光の決闘

製作者:ライさん




注意:この小説はOCGルールで対応していますが、ページ数の関係でライフポイントは4000スタートにしており、禁止カードはありません。またオリジナルカードの詳細に対する質問は掲示板にてお願いします。



序章:風の降臨

東京で開催されている東関東決勝戦。数千にも上る決闘者の中、たった2人が全国大会出場権を巡る戦いを始めようとしていた。
『これより東関東地区、決勝戦を始めます!ルールはLP4000、新エキスパートルールで行われ、マッチ戦はありません!』
司会者の言葉に歓声が湧き上がる。一方の立ち位置には屈強な青年(デュエルとは関係ないが、見た感じが強そうである)がおり、最後のデッキ確認を行っていた。もう一方の立ち位置ではデッキ確認を終えた少年が集中しようとしていた。
だがそれはできなかった。彼の後ろには近所の決闘者たちや母親が陣を造り、世間の眼をものともせずに応援をしていたからであった。
「なおき!!ゆうしょー!!」
「負けるなぁ!!俺たちの分も頑張ってくれぇ!!」
少年の名は『風川 直義』という。ごく普通の中学校に通うごく普通の学生だった。
デュエルモンスターズを始めとする、あらゆるゲームが天才的なまでに強いこと意外は。
「よし、準備できたぞ」「じゃあ始めようぜ」
『では両者、デッキのシャッフルを・・・よし、それでは決勝戦、デュエルスタート!』
直義L:4000 青年L:4000
先行は青年だ。
「俺のターン、俺はカードを1枚伏せ、怒れる類人猿を攻撃表示で召喚!ターンエンドだ。」
青年の場に今にも直義に襲い掛かりそうなゴリラが呼び出された。
「僕のターン、ドロー!」
直義は手札を見、3枚のカードを選んだ。
「僕はフィールドカード、デザートストームを発動!」
デザートストーム。風の属性を持つモンスターたちの攻撃力が500ポイントも上がる、直義の領域であった。
「更に僕はバードマンを攻撃表示で召喚!」
場に翼の生えた戦士が召喚された。
「そして速攻魔法、風印の楔を発動します!」
「なんだと!」
「風印の楔の効果は、『ライフを500ポイント払うことで、場のリバースカードをこのターンの間使用不可能』にします。これでバードマンは怒れる類人猿を安心して攻撃することが出来ます!行け、バードマン!」
主が命ずるより早く、バードマンは空を斬っていた。怒れる類人猿はそのスピードに着いて行けずに、なすすべなく切り裂かれた。
「く!」
青年L:3700 直義L:3500
「僕はメインフェイズ2に、カードを2枚伏せてターンを終了します」
背後から屋根を吹き飛ばすほどの声援が飛ぶが、その声はもう直義に届いていなかった。
「俺のターン。ち・・・俺は守備モンスターをセット、ターン終了だ」
「僕はこのターン、強欲な壺を発動します。2枚カードを引き、そしてバードマンを生贄に捧げて、疾風の騎士サーディス召喚!!」

疾風の騎士サーディス 風属性 戦士族 星6 攻2400守1200
効果:このカードが守備モンスターを攻撃した時、このカードの攻撃力がその守備力を上回っていた時、その数値分のダメージを相手に与える。

新緑の鎧を身にまとった軽装の騎士が現れ、自身ほどもある大きな剣を構えた。
「サーディスは、『破壊した守備モンスターの守備力がこのカードの攻撃力より低い場合、その数値分ダメージを与える』ことが出来ます!」
「来い!」
「まだです。念のため、サイクロンであなたの伏せカードを破壊します!」
「俺のミラーフォースが・・・」
「サーディスの攻撃!エア・ブレイド!」
疾風の騎士はまさに風の如し勢いで裏側守備モンスターを切り倒した。しかし破壊した守備モンスターはサイバー・ポッドであった・・・
「かかったな!これでサーディスは墓地送り・・・」
「でしたら罠カード、神の宣告でサイバー・ポッドの効果を無効にします」
「何だと!?」
「そしてサーディスの攻撃力はサイバー・ポッドの守備力を上回っています。したがってあなたは2000ポイントの超過ダメージを受けます!!」
「く・・・」
青年L:1700 直義L:1750
「これで僕はターン終了です」
ライフは僅差だが直義の場にはデザート・ストームの効果を受けたサーディス(現時点での攻撃力2900)がおり、形勢は直義に向いていた。
「俺のターン・・・俺は天使の施しを使う。3枚引き、2枚捨てる。・・・来た!」
青年は満面の笑みでカードを場に出した。
「お前に破壊されたサイバー・ポッドと、今墓地に送ったブレイド・ナイトを除外して、開闢を召喚する!」
「!」
墓地にある光と闇のカードが除外され、カオス・ソルジャー 開闢の使者 が召喚された。
「こいつは現存するカードの中でも最強クラスのカードだ!どう対処するか見せてもらうぜ!」
「・・・」
「開闢の使者、サーディスに攻撃だ!!」
開闢の攻撃はわずか100の差で直義のサーディスを倒した。
「よし、このまま2回目の攻撃でトドメだ!」
「その前に速攻魔法、スクランブル!を発動します!」
「なんだそれは!?」
「スクランブルの効果は、『僕の場の風属性モンスターが戦闘で破壊され、墓地へ送られた時、デッキから風属性モンスターを1体場に特殊召喚する』です。よって、デッキからカードを召喚します」
「ふ、開闢の2回目の攻撃があることを忘れるなよ?」
直義は自信に満ちた顔でカードを召喚する。
「僕が召喚するのは、サイバティック・ワイバーンです!」
直義の場に半分機械化したワイバーンが現れた。フィールドカードの効果によって、攻撃力が3000に上がっている。
「開闢は攻撃したターンに除外効果を使用できません。攻撃すれば相打ちとなり、次のターン・・・」
直義は中途半端なところで言葉を句切ったが、それは青年の思考力を誘導する物だった。
「・・・・(俺の残りのライフはたった1700、デザート・ストームの効果もあって攻撃力1200以上の風属性モンスターが召喚されれば俺の負けだ。とすればここは落とし穴を伏せて次のターンにワイバーンを除外してブラッド・ヴォルスで止めを刺してやる。)俺はカードを1枚伏せてターン終了だ」
「僕のターン、スピア・ドラゴンを攻撃表示で召喚します!」
「よし!落とし穴発動!これでお前のモンスターは墓地送りだ!」
相手の罠を受け(飛んでいるにも関わらず)落ちていくスピア・ドラゴン。しかし直義はにやりと笑った。勝利を確信したからだ。
「そういうタイプのカードだと思っていました。でも僕は手札から死者蘇生を発動します!」
「なぁ!」
「これで僕は墓地からバードマンを1体、特殊召喚します!」
直義の場に再び現れた鳥人。その爪は青年をぴたりと狙っていた。
「さあ、最後の攻撃です。サイバティック・ワイバーン、開闢を破壊し、バードマンは直接攻撃だぁ!!」
「げぇぇぇ!!」
開闢の使者はサイバティック・ワイバーンと相打ちになり、その2体を飛び越えてバードマンが青年のライフを0にした。
青年L:0
『勝者、中学2年生、風川 直義君!おめでとう、全国大会東関東代表決定だ!』
「やったぁぁ〜〜〜!!!」
直義は飛び上がり、仲間達は席を飛び降りて直義に近づいていった。


その時、VIP席にいる2人の男が、熱狂している周囲に翻弄されず、仲間と戯れている直義を、ただ冷静に見ていた。
「さすがお前が見込んだ決闘者だな。運も良いしバランスもいい。カードにもしっかり心を込めている」
「だろう?直義くんだけじゃない。昭二くんと朱美ちゃん・・・俺が推薦するのはこの3人だ」
「そういえば誡(かい)もあのナオキっていうガキを押していたな。だが・・・」
「経験不足とでも?」
「だな。あいつらはまだ遊びの域だ。真剣勝負の意味をまるでわかっちゃいない」
「だったら試してみるとどうだ?」
「試す?」
「確か最近ハワード達が日本に着たんだろ?あいつらと闘わせればどうだ?」
「そうだな・・・まだ早い気もするが・・・闘らせてみるか」
「はは、団員集めも楽じゃないな・・・社長殿」
「お互い様だろ店長殿」
2人は熱気あふれるスタジアムを後にした。
明後日、雑誌・テレビでデュエルモンスターズの全国大会の中止が発表された。



一章:イキナリ世界問題

「どういうことだ!?」
夏休み中盤。学生達がもっとも宿題をサボる時期、ゲームショップ赤祭(あかまつり)の一角で、3人の中学生が不満を漏らしていた。
「何で全国大会が中止なんだよ!?」
「そうよ!いきなりこんなこと許されるもんですか!!」
怒りの原因は今朝発表された「デュエルモンスターズ全国大会、主催者の都合により中止」というニュースだった。
「せっかく直義が優勝したのに、これじゃ一学期の特訓の意味がほとんどねぇ!!」
「全くよ!私たちの分まで頑張ってもらおうと思ったのに、いきなり中止だなんて!」
「あの〜・・・2人とも自分のことじゃないんだし、そんなに怒らなくても・・・」
「というか直義!当事者のお前が何冷静にデッキ調整してるんだ!?」
半笑いの直義に掴みかかったのは『火山(ひやま) 昭二』。直義の幼なじみでもっとも親しい友人で実力が最も近い好敵手である。
「でも昭二・・・僕なんかが出ても・・・多分一回戦負け・・・」
「直義・・・あんた、私を倒した谷口っていう奴を3ターンで倒したくせに、何弱気なこと言ってんのよ」
次に掴みかかってきたのは『海水(うみみず) 朱美』。直義の幼なじみで、直義・昭二を超越する実力を持っている、常に全国模試10位以内に名を残す切れ者である。
「あれだけレアで反則的な強さを持つ開闢を、あんなにもあっさりと潰しておいて、何が一回戦負けよこの臆病者!!」
「痛!?足踏まないで!!」
「はっはっは。何年経っても仲がいいね、3人とも」
「「おっちゃん」」「店長」
直義たちに声をかけたのはこの赤祭の店長、『赤生 勇』である。おっちゃんとはいわゆるあだ名だ。
「唐突で悪いけど、3人とも今日暇かい?」
「え?暇ですけど・・・なんですか急に」
「ちょっと紹介したい人がいるんだよ。ほら、直義くんは東関東最強だろ?」
「おじさん、最強っていっても、こいつ私より弱いのよ?」
「でも直義は朱美を倒した奴を倒したじゃねえか」
「直接私に勝った事は少ないじゃない!これまでの戦績教えてあげようか?直義とは475戦443勝・・・」
「そんなの一々憶えるなよ!」
「決闘は情報が鍵よ?相手のデッキコンセプトを見抜き、的確に弱点を突き、勝つ。この前の大会だって、マッチ採用だったら私が勝ってたわ。だいたいアンタ、偉そうなことが言える?」
朱美は昭二に紙を渡した。
「なんだこれ?」
「あんたの弱点。魔法や罠カードに対する対策がほとんどない上に、これだけモンスターが入ってて・・・これまで勝ち続けてるのが不思議よ」
「なんだと!勝ってりゃいいじゃねぇか!」
「はいはい、そこまでにして。じゃ、今日は臨時休業するから、いくよ」
「「「はーい」」」


「・・・ここですか?」
直義は言った。
「ここだよ」
店長は言った。
店を出て駅までバスで15分ぐらい、電車で50分弱、そこからタクシーに乗って12分ほど。ついた場所は東京の一等地。
世界最大の玩具メーカー、「YTC(ユニバーサル・トイズメイキング・カンパニー)日本支社(数年前に本社の社長が日本人になり、実質滞在地であるここが本社の役割をしていた。)」である。ここではデュエル・モンスターズ・カードの生産を行っていた。ちなみのこの世界にコ○ミとか任○堂とかは存在しておりません。
「じゃ、いくよ」
「え?」
店長は堂々と入っていった。中は忙しそうな社員でごった返していたが、店長は3人を引き連れ、迷うことなくエレベーターに乗り込み、22階を押した。
「・・・店長、ここのどんな人と知り合いなんですか?」
「ここの社長と、だよ」
「嘘!?なんで店長みたいな典型的な独身男性のおじさんがここの社長と知り合いなの!?」
朱美はかなり失礼なことを口走ったが、店長はただニヤニヤしているだけだった。
「さ、つくよ」
22階。社長室と秘書室の2つしかない最上階であった。
「や、希美。勝人はいるか?」
店長は秘書に聞いた。
「はい。珍しく逃走することもなく、仕事をしております」
「「「(逃走?)」」」
3人はどんな社長か、興味を持った。
「じゃ、入るよ」
「どうぞごゆっくり」
感じのいい秘書だった。おそらくまだ20代だろうと朱美は推測した。
「さ、3人とも。入って」
そして3人は足を踏み入れた。今までと違う世界に・・・


そこは社長室とは思えない部屋だった。
来客用のイスもテーブルもなく、絵も花もない。あたりに書類がぶちまけられ、なにかのリモコンが3つ4つ転がっていた。机の上にはコードを抜かれた電話と数枚の紙とシャープペンシル。
そしてデッキが置かれていた。
その机に備え付けられているイスに小卒でYTCに入社し、わずか十年でこの日本支社を任され、そして今、30という若さで世界有数の大企業の社長兼会長を務めることになった男。
『戦意 勝人』が座っていた。
「よ。連れて来たぜ」
店長はなれなれしく言った。
「おう。悪かったな。パシリみたいな真似させて」
「いや、いい。さて、朱美ちゃん」
「は、はい!」
3人は心構えをしていながらも、いきなりの大物との遭遇で硬直していた。
「俺はもう帰るから、3人分の交通費、渡しとくね」
「あ、でも・・・」
「遠慮しないで。俺から誘ったんだし。じゃ、後は任せるぜ」
「ああ。気をつけて帰れよ」
店長は帰り、室内は沈黙した。
「さて、何にも話してないって言ってたから、何にも知らんだろうな。」
3人はただ肯いた。なにか も知らずに。
「う〜ん・・・何から話すべきか・・・」
「あ、あの!」
直義は硬直から復帰し、勇気を出して質問した。
「なんだ?」
「なんで僕、たちが・・・呼ばれたんですか?」
「選ばれたからだ」
「選ばれた?何に、ですか?」
朱美は不安な顔をして聞いた。
「まあ、そう緊張するな。イスは、ないが・・・楽な格好になってくれ」
「は、はい・・・」
直義はそう返事したものの、突っ立ったままだった。他の2人も同様。
「何に選ばれたか、か。何かと言えば、まあ簡単に言うと・・・これだな」
勝人は自分のデッキに手を置いた。
「デュエルモンスターズ・・・ですか?」
勝人は直義の問いに、肯いた。
「少し長くなるが、いいか?」
「はい」
今まで黙っていた昭二が答えた。
「途中で色々疑問も出るだろうが、まず最後まで聞いてくれ。・・・デュエル・モンスターズ・カード・ゲーム。これが誕生してから何年だと思う?20年弱だ。当時、これはあまり重要視されず、時代の流れに埋もれるゲームの一つ・・・になるはずだった」
「・・・・・・」
「今ではかなりレアなカードもあって、裏取引まで存在している。こんな紙切れ一枚に1億も出す奴がいる」
「一億!?」
「なぜここまで・・・世界規模にまで発展したのか・・・それは前社長のとある計画が成功したからだ」
「とある計画?」
「ああ。それは、マンガ世界みたいに『神』やら『悪魔』やら、そういった一般常識では理解できないカードを作ったのさ」
「なんですかそれは?」
先ほどから、3人が途中から会話を遮っておりますが、気にしないで下さい。
「とある装置を使えば、立体化するだけでなく、直に触れ、会話することが出来る・・・すなわちこの現実世界に仮想世界の生物を呼び出すことが出来るのさ」
「!・・・そんなことして・・・大丈夫なんですか?」
朱美は青ざめ、直義と昭二は頭に?マークを浮かべている。
「どういうことだ?」
「馬鹿!つまりブルーアイズが滅びのバーストストリームで実際のビルを破壊したり、開闢との握手&サイン会が出来たりするのよ!!」
「すげぇ!カッコイイ!!」
「サインかぁ。本当にもらえると自慢できるよね」
「おいおい。自分の家を除外されても良いのか?」
勝人の言葉に3人は息を飲んだ。
「それって、効果も適応されるんですか?」
「ああ。だが『特定の』カードだけだ。全部じゃない。だからそういう限られたカードは俺たちが管理しているのさ」
勝人は立ち上がって机を迂回し、直義たちの前に立った。
「とはいっても、一体どれだけそんなカードがあるのか知らないし、全種類を確認してるわけでもない。だからそういったカードを集める奴が必要となる」
「それがデュエルの強い人ですか?」
「ああ。一部は買収できるが、所持者のほとんどは装置を持ってなくとも会話ぐらいは出来る。そんな珍しいカードをみすみす手放すわけがない。そんな時に便利なのが、アンティ・ルール」
「賭け決闘!?」
直義は叫んだ。自分のカードが奪われるということは、彼の想像を絶する恐怖といえよう。
「特定のカード。俺らはハイ・カードと呼んでるが、それは持ち主を選ぶ。賭けという真剣勝負で本気で戦い、負けたなら相手もカードも文句は言わない。もちろん、負けるとリスクも負うし、相手が応じない場合もある」
「ハイ・カード・・・」
朱美は覚えるようにつぶやいた。
「まあ細かいことは置いといて、ようするにお前たち3人は選ばれたんだ。・・・しかしこれははっきり言って危険だ。決めるのは自分だがもしよければ・・・」
勝人は3枚のIDカードを取り出していった。
「我らがデュエリストチーム、『ラウンド・セイバーズ』に入隊してもらいたいね♪」
「「「・・・え?」」」
3人は突然のことに、思考が停止した。



二章:如何様に負けて・・・

ラウンド・セイバーズ
YTCが発行する世界規模人気ゲーム「デュエル・モンスターズ・カード・ゲーム」を使用し数々の大会に記録を残す現存する最強の決闘者集団。その団員はほとんどが18〜28歳で占められており、団員は希望があればYTCへの入社も許可されている。以下略。

「とまあ、説明はこんなもんだが、これは表向きだな。裏はさっき言った通り、賭け専門の非合法チームだ」
「ちょっと待ってください!!」
朱美が止めに入った。
「入団してくれって……何で私たちみたいな子供を?」
「そりゃ強いからだ。それに、実を言うとな……ほとんどの奴らは飾りみたいなもんだ」
「飾り?」
直義と昭二はただ驚いているばかりで、勝人と朱美の会話は聞いていない。
「実際の戦力は10人ちょっとしかいないんだ。それ以外は雑魚だな。上っ面だけだ」
「雑魚って……」
「その点お前らは、赤祭店主に認められたってわけだ」
「そういえば、店長とはどんな関係なんですか?」
「腐れ縁だ。昔からのな……懐かしいあの頃の……」
勝人は1人で勝手に遠い過去へ旅立った。
「で、そっちの2人は聞いてるか?」
そっちの2人、直義と昭二は魂が抜けている。入隊してもらいたいね♪あたりから。
「聞いてないかとでも、本当にいいんですか?私達みたいな子供が入団して…」
「ああ。まあ、ちょっとわけがあるが、な」
「?」
朱美が疑問を口にする前に勝人はそっぽを向いて、話題を摩り替えた。
「まあ、今日はもう遅い。暗くなる前に帰路につくといい」
「は、はい!ほら、2人とも。しっかりしなさい!」
「あ、IDカード。忘れるな」
勝とは手裏剣のようにIDカードを投げた。朱美は慌てて3枚を掴み、あらためて勝人の前に立ち、お辞儀をした。
「どうもありがとうございます。それでは」
そう言って朱美は2人を引っ張って、勝人に見送られながら退室した。
「……やっぱり言ったほうが良かったかな?ハワードたちのこと……」


「じゃあ、明日赤祭で」
「うん……」
「ああ……」
夕暮れになっても、2人はまだ呆然としていた。憧れていた聖地に突然加入を許可されたのだ、無理もなかろう。
「2人とも、しゃきっとしなさい!ちゃんとどうするか考えるのよ!」
その点朱美は2人に比べると断然大人だったので、もう驚きは消え、今後どうするべきかを考えていた。
「わかった……」
「オーケイ……」
ふらついた足取りの2人を尻目に、今日宿題をやっていないことに気付いた朱美は、2人を見送りつつ、足早に家に入っていった。
「…………」
「…………」
3人の家は正三角形のような配置であった。よって途中までは同じ道を通っていても、必ず別れる道がある。
「じゃあね……」
「また明日な……」
とある三叉路で、昭二は右に、直義は左に曲がった。直義はまだふらつき、独り言をぶつぶつ言いながら歩いている。傍目に見ると、危ない人に見える。
「僕がラウンド・セイバーズに…夢、じゃないよね……」
太陽が完全に沈んだ。古びた街灯が数回点滅してつき、周りにいた子供たちは家に入っていく。
「でも僕なんかで大丈夫かな…しかも賭けなんて恐いこと……」
あちらこちらの家庭で電気がつき、料理の匂いとともに、テレビから漏れるニュースやアニメの音が、孤独な道に響く。
「とにかく母さんと相談しよう。確かラウンドセイバーズは海外出張が多いって聞いたし……」
草臥れたサラリーマンのおじさんが直義を追い抜く。そして向かい側から夏場にもかかわらずコートを羽織った3人組が彼を蹴って追い払った。
「……あれ?」
気がつくと直義は、怪しげな集団に囲まれていた。
「……あれ?」
「ナオキ・カゼカワだな?」
「は、はい」
正直に答えてしまう直義。相手の日本語葉少々癖がある。どうも外国人のようである。
「俺とデュエルしな」
「はい?」
それは疑問系だったが、相手は肯定と受け取った。
「いい度胸だ。さすがは…おっと、これはまだ秘密か……とにかく決闘盤を構えな。先に言っておくが…逃げれると思うなよ?」
相手は市販の物とは違った決闘盤(デュエル・ディスク)を取り出し、腕につけた。周囲のコート集団はどうやら逃がさないための壁の役割らしい。ちなみにこの世界での決闘盤はソリット・ビジョンが可能です。
「…あの、どなたですか?」
「いいからとっとと構えろ!!」
「は、はい!」
直義のみよくデッキをシャッフルして決闘盤に差し込んだ。
始まる前は怯えていた直義も、デュエルが始まるといつもの調子になりつつあった。
「「デュエル!!」」
直義L:4000 謎の男L:4000
直義の専攻。
「ドロー!」
手札はバードマン、魔法の筒、サイバティック・ワイバーン、フライ・リザード(説明は後に)、魔導師の力、疾風の剣(同上)であった。
「僕はバードマンを召喚!カードを1枚伏せてターン終了です!」
その瞬間、男は不愉快そうに舌打ちをした。
「俺の勝ちだな」
「!?」
直義は焦った。何かミスを犯したのか…それとも某漫画の珍札狩郎の如く、エクゾディアでもそろえたのか……など考えた。
「俺のターン。ドローするまでもないが、ドロー」
男はやる気のなさそうにカードを引いた。
「ガッカリだぜ。その程度だったとはな……俺は大嵐とブラック・ホールを発動する」
その結果場に存在するカードはなくなった。
「い、1ターン目から!?」
「んで、不意打ち又佐を召喚。団結の力をつけて、直接攻撃な」
合計4200のダメージである。
直義L:0 謎の男L:4000
「そんな……こんなに強い人が……」
「バカかお前は!!」
「痛っ!?」
男はあっという間に近づき、直義の腹を蹴った。
「あのなぁ、普通にわかるだろ!?こんなにいい手札、ありえねぇだろ!?」
手札にはあと、ハーピイの羽箒とサンダー・ボルトがあった。
「!…すごい。ディスティニー・ドローですね」
「いっぺん死ね!」
「あたっ!?」
今度は鉄拳が顔にめがけて飛んだ。
「どこまで単純な頭だ!ああ!?よ〜く思い出してみな、俺がシャッフルしたかどうか!」
「あ」
皆さんも、よく、思い出してみてください。
直義のみよくデッキをシャッフルして決闘盤に差し込んだ。
直義のみよくデッキをシャッフルして決闘盤に差し込んだ。
「この天然バカが。おい!かかれ!」
「うわ!?」
謎の男は部下に合図を送った。すると周りを取り囲んでいたコート集団が、一気に直義を押さえつけた。
「お前には罰が必要だな……よし、これでもいただくか」
「あ!!」
謎の男は直義の手札からサイバティック・ワイバーンを抜き取った。
「何をするんですか!!」
「罰ゲームだよ。……あ〜そうそう、アンティ・ルールだ。言うの忘れてた」
「嘘だ!今思いついたでしょ!!その言い訳!」
「うるさい!」
「ぎゃ!」
謎の男は更に直義の頭を決闘盤で殴った。これは威力が高く、意識が朦朧としてきていた。
「返してほしかったら俺を探しな。俺の名前は…」
直義は気を失いそうになったが、せめて相手の名前だけ聞こうと、意識を保った。
「ハワード。ハワード・J・ヘルマンだ」
直義はその名前を良く覚えながら、気絶した。



第三章:敵討ち

翌日、直義は赤祭に来なかった。
「……遅い!ドロー」
「寄り道してるだけでしょ」
「一晩寝たら、どれだけ嬉しいことかわかるはずだ!俺は真っ直ぐ来たのに、あいつが顔も出さないのはおかしい!火炎木人18召喚」
「だったら急用でもあったんじゃない?よくあることだし……」
「それにしても連絡一つよこさないのもおかしいぞ!装備魔法、団結の力発動」
「あいつケータイ持ってないし、最近公衆電話減ってるし。マジック・ジャマー発動」
「……2人とも、呑気だね……」
本日4戦目(現在朱美の3連勝中)のデュエルを行いながら旧友を心配する2人に、店長は呆れている。
そしてなぜかこの店は今日も空いている。
今朝、直義の母親から電話があったのだ。どうも昨夜から直義は帰っていないらしく、てっきりまた誰かの家で徹ゲーでもしていたのだろう。と思っていたらしい。
「どうせそこら辺にいるだろうって、捜索届けも出さないらしいし……誘拐だったらどうするんだ。全く、最近の親は」
「剣道4段のあいつが、そう簡単に誘拐されるわけないわよ。炸裂装甲発動」
「だったらどこに行ってるんだ?ターン終了」
店長は2人がデュエルしながらあれこれ討論しているのを眺めていると、電話がかかってきた。
「はい。ゲームショップ・赤祭でございます…なんだ、誡か」
電話の相手は店長の知り合いらしい。
「なに?直義が昨日からいる?……ふんふん。なるほど……とにかく直義の家に電話しろ。心配してるはずだからな」
店長はそう言って電話を切った。
「ほら、誰かのトコにいた。ドロー」
「おっちゃん、直義どこにいたんだ?」
朱美も昭二も手を止めない。
「直義の剣道の師匠のところだよ。なんでも昨日、追い剥ぎにあったとか」
「「おいはぎぃ?」」
朱美と昭二は声をそろえて言う。偶然にも、今朱美が大嵐で破壊したのは追い剥ぎゴブリンだった。
「今のご時世に?」
「いや、誡は武士だから、言い方が古いんだよ。」
「「……武士?」」
2人は目が点になった。
「細かい事は気にしないでくれ。…とにかく、昨日何かあったって事だね」
「一体何が……」
朱美が真剣に考えていると、また電話がかかってきた。
「はい。ゲームショップ・赤まつ…なんだお前か」
また店長の知り合いらしい。
「ふんふん。……何?……なるほど。わかった。じゃあな」
店長は豪く真剣な目つきで電話をきった。
「どうしたんですか?直接攻撃」
たった今朱美が4連勝した。昭二は床に膝を着いている。
「ああ、勝人からだ。……直義は昨日、サイバティック・ワイバーンを盗まれたらしい」
「本当に!?」
昭二は元気に立ち上がった。
「ああ。相手の名前もわかってると……」
「どこのどいつだ!今すぐ殴りこんで「相手はメタルサーベルだ」……?」
「メタル、サーベル?」

メタルサーベル
主に北米を中心に猛威を振るう窃盗団。強盗行為は行わないが、アンティ・デュエルを強要し、勝つまで決闘をし続ける。実力は確かな物で、中途半端な大会で優勝した中級者を好んで狙う、たちの悪い集団である。総団員数は100を超え、全体的に血の気が多い。

「確かネットで見たような…何でそんな大物が日本にいるの?」
「知らないが、なんでも今は港付近の廃ビルを根城にしてるらしい……っておい!?」
店長の話が終わらないうちに、昭二と朱美は決闘盤を着けたまま店を出た。
「ちょっと待て!お前たちの敵う相手じゃないって!」
急いで店を出て叫んだ店長の声がどう伝わったのか、昭二と朱美は手を振って駆けていく。
「待てっつってんだろー!!」
店長の叫びに、店に近づいていた小学生達は怯えて逃げ帰っていった。


2人は港に着いた。もう日が暮れかけているが、2人とも夜中まで連中を探すつもりでいた。ちなみに何故この港だとわかったのかは不明です。
「後残ってる廃ビルは…あそこの2つね」
「じゃあ1人ずつ入って調べるか」
朱美は決闘盤で昭二を叩いた。
「バカ!それでアンタの方にいたらどうすんのよ!?ここは時間がかかっても2人で動く方が安全でしょ!」
「別に1人でも……てお前!俺のほうにいたら何だって!?」
昭二は朱美に食ってかかった。
「相手は一流の窃盗団。東関東大会地区予選落ちの実力じゃ、敵いっこないって」
「何だと!」
「何よ!」
2人は今にもケンカを始めそうだったが、思わぬ仲介者が現れた。
「何だこのガキどもは?」
2人が振り向くと、廃ビルからバンダナを頭に巻きつけた男が出てきた。左腕には、決闘盤がある。
「もうお家に帰る時間だぞ。帰れ帰れ」
バンダナ男は面倒くさそうに手のひらを振りながら近寄ってきた。
「帰れるか!直義から奪ったサイバティック・ワイバーンを返せ!」
昭二は怒りを男に向けて言い放った。だが、バンダナ男はシカトした。
「はいはい。いいから帰れ。俺は今から酒買いに行くから」
どうやらバンダナ男は下っ端らしい。直義の名前を覚えていない様子だ。
「ちょっとおじさん。私たち、昨日襲った少年から奪ったカードを返して、って言ってるんだけど?」
「……知るか」
バンダナ男から発せられる感じが怠けた雰囲気から剣呑なものへと変わった。
「わざわざ盗ったモンを、はいわかりました、なんて返すかよボケ」
朱美はその答えを予測していたかのように答える。
「そのくらいはわかるわよ。だから……」
朱美は決闘盤を起動し、デュエルの準備をした。
「賭け決闘、ならどう?こっちはデッキを丸々2つ賭けるわ」
するとバンダナ男は悪意の満ちた笑みを浮かべた。



四章:驚愕

「ちょっと待て! 何で俺のデッキも賭けないといけねーんだ!?」
「じゃないと相手が断るかもしれないじゃない」
朱美は悪びれずに応えた。
「だったら俺がやる……」
「アンタがやるより私がやるほうが勝率高いの。黙って見てろ」
朱美は目がいっている。昭二は恐怖に足がすくんだ。
「おーい、始めるぞ、賭け決闘」
バンダナ男はすでに準備を終えていた。闘る気満々である。
「こっちも準備できたわ」
「じゃあいくぜ」
「デュエル!」
朱美L:4000 バンダナ男L:4000
「俺からいくぜ。ドロー……俺はデーモン・ソルジャーを召喚する!」
悪魔族デッキによく見られるモンスターが現れた。
「そしてリバースカードをセットして、ターンエンド」
「私のターンドロー」
朱美はドローしたカードを見て、そのまま場に召喚した。
「私はモンスター1体とカードを2枚伏せて、ターン終了よ」
「弱気だな。ドロー!」
バンダナ男は引いたカードを見てにやりと笑った。
「くく、いいカードが来たぜ、抹殺の使徒発動!」
「抹殺だと!?」
今まで黙って観戦していた昭二が驚きの声を上げた。
「これでお前のリバースモンスターは除外だ!」
リバースモンスターはアクア・マドールであった。
「守備2000の壁モンスターか。甘い甘い」
バンダナ男は上機嫌になり、鼻歌を歌い始めた。
「そんでもって、生贄召喚! デーモンの召喚『初期ウルトラ』を召喚!」
「ええ!? 初期のウルトラ!?」
昭二はまた驚いた。朱美は眉一つ動かさない。
「そうだ。そしてデーモンでダイレクト・アタック!」
「うっ!」
朱美は一気に大ダメージを受けた。
朱美L:1500 バンダナ男L:4000
「朱美! 平気か!」
「外野うるさい! ちょっと黙って!」
その叱責を受け、昭二は三角座りをして背を向けた。
「はっは! どうだ! 2500のダメージは効くだろう?」
「立体映像だからマンガみたいに吹っ飛ばないって」
冷静なツッコミだが、朱美は目を擦っている。なぜならソリット・ビジョンの電撃は結構眩しかったりするからだ。
「まだだ!速攻魔法を手札から発動するぜ」
バンダナ男は輝くような笑顔でカードを発動した。
「対空弾! このカードは『手札を一枚捨てることで、自分の場のモンスター1体の守備力分互いのライフにダメージを与える』効果を持つ。つまり! お前は1200のダメージを受ける! 俺もだけど」
朱美L:300 バンダナ男L:2800
「……」
朱美は黙ったまま、動かない。
「よっしゃー! 初めて決めたぜこのコンボ!!」
さっきからの笑顔は初のコンボ成功の喜びらしい。
「ま、本当はこれに波動キャノンでもついていれば完璧だったが、次のターンで終わりだぜ」
「はぁ〜」
朱美は大きなため息をつきながら、首を左右に振った。
「下っ端とはいえ、あのメタル・サーベルの団員が、ここまで弱いとは。全然コンボになってないし、プレイングも穴だらけ……」
「何!? こんな状況で何を言ってやがる!」
朱美の独り言にバンダナ男は激昂したが、朱美は冷静に言葉をつむいだ。
「デーモンを召喚する前に、デーモン・ソルジャーに対空弾を使えばよかったのに」

対空弾 速攻魔法
手札を一枚捨てる。自分の場のモンスター1体を選択する。そのモンスターの守備力分互いのライフにダメージを与える。

「…………」
デーモン・ソルジャーの守備力は1500。本当ならこのターンで止めを刺すことも出来ただろうに。初歩的なプレイングミスである。
「まあ、念のためにマジック・ジャマーとサンダー・ブレイクがあったから、意味なかったけどね」
「そ、そんなことはどうでもいい! お前のターンだ!」
バンダナ男は何故朱美がサンダー・ブレイクでデーモンを破壊しなかったのか気付かなかった。また、ブラフでも魔法・罠を伏せなかったのは軽率であった。
「私のターンドロー。装備魔法、強奪を発動するわ」
「んな!?」
強奪によってデーモンの所有権が朱美に移る。
「く、だが! 俺の今のライフは2800! まだ残る!」
朱美は盛大なため息をついた。どうなるか、誰にでもわかるはずである。
「暗黒の海竜兵召喚」
「…………」
瞬殺
朱美L:300 バンダナ男:0
バンダナ男は、弱かった。
「全く。せっかくいいカード持ってるのに、これじゃ宝の持ち腐れじゃない」
バンダナ男は、動かない。
「おい! さっさと直義のカード返せ!」
それまでうずくまっていて、何もやっていない昭二はバンダナ男に詰め寄った。
「だー! うるせぇ! こんなデュエルは無効だ!!」
バンダナ男は、キレた。
「みんな来い! 生意気なガキどもがいるんだ!」
その呼びかけに廃ビルからゾクゾクと男たちが出てきた。笑顔の奴もいれば不機嫌なやつもいる。中でデュエルでもしていたのだろう。
「てめえ、まだビール買いに行ってなかったのかよ」
「つーか、何で夜中にガキがいるんだ?」
まだ日が暮れたばかりだが、こいつらにとってはもう夜らしい。
「ウサ晴らしに泣かすか」
「財布とデッキを置いてったら許してやるぜ?」
世界規模の窃盗団の割に、しょぼい連中である。
しかし数は揃っていて、10人程度はいた。100人という団員数は本来少数精鋭の意味を持つのだが、こいつらはどうもその精鋭に当てはまるとは思えない。
「お前ら卑怯だぞ! デュエルに負けたくせに、勝てなかったらケンカかよ!」
「うるせぇクソガキ! デュエルなんて所詮はゲームなんだよ!」
さっきまで満面の笑みで戦っていた男のセリフとは思えない。
「こいつらどうせ中高生だ。適当に殴れば泣いて謝るだろ」
男たちが近づいてくる。いくら相手がバカとはいえ、大の大人複数人相手に逃げ切れるとは思えない。
「相手は10人程度……武器はないけどそこら辺に棒切れは落ちてるし……海に逃げても間違いなくつかまるだろうし……」
「くそ……せめて」
朱美はどうやって逃げるか算段をしているが、昭二にそんな頭はない。彼はけんかに勝つ方法だけを考えていた。
「あいつがいりゃ……直義がいれば……」
「呼んだ?」
狙ったかのような調度良いタイミングで直義が現れた。男たちの視線がそちらに移ると、うっかり返事をしたのを後悔したようだ。場の雰囲気を見て顔が青ざめている。
仮にも主役のくせに。
「え〜と……今、大変?」
直義はへっぴり腰で昭二たちに近づいていった。
「とってもいいタイミングで来たわね。これで一安心か」
朱美は今まで考えていた無事に逃れる幾通りの方法を頭から追い出だして、安心したかのように息をついた。昭二は喜んで直義の首に手を回して飛びついた。
「直義! よくここがわかったな!」
「店長がここに行ったって教えてくれたから」
男たちは突然表れた直義を見て、相談している。
「ガキがもう1匹増えた。どうする?」
「あいつって確か昨日の……」
「下手に手を出したらボスが怒らねぇか?」
「どうでもいいだろ! まとめて潰そうぜ!」
悩んだ末、男たちは直義も標的に加えることにした。獲物が増えたので全員微笑を浮かべている。
「よし、じゃあ、やるか!」
男たちは3人に接近した。
「直義! 竹刀は!?」「あるよ!?」「ケンカだ行くぜ!」「わかった!」
直義は背負っていた荷物袋から竹刀を取り出し、昭二はポケットから黒光りの手袋を取り出し、それぞれ構えた。
「うおぉぉ!」
真正面から拳を振りかぶりながら突進してきたバンダナ男を、昭二は迎え撃った。
「オラァ!」
昭二のストレートがバンダナ男の左の頬に直撃した。彼は断末魔を上げるまもなく体が浮き上がる。
それに気付かない残りの2人が、直義に掴みかかろうとした。
その間1コンマ数秒、直義は竹刀を正眼に構え直した。
「面!」
直義は1人目の手をかわすと、そのまま1歩踏み込み額に一撃を食らわした。彼は僅か一撃で白目をむき、彼に続いていた2人目の男はそれを見て一瞬驚いた。
その一瞬があれば、直義には十分だ。
「胴!」
直義は面を打った勢いを殺さずに、右斜め前方で硬直した2人目に向かってすかさず胴を食らわした。2人目は口から声にならぬ悲鳴を上げ、先に潰された2人ともども3人同時にコンクリートの地面に倒れこんだ。
残った7人は、何が起こったのかわからないと言いたげな顔をした。
「いくぜ!」
「うん!」
昭二と直義は走り出した。状況を理解できていない7人のうち、1番先頭にいた男は訳がわからないまま昭二のアッパーを受け、宙に浮く。いち早く我を取り戻した男が2人がいたが、動く隙を与える直義ではなかった。
「面! 突き!」
「ぐは!?」
「ぶっ!?」
脳天と胸元にそれぞれ食らった2人はかろうじて断末魔を上げる暇があり、2人が犠牲になっている間に残る4人は後ろに下がって逃げることが出来た。
直義たちも深追いはせず、2、3歩後ろへ下がった。もちろん構えは解かない。
注意:これはあくまで遊戯王の小説です。
「お、お前ら! 何でそんなに強いんだ!?」
この中でもリーダー格の男は他の連中の疑問を吐き出した。
「ああ、そりゃ、な……」
昭二は頬をポリポリとかきながらあっけらかんと言う。
「ん〜……俺は幼稚園の頃からケンカし続けてるし、直義に至っては全国大会に偽名で出場して2連覇、んで特例として剣道の師匠から4段をもらってるんだぜ。2回優勝したからプラス2段」
数秒、沈黙が続いた。
「……まじで?」
どうも一番リーダーっぽい男がつぶやいた。直義は先ほどの剣の腕を見せたとは思えないほど、恐る恐る肯いた。
「というわけで、さっさと直義のカードを返しやがれ!!」
「……知るか!!」
「あ!」
残った4人は仲間を見捨てて逃げ出した。昭二は追いかけようとしたが、朱美がそれを止めた。
「待ちなさい。ここに倒れてるのが6人いるから、適当な奴を2、3人引っ張って警察に突き出せばいいんじゃない?」
「なるほど。そりゃいいかもな」
昭二は納得したような顔だが、直義は浮かない顔をしている。
「どうしたのよ? 何か変なところあった?」
「え、ううん。その案はいいんだけど……」
どうにもハッキリしない。戦闘時以外はへっぴり腰の中坊である。
「なんだよ。言いたいことがあるならハッキリ言いやがれ」
昭二が詰め寄ると直義は恐る恐る言った。
「そ、それがね……勝人さんから道場の方に連絡があって……」
「へぇ。で、何だって?」
朱美も昭二も次の言葉を待っている。
「それで……『メタル・サーベル如きにやられるくらいじゃだめだめだなぁ。ま、しょうがねぇか。じゃあ最初の指令だ。連中をまとめて片付けろ。壊滅させろ。場所は赤祭の店長に言っておくから、準備を整えてから行くように』……て言ってた」
こんな長文を暗記できた直義を賞賛する者はこの場にはいなく、数秒たってから港周辺に2名の若い男女の絶叫が響いた。



続く...



戻る ホーム