霊術とクリッチー〜俺もお前も蝋人形にしてやんよ、夏〜

製作者:真紅眼のクロ竜さん




 *この作品には多くの注釈が付いてます。一応、最後にまとめて記載しておきますので読み終わった後、注釈も読むと更に解りやすいかもです。



 夏。世間一般では最も暑い季節と認識され、北半球にある日本では七月から八月にかけて確実にやってくる季節である。
 少なくとも春夏夏夏とか、夏冬冬冬とかなんて季節は眉毛が繋がったお巡りさん(注1)がいる世界だけの出来事です。

 日本の何処かにある童実野町も例外ではない。
 夏と、言えば何だろう。
 そう、海と遊びだ。夏と言えば海、小麦色に焼けた肌に眩しい水着!
 相手が婦警だろうとナイスなおっぱいを見たら揉まずにはいられないセクハラ魔人、黒川雄二は勿論それらが大好物、なのだが。

 残念ながらこのお話の主人公は彼ではないので情け容赦なく隅田川の濁流に流されてもらう事にしましょう。

 降り注ぐ日差し。眩しい太陽。
 青空。遠くから響く波の音。いい天気。絶好の、海水浴日和。
「夏だ! 海だ!」
「海水浴だぜーッ!」
 童見野町にある童見野海水浴場に、彼女達がやってきたのは七月も半ばを過ぎた日曜日だった。
 最初に叫んだ水色の髪の少女とそれに合わせて叫んだ赤い髪の少女は一瞬だけ顔を見合わせた後、背後を歩く仲間達に声をかける。
「ほら、ライナ達も早く来いよ!」
「そうだよ、ウィンちゃんもアウスちゃんも早く早く! 逃げるよ!」
「エリア、海は逃げない…。ヒータも慌てない、慌てない」
 眼鏡をかけた少女――――アウスははしゃぐエリアとヒータをそう嗜めた後、連れであるウィンとライナにも視線を向けた。
「おー、海ですね! たっぷり泳ぎましょう!」
「暑ぃよぅ……海の中なら涼しいよね」
 元気なライナと、暑さに少しバテ気味のウィン。
「そりゃ涼しいよ、ウィンちゃん。ほら、早く水着に着替えて着替えて」
 エリアはばて気味のウィンに笑顔でそう声をかけた時、ヒータが首を傾げる。
「で、水着は?」
「ダルクが持って来るって」
「ダルクは?」
「…………」
 ヒータの問いに、沈黙。水着、というより荷物全部ダルクが持って来る予定、だった筈なのに。
 その、ダルクがいない。
「ダルクはどこに行った!?」
「ダルク、案外方向音痴だもんね」
「と、とりあえず電話してみれば…」
「さっさと来いと言っとけ。来たらシバいてやる」
 アウスの言葉にヒータが物騒な台詞を吐いていると、ライナが非常に言いにくそうに「あのー」と口を開く。
「どうしたライナ?」
「あそこで荷物の山を引きずってフラフラしてるの、ダルク君じゃ…」
「………」
 彼女達の遥か後方、山のような荷物を載せたリヤカーを自転車で引きずり、炎天下の中えっちらおっちらやってくる黒髪の少年。
 彼らの言うダルク君であり、この集団の黒一点である。
「眠いん…だけど……何故、朝から…」
「遅いぞダルクー。何してたんだ」
「眠いん、だけど」
 ダルクは低速運転でどうにか仲間達の元まで辿り着くと、そのまますとんと眠りに落ちる。
「あれ? ダルク君? どうしたの!? 寝たら死んじゃうよ!?」
 ウィンが慌てて声をかける。しかしダルクは目が覚めない。何故なら彼の目元には異様な隈が出来ていたからである。見事な睡眠不足。
「だから、眠い、だけ」
「そういえばダルク君、昨日、てか帰って来たのいつ?」
「一時半、過ぎ…」
 条例によって違うけど地域によっては夜一時までゲーセンは開いています。
 とは言いつつもその時に客なんてほとんどいないんだけど。
「お前なぁ、ゲームもほどほどにしてさっさと帰ってこいよ。今日、皆で海水浴行く予定だったの知ってただろ?」
 ヒータの言葉にダルクは眠そうな顔で「解ってる」と頷く。
「だって、しょうがなかったんだよ……昨日、ナイトエンドと夜薔薇と二人で遊んでたんだけどさ…」


 -ゲームセンターにて-
 夜薔薇「ヒャッハー! 俺のタッチは世界一で満足するしかねぇぜ!」
 ナイトエンド「お前、ユビでダブルプレイ(注2)は迷惑だからやめろとあれほど言ったら…うげ!? おい、ダルク! 夜薔薇が恐ろしい事してやがる!」
 ダルク「なんだよ、ナイトエンド……っておい!? 右手で赤エヴァ(注3)、左手で赤エアレイド(注4)だと!? しかもフルコンでSSS取得!?」
 夜薔薇「ヒャッハー! 俺のスコアは世界一で満足するしかねぇぜ! あ、姉ちゃんに怒られそうだからそろそろ帰るわ」
 ナイトエンド「テメー、勝ち逃げは許さねぇぞ! 俺も赤エアレイドでフルコンどころかエクセも取ってやるよ! 両手だけど!」
 ダルク「俺も負けん! 赤エヴァでエクセ、俺も狙ってやる! 今まで一度もクリアした事無いけど!」

 -一時間後。-
 ナイトエンド・ダルク「「もうやめて! 俺のシャッターは真っ黒よ!」」
 夜薔薇「なぁ、お前ら。俺そろそろ帰って良いか?」
 ナイトエンド「畜生…流石は赤エアレイド、タダじゃ終わらないか……おい。夜薔薇。ドクペ買ってこいよ」
 ダルク「あ、俺マックスコーヒー」
 夜薔薇「なんで俺パシリにされてんの!?」
 ダルク「あ、あと100円玉両替してきて。もう100円玉無いから」
 夜薔薇「あとお前ら人がいないからってそんなに連コするな。ちゃんと確認しろ」


「…と、言う事があって閉店までやってたんだけど……」
「すげぇ。すげぇんだろうけど何言ってるのか全然わからん」
 ダルクの言葉にヒータはそう返し、他の四人も当たり前のように首を傾げる。
「ダルク君って英語、上手いんだね」
「いや、英語じゃないから」
 ウィンの言葉を丁寧に修正しつつ、ダルクは答える。やっぱり眠そうである。
「ごめんね、そんなに疲れてるのに荷物頼んじゃって…」
「わ、私の分ぐらいは持ってくべきだったよ、ごめんね…」
 ウィンとライナが慌てて謝るがダルクは首を左右に振る。
 まぁ、確かに自業自得と言えるだろう。
「ま、ともかく水着は来たんだし……」
「泳ごう!」
 ヒータの言葉にアウスが合わせ、他の三人も歓声をあげる。
 ちなみにダルクは水着の一言で一瞬で目が覚めた。


 美少女の水着姿。
 桃源郷に住む妖精の姿が海水浴場またはプールサイドに降臨する事を指す。
 それなりに共同生活が長いとはいえ、それでも美少女に囲まれていると言えなくも無いダルクにとってもやはり気になるものである。
 何せ、どの美少女にも悪い所はあるがそれ以上に良い所がある事を知り尽くしているからだ。
 そして何より、誰か一人を特別意識してはいけないとは思っても誰が一番可愛いかなんてことを期待することもある。

 ダルクのそんな想いを知ってか知らずか、海水浴場の隅にある更衣室からは五人の楽しそうな声が響いている。
 ちなみにダルクは着替えていない。理由はただ単に泳げないからだが。
「よー、ダルク……昨日は散々だったな」
「ん? ああ、ナイトエンドか」
 背後から声がかかり、ダルクは後ろを振り向く。親友のナイトエンド・ソーサラーが同じく疲れた顔していた。
 そりゃそうだ。二人揃って夜薔薇の騎士を付き合わせて閉店までプレイし続け、結局スコア更新出来なかった上に夜薔薇の帰りがあまりに遅いので探しに来た黒薔薇の魔女に三人まとめてお仕置きを食らったのだった。
「で、お前さんは朝から海で何してるのさ?」
「他の皆が海水浴に来たからね。その付き合いで」
「あ、じゃ俺と一緒か。マハードのおっちゃんに、ミラクル・フリッパーとカードエクスクルーダーを海水浴に連れてけって頼まれてね。今、そこで浅瀬で遊んでるんだけど」
「俺と話してる場合じゃないだろ。ちゃんと監督しろよ」
 子守りに来てるのに子供から目を離してはいけません。
「氷結界の皆さんがあそこでバカンスしてるから無問題。武士さんがさ『主も若いのだから遊んで来ると良い。子守りなど拙者の手にかかれば赤子の手を捻るようなものよ!』ってね」
 氷結界の武士さん、赤子の手を捻っちゃダメだと突っ込みたくなるがそれは気にしない。
「そういやさー。クランちゃんとピケルちゃんも泳ぎに来てたぜ。さっき見掛けたよ」
「え? マジで?」
「お前、クランちゃんの所で強烈に反応したなダルク」
 ナイトエンドが呆れたように呟くのをダルクは思わず「うっ」と呟く。
「だってさ……しょうがないだろ」
「なにがしょうがないんだよ。ダルク君ハーレムの淫らな生活送ってるくせに」
「誰が淫らな生活だ! あのな、ヒータともエリアともアウスともウィンともライナともそんな関係じゃないからな! てか、なったら失礼だろ…」
「どうしてさ?」
「まるでそれが狙いだったみたいじゃないかよ……異性だとは解ってるんだけどさ、そうやって意識するのもなんか悪い気がして」
「ふーん」
 ナイトエンドは何故かニヤニヤしている。
 これ以上この話題を続けたらまずい、と思ったダルクは話題を変える事にした。
「しかし暑いなぁ……ナイトエンド、これ飲む?」
 荷物の山から水筒を探り出し、差し出す。ナイトエンドは嬉しそうに頷く。
「貰う。ありがと……こう暑いと炭酸のきっついのが欲しいよな」
「大丈夫、炭酸だ。しそペプシ(注5)だけどな」
 ダルクの言葉に既に半分口に含んでいたナイトエンドは盛大にしそペプシを噴き出していた。
「なんで! しそペプシが! 水筒に入ってんだよ!?」
「ウィンが好きなんだよ、しそペプシ」
「……ウィンちゃんの好みってよく解らねぇよ。つーか、これウィンちゃんの水筒? 間接キスかよ……」
「じゃあ、こっちは?」
「それは誰の?」
「ライナの」
「なら大丈夫だな」
「中身はチョコレートスパークリング(注6)だけどね」
「なんであの激マズドリンクなんだよ! ライナちゃんもかよ!」
 ナイトエンドは口をつけようとしていた水筒を思い切り海へと投げ捨てていた。不法投棄してはいけません。
 あと、それはライナの水筒だが。
「つーか、お前の同居人の舌はどうなってんだよ……」
「え? 何、あたしの舌がどうかしたって?」
 ナイトエンドがそう呟いた時、背後からヒータの声が響く。どうやら着替えが終わったらしい。
「おおっと! 最初はヒータ選手の登場です! 黒のシックなセパレート、という選択はやはりヒータちゃんらしさが前面に出ていますね! 肩紐が首から胸の中央までのV字、センターストラップというデザインでしょうか、胸が目立ちにくいので胸があまり育っていなくても可愛いぐほぉっ!?」
「大きなお世話だ!」
 ナイトエンドの解説は顔を真っ赤にしたヒータの鉄拳で無理矢理遮られた。
 トップはナイトエンドが解説してくれた通りでボトムはショートパンツのようなデザイン。まさにヒータらしいと言えばヒータらしい。
「なに、今変な声したけど何かあったの?」
「続いてはアウス選手の登場! 仲間内一番の巨乳、A(アウスたんの)・O(おっぱいは)・J(ジャスティス)の格言通り、ワンピースタイプの水着で露出を抑えてはいてもやはりその胸の大きさは素晴らしさを誇ってあだぁっ!」
「………ハァっ、ハァッ……ダルク、こいつは何時からいたの!」
 ナイトエンドの解説は胸だけでやはり停まってしまった。しかしヒータの鉄拳の後でも平気で喋っていられるな。
 ワンピースタイプの水着、とは言っても薄いピンク色というアウスにしては冒険したデザインである。少なくともダルクから見れば充分可愛い。
「なに? 今、誰か殴られた音がしたけど?」
「三番手は海というフィールドこそホームグラウンド、エリア選手の登場! そのデザインは……なんということでしょう! パレオです! 白に青の花柄というまさに、海水浴場に舞い降りた花の精! 胸、首筋、太もも、お尻その全てがパーフェクトに揃い、そして水着のデザインも合わせてまさしく他の二人を突き放しぐはぁっ!」
 ナイトエンドの解説はヒータとアウスの強烈なハイキックによって中断させられた。
 パレオの布地の下は普通にセパレートタイプのビキニ水着、である。まぁ、確かに他の二人を突き放していると言えば突き放している、のか?
「すいません、待たせちゃって……あれ、ナイトエンド君?」
「四番手は一番の新星、ライナ選手! その水着は、な、なんとオレンジのビキニですとぉ!? これは何という冒険したデザイン! なのに、その太陽のような笑顔に一番似合っているのは何故か! それがライナちゃんの可愛さだからであります! 他の四人に比べて劣る身長をその体系と露出でカバーして有り余っているのはごふぅっ!」
「もういい、お前喋るな」
 ヒータの裏拳が腹に突き刺さったがやはりナイトエンドは喋り続けるに違いない。
 確かに、ライナにしては本当に冒険している。
 他の誰よりも露出度が高めというのが凄い。しかもオレンジ一色で占めているのが凄い。
 年下とはいえ、やはり冒険したい年頃なのだろうかとダルクは思っていた。
「……ごめん、遅くなっちゃって…早く泳ごう!」
「最後はウィン選手の登場だー! デザインは……薄い水色の生地を濃い青で囲ったビキニスタイル! エリアちゃん同様、整ったスタイルに見事にマッチした、胸、首筋、太もも、お尻その全てはパーフェクトクラスに揃い、地味ではないが派手過ぎないその水着のデザインも合わせて、この子は、俺だけのマイ・エンジ――――ぎゃあああああっ!!!!!!」
 ウィンの解説を最後迄行なう前にヒータとアウスの強烈なダブルアタックを食らい、ナイトエンドは海の方へと飛んで行った。
 ナイトエンドは確か泳げなかった筈である。ガンバ。
「わたしのしそペプシー! ダルク君、これどういう事!?」
「えーん、水筒が無いよー! チョコレートスパークリング入りの水筒がー!」
 直後、ダルクも海へと叩き込まれたのだった。



 視線の先では少女達がきゃっきゃっうふふと戯れている。
 ダルクとナイトエンドは水も滴るいい男は何とやらでそれを眺めていた。
「平和だねぇ……」
「平和だ……」
 ちなみに美少女達はいつの間にかそこら辺にいたピケルやらカードエクスクルーダーやらをくわえてビーチボールで遊んでいた。
 しかし思う事は泳げる奴らは本当に羨ましいという事だ。
「……そういやさ、こういう海水浴場でラジオ垂れ流してる奴っているけどさ、あれって面白いのかな?」
「さぁ? やってみれば?」
 ダルクの言葉に、ナイトエンドはどこから持ち出したのか本当にラジオを取り出していた。
「本当に流すのかよ…あ、音楽やってる」
『さーあ、ゆっくりと皮を剥いでバッキバキに(以下自主規制)』
「「………」」
 ダルクとナイトエンドは顔を見合わせた後、一瞬でラジオの電源を切った。
「なんでベジータ様のお料理地獄(注7)が流れてるの!? 夏の昼間っから!?」
「知るか!」
 夏休みに時々ラジオで何時間もアニソン流れているときがあるけど、流石にこの曲を流すってのはおかしいだろ。
 なんていうか、ただお好み焼き作ってるだけの曲なのにねぇ。
「チャンネル変えろよ、チャンネル」
「あー、はいはい。えーと、FM、FM…」
 ナイトエンドがチャンネルを変えたが、こちらも音楽が流れ始めて来た。
『全国の皆さん、今週のさたでぃ・みゅうじっく・しょう、如何だったでしょうか? 最後にお送りするナンバーと共に、お別れしたいと思います。最後にお送りするナンバーは、太陽(注8)、です。それでは皆さん、また来週。ごきげんよう』
「太陽、か。随分懐かしいものが…」
「うん。そうだね、懐かしい」
 かのアニメの第三期EDを飾った曲を思い出す、二人。
『照り続ける太陽にこの想いを焦がすの♪ 熱い日差し胸の中突き抜けてくAh-♪』
「「ってそっちの太陽かよ!? それ、太陽 〜T・A・I・Y・O〜! 太陽じゃない!」」
 同じ名前でも全然違う楽曲である。
「チャンネル変えろ! これ以上ツッコミ入れると頭がやられる…」
 ダルクの言葉にナイトエンドも「ああ」と同意しつつチャンネルをいじる。
 流石に今度はツッコミを入れるような場面もなく、ごく普通に流れて来た音楽をバックに二人は海を眺める。
『渇いたー叫びがー♪ くじけそーな胸を突き刺す♪ 君を誘って世界を見たいな…♪』
「そういやさ、さっきの続きなんだけど」
 渇いた叫びをBGMに、ナイトエンドが口を開く。
「なに? さっきの続きって」
「なになに。ダルクはああやってヒータちゃんとエリアちゃんとアウスちゃんとウィンちゃんとライナちゃん、と五人の女の子に囲まれてる訳だが。本当に誰かの事とか、意識してないのか?」
「だからしてないよ」
「それって、どうなのかねぇ」
「なにがだ?」
 ダルクの問いに、ナイトエンドは首を振る。
「なんつーか、さ。お前の方から避けてるっていうか、遠慮してるんじゃねぇの? 本当は、そういうの期待してるんじゃないのか?」
「…………」
 そういうのを、期待しているとかいないのかというと嘘になる。
 五人もいる。誰か一人を選んでそうやって……というのも、アリ、だとは思うけどその度に思い直す。
「なんて言うんだろうな……そりゃ、期待してない、訳じゃないけど……誰か一人を特別扱いするっての、何か嫌なんだ」
「おいおい」
「それにさ……誰か一人だけ特別っての、決められないよ。情けないことに」
 ダルクはぽつぽつと言葉を続ける。
 ヒータの勇気。エリアの知識。ウィンの優しさ。アウスの寛容さ。ライナの快活さ。
 そのどれをとっても、魅力的だからだ。その中で誰か一人だけを選ぶと、他の四人に悪い気がする。他の誰もが、それだけの魅力を持っているから。
「皆が魅力的に見えてさ、凄く……選べないんだ」
「お前らしいなぁ、ダルク」
 ナイトエンドは笑う。この親友は時折、真面目な話題を持ち込んで来てはいるけど、それでもやはり笑って見守ってくれている。
 そういう明るさが欲しいなと、時々ダルクは思ってしまう。
「腹減ったなぁー……そろそろ昼飯にする?」
「そうだね、皆呼ぶか……おーい! そろそろ戻って来てお昼ご飯!」
 海に向かってそう叫ぶと、エリア達は大きく手を振って近寄って来る。どうやらちょうどお腹がすいている時間帯だったようだ。
「おー、昼飯?」
「お昼ご飯、そういえばウィンが用意したんだっけ?」
「あ、それ楽しみです! ウィンちゃんのご飯!」
「ウィン、期待してって言ってたよね。なになに?」
 海から戻って来た仲間達はウィンに注目しつつ口々に口を開く。そうか、今日のお弁当はウィンが用意したのか。
「え? ウィンちゃんのお手製!? マジで?」
「ナイトエンド、これは期待できそうだ」
「同じく!」
 ダルクとナイトエンドも加わり、ウィンが荷物を開けて行くのをわくわくと見守る。
「いやー、ウィンちゃんが料理するなんて初めてだよね」
「おう、で、メニューはなんだウィン?」
 エリアとヒータが期待しつつ言葉を続けると、ウィンは包みから白くて平べったい物体を幾つも重ねて差し出した。
「はい! ペヤングソース焼きそば超大盛り(注9)です!」
「「「「「「………」」」」」」

「「「「「「えええええええええええ!!!!!!????」」」」」」

「何故!? ペヤングソース焼きそば!? 確かに旨いけど、てか超大盛りなの!?」
「あの食っている途中で飽きるパーティサイズ用の超大盛りって……太りそう」
「ありえねぇ。流石ウィンだ。ありえねぇ」
 皆が口々に驚きの言葉をあげる中、ウィンは「なにがおかしいの?」とばかりに首を傾げていた。
「いや、まぁ旨いけどなんで海水浴でペヤングなんだ?」
「……まさしくムード崩壊レベルだよね、これ」
「そもそもお湯どうするの?」

 ちなみに、ペヤングソース焼きそばはちゃんと美味しく頂きました。
 ヒータとエリアがどうにかしてお湯を沸かしたようです。



 食後、やはり女性陣は遊んでいた。
 ダルクとナイトエンドはラジオを流しながらやはり海を眺めていた。
『はかなくたゆたう世界をキミの手で守ったから♪ 今はただ翼をたたんでゆっくり眠りなさい♪』
「ペルソナ3(注10)、名作だったよな……」
「あのEDで泣かない奴は人じゃない」
 ラジオのBGMに合わせてそう話していた時、女性陣が突然現れた男達に話しかけられていた。
「あれ? ナンパ?」
 ナイトエンドの呟きに、ダルクもそちらに視線を向ける。
「むぅ、行くべきかな……」
 ヒータが男に対して何かと叫んだ後、エリアが凄い勢いで手招きした。
「ダルク! ナイトエンド! 早く!」
「……呼ばれてるね」
「俺もかよ……」
 身体を起こし、そちらへと向かうと男達――――5人のダイ・グレファーは口を開いた。
「愚かな……そんな少年二人で勝てると思っているのか?」
「ヒータ、何をするんだ?」
 ダルクの問いに、ヒータは口を開く。
「こいつらな! 皆のビーチを遺言の仮面ビーチサッカーするからどけっていうんだ!」
「それで、こいつらに負けたら海水浴場を譲るって……」
「…………」
 五人のダイ・グレファーは一斉に口を開いた。
「我々D・G・ビーチサッカーチームは歴史あるチームだ。悪いがその練習にはスペースが必要なのでね、どいてもらうよ」
「で、戦えって?」
「そういう事だ」
「2対5で?」
「2対5で。その少女はそれで勝てると言っていたが」
 グレファーAの言葉にダルクとナイトエンドは顔を見合わせる。相手は恐らくプロのチーム。そんなの相手にどうやって勝てと。

 説明しよう。
 遺言の仮面ビーチサッカーとは海水浴場で行なう遺言の仮面を使ったサッカーである。
 しかし、問題はドリブルをするとデス・ガーディウスの呪いをかけられてしまう。なので、ドリブルをしているプレイヤーが上手く相手のゴールに突入するよう、チームのプレイヤー達は相手プレイヤーを押しのける必要がある。
 ビーチで行なわれるスポーツの中で最も過激なスポーツの一つである。

 ダルクは考える。
 実力でこんな相手に勝てる訳が無い。ならばどうすればいいか。
 ダルクは考える。そしてナイトエンドと二人、良い考えを思いついた。
「よし、受けてたとう!」
「やってやるぜ!」
「ふはははは我らの実力を見せてくれる! さぁ、準備をしろ」
 五人のグレファー達がそれぞれの位置に経ったが、ナイトエンドとダルクはただ杖を高々と掲げていた。
「おい? 何をしている? そろそろ始めたいのだが」
「残念だが試合はとっくに始まっている」
 ダルクは淡々と言葉を続ける。
 グレファー達が首を傾げた時、ダルクの余裕に気付いたエリア達は逃げ出していた。正確には、グレファーの後ろ迄迫って来ていた、ダルクが呼び寄せたであろう存在に。
「別に選手を投入しちゃいけないとは言ってないだろ?」
「あ、ああ……え?」
 グレファー達が背後を振り向いた時、それは既に真後ろに迫っていた。
「だ」
 と、グレファーA。
「だ」
 と、グレファーB。
「だ…!」
 と、グレファーC。
「だー…」
 と、グレファーD。
「だ、ダーク・アームド・ドラゴン!?」
 はい、グレファーEです。
 ダルクが引き連れて来たダムド君は五人のグレファーに情け容赦ない踏みつけやらブレスやら尻尾はたきやらの攻撃を加え、逃げ惑うグレファー。
 追いかけるダムド。ダルクのコントロールの元にあるダムドはグレファー達を徹底的に追い回すよう命令しているから逃げ切る可能性は少ないだろう。
「なー、ダルク」
「なんだよ、ナイトエンド」
「俺、あれを思い出したよ。声がボーカロイドの自律AI兵器(注11)
「あー……そうかも」
 とてつもない攻撃力に追い回されて逃げ惑う姿が確かに自律AI兵器に追い回される主人公を思い出させた。
 難易度設定なんて生温いものは存在しないあのゲームは鬼畜である。
 グレファーの一人が追いつかれ、ブレスで尻に火がつくのを眺めつつ、ダルクは呟く。
「今日も色々あったな…」
「だろうね」
「なぁ、ナイトエンド……俺、一応あの子達から頼りにされてる、んだよな?」
「多分」
 ナイトエンドの答えはぎこちない。ちなみにダムドがグレファー達を追いかけ回している間にもヒータ達は帰ってこない。何処に消えたのだろうか。
「ま、でもグレファー追い払ったからいいんじゃねぇの?」
「そうだな……あ、ヒータ帰って来た」
 ヒータが凄い勢いで走ってくるのを確認し、ダルクが呟いた直後だった。

 二人はヒータのドロップキックを食らって宙を舞い、海へと堕ちる羽目になる。

 その理由は何かって?

「ダムド召喚してピケルとクランを怖がらせて泣かしてるんじゃねぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 めでたし、めでたし。
 今日も彼らの時間は過ぎていくのでありました。









 *まとめて併記しておく注釈シリーズ。

 注1「眉毛が繋がったお巡りさん」……ジャンプで最長連載記録を更新しているあの漫画のこと。季節が春夏夏夏と夏冬冬冬になってしまったというエピソードは本当にあります。


 注2「ダブルプレイ」……KONAMIの音楽ゲームシリーズで二つのデバイスを用いて一人でプレイすること。筐体にデバイスが二つ存在するbeatmania IIDX、Dance Dance Revolutionに専用モードが搭載されている。ちなみにそれ以外の音楽ゲームはデバイスが一つしかない、もしくは物理的に二つ同時操作が無理なので大道芸としての冗談としてしか出来ない。夜薔薇の騎士のようにプレイするのは筐体二つを一人で占有して他のプレイヤーの迷惑になるので辞めましょう。


 注3「赤エヴァ」……KONAMIの音楽ゲームjubeatの第一作の最終解禁曲「Evans」の最上級難易度EXTREME譜面のこと。作曲はDJ YOSHITAKA。現在でも恐れられる最難曲の一つで難易度は最大の10。更にその中でも他の曲より一目置かれるボス曲として現在も多くのプレイヤー達を「わけのわからないもの」「もうやめて! 俺のシャッターは真っ黒よ!」として泣かせている。更に後述のエアレイドを解禁すると、beatmania IIDX 17 SIRIUSでもこの楽曲が解禁されてしまう。そしてそっちでもまったく自重せずに暴れまくっているとか…まさにラスボスに相応しい存在である。こんなの片手でフルコンなんかできねぇよと言うがwikiには片手プレイ自体は可能と書かれている。スタンドでもついてんのかこの人達。


 注4「赤エアレイド」……KONAMIの音楽ゲームjubeat ripples APPENDで非常に面倒くさい条件を経て登場するボス曲として登場した「AIR RAID FROM THA UNDAGROUND」のこと。作曲はGUHROOVY。前述のEvansと並ぶボス曲であり「どうしようもないもの」「もうやめて! 俺のシャッターは真っ黒よ!」と多くのプレイヤーを泣かせている。しかも、この曲はbeatmania IIDX 17 SIRIUSでも解禁されるがそっちではまだ大人しいらしい。ちなみにこの曲、本当の名前は「AIR RAID FROM THA UNDAERGROUND」であり、名前があまりにも長過ぎて筐体に表示しきれないのである。そしてその名の通り、絨毯爆撃と見まがう情け容赦ない譜面は地底からの空襲とはよくいったもの。こんなの片手でフルコン…できるわけねーだろ!なのに片手プレイは可能らしい。もうヤダ、この国。


 尚、上記二曲を片手でプレイするには有り得ない配置の譜面が連続してでてくるので絶対に真似をしないでください。もし、真似をして筐体壊したり指の骨を折ったりしても当方は責任持ちません。そもそもクロ竜は上記二曲は一度もクリアしてないし。


 注5「しそペプシ」……サントリーが2009年夏限定で発売したしそ味のペプシ。数ヶ月後に発売したあずきペプシがあまりにも酷い味だった事からその影に隠れているがまぁしそ味のペプシで本当に緑色をしている。ナイトエンドは速攻で吐き出しているけどクロ竜は大好きでそこそこ呑んでいた。


 注6「チョコレートスパークリング」……サントリーが2009年冬に投下したチョコレート味の炭酸飲料。はっきり言ってどうしようもないほど不味い。炭酸入りのココアといった味だけどその組み合わせの時点でどうしようもない事に誰か気付け。コーヒーと同じく、ココアにも炭酸を投入してはいけない。


 注7「ベジータ様のお料理地獄」……サイヤ人の王子であるベジータ様がお好み焼きを作る歌。作る人がベジータ王子なだけに歌詞が酷い。しかしお好み焼きを作ってるだけの歌。はっきり言うとタダのギャグ。

 注8「太陽 〜T・A・I・Y・O〜」……beatmania IIDX 11 REDにて登場した楽曲。ボーカルの星野奏子さんの歌声と奇麗な歌詞に魅了される人は少なく無い。アレンジバージョンがギタドラV3に移植された為、けいおん!に憧れた人でも出来る。ドラマニやれば夢に律っちゃんが来るよ。


 注9「ペヤングソース焼きそば超大盛り」……主に東日本で売っているカップ焼きそば。2000年代半ばまで東日本ローカルの品だったらしい。りは普通サイズの約2倍で、明星一平ちゃんなどのようにマヨネーズなんて気の利いたものがついてないので普通に食べてると途中で飽きるサイズのため、複数で取り分けて食べるのが正しい食べ方。人によってはペヤングのパーティサイズと呼ぶ事もある。


 注10「ペルソナ3」……アトラスが作った女神転生シリーズの派生ペルソナシリーズの第3作。リアル約一年間の学園生活を体験出来るシステムとシナリオの良さに全俺が泣いた。後、約一名を除いて女性キャラが皆可愛過ぎること。一度始めるとなかなか停まらない。2009年にPSPにて女性主人公が追加されて移植され、女性主人公も嫁に加わった人は数知れずであろう。


 注11「声がボーカロイドの自律AI兵器」……「METAL GEAR SOLID PEACE WALKER」に登場するAI兵器、ピューパ、コクーン、クリサリスのこと。難易度設定なんぞ生温いものは存在しないこのゲームでは色んな意味で恐怖のボス敵。しかし発する音声がボーカロイドなので最早ただのギャグとしか思えない。








「つー、夢を見たんだけどさ、どうよ?」
「長ぇよ! てか、注釈がついた夢って何なんだよ!」
 貴明は俺の言葉に情け容赦ないツッコミを入れたのだった。
 ちなみに晋佑は頭を抱えていた。









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