神の名を受け継ぎし者達
前編

製作者:ショウさん




prologue(序章) 始まりは過去――1つの絆が壊れし時

 空は厚い雲に覆われ、闇を生み出していた。そんな厚い雲からは、雨が降り注いでおり、地面を濡らしていく。また、雷も幾度となく落ち、強い風も吹いていた。

 そんな中、とても広く、殺風景とも呼べる、何も無い荒野の中央で、20代後半の男が2人立っていた。1人は髪が赤茶色、もう1人は黒に染まっていた。黒髪の男は、大きなマントを着込み、首から下が全く見えない状態だった。
ガイアァッ!!
 不意に、赤茶色の髪をした男が、黒髪の男に向かって、大きく叫んだ。強く振り続ける雨の音に負けないよう、大きく。
 黒髪の男――ガイアと呼ばれた者は、ゆっくりと振り返り、赤茶色の髪の男を見つめる。その目は、鋭く、冷たく、ドブ川が腐ったような色をしており、それはまるで、全てを恨んだ者の目のように見えた。
「シン・・・!この“世界”は、腐っている!!そう・・・思わないか?」
 ガイアはゆっくりと口を開き、赤茶色の髪の男――シンと自分が呼んだ者に問いかける。だが、シンはガイアの言葉を聞くと、目を鋭くして、ガイアを睨みつける。その瞳は、何重にも重なっており、全てを見通すかのような瞳となっていた。
「思わないッ!!だから・・・!“邪神”の復活を止めるんだ!!」
 シンが叫ぶ中、荒野から遠く離れた場所では、大勢の者達が剣を振り、戦い合っていた。その上空では、剣を振っている者達が召喚したモンスターも飛び交い、激突している。
 シンの言う、「“邪神”の復活」――それが、こんな醜い争いを呼び起こしたのだ。
 シンの叫びを聞き、ガイアは小さくため息をついた。そして、巨大なマントから自分の左腕をスッ――と出した。そこには、盤状の機械が装着されており、ガイアが少しだけ力を加えた瞬間、展開し、骨ばった翼のような物が盤状の機械から出現した。そこには、5枚のカードが置けるスペース、5枚のカードを差し込めるスペースがあった。
「戦うしか・・・ないのか・・・?」
 シンが心の底から、声を絞り出し、震える様な声で、聞いた。悲しみで顔が歪んでいる。だが、ガイアからの返答は無かった。
 シンは静かに懐からガイアと似た盤状の機械を取り出し、左腕に装着する。その瞬間、骨ばった翼とは正反対の白く綺麗な翼が出現する。更に、骨ばった翼同様の5枚のカードが置けるスペース、5枚のカードを差し込めるスペースがあった。
 互いの盤状の機械には、40枚位のカードの束がセットされていた。
 2人は、ゆっくりとその束の上から、5枚のカードを取り、左手でしっかりと握る。

 そして、静かにそのカードで戦う、デュエルが始まる。






――デュエルッッ!!!


 シンとガイアが同時に大きく叫ぶ。その叫びは、空から降り注ぐ雨の音よりも遥かに大きく、どんな者の心にでも響き渡るかのようであった――。
 そして、ガイアはカードの束、いわゆるデッキの上に静かに手を置いた。
「オレの先攻・・・、ドロー!!」
 素早くガイアはデッキの上からカードを1枚引き、じっくりと見つめる。

ドローカード:マジックブラスト

 ガイアは引いたカードを持ち返ると、別のカードを取り出し、骨ばった翼の上に力強く、叩きつけるように置いた。
「出でよ・・・“召喚僧サモンプリースト”!!」
 ガイアの叫びと同時に、ガイアの目の前にフードで体と顔を覆った不思議な魔法使いが出現する。それは幻覚や幻想などではなく、本当の魔法使いであった。魔法使いの出現を確認すると、ガイアは先程引いたカードを手に取り、静かに盤状の機械の穴に入れ、墓地に送った。
「“サモンプリースト”の効果発動――、手札の魔法カードを墓地に送る事で、デッキからレベル4のモンスター1体を特殊召喚する!!」

召喚僧サモンプリースト
効果モンスター
星4/闇属性/魔法使い族/攻800/守1600
このカードは生け贄に捧げる事ができない。
このカードは召喚・反転召喚が成功した場合守備表示になる。
自分の手札から魔法カード1枚を捨てる事で、
デッキからレベル4モンスター1体を特殊召喚する。
この効果によって特殊召喚されたモンスターは、そのターン攻撃する事ができない。
この効果は1ターンに1度だけ自分のメインフェイズに発動する事ができる。

 そんなガイアの言葉のすぐ後に、先程墓地に送ったマジックブラストが小さく輝く。それと同時に、魔法使いは静かに呪文の詠唱を始める。その呪文詠唱が終わると、ガイアのデッキが大きく輝き、カードが1枚勝手に抜かれ、場に出される。
「“聖鳥クレイン”!!攻撃表示で特殊召喚だ!!」
 次にガイアの目の前に出現したのは、白い体をした聖なる鳥であった。
「そして、“クレイン”の効果発動!デッキの上から、カードを1枚ドローする!」
 ガイアは勢いよくデッキの上からカードを1枚引き、手札にスッ――と加えた。

ドローカード:クリッター

聖鳥クレイン
効果モンスター
星4/光属性/鳥獣族/攻1600/守400
このカードが特殊召喚した時、
このカードのコントローラーはカードを1枚ドローする。

 その後、ガイアは手札の中からカードを1枚選ぶと、そのカードを骨ばった翼に差し込み、静かにターンエンドを宣言した。

ガイア LP:4000
    手札:4枚
     場:召喚僧サモンプリースト(守備)、聖鳥クレイン(攻撃)、リバース1枚

 シンはガイアの戦術を見て、いつも使う戦術とは違う、という事を感じ取っていた。
 ガイアはいつも、守備力の高い、もしくは何らかの特殊能力を持つモンスターを守備で固め、守りに徹する、という戦術であったのに対し、今回の戦術は、“圧倒的な攻め”が感じ取れた――。
(そうか・・・、ガイア・・・。お前は・・・!!)
 シンは何かを悟り、ちょっとした諦めを感じると、デッキの上からカードを1枚、力強く引き、サッと手札に加えた。

ドローカード:サイバー・ドラゴン

 シンが引いたカードを見たとき、再び何かを悟り始める。
(安心しろ、ガイア・・・。“闇”に行くのは、お前だけじゃない・・・。いや、お前を救うために、オレも“闇”に行ってやるっ!!)
 シンはそのまま引いたカードを手札に加えることなく、場に出した。
「出でよ・・・、“サイバー・ドラゴン”・・・、攻撃表示で特殊召喚!!」
 シンがそのカードを場に出した瞬間、巨大な機械龍がシンの目の前に出現した。

サイバー・ドラゴン
効果モンスター
星5/光属性/機械族/攻2100/守1600
相手フィールド上にモンスターが存在し、
自分フィールド上にモンスターが存在していない場合、
このカードは手札から特殊召喚する事ができる。

 シンは続けて手札のカードを1枚手に取り、発動する。
「そして、手札から“洗脳―ブレインコントロール”を発動する・・・!!」
 シンが出したカード――そのカードは、敵のモンスター1体のコントロールを得るカード。次の瞬間、小さな衝撃と光と共に、白い体をした聖なる鳥はシンの目の前に向かっていく。

洗脳―ブレインコントロール
通常魔法
800ライフポイント払う。
相手フィールド上の表側表示モンスター1体を選択する。
発動ターンのエンドフェイズまで、選択したカードのコントロールを得る。

 聖なる鳥がシンの目の前に辿り着くと、その体は、光の粒子へと変わっていく。そして、光の粒子は聖なる鳥とは全く別のモンスターを作り出していく。
「“クレイン”を生贄に捧げ・・・、2体目の“サイバー・ドラゴン”を攻撃表示で召喚する!!」
 シンの場に現れたのは、2体目の機械龍。
 2体の機械龍は怒りと悲しみ、2つの感情を持っていた。
 だが、シンの掛け声と共に怒りと悲しみは、“攻撃”という、全く別の感情へと変化する。
「“サイバー・ドラゴン”で、“クレイン”に攻撃!!!」


エヴォリューション・バースト―――!!


 機械龍の口から放たれたエネルギー。そのエネルギーは光線(ビーム)となり、ガイアの目の前に聳えた魔法使い及びガイア自身を狙う。
 だが、ガイアは無表情で先程伏せていたカードを静かに発動させた。
「“和睦の使者”発動――」

和睦の使者
通常罠
このカードを発動したターン、相手モンスターから受ける
全ての戦闘ダメージを0にする。
このターン自分モンスターは戦闘によっては破壊されない。

 目に見えないバリアがガイアとガイアを従う魔法使いを守った。
 その光景を見て、シンは少しだけがっかりするが、ガイアは不敵な笑みを浮かべ、シンを見下し始める。そんなガイアの姿から、もう既に、シンとガイアの間にある脆い絆は、崩れ去っているんだという事が読み取れる――。
 シンはカードを2枚伏せると、ターンエンドをぼそっと独り言のように言った。

シン LP:4000
   手札:1枚
    場:サイバー・ドラゴン×2(攻撃)、リバース2枚

 ガイアは自分のターンだと判断すると、カードを力強く引きながら、シンに話しかける。
「やっぱりだな、シン・・・。昔よりは、強くなったが、詰めが甘い。肝心な所で、伏せカードを見逃し、結局“敵にチャンスを与える”んだから!!!」
 ガイアは突然叫び出すと、自分の引いたカードを見つめ、小さく喜んだ。

ドローカード:ゴッドバードアタック

「オレはカードを1枚伏せ、手札の魔法カードを1枚墓地に送り、再び“聖鳥クレイン”を特殊召喚ッ!」
 流れるような手つきでガイアは、カードを出していく。そして、再び目の前に、白い体をした聖なる鳥が現れたかと思うと、素早くデッキの上からカードを1枚ドローする。

ドローカード:砂塵の悪霊

 ガイアは引いたカードを見て、少し顔を歪めてしまう。
 今、この引いたカードを使えば、ガイアにとって、圧倒的に有利な状態を作り出す事が出来る・・・。
 だが、ガイアの求めているデュエルは、そうではなかった。
 ニィッ――と、大きく笑うと、今引いたカードは、手札の隅に置き、何も無かったかのようにして、別のモンスターをセットし、更にカードを1枚伏せると、ターンエンドを宣言する。

ガイア LP:4000
    手札:3枚
     場:召喚僧サモンプリースト(守備)、聖鳥クレイン(守備)、裏守備1枚、リバース2枚

(オレは・・・!!)
 シンはピッ――とカードを1枚引き、手札に加える。

ドローカード:オーバーロード・フュージョン

(オレは・・・ッッ!!!!)
 シンは自分の手札のカード2枚を力強く見つめる。

手札:プロト・サイバー・ドラゴン、オーバーロード・フュージョン

 シンは自分が伏せていたカード2枚と、手札のカード2枚を確認すると、「いける!」という、確かな感触を掴んだ。だが、ガイアの表情は、“偽り”の邪悪な笑みだけになっており、その表情は、シンのその感触をぶち壊すものであった。
 ガイアは、シンがカードを出す直前に「待った」をかけ、伏せていた罠カードを発動させる。
「リバースカード、オープンッ!!」








―――――“ゴッドバードアタック”ッッ!!





ゴッドバードアタック
通常罠
自分フィールド上の鳥獣族モンスター1体を生け贄に捧げる。
フィールド上のカード2枚を破壊する。


 ガイアが発動したカード。
 それは、決別の一撃を示すカードであった――。
 シンとの“絆”を砕くために発動したカード・・・。


 ガイアの目の前にいた聖なる鳥が突然燃え出す。すると、その姿はまるで不死鳥となり、空高く舞い上がる。不死鳥は、2体の機械龍に狙いを定め、一気に落下する。
「このカードの効果でオレは!2体の“サイバー・ドラゴン”を破壊する!!」




ドォオオオオオオオオオオオオオオッ―――!!!



 巨大な炎の柱が空高く昇り、2体の機械龍を一瞬のうちに焼き払っていく。シンはその炎の柱、残骸となった機械龍を透してガイアの姿を見た。
 既に、自分の思っていたガイアの面影は消えていた・・・。澄んだ瞳はどす黒く濁り、綺麗に整えられていた黒髪はボサボサで逆立っていて、何よりも違っていたのは、心の中。ガイアの心の中にある“正義”という文字が消えていた。


 炎の柱と不死鳥、そして2体の機械龍が消えた。

(やっぱりもう・・・、お前は“闇”に飲み込まれてしまったのか・・・!?)
 シンは、目から涙を一粒こぼす。それと同時に、シンは歯を力強く喰いしばった。どこに吐き出せば良いのか分からない怒りが、シンの中から込み上げてきていたからだ。
「オレは・・・、手札から“プロト・サイバー・ドラゴン”を召喚する」
 シンの目の前に現れたモンスターは、今までの機械龍とは一回り小さく、体が少し黒く、濁った色をしていた。だが、何処と無く機械龍と似ている点がある。黒き機械龍は、悲しみの咆哮を上げる。――まるで、シンの感情を代弁するかのように・・・。

プロト・サイバー・ドラゴン
効果モンスター
星3/光属性/機械族/攻1100/守 600
このカードはフィールド上に表側表示で存在する限り、
カード名を「サイバー・ドラゴン」として扱う。

「そして・・・、リバースカード――“デビル・コメディアン”発動」
 シンが伏せていたカードを発動した瞬間、シンとガイアの間に、巨大な短剣(スティレット)を握った悪魔のようなモンスターが姿を現した。それと同時に、そのモンスターの目の前で、コインが回転しながらゆっくりと落ちていく・・・。
「フン・・・。オレの墓地のカードを除外したいのか?だが、オレのデッキは、“墓地依存型”じゃないぞ?」
 ガイアは、シンを馬鹿にするような言い方をしながら、小さく笑っている。
 その間にも、コインは地面に落下し、「裏」を示した。
「ハハハハハ――ッ!!こいつぁ、面白ぇ!自分で発動したカードによって、自分のデッキを減らされるんだからなぁ!!」
 ガイアがそう叫んでいる間に、シンとガイアの間に現れたモンスターは、シンの方を向き、シンのデッキをその短剣(スティレット)で切り裂いた。切り裂かれたカードの枚数は、全部で6枚――。切り裂かれた6枚のカードは、シンの墓地に送られた。その中には、“死者蘇生”や“パワー・ボンド”といった強力なカードも含まれていた。

デビル・コメディアン
通常罠
コイントスで裏表を当てる。
当たりは相手の墓地のカードを全てゲームから除外する。
ハズレは相手の墓地のカードの枚数分、
自分のデッキの上からカードを墓地へ送る。

「サァ・・・、どうするんだぁ?お前のデッキの強力なカードは、ほぼ全て墓地に送られたぞぉ・・・?」
 ガイアがシンにそう聞くと、シンもまた、大きく笑って見せた。
「悪いな、ガイア・・・。作戦通りだ!!」
 シンは残り1枚のカードを右手で持ち、ゆっくりと左腕の機械に差し込んだ。

 次の瞬間、シンの目の前にいた機械龍と、墓地の中で嘆いていた機械達が、シンの目の前で交わり、新たな1体のモンスターを生み出そうとしていた・・・。
「まっ・・・、まさか・・・!そのカードは・・・!!?」
 ガイアは、目の前で起きている光景を見て、シンの発動したカードを察する。



 魔法カード、オーバーロード・フュージョン――。


オーバーロード・フュージョン
通常魔法
自分フィールド上または墓地から、
融合モンスターカードによって決められたモンスターをゲームから除外し、
闇属性・機械族の融合モンスター1体を融合デッキから特殊召喚する。
(この特殊召喚は融合召喚扱いとする)


「お前が“邪神”を復活させる、そう言った時からデッキに忍ばせていたカード――。このカードで、オレも“闇”に行く・・・」






―――お前を救うためにもッッ!!


「更にチェーンして、リバースカード、“メテオ・レイン”を発動するっ!!」

メテオ・レイン
通常罠
このターン自分のモンスターが守備表示モンスターを攻撃した時に
その守備力を攻撃力が越えていれば、その数値だけ相手に戦闘ダメージを与える。

 シンが新たなカードを発動している間にも、シンの目の前には、新たなモンスターが出現していた――。





“キメラテック・オーバー・ドラゴン”――





降臨――ッッ!!



 5つの機械龍の頭を持った、新たな機械龍が姿を現した――。


キメラテック・オーバー・ドラゴン
融合・効果モンスター
星9/闇属性/機械族/攻 ?/守 ?
「サイバー・ドラゴン」+機械族モンスター1体以上
このモンスターは融合召喚でしか特殊召喚できない。
このカードの融合召喚に成功した時、
このカード以外の自分フィールド上のカードを全て墓地へ送る。
このカードの元々の攻撃力と守備力は、
融合素材にしたモンスターの数×800ポイントの数値になる。
このカードは融合素材にしたモンスターの数だけ
相手モンスターを攻撃する事ができる。

キメラテック・オーバー・ドラゴン 攻/守:?→4000

「何故、機械族が5体も・・・!?」
 ガイアは驚いていた。本来、ガイアが見る限りでは、機械族、つまり今回の融合素材となったモンスターは、全部で3体のはず。だが、そんなガイアの疑問は、すぐに解決してしまう。
「そうか・・・、“デビル・コメディアン”か・・・」
 ガイアは、つぶやくようにそう言った。


(すまない・・・、ガイア・・・ッ!!)


――――エヴォリューション・レザルト・バーストォオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!


 貫通能力を持った光線(ビーム)が、1体目の機械龍の口から放出され、ガイアの目の前の魔法使いを襲う。
「くっ・・・!リバースカード、“シフトチェンジ”!!」

シフトチェンジ
通常罠
相手が魔法・罠・戦闘で自分のフィールド上モンスター1体を指定した時に発動可能。
他の自分のフィールド上モンスターと対象を入れ替える。

 ガイアが、咄嗟に発動したカードの効果によって、機械龍の光線は、裏側となっているモンスターを一瞬のうちに消滅させる。そのモンスターは、3つ目のモンスター――クリッターであった。

ガイア LP:4000→600


「これで・・・、“終わり”だぁあああああああああああああっ!!!!」



 2発目の光線が、ガイアの目の前に聳える魔法使いと、ガイア自身を狙う。

 ガイアはどれだけの恐怖を抱いていたのだろうか・・・?それは、分からない。
 ただ、ガイアはニィッ――と、小さく笑って見せた。その笑みは、昔の、闇に飲み込まれていなかったガイアのものであった――。




ドッ――!!!!





 巨大な爆発音と共に、ガイアのデッキが辺り一面に散らばり、カードが地面に落ちると同時に、ガイアも地面に倒れた。
 シンは倒れたガイアの方に向かい歩き始める。その時、シンの目に留まった物が1つだけあった・・・。
 それを見ると、シンは涙を流し、その場から離れ、風のように去っていった。


 散らばりながらも、たった1枚、ガイアの手から離れなかったカード。

 それは、クリッターの効果で、ガイアの手札に加わっていたクリボーであった――。
「くっ・・・、ガイアァアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」
 シンは叫んだ――。
 “闇”になって、ガイアを救うと誓ったのに・・・、助けると誓ったのに・・・、助ける事が出来なかったから・・・。

(じゃあな、ガイア――。オレはもう疲れた・・・。デュエルももう止めよう・・・)
 シンは盤状の機械に取り付けられていたデッキを取り出すと、力を入れることなくそれを捨てる。40枚近くのカード全てが、風と共に、遥か彼方へ飛ばされていく。
(“現実世界(リアル・ワールド)”で、永遠の休息を――)
フッ・・・
 シンの姿が――消えた。

「父ちゃぁああああああああああああんっ!!!」
 シンの姿が消えたと同時に、5歳位の子供の叫びが、何も無い荒野に響き渡った――。


 15年前に起きた、この戦いが全ての始まりでもあった――。
 そして、時は“現在”へ――。



第1章 神崎翔(かんざきかける)――集え!絵札の三銃士!!

何処にでもありそうなごく普通の一軒家。
その中に入り、玄関のすぐ近くにある階段をのぼり、2階の廊下の突き当りを右に曲がった所にある扉。そこを開くと、扉のすぐ近くに勉強机が置かれ、机のすぐ隣にはカードが入ったケースが2,3個。そして部屋の隅っこに置かれたベッドの上で1人の少年が静かに眠っていた。
不意にジリジリジリジリ!!――という大きな目覚まし時計の音がその部屋中に鳴り響く。少年はベッドの中から、ニョキッ――と、手だけ出し、手探りで時計を探し当てると、力強く叩き、その音を止める。そして、少しの間を置いて、その少年は目覚める。
「アー・・・よく寝た・・・!」
少年はベッドの上で、力強く両腕を天井に向けて伸ばし、背伸びをすると、ゆっくりとベッドを降り、扉を開け、部屋から出た。その少年は、寝起きのためかボサボサの髪をしており、色は少し赤茶が混じった黒であった。

この少年の名は神崎翔――
本人曰く、よく間違われるらしいのだが、GXとかいうアニメに出てくる翔(しょう)では無い。翔(かける)である。

翔は部屋から出ると、ボサボサの髪を右手でかきながら、階段を下り、1階のリビングへと向かった。そこにはストレートで長い栗色の髪をした女の人が台所で朝食を作っているところであった。この者が、翔の母親、神崎奈々(かんざきなな)である。
「あれ、親父は?」
翔が父親がいないことに気づき、奈々に軽い気持ちで聞いた。
その時――!

「かぁけぇるぅうううううううう!!」
ドッ!!
翔の父親、神崎克(かんざきまさる)の叫びと共に、克のドロップキックが翔に直撃――翔は見るも無残に吹き飛ばされてしまった。
「お早う、翔!」
克の少し遅いタイミングの挨拶を聞き、翔の中には、既に怒りしかなかった。
「親父ィ・・・、いきなり何なんだよ!!」
翔が殴りかかろうとした瞬間、奈々の鉄拳制裁を受け、翔だけではなく、克までもが、ソファーに静かに座り、朝食が出来るのを待っていた。2人共、右頬が大きく腫れあがり、苦笑いを浮かべていた。

朝食を待っている間に、何を思い出したか克が翔に話しかける。
「翔、お前確か今日、“デュエル・スクール”の進級テストだったよな?」
「ぅん・・・?あぁ、そうだけど」

デュエル・スクール――

それは、一般的な中学校で教える9教科(国語、社会、数学、理科、英語、美術、技術、家庭、保健体育)だけでなく、特別授業として、週に3回、“デュエル”という教科が存在する学校である。
“デュエル”では、まずカードの種類という基礎的な知識を覚える所から始まり、数多くのデュエルの知識を覚え、最後には実戦という形の授業スタイルをとっている。
しかし、この学校は進級するために、2つの条件が存在する。
まず1つ目は、筆記テストで決められた点数以上の点を取る事。
これは、普段の授業を聞いていれば誰にでも出来る簡単な問題のテストのため、これで進級出来ない者はまずいない。

だが、問題なのはもう1つのテスト――
実技だ。
実技テストでは、クラスの中の誰か、くじで決められた相手とデュエルをするというもの。勝ち負けという結果では無く、デッキ構成やデュエル時の戦術を主に見られ、条件に当てはまっていれば合格というもの。

そして、今中2である翔にとって、今日は大事な実技の方のテスト――
これに落ちれば、中3にあがれず、中2をやり直す事になってしまう。
翔は昨夜に念入りにデッキを調整し、デッキを完成させたが、まだ不安が残っていた。
不安そうな翔の顔を見て、克はポケットから何かを取り出した。

“お守り”だ――

少し小さめのお守りで、中央には“守”と書かれてある。
「これをやるよ」
克は翔に言った。
だが、翔は少し抵抗があった。
「いや、いいよ。それは、親父が大切にしている“お守り”だろ?」
そう。
克が翔に渡そうとしているお守りは、克が長年大事に肌身離さず持っていた物。
気持ちはありがたいが、受け取りにくいという気持ちが、翔にはあった。
「良いの!あ・げ・る・の!」
ササササッ・・・
克は素早く翔のズボンにお守りをくくりつけた。
翔はそれを何とか取ろうとするが、克は固く結んだため、全く取れる様子が無かった。
「くそっ!取れねぇ!!」

そんなことをしている間に、奈々が朝食を完成させ、翔と克に運ぶよう促した。

朝食を食べ、克と奈々に見送られ、家を出た翔――


右肩にリュックをかけ、その中には決闘盤(デュエルディスク)と呼ばれるカードの絵柄を読み取って、立体化させる装置が入っていた(形状はGXと同じ)。
ズボンのベルトの部分には丹精込めて作り上げたデッキが入ったデッキケースがつけてあり、そのすぐ隣には克からもらったお守りが取り付けてあった。

「よし・・・!」
気づいたら翔はデュエル・スクールの校門前に立っていた。
緊張せず、力をスッ――と込めると、勢いよくデュエル・スクールの中へと入っていく。
玄関には先生が数人立って、受付をしており、翔は目の前に差し出されたノートにサラサラと自分の名前を書き、ネームプレートを受け取った。そこには、自分の名前である“神崎翔”と、対戦相手である“神吹有里(かんぶきゆうり)”、計2名の名前が書かれてあった。

対戦相手は前もってくじを引き、決まっていたのだ。


指定された教室――2−Aの前に翔はたどり着いた。
そこにも先生が立っており、翔はその先生と目を合わせると、先生は静かにうなずいた。これが、教室に入っていいという合図だ。
翔はゆっくりと入り、教室の中央に立つ。
目の前には、ネームプレートにも書かれてあった対戦相手“神吹有里”が立っていた。
髪は短く肩ぐらいまでしかなく、色は黒。背はざっと160ちょっとという所か。
その“少女”は既にデュエルディスクを左手に装着し、デッキもセットしてあった。

翔と有里――

「有里・・・いくらお前でも、今回は手加減はしないぜ!!」
翔はリュックからデュエルディスクを取り出すと、リュックを遠くへ投げ飛ばし、デュエルディスクを左手に装着する。
「あんたとのデュエルは勝ったり負けたりだけど・・・、やっぱり・・・、負けられない!!行くよ、翔!!」
有里の叫びと共に、翔はデッキをデュエルディスクにセットする。

2人のデュエルディスクが展開し、電源もが入った――

嵐の前の静けさというべきか・・・、数秒間の沈黙を挟み、デュエルが始まる――



デュエル―――!!!!




翔  LP:4000
   手札:5枚
    場:無し

有里 LP:4000
   手札:5枚
    場:無し


「先攻はオレだ!オレのターン、ドロー!!」
翔は勢いよくデッキの上からカードを引き、そのカードを見つめる。
引いたカードは、デッキの中で最も信頼できるカードの1つであった。

ドローカード:クィーンズ・ナイト

「よし!オレは、“クィーンズ・ナイト”を攻撃表示で召還!!」
翔が先程引いたカードを力強く場に出すと、翔の目の前に赤い鎧を着込んだ女の戦士が出現した。トランプの絵柄をモチーフにしており、クィーンズ・ナイトが意味するのはもちろん、トランプのQ。

クィーンズ・ナイト
通常モンスター
星4/光属性/戦士族/攻1500/守1600
しなやかな動きで敵を翻弄し、
相手のスキを突いて素早い攻撃を繰り出す。

「カードを1枚伏せ、ターンエンドだ!」
翔は手札からカードを1枚抜き取ると、デュエルディスクに差し込み、ターンエンドを宣言した。

翔  LP:4000
   手札:4枚
    場:クィーンズ・ナイト(攻撃)、リバース1枚

「私のターンね?」
有里は待ってましたといわんばかりの表情を浮かべ、デッキの上から素早くカードを引き、手札に加えた。引いたカードを含め、手札のカード全てに目を通すと、今、自分が何をすべきかを判断し、手札のカード1枚を取り出し、場に出す。
「私は、“豊穣のアルテミス”を攻撃表示で召還する!!」
有里の叫びと共に現れたモンスター。
背には白い翼が生え、体全身はまるで機械仕掛けにしているようであった。肩の部分からは、青紫色をしたマントを羽織っている。
その姿はまるで天使――

豊穣のアルテミス
効果モンスター
星4/光属性/天使族/攻1600/守1700
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
カウンター罠が発動される度に自分のデッキからカードを1枚ドローする。

クィーンズ・ナイト 攻:1500

豊穣のアルテミス  攻:1600

わずか100ポイントの差――
だが、この差が大きな差となり、デュエルを覆すきっかけにもなりうる。

「“アルテミス”で、“クィーンズ・ナイト”に攻撃!!」
有里の目の前に聳える天使は、自分の目の前に、自分と同じくらいの大きさをした半透明な球体状のエネルギーを作り出す。そして、そのエネルギーを瞬時に凝縮させ、翔の目の前に立つ女戦士に向け、解き放った。
女戦士は左手に握る剣で、迎え撃とうとするが、そんな暇すら与えず、エネルギーは女戦士を一気に飲み込んでいく。
「くっ・・・!!」
立体映像とはいえ、衝撃は、現実の衝撃――
翔は自分のモンスターが倒された悔しさもあったが、倒されぬようその衝撃に耐えることの方を優先させた。

翔  LP:4000→3900

「メインフェイズ2で、カードを2枚伏せ、ターンエンドね。」
有里は、翔が衝撃に耐えている間に、すんなりと次の動作を進め、ターンを終えていた。

有里 LP:4000
   手札:3枚
    場:豊穣のアルテミス(攻撃)、リバース2枚

翔は多少驚きながらも、気持ちを切り替え、サッとドローする。

ドローカード:融合

翔の引いたカード、それは複数のモンスターを束ねる“結束”のカード。
だが、翔の手札には“結束”、絆を意味するカードはもう1枚存在していた。

それはさておき、翔は引いたカードを自分の手札に加えると、すぐさま先程伏せたカードを発動させる。
「オレは、リバースカード!“リビングデッドの呼び声”を発動する!!」

リビングデッドの呼び声
永続罠
自分の墓地からモンスター1体を選択し、攻撃表示で特殊召喚する。
このカードがフィールド上に存在しなくなった時、そのモンスターを破壊する。
そのモンスターが破壊された時このカードを破壊する。

墓地に眠る死者を呼び起こすカード――
翔の目の前には先程、天使によって破壊されてしまった、女戦士が立っていた。右手に握る盾は傷つき、左手に握る剣の刃も欠け、息も荒々しい。だが、苦しむことなく立ち続ける。
「一気に行くぜぇ・・・!!オレは、“キングス・ナイト”を攻撃表示で召還する!!」
翔の目の前に現れたのは、またもやトランプの絵柄をイメージした戦士であった。
鎧は頑丈で、攻撃、防御を共に行ってくれそうな物ではあったが、肝心のその戦士は、少し年老いていた。“キングス”なので、キングス・ナイトの意味する絵柄はK。

「まだだぞ!“キングス・ナイト”の特殊能力により、デッキの中から“ジャックス・ナイト”を特殊召還する!!もちろん、攻撃表示だぁ!!」

翔のデュエルディスクにセットされていたデッキが光り輝くと、1枚のカードが抜かれ、場に置かれる。それにより立体化した戦士が翔の目の前に立っている。
青い鎧を着込んでいる青年の戦士。とてもスラッとした剣を右手で握り、頑丈そうな盾を左手で握っている。――意味する絵柄はJ。


ここに、トランプで言うJ(11)、Q(12)、K(13)が揃う。



“絵札の三銃士”――


召還!!!



キングス・ナイト
効果モンスター
星4/光属性/戦士族/攻1600/守1400
自分フィールド上に「クィーンズ・ナイト」が存在する場合に
このカードが召喚に成功した時、デッキから「ジャックス・ナイト」
1体を特殊召喚する事ができる。

ジャックス・ナイト
通常モンスター
星5/光属性/戦士族/攻1900/守1000
あらゆる剣術に精通した戦士。
とても正義感が強く、弱き者を守るために闘っている。


戦いは始まったばかり――


戦いは、デュエルは、ここから加速(アクセル)を始める!!



第2章 神吹有里(かんぶきゆうり)――降臨する冥王竜

翔の目の前には、3体の戦士が立っていた。
それぞれが、それぞれトランプの絵柄をイメージしており、特徴的な鎧と剣、それに盾があった。その3体が立っているだけでも、かなりの迫力を醸(かも)し出しており、有里も少しだけ後ずさりしてしまう。
だが、翔がそれだけで終わるはずがなかった。

4枚の手札の中にある1枚の魔法カード――“融合”。

このカードが、3体の戦士の力を束ね、最強の戦士を生み出す。

翔は素早くその“融合”を手に取り、発動する。
「オレは、手札から“融合”を発動する!!」

カッ!!

次の瞬間、翔の目の前に立つ3体の戦士の姿が、エネルギーの塊となってしまう。そして、3つのエネルギーの塊は、その中心で渦を描き、混ざり合っていく。

融合
通常魔法
手札またはフィールド上から、融合モンスターカードによって決められた
モンスターを墓地へ送り、その融合モンスター1体を融合デッキから特殊召喚する。

もちろん、有里は翔の戦術を予測していたため、念のためと言う意味も含め、それを防ぐカードをしっかりと伏せておいた。

「私は・・・、リバースカード!“マジック・ジャマー”を発動する!!」
有里がとっさに発動した罠。
それは、敵の発動した魔法カードを無効にし、破壊するカード――
有里はそのカードを発動するための“コスト”である手札1枚を墓地に送った。
それをデュエルディスクが察知したのか、エネルギーの混ざり合いは解除されてしまう。そのため、翔の目の前には先程立っていた戦士の姿が、元の状態で、残っていた。

マジック・ジャマー
カウンター罠
手札を1枚捨てる。
魔法カードの発動を無効にし、それを破壊する。

翔は「惜しい」と言わんばかりの顔で、指を強くバチンッ――と弾いた。
もちろん、翔は有里のカード発動はここまでだと思っていた・・・。
でも、終わりはしない。

有里の手札の中に眠る、“竜”が放たれるのだから――


「まだよ・・・!」
有里は少し冷たく言った。
はっきりと、辺り一面に響き渡るように大きく。

「私の手札には・・・、“カウンター罠を発動したとき、特殊召還できるモンスター”が眠っている・・・!!」
有里はそのモンスターが描かれたカードを手に取る・・・。


静かに・・・。

ゆっくりと・・・。


そして、慎重に―――




ドクンッ!!!




有里の目の前が一瞬だけ真っ暗になる。だが、それはほんの一瞬。

有里にとっては、“無限”ともいえる一瞬――

その一瞬の中で、有里は過去の事を思い出していた・・・。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

それを聞いたのは、中学校、デュエル・スクールに入学してすぐの事であった・・・。
入学式当日――
在校生からの挨拶、新入生からの挨拶を終え、それぞれのクラスで、時間割の説明、新たな授業である“デュエル”の説明も終わり、明日から始まる楽しき1日を思い浮かべながら、家に帰宅したときの事であった。

有里が家に入ると、いつも仕事で遅くまで帰ってこない父親、雅文(まさふみ)と、いつもは明るい表情なのに、今は正反対で暗い表情をしていた母親、彩(あや)の姿があった――
当然、何がどうなっているのか分からない有里は、自分の机の上にお気に入りのリュックを丁寧に置き、両親のいるリビングへ入ると、早速「何故2人共、そんなに暗い顔をしているの?」と聞いた。

少しの沈黙――

すると、父親が重く閉ざしていた口をゆっくりと開いた。


「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」


―――!!!


父親の言葉は簡潔にまとめられていて、短いはずなのに、詳しく理解する事が出来た。

自分には啓太という名の兄がいるという事――

そして、その啓太が5歳の時に、突如“神隠し”にあったという事を――


あまりにも唐突。
気が狂いそうになる。だが、有里はそれを必死で抑えながら、何とか自分の部屋に走りこみ、いつもならゆっくりと閉める扉を思い切り閉めた。



アァアアアアアァアァァアアアアァァアアアッ――――!!!!



叫んだ。

近所迷惑とか、親への迷惑とか、そんな事気にせずに、思い切り叫んで・・・、泣いた。


兄は自分が生まれる1年前に神隠しにあった。
つまり、自分とは6歳違うという事になる。
叫びながら、自分でも意味の分からない事を考えてしまう。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

どれだけ叫んだのだろうか・・・?
気づいたら、哀しみの赤に染まっていた夕焼けは、既に闇に隠れていた――
涙も枯れ、声も出ない・・・。

コンコンッ

自分の部屋をノックする音が聞こえた。
だが、有里は返事をする気力すらなく、ただ黙っているだけであった。
「有里・・・。大丈夫?」
彩がそんな事を聞くが、大丈夫な訳がない。
兄がいて、しかもその兄がいなくなっていて・・・、頭が壊れそうになる。狂いそうになる。
助けてほしい――

この苦しみから、解放してほしい・・・。

「啓太もね・・・、あなたと同じようにデュエルが好きなの。それで、あの子が大切にしていたカードが1枚残っていたの・・・。それを・・・、有里に受け取ってほしくて・・・」
スゥッ・・・
彩は1枚のカードを裏にした状態で、有里の部屋の扉にある小さな隙間から、部屋の中にそれを入れた。その後、「夕食もうすぐ出来るから」と告げて、有里の部屋を離れた。

それから数分経って、やっと少しだけ元気が出てきた有里は、扉のちかくにあったカードを1枚手に取り、見てみた。
そこには、漆黒の体をした、威厳溢れる姿をした、竜が描かれていた・・・。

自分のデッキによく合っている様な気がした・・・。




ありがとう―――、お兄ちゃん――――


有里の中に、やりきれない気持ちは残っていたが、精一杯の元気を見せ、夕食を食べた。そして、自分の部屋に戻ると、明日からのデュエル・スクールに備え、デッキを構築し始めた。

もちろん、兄が持っていたその竜のカードをメインとしたデッキを――

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

(私は・・・、その時誓った・・・。きっと、お兄ちゃんはどこかにいる・・・。そして、いつか、絶対に見つけて、家族全員で過ごすって・・・!!)
有里はその竜のカードを力強く場に出す。



「出でよ・・・。」





冥王竜ヴァンダルギオン―――――!!!




ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!

有里の目の前に出現したその漆黒の竜は、鋭い目で翔を、翔の目の前に立つ3体の戦士を睨みつける。


『ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!』

漆黒の竜の咆哮と共に、翔の体に強い衝撃が――!!
「ガハッ!!」
あくまで、立体映像。
なのに、かなりの衝撃が存在している。

「“ヴァンダルギオン”の特殊能力――。カウンター罠を発動したとき、特殊召還をする事ができ、カウンター罠で無効にしたカードの種類によって、1つの効果を発動する――」
翔の耳に、有里の説明はよく聞こえてこなかった・・・。
痛みで耳が遠くなったんじゃない。自分の目の前に聳(そび)えている漆黒の竜の咆哮が、あまりにも大きくて、有里の声を掻き消してしまうからだ。

「魔法カードを無効にした場合、発動する効果は、1500ポイントのダメージを相手ライフに与える――」


翔  LP:3900→2400


冥王竜ヴァンダルギオン
効果モンスター
星8/闇属性/ドラゴン族/攻2800/守2500
相手がコントロールするカードの発動をカウンター罠で無効にした場合、
このカードを手札から特殊召喚する事ができる。
この方法で特殊召喚に成功した時、
無効にしたカードの種類により以下の効果を発動する。
●魔法:相手ライフに1500ポイントダメージを与える。
●罠:相手フィールド上のカード1枚を選択して破壊する。
●効果モンスター:自分の墓地からモンスター1体を選択して
自分フィールド上に特殊召喚する。


漆黒の竜の咆哮は途絶える事を知らなかった――


ただ、漆黒の竜の瞳が哀しみに染まっている理由が、翔は少しだけ気になった――


漆黒の竜が有里の目の前で身構えている中、有里は既に天使の能力により、カードを1枚ドローしていた。

翔  LP:2400
   手札:3枚
    場:ジャックス・ナイト(攻撃)、クィーンズ・ナイト(攻撃)、キングス・ナイト(攻撃)、リビングデッドの呼び声

有里 LP:4000
   手札:2枚
    場:冥王竜ヴァンダルギオン(攻撃)、豊穣のアルテミス(攻撃)、リバース1枚

モンスターの数だけでは、翔はまだ有利である。だが、攻撃力に圧倒的差がある――
このターンで、翔がどう動くかによって、今回のデュエルは動く――
そんな窮地の中、翔はずっと下を向いていた。
有里は翔のそんな姿を見ながらも、気を抜く事も無く、真剣な眼差しを向けていた。
すると、急に翔が上を向いて、大きく笑い出す。

「ハハハハハハハハハハハッ!!!!」

気が狂ったわけでもない。
翔のその表情は、明らかにデュエルを楽しんでいる表情だ。

「最ッ――高!!」
翔のその叫びに、有里が首を傾ける。
「ハァ?あんた、何言ってんの!?私が今、圧倒的に有利なのに、“最高”って、どういう意味!?」
有里が顔を真っ赤にしながらも質問すると、翔は笑いすぎて出てきた涙を指でサッと拭き、左手で腹を押さえながら答える。
「いや、やっぱデュエルはこうじゃないとなぁって、思っただけだよ・・・!」

翔は(デュエル中にも関わらず)、デュエル直前に投げ捨てたリュックの所まで歩き、リュックを拾うと、中から何処にでも売ってそうなゴーグルを取り出した。再びリュックを地面にドサッと落とすと、そのゴーグルを自分の額にスッ――と掛ける。
翔は小さく深呼吸をし、集中力を取り戻す。
「“本気”で行くぞ・・・!有里!!」
翔の雰囲気がかなり変わった――

(そうだったね・・・。あんたの本気は、そのゴーグルを掛けてからだったね・・・)
有里が優しい眼差しで翔を見ている間に、翔はデュエルを再開する。




――ドクン――

闇の中で、何かが目を開けた――



第3章 JOKER(ジョーカー)――最強の戦士

翔の目の前には、自分を守る3体の戦士が――、更にその向こうには、有里を守る機械仕掛けの天使と漆黒の竜が立っていた――。

「確か、まだオレのターンだったよな?」
自分のターンかどうかを確認すると、手札にあるカードを1枚手に取り、それをデュエルディスクに素早く差し込んだ。

「悪ィな。さっきの“融合”はブラフだったんだ・・・!」

翔が発動したカード――それは、魔法・罠カードを1枚、破壊する速攻魔法、“サイクロン”であった。

サイクロン
速攻魔法
フィールド上の魔法または罠カード1枚を破壊する。

台風の様な強い風が、辺り一面を一気に吹き飛ばし、有里が伏せていたカードを破壊する。そのカードは、攻撃してきたモンスター1体を除外する“次元幽閉”であった。

次元幽閉
通常罠
相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
その攻撃モンスター1体をゲームから除外する。

「お前は気づいてないかも知れないけど――」
有里は、自分のリバースカードが突然破壊された驚きを隠しつつ、翔の咄嗟の言葉を聴き始める。翔は真剣な眼差しで、有里を見ながら、喋り続ける。

「大抵、お前は2枚以上のカードを伏せるとき、必ず1枚はカウンター罠があるんだ。更に、もう1枚は、モンスター破壊カード――。だから、オレは“融合”を使って、カウンター罠を発動させ、モンスター破壊のカードを見分ける・・・。これが、オレの作戦だ!」
翔は大きく口を開け、そのまま笑った――

この言葉の後に、顔を赤らめ、頭をポリポリ掻きながら「モンスターが出てきて、ダメージを喰らったのは、予想外だったけどな」と付けた。

「でも・・・!これで、オレは攻撃できる!!」
翔の強気な言葉に、有里は目を見開き、驚いた。
「な!?まだ、“融合”があるの?」
有里の叫びに、翔は少し照れながら答える。
「いや、無いけど・・・。“ヴァンダルギオン”を倒せるカードはある!」
翔の言葉に、有里は言葉を出せなくなってしまう。

翔は既に通常召還を終えているため、モンスターの召還は行えない。つまり、上級モンスターを召還する事は特殊召還を除いて、まず無理なのだ。除去カードの可能性も捨てがたいが、“破壊する”ではなく、“倒せる”と言った。つまり、別の何か、例えば“モンスターの攻撃力を上げるカード”があるのだ。

「オレは・・・手札から!!」

翔は発動する――


――――もう1枚の“結束”を示す魔法カードを――!!――――





“ユニオン・アタック”を発動する―――!!!



有里は翔の言葉を聞いて、目が点になった。

“ユニオン・アタック”――?

初めて聞くカード名だ。
もちろん、有里が知っている中でではあるが、有里はカードの種類を知らないほうではない。明らかに知っている方である。そんな有里が知らないカード――。

「このカードは親父からもらったカードでな――。モンスター達の“結束”をあらわすんだ・・・!“結束”は――」




“全てを打ち砕く!!”―――


ユニオン・アタック
通常魔法
自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動する。
このターンのバトルフェイズ中、選択したモンスターの攻撃力は、
自分フィールド上に表側攻撃表示で存在する他のモンスターの攻撃力の合計分アップする。
このモンスターは相手プレイヤーに戦闘ダメージを与える事はできない。
また、他の表側攻撃表示モンスターはこのターン攻撃をする事ができない。

「オレは!“ジャックス・ナイト”を指定する!!」
翔の掛け声と共に、青い鎧を着た戦士の周りに突如オーラが出現し、そのオーラは次第に大きくなっていく。赤い鎧を着た戦士、頑丈な鎧を着た戦士の力を借りているのだ。

ジャックス・ナイト 攻:1900→5000

「バトル!“ジャックス・ナイト”で、“ヴァンダルギオン”を攻撃!!」

シャシャシャッ!

翔の叫びと共に、3体の戦士が同時にジャンプし、漆黒の竜の上空へと舞い上がる。戦士はそれぞれの剣を抜き、しっかりと構えると、竜めがけて切りかかる。
竜は“*(アスタリスク)”状に切り裂かれ、見るも無残に崩れ去っていった。
竜が倒れたのを確認すると、翔はカードを1枚伏せ、ターンエンドを宣言した。

翔  LP:2400
   手札:0枚
    場:ジャックス・ナイト(攻撃)、キングス・ナイト(攻撃)、クィーンズ・ナイト(攻撃)、リビングデッドの呼び声、リバース1枚

有里は、漆黒の竜が倒され、落ち込みを見せたが、すぐにそんな感情振り払い、前を向いた――

素早くカードを引き、手札に加える。

ドローカード:神の宣告

引いたカードを含め、有里は自分の左手に残っている3枚の手札を静かに見つめた。

有里 手札:死者転生、神の宣告、デス・ラクーダ

有里は3枚の手札を見て、これからどうするかを考え始める。
魔法・罠・モンスターと1枚ずつあるため、あれこれ考えてしまう。

例えばデス・ラクーダをセットして、神の宣告でモンスター除去を防ぎ、戦闘ダメージを軽減させる事が出来る。だが、それだと手札が死者転生1枚となり、また自分フィールド上のカードも0枚となってしまう。
それだけは避けたいと思うとなると、手は1つしかなかった。
「私は手札から・・・“死者転生”を発動する!!」
有里が場に出したのは、魔法カード――

朽ち果てたモンスターの魂を救済するカードだ――
そのカードに描かれていた絵は、古代エジプトにありそうな十字架であった。

死者転生
通常魔法
手札を1枚捨てる。
自分の墓地に存在するモンスターカード1枚を手札に加える。

有里は発動したカードのコストとして、手札のモンスターカード、デス・ラクーダを捨てると、墓地にあった漆黒の竜のカードを静かに手札に加えた。

本来、このカードは、アドバンテージが少ない。いわば、使えない、もしくは使いにくいカードでもあった。だが、何故有里はこんなカードを入れているのか――?
それは、今のような場面で使うため――
兄、啓太からもらったとも言えるカードを墓地には置きたくなかったからだ。

有里はそのまま、残り1枚のカードを伏せ、機械仕掛けの天使を守備にさせると、ターンエンドを宣言する。

有里 LP:4000
   手札:1枚
    場:豊穣のアルテミス(守備)、リバース1枚

翔も有里も手札が底を尽きてきた中、翔は静かにカードを1枚引く。

ドローカード:闇の量産工場

翔は悩んでいた――

3体の戦士で、有里に攻撃するか否か。

運が悪ければ、自分の場がリバース1枚になってしまう。
もちろん、伏せたカードは和睦の使者で、相手の攻撃を防ぐ事が出来る。そして、今引いたカードを使えば、破壊された戦士も手札に加えられる。それで“負け”が決定する訳ではない――
だが、やはりモンスターは少ないよりかは、多い方が良い。


――どうする・・・?



――――どうする・・・!?



ドクン――!!

翔は何かに気がつくと、額にあったゴーグルを手に取った。


スチャッ・・・
そして、翔はゆっくりとゴーグルを額から自分の両目に向かって下ろし、装着する――



キィイイイィイイイイィイイィィイイッ―――


翔の目が変わった。
何処となく全てを見通せそうな目だ――


「よし!!」
何を考えたか翔はゴーグルを外し、額の位置に戻す。
そして、空いていた右手を前に突き出し、人差し指で機械仕掛けの天使、そしてその奥に立つ有里を差し、大きく叫ぶ。

「一斉攻撃!!“ジャックス・ナイト”で“アルテミス”を!残り2体で直接攻撃(ダイレクトアタック)だ!!」

翔の叫びを聞き、首を縦に振り、応じる3体の戦士――
青い鎧を着た戦士が先陣を切り、勢いよく飛び出すと、機械仕掛けの天使を素早く切り裂いた。そして、残った2体の戦士は、飛び出したときの勢いを残したまま、有里を切り裂いた。

有里 LP:4000→2500→900

「くぅっ・・・!」
有里は両手で戦士と自分の間に壁を作るようにして、衝撃から身を守る。
その時、一陣の強い風が吹き、辺りを一気に吹き飛ばす――

「ターンエンド――」

翔はターンエンドを宣言した。

(ここで注意書き――ゴーグルを付けて、翔は超能力を手に入れていた訳ではありません。ただ、集中力が増して、有里が何のカードを伏せたかを推測しただけです)

翔  LP:2400
   手札:1枚
    場:ジャックス・ナイト(攻撃)、キングス・ナイト(攻撃)、クィーンズ・ナイト(攻撃)、リビングデッドの呼び声、リバース1枚

「私のターン――」
有里は静かにカードを引いた。
その顔は、暗く沈んでいた。
自分のプレイングにミスは無かったと自負はしていたが、結局大ダメージを喰らってしまっている。
本来、楽しくやりたくとも、このデュエルは“テスト”――明らかに今のプレイングは減点対象であろう。

ドローカード:サイクロン

もうダメだ――

有里はそう悟ってしまう。
もちろん、翔は有里の表情を見て、どんな事を考えているか、すぐに気づいた。

いつでも側にいた――大分前からの“無二の親友”だから・・・。

だからこそ、翔はどうするべきかを考えた。
言葉は悪いかもしれない、けれど有里にはこれが、ちょうど良い――

翔は息を大きく吸い込むと、吸い込んだ息分、大きく叫ぶ。
「諦めるなぁああああぁああああっ!!!」

ビクッ!
翔の叫びに、有里は驚き、引いたカードを落としそうになってしまう。「合わせる顔が無い」なんかと思いながら、有里は怒りに染まった翔の顔を見た。

「何で、諦めるんだよ!“テスト”なんて、関係無(ね)ぇだろ!!?これは、“デュエル”なんだ!“テスト”じゃない!“楽しむ”デュエルなんだ!!」

翔の真剣な眼差し――

――そうか・・・。

有里は手札のカードを静かに発動する。

“楽しむ”んだ――全力で――それが、結果につながる・・・。

「手札から、“サイクロン”を発動する!!」
ドォオオオオオオオオオオッ!!!
台風の様な強力な風が、辺り一面を一気に吹き飛ばしていく。そんな時、風は翔の目の前で伏せられているカードへ向かっていく。

ニィッ――

翔は笑った――


(負ける気は無ぇけど――、このくらいはしていいよな?)
翔は効果だけは発動させようと、伏せていた和睦の使者を発動させる。
それを待ってた、と、言わんばかりの笑顔を見せた有里は、伏せていた神の宣告を発動させる。

神の宣告により、和睦の使者は無効→破壊――

有里 LP:900→450

結局、サイクロンはなんだったんだ?と思いながらも、全ての効果処理が終了し、有里は残り1枚の手札――漆黒の竜のカードを場に出す。

「出でよ・・・“漆黒の竜”!」






冥王竜ヴァンダルギオン――――!!




漆黒の竜が出現した瞬間、その巨大な波動が辺り一面を飲み込んでいき、耐え切れなくなった青い鎧を着た戦士が消滅してしまう――

サイクロン
速攻魔法
フィールド上の魔法または罠カード1枚を破壊する。

和睦の使者
通常罠
このカードを発動したターン、相手モンスターから受ける
全ての戦闘ダメージを0にする。
このターン自分モンスターは戦闘によっては破壊されない。

神の宣告
カウンター罠
ライフポイントを半分払う。
魔法・罠の発動、モンスターの召喚・反転召喚・特殊召喚の
どれか1つを無効にし、それを破壊する。

冥王竜ヴァンダルギオン
効果モンスター
星8/闇属性/ドラゴン族/攻2800/守2500
相手がコントロールするカードの発動をカウンター罠で無効にした場合、
このカードを手札から特殊召喚する事ができる。
この方法で特殊召喚に成功した時、
無効にしたカードの種類により以下の効果を発動する。
●魔法:相手ライフに1500ポイントダメージを与える。
●罠:相手フィールド上のカード1枚を選択して破壊する。
●効果モンスター:自分の墓地からモンスター1体を選択して
自分フィールド上に特殊召喚する。

「な・・・!?“ジャックス・ナイト”が!?」
驚いたフリ半分、素で驚くいた半分の2つの感情が入り混じっている翔――
翔が驚いている間に、有里は赤い鎧を着た戦士を漆黒の竜との戦闘で破壊し、ターンエンドを宣言していた。赤い鎧を着た戦士が破壊された事によって、翔の場にあったリビングデッドの呼び声も破壊されてしまった。

翔  LP:2400→1100

有里 LP:450
   手札:0枚
    場:冥王竜ヴァンダルギオン(攻撃)

翔は小さく深呼吸をした――
次のドロー――これで、全てが決まってしまう・・・。
このドローで、“融合”もしくは、“融合”を手札に加えるカードを引けば、“絵札の三銃士・最強の戦士”でとどめをさすことが出来る・・・。
だが、もし役に立たないカードを引いたら?
おそらくは、守備に徹してしまう。
もちろん、その程度では、漆黒の竜を倒す事はもちろん、攻撃から身を守る事すら出来ない――

だが、翔は覚悟を決める――!


「オレのターン――ドロォオッ!!」


ピッ――!

力強く引いた1枚のカード――


デッキは、“奇跡”を起こす!!


「オレは、手札から“闇の量産工場”を発動――それにより、“クィーンズ・ナイト”、“ジャックス・ナイト”を手札に加える――」

闇の量産工場
通常魔法
自分の墓地から通常モンスター2体を選択し手札に加える。

翔は墓地より、先程破壊された2体のモンスターを静かに手札に加えた。
もちろん、奇跡が起きて嬉しかった――
でも、後ろめたい気持ちもあった。
有里に“諦めるな”と告げていたにも関わらず、結局自分が勝ってしまう状況だからだ。
悩んだ――先程引いた1枚のカードを手に取って。

「やってよ、翔!!」
有里の叫び――
下を向いていた翔は、顔を上げ、有里の方を見る。有里の表情は笑顔で一杯だった。
なんだか、心が安らぐ――

「あんたが、“和睦の使者”を“わざと”使ったのは、分かってるんだから。」

――!?

バレていたか・・・。
翔は冷や汗をかき、こめかみを少しだけ掻いた。

「それに――、翔も・・・、“本気”でやってよ・・・。じゃないと・・・。私、勝っても、うれしくないよ・・・?」

(そう・・・か・・・)
翔はゆっくりと先程引いたカードを手に取り、デュエルディスクに静かに差し込む。

大きくて、温かい光が、辺り一面を包み込む――





“融合”――、






発動――――。





3体の戦士がエネルギーの塊となり、混ざり合う――


そして、新たな最強の戦士が誕生する――





「出でよ・・・、“アルカナ ナイトジョーカー”ァアアアアアア!!!」





――――――――――――――――――ありがとう・・・有里・・・――――――――――――――――――




“攻撃”――!!



漆黒の鎧を身にまとった“絵札の三銃士・最強の戦士”は、勢いよく前に出ると、目の前に立ちはだかる漆黒の竜を一気に切り裂いた――



有里 LP:450→0


有里は負けた――

だが、悔しくは無かった。いや、悔しさが無いだけではなく、心がなぜか落ち着き、安らいだ。

翔も笑顔で、勝利を喜び、有里の下へ駆け寄る。

アルカナ ナイトジョーカー
融合・効果モンスター
星9/光属性/戦士族/攻3800/守2500
「クィーンズ・ナイト」+「ジャックス・ナイト」+「キングス・ナイト」
このカードの融合召喚は上記のカードでしか行えない。
フィールド上に表側表示で存在するこのカードが、
魔法の対象になった場合魔法カードを、
罠の対象になった場合罠カードを、
効果モンスターの効果対象になった場合モンスターカードを
手札から1枚捨てる事で、その効果を無効にする。
この効果は1ターンに1度だけ使用する事ができる。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


『見ツケタ・・・。マズハ・・・2人・・・!』

闇の中で、“瞳”がつぶやいた・・・。



第4章 高山神童(たかやましんどう)――神秘の輝きと漆黒の過去

翔と有里がデュエルを始めたころ――
同じ階の別の教室――2−Cでは、別のデュエルが始まろうとしていた。
その教室の中には、左腕にデュエルディスクをつけた2人の男が、敵を見ながら、立っていた。
2人の男の胸には、当然ネームプレートが付けてあった――

1人目の男は、髪が普通より少し長く、ネームプレートには“高山神童(たかやましんどう)”と書かれてあった。
2人目の男は、短髪になっており、ネームプレートには“橋本神也(はしもとしんや)”と書かれてあった。
どちらのネームプレートにも互いの名が書かれてある。つまり、2人がこれからデュエルをするということだ。

「行くぜ、神童・・・!」
神也がそういうと、神童は何も答えることなく、ただ首を縦に振った。
何の返答も無いかのような適当な返事――本来なら、怒る者も出てくるかもしれないこんな状況の中、神也は一切怒ることなく、さもそれが当たり前のように振る舞った。


“デュエル”―――!!


2人の掛け声と同時に、デュエルディスクは展開し、強き光を放ち始める――。



「ボクのターン。」
神童が先攻の様だ。神童は、デッキの上から、素早くカードを1枚引くと、手札に加え、手札のカード、6枚全てに目を通し、どんなカードがあるか、これから何をするかを考える。
そして、全ての答えを発見すると、手札のカードを1枚手に取り、素早く場に出す。
「出でよ――“宝玉獣 サファイア・ペガサス”――!」

ドッ!!

神童の目の前に現れたのは、伝説の生き物とも呼ばれるペガサス――

馬の様な姿をしており、背には翼を生やし、額には1本の鋭い角が生えていた。
“宝玉”の様な輝きを放つその姿は、とても美しい――

「“サファイア・ペガサス”の効果で、デッキから“宝玉獣 ルビー・カーバンクル”を魔法・罠カードゾーンに置く。」

キィッ――

神童がペガサスの効果を一通り説明した後、ペガサスとデッキが輝き、デッキからカードが1枚抜き出され、場に出されたかと思うと、神童の目の前には“ルビー”の宝石が輝いていた。

“宝玉獣”――

それは、特殊なモンスター達であった。
もちろん、他のモンスター同様、普通に場に出せる事も出来る。だが、一番違う点は、“宝玉獣”全てが備えている1つの特殊能力――
破壊されたとき、永続魔法として、魔法&罠カードゾーンに置く事が出来るという点だ。無論、自身の効果や、仲間の効果によって、魔法&罠カードゾーンに置かれる事もある。
つまり、例え“宝玉獣”が敵の手によって、破壊されたとしても、その魂は永遠に持ち主の下にとどまる――ということである。

宝玉獣 サファイア・ペガサス
効果モンスター
星4/風属性/獣族/攻1800/守1200
このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時、
自分の手札・デッキ・墓地から「宝玉獣」と名のついたモンスター1体を
永続魔法カード扱いとして自分の魔法&罠カードゾーンに表側表示で置く事ができる。
このカードがモンスターカードゾーン上で破壊された場合、
墓地へ送らずに永続魔法カード扱いとして
自分の魔法&罠カードゾーンに表側表示で置く事ができる。

宝玉獣 ルビー・カーバンクル
効果モンスター
星3/光属性/天使族/攻 300/守 300
このカードが特殊召喚に成功した時、
自分フィールド上の魔法&罠カードゾーンに存在する
「宝玉獣」と名のついたカードを可能な限り特殊召喚する事ができる。
このカードがモンスターカードゾーン上で破壊された場合、
墓地へ送らずに永続魔法カード扱いとして
自分の魔法&罠カードゾーンに表側表示で置く事ができる。

「カードを1枚伏せて、ターンエンド――」

神童はまた別のカードを手札から1枚取ると、静かに差し込み、ターンエンドを宣言した。

神童 LP:4000
   手札:4枚
    場:宝玉獣 サファイア・ペガサス(攻撃)、宝玉獣 ルビー・カーバンクル(宝玉)、リバース1枚

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

高山神童――

この者の過去は、“漆黒”、“闇”そのものでもあった――


理由は簡単――“いじめ”という名の“暴行”。

元々、神童は人と“かかわり”を作るのが苦手であった。いや、正確に言うと、人と喋るのが苦手なのだ。神童の家庭は決して恵まれたものではなかった。むしろ、その逆。両親が、他の人に頭を下げながら、仕事をしている姿をよく見ていたため、自分が常にしたと考え、人に話しかける事が難しくなってしまっていたのだ。

だから、モジモジとした性格、行動になってしまい、それが一部の者達からの反感を買ってしまった。

小学生4,5年生位の時だろうか――?

いじめは、始まった。

始めは、とても軽いものと言っても良かった。
そこまで大切では無かった所持物が盗まれたり、分かりやすい場所に隠されていたりという程度――「この程度なら耐えれる」、確かな感覚がそこにはあった。
だが、そんな感覚、思いなんて、あっという間に消えていく。

いじめはエスカレートしていった。
神童が、「止めて」といわず、全てを受け止め、耐えてきたのが原因かも知れない。ただ、いじめはエスカレートしていく。

一番大切な物が目の前で壊されたり、誰もいない隠れた所で、数人に殴られ、蹴られ、見ただけでは絶対に分からない場所が傷だらけになっていた。
だが、神童はそれを隠し、黙っていた。
学校にもしっかりと行った――

それは、親に頼りたくなかったから・・・。

神童はほんの小さくかも知れないが、いじめられたのは、親のせいだと思っているから、親には頼らない・・・、頼りたくない。
だからこそ、学校を無断欠席する事もしない、先生に言うわけでもない、抵抗するわけでもない、全てを受け止め、耐えていく――

無論、そんな事、耐えられる訳がない――



“心”が、“体”より先に崩壊を始めた・・・。


結果、神童は「人を信じない性格」になってしまった。
誰ともつるまず、ただ孤独になって、休み時間中もずっと本を読んでいた。
無口で、誰の反感も買わず、本当に「何もしない」――。

中学校は、いじめっ子が1人も来なかった、“デュエル・スクール”を選んだ。

おそらく、この考えが神童の全てを変えたのだ。


デュエル・スクールに入って、クラスメイトになった一人の少年の言葉がきっかけだった。

いつも通り、静かに本を読んで、一人ぼっちになっていた時のこと。
髪をボサボサにして、明らかに初めて見た一人の少年が、自分のところに来て、自分の目の前の椅子に座って、一言――

「オレ、“神崎翔”って言うんだ!よろしく!!」

手を前に差し出してきた。

始めは、動揺し、断った。
でも、翔は乱暴に、自分の手をつかみ、無理矢理握手をした――

その行動は、あまりにも無茶苦茶で、始めは、今までと同じ「いじめっ子」の1人か――そう思った。こいつには、絶対に関わらないでいようとも思った。
でも、違った。


「温かい・・・。」

翔と握手をして、初めて翔に向かって言った一言――

翔はその言葉を聞き、大きく笑った。



そうか・・・。
この者は、何でもお見通しだったんだ――
自分が、「孤独」だった事を――

小さな「寂しさ」を感じていた事を――


翔が「きっかけ」になって、友達が、親友と呼べる仲間が、増えていった。

翔の紹介で、有里と仲良くなった――

今、目の前でデュエルをしている神也とも仲良くなった――


翔を取り巻く大勢の者と友になる事が出来たのだ――



でも、やっぱり直らないのが、「人を信じない心」であった。
直そうとは思っている――だが、直ってくれない。
自分に優しくしてくれた翔でさえも、たまに疑ってしまう。





“ただの偽善者”――だと・・・。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「うっし!オレのターンだな!?ドロー!!」
神童が過去に浸っている間に、神也はカードを1枚引き、手札に加え、手札を眺めていた。

「よし!オレは、“神獣王バルバロス”を攻撃表示で召還!!」
神也の目の前に出現したのは、巨大な野獣――
右手に長く、鋭い槍(ランス)を握り、左手には円形の盾を持っており、足は馬のように4本あった。
だが、何処と無く、その野獣の力は抜けていた。

神獣王バルバロス
効果モンスター
星8/地属性/獣戦士族/攻3000/守1200
このカードは生け贄なしで通常召喚する事ができる。
その場合、このカードの元々の攻撃力は1900になる。
3体の生け贄を捧げてこのカードを生け贄召喚した場合、
相手フィールド上のカードを全て破壊する。

神獣王バルバロス 攻:3000→1900


「“バルバロス”で、“サファイア・ペガサス”に攻撃だぁ!!」
神也の叫びと共に、野獣は右手に握る槍をペガサスに向け、勢いよく突進を始める。槍は空を貫き、ペガサスめがけて野獣と共に向かってくる。
そんな中、平然としていた神童が伏せカードを発動させる。

「リバースカード、“虹の行方”発動――」


カッ――!!


巨大な虹色の閃光――

その虹色の光は、野獣の動きを狂わせ、野獣は攻撃を止めてしまった。
光の元は、神童の目の前にあったルビーであった。
ルビーはやがて、消滅してしまうが、虹色の光は、神童に新たな力を与える。

「ボクは――“虹の行方”の効果で、“究極宝玉神”と名のつくモンスター1体を手札に加える・・・。」


虹の行方
通常罠
相手モンスターの攻撃宣言時に、自分の魔法&罠カードゾーンに存在する
「宝玉獣」と名のついたカード1枚を選択して墓地へ送り発動する。
相手モンスター1体の攻撃を無効にし、自分のデッキから
「究極宝玉神」と名のついたカード1枚を選択して手札に加える事ができる。


「くっそぉ!“虹の行方”だったかぁ!」
神也は悔しそうに、指をバチンッ――と力強く弾いた。
そんな悔しさを残しつつ、カードを1枚伏せ、ターンエンドを宣言した。

神童 LP:4000
   手札:5枚
    場:宝玉獣 サファイア・ペガサス(攻撃)

神也 LP:4000
   手札:4枚
    場:神獣王バルバロス(攻撃)、リバース1枚


神童が虹の行方の効果で手札に加えた1枚のモンスターカード――

確かに、そのカードからは、“神秘の輝き”が放たれていた――


今までの過去を打ち消すために存在するカードの様に――。



第5章 橋本神也(はしもとしんや)――力(レベル)を吸い取る強欲

「ボクのターンだね?」
神童はカードを1枚引いた。
引いたカードに描かれていたのは、昔建てられたかのような“都市”であった――
虹が綺麗に輝く都市――

ドローカード:虹の古代都市―レインボー・ルイン

「よしっ!ボクは、“虹の古代都市―レインボー・ルイン”を発動する!!」
神童はデュエルディスクのフィールド魔法を場に出す箇所に、先程引いたカードを入れた。次の瞬間、辺りが振動し、神童の背後から、虹が綺麗に輝く古代都市が出現する。その都市を見て、神童の目の前に立つペガサスは、とても嬉しそうであった。

虹の古代都市―レインボー・ルイン
フィールド魔法
自分の魔法&罠カードゾーンに存在する
「宝玉獣」と名のついたカードの数により以下の効果を得る。
●1枚以上:このカードはカードの効果によっては破壊されない。
●2枚以上:1ターンに1度だけプレイヤーが受ける
戦闘ダメージを半分にする事ができる。
●3枚以上:自分フィールド上の「宝玉獣」と名のついた
モンスター1体を墓地へ送る事で、魔法・罠カードの発動を無効にし破壊する。
●4枚以上:1ターンに1度だけ自分のメインフェイズ時に
自分のデッキからカードを1枚ドローする事ができる。
●5枚:1ターンに1度だけ自分のメインフェイズ時に
魔法&罠カードゾーンに存在する「宝玉獣」と名のついた
カード1枚を特殊召喚する事ができる。

まだ終わりではない――
神童は、手札にある別のカードに手をかけた。
「手札から、“宝玉の解放”を発動する!!」
神童が場に出したカードの力により、ペガサスの背に生えた翼は、更に大きく広がり、独特の綺麗な光を醸(かも)し出す。その輝きは、次第に大きくなり、ペガサスの力も同時に高まっていく。

宝玉の解放
装備魔法
「宝玉獣」と名のついたモンスターにのみ装備可能。
装備モンスターの攻撃力は800ポイントアップする。
このカードがフィールド上から墓地へ送られた時、
デッキから「宝玉獣」と名のついたモンスター1体を永続魔法カード扱い
として自分の魔法&罠カードゾーンに表側表示で置くことができる。

「このカードの効果によって、“サファイア・ペガサス”の攻撃力は、2600!!」

宝玉獣 サファイア・ペガサス 攻:1800→2600

完全にペガサスの目の前に立つ野獣の攻撃力を上回った。
今なら、いける!!

神童はそう考えると、攻撃宣言をし、ペガサスは空を駆け、角を野獣にむけ、突進する。だが、神也も甘くは無い――

伏せていたカードを素早く発動させる――

「リバースカード、“収縮”!!」


―――!!?

神也が発動したカードは、神童を驚かせた。
野獣めがけて突進してくるペガサスの体の大きさが、小さくなっていき、小さくなるに比例して、攻撃力も下がってしまう。

宝玉獣 サファイア・ペガサス 攻:2600→1700

「これで、“バルバロス”の方が、上だな!!」

ドッ!!!


ペガサスの角と、野獣の鋭い槍が、激突する。
ペガサスの角は、それなりの硬度を誇っていながらも、野獣の槍に敗れ、砕け散ってしまう。野獣は角を破壊した勢いのまま、槍をペガサスの腹部に突き刺し、ペガサスを破壊する事に成功する――

神童 LP:4000→3800

だが、ペガサスは消えはしない。
ペガサスの体は、静かに宝玉の“サファイア”に変わった――

更に、先程神童が発動した装備魔法の効果で、“サファイア”の隣には、“トパーズ”が置かれていた。
また新たな宝玉獣の別の姿なのだろう――。

収縮
速攻魔法
フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択する。
そのモンスターの元々の攻撃力はエンドフェイズ時まで半分になる。

神童はカードを1枚伏せると、ターンエンドを宣言した。

神童 LP:3800
   手札:3枚
    場:宝玉獣 サファイア・ペガサス(宝玉)、宝玉獣 トパーズ・タイガー(宝玉)、虹の古代都市―レインボー・ルイン、リバース1枚

神也のターン――神也は、そこまで勢いは無かったが、しっかりと動作を付け、デッキの上からカードを1枚引いた。
何となく、良いカードが引けそうな気がしたから・・・。

ドローカード:グリード・クエーサー

“グリード=強欲”――まさに、過去の自分にピッタリなんじゃないかと思えた・・・。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

橋本神也――

神也は、ごく一般の家庭に生まれた“天才児”であった――

小学1年生にして、中学生、高校生が解けるかどうか、という問題をスラスラと解けることが出来ていた。
クラスの中からは、人気者と呼ばれる位だ。
だが、当然、“天才”だろうが、なんだろうが、“裏”は存在していた――。

“裏”――それは、人の欲望の面――強欲な面――

カンニング――

テスト中、“一定の金額”を受け取り、受け取った相手にテストの答えをこっそり密告していたのだ。もちろん、ばれる事も無かった。計算し、ばれないようにしたから――

全てが、“計算”で囲まれていた。

力も――金も――人も――友情も――


そして、自分も――

全てを計算で手に入れた。
そのせいか、気付いたら“強欲”になっていた。
自分に足りないもの、全てを“計算”で手に入れていく。
でも、気付いたら、自分の手の中には、何も無かった――

いや、違う――


“元々”、何もなかったのだ――

それを知ったのは、中学1年生――、このデュエル・スクールに入ってからであった。

周りは“敵”――“計算”とか、そんな次元ではなかった瞬間――



神也も神童同様、孤独につつまれてしまった・・・。

それを照らしたのが――



翔だった―――。


「神也って言うんだよね?君って、頭良いんだ」
何気ない翔の言葉――

紅葉がとても美しかった季節――中学で初めて語りかけてくれた言葉、人――


涙が1粒こぼれた――

少しずつではあった、でも確実に――周りは“敵”だけじゃない、“仲間”もいるんだ、という事に辿り着けた。


翔のお陰で、翔とその周辺の者達のお陰で――!!


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

(だから、オレは――分かるんだ!!)
神也は引いたモンスターカードを手札に加えながら、神童を力強い目で見た――

(孤独を知った者同士として、神童の気持ちが・・・、痛いほど・・・!!)

だからこそ、救わなければいけない――


神童の心を開かなければいけない・・・。

「オレは、手札から“コストダウン”を発動する―――」
神也は発動したカードのコストとして、手札のカードを1枚静かに墓地へ送った。
その後、小さく深呼吸をすると、先程引いたカードをしっかりと握った。


いや、開いてみせる―――!!!


「フィールド上の“バルバロス”を生贄に捧げ――」
神也の言葉と共に、野獣の姿が、光の粒子となり、上空へと舞い上がっていく。光の粒子は、力となり、また新たな形になりて、神也の目の前に出現する。





出でよ――“グリード・クエーサー”―――!!!






ドッ!!!


現れたのは、“強欲(グリード)”の化身――


力という、レベルを喰らう悪魔――


「“グリード・クエーサー”は本来、“レベル7”・・・、でも、“コストダウン”の効果で、“レベル5”になり、1体の生贄で場に出せるようになった――」
神也が、神童に分かるよう、分かりやすく説明をする中、神童は目の前に聳(そび)え立つ、強欲の悪魔に驚き、目を見開いていた。

コストダウン
通常魔法
手札を1枚捨てる。
自分の手札にある全てのモンスターカードのレベルを、
発動ターンのエンドフェイズまで2つ下げる。

「もちろん、“手札”だけの効果だから、場に出ればレベルは7に戻る――」


ォオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!


神也の言葉が終わると同時に、強欲の悪魔は、勢いよく雄叫びを上げる。

力が、湧(わ)いてくるのだ――


「“グリード・クエーサー”の効果――それは、レベルの数×300、攻撃力を上げる――」


グリード・クエーサー 攻:?→2100

「更に、手札から“サイクロン”発動――神童のリバースカードを破壊する」

強力な台風状の何かが、神童の目の前に伏せられていたカードを破壊する中、神也は静かに、自分の出した強欲の悪魔を見つめていた――


自分の過去を永遠に留め、償い、反省する――

それが、自分の運命――

だからこそ、自分そのものであった、“強欲”を意味するカードをデッキに入れた――
主力として――


サイクロン
速攻魔法
フィールド上の魔法または罠カード1枚を破壊する。

台風が、神童のリバースカードを破壊しようとする中、神童はそれを防ぐべく、破壊されようとしていたカードを発動させる。

「ボクは、リバースカードを発動する! “宝玉の祈り”!!」

宝玉の祈り
通常罠
自分の魔法&罠カードゾーンに存在する「宝玉獣」と名のついたカード1枚を
墓地へ送る事で発動する事ができる。
相手フィールド上のカード1枚を破壊する。

神童のカード発動と同時に、神童の目の前にあった輝かしい“トパーズ”は姿を消した――
だが、それによって、強い力が発生し、強欲の悪魔を狙う。
その強い力は、槍状になり、強欲の悪魔を破壊しようとするが、神也はそれを防ぐカードを手札から静かに発動させる。

「“我が身を盾に”――発動」

我が身を盾に
速攻魔法
相手が「フィールド上のモンスターを破壊する効果」を持つカードを発動した時、
1500ライフポイントを払う事でその発動を無効にし破壊する。

神童 LP:4000→2500

神也の体から放たれた朱色のエネルギーが、強欲の悪魔の盾となり、槍状のエネルギーを無効にした。それと同時に、強欲の悪魔は、腹部にある口を開き、エネルギーを放出――神童はそれをまともに受けてしまった。

「アッ・・・!!ガァッ・・・!!」

神童 LP:3800→1700

神童が強欲の悪魔の攻撃を受け、苦しみながら、神也はつぶやいた。


「“グリード・クエーサー”のもう1つの効果――それは、敵を喰らう事・・・、力を喰らい、力に変える――」


まさに、“強欲”であった――

グリード・クエーサー
効果モンスター
星7/闇属性/悪魔族/攻 ?/守 ?
このカードの元々の攻撃力と守備力は、
このカードのレベル×300ポイントの数値になる。
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
このカードが戦闘によって破壊したモンスターの
レベル分だけこのカードのレベルが上がる。

神也は静かに、ターンエンドを宣言した――


神童 LP:1700
   手札:3枚
    場:宝玉獣 サファイア・ペガサス(宝玉)、虹の古代都市―レインボー・ルイン

神也 LP:2500
   手札:0枚
    場:グリード・クエーサー(攻撃)


ごめん――、神童――。

でも、オレ・・・。
こんな方法でしか、お前の心を開く事なんて・・・、出来ないんだ――



見えないように、神也は泣いた――


だからこそ、オレはお前と全力で戦って、無理矢理、その腐った心を呼び起こし、破壊する――それが、オレの今の“強欲(グリード)”――

そんな神也の言葉に抵抗するかのごとく、神童の手に握られた、七色に光る龍のカードは大きく輝いていた。



第6章 RAINBOW(レインボー)――七色の龍

神童は、光り輝くカードを左手で握りながら、デッキの上から右手でカードを1枚引いた。
神童の目の前には、強欲を司(つかさど)る悪魔が、聳えていた。
強欲の悪魔は、かなりの威圧感を出し、神童は身震いしてしまう。
だが、それに耐えながら、何とかカードを手札に加えると、引いたカードを確認する。

ドローカード:宝玉の樹

引いたカードに描かれていたのは、枯れ果て、葉が無くなった小さな樹の姿であった。しかし、その樹からは虹色の輝きが見られた。そのカードを見て、強欲の悪魔の恐怖がありながらも、神童は小さく笑う事が出来た。
このカードなら、いける――そう考えたからだ。
そして、神童は自分と神也のフィールドを一度、確認してみた。

神童 LP:1700
   手札:4枚
    場:宝玉獣 サファイア・ペガサス(宝玉)、虹の古代都市―レインボー・ルイン

神也 LP:2500
   手札:0枚
    場:グリード・クエーサー(攻撃)

(・・・よし!)
神童は頭の中で、次の戦術を考えると、その戦術を実行し始める。
手始めに、先程引いたカードを手に取り、発動する。

「ボクは、手札から“宝玉の樹”を発動!!」
現れたのは、枯れながらも、懸命に伸びる小さな樹――

その樹には、まだ光は無い――
なぜなら、光はこれから与えられるのだから・・・。

「“宝玉の樹”の効果――それは、魔法&罠カードゾーンに“宝玉獣”が置かれるたびに、“ジェムカウンター”を1個乗せる!!」

宝玉の樹
永続魔法
「宝玉獣」と名のついたモンスターが魔法&罠カードゾーンに置かれる度に、
このカードにジェムカウンターを1つ置く。
このカードを墓地に送る事で、このカードに乗っていたジェムカウンターの数だけ
デッキから「宝玉獣」と名のついたモンスターを永続魔法カード扱いとして自分の
魔法&罠カードゾーンに表側表示で置く。

神也は宝玉の樹の効果を知っていたし、その発動を防ごうとしていた――だが、グリード・クエーサーの召還、そして“確実な攻撃”のために、手札を0枚にしている・・・。
そのため、それを防ぐ事が出来なかった――そのためか、神也は心の片隅に、小さな“悔しさ”を作り出した。

「そして、手札から“宝玉の恵み”を発動!!」

宝玉の恵み
通常魔法
自分の墓地に存在する「宝玉獣」と名のついたモンスターを2体まで選択し、
永続魔法カード扱いとして自分の魔法&罠カードゾーンに表側表示で置く。

神童の発動したカード――それは、宝玉獣の魂を、“宝玉”という形で、蘇らせるカード。
宝玉獣の無念を場に現すカード――

小さな輝きと共に、神童の目の前に、“トパーズ”と“ルビー”が出現した。

次の瞬間、“トパーズ”と“ルビー”の光が、枯れた樹と共鳴し、樹から小さな光が2つ出現した。

「“宝玉の樹”を墓地に送り、“宝玉の樹”、もう1つの効果を発動する!!」

カッ――!!

枯れた樹の光が、最高潮に達すると、その光に共鳴し、神童のデッキが大きく輝いた。その輝きと共に、デッキから2つの“宝玉”が出現し、神童の目の前に現れる。
それは、“アメジスト”と“エメラルド”であった。

「まだ終わらない!!“レインボー・ルイン”の“4つ目の効果”を発動!!」

虹の古代都市―レインボー・ルイン
フィールド魔法
自分の魔法&罠カードゾーンに存在する
「宝玉獣」と名のついたカードの数により以下の効果を得る。
●1枚以上:このカードはカードの効果によっては破壊されない。
●2枚以上:1ターンに1度だけプレイヤーが受ける
戦闘ダメージを半分にする事ができる。
●3枚以上:自分フィールド上の「宝玉獣」と名のついた
モンスター1体を墓地へ送る事で、魔法・罠カードの発動を無効にし破壊する。
●4枚以上:1ターンに1度だけ自分のメインフェイズ時に
自分のデッキからカードを1枚ドローする事ができる。
●5枚:1ターンに1度だけ自分のメインフェイズ時に
魔法&罠カードゾーンに存在する「宝玉獣」と名のついた
カード1枚を特殊召喚する事ができる。

神童の背後に建っていた虹の似合う都市が綺麗で大きな輝きを放つ――
そして、神童に新たな可能性とも言える、1枚のカードを届けようとする。
神童は、デッキの上から、カードを1枚引いた。

「更に、“5つ目の効果”を発動する!!」
神童の目の前にあった、“ルビー”が大きく輝き、“ルビー”は“獣という姿”を手に入れる。

「“ルビー・カーバンクル”の効果発動!それは、場の“宝玉”を全て解き放ち、“獣”の姿へと変える!!」
神童の叫びと共に、場にあった全ての宝玉が強く輝き始める。その輝きは、子猫の様な小さな獣一匹を中心に、放出されているようだ。

宝玉獣 ルビー・カーバンクル
効果モンスター
星3/光属性/天使族/攻 300/守 300
このカードが特殊召喚に成功した時、
自分フィールド上の魔法&罠カードゾーンに存在する
「宝玉獣」と名のついたカードを可能な限り特殊召喚する事ができる。
このカードがモンスターカードゾーン上で破壊された場合、
墓地へ送らずに永続魔法カード扱いとして
自分の魔法&罠カードゾーンに表側表示で置く事ができる。

次々と姿を変えていく“宝玉獣”達――

子猫(ルビー)――ペガサス(サファイア)――亀(エメラルド)――猫(アメジスト)――虎(トパーズ)――

神童は、宝玉獣達が次々と姿を現していく間に、ペガサスの効果を用いて、デッキから“コバルト”を宝玉として、場に出していた。

だが、どのモンスターも強欲の悪魔の攻撃力を上回ってはいなかった。
手札のカードも、元々手札にあった魔法カード1枚と、レインボー・ルインの効果で引いた魔法カード1枚――どちらとも、今は使えない。そして宝玉が7つ揃わないと場に出せないモンスターカード1枚であった――。
そのため、宝玉獣は全て守備表示となっていた。
そのまま、神童は魔法カード1枚を伏せ、ターンエンドを宣言した。

神童 LP:1700
   手札:2枚
    場:宝玉獣 ルビー・カーバンクル(守備)、宝玉獣 サファイア・ペガサス(守備)、宝玉獣 エメラルド・タートル(守備)、宝玉獣 アメジスト・キャット(守備)、宝玉獣 トパーズ・タイガー(守備)、宝玉獣 コバルト・イーグル(宝玉)、虹の古代都市―レインボー・ルイン、リバース1枚

神也のターン――

神也はカードを1枚静かに引いた――

ドローカード:大嵐

神也は一瞬、ためらった――
本当に、こんな方法が正しいのだろうか?
神童を苦しめ、無理矢理神童の心を開く――

そんな事、こんなやり方で出来るのだろうか・・・?

だが、神也はそうするしか無かった――

小さく涙を流しながら、誰にも見えないように悲しみながら、引いた魔法カードを静かに場に出した――

「“大嵐”――」

全てを巻き込む暴風――

全てを飲み込む暴風――

神童の場にあった“コバルト”と1枚のリバースカードをいともたやすく破壊した――

大嵐
通常魔法
フィールド上の魔法・罠カードを全て破壊する。

「“グリード・クエーサー”で、“サファイア・ペガサス”を攻撃――」
神也はどのモンスターも破壊する事が出来た――。

本当は、レベルの高いペガサスを倒す事で、強欲の悪魔のレベルを上げ、攻撃力をあげようとしたのだが、宝玉獣は“破壊”されても、墓地には行かない――。
つまり、強欲の悪魔のレベルは上がらないのだ。
だが、厄介な効果を持つ、ペガサスは宝玉状態にしておきたいと判断し、神也は攻撃を行った――。

強欲の悪魔は、両腕を長く伸ばし、ペガサスの両翼をつかみ、自分の下へ勢いよく引き寄せ、腹部の口で、一気に噛み砕いた。
そして、ゆっくりとペガサスを飲み込んだ――

ペガサスは、静かに“サファイア”へと姿を変える――

「ターンエンド――」

神也 LP:2500
   手札:0枚
    場:グリード・クエーサー(攻撃)

「ボクのターン――」
神也のターンエンドを聞き、デッキの上に手を伸ばしていた。
一瞬だけではあったが、神童はカードを引くのをためらってしまった。
“怖い”――そんな考えがよぎったからである。
ここで、キーカードを引かなければ、デュエルに敗北してしまう可能性が高いからだ――。
いや、“早く”引かなければならない、か――。

だが、このドローで、勝負は左右する――





“ドロー”――!!


神童は大きく叫び、カードを1枚引いた――





“ドクン”――



力の鼓動を感じた――


ドローカード:宝玉の恵み

先程、使ったカードの2枚目を引いた――
だが、このカードはこの場面、確かな力となる。
引いたカードともう2枚の手札を確認し、その上で、自分の墓地を確認した。墓地に眠っている宝玉獣は、たった1体――コバルト・イーグル――

(よし!)
確かな勝利の感覚をつかむと、神童は引いたカードを発動する。

「ボクは手札から、“宝玉の恵み”を発動する!!」

カッ!!!


虹色、いや金色の光と共に、墓地に眠っていた宝玉獣1体が、“コバルト”の形で、神童の目の前に蘇った――

「そして手札から―――“レア・ヴァリュー”を発動する!!」
神童の目の前にある宝玉が、温かい光を放つ――
「このカードは、相手が選んだ1枚の“宝玉”を墓地へ送る事で、デッキからカードを2枚ドローすることが出来るカード――」
神童の説明が終わると、神也は、どの宝玉を捨てるかを考えていた。

“サファイア・ペガサス”も“コバルト・イーグル”も、かなりの能力を持っていた。
だが、やはり現段階で一番の脅威を誇っているのは、“サファイア・ペガサス”であった。そのため、神也は、“サファイア”を選び、“サファイア”は静かに消滅して言った。

神童は、神也が選択した“サファイア”が消滅したのを確認すると、デッキの上からカードを2枚引く。

レア・ヴァリュー
通常魔法
自分の魔法&罠カードゾーンに「宝玉獣」と名のついたカードが
2枚以上存在する時に発動する事ができる。
自分の魔法&罠カードゾーンに表側表示で存在する
「宝玉獣」と名のついたカード1枚を相手が選択して墓地へ送り、
自分のデッキからカードを2枚ドローする。

ドローカード:早すぎた埋葬、受け継がれる力

キッ――!!

神童の目が、真剣な眼差しへと変わった――





“決着”の刻(とき)が来た――!!

「手札から――“早すぎた埋葬”を発動!!」

魂の救済――

神童 LP:1700→900

神童の墓地に眠っていた“宝玉獣”の魂が、呼び覚まされる。それによって、神童の目の前にはボロボロになりながらも、懸命に立ち上がるペガサスの姿があった。そして、ボロボロの状態で、ペガサスは自身の効果を使い、神童のデッキが輝いた――。
神童のデッキからは、最後の宝玉――“アンバー”が抜き出され、場に出現した――。

(来るか・・・!“レインボー・ドラゴン”・・・!)
神也は、神童がこのターンで、“究極宝玉神”を出すと予想はしていた。
だが、その攻撃だけでは、自分のライフが0になる事は無いと思っていた。
何故なら、攻撃力が足りないから――

究極宝玉神ならば、強欲の悪魔は、簡単に破壊されてしまうであろう・・・。
だが、“宝玉獣”ならどうだ?攻撃力が足りず、2100の数値でさえ、超える事が出来ない。
だから、次のドローで、逆転する可能性は残っていると神也は判断していた。

神童が、それを上回る戦術を繰り出すとは知らないで――


「ボクは、手札から“魔法”カード――!!」

「な!?“レインボー・ドラゴン”を出すんじゃないのか!?」
神童の叫びを聞き、神也は目を見開き、驚きの声を上げた。
神童が繰り出すカード、それは、“朽ち果てた者の力を受け継ぐ”カード――

それは、翔の使う“結束のカード”とは、また別の“絆のカード”――






“受け継がれる力”を発動―――!!!



受け継がれる力
通常魔法
自分フィールド上のモンスター1体を墓地に送る。
自分フィールド上のモンスター1体を選択する。
選択したモンスター1体の攻撃力は、
発動ターンのエンドフェイズまで墓地に送った
モンスターカードの攻撃力分アップする。

次の瞬間、虎の姿が光の粒子となって消え、その光の粒子はペガサスの翼へと集まっていった――

ペガサスのボロボロの体は癒え、翼はより大きく、強く羽ばたかせる事が出来るようになった。


宝玉獣 サファイア・ペガサス 攻:1800→3400



「そして!これで空いた残り1つのモンスターカードゾーンに、“七色の龍”を出現させる!!!」





ドッ―――!!!



その存在感は、全てを振るわせた――


その神々しさは、全てを飲み込んだ――


その力は、全てを“無”に返す――




ルビー――エメラルド――アメジスト――コバルト――トパーズ――アンバー――サファイア――

七色の宝玉が、その龍の降臨を待つかのように、輝きを生み出す。
フィールドで、宝玉で、墓地で――




“究極宝玉神 レインボー・ドラゴン”―――降・臨!!!




7色の宝玉の力を借り、その姿は、天より舞い降りた――




究極宝玉神 レインボー・ドラゴン
効果モンスター
星10/光属性/ドラゴン族/攻4000/守 0
このカードは通常召喚できない。
自分のフィールド上及び墓地に「宝玉獣」と名のついたカードが
合計7種類存在する場合のみ特殊召喚する事ができる。
このカードは特殊召喚されたターンには以下の効果を発動できない。
●自分フィールド上の「宝玉獣」と名のついたモンスターを全て墓地に送る。
墓地へ送ったカード1枚につき、このカードの攻撃力は1000ポイントアップする。
この効果は相手ターンでも発動する事ができる。
●自分の墓地に存在する「宝玉獣」と名のついたモンスターを全てゲームから
除外する事で、フィールド上に存在するカードを全て持ち主のデッキに戻す。



辺りが七色の光で包まれている中、ペガサスの角が、強欲の悪魔を貫き、破壊した。


神也 LP:2500→1200


そして、七色の龍は口を開き、自身の色と同じ、七色のエネルギーをその開いた口に集め、一気に解き放つ――!!!











――――レインボー・フル・バースト!!




辺り一面が、“光”となり、“無”になった――









神也 LP:1200→0




神也は七色の龍の攻撃を喰らいながら、小さな涙を流していた――。
もちろん、神童には見えないように、見えないように・・・。


やっぱりダメだ――。

翔でなきゃ、オレの心を照らした翔でなきゃ、神童の心は、照らせないんだな――。


初めて、“本当”の敗北感と“本当”の悔しさを覚える神也。
だが、神童の心は、少しだけ変わっていた。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

『2人・・・、見ツケタヨ――。“神(シン)”の力を受け継ぐ奴等だ――』
闇の瞳が、漆黒の世界に佇(たたず)んでいた1人の青年に話しかける。その青年の髪は、黒く、漆黒の世界に紛れてしまいそうであった――。

突然、青年はその闇の瞳を通して、神童と神也の姿を見つめた―――。

「この2人じゃない!!」
青年は、怒り狂うように、大きく叫んだ。
その叫びは、どこにも反響せず、塊として放たれる。

「誰なんだ・・・。“シン・シャインローズ”の息子は――!!」
青年は、自分の顔を右手でつかみ、深く考えると、すぐそばにあった椅子に力強く座った。そして、足を組み、再び考え込んだ――。


そんな青年の姿がありながらも、闇の瞳はただ、“異次元空間(アナザー・ワールド)”から“現実世界(リアル・ワールド)”を見つめているだけだった――

何故かは分からないが、闇の瞳は、青年に対して、翔と有里の事を喋っていなかった――。



第7章 晃神加奈(こうがみかな)――黒き魔術師(マジシャン)

実技テストは、至る場所で行われていた――
今日は、2年生限定の日のため、例え中学2年生でも、1年の教室で戦う、なんて事もあるのだ。
さて、1−Bでは、2人の少女がデュエルを行っていた。

1人は、髪がとても長く、自身の腰位までの長さをしており、ネームプレートに書かれている名前は“晃神加奈(こうがみかな)”。
もう1人は、髪が有里より少し長く、肩にかかる位の長さで、ネームプレートに書かれている名前は、“明神真利(みょうじんまり)”。

無論、ネームプレートには、互いの名が書かれており、互いが対戦相手というわけだ。

「行くよ、真利――!!」
加奈の言葉を聞き、真利は笑顔で、そして大きくうなずいた。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

彼女達は、親友でもあり、好敵手(ライバル)でもあった――。
小学1年生の秋、席替えをして偶然隣同士になったのが、友達になった最初のきっかけ。

当時、加奈も真利も、明るい性格ではあったが、友達は多いとは言えなかった。
理由は簡単、幼稚園の時の友達が小学校にはいなかったからだ。
2人は、もちろん、別々の幼稚園から小学校に入学した。
しかし、偶然かは分からないが、2人とも、元々住んでいた地区から引越しをし、小学校に入ったため、昔馴染みの友達、というものがいなかったのだ。
だが、その共通点が互いを繋ぐきっかけの1つになったのだ――。

そして、2つ目のきっかけ――。
2人は、“デュエル”が好きだと言う事――。
これが、多分、一番大きなきっかけであろう。
小学生のときから、2人は何度も何度もデュエルをし、そして「デュエル・スクールに入学しよう」という“約束”をたて、2人は、このデュエル・スクールに入った。

デュエル・スクールでは、デュエルを行うことで、互いの心の奥底を知る事が出来る。
そのためか、デュエル・スクールに入った途端、大勢の友が出来た。
翔、有里、神童、神也の4人とは親友とも呼べる仲となった。

だが、その4人との絆より、やはり2人の絆の方が強いのだろう・・・。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

そんな2人がデュエルをする・・・。


一番の親友と、本気のデュエルを・・・。

ある意味、一番最高の瞬間でもあり、ある意味、一番最悪の瞬間なのかも知れない――。

だが、加奈と真利の表情は真剣そのものだった。


2人の左腕に装着されたデュエルディスクが展開し、電子音が静かに響く。
デュエルディスクには、互いの最も信頼出来るデッキがセットされている・・・。






“デュエル!!!!”――




「私のターン、ドロー!!」
加奈の先攻――加奈はデッキの上からカードを1枚力強く引き、サッと手札に加える。6枚となった手札を眺め、そこに自分にとって“最高のカード”が入っているのを確認すると、小さく笑みを浮かべた。
「私は、手札から“熟練の黒魔術師”を攻撃表示で召還!!」
加奈は素早い手つきで、手札からモンスターを召還する。
加奈の目の前に現れたのは、黒い衣に身をまとった魔術師――。
衣には、全部で3つの“魔力を込める事の出来る球体”が取り付けてあった。
「そのまま、カードを1枚伏せ、ターンエンド」
先攻は攻撃を許されていない(許されたら嫌がらせだな)。
加奈は攻防一体の手を取り、ターンエンドを宣言した。

加奈 LP:4000
   手札:4枚
    場:熟練の黒魔術師(攻撃)、リバース1枚

熟練の黒魔術師
効果モンスター
星4/闇属性/魔法使い族/攻1900/守1700
自分または相手が魔法を発動する度に、
このカードに魔力カウンターを1個乗せる(最大3個まで)。
魔力カウンターが3個乗っている状態のこのカードを生け贄に捧げる事で、
自分の手札・デッキ・墓地から「ブラック・マジシャン」を1体特殊召喚する。

「私のターンね、ドロー!」
真利は、加奈の一手一手を真剣に見つめ、加奈のターンエンドと同時に、カードを1枚引いた。

ドローカード:サイクロン

真利は何度も加奈とデュエルをしていたため、加奈のデッキコンセプトが手に取るように分かっていた。多少の変化はあるかもしれないが、根本的なところは変わらない。
だからこそ、あのリバースカードの危険性を察知していた。

(加奈のデッキは、“魔術師(マジシャン)”――。だから、あれが“ディメンション・マジック”だったら、次のターン、一気に畳み掛けられてしまう・・・。)
そう考えると、真利は手札のカードのうち、2枚を手に取ると、その2枚を素早く展開させる。
「私はモンスターを1体セットし、魔法カード“サイクロン”を発動!」
真利の叫びと共に、真利の目の前には、台風のような巨大な風が出現していた。その風は、全てを巻き込むかのごとく力を発揮し、加奈の目の前に伏せられていたカードを破壊した。

サイクロン
速攻魔法
フィールド上の魔法または罠カード1枚を破壊する。

(よし!)
真利は心の中でそう思い、小さくガッツポーズをとった。
だが、破壊されたカードは、真利の望むカードではなかった。
なぜなら、加奈も真利のデッキコンセプトを知っていたから。
真利のデッキには、フィールドを制圧、支配できる程の効果を持ったカードが多く入っている。そのため、例え真利の望むカードを引いていても、罠カードでは無い限り、伏せる事は無いだろう。
それに、まだ加奈の手札には、その望むカードは来ていなかった――。

「カードを1枚伏せ、ターンエンド――」

真利 LP:4000
   手札:3枚
    場:裏守備1枚、リバース1枚

「私のターン――ドロー」
加奈は慎重にカードを引いた。
真利のデッキコンセプトを知っている――それはつまり、相手の伏せられたモンスター、カードの予測を立てることが出来るということであり、カードの脅威を知っているということにつながる。そして、自身の恐れを生む。恐れは、自分の行動を束縛し、本来の力を発揮しにくくする。
だからこそ、慎重にカードを手札に加え、加奈はしっかりと手札を見る。
幸い、引いたカードはこの場面、役に立ちそうなカードであった。

ドローカード:ディメンション・マジック

「私は、“魔導戦士 ブレイカー”を攻撃表示で召還!!」
加奈の目の前には、また新たな魔術師が出現する。
しかし、先程の魔術師とは大きな違いが存在していた。それは、魔術師ではあるが、剣を握り、盾を持ち、鎧を着ている部分であった。剣、盾、鎧には“魔力を込める事の出来る球体”が埋め込まれており、そのうち、剣に取り付けられている1つの球体が小さく輝いた。

魔導戦士 ブレイカー 攻:1600→1900


魔導戦士 ブレイカー
効果モンスター
星4/闇属性/魔法使い族/攻1600/守1000
このカードが召喚に成功した時、
このカードに魔力カウンターを1個乗せる(最大1個まで)。
このカードに乗っている魔力カウンター1個につき、
このカードの攻撃力は300ポイントアップする。
また、その魔力カウンターを1個取り除く事で、
フィールド上の魔法・罠カード1枚を破壊する。

(どうする・・・?魔力カウンターで、真利の伏せカードを破壊して・・・?でも、あえてここは、伏せカードを無視して、攻撃力を重視して、攻撃する事も出来るし・・・?)
加奈がどうすればよいかを考えているとき、真利が小さく口を開いた。
「ねぇ、加奈・・・。加奈だったら、バシッ!といけば?それが、私の知ってる“加奈”だと思う――」

真利の助言――。
真利にとって、加奈はとても大きな存在。加奈にとっても、真利は大きな存在。

真利が加奈の尊敬する所――それは、行動力があるところ。
自分の考えを貫き通し、それに従い、悩む事も無く、突っ走るところ。

加奈が真利の尊敬する所――それは、優しさ。
どんな人に対しても、相手のことを考え、行動するところ。



真利の助言を聞き、加奈の何かがトクン――と力強く弾ける。


(そうか・・・、もう考えるのは・・・、止めよう!)
「“熟練の黒魔術師”と“ブレイカー”で――、攻撃!!」

ダダッ!!
加奈の指示を聞き、2体の魔術師は力強く飛び上がり、黒い衣を着た魔術師はその手に握る杖を真利のモンスターに向け、頑丈な鎧を着た魔術師はその手に握る剣を真利自身に向け、突進する。
それを見つめ、真利は小さく笑ったかのように見える、悲しい表情をした。

「ごめんね」


ビシィッ!!

黒い衣を着た魔術師の魔力は、何かに阻まれてしまう。
目の前には、先程まで裏側になっていたモンスター――死霊。

死霊は、死を知らない――全ての攻撃を無力化し、受け止める――。

魂を削る死霊
効果モンスター
星3/闇属性/アンデット族/攻 300/守 200
このカードは戦闘によっては破壊されない。
魔法・罠・効果モンスターの効果の対象になった時、
このカードを破壊する。
このカードが相手プレイヤーへの直接攻撃に成功した場合、
相手はランダムに手札を1枚捨てる。

真利は自分で言っておきながら、その攻撃を防いでしまった――申し訳ない気持ちで一杯だった。だが、加奈はそうは思っていない。
何故なら・・・、“計算通り”だから・・・。


「“ごめんね”はこっちよ!」
加奈は叫び、手札の“速攻魔法”をバトルフェイズ中に発動させる。
「速攻魔法!“ディメンション・マジック”!!」


―――!!?


先程破壊したと思っていた真利にとって、そのカードの発動は、驚きでしかなかった。


次の瞬間、加奈の目の前には、人の形を象った物が出現する。その後、黒い衣を着た魔術師の体は光の粒子となり、それに集まっていき、また別の魔術師を生み出す――。

その魔術師は、黒い衣を着た魔術師とよく似ていた――。

だが、全く違う。


全てを超越した最上級魔術師――。













“ブラック・マジシャン”―――!!!!


加奈 LP:4000
   手札:2枚
    場:ブラック・マジシャン(攻撃)、魔導戦士 ブレイカー(攻撃)

真利 LP:4000
   手札:3枚
    場:魂を削る死霊(守備)、リバース1枚



第8章 明神真利(みょうじんまり)――支配を好む帝王

「速攻魔法!“ディメンション・マジック”!!」
加奈の叫びと共に、加奈の目の前に突如現れた人の形を象った物――。
その物から現れた、黒き魔術師は、杖の先端に魔力を込め、一瞬のうちに死霊を消滅させてしまう。

ディメンション・マジック
速攻魔法
自分フィールド上に魔法使い族モンスターが
表側表示で存在する場合に発動する事ができる。
自分フィールド上のモンスター1体を生け贄に捧げ、
手札から魔法使い族モンスター1体を特殊召喚する。
その後、フィールド上のモンスター1体を破壊する事ができる。

ブラック・マジシャン
通常モンスター
星7/闇属性/魔法使い族/攻2500/守2100
魔法使いとしては、攻撃力・守備力ともに最高クラス。

(くっ・・・!“死霊”が!!)
真利は、死霊が破壊されたときに発生した衝撃を手で庇いながら、悔しい思いで一杯になった。その間に、黒き魔術師と戦士は飛び上がり、真利の方へ向かっていく。
悔しい思いがこみ上げる中、真利はその攻撃を防ぐべく、伏せていたカードを発動する。

「リバースカード!“血の代償”!!」
「“血の代償”・・・!?」
真利の発動したカードを見て、加奈は目を見開き、驚いてしまった。

血の代償
永続罠
500ライフポイントを払う事で、モンスター1体を通常召喚する。
この効果は自分のターンのメインフェイズ及び
相手ターンのバトルフェイズのみ発動する事ができる。

真利 LP:4000→3500

「このカードの効果で、私は手札からモンスターを1体セット!!」
真利は、手札からモンスターを1体抜き出すと、素早く場に出した。
加奈は一度、2体のモンスターの攻撃を止め、攻撃するか否かを考えていた。

無論、戦闘で破壊する事の出来ないモンスターの場合は、攻撃してもしなくても、そこまで影響は無い。ハッタリの場合は、逆に攻撃したほうが、良いに決まっている。

一瞬のためらいがありながらも、加奈は再び攻撃宣言をする。


黒き魔術師が杖の先端に魔力を込め、解き放つ――。
その瞬間、裏側になっていたモンスターの正体が明らかになった。


「私のセットしたモンスターは・・・、“マシュマロン”!!戦闘では破壊されず、加奈に1000ポイントのダメージ!!」
真利の目の前にいたのは、マシュマロの様なモンスターだった。
そのモンスターは、魔術師が放った魔力をモチハダで跳ね返す。そのまま、魔力は加奈を貫き、加奈にダメージを与える。

加奈 LP:4000→3000


マシュマロン
効果モンスター
星3/光属性/天使族/攻 300/守 500
フィールド上に裏側表示で存在するこのカードを攻撃したモンスターのコントローラーは、
ダメージ計算後に1000ポイントダメージを受ける。
このカードは戦闘では破壊されない。

痺れるような衝撃が、加奈を貫くが、加奈はくじけることなく、めげることなく、立ち上がる。そして、小さく口を開き、喋り始める。
「私の・・・メインフェイズ2――。“ブレイカー”の魔力カウンターを減らし、“血の代償”を破壊する――。」
加奈の言葉と共に、戦士は、自身の剣にあった魔力を削り、三日月状の衝撃波を放った。その衝撃波は、一瞬のうちに真利のカードを切り裂き、消滅させた――。

魔導戦士 ブレイカー 攻:1900→1600

「ハァ・・・ハァ・・・ターンエンド――」
加奈は息を荒くしながらターンエンドを宣言した。

加奈 LP:3000
   手札:2枚
    場:ブラック・マジシャン(攻撃)、魔導戦士 ブレイカー(攻撃)

「私のターンね?――ドロー。」
真利は加奈の事を心配しながらカードを1枚引いた。

ドローカード:邪帝ガイウス

それは、フィールドを支配する帝王の内、全てを除外する者――。
そのカードを見て、真利は一瞬だけ躊躇(ためら)ってしまった。

このカードを場に出せば、自分にとって圧倒的な状況を作り出す事が出来る。相手の場を空にし、余裕とも言える状況にすることが出来る――。

だが・・・、これを使って良いのだろうか・・・?

真利の苦悩する表情を見て、加奈は“良いカード”を引いたと言う事に気づいた。


(そう・・・、真利は“優しい子”――。本当に、本当に、優しい――。)
加奈は息を荒くしながらも、笑顔でそう思い、過去を思い出す――。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

加奈がその優しさに気づいたのは、小学3年生の時だった――。
2年生のときは、一緒のクラスになる事が出来なかった分、3年になって、また一緒のクラスになれて、2人は喜んだ――。

その時と同じ位の時からだろうか・・・、真利がいじめられ始めたのは――。

それにいち早く気づいたのは、真利の両親ではなく、加奈であった。
一緒に登校する途中、真利のランドセルが、いつもの物とは違う事に気づいた。いや、違う・・・。よく見ると、いつものランドセルだった――だが、汚れていた。泥や雑草がこびり付き、鮮やかな赤色が濁っていた。

「それ、どうしたの?」
何気なく加奈は聞いた。
だが、真利は焦りながらも、笑顔で、



“なんでもないよ”――


そう言った。

この時からだ。加奈が真利がいじめられている事に気づいたのは――。


「あんた、何良い子ぶってんの!?」
同級生の女子が数人集まって、真利を教室の隅に追いやり、暴言を吐いていた。
「良い子ぶってなんていないよ・・・ただ――」
真利は開こうとした口を両手で閉ざした。
「“ただ――”って、何よ!?」
バシッ!!
その女子は、不意に真利の頬をビンタした。
丁度そこにトイレから戻ってきた加奈が――。
そして、加奈はそれを見て、熱い何かがこみ上げてきた・・・。
「ちょっ・・・!何やってんのよ!!」
加奈は走って、真利を庇うようにして立ち、その数人の女子を睨みつける。
その女子は加奈のその目に驚き、渋々自分の席についた。

加奈はすぐに真利の方を見て、真利のスカートについた埃をパッパッ――と払った。

「何で、私や先生に言わなかったの・・・?」
厳しくは言わなかった。
加奈は優しく、なだめるようにそういった。
すると、真利は小さく涙を流しながら口を開いた。

「だって・・・、言ったらあの子達が、怒られるから・・・」


―――!?


加奈は不思議な気持ちで一杯になった。

真利は、自分をいじめた者達を庇っていたのだ――。



(どうして・・・?)







――――――――――――どうして自分を傷つけた人を庇えるの・・・?――――――――――――


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


(今思えば・・・、あの時、真利の“本当”の優しさに気づいたっけ・・・。だからこそ・・・!!)
加奈は目を鋭くし、真利の方を力強く見た。当然、真利はその視線に気づき、加奈のほうを見た。

「“本気”のデュエル――でしょ?良いカード、引いたんでしょ?だったら、する事なんて決まってるじゃない!そのカードを使って!!!」
加奈の叫び――。



その叫びを聞き、真利は少しだけ驚いてしまった。加奈の方を見て、引いたカードの方を見て、少し考える・・・。そして――


                     使おう・・・。



「私は、“マシュマロン”を生贄に捧げ――」

真利の目の前にいた可愛らしいモンスターは、光の粒子となり、その姿を消す。そして、新たな力となりて、別のモンスターを呼び出す“糧”となる――。



スッ――



真利は引いたカードを握った右腕を力強く振り上げ、そのカードを天にかざす。


「出でよ――“邪帝ガイウス”――!!!」





バシンッ!!!
真利は、そのカードを叩きつけるように、場に出した。



辺り一面が振動し、それが姿を現す。



闇を示す、漆黒の鎧を身にまとった“帝王”が――。




ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!

漆黒の帝王は叫んだ――。
自身が呼び出されるのを待っていたかのように――。


すかさず漆黒の帝王は、自身の両手に闇を作り出す。その闇は、辺り一面を一気に吹き飛ばし、加奈の場にいた黒き魔術師を勢いよく吸い込んでいく。
黒き魔術師は抵抗しようとするが、全ては無力だった――。

一瞬のうちに、黒き魔術師は、漆黒の帝王が作り出した“闇”に飲み込まれ、消えていった。
更に、漆黒の帝王が作り出した闇は、吸収した魔術師の闇と共鳴し、力を増す。
その力は、衝撃となり、加奈を一気に吹き飛ばす。
「アァッ!!」
加奈はそれを防ぐべく、デュエルディスクを盾のようにするが、無論、ライフへのダメージを防げるわけではなかった・・・。

加奈 LP:3000→2000

邪帝ガイウス
効果モンスター
星6/闇属性/悪魔族/攻2400/守1000
このカードの生け贄召喚に成功した時、
フィールド上に存在するカード1枚を除外する。
除外したカードが闇属性モンスターカードだった場合、
相手ライフに1000ポイントダメージを与える。

全てを制圧する“帝王”が、その姿を見せた――。



加奈 LP:2000
   手札:2枚
    場:魔導戦士 ブレイカー(攻撃)

真利 LP:3500
   手札:2枚
    場:邪帝ガイウス(攻撃)


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

『コレデ・・・6人・・・カ・・・』
闇の瞳は、加奈と真利のデュエルを静かに見つめていた。だが、その目は焦点が定まっておらず、少しだけぼやけていた・・・。





“神ノ名ヲ受ケ継ギシ者達”ハ―――。



闇の瞳は、その目で、小さく笑った・・・。
声も、何処か笑っているように感じ取れた・・・。



第9章 LIGHT(ライト)――光を好む帝王

「“ガイウス”で、“ブレイカー”に攻撃!!」
真利の叫びと共に、漆黒の鎧を着けた帝王は両手に“闇”を込める。そして、ある程度集まったのを確認すると、戦士目掛けて一気に解き放つ。



――――闇の破壊(ダークネス・カタストロフィ)!!


ドッ!!!


闇が、全ての破滅を呼ぶ――。
巨大な衝撃が、戦士を一瞬のうちになぎ払い、更には加奈をも吹き飛ばす。

「キャァアッ!!」

加奈 LP:2000→1200

加奈の甲高い悲鳴は、真利の心の奥底にまで届いた。
真利にとって、その悲鳴は何よりも自分を傷つける・・・。

深く・・・、深く・・・。だが、もう悔やまない事にした――。


『本気のデュエル――でしょ?』


加奈の言葉を聞いたから――。


「このままターンエンド」
真利は少し暗い声で、ターンエンドを宣言した。
悔やまないようにはしているが、やはり限界は見えていた・・・。


真利 LP:3500
   手札:2枚
    場:邪帝ガイウス(攻撃)

「私のターン、ドロー!」
加奈は衝撃で傷つきながらも、諦める事なくカードを引く。

ドローカード:闇次元の解放


(よし・・・!これなら!)
そのまま加奈は手札のカードを確認する。

加奈 手札:闇次元の解放、拡散する波動、賢者の宝石


引いたカードには期待できたが、それ以外のカードは、正直微妙とも言えた――。
少しだけ考えると、まだ使えそうな拡散する波動だけを手札に残し、それ以外の2枚は伏せる事にした。そのまま、加奈はターンエンドだ。

加奈 LP:1200
   手札:1枚
    場:リバース2枚

「私のターン・・・ドロー・・・」
敵を傷つけるという事に怯え、その怯えから真利のカードを引く手は、ゆっくりになっていた。ゆっくりとカードを引き、手札に加える。

ドローカード:マジック・ストライカー

真利も加奈同様、手札のカードをしっかりと確認する事にした。


真利 手札:地帝グランマーグ、マジック・ストライカー、クロス・ソウル

まず始めに、クロス・ソウルは使えない。その理由は、簡単。
クロス・ソウルとは、相手の場のモンスターを生贄に捧げ、上級モンスターを召還すると言うもの。つまり、加奈の場にモンスターはいないため、使えないと言う事だ。
本当は、先程、ガイウスを召還するときに使えばよかったのだが、クロス・ソウルを使ったターン、攻撃する事が出来ない。そのため、真利は攻撃を優先し、クロス・ソウルを使わなかった。

ならば・・・。



ここでも、加奈の“本気のデュエル”という言葉を思い出す。

(そうだ・・・、手は抜かない・・・、そう・・・決めたんだ!)
真利は手札のカード1枚に手をかける。

「私は、墓地の魔法カード、“サイクロン”をゲームから除外し、“マジック・ストライカー”を特殊召還!!」
真利の目の前に現れたのは、小さな戦士。
手には魔法の杖によく似た、剣の様な物が握られており、頭には丸っこい角が2本生えた兜を着けていた。

マジック・ストライカー
効果モンスター
星3/地属性/戦士族/攻 600/守 200
このカードは自分の墓地の魔法カード1枚を
ゲームから除外する事で特殊召喚する事ができる。
このカードは相手プレイヤーに直接攻撃する事ができる。
このカードが戦闘を行う事によって受けるコントローラーの
戦闘ダメージは0になる。

「そして、“マジック・ストライカー”を生贄に捧げ――“地帝グランマーグ”を攻撃表示で召還!!」
小さな戦士が光の粒子となり消えたかと思うと、真利の目の前には、また新たな帝王が現れていた・・・。
茶色をしており、地面を表した鎧を着けた帝王だ――。

地面の帝王は、自分の右拳に、自分の力全てを込め、加奈の伏せられたカードを破壊しようと、それ目掛けて勢いよく殴りかかる。

―――地壊拳(グランド・フィスト)!!

「“グランマーグ”の効果――それは、相手のリバースカードを破壊する!!」
「甘いわね・・・!」
真利の言葉に、加奈は小さく笑い、答えた。

「え・・・!?」

「確かに、“グランマーグ”は、セットされたカードを何でも破壊できる――。でも、そのカードを“発動”してしまえば、破壊されない・・・。」

地帝グランマーグ
効果モンスター
星6/地属性/岩石族/攻2400/守1000
このカードの生け贄召喚に成功した時、
フィールド上にセットされたカード1枚を破壊する。

その通りであった。
地面の帝王の盲点をつかれ、少しだけ真利は悔しい思いをしてしまう。

「“グランマーグ”が破壊しようとしているカード――。それは、“闇次元の解放”!!」
加奈は地面の帝王の拳が、伏せられたカードに届くまでに、そのカードを発動した。

「“闇次元の解放”――、除外された“闇属性”のモンスターを自分の場に呼び戻すカード!!」

グググググッ――

加奈の目の前に、漆黒の帝王が出したかのような“闇”が出現した。その闇から、勢いよく1体のモンスターが飛び出してきた。そのモンスター――、それは・・・。





「“ブラック・マジシャン”・・・!」

黒き魔術師が、再び加奈の目の前に現れた。

闇次元の解放
永続罠
ゲームから除外されている自分の闇属性モンスター1体を選択し、
自分フィールド上に特殊召喚する。
このカードがフィールド上から離れた時、
そのモンスターを破壊してゲームから除外する。
そのモンスターが破壊された時このカードを破壊する。

真利は、再び考え始める――。

どうすればいい・・・?と。

地面の帝王は、今召還したばかり・・・、表示形式を変更する事は出来ない。仕方なく、漆黒の帝王だけでもと、真利は漆黒の帝王を守備表示にする。
漆黒の帝王は、自分の目の前で、両腕で×字状の盾を作った。
真利は、まだ考える――。

このターンは、どうする事も出来ない――。

ブラフとして、真利はカードを1枚伏せた。そのまま、ターンエンドだ――。

真利 LP:3500
   手札:0枚
    場:邪帝ガイウス(守備)、地帝グランマーグ(攻撃)、リバース1枚

「ドロー!」
加奈は、素早くカードを引いた。
そのカードに、確かな感触を覚える。

ドローカード:正統なる血統

(このカードがあれば・・・、たとえ“ブラック・マジシャン”が破壊されても、復活させる事が出来る――)

闇次元の解放の効果で、ブラック・マジシャンが破壊されたら、除外されるという事を忘れている事に関しては、スルーしてやって下さいww byショウ

(それに・・・!)
加奈は2枚の手札のうち、1枚だけを少し上に上げ、見やすくする。そのカードは、相手の場を全て破壊する事の出来るカードであった――。

「私は、手札から魔法カード、“拡散する波動”を発動する!!」

加奈 LP:1200→200

加奈の体から、微量の光の粒子が出てくると、その粒子は、全て黒き魔術師の杖の先端に集められていく――。

キィイイィイィイィイイィイイイイイイッ―――!!!

そして、凝縮――。






―――――ブラック・マジック!!!


次の瞬間、黒き魔術師の握る杖の先端から、膨大な魔力が放出され、漆黒の帝王、地面の帝王は、一瞬のうちに消えてしまった――。

拡散する波動
通常魔法
1000ライフポイントを払う。
自分フィールド上のレベル7以上の魔法使い族モンスター1体を選択する。
このターン、選択したモンスターのみが攻撃可能になり、
相手モンスター全てに1回ずつ攻撃する。
この攻撃で破壊した効果モンスターの効果は発動しない。

圧倒的な力――。

「つ・・・強い・・・!」
真利の足が自然と震える。

武者震いなのか・・・、それとも怯えているからか・・・。
それは分からない。ただ、真利の足が震え、そして止まらない事は確かだった――。

「カードを1枚伏せ、ターンエンド――」

加奈 LP:200
   手札:0枚
    場:ブラック・マジシャン(攻撃)、闇次元の解放、リバース2枚

加奈は、冷たくそれを宣言した。
真利は震えながら、デッキに手を伸ばしていく。



(無理だよ・・・、勝てないよ・・・!!)
真利は、涙は流さなかったものの、確実に“敗北”を感じていた。


フッ――


真利が、デッキの上に手を置いた瞬間、辺りが小さく輝き始める――。



確かな感触――。
加奈の時とは似ている、でも少しだけ違う――。



「私のターン――ドロー!!」
そのカードは、力を与えてくれるカード――。


光で、全てを制圧する、帝王のカード――。


「私は、リバースカード――“クロス・ソウル”を発動する」
「な・・・!?“クロス・ソウル”!!?」
一瞬のうちに、黒き魔術師は光の粒子となり、空を舞い上がった。

そして、真利は引いたカードを場に出す。
そのカードは、光り輝き、真利に勇気を与える――。




















“光帝クライス”―――降臨!!!




ドッ!!!!


神々しい光を放つ鎧を着けた帝王がその姿を現した――。

一瞬のうちに、加奈の目の前にある伏せられたカードを破壊する――。

「加奈、カードを2枚引いて。このモンスターは、どんなカードも破壊する事が出来るけど、破壊されたカードのコントローラーは、破壊されたカードの枚数分、ドローすることが出来るの」


光帝クライス
効果モンスター
星6/光属性/戦士族/攻2400/守1000
このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、
フィールド上に存在するカードを2枚まで破壊する事ができる。
破壊されたカードのコントローラーはデッキから破壊された枚数分の
カードをドローする事ができる。
このカードは召喚・特殊召喚したターンには攻撃する事ができない。

加奈はゆっくりとカードを2枚引いた。

ドローカード:マジシャンズ・ヴァルキリア、炸裂装甲

まだ、逆転のチャンスはある――。
加奈はそう思い、小さく笑った。

「私はこのままターンエンドよ」
真利は静かにターンエンドを宣言する。

真利 LP:3400
   手札:0枚
    場:光帝クライス(攻撃)


加奈は、デッキの上からカードをゆっくりと1枚引いた。


ドローカード:魔法の筒

加奈はチッ――と、小さく舌打ちをした。
逆転のチャンスがありながらも、結果、そのチャンスにつながる事が無かったからだ。
「私はモンスターを1体セット――カードを2枚伏せ、ターンエンドよ」
加奈は、手に握ってあった3枚のカード、全てを場に出すと、静かにターンを終える。

加奈 LP:200
   手札:0枚
    場:裏守備1枚、リバース2枚、闇次元の解放

「私のターンね・・・」
真利は、小さくそう言った。
そして、デッキの上に手をそっと置く。

何となく・・・、何となくではあるが、確かな“勝ち”の感触があった・・・。


「ドロー――!!」
真利はデッキの上から、カードをドローする。
確かな感触を、本当の“形”にするために――。

ドローカード:貪欲な壺

「私は、手札から“貪欲な壺”発動!!」

貪欲な壺
通常魔法
自分の墓地からモンスターカードを5枚選択し、
デッキに加えてシャッフルする。
その後、自分のデッキからカードを2枚ドローする。


ガチャガチャガチャン――ッ

デュエルディスクの墓地から、5枚のカードが、連続で出てくる。勿論、デュエルディスクなどの意図ではなく、真利の意図でだ。
「“魂を削る死霊”、“マシュマロン”、“邪帝ガイウス”、“マジック・ストライカー”、“地帝グランマーグ”をデッキに戻し――」
真利は、デュエルディスクから出てきた5枚のカードを手に取ると、しっかりと開き、加奈に見せる。その後、デッキに差し込むと、デュエルディスクからデッキに取り出し、シャッフルを始める。そして、再びデッキをデュエルディスクにセットする。

「カードを2枚ドロー!!」
真利は、一気にカードを2枚引く。



“勝ち”という“形”になった瞬間であった――!!



「手札から、“デビルズ・サンクチュアリ”発動!!」
不意に、真利の目の前に、闇に覆われた“塊”が現れた。その塊は、人の形に似ており、足元には、漆黒の魔方陣の様な物が描かれていた。

デビルズ・サンクチュアリ
通常魔法
「メタルデビル・トークン」(悪魔族・闇・星1・攻/守0)を
自分のフィールド上に1体特殊召喚する。
このトークンは攻撃する事ができない。
「メタルデビル・トークン」の戦闘によるコントローラーへの超過ダメージは、
かわりに相手プレイヤーが受ける。
自分のスタンバイフェイズ毎に1000ライフポイントを払う。
払わなければ、「メタルデビル・トークン」を破壊する。

「そして、“メタルデビル・トークン”を生贄に捧げ――“氷帝メビウス”を召還する!!」
真利は、勢いよく新たな帝王を召還する――。

次なる帝王は、氷、水を支配する帝王であった。

光の帝王のすぐ隣に現れる氷の帝王――。
氷の帝王は、自身の力を開放し、吹雪を発生させる。その吹雪は、辺りを吹き飛ばすかのごとく力を発揮し、加奈の目の前に伏せられていた2枚のカードを破壊する。

氷帝メビウス
効果モンスター
星6/水属性/水族/攻2400/守1000
このカードの生け贄召喚に成功した時、
フィールド上の魔法・罠カードを2枚まで破壊することができる。


「“メビウス”の攻撃――」
真利はゆっくりを手を前に出し、加奈の目の前にセットされたモンスターを指す。




―――氷結晶(アイスド・バーン)!!


氷柱が、氷の帝王の足元より放出される――氷柱は、一旦上空へ舞い上がると、セットされたモンスター目掛けて降り注ぎ、モンスターを連続で貫いた。
氷の帝王の攻撃が終わったとき、既に光の帝王は、攻撃をする準備を整えていた。
自分の目の前に、“光”を凝縮させているのだ――。









――――閃光(フル・ライトニング)!!










シュバババババババババババババッ!!!!

光の帝王が集めた“光”は、光線となり、壁で反射を繰り返しながら、加奈を貫いていく。


加奈 LP:200→0



真利は、自分が勝ったことに気づくと、すぐに加奈の下へ駆け寄った。


ここでも、真利は、自分のことではなく、他人のことを優先したのだ――。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

キーンコーンカーンコーン――
全ての教室に、放送で鐘(チャイム)が鳴る――。
全てのデュエルが終了し、同時に実技テストが終了したのだ・・・。

「確か、この教室で良いんだよな?有里」
翔が、先程までデュエルをしていた教室で、いきなり座り込むと、有里にそう聞いた。
有里は、翔の近くにまで来ると、翔の目の前で、ゆっくりと座り、答える。
「そうよ。私達の教室――ここで大丈夫v」
有里は答えると、翔向かって、小さくウィンクをする。
先程までデュエルをしていた教室――2−A。
ここが、翔達、“6人”の教室――ここに、全員が集合する。

「さてと、行くぞ、神童!」
神也が、大きく叫び、神童を呼んだ。側に置いてあった自分のリュックを手に取り、肩にかけると、神童は、小さくうなずいた。そして、神也の傍に行くと、2人は共に、2−Aへと向かう――。

「やばぁい!遅れてるよ、真利!!」
加奈がリュックを片手に持ちながら、腕時計を見て、時間を確認する。後ろでは、加奈と共に、全力疾走をしている真利がいた。息を荒くし、苦しそうだ・・・。
「分かってるけど・・・、加奈・・・足・・・速い・・・って!」
真利は、そうつぶやいた。
急いでいる加奈の耳には、届いていなさそうではあるが・・・。


2−Aに集う――6人の“戦士”達が――。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

――ドクン――

闇の瞳の鼓動が、少しずつ加速していく――。
瞳は、瞼のかすかな動きで、その楽しさを示す――。

『ツイニ来タノカ・・・、サァ・・・始メヨウカ・・・!!』

闇の瞳は、自身の姿をゆっくりと変え始める。
瞳は、漆黒の太陽、球体へと姿を変え、更にそこから、悪魔の様な風貌となる。


『宿命ノ戦イヲ・・・!!!!!』

悪魔は、両手を力強く広げ、目の前に“時空の歪(ひず)み”を出現させる――。
ジジジジ――と、その歪みは、少しずつ大きくなっていく――。

もう、止まらない・・・。
運命の輪は・・・、戦いは・・・、つながりは・・・!



第10章 未知の世界へ――闇の神と謎の世界と不穏な影

「一番乗・・・り・・・?」
加奈は力強く2−Aの扉を開け、中に入るが、そこにはその場で、デュエルを行っていた翔と有里が座っており、自分が一番では無い事に気づく・・・。そして、落ち込んだ。そこに、真利が来ると、真利は加奈を落ち着かせながら、ゆっくりと翔と有里の下に近づき、座る。

「神童!速くしろぉ!!」
神也が2−Aの扉まで来ると、神童を力強く呼ぶ。
神童は、あまり体力に自信が無く、かなりバテバテであった――。
しかし、何とか2−Aにまでたどり着き、その表情は笑顔そのものであった。

「よしっ・・・、これで全員揃ったな!」
翔は、全員が揃ったのを確認すると、1人だけで立ち上がり、辺りを見回す。そして、再びゆっくりと座ると、ニヤッ――と小さく笑った。
「今回の実技テストで、勝った奴――手を挙げろォ!!」
翔が叫ぶと、翔に続き、神童、真利が力強く手を挙げる。
それ以外の3人(有里、神也、加奈)は、かなり落ち込んでいる――。

「おっ!神童、お前勝ったのか?」
翔が、意外な人物が勝ったことに気づくと、神童の頭を力強くなでる。
「痛いよぉ、翔・・・」
弱々しい声で、つぶやく神童――。

お前、そんなキャラだったのか・・・? byショウ


あぁ・・・、いつもの日常だ・・・。

翔は、自分を除く5人と会話を続けながら、そう実感する。

何故かは、分からない――、だが、不意に、老人の様な事を考えてしまった・・・。
何故だろう?
そう思いながら、作った笑顔を見せる。


こんな日々が・・・、永遠に続けと・・・、そう思う。

永遠に・・・、永遠に――。



この6人全員で、楽しい日々を――。



「デュエルしようぜ!デュエル!!」
神也が、楽しそうな笑顔で、そう叫ぶ。
大勢の者は、反対するが、翔は違った――。
神也同様、笑顔になると、神也に続き、立ち上がる。
「やろうぜ!デュエル!デュエルぅ!!」


もう止まらないな・・・。

4人はそう思った。
この者達の性格を詳しく知っているのは、この4人――だからこそ、デュエルをしなければならない事に気づく。


「もう・・・、仕方ないなぁ!!」
有里は、自分のデュエルディスクをリュックから取り出し、デッキをセットし、左腕に装着すると、グッ――と素早く立ち上がった。
それに続き、加奈、真利、神童の順で、3人も立ち上がる。当然、デュエルディスクを左腕に装着して――だ。


永遠の楽しい日々――。



デュエルディスクが展開し、6人全員が、カードを5枚引く。

6人同時で、デュエルをするらしい・・・。



終わらないと信じていた――。



「準備は良いな・・・?」
翔が聞くと、有里、神童、神也、加奈、真利の順で、小さくうなずく。


そして、6人が一斉に“デュエル”――と叫ぼうとした瞬間、異変が起こる――!





でも、終わるんだ――。





『来イ・・・、“〜〜〜〜〜〜〜〜〜者達”ヨ――!!』

頭に直接響く、闇の声――。
最初にそれに気づいたのは、翔であった。
頭を両手で抑え、苦しみ始める――。

「翔っ!!?」
それを見て、近くにいた有里は、翔の下に駆け寄ろうとするが、その瞬間、翔の感じた頭に響く声を聞き、有里もまた、苦しみ始める――。

そして、残りの4人も、頭を抑え、苦しみ始める・・・。



「何なんだ・・・!!?」
苦しみながらも、片目だけを開け、辺りを見回す。


―――!?


目の前に、誰かが立っている・・・。


外見は黒くて、よく見えないが、確かに誰かがいる・・・。



「・・・だっ・・・誰・・・だ・・・!!?」




“自分”――。


闇に染まった、自分自身――。



それを見た瞬間、頭の痛みはピークに達する。




「グッ・・・!!」
他の5人も同様に、頭の痛みにピークを感じる・・・。そして、6人は、同時に叫ぶ・・・。その痛みを取り払わんとする限り――力強く。




「「「「「「アァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」」」」」」




ブワァッ!!

時空の歪みが、6人を一気に包み込む。
次の瞬間、頭の痛みが無くなった事に気づき、翔は力強く目を開く。

辺りの風景が、次々と変化を続ける・・・。


「なっ・・・何だ・・・これは・・・。何なんだァアアアアアアアアア!!」

自然――山――火山の噴火――海――湖――世界の崩壊――人の“死”――

数多くの何かを見ながら、6人は“何処か”へと、吹き飛ばされる。



翔に続き、有里、神童、神也、加奈、真利も目を開け、その周りの風景に驚き、絶叫する。


何が・・・、一体何が・・・!!


翔達の頭は、パニックを起こし、思考が停止しそうになる――。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

翔達が何処かへ吹き飛ばされる中、闇の空間では――。


「ホォ・・・やっと呼んだか・・・“邪神”よ・・・!!」
黒き髪をした青年が、重々しい腰をゆっくりと上げ、立ち上がると、悪魔のような風貌をした、いや、悪魔にそう言った。
悪魔は、その厳つい顔で、小さく笑った・・・。
そして、また自身の姿を変える。

その姿は、龍の姿――。

全てを威圧し、飲み込み、破壊する、破壊の神――。


『今回ノ“神ノ名ヲ受ケ継ギシ者達”ハ、6人ダ・・・』
龍はそう言うと、6人の顔写真と、“飛ばした”場所を提示する・・・。
青年は、その顔と場所を見ると、ゆっくりとそして、小さく笑った――。

確かな“何か”を感じ取ったからだ――。


「そうか・・・、こいつだったのか・・・“シン・シャインローズ”の“遺産”は――!!」
何かを感じ取ると、青年は大きく笑い始める。
目を右手で抑え、空を見上げ、大きく笑う――。



ハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ―――!!!!



「殺してやるよ・・・、この“邪神”でな・・・。勿論、このオレ様――“ガイア・ドラゴニルク”の“遺産”――“ファイガ”がナァ!!!」


ファイガは、目を見開き、邪神を、そして敵の“遺産”を見つめる――。

その後、飛ばした場所を見ると、ファイガは、何かに気づいた。

「そうか・・・、この場所は・・・。“あの戦い”が、行われた場所か――」

ファイガは、再び止まらない笑いを始める。
その隣では、龍が自身の姿を再び、漆黒の太陽、球体へと変えていた――。

「“第3部隊”――、“デストロイド”、“第3部隊”はいるか!?」
ファイガの叫びに、黒いマントで、自身の風貌を隠した1人の男が、現れた。
頭を下げ、ファイガを敬っている状態で――。

「現在、第3部隊は、何人いる・・・?」
ファイガの問いに、黒いマントの男は、小さく笑い、答える。

「総勢――数百名でございます――」

「全員を“P96 E17”の座標へ向かわせろ――、そこにいる6人の男女を全員、捕まえてくるんだ――!」
ファイガの言葉に、黒いマントの男は、「かしこまりました」と告げ、何処かへ消えてしまった。

ファイガの言った第3部隊――それは、雑兵ども。
力はあるが、数が多いだけの、もはやクズとなった部隊――。

だが、数が多いからこそ、使える部隊でもある――。


「貴様らは、こいつらに勝てるかな・・・?」

ファイガは、小さくそうつぶやいた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

―――!?


翔は、静かに意識を取り戻す。仰向けになっているようで、青い空だけが見えていた。辺りを見回すと、そこには5人全員も意識は無いが、いた――。
全員無事だ――それを確認すると、翔は小さく笑った。

その後、両手足、首を動かし、五体満足かどうかを確認、そして額にあったゴーグルを触り、ゴーグルが割れていない事も、念のため確認する――。
左手には、デュエルディスクとデッキが――、腰にはデッキケースと克からもらったお守りが――、近くには余りのカードが何枚か入ったリュックもある――。

リュックを取ろうと、立ち上がった瞬間、辺りの光景を見て、翔は驚いた――。


何も無い・・・、荒野――。


何らかの“戦いの跡”があるだけで、それ以外は何も無い、本当にただの荒野――。


ここは・・・、一体・・・!?



翔は、恐ろしい光景と共に、大きく叫ぶ――。

















何処なんだぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!




翔の叫びは、ただ空を切るだけであった――。





全てが、“謎”で包まれる中、翔達は、おそらく人生で、“最強の謎”を前にしてしまう――。


第3部隊という、脅威が近づく中で――。



第11章 黒ずくめの使者達――強制デュエル開幕!

 何も無い荒野――。
 そこに6つの人影があった。

 3人は少年――もう3人は少女だ――。


 担ぎ方は違うが、全員リュックを担いでおり、中には数多くのカードと、デュエルディスクと呼ばれるデュエルを行う機械が入っていた。腰にデッキケースをつけている者もいれば、デッキケース以外に、お守りのような物をつけている者もいる。

 全員が、かなりの汗を流しており、食料や水も無いため、心身ともに疲れ果てている状態であった――。

 少年達は、何とか歩けているようだが、少女達は既に限界が近づいていた・・・。


「疲れたよぉ〜。」
 少女の1人、髪が自分の肩位にまで伸びている“有里(ゆうり)”が全員に聞こえるように言う。だが、誰も答えようとはしない。
 それもそのはず・・・。疲れのせいで、喋る事も難しくなっているからだ。
「あぁ?みんな疲れてるんだ。ここが何処か分からない以上、歩くしかないだろ?」
 赤茶色をし、ボサボサの髪型をした“翔(かける)”が、多少の怒りをぶつけるように言った。有里は、ぶつぶつと文句を言いながら、再び歩き続ける。

 時は、数十分前にさかのぼる――。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 翔達6人は、突然、“ここ”にたどり着いた。

 もちろん、ここが何処なのか、誰も知っているわけも無く・・・。

 まず始めに目を開けたのが、翔であった。翔は、辺りを確かめ、何処なのか分からないながらも、何とかしようと考え、他の5人を起こす事にした。まず始めに起こしたのは、有里であった。
 有里は、眠そうな目を無理矢理開けると、その荒野を見て驚き、飛び上がるように目覚める。

「え・・・!?ここ・・・、何処!!?」
 有里の当たり前のような質問に、翔は答えることが出来ず、逆に落ち込んでしまう・・・。そのまま、翔は別の人物を起こす事にした。
 次に起こしたのは、髪が普通より少し長めの“神童(しんどう)”だ。
 翔の言葉で目を開けた神童は、有里と同様なリアクションを取る。
「・・・!?ここ・・・何処?」
 涙で多少ぬれた目を翔に向けたため、翔は胸が締め付けられるような思いを覚えてしまう。

 3人目は、髪が少し短い“神也(しんや)”だ。
「・・・。夢・・・?眠いから起こすなよ、翔・・・」
 寝ぼけているのか再び眠ってしまったため、翔は何度も体を揺すり、無理矢理たたき起こす事にした。だが、なかなか起きないため、見かねた有里が、バシンッ――と思い切り神也の頬をはたき、それにより、神也はしっかりを目を開ける。

 4人目と5人目は同時に起こす事にした。
 両手で、腰に届くくらい長い髪をした“加奈(かな)”と、有里より髪の短い“真利(まり)”を揺すり起こそうとするが、この2人もなかなか起きない・・・。
 そのとき、ふと何を思いついたのか翔が、加奈と真利の耳元で、思い切り手を叩くと、2人は飛び上がるように起きてくれた。そのリアクションに、翔は小さく笑ってしまう。

 その後、翔を含め、6人は自分の荷物、デッキがあることを確認し、それを自分の近くに引き寄せると、話し合いを始める事にした。といっても、何を話し合っていいのかすら分からない6人にとって、この話し合いに何の意味があるのか分からないのだが・・・。

「んで・・・、ここは何処なんだ?翔」
 まず始めに話し合いを切り出したのは神也であった。
 神也は、一番初めに目を覚ました翔ならと思い、翔に聞くが、翔は小さく首を横に振った。

「こういう場合って、どうするの・・・?」
 真利が、弱々しい声で、全員に問いかけるように言った。当然、こんな状況のとき、どうするかなど、学校で習うわけも無く、どうすれば良いかわからなくなってしまう。

「・・・、しばらく歩いてみるってのは、どう?ここが何処なのかも分からないんだし、案外何処か分かるかもよ?」
 この言葉を切り出したのは、加奈であった。
 全員その言葉を聞き、悩みだすが、どうしていいのか分からないため、取り敢えず・・・と、軽い気持ちで、それに乗り、歩き出す。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 そして、数十分歩き、現在に至る――という訳だ。

 翔、神童、神也は疲れながらも何とか歩いていくが、有里、加奈、真利の体力は既に限界――少しずつ離れていってしまう。
「おい!離れるなよ!?こんな所で離れたら、もう会えないかも知れないぞ!」
 翔の発言を聞き、何とか力を振り絞り、歩こうとするが、やはり無理であった。息を荒くし、3人の少女は、その場で倒れこんでしまう。

「くっそ!」
 翔は、嫌々ながらも、体力を振り絞って走り、3人の少女の下へ向かう。






 そんな時であった――。


 翔が、後もう少しで少女達の下に着く――という時に、大人位の低い声が3つ、何処からとも無く聞こえてくる。




「「「“悪夢の鉄檻”――発動ッ!!!」」」



 その言葉を聞き、翔は勿論、全員が驚く――。



「“悪夢の鉄檻”・・・!?」







―――ガッシャァアアアアアアアンッ!!!!


 ドーム状の鉄檻が地面より姿を現し、勢いよく有里、加奈、真利の3人を捕らえてしまう。翔は有里がとらわれている鉄檻にガンッ――と力強くしがみつく。

「っ!!何だこれ!!?」
 翔は何度も鉄檻を揺すり、何とかしようとするが、当然びくともしない――。

 そのとき、黒いマントで、体と顔を覆った大人位の背丈をした者が1人現れ、翔の腹部を蹴り、吹き飛ばす。


「ガァアアアアアッ!!」
 腹部を蹴られたため、かなりの痛みを覚えながらも、翔は神童、神也の所まで吹き飛ばされてしまう。その直後、黒いマントで体を覆った者は、更に2人現れる。
 それぞれが、3つの鉄檻の前に立ちはだかる――。

「何だ・・・?お前等ァ・・・ッ!」
 翔の表情が、いつもの優しい表情ではなくなっていた・・・。
 明らかに怒りを覚え、その怒りを吐き出そうとしている表情だ――。
 黒ずくめの者達は不意に、左腕をそのマントから出す。そこには、翔達の持っている物とは少し形状が違うが、確かにデュエルディスクを装着していた。

「デュエル・・・ディスク・・・?」
 神也が、まず始めにそのデュエルディスクに気づき、多少の驚きを示す。

「“デュエルをしろ”・・・って事かな?」
 弱々しい声で、神童が言うと、黒ずくめの者3人は、同時に、そして小さくうなずいた。黒ずくめの者達は、何故か喋ろうとしない・・・。


「デュエルで勝てば・・・、3人を助けられるって事か・・・!?」
 翔は、蹴られた腹部を右手で押さえながらも、ゆっくりと立ち上がりながら、静かに聞いた。黒ずくめの者達は、再び小さくうなずく。



















―――そうか・・・。

 翔は、誰よりも早くリュックからデュエルディスクを取り出し、自らの左腕に装着、腰のデッキケースからデッキを取り出し、デュエルディスクにセットする。そして、リュックは遠くへ投げ飛ばし、ゆっくりと構える。



「上等だ――。」
 翔は自分の歯を力強くかみ締める。


「捕まえてるって事は、オレ達が負けた場合は――」
 神也が、最悪の展開を話そうとするが、翔はそれを手で止める。その目は、怒りに満ち溢れ、黒ずくめの者達だけを睨みつける――。



ぶっ殺してやる――!」



「!!?」
 とらわれた有里が、翔の言葉を聞き、驚く。



 覚えが無かった――翔の口から、人を傷つけるような言葉が出るのを――。



「来いよ――!!」
 挑発的な言い方で、翔は叫ぶ。
 そんな言葉を聞きながら、神童と神也も、デュエルディスクを取り出し、左腕に装着する。デッキは既にセットされているようだ――。
























――――――――――仲間を傷つける奴は、絶対(ぜってぇ)許さねぇ・・・!!――――――――――

 吐き捨てるように翔は言う。


「お前等は・・・!!ぶっ殺してやる!!!何度でもなぁッッ!!!」

 力強く握り締めた拳を突き出すかのようにし、黒ずくめの者達に叫ぶ。翔の言葉を聞くと、黒ずくめの者達は、それぞれ翔、神童、神也の前に立ち、デュエルディスクを再度構える――。
 そして、顔を覆っているマントをゆっくりと外す。



「サァ・・・!“死の戦い(デス・デュエル)”を始めようかぁ・・・!!」
 翔の目の前に立っていた黒ずくめの者が、楽しむかのように言う。
 その言葉を聞き、翔は更に怒りをあらわにする・・・。

「あぁ・・・!!てめぇ等の死で、“デス・デュエル”を飾ってやるよ!!」












































































―――――デュエルッッ!!!!


 6人一斉に、大きく叫ぶ。

 それと同時に、6人は、デッキの上からカードを5枚引く――。





フッ・・・

 翔の目が、小さな変化を起こしていた・・・。
 怒りとか、そんなものでは無い――。

 瞳が、何重にも重なり、“全てを見通す”かのような目になっていく―――。



第12章 翔の怒り――全てを見通す瞳

 翔、神童、神也対黒ずくめの者3人のデュエルが始まった。

 3対3ではなく、正確に言うと、1対1が3つだ。

「オレのターン、ドロー!!」
 翔は怒りに溢れた声で大きく叫び、カードを1枚引く。

ドローカード:メタル・リフレクト・スライム

 次の瞬間だった。

 頭の中に、“何か”がよぎる――。

(“リクルーター”――?)
 問題の答えのように、翔は敵のデッキを読み取る事が出来た――。それが、真実かどうかは分からなかったが、自分の頭の中に浮かび上がった“答え”を信じて、その対策をとることにした。

「オレは“クィーンズ・ナイト”を攻撃表示で召還、カードを1枚伏せ、ターンエンドだ」

クィーンズ・ナイト
通常モンスター
星4/光属性/戦士族/攻1500/守1600
しなやかな動きで敵を翻弄し、
相手のスキを突いて素早い攻撃を繰り出す。

 赤い鎧を身にまとった、トランプのQを意味する女戦士が、翔の目の前に現れる。その次に、裏側となったカードが1枚出現し、その2つの出現を確認すると、翔はターンエンドを宣言する。

翔  LP:4000
   手札:4枚
    場:クィーンズ・ナイト(攻撃)、リバース1枚

「私のターン――ドロォ・・・」
 先程挑発的だった黒ずくめの者が、翔の対戦相手。黒ずくめの者は、カードを1枚引き、手札に加えると、まるでそれが当たり前かのように、モンスターを召還しようとする。
 次の瞬間、再び翔の頭の中に、何らかのモンスターの絵柄が浮かび上がってくる。

(“キラー・トマト”・・・!?)
 その直後に、黒ずくめの者の目の前に、トマトのような植物の化け物が出現する。

「“キラー・トマト”を攻撃表示で召還だぁ!」
 翔は、自分の考えが合っている事に驚きを感じてしまう。
「更に“強制転移”を発動し、私の“キラー・トマト”とお前の“クィーンズ・ナイト”のコントロールを入れ替える!」
 女戦士の目に光がなくなると、女戦士は素早く黒ずくめの者の前に立ちふさがり、翔の目の前には、同様に目に光をなくしたトマトのような化け物がやってくる。

キラー・トマト
効果モンスター
星4/闇属性/植物族/攻1400/守1100
このカードが戦闘によって墓地へ送られた時、デッキから攻撃力1500以下の
闇属性モンスター1体を自分のフィールド上に表側攻撃表示で特殊召喚する事ができる。
その後デッキをシャッフルする。

強制転移
通常魔法
お互いが自分フィールド上モンスターを1体ずつ選択し、
そのモンスターのコントロールを入れ替える。
選択されたモンスターは、このターン表示形式の変更はできない。

「“クィーンズ・ナイト”で、“キラー・トマト”に攻撃ィ!!」
 目に光を失った女戦士は我を忘れ、黒ずくめの者の言う事を聞いてしまう。そのまま、右手に握る剣を振り下ろし、トマトのような化け物を切り裂く。

翔  LP:4000→3900

 翔は、驚きのためか、我を失っており、今の女戦士の攻撃で目が覚める。その間にも、黒ずくめの者は、更なる行動に移っていた。
「“キラー・トマト”の効果で、更に“キラー・トマト”を特殊召還!攻撃ダァ!!」
 黒ずくめの者の目の前に、再びトマトのような化け物が出現すると、その化け物は、翔目掛けて突っ込んでくる。だが、我を取り戻した翔にとって、その程度の攻撃は、どうでもいいものであった。

「リバースカード――“メタル・リフレクト・スライム”発動」
 突然、翔の目の前に、スライム状の巨人が姿を現す。トマトのような化け物は、攻撃をやめ、黒ずくめの者の側に戻ってくる。

メタル・リフレクト・スライム
永続罠
このカードは発動後モンスターカード(水族・水・星10・攻0/守3000)となり、
自分のモンスターカードゾーンに守備表示で特殊召喚する。
このカードは攻撃する事ができない。(このカードは罠カードとしても扱う)

「チッ・・・、カードを1枚伏せ、ターンエンドだ」
 黒ずくめの者は、小さく舌打ちすると、カードを1枚伏せ、ターンエンドを宣言する。

黒ずくめT LP:4000
      手札:3枚
       場:クィーンズ・ナイト(攻撃)、キラー・トマト(攻撃)、リバース1枚

 翔は、カードを1枚引きながら、小さく笑い、黒ずくめの者を挑発し始める。
「お前・・・、その程度しか出来ないのか?」
 その挑発に、黒ずくめの者は怒りをあらわにする。だが、そんな事お構い無しに、翔は、目の前にいるスライムを生贄に捧げ、手札から新たなモンスターを召還する。

「オレは、“メタル・リフレクト・スライム”を生贄に捧げ――“ジャックス・ナイト”を攻撃表示で召還する」
 スライムが光の粒子となり、その姿を消すと、青き鎧を身に着けた青年の戦士が姿を現した。

ジャックス・ナイト
通常モンスター
星5/光属性/戦士族/攻1900/守1000
あらゆる剣術に精通した戦士。
とても正義感が強く、弱き者を守るために闘っている。

「当然、攻撃だ――対象は、“クィーンズ・ナイト”――」
 青き鎧をつけた戦士は、勢いよくダッシュし、味方の女戦士に向かっていく。戦士は、歯を食いしばり、躊躇いながらも、女戦士を一気に切り裂く。

黒ずくめT LP:4000→3600

「てめぇみたいな奴が、オレのカードに触れるな!――カードを1枚伏せ、ターンエンドだ!!」
 翔は、自分のモンスターを利用された事にも腹を立て、素早くカードをもう1枚場に出すと、ターンエンドを宣言する。

翔  LP:3900
   手札:3枚
    場:ジャックス・ナイト(攻撃)、リバース1枚

 黒ずくめの者は、怒りをあらわにしていきながらも、カードを1枚引く。

ドローカード:魔導師の力

「フフフフフ・・・」
 黒ずくめの者は、不適に笑うと、新たなモンスターを召還する。
「私は、“巨大ネズミ”を攻撃表示で召還だ――」
 そのモンスターは、普通にいるネズミの数倍の大きさをしたネズミであった。

巨大ネズミ
効果モンスター
星4/地属性/獣族/攻1400/守1450
このカードが戦闘によって墓地へ送られた時、デッキから攻撃力1500以下の
地属性モンスター1体を自分のフィールド上に表側攻撃表示で特殊召喚する事ができる。
その後デッキをシャッフルする。

「更に!“魔導師の力”を発動し、“巨大ネズミ”に装備する!!」
 黒ずくめの者が場に出したカード、それは巨大なネズミに更なる力を与えるカード――。ネズミの背後にある裏側となったカードがエネルギーとなり、そのネズミに力を与え始める――!

巨大ネズミ 攻:1400→2400
      守:1450→2450

魔導師の力
装備魔法
自分のフィールド上の魔法・罠カード1枚につき、
装備モンスターの攻撃力と守備力を500ポイントアップする。

「“巨大ネズミ”で、“ジャックス・ナイト”に!“キラー・トマト”でダイレクトアタックだぁああっ!!!」
 ネズミは、その力を引き出し、爪で、青き鎧をつけた戦士を素早く切り裂く。トマトのような化け物も、翔の腹部に思い切り、体当たりし、翔を吹き飛ばす。

翔  LP:3900→2000

「翔ゥウウウウウウウウウウッ!!」
 ボロボロになっていく翔の姿を見て、どうしようもない感情がこみ上げてきた有里は、大きく叫ぶ。涙を流しながら・・・、大きく・・・。
 だが、翔はゆっくりと立ち上がり、自分の左手で握ってあるカードを更に力強く握る。
「ギャハハハハハッ!!!サァ・・・どうするぅ!?」
 黒ずくめの者は、既にターンエンドを宣言していたようだ。翔は、ゆっくりとデッキの上から、カードを1枚引く。

黒ずくめT LP:3600
      手札:1枚
       場:巨大ネズミ(攻撃)、キラー・トマト(攻撃)、魔導師の力(巨大ネズミ装備)、リバース1枚

ドローカード:カップ・オブ・エース

ヘヘッ・・・
 翔は、ボロボロになりながらも、小さく笑った。
 自分が勝つと分かっているからだ・・・。

 それが、自分の頭の中から、再び浮き上がってきた“答え”であったから――。

「“カップ・オブ・エース”発動――」

カップ・オブ・エース
通常魔法
コイントスを1回行い、表が出た場合は自分のデッキからカードを2枚ドローする。
裏が出た場合は相手はデッキからカードを2枚ドローする。

 翔は、今引いたカードをゆっくりとデュエルディスクにセットし、発動する。

「ハハハッ!!そんな苦し紛れのカードが、成功すると思っているのか!!?」
 翔の目の前に立体映像のコインが出現し、回転しながらゆっくりと落ちていく。表か裏か・・・。そんなのどうでもよかった。
 翔には、表になるという“答え”が見えていたから――。



コイン:表




「なっ・・・!!?」
「デッキの上から、カードを2枚引く――」
 翔は、まずデッキの上からカードを1枚引く。

ドローカード:キングス・ナイト

 既に手札には、“融合”と“闇の量産工場”があったため、“アルカナ ナイトジョーカー”が出せると確信している中、翔は2枚目のカードを引く。
 本来は、今から引くカードは“融合”であった――。

 だが、紫色のオーラと、バチッ――という静電気くらいの小さな電撃と共に、その“融合”は変化し始める――。


 翔の怒りという“闇”を吸い取り、“融合”は新たな力を手にし、“進化”する――。


「手札から、“闇の量産工場”を発動し、“クィーンズ・ナイト”と“ジャックス・ナイト”を手札に加える――」
 翔は、デュエルディスクの墓地から、機械音と共に出てきた2枚の通常モンスターを手札に加える。

闇の量産工場
通常魔法
自分の墓地から通常モンスター2体を選択し手札に加える。

 気づいたら、翔の手札は既に6枚となっていた――。


「な・・・!?手札が・・・、6枚・・・だと!?」
 黒ずくめの者が当然のように、驚く。
 翔は、ゆっくりと自分の感情を“怒り”を越えた“闇”に変えていく――。



 瞳が、濁る――右の瞳は、全てを瞳が何重にも重なった瞳でありながら、左の瞳は、光を失い始める――。



「“融合”だ――出でよ、“アルカナ ナイトジョーカー”ッ!!」
 翔の目の前に現れたのは、漆黒の戦士。いや、今は漆黒の“狂”戦士と呼ぶべきか・・・。
 翔の怒りを、闇を吸い取り呼び出された漆黒の戦士は、翔と同様に、瞳に光を失っており、闇に染まっていた。


「攻・・・撃ィイイイイイイイッ!!!」









――――フル・トリック・オア・トリートォオオオオオオオオオオオオオオッ!!!

 闇に覆われたその技は、漆黒の戦士の刃をより闇に染め上げる――。
 漆黒の戦士の刃は、更なる力を得ていたネズミを一瞬で切り裂いてしまう。

黒ずくめT LP:3600→2200

「ハハハハハッ!!かかったなぁ!?“巨大ネズミ”の効果で、“巨大ネズミ”を特殊召還ッ!更に、リバースカード、“ダメージ・コンデンサー”を発動!!」
 黒ずくめの者の目の前には、再び巨大なネズミが、そしてその直後に、巨大なコンデンサーが出現する。それと同時に、黒ずくめの者は、手札にあった“キラー・トマト”をコストとし、墓地に送ると、目の前に更なるネズミが姿を現す。

ダメージ・コンデンサー
通常罠
自分が戦闘ダメージを受けた時、手札を1枚捨てて発動する事ができる。
その時に受けたダメージの数値以下の攻撃力を持つモンスター1体を
デッキから攻撃表示で特殊召喚する。


 翔が気づいたときには、黒ずくめの者の場には、3体のモンスターが並んでいた。
「これだけのモンスターがいれば、このターンを凌ぐことは容易だァ!!そして、次のターン!貴様の命は終わるぜェ!!」
 何故、黒ずくめの者が、これだけ言えるのか――。
 それは、“イカサマ”をしているから。デッキの一番上に、今、自分が最も来て欲しいカードを仕込む事が出来るからだ。
 黒ずくめの者が、勝ち誇った表情をしている中、翔は小さく笑う。

「ヘヘッ・・・無理だな・・・。」
 翔の言葉に、痺れを切らし、黒ずくめの者は大きく叫び、「何故だ!?」と問う。その言葉を聞き、翔はもう一度笑って見せると、高らかに宣言する。
「お前に、次のターンは無いからだ!――リバースカード、“融合解除”発動!!」


バキィイイイイイイイインッ!!!
 翔が伏せていたカードを発動した瞬間、目の前に聳え立っていた漆黒の戦士の体が、エネルギーの塊となり、3つに分裂する。そして、赤き鎧を着けた女戦士、頑丈な鎧を着けた老戦士、青き鎧を着けた戦士の3体が出現する。

融合解除
速攻魔法
フィールド上の融合モンスター1体を融合デッキに戻す。
さらに、融合デッキに戻したこのモンスターの融合召喚に使用した
融合素材モンスター一組が自分の墓地に揃っていれば、
この一組を自分のフィールド上に特殊召喚する事ができる。

「一斉攻撃ッッ!!」

ダダダンッ!!!
 3体の戦士は、勢いよくダッシュすると、黒ずくめの者の目の前に並んでいた3体のモンスターを素早く切り裂く。すると、3体のモンスターは、巨大な爆発音と共に、その姿を消した――。

黒ずくめT LP:2200→1400

 黒ずくめの者は怯えていた――。


 目の前に聳える翔の姿に――。



 漆黒の“闇”を纏った、悪魔にも見える翔の姿に――。


 怯えにより、3体のモンスターの効果を使う事を忘れていた。

 怯えは、思考を停止させ、“逃げる”という本能を呼び起こす。


 その黒ずくめの者は、怯えながらも立ち上がり、逃げようとするが、腰が抜けており、うまく立ち上がれない――。


「終わりだ――。手札から“速攻魔法”――!!」






 翔は、“闇”によって飲み込まれたカードを使う――。


 いや、闇に飲み込まれているのは、翔自身――。



 闇は、融合を新たなランクにし、翔に命令する――。






























































『殺セ・・・。』と。
































“超融合”―――






発動ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!











 次の瞬間、翔の目の前に巨大な闇の渦が出現し、その中に3体の戦士は飲み込まれていく――。


 そして、新たな闇を作り出し、再び漆黒の戦士を解き放つ――。


超融合
速攻魔法
手札を1枚捨てる。自分または相手フィールド上から融合モンスターカードに
よって決められたモンスターを墓地へ送り、
その融合モンスター1体を融合デッキから特殊召喚する。
このカードの発動に対して、魔法・罠・効果モンスターの効果を発動する事はできない。
(この特殊召喚は融合召喚扱いとする)



殺セ・・・』


「お前は・・・、オレの仲間を傷つけようとした――。」
 翔は頭の中の“闇”からの言葉と、自分の言葉をダブらせながら話す。




殺スンダ・・・』



「だから――!!オレは、お前を・・・“殺す”!!!」
 翔のその異変に気づいた有里は、大きく叫ぶ。





















翔ゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウッ!!!



 翔にその言葉は届かなかった――。







攻撃・・・―――!!
















































―――――――――――――――フル・トリック・オア・トリート―――――――――――――――








ザシュッ――

 ドロドロの赤き液体が、辺り一面に広がる。当然、それを見ていた翔の顔や服には、その液体がかかってしまう。光を失った翔の目には、グロテスクとも呼べるほど、ボロボロになった黒ずくめの者の姿があった――。





 残酷なまでに――、その姿は残り続ける――。









黒ずくめT LP:1400→0





 静かに、有里の動きを束縛していた鉄檻が無くなり、それと同時に、翔も崩れるように倒れる――。


 有里は走って、倒れかける翔を何とかつかみ、倒れないようにする。





「翔・・・」
 有里は、小さく涙を流す。



 本当に、闇に落ちたのかどうかを心配して――。



 有里の涙が、ポタッと、翔の額に落ちた――。



第13章 力を求める――それは強欲

 翔と黒ずくめの者のデュエルが始まっている中、神也とまた別の黒ずくめの者が見合っていた。その黒ずくめの者の後ろには、鉄檻の中に閉じ込められた加奈の姿があった――。

ヒュゥゥゥゥッ・・・

 沈黙の中、一陣の風が神也と黒ずくめの者の間を通り過ぎていく。
 その瞬間、神也はゆっくりと掌を前に出し、真剣な表情で叫ぶように言う。

「タイム!!」



―――!?



 その後、神也はいきなりドカッと座り込むと、リュックの中から、自身のカードの束を取り出し、1枚1枚、丁寧にそのカードを見始める。更には、デュエルディスクにセットされていたデッキも取り出し、デッキの調整を始める。
 そんな姿を見て、痺れを切らした加奈は、鉄檻ごしに叫ぶ。

「ちょっ・・・!神也ァッ!!早く助けてよぉっ!!」
 加奈は目に少しだけ涙を浮かべながら、そう叫ぶ。だが、神也はカードに目をやったまま、加奈に返事をするように、大きく叫ぶ。



黙ってろ!!



 その言葉を聞き、加奈は目を見開き驚く。


「待っててくれ・・・、今・・・考えてるから・・・。」
 神也は、小さな声でそう言うと、黒ずくめの者を力強いその目で睨みつける。

「お前を今すぐ助け出す方法を・・・!!そのための――」


























―――1ターンキルをッッ!!!



 神也の言葉を聞くと、加奈は小さくうなずき、しりもちをつくように、地面に座り込んだ。





「ホォ・・・、あなた、私(わたくし)を舐めていますね?」
 この黒ずくめの者も、加奈同様、痺れを切らしており、多少の怒りを持ちながら、神也に話しかける。その瞬間、神也は、カードの束をリュックの中に片付け、デュエルディスクにデッキをセットすると、力強く立ち上がり、デュエルディスクを展開する。


「加奈を助けるんだ・・・!てめぇなんて、眼中にねぇよ!!」



「・・・・・・!!」
 神也のそんな言葉に、加奈は少しだけ頬を赤くしてしまう。
 だが、それとは裏腹に、黒ずくめの者は、怒りが頂点にまで達した状態となり、神也と同様にデュエルディスクを展開する。


「上等だぁああっ!!!貴様なんて、この私の手で、殺してくれるわぁっ!!」
 黒ずくめの者の叫びと共に、2人は、デッキの上からカードを5枚引く。

 怒りのせいか、自己中心的な性格によってかは分からないが、黒ずくめの者が先攻のようだ。怒りのままにカードを1枚引き、手札に加える。

「見せてやる・・・、“貴様等の世界”には無い、モンスターを・・・!!」
 黒ずくめの者の言葉に、神也はピクリと反応する。



(“貴様等の世界”――?ここは、オレ達の世界とは、また別の世界だと言うのか・・・!?)
 神也のそんな疑問とは別に、黒ずくめの者は、自身の戦術を静かに進めていた。

「私は手札から、“切り込み隊長”を攻撃表示で召還っ!!」
 黒ずくめの者が、カードを場に出した瞬間、黒ずくめの者の目の前に、2本の細長い剣を持った戦士の姿が出現する。そして、その戦士は2本の剣を空に掲げ、自身の力により、仲間を場に呼び出す。

切り込み隊長
効果モンスター
星3/地属性/戦士族/攻1200/守 400
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
相手は表側表示で存在する他の戦士族モンスターを攻撃対象に選択する事はできない。
このカードが召喚に成功した時、手札からレベル4以下のモンスター1体を特殊召喚する事ができる。

「“切り込み隊長”の効果発動!」
 黒ずくめの者の叫びと共に、黒ずくめの者の手札のカードが1枚だけ光り出し、その輝きと共に、そのカードは場に出される。

「“切り込み隊長”の効果により、私はレベル4以下のモンスター――いや、“チューナー”を1体、特殊召還する!!!」

「“チューナー”!!?」
 神也の驚きも束の間、2本の剣を持った戦士の横に、機械で作られた戦士が姿を現した。

チューン・ウォリアー
チューナー・通常モンスター
星3/地属性/戦士族/攻1600/守 200
あらゆるものをチューニングしてしまう電波系戦士。
常にアンテナを張ってはいるものの、感度はそう高くない。

「これで終わりだと思うなよ・・・?」
 黒ずくめの者は、嫌みったらしくそう言うと、大きく笑い出し、次の戦術を始める。

「“切り込み隊長”と“チューン・ウォリアー”を墓地へ送る!!」
 黒ずくめの者は、場に出した2枚のカードを自分の手に取ると、そのままデュエルディスクの墓地ゾーンへと送る。その行動に、神也はやはり驚いてしまう。
 すると、目の前にいた2体のモンスターは、巨大な閃光と共に、混ざり合い、その姿を、形状を変え始める――。























































―――シンクロ召還ッッ!!!


 






 同調(シンクロ)する――。




 全く別の2体のモンスター達が――。




 重なり、交わり、そして・・・






 同調(シンクロ)する―――。




「現れろ――!!」
































































――――“氷結界の龍 ブリューナク”!!!


 黒ずくめの者の目の前に現れたのは、今までのモンスターとは“次元”の違う、“シンクロモンスター”。

 その海竜は、体を冷たい氷で覆い、翼も、心も、そんな氷の冷たさで覆い尽くしていた――。

氷結界の龍 ブリューナク
シンクロ・効果モンスター
星6/水属性/海竜族/攻2300/守1400
チューナー+チューナー以外モンスター1体以上
自分の手札を任意の枚数墓地に捨てて発動する。
その後、フィールド上に存在するカードを、
墓地に送った枚数分だけ持ち主の手札に戻す。

「“シンクロ”・・・“モンスター”・・・?」
 “自分達の世界”で、一度も見た事が無いモンスターを目の当たりにして、神也は動揺を隠せずにいた。そんな神也の姿を見て、その黒ずくめの者は、大きな優越感に浸り、そして再び笑い出す。

「見たか!こいつが、私の切り札、“ブリューナク”だ!!こいつは、どんなカードでも、一瞬のうちに手札に戻す事の出来るモンスターだ!!」
 黒ずくめの者のそんな言葉を聞きながらも、神也は、次第に自分を取り戻し、落ち着いて、自分の手札を見つめる。


「そうか・・・。」

「私はこれで、ターンエンドだ!」


黒ずくめU LP:4000
      手札:4枚
       場:氷結界の龍 ブリューナク(攻撃)


「オレのターン――ドロー」
 神也は、静かにカードを引き、手札に加える。




 そして、少しの間を置き、手札からカードを1枚発動する。

「魔法カード――“手札抹殺”。お互いに全ての手札を墓地に送り、墓地に送った枚数分、カードをドローする。」
 神也と黒ずくめの者は、同時に手札を全て捨て、これまた同時に墓地に送った枚数分、カードを引いた。神也は5枚、黒ずくめの者は、4枚だ。神也が墓地に送ったカードの中には、自身の切り札である“グリード・クエーサー”があった。
「オレの墓地に送ったカードの中には、“暗黒界の狩人 ブラウ”が2枚あった。よって、カードを2枚ドローする。」
 神也は更にデッキの上からカードを2枚引き、そのカードを確認の上、静かに手札に加える。

手札抹殺
通常魔法
お互いの手札を全て捨て、それぞれ自分のデッキから
捨てた枚数分のカードをドローする。

暗黒界の狩人 ブラウ
効果モンスター
星3/闇属性/悪魔族/攻1400/守 800
このカードが他のカードの効果によって
手札から墓地に捨てられた場合、
デッキからカードを1枚ドローする。
相手のカードの効果によって捨てられた場合、
さらにもう1枚ドローする。

 次の瞬間――、神也は大きな笑顔で、黒ずくめの者の方を向いた。


「オレの・・・“勝ち”だ!!」
 神也は勝ち誇った表情と言葉と共に、手札からカードを発動する。

「魔法カード――“死者蘇生”!!蘇れ――“グリード・クエーサー”!!!

死者蘇生
通常魔法
自分または相手の墓地からモンスターを1体選択する。
選択したモンスターを自分のフィールド上に特殊召喚する。


 蘇る――。





 朽ち果てる事も無く消えていったモンスターが――。






 その牙を敵に向けるために――!!



 強欲な悪魔は、その姿を出現させ、その海竜を、敵を睨みつける――。


グリード・クエーサー
効果モンスター
星7/闇属性/悪魔族/攻 ?/守 ?
このカードの元々の攻撃力と守備力は、
このカードのレベル×300ポイントの数値になる。
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
このカードが戦闘によって破壊したモンスターの
レベル分だけこのカードのレベルが上がる。


グリード・クエーサー 攻:?→2100

「まだだ!出でよ!“神獣王バルバロス”!」

神獣王バルバロス
効果モンスター
星8/地属性/獣戦士族/攻3000/守1200
このカードは生け贄なしで通常召喚する事ができる。
その場合、このカードの元々の攻撃力は1900になる。
3体の生け贄を捧げてこのカードを生け贄召喚した場合、
相手フィールド上のカードを全て破壊する。

 巨大な野獣が、その姿を出した。
 右手に握るその鋭い槍(ランス)は全てを貫き、左手に握るその頑丈な盾は全てを受け止める――。

 矛盾はしているが、していない――最強の槍と最強の盾を、その野獣は持っていた。

神獣王バルバロス 攻:3000→1900


「そして、“シエンの問屋”を発動!!」
 神也の戦術は、止まらない――。



 敵を仕留めるまでは――決して――。


 次の瞬間、神也の目の前にいた巨大な野獣は、黒ずくめの者の目の前に移動していた。その目には、光は無く、神也を裏切ったかのような形となっていた。

 だが、その裏切りが、神也に対する最高の信頼のアカシなのだ――。


シエンの問屋
通常魔法
自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動する。
このターンのエンドフェイズまで、選択したカードのコントロールを相手に移す。

「“シンクロ・ヒーロー”を“グリード・クエーサー”に装備ッ!!」


ドッ!!!

 強欲な悪魔を覆う紫色のオーラは、更に大きくなり、それに比例して、強欲な悪魔の体も少しだけ大きくなる。

シンクロ・ヒーロー
装備魔法
装備モンスターのレベルを1つ上げ、攻撃力は500ポイントアップする。


グリード・クエーサー 星:7→8
           攻:2100→2400

「“ダブルアタック”――発動ッ!!」
 次第に神也の口数が少なくなっていく――。

 素早く行動し、加奈を助けたいという思いの表れなのだろうか・・・?

ダブルアタック
通常魔法
自分の手札からモンスターカード1枚を墓地に捨てる。
捨てたモンスターよりもレベルが低いモンスター1体を
自分フィールド上から選択する。
選択したモンスター1体はこのターン2回攻撃をする事ができる。

 神也は、素早く手札のモンスターカードを1枚墓地へ送り、強欲な悪魔の攻撃回数を2回にする。強欲な悪魔は、早く攻撃がしたいと神也に促すように、大きく雄叫びを上げる。

「“デスメテオ”――!!」








ドォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!

 巨大な炎の塊が、黒ずくめの者を貫き、空高く昇る巨大な炎の柱と共に、黒ずくめの者を苦しませる――。

「グッ・・・グゥ・・・グガァアアアアアアアアアアアアアッ!!!」

デスメテオ
通常魔法
相手ライフに1000ポイントダメージを与える。
相手ライフが3000ポイント以下の場合このカードは発動できない。


黒ずくめU LP:4000→3000


「“グリード・クエーサー”で、“バルバロス”に攻撃っ!!」
 強欲な悪魔は、目の前に聳え立つ野獣をその腹部にある巨大な口で食べ、その野獣の力を得る。力を得たことにより、強欲な悪魔は更に巨大化する――。


グリード・クエーサー 星:8→16
           攻:2400→4800

黒ずくめU LP:3000→2500

 強欲な悪魔の攻撃が、強力な衝撃を生み、黒ずくめの者を更に苦しませる――。


「じゃあな・・・!てめぇの切り札と共に、朽ち果てろッ!!!」


 強欲な悪魔は、その腹部にある巨大な口を大きく広げ、長き腕で海竜を捕獲し、自分の下へ引き寄せていく。


 そして、喰らう――。



 強欲な悪魔は、海竜を喰らった勢いのまま、腹部の口にエネルギーをため、一気に放出する!!






















































































――――プロミネンス・ナパームッッッ!!!!














黒ずくめU LP:2500→0









――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「大丈夫か・・・?」
 神也は、鉄檻が無くなり自由となった加奈の下へ駆け寄ると、加奈の両肩をしっかりと握り、倒れないように支える。なぜなら、加奈の顔が真っ青になっており、体の古江が止まらないという状態だったからだ。
「う・・・、うん・・・。でも・・・!」
 加奈の言葉は途中で途切れたが、神也は黒ずくめの者“だった”物を見て、つぶやくように、小さな声で言った。



「この世界は・・・、もしかしたら・・・!!」



第14章 宝玉の輝き――破滅の輝き

 翔と神也がデュエルを始めている中、神童とまた別の黒ずくめの者は、互いに見合っていた。神童の目には、今まで自分自身が感じたことの無い「怒り」で満ち溢れていた。
 神童も、自分自身、何かが違うという事は分かっていたが、それが「怒り」だということには、まだ気づいていないようだった。

「私の先攻で良いな?」
 黒ずくめの者が、神童に確認を取ると、ゆっくりとデッキの上からカードを1枚引き、手札に加える。

 少しの沈黙を挟むと、黒ずくめの者は、手札のカードを1枚取り、場に出す。

「私は手札から、“未来融合-フューチャー・フュージョン”を発動ッ!」

――ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!

 黒ずくめの者が、そのカードを場に出した瞬間、辺りが揺れ始める――。
 そして、次の瞬間、巨大な龍の咆哮が、辺り一面を支配していく――。
「この効果で対象とするのは、“F・G・D(ファイブ・ゴッド・ドラゴン)”だ!!」
 巨大な龍の咆哮と同時に、うっすらと龍の姿が見える。頭が5つあり、それぞれの頭に別の力を備えている龍だ――。

「対象の融合素材は、ドラゴン族5体――よって、私はデッキから5体のドラゴン族モンスターを墓地へ送る」
 黒ずくめの者は、自分のデッキをデュエルディスクから取り出し、ササッ――と5枚のカードを抜き取り、神童に確認を取る。そして、その5枚のカードをゆっくりと墓地へ送る。

未来融合-フューチャー・フュージョン
永続魔法
自分のデッキから融合モンスターカードによって決められたモンスターを
墓地へ送り、融合デッキから融合モンスター1体を選択する。
発動後2回目の自分のスタンバイフェイズ時に選択した融合モンスターを
自分フィールド上に特殊召喚する(この特殊召喚は融合召喚扱いとする)。
このカードがフィールド上に存在しなくなった時、そのモンスターを破壊する。
そのモンスターが破壊された時このカードを破壊する。

「まだだ!私は手札から“ハリケーン”を発動する!!」
 黒ずくめの者がまた別のカードを場に出した瞬間、巨大な風が出現し、黒ずくめの者が始めに出したカードを手札に戻してしまう。

「・・・!?どういう・・・!?」
 神童は黒ずくめの者の行動に驚きを感じていた。
 そのまま2ターンを維持すれば、最上級モンスターを召還できるにも関わらず、そのチャンスを自分の手で退けたからだ。

ハリケーン
通常魔法
フィールド上の魔法・罠カードを全て持ち主の手札に戻す。

「更に私は、再び“未来融合-フューチャー・フュージョン”を発動する!!」
 黒ずくめの者は、先程と同じようにデッキの中から、5枚のドラゴン族モンスターを墓地へ送る。あっという間に黒ずくめの者のデッキは、10枚以上減っていた。
「カードを2枚伏せ、ターンエンドだ」
 黒ずくめの者は、手札からカードを2枚抜くと、それをデュエルディスクに差し込んだ。その後、手をスッ――と動かし、神童の行動を促した。

黒ずくめV LP:4000
      手札:2枚
       場:未来融合-フューチャー・フュージョン、リバース2枚

「ボクのターンだな・・・?ドロー!」
 神童は、素早くカードを1枚引く。

ドローカード:宝玉の樹

 神童は、ドローしたカードにサッと目を通し、手札に加えると、少しの間だけ考え、すぐに行動に移す。やはり、怒りのせいなのか、カードを乱暴に扱ってしまっている。

「ボクは、“宝玉の樹”を発動し――、“宝玉獣 サファイア・ペガサス”を攻撃表示で召還ッ!!」
 まず始めに神童の目の前に姿を現したのは、枯れたかのようにも見える樹であった。だが、その樹の独特の光に導かれるように、大きな翼を広げたペガサスが姿を現した――。
「“サファイア・ペガサス”の効果により、デッキから“宝玉獣 ルビー・カーバンクル”を場に出す!!」
 神童の叫びと共に、ペガサスはその額にある角を空に掲げる。
 角からは、神秘的な光が放たれ、その光に導かれ、ペガサスの背後に、宝玉の“ルビー”が姿を現した。その瞬間、ルビーの赤き輝きにより、枯れたかに見えた樹の周りに、小さな輝きが出現した。

宝玉獣 サファイア・ペガサス
効果モンスター
星4/風属性/獣族/攻1800/守1200
このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時、
自分の手札・デッキ・墓地から「宝玉獣」と名のついたモンスター1体を
永続魔法カード扱いとして自分の魔法&罠カードゾーンに表側表示で置く事ができる。
このカードがモンスターカードゾーン上で破壊された場合、
墓地へ送らずに永続魔法カード扱いとして
自分の魔法&罠カードゾーンに表側表示で置く事ができる。

(相手がどんな戦術かは分からない――、けど!ボクは・・・、真利ちゃんを・・・っ!!)
 神童は黒ずくめの者の背後にある鉄檻を見つめる。
 その鉄檻の中には、恐怖で震えている真利の姿があった。


 その姿を見れば見るほど、力が湧いてくる――。




 “怒り”という、負の力が――。








――――助けるんだッッ!!

「この瞬間!ボクの場の“宝玉の樹”に、ジェムカウンターが1つ置かれる!」
 神童の目の前にある樹の光は、やがて大きくなっていき、新たな宝玉を呼び起こす――。

宝玉の樹
永続魔法
「宝玉獣」と名のついたモンスターが魔法&罠カードゾーンに置かれる度に、
このカードにジェムカウンターを1つ置く。
このカードを墓地に送る事で、このカードに乗っていたジェムカウンターの数だけ
デッキから「宝玉獣」と名のついたモンスターを永続魔法カード扱いとして自分の
魔法&罠カードゾーンに表側表示で置く。

「“宝玉の樹”を墓地に送り、デッキから“宝玉獣 コバルト・イーグル”を場に出す!!」
 樹の輝きに導かれ、空色の輝きを放つ“コバルト”が、神童の目の前に突如出現する。
「まだまだぁっ!!“宝玉の導き”発動!デッキより、“宝玉獣 アンバー・マンモス”を攻撃表示で特殊召還する!!」
 2つの宝玉――“ルビー”と“コバルト”が、共鳴するかのように大きく輝く。
 その輝きは、また新たな宝玉獣を呼び起こす――。


 呼び起こされた宝玉獣は、巨大な牙と巨大な体を持ったマンモス――。

 自身の仲間を助ける頑丈な体を持った獣である。


宝玉の導き
通常魔法
自分の魔法&罠カードゾーンに「宝玉獣」と名のついたカードが2枚以上存在する場合、
デッキから「宝玉獣」と名のついたモンスター1体を特殊召喚する。

宝玉獣 アンバー・マンモス
効果モンスター
星4/地属性/獣族/攻1700/守1600
自分フィールド上に表側表示で存在する
「宝玉獣」と名のついたモンスターが攻撃対象に選択された時、
このカードに攻撃対象を変更する事ができる。
このカードがモンスターカードゾーン上で破壊された場合、
墓地へ送らずに永続魔法カード扱いとして
自分の魔法&罠カードゾーンに表側表示で置く事ができる。

「喰らえぇ!!“サファイア・ペガサス”と“アンバー・マンモス”で、ダイレクトアタックだぁっ!!」
 ペガサスは額の角を、マンモスは巨大な牙を黒ずくめの者に向け、勢いよく突進する。だが、黒ずくめの者は、何事も無かったように、伏せていた自分のカードを発動する。
「リバースカード、“攻撃の無力化”――。」
 ペガサス、マンモスと黒ずくめの者の間に、突然出現した巨大な時空の穴――。
 その穴は、全ての攻撃を無効化するため、2体のモンスターも、攻撃する事が出来ず、神童の下に戻ってきてしまう。

攻撃の無力化
カウンター罠
相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
相手モンスター1体の攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了する。

「くっ・・・!カードを1枚伏せ、ターンエンドッ!!」
 神童は荒っぽくカードを場に出し、ターンエンドを宣言する。
 少しずつ、神童の心の中に、「焦り」という言葉が浮かび上がってきた・・・。

神童 LP:4000
   手札:2枚
    場:宝玉獣 サファイア・ペガサス(攻撃)、宝玉獣 アンバー・マンモス(攻撃)、宝玉獣 ルビー・カーバンクル(宝玉)、宝玉獣 コバルト・イーグル(宝玉)、リバース1枚

 黒ずくめの者は、神童の焦りを、怒りを見て、小さく笑うと同時に、静かにカードを1枚引いた。そのカードは、自分の望んでいたカードでもあり、更に笑う。そして、そのカードを力強く場に出す。
「出でよ!“ブリザード・ドラゴン”ッ!!」
 体を氷で覆った竜が、その姿を現した。


 そして、次の瞬間――氷の竜は、神童の目の前にいるペガサス目掛けて、氷の息吹を放った。その息吹が、ペガサスに当たると、ペガサスを覆っていた光は消え、ペガサスの体は完全に凍り付いてしまった。

「“ブリザード・ドラゴン”の効果――それは、相手モンスター1体を完全に凍らせる!!」

ブリザード・ドラゴン
効果モンスター
星4/水属性/ドラゴン族/攻1800/守1000
相手フィールド上に存在するモンスター1体を選択する。
選択したモンスターは次の相手ターンのエンドフェイズ時まで、
表示形式の変更と攻撃宣言ができなくなる。
この効果は1ターンに1度しか使用できない。

「攻撃ッ!!」
 黒ずくめの者の掛け声と共に、氷の竜は、先程の息吹とはまた別の氷の息吹をマンモス目掛けて放つ――。
 だが、その瞬間、神童は伏せていたカードを勢いよく発動させる。
「甘いぞぉっ!“虹の行方”発動!!」
 神童の目の前にあった宝玉――ルビーを糧とし、虹色の輝きが放たれた――。
 虹色の輝きは、氷の竜の目をくらませ、それと同時に、神童に“最強の力”を与える――。

虹の行方
通常罠
相手モンスターの攻撃宣言時に、自分の魔法&罠カードゾーンに存在する
「宝玉獣」と名のついたカード1枚を選択して墓地へ送り発動する。
相手モンスター1体の攻撃を無効にし、自分のデッキから
「究極宝玉神」と名のついたカード1枚を選択して手札に加える事ができる。

 神童はデッキの中から、望むカードを1枚手に取ると、静かに手札に加える。
「ターンエンドだ」
 黒ずくめの者は、一切の動揺を見せず、ターンエンドを宣言した。

黒ずくめV LP:4000
      手札:2枚
       場:ブリザード・ドラゴン(攻撃)、未来融合-フューチャー・フュージョン、リバース1枚

「ボクのターンだな・・・!!」
 神童の目は、既に「怒り」だけになっていた――。
 翔とも、神也とも違ってはいたが、それが「間違っている」ということだけは同じであった――。

「手札から“手札断殺”を発動するッ!!」

手札断殺
速攻魔法
お互いのプレイヤーは手札を2枚墓地へ送り、デッキからカードを2枚ドローする。

 神童と黒ずくめの者は、ほぼ同時に手札のカードを2枚墓地へ送り、その上でカードを2枚ドローする。神童の捨てたカード、それは自分の切り札(エース)とも呼べる“宝玉獣”のカードであった――。



 「怒り」に満ちた神童にとって、カードは最早、自分を満たす道具でしか無かったのだ――。

(これで、宝玉獣は、6体揃った――!それに、この手札なら・・・!!)
 神童は手札を見て、切り札を出す手立てを考え終えると、すぐに実行に移し始める。

「手札から“宝玉の恵み”を発動!この効果で、墓地の“トパーズ・タイガー”と“エメラルド・タートル”を場に出す!!」

宝玉の恵み
通常魔法
自分の墓地に存在する「宝玉獣」と名のついたモンスターを2体まで選択し、
永続魔法カード扱いとして自分の魔法&罠カードゾーンに表側表示で置く。

 キィンッ――という、神秘的な音を出し、“トパーズ”と“エメラルド”が、神童の目の前に姿を現した。
「そして、“レア・ヴァリュー”を発動!さぁ!どれを墓地に送るかを選べっ!!」
 神童の叫びを聞き、少し考えると、黒ずくめの者は、“コバルト”を選択した。それにより、コバルトは音を立てて砕け散る。それを確認すると、神童はデッキの上から、カードを2枚引き、手札に加える。

レア・ヴァリュー
通常魔法
自分の魔法&罠カードゾーンに「宝玉獣」と名のついたカードが
2枚以上存在する時に発動する事ができる。
自分の魔法&罠カードゾーンに表側表示で存在する
「宝玉獣」と名のついたカード1枚を相手が選択して墓地へ送り、
自分のデッキからカードを2枚ドローする。

「これで、揃うっ!!魔法カード!“宝玉の導き”!!」
 神童の目の前にあったトパーズとエメラルドが、力強く輝き始める――。

 互いの輝きが、互いの輝きを大きくし、その輝きは、神童のデッキをも光らせ、仲間を呼ぶ――。


 だが、その輝きはほんの一瞬だけ、濁ってしまう――。



 誰も気づかないくらい、小さく――そして、ほんの一瞬だけ――。


「出でよ“宝玉獣 アメジスト・キャット”!!」
 神童の目の前に現れた最後の宝玉獣――それは、ピンク色をした綺麗な猫だった。

宝玉の導き
通常魔法
自分の魔法&罠カードゾーンに「宝玉獣」と名のついたカードが2枚以上存在する場合、
デッキから「宝玉獣」と名のついたモンスター1体を特殊召喚する。

「これで、出せるぞォ!!降臨しろォォッ!!」































































































―――――究極宝玉神 レインボー・ドラゴンッッッ!!!!



 七色の宝玉の輝き――、その輝きが、石版であるドラゴンを呼び起こす――。


 虹色の輝きを秘めた巨大な龍――ここに、降臨!


「“レインボー・ドラゴン”の攻撃で、“ブリザード・ドラゴン”破壊ッ!!」
 七色の龍の口から放たれた、虹色の光は、一瞬のうちに、氷の竜の体を溶かし、消滅させてしまう――。しかし、ペガサスの氷は依然、溶けないままであった――。

黒ずくめV LP:4000→1800

「これで、終わりだぁっ!!“アメジスト・キャット”と“アンバー・マンモス”で、ダイレクトアタックだぁあああああああああああっ!!」
 素早く動く猫と、遅いながらも強大な力を持つマンモスが、黒ずくめの者に向かって、突進していく。だが、もう少しで黒ずくめの者に到達する――という瞬間に、黒ずくめの者は、“身代わり”のカードを発動する。

「リバースカード!“終焉の炎”ッ!!」

 黒ずくめの者の目の前に現れたのは、形をなした2つの邪悪な炎――。
 邪悪な炎は、猫とマンモスの攻撃を受け止め、消滅しながらも、黒ずくめの者を護った――。

終焉の炎
速攻魔法
このカードを発動する場合、
自分は発動ターン内に召喚・反転召喚・特殊召喚できない。
自分のフィールド上に「黒焔トークン」
(悪魔族・闇・星1・攻/守0)を2体守備表示で特殊召喚する。
(このトークンは闇属性モンスター以外の生け贄召喚のための生け贄にはできない)

「チィッ・・・、カードを1枚伏せて、ターンエンドだっ!」
 神童は吐き捨てるようにそう言った。
 神童が、神童では無いかのように――。

 真利は、そんな神童の姿を見て、涙を流し、膝を地面につけ、ただ悲しむだけであった――。


神童 LP:4000
   手札:1枚
    場:究極宝玉神 レインボー・ドラゴン(攻撃)、宝玉獣 サファイア・ペガサス(攻撃)、宝玉獣 アンバー・マンモス(攻撃)、宝玉獣 アメジスト・キャット(攻撃)、宝玉獣 トパーズ・タイガー(宝玉)、宝玉獣 エメラルド・タートル(宝玉)

 神童のターンエンドと共に、ペガサスの氷も溶け、ペガサスは空を大きく駆け巡る。

「もう終わりだ・・・」
 黒ずくめの者が、黒ずんだ空を見ながらそうつぶやくように言った。
 神童はその言葉を聞き、驚きを隠せない表情をしてしまう。

「残念だったな・・・。オレを倒す、最後のチャンスが途絶えたぞ・・・!!」
 黒ずくめの者が、カードを1枚、静かに引いた瞬間、黒ずくめの者の目の前の空間に、小さな切れ目が出現する。
「忘れてないだろうな・・・?“フューチャー・フュージョン”の効果により、姿を現せェッ!!」






























































――――F・G・D(ファイブ・ゴッド・ドラゴン)ッッッ!!

 空間の切れ目から姿を現したのは、5つの頭を持った“神”の名を持つ龍――。

 全てを支配する力を持った、完全な“神龍”――。

 だが、黒ずくめの者の戦術は、1体の神龍では止まらなかった――。


「そして、“龍の鏡(ドラゴンズ・ミラー)”を発動!!墓地のドラゴン族5体を除外し、2体目の“F・G・D”――降臨!!」




 “その恐怖は――、人智を超えていた――。”



 2体目の5つの頭を持つ龍が、静かに姿を現す――。

「まだまだぁっ!!2枚目の“龍の鏡(ドラゴンズ・ミラー)”を発動ッ!!それにより、3体目の“F・G・D”を呼び出すぜェエエエエエエエエエエエエエエエエッ!!!」


 “そして、逃れる事は出来ない――。”



 黒ずくめの者の目の前に、3体の5つの頭を持つ龍が、姿を現した――!!


 その光景はすさまじく、七色の龍が、小さく見える・・・。





 “泥沼のように・・・。”



龍の鏡(ドラゴンズ・ミラー)
通常魔法
自分のフィールド上または墓地から、
融合モンスターカードによって決められたモンスターをゲームから除外し、
ドラゴン族の融合モンスター1体を融合デッキから特殊召喚する。
(この特殊召喚は融合召喚扱いとする)

F・G・D
融合・効果モンスター
星12/闇属性/ドラゴン族/攻5000/守5000
このモンスターは融合召喚でしか特殊召喚できない。
ドラゴン族モンスター5体を融合素材として融合召喚する。
このカードは地・水・炎・風・闇属性のモンスターとの戦闘によっては破壊されない。
(ダメージ計算は適用する)



「F・G・Dで、攻撃ッ!!」






























――――ファイズ・エンド・バーストォオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!

 5つの口が同時に開き、その口の中にエネルギーが溜められる――。
 5つのエネルギーは、やがてその龍の目の前で1つとなり、巨大なビームとして、一気に放出される――。

 ビームは、完全に七色の龍の体よりも大きかった――。

 そんな姿を見ながらも、神童は恐れることなく、自身の怒りだけで、手を動かす。

「甘いぞぉっ!!“レインボー・ドラゴン”の効果発動ッ!!場にいる3体の“宝玉獣”を墓地に送り、攻撃力をアップさせるぅっ!!」
 七色の龍は、自分に向かってきているビームに怯えることなく、その巨大な口を開き、雄叫びを上げる。その雄叫びを聞き、ペガサス、マンモス、猫は、意を決すると、自身の体を宝玉に変化させ、七色の龍の体に入っていった。それにより、七色の龍を覆うオーラは大きくなり、それに比例するように、攻撃力も上がっていく――。

究極宝玉神 レインボー・ドラゴン 攻:4000→7000

究極宝玉神 レインボー・ドラゴン
効果モンスター
星10/光属性/ドラゴン族/攻4000/守 0
このカードは通常召喚できない。
自分のフィールド上及び墓地に「宝玉獣」と名のついたカードが
合計7種類存在する場合のみ特殊召喚する事ができる。
このカードは特殊召喚されたターンには以下の効果を発動できない。
●自分フィールド上の「宝玉獣」と名のついたモンスターを全て墓地に送る。
墓地へ送ったカード1枚につき、このカードの攻撃力は1000ポイントアップする。
この効果は相手ターンでも発動する事ができる。
●自分の墓地に存在する「宝玉獣」と名のついたモンスターを全てゲームから
除外する事で、フィールド上に存在するカードを全て持ち主のデッキに戻す。

 だが、恐れを持っていないのは、黒ずくめの者も同じであった――。

「速攻魔法!“収縮”ッッ!!」
 黒ずくめの者が発動したカードの効果により、七色の龍の体は、見る見るうちに小さくなってしまった・・・。
 七色の龍を覆うオーラの大きさに変化は無いため、増加された力に変化は無いようだが、元々七色の龍が持っていた力は、減少してしまったようだ――。

究極宝玉神 レインボー・ドラゴン 攻:7000→5000


 結果は、引き分け――。



 2体の龍は、互いの攻撃を受けてしまい、消滅してしまった――。

収縮
速攻魔法
フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択する。
そのモンスターの元々の攻撃力はエンドフェイズ時まで半分になる。

「ハンデをやるよ――、ターンエンドだ」
 黒ずくめの者は、嫌みったらしい顔で、神童を大きく嘲笑った。

黒ずくめV LP:1800
      手札:0枚
       場:F・G・D×2(攻撃)、未来融合-フューチャー・フュージョン


(応えろ――、ボクのこの“怒り”に・・・!!応えろ――、“宝玉獣”達よ!!)
 神童は、既に自覚していた――。自身の感情が、真利を閉じ込めた黒ずくめの者に対する“怒り”であるということを――。

 そして、神童は怒りのままに、カードを引いた――。


 そのカードは、宝玉獣の怒りを表すカードだった――。


「手札から、“宝玉の恵み”を発動――、これにより場に“ルビー”と“サファイア”を出す――」
 澄んだ音と共に、2つの宝玉が、その姿を現した――。


 神童の目の前には、綺麗な宝玉が4つ――。



 この4つの宝玉が、全てを染め上げる――!!!


























































































































“宝玉の氾濫”――――





発動ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!





 4つの宝玉が、辺り一面を飲み込む輝きを放った――。



 その輝きは、“破滅”を呼び起こし、2体の5つの頭を持つ龍と、そのうちの1体を呼び出す為の糧となったカードを消滅させる――。


 そして、その輝きは、静かに黒ずくめの者をも覆い、消し去ってしまう――。



 一瞬だけ、3体の宝玉獣――ペガサスとマンモスと虎(タイガー)の姿が、見えた――。



宝玉の氾濫
通常魔法
自分の魔法&罠カードゾーンに存在する「宝玉獣」と名のついたカード4枚を
墓地へ送る事で発動する事ができる。
フィールド上のカードを全て墓地へ送る。
さらにその効果によって墓地へ送られた相手フィールド上のカードの数まで、
自分の墓地に存在する「宝玉獣」と名のついたモンスターを可能な限り特殊召喚する。


 全てのデュエルが、静かに終了した――。



第15章 鳳凰を使う少女――Who are you(あなたは誰)?

――――フル・トリック・オア・トリートッッ!!

 闇と怒りに満ち溢れた翔の叫び――。
 それと同時に、漆黒の“狂”戦士は、空高く舞い上がり、剣を振り上げ、地面に向かって落ち始める――それと共に、その剣を素早く振り下ろし、黒ずくめの者を切り裂いた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


――――プロミネンス・ナパームッッ!!

 鋭い瞳で敵を睨みつけていた神也の叫び――。
 その叫びを聞き、強欲な悪魔は、腹部の巨大な口を開き、そこに溜めていたエネルギーを、黒ずくめの者とその者の目の前にいるモンスターに向かって放出した。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


――――“宝玉の氾濫”、発動ォオオッッ!!
 
 今までに体感した事の無い怒りを持った神童の叫び――。
 次の瞬間、神童の目の前にあった4つの宝玉が光り輝き、辺り一面に強力な“破滅”の力をもたらし、黒ずくめの者を滅した。







 全てのデュエルが同時に終了した。
 それぞれが、助けるべき人を助け、倒すべき相手を倒した。


 しかし、その直後に、“悲鳴”とも呼べる程の大きな叫び声が、辺り一面を覆い尽くす。

「翔!?翔ゥウウウウウウウウウウッ!!
 有里の叫びだ――。

 それを聞き、神也、加奈、神童、真利の4人は、ほぼ同時に翔と有里のいる方を向き、駆け寄ろうとする。そこには、目を閉じ、意識を失った翔の姿と、翔に膝枕をしてあげている有里の姿があった――。

「なっ・・・!?」
「えっ・・・!?」
 まず始めに翔の側にたどり着き、驚いたのは神也と加奈であった。
 神也の怒りは、既に、加奈を助けた事で、ある程度収まっているようだ。

 そして、神童、真利も翔の側にたどり着き、驚いた。

 それもそのはず――。

 “ただの”デュエルをしていただけなのに、翔がボロボロになって、気を失っている・・・。普通では、決して有り得ない事が目の前で起こっているからだ。

「もしかして・・・!」
 神也は何かに気づくと、神童の方を向き、焦りを混ぜながら話しかける。
「神童!お前、デュエル中に、1ポイントでも、相手からダメージを受けたか!!?」
 神也の言葉を聞き、怒りながら行ったデュエルを確実に思い出していく神童。そして、出した結論、それは・・・。
「1ポイントもダメージを受けてないよ!」
 神童の言葉を聞き、神也は「やはりそうか・・・」と、やや顔を下に向け、悔しそうにつぶやく。
「オレも受けてない・・・、じゃあ、翔は・・・!?」
 当然、翔は答えることが出来ない――。
 そのため、翔のデュエルを見ていた有里が答える。

「翔は、受けたよ・・・。その時、ソリッドビジョンのはずなのに、強く吹き飛ばされたり、アザが出来たりした・・・!」
 意識を失っている翔の服には、地面にこすれた事でついた多くの埃が、体のあちこちには少し大きめのアザが出来ていた。

「やっぱりか・・・!」
 翔の姿と、神童、有里の言葉、自分が見た光景により、神也は、自身がデュエルをし終えた時に立てた仮説が、正しい事に気づいた。
 言うべきか、言わないべきかを少しの間考えると、やはり言うべきだと判断し、多少のためらいをもちながらも、口をゆっくりと開こうとする。



 だが・・・、そのときであった―――。






























――ドッ!!!

 翔達6人のすぐそばに、爆弾が落ちてきて、巨大な爆発音と共に、爆発したのだ。
 幸い、6人にダメージは無かったが、突然の爆弾、爆発に戸惑ってしまう。
「なっ・・・、何!!?」
 神童が、体を震わせ、怯えながらも、何とかスクッ――と立ち上がり、辺りを見回す。すると、爆弾を落としたであろう“軍隊”を発見する。

 黒いマントで体全身を覆い、漆黒の馬に乗った軍隊を――。

 自分達が今まで戦ってきた、黒ずくめの者達と同じ格好のようだ。

「何、何!!?あの黒ずくめの奴に、まだ仲間がいたの!!?」
 加奈が両手で頭を抱え、深くしゃがみこみながら、大きく叫ぶように言った。神也も、神童と同じように立ち上がると、その軍隊の人数を大雑把に数え始める・・・。そして、出てきた数値――それは、絶望の数値であった。


「百・・・、二百・・・、さっ・・・!三百・・・!?」
 大雑把に数えても、300人以上はいる・・・。
「どっ・・・、どうするの?」
 6人(翔を除けば5人)の中で、一番怯えている真利が、恐怖をグッとこらえ、か細い声で、自分以外の全員に問いかける。その声を聞きながらも、神也と神童は、既に左腕に装着してあるデュエルディスクを展開させる。

「“どうする”ったって・・・、やるしかねぇだろ・・・!!」
「ボクも・・・、頑張るよっ!」
 神也、神童の順で、2人は、有里、加奈、真利の3人に訴えかけるように叫んだ。
「翔を護るためにも・・・!!」
 神也はそう言うと、デッキの上からカードを力強く引く。
 それに倣(なら)って、神童もデッキの上からカードを引き、左手に持ち返る。

「でも・・・っ!!」
 神童と神也に抵抗するように加奈は叫ぼうとする。だが、うまく叫ぶ事が出来なかった・・・。真剣な眼差しとなった神童と神也を、止める事が出来ないと判断したからだ・・・。



 デュエルをする体勢となっている神童と神也の姿を見て、黒ずくめの者達も、全員一斉に、デュエルディスク(翔達が持っているのとは少し形状が違う)を取り出し、展開させる。そして、デッキの上からカードを引き、構える――。









 一切の情けも無く――――。






「くっ・・・!」
「うぅっ・・・!」

 2人は怯えてしまう・・・。
 いざ、本当に300人以上の者とデュエルをするとなると、恐怖心が頭をよぎり、体を震わせてしまう・・・。

 黒ずくめの者達は、既にモンスターを召還していた――。

 戦士やドラゴン、鳥や獣――、数多くのモンスター達が、剣を握り、牙を出し、攻撃を仕掛けようとする。
 だが、依然として神童と神也の足は震え、2人は動けない状態になってしまっていた――。



―――動け・・・!!



「くっそぉおおおおおおおおおおっ!!!」
「ゥァアァアアアアアアアアアアッ!!!」

 2人は自分自身に対しての怒りを持ち、必死に叫ぶ――。



―――動け!!!



 当然、その程度では動けるようにはならない。拭えない恐怖を一度でも持ってしまえば、なかなか拭う事が出来ないから――。
 カードを持つ手が震え、地面にカードが落ちてしまいそうになる・・・。




―――動けぇええええええええええええええっ!!!!





 そのとき、6人(翔を除いて5人)は、ほんの一瞬だけ、時が止まったように感じた――。










































――――――――――――――――――――どいて!!!――――――――――――――――――――










 少女の声が何処からか聞こえてきた――。

 その瞬間、黒ずくめの者達と翔達の間に、巨大な炎の塊が落ちてきて、炎の壁となった。
「なっ・・・、何なんだ・・・!!?」
 その炎を見て、ハッと我に返った神也は、炎を落とした者がいる上空を見た。
 そこには、巨大な金色の鳳凰と、その鳳凰に乗った少女の姿があった。

ブワァッ・・・
 金色の鳳凰は、黒ずくめの者達と翔達の間で静かに着地する。その瞬間、強力な風が辺り一面を覆い、黒ずくめの者達と翔達を同時に吹き飛ばす。
 黒ずくめの者達も、翔達も、吹き飛ばされながらも、しっかりを体勢を立て直す。
「あなた・・・、誰・・・?」
 真利が、金色の鳳凰に乗っている少女に聞いた。少女は、その言葉を聞くと、真利の方を向き、一瞬だけ優しい表情を作ると、すぐに黒ずくめの者達の方を向き、いや、向きながらも、翔達に向かって大きく叫ぶ。

「乗って!!」
 少女の言葉を聞き、戸惑い始める5人――。
「お前は何なんだ!?敵か?味方か!!?」
 神也が、戸惑いながらも、少女に質問する。
 だが、少女は答えることなく、黒ずくめの者達の方を向き続ける。

「やって!“ネフティス”!!」
 少女の言葉を聞き、金色の鳳凰は、その翼から炎を放出し、黒ずくめの者達の大半を一気になぎ払った。それ以外の黒ずくめの者達も、その光景を見て、軽く驚いてしまう。それを確認すると、少女は金色の鳳凰の背から降りて、翔達の近くにまで歩み寄ってくる。
「良いから早く来なさい!!」
 少女は強引に6人の腕をつかみ、再び叫ぶ。
「私が“飛んで”って言ったら、飛ぶのよ!!」
 少し投げやりな説明をすると、少女は、親指と人差し指で輪を作り、それを口でくわえると、ピィイイイイイイイイッ――と、口笛を鳴らす。
 それを聞くと、金色の鳳凰は、目の色を変え、再び炎を放出し、黒ずくめの者達をなぎ払う。そして、一気に方向転換すると、翼を広げ、地面スレスレの所で猛スピードを出し、翔達の下に向かって突っ込んでくる。



「“飛んで”ッッ!!!」
 少女の言葉を聞き、よく分からないながらも、必死でジャンプする。当然、重力には逆らえず落ちていくわけだが。落ちた場所は、地面ではなく金色の鳳凰の背中だった――。






――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「ん・・・?」
 1人の少年が、目を開けた。
 そこは、上空数百メートルと呼べる位、高いところであり、自分が寝ていた場所が、巨大なモンスターの背中と分かると、飛び上がるようにして、起き上がった。

「翔・・・?」
 そこには、目が少しだけ濡れていた有里の姿があった。
「有・・・里・・・?」
 その瞬間、翔の頭の中に、自分が行ったデュエルを思い出す――。



 その後、翔が起き上がったことに、5人は喜び、そして、説明した――。
 黒ずくめの者達の軍隊が、自分達を襲ってきた事と、金色の鳳凰の主(あるじ)とも呼べる少女が、助けてくれた事を――。



「ふ〜ん・・・」
 翔が、有里達の説明を聞いていると、助けてくれた少女が、翔達の下に歩み寄ってきた。

「フ〜ン・・・、アンタは“この世界”について、何か気づいたわけ?」
 少女は、神也の方を向いて、問いかける。
 その質問を聞き、神也は小さくうなずいた。

「あぁ・・・。おそらくだが・・・、この世界は“オレ達のいた世界”とは、全く別の世界だ――」
 神也の突然の言葉に、翔達は目を見開き驚いた。だが、そんな態度とはうってかわって、少女の態度は一切変わっていなかった。


「そして、デュエルをしていて分かったんだが・・・、この世界でモンスターを召還すると・・・、いや、プレイヤーへのダメージそのものが、ソリッドビジョンではなく、“現実(リアル)”なものになっている――」


 神也の言葉を聞き、再度驚くが、それぞれに思い当たる節があるため、そんなに驚く事ではなかった――いや、驚く事が出来なかった。

「大雑把だけど、その通りよ――」
 腕を組みながら神也の話を聞いていた少女が、口を開き、そう言った。

「あんたは・・・、この世界の事を知っているのか・・・?」
 少女の言葉を聞き、そう確信した翔が、口を開いた。
 その言葉を聞いて、少女は一度話そうとするが、すぐに口を閉じ、再び翔達の下から離れようとする。
「いや、止めておくわ・・・。今、向かっている場所に、アンタ達を待っている人がいるから・・・、その人から教えてもらって・・・」
 少女のそんな態度を見て、神也は小さな怒りを感じるが、神童と加奈がそれを抑える。少女が離れようとしているのを止めるように、再び翔は口を開く。

「ッ・・・じゃあ!あんたの名前を教えてくれないか?」
 翔の言葉を聞き、少女は振り返った。
「何て呼んでいいのか、分からないしな・・・」
 翔はそう言って、歯を見せながら大きく笑った。

「“アンナ”――、そう呼んで」
 少女は、ゆっくりと口を開き、そう答えた。









――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「逃げられた・・・か・・・」
 闇の空間の中にいるファイガが、つぶやくようにそう言った。

『ソノヨウダナ・・・』
 ファイガの隣で聳えていた悪魔のような風貌をしたものが、答えるように言う。

「ま、良いさ・・・!こうじゃないと、楽しくない・・・」
 ファイガは、自分の座っていた椅子に深くもたれかかり、漆黒の空を見上げる。何も見えない、漆黒の空を――。
「もっともっと・・・、強くなってくれ・・・。なぁ・・・」








――――“クリア・シャインローズ”・・・


 ファイガはそう言うと、ゆっくりと目を閉じた。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「着いたわよ」
 アンナはそう言いながら、鳳凰の背を降り、地面に着地する。そして、ポケットから何も書かれていない1枚のカードを取り出し、金色の鳳凰に向かって翳(かざ)す。すると、金色の鳳凰の体が光の塊となり、カードの中に吸収された。何も書かれていなかったカードには、デュエルで使用するカードのように、鳳凰の姿と鳳凰の名、効果が浮かび上がってきていた。
「すげぇな・・・、こりゃ」
 “自分達の世界”では、見た事の無い光景を見せられ、翔達は驚いていた。だが、無視するようにアンナは、歩き始める。それを見て、翔達も追いかける。

 しばらく歩き、着いた先――。


 そこは、洞窟――。
 入り口が、大の大人1人がやっと入れるくらいの大きさになっている。そして、辺りを見ると、所々にひびが入っており、これは、人為的に造られた洞窟だという事を示している。

「ここよ・・・」
 アンナは、自分以外の6人に向かって、そう言った。


「この奥に、アンタ達を待っている人がいる――」
 洞窟の中から、一陣の風が吹いてきた――。



第16章 ナゾ解明!?――現実世界(リアル・ワールド)と異次元空間(アナザー・ワールド)

「この奥に、アンタ達を待っている人がいる――」
 アンナは、ゆっくりとそう言った。
 その言葉を聞き、怯えた者もいれば、逆に、その瞳に強い光を宿した者もいる。
「どっ・・・、どうするのぉ・・・?」
 アンナの言葉を聞き、怯え、戸惑っている内の1人――真利が、5人に問いかける。その声も震えており、一目見ただけで、怯えているかどうか分かってしまう程だ。


ザッ――

 瞳に強い光を宿した内の1人――翔が、一番初めに一歩前に出て、叫ぶようにはっきりと言う。
「行くに決まってる・・・!」
 翔のその言動に、後ろから有里が、翔の肩を力強くつかんで、叫ぶ。
「何言ってるの!!?何があるか、分からないっていうのに!」
 だが、翔は、有里の手を振り解き、有里の方に振り返ると、瞳に宿った強い光を有里に見せながら、ゆっくりと口を開く。
「そうだよ・・・、何があるかは、分からないさ――。でも!先に進まないと、ここが何処なのかすら分からないんだぞ!!」

 そして、翔は、有里の両肩をつかみ、有里の目をしっかりと見つめながら、訴えかけるように叫ぶ。
「オレは行く!前に進まないと・・・、何も変わらないから!!
 翔は叫び終えると、有里の両肩から手を離し、後ろに振り返り、洞窟を睨むように見つめる。そして、ゆっくりとではあるが、足を前に出し、進んでいく。それに続いて、アンナも歩き出す。
 すると、後ろから誰かが走ってきて、翔の背中をドッ――と力強く押す。翔は、押されて歩いていた体勢を崩してしまうが、すぐに体勢を立て直し、後ろを振り返る。
 そこにいたのは、神也であった――。
「神也!お前、何するんだ!?」
 翔の怒った言葉を聞きながらも、神也は真剣な表情をして、翔を見る。

「オレも行くぜ・・・!」
 神也の言葉を聞き、翔は言葉には出さなかったが、目を見開き、驚いた。しかし、翔は、ふと神也の足を見ると、神也の足は震えていた。
「あ、バレた?」
 神也は、笑って誤魔化そうとしている。
 翔は、神也のその言葉を聞き、小さく笑ってみせた。
「ちょっと怖いけどな・・・。でも・・・、お前の言うとおりだ・・・!」






―――進まないと、何も変わらない!!


 翔と神也の言葉、姿を見て、残りの4人も、前に進みだす。
「そうね・・・。」
 有里は、多少の暗い“影”を残しながらも、口を開く。
「行かないと、何も変わらないわね!」
 有里は、影を無くし、笑顔になると、そのままウィンクをして、そう言った。



 そして、6人(アンナを入れて7人)は、洞窟に向かって歩き始める・・・。




「でも、翔?あんたのさっきの言葉――、ちょっとクサかったわよ?」
「え?嘘ォ!?」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 洞窟の中は、深い闇が全てを支配していた。
 一切、何も見えず、洞窟の中は一方通行でありながらも、すぐ壁にぶつかってしまう。つまり、それだけ暗いのだ――。
「アンナ・・・、明かりは無いのか?」
 翔は、アンナ(だと思える)の横に来ると、そう聞いた。
「ダメよ。明かりなんてつけたら、気づかれるかも知れないから」
「誰に?」

「“デストロイド”よ――」

 翔の質問に対し、アンナはゆっくりと答えた。その言葉は、震えていて、恐怖すら感じられた。始め、翔は洞窟のこの暗闇のせいかと思っていたが、会話を続ける事で、そうではないという事が分かった。アンナの声が震えたのは、“デストロイド”という単語を言ってから・・・。つまり、“デストロイド”という存在が、アンナの恐怖を生み出していたのだ。

(“デストロイド”――ねぇ・・・)

 翔は、アンナの恐怖を生み出した存在の事が、少しだけ気になった。


 そうこうしている間に、小さな光が見えてきた・・・。
「やっと、明るくなってきたよぉ・・・」
 涙目になりかけていた真利が、そう言った。
「よしよし・・・、大丈夫だよぉ〜」
 涙目になっている真利の頭を撫でながら、加奈はそう言った。だが、そんな言葉とは裏腹に、加奈は笑いをこらえていた。暗闇で涙目になっている真利が、面白くて面白くてたまらなかったのだ。


 次の瞬間――、辺り一面を光が覆った。


 暗闇に目が慣れてしまったため、急激な明るさに目が拒絶反応を起こしてしまったのだ。だが、だんだんと明るさに慣れてきた目をこじらせて、翔は辺りを見回す。

 洞窟の中とは思えないほど、巨大な部屋になっており、そこには数人の兵士が道をつくっているように立っていた。その兵士の道の奥には、王様が座るような豪華な椅子に座っている、1人の老人の姿があった。それに、壁のところどころに、ランプが掛けられており、それによって、これだけの明るさがあるのだという事も分かった。

「前に――」
 アンナはそう言って、6人を導く。豪華な椅子に座っている老人の下へ――。

 6人は多少の戸惑いと緊張を持ちながらも、前に進み、老人の目の前に、たどり着く。老人は、6人より少し背が高いくらいで、それ以外の体型の違いはあまり無かった。髪は、翔と同じ赤茶色になっていて、首の後ろあたりで、ゴムで束ねられている。

「おぉ・・・、よくここに来てくれた――。まずは、礼を言うぞ」
 その老人は、少し態度が大きいようだ。
 その態度の大きさに、少しだけ神也はイラッとしてしまう。

「ワシの名は、“ゼオウ・シャインローズ”――。“この世界”の王じゃ――!」


「「「「「「―――!!?」」」」」」

 6人は一斉に目を見開き驚いた。

 “王”――?
 こんな老人が――?
 思ってはいけない事だとは思っていながらも、やはり思ってしまう。
 

「ちょっと待て。今、“この世界”って言ったよな?つまり、ここは、オレ達の世界とは別の世界なんだな?」
 神也は、ゼオウの言葉で引っかかった所に対し、質問する。

 ゼオウは、王様なのに・・・、何だその口の利き方は! byショウ

「その通り――。この世界の名は、“異次元空間(アナザー・ワールド)”!そなた達の世界――“現実世界(リアル・ワールド)”とは、並行の位置にある!」
 ゼオウの突然の言葉。
 それは、翔達の頭脳の容量(キャパシティ)を遥かに越えており、なんと理解すれば良いのか全く分からなかった――。

「“異次元空間(アナザー・ワールド)”――と・・・」

「“現実世界(リアル・ワールド)”――」

 神也、神童の順で、そう言った。

「この空間では、“リアル・ワールド”とは違い、デュエルで、モンスターを召還すると、そのモンスターは“実体(リアル)”として、召還される――。つまり、対戦相手に危害を加える可能性のある、危険な存在となってしまうのだ」
 ゼオウの言葉を聞き、6人全員が驚いてしまう。
 特に神也に至っては、自分の予想が当たっていたということもあってか、他の5人以上に驚いている。

 そして、ゼオウの言葉を聞いたことで、更なる恐怖を生み出すかのような質問を思い浮かべてしまう、翔――。
 震えながらも、それを聞くことにした。

「じゃあ・・・、そのモンスターの攻撃で、ライフが0になってしまうと・・・、どっ・・・、どうなるんだ?」

「“死ぬ”・・・、なんてことはない」


「へ?」
 翔の思っていたこととは違う答えが返ってきたため、翔は軽くこけてしまう。だが、ゼオウの言葉は終わってはいなかった。ゼオウは、再び口を開き、言葉を続ける。

「だが――、例外はある。―――相手を殺したいと思った時じゃ・・・」


 ゼオウの言葉――。

 その言葉により、翔、神童、神也は、先程の黒ずくめとのデュエルの結末を思い出してしまう――。
 目の前に広がっていたのは、見るも無残な黒ずくめの哀れな姿――。


 あれは・・・、“相手を殺したい”と思っていたから・・・なのか・・・?


 そんな疑問が、その3人の頭の中に浮かんだ。


 その時、同じくデュエルの事を思い出していた有里が、大きく手を挙げて、ゼオウに対して質問をする。

「あの!それって、自分のライフが0にならなくとも、自分の体には、大きなダメージがあるんですか?」
 有里の思い出していたデュエルの光景――。

 それは、翔が、デュエルを終えた後、倒れた瞬間であった――。
 翔は、他の2人とは違い、かなりとまではいかないが、ダメージを受けてしまっていた。それが原因で、倒れてしまったのかと思うと、一度のデュエルさえ怯え、出来なくなりそうだ――。
 だからこそ質問し、確認を取りたかった。

「いや、本当に危害を加えるのは、“相手にとどめを刺す時”だけじゃ・・・。つまり、それ以外の時は、多少・・・ではないが、そこまでのダメージは無い」

(え・・・!!?)

 有里は、声には出さなかったが、目を見開き、唇に右人差し指を当て、小さく震えてしまう・・・。

 それでは、何故、翔は、倒れてしまったのか・・・?

 それが、分からなくなったからだ。

「えっ・・・?じゃあ、ライフが0にならなかったら、倒れる程のダメージは無いんだな!?」
 神也は、有里とゼオウとの会話に入り込み、有里同様、驚きながら質問する。
「そうじゃ。ライフが0にならない限り、倒れる事はまず無い・・・。例え、ライフが0になったとしても、相手の感情によっては、軽傷で済む時もある――」
 ゼオウが、淡々と説明を続ける中、翔の頭の中には、アンナの言った「デストロイド」という単語が、残っていた――。
 翔が、その単語に気をとられている間に、神也は、また別の質問をゼオウにしていた。

「さっき、“平行な位置にある”――と言っていたが、何故、2つの世界が、存在しているんだ?」

「それは・・・“邪神”のせいじゃ・・・」
 ゼオウは、突然暗い表情となった。
 少しのためらいが混じりながらも、ゼオウは口を開き、しっかりと説明する。


「元は、“現実(リアル)”と“異次元(アナザー)”は、1つ――、2つではなかった・・・。だが、奴が全てを壊した・・・。それが、“邪神”。“邪な力”を持った“神”――。」

ゴクリ・・・
 ゼオウの深刻な表情と、その話の内容に、神也は、ゆっくりと唾を飲み込んでしまう。


「“邪神”の存在は、世界そのものを捻じ曲げてしまった――。その時、世界は2つに分かれた――。それにより、今の状態――、2つの世界が出来たのじゃ・・・」
 神也は、身震いしてしまう。
 世界を捻じ曲げてしまうほどの強い存在がいるということに対して、恐怖してしまったのだ。

「その“邪神”っていうのは・・・、今、どうなっているんだ?」
 神也は、怯えながらその質問をする。
「安心せい・・・。世界が2つに分かれたと同時に、世界に眠っていた“最強の天使”が、目を覚ましたんじゃ・・・。その天使は、“究極の輝き”で、邪神を弱らせ、邪神を封印する事に成功した・・・。じゃから、邪神は今、封印されておる・・・」

 神也は、そのゼオウの言葉を聞き、ほっとしたような表情をとった。

 大体質問する事が無くなってきた中、翔がふとゼオウの方を見て、ゆっくりと口を開く。

「“デストロイド”――って、何なんだ?」
 翔のその質問を聞き、ゼオウは目を見開き、驚く。周りにいる兵士やアンナも同様に、目を見開き、パッと見ただけで、驚いていると分かるような表情をとっている。

フゥ・・・
 そして、ゼオウは小さくため息をつくように息を吐き出す。


「“デストロイド”――、それは、先程言った“邪神”を復活させようとしている集団のことじゃ!!」

 ゼオウは、大きな声でそう言った。
 その言葉に、翔達もまた、アンナや兵士のように、目を見開き驚いてしまった。





―――世界を捻じ曲げるだけの力を持った、邪神を・・・。復活させる・・・!?




 翔の心の中では、驚きよりも、それを行う理由が知りたい、という気持ちの方が大きくなっていた。

 そして、“何故、自分達がここに来たか”――その理由を知りたいという気持ちも――。



第17章 “神の名を受け継ぎし者達”――敵の名は“デストロイド”

「“邪神”を復活させようとする・・・集団・・・?」
 神也は、ゼオウの言葉を繰り返す形で、そう言った。それを聞き、ゼオウは小さくうなずいた。そして、そのまま話を続ける。
「“デストロイド”が何故、“邪神”を復活させようとするのかは、分からぬがな・・・」
 ゼオウは、暗く落ち込んだようにそう言った。
「じゃあ何で!? 何でオレ達は、“異次元空間(アナザー・ワールド)”に連れてこられたんだ!!?」
 翔は、アナザー・ワールドでの出来事を思い出し、それにより生まれてきた怒りを込めながら、そう叫んだ。
「まず始めに、君達をここ(アナザー・ワールド)に連れてきたのは、“デストロイド”じゃ・・・」
 ゼオウの言葉は、翔達を驚かせた。
 アナザー・ワールドにとって、敵であろう人物達に連れてこられたからだ。しかし、だからこそ、余計にここに連れてこられた理由が、気になって仕方なかった・・・。
 翔達の驚きが消えるのを待つため、少しの間を取って、ゼオウは再び口を開いた。


「“邪神”を復活させるのに必要な存在・・・。 それが君達、“神の名を受け継ぎし者達”だからじゃ」


「“神の名を”・・・“受け継ぎし者達”・・・?」
 意味の分からない単語が、また出てきたため、頭が混乱し始める6人――。

「――さて・・・、“神の名を受け継ぎし者達”を説明するためには・・・、この世界で15年前に起きた出来事を話さなければならない・・・」
 混乱し始めた6人を見て、ゼオウはそう言った。
 その後彼は、目を閉じ、15年前に起きた出来事を、昨日のように思い出しながら、ゆっくりと、丁寧に語り始める。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 15年前――。

 15年前にも、「デストロイド」――つまり、「“邪神”を復活させる集団」は、存在していた。
 デストロイドは、邪神を復活させるため、大量の兵力を用いて、邪神が封印してある場所を知っているゼオウと、ゼオウ達の軍であるレジスタンスに何度も戦いを挑んできていた。
 その度、互いの軍に大きな被害が出てきていた――。

 そんな中、レジスタンスに所属していた1人の青年が、デストロイドを全滅させるため、デストロイドのボスであるガイア・ドラゴニルクに戦いを挑んだ。
 その青年こそが、ゼオウの息子であるシン・シャインローズであった。

 2人は、後に「決戦の荒野」と呼ばれる場所で、邪神の復活、及び世界の存亡をかけたデュエルを行った――。

 結果、「キメラテック・オーバー・ドラゴン」の攻撃により、シンは勝利した。
 そのデュエルによりガイアは死亡――デストロイドは事実上、壊滅した。

 そして、邪神が復活する事は無かった――。

 ただ、戦いは終わったものの、その戦いが原因で、邪神が封印してある場所――「永遠の城(エンドレス・キャッスル)」の存在がデストロイドにバレ、封印された状態の邪神は、奪われてしまった・・・。

 それによって、シンは英雄(ヒーロー)と呼ばれるようになった――。
 また、それ以降、アナザー・ワールドでの救世主、英雄が誕生する度、シン・シャインローズの「シン(神)」をとって、「神(シン)の名を受け継ぎし者」となった。

 しかし、シンとガイアによるデュエル終了直後、ある「事件」が起きていた――。

 シンが、アナザー・ワールドから姿を消していたのだ。



 シンが、自身のデッキのカード全てを捨て、「疲れた」と言い残し、リアル・ワールドへと向かったと分かったのは、それから3年後であった。
 そして、それと同時に、シンが、リアル・ワールドに辿り着いた時、シンの力が、リアル・ワールド全域に放出された、ということが分かった。

 そして、放出されたシンの力を受けた者、及び彼の子息のことを、救世主になりうる力を持っている、ということから、「神(かみ)の名を受け継ぎし者」と、アナザー・ワールドでは呼ぶようになった――。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「“神の名を受け継ぎし者”――それがどういうもので、何を意味するのか・・・、それは分かった。 だが、まだ納得できないことがある! ――1つ目は、何故15年前にボスが死んだ“デストロイド”が、まだ消えていない!? ・・・いや、復活した、と言うべきか・・・」
 翔は、右手の人差し指を立て、ゼオウに質問する。だが、ゼオウは悩むことなく、すぐに口を開き、翔の質問の答えを言い始めた。
「ガイアには、息子がいた――。 名を“ファイガ・ドラゴニルク”と言い、その息子が“デストロイド”のボスの座を継いだのじゃ。 ――“邪神”のカードを持ってな・・・」
 ゼオウの答えを聞き、翔は、人差し指に加え、中指も立て、次なる質問をした。
「じゃあ、2つ目――。 邪神の復活に必要なものが、“神の名を受け継ぎし者達”だということを、“デストロイド”は知っているんだ!?」
 次なる質問に対しても、ゼオウはすぐに口を開き、迷うことなく答え始める。
「少し話を戻すが、さっき“最強の天使”の話をしたじゃろ? ――邪神を封印した時、その天使は予言を残したのじゃ――」



――――邪悪なる神は、いつか再び目を覚ます・・・。



――――闇の空間で生まれる“邪なる魔物”の力を吸い、自身の体を取り戻して・・・。



――――我が力を注がれた“聖なる魔物”の力を吸い、自身の力を取り戻して・・・。



――――後に異世界で生まれる“神の名を持つ者”の力を吸い、自身の存在を蘇らさん・・・。



「この予言は今、真実になろうとしている・・・。 “神の名を持つ者”の力――つまり、“神の名を受け継ぎし者”は生まれてしまった・・・。 それに、“デストロイド”のボスであるファイガは、この世界の奥深くにある“暗黒の空間(ダークネス・ルーム)”で、“闇の魔物(ダークモンスター)”を次から次へと生み出し、邪神にそれを餌として与えているんじゃ・・・」
 ゼオウは、少しずつ体を震わせていた。それだけゼオウが、邪神という存在に、恐怖を感じている、ということであろうか。
「そして君達も・・・、邪神の力により、アナザー・ワールドに呼び出された・・・」
 ゼオウは体の震えを止めようとするように、両腕を押さえながら、そう言った。

「――あれ? ・・・ちょっとおかしくない? 何で私達が“神の名を受け継ぎし者達”だって、分かったの?」
 突然有里が、ゼオウと翔との会話を聞いている中で思い浮かんだ疑問を、首を傾げながらゼオウに聞いた。

「“神の名を受け継ぎし者”には、必ず名前に“神”という文字が入っているんじゃよ・・・」



――――崎 翔



――――吹 有里



――――高山



――――明 真利



――――橋本



――――晃 加奈



「――なんて安直なの・・・」
 有里が、完全に納得していないような表情でそうつぶやいた。
 その時翔が、有里のそんな表情を見て小さく笑みを浮かべながら、再び前に出て、三本の指(人差し指、中指、薬指)を立てて、再び質問する。

「3つ目の質問――、多分、これがオレの中で、一番大きな質問だな・・・」
 翔は、頭の中で自分がしようとしている質問を確認し、一息入れると、ゆっくりと口を開いた。




―――何でアンタは、“デストロイド”の情報を、そんなに詳しく知っているんだ・・・?




 ゼオウは彼の言葉によって、ビクッ――と動揺してしまった。
 そんな彼の動揺を見て、翔の表情が険しくなっていった。
「オレ達に・・・、言えない理由か・・・!!?」
 翔が少しずつ、荒々しくなっていく。
 だが、そんな翔の荒々しい表情を見て、ゼオウはため息をつき、答え始める。
「――本来、“レジスタンス”の信用に関わるため、あまり言いたくは無かったのじゃが・・・。 このままでは、君達からの信用が無くなりそうじゃな・・・」
 そう言ってゼオウは、1人の兵士に、数枚の紙を持って来させた。兵士は、ゼオウの下までその紙を持って行くと、ゼオウの指示を聞き、翔にそれを渡した。
 翔達6人は、その紙に書かれた文章を読む・・・。

「『オレ達、“デストロイド”は復活した』――!!?」
 翔達は、速読で、その紙に書かれた文章を読み終えた・・・。


 そこに書かれたあった内容――それは、今までゼオウの言っていた、邪神が復活しつつある、と書かれた復活状況と、神の名を受け継ぎし者達を、アナザー・ワールドに呼ぶ日時、場所が記されてあった・・・。


 そう、レジスタンスは、現在のデストロイドにバカにされていたのだ――。


「こんな・・・手紙が・・・!!?」
 翔は、自分の質問の間違いを感じ取り、驚きを止められない状態であった。そしてまた、デストロイドに怒りを感じたのか、グシャッ――とその紙を握り締めた。
「スマンのう・・・。 じゃが、その手紙のおかげで、アンナを君達の下に向かわせる事が出来たのじゃ・・・。 “デストロイド”から君達を助けるために・・・のう。 ――!?」
 ゼオウが、喋っている間に、翔はゆっくりと掌を前に出し、彼の言葉を止めた。
「もう質問は、終わりでいい・・・。 ――で? オレ達は、何をすればいい? それを言うために、オレ達を呼んだんだろ?」
 翔が、鋭い質問をゼオウにした。
 ゼオウは、翔の言葉を聞くと、小さく深呼吸をし、目を鋭くして答えた。

「その通り――。君達には、“神の名を受け継ぎし者達”として、“デストロイド”を倒して欲しい」

 ゼオウは、頭を下げ、本気で頼み込んできた。

 当然、それに反対する者はいた。


「止めといた方がいいよ、翔!」
 有里は、翔の右腕をグッ――とつかんで、そう言った。加奈や真利、神童も同意見であり、首を何度も上下させている。だが、翔と神也だけは違った――。

 ニィッ――と、翔と神也は、大きく笑って見せた・・・。

 有里は、嫌な予感のせいで、背中に冷や汗をかいた。

「やるぜ!! “デストロイド”討伐っ!!」
「オレも賛成だぜっ! ――“デストロイド”討伐!!」
「なっ・・・!? 何言ってるの!? 早く帰る方法を見つけて帰るのよ!!」
 有里は翔の目をしっかりと見て、反対する。だが彼は、彼女の目を見つめ返して、口をゆっくりと開く。

「オレ達にしか・・・、出来ないんだろ・・・?」
「そ、そうじゃ・・・」
 翔の言葉に、ゼオウは小さく答えた。

「天使の予言は他にもあるのじゃが、その内の“邪神”討伐の予言によると、“神の名を受け継ぎし者”でしか、邪神は倒せないらしいのじゃ・・・」



――――目を覚まし、再び暴走を始めた邪悪なる神・・・。



――――倒せる者は、“神の名を持つ者”の力のみ・・・。



「なら・・・、やる!
 翔は、再びそう叫んだ。その叫びを聞きながら、隣にいた神也が、「何て空気の読める予言なんだ・・・」と、少し皮肉めいた言葉をつぶやいていた。
 翔の叫んだときの表情は、笑顔ではなく、真剣なものであった。
「何で!? 明らかに“危険”だっていうの、分かるでしょ!!?」
「そんくらい・・・、分かってるさ・・・」
 翔は、有里の説得を聞きながらも答える。


「――でも・・・!!」


 翔の続けられた言葉に、他の者達は言葉を失った。
「オレ達にしか出来ないことだから・・・!!」
 翔は歯を力強くかみ締める。そして、右拳を強く握り締め、問いかけるように有里達に話しかける。



「オレ達でしか・・・、この世界(アナザー・ワールド)を救えないんだぞっ!!? 目の前で困ってる人を見て、震えている人を見て、怯えている人を見て―――」
 翔は有里達に訴えかけながら、辺りの兵士やアンナ、ゼオウを見ていく。その者達は、しっかりと立ちながらも、小さくではあるが、体を震わせていた――。

「見て見ぬフリが、出来るのか!!?」
「それは・・・! ――でも・・・ッ!!」
 有里はそう言って、視線を横に逸らした。


 そう、見て見ぬフリなんて出来ない・・・。
 でも・・・、私達は・・・!!


 有里は、そう考えている間に、大きな不安を心の中に生み出し、体を震わせ始めた。
 そんな姿を見て翔は、有里の不安を取り払うために、有里の腕を引っ張り、有里をしっかりと抱き締めた。そんな翔の行動に、有里は顔を真っ赤にして驚き、彼をどかそうとするが、その中で、彼は言葉を続けた。


「助けるんだ・・・、救うんだ・・・! ――オレ達には、それが出来るんだからっっ!!」



ドクンッ―――



 有里の心の中の「何か」が弾ける――。
 神童の「何か」も、真利の「何か」も――、神也の「何か」も――、加奈の「何か」も――。


 心臓の鼓動ではない・・・。「心」が――、体の奥底に眠る「心」が、大きく、そして力強く弾けた。


「――分かったわよ・・・」
 有里はそう言って、小さく笑った。両手を前に突き出し、翔から少し離れると、小さくため息をつき、自分の髪を整えながら。顔は真っ赤のままなのだが――。

「やろうぜ・・・、翔!」
 神也は、右手でしっかりと拳を作り、それを翔に向けて、そう叫ぶ。そんな神也の表情は、待ってました、と言わんばかりのものであった・・・。

「やろう・・・、やろうよ、翔!」
 神童は、その瞳に強き光を宿しながら、そう言った。そんな神童は、アナザー・ワールドで、小さな勇気を身につけていた・・・。

「やりますか!!」
「うん、やろうよ!!」
 真利と加奈は、互いに意気込み合っていく。そんな2人の絆は、更に深まっていき、決して壊れる事のないものとなっていた・・・。


「ゼオ・・・。いや、王様――。オレ達、“神の名を受け継ぎし者達”は・・・、










――“邪神”を倒し、この世界(アナザー・ワールド)を救ってみせる!!










 翔は口を大きく開き、そう叫んだ。

 そんな翔の瞳には、強き「何か」が宿っていた――。



第18章

「―――“邪神”を倒し、“異次元空間(アナザー・ワールド)”を救ってみせる!!」
 翔は、洞窟の中にいる全ての者に伝えるように、大きく叫んだ。その瞳には、強い光が宿っており、後ろに立っている5人の瞳にも強い光は宿っていた――その光から、やる気満々という感じを読み取る事が出来た。

「ありがとう・・・」
 ゼオウは、精一杯の感謝の気持ちを示した。目には涙を溜めており、王でありながら、王と言う地位を捨て、アナザー・ワールドに住む1人の老人として、頭を下げた――。

 だが、次にゼオウが頭を上げたとき、涙は無くなっており、目は鋭く、真剣な表情であった。

「さて・・・、こちらから“お願いします”と言っておきながらで悪いのじゃが・・・、誰か、デュエルをしてくれないかのう?」
 ゼオウは、椅子のすぐ側に置いてあったデュエルディスクを取り出すと、左腕に装着して、ゆっくりと立ち上がった。その姿からは、ゼオウが、自ら憎まれ役を買って出ているかのように感じ取る事が出来た。
「なっ・・・、何故だ!?」
 神也が、そう聞くと、ゼオウは変わらぬ瞳で、答える。
「君達の力が知りたいからじゃ・・・。たとえ“神の名を受け継ぎし者”であろうと、“弱ければ”意味が無いからのう」
 ゼオウは、そう答えながら、左腕のデュエルディスクにデッキをセットする。そして、その瞳の“質”を変えていく・・・。

 何重にも重なった瞳――、その瞳は、今にも全てを見通しそうなものであった。

 ゼオウの答えを聞き、神也は歯を少しだけ食いしばった。ゼオウの答えが完全に、矛盾しているからだ。だが、そんな事を気にしていないかのように、翔が一歩前に出て、ゼオウの顔を見る。

「オレが、デュエルする――」
 翔は、既にデッキがセットされているデュエルディスクを左腕に装着しながら、そう言った。当然、他の5人は、反対する。
「翔!?ダメだぞ!ここは、しっかりと、誰が出るか決めてか・・・」
「オレが、“救いたい(やろう)”――って、言い出したんだ。だから・・・、オレが出る!」
 翔は、デュエルディスクからデッキを取り出すと、軽くシャッフルして、再びデュエルディスクにセットする。ゼオウも同様に、デッキをシャッフルしている。

「安心せい・・・。ここには、特殊な“魔法”が張られている――。その“魔法”で、人体へのダメージは限りなく小さいからのう・・・」
 ゼオウは、軽く笑って見せた。翔も、そのゼオウの表情を見て、小さく笑って見せる。だが、多少の恐怖が混じっているためか、その笑い方は、何処かぎこちない部分があった。

「じゃ、ちょっと下がっててくれ・・・」
 翔は、他の5人に下がってもらい、自身も少しだけ後ろに下がり、ゼオウとの間に、デュエルをするだけのスペースを作り出す。
「行くぞ、王様――!!」
 翔は勢いよくデッキの上からカードを5枚引き、自分の手札とする。ゼオウも、翔と同タイミングで、デッキの上からカードを引き、手札としている。
「老人だからといって、手加減はせんといてくれよ・・・?」


































――――デュエルッ!!!





「先攻はワシからじゃ・・・。ドロー!」
 ゼオウは、カードを1枚引くと、それを手札に加え、手札をしばらくの間、眺め続ける・・・。そこまでの時間は経っていないものの、翔からすればどんな戦術を考えているのか、という不安を心の中に生み出してしまい、時間を長く感じ取ってしまう――。
「ワシは、モンスターを1体セットし、ターンエンドじゃ」
 それだけ長い時間、考えていたにも関わらず、ゼオウはカードを1枚場に出すだけで、ターンを終えてしまった。

ゼオウ LP:4000
    手札:5枚
     場:裏守備1枚

「オレのターンだな?――ドロー」
 翔は額に、ほんの少しの脂汗を流しながら、カードを1枚引く。
 ゼオウが、考えた上で出した1体のモンスターは、翔にとって、とてつもない壁にも感じ取れる。

ドローカード:D.D.クロウ

(このカードは、しばらく使えそうに無いな・・・)
 翔は、今引いたカードを手札の隅に置くと、他の手札のカードを眺め始める。

 敵の裏守備モンスターが何か気になる中、それに対応する「抹殺の使途」や「シールドクラッシュ」が無いため、どうすればいいのかを考えていた。

(どのモンスターを出すのかは決めた――。だが、攻撃するか否か・・・?)
 翔は、手札のカード1枚を少しだけ見やすくすると、そのカードを見つめながら、再び考え込む。

(それにしても・・・、あの黒ずくめと戦ってるときに頭の中を過ぎった“答え”みたいなものが、今は全く感じられない・・・。何でだ?)
 翔は、また新たな疑問を浮かび上がらせてしまう。

 黒ずくめの者との戦いの中で目覚めた何らかの“力”――。
 その力が、ゼオウとの戦いでは、少しも発揮されていなかった・・・。

「まぁ、いいや・・・!オレは、“シャインエンジェル”を攻撃表示で召喚!!」
 翔の目の前に現れたモンスターは、背中に翼を生やした、まさに天使であった。その天使は、背中の翼を使って、空高く舞い上がると、一気に落下し、ゼオウの目の前にある裏守備モンスターを破壊する。破壊されたモンスターは、少し不格好な悪魔であった。

「“マッド・リローダー”じゃ。このモンスターが、戦闘で破壊された事で、ワシは手札を2枚墓地へ送り、デッキから2枚ドローするぞい」
 ゼオウは、既に決めていた手札のカードを2枚、墓地へ送ると、ゆっくりとデッキの上からカードを2枚ドローする。

シャインエンジェル
効果モンスター
星4/光属性/天使族/攻1400/守 800
このカードが戦闘によって墓地へ送られた時、デッキから攻撃力1500以下の
光属性モンスター1体を自分のフィールド上に表側攻撃表示で特殊召喚する事ができる。
その後デッキをシャッフルする。

マッド・リローダー
効果モンスター
星1/闇属性/悪魔族/攻 0/守 0
このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、
自分の手札を2枚墓地に送り、自分のデッキから
カードを2枚ドローする。

「手札交換か・・・!オレは、カードを1枚伏せて、ターンエンドだ」
 翔は、再び手札からカードを1枚取ると、そのカードを静かに場に出した。




 ―――そのカードが、何となく必要な気がしたから・・・。



 そして、翔はターンエンドを宣言する。

翔  LP:4000
   手札:4枚
    場:シャインエンジェル(攻撃)、リバース1枚

「ワシのターン、ドロー」
 ゼオウは、依然ゆっくりとしたプレイを取る。カードも静かに引き、手札を眺め、長い時間考える。

「ワシはモンスターを1体セット、カードを1枚伏せて、ターンエンドじゃ」
 これまた依然としているのだが、ゼオウは、時間をかけた割に、あっさりとしたプレイングだけで、自身のターンを終わらせてしまう。

 それが、翔にとって、かなりの恐怖となり、プレイングに支障が出てしまいそうになる。

翔――ッ!!
 有里は、翔の名を大きく叫び、応援をし始める。

 だが、翔は、そんな応援に応える余裕は無かった。

 ゼオウから感じ取れる独特のオーラが、翔を包み込み、翔を震え上がらせるからである。

ゼオウ LP:4000
    手札:4枚
     場:裏守備1枚、リバース1枚

「オレのターン!」
 ドローしようとする翔の手が震える。ゼオウの放つ独特のオーラが、翔の動きを束縛しているからだ。

「ドロー!!」
 だが、翔は、そんなオーラを薙ぎ払うかのように、力強くカードを引く。

ドローカード:ジャックス・ナイト

「よし!“シャインエンジェル”をリリースして、“ジャックス・ナイト”をアドバンス召喚ッ!!」

 翔は、天使を墓地へ送る事で、新たなモンスター――青き鎧を着た戦士を場に出す。そのモンスターを見て、ゼオウは、少しだけ驚く。
「ホォ・・・。“絵札の三銃士”かのう。それらのカードを使いこなすデュエリストは、なかなか見た事がないぞい」
 ゼオウのそんな言葉をよそに、翔は手を前に出し、攻撃宣言をする。

「“ジャックス・ナイト”で・・・、裏守備モンスターに攻撃だぁっ!!」
 青き鎧を着た戦士が、剣をしっかりと握り、ダッシュした瞬間、ゼオウは小さく笑った。その笑いを見て、翔は目を見開き、驚いてしまう。

「今、“攻撃”と言ったな・・・?」
「しまった!罠か!!?」
 翔は、ゼオウの表情と言葉を聞き、自身のプレイングに後悔するが、青き鎧の戦士の攻撃は、裏守備モンスターをいともたやすく切り裂いていた。

「え・・・?罠じゃ・・・、無い?」
 翔は、青き鎧の戦士の攻撃成功を見て、唖然としてしまう。だが、ゼオウは笑ったままの表情で、翔に話しかける。

「残念・・・、ワシの勝ちじゃ・・・!」
 ゼオウの目の前にいたモンスター――それは、三つ目の小さな悪魔であった。

「“クリッター”・・・?」
 ゼオウが見せたそのカードを見て、有里が、翔に代わって、そのモンスターの名を小さくつぶやいた。

クリッター
効果モンスター
星3/闇属性/悪魔族/攻1000/守 600
このカードがフィールド上から墓地に送られた時、
自分のデッキから攻撃力1500以下のモンスター1体を選択し、
お互いに確認して手札に加える。その後デッキをシャッフルする。






――ドクンッッ!!





 翔の中の何かが、小さく弾ける。




「“クリッター”の効果で、ワシはこのカードを手札に加える」
 ゼオウは、デッキの中からカードを1枚取り出すと、そのカードを翔を含む、広間にいる全ての者に見せるように、空高く掲げる。

封印されしエクゾディア
星3/闇属性/魔法使い族/攻1000/守1000
このカードに加え、「封印されし者の右足」「封印されし者の左足」
「封印されし者の右腕」「封印されし者の左腕」
が手札に全て揃った時、デュエルに勝利する。

「“エクゾディア”だとぉ!!?」
 神也が、そのゼオウのカードを見て、驚き、つい叫んでしまう。
 有里達も、言葉には出さないものの、驚きは隠せないようだ。

「そして、この瞬間――、ワシの手札に、“エクゾディア”が、揃う――!!」



 ゼオウが、そう叫ぶ中、不思議と気分が楽になった翔は、小さく笑っていた。



















































―――――カッ!!!











 巨大な閃光が、辺り一面を一気に覆いつくす。




 全てを――、







一瞬で――。






第18章 エクゾディア――翔、敗北・・・?






ゼオウ LP:4000
    手札:4枚
     場:リバース1枚

翔   LP:????
    手札:4枚
     場:ジャックス・ナイト(攻撃)




 光に飲み込まれていく中、依然として翔の笑みは無くならなかった――。いや、それだけでなく、翔の瞳が、小さな“変化”を遂げており、それに気づいたのは、ゼオウだけであった・・・。





 そして、ゆっくりと、辺りを飲み込んでいた光が、消えていく――。



第19章 覚悟の量――それが最大の武器となりて

 辺り一面を飲み込んだ輝きが、ゆっくりと消えていく・・・。

 そこには、少し驚いているゼオウの姿と、息を荒くしている翔の姿があった。
 少し離れたところから見ている有里達にとっては、今現在、何が起きているのか、ということはよく分からなかった。ただ、翔が負けそう・・・、いや、エクゾディアにより負けたのだという事は、理解している・・・



“はず”だった。

 だが、翔とゼオウのデュエルは、全く終わっていなかった。

「フゥー・・・、少し驚いたぞい?翔よ」
 ゼオウは、軽く深呼吸しながらそう言った。

翔  LP:4000
   手札:4枚
    場:ジャックス・ナイト(攻撃)

ゼオウ LP:4000
    手札:4枚
     場:リバース1枚


 エクゾディアによる攻撃を受けても、翔のライフは0にはならなかった・・・。


 いや、翔は、エクゾディアの攻撃そのものを受けていないのだ。

「王様が、“エクゾディア”を使うっていうのは、“クリッター”が姿を現した時によぎった“答え”で、分かった・・・。だからオレは、咄嗟にこのカードを発動した」
 翔は、デュエルディスクの墓地にあったカードを1枚取り出すと、そのカードをゼオウに見せた。

ダスト・シュート
通常罠
相手の手札が4枚以上ある時に発動する事ができる。
相手の手札を確認してモンスターカード1枚を選択し、
そのカードを持ち主のデッキに戻してシャッフルする。

「分かっておったよ・・・」
 ゼオウが、ゆっくりと口を開いた。
 その言葉に、翔は目を見開き、驚いてしまう。

「ワシにも、君と同じ“能力(アビリティ)”があるからのう・・・」


 翔の瞳は、デュエルを始めた時とは違い、今は、何重にも瞳が重なったかのようになっていた。だが、ゼオウの瞳も同じようになっている――。


「・・・“アビリティ”・・・?」
 翔は、ゼオウの言った聞きなれない単語を聞かされ、戸惑ってしまう。

「デュエルが終わったら、教えてあげよう」
 そう言って、ゼオウは小さく笑って見せた。そんなゼオウの表情を見て、翔も大きく笑って見せる。そして、再び手札を確認し、デュエルを再開する。

「オレは、カードを1枚伏せて、ターンエンドだ――」
 翔は、素早くカードを1枚場に出すと、そのまま、ターンエンドを宣言する。

翔  LP:4000
   手札:3枚
    場:ジャックス・ナイト(攻撃)、リバース1枚

(“和睦の使者”か・・・)
 ゼオウの頭をよぎった“答え”は、翔の伏せていたカードを当てた。

「ワシのターン、ドロー!」
 ゼオウは、少し力を入れながらカードを引き、手札に加える。
 ゼオウの手札にあるカードは、エクゾディアのパーツカード(4枚)と、新たに加えたカード1枚のみ。つまり、今、ゼオウがまともに使えるカードは、新たに加えたカード1枚と、リバースカード1枚だけであった。
「フム・・・、ここは手札を入れ替えるかのう。手札から、“リロード”を発動するぞい」
 ゼオウは引いたカードを発動すると、手札のカードを全てデッキの中に入れ、デッキをデュエルディスクから取り出すと、シャッフルを始める。その後、デッキに戻した分だけ、4枚のカードをドローした。

リロード
速攻魔法
自分の手札を全てデッキに加えてシャッフルする。
その後、デッキに加えた枚数分のカードをドローする。

 ゼオウは、カードを引き終えると、何を思いついたか、口を開き、翔に話しかける。

「翔よ・・・、君は知っているかい?“エクゾディアの王”の存在を・・・」
 ゼオウの言葉を聞き、翔は一瞬、驚いた。

「あぁ・・・、オレの頭の中の“答え”が、教えてくれている・・・。アンタの手札の中に、“そいつ”があるってことを・・・」
 翔は、ゼオウの手札のカードを指差しながら、そう言った。
 だが、翔とゼオウのデュエルを観戦している、有里達にとっては、何がなにやらさっぱり、という状態だ。


「“エクゾディアの王”・・・って、何?」
 有里が、残りの5人に問いかけるが、5人とも、首を傾げるだけで、有里の方を見ようともしなかった。

 ――誰も答えられないということだ・・・。


 何故なら、“現実世界(リアル・ワールド)”には、存在しないカードだから。

「そうか・・・。ならば、見せてあげよう!ワシの墓地のモンスター、全てをデッキに戻し、特殊召喚じゃ!!」
 ゼオウは、力強くそのカードを場に出す。
 辺りに、バチバチッ――という、巨大な電気が何本も走り、そのカードの強大な力を示す――。

 翔の頭の中には、“危険”という答えだけがあった――――。


(“エクゾディアの王”――、一体・・・、どんな効果なんだ・・・!?)
 翔の“答え”では、そのカードが、ゼオウの手札にあるという事だけしか分からなかった。つまり、姿形、どんな効果を持っているかなどは、一切分からないのである。























































――――“究極封印神エクゾディオス”ッッ!!!






 その大きさは、その強大な力を表しているかの如く大きかった――。


 その威圧は、どんなモンスターをも、跪(ひざまず)かせる力を持っていた――。


 その漆黒は、自身の負の力を象徴していた――。


 そして・・・、死者の力を自身の力に変える力を持っていた――。




 その恐怖は、全てを支配する――。

「“究極封印神エクゾディオス”――、“エクゾディアの”・・・“王”ッ!?」
 翔は体を震わせながらそう言った。
 目の前にいるそのモンスターに、恐怖を抱いているからだ。
「更にリバースカード、“おジャマトリオ”発動――」
 ゼオウはゆっくりと、伏せてあったカードを発動させる。すると、翔の目の前に、醜い顔をしたモンスターが3体出現した。
「くっ・・・!“おジャマ”のカードか!」
 翔は、ゼオウが発動したカードの名称、場に出現したモンスターを見て、ゼオウが発動したカードを、しっかりと把握する。

おジャマトリオ
通常罠
相手フィールド上に「おジャマトークン」(獣族・光・星2・攻0/守1000)を
3体守備表示で特殊召喚する(生け贄召喚のための生け贄にはできない)。
「おジャマトークン」が破壊された時、
このトークンのコントローラーは1体につき300ポイントダメージを受ける。

「“エクゾディオス”の効果を教えてあげよう・・・。“エクゾディオス”の効果――それは、“攻撃宣言をするたびに、デッキか手札からモンスターを墓地に送る”というものと、“墓地の通常モンスターの数だけ攻撃力を1000ポイントアップする”じゃ!!」

「なっ!?そのために、“おジャマ”を!!?」
 翔は、改めて自分の場を見回した。

「更に、手札から、“拡散する波動”を発動じゃ!!!」


――ドッ!!!

 次の瞬間、エクゾディオスの体の周りに、膨大な魔力が、凝縮されていく――。

拡散する波動
通常魔法
1000ライフポイントを払う。
自分フィールド上のレベル7以上の魔法使い族モンスター1体を選択する。
このターン、選択したモンスターのみが攻撃可能になり、
相手モンスター全てに1回ずつ攻撃する。
この攻撃で破壊された効果モンスターの効果は発動しない。

ゼオウ LP:4000→3000

(まぁ・・・、“エクゾディオス”の攻撃力が上がるのは癪(しゃく)に障(さわ)るが、“おジャマ”がいなくなってくれるのは、嬉しいしな・・・。“和睦の使者”は、“ジャックス・ナイト”が攻撃対象になった時に、発動するか)
 翔は、ゼオウが、魔法カードを発動した段階では、邪魔なトークンが消えてくれると、小さく喜んでいた。だが、それが「間違い」であることに気づくのは、ゼオウの次なる戦術の後であった。

「そして、ワシは“突進”も発動するぞい」
 ゼオウが、そのカードを場に出した瞬間、ゼオウの目の前にいたエクゾディオスの凝縮されていたオーラが、一気に膨れ上がっていく――。

突進
速攻魔法
表側表示モンスター1体の攻撃力を、
ターン終了時まで700ポイントアップする。

究極封印神エクゾディオス 攻:?→700

「“エクゾディオス”で攻撃――」

 ゼオウは、右掌をバッ――と前に出し、大きく叫ぶ。






――――逆鱗の波動 エクゾード・ブラストッッ!!


 ゼオウの叫びを聞いたエクゾディオスは、自身の魔力により、右腕を“ガトリング砲”に変えると、その銃口に、先程凝縮した魔力を注ぎ込み始める。それと同時に、ゼオウのデッキから、“エクゾディア”の左腕が描かれたカードが、墓地に送られる。そのカードが墓地に送られたためか、エクゾディオスの左腕が、小さくだが輝き始める――。

究極封印神エクゾディオス 攻:700→1700


―――ドッ!!


 その直後、銃口より、1発目の魔力(銃弾)が、放出され、その魔力は、翔の目の前にいた、醜い顔をしたモンスター1体を、一瞬の内に吹き飛ばす。醜い顔をしたモンスターは、死ぬ直前に、未練がましく翔の体をその爪で切り裂いた。

「くっ・・・!」
 翔は、ソリッドビジョンの衝撃により、軽く怯んでしまう。

翔  LP:4000→3700

 翔が、怯んでいる中、ゼオウは再び攻撃宣言をする。当然、その宣言を聞き、エクゾディオスは、銃口に自身の魔力を再び注ぎ始める。また、それと同時に、ゼオウのデッキから“エクゾディア”の右足が描かれたカードが墓地に送られ、エクゾディオスの右足が、輝き始める――。

究極封印神エクゾディオス 攻:1700→2700

「2撃目じゃぁっ!!」

――――ドッッ!!!

 ゼオウの叫びと同時に、銃口より魔力が放たれ、醜い顔のモンスターを吹き飛ばす。またも、その醜い顔をしたモンスターは、翔の体をその爪で切り裂き、翔を怯ませる。

翔  LP:3700→3400

「3撃目ェッ!!」


―――――ドォオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!!

 3発目の魔力が、解き放たれ、醜い顔のモンスターを吹き飛ばす。その時、“エクゾディア”の左足が描かれたカードが、ゼオウのデッキから墓地に送られ、それに反応して、エクゾディオスの左足が輝き始める――。

究極封印神エクゾディオス 攻:2700→3700

「ガァアアアアアアアアアアアッ!!!」
 募り募ったダメージが、翔の体を蝕み始める・・・。
 エクゾディオスの力が、部屋一面を覆っている“魔法”の力を完全に上回っているらしく、翔の苦しみ方は、尋常ではなかった。

翔  LP:3400→3100

「な・・・、何故・・・だ・・・?“感情”で変化するダメージが、こんなにも大きいんだ・・・?」
 翔は、両手で両膝をつかみ、自分が倒れないようにしながら、そうつぶやいた。
「“試練”だからじゃ・・・、生半可な“遊び”ではなく、心を殺し、デュエルを行うという、“試練”だからじゃ・・・」
 ゼオウは、真剣さと、辛さを混ぜたような表情を見せた。

 ゼオウのそんな表情を見て、そして、自分の頭を過ぎった“答え”を感じ取って、翔は、ゼオウのその言葉に込められた思いを読み取った。

(そうか・・・。辛いのは・・・、“オレだけ”じゃないんだな・・・)
 翔は、そのまま小さく笑って見せた。

「――攻撃ッッ!!」
 翔の笑った表情を見ながらも、ゼオウは、更なる攻撃宣言を仕掛ける。





―――――エクゾード・ブラスト カルテット(四連弾)ッッッ!!!


 ゼオウのデッキの中から、“エクゾディア”の右腕が描かれたカードが、墓地に送られたかと思うと、エクゾディオスの右腕(ガトリング砲)が光り輝く。そして、ガトリング砲から放たれた巨大な魔力は、青き戦士に向かっていく。

究極封印神エクゾディオス 攻:3700→4700

「リバースカードッッ!!“和睦の使者”ァッ!!」


バシィッ!!

 青き戦士と、魔力との間に、目に見えないくらい透明な“バリア”が、姿を現した。そのバリアは、全ての魔力を受け止め、辺りに拡散させ、翔と青き戦士へのダメージを0にする。

和睦の使者
通常罠
このカードを発動したターン、相手モンスターから受ける
全ての戦闘ダメージを0にする。
このターン自分モンスターは戦闘によっては破壊されない。

「ホォ・・・。ワシの攻撃をわざと受け、“おジャマトークン”を破壊させるとは、なかなかじゃのう・・・。じゃが・・・、甘い
 ゼオウは、そうつぶやくと、静かにターンエンドを宣言した。

ゼオウ LP:3000
    手札:1枚
     場:究極封印神エクゾディオス(攻撃)

究極封印神エクゾディオス 攻:4700→4000

 翔は、ゼオウのターンエンドを聞くと、デッキの上に手を置き、カードを引こうとする。すると、ゼオウは、突然手を前に出し、翔に「待った」をかける。
「何だ・・・?」
 ゼオウの「待った」に驚き、まだゼオウは何も言っていないにも関わらず、翔は、聞き返してしまった。翔のその質問を聞くと、ゼオウは、前に出した手を下ろし、ゆっくりと口を開き始める。

「君の手札は、現在3枚・・・」
 ゼオウが言った言葉は、どんな人物でも、見れば分かるようなことであった。だが、その次に喋った言葉が、翔達、6人を驚かせる。
「左から・・・、“D.D.クロウ”、“ユニオン・アタック”、“融合”じゃな?」
 ゼオウの言葉は、的中していた。
 確かに、翔の手札は、翔から見て左から、“D.D.クロウ”、“ユニオン・アタック”、“融合”となっていた。
 ゼオウの言葉を聞き、驚いた翔の表情を見て、有里達5人も、ゼオウの言葉が正しい事に気づき、驚く。

「どっ・・・、どういうこと!!?」
「なんで、分かるんだよ!!」
 有里と神也が、そう叫ぶように言った間、翔は後ろを何度も振り返り、誰かが自分の手札を見ているのではないか、と思いながら辺りを見回す。
「“イカサマ”は、しておらんよ」
 だが、翔の努力を水の泡にするように、ゼオウはそう言った。


「これが・・・、さっき言ってた“能力(アビリティ)”って奴か・・・?」
 翔は、背中に冷や汗をかきながら、そう言った。確信が無いため、その言葉は、つぶやくようになっていた。――つまり、弱々しかった。だが、その言葉には、確かな“芯”が通っていた。何故なら・・・。



 翔自身にも、そう言った感覚を体験した事があるからだ・・・。

 敵の戦術、出すカード、手札が何かを感じ取る、という体験を・・・。



「どうかのう・・・?」
 だが、ゼオウは、翔の言葉を軽くあしらった。

「それで・・・、オレの手札が、どうかしたのか?」
 翔は、再度質問する。
 確かに、ゼオウが「凄い」という事は分かった。だが、それが何につながっているのかが、全く分からなかった・・・。
 すると、ゼオウは、一息つくと、再び口を開いた。

「ワシの“エクゾディオス”には、先程言った効果とは別に、もう1つだけ効果が存在している・・・」
 ゼオウの言葉は、有里達を驚かせるのには充分ではあったが、翔を驚かせるには、まだまだ不充分であった。
「そんなことくらい、予想はしてたさ・・・。“エクゾディアの王”っていうんだから、もう少しくらい、別の効果があってもおかしくはないっていう予想を・・・!」
 そう。翔は、ゼオウの言葉を予測していたかのように、ゼオウを上回る予想をしていたのだ。当然、どんな効果、ということまでは分からなかったが、現在の状況から言って、それだけでゼオウを驚かせるには充分であった。

「ならば、これは予想できたかな?」
 ゼオウが、多少の嫌味や驚きが入った笑いを見せる。

「“エクゾディオス”のもう1つの効果・・・。それは、“エクゾディオスの効果で、墓地にエクゾディアパーツを揃えた時、デュエルに勝利する”――じゃ」

究極封印神エクゾディオス
効果モンスター
星10/闇属性/魔法使い族/攻 ?/守 0
このカードは通常召喚できない。
自分の墓地に存在するモンスターを全てデッキに戻した場合のみ特殊召喚する事ができる。
このカードの攻撃宣言時、手札またはデッキからモンスター1体を墓地へ送る。
このカードの攻撃力は、自分の墓地の通常モンスター1体につき
1000ポイントアップする。
このカードはフィールドから離れた場合、ゲームから除外される。
このカードの効果によって「封印されし」と名のついたカードが自分の墓地に
合計5種類揃った時、デュエルに勝利する。

 “エクゾディアの王”だからこそ、発揮できる、“勝利”の能力――。
 圧倒的とも呼べる力に、翔は目を見開き、驚く事しか出来なかった・・・。

「ワシの墓地に、“エクゾディアパーツ”は、4枚ある・・・。つまり、次の攻撃で、君は負ける・・・」
 ゼオウは、嫌味の混じった笑顔を見せ、そう言った。

 その言葉は、ゼオウが思った以上に、翔の“中”に大きなダメージを与え、翔のカードを引く動作を鈍らせる。翔の右手が震え、デッキに手が届かない、という風にも見えるほど、翔の右手とデッキの距離は、離れていた。

「“エクゾディオス”の力に、恐怖するかも知れん・・・。じゃが、“邪神”の力は、これ以上!」
 ゼオウの言葉を聞き、翔は我に返る。
 “小さな勝利”を得る力を持った“エクゾディオス”と、“強大な勝利”――“世界を2つに引き裂く”ほどの力を持った“邪神”と――。
 力の差は、明白であった。

「確かに・・・、君の覚悟は、素晴らしかった。ワシ達の想像を、遥かに超えておった・・・。じゃが・・・、“恐怖”を生み出してしまうということは、その“覚悟”を鈍らせる事と同じ――」
 ゼオウは伝えたかった――。
 多少の“軽さ”が混じった翔の決意が、素晴らしいながらも、“間違っている”ということを――。“軽い覚悟”のせいで、複雑に絡み合い、出口の無くなった“迷宮(ダンジョン)”の如き力を持った、“邪神”と戦わなければならないという事を――。
 “試練”という名目の中で・・・、伝えたかった・・・。
 無限の可能性が広がっている“力”は、むしろどうでもよかった。生まれた時から、変わる事の無い・・・、変える事が出来ない“覚悟”の量が知りたかった――。

 “邪神”への“最大の武器”となる“覚悟”を―――。

「さぁ、選ぶのじゃ・・・。“恐怖によって支配された戦い”か・・・、“覚悟を無にした上での、現実世界(リアル・ワールド)への帰還”かを・・・」
 ゼオウは、その両腕を大きく広げ、翔を含む、6人全員に、“絶望”を質問する。だが、有里達5人は、恐怖に駆られて怯える翔を温かく見守っているだけで、返答をすることはなかった。

「翔・・・!」
 神也が、歯を強く食いしばって、ぶつける事の出来ないそれをぶつける。
「翔・・・」
 恐怖に蝕まれていく翔の、弱々しい姿を見て、不安になった真利。
「翔――」「翔――」
 神童と加奈は、同時にそう言った。初めて見た、翔の震える姿――、それはある意味、この世で最も怖いものであった。

「―――翔ッ!!」
 我慢できなくなった有里は、声にならないくらいの感情を、たった一言で、翔にぶつける。

 5人は、翔を信じきっていた。
 翔の決断が、自分の決断とまで、思っているくらいに――。



 みんなの言葉を聞き、翔は、部屋の天井を見上げる。洞窟とは言え、とてつもなく広い部屋の天井のため、かなりの大きさであった。
 そんな広大なものを見て、自分が「ちっぽけ」なんだと自覚すると、翔は再度前を向き、ゼオウの方を見る。

「答えは――」
 翔の言葉と同時に、有里達は唾を飲み込む。
 凛とした態度で、翔は口を開く。

「“勝つ”――、それだけだ」
 翔は、これまた簡潔に答えを述べる。誰もが、予想だにしていなかった答えに驚き、ゼオウに至っては、笑いすら込み上げている。
「面白いのう・・・、君は」
 そう言って、ゼオウは心の底からの笑みを見せる。
 翔は、そんなゼオウの表情を見て、小さく笑うと、震えが止まった右手をデッキの上に置き、1番上のカードを手に取った――・・・

























――――――――――――――――――オレのターン、ドロー――――――――――――――――――

















――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 一筋の閃光と、戦士の刃が、空間を一瞬だけ支配する――。


 そして、静かに、翔とゼオウのデュエルが、終了した――。



翔   LP:3100
    手札:0枚
     場:アルカナ ナイトジョーカー(攻撃)

ゼオウ LP:0
    手札:2枚
     場:無し



第20章 翔の秘密――シャインローズ家

 洞窟の中のため、よく分からないのだが、ゼオウ曰く、今現在は、夜らしい・・・。そんな中で、疲れきった体を癒すかのように、翔達は、目の前に並べられた大量の食べ物を口に運んでいた。
「いや〜、それにしても、翔が勝つとはな〜!」
 神也が、食べ物を口に運ぶ手を休める事なく、そう言った。普通に考えて、意地汚い事なのだが、そんな事はお構いなし、と言わんばかりの状態である。

 神也の言っている“勝つ”とは、デュエルの勝敗のことである。



 そのデュエルで、翔は圧倒的に不利な状況であった――。
 ゼオウの場に、後1枚で墓地にエクゾディアパーツが揃う、という状態となったエクゾディオス(攻撃力:4000)が存在していたからだ。
 だが、翔は、ゼオウの墓地のエクゾディアパーツ1枚を、D.D.クロウで除外――さらには、このターンで引いたクィーンズ・ナイトを召喚し、ユニオン・アタックで、エクゾディオスを倒す事に成功した。
 そして、その次のターン、ゼオウは、手詰まりのため、何もせずターンエンドをし、最後の翔のターン――翔は増援を引き当て、そのカードの効果でキングス・ナイトを回収。そして、融合を発動し、アルカナ ナイトジョーカーを召喚――アルカナ ナイトジョーカーのダイレクトアタックで、翔は、勝利を手にした。

「ハッハッハァッ!オレの“神引き”のおかげよぉっ!!」
 翔はそう言って、毎回カードをドローする手、つまり右手を前に突き出し、左手でパンッ――と叩いた。
 そんな会話をしていると、翔は、何を思い出したか、食べ物を口に運ぶ動作を止め、真剣な表情で、ゼオウの方を向いた。

「――デュエルで、思い出したんだが・・・、ゼオ・・・いや、王様。デュエルの時に言っていた“能力(アビリティ)”っていうのは、何なんだ?」
 そう言って、翔は、自分の眉間あたりを親指で指差した。
「“アビリティ”――それはのう、“一握りほどのデュエリストが手にする特殊な力”のことじゃ」
 ゼオウはそう言うのだが、翔を含め、6人全員が、頭を傾け、頭上にクエスチョンマークを何個も作り出す。

「うーむ・・・、何から説明すれば良いかのう・・・?」
 そう言って、しばらくゼオウが悩んでいると、少し暗い表情をしたアンナが、一歩前に出て、ゼオウの側に立つ。そして、ゼオウの方を向くと、「私が――」とだけ言って、ゼオウの代わりにアビリティの説明を始める。



 “能力(アビリティ)”――。

 ゼオウの言っていた通り、それは、“数少ないデュエリストが手にする事の出来る特殊な力”のこと。ちなみに、(同じ家系を除く)人によって、その力の種類は全く異なっており、その種類は、優に1000を超えると言われている。
 だが、ただデュエルをしているだけでは当然、そんな特殊な力が手に入る訳はない。
 それには、開花条件、というものがあり、その開花条件は、“無意識の内に、自分の中に出来た目標を成し遂げようとする時”である。ただし、成し遂げようとする行動も無意識ではダメで、その目標を自分の力で発見し、その目標を発見した上で、成し遂げようとしなければならない。


「――ってとこね・・・」
 アンナの説明はとても丁寧であったが、その時の表情は、何処と無く「怒り」が秘められているようであった。いや、「怒り」では無い――「何かを認めたくない」としているような表情であった。

 そんな表情に気づいたのは、翔とゼオウだけであり、それ以外の者達は、ただ話を聞くだけであって、食べ物を口に運ぶ動作すら止まっていなかった。
 
「そして、君のアビリティは、“答え(アンサー)”じゃ」
 ゼオウがアンナの説明に突然、割って入る。それに多少驚く翔であったが、ゼオウの話を真剣に聞かなければと、すぐに驚きを止め、真剣な表情に戻す。


 “答え(アンサー)”――。

 1000以上の種類もあるアビリティの内の1つ。
 相手が次にどんな戦術を取るか、という“答え(アンサー)”を見る(出す)事が出来る。そして、その能力のレベルに応じては、戦術だけでなく、相手がどんなカードを場に出すかや、相手の手札のカードまで見る事が出来る。
 ただし、敵の力が遥かに強大の場合は、見れない場合がある(答えが出ない)。また、相手のアビリティも“アンサー”であった場合、“アンサー”の力が強い方のみが、より多くの“答え”を出す事ができ、力が弱い方は、表面上の“答え”しか出せない。

 ちなみに、上記の説明は、デュエル時だけであり、普段の生活の中で、“アンサー”を発動させた場合、勉強なんかでは、超難関問題でも、数分で解く事が出来るし、喧嘩の時に使えば、相手の攻撃パターンを全て読むことが出来る――。


「でも・・・、何でオレの“アンサー”は、王様とデュエルをしている時、始めから発動しなかったんだろう・・・?」
 翔の小さな疑問を解決したのは、ゼオウであった。

「それは、おそらくじゃが、まだ君は、しっかりとした“目標”を発見していないんじゃよ。――いや・・・、正確に言えば、“負の感情”の時に、“目標”を発見してしまったんじゃな。“負の感情”の時は、誰もが、我を忘れてしまうからのう。じゃから、デュエルに負けそうな時――つまり、“本当に危険な時”にだけ、その不完全な“アンサー”が発動するようになってしまったのじゃ」
 ゼオウは、その言葉の後に、「ちなみに、君がデュエルの後で倒れてしまったのは、負の感情のせいで、アビリティを“不完全な覚醒”にしてしまったための副作用じゃよ」と付け足した。
 翔は、「そんな事まで読んでいたのか・・・」と、小さくため息をついてしまう。そして、そんな思いと同時に、“アンサー”の不完全な覚醒に、不満を覚えてしまう・・・。強さの限界を突破する可能性(アビリティ)を、自身の未熟により、断ち切れてしまったからである。
 そんな翔の不満(いや、この場合、不安という方が正しいか)を見て、ゼオウは、小さく笑って、翔の頭をゆっくりと撫でる。
 翔は、ゼオウのその動作に驚き、無意識のうちにバッ――とゼオウの手を払ってしまう。

「安心せい・・・。再び“目標”を発見し、それを成し遂げようとすれば“不完全な覚醒”からは解放され、“完全な覚醒”となる事が出来る・・・」
 ゼオウのその言葉を聞き、翔は、心底ほっとする。

 “仲間を助ける力が欲しいから”である・・・。


 そんな感情によって、翔の中の“種”から、芽が出てきた。


「さぁて、夕食はこれまでにして、風呂に入りなさい。その間に、寝室を用意しておくからのう」
 ゼオウは、翔達6人に向かって、笑顔でそう言った。





 この後、風呂での“覗き”を巡って、男(翔、神也、神童)VS女(有里、加奈、真利)――というバトルがあり、その結果、男達3人は、見るに耐えない姿になってしまったのだが、それは、機会があれば、また別の機会に・・・。



 そして、6人は深い眠りに入った――。
 異次元空間(アナザー・ワールド)に来ての初日は、ゆっくりと幕を閉じようとしていた――。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 6人が眠りについたころ、個室のようなところ(おそらくゼオウの部屋)で、ゼオウとアンナが、口論をしていた。
「――何故ですか!!?」
 アンナは、個室の中央に置かれていた、テーブルをバンッ――と叩いて、ゼオウを問い詰めようとしていた。その時のアンナの表情はとても恐ろしく、王であるゼオウでさえも、怯えてしまうほどのものであった。
「何故、現実世界(リアル・ワールド)の住人である“神崎 翔”は、“アビリティ”が使えるのですか!?――それに・・・、ゼオウ様と“同じアビリティ”だなんて・・・」
 そう言って、アンナは、左手で、右腕の肘あたりを押さえる。――これが、アンナが、落ち込んだときに取るポーズである。そして、そのポーズだけでなく、アンナの表情からも、アンナの落ち込み具合は、はっきりと伝わってくる。


 アンナの言った、翔とゼオウのアビリティが、同じという事は、つまり――、


翔とゼオウが、同じ家系であることを告げていた――。


「さぁのう?アビリティについては、アナザー・ワールドも詳しくは知らないからのう・・・。絶対に、同じ家系でしか、そのアビリティが手に入らない――という訳ではないかも知れんしのう。それに、“アビリティ”は、“数少ないデュエリストが手にする事の出来る特殊な力”のこと――、リアル・ワールドの翔くんが手に入れても、おかしくは無いじゃろう?」
 ゼオウの必死の言い分も、アンナにとっては、ただの言い訳(言い方を悪くすれば、戯言)でしかなかった――。ゼオウの言葉を聞くと、すぐにアンナは、反論に出る。

「私・・・、知ってるんですよ?“アビリティ”は、アナザー・ワールドの住人しか、手に入れることが出来ないということを――ッ!!」
 アンナの反論に、ゼオウは、言葉を止めてしまう。反論する方法、言葉を失ってしまったからである。そして、少しの間、目を閉じて考えると、ゼオウはアンナの方を向いて、「本当は言ってはいけない事」を語り始める。

「仕方ない・・・、言わなければ、アンナは納得せぬしのう・・・」
 再び、少しの間をあけて、ゼオウは再度口を開く。


「神崎 翔の“真”の名は、“クリア・シャインローズ”・・・。ワシの孫にあたる者じゃ・・・」


「―――ッ!!?」



 ゼオウの言葉に、驚きを隠せないアンナが、そこにはいた。右手を口に当て、塞がらない口を隠している。そして、口が塞がらないままの状態で、ゼオウに話し始める。
「おっしゃってる意味がよく分かりません・・・。ゼオウ様の息子は、“シン・シャインローズ”様だけのはず!それに、シン様だって、リアル・ワールドに行って、行方をくらませていると聞きます・・・し・・・!!?」
 アンナは、自分が言った言葉で、全てを結び付けてしまう。


「その通りじゃ――、翔・・・いや、クリアは、リアル・ワールドに行った、シンの息子でもある・・・」
「では・・・!“神崎”という姓は!?それは、どう説明するのですか!!?」
「おそらく、シンが独自で考えたのであろう・・・。――“邪神”が復活し、“神の名を受け継ぎし者達”が、ここに呼び出される時、しっかりと選ばれるように、とな」
 ゼオウは、見事なまでのシンの行動に、逆に惚れ惚れしそうになった。誰もが、すぐに考え、そして行動に移せないような事を、シンが行ったからだ。
「じゃから、ワシはデュエルで、それを試した。“覚悟”を量るためでもあったが、それとは別に、本当に、“シャインローズ家”であるかを・・・、“シャインローズ家”に代々受け継がれる力――“アンサー”を持っているかを」
 ゼオウの表情の厳しさに、アンナは身震いすら感じてしまう。ゼオウのその厳しさから、並々ならぬ力を感じたからだ。
「最後にもう1つだけ・・・。何故、シン様は、リアル・ワールドに?」
 アンナの震えながらの言葉に、ゼオウは、洞窟の中でありながらも、広き空を見るようにして、答える。

「分からぬ・・・。じゃが、“邪神”を倒すための力を、翔に与えるべく、平和なリアル・ワールドに行ったのかも知れん・・・。もしくは・・・、」
 自然とゼオウの翔を呼ぶ言葉が、「クリア」から「翔」に戻っていた。
「そう・・・ですか」
 そう言って、アンナはゼオウの言葉を止めるのと同時に、自分の言葉を終わらせた。アンナの中には、まだ聞きたい事が残っているようではあったが、ゼオウの濡れ始めた目を見ると、アンナは、今自分がいる個室を出て、自分の部屋に戻っていった。
 アンナが、自分の部屋へ戻っていくのを確認すると、ゼオウは首に掛けてあったペンダントの蓋を外す。そこには、ゼオウとシンの姿――そして、幼きクリアの姿があった。



 その写真は、10年前の物であった。
 つまり、“あの戦い”の5年後に、クリアとシンは、このアナザー・ワールドに訪れていた、ということだ。
 その時に見た、幼いクリアの姿が、ゼオウの目には焼き付けられていた。そして、その焼き付けられた姿こそが、翔がクリアだという何よりの証拠であった。


「シンよ・・・、お前は確か、リアル・ワールドでは、“神崎 克(かんざき まさる)”と名乗っておるのじゃろう・・・?リアル・ワールドとは・・・、どんな世界なんじゃ?」
 ゼオウは、誰もいない個室の中で、誰かに質問するようにそう言った。そして、ペンダントを強く握り締めながら、静かに横たわり、眠り始める――。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 リアル・ワールド――。

 神崎家――。


「翔・・・、いや、クリアよ・・・。無事でいてくれ・・・ッ!!」
 克は、神に祈るかのようなポーズで、翔の無事を祈っていた。

 克の心の中には、「翔に“邪神”を倒してもらいたい」――という言葉は1つも無かった。ただ、無事に戻ってきて欲しい・・・、それだけを願っていた。また、そのために、克は実技テストの直前、翔にお守りを渡したのである――。
 だが、本当のところ、翔に“邪神”を倒してもらいたい、という思いは、過去にはあった。自身が、成し遂げる事の出来なかった事を、息子に託したかった。だが、愛情を注いでいく内に、自身の過ちを息子に拭わせる事に戸惑いを感じていた。だからこそ、今現在、翔がアナザー・ワールドに行ってしまったことを自分のせいだとして、克は自分を戒(いまし)め、そして、無事を祈っていた・・・。

 その時、克の横には、克――いや、シンの全てを知った上で、結婚した奈々が座っていた。そして、奈々は、ゆっくりとシンの両手を握り、「大丈夫」――と、心の中で念じるように、シンに言った。
 決して言葉には出していない――。
 だが、奈々の「大丈夫」という言葉を、シンは心の中で感じ取り、奈々の方を向いた。そこには、優しい表情で笑う奈々がいた。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 アナザー・ワールドの朝――。

 色々な人物の思考が交わっている中、ある意味、“一番”何も知らない6人が目を覚まし、ゼオウの目の前に集まった――。

「“デストロイド”討伐のため・・・、今から君達にしてもらいたい事がある」
 ゼオウは、自分の目の前で集まっている6人に向けて、心を鬼にして、そう言った。

 そのゼオウの言葉を聞き、翔達は、揃って唾をゆっくりと飲み込んだ。

(これから・・・か)
 翔は、ゼオウの真剣な表情、言葉を聞き、そう思った。




 これから全てが始まる――、そんな予感と思いが、翔達6人にはあった。



 後編に続く...




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