不死者の宴

製作者:キーダさん




第一章 プロローグ

「……できた。このゲームやっとクリアできたーっ。」
パソコンに向かう少年の名は『獏良了』ゲームとTRPGにハマっている決闘者の一人。そんな彼には『天音』という妹がいたが、妹は既に亡くなっている。天音の命日からこれまで、何日経ただろうか……。
「…メールデスヨ。…メールデスヨ。」
獏良のパソコンに一通の電子メールが届いた。

《獏良さん、はじめまして。僕はダークという者です。
この度あなたを、僕が主催する決闘大会に招待するためにメールを送らせていただきました。
大会の名は『不死者の宴』あなたの自慢の『不死』のデッキを持参してください。
尚、優勝者には賞金を差し上げます。今日の午後八時に童美野埠頭に来てください。 》
時計の針は午後六時を指している。獏良はデュエルディスクを手に取り家を出た。



第二章 集えし決闘者達

午後七時、獏良は埠頭に着いた。彼が着いた頃には既に何人か到着していた。
「あーっ。骨塚くん。君も参加してたんだ。」
獏良は一人の背の低い少年に話しかけた。
「お、お前は…あの時の…。何でこんなところにいるんだゾ〜。」
骨塚は、何故か獏良にビビっていた。バトルシティの出来事がその原因だろう。
「お互い頑張ろうね。」
獏良はニッコリと笑顔で言った。
「ケッ、くだらねー友情ごっこだねー。この大会の賞金貰うのは楽そうだぜ。」
獏良と骨塚の後ろには、元全米チャンプの『バンデット・キース』が立っていた。
「あん。まだ生きてたのか?ゴースト野郎。」
キースは骨塚を挑発してきた。骨塚も上目使いでキースを睨みつける。辺りに殺気がはしる。
「二人とも、喧嘩はやめようよ。今日はデュエルをしに来たんでしょ。」
「うるせーよ。オレ様は賞金目当てで来たんだよ!」
獏良が仲裁に入ろうとしたが、キースに突き飛ばされた。獏良は背後にいた者にぶつかった。
「ごめんなさい。」
振り返りその男をみた。怪しい黒服を着ておしゃれなパールのピアス。そして鋭いというよりむしろ爬虫類の様な目つきの悪い男…。
「お前も参加者か…?」
「はぁ、そうですけど……。」
黒服の男は、クスクスと笑い出した。
「(大丈夫かな、この人。)」
「そうか、随分多くの決闘者が集まったようだ。だが、皆、私のエクゾディアには勝てない。優勝は私のものだ。」
レアハンターは高らかに笑う。獏良は、特に相手にせずその場から離れようとした。
「……ここだ。…感じる。王座を継承する戦いが……。この聖地で…。…始まる。……私は…王となる!」
エジプトのツタンカーメンを被った男が一人でブツブツ言っている。
「(さっきの人といい、この人も何か危ないな。でも、皆それなりの決闘者なんだ。油断は出来ないな…。)」
すると港に一隻の船が到着した。それは夜の闇の中にぼんやりと浮かびあがりまるで幽霊船のようだ。
やがて停泊した船の中から、二人ほど男が歩いて出てきた。彼らは大会の主催者、『ダーク』の使いだ。
「参加者の皆様、ダーク様が中でお待ちです。こちらの箱の中から玉を取って中にお入り下さい。」
男の一人は、抽選の箱を持っていた。おそらくは、対戦相手の組み合わせを決めるための籤引きだろう。
「どけ!オレが先だ!」
キースは骨塚を押し退けて真っ先にくじを引く。キースの引いた玉の番号は……
「…一番か。」
キースに続き、他の参加者達もくじを引こうとする。
「スタッフさん、伺いたいのですが、この大会は何人来るんですか?」
獏良はくじを引きながら問う。彼の問いに答えたのはダークの使いではなく、ツタンカーメンの男だった。
「……ここに集う者は…先の男を含め……六人いる。…さらにダークという奴も混ざり…七人で戦いあうのだ。……」
ツタンカーメンの男も歩みよりくじを引く。
「ボクは四番か。」

こうして、そこにいた全ての決闘者がくじを引き船に乗り込んだ。全員が船に乗った事をダークの使い二人は確認していた。
「キース、ゴースト骨塚、獏良、レアハンター、そしてあの不思議な男、これで全員か?」
「あっ、一人足りません!」
一人足りない事に気付いたが、やむなく船を出そうとしたその時……。
「この宴に招待された。イキアド・ツェペシュだ。」
イキアドと名乗る男は、蒼白な顔に前進を包む黒マント。まるで吸血鬼のような容姿だ。その姿に使いの二人は僅かに不気味さをおぼえた。
「ど…どうぞ中へ。」
全ての参加者が、ダークの居座る船の中に入った。



第三章 戦いの幕開け

招待された決闘者たちは、皆船の甲板に集められた。静かな夜の闇の中を、船は進んでいく。冷たい風が、決闘者たちの体を冷やす。
「……ダークとかいうヤローは何処だ!さっさと出てきやがれ!」
キースがムシャクシャした様子で怒鳴り散らす。獏良や他の決闘者たちも、辺りを見回していた。その時だ、
「フハハハ…今宵は、僕の船によく集まってくれた。」
何処からか誰かの声が聞こえる。皆は声の聞こえる方に目をやった。
スタスタと、男が一人、こちらに歩み寄る。そして、獏良たちの目の前にその姿を現した。
「僕の名はダーク。ダーク・ハーツ。この度は僕の開催した大会に参加してくれたことを感謝する。」
靴、ズボン、シャツと、全身を包みこむコート、彼の衣服は黒色で統一されている。さらには、顔の上半分を覆い隠すドクロをモチーフにしたような不気味な仮面。彼こそが決闘者たちを 宴に招待した張本人だ。
「早速、始めようか。この大会はリーグ戦形式で行う。ここにいる七人の中で勝率の最も高い者を優勝者とする。」
「ちょっと待って。」
獏良が手をあげて質問をする。
「獏良くん、何か。」
「僕たちは六人しかいないけど、ダークさんも参加するんですか。」
「その通り。僕を含む七人で決闘をする。」
ダークの使いが、甲板に現れた。
「それでは、対戦の組み合わせを発表します。」
「(キースと獏良にだけは当たってほしくないゾ〜)」
「(私の最強デッキに勝てると思ってるのか?このエクゾディアデッキに…)」
「(遊戯くんには及ばないかもしれないけど…全力で戦おう!)」
……
「一組目、キースVSダーク。対戦場所は甲板!」
「甲板で決闘するの?」
獏良はまた、不思議そうな顔をする。
「ああ、言い忘れてたが、この船全体が決闘場(デュエルフィールド)だ。最初の一戦のみ、指定された決闘場で決闘を行い、あとは、船の中を歩き回り相手を探せ。制限時間は、この船が再び停泊するまでの五時間だ。」
「(フン、要は勝てばいいんだろ?先にあの変なガキを潰せばあとは弱そうな奴ばかり…。賞金はオレ様の物だぜ!)」
キースはサングラスを直してから、ダークをちら見した。ダークも、キースを見るやいなや、決闘盤を構えた。
「……決闘だ!キース!」
「面白れぇ!受けてたつぜ!(オレ様のメタルデビルデッキのエジキになりな!)」

「続いて二組目、レアハンターVSイキアド。対戦場所は大広間。」
「ククク…お手柔らかに。」
レアハンターはイキアドの方を振り向いたが、イキアドの姿はそこにはなかった。既に大広間に向かったのか。あるいは今そこにいるのか…。

「三組目、ゴースト骨塚VSマミラ、対戦場所は機械室。」
ツタンカーメンを被った男の名は『マミラ』という。彼は静かに機械室へと向かっていった。
「絶対に勝つゾ〜。」
骨塚の意気込みはかなりのものだ。獏良はそんな骨塚の姿を見て、自分もベストを尽そうと決心する。
しかし、何か足りていないではないか…。そう、獏良は名を呼ばれていない。まさか忘れられたのか…。心配そうに使いを見る。
「尚、第一試合の対戦相手のいない獏良は、他者の観戦を許可する。それでは対戦場所に着いた組から決闘開始!」
決闘者たちが一斉に決闘を始めた。獏良は、甲板の決闘を観ることにした。

五分後……

「オレは罠カード『第六感』を使う!」
「待て!キース!」
キースのサイコロを握った手が止まる。その拍子に、キースは自分の手札を誤って落としてしまった。
「あっ、キースの手札のカード……。」
キースが落としたカードの中には、『サイバー・ポッド』と『心変わり』があるのが見えた。これらは三月一日の時点で、禁止カードとなっていることはもはやOCGの世界では常識だ。
「……キース、お前は違反行為により失格とする!」
「ふざけんなオレ様が何をした!」
抵抗するキース。決闘盤を投げ捨てて、ダークを掴む。
「違反だ。さっさと消えろ!ここは貴様の様な賞金稼ぎが来る場所じゃない!」
キースに一切動じず、むしろ睨みつけながら淡々と喋るダーク。
「うるせぇよ…。」
キースは、拳銃を取りだし、その銃口をダークの額に突きつけた。
「てめえが賞金を持ってることぐらい知ってんだよ。おとなしく渡しな!」
ダークを脅迫するキース。だが脅されてる本人の顔は全くと言っていいほど無表情だ。
「……堕ちるとこまで堕ちたか…。」
ダークの言葉に逆上し、キースは引金を引こうとした。獏良は状況の悪さを悟ると、船の中に入っていった。
「(早く誰かに知らせないと……)」

ズキャアアアン…………

獏良の背後で銃声が鳴り響いた。ダークは…もう…。
振り返り見ると、想像を覆す事態が起きていた。
「…な…何で……何で生きてやがる!」
キースは我が目を疑った。こいつは間一髪銃弾を避けたのか。それとも……。
「……罰を与えよう。キース!」
「や、やめろ!……よせ…オレは…うがああああぁぁぁ………………。」
ダークが手をかざしただけで、キースは意識を失い倒れてしまった。
獏良はその場を去ろうと慌てて逃げようとした。
だが、獏良はつまづいて、音をたててしまった。ダークはそれに気付いた。
「…獏良か。……まあ、いいだろう。……いずれ君とは戦う定め。その時にまた会おう!」
ダークは、獏良に何かするわけでもなく、一言言ってその場から消えた。
「(…さっきのは…なんだったんだろう…。)」
獏良の心の中で、その事だけが残り続ける…。

獏良は、骨塚の決闘を見に、機械室に向かった。大広間を経由して、機械室に着く。

「…スピリット・オブ・ファラオでダイレクトアタック!……私の勝ちだ。」
「オ、オレのゴーストデッキが…全く歯が立たないゾ〜。」
 マミラVS骨塚
  勝者マミラ
骨塚は、側にいた獏良に目をやった。
「獏良、オレと決闘だゾ〜!」
「いいよ。お手柔らかにね。」
「(なんだこいつ。前と全然感じが別だゾ〜。こいつなら勝てるゾ!)」

 骨塚VS獏良
  決闘開始!

「僕のターン。僕は『絵画に潜む者』を攻撃表示で召喚しターンエン!」
「オレのターンだゾ。『ドラゴンゾンビ』を召喚!攻撃だゾ!」
  獏良LP 4000→3600
「ターンエンドだゾ。(全然弱いゾ。勝てるゾ!)」
「僕のターン。モンスターをセットして、リバースカードを伏せてターンエンド。」



第四章 饗宴

「オレのターンだゾ!魔法カード『死者への手向け』発動!モンスターを破壊するゾ!」
破壊したモンスターは、『首なし騎士』だった。
「さらに、モンスターでダイレクトアタック!」
  獏良LP 3600→2000
「じゃあ、僕は伏せカード『憑衣合体』を発動させる!」

【憑衣合体 (通常罠)】
自分が相手モンスターの直接攻撃を受けた時に発動することができる。自分のデッキからモンスターカード一枚を選択しゲームから除外する事で、そのモンスターのレベル×500ライフポイント回復する。その後、手札からカードを一枚捨てる。

  獏良LP 2000→4500
「か、回復したゾ…ターンエンドだゾ〜。」
「僕のターンだね。墓地の悪魔族モンスターを除外して『ダーク・ネクロフィア』を特殊召喚!」
不気味な闇の中から、赤子の人形を抱いた亡霊が姿を表す。それは女性のようだが、とても美しいとは言いがたい。骨塚は、その容姿にかなり怯えていた。
「さらに、手札から『死霊人形』を召喚!」

【死霊人形 通常モンスター】
闇属性、悪魔族、☆4
ATK/1400 DEF/500

「『ダーク・ネクロフィア』でモンスターに攻撃!」
  骨塚LP 4000→3400
「さらに、『死霊人形』でダイレクトアタック!」
  骨塚LP 3400→2000
「く、くそ〜!オレは、オレは…こんなとこで負けないんだゾ〜!勝って、周りの奴を見返してやるゾ〜!」
骨塚は力強くカードを引く。
「(オレは、今までいろんな奴にさんざん馬鹿にされてきたゾ。でも、今度こそ…)」
骨塚が引いたのは、モンスターカード『魂を削る死霊』だった。
「(こいつがあれば…あとはあの魔法カードを引くまでだゾ。)モンスターとカードを一枚伏せてターンを終らせるゾ。」
「(リバースモンスターか。じゃあ…)僕は『ゴーストダガー』を召喚!」
フワフワと中に浮いたナイフが現れる。それと同時に、辺りが邪気に包まれる。骨塚が、伏せていた罠カードを発動させたのだ!
「モンスターが召喚されたのをトリガーに罠カード発動!『地縛霊の災い』」

【地縛霊の災い 通常罠】
相手がモンスターを召喚、反転召喚、特殊召喚した時、発動することができる。手札のモンスターカードを二枚捨てることで、相手の場のモンスターカードを全て破壊する。この効果で破壊された効果モンスターの効果は無効化される。

「じゃあ…僕のモンスター達は…」
「全滅だゾ〜!それだけじゃなく、『ダーク・ネクロフィア』の特殊能力も発動しないゾ〜。」
獏良の場のモンスターは、邪気に呑まれて消滅した。獏良はターンを終了せざるを得ない。
「タ…ターンエンド。」
「オレのターンだゾ〜。(やっと、このカードを引いたゾ)」
骨塚の顔に、不気味な笑みが浮かぶ。骨塚は一枚の魔法カードを発動させた。
「永続魔法カード発動!『リビングデッドの饗宴』!」

【リビングデッドの饗宴 永続魔法】
自分の墓地に存在するアンデッド族モンスターを可能な限り自分のフィールドに特殊召喚することができる。このカードがフィールドから墓地に送られたとき、このカードによって特殊召喚されたモンスターを全て墓地へ送る。このカードがフィールド上に存在する限り、このカードの効果を受けたモンスターは戦闘と相手の魔法罠カードの効果では破壊されず、自分のフィールド上のこのカードの効果を受けたモンスター以外のモンスターは攻撃することができない。
また、このカードの効果を受けたモンスターが相手プレイヤーへの直接攻撃に成功したとき、そのモンスターの攻撃力はターンのエンドフェイズ時に500ポイントアップする。

「オレは『ドラゴンゾンビ』『鎧武者ゾンビ』『マーダーサーカスゾンビ』を特殊召喚させるゾ!これがオレの新しいゴーストコンボだゾ!ゾンビ軍団は『不死』の力を得て、プレイヤーをじわじわ喰らいつつパワーアップする!」
骨塚はいっそう不気味な笑みをこぼしながら語る。追い詰められた獏良の表情に焦りが出る。
「ゾンビ軍団の一斉攻撃!!」

  獏良LP、4500→50

「さらに、ゾンビ軍団はパワーアップするゾ!」

  ドラゴンゾンビATK、1600→2100
  鎧武者ゾンビATK、1500→2000
マーダーサーカスゾンビATK、1350→1850

「僕のターン。(この手札と引いたカードで決着をつけよう!)」
獏良は罠カード『リビングデッドの呼び声』を引いた。
「(揃うべきカードは揃った。あとは賭けだな。)僕は『地縛霊』を守備表示で出して……。」
モンスターを場に出すと、獏良は残りの二枚のカードを伏せた。
「ターンエンド!」



第五章 獏良の戦い方

「オレのターンだゾ!」
骨塚は勝利を確信したかのようにカードを引く。
「オレは『魂を削る死霊』を生け贄に『パンプキンエンペラー』を召喚!」

【パンプキンエンペラー 効果モンスター】
闇属性、アンデッド族、☆6
ATK/2000、DEF/1400
このカードが生け贄召喚に成功した時、フィールド上のこのカード以外のアンデッド族モンスターの攻撃力を永続的に1000ポイントアップさせる。

  ドラゴンゾンビATK 2100→3100
  鎧武者ゾンビATK 2000→3000
  マーダーサーカスゾンビATK 1850→2850

「これで終りだゾ!攻撃!」
攻撃に合わせて獏良は罠カードを発動させる。
「罠カード発動!『リビングデッドの呼び声』墓地から『ダークネクロフィア』を攻撃表示で召喚!」
ダークネクロフィアが、再び姿を表す。だが、骨塚のゾンビ軍団の攻撃力は、死の世界の支配者の力をとうに上回っている。
「攻撃が通ればもう終りだ!諦めて喰らいな!」
ゾンビ軍団の攻撃は止まらない。ゾンビ軍団は、ダークネクロフィアに襲いかかる!鎧武者ゾンビが斬りかかろうと刀をあげたとき!
「な……何だゾ!獏良のモンスターが!」
ダークネクロフィアは不気味なオーラをにじみ出しながらその姿を消していく。
「僕はリバースカードを発動させる!『死魂の呪咀』発動!」

【死魂の呪咀 速攻魔法】
このターン墓地から特殊召喚された自分のコントロールするモンスター一体を生け贄に捧げることで、そのモンスターの元々の攻撃力分のダメージを相手のライフポイントに与える。

姿を消したダークネクロフィアは、巨大な暗雲のような闇を纏っていた。その姿は、言葉に言い表せない程恐ろしく、暗雲の表情はまるで不気味な笑顔だ。
暗雲はやがて骨塚自身へと襲いかかる。一度葬られた者が、怨みをはらすために現世に舞い戻り、己の味わった死界の暗黒を味合わせる。
「グ…グアァァァ………」
  骨塚LP 2200→0
 骨塚VS獏良
  勝者獏良

「ま、負けたゾ〜。オレのゴーストデッキがぁ〜……」
骨塚は、放心状態になってその場にひざまづいた。獏良は骨塚にそっと近付き、
「いい決闘だったよ。骨塚くん。」
さっと手を指し伸ばし、優しい顔で骨塚に話しかける。
「また今度、決闘しようよ。」
「お、お前……。オレなんかと……。」
敵を友に変える決闘。これが獏良(表)の決闘なのかもしれない。獏良に励まされ、骨塚は立ち上がる。
「お前、オレと友達になってくれないか?」
骨塚は恐る恐る聞く。獏良はニッコリ笑顔で応える。
「いいよ。」
その時、
「………参加決闘者たちに告ぐ。大会のルールの追加事項があるので放送する。」
ダークからのアナウンスだ。
「この大会で三敗した者は、…強制的に失格とする!もう一度繰り返す。………」
放送を聞いて骨塚は落胆した。繰り返し流れる放送は彼の耳には入らなかった。
「だ…大丈夫だよ。まだ。ずっと勝てばいいんだから。頑張ろうよ!」
獏良は骨塚を暖かく励ます。
「そうだゾ。まだ勝てるゾ〜。ありがとな、獏良。」

「友情……。人間の情け……。時に嬉しく、時に哀しいものかな……。」
獏良たちの後ろに吸血鬼のような姿の男、『イキアド』が立っていた。対戦相手を探しにここに来たようだ。
「お前は不気味だけど弱そうだゾ〜。」
「ちょっと、骨塚くん!」
骨塚は決闘盤を構えてイキアドを見る。
「オレと決………」
「あまり己の力を過信するなよ……。」
イキアドが口を挟む。
「…先の銀髪の男とてそう。自身は非力で脆い人間……。それがあくまで『最強』という兵器を持っただけで自惚れる……。人間の愚かさとは…哀しいもの……。」
イキアドの言葉に骨塚は怯みながらも闘志を燃やしていた。
さらにイキアドは追い討ちをかけるように言う。
「はっきり言おう!…お前はオレに勝てない!」
骨塚はイキアドに向かおうとするが、獏良が肩を押さえて止める。
「……骨塚くん。……ここは僕にやらせてくれないか?…」
骨塚は、獏良の目の凄まじい覇気を感じた。イキアドが獏良を触発させたことが、彼の目からうかがえる。
「フン………いいだろう…………。」
「悪いけど、君にだけは勝たせてもらうよ!」
 獏良VSイキアド
  決闘開始!

「……始めに言っておこう。オレのコンボは絶対だ。何人も打ち破れない……。」
「決闘は理屈じゃないよ…。君の自信は認めるけどさ…。」
獏良の言葉に顔をしかめるイキアド。

その頃、骨塚は(勝てそうな)相手を探しに大広間に出た。が、誰も見当たらない。周りをキョロキョロするが……
「人探しか?骨塚。」
大広間に姿を現したのは、ダークだった。
「決闘…開始だ!」



第六章 恐ろしき戦略(前編)

「オレの先攻だ!カードドロー!」
イキアドはデッキからカードを引く。
「…オレはカード一枚を伏せ、『ヴァンパイア・ネイル』を召喚。…ターンエンド。」
悪魔の手のようなモンスターと、正体不明のリバースカードがイキアドの場に現れる。

【ヴァンパイア・ネイル 効果モンスター】
闇属性、アンデッド族、☆2
ATK/800、DEF/400
このカードが戦闘によって破壊されたとき、相手の手札をランダムに一枚墓地へ送る。その後自分のデッキから同名カードを攻撃表示で特殊召喚することができる。

「僕のターン。(あの伏せカードが厄介だな…)カードを場にセット。さらに『絵画に潜む者』を召喚。ターンエンド。」
「…伏せカードを恐れるか……。オレのターン。『ヴァンパイア・ネイル』で攻撃!」
  イキアドLP 4000→3600
「『ヴァンパイア・ネイル』の効果発動!貴様の手札を一枚墓地へ送る。」
獏良の手札が一枚減らされる。
「さらに、デッキから同名カードを攻撃表示で特殊召喚。ターンエンドだ。」
「僕のターン。『絵画に潜む者』を生け贄に、『冥界の魔王 ハ・デス』を召喚。」
「…そうか!確かそいつの効果は……。」
「攻撃!」
魔王の手から生まれた暗黒が、イキアドのモンスターを包み込む。そして、魔王が恐ろしい笑顔を向けて手に力を加えると、暗黒は一気に凝縮され、中に埋もれたモンスターはあがくことすらできず砕け散る……。
  イキアドLP 3600→1950
「ターンエンドだ。」
「(……オレは吸血鬼。……そう恐れられた男。……そして………その力を得た者だ!)オレのターン!」
イキアドは、カードを引く。それは彼が今、最も待ち望んでいたカード。それを引けた喜びが彼の顔に浮かぶ。
「オレは『ヴァンパイア・コア』を召喚!」

【ヴァンパイア・コア 効果モンスター】
闇属性、アンデッド族、☆3
ATK/1000、DEF/1800
このカードが、召喚、特殊召喚に成功したとき、自分は500ライフポイント回復する。

  イキアドLP 1950→2450

「さらにオレは伏せていた『血の代償』を発動!自身の血(ライフ)と引き替えに……」

  イキアドLP 2450→1950

場にいた生き物の心臓のようなモンスターは、たちまち姿を消した。そいつが生け贄となり、更なるモンスターが現れる。
「『ヴァンパイア・コア』を生け贄に『ヴァンパイア・ロード』を召喚!」
現れたのは、吸血鬼のモンスターだ。その魅力的な容姿に秘めた凶悪な能力は、知らぬ者などない。
「さらにオレは、モンスターに『闇貴公子の黒装束』を装備させる。」
【闇貴公子の黒装束 装備魔法】
「ヴァンパイア・ロード」のみ装備可能。装備モンスターの攻撃力は、お互いの墓地に存在する「ヴァンパイア」という名のつくモンスター一体につき500ポイントアップする。また、装備モンスターが相手に戦闘ダメージを与えたとき、その数値分の自分のライフポイントが回復する。

  ヴァンパイア・ロードATK 2000→3500

「攻撃!」

  獏良LP 4000→2950
  イキアドLP 1950→3000

イキアドのLPが、獏良のそれを上回る。
「…ターンエンドだ。」
相手の血を奪い、自身の力を増幅させる。まさに『吸血鬼』の異名をとるにふさわしい戦術だ。
「僕のターン。…モンスターをセットしてターン終了。」
「オレのターン。手札から『ヴァンパイア・アイド』を召喚!」

【ヴァンパイア・アイド 効果モンスター】
闇属性、アンデッド族、星1
ATK/0 DEF/500
このカードが召喚に成功したとき、相手のセットされたカード一枚を表にする。(モンスターカードの場合、表側攻撃表示にする。この時、リバース効果は発動しない。魔法罠カードの効果は確認した後元に戻す。)

獏良のセットされたカードが表になる。現れたモンスターは『ゴブリン・ゾンビ』だ。
「攻撃!」

  獏良LP 2950→550
  イキアドLP 3000→5400

「どうだ獏良。これがオレの戦術。『ヴァンパイア』の異名をもつ…そう。民衆が恐れた男…。実在した吸血鬼と言われた男…。愚民どもの恐怖心がつくりあげた『ヴラド・ツェぺシュ』の姿だ!」
「僕もそのヴラドの話は知ってる…。」
ゴブリン・ゾンビの効果でカードを引きながら獏良は問い詰める。
「でもヴラドと君と何の関係があるって言うのさ?」
「……オレの名は…『イキアド・ツェぺシュ・ドラキュラ』だ。串刺し公と言われた『ヴラド』の末裔。オレもまた、ヴァンパイアの末裔。」
イキアドの意外な生い立ちに驚きを隠せない獏良。さらにイキアドは、自分の過去を、人間を敵視する理由を話す。

「オレの先祖、ヴラドは恐るべき戦略で歴史に名を残した人物だ……。」



第七章 恐ろしき戦略(後編)

《十五世紀のヨーロッパ、小国ワラキア(現在のルーマニア)はオスマントルコ軍に侵略されつつあった。当時、将軍だったヴラドは、自国を守る策を考えた。
そして、ヴラドは前代未聞ともいえる策略でオスマントルコ軍を撤退させた。
その見せ物は『串刺し処刑』。ヴラドは敵国の兵を串の先が見えるほどに深く串刺しにした。ある者は頭を上に、またある者は足を上に。ある者は仰向けに、またある者はうつ伏せに…。それを目にしたオスマントルコ軍は、戦意を喪失した。のちにヴラドはワラキア語で串刺しを意味する『ツェぺシュ』という称号を得た。
だが、彼はのちに民衆から恐れられる。「ヴラドは血を好む吸血鬼なのだ」と……。》

「……愚かだ。……民衆どもはその愚かさ故に………。」
「で、その人がみんなに怖がられたことが君にどうしたっていうのさ?」
イキアドは悲しそうな顔の中に笑みを浮かべて応える。
「……ヴラドの末裔であるオレの一族は…オレの家族は……幾度となく民衆から迫害を受け続けた。オレたちは民衆に捕えられ、虐げられ、やがては殺されたよ。」
さらにイキアドは自身の過去を話す。
「そして、唯一生き残ったオレは、ワラキアを逃げるように去り、この日本にやってきた。オレは…人間が憎い!だからオレは、一族の無念を晴らし、人間たちに復讐する!あいつらがオレたちに与えつけた『吸血鬼』という烙印を我が力にして!」
話を全て聞き終えると、獏良は口を開く。
「君が辛く悲しい思いをしてきたことは解ったよ。でも、憎しみで決闘をするようなことはいけない。」
「フン…貴様も人間。何が解ると……。」
獏良は、イキアドの挑発など相手にせず、カードを引く。
「僕のターン。何もせずにターンを終了する!」
「フハハハハ!オレの攻撃が通れば終わり!所詮、人間ごときオレに歯向かえないのさ!オレのターン!『ヴァンパイア・ロード』で攻撃!!」
無数の暗黒の使徒を放つ吸血鬼。それらは獏良めがけて飛んで行く。獏良に当たろうとしたその時、何かが獏良を暗黒の使徒から守った。
「手札から『レイボー』を捨てる。君の攻撃は無効化だ。」

【レイボー 効果モンスター】
闇属性、アンデッド族、星1
ATK/300、DEF/200
手札からこのカードを捨てる。相手からプレイヤーへのダメージを一度だけ0にできる。この効果は相手バトルフェイズにしか発動できない。
さらに、自分の墓地に同名カードが存在する場合、相手の攻撃モンスターの攻撃力分、自分のライフポイントが回復する。

 獏良LP 550→4050

「タ…ターンエンド……。(そうか、最初の手札破壊で墓地に送ったのは……)」
「僕のターン。『天使の施し』発動!」
手札からモンスターを捨てた。
「そして、墓地の悪魔族を除外し『ダーク・ネクロフィア』を召喚!」
「だが、オレのモンスターよりも攻撃力は低い!」
「なら、攻撃力を上げるまでさ。魔法カード『怨霊の鎖』発動!」

【怨霊の鎖 通常魔法】
指定したモンスター一体の攻撃力は、ターン終了時までお互いの場の悪魔、アンデッド族モンスター一体につき600ポイントアップする。

 ダーク・ネクロフィアATK 2200→4000

「攻撃!」

  イキアドLP 5400→4900

「(オレのデッキのエースをやるとは…)オレのターン。『ヴァンパイア・ブレイン』を召喚!」

【ヴァンパイア・ブレイン 効果モンスター】
闇属性、アンデッド族、星1
ATK/0 DEF/0
このカードが召喚に成功したとき、自分のデッキから魔法カードを一枚選び手札に加える。

「(このカードを使えば、人間共が皆怯えあがるあいつを…)オレは魔法カード『血潮の宴』を発動させる!」
イキアドの目の色が変わる。本物の吸血鬼のゆうな目に……。
「フフフ…ヒャハハハー!このカードを発動したぁ!このカードの効果はなぁ………」

その頃、船内の別の場所にて……。
「守護者スフィンクスの効果で、お前の守備モンスターを戻す!」
そこでは、マミラとレアハンターが戦っていた。マミラが一方的に勝負にケリをつけそうだ。
「守護者スフィンクスで直接攻撃!私の勝ちだ!」
「…ま、負けた…ヒイィィィ………。」

また、ダークと骨塚の決闘は…
「残念だが、ボクの勝ちだ。」
「墓地のモンスターが……攻撃するなんて…………。ゾォォォォ〜。」
ダークの圧勝という形で、その決闘は終わる。そして、骨塚には…
「そういえば骨塚くんは、三敗したよね…。じゃあ……」
骨塚を、使い達が取り囲む、
「な、何すんだゾ〜。」
「失格者は、別の部屋に閉じこもってもらうよ…。」
使い達は、骨塚を取り押さえると、そのまま別の部屋に閉じ込めた。

そして、獏良とイキアドの決闘は……
「血潮の宴ぇ!このカードでモンスターをジャンジャン出すぜぇ!」

【血潮の宴 通常魔法】
互いのプレイヤーは、お互いの墓地に存在する「ヴァンパイア」という名のつくモンスターを自分の場に可能な限り特殊召喚することができる。また、このカードを発動したターン「ヴァンパイア」という名のつくモンスターが相手モンスターを戦闘で破壊したとき、相手の手札を全て墓地へ送る。

獏良の場には、一切モンスターは出現しない。しかし、イキアドは違う。
「ほらほらぁ!オレの場は一気にモンスターで埋まったぜぇ!」
「(イキアドは何をするつもりだろう…?)」
「さらにぃ、オレはこいつらを融合させるぜぇ!…出てくるぜぇ!…恐れられしヴァンパイアがぁ!」
イキアドの場のモンスターは一瞬で黒い渦に呑まれる。そして中からは、巨大な悪魔の姿のモンスターが姿を現した!



第八章 吸血鬼伝説

渦の中から出たモンスターは、巨大な体に、その背中にはドラゴンのような羽根をつけ、その華奢な骨格には一切の無駄のない筋肉がしかれている。手と足には鋭い紫色の爪を持ち、鋭い眼光に恐ろしい牙。かの『ドラキュラ伯爵』が 理性という仮面をつけた吸血鬼なら、このモンスターはそれを持たぬ者……。
「ギャーハハハ!オレの切札『ヴァンパイア・ドラクルア』を召喚!」

【ヴァンパイア・ドラクルア 融合、効果】
闇属性、悪魔族、星10
ATK/0、DEF/0
このカードは、自分の場の「ヴァンパイア」という名のつくモンスター五体を除外することでのみ融合デッキから特殊召喚することができる。このカードは戦闘と、相手のカードの効果では破壊されない(ダメージ計算は適応する)このカードの攻撃力は、このカードと戦闘を行ったモンスターの攻撃力分そのターンのバトルフェイズ終了時にアップする。

「『ヴァンパイア・ドラクルア』で、攻撃ぃ!」

  イキアドLP 4900→2700

「だが、モンスターの攻撃力はアァップ!」

  ヴァンパイア・ドラクルアATK 0→2200

「オレはカードを伏せてターンを終りにするぜぇ!」
「僕のターン。(ダーク・ネクロフィアで攻撃して、自滅。でも効果であいつを奪えばいい。)ダーク・ネクロフィアで攻撃!」
「罠カードオープン!『血の濁流』だぁ!」

【血の濁流 通常罠】
相手のモンスターの攻撃宣言時に発動できる。ライフポイントを半分払うことで、その攻撃を無効にし、攻撃モンスターをゲームから除外する。

「何か策があったみたいだが……ムダだったぜぇ!ギャハハー!」

  イキアドLP 2700→1350

「オレのターン!丸裸の貴様に攻撃ィ!」

  獏良LP 4050→1850

「攻撃力が上がんねェのが残念だなぁ…。ターンエンド!」
「僕のターン!……。」
獏良は、イキアドをみて言葉をかける。
「イキアドくんの戦術は確に凄い…。まさに『吸血鬼』と言えるよ。」
「そうだろォ!オレが怖いだろォ!人間共はオレを吸血鬼といって嫌悪したぁ!その吸血鬼の姿が今のオレだァ!怖がれェ…もっと怖がれェ!!!」
イキアドは恐ろしい形相で言う。しかし、獏良は涼しい顔で言葉を返す。
「その恐ろしい吸血鬼を本当に恐れてるのは……君だよ!」
獏良の意外な一言に、顔をしかめるイキアド。
「ンだとォ…オレが恐れてるだと!」
「そうだ。君の家族や、先祖のヴラドは、みんなに迫害を受けながらも戦っていた。『自分は吸血鬼なんかじゃない』って……。そして、決してみんなを憎まなかった。むしろ、みんなに理解してもらおうとしてたはずだ!でも君は、自分が吸血鬼になることで、それを自分の姿だと思い込み、自分をこんな姿にした奴に復讐することしか考えてない…。」
「……黙れよ!」
イキアドの目はすわっていた。
「オレは吸血鬼なんだ!本当の吸血鬼ってのがどんなもんか愚か者共に解らせてやる!」
「……僕は君を怖いとは思わない。……早く攻撃しなよ。『吸血鬼』の姿で!」
獏良は、何もせずターンエンドを宣言した。
「……馬・鹿・な・奴……。攻撃ィ!!!」
イキアドのモンスターは、凄まじい闇の波動を放つ。それらな獏良に向かって押し寄せていく。
「殺ったかァ!………な、何イィィィィ!何で貴様、生きてやがる!つーか、なんでライフが回復してやがる!」
「僕は、手札から『レイボー』を捨てたんだ。この効果で回復したんだ…。」
獏良は、レイボーに二度も救われた。クリボーのおばけみたいなこのモンスターは、その可愛さの中に、強さを…秘めてるのか…?

  獏良LP 1850→6250

「イキアド!もう一度言うよ!僕は君なんか怖くないし、もし僕が君の立場に立ったら……戦っていたよ!このターンで…それを証明する!」
獏良の目に、普段の彼からは絶対に想像できないような光が見られる。
「僕は、『カオスネクロマンサー』を召喚!」
眠れる死霊たちを操る男が現れる。
「さらに、魔法カード『死神の宝札』を発動!」

【死神の宝札 通常魔法】
デッキから任意の枚数カードをドローする。その後、自分はドローしたカード一枚につき1000ポイントのダメージを受ける。

「5000ダメージ覚悟で、5枚ドロー!」

  獏良LP 6250→1250

「さらに、伏せてあったカード。『しなばもろとも』を使用!手札8枚を墓地に送り、カードをドロー!その後で800ダメージだ。」

  獏良LP 1250→450

墓地には5体のモンスターが落ちた。合計は10体。
「さらに、魔法カード『魂の祠』を使う!」

【魂の祠 通常魔法】
ゲームから除外された自分のモンスターを全て、自分の墓地に戻すことができる。

獏良は、除外された三体のモンスターを墓地に戻す。合計は13体になった。
「そして、『呪々』の効果で…。」

【呪々 効果モンスター】
地属性、悪魔族、星5
ATK/2000、DEF/600
このカードが墓地に存在する限り、フィールド上のモンスターの「戦闘によって破壊されない」という効果が無効になる。

「ま…まさか……オレのヴァンパイア・ドラクルアは……………。」
  カオスネクロマンサーATK 3900
「攻撃だ!」
「グアァァァ…………オレのモンスターがぁぁ…………。」
カオスネクロマンサーに操られた死霊たちが、ヴァンパイア・ドラクルアの手を、足を、羽根を掴み、死の世界へと引きずり込んでいく。
「……父さん、……母さん。……ヴラドまで………。」
死霊の中にイキアドは、自身の両親に似た者たちを見た。そいつは「私は吸血鬼ではない。お前もそうだ。私たちは、こいつに勝たなきゃいけないんだ!」というかのように……。

  イキアドLP 1350→0
  勝者 獏良

イキアドは仰向けに倒れた。吸血鬼のモンスターは姿を消し、イキアドの目は人の目に。
「…一族の血。…先祖が吸血鬼。……なんで戦わなかったの。」
獏良は、脱力したようなイキアドに話しかける。



第九章 闇・ダーク

「…獏良。」
イキアドは力のない声を出す。
「オレは……お前の言うように……どこかで自分から……逃げてたのかも知れない……。人間を嫌うことで………。」
「もう、いいんだよ。」
獏良は優しい口調で返す。
「君の事を恐れている奴は、もういないさ。これから、君はワラキアの英雄の末裔として誇りを持って生きようよ。」
イキアドは、起き上がり頷いた。
「なぁ、獏良。…………ありがとな。」
そう言い残し、イキアドは黒マントを脱ぎ捨て去っていった。獏良は、彼の背中を眺めてた。

その頃、船の別の場所にて……。
「抜け出せたゾ〜。あのダークって奴、オレを閉じ込めやがって…絶対に怪しいゾ〜。」
閉じ込められていた骨塚が、ダークの秘密を探るために部屋を抜け出し、他の部屋などを物色していた。
「なぁ、この船はまだ『創造の祭壇』に到着しないのか?」
骨塚は、とある部屋でダークの使いが怪しげな会話をしてるのを耳にする。物陰に隠れ、しばらくそれを聞こうとした。
「待てよ。それより、『魂』は集まったか?魂を糧に、あの祭壇は力を出すんだぜ。」
「だけど、実在するかは解らないんだろ。でも、もし本当なら凄いよな。何でも『創造と忘却』を支配するんだろ?その気になれば、世界を容易く破滅に導くことも……。」
骨塚は、会話の内容に驚きを隠せない。そして、ダークの目的を明らかにする代物を彼は見ることになる。
「ん?何だ、この紙切れ?」
骨塚は、足元に落ちていた紙切れを拾う。それは、ダークの書いた日記の一ページだった。そこには、こう記されていた。
《……あの日、あの娘が事故で亡くなった日、僕は命の『死』について考えるようになった日、何日も過ぎた。でも、未だ答えがでない……。
そんな中、僕は『創造の祭壇』という噂を聞いた。そこは、創造と忘却を支配できるらしい。それは、魂を糧に力を出すらしい。人間を集めることは簡単だ。そして………》
骨塚は、続きを読み進めようとした時、
「そこで何をしている?」
骨塚の背後に何者かが近付く。骨塚は、とっさに紙切れを服の袖の中に隠す。
「(まずい、殺されるゾ!)」
「君、困るよ。大事な魂なんだから…。ちょっと早いけど……。」
そういって、使いが骨塚の背中をポンと叩くと、骨塚は意識を失い倒れた。そう、キースの時の様に……。
使いは、昏睡状態の骨塚をそのままにして、話をしていた二人の使いに話しかける。
「おい、そろそろ創造の祭壇が見えてきたぜ。そろそろ準備を始めるぞ。」
「そうだな。ダーク様の計画をしくじる訳にはいかねぇよな。」
使いたちは、怪しげな行動に出た。

それをまだ知らない宴の参加者 たち…。獏良は相手を探していた。
「この船は、どこに向かってるんだろう……。」
そのことが頭をよぎる。すると獏良は、骨塚が倒れている部屋の辺りに着いた。部屋の戸は半開きになっていたため、獏良は静かに戸を開く。
「えっ!?骨塚くん!?」
骨塚の体が、床に横たわっていた。獏良は骨塚を抱き起こすが、既に意識がない。
「何があったんだろう…。何で骨塚くんがこんな目に……。」
すると、骨塚の服の袖の中にから、紙切れが落ちる。獏良はそれを拾い上げる。それを読み、獏良はダークの目的を察知する。獏良もまた、創造の祭壇の話は知っていた。ダークはそれを悪用しようとしているかも知れない。とにかくダークを止めなければ……。
「大変だぁ……。まずはこの船が着く前にダークを見つけよう。」
「ククク……。お前こそ、私のエジキになれ!」
獏良の後ろに人影が!振り返り見るとその男は………。

一方、ダーク本人は、創造の祭壇を目前にしていた。甲板に立ち、考え事にふける。
「ダーク様!」
使いたちが近づいてくる。
「……そろそろか。」
ダークは、手で合図を送る。使いたちは、それを見ると、いよいよという顔で任務に就いた。
「創造と忘却……。誰も邪魔させない!」

「私は……エクゾディア使いだ!『最強』とは私にふさわしい代名詞のハズ。なのに……。」
獏良が不運にも出くわしたのは、レアハンターだった。
「すみません。今はあなたと決闘してる場合じゃないんです。」
「ほう……お前、私から逃げるつもりか……?」
レアハンターは、意地でも獏良に勝つつもりだ。獏良はそれどころではないのに……。
レアハンターは決闘盤を構える。
「少年よ!私と決闘だ!」
「そこ、動くなっ!」
部屋の中に、ダークの使いたちが押し入る。
「貴様等の魂を奪いに来た。おとなしくして貰おうか!」
「ダークの目的の為…ですね。そうはさせないよ。」
獏良は使いの指示に反対する。
「ダークがやろうとしてることは、いけないことだ。絶対にさせない!」
「うるさいガキだ…。貴様のからいただくか!」
使いは獏良に近づく。その時、レアハンターは使いめがけて詰め寄った。
「ぐあっ!」
レアハンターは使いを殴り飛ばした。そして獏良の方を向いて話す。
「……大体の事情は分かった。要はダークって奴の悪事を止めればいいのだろ?ここは私が引き受ける。早く奴を探せ!」
「分かりました。ありがとうございます。」
「後でお前の友人の……遊…いや息子に伝えてくれないか?『私の戦い』を。」
獏良は何のことかさっぱりだが、礼を言ってダークを探しに出た。
「何人でもかかって来い!私には勝てない!」
「フフ……。じゃあ、そうさせて貰うぜ!」



第十章 計画始動!

「私は偉大なる決闘者。貴様等が三人束になってかかってきても構わないよ…。ククク……。」
「ほう……。だが後悔するなよ。」
「俺達三人で合計ライフは12000だぜ。」
「……構わないよ。」
レアハンターは、使い三人と向き合って決闘を開始した。
「私のターン。『冥界の使者』を召喚!」
死神の姿のモンスターが、どこからともなく現れる。
「(私の手札には、既にパーツが三枚ある。残るは右腕と本体のみ……。)ターンエンド!」
「俺の番だ!」
使いAがカードを引く。
「カードをセット。ターンエンド。」
「次は俺だ。」
続いて使いB。
「……ターンエンド。」
「はいはい、俺、俺。」
最後は使いC。
「『天使の施し』発動!三枚引いて、二枚捨てる。」
自分の十八番(?)を真似されて、カチンとくる。
「『速攻の黒忍者』を出してターン終了。(次の貴様のドローが、最期だぜ。)」
「私のターン。(…何!?右腕を引いちゃった。)。」
予想外の事態に若干戸惑うレアハンター。手札を確認すると、手札には、三つ目の悪魔のカードがある。
「……言ったよな?私は貴様等を一瞬で葬ると。今、それを証明してやろう!『クリッター』召喚!」
「かかった!」
使いAが、待ち望んでいたかのように、カードを表にする。
「『激流葬』発動!」
「そいつにチェーン!」
使いCが割り込む。
「墓地の闇属性モンスター二体を除外して、『黒忍者』は姿を隠す!」
忍者は、印を組むと、煙巻き上げ姿を消した。
「見たか!次に俺達がモンスターを一体ずつ出してタコ殴りだ!あきらめな!」
何もしていないくせに、妙に調子に乗る使いB。
「クリッターでカードを手札に加えるぞ。加えるのはこいつだ!」
レアハンターは、エクゾディアを見せる。
「な、何!?エクゾディアだと!」
「そうだ。私はエクゾディア使いだからな。貴様等とじゃれなくとも、瞬殺することくらい容易いわ!」
そうして、封印が解かれたエクゾディアが現れる。掌にエネルギーを凝縮させて、それを三人めがけて放つ!三人のカードだけでなく、本人達も吹っ飛んだ。
「……私に勝てると思ったか?このエクゾディアデッキに。決闘王の親である私に!」
レアハンターは、笑い出す。少し勘違いがあるようだが……。
「あの銀髪の少年……。彼はダークに会えただろうか……。」
「…獏良の事か?」
部屋に入ってきたのは、イキアドだった。
「アンタは、さっきの……。」
「獏良は…ダークを探しているようだな。」
イキアドもまた、ダークの使いに遭遇したらしい。だが、彼は実力ある決闘者。返り討ちにあわせてやったのだ。
「どうやら、変なことに巻き込まれたみたいだ。オレも獏良を追う。そして、ダークを止める。」
そう言って、イキアドはその場を去ろうとした時、
「待て!」
レアハンターが、イキアドを呼び止める。
「……近くに誰か潜んでいる気がするのだが……。とにかく、気を付けろ。」
「フン、お前こそな。」
イキアドが動き出す。と、同時に潜んでいた怪しい影も動き出す。

一方、獏良は……。
「『死霊操りしパペットマスター』の効果で、モンスターを二体召喚!そして、『エクトプラズマー』でモンスターを射出!」
「がぁぁぁぁ…………ラ、ライフが0に……。」
獏良は、しつこく迫る使いたちを倒しつつ、ダークを探していた。
「クハハハハ、次は俺だ!」
「(くっ、きりがないよ……。)」

そして、イキアドは…
「ヴラド……。オレはアンタの子孫として、アンタに恥じない戦いをしてみせる…。」
走りながら、デッキから何枚かカードを抜き、新たに別のカードを何枚か入れる。
そして……船は、創造の祭壇についてしまった。

「やっと、着いた。本当にあったんだ。」
ダークは船を降り、島に上陸した。その小島の中央に、神々しさを感じさせるような遺跡がそびえ立つ。これこそが、ダークがずっと求めていた創造の祭壇なのだ。
「使い共は所詮、足止めの為の捨て駒同然。僕の良きしもべがそろそろ動いているハズだ。」
ダークは、遺跡の奥へと進んでいった。

時を同じくして、イキアドは船を出ようとした。背後に潜む者に気付かずに……。
「ジ・エンド……。バイバイ、イキアド。」
そいつは、銃口をイキアドに向け、引き金を引く。辺りに銃声が響く。そして、誰かが飛ばされて倒れたような音も……。
「だ、誰だ!」
イキアドは、驚き振り返る。見ると、銃を持ったキースが吹っ飛ばされていた。その横には……。
「…この男は、お前をつけていた。危うく殺される所だったな……。」
「アンタか……。何でここにいる、ツタン仮面?」
間一髪でイキアドを救ったのは、マミラだった。
「……こいつは今はダークに洗脳されて奴の手先となっている。…お前は奴を止めろ!獏良とかいう奴はまだしばらくかかりそうだ。…私はこいつに用がある。」
「そうか……。死ぬなよ。」
イキアドは船を出る。
「邪魔をするな!ダークの計画の邪魔を!」
「……随分と落ちたものだな。お前は……。」
マミラは、仮面を投げ捨てて決闘盤を構える。
「何年ぶりかな。『キース・ハワード』」



第十一章 断ち切るべき因縁

「…覚えているか?私の顔を。」
「知らねぇよ!てめえは邪魔だ!さっさと失せろ!」
マミラは、デッキからカードを引く。
「思い出させてやろう……。決闘だ!」
マミラの先攻で決闘が開始される。
「私はモンスターをセット。…ターン終了だ。」
「オレ様の番だ。『メカ・ハンター』で、攻撃!」

「…『ピラミッド・タートル』の効果発動!デッキから、同名カードを召喚!」
「くっ、ターン終了だ。」
「私は、『ピラミッドタートル』を生け贄に、モンスターをセットする。さらに、カード二枚セット。……ターンエンド。」
「オレのターン。『ライフル・リザード』を召喚!」

【ライフル・リザード 効果モンスター】
闇属性、機械族、☆3
ATK/1300 DEF/1000
このカードは、相手プレイヤーに直接攻撃することができる。

「プレイヤーを狙撃!」
 マミラLP 4000→2700

「さらに、『メカ・ハンター』で、そのモンスターに攻撃!」
マミラの守備モンスターは…
「…残念だがお前がダメージを受けるようだ。…その程度の攻撃で、私のスフィンクスは攻略できない。」
「おのれぇ…『守護者スフィンクス』だと……。」
 キースLP 4000→3450

「……私から、いかせてもらうぞ!罠カード『アポピスの化身』発動!……さらに、スフィンクスの効果で自身を裏守備に……。そして、反転召喚!場を空にする!」
「ま、まさか……。」
「二体で攻撃!」
 キースLP 3450→150

「オレ様の、ライフが……。」
「……キース。…昔のお前は…『盗賊キース』のお前は何処だ!」
マミラの言葉に、キースは一瞬だが我に帰る。
「……てめえ……あの時の……。」
「…そうだ。…昔の賞金稼ぎ仲間の私だ。……『マミラ・ナーテル』だ。……」

《数年前のある日……。
マミラは、エジプト一の決闘者として名を轟かせていた。大会の優勝賞金を全て持っていってしまう程のつわもの。そんな彼はある日、全米チャンプのある男と戦うことになった……。
「エジプト一の決闘者vs全米チャンプの決闘、勝者は『キース』!」
マミラは、接戦の末、負けてしまった。
「……私の、王家のデッキが……破られた。」
「てめえのエジプト神話は、所詮オレ様の不敗神話の前ではまやかしにすぎねェんだよ!てめえのオカルトじみた戦術も、オレ様のマシーンモンスターで楽にブッ潰せる。」
この時から、マミラの打倒キースという野望が炎となり彼の心の名かで静かに燃えていた。正直、不敗といわれたキースに、憧れさえも抱いていたかもしれない。》

「……随分と堕ちたな。私が求めていた男も………。」
キースは、再び強く洗脳される。頭に電撃が走るような痛みが通る。
「……グアアア……オレは……あぁぁぁっ!」
「やはり、私がお前を救わねばならないようだ……。さあ、デッキからカードを引け!」
「てめえをブッ潰す!オレのターン!『強欲な壺』で、手札強化!」
これにより、キースが、『切札への布石』と自ら称する魔法カードを引いた。
「これを発動させる!魔法カード『リーサルウェポン』!」
【リーサルウェポン 通常魔法】
自分の墓地から任意の枚数のモンスターカードをゲームから除外することで、その合計レベルと同じレベルの機械族モンスター一体を特殊召喚する。このカードを発動したターンは、バトルフェイズを行うことができない。

墓地の機械たちが除外され、代わりにモンスターが現れる。全体はドラゴンのような容姿。頭部と両腕にそれぞれ一丁ずつ、計三丁の拳銃が装着された大型モンスター……。
「『リボルバードラゴン』を召喚!更に、『サイクロン』で、罠モンスターを破壊!」
一陣の風と共に、化身の姿はかき消えた。リボルバードラゴンが、銃のシリンダーを高速で回転させながら銃口を残ったモンスターに向ける。
(ズギャアァァン………)
そして、弾丸を直撃したモンスターが、静かに砕け散る。
「……私の場が、…空に!?」
「…ターン終了。」
攻撃できないことを残念がるように、ターン終了を宣言するキース。
ふと、マミラの顔が次第に蒼白になる。今まで気付かなかったが、脇腹に痛みが走る。手で抑えると、生暖かい何かが触れた。
「……血!?(そうか。さっきイキアドをかばった時の。)」
辺りを見渡すと、自分の血が滴るのが見える。そしてゾッとする。
「私は、カード二枚セットして……ターンエンドだ。」

時を同じくして、ダークは遺跡の最上部、つまり『創造の祭壇』といわれる場所に着いた。祭壇は、ちょうど中央に位置し、その周りは泉が湧き出ている。泉の上に敷かれた祭壇を繋ぐ石の道に、ダークは足を運ぼうとした。
「……どうやら僕の他に誰かいるようだな。……見物人とは思えないがなぁ、『イキアド』。」
「…気付かれてたか。」
イキアドも、そこに到着した。
「イキアド・ツェぺシュ……。吸血鬼と恐れられた一族の末裔。……君は僕の計画を知ってたみたいだね。…憎むべき人間への復讐のためにこれを使おうとした。そのためにこの宴に参加した……。違う?」
「……いや、今はアンタを止めるために来ただけだ。」
ダークは、イキアドを軽く嘲笑うような目でみる。
「…何が目的なのか、話してもらおうか?」



第十二章 野望

「……簡単な事さ。忘却の力に委ね、世界を『無』にする事だよ。」
「…無、だと!?」
イキアドは、僅かだが驚き、そして疑問に思う。
「……例えば、欲しい物や、成し遂げたい野望が沢山あるとしよう。君がもし、この力を使えたらどうするかな?」
イキアドは返答しようとするが、間髪入れずにダークが言う。
「欲しい物は創り、邪魔な物は消す。違うか?」
当たっている。ダークはほくそ笑んで言葉を足す。
「……確かに、大抵の輩はそう言うハズさ。だが、欲しい物を手に入れれば入れるほど人は欲に溺れ、馬鹿らしい悪循環に陥る。なら僕は、……何もかも消したいな。……目障りな物は邪魔だから自ら消し去る。多すぎる欲しい物も、自ら消すことで手に入れたことになるさ………。」
……いかれてやがる。そうとしか思えないイキアドだった。ならば、奴の目的を止めるのは自分しかいないではないか。
「……分かってる。君は僕の邪魔をしに来たんだろ?全く使い共は役に立たないなぁ…。そう言えば君は僕の優秀な手駒に会わなかったのか?」
「キースの事か?アンタは最初から、利用するためにキースを呼んだんだろ……。失格者に仕立て上げるような真似までして…。」
そう言って、サイコロを取り出すイキアド。サイコロには、4の目がなく、5の目が二つある。つまり、イカサマのダイスだ。
「これを奴に持たせて、奴がサイコロを握った時に『サイコロに細工がしてある!』と訴えれば簡単に失格者扱いにできる。ましては主催者のアンタが言えばなおさらだ。……仮にキースが、本当にイカサマをしていたとしてもな。」
さらに、イキアドの推理は続く。
「最初から変だと思ってたんだよ!リーグ戦形式の大会で、選手を招待までしてるのに余りが出るハズがない!それに、キースは消息不明となっている。そんな奴を呼ぶためには『賞金』という餌を使うしか方法はない。まあ、それが嘘だというのは分かっていたが……。キースを失格にして、魂を抜き、肉体は魂狩りの為の人形……。糧となる魂が集まったところで残念だが、アンタの思い通りにはさせない!」
ダークはイキアドを鼻で笑うと、デッキを用意した。
「……いや、魂は今ここに来たよ。君という魂が…ね。」
決闘盤を構える二人。ここでまた、壮絶な決闘が始まろうとしていた!

一方、マミラとキースの決闘は……
「オレはモンスターに『ロングバレルP-44』を装備する!」
【ロングバレルP-44 装備魔法】
機械族モンスターのみ装備可能。装備モンスターの攻撃力は300ポイントアップし、自分のバトルフェイズ中に相手の場にモンスターが存在する限り、三回まで攻撃することができる。装備モンスターの効果は無効化され、このカードがフィールドから離れたとき装備モンスターは破壊される。

 リボルバードラゴンATK 2600→2900

「攻撃だぜ!」
「くそっ…罠カード『ロゼッタの石板』だ!」
【ロゼッタの石板 カウンター罠】
攻撃力2000以上のモンスターが攻撃を宣言した時に発動することができる。その攻撃を無効にし、自分の場の罠カードを発動させて相手のバトルフェイズを終了させる。

「私は『第一の棺』を発動!」
マミラの場に、大きな棺が出てくる。不気味にその蓋が開き、中からさらなる棺が出る。
「……『第二の棺』だ。」
そして、マミラのターン。
「私は『ナイルのたまもの』で、手札強化!」
【ナイルのたまもの 通常魔法】
自分は相手の手札の枚数一枚につきカードを一枚ドローする。

キースの手札は四枚。つまり、四枚ドローすることになる。
「『棺を守る者』を出して、カードをセット。ターンエンド。」
キースが自分のターンを迎えると同時に、マミラは罠カードを表にする。
「私の罠カードはこれだ!『砂塵の大竜巻』発動!装備もろともに、モンスターを破壊!」
高く舞い上がる砂埃は、巨大な竜巻へと変貌した。やがて、リボルバードラゴンは風化して、鉄塊となりて崩れていった。
「…くっ、オレは『ニュート』を召喚!攻撃だ!」
ぐにゃぐにゃとした気味の悪い異星人は、杖をこちらに向けて、高圧な重力場の球体を放つ。それは、マミラのモンスターを容易く粉砕した。
 マミラLP 2700→2000

「カードをセット。ターンエンド。」
マミラの場に『第三の棺』が現れた。
「……フフフ。私はこいつを召喚する。私のエース、『スピリット・オブ・ファラオ』だ!」
三つの棺から光が放たれ、それらは互いを繋ぎ、デルタを描いた。やがて、デルタから魔法陣が現れ、さらにはファラオが姿を現す。
「『スピリット・オブ・ファラオ』は、王の魂……。我が母国、エジプトでは霊魂は輪廻するものと信じられている……。ついでに『棺を守る者』の効果も発動させてもらおう!」
【棺を守る者 効果モンスター】
光、アンデッド、☆2
ATK/1200 DEF/0
自分の場にモンスターが特殊召喚されたとき、墓地に存在するこのカードを除外することで、自分の場に「しもべトークン」(光、アンデッド、☆1、ATK/0、DEF/0)を二体特殊召喚することができる。

「……ここまでだな。」
「フン、そうはいかないぜ!罠カード『激流葬』で全滅だ!」
水のうねりが、たちまちに大瀑布となる。自他問わず、場のモンスターを消し去った!
「……なるほど……。仕方ないな私は魔法カード『死者の書』を使う!」



第十三章 死者の書

「死者の書……だと!?」

【死者の書 速攻魔法】
お互いのフィールドにモンスターが一体も存在しないときに発動できる。お互いは自分のデッキの一番上のカードをめくる。それが通常召喚可能なモンスターカードだった場合、自分の場に攻撃表示で特殊召喚する。それ以外の場合は自分の墓地からモンスターカードを一体特殊召喚する。(自分がカードをめくってから、相手がカードをめくる。)

「さぁ、引き勝負だ!私は……こいつだ!」
マミラは、モンスターを引き当てた。こいつはATK2500と心強い。
「こいつを特殊召喚!」
「ハハハ…オレ様は罠カードだ!リボルバードラゴンを場に……何っ!てめえそのカードは……。」
マミラのモンスターは、蒼いジャッカルの姿をしたモンスター。
「死という終りを告げる神……『エンド・オブ・アヌビス』だ……。お前は覚えてるかな?このカードを……。」

《キースとマミラがまだ仲間だった頃……
「マミラ。お前の優勝賞品のカード、見せてみろよ!」
「ああ、こいつだ。」
マミラは一枚のモンスターカードを見せる。
「『デビルゾア』……おいおい、こいつはオレのデッキで真価を発揮するカードだぜ。お前にはもったいないから、オレが持っておくぜ!」
「……くれてやる。そうやって、せいぜい強くなりやがれ!私がそのお前を倒す!」
「なんだ、寝言か?」
キースは、マミラを鼻で笑う。マミラは、そんな彼をムッとした顔で見る。
「今のお前じゃ、絶対に無理だね。まぁ……」
キースは、リストバンドから一枚のカードを取り出して、マミラに向けて投げた。
「今度会うときには、そいつでオレを倒してみやがれ!お前は好きだろ?その類のカード。」
「……フン、礼だけは断じて言わないぞ。」 》

エンド・オブ・アヌビスの効果で、キースはモンスターの特殊召喚を封じられた。
「攻撃だ。」
マミラは、少し哀しい顔で攻撃宣言する。
「(私は、本当のお前と…戦いたかった。…許せよ!)」
 キースLP 150→0

「…負けた。……オレが、…負けた。」
キースは放心状態になって、その場に崩れた。そして、マミラも……。
「あぁ、……血が足りない。……少し、騒ぎすぎたか……私らしく…ないな……。」
マミラは、静かに横になると、目を閉じてしまった……。

「フフフ……残念だなぁ。」
その一言とは裏腹に、ダークの顔には何故か笑みが浮かぶ。
「キースの魂が還った…。どうやら、君が生け贄になるみたいだね。」
「…正気か?この決闘で、アンタの目を醒ましてやるよ!」
創造の祭壇で、ダークとイキアドが決闘する!
「オレから行くぞ!『英雄・串刺し公(ワラキアン・ヴラド)』を召喚だ!」
【英雄・串刺し公 効果モンスター】
闇属性、戦士族、☆4
ATK/1400 DEF/1000
このカードが相手に戦闘ダメージを与えたとき、自分の手札またはデッキから「串刺し」という名のつくカード一枚を手札に加えることができる。

「僕の番だね……。モンスターをセット。ターンエンド。(フフ…セットしたカードは『幻影の壁』攻撃して来いよ!)」
「オレのターン。『抹殺の使徒』でモンスターを抹殺!さらにヴラドで攻撃だ!」
 ダークLP 4000→2600

「さらに、デッキからカードをサーチ。ターンエンド!」
「カードドロー!(引いたぞ。僕の切札を)……魔法カード『重力波撃』!このカードは、自分の手札を一枚捨てて……。」
【重力波撃 通常魔法】
手札を一枚捨てる。表側表示のモンスター一体を破壊する。このカードによって破壊されたモンスターの効果は無効化される。

「(切札を…我が手で葬ろう)エンドフェイズに、ライフを払う。」
 ダークLP 2600→1800

「よって、僕の墓地から、さっき捨てた『輪廻の霊鳥(アナスタシス・フェニックス)』が蘇る!」
「何!?効果による復活だと!?」
ダークの場に、巨大な焔の塊が 舞い降りる。それはやがて、不死鳥の形になる……。
「輪廻の霊鳥は、例え墓地へ葬られても、僕がライフを払う事で、蘇る!何度でもな……。」
「(チッ、厄介なのが沸いてきたか)オレは、モンスターをセットして、番を終える!」
「僕か…『キャノンソルジャー』を召喚!そして、輪廻の霊鳥で攻撃!」
輪廻の霊鳥は、力強く羽ばたく。それは、灼熱の突風となり、モンスターを消し去る。
「キャノンソルジャーで攻撃!そして、効果で場のモンスターを全て射出する!」
 イキアドLP 4000→1600

「オレのライフは、まだ残ってる。モンスターを無駄に捨てるような真似して…正気かよ、アンタ?」
「無駄かどうかは、君の目で確かめなよ。」
 ダークLP 1800→1000

「…その不滅の魂の焔…骸の灰より燃え出よ!輪廻の霊鳥の特殊能力、『猛火再臨』!」
フィールドには、どこからともなく火が燃え出す。ダークの場には再び、輪廻の霊鳥が現れたのだ!
「(こいつ、本当に不死身か!?)」



第十四章 輪廻

「なぁんだ……。君の『ドル・ドラ』も、復活するじゃん。いいよなぁ…タダで復活するんだから……。」
「(タダ…そうか!あいつのモンスターは、不死身じゃない!)」
イキアドは、デッキからカードを引く。
「モンスターを生け贄に、『精霊竜騎士』を召喚!」

【精霊竜騎士 効果モンスター】
光、ドラゴン、☆5
ATK/2000 DEF/1200
ドラゴン族モンスターを生け贄にこのカードを召喚したとき、生け贄となったモンスターの元々の攻撃力分このカードの攻撃力がアップする。

 精霊竜騎士ATK 2000→3500

「攻撃だ!」
 ダークLP 1000→500

「ほぅ…輪廻の霊鳥を越えたか…。」
「どうした?今回は蘇らないのか?いや、ちがう……蘇らせることができないんだ!流石にライフが払えなければ、その鳥は蘇らない!不死など、あってはいけないということだ!」
「うるさい奴だ……。僕は、モンスターをセットして、カードを伏せる。ターンエンド!」
イキアドは、勝利を確信したかのような顔で、カードを引く。
「オレは、『ダイナフォス』を召喚!伏せモンスターを引き裂け!」
矛と盾を持ったトカゲ人間は、詰め寄りモンスターを引き裂く。餌食になったのは、『キラートマト』だ!その効果で、ダークは『クリッター』を出す!
「精霊竜騎士で攻撃すれば、貴様は終りだ!」
「フフフ……じゃあ、終らないように罠カードを使うよ。『塗りつける悪夢』発動!」

【塗りつける悪夢 通常罠】
攻撃力1000以下の闇属性モンスター一体を生け贄に捧げ、相手フィールド上のカードと、相手の手札を全て墓地へ送る。

解放された暗黒。一瞬にして、場を包み込む。生ける者皆砕け散り。立つ者の精神を乱す。
まさに『悪夢』だ!
イキアドは、ターンを終了せざるを得ない。
「オレの……カードが……全壊だと!?(まずい、次のあいつのターンで……)」
「ハハハ……どうした?僕を止めるんだろ?」
ダークは、どこまでもイキアドを追い詰める。イキアドは、そんな彼を睨むことしかできない。
「さて、僕の最後のターンだね。」
ダークは笑みをうかべてカードを引く。
「フフフ……アハハハハハ……。『天使の施し』でカードドロー!……ターンエンド」
「(なんだ?あいつのニヤケ顔の意味が分からねェ……)」
「よかったじゃん。君がモンスターを出せば、勝ちだよ。」
いちいち勘にさわる奴だ!そんな目をしながらも、イキアドはドローする。
「……知ってるか?ダーク。我が先祖ヴラドは、追い詰められた状況を自身の策で逆転させたことを……。」
イキアドが引いた、たった一枚のカード。速攻魔法カード、『小国の反撃』を出す!

【小国の反撃 速攻魔法】
自分の手札が一枚以下の時に発動できる。自分の墓地に存在するモンスターカードの枚数分、デッキからカードをドローする。

イキアドは、一度に四枚もの札を引いた!彼の反撃は、ここからだ!
「魔法カード『死者蘇生』で……こいつを復活させる!」
現れたのは…………

「ほう、己の誇りを選んだか……。妥当だねぇ……。」
「ヴラドの攻撃で…貴様は終わる。……あばよ!」
「ハハハ…攻撃を直で食らっちゃうよ……。」
窮地に追い込まれたハズなのに、ダークは焦りを顔に出さない。
ヴラドが魔法を詠唱すると、描かれた魔法陣からは、太く長い串が突き出る。ダークめがけて、串が飛んでいく!
「…罠カード、『エビルジャベリン』発動!」
【エビルジャベリン 通常罠】
自分は、相手の手札一枚につき500ライフポイント回復する。

 ダークLP 500→2000

一時的にダークのライフが回復したが、攻撃を止められるわけではない…。

 ダークLP 2000→600

「さらに、効果によって墓地のカードを手札に戻し、セット!ターン終了!」
ダークは、カードを引く。そのカードは、ダーク本人曰く『切札』だ!しかしダークは、それを墓地に捨てて、魔法カードを発動させた!
「僕のカードは、これだ!『マジック・イミテイション』!」
【マジック・イミテイション 通常魔法】
手札を一枚捨てる。相手の墓地の一番上にあるカードが魔法カードの場合、それを自分の手札に加える。

ダークは、死者蘇生を模倣した。墓地からは、先程葬ったダークの『切札』が召喚される……。
「僕の輪廻の霊鳥は不死身。…絶対に攻略できない!この攻撃でアンタの誇り(プライド)もろとも焼失させてやろう!モンスターに攻撃!」
「かかったな……。オレの罠は『串刺しの刑−カズィクル・ベイ』だ!」
【串刺しの刑−カズィクル・ベイ 通常罠】
「英雄・串刺し公」が攻撃対象に選択されたときに発動できる。相手のコントロールするモンスターを全て破壊する。

螺旋を象った何本もの串が、空中からダークのモンスターに突き刺さる!輪廻の霊鳥は、羽根を貫かれそのまま大地に叩き付けられ、身動きとれぬ体に串が刺さる!
そして輪廻の霊鳥は、燃えつきた灰となって、静かに消えていった……。
「ラ・レヴェデーレ!(さよなら)どうだ、もう一度この場に蘇ってみろ!…無理なことだがな!」
「フフ……アハハハ!」
ダークは、何故か笑っている!
「なぁ、イキアド。何もフィールドに蘇ることだけが『不死』じゃないんだよ。上を…見てごらん。」
上空には、紅い焔が渦をまいている。渦の中からは、焔の塊が彗星の如く降ってきた!イキアドめがけ落ちてくるそれは、巨鳥の姿に見える!こいつは…………。
「……輪廻の…霊鳥なのか!?」



第十五章 白と黒の交差

「言ったろ。『何もフィールドに蘇ることが不死じゃない!』って……。墓地から焔の裁きを下す…。それがこの『輪廻の霊鳥』だ!」
その焔の塊は、イキアドに直撃する!イキアドのライフは、一瞬にして0になる……。
「墓地から……攻撃だと!?……すまない…獏良……。」
ゆっくりと倒れるイキアド。……ふと、誰かに受け止められる。
「さすがだね。獏良!君なら必ずここまで来ると思ったよ。」
倒れるイキアドを受け止めたのは、獏良だった。獏良は、イキアドを少し離れた場所まで抱きかかえて運ぶと、そっと横にした。
「よく、頑張ったよ。イキアド。」
「……気を付けろよ。……あいつは、…桁が違う。」
そう呟くと、イキアドは目を閉じた。獏良は、振り返りダークを睨む。
「これ以上、君の好きにはさせないよ。」
獏良は決闘盤を構えていた。ダークも、イキアドとの決闘で使ったカードを合わせてシャッフルする。
「……嬉しいよ。…君が僕の邪魔をしに来てくれるなんて。こうして、君と闘えるんだから……。」
「…………。」
ダークの先攻で、決闘開始だ!
「…『キャノンソルジャー』を召喚!さらに『亡霊のララバイ』発動!」

【亡霊のララバイ 通常魔法】
自分のフィールドに「亡霊トークン」(闇、悪魔、☆1、ATK/0、DEF/0)を三体守備表示で特殊召喚する。

「トークンを全て、砲弾に!射出!」
 獏良LP 4000→2500

序盤からいきなり、ライフが大きく変動する。ダークのコンボは、強力且つ非常。まだ、これは序の口にすぎない……。
「僕は、『死霊騎士デスカリバーナイト』を召喚して攻撃!」
 ダークLP 4000→3500


その頃………。
「ああ。……頼んだぞ。」
レアハンターは携帯電話を片手に、ノートパソコンを駆る。彼は今、ダークの正体を探っていた。船の中で見つけた幾つかの証拠…。それらを繋ぐ真実を見い出そうと試みたのだ!
「あの怖い少年が持ってた日記の切端……ダークの部屋にあった、女性の写真が入ったペンダント……ダークの過去……!……まさか!」
レアハンターは、手掛りを見つける。彼が割り出した人物は、一人の罪人だった……。
「ダークのペンダントの女。その名、『桃木 春香』は、とある殺人鬼に殺された……。……そうか!ダーク…あいつは…………。獏良が危ない!私が止めに行かねば!」
レアハンターは、黒マントを翻して走り去る。行く先はダークのいる創造の祭壇だ!

一方、決闘は、
「僕のターン。…モンスターをセット。ターンエンドだ!」
「僕は、『ゴーストダガー』を出す!」

【ゴーストダガー 効果モンスター】
闇、悪魔、☆4
ATK/1600 DEF/1200
裏側守備表示モンスターとの戦闘時、このカードの攻撃力は500ポイントアップする。また、守備表示モンスターを攻撃したとき、このカードの攻撃力が守備表示モンスターの守備力を越えていれば、その数値だけ相手のライフポイントにダメージを与える。

「2100の攻撃力で、モンスターを攻撃!」
「僕のモンスターは、『ボーンデッド』だ!」

【ボーンデッド 効果モンスター】
闇、アンデット、☆2
ATK/0 DEF/2000
このカードは戦闘では破壊されない。また、自分のスタンバイフェイズに、このカードのコントローラーは同名カードをデッキから特殊召喚することができる。

 ダークLP 3500→3400

「死なない壁モンスターか……。ターンエンド。」
「僕は、デッキから『ボーンデッド』を出す!さらに『デーモンソルジャー』を召喚!ダガーに攻撃!」

 獏良LP 2500→2200

「僕のターン。カード一枚と、モンスターをセットしてターンエンド。」
ダークがカードを引いたとき、獏良のカードが表になる!
「罠カード『死なばもろとも』だ!」
 獏良LP 2200→1800

「フフフ……ありがとよ、獏良!僕は『輪廻の霊鳥』を引かせてくれるなんてねぇ……。場のボーンデッド二体を生け贄に、出すよ……。僕の切札を!」
場には、鮮やかで美しい焔の巨鳥が現れる!羽根を広げると、力強く羽ばたき、灼熱の風を起こす!
そして、焔の渦と化した灼熱は、獏良のモンスターを消し去る!
「この能力を使ったターンは、輪廻の霊鳥は攻撃できない……。だが、君はデーモンソルジャーの攻撃で終わる!」
「…甘いよ。僕は、『レイボー』で、攻撃無効!そしてライフ回復!」
 獏良LP 1800→3700

ダークは屈辱に歪んだ表情を見せる。勝てる。と、思った攻撃が、無駄になったのだから……。仕方なくターンエンドするダーク。
「僕は、カード二枚セット。ターンエンド!」
「僕のターン。……。」
ダークは、呪文のような詩を詠唱し始める。
「…汝その存在…闇の焔に抱かれ消えよ!輪廻の霊鳥の能力『ネガティブ・ブレイズ』は、場のカードを消し去るのさ!」
「その効果にチェーン!『和睦の使者』発動!」
またしても、攻撃を阻まれたダーク。……。
「獏良!…ここにいたか。」
レアハンターも、祭壇に着く。二人は彼の方を向く。
「なんだ……。あなたは確か、僕の使い共と遊んでくれたんじゃ……。」
「生憎、私も暇じゃないんでな!それより、ダーク!私は貴様の正体…気付いておるのだぞ!……貴様が自分の恋人を殺し、殺人鬼といわれたかつての罪人、『黒須 慎一』であることにな!」
ズバリ!と言ってしまったレアハンター。唐突の事態に戸惑う獏良。
「えっ……黒須!?どういう事?」
「……バレたか。僕の口から全て話そう!」
ダークは、仮面を外してこちらを見た。
「あ、あなたが黒須!?」



第十六章 ダーク(前編)

「ど…どうして、天音を助けようとしてくれた人が……レアハンターさん。何かの間違いだよね?」
「獏良、僕は殺人鬼の黒須だ!確かに、君の妹さんを助けようとしたこともあったさ……。でも、あの日から僕は……変わったんだよ!」
ダークこと黒須は、自分の過去を話し出した。

《数年前のある日、獏良の妹、天音が、交通事故に遭った。その現場を偶然通りかかったのが、黒須だ!彼は、重体の天音を病院まで運び、助かることを願ったが…………。
「…………亡くなった……のか……。どうして…………。」

黒須の頭の中は、天音の死で一杯だった。そして、彼はやがて、『死とは何か』ということを次第に考えるようになった。

そして、数週間後−−− 》

「こいつは、自分の恋人を殺し、何人もの命を奪った奴だ!」
「……黙れよ。」
黒須は、レアハンターを睨みつける。獏良のターンを迎えて、決闘続行だ!
「『強欲な壺』でドロー。さらに『ソウルテイカー』で、モンスター破壊!」
 ダークLP 3400→4400

「さらに、『強奪』でモンスターを奪い、生け贄に『冥界の魔王ハ・デス』を召喚!攻撃だ!」
 ダークLP 4400→1950

「……モンスターをセット。…ターンエンド。」
「『死霊傀儡師パペット・ザ・デット』を召喚!効果で『死霊傀儡』を墓地から特殊召喚!」
死霊傀儡は、カラカラと不気味な音を立てながら、怪しい動きをしている。糸で繋がれた体を支配している魔神。悪魔達を統治する魔王……。獏良のコンボ始動だ!

【死霊傀儡師パペット・ザ・デット 効果モンスター】
闇、悪魔、☆4
ATK/0 DEF/0
このカードの召喚に成功したとき、自分の墓地から「死霊傀儡」を一体特殊召喚する。このカードは、相手の攻撃対象にならない。

「魔王でモンスターを攻撃!」
魔王に仕留められたら最期。あがらうこともできず、その者は死に逝くのみ。
「残ったモンスターで、ダイレクト!」
 ダークLP 1950→450

「調子に乗るなよ…。僕は『マジック・イミテイション』で『強奪』を模倣。ハ・デスを奪う!死霊傀儡を攻撃!」
 獏良LP 3700→2650

「死霊傀儡が破壊されたので、罠カードを発動!『傀儡術』で四枚ドロー!」
「そうか。僕は魔法カード『生命の囁く泉』発動!互いの手札一枚につき、自分は300ライフポイント回復だ!」
 ダークLP 450→3150

「(何て戦いだ……。この少年が、お互いにここまで渡り合うとは……。)」
心の中で呟くレアハンター。しかし彼は、獏良の更なる戦略を見ることになる。効果で1000ライフ回復した獏良の快進撃は、ここからだ!
「『パペット・ザ・デット』を生け贄に、『死霊操りしパペットマスター』を召喚!」
 獏良LP 3650→1650

「三体の悪魔を生け贄にすることで、モンスターを特殊召喚!『断末魔・ネクロフィリア』召喚!」

【断末魔・ネクロフィリア 効果モンスター】
闇、悪魔、☆8
ATK/2200 DEF/0
自分のフィールドの悪魔族モンスター三体を生け贄に捧げることで、このカードを特殊召喚扱いにすることができる。このカードは戦闘では破壊されず、このカードが破壊されたターンの終了時に「ファントムトークン」(闇、悪魔、☆1、ATK/0、DEF/0)を特殊召喚する。「ファントムトークン」は、自分の墓地の悪魔族モンスター一体につき攻撃力が500アップする。

死の世界の断末魔。手には大鎌を持っている。
そして獏良は、ターンエンドを告げる。
「少しでもライフを削るか……。魔王の攻撃!」
 獏良LP 1650→1400

「さらにカードをセット。『コザッキー』を召喚。ターン終了!」
「(コザッキー!?ダークは何を?)」
獏良がカードをドローするやいなや、ダークの罠が発動される!イキアドを苦しめた『塗りつける悪夢』を!
やがて、獏良の手札は枯れ、場のモンスターは消え去る。断末魔が持つ大鎌は、弧を描き大地に突き刺さり場に残る……。
「ダーク……いや、黒須さん。あなたは、……僕が知ってるあなたは、親切な人だったハズ。……なのに、どうして……。」
「………『死』って、何だと思う?」
唐突に難題をぶつける黒須。獏良も少し戸惑う。
「……何!?人々を殺した貴様が死を語るだと!?」
レアハンターが口を挟む。黒須は、ふと何かを思い出したような顔を……。
「……同じことを昔、ポリ公に言われたよ……。……そうだ。アンタはさっき、僕が恋人を殺したと言ったよなぁ。あの真相を、教えてやるよ……。」
黒須の脳裏には、過去の出来事が次々と蘇る。

《数年前(黒須、当時16歳)
童美野町の隣町、嘉寺野町(かじのちょう)に住んでた黒須。天音が死んでからずっと、『死』に対する答えを探していた黒須。些細なことがきっかけで、恋人の春香とケンカしてしまった。
「最近、慎一変だよ。何かボーッとしちゃってさ。」
「うるさいな。僕だって、一人で考えたいことが山ほどあるさ!」
春香はムッとして、口を尖らせて呟く。
「どうせまた、天音って娘のことでしょ。」
ついカッとなって、黒須は怒鳴ってしまう。
「うるさいよ!少し一人にさせろよ!だいたい、いつも僕にくっついて、正直邪魔なんだよ!女だったら、もっと気のきいたこと出来ないのかよ!」
「……ひどいよ。……そんなこと言うんだ……。慎一は、私が邪魔なんだ。」
春香の目が、涙ぐんでいる。かなり傷付いてしまったようだ。そうとも気付かず、感情的な言語をとばす黒須。
「ああ、邪魔だ!どっか行けよ!お前のそういうとこが嫌いなんだよ!」
「……ひどいよ。……慎…一。」
春香は、泣きながら走り去ってしまった。しばらくして、自分が春香を傷付けたことを悔い、誤ろうとした。が、電話にも出ない。メールも帰らない……。
どうしようもできなかった時、一通のメールが。送ってきたのは……。
「……春香からだ。」



第十七章 ダーク(後編)

黒須が、呼び出された場所に行くと、そこには既に春香がいた。いっぱい泣いたのだろう。春香の瞼は赤く、少し腫れぼったくなっていた。
「……春香、さっきは……。」
「…………慎一。」
春香は、慎一の両手を握りしめた。そして、何かを握らされた。
それは、鋭利なナイフ……。刃先は、春香の方を向いている。
「……春香……。……何のつもりだ!?」
間髪入れずに、春香は黒須に抱きつく。ナイフの刃が、ゆっくりと春香の体を刺していく感覚が、ナイフを介して黒須の手に伝わる…。
「何やってんだよ……。春香ぁ!」
「……慎一。…私ね、……すっごく悲しかったよ。……どっか行けって、……ずっと…辛かったから。………。」
黒須の手がぶれて、春香の傷口から生暖かい血が、黒須の手から腕までを染める。春香は、痙攣を起こし始めた。
「ねぇ、……こうして、私が死んだら……全部…忘れるのかな……。死んだら……もう、終わりだよね。…………慎……一……。」
「おい!ふざけるなよ、春香!……春香あぁぁぁっ!」
春香は、二度と言葉を返さなかった。黒須は、その骸を静かに横にした。
血まみれになった黒須は、夜の街をさまよっていた。「死んだら終わり」という春香の言葉が頭のなかで何度も、リフレインする。
それが、己が求めていた答え。そう思うと僅かに愉快になってきた。ならば、死を与えればその者は終わる。その者の所業も……。
黒須は、ふと恐ろしい計画を考えた。》
「確かお前は、当時、修学旅行に参加した同級生四十名を……皆殺しにしたそうだな。」
レアハンターの言葉に、獏良は驚きを隠せない。
「…ああ、そうだ。彼奴等はグルになって僕一人……イジメたから、自ら終らせたのさ。……皆、殺してなぁ……。楽しかったなぁ、僕の修学旅行は…。死に際のあの恐怖に歪んだ不細工な顔……。面白ぇよ。」
黒須は、それはもうこの上ない恐ろしい目をしていた。
「あとは……アハハハ。親も、殺ったかなぁ。親父が病気で死んでから、遊び歩くようになった、男癖の悪い、本来母と呼ぶべき女を……。止めてほしかったんだよなぁ……家に知らない男を連れて来るの……。だから、死なせて終わらせてあげたんだ。優しい?」
もはや黒須には『殺人鬼』という代名詞の他にあたるものはない。今、彼の口から語られた以外にも、幾度となく醜い所業をしたのだから…。ならば彼は、創造の祭壇を利用して、また残虐な行為を繰り返すかも……とにかく危険だ!
黒須は、更に何かを思い出したかのように話す。
「でも、僕の悪事はバレて、挙句には警察に追われた。そいつ等は、何て言ったと思う?」
「……?」
「『死んだ恋人が悲しんでる。』…だって。春香は死んだんだよ。終わったんだ。死は終わりだと、ポリ達にそう教えてやった。…その場にいた全員を殺して、僕自信も自害した。なのに……。死は終わりではなかった!僕は、亡霊となってここにいる!繰り返した虐殺による悪夢の苦しみから、死によって逃れるハズが!…僕の死は、永劫の迷宮なんだ……。だから、…………創造の祭壇の力で、『死』そのものを消してやる!死なんて暗く哀しいものがなくなれば、……わくわくするぜぇ。アハハハハ!」
黒須の野心は今、燃えて……。レアハンターや獏良を震撼させる。
「…………ふざけるなよ。」
獏良は、静かな声で言う。
「君は、天音が死んだとき、どう思った?」
獏良の口からは、意外な問いかけ。黒須はあっさりと応える。
「…哀しかったよ、そりゃあ。だから僕の手で哀しみの『死』を無くしてやるんだ!死がなくなってはじめて、『終わり』なんだ!」
「……それが、いけないんだよ。僕も、天音が死んだときは哀しかったさ。だけど、それは僕に生きる意味を教えてくれた。『死』は命に『生』を教えるもの…。もし『死』がなくなったら……生きている意味までなくなる!」
獏良の言葉に動揺しだす黒須。
「だ……だ、だまれ!死は、なくなるべきものだ!死後の世界など暗く冷たいものは、あってはならない!」
「……黒須、君に教えてやるよ。死は終りでなく、決して哀しみだけじゃない……と。」
黒須は、獏良をじっと見てカードを引く。黒須の番からの決闘続行だ!
「(あのトークンが厄介だな。攻撃力3500か……)魔法カード『ブラックホール』で、場を一掃!さらに『神話再生(ミス・レストレーション)』で手札補充!」

【神話再生 通常魔法】
互いのプレイヤーは、手札が五枚になるようにカードをドローする。

「カードセットし、ターンエンド!」
「ドロー!『抹札』で輪廻の霊鳥を除外!」

【抹札 通常魔法】
自分の墓地のカード一枚をゲームから除外する。その後、相手の墓地のカード一枚をゲームから除外する。

「フフフ…輪廻の霊鳥を消すとはね…。罠カード『十戒』発動!」
【十戒 通常罠】
手札を一枚捨てる。デッキからカード一枚を選択し、自分の手札に加える。

「(捨てるのは勿論こいつだ。)」
「(黒須くんは、何かを仕掛けてくる。)カードセットしてターンエンド。」
ふと、黒須は顔に笑みを浮かべる。自分のライフを払って、あのカードを召喚したのだ!
 黒須LP 3150→2350

「輪廻の霊鳥、『猛火再臨』の効果発動!」
そして、黒須のターン。すかさず攻撃する!
「やはり、そう来ますか……。罠カード『死霊ゾーマ』発動!」



第十八章 攻略

「何!?ゾーマだと!?」

【死霊ゾーマ 通常罠】
発動ターンのみこのカードはモンスターカード(闇、悪魔、☆4、ATK/1800、DEF/500)となってモンスターカードゾーンに特殊召喚される。このカードを戦闘で破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手に与える。

「くそっ!速攻魔法『収縮』!」

 輪廻の霊鳥ATK 3000→1500

 黒須LP 2350→2050

黒須のモンスターを消すことに成功した獏良。
「何、また蘇るさ……。」

 黒須LP 2050→1250

「僕のターン。『魔王の復活』を発動!」

【魔王の復活 通常魔法】
半分のライフを払う。墓地の「冥界の魔王ハ・デス」を攻撃力を700ポイントアップさせ、自分のフィールドに特殊召喚する。このカードは「冥界の魔王ハ・デス」の効果によって制限されない。

 獏良LP 2400→1200
 ハ・デスATK 2450→3150

「輪廻の霊鳥に攻撃!」

 黒須LP 1250→1100

「カードを二枚セットして、ターンエンド。」
「僕は『コザッキー』を召喚。さらに『魔界のスペル』を発動!」

【魔界のスペル 通常魔法】
自分のフィールド上の「コザッキー」を生け贄に捧げ、手札からモンスター一体を特殊召喚する。

黒須は、輪廻の霊鳥を出した。その美しき焔の巨鳥。目は赤く燃えるような……。
「(フフフ…こいつには、墓地からの裁きの能力『古の聖炎』の効果がある。自滅させて効果を発動させれば獏良を瞬殺……。)輪廻の霊鳥で、攻撃!」
「(自滅攻撃!?…何かあるな。)攻撃を止める!罠カード『瘴気』発動!」

【瘴気 通常罠】
相手の攻撃モンスター一体を破壊する。その後、フィールド上の闇属性モンスターの攻撃力を500ポイントアップさせる。

輪廻の霊鳥は、溢れ出す毒霧によってその体の焔は衰え、やがて腐敗するようにして消えた。
しかし、黒須の表情は涼しい顔をしている。輪廻の霊鳥の最後の能力、『古の聖炎』が発動されるからだ!
「…古より伝わりし浄化の焔…邪を無に帰す華となれ!輪廻の霊鳥の最終能力発動!墓地からの裁きを!獏良に最期の攻撃を!」
上空には焔の塊……。イキアドのときと同じだ。巨鳥を象る焔が、獏良めがけて高速で降ってくる!
「(黒須くんは『攻撃』と言ってるけど、違う!『効果』だ!いちかばちか、これを使うか。)カードオープン!『レイボー大増殖』!」

【レイボー大増殖 永続罠】
手札から「レイボー」を捨てる。このカードのコントローラーへのカードの効果によるダメージは0になる。

獏良の場は、レイボーで埋め尽された。そう、遊戯のクリボーのコンボのように!
「こざかしい!遅いわ!輪廻の霊鳥の裁きをくらえ!」
焔は、獏良に直撃しようとしていた。無謀にも、レイボーたちは焔へと向かう……。

「仕留めたぁーっ!」
黒須の叫びは、一瞬にして沈黙に変わる。何と、レイボーが焔の軌道を変えた。獏良を守ったのだ!
「ば……馬鹿なぁぁぁーっ!輪廻の霊鳥の攻撃がぁっ!」
「いや、それは輪廻の霊鳥の効果だよ。破壊されたターンの終わりに発動する……ね。ついでに、僕は気付いてるよ。輪廻の霊鳥は同名カードであり、それぞれが異なる効果を持ったカードだとね。800ライフ払って復活する効果。攻撃を制限して、カードを破壊する効果。そして、イキアドをも倒し、僕を同じ手で葬ろうとた裁きの効果。」
獏良によって暴かれた真実。黒須は大きな絶望感を味わう。裁きの効果によって、墓地の輪廻の霊鳥は全て取り除かれるのだ。
「おのれぇ……。」
「僕の攻撃が通ればそれまで……君は、間違っていた……。」
獏良は攻撃を宣言する。黒須は最後まで決闘を投げたりはしない。『クリボー』で、しのぐ!
「時間稼ぎと行くか……。『悪夢の鉄檻』を発動する!」
獏良と彼のカードたちは、鉄の檻に閉じ込められる。中からは外にいる黒須を攻撃できない。黒須も檻の中の獏良に手を出せないのだが……。
「『怨念のキラードール』を出して、ターンエンド!」
「僕は『ダーク・ネクロフィア』を召喚!ターンエンド!」
「ならば僕は、『魔界言語』を使う!」

【魔界言語 通常魔法】
墓地の「コザッキー」をゲームから除外することで、相手のモンスターを全て破壊する。このとき、効果モンスターの効果は無効化される。

「僕には今できる事はない。……ターンエンドだ。」
獏良がターンエンドしたことで、鉄の檻は壊れて消えた。黒須は獏良を足止めするだけでなく、戦力も減らした。
黒須がカードを引こうとデッキに手を当てると、
(ズギャァァァァン!ビシャァァン!ゴゴゴゴ……)
蒼い稲妻が轟き、それは黒須に訪れた運命の引き(ディスティニー・ドロー)!
「……獏良。今から僕が、あらゆる万物を支配する!」
黒須は、一体何を引いたのか!?
「……まるで君が『創造の祭壇』をこれから使うみたいじゃないか!そんなことができるのか?」
獏良の問いに、不気味で恐ろしい表情で返す黒須。
「アハハハハ……このカード一枚で全てが変わる!創造と忘却を…支配する!見せてやるよ!僕のカードは『創造の祭壇』だ!」
黒須が魔法を発動させると、彼が立つ祭壇が地響きをたて、動き出した!



第十九章 創造の祭壇

黒須の場のモンスターは、あっという間に祭壇の糧となる生け贄と化した。祭壇は形を変え、大地を抜け宙に浮く。それはまるで、天空に浮上する浮遊要塞の如く……。
祭壇の上から、黒須は獏良を見下ろして言う。
「見てるか、獏良。これが僕の最終兵器!魔法でありモンスターである無敵の要塞だ!」

【創造の祭壇 永続魔法】
発動時に自分のモンスターを全て墓地へ送る。発動後このカードはモンスターカード(光、岩石、☆8、ATK/0、DEF/3000)となり、自分のフィールドに特殊召喚される。
このカードのコントローラーは、手札からモンスターカードを召喚、セット、特殊召喚することができない。また、自分のスタンバイフェイズに以下の効果から一つを選び発動する。
●フィールド上のこのカード以外のモンスターを全てゲームから除外する。
●ゲームから除外されたモンスター一体を、自分のフィールドに特殊召喚する。

「(獏良、お前は次のターンで知ることになる……。破壊という究極の創造を……。)」
黒須は、ターンエンドを告げる。
「僕は、カードをセットして、『ネクロボット』を召喚!」

【ネクロボット 効果モンスター】
闇、機械、☆3
ATK/1000 DEF/1500
このカードの召喚・特殊召喚に成功したとき、デッキから同名カードを選択し、自分のフィールドにセットすることができる。エンドフェイズ時に、このカードは守備表示になる。

「ターン終了!」
黒須はこの時を待っていた!それが彼の顔に滲出ている。
『怨念のキラードール』が、黒須の場に舞い戻り……。
「創造の祭壇よ!全てを無に帰せ!光の導き、忘却の力に変えて!」
天空に浮かぶ祭壇は、更なる高さにある暗雲に一筋の光を放つ。やがて、暗雲の中からは、拡散した無数の光が大地に降る。
そして、地を這うお互いのモンスターを、全て『無』に帰したのだ……。
「…すげぇ!だが、これでもまだ序の口。僕は死を消す!この力で!」
自分が、止めなければ。死があっての生。今、死が消えることは、あるべき秩序を乱すことだ。それは、世界が無になるよりも恐ろしいことだ。
だが、獏良は止める手段を見つけていた。創造の祭壇のカードを破壊し、黒須のライフを0に……。
「……そうだなぁ。念のためにカードを使おうか。『祭壇の魔法陣』発動!」

【祭壇の魔法陣 装備魔法】
モンスターカード扱いとなっている「創造の祭壇」のみ装備可能。相手はカードを破壊する魔法、罠カードを使用することができない。

この魔法カードは、獏良に更なる追い討ちをかける。唯一といえる作戦が、水の泡…。
「魔法が使えないんじゃ……あの祭壇は壊せない。」
「そうさ!僕がこれを動かしたが最期。……安心しろよ。君たちに危害を加えるわけじゃない。『死』を無くすだけだ!」
もはや獏良さえも、黒須を止められないのか……。

「カードを引け!少年!」
声援を送ったのは、レアハンターだった。
「えっ……。」
「カードを引け!そのカードで逆転しろ!私のように……。」

「獏良!こいつにも教えてやれ!……自身の間違いを。」
横になっていたイキアドも、体を起こした。

「(今から引くこのカードで、…黒須を止める!)ドロー!」
獏良は引いたモンスターカードを、セットしてターンを終了する。
「……なぁんだ。このターンで僕を仕留めるんじゃないのかぁ……。」
「……いずれ、そうなるさ。」
黒須のターン。
「創造の祭壇よ!無から創り出せ!闇の渦中より出でし有!」
暗雲が渦巻き、中から現れたのは、あの『輪廻の霊鳥』だった!
「さあ、輪廻神話よ再び……。獏良のモンスターを焼き消せ!」
獏良のモンスターは、他愛もなく燃えている……ように見えたが、モンスターはバリアを張ってその身を守っていた。バリアの中にいたのは、『白魔導士ピケル』に似た容姿の幼き天使。
「『アンジュ・セントホーリ LV2』は、戦闘では破壊されないんだ……。さらに、ターンを経る度に成長する。」
そして獏良のターンを迎え、アンジュ・セントホーリはLV2からLV5に成長した!幼女から少女への、変身……。
「今度は、どんな効果だぁ!?何をしようと僕を止められない!」
黒須の挑発には関わらず、獏良は……
「『アンジュ・セントホーリLV5』は、手札から捨てたモンスターの攻撃力分ライフを回復させる能力がある。僕は『ニュート』を捨てる。」
 獏良LP 1200→3100

「だが、お前にできるのはその程度。その小娘も、忘却の力に消えろ!」
黒須は、自分のモンスターには目もくれず、場のモンスターを消し去る!どうしてもそうしたかった。黒須の目にはアンジュ・セントホーリが亡き恋人『春香』に重なって見えた。彼にとってそれは、何よりも忘れたいであろう出来事……。
力を使う黒須の目は、哀しみに満ちていた。
「消えろ消えろ消えろ消えろォ!」
光は場を包むが、アンジュだけは神秘のヴェールに守られ、消えなかった。
「黒須くん。残念だけどLV5にはカードの効果を受けない能力があるんだ……。」
墓穴を掘った黒須。今までとはうってかわって、顔には焦りの色しかない。
「だ、……だが祭壇ある限り、僕は終わらない!こいつは守備力3000を誇る要塞。戦闘ではほぼ無敵だ!」
そしてアンジュはLV8に、美しい大天使に姿を変えた。
「……黒須くん、このターンで終わりにしよう。」
獏良の最後のコンボが、いよいよ炸裂する!
アンジュは、胸の前で手を組み、祈り始めた。
やがて空の暗雲は消え、光がさしこみ三人の天女が舞い降りた。
「『アンジュ・セントホーリLV8』自身は攻撃ができない。……だけど、三体の『天女トークン』が、戦うよ。」
しかし、天女の攻撃力はそれぞれ1000。守備力3000の相手を倒せるハズがない!
「天女トークンで、創造の祭壇を攻撃する!」
「馬鹿か!?自分のライフが削られるだけだぜ!」
「……それも、覚悟のうえだ!」
そして、天女の一人が祭壇めがけて弓を放った



最終章 一筋の光

天女が放つ矢は、祭壇を直撃!しかし祭壇は破壊されず、獏良は反射ダメージを受ける。
 獏良LP 3100→1100

「その程度のチンケな攻撃が、祭壇に通用するハズが…………何!?…何故だ!?……強固たる祭壇に亀裂が!?…なぜ祭壇の守備力が下がっている!?」
「…天女トークンと戦闘を行った相手は、攻守が1000ポイントずつ下がる。そしてこの効果で攻守どちらかが0になった場合、そのモンスターは……破壊される!」
今、攻撃したのが一人目。あと二人残っている。
 創造の祭壇DEF 3000→2000

「なるほど……だが、祭壇が壊れる前にお前が尽きてるぞ!」
そして間髪入れずに二人目の攻撃。レイピアを構え、突撃。ピンポイントで亀裂を突く。
 獏良LP 1100→100

祭壇は、ほぼ全体がヒビ割れ危うい。
 創造の祭壇DEF 2000→1000

「あ……ま……まさか……この祭壇は……やめろぉ!壊さないでくれぇ!」
だが、天女の攻撃は終わらない。ついに、三人目の攻撃で祭壇は崩れ始めた。
 創造の祭壇DEF 1000→0
 創造の祭壇 崩壊!

黒須は、バランスを崩し転落する。一瞬周りの者をひやっとさせたが、運よく泉に落ちたので怪我はない。
起き上がると、空では風が渦巻く球体の中で祭壇が崩れ砕かれ塵になるのみだ。
「あぁ…………壊れないで…………壊れないでくれ…………。」
黒須は涙を流し、やがては泣き崩れた。
「…………僕は、……忘れたかっただけなんだ。……この哀しみを!永劫の迷宮を!………自分自身を消すことで!」
意外な言葉が彼の口からこぼれた。
「結局、死が分からなかった。……。」
「……この決闘の末に、答えを見付けてよ。」
獏良は、そういって魔法カードを表にする。
「『光槍の霊魂(アローファランクス・スピリチャー)』発動!

【光槍の霊魂 速攻魔法】
自分の場の光属性モンスター二体を生け贄に捧げる。自分のコントロールする攻撃力が最も高いモンスターの元々の攻撃力の半分のダメージを相手に与える。

「天女トークンは光属性。これらを生け贄に、……ダメージを与える!」
天女は光に包まれ、ゆっくりとその魂をアンジュに授ける。
…やがて、魂から長い槍が創られる。
「……ば……獏良。僕は……。」
「……出来るなら、あなたとは友達になりたかった。……天音の死を知った者同士……。」
アンジュは、黒須めがけ槍を投げる。それはやがて、黒須の……「ダーク」を貫ける、一筋の光となって……。
「……天音……天国で、黒須さんを……よろしくね。」

(ピカァァァァン!……キュゥゥン!)

光は、黒須を貫いた!

 黒須LP 1100→0




『不死者の宴』と呼ばれた宴から、数日が経つ。
決闘者たちは、今……。

「……ゾンビ軍団の攻撃!」
「かぁーっ…………強ェなぁ、骨塚は。」
仲間内で決闘を楽しむ骨塚。その中では彼の実力はトップ。
「オレの友達には、もっと強いやつがいるゾ〜。」
「へぇ〜。今度会ってみたいな。そいつと。」
「お前達じゃ絶対に勝てないゾ〜(また戦いたいゾ〜。ありがとな、獏良……。)」

マミラは、傷の治療のために、病院に入院していた。ベットに腰掛け、窓の外と手に握っているカード『エンド・オブ・アヌビス』を眺めながら考え事にふける。
「……キース。…這い上がれ!お前は私の目標、……仲間なのだから……。」

キースは、……放浪の旅に出ることにした。…自分を探す旅に。
「オレは生きている。……まだ全米チャンプの意地があるんだ。何度でも這い上がってみせるぜ!」
キースは歩き出す。それは新たな人生の、はじめの一歩……。

「……遊戯。今日こそ私が勝つ!」
レアハンターは、何故か遊戯の自宅前に立っていた。
「何じゃ。お客さんかの……。」
遊戯の祖父、双六が店から出てくる。怪しい黒服の男が立っているものだから……。
「また、アンタかい……。遊戯なら、今日は獏良くん家に寄ってくると言ってたぞい。」
「……そうか。獏良か。」
レアハンターに多くの言葉は要らなかった。獏良の強さをその(爬虫類のような)目で見たのだから……。
「……では、私はこの辺で。」
珍しく潔く去るレアハンター。
「フフ…いい友達を持っているな。遊戯は……。」


自国に帰ったイキアド。彼は、一族の墓の前に立っていた。
「吸血鬼ではないと、戦い続けた。……英雄の血族の定。……オレも生きるよ。……誇りを持って。」
墓に花を捧げ、黙祷……。
「…あなたが、イキアドさんですね?」
イキアドの背後には、沢山の人々がいる。皆うかない顔をしている。
「……私たちは、噂だと知りながらもあなたたちを恐れ、……信じる者もいたが……我々ではどうすることもできなかった。」
目を背けるイキアド。今更何を言うか!家族を殺した輩が!
「私たちは、あなたの御両親の吸血鬼でないという意思表示に全く気付かなかった……信じてくれ。私たちはもう何もしない!」
そして、その者は土下座をする。謝る声が、次第にイキアドの 耳に入る。
「……もう、いいんです。……頭を…上げてください。」
うつ向いたイキアドの頬を、光る雫が伝う。


そして……。
獏良は、黒須との決闘を思い出していた。

《黒須のライフがついに0になる。力尽きた黒須は、横になっていた。
「黒須さん!」
駆け寄る獏良。そして抱き起こす。
「…………なあ、……獏良。」
弱々しい声であったが、黒須は喋った。獏良は、彼の口元に耳を近付ける。
「……お前にだけ話すよ。……僕は……死について知りたかった。……だから『不死』のデッキを使う決闘者を集めた。……答えが見つけられると…思ったんだ。……僕が消える前に。………君のおかげで……見つけたよ……答え。死を弔い生を知る。命絶えること、それは終わりじゃない。死に逝く命は教えるんだ……生と死の意味を。魂は生き続けるんだ。」
黒須は一枚のカードを獏良に託す。それは『輪廻の霊鳥』だ!
生き続けろ!という黒須の最期のメッセージなのだろう。
「礼を言いたいよ。……天音にも……ありがとう……。」
そうして黒須はゆっくり消える。彼は既に死んでいるんだ。そうと解ってはいるが、獏良の涙が止まらない。
しかし、涙の中には黒須から与えられた何かがあるのを獏良は感じた…。
その後、レアハンターが手配したヘリに乗り、埠頭に戻った。》


「ねえ、獏良くん。今日は新しく作ったゲームで遊ぶんでしょ?」
杏子に話しかけられ、我に帰る獏良。周りには仲間たちがいるではないか。
「早くやろうぜ、獏良!ところで、どんなゲームなんだ?」
本田が訪ねる。側にいた遊戯がそれに応える。
「うん。なんでも『生と死の世界』が舞台なんだって。」
「死の世界!?ま…まさか幽霊とか出るのか?」
相変わらず幽霊だけは苦手な城之内。彼を見て微笑みながら獏良は言う。
「そんなに怖がることはないよ。命には生と死がつきまとう。……そんなことをテーマにしたんだ。」
「大丈夫か……まあ、とにかく獏良ン家に行こうぜ!」
真っ先に教室を飛び出す城之内。遊戯たちも追うようにして走り出す。
「あれ、早く行こ。獏良くん。」
「あ、うん。そうだね。」
獏良は鞄を持ち、遊戯たちと共に走り出した。


 不死者の宴 完






戻る ホーム