決闘は進化する
製作者:ヴァーサスさん
「ライディングデュエル」それは、スピードの世界で“進化”したデュエル―――
※この小説は5D’sの世界観を基にしています
※作者がよく覚えていないところなどはアニメと多少食い違うかもしれませんがそこは二次創作ということで勘弁してください(でも指摘してくれると次回以降直すかも)
〜序章〜 −ゼロ・リバース−
「おい、知ってるか?今海馬コーポレーションが新しいエネルギーを開発してるらしいぜ!」
「あぁ、あれだろ、“モーメント”とか言われてる奴な」
「何だよ、知ってたのか」
「知ってるも何も、試験運用テストが明日行われるんだぜ?」
俺がそう返すと、三島(みしま)拓(たく)は、軽く舌打ちしてそれじゃあまた明日な、とこちらに手を振った。
「おぅ、明日もデュエルしような」
そう言って俺はネオ童実野シティの道を、拓とは逆の方向に歩いていった。
家に帰り、待ちかねたようにズボンのポケットからデッキを取り出す。俺の愛用するデッキだ。
俺がデュエルを始めたのが三年前―― 中学三年生の時だ。拓に勧められて、ストラクチャーデッキを買ったのが始まりだったかな。
今でもそのデッキを強化しながら使っている。そう、この三年間で俺も拓同様、デュエルモンスターズにどっぷりはまっていた。
――うーん……やっぱり異次元の女戦士は必要だよなぁ………
デッキを強化しているうちに、いつの間にかそんなことをつぶやいていた。
まだ大した大会にも出たことがないのに、モーメント機構搭載版のデュエルディスクを早くも予約してしまっている。気分だけは、一人前のデュエリスト気取りだ。そんな自分を見ていると、何故か笑いがこみ上げてくる。
そんなこんなでデッキを作り終えると、もう空は白んできていた。
「よっし!今日こそ拓に一泡吹かせてやるぜ!」
俺、千里(せんり)蓮(れん)はそう宣言すると、威勢良く家を出た。
「なぁ、今日のショップ大会に出てみようぜ」
――ふと、拓が言った。
「おぅ!昨日徹夜でデッキ強化した成果を見せてやるぜ!」
俺は即答で同意した。それが何を意味するかも知らずに………
大分遠くまで来た。少なくとも俺はそう感じた。
いや、現に遠くまで来ていた。隣町の、いかにも都会といったような所だった。
町の中心部から離れた海沿いに住んでいた俺たちには、これほど立体的に、無駄なく空間を使ったような町は縁がなかった。
そんな町並みを見ているうちに、「このハイウェイでデュエル出来たらなぁ」とか考えていた。このあたりの住民も、少なからずそんなことを考えているのかもしれない。
俺がそんな物思いにふけっている間に、どうやらショップに着いた様だ。
「来い!氷帝メビウス!!」
拓がそう叫ぶと、ショップの一角にあるデュエルテーブルにモンスターのソリッド・ヴィジョンが投影される。
「氷帝の効果で伏せカードと護封剣を破壊してダイレクトアタック!!」
拓の対戦相手 LP1600→0
「俺の勝ちだね!」
拓がそう高らかに宣言し、準決勝第一試合は幕を閉じた
「ならず者傭兵部隊召喚!効果でサイバネティック・ワイバーンを撃破!」
デュエルテーブルに投影されたならず者達が、すぐさま相手のモンスターを巻き込んで自爆する。
「さらに死者蘇生を発動して今破壊したサイバネティック・ワイバーンを特殊召喚!ダイレクトアタックだ!」
爆風の中から現れたサイバネティック・ワイバーンは蓮の場に移動していた――
蓮の相手 LP2500→0
俺も順調に勝ちあがり、遂に拓との決勝戦を迎えた………と、その時―――
――カッ!!
空が一瞬紫色に光った。
周囲がざわめく……
これは…モーメントの光か?――誰かがそう言った。
すると、周囲の人がそれに呼応するように話し出した。「モーメントなのか?」「試験稼動実験って今日だったよな?」「さ……さぁ?俺は知らないけど…」
………!!
「おいッ!拓、逃げるぞ!!」
「えっ……ちょっとそれどういう?」
「いいから!」
そう言って俺は無理やり拓の手をとって走り出した。
それもそのはず―――光は音を立ててこちらに向かってきているのだ。
外に出たときには、もう手遅れだったのかもしれない。
光は見る見るこちらに迫り、もう眩しいほどになっていた。
途中、拓が転んだ。
大したダメージは負っていないらしく、すぐに起き上がったが、「あれ?俺のデッキがない……」と言ってあたりを探している。ふと、俺のすぐそばに拓のデッキケースを見つけたので、それを拾って宅に駆け寄る。
「あったぞ、お前のデッキ!」
俺がそう言いながらまだ完全には起き上がっていない拓に手を伸ばすと、
「サンキュー!早くお前の新デッキと戦いてぇな!」
と言いながら拓は俺の手を取った。
……………はずだった。
俺が拓の手を掴む一瞬前、その一瞬に、俺の目の前を紫電が走り抜けて行った。
俺の目の前にいて、俺の手を掴んだはずの拓は、閃光の向こうに消えていた。
この一瞬、この瞬間こそが、二人の運命が分かたれた瞬間だった。
〜一章〜 −二年の月日−
あの忌まわしい事件から、二年がたった―
ゼロ・リバースから、二年がたった―
サテライトが誕生してから、二年がたった―
サテライトがシティから差別されるようになって、二年がたった―
サテライトの人間がゴミの処理やリサイクルをして過ごす様になって、二年がたった―
俺達の故郷が荒れ果てた無法地帯となって、二年がたった―
拓が死んで、二年がたった。
俺と拓はサテライト出身だ。俺はこの二年間、サテライトで労働している。
シティとサテライトの境界に行ったのが二年前。そしてそこで拓は死んだ。
あの時の拓のデッキを俺は持っている。しかし、使ったことはない。それどころか、デッキケースを開いたこともない。
このデッキを見たら、俺はどうなってしまうのだろう……
狂って自殺を図るのだろうか。それとも、狂ったように泣き叫ぶのか。どちらにせよ、精神が崩壊しかねないと思う。いや、いっそのこと、その方が楽かもしれない。そう思った。
しかし、そんな物思いも許さないかのごとく、サテライトでの労働は休むことなく続いた。
そんな中で、自殺した者もいた。シティに向かって泳いで行った者もいた。そんな事をしてもシティにはたどり着けないだろうに。
シティから流れてくるジャンクパーツで、テレビを作った奴がいた。
皆でテレビを見て、シティの情報を手に入れた。
ある時、テレビにモーメント搭載デュエルディスクのCMが映った。
その一ヵ月後くらいから、シティから流れてくるジャンクパーツに、モーメントが加わった。
ある者は、モーメント搭載型デュエルディスクを高値で買った。
またある者は、ジャンクパーツから自分でデュエルディスクを作成していた。
サテライトでも、デュエルモンスターズは流行していた。シティの環境には若干の遅れをとるものの、デュエリストたちは皆活気に満ち溢れていた。
サテライトに、希望を持つ人が増えていた。
それはいきなりの事だった。
緑色のランプが光り、モーメントの輝きを持ったバイクが現れた。
「D−ホイール」次世代型デュエルマシンとなるべく製作が開始されているモーメント搭載バイクだ。
サテライトのデュエリストたちは、不正にデュエルディスクを入手したと言われ、その多くがセキュリティと名乗る男に連れて行かれた。
そして彼らは、“マーカー”付となって戻ってきた。
デュエルディスクや、カードの多くはセキュリティに奪われた。俺はデュエリストだということを誰にも話していなかったから無事で済んだ。あの事件の後で、デュエルをする気にはどうしてもなれなかったのだ。
人々の僅かな希望だったデュエルモンスターズは、セキュリティによって、突如として奪われた。
サテライトから、希望の色は、次第に消えて行った。
そんな時だった。“彼”が現れたのは。
ある日、シティに面した海岸のアジトに、一台のD−ホイールが停まっていた。
彼は名を名乗らなかったが、すぐに皆と打ち解けた。
彼の活気にあふれた言動は、俺たちにとって、どこか懐かしく、新鮮だった。
彼は橋を作り始めた。
俺達は、彼の橋作りに協力した。
しかし、ある日セキュリティがこのことを嗅ぎ付け、かなりの数のセキュリティが、俺たちと彼のアジトの前に集結した。
そして、彼は飛んだ。日の出直後の朝日の中に羽ばたいて行った。
俺達は彼を英雄と呼び、英雄の橋を「ダイダロス・ブリッジ」と名付けた。
そしてゼロ・リバースから二年がたったある日、俺は、人生の転機を迎える事となる……
それは、一枚の招待状から始まった………
「シティでプロデュエリストとしての人生を歩みませんか?」
〜二章〜 −招待状−
その日も、俺はいつもの様にゴミの処理をしていた。
「はぁはぁ…今日はいつもに増してハードだなぁ」
そうぼやいているのは、三島(みしま)乱斗(らんと)
――拓の弟である
「手伝おうか?」
俺がそう尋ねると、「お願いします!」と笑顔で返された。
いざ手伝ってみると、意外と大変だった。
「やっぱ二人分は疲れるな」
俺が愚痴をこぼすと、すかさず大丈夫か訊いてくる。正直きつかったが、大丈夫だといっておく。
そうして今日の労働を終え、海岸のアジトで仲間たちと話し始める。
夜も更け、仲間たちも寝る体勢に入る。俺も質素なベッドに横になり、少し雑談をした後に眠りについた。
翌日、俺はクラッカーの音で叩き起こされた。
「蓮、誕生日おめでとう!」
一斉に叫ぶ声に、今日が俺の誕生日だったことを思い出す。サテライトでは特別プレゼントが貰える訳でもないので、自分の誕生日をすっかり忘れていた。他人にプレゼントを買う余裕など、ここの人達には無いのだ。
サテライトの人々は、絶対数が少ないため、シティよりも格段に上がった物価の中で、ゴミ処理で手に入るなけなしの金を使って生活しているのだ。
しかし、今年は蓮の二十歳の誕生日だからと、カードを一枚くれた。俺がデュエリストだということは、一ヶ月ほど前に、乱斗経由で洩れていた。しかし拓の話を聞いたからか、俺にデュエルを挑んでくる奴は一人もいなかった。
俺は皆がなけなしの金をかき集めて買ってくれたこのカードを一瞥すると、自分のデッキに加えた。
「ありがとう、大切にするよ」
俺がそう言うと、皆は笑顔で答えてくれた。
その日の夜のことである。
いつも通りに労働を終えてアジトに帰ると、そこに、見知らぬ男が立っていた。
「千里 蓮さんですね?私は治安維持局の者です」
そう言った男の顔に見覚えがあった気がしたが、それは無いだろうと思い直す。
それにしても、何で俺の名前を……?
「貴方には前にお会いしたことがあります。レクス・ゴドウィンという者です」
まるで俺の心を見透かしたかのような言葉に一瞬戸惑う。しかし、レクス・ゴドウィンという名を以前に耳にした覚えは無い。
「今回は貴方に誕生日のプレゼントをお渡ししに来ました」
そう言うと、ゴドウィンと名乗った男はひとつの封筒を俺に渡してきた。
「これは一体……?」
俺がそう訊くと、ゴドウィンは「招待状です」と答えた。
そしてゴドウィンはこう続けた。
「それは、本来なら三島 拓様に渡すはずだったものです」
三島 拓――その名前を聞いたとき、俺が驚愕の表情になったことは自分でも分かった。
そして恐る恐る封筒を開くと、そこには、
『プロリーグ リーグ・オブ・バトル・シティへようこそ』
そう書かれていた。
「これは………?」
俺が戸惑っている様子を見て、ゴドウィンはこう言った。
「これはネオドミノシティ治安維持局と海馬コーポレーション主催による、プロ・デュエル・リーグです。我々は、三年ほど前に、三島 拓様をこのリーグにスカウトしたのです。そして、二十歳の誕生日を迎えたら、という事でOKを貰っていました」
「それで……俺を代役に?」
「代役……といいますか、我々は貴方にもかなり興味を持っています。初戦はランキング10位のデュエリストとエキシビションという事でどうでしょうか?」
「え……いや…その……」
戸惑う俺を尻目に、ゴドウィンはこう結んだ。
「シティでプロデュエリストとしての人生を歩みませんか?明日の午後三時まで私達はこの海岸で待っています」
そう言うと、彼は海岸のヘリポートへと歩いていった。
続く...