千年桃太郎
製作者:仁也さん
前編
昔々あるところに、双六お爺さんと杏子お婆さんが住んでいました。
双六お爺さんはいいけど杏子お婆さんのほうは適役がいなかったんだなとか思ってはいけません。
ある日、お爺さんは山へ芝刈りに、お婆さんは川へ洗濯に行きました。
お婆さんが川で洗濯をしていると上流から大きな桃がどんぶらこっこ、どんぶらこっこと流れてきました。
しかもその桃にはウジャトの眼がついていました。
お婆さんはその桃を拾って家へ持って帰りました。
そしてその桃をお爺さんに見せて、二人で食べようと桃を切ろうとしました。そのとき、
桃は突然パズルのように幾つもの入り組んだ形の断片に分解され、中から男の子が出てきました。
「助けてくれてありがとう。これは千年桃といってね、再びこの桃を組み立ててくれれば僕のもうひとつの人格が復活するんだ」
と少年は言いました。
二人は唖然としています。
いきなり物語序盤で長々と退屈な世界観説明をする三流ファンタジー漫画みたいな超設定を話されても知りません。
お爺さんは言いました。
「杏子お婆さんや、この子を二人の子として育てようや」
お爺さんはもうボケてるようで細かいところは気にせず話を進めてくれます。
「そうね、じゃあ名前は桃から産まれたので武藤遊戯と名付けましょう」
お婆さんもいっそ清々しいほどのご都合主義で話を進めてくれます。
やがて数年の時がたち、遊戯も二人のもとですくすくと育ちませんでした。
身長は未だ小学生並み、立派な発育不良です。
髪の毛だけは異常に育っています。
そんなある日、遊戯のもとに村で悪さをしてる鬼達の噂が流れてきました。
「遊戯や、鬼ケ島へ行って鬼を退治してきてくれんか?」
「うん、わかった」
という感じで遊戯は旅立ちを決めました。
旅立ちの朝、杏子お婆さんはなにか丸いものをたくさん作って遊戯に渡しました。
「遊戯、気をつけてね。なにかあったときはこれを使いなさい」
「杏子、これは?」
その問いに対して杏子はこう答えました。
「これはマスターボールよ。これで途中で犬とか猿とか雉とかを捕まえて鬼ケ島へ行きなさい」
「杏子、これ何のゲーム?」
遊戯はマスターボール50個を持たされて旅を始めました。
遊戯が歩いているとそこに一匹の犬がやってきました。
「もーもたろさんもーもたろさん、お腰に付けたキビ団子〜、ひとつ〜わたしに、うっ!!」
言葉の最後で驚愕したのは、遊戯が腰に付けていたのはキビ団子じゃなくてマスターボールだったからです。
「あれ? 城之内くん、仲間になってくれるの?」
遊戯は無邪気に犬の着ぐるみを着た城之内に話しかけます。
アニメで色魔・御伽にコスプレさせられたヤツです。
しかしそれに対して城之内は、
「いや、待て待て! そもそも犬はキビ団子を食べさせてくれたお礼に仲間になるんだぜ! キビ団子がないとダメだ!!」
と断固拒否します。
「城之内ボ〜イ、そんな御託は聞きまセ〜ン」
そのとき遊戯の別人格が発動しました。
実は遊戯は108個の人格を持っているのです。
そして彼は懐から一枚のカードを取り出します。
「パニッシュメントゲ〜ム!」
遊戯がかざしたカード、それは『魂の牢獄』です。城之内の魂はカードに封印されました。
遊戯が歩いていると今度は猿がやってきました。
「もーもたろさんもーもたろさん、お腰に付けたキビ団子〜、ひとつ〜わたしに、うっ!!」
先ほどと同じ反応をして猿ロボット・本田が現れました。
早くノアを倒してあげてください。
「本田くん、仲間になってくれるの?」
遊戯の問いかけに本田は、
「いや、キビ団子がないと……」
「ではユーの魂も封印ネー」
またしても『魂の牢獄』のカードを出して本田の魂を封印します。
そんなこんなで鬼ケ島へ辿り着きました。
雉は適役がいませんでした。孔雀ならいたのに……。
鬼ケ島の中心では鬼が高笑いをあげていました。
「ワハハハ! 今日も手下の鬼共がカードを集めてくるわ!! 全てのカードは俺のものだぁ!!」
説明口調の独り言とともに鬼は笑い続けます。
「そうはいかないぜ海馬!」
「むっ、貴様は!?」
そこに遊戯が現れます。いつのまにか桃パズルが完成したようです。
「貴様の野望は俺が打ち砕く! 勝負だ海馬!!」
「いいだろう遊戯、俺達の宿命に決着をつけてやる!」
こうしてなんの障害もなくスムーズに二人の勝負が始まりました。
海馬が先手を打ちます。
「いでよ、鬼ベリスク!!」
おおよそ無理矢理なネーミングとともに海馬の後ろに青い巨人が現れます。
ハルヒファンの人たちは『青い巨人』と聞いて別のものを想像したかもしれませんが、面白いのでそのままにしておいてください。
「神人か、だが俺には神を打ち崩す秘策があるぜ!」
遊戯はハルヒファンだったようです。
「行け、マスターボール!!」
遊戯はマスターボールを使った。
しかしトレーナーにはじかれた。
他人のポケモンを捕獲することはできない。
「ワハハハ! 残念だったな遊戯、神にトレーナーカードは効かないのさ!」
これなんのカードゲーム?
「行け、鬼ベリスクの攻撃!」
海馬が鬼ベリスクに攻撃命令を下します。
それに対しても遊戯は落ち着いた様子で応じます。
「今、ボクは黄金櫃の封印を解く」
「なにぃ!?」
黄金櫃から姿を現したカード、それは鬼ベリスクでした。
「ボクが黄金櫃に封印した鬼ベリスクは海馬くんも使うことは出来ない。よって鬼ベリスクは消滅するよ」
神のカード何枚あるんですか?
「ふ〜、ゲームの特典についてきたカードがあって助かったよ」
やってはいけないネタを。
「おのれぇ! しかし俺にはさらなる切り札がある! いでよ、青眼の白龍!!」
息をつく暇もなく海馬が新たなるポケモンを召喚してきます。
もう名前に“鬼”が入ってなくてもどうでもいいようです。
「青眼、海馬の象徴とも言える魂のカード。ならば俺も切り札を出すしかないな」
遊戯が懐から二枚のカードを出します。
それは『魂の牢獄』に封印された本田と城之内のカード。
その封印を解いて、城之内と本田が現れます。
「はっ、ここは? 助かったのか俺達!?」と本田。
「あそこにいるのは海馬か。遊戯、俺達も手伝うぜ!」と城之内。
そんな二人に遊戯はやさしく、しかしそれでいて力強い笑みを浮かべながら言葉を紡ぎます。
「城之内君、本田君。俺達の結束の力で必ず海馬を倒そう!」
「おお、任せとけ!」と城之内。
「やってやるぜ!」と本田。
そして、
「いくぜ、海馬! 俺は城之内君と本田君の二人を生贄に捧げ…」
「「ええ!?」」
二人が驚きの声を上げ、それが彼らの最期の言葉となりました。
「貴様の切り札が青眼だというなら、俺も切り札を召喚してやるぜ」
遊戯の場に二体の生贄によって上級モンスターが召喚されます。
「いでよバスターブレイダー! 青眼へ攻撃!!」
遊戯の空気読まないモンスター召喚によって青眼が倒されました。
ブラックマジシャンを期待した方、残念でした。
「俺に言わせれば青眼の白龍なんて、実戦では使えない観賞用カードだね」
また別の人格が出てきました。
「おのれやるな遊戯! ならば俺はドラゴンを呼ぶ笛で青眼をさらに二体召喚! そして龍の鏡で三体の青眼を融合させる!! いでよ青眼の究極龍!!」
海馬は一気にモンスターを展開し、攻撃力4500を誇る究極龍を召喚してきました。
「遊戯、俺は今までの戦いによって貴様の戦術を知り尽くしている。貴様のデッキなどいわばガラスケースのようなもの!」
三ツ首の巨大な竜を従えて海馬が勝ち誇ります。
『もう一人のボク、大丈夫?』
そこに心の中から遊戯の相棒が話しかけてきました。
「ああ、大丈夫さ。海馬なんて俺のデッキを知り尽くしていると言いながら『融合解除』とか肝心なカードが頭から抜け落ちているドジっ娘キャラだ」
もう一人の遊戯は相棒にしか聞こえない声で言葉を返します。
ハイレベルな決闘者である遊戯は先の先まで読んでいるのです。
「それにもしデュエルで勝てなかったときは、リッチーやキースと人格交代して暴力で決着をつければいい」
遊戯は先の先まで読んでいるようです。
もともと決闘盤は人を殴るためにも設計されているのです。作った本人がその用途で使っているので間違いありません。
『でも海馬くんだって、カードを人にぶっ刺したり、ジェラルミンケースで顔面を殴ったりするから簡単には倒せないよ』
流石表遊戯の読みは、闇遊戯の先を行ってるようです。
「遊戯、俺はこの場で忌まわしい過去とともに貴様を葬り去る! 覚悟を決めるがいい!!」
「海馬、仮に俺を倒すことができてもその先にあるのは終わりなき憎しみの連鎖!! 貴様は憎しみの闇から永遠に抜け出すことはできない!!」
「フン、憎しみと怒りこそが俺にパワーを与えてきた! 全てを支配する力をな!」
「ならば貴様の憎しみと怒りを全て俺にぶつけてきな!! それで俺が倒せるならな!」
「なにをほざこうがこのターン! 勝利は俺にもたらされる!! いくぞ!! アルティメットドラゴンの攻撃!!」
究極竜の三つの口に光のエネルギーが集まります。
「くっ!」
「アルティメット・バースト!!!」
命令とともに三つの口から放たれた光は、ひとつの巨大なエネルギーとなり遊戯の場を覆います。
「勝った!!」
「そいつはどうかな?」
しかし遊戯の顔に浮かんだのは余裕の笑みでした。
「海馬! 憎しみを束ねても、それは…」
遊戯が究極竜を指さし、
「脆い!!」
その言葉とともに遊戯の場の最後の伏せカードが開かれます。
「リバース・カード・オープン! 聖なるバリア―ミラーフォース―!!」
「なにぃ!?」
遊戯の空気読まないトラップ発動によって海馬のモンスターが全滅します。
海馬の負けです。
「オレが……負けた……!?」
究極竜がいた場所を見つめながら海馬は呆然と呟きます。
「海馬、今オレとお前の間に身長の差は存在するが、力の差はない!!」
「なに!?」
後編
前回までのあらすじ:カードに億単位の金をつぎ込み、最強のデッキを作った海馬くん。
しかし遊戯とかいう引きだけヤローの鬼引きに負けた上、『力の差はない』と慰められた。
「憐れみのつもりか遊戯!!」
その言葉に海馬は憤慨しました。
しかし遊戯は冷静に、
「オレはお前の決闘者としての実力は認めているぜ! だがこれだけは言っておく。
貴様が敗けたもの……それは己の中に巣食う憎しみというモンスターだ」
「なに!? 憎しみのモンスターだと!!」
「そうお前の敗因は憎しみにあったのさ……」
遊戯は淡々と海馬の敗因を語ります。
「あと……俺の鬼引きと、ミラーフォースあたりだ」
認めました。
「お前の敗因の50%はミラーフォース……、49%が俺の引きの良さ、そして残りの1%がお前の憎しみだ!!」
残り1%だけやけに強調されました。
「フン、吠えるのは勝者にのみ与えられた特権。今は黙して引いてやるわ!!」
そう言って海馬は自分の手元を見つめます。
「ちっ、アンティルールだ! このカードを受け取れ!!」
そう言って海馬は一枚のカードを遊戯に投げつけます。
「鬼ベリスクの巨神兵!!」
遊戯はそのカードを、
「いらん!」
と言って手で払い飛ばしました。
「それより『命削りの宝札』をくれ!!」
こうして遊戯たちは親友の心の中の鬼を退治し、末永く幸せに暮らしましたとさ。
Happy End