POWER OF THE DUELIST -伝説を継ぐ者-

製作者:真紅眼のクロ竜さん




《あらすじ》

バトル・シティ。
伝説の決闘者達が決闘王の称号を賭けて戦った、伝説の大会。
その舞台となった童実野町は平穏の日々を過ごしていた。
かの決闘王と1人の伝説を生んだこの町。その伝説は、継がれていた。

かつて決闘王と三幻神に戦いを挑んだ決闘者、天馬夜行。
彼は三邪神を伴って戦ったが、三邪神とは別に同じ力を持つ3枚のカードを形にしていたのである。そのカードの名は三神竜。
そのカードは、伝説の決闘者によって、とある場所に保管されていたが、そのカードは盗まれる事になった。

ある、1つの災厄と共に。

そして、その3枚のカードを巡り、再びバトル・シティが開幕する事となった。

新たな伝説と共に……。



《登場人物紹介》

黒川雄二 17歳
この作品の主人公。黒竜デッキを操り、決闘王を目指す。
切り札はかの伝説のデュエリストから受け継いだ「真紅眼の黒竜」。

宍戸貴明 17歳
雄二の親友。行き当たりばったりで神に愛される強運デッキを扱う。
その神に愛されてるとしか思えない強運とドロー力で勝利を狙う。
切り札は「ギルフォード・ザ・ライトニング」。

《登場人物-ライバル編-》

高取晋佑 17歳
黒川雄二と宍戸貴明とは同じ決闘者に学んだ同門。だが現在は行方不明となっている。
切り札は「人造人間・サイコショッカー」。

志津間紫苑 14歳
悪魔族+アンデット族の混成デッキを操る少女。デュエルを始めた切っ掛けは過去に色々あったからだそうである。

ゼノン・アンデルセン 18歳
デュエル・アカデミア アークティック校中退。ドラゴン族デッキを操る。

シェリル・ド・メディチ 27歳
デュエルモンスターズの欧州チャンプ。アンデット族デッキを操る女性デュエリスト。


その他遊戯王GX・遊戯王Rより何人かキャラクターが登場。
オリキャラは登場する度に追加していきます。尚、オリカ率は僅かながら存在しますのでご注意を。



《プロローグ1:デュエリスト》

「なぁ、お前らさぁ」
 いつものようにデュエルをしていた俺達を眺めていた師匠が、急に口を開いた。
「真のデュエリストって何だと思う?」
 師匠のその質問に、俺達は答える事が出来ずに眼をパチクリさせていた。
 師匠の隣に座っていた女性が、急に微笑んだ。
「いつだったか、貴方は私にその質問してましたね」
「そういやそうだったな。いつだっけ」
 師匠と女性がしばらく笑いあった後、俺達を見た。

 ある奴はこう答えた。「決闘王の称号を手にした人こそ、真のデュエリストだと思います」

 また、ある奴はこう答えた。「負けない事。負けずに勝ち続けて、最強になってこそ真のデュエリストだと思います」

 そして、ある奴はこう答えた。「何があっても、真剣に戦う事。それこそが真のデュエリストだと思います」

 師匠は3人の答えに、少しだけ笑った。
 そして、こう答えた。
「3人とも、いい線を行ってはいる」
 そしてすぐに、真顔になって自分のデッキを取り出した。

 師匠はデッキから3枚のカードを抜いて、それぞれ1人1人に渡した。

「覚えておくといい。お前らにそのカードを託すから、絶対忘れるな。
 真のデュエリストとは、デッキを、自分を信じて最後の1ターンまで戦い続けられる、仲間を裏切らないデュエリストの事だ。よく覚えとけ」

 師匠はそう言って、俺達全員にカードをくれた日に。
 真のデュエリストを目指せ、とだけ言った。

 今や遠い日。
 だけどそれでも、俺はまだまだ覚えてる。
 この手に、あのカードが残っている限り。

 俺はデッキを信じる。仲間を信じる。自分を信じる。
 どんなに不利なデュエルでも、最後まで諦めずに戦い続ける事を、此処に誓おう。

 そしてそれこそが、真のデュエリストなんだと、信じられる。



《プロローグ2:伝説は放たれる》

 夜。闇に包まれる世界に、出歩く人間は少ない。
 特に、遥か南の海に浮かぶデュエル・アカデミアでは深夜の出歩きはほぼ禁止されている。
 その為、人が出歩く事など、まず有りえない。

 だがしかし、海岸目指して走る1人の人影と、それを追うもう1人の人影があった。
「万丈目のアニキ、このままだと逃げられちゃうわよ〜ん?」
 追う人影の真横から、誰もいない筈の空間から声が聞こえる。だがしかし、万丈目、と呼ばれた人影は「黙ってろ」と返した。
 やがて、逃げる人影は海岸に接岸していたボートの前で足を止める。
「いつまで追ってくるつもりだ?」
 そう、振り向きながら。
 万丈目こと、万丈目準はそこで笑った。
「お前が大人しく捕まるまでだ。何をしていた?」
「お前には関係ない。邪魔だから失せるがいい」
「そうはいかない。お前は、アカデミアの生徒では無いだろう………答えろ、何者だ!」
 万丈目の叫びに、相手は少しだけ笑った後、ずっと握っていた3枚のカードをデュエルディスクのデッキに入れた。
「………どうせなら、性能を確かめるのに丁度いい。相手になってもらうぞ……知りたければ、デュエルで勝って見せろ!」
「いいだろう。この万丈目サンダーを敵に回した事を後悔するがいい!」
 そして、両者はデュエルディスクを構えた。

「「デュエル!」」


「な………」
 万丈目は、唖然としていた。
 手札に来たカードも良かった。戦略も間違いない、だが、しかし。

 相手のフィールドに現れたそのモンスターで、戦況は引っ繰り返された。

「………驚いたか? 無理も無い、俺もこれ程とは思わなかったんだ。この三神竜のカードは」
「三神竜、だと……? そんなカードがあるのか!?」
「かの、天馬夜行が対決闘王用にデザインした、三邪神では無いもう1つのカード群だ。その効果は神に匹敵するというが、これほどとはな」
 相手はクツクツと笑うと、万丈目を見て更に狂気的に笑った。
「では、そろそろ終わりにしよう。やれ!」

 相手が手をあげた時、その攻撃は万丈目に直撃した。
 ソリッドビジョンの筈なのに。それは、万丈目の意識を奪うには充分過ぎる程だった。

「うわああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!!!」

 その閃光と轟音は、デュエル・アカデミア島すらも揺がしたのだった。


 翌朝。昏睡状態で万丈目が発見された事で、デュエル・アカデミアは揺れに揺れた。
「いったい、何があったのかさっぱり想像もつかないノーネ!」
「と、ともかく調査を急がねばならないのでアール!」
 クロノス教諭とナポレオン教頭が大騒ぎしている頃。
 アカデミアのヘリポートに、普段絶対来る筈の無いモノが来ていた。

 デュエル・アカデミアのオーナーにして。海馬コーポレーション社長。海馬瀬人である。

 そして少し遅れて同じヘリポートにインダストリアル・イリュージョン社のヘリが到着。
 乗っていたのはデュエルモンスターズ創始者のペガサス・J・クロフォードとその助手である天馬月行。

 海馬とペガサス。ある意味デュエルモンスターズ界に於ける権力者2人である。

 そんな彼等が向かったのは、校長の元でも無く、アカデミアでもなく、昨日万丈目が倒れた場所だった。
「此処から……直線コースか」
 海馬が呟くと同時に、月行が頭を下げる。
「ええ。恐らく、三神竜は確実に盗まれたものと見て問題ないでしょう」
「…………フン。あの凡骨がこんな所に埋めるから悪いのだ」
 海馬は小さく悪態をつくと、ペガサスを振り向いた。
「で、どうやって取り戻す気なのだ?」
「………またミスター海馬の手を借りる事になりそうデス……」
 ペガサスは残念そうに、だが手はあると言った顔で海馬を振り向いたのだった。
「再び。バトル・シティを開催するのです」



《プロローグ3:コンプレックス》

 昔から、俺と兄貴はよく比較されていた。
 デュエルを始めた時も、俺の方が先だったのに上になったのは兄貴。
 兄貴はペガサスにも認められたというのに、俺には誰も見向きもしない。

 だから俺は、デュエルを1度は止めようとした。

 そんな俺を、止めたのは両親だった。
「デュエルをしている時のお前は輝いているから」。
 だけど、そんな輝きなんて兄貴に比べればどうしようもない。屑でしかない。くだらない。

 だから俺は、これで最後にする事に決めた。
 これを最後に、もうデュエルをやめる。これを、最後に……。



《第1話:伝説を継ぐデュエリスト》

 新学期は、新たな始まりの日でもある。
 それは、俺達にとっても例外では無かった。

 童実野高校。
 放課後を告げるチャイムが鳴り、生徒達が帰り支度をしていた。
 この教室も例外ではなく、生徒達は帰る者や雑談するものなど色々だ。
「水島さん」
 1人の女子生徒が水島と呼ばれた女子生徒に声を掛ける。
 すると、水島と呼ばれた女子生徒は顔を上げた。
「なに? コイツら、授業終わっても起きないから起こそうとしたんだけど」
「宍戸君と黒川君はいつもそうじゃないですか。ほら、榊原さんがデュエルモンスターズをやってるって話を聞いて、  水島さんデッキを見たがってたじゃないですか」
「ああ、そうだったね……。いや、ほらさ。コイツらがデュエルばっかしてるからさ。まぁ、私はやらないけど」
「でも詳しいですよね」
「そりゃコイツらと何年も付きあえばね」
 水島と女子生徒が話していると、別の女子生徒が近づいてくる。
 背は女子にしては高く、クールという言葉が似合いそうだ。
「あ、榊原さん」
「品田さん、どうしたの?」
「ほら、水島さんとデュエルモンスターズの話をしてたんです」
「ああ……今、デッキ持ってるけど」
 すると、榊原の言葉を聞いた水島が丁度目の色を変えた。
「そうだ。なぁ、榊原。雄二か貴明とデュエルしてみねぇ?」
「「え?」」
 品田と榊原の目が点になる。
 だがしかし、水島は構わずに言葉を続ける。
「いや、だって腕前見たいのも当然だし」
「まぁ、それはそうだけど……」
「じゃあ、決まり。このバカ2人を叩き起こそう」
 水島はそう言い放つと、黒川雄二と宍戸貴明の机を足で引っ繰り返した。


 同級生の水原に叩き起こされた俺と貴明は、屋上に来ていた。
 教室でデュエルをしても問題は無い。だが、話を聞きつけた別の生徒がソリッドビジョンで見たいとか言いだしたので、結局屋上に移動したのだ。
「………つーか、榊原がデュエルしてたなんて意外だ……」
「同じく。で、どっちがやる?」
 俺が呟くと、貴明が手を出す。
 貴明がやりたいって気持ちも解る。俺達は親友だし、デュエルも大好きだ。
 だが、俺だってやりたい。普段の相手は貴明か近所の中学生ばかりなので別の相手とも戦いたい。
「俺もやりてぇな」
「なぁ、雄二よー。俺にやらしてくれるか?」
「やだ。俺やりたい」
 貴明の言葉を断る。だが、貴明だって1歩も譲らない。
「「しょうがねぇから、ジャンケンポン!」」

「俺の勝ち。貴明、榊原にデュエルディスク貸してやりなよ」「チッ。しょうがねぇや……今回はギャラリーになりますか」
 どうにかジャンケンに勝ったので、デュエルディスクにデッキをセット。
 ソリッドビジョンシステムの利点は、見栄えの良さに違いない……多分。海馬コーポレーションの社長が聞いたらジュラルミンケースでブン殴られそうだ。
 ああ、恐ろしい。粉砕・玉砕・大喝采なんちって。
「……黒川君、こっちは準備出来たけど」
 いつの間にか俺の正面にいた榊原が口を開く。デュエルディスクが似合ってる。
 まぁ、元々あの海馬コーポレーションの社長に似合うように設計されてるしあの人背が高いし。いや、それは置いといて。
「おう。それじゃ、始めますか!」

「「デュエル!」」

 雄二:LP4000 榊原:LP4000

「俺の先攻ドロー! ランサー・ドラゴニュートを守備表示で召喚!」

 ランサー・ドラゴニュート 闇属性/星4/ドラゴン族/攻撃力1600/守備力1800

「カードを1枚伏せて、ターンエンド」
「私のターン。ドロー。怒れる類人猿を攻撃表示で召喚。ランサー・ドラゴニュートを攻撃!」

 怒れる類人猿 地属性/星4/獣族/攻撃力2000/守備力1000

「うげぇ!? いきなり攻撃力2000かよ!?」
「ランサー・ドラゴニュートを撃破。カードを2枚セットして、ターンエンド」
「俺のターン。ドロー!」
 何となく、引きがヤバいかも知れない。
 そう思った時、そのカードは意外にも来た。
「黒竜の雛を召喚。そして、黒竜の雛の効果発動! 黒竜の雛を墓地に送り、真紅眼の黒竜を特殊召喚!」

 黒竜の雛 闇属性/星1/ドラゴン族/攻撃力800/守備力500
 このカードを墓地に送る事で手札より「真紅眼の黒竜」を特殊召喚する。

 真紅眼の黒竜 闇属性/星7/ドラゴン族/攻撃力2400/守備力2000

「真紅眼の黒竜で、怒れる類人猿を攻撃! 行け、レッドアイズ! ダーク・メガ・フレア!」
「くぅっ! だけど……」

 榊原:LP4000→3600

「自分フィールド上の獣族モンスターが破壊された時、ライフポイントを1000支払う事で、私は手札からこのモンスターを特殊召喚する。
 召喚、森の番人グリーン・ハブーン!」

 榊原:LP3600→2600
 
 森の番人グリーン・ハブーン 地属性/星7/獣族/攻撃力2600/守備力1800

「攻撃力2600……。クソっ……カードを1枚伏せて、ターンエンドだぜ」
「私のターン。ドロー。森の番人グリーン・ハブーンで、真紅眼の黒竜を攻撃! ハンマー・クラブ・デス!」
「ぐぉっ!? くっそ………レッドアイズ……」

 雄二:LP4000→3800

「ターンエンド」
「俺のターン! ドロー!」
 来ない。
 良いカードが来ない。だが、フィールドはがら空きだ。
 此処は守りに徹するしか無いようだ……。

「火山竜ヴォルカを守備表示で召喚! ターンエンドだぜ」

 火山竜ヴォルカ(オリカ) 炎属性/星3/ドラゴン族/攻撃力1400/守備力1100
 このカードは特殊召喚出来ない。
 このカードが墓地に送られた時、手札またはデッキからレベル4以下のドラゴン族モンスター2体を特殊召喚する事が出来る。

「私のターン。装備魔法、ビッグバン・シュートを発動。森の番人グリーン・ハブーンに装備。
 ビッグバン・シュートの効果により、森の番人グリーン・ハブーンは攻撃力が400ポイントアップする。
 更に、相手守備モンスターを攻撃した際、その守備力を上回っている分、貫通ダメージを与える」

 森の番人グリーン・ハブーン 攻撃力2600→3000

「そして、火山竜ヴォルカを攻撃!」

 雄二:LP3800→1900

「リバースカードオープン! 永続罠、真紅眼の誇りを発動! 墓地より、真紅眼の黒竜を特殊召喚するぜ!」
「それでも攻撃力はグリーン・ハブーンの方が上。ターンエンド」

 真紅眼の誇り(オリカ) 永続罠
 手札・デッキ・墓地に存在する「真紅眼」と名のつくモンスター1体を特殊召喚出来る。
 このカードで特殊召喚されたモンスターは、表示型式を1ターン中に何回でも任意に変更する事が出来る。

 確かに、俺のレッドアイズは榊原のグリーン・ハブーンには勝てない。
 だから、次のドローで、ある意味この戦いの流れが決まる。

 最後まで諦めない。だから、デッキを信じる。

「俺のターン! ドロー!」
 ドローした時。
 解った。ああ、コイツが来てくれたと。

 俺の最高のカードにして、魂のカード。
 このカードを越えるカードは未来永劫、何処にも無いと俺は言いきれる。

「真紅眼の黒竜を墓地に送り、真紅眼の闇竜を召喚! 更に、真紅眼の闇竜を墓地に送り……」
「え……?」
 榊原の目が、いや。その場にいた全員の目が開かれた。
 まさか、真紅眼の闇竜の、更に上位種があるのかとばかりに。

 それは力。受け継がれた、力。
 魂は時空も運命も越え、そのカタチとなって、今……俺の手に。

「降臨せよ! 最強のレッドアイズ! 真紅眼の闇焔竜(レッドアイズ・ダークブレイズドラゴン)!」
「なっ……!?」

 真紅眼の闇焔竜(オリカ) 闇属性/星10/ドラゴン族/攻撃力3500/守備力2800
 このカードは通常召喚出来ない。
 フィールド上に存在する「真紅眼(レッドアイズ)」と名のつくモンスター1体を墓地に送る事で特殊召喚する。
 戦闘で破壊され墓地に送られた時、召喚する際に墓地に送った「真紅眼」と名のつくモンスター1体を特殊召喚する。
 ライフポイントの半分を支払う事で墓地に存在する「真紅眼」と名のつくモンスターの効果を得る。

「真紅眼の闇焔竜の効果発動! ライフポイントの半分を支払う事で、墓地に存在する「真紅眼」と名のつくモンスターの効果を得る。
 俺の墓地に存在する、真紅眼の闇竜の効果、墓地のドラゴン族1体に付き攻撃力が300ポイント上昇する効果を得るぜ!」

 雄二:LP1900→950
 真紅眼の闇焔竜 攻撃力3500→5000

「更に、奇跡を起こす速攻魔法、ブラッド・ヒートを発動!」

 ブラッド・ヒート(オリカ) 速攻魔法
 このカードはバトルフェイズ中にライフポイントの半分を支払って発動可能。
 自分フィールドの表側攻撃表示のモンスター1体を選択し、そのモンスターはそのターンのエンドフェイズまで、攻撃力はそのカード
 の攻撃力に守備力の2倍を加算した値になる。
 このターンのエンドフェイズ時、対象となったモンスターを破壊する。

 雄二:LP950→475
 真紅眼の闇焔竜 攻撃力5000→10600

「攻撃力、10600………!」
「行くぜ、真紅眼の闇焔竜! 終焉のダーク・ブレイズ・キャノン!」

 榊原:LP2600→0

「ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」
「やったぜ、俺の勝ちってな!」
「負け……」
「いや、榊原も結構強かったぜ。ま、それでも俺、カッコ良かっただろ?」
 俺がそう言い放つと、榊原が小さく頷いた。
「勿論」
「だろ? なんつったって、俺は―――――」
「やめんか、アホくせぇ」
 決め台詞を言おうとした瞬間、俺は貴明に蹴っ飛ばされた。
「いってぇ! 何をしやがるんだ、貴明!」
「うるせー! 調子乗ってる親友を止めただけだ!」
「調子乗ってねぇ!」
「乗ってる乗ってる。4000以上もオーバーキルしやがって!」
「ああしなきゃ1ターンで勝てねぇだろうが!」
「ああ言えばこう言う!」
「こう言えばああ言う!」
 俺達がしばらく騒いでいると、水島が貴明のデュエルディスクを投げてきた。
「お前ら、うるさい。ところで……例の大会に、本当に出るの?」

「ああ、勿論だぜ。ぜってー優勝してやる」
「お前は予選落ちしろ」
「何だとぉ!?」

 例の大会。
 それは、かつてこの町で開かれた。決闘王の称号を賭けた戦い。
 
 そう、バトル・シティ。

「待ってろよ、師匠。俺、ぜってー勝つぜ! 何があっても! どんな敵にも!」
 そう言って俺は、片手を上げた。



《第2話:バトル・シティ、開幕!》

 運命の日。
 童実野町には、名だたるデュエリストが勢ぞろいしていた。

 そして、今か今かと開幕を待つ姿の中に、黒川雄二と宍戸貴明の姿があった。

「バトル・シティ当日だコラァッ!」
「貴明、言ってる意味が解んねぇよ」
 俺が訳も無く叫んだ貴明の頭を軽く叩くと、貴明は俺に怪訝そうな顔を向けた。
「だって、バトル・シティだぜ? 伝説の大会だぜ? 師匠がベスト4に食い込んだんだぜ? 優勝すれば決闘王だぜ?」
「とりあえず落ち着け。お前、ネジ外れてるぞ」
「おう、悪かったよ、雄二。それにしても、開幕は何時だ?」
「もうそろそろだろ?」
 俺達がそう話している脇でも、デュエルディスクを身に付けている決闘者の姿が何人かいるし、過去に経験したからなのかデュエルディスクを付けてる
 奴を見ても平然としている町の住人。流石は海馬コーポレーションの本社がある町は違うぜ。
 俺がそんな事を考えていると、ビルの横の巨大ビジョンの電源が突如付いた。

『勇敢なる凡骨デュエリスト共よ! 海馬コーポレーション社長の海馬瀬人だ! ワハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!』

 いきなり凡骨呼ばわりされるとは俺達も悲惨だ。
 だけど、海馬社長なだけに有りえない話じゃない。あの人にとっては自分と決闘王以外は全員凡骨にしか見えないのだろう。

『今さらいちいちくだらぬ御託も説経も開会宣言もする必要はない。今、ここにバトル・シティを開幕する!
 とは言っても前回のようにレベル2の馬の骨が紛れてるとも限らんので少しばかりこの俺がじきじきに説明してやろう! 有難く思え!
 デュエルディスクの脇に、それぞれ透明なカードが付いている。これは童実野町をパズルピースにしたものだ。
 このパズルカードを六枚集めれば、決勝戦の場所が表示される! 制限時間は午前8時より午後8時までの12時間!
 では、決闘者共よ、12時間後に、決勝の場所で待っているぞ………せいぜい健闘するがいい! ワハハハハハハハハハハハ!!!!!』

 変わってない。つーか、この人前回のバトル・シティから成長してないんじゃないだろうな?
 俺がそんな事を考えている間にも、時計は午前7時59分30秒。後、少しで開幕する。

 後20秒。10秒。9…8…7…6…5…4…

 3…2…1…

「バトル・シティ! 開幕だーッ!!!!!!!」

 8時になった瞬間に貴明が絶叫し、他のデュエリストが仰天して引っ繰り返る。
 そうやって、俺達のバトル・シティが始まった。


 貴明と別れ、町を西へと向かう。ここからは、貴明とは完全に別行動だ。
 さっきの貴明の叫びのせいで俺の周辺にいた決闘者がいなくなってしまったらしい。相手を探して、しばらく歩く。
「どっかに決闘者いねーかなーっと」
 俺がそう呟いた時、ちょうど正面から20歳位の女性がやってきていた。
 片手にはデュエルディスク。向こうも俺に気付いたのか、足を速めてくる。
 どうやら俺の開幕戦はこのお姉さんを相手にする事になりそうだ。

「すいません。デュエル。お願い出来ますか?」
 俺の言葉に、お姉さんは少しだけ微笑み、デュエルディスクを突き出す。
「ええ、勿論。楽しく、したいですね」
「はは、当たり前っスよ。俺は、黒川雄二。お姉さんは?」
「九島直美です。では、始めましょうか」

 ある程度、距離を取り、デュエルディスクを構える。

「「デュエル!」」

 黒川雄二:LP4000 九島直美:LP4000

「俺の先攻ドロー! アックス・ドラゴニュートを攻撃表示で召喚!」

 アックス・ドラゴニュート 闇属性/星4/ドラゴン族/攻撃力2000/守備力1200

「カードを1枚伏せて、ターンエンドだぜ」
「私のターン。ドロー! プロミネンス・ドラゴンを攻撃表示で召喚! カードを2枚伏せて、ターンエンド。
 そして、プロミネンス・ドラゴンの効果発動! 自分ターンのエンドフェイズ時、相手ライフに500ポイントのダメージを与えます!」

 プロミネンス・ドラゴン 炎属性/星4/炎族/攻撃力1500/守備力1000

 黒川雄二:LP4000→3500

「くっ………俺のターン! ドロー! 深淵竜アビドスを、守備表示で召喚!」

 深淵竜アビドス(オリカ) 水属性/星3/ドラゴン族/攻撃力1300/守備力1200
 このカードは特殊召喚出来ない。
 このカードが墓地に送られた時、手札またはデッキからレベル5以上のモンスター1体を特殊召喚する事が出来る。

「そして、アックス・ドラゴニュートでプロミネンス・ドラゴンを攻撃!」
「リバースカードオープン! カウンター罠、攻撃の無力化により、アックス・ドラゴニュートの攻撃は無効です!」
「おおっと、こっちもリバース罠発動! カウンター・カウンターの効果で、攻撃の無力化によるカウンターを無効化するぜ!」
「なっ!?」

 攻撃の無力化 カウンター罠
 相手の攻撃を無効化し、バトルフェイズを終了させる。

 カウンター・カウンター カウンター罠
 相手の発動したカウンター罠の効果を無効にし、破壊する。
 
「これにより、アックス・ドラゴニュートの攻撃は有効! プロミネンス・ドラゴンを破壊!」
「くぅっ!」

 九島直美:LP4000→3500

「罠カード、命の綱を発動! 手札を全て捨てて、墓地に送られたプロミネンス・ドラゴンを攻撃力を800アップさせて特殊召喚します!」
「なっ……!?」

 命の綱 通常罠
 自分のモンスターが戦闘によって墓地に送られた時に、手札を全て捨てて発動。
 そのモンスターの攻撃力を800ポイントアップさせて、フィールド上に特殊召喚する。

 プロミネンス・ドラゴン 攻撃力1500→2300

 信じられない。カードを2枚伏せていたから、そのままで蘇生するなんて。
 しかし、プロミネンス・ドラゴンに拘る。
「………くそ、カードを1枚伏せて、ターンエンドだ」
「私のターン。ドロー! プロミネンス・ドラゴンでアックス・ドラゴニュートを攻撃!」
「ぐぉっ!?」

 黒川雄二:LP3500→3200

「カードを1枚伏せて、ターンエンド。そして、500ダメージを受けて貰います」

 黒川雄二:LP3200→2700

「くそっ………俺のターン! ドロー!」

 何かいいカードがあれば……。ん?

「サファイアドラゴンを攻撃表示で召喚! そして、カードを1枚伏せて、ターンエンドだぜ」

 サファイアドラゴン 風属性/星4/ドラゴン族/攻撃力1900/守備力1600

「私のターン、ドロー。プロミネンス・ドラゴンで、サファイアドラゴンを攻撃します!」
「永続罠、闇の呪縛を発動! プロミネンス・ドラゴンの攻撃力を700ポイント下げるぜ!」
「なっ……」

 闇の呪縛 永続罠
 相手フィールド上の表側表示モンスター1体を選択する。
 そのモンスターは攻撃力が700ポイントダウンし、攻撃と表示形式の変更ができなくなる。
 選択したモンスターがフィールド上から存在しなくなった時、このカードを破壊する。

 プロミネンス・ドラゴン 攻撃力2300→1600

「つまり、サファイアドラゴンの攻撃力が上だぜ! 迎撃しろ、サファイアドラゴン!」

 九島直美:LP3500→3200

「………でも、500ポイントダメージは受けて貰います。ターンエンド」
「うぉう……」

 黒川雄二:LP2700→2200

「俺のターン! ドロー! 黒竜の雛を召喚! 黒竜の雛の効果発動! 黒竜の雛を墓地に送り、真紅眼の黒竜を召喚!」

 黒竜の雛 闇属性/星1/ドラゴン族/攻撃力800/守備力500
 このカードを墓地に送る事で手札より「真紅眼の黒竜」を特殊召喚する。

 真紅眼の黒竜 闇属性/星7/ドラゴン族/攻撃力2400/守備力2000

「真紅眼の黒竜の攻撃! 行け、レッドアイズ! ダーク・メガ・フレア!」
「リバース魔法、光の護封剣を発動! 攻撃は出来ません」

 光の護封剣 通常魔法
 相手フィールド上に存在する全てのモンスターを表側表示にする。
 このカードは発動後(相手ターンで数えて)3ターンの間フィールド上に残り続ける。
 このカードがフィールド上に存在する限り、相手フィールド上モンスターは攻撃宣言を行う事ができない。

 このお姉さんは的確に戦術を使っている。結構、手強い。だけど、楽しい。
 俺は小さく微笑むと、大人しく「カードを1枚セットし、ターンエンド」と宣言した。
「私のターン! ドロー! 火炎木人18を召喚し、ターンエンド」

 火炎木人18 炎属性/星4/炎族/攻撃力1850/守備力0

 黒川雄二:LP2200→1700

「それじゃま、行きますか。俺のターン! ドロー!」

 来る。
 あのカードが来る。

「手札を1枚捨て、魔法カード、ライトニング・ボルテックスを発動!」
「なっ……!?」

 ライトニング・ボルテックス 通常魔法
 手札を1枚捨てる。
 相手フィールド上に表側表示で存在するモンスターを全て破壊する。

 プロミネンス・ドラゴンと火炎木人18が破壊され、墓地へと消える。
 リバースカードがあるが、事実上フィールドはがら空きだ。

「手札の真紅眼の闇竜と、レッドアイズ・ブラックメタルドラゴンを融合!」
「なんですって!?」
「行くぜ! 融合デッキより、レッドアイズ・ダークメタルドラゴンを召喚!」

 レッドアイズ・ダークメタルドラゴン(オリカ) 闇属性/星9/機械族/攻撃力3200/守備力2800/融合モンスター
 「真紅眼の闇竜」+「レッドアイズ・ブラックメタルドラゴン」
 このカードはバトルフェイズ時、戦闘対象である相手モンスターの攻撃力の半分の値のみ、攻撃力・守備力がアップする。

「ターンエンドだぜ」
「………ドロー!」
 同時に、お姉さんの顔が悲しそうに歪んだ。
 リバースカードはどうやらブラフ。モンスターは無い。そして、護封剣が、消える。
「……ターン………エンド………」
「俺のターン! ドロー!」
 カードを引く。リバースカードも、恐らく問題無く対処出来る。
「行くぜ! レッドアイズ・ダークメタルドラゴンのダイレクトアタック! ダークネス・ギガ・ブラスト!」
「リバース罠、煉獄の結束を発動します!」

 煉獄の結束(オリカ) 通常罠
 墓地に炎属性モンスターが存在する時、(相手バトルフェイズ中でも)発動可能。
 墓地に存在する炎属性モンスター1体を除外する事で手札より炎属性モンスター1体を特殊召喚する。

「私は、墓地の火炎木人18を除外。炎帝テスタロスを守備表示で召喚します!」

 炎帝テスタロス 炎属性/星6/炎族/攻撃力2400/守備力1000

「だが、レッドアイズ・ダークメタルの攻撃は止まらない! 炎帝テスタロスを撃破!」
「くっ……! 速攻魔法、スケープ・ゴートを発動!」
「おおっと、リバース罠発動! マジック・ジャマーの効果で、それは無効だぜ!」

 スケープ・ゴート 速攻魔法
 自分フィールド上に羊トークン4体(獣族/星1/攻0/守0)を召喚する。

 マジック・ジャマー カウンター罠
 手札を1枚捨てる。魔法カードの効果を無効にし破壊する。

「続いて真紅眼の黒竜、サファイアドラゴンの2体でプレイヤーにダイレクトアタック!」

 九島直美:LP3200→800→0

「いっよしゃぁあっ! 俺の勝ち!」
「っ……負けてしまいましたね、強いですね」
「ははは……いや、そう言われると照れるんですけどね……」
「ふふ……はい、パズルカードです」
 俺の手に、お姉さんがパズルカードを握らせる。
 まだ2枚目。先は長い。だけど………1つ目の勝利が、何となく俺に自信を付けさせた気がした。

「まだ、先は遠いよ……俺……」

 そう呟く。
 だってまだ、最初の1歩を踏みだしただけだから。



《第3話:デュエリスト君は逮捕する♪》

 雄二と別れた俺は、デュエリストを探して三千里とまでは行かないが3000メートルは行きそうだった。
 デュエリストがいない。そんなに皆西側に大人気なのだろうか?
 そう考えてみると、童実野町の東側に海馬コーポレーションの本社がある事に気付いた。
「(ああ、そうか。主催者とはいえ凡骨呼ばわりされりゃ腹も立つよなぁ……)」
 ああ、なんて悲しいかな、デュエリストの性。
 プライドが高いのはご愛嬌。凡骨呼ばわりされ続けた師匠とか。

 俺がそんな事を考えている間、背後から迫るミニパトに気付いていなかった。

「こら、そこのデュエリスト! 職質するからこっち来い!」
「へっ? てっ、えぇ〜!?!?!?」
 俺が背後を振り向くと、片手にデュエルディスクを付けた婦警さんが腕を振り回していた。
 あの、制服着たまま大会出ていいんですか? 勤務中じゃないんですか?
「そうだ、そこの少年だ! 学校サボって出て来るんじゃない!」
「いや、婦警さんが言える事じゃないんですけど」
 俺がそう答えると、その婦警さんはミニパトのドアを蹴っ飛ばして開け、俺の前に出てくる。
「あ? 誰が勤務中に違反者とデュエルして減給喰らってる婦警さんだって? だ・れ・が・性格のせいで浮いた話も無いだってぇ?」
「いや、そんな事ひと言も言ってねぇよ! つーか、そこまで言ってないっスよ、いや、マジで!」
 ああ、同じミニパトに乗ってる婦警さんが頭を下げてます。
 ごめんなさい、って貴方に謝られても困ります。

「……と、ともかく、俺、職務質問?」
「そうだ。デュエルしなさい、命令。聞かなかったら保護者と学校に連絡ね」
「いや、あの、それ理不尽じゃないですか?」
「うるさい、黙れ不良少年。さぁ、どうだ?」
「………デュエルします」
 大人しくデュエルする、つーか、ここで勝たなきゃ何となく嫌な感じがする。

「さぁ、少年。名前を言いたまえ」
「宍戸貴明」
「ふむ、不良少年の貴明君。お姉さんがデュエルで更生してあげようじゃないの」
「誰が不良少年ですか」
 とりあえずそうツッコミを入れると、デュエルディスクで殴られた。痛いんですけど。
「やかましい! お姉さんっつーか一応名前言っとく! 四方田操緒だ! 覚えとけ!」
「は、はい………」

「「デュエル!」」

 宍戸貴明:LP4000 四方田操緒:LP4000

「あたしの先攻ドロー! ヴォルカニック・エッジを攻撃表示で召喚! カードを2枚伏せて、ターンエンド」

 ヴォルカニック・エッジ 炎属性/星4/炎族/攻撃力1800/守備力1200

「俺のターン! ドロー! 鉄の騎士ギア・フリードを攻撃表示で召喚!」

 鉄の騎士ギア・フリード 地属性/星4/戦士族/攻撃力1800/守備力1600

「更に、魔法カード、突進を発動し、ヴォルカニック・エッジを攻撃!」
「リバース罠、オープン。攻撃の無力化を発動!」
「なっ!?」

 突進 速攻魔法
 選択したモンスター1体はバトルフェイズのみ攻撃力が700ポイントアップする。

 攻撃の無力化 カウンター罠
 相手モンスターの攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了させる。

「くっ……カードを1枚伏せて、ターンエンドだぜ」
「あたしのターン! ドロー! ヴォルカニック・エッジの効果発動! 1ターンに1度、相手ライフに500ポイントのダメージを与える! この効果を
 発動したターン、ヴォルカニック・エッジは攻撃出来ない。更に、手札より魔法カード、ブレイズ・キャノンを発動!」

 ブレイズ・キャノン 永続魔法
 手札より攻撃力500ポイント以下の炎族モンスター1体を墓地に送る事で相手ライフに500ダメージを与える。
 この効果を使用したターン、自分モンスターは攻撃する事が出来ない。

「手札よりきつね火を墓地に送り、ブレイズ・キャノン発射!」
「うぉぉぉぉっ!? そりゃ無いぜ、婦警さん!」

 宍戸貴明:LP4000→3500→3000

「あっはっはっは! ついでに、手札より火炎木人18を召喚! ターンエンド」
「くそ……俺のターン! ドロー!」
 カードを1枚ドロー。1000ポイントも差を付けられているのはかなり痛い。
 このドローで反撃の狼煙をあげれば……。
「(よし、行ける!)手札より、自身の効果でサイバー・ドラゴンを召喚!」

 サイバー・ドラゴン 光属性/星5/機械族/攻撃力2100/守備力1600
 自分フィールドにモンスターが存在せず、相手フィールド上にモンスターが存在する際、このカードを手札から特殊召喚出来る。

「更に、リバース罠、凡人の施しを発動!」

 凡人の施し 通常罠
 デッキからカードを2枚ドローし、その後手札から通常モンスターカード1枚をゲームから除外する。
 手札に通常モンスターカードがない場合、手札を全て墓地へ送る。

「カードを2枚ドローし、手札より闇魔界の戦士ダークソードをゲームから除外。そして……婦警さん。サイバー・ドラゴンの効果、知ってる?」
「自分フィールドにモンスターがいなくて、相手フィールドにモンスターがいる時に特殊召喚、出来るだろ?」
「……婦警さん、俺さぁ。このカードに苦しめられた事もあれば、助けられたこともある。まぁ、とある勝負で手に入れたんだけどよ。そ、つまり
 これは特殊召喚。このターン……サイバー・ドラゴンを特殊召喚した後なら、通常召喚も出来るって事さ!」
「あ!」
 そう、サイバー・ドラゴンのある意味強力すぎる効果の真骨頂はそこにある。
 生贄無しで召喚可能どころか、その召喚した後なら通常召喚も可能、というある意味ルールの抜け穴。
 何せ特殊召喚扱い。後で通常召喚も可能だ。
「手札より、ダーク・ヒーロー ゾンバイアを召喚! そして、サイバー・ドラゴン、ダーク・ヒーロー ゾンバイアで攻撃!」

 ダーク・ヒーロー ゾンバイア 闇属性/星4/戦士族/攻撃力2100/守備力500
 このカードはプレイヤーに直接攻撃する事ができない。
 このカードが戦闘でモンスターを1体破壊する度に、このカードの攻撃力は200ポイントダウンする。

「ちっ……なかなかやるね」
「ダーク・ヒーロー ゾンバイアは自身の効果で攻撃力が200ダウンする……ま、しょうがねぇわな。カードを1枚伏せて、ターンエンド」

 四方田操緒:LP4000→3450
 ダーク・ヒーロー ゾンバイア 攻撃力2100→1900

「あたしのターン。ドロー! 魔法カード、コストダウンを発動! ヴォルカニック・ハンマーを攻撃表示で召喚!」

 コストダウン 通常魔法
 手札を1枚捨てる。自分の手札にある全てのモンスターカードのレベルを、発動ターンのエンドフェイズまで2つ下げる。

 ヴォルカニック・ハンマー 炎属性/星5/炎族/攻撃力2400/守備力1500
 自分の墓地に存在する「ヴォルカニック」と名のついたモンスターカードの枚数×200ポイントダメージを相手ライフに与える事ができる。
 この効果は1ターンに1度しか使用できない。この効果を発動する場合、このターンこのカードは攻撃する事ができない。

「更に、ブレイズ・キャノンを墓地に送り、ブレイズ・キャノン−トライデントを発動! ま、このターン、この効果は使用しないで………まずは
 フィールドの攻撃だね。ヴォルカニック・ハンマーでダーク・ヒーロー ゾンバイアを攻撃!」

 ブレイズ・キャノン−トライデント 永続魔法
 自分フィールド上に表側表示で存在する「ブレイズ・キャノン」1枚を墓地へ送って発動する。
 手札から炎族モンスター1体を墓地へ送る事で、相手フィールド上に存在するモンスター1体を破壊し相手ライフに500ポイントダメージを与える。
 この効果を使用したターン、自分のモンスターは攻撃する事ができない。

 宍戸貴明:LP3000→2500

「更に、リバース罠、煉獄の結束を発動!」

 煉獄の結束(オリカ) 通常罠
 墓地に炎属性モンスターが存在する時、(相手バトルフェイズ中でも)発動可能。
 墓地に存在する炎属性モンスター1体を除外する事で手札より炎属性モンスター1体を特殊召喚する。

「この効果により、墓地の火炎木人18を除外し、手札より炎帝テスタロスを召喚!」

 炎帝テスタロス 炎属性/星6/炎族/攻撃力2400/守備力1000

「そして、炎帝テスタロスでサイバー・ドラゴンを攻撃!」
「おおっと、待った! リバース罠、悪魔のサイコロを発動! この効果により、サイコロの目×100ポイント、攻撃力が下がるぜ!」

 悪魔のサイコロ 通常罠
 サイコロを振る。サイコロの出た目×100ポイント、相手モンスターの攻撃力を下げる。

「3以上が出ないと意味ないに決まってるじゃないの!」
「大丈夫、3以上は出るぜ」
「随分自身満々ね」
 婦警さんが俺を見て呆れたように呟く。
 だけど、3以上出る。だって、俺は……。
「だって、運命の女神は……俺の為だけに微笑んでるのさ」
 サイコロを振る。出た目は……6。

 炎帝テスタロス 攻撃力2400→1800

「迎撃しろ、サイバー・ドラゴン! 300ポイント、ダメージを受けて貰うぜ……エヴォリューション・バースト!」

 四方田操緒:LP3450→3150

「くっ……ターンエンド」
「俺のターン! ドロー!」
 手札さえ揃えば、戦う事に問題は無いのだけれど。
 流石に俺の強運も尽きたのだろうか? いやいや、そんな筈は無い。
「(だとすると………参ったな、どうしたものか……)」
 せめて、もう1体何か来てくれれば……。
「……ん?」
「どうしたんだい? 思考時間が長いよー?」
「手札より、トロイホースを召喚! 更に通常魔法、二重召喚を発動!」

 トロイホース 地属性/星4/獣族/攻撃力1600/守備力1200
 地属性モンスターを生け贄召喚する場合、このモンスター1体で2体分の生け贄とする事ができる。

 二重召喚 通常魔法
 このターン中もう一度だけ通常召喚を行う事ができる。

「二重召喚の効果によって、トロイホースを生け贄に捧げ、手札より、バスター・ブレイダーを召喚!」

 バスター・ブレイダー 地属性/星7/戦士族/攻撃力2600/守備力2300

「バスター・ブレイダーで、ヴォルカニック・ハンマーを攻撃! ドラゴンバスターブレード!」
「くぅっ!」

 四方田操緒:LP3150→2950

「カードを1枚伏せて、ターンエンド」
「あたしのターン! ドロー!」
 婦警さんはドローした後、俺を見て急に口を開いた。
「そうだ、ちょっと話したい気分かな。あのさ……少年、アタシがデュエルする切っ掛け、何だったと思う?」
「……さぁ? でも、凄い理由じゃないですか?」
 いや、知らないけど。そもそも勤務中にデュエルするな。
 まぁ、このデュエルは楽しいからいいけれど。
「んー……あのさ。子供がね、アンタらみたいな不良にカードを巻き上げられて、泣き付かれた事があったんだよ。まぁ、カードは取り戻したんだけ
 ど、その子供にとってね、カードはとても大事なものだった。だから、アタシもそれぐらい大切なものが欲しいなって思ったんだよ」
「え? 確かに、俺はデッキが大事ですけど、親とか、家族とか親友とか、仲間とか……大事なものって、たくさんあるじゃないですか」
「いやー、あたしね。捨て子でさ、親の顔知らないんだわ。まぁ、施設の仲間は家族かも知れないけど」
 そう言って婦警さんはあははと笑う。いや、笑い事じゃないぞ、それ。
「あ! もしかして、今回バトル・シティに出たのって……」
「そ。施設の連中にさ、カッコいいトコ見せたいわけ」
 再び婦警さんはあははと笑う。だけど……。
 やべぇ、超・感動的な話じゃねーか。宍戸貴明、バリ☆感動。

「うっ……うっうっ………俺、バリ☆感動したッス!」
「おお、少年! いや、それでデュエルの最中に泣かれても困るんだけど」
「うう………まぁ、そうすけど」
 俺がそう返すと、婦警さんは気付いたように手札を見た。
「ま、いいや。ブレイズ・キャノン−トライデントを墓地に送り、ヴォルカニック・デビルを召喚!」
「いきなり容赦なしでデュエル再開!?」
 この婦警さん、無茶苦茶すぎるぜ。デュエリストってどーしてこんな変り種が多いんだろう。

 ヴォルカニック・デビル 炎属性/星8/炎族/攻撃力3000/守備力1800
 このカードは通常召喚できない。
 自分フィールド上に表側表示で存在する「ブレイズ・キャノン−トライデント」を墓地に送った場合に特殊召喚する事ができる。
 相手ターンのバトルフェイズ中に相手フィールド上に攻撃表示モンスターが存在する場合、相手はこのカードに攻撃をしなければならない。
 このカードがモンスターを破壊し墓地へ送った時、相手フィールドのモンスターを全て破壊し、相手に1体につき500ポイントダメージを与える。

「ヴォルカニック・デビルでバスター・ブレイダーを攻撃! ヴォルカニック・デビルの効果でサイバー・ドラゴンを破壊! 更に、炎帝テスタロスで
 ダイレクトアタック!」
「リバース罠、幻影の水鏡を発動!」

 幻影の水鏡(オリカ) カウンター罠
 手札を1枚捨てる。このターンのバトルフェイズで受けたダメージを半分にする。

 宍戸貴明:LP2500→2300→1100

「ターンエンドだよ」
「婦警さん、鬼っス………」
 この人は鬼畜だ。それ以上だ。
「……ドロー! 速攻魔法、奇跡のダイス・ドローを発動!」

 奇跡のダイス・ドロー(オリカ) 速攻魔法
 サイコロを振る。サイコロの出た目だけ、ドローする。
 このターンのエンドフェイズ時に、必ずドローした枚数以下になるように手札を捨てなければならない。

「サイコロを振る。出た目は……5だな。カードを5枚ドロー!」

 ドローする。1枚、2枚、3枚、4枚、5枚。
 見事すぎるぜ、運命の女神は常に俺の為だけに微笑んでいる。

「魔法カード、クロス・ソウルを2枚連続発動!」

 クロス・ソウル 通常魔法
 相手フィールド上のモンスター1体を選択する。
 自分のモンスターを生け贄に捧げる時、自分のモンスター1体のかわりに選択した相手モンスターを生け贄に捧げる。
 このカードを発動するターン、自分はバトルフェイズを行う事ができない。

「なっ……クロス・ソウルが2枚連続って……そんなバカな!?」
「この効果により、炎帝テスタロス、ヴォルカニック・デビルの2体を生け贄に捧げさせて貰うぜ!」
「ああって、アンタの引きって何なの〜! 有りえなすぎるでしょ、少年〜!」
「言っただろ? 運命の女神は常に俺の為だけに微笑んでるって! 降臨せよ! 伝説の騎士、ギルフォード・ザ・ライトニング!」

 ギルフォード・ザ・ライトニング 光属性/星8/戦士族/攻撃力2800/守備力1400
 このカードは生け贄3体を捧げて召喚する事ができる。
 この方法で召喚に成功した時、相手フィールド上に存在するモンスターを全て破壊する。

「カードを1枚伏せて、ターンエンドだぜ」
「あたしのターン! ドロー! ヴォルカニック・エッジを守備表示で召喚……ターンエンド」
「俺のターン! ドロー!」

「ギルフォード・ザ・ライトニングで、ヴォルカニック・エッジを攻撃! 更に、リバース罠、メテオインパクトを発動!」

 メテオインパクト(オリカ) 通常罠
 相手モンスターを破壊した際に発動可能。自分フィールド上のモンスター1体を選択する。
 ライフを半分支払う事で、選択したモンスターの攻撃力分のダメージを相手に与える。
 次のターン、自分はバトルフェイズをスキップする。

 宍戸貴明:LP1100→550

 四方田操緒:LP2950→150

「カードを1枚伏せて、ターンエンド」
 俺がカードを伏せてターン終了を宣言した時、ちょうど婦警さんはドローする手を―――――デッキの上に置いた。
「…………こうするのも何だけど、勝ち目はもう無いね……サレンダーするよ」
「え………」
「あたしは負けを認めるって事。少年、強いね」
「あ、ああ…………ありがとうございます。楽しかったですよ。お姉さんとのデュエル」
「そうだね。だけどアンタ、凄いね。本当に運命の女神は常にアンタの為だけに微笑んでるんだね」
「そりゃそうっスよ。何故か知らないんですけど、運だけは良いんです」

 そう、運命の女神は、常に俺の為だけに微笑んでいる。

「はい、パズルカード」
「どうも……へへ、これで師匠にまた1歩近づいたぜ」

 それは、いつかへと続く長い道の始まり。

「と、言う事だ少年……次のデュエリストを探しに、乗ってく?」
 婦警さんはそう言ってミニパトを指さす。
 まぁ、乗ってみたい気はするが……いいのか?
「遠慮するな少年! お姉さんに任せときな!」
「そうすか。じゃあ、お言葉に甘えまして……」

 俺がミニパトに乗り込むと、シートベルトを締める間も無く走りだした。
「うわぁ!? どうしたんすか、いきなり!?」
「しっかり掴まってろよ! ハデに飛ばすぞー!」
「飛ばさんでもいいですからー!!!!」

 正直な話、先が不安になってきたぜ……。



《第4話:悪魔の鼓動》

 何処かで、誰かが呼んでいる。

 そんな感じがして、目を覚ます。

 "ボクの声が……聞こえるかい?"

 勿論……聞こえる。オレには、聞こえる……。

 "君はずっと苦しめられ続けた。身近な所から、見えない刃で……"

 ああ……そうだな。

 "だけどね……手を伸ばしてご覧よ。君はもう、苦しめられる事は無いんだ"

 "思いだすんだ、あの苦しい日々を。だけど、それはもうお終いだ"

 "ボクと1つになろう……君は、本当に、強くなれる……"

 囁きは誰なのだろう。
 だけど、オレには1つだけ解る。

 手を伸ばした先の1枚のカード。

 オレを神へと導くカード……。


 目を開けると、先ほどまでいた街の光景そのものだった。
 だけど、1枚のカードを手にしている事に気付いた。
「…………このカードが……」

 一見、ただのカードに見える。だけど、違う。
 天空の神竜の名を冠すカードは、普通のカードとは違う異彩を放っていた。

 手に取って、デッキへと入れる。よく、シャッフルする。
「よし………行くぜ!」
 そう、叫んで。

 再び、決闘者の街へと飛び出した。



 パズルカードは2枚。あと4枚集めれば、決勝へと進める。
「この調子なら、行ける……! まぁ、気は抜けねぇけど……」
 次の瞬間、腹が鳴る。
 そう言えば……まだ朝ご飯食べてない……。
「……よし! この辺りで飯にしよう!」
 腹が減ってはイクサは出来ぬ。イクサが出来なければデュエルも出来ぬ。
 ああ、恐ろしさは何とやら。牛丼を喰ってデュエル精神を養いましょう。

 CM:デュエルの最中に腹が減ったら、牛丼童実野へ! あのデュエリストも食べてる! ……かも。

「………何でこんな所に師匠の等身大パネルがあるんだ……?」
 見ていて恥ずかしくなりますが。
 俺がそんな風に呟くと、俺にオーダーを取った店員が、師匠の等身大パネルを指さしながら口を開いた。
「前に開かれたバトルシティでベスト4に入ったデュエリストの等身大パネルだよ。それ以来、売り上げ好調な上にデュエリストが勝利の為の願掛けとばかりに良く喰いに来るようになったね」
「へぇ……」
「そうそう、この前なんかさ。あのカイザー丸藤亮が来てね。牛丼特盛で注文したかと思えばトッピングを全部注文して喰ってたな。卵やキムチはまだ
 解るけど納豆は無いと思ったね。だって、全部牛丼の上に乗せてたんだぜ? トッピング全部」
「信じらんねぇ……あ、牛丼大盛、お代わり」
「アンタそれ2杯目だよ? まだ喰うの?」
「デュエルは腹が減るの!」
 俺がそう答えた時、ちょうど店に小柄な人影が入ってきた。
 その時、俺は気にも留めなかったが、相手は俺に気付いたようだった。
「あ、あれ……」
「ん? 俺に何か用……」
 そこまで呟きかけて、相手の腕にデュエルディスクがある事に気付く。
「デュエルならちょいと待て! 俺が飯を食ってから……もあるけど、お前が飯を食い終わってからだ」
「あ、そ、それはそうだけど……。隣りのクラスの、黒川君、だっけ?」
「ん? スマン……俺の中にはお前の顔は知らんので自己紹介してくれ、頼むから」
 俺の言葉に、相手は引っ繰り返ったがすぐに口を開いた。
「平井剛志、だけど……解るかな?」
「んー……あ!」
 そう言えば思いだした。隣りのクラスは言っちゃ悪いが荒れたクラスで。
 それで苛められてる奴がいるとかいないとか噂になってたな。
「ああ、お前が平井か……俺は黒川雄二。って、知ってるか……」
「あ、うん。君も出場してるんだね」
「まぁなー。デュエルってのは楽しいし」

 俺の言葉に、平井は少し黙ってから、そっとデュエルディスクに手を掛けた。
「僕と、デュエルしない?」
「……いいぜ。全力で掛かってきやがれ」

「「デュエル!」」

 黒川雄二:LP4000 平井剛志:LP4000

「俺の先攻ドロー! サファイアドラゴンを攻撃表示で召喚! カードを1枚伏せて、ターンエンド」

 サファイアドラゴン 風属性/星4/ドラゴン族/攻撃力1900/守備力1600

「僕のターン! ドロー! 永続魔法、凡骨の意地を発動! 更にフィールド魔法、フュージョン・ゲートを発動!」

 凡骨の意地 永続魔法
 ドローフェイズにドローしたカードが通常モンスターだった場合、
 そのカードを相手に見せる事で、自分はカードをもう1枚ドローする事ができる。

 フュージョン・ゲート フィールド魔法
 このカードがフィールド上に存在する限り、「融合」魔法カードを使用せずに融合召喚をする事ができる。
 この際の融合素材モンスターは墓地へは行かず、ゲームから除外される。

「フィールド魔法、フュージョン・ゲート……」
 融合のカードを使わずに融合モンスターを召喚出来るフィールド魔法。
 ただし、その代償として素材モンスターは次元の渦へとサヨナラな場所。
「(ドロー加速の永続魔法……それに、融合カードを使わずに融合……)」
 何処かで聞いた事がある。思いだせ、玲子姉さんが言っていた筈だ。
「僕は、岩石の巨兵を守備表示で召喚! カードを2枚伏せ、ターンエンド」

 岩石の巨兵 地属性/星3/岩石族/攻撃力1300/守備力2000

「(岩石の巨兵か……壁を出して守りを固めて来た……)」
 なかなか厄介なモンスターだ。サファイアドラゴンでは100のおつりが来てこっちが自爆する羽目になる。
 だがしかし、今手札に上級モンスターはいない。それに、俺のデッキには。
 生け贄1体で呼べるレベル5、6のモンスターは少ない。オマケに、真紅眼を喚べる黒竜の雛も手札には無い。
「俺のターン! ドロー!」
 このドローで、せめて何かカードが来れば!

 折れ竹光 装備魔法
 このカードを装備したモンスターの攻撃力は0ポイントアップする。

「すがあああああああああああああっ!!!!!!!!!!!!!!!」
 だ、だ、だ、誰だ!
 俺のデッキに折れ竹光なんか仕込みやがったのは誰だぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!
 相方のカードがなけりゃ意味ねぇよアホたれ!
 いったいそんなん仕込んだのはどこのドイツだぁぁぁぁぁ!!!

 ドイツ 地属性/星4/天使族/攻撃力100/守備力200/ユニオン
 1ターンに1度だけ自分のメインフェイズに装備カード扱いとして自分の「ソイツ」に装備、または装備を解除して表側攻撃表示で特殊召喚する事ができる。
 この効果で装備カード扱いになっている時のみ、装備モンスターの攻撃力は2500ポイントアップする。
(1体のモンスターが装備できるユニオンは1枚まで。装備モンスターが戦闘によって破壊される場合は、代わりにこのカードを破壊する。)

「そのドイツじゃねぇわアホッ!」
 そもそもあのカードだって相方のソイツがいなければ役に立たんし。
「!!?!?!?」
 とりあえず脳内に浮かんだ思考を振り払うかのように叫びまくると、まずは深呼吸する。
 OK、俺はクールだ。クールになれ!
「カードを1枚伏せてターンエンド!」
 何せ手札が悪い事この上無い。どうすりゃいいんだが。
「僕のターン。ドロー! 手札の、ワームドレイクとヒューマノイド・スライムをフュージョン・ゲートの効果で除外し、降臨せよ!
 ヒューマノイド・ドレイク!」

 ワームドレイク 地属性/星4/爬虫類族/攻撃力1400/守備力1500

 ヒューマノイド・スライム 水属性/星4/水族/攻撃力800/守備力2000

 ヒューマノイド・ドレイク 水属性/星7/水族/攻撃力2200/守備力2000/融合モンスター
 「ワームドレイク」+「ヒューマノイド・スライム」

「攻撃力2200だとぉ!?」
 それじゃサファイアドラゴンの攻撃力を上回る、つまり遠慮なくおつりが来る。
 しかもフィールドにはまだ岩石の巨兵が存在する。攻撃表示に変更すればこのターンだけで1600もダメージをもぎ取れる。
「ヒューマノイド・ドレイクでサファイアドラゴンを攻撃!」
「……リバース罠、万能地雷グレイモヤを発動!」

 万能地雷グレイモヤ 通常罠
 相手が攻撃を宣言した時に発動する事ができる。
 相手攻撃表示モンスターの中から一番攻撃力が高いモンスター1体を破壊する。

「この効果により、ヒューマノイド・ドレイク爆破!」
「……カードを1枚伏せて、ターンエンド!」
「俺のターン! ドロー!」
 ダメだ、良いカードが来ない……。
「洞窟に潜む竜を守備表示で召喚! カードを1枚伏せて、ターンエンド」

 洞窟に潜む竜 風属性/星4/ドラゴン族/攻撃力1300/守備力2000

「僕のターン! ドロー! 魔法カード、苦渋の選択を発動!」
「リバース魔法、サイクロンを発動!」

 苦渋の選択 通常魔法
 デッキからカードを5枚選択して相手に見せる。
 相手はその中から1枚を選択する。
 そのカードを自分の手札に加え、残りは墓地に捨てる。

 サイクロン 速攻魔法
 相手の魔法・罠カードを1枚破壊し、墓地に送る。

「くっ……ターンエンド」
 平井が少しだけ顔を歪ませる。
 どうやらデュエルは膠着状態に陥ったようだ。まぁ、それは俺も同じ事だが。
「(俺も、平井も揃ってキーカードが引けないみたいだな……)」
 どうしたものだろうか。
 こんな状態を打開するのはかなり難しいだろう。

 かと言って、何もしなければ状況は打開しないままだ。

 その時だった。
 1台の高級車が、離れた場所で停まる。
 最初は気にも留めなかったが、その中から出て来た人影に俺は少しだけ驚く。
「うぉ、平井、ちょいとタイム」
「え? う、うん」
 高級車から降りた人影。それは。

「……驚いたな……里見智晴じゃねぇか………」
 里見智晴は一応俺のクラスメイトだ。ただし、里見財閥の御曹司とあってか、やたらと金持ちだ。
 そんなコイツまでバトル・シティに参加してるのか。

 里見智晴は特注らしい銀のデュエルディスクを付けた腕を軽く一回転させると俺達の元へと近づいてきた。
 銀のデュエルディスクって……なんか高く売れそうな気がするぜ。
「よう、里見。お前も学校をサボって参加か?」
「失敬だな、黒川。僕はちゃんと欠席届を出して来ている。それより………黒川はまさか欠席届を出してないのか?」
「当たり前だろ。な、平井?」
「ごめん、僕も欠席届出してるけど」
 こ、コイツら。抜かりねぇ。無断欠席は俺と貴明だけですか。
「……黒川と宍戸の事だから欠席届出してないんだな? おい、宮崎。黒川と宍戸の欠席届を出すよう、計らってくれたまえ」
「かしこまりました、お坊ちゃま」
 里見の執事である宮崎さんは軽く一礼すると、すぐに車の中に消える。
 どうやら手を打ってくれているらしい。ありがたやありがたや。
「……ところで、黒川。彼はもしかして隣りのクラスの平井か?」
「ああ、そうだ。コイツも参加中。お前も?」
「当然だろう。まぁ、黒川や宍戸ほど表立ってはいないが」
 なるほど、里見も参加中か。
 待てよ、この際……。
「なぁ、トライアングルデュエルをしねぇか? 3人で同時にやれば早く終わるぜ」

 俺の提案に、2人は一瞬だけ呆気に取られた。
 だが、すぐにその意味に気付いたのか、了承した。
「僕はいいよ」「僕も構わない」
「よし! じゃあ、勝者はパズルカードを2枚貰えて……そして俺か平井が勝ったら、里見、そのデュエルディスクくれ」
「構わない」
 あれ? なんかあっさりだな。
「その代わり僕が勝ったら黒川は真紅眼の黒竜を、平井は双頭の雷龍をくれると嬉しいね」
 アンティ勝負か……。まぁ、いい。勝てばいい事だ。
「まぁ、この特注のメタルシルバー・デュエルディスクは2台あるからね」

 金持ち怖っ!



 ビルの屋上。
 デュエルディスクを身に付け、その人影は立っていた。
 デュエルを終えた直後なのか、デュエルディスクからカードをデッキに戻し、よくシャッフルしている。

 その正面に、目を見開いたまま気絶している人物がいる事を除けば、だが。
 その人影はカードを1枚手に取り、そして口を開いた。
「三神竜……伝説のカードの1つ………」
 カードをデッキに戻し、更に言葉を続ける。
「………この強大な力なら、オレは兄貴を……ヨハン・アンデルセンを越せる。レインボー・ドラゴンも越せる。ペガサスすらも越せる」
 彼―――――ゼノン・アンデルセンはまだ知らない。
 この三神竜はペガサス、いや、天馬夜行ですらカードにするのを躊躇ったカードである事を。

 この呪われた神のカードの力を、彼は知らない。

 だけど彼はそんな事に気付かない。
 ただ、ヨハン・アンデルセンを越えたいという思いだけが、彼を動かしているから。
「さぁ、神竜」
 彼は嗤う。何も知らぬまま、嗤う。
 強大な力に付き纏う代償も、その恐ろしさにも気付かぬまま嗤う。

「決闘王に……オレは、なる。その為に、力を貸せ! 天空の神竜!」

 彼にもしも、兄と同じ目があるのなら。
 きっと見えていたに違いない。

 彼の頭上で、彼を見守る―――――いや、儚げに見つめる、竜の姿を。

 彼は、気付いていなかった。



 海馬コーポレーション本社ビル。
 世界中のデュエルディスクを束ねるマザー、デュエルリングサーバーは元気に稼働していた。

 それを眺める人影は、間違いなく海馬コーポレーション社長の海馬瀬人である。
「磯野! 盗まれた神竜は見つかったのか?」
「いいえ、まだです。瀬人様……」
「3枚全てだぞ。それらを1人で持ち歩くとは思えんがな……」
「はい、しかし……何故、今さらまた三神竜が……」
「解らん。俺に聞くな」
 海馬が背を向けた時、磯野が急に口を開いた。

「海馬様。アレからもう既に3年。まだ、覚えてらっしゃる方は大勢おります。この大会にも、覚えている方がいらっしゃる可能性も無くはありません」
「構わん。決勝の会場で、俺が真実を告げる。ただ、それだけの事だ」
 直後、別の扉が開いて別の社員が海馬へと近づいた。
「海馬様。お客様です。応接室で待たせておりますが……」
「こんな時に客だと? 誰だ?」
 海馬に対し、社員が耳元で囁く。
 海馬は少し頷くと、すぐに応接室へと向かった。

「フン……まさか奴とまた会うとはな……」
 そう呟いた海馬の表情には、珍しい微笑みが浮かんでいた。



《第5話:アンティルール、トライアングルデュエル、夢追いし者は戦い続ける者!雄二VS平井VS里見》

 俺と平井のデュエルは仕切り直し、と言う事でデッキの調整に入る。
 案の定、誰かが俺のデッキにイタズラでもしていたのか、折れ竹光だけでなく寄生虫パラサイトまで入れられていた。
 ここまでくれば犯罪クラスだが捨てる訳にも行かないのでポケット行きである。

「「「デュエル!」」」

 黒川雄二:LP4000 平井剛志:LP4000 里見智晴:LP4000

「俺の先攻ドロー!」
 散々シャッフルしたせいか、マトモなカードがようやく出て来た。
「ブリザード・ドラゴンを攻撃表示で召喚! カードを1枚伏せて、ターンエンド」

 ブリザード・ドラゴン 水属性/星4/ドラゴン族/攻撃力1800/守備力1000

「僕のターン、ドロー。魔法カード、凡骨の意地を発動! そしてヒューマノイド・スライムを守備表示で召喚! ターンエンド」

 凡骨の意地 永続魔法
 ドローフェイズにドローしたカードが通常モンスターだった場合、
 そのカードを相手に見せる事で、自分はカードをもう1枚ドローする事ができる。

 ヒューマノイド・スライム 水属性/星4/水族/攻撃力800/守備力2000

「僕のターンだね。ドロー」
 里見がドローする。コイツまでデュエルをやってるとは、ウチの学校はデュエリスト大国か?
 そうかも知れない……卒業生に伝説のデュエリストが4人もいれば。
 決闘王に師匠に海馬社長に獏良了……凄い学校だ、ウチの学校。
「魔法カード、魂の暴走召喚を発動! 魂の暴走召喚の効果でスパイラルドラゴンを召喚! カードを2枚伏せてターンエンドだ」

 魂の暴走召喚(オリカ) 速攻魔法
 手札を2枚捨て、1000ライフポイントを支払う。手札よりレベル5以上のモンスター1体を特殊召喚する。
 このターン、バトルフェイズを行う事は出来ない。

 里見智晴:LP4000→3000

 スパイラルドラゴン 水属性/星8/海竜族/攻撃力2900/守備力2900

「こ、攻撃力2900だとぉ!?」
「す、凄い。1ターン目で最上級モンスターを呼ぶなんて……あと、これ、レアカードだよね……カッコいい」
「なになに、平井。僕はこのデッキにスパイラルドラゴンを3枚積みしてるんだよ? 既に29枚持ってるからね」
「自分で手のうちバラしてどーする」
「あ」
 俺の言葉に里見は頭を抱える。抜けてるんだな、意外と。
 あ、そう言えば俺のターン。
「俺のターン! ドロー!」
 来い、カード。

「里見。本当の速攻召喚、見せてやるよ」

 行くぜ、基本にして最強コンボを!
「手札より、黒竜の雛を召喚! 黒竜の雛の効果発動! 黒竜の雛を墓地に送り、真紅眼の黒竜を召喚!」

 黒竜の雛 闇属性/星1/ドラゴン族/攻撃力800/守備力500
 このカードを墓地に送る事で手札より「真紅眼の黒竜」を特殊召喚する。

 真紅眼の黒竜 闇属性/星7/ドラゴン族/攻撃力2400/守備力2000

「魔法カード、団結の力を発動! 真紅眼の黒竜に装備させて貰うぜ!」
「なっ……!?」

 団結の力 装備魔法
 このカードを装備したモンスターは自分フィールドのモンスターの数×800ポイント分、攻撃力・守備力がアップする。

 真紅眼の黒竜 攻撃力2400→4000

「行くぜ、レッドアイズでスパイラルドラゴンを攻撃! ダーク・メガ・フレア!」
「どわあああああああぁぁぁぁっ!!!!!!」

 里見智晴:LP3000→1900

「カードを1枚伏せて、ターンエンドだぜ」
「僕のターン。ドロー! 魔法カード、融合を発動。手札のワームドレイクとフィールドのヒューマノイド・スライムを融合!
 ヒューマノイド・ドレイクを融合召喚!」

 ワームドレイク 地属性/星4/爬虫類族/攻撃力1400/守備力1500

 ヒューマノイド・ドレイク 水属性/星7/水族/攻撃力2200/守備力2000/融合モンスター
 「ワームドレイク」+「ヒューマノイド・スライム」

「カードを2枚伏せて、ターンエンド」
「……僕のターン! ドロー! 永続罠、正統なる血統を発動。スパイラルドラゴンを蘇生! 更に、魔法カード、疫病ウィルス
 ナイトメア・ソローを発動! 真紅眼の黒竜に装備!」

 正統なる血統 永続罠
 自分の墓地から通常モンスター1体を選択し、攻撃表示で特殊召喚する。
 このカードがフィールド上に存在しなくなった時、そのモンスターを破壊する。
 そのモンスターがフィールド上に存在しなくなった時、このカードを破壊する。

 疫病ウィルス ナイトメア・ソロー(オリカ) 装備魔法
 このカードを装備したモンスターは攻撃力が半分になる。
 このカードを装備したモンスターのプレイヤーはこのカードを装備したモンスターが戦闘で破壊された際、500ポイントのダメージを受ける。

 真紅眼の黒竜 攻撃力4000→2000

「そして、スパイラルドラゴンで真紅眼の黒竜を撃破! スパイラルウェーブ!」
「くっ……!」

 黒川雄二:LP4000→3100→2600

「更に、ウィルスの効果で500ポイントダメージを受けて貰う。カードを1枚伏せて、ターンエンドさ」
「くっそ……俺のターン! ドロー!」
 マズい状況だ。
 俺のフィールドにはブリザード・ドラゴンのみ。それに対し、平井は攻撃力2200のヒューマノイド・ドレイク。
 そして里見のフィールドには攻撃力2900のスパイラルドラゴンが控えている。
 かなりマズい状況にある。どうやって乗りきれば良いだろうか。
 どうする……どうする……考えろ……考えるんだ……。
「俺のデッキは、レッドアイズのデッキだ。だけど、レッドアイズ1つで成り立ってるんじゃねぇ……」
 俺が漏らした呟きに、平井と里見が顔を上げる。
「………それは……どういう……」
「なぁ、平井。お前も思うだろ? どんなに強いカードも、それ1つだけじゃデッキは成り立たねぇ。どれだけ強くても召喚出来なけりゃ、発動しな
 けりゃただの紙切れでしかない。それに命を吹き込むのは俺達デュエリストだ」
「……………」
「これは別にデッキの事だけじゃねぇ。それ以外にしてもそうさ」
 俺の言葉に、平井が黙り込む。
 自分がいじめられてる事に関して俺が話してる事に、気付いたのだろうか。
「世界は1人の為だけに存在してるんじゃない。世界全員の為に存在してやがる、お前1人をのけ者にするなんて有りえない」
「……確かに、こうして出会わなければ、僕達はデュエルもしなかったからね」
 里見が思いだしたように呟く。まぁ、確かにそれはそうだ。
「だから、お前、強いな」
 俺は平井にそう言うと、手札を見る。

「手札より魔法カード、光と闇の嘆きを発動! 1000ライフポイントを払い、フィールドのブリザード・ドラゴンを生け贄に捧げる!
 このコストにより……デッキより、2体の竜を呼ばせて貰う。召喚! マグナ・スラッシュドラゴンと、グラビ・クラッシュドラゴン!」

 光と闇の嘆き(オリカ) 通常魔法
 このカードを発動する為にはフィールドの表側表示のモンスター1体を墓地に送り、1000ライフポイントを支払う。
 デッキよりレベル6以下の光属性と闇属性のモンスターを1体ずつ特殊召喚する。

 黒川雄二:LP2600→1600

 マグナ・スラッシュドラゴン 光属性/星6/ドラゴン族/攻撃力2400/守備力1200

 グラビ・クラッシュドラゴン 闇属性/星6/ドラゴン族/攻撃力2400/守備力1200
 フィールド上の表側表示の永続魔法を墓地に送る事で、相手フィールド上のモンスター1体を破壊する。

「更に、リバース魔法、墓守の使い魔を発動!」

 墓守の使い魔 永続魔法
 相手はデッキの1番上のカードを墓地に送らなければ攻撃宣言する事が出来ない。

「グラビ・クラッシュドラゴンの効果発動! フィールド上の、墓守の使い魔を墓地に送り、スパイラルドラゴンを破壊!」
「なにぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!?」
「更に、グラビ・クラッシュドラゴンでヒューマノイド・ドレイクを攻撃!」
「うわあああああああ!!!!!」
「ついでに、マグナ・スラッシュドラゴンで平井剛志にダイレクトアタック!」
「ひぇぇぇぇぇ!!!!」

 平井剛志:LP4000→3800→1400

「ははははははははははははは! ターンエンドだぜ」
「ぼ、僕のターン! ドロー!」
 平井は先ほどまでのドローは、普通にドローしていた。
 だが、今のドローは違った。どこか自信がついたような、そんな感じがする。
「魔法カード、コストダウンを発動! この効果で、フロストザウルスを召喚!」

 コストダウン 通常魔法
 手札を1枚捨てる。自分の手札にある全てのモンスターカードのレベルを、発動ターンのエンドフェイズまで2つ下げる。

 フロストザウルス 水属性/星6/恐竜族/攻撃力2600/守備力1700

「フロストザウルスで、グラビ・クラッシュドラゴンを攻撃!」

 黒川雄二:LP1600→1400

「カードを2枚伏せて、ターンエンド」
「僕のターン。ドロー! 暗黒の海竜兵を守備表示で召喚! カードを1枚伏せて、ターンエンド」

 暗黒の海竜兵 水属性/星4/海竜族/攻撃力1800/守備力1500

「俺のターン! ドロー!」
 強化カードが来れば、ハデに動けるのだが……そうそう上手くは行かないらしい。
 仕方がない、ここはハデに攻撃でも落としておくか。
「罠カード、鎖付き爆弾を発動! マグナ・スラッシュドラゴンに装備させてもらうぜ」

 鎖付き爆弾 通常罠
 このカードは攻撃力500ポイントアップの装備カードとなり、自分フィールド上のモンスターに装備する。
 装備カードとなったこのカードが他のカードの効果で破壊された場合、全フィールド上からカード1枚を選択し破壊する。

 マグナ・スラッシュドラゴン 攻撃力2400→2900

「マグナ・スラッシュドラゴンでフロストザウルスを攻撃!」

 平井剛志:LP1400→1100

「カードを1枚伏せてターンエンド」
「僕のターン! ドロー! 速攻魔法、リロードを発動!」

 リロード 速攻魔法
 自分の手札を全てデッキに加えてシャッフルする。
 その後、デッキに加えた枚数分のカードをドローする。

「そして、デッキに加えた分だけドローさせて貰うよ。そして……サンダー・ドラゴン3体を手札融合! 出でよ、僕の最強モンスター!
 サンダー・エンド・ドラゴン!」

 サンダー・ドラゴン 光属性/星5/雷族/攻撃力1600/守備力1500
 手札からこのカードを捨てる事で、デッキから別の「サンダー・ドラゴン」を2枚まで手札に加える事ができる。
 その後デッキをシャッフルする。この効果は自分のメインフェイズ中のみ使用する事ができる。

 サンダー・エンド・ドラゴン(オリカ) 光属性/星10/雷族/攻撃力4000/守備力2800/融合モンスター
 「サンダー・ドラゴン」+「サンダー・ドラゴン」+「サンダー・ドラゴン」

「さ、サンダー・エンド・ドラゴン………」
「あの伝説のサイバー・エンド・ドラゴンとは名前とパラメータが似てるだけの……」
「確かに攻撃力だけはな………だけど貫通効果無いし」
「行くぞ、サンダー・エンド・ドラゴンでマグナ・スラッシュドラゴンを攻撃! サンダー・ディストラクションバースト!」
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」

 黒川雄二:LP1400→300

「鎖付き爆弾の効果発動だぜ! 悪いが、お前のサンダー・エンド・ドラゴンを破壊させてもらう!」
「あっ………ターンエンド」
「僕のターンだね」

「………金持ちというのはなかなか難儀な事だよ。他人が思ってる程気楽じゃない」

 急に里見が口を開く。
「故に、親の七光りだなんだとよく言われる。まぁ、それは否定はしないよ。僕が今の地位にいるのは親の力あってこそだ。だけどね、それでも
 いずれ親は死ぬ。その時の為に、自らの手で何の功績も打ち立てていなければ………ただのアホに過ぎない。どんな人間であれ、功績というも
 のは必要だ。それは自分の手で組み立てる」

「故に、僕はこの大会に参加した。己が手で、己が功績を作る為にね! 己が手で何かを作らなきゃ、名も残らなければ生きた証、
 いいや、魂すらも残りはしない! ならば、作りだそう! 生みだしてやろう! 魂を刻みつけてやる! この僕がッ、生きた、
 名を残してッ! そして、全ては輝ける未来の為に! だから、今は………」
「「今は……?」」
 俺と平井が、いいや、成り行きを見守る人間達も息を飲んだ。
「このドローに懸ける! ドロー!」
 結局はドローするだけか。
 だけど、なかなか面白い事を言っていた気がする。
 自身の手で何かを築かなきゃ、何も残らない。
 あ……。

 昔、師匠とそんな些細な会話をした覚えがある。
「なぁ、雄二。デュエルをするにしても、何をするにしても、結局人は自分の手で何かを作り上げなきゃいけない事になる。
 俺だって、デュエルを始めたばかりはまったく勝てなかったけど、親友に出会って、親友と一緒に……そして、俺自身の手
 でデッキを作り上げた。それで神に挑んで散っても、それでも後悔はしてねぇ」
「負けたのに、後悔しなかったの?」
 その時の俺はまだデュエルを始めて間も無かったせいか、勝ち負けというのに異様に拘っていた。
 だからそんな質問をしたのかも知れない。
「ああ。後悔してねぇ。俺自身が望んで、俺自身が神に挑んだ。たとえそれで負けたとしても、俺自身が望んだ事だから、負ける事も
 覚悟の1つとしてあった。だから、後悔してねぇ。覚えとくといい。デュエルは勝ち負けが全てじゃねぇ。負けたら悔しい、勝った
 ら嬉しいのは一緒だが、それ以上に大事な誇りってのを忘れちゃいけないんだぜ」
 師匠はそう言うと、一瞬だけ背を向けた。
「ま、デュエリストの誇りってのが無けりゃ、デュエリストなんて名乗っちゃいけない気もするぜ」
 師匠はそう言って笑った。

「(ああ、そうか……一緒なんだ……)」
 そう、平井も、里見も。そして俺や貴明も。
 デュエルに懸ける思いは、皆一緒だ。

「……黒川?」
 急に声をかけられ、俺は我に返る。
「僕のターンを続けていいか?」
「ん……あ、ああ」
「なに。別に慌てる必要はない。まだ制限時間まで9時間はあるからね」
 里見はそう言い放つと、手札を掴んだ。

「手札より、黙する死者を発動! スパイラルドラゴンを蘇生!」

 黙する死者 通常魔法
 自分の墓地より通常モンスターを1体、表側守備表示で特殊召喚する。
 そのモンスターはフィールド上に存在する限り攻撃出来ない。

「そして、暗黒の海竜兵および、スパイラルドラゴンを生け贄に捧げ、海竜−ダイダロスを召喚! 更に……海竜−ダイダロスを墓地に送り、
 海竜神−ネオダイダロスを特殊召喚!」

 海竜−ダイダロス 水属性/星7/海竜族/攻撃力2600/守備力1500

 海竜神−ネオダイダロス 水属性/星8/海竜族/攻撃力2900/守備力1600
 このカードは通常召喚出来ない。
 自分フィールド上の「海竜−ダイダロス」を生け贄に捧げた場合のみ特殊召喚出来る。

「海竜神−ネオダイダロスにて………悪いね、平井。君の夢を、僕は忘れないし……それに、君も僕の事を忘れないでくれ。平井剛志に、
 ダイレクトアタック!」

 平井剛志:LP1100→0

「…………ターンエンド」
「リバースカードを発動させて貰った」
「なに!?」
 俺の言葉に、里見が驚いた顔をあげる。
「リバース罠、リビングデッドの呼び声を発動。真紅眼の黒竜を蘇生させて貰った」

 リビングデッドの呼び声 永続罠
 自分の墓地よりモンスター1体を攻撃表示で召喚する。
 このカードがフィールド上に存在しなくなった時、そのモンスターを破壊する。

「だが、真紅眼の黒竜の攻撃力は2400……まだ、僕の方が有利だ」
「だけど、次は俺のターンだぜ! ドロー!」

 カードを確認する。手札も確認。
 里見のフィールドに存在するのは、海竜神−ネオダイダロスのみ。リバースカードは無い。

「里見」
 俺が口を開くと、里見は顔を上げた。
「なんだ?」
「………さっき、夢の話をしたよな?」
「ああ」
「……結局の所。1人の人間が夢を掴むのに、他の人間を時には蹴落とさなきゃならない。だから、夢を追う奴はそれを知らないとダメだ。夢を
 追う時、時として誰かを蹴落とす。だから、夢を追う俺達は―――――――蹴落とした奴の分も、夢を追い続けないといけない」

「速攻魔法! ブラッド・ヒートを発動! 真紅眼の黒竜の攻撃力を上げさせて貰うぜ!」
「なにっ………!?」

 ブラッド・ヒート(オリカ) 速攻魔法
 このカードはバトルフェイズ中にライフポイントの半分を支払って発動可能。
 自分フィールドの表側攻撃表示のモンスター1体を選択し、そのモンスターはそのターンのエンドフェイズまで、
 攻撃力はそのカードの攻撃力に守備力の2倍を加算した値になる。
 このターンのエンドフェイズ時、対象となったモンスターを破壊する。

 黒川雄二:LP300→150

 真紅眼の黒竜 攻撃力2400→6400

「攻撃力……6400……フィールドのネオダイダロスは攻撃表示…………」
「だから俺は、お前らの分も夢を追う。ぜってー、勝って……決闘王に、俺は、なる!」
 俺の夢。師匠が果たせなかった夢。
 そして、真の決闘者になりたい俺の目標。

 魂を込めてまで、叫んだ夢。

「……………ああ、そうだな。君みたいな奴なら……出来るかも知れない……やれ、黒川!」
「行くぜ! レッドアイズの攻撃! ダーク・メガ・フレア!」

 里見智晴:LP1900→0

「僕の……負けだな」
 膝を突く里見。ソリッドビジョンが、消える。
「ああ…………俺の、勝ちだ……」

 唐突に、拍手がわいた。
 見ると、平井からだった。平井から、周りでデュエルを見ていたギャラリーへ。そして、それは里見にも。
「…………黒川」
 里見はデュエルディスクを外すと、付きだした。
 特注品の、メタルシルバー・デュエルディスク。
「……お前は、僕らの分の夢を追いかけてくなら、このデュエルディスクに、僕達の夢を乗せてくれるかい?」
「…………当たり前だ。男に二言はねぇ」
「なら、僕と平井の分の、夢を……」「このデュエルディスクに乗せて、連れてって。決闘王の、称号に」

 2人の夢。いや、俺が倒してきた、そして倒していくデュエリスト達の夢。
 ならば、一緒に連れてってやるさ。一緒に夢を追いかけ続けよう。

 諦めない事も、夢を追いかける事なのだから。

「………じゃあ、いつかまた」
「うん、またね」
 去り行くのは敗者。俺は後何人、同じ背中を見送るのだろう。
 それは解らない。だから俺は2人に、ただ1つ言うしか出来ない。

「Never give up , I can believed.(諦めない。俺は出来ると信じてる)」
 ただ、それだけが俺の誇り。



《第6話:同じ場所、違う道、それぞれの道》

 黒川雄二は悔しさから始まった。
 何でも出来る天才と言われた兄と自分の差が悔しかった。

 宍戸貴明は寂しさから始まった。
 病死した母親がいない寂しさを紛らわせたいだけだった。

 高取晋佑は悲しみから始まった。
 何も出来ない落ちこぼれと呼ばれた悲しみをやめたかった。

 彼等は集う。そして、同じ場所から始まった。
 信念を貫きたかったのか、心を満たしたかったのか、栄光を勝ち取りたかったのか。
 それがそれぞれの道。だけどそれでも、同じ場所から始まった。

 そして今は違う道を進む彼らは今も、戦い続けているのだろう。

「夢、か………」
 閉じていた目を開く。
 しばらくベンチで休もうと思っていたが、どうやら眠っていたらしい。
 高取晋佑は、ゆっくりと身体を起こした。
「勝利の栄光、か………」
 思わず呟く。幾度無い、敗北を繰り返し、その度に勝利を掴み取り、その数も最早覚えていない。
 だがしかし、これだけは言える。

 幼い頃の親友がきっと今はいるだろう。
 だが、彼らよりもずっと俺は。

「勝ちたいだけなのさ、俺は……」



 ベンチに座り込んだままの高取に、1人の人影が近づいてきた。
 片手にデュエルディスクを装着している。どうやら決闘者のようだ。
「生憎とデュエルはもうお終いだ。もうパズルカードを6枚揃えたんでね」
「安心しろ。俺ももう6枚揃えている」
「早いな。まだ12時過ぎだぞ」
 高取の言葉に、相手は笑いもせずに高取を見ている。
「所詮こんなレベルさ。悔しいがこれでもデュエル・アカデミア アークティック校の元No.2なんでね」
「ほう、それはそうか。それは失礼したな。俺は高取晋佑。お前は?」
「ゼノン・アンデルセンだ。それと、もう1つ」
 ゼノンと名乗った少年はデッキからカードを1枚抜き取り、高取の前に差し出す。
「天空の神竜ヴェルダンテの所持者だ」
 天空の神竜ヴェルダンテ。
 盗まれた三神竜の1つ。だがしかし、そんなゼノンを見ても高取は笑いもせずに口を開いた。
「生憎だな。俺も神竜なら持っている」
「……何!?」
「ああ。お前がヴェルダンテの所持者」
「…………お前、なんでそんな冷静なんだ?」
「これがあるからな」
 高取はさっきゼノンがしたように、デッキからカードを1枚抜いた。
 そのカードを確認したゼノンは思わず絶句した。
「………混沌の神竜……オーデルス……」
 口から漏れた言葉に、高取が奇妙に微笑む。
「後で、決勝戦で会おうじゃないか、ゼノン・アンデルセン。ま、優勝は俺だがな」
 高取がそう言い放って去っていくのを、ゼノンはただ黙って見ていた。
 その手に、神竜のカードは握られたままだった。



 歩いてきた道に刻まれたのは自分の運命。
 これから進む道に刻まれるのは自分の未来。
 運命を嘆く訳でも無く。
 未来を投げ捨てる訳でも無く。
 己の手で取り戻すものはプライド。
 そしてその運命すらも自分の手で掴み取れ。
 ただ進み続ける事が俺のデスティニー。


 海馬コーポレーションの応接室の壁にはこんな言葉が刻まれている。
 正確には不本意ながら刻まれた訳でその下には『凡骨にして馬の骨がロクデナシHEROに贈った言葉』と書いてある。
 その壁に刻まれた言葉を、1人の女性が見上げ続けていた。
 そこへ、海馬コーポレーション社長の海馬瀬人が扉を開けて入ってきても、女性はまだ壁を見ていた。
「久し振りだな」
「あ、こ、こちらこそお久しぶりです……。急に来てしまって、申し訳ありません」
「気にするな。北森……いや、今はあの凡骨と同じ名字か。城之内玲子、だったか?」
「はい。この前入籍したんです」
 北森玲子あらため城之内玲子は元カード・プロフェッサーとして天馬夜行が引き起こした事件の際に傭兵として雇われていたが、城之内はそんな
 細かい事は気にしないタチなのでこの前見事入籍となった訳だ。
「それにしても急に何の用だ?」
「はい、神竜が盗まれたので大会が開かれたと聞きました」
 玲子の問いに、海馬はしばらく黙り込む。
 肯定も否定もしない。玲子は、すぐに言葉を続けた。
「あのカードは、3年前にあの人が封印した筈です。そしてそれを知る人は数少ないです」
「貴様、知っているか?」
 海馬が急に口を開き、玲子は「はい?」と首を傾げた。
「3年前に事件を起こした連中の1人……奴はまだ中学生だった。そいつは今、そのデュエル・アカデミアに在学している」
「なんですって!?」
「安心しろ、奴をすぐに調べ上げた。だが、奴が盗んだ訳でも手引きした訳でも無いようだ。そもそも知らなかったらしい、幸いにしてな」
「はぁ……驚かせないで下さい」
「それともう1つ。本当に知っている人間がいないと思っているのか?」
 海馬の言葉に、玲子が目をキョトンとさせた。
 あまりの反応に海馬は少し呆れたように、1枚の紙を差し出した。
「今大会の参加者リストだ。見てみろ」
 海馬の言葉に、玲子は視線を名前から名前へとズラしていく。その時、幾つかで目が止まった。
「……黒川雄二、宍戸貴明、高取晋佑………」
「そうだ。あの凡骨チルドレン共が3人もいる」
「その凡骨チルドレンはやめて下さい。お願いします」
「やかましい。凡骨は凡骨で充分だ」
 海馬は冷たく言い放った時、応接室の扉が開き、社員が駆け込んできた。
「海馬サマ! 神竜が2枚、見つかりました!」
「なにっ!?」
 どうやらドタバタした事態はまだ収束しそうにない。
 海馬はそう思って聞かれないようにため息をつくのだった。



 こんにちは、宍戸貴明です。
 俺はただいま、童実野町を魔法以上のユカイに(?)爆走中です。

「あっはっはっはっは! どうだい、運転の腕も捨てたもんじゃないよね、少年?」
「いやいや……べべべべべべ別にそういう意味ではって……スピードもっと落して下さいよ、お姉さん!」
 と、いうより俺はデュエルに勝ったお陰でミニパトに乗ってます。
 だけど暴走しないで下さい、婦警さん。
 ダメだ、俺の話聞いてねぇ。

 永遠に続くかと思った暴走の時間は、突然終わる。車内無線が鳴ったからだ。
「あ? 暴走車が出たから応援よろしく? そんなの交通課に任せときゃ……なに? 交通課はアンタだろってそう言えばそうだな。面倒くさいけど行くか」
 婦警さんは車内無線の受話器を文字通り叩き付けると、ドアを開いた。
「悪いね、少年。この辺りで降りて」
「あ、いえいえ、乗せてって頂いてどうも」
 正確にはもう乗りたくないの間違いだけどな。
 とりあえず何度もお礼を言ってからまたしても暴走していくミニパトを見送り、もしかして暴走車ってあのミニパトじゃないかと思いたくなる。
 まぁ、それは気にするべき事じゃないかも知れない。気にしたら負けだ。

 時刻は1時過ぎ。時間まで後7時間。パズルカードは2枚。
「これは……急ぐべきか?」
 慌てる程では無いかも知れないが急ぐべきかも知れない。
 6枚集まっても会場に辿り着かないと意味が無いのだから。
「とは言っても、今いる場所は………」
 海がよく見える、という事はここは埠頭か。
「童実野埠頭……」
 そう言えば昔師匠から聞いた事がある。
 師匠のデュエリスト人生は此処から始まったという事を。
 決闘王と2つの星を分け合う事から始まり、時に友情の為に戦った事もあったらしい。
 なるほど、想像するだけで伝説が埋もれてやがる。

 そしてこれからも、伝説は生まれるのだろうか。
 誰かの手によって。

 俺が海を眺めていると、背後から足音が響いてきた。
「こんにちは」
「え? ああ、こんにちは」
 背後からの声に、ゆっくりと振り返る。
 相手は俺より少し年上らしい、だけど穏やかな顔をした青年で、少し微笑んで俺の片手を見る。
 どうやら彼もデュエリストらしい。
「バトル・シティ参加者ですか?」
「ええ、そうです。貴方もですか」
「俺もですよ」
 お互いにそこまで言った後、何故か会話が途切れてしまった。
 デュエルしようと言いだすつもりではいても、何故か言葉が出て来ない。

 しばらくして、相手がようやく口を開いた。
「海はいいですね。僕には貴方と同じ位の弟が1人いましてね、幼い頃によく2人で海で遊んでました」
 そう言えば、雄二の奴は海がある街の生まれだと言っていた。
 現に童実野町に引っ越してきたのは中学生の頃らしいし。
「弟か……俺は1人っ子なんですけど、どうです? 兄弟って?」
「悪いものじゃないですよ。ただ、少し我が侭なんですけどね」
 相手はそう言って小さく肩を竦めた。
「我が侭って?」
「ええ。まぁ、些細な事なのですが自我が強くて。まぁ、決して悪い事では無いと思いますよ、やると言ったらやるという信念はね」
「ああ、ようは頑固者って事ね。俺の親友に1人いますよ、そんな頑固な奴が。ま、確かに悪い奴じゃないですね」
 お互いにそこまで言って、まずは盛大に笑った。

「名前、聞いてなかったですよね」
「そうですね。僕は黒川雄一。貴方は?」
 黒川ってどっかで聞いた名字ですが敢えて俺は気にしません。
「宍戸貴明です。海をバックにデュエルするってのも、いいかも知れませんね」

 俺の言葉に、相手が小さく頷く。

「「デュエル!!」」

 宍戸貴明:LP4000 黒川雄一:LP4000

「俺の先攻ドロー!」
 手札はさして……悪くない。
 だが先攻1ターン目は攻撃できないのだが、ここでアタッカーを並べてしまうのも悪くない。
「イグザリオン・ユニバースを攻撃表示で召喚!」

 イグザリオン・ユニバース 闇属性/星4/獣戦士族/攻撃力1800/守備力1900

「カードを2枚伏せて、ターンエンド」
「僕のターン。ドロー」
 相手は手札を確認し、ゆっくりと考え込み始めた。
 相手を急かせる理由も特にないのでしばし待つ。
「憑依装着−エリアを攻撃表示で召喚します」

 憑依装着−エリア 水属性/星4/魔法使い族/攻撃力1850/守備力1500

「カードを1枚セットし、ターンエンドです」
「俺のターン。ドロー! 手札より、ダーク・ヒーロー ゾンバイアを召喚!」

 ダーク・ヒーロー ゾンバイア 闇属性/星4/魔法使い族/攻撃力2100/守備力500
 このカードは相手プレイヤーを直接攻撃出来ない。
 相手モンスター1体を破壊する度に攻撃力が200ポイントダウンする。

「行くぜ、バトルだ!」
 2体もいれば、憑依装着−エリアを撃破し、相手にダイレクトアタックも可能だ。
「ゾンバイアで、憑依装着−エリアを攻撃!」
「リバース罠、発動! 攻撃の無力化!」

 攻撃の無力化 カウンター罠
 相手モンスター1体の攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了させる。

「(リバースにもうちょい警戒するんだったな)」
 そんな風に悔いても遅く、既に攻撃は飲み込まれていく。
 仕方なく、俺はターンエンド宣言する事にした。
「カードを1枚伏せて、ターンエンドだ」
「では、僕のターン。ドロー」
 相手は手札を確認してから、即座に動いた。
 速い。ドローしてから1秒も掛かってない。
「フィールド魔法、伝説の都アトランティスを発動!」

 伝説の都アトランティス フィールド魔法
 このカードのカード名は「海」として扱う。
 手札とフィールドの水属性モンスターはレベルが1少なくなる。
 全ての水属性モンスターは攻撃力と守備力が200ポイントアップする。

「(アトランティスって事は、水属性デッキか!)」
「この効果により、手札よりジェノサイドキングサーモンを召喚!」

 ジェノサイドキングサーモン 水属性/星5/魚族/攻撃力2400/守備力2200

「そして、ジェノサイドキングサーモンと憑依装着−エリアは攻撃力が200アップします」

 ジェノサイドキングサーモン 攻撃力2400→2600
 憑依装着−エリア 攻撃力1850→2050

「では、バトル! ジェノサイドキングサーモンで、ゾンバイアを。憑依装着−エリアで、イグザリオン・ユニバースを攻撃!」

 宍戸貴明:LP4000→3500→3250

「ターンエンドです」
「っ……俺のターン! ドロー!」
 どうやらこのデュエル、面白くなりそうだ。
 俺は相手に気付かれないように、小さく笑みを浮かべるのだった。



「………これは本当か?」
 海馬コーポレーションの心臓部ともいうべく、デュエルリングサーバーの安置されている部屋は、奇妙な静寂に包まれていた。
 その静寂を破ったのは、海馬瀬人の言葉だった。
「はい、間違い有りません」
 海馬にそう答えたのは片腕の磯野だ。
「……………」
 来客、である玲子は黙っていた。そのあまりの報告に、まだ信じられない様子で。
「問題は高取晋佑がどうやって神竜を手に入れたか、だな」
「盗まれた、と海馬社長がおしゃったのなら、盗んだのでしょう」
「ほう、お前がそんな事を言うか。だがな……俺にはただ奴が盗んだとは思えん」
 海馬はそう言い放つと、デュエルリングサーバーを見上げた。
「3年前の事件も裏があるように、今回も裏がある。俺にはそうとしか見えん………磯野!」
「はっ! なんでしょう、海馬サマ!」
「ヘリの用意だ。それと………黒川雄二と宍戸貴明の居場所を探しだせ。もし失格していないのであれば……主催者である俺が加担するのは良くない
 かも知れんがこの際どうでもいい。俺のやる事だ、俺が責任を取る」
 海馬はさっさと並べ立てると、玲子を振り返った。
「お前も来い! あのバカ共の事でこの俺が騒ぐ事になるとはな、貴様も責任を取って貰うぞ!」

 海馬の言葉に、決して二言はない。
 彼が動くと言ったからには、動く。この大会の裏で動く影を引きずり出す為に。


「神竜か………」
 飛び立つ直前のヘリを前に、海馬が口を開いた。
「俺にとって、あのカードほど敵に回して厄介なカードはなかったな。三幻神……いや、三邪神ですら上回るだろう。あれをカードにした夜行の気が知れん」
「ですが、夜行さんも結局は使いませんでした」
「単に自分に合わないから、と奴は言っていたが、俺はそうは思わん。夜行に合わないからではない、夜行ですら制御出来んのだ。ペガサスが神のカードを
 処分しきれなかったのと同じように。創造者すらも越えてしまう、そんな力がある」
 海馬の言葉に、玲子は黙り込む。
 だがしかし、海馬はすぐに言葉を続けた。
「凡骨が応接室の壁に刻んでくれた言葉を覚えているか?」
「ええ」
「あの言葉を受け取った張本人に、今回の大会に参加するかと聞いたが断られた。去年開かれたジェネックス大会には喜んで参加したのだが」
「………まさか、その前に神竜の話をしていたのですか?」
「当たり前だ。神竜はデュエル・アカデミアにあったのだ。知る者なら誰もがまず奴を疑う」
 海馬はキッパリと言い放つ。
 玲子の脳裏には3年前に敵として戦った少年の姿が浮かんでいたが、海馬はどうやら違うようだった。
「神竜を使わなければ奴は所詮ザコのままだ。まぁ、その方がいいがな」
 海馬はそこまで言い放つと、ちょうど用意の出来たヘリを見上げた。
「行くぞ」
 迷いも無く、そしてまた、戦いに行くのかすらも解らない。
 だが、続く道を歩いていくしかないのだ。



 引いたドローを見て固まったまま、既に数分。
 相手を待たせているのも悪いが、俺はそれほどまでに信じられないドローをしたよ。

 千眼の邪教神 闇属性/星1/魔法使い族/攻撃力0/守備力0

 なんだ、この嫌がらせとしか思えないカード。
 俺はこんなのデッキに入れた覚えはないぜマイブラザー。
 相手フィールドには攻撃力2000越えが2体。壁モンスターは無し。ダイレクトアタックでサヨナラ確定状態。
 つまり、このターンで引っ繰り返さないと俺はどうにかならないって事か。
「………デスティニー・ドロー……」
 ポツリと呟く。
 まさに運命のドロー。今、手札にあるカードを使えば。
「永続魔法、カードトレーダーを発動」

 カードトレーダー 永続魔法
 自分のスタンバイフェイズ時に手札を1枚デッキに加えてシャッフルする事でカードを1枚ドロー出来る。
 この効果は1ターンに1度しか使用出来ない。

「この効果で、俺は手札を1枚デッキに加える」
 そして、シャッフル。
 丁寧に、そして迅速な対応が求められる。
「そして、カードを1枚ドロー!」
 さぁ、神よ。俺に力を!

「速攻魔法! 奇跡のダイス・ドローを発動!」

 奇跡のダイス・ドロー(オリカ) 速攻魔法 サイコロを1度振り、出た目の数だけドローする。
 このターンのエンドフェイズ時、出た目の数以下になるまで手札を捨てなければならない。

 出た目は……なんと6。
 俺はヒュウと口笛を吹き、カードを6枚ドローする。
「カードを1枚セットし、サイバー・ドラゴンを自身の効果で特殊召喚するぜ!」

 サイバー・ドラゴン 光属性/星5/機械族/攻撃力2100/守備力1600
 相手フィールド上にモンスターが存在し、自分フィールドにモンスターが存在しない時、このカードを手札より特殊召喚出来る。

「更にリバース罠、強制脱出装置を発動!」
「なっ……」

 強制脱出装置 通常罠
 フィールド上のモンスター1体を手札に戻す。

「この効果で、ジェノサイドキングサーモンちゃんに手札へゴーホームしてもらうぜ! バイなら〜!」
 フィールドからジェノサイドキングサーモンが空を舞って手札へと戻った。
 空飛ぶトビウオならぬ空飛ぶシャケ。うーん、風情が……あるわけねー。
「さて、まだ通常召喚がまだだぜ。手札より、闇魔界の戦士ダークソードを召喚!」

 闇魔界の戦士ダークソード 闇属性/星4/戦士族/攻撃力1800/守備力1500

「行くぜ、まずはサイバー・ドラゴンで……」
 と、宣言しようとして俺は相手のフィールドを見る。
 フィールドには憑依装着−エリアがサイバー・ドラゴンを恐ろしそうに見上げていた。
 確かにそうだ。攻撃力が50違う。
 ここで攻撃を躊躇うか。まぁ、俺は霊使いは確かに大好きだ。でも1番好きなのはヒータだけど。
 エリアやウィンも……アウスだって捨てがたい。
「……なぁ。俺、霊使いは好きですよ。ヒータが1番ですけど他の3人だって好きですが」
「あはははは、それは僕もですよ」
 相手が冷や汗をかきながら笑う。冷や汗って事は……。
「だから、エリアたんへの愛を以てぇ! 遠慮なく攻撃させて頂きます! いけ、サイバー・ドラゴン! エボリューション・バースト!」
 サイバー・ドラゴンの攻撃の前に、エリアたんは散っていきました。ゴメンね、エリアたん。

 黒川雄一:LP4000→3950

「そして、闇魔界の戦士ダークソードでダイレクトアタック!」
「うおっ……!」

 黒川雄一:LP3950→2150

「カードを1枚伏せて、ターンエンドだぜ」
「僕のターンです……ドロー!」
 相手がこのターンでもし壁を1つでも並べなければ俺の手により、粉砕される事になる。
 だがしかし、相手がこの程度で終わるとは思えなかった。それは、何故か確信だった。
「(俺のカンがいいからかな?)」
 なんてくだらない事も考えてみる。
「………アトランティスの戦士を召喚します」

 アトランティスの戦士 水属性/星4/水族/攻撃力1900/守備力1200

「そして、手札より通常魔法、二重召喚を発動!」

 二重召喚 通常魔法
 このターン、通常召喚を2回行う事が出来る。

 二重召喚。1ターンに1回の召喚を行う通常魔法。
 壁を2枚並べるも良し、アタッカーを2体並べるも良し。
 だが、このカードの真骨頂は先に召喚した下級を生け贄に上級モンスターを召喚する事。
 事前に更に1体あれば最上級モンスターだって召喚出来る。まさにコンボの為にあるカードといっても過言では無い。

「そして、アトランティスの戦士を生け贄に捧げ、氷帝メビウスを召喚!」

 氷帝メビウス 水属性/星6/水族/攻撃力2400/守備力1000
 このカードの生け贄召喚に成功した時、フィールドの魔法・罠カードを2枚まで破壊する事が出来る。

「氷帝メビウスの効果発動! 貴方のフィールドにセットされているリバースカードを2枚破壊します!」
「うぉっ……しゃ、シャイニング・フォースとモンスターBOXが!?」
「残念ながら破壊です」
 2枚の俺のリバースが墓地へと流れていく。
 更に、フィールドには伝説の都アトランティスが存在している。
 メビウスのただでさえサイバー・ドラゴンやダークソードを上回る攻撃力が増強される。

 氷帝メビウス 攻撃力2400→2600

「バトルです! メビウスで、ダークソードを攻撃!」

 宍戸貴明:LP3250→2450

「カードを1枚伏せて、ターンエンドです」
「俺のターン! ドロー!」
 手札があまり良くない。仕方がないので、リバースカードを1枚セット。
「カードを1枚伏せ………サイバー・ドラゴンを守備表示に変更。そして、異次元の戦士を守備表示で召喚。ターンエンド」

 異次元の戦士 地属性/星4/戦士族/攻撃力1200/守備力1000
 このカードと戦闘したモンスターは、このカードと共に除外される。

「異次元の戦士……戦闘モンスターを除外する、厄介なカードですね」
「ある意味恐ろしい壁だぜ。下手に除去すればサヨナラだからな」
 ちなみに異次元の戦士のように攻撃した相手も痛いしっぺ返しを喰うカードは他にもある。
 魔導鏡士リフレクト・バインダーなど良い例だ。

「では、サヨナラして貰いましょう。僕のターンです」
「へ?」
「魔法カード、シールドクラッシュを発動!」
「げっ……!?」
 まさか、手札にモンスター除去を温存してるとは思わなかった。これはマズい。

 シールドクラッシュ 通常魔法
 フィールド上で守備表示で存在するモンスター1体を破壊する。

「そして、伝説のフィッシャーマンを攻撃表示で召喚!」

 伝説のフィッシャーマン 水属性/星5/戦士族/攻撃力1850/守備力1600
 このカードは「海」が存在する限り魔法カードの影響を受けない。また、相手モンスターから攻撃対象にされない。

「では、バトル!」
「おおっと、まったぁ! リバース罠、攻撃の無力化を発動するぜ!」

 攻撃の無力化 カウンター罠
 相手モンスターの攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了させる。

「………カードを1枚伏せて、ターンエンドです」
「俺のターン! ドロー!」
 反撃の狼煙をあげられるか、これで。
「この瞬間。リバース罠を発動します」
 相手の静かな声が響き渡る。

「リバース罠、葵の継承を発動!」

 葵の継承(オリカ) 通常罠
 フィールド上に存在する水属性モンスター1体をゲームから除外する事で手札より水属性モンスター1体を特殊召喚する。
 このカードの発動に成功したターン、特殊召喚したカードは守備表示となる。

「フィールドの氷帝メビウスをゲームから除外し、手札より、青氷の白夜龍を特殊召喚します!」
 フィールドの氷帝メビウスが巨大な激流に飲まれ、消えていく。
 だが、その激流が下がる先に、別のモンスターが立っているのが見えた。

 白夜の空にその姿を現す、青き氷の龍。

「青氷の……白夜龍」

 青氷の白夜龍 水属性/星8/ドラゴン族/攻撃力3000/守備力2500
 このカードを対象とする魔法または罠カードの発動を無効にし、破壊する。
 自分フィールド上に表側表示で存在するモンスターが攻撃対象に選択された時、自分フィールド上の魔法または罠カードを墓地に送る事で、
 攻撃対象をこのカードに変更する事が出来る。

 その威容は、まさに龍の風格を示していた。
 ドラゴン族は数が少ない割に、強力な能力を持つものが多い。
 このカードゲームにソリッドビジョンシステムが導入されてからというものの、ドラゴン族を召喚した時、フィールドの空気が変わるという。
 玲子姉さんが言っていた事だが、今、その言葉が俺には理解出来た。
 それほどまでに、凄まじい空気を放っていたのだ。

「………貴明君、と言いましたか」
 相手が少しだけ笑った。
「このカードはあの青眼の白龍と同じ攻撃力を持つカード。次の僕のターンには攻撃表示になりうる」

「さて、貴方はこのカードを打ち破る事は出来ますか?」

 その笑みと共に、相手の笑いが少しばかり霞んで見えた。
 どうやら、俺はこのデュエルで最高の山場へと辿り着いたらしい。その事を確信して俺は、もう1度手札を確認するのだった。



《第7話:動き始めた闇》

 宍戸貴明:LP2450 黒川雄一:LP2150

「(相手のフィールドには攻撃力3000の青氷の白夜龍……)」

 青氷の白夜龍 水属性/星8/ドラゴン族/攻撃力3000/守備力2500
 このカードを対象とする魔法または罠カードの発動を無効にし、破壊する。
 自分フィールド上に表側表示で存在するモンスターが攻撃対象に選択された時、自分フィールド上の魔法または罠カードを墓地に送る事で、
 攻撃対象をこのカードに変更する事が出来る。

 それに対し、自分のフィールドには守備力1600のサイバー・ドラゴンのみ。ライフポイントは300の差。
 明らかに、自分の方が不利だ。

 サイバー・ドラゴン 光属性/星5/機械族/攻撃力2100/守備力1600

「永続魔法、カードトレーダーの効果により、手札よりカードを1枚デッキに戻す」

 カードトレーダー 永続魔法
 自分のスタンバイフェイズ時に手札を1枚デッキに加えてシャッフルする事でカードを1枚ドロー出来る。
 この効果は1ターンに1度しか使用出来ない。

「そして、カードを1枚ドロー!」

「………サイバー・ドラゴンはまだ守備表示。ターンエンドだ」
「僕のターン。ドロー!」
 相手は手札を確認すると、すっと手を向けた。
「伝説のフィッシャーマンを攻撃表示で召喚します」

 伝説のフィッシャーマン 水属性/星5/戦士族/攻撃力1850/守備力1600

「では、バトル! 青氷の白夜龍にて、サイバー・ドラゴンを攻撃!」
 青氷の白夜龍の攻撃で消し飛ぶサイバー・ドラゴン。俺のフィールドは見事にがら空きだ。
「続いて、伝説のフィッシャーマンでダイレクトアタック!」
 これはまともに喰らった。
 ソリッドビジョンとはいえ、その迫力は本物に近い。
「うおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!!!」

 宍戸貴明:LP2450→600

「ターンエンドです」
「俺のターン……ドロー!」
 引いたカード。
 今なら、行けるのか……?

「儀式魔法、深き冥界との契約を発動!」

 深き冥界との契約(オリカ) 儀式魔法
 星が7つ以上になるよう、手札またはフィールドから生け贄を捧げなくてはならない。

「手札より。ギルフォード・ザ・ライトニングを墓地に送る」
「最上級モンスターを犠牲にしてまで、その儀式モンスターを呼ぶのですか?」
「ああ。ギルフォードは俺が師匠から受け継いだカードだ。だけど……それでも、時として犠牲は必要だと思うぜ。そして……」

 深き冥界への門が開かれる。
 生け贄を捧げた先に、その存在は立っている。
 全ては混迷を切り開く為。正しき正義の闇を持ちし、冥界の魔剣士。
 そして、俺が信じられるモンスター。

「冥界の魔剣士イグナイトを召喚!」

 冥界の魔剣士イグナイト(オリカ) 闇属性/星7/戦士族/攻撃力2700/守備力2100/儀式モンスター
 儀式魔法「深き冥界との契約」より降臨。星が7以上になるよう、生け贄を捧げなくてはならない。
 相手守備モンスターを攻撃する際、攻撃力が守備力を上回っている分だけ余剰ダメージを与える。
 このカードの召喚に成功した際、相手フィールド上の魔法・罠カードを全て手札に戻す。
 手札を1枚捨てる事で相手フィールドにあるこのカードの守備力より低い守備力のモンスター1体を破壊する。

 その紅の長い髪をたなびかせ、身長程もある大剣を構えるその姿はまさに魔剣士。
 漆黒のバイザーで覆われている為、表情は見えないが無表情なのだろうか。
 かつてかの決闘王が使用したと言われる冥府の使者ゴーズに似ているが、それとはまた別の品格を漂わせる。

「俺の手札から喚べる、最高のカードだぜ! イグナイトの効果発動! 相手フィールド上の魔法・罠を全て手札に戻す!」
「なっ……!」
 伝説の都アトランティスも、リバースカードも全て手札へと消える。
 召喚に成功すればハリケーンと同じ効果を持つのがこのカードの特徴だ。

「そして、手札より魔法カード、団結の力を発動する!」

 団結の力 装備魔法
 このカードはフィールド上で表側表示になっているモンスターの数×800ポイント、攻撃力と守備力がアップする。

 冥界の魔剣士イグナイト 攻撃力2700→3500

「そうか! サイバー・ドラゴンに団結の力を装備した所で、攻撃力は2900……それに、手札にレベル4がいないというのなら納得出来る。
 その為の冥界の魔剣士の召喚か!」
「ああ、そうだ! サイドラ1体じゃ、攻撃力が300ばかり足りなくてね! それに、リバースも怖いしな! 行くぜ! バトルだ!」

 魔剣士が剣を構える。
 守ってくれるリバースカードが無い今は、攻撃を受けるしかない。
「冥界の魔剣士で、青氷の白夜龍を攻撃! 煉獄の葬冥斬!」

 黒川雄一:LP2150→1650

「僕の青氷の白夜龍がああああああぁぁぁぁっ!!!!!!!!」
 相手は凄い叫び声をあげている。考えてみれば雄二って真紅眼に狂ってるからな。
 もしかして兄弟揃ってドラゴンマニアなのか?
「永続魔法、カードトレーダーをもう1度発動。そしてカードを1枚伏せて、ターンエンドだぜ」
「僕のターン! ドロー!」
 相手は困ったように伝説のフィッシャーマンを守備表示に変更した。
「守備にしてもいいのかよ?」
「へ?」
「このカード。貫通効果持ちだぜ。逆にダメージ増えるぞ」
 伝説のフィッシャーマンの守備力は攻撃力より250少ない1600。
 貫通効果持ちのモンスターを相手にしたら逆に大変です。
「ジーザース!!!!!!!」
「……プレイミスだったのか」
「カードを2枚セットし、ターンエンドです」
 相手は気を取り直したようにリバースカードをセットする。
 またもリバースカードのセットという事は、いったいどれだけのカードがあるのか。
 手札に戻った伝説の都アトランティスを発動しなかったのは、伝説のフィッシャーマンが壁にならなくなるからであろう。
「俺のターン! ドロー!」

 カードを確認する。
「カードトレーダーの効果で、カードを1枚、デッキに戻してシャッフルし、もう1度ドローするぜ」

 カードトレーダー 永続魔法
 自分のスタンバイフェイズ時に手札を1枚デッキに加えてシャッフルする事でカードを1枚ドロー出来る。
 この効果は1ターンに1度しか使用出来ない。

「リバース罠、リビングデッドの呼び声を発動します!」
「青氷の白夜龍を蘇生させた所で、冥界の魔剣士は倒せないぜ!」
「いいえ、僕が蘇生させるのは憑依装着−エリアです」

 リビングデッドの呼び声 永続罠
 墓地に存在するモンスター1体を表側攻撃表示で特殊召喚する。
 このカードがフィールドを離れた時、特殊召喚されたモンスターを破壊する。

 憑依装着−エリア 水属性/星4/魔法使い族/攻撃力1850/守備力1500

「だけど、攻撃力その他が足りないぜ! 俺のターンの攻撃で倒されるのが目に見えてる!」
「……何の考えも無しに蘇生させる訳が無いでしょう」
 相手がニヤリと笑う。
 そう言えば相手が伏せたリバースカードは2つ。そしてその1枚目がリビングデッドの呼び声。
 まさか……。
「2枚目のリバース罠を発動します。リバース罠、霊術士の覚醒を発動!」

 霊術士の覚醒(オリカ) 永続罠
 このカードがフィールド上で表側表示で存在する間、「霊使い」「憑依装着」と名のつくモンスターの攻撃力は600ポイントアップする。
 このカードが発動されたターン、バトルフェイズを行う事が出来ない。
 更に、自分ターンのスタンバイフェイズ時にこのカードと「霊使い」と名のつくモンスター1体を墓地に送る事で、そのカード同じ属性の
 「憑依装着」を手札またはデッキから特殊召喚出来る。
 また、自分ターンのスタンバイフェイズ時にこのカードと「憑依装着」と名のつくモンスター1体を墓地に送る事で、そのカードと同じ属
 性の「霊術士」を手札またはデッキから特殊召喚出来る。
 このカードが上記の特殊召喚以外の方法でフィールドから離れた場合、フィールドに存在する全ての「霊使い」「憑依装着」を破壊する。

「この効果により、貴方はこのターン、バトルフェイズを行う事が出来ません」
「……カードを1枚伏せてターンエンドだぜ」
「では、僕のターン。ドロー。フィールドに存在する霊術士の覚醒と憑依装着−エリアを墓地に送り……蒼の水霊術士エリアを特殊召喚します!」

 蒼の水霊術士エリア(オリカ) 水属性/星6/攻撃力2450/守備力2100
 1ターンに1度、プレイヤーの指定したモンスター1体の表示型式を変更する事が出来る。
 このカードは「霊術士の覚醒」の効果で特殊召喚された場合、以下の効果を得る。
 ・このカードが召喚された時、フィールド上で表側表示の魔法・罠カード1枚を破壊する。
 ・このカードは相手守備モンスターを攻撃した際、その守備力を攻撃力が上回っていればその分のダメージを与える。

 フィールドの中心に、巨大な噴水が姿を現した。
 溢れ出す水の中心部から姿を現したのは、長い水のような青の髪を持つ少女。
 あれ程幼かった水霊使いは力を解放する事で、それだけの力を得たのだ。

 その姿はまさに、可愛さだけでなく美しさすらも覚える。
 杖を携え、小さく相手の冥界の魔剣士を見上げている。その表情に、憑依装着の頃まではあった怯えは無い。
 相手と戦う強い意志が固まっているのだろう。

「蒼の水霊術士エリアの第1の効果! このカードが召喚された時、フィールド上で表側表示の魔法・罠を1枚破壊します!」
 俺のフィールドの団結の力が破壊され、墓地へと送られる。

 冥界の魔剣士イグナイト 攻撃力3500→2700

「更に、第2の効果を発動! 貴方の冥界の魔剣士イグナイトを守備表示に変更します!」
「げっ……!」
 冥界の魔剣士イグナイトの守備力は2100。
 つまり、エリアの攻撃力よりも下になってしまう。マズい、これはマズいぞ。
 だが、そんな心配をしていても今は相手のターン。
「バトルです! 蒼の水霊術士エリアで、冥界の魔剣士を攻撃!」
「か、貫通効果付きだとぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

 宍戸貴明:LP600→250

「これで、貴方のフィールドはがら空き……?」

 その時、相手の言葉が途中で途切れた。どうやら俺のフィールドに伏せてあったカードに気付いたらしい。
 だがしかし、今さらリバースに気付いてももう相手に伏せカードは無い。残念な事に。

「リバース罠、時の機械−タイム・マシーンを発動させてもらったぜ」

 時の機械−タイム・マシーン 通常罠
 モンスター1体が戦闘によって墓地に送られた時、同じ表示型式でそのモンスターを特殊召喚する。

 俺のフィールドに現れた巨大なタイムマシン。
 突如現れたそのタイムマシンにエリアも驚いてしまったのか、少しずつ後退している。
 タイムマシンの扉が何故か剣で斬られ、中から冥界の魔剣士が再び姿を現した。
 先ほどは倒されたがまだ死んではいない、とばかりに大剣を携え、フィールドに仁王立ちで立つ。

「カードを1枚伏せて、ターンエンド」
「俺のターン。ドロー………行くぜ、速攻魔法、ブラッド・ヒートを発動!」
「ぶ、ブラッド・ヒート!?」

 ブラッド・ヒート(オリカ) 速攻魔法
 このカードはバトルフェイズ中にライフポイントの半分を支払って発動可能。
 自分フィールドの表側攻撃表示のモンスター1体を選択し、そのモンスターはそのターンのエンドフェイズまで、
 攻撃力はそのカードの元々の攻撃力に守備力の2倍を加算した値になる。
 このターンのエンドフェイズ時、対象となったモンスターを破壊する。

 ブラッド・ヒート。
 ライフの半分を犠牲に、モンスターの攻撃力を極限まで底上げする最強のモンスター強化カード。
 そのモンスターはエンドフェイズに消えてしまうので、空振り時には自分が痛い目を見る。
 だが、このカード程恐ろしく強いカードは無い。
 そして常に勝利と、可能性をもたらすカード。俺の……いや、俺と雄二の信じる最強のカード。

 宍戸貴明:LP250→125

 冥界の魔剣士イグナイト 攻撃力2700→6900

「冥界の魔剣士イグナイトを攻撃表示に変更。そして……バトルだ! 冥界の魔剣士で、伝説のフィッシャーマンを攻撃! 煉獄の葬冥斬!」
「うあああああああああああああっ!!!!!!!!!!!」

 黒川雄一:LP1650→0

「運命の女神サマは今日も俺に熱いスマイルを送ってくれてるぜってな!」
「………ははは、負けてしまいましたね」
 相手は頭を掻くと、そっと俺を見てから、まだ消えていないソリッドビジョンを見上げた。
「……1つ聞いてもよろしいですか?」
「なんだ?」
「最後に、伝説のフィッシャーマンを攻撃対象にしたのはオーバーキルの為ですか?」
 確かに、攻撃力だけを見れば伝説のフィッシャーマンの方がダメージ量は600多い。
 だがしかし俺はそんな事で攻撃したんじゃない。
「違う」
「では、なんです」
「エリアを2回も倒せん。1度愛を以て破壊したからな」
 これは本心だ。
 1度愛を以て破壊する!と宣言してしまったので2度目は聞かない。
 いや、これは単に俺の趣味か。
「……なるほど。では、このカード、貴方に差し上げましょう」
 1度、思考が停止した。

「足りませんか? なら、憑依装着−エリアと霊術士の覚醒も付けましょう」
「いやいやいやいやそうじゃなくて。いいのか? 大事なカードじゃねぇのかよ?」
 俺がそんな風に聞くと、相手は少しだけ微笑んで俺を見上げた。
「いえいえ、ちょっとくだらない話になりますが、構いませんか?」
「……? まぁ、いいけど」
 俺が小さく頷くと、相手はそっと口を開いた。
「もしもカードに精霊がいるとすれば、貴方のようなプレイヤーに使って欲しいでしょうね。カードを愛してやまない、そんな貴方ですから」
 カードに精霊が宿る、という話は聞いた事はある。
 俺は生憎と信じる事は無いが、もしいるとすればそれはきっとプレイヤーに大切にして欲しいと願うだろう。
「そりゃあ確かにそうだろうな。カードだっていい奴に使われれば喜ぶだろうし」
「ええ、ですから貴方に差し上げたいんです」
「……………」
 ここで、俺は反応に迷った。

 師匠から真のデュエリストになれと言われた事がある。
 そして真のデュエリストがどういうものか、俺はまだ知らない。
 だけど、もしもカードの精霊が選ぶデュエリストこそ真のデュエリストだとしたら。

 俺は、本当にそれに相応しいのか?

 そんな疑問が浮かんでは消える。
 だけど、それでもきっと俺は―――――。

「ああ、きっと大切にするぜ」

 その手で、しっかりと受け取っていた。






「うーん……やっぱり勝てるのかなぁ? 俺は不安だよ……」
「何を言ってるんだよ! そのままじゃ勝てないって解りきってる事だろ!」
 バトル・シティ開始から6時間。2人のデュエリストが言い争っていた。
 2人はまだ1戦もしていない上に親友同士で2人の間では決勝以外でデュエルしないと決めていたからだ。
 だが、1人が勝つ自信が無いと言いだしたのだ。
 確かに、バトル・シティはレベルが高い決闘者のみに参加を許される大会。
 だがそれでも、一応参加してはいるからレベルはあるのだろうが他とのレベルが違いすぎたのだろうか。

 そんな2人の元に、1人の人影が近づいてきた。
「勝つ自信が無いのなら、勝てるようなカードを入れればいい」
 その人影の言葉に、2人は驚いて顔をあげた。
「安心しろ、俺はもう決勝進出を決めているがそれだけだとつまらない。君達のように面白そうなデュエリストと戦いたいだけだ」
 そう言って彼は、それぞれカードを幾つか渡した。
「入れておけば役に立つだろう。また、決勝で会おう」

 去っていた人影を見送ると、その2人はそれぞれ渡されたカードをデッキに入れる。

 2枚のカード。
 それらは、デッキに入れられた瞬間、その2人のデュエリストの意志を全て奪った。

 エクゾディアの使徒である、究極封印神エクゾディオス。
 そして……最後の神竜、冥府の神竜イドゥナ。

 その2枚のカードをそれぞれデッキに入れたデュエリストは、虚ろな目をしながらそれぞれの方向へと歩いていった。
 まるで、誰かを探すように。

 2人にカードを渡した人影。
 彼はゆっくりと微笑む。
「まったく。雄二も貴明も、これ如きの試練を乗り越えてくれよ。出ないと、つまらん」
 その人影―――――高取晋佑はゆっくりと笑った。



 平井と里見を見送った後、俺はデュエリストを探すつもりで近くのビルの屋上に上がった。
 バトル・シティ参加者という事で海馬グループの敷地内には普通に入れるとの事だ。

 バトル・シティという大会に参加してみて解った事。
 師匠が前回の大会で、幾多のデュエリストと戦った。
 その度に、夢破れた彼らの夢を乗せて、そして準決勝まで勝ち進んだ。
 そう、夢を乗せて。

 だから俺も、倒したデュエリスト達の夢を乗せて進んでいこう。
 このデュエルディスクに、プライドと夢を乗せて戦い続けよう。最後まで。

 俺のバトル・シティが終わるまで。


 頭上で、ヘリの爆音が響く。
 やたらうるさいと思えば、なんと海馬コーポレーションのマークが入ったヘリが俺の真上でホバリングしていた。
 流石は海馬関連らしく、会社の屋上にヘリポートは当たり前。
 そのヘリポートに着陸したヘリの扉が、ゆっくりと開く。

「久し振りだな凡骨チルドレン!」
「だーれが凡骨チルドレンかー!」

 やっぱり俺の前に現れたのは、海馬コーポレーション社長の海馬瀬人その人だった。

 暴言を吐いた罪だ、とジュラルミンケースで一撃を喰らった後、俺と海馬社長は屋上にいた。
「ところで、海馬社長が俺の所に何の用ですか?」
「一応無い事は無い。だがその前に……」
 海馬社長がヘリの方を向くと、ヘリからもう1人の人影が降りてきた。
「……玲子姉さん!」
 元カード・プロフェッサーで師匠の嫁さんであり、俺や貴明もよくデュエル相手になっていた玲子姉さんだった。
 海馬社長とヘリで同乗するなんてどういう風の吹き回しだ?
「こんにちは雄二君。パズルカードは貯まった?」
「今4枚ですよ。あと、2枚」
「………そう」
 玲子姉さんは何故か俺を見て不安げな顔をした後、ゆっくりと口を開いた。

「雄二君。今回の大会、辞退しなさい」

 その衝撃は、あまりにも意外だった。


「ちょ、待ってくれよ……! バトル・シティだよ!? 師匠も海馬社長も。いや、決闘王だって参加した大会で、俺が参加資格を得たんですよ!?
 それなのに、辞退しろってそりゃないよ!」
「……………」
「理由を教えてくれよ玲子姉さん! そうでないと俺、納得出来ないよ!」
 俺の言葉に、玲子姉さんがゆっくりと口を開いた。
「………三邪神の話は知ってる?」
「そりゃあ師匠や決闘王が話してくれたし。知ってますよ」
 俺がそう言い放つと、玲子姉さんは言葉を続ける。
「天馬夜行は、三邪神と同時に、三神竜というカードを生み出した。だけど、そのカードの恐ろしさ故に、邪神の方だけを使用した。最終的には、
 そっちの方が良かったかも知れないの。それでこの大会の前……神竜は全部盗まれた」
 俺が、海馬社長を盗み見る。
 社長は首を縦にも横にも動かさない。だが、それは肯定と判断した。
「……それで?」
「そのカードは倒した相手の魂を封じるという。もっとも、トドメを刺した場合だけだけどね……」
 その時、俺は少しばかり思いだした。
 そう言えば何年か前に師匠が3日ばかり意識不明になったって話を聞いたような……。
「だから、雄二君や貴明君には悪いけど、やめてもらう事にしたの」
「……断ります」
 俺の言葉に、玲子姉さんが驚いたような声を漏らした。
 だけど俺は構わず言葉を続ける。
「別にヒーローを気取るわけじゃないけど、誰かが戦わなきゃ神竜は戻って来ない。そして、誰かが犠牲になっちまう。なら、俺が入っても条件は
 同じだ! 貴明もそうだ! 晋佑だって……」
「その高取晋佑だが、知ってるか?」
 急に海馬社長が口を開き、俺は慌てて首を横に振った。
「………奴が神竜を1枚持っている。確認した。間違いない」
「え……」
 晋佑が……神竜を盗んだ犯人?
「まだ確定した訳ではないがな……それと、黒川雄二」

 海馬社長はここで1歩踏み込むと、俺を睨んだ。

「貴様の覚悟を試させて貰うぞ……凡骨チルドレンがどこまで出来るかをな! デュエル! 俺のターンだ! ドロー!」

 海馬瀬人:LP4000 黒川雄二:LP4000

「ブラッド・ヴォルスを攻撃表示で召喚! カードを2枚伏せ、ターンエンドだ!」

 ブラッド・ヴォルス 闇属性/星4/獣戦士族/攻撃力1900/守備力1200

「…………」
「貴様がどれ程戦うのか、見せて貰う。もしお前が神竜を恐れぬというのなら、この俺を相手に戦い抜いてみるか!」
 海馬社長の言葉に、俺はデュエルディスクを起動した。
 もしもここから先に恐ろしい道があるのなら、例えそれでも俺は進むだけだ。



《第8話:LEGEND OF BLUE EYES WHITE DRAGON》

「この俺を相手に戦い抜いてみろ!」

 そう、彼は言った。
 最強ランクのデュエリストにして、師匠が1度も勝てなかった人。
 世界で唯一最強の龍を持つ存在、海馬瀬人。

 俺は今、そんな彼を相手にデュエルをしている。
 俺の信じる力を、俺の覚悟を、全て見せる為に。

 黒川雄二:LP4000 海馬瀬人:LP4000

 ブラッド・ヴォルス 闇属性/星4/獣戦士族/攻撃力1900/守備力1200

 海馬社長のフィールドにはブラッド・ヴォルスが1体。そしてリバースカードが2枚。
 まずはドローしなければ始まらないが、あの海馬社長相手だ。
 生半可な戦いは通用しないだろう。
「俺のターン。ドロー!」
 初期の5枚手札と今のドロー。
 意外にもキーカードが揃っている。リバースカードが気になる所だが。
「手札より黒竜の雛を召喚! そして、黒竜の雛の効果発動! このカードを墓地に送り、真紅眼の黒竜を特殊召喚!」

 黒竜の雛 闇属性/星1/ドラゴン族/攻撃力800/守備力500
 フィールド上で表側表示のこのカードを墓地に送る事で手札から「真紅眼の黒竜」1体を特殊召喚する。

 真紅眼の黒竜 闇属性/星7/ドラゴン族/攻撃力2400/守備力2000

「真紅眼の黒竜の攻撃! ブラッド・ヴォルスを攻撃するぜ!」
 黒竜の口から放たれた黒炎弾がブラッド・ヴォルスをフィールドから消し去る。
 どうやらリバースはブラフなのだろうか。

 海馬瀬人:LP4000→3500

「フッ………その程度、痛くも痒くもないわ!」
「カード1枚伏せて、ターンエンド」
 海馬社長は笑いながらそのターンを宣言した。
「俺のターン! ドロー!」

「ブレイドナイトを攻撃表示で召喚する!」

 ブレイドナイト 光属性/星4/戦士族/攻撃力1600/守備力1000

「更に、手札より魔法カード、黙する死者を発動! これにより、ブラッド・ヴォルスを蘇生!」
「1ターンで2体を並べた……でも、まだ足りない……」

 黙する死者 通常魔法
 自分の墓地のモンスター1体を守備表示で特殊召喚する。
 このカードの効果で特殊召喚したモンスターは攻撃出来ない。

 そう、確かにまだ足りない。
 レッドアイズを倒すには足りない。もっとも、俺の伏せているカードは蘇生系カードだが……。
 俺がそんな事を考えていても、まだ海馬社長のターンは終わっていない。まだまだずっと社長のターン。

「更にリバース魔法、二重召喚を発動!」

 二重召喚 通常魔法
 このターン、通常召喚を2回行う事が出来る。

「まさか……!」
 1ターンで2体を並べた。そして、更に通常召喚をする。
 もう否定出来ない。最強の竜が降臨する。だが、俺はそれにどれだけ抗える?
 やってみろよ、黒川雄二。

「ブレイドナイト、ブラッド・ヴォルスの2体を生け贄に………フフフフ……これぞ、強靱! 無敵! 最強!
 これがオレの青眼の白龍だ! ワハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!

 青眼の白龍 光属性/星8/ドラゴン族/攻撃力3000/守備力2500

「さぁ、行くぞ! 俺の青眼でその凡骨の象徴を攻撃! 滅びのバースト・ストリーム!」
「うああああああああああっ!!!!!」
 流石に最強の龍だった。
 攻撃力3000とはいえ、その破壊力は抜群だ。

 黒川雄二:LP4000→3400

「フ、ターンエンドだ」
「俺のターン! リバース罠、真紅眼の誇りを発動!」

 真紅眼の誇り(オリカ) 永続罠
 500ライフポイントを支払い、墓地またはデッキから「真紅眼(レッドアイズ)」と名のつくモンスター1体を特殊召喚する。

 黒川雄二:LP3400→2900

「この効果により、墓地より真紅眼の黒竜を特殊召喚! 更に、真紅眼の黒竜を墓地に送り、真紅眼の闇竜を召喚!」

 真紅眼の闇竜 闇属性/星9/ドラゴン族/攻撃力2400/守備力2000
 このカードは通常召喚出来ない。フィールド上に存在する「真紅眼の黒竜」を墓地に送る事で特殊召喚出来る。
 このカードは自分の墓地のドラゴン族モンスター1体に付き攻撃力が300ポイントアップする。

 真紅眼の闇竜 攻撃力2400→3000

「攻撃力3000……ほう、相打ち覚悟で召喚するか」
「カードを1枚伏せて、ターンエンド」
「フ…………相打ちとなっては、モンスターがいなくなるからな。俺のターン! ドロー!」
 海馬社長はドローすると、フッと微笑みを浮かべた。
「どうやら、この俺の最強のモンスターが疼くようだな……即ち……ここから先はずっとオレのターン!
 海馬社長はそう言って微笑むと、カードを繰り出す。
 カードの貴公子たる彼にとって、最高の戦術とは何なのだろう。

「通常魔法、天使の施しを発動!」

 天使の施し 通常魔法
 デッキからカードを3枚ドローする。その後、2枚捨てなければならない。

「手札より、早すぎた埋葬を発動し、先ほどの天使の施しで墓地に送ったブルーアイズを蘇生する!」

 早すぎた埋葬 装備魔法
 800ライフポイントを支払い、墓地のモンスター1体を特殊召喚する。
 このカードを装備したモンスターがフィールドを離れた時、このカードを破壊する。

 海馬瀬人:LP3500→2700

「更にリバース罠、リビングデッドの呼び声を発動し、ブルーアイズを更に蘇生!」
「ふ、フィールドに3体の青眼……!?」
「フッ……それだけではないぞ! 魔法カード、融合!」

 リビングデッドの呼び声 永続罠
 墓地に存在するモンスター1体を攻撃表示で特殊召喚する。
 このカードがフィールドを離れた時、特殊召喚したモンスターを破壊する。

 融合 通常魔法
 2体以上のモンスターを融合する。

「見よ! これぞ最強の龍! 強靱! 無敵! 最強! お前の龍如き蹴散らしてくれる!
 これがオレの青眼の究極竜だ! ワハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!

 青眼の究極竜 光属性/星12/ドラゴン族/攻撃力4500/守備力3800

「まだ俺のターンは終わってないぞ! 行け、ブルーアイズ! アルティメット・バースト!」
「リバース罠、攻撃の無力化!」

 攻撃の無力化 カウンター罠
 相手モンスターの攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了させる。

「ふー………乗りきったぜ……流石は海馬社長、アンタはバケモノだよ……」
「フッ、この程度を乗りきった所で安心するな黒川雄二。カードを1枚伏せ、ターンエンドだ」
 確かに、海馬瀬人を相手にこのターンを乗りきった所で終わりはしないだろう。
 相手フィールドには未だに究極竜が存在するのだ。
 つまり、このドローで何か起点を起こさなければ、次のターンに闇竜は粉砕される。
 次のターンに海馬社長が融合解除を使えば9000のダメージがモロに直撃する事となる。
「(だとすると……このドローで何か起こらなければ………)俺のターン! デスティニー・ドロー!」
「ドロー如きにデスティニーなどという言葉を使うな! それとも貴様の手札にはそのドローに頼る程クズしかないのか?」
 海馬社長が何かを言ってるが、今回ばっかりは無視します。
「ワハハハハハハハハハハハ! もしも貴様の手札にはその程度の手札しかないとすればまるでこのターン俺に見逃せと言っているようだな!
 次のターンで貴様のチャチな真紅眼をオレの究極竜が破壊してくれる! ワハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!」
 あのー、海馬社長。俺はまだドローフェイズしか終えてないんですけど。
 ダメだこりゃ、気付いてねぇ。
「速攻魔法、奇跡のダイス・ドローを発動!」
「ワハハハハハハハハハハハハハ! 何だ、そのカードは!」
 海馬社長節、大爆発。社長が怖いです。
「ギャンブルに頼るなど、あの凡骨を思いだすようで虫酸が走るわ! 貴様は次のターンで瞬殺してくれる! ありがたく思え!」

 奇跡のダイス・ドロー(オリカ) 速攻魔法
 サイコロを振る。出た目の数だけ、ドロー出来る。
 このターンのエンドフェイズ時に出た目の数以下になるよう、手札を墓地に送らなくてはならない。

 俺がサイコロを振ると、ちょうど4の目が出た。
 手札が全然少なくなっていたので一気にドローする。行ける……かな?
「魔法カード、天使の施しを発動!」

 天使の施し 通常魔法
 デッキからカードを3枚ドローする。その後、2枚捨てなければならない。

「フィールドの、真紅眼の闇竜を………」
 ここで俺は少しだけ迷った。
 1枚だけのリバース。俺の手札にある闇焔竜を召喚し、その効果を発動させれば究極竜を葬れる。
 海馬社長のデッキに、究極竜を越えるカードはないだろう。
 ならば……今ここで……いや、1枚だけあるリバースを警戒するべきか?

「(だけど………今、ここでデッキを信じないで、何を信じろというんだ……俺……)真紅眼の闇竜を墓地に送り、真紅眼の闇焔竜を召喚!」

 真紅眼の闇焔竜 闇属性/星10/ドラゴン族/攻撃力3500/守備力2800
 このカードはフィールド上に存在する「真紅眼(レッドアイズ)」と名のつくモンスター1体を墓地に送る事で特殊召喚出来る。
 戦闘で破壊され墓地に送られた時、召喚する際に墓地に送った「真紅眼」と名のつくモンスター1体を特殊召喚出来る。
 ライフポイントの半分を支払う事で墓地に存在する「真紅眼(レッドアイズ)」と名のつくモンスターの効果を得る。

「攻撃力3500……なかなかいいモンスターではある。だが、貴様は究極竜の攻撃力を見たか?」
「ええ。足りないですね、1000ぐらい。ならば、補充するだけさ! 闇焔竜の効果発動! ライフを半分支払い、墓地の闇竜の効果を得る!」

 黒川雄二:LP2900→1450

 真紅眼の闇焔竜 攻撃力3500→5000

「攻撃力5000だと!? おのれ、これを考慮した上で先ほどの天使の施しか……!」
「(本当は違うんだけどな……)これが俺の力だぜ! 社長が融合解除を使ったら壁を1体並べた所で瞬殺されるんでね!」
 俺の返答に、海馬社長は俺を思いきり睨んだ。
「おのれ、貴様。凡骨チルドレンの癖にこの俺相手にここまで善戦するとは……おのれ、おのれぇぇ……」
「今だ! レッドアイズ・ダークブレイズ! 俺の力を見せてやるぜ、海馬社長! ダーク・ブレイズ・キャノン!」

 海馬瀬人:LP2700→2200

「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!!!!!!!!!」
「よっしゃ! 攻撃は通ったぜ! そのリバースカードはブラフかよ?」
「くくく………ワハハハハハハハハハハハハハハハハ! 蘇生カードを2つだけだと思っていたのか、貴様は!」
「な、に……?」
「見よ! リバース罠、時の機械−タイム・マシーンだ!」

 時の機械−タイム・マシーン 通常罠
 モンスター1体が戦闘によって墓地に送られた時、同じ表示型式でそのモンスターを特殊召喚する。

「ワハハハハハハハハハ! 究極竜、復活!」
「だけど、まだ俺のダークブレイズは攻撃力5000のままだぜ。カードを1枚伏せて、ターンエンドだ」
 俺がターンエンドを宣言した時、海馬社長は俺に視線を向けて宣言した。
「ラストターンだ。貴様の敗北による、な」

「ドロー!」
 デッキから、カードをドローする。その時、ふと俺の中で奇妙な感情が沸いた。
 冷たい。何処か、冷たい。何だろう、よく解らない。
「速攻魔法、融合解除を発動! そして、この魔法カードを発動する」

 融合解除 速攻魔法
 フィールド上の融合モンスター1体を指定する。
 その素材になったモンスターを墓地から特殊召喚出来る。

 融合解除の効果で、青眼の白龍が3体並ぶ。
 その直後だった。3体の青眼が口を開け、バーストストリームを撃とうとする。
「な、なんだ………?」
「魔法カード……滅びの爆裂疾風弾」

 滅びの爆裂疾風弾 通常魔法
 フィールド上に「青眼の白龍」が存在する時のみ、発動可能。
 相手フィールド上のモンスターを全て破壊する。このカードを発動したターン、「青眼の白龍」は攻撃出来ない。

「あ……闇焔竜に、魔法耐性は無い…………情け容赦なく破壊される……」
 攻撃力5000の闇焔竜は、呆気なく墓地へと送られる。
 海馬社長はもしかして、この程度解りきっていたのでは無いだろうか。
 だが、幸いにしてこのターン「青眼の白龍」の攻撃は無い。それが唯一の救いか。
「ワハハハハハハハハ! このターンがラストターンだと言っただろう!」
「へ……」
 まだ、メインフェイズ1を終えただけ。
 まさか……。
「魔法カード、融合を発動! フィールドの青眼の白龍3体を融合する!」
「っgどう゛ぇげくぉえpjげvげっvぺげqwっpj3!#&Gbsb!?」
 もはや言語に出来ません。
 社長強いよ、社長。この人バケモノだよ。勝てないよ、こんなのに決闘王はどうやって勝ったんだろう。
 そもそも俺は決闘王にだって勝てないんだけどさ。
 「またもオレの青眼の究極竜だ! ワハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!」
 ああ、どうしよう。勝てるの、俺?

 無理。

「究極竜の攻撃! アルティメット・バースト!」
「ひえええ………」

 黒川雄二:LP1450→0

「フッ、雑魚めが! お前は馬の骨だ!」
「馬の骨じゃねぇ! それに、インダストリアルイリュージョン社も野良デュエルはマッチ戦でやれって言ってるモン!」
「ほう、ならば第2ラウンドをやるか。サイドデッキでデッキを調整するがいい」

 2戦目……

「わははははははははマシンナーズ・フォースの攻撃!」
「ほぎゃああああああああああああ!!!!!!!!」

 黒川雄二:LP0

「貴様の負けだ、2代目凡骨にして馬の骨を襲名した黒川雄二よ」
「いつ2代目を襲名したんですか! クライマックスシリーズだって3本先取の戦いだ! まだ勝負は終わらない!」
「いつからデュエルモンスターズはプロ野球のルールになったのだ!?」

 3戦目……

「わははははははははははははゲート・ガーディアンの攻撃で貴様のライフは0だ!」
「こんなん無理だぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 黒川雄二:LP0

「貴様の負けだぞ! 負け犬!」
「どんどん降格していってる………まだだ! 日本シリーズだって4本先取の戦いだ!」
「最近はパ・リーグのチームが先に4勝して勝つ事が多いな」

 4戦目……

「ワハハハハハハハハハハ! 究極完全態グレート・モスの攻撃! 貴様のライフは0だ雑魚!」
「どうやって召喚したんですかっ……みぎゃあああああああああ!!!!!」

 黒川雄二:LP0

「とうとう4回目だぞ」
「……こ、コ●ミが主催するアジアシリーズはってへぶっ!?」
「あれはリーグ戦の後に1位と2位が戦うだけだバカもの!」
 俺はデュエルディスクを投げつけられて見事に転倒する羽目となった。
 俺が地面に寝転がっていると、ちょうど玲子姉さんが俺を覗き込んできた。
「……気が済んだ?」
「ええ、そりゃもう」
 あそこまで完膚な迄に叩きのめされればもう笑いたくなる。
 そもそも究極完全態グレート・モスとかゲート・ガーディアンとかどうやって召喚したんだよ。

「………2代目凡骨にして馬の骨。よく聞くがいい」
 海馬社長は真上から俺を見下ろすと、はっきりと口を開いた。

「貴様の姿勢はよく解った。このままバトル・シティに参戦し続けろ。あの凡骨が何と言ったかは知らんが、勝利を信じ、諦めずに戦う貴様の姿勢、
 デュエリストとしてあるべき姿として認めてやる。もっとも、デュエリストにはまだ程遠いがな! だがようやく第1ステップクリアといった所だ
 な………だが、貴様は考えてみるといい。貴様の踏み印したロード。それが未来となるか地獄となるかは貴様が決める事だ。だが、貴様が未来を望
 むなら貴様の手で掴み取るがいい! 目指す栄光、最強の称号、見果てぬ夢―――――そして、お前自身すらも越えろ! デュエリストにとって真
 の敵とは、己自身の事だという事を肝に銘じておけ! 貴様が負けぬというのなら、この俺はあの凡骨に代わって貴様を最後まで見届けてやろう。
 フッ…………久し振りに骨のあるデュエリストを見たわ! ワハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!!!!」

 コートを翻し、海馬社長はヘリへと向かう。
 その後を、玲子姉さんが行こうとして足を止めた。
「雄二君、約束」
「はい?」
 玲子姉さんは俺の目の前に指を出すと、そっと俺を指さした。
「ああ言ったからには、もう止めたりはしない。だから、最後まで戦う事。諦めないで、ね」
「………俺を誰だと思ってるんですか、玲子姉さん」

 そう、俺は何時だって信じてる。
 仲間も、デッキも、そして自分も。

「アイキャン・ビリーブ!」

 いつもの決め台詞と共に。俺はこれからも戦い続けるだろう。
 最後まで諦めない事。ラスト1ターン、ラストドローまで。
 その瞬間まで諦めずに、最後まで戦う。

 それが……俺の立てた誓い。



《第9話:尖兵と刺客と》

「………なんだ?」
 街中を進んでいる最中の事だった。
 奇妙な悪寒がして、俺は背後を振り向く。

 だが、誰もいない。気のせいかと思って歩き出そうとすればまた変な感じがする。

「クソッ………何なんだよ、いったい!」
 俺がそう悪態をついた時、目の前に1枚のカードが落ちてきた。
「……ん?」

 D.D.アサイラント 地属性/星4/戦士族/攻撃力1700/守備力1600
 このカードが相手モンスターとの戦闘で破壊された時、そのモンスターとこのカードをゲームから除外する。

 異次元の戦士と似たような効果がある。これは便利かも知れない。
「(これはラッキーかもしれない。もらっちまうか)」
 そう思ってポケットにいれようとして、少し先にまたカードが落ちてきた。
 ん? なんか変だな……。

「ま、いっか!」
 いざとなったら、俺には運命の女神様の熱いスマイルがついている。
 宍戸貴明の強運を越える不幸は未だにやって来ない。俺は不幸が避けて通る男だぜ!
「レアカード、レアカード……♪」
 俺は鼻歌を謡いながら俺が歩く度に少し先に落ちてくるレアカードを拾い集めるのだった。



「D.D.アサイラントにサイレント・ソードマンにブラッド・マジシャン………何か色々落ちてるなー。お、マシュマロンだ」
 何故かレアカードばっかり落ちてるこの通りは何なのだろう。これだけあればデッキ強化も出来る。
 俺の運は今日はかなりツイてるらしい。まぁ、ツイてないと困るのだが。

 とにかく拾って拾った総数は20枚以上。
 さて、帰ろうかと思った時、ふとある事に気付いた。
 カードを追って、いつの間にか建物内に来ていたらしい。暗い部屋だ。
「やぁ、ようこそ……宍戸貴明君」
 急に名を呼ばれて俺が振り向くと、そこには……。
「コスプレイヤー?」
「違う! デュエリストだ!」
 いや、そうは言われても超魔道剣士ブラック・パラディンのコスプレをするデュエリストなんている訳がないのだが。
 さて、それは置いておいて何故、相手が俺の名前を知っているのか疑問だった。
「よく俺の名前を知ってるな」
「ええ、そりゃあもう貴方のお知り合いから色々聞いてますよ? 例えば、高取晋佑とか」
「っ!?」
 晋佑? 高取晋佑が、何故こんな奴に俺の事を話す?
「………三神竜の力は無限大。だが、その為にはデュエルする事が必要、私は単にその余興に過ぎません」
 相手が軽く眼を閉じ、そう呟いてから俺を見る。
「私は余興です。ですから、余興に負けてもらっては困るでしょう……」
 ガチン、という音と共に足下がロックされる。
 見ると、リストバンドが両足をしっかりと止め、ちょうど足首の部分に……。
「ほら、この回転ノコギリ見事でしょう? ライフがゼロになったら貴方の足はスッパリ! フフ……勝てば脱出出来ますよ」
「ほー、そりゃご丁寧に………」
 俺はデッキにカードをぶち込み、シャッフルしながら返事をする。
 余裕っぽく振る舞ってはいるが、実は怖い。足を斬られるなんざゴメンだ。
「要はデュエルしろって事だろ? ハッ、ハデにやってやろうじゃねぇか! 名前を名乗りやがれ!」

「………暗闇の尖兵、ムーディと名乗っておきましょう……」

「「デュエル!」」

 宍戸貴明:LP4000 ムーディ:LP4000

「(ああ、やっべぇ……メッチャ怖くなってきたわ………)」
 手札を持つ手が少し震える。怖い。あんな風に元気よく発言したはいいが、何か怖い。
 そりゃあ足下でノコギリが回転しているからだろうが。

『大丈夫』

 何処かで、小さな声がした。

 そしてその言葉に俺は何故か、安心してしまった。
「(ああ……多分……)俺の先攻ドロー!」
 カードを引く。手札は大丈夫だろうか。相手がどんな戦術をとるかも解らないままなのに。
「D.D.アサイラントを攻撃表示で召喚!」

 D.D.アサイラント 地属性/星4/戦士族/攻撃力1700/守備力1600
 このカードが相手モンスターとの戦闘で破壊された時、そのモンスターとこのカードをゲームから除外する。

「カードを3枚伏せて、ターンエンドだ」
「私のターン。ドロー!」
 ムーディはカードをさっさと2枚伏せると、手札からカードをとりだした。
「熟練の黒魔術師を攻撃表示で召喚します」

 熟練の黒魔術師 闇属性/星4/魔法使い族/攻撃力1900/守備力1700

「では、バトル! 熟練の黒魔術師で、D.D.アサイラントを攻撃!」
「リバース罠、攻撃の無力化を発動!」

 攻撃の無力化 カウンター罠
 相手モンスター1体の攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了させる。

「ターンエンドですね」
「おいおい、まるで負けに来てるみてぇじゃねぇのか? ドロー」
 俺が小さく呟いたが、ムーディは少し微笑みを見せただけだった。
 しょうがないので俺のターンを続ける。
「……………なぁ、ムーディさん。言っちゃ悪いけど……ここから先はずっと俺のターン!」
「あっはっは! 幾らなんでもそんなレアカードがある筈は無い……!」
「いや、さっき拾っちゃった。リバース罠2枚同時に発動! おジャマトリオと最終突撃命令をなぁ!」

 おジャマトリオ 通常罠
 相手フィールドに「おジャマトークン」(地属性/星2/獣族/攻撃力0/守備力1000)を3体召喚する。
 「おジャマトークン」が破壊された時、このトークンのコントローラーは300ポイントダメージを受ける。

 最終突撃命令 永続罠
 このカードが表側表示で存在する限り全ての表側表示モンスターは攻撃表示になる。

「う、わーッ!!!!!!!!!! し、しまった……そんなのばら撒くんじゃなかった……!」
 さっき拾ったカードはお前がバラ撒いていたのかよ。
 おジャマトークンの攻撃力は0。
 3体攻撃表示で破壊されれば900ダメージ。
「あと、阿修羅を攻撃表示で召喚」

 阿修羅 光属性/星4/天使族/攻撃力1700/守備力1200/スピリット
 このカードは特殊召喚出来ない。召喚・リバースしたターンのエンドフェイズ時にプレイヤーの手札に戻る。
 このカードは相手フィールドの全てのモンスターに1回ずつ攻撃する事が出来る。

「じゃあな!」
「ひぎゃあああああああああああああああ!!!!!!」

 ムーディ:LP4000→0

 拾ったカードだけで事実上の1ターンキルコンボ。
 恐ろしいカードだ……デッキから抜いとこう。
「……おい。これで終わりなワケねーよなぁ?」
 俺がそう言った時、ムーディも驚いた顔をやめた。
 同時に足下のバンドが外れ、ノコギリも回転を止める。
「ええ。此処からが本番です。言ったでしょう? 私は余興ですと」
 ムーディはそう言い放つと、ご案内しますと先導した。


「前回のバトル・シティは貴方もご存知のようにレアカード窃盗団グールズが暗躍しておりました」
「まぁ、確かにな。で、今回はアンタらが暗躍してるって事か?」
「ご名答」
 グールズ。
 古代エジプトに伝わる墓守の一族の1人、マリク・イシュタールを首魁とするレアカード窃盗団。
 バトル・シティ決勝にて決闘王に首魁のマリクが敗れた後は自然消滅する形で消えていった、という話だ。
 もっとも、残党は各地で暗躍したらしくペガサス会長や海馬社長がその撲滅に躍起になり、少しだけ手伝いをした事があったのを思いだす。
「(あれは中学生の頃だっけ……?)」
「さて、貴方はご存知ですか? 三神竜の事を」
「知らん」
 三幻神と三邪神なら知ってるが三神竜なぞそんなの知らん。
「噂で話されてるペガサスが間違いで生んだウリアだがラビエルだがっつーそういうカードか?」
「それは噂では無く真実です。でもそれは三幻魔であって三神竜ではありません」
 ペガサスはいったいどれだけ極悪なカードを作ったんだ、あの史上最強に執着心が強いカードデザイナーは。
 ソリッドビジョンで恋人を蘇らせようだなんて所詮はソリッドビジョンなんだから無理だろ。
「かつて……このカードは盗みだされ、とある事件を引き起こしました。もっとも、盗み出したのは我々の組織ですがね」
「なんなんだよ、その組織は!」
 俺が声を荒げた時、ムーディは笑顔を向けた。
「デュアル・ポイズン。我々の間ではそう呼ばれております。グールズをも凌ぐ、レアカード窃盗団」

 直後、ムーディの姿が消えた。
「言っておきましょう」
 背後から冷たい声が響く。だからある意味怖い。
「我々は、三神竜を用い、狭間を開く事にあります。三神竜の全てに決闘者の魂が集まった時、狭間は開かれるのです」
 恐怖。
 言葉による恐怖なんてそうそう無いに違いない。だが、それは俺にとって恐怖である事に間違いなかった。
 ヤバい。これはヤバい。雄二に連絡は取れないか。
 だけどその前に玲子姉さんに電話をかけてああそうだ海馬社長に電話でも繋ごうかだけど電話番号知らないしどうすりゃいいんだ。

 直後、頭上のライトが一斉についた。

 その中心に、1人の人影が立っていた。
 片手にデュエルディスク。決闘者である事が解る。だけど、おかしい。何か、おかしい。
「(なんだ………アイツ……)」
 違和感が拭えない。だけど……。
「…………デュエルだ」
 俺がそう言った時、相手も頷いた。

 デュエルする事。相手がデュエリストであるなら、ただデュエルするという思いしか俺には出て来なかった。
 ならば、戦え、と。誰かが言った。



「………名前は何て言うんだ?」
 デッキをシャッフルしながら俺が訪ねると、相手は小さく答えた。
「名乗る程じゃない。エクゾードと呼べ」
 守護神のカードかよ。

 宍戸貴明:LP4000 エクゾード:LP4000

「「デュエル!」」

「僕の先攻。ドロー」
 先攻を取られた……、まぁ、いいか。
「魔導戦士ブレイカーを召喚」

 魔導戦士ブレイカー 闇属性/星4/魔法使い族/攻撃力1600/守備力1000
 このカードの召喚に成功した時、このカードに魔力カウンターを乗せる。(最大1個まで)
 このカードに乗っている魔力カウンター1つにつき、このカードの攻撃力は300ポイントアップする。
 その魔力カウンターを取り除く事でフィールド上の魔法・罠カードを1枚破壊する。

「魔導戦士ブレイカーの効果を発動する。魔力カウンターを1つ載せる」

 魔導戦士ブレイカー 攻撃力1600→1900

「カードを1枚伏せて、ターンエンド」
「俺のターン! ドロー!」
 魔導戦士ブレイカーの効果で伏せカードを除去されては敵わない……なら、ここはこのカードを伏せるべし!
「カードを1枚伏せ……闇魔界の戦士ダークソードを攻撃表示で召喚!」

 闇魔界の戦士ダークソード 闇属性/星4/戦士族/攻撃力1800/守備力1500

「そんなカード……殴り負けしますよ?」
「わかんねーよ?」
 エクゾードの言葉に俺がそう返すと、相手は小さく唇を噛んだ。
「俺はターンエンドするぜ」
「僕のターン。ドロー! そして……魔導戦士ブレイカーの効果で、そのリバースカードを破壊させて貰う!」
「リバース、発動! 強欲な瓶!」

 強欲な瓶 通常罠
 自分はデッキからカードを1枚ドローする。

「なっ………ぶ、ブラフ……」
「残念だったな! これで魔導戦士ブレイカーの攻撃力は1600だ!」
「くっ………」
 相手が唇を噛んだが、既に後の祭り。
 さぁて、どう出て来るかな?
 もっとも、こっちはリバース無しでダークソードが肩身を狭そうにしてるだけだけどな……。
「ええい、僕は召喚僧サモンプリーストを召喚!」

 召喚僧サモンプリースト 闇属性/星4/魔法使い族/攻撃力800/守備力1600
 このカードは生け贄に捧げる事が出来ない。このカードは召喚・反転召喚した際に守備表示となる。
 自分の手札から魔法カードを1枚捨てる事でデッキよりレベル4以下のモンスター1体を召喚する。

「サモンプリーストの効果で、手札より増殖を墓地に送り、熟練の白魔導師を召喚!」

 熟練の白魔導師 光属性/星4/魔法使い族/攻撃力1700/守備力1900
 自分または相手が魔法を発動する度にこのカードに魔力カウンターを1つ載せる。(最大3個まで)
 魔力カウンターが3個乗ったこのカードを生け贄に捧げる事で手札・デッキ・墓地より「バスター・ブレイダー」を特殊召喚する。

 相手はどうやら魔法使い族デッキらしい。守護神エクゾード全然関係ないじゃん。何を考えてるんだ。
 そもそも魔法使い族デッキなのに何で増殖が入ってるんだ?
 あれはクリボー専用の筈じゃ……まぁ、羽が生えたら天使になる代わりに淫獣になったのは横に置いておこう。
「……守備表示じゃなくて攻撃表示でいいのか?」
「…………ターンエンドです」
「ムッシングかよ。俺のターン! ドロー!」
 ちょうど手札にいいモノが来ている。
「俺はカードを2枚伏せ、D.D.アサイラントを召喚!」

 D.D.アサイラント 地属性/星4/戦士族/攻撃力1700/守備力1600
 このカードが相手モンスターとの戦闘で破壊された時、そのモンスターとこのカードをゲームから除外する。

 俺のフィールドに暗殺者が音もなく出現する。
 その時、暗殺者は少しだけ俺にウィンクをした。そんな演出は聞いてない。
 待てよ……。

『もしもカードに精霊がいるとすれば、貴方のようなプレイヤーに使って欲しいでしょうね。カードを愛してやまない、そんな貴方ですから』

 さっき、ノコギリが足下にあるだけでビビっていた俺を誰かが励ましてくれた……まさか。
「(まさか、お前か……?)」
 俺の視線に、女暗殺者は何も答えはしなかった。
「そうだな……今はデュエルが大事だ。バトルだ!」 D.D.アサイラントで召喚僧サモンプリーストを、ダークソードで白魔術師を攻撃!」
「クッ……この程度」

 エクゾード:LP4000→3900

「ターンエンドだぜ」
 削ったライフポイントは僅か100。
 それに、まだ相手のフィールドには魔導戦士ブレイカーが存在する。もっとも、サモンプリーストを倒した事でモンスターの大量展開は防げたが。
 そう言えば相手にはリバースカードが無い。
 これから設置するのかも知れないが。
「僕のターン。ドロー!」
 その時、相手の顔が僅かに歪んだ。
「カードを1枚伏せる。そして、墓地より熟練の白魔導師と、召喚僧サモンプリーストをゲームより除外する」
 光と闇。2つの属性のモンスターを除外。何だろう、聞いた事がある。
「光と闇を異次元へと送る事により……生まれた混沌より召喚される魔術師……出でよ! カオス・ソーサラー!」

 カオス・ソーサラー 闇属性/星6/魔法使い族/攻撃力2300/守備力2000
 このカードは墓地の光属性モンスターと闇属性モンスターを1体ずつ除外する事で特殊召喚する。
 相手フィールドのモンスター1体をゲームから除外する事が出来る。この効果は1ターンに1度しか使用出来ない。
 この効果を使用した場合、このモンスターはバトルフェイズを行う事が出来ない。

「生憎と効果は発動しませんが………では、バトル! カオス・ソーサラーでアサイラントを攻撃!」
「アサイラントの効果発動! このモンスターを破壊したモンスターとアサイラントをゲームから除外するぜ!」
 攻撃したカオス・ソーサラーごとアサイラントは次元の渦へと消えていく。
「悪いな」
 俺が小さく呟くと、アサイラントは小さく膝を折って一礼した。
 魔導戦士ブレイカーの攻撃力は1600。ダークソードが倒される心配は無いだろう。
「魔導戦士ブレイカーでダークソードを攻撃!」
「バカな、ブレイカーの攻撃力はダークソードを倒せないぜ?」
 そう、攻撃力が200足りない。
「だから僕はこのカードを発動する! 速攻魔法、突進!」

 突進 速攻魔法
 選択したモンスター1体の攻撃力をバトルフェイズのみ700ポイントアップする。

 魔導戦士ブレイカー 攻撃力1600→2300

「闇魔界の戦士ダークソードを撃破!」
「くそっ……」

 宍戸貴明:LP4000→3500

「聖なる魔術師を守備表示で召喚し、ターンエンド」

 聖なる魔術師 光属性/星1/魔法使い族/攻撃力300/守備力400
 リバース:自分の墓地から魔法カード1枚を選択し、自分の手札に加える。

「俺のターン! ドロー!」
 果たして良カードがあれば良いのだが……。
「サイバー・ドラゴンを自身の効果で特殊召喚!」

 サイバー・ドラゴン 光属性/星5/機械族/攻撃力2100/守備力1600
 相手フィールド上にモンスターが存在し、自分フィールドにモンスターが存在しない時、このカードを手札より特殊召喚出来る。

「まだ通常召喚が残ってるんでねぇ! 鉄の騎士ギア・フリードを召喚!」

 鉄の騎士ギア・フリード 地属性/星4/戦士族/攻撃力1800/守備力1600
 このカードに装備カードが装備された時、その装備カードを破壊する。

「サイバー・ドラゴンの攻撃! 魔導戦士ブレイカーを撃破!」
「…………」
「ついでに、ギア・フリードで聖なる魔術師を撃破するぜ!」

 エクゾード:LP3900→3400

 ライフポイント差はほぼ互角。このデュエル、先が見えなくて面白いぜ。
「(ああ、そう言えば………カオス・ソーサラーの事を思いだしたぜ)」
 海馬コーポレーションとインダストリアルイリュージョン社はデュエルでの使用禁止カードを幾つか決めている。
 カオス・ソーサラーは禁止カードとなったカオス・ソルジャー −開闢の使者−の下位互換として有名だった筈だ。
 それでも結構なレアカードだった筈だけれど。
「(1ターンに1度、相手モンスターを問答無用で除去出来るからな)」
 ある意味恐ろしいカードだ。海馬社長に今度かけあってみるか。
「………なかなかやりますね」
 俺がそんな事を考えていると、エクゾードが口を開いた。
「諦めが悪いからな。さて、俺はターンエンドさせて貰うぜ」
「そうですか。僕のターンです」
 相手はそう宣言してから、デッキからカードを引く。
「天使の施しを発動します」

 天使の施し 通常魔法
 カードを3枚ドローし、手札からカードを2枚墓地に送る。

「この効果により、カードを3枚ドローし、2枚を墓地に送ります」
 相手の手札を見ているだけで、凄まじい程のカードが動いているのが解る。
 それにしても、この相手は確実に強い。
「クッ……………召喚僧サモンプリーストを守備表示で召喚します」

 召喚僧サモンプリースト 闇属性/星4/魔法使い族/攻撃力800/守備力1600
 このカードは生け贄に捧げる事が出来ない。このカードは召喚・反転召喚した際に守備表示となる。
 自分の手札から魔法カードを1枚捨てる事でデッキよりレベル4以下のモンスター1体を召喚する。

「そして、サモンプリーストの効果で熟練の黒魔術師を召喚」

 熟練の黒魔術師 闇属性/星4/魔法使い族/攻撃力1900/守備力1700
 自分または相手が魔法カードを発動する度にこのカードに魔力カウンターを1つ載せる。(最大3個まで)
 魔力カウンターを3つ乗せたこのカードを生け贄に捧げる事で手札・デッキ・墓地から「ブラック・マジシャン」を特殊召喚する。

「更に、魔法カード、光の護封剣を発動!」
「………俺の攻撃を完全に封じたってワケか………リバース罠、合わせ鏡!」

 合わせ鏡(オリカ) カウンター罠
 相手が片方のプレイヤーのみに効果のある魔法・罠カードを発動した際に発動可能。
 お互いのプレイヤーがその魔法・罠カードの効果を受ける。

「この効果により、お前のフィールドにも護封剣が降り注ぐぜ!」
「ッ………だが、これで条件は互角!」
「ああ、そうだな」
 お互いに3ターン攻撃出来ない。だからその間に迎撃準備だ。
 反撃を返してやるには充分過ぎる程の時間だぜ!

 その時の俺は、相手の表情が奇妙に歪んでいるのに気付いていなかった。



《第10話:混沌の恐怖》

 宍戸貴明:LP3500 エクゾード:LP3400

 ライフポイント差は100。お互いに光の護封剣を発動した状態であるので3ターン攻撃不可だ。
 なかなか難しい展開だと思う。
「(反撃準備と思い立ちはしたものの……どうしたものかな)」
「ターンエンドです。貴方のターンですよ?」
「ああ、そうか。俺のターン。ドロー!」
 良き手札が無ければドローするのが鉄則だが、生憎とドロー加速カードが手札にない。
「カードを1枚伏せて、異次元の戦士を守備表示で召喚。ターンエンドするぜ」

 異次元の戦士 地属性/星4/戦士族/攻撃力1200/守備力1000
 このカードと戦闘したカードを除外する。

 護封剣の効果は後2ターン。
 此方はモンスター3体、相手は2体。大丈夫だろうか。
「…………僕のターン。サモンプリーストの効果で、アクア・マドールを召喚」

 アクア・マドール 水属性/星4/魔法使い族/攻撃力1200/守備力2000

「そして………墓地の聖なる魔術師と、魔導戦士ブレイカーを除外!」
「なにっ!? 2体目のカオス・ソーサラーか!? カオス・ソーサラーは制限カードの筈だぞ……」
 その時、相手の顔が思い切り歪んだ。
 まるで狂気のように、恐ろしさを秘めた笑顔を。
「光と闇……併せ持つ混沌を……異次元より呼び覚ませ………出でよ! 最強の使者、カオス・ソルジャー −開闢の使者−を召喚!」
「か、カオス・ソルジャー……」

 カオス・ソルジャー −開闢の使者− 光属性/星8/戦士族/攻撃力3000/守備力2500
 このカードは通常召喚出来ない。墓地の光属性モンスターと闇属性モンスターを1体ずつ除外して特殊召喚する。
 自分のターンに1度だけ、以下の効果を選択して発動出来る。
 ・フィールド上に存在するモンスター1体をゲームから除外する。この効果を発動した場合、このカードは戦闘を行えない。
 ・このカードが戦闘によってモンスターを破壊した場合、もう1度だけ続けて攻撃を行える。

「ちょ……!? このカードはKCとI2社が禁止カードに指定してる筈だぞ!?」
「禁止カードだろうが関係ない。勝つ為ならカードを使って勝つ。それがデュエリストだ」
「ハッ! そんなわけねー」
 俺の返答に、相手は答えない。
 幸いにして護封剣が発動している間は攻撃が出来ない……ん?
「カオス・ソルジャーの効果発動! 貴方の異次元の戦士を除外させて貰う」
「あっ……い、いかないでくれ〜!」
 攻撃しなければ第2の効果は発動出来ない。
 だが除外効果は普通に使用出来るし、護封剣の発動下ならデメリットを打ち消せる。
 おまけに双方とも効果を受けているから此方からも除去出来ないのだ。

「(厄介なカードだぜ……)」
 禁止カードまで投入してくるとは恐ろしい。
 そう言えば、決闘王がグールズのレアハンターは制限カードのエクゾディアパーツを3枚デッキに投入していたという話をしていたような。
 ええい、流石はレアカード盗掘団。勝つ為には手段を選ばないか。
「(だけど、どうすればいい……)」
 禁止カードですら投入するようなデッキを相手に、どうすればいいんだ。
「カードを1枚伏せてターンエンド。貴方のターンです」
 護封剣の効果は後1ターン。
「俺のターン! ドロー!」
 どうすればいい……俺………。
「カードを1枚伏せ、憑依装着−エリアを守備表示で召喚! ターンエンド」

 憑依装着−エリア 水属性/星4/魔法使い族/攻撃力1850/守備力1500

「…………消えますよ。光の護封剣が」

 相手の宣言と共に、お互いの護封剣が四散していく。
 これで、お互いに攻撃が可能になった。
 カオス・ソルジャー相手に何処まで行けるかどうか解らない。だが、やってみなければ解らない。
「僕のターン! ドロー。そして………バトルだ! カオス・ソルジャーでサイバー・ドラゴンを撃破!」

 宍戸貴明:LP3500→2600

「そして、自身の効果でギア・フリードを攻撃……」
「リバース罠、カオス・バーストを発動!」

 カオス・バースト 通常罠
 相手モンスターの攻撃宣言時に発動可能。自分フィールドのモンスター1体を生け贄に捧げる事でその攻撃モンスター1体を破壊する。
 その後、相手ライフに1000ポイントダメージを与える。

「ギア・フリードを生け贄に捧げる事でカオス・ソルジャーを破壊させて貰うぜ」

 カオス・ソルジャーが爆散していく。
 最強を誇るモンスターも、除去罠には弱かったという事だろう。

 エクゾード:LP3400→2400

「更に、リバース罠を発動! リビングデットの呼び声でサイバー・ドラゴンを蘇生!」

 リビングデッドの呼び声 永続罠
 自分の墓地のモンスター1体を表側攻撃表示で特殊召喚する。
 このカードがフィールドを離れた時、そのモンスターを破壊する。

 サイバー・ドラゴン 光属性/星5/機械族/攻撃力2100/守備力1600
 相手フィールド上にモンスターが存在し、自分フィールドにモンスターが存在しない時、このカードを手札より特殊召喚出来る。

「……ターンエンドです」
「俺のターン! ドロー!」
 どうにか1ターンを凌いだが、その次が解らない。果たして、行けるかどうか……。
「D.D.アサイラントを守備表示で召喚!」

 D.D.アサイラント 地属性/星4/戦士族/攻撃力1700/守備力1600
 このカードが相手モンスターとの戦闘で破壊された時、そのモンスターとこのカードをゲームから除外する。

「(2枚、落ちてたもんな)」
 どこの誰かは知らんがカードを落としてくれた奴には感謝しないと。
 カオス・ソルジャーが墓地に落ちた以上、当分は平気だろう。
「サイバー・ドラゴンで召喚僧サモンプリーストを攻撃!」
 召喚僧が粉砕されるが、かれこれ相手の墓地にはかなりモンスターが溜まっている。
 流石にもうカオス・ソーサラーが更に投入されているとかそういうのは無いだろう。あるかも知れないけれど。
「カードを1枚セットし、ターンエンドだ」
「………ドロー!」
 相手のターンになった。はて、何が出て来るかな。
「熟練の黒魔術師および、アクア・マドールを生け贄に捧げ………混沌の黒魔術師を召喚!」

 混沌の黒魔術師 闇属性/星8/魔法使い族/攻撃力2800/守備力2600
 このカードの召喚・特殊召喚に成功した時、自分の墓地より魔法カードを1枚選択して手札に加える事が出来る。
 このカードが戦闘によって破壊したモンスターは墓地に行かずにゲームから除外される。
 このカードがフィールドを離れた時、ゲームから除外される。

「どんだけ詰め込み術なんだよお前のデッキ!?」
 俺が思わずそう叫んでも相手は眉1つ動かさない。
「混沌の黒魔術師の攻撃! 水霊使いを粉砕してやる!」
 混沌の黒魔術師が躊躇う事無く杖を振り上げ、エリアに標的を定める。
 アサイラントを狙わなかったのは除去される心配からか。
 だが、甘い。
「リバース罠、霊術士の覚醒を発動!」

 霊術士の覚醒(オリカ) 永続罠
 このカードがフィールド上で表側表示で存在する間、「霊使い」「憑依装着」と名のつくモンスターの攻撃力は600ポイントアップする。
 このカードが発動されたターン、バトルフェイズを行う事が出来ない。
 更に、自分ターンのスタンバイフェイズ時にこのカードと「霊使い」と名のつくモンスター1体を墓地に送る事で、そのカード同じ属性の
 「憑依装着」を手札またはデッキから特殊召喚出来る。
 また、自分ターンのスタンバイフェイズ時にこのカードと「憑依装着」と名のつくモンスター1体を墓地に送る事で、そのカードと同じ属
 性の「霊術士」を手札またはデッキから特殊召喚出来る。
 このカードが上記の特殊召喚以外の方法でフィールドから離れた場合、フィールドに存在する全ての「霊使い」「憑依装着」を破壊する。

「この効果により、バトルフェイズは行えないぜ。これは発動したターンだから相手ターンに発動すればいいんだぜ」
「くっ……」
「へへへへへへへへへへ」
 混沌の黒魔術師の攻撃が止まる。幾ら攻撃力2800だろうが攻撃しなければどうという事は無い。
「カードを1枚伏せて……ターンエンド」
「俺のターン! ドロー! 霊術士の覚醒の効果により、憑依装着−エリアと水霊術士の覚醒を墓地に送る。デッキより、蒼の水霊術士エリア
 を特殊召喚する!」

 蒼の水霊術士エリア(オリカ) 水属性/星6/攻撃力2450/守備力2100
 1ターンに1度、プレイヤーの指定したモンスター1体の表示型式を変更する事が出来る。(相手ターンにも発動可能)
 このカードは「霊術士の覚醒」の効果で特殊召喚された場合、以下の効果を得る。
 ・このカードが召喚された時、フィールド上で表側表示の魔法・罠カード1枚を破壊する。
 ・このカードは相手守備モンスターを攻撃した際、その守備力を攻撃力が上回っていればその分のダメージを与える。

「これが霊使いの最終進化形態………俺が譲り受けた、魂のカードの1つだぜ!」
「魂のカードだったの!?」
 何故か相手があきれ返ったような声をあげたがそんなのは知らん。
「まぁ、そういうこった。カードを1枚伏せて、ターンエンドだ」
「攻撃、しないんですね………では、僕のターン。ドロー」
 相手が少しだけ微笑みを浮かべた。
 どうやらキーカードを引いたような顔だ。何か怖い。
「魔法カード、戦士の生還を発動」

 戦士の生還 通常魔法
 墓地より戦士族モンスター1体を手札に加える。

「この効果により、カオス・ソルジャー −開闢の使者−を墓地より手札に戻します」
「あ……」
 だが、生け贄を確保する為にはモンスターが更に必要だ。
 混沌の黒魔術師を生け贄にするとは考えられないので後2体展開する必要がある。
「(だとすれば……3体目のサモンプリースト?)」
 それは何としてでも避けたい事態だ。
「バトル! 混沌の黒魔術師で、水霊術士エリアを攻……」
「リバース罠、攻撃の無力化を発動! 悪いがその攻撃は無効だ!」
「おや、残念」
 幸いにして攻撃を無効出来たのは良いが、俺のデッキにはもう攻撃の無力化が存在しない。
 つまり、次のターンで俺がどうにかしなければ粉砕されてエンドというワケだ。
「(どうする………俺……)」
「ターンエンドです」
「ああ、俺のターンか……」
 俺はドローしようとして、その手を止めた。
「……どうしました? サレンダーをしようとして迷ってるんですか? サレンダーを迷うなら戦う方が……」
「なぁ、お前さぁ」
 俺が口を開くと、相手はフィールドから視線を俺に移した。
「何の為にデュエルをしてるんだ?」
「………………」
 答えない。仕方がないので、勝手に言葉を続ける。

「さっき、そこのヤローからテメーらの裏に晋佑がいる事は解った。晋佑は覚えてないかも知れない。もし会う事があれば伝えてくれ。俺も、晋佑も。
 そして雄二も、今立ってる場所は違えど、始まった場所は同じだった筈だってな」

「……覚えておけばね」
 俺の言葉に、相手は小さくそう答えた。

「ドロー!」
 デッキからカードを引く。果たしてこのターン。どうやって逆転するかだ。
 もしも此処がデュエルの山場なら。運命の女神は何方に微笑んでいるか。
 いつも俺の為に微笑んでるなら、今日も俺の為に微笑んでくれよな、と願ってみる。
 それが叶うかどうかは知らないけれど。

「………カードを2枚セット」
 後は、後はどうすればいい………。
 手札を確認する。果たして、何があるか…………。
「闇魔界の戦士ダークソードを攻撃表示で召喚!」

 闇魔界の戦士ダークソード 闇属性/星4/戦士族/攻撃力1800/守備力1500

「更に、通常魔法、二重召喚を発動!」

 二重召喚 通常魔法
 このターン、通常召喚を2度行う事が出来る。

「フィールドの、サイバー・ドラゴンを生け贄に捧げ……手札より騎竜を召喚!」

 騎竜 闇属性/星5/ドラゴン族/攻撃力2000/守備力1500/ユニオン
 1ターンに1度自分のメインフェイズに装備カード扱いとして自分の「闇魔界の戦士ダークソード」に装備可能。
 または装備を解除して表側攻撃表示で特殊召喚する。
 このカードが装備カードになっている時のみ、装備したモンスターの攻撃力・守備力を900ポイントアップする。
 装備状態のこのカードを生け贄に捧げる事で相手プレイヤーに直接攻撃する事が出来る。
 装備モンスターが破壊される場合、代わりにこのカードが破壊される。

「騎竜………ダークソードに装備出来るユニオン・モンスター……」
「これでダークソードの攻撃力を増強したいところだぜ」
 もっとも、それには次の自分のメインフェイズまで待たなければならないが……。
 まぁ、それは大した問題では無いかも知れない。何せ、お互いにまだかなりのライフが残っているのだ。
 このデュエル、全然展開が見えないが……。
「(俺は、勝つ!)」
 その前に相手がどう出て来るか解らないのが辛い所だ。
「ターンエンドだぜ」
「僕のターン。ドロー。そして、バトル!」
 やはり、黒魔術師を動かしてきたか。
「リバース罠、闇の呪縛を発動!」

 闇の呪縛 永続罠
 指定した相手モンスター1体の攻撃力を700ポイント下げる。
 指定されたモンスターは攻撃と表示型式の変更が出来なくなる。

 混沌の黒魔術師 攻撃力2800→2100

「へっ、これで混沌の黒魔術師の動きは封じたぜ!」
「くっ………カードを1枚伏せて、ターンエンドです」
 どうやら完全に身動きが取れないらしい。
 ここはチャンスだ。
「俺のターン! まずはドロー。メインフェイズに移行! 闇魔界の戦士ダークソードに、騎竜をユニオン!」

 闇魔界の戦士ダークソード 攻撃力1800→2700

「そして、バトルだ! 行くぜ、エリア! 混沌の黒魔術師を攻撃!」

 エクゾード:LP2400→2050

「(よし、これでダークソードでダイレクトアタックを決めれば勝てる……!)」
「リバース罠、オープン! ミスティ・マジックを発動!」

 ミスティ・マジック(オリカ) 通常罠
 戦闘による自分モンスター1体の破壊を無効する。ダメージ計算は適用する。

「この効果により、混沌の黒魔術師は完全な姿で蘇ります」

 混沌の黒魔術師 闇属性/星8/魔法使い族/攻撃力2800/守備力2600
 このカードの召喚・特殊召喚に成功した時、自分の墓地より魔法カードを1枚選択して手札に加える事が出来る。
 このカードが戦闘によって破壊したモンスターは墓地に行かずにゲームから除外される。
 このカードがフィールドを離れた時、ゲームから除外される。

「ミスティ・マジックはモンスターを1度霧の身体にする……故に、ついていた闇の呪縛も剥がれるって事か」
「…………これで貴方の闇の呪縛の効果は無効です」
「くそ……」
 厄介なリバースを伏せられていたものだ。だとすると、これからどうすればいいか。
 1ターン凌げれば……いや、その1ターンの間で何があるか解らない。
 3体目のサモンプリーストを召喚されれば次のターンには手札に回収したカオス・ソルジャーがやってくる。
「ターンエンドだ」
 結局、ターンエンドするしか無かったようだ。
「………僕のターン。ドロー!」

「魔法カード、融合を発動! 手札のカオス・ソルジャー −開闢の使者−とフィールドの混沌の黒魔術師を融合!」
「なっ……!?」
 開闢の使者と混沌の黒魔術師の融合だなんて聞いた事が無い。
 かたや禁止カードかたや制限カードだ。どれだけ豪華な融合素材なんだ。
「………混沌より生まれ、混沌を切り裂く魔導剣士の召喚だ! 混沌の魔導剣士カオス・パラディンを召喚!」

 混沌の魔導剣士カオス・パラディン(オリカ) 光属性/星10/戦士族/攻撃力3800/守備力3200
 「カオス・ソルジャー −開闢の使者−」+「混沌の黒魔術師」
 このカードは融合召喚でしか特殊召喚出来ない。上記のカードでしか融合する事が出来ない。
 このカードはフィールドを離れた時、ゲームから除外される。

「効果はないけど、ビッグなモンスターだ!」
 攻撃力3800。まさにそれは、ボスというに相応しいモンスターだった。
「これが………これがお前のデッキの最強モンスターか………いいさ、相手になってやるぜ!」
 ああ、なんてこったい。

 こんな状況でもこんな不謹慎な発言をしていられる俺がいるなんて。

「カオス・パラディンの攻撃! まずはその目障りな水霊術士を攻撃……」
「水霊術士エリアの特殊効果発動! 1ターンに1度、フィールドのモンスター1体の表示型式を変更出来る。お前のボスを守備表示に変更だ!」
「な。なにぃっ!?」

 カオス・パラディンが守備表示に変更される。
 これで1ターンは持つ。だが、生憎と通常召喚がまだなので何があるか解らないけど。
「カードを1枚伏せる。そして………ええい、もう1度聖なる魔術師を守備表示で召喚。ターンエンドだ」
「制限カードなのに2枚目かよ」

 聖なる魔術師 光属性/星1/魔法使い族/攻撃力300/守備力400
 リバース:自分の墓地から魔法カード1枚を選択し、自分の手札に加える。

「(相手のデッキがもう無茶苦茶だ………)」
 正直な話、あそこまで詰め込まれた挙げ句攻撃力3800。
 どうやって勝てばいいんだと。
「(運が良い事に攻撃だけは回避しきってるからいいが……もろに喰らえばエンドだぞ)」
 待てよ。

 フィールドを確認する。
 守備表示のD.D.アサイラントと蒼の水霊術士エリア。
 攻撃表示の騎竜をユニオンした闇魔界の戦士ダークソード。
「……ゴメン。俺のターン。ドロー」

「………D.D.アサイラントでカオス・パラディンを攻撃!」
「な、なんだってぇ!? 自爆特攻して何になるんだ!」
「忘れたのか!? アサイラントの効果をよく読んどけ、バカヤロー!」

 D.D.アサイラント 地属性/星4/戦士族/攻撃力1700/守備力1600
 このカードが相手モンスターとの戦闘で破壊された時、そのモンスターとこのカードをゲームから除外する。

 宍戸貴明:LP2600→1100

「あ、悪魔かアンタは………自爆特攻して無理矢理除外するなんて……」
「悪いな、アサイラント。ヘッ、これでお前のフィールドには守備モンスターしかいねぇ! 蒼の水霊術士で聖なる魔術師を攻撃するぜ!」
 これで相手へのダメージはちょうど2050。これなら……。
「リバース罠、体力増強剤スーパーZを発動!」

 体力増強剤スーパーZ 通常罠
 ダメージステップ時に2000以上の戦闘ダメージを受ける際に発動可能。
 その戦闘ダメージが引かれる前に1度だけライフポイントを4000回復する。

 エクゾード:LP2050→6050→4000

「嘘、だろ………?」
 ライフポイント4000に逆戻り。なんてこったい。
「くそっ………闇魔界の戦士ダークソードで攻撃!」

 エクゾード:LP4000→1300

「ターンエンドだ」
 まさかあんなカードを伏せているなんて思わなかった。
 だけど、これで相手の主力を全て破壊した筈。
「カオス・ソーサラー」
 急に相手が呟いた。
「開闢の使者、混沌の黒魔術師、そして……カオス・パラディン」

「ポーン。ルーク。ビショップ。ナイト。全て取られましたが……まだ、詰みには早いです」

 相手が小さく微笑むと同時に、ドローする。
「手札より魔法カード、異次元の真逆を発動!」

 異次元の真逆(オリカ) 通常魔法
 1000ライフポイントを支払う。墓地のカードを全てデッキに戻し、シャッフルする。その後、カードを3枚ドローする。

 エクゾード:LP1300→300

「このカードの効果で……墓地のモンスターが全てデッキに戻った………」
「(なんだ……?)」
 この時、俺は相手に違和感を感じた。そう、なんというか。
「(コイツ……ライフが減る度に……どんどん正気じゃなくなってるような気がするぞ?)」
 何故、そんな事になっているのだろう。まるで洗脳されたようだ。
 待てよ……洗脳……?

「そして……手札より…………究極封印神エクゾディオスを召喚!」

 フィールドが。動いた。
 大地がひび割れ、まるで地殻変動でも起こるかのような。

 だがしかし、これからトンでもないモノが出て来るという事だけは解った。



《第11話:増幅する悪意》

 宍戸貴明:LP1100 エクゾード:LP300

「手札より…………究極封印神エクゾディオスを召喚!」

 究極封印神エクゾディオス 闇属性/星10/魔法使い族/攻撃力?/守備力0
 このカードは通常召喚出来ない。自分の墓地に存在するモンスターを全てデッキに戻した場合のみ特殊召喚出来る。
 このカードの攻撃宣言時、手札またはデッキからモンスター1体を墓地に送る。
 このカードは墓地に存在する通常モンスターの数×1000ポイント、攻撃力がアップする。
 このカードはフィールドから離れた時、ゲームから除外される。
 このカードの効果によって墓地に「エクゾディア」とその四肢が自分の墓地に揃った時、デュエルに勝利する。

「究極封印神……エクゾディオス?」
 俺の呟きは、召喚されたエクゾディアもどきの咆哮に掻き消された。
「このカードで………お前を仕留めてやる……」
 カオス・ソーサラー、開闢の使者、混沌の黒魔術師といった難敵全てを撃破した。
 かと思えば最後にこんな大ボスが残ってるとは聞いてない。
 だが、それは相手にとってこれが最後の切り札という事。
「(つまり、コイツさえ倒せば俺の勝ちは確定する……!)」
 だが、こんな奴をどうやって倒せばいいのか。
「………エクゾディオスは、墓地に通常モンスターがいなければ、攻撃力は0だ」
「なに……じゃあ、攻撃力は0かよ?」
「故に、魔法カード、幻影の惨劇を発動!」

 幻影の惨劇(オリカ) 通常魔法
 自分フィールド上のモンスター1体を選択する。このターン、自分は指定したモンスターしか攻撃出来ない。
 相手フィールド上のモンスター全てにダメージ計算を行わずに攻撃する事が出来る。

「このカードの効果により、ダメージ計算を行わずに戦闘を行います……貴方のフィールドにモンスターは2体……」

 相手は小さく呟くと、そっと手を差し出した。
「行け、エクゾディオス! 天上の雷火エクゾード・ブラスト! この効果により、僕は封印されし者の右腕、左腕を墓地に送ります」

 究極封印神エクゾディオス 攻撃力0→2000

 一気に攻撃力2000のモンスターが存在した。
 あと3回、エクゾディアパーツが墓地に送られれば俺は負ける。
「ええい、クソッ………」
 思わず舌打ちする。本来相手の前でそんな事をしては自分が劣勢だと知らせるようなものだが、これはしょうがない。
「更に、悪夢の鉄檻を発動!」

 悪夢の鉄檻 通常魔法
 全てのモンスターは2ターンの間、攻撃出来ない。

「ターンエンドですよ」

 ドローするべきかどうか迷う。
 待ち望むカードが引ける確率など、そうそう高い筈が無い。奇蹟でも起こらない限りは。
「(だけどな……だけど俺は………)」

 俺は………奇蹟すらも自力で呼び込む男だ!

「俺のターン! ドロー!」

 ドローする。運命を賭ける一瞬。ここで、何を引くかが分かれ目だ。
「速攻魔法! 奇跡のダイス・ドローを発動!」

 奇跡のダイス・ドロー(オリカ) 速攻魔法
 サイコロを振る。出た目の数だけ、ドロー出来る。
 このターンのエンドフェイズ時に出た目の数以下になるよう、手札を墓地に送らなくてはならない。

 サイコロを振る。出た目は幾つだろう。
「出た目は3……3枚ドロー!」
 手札を確認する。これなら行けるだろうか……試してみなければ解らない。

「手札より、儀式魔法。深き冥界との契約を発動!」

 深き冥界との契約 儀式魔法
 「冥界の魔剣士」の降臨に必要。レベル7以上になるよう、生け贄を捧げなくてはならない。

「手札より、バスター・ブレイダーを墓地に送り、冥界の魔剣士イグナイトを召喚!」

 冥界の魔剣士イグナイト 闇属性/星7/戦士族/攻撃力2700/守備力2100/儀式モンスター
 儀式魔法「深き冥界との契約」より降臨。手札またはフィールドよりレベル7以上になるよう生け贄を捧げなければならない。
 相手守備モンスターを攻撃する際、攻撃力が守備力を上回っている分だけ余剰ダメージを与える。
 このカードの召喚に成功した際、相手フィールド上の魔法・罠カードを全て手札に戻す。
 手札を1枚捨てる事で相手フィールドにあるこのカードの守備力より低い守備力のモンスター1体を破壊する。

「お前のリバースカードを全て手札に戻させて貰う」
「クッ……」
 リバースカードが無い。
 攻撃力2000ならば、普通に一撃を浴びせれば勝ちになる。
 リバースカードの無い今、普通に勝てる。
「行くぜ、イグナイト! 煉獄の葬冥斬!」
「この瞬間! 手札に存在するクリボーの効果を発動! 手札より、このカードを手札から捨てるで相手モンスターの攻撃を無効にする!」
「なっ………」

 クリボー 闇属性/星1/悪魔族/攻撃力300/守備力200
 相手バトルフェイズ時にこのカードが手札に存在する時のみ発動可能。
 手札よりこのカードを墓地に送る事で相手モンスターの攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了する。

「この効果により、お前のバトルフェイズは終了だ……」
「くそっ……クリボーか……」
 なかなかと厄介なカードを伏せていたものだ。
「カードを1枚伏せて、ターンエンドだ」
 今はターンエンドするしかない。次のターンの攻撃で……攻撃力は恐らく3000に上昇する。
「(今は、待つしかねぇのかよ……)」
 俺が黙って待っていると、すぐに相手もドローした。
「………僕のターンだ。手札より、封印されし者の右足を墓地に送る」

 究極封印神エクゾディオス 攻撃力2000→3000

「エクゾディオスの攻撃! 闇魔界の戦士ダークソードを攻撃!」
「……騎竜の装備を解除! ダークソードはまだ無事だぜ」

 宍戸貴明:LP1100→800

「カードを1枚伏せて、ターンエンドだ」
「俺のターン! ドロー!」
 相手のリバースが怖い。カードを、伏せておこう。
「カードを1枚伏せて、ターンエンド」
「………僕のターンだ。手札より、封印されし者の左足を墓地に送る」

 究極封印神エクゾディオス 攻撃力3000→4000

「闇魔界の戦士ダークソードを攻撃……」
「リバース罠、黄昏のプリズムを発動!」

 黄昏のプリズム(オリカ) 通常罠
 ライフポイントを500支払って発動する。
 相手モンスター1体の攻撃を自分の指定したモンスターへの攻撃に差し替える。(相手モンスターでも可能)

 宍戸貴明:LP800→300

「ライフを500失うが……この効果で、エクゾディオスの攻撃対象を冥界の魔剣士に変更するぜ!」
「だが、エクゾディオスの攻撃力は4000! イグナイトでは迎撃出来ないぞ?」
「ここで、リバースしていた速攻魔法、ブラッド・ヒートを発動!」
「な、何だって……!?」

 ブラッド・ヒート(オリカ) 速攻魔法
 このカードはバトルフェイズ中にライフポイントの半分を支払って発動可能。
 自分フィールドの表側攻撃表示のモンスター1体を選択し、そのモンスターはそのターンのエンドフェイズまで、
 攻撃力はそのカードの元々の攻撃力に守備力の2倍を加算した値になる。
 このターンのエンドフェイズ時、対象となったモンスターを破壊する。

 宍戸貴明:LP300→150

 冥界の魔剣士イグナイト 攻撃力2700→6900

「イグナイトの迎撃! 煉獄の葬冥斬!」
「う、うわああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!!!!!!!」

 エクゾード:LP300→0

 相手のライフを削りきり、俺は小さく息を吐いた。
 いつもなら勿体ぶったりして色々いう筈なのに、何故か途轍もなく疲れた。
「(何か心臓がやたらやかましく聞こえるぜ……何でだ?)」
 その時、俺はふと気付いた。

 頭上に、やたら高い天井に、ライフポイントを示す物差しがあって。
 気が付けば両足は先ほどのようにロックされていて。

 ちょうど100と200の中間に。鋭利な刃が止まっていた。

「…………道理で緊張するワケだぜ……」
 俺が小さく呟くと、足のロックが外れる。
 俺がロックから抜け出すと同時に、相手にも同じセットがあり、相手の刃が300からゆっくりと下に動き始めたのが解った。
「……ヤバい!」
 俺が駆け寄ろうとした時、電撃が走った。
「いってぇ!」
 どうやら、いつの間にか電磁シールドが張られていたらしい。
 その間にも、刃が相手に迫る。気絶している相手は気付かない。どうする、どうすればいい。考えろ、俺―――――。

 咄嗟に、近くの消火器が目に飛び込んだ。
 駆け寄る。消火器を掴む。相手の頭上に迫る刃に向かってぶん投げる。
 盛大な音と共に、刃が砕けて動きが止まった。
「よし、偉いぞ俺!」
 後は電磁シールドの突破だが……これは発生装置を壊すしかない。
 電磁シールドの発生装置が見つからないので、床の装置ごと破壊する事にした。

 天井の蛍光灯を何本も叩き付けて強引に破壊し、ようやく電磁シールドが消えた。
 ロックの外し方が解らないので俺の方にあった刃を0の位置に持っていく事でロックを解除。意外と単純だ。
「これって、引き分けになったらどうするつもりだったんだ……?」
 何となく疑問に思ってしまう。
「おい、大丈夫か?」
 相手を少し揺さぶったが、気絶したままだった。
「………究極封印神エクゾディオス……これか」

 究極封印神エクゾディオス 闇属性/星10/魔法使い族/攻撃力?/守備力0
 このカードは通常召喚出来ない。自分の墓地に存在するモンスターを全てデッキに戻した場合のみ特殊召喚出来る。
 このカードの攻撃宣言時、手札またはデッキからモンスター1体を墓地に送る。
 このカードは墓地に存在する通常モンスターの数×1000ポイント、攻撃力がアップする。
 このカードはフィールドから離れた時、ゲームから除外される。
 このカードの効果によって墓地に「エクゾディア」とその四肢が自分の墓地に揃った時、デュエルに勝利する。

 凄い、とまでは言い難いが、5ターン攻撃すればエクゾディアパーツが全て墓地に揃う。
 そうすれば勝利になる、という時点でエクゾディアを手札に5枚集めるよりは簡単だろう。
「なるほどな………」
 しかしこんなカード、ある意味危険なカードだ。こんなモノが一般に流通しているとは思えない。
「デュアル・ポイズンか」
 グールズと似たような性質、というならデュアル・ポイズンが用意したコピーカードと見て問題無いだろう。
 レアカード窃盗団なら所持しているレアカードも相当なものだろう。
「………破っちまおうかな」
 海馬社長は昔、世界に4枚しか無かった青眼の白龍のカードを破いた、という伝説がある。
 そのお陰で今は世界で海馬社長が3枚所持しているだけ、という事らしい。
「……やっぱやめた。コピーカードでも、勿体ないよな」
 なので、ポケットに入れる事にした。エクゾディアパーツは持ってないけれど。
 相手は気絶したままだ。とりあえず病院にでも連れていこう。
 俺がそう思いかけた時、入り口に誰か立っていた。

「よう、貴明」

「高取………晋佑……」
 ある意味、会いたくて会えなかった存在。
 そして今、敵になった存在。親友が、そこにいた。

「晋佑、テメェ! どういうつもりだ!」
「どういうつもりだってのは、どういう事だ貴明?」
「どうしたもこうしたもねぇ………デュアル・ポイズンだぁ? 何時からそんなのに手を貸したんだ!」
「………お前こそ、俺という人間をよく知ってるんじゃないのか?」
 質問に質問で返される。だが、そんな事は関係ない。
「俺達は……俺達3人は、同じ場所から始まった。それに、間違いは無い」
「ああ、そうだ。確かに俺達3人は同じ場所から始まった。弱いデュエリストから始まった。だけど……それぞれ欲しかったモノが違うように、
 俺達は最初から同じ道を進んでなんかいない。同じ場所を目指してもいない。ただ、始まりが同じ場所だったというだけだ」
「………変わったな、晋佑」
「いいや、俺は変わってないよ、貴明。変わっちまったのは、お前らの方だ。俺達はあれほど勝つ事が欲しかった。だけど、今のお前は違う」
「………………」
「師匠は俺達に無い幾つもの大きなものを持っていた。だけど俺らはそれぞれ、それ全てを得る事なんて無かった。雄二は度胸。お前は強運。
 そして俺は機転を貰っただけに過ぎない。だから、俺達3人は誰もが不完全だ。だけどな……俺は完全な形で、デュエリストになりたい。そ
 れこそが、本当のデュエリストだと思ってる」
「……晋佑」
「貴明。1つ言っておく」
 晋佑は呟きながら、俺に背を向ける。
「そいつを洗脳して、エクゾディオスを遣わせたのは俺だ。鞄の中に、パズルカードを置いてあるから持ってけ。これ位は勝って貰わないと面白く
 ないしな、それに…………もう容赦しない。決勝で会おう。会えればの話だが」
「……晋佑ぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」

 だが、俺の声はもう、晋佑に届いてはいなかった。





 海馬社長と玲子姉さんを乗せたヘリが離れていく。
 2人は最後に俺にパックを1つくれたので、開けて見る事にした。
「………あ」
 まず最初に出て来たのは2枚の真紅眼の黒竜。俺のデッキに1つしか無いのをどうにかしろと言ったようなものか。
 そもそも世界に100枚前後しか無いレアカードを2枚もくれるなんて海馬社長らしい。
 3枚目は黒竜の雛。まぁ、これは当然か。
 だが、その後の3枚は全て真紅眼の関連カードだった。
 まだ一般には出回っていないであろう、3枚のカード。1つは海馬社長の力強さを思わせる融合モンスター。
 残り2枚は闇竜のように真紅眼を生け贄に召喚するカードだが、それぞれ実践級の強さを持っている。
「海馬社長だな、こんなカードを作りたがるの」
 思わずそう呟く。貴明が何処まで勝ち進んでいるのか少し見たい気分だが、それはどうでもいい事かも知れない。
 あの様子なら、海馬社長は貴明の所にも行くだろうからカードを貰うのはおあいこと言った所か。

 ビルを出る。時刻は午後3時を示している。後5時間で2枚のパズルカードを集める。
 口で言うには簡単だが、行動で示すのは難しいだろう。

 路地を歩く。その時、人影に気付いた。
「よう、雄二。久し振り」
「………晋佑?」
 高取晋佑だった。さっきの海馬社長の言葉を少しだけ思いだす。
 晋佑が、神竜を盗んだ犯人?
「なぁ、晋佑」
「さっき、貴明と会ってきた。昔とは、変わったな、アイツは」
「………そうか? 俺は貴明は昔通りだと思うぜ?」
 俺が何かを言うより先に晋佑が口を開いたので、俺は仕方なく合わせる。
 まぁ、別に無駄話というワケでも無さそうだし。
「いいや、変わったと思うぜ。まぁ、確かに奴の言うように、俺達は同じ場所から始まった。だが、始まりが同じ場所だったに過ぎない」
「スタート地点は同じでも、ゴールは違う。そう言いたいのか?」
「ああ、そうだ。お前もそうだろう?」
 じっと、晋佑の視線が俺を貫く。俺も、晋佑を見返す。

 無言の圧力が、しばらく続いた。

「………エジプトに還された三幻神。消息不明の三邪神。デュエル・アカデミアに在った三神竜と三幻魔。神と同等のチカラを持つカード。それ
 だけの強さを欲するのは、誰だって思う事だ。お前もそうだろう? 例えばもし、神竜の1つがお前の元に在ったら。お前はどうする?」
 もしも、神のカードが1枚、俺の手元に在ったら。
「……………」
 答えに困る。師匠は神のカードを1度たりとも手に入れた事は無かった。
 グールズの首領マリク・イシュタールは神のカードを復讐の為に使った。
 かの決闘王である武藤遊戯は神のカードを復讐を阻止する希望の為に使った。
 海馬コーポ社長の海馬瀬人は義父の呪縛を振り払う為に使った。
 I2社の天馬夜行は復讐の為に邪神のカードを使った。
 人によって、バラバラ。復讐の為とか呪縛を振り払う為とか自分の為にカードを使う事が多いような、だが。

 それが決闘者達に、強大な力を示してきたのは事実。

「…………わかんねーな」
 俺は迷った末にそう答えた。
「手にしてみて始めて、答えを出せるのかも知れない」
 そう答えた時、何処かで風が吹いた気がした。

「なぁ、雄二………だったら、お前も手にすればいいだろ?」

 晋佑の声が聞こえる。だが、姿が見えない。
 背後から1つ、足音が聞こえる。

 振り向くと、そこに1人のデュエリストが立っていた。
「戦ってみろよ、俺と」
 目が虚ろな印象を受けるデュエリストが、そっとデュエルディスクを突き出した。

「…………そうだな」

 デュエリストであるが故に。
 デュエルをする事で、お互いの真意を、気持ちを、確かめる事があるから。

「「デュエル!!」

 始まりは、単純だ。

 黒川雄二:LP4000 デュエリスト:LP4000

「俺の先攻ドロー! サファイアドラゴンを攻撃表示で召喚。カードを1枚伏せてターンエンドだ」

 サファイアドラゴン 風属性/星4/ドラゴン族/攻撃力1900/守備力1600

 この先、どんな戦いがあるか解らない。
 だけど俺は、それら全てを切り払って、進んでやろう。その先にある何かの為にも。



《第12話:vs冥府の神竜》

 黒川雄二:LP4000 デュエリスト:LP4000

 サファイアドラゴン 風属性/星4/ドラゴン族/攻撃力1900/守備力1600

「……僕のターン。ドロー!」
 俺の先攻でフィールドにはサファイアドラゴンとリバースカードが1枚。
 相手のターンに移行してから1分ほど経ってようやく相手がドローした。
「イービル・クリボーを攻撃表示で召喚」

 イービル・クリボー 闇属性/星4/悪魔族/攻撃力1300/守備力1200
 このカードは相手モンスターと戦闘する時、相手モンスター1体の攻撃力を400ポイント下げる。
 攻撃表示のこのカードが戦闘破壊された時、そのターンにプレイヤーが受けるダメージは0になる。

「そして通常魔法、仲間を喚ぶクリボーを発動!」

 仲間を喚ぶクリボー 通常魔法
 自分フィールド上に「クリボー」と名のつくモンスターがいる時に発動可能。
 このカードを発動したターン、バトルフェイズを行う事が出来ない。
 デッキより、「クリボー」と名のつくモンスター2体を表側攻撃表示で特殊召喚出来る。

「この効果により、僕はデッキよりファイア・クリボーとサクリファイス・クリボーを召喚!」

 ファイア・クリボー 炎属性/星2/悪魔族/攻撃力1000/守備力1000
 このカードは墓地からの特殊召喚をする事が出来ない。召喚したターン、自分はバトルフェイズを行う事が出来ない。
 自分フィールド上の「クリボー」と名のつくカードを生け贄に捧げる事で相手ライフに500ポイントのダメージを与える。

 サクリファイス・クリボー 闇属性/星1/悪魔族/攻撃力100/守備力100
 このカードは1体で2体分の生け贄とする事が出来る。

「ファイア・クリボーの効果発動。このカードが自分フィールド上のクリボーと名のつくカードを生け贄に捧げる事で、相手ライフに500ポイントの
 ダメージを与える。更に、サクリファイス・クリボーの効果により、生け贄は2体分とする。よって、受けるダメージは1000!」
「なっ………これを考慮した上での特殊召喚かよ」
 だがしかし、リバースカードでカウンター出来ない以上、ダメージを受けるしかない。

 黒川雄二:LP4000→3000

「カードを1枚伏せて、ターンエンド」
「(あのバーン効果はかなり怖いな……クリボー言えど侮れない、か)俺のターン! ドロー!」
 先ほど、海馬社長に貰ったカードが手札に来た。
 1ターンで召喚出来るかと聞かれると……出来るかも知れない。
「魔法カード、天使の施しを発動!」

 天使の施し 通常魔法
 カードを3枚ドローし、その後、手札よりカードを2枚墓地に送る。

「この効果により、俺はカードを3枚ドロー。2枚を墓地に送る」
 一応カードは揃えたものの、今しばらく様子を見よう。
 相手モンスターは攻撃表示なのだから。
「手札より、ブリザード・ドラゴンを召喚!」

 ブリザード・ドラゴン 水属性/星4/ドラゴン族/攻撃力1800/守備力1000
 相手モンスター1体を選択する。選択したモンスターは次の相手ターンのエンドフェイズまで攻撃宣言と表示型式の変更が行えない。
 この効果は1ターンに1度しか使用出来ない。

「バトルだ! サファイアドラゴンで、イービル・クリボーを、ブリザード・ドラゴンでファイア・クリボーを攻撃!」
「イービル・クリボーの効果により、ダメージは0になる!」

「カードを1枚伏せて、ターンエンドだ」
「アドバンテージはこの位で充分か」
 相手が小さく呟いた。どうやら今のはわざと通したらしい。
 もっとも、その前に1000ダメージを俺に与えているのでライフ差は1000なのだが。
「僕のターン。ドロー」
 相手がドローする。デュエルはたった1度のドローで状況が動き出す事も在りうる。
 だから、楽しいのかも知れないが。

「……カードを1枚伏せてターンエンド」

「俺のターン。ドロー!」
 ドローしたカード、1つ1つで何かが変わる。それが楽しい。
 故に、俺はデュエルを止めない。前にどんな障害があろうとも。
「サファイアドラゴン、ブリザード・ドラゴンの2体を生け贄に捧げ、真紅眼の黒竜を召喚!」

 真紅眼の黒竜 闇属性/星7/ドラゴン族/攻撃力2400/守備力2000

「レッドアイズ……世界に100枚あまりしか存在しないという、幻のレアカード……」
「真紅眼は、闇竜だけが進化じゃない。見せてやるぜ、真紅眼の新たな進化を! 真紅眼の黒竜を墓地に送り、真紅眼の混沌帝竜を召喚!」

 真紅眼の混沌帝竜(レッドアイズ・カオスエンペラードラゴン) 闇属性/星9/ドラゴン族/攻撃力3000/守備力2500
 このカードは通常召喚出来ない。自分フィールド上に存在する「真紅眼の黒竜」を生け贄に捧げる事で特殊召喚する。
 このカードの召喚に成功した時、相手フィールドのモンスターと魔法・罠カードを1枚ずつ、破壊する事が出来る。
 このカードはフィールド上で表側表示で存在する限り、魔法カードの影響を受けない。

「真紅眼の……混沌帝竜……?」
「このカードの召喚に成功した時、魔法・罠カードとモンスターを1枚ずつ破壊出来る。モンスターはいないから、お前のリバースを1枚だ!」
「なっ……!」
 2枚あるリバースカードのうちの1枚を破壊した。
 次のターンのダイレクトアタックが通れば、勝てる。
「行くぜ! 真紅眼の混沌帝竜の攻撃! エンド・オブ・ザ・ダーク・フレイム!」
「リバース速攻魔法を発動 クリボーを呼ぶ笛!」

 クリボーを呼ぶ笛 速攻魔法
 デッキより「クリボー」または「ハネクリボー」を手札に加えるかフィールドに特殊召喚する。

「この効果により、ハネクリボーをデッキより特殊召喚!」

 ハネクリボー 光属性/星1/天使族/攻撃力300/守備力200
 フィールド上のこのカードが戦闘で破壊され、墓地に送られた時、このターン、このカードのプレイヤーが受けるダメージは0になる。

「真紅眼の混沌帝竜の攻撃がハネクリボーに直撃………だけど、ハネクリボーの効果でダメージは0……」
 もう1つのリバースを破壊しなければ勝てたのだろうか。
 いや、そんな事には拘るな。今はデュエルだけに集中しろ、俺!
「ターンエンド」
「僕のターン。ドロー」

「イービル・クリボーを召喚。カードを1枚伏せてターンエンド」

 イービル・クリボー 闇属性/星4/悪魔族/攻撃力1300/守備力1200
 このカードは相手モンスターと戦闘する時、相手モンスター1体の攻撃力を400ポイント下げる。
 攻撃表示のこのカードが戦闘破壊された時、そのターンにプレイヤーが受けるダメージは0になる。

「俺のターン! ドロー」
 イービル・クリボーがいる限り、相手にダメージは通らない。
 ならばどうにかしてイービル・クリボーを除去しなければならないのだが……。
「(だが、どうすればいい………)」
 何もしなければ、相手にダメージは通らない。
 どうすれば良いのだろう。
「ターンエンドするぜ」
 結局、何もしないままターンエンドしてしまった。
 もしかしたら命取りかも知れないが、何か怖かったんだ。
「僕のターン。手札より、サイバー・クリボーを召喚」

 サイバー・クリボー 光属性/星3/機械族/攻撃力1600/守備力800
 このカードは相手プレイヤーに直接攻撃する事が出来る。その際、攻撃力は半分になる。

「サイバー・クリボーの攻撃! その効果により、プレイヤーにダイレクトアタック!」
「なっ……うおおおおおおおっ!!!!!」

 黒川雄二:LP3000→2200

「カードを1枚伏せて、ターンエンド」
「俺のターン! ドロー! 真紅眼の混沌帝竜で、サイバー・クリボーを攻撃するぜ! エンド・オブ・ザ・ダーク・フレイム!」

 デュエリスト:LP4000→2600

「リバース速攻魔法、クリボーを呼ぶ笛を発動。この効果により、僕はデッキよりハネクリボーを召喚する」

 ハネクリボー 光属性/星1/天使族/攻撃力300/守備力200
 フィールド上のこのカードが戦闘で破壊され、墓地に送られた時、このターン、このカードのプレイヤーが受けるダメージは0になる。

「ターンエンドだ」
 次のターンに相手が何をするか解らない。
 その時、俺はふと何か嫌な予感がした。
「僕のターン。ドロー」
 相手がドローした時、その予感は確信へと変わった。
「ククク………黒川雄二、僕に時間を与えたのが失敗だったな。見せてやるよ……神竜を!」

「魔法カード、仲間を喚ぶクリボーを発動!」

 仲間を喚ぶクリボー 通常魔法
 自分フィールド上に「クリボー」と名のつくモンスターがいる時に発動可能。
 このカードを発動したターン、バトルフェイズを行う事が出来ない。
 デッキより、「クリボー」と名のつくモンスター2体を表側攻撃表示で特殊召喚出来る。

「この効果により、サイバー・クリボーとイービル・クリボーを特殊召喚!」

 イービル・クリボー 闇属性/星3/悪魔族/攻撃力1300/守備力1200
 このカードは相手モンスターと戦闘する時、相手モンスター1体の攻撃力を400ポイント下げる。
 攻撃表示のこのカードが戦闘破壊された時、そのターンにプレイヤーが浮けるダメージは0になる。

 サイバー・クリボー 光属性/星3/機械族/攻撃力1600/守備力800
 このカードは相手プレイヤーに直接攻撃する事が出来る。その際、攻撃力は半分になる。

「………まだ、通常召喚は終わっていない。イービル・クリボー2体、及び、サイバー・クリボーを生け贄に捧げる」
「3体、生け贄だと!?」
 3体のモンスターを生け贄とする。それは、神のカードに間違いはない。
 神も、邪神も、その生け贄としたモンスター以上の働きを見せるのだから。
「………出でよ、冥府の神竜イドゥナ!」

 The God Dragon of Hell−Iduna DARK/Lv12/Dragon/ATK5000/DEF5000
 このカードはフィールド上のモンスター3体を生け贄に捧げて通常召喚する。
 このカードを対象とする魔法・罠カードの効果を受け付けない。
 墓地に存在するカードを1枚除外する毎に、このカードの攻撃力を300ポイントアップさせる。
 更に、攻撃力を300ポイントダウンさせる毎に相手フィールドのカードを1枚破壊出来る。(この効果は1デュエルに5回までしか使用不可)
 このカードがフィールドで表側表示の時、手札を2枚ゲームから除外する事で、墓地のカードを5枚、デッキに戻す事が出来る。
 このカードを生け贄召喚した時のみ、このカードが戦闘で破壊された時、生け贄にしたモンスターを特殊召喚する。

 黒い闇。遠い、深き冥府。
 冥府より出でし、漆黒の竜。
 冥府を司る神の竜。冥府の神竜、イドゥナ。

「(似ている……)」
 俺はその姿を見た時、あるカードを思い出した。
 いつも俺の中に眠るイメージ。真紅眼を持つ、無限の可能性を持つカードを。
「(何だろう、奇妙なまでにレッドアイズに似ている……)」
「冥府の神竜イドゥナ………神を継ぐ三神竜の1体……」
 デュエリストが、小さく言葉を呟き始めた。
「その力を、体感してみろ! バトルだ! 冥府の神竜イドゥナにて、真紅眼の混沌帝竜を攻撃! フィアーズ・ダークネス・バースト!」
「うああぅぅぅあああああああああっ!!!!!!!!!!!」

 黒川雄二:LP2200→200

 重い一撃だった。ソリッドビジョンである筈なのに、その一撃は重い。
 神の宿ったカード。三神竜。
「(その攻撃がまるで実体化したようだったな、今の……)」
 やたらやかましい音が定期的に聞こえると思えば自分の心臓の鼓動だった。
 普通、心臓の音なんて自分には聞こえない筈なのに。
「………リバースカード、リビングデッドの呼び声を発動! 真紅眼の黒竜を蘇生召喚!」

 リビングデッドの呼び声 永続罠
 自分の墓地に存在するモンスター1体を攻撃表示で特殊召喚する。
 このカードがフィールドを離れた時、特殊召喚したモンスターを墓地に送る。

 真紅眼の黒竜 闇属性/星7/ドラゴン族/攻撃力2400/守備力2000

「ハネクリボーでの撃破は難しいか……ターンエンドだ」
「俺のターン。ドロー!」
 さて、困った事になった。

 黒川雄二:LP200 デュエリスト:LP2600

 ライフが残り200の俺とまだまだライフに余裕のある相手。
 相手のフィールドに攻撃力5000がどでんと乗っているので、倒すのが難しい。
「(………しかし、何だこの息苦しさ?)」
 神竜が召喚された時からずっと思っていたが、何処か息苦しい。
 そう言えば、決闘王が神は存在するだけでプレイヤーに圧力をかけるとか言っていた気がする。
 じゃあ、前のバトル・シティでラーの翼神竜に挑み続けた師匠は何だと言いたい。
 それより神同士で戦わせた海馬社長と決闘王もすげぇとしか言いようが無い気がする。
「(勝てるのか、俺は……?)」
 この時、俺は初めて不安を感じた。
「真紅眼の黒竜を、守備表示に変更。カードを1枚伏せて、ターンエンドだ」

「僕のターン。………神竜の攻撃! 真紅眼の黒竜を破壊する!」
「リバース罠、ホーリージャベリンを発動!」

 ホーリージャベリン 通常罠
 相手モンスターの攻撃宣言時、その攻撃力分のライフポイントを回復する。

「もっとも……レッドアイズは破壊されるけどな……」

 黒川雄二:LP200→5200

「ハネクリボーのダイレクトアタック! 攻撃力は300だがな……」

 黒川雄二:LP5200→4900

「ホーリージャベリンか………ライフを大量回復して凌いだとはいえ、今のお前のフィールドにモンスターはいない」
 デュエリストは勝ち誇ったように答えた後、ターンエンドを宣言した。
「……まだ、デュエルは終わっていない。俺のターン! ドロー!」
 良い手札が来ない……今、欲しいカードが無ければ。
 入れ替えれば、良いだけさ!
「俺は速攻魔法、リロードを発動する」

 リロード 速攻魔法
 手札を全てデッキに加えてシャッフルし、デッキに加えた手札の分だけドローする。

 手札を全てデッキに戻してシャッフル。
 ひたすらシャッフルした後、即座にドローする。これで、良い手札さえ来れば。

「手札より、早すぎた埋葬を発動」

 早すぎた埋葬 装備魔法
 800ライフポイントを支払う。墓地に存在するモンスター1体を特殊召喚する。
 このカードがフィールドを離れた時、このカードを装備していたモンスターを破壊する。

 黒川雄二:LP4900→4100

「この効果により、俺は真紅眼の黒竜を蘇生召喚!」

 真紅眼の黒竜 闇属性/星7/ドラゴン族/攻撃力2400/守備力2000

「そして、フィールドのレッドアイズと、手札の真紅眼2枚を融合!」
「なっ……融合、だと……?」
 フィールドと、手札の真紅眼で合計が3枚。
 海馬社長が辿り着いた、敵を倒す勝利の方程式の究極系。

 彼だけの、専売特許と思っていた。

「真紅眼の究極竜を融合召喚!」

 真紅眼の究極竜(レッドアイズ・アルティメットドラゴン) 闇属性/星11/ドラゴン族/攻撃力4500/守備力3000/融合モンスター
 「真紅眼の黒竜」+「真紅眼の黒竜」+「真紅眼の黒竜」
 このカードは相手守備モンスターを攻撃した際、このカードの攻撃力が相手の守備力を上回っている分、ダメージを与える。

 3頭を持つ青眼の究極竜。
 それを模倣したかの如く、真紅眼の究極竜はその漆黒の巨体を現した。
 青眼の究極竜と同じ攻撃力と、サイバー・エンド・ドラゴンと同じ能力を持って。
 其れは、姿を現した。

 真紅眼の進化形態の、その力強さを具現化したかの如く。

「攻撃力4500………なかなか良いモンスター……」
 だが、足りない。
 攻撃力4500では、神竜には抗えない。
 こんな時に、欲しいと願うのは。

「(ハイリスク・ハイリターンのカードか……)」
 奇跡を起こす、世界に僅か24枚しか存在しない速攻魔法。
 ブラッド・ヒートを。
「(いや、あれは最後の切り札だ……それに、今手札に無いんだ)」
 俺は手札をもう1度確認する。
 手札融合でカードを殆ど使ってしまったので、今や手札は1枚しかない。
「カードを1枚伏せる……真紅眼の究極竜で、ハネクリボーを攻撃!」
 ハネクリボーの効果は、ダメージ計算後に適用される。
 それならば、貫通効果を持つこのモンスターの攻撃なら通る。

「アルティメット・ダーク・バースト・ストリーム!!!!!」

 ダメージさえ、通れば、勝ちになる。
 通らなければ、勝率が下がる。勝つのが難しくなる。

 さて、どうなる?

「……危ない、危ない……リバース罠、和睦の使者を発動させて貰った」

 和睦の使者 通常罠
 このカードを発動したターン、相手モンスターから受けるダメージを0にする。
 このターン自分モンスターは戦闘で破壊されない。

「残念。お前の目論見は失敗だな」
「くっ……そ………」
 貫通効果持ちの真紅眼の究極竜でハネクリボーを倒す事でそのままライフも削り取る作戦が空振りに終わった。
 ただ余計に手札を無駄にしただけか。
「ターン……エンド」

「僕のターン。ドロー。ハネクリボーを生け贄に、デッド・クリボーを召喚」

 デッド・クリボー 闇属性/星5/悪魔族/攻撃力1800/守備力1000
 このカードが戦闘で破壊された時、そのターンのバトルフェイズが終了する。
 墓地にあるこのカードをゲームから除外する事で「クリボー」と名のつくカードを1枚、墓地から手札に加える。

「冥府の神竜の攻撃! 真紅眼の究極竜を破壊! 更に、デッド・クリボーでダイレクトアタック!」
「うおおおぁあああああああっ!!!!」

 黒川雄二:LP4100→3600→1800

 このままだと勝てない。いや、確実に勝てない。
 どうすればいい。考えろ、考えるんだ。
「ターンエンド」
 相手がターンエンドを宣言する。

「(負けないと挑んだからには………最後まで……)」

 ラスト1ターン。ラストドローまで、諦めない。

 それが、真のデュエリスト。

「俺のターン! ドロー!」

 例え手札が0枚で、フィールドはリバースカード1枚だけでも。

 きっと、奇蹟はやってくる。自分の手で、掴み取れる。

 それ程までに、デュエルの神は残酷じゃないんだと信じられるから。

 故に、俺は諦めたりしない。



《第13話:真紅眼の闇焔竜vs冥府の神竜イドゥナ》

 黒川雄二:LP1800 デュエリスト:LP2600

 The God Dragon of Hell−Iduna DARK/Lv12/Dragon/ATK5000/DEF5000
 このカードはフィールド上のモンスター3体を生け贄に捧げて通常召喚する。
 このカードを対象とする魔法・罠カードの効果を受け付けない。
 墓地に存在するカードを1枚除外する毎に、このカードの攻撃力を300ポイントアップさせる。(1ターンに5枚まで)
 更に、攻撃力を1000ポイントダウンさせる毎に相手フィールドのカードを1枚破壊出来る。(この効果は1デュエルに5回までしか使用不可)
 このカードがフィールドで表側表示の時、手札を2枚ゲームから除外する事で、墓地のカードを5枚、デッキに戻す事が出来る。
 このカードを生け贄召喚した時のみ、このカードが戦闘で破壊された時、生け贄にしたモンスターを特殊召喚する。(除外された場合は召喚しない)

 デッド・クリボー 闇属性/星5/悪魔族/攻撃力1800/守備力1000
 このカードが戦闘で破壊された時、そのターンのバトルフェイズが終了する。
 墓地にあるこのカードをゲームから除外する事で「クリボー」と名のつくカードを1枚、墓地から手札に加える。

「俺のターン! ドロー!」
 手札0枚。フィールドにはリバースカードが1枚あるだけ。
 それでも俺は、きっと奇蹟を呼び込める。
「………速攻魔法! 奇跡のダイス・ドローを発動!」

 奇跡のダイス・ドロー 速攻魔法
 サイコロを振る。出た目の数だけ、カードをドロー出来る。
 このターンのエンドフェイズ時、出た目の数以下になるように手札を捨てなければならない。

「この効果で、俺はサイコロを振る……」
 1でもいいから、出てくれと信じて。サイコロを、俺は振った。

 6。

「あ………出た目は、6。カードを……6枚ドロー」

 貴明はピンチになるとこのカードが友達と言って大抵4以上の目を出している。
 俺は4以上の目は滅多に出ないので、先ほどの海馬社長との戦いで強運を使いきったのかと思っていた。
「(良し、手札は揃った……)カードを2枚セット!」

「魔法カード、黙する死者を発動! この効果で、俺は墓地の真紅眼の黒竜を蘇生!」

 黙する死者 通常魔法
 墓地のモンスター1体を守備表示で特殊召喚する。
 特殊召喚したモンスターは表示型式を変更出来ない。

 真紅眼の黒竜 闇属性/星7/ドラゴン族/攻撃力2400/守備力2000

「手札より、真紅眼の闇竜を召喚!」

 真紅眼の闇竜 闇属性/星9/ドラゴン族/攻撃力2400/守備力2000
 このカードは通常召喚出来ない。このカードはフィールドに存在する「真紅眼の黒竜」を墓地に送る事で特殊召喚する。
 このカードの攻撃力は、自分の墓地のドラゴン族×300ポイント、アップする。

「更に……真紅眼の闇竜を墓地に送る………」

 色んなカードに出会った。
 バトル・シティで今、強大な敵とも戦っている。
 ならば、信じるものはただ1つ。

 信じられるモノもただ1つ。

「来い! マイ・フェバリットモンスター! レッドアイズ・ダークブレイズドラゴン!」

 真紅眼の闇焔竜 闇属性/星10/ドラゴン族/攻撃力3500/守備力2800
 このカードはフィールド上に存在する「真紅眼(レッドアイズ)」と名のつくモンスター1体を墓地に送る事で特殊召喚出来る。
 戦闘で破壊され墓地に送られた時、召喚する際に墓地に送った「真紅眼」と名のつくモンスター1体を特殊召喚出来る。
 ライフポイントの半分を支払う事で墓地に存在する「真紅眼(レッドアイズ)」と名のつくモンスターの効果を得る。

「真紅眼の闇焔竜の効果発動! ライフポイントの半分を支払う事で、墓地の『真紅眼』と名のつくモンスターの効果を得る。俺の墓地に存在する
 真紅眼は闇竜、究極竜、混沌帝竜と黒竜3体…………」

 黒川雄二:LP1800→900

 真紅眼の闇焔竜 攻撃力3500→5900

「この効果で、真紅眼の闇焔竜は究極竜の貫通効果も得る! そして、冥府の神竜の攻撃力を上回ったぜ! 行くぜ、バトルだ! 真紅眼の闇焔竜で……」
「リバース罠、黄昏のプリズムを発動!」

 黄昏のプリズム 通常罠
 500ライフポイントを支払う。相手モンスター1体の攻撃を別のモンスターに移し替える。(相手モンスターでも可能)

 デュエリスト:LP2600→2100

「この効果で、闇焔竜の攻撃は冥府の神竜へと向かう!」
「だが、冥府の神竜の攻撃力は5000! 900ポイント足りないぜ!」
 俺がそう叫んだ時、デュエリストはニヤリと笑った。
「冥府の神竜の効果発動! 墓地のカードを1枚除外する事で、攻撃力を300ポイントアップさせる! もっとも、1ターンに5枚迄だがな」
「なっ………」
 墓地のカードを除外する事で攻撃力増強。
 冥府を司るカードには相応しいだろうが、ある意味恐ろしい効果だ。
「そして、僕はこの効果でカードを5枚、ゲームから除外!」

 冥府の神竜イドゥナ 攻撃力5000→6500

「迎撃しろ、冥府の神竜! フィアーズ・ダークネス・バースト!」

 黒川雄二:LP900→300

「くっそ……闇焔竜の効果で、召喚時に生け贄にした闇竜が墓地から戻るぜ」

 真紅眼の闇竜 闇属性/星9/ドラゴン族/攻撃力2400/守備力2000
 このカードは通常召喚出来ない。このカードはフィールドに存在する「真紅眼の黒竜」を墓地に送る事で特殊召喚する。
 このカードの攻撃力は、自分の墓地のドラゴン族×300ポイント、アップする。

 真紅眼の闇竜 攻撃力2400→5100

「まだ……通常召喚が終わってないぜ……黒竜の巫女を、守備表示で召喚!」

 黒竜の巫女 闇属性/星4/魔法使い族/攻撃力1600/守備力1900
 自分フィールド上にこのカードが存在する限り、「真紅眼」の名のつくカードは攻撃力・守備力が500ポイントアップする。
 このカードが戦闘で破壊されて墓地に送られた時、墓地より「真紅眼」の名のつくモンスター1体を特殊召喚する。
 そのモンスターはフィールド上に存在する限り、攻撃力が1000アップする。そのターンのエンドフェイズ時に墓地に送られる。

「ターンエンドだ」

「僕のターン、ドロー」
「バトルだ! 冥府の神竜で、その巫女を粉砕してくれる!」
「………黒竜の巫女の効果発動! 戦闘で破壊された時、墓地より『真紅眼』と名のつくモンスター1体を特殊召喚する!」

 黒竜の巫女が、手にした杖を高く掲げる。
 自身を冥府へと送る代わりに、冥府に堕ちた竜を呼び戻す。

「真紅眼の闇焔竜を特殊召喚!」

 真紅眼の闇焔竜 闇属性/星10/ドラゴン族/攻撃力3500/守備力2800
 このカードはフィールド上に存在する「真紅眼(レッドアイズ)」と名のつくモンスター1体を墓地に送る事で特殊召喚出来る。
 戦闘で破壊され墓地に送られた時、召喚する際に墓地に送った「真紅眼」と名のつくモンスター1体を特殊召喚出来る。
 ライフポイントの半分を支払う事で墓地に存在する「真紅眼(レッドアイズ)」と名のつくモンスターの効果を得る。

 真紅眼の闇焔竜 攻撃力3500→4500

「くっ………」
「このターンのエンドフェイズ時に闇焔竜は破壊される。だから、俺はリバース罠を発動させて貰う! リバース罠、後詰の襲来を発動!」
「な、何だとぉ!?」

 後詰の襲来 通常罠
 自分フィールドに存在するモンスター1体を生け贄に捧げる。
 相手ターンのバトルフェイズ終了後に自軍のバトルフェイズを行う。

「この効果で、俺は真紅眼の闇竜を墓地に送る。ここで闇焔竜の効果発動! ライフを半分支払い、墓地に存在する「真紅眼」と名のつくモンスター
 の効果を得る事が出来る!」

 黒川雄二:LP300→150

 真紅眼の闇焔竜 攻撃力4500→6900

「こ、攻撃力6900………!」

 冥府の神竜イドゥナの攻撃力は6500。それに対してこっちは6900。

「行くぜ、闇焔竜の攻撃! 終焉のダーク・ブレイズ・キャノン!」

 冥府の神竜が、闇焔竜の炎に焼かれて、崩れていく。
「あ、ああ…………」

 デュエリスト:LP2100→1600

 まだ、フィールドにはデッド・クリボーが残っている。
 そして、まだ相手ターンだ。
「ターン……エンド」
「俺のターン。ドロー!」

 まだライフに大差はついている。だが、もう勝てる。
 俺が手札を確認し、モンスターを召喚しようとした時。
「もう……負けだ………」

 デュエリストが、膝を折った。
 デッキの上に手を乗せた。サレンダーだった。
「サレンダー………するのか……」
「僕の……負けだ…………」

「…………………じゃあ、俺、勝ったんだな……」

 俺がそこまで呟いた時になって、ようやくソリッドビジョンが消えた。
 膝を折ったままのデュエリストは、デュエルディスクからカードを1枚外し、俺に見せた。
「それ、お前にやる」
「……いいのか?」

 The God Dragon of Hell−Iduna DARK/Lv12/Dragon/ATK5000/DEF5000
 このカードはフィールド上のモンスター3体を生け贄に捧げて通常召喚する。
 このカードを対象とする魔法・罠カードの効果を受け付けない。
 墓地に存在するカードを1枚除外する毎に、このカードの攻撃力を300ポイントアップさせる。(1ターンに5枚まで)
 更に、攻撃力を1000ポイントダウンさせる毎に相手フィールドのカードを1枚破壊出来る。(この効果は1デュエルに5回までしか使用不可)
 このカードがフィールドで表側表示の時、手札を2枚ゲームから除外する事で、墓地のカードを5枚、デッキに戻す事が出来る。
 このカードを生け贄召喚した時のみ、このカードが戦闘で破壊された時、生け贄にしたモンスターを特殊召喚する。(除外された場合は召喚しない)

「僕は、勝てるって言われてそのカードを貰っただけだよ。今の僕には必要無い」
「そうか」

 冥府の神竜イドゥナ。
 盗まれた、三神竜の1つ。
 俺はその姿に何処か、このカードを異様さを覚えた。
「(このカード……やっぱ変だ)」
 言葉では言い現す事が出来ない、だけどこのカードはおかしい。
 何だろう、気になってしょうがない。

「手に入れたんだな」

 急に背後から声がかかり、振り向くと晋佑が小さく拍手をしていた。
「おめでとう」
「……晋佑。このカードは……」
「ああ、そうさ。見事だと思わないか?」
「……………」
 晋佑の問いに、俺は黙り込んだ。
 さっきの質問に逆戻りだ。

「………これだけの強大な力を手に入れて、どう使うかってか?」

 俺の短い問いに、晋佑が少しだけ頷く。

「わかんねーな、やっぱり」

 俺の返答に、晋佑は少しだけ気まずそうな視線を向けた。
 だが、何と思われようと俺の考えは変わらないだろう。
「結局の所、どんな力を持っていようがそれはソイツ次第じゃねぇのか? もっとも、悪用しようって奴は許さねぇけどな」
 それは、何であろうと同じ事だろう。きっと。

 俺がそう答えた時、晋佑はもう既にいなくなっていたのか、足音だけが残っていた。





「命に別状は無いようだ」
「はぁ、そうすか」
 気絶したデュエリストを病院に連れていくと医者にそう言われたので、俺はおいとまする事にした。
 さて、集めるべきパズルカードは後1枚。時間はまだそこそこあるだろう。
「さて、デュエルの続きを……」
 俺がそこまで呟いた時、頭上でやたらやかましいヘリの音がした。

 空を見上げる。KC社のヘリがホバリングしており、そのまま扉が開いて中から縄梯子が振ってくる。
 まさか登れというんじゃないだろうな。
「何をしている? 早くしろ、凡骨チルドレン」
 海馬社長が中から顔を出した。やはり登ってこいと言う事か……。


「久し振りだな、宍戸貴明」
「あ、いえいえ。海馬社長もお変わりないようで」
 縄梯子でヘリの中に入った後、海馬社長はすぐに口を開いた。
「ほう、結構パズルカードを集めたようだな。凡骨にしてはよくやる」
「そりゃどーも。しかし、何でまた急に? 主催者が参加者に肩入れなんかしちゃって良いんですか」
「良いワケなかろう。だが、貴様の耳に入れた方が良いとは思ったのでな」
 海馬社長は相変わらず優しいんだが優しくないんだがよく解らない口調で喋った。
 ありがたいのか迷惑なのか本当によく解らない……。
「そうだ、海馬社長。さっきですね……」
「この大会の後ろで動いている連中がいる、だろう?」
 俺の言いたい事を先に言われてしまい、俺が呆気に取られていると海馬社長はすぐに口を開いた。
「このオレが気付かないワケ無いだろう、バカモノ」

「………デュアル・ポイズンか。随分懐かしい単語を聞いたな」
 俺がさっきの出来事を話し終えると、海馬社長は少しだけ眼を閉じた。
「3年前に、デュアル・ポイズンは様々なカードを狙って騒ぎを起こしてな。三幻魔と三神竜は奪われたし、三邪神も奪われる所だったな」
「はぁ」
「もっとも、その後の大粛正で打撃を受けたとは思ってたが、また勢力を盛り返したか」
 海馬社長はそこまで呟いた後、すぐに振り向いた。
「三神竜を攻略するのに俺達は三邪神を使ったが………貴様はどうするつもりだ?」
「どうするって言われても……」
 俺が答えに戸惑っていると、社長の目つきが険しくなる。
 これではいけない。何か答えなくちゃ。

「えーと………努力?」
「海に沈め、バカモノ」

 海馬社長の怒りはなかなか冷めそうに無いのだった。



《第14話:闇の誘い》

 集めたパズルカードは5枚。
 この大会の裏で動いている連中。

 そして、三神竜の1つ、冥府の神竜。

「……わかんねーな」
 俺は思わずそう呟く。
 グールズ同様、この大会の裏で動いている連中がいて。
 それに晋佑が1枚噛んでいるまでは解った。だが、それ以上が解らない。
「ま、今は決勝に進む事だけを考えるか」
 俺がそう呟いた時、ちょうど近くでデュエルをしているデュエリストがいた。

 片方は外国の女性。何処かで見たような顔をしているが思い出せない。
 そして、その女性は相手を見事に圧倒していた。
「ヴァンパイア・ロードの攻撃ナノーネ!」
「ひっ……うわああああああああっ!!!!!」
 ちょうど、トドメを刺されたのか、ヴァンパイア・ロードの攻撃が終わると共にソリッド・ビジョンが消える。
 どうやら女性の勝ちでデュエルが終わったらしい。
「これで5枚目。あと1枚なのネ」
 女性がそこまで言った後、ちょうどデュエリストが俺の存在に気付いた。
「やめとけ。あの人強いよ」
「ん? 確かにそうだね。でも、やる」
「やるって、お前……」
「あと1枚だからな」
 俺がそう答えた時、女性もデュエルディスクを突きだした。
「オー! ニッポンのデュエリストには結構可愛い子もいるノーネ!」
「可愛いって凄い言われようだな」
 その時、俺は相手の顔をようやく思いだした。
 確かKC社のニュースで見た事がある。
「あ! まさかアンタって……欧州大会でチャンピオンになった、シェリル・ド・メディチ?」
 俺の言葉に、周囲のギャラリーが一斉にざわめく。
「正解なのーネ。知っていて嬉しいノーネ。でも容赦しないノーネ?」
「OK。俺だって、アンタみたいなデュエリストと戦ってみたかったのさ! 行くぜ!」

「「デュエル!」」

 黒川雄二:LP4000 シェリル・ド・メディチ:LP4000

「俺の先攻ドロー! 洞窟に潜む竜を守備表示で召喚。ターンエンドだぜ」

 洞窟に潜む竜 風属性/星4/ドラゴン族/攻撃力1300/守備力2000

「私のターン! ドロー!」
 流石は欧州チャンプなのか、ドローする手も佳麗だった。
「ピラミッド・タートルを守備表示で召喚するノーネ。そして、カードを1枚伏せてターンエンド」

 ピラミッド・タートル 地属性/星4/アンデット族/攻撃力1200/守備力1400
 このカードが戦闘で破壊された時、デッキから守備力2000以下のアンデット族モンスター1体を特殊召喚出来る。

「(ピラミッド・タートル……サーチカードだっけか)俺のターン! ドロー!」
 どうやら欧州チャンプはアンデット族使いか。
 俺の真紅眼と対決させるのが楽しみに思えてくる。
「ランサー・ドラゴニュートを攻撃表示で召喚!」

 ランサー・ドラゴニュート 闇属性/星4/ドラゴン族/攻撃力1500/守備力1800
 このカードは相手守備モンスターを攻撃した際、攻撃力が守備力を上回っている分、ダメージを与える事が出来る。

「バトルだ! ランサー・ドラゴニュートの攻撃! ピラミッド・タートルを破壊! ランサー・ドラゴニュートの効果で100ダメージを受けて貰うぜ!」

 シェリル・ド・メディチ:LP4000→3900

「ピラミッド・タートルのエフェクトを発動するノーネ! この効果で、デッキからカース・オブ・ヴァンパイアを召喚しまスーノ」

 カース・オブ・ヴァンパイア 闇属性/星6/アンデット族/攻撃力2000/守備力800
 このカードが戦闘で破壊された時、500ライフポイントを支払う事で次のターンのスタンバイフェイズに墓地から特殊召喚出来る。
 この効果によって特殊召喚した場合、このカードの攻撃力は500ポイントアップする。

「カードを1枚伏せて、ターンエンドだ」
 カース・オブ・ヴァンパイアとは厄介なカードを出された。
 ライフゲインカードと併用されれば攻撃力2500のモンスターが何度となく復活する。
 攻撃力2500とは恐ろしい壁だ。何せ俺の真紅眼は攻撃力2400なのだから。

「私のターン。ドロー! ヴァンパイア・ナイトを召喚するノーネ」

 ヴァンパイア・ナイト 闇属性/星4/アンデット族/攻撃力1500/守備力1500
 このカードはフィールドに存在するこのカード以外の「ヴァンパイア」と名のつくカード1枚につき攻撃力が300ポイントアップする。
 このカードが戦闘で破壊されて墓地に送られた時、デッキより「ヴァンパイア」と名のつくカード1枚を手札に加える。

 ヴァンパイア・ナイト 攻撃力1500→1800

「バトル! カース・オブ・ヴァンパイアの攻撃でランサー・ドラゴニュートを攻撃するノーネ!」

 黒川雄二:LP4000→3500

「生憎と、ヴァンパイア・ナイトの攻撃力では足りないノネ。だからターンエンドするノーネ」
「……俺のターン! ドロー!」
 もう1枚、カードをドローする。これ以上ヴァンパイアを召喚されると困るので、戦闘破壊しておくと良いだろう。
「サファイアドラゴンを攻撃表示で召喚!」

 サファイアドラゴン 風属性/星4/ドラゴン族/攻撃力1900/守備力1600

「サファイアドラゴンの攻撃! ヴァンパイア・ナイトを破壊させて貰うぜ!」
「リバーストラップ、発動! 攻撃の無力化を発動するのネ!」

 攻撃の無力化 通常罠
 相手モンスターの攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了させる。

「くそっ……カードを1枚伏せてターンエンド」
「私のターン。ドロー」
 引きの良さも強さのウチと言ったのは誰だっけ?
 引きが悪いと折角のコンボも成立しないしな。
「2体目のヴァンパイア・ナイトを召喚するノーネ!」

 ヴァンパイア・ナイト 闇属性/星4/アンデット族/攻撃力1500/守備力1500
 このカードはフィールドに存在するこのカード以外の「ヴァンパイア」と名のつくカード1枚につき攻撃力が300ポイントアップする。
 このカードが戦闘で破壊されて墓地に送られた時、デッキより「ヴァンパイア」と名のつくカード1枚を手札に加える。

「この時、2体のヴァンパイア・ナイトの攻撃力は2100に増加しマスーノ」

 ヴァンパイア・ナイト 攻撃力1500→2100

「そして、ヴァンパイア・ナイトで洞窟に潜む竜を攻撃……」
「リバース罠! 黄昏のプリズムを発動!」

 黄昏のプリズム 通常罠
 500ライフポイントを支払う。モンスター1体の攻撃を別の対象に差し替える。

「この効果により、ヴァンパイア・ナイトの攻撃は2体目のヴァンパイア・ナイトに直撃するぜ!」
 表示は2体とも攻撃表示。
 ダメージ計算は無いが、2体とも破壊されて墓地へと消える。
「黄昏のプリズムの効果とはいえ、戦闘破壊なノーネ。ヴァンパイア・ナイトの効果が発動するノーネ。デッキよりカードを2枚、手札に加えるノーネ」
 手札を2枚増やしてしまったが、まだこちらが勝てないワケではない。
「ターンエンドなノーネ」

 黒川雄二:LP3500→3000

「俺のターン! ドロー!」

「手札より、魔法カード、融合を発動!」

 融合 通常魔法
 2体以上のモンスターを融合する。

「フィールドのサファイアドラゴン、手札のブリザード・ドラゴンを融合するぜ!」

 サファイアドラゴン 風属性/星4/ドラゴン族/攻撃力1900/守備力1600

 ブリザード・ドラゴン 水属性/星4/ドラゴン族/攻撃力1800/守備力1000
 相手モンスター1体を選択する。選択したモンスターは次の相手ターンのエンドフェイズまで攻撃宣言と表示型式の変更が行えない。
 この効果は1ターンに1度しか使用出来ない。

「蒼翼の氷竜を融合召喚!」

 蒼翼の氷竜 水属性/星6/ドラゴン族/攻撃力2500/守備力2000
 「サファイアドラゴン」+「ブリザード・ドラゴン」
 このカードがフィールド上に攻撃表示で存在する限り、攻撃力2500未満の相手モンスターは攻撃宣言を行えない。

 このカードならカース・オブ・ヴァンパイアが蘇生されても太刀打ち出来る。
 正確には相打ちなのだけれど。
「蒼翼の氷竜の攻撃。カース・オブ・ヴァンパイアを破壊!」

 シェリル・ド・メディチ:LP3900→3400

「カース・オブ・ヴァンパイアの効果発動ナノーネ!」

 カース・オブ・ヴァンパイア 闇属性/星6/アンデット族/攻撃力2000/守備力800
 このカードが戦闘で破壊された時、500ライフポイントを支払う事で次のターンのスタンバイフェイズに墓地から特殊召喚出来る。
 この効果によって特殊召喚した場合、このカードの攻撃力は500ポイントアップする。

「私は500ライフポイントを支払うノーネ」

 シェリル・ド・メディチ:LP3400→2900

「俺はカードを1枚伏せて、ターンエン……」
 ターンエンド宣言をしようとした時だった。
 突如、背中を悪寒が駆け抜けた。
「(何だ……?)」
 視界の隅に、黒い影が映る。

 それは俺のデッキの中の、1枚のカードから……。

「(何を考えている。そんなの見える筈が無い)ターンエンド」
「私のターン! ドロー! そして、カース・オブ・ヴァンパイアが墓地から戻ってくるノーネ!」

 カース・オブ・ヴァンパイア 攻撃力2000→2500

「魔法カード、血の渇きを発動するノーネ」

 血の渇き 装備魔法
 自分フィールド上の「ヴァンパイア」と名のつくモンスターにのみ装備可能。
 このカードを装備したモンスターと戦闘する相手モンスターは攻撃力が400ポイントダウンする。

「更に、リバース罠、死の恐怖を発動!」

 死の恐怖 通常罠
 このカードを発動したターン、全てのモンスターはエンドフェイズまで攻撃表示になる。
 このターンのエンドフェイズ時、お互いに800ポイントのダメージを受ける。

「死の恐怖……最終突撃命令の下位互換……」
 洞窟に潜む竜が攻撃表示になる。彼の攻撃力は1300。勝ち目はない。
「カース・オブ・ヴァンパイアで洞窟に潜む竜を攻撃! 更に、装備カード血の渇きの効果で洞窟に潜む竜は攻撃力を下げまスーノ!」

 洞窟に潜む竜 攻撃力1300→900

 黒川雄二:LP3000→1400→600

 シェリル・ド・メディチ:LP2900→2100

「くそっ………」
 俺のライフは残り600。
 更に、次の相手ターンでモンスターを召喚されたら、蒼翼の氷竜はカース・オブ・ヴァンパイアに倒れ、ダイレクトアタックで終わりだ。
 それに対して相手はまだ2100のライフが残っている。実に1500差。
「…………ん?」
 デッキから、黒い影が再び溢れ出す。
 まるで、俺は此処にいるぞとばかりに。
「(これが……神竜の力……なのか………?)」
 ドローしようとして、ふと手を止める。
 神竜の力。俺がもし、この力を使ったとしたら。

 相手に何が起きる?
 強大過ぎる力は、使い方を誤れば惨劇を引き起こす。
 前大会が良い例じゃないか。

 だが、そんな事を恐れていては勝てない、という声も同時に聞こえた。
「俺のターン! ドロー!」
 カードがまた揃う……。
 これもまた、俺の強運が引き起こす奇跡なのだろうか。
「魔法カード、キメラティック・フュージョンを発動!」

 キメラティック・フュージョン 通常魔法
 デッキより融合素材のモンスターを墓地に送る事により、融合デッキから融合モンスター1体を特殊召喚する。
 この効果で召喚したモンスターは毎ターンのエンドフェイズ毎に攻撃力が500ポイントずつダウンする。
 攻撃力が0になったターンのエンドフェイズ時にそのモンスターを破壊する。
 そのモンスターを破壊した次の自分ターンのスタンバイフェイズに墓地より融合素材となったモンスターを召喚する。

「キメラティック・フュージョンの効果により、俺はデッキより真紅眼の黒竜3体を墓地に送る。そしてその効果で……このモンスターを召喚する」

 驚異、そして圧巻。その能力は、全てを上回る。

「出でよ! レッドアイズ・アルティメットドラゴン!」

 真紅眼の究極竜 闇属性/星11/ドラゴン族/攻撃力4500/守備力3000/融合モンスター
 「真紅眼の黒竜」+「真紅眼の黒竜」+「真紅眼の黒竜」
 このカードは相手守備モンスターを攻撃した際、このカードの攻撃力が相手の守備力を上回っている分、ダメージを与える。

「真紅眼の究極竜の攻撃! カース・オブ・ヴァンパイアを粉砕! アルティメット・ダーク・バースト・ストリーム!!!」
「な、何ですってェェェェェェェ!!!!???!?」

 シェリル・ド・メディチ:LP2100→100

「キメラテック・フュージョンの効果で、真紅眼の究極竜の攻撃力は500下がる……だが、それでも攻撃力4000だ」

 真紅眼の究極竜 攻撃力4500→4000

「ターン……エンドだ」

 ギャラリーが騒めく。
 大差のライフを僅か1ターンで引っ繰り返したのだ。
 だがしかし、相手もまださるものでそれでも勝負が解らないのがデュエルの法則。
「……私のターン。ドロー!」
 相手がドローする。
「手札より、ヴァンパイア・ガールを自身のエフェクトで特殊召喚。そして、ガールを生け贄にヴァンパイア・ロードを召喚するノーネ」

 ヴァンパイア・ガール 闇属性/星3/アンデット族/攻撃力1400/守備力600
 このカードは自分フィールド場にモンスターがいない時、手札より特殊召喚する事が出来る。
 1ターンに1度、手札のレベル5以上のモンスターを墓地に送る事でこのカードの攻撃力は400ポイントアップする。

 ヴァンパイア・ロード 闇属性/星5/アンデット族/攻撃力2000/守備力1500
 このカードが相手に戦闘ダメージを与える度にカードの種類(モンスター、魔法、罠)を1つ宣言する。
 相手はデッキからその種類のカードを選択して墓地に送る。
 また、このカードが相手のカードの効果で墓地に送られた際、次のターンのスタンバイフェイズに特殊召喚される。

「そして、ヴァンパイア・ロードを墓地に送り、DarkLord -アンデット・オブ・ヴァンパイア-を特殊召喚するノーネ!」

 DarkLord -アンデット・オブ・ヴァンパイア- 闇属性/星7/アンデット族/攻撃力2800/守備力2000
 このカードは「ヴァンパイア・ロード」を墓地に送った時のみ特殊召喚出来る。
 このカードは墓地に存在する「ヴァンパイア」と名のつくモンスター1体につき攻撃力が200ポイントアップする。
 このカードが相手のカードの効果で墓地に送られた際、次のターンのスタンバイフェイズに特殊召喚される。

 DarkLord -アンデット・オブ・ヴァンパイア- 攻撃力2800→3600

「……これで、私の手札は0枚デスーノ」
 急に、相手が口を開いた、確かに手札は0枚。
 リバースカードも無い。ライフは残り100。
「ダークロードの攻撃! ブラッディ・カタストロフ!」
「迎撃しろ、レッドアイズ! アルティメット・ダーク・バーストストリーム!」

 シェリル・ド・メディチ:LP100→0

「……俺の……勝ちだ……」

 俺の宣言と共に、相手が小さくため息をついた。
「ニッポンのデュエリストは、最後まで諦めない人が多いノーネ。だけど、それが良いノーネ」
「ありがとう。アンタとデュエル出来て、良かったよ」
 俺がそう答えると、シェリルさんは俺をひょいとそのまま抱き寄せた。
「デュエルの最初みたいな、グッドスマイルが消えてるノーネ。貴方はグッドスマイルが似合ってマスーノ」
 肩の力を抜け、と言ってるのか。
 そう言えば、さっきからデッキの中の神竜が黒い影を出してるような……。
 いや、今はそんな暗い事を考えているべきではないだろう。
「(結構、気さくな人なんだな、欧州チャンプって)」
 俺がそんな事を考えた時、目の前にひょいとパズルカードが突きだされた。
「あと、2枚になってしまったノーネ」
「あ………」
 俺はパズルカードを受け取る。これで6枚。

「揃ったぜ、6枚のパズルカード!」

 とりあえず、嬉しさで叫ばずにはいられなかった俺だった。









 しばらく嬉しさではしゃぎまくっていたが、俺は電柱に激突するまで叫んでいたらしい。
 らしいってのは、単に俺が気づいてなかっただけだ。

「と、とりあえずおめでとうナノーネ。だけど、前はよく見たほうが良いノーネ?」
「ご丁寧にどうも。俺もこぶをたくさん作りたくありません」
 俺は小さく肩をすくめると、デュエルディスクをもう一度装着しなおす。
 パズルカード六枚。決勝進出という事実が、俺の心を躍らせる。


「待ってろよ……俺は、行くぜ!」
 小さな決意の焔は、たとえ小さくとも燃え尽きるものではなかった。



《第15話:悪魔を持つ少女》

 第2回バトル・シティ予選も終盤を迎えようとしていた。
 決勝進出決定者は既に5名。残る枠は3つ。

 残る枠に最も近い人間はパズルカードを4枚以上集めたものであろう。

 その内の1人、宍戸貴明は既にパズルカードを5枚集め、あと1枚で決勝進出まで来ていた。

「………流石にもう、デュエリストが全然いねぇよな……」
 俺は思わずそう呟く。どうやら勝ち進んできた面子がことごとく倒していったらしい。
 これでは俺の決勝進出も危うくなる。
「参ったな……」
 頭を掻きながら時計を見る。時刻は午後4時。残り4時間。
 時間はあっても人がいなければどうしようもない。さて、どうしたものだろうか。
 ポケットに手を突っ込むと、手に何かが触れた。
 今は確か財布は胸ポケットにある筈。だとすると、これは……。

 掴み取る。紙に書かれた、幾つかの番号。

 だがしかし、この番号はある意味、俺にとって天の助けだった。
「ラッキー………」
 いい事を思いついた。あの暴走運転の婦警さんの助けを借りる時が来たようだ。
 携帯電話を取りだし、番号を打ち込む。
「あ、もしもし? お姉さんですか? どうも、昼間の不良デュエリストこと、宍戸貴明ですが……」
 俺は電話をしながら、自分で不良と認めている事に気付いた。
 ちょっと反省。
 だけど、流石に今さらどうしようもないので頼るしかない。
 ヤバい……もっと反省。





 10分後。俺は暴走車上の人となった。
「いいか、少年!」
「はい、なんでしょうお姉さん!」
「困った事があって相談するのはいい事だ! だけど、ミニパトはタクシーじゃない!」
 いや、そんな事は解ってます。
 だけど利用せざるを得ないんです、後ろで現実が牙を剥いてますから。
「まぁ、面白そうだからいいか!」
 婦警さんは笑いながら更にアクセルを踏む。
 スピードメーターは100キロを示している。だけどお姉さん、さっきの道路標識で60キロ制限書いてありましたけどね!
 ミニパトでスピード違反していいのかよ。

 俺がそんな事を考えていると、いきなり婦警さんは思いきりブレーキを踏み、更にハンドルもかなり回す。
 そう、俗に言うドリフト停車を一般道で行ったのだった。

「うおっ!? なんスか!?」
「見つけたけど、デュエリスト」
 婦警さんの指さす先の、歩道にデュエリストは確かにいた。

 年は俺と同じ位、髪は長めで気の強そうな表情をしていた。
 俺はミニパトから降りて、小さく手を上げた。
「よっ」
「………いや、アンタね。ドリフト停車するミニパトも初めて見たけどそこからタクシーみたいに降りてくるデュエリストなんているの?」
「いるじゃん、此処に」
 俺が胸を張ると同時に、文字通りデュエルディスクで殴られた。
「あだっ!?」
「自慢する事か、それはッ!」
「何しやがんだ、コラ! 時間が迫ってきてよ、デュエリストが見つからないんだからしょうがねぇだろ!」
「ま、まぁ解らないまでもないけど、あたしだって後1人倒せば決勝に行くの!」
「安心しろ、俺もだ!」
 俺の発言に、彼女の目は点になった。

「……へ? そうなの?」
「イエスだ。と、いう事だ。大人しく俺とデュエルしろ!」
「………願ってもない。あたしを舐めてると………後悔するよ?」
 彼女はニヤリと笑うと、デュエルディスクを構えた。
 俺も同じくデュエルディスクを装着。ある程度距離を取る。

「……名前は?」
「俺は宍戸貴明」
「あたしは、滝野理恵」
「そうか、理恵か」
 そして、それは始まる。

「「デュエル!」」

 宍戸貴明:LP4000 滝野理恵:LP4000

「先攻は貰うよ! ドロー!」
 また先攻取られた……最近、先攻取られる事多いな。

「E・HERO クレイマンを守備表示で召喚!」

 E・HERO クレイマン 地属性/星4/戦士族/攻撃力800/守備力2000

「更に、E-HERO ブリザード・エッジを自身の効果で特殊召喚!」

 E-HERO ブリザード・エッジ 水属性/星4/悪魔族/攻撃力1700/守備力1400
 このカードは特殊召喚扱いで召喚する事が出来る。
 このカードが墓地に送られた時、フィールド上の魔法・罠カードを1枚破壊する事が出来る。

「E-HERO ブリザード・エッジ………E-HEROデッキか! へぇ、女なのに珍しいな」
「言っただろ、舐めると痛い目見るってね! それに……何ら問題ないでしょ」
「まぁなー。面白くなりそうだぜ!」
 俺の返答に、理恵は小さく頷くと、カードを1枚伏せてターンエンドを宣言した。
 さて、俺のターンだ。
「俺のターン! ドロー!」
 さて、何があるかなと。
「……闇魔界の戦士ダークソードを攻撃表示で召喚!」

 闇魔界の戦士ダークソード 闇属性/星4/戦士族/攻撃力1800/守備力1500

「バトルだ! ダークソードで、ブリザード・エッジを攻撃!」
 ブリザード・エッジを破壊しても今の俺のフィールドに魔法・罠カードが存在しないので理恵のフィールドの魔法・罠を破壊する羽目になる。
 つまり、今の内に倒せば伏せ除去になる。
「リバース罠、発動! ヒーローバリア!」

 ヒーローバリア 通常罠
 自分フィールド上に「HERO」と名のつくモンスターが存在する時に発動可能。
 相手モンスター1体の攻撃を無効にする。

「チッ、凌がれたか!」
 まぁ、いい。まだ1ターン目。デュエルは始まったばかりだ。
「カードを2枚伏せて、ターンエンドだ」
「あたしのターン。ドロー!」
 理恵がドローする。同時に、少しだけ顔が歪んだ。
「手札より、ダーク・フュージョンを発動!」

 ダーク・フュージョン 通常魔法
 手札またはフィールドから融合モンスターによって決められた融合素材を墓地に送り、
 悪魔族の融合モンスター1体を融合デッキから召喚する。
 この効果で特殊召喚されたモンスターは召喚されたターン、相手の発動した魔法・罠カードの影響を受けない。

「手札の、E・HERO フェザーマンとE・HERO バーストレディを墓地に送り、融合デッキから、こいつを召喚するよ……。
 召喚! E-HERO インフェルノ・ウィング!」

 E・HERO フェザーマン 風属性/星3/戦士族/攻撃力1000/守備力1000

 E・HERO バーストレディ 炎属性/星3/戦士族/攻撃力1200/守備力800

 E-HERO インフェルノ・ウィング 炎属性/星6/悪魔族/攻撃力2100/守備力1200/融合モンスター
 「E・HERO フェザーマン」+「E・HERO バーストレディ」
 このモンスターは「ダーク・フュージョン」による効果でしか特殊召喚出来ない。
 このカードが守備表示モンスターを攻撃した際、攻撃力が守備力を上回っている分だけ、ダメージを与える。
 このモンスターが戦闘で相手モンスターを破壊した際、相手モンスターの攻撃力か守備力、高い方の数値分のダメージを与える。

「インフェルノ・ウィング……いきなり強火力じゃねーか」
 思わず呟く。貫通ダメージに加え、バーン効果まである。
 下手すれば一撃でライフの大半を持っていかれる可能性まであるのだ。
「インフェルノ・ウィングで、ダークソードを攻撃! インフェルノ・ブラスト!」
「どわっ……!」

 宍戸貴明:LP4000→3700

「インフェルノ・ウィングの効果発動! 戦闘で相手モンスターを破壊した際、相手モンスターの攻撃力か守備力、高い数値分のダメージを、相手ライフに
 与える! ヘル・バックファイア!」

 宍戸貴明:LP3700→1900

 一気に2000以上のライフを持っていかれた。
 これではマズい。しかも、まだ2体のモンスターのダイレクトアタックが残っている。
「E・HERO クレイマンを攻撃表示に変更! そして、ブリザード・エッジ、クレイマンの2体でダイレクトアタック!」
「そうはさせるかぁ! 閃光のバリア−シャイニング・フォース−を発動!」

 閃光のバリア−シャイニング・フォース− 通常罠
 相手フィールド上に攻撃表示のモンスターが3体以上存在する時、相手攻撃宣言時に発動可能。
 相手フィールドの攻撃表示モンスターを全て破壊する。

「この効果で、3体まとめて墓地にさよならして貰うぜ!」
「くっ………ブリザード・エッジの効果で、その伏せカードを破壊させてもらうけどね!」
「ああ、そういやそうだったな」
 失念してた。だけど、これでお互いにフィールドは空っぽだ。
 とは、言ったものの。

 宍戸貴明:LP1900 滝野理恵:LP4000

「(ライフに大差がついてちゃ、落ち着いてデュエル出来ねぇし……)」
 かくして、どうしたものだろうか。
「俺のターン! ドロー!」
 まぁ、上手い事行けばいいと……ん?

「魔法カード、テテュスの祈りを発動!」
 テテュスの祈り 通常魔法
 墓地に存在するカード2枚とと手札1枚をゲームから除外する事で、デッキからカードを3枚ドローする。

「この効果で俺は墓地のシャイニングフォースとダークソード、手札からハリケーンを除外するぜ。そして、カードを3枚ドロー!」

 手札補充完了。さて、どうする?
 今、ダイレクトアタックすれば確実に通る。問題はその後だ。
「D.D.アサイラントを攻撃表示で召喚!」

 D.D.アサイラント 地属性/星4/戦士族/攻撃力1700/守備力1600
 このカードを戦闘で破壊したモンスターはゲームから除外される。

「アサイラントで、相手プレイヤーにダイレクトアタック!」
「くぅっ……!」

 滝野理恵:LP4000→2300

「(これで、ライフの差は400……)」
 少しはマシになったと言えるだろう。
「カードを2枚セットし、ターンエンドだ」
「あたしのターン。ドロー!」
 強欲な壺、天使の施しという強力なドローソースが制限になったりする今の現状。
 それを打開するには多少使いにくくてもドローソースは必須。
「魔法カード、テテュスの祈りを発動!」

 テテュスの祈り 通常魔法
 墓地に存在するカード2枚とと手札1枚をゲームから除外する事で、デッキからカードを3枚ドローする。

「大人気だな、テテュスの祈り」
 思わずそう呟く。
「墓地のフェザーマン、バーストレディ。手札から更にフェザーマンを除外して、カードを3枚ドロー!」
 直後、理恵の顔つきが変わった。
 どうやら良カードを引いたという事か。
「魔法カード、ダーク・コーリングを発動!」

 ダーク・コーリング 通常魔法
 手札または墓地から融合モンスターカードに決められたモンスターを1体ずつ除外し、
 融合デッキより「ダーク・フュージョン」の効果でのみ特殊召喚出来る融合モンスターを1体、特殊召喚する。

「この効果で、手札のスパークマンと墓地のクレイマンを除外して、次はコイツだ! E-HERO ライトニング・ゴーレム!」

 E・HERO クレイマン 地属性/星4/戦士族/攻撃力800/守備力2000

 E・HERO スパークマン 光属性/星4/戦士族/攻撃力1600/守備力1400

 E-HERO ライトニング・ゴーレム 光属性/星6/悪魔族/攻撃力2400/守備力1500/融合モンスター
 「E・HERO クレイマン」+「E・HERO スパークマン」
 このモンスターは「ダーク・フュージョン」による効果でしか特殊召喚出来ない。
 フィールド上のモンスター1体を破壊する事が出来る。この効果は1ターンに1度しか使用出来ない。

「ライトニング・ゴーレムの効果発動! 1ターンに1度、フィールド上のモンスター1体を破壊する!」
「んなっ!?」
 だが、時既に遅し。
 ライトニング・ゴーレムの腕から放たれた電撃が、アサイラントの肉体を一瞬で焼き尽くした。
「すまん……」
 小さく絶叫が聞こえた気がした。
「…………今、何か言ったの?」
「なに。大した活躍も出来ずに、破壊されるのは残念だろうなって、モンスターのキモチに立っただけさ」
 俺の返答に、理恵は少しだけ目を丸くした。
「それなら、あたしのクレイマンだってそうじゃない。ほぼ何もせずにシャイニング・フォースで墓地行きよ」
「それもそうか」
「それに、トークンとかなら攻撃するより盾になったり生け贄になるばかりじゃないの」
 まぁ、確かに一理あるな。
「だけど、そんな風なキモチになるのって、悪い事じゃないよね」
「……そうだな」
 俺が小さく頷くと同時に、まだバトルフェイズ中である事を思いだした。
「それじゃ、デュエル再開! ライトニング・ゴーレムでダイレクトアタック!」
「させるかよ! リバース、速攻魔法、終焉の焔!」

 終焉の焔 速攻魔法
 発動したターン、自分はモンスターを召喚・特殊召喚・反転召喚出来ない。
 自分フィールド上に「黒焔トークン」(闇属性/星1/悪魔族/攻撃力0/守備力0)を2体特殊召喚する。
 (このトークンは闇属性モンスター以外の生け贄にする事は出来ない)

 ライトニング・ゴーレムの攻撃は黒焔トークンの攻撃に阻まれる。
 だがしかし、次の相手ターンで黒焔トークンがまた破壊されるのも事実だ。
「カードを1枚伏せて、ターンエンド」
「俺のターン! ドロー!」
 果たして、次のターンまでに何か考えられないか。
「んー…………」
 黒焔トークンは1体のみ。はて、どうしたものだろうか。
 守りに徹するか?
 それとも、僅かな可能性から攻めに転ずるか。
「(どうする……どうする、俺………)」
 手札を確認してみる。何かいい手立てがある筈だ。
「手札より……闇魔界の戦士ダークソードを召喚!」

 闇魔界の戦士ダークソード 闇属性/星4/戦士族/攻撃力1800/守備力1500

「更に、手札より魔法カード、ライド・オブ・ユニオンを発動!」

 ライド・オブ・ユニオン 速攻魔法
 デッキの1番上のカードを墓地に送る。
 デッキよりユニオンモンスターを1体選択し、フィールドのモンスターに装備する。

「デッキより、俺は騎竜を選択し、ダークソードにユニオン!」

 騎竜 闇属性/星5/ドラゴン族/攻撃力2000/守備力1500/ユニオン
 1ターンに1度だけ自分のメインフェイズに装備カード扱いとして自分の「闇魔界の戦士 ダークソード」に装備、
 または装備を解除して表側攻撃表示で特殊召喚する事ができる。
 この効果で装備カードになっている場合にのみ、装備モンスターの攻撃力・守備力は900ポイントアップする。
 装備状態のこのカードを生け贄に捧げる事で、装備モンスターはこのターン相手プレイヤーに直接攻撃ができる。
(1体のモンスターが装備できるユニオンは1枚まで。
 装備モンスターが戦闘によって破壊される場合は、代わりにこのカードを破壊する。)

 闇魔界の戦士ダークソード 攻撃力1800→2700

「ダークソードの攻撃! ライトニング・ゴーレムを破壊ーッ!」
「うっ……くっ……」

 滝野理恵:LP2300→2000

「コイツは、面白いデュエルだぜ!」
 俺が小さく呟いた時、理恵も顔を上げた。
「……なんか、決着つけるのが勿体ない。だけど……勝つからね」
「ハッ、それはこっちの台詞だぜ!」

 俺と理恵はそこまで言って、お互いに笑った。
 そう、これは本気のデュエル。バトル・シティ決勝進出の切符を懸けた、文字通りの死闘なのだから。



《第16話:召喚!最凶のE-HERO》

 宍戸貴明:LP1900 滝野理恵:LP2000

 闇魔界の戦士ダークソード 闇属性/星4/戦士族/攻撃力1800/守備力1500

 騎竜 闇属性/星5/ドラゴン族/攻撃力2000/守備力1500/ユニオン
 1ターンに1度だけ自分のメインフェイズに装備カード扱いとして自分の「闇魔界の戦士 ダークソード」に装備、
 または装備を解除して表側攻撃表示で特殊召喚する事ができる。
 この効果で装備カードになっている場合にのみ、装備モンスターの攻撃力・守備力は900ポイントアップする。
 装備状態のこのカードを生け贄に捧げる事で、装備モンスターはこのターン相手プレイヤーに直接攻撃ができる。
(1体のモンスターが装備できるユニオンは1枚まで。
 装備モンスターが戦闘によって破壊される場合は、代わりにこのカードを破壊する。)

 闇魔界の戦士ダークソード 攻撃力1800→2700

 今、俺のフィールドには騎竜をユニオンしたダークソードと伏せカード。
 それに対して、理恵のフィールドには伏せカードのみ。はて、どうなるか。
「あたしのターン。ドロー!」
 ある意味、このドローが何かを分けるというか。

「E-HERO ヘル・ブラットを、自身の効果で特殊召喚!」

 E-HERO ヘル・ブラット 闇属性/星2/悪魔族/攻撃力300/守備力600
 自分フィールド上にモンスターが存在していない場合、このカードを表側攻撃表示で特殊召喚出来る。
 このカードを生け贄にして「HERO」と名のつくカードを生け贄召喚した際、エンドフェイズにカードを1枚ドローする。

「更に、魔法カード、未来融合−フューチャー・フュージョンを発動!」

 未来融合−フューチャー・フュージョン 永続魔法
 自分のデッキから融合モンスターによって決められたカードを墓地に送り、融合デッキから融合モンスターを1体選択する。
 発動後2回目のスタンバイフェイズ時に選択した融合モンスター1体を特殊召喚する。(この特殊召喚は融合召喚扱いとする)
 このカードが破壊された時、召喚した融合モンスターも破壊される。

「この効果で、融合デッキからあたしはE・HERO ダーク・ブライトマンを選択!」

 E・HERO ダーク・ブライトマン 闇属性/星6/戦士族/攻撃力2000/守備力1000/融合モンスター
 「E・HERO ネクロダークマン」+「E・HERO スパークマン」
 このカードは融合召喚でしか特殊召喚出来ない。
 このカードは守備モンスターを攻撃した時、攻撃力が相手モンスターの守備力を上回っている分だけ、ダメージを与える。
 このカードは攻撃した場合、ダメージステップ終了後に守備表示となる。
 このカードが破壊された時、相手フィールド上のモンスター1体を破壊する。

「そして、E-HERO ヘル・ブラットを生け贄に、E-HERO マリシャス・エッジを召喚!」

 E-HERO マリシャス・エッジ 地属性/星7/悪魔族/攻撃力2600/守備力1800
 相手フィールド上にモンスターが存在する時、このカードは生け贄1体で召喚出来る。
 このカードが守備モンスターを攻撃した時、攻撃力が守備力を上回っている分だけ、ダメージを与える。

「カードを1枚伏せて、ターンエンドする前に、ヘル・ブラットの効果でカードを1枚ドロー! それで、ターンエンド!」
 マリシャス・エッジに攻撃力は2600。
 今のダークソードに1つ足りない。だとすれば、どうすればいいか。
「(あのリバースカード……何か気になるんだよな)」
 かと言って、行動を起こさない訳にも行かない。
「俺のターン! ドロー!」
 さて、何が出るかな、と。
「手札から、憑依装着−エリアを攻撃表示で召喚!」

 憑依装着−エリア 水属性/星4/魔法使い族/攻撃力1850/守備力1500
 このカードは自分フィールド上の水属性モンスター1体と「水霊使いエリア」を墓地に送る事でデッキから特殊召喚出来る。
 この効果で特殊召喚した場合、相手守備モンスターを攻撃した際、攻撃力が守備力を上回っている分、ダメージを与える。

「ターンエンドだ」
 結局の所、何もしなかった。
 まぁ、それならそれでどうにかなるのだろうが。
「あたしのターン! ドロー!」
 相手のターン。2回目のスタンバイフェイズ。
「未来融合−フューチャー・フュージョンの効果で、融合デッキよりE・HERO ダーク・ブライトマンを召喚!」

 E・HERO ダーク・ブライトマン 闇属性/星6/戦士族/攻撃力2000/守備力1000/融合モンスター
 「E・HERO ネクロダークマン」+「E・HERO スパークマン」
 このカードは融合召喚でしか特殊召喚出来ない。
 このカードは守備モンスターを攻撃した時、攻撃力が相手モンスターの守備力を上回っている分だけ、ダメージを与える。
 このカードは攻撃した場合、ダメージステップ終了後に守備表示となる。
 このカードが破壊された時、相手フィールド上のモンスター1体を破壊する。

「更に、手札より自身の効果でE-HERO ブリザード・エッジを特殊召喚!」

 E-HERO ブリザード・エッジ 水属性/星4/悪魔族/攻撃力1700/守備力1400
 このカードは特殊召喚扱いで召喚する事が出来る。
 このカードが墓地に送られた時、フィールド上の魔法・罠カードを1枚破壊する事が出来る。

「一気に3体のモンスターを揃えた!?」
 流石にこれだけのモンスターが揃うと、異常に思える。
 何を狙う? 何を狙う気だ?
「魔法カード、ダーク・フュージョンを発動!」

 ダーク・フュージョン 通常魔法
 手札またはフィールドから融合モンスターによって決められた融合素材を墓地に送り、
 悪魔族の融合モンスター1体を融合デッキから召喚する。
 この効果で特殊召喚されたモンスターは召喚されたターン、相手の発動した魔法・罠カードの影響を受けない。

「見せてあげる、あたしのHERO! ダーク・ブライトマンとブリザード・エッジを融合し……E-HERO カオス・アークデビルを召喚!」

 E-HERO カオス・アークデビル 闇属性/星9/悪魔族/攻撃力3500/守備力2500/融合モンスター
 「E-HERO ブリザード・エッジ」+「E・HERO ダーク・ブライトマン」
 このカードは「ダーク・フュージョン」による効果でしか特殊召喚出来ない。
 このカードが守備モンスターを攻撃した時、攻撃力が守備力を上回っている分だけ、ダメージを与える。
 手札を1枚捨てる事で、相手フィールド上の攻撃表示モンスター1体を破壊する。
 このカードが戦闘で破壊され墓地に存在する時、ドローしたモンスターをお互いに確認する事でそのモンスターを特殊召喚出来る。
 この効果はデュエル中に1度しか使用する事が出来ない。

 フィールドに、地響きが走る。
 割れた大地の裂け目から姿を現したそれは、漆黒の翼を広げた。

 漆黒の肉体に、白銀のラインが入ったその姿は、まさに混沌の名に相応しい。
 両手の鋭い爪が少しだけ光る。

 その存在感は、まさに邪悪なる英雄そのものであった。

「い、E-HERO カオス・アークデビル………?」

 しかしまぁ、随分と大層なモンスターが現れた。
 今の手札じゃ間違いなく殺られる。間違いなく。ヤバい、これはヤバい。
「ふふ、驚いた? あたしの最高のHERO。こんな面倒くさい召喚条件を経て召喚したあたしに惜しみない賞賛を浴びせて!」
「いや、俺が1度もチェーンしなかったからだろ。つーか、そんなのを自慢気に語るな」
「何ーッ!!!!!!???」
 怒っても拗ねても何も出んぞ。
 だけど、理恵のフィールドには今、マリシャス・エッジとカオス・アークデビルが牙を剥いている訳で。
 俺のフィールドには騎竜をユニオンしたダークソードとエリアたんのみ。
 さぁ、どうしよう。エマージェンシーコール発動と言いたいがあれもHERO専用だしな。
 ヒーローシグナルを使おうにも俺のデッキにHEROは入ってないのだよ。

「カオス・ダークエッジの攻撃! 闇魔界の戦士ダークソードには退場願うよ? ダークネス・ストライク!」
「ど、わぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 宍戸貴明:LP1900→1100

「更に、マリシャス・エッジで、憑依装着−エリアを攻撃!」

「なにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!」

 宍戸貴明:LP1100→350

 エリアたんがマリシャス・エッジに喰われた。
 ライフポイント、残り350。まさに絶体絶命。
「騎竜の効果で、騎竜は墓地に送られ、ダークソードはフィールドに残るぜ」

 闇魔界の戦士ダークソード 攻撃力2700→1800

「あたしはターンエンド………ふふ、勝てるものなら、勝ってみる?」
「嫌な台詞言うなよ、おい」
 とは言ってもライフポイントは残り350。
 流石の俺も今回ばかりはマズいのだろうか。いやいや、そんなの笑えない。
 つーか、貫通効果持ちが2体もいる時点でおかしいと思え。
 どうする、俺?
 なぁ、運命の女神様。今日も俺に……微笑みをくれないか?
「俺のターン! デスティニー・ドロー!」
 自分で言わないだろ、流石に。
「!……このカードは………」
 だがしかし、どんなに強いカードも単体では役に立たない。
 どうすればいいんだ、どうすれば……。
「困った時は、運に任せろ! 速攻魔法! 奇跡のダイス・ドローを発動!」

 奇跡のダイス・ドロー 速攻魔法
 サイコロを振る。出た目の数だけ、デッキからカードをドローする。
 このターンのエンドフェイズに手札を出た目以下になるよう、カードを捨てなければならない。

「サイコロを振るぜ……さぁ、運に天に!」

 サイコロはころりと転がり、俺に目を示した。6と。
「カードを6枚ドロー!」
 これだけドローすればまともなカードもやってくるか。
 まぁ、一発逆転を1つのドローに夢見るのはデュエリストとして当然な訳で。

「(いい、カードが来れば……モンスター2体、魔法カードが……ん?)」
 これは、いいモノを引いた。
「魔法カード、天使の施しを発動!」

 天使の施し 通常魔法
 カードを3枚ドローし、手札から2枚墓地に送る。

「この効果で、カードを3枚ドロー。2枚、墓地に送るぜ」
 そして、まだまだ続きはやってくる。
「更に、天使の施しにチェーン発動! ご隠居の猛毒薬!」

 ご隠居の猛毒薬 速攻魔法
 以下の効果より、1つを選択して発動する。
 ・相手に800ライフポイントのダメージを与える。
 ・自分は1200ライフポイントを回復する。

「この効果で、俺はライフ回復を選択するぜ。つまり、1200ライフ回復!」

 宍戸貴明:LP350→1550

「そしてぇ、手札よりチェーン3! 速攻魔法、サモンチェーンを発動!」

 サモンチェーン 速攻魔法
 チェーン3以降に発動する事が出来る。このターン、自分は3回の通常召喚を行える。
 同一チェーン上に複数枚このカードと同名カードが発動されている場合、発動する事は出来ない。

「この効果で、手札より、異次元の戦士とD.D.アサイラントを召喚!」

 異次元の戦士 地属性/星4/戦士族/攻撃力1200/守備力1000
 このカードは戦闘を行った時、このカードと相手モンスターを除外する。

 D.D.アサイラント 地属性/星4/戦士族/攻撃力1700/守備力1600
 このカードは戦闘で破壊された時、このカードとこのカードを破壊したモンスターを除外する。

「そして、フィールドには3体のモンスター……まだ、1回だけ召喚出来る。行くぜ! 3体を生け贄に、出でよ、伝説の騎士!
 ギルフォード・ザ・ライトニングを召喚!」

 闇魔界の戦士ダークソード。
 異次元の戦士。
 D.D.アサイラントの3体が、小さく膝を折って礼をする。

 これから現れるモンスターは、他のモンスターに敬意を払われる程であるからだ。

 光を司る、伝説の騎士。ギルフォード・ザ・ライトニングとはまさにそういう存在だ。

 ギルフォード・ザ・ライトニング 光属性/星8/戦士族/攻撃力2800/守備力1400
 このカードは生け贄を3体捧げて通常召喚した場合、相手フィールド上のモンスターを全て破壊する。

「師匠から受け継いだ……俺の最高のモンスターだ!」
「光の騎士……ギルフォード・ザ・ライトニング………あはははははは! 凄い、何か凄くカッコ良さそうなの出て来た! あたしのHEROと勝負してみる?」
「甘いな……ギルフォードは稲妻を操る騎士! 故に、ギルフォード・ザ・ライトニングの効果発動!
 生け贄3体で通常召喚した場合、相手フィールド上のモンスターを全て破壊する! ライトニング・サンダー!」
「なっ……!」
 伝説の騎士が、背中の大剣を引き抜く。
 フィールドに巨大な稲妻が降り注ぎ、マリシャス・エッジとカオス・アークデビルが稲妻に焼かれて消えていく。
「そんな……あたしの、カオス・アークデビルが………」
「魔法や罠なら対策し易いけど、モンスター効果への対策はし辛いもんな!」
 さて、これで理恵のフィールドには魔法・罠カードだけだ。
「さて……お前のフィールドにモンスターはいねぇ。いくぜ! ギルフォード・ザ・ライトニングで、プレイヤーにダイレクトアタック!
 ライトニング・クラッシュソード!」
「リバース罠、幻影の水鏡を発動!」

 幻影の水鏡 通常罠
 このターン、相手プレイヤーから受けるダメージを半分に出来る。

 伝説の騎士の攻撃が、鏡に阻まれて威力が半減する。
 それでも、大幅にライフを削りはしたが。

 滝野理恵:LP2000→600

「くっ……だけど、まだまだだよ」
「カードを1枚伏せて、ターンエンドだぜ」
 だけど、これにて一応は形勢逆転。
 これから何が出て来るのか、ちょっと楽しみ。

 宍戸貴明:LP1550 滝野理恵:LP600

「E-HERO ブリザード・エッジって、そう言えば準制限指定喰らってたよな? てことは、お前のデッキにもうブリザード・エッジはいないのか」
 俺が思いだしたように呟くと、理恵も顔を上げた。
 あれ、余計な事を言ったか?
「う、うるさいうるさいうるさい! デッキさえあればまだ可能性はあるの! あたしのターン! ドロー!」
 理恵がドローする。さて、何を引いたのか。
「………手札より、魔法カード、セブンズ・クライムを発動」

 セブンズ・クライム 通常魔法
 墓地に「E・HERO」「E-HERO」と名のつくモンスターが7体以上存在している時に発動可能。
 墓地のカード7枚を除外する事で、カードを3枚ドローする。

「この効果で、あたしは墓地のクレイマン、スパークマン2体、ネクロダークマン、ヘル・ブラット、ブリザード・エッジを除外して、カードを3枚ドロー!」
 カードをドローする。
 少しだけ、顔色が変わった。どうやら、何かを見つけたらしい。
「そしてあたしは、魔法カード、ダーク・コーリングを発動!」

 ダーク・コーリング 通常魔法
 手札または墓地から融合モンスターカードに決められたモンスターを1体ずつ除外し、
 融合デッキより「ダーク・フュージョン」の効果でのみ特殊召喚出来る融合モンスターを1体、特殊召喚する。

「墓地のE-HERO ブリザード・エッジと、E・HERO ダーク・ブライトマンを除外!」
「し、しまった!? ダーク・コーリングを忘れてたぜ!」
 なんてこったい。しかも素材が素材。
 と、いうことは、召喚されるモンスターは……?

「そう、あたしが召喚するのは、最強にして最高のHERO………E-HERO カオス・アークデビル!」

 E-HERO カオス・アークデビル 闇属性/星9/悪魔族/攻撃力3500/守備力2500/融合モンスター
 「E-HERO ブリザード・エッジ」+「E・HERO ダーク・ブライトマン」
 このカードは「ダーク・フュージョン」による効果でしか特殊召喚出来ない。
 このカードが守備モンスターを攻撃した時、攻撃力が守備力を上回っている分だけ、ダメージを与える。
 手札を1枚捨てる事で、相手フィールド上の攻撃表示モンスター1体を破壊する。
 このカードが戦闘で破壊され墓地に存在する時、ドローしたモンスターをお互いに確認する事でそのモンスターを特殊召喚出来る。
 この効果はデュエル中に1度しか使用する事が出来ない。

 再び現れたカオス・アークデビル。
 ああ、どうやらもう俺の事をタダで許す気はゼロなんだな。
「そして、手札より最後のダーク・フュージョンを発動し、フェザーマンとバーストレディを融合!」
「げっ……ま、まだあったのかよ……」

 ダーク・フュージョン 通常魔法
 手札またはフィールドから融合モンスターによって決められた融合素材を墓地に送り、
 悪魔族の融合モンスター1体を融合デッキから召喚する。
 この効果で特殊召喚されたモンスターは召喚されたターン、相手の発動した魔法・罠カードの影響を受けない。

 E・HERO フェザーマン 風属性/星3/戦士族/攻撃力1000/守備力1000

 E・HERO バーストレディ 炎属性/星3/戦士族/攻撃力1200/守備力800

 E-HERO インフェルノ・ウィング 炎属性/星6/悪魔族/攻撃力2100/守備力1200/融合モンスター
 「E・HERO フェザーマン」+「E・HERO バーストレディ」
 このモンスターは「ダーク・フュージョン」による効果でしか特殊召喚出来ない。
 このカードが守備表示モンスターを攻撃した際、攻撃力が守備力を上回っている分だけ、ダメージを与える。
 このモンスターが戦闘で相手モンスターを破壊した際、相手モンスターの攻撃力か守備力、高い方の数値分のダメージを与える。

 これで、フィールドにはE-HEROが2体。
 どうする、俺。どうする……。
「E-HERO カオス・アークデビルの攻撃」
 俺が悩んでいる間にも、理恵は攻撃宣言を行っていた。
「照準は、ギルフォード・ザ・ライトニング! 行くよ! ダークネス・ストライク!」
「そうは、させるかぁ!」
 伏せておいた罠カードを、今こそ発動させる時。
「E-HEROに、罠カードを発動しても! あたしの伏せカードの闇の幻影なら、無効化出来るよ!」

 闇の幻影 カウンター罠
 フィールド上に表側表示で存在する闇属性モンスターを対象とする、
 モンスター効果・魔法・罠カードの発動を無効にして破壊する。

「甘いな。誰が、E-HEROに発動するって言った? この罠カードは、自分のモンスターが対象だぜ! 罠発動! ミスティ・マジック!」

 ミスティ・マジック 通常罠
 戦闘による自分モンスター1体の破壊を無効する。ダメージ計算は適用する。

 ギルフォード・ザ・ライトニングに攻撃は直撃。だが、その身体が一瞬だけ霧になり、再び元に戻った。
「ダメージ計算は適用するがな……フィールドに、ギルフォードは残ったままだぜ」

 宍戸貴明:LP1550→850

「………あ……」
「それで今、お前の手札は0枚になった。伏せてあるカードは、お前が今言っちまったな。闇の幻影だけだ」
「……ターン……エンド……」
「俺のターン! ドロー! そして……ギルフォード・ザ・ライトニングで、インフェルノ・ウィングを攻撃!
 ライトニング・クラッシュ・ソード!」

 インフェルノ・ウィングを、伝説の騎士が切り裂いた。
 その時に挙がった断末魔は、とてもよく響いた。

 滝野理恵:LP600→0

「………ゴメンね……あたしのHERO達……」
 その、最後の言葉が、俺の元にも届いた。
「………俺の勝ち、だな」
 そして、今この瞬間。パズルカードは6枚になった。
 つまり。

 第2回バトル・シティ決勝トーナメントの進出権を獲得した訳だ。

「いよっしゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

 俺はしばらく叫んだ後、立ち去らずに地面に座り込んだままの理恵を振り返った。
「いつまで座ってる。まだ終わっちゃいないだろ」
「え……で、でも……」
「俺はパズルカード6枚になったけどよ、お前はまだ4枚残ってる。決勝への切符、まだ残ってるかも知れないって事だろ? 幸いにして時間だって
 まだあるんな。タイムリミットまで、諦めんなよ! チャンスがある限り、戦い続けるのがデュエリストだぜ!」
「あ………」
 俺の言葉に、理恵が驚いたような声をあげた。
 どうやらその意味に気付いたらしい。それもその筈か。
「決勝戦で、また会おうぜ、理恵! 楽しかったからよ!」
「……バカみたいな奴………だけど、本当だよね」
 俺の言葉に、理恵はそう笑いながら答えた。



《第17話:神のチカラ、人のチカラ》

 午後5時。制限時間まで、後3時間。

 パズルカード6枚を、街灯の下で重ねてみる。
 前回の決勝戦の入り口は、童実野スタジアムだったけど、果たして今回は……。
「………ん?」
 驚いた。意外な場所だった。
 童実野埠頭。まさかこんな場所だとはね。

 童実野埠頭目指して歩いてみる。
 バトル・シティ予選。様々なデュエリストと戦った。
 最初に戦った炎属性使いのお姉さんのプロミネンス・ドラゴンには苦しめられた。
 次は平井剛志や里見智晴とのトライアングル・デュエルで逆転勝ちした。
 今、付けている特注のデュエルディスクも里見から貰った事を思いだす。
 冥府の神竜の所持者とも戦った。
 デュアル・ポイズンとかいう組織と共に現れた、晋佑とも再会した。
 欧州チャンプと戦って、勝った。

 デッキを取り出し、手に取ってみる。
 このデッキで戦って、勝ち抜いてきた。予選を。
 これからの決勝戦に、どんな戦いが待っているんだろう。
 逃げ出したくなるかも知れない。
 負けると思うかも知れない。

 それでも、デュエリストとして1度フィールドに立ってしまったのなら。

 もう2度と、退く事なんて出来やしない。



 笛の音が響く。
 甘美で、それでいて何処か暖かい旋律。
 何処からだろうか。

 角を曲がる。
 更に曲がって、もう1度曲がる。そして曲がる。
 待てい、1周して同じ所に戻って……る訳では無いようだ。
 いや、本来同じ方向に曲がり続ければ同じ所を回り続ける事になる。
 だが、俺が今歩いている道はそうではない。明らかに先程とは違う場所だ。
 違う場所に行き着く方が不自然であるにも関わらず、だ。

 それでも俺は歩みを止めず、ただ歩き続けた。

 そして遂に、開けた場所に出た。
 周りを標高の低い緑の丘に囲まれた、盆地のような美しい草原。
 丘の1つから水が溢れ、それが川となっている。

 ここは童実野町ではない事は解りきっている。だとすると、何処なのだろうか。

 草原の中心に、石で作られた石碑が立っており、石碑の片隅に誰かが座っていた。
「………誰?」
 近寄りながら、呟いた時、俺は思わず声を上げそうになった。

 勝利の導き手フレイヤが石碑の隅に腰掛けて、笛を吹いていた。

 勝利の導き手フレイヤ 光属性/星1/天使族/攻撃力100/守備力100
 自分フィールド上に「勝利の導き手フレイヤ」以外の天使族が存在する時、このカードを攻撃対象に選択出来ない。
 このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する限り、自分フィールドの天使族モンスターの攻撃力・守備力は400ポイントアップする。

「(………俺は夢でも見てるのか?)」
 思わずそう考えてしまう。まぁ、確かに非現実的ではある。
 かと言って、此処から戻ろうにもさっきは適当に道を曲がり続けただけなのでよく解らない。

 気が付くと、笛の音は止んでいた。
 勝利の導き手フレイヤが俺を見上げ、不思議そうに首を傾げた。
「えーと……よっ」
 とりあえず手を上げて挨拶。何をしている、俺。
「こ、こんにちは」
 フレイヤも挨拶を返してくれた。よし、言葉は通じる。
「道に迷ったんだが、帰る方法は無いのか?」
「えーと………そもそも此処は人間がフツーに来れる場所じゃないから多分、貴方に理由があるんだと思います」
「俺に、此処に来る理由がある?」
 よく解らん。何処にそんな理由があるのか。
 少し考えてみるが、思いつかない。どんな理由……理由?

「理由ねぇ……そうだな、お前をお持ち帰りするのに理由なんて無いな」

 この俺の発言の直後、天空から降ってきた杖が俺を思いきり殴り飛ばした。
「いっでぇ!」
 俺が地面に転がった所で、石碑の影から杖の主であろう人影が姿を現す。
 カードで見た事がある。確か、破滅の女神ルインだ。

 破滅の女神ルイン 光属性/星8/天使族/攻撃力2300/守備力2000/儀式モンスター
 「エンド・オブ・ザ・ワールド」により降臨。手札またはフィールドからレベルが8になるよう、生け贄を捧げなければならない。
 このカードは戦闘で相手モンスターを破壊した場合、もう1度だけ続けて攻撃する事が出来る。

「な・に・を・如何わしい発言をしているのですか、貴方はッ!」
「あででででで…………は、破滅の女神ルイン?」
 フレイヤの次はルイン様かよ。天使族大人気だ。
「ルイン様、乱暴な事しちゃダメじゃないですか」
「フレイヤ、言われた言葉解ってるんですか? まったく……」
 俺は立ち上がって、とりあえず殴られた所を抑える。瘤になっていた。
「そもそも、貴方が此処に来た理由はちゃんとあります」
「はぁ……でも、俺に身に覚えが無いのですが」
「無い訳無いでしょう? 今までの戦いを思いだしてみれば解る筈です」
 今までのデュエルを全部思いだせ?
 俺が初めてデュエルしたのは、えーと……。確か小学生ぐらいだったかな?
「そんな昔の事じゃなくて今日の事ッ!」
「ぶべらっ!?」
 ルイン様の杖が再び唸り、俺の後頭部に2撃目が叩き込まれる。
 この人、絶対本気で殴ってる。すっごく痛いもん。
 なに、今日のデュエル? ふむ。

「あ……まさか、冥府の神竜……?」
 俺が呟いた時、ルイン様が大きく頷いた。
 どうやら、これが原因なのか。

 The God Dragon of Hell−Iduna DARK/Lv12/Dragon/ATK5000/DEF5000
 このカードはフィールド上のモンスター3体を生け贄に捧げて通常召喚する。
 このカードを対象とする魔法・罠カードの効果を受け付けない。
 墓地に存在するカードを1枚除外する毎に、このカードの攻撃力を300ポイントアップさせる。(1ターンに5枚まで)
 更に、攻撃力を1000ポイントダウンさせる毎に相手フィールドのカードを1枚破壊出来る。(この効果は1デュエルに5回までしか使用不可)
 このカードがフィールドで表側表示の時、手札を2枚ゲームから除外する事で、墓地のカードを5枚、デッキに戻す事が出来る。
 このカードを生け贄召喚した時のみ、このカードが戦闘で破壊された時、生け贄にしたモンスターを特殊召喚する。(除外された場合は召喚しない)

「神の力は強大。1度戦った貴方なら解るかも知れないけど……」
「いや、そりゃもう痛い程」
「こんな事を聞くのも何だけれど、貴方は、それを使い続ける気持ちはあるの?」
 本当に唐突に聞かれた。
 神竜を使い続ける気持ち? こんな大層なモノを?
「………結局の所、どんなモノも使う奴の気持ち次第。俺としては、別に必要ないのかも知れない。だけど……これから、何があるか解らない。
 だから、これを捨てる訳には行かない」
 冥府の神竜を見せながら俺がそう言った時、ルイン様はチラリと俺を見て、それから少しだけ後退した。
「2歩、下がりなさい」
「はい?」
「デュエルをするのに、ちょうど良い距離です」
 そのひと言で、俺は思わず引っ繰り返りかけた。
 ルイン様とデュエル? デュエルですか?
 全世界のルイン様ファンを敵に回すだろうな、俺。

 でもそんなの関係ねぇ。
「いいでしょう、ルイン様。デュエルと行きますか!」
 俺はデュエルディスクを起動し、言われた通り2歩下がった。

「「デュエル!」」

 黒川雄二:LP4000 破滅の女神ルイン:LP4000

「私の先攻ドロー。マンジュ・ゴッドを守備表示で召喚します」

 マンジュ・ゴッド 光属性/星4/天使族/攻撃力1400/守備力1000
 このカードの召喚・反転召喚に成功した時、自分のデッキから儀式モンスターカードまたは儀式魔法カードを1枚、手札に加える。

「マンジュ・ゴッドの効果により、デッキより、私は破滅の女神ルインを手札に加え、儀式魔法、高等儀式術を発動!」

 高等儀式術 儀式魔法
 手札の儀式モンスター1体を選択し、そのカードのレベルと合計が同じになるよう、デッキから通常モンスターを墓地に送る。
 選択した儀式モンスター1体を特殊召喚する。

「この効果で、私はデッキよりデュナミス・ヴァルキリアとハープの精を墓地に送り、手札より破滅の女神ルインを召喚!」

 デュナミス・ヴァルキリア 光属性/星4/天使族/攻撃力1800/守備力1050

 ハープの精 光属性/星4/天使族/攻撃力800/守備力2000

 破滅の女神ルイン 光属性/星8/天使族/攻撃力2300/守備力2000/儀式モンスター
 「エンド・オブ・ザ・ワールド」により降臨。手札またはフィールドからレベルが8になるよう、生け贄を捧げなければならない。
 このカードは戦闘で相手モンスターを破壊した場合、もう1度だけ続けて攻撃する事が出来る。

「先攻1ターン目は攻撃出来ません。私は、カードを1枚伏せてターンを終了します」
「………1ターン目で儀式召喚まで繋げて、モンスターは2体……俺のターン! ドロー!」
 其方さんが天使族で来ても、俺のレッドアイズを舐めるなよ!

「行くぜ! 最速のコンボを見せてやるさ! 手札より、黒竜の雛を召喚。黒竜の雛の効果により、黒竜の雛を墓地へ送り、真紅眼の黒竜を特殊召喚!」

 黒竜の雛 闇属性/星1/ドラゴン族/攻撃力800/守備力500
 フィールド上で表側表示のこのカードを墓地に送る事で手札より「真紅眼の黒竜」1体を特殊召喚する。

 真紅眼の黒竜 闇属性/星7/ドラゴン族/攻撃力2400/守備力2000

「レッドアイズで、マンジュ・ゴッドを攻撃! ダーク・メガ・フレア!」

 破滅の女神ルイン:LP4000→3000

「やったぜ!」
「リバース罠、天空の戒厳令を発動します」

 天空の戒厳令 永続罠
 自分フィールド上に存在する天使族モンスターが戦闘で破壊された時に発動可能。
 戦闘で自分フィールド上の天使族モンスターが破壊されたターンのエンドフェイズに、
 デッキより星4以下の天使族モンスターを攻撃表示で特殊召喚出来る。

「俺は、カードを1枚伏せて、ターンエンドだ」
「この瞬間、天空の戒厳令の効果により、私はデッキより天使族モンスターを召喚出来ます。私は、智天使ハーヴェストを召喚!」

 智天使ハーヴェスト 光属性/星4/天使族/攻撃力1800/守備力1000
 このカードが戦闘によって破壊され墓地に送られた時、墓地に存在するカウンター罠1枚を手札に加える事が出来る。

「そして、私のターン。ドロー」
 ルイン様は、このライフ差を引っ繰り返すのにどんな魔法を使うのだろうか。
「智天使ハーヴェストを生け贄に捧げ、光神機−轟龍を自身の効果により召喚!」

 光神機−轟龍 光属性/星8/天使族/攻撃力2900/守備力1800
 このカードは生け贄1体で召喚する事が出来る。その場合、召喚したターンのエンドフェイズ時に墓地に送られる。
 このカードは守備モンスターを破壊した場合、攻撃力が守備力を上回っている分、ダメージを与える。

「こ、攻撃力2900だと……!?」
 生け贄1体で召喚してくるとは、有りえない。
「轟龍の攻撃。真紅眼の黒竜を抹殺!」

 黒川雄二:LP4000→3500

「そして、破滅の女神ルインで、貴方にダイレクトアタックを決行します!」
「ぐっ……うおおおぉぉぉぉぉぉぉおぉっ!」

 黒川雄二:LP3500→1200

「私は、カードを1枚伏せて、ターンを終了します。光神機−轟龍は自身の効果で、墓地へと送られます」
「俺のターン! ドロー!」
 さて、どうしたものだろうか。
 生憎と、今は手札が悪すぎる。かと言っても、何もしない訳にも行かないだろう。
「(だけど、黙する死者で真紅眼の黒竜を蘇生しても、ルインの効果でダイレクトアタックに繋げられて終わるしな……)」
 手札を替えるカードがあれば良いのだけれど、何か良いものは無いだろうか。
 ん、待てよ?
 黙する死者があっても……。
「リバース罠、強欲な瓶を発動。俺はこの効果で、カードを1枚ドローする」

 強欲な瓶 通常罠
 自分はデッキからカードを1枚ドローする。

 やったぜ、ついてるな、俺。
「手札より、黙する死者を発動。墓地の、真紅眼の黒竜を蘇生させて貰うぜ!」

 黙する死者 通常魔法
 墓地よりモンスター1体を守備表示で召喚する。
 この効果で召喚したモンスターはフィールド上に存在する限り、表示型式を変更出来ない。

 真紅眼の黒竜 闇属性/星7/ドラゴン族/攻撃力2400/守備力2000

「そして、真紅眼の黒竜を墓地に送り……真紅眼の闇竜を特殊召喚!」

 真紅眼の闇竜 闇属性/星9/ドラゴン族/攻撃力2400/守備力2000
 このカードは通常召喚出来ない。自分フィールド上に存在する「真紅眼の黒竜」を墓地に送った時のみ、特殊召喚出来る。
 このカードは墓地のドラゴン族モンスター1体につき、攻撃力が300ポイントアップする。

 真紅眼の闇竜 攻撃力2400→3000

「闇竜は自身の効果で攻撃力は3000に上昇した……これで、次のターンに轟龍が来ても怖くないぜ」
「攻撃力3000………なかなか良いモンスターですね」
「行くぜ! 闇竜の攻撃! 破滅の女神ルインを破壊!」

 破滅の女神ルイン:LP3000→2300

「俺はカードを1枚伏せてターンエンドだ」
「天空の戒厳令の効果により、私は星6以下の天使族モンスターを特殊召喚します。私は、守護天使 フェイト・ベルを召喚します」

 守護天使 フェイト・ベル 光属性/星4/天使族/攻撃力1500/守備力1500
 このカードは墓地に送られた時、ゲームから除外される。
 このカードの召喚・特殊召喚・反転召喚に成功した時、以下の効果の内の1つを選択して発動する事が出来る。
 ・墓地から光属性または闇属性のモンスター1体を選択し、このカードに装備する。
  そのモンスターの攻撃力の半分の値、このカードの攻撃力は増加する。この効果の発動中、このカードは戦闘では破壊されない。
  この効果を発動している間、このモンスターは相手プレイヤーに直接攻撃する事が出来ない。
 ・このカードを装備カード扱いにして自分フィールド上の光属性または闇属性のモンスター1体に装備する。
  このカードを装備したモンスターは攻撃力・守備力が1500ポイントアップし、そのカードを対象とする魔法・罠カードの効果を無効にする。

 満たされた光の中から、背中に純白の翼を付けた少女が姿を現す。
 長い、蒼の髪と、エメラルドのような瞳。まるで、何処か幻想的な雰囲気すら覚える。
 それが守護天使 フェイト・ベル。
 運命の鐘、という名を付けられた彼女は、力を与える者の運命すらも変える。
「このカード単体では役に立ちません。このカードの第1の効果を発動します。墓地より、光神機−轟龍を選択し、このカードに装備します。
 よって、フェイト・ベルの攻撃力は1450ポイントアップし……2950となります」

 守護天使 フェイト・ベル 攻撃力1500→2950

「だけど、それだけじゃ足りないぜ。まだ、50!」
 俺がそこまで言い放った時、思わずハッとした。
 まさか、その足りない50って……。
「私のターン。ドロー………勝利の導き手フレイヤを召喚します」

 勝利の導き手フレイヤ 光属性/星1/天使族/攻撃力100/守備力100
 自分フィールド上に「勝利の導き手フレイヤ」以外の天使族が存在する時、このカードを攻撃対象に選択出来ない。
 このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する限り、自分フィールドの天使族モンスターの攻撃力・守備力は400ポイントアップする。

 ああ、やっぱりそう来たか。
 フレイヤの効果で、攻撃力は更に上昇していく。

 守護天使 フェイト・ベル 攻撃力2950→3350

「フェイト・ベルで、闇竜を攻撃します。ルイン・オブ・フェイト!」

 黒川雄二:LP1200→850

 真紅眼の闇竜が粉砕される。
「リバース罠、真紅眼の誇りを発動!」

 真紅眼の誇り 通常罠
 500ライフポイントを支払う。墓地より「真紅眼」と名のつくモンスター1体を特殊召喚する。

 黒川雄二:LP850→350

「墓地から、真紅眼の黒竜を蘇生!」

 真紅眼の黒竜 闇属性/星7/ドラゴン族/攻撃力2400/守備力2000

「……私は手札より、デュナミス・ヴァルキリアを召喚し、ターンを終了します」

 デュナミス・ヴァルキリア 光属性/星4/天使族/攻撃力1800/守備力1050

「俺のターン。ドロー!」
 ドローした瞬間、1つだけ解った。
 どうやらこのターンで、決着を付けろというお触れが来たらしい。
「魔法カード! テテュスの祈りを発動!」

 テテュスの祈り 通常魔法
 墓地に存在するカード2枚とと手札1枚をゲームから除外する事で、デッキからカードを3枚ドローする。

「この効果で、墓地のカード2枚と、手札の仮面竜をゲームから除外し、デッキからカードを3枚ドローするぜ」
 カードを3枚ドローする。手札が揃う。
 ああ、このターンで本当に決着が付くらしい。
「魔法カード、融合を発動し、フィールドと手札のレッドアイズ3体を融合! 降臨せよ! レッドアイズ・アルティメットドラゴン!」

 真紅眼の究極竜 闇属性/星11/ドラゴン族/攻撃力4500/守備力3000
 「真紅眼の黒竜」+「真紅眼の黒竜」+「真紅眼の黒竜」
 このカードは相手守備モンスターを攻撃した際、攻撃力が守備力を上回っている分、ダメージを与える。

「こ、攻撃力4500………!?」
 フェイト・ベルの攻撃力は3350。
 思いきりオーバーしている。
「更に、速攻魔法、融合解除を発動!」
「攻撃もせずに融合を解除? 何を狙っているの……?」
 究極竜の融合が解けて、レッドアイズが3体、フィールドに並ぶ。
 3体揃った。3体。
「そして、俺は………レッドアイズ3体を生け贄に捧げ……冥府の神竜を召喚!」

 黒き闇の中より。
 深き冥府より、それは姿を現す。
 恐怖の帝王は。

 The God Dragon of Hell−Iduna DARK/Lv12/Dragon/ATK5000/DEF5000
 このカードはフィールド上のモンスター3体を生け贄に捧げて通常召喚する。
 このカードを対象とする魔法・罠カードの効果を受け付けない。
 墓地に存在するカードを1枚除外する毎に、このカードの攻撃力を300ポイントアップさせる。(1ターンに5枚まで)
 更に、攻撃力を1000ポイントダウンさせる毎に相手フィールドのカードを1枚破壊出来る。(この効果は1デュエルに5回までしか使用不可)
 このカードがフィールドで表側表示の時、手札を2枚ゲームから除外する事で、墓地のカードを5枚、デッキに戻す事が出来る。
 このカードを生け贄召喚した時のみ、このカードが戦闘で破壊された時、生け贄にしたモンスターを特殊召喚する。(除外された場合は召喚しない)

 攻撃力5000の神竜は、圧巻だった。
「……行くぜ。冥府の神竜で、フェイト・ベルに攻撃。フィアーズ・ダークネス・バーストォォォ!!!!」

 破滅の女神ルイン:LP2300→650

「ぐぅぅぅぅっ………」
「そして、リバース罠、因果律の崩壊を発動!」

 因果律の崩壊 通常罠
 フィールド上にモンスターが1体しか存在しない時に発動可能。
 そのモンスターをゲームから除外する事で、その攻撃力以下のモンスター1体を手札・デッキ・墓地・除外ゾーン・融合デッキから
 あらゆる召喚条件を無視して特殊召喚する。
 このターンのエンドフェイズ時、除外したモンスターの攻撃力分のダメージを受ける。

「この効果で俺は、冥府の神竜を除外!」
 例え神であろうとも、対象を取らないこのカードを回避する事は不可能。

「そして、デッキからこのモンスターを特殊召喚するぜ! マイ・フェイバリットモンスター! レッドアイズ・ダークブレイズドラゴンを!」

 真紅眼の闇焔竜 闇属性/星10/ドラゴン族/攻撃力3500/守備力2800
 このカードはフィールド上に存在する「真紅眼(レッドアイズ)」と名のつくモンスター1体を墓地に送る事で特殊召喚出来る。
 戦闘で破壊され墓地に送られた時、召喚する際に墓地に送った「真紅眼」と名のつくモンスター1体を特殊召喚出来る。
 ライフポイントの半分を支払う事で墓地に存在する「真紅眼(レッドアイズ)」と名のつくモンスターの効果を得る。

「まだ、俺のターンだ……行け、ダークブレイズ! デュナミス・ヴァルキリアを破壊! ダーク・ブレイズ・キャノン!」

 破滅の女神ルイン:LP650→0

「あああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!!!」
 闇焔竜の一撃が、ルイン様のフィールドの天使を焼き尽くした。
 勝った………本当に危ない所だった。

 ふと、目の前に誰かが立っていた。
 ルインも、フレイヤも、先ほど立っていた草原も消えた。
 だけど、目の前にいる誰かだけは立っている。
『貴方に負けないという意志があるなら、私は貴方と共に戦う』
 誰かがそう言った。
『例えどれだけ強大な力を手にしても、神になるか悪魔になるかは貴方次第。貴方が道を誤らないのなら……私も一緒に』
「誰、だ?」
 思わずそう呟く。
 答えは、解っている筈なのに。
『私は、運命の鐘。力を与えし者の、運命を変える者』

 霧が晴れた。
 俺はさっきの路地裏に立ったままで。

 右手に、しっかりと1枚のカードがあった。

 守護天使 フェイト・ベルのカードが。

 守護天使 フェイト・ベル 光属性/星4/天使族/攻撃力1500/守備力1500
 このカードは墓地に送られた時、ゲームから除外される。そして、このカードのプレイヤーは1000ライフダメージを受ける。
 このカードの召喚・特殊召喚・反転召喚に成功した時、以下の効果の内の1つを選択して発動する事が出来る。
 ・墓地から光属性または闇属性のモンスター1体を選択し、このカードに装備する。
  そのモンスターの攻撃力の半分の値、このカードの攻撃力は増加する。この効果の発動中、このカードは戦闘では破壊されない。
  この効果を発動している間、このモンスターは相手プレイヤーに直接攻撃する事が出来ない。
 ・このカードを装備カード扱いにして自分フィールド上の光属性または闇属性のモンスター1体に装備する。
  このカードを装備したモンスターは攻撃力・守備力が1500ポイントアップし、そのカードを対象とする魔法・罠カードの効果を無効にする。


 顔を上げる。
 もうすぐ、日が沈む。



《第18話:決戦前》

 午後6時を周った、童実野埠頭。
 海馬コーポレーション特製の青眼の白龍型超高速船は既に停泊していた。
 間違いなく社長の趣味である、間違いなく。

 その近くに積み上げられた無数の木箱の1つに、2人のデュエリストが背を向けて腰掛けていた。

 片方は蒼い髪、もう1人は黒髪だが、どこか暗さを与える。
「なぁ」
 蒼い髪の方が口を開いた。
「なんだ、ゼノン・アンデルセン?」
「ゼノンと呼べ、高取晋佑。まだ、俺達以外誰も来ていないのは……何でだ?」
「まだ時間はあるという事だ。それに………」
 高取晋佑は小さく眼を瞑ると、視線を近くの倉庫に移した。
「………そろそろ、雄二も貴明も、エクゾディオスや冥府の神竜を倒した頃だろうし」
「…………俺達以外に、神竜が渡ったのか?」
 ゼノンの言葉に、晋佑は小さく肩を竦めた。
「そりゃそうだ。お前も、それを持っている限りは、手を貸して貰うぞ。タダで貸してる訳じゃないのは解ってるだろ」
「チッ………俺は何をすればいいんだよ」
「決勝戦で言う」
 晋佑はそう呟くと、ゼノンは呆れたようにため息をつく。

 もう、日は沈んでいた。





 思ったよりも時間が掛かってしまったが、どうやら時間には間に合いそうだ。
 俺がそう思った時、ちょうど横から人影が飛びだしてきた。
「雄二!」
 見慣れた人影は俺を見るなりそう口を開いた。
「貴明か? どうだい、調子は?」
「おう、見事6枚集まったぜ」
 どうやら俺の心配は無用という事か。俺が小さく指を立てると、貴明も同様に返してきた。
「お前もか! 本当に決勝戦まで来たな、おい」
「まぁなー。信じられねーかも知んねーけどよ」
 貴明がそう笑いながら答える。
 俺も笑って返すと、童実野埠頭に停泊する青眼の白龍型高速船を見上げた。
 絶対、これは海馬社長の趣味だ。

「あの人、本当に変人だもんなぁ………」
 俺がそう呟いた時、背後で足音がした。
「いえいえ、あの人は確かに変わってますけど、あの人のお陰でこの大会が開かれたのも忘れないで下さい」
「「天馬月行さん!?」」
 俺達が慌てて振り向くと、I2社アジア支部の天馬月行さんが立っていた。
 月行さんはかつての邪神の事件の際に決闘王と戦った夜行さんの兄だ。
 ペガサス会長にパーフェクトとまで言われたそのデュエルの腕前に俺達は勝てる自信が起こらない。
「お久しぶりです、月行さん」
「おなじく。お元気そうで何よりですよ、月行さん」
 俺達が挨拶をすると、月行さんは少しだけ微笑んだ。
「いえいえ、その調子なら決勝戦に進出したようで何よりです。それよりですね………」
「神竜の事、ですか?」
 俺が先に口を開くと、月行さんは「ええ」と頷いた。

「………デュアル・ポイズンって連中が動いてるって、俺は聞きましたけど」
 貴明が更に言葉を続ける。
「デュアル・ポイズンはグールズよりも動きはハデですが、中身も凄まじいです……抱えているデュエリストも驚異的な人が多かった、3年前も」
「月行さんは、3年前にも戦ったんですよね?」
「ええ。微力ながら。海馬さんと城之内さんがいなければ勝てなかったでしょうが」
 ああ、師匠と社長って仲は悪くてもそれなりに縁ある人達だからなぁ。
 俺達がそんな事を考えていると、月行さんが言葉を続ける。
「…………今年は事情が違います。高取晋佑の持つ混沌の神竜、あれはケタ違いです……」
「月行さん」
 俺は思いきって口を開いた。

「俺、冥府の神竜を手に入れたんです」

 その言葉に、貴明も、月行さんも唖然とした。
 2人が何かを言う前に、俺は実物を見せる。
「お前、これどうやって?」
「デュアル・ポイズンに洗脳されたっぽいデュエリストが来てさ。勝ったらくれた」
「……お前の所にもかよ。俺もだよ」
 貴明が軽く肩を竦め、月行さんが考え込む。
「三神竜はデュエル・アカデミアに保管されていたのですが、まだ盗んだ人物ははっきりしていません。アカデミア内に容疑者はいたのですが」
「容疑者?」
「ええ。ですが、シロでした。その日、彼は実家に帰っていたしアリバイもあったので盗むのは不可能です」
「でも、その容疑者は疑われるような事があったんですよね?」
「いいえ、ただ単に3年前の事件でデュアル・ポイズン側のデュエリストだった、というだけです。今はアカデミアの生徒ですが」
 じゃあ、別にクロじゃなかった訳だ。それはそれで良し。

「じゃあ盗んだのは……貴明?」
「………でも、それだと1つだけ納得がいきません」
「何がです?」
「………3枚目の神竜……天空の神竜を持つモノがどうやって手に入れたのか、合点が付かないんです」
 今、俺の手元にある冥府の神竜。
 晋佑が持っている混沌の神竜。そして3枚目の天空の神竜。
「持ってる人は?」
「今の所持者は、今、そこにいますね……。ゼノン・アンデルセン。先月までデュエル・アカデミア アークティック校の生徒でした。今は中退。
 自主退学……という事になってますが、親によると双子の兄が優秀だからだそうです。まぁ、兄の方は私も存じてますが……」
 月行さんが指さした先に、1人の少年がいた。
 蒼い髪の、そして何処か敵意のある眼差しを空に向けている。

 何だろう。戦ってみたいという気持ちが、止まらない。
 コイツとは、1回戦ってみたいという気持ちが。

「……雄二さん?」
「………とと、失礼。それで、それ以外には?」
「いえ、それが特に」
 短時間でそれだけ調べたのも凄いと思いますけどね。
「そうですか……じゃあ、何か解ったら」
「ええ、そうですね。ああ、そうだお2人とも……幸運を。私は、決勝トーナメントの審判ですので、これ以上は言えないのですが」
「いえ、どうもすいません」
「俺達だったら心配しなくても大丈夫っスよ」
 俺と貴明はそう笑って指を立てた。


 月行さんと別れた後、俺達は船でも眺めようかという話になって2人して船の側へと近寄った。
 だが、その前に先客がいた。
 テレビで何度か観た事がある。そう、ヘルカイザーこと丸藤亮だ。
「うぉ、あれって丸藤亮じゃないか?」
 俺が貴明を振り向いた時、貴明が珍しく顔を背けていた。
 貴明、何があった。
「ん……?」
 カイザー亮が俺達を振り向く。そして、口を開いた。
「久し振りだな、サイバー流を5ヶ月でクビになって史上最短記録を更新した宍戸貴明」
「まぁ、確かに久し振りですけど、それは言いすぎってもんです、亮先輩」
 待てい、サイバー流を5ヶ月でクビになったって何があった。
「何を言う。しかもクビになったからと言って最後のデュエルをアンティ勝負にし、翔からサイバー・ドラゴンを奪ったのは忘れてないぞ。お陰で翔も
 クビになったからな」
 そうか、貴明がサイバー・ドラゴンを持っていたのは元サイバー流だったからか。
 ちょい待ち、アンティ勝負で勝ったのかよ!?
「へぇ、翔先輩クビになっちゃったんですか。ご愁傷様っス」
「誰のせいだ誰の!」
 それは貴明のせいだ。俺だって否定できない。
「大体、亮先輩だって、今、ヘルカイザーでしたっけ? 随分とまぁ変わりましたね」
「人間生きてれば変わるのはおかしな事じゃない」
「でも、それでサイバー流のリスペクトデュエルを忘れちゃぁねぇ。リスペクトデュエルを失ったアンタは、俺でも勝てますよ」
「何を言う、全てを運に任せることしか出来ないデュエリストの癖に」
 貴明の発言に、カイザー亮の顔色が変わる。
 怒ってる、確実に怒ってるぞこの人。貴明よ、何でそんな不穏な発言するんだよ。
「そいつぁ、どうかな? 今の俺は、運命の女神様がいつでも微笑んでるんでね」
「フッ……面白い、今この場で粉砕してくれようか!? 俺の裏サイバー流デッキでな!」
「はっ、やってやろーじゃねーかよ、ヘルカイザー!」
 カイザー亮と貴明がデュエルしようと1歩距離を取る、前に俺は2人の腕を掴んだ。

「おい、まだ決勝前。決勝トーナメントでやれ」

 俺の発言に、2人はデュエルディスクを収めた。
 一応、良識はあって良かったなと。
「フッ……いいだろう。宍戸貴明。決勝トーナメントで首を洗って待っていろ」
「生憎と負ける気0パーセントなんで。後悔しても知らないっスよ?」
 お互いに殺気を向けた後、ようやく背を向けた。

「おい、貴明。お前あんな事言っていいのかよ?」
「なんだよ、雄二。俺が負けるとでも思ってるのか?」
「いや、そういう訳じゃねーけど」
 まぁ、俺だってヘルカイザー相手に勝てるかなんて聞かれると勝てないかも知れんけど。
「なら問題ねぇ」
「………そ、そうか」
 貴明がここまで本気になるなんて珍しい。
 俺がそう考えていると、遠くから人影が1人近づいてきた。
「ん……? あ」
 貴明がその人影に気付き、軽く手をあげた。
「よう、理恵」
 貴明が理恵と声をかけた少女は、少し悪戯っぽく笑いながら口を開いた。
「やっほー。アンタ、ここにいたんだ」
「おう。その調子なら、お前も決勝進出で何よりだ」
「まぁねー。次は負けないから」
「あははは、俺と当たればな。ああ、こいつは俺のマブダチの雄二な」
「黒川雄二。よろしくな、理恵」
「うん。あたしは滝野理恵。よろしく」
 2人して小さく笑みを交わした後、理恵は俺のデュエルディスクに視線を落とした。
/fo「そのデュエルディスク……もしかして本物の銀? 高く売れる?」
「友達から貰った。特注だから多分本物の銀」
 まぁ、売る気は無いがな。
 戦ってきたデュエリスト分の、夢を背負っているのだから。

「しかしまぁ、さっき会ったカイザーと、晋佑と、月行さんが話してたゼノンって奴と、合わせて6人か?」
 俺がそう呟くと、理恵が口を尖らせた。
「いや、7人。さっき、あっちに小さい女の子がいたから」
「そ、そうか。じゃあ、後1人か」
「時間まで、後1時間だっけか? ギリギリまで来なかったりして」
 貴明がそう笑いながら言った時、遠くから凄い足音が響いてきた。

「オー! シニョーラ雄二! また会ったノーネ!」

 こ、この声はまさか。
「あれって……欧州チャンプ?」
 理恵が呟くより先に、シェリルさんは文字通り俺の元へと飛んできた。
「私も無事に決勝トーナメントに進出出来たノーネ、良い事ナノーネ」
「は、はぁ、どうもお陰様で……」
 さて、これで8人揃った訳か。

「これで全部か」

 頭上から、というより船の上から声がする。
 この声は……聞き慣れたあの人か。

「バトル・シティ決勝に駒を進めたデュエリスト共よ! 海馬コーポレーションの海馬瀬人だワハハハハハハハハ!!!」

 出た、海馬社長。
 相も変わらず、つーかやはり笑うのね。

「時間にはまだ早いがデュエリストは全員揃った! 故に、船に乗り込めデュエリスト共よ!」

 社長の命令は絶対。早くしないと気が変わる。
 俺も貴明も、理恵もシェリルさんも即座に船へと乗り込むのだった。



「よく来たな、デュエリスト共。これから決勝の会場に招待してやろう。ありがたく思え! ワハハハハハハハハハハハハハ!!!!」
 船に集まった8人のデュエリストを前に、海馬社長はそう説経をした。
「さて、まずは決勝トーナメントの組み合わせを行わなければならん。かと言って、俺が決めたので不合理になろう」
 海馬社長はそう言ってから、後ろにいる磯野さんに手で合図をする。
 磯野さんは頷くと、巨大な32面体を抱えて戻ってきた。
 32面サイコロ……番号は何も書かれていないが。
「この特注の32面サイコロのうち、4箇所に自分の名前を書け! このサイコロを2回振り、出たモノ同士で戦うのだ!」
 社長らしい……ゲーム好きの海馬社長らしいけど!

 何処か、間違ってる気がする。
 いや、確率的には正しいのだろうけど。

 とか言いながらも俺は結局渡された油性マジックで32面サイコロに名前を書いていくのだった。


「ふむ、書き終わったか。では、1回戦第1試合の組み合わせを決める!」
 海馬社長が宣言仕掛けたので、俺と貴明はお互いに目配せする。サイコロと言えばアレだ。アレに決まってる。
「よし、行くぞ!」
「「せーの! なにが出るかな〜♪ 何が出るかな〜♪」」
 お互いに手拍子まで取って2人で盛り上がる。
 理恵やカイザー、挙げ句の果てには月行さんまで必死に笑いを堪える中、海馬社長は俺達の渾身のギャグをスルーしてサイコロを転がす。

「ふむ………1回戦、第1試合。1人目は、宍戸貴明!」
「いよっしゃ!」
 貴明が軽くガッツポーズ。
 第1試合から貴明の試合とは随分とまた。
「よし、それでは2人目だ」
「「せーの! なにが出」」
「いい加減にしろ貴様ら!」
 俺達の顔面に文字通りデュエルディスクが飛んできたので流石に止めた。
 その間にも海馬社長はサイコロを転がした。ちなみに貴明の名前は油性マジックで線を引かれた。
「………2人目は、丸藤亮!」
 おおっ、というざわめきが起こり、カイザー亮が微笑みを浮かべた。
「10ターンあれば充分。俺の勝ちは決まっている」
「わかんねーぞ、ヘルカイザー。俺が勝つかもな」
 カイザー亮と貴明がお互いに睨み合う中、磯野さんが組み合わせを記入する。
「では、第2試合の組み合わせだ」
 社長が再びサイコロを振り始めた。

 サイコロの結果、1回戦の組み合わせは完全に決まった。

 ・第1試合   宍戸貴明       vs 丸藤亮

 ・第2試合   ゼノン・アンデルセン vs シェリル・ド・メディチ

 ・第3試合   滝野理恵       vs 高取晋佑

 ・第4試合   志津間紫苑      vs 黒川雄二

 俺が最後だったのは最後まで出て来なかったからだ。
 俺の対戦相手に決まった志津間紫苑ちゃんはさっき理恵が言っていた女の子だった。
 明らかに俺より年下だ。果たしてこんな子が相手でいいのか。

 で、晋佑は何と理恵と当たる事になったが……理恵が少し心配だ。大丈夫だろうか?

「やれやれ、これで結果も決まった訳だしな」
 俺がそう組み合わせ表を眺めながら呟いた時、ふと気付いた。
「って、もう船出港してる!?」
 いつの間にか童実野埠頭は遥か後方。既に船は大海原に向かって進んでいた。
 貴明も今、気付いたのか、驚いたような顔をしている。
「おい、凡骨チルドレン! 何をしている! さっさと甲板に来い!」
 後部デッキで騒いでいた俺達を海馬社長が呼びつけ、そして口を開く。
「月行」
「はい。デュエリストの皆様……第2回バトル・シティ、決勝トーナメント1回戦の開始を宣言します!」
「へ? ここで?」
 思わず貴明が聞き返してきた。
「ええ、ここで。ご覧の様に」
 月行さんの言葉通り、甲板の1部がせり上がって、あっという間にデュエルフィールドが出来上がった。
 なるほど、流石は海馬社長の趣味全開な船ではある。

「それでは、1回戦第1試合、宍戸貴明vs丸藤亮! 両者、フィールドに上がって下さい!」

 声が響く。
 そう、遂に、本当の戦いの、幕が挙がるのだ。



《第19話:サイバー・ダーク・インパクト!》

 第2回バトル・シティ。
 その決勝トーナメントの1戦が、とうとう始まろうとしていた。

「(ああ、やっべぇ緊張するぜ……)」
 さっき、亮先輩にあんな事を言い放ったはいいが、正直言ってかなり怖い。
 虚勢を張るのは簡単だが内面までそうするのは難しい。
 今すぐにでも逃げ出したい気分。盗んだデッキでデュエルする、みたいな?
 デッキを盗むなぞデュエリストとして有るまじき行為だっつーの。
「…………ん?」
 ふと、影が無いのに誰かの気配を感じた。
 その時、俺は思いだした。前にも同じ事があった。エクゾードとデュエルした時だ。

 どれだけ怖くても、大丈夫だった。その時は。今も、きっとそうだ。
「OK、行こうぜ」
 デッキを1回撫でてから、フィールドに上がる。

「両者、準備はよろしいですか?」
 月行さんが俺達に確認してくる。
 俺は肯定のサインを出そうとした時、亮先輩は手で止めた。
「………こうしてデュエルするのは3度目か、宍戸貴明」
「そう言えばそうっスね。初めてデュエルした時は俺がサイバー流に殴り込みとか連呼してましたね」
「2回目は実に情けないデュエルだったがな。お陰で貴様はクビになったは良かったものの、翔まで巻き込むとは」
 亮先輩との過去の2回のデュエルのうち、2回目は確かに酷かった。
 先攻1ターン目にパワー・ボンドで融合してしまった俺のせいだけどな。
「だけど、亮先輩」
 そして、それだけの愚行をやらかした俺でも今なら言える。
「人って、成長するモンですよ。デュエルを重ねて、勝っては負けて、負けては勝っての繰り返し。だけど、それだけでも、成長するモンです。アンタは
 どうなんだ? エド・フェニックスでしたっけ? たった1度の敗北で………アンタは堕落した。丸藤亮。俺があの頃憧れてた、そしてあの頃本気で戦
 っていた、丸藤亮じゃない。たった1度の敗北で、堕落する程弱い奴だったか、アンタは!」
「………堕落した? それは違う。貴様には解るまい……デュエリストとしての高みを目指す、この気持ちが。勝利を求める、デッキの心が、貴様に解る
 筈が無い。ああ、俺は求めているのだ。極限のデュエルを。限界を超えた、デュエリストとして最大の高みにあるデュエルを求めているのが!」
「……理解出来ない」
 俺はそう答えた。
「相手を見下した傲慢なデッキを扱う事が、デュエリストとしての高みを目指す事か!?」
「俺の裏サイバー流デッキは、そんなデッキではない!」
 俺達がそこまで言い争った時、海馬社長が急に立ち上がった。

「貴様らがデュエリストとしての志を語るなど、12億年早いわ! さっさとデュエルを始めろ凡骨共!」

 カイザーまで凡骨扱いかよ。
 まぁ、でもさっさとデュエルを始めるのは言う通りなので、お互いに1歩距離を取る。

「………準備は?」
「OK」「始めろ、審判」

「では、両者、決闘開始!」
「「デュエル!」」

 宍戸貴明:LP4000 丸藤亮:LP4000

「俺の先攻ドロー!」
 ドローした後で、しまったと思った。
 自分もなまじサイバー・ドラゴンを持ってるだけにサイバー・ドラゴン同士の戦いなら後攻がやや有利。
「(まぁ、いい。それ位は甘んじて受けて立つぜ!)」
 手札を確認する。
「闇魔界の戦士ダークソードを召喚!」

 闇魔界の戦士ダークソード 闇属性/星4/戦士族/攻撃力1800/守備力1500

「更に速攻魔法! ライド・オブ・ユニオンを発動!」

 ライド・オブ・ユニオン 速攻魔法
 デッキの1番上のカードを墓地に送る。
 デッキよりユニオンモンスターを1体選択し、フィールドのモンスターに装備する。

「この効果で、俺は騎竜を選択。ダークソードに装備するぜ!」

 騎竜 闇属性/星5/ドラゴン族/攻撃力2000/守備力1500/ユニオン
 1ターンに1度だけ自分のメインフェイズに装備カード扱いとして自分の「闇魔界の戦士 ダークソード」に装備、
 または装備を解除して表側攻撃表示で特殊召喚する事ができる。
 この効果で装備カードになっている場合にのみ、装備モンスターの攻撃力・守備力は900ポイントアップする。
 装備状態のこのカードを生け贄に捧げる事で、装備モンスターはこのターン相手プレイヤーに直接攻撃ができる。
(1体のモンスターが装備できるユニオンは1枚まで。
 装備モンスターが戦闘によって破壊される場合は、代わりにこのカードを破壊する。)

 闇魔界の戦士ダークソード 攻撃力1800→2700

「フッ……その程度か」
「カードを1枚セットし、ターンエンドだ」
「俺のターン! ドロー!」
 何を引いた。あの人の事だからろくでもないカードだろうけど。
「プロト・サイバー・ドラゴンを召喚する」

 プロト・サイバー・ドラゴン 光属性/星3/機械族/攻撃力1100/守備力600
 このカードはフィールド上に存在する限り、カード名を「サイバー・ドラゴン」として扱う。

「プロト・サイバー・ドラゴンと、手札のサイバー・フェニックス2体、そしてサイバー・ダーク・ホーンを融合! サイバー流奥義を刮目して見ろ!
 キメラテック・オーバー・ドラゴンを融合召喚! 見ろ、強靱にして最強の姿を! ククク………フハハハハハハハハハハハ!!!!」

 サイバー・フェニックス 炎属性/星4/機械族/攻撃力1200/守備力1600
 このカードが自分フィールド上に攻撃表示で存在する限り、
 自分フィールド上に存在する機械族1体を対象とする魔法・罠カードの効果を無効にする。
 フィールド上に存在するこのカードが戦闘で破壊された時、自分はデッキからカードを1枚ドローする。

 サイバー・ダーク・ホーン 闇属性/星4/機械族/攻撃力800/守備力800
 このカードの召喚に成功した時、自分の墓地に存在するレベル3以下のドラゴン族モンスター1体を選択し、このカードに装備する。
 その攻撃力分だけ、このカードの攻撃力をアップさせる。
 このカードが守備モンスターを攻撃した時、攻撃力が相手の守備力を上回っている分、ダメージを与える。
 このカードが戦闘破壊された時、代わりに装備したモンスターを破壊する。

 融合 通常魔法
 2体以上の融合素材モンスターを墓地に送り、融合デッキからモンスター1体を召喚する。

 キメラテック・オーバー・ドラゴン 闇属性/星9/機械族/攻撃力?/守備力?/融合モンスター
 「サイバー・ドラゴン」+機械族モンスター1体以上
 このモンスターは融合召喚でしか特殊召喚出来ない。
 このカードの特殊召喚に成功した時、自分フィールド上のこのカード以外のカードを全て墓地に送る。
 このカードの元々の攻撃力と守備力は融合素材にしたモンスターの数×800となる。
 このカードは融合素材にしたモンスターの数だけ、相手モンスターを攻撃出来る。

 キメラテック・オーバー・ドラゴン 攻撃力0→3200

「行くぞ、バトルだ! エヴォリュュュゥション・レザルト・ヴァァァストォォォォ!
「1回しか攻撃できねーだろ……ってぇ!?」
 俺のツッコミはさておき、ダークソードの下にある騎竜が粉砕されてフィールドから姿を消した。

 宍戸貴明:LP4000→3500

 闇魔界の戦士ダークソード 攻撃力2700→1800

「くくく………まだだ。まだフィールドにモンスターは残っているぞ。エヴォリューション・レザルト・バースト! 第2打ァッ!」
「んなっ……!」

 宍戸貴明:LP3500→1100

「フッ………勝負は貰ったぞ。ターンエンドだ」
 手札を1枚だけ残してほぼ使いきったのが気になるが、まぁそれはいい。
 今はこの状況を如何にして引っ繰り返すかだ。
「俺のターン! ドロー!」
 フィールドには攻撃力3200にして連続攻撃能力を持つキメラテック・オーバー・ドラゴンが控えている。
 どうしたものか……。
「くそ……ダメか………手札より、自身の効果でサイバー・ドラゴンを特殊召喚!」

 サイバー・ドラゴン 光属性/星5/機械族/攻撃力2100/守備力1600
 相手フィールド上にモンスターが存在し、自分フィールド上にモンスターが存在しない時に手札から特殊召喚出来る。

 後の手札には………ギリギリかも知れないが、いけるであろう。恐らく。
 まぁ、何ターンが先延ばしになるか……それともすぐに果てるか、もしくは俺が勝つか。
 いや、ダメだ。後ろ向きに考えるのはよそう。俺は、勝つ!
「(よし、調子出て来た!)カードを2枚伏せて、ターンエンドだ」
「………ふっ。所詮そんな物。攻撃力の劣るサイバー・ドラゴンを攻撃表示で出すとはな。情けない……リバースカード如き、何のその!」
 亮先輩は笑ってから、ターンを宣言した。
「俺のターン! ドロー!」
 手札を1枚残して使いきってしまったのが気になる。
「キメラテック・オーバー・ドラゴンでサイバー流の象徴、サイバー・ドラゴンを攻撃!」
「リバース罠、発動! 因果切断!」

 因果切断 通常罠
 手札を1枚捨てる。相手フィールド上に存在するモンスター1体を除外する。
 相手の墓地に同名カードが存在した場合、それも除外する。

い、因果切断だと………人が頑張って召喚した強力にして最高のモンスターを僅か手札1枚で問答無用で除外するクソ忌々しいカード……
 この俺に対して因果切断のような悪魔のカードを使うだと……許さん……許さんぞ……

 よくもこのサイバー流免許皆伝、否、サイバー流の真の後継者たるこの俺に因果切断のような悪魔のカードを使うなど、この俺を愚弄
 するにも程があるぞ! おのれ、おのれぇぇぇぇ!!!


 悪魔のカードって何だよ、亮先輩。
 因果切断はそんなに酷いカードだったのか?
「因果切断の効果により、キメラテック・オーバー・ドラゴンは遠慮なく除外させて貰う。そして、ここで2枚目のリバース罠を発動する! 怨霊の浄化!」

 怨霊の浄化 通常罠
 相手フィールド上に存在するモンスターが除外された時に発動可能。
 自分はそのモンスターの攻撃力分のライフポイントを得る。
 その後、相手はカードを2枚ドロー出来る。

「この効果で、俺は3200ライフを回復するぜ。残念でした、亮先輩♪」
「うぐぐ………だが、俺はカードを2枚ドローするぞ」

 宍戸貴明:LP1100→4300

「仕方ない………俺は、カードを1枚伏せて、ターンエンドだ」
「俺のターン。ドロー!」
 ふむ、手札不足に代わりは無いか。
「カードを1枚伏せるぜ……そして、サイバー・ドラゴンでダイレクトアタック! エボリューション・バースト!」
「罠発動! パワー・ウォール!」

 パワー・ウォール 通常罠
 相手の攻撃宣言時に発動可能。デッキからカードを墓地に送る事で、
 墓地に送った枚数×100ポイント、ダメージを軽減出来る。

「サイバー・ドラゴンの攻撃力は2100。どうでるんですか、亮先輩?」
「決まっている。全部防ぐ。俺はカードを21枚墓地に送り、ダメージを0にする!」
「な、なんだってぇー!!!!?」
 まさか21枚も墓地に送るなんて……本当に墓地に送ってやがる。
「見ろ! カードがゴミのようだ!」

 丸藤亮:LP4000

「……躊躇い……無いのかよ…………」
「勝つ為にどのようにデュエルするか、だ。あるカードを、自分の戦術で使って、な」
「……………だが違う。ルールとしては間違っている訳じゃない……だけど、それでも違う!」
 そうだ。どこか、おかしいんだ。
 ヘルカイザーはどこかおかしい。それが、解る。
「……ターンエンドだ」
「俺のターン! ドロー!」
 亮先輩がデッキからカードを1枚ドローする。
 さて、これからどうなる事やら。



 あの、カイザー亮相手に、貴明は互角に戦ってる。
「すげぇな……」
「うん……あいつ、あんなに強かったんだね……」
 俺の隣りにいた理恵が呟く。
 そりゃそうだ。何せ相手はプロ、こっちはまだまだ発展途上デュエリストだ。
 それなのに、プロ相手に互角に戦うとは凄いモンさ。
「俺、あいつと長らく一緒にいたけど、元サイバー流だなんて知らなかったな」
「そうなの?」
「ああ。あいつも俺も、お互いに昔の事はあんま話さなかったし」
 それは今とこれからが大事、という意志の現れだからかも知れないけれど。

「勝てる、かな」
 理恵がポツリと呟いた。
「勝てるさ。アイツだからな」

 俺は、ただそう答えるだけだった。



「………お前にサイバー流が伝達されてなくて良かったと思うぞ、宍戸貴明」
 亮先輩はそう告げると、手札を漁る。
「サイバー流四十八手の四十四手目。相手フィールドにサイバー・ドラゴンが存在する時は要塞を呼べ」
 亮先輩の呟きと共に、モンスター1体を召喚する。
「俺はサイバー・ウロボロスを召喚」

 サイバー・ウロボロス 闇属性/星2/機械族/攻撃力100/守備力600
 このカードがゲームから除外された時、手札のカード1枚を墓地に送る事で、デッキからカードを1枚ドローする。

「更に魔法カード、機械複製術を発動!」

 機械複製術 通常魔法
 自分フィールド上に存在する攻撃力500以下の機械族モンスター1体を選択して発動する。
 デッキから同名カードを2枚まで特殊召喚する事ができる。

「この効果でサイバー・ウロボロスをもう1体、召喚する」
 亮先輩のフィールドに2体のサイバー・ウロボロス。
 どうやら後1体はパワー・ウォールで墓地に落ちたという事か。

「見るがいい………貴様のサイバー・ドラゴンと俺のフィールドのサイバー・ウロボロスを墓地に送り、融合デッキからこいつを呼ばせて貰う!
 キメラテック・フォートレス・ドラゴンを召喚!」
「なっ……俺の、サイバー・ドラゴンを素材に……!?」

 キメラテック・フォートレス・ドラゴン 闇属性/星8/機械族/攻撃力0/守備力0
 「サイバー・ドラゴン」+機械族モンスター1体以上
 このカードは融合素材モンスターとして使用する事はできない。
 フィールド上に存在する上記のカードを墓地へ送った場合のみ、融合デッキから特殊召喚が可能(「融合」魔法カードは必要としない)。
 このカードの元々の攻撃力は、融合素材にしたモンスターの数×1000ポイントの数値になる。

 キメラテック・フォートレス・ドラゴン 攻撃力0→3000

「これがサイバー流四十八手の四十四手目。要塞竜、キメラテック・フォートレス・ドラゴンだ! 見よ! この勇姿を!
 圧巻! 強力! そして最強! まさにサイバー流のモンスターに相応しいだろう!」
「あ、相手のサイドラを融合素材に使う事が出来るモンスター……信じられない、これで除去するなんて……」
 そう、フィールドに機械族を残していたのなら、こいつを召喚されてしまえば一掃される。
 しかも事実上、1体につき攻撃力1000の上昇だ。数が多ければ多い程不利になる。
「(機械複製術とのコンボってのが怖かったな……サイバー流に相応しいモンスターだぜ)」
 思わず、一瞬でもそう思ってしまい、慌てて後悔する。
「(何を考えているんだ、俺)」
「まだ俺のターンだ………行くぞ! エボリューション・リザルト・アーティレリー!」

 宍戸貴明:LP4300→1300

「くっ………」
 流石はカイザーの名を冠するだけはある。強い。その強さは健在だ。
「ふっ、サレンダーするなら今だぞ、宍戸貴明」
「悪いね、俺って往生際は悪いんですよ、亮先輩」
 そうだ。

「……このフィールドに立った以上、俺はもうデュエリストだ! 例え相手が何だろうが、退く訳には行かねぇんだよ!」

 俺が叫んだこの言葉は。
 誰に届いたのかどうか解らない。俺自身に届けられただけかも知れない。
 だけどそれでもいい。

 デュエリストとして。男として。
 もう、此処から後へは退けないのだから。

「………ターンエンドしよう」
「俺のターン! ドロー!」
 そう、全てはこのカードの為に。
「……速攻魔法! 奇跡のダイス・ドローを発動!」

 奇跡のダイス・ドロー 速攻魔法
 サイコロを振り、出た目の数だけカードをドローする。
 このターンのエンドフェイズ時、手札が出た目の数以下になるように墓地に送らなければならない。

「サイコロを振るぜ……」
 せめて、良質な目が出てくれれば。5とか。あ……5だな。
「カードを5枚ドロー!」
 今、亮先輩のフィールドには攻撃力3000のキメラテック・フォートレス・ドラゴンがいる。
 手札のD.D.アサイラントなら……。

 D.D.アサイラント 地属性/星4/戦士族/攻撃力1700/守備力1600
 このカードが相手モンスターとの戦闘で破壊された時、そのモンスターとこのカードをゲームから除外する。

「(ダメか、通常召喚されたモンスターにダイレクトアタックされる……)」
 もう1度手札を確認する。
 もしかすると……。
「手札から、D.D.アサイラントを召喚! カードを2枚伏せて、ターンエンド!」
「……フッ。とうとう諦めたか?」
「いいや、まだだぜ」
「そうか? 消極的な戦術ならば、お前は負けるだろうな」
 亮先輩は笑みを浮かべ、カードをドローした。
「………バトルだ! キメラテック・フォートレス・ドラゴンで、アサイラントを攻撃!」
 今がチャンス。このターン、この刹那に、逆転の1手を掛ける。
「リバース、速攻魔法! ブラッド・ヒートを発動!」
「何ぃっ……!?」

 宍戸貴明:LP1300→650

 ブラッド・ヒート 速攻魔法
 このカードはバトルフェイズ中にライフポイントの半分を支払って発動可能。
 自分フィールドの表側攻撃表示のモンスター1体を選択し、そのモンスターはそのターンのエンドフェイズまで、
 攻撃力はそのカードの元々の攻撃力に守備力の2倍を加算した値になる。
 このターンのエンドフェイズ時、対象となったモンスターを破壊する。

 ブラッド・ヒート。ライフの半分をコストに、モンスターの攻撃力を限界まで上げる速攻魔法。
 師匠から受け継いだこのカードならば、相手が何だろうが何とかなる筈。
「……フォートレスの攻撃宣言は済ませた後……! おのれ、おのれぇ、おのれぇぇっ!
 この俺をまたしても騙すとは……アサイラントの攻撃力が3200も上昇したら、フォートレスは軽く倒されるぞ!? 貴様、最初からこのコンボを
 狙っていたというのかぁ!? き、き、き、き、貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!! ヘルカイザーを舐めるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

 D.D.アサイラント 攻撃力1700→4900

 丸藤亮:LP4000→2100

「…………た、ターンエンドだ……」
 どうやら、亮先輩も攻撃手段を無くしてきたという事か。
 だがしかし、俺も今現在、完全がら空き状態。さて、どうしたものだろうか。

 だけど、負けない。
 心が折れない限り、まだ戦える。
「(そうだろ、相棒達?)」
 デッキを撫でながら、そんな事を考える。

『おっけー。頑張って行こ?』

 何か返事が聞こえた気がする。
 でも俺はそれには答えず、高らかにそれを宣言した。

「俺のターン! ドロー!」



《第20話:絆と共に》

 宍戸貴明:LP650 丸藤亮:LP2100

「(さて、どうしたものかな……)」
 本当に、困った。
 手札、その他の問題で今の所、まともに戦える様子など無いのだから。

 お互いに、フィールドにモンスターはいない。
 リバースカードなら存在するが……。
 まずはモンスターを召喚して、少しでも優位に立つのが上策か。
「……手札より、闇魔界の戦士ダークソードを召喚するぜ」

 闇魔界の戦士ダークソード 闇属性/星4/戦士族/攻撃力1800/守備力1500

 闇魔界の戦士が、両手の剣を振り回し、すぐにでも戦闘態勢に入れるぞと言わんばかり。
 リバースカードが気になるが、此処は気にせずに攻めるべきだろう。
「闇魔界の戦士ダークソードで、プレイヤーにダイレクトアタック!」
「リバース罠、発動! リビングデッドの呼び声!」

 リビングデッドの呼び声 永続罠
 自分の墓地からモンスター1体を選択し、自分フィールド上に攻撃表示で特殊召喚する。
 このカードで特殊召喚したモンスターが墓地へ送られた時、このカードを破壊する。
 フィールド上のこのカードが破壊された時、この効果で特殊召喚したモンスターを墓地に送る。

「この効果で俺は、墓地よりサイバー・ライト・ドラゴンを選択し、特殊召喚する!」
「サイバー・ライト・ドラゴン……?」
 聞いた事の無いモンスターだった。
 俺が怪訝に思っている内に、亮先輩の墓地からモンスターが召喚された。

 サイバー・ライト・ドラゴン 光属性/星7/機械族/攻撃力2800/守備力2400
 このカードを通常召喚する時、「サイバー・ドラゴン」と名のつくモンスターを含む3体を生け贄に捧げなければならない。
 このカードの生け贄召喚に成功した時、相手フィールド上にセットされている魔法・罠カードを全て破壊する。
 このカードの攻撃力を半分にする事で、このカードは1ターンのバトルフェイズに2回攻撃出来る。

 サイバー・ドラゴンの姿は東洋の龍に近い姿だった。
 だがしかし、このサイバー・ライト・ドラゴンは違う。青眼の白龍に似た、西洋竜に似ている。
 サイバー・エンド・ドラゴンの背中に付いているような機械の両翼を広げ、それは咆哮をあげる。
 自らの誕生を祝うかのように。

「サイバー・ライト・ドラゴンの攻撃力は2800。貴様のダークソードでは及ばん!」
「手札の速攻魔法、テレポーテーションを発動!」

 テレポーテーション 速攻魔法
 フィールド上に存在するモンスター1体を、発動ターンのエンドフェイズまで除外する。
 このカードを発動した時、相手はカードを2枚、このカードのコントローラーはカードを1枚ドローする。

「この効果で、俺はダークソードを除外し、バトルフェイズは強制終了。そして、カードを1枚ドロー!」
「俺はカードを2枚ドローだ……なかなかやるな、宍戸貴明」
 亮先輩が奇妙な笑みを浮かべ、俺も同じく笑った。
「同じく。流石はヘルカイザー、伊達じゃないですね」
「お前は史上初の伊達男デュエリストと言っても過言ではないがな……フッ」
「カードを3枚伏せて、ターンエンド!」
 サイバー・ライト・ドラゴンの攻撃力は2800。
 正直、このままにしておくのはマズい。
「俺のターン。ドロー!」
 亮先輩のターン。
「サイバー・ダーク・エッジを召喚!」

 サイバー・ダーク・エッジ 闇属性/星4/機械族/攻撃力800/守備力800
 このカードが召喚に成功した時、自分の墓地に存在するレベル3以下のドラゴン族モンスター1体を選択し、
 このカードに装備カード扱いとして装備し、その攻撃力分だけこのカードの攻撃力をアップする。
 このカードは相手プレイヤーを直接攻撃する事ができる。その場合、このカードの攻撃力はダメージ計算時のみ半分になる。
 このカードが戦闘によって破壊される場合、代わりに装備したモンスターを破壊する。

「……サイバー・ダーク・エッジの効果発動! 相手プレイヤーに直接攻撃が可能……ダメージは半分だがな!」
「なっ………これが、サイバー・ダークシリーズの力かよ……!」
 迂闊。
 パワー・ウォールでパーツが全部墓地に落ちた訳では無かったらしい。

「ふはははははははははは! 残念だったな、宍戸貴明! このターンで貴様の敗北は決定する! これは予言ではない、事実だ! 真実だ!
 予定の10ターンを僅かに越えたような気がするがそれはどうでもいい! 貴様は永遠に負け犬だ、喜べ、貴様のように運だけに頼っていては
 マトモなデュエルなど出来ぬといういい証拠になっただろう! お前のようなデュエリストがここまで勝ち上がったのも不思議だと思うがい
 いのだ、ああ、貴様の敗北は決定、確定、満場一致で可決だ! このターンで、お前のライフは0だ! 行け、サイバー・ダーク・エッジと
 サイバー・ライト・ドラゴンで攻撃してくれるぞ! サイバー・ダーク・エッジで、ダイレクトアタック!」

 宍戸貴明:LP650→250

 ライフカウンターが、凄い勢いで下がっていく。
 後、250。

「これで、終わりだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! エボリューション・ライトニング・バーストォォォォォ!!!」

 何処か遠くで、亮先輩の声が聞こえた。




 静まり返っていた。
 フィールドは、静まり返っていた。

 宍戸貴明:LP250→1250

「なっ………!? 回復、しているだと……!?」
「危ない所だったぜ……リバース罠の、ソウル・ディフェンダーを発動させて貰った」

 ソウル・ディフェンダー カウンター罠
 バトルフェイズ中、戦闘ダメージが発生した際に発動可能。
 その戦闘ダメージを1度だけ無効にし、お互いにその分のライフを得る。

「……なんだと……! 往生際の悪い……」

 丸藤亮:LP2100→3100

 ああ、そうだよ。亮先輩。
 俺は往生際の悪さは師匠をも上回るんだぜ。だから、此処まで戦えた。
 どこまで、辿り着けるのか、解らないままに。

 手にしたデッキで戦い続けろ、行き先も解らぬままに。

 小さく呟いたまま、俺はもう1度宣言する。
「…………どうする、ヘルカイザー?」
 悪戯っぽく、だが、確実に俺はそう呟いた。



 初めて出会った時の事。
 俺は彼に勝てなかった。そして彼はこう言った。
「君も一緒に来ないか?」
 俺と彼の関係が始まった。先輩後輩という枠組みで。

 だけど俺は変わらなかった。
 自分を信じて、ずっと戦った。

 故に俺は、彼に勝てなかった。

 だけど、今だから言える。
 俺が負けないと思うのは、自分のデッキも信じてるから。

 裏サイバー流に逃げた彼は、自分のデッキを信じられなかったから。だから負けたのだ。だから勝てないのだ。

 だから、俺なら勝てる。



「………驚いた」
 亮先輩が呟いた。
「あの宍戸貴明が、ここまで戦うとは驚いた。正直な話だ」
 亮先輩はそう言って、目を閉じた。
「………………行くぞ。サイバー流奥義! サイバー・ドラゴン3体を手札融合!」

 サイバー・ドラゴン 光属性/星5/機械族/攻撃力2100/守備力1600
 相手フィールド上にモンスターが存在し、自分フィールド上にモンスターが存在しない時に手札から特殊召喚出来る。

 来る。あれが来る。
 3体のサイバー・ドラゴンが来てしまう。

「来たれ! 終焉を告げる機竜よ! サイバー・エンド・ドラゴン!」

 サイバー・エンド・ドラゴン 光属性/星10/機械族/攻撃力4000/守備力2800/融合モンスター
 「サイバー・ドラゴン」+「サイバー・ドラゴン」+「サイバー・ドラゴン」
 このカードの融合召喚は上記のカードでしか行えない。
 守備表示モンスターを攻撃した時、このカードの攻撃力がそのモンスターの守備力を越えていれば、その数値だけ相手に戦闘ダメージを与える。

 サイバー・エンド・ドラゴン。
 神と同じ攻撃力を備える、サイバー流の切り札。
 カイザーの、リスペクトデュエルの象徴。

 何時からだろうか。
 この姿に、憧れてやまなくなったのは。

「………既にバトルフェイズは終了している。ターンエンドだ」
 亮先輩がそう告げ、俺に視線を送った。
 俺がターンを宣言しようとした時だった。
『怖がってるの?』
 脳裏に声が響いた。
 聞いた事の無い声の筈なのに、俺にはその主が解った。
「(そうじゃない。あのモンスターに、憧れてた事を思い出した)」
『だけど、今はデュエル中だよ』
「(ああ、そうだな)」
『大丈夫、あたしがついてるよ』
 いや、それは言われてもな。
 俺は心の中で苦笑しつつ、カードをドローする。
「俺のターン。ドロー!」
 手札は揃った。もう、これで決めよう。

 これからは、俺がリスペクトデュエルをする番だ。

「カードを1枚伏せる」
 俺の動きが変わったのを見て、亮先輩は少しだけ眉を上げた。
 だが、俺はそれを無視して続ける。
「憑依装着−エリアを召喚!」

 憑依装着−エリア 水属性/星4/魔法使い族/攻撃力1850/守備力1500
 このカードは自分フィールド上の水属性モンスター1体と「水霊使いエリア」を墓地に送る事でデッキから特殊召喚出来る。
 この効果で特殊召喚した場合、相手守備モンスターを攻撃した際、攻撃力が守備力を上回っている分、ダメージを与える。

「更に、儀式魔法、深き冥界の契約を発動し、手札から鉄の騎士ギア・フリード、異次元の戦士を墓地に送る」

 深き冥界との契約 儀式魔法
 「冥界の魔剣士」の降臨に必要。レベル7以上になるよう、生け贄を捧げなくてはならない。

 鉄の騎士ギア・フリード 地属性/星4/戦士族/攻撃力1800/守備力1600
 このカードに装備カードが装備された時、その装備カードを破壊する。

 異次元の戦士 地属性/星4/戦士族/攻撃力1200/守備力1000
 このカードと戦闘したカードを除外する。

 サイバー流最高のモンスターを相手にするに相応しいモンスター。
 今、手札にあるこいつを召喚する。

「冥界の魔剣士イグナイトを召喚!」

 冥界の魔剣士イグナイト 闇属性/星7/戦士族/攻撃力2700/守備力2100/儀式モンスター
 儀式魔法「深き冥界との契約」より降臨。手札またはフィールドよりレベル7以上になるよう生け贄を捧げなければならない。
 相手守備モンスターを攻撃する際、攻撃力が守備力を上回っている分だけ余剰ダメージを与える。
 このカードの召喚に成功した際、相手フィールド上の魔法・罠カードを全て手札に戻す。
 手札を1枚捨てる事で相手フィールドにあるこのカードの守備力より低い守備力のモンスター1体を破壊する。

「………手札にリバースカードが戻るけど、カードを2枚セット。ターンエンドだぜ」
「攻撃しないのか?」
 亮先輩が少しだけ笑った。
「ああ」
「……そうか」
 亮先輩はすぐに、行動を起こした。
 さぁ、伝説の幕開けだ。この1ターン、俺の予想通りなら全てが決する。

「サイバー・エンド・ドラゴンの攻撃! エターナル・エヴォリューション・バーストォォォ!!!!」

「リバース罠、霊術士の覚醒を発動!」

 霊術士の覚醒 永続罠
 このカードがフィールド上で表側表示で存在する間、「霊使い」「憑依装着」と名のつくモンスターの攻撃力は600ポイントアップする。
 このカードが発動されたターン、バトルフェイズを行う事が出来ない。
 更に、自分ターンのスタンバイフェイズ時にこのカードと「霊使い」と名のつくモンスター1体を墓地に送る事で、そのカード同じ属性の
 「憑依装着」を手札またはデッキから特殊召喚出来る。
 また、自分ターンのスタンバイフェイズ時にこのカードと「憑依装着」と名のつくモンスター1体を墓地に送る事で、そのカードと同じ属
 性の「霊術士」を手札またはデッキから特殊召喚出来る。
 このカードが上記の特殊召喚以外の方法でフィールドから離れた場合、フィールドに存在する全ての「霊使い」「憑依装着」を破壊する。

「この効果で、バトルフェイズは強制終了だぜ……」
「くっ…………まぁいい。ターンエンドだ」

 憑依装着−エリア 攻撃力1850→2450

 亮先輩のフィールドに、リバースカードは無い。
 手札も使いきった。
 伝説は、ここに完結した。

「……俺のターン。霊術士の覚醒の効果により、憑依装着−エリアとこのカードを墓地に送り、蒼の水霊術士エリアを召喚する」

 蒼の水霊術士エリア 水属性/星6/魔法使い族/攻撃力2450/守備力2100
 1ターンに1度、プレイヤーの指定したモンスター1体の表示型式を変更する事が出来る。
 このカードは「霊術士の覚醒」の効果で特殊召喚された場合、以下の効果を得る。
 ・このカードが召喚された時、フィールド上で表側表示の魔法・罠カード1枚を破壊する。
 ・このカードは相手守備モンスターを攻撃した際、その守備力を攻撃力が上回っていればその分のダメージを与える。

「……亮先輩。貴方とデュエル出来て、良かった。俺は、楽しかったですよ。最高の、デュエルでした」
「………何が言いたい?」
「………亮先輩。伝説に残る、デュエルをしましょう。最後に」
 俺はそう告げると、それを、始めた。
「罠カード、オープン! 憑依装着を発動!」

 憑依装着 永続罠
 自分フィールド上に「霊使い」「憑依装着」「霊術士」と名のつくモンスターが存在する時のみ発動可能。
 墓地に存在するモンスター1体を選択し、装備カード扱いでモンスター1体に装備する。
 そのカードの攻撃力分、攻撃力がアップする。

「なっ……! お前……」
 亮先輩が真意に気付いたのか、驚きの声をあげる。
 だが、もう遅い。伝説の最終章はもう始まっている。
「この効果で、俺は墓地のサイバー・ドラゴンを選択。蒼の水霊術士エリアに装備!」

 蒼の水霊術士エリア 攻撃力2450→4550

「………行くぜエリア!」
『おっけー、タカアキ!』
 墓地の機竜を従えた、エリアが頷く。今日も運命の女神様の笑顔が眩しいぜ!
「蒼の水霊術士エリアで、サイバー・エンド・ドラゴンを攻撃! アクア・エレメンタル・パニッシャー!」
「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおっぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!??????」

 丸藤亮:LP3100→2550

「お、オレの………さ、サイバー・エンドが………さ、サイバー・ドラゴンが、ぜ、ぜ、ぜ、ぜんめつめつめつめつめつぅ………!!?!?!?!?」
 最早原形を留めていない。
「……冥界の魔剣士イグナイトで、サイバー・ダーク・エッジを攻撃!」

 丸藤亮:LP2550→650

「あ………ああ………」
「……最後だよ、カイザー」
 最後の手向けを、貴方に。

「速攻魔法! リフレクト・アタッカー!」

 リフレクト・アタッカー 速攻魔法
 1000ライフポイントを支払う。
 フィールド上のモンスター1体を生け贄に捧げる事で、別のモンスター1体は1回のバトルフェイズに2回攻撃出来る。

 宍戸貴明:LP1250→250

「俺はイグナイトを生け贄に捧げる。この効果で……蒼の水霊術士エリアは2回攻撃出来る。行くぞ、ヘルカイザァァァァァッ!!!!!」
 その声が、届いたかどうかは解らない。
 だがしかし、最後の攻撃は紛れもなくサイバー・ライト・ドラゴンを撃破して。

 丸藤亮:LP0

 そして、亮先輩のライフポイントをゼロにした。
 誰かが、涙を流した。
 亮先輩でも、見ていた観客でも無かった。

 俺が流した、涙だった。

 それは、憧れの先輩を倒したという歓喜と。
 デュエリストとして、見事なデュエルが出来たという歓喜からだったのかも知れない。



《第21話:埋め尽くす闇と一筋の光》

「………勝者、宍戸貴明!」

 審判役の月行さんの声が響き渡る。
 声は聞こえないが歓喜の雄叫びをあげた貴明。
 敗北に膝を折ったカイザー。

「やりやがったよ! 信じらんねーぜ、カイザー倒しちまうなんて!」
「そうだよね! 正直、びっくり……て、いうか凄いね、貴明!」
 俺と理恵がそんな会話を交わした時、貴明もカイザーもまだ、フィールドから降りていなかった。
「雄二、理恵!」
 貴明は俺達に気付くと、ニヤリと微笑みながら指を突き付けた。

「先に上で待ってるぜ!」

 アイツらしいというか。要は俺達にも勝ち上がれと。
「おうよ!」
 俺はそう答えて、小さく親指を上げた。



 雄二も理恵も、負ける気は無い。きっと、勝ち上がってくれる。
 俺はそう考えた後、亮先輩を振り返った。

 亮先輩はまだ、膝を折ったままだった。
「亮先輩」
「……なんだ?」
「……………俺、亮先輩に憧れてたんですよね。だけど、結局の所、あの頃の俺は強運も無ければ貴方のような戦術も無かった。ただ、がむしゃらに突き進
 んでただけだったから。だから、そのままじゃ勝てないって解ってた。大体、翔先輩とのデュエルだって負けてた可能性の方が高かった訳ですし。ですけ
 ど、サイバー・ドラゴンを手にして、それからずっとデュエルし続けたら、気付いた事があったんですよ」
 淡々と語る俺に、亮先輩は答えなかった。
「師匠や雄二、晋佑とのデュエルを通じて解ったんです。幾らデッキを組んでも、ドローして自分が欲しいカードが来るかどうかは時の運。手札が揃ったと
 しても、それを上手く活用するには考えられた戦術。相手が様々な手段で此方を妨害してくれば、それを切り抜ける機転。デュエルを1つするにしても、
 幾つもの要素が必要だ。俺は全部欲しかったけど、強運だけなら手に入った。だから、デッキを組んだら後は全部運だけに任してた。だって、どれだけデ
 ッキを組んだとしても、それを活用する戦術を使うにしても、まずはカードが揃わないといけないから。だからそうなるように、デッキを信じてた。先輩
 も、サイバー流の強さを知っていた筈。そしてもう1つ………相手を尊重する事も、解ってた筈だ……」
「……………」
「正直、ヘルカイザーを見た時、どうなってんだろとか考えましたけどね。だけど、ただ自分の勝利だけを考えていたらデュエルの流れなんて見えて来ない
 筈です。誰かが教えてくれた事ですけど」
 俺はそう苦笑すると、ふと気付いた。
 そう言えば、前に俺に同じ事を言った人間は。
「………勝利だけを考えていたらデュエルの流れは見えてこない、そう言ったの、亮先輩でしたよ……」
 俺はそれだけを言って、フィールドから飛び降りた。

 もう、振り返らない。言うべき事は言った。

「おい」
 背後から、声が掛かった。
「……何ですか?」
「お前の健闘を祈る……それだけだ」
 亮先輩はくるりと背を向け、船室へと立ち去っていった。

 その背中が、何処か遠く見えたのは気のせいなのだろうか。








「よっ、お疲れ!」
 俺がそう声をかけると、貴明は肩を竦めながら笑った。
「おう。ま、ああは言ったけどよ。実はさ、最初勝つ自信なんて無かったりしたんだよな、あは、あはは……」
「ハッタリかよ!? ま、お前らしいと言えばそうらしいけど」
 俺がそう笑うと、理恵が口を開いた。
「そう言えば、何であのカイザー亮と話してたの? さっき?」
「ん? ああ、知らない仲じゃないからな。ま、あんまり良い仲では無いけど」
 貴明がそう答えた時、再び月行さんの声が響いた。

「第2戦! ゼノン・アンデルセン対シェリル・ド・メディチ! 両者、フィールドに上がって下さい!」

「出番ナノーネ」
 シェリルさんが小さく手を上げてフィールドへと軽快なステップで上がっていく。
 ゼノン・アンデルセンもスタスタと歩いていく。フィールドへと。
「………両者、準備は」
「OKネ」「さっさと始めようぜ」
 2人がそう言った時、一瞬だけ、ゼノンが俺の方を向いた。

 その時に、何か走った。

「(……何だ、今の?)」
 何かが俺の中を駆け抜けた。だが、その答えが解らない。
 言葉で、形容する事が出来ない。

 だが、あの感覚は―――――。

 いや、今は触れるのはよそう。後で考えよう。
 俺はそう思うと、視線をフィールドに落した。



 何だったのだろう、今のは。
 さっき勝ち抜いた宍戸貴明と話していた、恐らくあれが高取晋佑の言っていた黒川雄二なのだろうけど。
 だけど、あいつは普通の奴と違う。ただ、それだけが解った。
「(落ち着け、オレ。何を考えている)」
 どんな障害があろうが、オレは自分の望みを果たす。
 その為に神竜が必要で、高取晋佑を倒す必要があって、そしてオレは………奴に、ヨハンに勝つだけだ。

 そう、1度だけでも構わないから。
 兄を越えるのだ、オレは。

 オレは自分の頬を軽く叩き、対戦相手を見る。
「シェリル・ド・メディチ……欧州チャンプだっけ?」
 オレがそう口を開くと、「そうナノーネ」と返してきた。
 それは解ったからその口調を何とかしてくれ。
「………準備はいいぜ、審判」

「では、両者。デュエル、開始!」

「「デュエル!」」

 ゼノン・アンデルセン:LP4000 シェリル・ド・メディチ:LP4000

 幾ら相手が何だろうが構わない。今のオレには、神竜があるのだから。
「オレの先攻ドロー」

「仮面竜を守備表示で召喚。カードを1枚伏せて、ターンエンドだ」

 仮面竜 炎属性/星3/ドラゴン族/攻撃力1400/守備力1100
 このカードが戦闘で破壊され墓地に送られた時、デッキから攻撃力1500以下のドラゴン族モンスター1体を特殊召喚出来る。
 その後、デッキをシャッフルする。

「サーチモンスターを初手で召喚したノーネ、バトルフェイズ後にも1体は場に残る……悪くは無いノーネ。私のターン!」
 流石は欧州チャンプだけあってか、オレを探るように見ている。
 そんな風に見られると、腹が立つ。オレは少しだけ唇の裏を噛んだ。
「………手札より、ヴァンパイア・ガールを自身のエフェクトで特殊召喚」

 ヴァンパイア・ガール 闇属性/星3/アンデット族/攻撃力1400/守備力600
 このカードは自分フィールド場にモンスターがいない時、手札より特殊召喚する事が出来る。
 1ターンに1度、手札のレベル5以上のモンスターを墓地に送る事でこのカードの攻撃力は400ポイントアップする。

「更に、手札よりピラミッド・タートルを守備表示で召喚。ターンエンド」

 ピラミッド・タートル 地属性/星4/アンデット族/攻撃力1200/守備力1400
 このカードが戦闘で破壊された時、デッキから守備力2000以下のアンデット族モンスター1体を特殊召喚出来る。

「攻撃しないのか?」
「………フフ……」
 オレの問いに、彼女は笑うだけ。どうやら攻撃を誘っているようにも見える。
 ならば、いい。デュエルは、ただの駆け引きなんかじゃない事をこのオレが教えてやる。
「オレのターン。ドロー!」
 いきなりだが、ツキはオレに向いてきたらしい。
「手札より、ブリザード・ドラゴンを召喚!」

 ブリザード・ドラゴン 水属性/星4/ドラゴン族/攻撃力1800/守備力1000
 相手モンスター1体を選択する。選択したモンスターは次の相手ターンのエンドフェイズまで攻撃宣言と表示型式の変更が行えない。
 この効果は1ターンに1度しか使用出来ない。

「なるほど、ガールとピラミッド・タートルの破壊に出たノーネ」
「それで終わると思うか? リバース罠、発動! 葵の継承を発動!」

 葵の継承 通常罠
 フィールド上に存在する水属性モンスター1体をゲームから除外する事で手札より水属性モンスター1体を特殊召喚する。
 このカードの発動に成功したターン、特殊召喚したカードは守備表示となる。

「この効果により、オレはフィールドのブリザード・ドラゴンを除外! そして……青氷の白夜龍を特殊召喚!」

 青氷の白夜龍 水属性/星8/ドラゴン族/攻撃力3000/守備力2500
 このカードを対象とする魔法または罠カードの発動を無効にし、破壊する。
 自分フィールド上に表側表示で存在するモンスターが攻撃対象に選択された時、自分フィールド上の魔法または罠カードを墓地に送る事で、
 攻撃対象をこのカードに変更する事が出来る。

「なっ………攻撃力……3000………」
「……このターン、白夜龍は強制的に守備表示。だけど、次のオレのターン。攻撃力3000がモロに来るぜ? この調子なら、神竜を使うまでもないか」
 オレの呟きに、何処かで空気が変わった。
 目の前に相手では無い。デュエルを見ている周りの連中だ。
 チラリと視線を周囲に向けてみる。高取晋佑は平気な顔をしていたが、だとすると―――――。

 見ている。黒川雄二は、間違いなくオレに注目している。

「(クソッ、厄介な)」
 小さく悪態をつく。だがしかし、悪態をついても変わらないだろう。
 今はデュエルに専念するべきだ。
「カードを1枚伏せて、ターンエンドだ」
「私のターン。ドロー!」
 その時、相手の表情が変わった。
「ヴァンパイア・ガールを生け贄に、ヴァンパイア・ロードを召喚。更に。ロードを生け贄に、DarkLord -アンデット・オブ・ヴァンパイア-を特殊召喚!」

 ヴァンパイア・ロード 闇属性/星5/アンデット族/攻撃力2000/守備力1500
 このカードが相手に戦闘ダメージを与える度にカードの種類(モンスター、魔法、罠)を1つ宣言する。
 相手はデッキからその種類のカードを選択して墓地に送る。
 また、このカードが相手のカードの効果で墓地に送られた際、次のターンのスタンバイフェイズに特殊召喚される。

 DarkLord -アンデット・オブ・ヴァンパイア- 闇属性/星7/アンデット族/攻撃力2800/守備力2000
 このカードは「ヴァンパイア・ロード」を墓地に送った時のみ特殊召喚出来る。
 このカードは墓地に存在する「ヴァンパイア」と名のつくモンスター1体につき攻撃力が200ポイントアップする。
 このカードが相手のカードの効果で墓地に送られた際、次のターンのスタンバイフェイズに特殊召喚される。

「……墓地にはガールとロードの2体のヴァンパイアが存在する……この効果で、ダークロードの攻撃力は3200に上昇しまスーノ」

 DarkLord -アンデット・オブ・ヴァンパイア- 攻撃力2800→3200

「ダークロードで、青氷の白夜龍を攻撃……行きなさい、ダークロード! ブラッディ・カタストロフ!」
 守備表示の青氷の白夜龍が破壊され、フィールドから姿を消した。
 だが、これまでは予想通り。
「………ターンエンドか?」
「そうね。ターンエンドなのーネ…………驚いたノーネ、動じないノーネ?」
「その程度、よくある事さ」
 そう、少なくともオレにとってはな。
 反撃なんて、容易に出来る。少なくとも、このレベルの相手なら。

「オレのターン!」

「……ドル・ドラを守備表示で召喚し、ターンエンド」

 ドル・ドラ 風属性/星3/ドラゴン族/攻撃力1500/守備力1200
 このカードがフィールド上で破壊されて墓地に送られた時、そのターンのエンドフェイズ時に攻撃力・守備力1000のモンスターとして、
 フィールド上に特殊召喚する。このカードはデュエル中1度しか使用出来ない。

「……フーン、随分と消極的になったノーネ」
 相手は少しだけ笑うと、ターンを宣言。
「ピラミッド・タートルを生け贄に、ヴァンパイア・ロードを召喚」

 ヴァンパイア・ロード 闇属性/星5/アンデット族/攻撃力2000/守備力1500
 このカードが相手に戦闘ダメージを与える度にカードの種類(モンスター、魔法、罠)を1つ宣言する。
 相手はデッキからその種類のカードを選択して墓地に送る。
 また、このカードが相手のカードの効果で墓地に送られた際、次のターンのスタンバイフェイズに特殊召喚される。

「それでは、バトル! ダークロードとヴァンパイア・ロードでそれぞれ、モンスターを破壊!」
「仮面竜もドル・ドラも守備表示だからダメージを与える事は無い……仮面竜の効果を発動!」
 さて、仮面竜で呼び寄せるモンスターは……。
「デッキより、仮面竜を守備表示で特殊召喚!」

 仮面竜 炎属性/星3/ドラゴン族/攻撃力1400/守備力1100
 このカードが戦闘で破壊され墓地に送られた時、デッキから攻撃力1500以下のドラゴン族モンスター1体を特殊召喚出来る。
 その後、デッキをシャッフルする。

「そして、ドル・ドラの効果! 戦闘破壊されたターンのエンドフェイズに、攻守1000になって戻ってくる」

 ドル・ドラ 風属性/星3/ドラゴン族/攻撃力1500/守備力1200
 このカードがフィールド上で破壊されて墓地に送られた時、そのターンのエンドフェイズ時に攻撃力・守備力1000のモンスターとして、
 フィールド上に特殊召喚する。このカードはデュエル中1度しか使用出来ない。

「……ターンエンドなのーネ」
「オレのターン………フィールドの仮面竜、ドル・ドラ、そして墓地の仮面竜の3体を除外!」
「除外? 何を発動する気なの……」
「フィールドに存在するレベル4以下のドラゴン族モンスター2体と、墓地のドラゴン族1体を除外する事で………このモンスターを、手札から特殊召喚出来る。
 ブルー・ホーンズ・ホワイトドラゴンを特殊召喚!」

 ブルー・ホーンズ・ホワイトドラゴン 光属性/星6/ドラゴン族/攻撃力2200/守備力1400
 このカードは通常召喚出来ない。フィールドに存在する星4以下のドラゴン族モンスター2体と、墓地のドラゴン族1体を除外して特殊召喚する。
 このモンスターはバトルフェイズ中、手札の数だけ攻撃する事が出来る。
 このカードの召喚時、自分フィールドに存在するこのカード以外のカードと手札を全て墓地に送る事で攻守を1500ポイントアップさせる。
 このカードはカードの効果によって破壊された時、召喚時に除外したモンスターを全て特殊召喚する。

 ブルー・ホーンズ・ホワイトドラゴン。
 青き角を持つ、白の竜。
 それはゆっくりと咆哮をあげ、2体のヴァンパイアを睨んだ。
「……手札とフィールドカードを全て墓地に送る。この効果で、攻撃力と守備力を1500ポイントアップさせる事が出来る……」
 自分でも冷たい声が流れた。
 だがしかし、その程度で怯むような相手で無い事は知り尽くしている。

 ブルー・ホーンズ・ホワイトドラゴン 攻撃力2200→3700

「ホワイトドラゴンで、ダークロードを攻撃! ブルーレイ・ライトニング・バースト!」

 シェリル・ド・メディチ:LP4000→3500

「……ターンエンドだ」
 オレの宣言と共に、相手が少しだけ顔をしかめるようにしてオレを見ていた。
 まったく、何だと言うのだろう。
「あまりよろしくないノーネ。そんな不機嫌な顔をするのは」
「別にいいだろう」
「連れない人ナノーネ。私のターン」

「………フム。ヴァンパイア・ロードで攻撃!」
「………攻撃力1700も足りないのにか?」
「いいえ、ただで済ませナイノ! 速攻魔法、収縮!」

 収縮 速攻魔法
 フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択する。
 このターンのエンドフェイズまでそのモンスターの攻撃力は半分になる。

 ブルー・ホーンズ・ホワイトドラゴン 攻撃力3700→1850

 ゼノン・アンデルセン:LP4000→3850

「ターンエンドデスーノ」
「大した……痛みでもない、か………オレのターン! ドロー……魔法カード、次元融合を発動!」

 次元融合 通常魔法
 2000ライフポイントを支払う。除外されているモンスターを可能な限り特殊召喚する。

「この効果により、仮面竜2体、ドル・ドラ、ブリザード・ドラゴンを特殊召喚!」
「な、何ですって……!? 一気に4体……」

 ゼノン・アンデルセン:LP3850→1850

 仮面竜 炎属性/星3/ドラゴン族/攻撃力1400/守備力1100
 このカードが戦闘で破壊され墓地に送られた時、デッキから攻撃力1500以下のドラゴン族モンスター1体を特殊召喚出来る。
 その後、デッキをシャッフルする。

 ドル・ドラ 風属性/星3/ドラゴン族/攻撃力1500/守備力1200
 このカードがフィールド上で破壊されて墓地に送られた時、そのターンのエンドフェイズ時に攻撃力・守備力1000のモンスターとして、
 フィールド上に特殊召喚する。このカードはデュエル中1度しか使用出来ない。

 ブリザード・ドラゴン 水属性/星4/ドラゴン族/攻撃力1800/守備力1000
 相手モンスター1体を選択する。選択したモンスターは次の相手ターンのエンドフェイズまで攻撃宣言と表示型式の変更が行えない。
 この効果は1ターンに1度しか使用出来ない。

 ライフで大差がついても、これだけのモンスター差は大きなアドバンテージになる。
 壁にも使える。仮面竜が2体もいるからリクルートにも困らない。
 だがしかし、本当の目的は違うんだ。
 何せ、オレがこれから喚ぶのは……ただのモンスターじゃないからな。

「仮面竜2体、そして。ドル・ドラを生け贄に捧げる…………光栄に思え、コイツを見た事を……神を見た事を、誇りに思え!」
 そう、これで終わる。
 これがフィールドに出たから、もうこのターンで終わる。全ては。

「出でよ! 天空の神竜ヴェルダンテ!」

 The God Dragon of Heaven−Velldante LIGHT/Lv12/Dragon/ATK5000/DEF5000
 このカードはフィールド上のモンスター3体を生け贄に捧げて通常召喚する。
 このカードを対象とする魔法・罠カードの効果を受け付けない。
 1000ライフポイントを支払う事で、墓地のモンスター1体をフィールド上に特殊召喚出来る。
 このカードが召喚された時、フィールド上の魔法・罠ゾーンに存在するカード1枚を選択する。
 選択されたカードはこのカードがフィールド上に存在しなくなるまで、発動も出来ず、破壊もされない。
 効果を既に発動している場合、その効果を失う。
 フィールド上に存在するこのカード以外のカード及び自分の手札を全て除外する事で、
 相手フィールド上のカードを3枚までゲームから除外する事が出来る。

 白き翼。白き身体。
 天空の神は竜となりて、その姿を下界に現す。

 その能力は如何なる存在をも凌駕する。何故なら、神なのだから。

「……天空の神竜……?」
「このカードの召喚に成功した時、フィールド上の魔法・罠カードを1枚選択する。そのカードは、発動も出来ず、破壊もされない」
 つまり、魔法・罠ゾーンを1つ食いつぶし続ける。
 神の名に相応しい、強力なる効果。
「お前のリバースカードは1枚のみ。これで、リバースカードを発動出来ない」
 そして、相手のフィールドにはヴァンパイア・ロードが1体のみ。

「バトルだ……行くぞ、ヴェルダンテ! ディストラクション・ヘブンズレイ・バースト!」
「あっ……うぐぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!!!!!???? 一撃が……重い……?」

 シェリル・ド・メディチ:LP3500→500

「更に、ブリザード・ドラゴンでダイレクトアタック!」

 シェリル・ド・メディチ:LP500→0

「……ナ………」
「その程度で、オレを倒せる訳無いだろ……顔を洗って出直せ」
 オレはそう告げると、審判に視線を送る。

「勝者……ゼノン・アンデルセン!」

 歓声1つ無い、静かな勝利宣言。
 だが、今のオレにはそれが似合ってるように思えた。



《第22話:悪夢の始まり》

「勝者……ゼノン・アンデルセン!」

 月行さんの声が響き、勝者であるゼノンは特に何もせずに立ち去った。
「あいつ、感じ悪くないか?」
 俺が貴明にそう問いかけると、貴明も「そうだな」と頷いた。
「勝利宣言の1つどころか嬉しそうでもねぇ。ヤな奴」
「それもそうだし、何より………」
「ああ、神竜な。お前はそっちが気になるか、雄二?」
 そりゃそうだ。
 自分でも相対した時勝てるかどうか解らなかったんだから。
 下手すると準決勝か決勝で俺はアイツと当たる事になるんだぞ。
「お前も神竜持ってるんだから、大丈夫じゃねーの?」
「のん気な事言うなよ………」
 倒す自信無いとか言ってた癖にカイザー倒した奴に言われたくないぜ、貴明ちゃんよ。
「む、それもそうか」
「聞こえてたのかよ!?」
 俺達が騒いでいる間にも、月行さんは早くも次の試合を始めようとしていた。

「第3試合! 滝野理恵対高取晋佑! 両者、フィールドへ!」







 試合の後、丸藤亮は自身に与えられた予定の船室へと戻る……筈だった。
「しまった、道に迷ったな」
 ヨハン・アンデルセンは方向音痴で有名だが、何せ同じような扉が無数に並んでいるのだ。
 道に迷ってもしょうがない筈だが、やはり迷ってしまうとは情けない。
「ええい、この俺が道に迷うとはな………そこまで堪えていたか……?」
 デュエルディスクからデッキを取りだし、もう1度広げてみる。
 敗北などそうそう在りえなかった、しかも、自分が格下だと思っていた相手に敗北するなぞ。
「………奴に……デュエルについて語られるとは思わなかった……」
「カイザー、観戦しないのか?」
 突如、背後から声をかけられた。
 しかも、自身がよく知っていて、此処にいる筈の無い奴の声―――――。

「………十代、お前はアカデミアにいる筈では無いのか?」

 亮の問いに、デュエル・アカデミアにいる筈の後輩で丸藤亮の弟、翔の親友でもある遊城十代は軽く肩を竦めながら前へと出た。
「諸事情があって海馬社長の手伝い中なんだよ。しょうがないだろ」
 困ったように肩を竦める姿は、普段の彼と大差無い。
 デュエルディスクが学園支給のもので無い事を除けば、だが。
「まったく……ただでさえ成績悪いんだから授業に出ぬと留年するぞ、吹雪みたいに」
「いや、吹雪さんは違うでしょ」
「同じだ。失踪してたら授業には出れんからな」
「そりゃそうだけど……」
 そういう事だ。
 そう言えば十代の成績の悪さは折り紙付きだ。
「ところで、何の手伝いなんだ?」
「それは禁則事項なんだよ」
「何、教えてくれないのか?」
 亮は困ったように首を傾げると、少しだけ声を潜めた。
「教えてくれても構わないだろう、どうせ誰もいないのだから」
「そういう訳には行かないんだよ、デュアル・ポイズンの連中が何処にいるか解らねーし、それに………」
「それに?」
「俺は連中から未だに追われてるからな」
 十代は普段見せた事の無い、困ったような表情でため息をつくのだった。

 その時、亮は初めて気付いた。

 この大会の裏に、何かあると。





「出番だな」
 俺がそう声をかけると、理恵は「うん」と頷いた。
「次は負けないって決めたからね。準決勝以上で会おうよ、貴明」
 理恵は笑いながらそう言うと、俺に向かって指を立てた。
 相手はあの晋佑。油断は出来ない、けど……。
「……相手がどんなデッキを使うかは問題じゃない、折れない限り、負けないってか……師匠の奴、たまには良い事言うぜ」
 負けず嫌いの師匠の顔を思いだし、俺は少しだけ笑った。

 フィールドへと上がると、少しだけ冷たい夜の風が吹いてきた。
「(……あれが対戦相手……貴明と知りあいなんだっけ……)」
 あたしが相手に視線を送ると、相手は少しだけ微笑んだような気がした。
 だが、その微笑みは普通の微笑みとは違う。どこか、嫌な笑みだ。
「嫌な感じ……」
 小さく呟く。だけど、あたしにはHERO達がついてる。だから大丈夫。
「さて……行きますかね!」
「いつでもどうぞ」
 あたしと対戦相手―――――高取晋佑が所定の位置に立ったのを見て、審判が声を張り上げる。
「では、両者……始めて下さい!」

「「デュエル!」」

 滝野理恵:LP4000 高取晋佑:LP4000

「先攻は貰うよ! ドロー!」
 まずはデッキからドローする。手札そのものは悪くない。
 先攻1ターン目に攻撃は出来ないが、まぁ、相手の出鼻を挫くのも良いだろう。
「E・HERO エアーマンを召喚!」

 E・HERO エアーマン 風属性/星4/戦士族/攻撃力1800/守備力300
 このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、次の効果から1つを選択して発動する事が出来る。
 ・自分フィールド上に存在するこのカードを除く「HERO」と名のつくカードの数だけ、魔法・罠カードを破壊する事が出来る。
 ・自分のデッキから「HERO」と名のつくモンスター1枚を手札に銜える事が出来る。

「エアーマンの効果発動! 自分のデッキからHEROを1枚、手札に銜える……あたしは、マリシャス・エッジを選択!」

 E-HERO マリシャス・エッジ 地属性/星7/悪魔族/攻撃力2600/守備力1800
 相手フィールド上にモンスターが存在する時、このカードは生け贄1体で召喚出来る。
 相手守備モンスターを攻撃した際、攻撃力が守備力を上回っている分、戦闘ダメージを与える。

「カードを1枚伏せて、ターンエンド」
 さて、これで相手がどう出て来るかが問題だ。
「俺のターン。ドロー」
 静かに、そのターンは始まった。

「蒼刃の鋼騎士セイバーナイトを召喚!」

 蒼刃の鋼騎士セイバーナイト 光属性/星4/機械族/攻撃力1800/守備力1500
 このカードの召喚・特殊召喚に成功した時、デッキから「白銀の鋼騎士ホワイトナイト」を手札に銜える事が出来る。
 相手守備モンスターを攻撃した時、攻撃力が相手の守備力を上回っている分、戦闘ダメージを与える。

「セイバーナイトの効果により……デッキから手札に、白銀の鋼騎士ホワイトナイトを手札に加える」

 白銀の鋼騎士ホワイトナイト 光属性/星4/機械族/攻撃力1500/守備力2000
 このカードの召喚・特殊召喚に成功した際、「紅蓮の鋼騎士フレイムナイト」をデッキから手札に銜える事が出来る。
 このカードは1ターンのバトルフェイズ時、2回攻撃をする事が出来る。

「ターンエンド」
「リバースカードは伏せないの?」
「まぁ、ね……」
 少しだけ奇妙な笑みを浮かべた気がするが、別にそれはどうでもいい。
「………あたしのターン! ドロー!」

「E-HERO ブリザード・エッジを自身の効果で特殊召喚!」

 E-HERO ブリザード・エッジ 水属性/星4/悪魔族/攻撃力1700/守備力1400
 このカードは特殊召喚扱いで召喚する事が出来る。
 このカードが戦闘で破壊された時、フィールド上の魔法・罠カードを1枚破壊する。

「ブリザード・エッジを生け贄に捧げ、マリシャス・エッジを召喚! こいつで一気に攻めてやるよ……!」

 E-HERO マリシャス・エッジ 地属性/星7/悪魔族/攻撃力2600/守備力1800
 相手フィールド上にモンスターが存在する時、このカードは生け贄1体で召喚出来る。
 相手守備モンスターを攻撃した際、攻撃力が守備力を上回っている分、戦闘ダメージを与える。

「マリシャス・エッジで、セイバーナイトを攻撃! ニードル・バースト!」
「………フン」

 高取晋佑:LP4000→3200

「続けて、エアーマンでダイレクトアタック!」

 高取晋佑:LP3200→1400

「……ま、こんなモンかな、って。ターンエンド」
 あたしはターンエンドを宣言すると、相手に少しだけ視線を送った。
 何か怪しい感じがするけど、このペースなら楽勝で勝てる。
 貴明や雄二は気を付けろとか言ってたけど、虚仮威しじゃないのかと思ったりもした。

 だけどまだ、デュエルは始まったばかりなのだ。


「……理恵の奴、やるなぁ」
 俺がそう呟くと、貴明も「そうだな」と頷いた。
「何だよ、晋佑の奴、神竜を召喚するより先に負けるんじゃねぇの?」
「だろうな。ま、それはそれで海馬社長がキレそうだけどな。負け犬めとか騒いだりして」
 確かにどれだけ強いカードを持っていても使いこなせなければ馬の骨とか言ってた気がする。
「『サイコ・ショッカーの強さは周知の事実だが問題なのは凡骨がそれを使う事だ』って、社長の本にも書いてある」
「社長、いつそんな本書いたんだよ、あの人?」
 いつの間にか海馬社長が書いたらしい本を開いていた貴明に俺がそう声をかけると、貴明は首を振った。
「だってこれ、今週のベストセラーだぜ? 海馬瀬人著の『本田でも解る気高きデュエル講座』は」
「本田って誰だよ。後、何処が気高いんだ」
 社長の考える事は本当によく解らん。
 俺達がそんな事を話していると、真横に人の気配がした。

「ほう、このオレが気高くないというのか、貴様? このオレを愚弄するという事はそれなりの覚悟も出来ているんだな?」

 ま、まさかこの声は。
 俺が恐る恐る視線を真横にズラす。

 そこには、1人の社長が立っていた。

「……しゃ、社長。あの……キレてます?」
 俺の口から出たのはそんな間抜けな質問。社長はそれを聞いて少し眉を吊り上げた。
「オレがキレているかだと? オレは既にキレているわ!!!
「ぶべらっ!?」
 ジュラルミンケースで思いきり殴り飛ばされ、俺は甲板を転がる羽目になった。
 流石は海馬社長、ジュラルミンケースで殴り飛ばすのは最早定石となりつつあるけどやっぱり痛い。
「社長、痛いです……」
「痛くない訳なかろう」
 そんなに冷たく突き放さなくても良いのにと思うがしょうがない。
 俺が身体を起こした時、海馬社長が急に声を潜めた。
「……貴様はデュエルの方に集中するがいい。デュアル・ポイズンに関してはロクデナシを1人呼び寄せてそいつに対処させている」
「は、はぁ……」
 それは実に良い朗報だけど、そのロクデナシって誰なんだよ。
 俺としてはそいつの正体の方が気になります。
「……それで、状況は?」
「報告がまだでな。まったく、この船の中なのにまともに情報1つ集められないとは所詮ロクデナシだな」
 海馬社長が苦々しげに悪態をついた時、ふと貴明が気付いた。
「そういや、社長、今、この船って何処に向かってるんです?」
「着けば解る」
 社長は素っ気無く言うと、そのまま自分の席へと戻っていくのだった。





 船の中。
 デュエル中で騒がしい甲板とは違い、船内は静まり返っている。
 亮は、廊下を歩きながらもずっと疑問に思っていた。
「……どうしたんだ、カイザー?」
「…………お前が此処にいる理由についてだ。全然見当もつかん」
 亮が正直に答える。まぁ、ある意味当然かも知れないが。
「言っただろ、禁則事項だよ」
「それもそうだが、何故デュアル・ポイズンに追われてるんだ? セブンスターズや光の結社に関わっていたのか?」
 一昨年や昨年、アカデミアを騒がした集団について口にするが、十代は首を振った。
「いいや、違う。これは俺個人の問題だよ」
「個人? お前、何をしたんだ?」
「…………ま、色々……」
「デュエルで勝ったら教えてくれたりはしないだろうな? それとも俺がそんなに信用できんか?」
 亮の言葉に、十代は息を吐く。
 どうやら亮のしつこさに呆れたのか、それとも―――――。
「解った、勝ったらな……ん?」
 十代が急に足を止め、視線を別の方角へと向けた。
 亮もつられるように視線を向ける。

「あいつは………決勝トーナメント出場者の、ゼノン・アンデルセン……?」
「正確には1回戦はもう勝ち抜いたからベスト4だけどな、カイザー」
 亮の呟きに十代が冷静に返し、ゼノンが2人の方を向いたのを確認してから口を開いた。
「1回戦勝ち抜きおめでとさん」
「………当然の結果だ。それより、オレに何か用か?」
 ゼノンの警戒心を露にした言葉に、十代は軽く肩を竦めた。
「もちろん、用あるぜ。……さっきのデュエルで見せた神竜さ」
「神竜?」
 亮は、神竜とは何なのだろう、と思った。
 神と呼ばれる程だから相当なカードなのだろう。
 それ程のカードなら、是非手に入れたいものだ。
「…………それで、オレが神竜を持っているからと、何が知りたい」
「それは盗み出されたものだからな。返してもらうぜ」
「アンタのものじゃないだろう?」
「残念、俺は海馬コーポレーションから直接取り戻して来いって頼まれたんでね」
 ゼノンの言葉に、十代はさして大した事では無いかのように答える。
 それが何処か、ゼノンの癇に障った。
「断る。カードってのは、使ってこそ意味があるからな。オレが今使ってるんだから、文句無いだろう?」
「連れない奴だなぁ。大体、神竜なんて強力すぎるカードは使われちゃ困るから封じられたんだしよ。悪い事は言わないから大人しく返せよ」
「……断るって言ったぜ」
 ゼノンのハッキリとした拒絶。
 十代はそれを確認すると、小さく頷いた。
「なら、デュエルで白黒つけるか?」
「………いいだろう。相手になってやるよ」

「待て、十代」
 亮が、そこに割って入った。
「何だよ、カイザー」
「俺にやらせてくれ……実に興味深い………貴様どころか海馬コーポレーションですら恐れる神竜の力を、な……」
 カイザーは奇怪な笑みを浮かべると、デュエルディスクを起動した。

「行くぞ、ゼノン・アンデルセン。ヘルカイザーを甘く見るなよ!」
「面白い………やってやろうじゃねぇか、丸藤亮!」
 2人の、激突が始まろうとしていた。







 滝野理恵:LP4000 高取晋佑:LP1400

 E・HERO エアーマン 風属性/星4/戦士族/攻撃力1800/守備力300
 このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、次の効果から1つを選択して発動する事が出来る。
 ・自分フィールド上に存在するこのカードを除く「HERO」と名のつくカードの数だけ、魔法・罠カードを破壊する事が出来る。
 ・自分のデッキから「HERO」と名のつくモンスター1枚を手札に銜える事が出来る。

 E-HERO マリシャス・エッジ 地属性/星7/悪魔族/攻撃力2600/守備力1800
 相手フィールド上にモンスターが存在する時、このカードは生け贄1体で召喚出来る。
 相手守備モンスターを攻撃した際、攻撃力が守備力を上回っている分、戦闘ダメージを与える。

「………随分と差を開けられたな」
 高取晋佑が、あたしの前で急に口を開いた。
 そりゃそうだ。何せ、今、彼はフィールドががら空きなのだから。
「まぁ、いい。俺のターン。ドロー」

「魔法カード、心変わりを発動!」

 心変わり 通常魔法
 相手モンスター1体のコントロールをそのターンのエンドフェイズまで得る。

「俺はお前のフィールドのマリシャス・エッジのコントロールを奪う。通常召喚がまだだな……白銀の鋼騎士ホワイトナイトを守備表示で召喚!」

 白銀の鋼騎士ホワイトナイト 光属性/星4/機械族/攻撃力1500/守備力2000
 このカードの召喚・特殊召喚に成功した際、「紅蓮の鋼騎士フレイムナイト」をデッキから手札に銜える事が出来る。
 このカードは1ターンのバトルフェイズ時、2回攻撃をする事が出来る。

「……ホワイトナイトの効果により、俺は紅蓮の鋼騎士フレイムナイトを手札に加える……」

 紅蓮の鋼騎士フレイムナイト 光属性/星4/機械族/攻撃力2100/守備力1000
 このカードの召喚・特殊召喚に成功した際、「蒼刃の鋼騎士セイバーナイト」をデッキから手札に銜える事が出来る。
 戦闘でモンスターを破壊した後、そのターンのエンドフェイズ時に守備表示になる。
 次の自分ターンのスタンバイフェイズまで表示型式を変更出来ない。

「………バトルだ! マリシャス・エッジでエアーマンを攻撃! ニードル・バースト!」
「……あたしのマリシャス・エッジに攻撃されるなんて……でも、これ位!」

 滝野理恵:LP4000→3200

「……まだ、大差はある、か………カードを2枚伏せて、ターンエンド」
「あたしのターン! ドロー!」
 今、フィールドにはマリシャス・エッジがいる。
 焦らなくても良い。慎重に戦う事だ。
「永続魔法。未来融合−フューチャー・フュージョンを発動!」

 未来融合−フューチャー・フュージョン 永続魔法
 自分のデッキから融合モンスターによって決められたカードを墓地に送り、融合デッキから融合モンスターを1体選択する。
 発動後2回目のスタンバイフェイズ時に選択した融合モンスター1体を特殊召喚する。(この特殊召喚は融合召喚扱いとする)
 このカードが破壊された時、召喚した融合モンスターも破壊される。

「融合デッキから、あたしはダーク・ブライトマンを選択!」

 E・HERO ダーク・ブライトマン 闇属性/星6/戦士族/攻撃力2000/守備力1000/融合モンスター
 「E・HERO ネクロダークマン」+「E・HERO スパークマン」
 このカードは融合召喚でしか特殊召喚出来ない。
 このカードは守備モンスターを攻撃した時、攻撃力が相手モンスターの守備力を上回っている分だけ、ダメージを与える。
 このカードは攻撃した場合、ダメージステップ終了後に守備表示となる。
 このカードが破壊された時、相手フィールド上のモンスター1体を破壊する。

 ここでダーク・ブライトマンを召喚出来れば、カオス・アークデビルをダーク・コーリングで召喚出来る。
 だが、既にフィールドのマリシャス・エッジで攻撃すればライフを風前の灯に出来るのだし……。
「(でも、何か気になるのよね……)」
 珍しい。このあたしが、そんな不安になるなんて。
 だけど、踏みださなきゃデュエルは続かない。
「……E・HERO スパークマンを召喚!」

 E・HERO スパークマン 光属性/星4/戦士族/攻撃力1600/守備力1800

「……バトル! マリシャス・エッジで、ホワイトナイトを攻撃!」
「リバース罠、ドレインシールドを発動!」

 ドレインシールド 通常罠
 相手モンスター1体の攻撃を無効にし、その数値分だけライフを回復する。

 高取晋佑:LP1400→4000

「………カードを1枚伏せて、ターンエンド」
 まさかドレインシールドを伏せているとは。
 ライフ差が逆転された……まだ盛り返せる範囲ではあるけれど。
「俺のターン! ドロー!」
 手札を確認し、高取晋佑は少しだけ微笑んだ。
「白銀の鋼騎士ホワイトナイトを生け贄に捧げ……人造人間サイコ・ショッカーを召喚!」

 人造人間−サイコ・ショッカー 闇属性/星6/機械族/攻撃力2400/守備力1500
 このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、罠カードは発動出来ず、全フィールド上の罠カードの効果は無効になる。

「サイコ・ショッカー。古きは前回のバトル・シティに俺の師匠の対戦相手でもあったエセエスパーの切り札として使用され、その後、対リシド、
 対マリク戦などでも使用され、罠カードを封じ、レベル5・6の上級モンスターとしては平均ラインの攻撃力2400を有した凶悪にして最強ランク
 のゲームエンドメーカー、そしてこのカードの存在そのものがデッキに投入される罠カードの数を少なくさせるという風潮を生み出し、罠カード
 を4種類しか入れませんなんてデッキなど最早当たり前と化し、禁止カード化したサーチカード、黒き森のウィッチでサーチ出来るギリギリの守
 備力を持ち、原作じゃ生け贄2体なのにレベル1つ下がってて生け贄1体で召喚出来るのは良いけど長らく制限カードの位置に留まってたのはど
 うなの? みたいな? ちなみに最近は王宮のお触れとホルスの黒炎竜を併設したデッキの使用者が多いらしいけどホルスとサイコショッカー並
 べれば同じ事出来るんだよね? 一応、魔法・罠は完全ロック出来るし? だけどモンスター効果にどっちも耐性無いんだよね。そう言えば、最
 近サイコ流とかいう流派が新しい人造人間カードを使ってたけどさ、ぶっちゃけサイコ・ロードかっこ悪いとか思ったのは作者だけの秘密にして
 とでも言いたくなったよ、だけど一応パックに収録されて無事にOCGになるってのはおめでとうだよね。て、いうか今さら考えてみると電脳増
 幅器を装備させなければサイコ・ショッカーって使いにくい1面あるよね!? だって自分も罠カード使えなくなるんだしさ! だけどサイコ・
 ショッカーを投入しているデッキを使っている人が、電脳増幅器を発動している時なんて俺は見た事ありません!」

 サイコ・ショッカーに関して延々と熱く語る高取晋佑。
 こういう所は貴明や雄二と似ているのかも知れない。
「行くぞ、サイコ・ショッカー! その火花男……じゃなくてスパークマンを攻撃! 電脳エナジーショック!」

 滝野理恵:LP3200→2400

「サイコ・ショッカーがいる限り、罠カードは発動出来ない……ターンエンドだ」
「あたしのターン……」
 結構ライフを削られた。さっきはその逆だったのに。
 まるで……。
「(まるで、魔術にかかったみたいに……)」
 そう言えば、とあたしは思い出した。
 高取晋佑からは最初に見た時から何か変だとは思っていたけれど。
「(デュエリストっぽくないんだよね……)」
 デュエリストというより、策士。それも、鬼のように冷徹な。

 だけど、デュエリストなら解る事だがデュエリストと言えば様々な人間がいる。
 ああいうタイプがいたって何らおかしくはない。

「サイコ・ショッカーがいる限り、罠カードを発動する事は出来ない」
「ああ、その通り。何か対策でも?」
「…………戦闘破壊すれば良いんだよ。あたしは、手札からE-HERO ヘル・ゲイナーを召喚!」

 E-HERO ヘル・ゲイナー 地属性/星4/悪魔族/攻撃力1600/守備力0
 自分のターンのメインフェイズ1にこのカードをゲームから除外する事で、
 自分フィールド上に表側表示で存在する悪魔族モンスター1体は1度のバトルフェイズ中に2回攻撃する事ができる。
 この効果を使用した場合、このカードは2回目の自分のスタンバイフェイズ時に表側攻撃表示で自分フィールド上に特殊召喚される。

「ヘル・ゲイナーの効果により、自身をゲームから除外する事で、自分フィールド上の悪魔族モンスター1体は2回攻撃が可能!
 あたしは勿論、マリシャス・エッジを選択するよ!」
「マリシャス・エッジに2回攻撃……貫通効果と併せて大幅なダメージを見込めるか……」
 高取晋佑が呟く。
 確かに、それもそうだ。大きなダメージは相手を減退させる。
「バトルフェイズに移行! マリシャス・エッジで、まずはサイコ・ショッカーを攻撃!」

 高取晋佑:LP4000→3800

「マリシャス・エッジの、2回目の攻撃! ホワイトナイトを撃破……」
「サイコ・ショッカーは破壊された! 故に、リバース罠、聖なるバリア−ミラーフォース−を発動!」

 聖なるバリア−ミラーフォース− 通常罠
 相手の攻撃宣言時に発動可能。
 相手フィールド上に表側攻撃表示で存在するモンスターを全て破壊する。

「なっ……!」
 信じられない。サイコ・ショッカーを出しているから罠カードを伏せていないと思った。
 まさか、サイコ・ショッカーが戦闘破壊されると予測していた……?
 在りえるかも知れない。マリシャス・エッジは3ターン目からフィールドに存在していた。
 だとすると、マリシャス・エッジを除去する為にサイコ・ショッカーを棄てた……?
「信じられない……そんな、やり方があるなんて…………」
「デュエルの駆け引きとは、そういうものさ」
 高取晋佑が冷静に呟く。
「カードを2枚伏せて、ターンエンド」
 フィールドにモンスターはいない。
 LP2400を削り取られれば負ける。1ターンでそれを呼ぶのは………決して容易ではないが。
「俺のターン。ドロー!」

「リバース罠、リビングデットの呼び声を発動! 墓地の、サイコ・ショッカーを特殊召喚する!」

 リビングデッドの呼び声 永続罠
 墓地に存在するモンスター1体を選択し、自分のフィールド上に攻撃表示で特殊召喚する。
 このカードがフィールド上で破壊された時、特殊召喚されたモンスターも墓地に送られる。

 人造人間−サイコ・ショッカー 闇属性/星6/機械族/攻撃力2400/守備力1500
 このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、罠カードは発動出来ず、全フィールド上の罠カードの効果は無効になる。

「サイコ・ショッカーの効果で、リビングデッドの効果は打ち消される……リビングデッドが破壊されても、サイコ・ショッカーは場に残る訳さ。
 完全蘇生、制限カードであるリビングデッドは使いどころが難しいが、こういう時に使うのが正しいんだろうね」
 高取晋佑はニヤリと笑い、サイコ・ショッカーとあたしを何度も見比べる。
「サイコ・ショッカーの攻撃力は2400。君の残りライフも2400。ピッタリだね」
「攻撃……するの?」
 あたしは聞いてみる。
 実は、伏せてあるカードは早すぎた埋葬と攻撃の無力化。
 早すぎた埋葬でマリシャス・エッジを蘇生出来れば戦えるが、忘れちゃいけないのは早すぎた埋葬は装備魔法。相手ターンに発動出来ない。
 そして攻撃の無力化は罠カード。サイコ・ショッカーによって効果は封じられる。
「攻撃……しない! ここは、しない!」
 どんなオチの付け方だろう。
「ターンエンド」
「………あたしのターン。ドロー!」
 このターンは凌ぎきった。そして、2回目のスタンバイフェイズ。
「……未来融合−フューチャー・フュージョンの効果で、選択していたダーク・ブライトマンをフィールドへ!」

 未来融合−フューチャー・フュージョン 永続魔法
 自分のデッキから融合モンスターによって決められたカードを墓地に送り、融合デッキから融合モンスターを1体選択する。
 発動後2回目のスタンバイフェイズ時に選択した融合モンスター1体を特殊召喚する。(この特殊召喚は融合召喚扱いとする)
 このカードが破壊された時、召喚した融合モンスターも破壊される。

 E・HERO ダーク・ブライトマン 闇属性/星6/戦士族/攻撃力2000/守備力1000/融合モンスター
 「E・HERO ネクロダークマン」+「E・HERO スパークマン」
 このカードは融合召喚でしか特殊召喚出来ない。
 このカードは守備モンスターを攻撃した時、攻撃力が相手モンスターの守備力を上回っている分だけ、ダメージを与える。
 このカードは攻撃した場合、ダメージステップ終了後に守備表示となる。
 このカードが破壊された時、相手フィールド上のモンスター1体を破壊する。

「………ダーク・ブライトマンがフィールドに来た……」
 そう、ここは。手札にある、あのカードを使うべき時がきた。
「ずっと……待ってたよ………」
 あたしは呟く。

 心の奥底で、あたしはずっと憧れていた。ずっと待ち望んでいた。
 あたしだけのHEROでいてと、ずっと願っていた。

 だから、其れを喚ぶ。
 最強の、邪悪なる英雄を。

「魔法カード、ダーク・フュージョンを発動!」

 ダーク・フュージョン 通常魔法
 手札またはフィールドから融合モンスターカードによって決められたモンスターを墓地に送り、
 悪魔族の融合モンスター1体を融合デッキから特殊召喚する。
 この効果で特殊召喚したモンスターは相手の魔法・罠・効果モンスターの効果の対象にならない。
 この召喚は融合召喚扱いとする。

「手札のブリザード・エッジと、フィールドのダーク・ブライトマンを融合!」

 E-HERO ブリザード・エッジ 水属性/星4/悪魔族/攻撃力1700/守備力1400
 このカードは特殊召喚扱いで召喚する事が出来る。
 このカードが戦闘で破壊された時、フィールド上の魔法・罠カードを1枚破壊する。

「来て! 最強にして、最狂のE-HERO! E-HERO カオス・アークデビル!」



《第23話:共鳴》

 滝野理恵:LP2400 高取晋佑:LP3800

「来て! 最強にして、最狂のE-HERO! E-HERO カオス・アークデビル!」

 E-HERO カオス・アークデビル 闇属性/星9/悪魔族/攻撃力3500/守備力2500/融合モンスター
 「E-HERO ブリザード・エッジ」+「E・HERO ダーク・ブライトマン」
 このカードは「ダーク・フュージョン」による効果でしか特殊召喚出来ない。
 このカードが守備モンスターを攻撃した時、攻撃力が守備力を上回っている分だけ、ダメージを与える。
 手札を1枚捨てる事で、相手フィールド上の攻撃表示モンスター1体を破壊する。
 このカードが戦闘で破壊され墓地に存在する時、ドローしたモンスターをお互いに確認する事でそのモンスターを特殊召喚出来る。
 この効果はデュエル中に1度しか使用する事が出来ない。

「カオス・アークデビルの攻撃……………サイコ・ショッカーには退場してもらうよ? 流石に、もう復活してくれはしないだろうからね」
 蘇生カードを大量に積む事は決して悪い事ではない。
 問題なのはそのコストと使い方だ。幾ら使った所でカウンターされればお終いなのだから。
「ダークネス・ストライク!」

 高取晋佑:LP3800→2700

 サイコ・ショッカーがフィールドから消える。
 フィールドに残っているのは、あたしのカオス・アークデビルと高取晋佑のホワイトナイトだ。

 白銀の鋼騎士ホワイトナイト 光属性/星4/機械族/攻撃力1500/守備力2000
 このカードの召喚・特殊召喚に成功した際、「紅蓮の鋼騎士フレイムナイト」をデッキから手札に銜える事が出来る。
 このカードは1ターンのバトルフェイズ時、2回攻撃をする事が出来る。

「(次のターンのスタンバイフェイズに、ヘル・ゲイナーがフィールドに戻ってくる……)」
 攻撃力は充分。このまま行けば、負ける心配は無いだろう。
 あたしがそう思った時、ふと気付いた。

 待て、と。
 何か変だ。こいつはあっさりと引き下がらない。そんな気がする。
 そんな妄想は、さっさと振り払えば良いのに。
「ターン……エンド」
「……俺のターン。ドロー!」

 高取晋佑は、手札を確認し、ゆっくりと口を開いた。
「紅蓮の鋼騎士フレイムナイトを手札から召喚!」

 紅蓮の鋼騎士フレイムナイト 光属性/星4/機械族/攻撃力2100/守備力1000
 このカードの召喚・特殊召喚に成功した際、「蒼刃の鋼騎士セイバーナイト」をデッキから手札に銜える事が出来る。
 戦闘でモンスターを破壊した後、そのターンのエンドフェイズ時に守備表示になる。
 次の自分ターンのスタンバイフェイズまで表示型式を変更出来ない。

「フレイムナイトの効果により、デッキからセイバーナイトを手札に加える。フィールドと、手札に3体の鋼騎士が揃った……」
 蒼刃の鋼騎士セイバーナイト、白銀の鋼騎士ホワイトナイト、紅蓮の鋼騎士フレイムナイト。
 3体が、揃う。そこに、何かがある。
「3体の鋼騎士を墓地に送り………このモンスターを特殊召喚する! 出でよ! 機動鋼鉄騎士ギアナイト!」

 機動鋼鉄騎士ギアナイト 光属性/星10/機械族/攻撃力4000/守備力4000
 このカードは通常召喚出来ない。自分のフィールドまたは手札の「鋼騎士」と名のつくモンスター3体を墓地に送って召喚する。
 このカードは攻撃力を1000ポイント下げる事で、相手の魔法・罠カードの効果を無効化する事が出来る。
 相手モンスターを戦闘破壊する度に、このカードの攻撃力は300ポイントずつアップする。
 このカードがフィールド上に存在する限り、このカードのコントローラーはモンスターを召喚出来ない。

 蒼い刃の鋼騎士と、紅い炎を操る鋼騎士、そして白銀の美しい鋼騎士が、合体する。
 3つの力を1つに。最強の鋼の騎士に、合体する。

「攻撃力4000! 見よ、この勇姿! 機械族のモンスターとして相応しい姿だろう? お前に引導を渡す、俺の切り札の1つだ。クク……」
 高取晋佑はそこまで言い放って笑うと、あたしに手を向けた。
「さぁ、ギアナイト! 遠慮なく攻撃してやれ! その悪魔を地獄へ送り還してやれ!」
「そうはさせない! 速攻魔法! エネミーコントローラーを発動!」

 エネミーコントローラー 速攻魔法
 次の効果から1つを選択して発動する。
 ・相手フィールド上の表側表示モンスター1体の表示形式を変更する。
 ・自分フィールド上のモンスター1体を生け贄に捧げる。
  相手フィールド上の表側表示モンスター1体を選択する。
  発動ターンのエンドフェイズまで、選択したカードのコントロールを得る。

「エネミーコントローラーの効果で、ギアナイトは守備表示になってもらうよ!」
「何だとッ………っく、まぁいい……」
 このターンはかろうじて凌いだけれど……ギアナイトの効果のお陰で、ギアナイトが除去されない限り新しくモンスター召喚は出来ない。
 今は守りに入って、すぐに攻めに転じる事が出来れば、勝てる。
「カードを1枚伏せて、ターエンドだ」
「あたしのターン! ドロー!」
 罠カードを封じるサイコ・ショッカーはもういない。だとすると、勝てなくはないだろう。
「……除外されていたヘル・ゲイナーが帰還するよ」

 E-HERO ヘル・ゲイナー 地属性/星4/悪魔族/攻撃力1600/守備力0
 自分のターンのメインフェイズ1にこのカードをゲームから除外する事で、
 自分フィールド上に表側表示で存在する悪魔族モンスター1体は1度のバトルフェイズ中に2回攻撃する事ができる。
 この効果を使用した場合、このカードは2回目の自分のスタンバイフェイズ時に表側攻撃表示で自分フィールド上に特殊召喚される。

「ヘル・ゲイナー。カオス・アークデビルを守備表示に変更し……ターンエンド」
 今は何もする事が無いのが辛いというか。
「俺のターン。ドロー」
 高取晋佑のターン。
 静寂が流れる中、彼はまだ思案していた。つーか、長いって。

 その時、

 何処かで、鳴き声のような咆哮が響き渡った。






「………何だ?」
 俺は、思わず目を疑った。
 デュエルディスクから、黒い霧が溢れ出していた。
 まるで、全てを覆い尽くす闇のように。
「冥府の神竜………」
 こんな事をするなんて、俺のデッキの中では神竜以外に在りえない。
「………………」
 俺の脳裏で、竜の咆哮が響いた。
 イメージが浮かぶ。
 漆黒の、冥府の神竜が不安げに何度となく叫び声を上げる。
 他の誰にも聞こえない。俺だけに聞こえる、竜の咆哮。

「何だってんだよ、おい……」
 そのうるささに、俺は思わず耳を塞いだ。
 だが、それはすぐに無駄だと解った。竜の咆哮は耳を塞いでも聞こえたからだ。
「………雄二?」
 貴明が、俺の異変に気付いたのか、俺の方を見ていた。
 だがその時、貴明にも聞こえているのか煩げに視線を別の方角に向ける。
「くそ、この鳴き声みたいなのをどうにかして欲しいぜ。うるさくて適わん」
「お前も……聞こえるのか?」
「ああ。物凄く煩く聞こえてるぜ」
 俺が耳から手を離すと、咆哮はまだ続いていた。
「耳を塞いでも聞こえてくる。何なんだこりゃ」
「わからねぇ。だけど、3枚の神竜が別々の持ち主でこんな近くにいるんだ。神竜同士で何か起こったんじゃないのか」
 貴明は仮説を言い放つと耳を塞ぎ、すぐに無駄だと解ったのか手を離した。
「黙らなくてもいいから聞こえないようにしてくれると有難いよな」

 その時、俺の視界が反転した。

 時間が止まったかのように、全ての動きが止まる。
 そして、視界は全て、白と黒だけに染められる。モノクロの世界で、カラーがあるのは俺だけ。
 いや、1つだけ違った。

 白い羽根が舞い、目の前に誰かが降りてきた。
 サファイアのようなブルーの髪。エメラルドのような瞳。背中の純白の2枚の翼。
 その姿は、見覚えが有った―――――。

「フェイト・ベル」
 俺のデッキに眠る守護天使の名を喚ぶと、フェイト・ベルは俺の前まで舞い降りてきた。
「この咆哮が、嫌なのですか? マスター」
「ああ。どうにもこういう叫び声は聞くのが嫌いなんだよな」
「マスター……でも、これはよく聞いて見て下さい。この声は……神竜の声だと解っていますよね?」
「当たり前だ。こんな真似するのは神竜以外の何がいる。邪神は夜行さんが破り棄てたし、幻神は決闘王の魂ごとエジプトに還っただろう」
 いまさら何を言うのか、と俺が言いかけた時、フェイト・ベルは首を振った。
「そうですけど……この声は、哀しみの声………何故、そうだか解りますか?」
「………そうだな……実に面白い………」
 どこぞの大学教授よろしく実に面白いと言ってみる。
 これで白衣着て眼鏡掛ければ完璧だ。モノマネ大賞にだって出れるぞ。
「………それで、答えは?」
 しばらく考えていると、フェイト・ベルが声をかけてきた。
 そこで俺は少しばかりタメを作ってから答えた。
「ぜんぜんわかんね」
 直後、俺の後頭部に巨大な鐘が降ってきた。
「ぶごぉっ!?」
 意識が飛びかけ、少しだけフラフラする。
 いきなり何をしやがるんだ、この守護天使は。守護天使にこんな教育したのは誰だ。ルイン様か? ルイン様だな? この破滅の女神めぇぇぇぇっ!
「いい加減にしなさい!」
「ぐっはぁ!?」
 続いて、もう1発、今度は杖が降り下ろされた。
 俺を杖で殴るなんて真似をするのはルイン様だけだ。いったい何時からいたのやら。
「何をしやがる」
「何をしやがる、ではありません! もう少し真面目に考えなさい!」
 ルイン様は俺の頭を杖でコンコン小突き始めた。
 天使の癖に全然優しくない。何なんだよ、この人達はもう。
「いいですか、そもそも貴方にフェイト・ベルを渡したのは神竜に関しての事なんですからね! そんな貴方がそれじゃダメですよ!」
「……聞きたいんだけど、何で神竜がルイン様に関わるんだ?」
 俺の疑問に、ルイン様は少しだけため息をつき、そして口を開いた。

「そもそもデュエル・モンスターズというカードゲームそのものが貴方がたのいる世界と私達の住む異世界を結ぶキーであり、カードゲームそのもので
 強大な力を持っている者は実際にも強大な力を持っている。その理由はその精霊の強さがカードの強さに比例している訳で、カードゲームのデザイナ
 ー達は無意識のうちに精霊の強さをカードの強さに変換してデザインしているのです。解ります? つまり、三幻神や三邪神、三神竜といった神級の
 カードは実際にもトンでもない力を持っている訳で、最近三幻神や三邪神の問題がやっと落ち着いたかと思えば神竜が盗まれて。今、私達の世界でそ
 の影響力を強めているのです! このままでは世界のバランスが崩れてしまうので神竜の暴走を止めて欲しいのです! 解りました?」

 えーと……話を要約すると。
「強いカード=強い奴で、神クラスはトンでもない力があって、こっちの世界で悪用されるとそっちの世界で大暴れするから、それを止めろって事か?」
「……………まぁ、話を要約し過ぎている気がしますけどそうですね」
 なるほどな。
 しかし俺はいつの間にそんな重大な事に巻き込まれたのか。
「そ、それは……」
「何か理由でもあるのか?」
「禁則事項なんです」
 誤魔化されてしまった。まぁ、いいさ。そのうち教えてくれるだろう、多分。

「………まぁ、いいさ。それより……」
「何ですか、マスター?」
 俺がフェイト・ベルを振り向くと、彼女はちょこんと姿勢を上げた。
「神竜は、どうしてこんなやかましい雄叫びをあげるんだ?」
「……神竜同士は、強力なカード同士。彼らが激突すれば、痛み分けになる事は確実……それを憂いているのです」
 なるほど。ようやく納得出来たぜ。
 しかしそれはそれで辛い気がするな。俺は勝ち抜けば嫌でも晋佑やゼノンと戦う羽目になるんだから。
「そうですね……でも、だから私がいます、マスター」
 フェイト・ベルは胸を張った。
 俺としては不安な気がするが……。
「俺個人としてはエリアたんにチェンジして欲しい」
「彼女には別の人がいるから無理です」
 ルイン様は俺の言葉にきっぱりと答えた。
 じゃあルイン様。その別の人を教えてくれ。今から俺が殺りに行くから。
「……宍戸貴明ですが、何か?」
 貴明、俺はお前がそんな奴だと思わなかったぜ……。裏切り者。





 船内。
 丸藤亮と、ゼノン・アンデルセンのデュエルは続いていた。

 丸藤亮:LP1300 ゼノン・アンデルセン:LP1600

「………随分と、追い込まれたんじゃないか? カイザー?」
 十代の問いに、亮は煩げに背後を振り返った。
「この俺がこんな奴に負ける筈は無いだろう?」
「さっき負けてた癖に」
「見てたのか、お前……」

 亮のフィールドには攻撃力2400のキメラテック・オーバー・ドラゴン。
 それに対して、ゼノンのフィールドには青氷の白夜龍のみだ。

 キメラテック・オーバー・ドラゴン 闇属性/星9/機械族/攻撃力?/守備力?/融合モンスター
 「サイバー・ドラゴン」+機械族モンスター1体以上
 このモンスターは融合召喚でしか特殊召喚出来ない。
 このカードの特殊召喚に成功した時、自分フィールド上のこのカード以外のカードを全て墓地に送る。
 このカードの元々の攻撃力と守備力は融合素材にしたモンスターの数×800となる。
 このカードは融合素材にしたモンスターの数だけ、相手モンスターを攻撃出来る。

 キメラテック・オーバー・ドラゴン 攻撃力0→2400

 青氷の白夜龍 水属性/星8/ドラゴン族/攻撃力3000/守備力2500
 このカードを対象とする魔法または罠カードの発動を無効にし、破壊する。
 自分フィールド上に表側表示で存在するモンスターが攻撃対象に選択された時、自分フィールド上の魔法または罠カードを墓地に送る事で、
 攻撃対象をこのカードに変更する事が出来る。

「…………両者共に、実力は伯仲、か……」
 十代が呟く間にも、両者はまだ思案中で、動きもしない。
「………なぁ、アンタ」
 ゼノンが、ふと十代に視線を向けた。
「……なんだ?」
「どこまで知ってる? デュアル・ポイズンについて」
 十代は意外そうにゼノンに視線を送った。
 その答えは予想していなかったのか、目を少しだけ白黒させながら、だ。
「何で、そんな事を聞くんだ?」
「神竜の存在を知るものは少ない。それなのに、お前は知っている。それが理由だ」
「答える義務はないだろう?」
「このオレが聞いてるんだ、別に損はない。あんな奴等に心服なんてするか」
 ゼノンがそこまで答えた時、十代はため息をついた。

 そして口を開きかけたその時―――――。

 船を、激震が襲った。



《第24話:深淵の闇》

 滝野理恵:LP2400 高取晋佑:LP2700

 E-HERO カオス・アークデビル 闇属性/星9/悪魔族/攻撃力3500/守備力2500/融合モンスター
 「E-HERO ブリザード・エッジ」+「E・HERO ダーク・ブライトマン」
 このカードは「ダーク・フュージョン」による効果でしか特殊召喚出来ない。
 このカードが守備モンスターを攻撃した時、攻撃力が守備力を上回っている分だけ、ダメージを与える。
 手札を1枚捨てる事で、相手フィールド上の攻撃表示モンスター1体を破壊する。
 このカードが戦闘で破壊され墓地に存在する時、ドローしたモンスターをお互いに確認する事でそのモンスターを特殊召喚出来る。
 この効果はデュエル中に1度しか使用する事が出来ない。

 E-HERO ヘル・ゲイナー 地属性/星4/悪魔族/攻撃力1600/守備力0
 自分のターンのメインフェイズ1にこのカードをゲームから除外する事で、
 自分フィールド上に表側表示で存在する悪魔族モンスター1体は1度のバトルフェイズ中に2回攻撃する事ができる。
 この効果を使用した場合、このカードは2回目の自分のスタンバイフェイズ時に表側攻撃表示で自分フィールド上に特殊召喚される。

 今、あたしのフィールドには2体のE-HEROが守備表示で存在する。
 それに対して、高取のフィールドには攻撃力4000のギアナイトが存在する。

 機動鋼鉄騎士ギアナイト 光属性/星10/機械族/攻撃力4000/守備力4000
 このカードは通常召喚出来ない。自分のフィールドまたは手札の「鋼騎士」と名のつくモンスター3体を墓地に送って召喚する。
 このカードは攻撃力を1000ポイント下げる事で、相手の魔法・罠カードの効果を無効化する事が出来る。
 相手モンスターを戦闘破壊する度に、このカードの攻撃力は300ポイントずつアップする。
 このカードがフィールド上に存在する限り、このカードのコントローラーはモンスターを召喚出来ない。

「ギアナイトが存在する限り、俺は新たにモンスターを召喚出来ない。だから、潰させて貰うぜ……ギアナイト! カオス・アークデビルを粉砕しろ!」
 高取晋佑の宣言と共に、ギアナイトの全身の砲門がカオス・アークデビルに向く。
 今、あたしのフィールドにリバースカードはない。
 攻撃から―――――守ってやる事も、蘇生する事も不可、か。
「ゴメンね、折角喚んだのにね」
 心の中でそう呟くと同時に、カオス・アークデビルがフィールドから姿を消した。
 守備表示なのでダメージが無いのが幸いだが。

 機動鋼鉄騎士ギアナイト 攻撃力4000→4300

 攻撃力の増大。
 次のドローで何が来るか解らないけれど、あたしは守備モンスターを出すだけで精一杯だろう。
「カードを1枚伏せて、ターンエンドだ」
「あたしのターン。ドロー」
 今、フィールドにはヘル・ゲイナーのみ。守備モンスターを1体でも多く欲しい位だけれど……。ん?
「墓地のカオス・アークデビルの効果を発動! このカードが墓地に存在する時、デュエル中に1度だけ、お互いにドローしたモンスターを確認する事で、
 そのモンスターをフィールド上に特殊召喚出来る! あたしは、その効果でE-HERO エビル・ドラグーンを特殊召喚するよ!」

 E-HERO カオス・アークデビル 闇属性/星9/悪魔族/攻撃力3500/守備力2500/融合モンスター
 「E-HERO ブリザード・エッジ」+「E・HERO ダーク・ブライトマン」
 このカードは「ダーク・フュージョン」による効果でしか特殊召喚出来ない。
 このカードが守備モンスターを攻撃した時、攻撃力が守備力を上回っている分だけ、ダメージを与える。
 手札を1枚捨てる事で、相手フィールド上の攻撃表示モンスター1体を破壊する。
 このカードが戦闘で破壊され墓地に存在する時、ドローしたモンスターをお互いに確認する事でそのモンスターを特殊召喚出来る。
 この効果はデュエル中に1度しか使用する事が出来ない。

 E-HERO エビル・ドラグーン 風属性/星6/悪魔族/攻撃力2400/守備力1300
 このカードがフィールド上に召喚された時、墓地に存在する魔法または罠カードを2枚除外する事で、
 デッキから「E-HERO プロミネンス・ヴァルキリー」を特殊召喚する。
 このカードは相手フィールド上のモンスターの数×200ポイント、攻撃力がアップする。

 E-HERO エビル・ドラグーン。
 邪悪な竜騎士と呼ばれるその竜騎士は紅の竜に跨がり、姿を現した。
 竜騎士は頭上で槍を1振りすると、ギアナイトを睨みつけた。
 もっとも、機械であるギアナイトには効果はないようだが。

「エビル・ドラグーンの効果………墓地の魔法または罠カードを2枚除外する事でデッキからプロミネンス・ヴァルキリーを召喚する……」
 あたしはそう宣言しかけた時、高取が動いた。 「そうはさせるか! リバース罠、天罰を発動!」

 天罰 カウンター罠
 手札を1枚捨てる。効果モンスターの効果とその発動を無効にし、破壊する。

「この効果で、エビル・ドラグーンの効果は無効だ!」
「くっ……………ターン……エンド……」
 何も出来ない。このままだと延々と攻められ続けるのは確実。
 状況を打開するには何か引ければ良いのに……。
「………既に、勝機は決し始めたか…………お前如きは、不運だったな。神竜を使うまでもない……俺のターン!」

「ギアナイトの攻撃! ヘル・ゲイナーを抹殺!」

 機動鋼鉄騎士ギアナイト 攻撃力4300→4600

 ギアナイトの斬撃がヘル・ゲイナーを粉砕する。
 あたしのフィールドのモンスターが全て消えた。次のターンにダイレクトアタックされれば、負ける。
 つまり、あたしは次のあたしのターンで壁を揃えるか、ギアナイトを破壊しなければいけない。
 どうする、あたし………どうする……。
「俺はターンエンドだ」
「…………………」
 サレンダーしようか、迷った。
 だけど……。

『まだ終わっちゃいないだろ。タイムリミットまで、諦めんなよ! チャンスがある限り、戦い続けるのがデュエリストだぜ!』

「(チャンスが……ある……限り…………まだ、終わってなんかない……)」
 そう。負けたと思えば、その時点でデュエルは終わる。
 相手にだけじゃなく、自分にも負けて。
 だけど、あたしはまだ……立ってる……まだ、やれる。

 貴明の言葉を思いだす。
 そう、目の前にいるのが何だ。あたしは、諦められない。最後まで、戦うんだ!

「諦めない事。信じ続ける事。最後まで戦う事! それなら、きっと答えてくれるって解ったから……あたしのターン!」

「カードを1枚セット。そして、ターンエンド!」
「モンスターは出さないのか?」
 ドローしたカードをそのまま伏せてターンを終了したあたしに、高取がそう声を掛けてきた。
「うん」
「そうか………俺のターン」
「リバース罠! リビングデッドの呼び声を発動!」

 リビングデッドの呼び声 永続罠
 自分の墓地からモンスター1体を選択し、自分フィールド上に攻撃表示で特殊召喚する。
 このカードで特殊召喚したモンスターが墓地へ送られた時、このカードを破壊する。
 フィールド上のこのカードが破壊された時、この効果で特殊召喚したモンスターを墓地に送る。

「この効果で、あたしは墓地のマリシャス・エッジを選択して、特殊召喚!」

 E-HERO マリシャス・エッジ 地属性/星7/悪魔族/攻撃力2600/守備力1800
 相手フィールド上にモンスターが存在する時、このカードは生け贄1体で召喚出来る。
 相手守備モンスターを攻撃した際、攻撃力が守備力を上回っている分、戦闘ダメージを与える。

「マリシャス・エッジの攻撃力は2600! バカめ、2000も攻撃力が足りないぞ! バトルだ! やってしまえ、ギアナイト!」

 高取は自信たっぷりに、ギアナイトに攻撃命令を下した。
 だけど高取君。残念だったね。あたしの思う壺だよ。
「リバース、速攻魔法、発動! HERO'S コネクション!」

 HERO'S コネクション 速攻魔法
 手札を全て捨てて、フィールド上に「HERO」と名のつくモンスターが存在する時に発動可能。
 自分フィールド上のモンスター1体を選択し、墓地に存在する「HERO」と名のつくモンスターの数×300ポイント、攻撃力をアップさせる。
 このターンのエンドフェイズに攻撃力は元に戻る。

 マリシャス・エッジ 攻撃力2600→5300

「こ、こ、こ………攻撃力5300ぅぅぅぅぅぅぅっ!!!!!?」
 流石のこの増量には、高取晋佑も参ったという事か。
「ふっ、甘すぎるのよ。行け、マリシャス・エッジ! 遠慮なく迎撃してやりなさい!」

 高取晋佑:LP2700→2000

 ギアナイトがマリシャス・エッジの反撃を受けて、消え去った。
 まさか攻撃力4600が返り討ちに遭うなんて思っていなかったに違いない。
「くそっ………」
「これで、ギアナイトは消えたけれど、次はあたしのターン……耐えきれる? 攻撃に?」
 あたしがそう呟いた時、ふと気付いた。

 フィールドに、3体のモンスター……?

「リバース罠、空中分解を発動した……」

 空中分解 通常罠
 フィールド上に存在するレベル5以上の機械族モンスターが戦闘で破壊された時に発動可能。
 そのモンスターを召喚する際に生け贄に捧げた、もしくはコストとして墓地に送ったモンスターを可能な限り特殊召喚する。
 このターンのエンドフェイズ時、自分は1000ライフポイントを失う。

「この効果で、墓地のセイバーナイト、フレイムナイト、ホワイトナイトを特殊召喚させて貰ったぜ」

 蒼刃の鋼騎士セイバーナイト 光属性/星4/機械族/攻撃力1800/守備力1500
 このカードの召喚・特殊召喚に成功した時、デッキから「白銀の鋼騎士ホワイトナイト」を手札に銜える事が出来る。
 相手守備モンスターを攻撃した時、攻撃力が相手の守備力を上回っている分、戦闘ダメージを与える。

 紅蓮の鋼騎士フレイムナイト 光属性/星4/機械族/攻撃力2100/守備力1000
 このカードの召喚・特殊召喚に成功した際、「蒼刃の鋼騎士セイバーナイト」をデッキから手札に銜える事が出来る。
 戦闘でモンスターを破壊した後、そのターンのエンドフェイズ時に守備表示になる。
 次の自分ターンのスタンバイフェイズまで表示型式を変更出来ない。

 白銀の鋼騎士ホワイトナイト 光属性/星4/機械族/攻撃力1500/守備力2000
 このカードの召喚・特殊召喚に成功した際、「紅蓮の鋼騎士フレイムナイト」をデッキから手札に銜える事が出来る。
 このカードは1ターンのバトルフェイズ時、2回攻撃をする事が出来る。

 一気に3体を並べてしまうとは。
 彼はまったくもって、侮れない。
「…………見せてやる。神竜を」
 彼が呟いた。
「………セイバーナイト、フレイムナイト、ホワイトナイトの3体を生け贄に捧げる」

 そしてそれは姿を現す。
 神の姿をした竜は、その全てを飲み込んで。

 そう、己が本当の神になる為に。

………遥か彼方の、総てを生みだし、総てを飲み込む、存在よ……我は望む。お前の力を望む。数多の輪廻を繰り返し、身も魂も幾度の蘇生を繰り返した。
 我が望むべき力がお前にあるのなら、我はお前を望む。悪魔王オルガ・ゼロの名に於いて、誓約に応えてその姿を現せ!


 The God Dragon of Chaos−Ordelus LIGHT/Lv12/Dragon/ATK5000/DEF5000
 このカードは通常召喚する際、3体の生け贄を必要とする。このカードを対象とする魔法・罠カードの影響を受けない。
 このカードは闇属性としても扱う。自分フィールド上に存在するカードを1枚墓地に送る毎に、攻撃力が300ポイントアップする。
 このカードが破壊される時、ライフポイントを半分支払う事でその破壊を無効に出来る。
 自分ターンのバトルフェイズ時、その時点でのライフポイント総てを攻撃力に加算する事が出来る。
 ただし、この効果を使用したターンのエンドフェイズ迄に勝利しなければ自分はデュエルに敗北する。
 召喚する際、墓地に存在する光属性または闇属性のモンスターを1体ずつ除外する事で、以下の効果を得る。
 ・相手フィールド上にモンスターが3体以上いる時、1体を除外する事が出来る。この効果は1ターンに1度しか使用出来ない。
 ・戦闘で相手モンスターを破壊し、相手に戦闘ダメージを与えた時、もう1度相手モンスターを攻撃出来る。
 フィールド上に「The God Dragon」と名のつくカードが存在する時、このカードは以下の効果を得る。
 ・バトルフェイズ時、相手モンスターの攻撃力が上昇した分だけ、このカードの攻撃力は上昇する。


「な………何……?」
 思わず、そう呟く程の激震が走った。
 立っていられない。不安定な船では引っ繰り返るんじゃないかと思う位に。

「なんだこりゃ……?」
 俺が思わずそう呟いた時、バランスを崩した。
「うおっ!?」
「おい、雄二? 大丈夫か?」
 貴明が助けてくれなかったら引っ繰り返っていたに違いない。
 これだけ大きな船でも、それ程揺れるのか。

 俺がそう思った時、フィールドに1体のモンスターが姿を現していた。


 混沌の神竜。
 混沌と呼ばれるだけあってか、その姿はまるで……。 「光と……闇の竜?」
 そう、一般的に出回っているレアカードの1つ、光と闇の竜に似ていた。
 だが、違う。このカードは何処か違う。
 他のカードと何処か違う。その1番の理由は、纏っている雰囲気にあった。

 白と黒の竜は、あたしの目の前に姿を表した。

「………ターンエンドだ」

 高取晋佑:LP2000→1000

 フィールドにいる神竜は、攻撃力5000。
 それに対してマリシャス・エッジは攻撃力2600。勝ち目はない。
「(……勝てるの? あたし……)」
 自信が無くなる。勝てる、という気持ちが起きない。
「…………でも、踏みだせ。踏みださなければ、始まりもしないんだから! あたしのターン!」

「マリシャス・エッジを守備表示に変更………カードを1枚伏せて、ターンエンド!」
 もっとも、大した事は出来ない。
 このカード相手への対策を早急に立てない……と?

「終焉りだ……」

 高取の呟きと共に、その時あたしは見た。

 足下に、真っ黒い闇が、渦巻いていた。まるで、あたしを誘うかのように。
 闇があたしの足を撫でる。同時に、ぞっとするような寒気が襲う。
「な、何の冗談よ、これ」
 呟いた声が震えている。おかしい。これは、バーチャル映像なんかじゃない―――――本物だ。
「手札よりファントム・オブ・カオスを召喚!」

 ファントム・オブ・カオス 闇属性/星4/悪魔族/攻撃力0/守備力0
 自分の墓地に存在する効果モンスター1体を選択し、ゲームから除外する事ができる。
 このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する限り、
 このカードはエンドフェイズ時まで選択したモンスターと同名カードとして扱い、
 選択したモンスターと同じ攻撃力とモンスター効果を得る。
 この効果は1ターンに1度しか使用できない。
 このモンスターの戦闘によって発生する相手プレイヤーへの戦闘ダメージは0になる。

「墓地に存在する紅蓮の鋼騎士フレイムナイトを除外! ファントム・オブ・カオスはフレイムナイトの攻撃力と効果を得る!」

 ファントム・オブ・カオスの姿が変化していく。
 黒い混沌から、先ほどもフィールドに出たフレイムナイトへと。

 ファントム・オブ・カオス 攻撃力0→2100

「ファントム・オブ・カオスで、守備表示のマリシャス・エッジを攻撃! ファントム・カオス・ゲイト!」

 マリシャス・エッジが、姿を消した。
 あたしのフィールドにはもう、何も………残ってない。
「…………覚悟はいいのか? 滝野理恵。沈め、永久に、混沌の海へ! カオス・スパイラル・バースト!

 攻撃力5000が、直撃する。
 ああ、結局勝てなかったんだと、あたしは思った。
 竜が口を開き、ゆっくりと―――――。

「避けろぉぉぉぉぉっ!!!!!!!」

 足音と、叫びと共に、視界の隅に2人の人影が飛び込んできた。
 貴明と……雄二……?
 どうして、そんなに慌ててるの?
 これはバーチャル映像の       筈   
        なの                   に      あれ
                  なん で

 くらくて       
                 なにも
          みえな



「理恵ッ!」
 貴明の叫びに、返答は無かった。
 神竜の攻撃後に、理恵の足下の暗闇から無数の手が伸びてきて。
 理恵を、闇へと引きずり込もうとしているのが見えた。
「掴まれ、早くッ!」
 俺も慌てて手を伸ばし、理恵の手を掴もうとした。

 だけど、既に遅かった。

 手は空を切って………理恵を飲み込んだ闇は、そのまま消えた。

「……嘘だろ………」
 まるで、異次元へと蒸発したかのように。
 完全消失していた。
「…………ど、どうなってるんだ?」
「わ、わかんねぇ……けど………」
 俺は視線を横に向けた。
 晋佑が、俺と貴明を見ていた。

「「晋佑ぇぇぇっ!!!」」

 俺達が叫んだのは、ほぼ同時。

「「お前だけは、オレが必ずぶっ倒す!!!」」





「………しょ、勝者。高取晋佑!」
 月行の宣言が響く。
「海馬様……今の………」
「ああ、解っている。磯野」
 磯野の言葉に、俺はそう返した。
 この俺ですらてこずらせた神竜を、高取晋佑はあそこまで使いこなしていたか。
「流石は凡骨3人衆参謀担当、か」

 その意志なら雄二は他の2人に負けはしない。
 その強運なら貴明は他の2人に負けはしない。
 その戦略なら晋佑は他の2人に負けはしない。

 それぞれの持つ、ばらばらな個性と素質。
 それらがどのように働き、また、どのように戦うのか。

 それが、少しだけ。楽しみであると同時に。

「何故、オレが不安になる………凡骨共の行き先に……」



《第25話:理不尽な悪魔をブッ殺す方法》

 完全消失した理恵。
 先ほどまで理恵が立っていた場所に立ってみても、今1つ実感が湧かない。
 そもそもどうやって消えたのか、という自体。
「フェイト・ベル」
 俺はデッキの中に眠るさっきも出て来た奴に声をかけた。返事は期待してないが。
『なんですか、マスター?』
 うわ、本当に返事帰ってきたよ。凄いな、オイ。
『呼んでおいて何ですか、その言い草は』
「すまん、そりゃ悪かった。見たか、今の?」
『勿論です……』
 フェイト・ベルの声が少しだけ暗い。多分暗そうな表情してるんだろうな、今は姿を現してないから予想だけど。
「……で、理恵は無事だと思うか?」
『どうなのでしょう? でも、あれは恐らく……闇へと引きずり込まれたんでしょうね』
「闇へと引きずり込まれた? そりゃ見りゃ解るっつーの」
『いえ、そういう意味では無いんです』
「What's? どういう意味だ?」
 意外な言葉に、少しだけ興味が沸いた。
 もっとも、この場で喋っていると俺は独り言で劇の練習でもしているちょっと怖い人になりかねないので移動。
 階下へ降りる階段の隣りに寄りかかり、少しだけトーンを落とした。

『闇へと引きずり込まれた………要は、此処では無い場所に幽閉されたとでも言えば良いのでしょうか』

「それって、長くいるとマズい?」
『良くないですね』
 ふむ、それは危険なのだろう。
 そう言えば、前のバトル・シティでグールズの総帥が千年アイテムを使って闇のゲームを行ったという話を聞いた。
 それで24時間以内に倒さなければ精神的な死を迎えるという罰ゲームを執行したとかなんとか。
 この話を俺にした師匠もその時の被害にあったクチだが。
「じゃあ、晋佑を倒せばいいって事か」
『簡単に言えば、神竜の力を引きだせば良いのですからそうなる筈です。でも……』
「でも、なんだ?」
『………勝算は、あるのでしょうか?』
 フェイト・ベルの問いに俺は黙り込む。
 まぁ、そう言われてもなるようにはなるしかないだろう、多分。
「なるようになる、多分」
 あくまでも多分である。










 激震は、ようやく止まった。
「止まったようだな……」
 亮の呟きに、十代が無言で頷いた。
「今のは、何だ?」「……多分、神竜が攻撃でもしたか、トドメを刺したか」
「随分とおっかない話だな。だとすると、試合が1つ終わったのか?」
「多分。神竜の所持は確か、確認した限りではそこにいる奴と高取晋佑だけだ」
 十代の言葉に、亮は軽く息を吐いた。
 ゼノンは相変わらず動じた様子では無い。
 だが。

「神竜、か………」

 ゼノンはそう呟くと、その場で背を向けた。
「まだデュエルの途中だぞ」
「知るか。こんな勝利なんかくれてやる」
 ゼノンはそう言い放つと、そのまま甲板へと突進していった。
 忙しい奴である。
「カイザー、大丈夫だったか?」
「別に負ける心配は無かっただろう、この俺が……くそ、神竜を逃したな、十代」
「機会なんて幾らでもあるさ。焦る事は無いぜ」
 十代の言葉に、亮は追うのを諦めて息を吐いた。
 どうやら現時点では別の問題の方を優先するというか。
「……で、どうする気だ、この後?」
「そうだな…………高取晋佑を捕まえるか……もう1人の方を捕まえるか」
「高取晋佑は一筋縄で行くと思うか?」
「全然」
 亮の問いに、十代はさらりと答えた。

 だとすると、答えは1つ。
「ならば、もう1人の方か」












「第4試合……最後の試合ですね。今大会最年少の志津間紫苑さんと、黒川雄二の対戦……両者、フィールドへ!」
 月行さんの宣言が流れる。どうやら俺の出番らしい。
 負ける気なんて無いけれど、デュエルの結果は解らないだけに、少しだけ震える。
「……さて、行くかな、と」
 デッキをシャッフルしながらフィールドへと昇る。
 相手はまだ来ていないのだろうか、人影は見えないのでデッキをシャッフルして待つ。
 じきに、パタパタという足音が聞こえてきた。
「す、すみません! 遅れてしまっ――――あうっ!?」
 ビタン、とかいう漫画に出て来そうな効果音と共に、走ってきた女の子は見事に転んだ。
 ちなみに自分の足に躓いて転んでたというのはお約束なのだろうか。
「大丈夫か?」
「だ、大丈夫です………そ、そんな事を言って油断を誘おうとかそういう手立てには騙されないのです、甘いのです!」
 転んでた少女――――志津間紫苑は俺に向けてびしっと指を突き付けると、俺の反対側に立った。
 からかいがいがあって面白い気がする……少し遊んでみるか。
「そうかな? 意味がない訳は無いと思うぜ?」
「……なぜですか?」
「何故ならデュエルの後、お前は俺に美味しく頂かれるからさ。悪く思うなよ?」
「「「……………」」」
『マスターのロリコン』
 いつの間にか現れたフェイト・ベルがそんな事を囁くと同時に、社長どころか月行さんまで俺を睨んでいた。
「やれやれ、そんな趣味があるのは感心しませんね」
「ロリコンですね、変態デュエリストさんです」
「ちょっと待て! 今の冗談だから! 俺、ロリコンじゃないから!」
「そんなイヤらしい目で私を見ないで下さいッ!」
「冗談って言ってるんだろーが!」
「……雄二」
「な、何だよ貴明」
「………正直になろうぜ」
「だからちげーよ! ロリコンじゃない、ロリコンじゃないぞ! 俺は断じてロリコンじゃないからな!」
『マスターがロリコンである事はもう周知の事実みたいですね……ハァ……』
「お前も否定しろ!」
「凡骨筆頭。オレの元まで来い。今すぐ」
 かくして俺はロリコン疑惑をかけられ、デュエル開始前から社長に大量の説経を受けたのだった。


「……さて、準備はよろしいですか?」
「いいぜ」「大丈夫です」
 社長に殴られた回数が更に増えたよ、ああ痛い。
「では……開始!」
「「デュエル!」」

 黒川雄二:LP4000 志津間紫苑:LP4000

「………俺の先攻ドロー!」
 さて、引きはどうだろう、か……?
 魔法・罠カードが合計5枚……モンスターカード1枚で真紅眼……?

 て、ててててててててて手札事故ぉっ〜!!!!!!!????

「(ええい、落ち着け黒川雄二! クールになれ、クールになるんだ!)」
 まさか手札事故が起こるなんて思ってもいなかった。
「カードを2枚セットし、ターンエンド!」
 まぁ、少なくとも1ターン持てば良い。
 後はそこから考えれば良いのだから。
「私のターン。ドローです!」
 まずは戦法として何を出してくるのか。
 後攻1ターン目。攻撃は許されている上に、俺のフィールドに壁は無し。
「死霊騎士デスカリバー・ナイトを召喚します!」

 死霊騎士デスカリバー・ナイト 闇属性/星4/悪魔族/攻撃力1900/守備力1800
 このカードは特殊召喚出来ない。
 効果モンスターの効果が発動した時、フィールド上のこのカードを生け贄に捧げなければならない。
 効果モンスターの効果とその発動を無効にし、そのカードを破壊する。

「(デスカリバー・ナイト……攻撃力1900………)」
 悪くないモンスターだ。だが……。
「カードを1枚伏せて、ターンエンドです」
「攻撃しないのか?」
「しません。そんな見え見えのフェイントなんて、意味ないのです。騙されません」
「やれやれ、そうかい」
 罠を警戒してくれたお陰で助かった。ライフが削られる心配は無い。
「俺のターンだ。ドロー!」
 さて、何が出て来るかなと。
 どんなモンスターが……よし、今はコイツしか頼れん。
「アックス・ドラゴニュートを召喚!」

 アックス・ドラゴニュート 闇属性/星4/ドラゴン族/攻撃力2000/守備力1200
 このカードは攻撃した場合、バトルステップ終了後に守備表示になる。

 アックス・ドラゴニュートの攻撃力は2000。
 デスカリバー・ナイトの1900を上回っている。
「アックス・ドラゴニュートの攻撃! デスカリバー・ナイトを破壊!」

 志津間紫苑 LP4000→3900

「アックス・ドラゴニュートは戦闘後、自身の効果で守備表示になる。カードを1枚伏せて、ターンエンドだ」
「私のターン! ドロー!」
 ライフを100削った位じゃやはり動じないのか、至って冷静に見える。
 そう、冷静に……あれ? 顔色が悪いのは気のせいか?
「……顔色、悪くないか?」
「平気も平気、へのかっぱです。そんな油断を誘お……う…………うおぇぇー………」
「ふ、船酔い!? 船酔いなのか!? ここで吐くなよ? 月行さーん、袋無い、袋? って、おい、俺の手で吐くなよ? 間違っても吐くなー!」


*画像が乱れております。しばらくお待ち下さい。


 船酔いするデュエリストとは前代未聞である。
 ついでに吐くヒロインだってそうそういない。俺が知ってる限りでは某SF時代劇の中華宇宙人娘ぐらいか。
 ああ、あれもジャ●プ作品でしたね。でも、連載は多分遊戯王とはほぼ入れ替わりだった気がする。
「で、大丈夫なのかー?」
「うぅ……うるさいうるさいうるさい! 平気だって言ってるのー!」
「ロリっ娘の次はツンデレかよ? どんな奴なんだよ……」
 本当によく解らない……大丈夫なのか、本当に。
「……魔法カード、高等儀式術を発動します!」

 高等儀式術 儀式魔法
 手札の儀式モンスター1枚を選択し、そのレベルと同じ数になるよう、デッキから通常モンスターを墓地に送る。
 選択した儀式モンスター1体を召喚する。

 高等儀式術。儀式モンスターの生け贄をデッキから選べる優れ物。
 儀式モンスターを使うデュエリストにとってはかなり投入率が高いカード。
 悪魔族。儀式モンスター。ここまで来ると見えてくるのは……。
「デッキから、デーモン・ソルジャー2体を墓地に送って闇の支配者−ゾークを召喚します!」

 デーモン・ソルジャー 闇属性/星4/悪魔族/攻撃力1900/守備力1500

 闇の支配者−ゾーク 闇属性/星8/悪魔族/攻撃力2700/守備力1500/儀式モンスター
 「闇の支配者との契約」によって降臨。フィールドか手札からレベル8以上になるよう生け贄を捧げなければならない。
 1ターンに1度だけ、サイコロを振る事が出来る。サイコロの目が1・2の場合、相手フィールド上のモンスターを全て破壊する。
 3・4・5の場合、相手フィールド上のモンスター1体を破壊する。6の場合は自分フィールドのモンスターを全て破壊する。

 闇の支配者−ゾークとは随分と恐ろしいモノを呼び込んだものだ。
 その存在だけで小さな威圧を放っている。
「……何で女の子って悪魔族とかアンデット族とかおどろおどろしいのが好きなんだ………?」
 思わずそう呟く。だが、答えなんて帰ってこない訳で。
「まだまだターンは終わりません! 手札の魔法カード、闇の量産工場を発動!」

 闇の量産工場 通常魔法
 自分の墓地に存在する通常モンスター2体を手札に銜える。

「この効果で、墓地のデーモン・ソルジャー2体を手札に戻します。そして、速攻魔法サモンチェーンを発動!」

 サモンチェーン 速攻魔法
 チェーン3以降に発動する事が出来る。このカードを発動したターン、自分は通常召喚を3回まで行える。
 同一チェーン上に複数回同名カードの効果が発動されている場合、このカードを発動出来ない。

 1:高等儀式術でデッキから2体墓地に送った。
 2:闇の量産工場で墓地から手札に戻った。
 3:サモンチェーンで通常召喚3回まで。
 4:ゾーク+2体の通常モンスター=攻撃力4000オーバー。

「嘘嘘嘘嘘嘘嘘だろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!!!!!」
「ふふふふ、これで1ターンで終了なのです、ロリコンさん」
「ロリコンじゃねぇって!」
 俺は断じてロリコンではない、ロリコンではないぞ!
「だけど、遅いのです! ゾークの効果により、サイコロを振ります!」
 サイコロが振られる。転がったサイコロの出した目は1。
 1の目は、相手モンスター1体を破壊。
 だけど、俺のフィールドにモンスターは1体だけで。
「………げ」
「ゾークの効果で、アックス・ドラゴニュートを破壊します!」
「Nooooooooo!!!!!!!!!!」
 俺のフィールド、がら空き。
「これで1ターンキル成立ですね♪ ゾーク及び、2体のデーモン・ソルジャーでダイレクトアタック!」
「くそったれぇ! リバース罠、攻撃の無力化を発動!」

 攻撃の無力化 通常罠
 相手モンスターの攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了させる。

「運が良いですね、伏せていたなんて」
「1ターン、首が繋がったぜ」
 ま、その後が怖いけれど。
「ターンエンドです」
「俺のターン! ドロー!」
 問題は此処からだ。逆転の糸口が見えなければ、始まりもしない。
「……手札より、黒竜の雛を召喚!」

 黒竜の雛 闇属性/星1/ドラゴン族/攻撃力800/守備力500
 自分フィールド上に存在するこのカードを墓地に送る事で、手札より「真紅眼の黒竜」を特殊召喚する。

「そして、黒竜の雛の効果発動! 黒竜の雛を墓地に送る事で、雛は黒竜へと進化する!」

 真紅眼の黒竜 闇属性/星7/ドラゴン族/攻撃力2400/守備力2000

「……真紅眼の攻撃力は2400、ゾークの攻撃力は2700です。その攻撃力では及びません!」
「そう、この攻撃力なら、な………装備魔法、竜騎士の剣を発動!」
「なっ……!」

 竜騎士の剣 装備魔法
 ドラゴン族モンスターにのみ装備可能。このカードを装備したモンスターの攻撃力は400ポイントアップする。
 このカードを墓地に送る事で、装備モンスターはバトルフェイズ中、もう1度攻撃が出来る。

「竜騎士の剣を真紅眼の黒竜に装備……これで、真紅眼の攻撃力は2800」
「あうっ……攻撃力が100足りない……!?」
「行けぇ、レッドアイズ! 闇の支配者を闇へと帰せ! ダーク・メガ・フレア!」

 志津間紫苑:LP3900→3800

 ゾークの姿が、黒い炎に包まれて消える。
 後に残る、2体の悪魔の戦士は既に逃げ出す体勢に入っているが、そこはモンスターという立場上。
 逃げられる訳もなく、真紅眼を見上げている。
「そして、竜騎士の剣を墓地に送り、真紅眼はもう1度攻撃可能! ダーク・メガ・フレア・第2打ァッ!」
 続いてデーモン・ソルジャーがその餌食となって消えた。
 残るは後1体。

 志津間紫苑:LP3800→3300

「ターンエンドだぜ」
 厄介なゾークを追い払い、攻撃力の劣るモンスター1体を残した。
 まぁ、でもある程度の牽制にはなっただろう。これぐらいやっておけば。
「私のターン、ドローです!」
 さて、次のターンで相手が何をしてくるかが見物って訳だな。
「デーモン・ソルジャーを守備表示に変更します……そして、マンジュ・ゴッドを守備表示で召喚します!」

 マンジュ・ゴッド 光属性/星4/天使族/攻撃力1400/守備力1000
 このカードの召喚・反転召喚に成功した時、デッキから儀式魔法もしくは儀式モンスターカードを1枚手札に銜える。

「マンジュ・ゴッドの効果により、私はデッキから高等儀式術を手札に銜えます!」
 高等儀式術がまだあるという事は、ゾークはまだ残っているという事か。
 随分と末恐ろしい戦略というかなんというか。侮れない。
「ターンエンドです」
「俺のターン……ドロー!」
 ゾークがまだいるという事は、さっさとこの勝負を決めてしまうが吉という事か。
 しかし、まだ手札が偏っているというか。モンスターがいない。
「と、いう事で速攻魔法、リロードを発動!」
「何がと、いう事で、ですかッ!」

 リロード 速攻魔法
 手札を全てデッキに戻してシャッフルし、デッキに銜えた枚数だけドローする。

 よし、ようやく手札がマトモになった。偉いぞ、俺。
 フィールドにはレッドアイズと、守備表示のデーモン・ソルジャー及びマンジュ・ゴッド。
 儀式を召喚される前に片づけてしまうべきだろうか。
「サファイアドラゴンを攻撃表示で召喚!」

 サファイアドラゴン 風属性/星4/ドラゴン族/攻撃力1900/守備力1600

「レッドアイズ、サファイアドラゴンでそれぞれ攻撃! デーモン・ソルジャー、マンジュ・ゴッドの2体を撃破!」
 相手のフィールドがら空き。
「フィールド、がら空き!」
「……甘いのです、まだまだなのですよ」
「何……つーことは、まだまだ何かあるって事だな?」
 俺の問いに、彼女はニッコリと微笑むのだった。



《第26話:終焉の王と魔城の夢》

 黒川雄二:LP4000 志津間紫苑:LP3300

 真紅眼の黒竜 闇属性/星7/ドラゴン族/攻撃力2400/守備力2000

 サファイアドラゴン 風属性/星4/ドラゴン族/攻撃力1900/守備力1600

「……ターンエンド」
 俺がターン終了を宣言すると、彼女は嬉しそうにドロー宣言を行った。
「………残念なのです。もうしばらく、楽しくしたかったのですよ」
 彼女はカードを手に取ると、宣言した。
「貴方のフィールドの真紅眼の黒竜及び、サファイアドラゴンを生け贄に捧げます!」
「なに? 俺のフィールドの奴を……って、真紅眼がぁーッ!?」
 フィールドから、2体のモンスターが消え失せて。
 そして、現れたのは。

「溶岩魔神ラヴァ・ゴーレムを特殊召喚します!」

 溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム 炎属性/星8/悪魔族/攻撃力3000/守備力2500
 このカードを手札から出す時、相手フィールドのモンスター2体を生け贄に捧げて相手フィールドに特殊召喚しなければならない。
 このカードのコントローラーはスタンバイフェイズ毎に1000ライフのダメージを受ける。
 このモンスターを特殊召喚する場合、このターン通常召喚は出来ない。

「溶岩魔神……ラヴァ・ゴーレム…………」
 グロテスクで尚且つ某N●Kの板こんにちゃくお化けを彷彿させるその外観は忘れもしません。
 デュエルディスクから再現されるバーチャル映像の賜物。
「…………俺も師匠と同じく檻の中、かよ」
「ロリコンさんを捕まえたのです」
「違うっつってんだろうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」
 かくして俺は檻の中。多分スタンバイフェイズ毎に上から溶岩が襲ってくるんだろうな。
 断じて俺はロリコンではない。断じて。だから実際に収監されてるんじゃないんだからな! 覚えとけよな!
「ラヴァ・ゴーレムを召喚したターンは通常召喚が出来ません。ターンエンドです」
「……俺のターン。ドロー!」
 ドローフェイズが終了すれば、スタンバイフェイズがやってくる。
「ラヴァ・ゴーレムの効果で1000ライフダメージを受けて貰います!」
 降ってくる溶岩。バーチャル映像とはいえ、その外観は本物だ。
「うぁぁぁぁっちぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!!!!!!」
 焦げる、焦げるって! マジで熱いんですけど!?

 黒川雄二:LP4000→3000

「ああ、そうだ凡骨チルドレン改め凡骨筆頭。1つ言い忘れていた事があった」
「な、なんスか海馬社長……」
 1000ライフダメージを檻の中で受けた俺に対して、海馬社長が急に口を開いた。
「デュエルディスクの設定を弄るのは簡単らしくてな。それで、お前が今、つけている特注のデュエルディスクはな」
「はぁ。これは里見から貰った奴ですけどどうかしたんですか?」
「里見智晴本人の要請からデュエルディスクに衝撃増幅装置が装備されている。遅発式のな」
 衝撃増幅装置とはリアリティを出す為に装着される、バーチャル映像の攻撃が実際に攻撃を受けたかのように衝撃を与える装置だ。
 基本的に一般のデュエルでは装着されない。装着するのはアンダーグラウンドなデュエルだけである。(by海馬社長)
 そもそも一般販売されているデュエルディスクには搭載出来ないのだが、金持ちの道楽が生んだ特注品なら可能である。
 俺の今つけているデュエルディスクは大部分が本物の銀で出来ている特注品である。全部本物の金とかプラチナとかもあるらしい。
 特注品ならば、内部搭載も可能。ついでに遅発式という事は後からそのダメージがやってくるという事で。
「ほぎゃあああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」
 文字通り、1000ダメージ分降ってきた。
 て、いうかこの衝撃増幅装置絶対弄られてるだろ?
「………ひ、1つ聞きます。何で今さら発動したんスか?」
「ああ、それか。衝撃増幅装置のON/OFFは海馬コーポレーションのデュエルリングサーバーで取り扱ってるからだ。少なくともデュエルディスクに
 搭載されているタイプの奴はな」
「……じゃあ、社長が今ONにしたって事スか?」
「…………ロリコンにはお似合いだろう」
「だから冗談ですから」
 本当に海馬社長は鬼だ。師匠が冷たいと言ってたのも解る気がする。
「DEATHーTに招待されるよりはマシだと思え!」
「DEATHーTを基準にして考える方がおかしいんですよ!」
 と、いうか俺に死ねと言うのか、社長は。
「あのー……デュエル再開して頂けないと困りますが」
「あ、スンマセン月行さん」
 そう言えばまだ俺のターンだった。
 スタンバイフェイズの後はメインフェイズ1、そしてその後はバトルフェイズ……。
 彼女のフィールドにモンスターはいない。それに対して攻撃力3000。
「………攻撃力3000とはよく言ったものだぜ……。そういやさ、俺の師匠もこいつを召喚されたんだよな」
「お師匠さんがいるんですか?」
「ああ。結構奇特な人で凡骨だけど師匠だ」
 そう、凡骨だけど。
 さて、それは置いておくとして。
「行くぜ! 師匠直伝の必殺技を見せてやる! 板こんにゃくお化けで相手プレイヤーにダイレクトアタック!」
 板こんにゃくお化けでは無いけどね。
「師匠直伝・城之内ファイヤー!」
「って、直伝!?」
 攻撃力3000で相手のライフは3300。これで、後僅かまで削られる……筈。

 志津間紫苑:LP3300

「へ……減ってない!?」
「甘いですね、攻撃の無力化を発動させました」

 攻撃の無力化 通常罠
 相手モンスターの攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了させる。

「……チッ、ただで残す訳は無いって事か」
「そういう事です。当たり前なのですよ」
 普通に考えればそうかも知れん。てっきり油断していた。
 かと言って、このまま板こんにゃくお化けを放置していく訳には行かない。
 毎ターンダメージを喰らっていくだろうし、何より相手の手札に高等儀式術があるという事は更に儀式モンスターが飛びだしてくる事。
 恐らくゾークが再び飛びだしてくれば危険だ。だとすると、この板こんにゃくをどかした上で別のモンスターを呼び寄せる。
 手段としてはそれしかないだろう。
「まだ、俺のターンは終わっちゃいねぇ! 速攻魔法、奇跡のダイス・ドローを発動!」

 奇跡のダイス・ドロー 速攻魔法
 サイコロを振る。出た目の数だけ、デッキからカードをドローする。
 このターンのエンドフェイズ、手札が出た目の数以下になるよう手札を捨てなければならない。

 サイコロを振る。出た目は3。
「カードを3枚ドロー……」
 どうやら、運はまだ俺を見捨てていないようだ。
 手札を、確認した時。

 俺は妙な感覚を覚えた。
 そう、憶えている。俺は何処かで、憶えている。
 そして何か大事な事を忘れている。何だっけ?

「フィールド魔法、機械魔の城塞都市を発動!」

 機械魔の城塞都市 フィールド魔法
 レベル7以上のドラゴン族・悪魔族・機械族モンスターを通常召喚する時、生け贄がレベル5以上ならば生け贄1体で召喚出来る。
 このカードがフィールド上に存在する限り、ドラゴン族・悪魔族・機械族のモンスターは魔法・罠の効果では破壊されない。
 効果モンスターの効果で破壊される場合、代わりにこのカードを破壊する。このカードは破壊され、墓地に送られた時ゲームから除外される。
 このカードが破壊された時、デッキからこのカードと同名以外のフィールド魔法を発動する事が出来る。

「………機械魔の城塞都市?」
「ほう、デュエルモンスターズにこの俺の知らないカードが存在するとはな」
 彼女と、海馬社長の言葉の直後、フィールドに現れたのは。

 近代的で無機質。だが、その鋼鉄の城は禍々しさを憶えた。
 そう、これは悪魔と機械の産み出した鋼鉄の魔城。足を踏み入れし者達を仕留めようと、手ぐすね引いて待ち構える城。

 まさしく、墓標を建てる為だけに在る城塞都市……。

「俺はこのターン、召喚をまだしていない。だから、やらせてもらうぜ。溶岩魔神ラヴァ・ゴーレムを生け贄に捧げる」
 俺のフィールドにいた板こんにゃくお化けが消え去る。
「そして、機械魔の城塞都市の効果。レベル7以上のドラゴン族・悪魔族・機械族モンスターは生け贄がレベル5以上なら生け贄1体で召喚可能!
 俺が呼び寄せるのは、勿論コイツ! 真紅眼の黒竜だ!」

 真紅眼の黒竜 闇属性/星7/ドラゴン族/攻撃力2400/守備力2000

 城塞都市は、月明かりに照らされ不気味な光を放ち続けていた。
 そんな城の頂上へ、黒竜は舞い降りた。

「カードを1枚伏せて、ターンエン……」「おい」
 俺がターン終了を宣言しようとした時、海馬社長が急に声をかけてきた。
「な、何スか社長」
「………この俺の立場を貴様は知ってるだろうな?」
「海馬社長は社長です」
「そうだ。この俺はデュエルモンスターズに於いてカードを知り尽くしていると言っても過言では無い。知らぬカードなど皆無!」
「そんな海馬社長の新刊『超伝導恐獣は存在自体悪だ!』は発売開始から2週間で5万部を越える大ベストセラーとなっております」
「磯野、俺は別に本の宣伝をしろとは言ってない。デュエリストならこの本を必ず買え」
「さり気なくアンタも宣伝してんじゃん!」
 海馬社長は俺の抗議をさらりと無視するとフィールド魔法を指さした。
「だが、俺は今、お前が使ったフィールド魔法を視た事が無い。何処で手に入れた?」

 時が、停まった。

 そう言えば………このカード、俺は果たしてデッキに入れていたのか?
 記憶を手繰り寄せてみよう。覚えが……無い?
「(待てよ、おかしいだろ。デッキに入れてないなら何で入ってるんだよ?)」
 そう、おかしい。
「……覚えが無い………覚えて、ない……」
 だとすると、俺の記憶違いなのだろうか?
 いや、そんな筈は無い。今日だけで何回デュエルをしてきたと思っている。
 でも現にそのカードは此処に存在する。
「………解らない……」
 俺はもう1度呟く。

 待てよ。
 そう言えば、前にも似たような事が無かったか?
 奇妙な体験。飛んでいる記憶。
 そう、何処かで忘れていたような……。
「(……何かを忘れてた……何だ?)」

「………ターンエンド」
「おい」
「社長。ぶっちゃけ思い出せないんで、後で思いだします」
 俺は海馬社長にそう言い放つと、そのまま背を向けた。
 幾ら何でも思い出せない記憶を探るだけなら何時でも出来る。今はデュエル中なのだし。
「私のターン! ドローです!」
 城塞都市の不気味な空気に包まれたまま、デュエルは続く。





「十代、いい加減話してくれないか」
「何をだ、カイザー?」
 船室から結局甲板ヘと戻ってきた十代に、亮が口を開いた。
「お前が此処にいる事だ。海馬社長の命令で来ていると言ったな」
「ああ」
「だが、それは神竜の事だけではないだろう。お前がそのカードの為だけに動くとは思えん」
「動いたじゃん、三幻魔の一件とか」
「あれは校内だからだろう」
「光の結社だって……」
「万丈目と明日香の洗脳を解く為だろう」
「…………カイザー、しつこいと嫌われるよ?」
 あまりに的確な指摘を繰り返す亮に、十代はため息をつきながら告げると、亮は更に口を開いた。
「安心しろ。プロである俺はいつもモテモテだ」
「そういう意味じゃなくて」
「いいから教えろ。俺とお前の仲だろう」
「俺はカイザーとウホッな関係じゃない!」
「違うだろう、お前、確か故郷に妹がいただろう」
「ああ、いるけど」
「そうだ。将来の義弟になる男に隠し事は良くないぞ」
「誰が将来の義弟だ! 俺がデュエルを続ける限り妹は嫁にやらねぇぞ!」
「遊城十代は俺の後輩、十代の妹は俺の嫁だ」
「どんな基準だ!」
 いい加減しつこくなってきた亮を十代はデュエルディスクで思いきりぶん殴ってからようやくため息をついた。
 が、カイザーの名は伊達ではない生命力の強い亮は再び立ち上がった。
「俺が不満なら翔をお前の妹の婿に……」
「余計要らん! 少なくともデュエリストの嫁にはしねぇぞ!」
 それは本人が決めるべき事では無いだろうかというツッコミを十代はさらりと無視し、2発目のデュエルディスクアッパーを亮に見舞った。
「俺の気持ちは本当なんだが……で、何でお前が此処にいるんだ?」
「何で2回も殴ったのに覚えてるんだよ」
「確信犯だったのか!?」
「冗談だよ。まぁ、確かに神竜を取り戻すだけじゃないってのもあるな」
 十代はそう言い放ってから、亮に場所を移動すると手だけで指示した。
「聞かれたくない事か?」
「社長にはあまり。それに、俺が喋ったって言うなよ? 社長にだって話してない事も話すから」
「……解った、秘密は護ろう」
「OK。話すぜ………デュアル・ポイズンは元々、デュエルモンスターズのカードを研究する研究機関の1つに過ぎなかった。あくまでも、元々は。
 ただ………7年程前、カードの精霊についての研究が始まった時、デュアル・ポイズンは壊れていった。普通の人間には視えない精霊達。その力を
 あくまでも彼らは利用しただけなんだけど………その力の強大さに、畏怖した」
「畏怖、だと?」
「デカすぎたんだよ。想像していた以上に。人間ってのは嫌な生き物でさ。勝手にこの惑星の生命のリーダーを気取ってる癖に自分達より上の力に出
 会うと勝手に怖がりだす。それで、自分達の手でどうこうしようとするって嫌な習性がな。これも例外じゃない。どこぞのあくどい上のおっさん方
 の指示で、これらの力を利用して……作ろうとしたんだよ、自分達の言う事を聞く、自分達の力の象徴として」
「何を、作ろうとしたんだ?」
「その総数は俺も知らないだけど、俺が知っているウチの1つ……そう、1つ…………」
 十代はそこで、少しだけ言葉を区切った。





 黒川雄二:LP3000 志津間紫苑:LP3300

 機械魔の城塞都市 フィールド魔法
 レベル7以上のドラゴン族・悪魔族・機械族モンスターを通常召喚する時、生け贄がレベル5以上ならば生け贄1体で召喚出来る。
 このカードがフィールド上に存在する限り、ドラゴン族・悪魔族・機械族のモンスターは魔法・罠の効果では破壊されない。
 効果モンスターの効果で破壊される場合、代わりにこのカードを破壊する。このカードは破壊され、墓地に送られた時ゲームから除外される。
 このカードが破壊された時、デッキからこのカードと同名以外のフィールド魔法を発動する事が出来る。

 真紅眼の黒竜 闇属性/星7/ドラゴン族/攻撃力2400/守備力2000

 俺のフィールドに存在するフィールド魔法とレッドアイズ以外、カードは無い。
 手札にはあるが、今は俺のターンではない。
「ニュードリアを守備表示で召喚します!」

 ニュードリア 闇属性/星4/悪魔族/攻撃力1200/守備力800
 このカードが戦闘で破壊された時、フィールドのモンスター1体を破壊する。

「カードを1枚伏せて、ターンエンドです」
「…………俺のターンだ。ドロー!」
 今、フィールドに存在するのはレッドアイズのみ。
 だとすると、今は……。
「行くぜ! レッドアイズで、ニュードリアを攻撃! ダーク・メガ・フレア!」
「ニュードリアの効果発動です! 戦闘で破壊された時、フィールドのモンスター1体を道連れにします!」
「おおっと、フィールド魔法、機械魔の城塞都市の効果発動だ! 効果モンスターの効果で対象モンスターが破壊される時、代わりにこのカードを破壊する!」
 フィールド魔法を犠牲にするつもりはなかったが、仕方ない。
 城塞が、凄まじい勢いで崩落していく。
 ニュードリアを載せたまま、瓦礫ごと消し去っていく。黒竜は翼を広げ、再び夜空を舞って戻ってきた。
「やりますね……流石です」
「ヘッ、この俺を誰だと思ってるんだっての」
 もっとも、この膠着状態をどうにかしないといけないのだけれど。
 それは次のターン迄待つべきか。
「厄介なフィールド魔法が消えてくれて、助かったみたいです」
「……は?」
「私のターン! ドロー……そして、メインフェイズ1に移行。魔法カード、高等儀式術を発動!」
「!」
 手札に温存したままだった、高等儀式術が今出た。
 ゾークがこんなに早く飛んでくるとは想わなかった。

 高等儀式術 儀式魔法
 手札の儀式モンスター1枚を選択し、そのレベルと同じ数になるよう、デッキから通常モンスターを墓地に送る。
 選択した儀式モンスター1体を召喚する。

「デッキより……レッド・サイクロプスを2体、墓地に送ります。そして………」

 レッド・サイクロプス 闇属性/星4/悪魔族/攻撃力1800/守備力1700

「…………見せてあげます。終焉の王……神すらも超越した、破壊者を…………終焉の王デミスを召喚します!」

 彼女の宣言と共に。
 其れは姿を現した。轟音、そして衝撃と共に。終焉を告げる悪魔の王は現れた。

 終焉の王デミス 闇属性/星8/悪魔族/攻撃力2400/守備力2000/儀式モンスター
 「エンド・オブ・ザ・ワールド」により降臨。手札かフィールドからレベルが8以上になるよう生け贄を捧げなければならない。
 2000ライフポイントを支払う事で、フィールドに存在するこのカード以外のカードを全て破壊する。

「終焉の王……デミスだとぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!?」
 終焉の王デミス。デュエルモンスターズに携わる者ならその神懸かり的な破壊力と共に伝わっている。
 このカードのせいで現環境で使える儀式モンスターはデミス、ゾーク、そしてサクリファイスのみと化した。
「終焉の王デミスの効果発動です。2000ライフを支払い、フィールドのこのカード以外のカードを破壊します」
「嘘嘘嘘嘘嘘嘘だろぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!?」
「……やっちゃって下さい、デミスさん♪」

 志津間紫苑:LP3300→1300

 フィールドの、レッドアイズが巨大な鉄槌に押し潰され、姿を消した。
 更に、お互いのリバースカードも吹っ飛んでいく。
「嘘だろ……見事にリセットかよ」
 空になってしまったフィールドにそびえ立つのは、終焉の王デミス。
「………デミスで、プレイヤーへダイレクトアタック!」
 デミスの斧が、力強く降り下ろされた。

 黒川雄二:LP3000→600

「どわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
 強烈な攻撃が襲い、身体ごと吹っ飛ばされた。
「いつつ……」
 身体をどうにか起こすと、デミスを見上げる。
 何ていう威力。破壊効果と、直接攻撃のダメージ。これは破壊力が高すぎる。
「ったく、社長も規制してくれんのかね………」
 ま、社長の事だからあんまり聞いてくれないだろうけど。
「サレンダーするなら今のうちです」
「誰がするか」
「ターンエンドです」
「何もしねぇのか、結局」
 少しだけ、拍子抜けしながら、俺はデッキへと手を伸ばす。

 その時。
 自分以外の手が、視えた。
「(え………)」
 デッキからドローしようとする自分の手。だけど、もう1つ手がある。
 見慣れた手。同じように、ドローしようとする手。
 だけど、その手は……。

 慌てて頭を振る。手は、既に消えていた。
「…………」
 幻覚だったのだろう。しかし、最近よく視る気がする。
 幻覚を。
「(本当に……あの感覚、何処かで……)」

「俺のターン! ドロー!」
 今は、デュエルに集中する事だ。
 ライフポイントは倍以上の差が開き、フィールドはがら空き。さて、どう出る?
 全ては、このターンに決する。



《第27話:真相告白の序幕》

 黒川雄二:LP600 志津間紫苑:LP1300

 ドローしたカードを確認する。
 何せドロー1つに掛かる重さが違う。勝つか負けるかではなく、負けない為に勝つのだから。
「(負けない為に、勝つ……)」
 そう、負けない為に勝つ。勝つ事。
「(何だ…………)」
 妙だ。このデュエルが始まってから、ずっと変だ。
 勝ちたい気持ちは確かにある。俺の中に、勝ちたいという気持ちはあっても。
 だけど、それは此処まで強かったのか?
「勝ちたいけれど………勝ちたいとは思うんだけど、何か違う………これは、何だ……?」
 そう、異常なまでに勝利への執着心が強い。自分自身が。
 こんなに、強い人間じゃなかった。

「ごく自然な事だろ、雄二」

 突如、声が掛かった。
「人が元来持つ闘争心、それが息を潜めている人間だっている。ついさっきまでのお前がそうだ。だけど、今は違う」
「………………」
「何かを切っ掛けに、お前の奥底に眠る闘争心が火をつけた。そう、例えるなら―――――
 ――――かの決闘王の前世は、古代エジプトの王だった。その頃に、デュエルの原形は既に在った。お前にも、そんな事があったのかも知れない。
 ………あくまでも可能性、だけどな。そう考えれば、不自然じゃないだろう?」
「………さぁな。よくわかんねーけど。だけど、今思いだしたぜ。俺はテメーをぶっ飛ばすと決めたんでな。負ける訳にはいかねぇ」
「……それが原因なんじゃないか?」
 そう考えればそうかも知れない。

「まぁ、いいさ。決勝でお先に待ってるぜ、黒川雄二」
 高取晋佑はそう言い放つと、また遠くへと離れていくのが視界の隅に視えた。
「……やれやれ」
 俺は小さく息を吐く。さて、こっからが本番。
「守護天使フェイト・ベルを攻撃表示で召喚!」

 守護天使フェイト・ベル 光属性/星4/天使族/攻撃力1500/守備力1500
 このカードは戦闘で破壊された時、ゲームから除外される。そして、このカードのプレイヤーは1000ライフダメージを受ける。
 このカードの召喚・特殊召喚・反転召喚に成功した時、以下の効果の内の1つを選択して発動する事が出来る。
 ・墓地から光属性または闇属性のモンスター1体を選択し、このカードに装備する。
  そのモンスターの攻撃力の半分の値、このカードの攻撃力は増加する。この効果の発動中、このカードは戦闘では破壊されない。
  この効果を発動している間、このモンスターは相手プレイヤーに直接攻撃する事が出来ない。
 ・このカードを装備カード扱いにして自分フィールド上の光属性または闇属性のモンスター1体に装備する。
  このカードを装備したモンスターは攻撃力・守備力が1500ポイントアップし、そのカードを対象とする魔法・罠カードの効果を無効にする。

「待たせたな」
『遅いですよ、マスター』
 フィールドに呼びだされたフェイト・ベルは俺の前にフワリと舞い降りると、守備表示の体勢をとる。
 破壊されれば1000ダメージを受けて敗北する。ならば、破壊されなければ良いのである。
「……破壊されなけりゃ、な」
「な、何ですか?」
 俺の微笑みに、相手が怪訝に思ったのか首を傾げる。
「カードを1枚伏せて、ターンエンド」
「って、ターンエンド!?」
「そ、ターン終了。君の番だぜ?」

「……私のターン! ドロー!」
 彼女は少し戸惑っていたようだが、俺の表情を見て、攻撃を宣言した。
「…………行きます。終焉の王デミスで、フェイト・ベルを攻撃!」
「この瞬間を待ってたぜ! リバース速攻魔法、ブラッド・ヒートを発動!」
「なっ……!」

 ブラッド・ヒート 速攻魔法
 このカードはバトルフェイズ中にライフポイントの半分を支払って発動可能。
 自分フィールドの表側攻撃表示のモンスター1体を選択し、そのモンスターはそのターンのエンドフェイズまで、
 攻撃力はそのカードの攻撃力に守備力の2倍を加算した値になる。
 このターンのエンドフェイズ時、対象となったモンスターを破壊する。

 ブラッド・ヒート。
 単独で戦局を引っ繰り返せる最強にして最凶にもなりうるカード。
 その危険さから制限カード指定された挙げ句少数で生産中止になったレアカード。
 俺の切り札。

 黒川雄二:LP600→300

 守護天使フェイト・ベル 攻撃力1500→4500

 フェイト・ベルの両手に光が灯る。
 暖かみのある光とは違う。むしろ、憤怒の炎だろうか、紅い。
「デミスの攻撃宣言はもう出た後だぜ……迎撃しろ、フェイト・ベル! ルイン・オブ・フェイト!」
「嘘………ってきゃあああああああああああ!!!!!!!!!!」

 志津間紫苑:LP1300→0

「…………」
 終わった。そして、勝った。
「ま、勝つには勝ったけど……何か変な気がする……何だよ、まったく…………」
 頭を掻いてみる。いつもと変わらない、変わらない筈なのに。
 何か、変だ。

「勝者、黒川雄二!」










「結局奴が勝ったか……おい、十代。いい加減続きを話せ」
「……………」
 階段の影で、亮の言葉に十代は応えないまま歩き回っていた。
「続きを話せ」
「すまん、どうにも……」
 十代がそう言い放った時、更に後ろから声がした。
「それはそうだろうな。遊城十代は真実の半分も話してない」
「!」
「お前は……高取晋佑、だったか?」
「ああ。アンタとはデュエルしてみたかったんだが、これじゃ無理だろうな。丸藤亮さん」
 晋佑は肩を竦めると、十代に視線を送った。
「少なくともアンタは真実を殆ど話してない。そうだろう?」
「……………普通に考えればそっちの方が懸命だろう?」
「それはお前の立場だからだろう。俺は違う」
「……十代、貴様、俺に嘘をついてたのか?」
「半分ぐらい。残り半分は本当だぜ」
 亮の問いに十代は更にそっぽを向く。これでは埒が明かない。
「……高取晋佑。貴様は何処まで解ってる?」
「全部は知らん。だが、話せるだけは話しておくさ……なぁ、遊城十代。アンタには真実を話す責任があるんじゃないのか?」
「…………………勝手に話せばいい。俺は知らん」
「チッ、嫌な奴だねぇ」
 晋佑は息を吐くと、亮に小さく手招きした。
「……………アンタ、実際に体験した覚えが無いのに、覚えている事は無いか? 例えば、自身の最高のデュエルの記憶、とかな」
「……いきなり、何を………ん? 待て、そんな筈は無い。アカデミアに留学生が来たのはこの前だよな? 俺は誰にも会ってない筈だぞ……」
「でも、知ってる。そうだろう?」
「………ああ……」
 体験していない筈なのに、覚えている記憶。未だ起こってない筈の事件の記憶。
「……何でそんな事が在りうる?」
「簡単な話だ」
 晋佑はここで少しだけ声を落した。
「世界は1度滅んだ。そして、今は2巡目の世界だからだ。だけど、不完全な再生から1順目の記憶が残る。中にはそっくりそのまま残る奴もいるがな。
 そう、例えば遊城十代のように」

「デュアル・ポイズンがカード研究の機関だったのは1巡目の話に過ぎない。もっとも、上層部の野望は1巡目も2巡目も変わってないみたいだけどな。
 ただ、デュアル・ポイズン内部も各派に分裂してるんだが………ウチの派閥は穏健派なんだ。神竜を回収するにも訳があるけど」
「………どんな理由だ?」
「神竜は、世界を破滅させた存在――――ダークネスの断片だからだ。肉体と3枚の神竜を回収すればもう1度ダークネスが1つに成りうる」
「肉体、か……肉体はまだあるのか?」
「別の魂が入ってるが肉体は健在らしい。だけど………」
 晋佑はそこで視線を甲板に向けた。
 甲板では雄二がちょうど社長にブン殴られていた。
「あれが肉体なんだよな、よりによって」


「………は?」
「ダークネスの肉体を持っていながら魂は普通の人間、それが黒川雄二って奴なんだよ」
「何故?」
「俺に聞くな。俺も知らん」
 亮の言葉に晋佑が肩を竦め、首を振る。
 確かに、奇妙な話だ。
 本来在るべきはずの魂が肉体に無く、肉体には別の魂が宿ってる。
「それで、デュアル・ポイズンは奴をどうする気だ?」
「奴の肉体にダークネスを戻す為に神竜が必要だ。だから……」
「その時点で黒川雄二という存在はどうなる?」
「解らん」
「やれやれ……」
 亮はため息をつくと、晋佑に視線を送った。
「………随分と厄介な問題なんだな」
「まぁな」
 晋佑はもう1度ため息をつくと、そこで天を仰いだ。






「………滅んだ世界……そして、世界を滅ぼした存在、ダークネス、か……」
 階段の片隅で、彼らの話をじっと聞いていたゼノンは小さく呟いた。
「なるほど……奴に何かを感じたのは、それが原因か………」
 だとすると。
 奴を倒せば、神竜全てを手にして奴を倒せば。
「オレは世界を滅ぼした存在すら超越出来るって事か………」
 今なら解る。
 デュエルとは、闘いなのだ。時として人としての枠組みすらも越えた闘い。

 手が、伸びた。






「あー………決勝トーナメント1回戦を勝ち抜いたデュエリスト共よ。明日は早いのでとっとと寝ろ。明日には着いてる」
 海馬社長の演説の後、解散となった。
 もっとも、青眼の白龍型高速船の乗り心地は最悪なので眠れそうに無いが。
「こんなに揺れるのにどうやって寝ろと」
「社長の事だからロッカーで寝ろってんじゃ?」
 俺の呟きに、貴明が少しだけ笑った。
「あー、有り得るかも」
「貴様ら、何を寝惚けた事を言っている」
「「うげ、社長!?」」
 いきなり頭上で響いた声に俺達が口を揃えた時、社長の拳骨が同時に降ってきた。
 痛い。痛すぎる。
 同時に、俺達の頭上に無数のKCマークが入ったブースターパックが降り注いできた。
「……社長?」
「これは一体?」
「フン。貴様らのカードのバリエーションの無さで無様に敗北するのは気分が悪い。どうせなら沢山所有してから負けろ!」
 相変わらず社長の理論は意味が解らない気がする。
 まぁ、くれると言うなら貰っておくべきか。
「でも、くれるなら……」
「有難く頂きます………つーか、多ッ!?」
 貴明の叫び通り、確かにパックは山を構築していた。
 少なく見積もっても300はあるだろう。1パック5枚入りとして1500枚はある計算になる。
「500用意した。好きなだけ開けて好きなだけ使え」
「「ありがとうございます、社長!」」
 でも、根っこはいい人だ、社長。
 500パックをポンとくれるなんて。
「代金はあの凡骨の所に回しておく」
「うわー、師匠かわいそー」
「ま、師匠だからね」
 やっぱりタダじゃなかった。がめつい。
「貰ってきます、それじゃ」
「ありがとうございます、社長。行こうぜ、雄二」
「おう」
 俺達はパックを全部抱えると、船室へと戻った。


 雄二と貴明の姿が船室に消えるのを、亮はしっかりと見ていた。
「とても、そうだとは思えん。あの男がダークネスの肉体だなんてな」
「そりゃそうだろ」
 亮の呟きに、甲板に立ったままの十代は答えた。

「俺だって信じられない。そもそも…………いや、もうこの話は辞める。忘れてくれ、カイザー」
「だが断る」
 亮はそう言い放って遠慮なくデュエルディスクを突き出す。
「…………何の真似だ」
「俺は納得せん。お前が知ってる事は高取晋佑が話した事だけじゃないだろう。言え」
「……断ったら?」
「デュエルだ」
 有無を言わさぬ脅迫。
 特にデュエリストにとって、デュエルとはある意味1つの交渉でもあるのだから。
 そして、丸藤亮は今まで遊城十代に1度も負けた事は無い。
 普通なら、勝てないだろうと思うのが当然。

「………ったく、後悔するなよカイザー?」
 十代は手で先ほどまでデュエルが行われていたフィールドを指さし「来な」と合図した。










「………もう1度聞くぜ。カイザー、後悔しないな?」
「当然だ。デュエリストたる者、既に覚悟は出来てる」
「……OK。俺も、本気を出す」
「?」
 亮が何かを言うより先に、十代はデッキを手に取ると、それをポケットにしまった。
 代わりに、別のデッキをとりだし、それを装着する。
「……デッキを変えた……?」

「見せてやるよ。地獄の焔って奴をな」

「「デュエル!」」

 丸藤亮:LP4000 遊城十代:LP4000

「先攻は貰うぞ! ドロー!」

「ヘル・ドラゴンを攻撃表示で召喚!」

 ヘル・ドラゴン 闇属性/星4/ドラゴン族/攻撃力2000/守備力0
 このカードは攻撃したターンのエンドフェイズ時に破壊され、墓地に送られる。
 フィールド上に存在するこのカードが破壊され墓地へ送られた時、モンスター1体を生け贄に捧げる事でこのカードを特殊召喚する。

「……ターンエンドだ」
「俺のターン! ドロー!」
 思えば、この時。亮は気付くべきだった。
 十代のデッキの、違和感に。
「手札の魔人インフェルノスを墓地へ送る」

 魔人インフェルノス 炎属性/星4/悪魔族/攻撃力2000/守備力800
 手札からこのカードを墓地に捨てる事で、デッキから「灼熱の大地ムスペルへイム」を手札に銜える。
 このカードはフィールド上に「灼熱の大地ムスペルヘイム」が存在しない時墓地に送られる。

「その効果により、灼熱の大地ムスペルヘイムをデッキから手札に銜え、フィールド魔法、灼熱の大地ムスペルヘイムを発動!」

 灼熱の大地ムスペルへイム フィールド魔法
 全フィールドの炎属性モンスターの攻撃力・守備力は300ポイントアップする。
 1ターンに1度、選択した炎属性モンスター1体の攻撃力を1000ポイント上げる事が出来る。
 この効果を使用した場合、そのモンスターはエンドフェイズ時に破壊される。

 フィールドが、一瞬で紅の炎に包まれた。
 灼熱の大地、というより火炎地獄に相応しい。よく、燃える。
「………まだ、モンスター召喚をしてないな。ヘルフレイムエンペラードラゴンLV4を召喚!」

 ヘルフレイムエンペラードラゴンLV4 炎属性/星4/炎族/攻撃力1800/守備力1400
 このカードは自分フィールド上で表側表示で存在する限りコントロールを変更出来ない。
 このカードは戦闘で相手モンスターを破壊した時、もう1度攻撃する事が出来る。
 自分ターンのスタンバイフェイズ時にこのカードを生け贄に捧げる事で「ヘルフレイムエンペラードラゴン LV6」を特殊召喚する。

 ヘルフレイムエンペラードラゴンLV4 攻撃力1800→2100

「こ、攻撃力2100………更に、レベルアップモンスター……」
 信じられない。1ターンで、これ程とは。
 今まで見せていたアカデミアでの姿とは、かけ離れた。とても同じ人間とは思えない。
「LV4で、ヘル・ドラゴンを攻撃! イグニッション・バーストォォォッ!」
「どわっ……!?」

 丸藤亮:LP4000→3900

「更に、LV4の効果発動! 戦闘で相手モンスターを破壊した時、もう1度攻撃が可能! そして、カイザーのフィールドにモンスターは無い。
 LV4で、プレイヤーにダイレクトアタック! イグニッション・バーストォォ、第2打ァッ!」

 丸藤亮:LP3900→1800

「ぐぁぁぁぁぁあああああああっ!!!!? ば、バカな………」
 この男……。
「カイザー。早めにサレンダーを考えた方がいい。焼き尽くされる前にな」
「……フッ………」
 面白い。アカデミアでの十代が仮の姿ならば、真の姿ですら。
「ねじ伏せる迄だッ!」



28話以降へ続く...




戻る ホーム 次へ