後編 男の子
まだとどめはさせないんだ。無駄にカードは使わず、温存しておくのがいいだろう。
「ターンエンドだ!」
僕
LP:7000
モンスター:ゴキボール
魔法・罠:なし
手札:4枚
鷹野さん
LP:6300
モンスター:なし
魔法・罠:うずまき
手札:0枚
「私のターン、ドロー」
さあ、ここで鷹野さんがどう動くか……。今引いたカードで何かアクションを起こすか……?
「魔法カード『命削りの宝札』を発動! 手札が5枚になるようにカードを引く!」
うおおおおい!! ちょっと待ってよ!! せっかく手札差をつけたのに、一瞬で埋まっちゃったよ!
くそ……。この小説が書かれた時点では『命削りの宝札』はOCG化されてないから、原作効果のままなんだ。OCGじゃありえないね。こんな効果。
「速攻魔法『リロード』を発動! 手札を全てデッキに戻してシャッフル。その後、デッキに戻した枚数だけ、カードをドローする!」
今度は『リロード』か……。ふん、いいだろう! 『リロード』を使ったことで、お前は手札を1枚消費した! このまま消費し続けるがいい!!
「4枚ドロー! ……私はさらに、魔法カード『貪欲な壺』を発動! 墓地のモンスターを5枚デッキに戻してシャッフル! カードを2枚ドローする!」
くそ! 2枚ドローして手札が5枚になったか! ……ドローにドローを重ね、何を狙うつもりだ!?
鷹野さんは手札を確認している。……どんなカードを引いたんだろうか……?
「……ふっ……ふふふ……」
!? な……何だ? 鷹野さんが笑ってる?? 何を引いたと言うんだッ!!
「……行くよ! もうひとりのボク!!」
…………は?
いやいやいや。それは違うと思いますよ、鷹野さん!! どうしちゃったんですか!?
「ボクはリバース・カードを3枚セット! さらに、2000ライフを払い、魔法カード『終焉のカウントダウン』を発動するよ!」
ちょっと! 一人称変わってるって!!
鷹野さん LP:6300→4300
『終焉のカウントダウン』と言えば……発動してから20ターン後に、自分が無条件で勝利できるカード! くそ! だが……20ターン耐え切るというのは、そう簡単なことではないはずだ!
「さらに、モンスターを裏守備表示でセットし、ターンエンドだ!」
僕
LP:7000
モンスター:ゴキボール
魔法・罠:なし
手札:4枚
鷹野さん
LP:4300
モンスター:裏守備モンスター
魔法・罠:伏せカード3枚
手札:0枚
終焉のカウントダウン:勝利まであと19ターン
一気に攻めにくい布陣になったな……。どう破るか……。
「僕のターン……ドロー!」
ドローカード:二重召喚
今、鷹野さんの場には、正体不明の裏守備モンスターが1体。そして、伏せカードが3枚……。
僕の手札には、『ゴキボール』と『闇からの奇襲』が2枚ずつ。そして、今ドローした『二重召喚(デュアルサモン)』……。
『二重召喚』を使うと、そのターンにもう一度だけ、通常召喚を行える。つまり、手札にある2枚の『ゴキボール』を、このターンで場に揃えることも可能なのだ。
このターン、どうするか……? 相手の場に罠が伏せられている可能性は十分あるし……。攻めるか、攻めないか……。
「…………」
「…………」
……よし! ここは攻める! このまま何もしなければ、『終焉のカウントダウン』で僕の敗北が決定してしまうのだ!! もし攻撃を防がれても、僕の手札には『闇からの奇襲』があるし……。
「『ゴキボール』を召喚! さらに『二重召喚』を発動し、このターンもう一度だけ通常召喚を行う! もう1体『ゴキボール』を召喚!!」
「『ゴキボール』が3体!? そんな馬鹿な……!」
相棒! これが俺の全力だ!!……みたいな? 行くぜ! 相棒!
「『ゴキボール』3体の攻撃!!」
あの伏せモンスターを撃破する! さあ、正体を現せ!
「読んでたよ! もうひとりのボク! 速攻魔法発動! 『時の飛躍(ターン・ジャンプ)』!」
む!? 鷹野さんが何か発動した! あれは、3ターン後のバトルフェイズにジャンプする魔法カード!
「このカードの効果により、お互いのプレイヤーが何もプレイしないまま、3ターンずつ経過する! しかも……そのカードは場に3枚セットしておいたんだ!!」
!!?? うえぇ!? 『時の飛躍』を3枚だと!!? つまりアレか!? 互いに3ターンずつ、それが3枚だから……18ターンも経過するのか!!?
〜18ターン経過〜
僕
LP:7000
モンスター:ゴキボール ゴキボール ゴキボール
魔法・罠:なし
手札:2枚
鷹野さん
LP:4300
モンスター:裏守備モンスター
魔法・罠:時の飛躍 時の飛躍 時の飛躍
手札:0枚
終焉のカウントダウン:勝利まであと1ターン
げええええ!!? 『終焉のカウントダウン』のターンカウントが進んでる!! ちょっと待ってよ! 卑怯だよ! ちゃんと20ターン待とうよ!!
くそ!! こうなったらこのターンでとどめをさしてやる!!
「伏せモンスターに攻撃だ!」
「ボクの伏せていたモンスターは『マシュマロン』! 戦闘では破壊されない!! そして、裏守備表示の『マシュマロン』に攻撃したモンスターのコントローラーは、1000ポイントのダメージを受ける!!」
キィィィィィィィィィィィィィィィ!!!!!!!! 勝てねええええええええええええ!!!!!
僕 LP:7000→6000
ダメだ……。『マシュマロン』が除去できなければ、攻撃は通らない……。『闇からの奇襲』も、これでは意味をなさない……。僕の……エンド宣言とともに……敗北が決定する!!
「ターン……エンド……」
僕の敗北が決定した。
僕
LP:6000
モンスター:ゴキボール ゴキボール ゴキボール
魔法・罠:なし
手札:2枚
鷹野さん
LP:4300
モンスター:マシュマロン
魔法・罠:なし
手札:0枚
終焉のカウントダウン:勝利!
「勝負あり……ね」
くそ!! 『サンダー・ボルト』を入れたデッキを使っても勝てないとは……! あ〜……。これで、鷹野さんがパロにチョコをあげた理由は分からずじまいか。
……ってそんなの納得できるかよ!! 話が終わらないじゃないか!!
「鷹野さん! どうしてもしたい質問がある! けど、答えは教えてくれなくていい! ヒントだけでもください!!」
「……は?」
そうだ。ヒントさえあれば、あとは自分で解いてみせる!! このままでは、話を終わらせるタイミングが分からなくなって、グダグダになる!
鷹野さんは、30秒ほど嫌そうな顔をしてから、見下す感じで言った。
「……何が聞きたいのよ?」
よし! ヒントだけはくれそうだ!
ご都合主義
(魔法カード)
都合のいい展開でストーリーを進行させる。
「質問は簡単さ。何でパロにチョコをあげたのか……それだけが知りたいんだ」
「…………」
鷹野さんは椅子に座り、最高級のロマネ・コンティをグラスに注ぎ始めた……って何やってんだよオイ!!
「少し長くなるから、よく聞きなさい……」
いや……アルコールはまずいって!! あんた中学生だろが!!
「これは、M&Wがまだ生み出されたばかりの頃の話よ。……M&Wの生みの親であるペガサス・J・クロフォードが、極秘裏にある巨大プロジェクトを進めた。その名も『プロジェクトWD』! 『WD』は『Warrior Dai Grepher』の略よ……」
いや……ロマネ・コンティは……飲まないのか? グラスに注いだだけ? て言うかさ、その話アレだろ? どうせまた「相対性理論と松尾芭蕉とピケル萌え」が出てくる話に収束するんだろ?
「よく『ゴキブリ・ロック』と関係してるとか言われてるけど……実際は全くの無関係よ。『ゴキブリ・ロック』との関連性は、ネット上に広がった全くの出まかせ。これはテストに出るから、ちゃんとノートに取っておきなさい」
どうだっていいよそんなの。テストになんか出るわけ無いだろが。
「まあ……そんなことはどうでもいいわ。本題に入りましょう……」
!!? どうでも良かったのかよ!? なら初めから話さなくたっていいだろ!!
……とまあ、突っ込みどころ満載だったわけだが、彼女の次の台詞から、この小説がかつてない雰囲気に変貌し始める。
「じゃあ、私の親友の話をしましょう……」
親友? 何故いきなり親友の話なんだ? ……まあ、聞こう。
「私が小学校5年か……6年の頃だったかしら? その時の話よ。私の同級生で親友の女の子が、病気で入院したの……」
親友が入院……。これが、チョコとどう関わってくるんだ……?
「その子は手術することになったんだけど……、初めての手術だから、不安でたまらなかったらしいわ」
初めての手術か……。それは不安になるだろうな……。
「でもね……、その子は手術する数日前に、隣の病室に入院していた、ある男の子と出会ったの。年が一緒で、すぐに仲良くなれたそうよ……」
男の子? これは……恋物語スタート?
「その男の子は優しい子でね……。彼のおかげで、彼女は元気付けられたの。そして、手術に対する不安も消えたんだって」
いい男の子じゃないか。よかったね。鷹野さんの親友!
「その後も、彼女と男の子は入院中、よく一緒にいたって話よ。すごく仲良しだったの……。男の子は先に退院しちゃったけど、退院後も、よく彼女のお見舞いに来てくれたそうよ」
純粋な恋物語を聞いているようだ。青春を感じるなぁ……。
「彼女はよく、その男の子の話をしてくれたっけ……。私はその度に、一度会ってみたいって思ってたわ」
あぁ、是非とも回想シーンを入れてもらいたい……。読者が見たいかどうかは別として……。
「鷹野さんは、その男の子に会ったことがあるの?」
ちょっと気になるので聞いてみる。
「彼女のお見舞いには何回か行ったけど、会うことはできなかったの」
そうか……。気になるだろうな。親友のボーイフレンドなんだし。
「けどね……。去年この学校に転校して……」
転校……? あぁ、そう言えば、鷹野さんは前、別の町に住んでたんだっけ。転校してきたのは去年の4月だったな。
……で、転校してどうなったんだ?
「このクラスで……彼に出会ったのよ」
!!? 出会った? このクラスにその「男の子」がいたってことか……? すごい運命的なものを感じる……。
「…………」
「…………」
……? ちょっと待って……。その「男の子」って……まさか……?
「あの……鷹野さ……」
「さて、ヒントはここまで。あとは自分で答えを見つけてね」
…………は?
いやいや。ちょっと待とうぜ? それはいくら何でも納得できな……
「そう言えば、決闘に負けた人間は罰ゲームを受けるのよね? 何がいいかしら?」
!!!! ぬお!? そうだった! いや、待てよ。まずはヒントを! 今の話じゃヒントになってな……
「パラコンボーイ……ゲームに負けた者の末路……それは分かってマスネ……」
ああああ〜また人格が変わったよこの人! 一体何する気だ!!?
「これはユーのために用意したカード……」
え? そのカードは……? !? まさか!!?
HERO RELIEF −主人公交代−
(魔法カード)
ユーの時代は終わりましたヨ。
ば……馬鹿な!? 『主人公交代』だと!? 僕を主人公の座から引きずりおろすと言うのか!? せ……せっかく日の目を浴びられたと思ったのに……また脇役に逆戻り!?
「フフ……! この魔法カードの効果により……ユーは脇役どころか、二度と登場することはありまセ〜ン!」
おい! ふざけんなよ!! 主人公交代どころの騒ぎじゃないぞそれ!! 酷すぎだろ!!
「パニッシュメントゲ〜ム!! “HERO RELIEF −主人公交代−”!!」
うわあああああああああああああああああああ!!!!!
僕はここで終わるのか!?
完