日香 LP 3000 手札4枚
場:無し



「私のターン。ドロー。
よし……天使の施しを発動するわ。
デッキからカードを3枚ドローし、2枚を捨てる。
続いて手札から魔法カード、サイクロンを発動!
フィールド上の魔法・罠を1枚破壊する!」

「えぇ!?」

なんということだ。
あたしの伏せていた、魔法の筒が破壊された。
このカードは攻撃してきたモンスターの攻撃を跳ね返すというものだけど、
もちろん魔法には意味を成さない。

「さらに……
これがサイバー・ガールよ!
ブレード・スケーターを召喚!
攻撃力は1400!」

あたしの場のクリッターの攻撃力は1000。
太刀打ちできない。

「クリッターに攻撃!
アクセルスライサー!」

クリッターがブレード・スケーターに思いっきり蹴りとばされ、
会場外へと吹っ飛ばされた。

「うぁ…」


石原法子 LP 3600


ダメージを受けてしまったが、まだライフに余裕はある。

「ええい!
破壊されたクリッターの効果発動よ!
う〜ん……相手の攻撃力は1400かぁ……
デッキからダンディライオンを手札に加えるわ。」

このカードの攻撃力と守備力は300と低い。
だけど、破壊されたとき、攻守ゼロの綿毛トークン2体を場に特殊召喚できるカードだ。

「カードを1枚伏せ、ターンを終了するわ。
さあ、石原さんのターンよ。」



石原法子 LP 3600 手札4枚
場:無し


天上院明日香 LP 3000 手札2枚
場:「ブレード・スケーター」
  伏せカード1枚



なかなかにピンチの状況だ……
的確にカードを除去し、攻めてくる堅実な戦闘スタイルに圧倒されつつある。
でも……負けないから!

「あたしのターン!ドロー!」

攻め込むためのモンスターがいない。
あたしの手札はさっき加えたダンディライオン、そして……
ならず者傭兵部隊、聖なる魔術師、貪欲な壺、クロスソウルといった感じだ。

ならず者傭兵部隊は、モンスター破壊に役に立つが、今の状況で使うのは危険だ。

聖なる魔術師は、墓地から魔法カードを回収できる強力カードだけど、
今自分の墓地にあるのはさっき使ったシールドクラッシュだけ。

貪欲な壺は、墓地のモンスター5枚をデッキに戻し、
シャッフルして2枚ドローするというカードだ。
しかし墓地にモンスターが溜まってないと発動できないから、
今の状況では使えない。

クロスソウルは相手モンスターを生贄に出来るが、
手札に生贄召喚に使えるカードは無い。


こうなれば選択肢は一つしか無くなってしまう。

「ダンディライオン、守備表示!
ターンエンド。」



石原法子 LP 3600 手札3枚
場:「ダンディライオン」


天上院明日香 LP 3000 手札2枚
場:「ブレード・スケーター」
  伏せカード1枚



さきほどのクリッターの効果で
戦闘に無敵の魂を削る死霊を手札に加えても良かったけど、
――前のターンの攻防で
天上院明日香はカードの効果で場を掃除し、
サイバー・ガールによる直接攻撃を狙うデッキタイプとあたしは予想した。

それならばということで、トークンを生み出すことで
場に多く留まれるダンディライオンを選択したのだ。

「私のターンね。ドロー!
さらにサイバー・ガール、エトワール・サイバーを召喚するわ。
攻撃力1200よ。
だけどプレイヤーに直接攻撃するとき、攻撃力が500ポイントアップする!」

このままモンスターを展開されるとマズイことになる。
が、今はダンディライオンに頼って守るしかない。

「まずはエトワール・サイバーでダンディライオンに攻撃!」

同じように蹴られ、ダンディライオンが消滅した。

「く……!モンスター効果、発動よ!
綿毛トークン2体を特殊召喚!」

ふわふわしたトークンがあたしを守る。

「続いてブレード・スケーターで攻撃よ!
アクセルスライサー!」

綿毛トークンが残り1体になってしまった。
このままでは壁すら無くなってしまう。

「カードを1枚伏せて、ターンエンドよ。」



石原法子 LP 3600 手札4枚
場:「ダンディライオン」


天上院明日香 LP 3000 手札2枚
場:「ブレード・スケーター」「エトワール・サイバー」
  伏せカード1枚



「うぅん……あたしのターン!」

気合を入れてドロー!
来た!
来たぁ!

「綿毛トークンを生贄に捧げ……
これよ!
氷帝メビウスを召喚!さらにモンスター効果よ!
フィールド上の魔法・罠を2枚まで破壊できる!」

「なんですって!?」

ありがとう吹雪さん!
やっぱこのモンスター強いって!

手札のクロスソウルを使ってもよかったが、
それを使うとバトルフェイズが行えなくなる欠点があるので、
今は手札に温存することにした。

「明日香さんの伏せカードを1枚破壊するわ!
フリーズバースト!」

「やるわね……伏せていたカードは、さっきのと同じ、炸裂装甲よ。」

危なかった。これで攻撃は確実に通る。

「氷帝メビウスで、エトワール・サイバーに攻撃よ!
アイスラーンス!」

氷帝メビウスが放った氷柱がエトワール・サイバーを貫き、
そのまま天上院明日香に襲い掛かった。

「う!!」

氷帝メビウスの攻撃力は2400なので、1200の大きなダメージだ。


天上院明日香 LP 1800


「ターンエンドよ!」


石原法子 LP 3600 手札4枚
場:「氷帝メビウス」


天上院明日香 LP 1800 手札2枚
場:「ブレード・スケーター」



よし、手札もライフ差も場も有利な状況になった。

「私のターン、ドロー!
魔法カード、強欲な壺!
デッキからカードを2枚ドローするわ。」

あぅ……ここで壺かぁ。これはなかなかキツイ。
これで天上院明日香の手札は4枚に。

「続いて魔法カード、戦士の生還を発動!
墓地から戦士族モンスターを1枚、手札に加えることが出来る。
私が選ぶカードはエトワール・サイバー。」

氷帝メビウスの攻撃力なら、並のモンスター相手に破壊されないけど、
天上院明日香は冷静だ。
これに対しても対抗手段が手札にあるのだろうか?

「あなたに究極のサイバー・ガールを見せてあげるわ。
魔法カード、融合発動!」

え……!?
こ、これは何かマズイ。

「手札のエトワール・サイバーと、フィールドのブレード・スケーターを融合!
サイバー・ブレイダーを召喚!
このカードは相手の場のモンスターの数により効果が決定されるわ。
1体の場合は、戦闘で破壊されない効果となる!」

な、なんだ。
ならまだ大丈夫だ。
サイバー・ブレイダーの攻撃力は2100だから、氷帝メビウスには届かない。
戦闘無敵の効果でやり過ごす気だろうか?
それならば、このターンを凌げれば、手札のならず者傭兵部隊で破壊できる。
これで天上院明日香の手札は残り2枚……

「まだよ!魔法カード、早すぎた埋葬を発動!
800ポイントのライフ払って、モンスターを1体蘇生させるわ。」


天上院明日香 LP 1000


「さっき天使の施しで墓地に送った上級モンスター、
サイバー・プリマを特殊召喚!
攻撃力は2300よ!」

……。
天上院明日香の手札は残り1枚。
なんだかとても嫌な予感がする。

「これで終わりよ!
魔法カード、団結の力をサイバー・ブレイダーに装備!
このカードは自分フィールドのモンスターの数だけ、
800ポイント攻撃力をアップさせるわ。
今は2体いるから、1600ポイントアップよ。」

と、いうことは、今サイバー・ブレイダーの攻撃力は3700というわけだ。
ああ!
氷帝メビウスがやられる!
でもライフはまだ……ん?
ちょっと落ち着いてライフを計算してみる。

あたしの残りライフは3600。
これで氷帝メビウスが破壊されると、1300ポイント削られる。
で、サイバー・プリマの攻撃力は2300だ。

……

……

……あ……


負けじゃん。


「行くわよ!サイバー・ブレイダーで氷帝メビウスを破壊!
グリッサード・スラッシュ!
そしてサイバー・プリマのダイレクトアタック!
終幕のレヴェランス!」

「きゃぁぁぁ!!」


石原法子 LP 0


「そこまで!天上院明日香くんの勝ちだ。
お互い、テストの詳細な点数は後日、PADに送るので確認しておくように。」

「わかりました。
いいデュエルだったわ。ありがとう、石原さん。」

「あ、ありがとうございましたぁ……」

あたしはがっくりと肩を落としてデュエル場を立ち去った。
まぁ前回ほど酷い結果じゃないことが唯一の救いだ。

天上院明日香……いつか必ず勝つ!


・・・


テストは終わった。色んな意味で。
そろそろ夕陽が沈む時間だ。
この時間になると、いつも氷帝メビウスをもらった浜辺の出来事を思い出す。

ぐぅ。

お腹が減った。

購買部がまだ空いてる時間なので、
あたしは腹の音に従うままに歩く。

途中、廊下で知った顔に出会った。
赤帽子くんだ。

「や、少年。テストどうだった?」

赤帽子くんはめでたく実技テストに勝利したらしい。
ああ、うらやましい。

デュエルのこと、趣味のこと、学園のこと。
とりとめない話をしながら、二人並んで購買部へ向かう。
赤帽子くんもお腹が減っているらしい。

あたしはオベリスクブルーの生徒として、
ちょっとお姉さんぶってカードの有効活用方法などを教えてあげた。

「儀式カードって知ってる?
儀式カードを使うときはね、マンジュゴッドって言う
サポートカードとかも入れておくといいよ。
あはは、よけいなお世話だったかな?」

あたしも周子に負けず劣らずお節介なものだ。
そんなことを話してる間に、購買部へ着いた。

「いらっしゃいませー!あ、法子さん!テストはどうでしたかー?」

いつも元気な購買部のセイコさん。
その言葉がグサリとあたしの胸に突き刺さる。

「あはは……それは聞かないで……」

買うものはもちろん、ドローパン!
これは百何種類という具が存在していて、
買ってみるまでどんな具が入ってるかわからない。
くじ引き感覚……いや、
カードドロー感覚の食べ物だ。
安いので学生達に重宝されている食べ物だが、
とんでもない具にぶちあたることもある。
そのときは引きが悪かった、ということだ。

「よぉし、引くわよ。ドロー!」

あたしと赤帽子くんは1個づつ買って、その場で食べた。
さて、何が入っているか……


な、なんだこの食感は。

柔らかな歯ごたえ。

全体に染み渡る微妙な味。

なんかぶつぶつしてる。

長い?

あ、細い。

あたしの買ったパン、それは……

「あー、それは、もりそばパンですねー。」

も、もりそばだと……

そんなものをパンに入れるなど、いまだかつて聞いたことが無いわー。

かたや、赤帽子くんは美味しそうに食べてる。
なんとステーキパンだ。
彼はよほど引きが良いらしい。

だがこれはいくらなんでもあんまりじゃないだろうか。

このままではお腹が膨れたと感じないので、もう1つ買うことにした。
今度は、やきそばパンが出た。

普通だ……
しかし何故メン類ばかり?


・・・


赤帽子くんと別れ、帰路につく。
途中の山道から、あの浜辺が見える。
二つの人影が寄り添っている。
カップルだろうか?
いいな……

あたしは足早に女子寮へ帰った。

「おかえり〜」

周子は先に帰っていた。
のんきに本を読みふけってる。
筆記は大丈夫だったのだろうか?
なんだか余裕だ。

「周子はテストどうだったの?」

「ん〜、筆記はちょっと危ないかもしれないけど……
実技のほうは絶好調だったよ。
お姉ちゃんはその様子だとダメそうだね。」

「うっさい。」

仕方ない……
今日はデッキの調整がイマイチだったようだ。
天上院明日香に勝つためには、入念な構築が必要だろう。

ざっとカードを並べる。
上級モンスターの中心はもちろん、氷帝メビウス。
下級モンスターは、ちょっと攻撃力が不足しているかもしれない。
生贄要員を集めすぎているのかも。
魔法カード、罠カードも防御系のカードを増やすべきか。

こうしてあたしは、久しぶりに真面目にデッキの構築をするのだった。


先日感じていた黒い不安はまだ消えない。

どこかで吹雪さんが助けを求めている……。
そんな予感がする……。



四章「石原周子」

今日は日曜日。
たくさん寝ていられる日だ。
ベッドで安らかな眠りにつく。

しかしあたしの愚かな妹はそれを許さない。

「お姉ちゃんおはよぉー!」

と叫びながら、周子があたしの毛布を剥ぎ取る。
何をする。

「今日は日曜日。だからデュエル場でタッグデュエルの日だよ!」

そういえば、そんなものをやってると聞いたことがあるような。
毎週日曜日に生徒たちがタッグを組み、タッグフォースに向けて
デュエル場で模擬デュエルを行っているそうなのだ。

「も〜、私とタッグを組むんでしょ?
少しでも練習しておこうよ。」

そうだ……そんなこと言ったっけ。

「わかった、わかった。今着替えるから待っててよ……」

「玄関で待ってるよ。もう始まってるみたいだから急いでね。

ふぁ〜っと大きなあくびをしながら背伸びをし、
とりあえず歯を磨く。

「ま……この前再調整したデッキのテストもしなきゃいけないしねー……
よっこい、しょっと。」

寝巻きを脱ぎ捨て、寝ぼけまなこでクロゼットを開ける。
オベリスクブルー女子指定の制服に着替え……
はて、胸のサイズが小さいような。

「お姉ちゃんまだ……?
ちょッ!それ私の制服!」


・・・


デュエル場ではすでに多くの生徒たちがタッグデュエルを行っていた。

タッグデュエルのルールは、通常のデュエルと同じルールで行うけど
以下6つが注意する点だ。


・プレイヤーはそれぞれABCDとし、
 プレイヤーAC、BDでそれぞれチームを組む。

・A→B→C→Dの順番でターンが進んで行く。

・フィールドは通常のフィールドを使い、4人で同時に使用する。

・ライフポイントは二人で共有し、
 どちらのプレイヤーが攻撃を受けてもライフは減少する。

・パートナーが場に出したカードは自分で使用することが可能。

・円滑にデュエルを行うため、デュエル中、パートナーとの相談は不可。


ここで押さえておくべき点は、ライフはそれぞれが持っているのでは無く、
二人で共有というところ、
そしてパートナーのカードは自分でも使用することが出来る点だろう。

デュエル中相談不可能となると、ここはパートナーとの相性、
そしてどれだけ信頼できるかが重要だ。

パートナーのカードも使用できると言うことは、
一人では不可能だった未知の戦術を使うことも、あるいは可能だろう。
本来デッキに1枚しか入れられない制限カードを二人分使えるのも
タッグデュエルの特徴と言える。


タッグデュエルのルールを頭に叩き込んだあたしは早速デュエルしに挑む。

狙うは天上院明日香!

……と思ったけど、なにやら見当たらない。
他の場所でデュエルしているか、不参加のどちらかだろう。
カイザー亮とタッグを組んでる、という噂もある。
もし本当なら尻尾巻いて逃げるしかない。

見知ったオベリスクブルー女子生徒のぺアがいたので、声をかけた。

「おお、法子殿、周子殿。はじゃ〜タッグデュエルかえ?」

「あ、えっと、あのその……法子さん……周子さん……
こんにちは……」


ちょっと時代かかった物言い……
というかおじいさん言葉の生徒は山本百合。
愛称は百合ちゃん。
見た目は可愛いのだけど、
なんでこんな言葉づかいをするかはわからない。

そしてオドオドした生徒が宇佐美彰子。
こっちはウサちゃんと呼ばれる。
口調がちょっと周子と似ている。
二人はよく一緒にいるが、よくわからない組み合わせではある。

周子が続いて声をかける。

「私たちとやりませんか?タッグデュエル。」

彼女たちはもちろん承諾した。


じゃんけん、ぽん。


先鋒はこのあたし、石原法子。

次に山本百合、石原周子、そして宇佐美彰子とターンは流れる。

あたしはデュエル開始を宣言した。

「よーし行くぞー!」


デュエル!!


法子&周子 LP 4000

山本&宇佐美 LP 4000


「あたしのターン、ドロー!」

何しろ初めてのタッグデュエルだ。
相方の周子のデッキは知り尽くしているので、
それを考慮に入れた戦法を立てなければ。

「マシュマロン、守備表示!
守備力500。
このカードは戦闘で破壊されないわ。
そしてカードを1枚セット。
ターンエンドよ。」



法子&周子 LP 4000 手札4枚&5枚
場:「マシュマロン」
  伏せカード1枚

山本&宇佐美 LP 4000 手札5枚&5枚
場:無し



次は山本百合のターンだ。

「ほいでわ、ワシのターンじゃな。ドロー。
ふむ、戦闘では無敵のモンスターかの……
ではここは様子見じゃ。
セイバー・ザウルスを攻撃表示で召喚するぞい。
攻撃力は1900じゃ。」

攻撃力が高めの恐竜族が召喚された。
この二人は恐竜族を使っている生徒なのだ。

「ターンエンドじゃ。」



法子&周子 LP 4000 手札4枚&5枚
場:「マシュマロン」
  伏せカード1枚

山本&宇佐美 LP 4000 手札5枚&5枚
場:「セイバー・ザウルス」



次は周子のターン。

「…………」

え?周子のターンだよね?

「ちょっと、周子?」

「え?
あ!わ、私のターン!」

……どうやらボ〜っとしていたらしい……
大丈夫かこの妹は。

「え〜と、UFOタートルを守備表示です。
攻撃力1400、守備1200だよ。
戦闘で破壊されたとき、デッキから炎属性、
攻撃力1500以下のモンスターを特殊召喚できる。
そしてカードを1枚セット。
ターンエンドです。」



法子&周子 LP 4000 手札4枚&4枚
場:「マシュマロン」「UFOタートル」
  伏せカード2枚

山本&宇佐美 LP 4000 手札5枚&5枚
場:「セイバー・ザウルス」



どうやら周子は攻めるためのカードが無いらしい。
少し不安になる。
次は宇佐美彰子のターンだ。

「わ、私のターン……。ど、ドロー……
えと……
セイバー・ザウルスさんを生贄に……。」

なんと宇佐美彰子はパートナーの召喚した強力モンスターを生贄にした。
下手をすればパートナーとの間に亀裂が入りかねない行為だ。
相談は禁止されているため、こういった行為が吉と出るか凶と出るかは
パートナーをどれだけ信頼できるかにかかっているだろう。

山本百合は少しも慌てた様子は無い。
まるで彼女がこうすることをわかっていたかのように、
ニンマリと微笑んでいる。

「暗黒ドリケラトプスさんを召喚!」

なにッ!?
そ、そんな馬鹿な!

「攻撃力2400です。
このカードは守備表示のモンスターを攻撃したとき、
数値が越えている分だけ貫通ダメージを与えることが出来ます。」

あたしたちの場のマシュマロンは戦闘で破壊されない。
しかしダメージ計算は適用する。
つまり……
貫通能力を持った暗黒ドリケラトプスのサンドバックにされるのだ。

「マシュマロンちゃんに攻撃します!」

マシュマロンがガブリと喰らいつかれる。
あんまり美味しく無かったのか、すぐに吐き出された。

直後、あたしたちに衝撃が走る。
1900ポイントものダメージを受けてしまった。

「うぁ!」

「キャ!」


法子&周子 LP 2100


「カードを1枚セットします。
ターンエンド。」


法子&周子 LP 2100 手札4枚&4枚
場:「マシュマロン」「UFOタートル」
  伏せカード2枚

山本&宇佐美 LP 4000 手札5枚&4枚
場:「暗黒ドリケラトプス」
  伏せカード1枚



一周して、あたしのターンだ。

「お、お姉ちゃん……」

周子が不安そうな眼で見つめてくる。

「大丈夫、あたしに任せといて!
周子もオベリスクブルーの生徒なんだからシャンとしないとダメ!
あたしのターン!」

マシュマロンはこのままにしておくと危険だ。
あたしの手札にある上級モンスターの生贄にすることにした。

「マシュマロンを生贄に捧げ……
これよ!
雷帝ザボルグ!」

あたしのデッキの切り札は氷帝メビウスだけでは無い。
帝王系カード全般が切り札なのだ。
(もちろんその中でも氷帝メビウスが格別好きだけど)

「雷帝ザボルグのモンスター効果、発動よ!
フィールド上のモンスター1体を破壊するわ!
ローリング・サンダー!」

「え……キャア!」

フィールドを支配していた暗黒ドリケラトプスを粉砕した。
これで優位にたてる。

「UFOタートルを攻撃表示に変更!
そして2体でプレイヤーにダイレクトアタックよ!
雷帝ザボルグ!
デス・サンダー!」

これが決まればライフも上回るが、彼女らもオベリスクブルー生徒。
そう簡単には通らなかった。

「こ、攻撃宣言前に、伏せカードを使います!
つ、月の書!
雷帝ザボルグを裏守備表示にします。」

雷帝ザボルグを含め帝王系カードの守備力は1000しか無い。
かなり不安な数値である。
ここが帝王系カードの弱点だろう。

「うーん残念。
これじゃザボルグは次のターン破壊されちゃうわね……
でもまだUFOタートルが残っているわ!攻撃!」

「ああぅ……」


山本&宇佐美 LP 2600


「ターンエンドよ!」

このターンの攻防は完全に逆転したとは言えないが、
なんとか巻き返せた。
周子の顔にも笑顔が戻る。



法子&周子 LP 2100 手札4枚&4枚
場:「雷帝ザボルグ(裏守備)」「UFOタートル」
  伏せカード2枚

山本&宇佐美 LP 2600 手札5枚&4枚
場:無し



次は山本百合のターン。どう出る?

「ふむふむ、なかなかやるのぉ。
ワシのターンじゃ。ドロー。」

山本百合はしばし手札を見つめ、またニンマリと微笑んだ。

「俊足のギラザウルスを、その効果で特殊召喚するぞい。
攻撃力1400じゃ。
この効果で特殊召喚した場合、
相手は墓地からモンスターを特殊召喚できる。
どうするかの?」

あたしは迷った。
墓地にあるカードはマシュマロンのみ。
復活させてもいいが、先ほどの暗黒ドリケラトプスが
また来ないとも限らない。
俊足のギラザウルスは特殊召喚扱いで出てきたため、
それを生贄にまた召喚されてもおかしくは無いのだ。
この誘発蘇生効果に対してあたしが伏せたカードを使ってもいいが、
ここで使うのは得策ではない……

どの道、雷帝ザボルグは破壊されてしまうだろう。

「……こっちの特殊召喚は無しよ。」

ここは出さないほうが安全だろう。
次に暗黒ドリケラトプスの攻撃を喰らえば致命傷だ。

「ふふふ、了承じゃ。
では手札からエレメント・ザウルスを通常召喚。
攻撃力1500じゃ。
フィールド上に炎属性が存在してれば攻撃力は500アップ。
地属性が存在していれば、戦闘で破壊したモンスターの効果を無効にするぞい。」

「地属性のギラザウルスがいるから、効果無効を持っているってわけね。」

「ふふふ、それはどうかの?
オヌシらのフィールドをよーく見てみるがよいぞ。」

あッ!
っと周子が声を上げた。

「そう、オヌシらのフィールドに炎属性のUFOタートルが存在しておる。
続いてフィールド魔法、ジュラシックワールド発動。
フィールド上に存在する恐竜族の攻守は300アップじゃ。」

草木が生い茂った、恐竜が繁栄していた時代の風景が辺りに映し出される。

「これでエレメントザウルスの攻撃力は2300じゃ。
そして俊足のギラザウルスは1700となる。
まずはエレメントザウルスで攻撃表示のUFOタートルに攻撃するぞい!」

UFOタートルがバリバリと噛み砕かれた。
900のダメージがあたし達を襲う。
さらに効果無効のオマケつきだ。


法子&周子 LP 1300


「炎属性がいなくなったので、エレメントザウルスの攻撃力が1800となる。
続いて俊足のギラザウルスで雷帝ザボルグに攻撃じゃ!」

あたしの必殺カードも破壊されてしまった。
かなりピンチな状況だ。

「さらにカードを1セット。ターンエンドじゃ。」



法子&周子 LP 1300 手札4枚&4枚
場:伏せカード2枚

山本&宇佐美 LP 2600 手札3枚&4枚
場:「俊足のギラザウルス」「エレメントザウルス」
  伏せカード1枚

フィールド魔法:ジュラシックワールド



周子のターンだ。

「私のターン!ドロー!」

この状況をどうにか出来る?
今度はあたしが不安な表情になる番であった。
しかし逆に周子は怯んでいない。
逆に微笑んですらいる。
どうやら……あのカードを引いたらしい。

「これが……私を守る黒炎!
ホルスの黒炎竜LV4を召喚です!」

これが周子の十八番、ホルスの黒炎竜だ。
その攻撃力は1600。
さらに戦闘でモンスターを破壊するたびに、
LVを上げて進化するという強力なカードだ。

「ふむふむ……じゃが、恐竜たちにはまだ及ばんのぉ?」

「私はこの子達を信じています。
手札から魔法カード、レベルアップ!発動です!
このカードはその名の通り、
LVがつくモンスターのLVをアップさせます。
そして…ホルスの黒炎竜LV4を、LV6にアップ!」

小さな竜が、巨大な翼を持った巨竜へと進化した。
その攻撃力は2300、さらに魔法効果を無効にするという、
凄まじい効果を持っていた。

「ホルスの黒炎竜は炎属性じゃの。
つまりエレメントザウルスの攻撃力は2300となり、互角じゃな。」

「まだ!
行きます!
手札からフィールド魔法、バーニングブラッド発動!
フィールド上の炎属性モンスターの攻撃力を500アップ!
でも今のこの子は魔法効果を無効にするから、攻撃力はアップしません。
けれど……。」

フィールド魔法は場に1枚しか存在できない。
ジュラシックワールドに写されていた山が突然噴火した。
フィールドがバーニングブラッドに変化したのだ。

「ジュラシックワールドが消えたことで、恐竜の攻撃力が下がります!」

「なんと。」

「よぉし、いいぞ周子!」


これでエレメントザウルスの攻撃力は2000、
俊足のギラザウルスは1400に戻った。
これならどちらも倒せる数値だ。

「エレメントザウルスに攻撃!」

あたしたちを追い詰めていた恐竜はアッという間にコンガリと焼けた。
もしかしたら食べると美味しいかもしれない。

「むぅ……」

どうやら伏せカードは発動できなかったらしい。
こちらのモンスターに影響を及ぼす速攻魔法だろうか?

「ターンエンド!
でもその前にホルスの黒炎竜LV6の効果が発動されます!
戦闘でモンスターを破壊したとき、レベルがアップ!」

来る、周子が所持する最強カードが。

「この子です!
ホルスの黒炎竜LV8!魔法カードの発動を封じることが出来ます!
攻撃力は3000、バーニングブラッドの効果で3500に!」



法子&周子 LP 1300 手札4枚&2枚
場:「ホルスの黒炎竜LV8」
伏せカード2枚

山本&宇佐美 LP 2600 手札3枚&4枚
場:「俊足のギラザウルス」
  伏せカード1枚

フィールド魔法:バーニングブラッド



次は宇佐美彰子のターンだ。
この最強モンスター相手にどう立ち回るか。

「わ、たたた、わた、しのターン……」

かなり怯えている……
無理もない、ホルスの黒炎竜の迫力は半端では無いのだ。

「は、は、ハイパーハンマーヘッドちゃん……攻撃表示で……
あ、攻撃力1500で、す……」

攻撃表示?

「このカードは……
せ、せ、せ、戦闘を行ったあ、あ、相手モンスターを手札に戻します……」

なんだって!
彼女はホルスの黒炎竜LV8を手札に戻させ、
この状況を逆転させる気なのだ!
しかしその代償に2000ものダメージを受けてしまう。
だが、現段階では最良の一手であろう。
こういった行動に出るとは、凄い度胸だ。
怯えているなんてとんでも無かった。
冷静な判断力である。

「ご、ごめんなさいハンマーちゃん!
ホルスの黒炎竜LV8さんに攻撃して!」

相手の場をよく見る。
攻撃1400の俊足のギラザウルスがいる……!
つまりこの攻撃が全て通れば!?

ふと、あたしは最初のターン、自分が伏せたカードを思い出した。
そしてパートナーは味方のカードを使用できる……

「周子!!」

周子がハッとして、その伏せカードを見た。

ハイパーハンマーヘッドの攻撃がホルスの黒炎竜に命中し、
大きく吹き飛ばされるか……と思いきや、

「この瞬間リバースカードオープン!!
手札のプロミネンス・ドラゴンを1枚捨て、天罰を発動します!」

天からの雷がハイパーハンマーヘッドに命中し、破壊した。
このカードはモンスターの効果が発動されたとき、
その効果を無効にして破壊するというものだ。
ホルスの黒炎竜は場に留まり、あたしたちの優位は揺るがなかった。

「ふ、ふぁ……
俊足のギラちゃん守備表示に変更……
か、カードを1枚伏せて……え、エンド……」


法子&周子 LP 1300 手札4枚&1枚
場:「ホルスの黒炎竜LV8」
伏せカード1枚

山本&宇佐美 LP 600 手札3枚&3枚
場:「俊足のギラザウルス」
  伏せカード2枚

フィールド魔法:バーニングブラッド


よぉし、あたしのターン!

「ドロー!このターンで決めるわ!
手札から魔法カード発動!デビルズサンクチュアリ!
メタルデビルトークンをフィールド上に特殊召喚するわ。
そしてこのトークンを生贄に……これよ!
地帝グランマーグを召喚!攻撃力2400!」

氷帝メビウス、雷帝ザボルグに続き、3枚目の帝王カードだ。
このカードとホルスの黒炎竜で決着をつける!

「このカードはセットされているカードを1枚破壊する!
ウサちゃん、あなたが今伏せたカードを破壊するわ!」

山本百合が伏せたカードは、使用できない魔法カードと
検討をつけたあたしは、危険な香りがする方のカードを選択した。

「こ、ここでその対象になった伏せカードを使います!
は、は、は、破壊輪!!
フィールド上のモンスターを破壊して、その攻撃力分のダメージを
お互いのプレイヤーにあ、与えます!
その対象は地帝グランマーグさん!」

あたしたちのライフは1300。
向こうのライフは600。

「お姉ちゃん!」

今度は周子があたしに叫んだ。

「大丈夫よ周子!あんたが伏せたカードを使うわ!
リバースカードオープン!王宮のお触れ!
罠の発動と効果を無効にするわ!」

「え……あァ!?」

「行くわよ!
地帝グランマーグで、ギラザウルスに攻撃!
バスターロック!」

長いことフィールドにいた俊足のギラザウルスを粉砕する。
ギラザウルスの守備力は400しか無いので、
地帝グランマーグの攻撃を防ぐことは出来ない。

「行っけぇー!
ホルスの黒炎竜LV8でダイレクトアタック!」

「きゃああぁぁ!」


山本&宇佐美 LP 0


ホルスの黒炎竜の灼熱のブレスがフィールドを焼き尽くした。
紙一重のデュエルだったが、なんとかあたしたちは勝利できた。

「う、うぅぅ……ゴメンなさい百合ちゃん……」

「ほほほ、気にすることは無いぞい。
オヌシはよぉやった。
見事じゃったぞ、法子殿、周子殿。」

山本百合は自分が伏せたカードを見せた。
収縮である。
魔法カードが通用しないホルスの黒炎竜に使用できなかったのだ。
ついでに手札の暗黒ドリケラトプスも見せてきた。
さっきの場面でマシュマロンを蘇生していたら……

「危なかったよ……」

周子の助けがなければやられていた。

「ほほほ、ではワシらは次のデュエルに向かうとするかの。
タッグフォース本番では負けんぞ?」

「うん、またやろう!」

あたしたちも次の対戦相手を探した。
タッグデュエルは新鮮味もあるせいか
すっかり熱中してしまい、寮に帰る頃にはすでに夕方になっていた。


・・・


「だからさぁ、周子。もっと生贄確保のカード入れたほうが
あたしの帝王系カードを活かしやすくなるんだって!」

「お姉ちゃんこそ攻守増減系のカード増やせば、
私のホルスの黒炎竜をレベルアップしやすくなるの!」

その日は夜中までタッグデュエル用のデッキ作成に夢中になるのであった。


・・・


暗闇の中。

天高く続く道。

熱風が吹き荒れる。

『やめろ……何をする!』

『どこへ連れていく気だ!』

『僕のカードを……やめろ!』

「うわぁ――!」

はぁ……はぁ……。

なんだ……今の夢……。

あたしは汗びっしょりになって目を覚ました。
深夜2時……。

嫌な夢を見た。
吹雪さんが大きな闇に飲み込まれる夢だ。

しかしどこかで見たような場所だった。

暗くて、高くて、そして熱い場所……。

そこに吹雪さんはいるのだろうか?

不安はどんどん膨らんでいく。

一体なんなの?

会いたい……吹雪さん……。

どこに、どこにいるの!?

泣きそうだ……。

でも、吹雪さんに会うまでは……。

絶対に泣かない。

誓う、誓うよ。

だからもうこんな悪夢は見せないで。
吹雪…さ…………。



五章「吉澤由美・1」

近頃、妙な噂が流れている。
デッキに入れていたカードがいつの間にか無くなってしまうというものだ。
ただ単に抜いてそのまま忘れてしまった、というレベルではない。

中には5,6枚ゴッソリ抜き取れてる生徒もおり、
ちょっとした泥棒騒ぎになっていた。

「あたしのカードはまだ大丈夫みたい……」

デッキはバラしてちゃんと40枚あることを確認した。
氷帝メビウスが取られでもしたら、あたしは発狂するかもしれない。
しかし、周子のほうはそうはいかなかったようだ。

「なんで……私のホルスの黒炎竜が。」

ホルスの黒炎竜は周子がカードゲームを始めたころから
長い間、相棒として使っているカードだ。
そのカードたちが3枚とも消滅している。
周子がいくらボ〜っとしてるからって、手放すことは絶対に無い。

あたしたちは手分けしてカードケースをひっくり返して探してみたが、
やはり見つからない。

「周子……もう時間。学校行こう……。」

「うん……」

いつ無くなったのだろうか。
あたしたちは昨夜までデュエルしていたのだ。
そうなると、夜中のうちに何者かが侵入しているとしか考えられない。

乙女の寝室に忍び込むなんでて、まぁいやらしい。
絶対に見つけだす!


・・・


学園に入る生徒たちの表情はどこか暗い。
やはりこの騒ぎが関係しているのだろう……

と、そこへ急に声をかけられた。

「むふ、ちょっといい?法子。」

話しかけてきたのは、アカデミア中等部の頃からの先輩、
吉澤由美先輩(彼氏アリ)だった。
凛々しくて、デュエルも強い。
デュエルの基本は先輩から教わったのだ。
だがしゃべるときに、むふっという言葉をつける癖があるのが、
妙と言えば妙だ。

「先輩は無事ですか?」

「私は平気。むふ。
でも法子たちがちょっと心配で。」

その言葉に周子の顔がより暗くなる。

「はい……。
あたしは大丈夫です。でも周子が……」

「周子のカードが?
ゴメン……」

「い、いえ。また……集めればいいですし……」

集めるといっても、ホルスの黒炎竜はレアなシリーズで、そう簡単には集まらない。
いつもよりもずっと弱気な周子の態度に、
あたしはミノタウルスばりに激昂した。

「周子!いつまでウジウジしてんの!
あたしたちの手で犯人をとっ捕まえるのよ!」

「学園にいる人たちのも話を聞いてみよう。
むふ、こうなったら徹底的に洗うわよ。」

吉澤先輩のカードは無事だが、先輩のカレのカードが無くなったらしい。
あたしは先輩の彼氏がどういう人かは知らないが、ここの生徒なのだろう。

何人かに話しを聞いてみれば、盗まれたのは
オベリスクブルーの生徒に集中しているようだ。

「むふ……ブルー生徒はレアカード持ってる人多いから……
その中でレアリティの高いカードを狙った犯行かも……」

そうしているうちに授業の時間になった。
後で吉澤先輩と会う約束をし、出席する。

「エーそれで〜ワ〜、出席を取るノーネ。
オヤ〜?
クロカーワ タダカーズは今日も休みデス〜ノ?
サボりはイケないノ〜ネ。よって、ペケジルシ。ユキジルシ。」

黒川唯一。

彼は最近欠席が多い。
確か……属性デッキ六人衆の一人だ。
闇属性を操るらしい。
彼一人だけ休むなんておかしい。
なにかピンと来たあたしは近くに座っていた温田に話を聞いてみた。
どうやらこいつ、落第を免れたらしい。

「ああ……なんだお前か。
黒川なぁ。あいつ最近、変なんだよ。
ボ〜っとしてること多いし、森に発電所が立ってるだろ?
あそこで一人で立ってること多いんだよ。」

むむむ。
一見関係無さそうだが……。

温田も一連のカード盗難にあっているようで、あまり元気が無かった。

講義が終わり、吉澤先輩に会ってみることにする。

「夜中の十一時過ぎに、
森の方角にカードが飛んでいくのを見た人がいるらしい。
むふ。こりゃあちょっとしたオカルト話ね。」

いよいよ尻尾を掴んだ。
今夜十一時に森の付近で見張りをすることにした。

あたしはカードを取られた他の生徒たちにも
手がかりを掴んだことを伝えた。
すると多くの生徒がこの警備に名乗り出てくれて、
カードを取り戻すことを表明してくれた。

作戦は今夜十一時決行よ!


・・・


十一時近くになり、あたしたちは森の入り口へ向かった。
結構な人数が集まっていた。十何人か、だろうか。
こんな深夜の外出は禁止されているので、教師に見つかったら大変である。

「ふふふ、何が出るのか楽しみじゃのぉ。」

「わ、わ、わ、私たちのか、カード……
さ、探さないと……」

山本百合、宇佐美彰子らの生徒も一緒に来てくれた。
もしかしたら赤帽子くんもいるかもしれないが、
周囲が暗いのでよく見えない。

吉澤先輩が指揮を取る。

「むふ、それじゃあみんな、周りをよく警戒して。
まだ森の中に入っちゃダメよ。危険だから。」

と、そこへ……

「あ!あれ!」

誰かが空に向かって指差して叫んだ。
なんと!カードが空を舞って飛んでいるではないか。

「う、噂は本当だったのか。」

どうやら発電所のほうへ飛んでいくらしい。
みんなが少しざわつき始めた。

「みんな落ち着いて。むふ。
みんなで手を繋いで、はぐれない様にして!」

カードはこうしてる間に次々と飛んできていた。
オベリスクブルーの男子寮、女子寮から何枚か飛んできたのが見えた。
一体どうなっているのか……。

「あ!お、お前、黒川!」

温田が突然叫んだ。
発電所に辿りついたあたしたちの前に姿を現したのは、
最近欠席が多くで妙だと言われていた、黒川唯一だった。
手にしたカードは飛んできたカードだろうか。

「く、くくくく。
どうかしたのか?」

虚ろな目をした黒川。
何か嫌な感じがする。

吉澤先輩が前に出る。

「むふ。あなたがみんなのカードを奪ったの?」

「そうだと言ったら?」

「返す気はある?」

「……。」

その質問には黒川は無言だった。
だか、口元にはいやらしい笑みが浮かんでいる。

「そう……なら腕ずくでも取り戻す。」

そう言って、先輩がデュエルディスクを構える。

「馬鹿め……貴様も復活のための生贄にしてやろう。」

復活の生贄?
何のことだろうか。
黒川もディスクを構えた。

「先行はくれてやる。」

「むふ、優しいのね。最もそんなことしても容赦しないわよ。」


デュエル!!


吉澤由美 LP 4000

黒川唯一 LP 4000


「私のターン!ドロー!
むふ……首領ザルーグを攻撃表示で召喚!
攻撃力1400、さらにダメージを与えたとき、
相手の手札を捨てさせるか、デッキからカードを墓地に送る!」

吉澤先輩ははっきり言って強い。
バランスが取れている手札破壊を中心とするデッキで、
あたしは何度も手札を枯らされた経験がある。

「カードを一枚伏せて、むふ、エンド!」


吉澤由美 LP 4000 手札4枚
場:「首領ザルーグ」
  伏せカード1枚

黒川唯一 LP 4000 手札5枚
場:無し


「くくく、俺のターン。ドロォ!
大木人18を攻撃表示で召喚!攻撃力1600だ……」

と、そのとき、あ!っと大きな声を上げた生徒がいた。
温田だ。

「それは俺のカードじゃねぇか!
黒川!テメェが盗んでやがったのか!返しやがれ!」

温田は主に炎属性のカードを使う他、18と名のつく
モンスターカードシリーズも主軸に使っていた。
彼が無くしたのはどうやらこの大木人18らしい。

「お前のカード?
馬鹿を言うな……これは俺が集めた<Jードだぞ。
く、くっくっくくくく!」

その言葉に吉澤先輩の表情が変わった。

「あんた……」

かなり怒って……いや、半ギレ状態だ!

「くくく、俺のターンの途中だったな……
大木人18で、首領ザルーグに攻撃だ!」

吉澤先輩が叫ぶ。

「人から盗ったカードで勝てると思うな!!
リバースカードオープン!収縮!
大木人18の攻撃力を半分にする!」

収縮の効果を受けた大木人18が小さくなり、
首領ザルーグの反撃を受けた。


黒川唯一 LP 3400


「ダブルリボルバー!
そして首領ザルーグの効果発動!むふ。
さぁ黒川くん。
あなたから見て、右から2番目のカードを捨てなさい。」

黒川は無言でカードを捨てた。
不利な状況のはずだが、まだ余裕ある表情だ。
 
「フン、レア度の低いカードなど、しょせんこんなものか……
使えん。」

温田の表情が、今度は情けないものになっていく。

「く、黒川……お前、どうしちまったんだ?」

もはや黒川は温田が眼中に入っていないかのように、ゲームを続けた。

「カードを2枚セット。ターンエンドだ。くくく。」


吉澤由美 LP 4000 手札4枚
場:「首領ザルーグ」

黒川唯一 LP 3400 手札2枚
場:伏せカード2枚


「みんなのカードは私が必ず取り戻す。
むふ、私のターン!ドロー!」

このまま吉澤先輩のペースに持ち込めれば、
一気に勝負をつけられる。

「首領ザルーグで攻撃!ダブルリボルバー!」

「リバースカード!メタル・リフレクト・スライム発動!
守備力3000の壁となり、俺を守る!」

この永続罠、メタル・リフレクト・スライムはかなりのレアカードのはずだ。
やはり誰かのカードなのだろうか?

「むふ、残念ね。カードを1枚セットしてエンド。」



吉澤由美 LP 4000 手札4枚
場:「首領ザルーグ」
  伏せカード1枚

黒川唯一 LP 3400 手札2枚
場:「メタル・リフレクト・スライム」
  伏せカード1枚



「俺のターン……ドロォ。」

「待ちなさい!リバースカード、はたき落とし!
ドローしたカードを捨ててもらうわ。」

「ふん……。
予想以上にやるようだな。貴様は上質の生贄になりそうだ。
くくくく……。」

生贄というのがなんのことかわからないが、
この不利の状況でも黒川は余裕だ。
どこからその自信が来るのだろうか。

「怨念のキラードールを攻撃表示で召喚。
攻撃力1600だ……
首領ザルーグに攻撃!」

吉澤先輩の主力モンスターは斧の一撃でやられてしまった。


吉澤由美 LP 3800


しかし総合的にはまだ先輩のほうが有利。

「続いて手札から、永続魔法エクトプラズマーを発動。
お互いのエンドフェイズにモンスターを生贄に捧げ、
その攻撃力の半分のダメージを相手に与える。
生贄は強制だ……くくく。ターンエンド!」

黒川がエンド宣言をした。
ということは……

「エクトプラズマーの効果発動!
いけ!キラードール!」

「きゃぁ!」


吉澤由美 LP 3000 手札4枚
場:無し


黒川唯一 LP 3400 手札0枚
場:「メタル・リフレクト・スライム」
  「エクトプラズマー」
  伏せカード1枚


「まだまだ、私のターン!ドロー!」

黒川の手札はゼロだ。
しかしまだ厄介なエクトプラズマーが残っているので、油断は出来ない。

「メタル・リフレクトがいるから攻撃は通らないわね。
むふ、クリッターを召喚。攻撃力1000よ。
そしてカードを2枚セット。エンドフェイズに移行し、
エンドフェイズにクリッターを生贄に捧げるわ。」

「むぅ……」


黒川唯一 LP 2900


「そしてクリッターの効果発動。
デッキから攻撃力1500以下のモンスターを手札に加えるわ。
むふ。デッキから闇道化師のペーテンを手札に。
これでターンエンドよ。」


吉澤由美 LP 3000 手札3枚
場:伏せカード2枚


黒川唯一 LP 2900 手札0枚
場:「メタル・リフレクト・スライム」
  「エクトプラズマー」
  伏せカード1枚



「くくく……俺のターン。ドロォ!
スタンバイフェイズに、怨念のキラードールを蘇生させる。
このカードは永続魔法の効果で墓地に送られた場合、
復活させることが出来るのだ。
そして……はっはっは!
手札から魔法カード、強欲な壺を発動ォ!」

手札ゼロ枚から強欲な壺!?
なんという強運だ。
しかし先輩はそれを見切っていた!

「甘いわ!リバースカードオープン!
マジック・ジャマー!
手札を1枚捨て、強欲な壺の発動を無効に!」

「この瞬間リバースカード発動!
1000ライフを払い、盗賊の七つ道具を発動だ!
マジック・ジャマーを無効にし、
強欲な壺の効果を通常通り適用させてもらおう!」


黒川唯一 LP 1900


お互いの気迫ある戦いに、あたしたちは
固唾を飲んで見守る。

「ヒ、ヒヒヒ!クハハハハ!
さらに悪夢の蜃気楼を発動させるぞ!
相手ターンのスタンバイフェイズに、
カードが4枚になるようにドロォする!」

「……!」

吉澤先輩の顔に少し焦りが出てきた。
カードの差がつかない。

そして、黒川が新しいカードを使うたびに
誰かから悲鳴が上がる。
元々の持ち主の声だ。

「手札ゼロから、一気に4枚もカードの補充を……。
く……それも奪ったカードだと言うの……。」

「言ったはずだ。俺が集めたカードだとな!
さぁお楽しみはこれからだ……
カードを1枚セットし、
行け!怨念のキラードール!」

この攻撃が通ってしまえばかなりピンチだ。
耐えて先輩!

「キラードールには消えてもらうわ!
リバースカードオープン、
炸裂装甲!!むふ。
攻撃してきたモンスターを破壊する!
これでエクトプラズマーのコンボは使えないわね。」

「ふん、その程度でいい気になるな。
貴様の場の罠など読めていたわ!
メタル・リフレクト・スライムを生贄に捧げ、
ホルスの黒炎竜LV6を召喚する!
攻撃力2300だ!」

あ!!
っと私と周子が声を上げた。

「わ、私のホルス……だ……」

それを聞いた先輩の表情が、いよいよ悪鬼羅刹の如き顔に変貌していく。
いや、それはあたしもだろう。
周子の泣きそうな顔を見ていたら、どうにも我慢がならなかった。

「先輩!そいつブッ飛ばして!」

先輩はあたしたちのほうを向かず、
変わりに親指を立てた。
紛れも無くOKのサインだろう。

「これで俺のターンは終わりだが……
ホルスの黒炎竜LV6は魔法の効果を受けない。
従ってエクトプラズマーの、
カード効果の生贄に捧げる必要が無いということだ。
くくく、怯えろ。大人しく復活の生贄になるがいい。」



吉澤由美 LP 3000 手札2枚
場:伏せカード1枚


黒川唯一 LP 2900 手札0枚
場:「ホルスの黒炎竜LV6」
  「エクトプラズマー」
  「悪夢の蜃気楼」
  伏せカード1枚



「私のターン!さぁ、悪夢の蜃気楼の効果でカードを引きなさい!」

「くくく、あくまでも戦うか。
では……4枚ドロォ。」

「いくらでもカードを引きなさい。
何度でも叩き落として上げるから!!
手札から魔法カード、天使の施しを発動!
3枚ドローし、むふ、2枚捨てる!
そのうちの1枚は闇道化師のペーテン!
墓地に送られたとき、墓地から除外することで、
同名カードをデッキから特殊召喚する!」

先輩のフィールドに、場持ちがいいモンスターが出現した。
これは先輩の切り札が召喚される!

「闇道化師のペーテンを生贄に……
来なさい!炎帝テスタロス!攻撃力2400!」

出た!
手札破壊能力を持っている帝王カードだ。
あたしはこのカードを持っておらず、
先輩が操るのをいつもうらやましげに見つけていたのだ。

「生贄召喚時、相手の手札をランダムに捨てさせる!
効果発動!フレイム・ブレイク!」

黒川の一番左のカードが燃え上がった。
さらに炎帝テスタロスの効果はこれだけでは無い。

「捨てたカードがモンスターカードなら、
そのレベル×100のダメージを与えるわ。」

「ふん……残念だったな。魔法カードだ。」

ダメージを与えることは出来なかったが、
かなり有利になったことに間違いは無い。

「ゴメン周子!
炎帝テスタロスで、ホルスの黒炎竜LV6に攻撃!
ファイアーストーム!」

炎帝テスタロスの攻撃が、ホルスの黒炎竜を砕いた。
周子は目を覆っている。無理もない……
そして黒川はまだ減らず口を叩いている。

「ふん、ホルスもあまり大したことは無かったな……」


黒川唯一 LP 2800


このとき、あたしは初めて気付いた。
黒川の背後に、上手く説明できないが、何か≠ェある。
黒い……人の形をしたモヤのようなものが……。
みんなは見えて無いのだろうか?

「ふふふ……お前の炎帝テスタロスは生贄にしなければならないな。」

「まだよ!リバースカード、死霊ゾーマを発動!
発動後、モンスターカードとなる!
そしてこの死霊ゾーマをエクトプラズマーの生贄にするわ。」

「ふん。死霊ゾーマは攻撃力は1800あるが、
エクトプラズマーのダメージは墓地に送られた状態の攻撃力で決定される。
つまり死霊ゾーマは元々罠カードのため、俺にダメージは無い。
残念だったな。」

「まぁ仕方無いわね。
ターンエンドよ。」

ライフはあまり削れなかったが、これでかなり追い詰めることが出来た。


吉澤由美 LP 3000 手札2枚
場:「炎帝テスタロス」


黒川唯一 LP 2800 手札3枚
場:「エクトプラズマー」
  「悪夢の蜃気楼」
  伏せカード1枚


「さて、俺のターン……ドロォ!
このままでは俺は手札を全て捨てねばならない。
だがこの速攻魔法でそれを無効にする!
リバースカード、非常食発動!」

「む……ふ。やはり……。」

「悪夢の蜃気楼はドロォしたカード分、
自分のスタンバイフェイズに捨てなければならないが、
これで悪夢の蜃気楼、ついでにもはや意味の薄いエクトプラズマーを
墓地へ送らせてもらう。
そして墓地へ送った分、俺のライフが2000ポイント回復!」


黒川唯一 LP 4800


「カードを3枚セット。ターンエンドだ!」


吉澤由美 LP 3000 手札2枚
場:「炎帝テスタロス」


黒川唯一 LP 4800 手札1枚
場:伏せカード3枚


再び黒川の手札がゼロになったが、
さっきと違う点はライフが残っている点と、伏せカードの多さだ。
これでは迂闊に攻められない。

「私のターン!ドロー!
確かに攻めにくいけど……待っていても状況は変わらないわ!
炎帝テスタロスで攻撃!ファイアーストーム!」

「馬鹿めぇ!リバースカードオープン!
ドレインシールド!攻撃を無効にし、その攻撃力分ライフを回復する!
すなわち2400ポイント、俺のライフがアップする!」


黒川唯一 LP 7200


一気にライフが回復した!
だがカードの総枚数では吉澤先輩が上回っている。
ライフ差をつけられて落胆するよりも、
炸裂装甲などで炎帝テスタロスが破壊されなかったことを喜ぶべきだろう。

「見習い魔術師を守備表示で召喚。むふ。
そしてカードを1枚セット。ターンエンド!」

「ならばエンドフェイズにリバースカード、
永続罠、神の恵みを発動させる!
このカードは自分がカードをドロォする度に、
ライフを500回復させる。」


吉澤由美 LP 3000 手札1枚
場:「炎帝テスタロス」「見習い魔術師」
  伏せカード1枚

黒川唯一 LP 7200 手札1枚
場:「神の恵み」
  伏せカード1枚


「私のターン。ドロォ……」


黒川唯一 LP 7700


「く、くくく、絶望しろ!
手札から魔法カード、貪欲な壺を発動!
墓地のモンスター5枚、
――大木人18、冥界の使者、千眼の邪教神、
怨念のキラードール、ホルスの黒炎竜LV6――
をデッキに戻し、新たにカードを2枚ドロォ!」

吉澤先輩が倒したモンスターと数が合わない。
どうやら手札破壊で落としたモンスターを数に入れたようだ。

そして今度ははっきりと見えた。
モヤが黒川を包み込んでいるのを。
黒川はこれに操られている!?

「2枚同時にカードを引くことは1回分のドロォとカウントされるので、
神の恵みによる回復は500だけだ……ま、いいがな。
ははは!ライフが8000を越えたぞぉ!」


黒川唯一 LP 8200


「これで俺の手札は3枚……そして……
く、くくく!はははは!ついに来たぁ!
吉澤由美よ、ここまでよくやったと褒めてやろう!」

「なんですって……。」

「まずリバースカード、ご隠居の猛毒薬を発動……
回復か、ダメージ効果かを選択できる。
1200ライフ回復を選択!」


黒川唯一 LP 9400


「これだけのライフを前にして、まだ戦うか?
大人しく負けを認め、我が生贄になるがいい。」

「デュエルはライフだけでは決まらないものよ。
だから私はまだ負けるとは思ってない。」

「そうか……なら死ね!
手札から魔法カード、洗脳−ブレインコントロールを発動!
800ポイントのライフを払い、
貴様のフィールドの見習い魔術師のコントロールを奪う!」


黒川唯一 LP 8600


「そしてこの見習い魔術師を生贄に捧げ……
フハハハハハハハ!!
ついに来たぁ!我が復活のための第一歩ォ!
人造人間サイコショッカー、召喚!!
攻撃力2400ゥゥゥ!!」

その場にいるもの全てが驚いた。
黒川の体が吹き飛び、彼の体を覆っていた黒いモヤが
モンスターである人造人間サイコショッカーそのものに変異したのだ!

「大量のライフポイント、デュエリストの魂、
そして多くのレアカードを媒体に……
ついに我が肉体を具現化させることが出来た。
後はこのデュエルに勝利するのみ。」

あたしたちは突然の出来事に動けずにいた。
そんな中、吉澤先輩は一人、サイコショッカーに挑んでいる。

「そういうことか……。
私たちのカードを奪ったのも、あんた自身が復活するためだったのね?
信じられない話だけど。むふ。」

「その通り……。
以前復活する際は十代≠ニ言う小僧に阻止されてしまった。
だが今回は違う。
この島の中では上位に位置するという貴様らの持つ
レアカード、強力カードは軒並みこの私が奪い取ってしまったからな。
そしてそれらのカードは全て我が身に吸収した。
もはや私に対抗する手段など、ありはしまい!」

「勝ち誇ってるけどね、むふ、まだ私には炎帝テスタロスが残っている。
このカードを奪わなかったのは誤算だったんじゃない?」

「くくく、安心しろ。これで終わりだ。
手札から最後の魔法カード、強奪を発動する!
相手モンスターのコントロールを奪う。コストは無しだぁ!」

「……!!」

そんな!
サイコショッカーと炎帝テスタロスの攻撃力は両方2400。
この2体から先輩が攻撃を喰らったら……!

「貴様ほどのデュエリストからは、なかなかそのカードを奪う機会が無かった。
だがこのデュエルでそいつも私のモノになってもらうぞ。
行け!炎帝テスタロス!
ファイアーストォォ――ム!!」

「あああぁぁぁ!」


吉澤由美 LP 600


炎の攻撃を受け、吉澤先輩が大きく吹き飛ばされた。

先輩の場には伏せカードが残っている。
でも人造人間サイコショッカーの効果で……

「の、法子……周子……」

「先輩!逃げてぇ!」

「みんな……ゴメンなさ……い……」

「これでトドメだぁ!
人造人間サイコショッカー、すなわち私自身で攻撃!
サイバーエナジーショ――ック!!」

「がふッ!あ……う……。」


吉澤由美 LP 0


サイコショッカーの攻撃の直撃を受けた先輩は
電撃が走ったかのように体を仰け反らせ、倒れる。
そして、そのまま動かなくなった。
手にしっかりと炎帝テスタロスのカードをにぎって。

「ではカードを頂くとしよう。」

サイコショッカーが手を掲げると、
なんと吉澤先輩のデッキがバラバラになって
サイコショッカーの元へと引き寄せられていった。
それらのカードはサイコショッカーの体へ吸収されていく。
こうやって夜な夜なカードを集めていたのだ!

あたしは無意識のうちに駆け出し、
倒れた先輩のデュエルディスクを取り、
残っているカードが取られないように捕まえた。
炎帝テスタロスは先輩がにぎっていたので、
取られずに済んだようだ。

それでも残っていたカードはほんの数枚しかない。
最後のターンに伏せていたカードは……聖なるバリア−ミラーフォース。
攻撃表示の相手モンスターを全て破壊するという超強力なカードだ。
人造人間サイコショッカーの効果で発動できなかったのだ。
そのカードもサイコショッカーの元へ引き寄せられていく。
とっさに手を延ばしたが、間に合わなかった。

「周子!みんな!先輩を安全な場所へ!
意識が無いの!」

「貴様……何のつもりだ。
我が儀式の邪魔をするとは。」

「……あたしとデュエルよ。」

「ほぉ……今の私のデュエリスト・パワーは
最大値にまで膨れ上がっている!
その状態で私に挑もうなどと、愚かにもほどがあろう。」

なんだかよくわからないことを言っているが……
かまわずあたしは続ける。

「みんなから盗んだカードを使って……
それで先輩を倒したなんて認めない。
あんたはあたしが倒す!
まだあたしのデッキにはこれが残っているわ!」

氷帝メビウスをサイコショッカーに見せ付ける。
どうだ!うらやましいだろ!

「むぅ……そのカードは……
そう、私の力で奪うことは出来なかった。
どうやら不可思議な力が宿っているようだな……。」

こいつのほうが不可思議だ。

「ま、待て石原!俺がやる!」

「いや、俺が!先輩の仇を討つんだ!」

「わ、わ、私が……」

みんながデッキを構えて、サイコショッカーの前に出てくる。
しかし、あたしは止めた。

「待ってみんな!
今みんなのデッキの主力カード、レアカードは
こいつに抜き取られてるんでしょ?」

「そりゃ……そうだが……だからって!」

「あたしがやる!
だってあたしはカードを取られて無いもの!
即興で組んだ半端なデッキじゃ勝てないよ!
先輩だってやられたんだよ!」

その言葉にみんなは沈黙してしまった。
もう本当にあたしがやるしか無いのだ。

「いいかしら、サイコショッカーさん。
あたしに勝ったらこの氷帝メビウスはあんたにやるわ。
けどあんたが負けたら、奪ったカードは全て返してもらう!
ただその条件だとあんたのほうがリスクが高い。
だからライフポイントは先輩を倒したときのままでいい!」

「そんな!お姉ちゃん無茶だよ!」

サイコショッカーはせせら笑った。
馬鹿にしてる!

「面白い。これでますます私に負ける要素が無くなった。
この究極の体とレアカード郡で、貴様も葬ってやろう。」

あたしは先輩が残した炎帝テスタロスをデッキに組み込んだ。
ゴメンなさい先輩。お借りします。

今この瞬間、あたしのデッキの中に
雷帝・氷帝・地帝・炎帝、すなわち四帝が全て……揃った。

吹雪さん、先輩、あたしに力を貸して!


デュエル!!


石原法子 LP 4000
人造人間サイコショッカー LP 8600



六章「吉澤由美・2」

吉澤先輩、そして黒川が何人かの生徒に運ばれていく。
どうか無事でいて……。

「黒川と言ったか、もうあの人間に用は無い。
くくく……。
さて、せめてもの情けだ。
石原法子よ。先行は貴様に譲ってやろう。」

サイコショッカーの目の前にカードが5枚浮かび上がった。
最初の手札5枚だろうか。
デュエルディスクを装着してないので、超能力でカードを操っているようだ。
あたしもカードを5枚引く。

「後悔しないでよ。
あたしのターン、ドロー!
ダンディライオン、守備表示!
カードを1枚セット。ターンエンドよ。」


石原法子 LP 4000 手札4枚
場:「ダンディライオン」
  伏せカード1枚

人造人間サイコショッカー LP 8600 手札5枚
場:無し


「私のターン……ドロォ!
はっはっは!やはり今の私の引きは素晴らしい!
まずは強欲な壺を発動する!
デッキからカードを2枚ドロォ!
さらにもう1枚、天使の施しを発動!
デッキからカードを3枚ドロォし、2枚捨てる!」

あたしはここでサイコショッカーに話かけた。

「3ターン目……」

「なんだ?」

「3ターン目、つまり次のあたしのターンで、あんたを倒す。」

「く、はは、ははははは!
なんの冗談だ!?
これだけのカードとライフを目にしてもか!
さて、私が墓地へ送ったカードの1枚は、髑髏顔 天道虫!
墓地に送られたとき、ライフが1000回復する。」


人造人間サイコショッカー LP 9600


「9000ライフ…!」

「おおお……ライフが増えるほど、私の体に力がみなぎっていく!
1万のライフを越えれば、私は至高の存在になることが出来る!
手札から魔法カード、デビルズサンクチュアリを発動、
メタルデビルトークンを特殊召喚し、生贄に捧げる!
そして……
はぁぁぁぁ!!
人造人間サイコショッカー、私自身を召喚!」

サイコショッカーが自らの名を宣言すると、
フィールドに移動し、モンスターと化した。

「さらに魔法カード、黙する死者を発動!
墓地から天使の施しの効果で墓地に送った、
コスモクイーンを特殊召喚!
攻撃力2900!
この効果で蘇生されたモンスターは攻撃不可能だ。
だが……永続魔法エクトプラズマーを発動!」

あれは先輩を苦しめたカードだ。
そしてコスモクイーンといえば、かなりのレアカード。
これも盗んだものか!

「人造人間サイコショッカー、私自身で攻撃!
サイバーエナジーショ――ック!!」

攻撃を受けたダンディライオンが四散した。
しかしこの瞬間、特殊効果が発動される。

「綿毛トークン2体を特殊召喚!」

「くく、せいぜいザコモンスターを並べるがいい。
カードを2枚セット!そしてターンエンド。
くっくくく…行け!コスモクイーン!エクトプラズマー!」


石原法子 LP 2550


1450ポイント分の精神エネルギーがあたしの体を貫いた。
凄まじい痛みが全身を駆け巡る!

「これは闇のゲーム。
ライフが減るたびに痛みが走るだろう。
さっきの女もライフがゼロになる衝撃には耐えられなかったようだな!」

「う……あ……。
い、痛くない……こんなの……。
先輩の受けた攻撃に比べれば……。
全然痛く無いんだから!」



石原法子 LP 2550 手札4枚
 場:「綿毛トークン」「綿毛トークン」
  伏せカード1枚

人造人間サイコショッカー LP 9600 手札1枚
場:「人造人間サイコショッカー」
  「エクトプラズマー」
  伏せカード2枚



「どいつもこいつも強情な奴らだ。
一つ、教えてやろう。
私がこれ以降ドロォするカードは、
全て私の都合のいい方向に流れるカードとなる!
それだけのパワーが今の私に満ちているのだ!
さぁ。貴様のターンだ!」

全てが都合のいい方向に流れるドロー……
うらやましい、そんな引き。
だが、あたしは宣言した。
このターンで終わらせると。
何故かはわからないが、そんな確信があった。

「あたしのターン!ドロー!」

「さぁ、3ターン目だぞ。何が出来るのか見せてもらおう。
この最大パワーの私を止めるのは、フィールドに存在している
全てのカードを止めるしかない。
このターンでそれを行い、なおかつ私のライフをゼロに出来るかな?
ははははは!!」

急に厳しい条件をつきつけてきた。
しかし、それが可能ならば……。

「手札から魔法カード、強欲な壺を発動!
デッキからカードを2枚ドロー!」

ドローカードの中に、氷帝メビウスがあった。
気のせいかもしれないが、その氷帝メビウスが、
あたしに話しかけてきた気がする。

我々の力を貸す、と。

「ほほう、貴様も強欲な壺を引いたか。
だが今更、その程度の引きが役に立つかな?」

「綿毛トークンを生贄に……
雷帝ザボルグを召喚!
モンスターを1枚破壊する!
対象はあんたよ!ローリング・サンダー!」

天から雷が降り注ぎ、サイコショッカーに直撃した。

「なに……ぐぅあああ!!」

サイコショッカーはたまらず後ずさり、モンスターカードゾーンから退避した。
これで相手のフィールドががら空きになり、罠が発動できるようになる。

「こざかしい……だが私のライフはまだまだある……
それに貴様の召喚はすでに終わった!このターン私を倒す手段など」

「リバースカードオープン!」

おそらく、こんな引きは二度と来ない。
あたしはカードたちに、敬礼する仕草を送った。
この瞬間に感謝して。

「血の代償!
500ライフを払うことで、さらに追加で通常召喚を行うことができる!」

「な、なんだとぉ!?」

「500ポイントのライフを払い、
もう一体の綿毛トークンを生贄に捧げて……
これよ!
氷帝メビウス召喚!
行って!フリーズ・バースト!」


石原法子 LP 2050


「伏せカード1枚と、エクトプラズマーを破壊する!」

伏せカードの1枚はメタル・リフレクトスライム。
さっきのデュエルで鉄壁を誇っていたカードだ。

「く、だがまだ、必殺の罠カードが残っているわ!」

伏せカード2枚を破壊すれば良かったが、
相手フィールドのカードは全て破壊しなければ、
サイコショッカーを完全に止めることは出来ないらしい(本人談)
ならば本当に全てのカードを破壊してみせる!

「500ポイントのライフを払う!
マシュマロン召喚!」


石原法子 LP 1550


「500ライフを払う!!
あぐ……!」

ライフを払うたびに体中に激痛が走る。
ライフコストでも痛みは発生するようだ。
だがそんなことを気にしてはいられない。


石原法子 LP 1050


残った伏せカードは、このカードで破壊する!

「マシュマロンを生贄に地帝グランマーグ召喚!!
伏せカードを破壊する!」

破壊したカードは……
聖なるバリア−ミラーフォースだった。
これもかなりのレアカードだ。
もしかしてさっき吉澤先輩が伏せていたカードそのものだろうか。

「……ば、馬鹿な……。
だ、だが……まだ私の手札にはこのカードが!」

サイコショッカーの身を守るものは何もなくなった。
しかし手札に何かの手段を残しているようだ。

「はぁ……はぁ……
ご、500……ライ、フ!
異次元の女戦士、召、喚……。」


石原法子 LP 550


「500ライフゥゥゥ!!」


石原法子 LP 50


「これ……よ……
異次元の女戦士を生贄に……
炎帝テスタロス……召喚!
効果発動ォ!フレイム・ブレイク!」

「そ、そんなことが!?
ぐわぁぁぁ!!」

サイコショッカー最後の手札が燃え上がる。
そのカードは『冥府の使者ゴーズ』だった。
これも相当なレアカードである。

このカードは場に何も存在しないときにダメージを受けた場合、
手札から特殊召喚できる超強力なカードだ。
しかし、その最後の可能性をも、先輩のカードがむしり取った。
今、サイコショッカーには手札も場も、何も存在していない。

「追加効果!
レベル×100のダメージを受けてもらうわ!
700ダメージ!」

捨てた後にダメージ効果が発生するので、
冥府の使者ゴーズが召喚されることは無かった。


人造人間サイコショッカー LP 8900


「この私が、この私が……人間風情に……」

「四帝の攻撃!
雷帝ザボルグ!デスサンダー!
氷帝メビウス!アイスランス!
地帝グランマーグ!バスターロック!
炎帝テスタロス!ファイアーストーム!」

帝王たちの一斉攻撃が一つに集まり、
攻撃力9600となってサイコショッカーの体を貫いた。

「あ、あと少しで……
あと少しで完全な存在になれたものを……
ぐぅぅあぁぁぁ―――!!」

直後、サイコショッカーの体が爆散し、カードが散らばっていった。

勝てた……。

勝てたよ、吹雪さん、先輩……。

あたしは激しい痛みで意識を失い、その場へ倒れこんだ……。


・・・


痛い……。

痛いよ……。

吹雪さん……。

熱い……。

こ……こ……は……?

あたしの視界に映ってきたのは、熱くたぎるマグマの中で
デュエルを続ける、二人の男性だった。

一人は……吹雪さんだ!

もう一人はコートを着て、仮面を被った謎の男。

謎の男と呼ばずしてなんと呼ぶか。

男が手をかざすと、吹雪さんはたちまち溶岩に飲み込まれてしまった。

なんて……ことだ!

嘘だッ!!

吹雪さんが溶岩に……。

溶岩?

そうか!ここは火山だ!

デュエルアカデミアの島の半分を占める、大きな火山だ!

そこへ行けば、そこへ行けば!

吹雪さんの行方が掴めるかもしれない!


・・・


「う……?」

病室……と思われる場所であたしは目を覚ました。
ここはデュエルアカデミアに設置されている病棟内のようだ。

夕陽が海岸に沈もうとしている。
サイコショッカーと戦っていたのが夜中の十一時頃で、
今は夕方の6時前。
半日以上もの時間が経過したらしい。

「先輩……?」

隣のベッドには先輩が眠っていた。
まだ意識は戻って無いようだ。
点滴などの機器がつけられている。

あたしの枕元にはデッキがセットされたままの、
あたしのデュエルディスクが置いてあった。
誰かが外して置いてくれたのだろう。

「お姉ちゃん!」

「周子……。」

顔を、目の辺りを真っ赤に腫らした周子がベッドにもたれかかっていた。

「お姉ちゃん!よかったぁ!
このまま目を覚まさなかったらどうしようって思って……
ずっと、ずっと怖かったよぉ〜!」

そう言うと周子のウサギみたいに赤くした目に涙が滲んできた。
いかん。元気づけて上げねば。

「大丈夫、大丈夫よ周子!
ほ、ほら、あたしはピンピンしてるからさ!」

あの後の状況を少し話してから、周子は先生を呼びに病室を後にした。

周子は他の生徒と一緒に、吉澤先輩と黒川を
一旦オベリスクブルーの女子寮に連れていったが
脈拍が弱くなってきた先輩の容態が心配になり、
叱られるのを覚悟で寄宿舎に駐在していた先生を呼び
急いでこのアカデミアの病室に移送した。

この判断は当然正しく、なんとか先輩は一命を取りとめたという。
サイコショッカーとデュエルした後のあたしも
同じくこの病室へと運ばれ、たった今目を覚ました。

黒川は別の病室にいるらしい。
まぁ、あたしら女の子だもんね。

軽く体を動かしてみると、思ったより異常は無い。
ライフコストを払ったときの痛みが筋肉痛のように残っているが、
それくらいのものだ。

あまり体調に変化はなく、検査によってあたしの気絶は
疲れからくるものと判断され、
入院していれば、早くても三日間ですぐに通常の生活に戻れると言われた。
みんながサイコショッカーに取られていたカードは、無事元に戻ったらしい。
その事件については、一応解決したと言える。

懲りずにサイコショッカーが出てくるものなら、
もう一度コテンパンに叩きのめすまでだ。

しかし、今一番心配なのは吉澤先輩と黒川である。
二人はまだ眠ったままだ……。


・・・


夜になって、あたしはベッドから先輩の容態をみながら
以前から見る夢の内容をよく整理してみることにした。

暗く、高く、熱い場所。
そしてそこで何者かと戦う吹雪さん。
さっき見た夢から、どうやらそこは火山であるらしい。
夢が真実なら、吹雪さんは火山で行方不明になった?

何故そんな夢を見てしまうのかはわからない。
もしかして愛が成せるワザだろうか。

今現在、吹雪さんの手がかりはその夢だけだ。
三日の辛抱……。
三日後、退院したらすぐさま火山に向かおう!

そう決心した直後……

「の……こ」

「せ……先輩!?」

「法……子……?」

先輩の意識が戻った。


・・・


「心配、かけたわね。むふ。」

先輩の容態はあたしに比べて重いらしく、
まだ手足のひきつけ、痙攣などが止まらない。
あたしより長い入院が必要だろう。
黒川も目を覚ましたと聞いたが、彼も大丈夫だろうか?

「あのモンスター、やっつけてくれたのね。凄いわ。」

「い、いえ。引きが良かっただけで……
そりゃあもう、とんでもなく……
そうだ!すみません先輩!勝手にカードを借りちゃって!」

急いでデッキから炎帝テスタロスを取り出して、先輩に差し出した。
しかし、先輩はそれを受け取らなかった。

「あの……どうしたんですか?」

「テスタロス、法子にあげるわ。」

「え。」

「私ね、今年で卒業でしょ。
そしたらデュエルモンスターズもやめるの。」

「そんな!先輩ほどの人が、どうして?」

先輩は黙ってふところから一枚の写真をあたしに見せた。

「なんですか、この写……!?」

その写真には先輩と、先輩の彼氏……と思われる男性が
寄り添いながら笑っていた……

「せ、せんぱ……この人……」

なによりも驚いたのが、その男性の顔である。

デュエルアカデミアの教師、木葉先生だ。

生徒からの人望も厚く、多少の遅刻だって許してくれる優しい先生。

その木葉先生と、生徒である吉澤先輩が……。

つまり、これは……。

「このことを知ってるのは、法子。あんただけ。」

あたしは絶句した。
教師と生徒が付き合うと言うのは……その……
とても間違っている行為なのでは……無いのだろうか……
いやでも、愛し合ってるなら別に問題は……

木葉先生と……吹雪さんと並ぶほど憧れている吉澤先輩……が……。

あたしの頭はオーバーヒートを起こしかけていた。
こ、こういうのを思考回路はショート寸前と……

「わかっていたわ……。いけないってことぐらい。
これがバレたら厳重処分だろうし、木葉先生だってきっとタダじゃすまない。
だけど……
もう約束したの。アカデミアを卒業したら、結婚するって。」

今なんと?

「結婚……するの。むふふ、信じられる?」

え。

ええ。

えええええぇぇぇ!?

ボム!!

思考回路がシステムダウンした。

「けけけけ、けっこ、先輩が!?
あの、えっと、その……お、おめでとうございま!?
あれ?違う?あ、いいのか!
ちょ、あの、おめでとうございまふ!」

「むふふ、
約束しただけだから、まだ本当に決まったわけじゃないんだけど……
このことはみんなには内緒よ。ね?」

「は、はい。
でもどうしてあたしにそのことを……」

先輩は視線を炎帝テスタロスに落とした。

「笑わないで聞いてね。
さっきまで見ていた夢の中でね、そのテスタロスが出てきたの。
その子が私にこう言ったのよ。」

『我がマスターよ。
今、我が同胞が苦しんでいる。
その同胞のマスターは人を探しておられるが、
同胞は自分たちの力だけではどうにもならないと嘆いているのだ。
私の力を加えて、その同胞とそのマスターを助けたい。
必ず戻って来るのでしばしの間、貴女のもとを離れることをお許し頂きたい。』

「私がいいよって言ったら、こんなこと言われたわ。」

「ありがたし。
しからば我がマスターよ、貴女に一つ助言を。
秘めた事をいつまでも隠し続けるのはいけない。
それは恐れを心の中を持ち続けることに他ならない。
信頼ある人物に打ち明けるのだ。然る後、貴女は幸福を得る。」

カードに描かれたモンスターが、夢の中で語りかけてくる。
人造人間サイコショッカーのような、超常的な力が働いているのだろうか?

「だから私は法子に打ち明けた。
その子の言うことを信じてみたくなったの。
そして……」

先輩が炎帝テスタロスを掴み、あたしに差し出す。

「この子はもう、法子のしもべよ。
人を探していて、この子の同胞……
つまり帝≠フ使い手は法子くらいしかいないわ。」

「でも、先輩……テスタロスは先輩の大切な……。」

「受け取ってくれるわよね?」

「わかりました……。」

かくして炎帝テスタロスは私のしもべとなった。
これから帝王系カードの称号に恥じない活躍を見せてくれることだろう。

それにしても先輩の夢の話が本当なら、
炎帝テスタロスはいつか先輩のもとへ戻るのだろう。
いつ返せばいいのだろう?

「その子が戻りたいって言ってきたらでいいわよ。
見つかるといいわね、吹雪さん……。」

「はい!ありがとうございます!」

ここでふと、あたしがさっき見た夢の内容を思い返した。
今までははっきりとしたイメージが見えなかったが、
今回みた悪夢はしっかりと、場面もわかるほどだった。
炎のイメージ……火山の景色。
もしかして、デッキの中に入っていた
炎帝テスタロスがなんらかの関係を及ぼしたのだろうか?

コンコン。

ノックの音が響いた。

「あ〜、
……私だ。入るぞ。」

この声は木葉先生だ。
きっと吉澤先輩の様子を見に来たのだろう。

「石原も吉澤も無事のようだな。」

そうだ。
ここから離れよう。
おジャマ虫は消えるべし。
先生と先輩、二人っきりにさせてあげよう。

「先生。あたしちょっとジュース買ってきます!」

「何?お前まだ寝ていたほうが……
おい、コラ!」

「先輩まだ具合悪いみたいだから、先生が見てて下さいね!」

ベッドからピョンと飛び降り、あたしはばたばたと病室を後にした。


・・・


ガタコン。

ロビーに置いてあった自販機でジュースを買い、
飲みながら来客用のふかふかな椅子に寄りかかる。
しばらくこうしてよう。
先輩と、先生が好きなだけ話せるくらいに。

「……先輩……結婚するんだ……。
好きな人と……。」

あたしの脳裏にはもちろん吹雪さんの姿が浮かんだ。
しかし、今までのように途方にくれたりはしなかった。
夢とはいえ、手がかりを掴んだから。

あそこには何が待っているのだろう……。

すでに夜の闇に覆われている窓から火山を眺め、
デッキから炎帝テスタロスのカードを取り出す。

長く先輩が愛用していたカードだが、キズ一つ無い。
素晴らしい。
キズつけたら先輩に5連打くらい殴られるかもしれない。
怖い。
特に慎重に扱わねば。

ま、これからよろしくね。テスタロス。
そう心の中で語りかけると、ほんのりとカードが光った……ような気がした。



七章「温田熱巳」

すぐに退院できるので、ベッドに安静にしていろ……とは言われたが
どうにもジッと出来ない性分なので、
あたしはずっと横のベットの吉澤先輩とデュエルをしていた。

先輩の主力カード、炎帝テスタロスはあたしの手に渡ったので
戦力的にはダウンしている……ハズなのだが……。

「首領ザルーグの攻撃。むふ。手札破壊よ。」

「ぐぉぉぉ手札がぁぁ」

あいかわらずあたしは手札を枯らされまくった。
手札ゼロである。
そしてあたしのドローフェイズ。

「ドロー!ぐ、遺言状……。」

「じゃあザルーグでもう一度攻撃ね。むふふ、私の勝ち!」

もうコテンパンだ。
し、しかし勝率は確実に良くなって来ている!
以前までは10パーセントといったところだが
今では25パーセントぐらいまで上がっているはず!

「法子さ、明日退院だっけ。」

「はい。先輩はまだ、もう少し……ですかね。」

「まぁ体がまだあちこち痛いことは痛いんだけど、
すぐ良くなってみせるわよ。むふ。」

強烈な電気ショックが体の中を走った影響か、やはりまだ痺れは取れないらしい。
しかし命に別状は無く、じきに治るとの話なので安心だ。

「本当に行くの?法子。
火山……。」

「はい。絶対にあそこには何かあると思っています。」

「そう、気をつけてね。
さ、もう消灯時間よ。明日に備えてねなくちゃね。」

そう言って先輩はベッドに横になった。
もうこんな時間か……。
手がかりを掴んでからの3日間、ずっとソワソワしていた。
妙な夢もあれから全然見ていないのが、また不安になる。

何があるかはわからない。
確かもう早く寝たほうがよさそうだ。
しかし……
寝る前にどうしてもやっておきたいことがある!

「寝る前に先輩。もっかい勝負。」


・・・


……。

そうだ。デッキのチェックをしておこう。
消灯時間はとっくに過ぎていて、周りはまっくらだが
PDAのライト機能で明るくすれば大丈夫。
デッキを取り出したところで気付いた。
しまった、他のカードは全て女子寮の中だ。
ここはアカデミア学園内の病室。デッキしかない。
うーむ、周子に頼んで持ってきてもらおうか?
夜だけどまぁいいっしょ。姉権限だ。

「法子……」

「うぉ!!
は、はい?」

もう寝たかと思った先輩に急に話しかけられて驚いた。
お、起こしちゃったかな……。
ごめんなさい。

「私……さ。木葉先生と……タッグフォース大会出るから……。」

「え……でも先輩。そうするとみんなに……その、
お付き合いのことバレちゃうんじゃ?」

「いいの……あの日……法子が病室を出て行ったときのことよ。
ありがとね、あのときは。
木葉先生と約束したの。一緒にタッグフォースに出場して、優勝しようって。
そこで結婚するのって言ったら……
みんなも祝ってくれると思うの。多分……ね。」

「せ、先輩たちだったら今言ったってみんな祝ってくれますよ!」

「そう……かな?
むふふ、ありがとね。法子。」

そう言って先輩はまた寝息をたてはじめた。
もしかして寝言だったのだろうか?

「がんばって下さいね……先輩。
あたしたちも負けませんから……。」

もうあたしも寝よう。
タッグフォース大会の前に、やらねばならないことがある。

先輩たちはきっと幸せになる。

でもあたしは……

あたしは……幸せになれるの?

幸せに……なりたい、な。


・・・


「お、お姉ちゃん本当に行くの?」

「当たり前でしょ。嫌なら周子は来なくてもいいのよ!」

「お姉ちゃんが無理やり連れてきたくせに……。」

あたしが退院した日はちょうど日曜日。
朝から退院したあたしは、
迎えに来てくれた周子とそのまま火山へと向かった。

火山の周囲は断崖絶壁の崖で、
登るには一本だけ伸びている道を通るしかない。

しかしその道は警備の人が見張っていた。

「待ちなさい君たち。
ここから先は、現在立ち入り禁止になっているんだ。」

「え……うそ?
ちょっと前までは通れたじゃないですか。」

「校長先生からの指示でね。
最近やたらと火山活動が活発だから、収まるまで登っちゃダメだ。
危険だからな。」

むー、これは困った。
収まるまでといってもいつになることか。
他の道を探して渡りたいところだが、
崖を登っていくのは危険すぎる。

「ねぇお姉ちゃん、やっぱり帰ろうよ。
吹雪さんがこんなとこにいるって確証があるわけでも無いんでしょ?」

「う、うるさいわね。
警備の人!あたしとデュエルしましょう!
勝ったらそこを通してもらうわ!」

「無理だ。私はデュエルはやらない。」

でゅ、デュエルアカデミアの人でありながらデュエルしないなんて…!
まるで別の世界の人間のようだ!

「こうなったら奥の手を使うわ!」

ずかずかと警備の人の前に立つ。
見ていろ!

「ダメなものはダメだ。」

「ね、ねぇ。通してくれたらぁ〜……
後でイイコトしてア・ゲ・ル♪」

そう言い放ち、胸を強調するポーズを取る。
決まった!

「何かと思ったら色じかけか?
冗談だろ、そんな貧相な胸で。
本気で色目を使うなら鮎川先生くらいのスタイルになって
出直してくるんだな。」

…………。

…………。

傷つくぜ……。

傷つくぜ!オトメ魂が!!

「覚えていやがれー!!」

作戦は見事に失敗。

あたしたちは早々と駆け足で火山を降りていった。

ゼェ……ゼェ……
つ、次の作戦を考えねば……。

「なに、あれ奥の手?」

「うっさい。
ちくしょぉ……周子よりは胸大きいんだぞ……。」

「わわわ私の胸は関係ないじゃん!」

「お前ら……こんなとこで何ハレンチな会話してんだよ。」

誰かと思って振り向いたら、温田が立っていた。
そういえばこいつは火山でデュエルの練習をしていると聞く。

「石原、もう退院したのか。早かったな。
まだ黒田は病院なんだよな。」

そうだ、温田の言葉でサイコショッカー事件の首謀者(?)である
黒田唯一のことを思い出した。
そういえばあれから一度も会ってない……。

「温田。あんた見舞いには行ったの?」

「いや……行ってない。」

どういうことだろうか。
確かこいつら属性六人衆とやらは、いつもつるんで仲良くしてる印象が強いのだが。

「実はあんたら、仲が悪かったとか?」

「仲が悪いわけじゃない。
実際に水城や地原とかは毎日行ってるみたいだけどな。
ただ、俺はちょっと、な……。」

「どして?仲いいんでしょ?」

あたしの疑問に口ごもる温田。
そこへ周子が口を挟んできた。

「えと……ひょっとして……
あの事件のときの黒川さんが言ってたこと、気にしているの?」

その周子の指摘に、温田は驚いていた。
どうやら図星らしい。
周子、ふだんはボケボケしてて物忘れが激しいのに
こういうときはやたらと記憶力が良い。
あのとき言っていた、温田が気にしてることって……。

「あー!もしかしてあんた、
黒田が言ってたおめーの大木人18なんて使えねぇぜ、ぺ!≠ンたいな
中傷的台詞を気にしてるの!?」

「わ、わりぃかよ……。」

なまじ仲が良かっただけに、その台詞は
あたしが思っていたよりもショッキングだったようだ。

「いや、ほらよ、18シリーズって俺なんか好きでさ。
黒田も能力値が高いから嫌いじゃないって言ってたし……。
そんなわけでちょっと、顔あわせ辛くてな……。」

こ、こんなに情けない温田を見るのは初めてだ。

「あっきれた!!
あんなの取り付いてた奴が言わせてた台詞に決まってんじゃん!
あんたもサイコショッカー見たでしょ!?」

「見たけど……あれ夢じゃないかって思ってなぁ。
まぁそんなわけで黒川とはちょっと疎遠気味で……
お、オイ!何すんだよ!」

「お姉ちゃん!?」

気付いたらあたしは温田の胸倉を掴んでいた。

「あれは夢なんかじゃない!
吉澤先輩や黒川、そんでもってあたしは実際に気絶までした!
先輩にいたっては病室で点滴も受けた!
そもそもねぇ、知り合いが、ましてやあんたら親友でしょ!?
だったらせめて見舞いして具合をみてやるってもんじゃないの!?
それを何?カード馬鹿にされたくらいで顔あわせ辛い?
バッカじゃないの!?
情けないこと言ってんじゃないわよ!!」

そこまで言ったところで腕を振り解かれた。

「うるせーな!あんな非常識なことがあって
はいそーですかと信じられっかよ!
そもそも俺はもうカードやめんだよ!
属性衆なんて集まりもだ!!
そんでてめーみたいな暴力女ともおさらばだ!」

な、なんですってぇぇぇ!?

「ちょっとあんた、もう一度言ってみなさいよ!」

「暴力女っつったんだよ!」

「ちがう!そのちょっと前!」

「か、カード……やめんだよ。
もう飽きたんだよ……俺は……」

バシッ!

乾いた音が響いた。

あたしが温田の頬に平手打ちを叩き込んだのだ。

横にいる周子は口を手で押さえて絶句してる。

「……ねぇ、なんでやめるの?」

「……関係ねぇだろ……。」

「関係ある!
吉澤先輩もカードをやめる!!
一辺に二人もやめたら寂しいじゃない!」

吉澤先輩の引退はちゃんとした理由がある。
それもきっと悩みに悩んだ結論だっただろう。
しかし、こいつの場合は……。

「……そーだよ、情けなくなったんだよ。
俺は運だけでオベリスクブルーになったからよ、
デュエルはあんま強くねぇんだよ……
お前にも負けたしな。
だからやめる。文句あっか?」

「あんたにとってデュエルってなんだったの?」

「あん?」

「あたしにとってデュエルは最高の舞台。
とっても楽しいし、やればやるほど憧れの人に近づける気もする。
あんたはどーなのよ!あんたは!!」

温田はいよいよ下を向いて黙りこくってしまった。

しばしの沈黙が流れるが、周子が静寂を破った。

「温田くん。私とデュエルしよ。
デッキ、持ってるよね?」

「ん?持ってるけど……。」

「周子、あんた急に何を……。」

「お姉ちゃん暴走しすぎ。ちょっとそこで見てて。」

ぐがぁ〜っと言い返そうと思ったが、
周子のギンと光った眼を見てやめた。
周子は何かしようとするとき、こんな瞳になる。
ならば任せる。

「私とデュエルしよ?ね?」

「……わかったよ、わかったからそんな眼で見るのはやめてくれよ。」

「温田くんがデュエルをやめるのは構わない。
でもそんな理由でやめちゃうのは、私とっても悲しい。
温田くんに限らず、このゲームを楽しんでいる全ての人も。
だから……。」

周子がデュエルディスクを構える。
それに反応し、少し遅れて温田も構えた。

「ちゃんとデュエルして。
カードと向き合って。
カードの声を聞いて。
それから本当にやめるかどうか、決めてほしいの。」

カードの声……。
ほんの少しだけ、聞こえたことがある。
そう、まだ小さい頃、あたしたちがこのゲームで遊び始めたときのことだ。
絵柄に描かれていた可愛いモンスターの笑い声が聞こえたような気がした。
周子はそのことを覚えているのだろうか。

「ん……。いいぜ。
そこまで言うなら、行くぜ。」

デュエル!!


石原周子 LP 4000

温田熱巳 LP 4000


先行は周子からだ。

「ドロー!
手札からUFOタートルを守備表示で召喚!
カードを1枚伏せてターンエンド、です。」


石原周子 LP 4000 手札4枚
場:「UFOタートル」
  伏せカード1枚

温田熱巳 LP 4000 手札5枚
場:無し


「お前も炎属性のデッキだったっけか。
じゃあ俺のターンだな。ドロー!」

心なしか、温田からは覇気が感じられない。
あれでは……
あれではデュエルを楽しんでいるなんて言えないじゃない!

「爆炎集合体ガイヤ・ソウルを攻撃表示で召喚。
攻撃力は2000、さらに守備表示のモンスターを攻撃したとき、
貫通ダメージを与えるぜ。
さらに黒いペンダントをガイヤ・ソウルに装備!攻撃力500アップだ!
UFOタートルに攻撃だ!」

炎の塊がUFOタートルに突進し、砕いた。
UFOタートルの守備力は1100。
差し引き1400のダメージが周子を襲う。

石原周子 LP 2600

しかし……

「UFOタートルの効果!
デッキから攻撃力1500以下の炎属性モンスターを特殊召喚できる!
天下人 紫炎を特殊召喚。
攻撃力はちょうど1500です。」

馬に騎乗した威厳漂う武士が出現した。
日本の歴史に残る有名な武将を模したカードである。

「ふん……カードを1枚伏せてターンエンド。
エンドフェイズにガイヤ・ソウルは自滅する。
この瞬間、黒いペンダントが墓地に送られ、効果発動。
相手プレイヤーに500ポイントのダメージだ。」

「え……キャ!」

石原周子 LP 2100

温田がいきなり1900ものライフを削りにいった。
しかし……

「ちょっとプレイが乱暴すぎない?
カード消費も多いし、あんたまさか……」

わざと負ける気では。
あたしの脳裏にそんな考えが過ぎた。

「お姉ちゃん。」

周子があたしをジッと見つめる。
私に任せて。
周子の眼はそう言っていた。


石原周子 LP 2600 手札4枚
場:「天下人 紫炎」
  伏せカード1枚

温田熱巳 LP 4000 手札3枚
場:伏せカード1枚


「よーし、私のターン!ドロー!
行って!私の炎!
ホルスの黒炎竜LV4を召喚!
そして2体のモンスターで攻撃します!」

ホルスの黒炎竜は戦闘でモンスターを破壊するたびに
レベルを上げて強くなっていく。
周子はそんなひたむきに強さを求める小さな竜が好きなのだ。
相棒と言ってもいいだろう。

「くそ……リバースカード、リビングデッドの呼び声を発動!
ガイヤソウルを復活させてこのターンの壁にする!
これでこのターンは……。」

「ダメージステップでリバースカードの突進を発動します!
ホルスの黒炎竜に突進を発動!攻撃力700アップ!!」

これでホルスの黒炎竜LV4の攻撃力は2300となり
ガイヤ・ソウルの攻撃力を上回った。
天下人との攻撃を合わせ、合計で1800のダメージだ。

灼熱の炎がガイヤ・ソウルを砕き、鋭い切先が温田に襲い掛かる。

「あぐ……。」

温田熱巳 LP 2200

「は、はは、はははははは。」

温田の口からだらしのない笑いがこぼれる。
やはり……やる気が無いのか?

「これで分かったろ、石原。
俺にはデュエルの才能無いんだよ。
そもそもこのデッキだって火山に捨てるつもりで持ってきたんだからな。
次の俺のターンはこのまま終了するからよ、一思いに……。」

「ダメ!!」

あたしが何か言う前に、周子が声を荒げた。
ほとんど大きな声を出さない周子が。

「逃げないで!カードを信じて!
温田くんはまだ、そのデッキの本当の力を引き出してない!
信じてるカード……ある?」

「信じてるカード……か……。」

温田はデッキを見つめ、何事か考えている様子だ。

「私のターンでこれで終了……
でもその前に、ホルスの黒炎竜がLV6にアップするよ。」

これで温田はさらに追い詰められた。
ホルスの黒炎竜LV6には、あらゆる魔法が通用しないのだ。


石原周子 LP 2600 手札4枚
場:「ホルスの黒炎竜LV6」「天下人 紫炎」

温田熱巳 LP 2200 手札3枚
場:無し


「温田くんの……ターンだよ……。」

温田はデッキに手をつける。
だがドローはしない。

「温田くん……デッキを信じて……。」

ややあって……その手が動いた。

「ドロー……
まったくお前ら、説教がうるさい姉妹だよ……。」

そのときの周子の顔は、満面の笑みを浮かべていた。

「行くぞ!天使の施しを発動!
デッキからカードを3枚ドローして2枚捨てる!
よし……火炎木人18を召喚。
攻撃力1850だ。
さらに炎属性モンスター、ガイヤソウルを墓地から除外し
炎の精霊イフリートを特殊召喚するぜ!」

イフリートは通常の攻撃力は1700だが、
攻撃の際、攻撃力が300アップするというなかなか強力なカードだ。
ようやくやる気を出してくれたみたい。

「そして炎の精霊イフリートに2枚目の黒いペンダントを装備する!
ホルスの黒炎竜LV6に攻撃だ!イフリート!」

これでイフリートの攻撃力は1700から2200となり、
バトルフェイズには2500にアップする。攻撃力増大コンボだ。
ホルスの黒炎竜は強烈な炎の攻撃を喰らい、消滅した。

「あぁ!」

石原周子 LP 2400

「よぉし!火炎木人18で、天下人 紫炎を攻撃!」

石原周子 LP 2150

なんと形勢は一気に逆転した。
温田がここまでやるとは……。

「温田くん!私のホルスの黒炎竜を倒したからには、覚悟してね!」

「笑顔で怖ぇーこと言ってんじゃねぇよ。
カードを1枚セット!そんでターンエンドだ!」


石原周子 LP 2150 手札4枚
場:無し

温田熱巳 LP 2200 手札0枚
場:「炎の精霊イフリート」「火炎木人18」
  「黒いペンダント」
  伏せカード1枚


「私のターン!ドロー!
手札から魔法カード、早すぎた埋葬を発動!
800ライフを払い、墓地からモンスターを蘇生させる!」

「く……!」

「ホルスの黒炎竜LV6を蘇生させるよ。
さらにホルスの黒炎竜LV6自身の効果で
早すぎた埋葬を無効に。」

つまりどういうことかと言うと……
早すぎた埋葬は装備魔法カードで、
この早すぎた埋葬が破壊されることで、
蘇生されたモンスターも再び墓地へと戻る。
しかし、ホルスの黒炎竜LV6は魔法を無効にする効果を持っているので
早すぎた埋葬が破壊されることで、
再び墓地へ送られるという効果を無効にする。
つまり完全に復活する扱いになるのだ。

「続いて憑依装着ヒータを通常召喚!
攻撃力は1850。火炎木人18と同じです。
バトルフェイズに突入!
ホルスの黒炎竜LV6で炎の精霊イフリートに攻撃!」

炎の精霊イフリートの攻撃力アップ効果は
自分のバトルフェイズではないと適用されない。
今は相手の、周子のバトルフェイズである。
攻撃力は2200のままであった。

「ぐぁぁ!くそ!
だが黒いペンダントの効果を発動!500ダメージだ!」

「きゃあ!」

石原周子 LP 1650

温田熱巳 LP 2100

「まだまだ、
憑依装着ヒータで火炎木人18を攻撃、相殺!」

やや幼いが、どこか大人びた雰囲気のある女性型モンスターが、
火炎木人18にひときわ大きな炎をぶつけて消し炭にした。
それと同時に火炎木人18の火炎パンチが憑依装着ヒータに炸裂し、
お互いは同時に消滅した。

「ターンエンド。そして……
ホルスの黒炎竜LV8!!」

ついに周子のデッキ最強のモンスターが召喚された。
攻撃力3000に加えて、相手の魔法カードの発動を
完全に封じ込めてしまう強力モンスターだ。


石原周子 LP 1650 手札4枚
場:「ホルスの黒炎竜LV8」

温田熱巳 LP 2100 手札0枚
場:伏せカード1枚


これで温田はもう後が無い。

「俺のターンだ!ドロー!」

この状況、多くのデュエリストは敗北を覚悟するだろう。
しかし……
温田にはまだ何か手段が残っている様子だった。

「……ッ!よし!
俺は場のリバースカード、レベル変換実験室を発動する!
今ドローした、俺の手札のモンスターのレベルは
サイコロを振って出た目の数に変換される!」

レベル変換実験室は不確定ながら、
最上級モンスターのレベルを下げて
簡単に召喚できるようにするサポートカードだ。

ソリッドビジョンに映し出されたサイコロが転がる。

「よっしゃぁ!3だ!」

温田が信じたカード、それは……

「行くぞ!バーニング!
レベル10から3にダウンした……
絶対服従魔人を召喚!攻撃力3500だ!」

超強力な能力値を持ったモンスターが召喚された。
場と手札がこのカード以外存在していなければ
攻撃することが出来ないのだ。
その扱い辛さのためレア度はさほど高くは無いが、
使いこなすことができればあらゆるモンスターを凌駕する。

「ホルスの黒炎竜LV8に攻撃!
煉獄彷徨!」

絶対服従魔人がホルスの黒炎竜をわし掴みし、
そのまま捕食してしまった。
ぐぁ、これは凄惨。耐えられない。

「え、えぇ〜!?そんなー!」

石原周子 LP 1150

「後一撃……!後一撃攻撃が通れば……!
ターンエンドだ!」

いつの間にか、温田はすっかりデュエルに熱中していた。


石原周子 LP 1150 手札4枚
場:無し

温田熱巳 LP 2100 手札0枚
場:「絶対服従魔人」


「う〜ん……私のターン!ドロー!」

周子は切り札が破壊され、残りライフも少ない。
どう出る?

「手札から魔法カード、レベル調整を発動!
墓地のLVがついたモンスターを、召喚条件を無視して特殊召喚!
私が選ぶカードは……ホルスの黒炎竜LV8!」

再び周子のフィールドに舞い戻るホルスの黒炎竜。
しかしレベル調整のカードは大きなデメリットをかかえていた。
このカードで特殊召喚されたLVモンスターは
このターン攻撃できず、効果の発動もできないのだ。
そして、相手プレイヤーに2枚のドローを許してしまう。

「OK、カードを2枚ドローするぜ。
絶対服従魔人の攻撃を封じる作戦か?」

「カードを1枚伏せて、ターンエンド。」

何度も周子とデュエルしてるあたしは、
あの伏せカードがなんなのかわかってしまった。


石原周子 LP 1150 手札3枚
場:「ホルスの黒炎竜LV8」
  伏せカード1枚

温田熱巳 LP 2100 手札2枚
場:「絶対服従魔人」


「よし、俺のターンだ。ドロー!」

「ドローフェイズにリバースカードオープン!」

周子の勝ちが決まった。

「火霊術−紅!
フィールド上の炎属性モンスターを生贄に捧げ、
相手プレイヤーにそのモンスターの攻撃力分のダメージを与える!」

「な、なんだと……わぁぁ!」

温田熱巳 LP 0

「ふぅ、負けちまったな。」

「デュエルありがとう、温田くん。」

「温田、あんた楽しんでたじゃん。
ホントにデュエルやめるの?」

「ま……結構面白かったぜ。」

温田はデュエルディスクからデッキを外して
ホルダーにしまい、背を向けて立ち去った。

「……黒田の見舞い行ってくるわ。」

そうか、やっとやる気になってくれたみたいだ。
なんだか嬉しい。

「あ!温田!火山の上のほうまで行きたいんだけどさ、
あんた他にルート知らない!?
あたしの魅力がわからないオッサンが道ジャマしてんのよ。」

「そうなー、他は崖だから、普通に道なりに昇っていくしかないんだよな。
あれだろ?火山活動が活発でうんぬんって通してくれないんだろ?
何しに行くかは知らないけど、しばらくは我慢しろよな。
確かに今、火口近くまで行くと危ないぞ。」

「そう……ありがと。」

「ああ。そんじゃーな。
……今日は悪かったな……。」

最後の言葉は小さくボソっと聞こえた。


・・・

「お姉ちゃん、これからどうするの?」

正直途方にくれていた。
唯一のあてを失った気がする。

火山のイメージを夢で見ただけ……
肝心の吹雪さんが行方不明になった場所って思ってるけど……

「校長先生に直接調べてくれるように言ってみようと思うの。
無難すぎるかな?」

「ううん。私もそれがいいと思う。」

今思えばあの警備の人に
行方不明の吹雪さんがいるかもしれないとか言っておけば
ちょっと通してくれたかも。いや、無いかも……。

「ふぅ、また一から、かな。」

吹雪さんが行方不明になったと言われる場所は
実は他にも候補があった。
今は使われていない廃寮がそうだ。

そこに吹雪さんが入ったきり、出てこない……
つまり、そこで行方不明となったという証言が当初はあった。

しかし長い捜索にも関わらず、吹雪さんの姿は無かった。

とりあえず、あたしたちは寮に戻ることにした。

しかし次の日、思わぬ人に出会うことで……
あたしの運命は大きく動く。



八章「カイザー亮」

あたしは夜中、海に面した崖っぷちで一人、
何をするでもなく座り込んでいた。
近くの灯台の光がまぶしい。

校長先生に捜査の依頼をする良い成果は聞かない。
それどころか地熱で火傷してしまう人が出るくらいだった。
やはり火山は危険な状態なのだ。

なんだかとても申し訳ない気持ちになり、
あたしから頼んでもう捜査は打ち切ってもらった。

なーにしてんだろ、あたしは……。

もう、泣きそ。

でも泣かないと決めた夜を思いだし、必死にこらえる。

この気持ちを紛らわせようと、視線を泳がせる。
ふと灯台の下を見ると、誰かがたたずんでいる。

「あれは?」

オベリスクブルー男子の制服を身にまとった青年である。
背格好も……雰囲気もなんとなく似てる……吹雪さんに。

たまらずあたしはその人の下へ急いだ。

「……あ、あの!」

「……ん?」

それはカイザー亮と呼ばれるアカデミア最高の実力を持つ
丸藤亮先輩だった。
ま、まさか!よりにもよって丸藤先輩だったなんて!
彼との以前の実技テストを思い出し、急に恥ずかしくなった。

「君は確か、オベリスクブルー女子の石原法子だったか。
前にテストで手合わせしたな。……なにか用か?」

ギェェェェ!
やっぱりテストのこと覚えてるぅぅ!
でもあたしの名前まで覚えていてくれてるとは感激だ。

「その、ちょっとお話できたらなって……。」

彼に興味があるのは事実だ。

「そうか。
なんでも聞け。」

なんでも……。
なんでもと言われるとちょっと何を聞こうか迷う。
吹雪さんのことを聞くか?
しかしいきなりそれを聞いてしまうのは気が引ける。
何せ丸藤先輩と吹雪さんは親友なのだ。

「……聞くことが無いのなら、
海を見つめているのもいいぞ。」

海、好きなんだろうか?
それからあたしたちは二人して、黙って海を見つめた。

何秒かしてさすがに沈黙に耐え切れなくなり、あたしから話かけた。

「えと……好きなカードとかあります?
あたしは氷帝メビウスが好きでして。」

「そうか。
俺はサイバー・エンド・ドラゴンが好きだ。」

サイバー・エンドは知る人ぞ知るカイザー亮の必殺カードだ。
これで数多のデュエルを制してきたのだ。

「サイバードラゴン、強いですよね〜!」

「そうか?
俺はどんなカードも強いと思っている。」

……どんなカードも……。
あらゆるカードを使いこなすのは難しい。
しかし、確実にテキストに記されている力≠ェ存在する。
それを使いこなせるかどうかが、デュエルの分かれ目だ。
さすがは丸藤先輩。

「好きなドローパンはなんですか?」

実は気になるこの質問。
アカデミアの生徒なら好きな具の一つや二つはあるものだ。
あたしはショコラパン。あんまり出ないけど。

「具無しパンだな。」

具無しパン。
ぐなしぱん……。
なんかイメージと違うぞ。

「黄金のタマゴパンも好きだぞ。」

レア過ぎて食べたこと無いねん!

「最近のデュエルはどうです?
丸藤先輩はいつも対戦相手のことを考えながらデュエルしていますね。」

「リスペクトデュエル……のことか……。」

丸藤先輩は常に相手を重んじるデュエルを信条としている。
通称リスペクトデュエルと呼ばれる戦い方だ。

「俺は……相手をリスペクトさえ出来れば、
勝ち負けは関係無いと思っている。」

「ええ。」

「だが最近では、
本当にそれだけでいいのだろうかと思い始めてきた。
……いや……すまん。今のは忘れてくれ。」

こんなことを話す丸藤先輩がちょっと怖く感じた。
疲れているんだろうか?

「えと、あたし、天上院吹雪さんを探してるんです。
丸藤先輩、何か知ってませんか?」

「吹雪か……。」

そうつぶやくと、丸藤先輩はじっと海の彼方を見つめた。
やっぱり聞いたらマズかっただろうか。

「あの、ゴメンなさい。
あたし無神経で……す、すいません!」

「何故、謝る必要がある。
すまないが、吹雪の行方については俺も知らん。
あいつは月に一度はアカデミアを抜け出して
3日ほどハワイ旅行へ旅立つ男だ。
今回もすぐ戻ってくると思っていたのだが、な。」

なるほど、吹雪さんは旅行好きっと。
というか、そんな放浪癖があるなんて知らなかった。

「で、では抜け出した旅先で行方不明になったという可能性も?」


「ああ……。
だがそれにしては妙だ。
いつも抜け出す直前には俺に一言伝えてから消えるからな。
今回は島の中で急に、蒸発するように消えてしまった。」

うむむ、深まるミステリー。

「力になれなくてすまないな。」

「い、いえ!そんなことは……。」

……沈黙。

迷惑かなぁと思い、もうそろそろ帰ろう、と思ったときだった。

「吹雪はな……。」

「え?」

急に話しかけられてちょっと驚いた。

「ハワイ土産と言って、俺にアロハシャツを着せようとする。」

大真面目な顔でそんなことを言われた。
カイザー亮にアロハシャツ。

「……似合うと思うか?」

「……ぷ、ふふ、あはは、全然似合わないですよぉ!」

想像して噴き出してしまった。
そういえば、笑ったのは久しぶり……かも……。
丸藤先輩、ちょっと怖いイメージがあったけど、
そんなことは無いような気がしてきた。

「一つ気になることがあってな。
いつの間にか……と言ってもずいぶん前だが、
PDAに吹雪からのメールが届いている。
すでに行方不明になった後のことだ。」

「え!」

「着信した時間が表示されておらず、
添付されている音声も荒く、とても聞き取れるものではない。
ファイルごと壊れているのかもしれん。」

行方不明になっている吹雪さんから届いたメール。
それだけであたしの興味を引くのは十分過ぎた。

「そ、それ……聞かせてもらうこと……できますか?」

丸藤先輩は顔をしかめ、顔を曇らせた。

「……朗報のメールとは思えん。
それに俺はその音声を聞かせようと思ってこの話をしたわけではない。
お前が吹雪を知る者だから話しただけのことだ。」

「い、いいんです!聞きたいんです!声を!
ちょっとでもいいんです!
吹雪さんの声を……声……を……」

そこまで言ったところで声が詰まった。
涙が溢れそうになったのだ。

「……そうか……。
ただし聞かせるのは一度切りだ。」

丸藤先輩はPDAを取り出し、件のメールを開いて再生ボタンを押した。

……。

……。

……。

確かにとても聞き取れる内容では無かった。
雑音が絶え間なく大音量で流れ、途切れ途切れに
一言二言の声が聞こえるのみ。

しかしその声を聞くだけで……。

「ああ……ああああ……。」

泣くな。

泣くな……。

丸藤先輩が見ている。

みっともないところを見せるわけには……。

「……そろそろ寮の門限の時間だろう。
自分の寮へ戻れ。
今聞いたものは忘れろ。いいな。」

そう言って丸藤先輩は背を向けて、去ろうとした。

「待って!待って下さい!
そのファイルあたしに下さい!」

「何……?」

「あ、あたしの友達に機械に詳しい人いて……
もしかしたらファイル、直せるかもしれません!」

もちろん大嘘だ。
そんな知り合いはいない。
だがどうしてもそのファイルを入手したかった。
現実にそこにある、手がかりなのだ。

「断る。」

「ぐ……。
なら……力づくでも奪います!」

あたしはデュエルディスクを構えた。
相手はカイザー亮。
以前ボロ負けした相手、無謀すぎる挑戦だ。

「法子。お前が何故そこまで吹雪に固執するかはわからんが……」

あたしが吹雪さん好きなの知らないのか!?
に、鈍いなこの人。

「触れてはいけない領域というものがある。
しかし……。」

ガチャリ。
丸藤先輩もディスクを構える。

「ときには信念が闇を乗り越えることもある。
お前の覚悟を試させてもらう。」

「……!
よ、よろしくお願いします!」

「行くぞ。」


デュエル!


カイザー亮 LP 4000

石原法子 LP 4000


「俺のターンからだ。ドロー。
場にカードを2枚セット……ターンエンドだ。」


カイザー亮 LP 4000 手札4枚
場:伏せカード2枚


石原法子 LP 4000 手札5枚
場:無し


「あたしのターン!ドロー!」

丸藤先輩の場には伏せカード2枚のみ。
おそらく罠カードだろう。
丸藤先輩を見ると、直立不動の体制でまっすぐにこちらを見据えている。
なんたる威圧感。
今のあたしの手札には伏せカード2枚を除去できるカードは……

氷帝メビウス……!
しかしこれは生贄を捧げないと召喚できない。
次のターンに賭ける。

「黄泉ガエルを守備表示!
さらにカードを1枚伏せて……ターンエンド!」


カイザー亮 LP 4000 手札4枚
場:伏せカード2枚

石原法子 LP 4000 手札4枚
場:「黄泉ガエル」
  伏せカード1枚


「俺のターンだ。ドロー。
リバースカードを発動させる。
メタル・リフレクト・スライムだ。」

場に守備力3000の罠モンスターが出現した。
守備も万全というわけだ……。

「手札から、魔法発動。
突然変異。
場のモンスターを融合モンスターに変異させる。」

しかし次のあたしのターンでメビ……
ぇ?

「メタル・リフレクト・スライムのレベルは10。
同レベルモンスター、
サイバー・エンド・ドラゴンを特殊召喚する。」

ええええええええぇぇぇぇ!?

「黄泉ガエルに攻撃……
エターナル・エヴォリューション・バースト!」

いきなり丸藤先輩の切り札が召喚された。
攻撃力は4000に達し、さらに貫通ダメージを与える効果を持つ
強烈無比なカードだ。

「くぅ……!
でもこれで倒す!
リバースカードオープン、聖なるバリア−ミラーフォース!」


これで攻撃を跳ね返し、一気に優位に立つ!
サイバー・エンドの攻撃が黄泉ガエルに直撃する瞬間、
攻撃を反射し……
あれ?反射しないよ?

「カウンター罠、トラップジャマー発動。
ミラーフォースを無効にする。」

そ、そんな!?

「きゃああぁぁぁ!!」

黄泉ガエルが木っ端微塵に粉砕され、
凄まじい衝撃があたしを襲った。
黄泉ガエルの守備力は100。
つまりのあたしの残りライフは……。

石原法子 LP 100

「場にカードを1枚セット……。
ターンエンド。
さぁ、ついて来れるか?」


カイザー亮 LP 4000 手札3枚
場:「サイバー・エンド・ドラゴン」
  伏せカード1枚

石原法子 LP 100 手札4枚
場:無し



「あ、あたしの……ターン……。」

かなりマズイ状況だ。
氷帝メビウスの攻撃力ではサイバー・エンドに太刀打ちできない。
ドローカードに賭けるしかない。

「ドロー!」

よ、よし!これなら!

「スタンバイフェイズに黄泉ガエルを復活させるわ!
そしてこの黄泉ガエルをコストのための生贄に捧げる!
エネミーコントローラー発動!
フィールド上のモンスターを生贄に捧げて、
相手モンスターのコントロールを奪う効果を選択!」

これでサイバー・エンドをあたしの場に引き寄せ、
攻撃を叩き込めば……。

「やらせん。
亜空間物質転送装置を発動させる。
サイバー・エンドをこのターン、ゲームから除外させ
エネミーコントローラーの対象から外す。」

……なんてこった。
かなりマズイ状況になってしまった。
丸藤先輩のフィールドはがら空きだが、攻め込むためのモンスターがいない。
ここは耐え忍ぶしかない。

「ダンディライオンを守備表示……
カードを1枚伏せてターンエンド!」

「エンドフェイズにサイバー・エンドは俺のフィールドに帰還する。」


カイザー亮 LP 4000 手札3枚
場:「サイバー・エンド・ドラゴン」

石原法子 LP 100 手札4枚
場:「ダンディライオン」
  伏せカード1枚


「俺のターンだ。ドロー。
プロト・サイバー・ドラゴンを召喚。
このカードが表側表示で存在するとき、
カードの名前はサイバー・ドラゴンとなる。」

プロト・サイバーは融合体が多いサイバー・ドラゴン系モンスターの
サポートとなるモンスターだ。
名称が同じになるので、融合しやすくなる。

「手札から、魔法発動。
融合!
手札のサイバー・ドラゴンと……
フィールドのプロト・サイバー・ドラゴンを融合させる。」

ぐ……!

「出でよ、サイバー・ツイン・ドラゴン。」

サイバー・ツイン・ドラゴンは攻撃力2800に加え、
2回連続攻撃が可能という効果を持つ。
サイバー・エンドほどの打撃力は無いが、
十分すぎるほどの性能を持っていた。

「油断はしない。行くぞ……。
エターナル・エヴォリューション・バースト!
エヴォリューション・ツイン・バースト!」

合計5つの口が開かれ、一斉にダンディライオンに襲い掛かった。
これが手持ち最後の防御カードだ!

「り、リバースカードオープン!
和睦の使者!このターンのダメージを全てゼロに!」

間一髪、サイバー・エンド達の攻撃は
ダンディライオンに届く前に拡散した。

「カードを1枚伏せ、俺のターンは終了だ……。
防ぐだけで精一杯か?」


カイザー亮 LP 4000 手札0枚
場:「サイバー・エンド・ドラゴン」「サイバー・ツイン・ドラゴン」
  伏せカード1枚

石原法子 LP 100 手札4枚
場:「ダンディライオン」


かなり追い詰められた。
もはやこれまでか……。

「石原法子。」

「え……、は、はい?」

「見せてみろ。お前のデュエルを。」

「あたしのデュエル?」

このデュエル、終始押されっぱなしで
確かにあたしが戦術はまるで活かせていなかった。
それを……それを見せないで終わりたく無い!

「い、いきます!あたしのターン!ドロー!」

突進≠フカード……
よし……行ける!

「スタンバイフェイズに黄泉ガエルが墓地から復活!
この黄泉ガエルを生贄に捧げ……。」

お願い、あたしに力を!

「これよ!
氷帝メビウス!
効果発動、フリーズ・バースト!
丸藤先輩の伏せカードを……破壊!」

「……!
ならばリバースカード、威嚇する咆哮を発動させる。
このターン、相手モンスターは攻撃宣言できない。」

がっ……!
なんてことだ。
ドローしたカード、突進は戦闘をサポートする速攻魔法カードだが、
攻撃宣言できないのでは意味が無い。

「ま、まだまだー!
手札から、魔法発動!遺言状!
このターン、モンスターが墓地に送られていたとき、
デッキから攻撃力1500のモンスターを特殊召喚する!
あたしが選ぶのは……。」

デッキからこの状況を打破できるカードを呼び出した。

「ならず者傭兵部隊!サイバー・エンドを破壊よ!」

「……むぅ……!」

傭兵たちがサイバー・エンドに突撃し、玉砕した。
このカードは生贄に捧げることで、
フィールドのモンスターを破壊できる。
攻撃宣言が出来なくなってても、効果での破壊は可能だ!

「やった……サイバー・エンドを倒せた!」

あと、後もう少しだ。
次はサイバー・ツインを破壊できれば!

「カードを1枚伏せて……ターンエンド!」


カイザー亮 LP 4000 手札0枚
場:「サイバー・ツイン・ドラゴン」

石原法子 LP 100 手札2枚
場:「氷帝メビウス」
  伏せカード1枚


丸藤先輩の手札はゼロだ。
ライフは圧倒的な差がついているが、まだ頑張れる!

丸藤先輩が、さっき見せたような柔和な表情になり、
フッと笑った。

「負けられん。俺のターンだ。」

丸藤先輩のドローカードで決まる……。
サイバー・ツインがそのまま攻撃してくれば、
突進の効果で返り討ちが出来る。
お願い、攻撃して……。

「ドロー……強欲な壺!」

なっ……!

「デッキからカードを2枚ドロー。
手札から魔法発動、融合解除!
サイバー・ツイン・ドラゴンを分離させる。」

場に先ほど融合素材に利用した
サイバー・ドラゴンとプロト・サイバーが特殊召喚された。
でもなんのために……?

「そして融合呪印生物−光を通常召喚。
融合呪印生物の効果発動。
光属性の融合モンスターを特殊召喚する。」

フィールドの3体のモンスターがまばゆい光に包まれ……

「う……そ……!?」

「再び……
サイバー・エンド・ドラゴンを特殊召喚!」

さっき破壊したはずのサイバー・エンドが現れた。
もう……
もう……ダメだ……。

「サイバー・エンド・ドラゴンで攻撃……
エターナル・エヴォリューション・バースト!」

「り、リバースカード発動!
突進!氷帝メビウスの攻撃力を……
な、700ポイントアップ……
きゃああぁ!!」

氷帝メビウスの攻撃力はこれで3100。
しかしサイバー・エンドの4000には到底届かなかった。
強烈な閃光が氷帝メビウスとあたしを包み込み、
デュエルの勝敗が決した。

石原法子 LP 0

丸藤先輩のライフをまったく削ることが出来なかった。
この結果はあたしにとって、ショックが大きい。
ここまで、ここまで差がつくものなのか。

「あ、ありがとうございました。」

「うむ。」

丸藤先輩が背を向けて去ろうとする。
吹雪さんの手がかりはこれで……。

「石原法子。」

「は、はい。」

「何故負けたのか、よく考えてみるんだな。」

「なんで負けたか……?」

実力?
経験?
引きの良さ?
いや、違う。
あたしが負けた理由は……。

「あ、あたしは……。」

「今のお前のデュエルは、俺が知っているお前のデュエルでは無かった。
以前までのお前は、もっと楽しそうに
デュエルしているようにに見えたのだがな。」

「あ……。」

吹雪さんのろくな情報がつかめず、ギスギスしていたことは確かだ。
さっきだって半べそをかいていた。

楽しめていなかったかもしれない。今のデュエルを。
丸藤先輩が相手ということで緊張し、
もしかしたら吹雪さんの情報がつかめるかもしれないという焦り、
そして無駄に計略を考え、結果、1ポイントも削れずに破れた。

「気付いたか?
それでは何時までも吹雪には届かん。」

「はい……。」

「だが……。」

「え?」

「俺のサイバー・エンドを一度破壊したことは事実だ。」

丸藤先輩はPDAを取り出し、何やら打ち込んでいる。

「教えろ、アドレスを。」

「はい?」

「アドレスが無ければメールを送れん。」

え?なにこれ?ナンパ?

「吹雪のファイル、いらんのか?」

「あ……い、いいんですか!?」

何がナンパだ。恥ずかしくなった。
あたしのアドレスを丸藤先輩に伝える。

「ふむ……。」

ピピ。

うおぉー!さり気なく丸藤先輩のアドレスもゲットォー!!

「これで吹雪のファイルは送った。
これをどうするかはお前の自由だ。
見つけてみろ、そこから手がかりを。」

「わ、わかりました!」

吹雪さんの手がかりになるかもしれない、壊れたファイル。
さっき丸藤先輩に言った機械に詳しい友達はウソだし、
このファイル、どうしようか?
嘘をついたことについて罪悪感を覚えるが……。

もしかしたら吉澤先輩が何かわかるかもしれない。

ありがとうございます、と言いかけたそのとき。

「亮、遅くなってゴメンね。」

一人の女生徒が丸藤先輩のところへ駆け寄っていた。

「うむ。」

「……え……あー!?」

こ、この女……。

「あら?あなた確か……石原さんだったかしら?」

天 上 院 明 日 香 だ !

なんだ今の。
亮、遅くなってゴメンね?むふ。
こんな夜の灯台で待ち合わせ?
こ、この二人、まさか……。

「あ、あははは。ご無沙汰ですー。
ああああたし帰らないと!
丸藤先輩、今日はありがとうございました!」

逃げるようにその場を立ち去った。
なんかあたしの周りカップル多くない!?

「……?
どうしたの、あの子?」

「さぁな。」


・・・


「お姉ちゃんお帰りー。遅かったね。」

周子にこのファイルのことを伝えるべきだろうか?
しかし丸藤先輩の言葉を思い出す。

触れてはいけない領域。

この言葉は何を指しているのだろう。
このファイルを所持していることで、何か不吉な出来事が起きるのだろうか?
その考えると、吉澤先輩にこのファイルの
修理のあてを探してもらうというプランも没だ。

「どしたの?黙っちゃって。」

「え、ああ、いやぁね、
さっきデュエルっでボロ負けしちゃって、ははは。」

周子をごまかしたそのとき、

ピピ。

「あ、メール。」

丸藤先輩かな?と最初は思った。
しかし差出人は不明。音声は入って無い。
そして文面には……。

『明日の夜 火山』

これだけ書かれていた。
手がかりは来た。



九章「大徳寺先生」

さて、その日の授業は錬金術科だったはず。
この科目はあまり授業数は多く無いが、
小難しくてあんまり好きになれない。
あたしとしては早いところ夜になって火山に行きたい。

となればあたしが取る手段は一つ。

寝る。

難しい授業を飛ばしつつ、一気に夜になる。

最良の手段と言えよう。

講師の大徳寺先生が教室に入ってきた。
とても細い目に、語尾に「ニャ〜」とつけるのが特徴的な先生だ。

「さ〜て、それじゃあ〜
授業を始めるとするかニャ〜。」

いつもこんな感じ喋り方で、常にペースを崩さない。
ちなみにこの先生はオシリスレッドの寮長でもある。

「おや、法子くん。
貧血で倒れてたって聞いてたけど、もう大丈夫なのかニャ?」

サイコショッカー事件の関係者以外には、
どうやら貧血で倒れていたと伝わっているらしい。

「いっぱいゴハン食べましたからね。」

病室で出されたゴハンは美味しかったなぁ……。

「じゃあ今日は休んでいた法子くんのために
先週のおさらいをしようかニャ。」

え!

い、いいのにそんなことしなくても!

「ここはテストにも出る大事なところだからニャ〜。
聞き逃していたら大変なんだニャ〜。」

うぅ!

く、くそ……。

受けるしか無いのか……講義を……!

「ではまず、錬金術の起源についてだニャ〜。
これは古代エジプトのある技術から発達し……」

しぶしぶとノートに記入していくあたし。
ちゃんと勉強しないと落第しちゃうからね。
やっぱり勉強は大事だよ。うん。

このデュエルアカデミアにはこの錬金術科という不思議な科目がある。
一般的には非金属を金属に変える技術のことを指すが、
これはカードゲームのデュエルにも
応用される知識が盛り込まれているそうなのだ。

裏側になって山札となっているデッキ。
これが非金属。

表側表示となり、フィールドで展開されるモンスターや魔法。
これが金属。

ドローする行為は非金属を金属に変える技術そのもの。

さらに様々なカードの組み合わせで産まれる強力なコンボ。
これも金属と金属を合わせて異なる物体を作り出す錬金術なのだ。

とは言うものの……。

「ふわぁ〜〜〜〜」

やっぱり難しい。
思わずあくびも飛び出るさ。

「では、今日の授業はここまで。
さ〜て、お昼ゴハンの時間だニャ〜。」

あ……終わったか……。
最後のほうはほとんどボ〜っとしていた。
いかん。ほとんど書いて無い。

後で周子にノートを移させてもらおう。
そうしよう。
周子は物覚えの悪さを自覚している故か、
授業内容はキッチリとノートに記録してある。

「さぁー!ゴハンよぉー!」

あたしは意気揚々と学食へ向かった。


・・・


「お姉ちゃんさぁ、さっきの授業寝てたでしょ?」

「はふ?ほんはほほはいほ。
へんべんへへはいほ?」

「口の中のものを片付けてから返事しなよ……。」

ああ、学食の丼ものとは何故こうも美味しいのだろう。
でもちょっと足りないから後でドローパンも買って来よう。

「そんなに食べてちゃ太るよ?」

「うむぶ、ゴクン。
これは今夜に向けての腹ごしらえよ。
何が起こるかわからないからね。」

「今夜って……今夜またどこか行くの?」

しまった。
周子にはまだ例の発信者不明のメールのことを教えていないんだった。

「ほ、ほら。昨日ボロ負けした人にリベンジしにね!」

「今日は早く帰ってきてよね。」

「あはは、ゴメンゴメン。」

そういえば、火山の入り口にはまだあの見張りがいることだろう。
どうすればいいだろうか?
そう思っていたそのとき……。

「やぁ〜、ここ座ってもいいかニャ?」

「あ、大徳寺先生。どうぞどうぞ。」

大徳寺先生の足元には、丸々太った猫がいた。
先生の飼い猫で、とてもよく懐いている。

「大徳寺先生も言って下さいよ。お姉ちゃんの昼寝癖。
妹として恥ずかしくなっちゃいますよ。」

「ははは、それじゃあ法子くんは後日補習かニャ?」

ち……周子め!!余計なことを!!

「そうそう、周子くん。
後で職員室まで来てもらってもいいかニャ?
渡したいものがあるんだニャ。」

「え?私ですか?はい。わかりました。」

周子を呼び出し?一体なんだろう?

「インコーっすかぁ?先生ー?」

「何言ってんの!お姉ちゃん!」

ちょっとからかってみる。

「はは、教え子を恋愛対象としては見れないのニャ〜。
逮捕されちゃうんだニャ。」

脳裏に木葉先生の姿が思い浮かぶ。
だ、大丈夫かな……。



やがて夕方になり、授業は全て終了した。

「じゃあお姉ちゃん。私職員室に行ってくるから。」

「うん。」

一足先に寮に帰り、今夜に向けての支度をする。
デッキの調整だ。
低レベルで、攻撃力の高いモンスターを増やしておこうかな……。

すっかり調整に夢中になり、気が付くと日が暮れていた。

「周子、帰って来なかったな……。」

周子用の夜ゴハン(半分あたしが食べた)を冷蔵庫に入れ
書き置きを残して寮を出た。

さぁ……鬼が出るか、蛇が出るか。
来るなら誰でもかかってこい!


・・・


「……見張りの人がいない?」

まず最初に難関になるであろう警備の人は姿を消していた。
たまたま交代の時間か何かで持ち場を離れたのだろうか?
なんにせよ、これはラッキーだ。一気に坂を駆け上る。

「あれ!?
周子そんなところで何してんの!?」

もうじき火口付近に着くという辺りで、
何をするでも無くたたずんでいる周子を発見した。

「あんた……こんなとこにいたら危ないよ?
早く寮に帰りなさいよ。」

周子からの返事は無い。

「周子、聞いてるの!?」

ようやく周子がこちらに顔を向け、返事をした。

「お姉ちゃん……デュエルしよ?」

「な、何を言って……」

周子の目は虚ろで焦点が定まっていなかった。
そして黒いモヤのようなものが、周子の体を包み込んでいた。
これはまるで、サイコショッカーに取り憑かれた黒川と……
ほとんど同じだ!

「デュエル……しよ?
ねー……お姉ちゃんデュエルしよ?」

周子も何者かに取り憑かれた?
だとしたら一刻も早く助けないと……。

「デュエルしよーよー。
ねー。お姉ちゃぁぁん……。」

「わかった、わかったわよ!
今すぐ正気に戻してやるからね!
おい、周子に取り憑いてるヤロウ!
あたしの妹に手ぇ出したからにはタダじゃ済まさないわよ!」

行くぞ!

デュエル!!


石原周子 LP 4000

石原法子 LP 4000


先行は周子が取った。
周子とは戦い慣れてるから、戦略は把握している。
しかし、それでも周子の切り札、ホルスの黒炎竜は強力だ。
これをどう封じるかが勝負の分かれ目。

「ふふふあはははは、行くよーお姉ちゃん。
仮面竜を攻撃表示で……召喚。」

仮面竜。マスクドドラゴンと読む。
攻撃力1400で、戦闘で破壊されると
攻撃力1500以下のドラゴン族をデッキから呼び出す。
少々厄介なモンスターだ。

「カードを伏せてぇ……エンドォ。」


石原周子 LP 4000 手札4枚
場:「仮面竜」
  伏せカード1枚

石原法子 LP 4000 手札5枚
場:無し


「行くぞ!あたしのターン!
ドロー!」

よし、いい手札だ。
若干攻め難いが、ここは引き下がるわけにはいかない。

「頼んだわよぉ……
ニュート召喚!攻撃力1900よ!」

のっぺりとした顔に、ぐるぐると回る胴体。
そのなんとも形容しがたい姿のモンスターを召喚した。
攻撃力と特殊能力が頼りになる。

あたしのデッキには全六属性のうち、
光、闇、地、炎、水属性のモンスターが入っていた。
風属性だけなかったので、なんとなく風属性が欲しくなり、
下級モンスターの層に厚みをつけるためにさっき投入した。

噂では風属性の帝<Jードが存在するらしい。
ぜひとも欲しいところだ。
女帝カマキリ≠ネんてオチがついたりしたらどうしよう。

「ニュートで仮面竜に攻撃!
グラビトン・パンチ!!」

重力波を相手に浴びせながら、ニュートが鉄拳を繰り出した。
仮面竜の仮面が砕け散る。
500ポイントのダメージだ。

「ふふー……。」

石原法子 LP 3500

「でもぉ……〜仮面竜の効果〜……発動ぉ〜!
デッキからドル・ドラを特殊召喚!」

「カードを2枚伏せて、ターンエンド!」


石原周子 LP 3500 手札4枚
場:「ドル・ドラ」
  伏せカード1枚

石原法子 LP 4000 手札3枚
場:「ニュート」
   伏せカード2枚


「私のターン……ドロー!
天使の施しを発動……。3枚ドローしてぇ……
2枚捨てる。
あは、いらないや……。」

捨てるカードの中にホルスの黒炎竜LV4が見えた。

「周子……!」

恐らく戦術的に間違った行為はしてないのだろう。
だがいらないなどと吐き捨てる周子に我慢ならなかった。

「おい取り憑いてる奴!
ギッタンギッタンのボッコボコにしてやるからな!」

ニヤリ、と周子の口元がいやらしく歪んだ。
いい度胸だ。

「ドル・ドラを生贄に捧げてぇ……
ホルスの黒炎竜LV6を召喚!」

な、なに!早い!

「もちろんニュートに攻撃ぃ!」

「甘いわね!炸裂装甲を発動!」

「どっちが!?永続罠、王宮のお触れを発動ぉ!
発動された炸裂装甲を無効に!」

魔法を無効にするホルスの黒炎竜と
罠を無効にする王宮のお触れをこんなに早く揃えるなんて……!

「ニュート撃破ぁ!」

石原法子 LP 3600

「くぅ……ニュートの効果発動。
戦闘で破壊したモンスターの攻撃力を500ポイント下げるわ……。」

これでホルスの黒炎竜LV6の攻撃力は1800になった。
しかし……
それが無意味な行為であることは理解していた。

「あはは、このターンでホルスの黒炎竜はレベルアップしちゃうから
意味無いよね。ターンエンド!」

ホルスの黒炎竜がLV8へと進化した。
魔法は発動できない、罠は使えない。
マズイ状況だ。


石原周子 LP 3500 手札4枚
場:「ホルスの黒炎竜LV8」
  「王宮のお触れ」

石原法子 LP 3600 手札3枚
場:伏せカード1枚


「くぅ……あたしのターン、ドロー!
ダンディライオンを守備表示で召喚よ。」

こうなるとモンスターの効果で対抗するしかない。
あたしは周子とは何度も対戦している。
このような状況に陥ることは時々あった。
そのとき、どんなふうに切り抜けてきたかを思い出しながら、慎重にプレイする。

「ターン……エンド。」


石原周子 LP 3500 手札4枚
場:「ホルスの黒炎竜LV8」
  「王宮のお触れ」

石原法子 LP 3600 手札3枚
場:「ダンディライオン」
  伏せカード1枚


「私のターン……ドロー。
天下人 紫炎を攻撃表示で召喚!
ダンディライオンに攻撃ぃ〜!」

ダンディライオンが打ち砕かれ、
場に2体の綿毛トークンが守備表示で出現した。
これでホルスの黒炎竜の攻撃は防げる……。

「ダメだよ?お姉ちゃん。
そんなモンスターじゃ、お姉ちゃんを守れないよ……
この瞬間、手札から速攻魔法エネミーコントローラーを発動!
攻撃力ゼロの綿毛トークンを攻撃表示に変更!」

「あ……!やばい!」

「ホルスの黒炎竜の攻撃!!綿毛トークンを粉砕!
これで3000のダメージだよ!」

「うわぁぁ!!」

石原法子 LP 600

これは効いた。
だけど……丸藤先輩のサイバー・エンドの攻撃のほうが痛かったもんね!

「もうお終いだよ、お姉ちゃん。
カードを2枚伏せて……ターンエンド。」

ここでカードを2枚伏せるとは……。
とことんこちらの動きを制限するつもりだろう。


石原周子 LP 3500 手札2枚
場:「ホルスの黒炎竜LV8」「天下人 紫炎」
  「王宮のお触れ」
  伏せカード2枚

石原法子 LP 600 手札3枚
場:「綿毛トークン」
  伏せカード1枚


「あたしのターン!ドロー!」

流石にヤバイ状況だ。
しかし……。

「周子。結構昔の話だけど……。
前にもこんなロックをして、勝利を確信してたことあったわよね?
でも結局はあたしが逆転勝ちした。
それからあんたはホルスの黒炎竜のコンボを決めても、
なにがあっても油断しなかったわね。」

「……。」

「だからもうロックが決まったからと言って
勝ち誇るような妹じゃない。
やっぱり、まぁわかっちゃいるけど、
今の周子は周子じゃない。
さっさと周子の体から出て行け。」

「……早くプレイしなよ……お姉ちゃん。」

「言われんでも今やるわよ!綿毛トークンを生贄に捧げて……
氷帝メビウスを召喚!
効果発動!
王宮のお触れと、伏せたカード1枚を破壊する!」

とりあえず王宮のお触れを破壊することが第一だ。
破壊できた伏せカードはスケープ・ゴート。
この状態では発動できない。
しかし……。

「ふ、ふふふ、ふふ……」

本命の伏せカードのほうは外してしまったらしい。
対象を散らばらせるためのオトリだったようだ。

「ちっ……!怯むもんか!天下人のおっさんに攻撃!
アイスラーンス!」

周子のLPを900削れた。まだちょっと遠い。

石原周子 LP 2600

実はあたしの手札にはならず者傭兵部隊があった。
これを使えばホルスの黒炎竜を破壊できた。
それをあたしがやらなかったのは、
周子に取り憑いてる何者かに
このカードの効果をぶつけたいという気持ちがあるからだ。

もしかしてサイコ・ショッカーのときみたいに、実体化するかもしれない。
そしてその実体化した奴に、ならず者傭兵部隊の効果でボコボコにする。
その瞬間を待つ。

「カードを2枚伏せてターンエンドよ。」

「ああっと、エンドフェイズにリバースカードオープン!
もう1枚の王宮のお触れ!
ふふ、お姉ちゃんが王宮のお触れを破壊しに来ることは知ってたよ。
だからもう1枚伏せたよ。残念だったね!」

……!
これは……。
このままでは……。

あたしの負けだ……。


石原周子 LP 2600 手札2枚
場:「ホルスの黒炎竜LV8」
  「王宮のお触れ」 

石原法子 LP 600 手札2枚
場:「氷帝メビウス」
  伏せカード2枚


「じゃあ、私のターンね……ドロー!
あ、あはは!あははははは!!
これで……これで本当にお姉ちゃんの負けだねぇ!
手札から魔法カード……龍の鏡を発動ぉ……。」

「なんですって!?」

馬鹿な!
そんなことをしなくても……。

「このカードの効果は……もちろん知ってるよねぇ?
墓地、フィールドに存在するドラゴン族を……融合させる!」

周子の墓地にはドラゴン族が全部で4体。
フィールドにはホルスの黒炎竜LV8が。
全部で5体だ。
この5体を融合させるというの?
それによって誕生するモンスターは……。

「まさかホルスの黒炎竜LV8まで!?
やめなさい!何をしているのかわかっているの!?」

「私はぁぁぁ墓地に存在する……
仮面竜!!ドル・ドラ!!
ホルスの黒炎竜LV4!!LV6!!
そしてフィールドのLV8を生贄に捧げぇぇ!!」

「やめろー!!」

「ファイブ・ゴッド・ドラゴンを融合召喚!!」

F・G・D――ファイブ・ゴッド・ドラゴン。
攻撃力5000を誇る、最凶のドラゴンが場に君臨した。
加えて、光属性以外のモンスターからは破壊されないという
恐ろしい能力を持ったモンスターだ。

「こんな、こんなドラゴンのために……
ホルスの黒炎竜を犠牲にしたの?」

「さぁ――罠は使えないよ……。
F・G・Dの攻撃!!
消えちゃえ!消えちゃえ!消えちゃえー!!」

5つの口から閃光がほとばしる。
あたしは気付いた。
ホルスの黒炎竜が消滅したことで魔法が使えるようになったことを。

「リバースカードオープン、速攻魔法サイクロンを発動!
王宮のお触れを再び破壊!」

「そんなことしたって……」

「無駄じゃないわよ!
もう1枚、リバースカード発動!
永続罠、血の代償!500ポイントのライフを支払い、
モンスターを1体通常召喚する!」

石原法子 LP 100

この場を切り抜けるため、このカードに託す。

「氷帝メビウスを生贄に捧げ、雷帝ザボルグ召喚!」

「あ!!」

「雷帝ザボルグの効果発動!モンスターを1体破壊する!
対象は……F・G・D!」

氷帝メビウスに変わって出現した雷帝ザボルグが、
天空からの稲妻を巨大なドラゴンに直撃させた。

「うううぅぅぅぅうううあああああ!!!」

F・G・Dが消滅した瞬間、周子を覆っていた黒いモヤが浮き出た。
逃げるつもりだ。

「……!
ザボルグ、あの黒いモヤを攻撃して!」

雷帝ザボルグが手をかざし、閃光を放って黒いモヤに直撃させた。
直後、そのモヤは実体化した。
こいつはゼミアの神≠ニいうモンスター……!
これが取り憑いていたのか!

周子は気を失ってその場に倒れていた。
強制的にターンが終了される。


石原周子 LP 2600 手札2枚 戦闘不能
場:無し

石原法子 LP 100 手札1枚
場:「雷帝ザボルグ」
  「血の代償」


「あたしのターン!ならず者傭兵部隊召喚!
ダイレクトアタックよ!」

雷帝ザボルグとならず者傭兵部隊が、ゼミアの神に一斉攻撃を加える。

石原周子 LP 0

「このくらいで済むと思うなよコラァァ!!
ならず者傭兵部隊の効果であんた自身を破壊する!!」

傭兵部隊がゼミアの神の周りを取り囲み、めちゃくちゃに殴りつける。
叫び声を上げて、ゼミアの神は霧散した。

デュエルの決着はついたのだ。

「ふぅ……周子、大丈夫?」

このデュエル、ホルスの黒炎竜LV8でそのまま攻撃されていたら負けていた。

周子は油断はしない。
いつもの姉妹としての<fュエルなら負けのデュエル。

先ほどの傲慢とも言えるF・G・Dの召喚は
全てあの取り憑いていたゼミアの神が仕向けたものなのだ。

結果としては、あたしは勝利できた。

「……う……」

「周子、周子……。」

もしかして周子もあたしや先輩、黒川のように
体が動かなくなるのでは……。

「安心しろ、石原法子。
早い段階で精霊を処分できたから、すぐに目を覚ます。」

突然、岩山の上から声がした。

「だ、誰?」

目の前に現れたのは白い仮面をつけ、マントを羽織った男だった。
まるで魔術師のような風貌である。

その姿はどこかで見覚えがあった。

「あ……!」

いつか夢で見た、吹雪さんと対峙していた仮面の男。
そっくりなのだ。

「石原法子……お前をここへ呼んだのはこの私だ。」

その仮面をゆっくりと外す。
彼の素顔は今日まで顔を合わせていた……。

「だ……大徳寺……先生?」

「いかにも。」

「どうして先生がこんなところに?
あ、もしかして周子みたいに操られて……。」

「いいや、私は正気だよ。」

「どうして先生が……。」

上手く言葉が出てこない。
なんでこんなところに?
どうしてそんな格好で?
一つ言える事は、今の大徳寺先生に
いつも感じられる温厚な先生という印象は、まったく感じられなかった。

「石原周子に邪悪な精霊を憑かせ、お前に仕向けたのは
他でも無い私。
そしてサイコ・ショッカーを黒川唯一に憑かせたのも私だ。」

「なんでそんなことを?」

「石原法子。私はお前を処分しなければならない。
一般の生徒でありながら、お前は深入りしすぎた。
サイコ・ショッカーがお前を葬ればそれで良し。
それが失敗したので次は石原周子をお前に仕向けた。
どうやら、役不足だったようだがな。」

処分。葬る。
つまり……
あたしを……

「こ、殺……。」

「そう。天上院吹雪に近づきすぎたお前は殺さなければならない。
彼は今、深淵の世界で闇のデュエリストとなるべく
休む間も無く死のデュエルを繰り返している。
お前はその世界に近づきすぎた……。」

あたしは吹雪さんの手がかりははっきり言って全然掴めていない。
ここに来ればわかると思っていた。
近づきすぎたなんてのは、理由にならない!

「不思議か?
お前が持っているそのファイル……丸藤亮から受け取ったそのメールだ。
それを受け取ったことでお前の処分は決定的となった。
そのメールには天上院吹雪が今、どこでどんなデュエルをしているかを
記録させたもの。
天上院吹雪が隙を見て、PDAから友人である丸藤亮の元へと送信した。
それをお前が持っていることが問題なのだ。」

もしかして。

「あ、あたしがこれを持っていることで……
吹雪さんがいる場所に行ける様になる……ってことですか?」

「察しがいいな……。
丸藤亮もいずれは深淵の世界へと誘い、闇のデュエリストに育て上げる。
天上院吹雪と同じようにな。
だがお前は私の計画の邪魔となる。
だからこの場で消えてもらおう。」

「つまり、つまり吹雪さんを行方不明にさせたのは……
あなただったの!?大徳寺先生!!」

あたしの問いに、大徳寺先生は邪悪な笑みで返した。
細目の奥の瞳が赤く光り、
顔中に不気味な脈動を繰り返す血管が浮き出る。

「死にたくはなかろう?吹雪に会いたかろう?
私の本当の名前はアムナエル。
来るがいい!石原法子!」

大徳寺先生、いや……
アムナエルが見たことも無いデュエル・ディスクを構えた。

この人の目的なんて知ったことではない。

だが……アムナエルに勝てば吹雪さんに……!
やっと会えるんだ、吹雪さんに!



十章「アムナエル」

「さて、妹が横たわったままではお前も集中できまい。」

アムナエルは周子に腕を向け、
なにやら呪文のようなものを唱え始めた。

「ち、周子に何をするつもり!?」

あたしはとっさに周子に前に躍り出て、
何かされないように警戒する。

「安心しろ。お前たちの寮に送るだけだ。」

次の瞬間、周子の姿が完全に消滅した。

「あぁー!?」

「さぁ、これで邪魔者は消えた。」

「ほ、ほんとに、ほんとに寮に送ったんでしょうね!?」

かなり疑わしい。
こんな魔術みたいなものを見せられても
そう簡単には信じがたい。

「嘘かどうかは、私に勝ってから確かめてみるがいい。」

「く……行くぞ!」

デュエル!!


石原法子 LP 4000

アムナエル LP 4000


「先行はこのあたし!ドロー!
……う……!?」

手札を見てあたしは固まった。
低レベルモンスターが……いない。
つまりこのターン、モンスターの召喚ができない。

事故……!

こんなときに!

とりあえず、いきなり状況が不利ということを悟られてはならない。
冷静にならなければ。

「カードを1枚伏せて……ターンエンド!」


石原法子 LP 4000 手札5枚
場:伏せカード1枚

アムナエル LP 4000 手札5枚


「錬金術の力、しかと見るがいい……
私のターン!ドロー!」

アムナエルはあたしの状況を見てフッと笑った。

「どうした?攻めの姿勢が感じられないぞ?」

マズい、悟られた。

「錬金生物ホムンクルスを攻撃表示で召喚する。
攻撃力は1800。
そしてメインフェイズに一度だけ、このカードの属性を変更することができる。」

錬金術にちなんだモンスター、ホムンクルス。
彼にふさわしいモンスターと言える。

「上にあるものは下にあるもののごとし。
下にあるものは上にあるもののごとし。
わかるかね?」

「いや……わかりませ……じゃなくて
そんなの知らないよ!
リバースカードオープン、奈落の落とし穴!
召喚されたモンスターをゲームから除外する!」

召喚された錬金生物はが即座に除外された。
ゲームから除外、という行為はデュエルにおいては重要で、
基本的には相手の再利用を許さないという行為である。

「ふふ、ではカードを2枚伏せてターンエンドだ……。」


石原法子 LP 4000 手札5枚
場:無し

アムナエル LP 4000 手札3枚
場:伏せカード2枚


「あたしのターン!ドロー!」

とりあえず先制の一撃は喰らわずに済んだ。
ここで切り返せれば一気に流れに乗れるが……。
いかんせん、攻められる状況では無いのが苦しい。

「でもなんとか低レベルモンスターを引いたわ……
黄泉ガエルを守備表示で召喚!ターンエンドよ。」

「お前のデッキには上級モンスターが多いな。」

「な、何をいきなり……。」

「確かに上級モンスターは場に出現すれば、圧倒する力で
フィールドを支配できるカードが多い。
だがそれ故に容易に召喚することは出来ない。
それは錬金術において、練成しにくい状態を表している。」

こんなときに講義?
でもそのくらいはあたしにだってわかる。
要するに、さっきみたいに事故が起きやすいのだ。

「あたしは、あたしのデッキのモンスターたちに誇りを持っている!
好きだからデッキに入れてるの!文句ある!?」

「それでは……真実にはたどり着けない。」


石原法子 LP 4000 手札5枚
場:「黄泉ガエル」

アムナエル LP 4000 手札3枚
場:伏せカード2枚


「私のターン、ドロー!
一つ忠告しておこう。
お前ではそのデッキは使いこなせない。」

「なんですって……。」

「練成が難しいデッキは安定せず、必要な時に必要な働きをしない。
それがわかるかね?」

「う、うるさい!うるさいうるさいうるさい!
うるさい!!
あなたをもう先生なんて思って無いんだから!
変な説教はやめてよ!」

「リバースカード……発動!
永続罠、マクロコスモス!」

急に回りの風景がぐにゃりと変形し、
宇宙空間のような映像が映し出された。

「マクロコスモスの効果……
それは墓地に送られるカードを全てゲームから除外する。
そしてもう一つ、デッキからこのモンスターを特殊召喚できる。
現れよ!原始太陽ヘリオス!」

宇宙の彼方から、体中に包帯を巻きつけた
女性のようなモンスターが出現した。
その頭は発光しており、その部分だけまるで太陽のようだ。

「原始太陽ヘリオスの攻守は、
ゲームから除外されているモンスターカードによって決定される。
現在、除外されたカードは錬金生物ホムンクルス1枚。
よって攻撃力は100ポイントとなる。」

「で、でも100ポイント……」

「まだ錬金術の過程は始まったばかりだ。
さらにモンスターを通常召喚。
異次元の生還者!攻撃力は1800。」

異次元の生還者、あれはフィールドから除外されると
エンドフェイズにフィールドに帰還する効果を持っている。

「叩き潰せ、異次元の生還者で黄泉ガエルを攻撃だ!」

「黄泉ガエルは蘇生効果を持ってる……
次のターンに……。」

「愚か者。
フィールドにマクロコスモスが出現していることを忘れたか?」

しまった。
黄泉ガエルの復活効果は墓地限定。
ゲームから除外されてしまうと、蘇ることは無い。

異次元の生還者の手刀が黄泉ガエルを切り裂き、宇宙の彼方へ吹き飛ばした。

「さらに原始太陽ヘリオスでプレイヤーにダイレクトアタック!」

小さな隕石があたしの頭に落下してきた。
ゴツン。
痛い。
原始太陽ヘリオスの攻撃力は200ポイントに変化していた。

「く……。」

石原法子 LP 3800

「カードを1枚伏せ、ターンを終了する。」


石原法子 LP 3800 手札5枚
場:無し

アムナエル LP 4000 手札3枚
場:「異次元の生還者」「原始太陽ヘリオス」
  「マクロコスモス」
  伏せカード1枚


「あ、あたしのターン。ドロー!」

やばい。
アムナエルのデッキは除外を中心とするようだ。
黄泉ガエルやダンディライオンを生贄の主軸とするあたしとは
まるで相性が最悪。

「……まだまだ!これからよ!
800ライフを支払い、
手札から魔法発動よ!洗脳ブレインコントロール!
相手フィールド上のモンスター1体のコントロールを奪う!」

石原法子 LP 3000

いいことを思いついた。

「対象は異次元の生還者よ!
さらにこの異次元の生還者を生贄に捧げ……
炎帝テスタロスを召喚!効果発動!
相手の手札をランダムに1枚、破壊する!」

アムナエルの手札からレベル6のモンスター、
黄金のホムンクルス≠ェ炎上した。
本来は墓地に送られるが、マクロコスモスの効果で除外される。

「さらにレベル×100のダメージ!」

「ほぅ……。」

アムナエル LP 3400

「炎帝テスタロスで原始太陽ヘリオスに攻撃!
ファイアーストーム!」

「罠発動!因果切断!
手札を1枚捨てることで、フィールドのモンスター1体を除外する。」

次元に亀裂が走り、その隙間から出現した腕が
炎帝テスタロスを引きずりこんだ。
ああ先輩ごめんなさい。

「カードを1枚伏せて、ターンエンド!
この瞬間、エンドフェイズに異次元の生還者は
あたしのコントロールを得て場に生還!」

異次元の生還者は除外された場に復活する。
コントロールを奪った状態で除外すると、
そのコントロールを永続的に得ることが出来るのだ。

(※この裁定はゲーム内に準じており、
PSPソフト 遊戯王GXタッグフォース発売当時の
2006年9月時点の裁定となっております。
2006年11月に裁定変更され、現在では
コントロールを奪ったプレイヤーの場に戻らない仕様になっています。)


石原法子 LP 3000 手札3枚
場:「異次元の生還者」

アムナエル LP 3400 手札1枚
場:「原始太陽ヘリオス」
  「マクロコスモス」


なんとか体勢を立て直すことが出来た。
この異次元の生還者は心強い。

「私のターンだ。ドロー。
なるほど、石原法子。
多少は……精霊の力を操る素質はあるようだな。
だが……。」

「な、なによ、それ……。」

「フ……。
手札から通常魔法、カオス・グリード発動!
私のカードが4枚以上除外されており、
墓地にカードが存在しない場合……
カードを2枚ドローする。」

アムナエルの少ない手札が増加した。

「お前に私の研究の一端を見せよう。
原始太陽ヘリオスを生贄に捧げ……
来るがいい!ヘリオス・デュオ・メギストス!!」

原始太陽へリオスの体が膨張し、頭部の発光はさらに輝きを増した。

「ヘリオス・デュオ・メギストスの攻撃力は
お互いに除外されたモンスターの数×200となる。
現在、除外されたモンスターは5枚。
攻撃力は1000ポイントとなる。」

そろそろ攻撃力の上昇が脅威になってきた。
早くなんとかしないと取り返しのつかないことになる!

「そしてこの瞬間、手札から速攻魔法発動!
地獄の暴走召喚!
モンスターが特殊召喚されたとき、
同名のカードをデッキ、墓地から全て特殊召喚する!
2体のヘリオス・デュオ・メギストスを……
デッキから特殊召喚!」

「3体も……。」

「そして、相手プレイヤーは自分フィールド上のモンスターを
1枚選択し、その同名カードをデッキから全て特殊召喚できる。
お前のデッキに入っていればの話だがな。」

あたしの場には異次元の生還者が一体。
これは元々相手のカードで、あたしのコンセプトには合わないカードだ。
入れているわけが無い。

「いないわ……。」

「ヘリオス・デュオ・メギストスは全て守備表示だ。
ターンエンド!」


石原法子 LP 3000 手札3枚
場:「異次元の生還者」

アムナエル LP 3400 手札1枚
場:「ヘリオス・デュオ・メギストス」×3
  「マクロコスモス」


もうマクロコスモスをとにかくなんとかしないと
ニッチもサッチもいかない。
氷帝メビウスをドローすることに賭ける。

「あたしのターン!ドロー!
むむむ……ま、マシュマロンを守備表示!
異次元の生還者で、ヘリオス・デュオ・メギストスに攻撃だぁ!」

まずは一体破壊に成功!
これからペースを上げていくしかない。

「ターンエンドよ!」


石原法子 LP 3000 手札3枚
場:「異次元の生還者」「マシュマロン」

アムナエル LP 3400 手札1枚
場:「ヘリオス・デュオ・メギストス」×2
  「マクロコスモス」


「私のターン……!ドロー!
強欲な壺を発動!カードを2枚ドローする。」

「くっ、まったくもう!何枚引くつもりなの!」

「授業で言わなかったか?
カードをドローするという行為……
それこそが非金属を金属に変える力なのだ。
そして今、石原法子。
貴様に処罰を与える時が来た……。
異次元の生還者とマシュマロンを生贄に捧げ……」

あたしの場のモンスターが急に姿を消した。
相手の場のモンスターを生贄にして召喚されるモンスター?
まさか……!

「溶岩魔神ラヴァ・ゴーレムを攻撃表示で特殊召喚!」

「うわ!?」

突然、あたしは巨大な灼熱の体を持つ巨人が掲げる
小さな檻の中に閉じ込められた!

ラヴァ・ゴーレムは攻撃力3000を持つモンスターで
相手の場のモンスターを生贄にして召喚する特殊なカードだ。
これをコントロールしているプレイヤーは自分のターンの
スタンバイフェイズに1000のダメージを受ける。

「巨大なる恒星、ベテルギウスの炎……
だがそれだけでは終わらん。
魔法カード、次元の歪みを発動!
除外されているモンスターを1枚、特殊召喚する。
魂虎を攻撃表示で特殊召喚する。」

魂虎は攻撃力はゼロだが、守備力は2100もあるモンスター。
さっき因果切断で捨てたカードのようだ。
しかし、攻撃表示で出すのは、何故?

「ヘリオス・デュオ・メギストス2体を攻撃表示に変更。
バトルを行う!
魂虎で溶岩魔神ラヴァ・ゴーレムに攻撃だ!」

「な、何を……!?
む、迎え撃ってラヴァ・ゴーレム!」

魂虎の攻撃力はゼロ。
ラヴァ・ゴーレムは3000もある。
つまり3000のダメージがアムナエルを襲った。

アムナエル LP 400

「この瞬間……。」

「え……。」

「吹き飛べ!!ヘル・テンペスト!!」

巨大な火の塊がフィールド上に落下し、
アムナエルとあたしのデッキがバラバラに飛ばされる!

「あ……あぁぁ……!?」

「速攻魔法ヘル・テンペストの効果……
それはプレイヤーが3000ポイント以上の
戦闘ダメージを受けたときに発動することが出来る。
お互いのデッキ、墓地のモンスターカードを全て除外する!」

「あぁ……あ……」

氷帝メビウスが、雷帝ザボルグが、
宇宙空間の彼方へと飛ばされていく。
あたしのデッキの中のモンスターカードが全て死滅した。

「うわああああああぁぁぁぁぁぁ――!!」

絶叫。
それが自分の声だと気付くのに数秒を要した。
これから起こりうる恐怖に身がすくむ。

信じているモンスターカードは全て消えた。
何を支えにデュエルを続けていけばいい?
何を信じてドローすればいい?
ヘル・テンペストはあたしの希望をも粉々に打ち砕いた。

「私のデッキのモンスターも全て消滅。
除外されたモンスターカードは今までのカードも合わせ、
全部で……40枚ちょうどか。」

ヘリオス・デュオ・メギストスの攻撃力が
8000ポイントに変化していた。
胴体はさらに膨張し、所々から光が漏れ始め、
頭部の発光体は恐ろしいほどに怪しい脈動を続けていた。
もはや原始太陽ヘリオスの面影は無い。

「これで完成だ!
続いてヘリオス・デュオ・メギストスで
溶岩魔神ラヴァ・ゴーレムを攻撃!
ウルカヌスの炎!」

発光体から放たれた炎はあたしが収容されている檻ごと
溶岩魔神ラヴァ・ゴーレムを粉砕する。
あたしは大きく吹き飛ばされ、岩肌に激突した。

「ごふッ!
う、え、うええぇぇ」

激しい衝撃に吐きそうになる。
そしてこの体の痛み。
まさか……。サイコ・ショッカーのときみたいに!?

「これで除外されたモンスターはさらに一匹増えた。
2体目のヘリオス・デュオ・メギストスの攻撃……」

「ま……待っ……」

「ウルカヌスの炎!」

今度はあたしの体に直接、
8200ポイント分の業火が降り注がれる。
もはや立体映像では説明できない
凄まじい痛みがあたしの体を蝕む。

「あーっ!あが!あづいいいぃぃ!づぅぅぅあああぁぁぁ!
やめっ!やめてぇぇぇーえぇぇー!!」

あたしは……。

あたしは……負けた……。

石原法子 LP 0

「錬金術の前には常識は通用しない。
もっとも、現代科学にかぶれた貴様には理解できまい。」

アムナエルがあたしに歩み寄る。
さっきの攻撃の余韻で、頭が回らない。
もう何も……考えられない……。

……。

「苦しいか?」

……。

「天上院吹雪はこれよりも激しい痛みを感じ続けている。」

……。

「あえてこれ以上の痛みを味わいたいのなら、
最後のチャンスをやろう。」

……吹雪……さん……。

「もうすぐタッグフォース大会が始まる。
もしもお前が決勝まで勝ち続けてこれるのならば……。」

……。

「お前はデュエルの根源に触れることができ、
吹雪と会うことも可能だろう。」

……。

「見せてみるがいい。お前のちっぽけな力を……な……。」

……。

……。

……。

気絶……していたのだろうか?

まだ生きてる?

最悪の気分のまま、目が覚めた。

意識を失う直前のアムナエルの言葉を思い出す。

タッグフォースで……優勝する?

無理だよ……。

あたしは……あたしにはこんなにも弱い。

丸藤先輩にも、天上院明日香にも勝てない。

なんでこんな目に合わなければならないのだろう?

なんで死ぬような思いをしなければならないのだろう?

全身の痛みは今だ取れず、まったく動けない。

それがたまらなく悔しい。

気付くと涙が溢れているのがわかった。

いつかの誓いも忘れ、ただ、ただ泣いた。

闇のデュエルがどうの、
アムナエルの目的がどうの、そんなのはどうでもよかった。

あたしは……。

あたしはただ……。

「好きな人に……会いたいだけなのに……。」
あたしの意識は再び闇の中へ落ちていった。



十一章「サラ」

……。

「ねぇ……お姉ちゃん……。」

……。

「今日も学校行かないの?」

……。

アムナエルとの戦いが終わった後、
気付いたら自室のベットに寝かされていた。

寮の中で目を覚ました周子がドロだらけになりながら
あたしを探し出し、運んできたのだ。

そしてあたしは、学校に行けなくなった。
正しく言えば、行きたくなかった。
あれからもう何日行って無いだろうか。

アムナエルに……
そ知らぬ顔をして今も授業をしているであろう、
大徳寺先生に会うのが恐ろしいのだ。

あたしのPDAに入っていたあのファイル、
手がかり≠ヘ消去されていた。
多分アムナエルがやったのだろう。

「お姉ちゃん、このままじゃ出席日数が……。」

そういえば、吹雪さんが失踪してしばらくも
こうやって不貞寝していた。
もしかすると、勉学の意志無しとみなされ、
学園追放もありえるのかもしれない……。

「変だ……変だよ、お姉ちゃん。
この間までやっと立ち直って、楽しく学園に行ってたじゃん!
どうして!?」

周子はやはり何も知らない。

知らないほうが幸せだ……。

「いいの……。」

「え?」

「もういいの……。」

それだけ言って、あたしは布団を被った。

もう……どうにでもなれ。

……。

すすり泣く声が聞こえる。

まさか……。

泣いているの?周子?

「……馬鹿!」

そう吐き捨てると、周子は走り去って行った。

バカ。

何度も言われてる言葉だ。

子供のころ、周子の靴をどこかに隠して遊んだり、
デュエル中、抜群のタイミングでカウンター罠を挟んだり……。

そんな、なんでも無い出来事でよく言われる。

でも……今の馬鹿≠ヘ……。

完全に侮蔑に満ちた言葉だった。

「ははは……馬鹿、か……。
はは、ふふふ……。
ホント……何やってんだろね、馬鹿だあたし。」

もうやめよう。

いつか、偉そうに温田に説教したあたし。

結局はあたしも変わらなかった。

もう……吹雪さんの……ことは……。

机に上に置いてあった吹雪さんの写真を手に取り、
部屋を出た。

行く当ては無い。

授業に出る気も無い。

全てをあきらめて流されるままに生きよう……。


・・・


寮を出て、すぐに島中央部にある大きな湖が目に入った。

あそこだ。

デッキも、吹雪さんの写真も。
すべてを水にブチまけて島を出よう。

あ……炎帝テスタロスだけは先輩に返しておかないと。

先輩……怒るだろうな……。

温田はあたしを哀れむだろうか?

周子は……。

ゴメンね。周子。

あたしはもうダメ。

怖い。

怖すぎてカードもまともに触れない。

……。

着いた……。

今は授業中のため、生徒は全て学園の中。
ここにはあたししかいない。

静かだ。

風が吹き、葉が擦れてざわつく音がし、
水面が揺れて湖の上に小さな波をつくる。

デッキと写真を一緒に持ち、思いっきり振り上げる。

さよなら……!



「あの。」

「うわぁぁー!?」

急に声がし、驚きのあまり
腕を振り上げた勢いで足を滑らせ、後ろからコケた。

「あ……すみません。驚かせてしまいましたか。」

「……えと……あれ?
あなた……ど、どちらさまで?」

あたしの目の前に現れた人は、不思議な女性だった。
肌は黒く、民族衣装のようなものを纏っている。

年齢は私と同じくらい?
いや、ちょっと上だろうか?

通常、デュエルアカデミアのいる生徒は
基本的には制服を身に着けているはず。
彼女の服装はどこからどうみても、学園のものではない。

「私はサラというものですが……
こちらはデュエルアカデミアで間違いありませんか?」

そうか、定期船に乗って来た人なのかもしれない。
でも……船が来るのはもうちょっと後の時間のはずだが……。

「そ、そうだけど……。」

話してみると、どうやらアカデミアの森の中に住んでたらしく
森を出たところであたしを目撃し、
とりあえず話しかけてみたそうだ。

「でもサラさん、森に住んでたって……
人が住めるような場所、あったっけ?」

そう言うと、彼女はちょっと困った顔をした。

「その……私の住んでいる村は
普通の人には入れない場所にありまして……。」

「ふーん?」

立ち入り禁止区域でもあって、その辺にでも住んでるのだろうか?

この島には謎が多い。

なんだか興味が湧いてきた。
彼女の目の前でデッキと写真を捨てるのはとても気が引けるので
とりあえず隠し、今はサラさんと話をすることにする。
なんだか話してると楽しい。
すぐに打ち解けた。

「サラはどうして村から出てきたの?」

もういきなりタメ口だ。

「それは……実は……
このデュエルアカデミアに会いたい人がいまして……。」

でも彼女はまだ敬語。
義理堅い性格なのだろう。

会いたい人かぁ。
もしかして……。

「へぇ……その人……サラの好きな人だったり……?」

「え!?ええと、その……はぁ……。」

顔が真っ赤だ。ビンゴ。
それで村を出てきたのか。

どうせなら最後に一つ良いことをして島を去ろう。
サラの想い人に会わせてやるのだ。

「名前、わかるかな?
あたしが知ってる人だったら会わせてあげるよ。」

「あの……その……
天上院……吹雪……と言うお方なのですが。」

はい?

「天上院、吹雪、です。
以前私の村に迷い込んで……。」

……。

なんて言ったらいいのだろう。

サラが好きな人は、天上院吹雪。

胸の奥が、えぐられるような感触を覚える。

「サラ……あのね。」

「え?」



ひとまずサラに一部始終を話した。

吹雪さんは今、行方不明ということ。
タッグフォース大会で優勝すれば会えるかもしれないということ。

しかし、あたしが吹雪さんのことを
どう思っていたかは、話さなかった。

「まぁ……そうなのですか。
デュエルモンスターズの大会で……。」

「うん。タッグパートナーを見つけないといけないんだけど……。
その前にサラは、カード持ってる?」

「い、いえ。ルールもよく知らなくて……。」

「そっか、じゃあ、あたしが教えて上げよっか。
サラのデッキも作って上げるよ。」

何から何まであたしはお節介だなぁとつくづく思う。

とりあえず、簡単にルールを説明しながら
購買部に行ってサラに合いそうなカードを
探してみることにする。

「おや、ノリちゃん。今授業中じゃなかったかい?」

「あ、あはは……ちょっと抜け出しちゃいました。」

購買部のトメさんだ。
この人は優しくて、大胆で、みんなから好かれている。

「え〜と、じゃあサラ。
なんか欲しいパックとかある?」

「あの、法子さん。ここはカードを売ってる場所ですよね。」

「そだよ。」

「私、その、言いにくかったのですが……
お金を持って無いんです……。」

んぐぉがふ。

む、無一文とは驚いた……。
まさに身一つで出てきたらしい。

ここはあたしが変わりに買ってあげるか。

「あの〜トメさん。」

「はい、これ。」

「え?」

トメさんは棚から10パックを取り出し、あたしに渡した。

「聞こえたよ。お金持って無いんでしょ?」

「あ!いえいえ!払います!払いますから!」

「いいっていいって。
新しいパックなんだけど……二人で分けてね。
みんなには内緒だよ?」

「トメさん……。」

「ノリちゃんはいっつもたくさんパン買ってくれるからねぇ。
今回だけは特別に、ね。」

サラが深々と頭を下げた。
あたしも慌てて礼を言う。

「す、すみません!すみません!」

「いいよいいよ。それじゃ、頑張ってね、ノリちゃん!」

頑張ってね。

あたしは……

まだ頑張っていいのだろうか。


・・・


あたしはサラに10パック全てを渡したが、
サラは2パックだけ返してきた。

「一パック、5枚入りでしたよね。」

「うん。」

「デッキは40枚あれば構築できることは知っています。
8パック、40枚あれば大丈夫です。
ですからこれは法子さんのものです。」

「え。でもあたしは……。」

「いいんです。吹雪さんのこと、教えてもらいましたから。」

「んと……じゃあ……もらう。」

サラの目は凄く活き活きしていた。
これから彼女は目標に向けて頑張るだろう。
タッグフォース大会の優勝という目標に向けて。

「法子さん。何から何まで本当にありがとうございます。」

「い、いいって!ほ、ほら。
あたしらさ……もう友達じゃん?」

「友達……ですか。」

「そうだよ、友達以外の何なのよ。」

「友達……。」

そうつぶやいたサラの顔はなんだか凄く嬉しそうだ。

「ど、どしたの?」

「あ、ああ、いえ、
私の村ではそういった風習が無いもので……
長に禁じられているのです。
時間は自らの鍛錬に費やし、個人的な交流を禁ずる、と。」

「うっげー。何それ!
そんなん速攻で逃げるな、あたしは。
大体何よ鍛錬って。
時間は自らの楽しみに費やすもんでしょ。」

「ふ、ふふふ。法子さんは面白いですね。
初めて会ったときも転んでましたし。」

思い出してちょっと恥ずかしくなった。
あれは急に話しかけてきたサラが悪い。

「法子さんは、好きな人はいないのですか?」

一番恐れていた質問が飛び出てきた。

「あ、あたしは……別に……いな……ぃかなぁ……
……!!」

サラが吹雪さんの写真をあたしに向けて突き出してきた。
それはあたしが湖に捨てようとした写真だった。

「さっき……法子さんのポケットから落ちました……。」

しまった……。

「法子さんも、吹雪さんのことが好きなんですね?」

……。

「……あ……う……。」

……。

言葉が出ない。

「負けませんから。」

え?

「法子さんには、負けません。
勝負です!」

しょ、勝負?

「私、デュエルモンスターズの勉強をして……
強くなります。
そして吹雪さんに会いたい。
だから、大会で戦いましょう。」

「サラ……。」

あたしの中でくすぶっていた何かが、
メラメラと音を立てて燃え上がった。

「わかったわ。
手加減しないからね。」

その日は陽が暮れるまで、あたしはサラにデュエルを教えていた。
さらにあたしが持っている、使わないであろうカードも
サラに上げてデッキを強化させる。

トメさんから貰ったパックの中身は
墓守≠中心とした魔法使い族が多く入っていた。

サラはどうやらこの墓守≠ニ名のついたカードが
とても気に入った様子で、優先してデッキに入れたがっている。
どうやら知っていたシリーズらしい。


「上級モンスターとの兼ね合いが……。」

「それならやっぱり墓守の偵察者は3枚かな。」

「なるほど……。」

「あたしのデッキにも合うなー、偵察者。」

「フィールド魔法で攻守を……。」

「墓守の番兵も大目に入れておくと攻撃が通りやすくなって……。」

「では攻撃役の長槍兵も……。」


そんなわけで彼女のデッキは墓守デッキ≠ニなっていった。

「そろそろ村に帰らなければいけません。
法子さん、本当に、今日は……。」

「はは、いいって言ったでしょ。気をつけて帰ってね。
あ!これ!」

デュエルアカデミアの教科書の一つをサラに渡す。
これはデュエルの基本的なことが書いてある。
初心者でもわかりやすいルールブックだ。
自慢じゃないがオベリスクブルーのあたしはほとんど使わない。

「ありがとございます。」

「次はいつ……来れるの?」

「私の村は掟が厳しいので……
いつ来れるかわからないのですが、
大会当日には必ず来れるようにします。
それに、タッグパートナーも必要でしたよね。」

そうだ、サラのパートナーはどうする!?
一人じゃあの大会は出場できない。多分。

「私のほうでなんとか探して見せます。」

「な、何かあてはあるの?」

「はい。また、お会いしましょう。
絶対に……吹雪さんに……会いましょうね。」

「うん!
パートナー、ちゃんと見つけて来なよ!」

サラは森の中へ足を踏み入れて行った。
追いかけて、村がどこにあるのか確かめたかったのだが、
サラにやめたほうがいいと言われていたので、
素直に追うのをやめた。

「さーて、恋のライバルも出来たし……。」

デッキと、吹雪さんの写真を見つめる。

「あたしも頑張るわよー!!」

もう恐怖心は吹き飛んでいた。
今なら……どんな人でも相手に出来そうな気がする。

まず周子に謝ろう。

そして……。

迫るタッグフォース大会へ向けて、さらなる向上を目指す。

それが吹雪さんに会える、一番の近道ならば。


・・・


「周子……えっと、その……
ごめんね、今日は。い、いや、今日まで。」

周子は無言で机に向かっている。
き、気まずい。

「あ、明日からさ、ちゃんと、学校に行……。」

「あのね、お姉ちゃん。」

急に振り返り、神妙な顔つきであたしを見つめてきた。

「ど、どしたの?」

「お姉ちゃん、私……知ってるの。
あの日、お姉ちゃんが火山で倒れていた日。
何があったのか。」

「え……。」

「知ってるの!
私がお姉ちゃんと戦ったことも!
お姉ちゃんが大徳寺先生に負けたことも!
全部、全部……。」

周子が取り乱し始めた。
いったいどうしたと言うのだろう。
それに、知っているって……。

「周子。落ち着け。
説明して、くれるわよね?」

「う、うん……。
あの日、私、大徳寺先生に呼ばれたんだけど……」


周子は大徳寺……いや、アムナエルに
アムナエルにおかしなモンスターを取り憑かされて、
あたしと戦うように操作されていた。
その記憶はすっぽりと抜け落ちていた。

少なくとも今までは。

しかし何かの拍子でその記憶が返ったらしく、
さらに あたしとアムナエルのデュエルまでも知っているという。
あのとき、周子はあの場にいなかったはずだ。

「どうしてそのデュエルのこと知ってるか、自分でわかる?」

「わからない……わからないよ!
でもね、私……。
うう、うぅ〜〜〜……わぁぁぁ!!」

「おい、泣くな!
ほら……あまえんぼ……。」

泣きわめく周子を抱きすくめ、頭を撫でる。
まったく、何才児よ……。

「お姉ちゃんがね、お姉ちゃんが死ぬかと思ったの。
大徳寺先生のモンスターに攻撃された瞬間がね、
私の頭の中でぐるぐる回ってるの。」

「うんうん。」

肌がチリチリするような感覚が蘇る。
あの痛みは……思い出したく無い。

周子が何故あのデュエルを鮮明に知っているかはわからないが、
恐らくはアムナエルが何かやったのだろう。
そんなにあたしらをイジメて楽しいか。

「それなのに、私、お姉ちゃんに今朝ヒドイこと……。
でもお姉ちゃん生きてて良か……わぁぁぁん!!」

「おいおい、どういう涙なのよ、それは!
悲しいの?嬉しいの?」

「……わかんない。」

「まったく……。
今朝のこと気にしなくていいって。
あれは……ははは、あたしもヒドかったわ。」

「いつものお姉ちゃんに戻ってよかった……。」

「うん、自分でも、そー思う。
周子、明日からタッグの練習するわよ。
遅れた分、取り戻さないと……。
あぁ、後でノート移させてね。」

アムナエルの最後のチャンスという言葉を思い出す。
その意味をよく考えてみる。

今あたしが生きているということは、
アムナエルはまだあたしを殺す気は無い。

とすれば、タッグフォースの大会中に?

おそらくアムナエルは大徳寺として参加するであろう。
対峙した際は全力で周子を遠ざける。
この子だけは、巻き込みたくは無い。

そしてあたしは一人ででもアムナエルと戦おう。


・・・


「さ〜て、授業を始めるニャ〜。」

のんきな顔してアムナエルこと大徳寺先生が教室に入ってきた。

「おや……?」

あたしが教室にいることに気付き、鋭い視線を送ってきた。
あたしはそれを睨み返す。

「……フフ。」

意味ありげに微笑むと、教壇に立つなりこう言い放った。

「やぁ〜法子くん。
ひどい便秘で休んでいると聞いたけど、
もう大丈夫なのかニャ〜?」

……!!

ひでぇ!

乙女に向かってこ、こ、こいつは〜〜……!

「そんなんじゃありません!」

「冗談だニャ。
しかし法子くん、そんなに休まれると
教師としては少々ショックが大きいんだニャ。」

「すみませんでした。
でもあたしはもう、休みません。」

強い口調で返し、
あたしは吹雪さんをあきらめる気が無い意志を伝える。

「それは嬉しい。
遅れを取り戻すのは大変だけど、
今から他の人より勉強出来るかニャ?」

「やってみせます。」

「……ふむ。」

大徳寺先生は満足げに微笑んだ。
出来るものならやってみろ、といった感じだろうか?

「では、授業を始めるニャ〜。」


そしてあたしは授業の難しさゆえに安らかな眠りについた。

来るべき戦いに向けての休息だ。

手探りで吹雪さんの行方を探す旅は、
一応の、とりあえずの決着をむかえた。

丸藤先輩にはどう話そうか?

今日授業が終わったら彼を訪ねてみよう。

やることはハッキリしている。

デュエルの練習して……

デッキの強化をして……

そして……

タッグフォースで優勝する。

サラとも約束した。

会えるよね、きっと。
吹雪さんに。



十二章「丸藤亮&天上院吹雪」

放課後、デュエル場でデッキ調整をしていた丸藤先輩を見つけた。

「それで……何かわかったのか?」

あたしは丸藤先輩に本当のこと、
全てを話すのでは無く、
必要最低限のことだけを伝えた。

全て話してしまえば、
丸藤先輩はきっとアムナエルこと大徳寺先生に
デュエルを挑むだろう。

あのとき、アムナエルは
丸藤先輩も闇の世界へいずれは引き込むと言っていた。
つまり、吹雪さんと同じように行方不明になる可能性がある。

もしも、丸藤先輩までアムナエルに負けてしまったら……。

丸藤先輩が元気に学園に来てるということは、
今はまだその期では無い、ということか。

あたしはタッグフォースで優勝すれば、
吹雪さんと会えるかもしれない、ということだけ伝えた。

「タッグフォースで優勝?それだけか?」

「え?」

「それだけで吹雪に会えるようになるのか?」

「えと……多分ですけど……。」

「そうか……。」

そう言った後、丸藤先輩は何か考え事をしている素振りを見せた。

「何か隠していないか?」

「うえ!?」

「他に何か掴めたんじゃないのか?」

「そ、それは……」

いけない、質問攻めされたら言ってしまいそうだ。
ここは話題を逸らさねば。
え〜と。
え〜っと……。

「ゴメンなさい。本当にそれ以上わからないです。」

「そうか……。」

「あの……吹雪さんと丸藤先輩は、
いつから知り合いなんですか?」

友人というくらいだから、
デュエルアカデミア以前から付き合いがあるのかも。
とっさに閃いた話題だが、少し気になる。

「俺と吹雪……さぁ、いつからだったかな。」

「気がついたら友達になってたって感じですかね?」

「まぁ、そんなとこだ。」

対照的な二人がどうやって友人になったかは不明だが、
大体の予想はついた。

「吹雪さんと丸藤先輩のデュエルは……
いつ見ても凄かったです。
なんか、お二人とも楽しそうにデュエルしてましたよね。」

丸藤先輩は機械族モンスターを中心とした理知的なデュエルで、
吹雪さんは獣戦士族を中心とした躍動感あるデュエルが中心だ。

この二人のデュエルはとても迫力があり、
同時にハイレベルな攻防は見るものを魅了させていった。

「……。」

あ、あれ。
丸藤先輩は苦い顔をして遠くを見つめている。
あたしなんかマズイこと言ったかな……。

「……一度だけ……」

「え?」

「一度だけ、学園の外での話だ。
俺と吹雪は血にまみれた戦いをしたことがある。」

「そ、それは……。」

一体どんなデュエルを?

「ある時、吹雪があるレアカードを入手した。
真紅眼の黒竜……聞いたことはあるか?」

「あの幻のレアカード、ですか。」

マニア価格でとんでも無い値段がかけられている、
ドラゴン族の上級モンスターだ。
そのレア度ゆえ、使っているデュエリストも少なく、
昔行われたデュエルモンスターズの大会である
デュエリストキングダムの入賞者、
そしてバトルシティの優勝者、武藤遊戯が
使用していたことが僅かに確認できるだけである。

それを持ってるなんて吹雪さん、さすがだ。

「それからの吹雪は何かに取り憑かれたかのように、
禁じ手を続けていた。」

「禁じ手?」

「1ターンKILLだ。」

「う……う……そ……!?」

1ターンKILL。
すなわち、対戦相手に何もさせずに勝利する手段である。
ルール上は認められているが、
基本的にデュエルアカデミアでは禁止されている……はずである。
それを吹雪さんが?

「それを止めるために、
俺もまた、禁じ手で吹雪を倒すことにした。」

ここから丸藤先輩が語ったデュエルは、
血塗られたデュエルだった。


・・・


「吹雪……貴様、どうして……。」

「亮……すまない……僕は……。」

「吹雪。今すぐにお前を止める。
俺のカードで!」

「よせ、亮!僕と戦うな!僕は……。」

「行くぞ!」


デュエル!!


丸藤亮 LP 4000

天上院吹雪 LP 4000


「先行は俺だ!ドロー!
天使の施しを発動!カードを3枚引き、2枚捨てる!
永続魔法ぉ!タイムカプセルを発動ぉ!
デッキからカードを1枚選択し……ゲームから除外するぅ!
このカードは2ターン目のスタンバイフェイズに、
自分の手札に加わる!
サイバー・エスパーを守備表示!
カードを1枚伏せる!
ターンエンドだ!」


丸藤亮 LP 4000 手札2枚
場:「サイバー・エスパー」
  「タイムカプセル」
  伏せカード1枚

天上院吹雪 LP 4000 手札5枚
場:無し


「亮……。
……僕のターン……!ドロー!」

「サイバー・エスパーの効果により、
吹雪、ドローしたカードを確認させてもらう。」

「ドローしたカードは黒炎弾だ。
黒竜の雛を召喚!
このカードは生贄に捧げることで……
真紅眼の黒竜を手札から特殊召喚できる!」

「来るか?」

「真紅眼の黒竜を特殊召喚!
さらに手札から魔法カード、黒炎弾を発動する!
真紅眼の黒竜の攻撃力分のダメージ、
つまり2400ポイントのダメージが直撃する!」

「カウンター罠、フュージョン・ガード発動!
融合デッキからカードを1枚ランダムに選択し、
墓地に送ることで効果ダメージを無効にする!
融合デッキのサイバー・ツイン・ドラゴンが墓地へ!」

「亮……亮……。
……もう一枚、黒炎弾を発動!」

「なんだと!?
ぐ……!」

丸藤亮 LP 1600

「フュージョン・ガードが無ければやられていた……。
吹雪……これがお前の……1ターンKILLか……。」

「真紅眼の黒竜は黒炎弾を放ったターンは攻撃出来ない。
亮……本気で来るんだ。
でなければ、僕は君を……。」


丸藤亮 LP 1600 手札2枚
場:「サイバー・エスパー」
  「タイムカプセル」

天上院吹雪 LP 4000 手札3枚
場:「真紅眼の黒竜」


「俺のターンだ!ドロー!
ならば……こうだ!
未来融合フューチャーフュージョンを発動!
デッキの中でモンスターを融合させ、2ターン目の
スタンバイフェイズにその融合モンスターを
特殊召喚する!
俺が選ぶのはサイバー・ドラゴン3枚!
すなわち、サイバー・エンド・ドラゴンを
2ターン後の未来に融合召喚する!」

「だがそれでは、遅いぞ、亮!」

「く……!
カードを1枚伏せてターンエンド!」


丸藤亮 LP 1600 手札2枚
場:「サイバー・エスパー」
  「タイムカプセル」
  「未来融合フューチャーフュージョン」
  伏せカード1枚

天上院吹雪 LP 4000 手札3枚
場:「真紅眼の黒竜」
 

「僕のターン!
ドローしたカードは魔法石の採掘だ。
発動!手札を2枚捨て、墓地の黒炎弾を手札に加える!」

「なに!」

「そして……黒炎弾!終わりだ!」

「ちぃ……!
ダメージ・ポラリライザーを発動!
効果によるダメージを無効にし、
お互いのプレイヤーはカードを1枚ドローする!
吹雪、ドローしたカードを見せろ!」

「僕がドローしたのは……2枚目の魔法石の採掘!」

「……!」

「僕の手札は今、魔法石の採掘を入れて2枚……。
次のターンのドローで合計3枚になり、
魔法石の採掘を発動し、黒炎弾を手札に加える……。
亮……。」

「まだだ!」


丸藤亮 LP 1600 手札3枚
場:「サイバー・エスパー」
  「タイムカプセル」
  「未来融合フューチャーフュージョン」
  伏せカード1枚

天上院吹雪 LP 4000 手札2枚
場:「真紅眼の黒竜」


「俺のターン!ドロー!
この瞬間、タイムカプセルに封印されていた
カードを手札に加える!
吹雪、このおぞましいデュエル、終わりにするぞ!
回収したカードはオーバー・ロード・フュージョン!」

「何だって!?
亮、それは……!」

「そう、お前の戦術と同じく、禁じ手の一つ……。
だが、今この瞬間だけは!
吹雪!地獄にいる貴様を引きずり出すために!
プロト・サイバードラゴン召喚!
そして……
オーバー・ロード・フュージョンを発動ォ!
フィールドと墓地に存在する、
機械族モンスター8体全て……
サイバージラフ、サイバーフェニックス、
サイバー・エスパー、サイバーツインドラゴン、
プロト・サイバー・ドラゴン、
サイバードラゴン3枚を、融合させる!」

「亮……。」

「キメラテック・オーバー・ドラゴンを召喚!
攻撃力は融合素材に使用したモンスター×800!
よって6400!」

「う……!」

「エヴォリューション・レザルト・バースト8連打ぁぁ!!」

「ううぅぅ、ぐあああぁぁぁ!!」

天上院吹雪 LP 0


・・・

「そ、それから……どうなったんですか?」

「真紅眼の黒竜は吹雪が自分自身で封印した。
それからは普段の奴に戻った。
そして俺もキメラテック・オーバー・ドラゴンを
二度と使わないと誓った。
あれは俺の流派の外法と言われるモンスター……
一度使えばその破壊力に酔いしれ、
二度と普通のデュエルには戻ることが出来ない……。
それどころか、さらなる破壊を求める。」

「どうして、吹雪さんはそんなことを?」

吹雪さんが片っ端から漆黒の炎で
辺りかまわず燃やし尽くす……。
身の毛もよだつ光景である。

「わからん。真紅眼の黒竜の瞳に魅せられたのかもしれん。
そして、俺も……。」

丸藤先輩はカードケースから1枚のカードを取り出した。
それはキメラテック・オーバー・ドラゴンのカード。

「ま、丸藤先輩は、丸藤先輩は、ほら、
ちゃんと普段どおりのデュエルをしてるじゃないですか!」

そう言ったところで、
以前の丸藤先輩の話を思い出した。


俺は相手をリスペクトさえ出来れば、
勝ち負けは関係無いと思っている。
だが最近では、
本当にそれだけでいいのだろうかと思い始めてきた。


「あ……。」

「今は……な。
だがいずれは……壁にぶつかるときが来るかもしれん。
そのときは……。」

丸藤先輩が立ち上がり、背を向けた。

「吹雪は今、あのときと同じような闇に魅せられているのかもな……。」

そう言い残し、丸藤先輩は去っていった。

「丸藤先輩……。」

もしも、あたしの前に……
そんな吹雪さんが現れたら?

あたしは平静を保っていられるだろうか?

間もなくタッグフォースが開催される。

そこで全てがあきらかになる。
吹雪さんの行方も、あたしの命運も。



十三章「石原法子&石原周子」

セミが騒がしく鳴く夏の始まり。
それと同時にタッグフォース大会がいよいよ開催された。
島外からの飛び入り参加OK、
TV中継(提供:万丈目グループ)もされるとても大きな大会だ。


タッグフォースのルールはやや特殊で、
開会式に配られた10枚のGXメダル≠
複数枚賭けて、参加者とデュエルをする。

勝利すれば賭けた枚数のGXメダルが手に入り、
敗北した人はその分メダルを失うわけだ。
全てのメダルを消失すれば、当然失格。

このGXメダルを90枚集めた人は
島西部に建築された万丈目タワーなる巨大な塔へ赴き、
決勝戦への進出が可能となる。

何組が決勝戦に進出できるというのは
伝えられておらず、決勝に行けるグループが
全て決まったところで、メダル争奪戦は終了となる。

出来るだけ早く、
多くのメダルを集めたほうが良いだろう。

たくさんのメダルを賭ければその分、早く集まるが
敗北してしまった場合を考えると、リスクも高い。

微妙な駆け引きが要求されるわけだ。

デュエルの場所はこの島全体で行われる。
教員の指示で各生徒、様々な場所に分散した後、
開始の合図で大会スタートとなる。
それからはどこに行っても、どこでデュエルしても良い。

あたしと周子のチームはアカデミア校内の
購買部に配置された。

「ツイてるわね。」

「どうして?」

「購買部ということは、
ドローパンを買って食べつつはぐぐはぐ。」

「大会終わってから食べなよ……。」

「見なさい。デスティニーパンよ。
これが今日のあたし達の命運。」

「え……デスティ……何?
美味しいの、それ?」

「えっと……不思議な味?
うにょうにょ……みたいな?
食べる?」

「いや……いい……。」


そんなこんなでいよいよ開始の合図が出された。

吉澤先輩はギリギリで退院でき、大会に参加することが出来た。
やはり木葉先生と組んでるようだ。

サラは参加できただろうか?パートナーは?

様々な期待と不安が入り混じる。

負けるわけにはいかない!

まず目に止まったのが、同じ購買部内に配置された
レッド寮の生徒二人組だった。
レッドということで、一瞬、赤帽子くんかと思ったが
全然違った。

「いよ!さっそくメダル賭けてデュエルしましょ!」

「え、でも俺たち、ブルーの人とじゃ、
相手にならないスよ。」

レッド寮生徒ということで、若干の実力差がある。
そういう場合は一応、断れる権利があった。

「もちろんメダル全部とは言わないわ。
9枚賭けでどう!?」

「ちょっ!お姉ちゃん!」

「あ、いや……その……やめとくッス……。」

二人のレッド生徒はそそくさと購買部を出て行った。

「あれ、おかしいな。幸先悪い、かな?」

「いきなりそんな賭けるなんて何考えてるの!
9枚なんてほとんど全部じゃん!」

「いや、ほらさ……
負けるようだったら、ずっと吹雪さんには届かないと思ったの。」

「あ……。」

「まぁ、レッド寮の人と戦うのはやめとこうか。
だから同じブルー生徒とデュエルしていこうと思う。」

レッド寮やイエロー寮の生徒たちを弱いと思っているわけでは無いが
やはり所持しているカードによる差は出てしまうだろう。
だからブルー生徒と戦い、真正面から勝利していく。
それで負けるようでは、優勝など最初から無理なのだ。

「うん、わかった。」

「でも次はメダル10枚賭けで行くからね。」

「それはやめてよ。」


・・・


アカデミアの正門前に出ると、そこは戦場と化していた。
とりわけ目立つのは……
名物熱血教師、沢中先生と
対照的にクールな先生、灘(なだ)先生のペアが勝利を重ねていた。
もうメダルは20個ほど集まった様子だ。

沢中先生は微妙にイメージと違う天使デッキ、
灘先生はやはり対照的な悪魔デッキを操ることで有名だ。

「うわ〜さすが先生。
先生たちも大会中は手加減無しみたいだね、お姉ちゃん。」

「よし、先生たちと戦おう。」

「はぁ!?」

「さっき言ったでしょ!
こんなとこで立ち止まってたら吹雪さんには届かないのよ。」

アカデミアの教師ということは……
多分、大徳寺……アムナエルと同等の実力がある……と思う。
まずはそれを乗り越えなければならない。

「先生、あたしたちと勝負しましょう!」

反応したのはもちろん沢中先生。

「おぉー!?石原姉妹じゃないかー!!
わかった!先生とー!勝負だぁー!」

この人はいつもこんな調子だ……。

「それでメダルの賭け数なんですけど、10枚でどうですか。」

周子はもう完全に無言だ。
観念したらしい。

いつもは口数の少ない灘先生もこれには口を挟んだ。

「石原……君達はまだメダル10個だろ?
俺たちのデッキは普段教室で見せてるようなデッキじゃない。
大会用に組んだ実戦式のデッキなんだ。
それでもいいのか?」

「かまいません。」

「い、石原ー!!
先生はー!お前の度胸に感動したぞぉぉ!!」

「え、あ、ど、どうも……。」

「メダル10個!!勝ったほうが持っていく!
行くぞー!」

「では行くぞ、石原。」

沢中先生と灘先生がディスクを構える。

「周子!行くよ!援護お願い!」

「う、うん。わかった!」


デュエル!!


法子&周子 LP 4000

沢中&灘 LP 4000


先行はこのあたしからだ。

「あたしのターン!ドロー!
ニュートを攻撃表示で召喚!
カードを1枚伏せて……ターンエンドよ!」


法子&周子 LP 4000 手札4枚&5枚
場:「ニュート」
  伏せカード1枚

沢中&灘 LP 4000 手札5枚&5枚
場:無し


次は沢中先生のターンだ。

「先生のターンだぞ!ドロー!
豊穣のアルテミスを召喚するぞ!
攻撃力は1600だ!」

あのカードはカウンター罠が発動されると、
デッキからカードを1枚ドローする便利な天使族だ。

しかし、ニュートの攻撃力には届かないが……。

「手札から魔法発動!地砕き!
相手フィールド上の守備力が1番高いモンスターを破壊だぁ!」

あたしのフィールドにはニュートしかいない。
当然、ニュートが破壊される。

「バトル!!
豊穣のアルテミスで、ダイレクトアタックだぞ!」

「リバースカードオープン!
リビングデッドの呼び声!
墓地からニュートを復活!」

「えーい!惜しい!攻撃中断!
カードを1枚伏せてターンエンドだ!」


法子&周子 LP 4000 手札4枚&5枚
場:「ニュート」
  「リビングデッドの呼び声」

沢中&灘 LP 4000 手札4枚&5枚
場:「豊穣のアルテミス」
  伏せカード1枚


周子のターンだ。

「私のターン!ドロー!」

周子が私に視線を向ける。
周子の狙いは一つ。

「周子!行け!」

「うん!ニュートを生贄に捧げ……
ホルスの黒炎竜LV6を召喚!」

やった!上手くいけば、
もうホルスの黒炎竜LV8を召喚できる!

「豊穣のアルテミスに攻撃です!」

「そうはさせないぞー!
カウンター罠、攻撃の無力化を発動!
バトルフェイズを終了させる!」

カウンター罠が発動された。
ということは……。

「豊穣のアルテミスの効果、発動だぞ!
カードを1枚ドロー!」

「……でもホルスは進化させます!
メインフェイズ2に移行し、
レベルアップ!を発動!」

おお。やるな周子。

「デッキからホルスの黒炎竜LV8を特殊召喚!
ターンエンドです!」


法子&周子 LP 4000 手札4枚&4枚
場:「ホルスの黒炎竜LV8」

沢中&灘 LP 4000 手札5枚&5枚
場:「豊穣のアルテミス」


灘先生のターンだ。

「俺のターンだな……ドロー。
死霊騎士デスカリバーナイトを召喚する。」

「えぇ!?」

死霊騎士デスカリバーナイトは、
モンスター効果が発動されたとき、
自らを生贄にしてそれを無効にする効果を持っている。

つまりホルスの黒炎竜にとっては、天敵中の天敵だ。

「さらに俺も地砕きを発動する。」

なっ……!

「さて、ホルスの黒炎竜の効果を発動するかね?」

「う……。」

ここでホルスの黒炎竜の効果を発動すれば、
デスカリバーナイトの効果で破壊され……
発動しなければ地砕きの効果でそのまま破壊される。
そうすればデスカリバーナイトは残ったままだ。
となれと、選択肢は一つしか無かった。

「は、発動します……。」

直後、デスカリバーナイトがフィールドから消滅し、
ホルスの黒炎竜も共に消滅した。

「では天使の施しを発動させてもらおうか。
カードを3枚ドローし、2枚捨てる。
墓地に存在する死霊騎士デスカリバーナイト、
今捨てたゴブリンエリート部隊、
そして冥界の魔王ハ・デスを除外し……。」

え……まさか、これは……。

「ダーク・ネクロフィアを特殊召喚!
攻撃力は2200だ。
ダーク・ネクロフィアと豊穣のアルテミスで、
プレイヤーにダイレクトアタック!」

「あ……きゃあぁぁ!」

法子&周子 LP 200

「ち、周子!大丈夫!?」

「うん、なんとか……。」

いきなりの大型モンスターの出現に、
かなりの痛手を受けたあたしたち。
だけどまだライフはある……。

「どうだー!!石原ー!!
これが先生たちの力だぁー!」

ここまでで、沢中先生はあまり役に立って無いような……。

「カードを1枚伏せ、ターンエンドだ。」


法子&周子 LP 200 手札4枚&4枚
場:無し

沢中&灘 LP 4000 手札5枚&2枚
場:「豊穣のアルテミス」「ダーク・ネクロフィア」
  伏せカード1枚


一周して、あたしのターン。
もうライフが無い。
慎重に、慎重に行かなければ。

ああ、なんでメダル10枚なんて賭けたんだあたしは。

「あ、あたしのターン!ドロー!
よし……魔法カード、強奪を発動!
ダーク・ネクロフィアのコントロールを奪います!」

「む……?」

「このダーク・ネクロフィアを生贄に捧げ……
地帝グランマーグを召喚!
効果発動!伏せカードを1枚破壊します!」

「お姉ちゃん凄い!」

「なーに、ざっとこんなもん!」

破壊できたカードは炸裂装甲。
危ないところだった。

「豊穣のアルテミスに攻撃!
バスターロック!」

「ぬ……!むぅ……。」

沢中&灘 LP 3200

「カードを1枚セット。
ターンエンドよ!」


法子&周子 LP 200 手札2枚&4枚
場:「地帝グランマーグ」
  伏せカード1枚

沢中&灘 LP 3200 手札5枚&2枚
場:無し


沢中先生のターン。

「石原ー!今のターンの攻防はー!
素晴らしかった!ブラボーだ!」

「ど、どうも……。」

「先生のターンだ!ドロー!
マシュマロン!守備表示!
カードを1枚伏せ、ターンエンドだ!」

う、マシュマロン。
戦闘で破壊されないモンスター……
敵に回すと厄介だ。


法子&周子 LP 200 手札2枚&4枚
場:「地帝グランマーグ」
  伏せカード1枚

沢中&灘 LP 3200 手札3枚&2枚
場:「マシュマロン」
  伏せカード1枚


周子のターンだ。

「行きます!私のターン、ドロー!
よし……強欲な壺を発動します!」

ホルスの黒炎竜を失った周子だが、
これで流れに乗れるはずだ。

「ちょっと待ったー!
リバースカードを使うぞ!」

「え?」

しまった!
カウンター罠!?

「マジック・ジャマーを発動!
手札を1枚捨て、魔法の発動を無効にする!」

当然、強欲な壺は無力化!

「そしてカウンター罠の発動に成功した先生は、
このカードを特殊召喚するぞ!
マシュマロンを生贄に捧げ……
裁きを下す者ボルテニス!!」

強烈な天使族モンスターが出現した!
これは攻撃力2800を誇る、沢中先生の切り札カードだ!

「生贄に捧げたモンスターの数分、
相手フィールド上のカードを破壊する!
地帝グランマーグを破壊するぞ!」

裁きを下す者ボルテニスが放った光線が、
地帝グランマーグを貫き、粉砕した。

「ああ!お姉ちゃん、ゴメン……。」

「気にしないで!それより、
その手札でどうにかならない!?」

「う、うん……仮面竜を守備表示で召喚……
カードを1枚伏せて……
ターンエンドです!」


法子&周子 LP 200 手札2枚&2枚
場:「仮面竜」
  伏せカード2枚

沢中&灘 LP 3200 手札1枚&2枚
場:「裁きを下す者ボルテニス」
  

灘先生のターン!

「俺のターンか。ドロー。
死霊騎士デスカリバーナイトを再び召喚する!」

や、やばい!
仮面竜の効果がこれで無効になる。
でもあたしがさっき伏せたカードの効果なら、
このターンはなんとか凌げるはず。

「デスカリバーナイトで仮面竜に攻撃だ!」

「あ、ちょ、ちょっと待って下さい!」

攻撃宣言時にストップをかけた周子。
デスカリバーナイトが剣を振り上げたまま攻撃を中断した。

「なんだ?何か発動するのか?」

「え〜と……こうなって……
こう……それで……え〜と……。」

「どうした?」

なにやら考え込んでいる周子……。
モンスターの攻撃が中断されている様子は
何かカッコ悪いので早くして欲しいぞ!

「えと、OKです。デスカリバーナイトの攻撃はOKです。」

あ、あれ!?
通しちゃうの!?

「よし、叩き斬れ、デスカリバーナイト。」

デスカリバーナイトの剣が仮面竜を貫いた。
2体のモンスターが同時に消滅した。

「これで終わりだ。
裁きを下す者ボルテニスで」

「攻撃だぁぁぁー!」

美味しいところを沢中先生が持っていき、
裁きを下す者ボルテニスがトドメの一撃を放った。

「和睦の使者、発動します!
このターンのダメージをゼロに!」

ここであたしが伏せたカードを使い、
このターンはことなきを得た。
何故、デスカリバーナイトの攻撃時に使わなかったのだろう?

「やるな。
念を入れ……光の護封剣を発動!
このカードが表になっている3ターンの間……
相手モンスターは攻撃不可能となる。
カードを1枚伏せ、ターンエンドだ。」

「お姉ちゃん、後はお願い!」


法子&周子 LP 200 手札2枚&3枚
場:無し
  伏せカード1枚

沢中&灘 LP 3200 手札1枚&0枚
場:「裁きを下す者ボルテニス」
  「光の護封剣」
  伏せカード1枚


あたしのターン!

伏せカードに護封剣、それに上級モンスター……
厳しいが……。

なんとか、なんとかするのが乙女デュエリスト!

「行くぞー!ドロー!」

召喚するモンスターはもう決まっていた。
ここであたしは周子がさっき、
デスカリバーナイトの攻撃を通した理由がわかった。

「デビルズサンクチュアリを発動!
メタルデビル・トークンを出現させ……生贄!
これよ!
氷帝メビウスを召喚!効果発動!
フリーズ・バースト!」

「ぬぅ……!?」

光の護封剣と、伏せカード……炸裂装甲を砕いた。

周子はあたしの帝王系モンスターの効果を使わせるために、
あえて仮面竜を犠牲にしたのだ。

「だがー!攻撃力2800のー!
先生のボルテニスには届かないぞー!」

「それはどうかなー!
氷帝メビウスでボルテニスを攻撃!
アイス・ラーンス!」

「……石原、何を!?」

「攻撃宣言終了!続いてダメージステップで、
手札から速攻魔法!収縮を発動!
ボルテニスの攻撃力を半分に!」

「な、なんだってー!?」

これで攻撃力は1400となり、
あたしのメビウスの攻撃で破壊できる。

氷の槍がしぼんだボルテニスを貫き、破壊に成功した。

沢中&灘 LP 2200

「ぐぬわぁー!ま、まだまだー!」

「そして周子が伏せたリバースカード、
リビングデッドの呼び声を発動するわ!」

リビングデッドの呼び声は、最初にあたしが使用したが、
周子はまだ使って無いため、2枚目の発動が可能となる。
ここらへんがタッグデュエルのミソだろう。

「地帝グランマーグを特殊召喚!
まだバトルフェイズ中のため、攻撃宣言が可能!
攻撃!バスターロック!」

「おおおわぁぁぁ!!」

「……うぐ……!」

沢中&灘 LP 0

あたしたちの勝ちだ!

「よぉし!」

「やったー!お姉ちゃーん!」

周子が駆け寄って抱きついてきた。
タッグフォース。まずは初の一勝!

「石原ぁ……。」

「な、なんでしょ……?」

ゆらりと幽鬼のように沢中先生が近づいて来た。

「継続は力なりー!
先生は!お前を信じていたぞー!」

「は、はぁ……。」

「石原。良いデュエルだったぞ。
しかし……いきなりメダル10枚賭けとはな。
お前はギャンブルで大失敗するタイプだぞ。
ほら。
はは、これで先生たちは振り出しに戻ってしまったな。」

灘先生がメダルを10枚あたしに手渡した。

「ありがとうございます。」

「先生たちとしても、優勝者は生徒たちから出て欲しいとこだな。
頑張れよ。」

「はい!」

さらに多くのデュエリストと戦うため、
島のあちこちに散らばったデュエリストを捜し求める。

聞くところによれば、
山本さん&宇佐美ちゃんの恐竜コンビ、
吉澤先輩&木葉先生の破壊チーム、
それと詳細はよくわからないが、
飛び入り参加の迷宮タッグが……
それぞれ大量のメダルを集め始めてるようだ。

「よし!行くわよ!周子!」

「無茶な賭けはやめてよねー!」

「次は20枚賭けで!!」
「もー!」



十四章「吉澤由美&木葉孝三」

「雷帝ザボルグで攻撃!ローリング・サンダー!」

「ぐわぁぁ!お、おのれぇぇ!」

野畑&山路 LP 0

あたしたちは順調にメダルを集めることに成功していた。
これで……40枚。

オベリスクブルー生徒、野畑くんの
現世と冥界の逆転というカードを用いたデッキ破壊戦術と、
山路君のロック系カードで身動きを取れなくしてから
終焉のカウントダウンという特殊勝利条件カードを使用し、
勝ちを狙うという危険な組み合わせであった。

終盤、周子がホルスの黒炎竜LV6で
ロック系魔法パーツを突破し、
あたしの雷帝ザボルグでセットされたモンスター……
サイバーポットを破壊し、直接攻撃で決着をつけた。

「ここまでなんとか負け無しで来れたけど……
そろそろ危ないかな。」

実際、周子のサポート無しでは一戦目から負けていたかもしれない。

「でも、次40枚賭けで勝てたら……」

「それ無し!次は私が賭けるメダルを決めるから!」

「はいはい。でもみみっちぃ数で賭けるのは
あたし嫌だからそういうのは……
ありゃ?凄い人だかり。」

どうやら派手なデュエルが展開されている様子だ。
興味深々でギャラリーを掻き分け、見物する。

「あ……吉澤先輩。」

それは吉澤先輩と、木葉先生のタッグだった。
対戦相手はラーイエローの知らない人……。
でも結構強そう。
現在の状況はこうだ。


吉澤&木葉 LP 3300 手札3枚&4枚
場:「首領ザルーグ」

渡辺&坂倉 LP 2100 手札0枚1枚
場:「裁きの代行者サターン」
  「光の護封剣」


ありゃりゃ、相手のペアの手札が枯らされてる。
こりゃあ気の毒に。

「くそ、手札が……
裁きの代行者サターンで攻撃!
サターン一発!」

裁きの代行者サターンの攻撃が、
先輩の首領ザルーグを貫いた。

「うぅ!」

「カードを1枚伏せてエンドだ!」


吉澤&木葉 LP 2300 手札3枚&4枚
場:無し

渡辺&坂倉 LP 2100 手札0枚&0枚
場:「裁きの代行者サターン」
  「光の護封剣」
  伏せカード1枚


木葉先生のターンらしい。

「由美、大丈夫か?」

「え、ええ……なんとか。」

あら……なんかラブラブな雰囲気だわねん。
しかしこのモンスターを倒すのは骨が折れるだろう。
光の護封剣も発動されているし……。

「俺のターン。ドロー!
マンジュ・ゴッドを召喚する。
デッキから終焉の王デミスを手札に加える!」

木葉先生のデッキは儀式デッキ。
多種多様な儀式モンスターを操り、
勝利への方程式(本人談)を解くのだ。

「儀式魔法エンド・オブ・ワールドを発動!
手札の破滅の女神ルインを生贄に捧げ、
終焉の王デミスを降臨させる!
そしてライフポイント2000を払い……
このカード以外のすべてのカードを破壊する!」

吉澤&木葉 LP 300

「や、やべぇ!リバースカードオープン!
強制脱出装置!終焉の王デミスを手札に戻す!」

だが効果は適用される。
裁きの代行者サターンと、光の護封剣が吹き飛んだ。

「孝三さん……。」

吉澤先輩がやや不安そうな顔だ。

何故なら次の相手のターンでモンスターを引かれ、
攻撃されてしまえば先輩たちは敗北してしまう。
それに木葉先生はすでに通常召喚を終えている。

ていうか孝三さん≠チて……。

「大丈夫だ……
墓地に存在する、
首領ザルーグと破滅の女神ルインをゲームから取り除く。
そしてカオス・ソーサラーを特殊召喚する。」

「な……!ち、ちくしょ……」

「カオス・ソーサラーの攻撃!」

渡辺&坂倉 LP 0


吉澤先輩たちのタッグが勝利を収めた。
なるほど、吉澤先輩が手札破壊カードで相手ペアの 手札を削り、
消耗させたところを木葉先生の儀式モンスターで
フィールドを破壊し尽くすという戦術のようだ。

だから破壊チームなのね。

「まぁ、こんなところさ。」

「むふふ、流石ね。
じゃあ、次に私たちと戦う人は……誰かしら?」

名乗り上げる人はいなかった。
無理もない、先輩たちのデッキは強力カード満載で、
挑めば先ほどの生徒たちのようにボロボロにされるに違いない。

「むふ……仕方無いわね。
孝三さん、もっとアカデミア本校の辺りに行って……
あら?法子と周子じゃない。」

先輩があたしたちの存在に気付き、駆け寄ってきた。

「どう?あんたたちはメダル集まってる?」

「あたしたちは……40枚です。先輩たちは?」

「もう40枚?凄いわね。
まだ30枚よ。みんな賭けるメダル少ないのよ。
もっと一気に賭けて大勝利を狙うのが良いのに!」

あたしの大博打好きは先輩譲りなのかもしれない。

「じゃあ先輩。」

「むふ?」

「あたしたちとやりませんか?
大勝負を!」

「お、お姉ちゃ……。」

「へぇ……やろうっての?」

吉澤先輩と木葉先生。
とても強い組み合わせだ。
しかし……戦ってみたい。

本気の先輩とデュエルしてみたい。

「周子……メダルの数を決めるの、今度はあんたの番だったわね。
いくつにする?」

「え……えと……。」

周子は考え込んでいる。
どうせ5枚とかそこいらを賭けるつもりだったのだろうが、
どうやらこんなことになるとは思っていなかったようで、
そんな枚数を宣言したら先輩がしらけちゃうのは目に見えていた。

なので、メダル枚数は必然的に多くしなければ
あたしも先輩もやる気が出ないというものだ。

「やれやれだわ。
私が決める。いいかしら?むふ。」

「え?あ、はい。」

言ってしまった。

「25枚ね。」

「え……ええええええ!?」

「よぉーし25枚ですね!やるぞ周子!」

「ふえぇーん!なんでこうなるの!」

木葉先生が小声で先輩に話しかけてる。
そんなに賭けて大丈夫か?ってとこだろうか。
どうやら先輩は聞く耳もたない様子。
こりゃあ木葉先生、尻にしかれるな……。

「さて……始めましょう。」

「行きますよ!先輩!」


デュエル!!


吉澤&木葉 LP 4000

法子&周子 LP 4000


先行は吉澤先輩たちだ。

「行くわよ。私のターン、ドロー!
黒蠍−棘のミーネを守備表示で召喚!
カードを1枚伏せ……エンドよ。」


吉澤&木葉 LP 4000 手札4枚&5枚
場:「黒蠍−棘のミーネ」
  伏せカード1枚

法子&周子 LP 4000 手札5枚&5枚
場:無し


あたしのターンだ。

「あたしのターン!ドロー!
ミーネの守備力は1800……よし……。
ニュート召喚!
攻撃力1900なら破れる!攻撃!」

ニュートが防御耐性を取っている黒蠍−棘のミーネに殴りかかった。
このカードは戦闘ダメージさえ受けなければ怖くは無い。
手札差をつけられる前に勢いに乗る!

「はぁん……法子ぉ。」

「はい?」

「あんた甘いわ。甘々だわ。むふ。
黒蠍−棘のミーネを生贄に捧げてリバースカード発動!
死のデッキ破壊ウイルス!」

うぅ!?
そ、そのカードは!

「このカードの効果は知ってるわよね?
攻撃力1000以下の闇属性モンスターを生贄にすることで、
相手のフィールド上と手札、発動後3ターン内にドローした
攻撃力1500以上のモンスターカードを全て破壊よ。」

「はう!?」

フィールドのニュート、
手札の異次元の女戦士、雷帝ザボルグが破壊され、
手札の和睦の使者、炸裂装甲、ダンディライオンが
先輩たちの前に晒された。
このターン、すでに召喚を終えているので、
ダンディライオンは召喚できない……。

「ぐ……。」

「お、お姉ちゃん、大丈夫?」

現在のターンプレイヤーはあたしなので、
パートナー、周子の手札には影響が無い。
しかし、ドローカード破壊の影響はパートナーにも適用される。

「カードを1枚伏せて、エンド……。」

死のデッキ破壊ウイルスのターンカウントが一つ進んだ。


吉澤&木葉 LP 4000 手札4枚&5枚
場:無し

法子&周子 LP 4000 手札2枚&5枚
場:伏せカード1枚

死のデッキ破壊ウイルス 残り2ターン


いきなり手札の差をつけられてしまった。
手札破壊、やはり恐ろしい。

木葉先生のターン。

「俺のターンだな。ドロー!
ふむ、あれは炸裂装甲ってとこか。」

う……やっぱりさっきのウイルスの効果でばれてる……。

「マンジュ・ゴッドを召喚し……
デッキから儀式魔法、奈落との契約を手札に加える。
マンジュゴッドで攻撃だ!」

むぅ、どうするべきか。
ここはライフの温存を優先すべきか。

「炸裂装甲を発動!マンジュ・ゴッドを破壊で!」

万の手で殴りかかってきたマンジュ・ゴッドが
あたしの目の前で、激しい衝撃により消え去った。

決してあたしのオーラか何かで消し飛ばしたわけでは無い。

「カードを1枚伏せてターンを終了する。」


吉澤&木葉 LP 4000 手札4枚&5枚
場:伏せカード1枚

法子&周子 LP 4000 手札2枚&5枚
場:無し

死のデッキ破壊ウイルス 残り2ターン


周子のターンだ。

「行きます!私のターン!ドロー!
……あッ!」

周子がドローした天下人 紫炎が
死のデッキ破壊ウイルスの効果により消滅した。
このカードは罠の効果を無効にするにはするが、
手札にあるときは意味を成さないのである。

「ううん……ドル・ドラ召喚!
攻撃します!」

「ふむ……姉妹揃ってまだまだだな。
リバースカード発動、ドレインシールド!
攻撃モンスターの攻撃力分……
ライフを回復させる。」

吉澤&木葉 LP 5500

「あら〜……。
周子、とりあえず落ち着け!」

「わ、わかってるよぉ……
カードを1枚伏せて、ターンエンド!」

死のデッキ破壊ウイルスのターンカウントがさらに一つ進んだ。
後1ターン……。


吉澤&木葉 LP 5500 手札4枚&5枚
場:無し

法子&周子 LP 4000 手札2枚&3枚
場:「ドル・ドラ」
  伏せカード1枚

死のデッキ破壊ウイルス 残り1ターン


一周して、吉澤先輩のターン。

「私のターン!ドロー!
さて、伏せカードがちょいと目障りね……。
サイクロンを発動するわ。
フィールド上の魔法・罠カードを1枚破壊する!」

「ぅあ!?」

周子が伏せたのは収縮の速攻魔法カード。
難なく消滅させられてしまった。

「早すぎた埋葬を発動し、
800ライフを払い、黒蠍−棘のミーネを蘇生。」

吉澤&木葉 LP 4700

ミーネの攻撃力は1000。
ドル・ドラの攻撃力には届かない。
まさか……上級モンスター?

「このミーネを生贄に捧げ、
来なさい!
闇紅の魔導師!」

紅のローブを纏った魔法使い、
闇紅の魔導師(ダークレッド・エンチャンター)。
上級モンスターながら、攻撃力は1700しか無いが、
魔力カウンター1つにつき攻撃力が300上昇する。

「闇紅の魔導師の召喚効果発動、
このカードに魔力カウンターを2つ乗せる。
攻撃力2300よ。
ドル・ドラに攻撃!
ダークレッド・ショックウェイブ!」

「あうぅ!あきゃ!」

法子&周子 LP 3200

さらに闇紅の魔導師の効果はこれだけでは無かった。

「魔力カウンターを二つ取り除くわ。
この効果により、周子、
あんたの手札をランダムに1枚燃やす。」

「え……わ!わわわ!」

周子の手札より、ホルスの黒炎竜LV4が消滅した。

これがおそらく、炎帝テスタロスに変わる先輩の切り札なのだろう。

「ターンエンドよ。フフ。」

「え、エンドフェイズにドル・ドラが
能力値をダウンさせて復活します……。守備表示。」


吉澤&木葉 LP 4700 手札3枚&5枚
場:「闇紅の魔導師」

法子&周子 LP 3200 手札2枚&2枚
場:「ドル・ドラ」

死のデッキ破壊ウイルス 残り1ターン


周子もいきなり多くの手札を消耗させられてしまった。
先輩の得意なパターンに持ち込まれている。
どうにか流れを止めないと、やばい。

あたしのターンだ。

「くそ……あ、あたしのターン!ドロー!」

ドローしたカードは……。

「う……くぅぅぅ……。
うううぅぅぅ!」

氷帝メビウスをドローしたが、ウイルスの効果により消滅した。
これで死のデッキ破壊ウイルスの効果は終わりだが、
あたしたちの手札はもうボロボロであった。

「ダンディライオンを守備表示。
カードを1枚伏せて……エンド……。」

すでにバレているが、和睦の使者を伏せてターンを終了した。
もはや後が無い。


吉澤&木葉 LP 4700 手札3枚&5枚
場:「闇紅の魔導師」

法子&周子 LP 3200 手札0枚&2枚
場:「ドル・ドラ」 「ダンディライオン」
  伏せカード1枚


木葉先生のターン。

「ではそろそろ勝負を決めさせてもらおうか。
俺のターン、ドロー!」

さっき、木葉先生は儀式魔法、奈落との契約を手札に加えた。
闇属性の儀式モンスターを特殊召喚するカードだ。
さっきは炸裂装甲が伏せてあったのがわかっていたから、
あえて召喚しなかったのだろう。
おそらくこのターンで……。

「行くぞ。儀式魔法、奈落との契約を発動!
手札の終焉の王デミスを墓地に送り、
闇の支配者ゾークを儀式召喚!」

なんと!生贄に捧げられた終焉の王デミスの姿が
見る見る姿を変貌させていく!

最高峰の儀式モンスター、闇の支配者ゾークだ!

「魔法カードが発動されたから、
闇紅の魔導師に魔力カウンターを一つ乗せるわ。」

闇紅の魔導師の攻撃力が2000になった。
後一つ溜まったら、再び手札破壊効果を使用されてしまう。

闇の支配者ゾークの攻撃力は2700。
高い攻撃力を持ったモンスターを揃えられてしまった。

「闇の支配者ゾークの特殊効果発動。
サイコロを投げ、出た目の数により、
フィールドのモンスターを破壊する。
ダイスロール!」

ころっコロコロ……。

「う、うわ……。」

「フフフ、出た目は1。スーパー・クリティカル。
相手フィールド上のモンスターを全て破壊する。
ゾーク・インフェルノ!!」

ドル・ドラとダンディライオンが邪悪な衝撃波により吹き飛んだ。

「くっそぉ……ダンディライオンの効果発動!
綿毛トークンを2体、特殊召喚!」

今はこのトークンに賭けるしかない。
周子が、もしくはあたしが次のターンで
上級モンスターを引き、生贄にすることが出来れば……。

「闇紅の魔導師と、闇の支配者ゾークで
綿毛トークンに攻撃を行う!」

「リバースカード発動!和睦の使者!
このターンの戦闘ダメージをゼロに!」

「これでお前の持ちカードは全て使いきった……
さぁ、後が無いぞ?」


吉澤&木葉 LP 4700 手札3枚&3枚
場:「闇紅の魔導師」「闇の支配者ゾーク」

法子&周子 LP 3200 手札0枚&2枚
場:「綿毛トークン」 「綿毛トークン」


周子のターン。頼む……。

「わ、私のターン……ドロー!」

周子の目つきが変わった。
起死回生を狙っている!

「綿毛トークン1体を攻撃表示に変更!
魔法カード、強制転移を発動させます!
フィールド上のモンスターのコントロールを入れ替えます!」

「何だと……。」

「私のこの攻撃表示に変更した綿毛トークンを選択……
そちらのモンスターは自分で決めることが出来ます。」

おそらく先輩達は闇の支配者ゾークは残したいはず。
ということは、さっき苦しめられた闇紅の魔導師の
コントロールを得ることが出来るかな。

「ふむ……由美……。」

「私は構わないわ。」

「では闇紅の魔導師のコントロールをそちらに渡そう。」

しかしまだ闇の支配者ゾークは残ったまま。
これを何とかしなければ……。

「闇紅の魔導師に、魔力カウンターが一つ載ります!
攻撃力2300に!」

「くッ、手札破壊効果を使うつもりかしら?」

「闇紅の魔導師で、闇の支配者ゾークに攻撃します!」

攻撃力は闇紅の魔導師の方が低い。
多分周子の手札にアレがあるのだろう。

「何……向かい撃て、ゾーク!」

「ダメージステップで突進を発動!
攻撃力を3000に!
さらに……闇紅の魔導師の効果で魔力カウンターがさらに乗り、
攻撃力が3300にアップ!」

「……なんだと!」

「ダークレッ……と……えと……なんだっけ……
あっ、ぞ、ゾーク撃破!」

吉澤&木葉 LP 4100

「メインフェイズ2に移行し、
闇紅の魔導師の効果を使います!
現在のターンプレイヤーである木葉先生の手札を1枚破壊!」

「むぅ。」

「な、なんとか巻き返せたよ、お姉ちゃん……。
ターンエンド!」

やった!
少しずつ、少しずつカードの差を埋めていこう。


吉澤&木葉 LP 4100 手札3枚&2枚
場:「綿毛トークン」

法子&周子 LP 3200 手札0枚&1枚
場:「闇紅の魔導師」 「綿毛トークン」


吉澤先輩のターン。

「フフ、やるじゃない。私のターン!ドロー!
でも、私の場にトークンを残したのは失敗だったわね……。
それじゃ、周子の手札、全部捨てさせてあげる。」

「え?」

「綿毛トークンを生贄に捧げ、地獄将軍メフィスト召喚!
攻撃力は1800だけど、貫通能力を持ち、
さらに戦闘ダメージを与えたとき、相手の手札を1枚捨てさせる。
闇紅の魔術師の攻撃力は今、2000よね?
行きなさい!
地獄将軍メフィストで、闇紅の魔術師を攻撃!
さらにダメージステップで収縮を発動!
これで闇紅の魔術師の攻撃力は……
1700の半分850+魔力カウンター2つ分の600。
1450になるわ。」

次々と襲い掛かる手札破壊のオンパレード。
おそらくこの状況、ほとんどの人なら戦意を失ってしまう。
これが手札破壊戦術の恐ろしいところであった。

「きゃああぁぁ!」

法子&周子 LP 2950

周子の手札からシールドクラッシュ≠フカードが落ちた。
これを綿毛トークンに使っていればこの惨事は免れたが、
それについて周子を責めるつもりは無い。
おそらくは他の手段で手札に削りにきたことだろう。

「ゴメン……お姉ちゃん……。」

「大丈夫よ。あたしに任せて。」

自分の手札はゼロ。
場も残るは綿毛トークンのみ。

しかし、どこから来るのかわからないが……
なんとかできるような……そんな予感がしていた。

これはまるで……サイコショッカーとの戦いのような……。

「……ターンエンド。
さぁ、法子。どうにかできる自信があるみたいね?
いいわよ。来なさい。
そうじゃないと面白く無いわ。むふ。」


吉澤&木葉 LP 4100 手札3枚&2枚
場:「地獄将軍メフィスト」

法子&周子 LP 2950 手札0枚&0枚
場: 「綿毛トークン」


「あたしのターン!ドロー!」

ドローしたカードが光り輝く。
あたしの呼びかけに呼応したかのように、
それは現われた。

「綿毛トークンを生贄に捧げ……
炎帝テスタロスを召喚!」

「なん……ですって……!」

「効果発動!
先輩の手札を1枚、破壊します!
フレイム・ブレイク!」

吉澤先輩の手札から見習い魔術師が破壊され、
墓地に送られた。
そしてレベル×100のダメージ。
見習い魔術師のレベルは2だ。

「うぁ!」

吉澤&木葉 LP 3900 

「よぉし!炎帝テスタロスで、地獄将軍メフィストに攻撃!
ファイアーストーム!」

「あぁぁ!」」

吉澤&木葉 LP 3300 

「先輩……。」

「ふ、ふふふ。むふふ。
よく諦めなかったわね……。」

「え?」

「引退する前に……法子とデュエル出来て良かった。」

「先輩?」

「ゆ、由美?どうした?」

「ふふ、なんでも無いわ。
あなたのターンは終わりかしら?」

「あ……た、ターンエンド!」


吉澤&木葉 LP 3300 手札1枚&2枚
場:無し

法子&周子 LP 2950 手札0枚&0枚
場: 「炎帝テスタロス」


ライフは並んだが、やはりまだ手札差がある。
木葉先生のターンだ。

「さて……もう長引かせるつもりは無い。
マンジュ・ゴッドを召喚!
効果発動、デッキから儀式モンスター、
大邪神レシェフを手札に加える。」

「ま、また儀式モンスター……!?」

「儀式魔法、高等儀式術を発動。
デッキからレベル4の通常モンスター2枚、
デーモンソルジャーとデュナミス・ヴァルキリアを墓地に送り、
大邪神レシェフを降臨させる!」

大邪神レシェフの攻撃力は2500。
炎帝テスタロスより上回っている!

「大邪神レシェフで炎帝テスタロスを攻撃!
破滅の光よ!蹴散らせ!」

閃光が炎帝テスタロスを貫き、
そのままあたしの体に突き刺さる。

「うぐ……!」

法子&周子 LP 2950

「そしてマンジュ・ゴッドでダイレクトアタック!」

「あああ!!うわぁぁ!!」

法子&周子 LP 1550

「お姉ちゃん!」

「……づ……。」

万の手による乱打に吹き飛ばされたあたしは
地面に突っ伏した。

「念には念を入れ……カードを1枚伏せてターンエンドだ。
どうした?そこまでか?」

もはや、これまでか……。
あたしたちのフィールドには何も無い。
手札だって無い。

もう、これ以上は……。

……。

ふと、先輩のさっきの台詞が脳裏を過ぎる。

引退する前に、デュエルできて良かった。

そうだ、この大会は先輩の引退試合でもある。

そして、おそらくはあたしたちと先輩の……

最後のデュエル……。

ずっと前に先輩と話した記憶が蘇る……。

あれは確かデュエル・アカデミアに入学する前のこと……。


・・・

「先輩はなんで、手札破壊の戦術を?」

「ん……?急ね、法子。」

「いや……ちょっと、手札破壊ってその、
なんと言いますか、嫌われやすく無いですか?」

「そうね。むふ。確かにそんな気はするわね。」

「じゃあ、どうして?」

「しいて言うなら……可能性が見たい。」

「可能性?」

「手札が無いと、デュエルって何も出来ないでしょ?」

「はい。それが手札破壊戦術の基本ですよね。」

「でもね、奇跡のドローが圧倒的な手札差を覆すときもある。
その瞬間が見てみたい……ってとこかな。」

「え……それじゃ……先輩は勝つためじゃなく、
相手の人がどんな風に逆転するのか見てみたい……
ってことですか?」

「そうなるわね。」

「あ、あたしには……あたしにはよくわからないです……。」

「そうね。普通ならそう思うでしょう。
でも……。
いつか私は会って見たい。
最後まで諦めずに、カードを信じて引き続ける人を。
ふふ、すぐあきらめちゃうあんたはダメダメよ。」

「う……そ、それは……。」

「またいつでもデュエルの相手してあげるわよ。
もっと強くなりなさい。法子。
そしたら……。」

「そしたら?」

「むふふ、なんでも無い。」


・・・


あきらめちゃダメだ。

先輩に失礼だ。

「ち、周子……。」

「な、何……?お姉ちゃん……。
私、私もう……。」

「次……あんたのタ……ン……
あきら……めるな……。」

「でも、でも私手札なんか……。」

「信じろ!!」

「う……うん!」


吉澤&木葉 LP 3300 手札1枚&0枚
場:「大邪神レシェフ」「マンジュ・ゴッド」
  伏せカード1枚

法子&周子 LP 1550 手札0枚&0枚
場: 無し


周子のターン。
周子のドローカードで勝敗は……決まる!

どうか、どうかこの一瞬だけは……。
運の無いこの妹に強運を!

「行きます!ドロー!」

カードを勢いよく引き、周子が手札を確認した。
すると一時いつものボ〜っとした目になっていた周子の目が、
再び輝きを取り戻した。

「強欲な壺!!」

……!

……凄い!

「何!?」

「800のライフを支払い、早すぎた埋葬を発動!
蘇らせるモンスターカードは……
炎帝テスタロス!!」

法子&周子 LP 750

「何を……するつもりだ……」

「炎帝テスタロスで、マンジュ・ゴッドに攻撃!
ファイアーストーム!」

炎帝テスタロスの両腕から産み出された炎が
マンジュ・ゴッドを覆い、焼き尽くした。

「ぐ……」


吉澤&木葉 LP 2300


後一撃、帝王の攻撃を叩き込めば勝利できる!
しかし、いまだにレシェフは残っている。
これをどうにかしなければ……。

……。

……帝王の攻撃を……?

そうか……

そうか!

周子が狙っているのは……!

「カードを1枚伏せて、ターンエンドです!!」


吉澤&木葉 LP 2300 手札1枚&0枚
場:「大邪神レシェフ」
  伏せカード1枚

法子&周子 LP 900 手札0枚&0枚
場: 「炎帝テスタロス(早すぎた埋葬)」
  伏せカード1枚


吉澤先輩のターン。

だが、しかし……。

「私のターンね。その前に法子、周子。」

「はい。」

「はい……。」

「あんたたち、強くなったわね。
ドローフェイズ!カードをドロー!
何か発動するかしら!?」

周子が伏せていたカードに手を置いた。

「行きます!先輩!
火霊術−紅、発動!炎帝テスタロスを生贄に捧げ、
その攻撃力分のダメージを、相手に与える!」

炎帝テスタロスが一筋の燃え盛る炎の矢となり、
先輩の体に向かって飛び去った。

「由美!」

木葉先生が伏せていたカード、
メタル・リフレクトスライムを発動させた。
だが、灼熱の矢はそれを避け、狙い違わず
吉澤先輩の体を貫いた。

「ぐ……!
だ、大丈夫よ、孝三さん……。
ありがと……テスタロス……
手加減、して、くれたの、ね……。」

吉澤&木葉 LP 0

苦しいデュエルはあたしたちの勝利で終わった。


・・・


「はい、メダル25枚ね。
5枚残しておいて良かったわぁ。むふ。」

あたしたちの所持メダルは一気に増え、65枚となった。
後、もう25枚で90枚。
行ける。リーチだ。
しかし……。

「あの、先輩……本当に……良いんですか?」

「ん?何言ってんのよ。むふ。
デュエル前に確認したでしょ?」

いくらデュエルに夢中になっていたとはいえ……
忘れていた。
吉澤先輩たちには、なんとかこの大会に優勝して欲しかった。
あたしは決勝まで行けさえすれば良いのだ。
それを……。

「法子。あんたにはやらなきゃいけないことがあるんでしょ?
それをやりなさい。いいわね?
心配無用よ。5枚もあればあっという間に
あんたたちに追いついて見せるわよ。」

「……すみません。ありがとうございます。」

「ふふ。じゃあ……ね。」

先輩は一服ついてる木葉先生のもとへと走っていった。

「……お姉ちゃん……。」

「よく頑張ったわね。周子。」

「うん、でも……」

「あの二人なら心配いらないんじゃない……かな。
あ……!
周子、行くぞ。」

「え?」

「ほら、早く!」

見てしまった。

先輩が少し泣いていた。
そして木葉先生がそれを慰めていた。

先輩はおそらく、わずかに……
あんなにメダルを賭けてしまったことを後悔していたのだろう……。

泣いていた先輩はいつもの凛としたイメージからかけ離れ、
一人の女の子になっていた。

木葉先生……。
どうか、どうかこれからも、先輩をよろしくお願いします。



15章「ダークネス」

「82、83、84……85……。
う……。」

「後5枚……だったね……。」

ついさっきの出来事であった。
予選終了の放送が流れたのだ。

あたしたちはここまでメダルを集めたが、
残念なことに90枚には至らなかった。

「くそ……こんな、こんな……。」

先輩たちと別れた後に戦ったあのタッグ……。
迷宮兄弟に敗北し、多くのメダルを失ってしまったのが痛かった。
なんとか盛り返そうと頑張ったが、時間が足りなかった。

「……全部あたしの責任だ……。
あたしが、あたしが、あのとき……。」

迷宮兄弟が繰り出した超大型モンスター、
ゲートガーディアン≠フ猛攻にあたしは焦り、
強力なコンボ攻撃で敗北してしまったのだ。

「そんなこと無いよ、お姉ちゃん。
私がもっと……ちゃんとサポート出来ていれば……。」

周子を責めるつもりは毛頭無い。

「学園の中で決勝戦の実況するみたいだよ。
だから、お姉ちゃん。行こう……。」

「うん……。」

先輩は……。
先輩は決勝戦に行けただろうか?
もし……予選落ちしていたならば……
あたしはなんて顔して先輩に会えばいいんだろう……。

サラは……。
サラはどうなっただろうか?
この大会中、顔を見なかった。
無事に大会に出れたのだろうか?
決勝に行けたのだろうか?

……。

学園に足を運ぶ最中、メールが届いた。
誰なのか、予想は出来ていた。

「周子。先に行って。後から行くから。」

「え?どうしたの?」

「えと……と、トイレよ、トイレ。ずっと我慢してたの。」

「え。それじゃ、なおさら学園で。」

「う、うるさいわね!我慢できないものはしょうがないでしょ!」

「あ、うん、わかった……。」

……。

さて……。

もう少しマシな言い訳をすれば良かったかなと思いつつ、
あたしはメールに書いてある場所に向かった。
あの日と同じ場所、火山へ。

・・・

学園で決勝大会の実況が行われているせいか、
まるで人の気配は無かった。
火山の熱気が肌を焼く。
すでに夕焼け空になっており、辺りは薄暗かった。

「さて……覚悟は出来てるわよ……。」

そうつぶやくと、岩陰から大徳寺先生が現れた。
あのアムナエルの格好ではない。
普段どおりの服を着た大徳寺先生だ。

「……決勝には行けなかったようだな。」

「あたしはこれから何をされるの?
やっぱり殺される?
でも……その前に……。あんただけは倒す。」

デュエルディスクを構える。

「勘違いはしないでもらいたい。石原法子。
お前をここへ呼んだのは、そのためではない。」

「へ?」

では……どういうつもりなのだろうか?

「お前のタッグフォース大会での戦いぶりは、
稚拙ではあるものの、以前より成長している。
決勝には行けなかったが、な。」

「何が言いたいの?」

「会わせてやろうと言うのだ。天上院吹雪に。」

「え……?」

一瞬、何を言ったのかよくわからなかった。
ついに……という気持ちよりも、まず……
何故?という思いが先に来た。

「どういうつもりなの?」

「闇の刺客がこのアカデミアに集結している。
その刺客のうちの一人が天上院吹雪だ。
もしお前が本当に天上院吹雪を救いたいと願うのであれば……
戦うがいい。」

「吹雪さんと……戦う?」

「そう……天上院吹雪との闇のデュエルに勝利すれば、
今、彼を覆っている闇の力が消滅し、元のデュエリストへと戻る。
だが、そのデュエルに敗北すれば、死が待っている。
私がお前に味合わせたような、苦痛がな。」

あのときの痛みが全身を駆け巡る。
デュエルに敗北すれば、再びあの苦痛が……。
だが、しかし。

「……会えるのね?吹雪さんに。間違いなく。」

「そうだ。」

「戦うわ。」

死ぬのは……怖い。
けれども、それ以上に……

会いたい。

会いたくて、会いたくてたまらない。

「……大徳……いえ、アムナエル。
結局何が目的なの?人を殺そうとしたり、
吹雪さんに会わせないようにしていたのに、
急に会わせたり。」

「……もうじき、この島に災いが訪れる。
私はその災いを防ぐための力を育てる必要があった。
そしてもうすぐ、それも終わる。」

「……?」

ますます何を言っているのかわからない。
災い?それを止める力?

「少し……私の話をしよう。」

大徳寺先生が腕をまくり、二の腕をあたしに見せた。
それは普通の人間の腕では無かった。
石像のような無器質な色で、ヒビが入っている。

「こ、これは……。」

「私の本当の肉体はすでに滅び、今はこのホムンクルスに
魂を宿らせている。
長い間、不死を求めていた結果、この体となった。」

錬金術の最終目標は不死と聞いたことがある。
ということはアムナエルもそれを目指したのだろう。
しかし、この体……。

どうみても不死とはほど遠い。
触れれば砕けるような印象を受ける。

「長い研究の果て、
不死の体を創り上げる三幻魔のカードの存在を知った。
そのカードはこの島にある。
だからこの島にアカデミアが設立されたのだ。
そして私は研究を支えてくれた、ある人のために……
三幻魔復活に必要なエナジーを持つ闇の刺客を育てた。」

サンゲンマ?
カードが不死の力を創り上げる?
そんなことが起こるのだろうか。

「だが、いつしかその人は暴走してしまった。
その頃には、すでに肉体が朽ち果てていた私に
対抗できる力が残されていなかった。
私はその人に協力するアムナエルであると同時に、
それに対抗するための力を育てるアカデミアの大徳寺としても活動した。
タッグフォース大会の真の目的は……
闇の刺客たちと対等に戦えるデュエリストを選別するためなのだ。」

「そ、そんなの……そんなの勝手すぎる!」

常識外れの話だったが、確かなことがあった。

「じ、自分で巻いた種じゃないの!?
不死だかなんだか知らないけど、そんなん嘘っぱちだよ!
そんなことで、そんなんで生死を賭けてデュエルするなんて……
違うよ!デュエルって楽しいもんでしょ!
あんたは……大徳寺先生はアカデミアの教諭じゃ無かったの!?」

「……。」

「もうこれで終わりにするわ!
吹雪さんは元に戻す!あんたが言ってた刺客って人たちも!
全部全部!ぜーーんぶ!あたしがぶっ倒して何事も無かったようにする!
あたしの大好きな人のために……
もうそんなくだらないことは終わりにするわ!」

「……お前は変わった人間だ……。
何故そこまで吹雪に固執する?」

「先生は誰かが好きになったこと無いの?」

「さあな。」

「答えて……吹雪さんはどこ?」

「……私と戦ったところまで登るがいい。
それにしても、吹雪のことをあきらめさせるために
あの苦痛を味会わせてやったのだがな。
しかし……恋か、フフ、若いな。」

「な、何よ……。」

「しかしそこまで言うのなら、
ちゃんと先生の授業を聞いてほしかったニャ。」

「……へ?」

今……?
なんか……言葉が……?

「……例え矛盾だらけだとしても、
自分がやってきたことが間違っていたと思ってはいないさ。
人生の終わりに、最高の錬金術師の器に出会えたのだから。
私はこれから、自分の研究のケリをつけに行く。
もうお前とは二度と会うことはあるまい。」

「これだけ、これだけ教えて!
さっきの説明じゃ納得できなかったわ。
どうして決勝に残れなかったあたしを、吹雪さんと会わせようとしたの?」

「……彼の心はすでに闇に消えた……あの人の手により、
人間の魂はすでに消え去ったのだ。
だが……
彼を深く想う人間が魂を見つけ出せば、
その闇を消し去ることも出来るだろう。
それが出来る人間は、私が知る限りでは限られている。
勝つがいい……石原法子。」

そういってアムナエルは夕闇に溶けて消えた。
あのヒビ割れた体で、何度デュエルできるのだろう?
1回か2回で体は崩壊してしまうのでは無いだろうか?

「大徳寺……先生。」


・・・


火山の中腹からアカデミアの学園を一望する。
万丈目タワーから夕陽が反射し、眼に刺さってまぶしい。
あの塔の中で、タッグフォース大会の決勝戦が行われているのだろう。

あたしのとっての決勝戦は、これからだ。

この崖を登れば……

だが、その前に。

「……なんで着いてきたの?」

岩陰から、今度は周子が顔を出した。
どうやら後をつけてきたようだ。
ということは、さっきの話も聞いていたのだろうか。

「さっさと降りてアカデミアに戻って。」

「お姉ちゃんは……
お姉ちゃんはいっつも一人でなんでもやろうとする。
少しは私に相談してくれてもいいじゃん。
いつも、いつも無茶ばかり……し……て……。」

そう言ったところで、周子の目から涙が溢れてきた。

「いいから戻って!死ぬかもしれないのよ!
あんただって知ってるんでしょ!?
あたしが殺されかけたことを。
きっとあれの比じゃない!今度こそ……」

「私だって吹雪さんのこと好きだもん!!」

「え……。」

……。

そんな……。

「なのにさ、なのにさ……
私……でもお姉ちゃんが吹雪さんのこと好きだって言うから……
ひ……うぇ……
私だって好きなのに……好きなのに……あぁぁぁ……。」

周子の言葉はもはや要領を得なかったが、言いたいことはわかった。

そりゃあそうだ。
周子と一緒に吹雪さんの試合をずっと見てきた。
確かに吹雪さんはあたしたちの憧れであったし、
共に吹雪さんと同じくらいの実力にまで上がりたい、
という気持ちはあった。

だけど、それに恋心を抱いていたのはあたしだけ……
と……今まで思い込んでいた。

馬鹿か、あたしは。

周子だって好きになるに決まってるじゃないか。

「……わかった。周子。
でもね、危なくなったらあたしはあんたを逃がす。
全力で逃げて。」

「私も……私も……お姉ちゃんを守る。
お願いだから一人で無理しちゃヤダ。」

「はは……。こりゃもう言っても無駄か。
行こう、周子。」

恋のライバルがどんどん増えていく。
でも……ファンクラブの連中よりも、
サラや、周子のほうが……。
悪くない気分だ。

「あ、お姉ちゃん、アレ!」

周子が空を指差した。
見ると、大きなドラゴンが火山の頂上で翼を広げて舞い降りていた。

「立体映像のモンスター?行ってみるわよ!」


・・・


頂上まで走り抜けると、さっきのドラゴンは姿を消していた。
が、それにしても……。

「ここまで来たのは初めてだけど……
さすがに熱いわね……。」

火口のすぐそばだ。
煮えたぎる溶岩が泡を立てている。

「あれ……宙に浮いてる?」

火口の上……
硫黄の煙が雲のような形状になり、その上に人が立っている。
まるで宙に浮いているかのようだ。

その人物は黒いコートで身を包み、黒い仮面を素顔を隠していた。
これだけでは吹雪さんがどうかはわからない。

「お前たちが七星門の鍵を持ったデュエリストか?」

凛とした声が響き渡る。
間違いなく、間違いなく……。

「吹雪さん……?あなた、吹雪さんなの!?」

「吹雪……?
フン……私の質問に答えてもらおうか。
お前たちは七星門の鍵を持っているのか?」

シチセイモンの鍵……。なんのことだろうか。
聞いたことが無い。

「知らんと見えるな。ならば貴様らは私の相手ではない。
早々に立ち去るがいい。」

「それは出来ないわ。あなた……吹雪さん……ですよね?
あたしのこと、覚えてますか?」

「我が名はダークネス。闇の刺客。
貴様のことなど知らんな。消えろ。」

まるで別人のようだ……。
だが、仮面に隠されていない口元から、
吹雪さんの面影を感じる。
闇の刺客……なるほど……
吹雪さんの心は今、闇に囚われ、闇に支配されているのだろうか。

「そうはいかないわ。あたしとデュエルしなさい。」

「デュエルだと?
私とデュエルすることが何を意味するかわかっているのか?
敗者は死ぬ、闇のデュエルを……。」

「ええ。でもあたしが勝ったらあなたは死ぬ必要は無い。
その仮面を取ってもらうだけでいい。」

「死に急ぐか。いいだろう。
私は面倒が嫌いでな。
二人まとめてかかってくるがいい。」

二人まとめて?
確かに二人がかりなら大幅に有利になるだろう。
しかし、それは同時に二人とも死ぬ可能性もある。

「その必要は無いわ。あたしが……。」

「お姉ちゃん。」

言うと思った。

「無茶はしないでって言ったでしょ?
私も戦う。一緒に……二人ならきっと。」

「死ぬ覚悟が出来たならば、この死のステージに上がってくるがいい。
ライフを失った瞬間、足元が消滅し、下のマグマへと落とされる。
モンスターの攻撃で消滅することもあるがな。」

「う……。この溶岩に……。」

眼下に広がる灼熱。落ちたら間違いなく命は無い。
それに、モンスターの攻撃でも床が抜けるということは、
ライフポイントが全てでは無いということか。

「条件がある!
あたしと周子、どっちかを落とすってなら、
あたしを先に落としなさい。
周子はその後!」

「え?」

「これだけは譲れないわよ……。
ライフが少なくなったら絶対に逃げて。
で、逃げたら丸藤先輩なり、天上院明日香なりに連絡しなさい。
ヤバくなったらあたしも逃げるからさ、ね?」

「うん……。」

「どうした?やはり恐れをなしたか?」

「今行くわ!」

恐る恐る、この雲のような煙の床に足を踏み入れる。
確かにしっかりと地面の感触がある。

「周子……あたしたちが今までタッグデュエルしてきたのって……
多分この瞬間のためなんだと思う。
明日ぶっ倒れて立てなくなってもいい。全力で行くわよ。」

「うん!」

「燃やし尽くしてやる……何もかもな。」

デュエル!!



十六章「ダークネス・2」

まずは……あたしのターンからだ。
2対1の変則的なデュエルのため、
あたし→ダークネス→周子→ダークネス→あたし……
と、周子と交代交代で相手と戦っていくことになる。

「よぉし……行くわよ!」

デュエル!!


法子&周子 LP 4000

ダークネス LP 4000


「あたしのターン!ドロー!
異次元の女戦士を守備表示で召喚。
ターン、エンドよ。」

どんな手段で戦ってくるかわからない。
攻撃表示で召喚すれば、いきなり瞬殺されるかもしれない。
まずは様子見だ……。


法子&周子 LP 4000 手札5枚&5枚
場:「異次元の女戦士」

ダークネス LP 4000 手札5枚
場:無し


ダークネスのターンだ。

「フン、私のターン。ドロー。
仮面竜を守備表示で召喚する。
カードを1枚伏せて、ターンを終了。」


法子&周子 LP 4000 手札5枚&5枚
場:「異次元の女戦士」

ダークネス LP 4000 手札4枚
場:「仮面竜」
  伏せカード1枚


仮面竜は周子も使っているカードだ。
ということは、言うまでもなくドラゴンデッキだろう。

周子のターンだ。

「行きます!私のターン、ドロー!
天下人 紫炎を攻撃表示で召喚!
異次元の女戦士を攻撃表示に変更し、バトルです!」

あたしやダークネスと違い、周子はやや好戦的な戦術に出た。
罠を無効にする天下人 紫炎ならば、
多少の罠も平気と見ての判断だろうか。

「異次元の女戦士で仮面竜を攻撃!」

これで異次元の女戦士の効果で仮面竜を除外させれば、
仮面竜は効果が発動できず有利になる。

「ここだ。罠カードを発動させる。
炸裂装甲!異次元の女戦士を破壊する。」

「うわ……きゃ!」

異次元の女戦士が弾け飛び、衝撃波があたしたちを襲った。
やはり闇のゲーム。
立体映像ではなく、実際に起こっている出来事なのだ。

「うぅ〜……天下人で仮面竜を攻撃します!」

天下人 紫炎が仮面竜の仮面を叩き割った。

「仮面竜のモンスター効果発動!
デッキより再び仮面竜を攻撃表示でフィールドへ!」

「やっぱり……でも仮面竜は一体減らせた。
カードを1枚伏せてターンエンドです!」


法子&周子 LP 4000 手札5枚&4枚
場:「天下人 紫炎」
  伏せカード1枚

ダークネス LP 4000 手札4枚
場:「仮面竜」


ダークネスのターンだ。

「私のターンだな。ドロー。
よし……ミラージュ・ドラゴンを攻撃表示で召喚。
天下人 紫炎にバトルを行う!」

まずい、ミラージュ・ドラゴンは攻撃力1600のモンスターだが、
攻撃宣言したとき、罠カードを発動させなくする効果を持つ。
このままではダメージを食らってしまうが……。

「止めます!リバースカード発動!
エネミー・コントローラーでミラージュ・ドラゴンを
守備表示に変更させます!」

「なるほど……ミラージュ・ドラゴンは
速攻魔法の効果は無効にすることが出来んからな。
仮面竜を守備表示に変更。ターンエンドだ。」


法子&周子 LP 4000 手札5枚&4枚
場:「天下人 紫炎」

ダークネス LP 4000 手札4枚
場:「仮面竜」「ミラージュ・ドラゴン」


お互いにダメージが通らない攻防が続く。
火口の熱気と緊張感で汗ばみ、
衣服が肌に張り付いて気持ちが悪い……。

「あたしのターン、ドロー!
これよ!天下人 紫炎を生贄に捧げ、
雷帝ザボルグを召喚するわ!」

よし!これで厄介な仮面竜を撃破できる!

「雷帝ザボルグの効果発動!
モンスターを一体破壊する!対象は仮面竜!
ローリングサンダぁー!」

「ぬぅぅ!」

天からの雷が仮面竜に直撃し、轟音が響く。

「続いてミラージュ・ドラゴンに攻撃するわ!
デスサンダー!」

同じくミラージュ・ドラゴンも雷帝ザボルグが放った雷で四散した。
先ほどのエネミー・コントローラーで守備表示になっていたので、
ダメージが無いのが少々残念だ。

とは言え、モンスター2体同時撃破に成功したので、
波に乗れている。いい調子だ。

「これで……ターンエンドよ。」


法子&周子 LP 4000 手札5枚&4枚
場:「雷帝ザボルグ」

ダークネス LP 4000 手札4枚
場:「無し」


もともとこっちは二人。
手札差が倍以上はあるのだ。
これならば……。

ダークネスのターン。

「私のターンだ。ドロー!
手札から、通常魔法アースクエイク発動。
フィールド上に存在するモンスターの表示形式を
全て守備表示にする。
ひざまずけ、雷帝ザボルグ。」

う……雷帝ザボルグの守備力1000という低さは、
やはり大きな弱点であろう。

「スピア・ドラゴン召喚!雷帝ザボルグに攻撃する!
スピア・クラッシュ!」

スピア・ドラゴンの攻撃が雷帝ザボルグを貫く。

900ポイントのダメージを負ってしまった!
その瞬間、鋭い痛みがあたしの足を襲った。

「うぎ!?痛っぅぅ!!」

いきなり腿のあたりから鮮血が吹き出る。
思わず足がもつれ、派手に転んで激痛にのたうち回る……。

「お姉ちゃん!?」

「ま……まだ、大丈夫……。ぐぅ……。」

法子&周子 LP 3100

あのアムナエルに受けたときのダメージでは無い……。
となれば、あたしにとっては
一度死に掛けた経験があるため、覚悟は出来る。

でも痛いことは痛いのだ。

血にまみれた足に体重をかけず、かばいながら立ち上がる。

ノドが……乾く。

「どうした?ガッカリさせるな。
スピア・ドラゴンは攻撃宣言後、守備表示に変更される。
カードを1枚伏せ、ターンエンドだ。」


法子&周子 LP 3100 手札5枚&4枚
場:無し

ダークネス LP 4000 手札3枚
場:「スピア・ドラゴン」
  伏せカード1枚


周子のターン……。
周子のモンスターがダメージを受けてしまえば
おそらく周子の体も傷がつくだろう。

「ち、周子。今のあたしの傷、見たでしょ?
あんまり無理しないで。
手札とか悪かったらあんたは逃げていいんだからね!」

「逃げるなんてイヤ!私のターン!ドロー!
お願い……私たちを守る黒炎……
ホルスの黒炎竜LV4を召喚!」

「ほぉ……?ホルスの黒炎竜……。
なかなか強力なドラゴン族を操るようだな。」

「このターンで最大レベルまで!
通常魔法レベルアップ!発動!LV6に進化!
そして、スピア・ドラゴンに攻撃!」

ホルスの黒炎竜LV6がスピア・ドラゴンを焼き払った。
そして、さらに……。

「カードを1枚伏せて、ターンエンド!
そしてこの子です!
ホルスの黒炎竜LV8を手札から特殊召喚!」


法子&周子 LP 3100 手札5枚&1枚
場:「ホルスの黒炎竜LV8」
  伏せカード1枚

ダークネス LP 4000 手札3枚
場:伏せカード1枚


周子はやや引きが悪かったのか、デッキから特殊召喚できる
ホルスの黒炎竜LV8が手札に来てしまったようだ。
周子は手札を一気に消費してしまった。
だが、これで俄然あたしたちが有利な状況だ。

しかしながら何度優位に立っても、ダークネスのライフポイントを
削ることが出来ないのが気にかかる……。

次はダークネスのターンだ。

「経過などは関係ない。私のターン!
天使の施しを発動する。
3枚をドローし、2枚を墓地へ捨てる。
そしてボマー・ドラゴンを召喚!
ホルスの黒炎竜LV8を攻撃する!」

ボマー・ドラゴン。攻撃力1000のドラゴン族モンスターだが、
戦闘で破壊されたとき、相手モンスターを道連れにする
特殊効果を持っている。
さらに戦闘ダメージを受けないのだ!

ボマー・ドラゴンが空高く飛び上がり、
ホルスの黒炎竜に向かって爆弾を投げつけた。

「きゃあああ!」

敵の対策手段が豊富すぎる。
2人を相手にしてもまるでものともしない。

「続いてこのバトルフェイズ中、
リバースカード発動、リビングデッドの呼び声!
墓地に存在する……。」

「く……それはさせません!
こちらもリバースカード、王宮のお触れを発動!
これで罠カードを無効に!」

「罠を無効……単純だな。
もう少し楽しめるかと思ったが、
やはり鍵を持たないデュエリストではこの程度だったか。」

王宮のお触れで相手の目論見は崩れたはずだ。
なのにこの余裕はなんだ。

「メインフェイズ2へ以降し、魔法カード、黙する死者を発動。
墓地から通常モンスター1体をフィールドに特殊召喚する。」

通常……モンスター?

しまった……。

しまった!!

話に聞いていたはずだ!
なのに……なのに……!

「先ほど天使の施しで墓地へと送った……
真紅眼の黒竜を特殊召喚!
そして……」

「周子!逃げろ!」

「砕け散れ。魔法カード、黒炎弾を発動!
真紅眼の黒竜の攻撃力、2400分のダメージを相手ライフに与える!
そっちのやかましい女。
確か、お前から死ぬのがお望みだったな?消えろ。」

「は……!」

まだライフは残るが、あたしはきっとこれから死ぬ。
モンスターの攻撃でもこの煙の床は抜ける。
あの炎ならば、この煙を消滅させるほどの
威力があるに違いない。
ダークネスの台詞からして、それはあきらかだった。

炎が放たれた瞬間から、とっさに逃げようとしたが、
もう間に合わない。

ああ……。
あたしは……。

でも、周子がこれで逃げてくれれば。
きっとあの天上院明日香がなんとかしれくれるだろう。
少し……癪だけど。

全然別人になってるけど、最後に吹雪さんに会えて良かった。

真紅眼の黒竜が吐き出した大きな火の塊が眼前に迫る。


ドン。


誰かに思いっきり押された。
というか、体当たりを受けたようだ。

誰がやったのか振り返ると、
あたしが元いた場所に周子が立っていた。

どうやら押したのは


周子のよう……だ……。


「え?」

「おねえ」

直後、爆発音が響いた。
すぐ隣で爆発が起きたため、大きく吹っ飛ばされる。

何が起こったのだろう。

あたしは……。
黒炎弾の攻撃を受けて……。
でも受けたと思ったら……。

周子が身代わりになった……?

「う……あ……?」

周りを見渡すと、正面に憮然と立つダークネスと、真紅眼の黒竜。
そしてぽっかりと大きな穴が空いた煙の足場しか無かった。

穴の底は……。

つまり


周  子    は  。


「ああああああああああああああああああ
ああああああああああああああ!!!!!」

頭を抱えて絶叫する。

「なんで!!なんで周子がなんでなんでなん
でなんでなんでなんでなんでなんでんでな
んでなんでなんでなんでなんでなんでなんで!!!」

石原法子 LP 700

なんで……。

なんで……。

なんで……。

「運良く生き残ったか。
エンドフェイズ限定の速攻魔法、超再生能力を発動する。
このターン、手札から捨てた、あるいは生贄にした
ドラゴン族の枚数だけ、カードをドローすることが出来る。
天使の施しで2枚のドラゴン族を墓地に捨てたため、2枚ドロー!
ターンを終了し、貴様のターンだ。
……戦う気力が残っていればな……。」


石原法子 LP 700 手札5枚
場:「王宮のお触れ」

ダークネス LP 4000 手札3枚
場:「真紅眼の黒竜」


なんで……。
なんで…………。



17章「ダークネス・3」

死んだ……。

死んだ……。

周子。

死んだ?

どうして、どうして。

手と膝をついてうなだれる。

もしデュエルに勝利できたとしても……。
もし吹雪さんが戻ってきたとしても……。

愛せるのか?
妹を殺したこの人を?

いや。

違う。

殺したのはあたしだ。

あたしのせいだ。

あたしのあたしのあたしのあたしのあたしの
あたしのあたしのあたしのあたしのあたしの。

あたしがちゃんと帰していれば。

「あああぁああぁ。
ああああああぁぁぁあ……。」

泣いたところも解決するはずが無い。

あたしが死ねば……あたしが死ねばよかった……。

そもそも好きになんてならければよかった。

好きになんて……ならなければ……。

……。

無理だ。

好きにならない、なんて無理だ。

好き、吹雪さん。

大好き。

「泣き叫ぶことしか出来んか?
ならばもう消えろ。無駄だとわかっただろう。」

「ええ……。
サレンダー……するわ……。
あたしを……落としなさい。」

ごめんね周子。
ちゃんと謝りに行くからね。

馬鹿なお姉ちゃんで、ごめんなさい。

ごめんなさい。

「フン……いいだろ……う……。
ぬ……おのれ……邪魔を……。」

「?」

ダークネスの様子が……どこかおかしいように見えた。
疑問に思った瞬間、頭の中に声が響いた。

『戦え。』

「……?」

『戦え。』

それは……デッキから聞こえるように思えた。

『戦え。……のために。』

「何のために、ですって?」

頭の中に何か、イメージが浮かんだ。
それはあたしと吹雪さんがアカデミアの屋上で、
楽しそうにおしゃべりをしている構図だった。

「これは……何?何なの?
嫌だ……見せないで……こんなの……
嫌……嫌ぁあ……。」

『我ら……過…と未…を……見通す者……
戦え。……のために。』

何と何を見通すって?

……のために。

このイメージは……。

『戦え。』

戦え。

……のために!

戦え、戦え、戦う……戦う……。

戦う。

「未来のために!」

あたしは無意識のうちにそう叫ぶと、
立ち上がった。

「あたしのターン!!」

あの感覚だ。
何でかわからないけど、
なんとなく勝利を確信できる……
未来≠ェわかるあの感覚だ!

「……デュエル続行……か?
無駄なあがきを。」

ダークネスからは、すでに先ほどの異常が感じられなかった。

勝たねばならない。
あたしの頭に残っていることは、
あのダークネスとかいう奴の仮面を粉々にブチ割り、
吹雪さんに会うということだけだ。

あたしの足は血だらけ、制服もススだらけで黒ずんでおり、
顔面は涙で泣き腫れ、さっきもんどり打った衝撃で
あちこち擦り剥いたし、鼻血も出ている。

こんなボロ雑巾みたいなあたしでも……。

許されるというのなら……。

力を貸して欲しいの、周子。

「ドロォー!」

引いたカードは、皮肉なことに
そんな欲張りなあたしをあざ笑っているかのような、
醜悪な顔をした魔法カードだった。

「貪欲な壺を発動!
墓地に存在するカード5枚を選択し、デッキに戻してシャッフル!
その後2枚ドローする!
あたしが選ぶカードは……。
雷帝ザボルグ、異次元の女戦士、
そして周子の墓地に眠る
ホルスの黒炎竜LV4、6、8よ!」

「何?」

タッグパートナーの墓地は自分の墓地として利用できる。
つまり貪欲な壺の効果で自分のデッキに加えることも可能となる!

どこかに散乱して飛び散ってしまったであろう、
ホルスの黒炎竜のカードたちがあたしの元へ飛んできた。

それはあたしのデッキの中に入り込み、
その瞬間、あたしのデッキは、
帝王≠ニホルスの黒炎竜≠ェ入り混じった混合デッキとなった。

「2枚ドローするわ!」

そして来た。

「手札から、通常魔法デビルズ・サンクチュアリ発動!
フィールドにメタルデビル・トークンを呼び出し……
これを生贄に捧げるわ。
ホルスの黒炎竜LV6を召喚!」

まるで不死鳥のように、眼下のマグマから
ホルスの黒炎竜が飛び出してきた。

「真紅眼の黒竜は、黙する死者の効果で守備表示、
そしてその守備力は2100。
ホルスの黒炎竜LV6の攻撃力なら破壊できるわ!
真紅眼の黒竜に攻撃よ!」

ホルスの黒炎竜LV6が吐き出した炎のブレスが
真紅眼の黒竜を焼き尽くした。
その炎はダークネスのコートをもわずかに焦がす。

「ち……。」

「ターンを終了するわ。
そしてホルスの黒炎竜、LV8に進化ぁー!」


石原法子 LP 700 手札5枚
場:「ホルスの黒炎竜LV8」「王宮のお触れ」

ダークネス LP 4000 手札3枚
場:無し


「それがどうした!所詮は死した者のカード。
魂なきカードなど敵では無い!
私のターン、ドロー!
忌々しい女だ……そのドラゴン共々、永遠に眠っていろ!
ブリザード・ドラゴンを攻撃表示で召喚し、効果発動!」

この灼熱の場にあまり相応しくない、氷で覆われたドラゴンが出現し、
ホルスの黒炎竜に氷のブレスを吐きかけた。

「うぅ……何、この寒さ……。
嘘……?」

ホルスの黒炎竜LV8の体が凍結していき、
氷の柱となってしまった。

「ブリザード・ドラゴンは相手モンスター一体を
次のターンのエンドフェイズまで、
攻撃宣言と表示形式の変更を封じるカード……。
これでターンを終了する。」


石原法子 LP 700 手札5枚
場:「ホルスの黒炎竜LV8」「王宮のお触れ」

ダークネス LP 4000 手札3枚
場:「ブリザード・ドラゴン」


チャンスだ。ダークネスといえども、
ホルスの黒炎竜と王宮のお触れの魔法、罠無効のロックにより
あまり身動きは取れずにいるようだ。

「あたしのターン、ドロー!
通常魔法クロス・ソウルを発動!
相手フィールドのモンスターを生贄にすることが出来る!
さぁ帝王行くわよ!
ブリザード・ドラゴンを生贄に捧げ、
炎帝テスタロスを召喚!相手の手札を1枚捨てさせるわ!」

「ぬぅ……。」

ダークネス LP 3600

捨てたカードのレベル×100のダメージ。
どうやらレベル4のモンスターが消滅したようだ。
初のダメージを与えることが出来た。

「クロス・ソウルを使ったターンは攻撃宣言が出来ない。
これでターン終了よ……。」


石原法子 LP 700 手札4枚
場:「ホルスの黒炎竜LV8」「炎帝テスタロス」「王宮のお触れ」

ダークネス LP 3600 手札2枚
場:無し


次のターンから、ホルスの黒炎竜は攻撃できるようになる。
行けるか?
いや、やらなきゃいけない。
あたしはあの未来を信じる。

「私のターン……ドロー!
馬鹿め……諦めてサレンダーしていれば、
さっきの女のように苦しまずに死ねたものを。」

「何ですって……?」

「黒竜の雛を召喚。
このカードを生贄に捧げることで、このカードを
手札から特殊召喚することが出来る。
手札から、真紅眼の黒竜を特殊召喚!」

また真紅眼の黒竜が出現した!
しかし、必殺の黒炎弾はホルスの黒炎竜が封じている。
それに攻撃力だって、及ばないはずだ。

「さらに真紅眼の黒竜を……生贄にささげ……。」

え……?

何……。

何なの?

「現れよ!真紅眼の闇竜!」

マグマの柱が昇り、その中から漆黒のドラゴンが出現した。
さっきこの火口に来る前に見たドラゴンだった。
禍々しい6枚の翼を広げ、フィールドに降り立つ。

「真紅眼の闇竜の特殊効果……
それは墓地に存在するドラゴン族の数だけ、
攻撃力を300上昇させる。」

ダークネスの墓地より、怨念の叫び声が響き渡る。
その攻撃力は……

「墓地に存在するドラゴン族の数は12体。
よって攻撃力は6000!
失せろ。ダークネス・ギガ・フレイム……。」

漆黒のドラゴンが放ったドス黒い火球は
ホルスの黒炎竜と炎帝テスタロスを一瞬にして砕き……。



あたしの体を……消し……飛ばし……た?

ふわふわ、ふわふわと浮遊感だけが残った。

完全に無くなった感覚の中で、ただ一つ疑問に感じているのは、
あたしが見た未来はなんだったのだろう……ということ。

あれは……

あたしは……

なんのために……



石原法子 LP 0



18章「ダークネス・4」

気がつけば、あたしは真っ暗な闇の中で倒れていた。
天国にしては妙に暗い。
じゃあ……あたしはやっぱり地獄にでも落ちたのか。

「うん……?」

周りに誰かの気配を感じる。
何人かいる……大勢だ。

「あたしを迎えに来た死神さん?」

「違う。」

凛とした声が響く。

「じゃあ、誰?」

「我らは常にあなたと共にあった存在。」

あたしの周りを囲っていたのは、
4人の甲冑を着た大柄な人のようであった。

「あたしと共に?」

知り合いにいたかな……。
こんな鎧武者みたいな人たち……。

と、考えたところで思い当たる点があった。

「まさか、あなたたち……。」

「我らは帝。」

「帝……あたしのデッキの?」

「いかにも。」

あたしの正面に立っていたのは、氷帝メビウスだった。

「……ごめんなさい。」

「何故頭を下げる?」

「あたしは……妹を守れなかった……
好きな人も助けだせなかった。
あなたたちもみんな無くしてしまったの。
あたしのせいで、あたしの……。」

また涙がこみ上げてきた。

ごめんなさい。

「ごめんなさい。ごめんなさい……。
ひっく……うぅぅ……ご、め……。
ごめんなさぁい……。ぁぁぁ……。」

あたしは何一つやり遂げることは出来なかった。
情け無い。
デッキの中のモンスターたちは少なくとも、
デッキを扱うデュエリストを信頼してくれている。
その信頼をも、あたしは……。

「頭を上げていただきたい。
頭を垂れるのはこちらのほうなのだから。」

「どうして?」

「それは我々があなたのしもべだからだ。
我々帝は未来と過去を司る能力を持っている。
正しき力を持った主に、未来へと導く力を。
そのためにあなたに辛い思いをさせ続けてしまった。」

「未来……と……過去……。」

今までの悪夢は彼らが見せたものなのだろうか?
デュエルで何度か体験した、勝利の未来への感覚は
彼らが与えてくれらものなのだろうか?

「一つ教えて欲しいの。
あたしが……最後に見たあの未来は何?
あたしと……あたしの好きな人が
一緒におしゃべりしていたあのイメージは?」

「それは……多くの未来のうちの一つ。
その未来へ辿り着くには、過酷な試練を乗り越えなければならない。」

「そう……それじゃ……もう……無理だね……
だってあたしは、デュエルに負けたんだから……。
もうあたし、死んでいるんでしょ?」

「あなたはまだ生きている。」

「え?」

「どうか最後まで諦めないでいて欲しい。
我らは四人の力を最大に使い、ここまであなたを導いた。
後は全てあなた次第だ。
そして、あなたの妹も……。」

「周子?周子がどうしたの?」


・・・


「うっ……。」

見たことがある光景が目に飛び込んできた。
見覚えのある天井……。

いつか寝ていたアカデミアの病室だった。

「いたた!」

あたしの体は包帯でグルグル巻きにされていて、
なんだかよくわからない薬の匂いがする。

「ほんとだ……あたし生きてる……
生きてる……。生きてる。」

全身に痛みを感じるほか、左足にひときわ鋭い痛みもある。
あの時、スピアドラゴンに貫かれた傷だった。

外は闇につつまれている。
夜の暗さ……というよりも、闇そのもの……
といった、そんな邪悪な印象を受ける外だった。

……まだ夜……?
それとも……丸一日寝てたのかな……。

横のベッドにも誰かが寝込んでいた。

誰……だろう……。

体が上手く動かないが、体をなんとか起き上がらせて
顔を覗いた。


「あ……あ……あ…………。
あは……は……」


あたしと同じく……
包帯に巻かれた周子だった。

「は……はは……。」

自然に笑いがこぼれ、色んな感情がごちゃ混ぜになってしまい、
ついつい。
泣いてしまう。

「周子ぉぉぉ〜……。
周子ぉぉ……。ひっく、ひく……。」

心の底から安堵した。
それと同時に、自分の無力さを改めて思い知ったような気がした。

そうだ。デッキは?

あたしたちのデュエルディスクはすぐそばに置かれていたが、
黒く焼けただれていて、とても使える状態では無かった。
デッキ内のカードはおそらく……。
全て火山に消えてしまったのだろう。

しかし墓地ゾーンの中に数枚のカードが
残されていることがわかった。

取り出してみると、それは4枚の帝王と
ホルスの黒炎竜シリーズのカードだった。

なんでこれらのカードだけが?

何があったのだろう。
そして何故あたしと周子は生きているんだろう。

でも……。

デッキ……無くなっちゃったけど……
あたしは、あなたたちがいるだけで、何度でもやり直せる。

それと先輩のカード、残ってて良かった。

「あなたたちが助けてくれたの?」

カードに問いかけても、無論返事は無い。
やっぱりあれは夢だったんだろうか?

ガチャリ。

病室のドアが開き、白衣の先生が入ってきた。
鮎川先生だ。

「あら、寝てないとダメよ。全身火傷なんだから。」

「先生、あたしたち……。」

「火山の火口付近で倒れてるのを、
丸藤亮君や、天上院明日香君たちが見つけて、
ここまで運んでくれたのよ。
二人ともすごくボロボロで……何があったの?」

「それは……そう、そうだ!
聞いて下さい!吹雪さんが……吹雪さんが……。」

「吹雪さん?そう、吹雪さん、見つかったのよ。
すごく疲れきっていて、今は隣の病室で寝てるわ。」

「え!」

「あなたたちと同じで、火山で見つかったのよ。
オシリスレッドの……誰か、までは聞いて無いけど、
その人が見つけて保護してくれたみたいなの。」

ベッドから転げ回るように落ちた。

「いて!」

「あ!まだダメよ!」

「会わせて!会わせて!」

「な、何を……。」

「会わせてください!お願いします!
会いたい!会いたい!会いたいんです!
しばらく歩けなくなってもいいから……
何ヶ月寝たきりになってもいいから……
会いたいの……。会いたいの!」

鮎川先生はかなり困った顔をしている。
あたしが自分自身とんでもなくわがままなこと言ってるのはわかる。
体の火傷からしてあまり動いていけないのはわかるし、
吹雪さんだって安静にしてないとダメだろう。

……吹雪さんが元に戻ったということは……
誰かがダークネスを倒したということだろうか?
オシリスレッドの……誰?

「そこまで言うならわかったわ……
幸い、まったく動けない怪我ってわけじゃないだけど、
一目見ただけですぐこの病室に戻るのよ?」

「……はい!」

部屋にかかってあった松葉杖を取り、
周子に一言。

「お姉ちゃん、今から吹雪さんに会って来る。
でも安心して周子。独り占めするわけじゃないから。
すぐに戻ってくるからね……。」


・・・


ベッドに横たわる吹雪さんはひどくやつれており、
生気を感じさせない顔つきをしていた。

だが久しぶりに、本当に久しぶりに見た
吹雪さんの顔は、あたしにとっては白馬の王子のそれだ。

「……うっ……ぅぅう……
わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

止めたくとも涙が止まらなかった。

会えて良かった。
生きてて良かった。
あきらめないで良かった。

ここにいる。
確かに吹雪さんはここにいる!

いきなり泣き出したあたしを鮎川先生は抱きしめ、
子供をあやすかのように背中をさすってくれた。
最初にあたしが見せた態度から、この人は理解したのだろう。
あたしが好きな人を。

「さぁ……自分の病室に戻ってゆっくりお休みなさい。
後は先生たちに任せて。」

「はい……あの……先生?
他の人は……?誰かお見舞いとか、来てないんですか……?」

長い間行方不明になっていた人が戻ってきた割には、
病室はガランとしていた。

「今、このアカデミアは大変なことになっているの。」

「大変なこと?」

「昨晩、タッグフォースの決勝戦が終了した後のことよ。
突然、闇の刺客って名乗るデュエリストが現れて、
アカデミアに襲い掛かったの。
外、すごく暗かったでしょ?
彼らが闇を呼び寄せたかららしいわ。」

闇の刺客……
大徳寺先生が言っていたあの……。

「今、タッグフォース大会の決勝まで残った
精鋭のデュエリストが彼らと戦っているわ。
丸藤亮君や天上院明日香君がそうよ。」

やっぱりこの二人は強い。
そして彼らにダークネスは倒され、仮面が取り除かれて
吹雪さんは元の体に戻った……ということか。

「だから生徒たちは今、怪我人の看病や
見張りの当番でとてもお見舞いに来れる状態じゃないのよ。
これからの被害によっては、絶対安静の吹雪さんがいるこの部屋にも
多くの生徒たちが運ばれてくるかもしれないわ……。」

「そんなことに……。」

思っていた以上にハードな事態になっていた。
あれほどの力を持ったダークネスと同等のデュエリストが
徒党を組んで襲ってくるのだから、恐ろしいことこの上ない。

「あら……何かしら?カード?」

鮎川先生が、吹雪さんのベッドの脇に落ちていた
1枚のカードを見つけ、拾いに行った。

だが、そのカードは。

「あ……!
先生!待って!」

「え?きゃあ!」

カードから強力な閃光が走り、鮎川先生を吹き飛ばす。
派手に壁に体をぶつけ、気絶してしまった。

「く……。」

そのカードは、忘れもしない……
あたしにトドメを刺した真紅眼の闇竜だった。

次の瞬間、そのカードの中に飲み込まれるような錯覚を感じて、
あたしは意識を失った。


・・・


暗い、暗い闇の世界。

その漆黒の世界であたしは意識を取り戻した。

さっき帝王たちと謁見した場所とは印象の異なる……
もっと毒々しい場だった。

「何……?ここ……?」

見渡すと、何か妙な物体が宙に浮いていた。
それは……。

ダークネスの仮面そのものだった。

「デュエリストの存在を感じ、呼び寄せてみれば……
先ほどの小娘か……。」

「何よ、これ、何なの?」

「ここは吹雪という人間の心の奥底……。」

「え?」

「この闇の空間で私は産まれた。
だがその吹雪が敗北した以上、私はここに留まることは出来ない。」

「それじゃあ、早く吹雪さんの体から出て行って!」

「かくなる上は貴様の体をいただこう。」

「はぁ!?」

「貴様の心の闇を映し出し、形と成す。
こんな風にな……。」

仮面から光の粒子が発生し、
それは人の形を創って、人間の体を形成する。
次第にその粒子は丸みを帯び、女性のような体つきへと変化した。

「うそ……。」

産まれたのは、制服を着たあたし≠サのものだった。

「……どう?そっくりでしょ?」

口調までもがまるで変わった。
声もあたしそっくりだ。

「あたしはあんた。あんたはあたし。
今からデュエルであんたを殺す。
ばっらばらに引き裂いて闇にばら撒いてやる。
そうすることで、あたしはあんたの体を貰うことが出来るわ。
くひ、ひひひひひ……。」

あたしの姿になったダークネスは不気味に笑い、
デュエルディスクを構えた。

気付いたら、
あたしの腕にも新品同様のデュエルディスクが装着されていた。

「そのデッキは今まであんたが使っていたデッキそのものよ。
そしてあたしのデッキも、
あんたのデッキを大幅に改良した、同じ帝王デッキ。
同じタイプのデッキに負かされるのって屈辱でしょ?
馬鹿の一つ覚えみたいに帝王を召喚しなさいな。
全部無駄だったって理解すると思うけどね。
あはッ。」

最低の口の悪さだった。
ここまでボロ糞に言われて気分を悪くしない人はいねぇ。

「望むところよ……。
さっさと吹雪さんの心から消えなさい!ダークネス!」

「あらら?怒っちゃった?もっと怒れば?
脳みそがはち切れるくらいにね!行くわよ。」


デュエル!!


石原法子 LP 4000
ダークネス法子 LP 4000



19章「ダークネス・5」

「ダークネス、あたしの先行で行くわ。」

「どーぞご勝手に。」

「ドロー!
マシュマロンを守備表示!
カードを1枚伏せて、ターンを終了するわ!」


石原法子 LP 4000 手札4枚
場:「マシュマロン」
  伏せカード1枚

ダークネス LP 4000 手札5枚
場:無し


「ふふん……単純ね、単純。単純単純。
あたしのターン、ドロー。
召喚僧サモンプリーストを守備表示で召喚。」

「サモン……プリースト……?」

「あんたのデッキには入って無いカードよね。
今、その効果を教えてア・ゲ・ル。
手札のマジックブラストを墓地へ送り、
デッキからレベル4のモンスター、聖鳥クレインを特殊召喚!」

召喚僧サモンプリーストは生贄になることが出来ないが、
手札の魔法カードを捨てることで、
デッキからレベル4のモンスターをフィールドに特殊召喚させるカードだ。
レベル4限定だが、そのサーチ範囲は広い。

「聖鳥クレインの特殊効果が発動されるわよ。
デッキからカードを1枚ドローする!
あははは、ほ〜ら全ッ然手札減って無いしぃ、
フィールドにモンスターがたっくさんいるわよぉ?」

「だから何よ!
サモンプリーストで特殊召喚されたモンスターは
そのターン中、攻撃できないはず!」

「特殊召喚されたモンスターは、ね。
でもそんな程度で終わりになると思わないことね。
手札から魔法カード、二重召喚を発動!
このターン、通常召喚をもう一度行えるわ。
聖鳥クレインを生贄に捧げて……
あは!あはははは!はははは〜〜〜〜!
あはあはあはは!!
風帝ライザー!召喚!!」

「馬鹿な!?」

見たことも無い5番目の帝王カード!

「ほ〜〜ら、すっごいでしょ?ほらよく見なさい。
這いつくばってライザーの特殊能力を拝むといいわ!!
フィールド上に存在するカード1枚をデッキの一番上に戻す!
マシュマロン、帰りなさい!」

凄まじい暴風が巻き起こり、マシュマロンがデッキの一番上に戻された。
次のドローカードが固定されてしまったのだ。

「ふふふひひひひひひひ、次のターンもマシュマロンが引けるから
守備に徹すればいいや、なんてこと考えてるんじゃないでしょうね?
よく聞けよ、マシュマロンなんてたかが戦闘で破壊されないだけの
弱小モンスターなんだよぉ!
その場から消す手段なんていくらでもある!」

「くそ……。」

フィールドががら空きになってしまった。
風帝ライザーの攻撃力は、帝王系カードの数値2400。
一撃でライフの半分以上を持っていかれる。

「ほら行けぇ!風帝ライザァー!」

「それは通さないわ!和睦の使者を発動!
このターンのダメージをゼロに!」

「……ケッ、くだらない罠!
カードを1枚伏せてターンを終了するわ。
ほらほら、あたしのライザー……どう?
これであんたの体をぶち折るとこ想像すると興奮するわ。
デッキってさぁ、未来を象徴するとか言われてるよね。
その未来をライザーによって固定され、奪われた気分は
いかがかしら?」

「うるさい!あたしの声でそれ以上しゃべるな!」

「あっそ。じゃあなんとかして見なさいよ!
カードを1枚伏せてターンエンド!」


石原法子 LP 4000 手札4枚
場:無し

ダークネス LP 4000 手札3枚
場:「風帝ライザー」「召喚僧サモンプリースト」
  伏せカード1枚


実にマズイ事態だ。
あたしの手札には帝王カードが1枚ある。
なんとしても召喚し、同等の立場にならなければ。

「あたしのターン!ドロー!
800ポイントのライフを支払い、洗脳ブレインコントロール発動!
対象は風帝ライザー!」

石原法子 LP 3200

うぐ……ライフを支払ったことで、体に痛みが走る。
例によって闇のゲームなのだ。

「ホントにホントに、あんたって単純〜。
リバースカードオープン!
強制脱出装置で風帝ライザーを自分の手札に戻すわ。」

「……う!」

「あふ、ふふふふひひ、あはぁはぁおかしい。
ライフ払い損、くくくく。
あたしのデッキはあんたよりも完成された帝王デッキ……
何度も何度もライザーを召喚して未来を奪ってあげるわ。」

「ダンディライオンを守備表示!
カードを1枚伏せて……ターン終了よ。」


石原法子 LP 3200 手札2枚
場:「ダンディライオン」
  伏せカード1枚

ダークネス LP 4000 手札3枚
場:「召喚僧サモンプリースト」
 

「あらら?マシュマロンじゃないの?
生贄召喚狙う気満々って感じ。
手札はマシュマロンと帝王カード?
ダメだよ、そういう手の内がバレるようなプレイしちゃ。
だからあんたはいつまで立っても負けっぱなしなのよ。
負けっぱなし人生。あははははははは!!」

「……あんたのターンよ……。」

「はい、はい。あたしのターン、
ドロー……はしないわ。」

「え?」

「ドローの代わりに、墓地に存在するマジックブラストの効果を
発動させるわ。
このターン、ドローフェイズにカードをドローしないことで
墓地に存在するこのカードを手札に加えることが出来る。」

魔法カード回収、手札に。
場には……召喚僧……。

「あ……。」

「理解したぁ?これがどういうことか。
召喚僧サモンプリーストの効果発動!
手札のマジックブラストを捨て、デッキから
聖鳥クレインを特殊召喚!そして1枚ドロー!」

召喚僧サモンプリーストで聖鳥クレインを呼び出し、
ドローと生贄の確保を同時に行う。
そして手札コストの問題はマジックブラストで解消され、
ドローできないデメリットも聖鳥クレインの効果で
なんら問題なく相殺される。

厄介極まりないコンボだった。

「クレインを生贄に捧げ、風帝ライザーを召喚!
あははははは!ほぉーーーら!
凄いでしょ!凄いでしょお!
ダンディライオン!デッキの一番上に戻れ!」

「待ちなさい!エネミーコントローラーを発動!
ダンディライオンを生贄に捧げ、
風帝ライザーのコントロールを奪う効果を発動させる!」

風帝ライザーがこちらの場に移動したが、
今の相手ターンのため、使用することは出来ない。

しかし、ダンディライオンから発生した
綿毛トークンが2体残っているので、これを生贄にできる。

「狙い通りってわけ?後ろ向きね。
言っておくけどあんたがどんな帝王を出そうが、
あたしのライザーちゃんには敵わないってことを
教えてあげる。無力感に打ちひしがれな。
カードを1枚伏せてターンエンド!」

風帝ライザーのコントロールがダークネスの元へと戻る。


石原法子 LP 3200 手札2枚
場:「綿毛トークン」「綿毛トークン」

ダークネス LP 4000 手札3枚
場:「風帝ライザー」「召喚僧サモンプリースト」
 伏せカード1枚
 

「あたしのターン!ドロー!
綿毛トークンを生贄に捧げ……地帝グランマーグを召喚!」
あんたの場の伏せカードを1枚破壊する!

「やっと出せたの?遅っせぇなぁもぉ。
つまらない戦い。」

地帝グランマーグの拳が伏せカードを粉砕した。
そのカードは炸裂装甲だった。

「ま、雷帝ザボルグでも出してくると思ってたんだけどねー。
運良かったじゃん?」

「いつまでもその余裕は続かないわ!
地帝グランマーグで、召喚僧サモンプリーストを攻撃!
バスター・ロック!!」

厄介な生贄確保モンスターだった召喚僧サモンプリーストを撃破できた。
あのまま残しておけば、
さらにモンスターを特殊召喚されて手に負えなくなっただろう。
残るは風帝ライザーだが……こいつをどうする?

「これでターンを終了するわ。」


石原法子 LP 3200 手札1枚
場:「地帝グランマーグ」「綿毛トークン」

ダークネス LP 4000 手札3枚
場:「風帝ライザー」


「じゃああたしのターン。
サモンプリーストがいなくなったから、
マジックブラストを回収する必要は無い。
よって通常ドロー。
……馬鹿め!
これであんたに勝ち目は本当に無いわ!
クリッターを攻撃表示で召喚し、
風帝ライザーで、地帝グランマーグを攻撃!」

「相打ち狙い!?迎え撃って!グランマーグ!」

「んなわきゃあねぇだろぉ!
ダメージステップで突進を発動!風帝ライザーの攻撃力は
700ポイントアップする!
砕けちれぇ!」

風帝ライザーが産み出した竜巻があたしたちを包み込む。
地底グランマーグが撃破された。

「うわぁ!」

石原法子 LP 2500

「あーーーはっはっはっは!粉々よ!コナゴナ!
わかった?あんたが何やったってあたしには勝てないのよ!
あんたの体を乗っ取った後は、あたしが吹雪さんを愛してあげる!
元々このあたしを、ダークネスを産み出したのは吹雪さんだからね……
あたしのものよ!誰にもやらないわ!
ズブズブと闇に沈んでいく中で、あたしと吹雪さんは永遠に抱き合うの!
あははははははは!!!」

「はぁ……はぁ……。
ごほ、ごほッ!はぁ……はぁ……。」

戦うんだ……あきらめるな……。
まだマシュマロンが手札にある……。

「はーい、これ、なぁんだぁ?」

ダークネスはそう言うと、
手札のカードを見せびらかしてきた。

「……なら……ず……。」

「はい!よく出来ました!
そう、ならず者傭兵部隊よ。
これでターン終了するけどぉ、あきらめたら?もう。
人生も吹雪さんのこともね。」

……。

ようやく会えたんだ……吹雪さんに……。

こんなところで……。

「……さ、ない……。」

「はぁ?何?よく聞こえないんだけど。」

「吹雪……さ……ん……は
わ・た・さ・な・い。」

「無理ね。」

「必ず倒す、あんたを。
必ず……。」

「あんたさぁ、そうやっていいコぶってっけどさぁ、
あんたの心の闇をコピーしたあたしには、あんたのこと全部知ってるのよ。」

「は……?」

「サラ、いるじゃん?
あの子、吹雪さんが好きで追いかけて来たでしょ?
健気なモンだよね。」

「何が言いたいの……。」

「ちょっとは思ったんでしょ?
自分のほうが吹雪さんをよく知っている。
自分のほうが吹雪さんの近くにいた。
自分のほうが吹雪さんと……。」

「そんなこと……!」

「隠さなくてもあたしにはわかるんだよ。
あんたが自分でどう思っていようと、
心の奥底では恋敵の人間を嫌っていたのよ。」

「嘘だ……。」

「周子ちゃんも可哀相だよねー。
可愛いのにさぁ〜?
自分の姉にあんなに健気に尽くす妹はそうはいないって。
そう……吹雪さんに出会うための……、
せいぜいイイ駒になってくれたよね!」

「黙れ!だまッ……ごほッ!」

「最終的にはサラも周子も踏み台にして、
自分だけ吹雪さんと結ばれるつもりだったんだよね?
わかる、わかる。」

「嘘よ……嘘よぉ……。」

「それにさぁ、あの子、毎晩あんなに」

「言うなぁぁぁ!!!!」

「あ、あは!あははは!ははははは!!
壊れろ!壊れろ!壊れちゃえ!
体も!心も!何もかも!
めちゃくちゃになっちゃえ!!あははははは!!!!」

もう……ダメ……。

ダメ……。

邪悪な笑い声が響き渡り、次第に体から力が抜けていき
がくりと足がもつれた。

「あ……れ……?」

前かがみに倒れそうになったあたしの体を、
誰かが後ろから支えた。

「……何?貴様!どうして!?」

ダークネスが何かわめいている。
誰?
誰があたしを支えているの?

「これ以上、彼女を傷つけることは僕が許さない。」

聞き覚えのある凛とした男性の声がする。
夢……幻覚……だろうか?

「フン……目を覚ましたのね。
だがノコノコこのダークネスのフィールドに戻ってくるとはな!」

「ここから先は僕が相手をしてやる。」

後ろを振り向いた。
あたしを支えてくれた人は……。

「吹雪……さ……ん……?」

「すまなかった、法子くん。
後はゆっくり休んでいてくれ。」

吹雪さん?

吹雪さん。

吹雪……さん?

「あ……うあ……あ……。」

「さぁ、歩けるかい?
……ん?
どうかしたのかい?そんなに見つめられると、照れるな。」

「吹雪さん!!ああああ……ああああああああああ……。」

何か言わなければならないことは山ほどあった気がした。
だけど……。
何も、何も言えない……よ。

「ダークネス、彼女の体を奪い取るつもりだったんだろうが、
あてが外れたな。僕がお前を倒す。」

「はん……元々その女の体は次の宿主のための、
単なるつなぎとして使うつもりだっただけよ。
だが吹雪。貴様の体がまだ動けるのならば、
再び貴様の体を乗っ取らせてもらおう。
いや、二人分いただくという手もあるな。」

ダークネスの体が二つに分かれた。
一つはあたしの姿をしたダークネス法子。
もう一つは火山で戦った、吹雪さんを乗っ取った状態の
仮面を被りしダークネス。

「吹雪さん、あたしも戦う。」

「ダメージは大丈夫なのかい?」

「……どんな痛みも耐えられます。」

吹雪さんと一緒なら……という言葉を
初めにつけたのだが、
それだけとても小さな声で言ってしまったので、
多分聞こえなかっただろう。

「わかった。だが無理をしてはダメだからね。」

「はい!」

吹雪さんの姿を模したダークネスがディスクを構え、
あたしの姿をしたダークネスが高らかに笑う。

「2対2か……いいだろう、
かかってくるがいい、天上院吹雪。石原法子。
まとめて闇の餌食にしてくれる。」

「あは、あはははは!!あははは!!
今更状況は変わらないわ!あはははははは!」

「あんただけは……倒す……。」

吹雪さんを捜し求めてさ迷ったあたしの戦い。
その旅の、本当の最後の戦いが始まった。


吹雪&法子 LP 2500 手札5枚&1枚
場:無し

ダークネス吹雪&ダークネス法子 LP 4000 手札5枚&3枚
場:「風帝ライザー」


「行くぞ、法子くん!」
「はい!」



20章「ダークネス・6」

途中で吹雪さんらが参戦したため、ターンの順番は

あたし→ダークネス法子→吹雪さん→ダークネス吹雪

という順番になる。
ダークネス法子のターンが終了したため、吹雪さんのターンだ。

「僕のターン!ドロー!
僕は手札から……黒竜の雛を召喚する。」

え……。
まさか、吹雪さん……。

「そして黒竜の雛を生贄に捧げ、
真紅眼の黒竜を手札から特殊する!」

さんざあたしと周子を苦しめた真紅眼の黒竜が出現した。
だが味方となれば心強い。
しかしあたしは、心配なことがあった。

「まだ終わりじゃない。この真紅眼の黒竜を生贄に……。」

……!!

「待って!!」

思わず吹雪さんに駆け寄り、抱きしめるように押さえつけ、
その行動をやめさせた。

「法子くん!?何を……。」

吹雪さんが出そうとしていたカードは案の定、
あの真紅眼の闇竜のカードだった。

「そのカードだけは、そのカードだけは使っちゃダメです!」

「法子くん……。知って……いるのか?」

あたしたちのやり取りと見ていたダークネス吹雪がせせら笑う。

「くっく……吹雪。
その女はどうやら、そのカードを使えば
お前自身が消えてしまうということを、理解しているようだな。」

「き、消えてしまうって……どういうことですか?」

別に理解していたわけではない、
ただ、ひどく不吉めいたものを感じたからだ。

「……僕はダークネスと心中する。
この真紅眼の闇竜を使い、僕は闇の力を解放して
ダークネスと共に闇の底へ消えるつもりだ。」

「そんなのダメ!!」

吹雪さんをギュっと抱きしめる……。

……。

温かい……。

やっぱり、幻じゃない。

「消えちゃ嫌だ……
また悲しむ……みんな悲しむ!」

「しかし……。」

「戻ろう?吹雪さん。
一緒にみんなのところに戻ろう!」

「……。」

「吹雪さん……。」

「わかった……。このデュエル、
この真紅眼の闇竜のカードは使用しないことにする。」

「良かった……。」

「馬鹿め。真紅眼の闇竜無しでこの私を倒すつもりか?」

「無謀にも程があるわ……
そんなんでどうやって、この風帝ライザーを倒すつもりなの?」

吹雪さんは静かに真紅眼の闇竜のカードを墓地へ置き、
1枚の魔法カードを発動させた。

「手札を1枚捨て、ライトニング・ボルテックスを発動!
相手フィールド上のモンスターを全て破壊する!」

稲妻がダークネスのフィールドに連続して降り注ぎ、
風帝ライザーとクリッターを何度も貫く。
そのたびに、ダークネス法子が叫び声を上げた。

「ぎ!うぎぃぃぃい!!!ぎゃがぁぁぁぁ!!
よくも、よくもよくも……あ、たしの、ライ、ザーを……。」

雷の余波でダークネス法子の肌に黒い斑点のような
痛々しい焼跡が残された。
ひどく陰険に顔は歪み、
もはやとてもあたしと同じ顔とは思えなかった……。

「ダークネス。僕が一番嫌いなことを教えてやろう。」

「……あぁ?」

「女の子を泣かせることだ。」

吹雪さんはそう言い放つと、真紅眼の黒竜に攻撃宣言を下した。
強烈な炎の塊が弾け飛ぶ。

「お前は彼女を泣かせたばかりか、心までも踏みにじった。
行け!真紅眼の黒竜!ダーク・メガ・フレア!」

「く、くくく、ヒヒヒヒヒヒヒ!!
通るかよ、そんな攻撃!
今さぁ?
あたしの場にはクリッターが存在していたのよ……。
クリッターは墓地に送られたとき、デッキから攻撃力1500以下の
モンスターを手札に加える!」

真紅眼の黒竜が吐き出した炎が、ダークネスたちの面前に迫る。
しかし、着弾直前に炎は何かにぶつかって消滅した。

「く、あのカードか……。」

「そのとおり、クリボーのカードを手札に加えた!
そしてこれを捨てることにより、ダメージはゼロになる……。
わざわざ真紅眼の闇竜まで捨てて攻撃してきたのに、
あははははははは!!馬鹿みたい!」

「これでターン終了だ。」


吹雪&法子 LP 2500 手札2枚&1枚
場:「真紅眼の黒竜」

ダークネス吹雪&ダークネス法子 LP 4000 手札5枚&2枚
場:無し


次は……ダークネス吹雪のターンだ。

「私のターンだな、ドロー。
ふふ、天使の施しを発動!3枚を引き、2枚を捨てる。
くくく、死のフィールドで踊るか?
永続魔法、燃えさかる大地を発動!
このカードは、スタンバイフェイズ毎に、
そのターンのプレイヤーに500ポイントのダメージを与える。」

「何ですって!毎ターン、ダメージ……。」

「そしてそれだけでは終わらん。
もう一枚、永続魔法、悪夢の拷問部屋を発動する!
相手が効果によるダメージを受けた場合、追加で300ダメージを与える。」

一瞬にして、場が真っ赤な炎で燃え上がり、
四方に石壁が浮かび上がった。
これでは炎から逃げることも出来ない!

「ダークネス!貴様!」

「炎に焼かれて逃げ回るがいい。
さて、真紅眼の黒竜には黙っていてもらおうか。
ブリザード・ドラゴンを召喚し、効果発動!」

ホルスの黒炎竜を封じたあのカードだ。
真紅眼の黒竜すら、その氷結からは逃れられなかった。
これで次のターン、真紅眼の黒竜は攻撃できない。

「カードを1枚伏せ、エンドフェイズに速攻魔法、
超再生能力を発動!
天使の施しでドラゴン族を2枚捨てたため、2枚ドロー。
ターン終了……。
さぁ、お楽しみはこれからだぞ?」


吹雪&法子 LP 2500 手札2枚&1枚
場:「真紅眼の黒竜」

ダークネス吹雪&ダークネス法子 LP 4000 手札4枚&2枚
場:「ブリザード・ドラゴン」
  「燃えさかる大地」「悪夢の拷問部屋」
  伏せカード1枚


あたしのターンだ。
この炎……纏わり着いてくる……。

「く……ドロー!」

スタンバイフェイズ……
燃えさかる大地の効果が発動される!

「あああ!うわぁぁぁぁぁぁぁ!!
あっづ、くぅ、ぐ……ぎぃ……。」

吹雪&法子 LP 2000

「法子くん!この炎は精神が見せている幻覚だ!
気をしっかり保つんだ!」

「は、はい!う、ぅぅ……」

げ、幻覚……でも、これは、この熱さは……!
ダメ……吹雪さんに、あたし、へっちゃらって言った……
このくらいのこと!

「うふ、ふふふあはははは……
法子ぉ?何か忘れてないよね?」

え?

「拷問だよ。ゴーモン。
どこを折って欲しい?じっくり指から?
それとも耳を削ぎ落とす?
目玉をえぐり取ってあげようか?」

何が……。

拷問……?

あ……。

「法子くん!耳を傾けるな!」

「決めたぞ、指だ。
悪夢の拷問部屋の効果、発動。」

「あはははははははははは!!!
拷問だ!拷問拷問!!折れろ!折れろ!
二度とカード持てなくなれ!
きゃはははははははははははははは!!!」

得体の知れない力が手に加わり……
ひとさし指が間接と逆方向に折れ曲がり始めた!

あッあッあッ……!!

「……ッ……!!!!
ひぎぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!」

吹雪&法子 LP 1700

「ひゃはははあははははあはあはあは!!
ひぎぃ!だって!おかしい!ひひ!
そんなんで毎ターン耐えられるのぉ?」

痛い!痛い痛い痛い!!
さ、300ダメージ、なのに……
なんで!なんでこんなに痛いの!?
ダメ!耐えなきゃ!ダメ!ダメ!
ダ……メ……!

「あ、れ……?」

急に痛みが引いた。
まさに折れる直前の指を、吹雪さんがギュっと握っている。
握ってもらったおかげで、それ以上指が曲がることは無かった。
効果は終了したらしい。
折れずに……済んだ……。

「ダークネス……僕だけを狙えば済むことを……。
彼女にこんな仕打ちをする必要は無いはずだ。」

「フン、つまらん。」

「吹雪さん……あたし、あたし……。」

「大丈夫。君の身に何があっても僕が守る。
さぁ、君のターンはまだ始まったばかりだ。」

……。

ああ……。

あたしは……。

あたしは……なんという人を好きになってしまったんだろう。

ドローしたカードを確認する。
炎帝テスタロス。

先輩……。

馬鹿なことばかりやってきたあたしをいつも心配してくれて……。
ありがとう、ございます……。

あたしは、ようやく……吹雪さんに会えました。

「法子くん。もし手札に上級モンスターがあるのならば、
僕の真紅眼の黒竜を生贄にしてもかまわない。
いかに強力なモンスターが残っていても、無力化されていては
その力を発揮することは出来ない。」

「わかりました。では……真紅眼の黒竜を生贄に捧げ、
炎帝テスタロスを召喚!
効果発動!フレイム・ブレイク!
吹雪さんの姿をしたダークネス!あんたの手札を1枚捨てさせるわ!」

「ぬぅ……!」

手札から突然変異≠フカードが消え去った。
手軽に強力な融合モンスターを呼ぶカードだ。

「そして炎帝テスタロスで、ブリザード・ドラゴンに攻撃!
ファイアーストーム!」

炎帝テスタロスが放った炎の渦がブリザード・ドラゴンを溶かす。
氷の竜は跡形も無く消え去った。

「おっと、炎帝テスタロスの攻撃宣言時に、
この永続罠、スピリットバリアを発動させてもらおう。
モンスターが場にいるとき、戦闘ダメージを受けない。
ダメージ計算時はまだモンスターは存在している。
よって私へのダメージはゼロだ。」

ダークネスのライフを減らすことは出来なかった。
しかし、戦闘面では有利になった……。

あたしの残りの手札はマシュマロンのみ。
これ以上することは無い。

「これでターンエンドよ。」


吹雪&法子 LP 1700 手札2枚&1枚
場:「炎帝テスタロス」

ダークネス吹雪&ダークネス法子 LP 4000 手札3枚&2枚
場:「燃えさかる大地」「悪夢の拷問部屋」「スピリットバリア」


次はまったくもって憎たらしいダークネス法子のターン。

「ふふん……いい気になってんじゃん。
あたしのターン!ドロー!」

燃えさかる大地の効果が発動される。
あたしと同じように、ダークネス法子の体も焼かれた。

ダークネス吹雪&ダークネス法子 LP 3500

これが初のダメージだ。

「あああぁぁ〜〜〜!!
あ、あはぁ、あはははは!!
気持ちイイ……気持ちイイ……法子……
自分の体がどんどんキズついていくの……
この快感、わかる?」

「知ったこっちゃないわ……。
それよりその永続魔法、そのまま出しておいていいの?」

「あぁ?なんであんたたちよりも
ライフが上回ってるのに取り除く必要があんのぉ?
先に焼け死ぬのはあんたたちの方よ。
いや、拷問されすぎて精神が壊れちゃうほうが
先かも知れないわね……。」

「はっきり言って趣味が悪すぎるわ。
あんたがあたしと同じだなんて……とても信じられない。」

「言うわね?それはあんたの勝手な解釈よ?
さ、て。
あたしの手札に何があったのか覚えてるわよね?」

「……く!」

「ならず者傭兵部隊を召喚!
死ぃーねぇー!!」

炎帝テスタロスが木っ端微塵に粉砕された。
だが、ダークネス法子のフィールドもがら空きとなる。

「攻撃できないのが、ざぁんねん。
カードを1枚伏せてターン終了、よ。」


吹雪&法子 LP 1700 手札2枚&1枚
場:無し

ダークネス吹雪&ダークネス法子 LP 4000 手札3枚&1枚
場:「燃えさかる大地」「悪夢の拷問部屋」「スピリットバリア」
  伏せカード1枚


吹雪さんのターン。
でも、今度は吹雪さんにあのダメージが……。

「行くよ、僕のターン、ドロー!」

「さぁ吹雪!貴様も受けてもらうぞ!
燃えさかる大地と悪夢の拷問部屋の効果発動!
合計800ポイントのダメージだ!」

「ぐぅ!くぅぅぅぅぅぅ!!」

吹雪&法子 LP 900

「嫌!!吹雪さん!!」

吹雪さんが炎に巻かれ、体の全身を不自然に折り曲げた。
あの苦痛が全身に……!?

「ダ―――クネス!!
僕は今まで散々、闇の中で苦痛を受け続けてきた!
今更この程度で……屈することは無い!」

炎を振り払い、しっかりとした動作で
カードをデュエルディスクにセットする!

「僕もこのカードだ!ブリザード・ドラゴンを召喚!
行け!ダイレクトアタック!」

スピリットバリアはモンスターがいるときにしか効果は無い。
今ならダメージが通る!

「あはははははは!!さぁ!さぁさぁさぁさぁ!
また来るよ!いい?いい?
リビングデッドの呼び声、発動ぉぉぉ!!
風帝ライザー!特殊ッ召喚!」

「く!攻撃力2400……
攻撃力1800のブリザード・ドラゴンでは破壊不可能……。
ならば、攻撃を中断し、効果を発動させる!」

今度はこちらが相手モンスターを氷漬けにする番だ。
あれほどあたしを苦しめ、今また姿を現した風帝ライザーは
物言わぬ氷柱となった。

「一時しのぎ、一時しのぎぃぃぃ……あは!」

「そして……僕はカードを1枚セットしてターンを終了する。」


吹雪&法子 LP 1700 手札1枚&1枚
場:「ブリザード・ドラゴン」
  伏せカード1枚

ダークネス吹雪&ダークネス法子 LP 3500 手札3枚&1枚
場:「風帝ライザー」
  「燃えさかる大地」「悪夢の拷問部屋」「スピリットバリア」
  伏せカード1枚


ダークネス吹雪のターン。

「私のターンだな。ドロー。」

燃えさかる大地の炎がダークネス吹雪を焦がす。

ダークネス吹雪&ダークネス法子 LP 3000

「くっくく……この痛み、格別だ……!
手札から、魔法発動!強欲な壺!
カードを2枚ドローする!」

ここで強欲な壺を引かれるなんて……。
この場にいる4人のうち、ダークネス吹雪のみ
多くの手札を持っていた。

「行くぞ!黒竜の雛を召喚し、生贄に捧げる!
出でよ!真紅眼の黒竜!」

来た……!
ダークネス吹雪はこれ以上無いくらい残忍な笑みを浮かべている……。

「吹雪よ、貴様は1つミスをした。」

「何だと?」

「私はお前から産まれた存在……
お前の考えていることは手に取るようにわかる。」

「……。」

「貴様は自分自身の真紅眼の黒竜を失った。
このままでは勝てない、と思っているな?
そして今、私が召喚した真紅眼の黒竜の攻撃を
罠カードで無力化し、
次のターン、魔法カードでコントロールを奪おうとしている。」

「……。」

吹雪さんは静かに目を閉じた。
まさか、本当に……?

「だがその目論見もこのカードで消え去る。
女ともども消え去るがいい!
魔法カード発動!黒炎弾!!」

真紅眼の黒竜の口が開かれ、火球が放たれようとしている。
これは……あの周子が吹き飛ばされたときと同じような……!

反射的にあたしの足は吹雪さんに向かっていた。

「吹雪さ……!」

「ダークネス。僕が1つミスをしたと言うのなら、
お前は2つのミスを犯した。」

「何だと?」

……え?

吹雪さんの顔は、やられる直前の自失呆然とした表情では無かった。
その先にある勝負をまだ見据えてる顔だった。

「1つ……確かに僕の真紅眼の黒竜はすでに墓地だ。
お前の真紅眼の黒竜を奪い取ろうとしたことも事実だ。
だがお前が僕の企みを読んで来るだろう、と言うことは
すでに感づいていた。
お前に考えが筒抜けならば、僕はその先を考えなければならない。
だから僕は賭けた。
貴様が真紅眼の黒竜で攻撃せず、そのカードを発動してくることに。」

「……戯言を。撃て!真紅眼の黒竜よ!」

「2つ目。
お前は拷問などと言う手段でさらに法子くんを傷つけ……。」

吹雪さんのリバースカードが静かに開かれた。

「本気で僕を怒らせたことだ。」

真紅眼の黒竜の黒炎弾が吹雪さんに迫る!
だが命中の直前……!!

「カウンター罠発動!地獄の扉越し銃!!
効果ダメージをそのまま……相手に跳ね返す!!」

「……!!」

黒炎弾が跳ね返り、そのままダークネスたちのフィールドに向かった!
直後、爆音が轟き、場の炎の勢いがさらに増した。

「ぐぅ、おおおお、ああああああ!!!!
ふ、吹雪ぃぃぃ!!」

「あ、あぎぃぃ、い、イタイ……
くそ、何が……あが、がぁぁ……。」

ダークネスたちは炎に包まれ、凄まじい大ダメージを負った。
ライフポイントが一気に減らされ、あたしたちよりも下回った!

ダークネス吹雪&ダークネス法子 LP 600

「これで、形成逆転だな。」


吹雪&法子 LP 900 手札1枚&1枚
場:「ブリザード・ドラゴン」
  
ダークネス吹雪&ダークネス法子 LP 600 手札2枚&1枚
場:「風帝ライザー」「真紅眼の黒竜」
  「燃えさかる大地」「悪夢の拷問部屋」「スピリットバリア」


次はあたしのターンだ。

フィールドの状況は悪い。
だけど、今の攻防で流れは完全に変わった。
吹雪さんと一緒なら……なんだって乗り越えられる!



21章「ダークネス・7」

灼熱のフィールドが互いを焼き合い、
何かが燃える嫌な臭いが立ち込める……。

完全に通常のデュエルを枠を越えた戦いだった。

「行くわよ……あたしのターン!ドロー!」

「ハァ……ハァ……貴様、ら……調子に乗るなよ……
燃えさかる大地のダメージ効果を受けろ!」

「くぅ!うわぁぁぁぁぁぁ!!」

吹雪&法子 LP 400

また、体が、焼かれる……。
そして……。

「法子ぉ!悪夢の拷問部屋、効果発動よ!
何……そのふざけた目つき!
うざい!うざい!
うざいうざいうざいうざいうざいうざい!!
目玉、つぶしてやる!!
二度とあたしにそんな目を向けるな!!」

「まずい、法子くん!ダークネスは目を潰すつもりだ。
奴らと目を合わせず、両目をしっかり手で押さえて!」

「は、はい……め……ん……はぐ!?」

吹雪さんの忠告に従い、身を屈めて目を押さえる。
再び、何か得たいの知れない力が
あたしの体を圧迫する。

びき。

気を抜けば……目が……
弾け飛ぶような感覚を覚える……。

「はぁ!はぁ!うぐ……ぐぅ!
……ッ!!
……ぎ、ぎぎ、ぎぎ……。」

吹雪&法子 LP 100

「ひ、ひっひっひ!あんたの残りライフはこれで100!
もう耐え切れる力も残って無いはずよ!
その目がブッ潰れた瞬間、どんな音がするのか楽しみ!
あは!あは!あははははは!!!!」

全身から汗が吹き出る。
周囲には灼熱の炎。
そして少しづつあたしの体力を容赦なく奪う。

「はぁ……!はぁ……!」

「ダークネス。彼女はこのくらいで屈したりはしない。
この過酷な闇のデュエルをここまで戦い抜いたことが証明だ!」

……あ……。

吹雪、さん……。

あたしはその言葉に勇気付けられ、
最後の体力で圧迫する力に耐えた。

……。

やがて、その力は遠ざかった。

「く、馬鹿な……。
ふざけてる、ふざけてる、こんなこと。
なんであんたごときが……。」

ドローカードを確認する。
……よし!

「ダークネス、あなたがあたしって言うのなら、わからない?
あたしは……絶対に負けられないの!」

「虚栄だ!そんなものは!」

「手札から、魔法発動!強欲な壺!!
カードを2枚ドロー!」

この場面で強欲な壺を引くことが出来たのは僥倖だった。
そして、あたしの引きはこれだけでは終わらなかった。

「続いて、天使の施しを発動するわ!」

「何ぃ!?」

「よし!法子くん!」

3枚を引き、捨てるカード2枚を考える。

相手の場には強力モンスターが2体。
燃えさかる大地と悪夢の拷問部屋もあるので、
これを破壊しなければ次のターンに負けてしまう。

しかし、それらの永続魔法を破壊できるカードは無かった。

どうする……?

このままじゃ……。

「法子くん。相手の永続魔法を破壊できるカードが無ければ、
君が一番最良と思える一手を選ぶんだ!
必ず僕がなんとかしてみせる。」

最良の……。

もし、この状況なら、どうやって切り抜ける?

あたしだったら……。

……よし……。

「この2枚のカードを墓地に捨てるわ。」

吹雪さんが、この状況を切り抜けるカードを
引けるかどうかはわからないけれども、信じる。

だって、吹雪さんだから。

「メインフェイズに入るわ!
ブリザード・ドラゴンの効果を発動させる!
風帝ライザーをもう一度封印!」

「ぐぅ……またしてもライザーを!
だけど、まだ真紅眼の黒竜が存在している……。
それに燃えさかる大地と拷問部屋もあるのよ!
せいぜい足掻け!ひーひひひひひ!」

「確かに……攻略するのは難しいわ。
それでもあたしはこのカードに託す!
ブリザード・ドラゴンを生贄に捧げ、
雷帝ザボルグを召喚するわ!」

「なッ……何故だ、どうしてそんなに毎ターン、
帝王カードをドローすることが出来る?」

確かに、あの地帝グランマーグを召喚できたターンから、
あたしのターンで毎回、帝王カードを召喚していた。

彼らが最後にあたしに力を貸してくれているのだろうか?

「行くわよ!雷帝ザボルグの効果発動!
真紅眼の黒竜を、デス・サンダーで破壊する!」

「ぐおぉぉぉ!」

「カードを2枚セットして、
あたしのターンは終了よ!」

あたしの手札は尽きた。


吹雪&法子 LP 100 手札1枚&0枚
場:「雷帝ザボルグ」
  伏せカード2枚
  
ダークネス吹雪&ダークネス法子 LP 600 手札2枚&1枚
場:「風帝ライザー」
  「燃えさかる大地」「悪夢の拷問部屋」「スピリットバリア」


ダークネス法子のターン。

「ドロー……。ぐぅ!?」

燃えさかる大地の炎がダークネスたちを包み込む。
ライフポイントが並んだ。

ダークネス吹雪&ダークネス法子 LP 100

「はぁ……はぁ……。
でも……先に死ぬのはあんたたちのほうよ。
くっくっく、そしてこのカードを引くことが出来たわ。
貪欲な壺を発動!
墓地に存在する、召喚僧サモンプリースト、聖鳥クレイン2枚、
クリボー、ならず者傭兵部隊をデッキに戻してシャッフル!
そして2枚ドロー!」

「う……。」

「うふ、ふふふうふふふふふふふふふ。
許さないわ。法子。
絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に!
コロシテやる!
死ね!死ね死ね死ね死ね!!あははははは!!
ブラックホール発動ぉぉぉぉぉ!!」

なんだって!
ブラックホールはフィールドに存在する、
全てのモンスターを破壊するカードだ!

「あんた!ライザーごと……!」

「そうねぇ、死んじゃうよねぇ〜。
でもね、あたしが勝利するためなら、なんだって許されるのよ!
あんただってそうでしょ!?」

「違う!あたしは勝利のためだからって、
そんな無駄な犠牲を出したりしないわ!」

「嘘ね!嘘嘘嘘!!
さっき言ったでしょ!?
あんたは自分が幸せになるためなら、周りの人の犠牲も
知ったこっちゃ無いってね!」

「もうあんたの言葉を聞いたりはしないわ!」

風帝ライザーと雷帝ザボルグが共に亜空間に飲み込まれていった……。

「カードをセットしてターンエンド……。
ひ、ひひひひ、せ、せっかく、がら空きになったのに、
こ、攻撃ぃ……出来ないのは……
悔しいわ、ね……。
でも、これで……
あぁぁたしの勝ちよぉぉぉ!!」


吹雪&法子 LP 100 手札1枚&0枚
場:伏せカード2枚
  
ダークネス吹雪&ダークネス法子 LP 100 手札2枚&1枚
場:「燃えさかる大地」「悪夢の拷問部屋」「スピリットバリア」
  伏せカード1枚


吹雪さんのターン!
ここで決まる!

「僕のターンだ!ドロー!」

「死ね!吹雪!これで終わりだ!」

「いいや、僕はドローフェイズに
このカードを発動させてもらおう!
速攻魔法、非常食を発動する!
法子くんが伏せた2枚のカードを墓地へ送り、
その枚数×1000ポイントのライフを回復させる!」

吹雪&法子 LP 2100

すごい……!

あたしが伏せた、血の代償と
洗脳ブレインコントロールが墓地へ送られた。

本当に非常食を引けるなんて!

「ちぃ……だがダメージは受けてもらうぞ!」

「くぅぅぅぅぅ……!!」

吹雪&法子 LP 1600

「そして拷問部屋の効果発動!
その腕をへし折ってやる!」

「言ったはずだぞ……僕は屈しないとな……。
うぉぉぉぉぉぉ!!」

吹雪&法子 LP 1300

雄たけびを上げ、吹雪さんが片腕を抑えながら
あたしの名を呼んだ。

「法子くん!」

「はい!」

スタンバイフェイズに、先刻、あたしが天使の施しで
墓地に送ったモンスターの効果が発動される。

「黄泉ガエルを蘇生させ、ターンを終了する……!
くぅ!?ぐは!!」

「吹雪さん!?」

「大丈夫だ……少し痛むだけ……くっ……。」


吹雪&法子 LP 1300 手札1枚&0枚
場:「黄泉ガエル」
  
ダークネス吹雪&ダークネス法子 LP 100 手札2枚&1枚
場:「燃えさかる大地」「悪夢の拷問部屋」「スピリットバリア」
  伏せカード1枚


ダークネス吹雪のターン。
だが、燃えさかる大地の効果で……。

「フッ。私のターン。ドロー!
やはり貴様も非常食で回避することを考えていたか……。」

「く……やはり……。」

「そう、私も非常食を発動する。
スピリットバリアと、この伏せカードを墓地へと送る。
これで私のライフは保たれた!
燃えさかる大地と悪夢の拷問部屋は残しておこう……
貴様らにさらなる苦痛を与えるためにな!」

伏せられていたカードはマジックブラストだった。
非常食で墓地に送るために伏せたのだろう。
ダークネスたちの行動は、非常にあたしたちとよく似ていた。

ダークネス吹雪&ダークネス法子 LP 2100

「そして燃えさかる大地の効果により、ダメージを受けよう。
ぬぅぅぅ、く、クククク。フハハハハハ!
聞こえるか?この業火の中から……怨念の声が……。」

ダークネス吹雪&ダークネス法子 LP 1600

「怨念……来るか?あのカードが。」

「行くぞ!黙する死者を発動!
墓地より真紅眼の黒竜を蘇生させる。
そして生贄に捧げ……。」

「ああ!いけない!」

「これで貴様らに勝ち目など無い!
真紅眼の闇竜を特殊召喚!!」

真紅眼の黒竜の殻≠破り、獄炎を撒き散らしながら
真紅眼の闇竜がその姿を現した。

「墓地に存在しているドラゴン族の数は
ブリザードドラゴン、黒竜の雛、真紅眼の黒竜
そして天使の施しで墓地に送ったモンスター2枚!合計5体だ!
よって攻撃力1500ポイントアップ!」

攻撃力3900!
まずい、この攻撃力に太刀打ち出来るカードは……。

「フン……攻守100のザコモンスターごときが!
消えろ!ダークネス・ギガ・フレイム!」

「ぐぅ!」

凄まじい炎が黄泉ガエルを包み込み、跡形も無く消し去った……。

「……あなたたちほどモンスターを邪険に扱う人、
見たことも無いわ。」

「まだそんなこと言っているの……法子?」

「ましてや対戦相手を傷つけるその残忍な手段……。
あたしのことなんて、もうどうでもいい!
吹雪さんを傷つけて……
もうこんなデュエル、終わりにしたい!
悲しい!デュエルじゃない、もうこんなの!」

「法子、くん……。」

吹雪さんが憔悴しきった顔をしている。
先ほどの燃えさかる大地と悪夢の拷問部屋ダメージが蓄積されており、
今また真紅眼の闇竜の攻撃の余波を受けた。

もう、きっと体力の限界なんだ……。
そして、あたしも……。

「あたしは吹雪さんと一緒に帰る!
だから……。」

「だから?どうするというのだ。
たかが貴様に何が出来ると言うのだ?
もうお前たちには何も残されていない。
可能性は無い!ターンエンド!」


吹雪&法子 LP 1300 手札1枚&0枚
場:無し
  
ダークネス吹雪&ダークネス法子 LP 1600 手札0枚&1枚
場:「真紅眼の闇竜」
  「燃えさかる大地」「悪夢の拷問部屋」


……だから。

だから、あたしは!!

「絶対に負けないわ!!
あたしのターン、ドロー!!」

「もぉあんたにこれを耐える体力は無いでしょー!
燃えさかる大地と悪夢の拷問部屋の効果発動!」

炎が巻き上がり、あたしを包み込む。
そして同時に目が圧迫され、指が折れ曲がり始めた。

本気で殺しにかかってきた。

ライフがまだ残っていようと、
ショック死してしまうかも……しれ、ない。

「わああぁぁぁぁ!!」

「あは、あはははは!!あははははは!!
ハハハハはははひゃーーーはははは!!!」

……!
後ろから誰かが抱き付いてきた。

「すまない、僕のせいでこんなに酷いことに巻き込んでしまった。」

「吹雪さん……。」

「せめて……痛みを和らげるくらいのことは……
してみよう……。」

あたし一人に纏わりついていた炎が二分化され、
吹雪さんに燃え移る。
同時に拷問による痛みも僅かばかりに和らぎ、
代わりに……代わりに……!!

「ッが……!!」

吹雪さんの右目から溢れる鮮血……血しぶき!!
そんな!

「いや、いやぁぁ!!」

「だ、大丈夫……平気さ……
少し、まぶたが切れただけさ……。
それより、法子くんは?」

頭を縦に振る。
あたしの体は、節々に痛みを感じたり火傷を負っているものの、
深刻な影響は無かった。
だけど……。
心臓をえぐられた気分だ。

吹雪&法子 LP 500

「そう……無事ならいいんだ……。
……これまでだ、このデュエル……。
僕は最後の力で君を現実の世界に送り返す。
みんなには……すまないが……。」

「嫌です……。」

「ダメだ。僕に構って君まで闇に飲み込まれてはいけない!」

「まだ可能性はあります!
あたしの、あたしの引いたカードは……。」

貪欲な壺。

この土壇場で引き当てることが出来たドロー増強カード。
状況を逆転できる最後の、最後の可能性。

「しぶとい……法子……。
もう負けは決まってるようなものなのに!
いつもみたいにベソかいてりゃいいのよ!!
大人しく負けて!あがくな!
みっともない!情けない!惨め!!」

「そうね……確かにあたしはちょっと前までは
なんでもすぐ諦めたり、落ち込んだりしてたかもしれない。
でも今は違う。
先輩も、サラも、周子も。
みんなあたしに期待してくれていた。
こんなあたしなんかのために!
そして今、吹雪さんがあたしを守ってくれた。
みんなの思い、気持ちを……踏みにじることなんて出来ない!
だから諦めない!!」

「それが情けねぇっつってんだよ!!!!」

「スタンバイフェイズに黄泉ガエルが復活!」

消し炭の中から、一匹の小さなカエルがぴょこっと顔を出す。
希望の灯……あたしの切り札のための布石!

「手札から魔法発動!貪欲な壺!
ダンディライオン、マシュマロン、
地帝グランマーグ、炎帝テスタロス、雷帝ザボルグを
デッキに戻し、シャッフル!」

燃えさかる大地と悪夢の拷問部屋の効果で、次は無い。
なんとしても……なんとしても……。

お願い!

「2枚ドロぉ―――!!」

「勝てるわけ無い!!
あんたみたいなやつが!クズが!!」

「……月の書を発動!
真紅眼の闇竜を裏側守備に変更するわ。」

真紅眼の闇竜が上昇する数値は攻撃力のみだったはず。
ならば、守備表示に変更してしまえば……。

「それでも守備力は2000ある!
並のモンスターの攻撃力では突破できんぞ!」

「黄泉ガエルを……生贄に捧げ……。」

「嘘だ……引けるわけが無いんだ……引けるわけが……。」

「諦めない……だから引けた!引いた!
氷帝メビウスを召喚!
効果発動!!フリーズ・バーストォ!」

氷帝メビウスが放った氷の刃が、
燃えさかる大地と悪夢の拷問部屋を粉砕した。
これでようやく、効果ダメージを受けることは無くなった。

「法子くん……!」

「吹雪さん!あなたのカードです!
行っけぇぇー!アイス・ライス!!」

続いて、氷の槍が真紅眼の闇竜の体を貫いた。
ダークネス吹雪が怨念の叫び声を上げる。

「ぐぉぉぉぉ!!
こんな……こんなことが!起きるはずが!」

「これでターンエンド!
さぁ!あたしの姿をしたダークネス!あんたのターンよ!」


吹雪&法子 LP 500 手札1枚&0枚
場:「氷帝メビウス」
  
ダークネス吹雪&ダークネス法子 LP 1600 手札0枚&1枚
場:無し


またもや、状況は反転した。
この場にいるプレイヤー、全ての体力はもう限界だ。
何か仕掛けるにしても、正真正銘最後の攻撃になるだろう。

「はぁ……はぁ……法子……。
殺す……殺す……。ころ……す……。」

ダークネス法子はドロー宣言もせずに静かにカードを引く。
うわ言のようにあたしへの恨みを言い連ね、
幽鬼のように身を屈めてカードを発動した。

「あはは、あはははは!!はははは!!!
強欲な壺!!発動ぉぉぉぉ!!」

なんだって!
まずい!

「そして800ポイントのライフを支払い、
早すぎた埋葬を発動……行け、行けぇ!
風帝ライザーを特殊召喚!」

ダークネス吹雪&ダークネス法子 LP 800

何度目の出現だろうか?
鎧のそこかしこがヒビ割れており、痛々しさを感じる。

「同士討ちだ……こうなれば!
風帝ライザー!氷帝メビウスを道連れにしろぉ!」

「く……!」

互いの攻撃が同時に命中し、2体の帝は砕け散った。

「がら空きになったけど……このカードを使えば何も問題は無い……。
光の護封剣を発動!3ターンの間、攻撃を封じるわ!
ターンエンド……
あ、あは、あははははは……
うふふふふふ、ふふふふ、ふふふふははは
えへへへへへへへははははへへへ
きゃは!きゃははははは!!!!」


吹雪&法子 LP 500 手札1枚&0枚
場:無し
  
ダークネス吹雪&ダークネス法子 LP 800 手札0枚&1枚
場:「光の護封剣」


「はぁ、はぁ……ん?
おや、僕の、ターン……みたいだね……。」

吹雪さんのターン……しかし……。
すでに意識が朦朧としており、とても続けられる状態ではない。

「吹雪さん……もう……。」

「フフ、まだ、少しくらいは動けるさ……。
確かに、戻りたいな、アカデミアに……。
行くよ、僕のターン!ドロー!」

血にまみれた吹雪さんの表情は、鬼気迫るものを感じる。
そして同時に、何かに安心しているような……
そんな顔だった。

「スタンバイフェイズに黄泉ガエルが復活する。
そして、僕もだ……強欲な壺を発動し、2枚ドローする!

「ははん!今更!
あんたも大人しくしてれば、ラクに闇に飲み込まれたものを!」

「手札を1枚捨て、死者転生を発動!
墓地に存在するモンスターカードを1枚手札に加える!」

「モンスターカードぉ?残念だけど……
光の護封剣に阻まれて攻撃することは……
あッ!?」

「そう……僕が手札に加えるのは氷帝メビウスだ!
そして黄泉ガエルを生贄に捧げ、召喚する!!」

氷帝メビウスは……今再び吹雪さんの手元へと戻った。
そして効果が発動される。

「光の護封剣を破壊する!
そして……これで終わりだ!!」

氷帝メビウスが、ダークネス法子へ向けて巨大な氷を放った!
だがその氷は届く前に爆砕され、命中することはなかった。

「……!?」

「ひひひひひひ……あたしはこのカードを持っていたわ……
貪欲な壺でデッキに戻ったクリボーをねぇ!!」

またしてもクリボーに……!

「……カードを1枚伏せて、ターンエンドだ。
うぐ……法子、くん……後は……。」

ガックリと膝をつき、吹雪さんは意識を失った。

……。

あたしのために……。

あたしのために、こんな!

「あああああああああ……ああああぁぁぁ……。」

涙が止まらない……。

このデュエル中、抑えていたものが一気に目からあふれ出てくる。

どんなに痛くても、苦しくても、この人と再開するまで泣くまいと
誓ったのはいつだっただろうか。
そしてそれが破られたのもいつだっただろうか。


吹雪&法子 LP 500 手札0枚&0枚
場:「氷帝メビウス」
  伏せカード1枚
  
ダークネス吹雪&ダークネス法子 LP 800 手札0枚&0枚
場:無し


ダークネスたちは手札も場も何も無い。
だが、ダークネス吹雪の口元は焦りを感じさせず、
狂気じみた笑みを浮かべている。

「馬鹿な吹雪め……そんな小娘のために何故そこまでする?
こうなれば、まとめて……共に闇に引きずりこんでやる……
私のターン、ドロー!
そしてセットし、ターンエンド、だ……。」


吹雪&法子 LP 500 手札0枚&0枚
場:「氷帝メビウス」
  伏せカード1枚
  
ダークネス吹雪&ダークネス法子 LP 800 手札0枚&0枚
場:伏せカード1枚


あたしのターン。
もう何も言うことは無い。
ただ、カードを信じるだけだ。

「あたしのターン!ドロー!」

「そこまでだ!!ドローフェイズにリバースカード発動!
破壊輪!!
モンスター1体を破壊し、お互いにその攻撃力分のダメージを受ける!
これで何もかも終わりだ!!」

「ほぉぉぉぉぉら!!!!
やっぱり無駄だった!!
あんたがやってきたことは全て無駄だった!!
これで、全部、全部全部消えて無くなってしまえぇー!!
あはははははははははははははは!!!!」

「いいえ!終わりはしない!
吹雪さんが最後に伏せたリバースカード!
強制脱出装置を発動!!
氷帝メビウスを手札に戻す!!」

「な!!」

「スタンバイフェイズに黄泉ガエルが復活!」

「あぐ!?あぅ、ああぁぁ……
やめて……法子……やめろ!やめろやめろやめろ!!」

「あたしは帰る……みんなのところへ……。
黄泉ガエルを生贄に捧げ、氷帝メビウスを召喚!!
そして!!」

吹雪さんを抱きかかえて、最後の攻撃宣言を下した。

「氷帝メビウスの……攻撃!!」

「あああああああ!!!!」

「行けぇ―――!!!」

氷の槍が二人のダークネスを貫いた瞬間……
閃光が走った。
光があたしたちを包み込み、そして……。


ダークネス吹雪&ダークネス法子 LP 0


まぶしくて何も見えないし、何も感じなくなった。
しかし、温かい手の感触だけは伝わる。

ああ……あたしは今、吹雪さんと一緒にいるんだな……
ということを、今更ながらに感じ取っていた。



終章「石原法子&天上院吹雪」

タッグフォース大会が終了し、吹雪さんが学園に戻り、
元の日常が帰ってきた。
あたしと周子は少し寝たきりの生活が続いたが、
すぐに体は完治して支障ない学園生活を続けることが出来た。

デッキは無くなったが、キーカードがそれぞれ残っているので、
すぐにでも再構築できるだろう。

意識を取り戻した周子に、まずあたしは泣いて謝った。
土下座したいくらいだった。
すると周子も泣き出してしまい、しばらく二人で抱き合いながら泣いた。

ふと周子に、何故火山で助かることが出来たのか訪ねてみると、

「えっとね、よく覚えて無いんだけど……
落下の最中、大きなドラゴンが背中に載せてくれて、
溶岩が届かない場所に運んでくれたの。
きっと、お姉ちゃんもそうやって
助かったんじゃないかと思うの。」

大きなドラゴンとはなんだろうか。
周子が可愛がっていたホルスの黒炎竜が実体化し、
助けたとでもいうのだろうか。
もしかすると、たまたま、あたしたちは
運良く溶岩が来ない岩肌に落ちただけなのかもしれない。
真相はわからない。

吉澤先輩はタッグフォース大会終了後に正式に結婚し、
みんなに見送られながらこの島を去っていった。
あたしはそのとき激痛で動くことも出来なかったので
見送り出来なかったのが残念だ。
テスタロス大事にしてね、というメールだけが
あたしのPDAに残された……。

吹雪さんも意識を取り戻してからは、
だんだん回復していき、直に復帰できるそうだ。
吹雪さんは長いあいだ行方不明だったためか、

「留年確実。まいったねこりゃ。」

と苦笑していたが、とても嬉しそうだった。
ちなみにあたしも出席日数が相当やばいことになっている。

吹雪さんが帰ってきたと知った女子の勢いは凄いもので
あまりに多くの女子が押し寄せるので、
面会謝絶になることもしょっちゅうだった。

やがてそれも落ち着いた頃、あたしは吹雪さんのお見舞いに向かった。

「ダークネスに触れた君には、話しておかないとな。」

それは吹雪さんの長い行方不明に関する話だった。

数ヶ月前、吹雪さんは大徳寺先生に廃寮に呼びよされ、
そこで錬金術による闇の呪法で心に闇を植え付けられた。
そして真紅眼の黒竜のカードを受け取り、
いつか丸藤先輩から聞いていた、
ひたすらに勝利を求めるデュエルに没頭し、
その心の闇は「真紅眼の闇竜」を産み出す。

そして火山のマグマの内部に存在する
闇の異次元空間へ連れ去られ、
そこで永遠と吹雪さん自身が産み出した真紅眼の闇竜の化身、
ダークネスとデュエルを繰り返していた。

やがて吹雪さんの意識は拡散し、ダークネスがその体を乗っ取り、
闇の刺客の一員となり、あたしたちと戦った。

「大徳寺先生は何故そんなことをしたんでしょうか……。」

大徳寺先生ことアムナエルは、
とあるオシリスレッド生徒とのデュエルに敗北した後、
体が灰のようになって死んでしまったという……。
やはりあの体はすでに限界に来ていたんだ。

「そうだね……僕が思うに……
おや、ファラオじゃないか。」

いつの間にか、一匹の猫が病室に紛れ込んでいた。
まるまると太った猫で確か大徳寺先生のペットだったはず。
名前はファラオと一風変わった名称だ。
ファラオはベッドにちょこんと座り込み、大きなあくびをした。

そのとき。

「あれ……?」

ファラオの口の中から、小さな光の球体が出て来た。
それはあたしと吹雪さんの周りをぐるりと移動し、
やがてどこかへ消えた。

なんだったんだろうか?

「僕が思うに……大徳寺先生は僕を、
いや、アカデミアの生徒全員を試していたのかもしれない。」

「試す?」

「大徳寺先生は何年も……何百年も生きてきた。
そんな彼が、まだ20年も生きてない僕らが
強大な闇に打ち勝てるかどうかを。」

「三幻魔みたいな……ですか?」

全ての元凶である、三幻魔復活を目論んだ黒幕は
多くの闇の刺客たちと共に、ある少年に敗北した。
そして三幻魔のカードがどうなったのかは誰も知らない。

だが有力な説は、その少年が三枚とも回収したということだ。

事実を知っているは本人だけだろう。

「三幻魔が滅んだということは、
きっと大徳寺先生の願いは成就されたのかな……
と僕は考える。
都合のいい解釈かもしれないけどね。
三幻魔が無くなっても、
彼の遺志は僕たちアカデミアの生徒が受け継いでいくべきだ。」

「はい。」

確かに吹雪さんの言う通り、
大徳寺先生は誰よりもアカデミアの未来を憂いていたんだろう。
三幻魔のカードがもし健在なら、
今回の事件の影響でそれと狙う人もいるだろう。
あたしたちがアカデミアを守らないといけないんだ。

「吹雪さん、このカード……。」

吹雪さんの枕元には、真紅眼の黒竜と
真紅眼の闇竜のカードが置いてあった。

「まだ真紅眼の闇竜には、ダークネスの思念が色濃く残っている。」

「え!それは、危険なんじゃ!」

「そうだね。いっそ処分しようかと思った。
でも……きっとこのカードの力を、
ダークネスの力を借りるときが来るかもしれない。
……気になることが一つあってね。」

「気になること?」

「僕が真紅眼の黒竜を使っていたころ……
亮が僕を正気に戻そうとして、彼も……禁断のカードを使ったんだ。」

あのときの話だ。
そう、キメラテック・オーバードラゴンを……。

「いつか亮は力を求め、闇に囚われるかもしれない。
そのときは僕が同じ闇の力で彼を連れ戻す。
真紅眼の黒竜は、いつの頃からか、
友情を象徴するカードと言われているんだ。
僕はそれに賭けてみたい。」

そう言った吹雪さんの目から、とても強い意思を感じた。


・・・


そろそろ面会時間が終わりに近付いて来た。
あたしがここに来た理由は、まだある。

告白だ。

しかし……。
それは……。

「法子くん、どうかした?」

もじもじしてるあたしを不思議に思ってか、
吹雪さんが心配そうに、顔を覗きこんできた。
なかなか告白に踏み出せないのは理由がある。
それはあのダークネス法子のデュエルで言われたことだ。

あたしは……

周子もサラも踏み台にして……。
抜け駆けしようとしてるの……?

あたし……。

あたしは……。

吹雪さんのことが好き。

周子も吹雪さんのことが好き。

サラも吹雪さんのことが好き。

出来ることならみんなで幸せになりたい。

でも、それはきっと無理。

どうしよう?

どうすればいいの?

あれこれ考えていると、病室の外から地響きが鳴った。

「……何?」

「あ!いかんいかん。これはきっとたくさん来たな。」

吹雪さんはそう言うとベッドから飛び上がって
窓から外に飛び出し、
なんと壁をよじ登って屋上のほうに消えてしまった!

「えぇ〜〜〜〜!?」

あまりに驚いてボーゼンとしていると
病室のドアが勢いよく開かれ、大量の女子がなだれ込んで来た!

「あ!石原さん!吹雪さんはどこ!?
吹雪さんが回復したって聞いたわ。」

「隠すとためにならないわよ!」

「元気になった吹雪さんに今日こそアタックしちゃうんだから!」

と口々に勝手なことを言いながら部屋内を散策し始めた。
まるで獲物を探すハイエナの集団。
吹雪さんはこれを予見して逃げたのだ!

窓から身を乗り出して上を見上げた女子が叫んだ。

「上よ!上にいるわ!回り込んで囲むのよ!」

それを聞いた女子たちは一気に廊下を疾走していった。
まずい!
このままじゃ吹雪さんが!

追いかけようと部屋を飛び出すと、何人かの女子が吹っとんだ。

「な、何が起こったの?」

そこには廊下の真ん中で、
ホルスの黒炎竜LV8を従えた周子が仁王立ちしていた。

「お姉ちゃん、早く!」

「ち、周子……。周子も来るのよ!」

「ダメ!私はここでみんなの足止めをする。だから早く!」

「あ、あたしは、あたしは周子のこと見捨てるなんて出来ない!
周子だって好きなんでしょ!?
だから一緒に!」

周子はあたしに振り返り、ニカっと微笑んだ。

「うん、好き。でもお姉ちゃんも好き!
私だって負けないもん!いつか吹雪さんを振り向かせてみせる!」

女子生徒が様々なモンスターを召喚した。

「時間無い!早く!」

「ゴメン、ゴメン周子!」

「お姉ちゃん!あたし、負けないんだからね!
さぁみんな……かかって来て!」


背後で激闘の気配を感じながら、あたしは階段を駈け登って行った。


次の階にも多くの女子生徒が待ち構えている!

一瞬のうちに囲まれてしまった。

「あら石原さん……どこへ向かわれるのですか?」

「くっ……せっかく周子が時間をくれたのに!」

万事休すと思われたが、同じように何人かの生徒が吹き飛んだ。

こ、今度は誰……?

「苦戦しているようですね。」

「さ、サラ!?」

「お久しぶりです。ですがこの状況、
あまりのんびりしている時間は無さそうですね。
さぁ、先を急いで下さい。」

「サラ!あんたまで……。」

「法子さん。占いであなたがやってきたことは見せていただきました。
あなたは一番頑張ったんです。
だから吹雪さんの元へ行く資格が充分あります。
早く!」

「サラ!」

「しかし……ふふ、私はあきらめませんよ?さぁ!」

「ゴメン!
みんな、ゴメン!」


サラを背に階段を駆け上がる。

吹雪さんは屋上に向かったはず。
後は階段を二回上がれば……

「あ!」

ここにも女生徒が!

後一回階段を上がるだけなのに!

もう救援は無い。
こうなれば……。

「やってやるわ!行くわよ!」

ふと、四帝の言葉を思い出す。
あのとき、屋上で吹雪さんとあたしが楽しそうにおしゃべりする未来。
それはあたしが試練を乗り越えれば行ける、と言われた。

その試練とは吹雪さんと共に戦った、
ダークネスとのデュエルのことでは無かった。

このオベリスクブルー女子生徒、
全員にデュエルで勝利することだったのだ。
道は遥かに険しい。
周子もサラもやっつけないといけないだろう。

あたしは吹っ切れた。
抜け駆け?踏み台?
それがなんだというのか。

正々堂々と戦う。
そして吹雪さんにも、みんなにも認めてもらえばいい。

そう考えるとなんだかスッキリした。

いいわ……やるわよ。やってやろうじゃん!

あたしはデュエルディスクを構える。


デュエル!!


「行くわよ!!あたしのターン!ドロー!」

全ての戦いに勝利したら、言おう。

今度こそ、この言葉を。


吹雪さん、大好き!!



――帝王の涙 終――





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