光は鼓動する

製作者:村瀬薫さん






第2章 置いてきた影


 目 次 

 第8話 遥か高みより見下ろす者
 第9話 手と手を差し伸べ合って
 第10話 心は通じない/瞳の先に届かない
 第11話 決闘交差-前編:度重なる否定-
 第12話 決闘交差-後編:ゆずれないもの-
 第13話 孤児院ルミナス1-砕けて散ったカード-
 第14話 孤児院ルミナス2-新しい生活-
 第15話 孤児院ルミナス3-デュエルモンスターズとの再会-
 第16話 孤児院ルミナス4-置いてきた影-
 章末特集2 簡易人物紹介





第8話 遥か高みより見下ろす者



 ――右手を握り締め、この『力』に感覚を巡らせる。
 この『力』があるから、精霊たちと触れ合うことができる。
 そして、あのときみんなを守るために『力』を振るえた。
 けれど、この『力』にはまだ違う側面がある。
 ――イルニルが打ち砕かれた瞬間が脳裏によぎる。
 意思を込めれば、それさえもできる。
 必要以上に『力』を引き出せば、精霊は壊れてしまう。
 だから、翼は精霊の力を軽々しく使わない。
 誰かを守る、本当に必要なときにしか使おうとしない。
 だからこそ、斗賀乃の『力』の使い方が許せない。
 
 同時にこの『力』について、翼は何も知らない。
 できることは感覚を通じて自動的に伝わってくる。
 しかし、この『力』がどこから来ているのか。
 なぜ自分に宿っているのか。
 何を自分に求めているのか。
 何もかもは謎のままである。
 幼い頃に両親を亡くした翼には、その『力』の由縁がよく分からなかった。
 だからこそ、何もかもを知っているような斗賀乃に興味もあった。


 一人と一人が向き合うだけの決闘部屋。
 主に個人テストに使われるための狭い部屋。
 そこで翼は斗賀乃と向き合っていた。
 フリークス・バスターズの仲間たちも心配そうに見守っている。

「しかし、クロノス先生に鮫島校長まで観戦に来るなんて。
 このデュエル、そこまでの注目に値するものなのですか?」

 藤原が戸惑いがちに問いかける。
 鮫島は微笑んだ表情だが、声に緊張感を残したまま答える。

「ええ。ぜひとも観戦したい。
 久白くんもこれからの成長が楽しみなデュエリストですが、
 それ以上に――」

 すまし顔の斗賀乃に目をやりながら、鮫島は言葉を続けた。

「斗賀乃くんのデュエルは遥か高みの領域に到達したデュエルだ。
 何度見ても、そのデュエルには感心させられるばかりだ」

 クロノスが頷いて、同意を示す。

「私たちはプロ並みのデュエルも、プロのデュエルも幾度となく見ているノーネ。
 それと比較しても、ミスター斗賀乃のデュエルは一線を画していルーノ。
 プロのデュエルでは、その不利な状況を打開するキーカードが
 まるで呼び寄せられたかのように舞い込むことがよくあるノーネ。
 それはセニュールたちがあのタッグデュエルで見た通りなノーネ。
 けれード、ミスター斗賀乃のデュエルはその上をいくーノ。
 まるでデッキがミスター斗賀乃の意志に従うようにコンボが繋がるノーネ……」

 明菜はうーん……と首をひねる。

「そう漠然と言われても、あたしにはよく分からないなぁ……」

「でも、ボクもあの先生ならそうかもしれないって思うよ。
 あの斗賀乃先生の『精霊学』の授業もデュエルモンスターズの
 さらに一回り奥の世界を目指すみたいだった。
 どんなデュエルをするんだろう……」

 レイもこのデュエルに関心があるらしい。

「デュエルモンスターの出自や世界観に思索を巡らす授業だったな。
 独特の分野で驚かされたが、デュエルにはどう反映されるんだろうな。
 そこには僕も興味がある。だが、それ以上に……」

 藤原は一つ息を飲み、つぶやく。

「このデュエル、何か嫌な予感がするんだ」


 翼は斗賀乃のデッキを入念にシャッフルしていた。
 斗賀乃もまた淡々と翼のデッキをシャッフルする。
 やはり斗賀乃のデッキからは精霊の波長が伝わってくる。
 しかし、その波長は驚くほど静かで得体が知れなかった。
 まるで絶対の君主の下で粛々と軍務に励む騎士のような静けさ。
 翼の感じたことがないような、異質な波長を放つデッキだった。

「このデュエルで俺が勝ったら、この力について知ってることを全部教えてほしい」

 翼が頼みを切り出すと、斗賀乃は平坦にその要求に応じる。

「いいでしょう。しかし、君に負けることはありませんよ」

 斗賀乃はあたかも当然のように、自身の勝利を確信している。
 翼のデッキをシャッフルしながら、それに目を落とす。

「こんな馴れ合いのような烏合の衆のデッキでは、私には及びません」

「そんなことやってみなくちゃ分からない!」

「ふふ、そうでしょうね。
 君は私に負けるまで強がり続けるでしょう
 ですが――」

 斗賀乃がデッキを差し出し、お互いにシャッフルしたデッキを交換する。
 翼のデッキから伝わってくる波長は、――まるで怯えているようだった。

「この勝負で君はその甘さを認識することになるでしょう。
 そして、知りなさい。君の力はもっと過酷な道にこそ相応しいのです」

「甘いとか過酷とか、どういうことなんだよ!」

「君は私のデッキに触れて、何を感じましたか?」

「……冷たくて静かで、押さえ込まれている感じだった」

「フフ、そうですか。君にはそう映るのかもしれませんね。
 そんな無理強いされたデッキなら圧倒できる、そうとも思っているのでしょう」

 斗賀乃はデッキをディスクにセットし、祈るように目を閉じた。
 そのまぶたの裏側は青に染まっているのだろう。
 『力』の気配が翼にも伝わってくる。
 斗賀乃は目を見開き、翼に一層鋭い視線を向ける。

「彼らは私に従う敬虔なる信徒。
 君とは違う圧倒的なデュエルをお見せしましょう。
 そして、君の素質をこのデュエルで見極めるとしましょう」

 雰囲気に飲まれそうになりながらも、翼も意を決してデッキをセットする。
 この勝負には負けられない。
 ――自分の『力』を曲げないためにも。
 ――自分の『力』を知るためにも。


「 「 デ ュ エ ル !!」 」

斗賀乃 涯 VS 久白 翼

「私の先攻です、ドロー」

 斗賀乃のターンが静かに開始される。
 手札にさっと目を通して、迷いなく1枚のカードを手に取る。

「《手札抹殺》を発動します。
 互いに手札をすべて捨てて、その分カードを引きなおします。
 私はこのまま5枚のカードを捨てましょう」

「……分かった。俺も手札をそのまま捨てて入れ替える」

《手札抹殺》
【魔法カード】
お互いの手札を全て捨て、それぞれ自分のデッキから
捨てた枚数分のカードをドローする。

「いきなり《手札抹殺》!?
 普通なら有用なカードを伏せてからプレイするカードだ。
 それを一体なぜ……」

 知識と経験の豊富な藤原でさえ、そのプレイングに疑問を覚える。

「よく見ておくノーネ。
 これがミスター斗賀乃の縦横無尽なタクティクスの起点なノーネ」

「確かに今墓地に送られたカードは、ほとんどが墓地でも効果を発揮できるカード……。
 しかし、それにしても極端な一手目だ……」

 アカデミアとプロリーグで一般的なプロフェッショナル・ルールにおいては、
 相手の効果テキストは効果が判明するまで読むことができない。
 また、手札やデッキから墓地に送られるカードも、一定時間イラストが公開されるのみである。
 よって、イラストを見ただけで瞬時に効果が連想されなければ、上級者とは呼べない。
 藤原やクロノスには斗賀乃の墓地送りの脅威が分かっても、今の翼には認識できない。
 翼のカード知識の乏しさは、これから確実に補うべき欠点である。

 斗賀乃は周りの動揺に一切反応せず、淡々とカードを手に取る。
 相変わらず、そのカード選択には一瞬の迷いも見られない。

「モンスターをセット。リバースを1枚セットして、ターンエンドです」

 謎の多いまま、1ターン目が終了する。

「俺のターンだ! ドロー!」

 翼は手札に目を通して、相手の場と比べる。
 2枚も正体の分からないカードがあって攻めにくい。
 しかし、相手の戦術も早めに確認しておきたい。
 そのためには、――まずは積極的に攻め抜く。

「俺は《英鳥ノクトゥア》を召喚する!
 その効果でデッキから《輝鳥現界》を手札に加えるよ!」

《英鳥ノクトゥア》 []
★★★
【鳥獣族・効果】
このカードの召喚・特殊召喚に成功した時、
自分のデッキから「輝鳥」と名のついたカード1枚を選択して手札に加える。
ATK/ 800 DEF/ 400

「そして、そのまま儀式魔法《輝鳥現界》を発動だ!
 場のノクトゥアとデッキのアイビスを生け贄に捧げる!
 俺が儀式召喚するのは――」

《輝鳥現界》
【魔法カード・儀式】
「輝鳥」と名のつくモンスターの降臨に使用することができる。
レベルの合計が儀式召喚するモンスターと同じになるように、
自分のフィールドとデッキからそれぞれ1枚ずつ鳥獣族モンスターを生贄に捧げる。

 手札から1枚の精霊のカードを手に取る。
 あの斗賀乃先生と向き合っていると少し怖いけれど。
 いつものデッキと――精霊達と―― 一緒に闘えるなら大丈夫だ。
 励ましてくれる精霊の勇壮な波長を感じながら、翼はカードを目の前に掲げる。

「いくよ! 大地の《輝鳥-テラ・ストルティオ》!!
 今アイビスが儀式の生け贄に捧げられたから、1枚ドローする。
 そして、ストルティオの召喚時の効果発動だ!
 『ルーラー・オブ・ジ・アース』!!
 墓地のアイビスを攻撃表示で復活させるよ!」

《輝鳥-テラ・ストルティオ》 []
★★★★★★★
【鳥獣族・儀式/効果】
「輝鳥現界」により降臨。
このカードの属性はルール上「地」としても扱う。
このカードが儀式召喚に成功した時、自分の墓地の鳥獣族モンスター1体を特殊召喚する。
ATK/2500 DEF/1900

《霊鳥アイビス》 []
★★★★
【鳥獣族・効果】
このカードを生け贄にして儀式召喚を行った時、自分のデッキからカードを1枚ドローする。
ATK/1700 DEF/ 900

「なるほど。最初から威勢のいい攻めの布陣ですね。
 いや、それとも――」

 斗賀乃は目を細めて、翼の表情をうかがう。

「――怖いから強がるのですか?」

「!!」

 見抜くような斗賀乃の揺さぶりを振り切るように、翼は指示を繰り出す。

「いくよ! ストルティオで攻撃だ!
 『シャイニング・クエイクレッグ』!!」

 威勢よく繰り出される大地のダチョウの蹴り。
 伏せられていたモンスターはあっけなく踏み砕かれるが――。

「――モンスターのリバース効果の発動です」

 踏み砕かれたモンスターから、無数のトゲが放たれる。
 翼は思わず身構えるが、そのトゲの向かう先は――翼のデッキ。

「伏せられていたモンスターは《ニードルワーム》です。
 君のデッキの上から5枚を墓地に送ってください」

《ニードルワーム》 []
★★
【昆虫族・効果】
リバース:相手のデッキの上からカードを5枚墓地へ捨てる。
ATK/ 750 DEF/ 600

「デッキを削る効果の《ニードルワーム》……?
 まさか狙いは――」

 翼の脳裏にシルキルとのデュエルの記憶がよぎる。
 確かに翼のデッキに有効な戦術ではあるが――。

「特にデッキ破壊を狙うわけではありませんよ。
 さあ、まだ攻撃モンスターは残っていますね。
 どうしますか?」

 場のモンスターは破壊できた。斗賀乃の場に残ったのは1枚の伏せカードだけ。

「ここは攻撃するよ!
 アイビスの攻撃! 『ライト・インパルス』だ!」

 幻想的な容姿のトキのモンスターは、聖なる音波を放ち攻撃する。
 斗賀乃に届こうとした――、そのとき天使の幻影が立ちふさがる。

「カウンタートラップ《エンジェル・ロンド》発動です。
 手札の《水霊ガガギゴースト》を墓地に捨てて、直接攻撃を無効に。
 さらにカードを2枚ドローします」

《エンジェル・ロンド》
【罠カード・カウンター】
相手モンスターの直接攻撃宣言時に、手札を1枚捨てて発動する。
相手モンスターの直接攻撃を1度だけ無効にする。
その後、自分のデッキからカードを2枚ドローする。

「明菜も使う攻撃回避のカード……。
 でも、これで場のカードはなくなった!
 俺はカードを2枚伏せてターンを終了するよ!」

斗賀乃
LP4000
モンスターゾーン
なし
魔法・罠ゾーン
なし
手札
4枚
LP4000
モンスターゾーン
《輝鳥-テラ・ストルティオ》、《霊鳥アイビス》
魔法・罠ゾーン
伏せカード×2
手札
3枚

「私のターンですね。ドロー。
 そして、墓地からモンスター効果発動です。
 スタンバイフェイズに私の場にリバースが存在しません。
 よって、《黄泉ガエル》を墓地から場に特殊召喚します」

《黄泉ガエル》 []

【水族・効果】
自分のスタンバイフェイズ時にこのカードが墓地に存在し、
自分フィールド上に魔法・罠カードが存在しない場合、
このカードを自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。
この効果は自分フィールド上に「黄泉ガエル」が 表側表示で存在する場合は発動できない。
ATK/ 100 DEF/ 100

「最初の《手札抹殺》で墓地に送られていたカード……!?
 でも、1体の生け贄だけで俺のストルティオの突破は……」

「さて、試させていただきます。
 キミの墓地の《輝鳥-イグニス・アクシピター》をゲームから除外します。
 手札より《火霊あまつきつね》を特殊召喚です。
 さらに墓地の《英鳥ノクトゥア》を除外して、《風霊セイリュウ》を特殊召喚。
 そして、手札より《地霊イビル・ビーバー》を通常召喚します」

「一気に4体のモンスターを揃えるなんて!
 しかも翼の墓地のモンスターまで利用して!!」

 矢継ぎ早に繰り出されるモンスターに、誰もが戸惑いを隠せない。

《火霊あまつきつね》 []
★★★★
【獣族・効果】
このカードは相手の墓地に存在する炎属性モンスター1体を
ゲームから除外し、手札から特殊召喚することができる。
自分フィールド上の炎属性モンスター1体を生贄に捧げることで、
このターンこのカードは相手プレイヤーに直接攻撃する事ができる。
ATK/1850 DEF/ 800

《風霊セイリュウ》 []
★★★★
【ドラゴン族・効果】
このカードは相手の墓地に存在する風属性モンスター1体を
ゲームから除外し、手札から特殊召喚することができる。
自分フィールド上の風属性モンスター1体を生贄に捧げることで、
このターンこのカードは相手プレイヤーに直接攻撃する事ができる。
ATK/1850 DEF/1400

《地霊イビル・ビーバー》 []
★★★★
【獣族・効果】
このカードは相手の墓地に存在する地属性モンスター1体を
ゲームから除外し、手札から特殊召喚することができる。
自分フィールド上の地属性モンスター1体を生贄に捧げることで、
このターンこのカードは相手プレイヤーに直接攻撃する事ができる。
ATK/1850 DEF/1200

 どのモンスターの攻撃力もストルティオには及ばない。
 だが、あの斗賀乃が考えなしにモンスターを並べるはずがない。
 ――そして、残るあと2枚の手札。
 翼の直感が危機を告げる。

「そして――」

 斗賀乃が1枚のカードを手に取った瞬間、翼の背筋に悪寒が走った。
 ――あのカードを使わせてはいけない。
 生存本能にも似た何かが、翼を無意識のうちに突き動かしていた。

「俺はリバースカード、《水霊術−「葵」》を発動する!
 場の水属性のアイビスを生け贄に捧げ、相手の手札を確認して1枚を墓地に送る!
 その2枚の手札を見せてもらうよ!」

《水霊術−「葵」》
【罠カード】
自分フィールド上に存在する水属性モンスター1体を生け贄に捧げる。
相手の手札を確認し、カードを1枚選択して墓地に送る。

 翼のカード発動に応じて、斗賀乃は手札を公開した。

「ふふふ。よくぞ見抜きましたね。
 凡夫たるデュエリストならば、ここで終わっていたところですよ。
 少しずつ勘も戻ってきたというところでしょうかね。
 もっとも、まだまだ児戯に等しい抵抗ですが。
 さあ、あなたを絶命させるはずだったカードを御覧なさい」

 《水霊術−「葵」》の効果により、翼は斗賀乃のカードを確認する。

《ガード・ブロック》
【罠カード】
相手ターンの戦闘ダメージ計算時に発動する事ができる。
その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になり、
自分のデッキからカードを1枚ドローする。

《ブライト・ウイング・ペガサス》 []
★★★★★★★★★★
【獣族・効果】
このカードは通常召喚できない。
自分フィールド上に存在する4種類のモンスターを
生贄に捧げた場合に特殊召喚する事ができる。
このカードは相手プレイヤーを直接攻撃する事ができる。
ATK/4500 DEF/3600

 前者は翼もよく使う馴染みのあるカード。
 しかし、後者は――。

「レベル10の特殊召喚モンスター!
 しかもこの能力……」

 翼は驚きのあまり言葉が続かなかった。
 今伏せていたカードでは防げない攻撃だった。
 一瞬で勝負を決着させようとする斗賀乃の戦術。
 一難去った今も胸の動悸が激しいままだ。
 天馬のカードを墓地に送り、一息をついて翼は場を見返す。
 そして、――斗賀乃の攻撃的な視線と目が合った。

「――何を安心しようとしているのです?
 私の攻撃は終わってませんよ」

「そんな! どのモンスターも俺のストルティオの攻撃力に及ばない。
 手札だって《ガード・ブロック》だけなのに、何をしようと……」

「手札とフィールドだけがカード効果を発動する場ではありません。
 墓地にも、そして除外ゾーンにも、あらゆる可能性があるのですよ
 さて、墓地から効果を発動します。除外発動、《スキル・サクセサー》。
 墓地からこのトラップカードをゲームから除外し、
 場のモンスターの攻撃力を800ポイント上昇させます。
 私は《風霊セイリュウ》の攻撃力を上昇させます」

《スキル・サクセサー》
【罠カード】
自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動する。
このターンのエンドフェイズ時まで、
選択したモンスターの攻撃力は400ポイントアップする。
また、墓地に存在するこのカードをゲームから除外する事で、
自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体の
攻撃力はこのターンのエンドフェイズ時まで800ポイントアップする。
この効果はこのカードが墓地へ送られたターンには発動する事ができず、
自分のターンのみ発動する事ができる。


《風霊セイリュウ》ATK1850→2650

「墓地から発動する罠!? ストルティオの攻撃力を上回ってきた!?」

「さあ、総攻撃です!
 セイリュウよ、ストルティオを攻撃なさい!」

 半透明の竜の精霊が凄まじい勢いでストルティオに飛びかかる。
 その攻撃を跳ね除けるように、翼はリバースを開いた。

「トラップ発動だ! 《守護の烈風》!
 鳥獣族モンスターに攻撃してきたモンスターをデッキの一番上に戻す!」

《守護の烈風》
【罠カード】
自分フィールド上に表側表示で存在する鳥獣族モンスターが
攻撃宣言を受けたときに発動する事ができる。
相手モンスター1体の攻撃を無効にし、
その攻撃モンスターを持ち主のデッキの一番上に置く。

 すさまじい風がセイリュウを押し戻し、斗賀乃の攻撃を挫いた。

「なるほど。その程度の備えはありましたか。
 いいでしょう。バトルは終了です。
 私は君もご存知の罠を伏せて、ターンを終了します」


斗賀乃
LP4000
モンスターゾーン
《黄泉ガエル》、《地霊イビル・ビーバー》、《火霊あまつきつね》
魔法・罠ゾーン
伏せカード×1(《ガード・ブロック》)
手札
0枚
LP4000
モンスターゾーン
《輝鳥-テラ・ストルティオ》
魔法・罠ゾーン
なし
手札
3枚

「すごい……。ボクあんな戦術見たことがない。
 どちらも防がなかったら、すぐにライフがゼロになってた。
 こんなデュエルをする先生がいるなんて……」

 レイが呆然と先のターンの斗賀乃の猛攻を振り返る。

「これがミスター斗賀乃のデュエル。
 手札はおろか、墓地からさえ縦横無尽に致命傷を狙ってくる。
 しかし、翼くんもよく防いだものだ。
 このデュエル、思った以上に見ごたえのあるものになりそうだ」

 鮫島が期待を込めた眼差しを送る。
 観戦する者でさえ動揺せざるを得ない斗賀乃の猛攻。
 ――まして対峙する翼の受けるプレッシャーは並みのものではない。

「俺のターン、ドローだ!」

 場にカードがある時点で、斗賀乃は墓地から何を繰り出すか分からない。
 ここは少しでも斗賀乃の攻めの可能性を断たなければならない。
 今の手札ならば、少し強引でもそれができる。

「俺は《輝鳥現界》を発動する!
 場のストルティオを生け贄に、そしてデッキからピクスを生け贄にして――!」

《輝鳥現界》
【魔法カード・儀式】
「輝鳥」と名のつくモンスターの降臨に使用することができる。
レベルの合計が儀式召喚するモンスターと同じになるように、
自分のフィールドとデッキからそれぞれ1枚ずつ鳥獣族モンスターを生贄に捧げる。

 翼は瞳を閉じて1枚のカードをかざして念じる。
 フィールドの霊圧が高まり、その手札が一瞬光を放った。
 暖かく力強い精霊の鼓動が伝わってくる。
 このカードとならば、斗賀乃の布陣を突破できる。

「レベル10の儀式モンスター! 光輝(こうき)の《輝鳥-ルシス・ポイニクス》を召喚だ!!」

 翼の切り札、輝鳥たちの頂点に立つ儀式モンスター。
 さんざめき輝く眩い白の不死鳥が斗賀乃の場へと飛びこむ。
 そして地面に溶け込み、森羅万象の――ありとあらゆる――力に呼びかける。
 天変地異を誘発する輝鳥。その最上位効果が今解き放たれる。

「そして、その召喚時効果だ! 『ルーラー・オブ・ザ・ライト』!!
 相手の場のモンスターをすべて破壊だ!」

《輝鳥-ルシス・ポイニクス》 []
★★★★★★★★★★
【鳥獣族・儀式/効果】
「輝鳥現界」により降臨。
このカードを手札から儀式魔法により降臨させるとき、
自分フィールド上に存在する「輝鳥」と名のつく
儀式モンスターを生贄に捧げなければならない。
このカードの属性はルール上「風」「水」「炎」「地」としても扱う。
このカードが儀式召喚に成功した時、
相手フィールド上に存在する全てのモンスターを破壊する。
ATK/3000 DEF/2500

 マグマを嵐で巻き上げ、すべてのモンスターが飲み込まれる。
 3体のモンスターを圧倒し、ポイニクスは誇らしげに翼のもとへ舞い戻る。

「光の輝鳥による全滅効果ですか……。
 下級モンスター相手にずいぶんと息巻くのですね」

 圧倒的な全滅効果。しかし、斗賀乃は涼しげにその効果を見送るだけ。
 その冷徹な視線を振り切るように、翼はさらにカードをかざす。

「魔法カード《思い出のブランコ》を発動だ!
 墓地の《バードマン》を攻撃表示で、このターン限り復活させるよ!」

《思い出のブランコ》
【魔法カード】
自分の墓地に存在する通常モンスター1体を選択して発動する。
選択したモンスターを自分フィールド上に特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したモンスターはこのターンのエンドフェイズ時に破壊される。

《バードマン》 []
★★★★
【鳥獣族】
マッハ5で飛行する鳥人。その眼光は鷹より鋭い。
ATK/1800 DEF/ 600

 《ガード・ブロック》が伏せられているのは分かっている。
 だが、相手の場が空くこのチャンスに必ず攻撃を通す。
 赤いマフラーをなびかせる逆立つ黒髪の鳥獣戦士《バードマン》。
 ポイニクスとともに頷き、斗賀乃の場に攻撃を仕掛ける。

「バトル! ポイニクスで攻撃だ!
 『シャイニング・メテオラッシュ』!!」

 あらゆる力を内包した無限の白の尾長鳥。
 体を燃焼させ、自らを彗星と化して、斗賀乃に猛然と激突する。

「トラップです、《ガード・ブロック》。
 ポイニクスの攻撃を無効化して、カードを1枚ドローします」

《ガード・ブロック》
【罠カード】
相手ターンの戦闘ダメージ計算時に発動する事ができる。
その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になり、
自分のデッキからカードを1枚ドローする。

 淡々と防がれる攻撃。
 しかし、防がれるのは分かっていたこと。

「でも、これで先生の場はモンスターもリバースもなくなった!
 《バードマン》! ダイレクトアタックだ!」

 マッハを超える猛スピードの拳が、砂塵を巻き上げて斗賀乃に迫る。
 そして、甲高い音が響いた。
 金属と金属がぶつかり合ったような耳をつんざく音。
 斗賀乃にダイレクトアタックしたはずなのに、はじかれたかのような音。
 砂塵が収まり、ようやく斗賀乃の場を確認すると、
 そこには戦士の亡霊が立ちはだかっていた。

「墓地の《ネクロ・ガードナー》の効果を発動しました。
 これにより《バードマン》の攻撃を防ぎます。
 その程度の過酷では、私には届きません」

《ネクロ・ガードナー》 []
★★★
【戦士族・効果】
自分の墓地に存在するこのカードをゲームから除外して発動する。
相手モンスターの攻撃を1度だけ無効にする。
ATK/ 600 DEF/1300

「また墓地からの効果で……。
 くっ……」

 決まったと思った攻撃が防がれ、翼は表情をゆがめる。

「俺はターンを終了するよ」

 翼は1枚の手札を温存して、ターンを終了した。

 それでも斗賀乃の場からはカードがなくなった。
 手札もたった1枚。さっき《守護の烈風》で戻した《風霊セイリュウ》のみだ。
 攻撃力3000のモンスターにすぐ抵抗できるはずがない。
 ――しかし、斗賀乃はそんな常識の通じるデュエリストだったか。
 嫌な予感をぬぐえないまま、ターンはまわる。

「ならば私のターンですね、ドロー。
 さて、攻め返さなければいけませんね」

 不利な状況のはずが、余裕を崩さずにカードを手に取る。

「場に儀式モンスターがいますから、私は《祝宴》を発動します。
 デッキからカードを2枚ドロー」

《祝宴》
【魔法カード・速攻】
フィールド上に表側表示の儀式モンスターが
存在するときのみ発動することができる。
自分のデッキからカードを2枚ドローする。

「な! 俺のポイニクスがいることを利用して!
 どうしてそんなカードをデッキに!」

「どうしてって、さして驚くことではありませんよ。
 あなたと対戦することが分かっていれば、あらかじめ投入するのが当然でしょう。
 ですが、それだけでデッキ調整するほど、私はあなたを恐れていません。
 分かりますかね。つまり、私の戦術のうちには――」

 斗賀乃は1枚のカードを翼に掲げた。
 それは翼のデッキにも投入されている儀式サポートのカード。
 ――《儀式の準備》。

「儀式も含まれているということです。
 《儀式の準備》を発動。
 この魔法カードの効果により、墓地から儀式魔法を回収し、
 デッキから儀式モンスターをサーチします。
 私が手札に加えるのは、それぞれ――」

《儀式の準備》
【魔法カード】
自分のデッキからレベル7以下の儀式モンスター1体を手札に加える。
その後、自分の墓地から儀式魔法カード1枚を手札に加える事ができる。

 瞬時にデッキと墓地からカードを選び出し、翼に掲げる。

「墓地からは《高等儀式術》を、デッキからは《ガルマソード》を手札に加えます。
 そして、このまま《ガルマソード》降臨の儀式です。
 《高等儀式術》を発動!」

《高等儀式術》
【魔法カード・儀式】
手札の儀式モンスター1体を選択し、そのカードとレベルの合計が
同じになるように自分のデッキから通常モンスターを選択して墓地に送る。
選択した儀式モンスター1体を特殊召喚する。

 場に緑の魔法陣が浮き出て、柔らかな光が立ち上る。
 しかし、その光は黒く染まり、邪悪なる瘴気が立ち込める。

「デッキより通常モンスターをレベル7になるように生け贄に捧げます。
 《邪炎の翼》、《プチリュウ》、《デーモン・ビーバー》、《チェンジ・スライム》を生け贄に。
 さぁ来なさい! 邪悪なる魔剣士《ガルマソード》!」

 6本の腕を持ち、6連剣舞を繰り出す闇の魔剣士。
 邪悪なる誓いに呼応した闇の剣の求道者が降臨する。

《ガルマソード》 []
★★★★★★★
【戦士族・儀式】
「ガルマソードの誓い」により降臨。
ATK/2550 DEF/2150

「攻撃表示……。つまり、また墓地からッ!」

「ふふ、少しは学習しているようですね。
 ご明察の通りですよ! 墓地より2枚目の《スキル・サクセサー》を発動!
 《ガルマソード》の攻撃力を800ポイント上昇させます。
 さらに装備魔法《アサルト・アーマー》を装備し、その装備を解除。
 《ガルマソード》に連続攻撃の能力を付加します!」

《スキル・サクセサー》
【罠カード】
自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動する。
このターンのエンドフェイズ時まで、
選択したモンスターの攻撃力は400ポイントアップする。
また、墓地に存在するこのカードをゲームから除外する事で、
自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体の
攻撃力はこのターンのエンドフェイズ時まで800ポイントアップする。
この効果はこのカードが墓地へ送られたターンには発動する事ができず、
自分のターンのみ発動する事ができる。


《アサルト・アーマー》
【魔法カード・装備】
自分フィールド上に存在するモンスターが
戦士族モンスター1体のみの場合、そのモンスターに装備する事ができる。
装備モンスターの攻撃力は300ポイントアップする。
装備されているこのカードを墓地へ送る事で、このターン装備モンスターは
1度のバトルフェイズ中に2回攻撃する事ができる。

《ガルマソード》ATK2550→3350→3650→3350(2回攻撃可能)

「《風霊セイリュウ》も通常召喚しておきましょう。
 さて、《ガルマソード》で攻撃です!
 『修羅奥義――螺旋剣舞6連』!!」

 《ガルマソード》が駆け、ポイニクスの目にさえ止まらぬ連撃を繰り出す。

「あの状況から逆転して、また連続攻撃とはあり得ないノーネ!
 毎ターン致命傷を狙ってくるなんーテ、驚きーノペペロンチーノなノーネ!」

「いや、久白なら大丈夫だ。
 強引にでも儀式しておいて命拾いしたというべきか……」

「俺も墓地からモンスター効果を発動するよ!
 ポイニクスの儀式で墓地に送ったピクスの効果だ!
 このターン俺の受けるダメージをゼロにする!」

 淡いオーラが翼を包み込み、攻撃の余波から翼を護った。

《恵鳥ピクス》 []
★★★
【鳥獣族・効果】
自分の墓地に存在するこのカードをゲームから除外して発動する。
このターン、コントローラーへの戦闘ダメージは0になる。
ATK/ 100 DEF/ 50

「そのカードが墓地にあることは知っていました。
 それを消耗させるための攻撃です。
 さて、手札もなくなりました。ターンを終了します」

「俺のターン、ドロー!」

 こちらも仕掛けているはずなのに、どうしても押し返される。
 それほど斗賀乃の戦略は底が知れない。
 それでも立ち向かわなくてはいけない。

「先生の場に儀式モンスターがいる。
 だから、俺も《祝宴》を発動するよ!
 カードを2枚ドローする!」

《祝宴》
【魔法カード・速攻】
フィールド上に表側表示の儀式モンスターが
存在するときのみ発動することができる。
自分のデッキからカードを2枚ドローする。

「ふふ、真似事をしたところで、果たして届きますか?」

「くっ……」

 引いたカードは、すぐに苦境を打開できるカードではない。
 それでも来るであろう猛攻を凌ぐべく、翼はカードをできる限り出す。

「俺はモンスターをセット。
 リバースをセットして、ターンを終了するよ!」

「では、私のターンです。ドロー。
 スタンバイフェイズ、墓地の《黄泉ガエル》が再生召喚されます」

斗賀乃
LP4000
モンスターゾーン
《黄泉ガエル》、《ガルマソード》、《風霊セイリュウ》
魔法・罠ゾーン
なし
手札
1枚
LP4000
モンスターゾーン
伏せモンスター×1
魔法・罠ゾーン
伏せカード×1
手札
1枚

 斗賀乃は墓地に一瞬目をやり、カードを掲げる。

「《貪欲な壺》を発動します。
 墓地の憑依精霊3体と《チェンジ・スライム》、
 そして《ブライト・ウイング・ペガサス》をデッキに戻し、
 カードを2枚ドローします」

「ここで手札を増強!
 ここで攻められたら、翼くんが守りきれるか……」

「それもそうだが、デッキに戻すモンスターが理解できない。
 なぜ通常モンスターを敢えて墓地に残す……?
 また何かを狙っているのか……」

 校長と藤原の懸念通りに、斗賀乃は迷いなく1枚を左手に取る。

「《黄泉ガエル》を生贄に捧げ、《雷帝ザボルグ》を生贄召喚します」

 雷音がデュエル会場に鳴り響き、そしてまぶしい光が続いた。
 雷を操る上級モンスター、《雷帝ザボルグ》。
 背に掲げる雷太鼓を打ち鳴らし、轟音が嵐を呼ぶ。

「生贄手段の豊富な私のデッキならば、帝モンスターの召喚も容易です。
 そして、生贄召喚時の効果。相手モンスター1体を破壊します。
 そのセットモンスターを破壊です」

《雷帝ザボルグ》 []
★★★★★
【雷族・効果】
このカードが生贄召喚に成功した時、 フィールド上のモンスター1体を選択して破壊する。
ATK/2400 DEF/1000

 裏守備のモンスターに雷が直撃し、正体が暴かれる。
 ずんぐりとした体格のハトがあっけなく黒焦げにされてしまう。
 ――しかし、そこに聖なる羽根が残っている。

「破壊された《寧鳥コロンバ》の効果だ!
 カードを1枚ドローするよ!」

《寧鳥コロンバ》 []
★★★
【鳥獣族・効果】
自分フィールド上に存在するこのカードが破壊され墓地へ送られた時、
自分のデッキからカードを1枚ドローする。
ATK/ 0 DEF/2000

「ドローで次につなげようとしますか……。
 ですが、これでがら空き。ダイレクトアタックができます。
 セイリュウで攻撃です。防ぐカードはありますか?」

「あるさ! 《イタクァの暴風》を発動する!
 バトルモンスターをすべて守備表示に変更する!」

《イタクァの暴風》
【罠カード】
相手フィールド上に表側表示で存在する
全てのモンスターの表示形式を変更する。

 総攻撃をしのいだ翼に、斗賀乃は冷ややかな視線を送る。

「一時凌ぎにすぎないダメージ回避を続けて、どうするつもりです?
 私の攻撃をやっと受け止めているだけでは、勝負になりませんよ」

「次に繋げるための守りだ! すぐにでも逆転してみせる!」

「強がっても、実力差は埋まりません。
 私と君では精霊への到達度が違います。
 君はまだそのデッキも精霊も活かしきれていない」

「くっ……」

 反論の言葉が続かなかった。
 斗賀乃は強い。
 手札どころか墓地からも仕掛けてくる攻め手の広さ。
 そして、属性も種族も種類も活かし、モンスターの特性を網羅している。
 まるで精霊のことを理解し尽くしているかのように。

「もっと君の力を見せてみなさい。
 そうでなければ、私が叩き斬るのみです。
 カードを1枚伏せて、ターンエンドです」

斗賀乃
LP4000
モンスターゾーン
《雷帝ザボルグ》、《ガルマソード》、《風霊セイリュウ》
魔法・罠ゾーン
伏せカード×1
手札
なし
LP4000
モンスターゾーン
なし
魔法・罠ゾーン
なし
手札
2枚

 自分の実力は十分発揮できているはずだった。
 3度の自分のターンのうち、守備に回ったのはさっきのターンだけ。
 あとは輝鳥を召喚して、攻撃を仕掛けていた。
 しかし、届かない。斗賀乃の守りは硬い。
 だが――。

「俺だって精霊との絆は負けない!
 先生に攻撃を届かせてみせる!
 俺のターンだ、ドロー!」

 引いたカードを目にして、翼の目つきが鋭くなる。

「俺は《ソニックバード》を召喚だ!
 そして、その効果でデッキから儀式魔法をサーチする!
 俺が手札に加えるのは――」

《ソニックバード》 []
★★★★
【鳥獣族・効果】
このカードが召喚・反転召喚に成功した時、 自分のデッキから儀式魔法カード1枚を手札に加える事ができる。
ATK/1400 DEF/1000

 最初の《手札抹殺》と《ニードルワーム》でカードを削られた。
 《大地讃頌》と《高等儀式術》は既に墓地にある。
 デッキに残る儀式魔法はあと1枚のみ。

「3枚目の《輝鳥現界》を手札に加える!」

《輝鳥現界》
【魔法カード・儀式】
「輝鳥」と名のつくモンスターの降臨に使用することができる。
レベルの合計が儀式召喚するモンスターと同じになるように、
自分のフィールドとデッキからそれぞれ1枚ずつ鳥獣族モンスターを生贄に捧げる。

「そして、そのまま発動だ! 《輝鳥現界》の儀式!
 場の《ソニックバード》とデッキの《命鳥ルスキニア》を生贄に捧げる!
 手札から儀式召喚するのは――」

 デッキのモンスターは既に限られている。
 儀式召喚できるチャンスは恐らくこれが最後になる。
 だが、この効果を通せたのなら、一気に逆転が見えてくる。

「いけ! 水の《輝鳥-アクア・キグナス》!!
 さらに儀式召喚時の効果だ!
 『ルーラー・オブ・ザ・ウォーター』!!
 俺は《ガルマソード》をデッキに、《風霊セイリュウ》を手札に戻す!」

《輝鳥-アクア・キグナス》 []
★★★★★★★
【鳥獣族・儀式/効果】
「輝鳥現界」により降臨。
このカードの属性はルール上「水」としても扱う。
このカードが儀式召喚に成功した時、フィールド上のカード2枚を選択し、
1枚をデッキの一番上に、もう1枚を持ち主の手札に戻す。
ATK/2500 DEF/1900

 地面から水柱が噴き上げ、2体のモンスターを押し戻す。

「ふむ……、なるほど」

 斗賀乃はリバースを発動せずに、キグナスの効果を通した。
 手札を戻され、デッキトップを固定された不利な状況のはず。
 だが、斗賀乃は表情を崩さず、翼のプレイを冷ややかに見つめている。

「そして、守備表示の《雷帝ザボルグ》に攻撃だ!
 『シャイニング・スプリットウイング』!!」

 帝モンスターの守備力は低い。
 キグナスの翼に薙ぎ払われ、あっけなく消滅する。

 最後に斗賀乃の場に残ったのは、結局発動されなかったリバースのみ。
 召喚にも攻撃にも対応してこなかったのだから、警戒の必要性は薄いはず。
 手札は《風霊セイリュウ》のみ。次のドローも《ガルマソード》で決定されている。

「よし! 俺はカードを1枚伏せて、ターンエンドだ!」

 そして、今伏せたカードは《蒼炎の洗礼》。
 このカードは儀式モンスターの攻撃力を急上昇させるカード。

《蒼炎の洗礼》
【魔法カード・速攻】
自分の墓地に存在する儀式モンスター1体と
そのカードに記されている儀式魔法1枚をゲームから除外して発動する。
エンドフェイズ時まで自分フィールド上に表側表示で存在する
儀式モンスター1体の攻撃力はこのカードの発動時に
ゲームから除外した儀式モンスターの攻撃力分アップする。

 斗賀乃は次のターンに《風霊セイリュウ》を出すことしかできない。
 その守備力は1400。
 それなりの数値ではあるが、攻撃モンスターを引ければ倒せる。
 そして、ダイレクトアタックを成功させたなら――勝てる。

 翼の表情に色が戻っていくのを、斗賀乃は目つきを鋭くして静観していた。

「私のターンですね、デッキトップの《ガルマソード》をドロー。
 そして、スタンバイフェイズ……」

 斗賀乃は静かに息を吐き、はっきりと聞こえるように言い放った。

「想定内です」

「え?」

「君が行うと想定される反撃の中で、それなりに致命的と見られ、
 可能性が高かったのがキグナスの儀式召喚です。
 ポイニクスは既に墓地にありますしね。
 《貪欲な壺》も最初の《手札抹殺》で墓地に送られています。
 故にこのターン即座に切り返せる戦術はそれくらいでした。
 それさえ想定できれば、君の可能性で恐れるべきものはなかった」

 斗賀乃は淡々と翼に暗いものを塗りつけていくように続ける。

「ここまでのデュエルもそうでした。
 君の実力は私の想定通りに、凡夫たるデュエリストよりは優れていても、
 私の想定を超えて、私に届かせるほどの過酷をカードに込めることができない。
 やはり君は本当に甘い。自分の中の『力』にさえ、まともに向き合えていない。
 その血濡れた『力』の刃を握り締めるべき覚悟も過酷も持ち合わせていない……」

 その瞳に暗い感情をにじませて、斗賀乃は吐き捨てた。

「このままでは君は何者にもなれません。
 力に怯え、過去に震え、同じところを廻っていなさい」

「な! どうして俺のことを知ったようなことを――」

「――最初に一人になったときのこと、銀の腕輪、ダークネスの襲撃……」

「!!」

 翼の瞳が驚きに見開かれる。
 斗賀乃は見透かしているような態度だけではない。
 実際に翼の過去を見透かしているのだ。

「――私にはデュエルを通じて、すべて分かるのですよ。
 私の感覚ならば、視認できる範囲内の精霊ならばすべての能力を把握でき、
 さらにまた、その見聞きしてきたものを感知することができます。
 だから、君のずっと傍にいた精霊を通じて、君のあらゆることが分かるのです。
 その上で断じているのですよ」

「……………」

 過去を指摘されてから、翼の表情は急速に沈んでいった。
 すべてを見た上で、この圧倒的な先生が『むり』と言っているなら、どうしようも……。

「翼!!」

 明菜が前に乗り出し、翼の名前を呼んでいた。

「翼はこれまでも精霊を大事にして、デュエルを頑張ってきた!
 あたしも精霊もずっと見てきて、応援したいって思ってる!
 今は知識もデュエルも敵わなくても、ここはそれを勉強するアカデミアだよ!
 これから勝てるようになって、『デュエル・スター』に近づいていけばいい!」

「明菜……」

「ふふ、そうやって慰め合って、自分に留まっていればいいでしょう。
 私は今君にとびきりの挫折を提供するだけです。
 いえ、それとも――」

 斗賀乃は明菜に鋭い視線を向け、翼と見比べる。

「――これから君たちに『過酷なる試練』でも与えましょうか。
 そうすれば、君は本当に『力』に向き合えるのかもしれませんね、ふふ」

「まだセニョール翼は負けてなんかいないノーネ!
 これ以上生徒を侮辱することは、教師であるワタシーが許さなイーノ!
 っと、ミスター斗賀乃も教師なノーネ!
 教師なら尚更、生徒に期待をかけて、育むべきなノーネ!!」

「……………。
 そうでしたね、そういえば勝負が着いていませんでしたか。
 では、仕切りなおして、この決闘を終わらせるとしますか」

 クロノスの憤激をかわして、斗賀乃はデュエルに向き直る。

斗賀乃
LP4000
モンスターゾーン
なし
魔法・罠ゾーン
伏せカード×1
手札
2枚(《ガルマソード》、《風霊セイリュウ》)
LP4000
モンスターゾーン
《輝鳥-アクア・キグナス》
魔法・罠ゾーン
伏せカード×1(《蒼炎の洗礼》)
手札
なし

「さて、今は私のスタンバイフェイズです。
 ここでリバースを発動します。
 速攻魔法《リロード》。
 今ある手札2枚、キグナスに戻されたカードをデッキに戻し、その分ドローです」

《リロード》
【魔法カード・速攻】
自分の手札を全てデッキに加えてシャッフルする。
その後、デッキに加えた枚数分のカードをドローする。

 想定内とは即ち、キグナスの対抗策が手中にあったということ。
 終わらせると宣言してから、斗賀乃の放つ気迫は強さを増していた。
 いくら実力差があっても、この局面を覆せる手は限られている。
 2枚引き直したところで、これまでのように必殺の攻撃を繰り出せるとは限らない。
 しかし、それはあくまで普通のデュエリストならば、という前提の話。
 精霊学教師・斗賀乃 涯は精霊に通じた規格外のデュエリスト。
 有り得ない逆転劇も斗賀乃にとっては造作のないこと――。

「そして、まだスタンバイフェイズですが、リバースが発動されてなくなり、
 《黄泉ガエル》の蘇生条件を満たしました。墓地より特殊召喚します」

《黄泉ガエル》 []

【水族・効果】
自分のスタンバイフェイズ時にこのカードが墓地に存在し、
自分フィールド上に魔法・罠カードが存在しない場合、
このカードを自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。
この効果は自分フィールド上に「黄泉ガエル」が 表側表示で存在する場合は発動できない。
ATK/ 100 DEF/ 100

「さて、手札から《トライワイトゾーン》のマジックを発動です。
 墓地からレベル2以下の通常モンスターを3体蘇生します。
 来なさい。《邪炎の翼》、《プチリュウ》、《デーモン・ビーバー》」

《トライワイトゾーン》
【魔法カード】
自分の墓地に存在するレベル2以下の通常モンスター3体を選択して発動する。
選択したモンスターを墓地から特殊召喚する。

《邪炎の翼》 []
★★
【炎族】
赤黒く燃える翼。全身から炎を吹き出し攻撃する。
ATK/ 700 DEF/ 600

《プチリュウ》 []
★★
【ドラゴン族】
とても小さなドラゴン。小さなからだをいっぱいに使い攻撃する。
ATK/ 600 DEF/ 700

《デーモン・ビーバー》 []
★★
【獣族】
悪魔のツノと翼を持つビーバー。どんぐりを投げつけて攻撃する。
ATK/ 400 DEF/ 600

「あ……ああ…………あ……」

 翼が怯えながら、うめいた。
 並べられたモンスターの意図が分からなくても、自分の感覚が危機を訴えている。
 ――自分は確実に負ける。

 藤原には分かる。このモンスターを並べた、その先の一手が。

「《高等儀式術》で生贄として墓地に送ったモンスターをここで!?
 まさか既に手札には――」

「君たちの常識や想定を、私は超えていきますよ。
 フィールドの4属性4種類のモンスターを生贄に――」

 4体のモンスターが生贄としてそれぞれの色の光の粒子となって、
 斗賀乃の手元まで立ち昇り捧げられる。
 その4つの魂を得て、斗賀乃の最後の手札が光を帯びる。
 それは最も輝かしく、最も素早く、最も尊大なる存在。

「来たれ! ――《ブライト・ウイング・ペガサス》!!」

 遥か高みより来たりし天馬。
 黄金の翼から光を散りばめて翔けてゆく天馬。
 己の威光を存分に誇示するように、声高くいなないた。

《ブライト・ウイング・ペガサス》 []
★★★★★★★★★★
【獣族・効果】
このカードは通常召喚できない。
自分フィールド上に存在する4種類のモンスターを
生贄に捧げた場合に特殊召喚する事ができる。
このカードは相手プレイヤーを直接攻撃する事ができる。
ATK/4500 DEF/3600

「このモンスターは直接攻撃することができます。
 決闘はここまでです。『シャイニング・オーバードライブ』!!」

 翼をかばおうとするキグナスをやすやすと翻弄し、天馬は空を急降下する。
 黄金の軌跡が描かれながら、天馬は翼を横切り――。
 かすめた鋭い翼の切っ先が、ライフを一瞬でゼロにした。

翼のLP:4000→0

 デュエルは幕を閉じた。
 翼は膝を屈して、呆然としていた。
 斗賀乃は平然とその横を通り過ぎて退室していく。

「ふぅ……、やれやれ」

 鮫島校長がため息をつく。

「いつも品が良く穏便な先生なのに、今日は随分と熱をあげていた。
 いやはや、ああいう厳しさもある先生だとは知らなかった……」

「そうナノーネ! ちょっとあの態度はないノーネ! 非常識なノーネ!」

「うむ。まぁクロノス先生も丸くなりましたし、厳しい先生も必要かもしれない。
 次に他の生徒にもこのような仕打ちをするまでは、様子を見るとしましょう。
 さて……」

 鮫島はしゃがみこみ、沈んでいる翼に目線を合わせてかがんだ。

「恐らく分かっていながら落ち込んでいるのだろうが、敢えて繰り返そう。
 今の負けを気に病む必要はない。
 翼くんと斗賀乃教諭とでは、過ごしてきた年月の長さが違う。
 大人の極めてきたことに少年が対抗できなくても、さして恥ずかしいことではない。
 それを踏まえたうえで、気の済むまで勝ちに近づけるように悩みなさい」

 鮫島校長の優しく真っ直ぐな眼差しに、翼は気を取り戻す。

「はい……。俺、今度はもっと対抗できるように……頑張ります」

「うむ、その意気だ。
 では、クロノス先生。行きましょう」

 二人の先生が去っていき、デュエル場には3人が残された。

「翼、大丈夫?」

 明菜が語りかけると、翼は苦笑いで返した。

「大丈夫。でも、ちょっときついな。
 結構攻めたのに、こんなに圧倒的に負けたなんて初めてだ。
 それに――」

 翼は右手を握り締めて、開いて、天井を見上げた。

「俺の『力』のことも全然聞けなかったな……。
 教えてもらうには、もっと近づかなくちゃいけないな……。
 実力も、そして――」

 ――この『力』そのものにも近づいて向き合わなければいけない。
 そう思い浮かべると、体の底から震えが静かに走る。
 努めて態度に出さないようにしながら、翼はデッキをホルダーにしまった。

「辛気臭いのは終わり!
 気を取り直して、僕たちも戻ろう!
 デュエルのことは明日にして、今日は僕、明菜ちゃんのところに遊びにいくからね!
 また料理のこと教えてよ!」

 レイは明るく振る舞い、翼と明菜を引っ張った。
 慌てる声と一緒に駆け出そうとすると――何かが足りない。
 いつもここでため息混じりの声が上から降ってくるはずなのに……。

「あれ? 藤原先輩はどこいった?」



「《オネスト》に尾行させて、さらに足止めまでしようとはどういうつもりです。
 私が『力』を込めれば、この《オネスト》を消すこともできるのですよ」

「そんなことをするつもりは無いでしょう、斗賀乃先生」

「なぜです?」

「斗賀乃先生は僕に興味がないからです。
 だから、事を荒立てるようなことをしません」

「ふふ……、それはその通りだと認めることにしましょうか。
 そして、何の用です?
 君は私を咎めにでも来たのですか?」

「ええ、概ねその通りです、斗賀乃先生」

 湧き上がる感情を抑えながら、藤原は斗賀乃に問いかける。

「さっきのデュエルはどういうことですか?
 久白をあそこまで痛めつけて、何をするつもりなんですか?」

「私がデュエル中に話した通りのことですよ。
 翼くんの中にある『力』が、どうすれば速やかに最大限に活かされるかを考えているだけです」

「そのために久白はどうなってもいいと?」

「ええ、概ねその通りです。
 ですが――」

 斗賀乃は少しだけ口調を和らげる。

「年齢の程を考えて、想定程度には翼くんは強かったのですよ。
 最後の最後しか私は翼くんにダメージを与えることができませんでした。
 少しはその可能性を見込んであげてもいいと、今日のデュエルで思えました。
 ですから――」

「今の挫折だけでなく、『過酷なる試練』をけしかけるとでも言うんですか!」

「――その通りですよ。
 さすが虚無の力の果てダークネスに到達しただけありますね。
 人の後ろ暗い企みを察知するのは造作もないというところでしょうか。
 しかし、君には私を止めることも動かすこともできません。
 だから、君にできる残されたことは……」

 斗賀乃は何かを名残惜しむように、自分の長い後ろ髪を撫でた。
 およそ斗賀乃には似つかわしくないような感傷的な仕草だった。

「藤原くん、君が翼くんの傍にいてあげてください」

「え?」

 斗賀乃の突然の優しい語りかけに、藤原は戸惑いを隠せない。

「私はもう誰かの傍に寄り添うことを忘れてしまいました。
 ですから、こうして辛辣な試練しか与えられないのですよ。
 君が彼らを救いたい、支えたいというのなら、力を尽くすことです。
 ですが、生半可な覚悟で彼らを守りたいの願うのなら――」

 再び斗賀乃のまとう空気は元の鋭さを取り戻す。

「――君ごと試練にて犠牲となることでしょう。
 せいぜい仲良し同士、絆とやらを精一杯主張なさい。
 あの者たちの闇を超えられるほどに、君たちは光を訴えねばなりません」

「先生は、何を!」

「ふふ、それを話してしまっては面白くないでしょう。
 利用できそうな者たちには目をつけていたのですがね。
 思った以上に君たちと激しくぶつかり合ってくれそうですよ。
 とびきりの『過酷』を期待して待っていて下さい」

 斗賀乃は右手を上げた。
 すると斗賀乃の姿が、足元から消えていく。

「どこに行くんです!
 そんなことは――」

 斗賀乃が目の前から消えて、藤原は言葉を切った。
 何をできるわけでもないのに、何かをしなくてはいけないような。
 焦りに駆られて、つい感情的に何かを言おうとしていた。
 自分らしくもないが、それだけの危機感が自分を動かしていた。

「まさか消えることもできるなんてな……」

(消えてないですよ、マスター。
 四原色の減法混合。
 それでマスターから観て透明になり、姿をくらましただけです。
 もう違う場所に行ってしまいましたがね……)

「《オネスト》、また厄介事に巻き込むことになる。
 僕は翼を支える。君は僕を支えて欲しい」

(あのときのように遠ざけないで、いつでも巻き込んで下さい。
 私はマスターと共にあるのみです)

 来たるべき闘いの予感を胸に、藤原は自分のデッキを握り締めた。





第9話 手と手を差し伸べ合って


「起きなよ。授業もう終わったよ」

 授業が終わり、皆が放課後に向かう喧騒の中で。
 机に突っ伏した翼を、明菜が揺り起こしている。

「ん……、んう……」

 曖昧な返事をしながら、翼が顔を上げる。

「ああ、寝ちゃってたんだ……」

 寝ぼけ眼をこすりながら、翼は明菜に目をやる。

「夜更かしでもしたの?」

「んー、ちょっとデュエルのシミュレートに熱中しちゃって……」

「シミュレート?」

「うん。PDAとデュエルディスクを繋げばできるんだけど。
 いろんなデュエリストとの対戦を再現できるんだ。
 あの武藤遊戯さんとか海馬瀬人さんに、万丈目先輩とかとも対戦できるんだよ!
 さすがにプロのプレイングを完全再現とまではいかないけど」

「すごいね! そんな機能があるんだ!!
 でも、授業中寝ちゃうほど、やり込まなくても……」

「いやー、連勝すれば、購買でも使えるポイントが貰えるんだ。
 すごく欲しいカードがあって、昨日でやっと溜まって交換したんだよ!」

 翼が1枚のカードをかざす。

《希望の羽根》
【魔法カード・速攻】
自分の墓地に存在する光属性・鳥獣族モンスター1体を
ゲームから除外して、発動する。
このターンのバトルフェイズを終了させ、
自分のデッキからカードを1枚ドローする。

「これ、翼もう持ってなかったっけ?」

「ああ。でも2枚だけだったんだ。これで3枚揃ったんだよ。
 3枚入れるのはバランスが厳しいかもしれないけど、やっぱり欲しかったんだ」

「でも、使う人がたくさんいて、すぐ売り切れるようなカードでもないよね。
 そんなに急ぐ必要もなかったんじゃない?」

「なんだかじっとしてられなくてさ。
 少しでもデュエルしていたかったんだ」

 熱中していたときの高鳴りを思い出したのか。
 翼の目が爛々としてきた。
 眠気は吹き飛んでいったようだ。
 しかし、その翼を明菜は心配げに見つめる。

「……斗賀乃先生とのデュエルのこと、やっぱり気になるの」

「気にならないはずはないよ。
 だから、もっと強くならなくちゃって思う」

「まぁ気にしないっていうのも無理だよね……。
 でも、頑張るのはいいけど、無理にならないようにね。
 疲れが響いたら、デュエルだって身につかないよ」

「大丈夫だよ。やればやっただけ、きっと覚える。
 デュエルで身体を痛めたりすることなんてないし……」

「そうでもないよ。
 『フリークス・バスターズ』の活動のデュエル。
 気を入れられないと、危ないことになりかねないよ」

「それは……、確かにそうだね」

 痛いところを突かれたと、翼は指で頬を掻いた。

「うん。確かにそうだ。
 そわそわはするけど、ほどほどにしないといけないね」

「でも、あの人たちはデュエルエナジーを集めているらしいけど、何をするつもりなんだろう」

「分からない。
 精霊の力を使えば、いろんなことができるんだけれど。
 やるとすれば、逆に何をするか想像がつかないなぁ」

「例えば、どんなことができるの?」

「簡単に言えば、デュエルモンスターの能力が使えるんだ。
 俺のカードで言えば、アクイラで風を起こすことができる。
 アクシピターで炎を放つこともできるよ。
 ソリッドビジョンの攻撃や特殊能力を現実に使えると思えばいいのかな」

「……それってすごいことじゃない?」

 明菜が眼を丸くして尋ねるが、対照的に翼は平然としている。

「自由に使えればそうなんだけどね。
 実際はそうそう使えるわけじゃないんだ。
 力を使うには、まず『カードの精霊』がいなくちゃいけない。
 そして、さらに『精霊の空気』が必要になるんだよ」

「『精霊の空気』って?」

「『カードの精霊』のエネルギー源みたいなものだよ。
 これを使って、精霊が存在しているんだよ。
 精霊にどこかから少しずつ送られているみたいだけど、
 何か現象を起こせるほどの『精霊の空気』を持っている精霊はまずいない。
 無理に現象を起こさせれば、精霊はいなくなっちゃうんだ」

「だから、翼は力を使ったりしないんだね」

「うん。俺は精霊を傷つけたくない。
 藤原さんの《オネスト》みたいに特別な力の精霊もいないし」

「でも、じゃあデュエルエナジーがあれば、力を使えるの?」

「可能……だと思う。
 デュエル中に精霊たちが喜んでいるのを感じるけど、
 あれは一緒にデュエルできてるから嬉しいだけじゃない。
 同じようにエネルギー源にもなるデュエルエナジーを感じているからなんだ。
 だから、俺もデュエルが加熱したなら、少しは現象を起こせるかもね」

「じゃあそれを溜めていけば、何か奇跡を起こすことだって……」

「できるかもしれない。
 けど、エナジーを蓄える方法とかは分からない。
 それに人から奪ったエナジーで精霊の力を利用するのは良くないよ。
 だから、俺は早くあいつらを止めたいんだ」

「うん……、そうだよね……」

 明菜は思いつめたような顔をした。
 しかし、すぐに思い直したように、話題を打ち切った。

「そういえば、藤原先輩が放課後に廃寮集合って言ってたけど、行く?」

「うん、行くよ。
 アカデミアの島はほとんど探検したんだけど、
 あそこは扉が開かなくて入れなかったんだ。
 面白そうだし、行くよ!
 そろそろ時間だし、向かおうかな。
 明菜は?」

「あたしは、ちょっと用事があって行けないんだ。
 レイちゃんには伝えてあるけど、翼からも伝えておいて」

「そっか。じゃあ、もう少ししたら行こうかな」

「うーん、そうだね。
 でも多分、急いで行ってあげた方がいいと思う」

「ん? 時間に間に合えばいいだけじゃないの?」

「いや、レイちゃん一人で行かせるとまずいと思う」

「どうして?」

 首をかしげる翼に、明菜が諭す。

「だって、あの廃寮はたくさん怪談話がある場所だよ。
 多分、乙女なレイちゃんだときっと……」





 扉を開けると、――そこには闇が立ち込めていた。
 今にも壊れそうな脆い空間。
 だというのに、闇だけはここを愛して離れない。
 空っぽの何もない空間のはず。
 なのに、ここには闇が隙間なく存在している。
 肌を撫でていく風は、生温く感じられる。
 建物の軋みは、誰かの嘆きに聴こえる。
 濃密な暗がりは、呼吸を潜める動物を思わせる。
 
 ここはアカデミアの最果て、忘れ去られた『廃寮』。
 かつてこの施設はオベリスクブルーの中でも飛びぬけて優れた生徒を招いていた。
 それがいつしか、歪んだ研究の拠点へと成り果てた。
 錬金術師は工房を求める。
 工房は隔絶された空間でなければならない。
 工房は優れた素材の収集に長けるべきである。
 その条件に、この寮は見事なまでに合致していた。
 虚無の力の果て(ダークネス)に至る実験に用いられたこの場所。
 主も被験者もいなくなったこの場所で、闇だけが名残惜しそうに立ち込めている。

 赤絨毯の先のフロアから、静かに足音が響いてくる。
 一定間隔で歩み寄る足音は、極めて紳士的な響きである。
 その者は闇たちの主であるかのように、来客を認め気品を持って迎える。
 待ちわびたように、喜悦の笑みを口元に湛えながら。
 待ちわびたように、血走った眼は爬虫類のごとく正円を象りながら。
 待ちわびたように、両腕を構えるごとく広げて打ち振るわせながら。

「ようこそ! ダークネスの世界へ!」

 闇の主――藤原優介――は万感の想いを以って、歓迎の意を告げた。

「いやあああああああああああああ!」

 来客――早乙女レイ――は全力の悲鳴を以って、拒絶の意を表明した。





「……す、すまなかった。どうにも懐かしい気分になってしまって、ついあんな素振りを……」

 藤原はかがみこんで、今も震えるレイに必死に弁明していた。
 その周囲を天使達のソリッドビジョンが囲んでいる。
 藤原なりの廃寮を明るく照らそうとする努力らしい。
 《天空騎士パーシアス》や《ヒステリック天使》が心配そうに見守っている。
 《阿修羅》は困ったものだと腕をすくめ、《きまぐれの女神》はあくびをしている。
 そして、藤原の精霊《オネスト》は腕組みをして、冷ややかな目線を送っている。

「つ、翼くんを励ますって話だから、怖いけど来たのに……。
 あんなの酷いよ……」

 『あんなの』と言いながら、レイの脳裏に藤原の恐ろしい表情が浮かぶ。
 ただでさえ闇の濃密な気配に満たされた廃寮であるのに。
 乙女を怖がらせる要素に事欠かない場所だというのに。
 さらに全力でダークネスモードの藤原がいては、怖いに決まっているのだ。
 
「本当にすまない。早く着きすぎて、気がつけば少し入れ込みすぎたようだ。
 ん? そういえば、陽向居も一緒に来るんじゃなかったのか?」

「うーん、連絡したんだけど、ちょっとはずせない用事があるみたい。
 どんな用事かってちらっと聞いたけど、はぐらかされちゃった。
 明菜ちゃん何でも話してくれるから、少し珍しいけれど。
 けど、翼くん以外でそういう話は見えないのになぁ……」

「そうか。まぁそれでも予定には変更はないか」

「そもそも、こんなとこで何をどう励ますの!
 ただの凶悪な心霊スポットだよ、こんなところ!
 それにダークネス事件で閉鎖されてたはずなのに、どうして開くの!」

「いや、鍵は持っている。
 まぁなくても、僕が呼びかければ開くよ。
 僕とこの寮はつながっているから」

「やめてやめてやめて!
 これ以上この建物をオカルトめかさないで!」

「オカルトも何も、ここは本当に霊脈の中心というべきれっきとした神域だよ。
 元から神霊が集まりやすいように出来ているんだ。
 そこが打ち捨てられ、忌まれて、遠ざけられたから、
 悪い霊や闇の温床になっているだけだ。
 ここは元から地脈の通った生き物のようなものなんだ。
 こんな風に育て上げてしまったのは、アカデミアの僕らだよ。
 それをこの場所が悪いようにいうのは、お門違いな話になってしまうな」

「だから、順序だててオカルト説明しないで!
 何でそんなこと分かるの、もう〜〜」

「かつて僕はここで闇の実験の被験者として教え込まれたからね。
 それに僕には精霊の波長が見えるから、そういう思念が伝わって来るんだ」

「うう……、もうここがたくさん怖い場所なのは分かったから……。
 翼くんをどう励ますのかだけ教えて……」

 レイは怖がり疲れて、やっとのことで問いかける。

「そうだな。僕は本をいくつか読んで、いろいろ考えたんだ」

 レイは『励ます方法を考えるのに、いちいち本を読まなくてもいいよ』という
 突っ込みを飲み込んで、藤原の語りに耳を傾ける。

「けれど、最後までいい方法は思いつかなかった。
 上手くいくかどうかは、どれも可能性の話でしかない。
 それに結局は久白が何かを見出していくしかないんだ。
 僕らはそのきっかけになり得ることを示すしかない。
 だから、僕が今できることは……」

 藤原は安置したディスクを拾い上げ、腕に装着しなおした。
 そして辺りを見渡して、何かを確かめ合うように頷いた。

「僕の場所で、僕らしいデュエルを久白に示す。
 そこで僕から何かを見出してもらう、率直にデュエルするだけだ。
 でも、ただそれだけじゃあ、ちょっと派手さにかけてしまう。
 だから用意した、僕だけの仕掛けがこれだよ」

 藤原は施設の中心に立ち、静かに深呼吸をする。
 階段を客席に見立てて向き合い、指揮者のように両腕を前に差し出した。
 そして、――クン、と右手で握りこぶしを作った。
 すると廃寮は揺れ、凄まじい音が響き渡った。
 ――藤原が指揮しただけで、寮のどこかが壊れたようだ。

「言っただろう。僕とこの寮はつながっている。
 生かすのも殺すのも、僕の指揮で決められるんだ。
 この寮の取り壊し許可は、ずっと前から得ているんだ。
 そして、この場所ももう終わりを望んでいる。
 だから、華々しいデュエルで、フィナーレを彩ってやろうと思う。
 闇と崩壊の織り成す祭典デュエル。
 ――これが僕の用意したアトラクションだよ」

 藤原は陶然と悪趣味なショーの開演を語った。
 レイは本気でその場から逃げ出したくなった。
 
「藤原さん! 来たよ!
 ここ気になってたんだけど、ずっと入れなかったんだー。
 それで、ここで何をするの?」

 しかし、翼は来た。
 レイは二人だけで残すのも怖いので、何とか見守ることにした。

「久白、僕とデュエルをしよう。
 僕にダメージを与えてみてくれ。
 きっと君を驚かせてやろう」

「デュエル? いいよ。
 藤原さん強いって評判だから、一度はデュエルしてみたかったんだ!」

 翼は平然と楽しそうにしていた。
 しかし、それは虚勢にも感じられた。
 強さを『(よろ)う』ことで、壊れないように守るように。
 いつも通りの楽しさへと勢い付けて、綻びを誤魔化している。
 心の奥底の楔は、今も斗賀乃が突き刺したままだ。
 斗賀乃が何かを差し向ける前にも。
 時折覗かせる翼の不安げな影を、薄めてあげたかった。
 焦らなくても、有りのままの強さでも大丈夫なことを。
 かつて道を違えた藤原だからこそ、翼の奥底の焦燥を和らげたかった。

「よし、じゃあ始めようか」

 藤原は照明用のモンスターを片付けて、デッキをシャッフルする。

「わっ、暗くなっちゃった!
 来て! 僕のミスティックモンスター!
 ナイト、ドラゴン、マジシャン、ニンフ、エッグ!!
 この場所を照らしてよ〜」

 灯りがなくなり、レイは慌てて自分のモンスターをセットする。
 その仕草に翼は少しだけ愉快な気分になった。

「うん、やろう!」

「 「 デ ュ エ ル !! 」 」


翼 VS 藤原


「先攻は俺からだね、ドロー!」

 昨晩シミュレートで修練を積んできた翼。
 コンボをすらすら思い浮かべ、手早くカードをディスクに差し込む。

「俺は《英鳥ノクトゥア》を召喚する!
 その効果でデッキから《輝鳥現界》を手札に加えるよ!」

《英鳥ノクトゥア》 []
★★★
【鳥獣族・効果】
このカードの召喚・特殊召喚に成功した時、
自分のデッキから「輝鳥」と名のついたカード1枚を選択して手札に加える。
ATK/ 800 DEF/ 400

「さらにリバースを3枚セットして、ターンエンドだ!」

「ふむ……」

「3枚も伏せるなんて、珍しい戦術……」

 藤原もレイも翼の戦術に驚きを示す。
 《輝鳥-アエル・アクイラ》を切り札として愛用する翼。
 アクイラは儀式召喚時にフィールド上の魔法・罠をすべて破壊する効果を持つ。
 自分のカードが巻き込まれないために、翼の罠の投入枚数は少なめである。
 そのため逆に言えば、翼の罠のほとんどが迎撃やコンボに繋がる強力なものだ。

「なら、僕のターンだ、ドロー」

 攻撃力の低いノクトゥアが攻撃表示ならば、迎撃の罠も確実にあるはず。
 しかし、放置しておくのも、得策とは言えない。
 適切な手を吟味して、藤原はフィールドを見据える。

「僕は《ジェルエンデュオ》を召喚する」

 双子のハート形天使のモンスターが姿を現す。

《ジェルエンデュオ》 []
★★★★
【天使族・効果】
このカードは戦闘では破壊されない。
このカードのコントローラーがダメージを受けた時、
フィールド上に表側表示で存在するこのカードを破壊する。
天使族・光属性モンスターを生け贄召喚する場合、
このカードは2体分の生け贄とする事ができる。
ATK/1700 DEF/ 0

「《ジェルエンデュオ》で攻撃を仕掛ける!」

 《ジェルエンデュオ》には戦闘耐性がある。
 故に相手の迎撃カードを誘いやすい。
 様子見としては、確かにうってつけのモンスターと言える。
 ほわほわと飛んで、翼に攻撃しようと向かっていく。

「リバース発動! 《ゴッドバードアタック》!!」

 ――瞬間、ノクトゥアは火の鳥へと姿を変化させた。
 エネルギーの塊となったノクトゥアが貫くものは――。

「《ジェルエンデュオ》と、俺のリバースの1枚を破壊するよ!」

《ゴッドバードアタック》
【罠カード】
自分フィールド上に存在する鳥獣族モンスター1体を生け贄に捧げて、
フィールド上に存在するカード2枚を選択して発動する。
選択したカードを破壊する。

「《ゴッドバードアタック》は2枚を指定して発動しなければならない。
 自分のカードを破壊してまで……。
 いや、そういうわけでもなさそうだな。
 それにしては、ずいぶん余裕そうな表情をしている」

「バレバレかな。
 選んだリバースを続けて発動するよ!
 《八汰烏の骸》! カードを1枚ドローだ」

《八汰烏の骸》
【罠カード】
次の効果から1つを選択して発動する。
●自分のデッキからカードを1枚ドローする。
●相手フィールド上にスピリットモンスターが
 表側表示で存在する時に発動することができる。
 自分のデッキからカードを2枚ドローする。

 効果発動済みの罠を破壊することで、損失を補うコンボ。
 序盤の回転を早めるには悪くない一手。
 そして、飛翔する火弾は骸を破壊し、《ジェルエンデュオ》へと向かう。

「なるほど荒っぽいが、面白いコンボだ。
 しかし……」

 ――瞬間、《ジェルエンデュオ》の姿が消える。
 火の鳥の生命を燃やした一撃は空を切った。

「《神秘の中華なべ》をチェーンして発動。
 破壊前に《ジェルエンデュオ》を生け贄に捧げ、その攻撃力だけ僕のライフを回復だ」

《神秘の中華なべ》
【魔法カード・速攻】
自分フィールド上のモンスター1体を生け贄に捧げる。
生け贄に捧げたモンスターの攻撃力か守備力を選択し、
その数値だけ自分のライフポイントを回復する。

 コンボならば藤原も引けを取らない。
 《ジェルエンデュオ》を牽制に使い、同時にライフへと変換して損失を回避した。

藤原のLP:4000→5700

「うーん、回復されちゃったか。
 でも、これでモンスターは出せないよ」

「そうだな。なら、代わりにリバースを2枚伏せて、ターン終了だ」

 勢いづく翼に、藤原は平然とターンを渡す。

「じゃあ俺のターンだ、ドロー!
 ここでリバースを発動するよ!
 《リミット・リバース》!
 墓地の《英鳥ノクトゥア》を蘇生する!
 特殊召喚したから、再び『輝鳥』と名の付くカードをサーチできる。
 俺がデッキから手札に加えるのは――」

《リミット・リバース》
【罠カード・永続】
自分の墓地から攻撃力1000以下のモンスター1体を選択し、攻撃表示で特殊召喚する。
そのモンスターが守備表示になった時、そのモンスターとこのカードを破壊する。
このカードがフィールド上から離れた時、そのモンスターを破壊する。
そのモンスターが破壊された時このカードを破壊する。

《英鳥ノクトゥア》 []
★★★
【鳥獣族・効果】
このカードの召喚・特殊召喚に成功した時、
自分のデッキから「輝鳥」と名のついたカード1枚を選択して手札に加える。
ATK/ 800 DEF/ 400

 コンボが上手く決まって、デッキの回り方は理想的。
 相手にリバースがあるが、モンスターがいない。
 翼が攻めるには絶好のチャンス。

「俺は《輝鳥-テラ・ストルティオ》を手札に加えるよ!
 そして、そのまま儀式カード《輝鳥現界》を発動だ!
 場のノクトゥアと、デッキのクレインを生け贄に捧げ――」

《輝鳥現界》
【魔法カード・儀式】
「輝鳥」と名のつくモンスターの降臨に使用することができる。
レベルの合計が儀式召喚するモンスターと同じになるように、
自分のフィールドとデッキからそれぞれ1枚ずつ鳥獣族モンスターを生贄に捧げる。

 オレンジの光が場に現れ、そして結集し、豊穣の鳥を象る。
 勇壮なダチョウが現れ、力強く足踏みをする。
 翼の前に進む意志を代弁するように。

「ストルティオを儀式召喚するよ!
 さらにその効果『ルーラー・オブ・ジ・アース』!
 墓地のクレインを復活させるよ!
 さらにクレインを特殊召喚したから、1枚ドローだ!」

《輝鳥-テラ・ストルティオ》 []
★★★★★★★
【鳥獣族・儀式/効果】
「輝鳥現界」により降臨。
このカードの属性はルール上「地」としても扱う。
このカードが儀式召喚に成功した時、自分の墓地の鳥獣族モンスター1体を特殊召喚する。
ATK/2500 DEF/1900

《聖鳥クレイン》 []
★★★★
【鳥獣族・効果】
このカードが特殊召喚した時、このカードのコントローラーはカードを1枚ドローする。
ATK/1600 DEF/ 400

 特殊召喚ラッシュと手札の補充をこなし、進撃の準備は万全である。

「バトルだ! ストルティオから攻撃!
 『シャイニング・クエイクレッグ』!!」

 猛ダッシュからの痛烈なキックが藤原へと繰り出される。
 しかし、藤原が光に包まれ、その攻撃は届かない。
 それどころか食い止めた衝撃が、緑色の柔らかな粒子に変換されていく。

「リバース発動だ、《ドレインシールド》。
 モンスター1体の攻撃を無効にし、その攻撃力分のライフを回復する」

《ドレインシールド》
【罠カード】
相手モンスターの攻撃宣言時に発動できる。
攻撃モンスター1体の攻撃を無効にし、
そのモンスターの攻撃力だけ自分のライフを回復する。

藤原のLP:5700→8200

 相手の攻撃を利用した膨大なライフ回復。
 倍以上のライフ差を付けられ、翼は焦りに拳を握り締める。

「まだ攻撃は残ってる!
 クレインで攻撃だ!」

 クレインが光の羽根を放ち、藤原を切り刻もうとする。
 そして、鈍い金属音が鳴り響く。
 翼の攻撃はまたもや藤原に防がれている。

「2枚目のリバースを発動、《ガード・ブロック》。
 モンスター1体の攻撃を無効にし、さらにカードを1枚ドローだ」

《ガード・ブロック》
【罠カード】
相手ターンの戦闘ダメージ計算時に発動する事ができる。
その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になり、
自分のデッキからカードを1枚ドローする。

 攻撃をいなしつつ、藤原はさらに手札を補充する。

「通らないか……。
 じゃあ、俺はこれでターンエンドだ」

「さて、僕のターン、ドロー」

 (はや)る翼を前に、藤原は冷静に手札を吟味する。
 
「手札から《天空の使者 ゼラディアス》を墓地に送って、その効果を発動。
 デッキから《天空の聖域》を手札に加え、そのまま発動する」

《天空の使者 ゼラディアス》 []
★★★★
【天使族・効果】
このカードを手札から墓地へ捨てて発動できる。
デッキから「天空の聖域」1枚を手札に加える。
また、フィールド上に「天空の聖域」が存在しない場合
このカードを破壊する。
ATK/2100 DEF/ 800

 フィールド魔法が発動され、デュエルフィールドは雲の上の天空の祭壇となる。

「ああ、やっと場が明るくなったよ……」

 レイが安堵したように呟いた。
 フィールド魔法のビジョンにより放たれた光。
 レイにとっては暗闇を振り払う救いの光だった。
 あとは翼のアクイラに吹き飛ばされないように祈るばかりである。

《天空の聖域》
【魔法カード・フィールド】
このカードがフィールド上に存在する限り、
天使族モンスターの戦闘によって発生する天使族モンスターの
コントローラーへの戦闘ダメージは0になる。

「《コーリング・ノヴァ》を召喚して、バトルに突入する」

 クリスマス飾りに翼の生えた天使モンスターが、くるくる回り攻勢を取る。

《コーリング・ノヴァ》 []
★★★★
【天使族・効果】
???
ATK/1400 DEF/ 800

「さあ、クレインに攻撃だ!」

「バトル? 攻撃力は届かないのに、どうして!?
 そのまま迎え撃つよ!」

 その突撃をクレインは軽やかにかわし、くちばしの一撃で迎撃する。
 《コーリング・ノヴァ》のビジョンが弾けたとき、――鐘の音が響いた。
 その清らかな音は《天空の聖域》に荘厳に鳴り響く。
 新たな天使の降臨を告げるように。

「《天空の聖域》の効果で、僕の天使族モンスターのダメージは発生しない。
 さらに《コーリング・ノヴァ》が戦闘によって破壊されたとき、
 後続の天使をデッキから特殊召喚することができる。
 本来ならば攻撃力1500以下の光属性・天使族しか呼べない効果だが、
 《天空の聖域》があるとき、その効果が高められる」

 藤原のデッキの中のカードが光を放った。
 特定のカードを指定するときのエフェクト。
 その導きにしたがって、藤原がカードを手に取る。

「《天空騎士パーシアス》を攻撃表示で召喚する!」

《コーリング・ノヴァ》 []
★★★★
【天使族・効果】
このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、
自分のデッキから攻撃力1500以下の天使族・光属性モンスター1体を
自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。
フィールド上に「天空の聖域」が表側表示で存在する場合、
代わりに「天空騎士パーシアス」1体を特殊召喚する事ができる。
ATK/1400 DEF/ 800

《天空騎士パーシアス》 []
★★★★★
【天使族・効果】
このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、
その守備力を攻撃力が超えていれば、
その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。
また、このカードが相手ライフに戦闘ダメージを与えた時、
自分のデッキからカードを1枚ドローする。
ATK/1900 DEF/1400

「上級モンスターを呼ぶコンボ!」

「バトルは続いている!
 さらにパーシアスでクレインに攻撃を仕掛ける。
 『裁きのアーク・ペネトレイト』!!」

 半身半馬の天空騎士モンスター。
 手にしたランスを振り上げ、駆けてクレインを一閃。
 このデュエル最初のダメージを勝ち取ったのは藤原だった。

翼のLP:4000→3700

「パーシアスがダメージを与えたとき、カードを1枚ドローする。
 僕はこのままターンを終了するよ」

「やられちゃったなぁ。
 負けないよ! 俺のターンだ、ドロー!」

LP3700
モンスターゾーン
《輝鳥-テラ・ストルティオ》ATK2500、《聖鳥クレイン》ATK1600
魔法・罠ゾーン
なし
手札
5枚
藤原
LP8200
フィールド魔法
《天空の聖域》
モンスターゾーン
《天空騎士パーシアス》ATK1900
魔法・罠ゾーン
なし
手札
4枚

 ライフ差を付けられたが、翼の場には最上級儀式モンスターがいる。
 リバースもないのなら、ここで攻めをためらう理由もない。

「俺は《帝鳥ファシアヌス》を召喚だ!」

《帝鳥ファシアヌス》 []
★★★★
【鳥獣族・効果】
自分フィールド上に存在する鳥獣族モンスター1体を選択して持ち主の手札に戻す。
この効果は1ターンに1度しか使用できない。
ATK/1800 DEF/1200

 後続を欠かさず召喚し、翼の攻勢は緩まない。
 フィールド魔法により、天使とのバトルでは藤原にダメージは及ばない。
 しかし直接攻撃ならば、藤原にダメージを与えることができる。

「バトルだ! ストルティオで攻撃だ!
 『シャイニング・クエイクレッグ』!!」

 パーシアスは半身がペガサスのモンスター。
 しかし、脚で競うならばストルティオは数段上。
 猛スピードに超パワーを載せ、強烈な蹴りが繰り出される。

「ダメージ計算時に手札より誘発即時効果を発動」

 ――しかし、その蹴りは感触を得ずに空振る。
 勢いあまってクルクル回るストルティオを、天空から見下ろす一つの影。
 黄金の翼を得た《天空騎士パーシアス》がランスを構え、猛進する。

「迎撃だ! 『オネスティー・アーク・ペネトレイト』!!」

 光の槍撃により、ストルティオは敢え無く狩られる。
 一瞬の逆転劇に、翼の理解が追いつかない。

翼のLP:3700→1800

「リバースもないのに、迎撃された……!?
 攻撃力は上回っていたはずなのに」

「これが僕の切り札のカードの効果。
 光属性モンスターの絶対勝利を約束する効果だ」

 困惑する翼に、藤原は墓地の一番上のカードを指し示した。
 そこにあるのは見知ったカード。
 忘れるはずのない藤原を象徴するカード――精霊《オネスト》――。

《オネスト》 []
★★★★
【天使族・効果】
自分のメインフェイズ時に、フィールド上に表側表示で存在する
このカードを手札に戻す事ができる。
また、自分フィールド上の光属性モンスターが
戦闘を行うダメージステップ時にこのカードを手札から墓地へ送る事で、
エンドフェイズ時までそのモンスターの攻撃力は、
戦闘を行う相手モンスターの攻撃力の数値分アップする。
ATK/1100 DEF/1900

「これが《オネスト》の効果か。
 さすが藤原先輩の切り札……」

 呆然とする翼に、藤原は諭すように語りかける。

「ずいぶんと攻め急いでいたみたいだが、急いだから掴めるわけじゃない。
 焦らずに着実にやらないと、こんな風に足元を(すく)われることになる。
 もう少し冷静にやらないと、僕の用意した廃寮のアトラクションも見せられないな」

「……明菜にも言われたな、焦りすぎだって……」

 翼は少し俯き、しかし思い直したように手札のカードに眼をやった。
 落ち込んでいるわけじゃない。後悔するわけでもない。
 何か抱くものがあるかのように、翼の瞳に迷いがなかった。

「俺はリバースを1枚セットして、ターンを終了するよ」

「僕のターンだな、ドロー」

 動じない翼の態度に、藤原はわずかな反感を覚えた。
 翼にはやると決めたら周囲に耳を貸さない頑固さがある。
 その危うさとトゲを取り払うためのこのデュエル。
 そこを譲りたくない意志が、藤原にはある。

「なら、今度は僕が攻めるとしよう。
 フィールドの《天空騎士パーシアス》を生け贄に捧げ――」

「上級モンスターを生け贄に!?」

 本来ならばセオリーから外れた召喚行為。
 しかし、藤原のデュエルに意味のないプレイングはない。

「手札より《天空勇士ネオパーシアス》を進化召喚する!
 さらに場に《天空の聖域》があるとき、追加効果で攻撃力を上昇させる。
 相手と自分のライフポイント差分、攻撃力を上昇させる!
 よって、《天空勇士ネオパーシアス》の攻撃力は――」

《天空勇士ネオパーシアス》 []
★★★★★★★
【天使族・効果】
このカードは自分フィールド上の「天空騎士パーシアス」1体を
生け贄に捧げ、手札から特殊召喚できる。
このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、
その守備力を攻撃力が超えていれば、
その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。
また、このカードが相手ライフに戦闘ダメージを与えた時、
デッキからカードを1枚ドローする。
フィールド上に「天空の聖域」が存在し、
自分のライフポイントが相手より上の場合、
その数値だけこのカードの攻撃力・守備力がアップする。。
ATK/2300 DEF/2000

《天空勇士ネオパーシアス》ATK2300→8700

「すごい……!
 このためにライフポイントを蓄えてたんだ!」

「君のデッキには《ガード・ブロック》があったな。
 もう1体を召喚しておくとしよう。
 墓地の《天空騎士パーシアス》と《コーリング・ノヴァ》を除外し、
 手札の《神聖なる魂》を特殊召喚する」

 美女の透き通る精霊が、眩い聖なる光を放ちながら降臨する。
 その激しささえ内包した光が、高い魔力を物語る。

《神聖なる魂》 []
★★★★★★
【天使族・効果】
このカードは通常召喚できない。
自分の墓地に存在する光属性モンスター2体を
ゲームから除外した場合に特殊召喚する事ができる。
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
相手のバトルフェイズ中のみ全ての相手モンスターの攻撃力は300ポイントダウンする。
ATK/2000 DEF/1800

「さあ、バトルだ!
 《天空勇士ネオパーシアス》でファシアヌスに攻撃!
 『断罪のホーリー・ペネトレイト』!!!」

 目の眩むような量の生命の光をランスに集約していく。
 肥大化したランスは、巨木のように大きい。
 振りかぶり投擲された光の襲撃。
 立ち向かうには、ファシアヌスはあまりにも小さい。
 そのまま翼ごと光が飲み込もうとし――。

「墓地の《聖鳥クレイン》を除外して、速攻魔法発動!!」

 光り輝く1枚の羽根が、巨大な光槍の切っ先を食い止める。

「な……に……」

 回避されるかもしれないと予測していた。
 しかし、見たこともないカードのエフェクトに、藤原は動揺を隠せない。

「速攻魔法《希望の羽根》を発動した。
 光属性で鳥獣族のモンスターを墓地から除外して、バトルを終了。
 そして、その後にカードを1枚ドローする」

《希望の羽根》
【魔法カード・速攻】
自分の墓地に存在する光属性・鳥獣族モンスター1体を
ゲームから除外して、発動する。
このターンのバトルフェイズを終了させ、
自分のデッキからカードを1枚ドローする。

「なるほど。ピーキーだが、いいカードだ。
 しかし、フィールドの状況は変わっていない。
 僕はカードを2枚伏せて、ターンを終了する」

「なら、俺のターンだ!
 ドロー!」

LP1800
モンスターゾーン
《帝鳥ファシアヌス》ATK1800
魔法・罠ゾーン
なし
手札
5枚
藤原
LP8200
フィールド魔法
《天空の聖域》
モンスターゾーン
《天空勇士ネオパーシアス》ATK8700、《神聖なる魂》ATK2000
魔法・罠ゾーン
伏せカード×2
手札
1枚

 藤原の場には、その戦線を支える《天空の聖域》がそびえ立っている。
 さらに上級モンスターが立ち並び、リバースも2枚。
 攻め入る隙もないような完全な布陣。
 しかし、翼は意気揚々とカードを手に取った。

「俺は《ソニックバード》を召喚する!
 さらにその効果でデッキから儀式魔法をサーチだ!」

 音速の鳥は鋭い声で歌い上げて、場の儀式の霊圧を高める。

《ソニックバード》 []
★★★★
【鳥獣族・効果】
このカードが召喚・反転召喚に成功した時、
自分のデッキから儀式魔法カード1枚を手札に加える事ができる。
ATK/1400 DEF/1000

「俺が手札に加えるのは、《高等儀式術》だ!」

「ものの一つ覚えのように、また儀式か……」

 藤原はその手を予測しながら、しかし翼の威勢の良さを警戒する。

「儀式魔法《高等儀式術》を発動!
 デッキから《冠を載く蒼き翼》と《音速ダック》を生け贄に捧げ――」

《高等儀式術》
【魔法カード・儀式】
手札の儀式モンスター1体を選択し、そのカードとレベルの合計が
同じになるように自分のデッキから通常モンスターを選択して墓地に送る。
選択した儀式モンスター1体を特殊召喚する。

 緑色の柔らかな高等儀式の粒子が、青の粒子へと変化していく。
 藤原には既に出てくるモンスターの算段が付いている。
 リバースに手をかけ、罠にかかる鳥を待ち構える。

「来い! 《輝鳥-アクア・キグナス》!!
 そして、その効果、『ルーラー・オブ・ザ・ウォーター』!!
 水流で押し戻すカードは――」

 水の白鳥が力を溜め、水流を放とうとする。

《輝鳥-アクア・キグナス》 []
★★★★★★★
【鳥獣族・儀式/効果】
「輝鳥現界」により降臨。
このカードの属性はルール上「水」としても扱う。
このカードが儀式召喚に成功した時、フィールド上のカード2枚を選択し、
1枚をデッキの一番上に、もう1枚を持ち主の手札に戻す。
ATK/2500 DEF/1900

「対象を指定するまでもない。
 リバースカード、オープン!
 カウンター罠、発動!!」

 キグナスを天雷が貫いた。
 水鳥に電気は一瞬にして伝導し、キグナスは瞬く間に絶命する。

「《天空の聖域》における《神罰》だ。
 カード効果の発動を無効にし、そのカードを破壊する」

《神罰》
【罠カード・カウンター】
フィールド上に「天空の聖域」が表側表示で存在する場合に発動する事ができる。
効果モンスターの効果・魔法・罠カードの発動を無効にし破壊する。

 翼の反撃の一手は成功の気配すらなく、藤原に防がれた。
 ――しかし、翼の瞳から戦意は消えていない。

「俺は800ライフポイントを支払い、《契約の履行》を発動する!
 もう一度《輝鳥-アクア・キグナス》を場に特殊召喚だ!」

 契約の絆と、主の生命を糧として。
 キグナスはもう一度フィールドへと舞い降りる。

《契約の履行》
【魔法カード・装備】
800ライフポイントを払う。
自分の墓地から儀式モンスター1体を選択して
自分フィールド上に特殊召喚し、このカードを装備する。
このカードが破壊された時、装備モンスターをゲームから除外する。

翼のLP:1800→1000

 翼はキグナスと視線を交わし、頷き合った。
 そして、祈るように1枚のカードを発動する。

「俺は《祝宴》を発動! カードを2枚ドローだ!」

《祝宴》
【魔法カード・速攻】
フィールド上に表側表示の儀式モンスターが
存在するときのみ発動することができる。
自分のデッキからカードを2枚ドローする。

「キグナスを蘇らせても、《神聖なる魂》を倒すのがせいぜい……。
 一体何を狙って――、いや、まさか!!」

 翼の思惑を辿り、藤原にはその先が分かった。
 翼の場には2体の下級鳥獣族モンスターがいる。
 本来は上級モンスターを前に無力なはずのモンスター。
 だが、その効果と布陣は今なら――。

「《帝鳥ファシアヌス》の効果を発動する!
 『インペリアル・ウィンド』!
 自分の鳥獣族モンスター1体を手札に戻せる!
 俺はキグナスをもう一度手札に加える!」

 そして、翼が見知ったカードをかざし、藤原の悪い予感は現実となる。

「儀式魔法発動! 《輝鳥現界》!!
 フィールドの《ソニックバード》と、デッキの《恵鳥ピクス》を生け贄に捧げ――」

 再び優しくも激しい青い光が、翼の場に集約していく。
 荘厳なる儀式のエフェクトの中心で、翼の逆立った髪が風になびく。

「焦るなって言われても、ずっと走り続けるのが俺のやり方なんだ!
 危なっかしくても、俺はこのやり方を信じ抜く!!」

 藤原の(いさ)める一手を超えて。
 翼は己の力を貫き、示し通す。

「今度こそ成功させてみせる!!
 《輝鳥-アクア・キグナス》を儀式召喚。
 そして、2度目の効果発動だ!
 『ルーラー・オブ・ザ・ウォーター』!!」

 主の万感を一身に背負って、キグナスの水流が再び放たれた。

「《天空勇士ネオパーシアス》をデッキに、《神聖なる魂》を手札に押し戻す!!」

 天空の祭壇に洪水を巻き起こして。
 キグナスの力強い水流が、藤原の場に風穴を開けた。

LP1200
モンスターゾーン
《輝鳥-アクア・キグナス》ATK2500、《帝鳥ファシアヌス》ATK1800
魔法・罠ゾーン
なし
手札
5枚
藤原
LP8200
フィールド魔法
《天空の聖域》
モンスターゾーン
なし
魔法・罠ゾーン
伏せカード×1
手札
2枚

「残るリバースはあと1枚。
 でも、ここは攻め抜く!
 キグナスで引き続き攻撃だ!!
 『シャイニング・スプリットウィング』!!」

 その勢いのまま、キグナスは白き翼で藤原をなぎ払った。
 リバースは発動していない。
 藤原は立体映像のエフェクトを両腕で防ぎながら、
 かすめていくキグナスの攻撃をそのまま通した。

藤原のLP:8200→5700

「よし、攻撃が通った! 続けて――」

 翼が意気込んだ瞬間に、――大きな揺れが巻き起こった。
 よろめいてしまう翼。尻餅をついてへたれ込むレイ。
 辺りを見回せば、闇が揺らぎ薄れては集まり、藤原に寄り添っていた。
 2階の方からは大きな倒壊音が聞こえる。
 それに続いて、レイが悲鳴を上げる。

「これは……」

「最初のダメージがダイレクトアタックとはね。
 いきなりちょっと派手な演出になってしまったらしい」

 顔を伏せていた藤原が髪をかき上げ、左右の闇に目配せをした。

「僕がダメージを受けるたびに、この廃寮は崩壊に向かっていく。
 元々ここは霊所として一般人には危ない場所なんだ。
 だから、ここと繋がった僕を倒せば、建物解体の任務を果たせるわけだ」

 藤原の説明を受けて、翼は意識を瞳に集中させる。
 青く染まった翼の瞳が、力の在り処を見定める。
 確かに精霊の空気が、そこかしこに流れを作っていた。
 この寮は確かに壊れかけている。柱などの構造は既に限界を超えている。
 ひびや隙間を精霊の力で満たして、ようやく均衡を保っている。

「面白い! じゃあさ、俺が負けたらどうなるの!」

 精霊の気配にワクワクした翼。
 意気揚々と藤原に質問を投げかける。
 藤原は耳をそばだてて、闇から意見を伺う仕草をする。

「目いっぱい悪戯する。内容はお楽しみに、ということだ。
 ちなみに闇は翼の『力』をどうも警戒してるようだな。
 むしろ反応のいい早乙女をどうするか、楽しみにしているらしい」

「ひゃあ!」

 嫌な想像をかき立てられ、レイが短い悲鳴を上げる。

「ははっ! ならますます俺が勝たなくちゃね!
 攻撃は続いているよ! 《帝鳥ファシアヌス》で攻撃だ!」

 先ほどキグナス召喚に繋ぐコンボを補助したファシアヌス。
 持ち前の高めの攻撃力を生かし、藤原に突進を仕掛けにかける。

「2体目は通さない!
 リバースオープン! 《奇跡の光臨》!!
 除外ゾーンの天使族モンスターを特殊召喚。
 再臨せよ! 《天空騎士パーシアス》!!」

 ――すかさず駆けつけたパーシアスが、槍でファシアヌスの猛突をいなした。
 ファシアヌスは慌てて翼の陣地に駆け戻った。

《奇跡の光臨》
【罠カード・永続】
ゲームから除外されている自分の天使族モンスター1体を選択し、
自分フィールド上に特殊召喚する。
このカードがフィールド上から離れた時、そのモンスターを破壊する。
そのモンスターが破壊された時このカードを破壊する。

「パーシアスが戻ってきたか……」

 先ほどキグナスで2枚のカードを押し戻した。
 ここからの反撃は翼にも予測がついた。

「なら、リバースを1枚セットして、ターンエンドだ!」

「僕のターンだ、ドロー。
 ……とはいっても、ドローするカードは分かってるんだがな」

 カードを引いて、翼の反応を見ながら。
 藤原は藤原のセオリーを遂行する。

「戻しただけなら、すぐに同じ布陣を形成できる!
 再び墓地の光属性モンスター2体を除外し、《神聖なる魂》を特殊召喚する!
 さらに《天空騎士パーシアス》を生け贄に捧げ、《天空勇士ネオパーシアス》に進化!」

《神聖なる魂》 []
★★★★★★
【天使族・効果】
このカードは通常召喚できない。
自分の墓地に存在する光属性モンスター2体を
ゲームから除外した場合に特殊召喚する事ができる。
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
相手のバトルフェイズ中のみ全ての相手モンスターの攻撃力は300ポイントダウンする。
ATK/2000 DEF/1800

《天空勇士ネオパーシアス》 []
★★★★★★★
【天使族・効果】
このカードは自分フィールド上の「天空騎士パーシアス」1体を
生け贄に捧げ、手札から特殊召喚できる。
このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、
その守備力を攻撃力が超えていれば、
その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。
また、このカードが相手ライフに戦闘ダメージを与えた時、
デッキからカードを1枚ドローする。
フィールド上に「天空の聖域」が存在し、
自分のライフポイントが相手より上の場合、
その数値だけこのカードの攻撃力・守備力がアップする。。
ATK/2300 DEF/2000

《天空勇士ネオパーシアス》ATK2300→6800

「さらに《マジック・プランター》を発動。
 《天空騎士パーシアス》の復活に使った《奇跡の光臨》が残っている。
 これをコストにカードを2枚ドローさせてもらう」

《マジック・プランター》
【魔法カード】
自分フィールド上に表側表示で存在する
永続罠カード1枚を墓地へ送って発動する。
自分のデッキからカードを2枚ドローする。

 藤原はすぐさま元の布陣を再現した。

「さて、バトルフェイズに移行する。
 もう一度、《天空勇士ネオパーシアス》で攻撃だ!
 キグナスを貫け、『断罪のホーリー・ペネトレイター』!!」

 再び巨大な光が襲撃する。
 お返しと言わんばかりに、キグナスを圧倒。
 さらに翼を飲み込もうとする。

「でもダメージは遠さない! リバースカードだ!
 《ガード・ブロック》!!
 攻撃を1度防いで、カードを1枚ドローする!」

《ガード・ブロック》
【罠カード】
相手ターンの戦闘ダメージ計算時に発動する事ができる。
その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になり、
自分のデッキからカードを1枚ドローする。

 今度は翼が藤原の攻撃をいなした。
 しかし、これで翼のリバースは尽きてしまった。

「なら、《神聖なる魂》でファシアヌスを攻撃する!」

 半透明の精霊が光球を投げつけてくる。
 翼にはファシアヌスを守る手段がない。
 攻撃はそのまま直撃し、ファシアヌスのビジョンが消え去った。

翼のLP:1000→800

「僕はモンスターをセットして、ターンエンドだ」

 藤原は静かにターンを終えた。
 警戒した表情をしたままで。

「よし、俺のターンだ! ドロー!!」

 対照的に翼は意気揚々とターンを開始する。

LP800
モンスターゾーン
なし
魔法・罠ゾーン
なし
手札
5枚
藤原
LP5700
フィールド魔法
《天空の聖域》
モンスターゾーン
《天空勇士ネオパーシアス》ATK7200、《神聖なる魂》ATK2000、伏せモンスター×1
魔法・罠ゾーン
なし
手札
1枚

 モンスターの状況は劣勢時とほぼ同じ。
 しかし、今回は藤原の場にリバースが存在しない。
 切り札の《オネスト》も既に墓地にいる。
 似た布陣に見えて、格段に攻め込みやすいのは間違いない。

「俺は《儀式の準備》を発動するよ!
 デッキのアクイラを手札に加えて、墓地の儀式魔法《輝鳥現界》を回収する!」

《儀式の準備》
【魔法カード】
自分のデッキからレベル7以下の儀式モンスター1体を手札に加える。
その後、自分の墓地から儀式魔法カード1枚を手札に加える事ができる。

「ここでアクイラか……」

 来るべき反撃を予期して、藤原は渋い表情をする。

「俺は《寧鳥コロンバ》を召喚だ!」

 丸々と太ったハトが場に無防備に現れる。
 攻撃力はゼロ。効果も戦闘向きとは言えない。

《寧鳥コロンバ》 []
★★★
【鳥獣族・効果】
自分フィールド上に存在するこのカードが破壊され墓地へ送られた時、
自分のデッキからカードを1枚ドローする。
ATK/ 0 DEF/2000

 つまりは、その先のコンボのために召喚されたということ。

「儀式魔法《輝鳥現界》を発動するよ!
 場のコロンバを生け贄に、デッキのアンセルを生け贄に捧げ――」

 翼はすかさずカードを掲げ、反撃の嵐の襲来を告げる。

「来い! 《輝鳥-アエル・アクイラ》!!
 そして、すべてを吹き飛ばせ!
 『ルーラー・オブ・ザ・ウィンド』!!
 《天空の聖域》を破壊するよ!」

《輝鳥-アエル・アクイラ》 []
★★★★★★★
【鳥獣族・儀式/効果】
「輝鳥現界」により降臨。
このカードの属性はルール上「風」としても扱う。
このカードが儀式召喚に成功した時、フィールド上の魔法・罠カードを全て破壊する。
ATK/2500 DEF/1900

 大嵐が巻き起こる。
 雲の大地ごと神殿は取り壊され、天使の統治する領域は崩された。
 勇士の光の槍は、その力強さを失っていく。

《天空勇士ネオパーシアス》ATK7200→2300

 今この場を支配するのは、雄大なる緑色の大鷲。
 心強いフェイバリットの降臨に、翼の声が高鳴る。

「いくよ! アクイラでネオパーシアスに攻撃だ!
 『シャイニング・トルネードビーク』!!」

 アクイラは空を旋回し、身体をしねらせ攻撃の準備をする。
 柔らかな光がその動きをわずかに妨げる。

《輝鳥-アエル・アクイラ》ATK2500→2200

「《神聖なる魂》の効果で、アクイラの攻撃力は300下がっている。
 そのままではネオパーシアスに敵わないが――」

 藤原は先の展開を見通した上で、翼に確認するように呟く。

「そうだね! だから、墓地の《兵鳥アンセル》の効果を発動だ!
 墓地から除外して、アクイラの攻撃力を400アップさせるよ!」

《兵鳥アンセル》 []
★★★★
【鳥獣族・効果】
自分の墓地に存在するこのカードをゲームから除外して発動する。
自分フィールド上に表側表示で存在する
鳥獣族モンスター1体の攻撃力は400ポイントアップする。
この効果は相手ターンでも使用できる。
ATK/1500 DEF/1400

《輝鳥-アエル・アクイラ》ATK2200→2600

 風がさらに勢いを増して、アクイラを後押しして。
 回転するクチバシのドリルが、ネオパーシアスを打ち破った。

藤原のLP:5700→5400

 加熱するデュエルに、闇が嬉しそうにざわめく。
 ささやくように冷たい風が通り抜け、レイが再び悲鳴を上げる。

「このまま攻め抜くよ!
 カードを1枚セットして、ターンエンドだ!!」

 デュエルのペースを完全に握った翼がターンを終えた。

「僕のターン、ドロー……」

 藤原は対策を考えながら、カードを引く。

「まずはリバースモンスターを反転召喚!
 《スケルエンジェル》だ。
 カードを1枚ドローしておこう」

 天使の翼と靴だけしか見えない透明なモンスターが出てくる。
 そして、デッキに向かって矢を放ち、藤原に導き寄せた。

《スケルエンジェル》 []
★★
【天使族・効果】
リバース:自分のデッキからカードを1枚ドローする。
ATK/ 900 DEF/ 400

 引いたカードを見て、藤原は表情を引き締めた。
 何かが思い当たったように、思案気に眉をひそめた。

「斗賀乃先生の思っていることが、やっと少し分かった気がする」

「え?」

 唐突なつぶやきに、翼は思わず声を上げる。

「確かに久白は強い。ひたむきな攻めと前向きな姿勢。
 僕がこうも苦戦してしまうのだから、デュエルの腕は確かだ。
 だから、心も強い。そう簡単なことでは挫けないだろうな」

 話しかけるのでなく、自分に確認するように藤原は呟いた。

「だが、だからこそ無鉄砲さが気になってしまうんだ。
 僕も斗賀乃先生も慎重すぎるからかもしれない。
 計画性というか、地に足の着いた感覚がないというか。
 何かを置き去りにして、がむしゃらに走っているような。
 そんな危うさを、僕らに感じさせてしまうのだろうな」

 藤原の神妙な呟き。
 廃寮に隙間風が吹き抜けて、翼の背筋をくすぐった。
 ――そこに在る闇はいつでも、誰かの心の闇を見つめている。

「俺は、確かにそうかもしれない。
 何かをしてなくちゃいけないと思って、走って走って。
 でも、そのやり方の変え方を今は分からない。
 壁にぶち当たっても走り続けることしか、俺には思い浮かばないんだ」

 いつもなら、自分の心を上手く言葉に出来ないなのに。
 今はすらすらと説明する言葉が思い浮かんでいた。
 藤原か、あるいは廃寮の闇に導かれたように。

「斗賀乃先生なら『自己を見つめ、過酷に鍛え直せ』とでも言うのだろうな」

「えっ、そうなの?」

 斗賀乃の冷たい態度からは、翼はそう前向きには感じなかった。

「やり方は厳しいが、あのデュエルで言いたかったことはそれだと思う。
 斗賀乃先生は久白の成長に強い関心を持っている。
 そうでなければ、あんなに強い感情を込めてデュエルをしない」

「自分を見つめ直す……」

 翼は自分で自分に呟いた。
 しかし、すぐに何かが見えるわけでもなかった。

「でも、それはそう簡単にできることじゃないんだ。
 僕にだって、やっと見えてきたばかりなんだ。
 自分の心の在り方を見つめ通して、正しいやり方が見えてきた人なんて、
 僕ら学生の中にはそうそうはいやしない」

 藤原は諭すように語りかける。
 自分を見つめ通してきた経験を振り返りながら。

「だから、久白。
 君は風を感じながら、そのまま走り抜けるんだ。
 自分の精一杯をぶつけたなら、何か得るものがある。
 それで受ける挫折も大きいかもしれない。
 だけど、僕が傍についている。
 精霊の力だって、人よりは詳しいつもりだ。
 僕を頼りに思う存分、君は君でぶつかっていってほしい」

 藤原は翼へ『君の助けになる』と言い聞かせた。
 翼は、その訴えかけに少し違和感を覚えた。
 とても有り難い申し出だとは思う。
 けれど、この切迫感は何だろう。
 まるで、今そこに危機が迫っているかのような切実さ。
 今手を結ばなければ、誰かが壊れてしまうような重圧感。
 それが不安をかき立てるのだけれども。
 誰かが導きを差し伸べてくれるのは嬉しかった。

「心配してくれて、ありがとう。
 俺は俺で頑張ってみるよ」

 その不安については、直面してから考えればいい。
 今は素直に感謝して、前を見つめていようと思った。

「ああ、それでいい。
 僕が伝えたかったのは、それだけだ。
 とはいえ、その勢いにあっさり負けるわけにもいかないな」

LP800
モンスターゾーン
《輝鳥-アエル・アクイラ》ATK2900
魔法・罠ゾーン
伏せ×1
手札
2枚
藤原
LP5400
フィールド魔法
なし
モンスターゾーン
《スケルエンジェル》ATK900、《神聖なる魂》ATK2000
魔法・罠ゾーン
なし
手札
3枚

「こんないい引きができたのなら、言い訳はできないな」

 藤原は手札を見ながら、自信あり気に呟いた。
 あの慎重な藤原がそう呟くからには。
 ここから繰り出される手は、相当厳しいものに違いない。

「僕は《スケルエンジェル》を生け贄に捧げ――。
 2体目の《天空騎士パーシアス》を召喚する!」

 再びパーシアスが現れ、《神聖なる魂》と並び立ち、上級モンスターが並ぶ。

「それだけじゃない。
 今これで僕の墓地に存在する天使族モンスターは4体になった。
 このときに手札から特殊召喚できる大天使のカードがある!」

 藤原の綿密な計算から導かれた特殊召喚のチャンス。
 手札の1枚が強い光を放ち、高貴なる存在の光臨を告げる。

「来い! 《大天使クリスティア》!!」

 白騎士の天使が、赤い翼をはためかせ舞い降りる。
 自ら強く発光して、フィールドに新たな光の秩序を打ち立てる。

「このモンスターがフィールド上に存在するとき、お互いに特殊召喚ができなくなる。
 そして、自身の効果による特殊召喚に成功したとき、追加効果が発生する!
 『エンジェリック・サルベイション』!!」

 クリスティアはその身に纏う赤い聖骸布(せいがいふ)を墓地に向かって解き放つ。
 聖者の力を秘めた織物は、死せる天使を救済する寄る辺となって、
 藤原の手に新たなカードを呼び込む。

「墓地から天使族モンスター1体を手札に加える」

《大天使クリスティア》 []
★★★★★★★★
【天使族・効果】
自分の墓地に存在する天使族モンスターが4体のみの場合、
このカードは手札から特殊召喚する事ができる。
この効果で特殊召喚に成功した時、
自分の墓地に存在する天使族モンスター1体を手札に加える。
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
お互いにモンスターを特殊召喚する事はできない。
このカードがフィールド上から墓地へ送られる場合、
墓地へは行かず持ち主のデッキの一番上に戻る。
ATK/2800 DEF/2300

「僕が選び出すのは、《オネスト》だ」

《オネスト》 []
★★★★
【天使族・効果】
自分のメインフェイズ時に、フィールド上に表側表示で存在する
このカードを手札に戻す事ができる。
また、自分フィールド上の光属性モンスターが
戦闘を行うダメージステップ時にこのカードを手札から墓地へ送る事で、
エンドフェイズ時までそのモンスターの攻撃力は、
戦闘を行う相手モンスターの攻撃力の数値分アップする。
ATK/1100 DEF/1900

「また手札に《オネスト》が……」

 これで藤原の光属性モンスターに、安易に戦闘を仕掛けられなくなった。
 さらにフィールドには翼得意の特殊召喚を封じる最上級モンスターが君臨している。
 簡単に打ち崩せるような布陣ではない。

「さて、バトルだ!
 《大天使クリスティア》でアクイラに攻撃!」

 クリスティアがアクイラに向かって飛翔する。
 この攻撃を通せば負けてしまう。
 翼は防御手段を出し惜しみなしで行使せざるを得ない。

「リバースカードオープン!
 《風霊術−「雅」》!!
 アクイラを生け贄に捧げて発動だ!
 クリスティアをデッキに戻すよ!」

《風霊術−「雅」》
【罠カード】
通常罠 自分フィールド上に存在する風属性モンスター1体生け贄に捧げ、
相手フィールド上に存在するカード1枚を選択して発動する。 選択した相手のカードを持ち主のデッキの一番下に戻す。。

 旋風が巻き起こり、クリスティアをデッキに押し戻す。
 しかし、これで翼の場はがら空き。
 対して、藤原の場には2体の上級天使が控えている。

「僕の場には《天空騎士パーシアス》と《神聖なる魂》がいる。
 しかし、君にはリバースカードはなくても、ダメージを防ぐ手段がある。
 発動せざるを得ないな」

 防衛策を見抜かれていても、後に繋げるために翼に選択肢はない。

「墓地のピクスを除外して、その効果を発動だ!
 このターンの俺に対する戦闘ダメージをゼロにする!」

 翼が柔らかなオーラに包み込まれ、追撃は見送られる。

《恵鳥ピクス》 []
★★★
【鳥獣族・効果】
自分の墓地に存在するこのカードをゲームから除外して発動する。
このターン、コントローラーへの戦闘ダメージは0になる。
ATK/ 100 DEF/ 50

「では、バトルを終了して、第2メインフェイズ。
 手札の2枚目の《天空の使者 ゼラディアス》を墓地に送る。
 もう一度《天空の聖域》を加えて、そのまま発動だ」

 再び展開された天使の聖域。
 天使族との戦闘では藤原にダメージは発生しなくなった。
 そして、藤原はそれ以上の戦略を展開している。

「これで僕の墓地の天使族モンスターは再び4枚になった。
 次のターンに引くカードは、《大天使クリスティア》。
 もう一度特殊召喚して、今度こそチェックメイトだ。
 僕のターンはこれで終了だ」

「俺のターンだ、ドロー!」

 藤原の強固な布陣。
 それを突破するには、再び輝鳥を展開するしかない。
 翼には特殊召喚を介さない除去手段がほとんどない。
 《ゴッドバードアタック》も《風霊術−「雅」》も使った今となっては、
 次に《大天使クリスティア》を召喚されれば、挽回は困難である。
 このターンが、恐らくは最後のチャンスになる。

「俺は《貪欲な壺》を発動するよ!
 墓地のアクイラ、ストルティオ、キグナス、ノクトゥア、ファシアヌスの
 5枚をデッキに加えて、カードを2枚ドローする。」

《貪欲な壺》
【魔法カード】
自分の墓地に存在するモンスター5体を選択し、
デッキに加えてシャッフルする。
その後、自分のデッキからカードを2枚ドローする。

 チャンスに繋げるためのドロー。
 祈りを込めて、カードをデッキに戻し、
 そして、新たに2枚を引き抜いた。

「……………」

 手札には4枚のカード。
 繋がる可能性を考え、――そして途中でやめた。
 翼の【輝鳥】デッキは、考えて動かすデッキではない。
 そのときのドローに任せて、風の勢いを呼び込むデッキ。
 ならば、今できる最大限の一手一手を積み重ねていけば、それが最善になる。

「俺は《命鳥ルスキニア》を召喚するよ!
 そして、そのまま生け贄に捧げて、
 デッキからレベル4以下の鳥獣族モンスターを特殊召喚する!」

 命の火をその身に宿した小鳥が舞い、新たな鳥獣を呼び込む。

《命鳥ルスキニア》 []
★★★
【鳥獣族・効果】
自分フィールド上に表側表示で存在するこのカードを生贄に捧げる事で、
自分のデッキまたは墓地からレベル4以下の鳥獣族モンスター1体を特殊召喚する。
この効果により「命鳥ルスキニア」を特殊召喚することはできない。
ATK/ 500 DEF/ 400

「俺はデッキから《英鳥ノクトゥア》を特殊召喚する!
 さらにこのときデッキの『輝鳥』と名のつくカードをサーチできる!
 俺がデッキからサーチするのは――」

 ここまでのデュエルで最も活躍した1枚。
 それを思い浮かべ、すかさずデッキからその雄姿を辿る。
 
「お前がこのデュエルのエースだ!
 《輝鳥-アクア・キグナス》を手札に加える!」

「何! また儀式をしてくるだと!」

 次々とカードを手繰り寄せる翼。
 さすがの藤原も動揺を隠せない。
 その動揺を確信づけるように、翼の勢いも止まらない。

「3枚目の《輝鳥現界》を発動だ!
 場のノクトゥアと、デッキのアイビスを生け贄に捧げ――」

 翼の呼びかけに応えて――。
 その場には何度でも青い粒子が立ち込めて。
 そして、優雅なる白鳥へと姿を変えていく。

「来い! 《輝鳥-アクア・キグナス》!!」

 翼が前を目指す限り、水流は何度でも立ちはだかる相手を押し戻す。

《輝鳥-アクア・キグナス》 []
★★★★★★★
【鳥獣族・儀式/効果】
「輝鳥現界」により降臨。
このカードの属性はルール上「水」としても扱う。
このカードが儀式召喚に成功した時、フィールド上のカード2枚を選択し、
1枚をデッキの一番上に、もう1枚を持ち主の手札に戻す。
ATK/2500 DEF/1900

「その召喚時の効果だよ! 
 『ルーラー・オブ・ザ・ウォーター』!!
 《天空騎士パーシアス》と《神聖なる魂》を手札とデッキに戻す!」

 藤原を守る2体の上級モンスターが姿を消した。
 ダイレクトアタックを通したあのときと同じように、
 守り手の天使のいない伽藍がらんの聖域が、ただそこにある。

「すごいな。これで僕の場は正真正銘のがら空きだ。
 だが、僕のライフはまだ5400ポイントある。
 少しでも残せば、《神聖なる魂》と《オネスト》の攻撃で僕の勝ちだ。
 さて、どうする?」

 翼の攻めに感心しながら、藤原の余裕はまだ消えていない。
 次の戦闘さえ通れば藤原が勝つ。その優位はまだ揺らいでいない。

「何とかしなくちゃ、負けちゃうよな。
 だったら、この場でどうにかしてみせるよ!
 今儀式の生け贄にしたアイビスの効果だ!
 カードを1枚ドロー!」

《霊鳥アイビス》 []
★★★★
【鳥獣族・効果】
このカードを生け贄にして儀式召喚を行った時、自分のデッキからカードを1枚ドローする。
ATK/1700 DEF/ 900

 翼の手に加わった3枚目のカード。
 指先に伝わる力強い鼓動。
 そこに吸い込まれるまま、翼はカードを繰り出した。

「俺は儀式魔法《大地讃頌》を発動するよ!
 場のキグナスを生け贄に捧げて――」

《大地讃頌》
【魔法カード・儀式】
地属性の儀式モンスターの降臨に使用する事ができる。
フィールドか手札から、儀式召喚する地属性モンスターと同じレベルになるように
生け贄を捧げなければならない。

 《大地讃頌》に対応する翼のカードは1枚のみ。
 地を司る輝ける鳥。再びその場に姿を現す。

「いくよ! 《輝鳥-テラ・ストルティオ》!!
 そして、効果だ! 『ルーラー・オブ・ジ・アース』!
 墓地から鳥獣族モンスターを蘇生できる!
 俺が蘇生するのは――」

 輝鳥を召喚するために、輝鳥を生け贄に捧げる。
 一見不合理に見える儀式だが、これこそがストルティオの真価のコンボ。
 並び立つエースの競演を思い描き、翼の胸が高鳴る。

「今生け贄に捧げた《輝鳥-アクア・キグナス》だ!」

《輝鳥-テラ・ストルティオ》 []
★★★★★★★
【鳥獣族・儀式/効果】
「輝鳥現界」により降臨。
このカードの属性はルール上「地」としても扱う。
このカードが儀式召喚に成功した時、自分の墓地の鳥獣族モンスター1体を特殊召喚する。
ATK/2500 DEF/1900

 並び立つ両雄。
 大地の輝鳥と流水の輝鳥が、攻撃のために身構える。

「攻撃力2500のモンスターが2体……。
 そして、もう1枚の手札は――」

 藤原は翼の表情を見て取った。
 あれはライフを削りきれずに悔しがる表情ではない。
 コンボを繋ぎ尽くして、勝利へと駆け抜ける表情だ。
 ならばこの勝負は、――藤原の完敗だ。

「バトルだ!
 ストルティオとキグナスで攻撃!
 まずはストルティオだ!
 『シャイニング・クエイクレッグ』!!」

 今度こそと地を猛進するストルティオから、藤原へと強烈な蹴り。

藤原のLP:5400→2900

 そして、空から飛来する白き勇姿。

「キグナスの攻撃の前に速攻魔法を発動!
 《異次元からの埋葬》!
 ゲームから除外されているカードを墓地に戻す!
 俺は《恵鳥ピクス》と《兵鳥アンセル》を墓地に戻す!
 そして、そのままアンセルの効果を発動だ!
 墓地から除外することで、キグナスの攻撃力を400アップさせる!」

《異次元からの埋葬》
【魔法カード・速攻】
ゲームから除外されているモンスターカードを3枚まで選択し、
そのカードを墓地に戻す。

《兵鳥アンセル》 []
★★★★
【鳥獣族・効果】
自分の墓地に存在するこのカードをゲームから除外して発動する。
自分フィールド上に表側表示で存在する
鳥獣族モンスター1体の攻撃力は400ポイントアップする。
この効果は相手ターンでも使用できる。
ATK/1500 DEF/1400

《輝鳥-アクア・キグナス》ATK2500→2900

「これでフィニッシュだ!!
 キグナスの攻撃!
 『シャイニング・スプリットウィング』!!」

 キグナスがアンセルの風を纏い、さらに加速する。
 水気を帯びた白き翼の太刀。
 藤原を一直線に斬りつけ、そのライフはゼロを指した。

藤原のLP:2900→0

 デュエルが終わると、急に日差しが射してきた。
 廃寮を夕暮れが照らし出していた。

「いきなり明るくなった?」

「ああ、闇が消えたから、陽の光が入ってきたんだ。
 今までは闇に占領されてたけど、もうここはそういう場所じゃない。
 ありのままの何もない建物に還っていくんだ」

 藤原が思い出を振り返るように、廃寮を見渡した。
 
 ――轟、と。感傷に水を差すように、あちこちから倒壊音が響く。

「ああ、そうだったな。
 ここは崩れる。デュエルに夢中ですっかり忘れていた。
 巻き込まれる前に、さっさと脱出するか」

 藤原が声をかけて、翼もまた出口に向かう。

「ま、待ってよ」

 二人にレイが弱々しく声をかける。
 へたり込んだままのレイに、藤原は首をかしげた。

「早くしないと、本当に危ないぞ。
 闇の力なしには、この建物はもう原型を保てないんだ」

「分かってるよ。
 けど……」

 レイは顔を赤らめて俯向き、ためらいがちに告げた。

「こ、腰が抜けちゃって……」

 頭を掻きながら、照れるレイ。
 藤原と翼は笑って手を差し伸べて、崩れる廃寮を3人で脱出した。





 その1週間後のことだった。
 翼が騒がしく駆けていき、保健室のドアを開けた。

「クロノス先生が襲われたって!?」

 その大きな声に保健室のみんなが振り向く。
 レイがたしなめる。

「ダメだよ! 大きな声を出したら!」

「ご、ごめん。でも、本当にびっくりしたから。
 それで、その倒した奴ってのは?」

「それがね……」

「うーん、私から話すノーネ」

「クロノス先生! 大丈夫!?」

「寝ながらしゃべるくらいなら平気ナノーネ。
 動くことはできそうにないケード」

「私が宿直室からパトロールに出ようとしたら、
 その扉の目の前にいたノーネ」

「そして、デュエルしたら負けて吸い取られたノーネ。
 すごく強いドラゴン使いだったノーネ」

「姿と背格好は?
 やっぱり変人奇人?」

「いやいや、普通だったノーネ。
 黒いローブで、顔はゴーグルで見えないし、声もボカされてたケード。
 必要最低限のことしかしゃべらないから、何も分からなかったノーネ」

「うーん。正体不明で慎重……なのかな?
 いやでも、宿直の先生を正面から襲ってる時点で大胆?」

「とにかくこのことは一部にしか知らせてないノーネ。
 下手な騒ぎは起こしたくないノーネ。
 並のデュエリストじゃ、歯が立たないノーネ」

「じゃあさ、つまり俺たちの出番ってことだよね!」

「そういうことになるケード、慎重にやらないといけないノーネ。
 真正面からデュエルしたら敵わないかもしれなイーノ」

「そうだね……。ひとまず、みんなを集めて相談しよう。
 明菜ちゃんや藤原先輩、それに剣山先輩にも伝えなくちゃ!」

「頼んだノーネ!
 生徒に任せるのは苦しいケード、私はちょっと動けないノーネ」

「あ、そうだ! クロノス先生!
 お弁当置いておくから食べてね!
 体力回復には食べるのが一番いいんだから!」

 そういって、レイは作ってきたお弁当を開いて見せる。

「オゥ! 気持ちは嬉しいケド、もう少し洋風のメニューが欲しいノーネ……」

「えり好みしない! さて、翼くん。早速連絡を回そう!」

「頼んだノーネ!
 早くスタミナを付けて、私もすぐに復帰すルーノ」

 仕掛けられた謎の襲撃。
 藤原の暗示していた危機の予感。
 それでも手を取り合えるなら、きっと何とかなる。
 翼はレイに従って、明菜へと連絡を繋げた。





第10話 心は通じない/瞳の先に届かない



 藤原が主導権を握って、話を取りまとめていた。
 場にはフリークス・バスターズのいつもの4人、加えて剣山。

 現に被害者が出始めた。
 しかも、先生を破るほどの強敵が現れた。
 早く食い止めなければ、さらに侵攻されてしまう。
 しかし、決して足手まといを選んではならない。
 単に負けて相手を増徴させるだけである。
 あくまで、少数精鋭。
 短期で圧倒し、戦意を失わせる。
 さらに捕獲し、自分たちにも危険があると知らしめる
 ここは狩場には適さない、と諦めさせる。
 それが今回の目標である。
 これなら相手の拠点に侵入できずとも、退かせる事ができる。
 それを達成するための具体的手段として、藤原が最終確認をまとめていた。
 
「まず、僕らは敵拠点と推されるSAL研究所を中心に各人で別方向に行動する。
 固まって動いていたら、相手は寄ってこないだろうしな。
 あと手分けをして相手に見つかりやすくするための狙いもある。
 だけど、必ず一人でデュエルしてはいけない。
 逃げ足と正体を隠すことについては、あいつらは一流なんだ。
 このアカデミアならどこでも互いのPDAは繋がるようになっている。
 交戦状態になる前に、すぐに他の者に知らせるんだ。
 交戦中はベルトもあるし手出しはできないが、
 決闘が終わりそうになったらすぐに取り囲む。
 僕たちが羽交い絞めにすれば、奴らも逃げることはできない。
 そして、捕獲して必ず正体を突き止めよう。
 その上で取引をしてもいいし、まぁその後はその後だな……」

 その作戦を聞いて、翼はとても張り切っている。

「すごいや! これなら絶対に捕まえられるよ!
 今まで倒しても逃げられてばっかりだったしね!
 確かにただデュエルし続けるよりも、これならいけそうだ!
 ね、明菜!」

 翼に大きな声で話題を振られて、明菜は驚く。

「う、うん。そうだね。
 あたしもこの作戦でいけると思う」

 少し気の抜けているように見える明菜。
 レイがたしなめる。

「ダメだよ、明菜ちゃん。気を引き締めなくちゃ!
 作戦会議のときもあまり発言してなかったし、もっと頑張らなきゃ!」

「うう……。
 集中してないわけじゃないんだけど、
 ただ、あたしこういう話し合いとかって苦手で……。
 みんなの言ってることが正しいなぁと追うだけで精一杯で……」

 少し明菜の立場が悪い場。
 その状況にパンッ、パンッと手を叩く音が鳴り響く。
 剣山がその空気を終わらせた。

「大丈夫ドン!
 俺たちは一人じゃないザウルス!
 すぐに呼び合えるドン!
 この作戦さえあれば、例え負けても得るものはあるザウルス!
 大事なのは、連絡と団結ザウルス!
 万丈目先輩と翔先輩とのデュエルで見せた結束力、素晴らしかったドン!
 あれさえあれば、この不審者もノックダウンザウルス!」

 剣山のフォローに、藤原も頷く。

「そうだな。
 剣山の言うとおり、やり方を守れば大丈夫だ。
 ひとまず、今日は長丁場になるかもしれない。
 早めに休んでおいた方がいい。
 夜間外出だが、女子は抜け出すときはくれぐれも見つからないようにな。
 じゃあ、解散としよう」


 5人は藤原の部屋から散っていく。
 それぞれデッキを見直して、気力を蓄えるために。
 そして翼がレッド寮に向かおうとしているところを、明菜が呼び止めた。

「ねえ、翼」

 いつもより高めの明菜の声。
 風に頼りなく揺れながら、響く。
 翼は立ち止まり、振り向く。
 そして、ためらいがちに明菜は口を開いた。

「翼は、来ない方がいいと思う」

「どうして?」

「そ、それは……」

 明菜は返答に少し迷った後、思いついたように言った。

「翼には精霊に関する『力』があるからだよ。
 あいつらは精霊の力を利用しようとしている。
 だから、翼が『力』を持っていると知ったら、きっと……。
 それに……。あ、いや『それに』の先はなし!
 とにかく翼はこの探索は控えた方がいいと思うんだ」

 明菜の言葉に、翼は首を振る。

「心配してくれて、ありがとう。
 でも、じゃあ尚更俺は退けないよ。
 俺は精霊を利用しようとするのを許せないんだ。
 それを防げるのなら、俺はできるだけのことをやりたい。
 だからさ、明菜も頑張ろうよ!」

 明菜の表情はかげったままだ。
 だが翼に勇気づけられたと見せるために、少しつらそうだが微笑んだ。
 
 


「用意はいいかな? ここからは分かれ道。
 ちゃんと自分の位置周辺で待機して、
 誰かから連絡が来たらその人の定位置に向かうこと。
 遭遇しなくても、集合時間にはここに戻ってくること。
 まぁ戻ってこれなくても、PDAで連絡できるから、
 すぐに迎えには行けるんだけどね」

 森の岐路に立って、レイが確認をする。
 それぞれ、ここからは違う方面に歩いていく。
 みんな勇ましい顔つきをしていた。
 明菜も覚悟が決まったのだろう。
 清々しいような表情をしていた。

「よーい、どん! で別れるわけじゃないけど、またね。
 にしても、一人歩きって暇そうだなぁ。
 PDAのデュエル・シミュレートで時間つぶししていようかな」

 レイが歩き出して、奥に消えていった。
 それを見送りながら、藤原が続く。

「僕は宿直室付近だったな。
 位置取り的には、明菜が研究所に一番近い。
 気をつけてほしい。
 あとあんまりに速攻で倒しても、
 僕らが追いつけないから少し時間をかけてくれ。
 まぁ普通通りデュエルできれば、恐らくは追いつけるだろうが。
 さて、僕たちも行こう」



「うう……。夜の森って怖いなぁ……」

 レイは一人で歩くことに心細さを覚える。
 みんなといるときは別に怖いとは思わなかった。
 だけど離れてからは、夜を囲む動きが何だかもう全部怖い。
 確かにアカデミアの夜は安全ではある。
 外部からの侵入者は一人残らず管理されている。怪しい者は立ち入らないだろう。
 (だがどんな方法を使ってか、SAL研究所には現に不審者がいるわけだが)
 それに内部の者は手を出せない。風評という特別な社会システムがあるからだ。
 アカデミアは狭いため、まずい行動をした場合すぐに広まってしまう。
 全寮制で、逃げ場もない。大抵は強制送還を余儀なくされる。
 だから、夜に女の子が一人で歩いても、実は安全上は怖くない。
 ただし、それはあくまで『安全上』に限った話である。
 『心理上』は怖いに決まっている。
 秋も暮れかかった頃で、虫もキィキィけたたましく鳴いている。
 あちこちで何か生物がせわしく動いているのが分かる。
 バサバサッと大きな羽音が頭上を通り過ぎて、レイは怖がり縮みこむ。

 もとはといえば、一人ずつというのはレイが提案したものだ。
 みんなはそれを平然と受け入れたので、大丈夫だと思っていた。
 だが、レイから提案したのが、間違いなく致命的な失敗であった。
 あのメンバーには夜に一人きりを怖がる者が、レイの他にいないのである。
 藤原はどこか達観していて、大抵のことでは動じない。
 剣山は生粋の野生児(それどころか野獣)で、森を怖がるわけもない。
 翼や明菜も孤児院でたびたびオリエンテーリングをしていたり、
 翼の散歩好きに明菜も付き合わされたりしていたから、全然平気のようだ。
 だけど、自分は『いたって普通の』か弱き乙女だ。夜に一人きりは怖い。
 しかし自分から別行動を提案した手前、そのまま帰るわけにはいかない。
 だから、今日はどこか明るいところを探してやり過ごそうかなぁと思う。
 また次以降に何か作戦を練り直させよう。
 レイはどこか開けた場所を探して、止まりがちな足を速めた。
 
 そう思いつつ歩くと、案外早く開けた場所に出た。
 一つの大樹を中心に、平原が広がる。
 レイは疲れた足と神経を休めるべく、ブルーシートを広げようと駆け出した。
 所定の場所・廃寮はあともう少しだけど、ここにいることにしよう。
 藤原にあんな目に遭わせられた後では、廃寮にも近づきたくない。
 そうして、リュックに手をかけたときだった。
 
 ――ザザッ。
 
 恐怖に研ぎ澄まされたレイの感度。
 それが別の者の足音をつかんだ。
 
(嘘っ、嘘! よりによって、僕のところに!)
 
 レイはすがるようにPDAを手に取る。
 落とす。慌てて拾う。
 こうしている場合ではない。
 早く連絡を済ませないと。
 だって、現にクロノス先生が言った通りに、
 ローブがなびいて、顔が見えない奴が迫ってきている。
 気づかれないうちに早く知らせないと。
 焦る気持ちを抑えて、PDAの画面を確認する。
 そこにあったのは、――圏外の文字であった。
 
(どうして? 今までアカデミアでこんなことなかった。
 何でよりによってこんなときに?
 いや、あり得ないよ。今日も何度か使ったし……。
 今違うところがあるとすれば……)
 
 違いは目の前の不審者がいることだけ。
 そこまで考えをめぐらせて、ようやくレイは気づく。
 
電波障害(ジャミング)が引き起こされている!
 そうだ! あのベルトを開発できる奴らなら、これくらいできてもおかしくない。
 どうしてこの可能性が思いつかなかったんだろう。
 これじゃあ一人で戦わないといけない。
 もし勝ってもすぐに逃げられる。
 ここはひとまず勝って、作戦を練り直す正面突破しか……)
 
 既にあちらにも気づかれている。
 逃げることはできない。
 開かれた場所というのは、見つかりやすいリスクもある。
 こちらが立ちすくんでいるのをいいことに、ゆっくりと近づいてくる。

 そして、ベルトが放り投げられ、レイの腰に巻き付く。
 そのベルトを投げるときに、ローブの中が見えた。
 その中にあったのは、華奢な体――女性の体型であった。

(背も小さめだし、女性!?)

 だが、例のドラゴン使いには変わりがないはずだ。
 とにかく倒して、この危機を脱する。
 謎の女は無言でディスクを構え、開始を促した。

「「デュエル!!」」

レイ VS 黒ローブの女

(デュエルのときはしゃべるんだ……。
 でも、本当にテレビみたいにダミ声でぼかされていて、
 体格に注意しないと女性かは分からないんだね……)

「僕の先攻だね、ドロー!」

 手札はこの場に臨む上では決して悪くない。
 少なくとも時間稼ぎは確実にできるはずだ。
 その間に、レイのPDAにつながらないことに誰かが気づいてくれれば……。

「僕はモンスターをセット、リバースを1枚出してターンエンド!」

「私のターン」

 黒ローブの女は口数少なく、淡々とデュエルの動作をこなしていく。

「相手の場にモンスターがいないから、《ピクシー・ドラゴン》を特殊召喚。
 そのまま生け贄に。《サンライズ・ドラゴン》を召喚! その効果を発動!」

《ピクシー・ドラゴン》 []
★★★★
【ドラゴン族・効果】
相手フィールド上にモンスターが存在する場合、
このカードは手札から特殊召喚する事ができる。
ATK/1000 DEF/1100

「《ピクシー・ドラゴン》からの、速攻生け贄コンボ?」

 レイはこの流れには覚えがある。いや、あの竜にも見覚えが……。

―――――――――――――――

「うーん……、にしても引けるカードが分かってるって、面白みがないなぁ。
 けど、これでようやくグレファーが倒せるね!
 あたしは手札から《ピクシー・ドラゴン》を特殊召喚!
 そして、生贄に捧げるよ! いっけえ!《サンセット・ドラゴン》!!」

 オレンジに輝く、天空龍が姿を現す。
 4枚の翼を高らかにかかげ、自ら黄昏色の光を放つ。

―――――――――――――――

 あのときも4枚の羽根の神秘的な妖精竜だった。
 色は紫に近い色で異なるが、同系統のモンスターに違いない。

「明菜ちゃんのデッキ!!?」

 その疑問符を無視して、敵は効果を続行させる。

「『リヴィール・サンライズ』。相手のモンスターを表側攻撃表示に変更」

 攻撃力ゼロの《ミスティック・エッグ》が暴かれる。

《サンライズ・ドラゴン》 []
★★★★★★
【ドラゴン族・効果】
自分のバトルフェイズ開始時に1度だけ、
裏側表示でフィールド上に存在するモンスター1体を選択し、
表側攻撃表示にする事ができる。
ATK/2400 DEF/1600

「攻撃。『ライラック・バースト』」

 動揺している場合ではない。レイはリバースを発動させる。

「トラップカードオープン! 《ドレインシールド》!!
 その攻撃を無効にして、僕のライフを回復させるよ!」

《ドレインシールド》
【罠カード】
相手モンスター1体の攻撃を無効にし、
そのモンスターの攻撃力分の数値だけ自分のライフポイントを回復する。

レイのLP:4000→6400

「私はカードを伏せて、ターンエンド」

「ターンエンドの瞬間、《ミスティック・エッグ》の誕生効果!
 デッキの一番上にあるミスティック・モンスターは……」

《ミスティック・エッグ》 []

【天使族・効果】
このカードを生贄に捧げることはできない。
このカードが戦闘によって破壊され、墓地に送られた場合、
バトルフェイズ終了時に、墓地に存在するこのカードを守備表示で特殊召喚する。
相手ターンのエンドフェイズ時に、このカードを墓地に送り、
「ミスティック・ベビー」と名のついたモンスターが出るまで自分のデッキをめくり、
そのモンスターを特殊召喚する。
他のめくったカードはデッキに戻してシャッフルする。
ATK/ 0 DEF/ 0

 卵の色が赤・緑・青・茶、それらの間とせわしなく変わり、やがて青で止まる。

「魔術士の青! 《ミスティック・ベビー・マジシャン》を召喚するよ!」

 湖のように爽やかな水色のローブをまとった少女モンスターが姿を現す。

《ミスティック・ベビー・マジシャン》 []
★★★★
【魔法使い族・効果】
効果モンスター 星4/水属性/魔法使い族/攻1000/守800
自分のライフポイントが回復する度に、
このカードにミスティックカウンターを1個乗せる(最大3個まで)。
このカードに乗っているミスティックカウンター1個につき、
このカードの攻撃力は500ポイントアップする。
ミスティックカウンターが3個乗っている状態のこのカードを生け贄に捧げる事で、
自分の手札・デッキから「ミスティック・マジシャン」を1体特殊召喚する。
ATK/1000 DEF/ 800

「このまま僕のターンだ。ドロー!」

 どうして明菜のあのカード達がここに?
 まさか、あの女性は明菜なのか?
 ……いや、それは考えられるはずがない。
 そう考えるにはあまりにも多くの障害がある。
 あちらに協力する理由も思い当たらない。
 自分たちを恨んでいるはずもない。
 別行動しているのだし、こちらにいない。
 だとしたら、……偶然同じようなカードを使っている?
 しかし、それも考えにくい。
 明菜や翼が使うカードはアカデミアでは見かけないカードだ。
 すぐに調達できるとは考えにくい。
 いや、『調達』する?
 そうなると、残されたシナリオは一つになる。
 それも、かなり悪いシナリオだ。
 明菜は既に襲われて、カードを奪われている。
 つまり、これらのカードは直接に明菜から『調達』された。
 謎の女もドラゴン使いである。
 だから、同じドラゴンのデッキを手にしたのなら強化しやすい。
 デッキをそのまま奪う動機は十分にある。
 明菜のデッキを(バカにされたような話だが)そのまま試しに用いることもあり得る。
 
 レイはより気を引き締める。
 この相手を許してはおけない。
 絶対に倒して、尻尾を掴んでやる。
 そして、明菜ちゃんを早く救い出さないと。
 
 それにしても、本当に油断ならない相手だ。
 《ミスティック・エッグ》は再生効果を持つほぼ無敵のサーチャー。
 最初のターンに念のために、《ドレインシールド》を伏せていなければ、
 デュエル開始直後にも関わらず半分以上のライフを奪われていた。
 いくら警戒しても、この敵には突破されそうな気さえする。
 早めに態勢を整えなくてはならない。

「僕は《白魔導士ピケル》を召喚。
 さらに《平和の使者》を発動! これで攻撃力1500以上のモンスターは攻撃できない!
 2枚のカードを伏せて、ターンを終了するよ」

《白魔導士ピケル》 []
★★
【天使族・効果】
自分のスタンバイフェイズ時、自分のフィールド上に存在する
モンスターの数×400ライフポイント回復する。
ATK/1200 DEF/ 0

《平和の使者》
【魔法カード・永続】
お互いに表側表示の攻撃力1500以上のモンスターは攻撃宣言が行えない。
自分のスタンバイフェイズ毎に100ライフポイントを払う。
払わなければ、このカードを破壊する。

 キッと相手をにらみつけて、その行動を警戒する。

「私のターン、ドロー」

 少しの間を置きながら。

「そのままターンエンド」

 不気味にそのまま沈黙をまもる。

「待って。僕はここで伏せカードをオープンする。
 《神の恵み》! ドローするごとに、ライフを回復する」

《神の恵み》
【罠カード】
自分はカードをドローする度に500ポイントのライフポイントを回復する。

「僕のターン! ドロー、そして《神の恵み》とピケルの効果! 回復するよ。
 さらに回復したことで、ベビー・マジシャンにミスティックカウンターが2個乗ったよ!」

レイのLP:6400→6900→7700

 この勢いならば、こちらから攻められる。

「《平和の使者》は解除! その代わりに、《アームズ・ホール》を発動!
 ピケルを守るために、《ミスト・ボディ》をサーチして装……」

《アームズ・ホール》
【魔法カード】
自分のデッキの一番上のカード1枚を墓地へ送り発動する。
自分のデッキまたは墓地から装備魔法カード1枚を手札に加える。
このカードを発動する場合、このターン自分はモンスターを
通常召喚する事はできない。

《ミスト・ボディ》
【魔法カード】
装備魔法
このカードを装備している限り、
装備モンスターは戦闘によっては破壊されない。
(ダメージ計算は適用する)

「させない。
 リバースカードオープン! 速攻魔法《手札断殺》!
 互いに手札を2枚捨てて、2枚ドローする」

《手札断殺》
【魔法カード・速攻】
お互いのプレイヤーは手札を2枚墓地へ送り、デッキからカードを2枚ドローする。

「サーチ対策が張られていた? 2枚捨てて、2枚ドロー!
 僕がドローしたことで、《神の恵み》の効果。500回復するよ」

レイのLP:7700→8200

 予想外の妨害ではあったが、かえって良かったかもしれない。
 これでミスティックカウンターは3つたまった。
 《ミスティック・マジシャン》に進化できる。
 引いたカードには、《グラヴィティ・バインド−超重力の網−》もある。
 相手が捨てたのは、どちらも上級モンスター。
 単に手札交換をしたかっただけなのかもしれない。
 しかし、墓地の一番上にあるモンスターは……。

(最後に捨てられたのは、《サンセット・ドラゴン》。
 やっぱり、あれは明菜ちゃんのデッキ……。
 僕が解放してあげなくちゃ!)

「僕はベビー・マジシャンの力を解放するよ!
 進化! 《ミスティック・マジシャン》!!」

 進化と呼びかけた瞬間、大地から水がわき出した。
 生命の奔流(ライフストリーム)を受けて、幼い魔術士は成長を遂げる。
 海のように深みのある青色のローブをまとった女性モンスターが姿を現した。

《ミスティック・マジシャン》 []
★★★★★★★★
【魔法使い族・効果】
このカードは、「ミスティック・ベビー・マジシャン」または
「ミスティック・レボリューション」の効果でのみ特殊召喚できる。
自分のライフポイントが回復する度に、
このカードにミスティックカウンターを1個乗せる。
このカードに乗っているミスティックカウンターを3個取り除くことで、
自分のデッキからカードを1枚ドローする。
ATK/2500 DEF/2300

 相手の伏せカードもなくなった。今ならば攻撃が通る!

「《ミスティック・マジシャン》で攻撃!
 『ミスティック・マジック』!!」

 ロッドの青い水晶がきらめき、強い勢いで水球を放つ。
 ドラゴンはよけきれずに、そのまま破壊される。

黒ローブの女のLP:4000→3900

「さらにピケルもいくよ!」

 杖を精一杯に振り、プレイヤーをたたく。

黒ローブの女のLP:3900→2700

 しかし、それらの攻勢にも謎の女は動じない。

「僕はカードを1枚伏せて、ターンエンド」

 伏せたのは、もちろん《グラヴィティ・バインド−超重力の網−》。
 《ミスティック・マジシャン》の効果は無限の恩恵。
 例え相手が強力なモンスターを召喚してきても、ロックしてドロー強化に移る。
 そして手札を整えれば、また突破口が見えてくるはずだ。

レイ
LP8200
モンスターゾーン《白魔導士ピケル》ATK1200、《ミスティック・マジシャン》ATK2500
魔法・罠ゾーン
《神の恵み》、
伏せカード×2(《グラヴィティ・バインド−超重力の網−》、《???》)
手札
2枚
黒ローブの女
LP2700
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーン
なし
手札
4枚

「私のターン、ドロー」

 黒ローブは今度はためらわずに、即座に行動する。

《龍の鏡》(ドラゴンズ・ミラー)を発動。 墓地からの融合。
 《サンライズ・ドラゴン》と《サンセット・ドラゴン》を融合。
 《太陽竜リヴェイラ》を融合召喚」

《龍の鏡》
【魔法カード】
自分のフィールド上または墓地から、
融合モンスターカードによって決められたモンスターをゲームから除外し、
ドラゴン族の融合モンスター1体を融合デッキから特殊召喚する。
(この特殊召喚は融合召喚扱いとする)

 6枚の翼を持った白くまばゆい翼竜が降り立つ。
 体よりも大きな翼を、天を覆い尽くすかのように広げる。
 まるで新たな太陽に場が支配されたかのようだ。

「上級モンスターの融合体!!
 《手札断殺》でモンスターを落としたのは、このために……」

 攻撃力は《ミスティック・マジシャン》の方が上である。
 しかし、この融合体には攻撃力が上昇しない代わりに、強力な効果が備わっている。

「《太陽竜リヴェイラ》は二つの竜の力を併せ持つ。
 『夕焼け』の効果を発動。 『サンセット・ヴェール』。
 《ミスティック・マジシャン》を裏守備表示にする」

《太陽竜リヴェイラ》 []
★★★★★★★★
【ドラゴン族・融合/効果】
「サンライズ・ドラゴン」+「サンセット・ドラゴン」
このモンスターは融合召喚でしか特殊召喚できない。
1ターンに1度、次の効果から1つを選択して発動する事ができる。
次の効果は相手のバトルフェイズ開始時にも1度だけ発動する事ができる。
●表側表示でフィールド上に存在するモンスター1体を選択し、裏側守備表示にする。
●裏側表示でフィールド上に存在するモンスター1体を選択し、表側攻撃表示にする。
ATK/2400 DEF/2400

 オレンジの光が暖かく場を包み込み、《ミスティック・マジシャン》は守備表示となる。
 女子寮の騒ぎで、《ダイ・グレファー》が倒されたときと同じように。

「裏守備の《ミスティック・マジシャン》に攻撃。
 『サンシャイン・バースト』!」

 六枚の翼の切っ先から、一斉に光線が照射される。

「それはさせない! 永続罠《グラヴィティ・バインド−超重力の網−》!
 レベル4以上のモンスターは攻撃できない!」

《グラヴィティ・バインド−超重力の網−》
【罠カード】
フィールド上に存在する全てのレベル4以上のモンスターは攻撃をする事ができない。

「……カードを2枚伏せて、ターンエンド」

「僕のターン、ドロー!」

レイのLP:8200→8700→9500
(《神の恵み》&《白魔導士ピケル》)

 厄介なのは、あの融合モンスター。
 攻撃を封じたとしても、意味が無い。
 ミスティックカウンターをリセットされてしまう。
 これでは手札を稼ぐこともできない。
 多少の代償を払ってでも、あのカードを倒さないと……。

「僕はマジシャンを表側にするよ。
 それとカードを1枚伏せて、ターンエンド」

「私のターン。
 リヴェイラの効果で、ピケルを裏守備に。
 伏せを1枚追加。ターンエンド」

「僕のターン、ドロー!」

レイのLP:9500→10000
(《神の恵み》。《白魔導士ピケル》は裏守備のため効果不発)

レイ
LP10000
モンスターゾーン《白魔導士ピケル》(裏守備)、《ミスティック・マジシャン》ATK2500
魔法・罠ゾーン
《神の恵み》、《グラヴィティ・バインド−超重力の網−》、
伏せカード×2
手札
2枚
黒ローブの女
LP2700
モンスターゾーン《太陽竜リヴェイラ》ATK2400
魔法・罠ゾーン
伏せカード×3
手札
2枚

(よし! 今ならしかけられる手が揃っている!
 とにかくあのドラゴンを倒さなくちゃ!)

「僕はピケルを反転召喚!
 手札より通常魔法《マジック・プランター》を発動!
 バインドを墓地に送ることで、カードを2枚ドロー!
 さらに《神の恵み》の効果でライフを500回復する」

《マジック・プランター》
【魔法カード】
自分フィールド上に表側表示で存在する
永続罠カード1枚を墓地へ送って発動する。
自分のデッキからカードを2枚ドローする。

レイのLP:10000→10500

 自らロックを解除するということは、そのターン仕掛けるという合図。
 そして、その攻撃を通す自信があるということ。

「マジシャンで攻撃! ミスティック・マジック!」
 再び強い勢いで水球が放たれる。

「カウンター罠発動! 《攻撃の無力化》!
 この戦闘は無効になる」
 しかし、大きな渦が敵の前に現れ、攻撃を飲み込まんとする。

《攻撃の無力化》
【罠カード・カウンター】
相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
相手モンスター1体の攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了する。

 ――だが、そのくらいの対策はレイの想定内である。

「僕はさらにカウンター罠を発動! 《ライフストリーム・バニッシャー》!!
 ライフを3000ポイント支払って、すべての効果を無効にする!」

《ライフストリーム・バニッシャー》
【罠カード・カウンター】
3000ライフポイント払う。
魔法・罠・効果モンスターの効果の発動を無効にし、そのカードを破壊する。

レイのLP:10500→7500

 その渦を打ち破るべく、極太の生命の奔流が超速度で迫る!

「よし! これであの太陽竜を……」

 ――そう思った矢先、ライフストリームがかき消される。
 そして、目に入ったのはさらなるカウンター罠。
 《盗賊の七つ道具》。

《盗賊の七つ道具》
【罠カード・カウンター】
1000ライフポイントを払う。
罠カードの発動を無効にし、それを破壊する。

「ライフを1000支払うことで、罠であるバニッシャーを無効化。
 元通り《攻撃の無力化》の効果で、バトルフェイズは終わり」

黒ローブの女のLP:2700→1700

「そんな……防がれるなんて……」
 相手の対策を見抜いたはずの布陣。

 それをくじかれる。
 ライフならば、また回復すればいい。
 だが、この万全のはずの機会を逸して、レイは失望を塗りつけられた。
 ロックでレイが制御していた流れは、確実にせき止められた。

 しかし、その落胆に追い討ちをかけるように、闇のローブの女の1枚の手札が光る。

「あの光は……まさかッ!」

 カウンター罠の先に控える魔物。
 因果を覆したときのみ現れる竜の王者。
 《冥王竜ヴァンダルギオン》……!?

 だが、今の光は透き通るように白い。
 この夜を無に塗り替えるかのように。

「今、『カウンター罠の効果の発動をカウンター罠の効果で無効に』した……。
 このときに召喚できる竜の皇帝のカードがある」
 そうして、謎の女は1枚のカードを天にかざす。



「出でよ! ――《天帝竜アルジャザーイル》!!」

《天帝竜アルジャザーイル》 []
★★★★★★★★
【ドラゴン族・効果】
このカードは通常召喚できない。
カウンター罠の発動をカウンター罠で無効にした場合、
このカードを手札から特殊召喚する事ができる。
自分のデッキからカウンター罠カード1枚を手札に加える。
この効果は1ターンに1度しか使用できない。
ATK/2800 DEF/2500


 そして、現われしは裁きの預言者。
 恐怖という王座を打ち立てる者。
 『否定』の『否定』の先にのみ現れる竜の皇帝。
 何者も寄せ付けぬ純白のウロコで、全てを虚無に上書きする魔竜。
 青き凶眼が、罪人を凍らせる。

 全てを暴き、(ひざまず)かせる太陽竜。
 全てを(くじ)き、拒否する天帝竜。

 フィールドは2体の竜に支配される。
 圧倒的な威圧感、拘束力。
 レイの足元がぐらつく。
 だが、それを懸命に抑えながら、左手で手札の次の手を辿る。
 諦めないように、言い聞かせる。
 明菜ちゃんのためにも……。

「……僕はピケルを守備表示に。
 さらにカードを1枚伏せて、ターンエンドだよ!」

「私のターン、ドロー……」

 ゆっくりと、終わりを手招くようにカード効果が処理される。

「まずは太陽竜の効果。マジシャンを裏守備に。
 そして天帝竜の効果。『ヴァニティ・プロフェシー』!
 デッキからカウンター罠を引く……」

 女のデッキに白く太い雷が降り、ひとつのカードが導かれる

「《神の宣告》を手札に加える」

「さらにバトル。
 天帝竜よ……、『天帝浄化』!!」

 青の瞳が光り、天空から白銀の雷が降り注ぐ。

「それはさせない! 《光の護封壁》!!」

 レイは声を張り上げて、発動を宣言する。
 自らを奮い立たせようと、体の底から強がりを振り絞る。

「僕は3000のライフを支払うよ! これで攻撃は通らない!」

 生命エナジーで厚く固められた高い壁。
 竜の攻撃をも吸収する。

《光の護封壁》
【罠カード・永続】
発動時1000の倍数のライフポイントを払う。
払った数値以下の攻撃力を持つ相手モンスターは攻撃できない。

レイのLP:7500→4500

 ことごとく防がれる攻撃に、さすがの無表情も歪む。

「……ッ、カードを1枚伏せて、ターンエンド」

「僕のターン、ドロー!!」

 力強くデッキから引く。
 その屈しない瞳に、可能性は導かれる。

レイのLP:4500→5000→5800(《神の恵み》&《白魔導士ピケル》)

 目の前を見れば見るほど、めまいがするような威圧感。
 だけど、乗り越えてみせる!

レイ
LP6300
モンスターゾーン《白魔導士ピケル》ATK1200、《ミスティック・マジシャン》(裏守備)
魔法・罠ゾーン
《神の恵み》、《光の護封壁》LP3000、伏せカード×1
手札
2枚
黒ローブの女
LP1700
モンスターゾーン《太陽竜リヴェイラ》ATK2400、
《天帝竜アルジャザーイル》ATK2800
魔法・罠ゾーン
伏せカード×3
手札
2枚

 レイは場の伏せに手をかけながら、息を飲む。
 恐らくはこれが最後の賭けになる。
 もう、相手をねじ伏せるだけのライフは限られている。
 だけど、これで繋げてみせる。
 あのヴァイザーの向こうに届かせてみせる。

「僕は伏せカードを発動する!
 《因果切断》! これでアルジャザーイルを除外する!」

 次元の穴がドラゴンを飲み込もうと迫る。

《因果切断》
【罠カード・カウンター】
手札を1枚捨てて発動できる。
相手フィールド上に表側表示で存在する
モンスター1体を選択してゲームから除外する。
この効果によって除外したモンスターと同名のカードが相手の墓地に存在する場合、
さらにその同名カードを全てゲームから除外する。

「……《神の宣告》を発動! 《因果切断》は無効に!」

《神の宣告》
【罠カード・カウンター】
ライフポイントを半分払う。
魔法・罠の発動、モンスターの召喚・反転召喚・特殊召喚の
どれか1つを無効にし、それを破壊する。

黒ローブの女のLP:1700→850

 成功すれば、要のモンスターを除外されてしまう。
 これはマスト・カウンターのトラップ。
 女は発動せざるを得ない。

「ようやく……、届きそうだね。
 モンスターを守るためには、《神の宣告》は発動しなくちゃいけない。
 問答無用の万能カウンター。当然防ぐよね……」

 《因果切断》は一つ前の自分のターンに伏せたカード。
 本来は相手のターンでも発動できたはずの魔法。
 それをここまで取っておいた理由……。

「天帝竜の効果は確かに場を制圧する。
 だけど、サーチするカウンター罠は一度公開される。
 目に見える恐怖……。
 だから、そこに一瞬の隙ができる!」

 手札から闇も虚無も振り払うべく、1枚のカードをかざす。

「――ようやく射程範囲内まで持ち込めたね!
 いくよ! 速攻魔法《ライフストリーム・ファイヤー》!!!

《ライフストリーム・ファイヤー》
【魔法カード・速攻】
3000ライフポイント払う。
相手ライフに1500ポイントダメージを与える。

レイのLP:5800→2800

 ライフを3000支払うことで、相手に膨大なダメージを与えるマジック!
 この一撃で、終わらせる!!」

 レイの叫ぶような声に合わせて、勢いよく火球が飛ぶ。
 ライフを削っても、自らの戦術を貫く。
 それがこの【ミスティック・ファンタジー】。
 気持ちの量が、どんな効果もぶち破る世界。
 その全てを込めて、何も明かさない相手にぶつける。




 ――だが、その一撃は届かない。
 開かれた窓の先は、拒絶の(とばり)
 開け放たれた、絶望への深淵。

「――あなたの敗因は、目に見えないものまで見抜けなかったから……。
 カウンター罠、発動! 《マジック・ジャマー》!
 手札を1枚捨てて、その炎を消し去る」

《マジック・ジャマー》
【罠カード・カウンター】
手札を1枚捨てて発動する。
魔法カードの発動を無効にし破壊する。

「そん……な……。 まだ手を隠し持っていたなんて……」

「違う、まだ『まだ』ある。
 今、『カードの発動をカウンター罠で無効にした』……。
 だから、もう一体の王竜を呼ぶことができる」

 もう分かっている。
 さらに空がふさがれていく。
 絶望が体中にたたきつけられる。

「――《冥王竜ヴァンダルギオン》を召喚!
 そして、魔法の裁きは『ブラック・パニッシュメント』。
 あなたに1500ポイントのダメージ」

 漆黒の雷に、レイは貫かれる。

《冥王竜ヴァンダルギオン》 []
★★★★★★★★
【ドラゴン族・効果】
相手がコントロールするカードの発動をカウンター罠で無効にした場合、
このカードを手札から特殊召喚する事ができる。
この方法で特殊召喚に成功した時、
無効にしたカードの種類により以下の効果を発動する。
●魔法:相手ライフに1500ポイントダメージを与える。
●罠:相手フィールド上のカード1枚を選択して破壊する。
●効果モンスター:自分の墓地からモンスター1体を選択して
自分フィールド上に特殊召喚する。
ATK/2800 DEF/2500

レイのLP:2800→1300

 ライフももはや並んでしまった。
 もう手札も伏せもない。
 手は尽くしたはずなのに、届かない。
 レイはそのままターンを見送る。

 だいじょうぶだよ。まだごふうへきがある。
 これでしのいでいれば、きっとぎゃくてんのカードがひける。

 前向きな思考をしようとしても、空々しく響くだけ。
 もう、レイの希望はえぐり取られていた。


「私のターン、ドロー」

 女がドローして、動きを止めた。
 場を確認して、軽くため息をつく。

 何にため息をついているのだろう。
 レイには検討もつかない。
 デュエルをしたのに、何一つ相手のことが分からない。

レイ
LP1800
モンスターゾーン《白魔導士ピケル》DEF 0、《ミスティック・マジシャン》(裏守備)
魔法・罠ゾーン
《神の恵み》、《光の護封壁》LP3000
手札
0枚
黒ローブの女
LP850
モンスターゾーン《太陽竜リヴェイラ》、
《天帝竜アルジャザーイル》、《冥王竜ヴァンダルギオン》
魔法・罠ゾーン
伏せカード×1
手札
1枚

「リバースカード、オープン! 《異次元からの帰還》……。
 ライフを半分支払い、《サンライズ・ドラゴン》と《サンセット・ドラゴン》を特殊召喚」

《異次元からの帰還》
【罠カード】
ライフポイントを半分払う。
ゲームから除外されている自分のモンスターを
可能な限り自分フィールド上に特殊召喚する。
エンドフェイズ時、この効果によって特殊召喚されたモンスターを
全てゲームから除外する。

黒ローブの女のLP:850→425

 さらに空が埋め尽くされていく。
 5体の……上級ドラゴン。
 さんざめく光。
 しかし、どのドラゴンも3000より上の攻撃力を持たない。
 《光の護封壁》で攻撃できないはず。
 だが、どんな厚い壁さえも今は信じられなかった。
 
「――ねえ、気持ちが簡単に伝わるほどね。
 この世界は簡単でもないし、優しくないんだ……」
 
 何を伝えたいんだろう?
 だけど、ひとつだけ分かる。
 僕が作った壁の厚さ。
 今ここにいる二人の不理解の壁の厚さに比べたら、――なんて脆いんだろう。

「リヴェイラの効果。『リヴィール・サンライズ』
 《ミスティック・マジシャン》を表側攻撃表示に。
 そして、私は《融合》を発動。
 フィールドの5体のドラゴンを融合……」

 少しの間を置く。
 何かをためらうように。
 ……そして、女は終止符を打つ者の名をつげる。

《融合》
【魔法カード】
手札・自分フィールド上から、融合モンスターカードによって
決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、
その融合モンスター1体を融合デッキから特殊召喚する。

《F・G・D》(ファイブ・ゴッド・ドラゴン)、召喚!」

《F・G・D》(ファイブ・ゴッド・ドラゴン) []
★★★★★★★★★★★★
【ドラゴン族・融合/効果】
このモンスターは融合召喚でしか特殊召喚できない。
ドラゴン族モンスター5体を融合素材として融合召喚する。
このカードは地・水・炎・風・闇属性のモンスターとの戦闘によっては破壊されない。
(ダメージ計算は適用する)
ATK/5000 DEF/5000

 5つの魔頭を持つ竜が、空を覆った。

 レイはもうとっくに自分の敗北を確信していた。

 いくつか疑問が浮かんでは消えた。
 目の前の女性は、ただの奪う者のはずなのに。
 僕なんて、奪う相手の一人に過ぎないはずなのに。
 まるで何かを背負っているかのように、どうしてこの決闘をこうも重く感じるんだろう。
 その一つの一つの動作が、どうしてこんなに力強くて物悲しいんだろう。
 ただそう感じただけで、何も形ある理由が思い浮かばない。
 とりとめもなく、レイの意識はうすれゆく。

「マジシャンに攻撃で終わり。
 『ディスオーダー・ストリーム』!」

 それぞれが息を合わせることも無く、バラバラに暴力の波動をぶつけた。
 それだけでも、大地を蹂躙するには十分だった。

 レイのモンスターは消え去り、そのライフは0を指す。

レイのLP:1300→0



「あなたたちでは私達に敵わない。
 帰ったら、『引き下がるしかない』と仲間に伝えなさい。
 おやすみなさい。
 それでは『欲望に殉じることなき者よ。我らが糧となれ』」

 呪文めいた言葉がささやかれる。
 レイは、エナジーが抜けていくのを感じる。
 抗うような戦意は既に奪われていた。
 ただ、何かがすり抜けていくのを感じるだけ。

 力無く、レイは倒れこんだ。


 女は倒れたレイを抱きかかえる。
 デュエルでは容赦なくたたきのめしたはずなのに。

「どこまで運ぼうか……」


 そう呟いたときだった。

「どこに連れて行くつもりだ!! そこまでだ!」

 勇壮な少年の声が響いた。

 久白翼が、この場に駆けつけた。

「明菜のデッキを使っていたのも見えた!
 それにレイちゃんまで……。
 許さない!
 お前は俺が倒す! 」

 翼はディスクを構える。
 翼のいきり立つ様を、謎の女はつらそうに見つめた。
 振り返り、謎の女はレイを抱きかかえる。

「待て! 勝負しろ!」

 翼が引きとめるのを無視して、淡々と木陰までレイを運ぶ。
 そして、衣服の汚れを払い、木陰に横たえた。

「どうして……、そんなことを?」

 ただの略奪者のはずなのに、労わるようなことをするのはなぜか。
 だけど、二人を傷つけたことには変わりは無い。
 全力で倒すのみ。

 黒ローブの女はかがんで、横たえたレイを少しの間見つめる。
 そして立って向き直り、ディスクを構える。


「……あなたも、倒す」


「 「 デ ュ エ ル ! ! 」 」

 再び始まる決闘。
 夜のしじまに、優しく風が吹く。
 その決闘の結末を案じるかのように。





第11話 決闘交差-前編:度重なる否定



―――― ――― ―― ―

 俺の持ち場は滝付近だった。
 藤原先輩によると、見晴らしが良いここは『要所』らしい。
 直接来るとはあまり考えられないけど、見張りには最適。
 でも、道慣れた人しか行けないから、俺が選ばれた。
 ここに限らず、周りにおかしな所があったら駆けつけてほしいとの任務。
 剣山先輩も候補だったんだけど、険しい『難所』の火山に向かうみたいだ。
 藤原先輩はいろいろ考えていてすごいと思う。

 手近で形のいい切り株に腰をかけていた。
 ここに来てから、しばらくの時間が経った気がする。
 滝のせせらぎを聞いて、森のざわめきに耳を澄ませば、退屈はしない。
 ここは見晴らしもいいし、恵まれた場所だ。
 立って見ると、オベリスク・ブルーの寮も見える。
 まだ明かりが点いている部屋が大半だ。
 みんな意外と夜更かしをしてるみたいだ。
 それとも、案外時間が経っていないだけかもしれない。
 時刻を確かめようと、PDAに手をかける。

 そのとき、デッキから声が聞こえた。
 風の大鷲、アクイラだ。
 こいつ達の声は、音としては鳴き声でしか聞こえない。
 だけど、俺にはその話したいことが直に伝わってくる。

「え? 廃寮の方角から精霊の気配がするって?」

 座っていた切り株をライトで照らし、方角を確かめる。
 廃寮ならば、あの方向だ。
 もう少し登れば、見えるかもしれない。
 そうして丘を駆け上がって、双眼鏡をのぞきこむ。
 すると自然ではない光がチラついているのが見える。
 ソリッドビジョンの光?
 まだ連絡はないから、もしかしたら別の人が襲われている?
 廃寮だったら、一番近いのはレイちゃんだ。
 PDAで連絡を発信する。
 ……だけど、何度かコールした後に無愛想なアナウンスが聞こえただけだった。

『あなたのコールしたPDAは電波の届かない所にあるか、電源が入っていないため……』

 圏外? いや、アカデミアではそんなことはないはず。
 うっかり電池切れでもしたんだろうか。
 次に廃寮に近い明菜に連絡を入れてみる。

『あなたのコールしたPDAは電波の届かない所にあるか、電源が……』

 また、同じアナウンスを聞くことになる。
 二人とも一緒にこんなミスをするなんて、偶然が過ぎる……。
 あの一帯で何かあったに違いない。
 二人とも、もしかしたらもう襲われたのかもしれない。
 俺は急いで森を駆け下りて、廃寮に向かう。
 方角は分かるし、近道だって分かる。
 目印だっていつも散歩して、たくさん知っている。
 迷うことはない。

 走りながらデッキからカードを引き抜き、呼びかける。

「アクイラ! 先に行って様子を見て来て!」

 アクイラは雄たけびをあげて、飛んでいく。
 実体は無くても、見聞きしたものは記憶できるし伝えられる。
 危険がないか確認してからじゃないと、俺もうかつに巻き込まれたら意味がない。
 それと、連絡もしておかなくちゃいけない。

『もしもし、藤原だ。久白、何かあったか?』

「うん! レイちゃんと明菜のPDAにつながらないんだ。
 廃寮の方角から戦っているような光も見える。
 とにかく、俺はそっちに直接向かうよ!」

『そうか! 僕も剣山に連絡して、廃寮に向かおう!
 予想外のアクシデントか? 考えが甘かったのか?
 ……いや今は考えている場合じゃない。ひとまず向かってくれ。
 何か新しいことが分かったら、また頼む』

「うん! じゃあ、廃寮で!」

 俺は獣道を突っ切って、道を急ぐ。
 こうしているうちにも二人は戦っているのかもしれない。
 早く駆けつけないと、手遅れに……!

 無我夢中で走っているところに、アクイラが戻ってくる。

「リヴェイラとアルジャザーイル!?
 レイちゃんが明菜のデッキと戦ってる?」

 どういうことなんだろう?
 明菜のデッキが奪われている?
 いつも明菜と一緒にあったデッキが?

 許せない。

 明菜はあのデッキを本当に大切にしていた。
 それを奪うなんて……。
 再びPDAに手をかけて、藤原先輩に伝えようとする。
 だけど、俺のPDAは圏外になっていた。

「2人のうっかりミスなんかじゃない……。
 連絡できなくなってたんだ!」

 目的地はもうすぐそこだ。
 先輩達はこっちに向かっているはずだし、追加情報を連絡しなくてもいいだろう。
 俺は足を速めて、ようやく開けた場所に出た。

 そこで俺が見たのは、レイちゃんがエナジーを抜かれて倒れるところだった。

「どこまで運ぼうか……」

 呆けたようなダミ声が響いたのを皮切りに、俺は叫んでいた。

「どこに連れて行くつもりだ!! そこまでだ!」

 黒ローブの奴は来ることが分かっていたように、ゆっくりとこちらを向く。

「明菜のデッキを使っていたのも見えた!
 それにレイちゃんまで……。
 許さない!
 お前は俺が倒す! 」

 俺はディスクを構える。
 挑まれたら、あいつらは断ることはないはずだ。
 藤原先輩たちが来るまで、俺が戦う。
 それに明菜のデッキなら、俺が世界で二番目に詳しく知っている。
 何度も苦戦させられたり、何度も使わせてもらったことがある。
 あらかじめデッキが分かっているなら、少しは有利なはずだ。

 だけど、あいつは乗ってこない。
 振り返って、レイちゃんを抱きかかえようとする。

「待て! 勝負しろ!」

 でも、人の重みを抱えたまま連れ去ることは普通はできないはず。
 あいつはレイちゃんを運ぶかと思いきや、単に木陰に横たえただけだった。
 しかも、いたわるみたいに丁寧に優しく……。

「どうして……、そんなことを?」

 少し、意味が分からなかった。

 レイちゃんを横たえたあとに、あいつはゆっくりと向き直った。

「……あなたも、倒す」

 俺は決して負けるわけにはいかない。
 投げられたベルトが巻きつき、もう引き返せなくなる。
 だけど、目の前にはレイちゃんと明菜を傷つけた奴がいるんだ。
 引き返すことなんてできない! 絶対に倒すんだ。

「 「 デ ュ エ ル ! ! 」 」

久白 翼 VS 黒ローブ

「俺の先攻からだ! ドロー!」

 手札は決して悪くない。
 ただ、もう少し準備が必要みたいだ。
 ここは様子見といこう。
 明菜のデッキ相手だから、うかうかしてるとすぐに押し切られる危険性はあるけど……。

「俺はモンスターをセットして、リバースを1枚セット。
 これでターンエンド!」

「私のターン。ドロー」

 明菜のデッキと戦う上で、一番怖いのが最初のターンだ。
 明菜はいつも最初にリードを奪って、あとは押し切ることで勝とうとする。
 だから、最初に場の主導権を与えないことが一番肝心だ。
 出だしに時間がかかってしまうデッキだと分が悪い。
 レイちゃんはその相性が悪いデッキだ。
 一度場を整えれば制圧できるけど、その前に崩されると……。
 デッキの相性として、明菜がかなり有利な組み合わせになっていた。 

 レイちゃんと同じくやられないように、俺はその手を見極めないとならない。
 黒ローブの奴が奪ったばかりのデッキを、どこまで使いこなせるかは分からないけど。
 明菜のデッキのバランスはかなり難しい。
 上級モンスターがたくさん入ってるし、カウンター罠のコストも確保する必要がある。
 すぐには把握し切れないデッキのはずだ。
 だから、まだ不慣れな今のうちに倒してしまわないと……。

「手札から《ライトニング・ワイバーン》を捨てる。
 デッキから残る2体を回収。そのまま《融合》。
 《クロスライトニング・ワイバーン》を融合召喚」

《ライトニング・ワイバーン》 []
★★★★
【ドラゴン族・効果】
手札からこのカードを捨てる事で、
デッキから別の「ライトニング・ワイバーン」を2枚まで手札に加える事ができる。
その後デッキをシャッフルする。
この効果は自分のメインフェイズ中のみ使用する事ができる。
ATK/1500 DEF/1400

《融合》
【魔法カード】
手札・自分フィールド上から、融合モンスターカードによって
決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、
その融合モンスター1体を融合デッキから特殊召喚する。

《クロスライトニング・ワイバーン》 []
★★★★★★★
【ドラゴン族・融合/効果】
「ライトニング・ワイバーン」+「ライトニング・ワイバーン」
このカードが戦闘によって相手モンスターを破壊し墓地へ送った時、
自分のデッキまたは墓地に存在する「融合」魔法カード1枚を手札に加える。
ATK/2600 DEF/1900

 まるで手馴れてるみたいにカードを操り、明菜の主力が現れた。
 怪鳥みたいに大きな羽を持つ雷を操る翼竜。
 《融合》を回収できるアタックモンスター。
 場を支配するモンスターを召喚するための、攻め手としての《融合》。
 カウンター罠でさらにその支配を固めるための、コストとしての《融合》。
 そのどちらも確保するために、このモンスターはすぐに召喚される。

「ドラゴン族がいることで発動できる魔法。
 《スタンピング・クラッシュ》。
 そのリバースを破壊する」

《スタンピング・クラッシュ》
【魔法カード】
自分フィールド上に表側表示のドラゴン族モンスターが
存在する時のみ発動する事ができる。
フィールド上の魔法・罠カード1枚を破壊し、
そのコントローラーに500ポイントダメージを与える。

 そして、相手の迎撃を消し去るための除去カード。
 明菜の手の中でも、一番基本的で強力な最初のターンの流れ。
 ――だけど、俺は数え切れないくらい明菜と戦っている。
 デッキは『相手』への対策を含めて、作るもの。
 俺にとって、その『相手』の一番多くは明菜だ。
 いつだって、俺は負けたくなんかない。
 そう思っているうちに、いつの間にか……。
 俺のデッキは明菜を倒す手段に特化してきたんだ!

「リバースオープン! 《八汰烏の骸》!
 これで俺はカードをドローする」

《八汰烏の骸》
【罠カード】
次の効果から1つを選択して発動する。
●自分のデッキからカードを1枚ドローする。
●相手フィールド上にスピリットモンスターが
 表側表示で存在する時に発動することができる。
 自分のデッキからカードを2枚ドローする。

「!」

 相手は動揺している。
 本来は1枚のカードをつぶして、ダメージを与えられるカード。
 でも、その1枚がかわされた。
 この1枚の違いは最初の形勢を分けるはずだ。

「破壊したのに変わりはない。
 500のダメージは受けてもらう」

翼のLP:4000→3500

 だけど、明菜のデッキとの対戦で警戒するのはライフの上下じゃない。
 フィールドに明菜の主力がどれだけ揃っているかだ。

「《クロスライトニング・ワイバーン》で攻撃。
 『ライトニング・クリスクロス』」
 
 作り出された雷が、モンスター目がけて十字に交差する。
 俺の鳥獣はまるこげになってしまう。
 ごめんね、コロンバ。

「伏せていたのは、《寧鳥(ねいちょう)コロンバ》!
 こいつがやられたときは、1枚ドローできる」

《寧鳥コロンバ》 []
★★★
【鳥獣族・効果】
自分フィールド上に存在するこのカードが破壊され墓地へ送られた時、
自分のデッキからカードを1枚ドローする。
ATK/ 0 DEF/2000

「《クロスライトニング・ワイバーン》の効果。
 モンスターを破壊したときに、《融合》を回収できる。
 デッキから《融合》を手札に加える。
 『ライトニング・コンダクト』」

 俺もあいつもデッキからカードを取り、手札に加える。

「カードを1枚伏せて、ターンエンド」

「俺のターンだ。ドロー!」

 さっきのターンを手札を整えるために使った。
 だから、このターンで展開できる!

「俺は《兵鳥(へいちょう)アンセル》を召喚する。
 そして、《輝鳥現界》を発動だ!」

《兵鳥アンセル》 []
★★★★
【鳥獣族・効果】
自分の墓地に存在するこのカードをゲームから除外して発動する。
自分フィールド上に表側表示で存在する
鳥獣族モンスター1体の攻撃力は400ポイントアップする。
この効果は相手ターンでも使用できる。
ATK/1500 DEF/1400

《輝鳥現界》
【魔法カード・儀式】
「輝鳥」と名のつくモンスターの降臨に使用することができる。
レベルの合計が儀式召喚するモンスターと同じになるように、
自分のフィールドとデッキからそれぞれ1枚ずつ鳥獣族モンスターを生贄に捧げる。

 儀式が発動されて、フィールドには水色の粒子が立ち昇る。

「場のアンセルとデッキのピクスを墓地に送って――。
 来い! 《輝鳥-アクア・キグナス》!!」

《恵鳥ピクス》 []
★★★
【鳥獣族・効果】
自分の墓地に存在するこのカードをゲームから除外して発動する。
このターン、コントローラーへの戦闘ダメージは0になる。
ATK/ 100 DEF/ 50

《輝鳥-アクア・キグナス》 []
★★★★★★★
【鳥獣族・儀式/効果】
「輝鳥現界」により降臨。
このカードの属性はルール上「水」としても扱う。
このカードが儀式召喚に成功した時、フィールド上のカード2枚を選択し、
1枚をデッキの一番上に、もう1枚を持ち主の手札に戻す。
ATK/2500 DEF/1900

 こいつ達と一緒に明菜とのデュエルも乗り越えてきた。
 その中でもキグナスは明菜のモンスター除去には最適だ。
 俺が先に場を制圧してみせる!

「キグナスは水流でデッキと手札にカードを押し戻すよ!
 クロスライトニングは融合モンスターだから、
 伏せもモンスターもデッキに戻ることになる!
 いけっ! 『ルーラー・オブ・ザ・ウォーター』!!」

 水流が放たれて、あいつの場を飲み込んだ。
 これでこの場の主導権は握ったはず。

 ――そう思ったのに、その波は天雷に真っ二つに引き裂かれた。
 その雷はそのままキグナスに降り注ぎ、消滅させられる。
 雷?
 でも、クロスライトニングにそんな効果はないはず。

 ――だとすれば、伏せカード!
 そして、俺の輝鳥に対抗できるカードといえば……。

「手札の《融合》をコストに、カウンター罠《天罰》を発動。
 効果は無効、そして破壊」

《天罰》
【罠カード・カウンター】
手札を1枚捨てて発動する。
効果モンスターの効果の発動を無効にし破壊する。

 負けパターンをなぞるような、見事な迎撃だった。
 確かに効果を消されると、苦しい戦いになってしまう。

「クッ……、ここは《光の護封剣》を発動してターンエンド」

《光の護封剣》
【魔法カード】
相手フィールド上に存在する全てのモンスターを表側表示にする。
このカードは発動後(相手ターンで数えて)3ターンの間フィールド上に残り続ける。
このカードがフィールド上に存在する限り、
相手フィールド上モンスターは攻撃宣言を行う事ができない。

 態勢を整えなおすしかない。

「私のターン……。
 カードを2枚伏せて、ターンエンド」

LP3500
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーン
《光の護封剣》発動0ターン目
手札
3枚
黒ローブ
LP4000
モンスターゾーン《クロスライトニング・ワイバーン》ATK2600
魔法・罠ゾーン
伏せカード×2
手札
1枚

 あいつは護封剣をやぶる手が無いみたいだ。
 単に伏せカードを出しただけで、エンドする。

 カウンター罠はやみくもに伏せられただけならあまり怖くない。
 怖いのはデッキを理解された後に、うまく伏せられたときだ。
 
「俺のターン、ドロー!」

 《光の護封剣》で防げるなら、またすぐに反撃に移れ――

「カウンター罠、発動。《強烈なはたき落とし》」

《強烈なはたき落とし》
【罠カード・カウンター】
相手がデッキからカードを手札に加えた時に発動する事ができる。
相手は手札に加えたカード1枚をそのまま墓地に捨てる。

「そんな! 手札を整えることも……」

「さらにカウンター罠。《誤作動》」

誤作動(マルファンクション)
【罠カード・カウンター】
500ライフポイントを払う。
罠カードの発動を無効にし、そのカードを元に戻す。

「ッ!!」

 本当ならば、あり得ない流れ。
 自分のカウンター罠を自分でカウンターする。
 だけど、明菜のデッキならばあり得る。
 いや、これは勝ちパターンの1つですらある。
 だって、このコンボをした後には……。

「『カウンター罠の発動をカウンター罠で無効に』した……。
 このときに召喚できる竜の皇帝のカードがある」


 そう、白の支配者が、現れるんだ。



「出でよ! ――《天帝竜アルジャザーイル》!!」

《天帝竜アルジャザーイル》 []
★★★★★★★★
【ドラゴン族・効果】
このカードは通常召喚できない。
カウンター罠の発動をカウンター罠で無効にした場合、
このカードを手札から特殊召喚する事ができる。
自分のデッキからカウンター罠カード1枚を手札に加える。
この効果は1ターンに1度しか使用できない。
ATK/2800 DEF/2500


 速い、あまりに速すぎる展開だ。
 どんな可能性の芽も()んでしまう力をもつドラゴン。
 明菜の【ドラゴン・パーミッション】の核。
 
 どうして……、どうしてそのコンボを使えるんだ?
 あのドラゴンを出すときは、相手にカウンター罠をつかってもらうか、
 自分で自分のカウンター罠を無効にしなくちゃいけない。
 だけど、カウンター罠にはコストがつきまとう。
 その消耗を最低限に抑えるのが、この2枚の組み合わせ。
 相手は1ターンに1度必ずドローする。
 だから発動しやすい《強烈なはたき落とし》。
 そして、カウンター罠を無効にしつつ再利用を許す《誤作動》。
 この2枚を組み合わせたなら、単に2枚のカウンター罠を並べるだけで、
 それ以外のコストもなしに、アルジャザーイルを呼べてしまう。
 その相性の一番いい組み合わせを……、どうして選び取れるんだろう?

 場に2体の上級ドラゴンが一気に並ぶ。
 こんなに……こんなに速く明菜の主力が揃えられるなんて……。
 テキストを一読しただけで、あのデッキは操りきれるものじゃない。
 カード間の絶妙な相性を読み取って、それを活かさないととても回らない。
 それを……明菜みたいに慣れたかのように操るなんて。
 
「俺は《霊鳥アイビス》を攻撃表示で召喚。
 ターンエンド!」

《霊鳥アイビス》 []
★★★★
【鳥獣族・効果】
このカードを生け贄にして儀式召喚を行った時、自分のデッキからカードを1枚ドローする。
ATK/1700 DEF/ 900

 まだ、俺の手札は揃っていない。
 だから、その前にアルジャザーイルで対策を打たれたら……。

「私のターン。
 そして、アルジャザーイルの効果。
 『ヴァニティ・プロフェシー』
 手札に加えるのは……」

 黒ローブは迷わずにデッキからひとつのカードを取り出した。
 ほとんどイラストも確認しないで。
 当然の勝ち筋が見えてるみたいに。
 そして、そのカードを見て、俺は震えを覚えた。

「《天罰》」

 輝鳥は召喚時にあふれる力を場にぶつける。
 これは強制効果。おさえることはできない。
 だから、輝鳥が出たとき、効果は発動してしまう。
 確実にこのカードに阻まれてしまう。

 確かに……明菜のメインデッキにはこのカードが3枚入っていた。
 強力な効果モンスターの対策はデュエルを左右する。
 でも、このカードを3枚投入するまでは普通は警戒しない。
 だけど、よく効く相手がいたから入れていたんだ。

 ――それは俺なんだ。

 俺が明菜と一番多く対戦してるように、明菜も俺と一番多く対戦している。
 だから、明菜のデッキも俺を倒すために特化してきている。
 最も油断ならないデッキになっているんだ。

 ……だけれど、どうしてそのカードを迷わず選べるんだろう。
 まだ一度しか輝鳥を召喚していない。
 初見で俺のデッキのキーカードを見抜いたんだろうか。
 それも他人のデッキから、俺の急所をとらえたカードを選べるなんて。

 ここまでできるのは……。
 いや! そんなことは……。

「カードを1枚セット。ターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 嫌な予感を振り切るように、俺は力強くカードを引く。
 しかも、相手は《強烈なはたき落とし》を使う気がまだないみたいだ。
 まるでこちらのキーカードを要所で断つ機会を狙ってるみたいに。

 ……このターンに輝鳥を召喚する手は揃った。
 確実に罠が張られていると分かっていても、飛び込まなくちゃいけない。
 罠には限りがある。こちらが損する勢いでもやらなくちゃいけない。

「俺は儀式魔法《輝鳥現界》を発動!
 場のアイビスとデッキのルスキニアを墓地に送る。
 来い! 《輝鳥-イグニス・アクシピター》!!」

《命鳥ルスキニア》 []
★★★
【鳥獣族・効果】
自分フィールド上に表側表示で存在するこのカードを生け贄に捧げる事で、
自分のデッキまたは墓地から守備力400以下の鳥獣族モンスター1体を特殊召喚する。
ATK/ 500 DEF/ 500

《輝鳥-イグニス・アクシピター》 []
★★★★★★★
【鳥獣族・儀式/効果】
「輝鳥現界」により降臨。
このカードの属性はルール上「炎」としても扱う。
このカードが儀式召喚に成功した時、相手ライフに1000ポイントダメージを与える。
ATK/2500 DEF/1900

 空気の中から赤が集められて、タカの形になる。
 そして、あふれ出す力が炎になって降り注ぐ。

「『ルーラー・オブ・ザ・ファイア』!!」

 そして、当たり前のようにカウンター罠が連鎖(チェーン)する。

「《天罰》。手札の《マジック・ジャマー》を捨てる。
 効果を無効に、そしてアクシピターを破壊」

 やっぱり来た。
 あいつはすぐにでも押し切る気だ。
 おまけに魔法を無効化するよりも、
 最後のモンスター効果発動の方が消耗することを見抜いているみたいだ。
 護封剣が切れたら、最上級モンスター2体が待ちかまえている。
 その前に手を打たないと……。

「アイビスが儀式の生贄になったから、俺は1枚ドロー。
 カードを1枚セットして、ターンエンド」

「私のターン。
 アルジャザーイルの効果で、《天罰》を手札に。
 カードを1枚伏せて、ターンエンド」

 これで護封剣は破壊される。
 ここで攻勢に転じなくちゃいけない。
 だから、このタイミングだ!

「リバースカードオープン!」

 俺のデッキにだって、明菜対策のカードが入っている。

「《心鎮壷(シン・ツェン・フー)》!! 2枚のリバースを封印!」

《心鎮壷》
【罠カード・永続】
フィールド上にセットされた魔法・罠カードを2枚選択して発動する。
このカードがフィールド上に存在する限り、
選択された魔法・罠カードは発動できない。

 普段はあまり使えないけど、明菜に刺さるカードが!

「!!」

 輝鳥は耐性を持たないから、除去に弱くてねらい打ちされやすい。
 だから、そこから守るための《心鎮壷》。
 そして、……明菜のカウンターに対抗するための《心鎮壷》。

 あいつは唇をゆがめて、ターンエンドを見送る。

 ――いや、もう『あいつ』なんて呼ばなくていいのかしれない。
 だって、俺が次にすることなんて、とっくにお見通しなんだろうから――

LP3500
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーン
《心鎮壷》
手札
2枚
黒ローブ
LP3500
モンスターゾーン《クロスライトニング・ワイバーン》ATK2600、
《天帝竜アルジャザーイル》ATK2800
魔法・罠ゾーン
伏せカード×2(《天罰》&《強烈なはたき落とし》)←《心鎮壷》に封印
手札
1枚

「俺のターン、ドロー!
 《英鳥ノクトゥア》を召喚。そして、ノクトゥアの効果!
 3枚目の《輝鳥現界》を手札に加える。
 そして、さらに《輝鳥現界》を発動!
 場からノクトゥアを、デッキからクレインを墓地に送って――。

《英鳥ノクトゥア》 []
★★★
【鳥獣族・効果】
このカードの召喚・特殊召喚に成功した時、
自分のデッキから「輝鳥」と名のついたカード1枚を選択して手札に加える。
ATK/ 800 DEF/ 400

《聖鳥クレイン》 []
★★★★
【鳥獣族・効果】
このカードが特殊召喚した時、このカードのコントローラーはカードを1枚ドローする。
ATK/1600 DEF/ 400

 いくよ! ――《輝鳥(シャイニングバード)-アエル・アクイラ》!!!」

《輝鳥-アエル・アクイラ》 []
★★★★★★★
【鳥獣族・儀式/効果】
「輝鳥現界」により降臨。
このカードの属性はルール上「風」としても扱う。
このカードが儀式召喚に成功した時、フィールド上の魔法・罠カードを全て破壊する。
ATK/2500 DEF/1900

 俺のフェイバリット・カード。
 俺が最初に知ったカード。
 俺といつも逆転を決めてきたカード。
 そして、――いつだって俺を見守ってくれてたカード。
 天高く、届くように、俺は掲げる。

「アクイラの効果だ!
 『ルーラー・オブ・ザ・ウインド』!!
 場の魔法と罠を全て破壊する!!」

 ソリッド・ビジョンは弱い風を再現する。
 草木が静かにゆれた。

 だけど、俺はもう一つのことをしなくちゃいけないんだ。

 ごめんね、アクイラ。
 あのときみたいに傷つけたりはしないから。
 力を貸してほしい。
 俺は気づかない振りをした方がいいのかもしれない。
 だけど、放っておくことなんてできないんだ。
 俺はあんな風につらそうに戦う姿を見ていられない。
 誰にも打ち明けられず、自分だけを信じる姿を俺は見ていたくない。

 だから、――『力』を使わせてもらうよ!!

 俺の意志に答えるみたいに、アクイラは大きく鳴いた。
 それが合図だ。

「さらに俺は……アクイラの『力』を『解放』する!!
 風よ!! あのローブを取り去れ!!!」

 カードが力強く光り、鼓動する。
 静かに()いでいた森に、突風が起こる。
 あのローブの黒を取り去ろうと、下から上に巻き上げる。
 その風に抵抗しようとしたけど、自然の風でないと分かるとすぐに抵抗をやめた。
 ローブは森の奥に飛んでいく。



 そして、そこに立っていたのは、

 俺の一番見慣れた幼馴染み――明菜――だった。


 俺たちにはこれまでたくさんのことがあった。
 だけど、ようやくレールに乗せるトロッコを組み立てて、
 目指したい場所に向かっていくんだと思ってた。
 そのペースが少し遅く感じても、焦ることはないと思ってた。
 治らない傷や振り切れない悩みがあっても、歩んでいけると思ってた。
 きっと確実に夢に向かっているんだし、未来は広がっていくはずだから。


 楽観している俺を、明菜が羨ましいと言っていたときがあった。

「翼はいいな、夢が決まってて」

「明菜もデュエル・スターを目指せばいいよ。
 俺と同じアカデミアへの進学も決まったんだし」

「うん、それもいいかなと思う。
 だけどね、なんだか踏ん切りがつかないんだ。
 そりゃね、デュエルは一生懸命やるつもりだよ。
 でもね、その先に何があるのかな……って」

「だったら、『好き』だけでデュエルすればいいんだよ。
 そのうちにきっとデュエルでやってみたいことが見つかる」

「そうだね。そうかもしれない。
 また、『3年』あるしね。
 ひとまずね、あたしがしたいことがひとつあるんだ」

 そう言って、明菜は1枚のカードを差し出した。
 《希望に導かれし聖夜竜(ホーリー・ナイト・ドラゴン)》のカードだ。

「あたしが全てを失った場所にあったカード。
 このカードがどこから来たのかを、まず知りたいなって……」

「そっか……。うん、それも大事だね」

 そうだ。これもきっと大事なことだ。
 どこに行っても、俺たちを襲った災厄(さいやく)はつきまとう。
 何をしていても、俺たちは過去の先にしかいない。

 俺は『風の災厄』に襲われた。
 明菜は『水の災厄』に襲われた。

 10年前に、世界4カ所で起こった大災害。
 『四の災厄』。
 俺たちみたいに孤児になった人もたくさんいた。
 突発的に起こった自然現象。
 今でもちゃんとした原因は分かっていない。

「あたしはこの原因を突き止めたいの。
 突き止めたところで、どうにもならないかもしれないけど、
 それでもあたしは知りたい。
 その鍵を、このカードが握っていると思うんだ」


 同じ道。それぞれの目的。
 近くて別々のレール。
 そして、今の交差点。
 この決闘の先はどこに続くんだろう。


 ――明菜は、どこに向かって歩み始めたんだろう?





第12話 決闘交差-後編:ゆずれないもの



 まだ残っている風に、首筋までの短めの髪がそよぐ。
 明菜はゴーグルをはずした。
 コンパクトなシュノーケルみたいなのもついていたけど、あれが変声機なんだろうか。
 ローブの下には、何に使うかよく分からない機材がたくさん装着されていた。

「――だから、来ないでほしいって言ったのに……。
 だって、翼相手に隠し通せるはずないんだから」

「どうして……こんなことを……。
 デュエルしながら、俺はずっと明菜じゃないのかって考えてた。
 だけど、そんなの認めたくないから、否定し続けてた。
 でも、今目の前にいるのは……」

「うん、あたしだよ」

 明菜は、意外と平然としていた。
 俺にはその理由が分からない。

「レイちゃんを傷つけたのはどうして?」

「そうすれば、みんなが退いてくれると思ったから。
 できるだけ、圧倒的に倒した。
 それに……うん、あたしが勝てる可能性が高かったから。
 レイちゃんには悪いことをしちゃったけど……」

 そう言って、今木陰で気絶しているレイちゃんに申し訳なさそうに目をやる。

「そうだよ! クロノス先生だって……」

「うん、そうだね。
 あたしは悪いことをしてるよね……」

 沈んだ声で明菜は答える。
 じゃあ、どうして……。

「どうして、こんなことを?」

「それは……言えない。
 これは翼には言えない」

「どうして!?」

「だって、翼がつらくなるだけだよ。
 翼は……知らないままの方がいい。
 翼まで背負い込むことはないんだから」

「意味が分からないよ!」

「分からなくていいんだよ。
 分からないように言ってるんだから」

 澄んでいるけど、少し震えた声。
 不安定に声が大きくなったり、口ごもったり。
 足下を確かめきれず、ぐらついているような。

「……迷ってるの?
 こんな道を選んで、正しかったのかって?」

 そう聞くと、明菜は俺から目をそらして答えた。

「……うん、そうかもしれない。
 誰かに明かして、誰かにも決めてほしい。
 私はちゃんとした判断をしているって、後押ししてほしい。
 だから、翼にバレちゃうくらいに甘かったのかもね」

 明菜が、こんな弱気なことを言うのは珍しかった。
 そこまで言うと、少し楽になったみたいで、力を抜いて話す。

「……いや、翼にだけバレる加減で甘くしたのかもね。
 変装だって、ローブだけじゃ甘いに決まってるし。
 先輩達は来ないよ。足止めを喰らってるはずだから。
 翼にも足止めを行かせたんだけど、今頃待ちぼうけかなぁ。
 服が汚れてるし、獣道を来たんでしょ?
 なら捕まらないわけだ」

「レイちゃんと明菜にPDAがつながらなくて、急いで来たんだ。
 アクイラに見回らせたから、怪しい奴にも捕まらない」

「そっか。うん、さすがだね、翼は。
 でも、もうデュエルを始めたら、引き返せないよ。
 このベルトはあたし達でもデュエル中は解除することはできないんだ。
 あたしも、引き返す気はない。
 さあ、デュエルを続けようよ」

 そう言って、明菜はデュエルの続きを促す。
 
「待って!
 どうして明菜があいつらに味方してるんだ!
 俺は全然納得してない!」

「あたしはこれ以上話す気はないよ。
 レイちゃんを狙ったのは、翼達を止めるには一番効くと思ったから。
 そして、今エナジー狩りに加わってる理由は話せない。
 これ以上聞き出したかったら、あたしを倒さないとダメだよ。
 これで負けたのなら、あたしの意志が甘いってことだから、全部話すよ。
 だけど、――あたしは負ける気はないよ」

 明菜はディスクを正面にかざして、戦意をむき出しにする。
 俺は、少し気圧される。
 脅されて参加しているわけでもなく、まして洗脳されてるわけでもないみたいだ。
 いったい何が明菜を、あそこまで突き動かすんだろう?
 明菜はこんな……誰かを傷つけることは大嫌いなはずなのに……。

 理由と今が、全然つながらない。

「いや! 勝負をつけなくても話は……」

「しつこいよ、翼。
 このフィールドの状況なら……

LP3500
モンスターゾーン《輝鳥-アエル・アクイラ》ATK2500
魔法・罠ゾーン
なし
手札
1枚
墓地
《兵鳥アンセル》&《恵鳥ピクス》が存在
明菜
LP3500
モンスターゾーン《クロスライトニング・ワイバーン》ATK2600、
《天帝竜アルジャザーイル》ATK2800
魔法・罠ゾーン
なし
手札
1枚

 アクイラを召喚できたし、伏せカードもなくなった。
 墓地からアンセルを除外して、アクイラをパワーアップ。
 それで、アルジャザーイルを撃破……でしょ?」

 明菜は話してくれる気がないみたいだ。
 今じゃ何も分からない。
 だけど、きっと何か理由があるはずだ。
 それを聞き出すためには、勝つのが一番スムーズな方法だ。
 ここはデュエルを進めるしか……。

「分かった。デュエルを続けるよ!
 墓地からアンセルを除外。

《兵鳥アンセル》 []
★★★★
【鳥獣族・効果】
自分の墓地に存在するこのカードをゲームから除外して発動する。
自分フィールド上に表側表示で存在する
鳥獣族モンスター1体の攻撃力は400ポイントアップする。
この効果は相手ターンでも使用できる。
ATK/1500 DEF/1400

 これでアクイラの攻撃力は400アップして、2900!
 バトル! 『シャイニング・トルネードビーク』!!」

 アクイラは回転しながら、そのくちばしでアルジャザーイルを破る。

「うん、ここは倒されるしかない」

明菜のLP:3500→3400

「俺はこれでターンエンドだ」

「あたしのターンだね! ドロー!
 焦れったいだろうけど、あたしも発動するよ!
 《光の護封剣》! アクイラにはこれ以上攻撃させない!
 ターンエンドだよ!」

《光の護封剣》
【魔法カード】
相手フィールド上に存在する全てのモンスターを表側表示にする。
このカードは発動後(相手ターンで数えて)3ターンの間フィールド上に残り続ける。
このカードがフィールド上に存在する限り、
相手フィールド上モンスターは攻撃宣言を行う事ができない。

 今の明菜は、やっぱりいつもとは迫力が全然違う。
 ひとつひとつの言葉、そして繰り出す動作の力強さが違う。

「俺のターン、ドロー!」

「あ、そうだ。翼」

 明菜は思いついたみたいに話す。

「最初に正体を隠すアンフェアなことをしたから、ひとつだけ教えるよ。
 あたしの今のデッキに《希望に導かれし聖夜竜》は入っていない。
 今は召喚条件がそろってるけど、召喚することはないよ。
 だから、安心して翼」

 唐突なアドバイス。

「それは……確かに安心するけど。
 何でそんなことを伝えるの?」

 あのカードを召喚されれば、確かに不利になる。
 それに明菜はフェアなデュエルが好きだ。
 でも、わざわざ伝えるようなことでもないと思う。

「なんとなく! さぁ、まだ翼のターンだよ」

 クエスチョンマークが浮かんだままだけど……。

「カードを1枚伏せて、エンドだ」

「うん。あたしもカードを1枚伏せて、エンド」

「俺のターン、ドロー!」

 《光の護封剣》があると、攻撃ができない。
 ここは効果が切れたときの準備だ。

「リバースカード、オープン!
 《転生の預言》!
 これで《輝鳥現界》2枚をデッキに戻すよ!」

《転生の予言》
【罠カード】
墓地に存在するカード2枚を選択して発動する。
選択したカードを持ち主のデッキに戻す。

《輝鳥現界》
【魔法カード・儀式】
「輝鳥」と名のつくモンスターの降臨に使用することができる。
レベルの合計が儀式召喚するモンスターと同じになるように、
自分のフィールドとデッキからそれぞれ1枚ずつ鳥獣族モンスターを生贄に捧げる。

 儀式魔法を切らしたら、デッキがまわらなくなってしまう。
 大抵は使い切る前に勝負がつくんだけど、今回は別だ。

「さらに《貪欲な壺》を発動!
 キグナス、アイビス、コロンバ、ノクトゥア、クレインを戻して、
 カードを2枚ドロー!!」 

《貪欲な壺》
【魔法カード】
自分の墓地に存在するモンスター5体を選択し、
デッキに加えてシャッフルする。
その後、自分のデッキからカードを2枚ドローする。

「まだいくよ! 《祝宴》を発動!

《祝宴》
【魔法カード・速攻】
フィールド上に表側表示の儀式モンスターが
存在するときのみ発動することができる。
自分のデッキからカードを2枚ドローする。

 もう一度デッキから2枚ドロー!」

 さらにデッキからドローしようと、デッキに手をかける。

「待って! リバースオープン!
 《精霊の鏡》! 《祝宴》はあたしのもの。
 カードを2枚ドローするよ!」

 明菜がデッキからカードを加える。

《精霊の鏡》
【罠カード】
プレイヤー1人を対象とする魔法の効果を別のプレイヤーに移し替える。

「そんな! 読んでたの?」

「読むも何も、《輝鳥現界》を使い切ったから、補充するかなと思って。
 当たりだったね!
 さっきは《心鎮壷》でぎゃふんと言わされたけど、
 あたしだって負けない!」

 明菜とのデュエルは互いの手の読み合いになる。
 相手の読みの先を越してカードを使わないと、決め手にはならない。

 少し甘かったけど、十分手札は揃ってきている。
 《光の護封剣》が切れたなら、すぐに仕掛ける!

「俺はカードを1枚伏せて、エンドだ」

「あたしのターン、ドロー!
 あたしはカードを2枚伏せて、ターンを終了するよ」

 だけど、カードが揃ってきているのは明菜も同じだ。
 明菜の伏せはどれも強力だ。

「俺のターン、カードを1枚伏せてエンド」

 ここで《光の護封剣》の効果がなくなる。

「あたしのターンだよ、ドロー!」

LP3500
モンスターゾーン《輝鳥-アエル・アクイラ》ATK2500→2900 
魔法・罠ゾーン
伏せカード×2
手札
1枚
明菜
LP3400
モンスターゾーン《クロスライトニング・ワイバーン》ATK2600
魔法・罠ゾーン
伏せカード×2
手札
3枚

 どちらの場にもリバースが2つずつある。
 それを使って、どれだけ相手に対応できるかが鍵になる。

「護封剣の効果はなくなった。
 だけど、攻められる前にこっちから仕掛けるよ!
 《ピクシー・ドラゴン》を特殊召喚!
 さらにそのまま生贄にして……。
 来て! 《サンセット・ドラゴン》!!」

《ピクシー・ドラゴン》 []
★★★★
【ドラゴン族・効果】
相手フィールド上にモンスターが存在する場合、
このカードは手札から特殊召喚する事ができる。
ATK/1000 DEF/1100

《サンセット・ドラゴン》 []
★★★★★★
【ドラゴン族・効果】
自分のバトルフェイズ開始時に1度だけ、
表側表示でフィールド上に存在するモンスター1体を選択し、
裏側守備表示にする事ができる。
ATK/2400 DEF/1600

 明菜の得意の生贄コンボ。
 しかも、《サンセット・ドラゴン》!

「いくよ! 『サンセット・ヴェール』!!
 アクイラを裏守備にする!」

 オレンジの光に照らされ、アクイラが翼で体を覆う。
 このままだと……。

「バトルだよ!
 《クロスライトニング・ワイバーン》!
 『ライトニング・クリスクロス』!!」

 雷が空を十字に切り裂く。

「ここでアクイラは倒させない!
 リバースカード《イタクァの暴風》!!
 クロスライトニングもサンセット・ドラゴンも守備表示に!!」

《イタクァの暴風》
【罠カード】
相手フィールド上に表側表示で存在する
全てのモンスターの表示形式を変更する。

 その罠を明菜は落ち着いて見送る。

「やっぱり、迎撃用のトラップは用意していたね。
 じゃあ、カードを1枚伏せて、ターンエンド」

 このトラップの発動は読まれていたみたいだ。

 なら、次の手もきっと分かっているはず。

「俺のターンだ。
 アクイラを反転召喚!」

 攻撃力はリセットされてるけど、今なら倒せる!

「クロスライトニングに攻撃!
 『シャイニング・トルネードビーク』!!」

 そして、対応してくるカウンター罠は……。

「あたしも攻撃はさせない!
 《攻撃の無力化》!!
 バトルは終わりだよ!」

《攻撃の無力化》
【罠カード・カウンター】
相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
相手モンスター1体の攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了する。

 やっぱり通らない。
 一手先を行かないと、どの攻撃も届かない。

「俺はカードを1枚伏せて、ターンエンドだ!」

 明菜とのデュエルは、やっぱり気が抜けない。


「あたしのターン、ドロー!」

 次はどんな手で攻めてくるのか。
 明菜の手に意識が集まる。

 だけど、明菜は息を深くはいて、感慨深げにつぶやく。

「なんだか……久しぶりだね。
 こうして本気でデュエルするの。
 アカデミアに向かう船で対戦して以来かな」

「……そうだね。
 タッグデュエルの練習で、明菜が先輩たちの真似デッキを使って、
 俺と対戦したけど、あんまり勝負にならなかったよね」

「うん……。あたしの惨敗だった。
 あたし、このデッキ以外だとからっきしなんだよね。
 いろんなデッキ使える翼がうらやましいんだよ」 

「でも、俺はたまたまうまくやってるみたいな感じだよ」

「翼だと本当にそうっぽいから困るよね。
 だけどね、あたしはこのデッキなら負けるつもりはないよ。
 それにね、負けるわけにはいかないんだ……」

 明菜は自分の慕ってきたモンスターを見つめ、力強く話す。
 思い悩んだ結果だということは、すごく伝わってくる。
 俺は受け止めなくちゃいけない。
 でも、認めるのは別だ。
 何も知らないのに、それはできない。

「だけど、理由は話せないんだよね……。
 俺は勝って、必ず聞き出すよ!」

 だから、せめて明菜のデュエル――決意の強さ――を全力で受け止める。

「そうだね、ありがとう。
 ごめんね、翼。
 引き返せないんだけど、謝ることだけはしたかった。
 一方的だけど、あたしを試してほしい。
 だから、――手加減はしないよ!」

 手を振りかざし、攻撃を告げる。
 明菜の決意が、クロスライトニング・ワイバーンを鼓舞する。
 答えるように、雷鳴がとどろく。

「バトル!
 今なら倒せる!
 クロスライトニングでアクイラを攻撃!!
 『ライトニング・クリスクロス』!」

 だけど、この反撃もまだかわせる!!

「トラップ発動! 《守護の烈風》!!
 クロスライトニングは融合デッキに戻す!」
 電雲を巻き返そうと、大きな竜巻が吹く。

《守護の烈風》
【罠カード】
自分フィールド上に表側表示で存在する鳥獣族モンスターが
攻撃宣言を受けたときに発動する事ができる。
相手モンスター1体の攻撃を無効にし、
その攻撃モンスターを持ち主のデッキの一番上に置く。

「翼のデッキの中心はアクイラ!
 きっと守ってくると思ってたよ!
 カウンタートラップ《魔宮の賄賂》!
 《守護の烈風》は発動させない!」

《魔宮の賄賂》
【罠カード・カウンター】
相手の魔法・罠カードの発動を無効にし破壊する。
相手はデッキからカードを1枚ドローする。

「しまった!!」

 一手先を行かれた。
 竜巻は消えて、電撃の十字がアクイラに浴びせられる。

「アクイラ!!」

 賄賂のデメリットで、1枚ドローできる。
 だけど、アクイラを倒されたのはそれ以上に大きい。

「クロスライトニングで倒した。
 効果の『ライトニング・コンダクト』! デッキから《融合》を引くよ。
 これでようやくフィールドが空いたね!
 ダイレクトアタックだよ! 『トワイライト・バースト』!!」

「でも、それは通さない! 墓地からピクスを除外!
 ダメージはなくなるよ!」

《恵鳥ピクス》 []
★★★
【鳥獣族・効果】
自分の墓地に存在するこのカードをゲームから除外して発動する。
このターン、コントローラーへの戦闘ダメージは0になる。
ATK/ 100 DEF/ 50

「!!
 そっか……最初の《輝鳥現界》のときに墓地に……。
 だけど、アクイラは倒せたね。次は攻撃を通すよ!
 あたしはカードを1枚伏せて、ターンエンド」
 
 アクイラがいなくなった。
 状況は逆戻りして、劣勢に追い込まれる。

LP3500
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーン
伏せカード×1
手札
2枚
明菜
LP3400
モンスターゾーン《クロスライトニング・ワイバーン》ATK2600、
《サンセット・ドラゴン》ATK2400
魔法・罠ゾーン
伏せカード×2
手札
1枚

 明菜のリバースは2枚。
 俺の伏せカードはサポートの1枚だけ。
 だけど、ここで確実に追いついてみせる。

「俺のターン、ドロー!!」

 このカードなら、いける!

「リバースカード、オープン!
 《リミット・リバース》!
 墓地から《命鳥ルスキニア》を特殊召喚。
 さらに、ルスキニアを効果で生け贄にして、《英鳥ノクトゥア》をデッキから召喚!
 そして、ノクトゥアの効果でサーチするよ!
 俺が手札に呼ぶのは、《輝鳥-アクア・キグナス》!!」

《リミット・リバース》
【罠カード・永続】
自分の墓地から攻撃力1000以下のモンスター1体を選択し、攻撃表示で特殊召喚する。
そのモンスターが守備表示になった時、そのモンスターとこのカードを破壊する。
このカードがフィールド上から離れた時、そのモンスターを破壊する。
そのモンスターが破壊された時このカードを破壊する。

《命鳥ルスキニア》 []
★★★
【鳥獣族・効果】
自分フィールド上に表側表示で存在するこのカードを生け贄に捧げる事で、
自分のデッキまたは墓地から守備力400以下の鳥獣族モンスター1体を特殊召喚する。
ATK/ 500 DEF/ 500

《英鳥ノクトゥア》 []
★★★
【鳥獣族・効果】
このカードの召喚・特殊召喚に成功した時、
自分のデッキから「輝鳥」と名のついたカード1枚を選択して手札に加える。
ATK/ 800 DEF/ 400

「キグナス!!」
 
 明菜は動揺している。
 もう《天罰》は3枚使いきった。
 そう簡単には防げない。

 俺も、俺の信じるカードで、この場を塗り替える!

「儀式魔法《輝鳥現界》発動!
 場からノクトゥアを、デッキからアイビスを生け贄に捧げる。
 《輝鳥-アクア・キグナス》を召喚! そして、効果発動だ!
 激流よ、押し戻せ! 『ルーラー・オブ・ザ・ウォーター』!!
 2体をデッキに戻す!! さらにアイビスの効果で1枚ドロー!」

《輝鳥-アクア・キグナス》 []
★★★★★★★
【鳥獣族・儀式/効果】
「輝鳥現界」により降臨。
このカードの属性はルール上「水」としても扱う。
このカードが儀式召喚に成功した時、フィールド上のカード2枚を選択し、
1枚をデッキの一番上に、もう1枚を持ち主の手札に戻す。
ATK/2500 DEF/1900

《霊鳥アイビス》 []
★★★★
【鳥獣族・効果】
このカードを生け贄にして儀式召喚を行った時、自分のデッキからカードを1枚ドローする。
ATK/1700 DEF/ 900

 激流が2体のドラゴンを包み込もうと、襲いかかる。
 だけど、明菜は立ち向かおうと、カードを開く。

「ここで戻させるわけにはいかない!
 2枚のリバースをオープン!
 あたしのトラップはカウンター罠だけじゃない!
 1枚は《亜空間物質転送装置》!
 サンセット・ドラゴンを除外して、守るよ!」

《亜空間物質転送装置》
【罠カード】
自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択し、
発動ターンのエンドフェイズ時までゲームから除外する。

 クロスライトニングは融合デッキに戻る。
 だけど、サンセットが戻らないから、デッキのトップは固定されない。

「そして、もう1枚は《サンダー・ブレイク》!!
 手札から《融合》を捨てて、キグナスは破壊するよ!」

《サンダー・ブレイク》
【罠カード】
手札からカードを1枚捨てる。
フィールド上のカード1枚を破壊する。

 雷撃。

「キグナス!!」

 明菜は確実に対応してくる。
 キグナスの力をかわされるなんて……。

「俺はカードを1枚伏せて、ターンエンド……」

 だけど、このカードは今は使えるカードじゃない。
 次のターンは攻撃が通ってしまう。

「あたしのターン! ドロー!
 《サンセット・ドラゴン》が戻ってくるよ!」

 明菜がオレンジの翼竜を頼もしそうに迎える。
 高い声で鳴いて、サンセット・ドラゴンも応える。


「……翼と本気で戦うのは、やっぱり楽しいね。
 あたしが食い止めても、反撃しようと必ずすぐに輝鳥を召喚してくる。
 すごくワクワクするよ。
 ずっとこうして楽しくデュエルしてられるのもいいのかもね」

「それで十分だよ。
 このアカデミアなら、たくさん心の躍るようなデュエルができる。
 ここでデュエルの腕を鍛えれば、プロリーグでも活躍できる。
 俺はそれが夢なんだ。
 俺のデュエルの舞台で、みんなが楽しくなれたらって。
 みんなを楽しませられる『デュエル・スター』になれたらって」

「うん、素敵だ。
 だけどね、あたしはそれだけじゃ足りないんだ。
 その前にやらなくちゃいけないことがある。
 だからこうして、道を踏み外したの。
 ずっと前からの願いが、もしかしたらかなうかもしれないから」

「でも……、誰かを犠牲にしてまで……」

 俺が言いかけたことを、明菜は大きな声で打ち消す。

「だからね! あたしは迷ってる。
 結論を出すのが怖いんだ。
 ここから先は、一つの道に決まる。
 どちらでも、もう引き返せない。
 迷えるのは、きっとここが最後になる」

「でも、一人で迷わなくていいよ!
 どうして、そんな風に思い詰めなくちゃいけないんだ!?
 俺は聞きたいよ!」

「翼だから、話せないんだよ。
 でも、翼なら気付けるかもね。
 気付いてほしいけど、気付かれちゃいけない。
 なんだか難しいね。
 だけど、ようやく結論が出そうだね」


 明菜はフィールドを見渡す。

LP3500
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーン
伏せカード×1
手札
3枚
明菜
LP3400
モンスターゾーン《サンセット・ドラゴン》ATK2400
魔法・罠ゾーン
なし
手札
1枚

「いくよ! 攻撃!
 『トワイライト・バースト』!!」

「ぐうっ!」

翼のLP:3500→1100

「やっと、ダメージが与えられたね。あと一撃だ!
 このまま終わらせるよ! カードを1枚伏せて、ターンエンド」


「いや、俺はこのまま終わらせない」

 このまま終わったら、明菜は遠くに行ってしまうような気がして。
 そうさせちゃいけない。
 今止められるのは、俺しかいない!

「ドロー!!」
 
 ――デッキとこいつ達は俺の気持ちに応えてくれている。

 あとはこれを明菜に思い切りぶつけるだけだ!!


「装備魔法《契約の履行》を発動する!
 ライフを800ポイント支払って……

《契約の履行》
【魔法カード・装備】
800ライフポイントを払う。
自分の墓地から儀式モンスター1体を選択して
自分フィールド上に特殊召喚し、このカードを装備する。
このカードが破壊された時、装備モンスターをゲームから除外する。

 舞い戻れ!! 《輝鳥-イグニス・アクシピター》!」

「アクシピター!! 倒される!」

「いや、それだけじゃない!
 俺はさらに儀式魔法《輝鳥現界》を発動!!
 場からアクシピターを、デッキからコロンバを生け贄に捧げる!」

「レベル10の儀式……ッ!!」

 明菜なら、俺が呼ぶモンスターは分かっている。
 そうだ! これが俺の全力だ!!

「降臨せよ!
 《輝鳥-ルシス・ポイニクス》!!!」

 夜の光を精一杯に集めて。
 輝きの白から新たな輝鳥が舞い降りる。
 闇を染め変えるように、さんさんときらめく。

《輝鳥-ルシス・ポイニクス》 []
★★★★★★★★★★
【鳥獣族・儀式/効果】
「輝鳥現界」により降臨。
このカードを手札から儀式魔法により降臨させるとき、
自分フィールド上に存在する「輝鳥」と名のつく
儀式モンスターを生贄に捧げなければならない。
このカードの属性はルール上「風」「水」「炎」「地」としても扱う。
このカードが儀式召喚に成功した時、
相手フィールド上に存在する全てのモンスターを破壊する。
ATK/3000 DEF/2500

「そして、効果発動!
 『ルーラー・オブ・ザ・ライト』!!
 サンセット・ドラゴンを破壊するよ!」
 
 ポイニクスは大地に飛び込む。
 そして、マグマとともに飛翔して、焼き尽くす。

「さらにダイレクトアタック!
 『シャイニング・メテオラッシュ』!!」

 天空からポイニクスは急降下し、明菜をつらぬく。

明菜のLP:3400→400

「くっ……! さすがだね、翼。
 ここでポイニクスを召喚してくるなんて」

「俺は必ず勝ってみせるよ!
 ターンエンドだ!」

 俺の場には攻撃力3000のモンスター。
 明菜の場はたった1枚の伏せカードのみ。
 さらに俺にはもう一手がある。
 きっといける!

 明菜はデッキの上に手を構えて、つぶやき念じる。

「嫌だ……。
 ……あたしは、負けられない。
 負けたくない!」

「あたしのターン! ドロー!!」

 明菜は引いたカードを見る。
 明菜の瞳が、意識がカードに吸い寄せられる。
 目線を下に向けた。
 何かに気付いたように。
 軽く息を吐いた。
 まるで覚悟を決めるみたいに。

「――そうだね、デュエルもデッキも嘘をつかない。
 最初から答えは出てたんだね。

 ごめんね、翼。
 あたしはやっぱり負けられない。
 このためなら、もう引き下がらない。

 だから、――あたしは、あたしさえも裏切る!!」

LP300
モンスターゾーン《輝鳥-ルシス・ポイニクス》ATK3000
魔法・罠ゾーン
伏せカード×1
手札
0枚
明菜
LP400
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーン
伏せカード×1
手札
1枚

 来る! このターン、何かを仕掛けてくる。
 
「手札より融合魔法発動! 《龍の鏡》!!
 墓地から5体のドラゴンを除外融合する……」

《龍の鏡》
【魔法カード】
自分のフィールド上または墓地から、
融合モンスターカードによって決められたモンスターをゲームから除外し、
ドラゴン族の融合モンスター1体を融合デッキから特殊召喚する。
(この特殊召喚は融合召喚扱いとする)

 5体のドラゴン?
 この組み合わせは確かに存在する。
 いや、だけど明菜があのモンスターを使うことは……。

「召喚! 《F・G・D》(ファイブ・ゴッド・ドラゴン)!!!」

 まがまがしい多頭龍。
 そんな……明菜はこのカードを使わないはず……。
 どうして……、それがここに……。

《F・G・D》(ファイブ・ゴッド・ドラゴン) []
★★★★★★★★★★★★
【ドラゴン族・融合/効果】
このモンスターは融合召喚でしか特殊召喚できない。
ドラゴン族モンスター5体を融合素材として融合召喚する。
このカードは地・水・炎・風・闇属性のモンスターとの戦闘によっては破壊されない。
(ダメージ計算は適用する)
ATK/5000 DEF/5000


 孤児院にいたときに、俺たちがカードカタログを見ていたときに、明菜は言ったんだ。

「明菜はドラゴンデッキだしさ、このカードを手に入れれば強くなるんじゃない?」

 俺が指さしたのは、《F・G・D》のカードだった。
 でも、これはほとんど出回っていないカードだ。
 海馬コーポレーション主催の大会で成績優秀者に配られたくらいだ。

「うわ! すごい攻撃力!!
 でも……、うーん、あたしはこのカード嫌かな」

「え? どうして?
 すごく強いじゃん」

「でも、この融合条件見てよ。
 ドラゴン5体って。 乱暴すぎるよ。
 どのドラゴンもいろんな効果と格好良さがあるから面白いのに。
 何でも5体合わせれば、最強! だなんて、あたしは好きじゃないかなぁ」

「確かに……、そうかもね」

「それに……」

 明菜は一度うつむいてから、言葉を続けた。

「このドラゴンの恐ろしい感じを見てるとね、あの災厄を思い出すんだ。
 力だけで全部をねじ伏せようとする怖い感じ。
 それを自分が繰り出すなんて、――きっと嫌だよ」

「僕も何だか怖い竜に思えるよ」

「うん。だから、手に入れたとしてもあたしは入れないよ。
 あたしもね! 誰も使いこなせないような、すごい戦術で『あっ!』と言わせたいんだ!
 オーナー先生みたいにね!
 だから、もっと面白いカードを使って、勝ってみせるよ!」


 明菜はこのカードを嫌いだって言ったんだ。
 それなのにどうしてここに。
 ……いや、もう分かるはずだ。

 『だから、――あたしは、あたしさえも裏切る!!』

 この言葉の意味は、この目的のためなら自分の信念も曲げること。
 明菜がそこまでかけてやりたいこと。
 それは……。
 
 ――そうだ。
 ひとつ、あったんだ。
 デュエル・エナジーと明菜のやりたいこと。
 どうして、もっと早く思い当たらなかったんだろう
 でも、だとしたら……俺は引き留めていいんだろうか?
 それができるなら、俺は見過ごしてあげるべきじゃないんだろうか。
 だけど、それは勝ってからでも……。

「いくよ! これが最後の攻撃!
 『ディスオーダー・ストリーム』!!」

「いや! まだだ!
 リバース罠発動! 《火霊術−「紅」》!!
 ポイニクスは火属性も持っている!
 生け贄に捧げて、ダメージだ!」

《火霊術−「紅」》
【罠カード】
自分フィールド上に存在する炎属性モンスター1体を生け贄に捧げる。
生け贄に捧げたモンスターの元々の攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。

 場に魔法陣が描かれ、ポイニクスが炎そのものとなる。
 紅炎が明菜にうずを巻いて、飛びかかる。

 ――届け!!

「《契約の履行》でアクシピターを選んだときから、来ると思ってた……。
 カウンター罠、発動!」

 気付いて、迷った時点で。
 自信を持って、引き戻せない時点で。
 俺の……負けなんだ。

「《神の宣告》!!
 ダメージは無効だよ!!」

《神の宣告》
【罠カード・カウンター】
ライフポイントを半分払う。
魔法・罠の発動、モンスターの召喚・反転召喚・特殊召喚の
どれか1つを無効にし、それを破壊する。

明菜のLP:400→200

 俺を守るモンスターはいなくなった。

 《F・G・D》の攻撃が迫り来る。
 暴力。
 きれいじゃない。
 足並みがそろわない。
 理不尽に奪うように。
 まるで災厄みたいに。

 悲鳴を上げる大地。
 迫り来る氷刃。
 放たれる灼熱。
 巻き上げられる粉塵。
 黒の波動。

 恐ろしくて、前に両手を掲げて目を閉じてしまう。
 ソリッドヴィジョンが感覚を再現する。
 でも、あの時に比べたら、簡単な衝撃と音。
 そして、また目を開ければ、もうライフはゼロを指していた。

 ……俺は、止められなかった。

翼のLP:300→0


「あたしの勝ちだよ。
 だから、……ごめんね。
 『欲望に殉じることなき者よ、我らが糧となれ』」

 エネルギーが吸収されていく。
 体から力が抜けて、自分を支えられなくなる。
 糸が切れたみたいに、膝がついた。
 そのまま地面に前のめりに倒れるところで、支える感触。
 きっと、明菜だ。

「あたしはいくよ。
 じゃあね……、翼」

 その声を最後に、もう何も感じられなくなった。
 
 そして、意識は夢に入っていく。
 すごく疲れたときに、視るような。
 やけに鮮明な夢。
 何もかも本当みたいに感じられる夢。


 ――それは追憶だった。

 俺がまだ自分を僕と呼んでいた頃の夢。
 何もかもを失って、また組み立て始めた頃の……。

 僕は、これからどうすればいいんだろう。
 でも、その答えにきっとたどり着ける。
 この夢は僕らの旅路。
 たどれば、未来につながるんだ。

 僕は流れていく意識に、全てを投げ出した。





第13話 孤児院ルミナス1-砕けて散ったカード-



 何もかもを奪われたときを覚えている。
 でも、まだ幼くて何を失ったかも数えられない。
 だけど、僕の心と居場所は更地にされた。

 吹き荒れる嵐の災厄だった。
 何かを目で捉えようとしても、すぐどこかに飛ばされ分からなくなる。
 全てを巻き込んで、あらゆる音が叫ぶ。
 砂埃が何もかもを運んできて、何がここにあった匂いか区別できない。
 手を伸ばしても、どんなものにも届かない。
 もう何を認識することもできない。
 ここはそういう場所だった。

 でも、一つだけ認識できることがあった。
 それは、僕がその惨状から守られていること。
 薄い緑のヴェールが形作られて、僕は嵐から離されていた。

 戸惑ったままで、僕は何もない空を見つめていた。
 どんなものの存在も許さない嵐。
 ただ、一つだけ存在することが許されている自分。
 どうして守られているのかも、どうしてここにいるかも分からない。
 自分には何もできないのに、自分はここにいる。
 その意味あるはずのことが、どうしても無意味でつらかった。
 何も与えられないことが、とてつもなく寂しくなった。

 こみあげてくるつかみどころのない感情。
 怒り、悲しみ、混ぜこぜ。
 僕は目をつぶり泣いた。
 ただ、泣き叫んだ。
 声はどこにも届かない。
 ただ自分が楽になるために、泣いた。
 抑えきれないうずきを、自分から解き放ちたかっただけ。
 わめいても誰も耳を傾けてはくれない。
 分かってもらおうとしても、騒音が返ってくるだけ。
 それでも喉がしゃくりあげる。声を出そうとする。
 僕がそうしたくてそうしているんだろうか。
 体が動いているだけなんだろうか。
 ただ、じっとしていられなくて、どこかの底から突き動かされる。
 僕はどうしてこんなに飢えているんだろう。
 どうして、求めているんだろう。
 何も得られないと、すぐに分かるはずなのに。
 何も戻せるはずがないのに。

 ようやく泣き疲れて声が枯れる。
 そうして、やっと嵐はやんだ。
 全てが地に落ちて、一瞬で静かになる。
 あたりは一面の砂。
 何もつかめない、すくえない。
 僕は倒れこんだ。
 もう何も残されていない場所。
 嵐に全てを奪われた場所。
 ただ一つだけ残されていたもの。
 右手に握った大きな鷹の描かれたカード。
 意識が遠くなる前に、わずかに輝いたそのカードが目に入った。



 僕はそれからの場所をよく覚えていない。
 いろんなところに連れられた。
 でも、どこに行っても、このカードだけは持っていた。
 ボロボロだったけど、手放してはいけない気がして……。

 最初は病院だった。
 僕は少し弱っていただけで、他にケガはなかった。
 父さんも母さんも死んでしまったと聞いた。
 僕はその意味がよく分からなかったけど、もう会えないことだと知った。
 寂しい。
 心細い。
 誰も迎えに来ない。
 頭が真っ白になる。
 僕は、これからどうなるんだろう。

 見たことのない人が、僕を訪ねてきた。
 僕はその人の顔を思い出せない。
 今も顔が曇っていてよく見えない。
 だけど、にらみつけられているのは分かる。
 すごく怖かった。

「あの嵐で本当に傷一つないとはな!
 呪われた奴の息子だけあるな。
 被災者とはいえ異常がなければ、病院に入れておくわけにもいくまい!
 どうしたものかな……。

 分かった。引き取るには引き取ろう。
 こいつの身元は嫌と言うほど知っている。
 だが、世話をするかどうかは親族で相談しよう。
 いや、親族というのも認めたくないが……。
 おい! 着替えさせろ! 連れて行くぞ!」

 僕は知らない人の車に乗せられた。
 そして、今まで見たことのない場所に着いた。
 すごく大きな家だった。
 門ががっちりしきられていて、外からは何も見えない。
 冷たい場所だった。

 そこに黒い服を着て、たくさんの人が集まっていた。
 奥の台に、父さんと母さんの白黒の写真が飾られていた。
 落ち着くような、寂しいような……。
 今までかいだことのない匂いがただよっていた。
 それからお坊さんが来て、よく分からない言葉をつぶやいた。
 みんな目を閉じて、それをじっと聞いていた。
 僕も、その真似をした。

 お坊さんが去った後、みんな何か話をしていた。
 意味はよく分からなかったけど、僕のことを話していた。
 でも、「無理」とか「できない」とか「余裕がない」とか、
 たくさんの否定的な言葉が飛び交っていた。
 いろんな険しい視線が向けられて、僕は目を伏せた。
 そうしなければならない気がしたから。
 僕は嫌われている。それが分かった。
 謝らなければいけない気がしたけど、何を謝るか分からない。
 だから、ただうつむいて、黙っていた。
 早くこの呼吸しづらい空気が終わってほしい。
 そして、その後に僕はどうなるんだろう。
 何を浮かべても、考えがまとまらない。
 じっと耐えていた。

 しばらく誰も話さない間があったあとに、さっきの男の人が大きな声でしゃべった。

「つまり、誰も引き取る気はないんだな。
 私たち以外で世話をしてくれるアテを探すしかあるまい。
 で、どう探すっていうんだ?」

 また話し合って、すぐに決まったみたいだ。
 夜も遅くなっていたから、みんな寝ることになった。

 おばあさんが布団を敷いてくれた。
 そのおばあさんは心配そうに僕を見ていた。
 布団を敷いてくれて、「ありがとう」と言って、寝ようとした。
 すると、おばあさんはぽつりぽつりと話し始めた。

「すまんねぇ。孫だというのに世話もしてやれず。
 ……ただ、あの子は許せないんじゃよ。
 あの子はずっと兄さん、あんたのお父さんに憧れておった。
 じゃが、悪い噂というか(霊障というのか?)のある者と駆け落ちしてしまってな。
 急に裏切られた気持ちになって、許せないんじゃ。
 あんたを受け入れたら、それがあべこべになってしまう。
 爺も死んで、余計に自分一人で責任を背負っている。
 今のあんたには何も分からんじゃろうがな……。
 いや、分かる必要もないんじゃよ。
 誰も本当のことは分からないんじゃ。
 ただ、もっともらしい理由をつけて、納得しようとしてるだけじゃよ。
 本当は……、ただ複雑なだけじゃ。
 理由と言い訳の糸が、いちいち重なって網になる。
 その網に絡められて、みんなうまく動けなくなっているんじゃよ。
 あんたは悪くない。あんたの家族も悪くない。
 結局……、余裕のないこの世界に愚痴るしかないんじゃ。
 あんたも今はこうなっているが、納まるべきところに納まるじゃろう。
 身動きもできない納まるべき場所にな……。
 それまで……ゆっくりおやすみ……」


 朝、僕は車に乗せられた。
 この男の人は口は荒いけど、運転は丁寧だった。
 きっちりと黄色信号から止まって、ブーブー鳴らされていた。
 たくさんの人に追い越されていた。

「急ぐ奴は勝手に急げばいいんだ。私は私だ」

 着いたのは、賑わう街の真ん中だった。
 広場があって、噴水もある。立派な建物だった。
 この建物は少し冷たい場所だと思っていた。
 けれど、訪ねた場所は温かな場所だった。
 ピンクにオレンジに黄色。温かな明かり。
 一面が柔らかい色、ぬいぐるみや積み木もある。

「すまない。この『子ども家庭課』で被災孤児の養育相談というのは、受け付けているか?
 何? やってないのか。じゃあ、どこで受け付けてるんだ?
 すまないが、不勉強でな。教えてくれないか?
 『児童相談所』? 何だ、そんなおあつらえ向きの所があるのか。 場所は……」

 僕はまた違う場所に連れられる。
 よく分からないけど、この人は僕のために動いてくれてる。
 僕のことは嫌いなはずなのに……。
 僕はこの人にどんな顔をしていいか、分からなかった。

「あまり心配するな。何もお前を地獄に連れてくわけじゃない。
 お前みたいな奴を引き取る専門家に相談してるだけだ。
 きっと私たちよりもずっと優しくて、余裕のある方々さ。
 お前もそこにいる方がずっといいだろう。
 安心して暮らせるだろうに」

 僕は「ありがとう」と言った。

「恨まれては困るが、感謝されても困るな。
 私がしているのは、単なる整理だ。
 お前のためじゃなく、私たちのために動いているだけだ」

 感情で声は揺れずに、淡々と。
 用意していたように、答えは返された。


 僕は次の場所にしばらくの間いることになる。

「何だ? 全部話せというのか?
 まぁ仕方あるまい。
 長い話になりそうだ。こいつは遊ばせておけ。
 私はこの子の叔父、父親の弟でな。両親は先の災厄で……」

 僕は遊ぶスペースに連れて行かれて、ブロックを組み立てて遊んでいた。
 他にも何人か子どもがいたけど、僕みたいに一人遊びをしている子が多かった。

 しばらくして、あの人が来た。

「お前は少しの間、ここで暮らすことになる。
 引き取ってくれる所が見つかるまでな。
 孤児院か……里親か……。
 いや、今は孤児院と言わないのか。児童養護施設だったか?
 ひとまず、私の役割はここまでだ。
 居場所は連絡されるが、もう会うこともないだろう」

 男の人はようやくひとつのことが終わったというふうに、ため息をついた。

「今は分からないだろうが、お前にはいろんなしがらみがある。
 だが、お前は自由に生きていい。
 どのしがらみも、お前を完全に縛ることはできない。
 お前の父親のように、運命を打ち破って生きるといい。
 例え、忌まわしき血がまとわりついてもな」

 僕にそう言って、この人は職員の人に向き直った。

「至らない私たちで申し訳ありません。
 この子の世話をどうかよろしくお願いします」

 深く、長い礼をした。

 いきなりの丁寧なお辞儀。
 周りの人はみんなびっくりしていた。

「じゃあな、翼」

 軽く手をあげて、別れの挨拶をする。

 はじめて名前を呼ばれて、僕はびっくりした。
 僕は精一杯手を振り返した。

 男の人は振り返らずに、車に戻るまでずっと手をあげていた。
 僕の中の何かへも別れを告げるみたいに。




 何日かをその場所で過ごした。
 ここの人たちは僕の世話をしてくれた。
 話も聞いてくれた。
 だけど、それは『振り』が多かった気がする。
 すぐに切り替わる愛想笑い。
 本当は聴いていない、覚えていない。
 だから、きっと僕はずっとここにはいないんだろう。
 
 そして、僕に迎えが来た。

「あなたが久白 翼くんですね?」

 背が高いけど、怖い感じはしない。
 白いひげが形よく切りそろえられている。
 穏やかに笑みを浮かべた表情。
 たくさんしわがあって、お年寄りなんだろうけど、
 背筋がぴんとのびていて、きれいにしてある服は行き届いていた。
 黒を中心とした、格好いい魔法使いみたいな服だった。
 (司祭服の名称と意味を、僕は少し先に知る)

「うん」

 僕はうなずいた。

「私は鏡原 英志(かがみはら えいじ)と申します。
 これから翼くんが成人するまで、お力添えをさせていただきます。
 どうぞ、よろしくお願いします」

 腰を低くして、手を伸ばしてきた。
 その手に、僕は手をかさねた。
 かたく握手をした。

「さあ、行きましょう。
 翼くんの新しいお家へです。
 児童養護施設ルミナス。きっと気に入ると思います」

 向かう車の中で、僕は久しぶりに気分が弾んでいた。
 このおじいさんについていけば、面白いことが見られる。
 そんな気がしていた。
 こんな服を着た人も、たくさんいるんだろうか?

「うん? この服が気になるのですか?
 ああ、これは普段は私は着ないんですがね。
 今日は正式な場だったから、着ているんです。
 新しい家族、翼くんを迎え入れる記念すべき日ですから。
 これが私たちの正装ということに一応なってます。
 もっとも私はあまり敬虔な信徒ではないのですが……。
 いつもは作業着で汚れっぱなしなんですよ。
 菜園をいじったりしますから。
 そういえば……、あなたは何が好きですか?」

 突然、僕のことを聞かれて、少しとまどった。

「ああ、すみません。ぶしつけな質問でしたか。
 いえね、子どものしたいことに応じて、当番を決めるんです。
 例えば、動物・植物の世話、お掃除、料理の手伝いなどね……。
 その参考というのもありますし、それに……。
 単に翼くんのことを知りたいんですよ。
 これから長いつきあいになりますから」

 僕はこの人になら、いろんなことを話してもいいと思った。
 恥ずかしがって隠す必要は、きっとない。

「僕は、図鑑を見るのがすごく好きなんだ。
 鳥とか、花とかの! 写真がたくさんの本が好き!
 あと、それを見に行くのも好き!
 あとね! ブロックとか組み立てるのも好き。
 何か形になるのが楽しいんだ!
 それと……」

 僕はポケットから、あのカードを取り出した。
 前はキラキラしてたけど、今はくすんでしまったカード。

「父さんがときどき買ってくれたこのカードが好きなんだ。
 たくさんの絵柄があって、みんな格好よくて!
 その中でもこのカードが一番のお気に入りなんだけど、ボロボロになっちゃった……」

 おじいさんは運転しながら、ちらりとカードを見ると、表情を変えた。
 すごく嬉しそうに、目が見開いて「おお!」と驚きの声をあげた。
 わざわざ車を寄せて止めて、僕に聞いてきた。

「翼くんは、デュエルモンスターズを知っているのですか!?」

「これは じゅ、『でゅえるもんすたーず』って言うの?
 よく分からないけど、好きだよ」

「そのカードをよく見せてくれませんか?」

「え、え? いいけど、傷つけたらダメだからね!」

 僕はそっとカードを手渡した。
 おじいさんはまじまじとカードを見つめる。

「《輝鳥-アエル・アクイラ》……。
 いいカードですね……」

「おじいさん、このカードのことたくさん知ってるの?」

「知ってるも何も……。
 そうですね、このカードのことならこの辺りで一番詳しいんですよ。
 あとで私のコレクションも見せてあげましょう。
 もっと魅力的なデュエル……いえ、ショーの映像も見せてあげますよ!」

「え! そんなのがあるの!?」

「あるんですよ。デュエルモンスターズは集めるのも楽しみの一つですが、
 ここに書いてある数字とここの効果で、対戦するゲームもできるんです。
 私はその『デュエル』の道のプロだったんですよ」

「ええ! すごい! 早くいろんなカードが見たい!」

「いいですとも!
 しかし、不思議ですね。
 こうして焼けただれたようにシミがついてるなんて。
 翼くんはすごく大切にこのカードを扱っているようですが……。
 どこかに持ち歩いたりしたのですか?」

「ううん。僕もどうしてこうなったかは分からないんだ。
 確かにいつも肌身離さずに持っていたんだけど……。
 あの嵐があってからかな? こんな風になっちゃって……。
 ねえ! このカードを直せないかな?」

「うーん……、難しいですね……。
 ただのシミならばどうにかなりますがね。
 いえ、ですが、これはもしや……。
 どうしてこうなったか分からないと、ちょっと何とも言えません。
 ひとまず、このカードは……」

 そう言って、おじいさんはバッグから透明なシートを取り出した。
 カードと同じサイズだ。その中にアクイラを入れていく。

「これで少しは汚れなくなるでしょう。
 これは『スリーブ』といって、カードを汚れから守るものなんです」

「わあ、ありがとう!
 またきれいに戻ると、いいんだけどなー。
 ねえ! おじいさんのカードも見せてよ!」

「ええ、そうですね。先を急ぎましょうか」

 おじいさんはバッグのチャックを閉じて、車を発進させようとした。


 ――そのときだった。

「おじいさん! あの車!!」

 すごいスピードで車がこっちに向かってくる。
 運転してる人は目を閉じている。
 このままだとぶつけられる。

「伏せなさい!」

 脱出するのは間に合わない。
 身をかがめた。

 僕を守るように、おじいさんがおおいかぶさる。

 僕は怖くて、手を握った。
 手の中にあるカードも、握りしめた。
 そのとき、頭の中を透き通るような感覚が突き抜けた。
 すぐにぶつかった衝撃が来ると思った。
 でも、それは来ない。
 かわりにすごい風で、車が揺れたみたいだ。
 ごおうおうと、すごい音がした。
 僕は恐る恐る顔をあげてみた。

 そして、僕ははじめて見たんだ。
 緑色に透き通る大きなワシの姿を。
 とがったくちばしと鼻と羽毛。
 何もかもを包み込むような大きな翼。
 あのカードのイラストそのままの、《輝鳥-アエル・アクイラ》がそこにいた。

 向かってきた車はもう目の前にはなかった。
 振り返った先に、その車は僕たちの後ろ側に止まっていた。
 ガードレールに車体をこすりつけて、ようやく止まっていた。

「まさか助かるとは……。これはカードの精霊の力ですか?
 目の前にいるのはさっきのカードの……」

「アクイラ……」

 僕はいつのまにか呼びかけていた。

「きみが助けてくれたんだね……。
 あの嵐のときも、そして今も……」

 僕には分かる。いつも見守ってくれていたことを。
 そして、伝わってきた。
 アクイラの伝えたい気持ちが……。

 君を護れてよかった。
 君の母さんからの使命を果たせて……。
 だけど、私はもうここまでだ。
 君とずっと一緒にいれなくて、すまな……。

「アクイ…ラ……?」

 目の前のアクイラのイメージが薄らいでいく。
 少しずつアクイラを作っていた緑の光が散り散りになっていく。

「アクイラ!」

 僕は手を伸ばした。
 だけど、窓越しで届くはずもなくて。
 光はすくいきれずにそのまま……。
 そして、僕が握っていたカードに目をやると……。

 カードは砕けて散っていた。
 スリーブの中でようやくもとの形を留めて。

「わああああああああ!」

 僕は泣き叫んだ。
 僕のお気に入りを失ったのが嫌だ。
 でも、それ以上に何か大切なつながりを失った気がする。
 父さんからもらったカード。
 母さんから……。
 母さん?
 そうだ。アクイラに頼んだのは母さん?
 だから、僕はあの嵐の中でも大丈夫で。
 このカードはそのつながり。
 それを僕は散り散りに……。

「翼くん、どうしたのです?
 ややっ! これは!
 カードがこんな風にやぶれてしまうとは……。
 これはもしや、やはり……。

 予定変更ですね。
 施設に行く前に、寄るところができました。
 翼くん、ちょっとだけ待っててくださいね。
 もしかしたら直せるかもしれません」

 おじいさんは車を飛ばした。
 僕はふさぎ込んで、散り散りのカードを見つめていた。



「さて、着きましたよ」

 着いたのは、アパートだった。
 新しくてぴかぴかしている。白い塗装がまぶしい。

「ここに住んでいる人なら、何か知っているかもしれません」

 一室の前で呼び鈴を押す。

『はーい。誰なのニャ?』

 すぐにおどけた調子で返事があった。

「大徳寺さん、ルミナスの鏡原です。災厄に関することで追加情報がありまして……。
 以前話していたデュエルモンスターズと魔術の関係性について、
 つまり超神秘科学体系(ミスティック・サイエンス・システム)についても……」

『それは大事な用件なのニャ。すぐ向かうのニャ』

 出てきたのは、背が高くてやせた男の人だった。
 真ん中から分けた黒い髪がなびいている。
 目はニコニコしているが、優しい感じはあまりしなかった。
 むしろ何かを隠しているようにも見えた。

「突然お伺いしてしまってすいません。
 ちょっとこの子、翼くんのためにもすぐに必要で……」

「別に大丈夫なのニャ。
 その用件ならいつでも聞くのニャ。
 それにしても、その子すごく落ち込んでるけど、大丈夫ニャ?」

「実はそれも関連して、急ぎなのです。
 早速用件なのですが、このカードを直してほしいのです」

 そう言って、僕の持っているカードを指した。

「うわあ、これはメチャクチャなのニャ。
 どうしてこうなったというのニャ?」

「『説明できない力』が発動して、こうなりました。
 私たちの車に居眠り運転の車が衝突しようとしました。
 そこに突然地面から風が巻き上げて、私たちは無傷。
 そのドライバーも車は損傷したものの、大したケガなく済みました。
 そして、事故の前後で大きく変わったのはこのカードだけだったのです。
 最初からすすけていたのですが、事故のあとにこうして散々にやぶけてしまいました。
 さらに翼くんが言うには、すすけてしまったのも『嵐の災厄』の後だそうです。
 翼くんはあの嵐の中の貴重な生き残りなのです。

 二度、通常では説明できない奇跡が起きました。
 前後の変化はこのカードの消耗のみです。
 あなたの言う超神秘科学体系とデュエルモンスターズとの関連。
 つまりはデュエルモンスターズの引き起こす不思議な力。
 それに関連していると思い、頼みに来ました。

 いやまぁ単純にこの子のためにカードを直せないかと、
 困っているだけでもあるのですが……」

 そこまで話終わると、大徳寺さんは急に真面目な顔つきになった。

「素晴らしく貴重な情報ニャ。
 翼くん、ちょっとそのカードを貸してほしいのニャ」

 僕は放したくなかったけど、怖いから手渡した。
 声は穏やかなのに、目がもう笑っていない。

「……少し調べさせてほしいのニャ。
 ついてきてほしいのニャ」

 大徳寺さんについて、アパートの裏にまわった。
 そして、物置みたいなところを開けた。
 その部屋は、暗い地下に長い階段が続いていた。

「この先なのニャ。
 子どもが歩くには危ないから、おぶってあげてほしいのニャ」

 僕たちは下っていった。そして、ひとつの扉。

「さぁ、ここなのニャ」

 大徳寺さんは扉を開け放つ。

 部屋の中は見たことのないものばかりだった。
 棺おけ、ずがいこつ、生き物の羽根や体毛、たくさんの本、
 鮮やかな色の液体の入った試験管、人を飲み込めそうなくらい大きな釜、部屋の中心には大きな魔方陣。
 まるで映画の魔法使いの部屋みたいだ。

「ここは……」

 おじいさんもびっくりしている。

「もうここに来たら隠す必要はない」

 大徳寺さんの声色が変わる。
 瞳が赤色になって、魔法が宿っているみたいだ。

「私の本来の名はアムナエル。
 災害調査という名目でここに来ているが、実際は錬金術師であるからここにいる。
 私たちは大いなるエネルギーが発生するところには、いつでもどこでも向かう。
 この部屋も錬金術の研究のための工房(アトリエ)だ。

 過去にはプロ・デュエリストであり、現在は孤児院経営をしている鏡原さん。
 あなたは災厄とデュエルモンスターズのどちらにも通じている。
 だから、超神秘科学体系の存在とデュエルモンスターズの可能性も教えた。
 それがこんなにも早くその有力なリンクに巡り合わせてくれるとは……」

「これは……いやはや……。
 いきなり話が大きくなりましたが、特に話は変わりません。
 錬金術に精通していることを広める気もないですし。
 それで……このカードは直せそうなのですか?」

「デュエルモンスターズが魔術道具として『普遍性』を備えているのならば」

「うぅむ、私にはよく分からないのですが、可能性はありそうなのですね?」

「私はデュエルモンスターズをある程度しか『視た』ことはない。
 このようにいわゆる『精霊が宿っている』とされるカードを手にするのも初めてだ。
 だが、デュエルモンスターズが魔術道具として『起動』する可能性は極めて高い」

 すごく熱気が込められた口調で語っている。
 僕は何を話しているのか分からない。
 おじいさんも早く直してほしくて困っている。

 その空気に気付いて、大徳寺さんは調子を変えた。

「いけないいけないニャ。興奮して、熱くなりすぎたのニャ。
 現代科学にかぶれた普通の人には分かるわけないのニャ。
 とはいえ、全く説明しないのも不親切ニャ。
 そこで実験しながら、紹介するのニャ」

「ええ……。私も興味深いには興味深いのですが、今は時間もないです。
 本来は翼くんをまっすぐルミナスまで送るはずでしたし。
 申し訳ないのですが、手短かで分かりやすくお願いします」

「心得たのニャ。
 じゃあ、まず普通のカードの説明からいくニャ」

 そう言うと明かりが消えて、真っ暗になる。
 そして、大徳寺さんの周りだけ明るくなった。

「ここにごく普通のデュエルモンスターズのカードがあるのニャ。
 これは《エルディーン》のカード。タネも仕掛けもないカードニャ。
 そう……タネも仕掛けもないはずなのニャ……。
 でも、この金の粉をかけると……」

 そう言って、そのカードのイラストに粉をかける。
 だけど、何も起こらない。少し光ったようにも見えたけど……。

「こんな風に表側は何ともないのニャ。
 今度はうずまきみたいな紋様の裏側にかけてみるのニャ」

 そのまま、粉をかける。
 するとキラキラと反応する。
 黄金色に光って、うず状に。
 中心の黒に向かって、吸い込まれていくように。
 でも、その黒はどこかに通じているようでどこにも通じない。
 ふさがれている穴のようだ。

「これが『デュエルモンスターズには魔術道具としての可能性がある』ということニャ。
 今、中心のだ円形の黒点に向かって、黄色い線が何重にも浮かび上がったのニャ。
 今の黄色の粉は魔術の力が通うためのパイプやラインに反応するのニャ。
 機械なら電子回路や電線、植物なら葉脈に水脈を思い浮かべればいいのニャ。

 つまり、どんな原理か、どういう意図を持ってかは分からないけど、
 あらかじめ魔力が通るためのラインが組み込まれているのニャ。

 ここまでは私の研究で分かっていたことなのニャ。
 どのカードでも裏側は同じ反応をするのニャ。

 つまり、デュエルモンスターズはマジックアイテムとしての素質があるのニャ。
 魔法使いがよく使うホウキ、杖みたいにニャ。
(あ、あれはフィクションとして語られてるけど、錬金術と同じく実在するのニャ。
 でも、ちゃんとした手法を持って作られなければ、存分には使えないニャ)

 これまでの研究ではここまでは分かっていたのニャ。
 問題はその先ニャ」

 そこまで話すと、明かりがともった。

「だけど、デュエルモンスターズで魔術を発生させる方法は分からないのニャ。
 これがさっき言った『起動』ということなのニャ」

 今度は白い粉の入った試験管を取り出した。

「これは魔力の込められた粉。純度が高いからエネルギーそのものと言ってもいいのニャ。
 これをこのホウキにかけてみるのニャ」

 さらさらとホウキに粉がかけられる。
 次の瞬間、ホウキは命を与えられたみたいに動き出した。
 ぶんとすごいスピードで前に進む。
 そして、壁にぶつかって止まった。

「今度はこのパピルスにかかれた魔方陣にかけてみるのニャ」

 粉が触れると、魔方陣が青く光って波打つ。
 そして、ボンと炎が起こった。すぐに燃えてなくなってしまう。

 すごい! 本当にこの人は魔法使いみたいだ!!

「こんな風に普通のマジックアイテムは、魔力を注げば『起動』するのニャ。
 それがデュエルモンスターズだと……」

 さっきみたいに粉をふりかける。
 僕はうきうきしながら手品を見つめる。
 でも、さらさらと流れていくだけで何も起こらなかった。

「確かに魔術のためのラインはあるのニャ。
 でも、それを活性化させる方法が分からないのニャ。

 何らかの力を発動する仕組みが用意されている。でも、その作動方法は分からない。
 ここがミッシング・リンク(解明できないつながり)になっているのニャ。
 つまり、普通のカードは魔術の水脈が死んだままで魔力の水が流れてくれないのニャ」

 そして、ようやくテーブルに置かれていた僕のアクイラを手に取る。

「でも、特別なカードもあると聞いていたのニャ。
 デュエル中に説明できない現象が起こることが、まことしやかに語られているのニャ。
 デュエル後に仮死状態になったり、幻覚が起こされたり……。
 特に神のカードと呼ばれるカードとか貴重なカードにそういう噂が絶えないのニャ。

 このカードもそんな説明できない現象を引き起こしてきたのニャ。
 何かがあって、特別なカードになっていると推測できるのニャ。
 だから、私の推測が正しければこのカードは治ってしまうのニャ」

「やや! 直せるのですか?」

「私の推測が当たってれば、直せるのニャ。
 ちょっとスリーブから取って、綺麗に裏側にして並べるのニャ」

 一枚一枚の破片を取り出して、またそのまま裏返して並べた。

「これにさっきの白い粉をかけてみるのニャ」

 人差し指と親指から、少しずつ分け与えるみたいに。
 白い粉が、光が流れ落ちていく。
 すると黄色い線が流れ星のようにぐるぐるとカードをめぐり始めた。
 そして、さっきは何の反応もなかった真ん中の黒い円が光る。
 電球みたいに輝きを強めていく。
 まぶしくカード全体が輝き始める。
 中心部の光は心臓のように鼓動し、生きているみたいだ。
 そして、風がうずまいて埃をまきあげる。
 喜びの声をあげるみたいにざわめいて。
 そこで大徳寺さんが粉をかけるのをやめる。
 光はおさまり、いつのまにかカードはキズ一つない状態に戻っていた。
 そして、あのとき見た緑の大きなワシが宙にいた。
 僕に向かって鳴いて、大丈夫なことを見せ付けるように部屋を飛び回る。
 それに合わせて、僕も首を動かして目で追いかける。

 すごい! アクイラが元に戻った!!
 でも、大徳寺さんには見えてないみたいだ。
 僕とおじいさんがアクイラを見ても、大徳寺さんはカードに夢中なままだ。

 大徳寺さんは目をまた赤く光らせて、興奮してまくしたてる。

「す……素晴らしい。思った通りの成果だ。
 一度活性化さえすれば、魔術回路は生きる。
 それなら問題なく魔力は通って『起動』する。
 中心部に核のある疑似生命が形成されて、力が体現される。
 これで力を制御できれば、あの方の願いも私の目的も……。
 しかし、問題は活性化させる方法だ。
 他の活性化済みのカードと安置するか、それとも何らかのショックを与えるか、
 または膨大な魔力とともに密閉するか、もしくは違う魔術体系を組み込めばいいのか……。
 どちらにしろ、これは超神秘科学体系の一端として間違いなく探求の価値がある。
 私の行きつく先もデュエルモンスターズであったのかもしれない……」

「ひとまず直りましたね!
 翼くん、よかったですね!
 しかし、またこういったことが起こってしまうのでは?」

「そうだな……」

 僕にうかがうような険しい目を向けて、いきなり黄色い粉をふりかけた。
 けむたい。
 僕は思わず腕で振り払った。
 するとその粉に触れた腕が黄色く光った。

「やはりか……。天然の魔術師とは……」

 納得がいったみたいに、大徳寺さんはつぶやいた。

「デュエルモンスターズが疑似生命即ち精霊を宿すマジックアイテムならば、
 その精霊の意志のみで、自分を消滅させるようなことは通常は行わない。
 自分を傷つけるほどの力をセーブするように、生き物はできている。
 となれば、つまりこの子にはその魔力を抽出する、
 または発揮させる魔術の力があるということだ。
 普段はコントロールできないだろうが、無意識のうちに発揮していたんだろう」

 そう言うと、戸棚の奥から何かを取り出した。
 銀の腕輪。かすかに光っている。

「これを身につけなさい。
 銀は魔を退ける力を持つ。
 本来は抗魔に使われるものだが、抑魔にも効果はある。
 これで力は抑えられる。
 ただし、お前の力が抑えきれないほどになれば、自然と壊れる。
 その頃には制御できるくらいに成長しているだろう」

 僕は腕輪をつけさせられた。
 はずれない。びくともしない。

「肌荒れや成長して食い込むなどの支障がないように作られている。
 より強い力に目覚めなければ、一生を平穏に暮らせるはずだ。
 孤児院なら魔術の鍛錬をさせるはずもないから、大丈夫だろう。
 ただし……」

 目を見開き、僕を鋭く見つめる。

「次の救済はない。
 私は流浪の錬金術師。ここもすぐに離れるだろう。
 今度お前が何かを失ったら、私はその傍にはいない。
 取り返しのつかないことになる。
 お前の能力を極めれば、地脈を吸い取り野山を枯らすこともできる。
 それほどの力が宿っていることを忘れるな。
 もっとも……、今のお前には何も実感できないだろうがな」

 そこまで言うと、顔がゆるみ目の色も元に戻った。

「そういうことなのニャ。
 だから、新しい保護者の鏡原さん。
 この子の監督をしっかり頼むニャ」

「分かりました。
 そういう特別な子どもも私たちに任されやすいですからね。
 できる限り見守ってあげますとも」

 パンパンと手をたたき、場がしきられる。

「さあ! 用事が済んだなら、帰るニャ!
 それとも研究材料として、そのカードをくれるのかニャ?」

 よだれをたらして、僕のアクイラのカードを見つめる。

「ダメ!!」

「いけません。あなたの研究も恐らく大事なことなのでしょうが、
 この子にとって親の形見とも言えるものなのです。遠慮してあげてください」

「ただの冗談ニャ。そんな真面目に受け取ることないのニャ。
 じゃあ、もし違うことが分かったら、報告よろしくニャ。
 私はもう少しこの『嵐の災厄』について調べているのニャ。
 この子を守ったのもデュエルモンスターズの超神秘なら、
 もしかしたら、超災害を引き起こしたのもデュエルモンスターズかもしれないのニャ」

「分かりました。こちらも報告を待っています。
 さあ、今度こそ向かいましょう。翼くんの新しいお家へ」





第14話 孤児院ルミナス2-新しい生活-



「さあ、着きましたよ」

 着いたのは、新しくて大きめの家だった。
 新しい住宅団地から少し離れた場所。
 今は春の始まりの夕暮れ。
 山が近くて、虫の鳴き声が聞こえる。
 まだ少し冷たい風に、頭の中まで澄んでいく。

 マンションに暮らしていた僕には、この一軒家は新鮮だった。

 おじいさんはドアに手をかける。

「遅れると電話したとはいえ、待たせてしまいましたね。
 今は春休みの時期ですから、みんな家にいます。
 だから、今日は……」

 ドアを開け放つと、たくさんの人が玄関に押し寄せていた。
 所狭しと、6人の子どもに6人の大人と、白い毛玉みたいな小さな犬。

「翼くん! ようこそ、ルミナスへ!!」

 パン! パン!! パン!!!

 クラッカーが鳴らされる。
 僕を迎えるみんなの笑顔。

「ただいま帰りました。
 今日は翼くんの歓迎パーティです。
 悲しいこともあったでしょう。
 ですが、今はこの巡り会いに感謝しましょう」

 そう言って、おじいさんは右手で十字をきった。

 それを見て、男の子が笑い出した。

「うわあ……。オーナー先生が十字を切るの久々に見たぁ。
 堅苦しいのは抜きにして、早く入ってよ!
 ここ狭いし、俺おなかが空いた!」

「分かりました分かりました。さぁ、食堂はこっちです」

 食堂に入って、子ども達はみんな長テーブルの席に着く。
 たくさんの料理が並んでいる。
 僕も席をすすめられて、座った。
 あのおじいさんが右手の角の席に着いた。

「さて、これからルミナスの新しい家族に加わる久白翼くんです。
 先の嵐の不幸で、こちらの方に来ることになりました。
 今は幼稚園を卒業したばかりで、この4月から小学校に通うことになります。
 だから、明菜ちゃんと同い年ですね。
 みなさん仲良くしましょう。
 それでは固いことはここまでです。
 乾杯しましょう!
 杯を持って……、乾杯!」

「「「「かんぱーい!!」」」」

 パーティが始まった。
 今まで病院と児童相談所の簡素な食事が続いていたから、すごくおいしく感じた。
 代わる代わる話しかけられた。
 僕は質問攻めにされて、いろんなことを説明される。
 趣味とか好きなもののこと。
 ここの生活がどんな感じだとか。

 くすぐったい気持ちになる。
 大人の人たちに囲まれて、ちやほやされるときみたいに。

 僕はみんなの質問に、ようやく答えていた。
 でも、こっちからは全然話しかけられない。
 まだ、みんなと会ったばかり。
 何を話していいか分からない。
 もじもじとするしかない。

 でも、僕は明菜ちゃんって女の子とたくさん話をした。

「あたしもね、ここに来てまだ2ヶ月くらいなんだ。
 4月からは一緒の小学校だし、よろしくね」

「うん、よろしく!」

 僕は握手をする。

「あれ? じゃあ、コタロの散歩は翼くんになるの?」

「コタロってこの子のこと?」

 さっきから足下にじゃれてくる白い子犬を指先でつつく。

「うん! さっき日課のこと話したでしょ?
 ここでは料理とか掃除とか、なにかの家事をみんなで分担するって!
 それでね、最初の日課ではこの子の世話をするんだって。
 だから、あたしが今までオーナー先生と一緒にお散歩と餌やりをしてたの。
 ねえ、オーナー先生! どうするの?」

「うーん……、そうですねぇ……。
 こんな短い間に2人も迎えるのは確かに珍しいですしね。
 翼くんも明菜ちゃんもまだ幼いですし……。
 3人でお世話しましょうか!」

「やったー! じゃあ改めてよろしくね、翼くん」
 二人が笑っているから、僕も笑い返した。


 僕の生活がすごくめまぐるしいものに変わるかと思ったけど、そうでもないみたいだ。
 生活リズムは普通と変わらない。
 きっと学校が始まれば、朝から昼は学校で、夕方には帰って。
 ただ、帰って過ごすところがすり替えられただけみたいだ。

 でも、それはやっぱり大きな違いだ。
 ここには僕が今まで遊んできたものがない。
 何をして過ごせばいいのか分からなかった。
 そこにあるものは、多分誰かのもの。
 だけど、聞くのもためらわれた。
 僕は手持ちぶさたにしていた。

 だから、逆に日課のときは安心できた。
 やることが決まっていて、お決まりをこなすだけでいい。
 僕が何をしていいか分からない感じにならなくて済む。
 他にも誰かに誘われたときとかは嬉しかった。
 何をしていいか分からない時間が一番困る。

 僕が縄を持ちながら、コタロが先をとてとてと歩いていく。
 コタロは小刻みに忙しく歩いてるけど、僕たちは歩くだけで追いつける。
 コタロは歩きながらこっちを何度も振り返る。
 ご機嫌そうに舌を出して、しっぽを振っている。

「コタロはね、シーズーっていう犬種なの。犬にもたくさん種類があるんだよ。
 ルミナスに戻ったら、一緒に図鑑見て、オーナー先生にお世話のための本を読んでもらおうよ」

 明菜ちゃんは得意そうにコタロのこととか、世話のやり方を説明してくれる。

「このお散歩は単なる散歩なんですが、他にもいろいろ考えてあるんです。
 ここに来た子に早めにこのあたりの場所を覚えて親しんでもらうことや、近所の人に顔を見せることも兼ねているんです。
 うちは保育士や栄養士の他にも、ボランティアや信徒や近隣住民の方から協力を得て、運営していますからね」

 おじいさんは相変わらず説明が大好きみたいだ。でも、よく分からない。

「ひとまず、翼くんがここに早く慣れてくれたらなという話なんです」

「うん、そっか。なら大丈夫だよ。
 ここはみんな優しいから!」

 僕はそう言って、微笑んだ。
 みんなが笑顔のここは、居心地がいいはずなんだ。
 きっと僕が感じている不和も少しずつなくなっていくだろう。

「ねえ、変な質問していい?」

 散歩の終わり際に、僕は明菜ちゃんに話しかけた。

「なぁに?」

「明菜ちゃんはどうやってここに慣れたの?」

 明菜ちゃんは首を傾げる。
 僕も的外れで、答えにくい質問だと思った。

「どうしても何も、そのうちに……。
 でも……、そうだね……」

 明菜ちゃんは少し遠い目をして、前を見据えて話した。

「あたしは強く生きなくちゃいけないんだ。
 自分の殻に閉じこもっている場合じゃない。
 だから、あたしは手を差し出して向き合うんだ」

 思いのほか、力強い答えが返ってきた。
 目の前の女の子がすごく大人びて見えた。

 ――そして、遠く感じた。

 僕はただ迷っているだけなのに、明菜ちゃんは……。

「なんだか……、すごいや」

「ご、ごめんね。いきなり熱っぽい話し方して。
 翼くんはあたしのこと知らないのに。
 でも、そのうちに教えてあげるね。
 あたしがここに来ることになった理由。
 だけど、今は辛気くさくなっちゃうから、教えない!」

 明菜ちゃんはそう言って、笑った。




 夜に一人で眠るときに、僕はとりとめもなく考える。
(隣り合わせに布団を敷いていても、僕は一人だ)

 これまで僕は違う場所にいた。
 こうなることを全く想像できない僕がいた。
 なんとなく歩いていく。
 誰かの後ろ姿についていく。
 行き先も知らないまま、手を引かれる。
 巻き込まれる。
 気がつくと、見覚えのない場所。
 ここには僕の意志がない。

 でも、僕は手を引くことができていない。
 みんなに頼って甘えていいのか、分からない。
 ここにいる人は本来僕に関わるはずもなかった人達。
 僕はどう寄りかかればいいんだろう。
 何だか気後れしてしまう。

 僕は今をどう受け止めて過ごしていいか分からなかった。
 どこで何をして、誰に話しかけていいのかが分からなかった。
 気持ちが落ち着かなかった。

 だから、僕は一人で散歩に行きたかった。
 少しだけこの道をはずれてみたかった。
 今の外側から、今を見てみたいと思った。

 僕は下駄箱から余っていた靴を取り出していた。
 ガボガボのどこにも行けなさそうな靴。
 だけど、僕はこれを履いて行くんだ。

 年長の人以外はみんなもう寝ている時間。
 暗い中で、窓の前に靴を持って立つ。
 僕は深呼吸をする。
 まだ、春になりきらない寒さを思い切り吸い込む。
 ここから先にいけば、何かが変わる気がする。
 僕の中のよく分からないもやもやが、やっつけられるんだ。
 朝起きて何か違う感じで、ぼんやりすることもない。
 きっと、明日はすっきりした気分で目が覚めるんだ。

 窓に両手をかけて、そっと開ける。
 パジャマを風が通り抜ける。
 でも、胸の高鳴りで寒くは感じない。
 そっと靴を置いて、履く。
 足音をたてないように、踏み出す。
 僕は夜へと飛び出した。

 でも、どこに行くかなんて決めてなかった。
 この辺りはまだお決まりの散歩コースしか知らない。
 ひとまずそこを歩きながら、考えようかなと思った。
 いつも通り過ぎるだけの神社に立ち寄るのもいいかもしれない。
 僕は振り返って、最後にルミナスを確認しようとした。

 そうすると、――僕の後ろにはあのおじいさんが立っていた。
 広がっていた思考が、真っ黒にぬりつぶされる。
 夜に抜け出すのは、禁止されている。
 いけない。しかられる。

 そう思ったのに、おじいさんは穏やかな声で語りかけた。

「はい、夜のお散歩はそこまでです」

 僕はあっけにとられて、おじいさんを見つめる。

「本当はしからなくてはいけないのですが、まぁいいでしょう。
 どこに行こうとしたんですか?」

 僕は後ろめたくて、うつむきながら話す。

「……どこでもないよ。
 ただ、ちょっと気分転換したかっただけなんだ」

「そうですか……」

 おじいさんは少し考えて、思いついて話す。

「それでは明日、特別に気分転換に連れて行ってあげますよ。
 だから今日はもうおやすみなさい」

「はい……」

 孤児院に手を引かれながら、僕は最後に聞いた。

「どうして、僕が抜け出すって分かったの?」

「ちょっと不安に思っていたんですよ。
 翼くんが、遠くを見ているような気がしまして……」

 ――僕は、この人にはかなわないと思った。




 翌朝、僕はおじいさんと二人きりで出かけた。

「どこに行くの?」

「そうですね……。面白い場所ですよ。
 私たちと少なからず、関係のあるところです」

 そして、僕らがついたのは一つの施設の前だった。
 天井のところには十字架とベル。
 白が基本の清潔感のあるたたずまい。
 いろんな人がこの施設に入っていく。

「ここは……?」

「教会ですよ。正確にはキリスト教のカトリックですね。
 最初に会ったときに、私は司祭服――魔法使いみたいな服を着てましたよね。
 これがその理由です。ルミナスはここの系列なんです。
 ここが運営母体となって、慈善事業を行っているんです。
 とはいえ、私は全く信徒というわけでなく、今も聖書は集会でたまたま聞いたところどころしか覚えていないのですが……。
 私の姉がここの司祭長をしてまして、その縁で私もルミナスの運営に携わっているのです」

「ええと……、なんでたくさんの人が入っていくの?」

「それはですね……。ふふふ、入ってみれば分かりますよ」

 僕はこんなにたくさんの人が入っていくのだから、何か楽しいことが待っているんだろうと思った。
 きっとみんなで何か面白おかしいことをやるんだ。
 僕らは扉を開けて、進んでいく。
 おじいさんに手を引かれながら、たくさんの人をかきわけて。
 そして、広間に出た。
 一番奥のステージに司祭服の人たちが並び、観客がせわしく座っていく。
 僕たちも座った。

「ねえねえ、これから何が始まるの?」

「歌ですよ、さあそろそろ始まりますよ」

 指揮を取る人が一礼をする。
 静かに拍手がわき起こる。
 その人が振り返り、始めるために手をあげる。
 すると、この場は静まりかえる。
 音楽のためだけの空間が出来上がる。


Joshua fit the battle of Jericho, Jericho, Jericho
Joshua fit the battle of Jericho
And the walls come tumbling down.

You may talk about your king of Gideon
You may talk about your man of Saul
There’s none like good old Joshua
At the battle of Jerico

Up to the walls of Jericho
He marched with spear in hand
“Go blow that ram horns”, Joshua cried,
“Cause the battle am in my hand.”

Then the lamb ram sheep begin to blow,
Trumpets begin to sound
Joshua commanded the children to shout
And the walls come tumbling down.
That morning ……


 歌が響いていく。
 閉じられた部屋のあちこちに反響する。
 声に包まれていくように、柔らかに響く。
 折り重なるいろんな高い声、低い声。
 どれもが混じり合い、しかし決して一人一人が埋もれずに。
 
 指揮者が大振りな動作をすると、声も鼓動するように大きくなる。
 僕たちの目を覚ますように、何かを伝えようとするように。
 音楽は力強く、僕たちに織り込まれていく。

 歌う人一人一人が熱心な表情をして、声を張り上げる。
 まるで必死に今に自分を込めているみたいに。
 張りつめていて、それでいて満足げに。

 30分くらい、僕らはその場で歌に浸っていた。
 僕はすごいと思った。
 でも、どうして僕の気分転換にここを選んだのかは、よく分からなかった。

 最後の歌が終わる。
 曲の合間の拍手よりも、より大きな拍手でこの場は終わった。
 僕も大きく拍手をした。

 歌が終わり、おじいさんが語り出した。

「ここは何をしに来る場所なのか知ってますか?」

「分からない。集まって……何かをする場所?」

「ええ、それだけの場所なんです。
 もっと正確に言えば、何かを探し求める場所でしょうかね」

「みんなで?」

「ええ」

「今の合唱がどんなグループに分かれていたか覚えていますか?」

「うん。男の人と女の人、そこからさらに高いのと低いの。全部で4つ」

「その通りです。でも、みんなそれぞれ違ってましたよね。
 一人一人の声の強弱に大小の調子が」

「当たり前だよ。一人で全部の声を出しているわけじゃない」

「そうです、その通りですよ。
 各グループではやることが違うのは当たり前。
 やるべきことや与えられた場所が一緒でも、さらに個人個人の表現は違うんです。」

「うん、違って当たり前だよね」

「だから、翼くんもそれでいいんですよ」

「え?」

 僕にはその言葉の意味がつながらない。

「私たちにいきなり慣れようとしたり、遠慮したりしなくていいのです。
 個人個人のペース、興味、表現があって当然なのですから。
 自分の思うままでいいんですよ」

「え……」

 いきなり自分のことを話されて、戸惑う。
 僕は確かにどこか収まりがつかないような気持ちだった。
 それは僕が僕を抑えこんでいたからなんだろうか?
 自分でも、自分が今までどうして違和感に戸惑っていたのかはっきりつかめない。

「自分のやり方で自分を出していいんですよ。
 あの合唱が決してひとつに溶け合わないように。
 同じパートの中でも、歌い方が人によってそれぞれ違うように。
 私たちと同じ場所で暮らしていても、決められたことを守るだけで、
 あとは翼くんの望むように振る舞っていいんです」

「でも……」

 いや、ここで言わなくちゃいけないのは『でも……』なんかじゃない。
 もっと、ちゃんと自分のことを話さないと。

「僕はここでどう過ごしていいか分からなくて……。
 みんなは優しく接してくれるんだけど、どう受け止めていいか分からない。
 みんなが嫌いとか信じられないわけじゃないけど……、でも慣れなくて……」

 僕はうつむきながら、よく分からないもやもやをなんとか口にした。

 おじいさんは真剣に聴いて、うなずきを返している。

「やはり、そうでしたか……」

 穏やかにその言葉が返ってくる。
 そして、ゆっくりと語り出した。

「当てはまるところだけでいいので、聞いてください。
 翼くんが遠くを見ているなぁと思ったのは、目の前の相手だけを見ていないからだと思うんです。
 いえ、決して相手のことを考えていないという意味ではありません。
 むしろ考えすぎて、遠慮してしまっていると思うんです。
 本当は考えなくていいはずの不安や恐れを相手に重ねてしまい、
 どうしていいか分からなくなってしまっていると思うんです。
 でも、そんなに考えなくていいと思うんです。翼くんは十二分に感じる心はありますし。
 私が伝えたいのは、頼ってもいいということなんです。
 もっと自分のしたいことや興味を表に出して、私たちに言ってほしいのです。
 何も言わずに、自分の中でしまい込まなくていいのです。
 その方が私たちも嬉しいんです」

「うん……」

 僕はその話していることを正しいと思った。
 僕はみんなを知らない。だからたくさん想像して、むやみに怖がる。
 だけど、ここから脱出して知り合うためには、もっと話さなくちゃいけないんだ。

「聞き分け良く、すぐに納得しなくてもいいんですよ。
 反発や違和感だって遠慮無く口に出してほしいんです。
 ですがこうして言われるだけでは……、どうしていいか分かりづらいですよね。
 ……じゃあ、もう一度お話を少しだけ戻してみましょう。
 みなさんがここで『何か』を探しているのは話しましたよね?
 では、その『何か』ってどんなものか分かりますか?」

「うーん、全然分からないよ。
 僕はここのことを何も知らないし」

「じゃあ、ここの人はどんな風に見えますか?」

「うーん……」

 僕は今目の前を通り過ぎる人と、すれ違ってきた人の顔を浮かべた。
 困ったような顔の人、ひたむきに前を見ている人。たくさんの人がいたけど……。

「みんな、『何か』を追いかけているように見えた」

「いい答えです。『何か』というのは、『慰め』や『納得する理由』なんです。
 私は宗教について、良いとも悪いとも判断していません。どちらの側面もあるでしょう。
 たくさんの大人の人がいましたよね。でも、みんな右往左往してるんです。
 自分の気持ちや状況に、どう整理をつけて納得していいか戸惑っているのです。
 だから、自分の心を説明してくれる何かを探しに来るんです。
 ここでは心の在り方についてアドバイスをしていますから。
 もっとも……その答えに飛びついて思考停止してしまうのはよくないことですが」

「少し話が遠回りになってしまいましたね。
 伝えたかったのは、こうやって大人の人もみんな悩むということなんです。
 自分がどう考えて、どう接して、どう受け止めるかについて。
 だから、翼くんがどうしていいか分からないのは、悪いことではないのです。
 むしろ、ちゃんと自分について向き合っている賢明で誠実なことなのです。
 でも、ちゃんと向き合うなら、自分の心の中だけではいけないんです」

 そうしてゆっくりと話されて、僕は少しずつ楽な気持ちになっていった。
 強ばりが、解けていく。

「だから、前向きに自分のしたいことを周りに話してみてください。
 ここにはたくさんの人がいます。施設には横のつながりもあるのです。
 何かに興味があるなら、私たちだけではなくその人達にも頼れるのですよ。
 何かを知るためには、それを知っている人に聞くのが一番の近道ですから」

 僕の思考は広がっていく。
 何かをしてみたいと、胸が躍り出す。

「だから、また始めましょう。
 大事にしたいものを育むことを」

 僕は、確かめるようにうなずいていた。


 それから、僕は少しずつみんなに積極的に関わるようにしていった。
 僕の好きなものを、慎重に辿りながら。
 図鑑を見て、たくさんの生き物に胸をはせるのも好き。
 いろんな人から図鑑を借りて、たくさんの動物を覚えた。
 小鳥の世話も自分から手伝うようになった。
 実際に歩いて、生き物や自然に触れるのも好き。
 教会系列の合同主催のキャンプには欠かさず参加した。
 
 僕は少しずつ気付いていった。
 みんないろんなものを抱えていることを。
 たくさんの理由があって、ここにいることを。
 僕はそれに向き合って生きようとするみんなを尊敬する。
 その励みになりたいと思う。

 そして、クラス中のみんなや孤児院のみんなが夢中になっているものに気付く。
 デュエルモンスターズ。
 僕は前からそれを知っている。
 父さんと母さんが残してくれたこのカード。
 《輝鳥-アエル・アクイラ》。
 そこに向かって再び手を伸ばしたとき、僕の世界はさらに広がっていった。





第15話 孤児院ルミナス3-デュエルモンスターズとの再会-



「あれ? みんな何を見てるの?」

 居間に一台だけあるテレビを、みんなが囲んでいた。
 僕は明菜ちゃんに話しかける。

「あ、翼くんも見る? 今いいところだよ!
 ほら、早く早く! オーナー先生がいないうちに見ちゃわないと」

「え? え?」

 ぐいと、手を引かれて僕もその輪に加えられる。

 そこに映っていたのは、あのオーナー先生だった。
 落ち着いた雰囲気は今と変わらないけど、髪の色は真っ黒。
 力強い眼差しは若さと熱に燃えている。
 黒い魔法使いのようなローブをまとって、スタジアムに立つ。
 盤を片手に向き合っている。
 数枚のカードを手に持って……。

「あ、鏡原先生! それにデュエルモンスターズ!!」

「あれ? 翼くんもデュエルモンスターズを知ってるの?」

「うん……。でも、こうやって対戦を見るのは初めて!」

「じゃあ、見ておくといいよ。
 これが世界で一番流行っているゲーム、デュエルモンスターズだよ!」


デュエル・スター 鏡原 VS 難攻不落の守護者 水前寺

鏡原
LP3000
モンスターゾーン《岩石の巨兵》DEF2000
魔法・罠ゾーン
永続魔法《凡骨の意地》、伏せカード×2
手札
1枚
水前寺
LP4000
モンスターゾーン《ネオアクア・マドール》DEF3000・装備《レアゴールド・アーマー》、
《水霊ガガギゴースト》ATK1850
魔法・罠ゾーン
《暗黒の扉》
手札
1枚

《岩石の巨兵》 []
★★★
【岩石族】
岩石の巨人兵。太い腕の攻撃は大地をゆるがす。
ATK/1300 DEF/2000

《ネオアクア・マドール》 []
★★★★★★
【魔法使い族】
水を支配する魔法使いの真の姿。
絶対に破る事のできないと言われる巨大な氷の壁をつくり攻撃を防ぐ。
ATK/1200 DEF/3000

《レアゴールド・アーマー》
【魔法カード・装備】
このカードを装備したモンスターをコントロールしている限り、
相手は装備モンスター以外のモンスターには攻撃できない。

《暗黒の扉》
【魔法カード・永続】
お互いのプレイヤーはバトルフェイズにモンスター1体でしか攻撃する事ができない。

 黄金の鎧を着た仮面魔法使いが大きな水の壁を作っている。
 さらにその前には黒くて不気味な扉がある。
 そこを向かい合わせに、二人が立っている。
 
「我は《キラー・スネーク》を召喚する。
 さらにこの者の魂を生贄に捧げる。
 これで《水霊ガガギゴースト》の魂は純化された。
 あらゆる障害をもくぐりぬけることができる!」

《キラー・スネーク》 []

【爬虫類族・効果】
自分のスタンバイフェイズ時にこのカードが墓地に存在している場合、
このカードを手札に戻す事ができる。
ATK/ 300 DEF/ 250

《水霊ガガギゴースト》 []
★★★★
【爬虫類族・効果】
このカードは通常召喚できない。
相手の墓地の水属性モンスター1体をゲームから除外して特殊召喚する。
自分フィールド上の水属性モンスター1体を生贄に捧げることで、
このターンこのカードは相手プレイヤーに直接攻撃する事ができる。
ATK/1850 DEF/1000

 お化けのように足が透けているとかげ人間。
 さらに透けて、青い光に包まれた。
 そして、勢いよく水の壁と岩石を通り抜けて、オーナー先生に攻撃する。

「ぐぅ!!」

鏡原のLP:3700→1850

「さて、我はこれにてターンエンド。
 追い込まれて、まさに背水の陣とも言えるな。
 《キラー・スネーク》は墓地から手札に戻る効果がある。
 次のターンで再びガガギゴーストの魂の糧となれば、確実に攻撃は通る。
 我の完全たる守護者《ネオアクア・マドール》の水の壁は絶対に破れない。
 破ったとしても攻撃できるのは1体のみ。
 さすがの貴殿でもこの危機は脱却できまい」

「やばいよ……。よく分からないけど、先生ピンチじゃないの?」

 明菜ちゃんが不安そうにつぶやく。

「大丈夫だよ! ここを逆転するから『デュエル・スター』なんだ!
 見てよ! やっぱり余裕そうじゃん!」

 男の子がワクワクしながら話す。

「いやいや、オーナー先生が余裕そうなのはいつものことでしょ」

「うるせい! あ、ほらオーナー先生の出番だぞ!」


「ええ、これはまずい状況ですね。
 ですが、まだまだ逆転の可能性はあります。
 私のデッキはきっとやってくれますよ」

「なんと! この水の世界に(あらが)う自信があるとは!!
 ならば、その(きらめ)きを魅せてみなさい!」

「ええ、もちろん退屈な思いはさせません。
 私のターンです、ドロー!」

 オーナー先生はなめらかな動作でカードを引く。
 引いたカードはその手に吸い込まれて弧を描く。

「場の《凡骨の意地》の効果を発動」

《凡骨の意地》
【魔法カード】
ドローフェイズにドローしたカードが通常モンスターだった場合、
そのカードを相手に見せる事で、自分はカードをもう1枚ドローする事ができる・永続。

「ふむ……」

「私が引いたカードは《神魚》。
 効果のないモンスターをドローしたとき、もう一度ドローできます」

「ほほう。 それでも、この鉄壁を破るのは不可能。
 有象無象の通常モンスターをいくら引いても恐るるに足らぬ」

「そうですか。では、お言葉に甘えて。
 ドロー、モンスターカード《ワームドレイク》です。
 さらにドロー、モンスターカード《ベビードラゴン》。
 続けてドロー、《フェアリー・ドラゴン》。
 再びドロー、《音女》。
 もう一度ドロー、《スカイ・ハンター》。
 まだまだドロー、《ヒューマノイド・スライム》。
 またまたドロー……」

「まだ続くと!? だが、所詮は子供だまし!
 効果の無いモンスターをいくら引こうと倒せるはずがない!」

「おや、不要なカードなどありませんよ。
 ひとつひとつのカードには必ず可能性があるのです、忘れてはいけませんよ。
 今度は《セイント・バード》。ドローできますね。
 終わらずにドロー、《ワイバーンの戦士》です。
 恵まれたドローですね、さらに次は《砦を守る翼竜》。
 そして、ドロー……。
 おや、これは通常モンスターではないですね」

「ようやく終焉か。我の《キラー・スネーク》が墓地で嘆いている。
 このような戯れ言には付き合っておれぬと。
 さて、貴殿の言う可能性とやらは徒労に終わるかな?」

「いえ、私の可能性はさらなる可能性につながります。
 では、カードを1枚伏せて、魔法を発動します。
 私が発動するのは《手札抹殺》!
 手札を全て墓地に送り、新しくカードを引きます。
 墓地に送るカードは10枚、手札に加えるカードも10枚です」

《手札抹殺》
【魔法カード】
お互いの手札を全て捨て、それぞれ自分のデッキから
捨てた枚数分のカードをドローする。

「我の手札は皆無、よって貴殿が一方的に引く……。
 それだけ引いても、まだ貴殿の理想は完成せぬか?」

「そうですね。彼らも大切な勝利のパズルの1ピースです。
 ですが、今回の主役はこちらのようです……」

「むむむ……、仕掛けてくるか!?」

 一枚のカードを手に取り、オーナー先生は意味ありげにつぶやいた。
 水の動きがなんとなく弱まったようにも見える。
 静かに観察していた相手も、じっとその挙動を見つめる。
 絶対に今からすごいことが起こる。
 そう思わせる力強さを感じる。

「魔法カード発動! 《融合》!!
 手札の《悪魔の知恵》と《魔天老》を融合します……」

 2体のモンスターが現れる。
 そこにうずまきが現れて、モンスターが飲み込まれる。

《融合》
【魔法カード】
手札・自分フィールド上から、融合モンスターカードによって
決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、
その融合モンスター1体を融合デッキから特殊召喚する。

《悪魔の知恵》 []
★★★
【悪魔族・効果】
このカードの表示形式が攻撃表示から表側守備表示に変わった時、
自分のデッキをシャッフルする。
ATK/1250 DEF/ 800

《魔天老》 []
★★★
【悪魔族】
天界から追放された堕天使。闇での闘いに優れている。
ATK/1000 DEF/ 700

「ゆきます! 冥界の暗黒僧侶、《スカルビショップ》!!!」

 大きな角と悪魔のような顔。
 どくろをかたどった骨の鎧。顔のような盾。
 溢れる魔力でその周りだけ景色が赤色にゆがんでいる。

《スカルビショップ》 []
★★★★★★★★
【魔法使い族・融合】
「悪魔の知恵」+「魔天老」
ATK/2650 DEF/2250

「攻撃力2650の上級モンスター……。
 だが、まだ《ネオアクア・マドール》の守備力には及ばない」

 焦る相手。恐る恐るオーナー先生の手札をうかがう。

「ふふふ、安心下さい。もう手札からカードを使うことはありません。
 もう既に必要なものはフィールドに揃っていますから……。
 このターンで決着させます」

「な、なんと! たった1体のモンスターしか攻撃できないぞ!?
 馬鹿な! そんなことをできるはずは……」

「たった1体のモンスターですか……。
 水の壁を解いて、場をよくごらんなさい。
 《スカルビショップ》は本当に一人ですか?」

「何?」

 僕たちも注意深く画面を見つめる。
 すると《スカルビショップ》の周りにたくさんのモンスターがついている。
 このモンスター達は――。

「先刻、墓地送りにしたカード……」

「その通りです。私が発動したのはリバースカード《守護霊のお守り》。
 墓地から見守るモンスターの数だけ攻撃力が上がるのです」

《守護霊のお守り》
【罠カード】
フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択する。
選択したモンスター1体の攻撃力は、ターン終了時まで
自分の墓地に存在するモンスター1体につき攻撃力が100ポイントアップする。

《スカルビショップ》 ATK2650→4850

「攻撃力4850!!
 だ、だが守備モンスターにダメージは……」

「では、空を見上げなさい」

 ドーム内の上をカメラが移す。
 空は赤く染まって、いつの間にか一面を隕石が埋め尽くしている。

「こ、これは流星……?」

「そうです。《メテオ・レイン》のトラップカード。
 私のモンスターが攻撃すれば、たちまちにあなたのモンスターに降り注ぎます。
 そして、あなた自身にダメージを与えるのです」

《メテオ・レイン》
【罠カード】
このターン自分のモンスターが守備表示モンスターを攻撃した時に
その守備力を攻撃力が越えていれば、その数値だけ相手に戦闘ダメージを与える。

「そして、ラストのキーカードです。
 《凡骨の意地》で最後に引いたこのカード。
 ライフを1000ポイント支払い……」

 オーナー先生が何かをするたびに、がい骨魔法使いは強くなっていく。
 持っている大きな剣を天に向かってかざす。
 大きな魔法力が集まってきて、赤黒い魔力がたちこめる。

「《拡散する波動》を発動!!
 すべてのモンスターに攻撃が及びます!」

《拡散する波動》
【魔法カード】
1000ライフポイントを払う。
自分フィールド上のレベル7以上の魔法使い族モンスター1体を選択する。
このターン、選択したモンスターのみが攻撃可能になり、
相手モンスター全てに1回ずつ攻撃する。
この攻撃で破壊された効果モンスターの効果は発動しない。

「こんな戦術……見たことがない……。
 これが『デュエル・スター』のデュエル……」

「ええ。私は闘うたびにデッキを変えます。
 いつでもみなさんに新しい世界が見せられるように……。
 このデュエルモンスターズに眠るたくさんの可能性を魅せるために。
 その中でもこのデッキはとっておきです!
 それではいきますよ! 《スカルビショップ》!!

 ――流・星・嵐・暗・黒・魔・導・烈・波・閃(メテオストリーム・ダークマジック・ディフュージングスラッシュ) ! ! ! 」

 剣を振るのを合図に、世界が色を変える。
 赤い波動が円状に広がっていく。
 空から隕石が落ちてくる。
 水の壁が、魔法と隕石に打ち砕かれる。
 そして、モンスター達は魔法を浴びて消滅する。
 モニターのライフがゼロを指し示した。
 オーナー先生の勝利が示されて、試合は終わった。
 TV向こうの会場は割れんばかりの拍手が起こった。


「す……すごい……」

 何かルールにのっとった試合みたいだけど、その決まりはよく分からない。
 でも、あのディスクにカードを置く度に、魔法やモンスターが生まれる。
 『攻撃!』と手をかざせば、モンスターが向かう。
 まるで本物の魔物使いの決闘を見ているみたいだ。

「これがデュエルモンスターズって言うの?
 僕もカードをあのディスクにやればできるの?
 あんな風に格好いいモンスターを出して、面白い魔法を使えるの?
 すごい! すごいよ!!」

 僕は興奮にまかせて、思うままに話していた。

「オーナー先生って昔あんなに格好良かったんだぁ……。
 あたしもあれやってみたい!!
 カードとあの道具さえあれば、ああいう風にできるの?」

 明菜ちゃんの質問に、男の子が知った顔で答える。

「いや、カードをただ引いて使ってるだけに見えて、かなり計算してるんだぜ!
 あの引いたモンスターは全部融合して強くなるモンスターだし、
 サポートカードの組み合わせもよく考えられてる。
 そこを知ってから見ると、さらにデュエルは面白いんだぜ!」

「本当に!? 僕、もっと知りたい!」

 あんなことが自分の手でできるなんて……。
 絶対にやってみたい!

「あたしも、あたしも!!」

「なるほど……。ならば、私の訓練を受けてみますか?」

 後ろから突然声がして、僕達はびっくりして振り返る。

「 「 オーナー先生!!? 」 」

「気恥ずかしいので、もう少しこっそり見てほしいものですが……。
 私は今でもたまにゲストで試合に出るくらい精通しています。
 一線からは退きましたが、今でも負けることはまずありませんよ。
 このルミナスでも上の子達はみんなやってるんです。
 いえ、世界中の子ども達がいまやデュエルモンスターズに夢中ですね。
 まるで魔法に魅入られたかのように。
 もっとも先に目を付けた私たちも普及のために様々な努力をしたのですがね」

「例えばルミナスにはこんなのもあるんです」

 オーナー先生は箱を取り出して、開けた。
 中身はカードでいっぱいだった。

「すごい! こんなにたくさん!」

「この入れ物は、みんなで使わないカードを入れておくところなんです。
 カードを1枚ここに置けば、10円を持って行けます。
 逆に1枚10円で、ここのカードを自分のものにすることもできます。
 みんなはこれを『10円ボックス』と呼んでます。
 もっともあまり使わないカードが入れられるので、
 扱いが難しいものがほとんどですが……」

「明菜ちゃんと翼くんは今お小遣いをもらいたてでしたね。
 どうです? 10枚分選んでみて、どんなゲームかやってみますか?」

「え? 10枚でできるの?
 ビデオだとカードがたくさん束になってなかった?」

「あれが一番幅広く行われている基本デッキ40枚・LP4000のプロフェッショナルルールという形式です。
 ですが、10枚で行うスピードルールと呼ばれるものもあるんです。
 カードがたくさんあっても最初は覚えるだけで大変でしょうから、手始めに手軽なルールで慣れてみましょう」
 
 そして、僕らはカードを選んだ。

「取り合いになると行けませんから、最初から山を半分半分に分けましょうか」

 どのカードも目移りしながら、やっと10枚を選んだ。
 僕の最初のデッキが完成する。
 明菜ちゃんも完成したみたいで、僕に目配せをする。

「さて、できたようですね。
 『習うより慣れろ』というやつです。
 デュエルディスクはルミナスに2つあります。
 これを使って、私の説明を受けながらやってみましょうか?
 あと……場所を取るので、今日は暖かいですし外に移動しましょう。」


 僕はカードをディスクに入れて、身につける。
 ちょっと重い。
 テレビでは片手で軽々と扱ってたけど、僕はもう一つの手も添えて持った。
 そして、オープンのボタンを押して明菜ちゃんの方を見る。
 明菜ちゃんも準備万全だ。
 ディスクと僕を交互に見ながら、浮き浮きしたようにつぶやく。

「えーっと、この後はビデオの通りならこうやって……」

 ディスクを持つ左手を僕に掲げて、明菜ちゃんは僕をまっすぐ見つめる。
 僕は少しだけドキッとする。
 そして、真似をしてみた。

「こうして……、それから?」

「あとはね、開始の合図をするんだよ。
 かけ声があるんだ。 よーい、どん!みたいに。
 このときはね、『デュエル』って大きな声で言うの。
 だから、いっせーのーでっ!でいくよ」

「うん」

「じゃあいくよ。 いっせーのーでっ!!」

「 「 デュエル !!」 」

あきな VS つばさ

 はじめてだけど、声が揃ってびっくりした。嬉しい。

「えと、でもこの後どうするんだっけ?」

「ええ、まずはカードを引かなければどうにもなりません。
 二人とも10枚のカードから、3枚のカードを引いてみてください」
 ディスクから3枚を引いて、左手に持つ。

「そして、ランプのともっている方が行動できます。
 つまり、先行は明菜ちゃんということです」

「じゃあ、あたしのターン!! ドロー!
 ……で、それから?」

「その通り、まずドローをします。
 次にモンスターの召喚や魔法が使えます。
 あと、罠をセットして相手ターンに備えることもできます。
 基本はモンスターの召喚ですね。
 星が4つ以下のモンスターはそのまま召喚できます。
 まずは強そうなやつを出してみてください」

「じゃあ、これでいくよ!
 こうかな? 《フェアリー・ドラゴン》を召喚!」

 明菜ちゃんがディスクにモンスターを置く。
 すると、丸くて赤い瞳の緑色をしたドラゴンが現れた。
 クキャーと高い声で鳴いて、僕をおどそうとする。

《フェアリー・ドラゴン》 []
★★★★
【ドラゴン族】
妖精の中では意外と強い、とてもきれいなドラゴンの妖精。
ATK/1100 DEF/1200

「すごいすごい! 本当に出た!
 じゃあ、そのまま攻撃! 炎をはけー!!

 ……………。
 あれ、動かないよ?
 しゃべるだけじゃダメ?」

「いや、意思表示や動作も感知するので、大丈夫なのですが……。
 先攻の最初のターンは攻撃できないんですよ。
 がら空きの相手に攻撃させるわけにはいきませんからね」

「ええー、早く攻撃させてよー」

「ダメという決まりなのです。
 さて、モンスターが召喚できるのは自分の番につき、1体だけ。
 他にも魔法を使ったり、罠を仕掛けられますがどうしますか?」

「うーん、じゃああたしはやることないから終わり!」

「はい、これで一通りの行動が一応終了になります。
 これを繰り返すことで、ゲームが進んでいきます。
 さて、明菜ちゃんの番――ターンと言うのですが――が終わりました。
 今度は翼くんのターンですよ」

「じゃあ、僕の番だ。 ド、ドロー!」

 明菜ちゃんがどうやっていたかを思い出しながら、やってみる。

「さて、翼くんのターンですが、まずあのドラゴンを倒さなくてはなりません。
 ここでデュエルモンスターズの醍醐味であるバトルについて教えます。
 モンスター同士を戦わせることで、相手のポイントを先にゼロにした方が勝ち。
 これが一番基本的なデュエルモンスターズの決着の仕方です。
 そのバトルの勝敗は、右下に書いてある数値で決められます。
 モンスターが攻撃姿勢はATK(攻撃力)の数値を、
 モンスターが守備姿勢のときはDEF(守備力)の数値を見ます」

「今は《フェアリー・ドラゴン》は攻撃表示ですから、ATKは1100なわけです。
 これより大きな数字を持つモンスターで攻撃をすれば、あのモンスターを倒せます。
 どうです? できそうですか?」

 僕は手札を見つめる。
 僕の選んだカードは軽そうなモンスターが多いけれど……。

「あ! これならいけるかも」

「ふむ、ではやってみましょうか」

「うん! いくよ、《アブソリューター》を召喚!!」

 お腹に鏡をかかえた華やかな体毛の鳥が現れる。
 すごい! カードを出すだけで、本当に出た!

《アブソリューター》 []
★★★★
【鳥獣族】
相手を鏡の中の世界に吸い込むことができる。
ATK/1300 DEF/1400

「ほう……これは……」

「鳥さんじゃ、あたしのドラゴンには敵わないよ!」

「それはどうでしょうね?
 では、ものは試しです。攻撃してみましょう。
 粉砕でも玉砕でも、どんな言葉でもいいですよ。
 腕を振りかざして、モンスターを指すだけでも構いません。
 翼くん、攻撃を指示してみてください」

「え、え? じゃあ、やってみる!
  《アブソリューター》! あのドラゴンに攻撃だ!!」

 僕がしゃべると、鏡を抱えて小さい声で鳴いて念じる。
 妖精竜が小さな炎を吐くけど、鏡に吸い込まれてしまう。
 そして、その勢いのままドラゴンまで吸い込んでしまった。

「あたしのドラゴンが負けたー!
 なんでー!?」

「そして、勝敗が決定するとライフも変わります」

あきなのLP:3000→2800

「え? これって……」

「200ポイント分、翼くんに差をつけられたということです。
 おまけにドラゴンを倒したモンスターはまだ場にいます。
 ここから挽回していかなければなりませんね」

「わー、ずるーい!!
 あたし絶対に負けないんだから!」

「まぁまぁ、次で強いモンスターを出せばいいんです。
 さて、翼くん他に何かできそうですか?」

「ううん。これで終わり」

 このモンスターで攻撃していけば、押し切れるかもしれない!

「ううっ、このままじゃ終わらせないよ!
 あたしのターン!!
 うーん……」

 明菜ちゃんが4枚の手札を見ながら考え込んでる。
 このカードより強いカードがないのかな?

「さて、もう一つアドバイスです。
 モンスターを出すときは、攻撃か守備のどちらかで出します。
 相手より攻撃が低くても、守備が高ければやりすごせるのです」

 オーナー先生の言葉を聞いて、明菜ちゃんはその目を光らせる。
 何か見つけたのかな?

「じゃあ、あたしはこの《一眼の……」

「おっと、ストップです。
 ルールをもうひとつ忘れてました。
 手札から守備で出すときは、モンスターは裏側でしか出せません。
 つまり、正体不明のままでセットされるのです。
 ですから、ここはモンスターをセット! ということなのです」

「そうなの? じゃあ、そのままモンスターを伏せるよ。
 うーん、なんかこそこそとしてずるい気もするけど……。
 あたしはじゃあこれで終わり!」

「じゃあ、僕のターンだ! ドロー!
 ねえ、また僕の番になったらモンスターを出してもいいんだよね?」

「ええ。ガンガンし掛けてみて下さい。
 あとですね、今ならレベル5や6のカードも出せます。
 生贄召喚といいまして、場のモンスター1体がいなくなるかわりに、
 手札から強めのモンスターが出せるのです」

「今は……星がたくさんのモンスターはいないや。
 じゃあ、いくよ!
 もう一体出すよ! いけっ!《ミラージュ》!!」
 今度はオレンジ色の鳥だ!

《ミラージュ》 []
★★★★
【鳥獣族】
手にする鏡から仲間を呼び出すことのできる鳥のけもの。
ATK/1100 DEF/1400

「《アブソリューター》と一緒でお揃いの鏡を持ってて、かっこいいでしょ!
 攻撃だ! 《ミラージュ》でそのモンスターにアタック!!」

 鏡から怪物が出てきて、おそいかかる。

「通じないよ! あたしの伏せモンスターは……。
 じゃーん! 《一眼の盾竜》!
 そんな攻撃もへっちゃらなの!!……で合ってるよね?」

「ええ、その通りです」

一眼の盾竜(ワンアイド・シールドドラゴン) []
★★★
【ドラゴン族】
身につけた盾は身を守るだけでなく、突撃にも使える。
ATK/ 700 DEF/1300

つばさのLP:3000→2800

「あれ? 今度は僕のライフが減った!」

「守備のモンスターに攻撃しても、攻撃したモンスターはやられません。
 ですが、攻撃力が低いのに仕掛けるとダメージを受けます。
 石を手で殴ったら痛いのと一緒ですね。
 さて、これでライフが並びましたね。
 守備力より高い攻撃力で攻撃しないと相手は倒せません。
 どうしますか?」

「じゃあ、僕はこれで終わり」

 あのドラゴンを倒せそうなカードを引くまで待つしかないかなぁ……。

「なら、あたしのターンだね! ドロー!!」

 明菜ちゃんは待ち切れないみたいにカードを引く。

「ねえ、星が5つか6つなら出せるんだよね?」

「ええ……。その代わり《一眼の盾竜》は墓地に行きますが……」

「星は1、2、3、4、5……6!
 よし、じゃあこれで逆転だよ! 《天空竜》を召喚!!」

 竜巻に巻き込まれるように、《一眼の盾竜》が場から姿を消す。
 そして、その頭上から4枚の羽根を持つ竜が舞い降りる。
 耳をつんざく声をあげて、すごいスピードで落ちてくる。

天空竜(スカイ・ドラゴン) []
★★★★★★
【ドラゴン族】
4枚の羽を持つ、鳥の姿をしたドラゴン。刃の羽で攻撃。
ATK/1900 DEF/1800

「そのままいっけえ! 《ミラージュ》に攻撃!!」

 はばたいて勢いをつけて、体当たりをする。
 僕の《ミラージュ》はあまりの速さに反応できないまま倒される。

つばさのLP:2800→2000

「よし! 逆転だね! ターン終了だよ!」

「僕のターン、ドロー!」

 あ、強いカードを引いた!
 これを前のターンに引いていれば……。
 今の《天空竜》は倒せないなぁ。
 どうすればいいかな……」

「さてさて、相手の場に強いモンスターが出たらピンチですね。
 なんとかして、あのモンスターをやっつけないとそのままやられてしまいます。
 こちらも上級モンスターを召喚するか……、それとも何か他に方法が……。
 魔法や罠で倒す方法もあるんですよ。
 何かできそうなことを試してみてください。
 できなければ、機械がエラーを出しますし、まずはやってみることです」

 魔法に罠?

「この緑色のカードのこと? 何だか十字のマークもあるけど……」

「そうです。緑色の枠のカードは魔法カードと呼ばれます。
 さらに十字のマークは装備魔法という意味で、モンスターを強化できます。
 どんなモンスターを強化できるかはカードにより違うのですが、使えそうでしょうか?」

「えーと、風って書いてあるから……もしかしたら……。
 よし、じゃあやってみるよ!!
 僕は《冠を戴く蒼き翼》を出すよ!」

 大きな鳥。赤いとさかと青の体毛。
 どちらも燃えるように波打っている。
 僕が選んだ中で一番格好いいカード!

《冠を戴く蒼き翼》 []
★★★★
【鳥獣族】
頭の毛が冠のように見える、青白く燃えるトリ。
ATK/1600 DEF/1200

「ふふ。強いモンスターだけど、その攻撃力じゃまだ《天空竜》には敵わないよ!」

 その通り。だけど、もしかしたらこのカードなら……。

「まだ分からないよ!
 《突風の扇》を蒼き翼に使うよ!」

「ええっ、何それ!」

《突風の扇》
【魔法カード・装備】
風属性モンスターのみ装備可能。
装備モンスター1体の攻撃力は400ポイントアップする。
守備力は200ポイントダウンする。

《冠を載く蒼き翼》 ATK1600→2000

「装備魔法がちゃんとした対象に装備されたので、攻撃力アップです。
 これならば、いけますね」

「蒼き翼で攻撃だ!!」

 扇から起こる追い風で、青い鳥はグングン加速する。
 向かってくる竜を軽やかにかわして、背中にくちばしで一撃を加えた。
 ドラゴンが高い声をあげて、映像がガラスのようにはじけて消滅する。

「やった! 倒した!!
 それにまだ《ミラージュ》も攻撃できるんだよね?
 そのままいっけえ!!」

あきなのLP:2800→2700→1600

「うう……。また逆転されちゃった……」

「僕はこれで終わりだよ!」

「こんな風にモンスターを魔法や罠でサポートして、
 うまくコンビネーションを決めるのが
 デュエルモンスターズの奥深さというものです。
 さて、ここから挽回できますかね?」

「うう…… 負けないよ。
 あたしの番、ドロー!」

 ……………。

 少しの()。僕の蒼き翼を倒せないのかな?
 と思ったら、カードを素早く2枚セットした。

「モンスターをセットして、罠も置くよ!
 あたしはこれでターン終了!」

 明菜ちゃんは自信満々そうにターンを終えた。

「ふむ……」

 オーナー先生は興味深そうに明菜ちゃんをうかがっている。

「僕のターンだ」

 カードを加えて、明菜ちゃんの場を見る。
 分からないカードが2枚。
 でも、放っておいてまた強いモンスターを出されたらまずいし……。

「僕は一気にいくよ!
 さらに《スピック》を召喚」

 茶色でフサフサな大きな顔の鳥だ。

《スピック》 []
★★
【ドラゴン族】
くちばしがとても大きく、大声で鳴き気の弱い相手を驚かせる。
ATK/ 600 DEF/ 500

「げげっ」

 明菜ちゃんがまずそうな顔をする。
 もしかしたら、このままいけるのかな。
 でも、また守備の高いモンスターだと怖いからここは……。

「蒼き翼でモンスターに攻げ……」

 僕が攻撃を出そうとすると、明菜ちゃんが慌てて止める。

「ちょ、ちょっと待った。
 本当にいいの? 攻撃したら、ガキーンでドカーンかもしれないよ?」

「え、え?
 よく分からないけど、やってみなくちゃ分からないよ」

「いやいやいや、もっと慎重かつ大胆にやらないと。
 だから今は……」

「僕は今は大胆にやるのがいいと思う!
 だから、蒼き翼で攻撃するよ!」

「ああ〜〜!!」

 伏せたカードに蒼き翼がせまって、その姿が暴かれる。
 そこにいたのは、かわいくて黄色い竜だった。
 小さく縮こまって、おびえている。
 蒼き翼が軽く翼ではためくと、吹き飛ばされてしまった。

「あたしの《プチリュウ》〜〜」

《プチリュウ》 []
★★
【ドラゴン族】
妖精の中では意外と強い、とてもきれいなドラゴンの妖精。
ATK/ 600 DEF/ 700

「じゃあ、これで終わりかな?
 《ミラージュ》と《スピック》で攻撃!!」

 2体が攻撃をする。
 伏せられていた罠はめくられない。
 そのまま攻撃が通った。

あきなのLP:1600→500→0

 明菜ちゃんのポイントがゼロになって、僕のモンスター達も消えた。
 ゲームが終わったみたいだ。
 てことは、僕の……。

「はい、そこまでです。
 2人の最初のデュエルは翼くんの勝ちです」

 オーナー先生が僕の腕を取って、かけっこで勝った時みたいに手をあげさせる。
 (銀の腕輪に当たって音がした。そういえば対戦してからこの腕輪が少し熱っぽい気がする)
 僕の勝ちなんだ!!

「やったー!」

「うう……負けたー!!」

 明菜ちゃんが悔しそうに僕を見る。

「二人とも最初にしては、かなり面白いデュエルをしましたね。
 明菜ちゃんも最後のやり方は面白かったですよ」

「でも、おどかしてみたのに攻められちゃったぁ……」

「そうですね。あの戦術は相手にプレッシャーを与える心理戦というもので、
 実際のデュエルでもかなり有効に機能するときもあるやり方なのですが……。
 ちょっと甘かったですね。相手が勢いのあるときにやっても効果が薄いんですよ。
 もっと相手が動揺しているときや、やりにくいときにやってみるといいかもしれません。
 例えば《天空竜》がいるときに、罠を伏せていたら翼くんもためらったかもしれません。
 伏せていたのは《はさみ撃ち》ですから、どちらにせよ使えませんが重要な戦略ですよ」

「じゃあ、もうちょっとやり方を変えてれば、勝てたかもしれないの?」

「そのときのひとつひとつのやり取りが勝敗を分けるのがデュエルです。
 それに今の感触から考えて、カードを交換してみてもいいかもしれませんね」

「じゃあ、ひとまずもう一回! もう一回やろうよ! 翼くん」

 明菜ちゃんが目をきらきらさせながら、ディスクを構えてこっちを見る。
 僕は迷わずうなずいた。

「うん! 『デュエル』しよう!!」



 僕らはいつも一緒にデュエルをして、デュエルを学んだ。

「ねえ、あたしのこのカードはどうすれば使えるかな?」

「僕もこのアクイラを使ってみたい!」

「やや! 明菜ちゃん、そのカードは……。
 《希望に導かれし聖夜竜》? 私も見たことのないカードです……。
 効果は……。なるほど強烈ですが、扱いは難しいですね。
 二人ともまだまだ勉強しないと難しそうですねぇ……」

「ええー、どうすれば僕のアクイラを使えるの?」

「そうですね。まずこれは儀式モンスターと呼ばれる種類なんです。
 儀式モンスターは儀式魔法カードを使うことで特別に召喚できます。
 この《輝鳥-アエル・アクイラ》の場合は、《輝鳥現界》というカードが必要です」

「うーん、まずそのカードを手に入れなくちゃいけないんだ……」

「じゃあさ、あたしのは? あたしのは?」

「このカードは必要なカードも確かにレアなのですが、
 それ以上にデュエル中に条件を満たすことがかなり難しいですね……。
 デッキの構築のバランスとともに上手く使いこなすためにはそれ相応の腕を必要としますよ」

「うーん、やっぱりすごいカードで使いこなしにくいんだぁ……。
 でも、お小遣いは限られてるし、いつになったら使えるかなぁ」

「そうですねぇ。
 お小遣いを臨時にあげることはできないんですよ。
 かといって、お手伝いを拡張してお小遣いも難しいです。
 ここはえこひいきはできませんので……。
 なので強くなりたければ……、勝ち抜いたらどうでしょう?
 大会に出て良い成績を収めれば、賞金や参加賞ももらえるんですよ。
 大会参加費というのなら、イベント参加費という名目で私も出してあげます。
 最初のうちは負けるでしょうが、それこそ経験です。
 出場できるだけ出場してみましょう。
 そうすればこのカードを使うに相応しい腕もきっと付くでしょう」
 

 最初は本当に負けっぱなしだった。
 初戦でいつも負けては、観戦にまわっていた。
 でも、戦っているみんなはすごく真剣で、たくさん勉強になった。
 僕はほしいカードを一枚一枚手に入れていった。
 それだけじゃなくて、たくさんのカードを実際に使って覚えた。
 僕はずっと憧れていたんだ。デュエル・スターに。
 星の数ほどいるデュエリストの中で、周り一面を照らすほどの星になりたいって。
 デュエル・スターのイメージはこうだ。
 あらゆる戦術に精通し、どんなカードも使いこなす。
 その決め手はいつも斬新で、見る人達をワクワクさせる。
 すごく格好いいと思う。
 僕はそんな風に誰かを元気づけてみたい。
 だから、みんなが使いにくいとボックスに入れるカードも使おうとした。
 ひとつの思いつきがあれば、それだけでデッキを組んでみた。
 相手の戦術を真似てみたり、オーナー先生にたくさん聞いたり、
 明菜に対戦の練習に何度も付き合ってもらったり。
 明菜のデッキはいつの間にか『カウンター罠』が多くなっていった。
 その罠にたじたじにされるたびに、僕は激励されたんだ。

「ダメだよ。翼が一番苦手な相手を絶体絶命から倒せるくらいじゃなきゃ。
 手のうちを知っているあたしに勝てないようじゃ、まだまだだよ!」


 そうして明菜といつも一緒にいたら、からかわれたことがあった。

「2人とも付き合ってるの?」

 僕たちはその質問の指す所が分かっていた。
 でも、首をかしげてやりすごした。

「翼はね、恋人じゃなくて家族かな?
 恋人になるには秘密が必要だと思うの。
 ロマンを保つためには必要でしょ?
 それが翼とだとあんまりないというか……」

 僕も明菜は恋人のそれとは違う感じがした。
 多分、同じようなことを考えていたと思う。
 明菜と僕の間では、何かをためらったり恥ずかしく思うような、
 何となくもどかしいようなドキドキをそんなに感じないんだ。

「でもさ、かといって付き合うってどうすればいいのかな?」

 僕もそれがあまり分からなかった。

「分かんないなぁ。一緒にいるだけなら変わらないよね」

「じゃあさ、あれかな?
 恋人らしいことでもしてみれば、違うのかな?」

「えっ?」

 僕にはそんな発想がなくて、戸惑ってしまう。
 そんな僕のことをお構い無しに、明菜は続ける。

「ねえ、キスしてみる?」

 明菜が熱っぽく僕を見つめてくる。
 僕は、いつの間にか頷いていた。
 明菜が普段と違って見える。
 唇なんて注意深く見たことなかったのに。
 僕と明菜の背丈は同じくらいで、キスをするには……。
 顔を少し傾けて、そして近づいていけば……。
 胸が高鳴る。横顔が熱い。
 でも、僕も明菜も少しづつ顔を近づけて……。

 ドンっ。
 目を閉じた一瞬に、衝撃。
 僕は明菜に手で押された。

「や、ややや、やっぱやめよ!
 なんかどうしようもなく照れくさいよ。
 このドキドキが付き合うってことなのかな?」

 僕はわけも分からないまま、慌てふためく明菜を見る。

「やっぱ保留にしよ、保留!
 翼とはいつも一緒にいるのにこんな気持ちでいたら、わけ分かんなくなっちゃう!」

 それから僕たちが恋人になるという選択肢は保留のままだ。
 僕も明菜が恋人だったら……と考えるときはあるけど、
 何だか気恥ずかしくなって、結局は保留がいいかなと思ってしまう。
 そもそもこんなことを明菜は覚えているんだろうか?
 明菜から聞かないと、僕には分からない。


 そうして明菜と過ごして、たくさんデュエルしているうちに、僕らの背は伸びていった。
 新しいカードを手に入れて、いろんな戦術を知って。
 デュエルもどんどん勝てるようになっていった。

『幼少期の悲劇を乗り越えて……! 遂にプロの舞台に新たなヒーローが舞い降りる。
 エド=フェニックス!! ここにデビューだ!!!』

 僕らはいつもプロのリーグ中継を見ていた。

「あーこの前ルミナスに来てたよね、エドさん!
 対戦したけど、あっという間に負けちゃった。
 やっぱりすごいなー。僕も早く追いつきたい!!」

「喜んで下さい!!
 デュエル・アカデミア本校への進学ができるようになりましたよ!
 以前のアカデミア中等部への進学のときは、補助金が降りなかったのですが……。
 今度は専門学校として正式に補助金の申請が認められるそうです。
 翼くん、明菜ちゃん。やりましたね!
 あとは試験に合格するだけですよ! 二人ならまず間違いないでしょう!!」

 彼方に輝く星を目指して。
 僕の世界はどんどん広がっていくと思っていた。
 ――あの日が来るまでは。





第16話 孤児院ルミナス4-置いてきた影-



 アカデミア入学試験にはようやくうかった。

 実技の方はちゃんと通ったけれど、問題は筆記。
 狭い環境でデュエルをしていたから、どうしてもカード知識が偏る。
 全国レベルで対戦している人とかはスラスラと解けたみたいだけど。
 効果テキストを読むことのできないプロの対戦ルールにも慣れてない。
 だから、明菜と俺はすごく苦戦することになった。
 どんなカードにも精通するデュエル・スターへの道はまだまだこれからみたいだ。

 アカデミアの始業は9月から。
 春に卒業した俺たちは始業までの期間を持て余して、ルミナスで過ごしていた。
 今がきっと、このルミナスで生活する最後の時間になると思う。
 アカデミアは全寮制になっている。帰省で立ち寄るくらいになるだろう。
 アカデミアへの補助金が認められたのは、デュエルが専門分野として広まったのとともに、
 寮生活によって自立した生活への一歩を踏み出せることも大きいみたいだ。
 そして、アカデミアを卒業したら、ここでお世話になるわけにはいかない。
 何かデュエルに関する職を見つけて、自分で生活しなくちゃいけない。
 今までこのルミナスから卒業していったお兄ちゃん達みたいに、一人で立派に。
 これからには胸が引き締まるような自由が待っている。

 ルミナスでは、俺たちがもう年長の方だった。
 俺と明菜が買い物から帰ると、最近入ってきた子がこっちに向かってくる。
 一緒にコタロも向かってきた。
 (コタロはもう犬の歳ではお年寄りみたいだ)
 すごく急いで駆け出してくる。
 何かまずいことでもあったのかな?

「翼兄ちゃん!! ねえ、エドさんが来てるよ!!」

「え、本当に!?」

 この子がこんなに興奮している理由が分かった。
 エドさんはデュエルする子供みんなの憧れなんだ。
 俺もエドさんにはすごく憧れてる。

 エドさんと会うのは、2年ぶりくらいになる。
 アカデミアに入ることになったという話を聞かされて以来だ。
 そうだ! 俺も明菜もアカデミアに入るという話をしなくちゃ。
 これからは先輩と後輩になるんだ!
 また、アカデミアに入るのが楽しみになってきた。

「今はオーナー先生と話してるよ! 早く終わらないかな〜」

「きっと寄付金とかの話をしてるのかな? エドさんはすごいよね」

 孤児院への寄付をする立派な人としても、俺たちはエドさんを尊敬していた。
 デュエルでみんなを勇気付けられて、さらに孤児院に恩返しする。
 俺もそんな格好いい大人になりたい。
 たくさん、エドさんからアカデミアのことを聞いて、強くなる方法を聞きたい!
 俺は話が早く終わらないかな、と待ち遠しく思っていた。

 ――そんなときだった。

「うわあああああ――」

「何!?」

 エドさんがいるはずの部屋から悲鳴が聞こえた。
 明菜も驚いて、こっちを向く。
 コタロがおびえてほえ始める。

「今の声、オーナー先生の部屋からだよね?」

「さっきの声……、調理の山下おじさん?
 何かあったのかも! エドさんも危ない!
 行ってみよう!!」

「でも、もし変な人が入ってきてたりしたら、あたしたちが行っても……。
 いや、だけど確かめなくちゃダメだよね!
 翼、近くまで行ってみよう!!
 あ、コタロのこと押さえておいてね。
 あたし達だけで様子を見てくるから」

 俺たちはおそるおそる奥のオーナー先生の部屋に向かう。
 悲鳴があったのに、しんとしていた。
 一体、何が起きたんだろう?
 ドアの前にスタンバイする。
 俺は消火器を、明菜はバットを持っていた。
 変な奴が相手でも俺たちが……。
 そう思って構えていた。
 ひとつも音を聞き漏らさないように。

「あれ? 全然音がしないね?」

「もう大丈夫なのかな? でも、それでも変だよ。
 誰もいないみたいに音がしないよ」

 少し離れたところで、コタロの吠える声だけが響いている。

「……開けてみる?」

 俺は明菜に提案する。

「うん、それしかないよね」

 明菜も頷く。
 俺たちはドアノブに手を伸ばす。
 そして、そっと開け放った。


 そこには誰もいなかった。

「あれ?」

 思わず間の抜けた声を出してしまう。
 事務のために整えられた、落ち着いた雰囲気のオーナー先生の部屋。
 ここには大人の人がみんな集まっていたはずなのに。
 みんないなくなっていた。
 窓も開いてないし、荒らされてもいない。

「いや、まだ安心できないよ。
 でも、おかしいよね……」

「入り口は俺たちがいた所しかない。
 でも、窓を開けて出て行くわけもないし。
 本当にいなくなったのかな?」

「ええー? でも、それしか考えられないよね。
 エドさんはどこに行ったんだろう?」

 辺りを見回す。特に変わったところはない。
 
 でも、何だろう。やけに胸騒ぎがする。
 さっきから銀の腕輪がかなり熱い。
 どうしてだろう。

「仕方ないから、戻ろっか?」

「うん……、俺たちがここにいても仕方ないね。
 あれ? カードが落ちてる」

 裏返されたそのカードを拾う。

「《D−HERO ダブルガイ》……?
 これってエドさんの『D−HERO』?
 エドさんがいたのかな」

 何かおかしいところがないか、と見る。

「翼、危ない! 後ろ!!」

「え?」

 俺は後ろを見る。
 そこに、細身の怪人がいた。
 紫がかった不気味な色のマフラーを巻いて、顔を隠している。
 その中で金色に眼だけが鋭く光る。
 ステッキを振りかざし、俺に――

「翼!! 伏せて!」

 明菜が男の背中から、肩めがけバットを振るう。
 俺は思わずかがむ。
 まさにそこに実物がいるかのような迫力。
 でも、透けるんじゃないかな?
 そう思った。
 何かのいたずらなんだ。
 きっと俺たちを驚かそうとした一芝居だ。
 多分、立体映像だから明菜のバットは空ぶって、俺の頭上を通り抜けるんだ。
 そう思ったのに……。


 鈍い、鈍い音がした。
 怪人はそのまま倒れこむ。
 嘘だ、まさか本当に……。

「そこにダブルガイがいる!?
 まさか誰かが変装してたの?
 じゃあ……まずいことしちゃった?」

 いや、違う。こんな体格の人はここにはいない。
 ましてあんな眼をした人なんて……。
 考えれば考えるほど、嫌な現実感がぬぐえない。
 怪人を注意深く見る。
 倒れたのかな?

「い、今手が動いたよ!??」

 わなわなと激しくけいれんし出す。
 電撃が走っているように、体が波打つ。
 何が、何が起ころうとしているんだろう。
 体つきが変わっていく。
 筋肉が内側から盛り上がり、髪がめくれ伸びていく。

 ――そうだ、これは2人目だ。
 ダブルガイは2つの人格を持っている。
 1度目は普段の格好で攻撃した。
 だけど、2度目は人格を交代させて――。
 
 俺がそれに気付いたときには、目の前に立ちはだかりこちらをにらむ大男がいた。
 さっきの2倍くらいの大きさ。とても、同じ者とは思えない。
 息を荒くして、さっきの復讐をしようと太い腕を振り上げる。

 だめだ、やられる!!

 俺はとっさに両手で消火器をかまえる。
 噴射しようとしても、間に合わない。
 この硬い消火器なら、あの太い腕も防げる。
 そのまま一直線に顔めがけて腕は振り下ろされる。
 でも、この消火器がへだてているから。
 今は防げるはず。

 消火器をぐにゃりと曲がり、腕にびしりと衝撃が走る。
 足までその衝撃が伝わる。
 耐え切れず吹き飛ばされて、転げまわる。
 いや、耐え切れなくて良かったんだ。
 こんな衝撃をまともに受けたら、体が壊れてしまう。
 憶測が甘い。
 あの腕は消火器よりも太く硬い。まるで丸太だ。
 まともに受けたらひとたまりもない。
 まだ攻撃は終わっていない。
 有り余る力を持て余している。
 荒い息が部屋を埋め尽くす。
 その迫力に後ずさる。
 もう防ぐ手段はない。
 逃げる隙もない。
 俺には何もない。
 このままやられるしか――

 ――嫌だ。

 俺にはまだやりたいことがある。
 ポケットのデュエルモンスターズを手探りする。
 その感触を確かめる。
 俺は、デュエル・スターになりたい。
 みんなをワクワクさせることのできる星に。
 眼を閉じて諦めようとしている人の、心まで開かせるような。
 誰かを照らす光になれるように。
 全部のカードを知るんだ。
 そこから自分が見つけた可能性を伝えるんだ。
 だから、なんとしてでもこの先に行かないと。
 ここで打ち負かされたりなんか――
 
 
 パリン、と何かが弾ける音がした。

 光は鼓動する。
 まばゆく白く包まれる。
 眼に映る世界が突然移り変わる。
 万華鏡のように、目の前が一瞬で様々に移り変わる。
 烈火がはぜ、大地がうねり、旋風がとどろき、流水がまきあがる。
 それは夢のように。イメージが移り変わる。
 違う世界を超速度で旅するように。

 視界は元の場所に戻る。
 そして、俺は守られていた。
 目の前に突き出た土柱に。
 その隣で大地の駝鳥(テラ・ストルティオ)が見守っていた。

「ストルティオ? これは、どうして……」

 思わず疑問を口にしてしまう。
 いや、でも俺は感じる。
 深くから湧き上がる温かな力を。
 体中をめぐり、感覚を研ぎ澄ます脈動。
 心臓がひとつひとつ動く度に、新しいことが分かるような。
 視界が開けていく。見えないものも感じられる。
 この部屋はただの部屋じゃない。
 そこかしこに黒い吹き溜まりが見える。
 これは触れてはいけないものに違いない。

「明菜! 今のうちに逃げなくちゃ。
 ここはおかしいよ。何かに取り込まれる!!」

 おびえてすくんでいた足も手も、今は思うままに動く。
 いや、確実に加速している。
 いつもより速く、力強く動ける。
 明菜に手を差し出す。

「翼、腕輪が……?
 う、うん! 早く出ようよ!!」

 明菜の手を掴み、駆け出す。

 重苦しい空気が、そのとき圧縮される。

「僕のショーから逃げないでくれないか」

 この声……? 俺は振り返る。
 誰もいない。
 でも、黒い塊が集まっていっている。
 その中心から声がする。

「ジョークだよ、君たちを傷つける気は少しもないんだ」

 そこからエドさんが現れた。
 いつもの白いスーツ。だけど、今は意地の悪そうな微笑み。

「違う! お前はエドさんなんかじゃない!!」

「フフフ。驚かそうと思っただけなのにな。
 力押しでいかない子が現れるとは……。
 大人だけ処理すればすぐ終わると思ったのに、とんだ計算違いだ」

「何を……何を言ってるの?」

「仕方ないから新しいショーを始めよう。
 君が一番大好きなショーを、一番素敵な形で。
 僕の『ショーマン・シップ』がうずくんだよ!!」

 エドさんは俺たちを見下すように愉快そうに笑う。
 そして、眼をとじて、指を優雅に天にかざす。
 パチン。
 指を弾いて合図をする。
 舞台が――本当に切り替わる。

 ここは……外?
 でも、さっきとはまるで天気が違う。
 空を雲がどこまでも覆い尽くし、生ぬるい風に撫でられる。

「翼兄ちゃん!! あ、エドさんだ!」

 孤児院の子どもみんながそこにいた。
 コタロもふるえながら、けたたましく吠えている。

「どうして……?」

「なぜって、ショーには観客が必要だろう。
 招待してあげたんだよ。
 さぁ、最後の劇をはじめよう」

 エドさんはどこからともなくディスクを取り出し、俺に投げつける。

「デュエルディスク?」

「そうだ。デュエルをしよう。
 君の精霊の宿るデッキでね」

「精霊……? 俺の?」

「銀の腕輪を壊す程の力を発揮しておきながら、とぼけるのか?」

 俺はとっさに腕輪を確認する。
 なくなっている……。
 いろんな光がかけめぐる直前に、何かがはじけて壊れる音がした。
 あのときに壊れたんだろうか?
 でも、今は不思議な力がわいてくるのを感じる。
 これならさっきみたいな奴が現れても、怖くはない。

「お前はエドさんなんかじゃない! 何者なんだ!!」

「僕は紛れもなくエド=フェニックスだ。どうして疑うんだ」

「あたしも分かるよ! 絶対に違う!!
 コタロは人見知りするけど、エドさんにはすぐなついていた!
 今はこんなに怯えて、震えている!
 別人だって分かってるんだよ!!」

「姿形も声も同じなのに疑うなんて、困った子たちだな。
 僕はこうしてここにいることしかできないし、参ったな」

「それに、何のためにこんなことを!」

「フフ。それを伝えるのは難しいけど、そうだな。
 『真実』を伝えるため、とでも言っておこうか」

「『真実』?」

「それとダメだな、オーディエンスを待たせては。
 ショーマンとして失格だ。
 そして、ショーマンは舞台で語るものだ。
 始めよう。君の運命の舞台を」

 エドさんはデュエルディスクを展開させる。
 俺にもデュエルディスクを投げつける。

「僕が先輩として、君がすべてを表現できるように手ほどきしてあげよう。
 さぁ……」

 デュエル……するしかないんだろうか。
 エドさんは何を考えているんだろう。
 俺の体に何か特別なことが起こってるんだろうか。
 何も分からないけど、今は従うしか――。


「 「 デ ュ エ ル ! ! 」 」

エド(?) VS 翼

「さて、僕の先攻だ。ドロー……。
 既に運命は決している。君に惨めな『真実』がつきつけられる運命がな!
 僕は手札より《デステニー・ドロー》を発動する。
 《D−HERO ディアボリックガイ》捨てて、2枚ドロー」

《デステニー・ドロー》
【魔法カード】
手札から「D−HERO」と名のついたカード1枚を捨てる。
自分のデッキからカードを2枚ドローする。

「《D−HERO ダイヤモンドガイ》を召喚!!
 そして、ダイヤモンドガイのエフェクト発動!
 デッキトップが通常魔法ならば、次の僕のターンに発動できる!」

《D−HERO ダイヤモンドガイ》 []
★★★★
【戦士族・効果】
このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する時、
自分のデッキの一番上のカードを確認する事ができる。
それが通常魔法カードだった場合そのカードを墓地へ送り、
次の自分のターンのメインフェイズ時に
その通常魔法カードの効果を発動する事ができる。
通常魔法カード以外の場合にはデッキの一番下に戻す。
この効果は1ターンに1度しか使用できない。
ATK/1400 DEF/1600

 エドさんはこの効果をはずしたことがない。そして、今回も……。

「デッキトップのカードは《ファイヤー・ソウル》。
 そして、僕のデッキには《ヴォルカニック・クイーン》のカードがある。

《ファイヤー・ソウル》
【魔法カード】
相手プレイヤーはカードを1枚ドローする。
自分のデッキから炎族モンスター1体を選択してゲームから除外する。
除外したモンスターの攻撃力の半分のダメージを相手ライフに与える。
このカードを発動する場合、このターン自分は攻撃宣言をする事ができない。

《ヴォルカニック・クイーン》 []
★★★★★★
【炎族・効果】
このカードを手札から出す場合、相手フィールド上のモンスター1体を生け贄に捧げて
相手フィールド上に特殊召喚しなければならない。
1ターンに1度自分フィールド上に存在するこのカード以外のカードを1枚墓地に送る事で、
相手ライフに1000ポイントダメージを与える。
また、自分のエンドフェイズ毎にこのカード以外のモンスター1体を生け贄に捧げなければ、
このカードのコントローラーは1000ポイントダメージを受ける。
このカードを特殊召喚する場合、このターン通常召喚できない。
ATK/2500 DEF/1200

 次の僕のターンに、君が1250のダメージを受ける運命が確定した」

「あんなカード……、あたしエドさんのデュエルで見たことがないよ。
 いきなり1250のダメージ……。 相手の先攻じゃあ防ぎようないよ!」

 明菜と他のみんながどよめく。
 それを見て、エドさんは愉快そうに笑う。

「まだ、僕のターンは続いている。
 これだけで驚いてもらっても困るな。
 僕は《デビルズ・サンクチュアリ》を発動!
 メタルデビル・トークンを1体生成する。
 そして、墓地より《D−HERO ディアボリックガイ》のエフェクト発動!
 もう1体の《D−HERO ディアボリックガイ》をデッキから特殊召喚する……」

《デビルズ・サンクチュアリ》
【魔法カード】
「メタルデビル・トークン」(悪魔族・闇・星1・攻/守0)を
自分のフィールド上に1体特殊召喚する。
このトークンは攻撃をする事ができない。
「メタルデビル・トークン」の戦闘によるコントローラーへの超過ダメージは、
かわりに相手プレイヤーが受ける。
自分のスタンバイフェイズ毎に1000ライフポイントを払う。
払わなければ、「メタルデビル・トークン」を破壊する。

《D−HERO ディアボリックガイ》 []
★★★★★★
【戦士族・効果】
自分の墓地に存在するこのカードをゲームから除外する。
自分のデッキから「D−HERO ディアボリックガイ」1体を選択し、
自分フィールド上に特殊召喚する。
ATK/ 800 DEF/ 800

 《D−HERO ダイヤモンドガイ》、メタルデビル・トークン、《D−HERO ディアボリックガイ》。
 3体のモンスターが1ターン目に揃えられる。
 D−HEROは個々の戦闘力はそんなに危険じゃない。
 でも、その展開力と高速回転はどんなデッキにも負けない。
 そこから、召喚困難なはずの切り札がすぐに呼ばれるのがその恐ろしさ。
 そして、3体の生け贄が揃えられたから、次に来るのは……。

「3体のモンスターを生け贄に捧げて
 ――カモン! 《D−HERO ドグマガイ》!!」

《D−HERO ドグマガイ》 []
★★★★
【戦士族・効果】
このカードは通常召喚できない。
自分フィールド上に存在する「D−HERO」と名のついたモンスターを含む
モンスター3体を生け贄に捧げた場合のみ特殊召喚する事ができる。
???
ATK/3400 DEF/2400

 黒の巨大な両翼が空を覆う。
 そして、堅く冷たい鎧で身を覆った戦士が舞い降りる。
 その右腕に巨大な刃をたずさえて。
 このフィールドはたった一人の戦士に支配される。

「僕はこれでターンエンドだ。
 待たせたな、君のターンだ」

「ドグマガイ……。
 俺のターン、ドロー……」

 このモンスターが召喚された。
 ということは、この瞬間――。

「――この瞬間、《D−HERO ドグマガイ》のエフェクト発動!!
 『ライフ・アブソリュート』!! 君のライフポイントは半分になる!」

《D−HERO ドグマガイ》 []
★★★★
【戦士族・効果】
このカードは通常召喚できない。
自分フィールド上に存在する「D−HERO」と名のついたモンスターを含む
モンスター3体を生け贄に捧げた場合のみ特殊召喚する事ができる。
この特殊召喚に成功した場合、次の相手ターンのスタンバイフェイズ時に
相手ライフを半分にする。
ATK/3400 DEF/2400

 ドグマガイが天に向かって、刃をかざす。
 空が赤黒いドグマガイの魔力で支配されていく。
 そして、俺の立つ地面も赤く染まっていく。
 いや、場の雰囲気も魔法のプレッシャーで塗り替えられている。
 この重苦しい空気はなんだろう。
 赤は上昇し、視界が赤い光に包まれる。

 めまい。
 視界が暗くなり、膝が崩れる。
 体が急に重くなった。
 力をそのまま抜かれたみたいに――。
 息切れがする。

翼のLP:4000→2000

「これは……? まさかこれもソリッドヴィジョンじゃない……ッ!?」

 さっきのダブルガイみたいに本当にそこにいるような感覚。
 そして、実際に感じる痛みと脱力感。

「ようやく気付いたな、この舞台の素晴らしさに。
 でも、まだすごいことがあるんだ。
 周りを見渡してごらん」

「翼……、これは……何?」

 みんなが苦しんで、弱っていた。
 あのときの赤い光はまさか。

「観客のみんなも、実戦さながらの感覚を味わえる。
 理想的なショーだろ?」

「ふざけるな!! なんでみんなを苦しめるんだ!
 しかもエドさんの姿に化けて……。許さない!!」

 僕の怒りを、エドさん――いや、あいつは澄まして受け止める。

「許さないのは勝手だ。だけど、行動で示してもらおう。
 言葉を吐いても何もできないなら、ショーマンとしては3流だな。
 ほら、まだ君のターンだ」

「クッ……」

 何を言っても、無駄みたいだ。
 だけど、今のターンは打開策がない。
 ここは……。

「《霊鳥アイビス》を召喚。
 カードを2枚伏せて、ターンエンド」

《霊鳥アイビス》 []
★★★★
【鳥獣族・効果】
このカードを生け贄にして儀式召喚を行った時、自分のデッキからカードを1枚ドローする。
ATK/1700 DEF/ 900

「いいのか? そんな平凡な一手で?
 じゃあ、僕のターンだ、ドロー。
 さて、忘れてはいないな?
 ダイヤモンドガイが未来に定めたエフェクトがここで発動する!!
 《ファイヤー・ソウル》のエフェクトだ!
 デッキより攻撃力2500の《ヴォルカニック・クイーン》を墓地に送る。
 さぁ……、1250ポイントのダメージを受けるがいい!」

 地面から炎の蛇がわき上がり、包み込む。
 龍の形をした《ヴォルカニック・クイーン》の残像。
 熱い。いても立っても居られないくらいに。
 もがいても、炎は上り詰めてくる。

「うわあああああああああ」

翼のLP:2000→750

 熱くて全ての感覚がなくなる。
 焦げた匂いが立ちこめて、鋭い痛みと痺れが全身をつらぬく。
 でも、少しずつその痛みはおさまり、俺はようやく立っていることができる。

「……《ファイヤー・ソウル》の効果だ。
 君は新たに1枚のカードをドローする。
 常人ならば、ここで倒れているところだ。
 ここで平気ということはやはり……。
 だが、ここで終わらせてやる。 既にチェックメイトだ!
 カードを2枚伏せて、マジックカード発動! 《ミスフォーチュン》!!
 さあ、君は不運に見舞われる。
 《霊鳥アイビス》の攻撃はそれて、君に当たってしまう。
 どうする?」

《ミスフォーチュン》
【魔法カード】
相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動する。
選択したモンスターの元々の攻撃力の半分のダメージを相手ライフに与える。
このターン自分のモンスターは攻撃する事ができない。

 あいつに攻撃を反射する光の壁が出現する。
 そこにアイビスが攻撃をしようとする。

「君のかわいいモンスターの攻撃で殺されるんだ。
 本望だろう? 意外とあっけない結末だったな。
 『ライト・インパルス』!!」

「やめろおお!!
 リバースカード発動! 《水霊術−「葵」》!!」

《水霊術−「葵」》
【罠カード】
自分フィールド上に存在する水属性モンスター1体を生け贄に捧げる。
相手の手札を確認し、カードを1枚選択して墓地に送る。

 攻撃をしようとしていたアイビスは消え去る。
 攻撃が失敗したのに、あいつは愉しそうに嗤う。

「対象を失った《ミスフォーチュン》は不発。
 サクリファイス・エスケープ……。
 予想通りに回避してくれて、嬉しいよ。
 昔から君はそうやって生きてきたからね。
 精霊を自分のために犠牲にして」

「いきなり何を言って……る…の?」

「忘れて安穏と暮らしていたんだろ。
 君のために人も精霊も犠牲になった。
 それなのに君はこんなに夢にあふれて生きている。
 都合がいいね……」

「俺は……そんなことは……」

「君は銀の腕輪の保護から解き放たれてしまった。
 デュエルモンスターズとは現代のマジックアイテム。
 それに親しんでいれば、魔術の『力』に目覚めるのは当然か。
 これからはどんな風に精霊を利用するんだろうね?」

「俺は利用なんて……。
 それに『力』って一体……」

「フフフ……。
 分からないなら、発揮させてやろうか?
 いや、少しずつ君はもう発揮しているんだ。
 それにしたって、君は決断が遅いな。
 《水霊術−「葵」》の効果で、僕は手札を1枚捨てる。
 僕の手札にあるのは《ネクロ・ガードナー》。

《ネクロ・ガードナー》 []
★★★★
【戦士族・効果】
自分の墓地に存在するこのカードをゲームから除外して発動する。
相手モンスターの攻撃を1度だけ無効にする。
ATK/ 600 DEF/1300

 このカードはセメタリーに置かれてこそ、本当の力を発揮する。
 墓地に送ってくれて、ありがとう。
 せっかく犠牲にしたのに、浮かばれないなぁ」

 唇が震える。あいつが言いたいことは……。

「何で……、お前はどうして俺のことを知ってるの?」

「僕は心の虚無(ダークネス)という『真実』と繋がっているからさ。
 君もダークネスを受け入れて、楽になるといい。
 さて僕はバトルをできないし、手札もない。ターンエンドだ」

エド(?)
LP4000
モンスターゾーン《D−HERO ドグマガイ》ATK3400
魔法・罠ゾーン
伏せカード×2
手札
0枚
LP750
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーン
伏せカード×1
手札
4枚

「うう……。俺のターン、ドロー」

 かすかに覚えている。
 あのときはやっぱり俺が犠牲にしたの?
 この力が湧いてくるのは、やっぱり腕輪が壊れたから?
 そして、あの腕輪がなければ、もしかしたら俺はまた……。

「翼!!」

 明菜の声が響く。
 俺は意識を引き戻される。

「変な言葉に惑わされないで!
 翼が《ミスフォーチュン》をかわしたのは計算外のはずだよ!
 ここから挽回すれば、きっと流れを取り戻せる!」
 
 そうだ。相手のペースに飲まれちゃいけない。
 手札なら揃った。今ならいける。
 相手が何を知っていても、今はデュエルをしなくちゃ。
 これ以上、みんなを傷つけさせないために。
 それに――俺にはこいつ達がついている。

「俺は……《英鳥ノクトゥア》を召喚する!
 さらにノクトゥアの効果で《輝鳥現界》をサーチする。
 そして、儀式魔法《輝鳥現界》を発動!
 場からノクトゥアをデッキからアンセルを生贄に捧げて……」

《英鳥ノクトゥア》 []
★★★
【鳥獣族・効果】
このカードの召喚・特殊召喚に成功した時、
自分のデッキから「輝鳥」と名のついたカード1枚を選択して手札に加える。
ATK/ 800 DEF/ 400

《輝鳥現界》
【魔法カード・儀式】
「輝鳥」と名のつくモンスターの降臨に使用することができる。
レベルの合計が儀式召喚するモンスターと同じになるように、
自分のフィールドとデッキからそれぞれ1枚ずつ鳥獣族モンスターを生贄に捧げる。

 そうだ。これが俺と闘ってきた仲間なんだ。
 そしてこれからも闘っていくんだ。
 まばゆい紅い光が収束していく。
 この濁った空を照らし出せ!!

「《輝鳥-イグニス・アクシピター》を召喚!!
 そして、アクシピターの効果発動!!
 『ルーラー・オブ・ザ・ファイア』!」

《輝鳥-イグニス・アクシピター》 []
★★★★★★★
【鳥獣族・儀式/効果】
「輝鳥現界」により降臨。
このカードの属性はルール上「炎」としても扱う。
このカードが儀式召喚に成功した時、相手ライフに1000ポイントダメージを与える。
ATK/2500 DEF/1900

 あいつを炎が包み込む。
 それを涼しげに受け止める。

「ふふ……。少し痛いかな。
 だが、これくらいくれてやる」

エド(?)のLP:4000→3000

「まだだ! 俺はさらに《高等儀式術》を発動!
 デッキから、レベル7になるように生贄に捧げる!!
 俺は《冠を載く蒼き翼》と《音速ダック》を生贄に捧げて……」

《高等儀式術》
【魔法カード・儀式】
手札の儀式モンスター1体を選択し、そのカードとレベルの合計が
同じになるように自分のデッキから通常モンスターを選択して墓地に送る。
選択した儀式モンスター1体を特殊召喚する。

 そして、これが一番大事なカード。
 あのときから、ずっと俺と一緒にいたカード……。

「来い! 《輝鳥-アエル・アクイラ》!!
 さらに効果だ。すべてを吹き飛ばすよ!
 『ルーラー・オブ・ザ・ウインド』!!」

《輝鳥-アエル・アクイラ》 []
★★★★★★★
【鳥獣族・儀式/効果】
「輝鳥現界」により降臨。
このカードの属性はルール上「風」としても扱う。
このカードが儀式召喚に成功した時、フィールド上の魔法・罠カードを全て破壊する。
ATK/2500 DEF/1900

 風がすべてのカードを吹き飛ばし、場のまとわりつくような空気をも変える。
 こいつがいてくれるなら、俺は大丈夫だ!

「2体目だと……ッ!
 だが、そのカードが現れることくらい想定していた。
 僕の伏せていたカードは《多重人格の憂鬱》、そして《超速回転の破片》!

《多重人格の憂鬱》
【罠カード】
セットされたこのカードが破壊され墓地に送られた場合、
自分フィールド上に「ダブルガイ・トークン」(戦士族・闇・星4・攻/守1000)を
次の自分ターンのスタンバイフェイズ時に2体特殊召喚する。

《超速回転の破片》
【罠カード】
セットされたこのカードが相手のカードの効果により破壊され墓地に送られた場合、
次の自分ターンのスタンバイフェイズ時に自分のデッキからカードを2枚ドローする。

 この2つのカードは破壊されたときに、エフェクトを発揮する。
 次のターンが楽しみだ。せっかく君の伏せカードも犠牲にしたのに残念だったな。
 ……………。
 ん? なぜだ? なぜ破壊したのに、風がやまない!!
 お前は何をした!!」

「風はひとつだけじゃない。
 俺はリバースカードを発動していた。
 それは《イタクァの暴風》!!
 お前のモンスターを守備表示に変える!」

《イタクァの暴風》
【罠カード】
相手フィールド上に表側表示で存在する
全てのモンスターの表示形式を変更する。

「なんだとッ!?」

 暴風に巻き上げられて、ドグマガイは翼を折りたたみ守備体勢をとる。

《D−HERO ドグマガイ》 ATK3400→DEF2400

「伏せカードはない! そして、俺の場には2体の輝鳥! バトルだ!!
 アクシピター! 『シャイニング・フレアクロー』!!」

「クッ、通さない! 《ネクロ・ガードナー》のエフェクトだ!
 その攻撃を止める!!」

「だけど、次の攻撃は通る!!
 アクイラ! 『シャイニング・トルネードビーク』!!」

 鋭いくちばしで突撃して、破壊する。

「俺はこれでターンエンドだ」


「なかなか楽しませてくれるな、僕のターンだ、ドロー。
 フフフ。とことん苦しんで虚無に打ちひしがれたいようだな。
 いいだろう。さぁ、僕は破壊されたカードのエフェクトを受ける。
 カードを2枚ドロー。そして、ダブルガイ・トークンを2体特殊召喚する。
 そして、再びセメタリーの《D−HERO ディアボリックガイ》のエフェクトを発動!
 デッキから最後の《D−HERO ディアボリックガイ》を場に特殊召喚する。
 そしてまた、3体の生贄が揃った……。
 新たなる運命のHEROが再び降臨する。
 3体のモンスターを生贄に捧げ――」

 アクイラが振り払った雲が、再び集まってくる。
 赤黒いひずみがあいつの場に現れる。
 まるで血の吹き溜まり。

「現れよ! 《D−HERO Bloo−D》!!!」

 そこからぬるりと、悪魔を形どったダーク・ヒーローが現れる。
 龍のような右腕と尾。こうもりのような破れた翼。
 あちこちに鋭い爪で武装されて、突き刺さんとするばかりだ。

「そして、《D−HERO Bloo−D》のエフェクト発動!
 君の場のモンスターを吸収して、半分のATKを得る!
 僕は《輝鳥-イグニス・アクシピター》を選ぶ!
 『クラッディ・ブラッド』!!」

《D−HERO Bloo−D》 []
★★★★★★★★
【戦士族・効果】
このカードは通常召喚できない。
自分フィールド上に存在するモンスター3体を生け贄に捧げた場合のみ特殊召喚する事ができる。
相手モンスター1体を指定してこのカードに装備する
(この効果は1ターンに1度しか使用できず、同時に装備できるモンスターは1体のみ)。
このカードの攻撃力は、装備したモンスターの攻撃力の半分の数値分アップする。
このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する限り、
相手フィールド上に表側表示で存在する効果モンスターは全て効果が無効化される。
ATK/1900 DEF/ 600

 片翼を広げて、魔力のオーラを放つ。
 アクシピターはその中に取り込まれてしまう。

「アクシピター!!」

《D−HERO Bloo−D》 ATK1900→3150

「この翼には無数の悪夢が詰まっている。
 君もこの中に取り込まれてしまえば、楽になる。
 さあ、バトルフェイズだ。
 この《D−HERO Bloo−D》は幾千の血の結晶の刃を放つ。
 さっきのドグマガイのようにそいつらも巻き込んでな。
 さあ、どうやって受け止める?
 『ブラッディ・フィアーズ』!!」

 その眼が金色に光る。
 そして、破れた翼が生き物の棲む沼地のようにドクリと波打つ。
 まずい。攻撃が来る。
 今度こそ、みんなが危ない!!

「迎え撃て!! アクイラ!!! 風を起こすんだ!」

 幾千の血の刃が放たれる。
 アクイラは竜巻を起こして、逸れさせて巻き上げる。
 地面に突き刺さる生々しい血塊。
 俺たちを囲むように血の剣山ができる。
 だけど、誰も傷つけさせやしない!!


「……………。
 驚いたな。半分のガキどもは消し去ろうと思ったのに。
 みんな生存とはな。
 精霊はもうほとんど力は残ってないが、見事なもんだ」

 アクイラは力を使って、墓地に還る。

翼のLP:750→100

「生きる意志と守る意志。
 それが発揮されれば、本能的に『力』を操ることができる。
 精霊のエナジーを現実干渉能力として変換できるのか……」

「さっきから何を言ってるんだ。
 俺の『力』って何だよ!?」

「自分でほとんど自在に操っておきながら、分からないのか。
 そのお前を今守った『力』だよ。
 僕は君を2度ダークネスの世界に帰そうと攻撃した。
 1度目はダブルガイで攻撃したとき。
 2度目はBloo−Dで攻撃したとき。
 すべて幻影のぶつかり合いなどではない。
 本物の力と現象のぶつかり合いだったんだ。
 お前は実際に土の成分を圧縮して盾を作り、そして今竜巻を起こした。
 僕とは別の原理で力を具現化させているんだ」

 ……………。
 あのとき大徳寺さんは言っていた。
 俺には何か特別な『力』があるんだって。 
 確かに今は伝わってくる。
 カードの精霊がどんな能力を持っているかの情報。
 どれだけの力が残っているかの情報が。
 そして、どうやってその力を使えばいいかが。
 どうしてこの『力』が今また目覚めて、使えるかは分からない。
 でも、俺が精霊達の力を借りてみんなを守らなくちゃ。

「カードを2枚伏せて、ターンエンドだ。
 お前のターンだ」

「俺のターン、ドロー!!」

 今はデッキの流れと意志が分かる。
 次の展開、精霊達の望むこと、今やらなくちゃいけないこと。
 アクイラはさっき風を起こしたことで、ほとんど力を使い果たした。
 だけど、この方法ならばアクイラに負担をかけずに……。
 アクイラもうなずいてくれる。
 この一撃で決める!!

「儀式魔法発動!! 《星の供物(ステラ・ホスティア)》!
 蒼き翼、音速ダック、アイビス、ノクトゥアを墓地から除外する。
 これで輝鳥を再び儀式召喚するよ!
 来い!! 《輝鳥-アエル・アクイラ》!!!」

《星の供物》
【魔法カード・儀式】
自分の墓地から儀式モンスター1体を選択する。
その儀式モンスターと種族が同じモンスター4体を
墓地から除外することで、選択した儀式モンスター1体を特殊召喚する。
(この特殊召喚は儀式召喚扱いとする)

「墓地からの儀式召喚だと?
 だが、Bloo−Dに支配された場では効果は発動できない。
 おまけに精霊としての力もほとんど使い果たした奴を呼んで、何のつもりだ?」

「そう……。もうアクイラには負担をかけられない。
 だから、使うのはアクイラの力じゃない。
 使うのはお前のBloo−Dの力だ!
 手札より魔法カード発動! 《フォース》!!」

《フォース》
【魔法カード】
フィールド上に表側表示で存在するモンスター2体を選択して発動する。
エンドフェイズ時まで、選択したモンスター1体の攻撃力を半分にし、
その数値分もう1体のモンスターの攻撃力をアップする。

《輝鳥-アエル・アクイラ》 ATK2500→4075
《D−HERO Bloo−D》 ATK3150→1575

「なにぃ……!!」

「さらに墓地から《兵鳥アンセル》の効果を発動!
 アンセルを除外することで、アクイラの攻撃力をアップ!」

《兵鳥アンセル》 []
★★★★
【鳥獣族・効果】
自分の墓地に存在するこのカードをゲームから除外して発動する。
自分フィールド上に表側表示で存在する
鳥獣族モンスター1体の攻撃力は400ポイントアップする。
この効果は相手ターンでも使用できる。
ATK/1500 DEF/1400

《輝鳥-アエル・アクイラ》 ATK4075→4475

「攻撃力4475だと!?」

「いや、まだだ! 速攻魔法《異次元からの埋葬》を発動!
 アンセルを墓地に戻して、もう一度攻撃力をアップさせる!!」

《異次元からの埋葬》
【魔法カード・速攻】
ゲームから除外されているモンスターカードを3枚まで選択し、
そのカードを墓地に戻す。

《輝鳥-アエル・アクイラ》 ATK4475→4875

 Bloo−Dとアンセルから力をもらって、アクイラがすさまじい光を放つ。
 光が火花のように散って、暗く染まった空を照らす。
 もうみんなを傷つけさせやしない。
 この一撃で決めてみせる。その正体も明かしてやる。

「お前のライフは3000! これで削りきれる!
 いっけえ! 『プラスフォース・シャイニング・トルネードビーク』!!!」

 目にもとまらないスピードで、Bloo−Dに突撃する。
 ぶつかったときに光がはじける。
 一瞬、周りが何も見えなくなる。

 倒したのかな?
 これでやっと……。

 光がおさまって現れたのは、黒ずくめの男だった。

「……罠カード《D-チェーン》を発動した。
 攻撃力を500ポイントアップさせた……。

《D-チェーン》
【罠カード】
このカードは攻撃力500ポイントアップの装備カードとなり、
自分フィールド上の「D−HERO」と名のついたモンスターに装備する。
装備モンスターが戦闘で相手モンスターを破壊し墓地へ送った時、
相手ライフに500ポイントダメージを与える。

エド(??)のLP:3000→200

「やれやれせっかくいい演技をしてきたと思ったが、明かされてしまったようだな」

「お前は……何者なんだ」

「私は固有の存在ではなく、名前を持たない。
 だが、君たちに真実を伝える者として、ミスターTとでも名乗っておこうか」

「T……?」

「君は真実を何も知らない。
 だが、君には真実に近づく力がある。
 悪いが、ここで消えてもらおう」

「でも、俺の場にはアクイラがいる。
 やられたりなんかしない!
 ターンエンドだ」

「私のターンだ、ドロー!
 ふぅむ。君にはこれまでのお礼をする必要がありそうだな。
 君の心の闇の真実を教えてやろう……」

 場が再び暗黒に包まれる。
 その暗闇が濃くなって、もう何も見えなくなる。

 そして、見えたのは――吹き荒れる嵐の災厄だった。
 全てを奪う音がする。
 その中で、ただ一人俺だけが守られていた。
 そこにたくさんの声が聞こえる。

「どうしてお前だけが……。
 誰も助からないのに助かるんだろうねぇ?」

「あの子は呪われてるから助かるんだよ。
 どんなものからも力を奪える呪われた力があるんだ。
 すごいよ。略奪の申し子だ」

「そういえば、あの子は一人だね。
 親を見捨ててでも助かろうと言うんだね」

「自分のために何でも利用できる力があるからね。
 親から奪う事なんて別に些細なことなんだよ。
 むしろしがらみがなくなって、嬉しく思ってるんじゃないか?
 誰にもしかられることなく、人から奪うことができるんだから。
 他の人はこの子の能力を知らないからねぇ。
 何をされても分からないだろうに」

「ねえ、ひょっとしてこの嵐もあの子が起こしているんじゃないのかい?
 だって、あの子だけを避ける天災だなんてあり得ないだろう?」

「なら、こいつだけ無事なことも納得できる。
 酷い子どもだなぁ。まさに悪魔の子だ」

「これからもたくさんのものを奪って、のうのうと生きていくんだよ。
 自分だけの幸せ。そして、自分の罪悪感を濁すための偽善。
 無邪気に見せかけて、腹の底では何を考えてるか分かったもんじゃないよ」
 
 やめて……。やめてよっ!!
 思わず叫ぶ。すると、視界がガラスのように割れる。


 ここはスタジアム?

「待望のルーキー!! 久白翼選手!
 ここでデビューだ!!!」

 そうだった。俺は今日プロデビュー戦だったんだ。
 ここからデュエル・スターの一歩を踏み出すんだ。
 そして、デュエルの楽しさを世界に伝えるんだ。
 どんな人もデュエルで繋がれるって訴えかけるんだ。
 よし、デュエル開始だ!
 いくぞ!!! あれ? おかしいな?
 カードの絵柄が見えない?
 どうしてだろう?
 あ、でもアクイラだけは見える?
 アクイラ、みんなどうしたんだよ!!

「私は空を飛んでいたいだけなのに。
 君は私の翼をしばりつけた。
 そして、君が私を殺したんだ」

 あ……く…………い……ら?

「誰もいないだろう?
 それはみんながお前を怖がっているからだ。
 誰だって自分の嫌いなヤツに、力を無理矢理奪われるのは嫌なのだ。
 こうしてみんなの恨みが君に巡り還る。
 お前は誰もかれもに見捨てられて、死んでしまえ」

 俺は……俺は…………。


「フフフフフ。君が生きるとは即ちそういうことだ。
 我々の虚無を受け入れて、何も考えなければいい。
 そこには苦痛も快楽も、希望も絶望もない。
 すべてが等価値で、あるのは心地よい一体感だけだ」
 
 視界が現実に戻る。めまいがする。
 アクイラ……、そんな……。
 精霊の声を聞くのが怖い……。

「フフフ。さて、そろそろ終わりにしよう。
 最高の終わりを迎えさせてあげよう」

ミスターT
LP200
モンスターゾーンなし
魔法・罠ゾーン
伏せカード×1
手札
1枚
LP100
モンスターゾーン《輝鳥-アエル・アクイラ》ATK3300
魔法・罠ゾーン
なし
手札
0枚

「リバースカードオープン。《チェーンマテリアル》。
 このターン攻撃はできないが、あらゆる場所から融合できる。
 そして、もちろん《融合》を発動!
 墓地のBloo−Dとドグマガイを除外融合……。
 来い! 《Dragoon D−END》!!!」

《融合》
【魔法カード】
手札・自分フィールド上から、融合モンスターカードによって
決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、
その融合モンスター1体を融合デッキから特殊召喚する。

「私が攻撃するのは、お前ではない。
 アクイラ自身だ。この意味が分かるな……。
 そいつはもう自身の力が残っていない。
 君が力を奪って使ったからな。
 ひねりつぶして、綺麗に亡くしてやろう。
 『デストラクション・エンド』!!」

《Dragoon D−END》 []
★★★★★★★★★★
【戦士族・融合/効果】
「D−HERO Bloo−D」+「D−HERO ドグマガイ」
このモンスターの融合召喚は上記のカードでしか行えない。
1ターンに1度だけ相手フィールド上のモンスター1体を破壊して
そのモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。
この効果を使用したターン、バトルフェイズを行う事ができない。
このカードが自分のターンのスタンバイフェイズ時に墓地に存在する場合、
墓地の「D−HERO」と名のついたカード1枚をゲームから除外する事で
このカードを特殊召喚する事ができる。
ATK/3000 DEF/3000

 腹部の龍の眼が金色に光る。
 すると、アクイラが内部から光り出す。
 まさか……やめろ。

「爆発。永遠にお別れだ」

 やめろおおおおおおおおおおおおおおお!!!

 アクイラのカードは砕け散った。
 そこで、俺の意識が途絶えた。

翼のLP:100→0



 ぷかり……ぷかり。
 真っ黒な海が広がっている。
 そこで浮いている。
 ぬるくて気持ちいい。
 何もない灰色の空が広がっている。
 このまま溶けてなくなるんだろう。
 何もかもが一つになって、何も感じなくていいんだ。
 誰かの気持ちを考えて、つらくなることなんてないんだ。

「おや、こんなところでキミと会うなんてね。
 いろんな魂が浮かんでるなぁと思ったけど、まさかキミまでいるなんて」

 あれ? 誰だろう。 話しかけてくるのは。
 女の人? 男の人? 悪魔? あれ、龍にも見える。
 ぼやけていてよく見えないや。

「あれ? ボクのことを忘れてしまったのかい?
 この体をキミが忘れるわけがないだろう?」

 体? ああ……、でもこの感触は知っている気がする。
 何も通さないくらい硬いけど、すべてを受け入れるくらい柔らかい。
 不思議な感触。

「そうか。キミも十代みたいに前世を知らないんだね。
 じゃあ、仕方ないか。」

 俺を知ってるなら……君も俺を憎いの?

「ん? それは難しい質問だねぇ……。
 ボクは今までキミを恨んでいいか感謝していいか分からなかったんだ。
 だって、キミはボクにすごく酷くて痛い思いをさせたからね。
 でも、十代の愛に包まれてからね。キミに感謝してもいいかなとも思うんだ」

 前世? 感謝?

「どうせキミもあのダークネスに変なことを吹き込まれてここにいるんだろう?
 あんなヤツの言うことなんて、何も信じなくていいよ。
 勝手なことを並べ立てているだけなんだからね。
 事実が一つあれば、その解釈なんていくらでも存在するんだよ」

 でも……、俺は……。

「ボクには十代から愛してもらえる未来があるからね。
 この未来を確信しているから、どんな過去も今は愛おしいよ。
 だって、全部が十代と一緒にいられる未来につながるんだからね。
 キミだって、自分の信じたいものを突き通せばいいんだ」

 信じられるなんて、すごいな。
 俺にはできそうにないや。

「フフフ。今は疲れているんだね。
 じゃあ、ゆっくり考えるといいよ。
 ダークネスに包まれた世界はすぐに終わるから。
 ほら、力強い声が聞こえるだろう?」

「みんな! 聞こえるか!!
 俺の声が届いているか?
 見るんだ! お前達が握ったカードを。
 たった一枚でいい! きっとそこにあるはずだ。
 そのカードを使って、いろんな奴と戦った記憶が。
 最初は何の変哲もないただのカードだったはずだ。
 それが誰かと闘う度に、闘った奴と分かち合う喜びや悲しみ。怒りや憎しみ。
 その記憶がカードには染み込んでいく。
 それはお前達が頑張ってきた歴史なんだ。
 それこそが絆なんだ。
 だから信じろよ。自分達のカードを。
 思い出せよ。そのカードで闘った奴らの顔を。
 そいつらこそが本当の仲間さ。
 つらくなったとき、俺たちの未来を支えてくれる。
 カードを信じる限り、いつだって独りなんかじゃない。
 未来に絶望なんてするな。
 俺たちは何にもやり遂げちゃいないじゃないか!!!」

「ああ、ボクの愛しい十代はやっぱり世界を救ってくれたんだね。
 ほら、手を伸ばして、キミの信じたいカードを掴むといい」

 アクイラ。でも、アクイラはもう……。

「おや、大事な精霊を壊されてしまったのかい?
 それじゃあ手に取りようがないよね。
 まったく前世はあんなにたくましかったのに、だらしないなぁ。
 仕方ないな。ボクの力で治してあげるよ。
 フフフ。ボクって親孝行だなぁ」

 アクイラが……、アクイラが戻った!!

「フフフフフ。良かったねぇ。
 さあ、こんな辛気くさい場所は早く出ちゃおうよ。
 縁があればまた会えるかも知れないね。
 きっとそのときは新しい戦いが待ってるだろうけどね。
 じゃあね。ボクは十代のところにいくよ。
 キミはキミで幸せに暮らすといい」

 カードを掴むと、光に包まれた。

 俺は再びスタジアムのまぼろしに帰った。
 そうだ。俺はまだ何もしていない。
 こんなにやりたいことがたくさんあるのに。
 たくさんあるんだ。知りたいことも、伝えたいことも、いっぱい。
 俺の『力』が何かを奪ってしまうのなら、それを使わなければいい。
 俺がいつも強い意志を持って、そんなことはさせない。
 みんなの声を全部聞くから、誰も傷つけたりしないから。
 お前たちの力を使うのは、誰かを傷つけさせないために必要なときだけだ。
 もう銀の腕輪の保護はなくなってしまった。
 この自由は少し怖いけれど、みんな……それでいいかな?
 ねえ……、アクイラ?

「私たちはいつだって翼の仲間だ。
 翼が慕ってくれれば、いつでも私たちはできるだけの力を授けよう。
 君が優しさを持つ限り、何も恐れることはない。
 君は君の守りたいものを守るんだ。
 そのために躊躇してはいけない」

「ありがとう、アクイラ。
 俺はまっすぐに羽ばたいてみせるよ」

「俺は《帝鳥ファシアヌス》を召喚する。
 さらに、手札より儀式魔法《輝鳥現界》を発動!
 呼び出すのは――俺のフェイバリットカード、《輝鳥-アエル・アクイラ》!!」

 風が収束する。
 世界が光に満ちていく。





 そして、まぼろしと夢は途絶える。

 明菜がそばにいない今に帰る。


 俺の守りたいもの。それを守るために俺は――。
 だけど、それを守ることは同時に明菜のゆずれないものを――。
 俺は、どうすれば……。


―――― ――― ―― ―


第3章 「魂の変質」に続く...

第3章(17話以降)はこちらから





章末特集2 簡易人物紹介



【メイン】:いつも出てくる

久白 翼(くしろ つばさ)
男/アカデミア1年/オシリス・レッド
使用デッキ:輝鳥(シャイニングバード) デッキ
デッキコンセプト:【鳥獣族】【光属性】【儀式召喚】
本編の主人公。元気、活発、素直。子どもっぽいが感受性は高い。
風の災厄に遭い、孤児院ルミナスで育った。夢はデュエル・スター。
カードの精霊に通じる『力』を持つ不思議な少年。

陽向居 明菜(ひむかい あきな)
女/アカデミア1年/オシリス・レッド
使用デッキ:ドラゴン・パーミッション デッキ
デッキコンセプト:【ドラゴン族】【光属性】【融合召喚】【カウンター罠】
本編のヒロイン。好戦的、強気、お人好し。
水の災厄に遭い、翼と同じく孤児院ルミナスで育った。
孤児院では家事を進んで行い、料理や洗濯はお手の物。
災厄に遭ってから目を覚まさない妹・明葉のことをいつも気にかけている。
《希望に導かれし聖夜竜》のカードを所持している。

藤原 優介
男/アカデミア3年(ただし、年齢は20歳以上)/オベリスク・ブルー
使用デッキ:エンジェル・ビートダウン デッキ
デッキコンセプト:【天使族】【光属性】【ライフ回復】
フリークス・バスターズの代表。慎重、生真面目、隠れナルシスト。
過去に「カイザー亮」「ブリザードプリンス吹雪」と並ぶ
デュエルの貴公子として、その才能には一目置かれていた。
かつてダークネスの力に魅入られ、学園を危機に陥れた。
現在は改心して、先輩として信頼されている。
カードの精霊オネストと強い絆で結ばれている。

早乙女 レイ
女/アカデミア2年(飛び級したため、まだ14歳)/オベリスク・ブルー
使用デッキ:ミスティック・ファンタジー デッキ
デッキコンセプト:(種族無し)【光属性】【ライフ回復】
フリークス・バスターズの副代表。活発、意地っ張り、世話好き。
2年前のジェネクス大会準優勝の功績により、アカデミアに編入。
ボーイッシュなファッションを好むが、恋愛を何よりも重要視する。


【サブ】:よく出てくる

斗賀乃 涯(とがの がい)
男/アカデミア教員/年齢不詳
使用デッキ:???
精霊学を担当している神秘的な容貌をした男性。


クロノス・デ・メディチ
男/アカデミア教員/年齢不詳
使用デッキ:古代の機械 デッキ
フリークス・バスターズを見守る顧問。
デュエルの実技担当の筆頭であり、その腕前も折り紙つき。
変な日本語をしゃべるが、根は誠実で校長や生徒からの信頼も厚い。

シルキル(シルバー・キルン)
男/不審者/年齢不詳
使用デッキ:覇界幻獣 デッキ
正体不明の謎のサイエンティスト。精霊と融合させられている。
強さを盲目的に追い求めるために、さらにイルニルの残滓とも融合を果たす。
それによって力を得たものの、引き換えに人間のときの記憶を失ってしまった。
しかし、力を探求する姿勢は純粋そのもので、デュエルを通じて翼と心を通わせた。
今はかつて自分が信じた主を確かめるために、その基地に戻っているが……。

【モブ】:たまたま出てきた

イルニル(インクレディブル・アニマル)
男/不審者/年齢不詳 使用デッキ:動物パラダイス デッキ
正体不明の謎のサイエンティスト。精霊と融合させられている。
不審者ではあるものの、気の良い動物園のおじさんのような人柄で、
デュエルをしながら、翼と意気投合していた。
しかし、デュエルに負けたことで、自壊効果を誘発させられる。
彼が森の中で砕け散ったところから、精霊をめぐる物語が始まった。

鏡原 英志(かがみはら えいじ)
男/孤児院オーナー/現在61歳
使用デッキ:ほとんどのデッキを使いこなせる
翼や明菜の育った孤児院ルミナスのオーナー。
心優しく、話し好き、子供好き。
プロデュエリストの開祖として有名であり、
かつてデュエル・スターとして尊敬を集めていた。

ティラノ剣山
男/アカデミア3年/ラー・イエロー
使用デッキ:迫力満点ザウルス デッキ
デッキコンセプト:【恐竜族】【地属性】【上級モンスター】
恐竜を心から愛するデュエリスト。兄貴体質。
かつては不良だったが、現在は学園の秩序を守る。
豪快な性格だが、気配り上手で抜け目がない。

万丈目サンダー
男/アカデミア卒業生/プロデュエリスト
デッキコンセプト:おジャマ&ドラゴン デッキ
万丈目財閥の末弟であり、プロとして活躍中。
トラブル続きの学園生活で鍛え上げたカリスマで、お茶の間の人気者である。
デュエル界の制覇を目指して、おジャマの精霊と一緒にデュエルに励む。

丸藤 翔(まるふじ しょう)
男/アカデミア卒業生/新プロリーグ開催準備中
デッキコンセプト:サイバー流+ビークロイド デッキ
丸藤 亮の弟であり、サイバー流デッキの継承者。
兄の療養生活を手伝いながら、新たなプロリーグ開設の準備をしている。
まだまだ他人頼りでお調子者なところもあるが、目下成長中。

黒永 司(くろなが つかさ)
男/アカデミア1年/ラー・イエロー
使用デッキ:破滅剣士 デッキ
デッキコンセプト:【戦士族】【闇属性】【デュアル】
ひねくれ者の孤高デュエリスト。

孤宇月 唯那(こうづき ゆいな)
女/アカデミア1年/ラー・イエロー
使用デッキ:マジックエルフ デッキ
デッキコンセプト:【魔法使い族】【闇属性】【魔力カウンター】
クールで快楽主義の戦略通。

兼平 子規(かねひら しき)
男/アカデミア2年/オベリスク・ブルー
使用デッキ:グレ兄貴!目指せ花園! デッキ
デッキコンセプト:【戦士族】【地属性】【通常モンスター】
明菜をいつも見守っている。

柚原 正美(ゆずはら まさみ)
女/アカデミア2年/オシリス・レッド
孤宇月を心よりお慕い申し上げている。





第3章(17話以降)はこちらから






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