地獄の黙示録

製作者:夏咲サカキさん





※注意!

アニメ遊戯王GXで登場した「地下デュエル」がメインのお話です。
暴力描写を特化させており、内容も非常に暗いです。
そういった描写が苦手な方,嫌悪を感じる方は
ご覧にならないほうがいいかもしれません。




一話「地獄放浪」

「はぁ……!はぁ……!
どうして?どうして?」

少女が闇の中を走っていた。

大雨の中、足を滑らせないように、必死に。

まだ十に届かないのではないか、というほど幼い顔つき。
その顔は涙と泥でぐしゃぐしゃに崩れていた。

「どうしてなの……どうしてなの……。」

その問いを聞く者は誰一人として存在しない。
少女の背後に迫る複数の人影の耳に、その独白は届かない。

「あっ……」

泥に足を取られ、大きくバランスを崩した。
とっさにポケットに入れておいたボールペンを男に投げつけるが、
無駄な抵抗に過ぎなかった。

「ひッ!」

少女の首が大柄な男の手によって、捕まり、そして。




小さな体が、大きな黒塗りの車へと投げ込まれた。


・・・


――闇の世界でしか生きられない日陰者の世界。

地下デュエル。

丸藤亮はそんな場所に居た。

暗がりのホテルの一室、何をするのでもなく
固めのベッドに横になっていた彼は
騒がしく鳴り響く携帯電話を手に取った。

電話の主はすでにわかっている。

「……俺だ。」

「ああ、お疲れ様です。今日のデュエルも素晴らしかったですよ。」

丸藤亮のプロモーター、猿山と名乗る男からだった。

トップクラスの実力を持っている丸藤亮はかつて、
挫折を経験し、プロリーグで連敗を続けていた。

そして、ついにプロの世界でのデュエルを組まれることは無くなった。

猿山はそんな丸藤亮をこの地下デュエルへと誘い、
ヘルカイザー亮≠ニして、産まれ変わらせた。

丸藤亮にしてみれば、これが良いことだったのが、
悪いことだったのかは今では知る由も無い。

だが後悔はしていなかった。

「見え透いたお世辞などどうでもいい。
それで、次の俺のデュエルは?」

「次のデュエルは楽ですよ。
ちょっとしたデモンストレーション・デュエルでしてね。
こちらの指示通りに動いて下さればいいのですよ。」

「八百長……か。
つまらんデュエルだな……。」

「別にやりたくなければいいのですよ。
これから貴方のデュエルが少なくなるのが構わないのであれば。」

「……次はもっとまともな対戦相手をよこせ。
今日の対戦相手も惨めなものだった。
俺が望んでいるのはあんなデュエルではない、と何度言えばわかる。」

地下デュエルでは自分からデュエルを組むことは許されていない。

この世界を牛耳る要人たち、お客様≠楽しませるために、
過酷なスケジュールを組ませるからだ。

一度のデュエルにお客様≠ノよる莫大な賭け金が飛び交い、
デュエル内容に応じて主催者から報酬が支払われる。

猿山はそれほどの権力は持ち合わせておらず、
言ってみれば単なる連絡役であった。

猿山自身、それはよくわかっているが、野望はあった。

ヘルカイザー亮のデュエルならば、彼を雇った自分は
さらに高い地位へと就ける、と。

「まだ貴方は地下デビューから日が浅い。
まぁ……貴方が望むようなデュエルができるのも時間の問題ですよ。」

「言っておくがお前には何も期待していない。」

「酷いですね。
あぁっと、次のデュエルの日程ですが……。」


・・・


地獄。

地獄。

どこまでも続く、地獄。

地下デュエルに入り込んだ以上、この地獄から抜け出すことは出来ない。

死ぬまで。

戦い続けるしかない。

血が流れても。

腕が千切れても。

足をもがれても。

耳を削がれても。

眼を潰されても。

そして死ねば、ただのゴミとなる。

内臓は綺麗に売り飛ばれて、体がまともに墓に入ることはない。

余ればただ、ゴミとなる。それだけだ。

丸藤亮自身、それはよくわかっていた。
だが、今の彼にとって生きるということは、
デュエルに勝利することそのものだった。

負ければ自分から命を絶ってもいいとすら考えている。

だがプライドもあった。

自分のデュエルをただの見世物にされるのは我慢ならなかった。

今は単なる地下デュエリストの一人に過ぎない。

だがいつか……。

彼の望むデュエルのために。
戦い続ける。




二話「生贄少女」

今日も丸藤亮はこの地下デュエルのリングに立つ。

檻に閉じ込められ、まるで猛獣のような扱いだが、
同時に逃げられなくする処置でもある。

地下デュエルは衝撃増幅装置という、
肉体に凄まじい痛みを与える電撃を放つ装置を着けて行われる。

体中に取り付けられ、デュエルが終了するまで外すことは許されない。

ライフの減りに応じて電撃の威力は変化し、
わずかなダメージでも失神しかねない危険なものであった。

だが、この衝撃増幅装置こそが地下デュエルの醍醐味そのものであった。

この地下デュエルを見守る要人たち……お客様≠ヘ普通のデュエルなど
とうに見飽きており、多くの賭け金をベットし、
命を賭けたデュエルに興奮し、スリルを感じる。

だが今日のデュエルは少し赴きが違っていた。

「これは……。」

少女がうずくまっていた。

デモンストレーション・デュエル。
つまり見世物デュエルと丸藤亮は聞かされていたが、
このデュエルリングに入る直前に彼は
さらに詳しいことを猿山から聞いた。

曰く、これから出てくる対戦相手はデュエリストでは無いこと。
まだ十歳程度の幼い子供であり、
彼女の両親は自殺し、大量の借金が残されていたこと。
その借金を取り立てるため、とある機関が少女を拉致したこと。

そして借金は、このデュエルでチャラになること。

成人男性でもショック死するほどの衝撃増幅装置の痛みに、
少女の体が耐えられるはずが無かった。

つまり。

死ね、というのだ。

それで借金がチャラになる。

そのデュエルの役割が、丸藤亮の元へと依頼された。

最近売り出し中の悪役(ヒール)、丸藤亮。
観衆の前で少女を殺める。

お客様≠ェ望んでいるのはまさにそんな絵図なのである。

「くだらん……。」

少女が無理やり立たされ、無骨なデュエルディスクを腕に、
そして衝撃増幅装置を体の数箇所にはめ込まれる。

「……!」

少女は眼前の丸藤亮を睨み付けた。
この世の全てを呪ったような、絶望した眼だった。

「お前の事情など知ったことではないが、
このリングに立った以上はデュエリストだ。
戦え。生き延びたければ、な。」

丸藤亮はデュエルディスクを構え、デッキからカードを引き抜いた。
少女も重そうにデュエルディスクを抱えながら同じ動作をした。

どうやらデュエルモンスターズのルール程度は理解しているらしい。

「行くぞ。」


少女 LP 4000

丸藤亮 LP 4000


少女のターンからデュエルは開始された。
これは主催者側からの少女への配慮、というアナウンスが流れる。

だが。

それが罠とも知らずに少女はカードを召喚する。

「……ホーリードール……攻撃表示。
ターンエンド……。」

ホーリードールは攻撃力1600のモンスター。
効果を持っているわけでもなく、攻撃力もさほど高く無い。
ただの通常モンスターであった。

このデッキは少女が持っていたデッキそのものであり、
少女は一縷の望みをこのデッキに託した。

自分が相手にしているデュエリストが
どれほどの力量を持っているのかも知らず。


少女 LP 4000 手札5枚
場:「ホーリードール」

丸藤亮 LP 4000 手札5枚
場:無し


丸藤亮のターンに移る。
彼は目の前の少女に哀れみの目を向けるのではなく、
一人のデュエリストとして見ていた。

死に行く少女へ、せめて誇らしく死なせてやろう。
そう思っていた。

「俺のターン、ドロー!
俺は手札から、サイバー・ドラゴンを特殊召喚する。」

お客様≠スちから歓声が沸きあがる。
これが丸藤亮の主力カード、サイバー・ドラゴンであった。
レベル5、攻撃力2100を持ったカードで
相手フィールド上にモンスターが存在しており、
自分フィールド上にモンスターが存在しない場合、
手札から特殊召喚できる強力カードだ。

主催者が望んでいたのはこれだった。
少女にモンスターを出させておき、亮の主力カードを出させる。
先行なら少しは有利に戦える……などという希望を見せておき、
奈落へと突き落としたのであった。

「あ……あぁ……。」

少女が顔が恐怖に歪んだ。
瞬時に力の差を感じ取ったに違いない。
だがもはや、守備することも許されない。

「サイバー・ドラゴンでホーリードールに攻撃。
エヴォリューション・バースト!」

機械の竜の放つ光線が人形を粉々に砕き、
そのまま少女の体を貫いた。

500ポイントのダメージである。

少女 LP 3500

その瞬間。

衝撃増幅装置が起動した。

ビビ。

ビビビビビビッビビビッビッビビビビビ!!!!!

「わああああああ!」

少女が絶叫し、膝をついて倒れた。

少女 LP 3500

「いたい!いたいよぉ!」

少女が激痛に転げまわる。

観客席から歓声が沸き起こる。

――おやおや、可哀想に。

――もうあれじゃ無理ね。

――ほら、がんばれ、がんばれ。はははは!!

勝手な台詞が飛び交い、下卑た笑い声が響く。

そんな様子に、リングに脇に立っていた猿山が満足そうに微笑む。
これで自分の地位も安泰だ、とでも考えているのだろうか。

「……ターン終了だ。」


少女 LP 3500 手札5枚
場:無し

丸藤亮 LP 4000 手札5枚
場:「サイバー・ドラゴン」


「うううう……。」

「お前のターンだ。」

「……はぁ……はぁ……おかぁさ……おとうさん……。」

少女はぐったりとしたまま動かなくなり、

3分が経過した。

自動的に丸藤亮のターンへと移る。


少女 LP 3500 手札5枚
場:無し

丸藤亮 LP 4000 手札5枚
場:「サイバー・ドラゴン」


「……ドロー!」

お客様≠スちが丸藤亮へ好奇の目線を向ける。

どんな処刑方法か?

それともまだいたぶるのか?

「俺は……手札から……。」

自分は何をやっている。

丸藤亮はふと思った。

こんなデュエル、自分が望んでいたものではない。

心の底からくだらないデュエルだ。

だが、これで地下デュエルの要人たちに注目されれば、
さらに充実したデュエルへの道が開かれる。

ならば躊躇することは無いではないか。

だが、同時にプライドがジャマをした。

俺のデュエルはこんな少女を痛めつけるだけのものか?

俺のデュエルはこんな醜い老人どもを悦ばせるだけのものか?

自分は確かに容赦の無いデュエルをするようになっただろう。

だがそれは自分の信念があったからだ。

戦って、勝利する。

それだけの信念だが、自分にとっては揺ぎ無いものだ。

だがこれはなんだ?

デュエルですらないではないか。

「どうした亮?
早くそれを使ってしまいなさい。
皆さんもそれを望んでいるのですよ!」

猿山がはやし立てる。
丸藤亮が手にしていたカード。
それは……。

「……手札から……パワーボンドを発動する!!
手札、及びフィールドの機械族モンスターを融合させ、
融合召喚したモンスターの攻撃力を倍化させる!
俺は手札のサイバー・ドラゴン2枚、
そしてフィールドのサイバー・ドラゴンを融合!」

3枚のカードが一つになり、
三頭の首を持つ巨大な機械竜へと進化した。

「サイバー・エンド・ドラゴンを融合召喚!
攻撃力は4000!
だがパワーボンドの効果で倍化となり、
攻撃力は8000に上昇!」

大歓声が巻き起こる。

丸藤亮のキラーカードであり、このカードで葬ってきた
デュエリストは数知れず。

少女もこのカードの餌食になる。

皆、それを期待していた。

だが、しかし。


「ターン、エンドだ。」

「な!?何をやっているのです!亮!!」

「そしてエンドフェイズ、パワーボンドのデメリット、
融合召喚したモンスターの元々の攻撃力分のダメージを受ける……
サイバー・エンドの元々の攻撃力は……4000……。」

観客席から凄まじい怒号のブーイングが巻き起こる。

ふざけるな。

金を返せ。

だがそれらを全て聞き流し、これから起こる衝撃増幅装置の電撃に
体を強張らせた。

「ぐぅ!!あああああ!!」

丸藤亮 LP 0

「はぁ……はぁ……
う…………。」

自分がやったことは間違いだっただろうか。

これから回されるデュエルの量は少なくなるな。
いや、始末されるのかもしれない。
怒号の中、そんなことを考えながら、丸藤亮は意識を失った。




三話「生存模索」

「お兄さんは凄いな……僕なんていつも……。」

「そう悲観するな。お前はよくやっている。」

「今日も酷いプレイミスしちゃったし……。」

「前にも言ったが、お前は対戦相手のことを考えているのか?」

「うん……でも、よくわかんないよ。
自分のことだけで精一杯なんだもん。」

「ならもう一度デュエルしてこい。お前を負かせた連中とだ。」

「えぇー!?」

「わかるまで何度も、だ。」

「ちぇ……。」

・・・

薄暗く、カビ臭い部屋のベッドの上で丸藤亮は目を覚ました。
なんだか懐かしい夢を見ていた気がしたが、
もうその内容を覚えてはいなかった。

「医務室、か?」

ほとんど使われない地下デュエル用の医務室。
自分が置かれている状況が、始めはよく飲み込めなかったが
次第に記憶を取り戻して行った。

「我ながらしぶとい、な……。」

4000ものダメージを一度に受けたが、
それが敵の攻撃ではなく自身のカードの効果によるものだったのが幸いした。
その場合は衝撃増幅装置の電撃がわずかながらに和らぐ。
せっかくの死闘で、自分が発生させたダメージで倒れては
場が白けてしまい、怒りを買い兼ねないからだ。

彼の隣りのベッドには例の少女が寝かされていた。
衝撃増幅装置はすでに外されおり、
先刻のデュエルが考えられないほど静かな寝息を立てている。

我ながら馬鹿なことをしたな。

丸藤亮はそう少し思った。

「やってくれましたね……。」

そう言って部屋に入ってきたのは猿山だった。

「せっかくのショーを台無しに……おかげで出資者たちは大激怒。
それはもう酷い暴動でしたよ。」

「そんなことは俺に関係無い。」

「あのぉですねぇ、反省しろとは言いませんよ。
でも少しくらい感謝してもいいんじゃ無いですか?
あの状況で貴方が始末されなかったのは、
この私が体を張ってかばってあげたんですからね。」

「貴様が?いつからそんな冗談を言えるようになった。」

「ああもう、ハッキリ言っておきますが
見捨てて逃げようともしましたよ、そりゃあ。
しかしですね、貴方に期待してるんですよ私は。」

猿山にとって丸藤亮は自分を伸し上がらせる最高のデュエリストだった。
もし亮が凡百なデュエリストであれば即座に見捨てて逃げていただろう。

「それと……貴方にとって良いニュースですよ。
今日のデュエルに大変お怒りになられた主催者様が、
貴方と是非戦って欲しいというデュエリストがいるそうです。」

「今度こそまともなデュエル内容なんだろうな。」

「殺されますよ?貴方。
地下デュエルの歴史始まって以来の虐殺処刑人と言われる……」

「くだらん通り名を持っているな。」

もはや猿山の話を聞いていない亮は、少女に目を向けた。

「こいつは何故ここにいる?
あのデュエルはこいつの勝利で終わったはずだが。
もう自由の身だろう。」

「人の話を……あぁいいです。もういいですよ。
その娘ですが……そうはいかないんですよね。
あんな内容では金は出せない、だそうで。」

「フン……ということは別の奴とのデュエルに回されるわけか。
どの道、助からない……な。」

自分のやったことは無意味に等しい行為だった。
その事実が少し彼の心を苛立たせる。

「ま、そうでも無いんですよ。
さっき言った貴方のデュエル、実はタッグデュエルでしてね。」

「なんだと!?」

「タッグのルールはご存知ですか?」

「まぁな……だが待て。俺のパートナーは、まさか。」

「ええ、その娘ですよ。」

やられた。

猿山の言った『殺される』の意味が真に理解できた。

まず間違なく少女は足を引っ張る。

向こうはスペシャリストで挑んで来るだろう。
実質二対一。

デモデュエルを目茶苦茶にした男と、借金まみれの少女を一度に。
さらに足の引っ張りあいによって、亮の力が思うように発揮されない。
おまけにデュエル開催費も一度で済む。

向こうにしてみればこれほど効率がいい処刑方法は無いだろう。

亮の顔が曇った。

「このデュエルを断って逃げれば、
すぐ捕まってその場で銃殺ってとこですかね。
かといって戦えば勝ち目は薄い。
何か良い案があれば是非聞かせて欲しいんですが。」

「そんなものは無い。」

「貴方が負けたらその場ですぐに逃げますからね。
日程は追って連絡しますから。
最後に重要なことを伝えておきます。
貴方はそのデュエルが終わるまで、近隣の店からカードの購入が出来ません。
出資者がそう手を回しているんです。
かといって遠出すれば逃亡扱い……。
これでその娘のデッキの強化も不可能、というわけで。
やれやれ……徹底してますよね。
では、私はまだ手続きがあるんでこれで失礼しますよ。」

猿山が去って行った後は静かなものだった。
医務室とは名ばかりの無骨なベッドが並ぶだけの部屋に、少女と二人。

ふと亮は思った。

地下デュエリストはそれぞれにプロモーターが着いており、
管理、宿の手配などをしている。

だが拉致されたこの少女にはそれが無い。

と、いうことは。

「……まさか俺がこいつの面倒を見るのか?」

ますます面倒な役回りを押しつけられた。
女性とはいえタダの子供。
迷惑極まりない。

大きな溜め息をついた。


・・・


丸藤亮は少女を背負い、ホテルに戻った。
闇医者の治療など受ける気にならない。

彼は自分の弟のことを思い出していた。

何を感傷的になっている。
すでにあいつとの関わりは捨てたはずだ。
今何をしてようと俺には関係が無い。

そう自分に言い聞かせる。

それより問題はこの少女だ。
自分が今度のデュエルで殺されないためには、
この少女をなんとかするしかない。

ホテルに着いた頃には、少女は目を覚ましていた。
丸藤亮もそれに気付いていたが、二人とも何も言わなかった。
亮の背中に抱き付きながら、少女は何を考えているのか。
しかし彼にとってそんなことはどうでもよかった。

部屋の前で少女を下ろそうとして、
立てるか?
とだけ聞いた。

少女は小さくうなずいた。


・・・


部屋に入っても二人は無言だったが、やがて少女が口を開いた。

「……なんで?」

「……ん。」

「なんで、助けたの?」

ああ、向こうからすれば、あれは助けたことになるのか、
と亮は思った。

「本気で殺そうとしていたがな。」

「やっぱり……。」

「また無様にのたうち回りたくなければ、
お前にも少し協力してもらうぞ。」

「……私に出来ることなんか……無いよ……。」

「いいや、それでもやってもらう。
死にたくなければ死ぬ気でデュエルの腕を上げろ。
これから今度のデュエルまで、食事、風呂、睡眠以外の時間は
全て俺とデュエルの練習だ。
わかったか。」

「……私なんか……。」

「いつまでそうウジウジしているつもりだ。
お前の身の上は聞いているが、ハッキリ言って
自分が世界で一番不幸なんだと思い込んでいるような
その眼が気に食わない。」

「……。」

あきらかに反抗的な目付きになったが、亮の知ったことではない。

少女のデッキの中身は歳相応というか、レア度の低いものばかりであった。
地下で戦い抜くには余りにも厳しい。
といってもショップ購入を止められている以上、
新規のカードを補充する手段は失われたし、
丸藤亮の手元の余っているカードも、サイドデッキのサポートカードくらいのもの。
嫌でもこのデッキでやるしか無かった。

それでもカードを広げながら、緻密な計算を立てて行く。

「かろうじて使えるのはこれらのカードくらいだ。
他のカードは捨てるつもりでやれ。」

「でも私、これお気に入りの……」

「お気に入りだのなんだの言ってる場合じゃないのを理解しているか?
お前が考えるのは勝利だけだ。
生き延びることを考えろ。わかったな。」

「う、うん。」

「次は魔法カードだ。
そうだな、このカードと先程のこのモンスターを組み合わせれば
しばらくはロックすることが出来る。
使えるカードを引けるまでこれで時間を稼げ。」

「ろ、ろっく……って?」

「相手の攻撃を止める手段だ。
自分から攻撃することは考えるな。
下手にモンスターを攻撃表示にすればダメージを受ける。
もうあんな痛みは味わいたくあるまい。
お前が耐えれば俺が対戦相手に攻撃を加える。」

「よ、よくわかんないけど……そうする……。」

やがて、猿山から連絡が入り、デュエルの日程があきらかになった。
戦略指南もそこそこに、まだ体に痺れを感じた亮は早めに休むことにした。

少女をベッドに、自分はソファーで横になる。
明かりを消した部屋の中で、不意に少女が声をかけた。

「……春菜。」

「ん?」

「春菜……。私の名前。」

自分のデッキを事細かに分析し、戦略を立てて行く亮に対して
少しだけ心を開いた少女は自分の名前を告げた。

「……あなたは?」

「亮。」

「亮って呼んでもいい?」

「勝手にしろ。」

「うん……。」

春菜にとって亮が救いの神、救世主であることを段々と自覚していった。

言うことを聞こう。

痛いことをされたけど、助けてくれた。
あの絶望的な状況から。

一ヶ月前まで春奈は、学校の友達と子供らしい遊びに興じていた。
今ではそれが何年も前のことのように感じている。

これから自分はどうなるのだろうという、
どうしようもない不安も、亮と一緒なら大丈夫な気がして……
体の震えも止まる。
そして、引き離された兄を探そう、と心に誓った。




四話「激痛昏倒」

亮と春菜は控えの部屋の一室で最後の戦略の確認をした。

攻撃は亮が。

守備は春菜が。

といっても春菜のカードはどれもことごとくカードパワーが弱く、
実質、相手を攻撃を一度防げればいい程度の使い捨てであった。

しかし、それは亮の狙いの一つでもある。

春菜のモンスターカードが破壊されれば場が空く。
そうすれば、サイバー・ドラゴンの特殊召喚も容易となる。

「時間だ、行くぞ。」

「あ、あのね、亮。」

「なんだ?」

「今までありがとう……。」

「そういう台詞は終わってから言え。おい猿山。」

「はい?」

「逃げたければ逃げて構わんぞ。」

「……ま……信じてますよ。
しかし亮、ずっとその娘と暮らしていたんですか?」

「ああ。」

「貴方、そんな趣味が?」

「どういう意味だ?貴様……。」

「そんなに怖い目で見ないで下さいよ。
なんでもありませんよ。」

猿山を無視し、亮と春菜はリングへ向かった。

リングに入ると、すぐさま扉が施錠され、衝撃増幅装置を装着された。
目の前に背が高く、目が吊りあがった男と
真っ黒なスーツにサングラスをかけた女が立っていた。

彼らが今回の対戦相手の
地下デュエルの処刑衆≠ニ名が通ってるコンビである。

吊り目の男が会釈する。

「お初にお目にかかります。
今宵、あなた方の処刑の命を受けました志波と申します。
おや、おやおやおや。
これまたこれまた可愛らしいお嬢さんですね。
これは優しく、優しくしてあげなければなりませんね。」

ニィ、と口の端も吊り上げて、志波と名乗る男は邪悪に微笑んだ。
その様子を見た春菜は顔をしかめる。

「丸藤亮……貴方も落ちぶれるところまで落ちたわね。」

亮は女性の声に聞き覚えがあった。

「貴様……凛か?
こんなところで何をやっている……。」

黒いスーツの女性の名前は凛。

かつて……亮のデュエル流派、サイバー流の門下生の一人だった。
彼女は対戦相手をリスペクトする……というサイバー流の方針に
反感し、力を重視したデュエルばかりをしていたため、破門となった。
いや、自らサイバー流の元を離れた、と言ったほうが正しい。

「あのジジイってまだ生きてるの?
破門されてからのあたしはまるで生きちゃいなかったわ。
自分で選んだことだけどね……。
ま、おかげでこの地下デュエルで伸し上がっていくことが出来た。」

「これはこれは、二人がお知り合いだとは、意外や意外。」

「亮、せっかくだからあたしが説明しておくわ。
今回装着されたこの衝撃増幅装置、特別製でね。」

「特別だと?」

「ダメージを受けると電撃が走るのは変わらないわ。
でもね、今日のお客様方はもっと刺激を求めているの。
ライフがゼロになるとね……フフ……
爆発するの。ボンってね。
目の前で破裂するの見たことあるけど、すっごかったわ〜。」

「悪趣味め。」

「そっちの女の子……春菜ちゃんだっけ?
破裂するとこ、あたし見てみたいな〜。
集中攻撃しちゃおうかな〜〜。
ど〜〜〜〜〜しよっかな〜〜〜〜〜〜〜〜???」

春菜が亮のコートをつかみ、嫌悪の表情をあらわにした。

「相手にするな。」

「では、ではでは。お客様方も退屈しております。
さあさあさあ、始めましょうか、死のデュエルを。」

アナウンスがデュエル開始の宣言をした。
亮と凛が、志波と春菜が。
お互いのデッキをカット&シャッフルする。

それが終わると、タッグデュエルのルールが説明される。


・プレイヤーはそれぞれABCDとし、
 プレイヤーAC、BDでそれぞれチームを組む。

・A→B→C→Dの順番でターンが進んで行く。

・フィールドは通常のフィールドを使い、4人で同時に使用する。

・ライフポイントは二人で共有し、
 どちらのプレイヤーが攻撃を受けてもライフは減少する。

・パートナーが場に出したカードは自分で使用することが可能。

・円滑にデュエルを行うため、デュエル中、パートナーとの相談は不可。


「ねぇえ?志波。亮はあたしにヤラせてよ。
あの子もいいけどさぁ。
亮には色々ムカついてんのよぉ〜〜〜〜〜〜。」

「そうですか、そうですか、では私めがあの少女ですね。
丁重に、丁重に、丁重にお相手いたしましょう。
ききき、キキキキキ……。」


春菜&亮 LP 4000

志波&凛 LP 4000


先行は春菜からのスタートとなった。

この順番だと、春菜→志波→亮→凛の順にターンが進まれる。

「行くぞ、春菜。」

「う、うん!」


デュエル!


「わ、私のターン!ドロー!
んと……ハッピー・ラヴァーを守備表示で召喚。
カードを1枚伏せて、ターン終了……。」


春菜&亮 LP 4000 手札4枚&5枚
場:「ハッピー・ラヴァ」
  伏せカード1枚

志波&凛 LP 4000 手札5枚&5枚
場:無し


ハッピー・ラヴァは攻撃力800、守備力500の
何の効果も持たない弱小モンスターだった。
春菜は亮の言いつけを守り、守備を固めた。

次は志波のターンとなる。

「可愛いですねぇ。可愛い可愛い可愛い。キキキキ……。
私のターン!ドロー!
イグザリオン・ユニバースを召喚し、ハッピー・ラヴァに攻撃しますよ!」

「し、守備表示だからダメージは受けないよね、
大丈夫、大丈夫……。」

「ちッ!春菜!!」

「え、な、何?」

春菜が亮に顔を向けた瞬間、イグザリオン・ユニバースの槍が
ハッピー・ラヴァを貫いた。

そして、春菜の衝撃増幅装置が起動する。

「え……?え……?
何ぎゃああああぁぁぁぁぁぁ!!
あううううう!」

春菜はリングの檻に寄りかかるようにして倒れた。

「なんで……なん……で……?」


春菜&亮 LP 3100


時間差で亮の衝撃増幅装置も反応した。

「く……ぐああぁぁぁぁ!!!!
……こいつ、ら……!」

イグザリオン・ユニバース。
攻撃力1800のモンスター。
だが、このカードの攻撃力を400ポイントダウンさせて
守備表示モンスターを攻撃した時に、その守備力を攻撃力が超えていれば、
その数値だけ相手に戦闘ダメージを与える効果を持つ。

ハッピー・ラヴァの守備力を越えて、900のダメージが襲ったのだ。

「や〜〜〜ん、もう、
春菜ちゃんってば、か〜〜〜わ〜〜い〜い〜〜〜〜♪
お姉さんもイジメたくなっちゃった♪」

「いやぁ、楽しいですね、デュエルって。
では、ではではではカードを2枚伏せてターンを終了しますよ。」


春菜&亮 LP 3100 手札4枚&5枚
場:伏せカード1枚

志波&凛 LP 4000 手札3枚&5枚
場:「イグザリオン・ユニバース」
  伏せカード2枚


亮のターンに移る。

「やはり……アンチデッキか?
俺のターン!」

亮は対戦相手のデッキが、弱小モンスターばかりの春菜を狙った
貫通攻撃モンスター中心ではないか、と予測を立てた。

かつて地下デュエルで初めて戦った男を思い出した。
事前に亮の戦術を研究し、徹底的に対策されたデッキだった。

そのデュエルは亮の勝利に終わったが、
今回は状況が違う。

守る術をほとんど持たない春菜は、そう長くはもたない。
いや、それどころか今の攻撃で戦闘不能になったと見てもいい。

となると、彼の行動は一つ。

パワーボンドによる、一瞬の決着。

これしか無かった。

「ドロー!!」

しかし、初期の手札にパワーボンドは存在しなかった。
変わりに、デッキ内のカードをサーチするタイムカプセルがある。

だが、このタイムカプセルによって回収するカードは
2ターン目の自分のスタンバイフェイズまで待たねば
手札に加えることが出来ない。

このタッグデュエルならば、春菜のターンも
一つのターンとして数えるので、
次の自分のターンに手札に加えることが出来る。

次のターンまで、耐えられれば。

意を決して、亮はタイムカプセルを発動させた。

「手札から魔法発動!タイムカプセル!
自分のデッキからカードを1枚選択し、ゲームから除外。
そして2ターン目のスタンバイフェイズに手札に加える!」

デッキを取り出し、パワーボンドのカードを探す。

亮は異変に気付いた。

パワーボンドがデッキの中に存在しない。

リングに入る前にデッキは全て確認した。

そんな馬鹿なことがあるか。

「ちょっと、亮?いつまでデッキ見てんの?
早くして欲しいんだけど?」

リングに入った後に、デッキを一度だけ取り外したことがあった。

確か……。

シャッフルの際に……。

「まさか……凛!!貴様!!」

「えええ?何?どうしたの?何?
何?何?
何か無くしたの?
何を無くしたの?
ねぇ?
私に教えてよ、
教えてよ、教えて亮。
ヒヒヒヒヒヒひひひひひひ。」

ニヤニヤと不気味な笑い声を上げる。

デッキをカット&シャッフルしたとき、
亮のデッキに触ったのは凛だった。

そのとき、凛は亮のデッキから、まるでマジシャンのごとき
鮮やかな手際でパワーボンドのカードを抜き取ったのだ。

「ぐ……。」

「亮さん、亮さん、さぁさぁさぁ、皆さん待ってますよ?
早く。早く早く早く。キキキキキキ……!」

「俺は……このカードをゲームから除外する……。」

仕方なく、代わりのカードを選択し、タイムカプセルへ封印した。

だが、亮の戦術が全て封じられたわけでは無かった。

「ならば……これだ!
融合の魔法カードを発動!
手札のサイバー・ドラゴン2枚を融合させ、
サイバー・ツイン・ドラゴンを融合召喚!」

サイバー・ツイン・ドラゴンは攻撃力2800の大型モンスター。
さらに2回連続攻撃という凄まじい効果を持っていた。

「バトルだ!
サイバー・ツイン・ドラゴンで
イグザリオン・ユニバースを攻撃!」

双頭の機械竜が閃光を放った。
しかし、攻撃が命中する直前に
イグザリオン・ユニバースは守備表示になった。

「何?」

「リバースカードを発動させていただきましたよ!
砂漠の光。
これによって私の場のモンスターは守備表示となる。
貴方の融合モンスターの攻撃力は恐ろしいですからねぇ。」

イグザリオン・ユニバースが粉砕された。
守備表示になっていたので、当然ダメージは無い。

「だが……次は貴様へのダイレクト・アタックだ!
激痛を味わうがいい!!」

「ところが、ところがところがそうもいかないんですよねぇ。
攻撃宣言前……永続罠、
スキルドレインを発動させていただきます!
1000ポイントのライフを払うことで、
フィールド上のモンスター効果は、無効。」

「サイバー・ツイン・ドラゴンの効果が封じられたか……。」


志波&凛 LP 3000


「ぬぁ!がああああ!!!!
きひ!ききき……!!!
今日の痛みはまた、一段と……強いですねぇ……。」

「くぁあ!?はは!!
それだけ、お、お客様が喜ぶって、こと、よ……ひひひ……。」

サイバー・ツイン・ドラゴンの効果が封じられたことで、
これ以上亮に出来ることは無かった。

「カードを1枚セット……ターンエンドだ。」

春菜が伏せたカードはブラフ(ハッタリ)で
今の状況で使えるカードでは無かった。


春菜&亮 LP 3100 手札4枚&2枚
場:「サイバー・ツイン・ドラゴン」
  「タイムカプセル」
  伏せカード2枚

志波&凛 LP 3000 手札3枚&5枚
場:「スキルドレイン」


だが、スキルドレインはフィールド全体に効果が及ぶ。
ならば向こうも思うように戦えないのではないか?

亮はそう考えたが、すぐにそれを撤回した。

まさか、連中の狙いは。

パワーボンドを奪われたこともそうだ。

亮の初めの予想は外れた。
志波と凛の狙いは、亮を徹底的に無力化させることだ。

まともなカードを持たない少女など、警戒するに値しない。

ならば、スキルドレインの影響をほとんど受けないカードが
志波と凛のデッキに大量投入されているはずだ。

「あ〜〜待ったわぁ〜。
あたしのターンよね。ドッロ〜〜!」

亮は凛を睨みつけた。

「凛。」

「あら、何?」

「貴様、タダで済むと思うなよ。」

「うふ、うふ。
あ〜〜は、
何言ってんのかわかんな〜〜〜〜〜〜〜い!!
可変機獣ガンナードラゴンを召喚!
レベル7、攻撃力2800のモンスターだけど、
生贄無しで召喚することも出来る。
その場合、攻撃力は半分になるけど、
この!
スッキ〜ルドッレイ〜ンで無効〜〜〜〜!!
だから減らない♪」

「攻撃力は互角、サイバー・ツイン・ドラゴンなら引き分けに持ち込める!」

「ば〜〜〜〜〜〜か!!
魔法カード、地砕きを発動!
サイバー・ツイン・ドラゴンを破壊!
どッッか〜〜〜〜〜〜〜ん!!!!!!」

サイバー・ツイン・ドラゴンが粉砕され、亮たちの場はがら空きになった。

「そこでぐったりしてる子、2800のダメージ食らったら
どんな声で鳴いてくれるのかしら?
むひひ♪」

「貴様……。」

「ガンナードラゴン!攻撃!!!」

「リバースカード発動!
重力解除!
フィールド上の全てのモンスターの表示形式を変更する!
可変機獣ガンナードラゴンは守備表示になる……。」

重力解除はもしものときのために、
春菜を守るためにサイドデッキから投入したカードだった。

可変機獣ガンナードラゴンの守備力は2000。
破壊できない数値では無い。

だが何よりも問題なのは……。

次は自分のターンではなく、春菜のターンという点だ。

今だ壁によりかかり、戦える状態ではない。

このまま戦闘の意志を見せずに三分が経過すれば
志波のターンに移る。
新たなモンスターも召喚されるだろう。
そうすれば、亮たちのライフは……。

「あらら、あら〜〜〜。
ま、いっか。次あの子のターンだもんね。
もう壊れちゃってんじゃないの?
念のためカードを1枚伏せておこ。
念のためよ、念のため。
は〜〜〜〜〜〜い、ターン、終了〜〜〜♪」


春菜&亮 LP 3100 手札4枚&2枚
場:「タイムカプセル」
  伏せカード1枚

志波&凛 LP 3000 手札3枚&4枚
場:「可変機獣ガンナードラゴン」
  「スキルドレイン」
  伏せカード1枚


「春菜!目を覚ませ!春菜ァ!!」

「……ぁ……ぅ……。」

観客席から微笑が漏れる。
あきらかにそのまま動かなくなるのを期待する意味が込められていた。

「生きろ!生きて戦え!勝利するんだ!春菜!」

「りょ……う……わ、た、……。」

「立てぇ!!!!」

一分。

二分。

残酷に時間は過ぎる。

「く……。」

「あ〜〜〜お仕舞いかぁ。
ちょっとつまんなかったなぁ。
で、も。
お楽しみは、これから♪」

志波がパチパチと拍手する。
狂気の笑みに満ちていた。

「タッグデュエルは終了だ!
俺が一人でお前たちの相手をしてやる!」

「あら、ダメよ。ルールは守らなきゃ。
ルールは、ね?
あははははははははは!!!!」

亮が拳を強く握り締める。

もはやこれまでか。

あきらめかけたその時だった。

春菜の手がよろよろと動き。

横たわったまま静かにカードをデッキから引き抜いた。

精一杯の動作でカードをデュエルディスクにセットする。

「春菜!」

「ま、ほ、……はつど……
わな、はず……」

フィールドに魔法カード罠外し≠ェ浮かび上がる。
名の通り、罠カードを破壊する効果を持っている。

スキルドレインが消滅した。

薄れ行く意識の中、春菜は亮の指南を思い出していた。


使える魔法があるなら、使え。


少女は忠実に言いつけを守り抜いた。

今の春菜にとって、亮とは世界の全てだった。

「何ですと!?
く、スキルドレインをそんなカードに!?」

「……こ……ぁ……。」

続いてモンスターカードが守備表示で現れる。

そこで再び春菜は力尽きた。

この時点で三分が経過し、ターン終了となる。


春菜&亮 LP 3100 手札4枚&2枚
場:「薄幸の美少女」
  「タイムカプセル」
  伏せカード1枚

志波&凛 LP 3000 手札3枚&4枚
場:「可変機獣ガンナードラゴン」
  伏せカード1枚


「ふむ、ふむふむふむ。侮りがたし、といったところですか。
しかししかし、残念残念。残念なことに
スキルドレインを破壊したところで、
可変機獣ガンナードラゴンの攻撃力は2800のままです。
サイバー・ツイン・ドラゴンを失った状況で逆転できますか?
私のターン!ドロー!
さぁ来なさい、神獣王バルバロスよ!」

神獣王バルバロスは、可変機獣ガンナードラゴンと同じく
レベル8という高レベルモンスターながら、
生贄無しで召喚できるモンスターだった。
攻撃力は3000だが、生贄無しで召喚することにより
1900の攻撃力となる。

「さらに手札から魔法カード、突然変異を発動!
フィールド上のモンスターを一体生贄に捧げ、同じレベルの
融合モンスターを特殊召喚しますよ!
神獣王バルバロスが生贄となり、
メテオ・ブラック・ドラゴンへと変異!!」

獅子のたてがみを持った神の下僕は咆哮を上げ、
その身を灼熱に包まれた巨大なるドラゴンへと姿を変える。

攻撃力は3500にも達し、もはや戦闘で破壊するのは困難を極める。

「さぁ!メテオ・ブラック・ドラゴンよ!
そのか弱いモンスターを消し飛ばしてしまいなさい!」

巨大な炎の塊を産み出したメテオ・ブラック・ドラゴンは
薄幸の美少女にそのエネルギーを放つ。

「ぐ!?」

亮は反射的に倒れ付す春菜の前に立ちふさがり、
戦闘破壊によって巻き起こる衝撃から守った。

亮の眼前で……小さな少女が跡形も無く、消えた。

「きゃ〜〜〜〜〜〜〜♪
す、て、き〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜♪」

「まったくまったく、運がいいですね、貴方。
薄幸の美少女は破壊されたとき、バトルフェイズを終了させる効果を
持っていましたね。
スキルドレインがあれば無効にできたのですが……。
仕方ありません。仕方ありません。
カードを1枚セット。
これでターンを終了しますよ。」


春菜&亮 LP 3100 手札4枚&2枚
場:「タイムカプセル」
  伏せカード1枚

志波&凛 LP 3000 手札2枚&3枚
場:「可変機獣ガンナードラゴン」「メテオ・ブラック・ドラゴン」
  伏せカード1枚


亮のターン。

薄幸の美少女の効果が無ければ、やられていた。
九死に一生を得たが、所詮は一時しのぎに過ぎない。

絶望的な状況は変わらなかった。

敗北すれば……。

死……。

今まで自分が葬ってきたデュエリストのように。

むごたらしく、惨めに、死ぬ。

彼らのライフが尽きた瞬間の、絶望した顔。

この世の全てを呪う顔。

今の自分はそんな顔をしているのだろうか?


こんな少女など見捨ててしまえばよかった。


だが少女の頼りない顔が、おどおどした態度が、
寝顔が、鳥の雛のように自分の後ろをついてくる姿が。

捨てたはずの過去、弟と重なる。




五話「限界起動」

今一度、亮はあのカードの召喚に賭けた。
自分が地下デュエルで戦い抜くきっかけを作ったあのカードに。

「俺のターン!
二回目のスタンバイフェイズだ!
タイムカプセルから、除外されたカードを手札に加える。」

「さっきとは随分状況が違いますが、さてさて、
どんなどんな、どんなカードを手札に加えられたんでしょうねぇ?」

「はん……アレよ、アレ。
犬飼クンとのデュエルで使ってたアレでしょ?どうせ。」

「なるほど、なるほど。アレですか。
ん〜〜ふふっふふききききき!」

志波と凛の予想は的中していた。

「……ならば見せてやる……。
カードを1枚セット!そして手札抹殺を発動!
互いのプレイヤーは自分の手札を全て捨て、
捨てた枚数と同じ分だけカードをドローする!」

「む……手札入れ替えのカードですか。」

この場合、手札を入れ替えるのは自分と、
直前のターンの相手プレイヤーのみ。
つまり亮と志波の手札のみが捨てられ、新たにカードを引く。

「サイバー・ドラゴンを手札から特殊召喚!
そして今俺が伏せたカード、オーバーロード・フュージョンを発動する!
フィールド上のサイバー・ドラゴン、そして
墓地に存在する4枚の機械族モンスターを融合させ、全てゲームから除外!」

サイバー・ドラゴンと様々な機械が接合され、
五つの頭を持った巨大な機械の塊が場に呼び出された。

「キメラテック・オーバー・ドラゴン、融合召喚!
このカードの融合召喚に成功したとき、自分の場の
このカード以外のカードを墓地へと送る。」

春菜が伏せていた罠カード、ガラスの鎧が墓地に送られた。
装備カードの効果を無効にする罠だが、
現状では何の意味も持たないため躊躇せずに墓地へと送る。

「そしてキメラテック・オーバー・ドラゴンの攻撃力は、
融合素材にしたモンスターの数×800ポイント!
攻撃力は4000だ!」

「ほぉぉ、ほぉほぉほぉ、素晴らしいモンスターですね。
まさかメテオ・ブラック・ドラゴンを上回るとは……。」

「行くぞ!!
メテオ・ブラック・ドラゴンに攻撃!
エヴォリューション・レザルト・バースト!」

キメラテック・オーバー・ドラゴンの閃光が
志波と凛の場を薙ぎ払い、メテオ・ブラック・ドラゴンを粉砕した。


志波&凛 LP 2500


「ぐおおぁぁぁ!!」

「ぎゃううぅぅ!!」

「まだ攻撃は続く!
キメラテック・オーバー・ドラゴンは、
融合素材にした数だけモンスターに攻撃が可能!
エヴォリューション・レザルト・バースト!
二連打ァァ!!」

続いて可変機獣ガンナードラゴンが粉々になった。
さらに大きなダメージが志波と凛を襲う。


志波&凛 LP 1300


「がああああああ!!
は、ははは!、許しません、許しません、
許せませんねぇ、これは!」

「あはははははは!!はははは!!
いてぇ!!はは!
亮!貴方の求めたサイバー流の究極の姿がこれなのかしら?
醜い!醜いわねぇ!」

キメラテック・オーバー・ドラゴンの攻撃はそこで止まった。
連続攻撃が出来るのはモンスターのみ。
プレイヤーへの攻撃はこの状態では出来なかった。

「なんとでも言え。
キメラテック・オーバー・ドラゴンは
俺の勝利への欲望が形になった姿だ……。
そしてこのデュエルでもそれは変わらん!
カードを1枚セット。
ターン終了だ!」


春菜&亮 LP 3100 手札4枚&0枚
場:「キメラテック・オーバー・ドラゴン」
  伏せカード1枚

志波&凛 LP 1300 手札2枚&3枚
場:伏せカード2枚


ここで春菜が立ち上がった。

「りょ……う……私も……勝ちたい……。
勝って兄ちゃんに会う!
死に……たくない……。」

亮はここで兄の存在を始めて聞かされた。
おそらく、拉致された際に引き剥がされたのだろう。

少女の戦う理由は、借金を消すだけでは無く、
兄を探す目的もあった。

「小娘が……
は、はは!そうか、そうだったのねぇ?
あんた亮のこと好きなんだ?」

「え?」

「貴様、こんなときに何を……。」

「亮!あたしも好きだったよ!あんたのこと!
なのにあたしなんか見向きもしねぇ!
ひたすらひたすらひったすらデュエルばっか!
ああムカつくムカつくムカつく!!」

「何の話をしている!」

「小娘ぇ!この欲望の塊をブっ壊したら
あんたの希望も完全に消えるわ!!
あたしのターン!ドロー!」

亮は凛が……いや、志波と凛の様子が尋常では無いことに気付く。
亮よりも遥かに長く地下デュエルで戦い続けた影響が滲み出ているのだ。
衝撃増幅装置のダメージを何度肉体に受けただろうか?
だが体に欠損は無い。

ならば壊れるのは。

「……心、か……。」

「リバースカード、リビングデッドの呼び声発動!
神獣王バルバロス復活!
攻撃力は元々の攻撃力……3000よ!!」

再びフィールドに現れた神獣王バルバロスが
春菜を威嚇するように咆哮した。

「ひ……。」

「春菜!キメラテック・オーバー・ドラゴンを信頼しろ!
奴の攻撃力では破壊できない!」

「う、うん……!」

「神獣王バルバロス!攻撃だ!」

猛然とキメラテック・オーバー・ドラゴンに向かって飛翔し、
手にした槍を突き立てる。

「なんだと!?自滅……いや……!」

「志波ァ!あんたが伏せたカードを使うぞぉ!」

「どうぞどうぞ、どうぞどうぞどうぞどうぞ。ききき!!」

「ダメージステップで手札を1枚捨て、ライジング・エナジーを発動!
攻撃力は1500上昇し、4500となる!」

突き立てた槍をさらに深く刺し、
そのままキメラテック・オーバー・ドラゴンを貫いた。

「く、馬鹿な……ぬうううう!!!」


春菜&亮 LP 2600


さらに春菜にもダメージは襲う。

「うあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
はぁぁ……はぁぁ……い、いた、……。いた、い……。」

「あはあはははは!!
これで亮!あんたの切り札はもう使い切ったんじゃないかしら?
これ、使えば勝てたかもしれないわね!ひはひはひはひはひ!」

そう言って手札のパワーボンドを見せてきた。
紛れも無く、凛が奪い取った亮のカードだった。

「く……。」

「これでターンエンド!最ッ高の気分だわ……
さぁ〜〜〜〜春菜ちゃん、あなたのターンよぉ?」


春菜&亮 LP 2600 手札4枚&0枚
場:伏せカード1枚

志波&凛 LP 1300 手札3枚&3枚
場:「神獣王バルバロス」


「はぁ……はぁ……私の、ターン……。」

他人が受けたダメージだからか、気絶するには至らなかった。
だが、手足の痺れが凄まじく、がたがたと震える手つきで
おそるおそるカードを引き抜く。

「亮……。」

春菜は真っ直ぐ亮を見た。
そして、一言だけ。

「今度は私が助ける。」

「何?」

「ドリアードを守備表示で召喚……。」

ドリアードは攻撃力1200、守備力1400の能力が低いモンスター。
効果も持たないが、しっかりと春菜を守るように立ち塞がる。

「そして、エクスチェンジを発動!」

「な……な……なん……ですって……?」

「……あなたの手札と私の手札を1枚づつ、効果します……。」

「あ……あ……ああ……。」

亮が驚きを顔に出す。
確かに、春菜のデッキに1枚だけエクスチェンジが入っていた。
おそらくは戯れに投入されていたのであろうそのカードが、
絶対なる不正をひっくり返した。

「パワー、ボンド、いただけますか?」

「このガキ……こんな、ガキに……。」

凛はパワーボンドのカードを投げつけ、
春菜の手札から乱暴にモンスターカードを1枚奪い取った。
海原の女戦士。
それはやはり何の効果も持たない、単なる通常モンスターだった。

「カードを1枚セット!ターン終了!」


春菜&亮 LP 2600 手札2枚&0枚
場:「ドリアード」
  伏せカード2枚

志波&凛 LP 1300 手札3枚&3枚
場:「神獣王バルバロス」


志波のターンとなる。

「驚き……ですねぇ。
今伏せたそのカードは、パワーボンドでしょう。
パートナーに譲り渡す戦術ですね。
しかし、しかし。しかし、しかし。
冷静に考えてみてはいかがですか?
いくらパワーボンドを手にしたとしても、それは融合用のカード。
素材など無いではありませんか?」

志波の言うとおりだった。
ましてや亮の手札はゼロ。
ここから何かを融合するのは絶望的だった。

「それ!2枚目の神獣王バルバロスを召喚しますよ!
そして……くっくっく、きききききき!
突然変異でこのバルバロスをメテオ・ブラック・ドラゴンへ!
バトルフェイズに入りますよ!」

攻撃力3500と3000のモンスターが並び、
春菜と亮のフィールドを圧倒する。

「春菜!」

このタイミングで、亮は春菜へ指示を飛ばした。
亮が教えた、メインフェイズ終了直前のタイミングでの発動である。

「う、うん!えっとぉ……メインフェイズに巻き戻してリバースカード発動!
サイバー・シャドー・ガードナー!」

フィールドに黒い影が出現し、そのままメテオ・ブラック・ドラゴンの姿になった。
亮が直前のターンに伏せた永続罠であった。

「俺が伏せたサイバー・シャドー・ガードナーは、
相手ターンのメインフェイズでしか発動できない。
その効果は、相手フィールド上に存在するモンスターと
同じ攻撃力となる壁モンスターを産み出す……。
そして破壊されなければ再びセットされ、何度でも壁モンスターとなる。
貴様の場のメテオ・ブラック・ドラゴンをコピーしてやったぞ!」

「おのれ、このメテオ・ブラック・ドラゴンを侮蔑しますか……。
まず神獣王バルバロスでドリアードを攻撃です!」

ドリアードが槍に貫かれ、砕ける。
だがその使命は果たした。
春菜へのダメージは無い。

「続いて、続いてぇ、メテオ・ブラック・ドラゴンで
サイバー・シャドー・ガードナーを攻撃しますよ!!」

炎の塊と影の壁がぶつかり合い、双方消滅した。
しかしこれで亮たちの場は完全にがら空きとなる。

春菜が伏せた1枚のカード、パワーボンドを除いて。

「ま、いいでしょう……我々の勝利には
変わりありません。変わりありません。
カードを1枚セット!
ターンエンド。ききききき!」

「さぁ、亮〜〜。
最後のターンよ!カードを引きなさぁい!
小娘が奪い取ったパワーボンドは、
す〜ぐにあたしのものにして上げるわ……。」


春菜&亮 LP 2600 手札2枚&0枚
場:伏せカード1枚

志波&凛 LP 1300 手札1枚&3枚
場:「神獣王バルバロス」
  伏せカード1枚


亮のターンに移る。

凛。

この女だけは、許せなかった。

同時に哀れみを感じた。

「俺のターン……。
ドロー!」

恐れずに亮はカードを引き抜いた。
そして。

「凛……。」

「あ?」

「貴様もあのまま師範の下にいれば、
おそらく俺より強くなっていただろう。」

「何言ってるの?とっくにあたしは強いわ。あんたより!」

「そうかな?」

亮は笑みを浮かべる。
口元を吊り上げ、紳士さと邪悪さが入り混じる笑みだった。

「……な、なによ!?」

「手札から魔法発動……次元融合!
2000ポイントのライフを払い、ゲームから除外されたモンスターを
可能な限り、フィールド上に特殊召喚する!」

「……え……?」

「そ、そんな、そんなそんな馬鹿なことが!」


春菜&亮 LP 600


「ぐ……ぬあああ……!!
春菜、これで苦痛は終わりだ!耐えろ!」

「う……あ!うん!う……いぃぃ!!」

フィールドに一気に機械族モンスターが出揃う。

亮が除外したモンスター5体。

サイバー・ドラゴン。

サイバー・ドラゴン。

サイバー・ドラゴン。

人造人間サイコショッカー。

サイバー・ツイン・ドラゴン。

オーバーロード・フュージョンで除外された機械族モンスターだった。

「わぁ……!」

激痛で膝をついていた春菜がそれを見上げ、感嘆の声を上げる。
そして観客席も騒然となり、いつか聞いたような怒号も飛び交う。

「さて、凛。それと志波とやら。
もう説明せずとも理解したな?」

「う……あ……あ……。」

「リバースカード発動、
パワー・ボンド!
サイバー・ドラゴン3体を融合させる!
いでよ!!
サイバー・エンド・ドラゴン!!」

美しい銀色の光を放つ、サイバー流究極奥義。
パワーボンドによるサイバー・エンド・ドラゴン召喚。

春菜には、翼を広げたそのモンスターが
一瞬天使に見えた。

「パワーボンドの効果でサイバー・エンド・ドラゴンの攻撃力は
2倍となり、攻撃力は8000となる。」

「し、志波?志波?志波ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
リバースカードでなんとかできるんだろぉぉなぁぁぁ!?」

志波は頭を抱えて膝をついた。
彼が伏せたカードは炸裂装甲。
攻撃宣言したモンスターを破壊するカードだ。

しかし、亮はそのカードの発動を許さなかった。

「志波、てめ……ぐ……!?
さ、サイコショッカー……!?」

人造人間サイコショッカーは罠カードの発動を封じる。

そして、場に降臨した攻撃力8000のサイバー・エンド。

3体が並んだ今、相手に出来ることなど何も無かった。

「攻撃だ!
エターナル・エヴォリューション・バーストォ!!」


志波&凛 LP 0


巨大な光が神獣王バルバロス、そして志波と凛を包んだ。

「春菜、見るな!目を閉じてろ!」

「え……。」


同時に。破裂音。


二つの鮮血の柱が立ち上り、亮と春菜の体を赤く染め上げた。


「う……春菜……。」

「あ……あ……ぁ……。」

自分が手を下したのでは無いとは言え、春菜は見てしまった。

人が死ぬところを。

血が弾け飛ぶところを。

頬にべっとりとしたものが付着している。

手に取ってみる。

赤い、何か。


「あああぁぁ……こ、これぇ……
あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……。」

「春……。」



「ああああああああああああああああああ!!!!!!」



リングの脇で見ていた猿山が慌てて入り口を開けて、亮たちを外へと出した。

「まさか、本当に勝てるなんて思いませんでしたよ……。」

「黙れ。」

「その子、どうする気ですか?」

「黙れ。」

「お待ちなさい、亮!」

「……後で連絡しろ。
もう誰の顔も見る気がしない。」

半ば放心状態となっている春菜を抱えて、
亮は凄惨なるリングを後にした。

地下デュエルの敗者は死ぬだけ……。

タッグデュエルだろうと、どんなルールであろうと、
それに変わりは無い。
同時に勝者である少女の心にも、邪悪な染みを残した。




六話 「狂人狂殺」

タッグデュエル終了から数日後。
あのデュエルは開催者の意図した結果に終わらなかったが、
数名の要人たちがそのデュエルに着目し、
亮は段々とデュエルを多く組まれるようになり、
さらにその知名度を伸ばして行った。

春菜はまだ亮の個室にいる。

あれから落ち着きを取り戻し、明るく振舞うようになったが、
無理をしているのが見え見えだった。

亮は春菜に、外に出たければ勝手にしろ、とだけ言って
地下デュエルに臨むが、帰って来ても春菜はまだそこに居た。
そんな生活が何日か続いた。

春菜の借金が今どうなっているのか、二人は知らない。
猿山から何か連絡があるはずだが、今だその件に関することは聞いていない。

そして他にも理由があった。

春菜は自分と同じように、
兄が地下デュエルに連れて来られてるのでないか、と考えている。

ある日、亮が部屋に帰るなり、胸をかきむしりながら苦しみだした。

「はぁ……はぁ……。」

「亮?どうしたの、亮!?び、病気なの?」

「……なんでも無い……少し疲れただけだ……。」

それは予兆だった。

度重なる地下デュエルの影響。

衝撃増幅装置による体に与えるダメージは深刻なもので
確実に亮の体を蝕んで行く。

凜のことを思い出す。
彼女は心が壊れた。

過酷なデュエルにその精神は耐え切れなかった。
だから強さを手に入れていた。

そして、死んだ。

殺したのは自分だ。

自分も同じ運命を辿るだろう。
この心臓の痛みがその証だった。
やがて苦痛は去って行ったが、おそらく再び襲って来るだろう。

いずれ来る、その瞬間に向けて、亮は覚悟を決めた。

ふと顔を上げると、少女の心配そうな顔が眼に写る。
そこで不意に携帯電話が鳴り響いた。

「なん……だ……」

「ん……私です、猿山ですが……
亮、苦しそうですよ。どうかしたんですか?」

「疲れてるだけ……だ。
それより何の用だ。デュエルの日程ならさっき聞いたぞ。」

「あぁ、それならいいのですが……。
例の娘、まだそこに居ますか?」

「春菜か、ああ。」

「その娘に地下デュエルの依頼です。」

春菜の顔が強張った。まさか、また。

「何だと……春菜の借金はどうなってるんだ?」

「確かにあのデュエルで多くの返済は出来たみたいですね。
しかしまだまだ残されているそうです。
そこで、です。
あのタッグデュエルで、ある出資者が春菜に目を着けましてね。
彼らが開催する複数のデモンストレーション・デュエルに出場してくれれば、
全て返済してくれることを約束するそうなのですが、いかがですか?」

「ふざけるのも対外にしろ、貴様。
また"やられ役"を演じさせるのか?」

「あ〜いえいえ、誤解なさらないで下さい。
春菜の相手は、かつての彼女のように
売られて行き場所のない哀れな子羊たちですよ。」

つまり、借金を持った子供同士でデュエルをさせるという、
自分らがやった時以上に悪趣味なものだった。

「もう春菜をそんな目に合わせる必要はあるまい。」

「しかし……断ることは多分出来ませんよ。彼女の借金がどうなるか……。」

「私、やる……。」

春菜がうつむきながら答えた。

「何……?」

「連れてこられた人って、もしかして兄ちゃんも居るかもしれない。
だからやる。」

「馬鹿を言うな。
お前、人殺しになりたいのか?
あのタッグデュエルで何を学んだ?」

「え……。」

「地下デュエルで勝つというのはそういうことだ。
例え兄に会ったとしても、自分の兄を殺す、もしくは殺される結果になる。
それでもお前はいいのか?」

「わ、私……私……。」

「猿山、この話は無しだ。
こいつの借金はいくら残っている?
俺が全て出す。それで全て終わりだ。
こんな悪趣味な芝居はもう懲り懲りだ。」

「あ……。り、亮……、そんな……こと……。」

「ふぅむ、貴方いつからそんなに優しくなりました?
第一……地下デュエルの要人たちがそれを許すと思いませんが。」

正直な話、地下の要人たちは金など山のように積んである。
少女が背負ってる借金は一部返済が完了しているし、
全体から見れば些細なものであった。

しかし、彼らは見たがっている。
地下デュエルという陰惨なショーを。

金などどうでも良かった。

生を賭けて戦うその姿、それだけが見たい。

「……亮、出場の手配、しておきますからね。
勝てればいいのですから……。
それがその娘のためでしょう。」

亮は無言で携帯電話を握っていたが、
やがて向こうの通信が途切れると、黙って電源を切った。
そして再び苦しそうに胸を押さえると、ソファーに倒れこみ、
しばらくすると静かに寝息を立てた。

その間、春菜は何も言えなかった。


・・・


春菜には夢がある。

それはテレビで歌って踊っているような可憐なアイドルになること。

子供の夢と言ってしまえばそれまでだが
いつかきっと、と信じて疑わなかった。

そもそも春菜がデュエル・モンスターズを始めた理由は、
とあるミュージカル・ダンサーが、このカードゲームのキャラクターに扮しており、
それがとても綺麗だと感じたからだ。

春菜は幼い体ながら大量の負けん気に漲っていて
歌を歌うための発声練習や、見よう見まねながらもダンスを踊ったり、
とにかく努力だけは怠らない。

運動神経はあまり良くないので、すぐに転んだりするが
それで泣いたことなど無い。

亮の厳しい特訓について行けたのも、この生来の根性があるためだった。

あのデュエルが終わったからというもの、
亮が帰ってきた後は恥ずかしいのでやらないが――
一人でホテルの部屋で、同じようにダンスの練習をしていた。


体の痛み、心の痛みを忘れるために。


もうすぐ終わる、この訳のわからないまま連れて来られた地獄が。

兄はどこで何をしてるだろうか。

まだ生きていたらまた歌を聞いて欲しい。ダンスを見て欲しい。

そのためには……。

そのためには……。


……。


今度は自分と同じ境遇の子供を殺さなければならない。


・・・


日が流れ、春菜が地下デュエルで戦う日になった。

亮の体調はあれから発作は無いが、またいつ激痛が襲って来るかはわからない。
それでも彼は戦い続けた。

自分の存在意義を賭けて。

地下デュエルをこなし、ホテルに戻ったときのことだった。

「春菜、戻っているのか……。
春菜?」

春菜は部屋の隅で震えていた。
デッキを放り出し、頭を抱えて心の底から怯えていた。

「春菜……デュエルはどうした?
行かなかったのか?」

亮が疑問を口にすると、春菜が恐怖の形相で振り返った。
視点が定まっておらず、歯も噛みあわずガチガチと音を立てている。

あのタッグデュエル終了時の比では無いほど、震えていた。

「……どうした?
何があった?」

「わ、わた……わたし、わた……。」

「落ち着け……。
デュエルは?」

「でゅ、でゅ、デュエルは……でた、出た……。
出た……け、ど……。」

「それで?勝てたのか?」

「勝てた、勝てた……
う、うあァァァぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

絶叫し、タオルを頭から被って泣き叫び始めた。
亮にはわかっていた。

春菜が勝利すれば、こうなることが。

それでも自分に出来ることなど何も無い。

春菜は……。

春菜は。

自分と同じくらいの年齢の女の子を。



殺した。



春菜の脳裏に、相手にトドメを刺す瞬間が。
電撃が走り、泣き叫びながら、わけもわからぬまま死んでいく瞬間が。

何度も何度もフラッシュバックする。

心が凍えたまま数日が立ち、またすぐに次のデュエルが始まる。
そのデュエルは、自分よりさらに小さな女の子だった。

ライフを削らないようにモンスターを並べて、
せめて楽に……と思い、一斉に攻撃を下して勝利した。


その攻撃を受けた少女の凄惨な様子は、その場で吐くほどだった。


まだ春菜は戦う。


今度は波動キャノンという、ターンを重ねれば重ねるほど
大きなダメージを与えるカードを使って勝利した。
一気にダメージを与えれば、それだけ楽に……と思った。
4000ポイントのダメージを溜め、放つ。


この攻撃を受けた少年は獣のような叫び声を上げ、
衝撃増幅装置の電撃はもとより、
凄まじい過剰振動で装着していた箇所――
首、腕、足の皮膚が裂け、骨が砕け折れ、しばらくしてから絶命した。


あと少しで解放される、地獄から。

その一心で、精一杯頑張って戦い続けた。

春菜は気付かない。


戦えば戦うほど、本当の地獄に近づいていることに。


亮は黙って見ているしか無かった。
自分にデュエルを止めさせる権利など無いのだから。

春菜をこの地獄に連れて来たのは、
他でも無い自分自身だ。


あの時、楽に死なせていれば、こんな地獄を味わずに済んでいた。


加速度的に春菜がやつれて行くのが見て取れた。

それどころか、これまでのデュエルを忘れようとするが如く、
壁や柱に何度も頭を叩きつけて血だらけになる。

そのたびに亮は無理やりベッドに春菜の体を押し付けて、
効果があるのかもわからない、
何のラベルも貼られてない精神安定剤を飲ませる。

ふと、亮の脳裏に昔デュエルの師事をしたことのある、
少女のことが思い浮かぶ。
亮さま、亮さまと後ろを着いて来て、いつでも笑顔だった。

平和で幸せな顔をしていた。


春菜は?


春菜は幸せになれるのか?


落ち着きを取り戻した春菜が亮の指を握り締める。

「りょ……う……。」

「もう、……寝ろ。」

「りょ、う……私、ね。
私、アイドルになりたかったの……。
歌もね、踊りもね、いっぱい……練習したの。」

「なればいい。」

「……ひと……ごろし……のアイドル……なんか……
誰も、見てくれない、よ……。」

「……償えばいい。」

「ああ……兄ちゃ……ん……
兄ちゃんに、もう一度……会いたい……。」

力尽きたのか、そこまで言ったところで春菜は静かな寝息を立てた。

亮は、春菜の皮膚が破れ落ちたおでこに、
少し大きめの絆創膏を貼り、自分も横になった。

自分は救世主になるつもりは無い。

だがしかし。

せめて春菜だけは、この地獄から抜けて欲しいとだけ思った。



例え、不可能でも。



暗転の部屋の中、ふと、亮は何か心に引っかかるものを感じた。


春菜の両親は借金で自殺。

兄は引き離され、行方不明。

次々と春菜に課せられる、過酷なるデュエル。


何かが……引っかかる。

誰かが……この構図を意図して作り上げたような……。

しかし、考えてもその答えは出なかった。




七話「悲哀決意」

また今日も春菜はデュエルに勝利した。

次のデュエルが、彼女に課せられた最後のデュエルだった。

今にもバラバラになりそうな体を支えながら、
もう春菜は自分が何をしているのか
自分がどこにいるのかすらあやふやになっていた。


・・・


――わ。

――た。

――し。


私、何やってるの?

どうしてこんなことをしているの?

なんで?

助けて。

助けて。

助けて。

助けて。

助けて。

助けて。

助けて。

助けてよ、亮。

亮!!

どうして黙ってるの?

なんで強く掴むの?

意味わかんない!!

苦いお薬、もう飲みたくない!!

もうデュエルしたくない。

もう殺したくない!!

泣かないで、泣かないで。

我慢して、叫ばないで。

痛くしないから、痛くしたくないから。

じっとしてて、お願い。

苦しめたくない。

苦しくなりたくない。

それから、それから。

遊ばせて!

遊びたい!

踊りたい!歌いたい!

兄ちゃん。

ああ!兄ちゃん!

会いたいよ。

会いたい。

会いたい!

会いたいよ!!


・・・


「それで、あの子の様子はどうなんです?
次でようやく終わるわけですが。」

「……。」

「あの、亮?」

「……。」

「話したくない……ですか。
ま、いいでしょう。
凄く、残念なお知らせがあるんですけど……。」

「……?」

「次の春菜の対戦相手、あなたですよ。」

「……!」

「どうす」

無意識の内に携帯電話の電源を切っていた。

予測は出来ていた。

だが気付かないフリをしていた。

結局はそうなのだ。

なにがどうあろうと、あの醜い老人どもは
春菜が死ぬところを見たがっている

そして、その最後の役割を自分に委ねることを……。

春菜のデッキは以前より強化されているとは言え、
亮のデッキとプレイングの前では遥かに及ばない。

誰がどう見ても亮の圧勝だ。

今の有様の春菜を見ていると、衝動的に首を絞めたくなる衝動に駆られる。

楽にしてやりたい。

デュエルなら……。

春菜を見る。


今は大人しくなっていて、疲弊しきった顔で安らかに眠っている。
生傷はさらに増えており、所々に痣ができ、血が滲んでいた。

最近、また心臓が激しく痛み始めて来た。
今日行ったデュエルでは、攻撃を受けた衝撃で
危うく失神しかけるほどの痛みを味わった。

それを皮切りに、ひどく心臓が引きつる。

もう限界かもしれない。
ならば……。


・・・


当日、大量の精神安定剤を口にした無言の春菜と
春菜は共に地下デュエルの控え室に向かった。

開場の5分前となり、ようやく春菜が口を開いた。

「あの……ね……。」

「……ん。」

「ごめんなさい。」

「……。」

「私、今まで……。」

「これで、終わりだ。」

「……うん……。」

「……。」

「……。」

二人で壁に寄りかかりながら、猿山から開場の連絡を待ちながら
静かに、最後になるであろう会話を交わした。

「あまり、痛いのは嫌……。
でも亮、あのとき……。」

「……。」

「あのときは亮が攻撃しなかったけど、いいよ。
攻撃して欲しい……。」

「兄は?」

「え?」

「お前は兄を探していたんじゃないのか?」

「……亮に、お願いしていいかな。
秋彦兄ちゃんって言うんだけど……。」

「……俺が?」

「うん……ダメ、かな。」

「自分で探せばいい。」

「でも、それは……。」

「……。」

猿山が時間を告げた。
これを境に、亮と春菜は再び……。

殺し合いをする。


・・・


大勢の拍手とまぶしいライトに迎えられて
亮と春菜は対峙した。

互いのデッキをシャッフルする際、
亮と春菜の腕がぶつかりあって、春菜はデッキを床に落とした。

「あッ!
ご、ごめんなさい、亮……。」

亮がすぐにしゃがみこみ、カードを集め、

――――――、―――。

春菜に渡した。

「ありがとう。」

デッキを手にしたとき何か違和感を感じたが、
気のせいだと思いこみ、軽く2、3回デッキを切ってから
デュエルディスクにセットした。


アナウンスが流れる。
先行はやはり、春菜からデュエルが始まる。

「……行くぞ、春菜。」

「……うん!」


デュエル!


春菜 LP 4000

丸藤亮 LP 4000


「私のターン、ドロー……。
あ……あ……れ?」

春菜が自分の手札を見てしばらく硬直した。

どうして?

なんで、こんな手札?

そのまま放心状態だった春菜は、周囲のざわつく声で
正気に戻った。

「りょ、亮……。」

「春菜、お前の思うがままにデュエルしろ。
これで終わりだ。」

「これ、これ……これって!」

「……。」

春菜は手札からモンスターカードを召喚した。
そのモンスターは春菜が持っていたカードでは無かった。

「プロト・サイバー・ドラゴンを……守備表示で召喚。」

プロト・サイバー・ドラゴンは、
攻撃力1100、守備力600のモンスター。
フィールドに存在するときカード名が『サイバー・ドラゴン』となり、
融合などに利用しやすくなるカードだ。

だが、問題はそんなことでは無い。

それは春菜が所持していたカードでは無かった。
言うまでもなく、亮のカードである。
春菜がそのカードを召喚したことで、会場は騒然となる。

彼女の手札は亮のカードで埋め尽くされていた。

亮と春菜がデッキのシャッフルをしたとき、
亮はわざと春菜に腕をぶつけた。

そして落としたデッキのカードを拾い集め、
渡す際にデッキそのものを自分のデッキとすり替え≠ト
春菜に渡したのである。
以前、凛とデュエルをした際にやられたすり替え。
それをデッキごと、亮はやった。

無論、亮のデッキは春菜のデッキ……ということになる。

「なんで、亮、なんで、なんで……。」

「……。」

「ターン、エンド……。」


春菜 LP 4000 手札5枚
場:「プロト・サイバー・ドラゴン」

丸藤亮 LP 4000 手札5枚
場:無し


亮のターンになる。
当然、手札のモンスターはなんの効果も持たない通常モンスターばかり。
魔法カード、罠カードもいくらか改良されているとは言え、
亮のデッキ相手にはまるで歯が立たない。

「俺のターン、ドロー。
春菜、それでターンを終了するとは、貴様舐めているのか?
ホーリードールを召喚。
プロト・サイバー・ドラゴンを攻撃だ!」

ホーリードールの杖から放たれた光が、
プロト・サイバー・ドラゴンを打ち砕く。

「カードを2枚伏せて、ターンを終了する。」


春菜 LP 4000 手札5枚
場:無し

丸藤亮 LP 4000 手札3枚
場:「ホーリードール」
  伏せカード2枚


「あ、あぁぁ……亮、なんで、どうして……。」

「……お前がそうであるように、俺の体もすでに限界に来ている。
だから俺は最後にデュエルで死ぬ。お前は生きろ。」

「りょ……う……。」

「兄に会うがいい。そして今まで戦って来た者へ……。
リスペクト……。
最高の敬意を払って償え。」

春菜のターン。

静かにカードを引く。

「春菜……お前はもう、ただの小さな子供じゃない。
これから……罪を償いながら、生きて行くんだ。
くっ……!!」

亮が胸を押さえ、苦しみで顔を歪める。
再び発作が起こり、それは今までの比では無く
立っていられないほどの激痛で膝をついた。

「俺は、もう死ぬ身だ……。
だから……俺のことは何も……気にするな。
……春、菜。」

「あぁ、あぁぁぁぁぁ……。」

春菜が手札から魔法カード、大嵐を発動した。
自分自身の意思を無視して、完全に体に染み付いてしまった
勝利への手段。
大嵐はフィールドの魔法・罠カードを全て破壊するカードで、
亮がセットしたガラスの鎧、援軍を破壊した。

だが亮はこのタイミングで援軍を発動させ、
ホーリードールの攻撃力を500ポイント上昇させ、
2100に変化させた。

「これで……サイバー、ドラ、ゴンでは相打ちになるだけだ。
さぁ、どうす……る……?」

「う、う、ううううううううううあああ…………
うあああああああああああああ!!!!!」

春菜が絶叫しながら魔法カード、パワーボンドを発動させた。

手札のサイバー・ドラゴン3枚が融合され、
泣き叫ぶ少女を背にサイバー・エンド・ドラゴンが
光輝きながら融合召喚される。

パワーボンドの効果で、攻撃力は8000。

「そうだ……それでいい……。」

「りょおおおお……りょおお〜〜うぅぅぅ……!
あああああああああ〜〜〜〜〜〜〜〜ん!!!!」

サイバー・エンド・ドラゴンから放たれる銀色の光は、
春菜の体を美しく染める。
わんわんとひとしきり泣いた後、春菜は涙をぬぐって
亮を真っ直ぐに見つめた。

亮もその瞳を見る。

かつて汚らしく、濁っていた春菜の瞳は
まるで宝石のように光り輝いていた。

「亮……。」

「……やれ……。」


春菜がスッ……と目を閉じ、
デュエル・ディスクに触っていた手を離し、下ろした。
そして、二コリと笑って

「……今まで……
ありがとう。
ごめんなさい。
ありがとう。」

「な……に?」

「ターンエンド。」

「馬鹿……な!?」

パワーボンドのダメージ効果……4000のダメージが
春菜の体に襲い掛かる。

装着していた衝撃増幅装置が激しい音を立てた。
電撃が皮膚を焼き、衝撃が肉を裂く。

亮は春菜の悲鳴が耳に入っていなかった。

気付いたときには春菜に向かって駆け出しており、
ぐったりとした春菜を抱えた。

「何故、こんな馬鹿なこと……!
猿山ぁぁぁぁぁ!!何をしてる!!
デュエルは終わっている!!
開けろ!!
開けろぉぉぉ!!」

誰もが自失呆然とする中、亮が叫んだ。
この世界で動いているのは自分だけ、とでも思ってしまうような、
静寂した空間。

そして。


「こ こ を 開 け ろ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ! ! ! !」


亮の絶叫が虚しく響く。




八話 「異常愛情」

ホテルの一室。
無気力に、ただ無気力に亮は座り込んでいた。
何も変わらないはず。

ただ、あの少女が来る前に戻っただけのこと。

なのに、何故虚しい。

断続的に心臓が痛み、その間隔も短くなって来た。
このまま、終わらせるのもいい、とも考える。

また電話が鳴った。
これで5回目だ。

今まで無視していたが、いい加減に鬱陶しかったので亮はコールに出た。

「……。」

「やっと出てくれましたか。」

「失せろ……。」

「貴方に直接会いたいという人がいるそうです。」

「帰れと伝えろ。」

「春菜の兄、と自分で言ってますが。」

「……俺と会って何になる。」

「明日、地下施設の第五ゲートまで来て欲しいそうです。
どこで貴方の情報を得たのか知りませんけどね。」

「……。」

春菜は地下デュエルの息がかかった闇病院ではなく、
ちゃんとした正規の大病院に運ばれた。

それ以上のことは亮は知らない。
死んだのか、生きているのか。
亮にそれを確かめる気力は無かった。

だがあの有様では死んだと言っていい。

春菜の兄と言う人物……実際に兄だとしても、
どんな顔をして会えばいいのかわからない。
春菜は確か、兄にデュエルの基礎を教わったはず。
ならばデュエリストに違いは無いだろう。
亮は兄と出会ったら、この地獄の旅を終わらせてもらおうと思った。


・・・


その日のデュエルは全てが終了していて、
場は人影が無かった。

亮と大きな扉の前に立っていた男を除いて。

「こんにちは。亮さんですね?」

「……ああ。」

「あは、よかった。やっと会えた。
僕の名前は秋彦といいます。
僕の妹がお世話になったそうで。」

年は15、16と言ったところだろうか。
秋彦、春菜が言っていた名前と一致した。
間違いは無いだろう。
物腰柔らかな青年で、あきらかに地下デュエルとは場違いな外見であった。

「……お前の……お前の妹は……。」

「ここじゃなんなんで、こちらへ行きましょう。
他人に聞かれると、少しマズいんで。」

秋彦は扉の横についていた機械にキーを差込み、
パスワードを操作して中を開けた。
部屋の中は地下デュエルと同じリングがあり、ガランとしていた。
ただ、乱雑に衝撃増幅装置やデュエルディスクが
転がっているのが異様だった。

「いや、まずお前の目的を聞いておく。
何故今頃?何のために俺を呼んだ?」

「……知りたければ、どうぞ、中へ。」

そう言って秋彦は部屋の中へ入って行った。
オートロック式の部屋で、中から出るには
ここを開けたときと同じような専用のキーが必要だった。

それでも亮は躊躇せずに部屋の中へと足を踏み入れた。
直後、扉が閉まる。

「ああ良かった、入って来てくれて。
帰っちゃったらどうしようかと思ってましたよ!」

秋彦はニコニコとした笑顔でそう言った。
いや、さっきからずっとこの笑顔なのだ。
それが亮の癪に触った。

「それで?」

「え〜と、そうそう、なんで亮さんを呼んだかでしたっけ?
ん〜っとですねぇ、僕の準備が整ったからなんですよ。」

「準備だと?」

「ええ。僕らの両親は大量の借金を残して自殺したわけなんですけど、
あれ全部僕が仕組んだんです。」

「……?」

「両親は別に自殺したわけじゃなく、僕が殺したんですよ。
上手く自殺に見えたみたいで安心しました!えへへ。」

そう言って照れ笑いをし、頭をポリポリと掻いた。

「それで、地下デュエル関連のおじさんたちから
たくさんお金を借りて、それをすでに死んでいる両親に押し付けました。
手筈通りに、何も知らない春菜は地下デュエルの場へと連れて来られました。」

「……。」

「あっはは!嫌だなぁ、そんなに怖い顔しないで下さいってば!
春菜は本当に何も知りません。
訳もわからないまま連れて来られたんでしょうね。
本当に可哀想だ。」

「もういい。」

「へ?」

「貴様の意味がわからない話はもういい。
ここから出せ。」

「ん〜、せっかくなんで、僕の話を聞いて下さいよ。
なんでこんなことやったかっていうと、僕の夢のためなんです。
僕は妹が大好きだ!
春菜のためならどんなことでもしてやりたい!」

「今まで春菜に何をした……。」

「う〜ん、何をした、ですか。愛し続けましたよ。
春菜は計画通りに地下デュエルに連れて来られたわけなんですが、
そこで一つ誤算がありました。それは亮さん、貴方です。」

「……。」

「貴方が春菜に勝てば、全てはこれで終わりました。
しかし貴方がわざと負けてしまったので、
僕の計画が狂わざるを得ませんでした。
せっかく春菜の死体が手に入ったと言うのに。」

「死体だと……?」

「次はタッグデュエルで貴方ごと始末しようと思いました。
しかしそれでも貴方と春菜は勝ってしまった。
これには僕も感動すら覚えてしまいましたよ。」

亮にはすでに理解が追いついていなかった。
春菜を殺す?何のために?

「僕はここで少し計画を変更しました。
春菜を精神的に追い詰めて、自分で死を選ばせる方法です。
これは大成功だったみたいで、
春菜は貴方との再戦で自ら命を捨てたみたいで何よりです。
まぁ、強いデュエリストと一対一で勝負させれば
すぐに春菜は死ぬと思ったんですけど、案外生き残るかもしれないでしょ?
貴方ほどのデュエリストの師事を受けていて、
それにデッキまで強化してるんですから。」

亮はデュエルディスクを構えた。

「そうか。最後に何か言いたいことはあるか?」

「え?え?デュエルですか?
う〜ん、いいですけど、僕多分、亮さんより強いですよ。
亮さんって今、心臓が悪いんですよね。
大丈夫なんですか?」

「貴様を倒す程度にはな。そこで転がってる衝撃増幅装置を着けろ。
すぐに終わらせてやる。」

亮の頭にはすでに、このデュエルで命を捨てる、という考えは
吹き飛んでいた。
ただ静かな怒りだけがあった。

「じゃあそうですねぇ……最後に妹を殺そうとした理由を教えますが、
これはさっき言ったこととほとんど変わりありません。
僕は妹が、春菜が大好きだ。
出来ることなら永遠に僕の元に留めて起きたい!
あの顔が、あの声が、僕の全てなんだ!
だからそれなりに準備したんです。
これで僕の話は終わりです。お疲れ様でした。
どうしても春菜の面倒を見てくれた貴方に
聞いてもらいたかったんです。」

「ここに春菜の死体は無い。
そしてそれがお前の元に届くことも無い。」

亮は足元に転がっていた衝撃増幅装置を装着し、
デッキからカードを引き抜いた。

「ああ、それならご心配なく。
病院に運ばれた春菜は僕がお金で引き取りますよ。
借金はただ両親の自殺の理由付けに使うだけじゃなく、
そういった理由もあるんです。
亮さんはどうせ心臓の病気で死んじゃうだろうから
ここで殺す気は無かったんですけど、
今死にたいんじゃしょうがないですね。」

秋彦も衝撃増幅装置とデュエルディスクを装着して、
デッキを取り出す。

「へへ、衝撃増幅装置かぁ。
春菜を普通に殺しちゃ顔に傷が残っちゃうかもしれなかったけど、
これなら安心だね。
きっと綺麗な顔してるだろうな。あはは。」

「……残念だったな、春菜の顔は見れたものではない。
汚い痣だらけで綺麗とは程遠い状態だぞ。」

「大丈夫、大丈夫。
春菜が自分で付けた傷なんだよね?
春菜がやったことならなんでも大丈夫ですよ。
それも全て愛せますから。
じゃ、始めましょっか!」

秋彦がデッキからカードを引き抜き、デュエルの準備が整った。
その顔はずっと笑顔に満ち溢れていた。

「……来い……。」

亮は、勝利を得るために。
おそらくはもう死んでいる春菜をこの異常な愛から守るために。
デュエルスタートを宣言した。

このデュエルで勝利すれば、自分は心臓の異常で、
相手は衝撃増幅装置の影響で死ぬだろう。

地獄へ。
秋彦を抱き、本当の地獄へ共に堕ちる決心をした。




九話「心臓慟哭」

丸藤亮 LP 4000

秋彦 LP 4000


「先行は俺だ!ドロー!
「サイバー・フェニックスを守備表示で召喚。
カードを1枚セットし、ターンを終了する。」


丸藤亮 LP 4000 手札4枚
場:「サイバー・フェニックス」

秋彦 LP 4000 手札5枚
場:無し


サイバー・フェニックスは守備力1600の機械族モンスターで
戦闘で破壊されると、カードを1枚ドローできる効果を持つ。
また、この状態では使えないが、攻撃表示で存在することで
対象を取るカードの効果も無効にすることが可能な万能カードだ。
様子見の一手としては最適である。

秋彦のターン。

「うわ〜、攻めにくいですねぇ。
僕のターン、ドロー!
手札からおろかな埋葬を発動して、D−HERO ディスクガイを
デッキから墓地に送ります。」

「D−HERO……?」

「ええ、デステニー・ヒーローって読むんですけど、
なんか世界でも数枚しか無いレアなシリーズなんだとか。
まぁ、僕のは本物じゃなくて複製品なんですけど、
そんなことどうでもいいですよね。使えれば問題無いんですから。
ちなみにプロデュエリスト世界ランキング1位の人に複製してもらいました。」

デッキから、攻守が低いモンスター、
D−HERO ディスクガイが墓地に送られた。

「手札から、創世者の化身を召喚します。
そして、この創世者の化身を生贄に捧げ……。」

「何、通常召喚は終わっているはず……
モンスター効果か?」

「はい、その通りです。
創世者の化身を生贄にすることで、手札から
レベル8のモンスター……
創世神――
ザ・クリエーターを攻撃表示で特殊召喚!」

創世神は攻撃力2300、守備力3000の大型モンスター。
かなりのレアカードで、さらにその表面に特殊な加工が施されていた。

「ホログラフィックレア、だと?」

「あははは、よくご存知でしたね。
同じく複製品です。
その際に、凄いレアな加工もして頂きました。
正規のカードには存在しません。」

「地下でのルートか……まがい物のカードで俺に勝つつもりか?」

「やってみないとわかりませんよ。あはは。
創世神の効果発動!手札を1枚墓地へ送ることで、
墓地のモンスター1枚を特殊召喚可能。
手札を1枚墓地に送って……
墓地に存在するD−HERO ディスクガイを守備表示で特殊召喚します。
D−HERO ディスクガイの効果発動。
墓地からの特殊召喚に成功したとき、デッキからカードを2枚ドロー!」

「俺が知っているHEROとは随分用途が異なるカードのようだな。」

「便利な効果でしてね。せいぜい利用させて頂いてます、はい。
創世神でサイバー・フェニックスに攻撃します!」

創世神が雷球を放ち、サイバー・フェニックスを粉々に砕いた。

「うっ……!!」

その瞬間、亮の心臓の脈拍が不自然に鼓動する。
モンスター破壊の衝撃で、ライフにダメージが無くとも
激痛を受ける体になっていた。

「……あっ……ぐ……サイバー・フェニックスのモンスター効果!
デッキからカードを1枚、ドロー、する。」

「苦しそうですね〜、やっぱりデュエルやめます?
これでも手加減したんですけど。」

「ふざけるな……。」

「もー、頑固だなー。
カードを1枚伏せてターンエンドです。」


丸藤亮 LP 4000 手札5枚
場:無し

秋彦 LP 4000 手札3枚
場:「創世神」「D−HERO ディスクガイ」
  伏せカード1枚


「俺の……ターン……ドロー!
永続魔法、未来融合フューチャーフュージョンを発動!
デッキの中に存在するモンスターを、2ターン後の未来に融合!
サイバー・ドラゴン3枚を墓地へ送り、
2ターン後のスタンバイフェイズにサイバー・エンド・ドラゴンへと
融合させる!」

「わぁ、怖いなぁ。サイバー・エンドの攻撃力だと、
僕の創世神じゃ勝てないな。」

「すぐにそんな口を訊けなくしてやる……。
カードを2枚セット、
もう1枚、サイバー・フェニックスを守備表示で召喚する!
ターン、え……ん……ド……う、あ!」

心臓が悲鳴を上げ、亮の全身に針を刺されたような痛みが駆け巡る。
膝をつき、胸を押さえつけた。


丸藤亮 LP 4000 手札3枚
場:「サイバー・フェニックス」
  「未来融合フューチャーフュージョン」
  伏せカード2枚

秋彦 LP 4000 手札3枚
場:「創世神」「D−HERO ディスクガイ」
  伏せカード1枚



「そんな強がっても、防戦一方じゃないですか。
どうしてそこまでするのか、僕にはちょっとわからないですね。」

「貴様が……。」

「はい?」

「貴様が、俺の何を……春菜の何を知っている……。」

「ええ?亮さんはすごく強いデュエリスト、
春菜は言うまでも無く僕の妹だから、なんだって知ってますよ。」

「それだけか?」

「ん〜、もうちょっと詳しくお話しましょうか?
春菜はまるでヒヨコみたいに僕の後ろを付いて回ってました。
何をするにしても、春菜は僕の言うことをよく聞いてくれたし、
優しい眼差しで僕を見つめてくれました。」

「それで?」

「え?不満でした?」

「貴様は……春菜の意思を……
あの小さな体で生き延びようとした意思を知らない……。」

「はぁ……。」

「地獄から抜けるために、兄に会うために。
反吐が出る目的を持った貴様に会うためにだ。
体中から血を流して、心まで傷つけ、
それでもなお自分の意思を支えに生きた春菜を知らない。」

「そんなの……関係無いじゃないですか……。」

「く、くっくっくっく!!
はっはっはっはっは!!
気が変わった!やはり地獄へは貴様一人で行け!
勝利をもぎ取る価値すらないな!
俺の最後のデュエルの相手としては……何一つ足りん!!」

亮は心底この狂気の男を哀れんだ。
そして、ざまあみろとでも言わんばかりに笑ってやった。

「……僕のターンですね。ドロー!
亮さん、そんなに死にたいのなら、望み通りにしてやってもいいんですよ!
D−HERO ディスクガイを生贄に捧げ、
雷帝ザボルグを召喚!
生贄召喚に成功したとき、モンスターを1枚破壊する!
デス・サンダー!」

サイバー・フェニックスが雷の矢に貫かれて消滅する。
守備表示のため対象を取る効果を無効に出来ず、
ドロー効果は戦闘で破壊された場合しか発動されないため、
何の効果も発揮されないまま墓地へと送られた。

「ぐ、ぬ……!」

「そして創世神の効果発動、カードを1枚墓地へ送り、
D−HERO ディスクガイを守備表示で蘇生!
墓地からの特殊召喚に成功したので、カードを2枚ドローします。
バトルフェイズ!
この攻撃が通れば勝ちですよ。
せいぜい足掻いて死んで下さいッ……ね!!」

創世神と雷帝が同時に、雷を亮に向けて放った。
だがその攻撃は時空の渦に阻まれ、届くことは無かった。

「ちぇ……。」

「リバースカード、攻撃の無力化を発動……
バトルを強制的に終了させる!」

「攻撃、なかなか通らないものですね。
一発受けたら亮さんにとって致命的だから必死になってるんですかね?
ターンエンド。」


丸藤亮 LP 4000 手札3枚
場:「未来融合フューチャーフュージョン」
  伏せカード1枚

秋彦 LP 4000 手札4枚
場:「創世神」「雷帝ザボルグ」「D−HERO ディスクガイ」
  伏せカード1枚


「ねぇ亮さん。場をよく見てよ。
上級モンスターが2枚並んでるし、何度もディスクガイを生贄にして
もっともっと上級モンスターを出すよ。
どうする気なんですか?」

「くっくっくっく……
ダメージを受けないように、必死、か。」

「なんですか。」

「春菜もそうだったな。」

「そうですか。」

「春菜の名前を出した途端、顔が変わったな。
それが貴様の本性か?」

「……正直、不快です。
そもそも貴方があんなことをしなければ、春菜はもっと楽に……
僕のモノになったのに!」

「残念だったな。そしてこのデュエルも俺の勝ちだ。」

「え……?」

「俺のターン、ドロー!
速攻魔法、サイクロンを発動!
貴様の場の伏せカード1枚を破壊してやるぞ!」

「く……!」

秋彦が伏せていたカードは奈落の落とし穴。
召喚、特殊召喚された攻撃力1500以上のモンスターを
破壊して除外する強力カードだった。
亮は、秋彦が自分への対策カードを入れているだろうことは読めていた。
サイバー・ドラゴン、あるいはサイバー・ドラゴン系融合モンスターへの
手軽な対策カードとして、この奈落の落とし穴はよく使われる罠だったからだ。

「でも、そんな程度で……」

「リバースカードオープン!!
DNA改造手術!
フィールドに存在する全てのモンスターは、
俺が宣言した種族となる!宣言する種族は機械族!
貴様のフィールドのモンスター、全ては機械と化す!」

「何を、意味の無いことを!」

「意味の……無い?
くっくっくっくっく!!
無知が!プロト・サイバー・ドラゴンを召喚する!」

「……え?」

「プロト・サイバー・ドラゴンは……
フィールドに存在するときサイバー・ドラゴンとして扱う……。」

亮は、融合の魔法カードを必要としない
脅威的召喚条件を持つカードの召喚を狙った。
それはまさに、この不利な状況を一瞬で逆転できるほどの
力を秘めた恐るべきモンスターだった。

「融合せよ!プロト・サイバー・ドラゴン!
そして創世神!雷帝ザボルグ!ディスクガイ!」

「ぼ、僕の場のモンスターが……消滅した!?」

「キメラテック・フォートレス・ドラゴン!!」

巨大な車輪をいくつも乱雑に繋げたような胴体を持つ、
暴走進化の機械竜が融合された。

「キメラテック・フォートレス・ドラゴンは、
融合のカードを用いずに融合できる……。
さらにフィールドの機械族モンスター全てを
融合素材にすることができる……。」

「そ、そんな馬鹿げたモンスター!?」

「それだけでは無い……
キメラテック・フォートレスは、
融合素材にしたモンスターの数だけ……
攻撃力を1000ポイント上昇させる!」

4体のモンスターを融合素材とした
キメラテック・フォートレス・ドラゴンは
その攻撃力を4000まで上昇させ、胴体の車輪から複数の首を覗かせた。

「貴様の場にはもう何もあるまい!
勝利を、得る……!
受けろ!エヴォリューション・リザルト・アーティラリー!」

キメラテック・フォートレス・ドラゴンの攻撃は
一打、二打、三打四打と狙い違わず秋彦に直撃した。

直撃したはずだった。

だが、何事も無かったかのように、秋彦はそこに立っていた。
さらにライフポイントの減少も無かった。

「なんだ……と……?」

「いやぁ……驚きましたよ。
でも亮さん。墓地はちゃんと確認しないとダメですよ。」

秋彦が墓地からネクロ・ガードナーを取り出し、
ゲームから除外した。

「さっき、創世神の効果でこのネクロ・ガードナーを
あらかじめ墓地に送ってたんですよ。
墓地に存在するこのカードを除外することで、
戦闘を一度だけ無効にします。
いつサイバー・エンドが出てくるか怖かったんで、
こういう対策もしっかりしときゃなきゃな〜って思いまして。」

余裕を感じたからか……
秋彦の表情はすでに柔和な青年の顔つきに戻っていた。

「う!ぐぁぁぁ!!
あああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!」

亮の心臓が再びリミットを告げる。
大型モンスターの無茶な召喚をしたためか、
身体にかかる負担もまた大きく、さらなる激痛が襲う。

「あっはは、どうやら今の攻撃をしのげたのは
大きかったみたいですね。」

「はぁ……はぁ……ターン、エンド……。
あ……あ……あ……ぁ……。」


丸藤亮 LP 4000 手札2枚
場:「キメラテック・フォートレス・ドラゴン」
  「未来融合フューチャーフュージョン」
  「DNA改造手術(機械族宣言)」

秋彦 LP 4000 手札4枚
場:無し


「ふふ、あっははははは!
無様ですねー。
じゃ、僕のターンですね!ドロー!
魔法カード、天使の施しを発動。
カードを3枚引き、2枚捨てます。
そのモンスターにはちょっとだけ驚きましたけど、
場から離れちゃえばもう意味無いですよねー。」

「攻撃力4000のキメラテック・フォートレス……
そう簡単には破壊できんぞ……。」

「そうでしょうか?
封魔の伝承者を召喚します。
このカードの召喚時、自分の墓地に存在する
封魔の伝承者の数だけ属性を宣言します。
さっき、天使の施しで封魔の伝承者を1枚、墓地に送りました。
よって、宣言できる属性は一つ。
キメラテック・フォートレスの属性……闇を宣言します。」

封魔の伝承者が波動剣を抜き、墓地に存在する
同名モンスターからエネルギーを吸収した。
その剣が黒い光を放つ。

「そして、このカードが宣言した属性のモンスターに
攻撃を行う場合、ダメージ計算を行わず、そのモンスターを破壊!
キメラテック・フォートレス・ドラゴン、断砕!」

一刀両断。

強大な攻撃力を持ったキメラテック・フォートレス・ドラゴンが
一文字に切り裂かれ、大きな爆発が起きた。

「がぁぁぁぁぁぁあああ!!!
くぁ……あ……。」

亮は完全に地面に倒れ伏した。
全身の筋肉が痙攣し、心臓が断続的な悲鳴を上げる。

「カードを2枚伏せてターンエンド!
また出しますか?キメラテック・フォートレス。
でも……もう決着ついちゃったかな?
結局、その魔法カードも無駄になりましたね。」


丸藤亮 LP 4000 手札2枚
場:「未来融合フューチャーフュージョン」
  「DNA改造手術(機械族宣言)」

秋彦 LP 4000 手札2枚
場:「封魔の伝承者」
  伏せカード2枚


「……う……あ……ああぁぁ!」

「そのまま3分間、虫ケラみたいに悶えていてもらえれば
僕のターンになって楽なんですけど。」

「……く……くっくっく……。
そうだな……。
確かに……俺は……。」

「ん?」

「虫ケラのように、この地下を生きてきたさ……。
虫ケラ並に、必死にな。」

「そうです、素直に……。」

「言ったはずだ、俺は……このデュエルに勝ぁぁぁぁつ!!
俺のターン!」

亮は気合を入れて立ち上がった。
この体を突き動かしているもの。
それは何よりも信頼するモンスターがこのターンに出現するからだ。

「ドロー!
そして未来融合フューチャーフュージョンの発動から
2ターン目のスタンバイフェイズだ!
融合せよ!サイバー・ドラゴン三体よ!」

「ち……!」

「サイバー・エンド・ドラゴン!融合召喚!」

亮の墓地にある三枚のカードが光を放ち、亮を照らす。
そして大きな影が羽ばたきながら降臨し、
三頭の首を持つサイバー・エンド・ドラゴンが融合召喚された。

「地下デュエルの人間……そして春菜の命……
そして今……
見せてやる……俺の命を……。

サイバー・エンド・ドラゴンが場に出たことで、
不思議なことに亮の心臓の痛みは去って行った。
いかなる力が働いているかは定かでは無いが、
亮はありとあらゆる全てをサイバー・エンド・ドラゴンへと託した。




十話「地獄終焉」

秋彦が亮の気迫、そしてサイバー・エンドの咆哮にわずかに後ずさりした。
こんな、死人みたいな奴が、何故ここまで……。

「バトルだ!
サイバー・エンド・ドラゴンで封魔の伝承者を攻撃!
エターナル・エヴォリューション・バーストォ!」

だが、秋彦は。
勝機がまだ自分にあることを確信していた。

「ふ、フフ……あっはははは!
僕はまだ、負けませんよ。
その攻撃の前に、このカードを発動させてもらいます!」

「……!」

「リバースカード発動!
デステニー・デストロイ!」

「デステニー・デストロイ!?そのカードは……。」

「そうです……亮さん、以前このカードを使われて負けてましたよね!
デッキの上から3枚を墓地に送る!」

以前、亮はプロデュエリスト、エド・フェニックスとの戦いで、
このデステニー・デストロイの効果により
E・HERO シャイニング・フェニックスガイの攻撃力を
爆発的に上昇させられ、敗北した。
その記憶が揺り起こされる。
おそらくは、これも複製されたカードに違い無い。

「だが、それではサイバー・エンドの攻撃は止まりはしない!」

「そうでしょうか?」

封魔の伝承者に攻撃が命中する直前、その攻撃が掻き消えた。

「なんだと……。」

「フフ、墓地に行って良かったです……
墓地に送られた3枚のカードは全てモンスターカード。
そう、今墓地に送られた2枚目のネクロ・ガードナーを除外し、
効果を再度、使わせてもらいましたよ!」

「カードを1枚セット、ターンエンド……。」


丸藤亮 LP 4000 手札2枚
場:「サイバー・エンド・ドラゴン」
  「未来融合フューチャーフュージョン」
  「DNA改造手術(機械族宣言)」
  伏せカード1枚

秋彦 LP 4000 手札2枚
場:「封魔の伝承者」
  伏せカード1枚


「僕のターンですね。ドロー!
封魔の伝承者の効果は、今は闇属性モンスターにしか使えない。
サイバー・エンド・ドラゴンは光属性ですか、残念だなぁ。
……よし、決めた!
リビングデッドの呼び声を発動!
D−HERO ディスクガイを特殊召喚し、カードを2枚ドロー!」

秋彦の手札が一気に5枚となる。
これにより秋彦はかなり優位な状況となった。

「死者転生を発動。手札を1枚捨て、
墓地に存在する創世神を手札に加えます。
創世神は墓地からの特殊召喚は不可能ですからね。
そして封魔の伝承者、D−HERO ディスクガイを生贄に、
創世神を守備表示で召喚!」

「何、また創世神を……。」

「そうです。僕はこの神で、ずっと墓地のカードを、
死んだモノを愛し続けます。
だからもう、僕と春菜の邪魔をしないで下さいね。」

「……!」

「創世神の効果発動!手札を1枚墓地へ送り、
さっきデステニー・デストロイで墓地に送られていた
光神機−轟龍を特殊召喚!
このカードは知ってますよね?
亮さんのサイバー・エンド・ドラゴンに非常に近いカードです。」

光神機−轟龍は攻撃力2900を誇り、
さらに守備表示の相手を攻撃しても貫通ダメージを与えるという
光属性、機械族モンスターだった。

「だが、サイバー・エンドの攻撃力には及ばない!」

「それもこのカードの効果で逆転しますよ……
魔法カード、フォースを発動!
モンスター1体の攻撃力を半分にし、
その数値分自分のモンスターの攻撃力を上昇させます。
もちろん、サイバー・エンド・ドラゴンの攻撃力の半分2000を
僕のフィールドの光神機−轟龍に加えます。」

サイバー・エンド・ドラゴンを上回る強大な攻撃力、
4900を得た光神機−轟龍はサイバー・エンド・ドラゴンに向けて
その巨大な顎を開いた。

「バトルフェイズ!
砕け!光神機−轟龍の攻撃!」

「あまり……俺を舐めるなよ……リバースカード発動!
永続罠、サイバネティック・ヒドゥン・テクノロジー!
自分フィールド上のサイバー・ドラゴン、または
サイバー・ドラゴンを融合素材として使用するモンスターを
生贄に捧げ、攻撃したモンスターを破壊する!」

「何……ぐぁ!」

サイバー・エンド・ドラゴンが凄まじい爆音を上げて四散し、
光神機−轟龍もろとも粉々になった。

「はぁ……はぁ……が、ぐ……。」

「ふ、ふふ、本当に驚きです。
でもそのサイバー・エンドは亮さんの最後の希望だったはずです。
そんな簡単に捨てちゃって、もう自棄になってるんですか?」

「く、くっくっく……くくくく!」

亮は膝をつき、奇妙な笑い声を上げながら
サイバー・エンド・ドラゴンのカードを静かに墓地に置いた。
サイバー・エンド・ドラゴンが消滅したことで、
また鋭い痛みが心臓、そして全身を蝕んだ。


だがそれでも亮は笑った。


「……本当におかしくなったかな……。
カードを1枚セット、ターンエンド!
さ、亮さん。まだデュエルするんなら続けて下さい。
それとも病院に連れて行って上げましょうか?」


丸藤亮 LP 4000 手札2枚
場:「DNA改造手術(機械族宣言)」
  「サイバネティック・ヒドゥン・テクノロジー」

秋彦 LP 4000 手札0枚
場:「創世神」
  伏せカード1枚


亮のターン。

「余計な気遣いだ。俺のターン……。」

「ああっと、僕のリバースカード、
永続罠、王宮のお触れを発動します。
このカード以外のフィールド上の全ての罠の効果を無効にする!
これでDNA改造手術を利用して
キメラテック・フォートレス・ドラゴンは出せなくなったし、
サイバネティック・ヒドゥン・テクノロジーで
無駄なあがきも不可能になりましたよ。」

「ドロー。」

「そして僕の創世神は何度でもモンスターを蘇生できる、
またディスクガイでドローしてやってもいいし、
光神機−轟龍で貫通ダメージを与えてもいい!」

「そうか。」

「ん……なんですかその顔……
やっぱり腹立ちます。今度こそ本当にトドメを……。」

「そうか。」

「貴様……。」

「次など、無い。」

「え?」

「魔法カード、貪欲な壺を発動する。
自分の墓地に存在するモンスターを5枚選択し、
それらをデッキに戻してシャッフルする。
サイバー・フェニックス2枚、
キメラテック・フォートレス・ドラゴン、
サイバー・エンド・ドラゴン、
サイバー・ドラゴン1枚をデッキに戻す。
融合モンスターは融合デッキへと戻る。
そして戻してシャッフルしたのち……カードを2枚ドロー!」

亮の手札が一気に4枚へと増大する。

「な……。」

「俺はあまり嫌悪という感情を抱いたりはしないが、
ここまで不快な気分になったのは初めてかもしれん。
それが可笑しくてたまらない。
魔法カード、オーバーロード・フュージョン発動!
墓地に存在する機械族モンスターを、
闇属性機械族の融合モンスターへと融合させる!」

「キメラテック・オーバー・ドラゴンですか?
あ、あは、あっはっは!何やってんですか?
さっき貪欲な壺でたくさん機械族を墓地に戻したせいで、
全然融合できないじゃないですか……へ、へへ……。」

「そうだな。サイバー・ドラゴン2枚を除外、融合させ、
キメラテック・オーバー・ドラゴンを融合召喚!」

首がたった二つしか存在せず、
攻撃力もわずか1600という非力な漆黒の龍が出現した。
同時に心臓も軋むが、あまり激しい痛みにはならなかった。
攻撃力が低いのが幸いしたのかは定かでは無い。

「このカードが場に召喚されたとき、自分フィールド場の
このカード以外のカードを全て墓地へと送る。
DNA改造手術とサイバネティック・ヒドゥン・テクノロジーを墓地へ。」

「いったい、いったい何を……やってるんだ!
その薄ら笑いをやめろ!」

「くっく……行くぞ!次元誘爆を発動!
融合モンスターを1枚デッキに戻す!
そしてお互いのプレイヤーは除外されたモンスターカードを
2枚までフィールド上に特殊召喚する!」

「なんだって……あッ!」

亮の場からキメラテック・オーバー・ドラゴンが消滅し、
変わりにサイバー・ドラゴン2枚が出現した。
そして秋彦の場にはネクロ・ガードナー2枚が。

「は、はは……またネクロ・ガードナーの効果を
使わせてくれるんですか?
攻撃で破壊されて墓地へ行けば、また攻撃を無効にしますよ!」

「ネクロ・ガードナーの攻撃無効効果は墓地限定だったな。」

「そ……そうです……よ……。」

「そして貴様の墓地に3枚目のネクロ・ガードナーはあるか?
いいや!あるまい!
あれば創世神を最初から攻撃表示で召喚していたはずだからなぁ!
貴様はダメージを受けたくないために、
衝撃増幅装置の激痛を受けたくないために、
攻撃力の低い創世神を必要の無い守備表示にした!」

「う、ああ……ま、まさか、まさかぁぁぁぁぁ……。」

「パワーボンド発動!!
フィールド上のサイバー・ドラゴン2枚、
手札のサイバー・ドラゴン1枚を融合させ、
サイバー・エンド・ドラゴンを融合召喚!!」

白銀の光が部屋を照らす。
亮はその輝きの中に一瞬、春菜の姿を見た気がしたが、
やはり幻に過ぎなかった。

「嘘だ。僕が負けるわけが……負けるわけ……。」

「サイバー・エンド・ドラゴンの攻撃!
エターナル・エヴォリューション・バーストォ!!」

攻撃力8000が放った閃光は
創世神、ネクロ・ガードナー2枚、そして秋彦を包み込み、
全てを消滅させた。

「ごぁ!ぐぅぅぅぅぅぅぅ!!
ぎゃああああああああ!!!!」


秋彦 LP 0


・・・


亮が夜の街を往く。

デュエルが終わった後、フラフラとあても無くさ迷っていた。

どうやら、まだ生き長らえることが出来るらしい。
しかし心臓の痛みはまだ消えたわけではない。
おそらく、これからもこの体で生きていくことだろう。

秋彦は死に際に、
春菜のダンスがもう一度見たかったな、とだけ言っていた。
亮はその春菜の踊りを見たことが無いし、
歌も聞いたことが無かった。

もう見れることは無い。
死んだのだから。

秋彦も地下デュエルの影響で狂っていたのだろうか?
それにしては異常の方向性が違う。
サイバー・エンド・ドラゴンの攻撃が直撃した瞬間、
何か光の塊のようなものが秋彦の体から抜き出たように見えたが……。

しかし、考えても仕方の無いことだった。



地下デュエルは力こそ全て、勝利こそ全てだ。

少女一人救えなかった亮は、力が足りないと思い始めた。

勝利のための、勝利だけのデッキを。


・・・


プロリーグに復帰、その極悪なる戦術で連戦連勝を続ける男がいた。
人は彼に対して、悪魔に魂を売っただの、闇に心が囚われているだの、
好き勝手な噂を立てた。

しかしその男は決して闇に囚われてなどいなかった。
自ら望んで力を求める道を歩み、最高の、最大のデュエルのために。

そしていつか見た少女のように、
残されたわずかな時間を精一杯に生きるために。

彼は勝利する。




最終話「生命鼓動」

1年が過ぎた。

その日の夜は曇天で、空が闇色に染まり、
いつ大雨が降り注いでもおかしく無かった。

しかし、厚い雲の隙間からわずかに月明かりが漏れる。

それはこの世界では無い、異次元の世界で
ある男の命の輝きと共に、心臓の鼓動が停止した瞬間と同じだった。

月の光は、とある病院の一室に降り注ぎ、
その病室で横たわっていた少女の目を刺した。
それで目が覚めた少女は、よろよろとベッドから這い出て、
たまたま近くを通りかかった看護師を驚かせた。

少女はこの病院に運ばれてから、今の今まで、
ずっと1年間も眼を覚ましていなかったのだ。
すぐさまベッドに戻され、その看護師が慌てて専属の医師を呼ぶ。

少女は自分が気を失う直前に聞いた言葉を思い出していた。


最大の敬意を持って、償うこと。


自分がどれだけ出来るかわからないけど。

歌って、踊るだけでも、償いになるかどうかわからないけど。

生きよう。

枕元にそっと置かれていた、カードの束を眺めながら少女はそう思う。




月明かりが少女の顔を銀色に照らした。





――地獄の黙示録・終――







「あとがき」

この小説は遊戯王GX2期の丸藤亮が
裏サイバー流を入手する前の出来事となっています。
ストーリーの都合上、遊戯王GX4期と若干の差異がございます。
他の私の作品と比べるとハードな内容でしたが、
読んでいただきありがとうございました。





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