強い弱者の作り方

製作者:ギゴ王さん




    注)この話は、遊戯王原作の最終回から、少し時間が経過した頃の話です。
      遊戯王R、GXの設定は入っておらず、カードのみの登場になります。
      また、原作のキャラクターは基本的に登場しません。




プロローグ


「よう、久し振りだな」
 真新しい墓の前に立ち、慶太郎は明るく言い放った。
「この前来たのは確か……三ヶ月前だったか。悪いな、遅くなっちまって」
 腰を落とし、自販機で買ってきた一リットルのペットボトルを墓前に供える。
 果汁百パーセントのオレンジジュース。この墓の主の、一番好きだった飲み物だ。
 慶太郎にとって一番の親友であり、ライバルであった『あいつ』の。

「俺よ、昨日『MZ』の予選を通ったんだ。勿論、お前からもらったカードたちでな。勿論『あのカード』も入ってる」
 線香に火を付けながら、言葉を続ける。
「で、明日から地区大会の始まりだ」
 暗い話を好まない奴だった。だから、慶太郎は陽気な口調で言葉を続けた。
「これからまた忙しくなりそうなんでな、その前に一言挨拶をと思ってよ」
 言いながら立ち上がり、膝を軽く払う。

 目線を見上げると、コバルトブルーの空の周りに、白い雲が申し訳程度に浮かんでいる。
 熱気を帯び始めた風が長くもない髪を撫で、初夏の訪れを感じさせた。

「勝つぜ俺は。そんで、お前の『願い』が間違いじゃないってことを証明してやる」
 視線を墓に戻し、慶太郎自分への決意も含めてそう宣言した。
 墓は何も答えず、不動のまま初夏の風に身を任せている。
 それは慶太郎の言葉を黙って受け止めているようにも、無関心なようにも見えた。

「……じゃ、そろそろ行くわ」
 小さく息を吐き、慶太郎は歩き出そうとした。

 と、視線の先に、見知った姿が入った。
 ウェーブがかった髪を、腰の辺りまで伸ばした女性だ。
 年は三十に近いはずだが、とてもそうは見えない。肌にもつやがあり、二十代前半といっても通用しそうだ。
 童顔気味の顔と、どこかおっとりとした雰囲気がよりそう思わせる。
 藤堂静音(とうどうしずね)、それが女性の名前だった。
 『あいつ』の母親であり、慶太郎も何かと世話になっていた。

「お袋さん」
「慶太郎君、来てくれたのね」
 見た目を裏切らない優しく包むような声で、女性が話しかけてきた。
 静音の手には、ひまわりの花が握られている。
 『あいつ』の好きだった花だ。ジュースとどちらにしようか、慶太郎は最後まで悩んでいた。
 柔らかな物腰の静音に、黄色いひまわりはよく似合っていた。恐らくそれが、『あいつ』がひまわりの好きな理由だったのだろう。

「お供え物、かぶらずに済んだみたいだ」
「ええ、そうね。両方ともジュースだったら、あの子お腹壊しちゃうもの」
 言って、静音は口元を押させて笑い、慶太郎もつられて小さく笑みを浮かべた。
「……その顔だと、何かあったみたいね」
 慶太郎の目を見つめ、静音が訪ねてくる。
 慶太郎の身長は百七十五センチと、静音より頭一つ分高い。結果、静音が見上げるような形になった。

「はい。明日からM&W(マジック・アンド・ウィザーズ)の大会が始まるんです。今日はその報告に」
「そうなの。じゃあ、明日はお弁当持って応援に行くわね」
「本当ですか。お袋さんの作る料理うまいから、楽しみですよ」
「あら。じゃあ、明日は久し振りに腕を振るっちゃおうかしら」
 言って、静音は袖をまくる仕草をして見せた。

「見ててください。大会で、俺は『あいつ』との約束を守って見せますから」
 その言葉に、静音は一瞬表情を曇らせたが、
「楽しみにしてるわ」
 すぐに笑顔に戻り、そう答えた。

「それじゃ、俺は明日の準備があるんで行きます」
「ええ、頑張ってね」
 小さく会釈をし、慶太郎は足早に歩き出した。



 慶太郎の後姿を見つめながら、静音は小さく呟いた。
「ありがとう、慶太郎君……」
 その言葉は、初夏の緩やかな風に流れ、解けていった。





一章 MZ開幕


1、大会の始まり

 街の中心地にある、デュエル施設。
 それが地区予選の会場だった。
 KC(海馬コーポレーション)の有り余る財力を持って作られたこの施設は、豊富なデュエル設備に至れりつくせりのサービスで、街のデュエリストの数を数年で倍以上に膨れ上がらせた。

 施設の前に立ち、慶太郎は左手の決闘盤(デュエルディスク)に収められたデッキに目をやった。
 試行錯誤を繰り返して構築した、『あいつ』と自分のオリジナルデッキ。
 このデッキで優勝し、『あいつ』との約束を果たす。
 それが慶太郎の目的だった。
「よし、行くか!」
 気合をこめ、慶太郎は会場へと足を踏み出した。



 M&W全国大会、通称MZ。
 それが慶太郎の参加する大会の名前だ。
 MZは、かつてデュエリスト達が神のカードとデュエルキングの称号をかけて戦った、バトルシティの流れを組む、KC主催の大会だ。

 バトルシティから派生した大会は他にもいくつか存在するが、MZはその中でもっともメジャーな大会だ。
 当然参加者も多く、この大会で優勝することは、武藤遊戯や海馬瀬人と並ぶ実力を持っていることを意味する。

 デュエルキングと同等となれば、多くの一流デュエリストや、武藤遊戯、海馬瀬人と戦う機会に恵まれる可能性もある。
 それを目的に、慶太郎はこの大会に参加したのだ。

 地区大会では、各地の予選を勝ち抜いたデュエリスト達がトーナメント形式で戦い、優勝者一名のみが全国大会に出場する権利を得る。
 慶太郎が参加する地区大会の出場者は八名。慶太郎は、その第一試合を飾る選手となった。



2、VS雨宮楓

『それではただ今より、地区大会第一試合を執り行う!』
 試合場の中央に立っている黒いスーツ姿の男の言葉に、観客たちがワッと歓声を上げる。
 地区予選を制したデュエリストたちの試合を、観客たちは心待ちにしているのだ。
『東慶太郎VS雨宮楓! 両者前へ!』
 名前を呼ばれ、慶太郎は試合場に上がり、対戦相手に目をやった。

 楓と呼ばれたのは、セーラー服に身を包んだ少女だった。
 年は自分と同じ、十七歳ぐらいだろうか。
 うなじの辺りでそろえた髪と吊り上った瞳が、いかにも気が強そうだ。極限まで上げましたといった感じのスカートは、控えめな性格でないことを物語っている。

 ちなみに、慶太郎も制服姿だが、こちらは黒い長ズボンに白いシャツと、極めてどこにでもある男子用学生服だ。

『両者、リング中央で互いのデッキをシャッフル!』
 言われた通りリング中央に行き、デッキを交換し、シャッフルする。
「慶太郎とかいったっけ? アンタ、運がないわね」
 不意に、楓が声をかけてきた。
「この私と最初に当たるなんて、アンタもう負け確定よ。自信喪失して、もうデュエルする気なくなるかもね」
 どうやら、見た目通り気の強い性格らしい。
 こういう相手は、無視するに限る。
 そう判断し、慶太郎は無言でシャッフルを続けた。

「ちょっと、何か言ったらどうなの? ははーん、さてはもう自信なくして、ビビッてるのね。見た目もパッとしないし、どうせデッキも大したことないんでしょ」

 その一言に、慶太郎は胸の奥にあるスイッチが入った。
 他人のデッキを馬鹿にするなど、デュエリストにあってはならないことだ。ましてやこのデッキは、『あいつ』との約束のデッキだ。
 ムクムクと、胸の奥から怒りが込み上げてくる。

「大したことないかどうか、デュエルしてみりゃわかる。そこまで言うなら、俺に勝ってみせな。ま、無理だと思うがな」
「言ったわね。見てなさいよ」
 差し出したデッキを強引に受け取り、楓が試合開始の位置につく。
 慶太郎も位置につき、自分のデッキを決闘盤に差し込んだ。
(頼むぜ、『あいつ』のカードたち)
 デッキをさすり、慶太郎は胸中で呟いた。

 慶太郎のデッキコンセプトは、かなり特殊な部類に入っている。そのため、大会に参加するレベルに調整するまで半年以上の時間を要した。

 しかしその分、あらゆる状況に対応できるデッキが完成したはずだ。
 相手が誰であっても、必ず勝てる。そう確信するまで、デッキを煮詰め続けたのだ。

『ライフポイントは互いに8000。先攻は楓選手。それでは、デュエル開始!』
「デュエル!」
 互いに叫び、デッキからカードをドローする。
「私のターン、ドロー! 手札から『ブラットヴォルス』を攻撃表示で召喚!」
 楓が決闘盤にカードを置くと、鎧を身に纏った剣士が姿を現す。


ブラットヴォルス
闇属性  獣戦士族
レベル4 
攻撃力1900 守備力1500
 テキストなし


 最近はあまり使われなくなったとはいえ、レベル4で攻撃力1900が脅威であることに変わりはない。モンスターを除去するカードか、ブラッドヴォルスより攻撃力か守備力が上のカードがなければ、ずるずるとライフポイントを削られてしまう。

「さらに私はカードを一枚伏せて、ターンエンドよ」
 楓の場に伏せカードが一枚出現し、不気味なプレッシャーを与えてくる。
 これで、うかつな攻撃は仕掛けられなくなった。

「俺のターン、ドロー!」
 胸の内側を圧迫されるような感覚を感じながら、慶太郎はカードを引いた。
(よし)
 引いたカードを見て、慶太郎は胸中でそう呟いた。
 最初に引いたカードの中に、ブラットヴォルスに太刀打ちできるカードはない。
 しかし今のドローで、ブラットヴォルスを破壊するカードが揃った。
 相手の伏せカードは気がかりだが、ここは勝負に出るべきだろう。

「俺はカードを二枚伏せて、こいつを召喚するぜ!」
 魔法・罠ゾーンにカードを置き、慶太郎は自分がもっとも信頼するカードの一体をモンスターゾーンに置いた。
「来い、『ワイト』!」
「ワ……ワイトですって!?」
 楓が驚愕の声を上げると同時に、慶太郎の場に黒いローブ姿のガイコツが現れた。


ワイト
闇属性 アンデット族
レベル1
攻撃力300  守備力200
 テキストなし


「そしてターンエンドだ」
「ア……アハハハハ! ワイトなんて雑魚カードをデッキに入れてる奴、初めて見たわ!」
 腹を抱えて楓が笑い、。観客達からも失笑に近い声が漏れる。
「やっぱり大したことないデッキだったわね。そんなモンスターが入ってるデッキで勝てるわけないじゃないの!」

 楓の言葉は、決して間違ってはいない。
 ワイトは攻撃力が300しかない上に、特殊能力もない。
 一枚のカードが重要な意味をもつデュエルモンスターズにおいて、戦力にならないモンスターをデッキに入れるのは、無謀以外の何者でもない。

 だが、慶太郎にとって、このデッキは違っていた。
「勝てないかどうかは、やってみなけりゃわからないぜ。俺のデッキが大したことないかどうか、このデュエルが終わればわかるさ」
「そうね、ハッキリするでしょうね……アンタが負けることでだけどね!」


慶太郎 LP8000
手札3枚
フィールド
 ワイト、伏せカード2枚


楓 LP8000
手札4枚
フィールド
 ブラッドヴォルス、伏せカード1枚



3、ワイトの力

「私のターン、ドロー!」
「この瞬間、場のリバースカード『同姓同名同盟』を発動!」
 楓がカードを引いた瞬間、伏せカードをオープンする。
「なっ!?」


同姓同名同盟
通常罠
 自分フィールド上に表側表示で存在するレベル2以下の通常モンスター1体を
 選択して発動する。自分のデッキから、選択したカードと同名のカードを可能な限り
 自分フィールド上に特殊召喚する。


「『同姓同名同盟』の効果で、俺はデッキからワイト2体を特殊召喚する!」
 慶太郎はデッキから『ワイト』のカードを2枚抜き出し、守備表示で場に置いた。

「なるほど……そのカードを発動させるために、『ワイト』を攻撃表示で場に出したってわけね」

 『同姓同名同盟』は、モンスターが表側表示でなければ発動できないカードだ。
 そのため、裏側守備表示で召喚すると、カード自体が使用できなくなってしまう。

「でも、守備力200程度じゃ壁にもならないわよ。しかも、最初に出した『ワイト』は攻撃表示のまま、いい標的よ」
 フン、っと小さく笑い、楓がモンスターを召喚する。

「私は『ダブルコストン』を召喚!」
 
 楓のフィールドに、尾のつながった二体の黒い幽霊が出現する。


ダブルコストン
闇属性 アンデット族
レベル4
攻撃力1700  守備力1650
 闇属性モンスターを生け贄召喚する場合、 このモンスター1体で
 2体分の生け贄にすることができる。


「ブラッドヴォルスでワイトを攻撃!」
 『ブラッドヴォルス』が剣を構え、『ワイト』に切りかかろうと大きく跳躍した。
 慶太郎はすかさず、もう一枚の伏せカードを発動させた。
「リバースカードオープン、『グラヴィティ・バインド−超重力の網−』!」
「え!?」
 楓が、再び驚愕の声を上げる。


グラヴィティ・バインド−超重力の網−
永続罠
 フィールド上に存在する全てのレベル4以上のモンスターは攻撃をする事ができない。
 

「このカードの効果により、レベル4以上のモンスターは攻撃できなくなる」
 重力の網に包まれ、『ブラッドヴォルス』の攻撃が停止する。
 これでこのターン、『ブラッドヴォルス』と『ダブルコストン』は攻撃を仕掛けることができない。
「くっ……ターンエンドよ」
 どうやら、楓の場の伏せカードは除去系のカードではなかったようだ。
「俺のターン、ドロー!」 
 カードを一瞥すと、慶太郎はすかさずドローしたカードをスロットに差し込んだ。
「俺は手札から『強欲な壷』を発動」


強欲な壷
通常魔法
 自分のデッキからカードを2枚ドローする。


「デッキからカードを二枚ドローする」
 新たにドローしたカードを手札に加え、さらにカードをスロットに差し込む。
「俺は手札から『トライアングルパワー』を発動!」


トライアングルパワー
通常魔法
 自分フィールド上に表側表示で存在する、
 全てのレベル1通常モンスター(トークンを除く)の元々の攻撃力と守備力は
 2000ポイントアップする。
 エンドフェイズ時に自分フィールド上に存在するレベル1通常モンスターを全て
 破壊する。


 『トライアングルパワー』の効果により、三体の『ワイト』の攻撃力が、2300にアップする。

 相手の伏せカードがこちらの攻撃を封じるカードだった場合、このターンは損をするだけになってしまう。。
 しかし『ブラッドヴォルス』を破壊しなれば、『グラヴィティ・バインド』を除去された時に攻撃を受けてしまうし、上級モンスターを召喚されてしまう危険性もある。

 慶太郎は、あえて賭けに出ることを選択した。
 それに、まだ慶太郎の手札には『切り札』が残されている。

「俺はこのままバトルフェイズに移行。『ワイト』で『ブラッドヴォルス』を攻撃!」
 攻撃力強化の光に包まれた『ワイト』の一体が、カチカチと歯を鳴らす。
 すると、そのガイコツ頭がポロリと取れ、『ワイト』の骨だけの手に収まった。

「行け、髑髏投げ!」
 勢い良く投げた頭部が『ブラッドヴォルス』の胸に噛み付き、『ブラッドヴォルス』は細かい欠片となって四散する。放たれた頭蓋骨は、その後ビデオの巻き戻しのようにワイトの体に戻っていった。 
 同時に、楓のライフがわずかに削られる。



   楓LP8000→7600



 どうやら、楓の伏せカードはこちらの攻撃を封じるカードではなかったようだ。
「さらにもう一体の『ワイト』で『ダブルコストン』に攻撃」
 『ワイト』が再び自分の頭を投げ、『ダブルコストン』の繋がった尾を噛み千切った。
 
 楓のライフが、再び下がる。



   楓LP7600→7000



 これで、楓の場にモンスターはいなくなった。
 三体目の『ワイト』で攻撃すれば、楓のライフを一気に2300も削ることができる。

「行け『ワイト』! ダイレクトアタック!」
 投げられた顔はニ体の幽霊がくっついている部分を噛み千切り、半身を失った『ダブルコストン』は消滅した。
「くっ……」
 召喚したばかりのモンスターを破壊され、楓は不快そうに眉を歪めた。



   楓LP7000→4700



「俺はこれでターンエンドだ」
 エンド宣言と同時に、『トライアングルパワー』で強化された三体のワイトは破壊され、墓地に置かれた。
 これで慶太郎の場にモンスターはいなくなったが、永続罠である『グラビティバインド』は残っている。
 『グラビティバインド』がある限り、レベル4以上のモンスターは攻撃できない。
 その上、慶太郎のLPはまだ減っていない。
 場にモンスターがいなくても、しばらくは耐えられるはずだ。


慶太郎 LP8000
手札4枚
フィールド
 グラビティバインド


楓   LP4700
手札4枚
フィールド
 伏せカード1枚

 

4、破壊竜光臨

「私のターン、ドロー!」
 ドローしたカードを見るなり、楓は大きく目を開き、次いで不敵な笑みを浮かべた。
「来た……ついに来たわよ!」
 歓喜の声を上げ、楓が伏せていたカードを発動させた。
「リバースカードオープン『リビングデッドの呼び声』! このカードの効果で、墓地の『ダブルコストン』を復活させる!」


リビングデッドの呼び声
永続罠
 自分の墓地からモンスター1体を選択し、攻撃表示で特殊召喚する。
 このカードがフィールド上に存在しなくなった時、そのモンスターを破壊する。
 そのモンスターが破壊された時このカードを破壊する。



「む……」
 慶太郎は思わず声を上げた。
 『ダブルコストン』は、闇属性の上級モンスターなら、一体で二体分の生贄にすることのできるモンスターだ。そのカードが入っているということは、楓のデッキにはレベル7以上の闇属性モンスターが存在することを意味する。
 しかも……。

「アンタわかる? 私が『ブラッドヴォルス』じゃなくて攻撃力の低い『ダブルコストン』を復活させた理由が!」
 勝利を確信したかのような笑みを浮かべ、楓がこちらをビシリと指差してきた。
「辺り前だ。お前の手札には、もう上級モンスターが来てるんだろ。そしてダブルコストンで、そのモンスターを召喚するつもりなんだろ」
「正解よ」

「だがわかってるのか? 俺の場に『グラビティバインド』がある限り、レベル4以上のモンスターは攻撃できないんだぜ」
「だからこのモンスターを召喚するのよ! 私は『ダブルコストン』を生贄にして、『破壊竜ガンドラ』を召喚!」
「ガンドラだと!?」
 『ダブルコストン』が光の中に溶けていき、変わりに漆黒の竜がフィールド上に光臨する。


破壊竜ガンドラ
闇属性 ドラゴン族
攻撃力0  守備力0
レベル8
 このカードは特殊召喚できない。
 自分のライフポイントを半分払う事で、このカード以外のフィールド上のカードを
 全て破壊しゲームから除外する。
 この効果で破壊したカード1枚につき、このカードの攻撃力は300ポイント
 アップする。
 このカードは召喚・反転召喚されたターンのエンドフェイズ時に墓地へ送られる。



 『破壊竜ガンドラ』の凄まじい咆哮が、会場中を揺らす。
 バーチャル映像とはいえ、思わず倒れこんでしまいそうな程の迫力だ。
「『破壊竜ガンドラ』の特殊効果発動! ライフポイントを半分払って、ガンドラ以外の全てのカードをゲームから除外する!」
 『破壊竜ガンドラ』の体中に埋められた宝石から無数の光が放たれ、フィールドを包みこむ。

 光は慶太郎の場の『グラビティバインド』と、楓の場に残っていた『リビングデッドの呼び声』を刺し貫き、消滅させた。



   楓LP4700→2350



「そして除外したカード一枚につき、攻撃力を300ポイントアップさせる!」
 今回破壊したのは2枚なので、攻撃力は600ポイント上昇することになる。
「だが、『破壊竜ガンドラ』の元々の攻撃力は0。600上がったぐらいじゃどうにもならないぜ」
「甘いわね。私が『グラビティバインド』を破壊するためだけにガンドラを召喚したと思ってるの?」
 馬鹿にしたように言うと、楓は手札から一枚のカードをスロットに差し込んだ。
「私は手札から『突然変異』を発動!」
「何っ!?」
 発動されたカードに、慶太郎は驚愕の声を上げた。


突然変異
通常魔法
 自分のフィールド上モンスター1体を生け贄に捧げる。
 生け贄に捧げたモンスターのレベルと同じレベルの融合モンスターを
 融合デッキから特殊召喚する。



 『突然変異』は自分の場のモンスター一体を生贄にして、同じレベルの融合モンスターを特殊召喚するカードだ。
 『破壊竜ガンドラ』のレベルは8。そしてレベル8の融合モンスターには、とんでもない特殊能力を持ったモンスターが存在することを、慶太郎は知っていた。

「場の『破壊竜ガンドラ』を生贄にして、『サイバ・ーツイン・ドラゴン』を特殊召喚!」
 ガンドラが光に消え、今度は白銀にその身を輝かせた、二つの頭を持つ竜が召喚された。


サイバー・ツイン・ドラゴン (融合モンスター)
光属性 機械族
レベル8
攻撃力2800 守備力2100
【融合】「サイバー・ドラゴン」+「サイバー・ドラゴン」
 このモンスターの融合召喚は、上記のカードでしか行えない。
 このカードは一度のバトルフェイズ中に2回攻撃する事ができる。




(やっぱりコイツか……)
 胸中で呟き、慶太郎は思わず身構えた。
 楓は『サイバー・ツイン・ドラゴン』の背後で、余裕綽々といった感じで両腕を組んでいる。
「『サイバー・ツイン・ドラゴン』は、一回のバトルフェイズで二回攻撃ができる特殊能力があるわ。アンタの場にカードはない、このままダイレクトアタックよ!」
 『サイバー・ツイン・ドラゴン』の二つの顔から放たれた二つの光弾が、慶太郎のLPを大きく削る。



   慶太郎LP8000→2400



「どう? 一気にLPを削ったわよ。私はカードを1枚伏せてターンエンド」
 
 
慶太郎 LP2400
手札4枚
フィールド
 なし


楓   LP2350
手札2枚
フィールド
 サイバーツインドラゴン、伏せカード1枚



5、ワイトコンビネーション


 相手の場には攻撃力2800の『サイバー・ツイン・ドラゴン』に伏せカードが一枚。
 対して、自分の場には一枚のカードもない。
 LPは同じだが、状況は慶太郎が圧倒的に不利だ。
 このターンで手を打たなければ、次のターンでやられてしまう。

 『切り札』はある。このターンで勝負に勝つことのできる方法が、ひとつだけ。

 だが、問題は楓の場の伏せカードだ。
 あの伏せカードが何かわからない限り、うかつに手をだすことはできない。下手に行動を起こせば、返り討ちにされる可能性が高い。

 しかも、慶太郎の手札に除去系のカードはない。

 次のドローで何とかするしかなかった。
「俺のターン、ドロー!」
 決意を込め、カードを引く。

(こいつは……!)
 ドローしたカードに目をやり、慶太郎は口の端を上げて笑った。
 これで、勝負の駒は全て揃った。

「俺は手札から、『ワイトキング』を召喚!」
 慶太郎の場に、ワイト同じように黒いローブを身にまとった骸骨が出現する。


ワイトキング
闇属性 アンデット族 
レベル1
 このカードの元々の攻撃力は、自分の墓地に存在する「ワイトキング」「ワイト」の
 数×1000ポイントの数値になる。
 このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、自分の墓地の
 「ワイトキング」または「ワイト」1体をゲームから除外する事で、
 このカードを特殊召喚する。




「俺の墓地に『ワイト』は三枚。よって『ワイトキング』の攻撃力は『サイバーツインドラゴン』を上回る3000となる!」
「かかったわね」
 不意に、楓がにやりと笑い、伏せていたカードを開いた。
「リバースカードオープン! 『奈落の落とし穴』!」


奈落の落とし穴
通常罠
 相手が攻撃力1500以上のモンスターを召喚・反転召喚・特殊召喚した時、
 そのモンスターを破壊しゲームから除外する。



 『ワイトキング』のいる地面に穴が空き、『ワイトキング』は墓地よりも深い穴へと落ちていった。
「アッハハハハ! 最初から見破ってたのよ、アンタの戦術は!」
 その様を見て、楓は見下したような笑い声を上げた。
「ワイトは雑魚カードだけど、ワイトキングがあれば多少は使い道があるわ。アンタのデッキはさしずめ<ワイトデッキ>ってところでしょ? アンタが最初にワイトを出した時点で、こっちはお見通しなのよ!」
 一気に捲くし立て、楓が再び笑い出す。

 しかし慶太郎は、楓のそれとは違った笑みを浮かべていた。
 勝利を確信した、笑みを。
「かかったな」
「え?」
「俺の狙いは『ワイトキング』を召喚することじゃねえ。お前の伏せカードの誘発を狙ったんだよ。そしてお前はまんまとそれに引っかかった」
「何ですって!?」

「このターンで勝負をつける。俺は手札から『早すぎた埋葬』を発動。LPを800支払い、墓地から『ワイト』を攻撃表示で特殊召喚!」



   慶太郎LP2400→1600



 カチカチと歯を鳴らしながら、『ワイト』が地中から湧き上がってくる。
「さらに俺は手札から速攻魔法『地獄の暴走召喚』を発動! 残りの『ワイト』2体を墓地から攻撃表示で特殊召喚!」


地獄の暴走召喚
速攻魔法
 相手フィールド上に表側表示モンスターが存在し、自分フィールド上に
 攻撃力1500以下のモンスター1体の特殊召喚に成功した時に発動する事ができる。
 その特殊召喚したモンスターと同名カードを自分の手札・デッキ・墓地から全て
 攻撃表示で特殊召喚する。
 相手は相手フィールド上のモンスター1体を選択し、そのモンスターと同名カードを
 相手自身の手札・デッキ・墓地から全て特殊召喚する。



 地獄の暴走召喚には、相手も同名モンスターを召喚できる権利が与えられる。
 しかし『サイバー・ツイン・ドラゴン』は融合モンスター。デッキには存在しない。
「バッカじゃないの。どれだけ召喚したって、ワイトごときじゃどうにもならないわ」
「どうかな……俺はさらに二枚目の『トライアングルパワー』を発動!」
 攻撃力強化の光に包まれ、ワイト三体の攻撃力が2300に跳ね上がる。

「無駄よ。『サイバー・ツイン・ドラゴン』の攻撃力は2800。2300程度じゃ話にならないわ」
「焦るなよ。俺には、まだ手札が一枚残ってるんだぜ」
 しばらく手の平でもてあそんでから、慶太郎は最後の手札をスロットに差し込んだ。

「魔法カード『デルタアタッカー』を発動!」


デルタアタッカー
通常魔法
 自分フィールド上に同名通常モンスター(トークンを除く)が3体存在する時に
 発動する事ができる。発動ターンのみ、3体の同名通常モンスターは
 相手プレイヤーに直接攻撃をする事ができる。


  
「な……デ、デルタアタッカーですって!?」
「これでワイトは、お前の場にモンスターがいてもダイレクトアタックすることができる!」

 攻撃に備え、三体の『ワイト』が一斉に頭を取り外す。勝利の喜びからか、いつもより盛大に歯を鳴らしている。

「最後に、お前は大きな勘違いをしているようだから教えといてやる」
 腕を組み、慶太郎は言葉を続けた。
「俺のデッキは<ワイトデッキ>なんかじゃねえ。確かに攻撃力の底上げのためにワイトキングは入れてるが、俺のデッキの大半はレベル1の通常モンスターで構成されている」

「そ、そんな最弱モンスターだらけのデッキで、勝てるわけないじゃない!」
「そう、<最弱デッキ>だ。だが俺は、このデッキでMZを制し、最強のデュエリストになってみせる! 行けワイト、ダイレクトアタック!」

 三つのシャレコウベが、楓に向かって放たれ、同時に噛み付いた。
 一体は右足、一体は左の腰、そして最後の一体は顔面に。
 端から見ても、なかなか心臓に悪い光景だった。
 当然、食らった楓の心情は自分の比ではないだろう。
「い、いやあーーっ!」
 叫びとも悲鳴ともつかない声を上げ、楓は仰向けに倒れこんだ。



楓LP2350→0



『デュエル終了!一回戦第一試合の勝者、東慶太郎!』
 司会者の声と共に、観客席からワッと歓声が上がる。
 『ワイト』を召喚した時の嘲笑とは大違いだが、気分は悪くない。
 小さく手を上げて歓声に応え、慶太郎は試合場を後にした。



6、少年

「ちょっと待ちなさいよ!」
 控え室に戻ろうとした時、慶太郎は背後から突然声をかけられた。
 振り返ると、楓が息を切らせて立っていた。

「何だ、まだ俺に用か?」
「アンタ、私ともう一度デュエルしなさい! 今すぐに!」
 言うが早いか、楓は決闘盤のセットを始めた。

「は? 何言ってんだよ。お前との勝負はついただろうが」
「あれはマグレよ! アンタの引きが良かっただけよ! もう一度デュエルしたら、絶対に私が勝つに決まってるわ!」 
 その言葉に慶太郎は呆れ、ため息を吐いた。

「あのな……」
「絶対! 確実! 決定的! 百パーセント! そんな雑魚デッキに、私が二度も負けるわけないわ」
「おい」
 自分でも驚く程冷たい声が、口から漏れた。
 雰囲気が変わったことに気づいたのか、楓が少しひるむ。

「な、何よ……」
「お前が俺のことをどう思っていようが興味ねえ。ただな、俺のデッキを馬鹿にするのだけは勘弁ならねえ。次言ったらただじゃすまねえぞ」

 慶太郎のデッキは、自分一人で作ったものではない。
 それは慶太郎の一番の親友だった『あいつ』の想いを継いだ、誓いのデッキだった。
 そのデッキを馬鹿にされることだけは、絶対に許せなかった。

「それに、俺の目的はこの大会で優勝して、一流のデュエリストになることだ。大会の選手じゃなくなったお前に、もう用はねえ」
「な…何よ、私だって」
 楓が何か言い返そうとしてきた、その時。

「一流のデュエリストですか、素晴らしい目標ですね」
 背後から声がし、反射的に振り返る。
 そこに、いつのまにか一人の少年が立っていた。

 なかなか整った顔立ちをしている。髪は短く、太い黒ぶちの眼鏡が少々野暮ったく感じた。
 薄茶色のシャツにジーンズと服装は地味だが、落ち着いた雰囲気から野暮ったい印象は受けない。
 慎重は慶太郎より頭一つ分は低く、歳は十四、五といったところだろうか。
 右手に決闘盤をつけているところを見ると、彼も大会参加者なのだろう。

「東慶太郎さん、でしたよね」
「そうだけど、お前は?」
「僕は天草光(あまくさひかる)、あなたと同じ、この大会の参加者です」
 そう言って、光は左手に装着した決闘盤をかざしてみせた。

「次の二回戦が、僕の試合なんです」
「ほう。じゃあお前が勝ったら、俺の次の対戦相手ってわけだ」
「はい。さっきのあなたのデュエル、素晴らしかったです。対戦するのがとても楽しみです」
 定番といった感じの誉め言葉だが、慇懃な感じはしない。心からそう言ってることが、目に見えてわかる。
 こんな相手となら、気持ちのいいデュエルができそうだった。

「ちょっと、そんなこと言ってるけどね、次の試合に勝てなかったら元も子もないわよ!」
「はい、ですから気を抜かないよう、真剣にデュエルするつもりです」
 忘れられていた楓の横槍にも、光の返事は丁寧だった。

「ま、頑張れよ。俺もお前とのデュエル、楽しみにしてるぜ」
「はい。では、行ってきます」
 軽く頭を下げ、光が試合会場に向かって歩き出した。
「でも……」
 と、光が不意に足を止め、振り返ることなく言った。

「あなたとのデュエル、僕が必ず勝ちます。僕にも、この大会に優勝しなくちゃならない理由があるんです」
 言い終えると、こちらの言葉を待つことなく光は去っていった。
 その背中には、強い決意のようなものが感じられた。
 どうやら、光も何か訳ありのようだ。

 次の試合は光が勝つ。
 慶太郎は直感的にそう思った。
「……おもしれえじゃねえか」
 呟き、慶太郎は無意識に笑みを浮かべた。
「ちょっと、私とのデュエルはどうなるのよ!」
 横で喚いている楓は、とりあえず無視することにした。


 
 慶太郎の予想通り、光は二回戦を勝ち上がった。
 予選を勝ち抜いた猛者を相手にノーダメージという、一方的な勝利で。



 続く...



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