童実野高校デュエルモンスターズ大会
第9章〜
製作者:プロたん
【作者(と言うか管理人)からのお知らせ】
今回の小説では、より多くの環境で文章を読みやすくするため、デザインを少し変えています。問題のある方は、
管理人のブログを見てみてください。
第九章 童実野高校デュエルモンスターズ大会 準々決勝
童実野高校デュエルモンスターズ大会も、二日目の決勝トーナメントを迎えた。
ぼくは童実野高校行きのバスに揺られながら、精一杯手を伸ばしてつり革につかまっていた。昨日よりも空いていたバスの車内で、昨日と同じようにあえて座らずにいた。
1回戦に勝って、2回戦はスキップして、3回戦に勝って、4回戦に勝って。
ベスト8。決勝トーナメント出場決定……!
――ぼく達は、明日の試合にすべて勝って、日曜日まで勝ち残るよ。だからさ、パパには『日曜日に見に来て』って伝えてよ。
金曜日にそんなことを言っていたぼくだったけど、本当に勝ち残ってしまうとは思わなかった。
勝ちたいとは思っていたし、実際に自分にできることはたくさんやってきた。それでも、正直、どこかで負けてしまうんじゃないかと思っていた。
運が良かったおかげだろうか。野坂さんが勝ち続けて、アドバイスもしてくれたおかげだろうか。クラスメイトのみんなが練習に付き合ってくれたおかげだろうか。
巡り合わせが良かったこともあって、ぼくは今日の決勝トーナメントに勝ち上がることができた。
大会に出れるかどうかも分からなかった頃から見れば、想像もできないほどの快進撃。ここまで来れたのだから、優勝だって狙えるんじゃないか――そんな風に思えてしまう。
だけど、この大会はそんなに甘いものじゃない。ここから先、勝つことはもっともっと難しくなる。
準々決勝、準決勝、決勝……。
昨日と同じく3回勝てればいいとは言っても、ここは強豪揃いの童実野高校。勝ち上がるのはとてつもなく難しくて、2階から落とした目薬が目の中に入ってくれるよりも厳しいかもしれない。たとえ、ぼく達のライフポイントが5倍になったとしても、優勝できないかもしれない。
――この童実野高校デュエルモンスターズ大会は、どこのチームが優勝してもおかしくないと言うことだ! 予定調和などない。不平等などない。その中で己の持つ全ての力を使い切り、新たな可能性すら発掘せよ! そして、その手に勝利の栄光を掴み取るのだ!!
だから……。
だからこそ、昨日と同じように、ぼくはぼくなりにできることを精一杯やるしかない。
かつての遊戯くん達のように、負ければ大切なものを失うわけじゃない。命が掛かった試合なんて言うこともない。
ぼくを突き動かすのは、せっかくここまで来たのだから勝ちたいだとか、パパやママにかっこいいところを見せたいだとか、野坂さんや騒象寺くんと喜びを分かち合いたいだとか、クラスのみんなにも「やったね」と褒めてもらいたいだとか、そんな気持ちだ。
決勝トーナメントに臨む心構えとしては、甘いんじゃないかと思うし、あまりカッコ良くないとも思う。
だからと言って勝ちたいという気持ちが弱いと言うつもりもないし、負けてあげるつもりだってサラサラない。
さあ、まだ見ぬ対戦者たちよ! 見ていてください! これが花咲友也、2年C組第7チームの本気のパワーです!
「友也、席が空いているのだからちゃんと座りなさいな」
「まあまあ。友也もこれから試合なんだ。友也の好きにさせてあげるのがいいさ」
大きなお弁当箱をひざの上に抱えているママと、予備バッテリーが4つも入ったバッグを片手に早速ビデオカメラを回しているパパ……。
今日の花咲友也は父母同伴だった……。
校門に生徒会の人が立っていて、
「今日の会場は体育館になります。みなさん体育館に集まってくださーい」
と呼びかけていたので、ぼく(とパパとママ)はそれにしたがって体育館へと向かうことにした。ぼくと同じバスに乗っていた生徒も、吸い込まれるように体育館へと歩いていく。
「あれ? 靴のまま入ってもいいの?」
「ほら友也、そこの張り紙。土足で大丈夫って書いてある」
体育館に到着したぼく達は、靴を履いたまま館内へと足を踏み入れる。カーペットが敷いてあるとは言え、いつもは土足厳禁である体育館に土足のまま入るのは、ちょっとだけ抵抗があった。
さて、今日の決勝トーナメントの舞台である体育館。
その体育館の中は緊迫感でピリピリした空気が充満している――などと言うことはなく、いつも以上に賑やかで楽しそうな雰囲気になっていた。
しかも、一目見て賑やかだと分かるほど、たくさんの生徒が体育館にいた。
今日の試合に出場するのは、8チーム24人。それなのに、集合時刻20分前の時点で100人近くの生徒が集まっていた。どうやら、ぼくが思っていた以上に、応援や観戦にやってきた人がたくさんいるようだった。
これだけ応援に来てくれた人がいるのだったら、ぼくのチームの応援に来てくれた人がいるかもしれない。ぼくはきょろきょろと見渡して、見知った顔がないかどうかを探し出すことにした。
あ、いた……。
見知った顔は、すぐに見つかった。
入り口からちょっと離れたところ。そこに、遊戯くん、獏良くん、御伽くん、真崎さん――2年B組の人達が話し込んでいる姿が見えたのだ。彼らは、誰もが笑顔のままお喋りを続けていた。遊戯くんのチームは決勝トーナメントまで勝ち残ることができたのだろうか。
「……あ」
そして、そこから少し奥に行ったところ。反対側のドアのあたり。
何人かの生徒に囲まれて、場違いと言えるほどものすごーく派手な衣装を着てきた男子生徒の姿が見えた。
その格好は、ものすごく変だけど、どこかで見たことのあるものだった。
「…………」
ああ、この格好はなんと言えばいいのだろう。一世代前のスターが着用していたと言えば分かりやすいのだろうか、白をベースとして星マークやら音符マークやらヒラヒラやら、やたら派手な装飾が施された衣装。
それに加えて、ハチマキ、サングラス、リーゼント。これらのアイテムが不気味に自己主張をしている。それらは、スター衣装とはどこからどう見てもミスマッチで、一度見たら嫌でも目に焼きついてしまう格好を作り上げていた。
こんな格好をしてくるのは、もちろんと言うか、当然と言うか、騒象寺くんを置いて他にはいなかった。
謎のスター衣装でキメてきた騒象寺くんを見て、ぼくはだらしなくぽかんと口を開いてしまっていた。
ああ昨日までは普通に学ランだったのに、普通のリーゼント男子学生(?)だったのに……。
今日になって、ものすごーく派手で、ものすごーく変なスター衣装を着てきちゃうなんて……。ついでにハチマキ、サングラス、リーゼント……。
ぽかんと開いた口が、ふさがらない。
ぼくは突っ立ったまま、騒象寺くんの様子を見ているばかりだった。
そんな騒象寺くんの周りには、8人の生徒が集まっていた。
あからさまに驚いている様子を見せている男子生徒3人組。
ぼくと同じくらい背の小さな男子生徒2人。
黄色のリボンを身につけたセーラー服の女子生徒。
その女子生徒に笑顔で話しかけている私服の女子生徒2人。
「楽しそうねぇ」
ママが和やかに言った。
騒象寺くんの辺りからは、遠くからでも、賑やかな話し声が聞こえてくる。
スター衣装の騒象寺くんが、大げさな身振り手振りを加えて喋ると、孤蔵乃くんが肩をすくめて、根津見くんがぷいっと顔を背ける。
その態度に騒象寺くんが突っかかると、梅田くん、竹下くん、松澤くんが慌てて止めに入る。
彼らのやり取りを見て、中野さんや小西さんが手を叩いて笑い、そのすぐ近くで野坂さんが黄色のリボンを揺らして嬉しそうにしている。
そんな彼らを、体育館の入り口のあたりから見ているだけで、なんだか胸の辺りが温かくなって、嬉しい気持ちになってくる。自然と顔がほころんでくる。やる気がむくむくと湧いてくる。
ぼくは一歩踏み出した。
よーし! 今日も、頑張るぞーーーっ!!
「パパ、ママ。それじゃあ、あとは試合で!」
「分かったわ。行ってらっしゃい」
「友也の活躍はバッチリ録っておくからね」
ぼくはパパとママから離れて、騒象寺くん達の元へと駆け出したのだった。
それから、騒象寺くんのところでお喋りに興じることにした。
騒象寺くんのスター衣装のこと、ぼくが父母同伴でやって来たこと、ぶつぶつ言っている割に根津見くんの付き合いが良いこと、決勝トーナメントに勝ち上がった他のチームのこと……。次から次へと話題が持ち上がり、それが尽きることはなかった。
しかも、時間が経つにつれ、ぼくを含めて10人だった2年C組のクラスメイトが、2人、1人、3人、2人といった具合に増えていき、決勝トーナメントが始まる午前10時になる頃には17人になっていた。昨日練習に付き合ってくれたクラスメイトより、女子生徒が2人増えていた。中野さんが誘ってくれたのだろうか。
そして、集合時刻の午前10時。
10時を回ったところで、ブチッとマイクのスイッチが入った音が聞こえてきた。
「えーえー……」
スピーカー越しに男子生徒の声が聞こえる。それに伴い、体育館の話し声が少しずつ小さくなっていく。
「それでは午前10時になりましたので、童実野高校デュエルモンスターズ大会2日目――決勝トーナメントを始めたいと思います」
体育館のステージ脇のところで、マイクに向かって喋っている男子生徒の姿が見える。昨日の開会式で司会を務めた生徒会の副会長さんが、今日も司会をしているようだった。
ぼく達の間でお喋りは途切れ、視線がステージへと向けられる。ぼく以外のチームの人達も同じように、ステージに注目をしていた。
「まずは、今日の決勝トーナメントについての説明をします」
台本のような紙を見ながら、副会長さんが説明を始めていく。
「今日の決勝トーナメントも、基本的には昨日の予選トーナメントと同じルールになります。1チーム3人のチーム戦で、先鋒同士、中堅同士、大将同士が闘います。最後の決勝戦以外では、先鋒戦、中堅戦、大将戦が同時に行われるのも昨日と同じです」
そこまで言って、一呼吸置く。
「ただし、今日のデュエルは全てこの体育館で行われます。見ての通り、体育館にはデュエルを行えるテーブルは用意していません。ここまで言えば勘の良い方ならお分かりでしょう……。そうです! この決勝トーナメントではデュエルディスクを使います!」
ステージの階段の影になっているところから、ごそっと何かを取り出す副会長さん。
つんと前に突き出すようなフォルムの板。デュエルディスクだ。
「海馬コーポレーションさんの協力で、このデュエルディスクを貸し出していただくことができました。最新技術のソリッドビジョンシステムによって、体育館のどこからでも迫力のあるデュエルが観戦できます! 応援や観戦に来た人も、これでバッチリとデュエルが見れます!」
ちょっと興奮気味にデュエルディスクを見せびらかしている副会長さん。おおっと言う声がちらほらと聞こえてくる。
デュエルディスクかぁ……。
バトルシティ直後に一般販売されて、それからある程度は普及したけれども、まだまだ高校生のお小遣いで簡単に買えるようなシロモノではない。五つ星以上のデュエリストでもなければ、かなりのお金を貯めなければ手が届くようなアイテムではないのだ。
ぼくだって、遊戯くんとデュエルする時に貸してもらうと言った、限定された状況でしか使ったことはなかった。
「しかも、このデュエルディスクは今月発売されたばかりの新モデル。今までのモデルでは、マジックアンドウィザーズにしか対応していませんでしたが、この最新モデルではデュエルモンスターズにも対応。魔法・罠カードゾーンが新規に設けられています! それだけではありません。このモデルではマイクに加えてスピーカーも内蔵されており、周囲が騒がしい中でも対戦相手の声を聞き取ることが可能となっています。最新の音声認識技術で、デュエルディスクの持ち主の音声のみをきれいに拾い上げ、各種宣言をソリッドビジョンに反映する機能も強化!」
と言うか、いつの間にか、説明がデュエルディスクの宣伝じみてきた。音声認識がどうとか、軽量化がどうとか、折りたたみ式がどうとかそんな話になっていた。もしかしたら、デュエルディスクを貸し出してもらう代わりに、こうやって宣伝を行う必要があるのかもしれない。生徒会の人も苦労しているのだなぁと勝手に同情してしまう。
デュエルディスクの説明が終わると、
「観戦の際には、対戦者の手札が見えない位置でお願いします。また、選手への応援や声援は自由ですが、アドバイスは禁止です。場合によっては強制的に退場させていただくことがありますので注意してください」
と、観客に向けた注意事項を説明して、今日の決勝トーナメントの説明がひと通り終わった。
こうやって副会長さんの説明を聞いているだけでも、いよいよ決勝トーナメントが始まるんだなぁ……と気分が盛り上がってくる。
これからぼく達は、この体育館で最新式のデュエルディスクを使ってデュエルをする。200人ほどの観客が見ている前で、ベスト8に勝ち残ったチームとぶつかり合うんだ……!
そんな風に考えたら、ぶるるっと体が震えてしまった。
「それでは、決勝トーナメント準々決勝をはじめたいと思います」
10時12分。いよいよ決勝トーナメントが始まる。
「準々決勝第1試合は、Aブロック代表『2年B組第2チーム』対Bブロック代表『1年G組第4チーム』となります。選手のみなさんは体育館の中央付近に集まってください。他の方々は、実行委員会の指示に従って適切な位置に移動して観戦ください」
副会長さんの指示とともに、体育館にいる200人の生徒が散らばり始める。
海馬コーポレーションや生徒会の人が出てきて、ステージのほうやその反対側を指差しながら誘導を行っていく。ぼく達もその指示に従って体育館のステージ側へと歩きだす。
「さて、準備をしている間に、私のほうから決勝トーナメントまで勝ち残った8チームを紹介したいと思います。Aブロック代表から順番に紹介していきます」
再び副会長さんがマイクを握る。
チーム紹介をするようだ。ぼくはちょっぴり緊張しながらその言葉に耳を傾けた。
「まずはAブロック。その代表は『2年B組第2チーム』。大将は城之内克也選手です」
副会長さんがそう紹介すると、体育館の真ん中あたりから両手をぶんぶんと振る生徒が現れた。
「ハッハッハーーッ! 男! 城之内克也! 今日は本気で優勝を狙いに来たぜ! イエーーー!」
やっぱりと言うか、城之内くん本人だった。
「ええと、そんな城之内選手ですが、予選トーナメントでの戦績は4戦1勝3敗。はっきり言って、チームの足を引っ張っています」
空気を読んで(?)副会長さんが毒づくと、体育館の中はどっと沸きあがった。「城之内カッコ悪りー」「城之内引っ込めー」「御伽サマと大将を代わりなさいよ!」――楽しげなヤジが飛び交う。
城之内くんは大声を張り上げて反論しようとしたけど、「ハイ黙ってろ」と、隣の本田くんに口をふさがれてしまった。色々と相変わらずだった。
「さて気を取り直して次にいきましょう。次はBブロック代表『1年G組第4チーム』。大将は上西沙代選手。ベスト8に残ったチームの中では唯一の1年生で、しかも女子オンリーのチームです! 丁寧なプレイングで着実に白星を重ねてきました!」
Aチームの城之内くん達と闘うのは、このBブロック代表。体育館の一角から、きゃっきゃっと女子の歓声が聞こえてくる。
準々決勝では、Aブロック代表と闘うのはBブロック代表、Cブロック代表と闘うのはDブロック代表、Eブロック代表と闘うのはFブロック代表、Gブロック代表と闘うのはHブロック代表――と言った感じに対戦相手が決まっている。
ぼく達はDブロック代表だから、準々決勝でぼく達が闘う対戦相手は、この次に紹介されるCブロック代表となる。
Cブロック代表……。
昨日は騒象寺くんに付き合っていたので、今日になるまでCブロック代表が誰なのか知らなかった。さっきクラスメイトのみんなと話している時に、初めてこの対戦相手のことを教えてもらったのだ。
「Cブロックの代表は『2年A組第2チーム』。大将は鯨田選手です。接戦続きだったCブロックを見事勝ち上がってきました!」
鯨田くんの名が告げられる。
体育館の後ろのほうで、ぽっちゃり系と言うにはちょっと横に広すぎる男子生徒の姿が見えている。彼が鯨田くんだ。彼は去年のクラスメイトでもあった。
準々決勝第2試合。ぼく達Dブロック代表『2年C組第7チーム』は、このCブロック代表『2年A組第2チーム』とデュエルすることになるのだ。
「さあ、次にいきましょう!」
副会長さんがそう言うだけでドクンとぼくの心臓が跳ね上がった。次はぼく達Dブロックの紹介なのだ。
「Dブロック代表は『2年C組第7チーム』。大将は花咲友也選手。時間ぎりぎりに申し込み用紙を出し、超がつくほど意外なメンバー構成で、それでもなお勝ち上がってきたという、とんでもない伏兵チームです!」
こんな風に紹介されることは初めてだからだろう、これだけで恥ずかしい気分になってしまう。ビデオカメラを持ったパパが、バッチリとぼくの姿を捉えていた。
しかも、「とんでもない伏兵チーム」とか言われてしまった。
周りにいるクラスメイトのみんなが笑っている。根津見くんに至っては、「これは傑作だぞ」と言って手を叩いて笑っている。その根津見くんを騒象寺くんが睨みつけていた。
とんでもない伏兵チーム――確かに副会長さんの表現は正しいと思う。
スター衣装でキメてきた騒象寺くんと言い、おとなしそうな顔で的確にカウンター罠をキメてくる野坂さんと言い、客観的に見て、自分のチームはかなりとんでもないことになっているものだと思う。
「さあ、次はEブロック代表です」
副会長さんがそう言うと、あちこちから「おおっ」という声が漏れてきた。会場の空気が少し変化したのが伝わってくる。
「Eブロック代表は『2年B組第3チーム』。大将は皆さんご存知のデュエルキング。そう! 武藤遊戯選手です! さて、この遊戯選手ですが、ライフポイント1というものすごいハンデを背負っているにもかかわらず、予選トーナメントの戦績は4戦4勝0敗。ハンデをもろともせずに勝ち上がってきました! まさにデュエルキングの貫禄です!」
会場から歓声が上がる。ぼくも思わず「おお……」という声を出してしまった。
遊戯くんのチームが勝ちあがったことは聞いていたけど、遊戯くんが全勝していたことは初耳だった。初期ライフ1で4戦全勝。やっぱり遊戯くんはとんでもない実力の持ち主だ。デュエリストの王国優勝者、バトルシティ優勝者の看板は伊達じゃない!
副会長さんのチーム紹介は続く。
「Fブロックの代表は『3年A組第2チーム』。大将は松本三郎選手。なんと予選トーナメントでの4試合中3試合がストレート勝ち。圧倒的な強さを誇っています!」
「Gブロック代表は『2年F組第3チーム』。大将は古河昭選手。メンバー全員が学年20位以内の秀才軍団で、持ち前の頭脳を生かした緻密なデッキ構築とプレイングで勝ち上がってきました!」
そこまで紹介すると、再び場がざわめいていく。
「そして、最後のHブロック。その代表は『2年B組第1チーム』! 大将は海馬コーポレーション社長――海馬瀬人選手です! 海馬選手も遊戯選手と同じくライフポイントが1になると言うハンデを背負いながら、予選トーナメントの戦績は4戦4勝0敗。遊戯選手に劣ることなく、圧倒的な実力を見せ付けています!」
驚きは半笑いの形で表情に表れる。
ははは……これはすごい……すごいや……! 遊戯くんに続いて海馬くんも、初期ライフ1で4戦全勝していたなんて!
遊戯くんも海馬くんもとてつもない実力の持ち主じゃないか! 彼らの圧倒的なパワーは、ライフポイント1という超絶ハンデですら抑え切ることができなかった! 彼らは奇跡の中を生きているとでも言うのだろうか? ぼくは戦慄せずにはいられなかった。
「以上が決勝トーナメントまで勝ち上がった8チームの紹介でした。今日のトーナメント表は、体育館の左手前のところに貼り出してありますので、興味のある方は見ておいてください」
今、ぼく達はステージのところに腰掛けて座っている。
そこから右手の壁を見ると、副会長さんの言っていたトーナメント表が貼ってあった。
【決勝トーナメント】
2年B組第2チーム(大将:城之内)──┐
├──┐
1年G組第4チーム(大将:上西) ──┘ │
├──┐
2年A組第2チーム(大将:鯨田) ──┐ │ │
├──┘ │
2年C組第7チーム(大将:花咲) ──┘ │
├──優勝!
2年B組第3チーム(大将:武藤) ──┐ │
├──┐ │
3年A組第2チーム(大将:松本) ──┘ │ │
├──┘
2年F組第3チーム(大将:古河) ──┐ │
├──┘
2年B組第1チーム(大将:海馬) ──┘
改めて見ると、遊戯くん、城之内くん、海馬くんといった、有名なメンツが着実に勝ち上がっていることが分かる。(と言うか2年B組勝ち残りすぎです)
その中に自分の名前が混じっていることが、なんだか夢のように感じられてしまう。この花咲という記載は誤植だと言われても素直に信じてしまいそうだ。遊戯くんと同じところまで上がって来ただけでも、ぼくにしては十分すぎる成果じゃないのか、そんな気すらしてくる。
そんな風に考えていた自分は、慌ててトーナメント表から目を離し、体育館の中央へと目を向けることにした。トーナメント表を見れば見るほど、弱気になってきてしまう気がしたからだ。
「準備のほうはよろしいでしょうか?」
マイク越しに低い声が響き渡った。
さっきまでの副会長さんとは違う声。どこかで聞いたことがある声だなぁと思ったら、Dブロックの予選トーナメントで司会をしていた磯野さんだった。
ぼくが座っているステージのあたりからは、200人ほどの生徒に囲まれている6人の生徒と、黒服の男の人が見えている。きっとこの黒服の人が磯野さんなのだろう。結構離れたところにいるから顔はよく見えないけど、がっちりとした体格や堅苦しい仕草は、磯野さんのものに違いなかった。
「それでは、これから『2年B組第2チーム』対『1年G組第4チーム』の試合を開始いたします! デュエルディスクを構えてください」
準々決勝第1試合。城之内くん達の『2年B組第2チーム』の試合が始まる。
ぼくに近いほうから、大将の城之内くん、中堅の御伽くん、先鋒の本田くんが立っていて、『1年G組第4チーム』の女子生徒3人と向かい合っていた。
200人いる体育館は、わずかに話し声が聞き取れる程度に静まっていた。自分のデュエルでもないのに、なんだか緊張してしまう。
「では、決勝トーナメント準々決勝第1試合――『2年B組第2チーム』対『1年G組第4チーム』。試合開始ィィィ!」
磯野さんの特徴的な試合開始宣言を受け、城之内くん達の『2年B組第2チーム』と、1年生女子達の『1年G組第4チーム』が動き出す。
たどたどしくデッキからカードをドローしたり、デュエルディスクにカードをセットしてモンスターを召喚したり、ソリッドビジョンで迫力の戦闘が繰り広げられたり、ちょっとした歓声が巻き起こったりして、先鋒戦、中堅戦、大将戦――3つのデュエルが同時に進行していく。
そうして時間が経過していき、まず大将戦に決着がつき、次に中堅戦に決着がつき、最後に残ったのは先鋒戦。
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ギガプラント
攻撃表示
攻撃力2400
守備力1200
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ギガプラント
攻撃表示
攻撃力2400
守備力1200
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剣闘獣ガイザレス
攻撃表示
攻撃力2400
守備力1500
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「『剣闘獣ガイザレス』の効果によって、2体の『ギガプラント』を破壊! そして、『剣闘獣ガイザレス』の直接攻撃! 2400ダメージ! よっっし!」
1勝1敗。最後に残った先鋒の本田くんが、『剣闘獣ガイザレス』を特殊召喚したことにより、本田くんの勝利が決まった。
「決着がつきました! 非常に接戦でしたが、2勝1敗で『2年B組第2チーム』が勝利しました! おめでとうございます!」
生徒会副会長さんが勝利宣言を行うと、体育館に拍手の音が響き渡る。
決勝トーナメント準々決勝第1試合。御伽くんが安定したプレイングで勝利し、本田くんがかなりヒヤヒヤものの戦術でギリギリ勝利して、2勝1敗。城之内くん達のチームは、準々決勝を勝ち上がった。
ただ、大将の城之内くんは、手札事故を起こし、モンスターをろくに召喚できないまま敗北していた……。
「おいおい花咲。城之内の奴めちゃくちゃ弱いな」
隣に座っている孤蔵乃くんが話しかけてくる。ぼくは苦笑いをしてはぐらかした。
「花咲達が準々決勝で勝ったらさ、次に闘うのはこの城之内のチームだろ? 御伽以外に負ける要素が見当たらないぞ……」
孤蔵乃くんはぽかんと間の抜けた呆れ顔をしている。
正直なところ、ぼくも彼と同じような気分だった。せっかくこのデュエルを見て、サイドデッキを使って城之内くんへの対策をとろうかと考えていたのに、これじゃあ対策も何もできない。対策できなくても勝てる勝負になればチームとしてはいいんだろうけど、なんだか複雑な気持ちだった。
自信満々に勝利のポーズを決める城之内くんに、会場から大ブーイングが飛んでいる。あの図々しさはちょっとだけ見習ったほうがいいかもしれない。ちょっとだけ、だけど……。
「さて! そろそろワシらのステージだな!」
ステージの奥のほうでどっかりと座り込んでいた騒象寺くんが立ち上がった。
「は、はいっ!」
どうしてもダミ声に驚いて敬語で返事をしてしまう。
野坂さんはすっと立ち上がって、スカートについた埃をぱんぱんと落としていた。
「引き続き、準々決勝第2試合――Cブロック代表『2年A組第2チーム』、対Dブロック代表『2年C組第7チーム』の試合を始めます。選手のみなさんは体育館の中央付近に集まってください」
生徒会副会長さんのアナウンスが、ぼく達のチーム名を告げている。
いよいよぼく達の試合が始まるのだ。ぼくは腰掛けていたステージからたんっと飛び降りた。
「それじゃあ行きましょう!」
ぼくがそう呼びかけると、
「おう!」
「はい」
騒象寺くんと野坂さんが返事をして、ぼくの後に続いてきてくれる。
そんな風に先頭を歩いていると、なんだか、ぼくが大将っぽい感じがしてくる。うん、まあ、大将なんだけど……。
「リボンちゃん! 絶対勝とうね!」
「花咲くんも応援してるよ!」
「騒象寺くんも頑張れよー!」
後ろから声援が飛んできて、ぼくのやる気を駆り立てていく。
ありがとう。ありがとう、みんな!
みなさん、見ていてください。この準々決勝、ぼく達は必ず勝ってみせますからね!
貸し出されたデュエルディスクは、本当に軽くなっていた。
左腕に装着したデュエルディスクを持ち上げたり降ろしたりしても、そこにほとんど重さを感じないほどだった。前に遊戯くんに借りた時はそれなりに重量感があったはずなのに、ここ半年でここまで軽くなるなんて、海馬コーポレーションの技術はすごいと素直に思った。
デュエルディスクの操作に慣れるため、数分の間、ぼく達や対戦相手の人達は、ディスクにデッキをセットしたり、カードをディスクの上に出してみたりと、思い思いにデュエルディスクに触っていた。
この時にはデュエルモードがオンになっていないので、モンスターをセットしてもソリッドビジョン(立体表示化)されることはない。デッキの内容を対戦相手に知られることなく、操作に慣れていくことができた。
「そろそろよろしいでしょうか」
審判の磯野さんが一声かけてくる。
ぼく達は「はい」「はい」「おう」と、返事をする。
対戦相手の人達も、同じように了承の返事をする。
体育館の真ん中、200人もの人垣に囲まれてできた空間に、ぼくと野坂さんと騒象寺くんが立っている。
磯野さんに誘導されるまま、それぞれが対戦相手と向かい合って、「よろしくお願いします」とあいさつをする。スター衣装の騒象寺くんも、この時ばかりはしっかりとあいさつをしていたのがちょっと新鮮だった。
それからお互いのデッキをシャッフルしあって、先攻後攻を決め、後ろに下がって対戦相手と距離を置く。足元に赤色のテープが貼られていて、ちょうど良い立ち位置が分かるようになっていた。
ぼくの右隣に野坂さん、さらにその右隣に騒象寺くん。
そして、ぼくの対戦相手の鯨田くんが、ぼくから5メートルくらい離れたところに立っている。
鯨田くんは口を半開きにして、ディスクに視線を落としている。もしかしたら緊張しているのかもしれない。
準々決勝。200人もの観客。慣れないデュエルディスク。緊張してしまうのも当然かもしれない。
当然のように、ぼくも緊張していた。だけど、デュエルディスクにある程度慣れているからか、昨日たくさんの練習をしたおかげか、隣に仲間がいてくれるおかげか――これほどの人数に囲まれていても、昨日の1回戦の時ほど酷くは緊張していなかった。
「では――」
審判の磯野さんが、右手をピシッと挙げた。
ぼく達の準々決勝が始まる……!
ぼくは、ごくりとつばを飲み込んだ。
「決勝トーナメント準々決勝第2試合――『2年A組第2チーム』対『2年C組第7チーム』。試合開始ィィィ!」
磯野さんが右手を下ろすなり、
「ぼくのターンです。ドロー」
ぼくはすかさず、ターン開始を宣言した。
デュエルモードになったデュエルディスク。ぼくは、その中央部にはめ込まれたデッキからカードを1枚引き抜いた。
これでぼくの手札は6枚。まずは、それらのカードにざっと目を通す。
E・HERO アナザー・ネオス 光 ★★★★
【戦士族・デュアル】
このカードは墓地またはフィールド上に表側表示で存在する場合、
通常モンスターとして扱う。
フィールド上に表側表示で存在するこのカードを通常召喚扱いとして
再度召喚する事で、このカードは効果モンスター扱いとなり以下の効果を得る。
●このカードはフィールド上に表側表示で存在する限り、
カード名を「E・HERO ネオス」として扱う。
攻撃力1900/守備力1300
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E・HERO オーシャン 水 ★★★★
【戦士族・効果】
1ターンに1度だけ自分のスタンバイフェイズ時に
発動する事ができる。自分のフィールド上または墓地から
「HERO」と名のついたモンスター1体を持ち主の手札に戻す。
攻撃力1500/守備力1200
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オネスト 光 ★★★★
【天使族・効果】
自分のメインフェイズ時に、フィールド上に表側表示で
存在するこのカードを手札に戻す事ができる。
また、自分フィールド上に表側表示で存在する光属性モンスターが
戦闘を行うダメージステップ時にこのカードを手札から墓地へ送る事で、
エンドフェイズ時までそのモンスターの攻撃力は、
戦闘を行う相手モンスターの攻撃力の数値分アップする。
攻撃力1100/守備力1900
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サイクロン
(速攻魔法カード)
フィールド上の魔法または罠カード1枚を破壊する。
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ミラクル・フュージョン
(魔法カード)
自分のフィールド上または墓地から、融合モンスターカードによって
決められたモンスターをゲームから除外し、「E・HERO」という
名のついた融合モンスター1体を融合デッキから特殊召喚する。
(この特殊召喚は融合召喚扱いとする)
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超融合
(速攻魔法カード)
手札を1枚捨てる。自分または相手フィールド上から
融合モンスターカードによって決められたモンスターを墓地へ送り、
その融合モンスター1体を融合デッキから特殊召喚する。
このカードの発動に対して、魔法・罠・効果モンスターの効果を
発動する事はできない。(この特殊召喚は融合召喚扱いとする)
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かなりいい感じにカードが揃っていると思う。
攻撃できるモンスターカード、融合素材に最適なカード、モンスターを補助するカード、魔法や罠を破壊できるカード、融合を行うためのカード――手札のバランスの良さが頼もしい。
これなら鯨田くんがどんな戦術で攻めてこようとも、そう簡単にはやられないはずだ。うん、幸先のいいスタートが切れそうだ!
ぼくは迷うことなく、手札の『E・HERO アナザー・ネオス』のカードに手をかけた。
「『E・HERO アナザー・ネオス』を攻撃表示で召喚します」
そう言って、デュエルディスクに『アナザー・ネオス』のカードをセットする。
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E・HERO アナザー・ネオス
攻撃表示
攻撃力1900
守備力1300
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ブウウウウンと機械的な音を立て、光に包まれながら、『アナザー・ネオス』がぼくの前に出現した。
ぼくと同じくらいの大きさの『アナザー・ネオス』は、腰に手を当てた格好のまま、銀色のユニフォームで鯨田くんのほうを見ていた。
『アナザー・ネオス』は、本場の『ネオス』よりだいぶ小さくて、ちょっと子供っぽい見た目をしている。それでも、ソリッドビジョンを通して見ると、やっぱりカッコいい。なんだかぼくの『アナザー・ネオス』がきらきらと輝いて見えるぞ……。
うーん、やっぱりヒーローは良いなぁ……。
モンスターを召喚しただけなのに、なんだか嬉しくなって、にやけてしまう。
もちろん、ソリッドビジョンにニヤニヤしていて負けました――なんてことになってはとんだ笑い話だ。ぼくは、にやけるのはほどほどに、もう一度手札を見直す。
うん。この状況では、『サイクロン』や『超融合』のカードは、伏せておくより温存しておいたほうがいい。
「ターンエンドです」
そう判断したぼくは、他にカードを出したり使ったりすることなく、最初のターンを終えた。
「ボク様のターンだ!」
ぼっちゃんカットの鯨田くんは、太った体つきの割には高い声を出して、ターン開始を宣言した。そうそう、彼はこんな声で、自分のことを「ボク様」と呼んでいた。
「ドロー!」
デュエルディスクにセットされたデッキから、カードを一枚引き抜く鯨田くん。
何かいいカードでも引き当てたのか、緊張した様子から一転、歯をキシシと見せて、にんまりとした顔に変わっていく。
その表情を見ていると、さっき『アナザー・ネオス』を召喚してにんまりとしている自分もこんな感じだったんだろうな、と思えてしまって、なんだか恥ずかしい気持ちになってくる。
鯨田くんは、にんまり顔のまま、クックックッと笑い声を出した。
「花咲! 面白いものを見せてやるよ!」
鯨田くんはそう言った。
面白いもの……? 一体なんだと言うのだろう?
「どうだー? 見たいだろ? 見たいよな?」
「は、はい……見たいです……」
「ケケ……まあ、そこまで言うなら見せてやるよ! ホラ! このカードを召喚!」
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E・HERO アナザー・ネオス
攻撃表示
攻撃力1900
守備力1300
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E・HERO アナザー・ネオス
攻撃表示
攻撃力1900
守備力1300
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「あ……」
鯨田くんの場に、さっき召喚したばかりの『E・HERO アナザー・ネオス』が現れる。
ああやっぱりカッコいい………………ではなくて!
ぼくの場に『E・HERO アナザー・ネオス』。鯨田くんの場に『E・HERO アナザー・ネオス』。
鯨田くんも、ぼくと同じくヒーローのカードを使ってきた……ということなのか!
「ホラ! 面白いだろー! ヒーローデッキvsヒーローデッキだぞ!」
鯨田くんが、どうだとばかりに得意気に喋っている。
ミラーマッチ。
自分と同じタイプのデッキが相手になるなんて、全然考えていなかった。昨日練習したクラスメイトのみんなも、ぼくと同じタイプのデッキは一人もいなかった。
ミラーマッチにはミラーマッチなりの闘い方がある。相手がヒーローデッキだからこその戦術が必要になってくる。
本当に大丈夫だろうか? 本当に勝てるだろうか? ――不安な気持ちがぼくの中に生まれてきてしまう。
ソリッドビジョンの『アナザー・ネオス』の背中が見えている。その背中は決して大きなものじゃなかったけど、そこから「そんなことじゃだめだぞ」と言う声が聞こえてくる気がした。
フフフ……。分かっている。分かってますよ、ヒーローのみんな!
このデュエル、ミラーマッチだろうが何だろうが、ぼくは負けません! 今のぼくの全力で持って、必ずこのデッキを勝利に導いてみせます!
ぼくは顔を上げた。
「さあ! ボク様のバトルフェイズ!」
これから鯨田くんのバトルフェイズ。
「ボク様の『アナザー・ネオス』は、花咲の『アナザー・ネオス』に攻撃するぞー!」
攻撃力1900の『アナザー・ネオス』が、同じく攻撃力1900の『アナザー・ネオス』に攻撃を仕掛けてくる。ソリッドビジョンの『アナザー・ネオス』が、こちらに向かってくる。
このままだと相打ちになって、どちらの『アナザー・ネオス』も破壊されてしまう。
これは、一体どういうことだろう? ここで相打ちを狙っても、次のターンで大ダメージを受けてしまうのは鯨田くんのほうなのに……。
少しだけ考えて、すぐに気付く。
まさか、鯨田くん、『オネスト』のカードを持っているんじゃ……。
「ケケ……! ぼくはここで手札から『オネスト』の効果を発動!」
オネスト 光 ★★★★
【天使族・効果】
自分のメインフェイズ時に、フィールド上に表側表示で
存在するこのカードを手札に戻す事ができる。
また、自分フィールド上に表側表示で存在する光属性モンスターが
戦闘を行うダメージステップ時にこのカードを手札から墓地へ送る事で、
エンドフェイズ時までそのモンスターの攻撃力は、
戦闘を行う相手モンスターの攻撃力の数値分アップする。
攻撃力1100/守備力1900
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やっぱり、そうなのか……!
「ボク様の『アナザー・ネオス』は、花咲のようにヘーボンなヒーローなんかじゃないぜー! 光り輝くエレメンタルヒーローの攻撃力を見ろー!」
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E・HERO アナザー・ネオス
攻撃表示
攻撃力3800
守備力1300
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E・HERO アナザー・ネオス
攻撃表示
攻撃力1900
守備力1300
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『アナザー・ネオス』の背後に、羽根を生やした天使『オネスト』が出現する。その『オネスト』から発せられる光によって、『アナザー・ネオス』は力を得ていく。
攻撃力3800になった鯨田くんの『アナザー・ネオス』には、ぼくの『アナザー・ネオス』はかなわない。
「花咲の『アナザー・ネオス』は破壊! 1900ダメージ!」
フィールドに残ったのは、鯨田くんの『アナザー・ネオス』だけだった。
デュエルディスクのライフポイント表示が8000から減っていき、6100で止まった。
「さらにカードを1枚伏せ、ターン終了だー!」
こうして鯨田くんのターンは終わる。
そんな彼の様子を見ながら、ぼくはちょっとした違和感を抱き始めていた。
「ぼくのターン、ドロー!」
さて、ぼくの2回目のターンになる。
このターン、ぼくはデッキから『E−エマージェンシーコール』のカードをドローした。
続いて、手札をざっと見渡して、場もざっと見渡し、ぼくはこのターンですべきことを決めた。
手札の魔法カードに手をかける。
「手札から『E−エマージェンシーコール』を発動します!」
E−エマージェンシーコール
(魔法カード)
自分のデッキから「E・HERO」と名のついたモンスター1体を
手札に加える。
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「ぼくはデッキから『E・HERO エアーマン』のカードを手札に加えます。さらに、この『エアーマン』を召喚」
E・HERO エアーマン 風 ★★★★
【戦士族・効果】
このカードの召喚・特殊召喚に成功した時、次の効果から1つを選択して
発動する事ができる。
●自分フィールド上に存在するこのカード以外の「HERO」と名のついた
モンスターの数まで、フィールド上に存在する魔法または罠カードを破壊
する事ができる。
●自分のデッキから「HERO」と名のついたモンスター1体を手札に加える。
攻撃力1800/守備力300
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「『エアーマン』の二つ目の効果を使って、デッキから『アナザー・ネオス』のカードを手札に加えます」
ぐるぐるぐるとデッキのカードを回していき、手札を補充しながら、フィールド上に『エアーマン』を出すことに成功した。
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E・HERO アナザー・ネオス
攻撃表示
攻撃力1900
守備力1300
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E・HERO エアーマン
攻撃表示
攻撃力1800
守備力300
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鯨田くんの『アナザー・ネオス』の攻撃力は元に戻っているけど、それでも、ぼくの『エアーマン』の攻撃力では倒すことはできない。
このターンで、鯨田くんの『アナザー・ネオス』を倒すためには、手札から『超融合』または『ミラクル・フュージョン』を使うしかない。どちらかのカードを使い、攻撃力の高い融合モンスターを融合召喚するのだ。
その中でも魅惑的なのは、『超融合』のカード。
これを使えば、鯨田くんのモンスターを融合素材にして融合召喚ができてしまう。つまり、鯨田くんの『アナザー・ネオス』を消しつつ、攻撃力の高い融合モンスターを自分の場に出すことができるのだ。非常に強力だろう。
しかし、それはやっちゃダメだ。
今の状況では、融合召喚はすべきじゃない。
なぜなら、追い込まれているわけでもないのに、ここで切り札級のカードを使ってしまっては、後に続かなくなってしまうからだ。そもそも、鯨田くんの場には伏せカードがあるわけだし、融合召喚した直後に『奈落の落とし穴』を使われると言った事態だって起こりうる。
『超融合』のカードは、相手ターンにも発動できる速攻魔法。このターンは、この『超融合』を場に伏せておく程度にとどめておくのが、ちょうどいいプレイングだ。
「ぼくはカードを1枚伏せて、ターンを終了します」
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E・HERO アナザー・ネオス
攻撃表示
攻撃力1900
守備力1300
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E・HERO エアーマン
攻撃表示
攻撃力1800
守備力300
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「ボク様のターン、ドロー」
鯨田くんのターン。彼はカードをドローするなり、歯を見せてにまぁぁと表情を崩していく。
「来た来た来たーーー! 来たぞーーーっ!!」
よっぽどいいカードが来たのだろう。たくさんの人が見ている体育館の真ん中で、叫ぶように喜びを表現している。
そして、右足を一歩前に出して、
「フフフ……花咲! このターンで、お前は負ける!」
大胆にも勝利宣言をしてきた。
鯨田くんの勝利宣言に、会場がわっと沸く。
「おおーー!」「強気だなー」「本当にいけるのか?」と言った声がちらほらと聞こえてくる。
確かに、ヒーローデッキには特殊召喚を行えるカードが多いため、手札の組み合わせによっては、一気に相手のライフポイントを削り取ることも難しくない。ここでぼくが何もしなかったら、鯨田くんの勝利宣言はおそらく現実のものとなるだろう。
でも、ぼくの場には『超融合』のカードがある。
強力な力を秘めた『超融合』のカードをうまく使えれば、鯨田くんの勝利宣言を阻止することができるはず……!
よし! 集中だ……!
ぼくは身を引き締めて、鯨田くんの出方を注意深くうかがうことにした。
鯨田くんは、
「行くぞー!」
と言って、デュエルディスクの魔法・罠カードゾーンのところにあるボタンに手をかけた。
「まずは、伏せてあった『超融合』を発動!」
超融合
(速攻魔法カード)
手札を1枚捨てる。自分または相手フィールド上から
融合モンスターカードによって決められたモンスターを墓地へ送り、
その融合モンスター1体を融合デッキから特殊召喚する。
このカードの発動に対して、魔法・罠・効果モンスターの効果を
発動する事はできない。(この特殊召喚は融合召喚扱いとする)
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彼の場に伏せてあった『超融合』のカードが、ブゥゥンと音を立てて表側表示になる。
鯨田くんも『超融合』のカードを伏せていたのか……!
鯨田くんは、にまぁぁとした笑みのままデュエルを進めていく。
「『超融合』によって、ボク様の『E・HERO アナザー・ネオス』と、お前の『E・HERO エアーマン』が融合! 『E・HERO The シャイニング』がボク様のフィールドに現れる!」
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E・HERO The シャイニング
攻撃表示
攻撃力2600
守備力2100
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フィールドの形勢が、一気に鯨田くんに傾く。
このデュエルにおける『超融合』のパワーは伊達じゃない。ぼくの『エアーマン』をかっさらって、攻撃力2600の『The シャイニング』を出されてしまった。
「ボク様の力はまだまだこんなもんじゃないぞ……! さらに『O−オーバーソウル』を発動し、今墓地に送られたばかりの『アナザー・ネオス』を復活! そして、最後に手札から『エアーマン』を通常召喚!」
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E・HERO The シャイニング
攻撃表示
攻撃力2600
守備力2100
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E・HERO アナザー・ネオス
攻撃表示
攻撃力1900
守備力1300
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E・HERO エアーマン
攻撃表示
攻撃力1800
守備力300
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1ターンにして3体ものモンスターカードがフィールド上に出された。
攻撃力2600。攻撃力1900。攻撃力1800。
確かにこの3体分の攻撃を受けてしまったら、ぼくのライフポイントは0になってしまう。
しかも、最後に召喚されたのは『E・HERO エアーマン』。その効果を使えば、ぼくの伏せカードを破壊することができる。
なるほど、鯨田くんが勝利宣言するのも納得だ。
「クク……! 『E・HERO エアーマン』の効果発動! 花咲! お前の伏せカードは破壊される! フフフ……終わったな!」
鯨田くんがそう宣言すると、ソリッドビジョンの『エアーマン』が風を起こし、ぼくの伏せカードを巻き上げていこうとする。
ああ、なるほど……。
さっきから違和感があるかと思ったら、こう言うことだったのか……。
鯨田くんのプレイングを見ていると、おとといまでの自分を思い出すんだ。彼のプレイングは、おとといまでの自分のプレイングにどこか似ているんだ。
今の自分が見れば分かる。
鯨田くんが1ターン目に使った『オネスト』と、このターンに発動した『超融合』。
その使用タイミングは、どちらも褒められたものじゃない。
仕掛けるのが早すぎるのだ。
『オネスト』も『超融合』も切り札となるカードなのだから、そんなに軽々しく使ってしまってはいけない。確実に勝てる時以外に無理をしてしまえば、後で取り返しのつかないことになってしまう。
そのことは、昨日やおとといの練習を通して、ぼくが身に付けたことでもあった。
「…………」
ぼくは、デュエルディスクのボタンを押して、『エアーマン』が破壊しようとしている伏せカードを表に向けた。
「『エアーマン』の効果にチェーンして、伏せカードを発動します。『超融合』!」
「ちょ、ちょうゆうごう……」
鯨田くんはあんぐりと口を開けたまま、その表情が固まってしまう。
ぼくは、『超融合』のコストとして、手札から『E・HERO オーシャン』のカードを墓地に捨てた。
「『超融合』の効果によって、鯨田くんの『The シャイニング』と『アナザー・ネオス』を融合し、ぼくのフィールド上に『The シャイニング』を融合召喚します!」
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E・HERO エアーマン
攻撃表示
攻撃力1800
守備力300
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E・HERO The シャイニング
攻撃表示
攻撃力2600
守備力2100
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周囲から「おおっ」と言う声が聞こえてくる。
『超融合』で鯨田くんのモンスターだけを墓地に送り、ぼくの場に強力なモンスターを出す。このインパクトはかなり大きいだろう。今のような歓声が上がっても、おかしくはないと思った。
こんなにも多くの人に囲まれて、自分に向けて歓声が浴びせられている……。
そんなことに縁のなかった自分にとっては、やっぱり恥ずかしくなってきてしまった。嫌な心地こそはしなかったけど、どうしても周囲が気になってしまう。ぼくはその気持ちを抑え込み、しっかりと前を向いて、鯨田くんの顔を見た。
「カードを1枚伏せて、ボク様のターンは終了……」
このターン、鯨田くんはバトルフェイズを行う意味がない。
彼は、苦い表情になりながらも、伏せカードを場に出してターンを終えた。
「ぼくのターン、ドロー」
デュエルディスクのデッキからカードを引き抜く。
ドローしたカードは、『激流葬』。フィールド上のモンスター全てを破壊する罠カードだけど、自分のモンスターも巻き込んでしまうため、今の状況では使う必要はなさそうだ。
今の手札を見直す。
ドローしたばかりの『激流葬』に、攻撃力1900の『E・HERO アナザー・ネオス』、攻撃力をアップする『オネスト』、墓地からの融合を行う『ミラクル・フュージョン』、そして、『サイクロン』。
サイクロン
(速攻魔法カード)
フィールド上の魔法または罠カード1枚を破壊する。
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魔法か罠を破壊できる『サイクロン』のカード……。
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E・HERO エアーマン
攻撃表示
攻撃力1800
守備力300
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E・HERO The シャイニング
攻撃表示
攻撃力2600
守備力2100
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鯨田くんのフィールドには、伏せカードが1枚ある。
『サイクロン』を使って、この伏せカードを無事に除去できれば、ぼくに最大のチャンスが訪れる……!
「『サイクロン』を発動。伏せカードを破壊させていただきます」
暴風のエフェクトが巻き起こり、鯨田くんの伏せカードを破壊する。
「……くっ!」
鯨田くんが目を見開いて表情を歪める。
破壊されたカードは、『聖なるバリア−ミラーフォース−』。『超融合』のように、『サイクロン』にチェーンしてその効果を使うことはできない。一切の効果を発揮させることなく、墓地へ送ることに成功したのだ……!
鯨田くんの持っているカードを確認する。その右手や左手には、一枚のカードも見当たらなかった。鯨田くんの手札は、さっきのターンに尽きてしまっていた。
これで、今の鯨田くんは、手札もなく、伏せカードもなく、場にも墓地にも効果が使えるカードは残っていないことになる。
いけるか……?
そう思ったぼくは、再度、自分の手札を見直す。
ぼくの手札には、『E・HERO アナザー・ネオス』、『オネスト』、『ミラクル・フュージョン』のカードがしっかりと残っていた。
頭の中で、三回計算を繰り返す。
間違いない。絶対にいける!
自信が出てきたのか、ぼくは鯨田くんのほうを向いて、わざとらしく笑みを作った。
そして、無謀にも、
「鯨田くん。悪いけど、このターンで、ぼくが勝ちますっ!」
ぼくは勝利宣言返しをしてしまった……!
上ずった声だったので、あんまりカッコよくはない、むしろダサいだろうと思ったけど、
「おおーーっ!」「8000ライフあるのに勝利宣言だって?」「なんだかカッコいいぞー!」
と、会場を沸き上がらせるには十分だったようだ。このデュエルの中で最大の声援が、ぼくに向けられている。
みんなの声援を受ける姿は、まるでヒーローみたいで、恥ずかしいはず声援が、なぜか少し心地よく聞こえてくる。
ああ、ぼくって、こうやって目立つのが案外好きなのかもしれないなぁ……。
さて、一方。
勝利宣言返しをされた、鯨田くんは、
「ウソだろ? ボク様のライフは8000も残っているんだぞ! この1ターンでライフを0にするなんて……!」
余裕3割、焦り7割……そんな感じの表情になっていた。
フフフ……。
「それは見てからのお楽しみです、鯨田くん」
ぼくは笑みを崩さないまま、手札のカードを次々に出していた。
「手札の『アナザー・ネオス』を攻撃表示で通常召喚し、『ミラクル・フュージョン』で『E・HERO The シャイニング』を融合召喚します! この時ぼくのエレメンタルヒーローが除外されたので、場にいる『The シャイニング』の攻撃力もアップします!」
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E・HERO エアーマン
攻撃表示
攻撃力1800
守備力300
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E・HERO The シャイニング
攻撃表示
攻撃力3200
守備力2100
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E・HERO アナザー・ネオス
攻撃表示
攻撃力1900
守備力1300
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E・HERO The シャイニング
攻撃表示
攻撃力3200
守備力2100
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「続いて、ぼくのバトルフェイズです」
攻撃力3200。攻撃力1900。攻撃力3200。
「な、なんだよー! 8000ダメージなんて与えられないじゃないか! この戦闘でボク様が受けるダメージは6500。1500ポイント足りないじゃ……」
「『あのカード』があるじゃないですか、鯨田くん!」
「『あのカード』? 『あのカード』ってなんだよ花咲!」
フフフ……。鯨田くん。『あのカード』の正体にすぐに気付けないようじゃ、ぼくにだって勝つことはできないですよ……!
勝利を確信したせいか、周りの声援のせいか、いつもでは考えられないくらい強気になっているぼく。今なら何が来ても負ける気がしなかった。
「ぼくは、『E・HERO アナザー・ネオス』で攻撃します! そして、このダメージステップ時に、手札から『オネスト』のカードを使います!」
「くっ! かっ!」
声にならない声を出して、鯨田くんが頭を押さえつける。
「『オネスト』の効果は、よく知っていますよね? 『オネスト』によって、ぼくの『アナザー・ネオス』の攻撃力は3700までアップします! したがって――」
攻撃力3200。攻撃力3700。攻撃力3200。
このターン鯨田くんに与えられるダメージは、8000ポイントオーバー。
『オネスト』の後光を浴びた『アナザー・ネオス』が、鯨田くんの『エアーマン』を消滅させる。
「この勝負、ぼくの勝ちです。『The シャイニング』で攻撃です!」
続いて、残る2体の『E・HERO The シャイニング』が、鯨田くんに直接攻撃を仕掛ける。まぶしくないくらいの光が発生し、鯨田くんを包み込んだ。
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E・HERO The シャイニング
攻撃表示
攻撃力3200
守備力2100
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E・HERO アナザー・ネオス
攻撃表示
攻撃力3800
守備力1300
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E・HERO The シャイニング
攻撃表示
攻撃力3200
守備力2100
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ソリッドビジョンには、鯨田くんのライフポイントが表示されている。その数値は間違いなく0になっていた。
ふと、遊戯くんが昔言っていたことが、頭をよぎった。
ぼくは、デュエルディスクの装着された左手を腰に当てて、右手でびしっと鯨田くんを指差す。
「鯨田くん。切り札は、最後までとっておいたほうが勝つんですよ!」
「くっ……! くっ、くそーっ!」
「大将戦の決着がつきました! 勝者は、花咲友也選手です!」
副会長さんが勝利宣言すると、声援がさらに一回り大きくなっていく。
「本当に勝った!」
「すごい……!」
「おお、まさに1ターンキルじゃないか!」
ああ、たくさんの声援がぼくに向けられているよ……!
ソリッドビジョン化したヒーローに囲まれ、相手を見事に打ち負かして、声援を浴びるこの気持ち。照れくさいはずなのに、なんだか妙に快感かも……。
ああ、なんだか、くせになりそうだ……。
さて、わずか3回目のぼくのターンで決着が着いたこともあって、野坂さんが闘っている中堅戦も、騒象寺くんが闘っている先鋒戦も、まだ終わっていなかった。
準々決勝を勝ち上がるためには、野坂さんか騒象寺くんのどちらかが勝たなければならない。
ぼくは、デッキを片付けながら、二人のデュエルに目を向けた。
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宝玉獣 アンバー・マンモス
永続魔法扱い
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宝玉獣 エメラルド・タートル
永続魔法扱い
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宝玉獣 サファイア・ペガサス
攻撃表示
攻撃力1800
守備力1200
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ワーム・リンクス
攻撃表示
攻撃力300
守備力1000
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ライオウ
攻撃表示
攻撃力1900
守備力800
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冥王竜ヴァンダルギオン
攻撃表示
攻撃力2800
守備力2500
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「ごめんなさい。『神の宣告』発動です。『レア・ヴァリュー』の効果を無効にさせていただきます」
対戦相手のライフを残りわずかのところまで追い込みながら、さらにカウンター罠で追い討ちをかけていく野坂さん。淡々とした口調で、容赦ない一撃がぐさりと決まっていた。
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邪帝ガイウス
攻撃表示
攻撃力2400
守備力1000
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偉大なる音楽家 デシベル・オブ・ミリオン
攻撃表示
攻撃力2900
守備力2100
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偉大なる音楽家 ドラムス・オブ・ハンドレッド
攻撃表示
攻撃力2500
守備力1900
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「『契約の履行』をお前の手札に加え、『ドラムス・オブ・ハンドレッド』の効果発動だ! 手札から『ギターズ・オブ・テン』を特殊召喚! ハッハハー! グレートコンサートの始まりだぁ!」
偉大なる音楽家デッキの切り札である『契約の履行』を2枚も使い、強力な反撃を開始しようとしている騒象寺くん。奇抜な格好のせいもあって、ぼくのデュエルの倍くらいの声援を受けていた。
二人ともいい調子だ。このままいければ、勝てるんじゃないか……!
そう思ってから、わずか1分後に、それは現実のものとなる。
「先鋒戦、中堅戦、ほぼ同時に決着がつきました! 先鋒の勝者は騒象寺剛選手! 中堅の勝者は野坂ミホ選手!」
副会長さんによって、二人の勝利が告げられたのだ。
常人では想像できないほどの的確過ぎるタイミングで、カウンター罠を華麗に決めてくる野坂さん。
派手なスター衣装で、ソリッドビジョン化した偉大なる音楽家を、意外と(?)巧みに操る騒象寺くん。
彼らのデュエルを初めて観戦した人は、きっと度肝を抜かれたんじゃないだろうか。フフフ……これが、意外な伏兵チームの本領です! ぼくは得意気になった。
「そして、この瞬間! 準決勝第2試合の決着がつきました! 3勝0敗で『2年C組第7チーム』が見事に快勝しました! おめでとうございます!」
マイクを通した勝利宣言とともに、さっきの試合よりも大きな拍手と歓声が巻き起こる。体育館の盛り上がりが、今日一番のものになっていた。
たくさんの拍手が落ち着いてくるなり、ぼくは、騒象寺くんと野坂さんに駆け寄った。
「騒象寺くん、野坂さん、おめでとう」
自然とその言葉が出てくる。
スター衣装の騒象寺くんが、ますます上機嫌な顔になった。
「ガハハハ! このワシなら当然の結果じゃな! ヒュー! 今日はリズムが乗ってるぜぇぇ!」
そう言って、騒象寺くんは右手の人差し指をチャキリと天井に向けて、謎のポーズをとった。スター衣装がひらひらと舞う。
騒象寺くんの隣に立っている野坂さんが、にっこりとほほえんだ。
「花咲さんも、おめでとうございます。これで準決勝進出ですよね」
「うん、ありがとう。……ってなんか変な感じだね。同じチームなのに、おめでとうありがとう、って……」
「ふふふっ。そうかもしれませんね……」
黄色のリボンに束ねられた髪がふんわりと揺れる。
この笑顔を見るたびに、勝って良かった、大会に出れて良かった、と思えてくる。
ちょっと照れくさくなって、ステージのほうに目を向けると、クラスメイトのみんなが手を振りながら歩いてくる姿が見えた。
「あ、クラスメイトのみなさんが来てますよ」
ぼくがそう言うと、二人もクラスメイトのほうを見て、また、笑顔になる。
騒象寺くんが「イエーーーー」とノリノリな声を上げて、野坂さんがクラスメイトに向けて小さく手を振る。ぼくは、一足早くにとみんなのところへと駆け出した。
みなさん、聞いてください!
決勝トーナメント、準々決勝。
ぼく達2年C組第7チームは、見事に、快勝しましたっ!
準々決勝は、着々と進行していく。
第3試合――『2年B組第3チーム』対『3年A組第2チーム』は、遊戯くん達の『2年B組第3チーム』が勝利。
第4試合――『2年F組第3チーム』対『2年B組第1チーム』は、海馬くん達の『2年B組第1チーム』が勝利。
こうして、正午ごろに、準々決勝の試合は全て終わったのだった。
【決勝トーナメント】
2年B組第2チーム(大将:城之内)──┐
├──┐
──┘ │
├──┐
──┐ │ │
├──┘ │
2年C組第7チーム(大将:花咲) ──┘ │
├──優勝!
2年B組第3チーム(大将:武藤) ──┐ │
├──┐ │
──┘ │ │
├──┘
──┐ │
├──┘
2年B組第1チーム(大将:海馬) ──┘
第十章 童実野高校デュエルモンスターズ大会 準決勝・前編
いつもはどこか物寂しい中庭が、わいわいと騒がしい。
中庭に用意されているベンチはとっくに満席で、ママが持ってきてくれた4人用のレジャーシートもぎゅうぎゅうで、ぼくを含めた数人は地べたに座り込んでしまっている。
ぼく、野坂さん、騒象寺くんに加え、根津見くん、孤蔵乃くん、梅田くん、竹下くん、松澤くん、中野さん、南さん、北村さん、伊東さん、小西さん、菊池さん、川島さん、滝沢さん、水谷さん。
2年C組のクラスメイトが17人も集まって、思い思いに昼食を取っていたのだった。
「ちょ、ちょっと花咲くん! なんで地べたに座っているの?」
「それは、みなさんが座る場所がなくなると思って……」
「いやいや。花咲くんはね、レジャーシートを持ってきた本人なんだよ? 今日の主役なんだよ? 地べたに座らせるわけにはいかないじゃない。……ねえ? 根津見くん?」
「え? それは、オレにどけって言ってるのかよ……。…………ま、まあいいけどよ、どいてやるよ。ほら」
「で、でも、根津見くん……」
「早く座れよ」
「あ、ありがとう」
「けっ……」
「花咲ぃぃぃ」
「え? は、はい?」
「そのから揚げ……うまそうじゃないかァ」
「た、食べます? たくさん作ってもらいましたし」
「いいのか! ハハハ! さすが花咲! 気前がいいな! な!」
「はい、どうぞ」
「おう! …………。ン」
「?」
「ト、トレードだトレード! ワシからもおかずをやろうと言っている! 感謝しろ!」
「え? は、はい……」
昨日と同じく、いや、それ以上に賑やかで楽しい時間が過ぎていく。
こうやって、みんなと一緒にお喋りできることはやっぱり嬉しいことで、できることなら、時間一杯まで楽しくお喋りをしていたかった。
でも、そろそろだ。そろそろ作戦会議に移らなければいけない時間だ。
今の時刻は、午後0時30分。
準決勝が始まるのは、午後1時。
その30分の間に、次の対戦相手――城之内くん達のチームに対して、対策を練り、サイドデッキを使ってメインデッキを調整しておかなければいけない。
特にこの大会では、あらかじめ対戦相手のデュエルを観戦するなりして、対策カードをサイドデッキから適切に投入しておくこと――これがかなり大事である。遊んでばかりいたのでは、せっかくの準決勝を棒に振ってしまうことになる。
「騒象寺くん、野坂さん、そろそろ作戦会議を……」
ぼくは同じレジャーシートに座っている、騒象寺くんと野坂さんに声を掛けた。
「作戦会議か……いいぜ」
「はい、もちろんです」
二人とも嫌がることなく頷いて、メインデッキとサイドデッキを懐から取り出してくれる。
近くに座っていた何人かのクラスメイトも話に加わってくれて、2年C組の知恵を振り絞った作戦会議が始まった。
作戦会議の中心人物は、もちろん、知識豊富な野坂さんだ。
先鋒戦、中堅戦、大将戦の順番で、戦術とデッキの検討を行っていくことになった。
「ええと、まずは先鋒戦から……」
いつの間にか司会進行役になっていたぼくが切り出す。こういった役は、今までにやったことがないから、どうしても口調がぎこちなくなってしまう。
「先鋒はワシのデュエルだな」
騒象寺くんが言った。
「騒象寺くんの対戦相手は、本田くんです、本田ヒロトくん。確か剣闘獣デッキを使っていたはず……」
「サイドデッキって言うのを使うんだろ? ワシ、今まで使ったことないぞ」
15枚のサイドデッキをぶらぶらと振って、騒象寺くんが言った。今騒象寺くんが持っているサイドデッキは、昨日の夜に野坂さんがアドバイスをして作ってあげたものだった。
「ねえ、野坂さんは、どう思う?」
ぼくは隣に座っている彼女に尋ねた。
「え? あ、はい。ええと、剣闘獣さん、でしたよね。本田さんデッキを使うという……」
「ち、違うよ野坂さん! 本田さんが対戦相手で、デッキが剣闘獣!」
中庭がどっと沸く。野坂さんはなんだか慌てた様子になっていた。
もしかしたら、去年、本田くんが野坂さんにアタックしていたと言うウワサは本当だったのだろうか? 気になる……。
顔を少し赤くしたまま、野坂さんは口を開いた。
「ええと、剣闘獣デッキでしたら、おおよその対策方法は分かります。デッキを貸していただけますか?」
「おう」
騒象寺くんはメインデッキとサイドデッキを野坂さんに手渡す。彼女はぱらぱらとデッキを見ていって、さっさっさっと、数枚のカードを入れ替えた。
「これでいいと思います」
「早いな」
「『奈落の落とし穴』や『砂塵の大竜巻』など、よく使われる対策カードを入れておいただけですから。基本的な動きはあまり変わらないと思います。『砂塵の大竜巻』で相手の伏せカードを早めに除去するようにして、いつも通りに闘ってください」
そんなアドバイスを横で聞いていると、ぼくのチームは、野坂さんありきなのだと改めて思った。もし、野坂さんがいなかったら、間違いなく予選トーナメントで敗れていたよ……。
とそこに、後ろで見ていた松澤くんが右手をさっと挙げ、
「俺、剣闘獣デッキ持っているんだけど、時間になるまで練習とか、するか?」
と嬉しい提案をしてくれた。
騒象寺くんは変な意地を張ることなく、その提案に乗ってレジャーシートを借りて練習を始めた。
それまで座っていたぼくや野坂さんは、お弁当を片付けてシートから立ち上がり、立ったまま作戦会議を続けることにした。
「次は中堅戦。野坂さんだね」
「はい。相手は御伽さんです。デッキは帝デッキ」
帝デッキとは、生け贄召喚された時に強力な効果を発揮する「帝モンスター」を中心としたデッキのことだ。
生け贄召喚が必要な割には安定しているのがウリのデッキで、御伽くん本人のプレイングの上手さもあって、彼はこの大会で5戦全勝している。
「実際、城之内のチームは、御伽だけが強いんだよ」
根津見くんが口を挟んできた。
「野坂さんには悪いけどな、中堅戦は捨てたほうがいいと思う。御伽が強いだけじゃない。野坂さんが使うパーミッションデッキは、帝デッキとはあまり相性が良くない。カウンター罠が間に合わず、パワーで押し切られる」
あさってのほうを向きながら、ネガティブだけどもっともな意見を言う根津見くん。
野坂さんは、サイドデッキから3枚のカードを取り出して、さっとぼく達に見せてきた。
畳返し
(カウンター罠カード)
召喚成功時に発動される効果モンスターの発動と効果を無効にし、
そのモンスターを破壊する。
|
畳返し
(カウンター罠カード)
召喚成功時に発動される効果モンスターの発動と効果を無効にし、
そのモンスターを破壊する。
|
畳返し
(カウンター罠カード)
召喚成功時に発動される効果モンスターの発動と効果を無効にし、
そのモンスターを破壊する。
|
「わたし、負けませんから」
小さな声ではっきりと宣言する野坂さん。
た、頼もしすぎる……!
野坂さんvs御伽くん。
実質、この中堅戦が、最もレベルの高い一戦になるのかもしれない。
「最後は大将戦――ぼくだけど、どうしよう……」
とぼくは言ったけど、本当に……どうしよう……?
ぼくがデュエルするのは、城之内くん本人……なのだけど、さっきの試合を見ていた限り、はっきりと言ってしまえば、彼はすごく弱かった。ほとんど一方的にやられていた。
「城之内って、ここまでの戦績、5戦1勝4敗でしょう? 警戒する必要もない気がするけどなぁ。……あ、リボンちゃん食べる?」
中野さんがアメをなめながら話に入ってくる。
ぼくは小さく頷いた。
「はい、前に何度かデュエルした時も五分五分くらいだったし、警戒する必要がないと言うのは確かにそうですけど……」
中野さんに同意しながらも、ぼくは語尾が詰まってしまう。
確かに、城之内くんは、普段は正直あまり強くない。
でも、決闘者の王国やバトルシティなど、ここぞと言う時には、ぼくなんかじゃ手の届かないくらい上位の成績を残している。ぼくはそれが心配だったのだ。
「ええと、城之内さんのデッキは、大会とかじゃあまり使われていないデッキだと思います。私にも良く分かりませんでした」
と野坂さんが言った。
「唯一召喚した『エヴォルテクター シュバリエ』のカードを見る限り、戦士族、デュアル、装備カードをたくさん使うのかもしれません。手札事故を起こしていたところから見るに、上級モンスターをたくさん使うのかもしれません」
「うーん。それは、ぼくもそう思うけど……」
野坂さんは、大会に出てくる「一般的に強いデッキ」の知識ならたくさん身につけているけど、あまり表舞台に出てこない「一般的に強くないデッキ」の知識は、ぼく達とあまり変わらない。
本当に、サイドデッキ、どうしよう……?
「ホラホラ! 二人ともなんだか沈んだ顔をしないの! 言ったでしょう? 城之内は、5戦1勝4敗なんだよ? いつも通りのデッキでしっかり闘ってくれば、絶対に勝てるよ! ここまでたくさんのデッキに勝ったんだからさ!」
中野さんが元気づけてくれる。
「そ、そうだよね」
「そうそう!」
ぼくは自分のデッキをぱらぱらと見直した。いくつもの戦術が頭の中を駆け巡る。
うん! これなら大丈夫だ!
「ありがとうございます中野さん! このデッキで精一杯闘ってきます!」
ぼくがそう言ったのを聞いて、中野さんは満足そうな表情を見せたのだった。
午後1時になろうとしていたので、中庭にいたぼく達は、会場である体育館へと向かった。
体育館の前には、なんでこんなに、と思えるくらいたくさんの生徒が集まっていた。チビなりに体育館の中を覗き込むと、全校集会でも始まるのかと思えるほど大勢の生徒の姿があった。
「どうして増えてるんだ?」
ぼくが思っていることを、騒象寺くんが声に出して言った。
準決勝――4チーム12人しか参加しないのに、生徒の数が午前中よりも増えている。200人どころじゃない。その倍は、いるのではないだろうか?
しかも、よく見ると、私服の生徒が多いから目立たないとは言え、確実に二十歳を超えているような大人や、ぼくよりも小さい小学生まで混じっている。
不思議だ。ここまでして大会を見に来ている理由があるのだろうか?
気になったぼくは、周囲の声に耳を傾けてみた……。
「なあ、お前、どっちが勝つと思う? 遊戯? 海馬?」
「そりゃ遊戯だろう……と言いたいところだが、あえて海馬を推すね! パワーデッキだからこそ、ライフポイント1同士では有利になるんだよ。戦闘で勝ってダメージを与えやすくなるからな」
「そんなの遊戯だって分かっているだろ? 単純に力負けするようなデッキを組んでくると思うか?」
「確かにそうかも……。こりゃ読めねえなぁ……」
……ああ、なるほど。その会話を聞いて、理解した。
こんなにもたくさんの人が集まっているのは、準決勝第2試合――そこで、「遊戯くんvs海馬くん」の対戦カードが実現したからなんだ。
【決勝トーナメント】
2年B組第2チーム(大将:城之内)──┐
├──┐
──┘ │
├──┐
──┐ │ │
├──┘ │
2年C組第7チーム(大将:花咲) ──┘ │
├──優勝!
2年B組第3チーム(大将:武藤) ──┐ │
├──┐ │
──┘ │ │
├──┘
──┐ │
├──┘
2年B組第1チーム(大将:海馬) ──┘
決勝トーナメント準決勝第1試合は、城之内くんとぼくのチームの闘いだけど、その次。
準決勝の第2試合は、遊戯くんと海馬くんのチームの闘いなんだ。遊戯くんと海馬くんはお互いに大将だから直接対決する上に、お互いに「ライフポイントが1になる」と言う特別ルールまである。デュエリストなら気にならないわけがない。
きっと、この昼休みの間に対戦カードが確定したことが広まっていって、生徒やその他たくさんのデュエリストを呼び寄せてしまったんだ……!
それだけ遊戯くんと海馬くんのインパクトは大きいのだと言うことだ。はぁぁ、すごいなぁ……。
ぼくがため息をつくと、ぼくのすぐ後ろにいた騒象寺くんが一歩前に出た。
「あああ! お前ら邪魔じゃあ! とっとと、どかんかぁあっっ!!」
そして、周りの人達を黙らせるほどのダミ声を張り上げた。
「2年C組第7チームのお通りだ! 道を空けろォ! 空けろぉぉ!」
スター衣装にサングラスにリーゼントにダミ声。
これはやばい奴が来たとばかりに、面白いくらいさささっと人ごみが割れていく。なんだかモーゼの奇跡を現実に見た気がした。
「遊戯や海馬にかまけてもらっては困る。優勝するのはこの2年C組第7チームだ! 覚えておけよォ! お前らぁぁ!」
ある意味頼りになる騒象寺くんを先頭に、ぼく達2年C組のクラスメイトは体育館へと入っていく。
正直ちょっと恥ずかしかったけど、それ以上に気持ちが高ぶってくる。これは準決勝も負けちゃいられない……!
よぉし! 行くぞーーーーっ!!
体育館の中央付近には、既に城之内くん、御伽くん、本田くんの姿がある。城之内くんは、ぼく達の姿を見つけるなり、右手をぶんぶんと振ってきた。
ぼくは、それに応えるため、こぶしを作ってさっと上げる。
――勝ちますからね!
ぼくの意図が伝わったのか、城之内くんはにやりと笑みを作ってきた。
人、人、人――リミッターが解除されたかのように倍増した観客が、体育館に押し寄せている。
これだけ人がいると、手札の覗き見防止のために作られた空きスペースが、ものすごく違和感のあるもののように思ってしまう。
これからぼく達は、400人もの観客に見られてデュエルをするのだ。こんなことはもちろん生まれて初めてで、いつ卒倒してもおかしくないんじゃないかと思えてくる。
それでも、準々決勝で慣れてしまったからか、対戦相手が友達だからか、それとも仲間がいてくれるからか、思ったよりは緊張していなかった。
「それでは、お互いのデッキをカット・アンド・シャッフルしてください」
審判の磯野さんの指示に従い、ぼく達は、それぞれ自分のデッキをシャッフルし、デッキを交換してさらにカットを行っていく。
城之内くんは、ぼくが手渡したデッキをシャシャッとカットしながら、話しかけてくる。
「花咲、お前達のチームすげえよな……。今日初めて試合を見たけど、対戦相手を圧倒してたじゃねえか!」
「それは、頼れる仲間がいてくれましたから……!」
「仲間か……それはいいな! まあ、オレも仲間のおかげでここまで来たようなものだしな」
城之内くんがそう言うと、待ってましたと言わんばかりに、
「いや、城之内の場合は、『仲間のおかげでここまで来た』じゃなくて、『仲間の力だけでここまで来た』だろう……」
と、二つ隣の本田くんからツッコミが飛んできた。城之内くんの笑顔がちょっとだけ固まった。
「うるせーな本田! そろそろ本気出すんだよ! ――っつうわけで! こっからのオレは超本気モード! 溜めに溜めてきたデュエリストパワーを最大限に放出するぜ!」
城之内くんがそう宣言すると、本田くんや御伽くんが呆れ顔をした。
そんな中でぼくは、
「ハイ! 良いですよ!」
とあえて力いっぱい頷いてみせた。
1勝4敗だろうが、ここぞと言う時にとてつもない強さを見せてくるのが城之内くんだ。
決闘者の王国2位、バトルシティ4位入賞。彼の実績がそれを物語っているじゃないか……!
城之内くんは、ここまでで一番強い対戦相手――そう思うくらいがちょうどいい!
だからぼくは、決しておごらず、決して油断せず、今の自分の全力で迎え撃つ! ヒーロー達とともに!
デッキのカット・アンド・シャッフルが終わると、先攻後攻を決めて、城之内くん達と5メートルくらい距離を置き、初期手札となる5枚のカードを手札に加えた。
400人もの観客が少しずつ静かになっていく。
スター衣装の騒象寺くんが、サングラス越しに対戦相手の本田くんをキッと見ている。学ランの本田くんも、同じような表情で騒象寺くんを見かえしている。
黄色のリボンの野坂さんは、左手に装着しているデュエルディスクに視線を落としている。対戦相手の御伽くんは、考え事をしているかのように中空を見ている。
真正面の城之内くんは、早く早くと言わんばかりに、審判の磯野さんに視線を送っている。
その視線に負けて……ではないだろうけど、磯野さんが一歩前に出た。
「では、よろしいですね?」
はっきりとした声でそう言って、磯野さんは右手をピシッと上げていく。
400人規模の会場が、さらに静まっていく。
「決勝トーナメント準決勝第1試合――『2年B組第2チーム』対『2年C組第7チーム』。試合開始ィィィ!」
磯野さんの宣言が、マイクを通して体育館じゅうに響き渡る。
400人もの圧迫感の中、準決勝が始まったのだ……!
緊張していないだろうか? ――念のため、ぐっぐっと両腕を動かしてみる。大丈夫、固くなったりはしていない。これならデュエルに集中できそうだ!
「んじゃ先攻はオレからだな! オレのターン! ドロー!」
そう言って、城之内くんはデッキからスパッとカードを引く。その手つきがあまりにもサマになっていて、経験豊富であることが良く分かる。
そういうところだけを見ていると、ぼくなんかが勝てるのだろうかと不安になってしまう。やっぱりぼくは臆病者なのだろうか……。
「ターンエンド……」
……あれ?
もう城之内くんのターン終わり?
城之内くんの場には、何のカードも出されていない。本当に「ターンエンド」と言ったのだろうか?
近くの観客から、笑い声とどよめきが聞こえてくる。
「おいおい手札事故かよダセー!」
「1ターン目でいきなり事故るのはひでえな! ハハハハ!」
手札事故……?
ま、まさか、城之内くん……。
モンスターも魔法も罠も出せないほど手札が偏っているの!? 手札事故なの!?
「う、うるせーな! 作戦だよ! 作戦!」
城之内くんが、観客の笑い声に噛みつきだした。
「…………」
その様子を見ている限り、本当に手札事故を起こしているようだった。城之内くんに限って、手札事故を装ってぼくを油断させようとしている可能性は、正直言って考えられないし……。
まだ笑い声が聞こえてくる。
ああ、城之内くんがやらかした……。手札事故をやらかした……。
準決勝にあるまじき行動に、なんだか呆然としてしまう。緊張感が抜けてしまう。気まで抜けようとするのをぐっとこらえて、ぼくは城之内くんの顔を見た。
じょ、城之内くん! いくら手札事故だからって、ぼくは容赦しませんからね! このデュエルは2年C組の期待を背負ったデュエルなのですから!
「遠慮なく、ぼくのターンに行きますよ! ドロー!」
気を引き締めるため、勢いよくターン開始を宣言する。
準々決勝と同じように、デュエルディスクにセットされたデッキの上から、1枚のカードを引き抜いて手札に加えた。
6枚になった手札を見渡す。
冥府の使者ゴーズ 闇 ★★★★★★★
【悪魔族・効果】
自分フィールド上にカードが存在しない場合、相手がコントロールするカードによって
ダメージを受けた時、このカードを手札から特殊召喚する事ができる。
この方法で特殊召喚に成功した時、受けたダメージの種類により以下の効果を発動する。
●戦闘ダメージの場合、自分フィールド上に「冥府の使者カイエントークン」
(天使族・光・星7・攻/守?)を1体特殊召喚する。このトークンの攻撃力・守備力は、
この時受けた戦闘ダメージと同じ数値になる。
●カードの効果によるダメージの場合、受けたダメージと同じダメージを相手ライフに与える。
攻撃力2700/守備力2500
|
E・HERO ネオス 光 ★★★★★★★
【戦士族】
(効果なし)
攻撃力2500/守備力2000
|
E・HERO プリズマー 光 ★★★★
【戦士族・効果】
自分の融合デッキに存在する融合モンスター1体を相手に見せ、
そのモンスターにカード名が記されている融合素材モンスター1体を
自分のデッキから墓地へ送って発動する。
このカードはエンドフェイズ時まで墓地へ送ったモンスターと
同名カードとして扱う。この効果は1ターンに1度しか使用できない。
攻撃力1700/守備力1100
|
E・HERO アナザー・ネオス 光 ★★★★
【戦士族・デュアル】
このカードは墓地またはフィールド上に表側表示で存在する場合、
通常モンスターとして扱う。
フィールド上に表側表示で存在するこのカードを通常召喚扱いとして
再度召喚する事で、このカードは効果モンスター扱いとなり以下の効果を得る。
●このカードはフィールド上に表側表示で存在する限り、
カード名を「E・HERO ネオス」として扱う。
攻撃力1900/守備力1300
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O−オーバーソウル
(魔法カード)
自分の墓地から「E・HERO」と名のついた通常モンスター1体を選択し、
自分フィールド上に特殊召喚する。
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ヒーロー・ブラスト
(罠カード)
自分の墓地に存在する「E・HERO」と名のついた
通常モンスター1体を選択し手札に加える。
そのモンスターの攻撃力以下の相手フィールド上
表側表示モンスター1体を破壊する。
|
バランスこそは中々良いけど、上級モンスターの『E・HERO ネオス』が手札に来てしまったのは、ちょっと痛い。
でも、『E・HERO プリズマー』と『O−オーバーソウル』がいきなり揃ってくれたのはありがたい。今、城之内くんの場には何のカードも出されていない。この2枚のカードを使えば、大ダメージを与えることができる。
「ぼくは『E・HERO プリズマー』を攻撃表示で召喚します。すぐにその効果を使い、デッキにある『E・HERO ネオス』を墓地へ送り、カード名を変更……。その後、『O−オーバーソウル』で墓地に送った『ネオス』を特殊召喚します」
ここ数日で完全に身につけた、『E・HERO プリズマー』と『O−オーバーソウル』のコンボ。ぼくは、流れるような手つきで、2体のモンスターをフィールド上に出すことに成功した。
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E・HERO プリズマー
攻撃表示
攻撃力1700
守備力1100
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E・HERO ネオス
攻撃表示
攻撃力2500
守備力2000
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「やばい……」
ソリッドビジョンで現れた2体のモンスターを前に、城之内くんが声を漏らしている。
なんだかちょっと可哀想な気分になってきたけど、だからと言って、手を止めてあげるなんてことはしない。
「さあ、行きますよ、城之内くん! バトルフェイズです! 『E・HERO プリズマー』で直接攻撃します!」
万が一『冥府の使者ゴーズ』が出てきても対応できるように、攻撃力の低い『プリズマー』から攻撃宣言を行っていく。
キラキラボディの『E・HERO プリズマー』が、城之内くんへと光線を飛ばす。
「くっ……」
手札からカードが飛び出てくるようなこともなく、城之内くんは1700ポイントのダメージを受ける。
「続いて、『E・HERO ネオス』で直接攻撃します! 2500ダメージです!」
デッキの主役とも言える『ネオス』の銀色ボディが、城之内くんに迫る。パァァンと心地よい音を立てて、城之内くんへ攻撃を行った。
ソリッドビジョン化されたライフポイントが音を立てて減っていき、3800で止まる。
城之内くんのライフは残り3800。早くも半分以上のライフが失われたことになる。
ぼくは再度手札を見直し、これ以上カードを出すことなく、
「ターンエンドです」
とターン終了を宣言した。
さあ、城之内くん。もう後がないですよ……!
「オレのターン! ドロー!」
早くもピンチの城之内くんだったけど、彼は臆することなくカードを引き――――そして、ぱあっと表情が変わった。
「あっぶねぇぇ! あぶねぇ! 本当にこのままやられるかと思ったぜ!」
一転して威勢のいい声で喋る城之内くん。このドローフェイズでようやくまともに場に出せるカードを引き当てたようだった。
今度こそ、城之内くんの本領が発揮される……かもしれない。今引き当てたカードによって、さっきのターンでは使えなかった6枚の手札が、牙をむいてくる……かもしれない。
うーん……。さっきの手札事故のことがあったから、どうにも緊張感が伴ってこないなぁ……。
城之内くんは、ドローしたカードをそのままデュエルディスクへとセットする。
「行くぜ花咲! このカードでスリリングなバトルを繰り広げようぜ! オレはライフを1500ポイント支払い――」
城之内くんのライフポイントが2300まで下がる。
「――手札からフィールド魔法『ビッグバン・バトル・フィールド』を発動!」
ビッグバン・バトル・フィールド
(フィールド魔法カード)
1500ライフポイントを払って発動する。
お互いの手札にある全てのモンスターカードのレベルは半分になる。
|
ぼくや城之内くんの周りがうっすらと暗くなったかと思うと、ぼくと城之内くんの中間のあたりで、ぼんやりと星のようなものが爆発している静止映像が現れた。
「そう来ましたか……!」
『ビッグバン・バトル・フィールド』……!
このフィールド魔法が場に出たことで、手札のモンスターのレベルは半減し、その結果、レベル8までの上級モンスターなら、生け贄なしで召喚できるようになる!
『ビッグバン・バトル・フィールド』は、場に残るフィールド魔法であるため、一度発動さえしてしまえば、その後は何度でもレベル8のモンスターを生け贄なしで召喚することができる……! まさにインフレバトル空間を作り上げるカードなのだ!
そうか……! 城之内くんが手札事故を起こしていたのは、この『ビッグバン・バトル・フィールド』のために、上級モンスターをたくさん入れていたのが原因だったのか!
城之内くんのデッキは、おそらく『ビッグバン・バトル・フィールド』を中心とした上級モンスターデッキ!
手札が悪ければ負けるしか道がないため、決して扱いやすいものではない。現に、この大会での戦績はボロボロだ。
でも、一旦火がつけば、これほど恐ろしいデッキもない!
会場からは笑い声は聞こえなくなっていた。どこか気の抜けた雰囲気が、一気に吹っ飛んだのだ。
準決勝らしいパワーバトルが、幕を開けようとしている……!
「さあ、早速行くぜ! オレはレベルが下がった『フェニックス・ギア・フリード』を生け贄なしで召喚するぜ!」
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フェニックス・ギア・フリード
攻撃表示
攻撃力2800
守備力2200
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E・HERO プリズマー
攻撃表示
攻撃力1700
守備力1100
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E・HERO ネオス
攻撃表示
攻撃力2500
守備力2000
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全身を鎧で包んだ戦士――『フェニックス・ギア・フリード』が現れる。白と赤をベースに金色で縁取られた鎧と、その背後から噴き出している炎が美しい。
攻撃力2800。これほどまでのモンスターが、コストもなく召喚されてしまう。これはキビシイ……!
「バトルフェイズ……! 『フェニックス・ギア・フリード』! 『ネオス』に攻撃だ!」
城之内くんの攻撃宣言とともに、がっしりとした剣から炎が吹き出る。その炎はどんどんと大きくなり、体育館の天井に届きそうだった。
炎の剣を構えた『フェニックス・ギア・フリード』が、ぼくの『ネオス』に斬りかかってくる。攻撃力2500の『ネオス』は、成す術なく破壊されてしまった。
「へへっ! どうだ!」
得意げに胸をそらす城之内くん。
ぼくは、
「やりますね……!」
と強がって見せたけど、正直なところ結構キツかった。
攻撃力2800。このレベルのモンスターがコンスタントに出てきては、じりじりと追い詰められてしまう。
ぼくのライフポイントは残り7700。余力が残っているうちに何とかしなくては、苦しくなっていく一方だ……!
「ターンエンド!」
「ぼくのターン、ドロー」
2回目のぼくのターンが訪れる。ここでドローしたカードは、『聖なるバリア−ミラーフォース−』。
聖なるバリア−ミラーフォース−
(罠カード)
相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
相手フィールド上に存在する攻撃表示モンスターを全て破壊する。
|
これはいい罠カードを引いたぞ!
この罠カードを発動できれば、『フェニックス・ギア・フリード』を倒すことができる。しかも、次の城之内くんのターンで他の上級モンスターを追加されたとしても、そのモンスターごとまとめて倒すことができる。
城之内くんのライフはわずか2300。この『ミラーフォース』が炸裂すれば、返しのターンでトドメを刺すことだってできる……!
もちろん、理想通りに事が運ぶとは限らない。『ミラーフォース』の発動を阻止されてしまう可能性だって十分にある。ここで『ミラーフォース』を仕掛けないわけにはいかないけど、失敗しても建て直しの利くプレイングをしておこう。
ぼくは場に出ている『E・HERO プリズマー』のカードに手をかけた。
「『E・HERO プリズマー』を守備表示に変更します。さらに『プリズマー』の効果発動。デッキから『E・HERO オーシャン』を墓地に送ります」
そう言って、デッキにある『E・HERO オーシャン』のカードを墓地ゾーンへと送る。
その後、手札の『E・HERO ネオス』を守備表示で通常召喚してから、『聖なるバリア−ミラーフォース−』と『ヒーロー・ブラスト』の罠カードを伏せた。
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フェニックス・ギア・フリード
攻撃表示
攻撃力2800
守備力2200
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E・HERO プリズマー
守備表示
攻撃力1700
守備力1100
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E・HERO ネオス
裏側守備表示
攻撃力2500
守備力2000
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伏せカード
(聖なるバリア−ミラーフォース−)
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伏せカード
(ヒーロー・ブラスト)
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城之内くんの『ビッグバン・バトル・フィールド』は、ぼくのカードにも影響を及ぼすため、本来レベル7である『ネオス』も生け贄なしで通常召喚することができた。『ミラーフォース』を突破された時のことを考え、『ネオス』は守備表示で出しておく。
また、『聖なるバリア−ミラーフォース−』と一緒に『ヒーロー・ブラスト』が伏せてある。これは、『ヒーロー・ブラスト』の発動条件を満たせたこともあるけれど、罠カードを2枚出しておくことで『聖なるバリア−ミラーフォース−』が破壊される可能性を少しでも下げることが目的だ。
うん。こんな感じでカードを配置しておけば、『ビッグバン・バトル・フィールド』の強力なモンスター達にも対抗できそうだ!
「ターンエンドです!」
勢いをつけてターンを終了する。
さあ城之内くん! 勝負ですよ!
「オレのターン! ドロー!」
城之内くんは、さっとカードをドローして、ぼくに向き直った。
「さては、花咲。何か仕掛けてきたな? ……だが、そう簡単には行かないぜ?」
「そ、そうですか……!」
「ああ! なぜなら、オレの手札には『サイコ・ショッカー』があるからな!」
「あ……!」
「へへっ! このターン、オレはこの『サイコ・ショッカー』を召喚するぜ!」
人造人間−サイコ・ショッカー 闇 ★★★★★★
【機械族・効果】
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
お互いに罠カードは発動できず、フィールド上の
罠カードの効果は無効化される。
攻撃力2400/守備力1500
|
『サイコ・ショッカー』の名前を聞いた瞬間、びくりとしてしまった。
しまった……! このカードがあることをすっかり忘れていた……!
「フフフ……2枚のカードを伏せたようだがよ、オレには『サイコ・ショッカー』がある! このモンスターが場にいる限り、オレに罠は通用しないぜ!」
攻撃力こそは『ネオス』を下回っているけど、罠を無力化する強力な効果を持ったモンスターカード――『サイコ・ショッカー』!
ぼくは半ば無意識に、顔をしかめてしまっていた。
「し・か・も! それだけじゃないぜ! さらにオレは、装備魔法『団結の力』を発動! このカードを『サイコ・ショッカー』へと装備する!」
団結の力
(装備魔法カード)
自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体につき、
装備モンスターの攻撃力・守備力は800ポイントアップする。
|
モンスターがいればいるほど大幅に攻撃力を上げてしまう、強力な『団結の力』……!
今、城之内くんの場には2体のモンスターが出ているから、『サイコ・ショッカー』の攻撃力は1600ポイントもアップし――
「攻撃力4000だ! さあ行くぜ! バトルフェイズ!」
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ビッグバン・バトル・フィールド
フィールド魔法
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団結の力
装備魔法
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フェニックス・ギア・フリード
攻撃表示
攻撃力2800
守備力2200
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人造人間−サイコ・ショッカー
攻撃表示
攻撃力4000
守備力3100
|
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E・HERO プリズマー
守備表示
攻撃力1700
守備力1100
|
E・HERO ネオス
裏側守備表示
攻撃力2500
守備力2000
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伏せカード
(聖なるバリア−ミラーフォース−)
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伏せカード
(ヒーロー・ブラスト)
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『聖なるバリア−ミラーフォース−』を封じられた上に、攻撃力4000となった『サイコ・ショッカー』が襲ってくる……!
「『サイコ・ショッカー』! 裏側守備表示のモンスターに攻撃だ! サイバーエナジーショック!」
ワザの名前を叫んで『サイコ・ショッカー』の攻撃が炸裂。場に出したばかりの『ネオス』は、活躍の場なく破壊されてしまった。
それでも、『ネオス』を守備表示にしておいたのは成功だった。ここで攻撃表示にしていたら、1500もの戦闘ダメージを受けていた……!
「さらに『フェニックス・ギア・フリード』の攻撃で、『プリズマー』も破壊! ターンエンド!」
手札事故から一転、城之内くんは火がついたかのように勢いをつけてしまった。ぼくが仕掛けておいた罠をかいくぐり、どんどん攻め込んでくる。
そのせいで、『ミラーフォース』が通用しないばかりか、モンスターを全滅させられてしまった。
……これは、まずいかもしれない。
この調子で攻め続けられては、じりじりと追い詰められて負けてしまう。ライフポイントこそはまだまだぼくのほうが上だけれども、『ビッグバン・バトル・フィールド』が出されてしまった以上、ライフ以外の部分では城之内くんのほうが優勢だ。
早く……早く何とかしなくては……!
「ぼくのターン! ドロー!」
どこか焦りの気持ちを抱えたまま、ぼくはターンを開始を宣言する。
ここで、デッキから引き当てたカードは、『デュアルスパーク』だった。
デュアルスパーク
(速攻魔法カード)
自分フィールド上に表側表示で存在する
レベル4のデュアルモンスター1体をリリースし、
フィールド上に存在するカード1枚を選択して発動する。
選択したカードを破壊し、自分のデッキからカードを1枚ドローする。
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このカードは、『E・HERO アナザー・ネオス』を生け贄にすることで、城之内くんの場にあるカードを何でも1枚破壊できると言う速攻魔法だ。
破壊するカードは、モンスター、魔法、罠――どれでも構わないため、城之内くんのキーカードである『ビッグバン・バトル・フィールド』を破壊することだって可能だ。
今、ぼくの手札には、『冥府の使者ゴーズ』、『E・HERO アナザー・ネオス』、『デュアルスパーク』の3枚のカードがある。
できれば、『ビッグバン・バトル・フィールド』を破壊したいところだけれども、フィールドの状況がそれを許さない。
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ビッグバン・バトル・フィールド
フィールド魔法
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団結の力
装備魔法
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フェニックス・ギア・フリード
攻撃表示
攻撃力2800
守備力2200
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人造人間−サイコ・ショッカー
攻撃表示
攻撃力4000
守備力3100
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伏せカード
(聖なるバリア−ミラーフォース−)
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伏せカード
(ヒーロー・ブラスト)
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現在、ぼくの場にはモンスターもおらず、罠カードは封じられたままだ。
せっかく引き当てた『デュアルスパーク』だけど、『ビッグバン・バトル・フィールド』を破壊するために使う余裕なんてない。目の前の『サイコ・ショッカー』を破壊しなければ、次のターンに取り返しのつかない大ダメージを受けてしまう!
この状況で取ることができる選択肢は、一つしか残されていない……!
「ぼくは『E・HERO アナザー・ネオス』を召喚し、すぐに『デュアルスパーク』を使います! 『アナザー・ネオス』を生け贄に、城之内くんの『サイコ・ショッカー』を破壊します!」
「くっ、魔法カードを使ってきたか……!」
『アナザー・ネオス』から電撃が放たれ、『サイコ・ショッカー』に向かっていく。『サイコ・ショッカー』は4000と言う攻撃力でありながらも、無残に破壊されていった。
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フェニックス・ギア・フリード
攻撃表示
攻撃力2800
守備力2200
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伏せカード
(聖なるバリア−ミラーフォース−)
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伏せカード
(ヒーロー・ブラスト)
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城之内くんのフィールドには、攻撃力2800の『フェニックス・ギア・フリード』は残ったままだし、何より、上級モンスターの生け贄コストを無くす『ビッグバン・バトル・フィールド』が健在だ。
それでも、『サイコ・ショッカー』がいなくなったことによって、罠カードが使えるようになった。これは、かなりプラスに働いてくれるはずだ。
しかも、嬉しいことに、『デュアルスパーク』にはドロー効果が付いている。
「ぼくは、『デュアルスパーク』のもう一つの効果により、カードを1枚ドローします」
ここでドローするカード次第では、城之内くんの戦術を切り崩すことができる。ぼくはそのために、相手ターンでも使用できる『デュアルスパーク』を、わざわざ自分のターンに使ったのだ。
『サイクロン』、『オネスト』、『ミラクル・フュージョン』――それらのカードを思い浮かべながら、祈るようにデッキのカードを手札に加える。
ドローしたカードは――
未来融合−フューチャー・フュージョン
(永続魔法カード)
自分のデッキから融合モンスターカードによって決められたモンスターを
墓地へ送り、融合デッキから融合モンスター1体を選択する。
発動後2回目の自分のスタンバイフェイズ時に選択した融合モンスターを
自分フィールド上に特殊召喚する(この特殊召喚は融合召喚扱いとする)。
このカードがフィールド上に存在しなくなった時、そのモンスターを破壊する。
そのモンスターが破壊された時このカードを破壊する。
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『未来融合−フューチャー・フュージョン』。
さすがにお望みのカードは引けなかったけど、……まあ正直ちょっとガッカリしたけど、悪くはないカードだと思う。
この『フューチャー・フュージョン』は、昨日の試合でも活躍した、特殊な融合魔法カード。
デッキ同士のモンスターを融合できると言う超便利な長所を持っている代わりに、2回後のターンまでその融合モンスターが場に現れないと言う短所も併せ持つ、まさに「未来融合」という名にふさわしい効果を持っているのだ。
そんな性質を持っている以上、早めに使っておかないと融合召喚する前に勝負が決まってしまう可能性がある。
ぼくは、『フューチャー・フュージョン』のカードを、表を向けてデュエルディスクにセットした。
「ぼくは『未来融合−フューチャー・フュージョン』を発動! デッキから『E・HERO オーシャン』と『E・HERO ボルテック』を墓地に送り、『E・HERO アブソルートZero』の融合召喚を狙います!」
そうやって、ぼくが『フューチャー・フュージョン』のカードを使うと、城之内くんが「おっ」と驚いたような声を出した。
「『フューチャー・フュージョン』か! ……やるなァ、花咲! オレの場に『ビッグバン・バトル・フィールド』が出てるっつうのに、次から次へと対抗策がやってくるじゃねえか!」
「ええ! ぼくのヒーロー達は、強力な仲間達のパワーを受けているんです! そのおかげでこの準決勝までやってきたんです! 城之内くんといっても、このパワーには簡単には勝てませんよ!」
「フフフ……! やっぱりデュエルはこうでなくっちゃな! ますます楽しくなってきたぜ!」
城之内くんの声色から、ワクワクしている様子が伝わってくる。心の底から楽しんでいる様子が伝わってくる。
それはぼくの心臓すら揺さぶってきて、ドクンドクンと心拍数を上げていく……!
「ええ! 楽しんでくれて光栄です城之内くん! ……でも、最後に勝つのはぼくですからね!」
「言ってくれるじゃないか! もちろんオレだって負けるつもりはないぜ!」
『フューチャー・フュージョン』を発動したぼくは、これ以上カードを出すことなく、そのままターンエンドを宣言する。
「さあ、次は城之内くんのターンです!」
「おう! 行くぜ! オレのターン! ドロー!」
城之内くんは、よどみない手つきでデッキからカードをドローし、
「来た、来た来た来た来た。オレにも来たあああぁぁぁぁ!!」
と、興奮した様子で叫びだしてしまった。
「な、何が来たの……?」
唖然としてぼくが思わず聞き返すと、城之内くんは、「これだぜー」と言ってそのカードをデュエルディスクにセットしてきた。
未来融合−フューチャー・フュージョン
(永続魔法カード)
自分のデッキから融合モンスターカードによって決められたモンスターを
墓地へ送り、融合デッキから融合モンスター1体を選択する。
発動後2回目の自分のスタンバイフェイズ時に選択した融合モンスターを
自分フィールド上に特殊召喚する(この特殊召喚は融合召喚扱いとする)。
このカードがフィールド上に存在しなくなった時、そのモンスターを破壊する。
そのモンスターが破壊された時このカードを破壊する。
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「『フューチャー・フュージョン』! 城之内くんも持っていたの!?」
「ああ! 今回のオレのデッキは、少しだけだが、融合召喚もできるようになっているのさ!」
そう言って、城之内くんはデッキを手に取った。
「ここでオレがデッキから墓地に送るカードは、『真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)』と『ギルフォード・ザ・ライトニング』!」
つまり、それは、『真紅眼の黒竜』と『ギルフォード・ザ・ライトニング』を融合させると言う意味で……。
「オレが選ぶ融合モンスターは、これだぜ!」
城之内くんは融合デッキから1枚のカードをぼくに見せてきた。
究極竜戦士−ダーク・ライトニング・ソルジャー 闇 ★★★★★★★★
【戦士族・効果】
「ギルフォード・ザ・ライトニング」+「真紅眼の黒竜」
上記のカードでこのカードを融合召喚した場合、
相手フィールド上のモンスターをすべて破壊する。
攻撃力3500/守備力2300
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「『ダーク・ライトニング・ソルジャー』! オレのデッキの中で、最高の攻撃力を持つモンスターだぜ!」
城之内くんとは5メートルほど離れているため、カードに書かれている文字はほとんど見えない。けれども、ぼくは、そのカードのことをよく知っていた。
『真紅眼の黒竜』と『ギルフォード・ザ・ライトニング』が融合した『ダーク・ライトニング・ソルジャー』。
3500と言うトップクラスの攻撃力を持つだけではなく、融合召喚した瞬間、ぼくのモンスターを全て破壊してしまうという強力な効果まで持っている……。
現在のデュエルモンスターズでは、『真紅眼の黒竜』も『ギルフォード・ザ・ライトニング』も扱いづらいカードだけど、『フューチャー・フュージョン』を使って、その扱いづらさをある程度フォローしてきたのだ。
「やりますね! 城之内くん!」
「ああ! 2ターン後の融合召喚を楽しみに待ってな!」
城之内くんはそう言って、『ダーク・ライトニング・ソルジャー』のカードを融合デッキに戻した。
「さあて! このターンもガンガン行かせてもらうぜ! 『ビッグバン・バトル・フィールド』はまだまだ終わらない!」
ぼくは自分の場に伏せてある『聖なるバリア−ミラーフォース−』のカードをちらりと見る。この罠カードがうまく使えれば、次のぼくのターンで決着をつけることができるかもしれない……!
城之内くんは、手札からさらにモンスターを召喚してきた。
「オレが召喚するのは、『ギルフォード・ザ・レジェンド』! 攻撃力2600!」
ギルフォード・ザ・レジェンド 地 ★★★★★★★★
【戦士族・効果】
このカードは特殊召喚できない。このカードが召喚に成功した時、
自分の墓地に存在する装備魔法カードを可能な限り
自分フィールド上の戦士族モンスターに装備する事ができる。
攻撃力2600/守備力2000
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伝説の剣を携えた巨体の戦士が現れる。またしても、本来レベル8のモンスターが生け贄なしで召喚されたのだ。
しかも、この『ギルフォード・ザ・レジェンド』は、強力な効果まで兼ね備えている。
「『ギルフォード・ザ・レジェンド』の召喚に成功したことで、その効果を発動! 墓地にある装備魔法カードを自分の戦士族モンスターに装備することができる!」
本来、生け贄を2体と言うコストを支払うからこその強力な効果。それが、ノーコストで使われてしまった……!
「フッフッフッ! オレのデッキは装備カードへのサポートもバッチリ充実しているのだ! 墓地にある『団結の力』を『フェニックス・ギア・フリード』に装備させ、攻撃力を1600ポイントアップさせる!」
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ビッグバン・バトル・フィールド
フィールド魔法
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フューチャー・フュージョン
永続魔法
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団結の力
装備魔法
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フェニックス・ギア・フリード
攻撃表示
攻撃力4400
守備力3800
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ギルフォード・ザ・レジェンド
攻撃表示
攻撃力2600
守備力2000
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伏せカード
(聖なるバリア−ミラーフォース−)
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伏せカード
(ヒーロー・ブラスト)
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フューチャー・フュージョン
永続魔法
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「『フェニックス・ギア・フリード』の攻撃力は4400! さあバトルフェイズに突入だ! 行くぞ! 花咲!」
「ええ!」
「『フェニックス・ギア・フリード』で攻撃! 4400ダメージ!」
「させません! 『聖なるバリア−ミラーフォース−』!」
「かああっ! やっぱり仕掛けてたかぁぁ!」
『フェニックス・ギア・フリード』から放たれた巨大な炎は、ぼくの『ミラーフォース』によって跳ね返され、城之内くんのモンスターに襲い掛かる!
ゴゴゴゴゴと轟音が低く響き渡る。
それが消えた時には、城之内くんのフィールドにはモンスターカードは残っていなかった。
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ビッグバン・バトル・フィールド
フィールド魔法
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フューチャー・フュージョン
永続魔法
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伏せカード
(ヒーロー・ブラスト)
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フューチャー・フュージョン
永続魔法
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よし! うまく行った!!
このターン、城之内くんは通常召喚してしまった。1ターンに行える通常召喚は1度のみ。これで城之内くんに直接攻撃を仕掛けるチャンスが生まれた!
「へへっ……!」
しかし、城之内くんの笑顔は耐えない。この程度の傷なんて大したことないぜ、と言う声が聞こえてきそうだった。
「この瞬間! オレの『切り札』は、召喚条件を満たした!」
「『切り札』……!?」
「ああ! オレの墓地に存在する『人造人間−サイコ・ショッカー』は闇属性。『ギルフォード・ザ・ライトニング』は光属性。『フェニックス・ギア・フリード』は炎属性。『ギルフォード・ザ・レジェンド』は地属性……」
4つの属性のモンスターが、墓地に揃っている……。まさか……!
「『勇者アトリビュート』!」
「そのとーーり! オレは、墓地にあるこれらのモンスターを除外して、手札から『勇者アトリビュート』を特殊召喚する! もちろん攻撃表示だ!」
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ビッグバン・バトル・フィールド
フィールド魔法
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フューチャー・フュージョン
永続魔法
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勇者アトリビュート
攻撃表示
攻撃力2900
守備力1800
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伏せカード
(ヒーロー・ブラスト)
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フューチャー・フュージョン
永続魔法
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『聖なるバリア−ミラーフォース−』の健闘もむなしく、さらなるモンスターが城之内くんの場に現れてしまった。
しかも、この『勇者アトリビュート』――かなり厄介なモンスターじゃないか!
勇者アトリビュート 光 ★★★★★★★★
【戦士族・効果】
このカードは通常召喚できない。自分の墓地に存在する
属性の異なるモンスター4体をゲームから除外し特殊召喚する。
このカードが特殊召喚に成功した時、このカードにカウンターを2つ乗せる。
このカードがカードの効果で破壊される場合、代わりにこのカウンターを1つ取り除く。
攻撃力2900/守備力1800
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攻撃力2900という高い攻撃力に加え、2回までの効果破壊耐性が非常に厄介だ!
この『勇者アトリビュート』をカードの効果で破壊したければ、『聖なるバリア−ミラーフォース−』のようなカードを3回使用しないといけないのだから!
戦闘での破壊や、ゲームからの除外など――効果による破壊以外の手段を狙えれば一発で倒せるものの、今のぼくの手札ではそれらを行えそうにない。
「このターン、バトルフェイズは終わっちまっている。オレはカードを1枚伏せて、ターン終了だ!」
「ぼくのターン……!」
城之内くんの攻勢が止まらない。
ぼくが『未来融合−フューチャー・フュージョン』を使ったら、城之内くんもそれを使ってきて。
せっかく城之内くんのモンスターを全滅させたと思ったら、とても厄介な『勇者アトリビュート』を出されてしまった。
一進一退……と呼ぶには、ぼくのほうが後ろに下がりすぎている。ライフポイントこそは城之内くんの4倍も残っているものの、はじける直前のバブルのように、いっぱいいっぱいの状態になっていた。
少しくじけそうになって、でも、すぐに前を向く。
隣では野坂さんが闘っている。さらにその隣では騒象寺くんが闘っている。400人の観客の中には、ぼくのことを応援しているクラスメイト達がいる。くじけている暇なんてない!
「ドロー!」
このターン、ぼくがドローしたカードは、『激流葬』。発動すればモンスターを全滅させると言う強力な効果を持った罠カードだけど、『勇者アトリビュート』は、効果による破壊を2回まで無効化してしまう。
今の手札は、この『激流葬』と『冥府の使者ゴーズ』の2枚。『冥府の使者ゴーズ』は、自分の場にカードがない状況で直接攻撃を受けた時に、手札から特殊召喚される強力な効果を持っている。けれども、『フューチャー・フュージョン』を出してしまった以上、発動条件を満たすのはもうしばらく後になりそうだ。
「ぼくは、カードを1枚伏せて、ターンを終了します」
ここは、『勇者アトリビュート』の一撃を覚悟で、『激流葬』だけを伏せておくしかない……!
ダメージを受けててでも『冥府の使者ゴーズ』を温存し、何とか次に繋げるんだ!
「オレのターン! ドロー」
早くも城之内くんのターンが回ってくる。
「オレは、『ギルフォード・ザ・ライトニング』を追加召喚! 攻撃表示!」
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ビッグバン・バトル・フィールド
フィールド魔法
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フューチャー・フュージョン
永続魔法
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伏せカード
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勇者アトリビュート
攻撃表示
攻撃力2900
守備力1800
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ギルフォード・ザ・ライトニング
攻撃表示
攻撃力2800
守備力1400
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伏せカード
(ヒーロー・ブラスト)
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フューチャー・フュージョン
永続魔法
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伏せカード
(激流葬)
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攻撃力2800のモンスターがまたしても通常召喚される。2800ダメージはなんとしても回避しなくてはいけない!
「トラップカード発動! 『激流葬』です! フィールド上のモンスターを全て破壊します!」
激流葬
(罠カード)
モンスターが召喚・反転召喚・特殊召喚された時に発動する事ができる。
フィールド上に存在するモンスターを全て破壊する。
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「『激流葬』か! さすがだぜ、と言いたいところだが、分かっているよな!? 『勇者アトリビュート』はカウンターを1つ取り除くことで、その破壊から逃れることができる!」
「ええ! もちろんです!」
激流のエフェクトが、『ギルフォード・ザ・ライトニング』を巻き込んでいく。しかし、『勇者アトリビュート』は、激流を剣で真っ二つに切り裂いて、場にとどまった。その様子は、本物のモーゼの奇跡を見ているようでもあった。
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ビッグバン・バトル・フィールド
フィールド魔法
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フューチャー・フュージョン
永続魔法
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伏せカード
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勇者アトリビュート
攻撃表示
攻撃力2900
守備力1800
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伏せカード
(ヒーロー・ブラスト)
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フューチャー・フュージョン
永続魔法
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実質的に、『ギルフォード・ザ・ライトニング』だけを破壊して、一部のダメージだけを逃れた状況。
「バトルフェイズ! 『勇者アトリビュート』の攻撃!」
『勇者アトリビュート』の斬撃がぼくへと襲い掛かる。
ぼくの場には『ヒーロー・ブラスト』の罠カードが伏せてあるけど、攻撃力2500以下のモンスターしか破壊することができない。
ソリッドビジョンとは分かっていても、ぼくは思わず腕をかざして身を守ってしまった。
「ドーン! 2900ダメージだ!」
ぼくのライフポイントは、7700から4800まで一気に落ち込む。とうとうダムの決壊が始まったかのように、ぼくのライフポイントが削られていく!
「カードをさらに1枚伏せてターンエンドだぜ!」
城之内くんが、笑ったままターン終了を宣言する。
「よし! ぼくのターン! ドロー!」
このターンのドローカードは、攻撃力1900の『E・HERO アナザー・ネオス』。今の状況での活躍はほとんど期待できそうになかった。
しかし、このターンで、『未来融合−フューチャー・フュージョン』を発動してから2回目の自分のスタンバイフェイズを迎えることになる。
つまり、このターン、『E・HERO アブソルートZero』を融合召喚することができる……!
「さあ! 城之内くん! いよいよですね! このスタンバイフェイズ――『フューチャー・フュージョン』の効果によって、ぼくの場に『E・HERO アブソルートZero』が融合召喚されます! 守備表示です!」
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ビッグバン・バトル・フィールド
フィールド魔法
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フューチャー・フュージョン
永続魔法
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伏せカード
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伏せカード
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勇者アトリビュート
攻撃表示
攻撃力2900
守備力1800
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E・HERO アブソルートZero
守備表示
攻撃力2500
守備力2000
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伏せカード
(ヒーロー・ブラスト)
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フューチャー・フュージョン
永続魔法
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「おおっ! 来たなぁ! って守備表示?」
強力な効果を持つ『E・HERO アブソルートZero』がフィールドに現れたが、その表示形式は守備表示。
「ええ……」
カード効果では破壊されない『勇者アトリビュート』がいる以上、このターンで城之内くんに攻撃を仕掛ける意味はほとんどない。
それよりも警戒すべきは、次の城之内くんのターン。
次のターンになれば、城之内くんの『フューチャー・フュージョン』の効果によって、『究極竜戦士−ダーク・ライトニング・ソルジャー』が融合召喚されてしまう。そうすれば、その効果によってぼくのモンスターは全滅してしまう。
それだけじゃない。その隙を突いて、生き残った『勇者アトリビュート』と、追加で通常召喚される高レベルモンスターが攻撃して、大ダメージを与えてくる。2枚の伏せカードも残っている。
警戒をしすぎても、なお足りない状況。まるで巨大な砲台がいくつも並んでいる戦場のようだ。全ての砲台がぼくに向けられ、エネルギーを充填しているのだ!
「どうした花咲? 何か言いたそうな顔をして」
「城之内くん、次のターンで仕掛けてくる気……ですよね? 『ダーク・ライトニング・ソルジャー』の融合召喚を皮切りに、一斉攻撃を仕掛けてくる気ですよね!」
そうぼくが言うと、城之内くんは笑い出した。
「ハハ! よく分かったな花咲! ……そうさ! 次のターンで、オレは決着をつけてやろうと思っている!」
そして、城之内くんの声色が少し落ちる。
「……花咲。お前は強いよ。ほんっとうに強くなった! こんなこと言うのも何だがよ、昔のお前だったら『ビッグバン・バトル・フィールド』が出て、それがいつまでも破壊できなかったら、多分、とっくにしょぼくれていると思う。攻撃するオレのほうが気が引けてしまうほどにな」
そう言って城之内くんは一呼吸おく。
「……だが! 今のお前は違う。どこまでも喰らいついてくる! かと言って無謀に突っ込んでくることもねえ。こんなにも強い相手に勝つには、一気に畳み掛けるしかねえ。そうオレは思ったのさ!」
再び城之内くんに笑みが戻ってくる。
「フフフ……花咲! 準備するなら今のうちだぞ! 後悔しないように全力で来い!」
ぼくの場には『ヒーロー・ブラスト』が伏せてある……! ぼくの手札には『冥界の使者ゴーズ』がある……!
「残念ながら城之内くん……ぼくはいつだって全力です! ぼくはこのターン、これ以上カードを出すことなく終了します!」
「それがお前の全力だって言うのか……!」
「はい! ぼくはぼくができる精一杯のことをしているだけです! さあ! 次は城之内くんのターンです! ぼくの全力と城之内くんの全力――どちらが勝つか勝負です!」
「へへっ、いいぜ花咲! オレのターンだ! ドロー!」
城之内くんのターン。城之内くんは引く前から嬉しそうな顔で、デッキからカードをドローした。
「さあ! 『ビッグバン・バトル・フィールド』にふさわしい、超絶バトルのクライマックスだ! まずは! 『フューチャー・フュージョン』の効果を味わってもらうぜ!」
「はいっ!」
「オレの『フューチャー・フュージョン』によって! 攻撃力3500の『ダーク・ライトニング・ソルジャー』が融合召喚される!」
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ビッグバン・バトル・フィールド
フィールド魔法
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フューチャー・フュージョン
永続魔法
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伏せカード
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伏せカード
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勇者アトリビュート
攻撃表示
攻撃力2900
守備力1800
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ダーク・ライトニング・ソルジャー
攻撃表示
攻撃力3500
守備力2300
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E・HERO アブソルートZero
守備表示
攻撃力2500
守備力2000
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伏せカード
(ヒーロー・ブラスト)
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フューチャー・フュージョン
永続魔法
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『真紅眼の黒竜』の屈強な誇りを身につけた『ギルフォード・ザ・ライトニング』――『究極竜戦士−ダーク・ライトニング・ソルジャー』がフィールドに現れる。
両肩に差してある闇の剣と光の剣の威圧感が、3500もの攻撃力を物語っている。ソリッドビジョンを見ただけでもため息が出てきてしまう。
「おおっと! 見とれている場合じゃないぜ花咲! 『ダーク・ライトニング・ソルジャー』は融合召喚した時に、相手モンスターを全滅させる効果を使えるんだからな!」
究極竜戦士−ダーク・ライトニング・ソルジャー 闇 ★★★★★★★★
【戦士族・効果】
「ギルフォード・ザ・ライトニング」+「真紅眼の黒竜」
上記のカードでこのカードを融合召喚した場合、
相手フィールド上のモンスターをすべて破壊する。
攻撃力3500/守備力2300
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「行くぜ! ライトニングクラッシュソードで稲妻を放て!」
光り輝く剣から放たれた稲妻が、ズガアアアアンと音を響かせて、ぼくの『E・HERO アブソルートZero』を直撃する!
「でも! ぼくの『E・HERO アブソルートZero』だって効果はあるんです!」
E・HERO アブソルートZero 水 ★★★★★★★
【戦士族・効果】
「HERO」と名のついたモンスター+水属性モンスター
このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。
このカードの攻撃力は、フィールド上に表側表示で存在する
「E・HERO アブソルートZero」以外の
水属性モンスターの数×500ポイントアップする。
このカードがフィールド上から離れた時、
相手フィールド上に存在するモンスターを全て破壊する。
攻撃力2500/守備力2000
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「ぼくの『アブソルートZero』が破壊されたことで、城之内くんのモンスターも全て破壊します! 『アブソルートZero』の最後の力で、全てのモンスターを凍結します!」
ぼくがそう宣言した瞬間、『ダーク・ライトニング・ソルジャー』がピシピシと凍りついて、モンスター破壊のエフェクトが表示される。
だけど、もう一体の『勇者アトリビュート』は、剣からバリアーのように炎を発して自分の身を守ってしまう。
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ビッグバン・バトル・フィールド
フィールド魔法
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伏せカード
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伏せカード
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勇者アトリビュート
攻撃表示
攻撃力2900
守備力1800
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相手モンスターを全破壊させる効果が互いに発動した結果、フィールドに残ったモンスターは、城之内くんの『勇者アトリビュート』1体。
ぼくの場には、『ヒーロー・ブラスト』の罠カード1枚だけが残った。
「へへっ! 完全な相打ちとは行かなかったようだぜ! オレの『勇者アトリビュート』は、最後のカウンターを消費して生き残った!」
「はい……! でも、これは想定の範囲内です! さあ! 城之内くんのメインフェイズです。続けてください! まだまだぼくには余力がありますよ!」
ぼくはキッと城之内くんに向かって言った。
「ああ! オレだってこの程度で終わるつもりじゃないぜ! オレはここで『ギルフォード・ザ・レジェンド』を追加で召喚するぜ! 攻撃表示だ!」
数ターン前と同じ屈強な戦士モンスターが城之内くんの場に現れる。再び、『ギルフォード・ザ・レジェンド』を出してきたのだ!
「花咲、『ギルフォード・ザ・レジェンド』の効果は覚えているよな!?」
「墓地の装備魔法カードを戦士族モンスターに装備させる……」
「そうさ! オレは墓地の『団結の力』を再び使用する! 『勇者アトリビュート』に装備! オレのモンスターは2体。よって! 攻撃力は1600ポイントアップする!」
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ビッグバン・バトル・フィールド
フィールド魔法
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団結の力
装備魔法
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伏せカード
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伏せカード
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勇者アトリビュート
攻撃表示
攻撃力4500
守備力3300
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ギルフォード・ザ・レジェンド
攻撃表示
攻撃力2600
守備力2000
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ただでさえ攻撃力が高い『勇者アトリビュート』はますます力をつけ、攻撃力4500となった。
それでも、これなら何とかなるかもしれな……
「甘いぜ! オレの全力はさらに上を行く!!」
「…………っ!」
「オレはここで伏せカードを発動! そのカードは『正統なる血統』! 墓地に送ってある『真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)』を特殊召喚!」
城之内くんの十八番『真紅眼の黒竜』が、その黒い羽をぶわっと広げてフィールド上に出現した!
「『真紅眼の黒竜』が現れたことで、オレの場のモンスターは3体になった。その意味が分かるよな?」
「『団結の力』を装備している『勇者アトリビュート』の攻撃力がさらに上がるって事ですか……!」
「その通り! 『勇者アトリビュート』の攻撃力はついに5300!」
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ビッグバン・バトル・フィールド
フィールド魔法
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団結の力
装備魔法
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正統なる血統
永続罠
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伏せカード
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勇者アトリビュート
攻撃表示
攻撃力5300
守備力4100
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ギルフォード・ザ・レジェンド
攻撃表示
攻撃力2600
守備力2000
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真紅眼の黒竜
攻撃表示
攻撃力2400
守備力2000
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「やりすぎだと思うか? いや、オレはそうは思わない。むしろこれでも足りない気がするほどだ!」
「そ、そう思ってもらえて嬉しいです!」
「フフ! じゃあバトルフェイズに行くぜ!」
バトルフェイズ……。ここが勝負の分かれ道。
ぼくの手札には『冥界の使者ゴーズ』がある! 場には『ヒーロー・ブラスト』が伏せてある!
「オレは『真紅眼の黒竜』でダイレクトアタックだ!」
「通しません! 『ヒーロー・ブラスト』発動です!」
ヒーロー・ブラスト
(罠カード)
自分の墓地に存在する「E・HERO」と名のついた
通常モンスター1体を選択し手札に加える。
そのモンスターの攻撃力以下の相手フィールド上
表側表示モンスター1体を破壊する。
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「墓地にある『E・HERO ネオス』を手札に加え、『真紅眼の黒竜』は破壊されます!」
デュエルディスクの墓地ゾーンあたりから、光のエフェクトが発せられ、ぼくに迫ってくる炎もろとも『真紅眼の黒竜』を巻き込んでいく。光が消えた時には、『真紅眼の黒竜』はいなくなっていた。
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ビッグバン・バトル・フィールド
フィールド魔法
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団結の力
装備魔法
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伏せカード
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勇者アトリビュート
攻撃表示
攻撃力4500
守備力3300
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ギルフォード・ザ・レジェンド
攻撃表示
攻撃力2600
守備力2000
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「モンスターが1体減ったので、『団結の力』の効力もダウンします! 『勇者アトリビュート』の攻撃力は4500になりました!」
「だが! まだ2体のモンスターが残っているぞ!」
「はいっ!」
「『ギルフォード・ザ・レジェンド』で直接攻撃だ! 2600ダメージ!」
ぼくのライフポイントは、4800から2200へ。
「だけど、ダメージはここまでです城之内くん! 手札から『冥界の使者ゴーズ』の効果が発動します!」
冥府の使者ゴーズ 闇 ★★★★★★★
【悪魔族・効果】
自分フィールド上にカードが存在しない場合、相手がコントロールするカードによって
ダメージを受けた時、このカードを手札から特殊召喚する事ができる。
この方法で特殊召喚に成功した時、受けたダメージの種類により以下の効果を発動する。
●戦闘ダメージの場合、自分フィールド上に「冥府の使者カイエントークン」
(天使族・光・星7・攻/守?)を1体特殊召喚する。このトークンの攻撃力・守備力は、
この時受けた戦闘ダメージと同じ数値になる。
●カードの効果によるダメージの場合、受けたダメージと同じダメージを相手ライフに与える。
攻撃力2700/守備力2500
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「この効果によって、攻撃力2700と攻撃力2600の――合計2体のモンスターが特殊召喚されます! どちらも守備表示です!」
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ビッグバン・バトル・フィールド
フィールド魔法
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団結の力
装備魔法
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伏せカード
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勇者アトリビュート
攻撃表示
攻撃力4500
守備力3300
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ギルフォード・ザ・レジェンド
攻撃表示
攻撃力2600
守備力2000
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冥府の使者ゴーズ
守備表示
攻撃力2700
守備力2500
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カイエントークン
守備表示
攻撃力2600
守備力2600
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「なるほど! 『ゴーズ』でしのぎきるつもりだったんだな!」
「そう言うことです!」
「くぉぉ! もし、『勇者アトリビュート』から攻撃していたら、『カイエントークン』の攻撃力が4500になっていたわけか! あっぶねー!」
「さあ城之内くん! このターン攻撃宣言をしていないのは『勇者アトリビュート』だけです! 『ゴーズ』か『カイエン』のどちらかを破壊するんですよね!?」
そう言って、ぼくは城之内くんの『勇者アトリビュート』を指差す。
「もちろん! ……だがな、『ゴーズ』や『カイエン』は守備表示。このまま攻撃したんじゃダメージを与えられない。そ・こ・で! このカードの出番だ!」
ドクンと心臓が鳴ったのが分かった。
ここで……カードを追加……!?
「オレが発動するのは、場に伏せてあるトラップカード『最終突撃命令』だ!」
最終突撃命令
(永続罠カード)
このカードがフィールド上に存在する限り、
フィールド上に存在する表側表示モンスターは全て攻撃表示となり、
表示形式は変更できない。
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「『最終突撃命令』は、全てのモンスターが攻撃表示になる永続罠! せっかく守備表示で出した『ゴーズ』と『カイエン』も、攻撃表示になっちまうんだぜ!」
「攻撃表示……ダメージが……発生……」
「さぁて! 『勇者アトリビュート』の攻撃だ! 『ゴーズ』を破壊しろ!」
『勇者アトリビュート』の剣が『冥府の使者ゴーズ』を斬り裂く。
4500引く2700だから、ええと!
慌ててしまってすぐに計算ができない。1800……1800だ。ここでぼくが受ける戦闘ダメージは1800……で良いんだよね? それで、今のライフは2200だから……!
ぼくが頭で計算するよりずっと早く、ソリッドビジョンのライフポイント表示が更新されていく。
2200からダウンし続けたライフポイントは、400で止まった。
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ビッグバン・バトル・フィールド
フィールド魔法
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団結の力
装備魔法
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最終突撃命令
永続罠
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勇者アトリビュート
攻撃表示
攻撃力4500
守備力3300
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ギルフォード・ザ・レジェンド
攻撃表示
攻撃力2600
守備力2000
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カイエントークン
攻撃表示
攻撃力2600
守備力2600
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城之内くんの場にはこれ以上攻撃できるモンスターはいない。手札も0枚。伏せカードも0枚。このターンでは、これ以上攻め込むことはできない……!
「い、生き残ったぁぁ」
思わず声に出してしまう。
「ああ、オレの猛攻を耐え切ったのはすげえぜ! しかし、大ダメージは避けられなかった! 花咲のライフは残り400。しかも、オレの場には攻撃力4500の『勇者アトリビュート』が残っている。オレもお前も、ライフや手札が辛くなってきた。さあ、ここからどうするか見せてもらうぜ、花咲! ターンエンド!」
そうして、長かった城之内くんのターンは終了した。
「ぼくのターン……」
ギリギリで生き残った今の状況。
死にはしなかったものの、ますます追い詰められたことには違いない。
城之内くんの場には、攻撃力4500の『勇者アトリビュート』がいる。守備表示を封じる『最終突撃命令』が出ている。
それに対して、今のぼくの手札は、攻撃力2500『E・HERO ネオス』と、攻撃力1900の『E・HERO アナザー・ネオス』の、2枚しかない。
このドローフェイズで『勇者アトリビュート』を倒せるカードをドローできなければ、敗北が確定してしまう。
ぼくはデッキの一番上のカードに手をかけた。
……今の状況をひっくり返せるカードは、決して少なくない。特に、『オネスト』、『ミラクル・フュージョン』、『超融合』を引き当てられれば、このターンでぼくが勝つことだってできる。これらのカード――このデュエルでは一枚も引けなかったけど、もうそろそろ引けても良いんじゃないのか!
「ドロー!」
ぼくは思い切ってデュエルディスクからカードを引いた。
引き当てたカードは――――二度目の、『デュアルスパーク』だった。
デュアルスパーク
(速攻魔法カード)
自分フィールド上に表側表示で存在する
レベル4のデュアルモンスター1体をリリースし、
フィールド上に存在するカード1枚を選択して発動する。
選択したカードを破壊し、自分のデッキからカードを1枚ドローする。
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ここで、『デュアルスパーク』を引いてしまうとは……。
ぼくの手札にはデュアルモンスターである『E・HERO アナザー・ネオス』がいる。この『デュアルスパーク』を使えば、破壊耐性の切れた『勇者アトリビュート』を倒すこともできるし、もう一度ドローする機会も得ることができる。
『オネスト』のように勝利を確信できるカードではないけど、他のカードのように敗北が決定するカードでもない。
気のせいだろうか。このデュエル、途中からこんなカードばかりドローしているような気がしてならない。
もしかしたら、ここにいる400人の観客のせいかもしれない。
盛り上がっていく一方の体育館。誰もがギリギリのバトルを求めていて、あっさり決着なんてつけさせてくれないのだ!
フフフ……。こんな変なことを考えてしまうなんて、だいぶ疲れてきたのでしょうね……!
ぼくはぶんぶんと頭を振って、カードをデュエルディスクにセットした。
「『E・HERO アナザー・ネオス』を召喚し、『デュアルスパーク』を発動します!」
「また『デュアルスパーク』か!」
「ええ! この効果によって、カウンターを失った『勇者アトリビュート』を破壊します!」
『デュアルスパーク』の電撃のエフェクトが、『勇者アトリビュート』へと襲い掛かる。
2回まで効果による破壊を無効化する『勇者アトリビュート』だったが、3度目の正直。ようやく、倒すことができたのだ。
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ビッグバン・バトル・フィールド
フィールド魔法
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最終突撃命令
永続罠
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ギルフォード・ザ・レジェンド
攻撃表示
攻撃力2600
守備力2000
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カイエントークン
攻撃表示
攻撃力2600
守備力2600
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「その後、カードを1枚ドローします」
ぼくはそう言ってから、デッキに目を向ける。
『デュアルスパーク』による、カードドロー効果……。
今度はゆっくりと丁寧に、デュエルディスクにはめ込まれたデッキからカードを引く。
サイクロン
(速攻魔法カード)
フィールド上の魔法または罠カード1枚を破壊する。
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ドローしたカードは、速攻魔法『サイクロン』だった。
フィールド上の魔法・罠カード1枚を破壊できる効果を持っているカード。
このカードは当たりなのか……はずれなのか……?
フィールドの様子を見て考える。
破壊できるのは、『ビッグバン・バトル・フィールド』か『最終突撃命令』のどちらか一方。
城之内くんの手札は0枚。
城之内くんの次のドローカードが、攻撃力2600を超えるモンスターだったら、『ビッグバン・バトル・フィールド』を破壊するのが正解。
逆に、次のドローカードが、あまり攻撃力の高いモンスターでなければ、『最終突撃命令』を破壊するのが正解。
ぼくは頭をフル回転させる。
ここまでのインフレバトルのせいもあって、疲れが出てしまっているけれど、ここで少しでも勝ちに近づけるほうを選択しなくてはいけない。
疲労を押し殺すようにして、考える。
場のカード……。手札のカード……。デッキに残っているカード……。
ぐるぐるぐるぐると頭をフル回転させて、考える。
だけど、思考はぐるぐるぐるぐると同じところを回ってばかりで、出口を見つけることができない。
あちこちから聞こえてくる声援が、意味のないノイズのように頭を駆け巡っていく。四方八方からいろんな声が聞こえてくるせいで、耐え難い不協和音を生んでいるような錯覚に陥ってしまう。
ああダメだ……! 思った以上にぼくは疲れている……!
1ターン前の城之内くんのラッシュを防いで、厄介な『勇者アトリビュート』を破壊して、少し安心できる状況になったからだろうか、疲れがどっと押し寄せてきていたのだ。
このままじゃ、まともに頭が働いてくれない。せっかくの大事な場面でプレイングミスをしてしまう!
疲労……プレイングミス……。
二つの単語がぼくの頭の中で、ひとつの解を作り出していく。
そうか! この戦法があった!
ぼくは、手札の『サイクロン』のカードを、デュエルディスクの魔法&罠ゾーンに差し込んだ。
「『サイクロン』を発動します! 破壊するカードは――――『ビッグバン・バトル・フィールド』です!」
暴風のエフェクトが現れ、ビッグバンの静止映像をかき消していく。
「うっ! ついに破壊されちまったか……!」
「さらに、バトルフェイズです! 『カイエントークン』で『ギルフォード・ザ・レジェンド』に攻撃! 攻撃力はいずれも2600! 相打ちとなります!」
会場の声援が聞き取れない。城之内くんの声を聞き分けるだけで精一杯だ。
「こ、これでターンエンド、です……」
ぼくは息をあげたまま、ターン終了を宣言した。
「ずいぶん疲れてきてるじゃねえか花咲!」
「ええ……。普段運動不足だったかもしれません。城之内くんはまだまだ元気ですね……」
「ああ。体力だけはな。だが、手札はない、モンスターもいない、『ビッグバン・バトル・フィールド』もない、ライフも少ない……。体力以外はボロボロだ」
城之内くんが少し顔を伏せて言う。
「それじゃあ、そろそろ決着をつけないといけませんよね……!」
そう言って、ぼくは、笑みを作ってみせる。
お互いの手札はほとんど空っぽ。フィールドのカードもほとんど空っぽ。
そんな状況になれば、勝敗を左右するのはドローカードになる。相手にダメージを与えるために、相手より先にモンスターカードをドローするしかない。
「ああそうだな……! 決着をつけよう!」
もうこれ以上頭を使う必要なんかない。相手より先に、召喚可能なモンスターカードを引き当てればいい。これはシンプルなドロー勝負……!
「じゃあ行くぜ! オレのターン!」
元気いっぱいの城之内くんは、デッキからスパッとカードを引いた。
図書館で野坂さんと初めてデュエルした時のことを思い出す。あの時もこんな感じで、最後にモンスターを引き当てたほうが勝てる状況になったんだった。あの時はぼくが勝てたけど、今回はどうなるのだろう?
前を見る。カードをドローした城之内くんは、「ヘッ」と笑みを作った。
「…………!」
その笑みは、勝利の笑みなのか、それとも――!
「花咲、お前の読みは当たりだったようだぜ。お前が『ビッグバン・バトル・フィールド』を破壊したおかげで、オレはこのターンでできることがなくなっちまった」
疲労の色に安堵の色が重なるぼく。
「ターンエンド。さあ、花咲のターンだ」
「ぼくのターン、ドロー」
疲れてきたせいだろう、いつの間にドローフェイズを終えていた。ぼくは、無意識にカードを引いてしまっていたのだ。
ドローしたカードを改めて確認する。
『E・HERO プリズマー』。
それは、通常召喚して攻撃を仕掛けられるモンスターカードだった!
「それじゃあ行きます……!」
「くっ! モンスターを引けたのか!」
「ええ! ぼくは、『E・HERO プリズマー』を召喚。攻撃を仕掛けます」
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E・HERO プリズマー
攻撃表示
攻撃力1700
守備力1100
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『E・HERO プリズマー』の直接攻撃が、城之内くんに炸裂する。
「よし! 1700ダメージです……!」
ソリッドビジョンに表示されている、城之内くんのライフポイントが音を立てて減っていく。
「くっ! 『ビッグバン・バトル・フィールド』がなくちゃ、オレが圧倒的に不利だな……!」
これで、城之内くんのライフポイントは残り600。
あと少し……! あと少し……! あと少し……!
「ターンエンド……」
ふらふらする頭を押さえつけるようにして、ぼくはターンを終了した。
「オレのターン! ドロー! ……引いた! 引いた! 引いたぜモンスターカード!」
城之内くんは声を張り上げ、デュエルディスクにカードをセットする。
「『エヴォルテクター シュバリエ』を召喚だぜ! 攻撃力1900! 『E・HERO プリズマー』に攻撃だ!」
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エヴォルテクター シュバリエ
攻撃表示
攻撃力1900
守備力900
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E・HERO プリズマー
攻撃表示
攻撃力1700
守備力1100
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炎のエフェクトがぼくの『E・HERO プリズマー』を包み込んでいく。攻撃力1700の『E・HERO プリズマー』では勝ち目はない。
『E・HERO プリズマー』は破壊され、ぼくの残りライフは200。死にはしなかったけど、またしても後がなくなってしまった。
「や、やりますね城之内くん……!」
「火事場の馬鹿力じゃあ、オレだって負けちゃいねえさ! へへ……」
「へへ……」
つられて変な笑みが出てしまう。
『ビッグバン・バトル・フィールド』がなくなり、手札もライフもほとんどなくなった――そんなぼく達にできることは『最終突撃命令』のごとく突撃するだけだった。
ぼくが『E・HERO プリズマー』で一発殴れば、城之内くんは『エヴォルテクター シュバリエ』で殴り返してくる。
もはやデュエルなどとは呼べない野蛮な殴り合い。
疲れ切った体からは、変な笑みしか出てこない。歓声だけがどんどん大きくなっていく。
「さ、次は花咲の番だぜ!」
「はい、ぼくのターン……ドロー……!」
ドローカードは『増援』。
増援
(魔法カード)
自分のデッキからレベル4以下の戦士族モンスター1体を手札に加える。
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「へへへ……」
ここで『増援』を引き当てられたなんて、ぼくはとても幸運だ!
「城之内くん……。お返しです……! とっておきのカードの登場です!」
「とっておき……ってコトは!」
「はい、ぼくは『増援』を発動。デッキから戦士族モンスター1体を手札に加えます。手札に加えるのは、もちろんこのカード……!」
ダーク・ヒーロー ゾンバイア 闇 ★★★★
【戦士族・効果】
このカードはプレイヤーに直接攻撃する事ができない。
このカードが戦闘でモンスターを1体破壊する度に、
このカードの攻撃力は200ポイントダウンする。
攻撃力2100/守備力500
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「来た! 『ダーク・ヒーロー ゾンバイア』!」
城之内くんの目が見開いた。
「エレメンタルヒーローデッキでも、『ゾンバイア』は外せねえってか!」
「はいっ! 『ゾンバイア』はここまでぼくを支えてくれたカードですから! さあ! 行きましょう! 『ダーク・ヒーロー ゾンバイア』召喚!」
ぼくがずっと憧れ続けたヒーローが、ソリッドビジョンとなってぼくの目の前に現れる。いつの間にか、疲れが吹き飛んでいた。
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エヴォルテクター シュバリエ
攻撃表示
攻撃力1900
守備力900
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ダーク・ヒーロー ゾンバイア
攻撃表示
攻撃力2100
守備力500
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「攻撃力2100! 今の状況では最高の一枚です! 『ゾンバイア』の攻撃です!」
映画版での必殺パンチが、『エヴォルテクター シュバリエ』の赤い鎧に食い込む。
「『シュバリエ』破壊です! 反撃がキマりました!」
「くっ!」
「しかしモンスターを破壊したので、『ゾンバイア』の攻撃力は1900にダウンします……」
殴って、殴り返され、殴り返して……!
満身創痍の中で、ただ殴りあうだけのぼく達。
どこかで見たことがある光景。……そうだ! ゾンバイア39話がこんな話だった!
第39話では、命の炎を燃やして殴り合い、最後にはゾンバイアが勝利を手にした。だったら、ぼくだってゾンバイアのように最後まで立っているしかない!
「ターンエンドです!」
「さあ! 反撃行くぜオレのターン! ドロー! 来た来た来た! 『ものマネ幻想師』が来た!」
「『ものマネ幻想師』……!」
「ああ! オレがこのターンドローしたのは、この『ものマネ幻想師』だ! もちろん召喚するぜ! 攻撃表示だ!」
ものマネ幻想師 闇 ★
【魔法使い族・効果】
このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時、
このカードの攻撃力・守備力は、相手フィールド上に表側表示で存在する
モンスター1体の元々の攻撃力・守備力になる。
攻撃力0/守備力0
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「分かっているよな! 『ものマネ幻想師』は召喚された瞬間、相手モンスターの攻撃力と守備力をコピーすることができる! しかもコピーするのは『元々の』数値」
「『ゾンバイア』の元々の攻撃力をコピー……!」
「そう! 『ものマネ幻想師』の攻撃力は2100!」
城之内くんの場には、『ゾンバイア』に変身した『ものマネ幻想師』。攻撃力2100。
一方、ぼくの場には、疲れが見えてきた『ゾンバイア』。攻撃力1900。
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ものマネ幻想師
攻撃表示
攻撃力2100
守備力500
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ダーク・ヒーロー ゾンバイア
攻撃表示
攻撃力1900
守備力500
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殴って、殴り返され、殴り返して、そして、殴り返される!!
「ギリギリだった……本当にギリギリだった……」
城之内くんが少し声量を落として言った。
「これでオレの勝ちだ! 『ものマネ幻想師』で『ゾンバイア』に攻撃だ!」
変身した『ものマネ幻想師』の攻撃が、ぼくの『ゾンバイア』にヒットする。『ゾンバイア』は崩れ落ち、消え去ってしまった。
殴って、殴り返され、殴り返して、また殴り返された――――だったら! もう一度殴り返してみせるまでです!
まだまだこのデュエル、終わるわけにはいかない! さあ、次のターンで反撃ですよ!
――――ぼくは、本当にそう思っていた。
「大将戦の決着がつきました! 本当に僅差! 僅差です! 勝利したのは、2年B組第2チーム――城之内選手です!!」
……え?
副会長さんの声が、ぼくの耳に突き刺さる。
「決着…………。決着……決着……」
声に出して繰り返す。
それから、デュエルディスクに取り付けられたディスプレイを見ると、ぼくのライフポイント表示は、確かに0になっていた。
ああ、そうだ……。
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ものマネ幻想師
攻撃表示
攻撃力2100
守備力500
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さっきの戦闘でぼくは200ダメージを受けて、風前の灯だったライフポイントが、ついに途絶えてしまったんだ。
呆然としてしまう。城之内くんとの殴り合いの決闘は、途中でぷっつりと途切れてしまった。
もしも、デュエルが続いていたらどうなっていただろうか?
そんな風に思ったぼくは、デュエルディスクにセットされたデッキを取り出して、一番上のカードを裏返してみた。
ミラクル・フュージョン
(魔法カード)
自分のフィールド上または墓地から、融合モンスターカードによって
決められたモンスターをゲームから除外し、「E・HERO」という
名のついた融合モンスター1体を融合デッキから特殊召喚する。
(この特殊召喚は融合召喚扱いとする)
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「ここで、『ミラクル・フュージョン』……」
なんということだろう!
もし……! もし! ぼくのライフがあと1ポイントでも多かったら、このデュエル、ぼくが勝っていたのだ!
「ふ……ふふふ…………ふふふふふふ……」
疲れと笑いとがどっと押し寄せてくる。
変な笑いが出てしまうことを止められない。ふらっとめまいがしてしまい、ぼくは膝をついてしまう。
「おっと! 大丈夫か花咲!」
ぼくの様子を見た城之内くんが、さっと駆け寄ってくれる。
「ええ……大丈夫です。疲れてしまっただけですから……」
「だったら、ちょっと休んでくるか?」
城之内くんがそう提案する。
ぼくは、ゆっくりと首を振った。
「ありがとうございます城之内くん。休みたいのはやまやまですが、まだまだ休むわけにはいきません……!」
確かにギリギリだった。
ライフポイントがあと1ポイントでも多かったら……プレイングをわずかでも変えていたら……1ターン前にミラクル・フュージョンが引けていたら……きっと勝てていただろう。
それくらいギリギリだったけれども、城之内くんに負けてしまった事実が覆ることはない。どんなに一方的にボロボロにされたとしても、どんなにギリギリで惜しかったとしても、1敗は1敗だ。
だったら、そんな過去のことを考えている場合ではない。
ぼくは城之内くんに負けてしまったけれども、試合が終わったわけじゃない。
ぼく達の童実野高校デュエルモンスターズ大会は、まだまだ終わってなんかいない!
なぜなら!
この大会は、三人一組のチーム戦だから!
野坂さんはまだ負けていない!
騒象寺くんもまだ負けていない!
そんな時に休んでなんかいられないでしょう!?
ぼくは膝をついたままぐっと顔を上げ、野坂さんと騒象寺くんのデュエルを見る。
さあ! どうなった!?
ぼくの仲間は、どうなった!?
第十一章 童実野高校デュエルモンスターズ大会 準決勝・中編
歓声が聞こえてきた。
中堅戦が行われているフィールドを挟んだその奥――先鋒戦が行われているフィールドに、4種類のモンスターが揃っていた。
10本ものギターやベースを弾きこなす『偉大なる音楽家 ギターズ・オブ・テン』。
100台もの打楽器を目にも留まらぬ速度で叩く『偉大なる音楽家 ドラムス・オブ・ハンドレッド』。
1000本もの鍵盤を流れるような手つきで弾きこなす『偉大なる音楽家 キーズ・オブ・サウザンド』。
1000000デシベルという人知を超えたパワーで歌う『偉大なる音楽家 デシベル・オブ・ミリオン』。
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剣闘獣エクイテ
攻撃表示
攻撃力1600
守備力1200
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サイバー・ドラゴン
攻撃表示
攻撃力2100
守備力1600
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偉大なる音楽家 キーズ・オブ・サウザンド
攻撃表示
攻撃力2400
守備力2800
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偉大なる音楽家 デシベル・オブ・ミリオン
攻撃表示
攻撃力2900
守備力2100
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偉大なる音楽家 ドラムス・オブ・ハンドレッド
攻撃表示
攻撃力2500
守備力1900
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偉大なる音楽家 ギターズ・オブ・テン
攻撃表示
攻撃力1900
守備力1800
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「偉大なる音楽家」シリーズの4種類のモンスター。それらが全て騒象寺くんの場に降臨していた!
先鋒戦が行われているフィールドまで、10メートル以上は離れている。それにもかかわらず、ソリッドビジョン化された「偉大なる音楽家」フルメンバーの存在感は圧倒的だった。どう見てもおかしな格好をしているのに、滅茶苦茶カッコ良かった。
そして、それら「偉大なる音楽家」を率いる騒象寺くんは、「偉大なる音楽家」に負けないほどの派手なスター衣装でキメていた。
「ふふふ……! このデュエル、ワシの勝ちだ! 本田!」
「くっ……『剣闘獣の戦車』さえ破壊されなければ……!」
「『剣闘獣の戦車』さえ破壊されなければ――だと? 甘い! 甘いわ! ワシのデッキにとって『剣闘獣の戦車』は天敵! 警戒しないわけがないだろうが!」
「警戒……。ま、まさか、『大嵐』も『契約の履行』もこのターンのために温存していたのか……?」
「当然だろうがぁ! 何者もワシのグレートコンサートの妨害はさせない。フフフ……最高のグレートコンサートで、あの世に送ってやるわ!」
ドクンドクンと、ぼくの胸が少しずつ高鳴っていく。
立っているのも辛いほどの疲労感が、嘘のように吹き飛んでいく。
フィールドに揃った「偉大なる音楽家」フルメンバー。『契約の履行』プラス1枚からの、「偉大なる音楽家」とっておきのフルメンバー召集コンボ。
「ワシのバトルフェイズ! グレートコンサート――クライマックスじゃあ!」
その一言で、会場の歓声が大きくなる。
まるで、本当にコンサートでも始まるかのように、会場は熱気に包まれていく。
本田くんの場には、今の状況をひっくり返せるカードは存在しない。彼の手札にある2枚のカードも、「偉大なる音楽家」によって手札に加えさせられたカードで、役に立ちはしない。
「さあ! いくぜぇぇ! 昇天の百曲メドレーだ!」
スター衣装の騒象寺くんは、「偉大なる音楽家」たちに攻撃の指示を出していく。
『偉大なる音楽家 デシベル・オブ・ミリオン』のウルトラエネルギーソングが『サイバー・ドラゴン』を破壊し――
『偉大なる音楽家 キーズ・オブ・サウザンド』の超絶技巧多重奏が『剣闘獣エクイテ』を破壊し――
『偉大なる音楽家 ドラムス・オブ・ハンドレッド』と『偉大なる音楽家 ギターズ・オブ・テン』の超演奏が本田くんに襲い掛かる。
4700ポイント残っていた本田くんのライフポイントは、3900、3100、1200といった具合に減らされていき、とうとう0になった……!
「先鋒戦の決着もついたようです! 勝利したのは、2年C組第7チーム! 騒象寺選手です!」
マイクを通した副会長さんの声が、体育館に響く。
「しゃああああああああああああ!!」
咆哮のような声を出して、騒象寺くんが喜ぶ。それに合わせるように会場の声援がさらに大きくなっていく。
さっきまであれほどの激戦を繰り広げて、立っていられないほど疲れて、わずかな差の敗北に呆然とした、そんなぼくに、勝利の喜びがじわじわと押し寄せてくる。
騒象寺くんが勝った……!
ここで騒象寺くんが勝利を運んできてくれた……!
やった……! やった……! やったぞ……!
「やったあああぁぁぁ!!」
体育館が騒がしかったせいもあって、ぼくは、ためらうことなく大きな声を出して喜びを表現した。
あまりの騒がしさに、副会長さんから「中堅戦のデュエル進行に支障が出るのでもう少し静かにお願いします」と注意されるまで、体育館は本当にコンサートが行われたかのように盛り上がっていたのだった。
ぼくの隣にいる城之内くんが、少し引きつった顔色になっていた。
「くぅぅ、本田は負けちまったか。つーか、騒象寺のヤツあんなに強かったのか……」
「ふふふ……。騒象寺くんをナメてもらっては困ります城之内くん! 騒象寺くんは、今日のためにたくさん練習してきたんです! 野坂さんのアドバイスも素直に受け入れて、とても強くなっているのです!」
「すげえ自信だな……って、あれ? リボンちゃんのアドバイス?」
城之内くんが聞いてくる。
ああそうか、城之内くんは、野坂さんに眠っていた「実力」のことを知らないんだ。
「そうです。ぼくや騒象寺くんのデッキや戦術は、野坂さんのアドバイスを元に作られているんです。彼女には、ぼくをはるかに超える知識と想像力があって、そのおかげでぼく達はここまで勝ちあがってきたんです。ぼく達のチームで一番強いのは、野坂さんなんですよ!」
「うへぇ、マジか……!」
「はい! ですから、中堅戦もぼく達のチームが勝ちます! この準決勝に勝つのは、ぼく達のチームです!」
「へへっ、言ったなぁ! だけどな、オレ達のチームだって御伽が相手だ! あらゆるゲームに精通し、ゲームクリエイターとして活躍を始めてるってことは、花咲だって知っているだろ? 勝つのはオレ達のチームだぜ!」
大将戦で負け、先鋒戦で勝ち、残るは中堅戦――野坂さんと御伽くんのデュエルのみ。
このデュエルで勝ったほうが、決勝戦に進出できる……!
「さあ、観戦に集中しましょう!」
「ああ!」
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カオス・ソーサラー
攻撃表示
攻撃力2300
守備力2000
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「メインフェイズ1に入るよ。僕は800ライフを支払い、『洗脳−ブレインコントロール』を発動。『カオス・ソーサラー』のコントロールを得る」
「ごめんなさい。ここで『マジック・ドレイン』を発動です。『洗脳−ブレインコントロール』の発動を無効化させていただきます」
「……リボンちゃん、残念だけど、僕の手札には魔法カードがある。これを墓地へ捨てることで、『洗脳−ブレインコントロール』の発動は有効となる。したがって『カオス・ソーサラー』は僕のフィールドに移る」
「……わかりました」
「うん。それじゃあ、この『カオス・ソーサラー』を生け贄に捧げ、『氷帝メビウス』を生け贄召喚させてもらおう。『氷帝メビウス』の誘発効果が発動……」
「ごめんなさい。『畳返し』を発動させていただきます。『氷帝メビウス』の効果は無効化され、『氷帝メビウス』自身も破壊されます」
「……了解。『氷帝メビウス』は墓地に送るよ。ターンエンドだ」
中堅戦――野坂さんと御伽くんのデュエルは、先鋒戦や大将戦とは明らかに雰囲気が異なっていた。
野坂さんや御伽くんの性格のせいだろう。お互いに、事務的な口調で淡々とデュエルを進行させていたのだ。
決勝進出をかけたデュエルが、こんな静かで穏やかな調子になってしまうとは……。正直なところ、ちょっと拍子抜けかもしれない……。
そんな風に考えて、すぐに、ぼくは自分の考えが間違っていることに気付いた。
カウンター罠を中心とした特殊なデッキだけど、豊富な知識を活用し対戦相手の考えまで想像してくる野坂さん……。帝モンスターを中心とした強固な土台のデッキで、きわめて合理的な戦術を用いてくる御伽くん……。しかもお互いに相手の戦術が分かった上で、サイドデッキから対策カードが組み込まれている……。
こんな二人がぶつかったら、目で追うのが精一杯と言えるほど、高レベルな駆け引きが繰り広げられたっておかしくない。
静かで穏やかだなんて、それはあくまで表面上だけの話だ。水面下では、カード同士の激しいつばぜり合いが繰り広げられているのだ!
野坂さんも御伽くんも、表情は真剣そのもの。
ふたりとも、とても集中している。本気になって、相手の一歩先へ行こうとしていることが、ひしひしと伝わってくる。
そのあおりを受けてか、さっきまでの騒がしさが嘘のように、体育館は静かになっていた。
「わたしのターンです」
野坂さんのターンになる。
彼女は小さく「えいっ」と掛け声を出してデッキからカードをドローし、2枚になった手札の片方をフィールドへと出した。
「『ライオウ』を攻撃表示で召喚します」
空っぽのフィールドに、『ライオウ』1体だけが召喚される。攻撃力1900。
今は野坂さんのターン。彼女の場だけにモンスターがいて、御伽くんの場にはモンスターも魔法も罠もない。これは直接攻撃の大チャンスだ!
今の御伽くんのライフポイントは3800。『ライオウ』の直接攻撃が決まれば、彼のライフは残り1900。勝利が射程圏内に入る!
「カードを1枚伏せて、ターンを終了します」
いつもの事務的な調子で、野坂さんは言った。
静かな会場からどよめきが聞こえてくる。
――何!? 野坂さんは一体何をしているの!?
ここで攻撃をしないでターンを終えるだなんて! 1900ダメージのチャンスをみすみす棒に振ってしまうなんて!
野坂さんはまっすぐ前を向いている。その表情はとても真剣で、黄色のリボンがピンと斜め上を向いていた。
ぼくはぶんぶんと頭を振る。
ここまで何度も彼女のデュエルを見てきた……。こんな大事なところで、彼女はプレイングミスをするだろうか? ――いいや、するわけがない!
彼女は、誰よりも豊富な知識を持っていて、誰よりも相手のことを想像できる力を持っている。そんな彼女が攻撃を行わなかったのは、何か考えがあってのことに違いない!
例えば、『バトルフェーダー』による攻撃妨害&帝モンスターの生け贄召喚。例えば、『冥府の使者ゴーズ』による、攻撃力2700モンスター、攻撃力1900モンスターの特殊召喚。
フィールドに魔法・罠カードがなくても、警戒するに値するカードは存在する。野坂さんは、そういったカードが御伽くんの手札にあると踏んだのだろう。
続いて、次の御伽くんのターン。
「すぐにターンエンドだ」
意外にも、彼はデッキからカードをドローした後、何もせずにターンを終えてしまった。
相変わらず、彼のフィールドには、モンスターも魔法も罠も出ていない。
「おいおい。御伽のヤツ、大丈夫かよ……」
隣の城之内くんが声を漏らした。
御伽くんの今の手札は2枚。彼は生け贄召喚を要する「帝モンスター」を多用しているため、運が悪くて手札事故を起こしている可能性は十分に考えられると思う。
だけど、『バトルフェーダー』や『冥府の使者ゴーズ』を使うチャンスをうかがっている可能性だって、同じように考えられるんじゃないだろうか。
彼の表情や声色は、さっきのターンから全く変わっていない。ああ、こんな風にポーカーフェイスを貫かれたんじゃ、何を考えているか全く読めない……。
野坂さんがまっすぐに前を向いている。彼女は彼女なりに、御伽くんのことを表情を読み取ろうとしているのかもしれない。
「わたしのターンです」
野坂さんのターンが回ってくる。
彼女は、デッキからカードをドローし、メインフェイズ1の開始を丁寧に宣言する。それから、迷うことなく、デュエルディスクに伏せてあるカードに手をかけた。
「ここで伏せカードを発動します。『マインドクラッシュ』です」
マインドクラッシュ
(罠カード)
カード名を1つ宣言する。相手は手札に宣言したカードを
持っていた場合、そのカードを全て墓地へ捨てる。
持っていなかった場合、自分はランダムに手札を1枚捨てる。
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静かな会場から、ため息のような声が聞こえてくる。ポーカーフェイスだったはずの御伽くんの表情が、少し硬くなったような気がする。
勝負を仕掛けてきた……!
野坂さんは『マインドクラッシュ』のカードで、勝負を仕掛けてきたんだ!
ここで野坂さんが発動した『マインドクラッシュ』の罠カード……。これは、相手の手札にあるカード名を言い当てることで、言い当てたカードを墓地に捨てさせる――いわゆる手札破壊カードである。
もし、御伽くんの手札に、『バトルフェーダー』や『冥府の使者ゴーズ』のような厄介なカードがあったとしても、捨てさせてしまえばその効果は一切発動できない。御伽くんは切り札を失ってしまう。
だけど、『マインドクラッシュ』は、相手の手札を言い当てなければ、その効果を発揮できない。
御伽くんの手札にあるのは、『バトルフェーダー』なのだろうか? 『冥府の使者ゴーズ』なのだろうか? それとも他のカードなのだろうか? いや、もしかしたら手札事故かも……。
野坂さんの口が開く。
「わたしは『冥府の使者ゴーズ』を宣言させていただきます。もし、そのカードが御伽さんの手札にあったら、墓地へと捨ててください」
彼女がそう言うと、御伽くんの表情がいっそう険しくなった。
「あ、ああ……。ある。僕の手札に『冥府の使者ゴーズ』のカードはある……」
御伽くんは、『冥府の使者ゴーズ』のカードを野坂さんに見せてから、墓地ゾーンへと送った。
冥府の使者ゴーズ 闇 ★★★★★★★
【悪魔族・効果】
自分フィールド上にカードが存在しない場合、相手がコントロールするカードによって
ダメージを受けた時、このカードを手札から特殊召喚する事ができる。
この方法で特殊召喚に成功した時、受けたダメージの種類により以下の効果を発動する。
●戦闘ダメージの場合、自分フィールド上に「冥府の使者カイエントークン」
(天使族・光・星7・攻/守?)を1体特殊召喚する。このトークンの攻撃力・守備力は、
この時受けた戦闘ダメージと同じ数値になる。
●カードの効果によるダメージの場合、受けたダメージと同じダメージを相手ライフに与える。
攻撃力2700/守備力2500
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静かだったはずの会場から、いくつもの声が聞こえてくる。
「おいおい、当てたぞ!」
「ピーピングもしてないのにどうして当ててるんだよ?」
「そもそも準々決勝で『ゴーズ』って出てこなかったよな? よくデッキに入っていることが分かったよな」
野坂さんの『マインドクラッシュ』が、御伽くんに炸裂した!
他に候補はあるのに、『冥府の使者ゴーズ』をピンポイントで当ててしまうなんて! しかも、それを見越して攻撃のスキップまでやってのけてしまって!
やっぱり野坂さんはすごい!
「リボンちゃん……。僕の手札に『冥府の使者ゴーズ』があることが分かったね……。自信はあったのかい?」
御伽くんが野坂さんに質問を投げかける。
彼女のことだから頷くのだろうなと思ったら、やっぱり、こくりと頷いた。
「ええと、8割くらいは当たると思いました。ここまで『王宮のお触れ』を使ってこなかったことや、先ほどのターンで魔法や罠カードを出さなかったことから、『ゴーズ』が手札に来ていることはおおよそ見当がついていました。それに加えて、『マインドクラッシュ』を発動した時に表情がこわばったので、多分大丈夫だろうと……」
「表情か……。でも、手札を直接見ていない状況で『マインドクラッシュ』を使えば誰だって驚く。『ゴーズ』が手札にあるとは限らないんじゃないか?」
「御伽さんは、少しのことでは驚いたりしませんので……。あそこで表情を変えたのは、よっぽどのことがあったんじゃないかと……」
野坂さんがちょっと申し訳なさそうに言うと、御伽くんは小さな笑みを作った。
「フフ……なるほど。そこまで見透かされているとはね……!」
「ご、ごめんなさい……」
「いいや、謝ることじゃないよ。むしろ誇るべきことだと思う。その力のおかげもあって、キミ達のチームはここまで勝ち上がってきたのだろう?」
そう言って、御伽くんは両腕を腰に当てた。
「しかし、これは本格的に追い詰められたなぁ……」
「あの……」
「おっと、デュエルを中断させて悪いね。続きに戻ってくれ」
「……はい。それでは、わたしは『豊穣のアルテミス』のカードを召喚します」
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ライオウ
攻撃表示
攻撃力1900
守備力800
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豊穣のアルテミス
攻撃表示
攻撃力1600
守備力1700
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この状況で、野坂さんの場にさらにモンスターが召喚された! これは大きいぞ!
魔法も罠もなく、『冥府の使者ゴーズ』もいなくなって、直接攻撃への活路が開けている! 正真正銘、今度こそ大ダメージのチャンスだ!
「バトルフェイズに入ります」
野坂さんは迷いなく、『ライオウ』と『豊穣のアルテミス』とで直接攻撃を仕掛ける。2体のモンスターの攻撃が、御伽くんに炸裂する。
御伽くんのライフポイントは、3800から1900。1900から300。
あと300……!
これは行ける! 行ける! 行けるぞーーっ!!
ドクンドクンと心音が高まっていく。握りこぶしを作った右手がかすかに震えているのが分かる……!
「僕のターン……ドロー」
次の御伽くんのターン。
彼はカードをドローするなり、苦笑いのような表情になっていった。
「…………」
御伽くんは、ドローしたカードに視線を落としたまま動きを止めてしまった。悩んでいるような困っているようなそんな表情のまま、時間だけが過ぎていく。
いいカードが引けなかったのだろうか? そうだとすれば、御伽くんには悪いけど、野坂さんにとってはチャンスだぞ……!
「ったくしょうがないな……」
唐突に、声が聞こえてきた。
野坂さんや御伽くんの声じゃない。すぐ隣にいる城之内くんの声だ。
城之内くんは、片足をぐっと前に踏み出していた。
「御伽! ビビってんじゃねーぞ! 男だろうが!」
城之内くんは叫ぶ。
静かになっていたはずの体育館に、城之内くんの声が響く。
観客が次々に城之内くんのほうに視線を向けていく。
「ふっ……」
御伽くんの苦笑いの表情が、いつの間にか笑みへと変わっていた。
「城之内、デュエル中は静かにしていてくれよ。……安心しろよ、必ず勝つからさ!」
そう言って、御伽くんは親指をぐっと立てて見せる。
あらゆるゲームに精通し、素早く正確に理論を組み立ててくる御伽くん……。
そんな彼が、城之内くんの一言で笑顔になった。それは、特別でもない短い言葉で、むしろちょっと乱暴な言葉だったけれど、御伽くんには届いたのだ。
多分さほど珍しくない光景だと思う。
だけど、今のぼくにとっては、とても新鮮で印象深い出来事だった。
「さあ、デュエルの続きだ。僕はモンスターを裏側守備表示でセットし、さらに伏せカード1枚をセットする。ターンエンドだ」
御伽くんは力強く宣言して、ターンを終了したのだった。
「わたしのターンです」
そして野坂さんのターンがやってくる。
彼女はいつも通りカードをドローして、すぐにバトルフェイズに突入した。
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ライオウ
攻撃表示
攻撃力1900
守備力800
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豊穣のアルテミス
攻撃表示
攻撃力1600
守備力1700
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御伽くんのライフポイントはわずか300。
かすり傷ほどのダメージを与えるだけで、野坂さんの勝利は確定する。
だけど、御伽くんの場には、裏守備モンスターと、伏せカードが1枚ずつ出ている。本当にかすり傷のダメージを与えることができるのだろうか?
「『ライオウ』で、裏側守備表示のモンスターに攻撃します」
野坂さんが攻撃宣言を行うと、ソリッドビジョンの『ライオウ』が、裏守備モンスターへと攻撃を仕掛ける。
御伽くんの場にいる裏守備モンスター。
このモンスターが『魂を削る死霊』や『ダンディライオン』のような壁モンスターだとちょっと厄介だ。帝デッキだからそれらのモンスターが使われる可能性も高いし……。
『ライオウ』による攻撃のエフェクトを受けて、裏側守備表示のモンスターが表側表示になる。
けれども、ソリッドビジョンにゆっくりと姿を現したモンスターは、『魂を削る死霊』でも『ダンディライオン』でもなかった。
それは、奇妙な模様の描かれた壺のようなモンスターで……。
「……え?」
これって! これってまさか……!
あまりにも意外な姿に、口がぽかんと開いてしまった。
これは……このモンスターは……!
ダイス・ポット 光 ★★★
【岩石族・効果】
リバース:お互いサイコロを一回ずつ振る。
相手より小さい目が出たプレイヤーは、相手の出た目×500ポイントダメージを受ける。
ただし、6の目に負けたプレイヤーは6000ポイントダメージを受ける。
引き分けの場合はやり直す。
攻撃力200/守備力300
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『ダイス・ポット』!
ギャンブルカードの『ダイス・ポット』じゃないか!
会場から再びどよめきが聞こえてくる。
「うお! 『ダイス・ポット』かよ!」
「ここでギャンブル勝負とは、血迷ったか!?」
そのどよめきは、野坂さんが攻撃をキャンセルした時よりも、『マインドクラッシュ』で『冥府の使者ゴーズ』を捨てさせた時よりも大きなものだった。
「…………!」
野坂さんは目を見開いたまま、ソリッドビジョン化された『ダイス・ポット』を見ている。
それは、豊富な知識を持つ彼女にとっても、この戦術が意外なものだったことを示していた!
御伽くんなら合理的な戦術を重んじてくる――たぶん野坂さんも同じことを考えていたのだろう。だからこそ、彼の手札に『冥府の使者ゴーズ』があることを見抜けたのだ。
それなのに、およそ合理的とは思えない『ダイス・ポット』を使ってきた。
ギャンブルカードの中でも危険な一枚と言われている『ダイス・ポット』。
最大6000ダメージをたたき出す脅威の影響力の代わりに、自滅する危険も大きく、発動できる状況も選びにくく、コンボも作りにくい――まさに制御困難な危険物を!
「サイドデッキに『ダイス・ポット』を入れたのは、ほんの冗談のようなものだったさ。でも、準々決勝でキミのデュエルを見て、『もしや相手の戦術を読んできているのでは』と思った。フフ……念のためメインデッキに入れておいて正解だったよ。『ダイス・ポット』があることを予測されることはないだろうし、何より効果が発動したら最後。ギャンブルカードなら、全てが運に委ねられる。どんなに相手の考えを読んでも結果が変わることはない」
『ダイス・ポット』の効果が発動して、御伽くんが饒舌になっている。
城之内くんが、いいぞいいぞと繰り返している。
「さあ、ダイス・ロールだ! お互いにサイコロを振り、出た目の小さかったプレイヤーがダメージを受ける!」
野坂さんと御伽くんの前には、ソリッドビジョンのサイコロが一つずつ表示されている。
御伽くんの「ダイス・ロール」の声に反応したのか、二つのサイコロが、回転しながら放物線を描いていく。
運だけで勝敗が決まるサイコロ勝負。出た目が大きなプレイヤーが勝つというシンプルな勝負に、デュエルの運命が懸けられた!
2の目に負ければ1000ダメージ。
3の目に負ければ1500ダメージ。
4の目に負ければ2000ダメージ。
5の目に負ければ2500ダメージ。
そして、6の目に負ければ6000ダメージ。
野坂さんが御伽くんより大きな目を出せば、御伽くんのライフポイントを0にすることができる。
逆に、御伽くんが6の目を出して、野坂さんが6未満の目を出せば、野坂さんのライフポイントが0になってしまう。
放物線を描いた二つのサイコロが、ゆっくりと落ちていく。
野坂さんは、口を半開きにしてその行方を見守っている。
御伽くんは、笑みを崩さずに回転するダイスを目で追っている。
400人の観客は、この瞬間ばかりは静かになっている。
ぼくは、結果を見るのが急に怖くなってしまった。
結果から目をそらしてしまいたくなる。ぐっと顔をそむけ、しかし、「いやいやそんなことじゃダメだ」と自分に言い聞かせて、再び前を向く。
サイコロは、ボン、ボンとバウンドしてやがて静止した。
野坂さんのサイコロの目は――4。
御伽くんのサイコロの目は――5。
「2500ダメージを受けてもらうよ、野坂さん」
「……はい…………」
サイコロ勝負は野坂さんの負け。
2500ポイントのダメージが発生し、彼女のライフポイントは残り400ポイントになった。
幸いにもと言うべきなのか、6000ダメージを受けることはなく、彼女は何とか生き残ることができた。
サイコロ勝負で負けてしまったけど、生き残れて良かったのかもしれない。負けたはずなのに、ぼくはちょっとだけほっとしていた。
二人の様子を見る。
半分の確率で負けてしまうはずだった御伽くんは、サイコロを振る前と同じく自信に満ちた表情を崩していない。
負けてもライフポイントが0になるとは限らなかった野坂さんは、浮かない表情のままだ。
会場は再び騒がしくなっている。
高度な駆け引き戦をぶち壊した『ダイス・ポット』のインパクトは、相当大きなもののようだった。デュエルの流れは、確実に変わっていた。
「さあ、リボンちゃん。バトルフェイズの続きをどうぞ」
御伽くんはさっと手のひらを返して言った。
野坂さんは、1枚だけ残された手札に目を落としている。御伽くんに声を掛けられたことに気付き、ゆっくりと顔を上げた。
「分かりました……。残った『豊穣のアルテミス』で攻撃です……」
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ライオウ
攻撃表示
攻撃力1900
守備力800
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豊穣のアルテミス
攻撃表示
攻撃力1600
守備力1700
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『ダイス・ポット』の効果は、インパクトこそはものすごく大きいけど、フィールドに影響を及ぼすものではない。御伽くんの『ダイス・ポット』が倒されたことにより、彼の場にはモンスターがいなくなっていた。
つまり、この『豊穣のアルテミス』の攻撃が成功すれば、御伽くんのライフポイントを0にすることができるのだ。
けれども、御伽くんの表情は自信に満ちている。ここで負けるわけがないと言う声が聞こえてくるくらいに、自信いっぱいだった。
御伽くんの場には、伏せカードが1枚伏せてある。
予定通りと言わんばかりに、御伽くんはそのカードを発動させた。
「リバースカード『リビングデッドの呼び声』を発動。墓地から『氷帝メビウス』を攻撃表示で特殊召喚する!」
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氷帝メビウス
攻撃表示
攻撃力2400
守備力1000
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ライオウ
攻撃表示
攻撃力1900
守備力800
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豊穣のアルテミス
攻撃表示
攻撃力1600
守備力1700
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「…………!」
野坂さんの目が見開いたのが分かった。
野坂さんのライフは残り400。その状況で攻撃力2400の『氷帝メビウス』を出されてしまった!
「それでは、『豊穣のアルテミス』の攻撃は、中止、します……」
小さな声で、野坂さんは攻撃キャンセルを行った。
いつもなら小さな声であっても、芯が通っていて自信に満ちているのに、今回は、本当に小さいだけの声だった。小さくてかすれていて消え入りそうな、そんな風に聞こえてしまった。今回のデュエルディスクに拡声機能が搭載されていなかったら、近くにいるぼくにさえ、声が届かなかったかもしれない。
攻撃モーションに入っていた『豊穣のアルテミス』は、攻撃キャンセルによってピタリと動きを止めていた。デュエルモンスターズでは、攻撃宣言時に相手モンスターが増えた場合、その攻撃をキャンセルすることができるのだ。
それでも、攻撃宣言を行ったと言う事実が変わることはない。『ライオウ』も『豊穣のアルテミス』も、次の御伽くんのターンでは攻撃表示のままだ。
そこに攻撃力2400の『氷帝メビウス』で攻撃されたら、どうなるだろうか? 500ポイント以上の戦闘ダメージを受け、わずか400ポイントの野坂さんのライフポイントは、0になってしまう。
まずい……。
これはまずい……!
このままじゃ、野坂さんは負ける!
バトルフェイズからメインフェイズ2になる。
もし、『氷帝メビウス』に対抗できるカードを用意できないままターンを終了してしまえば、次の御伽くんのターンで野坂さんは負けてしまう。『氷帝メビウス』の攻撃を受けて、ライフが0になってしまう。
野坂さんの手札は1枚。
この1枚の手札が、『氷帝メビウス』に対抗できるカードでなければ、野坂さんの敗北は確実。
お願いだから、どこか自信に満ちた顔つきになって欲しい。ごめんなさいと言いながら、容赦なく相手の戦術を切り崩していく姿を見せて欲しい。
メインフェイズ2に移行してから10秒、20秒、30秒と時間が経過していく。
野坂さんは、全く動かない。
視線を手札に落としたまま、うつろな表情をしているだけで、手札を使うこともなくターンエンドを宣言することもなく、突っ立っているだけだ。
その様子を見る限り、彼女に残されたあと1枚の手札は、『氷帝メビウス』に対抗できるものとは言えそうになかった。
御伽くんを油断させるために、わざと負けそうなフリをしている可能性も頭をよぎったけど、おそらく、それもないだろう。彼女は、相手の考えを見抜くことには長けているけれども、自分の考えを隠すことはむしろ苦手なほう。そんな作戦は、彼女には実行できないのだ。
40秒、50秒、60秒。
さらに時間は経過していく。そろそろ審判に注意されてしまう時間だ。
それでも、まだ野坂さんは動かない。
手札をじっと見たまま動かない。
……やはり、ここで負けてしまうのだろうか?
やけっぱちの『ダイス・ポット』に致命傷を負わされ、最後の一撃を『氷帝メビウス』に決められ、負けてしまうのだろうか?
野坂さんが負ければ、ぼく達のチームの敗北も決まる。
偶然とは言えそんな状況になってしまって、彼女にかかるプレッシャーは相当なものだと思う。
ここで野坂さんがターンエンドを宣言すれば、敗北が決まってしまうかもしれない。事実上の降参宣言――それが嫌で彼女はターンエンドすら宣言できないのかもしれない。
ぼくには野坂さんの手札を見ることはできない。
彼女に希望があるかどうかも分からない。彼女が何を思っているかも分からない。
それでも……。
彼女が、今、助けを必要としていることだけは、とてもよく伝わってくる。
迷い。ためらい。悩み。
痛いほどに伝わってくる。
ここまで、ぼくはぼくができる精一杯のことをしてきた。
だから、今、この時も――
ぼくは、自分ができる精一杯のことをするだけだ!
一歩前に踏み出した。
「がんばれ……! がんばれ! がんばれーーーっ!!」
ぼくは、できる限りの声を出した。
何のことはない、シンプルな応援の言葉だけど、城之内くんが御伽くんを元気付けたように、ぼくも彼女を元気付けられればいいなと思った。
たとえ、敗北が避けられないのだとしても――
彼女が自信を持ってターンエンドできるように。
彼女が笑顔でクラスメイトの元に戻ってこられるように。
ゆっくりと野坂さんがこちらを向く。黄色のリボンが、ふんわりと遅れてついてくる。
あれほど困り果てていた顔に、ホーリーエルフの祝福も顔負けの笑みが戻ってくるのが分かった。
それを見ただけで、ぼくは、応援して良かったと心から思った。
彼女は微笑んだまま、ぼくに軽く頭を下げる。それから、御伽くんに向き直った。
そこからは、さっきのような困り果てた表情は消え去っていた。
「ごめんなさい。長考してしまいました」
御伽くんに向かって、ぺこりと頭を下げる。
「構わないさ。それより、いい作戦は浮かんだのかい?」
「……はい」
「フフ……。そうか」
いつも通りのどこかずれた自信が、顔色に表れている。
「だから、今度はわたしから勝負させていただきたいと思います」
「……勝負? どういうことだい?」
彼女は、1枚の手札をくるっとひっくり返した。
「今のわたしの手札は、『強烈なはたき落とし』です」
強烈なはたき落とし
(カウンター罠カード)
相手がデッキからカードを手札に加えた時に発動する事ができる。
相手は手札に加えたカード1枚をそのまま墓地に捨てる。
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え? ええ?
この『強烈なはたき落とし』って、罠カードでしょう? 相手にばれないように伏せて使うものでしょう? なんでそれを御伽くんにばらしているの!? ぼくは目が点になった。
けれども、御伽くんは、少しの間考え込むしぐさを見せた後、
「そう言うことね……」
と、野坂さんの意図に気付いた素振りを見せた。
ど……どういうことなの!?
ぼくの頭の上には相変わらずクエスチョンマークが浮かんでいる。隣の城之内くんも思いっきり困惑していた。
「つまり、リボンちゃんは、ドロー勝負に持ち込むつもりなんだろう?」
「はい。わたしのフィールドに出ている『ライオウ』『豊穣のアルテミス』、手札の『強烈なはたき落とし』。これらのカードでは、『氷帝メビウス』を倒すことはできず、わたしは負けてしまいます」
ぼく達の疑問を察して――なのかどうかは分からないけど、野坂さんが説明を始めてくれる。
「ですから、わたしは『強烈なはたき落とし』を御伽さんのドローフェイズに発動します。『強烈なはたき落とし』はカウンター罠ですから、それを発動したことによって『豊穣のアルテミス』の効果も発動します。その結果、わたしはデッキからカードを1枚ドローすることができます」
野坂さんは淡々と説明を続けていく。
どうやら、彼女の狙いはドローのようだった。カウンター罠である『強烈なはたき落とし』をトリガーに、手札を増やして『氷帝メビウス』に対抗するつもりのようだった。
しかし、御伽くんのターンになってから手札を増やしても、それを使う前に『氷帝メビウス』にやられてしまうのではないだろうか? そのタイミングで手札を補充しても敗北してしまうのでは……あ! 違う! 『あのカード』があるか!
「そこでドローしたカードが『オネスト』だったら、わたしが勝ちます。それ以外のカードだったら、御伽さんが勝ちます」
『オネスト』。
手札から罠カードのように使える、強力な戦闘サポートカード。
このカードなら、御伽くんのターンになってからドローしても間に合う。『氷帝メビウス』を返り討ちにして、逆に大ダメージを与えることができる!
「だから、ここで『強烈なはたき落とし』を僕に見せてくれたんだね。僕の手札は0枚。次にドローするカードは『強烈なはたき落とし』で捨てさせられる。リボンちゃんが『オネスト』を引き当ててしまったら、どう転んだって僕は負けてしまう」
「はい。その場合、『氷帝メビウス』の攻撃をキャンセルしても、『氷帝メビウス』を守備表示にしても、その次のターンで必ずわたしが勝ちます。『強烈なはたき落とし』をここで見せても見せなくても、結果には影響しません」
「……しかし、分かっているよね? この勝負で、キミが勝てる確率は結構低いよ。僕の『ダイス・ポット』よりも分が悪い賭けになるだろう」
「そうですね……。わたしのデッキは残り18枚、『オネスト』はデッキに3枚入れていて、ここまで『オネスト』を引き当ててません。ですから、わたしが勝てる確率は18分の3――6分の1になります」
「ほら! だったら、そんなことをするより、『強烈なはたき落とし』をブラフ(こけおどし)にして、『氷帝メビウス』の攻撃を躊躇させるほうが良かったんじゃないかな?」
「いいえ……。御伽さんならブラフは通用しないと思います。それに、あの……。花咲さんが後押ししてくれましたから……」
ぼくが後押し……? ぼくの心臓がドクンと跳ねる。
野坂さんはさらに話を続けていく。
「御伽さんも、先ほど『ダイス・ポット』を使ったのは、城之内さんの一声があったからですよね? 本来なら『リビングデッドの呼び声』だけでも、乗り切れる場面だったはずです」
「フッ……。そうだったな……。この僕としたことが、城之内のヤツにそそのかされてしまった」
「ですから、わたしも、花咲さんにそそのかされてみます」
そう言って、野坂さんは、手札の『強烈なはたき落とし』をフィールドへとセットした。
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氷帝メビウス
攻撃表示
攻撃力2400
守備力1000
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ライオウ
攻撃表示
攻撃力1900
守備力800
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豊穣のアルテミス
攻撃表示
攻撃力1600
守備力1700
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さっきまで沈んでいた表情が、きりっと凛々しいものになっていた。
勝てる確率が6分の1という、分の悪い勝負。
御伽くんの『ダイス・ポット』のように、ドローカードが全てを決めてしまう完全に運任せの勝負。
野坂さんはそんな舞台に、自分から御伽くんを連れ込んだのだ。
「ターンエンドです」
小さいけどはっきりとした宣言をして、野坂さんの最後のターンが終わった。
「それじゃあぼくのターン、ドローするよ」
御伽くんは、ターン開始を宣言してデッキからカードを1枚引く。
「ごめんなさい。カウンター罠『強烈なはたき落とし』発動です。ドローした手札をそのまま墓地に捨ててください」
「了解」
台本通り、『強烈なはたき落とし』が発動して、御伽くんは1枚だけの手札をそのまま墓地ゾーンへと送る。
「カウンター罠が発動したので、『豊穣のアルテミス』の効果を発動させていただきます」
豊穣のアルテミス 光 ★★★★
【天使族・効果】
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
カウンター罠が発動される度に自分のデッキからカードを1枚ドローする。
攻撃力1600/守備力1700
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「デッキからカードを1枚ドローします」
そう言って、野坂さんはデュエルディスクに目を向ける。
このドローで、『オネスト』を引ければ野坂さんの勝ち。引けなければ野坂さんの負け。
「いいカード、引いてみせろよ!」
野坂さんの向こう側から低い声が聞こえてくる。
リーゼントで、ハチマキ付きのスター衣装を着て、デュエルディスクを身につけた、ぼくの仲間。騒象寺くんだった。
そして、それを合図にして、
「そうよ! いっちゃえ! リボンちゃん!」
「『オネスト』来てーー!」
「がんばってーーっ!」
観客からもいくつかの声が聞こえてくる。クラスメイトの女子達の声だった。
それに後押しされてか、野坂さんの右手が、デッキの一番上のカードに触れて。
すっと、迷いなく、カードを引き抜く。
6分の1。
6回のうち5回は外れて、ようやく1回だけ当たる。それくらい厳しい確率。
気のせいだとは思うけど、ぼくは、その6分の1が絶対に当たるような気がしてならなかった。外れてしまうことが、想像できなかった。
このドローの先には、ぼく達の決勝戦が待っている!
さあ! みんなで一緒に行こう! 決勝戦へ!
野坂さんの右手には、1枚のカードがあった。
「カードはドローしたようだね……。悪いけど、バトルフェイズまで内容はお預けにしておいてくれないか? せっかくソリッドビジョンに映し出しているんだ。バトルで決着をつけたほうが良いだろう?」
「……はい」
野坂さんは、下を向いて返事をする。
相変わらず、声は小さいけれども。
けれども――
その表情が笑っていた。
笑っちゃダメだと思っているのだろう、うつむいて笑顔を隠そうとしている。
でも、目尻の辺りが垂れ下がっていて、唇の端が斜め上を向いていて、黄色のリボンが小刻みに震えていた。
…………バレバレだよ! 野坂さん!
笑っているってことがバレバレだよ! これじゃあ『オネスト』を引きましたって言ってるようなものだよ! ぼくじゃなくたって丸分かりだよ! 自分のことを隠すのは得意じゃなくたって、もう少し頑張ろうよ!
せっかく御伽くんがバトルフェイズまで内容はお預けって言ったんだからさ! バトルフェイズ前に顔に出ちゃったら、御伽くんの立場がないでしょう?
まあ……ぼくが彼女の立場だったら、笑顔なんて隠しきれるわけないんだけどさ!
これほどまでに追い詰められて、それでも期待させられて、ようやく掴める勝利……!
そりゃあ嬉しくないわけがない! 隠しきれるわけもない! だからこれは仕方がない! ごめんね御伽くん!
ぼくもつられて笑みになっていく。
向こう側の騒象寺くんも、笑っているように見えた。
御伽くんが、やれやれとばかりに、肩をすくめた。
「はいはいバトルフェイズ。『氷帝メビウス』で『豊穣のアルテミス』に攻撃」
「ごめんなさい。『オネスト』を発動させていただきますっ」
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氷帝メビウス
攻撃表示
攻撃力2400
守備力1000
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ライオウ
攻撃表示
攻撃力1900
守備力800
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豊穣のアルテミス
攻撃表示
攻撃力4000
守備力1700
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「『豊穣のアルテミス』の攻撃力は4000となり……だから、ええと、ですからっ! 1600の戦闘ダメージが発生します」
いつもなら定型文を読み上げるような声色が、とっても弾んだ声になっている。
彼女の頭は嬉しさで一杯なのだろう、ダメージ計算もままならないようだった。
『オネスト』の光を受けた『豊穣のアルテミス』が、『氷帝メビウス』に光の弾を飛ばす。
ソリッドビジョンのライフポイント表示が、300から0になった。
「中堅戦の決着がつきました! こちらも実に接戦でした! 勝者は野坂ミホ選手です!
さて、これで準決勝第1試合の結果が出ました。2勝1敗で、2年C組第7チームの勝利となりました! おめでとうございます!」
「やったあああああっ!」
ぼくは思わず飛び上がった。
野坂さんがこちらを向いて笑っている。
向こう側にいる騒象寺くんが、変なポーズを取っている。
中野さん達や根津見くん達が、人ごみをかき分けてぼく達のところにやってきている。
城之内くんが、ポンとぼくの肩を叩いた。
「花咲! また今度やろうぜ!」
そう言って、城之内くんはぐっと親指を立てた。
ぼくも、ぐっと親指を立ててみせた。
「もちろんです! 次は個人でも負けませんからね!」
「ああ! ……おっと! 仲間が呼んでいるようだぜ?」
「あ……」
野坂さんのいる辺りから、ぼくの名前を呼ぶ声が聞こえている。2年C組のみんなが集まってきていた。
「ほら! 胸を張って行ってこいよ!」
「はい!」
ぼくは走り出す。
騒象寺くんは奇声を上げながら、わけの分からない振り付けをつけ始めている。
中野さんが野坂さんに抱きついて、頭をこねくり回した。
野坂さんは笑顔を隠すことなく、中野さんにされるがままになっている。
孤蔵乃くんがこちらに向かって、おーいおーいと両腕を振っている。
根津見くんは腕を組んで不機嫌そうな素振りを見せながらも、やっぱりなんだか嬉しそうだ。
「みんな!」
「花咲! よくやった!」
「すごい勝負だったぞ!」
「ま、まあ、悪いデュエルではなかったな……」
「応援! カッコよかったよ!」
「凱旋だ! 凱旋だ!」
ぼくは負けてしまったけれども、それを責められることもなく、みんなが温かく迎えてくれる。
体育館の喧騒も手伝って、気持ちがどんどん熱くなっていくのが分かる。
決勝トーナメント準決勝勝利!
疲れも忘れて高揚してしまう。だらしない笑顔が止まらない。
気付くと、パパが人ごみを抜けてぼく達の近くまでやってきていた。
パパの右手には、録画中のビデオカメラがしっかりと握られている。ぼくはちょっとカッコをつけて、ビデオカメラにポーズを決めてみせた。
400人規模の会場で、2年C組17人の笑顔がひときわ存在感を放っていた。
第十二章 童実野高校デュエルモンスターズ大会 準決勝・後編
「実行委員会から緊急のお知らせです! 現在体育館が非常に込み合っています! このままでは収容人数をはるかに超えて、観戦できない人が出るばかりか、転倒事故などが発生する可能性もあります!」
準決勝第1試合が終わってしばらくして、副会長さんのアナウンスが入った。その口調が、慌てたものになっているのがよく分かる。
どうやらぼく達がデュエルをしている間に、さらにたくさんの観客が体育館に詰め寄せてきたらしい。
体育館をぐるりと見渡してみると、あっちを見ても人だらけ、こっちを見ても人だらけ――隙間がないくらいの人ごみが出来上がっていた。これだけの人がいたのでは、人ごみを押し分けて進むことさえままならないだろう。その上、今この時も扉からどんどん人が押し寄せていて、体育館がパンクしてしまいそうだった。
「従いまして、準決勝第2試合からは会場を変更します! 体育館ではなく、グラウンドとなります! グラウンドです! また、これに伴い、スケジュールを30分繰り下げます。準決勝第2試合の開始時刻は、14時ちょうどからとなります。グラウンドでの観戦の際にも、実行委員会の指示に従って適切に観戦するようにしてください!」
マイク越しにもかかわらず、副会長さんは大声で説明していく。
それに伴って、体育館の人ごみが、ざわめきながらゆっくりと移動していく。
ぼく達2年C組のクラスメイト達もその流れに乗って歩いていく。
「とんでもない人の数だな」
隣の孤蔵乃くんが言った。
「うん、そうだね……」
ぼくはきょろきょろと周りの様子を見ながら答えた。
もはや400人どころの観客じゃない。全校生徒に迫るほどの人数がいるのではないだろうか。これだけの人がいれば、ゴブリン突撃部隊にだって打ち勝てたっておかしくない。
観客の中には、明らかに童実野高校の生徒じゃない人もあちこちにいる。子供からお年寄りまで、本当にたくさんの人が童実野高校に集まってきたのだ。
周りの人の声に耳を傾けてみると、テレビ局の車までやってきたらしい。さすがにやりすぎと判断した海馬コーポレーションが締め出したとか……。
一つの高校の学校行事に、これほどまでたくさんの人が押し寄せてくるだなんて、常識では考えられない。
これほどまでに非常識な事態を引き起こした、その原因は、もちろん遊戯くんと海馬くんだ。
これから始まる準決勝第2試合。
その大将戦で、遊戯くんと海馬くんが直接対決する。
しかも――
・武藤遊戯、海馬瀬人は、ハンデとしてライフポイントが1となります。
――という特殊なルールで。
その話が広まるにつれ、「そのデュエルを見てみたい」と、次から次へと人が童実野高校に押し寄せてきた。
お昼休みを挟んで観客が倍になり、ぼく達がデュエルしている間にもさらに倍になり……。まるでリミッター解除を重ねがけしたかのように、観客が集まってきたのだ。
確かにあの遊戯くんと海馬くんが、ライフポイント1で直接対決するともなれば、ぼくだって興味はしんしんだ。
それでも、これほどまでに人を集めてしまうだなんて、ぼくの想像をはるかに超えていた。
これだけ多くの人を目の当たりにして……、会場を変更させてしまったと言う事実を目の当たりにして……。
遊戯くんや海馬くんのすごさが体に叩き込まれていく。住む世界が違うんだなぁと思ってしまう。
人ごみは、ゆっくりとグラウンドに流れていく。
11月下旬の肌寒さは、とっくに吹き飛ばされていた。
「それでは、あらためて準決勝第2試合を始めたいと思います」
生徒会副会長さんがアナウンスすると、会場が歓声で沸いた。
14時を過ぎて、観客達の誘導が何とか完了し、30分以上もの空白が開いて、ようやく次の試合が始められようとしていた。
ぼく達2年C組クラスメイトは、騒象寺くんのパワー(?)によって、グラウンドの中心、すなわち最前列を陣取ることができた。
そのおかげで、遊戯くんのチームメンバーと、海馬くんのチームメンバーが対峙している姿がよく見える。
手札の覗き見防止のためだろう、彼らの後方には観客が来ないように誘導がなされている。不思議な形の人垣が出来上がっていた。
誰が数えたのか、観客の数は1000人を超えてしまったらしい。ここまで人が増えると、歓声一つで、そのパワーを肌で感じられるようになる。
「それでは準備はよろしいですね?」
審判の磯野さんが両チームに声を掛ける。
真崎さんと吉林先生が「はい」と答える。
獏良くんがうなずいて、生徒会長さんが「いつでも」と返事をする。
そして、遊戯くんが「準備OKだよ」と笑顔を作って、海馬くんが「当然だ」とぶっきらぼうに言い放つ。
この準決勝第2試合も、先鋒戦、中堅戦、大将戦が同時に行われることに変わりはない。
やはりと言うべきか、ほとんどの生徒は大将戦に目を向けているようだ。
もちろん、ぼくが見るのも大将戦だ。
それは、単に興味があるだけではなく、決勝戦のために、できる限りのデッキや戦術を集めておく必要があるからだった。
遊戯くんと海馬くんは、そうするのが当たり前と思わせるほど慣れた様子でデュエルディスクを構えていく。
遊戯くんは、いつもと同じ学生服を着て、少し顔を上げて正面の海馬くんを見ている。そこに千年パズルはなかったけれども、表情はどこか得意げで、海馬くんを相手にしても全くひるんでいなかった。
対する海馬くんは、『KC』のロゴが入っている白いコートを羽織い、その存在感を主張している。その表情は、遊戯くんのことを見下してあざ笑っているかのようにも見える。
1000人規模の観客から聞こえる話し声が、徐々に小さくなっていく。
そのタイミングを見計らって、磯野さんが右手をピシッと上げる。
遊戯くんと海馬くんのデュエル。ライフポイント1同士のデュエル。一体どうなるんだろうか? どんな戦術で闘うのだろうか?
空気がピンと張り詰める。
「決勝トーナメント準決勝第2試合――『2年B組第3チーム』対『2年B組第1チーム』。試合開始ィィィィ!」
ひときわ大きな歓声が沸く。
歓声が地響きのように辺りに波及していって、それだけでぼくは震えてしまった。
真崎さんがターン開始を宣言して、生徒会長さんがデッキからカードをドローする中、ぼくは大将戦に目を向ける。
大将戦のフィールド上に、ソリッドビジョンによって、お互いのライフポイントが表示されている。
遊戯くんのライフポイントは、1。
海馬くんのライフポイントも、1。
実際に二人が対峙した様子を見て、実際にライフポイントが表示された様子を見て、本当にライフポイント1同士でデュエルするんだなぁ、と言うことが実感できる。
ライフポイント1同士のデュエル。
かすり傷を負った時点で敗北が決定してしまう綱渡りのデュエル……。1ターン目で決着がついてもおかしくない、死と隣り合わせのデュエル……!
本来、ライフポイントが1になるルールは、一般生徒とのハンデのために設けられたものなのに、まさか、ライフポイント1同士で闘うことになるなんて! 遊戯くんや海馬くんは予想できていたのだろうか?
「ボクのターンからだね!」
遊戯くんが宣言して、先攻1ターン目が始まる。
遊戯くんはカードをすっとドローすると、手札からモンスターを召喚した。
「『レッド・ガジェット』を攻撃表示で召喚! 効果によって、デッキから『イエロー・ガジェット』を手札に加えるよ」
レッド・ガジェット 地 ★★★★
【機械族・効果】
このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、
デッキから「イエロー・ガジェット」1体を手札に加える事ができる。
攻撃力1300/守備力1500
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遊戯くんのフィールドに、攻撃力1300のモンスターが現れる。
準々決勝と同じく、遊戯くんはガジェットデッキを使ってきたようだった。
ガジェットデッキとは、『レッド・ガジェット』『イエロー・ガジェット』『グリーン・ガジェット』を中心としたデッキのことだ。
これらガジェットモンスターは、攻撃力こそあまり高くないけど、召喚成功時に他のガジェットモンスターを手札に加えるという効果を持っている。次から次へと手札にモンスターカードが補充されていくため、その分だけ他の魔法・罠カードを充実させることができるのだ。
準々決勝で遊戯くんは、ライフポイントを回復する『非常食』を織り交ぜつつ、ガジェットで手札を補充しながら、『地砕き』や『奈落の落とし穴』などで相手のカードを直接除去していく戦術をとっていた。人並み外れたプレイングも手伝い、ライフポイント1という超絶ハンデを克服していったのだ。
「ボクは伏せカードを2枚セットして、ターン終了だ」
遊戯くんがターンエンドを宣言する。
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レッド・ガジェット
攻撃表示
攻撃力1300
守備力1500
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戦術としては真っ当なものだと思う。
ただ、いくら伏せカードがあるからといって、『レッド・ガジェット』を攻撃表示にしてターンを終了するのは、結構怖いんじゃないだろうか。
例えば、『大嵐』のカードを使われてしまったら? 『大寒波』のカードを使われてしまったら? ……考えただけでも身震いしてしまう。
遊戯くんは、そんなギリギリのデュエルを、ここまでに5回もこなしてきた。ぼくだったら、途中で頭がおかしくなってしまいそうだ。
「オレのターン! ドロー!」
1ターン目後攻、海馬くんのターン。
海馬くんは大振りの手つきでカードをドローし、それから、遊戯くんをぎろりとにらみつけた。
「遊戯。貴様、このデュエルがどういうものか分かっているのだろうな?」
「ライフポイント1同士のデュエルだよね? 分かっているつもりだよ」
「ならば、悠長にガジェットを使っている場合ではないことも、理解しているのだろうな?」
「……そうかもしれないね」
挑発的に微笑んで、遊戯くんは言った。
海馬くんは、気に入らないとばかりに不機嫌な声色になる。
「フン……! 望み通り、貴様の身に叩き込んでくれるわ! ライフポイント1同士のデュエルが、短期決戦になることをな!」
海馬くんは、6枚の手札からカードを1枚フィールド上に出した。
「『ソーラー・エクスチェンジ』発動!」
ソーラー・エクスチェンジ
(魔法カード)
手札から「ライトロード」と名のついたモンスターカード1枚を
捨てて発動する。自分のデッキからカードを2枚ドローし、
その後デッキの上からカードを2枚墓地に送る。
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「手札から『ライトロード・パラディン ジェイン』を捨て、デッキから2枚のカードをドローする! その後、デッキの上からカードを2枚墓地に送る!」
『ソーラー・エクスチェンジ』――ライトロードデッキ専用の手札入れ替えカード。
海馬くんも準々決勝と同じく、ライトロードデッキを使ってきた。
ライトロードデッキは、予選トーナメントで鶴岡先生が使ってきた、速攻型の強力なデッキだ。モンスターの特殊召喚などを多用することで、短期決戦を仕掛けていくのだ。
準々決勝で海馬くんは、ライフポイントを一切回復することなく、特殊召喚を繰り返してすばやく相手のライフを削っていった。『巨大化』や『神の宣告』などライフポイントが1であることを逆に利用したカードに加え、『伝説の白石』や『青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)』や『龍の鏡』を利用したドラゴン族コンボまで組み込んで、ワンサイドゲームと呼べるほどのパワーとスピードで対戦相手を圧倒していったのだ。
「デッキから墓地に送ったカードに『ライトロード・ビースト ウォルフ』があったので、特殊召喚させてもらうぞ」
早速、海馬くんは攻撃力2100の『ライトロード・ビースト ウォルフ』を特殊召喚していた。
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ライトロード・ビースト ウォルフ
攻撃表示
攻撃力2100
守備力300
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レッド・ガジェット
攻撃表示
攻撃力1300
守備力1500
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長期戦を見据えて、ライフと手札を確保していく遊戯くんの戦術……。
短期戦のために、ライフを気にせず一気に攻め込んでいく海馬くんの戦術……。
ライフポイント1同士のデュエルなら、どちらが有利になるのだろうか?
お互いにかすり傷でも負ってしまえば、敗北してしまうこのデュエルにおいては、海馬くんのほうが有利になるのだろうか?
会場の歓声が止まらない。
「このデュエルにおいて、手札を惜しむことなどしない! このターンで貴様に一撃を食らわせ、決着をつけてくれるわ!」
海馬くんは力強く宣言し、またしても手札からカードを出す。
「オレは、特殊召喚したばかりの『ウォルフ』を生け贄に捧げ、『ライトロード・エンジェル ケルビム』を生け贄召喚する!」
『ライトロード・ビースト ウォルフ』は光のエフェクトともに消え去り、代わりに、レベル5の『ライトロード・エンジェル ケルビム』が現れる。
「ククク……。遊戯、当然分かっているな? この『ケルビム』に効果があることを!」
ライトロード・エンジェル ケルビム 光 ★★★★★
【天使族・効果】
このカードが「ライトロード」と名のついたモンスターを生け贄にして
生け贄召喚に成功した時、デッキの上からカードを4枚墓地に送る事で
相手フィールド上のカードを2枚まで破壊する。
攻撃力2300/守備力200
|
「うん、分かっているよ。生け贄召喚に成功した時に、ボクのフィールドにあるカードを2枚まで破壊するんだよね?」
「フフフ……その通り! この効果で貴様の伏せカードを全て破壊し、『ケルビム』の一撃で沈めてくれるわ!」
海馬くんがそう言うと、会場が沸いた。
「海馬の勝ちか?」「あっけねえな」「いやいやまだまだ分からないよ?」
四方八方から声が飛びかっている。
伏せカードの破壊を告げられ、遊戯くんはいきなりピンチに陥ってしまった。
だけど、当の本人の表情は、まだまだ余裕たっぷりだ。
「『ケルビム』の召喚成功時に、罠カードを発動させるよ!」
そう言って遊戯くんは、デュエルディスクにあるボタンに手をかけた。
海馬くんの表情が歪む。
「くっ! 召喚成功時をトリガーとしたトラップカードか!」
「そう! 『激流葬』だ!」
激流葬
(罠カード)
モンスターが召喚・反転召喚・特殊召喚された時に発動する事ができる。
フィールド上に存在するモンスターを全て破壊する。
|
「このカードを発動することにより、フィールド上の全てのモンスターを破壊する!」
フィールドに大量の水が流れ込むエフェクトが表示される。海馬くんの『ライトロード・エンジェル ケルビム』はもちろん、遊戯くんの『レッド・ガジェット』も巻き込んでいく。
しかし『ケルビム』は激流に巻き込まれながらも、遊戯くんの伏せカードを破壊する。
その結果、お互いのフィールド上からモンスターカードも魔法カードも罠カードも消え去った。
「どうやら同士討ちのようだね……。ライフポイントには変動はなかったよ」
遊戯くんが言った。
「ククク……」
しかし、海馬くんはここぞとばかり、遊戯くんを見下した笑みを作った。
「この程度でしのいだ気になっているのか? 遊戯?」
海馬くんがそう言うと、遊戯くんがはっとした表情になった。
「まだ特殊召喚可能なカードが残っているの……!?」
「その通り……。このターン、オレの墓地には実に9枚ものカードが送られた。その中には、『ライトロード・パラディン ジェイン』『ライトロード・ビースト ウォルフ』『ライトロード・エンジェル ケルビム』『ライトロード・マジシャン ライラ』が含まれている。その意味を説明する必要はあるまい」
4種類のライトロードが墓地に揃っている……。
「『裁きの龍』……!」
「クク……! ライトロードの切り札を見せてやる。オレは手札から『裁きの龍』を特殊召喚する! 攻撃表示!」
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裁きの龍
攻撃表示
攻撃力3000
守備力2600
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『裁きの龍』――ライトロードデッキ最強のモンスターが、1ターン目後攻にして特殊召喚された!
今のフィールドには『裁きの龍』以外のカードは存在せず、しかも、海馬くんはバトルフェイズを行っていない。
ソリッドビジョンの『裁きの龍』が、遊戯くんを捉えている。直接攻撃の宣言を今か今かと待っている。会場のざわめきが大きくなっていく。
「くたばれ遊戯! 『裁きの龍』の攻撃!」
海馬くんが右腕を大きく振りかぶって、攻撃宣言を行う。
それを合図に、ぼくの数倍も大きな『裁きの龍』の赤い爪が、遊戯くんに襲い掛かる!
遊戯くんの場には、モンスターカードも、魔法カードも、罠カードも出ていない! ライフポイント1の遊戯くんじゃ、この攻撃を受け止めることはできない! このままじゃ負けてしまう!
遊戯くんは、手札から1枚のカードを墓地ゾーンへと送った。
「手札から『クリボー』を発動!」
クリボー 闇 ★
【悪魔族・効果】
相手ターンの戦闘ダメージ計算時、このカードを手札から捨てて発動する。
その戦闘によって発生するコントローラーへの戦闘ダメージは0になる。
攻撃力300/守備力200
|
遊戯くんの目の前に、何体にも分裂したクリボーが現れる。
そこからバンバンバンバンと小さな爆発が立て続けに発生し、『裁きの龍』の攻撃が遊戯くんまで届くのを防いでいく。
「フン! やはり持っていたか……」
海馬くんが吐き捨てるように言った。
「ライフポイント1のデュエルだからね、即死防止のカードくらいは用意しているよ……」
「……ターンエンド!」
海馬くんは、不愉快そうにターン終了を宣言した。
二人のデュエルを見ているぼくは、
「…………」
あんぐりと口を開いていた。
1ターン目の後攻にして、これだけのバトルが繰り広げられようとは! 海馬くんの猛攻もさることながら、全ての攻撃を防ぎきった遊戯くんもすごい!
会場はとっくに火のついた状態で、遊戯コールや海馬コールがあちこちから聞こえてくる。
肉切らせて骨を絶つことさえできない、ライフポイント1同士のデュエル。
多少のカード消費なんか気にしてはいけない。使わずに終わる手札の方がもったいない。これが、ライフポイント1同士のデュエルなんだ!
「ボクのターン……」
続いて、遊戯くんの2回目のターン。
海馬くんの場には攻撃力3000の『裁きの龍』がいる。このモンスターをなんとかしなくては、海馬くんに攻撃は届かない。
「ドロー」
遊戯くんはデッキからカードをドローするなり、流れるような手つきで手札のカードをデュエルディスクにセットした。
「手札から『地砕き』発動!」
地砕き
(魔法カード)
相手フィールド上に表側表示で存在する
守備力が一番高いモンスター1体を破壊する。
|
その直後、ガアアアアンと地盤が砕けるエフェクトが表示された。
攻撃力3000を誇る『裁きの龍』でさえも、その地砕きに巻き込まれてあっけなく破壊されてしまった。
「おのれ……」
海馬くんが、いまいましそうに呟く。
遊戯くんは平然とその様子を見ている。その様子を見ていると、まるで、攻撃力3000なんて敵じゃないさ、と言っているような気がしてくる。
遊戯くんは、さらにカードを出していく。
「続けて、手札から『イエロー・ガジェット』を召喚! 効果を使用して、デッキから『グリーン・ガジェット』を手札に加える!」
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イエロー・ガジェット
攻撃表示
攻撃力1200
守備力1200
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海馬くんの場だけにモンスターが存在していた状況が反転。
今度は、遊戯くんの場だけにモンスターが現れた!
遊戯くんに、直接攻撃の大チャンスが訪れる。前のターンと同じように、会場がざわめいていく。遊戯コールが大きくなっていく。
「ボクのバトルフェイズ! 『イエロー・ガジェット』でプレイヤーに直接攻撃だ!」
すかさず遊戯くんは攻撃宣言する。
海馬くんの場には、モンスターカードも魔法カードも罠カードも出されていない。このまま攻撃されたのでは、海馬くんのライフポイントが0になってしまう。
こうなるなら、『裁きの龍』を過信せず、伏せカードを出しておけば良かったんじゃないだろうか?
ぼくは海馬くんの表情をうかがった。
彼は、顔色を変えることなく、遊戯くんのことをにらんでいた。
「フン! 『地砕き』やガジェット風情が、このオレを倒せると思うな!」
海馬くんはそう言って、手札のカードをデュエルディスクにセットする。
その途端、ソリッドビジョンに鐘の形をしたモンスターが現れ、その鐘を鳴らした。『イエロー・ガジェット』の攻撃がピタリと止まる。
「手札から『バトルフェーダー』の効果を発動!」
バトルフェーダー 闇 ★
【悪魔族・効果】
相手モンスターの直接攻撃宣言時に発動する事ができる。
このカードを手札から特殊召喚し、バトルフェイズを終了する。
この効果で特殊召喚したこのカードは、フィールド上から
離れた場合ゲームから除外される。
攻撃力0/守備力0
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「この効果により、『バトルフェーダー』を特殊召喚し、バトルフェイズを強制終了させる!」
『バトルフェーダー』……!
遊戯くんに引き続き、海馬くんまでもが、手札から発動できるモンスターカードを使ってきた!
二人ともライフポイント1同士のデュエルであることをキッチリ理解しているのだろう。一瞬の隙を突かれても生き残れるように、手札から発動する効果を重要視しているのだ。
フィールドがガラ空きの状況からでも、トドメを刺すことができない――そんなことが立て続けに起こったためか、観客のボルテージは高まっていく一方だ! 海馬コールが止まらない!
遊戯くんは、3枚の手札のうち2枚をデュエルディスクにセットする。
「ぼくはカードを2枚伏せて、ターン終了……」
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イエロー・ガジェット
攻撃表示
攻撃力1200
守備力1200
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「オレのターン!」
海馬くんのターン。
1ターン1ターン、思った以上にヒヤヒヤさせられる。観戦しているだけなのに、手に汗をかいてしまう。胸が痛くなってきてしまう。
こんなにギリギリの闘いを強いられて、当の遊戯くんや海馬くんは平気なのだろうか?
「オレは『バトルフェーダー』を生け贄に捧げ、『ライトロード・ドラゴン グラゴニス』を生け贄召喚する!」
海馬くんは、プレッシャーなんてどこ吹く風と言った調子で、デュエルを進行している。
この状況がプレッシャーになるんじゃないかと尋ねたら、高笑いされて嘲笑されてしまいそうな気がするほどに、プレッシャーとは無縁そうに見える。
さすがは、あの海馬コーポレーションの社長。きっと、ぼくなんかが想像できないほど、多くの修羅場を潜り抜けてきたのだろう。
「召喚はさせないよ! カウンター罠――『神の宣告』発動! 『グラゴニス』の召喚は無効化される!」
だけど、それは遊戯くんも同じだ。
おびえることもなく、迷うこともなく、立ち止まることもなく、『神の宣告』を発動して海馬くんのモンスター召喚を阻止している。
かつて弱気だった遊戯くんは、千年パズルを身につけてから強くなっていった。DEATH−Tで戦い、決闘者の王国で戦い、バトルシティで戦い、記憶をめぐって戦い、そして、もう一人の自分と戦い、ぼくの比にならないほど強くなった。昔の面影を残しながらも、オリハルコンのような硬い芯を身につけたのだ。
「フン……」
召喚を妨害された海馬くんは、不敵な笑みを作った。
「ならばこのターン、リバースカードを2枚セットする」
そして、手札から2枚のカードをデュエルディスクの魔法・罠カードゾーンへと差し込んでいく。
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イエロー・ガジェット
攻撃表示
攻撃力1200
守備力1200
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海馬くんの場からモンスターカードがいなくなった代わりに、2枚の伏せカードが現れた。
モンスターの召喚に失敗したため、伏せカードを使って、次の遊戯くんの攻撃をしのぐつもりなのだろう。
「ターンエンド!」
海馬くんはターンエンドを宣言する。
「…………」
しかし、どういうことか、遊戯くんはここで顔をしかめてしまった。
今は海馬くんのターンが終わったところ。次は遊戯くんのターンで、むしろチャンスと言えるのだから、ここで顔をしかめるのはなんだか違和感がある。
そのまま自分のターン開始を宣言してしまえばいいはずなのに、何か考えがあるのだろうか? 考えたいことがあるにしても、カードをドローしてからでも遅くはないはずなのに。
遊戯くんは顔をうつむけて、しばらくの間、無言になっていた。
無言に気付いた何人かの観客が、不思議そうに遊戯くんのことを見ている。対面の海馬くんは、無言のまま遊戯くんをにらんでいる。
20秒が経過しただろうか、遊戯くんは顔を上げる。
そして、デュエルディスクにセットしてある伏せカードに手をかけた。
「海馬くんのエンドフェイズに、伏せカードを発動させてもらうよ!」
遊戯くんの場に伏せてあるカードがオープンになる。
「速攻魔法――『サイクロン』を発動!」
サイクロン
(速攻魔法カード)
フィールド上の魔法または罠カード1枚を破壊する。
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遊戯くんが20秒間考え込んでいたのは、この『サイクロン』を発動するためだった。
エンドフェイズに『サイクロン』の効果を使って、海馬くんの伏せカードのうち1枚を確実に潰そうと考えたのだろう。
「おのれ……! 『サイクロン』!」
海馬くんが悔しそうに目を見開いた。
「この『サイクロン』で、海馬くんから見て右側の伏せカードを破壊する!」
遊戯くんは破壊する伏せカードを宣言する。
その直後、暴風のエフェクトが発生し、海馬くんの伏せカードのうちの1枚を吹き飛ばしていく。
伏せてから1ターン経過していないため、その伏せカードはチェーン発動することができず、一方的に破壊される。
吹き飛ばされたカードが、ソリッドビジョンで表示されていく。
そのカードは――
停戦協定
(罠カード)
フィールド上の全ての裏側守備表示モンスターを表側表示にする。
この時、リバース効果モンスターの効果は発動しない。
フィールド上の効果モンスター1体につき500ポイントダメージを相手に与える。
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「おのれぇぇ! 遊戯!」
海馬くんが鼻息を荒くした。
『停戦協定』……!
海馬くんはここで『停戦協定』を仕掛けるつもりだったんだ!
『停戦協定』は、相手プレイヤーにダメージを与える効果がある罠カード。相手の場にモンスターがいようが、魔法が伏せてあろうが、罠が伏せてあろうが、直接ダメージを与えてしまう効果を持っているのだ!
ライフポイント1同士のデュエルにおいて、相手プレイヤーにダメージを与えるカードは、まさに一撃必殺のカード。相手に200ダメージを与えるだけの『火の粉』のカードさえ、凶悪なカードと化す!
しかし、遊戯くんはその上を行っていた。
エンドフェイズに『サイクロン』を使うことで、2枚の伏せカードから、ピンポイントに『停戦協定』を破壊してきたのだ!
『停戦協定』は、特別な発動条件を持たない罠カード。
もし、もう一方の伏せカードを破壊していたなら――
もし、遊戯くんが自分のターン開始を宣言していたなら――
その時点で『停戦協定』を撃たれて、ライフを失ってしまっただろう。
ぶるっと身震いしてしまう。
これはデュエリストの経験なのか――? 勘なのか――? 才能なのか――?
ここで『停戦協定』を狙い撃ちにしてくるなんて、どれだけすごいんだよ! とてもじゃないけど、ぼくなんかじゃできそうにない!
会場の盛り上がりは、まだまだ加速していく。
「遊戯! 遊戯! 遊戯!」
「海馬! 海馬! 海馬!」
お互いの名前を呼ぶ声が混ざり合い、真夏のように熱くなっていく……!
「今度こそぼくのターンだね」
『停戦協定』を回避した遊戯くんが、悠々とターン開始を宣言する。
「ドロー」
遊戯くんはデッキからカードをドローした後、モンスターを召喚することなく、
「すぐにバトルフェイズに入るよ!」
と、バトルフェイズ開始を宣言した。
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イエロー・ガジェット
攻撃表示
攻撃力1200
守備力1200
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海馬くんの場にはモンスターはいない。
『イエロー・ガジェット』の攻撃が通れば、海馬くんのライフポイントを0にすることができる。
「『イエロー・ガジェット』で海馬くんに直接攻撃する!」
攻撃宣言を合図にして、会場の遊戯コールが大きくなる。
けれども、もはや予定調和と言わんばかりに、海馬くんの罠カードが待ち構えている!
「『聖なるバリア−ミラーフォース−』発動! そのポンコツ『イエロー・ガジェット』を破壊する!」
光のエフェクトに包まれ、『イエロー・ガジェット』は無残に破壊されていく。今度は海馬コールが大きくなる。
しかし、遊戯くんにとっては、罠カードの発動さえも予定調和だったようだ。
「メインフェイズ2で、『グリーン・ガジェット』を召喚。デッキから『レッド・ガジェット』を手札に加えるよ」
バトルフェイズ後のタイミングで召喚を行うことで、フィールド上にモンスターを補充してきたのだ。
「さらにカードを1枚伏せて、ターンエンドだ」
遊戯くんのターンが終わる。
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グリーン・ガジェット
攻撃表示
攻撃力1400
守備力600
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「遊戯! 遊戯! 遊戯!」
「海馬! 海馬! 海馬!」
彼らの名を呼ぶ声が、際限なく大きくなっていく。
遊戯くんが優勢になれば、遊戯コールが大きくなって。
海馬くんが優勢になれば、海馬コールが大きくなって。
静かな雰囲気で始まった予選トーナメントとは、まるで別物の大会のように騒がしくなっていた。
「オレのターン! ドロー!」
続く海馬くんのターン。
「手札からライトロードを捨てることで、『ソーラー・エクスチェンジ』を発動! カードを2枚ドローさせてもらう!」
海馬くんは手札入れ替えカードを使って、手札を強化してくる。
お互いに手札枚数が少なくなってきた今、この手札入れ替えは、かなり優位に働くのではないだろうか。
「その後、2枚のリバースカードをフィールドにセットし、ターンエンド!」
それから海馬くんはモンスターカードを出すこともなく、静かにターンを終了させた。
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グリーン・ガジェット
攻撃表示
攻撃力1400
守備力600
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「ボクのターン、ドロー!」
遊戯くんがターン開始を宣言し、デッキからカードを引く。これで遊戯くんの手札は2枚になった。
その時、
「ククク……」
対面の海馬くんから笑い声が漏れてきた。
「ワハハハハ! 今度こそ貴様の負けだ! 遊戯!」
海馬くんが強気の勝利宣言を行ってきたのだ!
「海馬! 海馬! 海馬!」
「海馬! 海馬! 海馬!」
「カイバッ! カイバッ! カイバッ!」
会場の海馬コールが、さらに膨れ上がっていく。耳が痛くなるほど大きな声が重なり合っていく。
遊戯くんは、海馬くんの伏せカードをちらりと見て、表情をゆがめた。
「その伏せカード……。まさか!」
「ククク! 気付いたな! 遊戯!」
海馬くんは歯を見せて挑発的な笑みを作り、伏せカードをオープンしていく。
「罠カード! 『仕込みマシンガン』!」
仕込みマシンガン
(罠カード)
相手フィールド上カードと相手の手札を合計した数
×200ポイントダメージを相手に与える。
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またしても、ダメージ効果を持ったカードの登場だ!
「貴様のカードは合計4枚! したがって、800ダメージが貴様のライフから削られる!」
ライフポイント8000同士のデュエルならまだしも、ライフポイント1同士のデュエルなら、直接ダメージを与えるカードは一撃必殺の凶悪カードと化す!
それを分かった上で、海馬くんは容赦なくダメージ効果を連発してくる!
こんなことでは遊戯くんと言えども、ひとたまりもない!
さっきのターンはエンドフェイズサイクロンでしのげたけど、本来ガジェットデッキにはダメージ効果に対する耐性なんかない! ダメージ効果を連続で使われたんじゃ、防ぎきれるわけがない!
「ククク……。今のオレのデッキには、相手プレイヤーに直接ダメージを与えることができるカードが、10枚積んである!」
「10枚……」
「知っての通り、予選トーナメントと決勝トーナメントの間には、サイドデッキを含めてデッキを組みかえることが許されている。貴様が決勝トーナメントに勝ち上がったと知った時点で、サイドデッキにダメージカードを10枚積んでおいたのだ!」
挑発的な笑みを絶やさずに、海馬くんは話を続ける。
「決勝トーナメントでのデッキ構築は重要な意味を持つ……。トーナメント表から対戦相手におおよそ見当をつけ、準決勝と決勝だけに着目してサイドデッキを組むことで、サイドデッキを存分に活用させることができるのだからな!」
得意気にサイドデッキの重要性を語る海馬くん。
確かに海馬くんの言う通りだ。対戦相手を予測した上で、準決勝と決勝戦に絞り込んでサイドデッキを組み替えておくのは、非常に有効な戦法だ!
準々決勝で海馬くんは、ライトロードの「スピード」とドラゴン族の「パワー」を組み合わせて、ライフ8000の対戦相手を圧倒していた。けれども、ライフ1でガジェットデッキの遊戯くんと闘う場合には、ドラゴン族の「パワー」はあまり役に立たなくなる。だから、海馬くんは、その部分を「スピード」面で優れるダメージカードに置き換えてきたんだ!
「勝利のためにあらゆる手段を尽くすのが、デュエリストとしての責務! オレは、決勝トーナメントのために組み上げてきたこのデッキで、遊戯――貴様をひれ伏させてやる!」
海馬くんが大きな身振り手振りでそう言うと、会場の海馬コールがまた一段と大きくなる。
『仕込みマシンガン』の銃口は、遊戯くんに向けられている。このままでは、本当に遊戯くんのライフポイントが0になってしまう!
「……まだまだ行けるよ!」
けれども、彼は負けていない!
「手札から速攻魔法『非常食』をチェーン発動!」
ひるむことなく、カードをデュエルディスクにセットしてきたのだ!
非常食
(速攻魔法カード)
このカード以外の自分フィールド上に存在する魔法・罠カードを
任意の枚数墓地へ送って発動する。墓地へ送ったカード1枚につき、
自分は1000ライフポイント回復する。
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「フィールドに伏せてあった魔法カードを1枚墓地に送ったことで、ライフポイントを1000ポイント回復するよ!」
デュエルモンスターズでは、チェーン発動することで、相手より先に罠や速攻魔法を使うことができる。
この場合、『仕込みマシンガン』によるダメージが発生するより前に、『非常食』で遊戯くんのライフが1000ポイント回復することになる。
遊戯くんはまたしてもギリギリで助かったのだ……。
「だから、貴様の負けだと言っているだろう!!」
海馬くんが怒鳴り散らすように、大声で言った。
「オレのデッキには、直接ダメージを与えるカードが10枚入っている! だったら、もう1枚の伏せカードは、何だと思うか遊戯ぃぃ?」
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グリーン・ガジェット
攻撃表示
攻撃力1400
守備力600
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「ダ、ダメージ……カード……」
遊戯くんが途切れ途切れに言うと、海馬くんは高笑いをした。
「ワハハハハハ! 正解だ遊戯! オレは貴様の『非常食』にチェーンして、もう1枚のリバースカードを発動させる!」
仕込みマシンガン
(罠カード)
相手フィールド上カードと相手の手札を合計した数
×200ポイントダメージを相手に与える。
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容赦なく、2枚目の『仕込みマシンガン』が発動されてしまった!
1枚目の『仕込みマシンガン』より早く『非常食』が適用され、しかし、『非常食』より早く2枚目の『仕込みマシンガン』が適用される!
先に発生するのはダメージのほうだ! このままでは、遊戯くんのライフポイントが0になってしまう!
今の遊戯くんには伏せカードはない。手札にあるのは、さっきのターンで手札に加えた『レッド・ガジェット』が1枚だけ……。
…………勝敗は決した。
この状況から遊戯くんが逆転することはできない。
今度こそ決着がついたなといった声が、あちこちから聞こえてくる。
会場は、海馬コール一色で染まっていく。遊戯コールは、もう聞こえてこない。
「残念だったな遊戯! これで終わりだ……」
『仕込みマシンガン』の銃口が遊戯くんに向けられる。遊戯くんは顔を伏せた。
「ライフ1同士の闘いに『ガジェット』などと言う生ぬるいデッキで挑んだ貴様の甘さが敗因だ! その程度でこの大会に臨んだ、認識の甘さを嘆くがいい! 永遠にな!」
マシンガンのエフェクトが遊戯くんを襲う。
かすり傷程度のダメージが、遊戯くんのライフから削り取られていき――
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グリーン・ガジェット
攻撃表示
攻撃力1400
守備力600
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――遊戯くんのライフポイントは0になった。
「それはどうかな?」
しかし、遊戯くんは、笑っていた。
負けたはずの遊戯くんは、今日一番の笑顔でもって、海馬くんを挑発していたのだ!
「ハ……ハハハハ! ハハハハハ! 貴様のライフは既に0になっている。敗北が確定した貴様に、これ以上何ができると言うのだ! ――おい! 磯野! 早く勝利宣言をしろ! このオレの名を高らかに告げろ!」
審判の磯野さんが、慌てた様子で駆け寄ってくる。
「準決勝第2試合大将戦! 勝者――――海馬瀬人!!」
本来、生徒会副会長さんが行うはずだった勝利宣言を、審判の磯野さんが執り行う。
これで、本当に、遊戯くんの敗北は確定してしまった。実はヒミツの奥の手がある……などと言うこともなく、本当に負けてしまった。
「フフ……」
それでもなお、遊戯くんは得意気な笑みを崩さない。
海馬くんはしかめっ面になって、遊戯くんに食いかかる。
「どういうつもりだ遊戯! いよいよ気でも触れたか!」
「……海馬くん。決勝トーナメントでのサイドデッキは、とても重要だって言っていたよね? 『準決勝』や『決勝戦』の対戦相手が予想できるから、その対戦相手に絞った対策を仕込んで来ればいいって。実際、海馬くんは、この準決勝のために15枚あるサイドデッキを存分に活用してきた……。そうだよね?」
「フン……。それがどうしたと言うのだ? 大層な御託を並べて、言い訳でも始めるつもりか? 敗者も偉くなったものだな」
海馬くんの毒舌を気にかけることなく、遊戯くんは話を続けていく。
「サイドデッキは15枚とルールで決められている。もし、『準決勝』のためだけにサイドデッキを用意してきたなら、『決勝戦』ではサイドデッキがほとんど活用できなくなってしまう。逆に、『準決勝』でサイドデッキを使わなかったなら、『決勝戦』でサイドデッキを最大限に活用できる……」
遊戯くんが説明していくにつれ、海馬くんの表情が険しくなっていく。
「遊戯……!? まさか……! まさか貴様……!」
「ボクは、サイドデッキを『準決勝』のために使っていない。『決勝戦』のためだけに用意してきたんだ!」
きっぱりと遊戯くんが言い切る。勝者のはずの海馬くんから、余裕が消えていく。
「サイドデッキの……温存……! くっ……! おのれ……おのれ遊戯……おのれぇぇ!!」
目をかっと見開いて、海馬くんは遊戯くんに詰め寄っていく。
「遊戯ぃ! 貴様、オレとの勝負を捨てたな! 決勝戦までサイドデッキを温存するためだけに、オレとのデュエルから逃げたな!」
「勝負を捨てた、というのはちょっと言い過ぎだけど、ボクのチームが狙っているのは『優勝』ただひとつ。その目標はぶれてはいない。だから、ここで海馬くんに負けてでも、決勝戦で勝てるようにサイドデッキを作ってきたんだ!」
遊戯くんが海馬くんを見上げて、きっぱりと言い切る。
海馬くんが二歩後ろに下がって、乾いた笑い声を出す。
「ククク……! チームの優勝のために、自分の勝ち星を手放し、宿命の相手とのデュエルから逃げ出したということか……」
肩を震わせていたかと思うと、これ以上ないくらい大きな声で笑い出した。
「ワハハハハハ! やはりオレと貴様は相容れぬ存在! オレならば、自分の勝ち星を手放すくらいなら、チームの優勝など躊躇なく切り捨てる! 宿命の相手とのデュエルから逃げるなど、オレには到底受け入れられるものではない!」
「ボクは、どっちが良いとか、どっちが悪いとか、そんなことを言うつもりはないよ……。ただ、ボクにはできないだけ……。チームを捨ててまで個人戦にこだわることができないだけなんだ」
「フン……! くだらん……」
それから海馬くんは険しい顔つきになって、びしっと人差し指を突きつける。
「だが! 分かっているのだろうな遊戯? 貴様はこのデュエルに負けたのだ! チームとしての勝利を掴み取るためには、先鋒戦と中堅戦の両方でオレのチームメンバーに勝たなければならない!」
大振りの動作で、先鋒戦と中堅戦のフィールドを指差す。
「オレのチームメンバーは、デュエルモンスターズにおいても四ツ星と五ツ星をの実績を持つ、吉林教員と生徒会長だ! お子様のままごとの延長線上にいる、貴様のお友達如きに勝てると――」
「勝てるよ!」
遊戯くんは、迷いなく言い切った!
「ボク達のチームは、チームとして勝つために、1週間でたくさん練習を積んできた! 昨夜も、今日のための作戦会議を立ててきた! この準決勝では海馬くんのチームが勝ち上がってくると思っていたから、デッキの相性もキッチリ分析した! もちろん夜遅くまでかけてね……!」
「その結論が、『大将戦を捨てる』ことだと!?」
「……デッキの相性を考えた時に、先鋒戦と中堅戦を重視するのが一番だと思ったんだ。だから、準決勝は仲間達に任せて、ボクはデッキをほとんど変えずに闘わせてもらった。ライフポイント1同士だから、運さえ良ければデッキを変えなくても勝てるからね……。実際には負けてしまったけれども、ボク達の作戦には何の支障もない!」
遊戯くんは、強い調子で話している。
「遊戯! 遊戯! 遊戯!」
一時は消え去っていた遊戯コールが、徐々に盛り返していく。
ぼくは胸に手を当てる。
ドクンドクンと早鐘を打っているのが良く分かった。
なんと……! なんと言うことだろう!
デュエルに負けたはずの遊戯くんにとって、ここで負けることは計画通りの出来事だったのだ!
すごいのは、遊戯くんのデュエルスキルだけじゃない!
彼らはぼく達よりもたくさん練習して、ぼく達よりもずっと先を見据えてデッキを作り上げている……! ぼく達のチームよりも、一歩も二歩も先に行っているじゃないか!
それを証明するかのように、ひとつの歓声が巻き起こった。
「ええと……。中堅戦のデュエルも決着がついたようです。中堅戦――生徒会長と獏良くんの試合は、獏良くんの勝利です」
副会長さんのマイク越しの声が聞こえてくる。
遊戯くんのチームの中堅――獏良くんの勝利が告げられたのだ!
生徒会長は、この大会の主催者の一人であり、デュエルモンスターズにおいても五ツ星クラスのデュエリストだと言う。
獏良くんはひょうひょうとした顔つきのまま、生徒会長さんを打ち破ってしまったのだ!
「おのれぇ……!」
海馬くんが遊戯くんをにらみつける。
「これで、ボクのチームは1勝1敗……。残る試合は先鋒戦。この先鋒戦に勝ったチームが、決勝戦に進出できる!」
先鋒戦は、真崎さんと吉林先生のデュエルだ。
遊戯くんのチームに属しているのは、遊戯くんの幼なじみである真崎杏子さん。
海馬くんのチームに属しているのは、2年B組担任の吉林先生。
二人は真剣な表情でデュエルを進行していた。
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異次元の生還者
攻撃表示
攻撃力1800
守備力200
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ガーディアン・エアトス
攻撃表示
攻撃力2500
守備力2000
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ダンシング・ソルジャー 月影のワルツ
攻撃表示
攻撃力1950
守備力2450
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真崎さんは「ダンシング・ソルジャー」シリーズを中心とした儀式モンスターデッキ、吉林先生は『マクロコスモス』などの除外効果を中心としたデッキのようだった。
ライフポイント、手札の枚数、フィールドの状況を見る限り、二人は拮抗しているようだ。
「『ガーディアン・エアトス』で、真崎さんのモンスターに攻撃です!」
「ここで、『ダンシング・ソルジャー 月影のワルツ』の効果を発動! 『ガーディアン・エアトス』を裏側守備表示に変更し、攻撃は不発になります!」
「……それじゃあ、カードを1枚伏せてターン終了」
吉林先生の『ガーディアン・エアトス』の攻撃を、『ダンシング・ソルジャー 月影のワルツ』のモンスター効果を使って華麗に回避する真崎さん。
二人が拮抗している――その事実だけで、海馬くんの表情は険しくなっていた。
「私のターン! ドロー!」
真崎さんのターン。
「まずは『マンジュ・ゴッド』を召喚し、デッキから手札に『ダンシング・ソルジャー 太陽のタンゴ』を加える。そして、儀式魔法『光と闇の舞踏会 −踊りによる誘発−』を発動よ! 『ダンシング・ソルジャー 太陽のタンゴ』を儀式召喚するわ!」
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異次元の生還者
攻撃表示
攻撃力1800
守備力200
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ガーディアン・エアトス
裏側守備表示
攻撃力2500
守備力2000
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ダンシング・ソルジャー 月影のワルツ
攻撃表示
攻撃力1950
守備力2450
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マンジュ・ゴッド
攻撃表示
攻撃力1400
守備力1000
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ダンシング・ソルジャー 太陽のタンゴ
攻撃表示
攻撃力2550
守備力1850
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『ダンシング・ソルジャー 太陽のタンゴ』がフィールドに現れたことにより、流れが一気に真崎さんに傾いた。
「そして、このターンでも『月影のワルツ』の効果を発動して、『月影のワルツ』自身を裏側守備表示に変更。けれどもすぐに『月影のワルツ』を表側攻撃表示に変更します! これによって『月影のワルツ』がリバースしたので、除外されている『大嵐』のカードを手札に加えることができる!」
目に追えないくらいたくさんの効果処理が連続していく。
本当にダンスを踊っているかのように、表示形式とカードがクルクルクルクルと回っていく。初めて「ダンシング・ソルジャー」シリーズの効果を見る人にとっては、何が起こっているかさえ分からないかもしれない。
「手札から『大嵐』のカードを発動! 先生の場にある魔法・罠カードを破壊させてもらうわ!」
「そう来ると思っていた! カウンター罠カード『魔宮の賄賂』を発動! 『大嵐』は無効となる!」
「でも、『魔宮の賄賂』にはドロー効果がついています。ここで私がドローしたカードは『儀式の準備』! このカードを発動し、デッキからもう一枚の『月影のワルツ』を手札に加えるわ!」
先生のカウンター罠カードをかわして、さらに、真崎さんはステップを重ねていく。
遊戯くんは、「いいぞー杏子ー」とにっこりと笑っている。
海馬くんは、「く……」と握りこぶしを作っている。
「私は再び、儀式魔法『光と闇の舞踏会 −踊りによる誘発−』を発動! フィールドに存在する『月影のワルツ』を生け贄に捧げて、手札の『月影のワルツ』を降臨させるわ! こうすることで、『月影のワルツ』の効果をもう一度使えるようになる!」
「こ、これは、きついですね……」
吉林先生が声を漏らす。
「行きますよ、先生! 私は『月影のワルツ』の効果を『月影のワルツ』自身に使って裏側表示にした後、『太陽のタンゴ』の効果で表側表示にします。これによって、『月影のワルツ』のリバース効果が発動し、『大嵐』のカードを手札に加えます!」
太陽と月の華麗なステップが混ざり合って、幻想的な映像を作り出している。
一度は無効化されたはずの『大嵐』のカードが、いくつもの効果を経て、再び真崎さんの手札に舞いこんだ。
「今度こそ『大嵐』発動です!」
ソリッドビジョンによって、風のエフェクトが巻き起こる。吉林先生の伏せカードが吹き飛ばされ、さらに、吉林先生のキーカードである『マクロコスモス』も吹き飛ばされていく。
「バトルフェイズです!」
真崎さんの凛とした声が響き渡る。
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異次元の生還者
攻撃表示
攻撃力1800
守備力200
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ガーディアン・エアトス
裏側守備表示
攻撃力2500
守備力2000
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ダンシング・ソルジャー 月影のワルツ
攻撃表示
攻撃力1950
守備力2450
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マンジュ・ゴッド
攻撃表示
攻撃力1400
守備力1000
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ダンシング・ソルジャー 太陽のタンゴ
攻撃表示
攻撃力2550
守備力1850
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『マクロコスモス』と『異次元の生還者』のコンボによって、身を固めていた吉林先生の防御が崩された。
「私は、『太陽のタンゴ』の攻撃で『ガーディアン・エアトス』を破壊! 続けて、『月影のワルツ』の攻撃で『異次元の生還者』を破壊!」
真崎さんのモンスターが、華麗なステップで次から次へと攻撃を仕掛けていく。
「最後に、『マンジュ・ゴッド』の直接攻撃!」
1400ポイントが、吉林先生のライフポイントから削られる。
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ダンシング・ソルジャー 月影のワルツ
攻撃表示
攻撃力1950
守備力2450
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マンジュ・ゴッド
攻撃表示
攻撃力1400
守備力1000
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ダンシング・ソルジャー 太陽のタンゴ
攻撃表示
攻撃力2550
守備力1850
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このターンの最初には、吉林先生のフィールドには5枚のカードがあって、ライフポイントも4750ポイント残っていた。
それが今や、吉林先生のフィールドのカードは0枚。ライフポイントも3200ポイントになってしまっていた。
拮抗している状況から、真崎さんが一歩抜け出したのだ。
遊戯くんと獏良くんが、「いいぞ! いいぞー! 杏子!」「その調子だ頑張れー」と真崎さんの応援をしている。
海馬くんが「おのれ」と呟いている。
観客の視線は、真崎さんと吉林先生に向けられている。
真崎さんは、器用にウインクして、
「カードを1枚セットしてターンエンドです、先生」
とターン終了を宣言した。
先鋒戦のデュエルはまだまだ続く。
真崎さんが一歩リードしたとは言え、吉林先生にはまだまだ余力がある。先生は、『次元の裂け目』を使ってモンスターを除外させながら、次々にコンボを成立させていく。
けれども、真崎さんの戦術は、その一歩先を行っていた。
墓地を利用するカードを極力デッキから外して、吉林先生の除外戦術にハマらないようにしていたのだ。
加えて、「ダンシング・ソルジャー」シリーズの効果……。
ダンシング・ソルジャー 太陽のタンゴ 光 ★★★★★★★
【戦士族・儀式/効果】
1ターンに1度、フィールド上に裏側表示で存在するモンスター1体を
選択して発動する。選択したモンスターを表側攻撃表示にする。
この効果は相手ターンでも発動する事ができる。
また、このカードがリバースした時、相手フィールド上に存在する
カード1枚を選択してゲームから除外する。
攻撃力2550/守備力1850
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ダンシング・ソルジャー 月影のワルツ 闇 ★★★★★★★
【戦士族・儀式/効果】
1ターンに1度、フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を
選択して発動する。選択したモンスターを裏側守備表示にする。
この効果は相手ターンでも発動する事ができる。
また、このカードがリバースした時、ゲームから除外されている
自分のカード1枚を選択して手札に加える。
攻撃力1950/守備力2450
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光と闇の舞踏会 −踊りによる誘発−
(儀式魔法カード)
「ダンシング・ソルジャー 太陽のタンゴ」
「ダンシング・ソルジャー 月影のワルツ」の降臨に必要。
手札・自分フィールド上から、レベルの合計が7以上になるように
モンスターを生け贄に捧げなければならない。
発動後このカードは墓地に送らず、手札に戻す。
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これらのカードは除外に強い効果を持っているため、対戦相手の除外戦術が裏目に出てしまうことすらあるのだ。
遊戯くんが、「デッキの相性を考えた時に、先鋒戦と中堅戦を重視するのが一番だと思ったんだ」と言っていたことを思い出した。
デュエルは、着々と進行していく。
ダンシング・ソルジャー達が舞い踊って表示形式が変わり、『次元の裂け目』の除外効果が適用されてコンボが成立していく。
はじめはさほど興味がなかった人も、徐々にデュエルに注目していく。会場が盛り上がっていく。
「これで終わりです先生。私は『ダンシング・ソルジャー 太陽のタンゴ』で先生に直接攻撃をします!」
真崎さんがそう宣言すると、会場から杏子コールが聞こえてくる。
『ダンシング・ソルジャー 太陽のタンゴ』は、吉林先生に向けて曲刀を飛ばす。
「ここまでか……」
1200ポイント残っていたライフは、この攻撃で0になった――。
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ダンシング・ソルジャー 太陽のタンゴ
攻撃表示
攻撃力2550
守備力1850
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「先鋒戦の決着がつきました! 吉林先生と真崎杏子さんのデュエルは、真崎さんの勝利です! これで『2年B組第3チーム』が、決勝戦に勝ち上がりとなります! おめでとうございます!」
副会長さんの勝利宣言がなされ、会場の歓声が大きくなっていく。
真崎さんは両腕を真っ直ぐに伸ばして、
「やったあぁぁーーーーっ!!」
と声を上げる。そんな真崎さんに、遊戯くんと御伽くんが笑顔で駆け寄っていく。みんな笑顔で勝利の喜びをかみしめていた。
一方、チームとして敗北してしまったのは、海馬くんのチーム。
「…………」
彼は無言のまま背を向けて会場を去っていった……。
そして、ぼく達2年C組のクラスメイトは、彼らの様子を黙って見ていた。
これで、決勝戦の相手は、遊戯くん達率いる『2年B組第3チーム』に決まった。
カードゲームをあまりやらない真崎杏子さんと、どこかひょうひょうとしている獏良了くんに、ライフ1で瀕死状態の遊戯くん……。
そんな風に表現すると、あまり強くない相手のように思えてしまうけど、決してそんなことはなかった。
3人ともこの大会のためにたくさん練習を積んできていて、しかも、この大会のために考え抜いた戦術が見事にヒットしていた。
特に、対戦相手を事前に調べ、準決勝と決勝戦に絞り込んでサイドデッキを構築するなんて、ぼくには想像すらできていなかった。
だから、あまりカードをやらない真崎さんが、四ツ星デュエリストである吉林先生に勝利した。獏良くんが、五ツ星デュエリストである生徒会長さんに勝利した。
それに比べたら、ぼく達2年C組第7チームは、全くと言って良いほど準備不足だった。
昨日こそたくさん練習したけど、遊戯くん達の練習量と比べたら大したことないだろうし、決勝トーナメントに誰が出てくるかを知ったのも今日になってから。もちろん、ぼくのサイドデッキは昨日から1枚たりとも変わっていない……。
遊戯くんのライフポイント1のハンデなんて、準備不足の時点でとっくに取り返されてしまったような、そんな気がしてならない。
「決勝戦は15時から行います。予定より1時間遅れていますので注意してください。それではしばらく解散とします」
副会長さんがそう言うと、1000人規模の観客が思い思いにばらけていく。
童実野高校デュエルモンスターズ大会、決勝戦。
最後に立ちはだかった壁は、とても高く険しいものになりそうだった。
続く...
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