NEXUS
第1話〜

製作者:ネクサスさん










「・・・そんな! もう一緒にデュエルできないの? (さとる)兄ちゃん!!!」


「・・・すまないな。・・・もう、俺にはデュエルをやる資格はないんだ」


「えっ!? ・・・デュエルをやる資格がない? ・・・どういう事? どういう事!?」


 あの時、俺は泣きながら智兄ちゃんに問答を繰り返した。
 だけど・・・智兄ちゃんから返ってきた言葉は、1つだけだった。


「・・・。栄一、このカード達はお前が持っていてくれないか? ・・・カードには、俺の我侭に付き合ってほしくないから」


 そう言って智兄ちゃんは、数枚のカードを俺に渡した。それらは兄ちゃんのエースカードとその関連カードで、俺の一番のお気に入りのカード達でもあった。デュエルを教わっていた時に、何度も譲ってくれと強請ってもいた。
 ・・・だけど。


「・・・これは、兄ちゃんの一番大切なカード。・・・兄ちゃん!」


 そう言った時、既に智兄ちゃんの姿はそこにはなかった・・・。


 智兄ちゃんは、近くに住んでいるただのデュエル好きなお兄さんだ。
 けど、俺にとっては本当の兄弟のように思えたお兄さんだった。
 俺は物心つく前に捨てられた孤児だったから、大切な人がいなくなるという目の前の孤独に怯えた。
 俺はその場で、ずっと泣いていた。

















 ・・・「いつまで泣いていたんだろう」。ようやく泣き止み、自分自身でそう思ったその時だった。



『・・・栄一! ・・・栄一!!!』


「・・・誰!?」


 あたりを見回しても、誰もいなかった。


「もしかして今の声・・・、カードから?」


 そう、その時俺は、初めてデュエルモンスターズの精霊の声を聞いたんだ・・・。















目次

第1話 第2話 第3話 第4話 第5話 第6話 第7話 第8話 第9話 第10話





第1話 −新たなる伝説−

「だぁぁぁぁぁ! 皆どいてくれぇぇぇ!」

 そう言いつつ、周囲の人々を掻き分けながら全速力で道を突っ走る少年。
 その茶色がかった髪の毛は、まるで炎が燃え盛っているかの如く逆立っている。
 大きく、だがつぶらな瞳は、前をしっかりと見つめている。
 身長は・・・やや年齢不相応のようだ。小柄という表現が直球ど真ん中ストライクの表現だ。

「遅刻ー!!! なんでこんな時に電車事故るんだよーーー!!!」

 ・・・そう。この日、今作の主人公である明石(あかし)栄一(えいいち)は、海馬ランドへの道のりを急いでいた。
 デュエルアカデミアの入学試験が、海馬ランドで行われるから。そしてこの栄一もまた、アカデミアの門を叩こうとしているからである。

「だけど、いつまでも嘆いていても仕方がねぇ! 全速力で走ればまだ間に合うんだ! 待ってろよ! デュエルアカデミアーーー!」

 体力、そして運動能力には自信がある。そんな少年、明石栄一のダッシュから、この物語は始まる。






−デュエルアカデミア入学試験実技部門試験会場・海馬ランド−

 デュエルアカデミアの入学試験は、筆記試験と実技試験(つまりデュエルである)の2種類の試験が行われる。
 まず筆記試験を受験者全員が行い、そしてそれをクリアした人間のみが実技試験を行える。
 そして実技試験をクリアした者のみが、晴れてデュエルアカデミアの門を潜れるのである。
 これは、昔から変わらない伝統である。



−入学試験会場前−

「・・・時間だな。書類片付けて受験者の観戦でもするか」

 そう言って受付の職員が、目の前の書類を纏めようとしたその時であった。

「待ったー! 受験番号110、明石栄一! セーフだよね?」

「・・・えっ?」


 草むらから突然現れた少年に、職員は唖然とする他なかった。
 ・・・前途多難な始まり。今作の主人公、時間ギリギリのセーフである。



−会場内−

「ダイレクトアタック!」

「ぐわー!!!」

職員A:LP1900→LP0

 黒い短髪。背は年齢相応。そんな少年の操るモンスターが、対戦相手である、アカデミアの職員のライフを削りきった。

「試験デュエル終了。おめでとう、君の勝利だ」

「ありがとうございました」

 会場内では、受験番号1番の少年の試験デュエルが終わったばかりであった。
 その1番の少年に対しての合否は、満場一致で瞬時に決まった。



−会場観客席・アカデミア教師列−

「受験番号1、迫水(さこみず)君は合格で決まりですね」

「これで全員終了です」

「ん、了解ナノーネ」

 そう言うのは、金髪おかっぱ頭な超長身(GX本編での設定身長は2mらしい)の外国人教師、クロノス・デ・メディチデュエルアカデミア教頭。
 彼の一声に合わせて、その場にいた職員全員が立ち上がろうとしたその時であった。

「すみません、まだ1人います! 先ほどギリギリに来まして・・・。何でも、電車の事故に巻き込まれたらしくて」

 1人の職員が大慌てで飛び込んできた。

「電車のオクーレ? 受験番号は?」

「110番、明石栄一君です」

「電車のジーコJAPAN? チコークはコカ・コーラ? 警察は110バーン? 何か懐かしい響きナノーネ?」

 この教頭、「歩くシュールレアリスム」という表現が、全く違和感無く当てはまる。
 真面目な台詞ですら、時には笑いを誘ってしまうのだ。

「その受験生はどこナノーネ?」

 そのクロノス教頭ですら興味を抱いてしまう少年、明石栄一。
 その姿に、クロノス教頭どころか周りにいる職員全員が注目してしまう。

「一応、デュエルコート付近で待機させてます。あそこです」

 駆け込んで来た職員の指差す先・・・職員の視線が、一斉にそちらに向く


「まだかなー? どんな奴とデュエルできるのかなー?」


「(ナポリターナ!? 面影もアイツとそっくりナノーネ!) ・・・よろしい。シニョール(まもる)を呼ぶノーネ。彼の試験デュエルの相手はシニョール護にするノーネ」

 そしてその栄一の姿・・・それが、クロノス教頭に大きな決断をさせる。

水原(みずはら)にやらせるんですか!」

「そんな無茶な・・・。受験生には酷な相手ですよ・・・」

「それに、試験デュエルの相手は原則としてアカデミアの職員となってます。教師志望の彼とはいえ、生徒に試験デュエルをやらせるなんて・・・」

 それは、余りにも思い切った判断なのだろうか、職員の反応はよくない。
 だが、戸惑う他の職員の質問攻めにも、クロノス教頭は全く反応しない。

 そこに・・・。

「僕をお呼びですか? クロノス先生」

「うわぁ! いつの間に・・・」

 職員達の話題の中心人物が現れた。それに気づくとすぐに、クロノス教諭は栄一のいる方を指してその少年に説明した。

「おお! シニョール護! 早速ダケード、コートにいるあのデュエリストと試験デュエルをしてほしいノーネ。あっ、ちなみにデッキはシニョールのデッキを使ってほしいノーネ」

 クロノス教諭の発言に、さらに驚く職員陣。

「・・・なるほど。わかりました、ではすぐに」

「頼むノーネ」

 クロノス教諭と同様、栄一から何かを感じ取った様子の護と呼ばれた少年は、自らのデッキと共にすぐにデュエルコートへと向かっていった。
 教諭と護の当然のような会話に、唖然としている他の職員一同を尻目にして・・・。



−デュエルコート−

「まだかなーーー・・・!?」

 栄一が暇を弄んでいるその時、ガコン!という音と共に、1人の少年が栄一の前に現れた。

「来た! 相手はどんな奴d・・・ て、えっ! アンタはもしや・・・」

 栄一は仰天する。それもその筈、目の前にいるのは、年齢的に言えば完全に「少年」なのだが、その醸し出す雰囲気はもはや「少年」というには失礼。
 整った髪形、しっかり着こなされた、白い制服、背筋をピンと張ったその立ち姿。
 この世界では、誰もが憧れるその人なのだから・・・。

「初めまして。明石栄一君。君の試験デュエルを担当すr・・・」

「通称ガーディアンズマスター、プロデュエリストの水原(みずはら)(まもる)!!! スゲェ!」

 そう、プロデュエリスト・水原護である。

「ハハハ。元、だけどね」

「スゲェ! ・・・確かに、プロを引退した後アカデミアに入学したとは聞いていたけど、こんなところで会えるなんて! マジでスゲェ!」

 栄一は興奮していた。何せ、「元」が頭につくはいえプロデュエリスト、しかもその世界でトップクラスのデュエリストであった人が、今、自分の目の前にいるのだから・・・。 
 だが、その護は、興奮している栄一を至って冷静に宥める。

「興奮しているところ悪いけど、すぐにデュエルを始めようか。・・・だが、試験デュエルとはいえ、手加減するつもりは一切ないよ」

「モチ! 絶対負けないぜ!」

 2人の姿は対照的だ。



 ・・・二人のデュエルディスクが音を立てデュエルモードに変形する。そして、二人一斉にデュエル開始を宣言した。

「「・・・デュエル!」」

栄一:LP4000
護:LP4000

 今、新たな時が動き出す・・・



第2話 −HERO(ヒーロー)vsGUARDIAN(ガーディアン)

 栄一と護、両雄共に勢いよくカードを5枚引き、手札とした。

「先攻は俺! ドロー! 『E・HERO(エレメンタルヒーロー) スパークマン』を、守備表示で召喚!」

 まず現れたのは、両手の間でバチッと火花を発する戦士『スパークマン』。
 『E・HERO(エレメンタルヒーロー)』と呼ばれるカテゴリーの中でも、中々の能力を持った切り込み隊長だ。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) スパークマン ☆4
光 戦士族 通常 ATK1600 DEF1400
様々な武器を使いこなす、光の戦士のE・HERO。
聖なる輝きスパークフラッシュが悪の退路を断つ。

「さらにリバースカードを1枚セットして、ターンエンド!」

栄一LP4000
手札4枚
モンスターゾーンE・HERO スパークマン(守備表示:DEF1400)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
LP4000
手札5枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンなし

「(HEROデッキか。何から何まであの人と一緒だな・・・)僕のターン! ドロー!」

 栄一のターン終了宣言と共に、護がデッキからカードをドローした。
 そしてその脳裏には、ある1人の恩人の顔が思い浮かぶ。
 栄一とその恩人が、完全に同じに見えるのだ。

「(ガーディアンズマスター水原護・・・、見せてもらうぜ! アンタの力!)」

 対する栄一は、憧れのデュエリスト、護の一挙手一投足に注目する。

「・・・『G・HERO(ガーディアンヒーロー) スピーディアン』を攻撃表示で特殊召喚! このカードは相手のフィールドにモンスターが存在し、僕のフィールドにモンスターが存在しない場合、特殊召喚する事ができる! さらに、『G・HERO ラピート』! こいつも特殊召喚が可能なモンスターだ! 攻撃表示で特殊召喚する!」

 護が2枚のカードをディスクにセットすると、護のフィールドに剣を持った戦士『スピーディアン』と、いかにもスプリンターな戦士『ラピート』の、2体の戦士が現れた。

G・HERO(ガーディアンヒーロー) スピーディアン ☆4(オリジナル)
光 戦士族 効果 ATK1900 DEF1300
相手フィールド上にモンスターが存在し、
自分フィールド上にモンスターが存在していない場合、
このカードは手札から特殊召喚する事ができる。

G・HERO(ガーディアンヒーロー) ラピート ☆4(オリジナル)
光 戦士族 効果 ATK1000 DEF900
このモンスターの召喚は特殊召喚扱いにする事ができる。
このカードの戦闘によって発生する
このカードのコントローラーへの戦闘ダメージは0になる。
フィールド上のこのカードが破壊され墓地に送られたターンに、
相手モンスターから受ける全ての戦闘ダメージは0になる。

「何!? いきなりモンスターが2体・・・」

 初手から繰り広げられる大量展開に、栄一は動揺を隠せずにいる。
 だがこれで終わるほど、ガーディアンズマスターは甘くない。

「おっと! まだ僕は通常召喚を行っていない! よって『ミラクル・ヒーロー』を攻撃表示で召喚!」

「マジかよ・・・」

 そう。先程の2体は、共に特殊召喚でフィールドに呼ばれた。
 つまり、護はまだ通常召喚の権利を残しているのだ。

ミラクル・ヒーロー ☆4(オリジナル)
闇 戦士族 効果 ATK1600 DEF1600
???

 そして現れた3体目のヒーローは、共闘する2体のヒーローよりも、寧ろ対峙する1体のヒーローの姿に酷似した、アメコミ風の黒の鎧を着たヒーローであった。



−会場観客席−

「さすがガーディアンズマスター。初手でいきなり流れを自分のものにした。あの受験生、終わったな・・・」

 観客席では、既に試験を終了した受験生達が栄一と護のデュエルを観戦していた。
 今声を上げたのは、先ほどデュエルを終了した受験番号1番の少年である。

「そうかしら? まだデュエルは始まったばかりよ」

 そして、その少年の後ろから1人の少女が現れ、少年に声をかけた。
 その少女は、金の短髪に、華奢な体系。背は少年より低い。胸は・・・・・・言わないでおこう。
 彼女の言葉に、少年は思わず反応してしまう。

「・・・? 何か思う事でもあるのかい?」

「別に、そう思っただけ。それに、あの子はメチャクチャ喜んでるわよ」

 少女の言葉に少年が栄一の方を向くと、確かに興奮している栄一の姿があった。



「ヒーローが一瞬で3体も並んだ・・・。これが、マスターのデュエル!」



「・・・。マスターを相手になんというノー天気な(汗)」

「でも、それも面白いんじゃない?」

「そんなものなのかねぇ・・・」

 そんな彼らの状況は、まさしく(ことわざ)の通り、高みの見物だ。



−デュエルコート−

「いくぞ! 『ミラクル・ヒーロー』で『スパークマン』を攻撃! 『英雄の雷』!」

 『ミラクル・ヒーロー』の手から発された雷により、『スパークマン』は一瞬にして破壊された。

「くっ!」

「『スピーディアン』! 『スピーディ・クラッシュ』!」

 そして、栄一のフィールドはがら空き。『スピーディアン』が勇猛果敢に突っ込んでくる。

「そうはさせるか! リバースカードオープン! 『ドレインシールド』! これで『スピーディアン』の攻撃は無効。さらに、俺のライフが回復する!」

 『ドレインシールド』が発動されると、すぐにバリアが栄一の周りを囲み、スピーディアンの剣による一撃を遮断する。

ドレインシールド 通常罠
相手モンスター1体の攻撃を無効にし、
そのモンスターの攻撃力分の数値だけ自分のライフポイントを回復する。

栄一:LP4000→LP5900

「だが『ラピート』の攻撃はまだ残っている。『ラピッド・スマッシュ』!」

 栄一がホッとしたのも束の間。『スピーディアン』の後ろから栄一に蹴りを入れてきた『ラピート』の不意打ちに、栄一は思わずその場でコケてしまった。

栄一:LP5900→LP4900

「ターンエンド」

栄一LP4900
手札4枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンなし
LP4000
手札3枚
モンスターゾーンG・HERO スピーディアン(攻撃表示:ATK1900)
G・HERO ラピート(攻撃表示:ATK1000)
ミラクル・ヒーロー(攻撃表示:ATK1600)
魔法・罠ゾーンなし

「(スゲェ・・・、一瞬で流れを持っていかれた・・・。だが・・・)俺のターン! よし! 魔法カード『融合』発動! 手札の『フェザーマン』と『バーストレディ』を融合! 『フレイム・ウィングマン』を融合召喚だ!」

 栄一がそう宣言すると、手札から翼を持った戦士『フェザーマン』と、炎を操る女戦士『バーストレディ』がフィールドに現れ、融合。そして代わって、右手に龍の頭のような物を、背中には翼を持った戦士『フレイム・ウィングマン』が、栄一のフィールドに現れた。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) フレイム・ウィングマン ☆6
風 戦士族 融合・効果 ATK2100 DEF1200
「E・HERO フェザーマン」+「E・HERO バーストレディ」
このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。
このカードが戦闘によってモンスターを破壊し墓地へ送った時、
破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) フェザーマン ☆3
風 戦士族 通常 ATK1000 DEF1000
風を操り空を舞う翼を持ったE・HERO。
天空からの一撃、フェザーブレイクで悪を裁く。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) バーストレディ ☆3
炎 戦士族 通常 ATK1200 DEF800
炎を操るE・HEROの紅一点。
紅蓮の炎、バーストファイヤーが悪を焼き尽くす。

融合(ゆうごう) 通常魔法
手札・自分フィールド上から、融合モンスターカードによって
決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、
その融合モンスター1体をエクストラデッキから特殊召喚する。

「さらに『フレイム・ウィングマン』の融合召喚に成功した為、『エレメンタル・ターボ』を発動する! 2枚ドローするぜ!」

エレメンタル・ターボ 通常魔法(オリジナル)
「E・HERO」と名のついたモンスターの
融合召喚に成功したターンに発動する事ができる。
自分のデッキからカードを2枚ドローする。

 『エレメンタル・ターボ』の効果により、栄一はデッキから2枚のカードをドローする。・・・その時だった。

『栄一・・・』

「! ついに来てくれたか。よろしく頼むぜ!」

『・・・』

 待ち望んでいたヒーローが、栄一の手元にやって来た。その現実に、栄一は思わず笑顔を浮かべてしまう。




「(ん? 手札に向かって喋っている・・・? まさか彼も・・・)」

 栄一の異変に、護も気付く。・・・その瞬間だった。

『どうやらそうみたいだな。あいつも、お前と同じ、デュエルモンスターズの精霊を見る事のできる人間だ』

 護を守護するヒーロー『ラピート』が、護に声をかけてきた。

「『ラピート』! 急に喋るなよぉ(汗)」

『まぁまぁ。そうと分かれば面白くなってきたじゃねぇか! な、護!』

「・・・あぁ! 勿論だ!」




 栄一と護、精霊と会話をする事ができる者同士、共に精霊との会話が終わりデュエルが再開された。
 栄一が猛々しく『フレイム・ウィングマン』の攻撃宣言をする。

「『フレイム・ウィングマン』で『スピーディアン』を攻撃! 『フレイム・シュート』だ! さらに『フレイムウィングマン』の特殊効果、戦闘によってモンスターを破壊した時、破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える!」

 栄一がそう言うと、『フレイム・ウィングマン』が『スピーディアン』に突進。『スピーディアン』は防御の暇もなく破壊された。
 だが『フレイム・ウィングマン』は、それに躊躇することなく進み護の目の前に立つ。
 そして龍の頭から炎を吹き出し、護にそれを浴びせる。俗に言う「直火焼き」というやつである。

護:LP4000→LP3800→LP1900

「カードを1枚セットして、ターンエンドだ!」

栄一LP4900
手札2枚
モンスターゾーンE・HERO フレイム・ウィングマン(攻撃表示:ATK2100)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
LP1900
手札3枚
モンスターゾーンG・HERO ラピート(攻撃表示:ATK1000)
ミラクル・ヒーロー(攻撃表示:ATK1600)
魔法・罠ゾーンなし

「やるな、栄一・・・僕のターン! ・・・君には、守護者(ガーディアン)のさらなる力を見せてやろう! 魔法カード、『早すぎた埋葬』を発動! 墓地の『スピーディアン』を復活させる! そして『ラピート』『スピーディアン』『ミラクル・ヒーロー』の3体をリリースして、『BG(ブレイブガーディアン) インフィニティ・ナイト』を特殊召喚する!」

 護が3体のヒーローをディスクから取り除き、新たなるカードをデュエルディスクにセットする。
 すると、3体のヒーローが場から姿を消し、代わって灼熱の中から新たなる騎士、『インフィニティ・ナイト』が護の前に現れた。

(はや)すぎた埋葬(まいそう) 装備魔法
800ライフポイントを払う。自分の墓地からモンスターカードを
1体選択して攻撃表示でフィールド上に特殊召喚し、このカードを装備する。
このカードが破壊された時、装備モンスターを破壊する。

護:LP1900→LP1100

BG(ブレイブガーディアン) インフィニティ・ナイト ☆8(オリジナル)
炎 炎族 効果 ATK3500 DEF2800
このカードは通常召喚できない。自分フィールド上に存在する
「G・HERO」または「BG」と名のついたモンスターを含む
モンスター3体をリリースした場合のみ特殊召喚する事ができる。
???

「攻撃力、3500・・・」

 自らを睨み付ける『インフィニティ・ナイト』のその能力に、栄一は思わずたじろいでしまう。



−会場観客席−

「『BG(ブレイブガーディアン)』! 『G・HERO』と共にマスターが操る守護者(ガーディアン)! とは言え『BG』の力は『G・HERO』の力を遥かに凌ぐという・・・。試験デュエルでマスターがここまで力を出すなんて・・・」

「ちょっと待って! 『BG』は私もテレビで何度も見た事あるけど、このモンスターは1度も見た事ないわ」

「あっ!? そう言えば確かに、俺も見た事がない・・・」

 自分達が見た事もないモンスターの出現に、少年も少女も驚きを隠せなかった。



−デュエルコート−

「皆、『インフィニティ・ナイト』の事を、「見た事が無いガーディアン」と言うと思うが、それも当然だな。なにせ『インフィニティ・ナイト』は実戦では今日が初登板だから! いけ、『インフィニティ・フレア・ブレード』!」

 『インフィニティ・ナイト』の持つ剣が炎を纏い、『フレイム・ウィングマン』を真っ二つに切り裂く。
 そして、『フレイム・ウィングマン』の破壊による反動で爆発が起き、栄一の周りを煙が包んだ・・・。

「ぐわぁぁぁ!!!」

栄一:LP4900→LP3500

「スゲェ・・・やっぱ半端なく強ぇ・・・。・・・ん?」

 その瞬間、栄一の耳に、ある声が届く。

『栄一! 今だ、私を呼べ!』

「・・・あぁ! 向こうが初登板モンスターなら、ここはこちらも初登板のお前しかいないな! お前の初舞台、頼むぜ!」

 そう言いつつ、栄一はある1枚のモンスターカードをデュエルディスクにセットした。



 ・・・煙が晴れ、栄一の姿が現れた。
 ある1体の、紅の鎧を着た灼熱の戦士を伴って。



「何!? そのモンスターは!?」

 護は突然のモンスターの出現に、驚きを隠せなかった。観客席の人々の反応も同じである。

「『E・HERO バーニング・バスター』。俺のフィールド上の戦士族モンスターが破壊された時、手札から舞い降りる灼熱の戦士! 俺がデュエルを教わった人から授かった、魂のカードだ!」



「このカード達はお前が持っていてくれないか? ・・・カードには、俺の我侭に付き合ってほしくないから」)



「・・・」

 余りにも突然の出来事に、護は、何も声を発する事ができなかった。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) バーニング・バスター ☆7(オリジナル)
炎 戦士族 効果 ATK2800 DEF2400
自分フィールド上に存在する戦士族モンスターが
戦闘またはカードの効果によって破壊され墓地へ送られた時、
手札からこのカードを特殊召喚する事ができる。
このカードが戦闘によってモンスターを破壊し墓地へ送った時、
破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。




第3話 −その名はバーニング・バスター−

「ターンエンド」

 暫くの沈黙の後、ようやく会場内に護の声が響いた。

栄一LP3500
手札1枚
モンスターゾーンE・HERO バーニング・バスター(攻撃表示:ATK2800)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
LP1100
手札2枚
モンスターゾーンBG インフィニティ・ナイト(攻撃表示:ATK3500)
魔法・罠ゾーンなし

「よし! 俺のターン! ドロー!」

 栄一が、勢いよくカードを引く。

 『E・HERO(エレメンタルヒーロー)』は、融合によって、その力をさらに高める。

 ・・・そう。この瞬間、「新たなヒーローの誕生」の予感が、会場全体で巻き起こったのだ。

「リバースカード『無謀な欲張り』を発動! さらにカードを、2枚ドロー!」

無謀(むぼう)欲張(よくば)り 通常罠
カードを2枚ドローし、以後自分のドローフェイズを2回スキップする。

「(来た! イケる、イケるぜ!)」

 そして栄一は、そんな会場中の期待に大いに応えた。
 逆転劇への準備は全て整った。役者も揃った。後残されるは、真打の登場だけである。

「いくぜ、マスター! 『融合』を発動だ!」

 その真打を呼ぶカードが、栄一のデュエルに差し込まれた。
 『融合』のカード。そのカードに導かれ、手札とフィールドに存在するヒーローが融合・結束する。

「フィールドの『バーニング・バスター』と、手札の『クラッチマン』『ネクロダークマン』を融合! 現れろ!」














「『E・HERO(エレメンタルヒーロー) ウルティメイト・バーニング・バスター』!」














 灼熱が3体のヒーローを包み込み、そこから新たな炎のヒーローが姿を現した。
 熱気溢れる体は、彼の周囲が揺らいでるかのように錯覚させる。その逞しい両足は、大地をしっかり踏みしめ、太くしなやかな両腕は、全てを粉砕せんと力強さを見せ付ける。そしてその鋭い緑の瞳は、彼に対峙する全てを貫く。
 熱き炎と同じ紅き色の鎧をその身に纏う、『インフィニティ・ナイト』をも遥かに凌駕するその巨大な体。体から発される炎と共に、この会場全てを「畏怖」で包み込む。
 それが、灼熱の巨人『ウルティメイト・バーニング・バスター』である。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) ウルティメイト・バーニング・バスター ☆10(オリジナル)
炎 戦士族 融合・効果 ATK4000 DEF3200
「E・HERO バーニング・バスター」+戦士族のモンスター×2
このモンスターの融合召喚は、上記のカードでしか行えず、融合召喚でしか特殊召喚できない。
このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、その守備力を攻撃力が超えていれば、
その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。
このカードが戦闘によってモンスターを破壊し墓地へ送った時、
破壊したモンスターの攻撃力か守備力の高い方の数値分のダメージを相手ライフに与える。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) ネクロダークマン ☆5
闇 戦士族 効果 ATK1600 DEF1800
このカードが墓地に存在する限り1度だけ、
自分はレベル5以上の「E・HERO」と名のついた
モンスター1体をリリースなしで召喚する事ができる。

「さらに『クラッチマン』の効果で、『ウルティメイト・バーニング・バスター』の攻撃力はさらに500ポイントアップする!」

 そして、融合素材として『バーニング・バスター』に力を与えたヒーロー『クラッチマン』が、その名の通りクラッチ機能の役割を果たし、『ウルティメイト・バーニング・バスター』の炎を、攻撃力をさらに高める。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) クラッチマン ☆3(オリジナル)
闇 戦士族 効果 ATK1000 DEF800
このカードを融合素材モンスター1体の代わりにする事ができる。
その際、他の融合素材モンスターは正規のものでなければならない。
このカードを融合素材にして融合召喚されたモンスターは、攻撃力が500ポイントアップする。

E・HERO ウルティメイト・バーニング・バスター:ATK4000→ATK4500

「攻撃力4500!?」

 護にとって、この栄一のターンは驚きの連続だった。
 いや・・・寧ろ、自分の今の立場を忘れて興奮しっぱなしの状態ともいえた。

「頼むぜ、『ウルティメイト・バーニング・バスター』!」

 栄一が声をかける。それに応えた『ウルティメイト・バーニング・バスター』は、宙に飛び上がり、天に掲げた両手で巨大な炎の塊を作り出す。
 
「『ウルティメイト・バーニング・バスター』で、『インフィニティ・ナイト』を攻撃!」





「『ウルティメイト・バーニング・バースト』!!!」





 栄一の攻撃宣言。それと共に『ウルティメイト・バーニング・バスター』のその両手から放たれた灼熱の炎球が、『インフィニティ・ナイト』を一瞬でフィールドから消し去った。

護:LP1100→LP100

「さらに『ウルティメイト・バーニング・バスター』の効果! 戦闘によってモンスターを破壊した時、破壊したモンスターの攻撃力か守備力の高い方の数値分のダメージを相手ライフに与える! 俺の勝ちだ!」

 『インフィニティ・ナイト』を倒した『ウルティメイト・バーニング・バスター』は、その勢いのまま護の目の前に立ち、その体の全ての熱エネルギーを護へと放出した。

「ぐうぅぅぅ」

 ドーンという音と共に、会場を煙が包んだ。



−会場観客席−

「ゲホッゲホッ、マスターが負けた!? あの子、本当に勝ってしまうなんて・・・」

「・・・いや、見ろ!」


 煙が晴れる。そしてそこには、仁王立ちの護の姿があった。

護:LP100



−デュエルコート−

「何でだ!? なんでLPが0になってないんだ!?」

「危なかった・・・。彼が手札にいなかったら、負けてたよ」

 そういって護は墓地から1枚のカードを取り出し、栄一に見せた。

「『リリカル・セイジ』!? 効果によるダメージを1ターンだけ0にするカード・・・」

リリカル・セイジ ☆3(オリジナル)
炎 炎族 効果 ATK800 DEF800
このカードを手札から捨てて発動する。このターン、
自分が受ける戦闘ダメージ以外のダメージは全て0になる。
この効果は相手ターンでも発動する事ができる。
自分の墓地に存在するこのカードをゲームから除外して発動する。
自分はデッキからカードを1枚ドローする。

「チクショー! 後1歩だったのにー! ・・・カードを1枚セットして、ターンエンドだ」

 後一歩で、あのガーディアンズマスターに勝利する事ができたのに・・・。
 悔しそうに、栄一はターンを終えた。

栄一LP3500
手札0枚
モンスターゾーンE・HERO ウルティメイト・バーニング・バスター(攻撃表示:ATK4500)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
LP100
手札1枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンなし

 そしてこの瞬間、護の大反撃のターンが始まる。

「僕のターン! ドロー! この瞬間、『インフィニティ・ナイト』の効果! デッキからカードを1枚選択して、手札に加える!」

BG(ブレイブガーディアン) インフィニティ・ナイト ☆8(オリジナル)
炎 炎族 効果 ATK3500 DEF2800
このカードは通常召喚できない。自分フィールド上に存在する
「G・HERO」または「BG」と名のついたモンスターを含む
モンスター3体をリリースした場合のみ特殊召喚する事ができる。
このカードが破壊された場合、次の自分ターンのスタンバイフェイズ時、
自分はデッキからカードを1枚選択して手札に加える事ができる。

「さらに、『リリカル・セイジ』の効果を発動。墓地の『リリカル・セイジ』を除外する事でカードを1枚ドロー!」

「(この場面で一気に手札補充かよ・・・。やっかいだな)」

 栄一が、冷や汗をかく。
 テレビの中の護は、こういう状況はいつでも簡単に乗り越えていた。

 ・・・そして、今回も例に漏れる事はない。

「いくぞ、栄一! 僕は『G・HERO ネクサス』を、攻撃表示で召喚する!」

 護が『ネクサス』のカードをディスクにセットした瞬間、フィールドに突如光が発し、少年時代、男の子なら誰もが憧れた銀色の巨人に似た戦士が、その光から現れた。

「『ネクサス』・・・ここで来るのか!?(・・・何度も見た! マスターがあのカードを駆使して幾多の勝利を収めてきたのを・・・。故に事実上、マスターのエースカード、『G・HERO ネクサス』!)」

G・HERO(ガーディアンヒーロー) ネクサス ☆6(オリジナル)
光 戦士族 効果 ATK2500 DEF1500
相手フィールド上にモンスターが存在し、自分フィールド上にモンスターが
存在していない場合、このカードはリリースなしで召喚する事ができる。
元々の攻撃力がこのカードの元々の攻撃力より高いモンスターが
相手フィールド上に表側表示で存在する場合、このカードの攻撃力は
500ポイントアップする。このカードは罠カードの効果を受けない。

「(だが、『ネクサス』の攻撃力は元々の2500。自らの効果により500を加えても3000。それでも『ウルティメイト・バーニング・バスター』の攻撃力には届かない・・・。どうするつもりだ?)」

「カードを2枚セット。さらに速攻魔法『サイクロン』を発動。僕のフィールドの伏せカード1枚を破壊する」

「(!? 自分の伏せカードを破壊? 何をする気だ?)」

サイクロン 速攻魔法
フィールド上の魔法または罠カード1枚を破壊する。

「この瞬間、墓地の『ミラクル・ヒーロー』の効果発動。「フィールド上のカードを破壊する効果」を持つ魔法・罠・効果モンスターの効果が発動した時、墓地のこのカードを除外する事でその発動を無効にし破壊する。これにより『サイクロン』の発動を無効化!」

 風が、護の場の伏せカードを飲み込もうとする。しかし、そこに一人の戦士が現れ、身を挺してそれを阻止した。

「(『サイクロン』を自らカウンターした・・・? どういう事だ?)」

「『ミラクル・ヒーロー』の更なる効果! 僕の手札が1枚以下の場合、除外されているこのカードを手札に加える! そしてリバースカードオープン! 『セイクリッド・ネクサス』。これは『ネクサス』専用の融合カード! これにより、フィールドの『ネクサス』と手札の闇属性モンスター、すなわち『ミラクル・ヒーロー』を融合、『ナイト・ネクサス』を呼ぶ!」


 ・・・護の宣言と共に、フィールドの『ネクサス』と手札の闇の戦士が融合、右腕に剣を装備した紫色の戦士が現れた。


「『ナイト・ネクサス』!? ・・・スゲェ。マスターがここまで複雑な戦法を使ったのは全て、この融合のため!」

「『ナイト・ネクサス』は戦う相手モンスターのレベル×200ポイント、攻撃力をアップする! さらにリバースカードオープン、装備魔法『不屈の心(レイジング・ハート)』を、『ネクサス』に装備!」

 目まぐるしく動く、護のカード達。
 その瞬間、『ナイト・ネクサス』のその心に、不屈の闘志が燃え上がり、『ナイト・ネクサス』の攻撃力を高ぶらせる。

「これにより、僕のライフと君のライフの差分、3400を『ネクサス』の攻撃力に加える!」

「何!?」

G・HERO(ガーディアンヒーロー) ナイト・ネクサス ☆7(オリジナル)
闇 戦士族 融合・効果 ATK2700 DEF1700
「G・HERO ・ネクサス」+闇属性モンスター1体
このカードは「セイクリッド・ネクサス」による融合召喚でしか特殊召喚できない。
このカードの攻撃力はダメージステップ時のみ、
戦闘する相手モンスターのレベル×200ポイントアップする。

セイクリッド・ネクサス 通常魔法(オリジナル)
自分の手札またはフィールド上から、融合モンスターカード
によって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、
このカードの効果によってのみ特殊召喚できる融合モンスター
1体を融合召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する。

不屈の心(レイジング・ハート) 装備魔法(オリジナル)
自分のライフポイントが相手のライフポイントよりも少ない場合、
その数値だけ装備モンスターの攻撃力がアップする。

G・HERO ナイト・ネクサス:ATK2700→ATK6100

 テレビで見た通りだった。
 護は、この困難な状況を、いとも簡単に・・・逆転した。

「『ナイト・ネクサス』で、『ウルティメイト・バーニング・バスター』を攻撃! 『オーバーロード・スラッシュ』!!!」

 『ナイト・ネクサス』が、大地を蹴って素早くジャンプ。その右手の剣で、『バーニング・バスター』を一撃で切り裂かんとする。
 しかし栄一も、最後の抵抗に出る。

「まだだ! トラップカード『レスポンシィビリティ』! 墓地に眠るヒーローが、『ナイト・ネクサス』を破k・・・・・・!?」

 だがそこまで言って、栄一はそれが無駄な抵抗である事に気付いた。
 栄一のリバースカード発動と共に、護が1枚のカードを取り出したからだ。

「残念だが・・・『ミラクル・ヒーロー』の効果を再び発動だ。『レスポンシィビリティ』の効果は無効になる」

レスポンシィビリティ 通常罠(漫画GXオリジナル)
相手モンスターの攻撃宣言時に、墓地にLV5以上の「HERO」
と名のついたモンスターが存在する場合のみ発動する事ができる。
その攻撃モンスター1体を破壊する。

ミラクル・ヒーロー ☆4(オリジナル)
闇 戦士族 効果 ATK1600 DEF1600
「フィールド上のカードを破壊する効果」を持つ
魔法・罠・効果モンスターの効果が発動した時、
自分の墓地に存在するこのカードをゲームから
除外する事でその発動を無効にし破壊する。
自分の手札が1枚以下の場合、ゲームから除外
されているこのカードを自分の手札に加える事ができる。

 『バーニング・バスター』を守り抜くという責務を果たす為、幻影となってまで栄一の墓地より現れた『フレイム・ウィングマン』の幻影も、対して護の墓地より現れた『ミラクル・ヒーロー』の幻影によって掻き消されてしまった。
 結果、『ナイト・ネクサス』の攻撃は成立する。

「そして『ナイト・ネクサス』の効果! 『ウルティメイト・バーニング・バスター』のレベル×200ポイント、その攻撃力をアップ!」

 『ウルティメイト・バーニング・バスター』のレベルは10。よって、『ナイト・ネクサス』の攻撃力は・・・

G・HERO ナイト・ネクサス:ATK6100→ATK8100

 『ナイト・ネクサス』は右腕を振り上げると、一気に『バーニング・バスター』に切りかかった。
 『バーニング・バスター』も反撃の砲を発射しようとするが、「時既に遅し」だった・・・。

「ぐっ・・・」

 同時に、超過したダメージが栄一のライフを削る。
 それは、栄一がこのデュエルに敗北した事を意味した。

栄一:LP3500→LP0

「・・・試験デュエル終了。残念だが、君の負けだ」

「・・・負けた。・・・でも、スゲェ楽しいデュエルだったぜ! マスター!」

 その言葉に対して護は若干の笑みを見せ、そして・・・

「あぁ、僕もだ。・・・だがいいのかい? 合格は基本的に、デュエルの勝利が前提となるんだよ」

 はしゃいでいたのも束の間。護の発言に対して、栄一は一瞬で青ざめた・・・。

「・・・!? しまった!? 忘れてたー!? ・・・ガックリ、アカデミア入試、落ちちまった」

 その場で落ち込む栄一。だが、そんな栄一に全く同情の様子を見せず、むしろイタズラに成功した少年のように笑いながら護は・・・。

「ハハハハハ。すまない、冗談だよ。ですよね、クロノス先生」

 いつの間にかコートの中に立っていた、クロノス教頭へと尋ねた。

「ん。試験デュエルはシニョール栄一、アナタの負けナノーネ。とはイーエ、シニョール護をここまで追い詰める事のデキールデュエリストは、アカデミアの生徒にもいないノーネ。よって・・・」

「えっ!」

「明石栄一、シニョールを試験デュエル合格とするノーネ」

「・・・えっ!? ・・・マジ!? ・・・やったーーー!!!!! 俺受かっちゃったーーー!!!」

 クロノス教頭の、合格宣言。その瞬間、栄一はその場で、まるで小さな子供のように飛び跳ねた。





−会場観客席−

「あいつ、合格しやがった・・・。・・・なら、あのどんな時でも諦めない心、あいつとデュエルしたい!」

「同意見ね。私もよ!」

 観客席から観戦していた少年・少女達も、この熱いデュエルに感化させられたのか、その闘志を滾らせていた。



「・・・ところで、君の名前は?」

 ・・・突然、何かを思い出したかのように、少年は隣の少女に尋ねる。
 だが・・・。

「さぁね?差し詰めその辺にいる受験生Aといったところかしら? じゃあね、アカデミアで会いましょ。迫水(さこみず)新司(しんじ)君」

 そう言葉を濁して、少女はその場を去っていった・・・。

「・・・俺の名前知ってるくせに、サラリと自分の名前は流していきやがった。なんだ、あいつ?」





「(智兄ちゃん、俺、アカデミアに受かったぜ! この調子で一番を目指してやるぜ!!!)」

 高々とガッツポーズを上げる栄一、そして・・・。



「(・・・学園生活最後の年、楽しませてもらいそうだな。な、コメット)」

『(ミー!)』

 それを見つめる護、そして護に『コメット』と呼ばれた・・・妖精。そう、小さな妖精の姿が、そこにはあった。

コメット ☆1(オリジナル)
光 天使族 ATK0 DEF0
???





 ・・・1人のデュエリストの伝説、ここに始まる!



第4話 −START OF ACADEMIA LIFE(前編)−

 太平洋のとある場所に存在する孤島。デュエルアカデミアは、その孤島に設置されている。
 そしてその島に、入学試験を見事クリアし、狭き門を潜る権利を得た新入生達が、これから3年間の学園生活を過ごすために続々と集まっていた。
 この物語の主人公である明石栄一もまた、入学試験を突破した者としてアカデミアに足を踏み入れた。



−入学式、アカデミア内の一教室にて−

 今、壇上に立っているのは、このデュエルアカデミアの校長先生だ。
 紫の服に身を包んだゴツイ体には、優しさがある。笑顔もさわやかだ。だが・・・。



 頭を守る為に生えている筈の物が無い事については、黙っておいてあげよう。

「新入生の諸君、初めまして。校長の鮫島(さめじま)です。このアカデミアの狭き門を潜り抜けt・・・」

「zzzzzzz・・・」

「是非とも、ここでの生活を有意義なものn・・・」

「zzzzzzz・・・」

「さて、この学園での授業の内容ですg・・・」

「zzzzzzz・・・」



 この、さっきから寝てばかりいる今作の主人公・明石栄一。何から何までどこかで見たような少年である。それは、入学式に参加している鮫島校長、クロノス教諭をはじめ、当時その少年に教鞭を執った教師皆がそう思っていた。



「うーん、もう食べられない・・・。zzz・・・」



−式終了後、校舎玄関前にて−

「アカデミアでは、生徒は3つの寮に分けられるって聞いていたけど・・・、俺はオシリスレッドか。あの伝説のデュエリスト、遊城(ゆうき)十代(じゅうだい)さんがいた寮と同じ寮か! なんか運命的なものを感じるな!」


 オシリスレッド。オベリスクブルー、ラーイエローに続く、アカデミア最下層の生徒達が集まった、レッドゾーンを意味するドロップアウト寮・・・・・・で、あった。
 「あった」と過去形である理由は、数年前、ある一人の少年・・・・・・そう、あの伝説のデュエリスト・遊城十代が、この寮にいるままアカデミアトップクラスのデュエリストにまで成り上がり、レッドの生徒=落ちこぼれという概念を振り払ったからである。
 一時期、十代の申し出により、彼唯一人の寮となっていた事があったが、その申し出によってラーイエロー、オベリスクブルーの生徒数が飽和してしまい、新入生を迎える頃には寮毎の生徒数がパンク状態にまで陥ってしまったため、職員同士の協議の結果、彼の卒業後に再び「寮」としての機能を復活している。
 現在でも最下の寮としての認識はあるが、「デュエルは強い、でも学力不足のためイエローに昇格できない」といった生徒も見られ、昔のようにアウトラインギリギリの寮という訳でもないため、以前ほどレッドに対する差別意識は薄くなっている。
 これは当時、差別意識の強かったクロノス教諭が、現在は全ての生徒の夢のために助力し、全ての生徒を平等に見る事ができるようになっている事からも理解する事ができる。


「取り合えず、新入生は各々の寮に集合って言ってたな。えーとレッド寮はと・・・こっちか!」










 そう言いつつ、栄一は自らの寮目指して走っていった。レッド寮とは全く別の方向に・・・。










−ラーイエロー寮前−

「あ、なんか寮っぽい建物があるぞ。・・・やっと着いたか!」

 おしゃれな別荘みたいな建物を目の前にして、明らか見当違いな発言をしている栄一。
 そして、その栄一を見つめる生徒が1人いた。

「(あいつ・・・、間違いない。入学試験で、『マスター』水原護を後1歩まで追い詰めたデュエリスト! ・・・確か、明石栄二?)」


 少年君・・・、すごくおしい!(熱血!平成○○学院風に) 


 ・・・そして、また栄一も、そんなすごくおしい少年の存在に気付いた。


「(あ、あそこに1人いる・・・。けど俺と服装が違うぞ? 黄色い服着てるな・・・。けどまぁいい。ここはレッド寮なのか聞いてみるか! 聞くは一時八、聞かぬは一生八ってね)」


 明石君・・・、残念↓↓(熱血!平成○○学院風に)


「そこの人ー! 新入生だよなー? ここってオシリスレッドの寮だよなー?」

 ここはラーイエローの寮である。少年にとって、この栄一の発言は、明らかに内容を読み取れない発言であった。

「っていや・・・、ここはラーイエローの寮なんだけど・・・。確か・・・、明石栄二君」

「・・・栄一なんだけど。てかなんで俺の名前を? ていうかレッド寮どこ?」

「・・・今度からは質問は1つずつ頼む。・・・まぁ今の質問に1つずつ答えるけど、名前は君の入試デュエルを見せてもらった時に覚えた。あ、俺の名前は迫水新司。後、レッド寮の場所を教えてほしいなら、俺とのデュエルに勝つんだな!(・・・ちょっと強引だが、あのマスターを追い詰めたデュエリストの実力を、肌で感じるまたと無いチャンスだからな)」

「(いや、「覚えた」って間違えてるし・・・。だけど・・・、デュエルなら大歓迎だ!)いいぜ! 受けてたってやる!」


 デュエルで何かを解決できるのは、『遊戯王』シリーズの特権です。人質の解放然り、次元災害の阻止然り、犯罪の見逃し要求然り・・・。


「「・・・デュエル!」」

新司:LP4000
栄一:LP4000

 先攻は、新司からとなった。

「俺の先攻! セイバーザウルスを攻撃表示で召喚! ターンエンド」

 まず最初に現れたのは、体のあちこちに刃の生えた、赤い恐竜『セイバーザウルス』。
 通常モンスターだが、その攻撃力は優秀だ。

セイバーザウルス ☆4
地 恐竜族 通常 ATK1900 DEF500
おとなしい性格で有名な恐竜。大草原の小さな巣で
のんびりと過ごすのが好きという。怒ると怖い。

 ちなみに↑のカードテキスト。冒頭で「おとなしい」と書いてるのに、最後の「怒ると怖い」は何か矛盾してると思うのは、私だけでしょうか? byネクサス

新司LP4000
手札5枚
モンスターゾーンセイバーザウルス(攻撃表示:ATK1900)
魔法・罠ゾーンなし
栄一LP4000
手札5枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンなし

 そして栄一のターンに移る。

「俺のターン、早速いくぜ! 魔法カード、『融合』発動! 手札の『ワイルドマン』と『ネクロダークマン』を融合、『E・HERO ネクロイド・シャーマン』を融合召喚だ!」

 早速の融合によって呼び出されたのは、錫杖を持った赤髪のヒーロー『ネクロイド・シャーマン』。
 その力が、新司のフィールドの恐竜を制する。

「『ネクロイド・シャーマン』のモンスター効果! 召喚時に、相手フィールド上のモンスター1体を破壊! その後、相手の墓地からモンスター1体を選択し、相手フィールド上に特殊召喚する! 俺は、お前の『セイバーザウルス』を破壊し、墓地から破壊した『セイバーザウルス』を守備表示でお前のフィールドに特殊召喚する!」

 『ネクロイド・シャーマン』の力によって、『セイバーザウルス』が葬り去られた・・・と思ったら、再び新司のフィールドに現れる。
 ただし、強制的に防御体勢を取らされて。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) ネクロイド・シャーマン ☆6
闇 戦士族 融合・効果 ATK1900 DEF1800
「E・HERO ワイルドマン」+「E・HERO ネクロダークマン」
このモンスターは融合召喚でしか特殊召喚できない。
このカードが特殊召喚に成功した時、相手フィールド上のモンスター1体を破壊する。
その後、相手の墓地からモンスター1体を選択し、相手フィールド上に特殊召喚する。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) ワイルドマン ☆4
地 戦士族 効果 ATK1500 DEF1600
このカードは罠の効果を受けない。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) ネクロダークマン ☆5
闇 戦士族 効果 ATK1600 DEF1800
このカードが墓地に存在する限り1度だけ、
自分はレベル5以上の「E・HERO」と名のついた
モンスター1体をリリースなしで召喚する事ができる。

融合(ゆうごう) 通常魔法
手札・自分フィールド上から、融合モンスターカードによって
決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、
その融合モンスター1体をエクストラデッキから特殊召喚する。

「さらに、魔法カード『エレメンタル・ターボ』! 『ネクロイド・シャーマン』の融合召喚に成功した事によって、俺はデッキから2枚ドロー!」

エレメンタル・ターボ 通常魔法(オリジナル)
「E・HERO」と名のついたモンスターの
融合召喚に成功したターンに発動する事ができる。
自分のデッキからカードを2枚ドローする。

「そして『E・HERO ホークマン』を攻撃表示で召喚だ!」

 さらに現れるは、凛々しい翼が印象深い、名前の通り鷹のヒーローだ。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) ホークマン ☆4(オリジナル)
風 鳥獣族 通常 ATK1500 DEF1000
鷹のように力強く大空を飛ぶE・HERO。
ホーククロウが悪を切り裂く。

 栄一のフィールドに、いきなり2体のHEROが並んだ。

「(・・・速い。これが、マスターを追い詰めた男の、プレイング!)」

 この速攻に、新司も思わず興奮する。

「『ホークマン』で、『セイバーザウルス』を攻撃! さらに『ネクロイド・シャーマン』で、プレイヤーにダイレクトアタックだ!」

「ぐわぁぁ!」

 『ホークマン』の一撃により、新司のフィールドの恐竜は一瞬にして破壊される。
 さらに、『ホークマン』の後ろから『ネクロイド・シャーマン』が飛び出し、新司に攻撃を行った。

新司:LP4000→2100

「カードを1枚セットして、ターンエンドだ」

新司LP2100
手札5枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンなし
栄一LP4000
手札2枚
モンスターゾーンE・HERO ネクロイド・シャーマン(攻撃表示:ATK1900)
E・HERO ホークマン(攻撃表示:ATK1500)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚

「やるな・・・。だが俺も負けてられないぜ! ドロー! 魔法カード『陽気な葬儀屋』! 手札のモンスターを3体まで墓地へ捨てる。・・・俺が捨てるのは、この3枚だ」

(ディー).(ディー).ステゴ ☆2(オリジナル)
地 恐竜族 効果 ATK800 DEF500
墓地のこのカードをゲームから除外する事で発動する。
墓地に存在する恐竜族モンスターを全てゲームから除外する。

暗黒(ダーク)ドリケラトプス ☆6
地 恐竜族 効果 ATK2400 DEF1500
このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、
このカードの攻撃力が守備表示モンスターの守備力を越えていれば、
その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。

暗黒(ブラック)プテラ ☆3
風 恐竜族 効果 ATK1000 DEF500
このカードが戦闘によって破壊される以外の方法で
フィールド上から墓地に送られた時、このカードは持ち主の手札に戻る。

 『陽気な葬儀屋』の効果により、新司は手札からモンスターを3体選択し、栄一に見せた後、自らの墓地へと捨てた。

陽気(ようき)葬儀屋(そうぎや) 通常魔法
自分の手札から3枚までのモンスターカードを墓地へ捨てる。

「恐竜族モンスターを3体?」

「さらに『D.D.ステゴ』の効果、墓地の『D.D.ステゴ』を除外する事で、墓地の恐竜族を全てゲームから除外!」

「(一体、何をするつもりなんだ!?)」

 新司の戦術を読めない栄一。頭に「?」が3つほど浮かんでいる。

「そして、俺は『ディノインフィニティ』を攻撃表示で召喚! 『ディノインフィニティ』の攻撃力は、ゲームから除外された恐竜族モンスターの数×1000。よって4000ポイント!」

「(恐竜族を一気に除外したのはこのためか!)」

 新司のフィールドに現れた新たな恐竜を見て、栄一は・・・ようやく・・・1人で・・・納得した。

ディノインフィニティ ☆4
地 恐竜族 効果 ATK? DEF0
このカードの元々の攻撃力は、ゲームから除外されている
自分が持ち主の恐竜族モンスターの数×1000ポイントの数値になる。

ディノインフィニティ:ATK?→ATK4000

「さらに魔法カード『ダブル・ディノ』を発動。『ディノインフィニティ』はこのターン、2回の攻撃が可能となる!」

「何!?」

ダブル・ディノ 通常魔法(オリジナル)
自分フィールド上の恐竜族モンスター1体を選択して発動する。
選択モンスターはこのターンのバトルフェイズ中に2回攻撃する事ができる。

「いけぇ、『ディノインフィニティ』! 『ネクロイド・シャーマン』を攻撃! 『インフィニティ・ファング』!」

 凶暴な恐竜が、『ネクロイド・シャーマン』に向かって突進を繰り出す。しかし・・・、

「トラップ発動! 『ヒーローバリア』! 俺のフィールドに『E・HERO』がいる時、相手の攻撃を1度だけ無効にする!」

ヒーローバリア 通常罠
自分フィールド上に「E・HERO」と名のついたモンスターが表側表示で存在する場合、
相手モンスターの攻撃を1度だけ無効にする。

 『ディノインフィニティ』の突進攻撃が『ネクロイド・シャーマン』にヒットしようとした瞬間、『ネクロイド・シャーマン』の前にバリアが発生し、『ディノインフィニティ』の突進は遮断された。

「だが『ディノインフィニティ』は、もう1度攻撃が許される! 再び『ネクロイド・シャーマン』を攻撃! 『インフィニティ・ファング』!」

 1度は『ネクロイド・シャーマン』を守ったバリアも、しかし『ディノインフィニティ』の2回目の攻撃には反応する事ができなかった。

「くぅぅ・・・」

栄一:LP4000→LP1900

「ターンエンド」

新司LP2100
手札0枚
モンスターゾーンディノインフィニティ(攻撃表示:ATK4000)
魔法・罠ゾーンなし
栄一LP1900
手札2枚
モンスターゾーンE・HERO ホークマン(攻撃表示:ATK1500)
魔法・罠ゾーンなし



第5話 −START OF ACADEMIA LIFE(後編)−

「俺のターン!」

 栄一がカードをドローしたその時、カードから「あの」声が聞こえてきた。

『栄一・・・』

「(来たな・・・、頼むぜ相棒!)」



「(栄二君の奴どうした? 急に笑って・・・、キーカードでも引いたのか?)」


 笑顔を見せる栄一に対して、新司は警戒心を強めた・・・ところで、できる事は1つだけだった。
 新司のフィールドには『ディノインフィニティ』1体のみ。この1体がやられない事を祈るしかないのである。

 ・・・しかし同時に新司は、ただモンスターを召喚して相手にドンドン攻めて行く、それだけの単純かつデュエルモンスターズの基本のようなデュエルは何年ぶりだろうと感じた。
 アカデミアの入試で受験番号1を取れたのも、パワーだけでないテクニカルなデュエリストに勝ってきたのも、勉強に勉強を重ね、様々な知識を得てきた結果である。
 ・・・恐竜族というパワータイプのカード群を使用する以上、今のようなパワーデュエルになるのは当然かもしれない。
 それでも新司は、魔法・罠カードとのコンビネーションで新たなる恐竜族のデュエルを自ら開拓してきたつもりである。
 だが・・・。


「(・・・こんなデュエルも、悪くはないな)」


 デュエルの道は1つではない、それを栄一とのデュエルで突如、開眼した新司であった。


 だがその瞬間、新司を現実に連れ戻すかの如く、『ホークマン』の翼が一陣の風を起こす。

「『ホーク・ウィンド』を『ホークマン』に装備。これにより『ホークマン』の攻撃力は800ポイントアップ! さらに、『ホークマン』以外の、フィールドの全てのモンスターの表示形式を変更する事ができる!」

「!?」

「そう、『ディノインフィニティ』は、その効果によって莫大な攻撃力を得ることも可能。しかし、守備力は・・・」

ディノインフィニティ:DEF0

「『ホークマン』で『ディノインフィニティ』を攻撃! 『ホーククロウ』!」

E・HERO ホークマン:ATK1500→ATK2300

 ・・・『ホークマン』の颯爽の一撃の前に、脆い防御を露にした恐竜は、成す術もなく破壊された。

ホーク・ウィンド 装備魔法(オリジナル)
「E・HERO ホークマン」にのみ装備可能。装備モンスターの攻撃力を
800ポイントアップする。お互いのフィールド上に表側表示で存在する、
装備モンスター以外の全てのモンスターの表示形式を変更する事ができる。
この効果はこのカードが装備されている限り、1度だけ使用する事ができる。
この効果を使用したターン、自分はモンスターを通常召喚できない。

「カードを1枚セットして、ターンエンド!」

新司LP2100
手札0枚
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンなし
栄一LP1900
手札1枚
モンスターゾーンE・HERO ホークマン(攻撃表示:ATK2300)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
ホーク・ウィンド(装備:E・HERO ホークマン)

「くっ! 『ディノインフィニティ』がこうもあっさりと・・・。俺のターン!」

 しかし、新司のデッキには、あっさり状況を覆されても、それすらあっさり覆してしまうモンスターが眠っている。

「・・・ゲームから除外された恐竜を、全て墓地に戻す!」

 そしてこの場面、新司はそのモンスターを引いたようだ。

「なんだ?  除外した恐竜を、今度は墓地に戻した?」

「そして手札から、『ディノバーサーカー』を攻撃表示で特殊召喚! このカードの攻撃力は、墓地に戻した恐竜1体につき1000ポイント。よってその攻撃力は4000!」

「何ぃ! 折角1体倒したと思ったらまた攻撃力4000かよ・・・」

ディノバーサーカー ☆4(オリジナル)
地 恐竜族 効果 ATK? DEF0
このカードは通常召喚できない。ゲームから除外された、
自分の恐竜族モンスターを全て墓地に戻す事でのみ特殊召喚する事ができる。
このカードの元々の攻撃力は、特殊召喚時に墓地に戻した
恐竜族モンスターの数×1000ポイントの数値になる。

ディノバーサーカー:ATK?→ATK4000

 凶悪な恐竜が、高らかに叫ぶ。猪突猛進に突進する。

「『ディノバーサーカー』で『ホークマン』を攻撃! 『バーサーカー・バイト』!」

 だが、栄一も負けてはいない。

「今だ! 速攻魔法『コード・チェンジ』! この効果によって、俺の手札のあるカードに書かれた種族を、このターンのみ鳥獣族に変更する!」

「なっ! この状況で種族を変更・・・? まさか!」

コード・チェンジ 速攻魔法(アニメGXオリジナル)
このカードを発動後、ターン終了時までの間に1度だけ、
カードの効果テキストに記された種族を自分の選択した種族に変更する事ができる。

 『ディノバーサーカー』の力強い噛み付きに、『ホークマン』は力尽きた。
 しかし『コード・チェンジ』の存在が、この戦闘によって灼熱の戦士を呼ぶ事は、新司も承知していた。

栄一:LP1900→LP200

「この瞬間、手札から『バーニング・バスター』が現れる! 『バーニング・バスター』は仲間がやられた時、怒りの闘志をその胸に秘め、フィールドに現れる灼熱の戦士!」

 栄一の宣言と共に、その灼熱の戦士は現れた。
 入学試験の時に遠目でも感じた威圧感。それを放った戦士が今、新司の目の前にいるのだ。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) バーニング・バスター ☆7(オリジナル)
炎 戦士族 効果 ATK2800 DEF2400
自分フィールド上に存在する戦士族モンスターが
戦闘またはカードの効果によって破壊され墓地へ送られた時、
手札からこのカードを特殊召喚する事ができる。
このカードが戦闘によってモンスターを破壊し墓地へ送った時、
破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。

新司LP2100
手札0枚
モンスターゾーンディノバーサーカー(攻撃表示:ATK4000)
魔法・罠ゾーンなし
栄一LP200
手札0枚
モンスターゾーンE・HERO バーニング・バスター(攻撃表示:ATK2800)
魔法・罠ゾーンなし

「やはり来たか・・・。だが、『バーニング・バスター』の攻撃力は『ディノバーサーカー』のそれに届かない! どうする、栄二君!」

「(コイツ、人の名前覚える気0だな・・・。それはともかく、確かに俺の『バーニング・バスター』の攻撃力は、アイツの『ディノバーサーカー』の攻撃力に届かない。・・・でも、兎に角ドローしなきゃ始まんないな!)・・・ドロー!」

 一瞬、沈黙が走る。栄一のドローカードに、注目が集まる。



「(・・・何を引いたんだ? 栄二君)」



「・・・カードを1枚セットして、『バーニング・バスター』を守備表示に変更。ターンエンド」

 しかし栄一は、ドローしたカードをセットすると、あろう事か『バーニング・バスター』を守備表示にしてターンを終えてしまった。

新司LP2100
手札0枚
モンスターゾーンディノバーサーカー(攻撃表示:ATK4000)
魔法・罠ゾーンなし
栄一LP200
手札0枚
モンスターゾーンE・HERO バーニング・バスター(守備表示:DEF2400)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚

 つまりこれは、新司にとって大チャンスである。

「俺のターン! ・・・よし!」

 そしてドローしたカードに、新司は勝利を確信した。

「(栄二君のフィールドにはリバースカードが1枚。・・・おそらく、モンスターの攻撃に対して発動し、攻撃モンスターを破壊するカウンターカード・・・。だがそれも、このカードの前には無力!)装備魔法『野性の本能』を『ディノバーサーカー』に装備! 装備モンスターは魔法・(トラップ)カードによって破壊されない!」

「何!?」

野生(やせい)本能(ほんのう) 装備魔法(オリジナル)
装備モンスターは魔法・罠カードの効果によって破壊されない。

 新司のフィールドの恐竜は、元々凶暴だったのが、野生の本能を取り戻したせいかさらに凶暴性を露にする。

「栄二君のエースは『バーニング・バスター』で間違いない! その『バーニング・バスター』を倒せば、勝利は俺に向かう! 『ディノバーサーカー』、いけー!」


 凶暴化した恐竜が『バーニング・バスター』に襲い掛かる・・・。しかし!


「残念だな新司・・・俺の勝ちだ! トラップカード『バスター・クラッシュ』! 『ディノバーサーカー』の攻撃を無効にし、『バーニング・バスター』の攻撃力分のダメージを相手に与える!」

「・・・何!? 破壊ではなく、ただ俺の攻撃を「止める」だけ・・・。しかも、俺にダメージを与えるカウンター効果付き・・・!?」

バスター・クラッシュ 通常罠(オリジナル)
自分フィールド上に表側表示で存在する「バーニング・バスター」と
名のついたモンスターが攻撃対象に選択された時に発動する事ができる。
その攻撃を無効にし、攻撃対象に選択されたモンスターの
元々の攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。

 ・・・『バーニング・バスター』の体が燃え上がると、それによって発生したエネルギーが、新司のライフを一瞬にして奪った。

新司:LP2100→0

「・・・負けた。さすがだな、栄二君。あのマスターをギリギリまで追い詰めただけある」

「栄一だっつーの! いい加減覚えろ!」

 負けた新司。だがデュエルの内容には満足したのか、実にサバサバした態度である。名前はまだ間違ってるけど。

「だけど・・・、勝負は俺の勝ちだからな! 約束通り、レッド寮への道を教えてもらうぜ!」

「・・・しゃーない、約束だからな」

 素直な新司は、栄一にレッド寮への道をゆっくりしっかり伝え始める。

「ちゃんと聞けよ。いいか、まずこn・・・」






「なるほど、サンキューな! じゃあまた!」

「あぁ! またデュエルやろうぜ!」

「おう!」

 新司の丁寧な道案内を受けた栄一は、そう言い残してレッド寮への道を走っていった。

「・・・やはり、アイツを倒さずして1番にはなれない! 俺ももっと精進しないとな。だが・・・」

 ふと、新司は自分のデッキを見て・・・

「あんなバカなデュエルも、たまにはいいな! ・・・明石・・・栄一!」











































・・・数十分後

「ここはどこだーーーーーーーー!!!!!!!!!」

 その栄一君、また迷ってます・・・。











































・・・さらに数十分後

 栄一君、まだ(ry

「あぁ、腹減った・・・。空も暗くなってきたし俺、そろそろヤバイんじゃないか・・・?」

 と、栄一が絶望を感じたその時であった。



 ガサッ!



「!? 誰だ!」

 栄一がそう叫ぶと、1人の背が高い、貧弱そうな男性が奥から出てきた。
 髪は完全に真っ黒、それにかなり長い。眼鏡をかけたその顔は、華奢な体と共に彼をさらに貧弱そうに仕立て上げている。

「明石、栄一君だね?」

「? そうだけど・・・」

「!? あぁぁぁぁ・・・良かった・・・」

 栄一に尋ねてきたその男は、栄一の返事を聞いて、体全体を使って安堵の溜息をついた。

「やっと見つけたよ。君だけ何時まで待っても寮に来ないから、ずっと探してたんだよ。あっ、私は黒田(くろだ)真澄(ますみ)。オシリスレッドの寮長で、アカデミアでは闇のデュエルの授業を担当しているんだけど・・・」

「寮長? やったーーー!!! やっとレッド寮にいけるぞー!」

 栄一がそう喜んだ瞬間、黒田先生は、さらなる絶望を感じさせる言葉を、さらっと言い放った。

「・・・それが、君を探しているうちに今度は私が迷子になってしまってね・・・」

「・・・えっ!?」










 前代未聞のオチ! 果たして主人公と寮長は、次回までにオシリスレッド寮に辿り着けるのか!



第6話 −波乱の歓迎ペアデュエル開催!?−

 ・・・夜遅く、ようやく栄一と黒田先生はレッド寮の前についた。

「・・・やっと辿り着いた。ミイラ取りがミイラになるとは、まさしくこの事だな」

「なんか俺が悪いみたいだな。そうだけど・・・」

 頓珍漢な会話はこの辺でやめて起きます。

「トメさん、ご飯ちょうだい・・・。あ、この子にも。最後の新入生の、明石栄一君」

 黒田先生が食堂の奥に声をかけると、中から体は肝っ玉母ちゃん、しかし顔は優しいお母さんのような、トメさんと呼ばれるおばさんが出てきた。

「おや黒田先生、遅かったねぇ。あ、その後ろの子が噂の栄一君だね。いやー、ホントにあの子にそっくり!」

「だろ? 職員の間でもその話で持ちっきりでさ」


 栄一は、トメさんと黒田先生の会話を理解する事ができなかった。


「・・・さっきから似てる似てるって、俺が誰に似ているんだ?」

 思わず栄一は、二人に質問する。

「誰って、・・・あの伝説のデュエリスト、遊城(ゆうき)十代(じゅうだい)君とさ。私は彼の在学中にはここに居なかったけど、一度だけ彼に会った事があるから、その時の彼の印象はよく覚えている。君はその印象にそっくりだよ」

「十代ちゃん、いつもご飯「うまいうまい!」って喜んでくれてねぇ・・・。懐かしいねぇ、今何処で何をしてるのかしら?」



「遊城、十代さん・・・」

「あっ、ご飯食べたら栄一君、君の部屋を紹介するよ。・・・まぁ、言いにくい事が1つあるんだけどね」

「?」

 栄一は、黒田先生が何故口篭ったのかに疑問を感じた。





















 食事が済んで、栄一と黒田先生は、これから栄一の部屋になるであろう部屋の前にいた。

「・・・この部屋なんだがね」

 黒田先生が中に入り電気をつけると、3段ベッドと机、水道といった最低限の設備しか整っていない部屋が目の前に広がった。

「この部屋、既に3人ほどに入ってもらったんだが、10分ほどで全員が何か重苦しい気分を感じたって言って、部屋の変更を頼んできたんだよ」

「なんかいわくつきの部屋なのか?ここ?」

「一応、あの遊城十代君が使用していた部屋だったらしいんだが・・・、それ以外には別に。・・・まぁそうやって部屋の変更などをしていったら、余りがここだけになってしまってね。悪いけど栄一君、この部屋に1人でお願い!」

「えっ!?」

 黒田先生が、顔の前で両手を合わせ、低い姿勢で栄一に頼む。

「ホントにゴメン。マジでここしか空いてなくって・・・」

「・・・まぁ、いいけど」

 黒田先生の態度にも負け、栄一は思わずOKしてしまった。
 その栄一の返事を聞いて、黒田先生は一転、ルンルン気分の表情になる。

「ありがとう! 助かるよー! テンポよく部屋が埋まっていったと思ったら君の部屋だけないのに気付かなくって・・・。ホントありがとう!」

 そう言い残して、黒田先生は階段を降りていこうとして・・・コケた。それも最上段から最下段まで豪快に。


 人を探していて自分も迷子、生徒の部屋の割り当てをしていたらちゃんと埋まらない割り当てをする、普通の階段を下まで一気にずり落ちていく・・・。
 どうやらこの先生、かなりのドジ体質らしい。



 下から聞こえる悲鳴を後にして、栄一は部屋のドアを閉めた。

「・・・1人部屋か」

『(栄一・・・)』

 何か物悲しく呟く栄一を、カードの精霊達は静かに見守っていた・・・。






























−翌日、アカデミア教室にて−

「よう、栄一! 最初の授業、どうだった?」

 アカデミアの最初の授業が終わり、「ヤレヤレ」といった感じで栄一が教室から退室しようとしたその時、後ろから突然聞き覚えのある声が聞こえた。
 前日ラーイエロー寮の前でデュエルをした少年、新司である。
 小柄な栄一vs年相応の背丈の新司なので、2人が並ぶと栄一が若干可哀想に思えてしまう。

「どうって・・・寝てた」


 ・・・そして栄一の発言に、新司は凍りついた。


「お前、大物になるな、きっと・・・。まぁ、それはそうと今日の夜の歓迎ペアデュエル大会、一緒に行かないか?」

「歓迎ペアデュエル大会? 何だそれ?」

「ってレッド寮では説明されていないのか? 今日の夜、ホールで行われる新年生歓迎のペアデュエルの事?」

「・・・俺、昨日お前と別れた後、夜中まで迷ってたんだorz」


 ・・・新司は再び凍りついた。
 「何故? あれだけ詳しく道教えただろ? どの道進んだら迷子になるんだ?」
 そういう言葉が、新司の頭を駆け巡った。


「・・・まぁいい。取り合えず、俺と一緒に行こうぜ! 先輩や他の新入生とも色々交流できるだろうし」

「わかった。じゃあまた後で会おうぜ」

「おう! ってかお前また迷うといけないから、俺がレッド寮まで迎えに行くわ」

「・・・」

「いいか! 絶対俺が行くまで勝手にどっか行くなよ! 絶対だぞ!」

「・・・」



 新司の念入りの忠告に、栄一は内心落ち込んだ。
 人間、本当の事を言われると落ち込むものである。









−夜、ペアデュエル会場にて−

「うわぁ、狭き門のアカデミアとは言え、こんな所に全員集まったら凄い数だな」

「俺、ここまで人多いの初めてだよ・・・。って、あれは?」

 栄一の目線の先には、先日、アカデミアの入学試験時に対戦した護、そしてその護と談笑している一人の少年がいた。
 護と同じ程の背丈にピンと張っている背筋。そして鋭い目つきが、隣にいる護と共に周囲の視線を独占している。

「なぁ、新司? あのマスターと喋っている人って誰だ?」

「ん? えーと、あれは確か・・・」

天童(てんどう)宇宙(そら)先輩よ。空を舞うような颯爽としたデュエルをするが故、ついたあだ名が『スカイエンペラー』。アカデミアでマスターとデュエルらしいデュエルができるのは彼だけ、と言われているわ。実質、アカデミアのNo.2ね」

 会話をする2人の後ろから突如、オベリスクブルーの制服に身を包んだ、栄一と同じくらいの背丈の、1人の少女が顔を出した。
 当然、2人は驚く。

「うわぁ! いきなり後ろから声だすなよ! ってかお前、入学試験の時俺を華麗にスルーしていった女! 名前は何て言うんだよ!?」

 新司は、彼女の事を知っているようだった。

「あぁ、あの時は悪かったわね、ゴメン。ワタシの名前は北条(ほうじょう)(ひかり)。・・・これでいい? 迫水新司君?」

「いいけどなんかムカつく・・・」

「まぁまぁ2人とも・・・。それよりスカイエンペラーか・・・、デュエルしてみてぇな!」


 ・・・栄一がそう興奮していたその時、

「お待たせしました! 新年生歓迎ペアデュエル大会! まもなく開始です!」

「ワァーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」

「お、いよいよ始まったようだな! 新司、光」

 名を呼ばれた2人は、まだいがみ合っていた。





「数年前、ある1人のアカデミア生徒が、卒業する先輩方のためにと開催して以降、新入生の歓迎という目的に変更して続いてきたペアデュエル大会、新入生と上級生の親交を例年以上に深めてもらおうと、今年は上級生&新入生のペア同士のデュエル大会という事になりました!」

 五体を必死に動かして、司会は説明を続ける。

「ペアの組み合わせは1年生の男子と上級生の女子、または1年生の女子と上級生の男子となっており、このアルティメットビンゴマシーンによって全生徒の中からランダムで決められます!」

 そう言うと司会は、後ろに用意されていた『遊戯王』原作ファンには何か懐かしい名前のビンゴマシンを指差した。



「では時間も押しているので、早速決めていきましょう! アルティメットビンゴマシーン、スタート!」

 ビンゴマシンが動き始め、中から2つの名前が書かれたボールが出てきた。



「・・・1チーム目上級生、オベリスクブルー3年・水原護!」

「オォーーー!!!」

「いきなりマスターかよ・・・。さすが1番が似合う男ってところだな」

 栄一が何に感心してるのかは、作者には分からない。



「そして1チーム目1年生は・・・、オベリスクブルー・吉野(よしの)明子(あきこ)!」

「えっ! 私が!? 私なんかが水原先輩と・・・」

 そう言いながら、選ばれた少女・・・明子は、護の方を振り向く。
 そしてそれに気付いた護は、笑顔を明子に返した。

「ふにゃーーーーーん」

 当然、明子気絶。

 
「あの気絶したメガネっ娘がどうやら吉野明子っていうらしいな。にしてもさすがマスター、あんな笑顔を見せるなんて・・・。天然タラシってああいう事を言うんだろうな・・・」

「何1人で語ってるんだ、栄一?」

 護について語る栄一と、それにツッコミをいれる新司。そんな会話が続く中・・・

「1年生、オシリスレッド・明石栄一! 上級生、オベリスクブルー3年・井上(いのうえ)悠里(ゆうり)!」

「おっ、俺か! えーと、井上先輩っていうのは・・・」

 栄一がそう言いつつ探していると、奥の方にいる、1人のプライドが高そうな女子と目があった。
 その女子は、こちらを見ると「フン」っといった感じですぐに目を離した。

「あの人、井上先輩で間違いない・・・。なんかやりにくそうだな・・・」


「1年生、オベリスクブルー・北条光! 上級生、オベリスクブルー3年・天童宇宙!」

「えっ! ワタシが天童先輩と!? いいの? いいの?」

「おや? 顔が赤くなってませんか? 北条光さん?」

 光は緊張したまま宇宙の方を向いた。それを新司がイジる。
 そしてそれに気付いた宇宙は、笑顔を光に返した。

「ふにゃーーーーーん」

 当然、光気絶。










「アカデミアのツートップはタラシ戦隊なのか・・・」





 ・・・栄一は、アカデミアでの将来に不安を感じた。



第7話 −スタンドプレイの女王−

−ペアデュエルルール(『遊☆戯☆王デュエルモンスターズGX タッグフォース』シリーズ及びアニメGX161&162話で使用されたルールに則りつつ、一部脚色しています)−

 自分&相方vs相手A&相手Bの例で考える。

 こちらのチームが先攻の場合、ターンは「自分→相手A→相方→相手B→自分→・・・」の順に行う。
 厳密には、「自分vs相手B→自分vs相手A→相方vs相手A→相方vs相手B→自分vs相手B→・・・」といった風に回していく。自分のターンが終了した後も、相方のターンが来るまで場に立ったまま残るのである。
 ちなみに今回は、「1年生→1年生→上級生→上級生→1年生→・・・」という順にターンを消化していく。

 以下は、そのルールに影響されそうな事例をいくつか挙げる。

 『メタモルポット』がリバースした場合、そのときの場に立っているプレイヤー2人のみが手札交換する。

 先攻1ターン目に自分が『手札抹殺』を使用した場合、その時場に立っているプレイヤー、すなわち自分と相手Bの2人のみが手札交換する。

 手札・デッキにバウンスする場合、その時場に立っているプレイヤーの手札・デッキに戻す。

 『死のデッキ破壊ウイルス』を使用した場合、手札をピーピングされるのは、その時場に立っているプレイヤーのみ。もう一方のプレイヤーは、次のドローフェイズにドローしたカードだけ確認されることになる。

 『D.D.クロウ』『クリボー』等を使用できるのは、自分が場に立っている間のみ。

 攻撃できないのは1ターン目のみ。上記の例でいえば、相手Aのターン以降はバトルフェイズを行う事ができる。

 手札、デッキ、エクストラデッキは別々に扱う。 フィールド、墓地、除外ゾーン、ライフポイントは相方と共有する。

 デッキサーチや手札コストは、自分の所しか使えない。(相方の手札、直接的にはデッキは干渉できない。但し、『おろかな埋葬』などを伏せ、次のパートナーのターンにパートナーが使用する事で、間接的には干渉できる。)

 フィールドからのリリース及び墓地からの蘇生は、共有なので相方のカードを使ってもよい。

 以上、『遊戯王wiki』より拝借。『wiki』って名に付く物は、なんでも便利ですねー! byネクサス




「初めまして、明石栄一と言います。よろしk」

 栄一は、目の前にいる初対面の少女、悠里に対して、軽く会釈する・・・も

「フン。よりによって、なんで今年から1年生と上級生のペアになったのよ? もし例年通りなら今頃私が護様もしくは宇宙様とペアを組んでたのに・・・。あのカクシターズめ、くやしー!!!」

「ハハハ・・・ハァ」

 アッサリとスルーされ、しかも開口一番に愚痴を聞かされた。
 余りの流れに、栄一は「駄目だこの人、はやくなんとかしないと・・・」と、心の中だけでそう思った。
 ちなみに作者は、某死のノートの漫画はほぼ全く見た事がありません。










「さぁデュエル開始です! 1グループ目には早くもマスター護が登場という事で、会場も盛り上がっています!!!」

 司会の言う通り、観客席は早くも興奮状態。スタンディングオベーションがあがっているぐらいだ。



−コート内−

「頑張ろうね、吉野さん」

 顔を真っ赤にして緊張している明子に対して、護は「いつもと変わらない」優しい笑顔で言葉をかけた。

「ハッハイ!(水原先輩の迷惑にならないように頑張らなくちゃ・・・)」

 護の言葉を聞いた明子の顔は、まるで林檎を見てるかの如くさらに真っ赤に染まった。
 


「「デュエル!」」

護・明子ペア:LP4000
1年生A(男子)・上級生A(女子)ペア:LP4000

 第1ターンは明子である。

「私のターン・・・。(どうしよう、どうしよう、えーと、ああして、こうして・・・)」

 慌てる明子の肩に護は、ポン!と手を置いた。
 自分のしている行為が裏目に出てるとも知らず・・・。

「落ち着いて。君の思う通りにノビノビやっていきな!」

 そして「普段通り」の笑顔で言葉をかける。
 その言葉に明子は、この上ない程の喜びを感じたが・・・それで緊張が解れたかというと、それはまた別の問題である。

「ハッハイ! えーと・・・・・・『マシュマロン』を攻撃表示で召喚!」




 フィールドに現れたのは、その名の通りマシュマロのモンスター『マシュマロン』。だがこのモンスター、守備専門担当モンスターだ。
 明子本人と護以外の、会場にいた人々全員が総ズッコケである。

マシュマロン ☆3
光 天使族 効果 ATK300 DEF500
フィールド上に裏側表示で存在するこのカードを
攻撃したモンスターのコントローラーは、
ダメージ計算後に1000ポイントダメージを受ける。
このカードは戦闘では破壊されない。





−観客席−

「『マ、マシュマロン』を攻撃表示・・・」

「あのカクシターズ、護様の前で何をやってるの! キー!!!」

 勿論栄一と悠里も、唖然呆然愕然の表情である。





−コート内−

「や・・・、やってしまった・・・」

 先程は興奮して顔真っ赤。今は凡ミスをやらかした事から来る羞恥心によって顔真っ赤の明子。

「落ち着いて、吉野さん。ここから巻き返せばいいんだ」

 半分倒れそうな明子に対して、護は「至って普通に」優しい笑顔で以下略。

「ハッハイ!(あっ、これなら『マシュマロン』を攻撃されずにすむ・・・)リバースカードを1枚セットして、ターンエンド」

 勿論、護の笑顔が裏目に出ている事は記述するまでも無い。

護・明子ペアLP4000
手札4枚(明子)
5枚(護)
モンスターゾーンマシュマロン(攻撃表示:ATK300)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
1年生A・
上級生Aペア
LP4000
手札5枚(1年生A)
5枚(上級生A)
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンなし

「オレのターン!」

 相手の1年生がドローした瞬間・・・、

「リバースカードオープン! 『光の護封壁』をライフを3000払って発動!(これでこのターンは凌げる・・・)」

 明子が、伏せていたカードを発動させた。
 ライフコストは大きいものの、それだけの仕事はしてくれる壁だ。

(ひかり)護封壁(ごふうへき) 永続罠
1000の倍数のライフポイントを払って発動する。
このカードがフィールド上に存在する限り、
払った数値以下の攻撃力を持つ相手モンスターは攻撃をする事ができない。

護・明子ペア:LP4000→LP1000

 だが、確かに強力な壁だが、発動タイミングが悪い。相手ターン突入の直後に発動するなんて・・・。
 明子を、軽く点になった目で見つめながら、相手の1年生はモンスターを召喚した。

「『ファイヤー・トルーパー』を召喚。墓地に送る事で、相手に1000ダメージ・・・」

ファイヤー・トルーパー ☆3
炎 戦士族 効果 ATK1000 DEF1000
このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時、
このカードを墓地に送る事で、相手ライフに1000ポイントダメージを与える。

 見て分かる通り、戦闘を行わなくても相手にダメージを与える事ができるモンスターである。

護・明子ペア:LP1000→LP0

 ・・・デュエルは、一瞬にして決着した。 



「そ、そんなぁぁぁぁ」

 明子は、これ以上無い位に落ち込んだ。
 しかし、そんな明子を護は・・・

「ほらほら泣かないで。今回は負けちゃったけど、次はもっと落ち着いてやればきっと負けないよ。だからもう落ち込まないで」

 「常の通り」の優しい以下略。

「水原先輩ぃ・・・、ふにゃーーーーーん」

 護の天然タラシの行動の結果、明子は本日2度目の気絶をしてしまった。



−観客席−

「マスターが負けた・・・・・。まぁ、正確には何もできないまま負けたんだけど・・・(自分のターンが来てれば、『リリカル・セイジ』とかで防げたんだが・・・)。にしてもマスターって本当に天然タラシなんだな・・・。自分のやってる事がわかってない・・・」

リリカル・セイジ ☆3(オリジナル)
炎 炎族 効果 ATK800 DEF800
このカードを手札から捨てて発動する。このターン、
自分が受ける戦闘ダメージ以外のダメージは全て0になる。
この効果は相手ターンでも発動する事ができる。
自分の墓地に存在するこのカードをゲームから除外して発動する。
自分はデッキからカードを1枚ドローする。

※今回のペアデュエルの方式では、護は自分のターンが来るまで何もできません。ちなみに・・・

ただ今のデュエル、護の初期手札:
『G・HERO ラピート』
『G・HERO スピーディアン』
『大嵐』
『和睦の使者』
『リリカル・セイジ』

 ・・・さすがマスター、しっかり手札に『リリカル・セイジ』来ちゃってます。悪魔のような引きです。
 彼は特待生専用の白い制服(『カイザー』丸藤(まるふじ)(りょう)天上院(てんじょういん)吹雪(ふぶき)藤原(ふじわら)優介(ゆうすけ)とかが着てた服ですよー!)を着てるし、その姿通り、アカデミアの白い悪以下略


「あのカクシターズ・・・、護様になんて事を・・・(だ、だけど宇宙様はきっと勝ち進むはずだわ。それなら・・・)そこの奴隷1号!」

「奴隷1号・・・って俺か!?」

「宇宙様と対戦できるまで勝ち続けるわよ! それまでにヘマやらかしたら・・・」

「ハッハイ!(怖えぇぇ・・・)」

 悠里の、押しの強い態度に、栄一はただただ怯えるしかなかった・・・。




















 ・・・栄一が恐怖と戦っているうちに、栄一&悠里の出番はすぐに回って来た。



−コート内−

「えーと、俺達の対戦相手は、と・・・」

「俺達だよ」

 ・・・声の先には、新司と1人の女子が立っていた。

「新司! 相手はお前か!」

「ああ! こんなに早く、お前にリベンジできるとは思わなかったよ。あ、こっちは2年の三井(みつい)(よう)先輩」

 新司の後ろには、新司とそれ程身長の変わらない、黒髪短髪の少女が立っていた。

「よろしく! 栄一君、そして井上せんぱぁい・・・」

 そして、栄一達に向かって挨拶をしてくる。
 ・・・特に、悠里には舐めきった態度で。

「フン! 雌豚風情が威張ってんじゃないわよ! 勝つのは私よ!」

 対して悠里も、売り言葉に買い言葉で陽に対して罵声を浴びせる。
 ・・・女の醜い戦いが、今ここに始まった。

「そういう先輩こそ、下級生の反撃にドツボにはまらないでくださいよー」

「キー!!!」

 いがみ合い・・・。それは周りにいる者に戦慄を与える。



「なんか・・・、メチャメチャ仲悪そうだな・・・」

「競争率高いんだよ。マスターもエンペラーも。まぁ当然っちゃあ当然だが・・・」

 栄一と新司がそうコソコソと話してる時、女2人が同時に・・・、

「「絶対勝つわよ!!! 奴隷1号!!!」」

「「ハッハイ!!!」」



 ・・・前途多難なデュエルは始まった。


「「デュエル!」」

栄一・悠里ペア:LP4000
新司・陽ペア:LP4000

「先攻は俺だな! ドロー!」

 栄一が勢いよくドローしたその時、

「ギロッ!!!(ヘマするんじゃないわよ!)」

 悠里の視線が、栄一を鋭く貫いた。

「ハッハイィィィ!!! えっええっと、魔法カード『おろかな埋葬』。コイツの効果により、デッキから『E・HERO ネクロダークマン』を墓地へ送る! そして『E・HERO エッジマン』を攻撃表示で召喚! 『ネクロダークマン』の効果によってリリースはいらないぜ!」

おろかな埋葬(まいそう) 通常魔法
自分のデッキからモンスター1体を選択して墓地へ送る。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) ネクロダークマン ☆5
闇 戦士族 効果 ATK1600 DEF1800
このカードが墓地に存在する限り1度だけ、
自分はレベル5以上の「E・HERO」と名のついた
モンスター1体をリリースなしで召喚する事ができる。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) エッジマン ☆7
地 戦士族 効果 ATK2600 DEF1800
このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、
その守備力を攻撃力が超えていれば、
その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。

 初手から、黄金に輝く大型ヒーロー『エッジマン』が推参する。
 相変わらずの、栄一の素早さである。

「ターンエンド!」

栄一・悠里ペアLP4000
手札4枚(栄一)
5枚(悠里)
モンスターゾーンE・HERO エッジマン(攻撃表示:ATK2600)
魔法・罠ゾーンなし
新司・陽ペアLP4000
手札5枚(新司)
5枚(陽)
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンなし

「さすがに速いな、栄一! 俺のターン、手札から『ジュラシックワールド』発動! 恐竜族モンスターの攻撃力・守備力は300ポイントアップ! さらに『バルーン・リザード』を守備表示で召喚!」

ジュラシックワールド フィールド魔法
フィールド上に表側表示で存在する恐竜族モンスターは
攻撃力と守備力が300ポイントアップする。

バルーン・リザード ☆4
地 爬虫類族 効果 ATK500 DEF1900
自分のスタンバイフェイズ毎にこのカードにカウンターを1個を乗せる。
このカードを破壊したカードのコントローラーに
カウンターの数×400ポイントのダメージを与える。

 フィールドが、草木生い茂る恐竜の楽園に支配され、腹が今にも爆発しそうなトカゲが、新司の目の前に現れる。
 だが、新司のターンはそれだけでは終わらない。栄一へお返しとばかりに、速攻を決める。

「さらに『バルーン・リザード』をリリースして、『超進化薬』を発動! 手札から『暗黒ドリケラトプス』を特殊召喚! 『ジュラシックワールド』の効果で『暗黒ドリケラトプス』の攻守アップ!」

「何ぃ!?」

 現れたのは、奇怪な色をした巨大な恐竜『暗黒ドリケラトプス』。
 新司の猛攻に、栄一は焦る。

超進化薬(ちょうしんかやく) 通常魔法
自分フィールド上の爬虫類族モンスター1体を生け贄に捧げる。
手札から恐竜族モンスター1体を特殊召喚する。

暗黒(ダーク)ドリケラトプス ☆6
地 恐竜族 効果 ATK2400 DEF1500
このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、
このカードの攻撃力が守備表示モンスターの守備力を越えていれば、
その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。

暗黒ドリケラトプス:ATK2400→ATK2700 DEF1500→DEF1800

「『暗黒ドリケラトプス』で『エッジマン』に攻撃! 『ケチョーン』!」

 そしてバトルフェイズ。巨大な恐竜の突進に、『エッジマン』は一瞬にして敗北。フィールドから消滅した。




 ・・・いや、この『暗黒ドリケラトプス』の攻撃名、明らかおかしいのはわかってるんです!
 ただ、アニメGXを見直すと、確かにティラノ剣山は『暗黒ドリケラトプス』の攻撃時に、『ケチョーン』って言ってるんですよ!(うろ覚えですが、わかってるだけで少なくとも2回は言ってます) byネクサス





栄一・悠里ペア:LP4000→LP3900

栄一・悠里ペアLP3900
手札4枚(栄一)
5枚(悠里)
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンなし
新司・陽ペアLP4000
手札2枚(新司)
5枚(陽)
モンスターゾーン暗黒ドリケラトプス(攻撃表示:ATK2700)
魔法・罠ゾーンなし
フィールド魔法ジュラシックワールド

「ったく、情けないわね! どきなさい、奴隷1号! 私のターンよ!」

 今の攻防を目の当たりにした悠里は、栄一を厄介者のように横に払い、強引に自分のターンにした。

「宇宙様とは私がデュエルするのよ! 魔法カード、『デス・メテオ』! さらに『火炎地獄』3枚を発動!」

「・・・えっ!?」

 驚く新司と陽。・・・って、こんな行動されたら誰でも驚きます。

デス・メテオ 通常魔法
相手ライフに1000ポイントダメージを与える。
相手ライフが3000ポイント以下の場合このカードは発動できない。

火炎地獄(かえんじごく) 通常魔法
相手ライフに1000ポイントダメージを与え、
自分は500ポイントダメージを受ける。

 隕石が新司と陽を襲い、火が燃え盛る。
 それによって、彼らのライフは一瞬にして0となってしまった。

栄一・悠里ペア:LP3900→LP2400

新司・陽ペア:LP4000→LP0

「そ、そんな・・・」

「リベンジできないまま終わった・・・」

 当然のように、2人はその場で項垂れてしまった。

「オホホホホ! 宇宙様は私とデュエルするのよ!」

 それを見たスタンドプレイの女王は、さも満足したかのように、その場で高々と笑い続けた・・・。










「(俺、大丈夫なのか? こんな人とペア組んで・・・)」





 問題だらけのペアデュエルは続く・・・。



第8話 −たいせつなこと−




「なんだよ、井上の奴。自分の事しか考えてないじゃないか!」



「井上さん、もう少し、味方の事も考えた方がいいんじゃない?」



「正直うんざりなのよ! アンタとのタッグなんかもうゴメンよ!」















「(フン! 何とでも言いなさい! メリットが無いとわかったなら、こんな面倒くさい事を一生懸命やる意味なんてないのよ!)」






 ・・・そう、自分がよければそれでいい。・・・それで。















「・・・先輩! 井上先輩!」

「ハッ!?」

栄一・悠里ペアLP2200
手札2枚(栄一)
3枚(悠里)
モンスターゾーンE・HERO バーニング・バスター(攻撃表示:ATK2800 Aカウンター2つ)
魔法・罠ゾーンなし
1年生B・
上級生Bペア
LP1800
手札1枚(1年生B)
1枚(上級生B)
モンスターゾーン宇宙獣ガンギル(攻撃表示:ATK2600)
エーリアン・マザー(攻撃表示:ATK2300)
魔法・罠ゾーン光の護封剣(1ターン経過)

E・HERO(エレメンタルヒーロー) バーニング・バスター ☆7(オリジナル)
炎 戦士族 効果 ATK2800 DEF2400
自分フィールド上に存在する戦士族モンスターが
戦闘またはカードの効果によって破壊され墓地へ送られた時、
手札からこのカードを特殊召喚する事ができる。
このカードが戦闘によってモンスターを破壊し墓地へ送った時、
破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。

宇宙獣(そらけもの)ガンギル ☆7
光 爬虫類族 効果 ATK2600 DEF2000
自分フィールド上に存在する元々の持ち主が相手のモンスターを
生け贄に捧げる場合、このカードは生け贄1体で召喚する事ができる。
1ターンに1度だけ、相手フィールド上モンスター1体に
Aカウンターを1つ置く事ができる。Aカウンターが乗ったモンスターは、
「エーリアン」と名のついたモンスターと戦闘する場合、
Aカウンター1つにつき攻撃力と守備力が300ポイントダウンする。

エーリアン・マザー ☆6
闇 爬虫類族 効果 ATK2300 DEF1500
このカードが戦闘によってAカウンターが乗ったモンスターを
破壊し墓地へ送った場合、破壊したモンスターを
バトルフェイズ終了時に自分フィールド上に特殊召喚する。
この方法で特殊召喚したモンスターは、
このカードがフィールド上から離れた時に全て破壊される。

(ひかり)護封剣(ごふうけん) 通常魔法
相手フィールド上に存在するモンスターを全て表側表示にする。
このカードは発動後、相手のターンで数えて3ターンの間
フィールド上に残り続ける。このカードがフィールド上に存在する限り、
相手フィールド上に存在するモンスターは攻撃宣言をする事ができない。



 自分の世界から戻ってきた悠里の視界に、今のフィールドの状況が飛び込んでくる。
 後ろからは、悠里を現実世界に引き戻すのに貢献した栄一の声が聞こえてくる。

「先輩のターンだぜ。・・・先輩、俺、1つ思うんだけd」

「うるさいわね! 私のターン! カードを1枚伏せてターンエンド!」

 だが悠里は、それすら簡単に一蹴し、自分のターンを無理やり終わらせた。

栄一・悠里ペアLP2200
手札2枚(栄一)
3枚(悠里)
モンスターゾーンE・HERO バーニング・バスター(攻撃表示:ATK2800 Aカウンター2つ)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
1年生B・
上級生Bペア
LP1800
手札1枚(1年生B)
1枚(上級生B)
モンスターゾーン宇宙獣ガンギル(攻撃表示:ATK2600)
エーリアン・マザー(攻撃表示:ATK2300)
魔法・罠ゾーン光の護封剣(2ターン経過)

「オレのターn」

「この瞬間、リバースカードオープン! トラップカード『火霊術−「紅」』! フィールドの『バーニング・バスター』をリリースして、その攻撃力分のダメージを相手に与える!」

火霊術(かれいじゅつ)−「(くれない)」 通常罠
自分フィールド上に存在する炎属性モンスター1体を生け贄に捧げる。
生け贄に捧げたモンスターの元々の攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。

 『バーニング・バスター』が、文字通り火の玉となって、対戦相手の2人を襲う。
 その力は強力。相手のライフを削りきるには、十分の力だった。

「ぐわー!!!」

1年生B・上級生Bペア:LP1800→LP0

「オホホホホ! 宇宙様は私とデュエルするのよ!」

「・・・ハァ」

 デュエルが終わる毎に、悠里は高笑いを続け、その横で栄一は、ただ溜息をつくばかりであった。







 そして栄一&悠里ペアは、順調に、順調に勝ち進んでいった。
 全て、悠里のスタンドプレイによって・・・。















 結局、栄一は悠里との溝を埋められないまま、決勝まで勝ち進んだ。


「さぁー! いよいよ決勝まで来ました! まずはここまで勝ち上がってきた、2組のペアを紹介しましょう!」

 司会が、決勝をさらに盛り上げようと精一杯声を上げる。そして観客の生徒達もまた、その声にノッて盛り上がる。
 まさに雰囲気は最高潮であった。



−デュエルコート裏−

「ついに、ついに宇宙様とデュエルできるわぁ! フフフf・・・」

「・・・」

 会場の裏で、自らの出番を待つ栄一と悠里。
 不気味に笑う悠里とは対照的に、栄一は黙ってばかりだった。



−会場−

「1組目! 本命候補の1組として注目の、北条光&天童宇宙ペア!」

 アカデミアのツートップの1人の登場に、スタンドは沸いた。

「そしてもう1組! ここまで圧倒的に勝ち進んできた、明石栄一&井上悠里ペア!」

 対して栄一&悠里のペアは、ここまで勝ち進んで来た事が意外だと観客の目に映ったのか、いやそれ以上に、ここまでの悠里のスタンドプレイが観客の反感を買ったのか(当然といえば当然だが)、さすがに光&宇宙ペアの時に比べて、観客の歓声は少なかった。

「井上先輩にタジタジね、栄一」

「あの人、宇宙先輩しか眼中に無いからね。ハァァァァ・・・」

「(マジでやつれてるわね・・・)」



 栄一と光がそんな会話を続ける隣で、悠里は宇宙にアタックしっ放しだった。



「決勝、いいデュエルにしような、井上君」

「ハイ! 宇宙様、私の最高の姿見て下さいましぃ!」

「ハハハ・・・」

 勿論、宇宙はタジタジである。



「お互いの挨拶も終わった模様です! いよいよ、新入生歓迎ペアデュエル、決勝スタートです!」

 司会が開始宣言をする。いよいよ決勝の始まりである。



「「・・・デュエル!」」

栄一・悠里ペア:LP4000
光・宇宙ペア:LP4000

「まずは俺のターン! ドロー!」

 今回も、栄一が第1ターンである。(ちなみに、栄一→光→悠里→宇宙の順です)

「・・・」

「(どうしたんだ? 今回は先輩何も言わないし睨みもしない。てか宇宙先輩ばかり見てる・・・)」

 これまで、デュエルが始まる事に飛んできた悠里の罵声。さすがに学習した栄一は、それに対して構えていたのだが・・・不思議な事にこの決勝戦、悠里は何も言わないし、栄一を睨む事も無かった。
 憧れである宇宙に対して自重しているのだろうか・・・と栄一は予想したが・・・勿論、そんな筈は無かった。

「『E・HERO ライオマン』を攻撃表示で召喚。カードを2枚セットして、ターンエンド!」

 仕方なく栄一は、自らのターンをスタートさせた。
 まず現れたヒーローは、立派な鬣に長い鉤爪。名前の通り獅子の姿をした『ライオマン』だ。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) ライオマン ☆4(オリジナル)
地 獣戦士族 通常 ATK1700 DEF800
獅子のように大地を駆け巡るE・HERO。
正義の突進ライオクラッシュで悪を砕く。

栄一・悠里ペアLP4000
手札3枚(栄一)
5枚(悠里)
モンスターゾーンE・HERO ライオマン(攻撃表示:ATK1700)
魔法・罠ゾーンリバースカード2枚
光・宇宙ペアLP4000
手札5枚(光)
5枚(宇宙)
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンなし

「ワタシのターン、ドロー!」

 栄一のターンが終わり、今度は光のターンである。

「ワタシの光の使者達の力、見せてやるわ! 『ライトロード・パラディン ジェイン』を攻撃表示で召喚! 『ジェイン』はモンスターに攻撃する時、攻撃力が300ポイントアップする!」

 対する光のフィールドに現れたのは、白い鎧に身を包んだ魔導剣士『ジェイン』である。

ライトロード・パラディン ジェイン ☆4
光 戦士族 効果 ATK1800 DEF1200
このカードは相手モンスターに攻撃する場合、
ダメージステップの間攻撃力が300ポイントアップする。
このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する限り、
自分のエンドフェイズ毎に、自分のデッキの上からカードを2枚墓地に送る。

「バトルフェイズ! 『ジェイン』で、『ライオマン』を攻撃! 『ジェイン』は自らの効果で、攻撃力が300ポイントアップする!」

ライトロード・パラディン ジェイン:ATK1800→ATK2100

 『ジェイン』が『ライオマン』に向かって剣を振りかぶる。しかし!

「トラップ発動! 『攻撃の無力化』! これにより、『ジェイン』の攻撃は無効だ!」

 栄一が発動した『攻撃の無力化』のカードから竜巻が発生し、『ジェイン』の攻撃を無効化した。

攻撃(こうげき)無力化(むりょくか) カウンター罠
相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
相手モンスター1体の攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了する。

 「やるわね、栄一・・・。カードを3枚セットし、そしてエンドフェイズ時に『ジェイン』の効果により、ワタシはデッキからカードを2枚墓地に送る」

墓地に送られたカード:
『ライトロード・ドラゴン グラゴニス』
『ライトロード・ウォリアー ガロス』

ライトロード・ドラゴン グラゴニス ☆6
光 ドラゴン族 効果 ATK2000 DEF1600
このカードの攻撃力と守備力は、自分の墓地に存在する「ライトロード」
と名のついたモンスターカードの種類×300ポイントアップする。
このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、その守備力を攻撃力が
超えていれば、その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。
このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する場合、
自分のエンドフェイズ毎に、デッキの上からカードを3枚墓地に送る。

ライトロード・ウォリアー ガロス ☆4
光 戦士族 効果 ATK1850 DEF1300
自分フィールド上に表側表示で存在する
「ライトロード・ウォリアー ガロス」以外の
「ライトロード」と名のついたモンスターの効果によって
自分のデッキからカードが墓地に送られる度に、
自分のデッキの上からカードを2枚墓地に送る。
このカードの効果で墓地に送られた「ライトロード」
と名のついたモンスター1体につき、
自分のデッキからカードを1枚ドローする。

「ターンエンド。どうぞ、井上先輩」

 光が、ターンを終える。
 それは、このデュエルの主人公(と、本人はそう自覚している)、悠里の出番が(本人にとっては)、ようやく回って来た事を意味する。

栄一・悠里ペアLP4000
手札3枚(栄一)
5枚(悠里)
モンスターゾーンE・HERO ライオマン(攻撃表示:ATK1700)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
光・宇宙ペアLP4000
手札2枚(光)
5枚(宇宙)
モンスターゾーンライトロード・パラディン ジェイン(攻撃表示:ATK1800)
魔法・罠ゾーンリバースカード3枚

「フン! 私のターンよ。・・・!?(来た! ・・・フフフ、最初から来てくれるとは。これで宇宙様は私の物!)」

「・・・」

 不気味に微笑む悠里に対して、つまらなそうな顔をする栄一。

「カードを1枚セット。ターンエンド」

「え、それで終わり?」

 悠里のターンの速さに光をはじめ、会場中がどよめいた。

栄一・悠里ペアLP4000
手札3枚(栄一)
5枚(悠里)
モンスターゾーンE・HERO ライオマン(攻撃表示:ATK1700)
魔法・罠ゾーンリバースカード2枚
光・宇宙ペアLP4000
手札2枚(光)
5枚(宇宙)
モンスターゾーンライトロード・パラディン ジェイン(攻撃表示:ATK1800)
魔法・罠ゾーンリバースカード3枚

 そしてラストは宇宙のターン。・・・スタンドプレイの女王の、真価が発揮される瞬間である。

「よし、オレのターンだな! ドロー!」

 そう、宇宙がカードをドローした時、突如悠里が1枚のカードを発動した。

「永続(トラップ)発動! 『パートナーチェンジ』!」

「パ、『パートナーチェンジ』!?」


 そして栄一をはじめ、会場中の人々が悠里の発動したカードに驚く。


「これは相手が同意した時、タッグパートナーを入れ替えるカード! さぁそこの小娘! 私と替わりなさい!」


「(・・・このためだけに、ここまで勝って来たというのかよ・・・)」

 悠里のスタンドプレイに、動揺を隠せない栄一、そして会場。

パートナーチェンジ 永続罠(アニメGXオリジナル)
相手パートナーが合意した場合、自分と相手パートナーを入れ替える。
このカードが破壊された時、パートナーは元に戻る。



−観客席−

「あの1年生の男の子、可哀想・・・」

「あの先輩、いつも自分の事しか考えてなかったけど、まさかここまでとは・・・」

「新入生歓迎の意味ねーじゃん」


 会場から、悠里の行為に対する声が漏れ始める。
 しかし、それを制したのは・・・



−コート内−

「・・・悪いけど、ここまでこの2人で頑張ってきたんだ。・・・オレとしては、このパートナーを替えるつもりはない」

 誰でもない、宇宙であった。

「「宇宙先輩・・・」」

「宇宙様・・・?」

 宇宙の、冷静な態度に、栄一も光も、果ては悠里も、思わず怯んでしまう。

「手札から速攻魔法、『サイクロン』発動。君の『パートナーチェンジ』を破壊する」

「そ、そんな・・・」

 そして宇宙が発動した、『サイクロン』のカード。それによって発生した竜巻は、『パートナーチェンジ』のカードはおろか、悠里の自身満々な態度さえ吹き飛ばしてしまった。

サイクロン 速攻魔法
フィールド上の魔法または罠カード1枚を破壊する。

 この宇宙の行動に、悠里はその場で呆然としていた・・・。そして・・・。

「・・・このデュエルに、もう意味はなくなったわ。私はもう帰る。奴隷1号、後は勝手にしな」

「なっ・・・」



 ・・・この発言に焦る栄一。もちろん、会場が黙っているわけが無かった。



−観客席−

「ふざけるなー!」

「歓迎の意味わかってんのかー?」

「勝手にやめるなんて許されると思ってるのかー!?」



−コート内−

 だが、そんな罵声も悠里にとってはどこ吹く風であった。

「(フン! こんな大会、宇宙様、護様と一緒に組めない時点でもう参加する意味は無いわ。勝手に喚いときなさい、外野ども)」

 そういって、悠里がコートから出ようとしたその瞬間・・・、




















「バカヤロー! まだデュエルは始まったばっかじゃねぇか!!!!!」





















「!?」


 栄一の怒鳴り声が、会場に響いた。突然の事に、悠里も少し恐怖を感じる。・・・も、すぐに言葉を返した。


「うるさい! 奴隷1号! アンタは大人しく私に従ってry」

「そうやって人にまかせっきりで、自分は都合が悪くなったら逃げるのかよ? そんなんじゃマスターも宇宙先輩も、アンタなんかには一生振り向かないぜ! 最後まで全力でぶつかって、初めて自分の思いを伝えれるもんじゃないのかよ?」


 栄一の怒鳴りに、会場は静まった。


「まだ続けようぜ。・・・井上先輩の思い、デュエルで宇宙先輩にぶつけるんなら、俺も少しは協力できるから」

「奴、奴隷1号・・・」





「なんだよ、井上の奴。自分の事しか考えてないじゃないか!」



「井上さん、もう少し、味方の事も考えた方がいいんじゃない?」



「正直うんざりなのよ! アンタとのタッグなんかもうゴメンよ!」















「(フン! 何とでも言いなさい! メリットが無いとわかったなら、こんな面倒くさい事を一生懸命やる意味なんてないのよ!)」






 ・・・そう、自分がよければそれでいい。・・・それで。












「(・・・・・・・・・・そうだ。私はいつもそうだった。・・・ネガティブになったら逃げてばかりいた。それ以上何が起こるか怖かったから。面倒くさかったから。・・・当然、人は私を避けた。・・・でも、)」

「井上先輩!」

「(コイツ・・・、こんな酷い仕打ちをした私を信じてる・・・)」

「井上先輩!」

「(こんな奴、初めて・・・。信じていいの? ・・・いや、信じるしかない!)」

 この瞬間、悠里の中で、確かに、確かに何かが変わった。

「・・・勝算は、あるの?」

「井上先輩・・・」

 悠里の言葉に、栄一もその表情を緩ませる。栄一に、笑顔が戻った。

「どうなの? 1号」

「・・・やってみないと分からない。けど・・・」

「・・・」

「やる限り、勝率は0%じゃない! それを信じてデュエルするだけだな!」

「フン! それじゃあ駄目じゃない。でも・・・、やってみるわ!」

「そうこなくっちゃ」

 相変わらずつっけんどんだが、さっきまでとはまるで違う。

 悠里は、初めて栄一を信頼した。




 ワァーーーーーーーーーーーーーー!!!

「いいぞー!」

「続けろ続けろー!!!」

 栄一の発言と、悠里の決意に、会場は再び沸いた。そして・・・、










「あいつ、言うじゃないか。・・・そう、勝率100%のデュエルなんかは存在しない。だが、やる限りは、勝率0%のデュエルもない。だろ、コメット?」

『(・・・ミー)』

 観客席から、他の生徒と同様にデュエルを見物する護。そしてその横に浮く、妖精『コメット』。
 彼らの中で、栄一という存在にまた新たな1ページが加わった。









−コート内−

「仲違いも解消したようだし、オレのターン、続行させてもらうぞ!」

「来い! 宇宙先輩! 光!」

 全てが整った今、デュエルが再開された。





 ・・・いや、こう言う方が正しいか。





 ようやくという枕詞を付ける必要はあるものの、本当のデュエルが今、始まった。

栄一・悠里ペアLP4000
手札3枚(栄一)
5枚(悠里)
モンスターゾーンE・HERO ライオマン(攻撃表示:ATK1700)
魔法・罠ゾーンリバースカード1枚
光・宇宙ペアLP4000
手札2枚(光)
5枚(宇宙)
モンスターゾーンライトロード・パラディン ジェイン(攻撃表示:ATK1800)
魔法・罠ゾーンリバースカード3枚



第9話 −翼の襲撃−

「行くぞ! まず、『暴風小僧』を攻撃表示で召喚! このモンスターは、風属性モンスターをアドバンス召喚する場合、このモンスター1体で2体分のリリースモンスターとする事ができる!」

 デュエルが再開し、宇宙の前に風を伴った少年が現れた。

暴風小僧(ぼうふうこぞう) ☆4
風 天使族 効果 ATK1500 DEF1600
風属性モンスターを生け贄召喚する場合、
このモンスター1体で2体分の生け贄とする事ができる。

「・・・さらに、魔法カード『二重召喚』! この効果により、オレはもう1度モンスターを召喚できる!」

「ダブル召喚!? さすがアカデミアのツートップ、やるな!」

 宇宙の高速展開に、栄一は興奮する。

二重召喚(デュアルサモン) 通常魔法
このターン自分は通常召喚を2回まで行う事ができる。

「オレは『暴風小僧』をリリース。来い、『パワードウィング・ホーク』!」


 ・・・宇宙の呼び声に答えたかのように、1体の巨大な鷹が宇宙の場に現れた!


 ・・・のだが。


「・・・デケェ! てかデカすぎて、宇宙先輩見えなくないか?」

「ちょっ、ソリッドビジョンやりすぎじゃない?」



 『パワードウィング・ホーク』の、そのあまりの巨大さに、驚くばかりの栄一と悠里であった。



 だが対する宇宙は、至って冷静にターンを続ける。

「・・・『ジェイン』、悪いけど使わせてもらうよ、光君!」

「えぇ、構いませんよ!」

 そんな宇宙の言葉には、やはり安心感があるのか、光もまた冷静に、宇宙に全てを託す。



「(・・・やはり、勝ち上がってきただけある。あの2人、息がピッタリだ)」

 そして息ピッタリの宇宙と光の連携に、栄一は思わず心の中で感心する。
 だが、今はデュエル中である。感心しているだけではいけない。

「『パワードウィング・ホーク』のモンスター効果。オレのフィールドのモンスター1体をリリースする事で、フィールドのカード2枚を破壊する! オレが破壊するのは、『ライオマン』とリバースカード!」

「しまった!?」

 『パワードウィング・ホーク』の突進によって、『ライオマン』と伏せられていた『ヒーロー・シグナル』は一瞬にして破壊された。

パワードウィング・ホーク ☆7(オリジナル)
風 鳥獣族 効果 ATK2400 DEF2000
自分フィールド上に存在するモンスター1体をリリースする事で、
フィールド上に存在するカード2枚を破壊する。
この効果は1ターンに1度、自分のメインフェイズにしか使用できず、
この効果を使用した場合、このカードはこのターン攻撃できない。

ヒーロー・シグナル 通常罠
自分フィールド上のモンスターが戦闘によって
破壊され墓地へ送られた時に発動する事ができる。
自分の手札またはデッキから「E・HERO」という
名のついたレベル4以下のモンスター1体を特殊召喚する。

「この効果を使用した『パワードウィング・ホーク』はこのターン攻撃できない。だが・・・」

「まずっ!? 来るわよ、宇宙様の切札!」

「宇宙先輩の切札!?」

 悠里の警告に、栄一は身構える。



「『パワードウィング・ホーク』をリリースし、手札から、『グレートウィング・ホーク』を特殊召喚!」

 宇宙のフィールドから『パワードウィング・ホーク』が消え、代わって新たなる巨大な鳥が現れた。
 だが・・・





「・・・なんか、『パワードウィング・ホーク』からさらにデカくなってないか?」





 さらなる巨大な鳥の出現に、焦る栄一。しかし、宇宙はそんな事はお構いなしにターンを続ける。

「『グレートウィング・ホーク』は墓地の鳥獣族モンスター1体につき攻撃力が400ポイントアップする。オレの墓地には『パワードウィング・ホーク』がいる、よって攻撃力400ポイントアップ!」

グレートウィング・ホーク ☆8(オリジナル)
風 鳥獣族 効果 ATK2800 DEF2400
このカードは通常召喚できない。自分フィールド上に存在する
「パワードウィング・ホーク」1体をリリースする事でのみ特殊召喚する事ができる。
自分フィールド上に存在するモンスター1体をリリースする事で、
フィールド上に存在するカード2枚を破壊する。
この効果は1ターンに1度、自分のメインフェイズにしか使用できず、
この効果を使用した場合、このカードはこのターン攻撃できない。
このカードの攻撃力は、自分の墓地に存在する
鳥獣族モンスター1体につき400ポイントアップする。

グレートウィング・ホーク:ATK2800→ATK3200

「バトルフェイズ! 『グレートウィング・ホーク』でダイレクトアタック! 『翼の襲撃』」

 攻撃名通りに、その巨大な翼が、栄一と悠里を襲撃する。

「ぐわぁ!」

「きゃあ!」

栄一・悠里ペア:LP4000→LP800

「ターンエンド」

 『グレートウィング・ホーク』の一撃により、形勢は一気に宇宙・光ペアのものになった。

栄一・悠里ペアLP800
手札3枚(栄一)
5枚(悠里)
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンなし
光・宇宙ペアLP4000
手札2枚(光)
1枚(宇宙)
モンスターゾーングレートウィング・ホーク(攻撃表示:ATK3200)
魔法・罠ゾーンリバースカード3枚

「・・・逆転できるの? 奴隷1号」

「やってみなきゃわからねぇだろ! 俺のターン! いくぜ、『カードガンナー』を攻撃表示で召喚!」

 栄一のフィールドに現れたのは、まるで玩具みたいな赤いロボット。
 しかし、見た目に騙されてはいけない。能力は非常に優秀なのだ。

カードガンナー ☆3
地 機械族 効果 ATK400 DEF400
1ターンに1度、自分のデッキの上からカードを3枚まで墓地へ送って発動する。
このカードの攻撃力はエンドフェイズ時まで、
墓地へ送ったカードの枚数×500ポイントアップする。
また、自分フィールド上に存在するこのカードが破壊され墓地へ送られた時、
自分のデッキからカードを1枚ドローする。

「コイツの効果で、俺はデッキからカードを3枚墓地へ送る! よって、『カードガンナー』の攻撃力は1900になる!」

カードガンナー:ATK400→ATK1900

墓地に送られたカード:
『ネクロ・ガードナー』
『E・HERO ホークマン』
『融合』

ネクロ・ガードナー ☆3
闇 戦士族 効果 ATK600 DEF1300
自分の墓地に存在するこのカードをゲームから除外して発動する。
相手モンスターの攻撃を1度だけ無効にする。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) ホークマン ☆4(オリジナル)
風 鳥獣族 通常 ATK1500 DEF1000
鷹のように力強く大空を飛ぶE・HERO。
ホーククロウが悪を切り裂く。

融合(ゆうごう) 通常魔法
手札・自分フィールド上から、融合モンスターカードによって
決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、
その融合モンスター1体をエクストラデッキから特殊召喚する。

「さらに、手札から魔法カード『ミラクル・フュージョン』発動! この効果により、墓地の『ライオマン』と『ホークマン』をゲームから除外して、『E・HERO ストライカーグリフォン』を融合召喚!」

「「『ストライカーグリフォン』!?」」

 鷹のヒーローと獅子のヒーロー。2体のヒーローが融合し、その融合体、伝説の獣・グリフォンをモデルとした、2本足で立つヒーロー、『ストライカーグリフォン』がフィールドに現れた。
 この新たなるヒーローの誕生に、宇宙と光は声を揃えて驚いた。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) ストライカーグリフォン ☆6(オリジナル)
風 獣戦士族 融合・効果 ATK2400 DEF1300
「E・HERO ホークマン」+「E・HERO ライオマン」
このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
相手は他の表側表示のモンスターを攻撃対象に選択できない。
このカードが戦闘によって相手モンスターを破壊した場合、
もう1度だけ続けて攻撃を行う事ができる。

ミラクル・フュージョン 通常魔法
自分のフィールド上または墓地から、融合モンスターカードによって
決められたモンスターをゲームから除外し、「E・HERO」という
名のついた融合モンスター1体を融合デッキから特殊召喚する。
(この特殊召喚は融合召喚扱いとする)

「だが、『ストライカーグリフォン』の攻撃力は、オレの『グレートウィング・ホーク』には届かない! どうするんだ?」

「そう焦るなって、先輩! フィールド魔法『スカイスクレイパー』発動!」

「なっ、しまった!? そのカードが手札にあったか!」

 栄一が『スカイスクレイパー』をデュエルディスクのフィールド魔法ゾーンにセットすると、デュエルコート内がアメリカの高層ビル街のように生まれ変わった。
 そして、ビルの最頂点に『ストライカーグリフォン』が立つ。

「『スカイスクレイパー』は、『E・HERO』が自らより強いモンスターに攻撃する時、攻撃力を1000ポイントアップさせるフィールド魔法だ! いけぇ『ストライカーグリフォン』!」

摩天楼(まてんろう) −スカイスクレイパー− フィールド魔法
「E・HERO」と名のつくモンスターが攻撃する時、
攻撃モンスターの攻撃力が攻撃対象モンスターの攻撃力よりも低い場合、
攻撃モンスターの攻撃力はダメージ計算時のみ1000ポイントアップする。

 栄一の攻撃宣言と共に、『ストライカーグリフォン』が『グレートウィング・ホーク』に突っ込む。
 しかし・・・

「トラップカード発動。『攻撃の無力化』! オレも使わせてもらうぜ!」

 宇宙も、おいそれと攻撃を受けるわけにはいかない。
 フィールドに再び竜巻が発生し、今度は『ストライカーグリフォン』の攻撃を無効化した。

攻撃(こうげき)無力化(むりょくか) カウンター罠
相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
相手モンスター1体の攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了する。

「!? やられた・・・。ターンエンド・・・」

 攻撃ができない以上、栄一にできる事は無い。ただ、ターンを終えるしかなかった。
 そしてこの瞬間、『カードガンナー』の攻撃力が、1900から元の400に戻った。

カードガンナー:ATK1900→ATK400

栄一・悠里ペアLP800
手札1枚(栄一)
5枚(悠里)
モンスターゾーンE・HERO ストライカーグリフォン(攻撃表示:ATK2400)
カードガンナー(攻撃表示:ATK400)
魔法・罠ゾーンなし
フィールド魔法摩天楼 −スカイスクレイパー−
光・宇宙ペアLP4000
手札2枚(光)
1枚(宇宙)
モンスターゾーングレートウィング・ホーク(攻撃表示:ATK3200)
魔法・罠ゾーンリバースカード2枚

 栄一のターンが終わり、次は光のターンである。しかし・・・

光の手札:
『ライトロード・ビースト ウォルフ』
『ライトロード・エンジェル ケルビム』

「(何なの、この手札事故・・・。こりゃ次のドローにかけるしか・・・)ドロー!」

ドローカード:『ソーラー・エクスチェンジ』

「(・・・もう、何も言う事はありません)魔法カード、『ソーラー・エクスチェンジ』。手札から『ライトロード・エンジェル ケルビム』を捨て、カードを2枚ドロー。その後デッキからカードを2枚墓地へ送る」

ソーラー・エクスチェンジ 通常魔法
手札から「ライトロード」と名のついたモンスターカード1枚を捨てて発動する。
自分のデッキからカードを2枚ドローし、その後デッキの上からカードを2枚墓地に送る。

ライトロード・ビースト ウォルフ ☆4
光 獣戦士族 効果 ATK2100 DEF300
このカードは通常召喚できない。このカードがデッキから墓地に送られた時、
このカードを自分フィールド上に特殊召喚する。

ライトロード・エンジェル ケルビム ☆5
光 天使族 効果 ATK2300 DEF200
このカードが「ライトロード」と名のついたモンスターを
生け贄にして生け贄召喚に成功した時、
デッキの上からカードを4枚墓地に送る事で
相手フィールド上のカードを2枚まで破壊する。

ドローカード:
『裁きの龍』
『王宮の鉄壁』

墓地へ送られたカード:
『ライトロード・プリースト ジェニス』
『手札抹殺』

王宮(おうきゅう)鉄壁(てっぺき) 永続罠
このカードがフィールド上に存在する限り、
カードをゲームから除外することはできない。

ライトロード・プリースト ジェニス ☆4
光 魔法使い族 効果 ATK300 DEF2100
「ライトロード」と名のついたカードの効果によって自分の
デッキからカードが墓地へ送られたターンのエンドフェイズ時、
相手ライフに500ポイントダメージを与え、
自分は500ライフポイント回復する。

手札抹殺(てふだまっさつ) 通常魔法
お互いの手札を全て捨て、それぞれ自分のデッキから捨てた枚数分のカードをドローする。

 ・・・デッキのカットはキッチリ行いましょう。


「(ま、まぁいいわ。切札も来たし・・・)ワタシの墓地には『ライトロード』と名のついたモンスターが4種類以上いるわ。よって手札から『裁きの龍(ジャッジメント・ドラグーン)』を特殊召喚!」

「『裁きの龍(ジャッジメント・ドラグーン)』!?」

 光のフィールドに、1体の巨大な白き龍が現れた。
 その高い攻撃力と、驚異的なフィールド支配能力を持つ、『ライトロード』の切り札。『裁きの龍(ジャッジメント・ドラグーン)』だ。
 勿論、栄一・悠里共に驚きを隠せない。

裁きの龍(ジャッジメント・ドラグーン) ☆8
光 ドラゴン族 効果 ATK3000 DEF2600
このカードは通常召喚できない。自分の墓地に「ライトロード」と名のついた
モンスターカードが4種類以上存在する場合のみ特殊召喚する事ができる。
1000ライフポイントを払う事で、このカード以外のフィールド上に存在する
カードを全て破壊する。このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する
限り、自分のエンドフェイズ毎に、デッキの上からカードを4枚墓地に送る。

「これで終わりよ! 『裁きの龍』で、『カードガンナー』を攻撃!」

 『裁きの龍』の砲撃が、『カードガンナー』を襲う・・・。
 が、その時、『ストライカーグリフォン』が『カードガンナー』の前に立った。

「まだだ! 『ストライカーグリフォン』のモンスター効果、攻撃対象はコイツに変更される」

 ・・・結果的に、『裁きの龍』の砲撃は『ストライカーグリフォン』に命中した。

栄一・悠里ペア:LP800→LP200

「でも、『グレートウィング・ホーク』の攻撃が残ってるわよ! 今度こそ終わりぃ!」

 『裁きの龍』の砲撃をかわしたのも束の間、今度は『グレートウィング・ホーク』が『カードガンナー』に突っ込む・・・。

「墓地の『ネクロ・ガードナー』をゲームから除外、攻撃を1度だけ無効にする!」

 今度は『ネクロ・ガードナー』の影が『カードガンナー』の前に立ち、攻撃を遮断した。

「やるわね・・・。でも、まだワタシの集中砲火は終わってない! 『裁きの龍』の効果発動! ライフを1000ポイント払う事で、『裁きの龍』以外のフィールドのカードを全て破壊! さらにこの瞬間、フィールドの伏せカード1枚をオープンするわ! 『亜空間物質転送装置』。このカードの効果によって、『グレートウィング・ホーク』は『裁きの龍』の効果を回避!」

亜空間物質転送装置(あくうかんぶっしつてんそうそうち) 通常罠
自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択し、
発動ターンのエンドフェイズ時までゲームから除外する。

 光の発動した装置によって、『グレートウィング・ホーク』は別次元へと転送され、それを確認した『裁きの龍』が、再び砲撃を放つ。
 ・・・その圧倒的破壊力に、フィールドは一瞬にして焼け野原と化した。

光・空ペア:LP4000→LP3000

「『カードガンナー』の効果で、俺は1枚ドロー。・・・でもなんで、『裁きの龍』の効果を此処で・・・?」

 栄一の問いに、光は不気味に笑いながら答えた。

「・・・フフフ、それはこのためよ! トラップカード『誘発ダイナマイト』を発動! これは、セットされているこのカードが破壊される場合、相手ライフに1000ポイントのダメージを与えるカードよ!」

「ま、まさか!?」

 何も残らないフィールドで、1つのダイナマイトが炸裂する。栄一・悠里に引導を渡すべく、爆発が産声を上げる。

誘発(ゆうはつ)ダイナマイト 通常罠(オリジナル)
セットされているこのカードが破壊される場合、発動する事ができる。
フィールド上のこのカードをゲームから除外する事で、
相手ライフに1000ポイントのダメージを与える。

「今度こそ終わりよー! 『誘発ダイナマイト』!」


 ドカーン! ドカーン! ドカーン!


 『誘発ダイナマイト』の爆撃が、栄一と悠里を襲う!



第10話 −ふたりで−


 ドカーン! ドカーン! ドカーン!


「くっ! ここまでか・・・」

 そう栄一が諦めかけた、その時だった。

「まだよ。手札から『紫光の宣告者』と『割り込み天使』を墓地へ送り、アンタの『誘発ダイナマイト』を無効にする!」

 栄一の後ろから、突如悠里が乱入して来て、カードの発動を行ったのだ。

紫光の宣告者(バイオレット・デクレアラー) ☆2
光 天使族 効果 ATK300 DEF500
自分の手札からこのカードと天使族モンスター1体を墓地に送って発動する。
相手の罠カードの発動を無効にし、そのカードを破壊する。
この効果は相手ターンでも発動する事ができる。

「なんですって!? ていうか何故、井上先輩がカードをプレイできるの?」

 突然の悠里の割り込みに、焦る光。

「タッグ専用カードの『割り込み天使』・・・。このカードの効果によって、私は手札のカードをプレイできるわ。・・・ホントは、『パートナーチェンジ』をいつでも発動できるように入れてたカードなんだけどね」

「あぁ・・・」

「井上先輩・・・」

()()天使(てんし) ☆1(オリジナル)
光 天使族 効果 ATK0 DEF0
タッグデュエルで、タッグパートナーのターン時に発動する事ができる。
手札のこのカードを全てのプレイヤーに確認させる事で、
自分はこのターンの間、自分フィールド上と手札のカードをプレイする事ができる。

 宣告者の、ありがたき宣告。それにより、『誘発ダイナマイト』の爆撃は間一髪、栄一と悠里の前で止まった。

「決めれなかったか・・・。ターンエンド。この瞬間、ワタシは『裁きの龍(ジャッジメント・ドラグーン)』の効果でデッキからカードを4枚墓地へ送り、『グレートウィング・ホーク』がフィールドに戻ってくる・・・」

 そう言う光の顔は、どこか不機嫌。後ろにいる宇宙も顔には出していないものの、決め切れなかったモヤモヤが頭の中を渦巻いている事は、光と同じであろう。

栄一・悠里ペアLP200
手札2枚(栄一)
3枚(悠里)
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーンなし
光・宇宙ペアLP3000
手札2枚(光)
1枚(宇宙)
モンスターゾーングレートウィング・ホーク(攻撃表示:ATK3200)
裁きの龍(攻撃表示:ATK3000)
魔法・罠ゾーンなし

「私のターンね。カードを2枚伏せ、『コマンド・ナイト』を守備表示。ターンエンド」

 赤い女性の戦士とリバースカードを用意しただけ。悠里のターンは、またも呆気なく終わった。
 しかし、今度はさっきと違う。

「・・・」

「(井上先輩・・・)」

「・・・」

「(・・・本気だ。井上先輩は本気で、宇宙先輩と光にぶつかろうとしている!)」

 ・・・今の悠里には、明らかに宇宙と戦う覚悟があった。

コマンド・ナイト ☆4
炎 戦士族 効果 ATK1200 DEF1900
自分のフィールド上に他のモンスターが存在する限り、
相手はこのカードを攻撃対象に選択できない。
また、このカードがフィールド上に存在する限り、
自分の戦士族モンスターの攻撃力は400ポイントアップする。

栄一・悠里ペアLP200
手札2枚(栄一)
1枚(悠里)
モンスターゾーンコマンド・ナイト(守備表示:DEF1900)
魔法・罠ゾーンリバースカード2枚
光・宇宙ペアLP3000
手札2枚(光)
1枚(宇宙)
モンスターゾーングレートウィング・ホーク(攻撃表示:ATK3200)
裁きの龍(攻撃表示:ATK3000)
魔法・罠ゾーンなし

「オレのターンだな」

 そしてターンは、最後のプレイヤー・宇宙のターンへと移る。

「・・・井上君、悪いけど一気にいかせてもらう! ライフを1000払い『裁きの龍』の効果をh」

「宇宙様・・・。私は・・・、負けない! リバースオープン、『天罰』! 手札1枚をコストに『裁きの龍』の効果を無効、破壊!」

「何!?」

天罰(てんばつ) カウンター罠
手札を1枚捨てて発動する。効果モンスターの効果の発動を無効にし破壊する。

光・宇宙ペア:P3000→LP2000

 フィールドを支配する『裁きの龍』も、さすがに天の勅命には叶わない。
 先程の蹂躙が嘘のように、一瞬にしてフィールドから姿を消した。

「だが、まだ攻撃はできる! まずは『撲滅の使徒』でそのリバースを・・・」

「トラップ発動、『和睦の使者』! このカードの効果によってこのターン発生する戦闘ダメージは0!」

「なっ!? 連続で防がれた・・・」

撲滅(ぼくめつ)使徒(しと) 通常魔法
セットされた魔法または罠カード1枚を破壊しゲームから除外する。
罠カードだった場合お互いのデッキを確認し、
破壊した罠カードと同名カードを全てゲームから除外する。

和睦(わぼく)使者(ししゃ) 通常罠
このカードを発動したターン、相手モンスターから受ける全ての戦闘ダメージは0になる。
このターン自分モンスターは戦闘によっては破壊されない。

 宇宙が、口元に笑みを浮かべる。全力で自分にぶつかってきた悠里に、感謝しているのだ。
 宇宙の目に映る今の悠里は、間違いなく本物のデュエリストだった。

「・・・モンスターを1体セットし、ターンエンド(・・・今伏せたモンスターは、『ステルスバード』。このカードは、反転召喚した時に、相手に1000ポイントのダメージを与えるカード。・・・万が一『グレートウィング・ホーク』が敗れても、まだオレ達に勝機はある!)」

ステルスバード ☆3
闇 鳥獣族 効果 ATK700 DEF1700
このカードは1ターンに1度だけ裏側守備表示にする事ができる。
このカードが反転召喚に成功した時、
相手ライフに1000ポイントダメージを与える。

栄一・悠里ペアLP200
手札2枚(栄一)
0枚(悠里)
モンスターゾーンコマンド・ナイト(守備表示:DEF1900)
魔法・罠ゾーンなし
光・宇宙ペアLP2000
手札2枚(光)
0枚(宇宙)
モンスターゾーングレートウィング・ホーク(攻撃表示:ATK3200)
裏側守備表示モンスター(ステルス・バード)
魔法・罠ゾーンなし

 宇宙のエンド宣言の瞬間、悠里が静かに口を開いた。

「凌いだわよ・・・。だから、絶対勝ちなさいよ、奴隷1号!」

「井上先輩・・・。おう! 俺のターン、ドロー!」



 栄一のドローに、会場中に緊張が走った・・・。



「・・・井上先輩がモンスターを残してくれたお陰で、俺達の勝ちだ!」

「「えっ!?」」

「1号・・・?」

 栄一の宣言に、動揺を隠せない宇宙と光、そして悠里。

「永続魔法、『騎士道精神』。俺のモンスターは、攻撃力の同じモンスターとの戦闘では破壊されない。」

騎士道精神(きしどうせいしん) 永続魔法
自分のフィールド上モンスターは、攻撃力の同じモンスターとの戦闘では破壊されない。

「さらに魔法カード『融合』! これにより、フィールドの『コマンド・ナイト』と手札の『バーニング・バスター』を融合! 『パワード・バーニング・バスター』を召喚だ!」

 ・・・『バーニング・バスター』と『コマンド・ナイト』。2体の炎の戦士が融合する。
 そして現れたのは、入学試験の時に栄一が融合召喚した『ウルティメイト・バーニング・バスター』には劣るものの、それでも敵には強烈な畏怖を、味方には絶対の信頼を与える灼熱の巨人、『パワード・バーニング・バスター』である。

E・HERO(エレメンタルヒーロー) パワード・バーニング・バスター ☆8(オリジナル)
炎 戦士族 融合・効果 ATK3200 DEF2800
「E・HERO バーニング・バスター」+戦士族モンスター1体
このモンスターの融合召喚は、上記のカードでしか行えず、融合召喚でしか特殊召喚できない。
このカードが戦闘によってモンスターを破壊し墓地へ送った時、
破壊したモンスターの攻撃力か守備力の高い方の数値分のダメージを相手ライフに与える。

「『パワード・バーニング・バスター』も、モンスターを破壊した時、相手にダメージを与える効果を持っている。だがそれは、モンスターを破壊し終えた時点で、『パワード・バーニング・バスター』がフィールドに残っていなければならない」

「くっ! そのための『騎士道精神』か」

 『騎士道精神』の発動理由を理解した宇宙と光。しかし、気付くのが遅すぎた・・・。

「いけぇ、『パワード・バーニング・バスター』! 『パワード・バーニング・バースト』!」


 ・・・『パワード・バーニング・バスター』の砲撃。やはり、強烈。『グレートウィング・ホーク』は、一瞬で力尽きた。


「そして『パワード・バーニング・バスター』の効果、戦闘で破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを受けてもらうぜ、宇宙先輩! 光!」

グレートウィング・ホークの元々の攻撃力:ATK2800

光・宇宙ペア:LP2000→LP0




 ワァーーーーーーーーーーーーーー!!!



「決まったー! 大逆転勝利ー! 優勝は明石栄一・井上悠里ペアだー!」

 司会の叫びと共に、会場中から歓声と拍手が響いた。

「いいぞー!」

「ナイスデュエルだったぜー!」

「井上先輩も凄かったぞー!」





「・・・井上先輩、やったな!」

「フ、フン。私がいなかったらアンタなんかは負けてたのよ! ・・・でも」

 そんな会話が続いてる中、宇宙が2人の前にやって来た。

「井上君、栄一君、ナイスデュエル!」

「宇宙先輩、こちらこそ! ナイスデュエル!」

「あぁ! ・・・それと井上君、この後ダンスパーティがあるだろ? よかったらオレと踊らないか? モチロン、護も同伴させるぜ!」

「宇宙様・・・。ふにゃーーーーーん」



 ・・・本当にアカデミアのツートップは天然で女タラシのようである。本日3人目の犠牲者である。

「ちょっ、井上君!?」

「井上先輩!?」

 








「・・・どんな時でも諦めない心。逆転を呼び込む運命力・・・」

「やっぱり、1度ぶつかってみて良かっただろ?」

 悠里の突然の気絶に栄一や宇宙が焦っているのを横目に、光は語っていた。
 そしてその後ろから、何故か新司が現れた。

「新司!? アンタ何時の間に・・・?」

「どうでもいいだろ、そんな事。・・・それより分かっただろ? 栄一が、マスターをあそこまで追い詰めた強さの秘訣」

「・・・えぇ」

 そう。まじまじと見せ付けられた。栄一の強さを。
 例えどんな不利な状況に陥っても、必ず逆転してしまう、その粘り、力を・・・。










−会場観客席−

「・・・フフ。明石栄一、やっぱり面白い少年だよ。・・・それは兎も角、ダンスパーティで女子同士の争いに巻き込まれる前に、僕は退散しようかな」

 そう言いつつ、護はその場所から立ち去ろうとする。その横には・・・

『・・・』

 ほっぺを膨らませつつ、そっぽを向いてる妖精『コメット』の姿。

「コメット・・・、ご機嫌斜めだね・・・。でも許してくれよ、何故か女子から集まって来るんだk・・・」

「護せんぱーい!」

「わたしと踊ってくださーい!」

「いえ私と是非ー!」

 護の行動は、ちょっと遅かったようだ。

「・・・やっぱり来た。急ぐぞ、コメット!」

『・・・(プイッ!)』



 ・・・そう言いつつ、天然タラシは会場から逃げ去っていった。お冠状態の妖精を連れて・・・。





−コート内−

「あれ? マスターが走って会場から出て行った? どういう事だ? てか後ろに大量の女子が・・・」

「あぁ、あれは『ダンスパーティと言う名の大空襲から避難している天然女タラシ』の図だよ。それより栄一、そっち持って! 井上君が落ちる!」

「あ、あぁ、宇宙先輩! ていうか新司と光! 見てるだけならお前らも手伝ってくれよ!」

「え、えぇ!」

「悪ぃ、すぐ行く!」





「・・・宇宙様、護様」





 ・・・栄一にとって、「タラシなのはアンタも一緒じゃないのか?」という疑問しか残らなかった(嘘、ちゃんとデュエルに関しての感想もあります)歓迎デュエル大会は、こうして幕を閉じた。






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