長靴を履いた鳥
製作者:仁也さん
わたしはカードです。
みんなにデュエルで遊んでもらう為に作られたカードです。
そんなわたしはカードパックに封入され、現在どこかのお店へ運ばれている最中です。
どきどき、わくわく。
このパックを買ってくれる人はどんなデュエリストなんでしょう?
わたしをデッキに入れてくれたらそのときはいっしょーけんめー頑張ります。
わたしもその人と一緒にはやくデュエルがしたいです。
わたしはまだ見ぬその人との出会いに胸を高鳴らせます。
ぱたぱた、羽もはためかせます。
やがてカードパックがお店に並べられました。
開店時刻まで、もうまもなくです。
どきどき、わくわく。
早くお店が開かないかなー。
わたしの入ったパックをデュエリストさんに買って欲しいです。
その時が待ち遠しくて、少しの時間でもとても長く感じてしまいます。
やがてお店が開き、少しづつお客さんが入ってきます。
小学生くらいの男の子がカードパックの並べられているショーケースを興味深そうに見ています。
いらっしゃい、お客さん。
こちらのパックは新発売ですよ。ぜひとも買っていってください。
ぱたぱた、ぱたぱた。
羽をぱたぱたさせてわたしは猛アピールします。
もちろんわたしはカードの精霊なので、その姿は人間には見えないのですがそれでもきっと気持ちは通じるのです。
あっ、男の子がお店の人に話しかけてパックを買ってくれるみたいです。やったー。
沢山あるパックの中から、どれを買おうかその子は考えます。
ぱたぱた、ぱたぱた。
このパックがいいですよー。なんてったってこのパックにはわたしが入ってるんですから。
「よし、このパックに決めた」
わたしの思いが通じたのか、その子はわたしの入ったパックを買ってくれました。うれしいです。
今日からわたしもデュエルができます。
この日を何度夢見たことか。
わたしもテレビに出てくるデュエリストさん達の戦いを見ながら、いつか自分もデュエルがしたいとずっと願っていたのです。
お店を出たところの路地でその子がパックを開けます。さあ、いよいよご対面です。
パックの中の五枚のカードのテキストを順に読んでいき、その最後がわたしでした。
彼はわたしを見ながら呟きます。
「ロードランナー。地属性鳥獣族、攻撃力300、守備力300。このカードは攻撃力1900以上のモンスターとの戦闘では破壊されない、か」
いかがですか、わたしの能力は?
これからは共に力を合わせて頑張っていきましょう!
「いらねーやこんなカード、弱いし」
えっ?
「あーあ、結局ハズレカードばっかりかよ。金の無駄だったな」
そう言って彼は無造作にわたし達カードを道端に投げ捨てます。
えっ、うそ。
そんな。
彼はわたし達に目もくれず去っていきます。
ま、待ってください。わたし、頑張りますから。一緒に最強のデュエリストを目指しましょう。
わたしはその背中に羽を振ってアピールします。
ぱたぱた、ぱたぱた、ぱたぱた。
それでも彼はそんなわたしの想いに応えてくれることなく、曲がり角に姿を消しました。
そ、そんな。
やがて風が吹き、わたし達カードはどこかへと飛ばされていきます。
ぐす、そんなの、ないです。
わたしは、デュエリストさんと、一緒に、いっじょにい、うくっ、うう。
風に飛ばされて、わたしが辿り着いたのは見知らぬ地でした。
他のカードさん達とも離れ離れになってしまいました。
空を見ます。
どんよりとした曇り空でした。
やがてぽつぽつと空から雨粒が振り出します。
このまま雨が強くなれば、わたしは水に濡れてデュエルディスクで読み取れなくなってしまいます。
うう、わたしも、わたしもデュエルがしたかったです。
テレビの中のデュエリストさんとそのモンスターさん達みたいに。
でも実際に使ってもらえるのはデュエリストさんが選びに選び抜いた強いカードだけなんですね。
世の中には強いカードと弱いカードがあって、弱いカードはデュエルで使われることもなくこうして朽ち果てていく。
わたしはそんなこと考えもしませんでした。
少しづつ雨粒の勢いが増していきます。
ああ、わたしはこのままカードですらないただのゴミへと姿を変えていくんですね。
デュエル、したかったな。
わたしにはそれは最初から叶わない夢だったんでしょうか。
わたしはまるでアヒルです。
他の鳥達と同じように羽があって、自分も飛べると夢を見ていた。
でも、アヒルは空を飛べない。それが現実なんです。
薄れゆく意識の中、遠くから何かの唸り声が聞こえていきます。
それが大分近づくと、Dホイールの走行音だと気付きます。
それは白と黒、二台のDホイールでした。
「遊星、このターンで決着をつけるぜ。ブラックフェザー、アーマード・ウィングでダイレクトアタックだ」
黒いDホイールに乗った彼が言うと、黒い鎧に身を包んだモンスターが攻撃体勢になります。
一方、白いDホイールに乗った人もそれに言葉を返します。
「ああ、クロウ。俺もこのターンで決着をつける。トラップカードオープン、ディメンションウォー」
カード名を言いかけた瞬間、彼の目がわたしを捉えました。
彼の乗るDホイールのタイヤのすぐ先に落ちているわたしの姿に。
轢かれる。そう思って恐くて目を閉じました。
しかし恐れていたような衝撃はなく、代わりに聞こえたのは急ブレーキの音でした。
「おい遊星どうした!」
恐る恐る目を開けると、そこにあった光景は白いDホイールが近くの廃屋の壁に激突して止まっている姿でした。
そのDホイールに黒い鎧のモンスターがパンチを食らわして、ライフポイントがゼロになります。
白いDホイールに乗っていた彼はバイクから降りながら言います。
「すまない、俺の負けだ」
「一体どうしたってんだ?」
それに対して、黒いDホイールに乗っていた人は怪訝そうな声を出します。
白いDホイールに乗っていた人は答えます。
「カードが落ちていたんだ」
そう言ってわたしを拾ってくれました。
この人、わたしを避ける為に。
わたしを助けようとしたばかりにトラップカードの発動タイミングを逃してデュエルに負けてしまったんだ。
そこまでして。
彼は寂しげな目をしながら言います。
「こんなところにカードを捨てるなんて、酷いことをする」
そのカードを黒いDホイールに乗っていた彼が覗き込みます。
「ロードランナーか。まあ仕方ねえかもな、そんな強いカードじゃねえし」
ずきり、その言葉はわたしの胸に響きます。
しかし白いDホイールの彼は言いました。
「いや、この世に不必要なものなんてひとつもない。人もカードも、必ず役割を持っているんだ」
そう告げると彼は、腰に付けたデッキホルダーを開け、その中にわたしを入れてくれました。
わたしを、こんなわたしを拾ってくれるんですか?
う、うう。うれしいです。
彼の、ゆーせーさんのデッキホルダーの中が温かくて、わたしは泣いてしまいました。
「こんにちは鳥さん。どうして泣いてるの?」
誰かがわたしに話しかけてくれます。
わたしは顔を上げてその声の主を確認します。
そこにいたのは黄色い帽子に眼鏡をかけて背中にエンジンを背負ったモンスターでした。
そうか、この子はゆーせーさんのデッキホルダーの中にいたカードなんですね。
わたしは涙を拭いて彼の姿を見ます。
「は、はじめまして。わたし、ついさっきゆーせーさんに拾われたロードランナーと申します」
そう告げると彼は頷いて答えてくれます。
「初めまして、僕はジャンク・シンクロン。よろしくね」
「はい、よろしくです」
彼は片手を差し出し、わたしは両手の羽でそれを握って握手を交わします。
ジャンク・シンクロンさんは言います。
「そっか、キミも遊星さんに拾われたんだね。じゃあ僕らはこれから一緒のデッキで戦っていく仲間同士になるわけだ」
あっ。
ジャンク・シンクロンさんにそう言われて、わたしはすぐに答えることはできませんでした。
ゆーせーさんは確かにわたしを拾ってくれた。拾ってくれたけど、デッキに入れるかどうかはまた別の問題です。
わたしは顔を俯かせます。
「ゆーせーさんは、わたしをデッキに入れてくれるでしょうか? わたしみたいなレベルも攻撃力も低いカードを」
そう吐き出すと、温かい手がわたしの頭を撫でてくれました。ジャンク・シンクロンさんです。
「レベルや攻撃力が低いからって使えないカードとは限らないよ。例えば僕の特殊能力はね、レベル2以下のモンスターを復活させることができるんだ。しかも僕はチューナーだから復活させたモンスターにチューニングしてすぐにシンクロ召喚することができる」
レベル2以下のモンスター、ジャンク・シンクロンさんとコンビで活躍できるのはレベルの低いモンスターの特権ということですか。
「フォッフォッフォ、その子の言う通りじゃよ」
聞きなれない声が聞こえて、わたしはその方向を見ます。
そこにいたのは青い体のドラゴンさんでした。
「ワシの名はデブリ・ドラゴン。攻撃力500以下のモンスターを復活させる能力を持っとる。ロードランナーよ、攻撃力の低さが役に立つ時もあるのじゃよ」
攻撃力やレベルが低くても役に立つ。わたしにはその言葉がとても嬉しかったです。
ジャンク・シンクロンさんも言います。
「そうだよ。遊星さんはね、使えないと言われて捨てられた僕らみたいなカードに使い道を見つけてこうして使ってくれるんだ。だからキミも、遊星さんならきっとキミを最大限活躍させてくれるさ」
ゆーせーさん、凄い人なんですね。わたし達カードにとって救世主のような存在なんですね。
なんだか明るい未来が見えてきた気がします。
「そうですよね。ジャンク・シンクロンさんの能力でわたしを復活させてレベル1のわたしにレベル3のジャンク・シンクロンさんをチューニング、シンクロ召喚! ジャンク・ウォリアー! って感じで敵を打ち倒すんですよね!」
そう告げると、ジャンク・シンクロンさんは、「あ、ああ、うんそうだね」と引き攣った笑みを浮かべます。どうしたんでしょう?
わたしはデブリお爺さんにも顔を向けます。
「あとあと、デブリお爺さんの能力でわたしを復活させて、レベル1のわたしにレベル4のデブリお爺さんをチューニング。あっ、でもデブリお爺さんはドラゴン族シンクロモンスター以外のシンクロ召喚には使えないのでレベル5の超強力ドラゴンを呼び出すとしましょう。 レベル5のドラゴン族シンクロモンスターかあ、きっと凄く強いカードがいるんでしょうね」
わたしがそう言うとデブリお爺さんも引き攣った顔で、「あ、ああそうじゃよ」と肯定してくれます。
わたしの目の前に、ゆーせーさんに使われて大活躍する未来が見えてきました。
よーし、わたしもこれから頑張ります。頑張ってゆーせーさんのお役に立ちます。
ぱたぱた、ぱたぱた。
嬉しすぎて羽もぱたぱたやっちゃいます。
翌日のことです。
朝早くからゆーせーさんは机に座ってカードを広げていました。
彼は真剣な顔でカードを眺めています。わたしもその中の一枚です。
「遊星、おっはよー!」
そこに元気のよい子供が扉を開けて入ってきます。
赤いふわふわした髪にニット帽をかぶった、女の子でしょうか? それとも男の子?
ゆーせーさんはその子の方を見ます。
「ああ、おはようラリー」
ラリーと呼ばれた子は机に広げられたわたし達を見て言います。
「もしかしてデッキ調整中だった? だったら邪魔してごめんね」
その言葉にゆーせーさんは頷きます。
「ああ、昨日新しいカードを拾ったんでな。それも含めてデッキ全体のバランスを見直しているんだ」
そう言われるとラリーという子も勢いをなくします。
「そっか、じゃあ邪魔できないね。オレはタカ達のところへ行ってるよ」
「ああ、すまないなラリー」
それだけのやりとりを終えて、ラリーという子は部屋を出て行きました。
それにしても、ゆーせーさんは今、真剣にデッキのことを考えているんですね。
どきどきです。
果たして、わたしはゆーせーさんの眼鏡に適うのでしょうか?
ぱたぱた、ぱたぱた。
わたしは羽をはためかせます。
わたし、走るのは得意ですよ! 高校時代は陸上部の主将として部員をまとめるリーダーシップと責任感を学びました。
あと、ワードとエクセルとパワーポイントも一通り使えます。
是非、御社の力になりたいです。
わたしは必死でした。
絶対にデッキに入れてもらって、ゆーせーさんのお役に立ちたいのです。
頑張ってぱたぱたやりすぎて羽が疲れました。はーはー。
「よし、決まった」
そう言ってゆーせーさんはカードをまとめ始めました。
カードは二つに分けられ、片方は机の引き出しの中に。もう片方はゆーせーさんの腰のデッキホルダーに入れられました。
わたしはデッキホルダーの方でした。
こ、これって。
「おめでとうロードランナー」
ジャンク・シンクロンさんが言います。
「キミは今日から僕らと一緒に遊星さんのデッキの一員として戦うことになったんだ」
ほ、ほんとうにわたしが、デュエルで使ってもらえるんですね。
うれしいです。ゆーせーさん、わたし頑張りますから! 頑張って恩返しします!
「まっ、大変なのはこれからだけどな。活躍できなきゃ、即リストラも有り得るぜ」
そこに消火器みたいなモンスターさんが会話に入ってきます。
彼はわたしの視線に気付くと自己紹介を始めます。
「オイラかい? オイラの名はニトロ・シンクロン。ジャンク・シンクロンの永遠のライバルさ」
二トロ・シンクロンさん。この人もわたしの先輩にあたる人です。ちゃんとご挨拶しないと。
「初めましてニトロ・シンクロンさん。わたしはロードランナーと言います」
「おう、よろしくな」
ニトロ・シンクロンさんは気さくに挨拶を返してくれます。よかった、うまくやっていけそうです。
わたしは言います。
「そう言えばニトロ・シンクロンさんは素敵な特殊能力を持っていましたよね。ニトロ・ウォリアーのシンクロ素材になったとき、カードを一枚ドローするっていう」
わたしがそう言うと彼はチッチッチと指を振ります。
「わかってないなあ、これだから素人は。
いいかい? オイラの能力はニトロ・ウォリアーのシンクロ素材になったときじゃない、ニトロと名のつくシンクロモンスターの素材になったときに発動するんだ」
それは、同じじゃないんですか? だってニトロと名のつくシンクロモンスターはニトロ・ウォリアーさんしかいないわけですし。
そう訊き返すと彼は言います。
「確かに今はそうだが、これから二トロシリーズのシンクロモンスターは沢山増えていくのさ。ニトロ・ウォリアーはその始まりに過ぎない」
そこにジャンク・シンクロンさんも口を挟みます。
「そうだよ。僕も今はジャンク・ウォリアーしか専用シンクロモンスターがいないけど、これから沢山ジャンクシリーズのシンクロモンスターが増えて色んなシンクロモンスターの素材として活躍できるようになるのさ」
「じゃあ競争だなジャンク・シンクロン」
ニトロ・シンクロンさんは言います。
それにジャンク・シンクロンさんも言葉を返します。
「うん、どっちが沢山の専用シンクロモンスターが出せるか競争だね」
「オイラは負けないぞ」
「こっちこそ」
そう言って二人は笑いあいます。
この二人は本当に仲がいいんですねー。
そう思っているとゆーせーさんがドアを開けて部屋を出て行きました。
あれ? おでかけですかー。
ゆーせーさんの腰のデッキホルダーに入ったままわたし達は運ばれます。
家から出たところでさっきのラリーという子に再び会います。
「あっ、遊星。デッキ出来たの?」
その問いに彼は答えます。
「ああ、今日こそジャックに勝ってみせるぜ」
その言葉にラリーさんは喜色を浮かべます。
「そっか、これからジャックと戦いに行くんだ! 頑張って、俺達も応援に行くから」
どきどき、どうやらこれからデュエルをするみたいです。
きんちょーします。デッキに入れてもらって早々わたしの初デュエルです。
ところでさっき、話題に出てきたジャックさんというのはどういう人なんですか?
そう訊ねるとジャンク・シンクロンさんが答えてくれました。
「ジャックはねー。遊星さん達の仲間内で一番デュエルが強いんだ。遊星さんですら一度も勝てたことがないんだよ」
それは、強敵ですね。
よし、わたし達で頑張ってゆーせーさんを勝たせてあげましょう。
うん、そうだねとジャンク・シンクロンさんも頷いてくれました。
やがてどこかの工場跡のような廃墟に辿り着き、ゆーせーさんの前に金髪の男の人が立ちます。
この人がジャックさんなのですね。
彼は不敵に笑いながら言います。
「よく来たな遊星。懲りもせずまた俺に負けに来たか」
ゆーせーさんもそれに不敵な笑みを返します。
「いや、お前に勝ちに来たのさ」
周りに遊星さんのお友達が沢山集まって観戦に来ています。その中にはラリーさんも。
そして二人がデュエルディスクを構えてデュエルが始まります。
わたし達カードはデュエルディスクにセットされ、オートシャッフルシステムでシャッフルされます。
いよいよ始まるんですね。
きんちょーします。
わたし、頑張ります。頑張ってゆーせーさんに恩返しします。
デュエルは一進一退の攻防でした。
ジャックさんは仲間内で一番強いというだけあって凄まじいカードプレイングを見せましたが、ゆーせーさんも負けてはいません。
お互いに互角の戦いを見せ、ライフも少なくなってきたところでデュエルは佳境に入ります。
現在ジャックさんのライフポイントは500。
ゆーせーさんは400。
どっちに転んでもおかしくない状況です。
そんな中でゆーせーさんのターンが回ってきました。
「俺のターン」
そう言ってデッキからカードを引き、その内容を確認します。
そして彼は微笑を浮かべ小さな声で呟きました。
「来てくれたか」
引いたカードは、わたし、ロードランナーです。
やっとわたしの出番がきましたね。頑張ります。ぱたぱた。
フィールドの状況を確認します。
ジャックさんの場には攻撃力2000のバイス・ドラゴンがいます。お互いの場にそれ以外のカードはありません。
ゆーせーさんは言います。
「俺はロードランナーを守備表示で召喚。リバースカードを一枚セットし、ターンエンドだ」
ゆーせーさんの場にわたしが召喚されます。
守備表示です。頭を抱えて守備態勢をとります。
「ふん、また随分と貧相なモンスターが出てきたものだな」
冷笑を浮かべながらジャックさんはデュエルディスクを操作し、わたしのテキストを確認します。
「攻撃力1900以上のモンスターとの戦闘では破壊されない、か。なるほど、そいつで俺のバイス・ドラゴン攻撃を防ごうというわけだ。お前らしい浅はかな一手だ。
だがそれは無駄に終わる。見せてやろう、いかなる壁も打ち破る王者の攻撃力を」
そう言って彼はデッキからカードを引きます。
「俺のターン。俺はチューナーモンスター、X―セイバーパシウルを召喚」
攻撃力100のモンスターが出てきました。でも大丈夫です。わたしの守備力は300、その程度では倒せません。
そう思っていると、そのモンスターは二つの光となりバイス・ドラゴンを取り囲みました。
「レベル5のバイス・ドラゴンにレベル2のX―セイバーパシウルをチューニング。王者の叫びが木霊する。勝利の鉄槌よ大地を砕け! シンクロ召喚、羽ばたけエクスプロード・ウィング・ドラゴン!」
シ、シンクロ召喚!
ジャックさんの場に紫の体にオレンジ色の翼を持ったドラゴンが現れます。
で、でもその攻撃力は2400。わたしの特殊能力により、攻撃力1900以上の攻撃ではわたしを破壊できません。
しかし彼は、ふっと笑います。
「攻撃力1900以上の攻撃では破壊できないモンスターが出たなら攻撃力1900未満のモンスターで攻撃を仕掛ける、そんなものは凡人の発想だ。王者の力は絶対! 力こそ全て! 大いなる力によって打ち破れぬ壁など存在しない!
エクスプロード・ウィング・ドラゴンでロードランナーに攻撃だ!」
エクスプロード・ウィング・ドラゴンが炎を吐き出しわたしに攻撃を仕掛けてきます。
だ、大丈夫です。わたしの力でゆーせーさんを守るのです。
こんな炎くらい耐え切って見せま――あ、あちち! 熱いです! なんですかこの炎は!
「エクスプロード・ウィング・ドラゴンより攻撃力の低いモンスターと戦闘を行う時、ダメージ計算を行わず相手モンスターを破壊する。バトルで破壊できずともモンスター効果なら破壊できるというわけだ」
うわーん、そんなー、ゆーせーさんを守りたかったのにー。
わたしの嘆きも空しく、わたしは墓地へ送られます。
それだけで終わらずジャックさんは言葉を続けます。
「さらに、破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを貴様に与える」
ゆーせーさんが悔しげに口元を歪め、そのライフカウンターが400から100に減少します。ああ、大ピンチです。
「ふん、ぎりぎりライフが残ったか。攻撃力の低さに救われたな。ターンエンド」
状況は前のターンより悪くなってしまいました。
しかもゆーせーさんの手札はゼロ。このターンのドローに全てがかかっています。
彼は瞼を閉じてデッキに手を伸ばします。
「カード達よ、俺はお前達を信じる。俺の声に応えろ」
みんな。
わたし達は使えないと言われて捨てられて、ゆーせーさんに拾われて彼が使い道を見つけ出してくれたカード達です。
そんなわたし達が、ゆーせーさんの想いに応えないわけがない。
みんなで力を合わせてゆーせーさんに逆転のカードを引かせるのです。
「ドロー!」
彼がカードを引き抜きます。
そしてゆっくりとその内容を確認し。
「来たか」
そう言って口の端を持ち上げました。
彼はすぐさまその一枚の手札をデュエルディスクにセットします。
「俺はジャンク・シンクロンを召喚。このカードが召喚に成功したとき、墓地のレベル2以下のモンスターを復活させる。蘇れ、シールド・ウィング」
ジャンク・シンクロンさんが取っ手を引っ張って背中のエンジンを起動させると、その隣に攻撃力0の緑色の鳥さんが復活します。
「さらレベル2のシールド・ウィングにレベル3のジャンク・シンクロンをチューニング、集いし星が新たな力を呼び起こす。光指す道となれ! シンクロ召喚、ジャンク・ウォリアー!」
紫色のボディーに白いスカーフをした正義の戦士。ジャンク・ウォリアーさんが召喚されます。
でも、
「ふん、それで精一杯か。ジャンク・ウォリアーの攻撃力は2300。エクスプロード・ウィング・ドラゴンの攻撃力2400には敵わない」
ジャックさんの言葉に構わずゆーせーさんは言います。
「ジャンク・ウォリアーのモンスター効果発動。自分の場のレベル2以下のモンスターの攻撃力をこのカードの攻撃力に加算する」
そう告げるとジャックさんは驚きます。
「何を言っている! 貴様の場にはジャンク・ウォリアー以外のモンスターなどいない。レベル2以下のモンスターなど、あっ」
そこまで言って彼も気付いたようです。
ゆーせーさんの場に前のターンに伏せたリバースカードがあることに。
ゆーせーさんは、ふっと笑みを浮かべて宣言します。
「永続トラップ発動、エンジェル・リフト。このカードは自分の墓地からレベル2以下のモンスターを特殊召喚する。復活せよ、ロードランナー」
空から舞い降りた天使さんに羽を掴まれて、わたしは墓地から引き上げられます。
ありがとうエンジェル・リフトさん、わたしは羽をぱたぱたやって元気になったことを彼らに伝えます。
さあ、ジャンク・ウォリアーさん。私の力を受け取ってください。
「任せておけ」
渋い声でそう言って彼は親指を立てます。パワー・オブ・フェローズです。
わたしは羽をぱたぱたさせてジャンク・ウォリアーさんに力を送ります。
私の力を受け継ぎ、彼の攻撃力は2600となります。
やった、わたしのたった300しかない攻撃力でも役に立つんですね。
「ジャンク・ウォリアーでエクスプロード・ウィング・ドラゴンに攻撃! スクラップフィストー!」
ジャンク・ウォリアーさんのパンチが相手のドラゴンに直撃して大爆発が起こります。
ジャックさんは苦悶の声を上げ、そのライフポイントは500から300に下がります。
彼は顔を上げ、言います。
「エクスプロード・ウィング・ドラゴンが倒された。しかもエンジェル・リフトの効果は」
その先をゆーせーさんが引き継ぎます。
「そうだ、エンジェル・リフトはレベル2以下のモンスターを“攻撃表示”で復活させる。これでトドメだ、ロードランナーでジャックにダイレクトアタック!」
ゆーせーさんの攻撃命令を受けてわたしはジャックさんに向けて走ります。
とって、とって、とって。
ジャックさん、ご覚悟を。
わたしのクチバシでつんつんやってアナタのライフをゼロにします。
わたしのクチバシはすごい強烈なんですよー。
昨日もデブリお爺さんの肩をつついたらあまりの威力に、「はあー、肩凝りが治るわ。ありがとうねランちゃん」と言ってくれたぐらい強烈な一撃です。
ジャックさんの場にはもう伏せカード何もありません。この攻撃で勝てます。
ゆーせーさん、褒めてくれるかな?
頑張るぞー。
そう思いながらジャックさんに近づき、突如大きな鐘の音が響きました。
な、なんですかこの音は?
見るとジャックさんの場に鐘を鳴らしてると思わしきモンスターが現れていました。
「相手モンスターの直接攻撃時、このカードは手札より特殊召喚してバトルフェイズを終了させる。これがバトルフェーダーの能力だ」
そ、そんな。
わたしは鐘を持ったモンスターさんをクチバシでつっつきます。
ひどいです。せっかくジャックさんの肩凝りを治してあげようと思ったのにー。
でもバトルフェイズは終了しているので、いくらつっついてもダメージは与えられません。
バトルフェーダーさんは言います。
「残念でしたね小鳥さん。ジャック様の肩凝りを治すのは私の仕事です。私のこの振り子は肩叩き用にも優秀なんですよ?」
うう、ごめんなさいゆーせーさん。わたしの力が足りなかったばかりに。
ゆーせーさんは悔しげに歯を食いしばりながらターンエンドを宣言します。
そしてジャックさんのターンが始まります。
「俺のターン。まず手札より魔法カード発動、モンスターゲート。バトルフェーダーをリリースし、デッキの上からカードをめくって最初に出たモンスターを特殊召喚する」
ジャックさんのデッキが次々にめくられていきます。そして最初に出たモンスターは。
「ビッグ・ピース・ゴーレムを特殊召喚。さらにチューナーモンスター、ダークリゾネーターを通常召喚だ」
チューナー、まさか。
「レベル5のビッグ・ピース・ゴーレムにレベル3のダークリゾネーターをチューニング、王者の鼓動、今ここに列を成す、天地鳴動の力を見るがいい! シンクロ召喚、我が魂、レッド・デーモンズ・ドラゴン!」
赤い体の悪魔の竜がジャックさんの頭上で羽ばたきます。
つ、強そうです。
「トドメだ。弱者がいくら群れたところで強者に敵わないことを知れ、アブソリュートパワーフォース」
レッド・デーモンズさんの手の平がジャンク・ウォリアーさんに向かいます。
ジャンク・ウォリアーさんも拳で対抗しましたが、徐々に押し負けていきます。
そ、そんなジャンク・ウォリアーさんはわたしの力でパワーアップしたのに、それでも適わないなんてとんでもないパワーです。
わたしが涙目になって見つめる先、でジャンク・ウォリアーさんは破壊され、ゆーせーさんのライフカウンターが0を示しました。
「くっ」
ゆーせーさんは悔しげに俯いて膝をつきます。
うっ、うっ、負けてしまいました。
ゆーせーさんに恩返ししたかったのに。
ゆーせーさんはわたし達カードをデュエルディスクから取り外し、集めながら呟きます。
「カード達よ、すまない。お前達は精一杯やってくれたのに、俺の力が足りないばかりに」
ゆ、ゆーせーさん。
ゆーせーさんはこんな弱いわたしをデッキに入れてくれた人です。
だったらお情けでデッキに入れられたんじゃなく、わたしもちゃんと役に立ちたいです。
わたし、頑張りますから。サポートカードとか増やして強くなりますから。
だからわたし達、支えあって強くなっていきましょう。
ゆーせーさん。
彼には見えないだろうけど、わたしは、いやわたし達ゆーせーさんのカード全員は彼を中心に円陣を組み、そんな決意を固めました。
それから数日が経ちました。
今日はゆーせーさん、朝からDホイールに繋いだパソコンをいじっています。
なにをしてるのかなー?
つんつん、とわたしはDホイールのタイヤをつっついてみます。
「ランちゃん、旦那の邪魔したらアカンで」
そこをスピード・ウォリアーさんに止められてしまいました。
わたしが彼の方を向くと、彼は説明してくれます。
「遊星の旦那はなあ、今日はクロウの兄貴とライディングデュエルの練習する約束してん。せやから朝からDホイールの調整に余念がないんや」
そーなんですか。
彼は言います。
「ランちゃんはライディングデュエルのルール知っとるか?」
確か、走りながらデュエルするんですよね。
そう答えるとスピード・ウォリアーさんが頷きます。
「せや、スターダストさんみたいに空飛んでる人はええけど、うちらは走ってついていかなアカンで。置いてけぼりでもくらってみい? 壁モンスターがのうなって遊星さんが困ってまうわ」
そ、それは大変です。ゆーせーさんの足を引っ張らないようにしないと。
今日はわたしも頑張って走りますよ。
そう覚悟を決めて、わたしもライディングデュエルまでの時間、自分の靴を磨いておくことにしました。
そしていよいよライディングデュエルの時が来ました。
クロウさんとのデュエルの最中、わたしが召喚されます。
「俺はロードランナーを守備表示で召喚」
うわあ、お二人のDホイール、すごい速いです。
よーし、わたしも頑張ります。
頑張ってついていきますよー。
とって、とって、とって。
クロウさんがトラップを発動させます。
「俺の場にブラックフェザーが三体存在するこの時、手札からデルタ・クロウ―アンチ・リバースを発動。遊星、お前のリバースカードを全滅させる」
ゆーせーさんの場に伏せられた魔法・罠カードが次々に破壊されていきます。
しかしゆーせーさんはそれにも対応します。
「クロウ、お前が手札からトラップを発動するなら俺は墓地からトラップを発動する。リミッターブレイクの効果発動、このカードが墓地に送られた時、スピード・ウォリアーを特殊召喚する」
わたしの隣にスピード・ウォリアーさんが現れます。
彼は、足の裏にローラーがついているようで優雅に走ります。
「ランちゃん、大丈夫かい? ついていけてるかい?」
はい、大丈夫です。わたし、走るのは得意なんですよー。
「せやかて、顔が青いで?」
あっ、これは守備表示だからです。守備表示だと全身青くなりますから。
「あー、そかそか。これは一本とられたわ」
流石、スピード・ウォリアーさんは西の方の出身らしくユーモアに溢れてます。
それから、いろいろなことがありましたね。
ジャックさんにスターダストさんとDホイールを奪われたり、それを取り戻すためにシティに行ったり。
わたし達はゆーせーさんと一緒にずっと走り続けてきました。
今となってはどれもいい思い出です。
ゆーせーさんはその後、シグナーという仲間達と出会い、そして彼らと絆を繋ぎ強くなりました。
シグナーさん達は一人で歩いていける強さを手に入れ、それぞれの夢に向かう為に離れ離れになりました。
もちろん、大好きな仲間と離れ離れになることは寂しいでしょうが、自分の夢を叶える為にはそれも乗り越えなくてはいけない試練なのでしょう。
わたしはどうでしょうか?
ゆーせーさんのお役に立ちたいとずっとやってきました。
だから夢を叶える為にゆーせーさんと離れることになるなんていう状況はわたしには当てはまらないのですが。
わたしの夢ってなにかなー。
うーん、うーん、考えてみます。
あっ、そうだ。バイクと合体したいな。
バイクと合体できるようになったら、ゆーせーさん褒めてくれるかなあ?
あとそうだ。いつかわたしの姿がゆーせーさんに見えるようになったら、デュエルとは関係なくDホイールに乗せてドライブに連れてって欲しいです。
えーと、ゆーせーさんのDホイールだと後部座席はないし、前カゴもないし、ではゆーせーさんのお腹の前辺りに乗るということで。
ゆーせーさんにお手製のヘルメットを作ってもらって、それをかぶって出発です。
綺麗な景色を見ながら道を走り続けます。
お昼には見晴らしのいい草原でお弁当を食べましょう。
わたしはいっぱい食べて大きくなりますよー。
いつかゆーせーさんを乗せて空を飛べるように。ぱたぱた。
こんな風にいろいろ考えたけど。
やっぱりわたしはゆーせーさんとずっと一緒にいられれば、それが一番の幸せです。
ゆーせーさん、大好きです。
おしまい