レアハンターの再会 一人ツッコミ後書き





いろんな意味でクレイジーなので、注意してください。
この突っ込みも例外ではありません。





第1章・悩み


 私はレアハンター。

 早速だが、私は今、悩んでいる。

「……」

 私は「ある箱」を半ば睨みつけるように見ていた。

「……」

「どうしたものか……」

 ポツリと呟いた。

 周囲は少し騒がしい。

 私の呟きは誰にも聞こえなかっただろう。

「…………」

 私はまだ、その箱を凝視するように見ていた。

「買うべきか、止めるべきか……」

 私は仮にも、世界で一、二を争うエクゾディア使いだ。
 「ニセモノ」だけどな。

 M&Wの腕前は超一級品と言ってもいい。

 もちろん実績もある。

 バトルシティ総合3位の城之内克也を、私は大差で打ち負かしているのだ。

 そんな私が、こんな物に頼っていいのか?

 ……だが、ここでしか手に入らないのだ。

「仕方ない……」

 私は呟いた。

「仕方ない。仕方ない。仕方ない」

 自分自身を制御するために呟き続ける。

「仕方ない。仕方ない。仕方ない」

 プライドは時に弊害となる。
 プライドなんかあったのか……?

 だから……

「仕方ないんだあああぁぁぁぁぁ!!」

 私は、その箱を手に取りそのまま駆け出した。

「ヒィィィィィィィィ〜〜!!」
 ↑ 原作より引用

 周囲を客を避け、走る。

 棚にぶつからぬように注意し、最短ルートを確保する。
 もはや万引き犯。

 そして、防犯ゲートを飛び越え、私は……解放された。
 飛び越えても鳴るときゃ鳴るんだよな……。



「はぁはぁ……」

 息を整える。

「……まさか、こんな醜態を晒すことになるとはな」

 呟いて、購入した箱を開封する。
 「購入した」と、思い込んでいるレアハンター。


「……あった」

 思わず、顔がほころんでしまう。

 路上で微笑む男の姿はいささか奇妙かもしれないが、私は例外だ。
 別の意味でな。

 私のあまりに美しい笑顔に、世の女性の3割ほどは魅せられてしまうのだ。

 私はあらぬ誤解を避けるため、平常心を取りもど……そうとした。

 しかし、

「ククク……」

 この喜びだけは抑えられそうになかった。

「エクゾディアゲットォォ!!」

 私は歓喜の声をあげた。
 このせいで捕まった。学習能力あるのか、コイツ?





第2章・初犯


「どうして万引きなんかしたんだ!?」

「……してません」
 妙に敬語なレアハンター。

 気が付いたら、私は先ほどの店の中に連行されていた。

 どうやら、この低脳な店員どもは、私が万引きを働いたというのだ。

「キミ、どう見ても万引きしますって顔してるじゃないか。万引きじゃなきゃ強盗だ」

「顔だけで判断しないでください」

「顔だけじゃない。防犯ブザーも鳴った、防犯カメラもキミの姿を捉えた、証拠も充分あるんだ」

「別人じゃないんですか?」

 勝手に証拠まででっち上げられた。

 金出して買った物を奪い返そうとするとは卑劣な店だ。

 例えるなら、エア・マックスを買った城之内の気分である。

「とにかく、キミの勤め先を教えてもらうよ」

「……」

「勤め先!」

「有限会社……レアハンター……」
 結局就職試験には落ちました。

「…………」

 店員は電話をかけた。

「もしもし警察ですか……?」



「盗品はこのビギナーズパック……」
 ビギナーズパックにはエクゾディアセットが付いてくるのだ。
 だが、「ビギナー」の響きを嫌ってレアハンターは勝手に悩む。


「あんた、防犯タグが付いてるのに良く平気で盗んだわね……」

「盗んでいません」

 気分はイジメられっ子であった。





第3章・過去


 日も傾いてきた頃、私は解放された。

 初犯だからと言うことで、大した処罰を受けることもなかった。

「だが……濡れ衣は濡れ衣だ」

 裁判を起こしてやろうかと思ったが、リスクが大きすぎるので止めておく。

 私はふと近くにあった本屋へと立ち寄った。

「いらっしゃいま……せ……」
 レアハンターは当然黒装束です。

 女性店員が語尾に詰まりながら、あいさつをする。

 どうやら私に惚れてしまったらしい。

 だが、私は生涯独身を貫き通すつもりなのだ。
 「札子」って誰よ?

 残念だが、彼女の想いには応えられそうもない。

 さて、しばらく本屋には縁がなかったので、新刊をチェックする。

「……コミックスがあったな」

 すっかり忘れていたが、私は遊戯王のコミックスを35巻から買っていなかった。

 早速購入する。

 また万引きと誤解されるのは面倒なので、領収書も貰っておく。

 私には、人一倍学習能力があるのだ。同じ過ちは繰り返さない。



 帰宅後、私は遊戯王35巻を読んだ。

「……」

「…………!」

 そこには、驚愕の真実が描かれていた。

 神官アクナディンの過去、そこに描かれていたのは……

「エ……クゾディア……?」

 私は食い入るようにそのページを凝視した。

 間違いない。エクゾディアだ。

 過去、アクナムカノン王はエクゾディアをしもべとしていたのだ。

 そういえば、武藤遊戯、海馬瀬人……彼らは、ファラオ、神官セトの生まれ変わりと言えるほどの存在であった。

 そして私は、彼ら並に偉大だ。
 何でそうなる?

 そう……。

 つまり、私は……アクナムカノン王の生まれ変わり……!

「私はアクナムカノン王だった……」

 そう呟いた直後、私の中に電撃が走った。

「ならば、遊戯は……、遊戯は私の……!」

 私は込み上げる感情を抑えることができなくなっていた。
 確信しているところがある意味素晴らしい。

「ウオオオオオ!!」

 私は家を飛び出した。

 行く先はもちろん……遊戯の家。





第4章・再会


 ピンポーン。

 裏口から遊戯の家のチャイムを鳴らす。

 時刻は午後6時53分。周囲は既に夕闇に包まれていた。

「はいはーい……」

 武藤遊戯本人が姿を現した。

「お、お前は……!」

 遊戯の顔色が変わる。

「遊戯……」

 私は名前を呟くだけで精一杯だった。

 視界が歪む。

 私は、泣いているのか?

「え? な、何?」

 いきなり涙を見せた私を見て遊戯は動揺した。

 遊戯はまだ知らないのだ。

 私が、遊戯の……父親であると。



「息子よ……」

「え……?」

 そう言って、私は遊戯を……我が子を抱きしめた。

「うわぁぁぁぁ!」
 もちろん悲痛の叫び。

 遊戯も私が父親だと知って、大声を上げて泣き出した。

「ぐぎぎぎ」
 言葉にならないほどの悲痛の叫び。

 言葉にならないほどの嗚咽が聞こえた。

 それが私のものだったのか、遊戯のものだったのか、もはや誰にも分からないだろう。

 親子の再会に、親も子も声をあげて泣いたのだ。

 周囲は光に包まれた。
 光ったのは千年パズル。

 まるで一つの命が生まれゆくような、そんな感覚を覚えた。

「いい加減離れろ、このゴミ野郎が!」

「え?」

 遊戯の人格が、替わった気がした。





第5章・疑惑


「息子よ……どうしたんだ……?」

「いつオレが貴様の息子になった!」

「何を言っているのだ。お前は私の子……。これは揺るぎない事実なのだ」

「貴様、何を企んでいる!」

「そうか、こっちの人格は知らないのだな。遊戯が私の息子だってことを……」

「相棒もオレも、貴様が父親だとは言ってないぜ!」

「何……!」

 私は衝撃を受けた。

 だが、考えてみれば当然だった。

 私は遊戯に親として十年以上も会っていなかったのだ。
 次から次へと都合のいい事実をでっち上げる妄想者。

 顔など忘れられても当然だろう。



 人格は、武藤遊戯のそれに戻っていた。
 というか、必死にお願いして出てきてもらっただけ。

「そうだ、札子は元気にしてるか?」
 誰だよ。

「……え。……誰、それ?」

「な……!」

 遊戯は母親の札子を知らないだと……!

「じゃあ、覚えてるよな、遊戯がまだ5歳だったあの日……童実野遊園地へ行ったこと」

「……?」

「ほら、お前、メリーゴーランドで落ちちゃっただろ?」
 妙に具体的なレアハンター。

「……童実野遊園地はボクが12歳の頃に出来たんだけど」

「う……、嘘をつくな、嘘を! 父さんが信じられないというのか!」

 心外だった。

 息子は私が父親だと信じることが出来ないという。

 人格は確かに武藤遊戯のものなのに、何故……?

「も、もう、帰ってよ……」
 心のそこからの本音。

 しまいにはこのザマだ。

 何故、私は疑われるのか?

 もしや札子のヤツ、名前を偽り別の男と再婚など……

「おーい、遊戯やー」

 店の中から少ししわがれた声が聞こえた。

 双六の声だ。

 足音が聞こえ、双六が現れた。

「……!」

 その瞬間、私は全てを思い出した。

 込み上げる感情は遊戯のときと同等だった。

 手は震え、足はすくむ。

「一体どうしたんじゃ?」

「……と、父さん……」





第6章・証拠


「へ?」

 双六……いや、父さんの顔が歪んだ。

 数十年会っていなかった息子を目の前にして、涙が抑えられないのだろう。
 相変わらす都合のいい解釈。

「父さーーーん!」

 私は駆け寄った。

 父さんの元へ……あの厳しくも優しかった父の元へ……。

「ぐわぁぁぁ」

 父さんも言葉にならないほどの嗚咽をあげた。

 私は一層強く抱きしめた。

「ぎょわああああ!!」

 その再会の喜びは親子ともども一体化し、

「し、死ぬぅぅぅ!!」

 そして、おさまることはなかった。
 妄想は悲劇を生んだ。



「僅かですが、骨にヒビが入っちゃってますね」



「ご老人になんてことを……!」

 そして、また私は警察署。

 なんで、私はここまで濡れ衣を着せられるのだろう?
 妄想もここまでくると、無罪になれるかもしれない。

 一つ思いついたことがある。

 ……証拠だ。

 そうだ、遊戯と双六の異様なまでのクセ毛は遺伝によるもの。

 ならば、私のフードの下にもあのクセ毛があるはず。

 明日、遊戯の家に行ってみよう。

 遊戯の目の前でフードを取れば、きっと認めてくれるはず。

 私は、明日が楽しみになった。
 明日までに帰れるといいね。





 終わり。
 いろんな意味で終わってるよ。





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